【デレマスSS】佐城雪美とウワサの鏡 (20)

佐城雪美ちゃんのSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1493559532

「そういえばさ、第四レッスン室の隅に布が被せられた大きな鏡あるだろ?あれ、見つめ続けたらやばいんだって」

休日の昼下がり、アイドル達は事務所でレッスン後の火照った体を覚ましていた。

レッスン室の前に設けられたロビーには同じようにレッスンの終わったアイドル達が思い思いに休憩時間を過ごしていた。

スポーツドリンクをものすごい勢いで飲むもの。

服の胸元をパタパタと仰ぎ風を送り込むもの。

そしてそれを鋭い眼光で見つめるものもいた。

雪美は自分の顔より一回りも大きなペットボトルを両手で持ち上げるようにして飲みながら、隣に座っている晴の話に耳を傾けている。

「何よそれ、意味わかんない。ってかやばいって何なのよ。は~、アンタも案外子供ね」

梨沙はやれやれといった様子でご自慢のツインテールを左右に振った。

「あ、でも小春も聞いたことあります~。違う世界に吸い込まれちゃうって」

「ありえないわよ。雪美だってそう思うでしょ?」

「うん…、……大丈夫…。吸い込まれない…よ……」

「もしかして見たことあるのか?あの鏡」

雪美の瞳を覗き込むように晴は雪美に詰め寄る。

「違う……鏡………、よく……おはなしの…練習してる……」

「なんだ、違う鏡かよ」

「どの鏡だって同じよ」

「でもあの鏡だけ布が掛かってるから、気になっちゃいます~」

「今度こっそり見に行ってみるか」

「こっそりレッスン室に入ったらだめよ」

後ろから、美優が優しい声で4人をたしなめる。

「残念ですぅ」

「小春、本当にいくつもりだったの!?」

「正直オレも興味あった」

「……私も……」

「あんた達結構そういうの好きなのね」

「懐かしい。今はそんなウワサがあるのね」

「美優さんが子ども頃もウワサってあったの?」

「そうね、私が子どものときは…トイレの花子さんとか?」

「ハナコ………、…凛…犬………どうしたの……?」

「ハナコじゃなくて花子!」

「そういえばトイレの花子さんって、小春のお母さんも言ってました〜」

「…お母さん……」

「ほら、花子さんは年代が幅広いから…」

「晴ちゃん、いいのよ」

「なんか…ごめん……」

諦め半分悲しみ半分といったような目で美優に見つめられた晴は、収まりが悪そうに頭をかいた。

「美優さんじゃない。お仕事の前なのにそんなにレッスンして大丈夫?」

汗だくの美優を見て、心配そうに留美が駆け寄る。

「大丈夫です」

「貴女らしくないわね、どうしたの?」

「次の水着のお仕事に向けて身体を絞らないといけませんから……」

「美優……水着……。泳ぐ………?…まだ………寒い………」

「流石に泳いだりはしないわ。それに私、泳ぐの苦手だから」

「………そう……………」

「美優さん、そろそろ行くわよ」

「はい」

留美は美優の手を取り、仕事場へ向かった。

「なんかさ、留美さんと美優さんってカップルみたいだよな」

「両方女の人じゃない!」

「わかります~。なんだか留美さんは美優さんの彼氏って感じがします~」

「…………わかる……」

「なんかいいよなああいうの、頼れる相棒みたいな感じで」

「頼れる相棒ねぇ、アタシの場合は世話のかかる相棒かしら?」

「オレのことか!? どこがだよ!」

「どこって、色々よ」

(晴…梨沙……仲良し……、…ふふっ………カップル……みたい………)

