日向「神蝕……?」 (202)

日向「……神蝕?」


※アホリズムとロンパ無印、スーダンのクロス的なもの

※主人公は日向だけど、他キャラで『〇〇編』的な書き方をしていく予定

※苗木くん逆補正気味。

________________

日向  (その日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

日向  ("毎日"の始まりだったんだ)  


【日向創 Chapter0 "始"(ハジマリ)】



日向  (俺の名前は日向創(ヒナタ ハジメ)。元は希望ヶ峰学園の予備学科生だ)

日向  (常夏の島、ジャパウォック島でのコロシアイ修学旅行――。
     11人の犠牲を出しながらもなんとか生き残った俺たち5人は、
     現実のジャパウォック島で仲間たちの目覚めを待つことに決めた)

日向  (未来機関へ帰る苗木たちの船を見送った俺たちは、ひとまずホテルを拠点とすることにした。
     そして明日からの探索に備え、それぞれのコテージに戻った……)

日向  (……はず、だった)


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【???】


日向  「う……、ん……」パチッ

日向  「!?」

日向  (背中に感じたのは、コテージのベッドではなく、固いパイプ椅子の冷たさ。
     そして……目の前に広がっていたのは、つい昨日見たばかりの景色だった)

日向  「ここは、希望ヶ峰学園の体育館か……?」

日向  (まるで、入学式のようだった。パイプ椅子に腰かけた奴らが眠っている。
     あちこちから聞こえる寝息が、異様な雰囲気を演出していた)

日向  (よく見ると、そいつらは皆同じ制服を着ていた。見覚えのある茶色のジャケット…
     あれは、希望ヶ峰の制服だ……)

日向  (何人いるのかは数え切れない。だが、おかしくないか……?たしか予備学科の生徒は
     集団自殺したはずだし、本科の学生も学園にはいないはず。それに何より)

日向  「なんで俺は、プログラムの中と同じ姿なんだ?」

左右田 「ん……」ガタッ

日向  (隣で寝ていたそいつは、起きるなりつんざくような叫び声をあげた)

左右田 「あれっ、日向?なんで朝からオレの部屋に……って、えええええ!!?」キョロキョロ

日向  「落ち着け左右田、俺にも理由は分からな」

左右田 「こ、ここ希望ヶ峰だよな!?ハッ、まさかオレらまだプログラムの中に」

九頭龍 「いや、それはねーだろ」

日向  (振り返った先には、やはり同じようにパイプ椅子に座った九頭龍がいた。
     眼帯も黒いベストも、修学旅行の時と全く同じ姿をしている)

九頭龍 「オレらはたしかに現実のジャパウォック島にいたんだ……寝てる間に拉致られたってのがまあ、
     妥当なとこだな」

左右田 「つー事は、これも未来機関の差し金か!?」

九頭龍 「さあな……そもそもオレら77期生の命を助けたのは苗木の独断だったろ。
     "希望"どもが黙ってるとも思えねえ。
     どうせ一度は死んだような命だしな……こいつが未来機関の意思だってんなら、
     煮るなり焼くなり好きにしてもらおうじゃねえか」フーッ

左右田 「そんなあああ!!オレまだソニアさんと手もつないでねーってのに!!」ガーン

九頭龍 「ま、未来機関の仕業って考えるとおかしい事だらけだ。日向、お前はどう思う?」

日向  「どう……って」

九頭龍 「前の列のコック帽……どっかで見覚えねえか?隣のおさげも」クイッ

日向  「あ、あの二人は……!」

日向  (前列で眠っているのは、"超高校級の料理人"花村輝々に間違いなかった。
     俺たちの目の前でヘリコプターに吊るされ、火山でカツにされたはずのあいつが……)

日向  (その隣は、狛枝が手に入れていたファイルの中で見た顔だった)

日向  「超高校級の文学少女……腐川冬子か!」

九頭龍 「あいつらだけじゃねーぞ。周りよく見てみろ」

日向  (周りを見渡すと、たしかに全員いた)

