【ミリオンライブ】   「終わらない物語の続きを」 (35)

※諸注意

Pメインで、アイドル達はあんまり出ないです

かなり自己満足なssもどきですが、それでもよければお付き合い下さい

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1490204002

ああ、今日という日をどれほど待ち望んだか


光り輝くステージ。歌い、踊る少女たち


客席は一人の例外もなく彼女らを見つめ、拳を上げ、声を張る


やがて、長くも短くも感じられる時間が終わり


彼女たちだけでなく、観客もまた口々に叫ぶ


   「ありがとう」


惜しみない賞賛の拍手の中、舞台の上で


ある者は手を大きく振り、またある者はその目に涙を浮かべている


それでも最後はみな等しく、心からの笑顔を向けて去っていく


その姿はまさしく、“アイドル”




願わくば、――――――――


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「改めて皆、武道館ライブ本当にお疲れ様!」

「もう知っているとは思うが、しばらくはそれぞれにまとまったオフを取ってある」

「明日から全員一斉にとはいかないが、各自しっかりと休んでほしい。それじゃあ、解散!」

   「「「お疲れ様でしたー!」」」


ライブを無事に終えた後、佐竹飯店を貸し切って打ち上げをした

店に全員入るのか少々疑問だったのだが、まあなんとかなるもんだ


「電車組ははしゃぎ過ぎてバレないように気を付けろよー。送迎組は準備したらこっち側に寄っててくれ」

  「はーい」「じゃあまた来週!」「あっという間だったなぁ」「さっきからずっと言ってるよ?それ」「ばいばーい」


終演から既に何時間か経っているものの、余韻は収まりきっていない。無理もないな

劇場が建った頃からの憧れの舞台に相応しい、文句なしの素晴らしいライブだったのだから


「じゃあプロデューサーくん、私たちは先に次のお店に行ってるね」

「分かった。俺もすぐに合流するよ」

「あーあ、いいなー莉緒たちは。オレも早く一緒にお酒とか飲んでみてーよ~」

「うふふ、これはオトナの特権なの♪だからちゃんと飲めるようになるまでは我慢よ?」

「・・・このみ姉の場合、ほんとに成人してるか未だに怪しいけどな」

「それなー」

「なんですってー!?ちょっと二人ともお仕置きよ!コラ、待ちなさーい!」


ライブに打ち上げとぶっ通しで騒いだってのに、まだまだ元気だなぁ

・・・それにしても


「・・・・・皆が大人になる頃、か」


「プロデューサーさん。・・・プロデューサーさーん?」

「おっと!済みません、どうしました?」

「ええっと、送迎組の支度が終わったみたいですよ」

「君、ライブの成功に浮かれるのも分かるが、くれぐれも安全運転で頼むよ?」

「もちろんです、社長。音無さんも有難うございます。じゃあ行ってきますね」



こうして、3日間にわたるライブ(及びその打ち上げ)は盛大に行われたのだった

二次会以降の様子については・・・まあご想像にお任せする


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




翌日。皆はともかく、俺のような裏方は既に次のやるべき仕事に取り掛かり始める

実際の劇場の整備などはスタッフにお任せしているものの、事務作業まで丸投げするわけにもいかない

昨日までの喧騒も遠い昔の出来事と言わんばかりに、一人寂しく作業をこなす

ああ誤解を防ぐ為に言っておくと、なにも本当に一人っきりで仕事しているんじゃない

音無さんは備品の買い足しに、社長はライブの関係各所へ事後挨拶に向かっている

社長に関しては本来俺が率先してやるべき仕事なのだろうが

本人が妙に張り切っていて、言い出すタイミングを逃してしまった

まああの人のツテはよく分からない分野にまで広がっているからなあ

こちらとしても作業に集中できて助かってはいる

しかし何を話したりするんだろう。白熱したアイドルトークでも繰り広げているんだろうか


・・・・・いかんいかん。集中が途切れてきたな

雑談もなくずっと机に向かっていると、逆に初歩的なミスをしがちになる

次の書類を片付けたら一旦休憩しよう。そう思って手にした紙には


   『重要! 765プロダクション シアターの今後について』


何だこれ

定期的に会議して作っているものとは書式やらなにやらが全然違う。誰かが暇潰しにでも作ったのか