幼い二人の痴話喧嘩を見て、雪美は微笑んだ。

――――――――――

その日はしとしとと雨が降っていた。

しかし、屋外での撮影でも限りアイドルに天候は関係ない。

分厚い雲が重くのしかかるときこそ、テレビやラジオなどで人々にハレを振りまくのがアイドルだ

親しいアイドル仲間はみんな仕事に行ってしまい手持無沙汰な雪美は、ペロとかくれんぼをすることにした。

事務所に人が多い時は雪美に同情した"オニ"が増えてしまったり、白熱のあまりPからのカミナリが落ちることがある。

そのため、今日のような事務所に人が少ない日は絶好のかくれんぼ日和であった。

秒針が二回転するまで時計を見つめる。

かくれんぼが始まった。

「今日も………勝つ……。……飼い主…、…意地……見せる………」

今回は雪美の10連勝が掛かった勝負だけに、双方とも気合十分だ。

猫というと棚の裏や花瓶の中などに隠れそうなものだ。

しかしそんな初歩的な定位置にはペロは居ないし彼女も探さない。

付いて回るのだ。

ペロは大胆にも、しかし慎重にペロを探す雪美の後をつける。

しかしそこはやはりペロの飼い主、雪美もつけられていることは理解している。

曲がり角を曲がっては急に立ち止まって振り返るなどしてみるのだ。

ゆきみを感じすぎず気配を感じさせぬよう後ろから雪美をつけるペロ。

後ろからペロの気配を感じる雪美。

執務室から出て廊下を左に曲がる。

いつもならこの角ですぐに振り返ってペロを見つけようとしたり、角にあるゴミ箱に隠れてペロをおびき寄せたりするが今日はいきなり走り出す。

給湯室の前を全速力で走り抜け、次は右に曲がる。

飼い主の奇手にびっくりしたペロは雪美を見失ってしまった。

かくれんぼにおいて、鬼から離れるのはメリットだ。

しかし、彼女らのかくれんぼにおいては致命的なのだ。

ペロは仕方なく、屈辱的であったが、ロビーにあった大きな植木鉢の影に隠れることにした。

一方の雪美はペロが追いかけるのに夢中になって姿を現すことを期待していたが、見事に裏切られた。

振り返っても、誰もおらずただ薄暗い廊下とエナドリの並んだ自販機があるだけだった。

せっかく考えに考え抜いた作戦が台無しになった雪美は、落胆して近くの椅子に座り込んだ。

走っている間にレッスン室の前にあるロビーに来ていたようだ。

いつもはたくさんのアイドルで活気が溢れているこの場所も、静かに雨の音が響いているだけだった。

「今日……誰も……会わない……、……不思議…………」

周りを見渡しても誰も居らず、まるで世界に自分とペロしか居ないような感覚。

ふと、この前晴の話していた噂を思い出した。

思い出した瞬間、雪美はまるで操り人形のようにすっと立ち上がり第四レッスン室へあるき出す。

防音のされた重たい扉をあけて、扉へと歩み寄る。

鏡にかけらたカーテンのような重たいワインレッドの布を引っ張る。

黒い木の枠で囲まれた、地味な鏡が姿を現した。

鏡の中から小さく可愛らしいアイドルがこちらを見つめていた。

しばらくして、彼女は誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやいた。

「………………かくれんぼ……忘れてた……」

戦いの最中であったことを思い出し、雪美は再びペロを探しに向かう。

レッスン室を抜けて、もと来た道をたどる。

「おっ、雪美ちゃんじゃん。何か探してるの?」

「………心…………」

「はぁとって呼んでね☆」

「………はぁと…様……」

「様つけると逆に悪意を感じるぞ☆ってか雪美ちゃん一体何歳だよ」

「………シン……、アイリの……お兄ちゃん…………?」

「それはレイだよ。ってか北◯の拳ネタはやめろって☆」

「呼んだかしら?」

「呼んでません」

「……レイ…………なぞなぞ………して…………」

「ネタにしたあげく無茶振りかよ!容赦ねーな!」

「なぞなぞよ、舐められると立ってしまうものな~んだ」

「おい☆」

「…………………………ペロ……?」

「もはやそれ言いたいだけだろ!」

「……ペロ………ヒョウ……舐められる……。………毛………立つ………」

「正解よ。ちなみに他の答えは腹よ」

「優しいな、礼さんのそういうところ好きだぞ☆」

「あと男根もそうよね、それじゃぁね」

「なんでそういうこと言うんだよ!!!」

心の怒号から逃げるように、礼はその場から立ち去った。

「……はぁと……ツッコミ……、………上手…………」

「好きでやってるんじゃないぞ☆」

「……………?」

「なんで首をかしげるんだよ!」

「……はぁと…………大阪人………、……違う………?」

「はぁとはしゅがしゅが星から来たしゅがみん聖人だぞ☆」

(しゅがしゅが星………?……初めて……聞いた……)