左右田 「おいおい、どーなってんだこりゃ……!ソニアさんに小泉に西園寺、澪田、辺古山……
     狛枝も……十神までいやがる!あいつら今ごろ、島でグースカ寝てるはずだろ!?」

日向  (ソニアを真っ先に見つけたので、目の前の左右田は偽物ではないと確信できた。
     あいつは……本名はないらしいし、俺たちにとっての十神はあいつ以外いない)

西園寺 「うわあああん!!小泉おねぇぇぇ!!」ギュウウウ

小泉  「ちょっ、日寄子ちゃん?どしたの?」

日向  (遠くで、西園寺が小泉にしがみついて泣いている。
     俺は高鳴る心臓をおさえて、77期生の仲間全員がいるのを確認した)

日向  「77期生だけじゃないぞ。ちらほら見覚えのある顔がいる」

左右田 「あーっ!あいつ、裁判場にいた……」

日向  「霧切響子だな。…お、向こうも目が覚めたみたいだ」

日向  (霧切は目を覚ましてあたりを見回す。俺たちを見つけると、一瞬だけ目を見開いたが、
     すぐに元の無表情に戻って、"あとでね"と声を出さずに言った)

苗木  「霧切さん、ここは……体育館?」

石丸  「う……しまった!個室以外での就寝は……ッ、僕はっ、いつの間に体育館に!?」ガタッ

苗木  「!」

石丸  「いや、それより……僕はたしか美術準備室に呼び出されて……うっ!」ズキッ

苗木  「石丸クン?どうして、生きて…」

石丸  「そうだ、後ろで気配がしたんだ。振り返ろうとした所を……誰だったんだ、
     あれは…あの影は……いっ、痛い!頭が痛いぞ!割れるみたいに……」ズキズキ

苗木  「石丸クン、それ以上はやめるんだ!」

舞園  「わ、私死んだんじゃ……なんで体育館なんかにいるんですか!?」

苗木  「舞園さん?」

舞園  「あれ、お腹……刺されたはずなのに」

日向  (傷一つない腹を制服ごしに撫でて、舞園は困惑している)

霧切  「これは、一体……」

日向  (霧切は事態の把握に務めているが、さすがの名探偵でも無理らしい)

桑田  「……」

日向  (78期生から一人離れたパイプ椅子に、ぽつんと座っているあいつ……桑田怜恩か?)

不二咲 「うう……ん、あれ…?ボク、ずいぶん長い間眠ってたみたいだ……」ゴシゴシ

日向  (苗木たちの反応から言っても、間違いない。
     あいつらは……"コロシアイ学園生活で死んだ78期生"だ)

日向  (しかし、78期生が生き返るなんてことがあるのか?いくら超高校級とはいえ、
     "実は絶望側の仕掛け人でした"くらいしか、生きている理由なんて……)

日向  (そんな俺の思考は、懐かしくも不快な声によって遮られた)

狛枝  「やあ、ずいぶんと久しぶりに会ったような気がするけど……日向クンたちに
     間違いないよね?」ガタッ

左右田 「げっ、唯一会いたくねえクラスメートが……」

狛枝  「あはは、いくらボクが77期の屑鉄だからって、そこまで冷たくしなくてもいいじゃないか。
     一緒にあの島で過ごして、共に希望を追い求めた仲間ではあるんだからさ!」

終里  「おい……!オメーがいつオレたちの仲間になったんだ……?」ユラリ

狛枝  「あ、終里さんも目が覚めたんだ」

終里  「黙ってろ!それ以上喋ったら、そのニヤケ面を七海の分ヘコませてやんぞ!!」ゴォッ

日向  「七海…そうだ、七海は……!」キョロキョロ

日向  「……そうか、いるわけ……ないんだったな……」ストン

日向  (生徒たちの中には、ちらほらと78期生の姿もあった。数えてみたが、人数は16人……
     あの"コロシアイ学園生活"で死んだはずの奴までいたということは、ここはやっぱり
     ジャパウォック島と同じプログラムなんだろうか?)