・・・それにしては書いてあるのが『分からない』とか『知らない』とかいう変な単語ばかりだ

おおかたファンレターチェックで弾かれたやつが混ざっただけだろう


さっさとショ分  して      唖れ?   ナんだ キュウに     意シきが  トオく









  ――――なあ

  ――――――――おい、いい加減起きてもいいんじゃないか


男の声がする・・・・・。聞き覚えがない声だ

いつの間にか閉じていた瞼をゆっくりと開ける

目に入ってきたのは、ただただ広い空間

光源が見当たらないのに暗くはない。しかし特別明るくもない

物は無く、物音も聞こえず

見渡す限り打ちっぱなしのコンクリートの床が広がっている

どうやらこの空間にいる人間は自分一人だけらしい

待てよ、誰かの声が聞こえて目が覚めたんだ。俺以外に人がいないのは変だな

そもそも俺はさっきまで・・・


『ようやくお目覚めだな。いや、ここで「目覚める」ってのもおかしな表現か』


再び男の声。さっきよりははっきりと聞こえるが、なにやらくぐもっている

改めて周りを見回すと、そこには


『よう。初めまして、“プロデューサー”さん』



そこには、スーツを着て、首から上がアルファベットのPの形をした奴が立っていた


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




『突然呼び出して済まないな。俺としても、もっと穏やかなやり方がよかったんだが』

『生憎と俺は神様だとか宇宙人とかじゃない、ただの人間なんだ』

『あんたの意識を一点に集中させるには、ああいう方法しか思い浮かばなかったんだよ』


いきなり現れ、よく分からない言い訳を始めたP頭(取り敢えずそう名付けておく)を、俺はぽかんと見ていた

先ほどのこいつの口ぶりからすると、ここは・・・・・・・夢、ではないのだろうな

ここに来る直前の事を俺ははっきりと覚えていて、五感も確かに働いている

これで夢だったら、明晰夢なんてレベルじゃない

この状況も、俺なんかには理解できない何かによるものなんだろう。考えるのも面倒だ

それでも、一つだけ


「・・・・・なあ、ちょっと聞いてもいいか」

『お、ようやく喋ったな。いいぜ、俺が答えられる事なら何でも答えてやる』

『たださっきも言ったように俺はヒトだ。どうやったらこんな芸当ができるのか、とかに関しては』

「あーいや、聞きたいのはそういうのじゃないんだ。寧ろどうでもいい」

『ほう?それじゃ一体何について知りたいんだ』

「・・・その頭は、自前か?」

『んなわけあるか。被り物だよ。声の通り方で察しが付くだろ』


そりゃ俺だって普段ならそう思うし、我ながら馬鹿を言ったとは思うさ

だけどこんな状況で、通常の思考を求めるなんて反則だろ


『ていうか、そんなもんでいいのか。俺が連れてきといてなんだが、もっとあれこれ質問攻めされるかと思ったよ』

「自分でも怖いくらい落ち着いてるが、人間本当に驚いたらこんなもんさ。・・・・・それに」

「伊達に何年も765プロ・・・あいつらのプロデューサーをしてるわけじゃないからな」

「これぐらいじゃないとやっていけないよ」

『ははは!それもそうだ!なんなら百合子の妄想癖がうつって、普段からこういう事考えてんのか?』


おっと。あの紙の内容や、俺をプロデューサーと呼び掛けた時点である程度予想してはいたが


『おいおい、急に怖い顔はやめろよ。警戒するなって』

『ここにいるのは俺とあんただけだし、別にあいつらをどうこうするってんでもない』

『何度も言うが、俺はただの人間だ。俺がそっちに危害を加える事はできないさ』

『あぁ、あんたをここに連れてきたのは例外な』

「・・・・・ならいいんだが。でもそうなると、いよいよ俺がここにいる理由が分からないぞ」

『簡単さ。あんたがここにいるのは、俺がそう望んだから』

『つまり、俺はあんたと話がしたいと思ってんだ』

「それなら電話とかでも別にいいじゃないか」

『そう言うなよ。面と向かって話すのと、そうじゃないのが別モノだっていうのはあんたなら分かるだろ?』

「・・・・・で、要件は?」

『物分かりが良くて助かるぜ』


『ざっくり言えば、俺があんたに聞きたい事はたった一つだ』



『なあ“プロデューサー”さんよ。あんたは今、何を見据えてあいつらをプロデュースしている?』


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




その姿はまさしく、“アイドル”そのもの


ああ、願わくば・・・・・・・・あれ


『願わくば』・・・何だ?