聞きなれない惑星の名前に、雪美は少し疑問を覚えた。

「ってそういえば雪美ちゃんは何か探してるの?」

「……ペロ……探してる………」

かくれんぼ中に何をしているか聞かれたら素直に答えるのが、彼女らのルールだ。

「そっかー、はぁとは見てないや☆ごめんね」

「……うん……ありがとう……。……またね…………」

「おう、またな☆」

雪美はまた歩き出し、ペロを探し始めた。

更衣室、カフェ、果てはトイレまでくまなく探した。

しかし、いくら探したりまた振り返ったりしてもペロは居なかった。

途方に暮れる雪美。

歩き疲れた雪美は誰も居ないエントランスのソファに深く腰掛けた。

なんとなくテレビに目をやると普段事務所で見るアイドル達が出ており雪美は少しほっとした。

「雪美ちゃん…浮かない顔してどうしたの?」

雪美がぼーっとしていると、いつの間にか美優が隣に座っていた。

「…………ペロ……見つからない………」

「今日はお留守番じゃないの?」

「……………?」

「ごめんなさい、私の勘違いだったみたいね」

「うん…………」

少しの間、二人は黙ってテレビを見ていた。

新しく出来たプールの宣伝だろうか、画面の向こうでは水着を着たアイドルがはしゃいでいた。

「………美優………………泳ぐの………得意…………?」

「えぇ、得意よ…ふふっ」

「………そう……」

静かに、しかし決意めいた目で雪美は立ち上がる。

「どうかしたの?」

「うん……。もう………行く…………」

「そう、またね」

「…………またね…………」

何かがおかしい。

しかし何がおかしいか、よくわからない。

得体の知れない違和感を抱えた雪美はまたあても無く歩き始める。

「……雪美。あなた、雪美であって雪美でないわね」

突然、どこからともなくヘレンが雪美の眼前に姿を現す。

雪美はびっくりして一歩後ずさる。

「………どういうこと…………?」

「あなたは佐城雪美であって、佐城雪美でない。つまり、そういうこと」

「…………………………………またね………」

雪美は回れ右をする。

「雪美、待ちなさい」

「…ペロ………探す………」

振り返らずに雪美はそうつぶやいて歩き出す。

「第四レッスン室の鏡」

ぴたり、と雪美の足が止まる。

「見たわね?」

今度は回れ右をする。

「鏡を見た後、違和感を感じたでしょう?」

「…………うん………」

「貴方は私が注目しているアイドル、故に世界レベル」

「…………そう………」

「だから全ては言わないわ。3階の倉庫にある鍵の付いたクローゼット、そこに答えがある」

「答え………?」

「リトルアイドルモンスター・佐城雪美のアイドル哲学を見せて来なさい」

「…………?」

「それじゃぁ雪美、またね」

ヘレンはそう言い残して去っていった。

何も無いところでこけそうになったヘレンを見て見ぬふりをして、雪美は反対方向に歩き始めた。

普段はたくさんのアイドルが宿題やおしゃべりに勤しむ談話室をちらりと覗き込む。

今日はペロはおろか、人さえおらずがらんとしていた。

鍵の付いたクローゼット、アイドル哲学。

意味不明な単語が何故か雪美の頭の中でぐるぐると回っていた。

雪美はふとどうしてアイドルをしているのか渡り廊下を歩きながら考え始めた。

ペロのご飯代のため。

応援してくれるファンのため。

色んな理由を思い出しながら階段を登る。

「でも……一番。………Pのため………」

いつの間にか雪美は鍵付きクローゼットの前に立っていた。

顔の付いた大きな植木鉢や不細工な緑のぬいぐるみなどが乱雑に置かれた薄暗い部屋。

その中でクローゼットの鍵だけがほんのすこしの灯りを反射して怪しく光って見えた。

薄暗くて静かな部屋。

それはまるでペロの居ない夜に留守番をするような心細さを感じさせる空間だった。

ガチャという音がしてひとりでにクローゼットの鍵が開く。

「………!」

雪美は無意識にクローゼットの取っ手に手をかけ、ゆっくりと開く。