キーン、コーン、カーン、コーン……

??? 『みなさん、おはようございます』

??? 『これより…第××回、希望ヶ峰学園入学式を執り行います』

日向  (××の所は、ノイズが混ざって聞こえなかった。そして、次の瞬間――


ありえない人物が、壇上に姿を現した。


『体育館で目覚めた者たちも、教室、あるいは
 武道場、水練場、寄宿舎……この学園で目覚めた希望ヶ峰の全生徒諸君。

 はじめまして……いや、"お久しぶり"かな?』

『私の名前は霧切仁。希望ヶ峰の……君達の、学園長だ』


霧切  「……おとう、さん?」フラッ

日向  「――!!」

日向  (誰もが、驚き……言葉を失っていた。死んだはずの希望ヶ峰学園長が、そこにいる。
     かたわらにモノクマのヌイグルミを抱えて。きっちりとスーツを着こんで。
     生前と髪の毛一本違わない姿で。……静かな微笑みを、浮かべていた)

学園長 「書けたかな。そうしたら次は、その漢字を声に出して読むんだ」

腐川  「えっと…語(かたり)?」

霧切  「……索(さく)」
     
澪田  「音(おと)ー!」

左右田 「きっ、機(き)!」

辺古山 「刀(かたな)」

十神  「皇(すめらぎ)」

日向  (えっと……これは、"かわる"か?それとも"へん"?)

日向  「変(へん)……!」

日向  「いてっ…!」バチィンッ

日向  (文字を読み上げた瞬間、紙が粉々に弾けた。火傷のような痛みに、思わず声が出る。
     痛みの走った手を恐る恐る確認すると…)

日向  「なんだこれ……さっきの文字、なんだよな?」

日向  (そこには、甲骨文字のような書体で"変"の一文字が浮かび上がっていた。
     こすっても、つねっても消えない。まるで刺青のようだ。
     隣を見ると、左右田がうなじに手を当てて"なんだ!?"と叫んでいる。
     周りの生徒たちも、体に刻まれた文字を見て目を丸くしている)

学園長 「よし、無事に"儀式"は完了したみたいだね……ではそろそろ、試練の時間だ。 
     ここにいるうち一人でも多くが"生き残る"ことを、願っているよ」

ズズズズ…

日向  「なっ、なんだ、次は何が……」

日向  (空間に、次々と黒い円が現れた。床、天井、壁に出た円の中から出てきたのは)

生徒A 「きゃああああっ!!」

生徒B 「なんだ、なんだよこの化け物…!」

日向 (四本の足に、三つの目玉。鋭い牙の覗く口からは、よだれをダラダラと垂らしている。
    恐竜のような化け物たちの牙はまっすぐに、俺たちを狙っていた)

学園長 「全員、起立っ!!さあ、希望を背負った生徒たちよ、闘うんだ!!」

日向 (生徒達の悲鳴と、化け物の唸り声が轟く体育館で、俺は知った)

日向  (今日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)

日向  (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)

日向  ("毎日"の始まりなんだと)  

_______

今日はここまで。
様子見ながら書いてきます。

>>5>>6の間に入れ忘れていた…しょっぱなからのミスで死にそうだ

学園長 「ほとんどの生徒は驚いていることだろうね。"なぜ自分は生きている?"と……
     答えは簡単だ。君達は"試練"のために、再び生を受けたのだ」

左右田 「試練……?また、あのコロシアイみてーなのがあんのか……?」

日向  (コロシアイなら、まだマシだったかもしれない。学園長はスーツの胸ポケットから、
     何枚かの紙を取り出して見せると、気がふれているとしか思えない言葉を放った)

学園長 「これから君達2500人の生徒には、命を賭して戦ってもらう!!」

日向  (俺たちの手の中に、ひらりと小さな紙が落ちてきた。学園長が持っているのと同じ、
     円の周りに四つの三角形が描かれている。それだけでなく、俺の右手にはいつの間にか
     小さな鉛筆が握られていた)