俺はいったい、この言葉の後に何を続けようと。何を望もうとしているんだ・・・?


   「演者戻りー足下お願いしまーす」「うーっす」「舞台ライトもうちょい強めでー」


スタッフたちの声で我に返る


いけない、まだ公演が完全に終わったわけじゃないんだ。気を緩めるな


   「はあ、はあ・・・お疲れ様でしたーー!」「お疲れー!」「お疲れ様です!有難うございましたー」


ほら、戻って来た。余計な事を考えてる暇はない


俺が今やるべきなのは、彼女たちを労い、迎え入れること


そう自分に言い聞かせて、先刻まで脳裏にあったものを無理やり押し込めた


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「正直、何を聞かれるのかと身構えていたんだが」

「改めて考える必要もないな。俺は・・・」

『ちょっと待った。まさかとは思うが、「皆をトップアイドルにする」とかなんとか言い出すんじゃないだろうな』

『そんな定型文はどうでもいい。程度の差はあれど、そんなもんその職に就いてりゃ誰だって思ってる』

「・・・37人分、いや、50人分の今後のスケジュールでも言えば満足か」

『極端だなぁあんた。わざとはぐらかしてんのか?もっと腹を割って話そうぜ』

「・・・・・」

『黙っちまったよ。まあ初対面の相手に、素直に話せるわけないか』

『それとも、本当は自分でもまだ分からない、何を答えればいいのやら、ってところかい』

「そ、そんな事は!」

『ないとも言い切れないんじゃねえか、その様子だと。・・・・・じゃあ聞き方をちょっと変えるが』



『もしも田中琴葉が今回のライブに出れていたとしたら。あんたは今後何を目印に進んで行くつもりだった?』



『次こそ50人全員で武道館ライブ、か?そいつはまあ大層な夢だが』



『“今のあんた”にとって、それは、本当に“夢”と呼べる代物かね』



『俺から言わしてもらえば。あんた、このままだといつか・・・・・潰れるぜ』




「・・・・・・・・・・。俺は――――――――――」


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




薄々気付いてはいた。自分たち・・・いや、俺の中の“武道館”に対する大き過ぎる期待を

もちろん会場の広さだとか、アイドルたちのパフォーマンスに関してケチをつけようなんて微塵も思ってない

彼女たちは正真正銘、あの時出せる全力を出してくれたし、それについては期待以上だった


ただ、武道館でのライブを発表した後

「この場所でライブをやれば、何か次の新しい目標が見えてくるはず」という

どうしようもなく他人任せで、無責任で、プロデューサー失格とも言えるこの思いに

いつの頃からか、例えようもない不安を感じていた


そんな中、メンバーの一人が体調を崩す

後遺症などを考慮すると、ライブまで。なんならライブすら控えるべきとの診断

発表が早すぎた。仕事量の管理が甘かった。今からでも取りやめにして全員が揃う機会まで待つべきか

問題は山積み。連日の会議会議会議

なんにせよ早く判断を下さないと何もかもが水の泡になる。すると



「プロデューサー。私の事はいいですから、ライブ、やって下さい。というより、やらないと怒ります」

「確かに悔しいです。皆や、プロデューサーが思っているよりも、ずっと、ずっと、ずっと・・・・・」

「でも。それでもやっぱり、このタイミングが一番だって。私は思います」

「どうか・・・どうか、宜しくお願いします」



薄く腫れた目。しかしその瞳には、どうしようもなく強い意志が感じられた


結局、彼女一人を除いた36人でライブを行うように諸々が調整されていく

他にも俺に何らかのアクションを取ってくる子がいるかと思っていたが・・・・・

少なくとも開催内容について抗議してくる子はいなかった

おそらく俺の知らないところで、既に彼女たちなりに話し合いをしていたのだろう

本当に、こっちが情けなく思えるくらい、皆は成長していた


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




