【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」 (22)

とりあえず単独であげる

シリーズ整理
第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」

読み切り 
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」

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市原家は処刑人の家系であった。

その歴史は古く、かつての平安の介錯人まで辿ることができるという。

市原仁奈は、そんな市原家の末裔であった。

仁奈は生まれた頃から全身に潰瘍があり、

それゆえ両親から疎んじられた。

処刑人はえてして社会から孤立するが、

仁奈はその家系の中にあっても孤独だった。

潰瘍を隠すため、仁奈は厚い着ぐるみを着込むようになった。

それは鳥動物を模した、

可笑しげな格好であったが、

両親は気味悪がって

ますます彼女を突き放した。

だがある時、

刑後の斬首体を初めて見た仁奈が

驚くべき言葉を発した。

「角度が悪いのでごぜーますよ」

その死体は介錯人の不手際によって、

何度も首を斬りつけられていた。

両親は仁奈を無視できなくなった。

仁奈には最高の才覚が備わっていた。

仁奈は処刑人としての教育を通して、両親とふれあう機会が増えた。

その間に、まったく家族としての情は無かった。

しかし藁にでも縋る思いで仁奈は懸命に、

処刑人としての修行を積んでいった。

なんでまたスレ立てるんだよ
同じ内容で何度も立てるなよ
速報を私物化してんじゃねえ

その一環として、彼女は英信流を学んだ。

斬首を執行する際の、技術修得のためである。

道場でも仁奈は、人とあまり交わることができなかった。

だが、ある1人の少女が彼女の友人になった。

早坂美玲。

歳は仁奈より5歳ほど上、勿論道場では先輩格にあたる。

美玲は仁奈の才能にいち早く気づき、なにかと世話を焼いてくれた。

「わ、私は先輩として当然のことをしてるだけだッ!

 あまり調子に乗るなよッ!」

美玲はよくつっけんどんな口をきいたが、

仁奈は彼女に対して感謝を抱いた。

さらに美玲は、市原家が処刑人の家だということを気にせず、

よく屋敷を訪れて来た。

両親も美玲のことを気に入り、仁奈は彼女の話題で、

家族と話すことが増えた。

ある時、仁奈と美玲は道場の帰り道で

ひどい土砂降りに遭った。

幸い市原家が道場の近くにあったので、2人は慌てて駆け込んだ。

両親は2人に、風呂に入って身体を温めるように勧めた。

仁奈は美玲に、先に1人で入るように頼んだ。

自身の肌を見せたくなかったためである。

しかし美玲は仁奈に、自分の背中を流すように要求した。

「ウチは先輩だからなッ!

 お前が背中を流すのが当然なんだッ!」

これが美玲なりの優しさであった。

仁奈がより深い尊敬を彼女に向けたのは、言うまでもない。

しかしある時、勘定奉行に勤める美玲の母が、

多額の横領の疑いで捕縛された。

町奉行はその罰として、早坂家一門を斬首の刑とした。

罪状からはありえないほどの極刑である。

なにかの意思が介入していたのは、

火を見るより明らかであった。

そして斬首を執り行うのは、仁奈の勤めであった。

「いやでごぜーますよ!
 
美玲さんを斬るなんて、ぜってぇやでごぜーますよ!!」

仁奈は泣き叫んで、奉行からの命に抗った。

どうして、生涯で初めて出来た友を

自らの手で殺めねばならないのか。

処刑人の家系に、醜い肌を持って生まれたのは我慢ができた。

だがこの運命には到底耐えられぬ。

「それでは、他の武士にやらせるか」

両親は仁奈にそう言った。

不得手な者が刑にあたれば、

罪人は必要以上に苦しむことになる。

それでもよいのか、と。

美玲の斬首は、覆しえぬ現実であった。


市原仁奈は刑場で早坂美玲と再会した。

美玲は白襦袢を来て、目隠しをされていた。

その身体はがちがちと震えていた。

仁奈は彼女の肩に、あまりに小さすぎる手を置いた。

美玲は、背後に立つのが自分の友であると悟った。

美玲は仁奈に頼んだ。

「顔を見せてくれ」

罪人の目を見てはならぬと、仁奈は両親から教わった。

刑を執行する手が鈍るからだ。

だが、仁奈は美玲の目隠しをほどき、美玲の正面に立った。

「すまねーでごぜーますよ…」

「いや、いいんだ。
 
 仁奈がやるなら、ウチは怖くない」

美玲は涙をこぼした。仁奈も同じく、静かに泣いた。

美玲は、もう1つ頼みごとをした。

「このまま、正面から斬ってほしい」

仁奈はそれを承諾した。

周囲はどよめいた。

正面からの斬首は至難の技である。

通常斬首は、罪人の背後に立って行われる。

これは首の継ぎ目である、

第一頚椎と第二頚椎の間を正確に狙うためである。

しかし、正面からでは硬い下顎と

弾力のある気管が妨げになり、斬首は至難を極める。

まして仁奈は経験も浅い。さらには罪人の友である。

失敗の危険は、とてつもなく大きい。

最悪の場合、苦しむ罪人に何度も刃を打ち付けることになるだろう。

だが刑を見守る両親は、

仁奈と、そして美玲の好きなようにさせた。

仁奈は両手で顔を覆い、涙を拭った。

その表情には、処刑人としての冷たい威厳があった。

周囲はまたどよめいた。

仁奈が居合の構えをとったためである。

この場合、有効なのは下段からの斬り上げのはず。

鞘からまっすぐに走る居合では、

顎に刃があたってしまうではないか。

仁奈が、震える美玲にむかって抜く。

果たして、罪人の震えはぴたりと止んだ。

他の刑務が美玲の死体を検分すると、

首が身体から落ちずに、両断されていた。

仁奈は神速で繰り出される居合の軌道を、

一度下げて顎をかわし、

次には下弦を描くように斬り上げていた。

気管も頚椎も切断する威力を保ったまま。

驚異的を通り越し、最早怪物的な腕前であった。

「見事じゃ! 見事であったぞ!!」

刑を見物していた、藩の重鎮達が手を叩いて仁奈を賞賛した。

仁奈は冷たい表情のまま、彼女達を見つめた。

自分が斬首にかけられるのは、いつごろになるだろうかと。

おしまい

>>4

HTML化かけたら、この短編が反映されとらなんだ。

すまんな。

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