学園長 「その円の中に、各々が"闘う"ための漢字を書いてくれ。一文字しか書けないから、
     慎重に選ぶんだ」

霧切  「待って!……どういうことなの、あなたはもう死んだはずよ。それに、"命を賭して"って
     何?私たちに何をさせようと言うの?」

日向  (立ち上がった霧切には目もくれず、学園長は腕時計を見た)

学園長 「あまり時間がないな……」

霧切  「お願い、説明して!あなたは本当に私の」

学園長 「まだ文字を決めていない生徒は、早く書くんだ!!」

日向  (学園長の気迫に圧されて、俺たちは紙に目を落とす)

左右田 「お、おい……漢字ってなんだよ、オレらもう命の心配とかしなくていいんじゃねーのかよ!」

九頭龍 「嫌な予感がするな……」

日向  (そう言いつつ、九頭龍はもう書きだしていた。周りを見ると、たかが漢字一文字に
     駄々をこねるのもバカらしいと気づいたのか、みんな半信半疑で書いている)

日向  「書くしか、ないのか……!」

日向  (闘う……闘う……)

日向  (俺があの島でやったのは……手に入れたのは……"封じていた記憶"と、"汚い過去"……
     でも、そこから目を背けてはいけないんだ。俺は……今度こそ、誰の手も借りない。
     カムクライズルではなく、日向創として)

日向  (俺自身を、"変えて"みせる!)ガリッ

期待

>>9ありがとう。

日向  「どっ……どうすれば……」

辺古山 「坊ちゃん!ここは危険です、早く!」

目にも止まらぬスピードで走ってきた辺古山は、九頭龍の手をぐいっと引っぱって
立たせた。九頭龍は「先に行ってんぞ!」と叫んで、体育館を後にする。

ソニア 「あ、あ……!」ガタガタ

田中  「……思考は本能を鈍らせるぞ、雌猫。しかしこの怪奇……再会を喜ぶ暇もなさそうだな」

ソニア 「田中さん……!」

田中  「これが罪深き我らに与えられた蜘蛛の糸か……いいだろう、地獄より還りしこの魂、
     後は野となれ山となれ!……雌猫、貴様が望むなら、その立会人にしてやってもいい」

ソニア 「わ、私は……」

ソニア 「……」グッ

ソニア 「行きましょう!」スクッ

左右田 「あーっ!!チックショー、また田中に抜け駆けさせてたまっかよ!!」ダダダダッ

左右田も二人を追って出て行ってしまう。ソウルフレンドに激励の言葉はないのか?
……気づくと、この一分足らずで体育館からほとんどの生徒が消えていた。

学園長 「君達、何をしているんだ?」コツッ…

霧切  「……」ギリッ

学園長 「すでに試練は始まっているよ。早く外に出て闘うんだ。その"文字"を使ってね」

ズズズッ

日向  「!床にも円が出て……」グイッ

学園長 「ちなみにこの化け物たちは、"始"という漢字から生まれた。
     漢字から生まれた本能だろうね……君達の体に刻まれた文字の"匂い"を追う。
     学園のどこに逃げようと、闘いからは逃れられない」

学園長はその言葉を証明するかのように、抱えていたモノクマのぬいぐるみを
ポイッと化け物たちの群れへ放り投げる。
……化け物は見向きもせず、生徒たちを追い回していた。

霧切  「何を、他人事のように……これを仕組んだのはあなたでしょう!?」

豚神  「日向、走るぞ!」

足がすくんでいる俺を引っ張ったのは、十神だった。
その肥った体をものともしない走りは健在だ。
十神はそのまま、空いた左手で泣いている赤いジャージの襟首をつかむ。

朝日奈 「あ、あんた……十神?」

豚神  「説明は後だ、とにかくこの体育館を出るぞ!この狭さだ、囲まれたら……」

グチュッ…ガシュッ、ギャアアアアア!!