『なるほどなぁ。厳しく言えば、個々の体調も見抜けないのはそもそもどうなんだ。ってか』

「・・・言われなくても分かってる」

『そう睨むなって。まあ今回に限っては、残念だが、限界が来るのがいつになるかって感じだったしな』

『発表のタイミングも別に悪くはない。丁度いいくらいだ。だからあんまり自分を責めるなよ』

「・・・慰めてるのか?案外いい奴だな」

『うるせえ調子乗んな。・・・・・それで?』


「・・・・・」


『・・・・・』


「・・・・・ここまで話して・・・言葉で口にした事で、俺もはっきり自覚したよ」


「確かに俺には、今後あいつらと何を目指したいのかっていうものが欠けている」


「正直ショックだよ。自分がこんなにも弱くて、子供で、何も成長していない事実に」


「・・・・・けど・・・だけど、そんな事より」



思わず声が震える。涙も溢れてきた

頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉がうまく紡げない

声に出すのが怖い

言ってしまうと引き返せないかもしれない

そしたらもう、あいつらに合わせる顔がない


『大丈夫だ、ちゃんと聞いてる。全部伝わってるから、そのまま話してみろよ』


「・・・・・・・・・俺は」


「・・・・俺は・・・あの時・・・・・あの子の。琴葉の・・・・・想いを、聞いて」


「覚悟を・・・決めて・・・・・前に、進もう。・・・俺が、皆を引っ張ろう、って」


「心から、そう感じて・・・・・・・いたと、思っていた・・・」


「だけど!!・・・・・だけど・・・そうじゃなかったんだ・・・・・!」


「きっと頭の片隅で・・・『ああ、これで、まだ、全員で武道館ライブっていう目標があるな』って!」


「・・・・・・人として・・・プロデューサーとして!!」


「・・・・・一番・・さいっっっ低な、事を・・・思ってたんだ・・・・!」



言ってしまった

自分でも考え続けるのが怖くて、長らく見ないふりをしていたものを

涙と鼻水が馬鹿みたいに止まらない

多分こいつにはほとんど聞き取れていないんじゃないだろうか

感情が先か、口にした言葉が先か

それすら自分で判断できないほどに、混乱していた

・・・それでも。もしただの勘違いだとしても、一度抱いた疑惑はそう簡単に消えない

特に自分の内側に対してのどうしようもない嫌悪は

いっそこのままこの空間に閉じ籠ってしまおうかと思い始めた時、P頭は喋り出した


『そんな気持ち悪い量の涙流しながら自分を責めるような奴が』

『そういうことをほんの少しでも考えてた、なんて信じられると思うかぁ?』

『映像撮って見せてやりてえよ。あんた、大根役者も笑い死ぬぐらいひでえ演技だな!』


・・・くそっ、よりにもよってこんな奴を相手にこんな話を。俺の目ももう節穴か

けれど、そう言ってもらえた言葉は、不思議とすんなり心の中に入っていく感じがした


「・・・笑いたきゃ笑ってろ。こっちはそれなりに真面目なんだ・・・ずびっ」

『いやあ、中々熱いもん見せてもらったな。わざわざここまでした甲斐があった』

『どうだ?全部吐き出して大分楽になっただろ』

「・・・・・まあな。おかげで色々と余計なもんまで出てきたが、礼は言っとくよ」

『どーも。さて、お返しというと変だが、そんな悩めるお前さんに一つ話をしよう』


まるで小学生でも相手にしているみたいな話し方。癪に障るが、何故だか安心している自分がいる

P頭はしばらく黙ったまま下を向いていたが、おもむろに話し始めた


『これは、とある普通の男の話だ。少し長いが、辛抱して聞いてくれ』


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




男は、いわゆるアイドルのプロデューサーだった

まあプロデューサーとは名ばかりで、実際の仕事はほとんどマネージャーや事務員と同じだったが

きっかけは、街中で突然新興事務所の社長とやらに声を掛けられたから

よく考えずとも怪しいことこの上ないが、就職活動に嫌気が差していた男は二つ返事で快諾した

晴れて芸能関係者の端くれとなった男は、入社したからにはそれなりに頑張ろうと意気込んだ