クローゼットの中には何も無く、ただただ暗闇が広がっていた。

不意に、クローゼットの暗闇から細くて黒い腕が伸びて雪美の手を掴む。

腕が雪美をクローゼットの暗闇に引き寄せる。

「ペロやファン、ダーリンのためだけなの? ホントに?」

暗闇はそう囁やいて雪美を飲み込んだ。

倉庫にはただ扉が開いたままのクローゼットが静かに佇んでいた。

――――――――――

気がつくと雪美はソファーに座って眩しいほどの光を浴びていた。

眼前にはたくさんのお客さんとたくさんのカメラ。

カラフルなスタジオのセット、雪美はテレビで見たトーク番組を思い出した。

アイドルがサイコロで出たお題に沿ってトークを行う番組「ダイス DE シンデレラ」のセットだった。

ちなみに雪美はまだ出演したことがない。

しかし今、まさに出演者の席に座っているのだった。

「ダイスDEシンデレラ、今日の司会の黒川千秋よ。よろしくね」

「今日はいつもとは違うスタイルでお送りするわ。その名もダイスDEロワイヤル」

何度かこの番組を見ている雪美だったが初めて聞いたコーナーだった。

「今回はあるお題に対して二人のアイドルがトークを行い、よりアイドルらしさを競うというもの」

「今回競ってもらうのはこの二人」

「メアリー・コクラン」

「ハァーイ! メアリーよ。アタシのスーパーなトークに勝てるかしら?」

雪美が声のする方に目をやると金髪碧眼の少女がオーディエンスに向かって眩しいほど精一杯にアピールをしていた。

「対するは…佐城雪美!」

まるで脊髄反射のごとく雪美はとっさに立ち上がる。

会場から歓声が沸き上がる。

「………………」

一瞬の歓声の後の一瞬の静寂。

身体から捻り出すように声をだす。

「………よろしく……ね……」

また、歓声が鳴り響く。

「ふたりとも気合充分ね。今回のテーマはこちら」

いつの間にか千秋の手にあったフリップがくるりと回る。

『私がアイドルになった理由』

「それでは会場の皆さんも一緒に……ガールズビーアイドル!」

「ガールズビーアイドル!!」

千秋の掛け声に併せて会場が叫ぶ。

「先手必勝!先行はもらったワ!」

メアリーは奪うように千秋からマイクを受け取り話し始める。

「このセクシーでアダルティな魅力あふれるアタシがアイドルになるのはアタリマエのこと」

「だけど、今日は特別にアイドルになるリーズンを教えてあげるワ!」

「アタシはアメリカの学校ではスターだったの」

「もちろんジャパンに来たってアタシは周りのスターだったわ」

「でもそれだけ。学校の外ではなんでもなかったしジャパンで目立ってるのはアタシがアメリカンだから」

「それじゃぁダメなの。アタシの本当の魅力をわからせなきゃ」

「ジャパン中、ううん、ワールドをシスターを超えるアタシの魅力で夢中にするの」

「それが、アタシのアイドルになった理由よ」

最後のトドメと言わんばかりにウインクをするメアリー。

その瞬間、会場は総立ちで惜しみなく拍手を送った。

彼女をたたえて其の名を叫ぶもの、指笛を吹くもの、ただただ叫ぶものもいた。

のけぞりそうになるほどの大歓声を聞き、雪美に緊張が走った。

メアリーに勝てるほどのトークができるだろうか。

そもそも、メアリーのように明確なアイドルを続ける理由が話せるだろうか。

そんな不安が自分の尻尾を追いかけ続ける猫のようにぐるぐると回っていた。

「佐城さん…?大丈夫?」

気がつくと千秋が雪美の肩に手をおいていた。

「うん…………大丈夫……」

震える手でマイクを手に取り、観客を見る。

いつもLIVEで気が狂ったようにサイリウムを振る観客たちも、今日はしかめつらで雪美を睨みつけていた。

数百の視線が雪美を突き刺す。

思わず、できるだけ遠くの一番奥の席へ視線を逃がす。

1人だけ、暖かな視線を送るものがいた。

薄暗く遠くにいるため、ぼんやりとしか見えなかったが、雪美はあれが誰でもないプロデューサーだと確信した。

がんばれ。