俺たちの後ろで、肉が引きちぎれるような音と、悲鳴が聞こえた。

グチュ、グチョッ…ゴリゴリ…ブシュゥゥ…

豚神  「……ああなる」

霧切の声ではなかったことに、少しだけホッとする。
ちらっと振り返った向こうでは、何体もの化け物が下半身のない女子生徒にかぶりついていた。
血しぶきが上がるたび、まだ生きている女子生徒は体をびくつかせて、悲鳴をあげる。

日向  「うぶっ……」オエッ

豚神  「吐くな、貴重なエネルギーを無駄にする気か!
     ……おい、愚民ども!お前たちがまだ生きることを諦めていないなら、すぐにここを出ろ!
     これは忠告ではない、"超高校級の御曹司"の命令だ!!」

十神の声に、残っていた生徒たちも弾かれたように逃げ出した。
俺たちの手を握る十神の手に、じっとりと冷や汗がにじむ。

朝日奈 「いやだ……こわいよ……さくらちゃん、どこにいるの……?」グスッ

体育館前のホールを抜けて、廊下を走る。化け物の足元をくぐりぬけて、
床に浮かぶ円……化け物の召還陣を跳び越えて、俺たちはただひたすらに、外を目指した。

バタァンッ!

日向  (しかし、廊下の扉を蹴破った俺たちが見たのは……さらなる地獄だった)

豚神  「くそっ……もうこんなに死者が!」ワナワナ

化け物が出てきてから、まだ4、5分しか経っていない。その短い時間で、
校庭は血の海になっていた。薄暗い中、頭のない死体を引きずる化け物。泣き叫ぶ生徒を
バリバリと足から食らっていく化け物。まだ温かい内臓を……舐めて……しゃぶって……

朝日奈 「う、うぅっ……!」

へたりこんだ朝日奈は、わずかな胃液だけを吐いた。口元をジャージの袖でぬぐって、
「ひどい……!」とつぶやく。そんな中、十神はネクタイをゆるめて鎖骨の文字を見せた。
やわらかい脂肪に埋まった鎖骨に、文字がある。

豚神  「日向、お前の文字は何だ?」

日向  「えっ、と……"変"だ。変わるって字だよ」

豚神  「なるほど、使い勝手はよさそうだな。ちなみに俺は"偽"(いつわり)だ。
     あの学園長が言っていたな。"文字を使え"と。つまり、俺たちに与えられた能力は……
     "漢字を具現化する能力"だと考えられる」

豚神  「死者が蘇り、消えたはずの学園が存在するこの世界…何が起こってもおかしくはあるまい。
     しかし、まさか本当の意味で"闘い"とはな……分かっていたら、もっと使い勝手のいい
     文字にしたぞ!」

十神は手ごろな枝を拾い上げると、近づいてきた化け物の口に

豚神  「お、おおおッ!!」ブンッ

つっかえ棒にして差しこんだ。

化け物 「……グルルッ……」ガジガジ

化け物 「ガアアアアア!!」バキンッ!

豚神  「!……やはり、この文字でなければ対抗できないのか!」

枝を噛み砕いた化け物は、その勢いのまま十神に飛びかかって倒した。
胸に乗りかかられて、十神は化け物のアゴをがっしりつかむ。

豚神  「くっ……日向、そいつをっ、朝日奈を連れて逃げろ!」

日向  「バカ野郎、お前を見捨ててなんて行けるか!」

豚神  「この俺が"頼んで"いるんだぞっ……十神の信念を、曲げてまでっ…ぐっ、」

化け物はさらに力をこめる。鋭い牙をつたって、十神の高級そうな服にダラァッ…と
よだれがこぼれた。十神は気持ち悪そうに眉をひそめて、もはやこれまでかと目をつぶる

日向  「仲間が死ぬところなんて……もう二度と見たくないんだよ……」シュルッ

俺は、深緑色のネクタイを外して握りしめた。
もう、うんざりだ。仲間の涙を見るのも……成すすべもなく、死んでいく仲間を見送るのも……
自分の無力さに苛まれるのも。

日向  「変……変……変わる……」

だから、俺に、武器を。現実に立ち向かう、力を!