それからの時間の流れは、男が予想もしなかったほどに早く、濃密なものであった


事務所には始め、10人のアイドルがいた

世間的には9人なんだが、それについての説明は・・・省略する

少ししてアイドルが1人増え、その後その子は事務所を一度抜ける

しかし次は、戻ってきたその子に加えて新しく2人、合計3人のアイドルが事務所に入った

それ以降はその13人と1人の事務員、そして社長と男で活動していく

アイドルは皆、上を目指して一生懸命に、時に競い合い、時に助け合って仕事やレッスンをこなしていた

少人数だったからか、芸能事務所ではとても珍しく、全員が家族のような絆で繋がっていた

そんな彼女たちと男が目指すものは、当然トップアイドルではあったのだが

その他にたった一つだけ、事務所の全員が共通して胸に抱いている野望のようなものがあった。それは


  ―――いつかドームで、客席を埋め尽くしたライブを―――


最初に誰が言い出したのかは覚えていない。特別な因縁のある者がいるわけでもない

しかし、事務所ができた頃からあったこの願いは

いつしか彼女たちだけでなく、ファンをも動かす原動力の一つになっていた



そして、10年の時が経ち、彼女たちはついにその野望を成し遂げる

10周年という節目にふさわしい、それはそれは素晴らしいライブだった

事務員、社長、男は言わずもがな、全てのファンが悲願の達成を祝い、喜んだ

もちろんこれでトップアイドルになれたわけではないので、まだまだ道は続いていく――――はずだった


というのも、アイドルにとって10年という歳月はそれほどまでに大きく、覆しがたい壁であるからだ

それは事務所の全員はおろかファンたちもみな、分かっていた

寧ろ周年ライブを悲願の地で行ったのも、ある意味、散り際のなんとやら、みたいなものだったのだろう

とはいえさすがに一度に全員引退、というわけではない

数人はそのままアイドルを、そうでない者も役者などの形で業界には留まり、事務所も存続していく

社長の年齢も年齢なので、男も少しずつ仕事を教わり始めていた


さて、ドームでのライブから月日が経ち、男はある日社長から一つの提案を受ける


   「今度は君自身が、自ら育てるアイドルたちを選んでみてはどうだ」


その頃にはもう事務所にアイドルとして活動している者はおらず、始めの13人は既に各々の道を歩んでいた

無論、男が断る理由など何もなく、喜んで準備を始める

オーディション、スカウト、コネ・・・男は様々な手を使って新しいアイドルを探した

後先考えない募集の結果、集まったのは37人

社長はいくらなんでも集め過ぎだ、とひっくり返ったが、最終的には全員の加入を許可した

その中には引退した13人のファンもいれば、手違いで来てしまった子など、タイプは多岐にわたる

ただその多くが、元は素人であった為、先輩、いわば一期生に彼女たちの面倒を見るのを手伝ってもらった

・・・いや、男なら37人を一度に相手できたのだが、13人がそれを頑なに許さなかった。曰く


   「同じ事務所の新しい仲間なんて、いつだって嬉しいに決まってるじゃないですか!」



男ははっとした。確かに一期生のスタートラインは、多少の差はあるものの、ほぼ同じ

始めの頃の出入りが激しかったのもあって、当時はそこからアイドルを増やすという考えは全くなかった

まるで現役時代に戻ったかのように、楽しそうに後輩と話す彼女たち

しばらくそうして過ごすうちに、男はほんの少しだけ思った


   ――――事務所ができてから3年、いや、7,8年の時に、この子たちを迎え入れていたら―――――


もちろん男はそれが空想の産物であると自覚していた

そもそもその頃と今とでは全員、年齢や環境が全く異なるのだから

それに、男は別に自分のそれまでのプロデュースをやり直したいのではなかった

多少回避したいミスや、少し試してみたい事がないわけではないが

彼女たちは当時、心から楽しんで活動していたと信じていた

そして何よりも、それまでの日々を全否定するようなことを男はしたくなかった

だからこそ、本来ならばどう転んでも有り得ない可能性に、決して小さくはない興味を持った



時は更に過ぎ、37人のアイドルが入ってから数年。男たちは、ある場所でライブを行う