その人の声はおろか表情も見えるはずもなかったが、確かに雪美の耳に、心に、そう聞こえた。

手の震えを止めて、息を大きく吸い込む。

観客の喧騒が彼女に吸い込まれやがて静寂が場を包み込んだ。

「…私……アイドル……なった……。約束の……ため………」

「でも……うた……声……小さい……。身体……かたい………ダンスも……」

「アイドル………………むずかしい……けど……たのしい……。」

「うた……ダンス……笑顔……ちょっとずつ……できるよう………なった……」

「みんなの………おかげ………。アイドル……楽しい………」

「楽しい……だから………、アイドル………やる………」

「これからも………みんな……楽しませる……。だから……楽しませて……ね……。」

負けじと、雪美もウインクをする。

しかし先程の大歓声とは打って変わって、会場は水を打ったように静まり返っていた。

静寂の余韻だけが鳴り響く。

少しした後、パチ、パチと小さな拍手が響き始めた。

止水に石が投げ込まれて波紋が生まれるように、拍手は瞬く間に広がり大きくなった。

メアリーのときに勝るとも劣らない大歓声の激流が雪美を包み込んだ。

歓声が一通り止んだ頃、千秋は重々しく口を開く。

「それでは、お手元のボタンでどちらのトークがよりアイドルらしかったか投票して頂戴」

観客が、思い思いにボタンを押す。

かなりの手応えを感じていた反面、果たしてトークでメアリーの勝てるのかという不安も雪美は抱えていた。

緊張の一瞬、しかし結果はすぐさま集計された。

「結果を発表するわ。505対495で……佐城さんの勝利!!」

両者の健闘を讃える歓声が鳴り響く。

「悔しいけどアタシの負けね。いいバトルだったわ、ユキミ」

メアリーは雪美に近づき、手を差し出す。

「うん……ありがとう……。メアリー………」

メアリーの手をにぎる雪美。

「どちらも自分のためにアイドルをやるというポイントがよかったわ」

「誰かのためにアイドルをやるのもいいけど、やっぱり自分自身が輝いてなければいけないものね」

「佐城さんはそれに加えて成長点が感じられたわ」

「それはまるでシンデレラストーリーのようで、聞いている私達を魔法使いにしてくれた」

「そこが佐城さんの勝因ね」

「さぁ佐城さん、貴女の世界への出口はあっちよ」

千秋は上手を指差した。

「………?」

「お行きなさい佐城さん。絶対に振り返ってはダメよ」

千秋がもう一度促す。

雪美は全てを理解したように、ゆっくりと薄暗い出口へ向かって歩きだす。

「今日のダイスDEシンデレラはここまで。次回も是非見てね」

「シーユアゲイン!」

段々と舞台が暗くなる。

雪美が一歩一歩歩きだすごとに、段々と照明が消える。

やがて照明が全て消えて、あたりは真っ暗になった。

それでも雪美は、前に向かって歩き続ける。

突然、目の前に扉が現れた。

雪美は勢い良く、扉を開く。

眩しい光が暗闇に慣れた雪美の目を刺激する。

鋼鉄公演で使われたきらりんロボ。

幻想公演で千秋や法子が使った武器や防具。

様々な見覚えのあるアイテムが光に慣れ始めた目に飛び込んできた。

「ここにいると思ったわ、小さな冒険者さん」

きらりんロボの後ろから、ヘレンが姿を現す。

「雪美ちゃんここに居たのね。探したのよ……」

美優も現れて雪美に寄り添う。

「みんな探してるわ、早く戻りましょう」

「美優…………泳ぐの…得意……?」

「えっ、私は泳ぐの苦手よ。急にどうしたの?」

「ううん……、……なんでも…ない…………。みんなのとこ……戻る………」

雪美はそう言って、また歩き始めた。

終わり

以上です。
これからも膝の上の恋人こと佐城雪美ちゃんをよろしくお願い申し上げます。

前作です。
【モバマスSS】雪美「マクド…………?」
【モバマスSS】雪美「マクド…………?」 - SSまとめ速報
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