日向  「変われ……変われぇっ!!」カッ


"変"(へん)


朝日奈 「……きゃっ!」

朝日奈 「……ひな、た?」

まばゆい光がおさまった後。俺の右手にはネクタイが変化した、一振りの刀が握られていた。
辺古山が使っていたのと同じ、切れ味のよさそうな日本刀だ。

日向  「らあああッ!!」ブンッ

化け物 「!?」

肉を斬る確かな手ごたえが、刃から手につたわる。十神の顔を噛み千切ろうとしていた
化け物のアゴは、俺の一閃で血を吹き出して地面に転がった。
その隙に這い出した十神は、朝日奈を背中にかばって立つ。

日向  「やっぱりか……"超高校級の剣道家"は、持ってたはずなんだけどな……
     まあ、カムクラが消えたんならそれでいい!」

その時だった。化け物と対峙する俺の耳に、ふと声が届く。

生徒A  「よっ……っと、登れないことは、ないけど……キツいな」ズルズル

生徒B  「頑張れ、もうちょっと……」ググッ

生徒C  「おい桑田、無理そうだしさっさと"出口"作ってくれよ」

桑田   「……たりめーだろ……こんなとこ、一秒でもいられっかよ」ボソッ

予備学科の生徒たちと一緒にいたのは、意外な人物だった。
"超高校級の野球選手"桑田怜恩は、塀に手を当てて「すうっ」と深呼吸する。


"出"(いずる)


パアッと光が放たれて、真っ白な壁に教室の扉が生まれた。

生徒A 「やりぃっ!俺いーちばんっ♪」ストンッ

塀の上にいた生徒は、飛び降りるなり扉を開けて……

生徒A 「……って、あれっ?」

塀の中から、扉を開けて出てきた。

生徒B 「おい桑田、お前ちゃんと出口作ったのかよ!」

生徒C 「出らんねーじゃねえか!もっかいちゃんと……」

桑田   「お、おい!前……」

生徒C 「あ?」

桑田の生み出した扉の上に、ズズッ…と召還陣が現れた。
予備学科の生徒たちは悲鳴を上げる間もなく、ばくんっと呑みこまれる。

桑田  「あ、あっ……!」ガタガタ

桑田  「あ゛っ、あああああああっ!!」

腰を抜かしていた桑田は転がるように立ち上がって、逃げ出した。
化け物の腹の中で、丸呑みされた生徒が暴れている。人の形に出っ張った『それ』は
出してくれ、というように腹を叩く。しかし…みるみるうちに消化されてしまった。
残酷だ……。

日向  「くそ、敵が多すぎるっ……!」ブンッ、ザクッ

日向  「ああっ!」ボキッ

ネクタイを『変化』させた刀は耐久性もあまりなかったらしく…
二体目をどうにか切り伏せたところで真っ二つに折れてしまった。
もう変化させられるものは残ってないぞ……
俺たちのパーティーは、文字の使い方が分からない十神と、闘える状態ではない朝日奈だ。
かくなる上は。

日向  「逃げるぞ!朝日奈、今度こそ走れるか?」

朝日奈 「う、うん!」タッ

豚神  「助かったぞ日向……やはり、お前はやる男だな」タタッ

とはいえ、学園内に逃げ場はない。俺たちはだだっ広い校庭を縦横無尽に走って逃げた。
途中、小泉が西園寺の手を引いて走っているのとすれ違ったり、
化け物に囲まれてなぜか高笑いしている狛枝を見たが、他の仲間には出くわさない。

日向  (まさか……死んだりはしていないよな?狛枝は"幸運"だし、ソニアや
     澪田はなんとなく大丈夫そうな気がする。こうなるとやっぱり、
     仲間もいなそうな上に、すぐに怯える罪木が一番心配だ……)タッタッタッ