事務所の10周年を祝ったその場所だが、今回は特に大きな節目の年ではない

しかし、昔を知る一部のファンにとって

そして、始まりの13人を含めた事務所の全員にとって、そのライブは大きな意味を持っていた

前回とは全く違う、その公演の立ち位置

男にはしっかりと、未来へと続いていく道が見えていた


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




『めでたしめでたし、ってな』


「・・・・・あの、その『男』っていうのは・・・あなたなんですよね」

『なんだよ急に。敬語なんか使うなよ、気色悪いな』

『確かに俺はあんたよりずっと歳上だが、ここに来たら若返ってたんだ。気にすんな』

「・・・じゃあ改めて聞くが、なんでわざわざ三人称にして話したんだよ」

『分かってねえなぁあんた。そういうのを聞くのは風情がないぜ』

「俺にはどうにも、話の中の男と目の前の奴が結び付かないから確認してるんだが」

「それと、肝心の俺がここに連れてこられた経緯がまだじゃないか」

『あぁ、そういやそうだった。そっちはほら、単純明快』

『そのライブの打ち上げで、なんとな~く昔こんな妄想してたなぁとか思ってて、気が付いたらここにいたってわけだ』

「それのどこが単純で明快なのかもう一度よく考えろ」

『そしたら、違うところも多いが、その妄想と似た世界で俺と似た立場にいるあんたを見付けた』

『周りにはうまく隠していたみたいだが、俺からしたら何か抱え込んでるのが丸分かりだった』

「・・・・・」

『どう見てもバッドエンドへまっしぐらなあんたを見てらんなくて、思わずこっちに引き込んだのさ』


P頭はそう言って小さな紙を見せてきた。・・・えーっと『気になる人と直接お話したい時の手順』

頭沸いてんじゃないのか?こいつとこいつをここに呼んだ奴は



『とにかく!そんな楽しそうな世界で、何をそんなに悩んでるのか根掘り葉掘り聞きたかったんだよ』


『自分がどれだけ恵まれた環境にいるのか。見落としがちだが、大切なんだぜ?こういうのは』


「・・・おかげさまで、よーく分かった」


『それになんなんだ、あんたら。あのレベルにいるってのに、揃いも揃って若過ぎるじゃないか』


『俺を人間かどうか怪しんでいたが、あんたらの方がよっぽどだぜ。ほとんどチートだぞ』


「それに関しては弁明の余地もない。なんでだろうな、ほんと」


『ったく。・・・・・さて、これだけ色々話してきたんだ。何か一つくらい、見えてきてもいいんじゃないか?』


「・・・・・そうだな。どうやら今までが上手くやれてたから」


「変に先へ先へと進むことにばかり囚われていたのかもしれない」


「大事な・・・とても大事な、始まりの気持ちをすっかり忘れてた。劇場を建てた、あの頃のことを」


『・・・・・あのな。俺が思うに、未来ってのは、“今”の延長なんだ』


『だからこそ、“今”を大切に、悔いの無いようにする』


『その劇場とやらが無い世界線の俺にはよく分からんが、「帰る場所」があるってのは大きな力になる』


『・・・特に、765プロみたいな超絶お人好し集団には、な』


「はは、違いない。・・・っていうかさらっと言ったけど、やっぱりこれって並行世界とかそういう」


『さあな、俺も知らん!けど、大体はそういう感じでいいんじゃないのか?』


「お前はとことん適当なんだな・・・。まあいいや。今度百合子か杏奈あたりに聞いてみよう」


『あの二人なら俺らよりそういうSFに詳しそうだしな。丁度いいんじゃないか・・・っと、もう時間らしい』


「時間?・・・・・ああ、そういうことか。なんで分かるんだ」


『この被り物の中に、モニターが付いてんだ。これであんたの様子とかを見れる。結構ハイテクだぜ』


「覗き穴が無いと思ってたらそういう・・・もう突っ込む気力も残ってないよ」



「あ!凄い今更だけど、俺だけ顔見られてるって不公平だ。最後くらいそれ取ってくれよ」


『あーそうだな。多分だけど、どうせ元の世界に戻ったらほとんど忘れてるってオチだろうし、いっか』


「そもそも別の世界線にいるんだから、覚えてても」



    バシュウウウウウウ!!!