体育館の出口の所に、霧切が立っているのが見えた。
彼女はこめかみに指を当てて、意識を集中させて行く。太もものあたりにチラッと、
文字が浮かび上がっているのが見えた。


"索"(さく)


瞬間、霧切の前にパッとホログラムが現れた。

霧切  「この現象は"神蝕"というのね……学園長は"始"と言っていたけど……これからもっと
     様々な蝕が現れるということかしら。
     弱点は見た目の通り、頭と心臓部分……四足ということを考えると、脳天を狙うのが
     最も効率がいいようだわ。動きはそこまで素早くない。三つ目ではあるけれど、
     視力も大してよくない……」

その時、一頭の化け物が霧切に気づいた。「ウウ…」と唸る化け物は、前足を振り上げて、

霧切  「――ふっ!」タンッ

さっきまで霧切の立っていた場所に、大きな穴が空く。

霧切  「知能も低いようね。避けるだけなら簡単だわ。私には武器もないし……蝕が終わるまで
     あと数分もない……最初は驚いたけれど、もう大丈夫かも」タタタッ

日向  ("名探偵"に相応しい一文字だな……)

そして、霧切の言葉通り……数分で、俺たちの足元がすうっと明るくなる。
それが、空を覆っていた雲が晴れたからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
『始』の化け物たちも首をもたげて、唸り声をあげながら歩き出す。化け物が一歩進むごとに
その体躯は透けて、やがて跡形もなく消え去った。
残されたのは血と体液の、すえたような匂いと、血でぬかるんだ地面、そして……
数え切れない死体の山だけだ。


豚神  「……おい、日向。あれはなんだ?」スッ

日向  「島?空に島が浮かんでるのか?」

空に浮かんでいるのは、島だった。
城のようなものが建っていて、目を凝らすと風にはためく布も見える。
さっきまでやけに校庭が薄暗かったのは、あの島が学園をすっぽり覆うように
影を作っていたからか。

朝日奈 「船みたいにも見えるよ!…でも、あんなの見たことない。もしかしてこの変な現象って、
     あの島のせいだったり……」

豚神  「そうとしか考えられんな。決めつけは禁物だが、変化といえる変化はあの島だけだ」


【初日:始
 死亡者数:876名
 生存者数:1624名
 総生徒数:2500名→1624名】

日向  「俺たちは……これからどうなるんだ」

豚神  「それを考えるのは、全員の安否を確認してからだ。……ひとまず体育館に戻るぞ。
     生きているなら、あそこに戻ってくるはずだ」スッ

日向  「あ、ああ……」

日向  (やっぱり、こいつは冷静だな……不思議と頼りになる感じがある)

成り行きで仲間になった朝日奈も連れて、俺たちはひとまず体育館へ帰ることにした。

_______

一旦切ります。Rで立て直すほうがいいのか、それとも…



豚神の実に頼りになることよ
エロがないならここでいいと思うよ

>>15
分かった、ありがとう。
SS速報VIPの冒頭に『グロ禁止』とあったので迷ってた。
__________________


俺たちが体育館へ戻ると、生き残った生徒たちがちらほらと帰ってきていた。
とりあえず三人で並んで腰を下ろしたが、仲間達が全員集まるのにはまだ時間がかかりそうだ。
苗木たち未来機関組とも話をしたいので、77期、78期の双方が集まるまでこうして待つ事にした。

罪木  「……ふんっ!」パァァ


"癒"(いやし)


罪木  「ふうっ…あっ、一応治ったと思うので……腕、回してくださぁい……」

声をかけようかと思ったが、忙しそうだ。後にしよう…。
"超高校級の保健委員"である罪木の前には、負傷した生徒がずらりと列を作っている。
罪木は俺の視線に気づくと、「あ、日向さん…」となんともいえない表情をした。
……俺だって、記憶を消せるものなら、消してやりたい。