白煙が大量に噴き出す。予期せぬ大きな音に今日一番驚いた

被り物ってこういうものだっけ?


「げほっげほっ、付けるのは被るだけだったのに、なんで外す時は・・・げほっ」


さて、並行世界説が候補に挙がった今、こいつが俺の顔見知りという可能性もある

だからどうしたという話だが、こういうのって、なんかわくわくするだろ?

口調と体格からある程度目星は付けてあるが、なにせ世界が違うんだ

見た目や声が全く別でもおかしくはない

・・・煙が晴れた



「よう。改めて、色々ありがとな。楽しかったぜ、ほんと」


「ああそうだ、因みに俺の名前は――――――――――――


     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「~~~~~~っ、あまとうじゃねえのかよ!」


思わず叫んで起きる

どうやら作業の途中で寝落ちしてしまったようだ

・・・ん?『思わず』って、何に対して驚いたんだっけ?


「プ、プロデューサーさん?」

「・・・・・・あ、あれ、音無さん?戻ってらっしゃったんですか」

「つい先ほどですが。ぐっすり眠っているようでしたから、起こすのも悪いかなって思いまして」

「お見苦しい所を・・・済みません」

「いえいえ。それで、一体どんな夢を見てたんですか?『甘党』?」

「うーんそれが、自分でもどんな内容だったかもうぼんやりしてて・・・思い出せませんね」

「そうですか。・・・でも、きっといい夢だと思いますよ」

「?そりゃまた、どうして分かるんですか?」

「だってなんだかプロデューサーさん、凄く生き生きした顔してますよ」


     ☆ ★ ☆




武道館ライブから数週間。既に劇場も通常営業に戻っている

通常といいつつも、相変わらず毎日が小さなお祭り騒ぎだ

一方俺はというと、実際、あの日以来明らかに気分が良くなっていた

なんだかんだプレッシャーを感じていたのだろうか?

結局夢の内容ももう思い出せないし。・・・まあいいや

あ、そういえば今年もそろそろエイプリルフールだ

ファンの度肝を抜くサプライズ、しっかりと準備しなくちゃいけないな

今回は誰に協力してもらおうか、なんて考えていると


「プロデューサーさーん、善澤さんからお電話ですよ」

「あ、はーい!今行きます」


・・・・・さて、未来は今の積み重ね

肩肘張らず素直に生きる

止まらず急げや、されど焦らず

今日はやけに気分がいい。景気付けに小声で叫ぶ


「765プロ、ファイト・・・オー!」


どこからか、また力み過ぎんじゃねえぞ、と声がした気がした


     ☆




――――――願わくば、一人でも多くの者に笑顔を、感謝を、愛を、夢を


そして、そんな彼女たちの無限大の可能性を。宝石のような日々を。これからも一緒に――――――


以上をもってこのssは終了となります

余談ですが、タイトルの『物語』は『ゆめ』と読んで頂ければ、分かる人には分かってもらえるかと思います

こんな駄文を最後まで読んで下さり、本当に有難うございました

この作品が、少しでもミリオンを知っている方の心に何か残せたら幸いです

DIAMOND DAYSの歌詞かな?
http://www.youtube.com/watch?v=IREj-bJ1TK4
おつです

>>11
田中琴葉(18) Vo
http://i.imgur.com/Pf8vlvm.jpg
http://i.imgur.com/nWx3NuB.jpg

>>21
音無小鳥(2X) Ex
http://i.imgur.com/hFRWAa5.jpg
http://i.imgur.com/ElSKgHB.jpg


>>1です

今から書くのは本編にほぼ関係ないこのss内の設定です
蛇足といえば蛇足ですが、自分はこういうのがわりと気になる人なので一応
逆にそういうのが苦手な方は無視して下さい
間を空けたのでそもそも読む人がいるか分かりませんが

というかトリを付け忘れてたんで証拠がないですね
まあ仕方ありません
気にせず進めます


作中に登場するプロデューサーの世界は、
私達が今楽しんでいるいわゆる『サザエさん時空』ではなく、アイドルがちゃんと歳を取ります

『P頭』の世界線において、事務所の10周年ライブを行った段階での春香達の年齢は
現在(アイマス2nd Vision)の設定 +9歳と考えてます
要するに事務所ができて(アケマス)からSPぐらいまででだいたい1年、その後からアイマス2~といった感じです

そして10周年ライブからシアター37人が入るまでに5,6年が経ちます
この時の37人の年齢が今の『ミリオンライブ!』内の設定年齢であり、再びドームでのライブを行うまでに更に年4,5経過してると思ってます

なので『P頭』が『ここ』に来た時、彼の世界線では、例えば亜美真美は30歳を過ぎていて、育は花の女子高生といった状況になります
いくももたまの制服姿、見たいです

一応言っておくとAS13人と事務員1人はちゃんと結婚してます(笑)
なんなら『P頭』も既婚で子供もいるという設定ですが、さすがにこれらを話に絡ませてくると収集がつけられないので触れないでおきました

果たして『P頭』は誰と結婚したんでしょうか
それに関する物語は下手したら本編より長くなりそうですね
皆さんで好きに補完しておいて下さい

あと自分で書いといてなんですが貴音さん結婚したんですか
妹さんや古都とのあれこれがどのような結末を迎えたのか
これらに関してもとても扱いきれないので、同様にいい感じで補って頂けると有難いです
ただ、ちゃんと事務所(というか現世?)には留まっているはずです

シアターの成人組もそろそろいい頃合いの年齢になってますが・・・
みんな超々優良物件なんでいい人に巡り合えると信じてます


そんな一方で、『俺』の世界線も、実は現実の私達と全く同じ世界観・設定ではありません
『P頭』よりはASとシアターメンバーの年齢は近いですが、ズレはあります

詳しく言うと、『俺』の世界線では、37人が加入した時のASの年齢は2nd Visionの設定 +2歳
そして武道館ライブを行うまでに4年(ここは自分達と同じです)
さっきと同じ例えを用いると、亜美真美は19歳。育は中学生になってます

最初の方で昴,ジュリア,莉緒姉,このみさんの会話(のつもり)の描写がありますが、
『俺』の世界線では、昴とジュリアはまだ未成年なんですね
もちろんまつりも無事に19歳になりましたよ←


つまり、『P頭』が抱いていた妄想の
『事務所ができてから3年~この子たち(37人)を迎え入れていたら』の部分は『俺』の世界線
そして『7,8年の時に~』の部分が私達の事を指しています

まあ実際は、知っての通り現実の『ミリオンライブ!』内で春香・未来達は(恐らく)永遠に歳を取りません
なのでもし『P頭』が覗き見たのがその世界だったとしたら、白目向いて卒倒してましたね
『俺』の顔も真っ青なチートっぷりです


勘違いしないで欲しいのは、そんな『サザエさん時空』を批判しているわけでは決してない、という事です

最初は『P頭』の役割を善澤記者か黒井社長、もしくは先輩Pをでっちあげてやらせようかと思っていました
結果的にこういう切り口で書いたのはあくまで、数多くあった可能性の幾つかが交わったら面白いかも、程度に思っただけです
回りくどく感じた方には申し訳ありません


さて、長々と書いてきましたが、自分の中で考えておいた主な設定・裏話はこれぐらいでしょうか
もっと付け足すこともできますが、これ以上は本当に蛇足になるので自重しておきます
万が一他に聞きたい事があればその都度お答えします


最近、4周年関連のイベント等が落ち着いて、心なしかミリオンの二次創作界隈も活気づいた気がします
ただの気のせいですかね


それではまた、もし自分の自己顕示欲が懲りずに主張してきたら書いてみようと思います
ここまで目を通して下さった物好きな方々に、改めて心から感謝します

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