西園寺 「ふんっ、ゲロブタの奴…いい子ちゃんぶって治療なんかしちゃってさ。
     ああやってりゃ誰にも責められないって思ってんだよ。見え見えだっつーの」

小泉  「日寄子ちゃん、悪口は聞き苦しいよ」

西園寺 「うぐっ…だって、だってあいつ……わたしを殺したんだよ!わたし何もしてないのに!」

小泉  「日寄子ちゃんだって、ずっとあの子をいじめてたじゃない。口を開くたんびに
     "黙れ"とか"あんたに聞いてない"とか、酷い事ばっか言って……パーティーの時だって
     転んだのを笑い者にしてみんなの前で恥をかかせたでしょ。蜜柑ちゃんも悪いけど……
     何もしてないっていうのは違うんじゃないかな」

西園寺 「小泉おねぇ、まさかあいつの肩持つ気なの!?」

西園寺が罪木への仕打ちを正当化するのは間違っているが……
罪木には(絶望病の所為とはいえ)クロだという挽回しようのない負い目がある。
「本当は死んでなかったんだし、いいじゃないか」なんてことは言えるわけがない。
この二人は、なるべく交流させないようにしておくしかなさそうだ……。

朝日奈 「ねえ日向、聞いてる?」

日向  「あっ、ああ…聞いてる……」

朝日奈 「なんか…今日はほんと、二人ともありがとね。私、わけが分かんなくてさ……
     さっきも情けないとこ見せちゃって……ほんと、恥ずかしいや」

頬をかいている朝日奈に、俺たちは「気にするな」と首を振った。
ちらほらと人数が増えてきたのを見て、十神は「ちょっと77期生を集めてくる」と行ってしまう。
苗木たち生き残り組以外との付き合いはどうすればいいんだ?

正直……朝日奈とは初対面だ。お互いのことを知るためにも、何か話すか。

日向  「そういえば、お前の文字は何なんだ?」

朝日奈 「あのね……」スルッ

何気なく聞いた俺に、朝日奈はジャージをめくって二の腕に刻まれた文字を見せる。

日向  「水……か。そういえばお前は"超高校級のスイマー"だったな」

朝日奈 「正直、闘うって言われてもピンと来なくて…ドーナツが大好きだから"輪"と
     最後まで迷ったんだけど、結局これにしちゃった」テヘヘ

『輪』だったら、チャクラムでも出たんだろうか?
それとも巨大ドーナツがホカホカと湯気をたてて……じゅるり。

朝日奈 「じゅるり?」

日向  「悪い、ちょっと空腹のせいで意識が……もう油芋でもジャパ塩でもいいから食いたい……
     あ、今のは忘れろ。ビームは出ないけど忘れろ」

日向  「でも、イメージだけなら簡単そうだな」

朝日奈 「ほんと?じゃあちょっとここでやってみていいかな。練習。今度は役に立って
     二人に恩返ししなきゃだし……あ、そんないっぱいは出さないよ!ちょっとだけ!」

俺が頷くと、朝日奈は「むむむ…」と眉をしかめ、両手を胸の前で合わせた。


"水"(みず)


朝日奈 「あ、出た!見て見て、すごいよー!」キャーッ
日向  「よかったな、おかげで断水しても安心だ!」

はしゃぐ朝日奈の手のひらで、水が踊っている。どうやら成功したようだ。
これを高圧で出したら、ハイドロポンプみたいに武器として使えるかもしれない。
……が、その想像は朝日奈の「カハッ!」という苦しげな吐息でかき消された。

朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ

日向  「朝日奈!?」

朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ…!」ビチャビチャ

日向  「朝日奈!おいっ……しっかりしろ!!」ユサユサ

一体、何が起こっているんだ!?
朝日奈は苦しそうに宙を引っかきながらもがいている。口からは酸素を吸うのに
合わせて水が吐き出され、腕の中の朝日奈は少しずつ重くなって行く。
俺は頭が真っ白になっていた。どうすればいい、どうすれば……

罪木  「日向さん、私に!」

騒ぎを聞きつけて走ってきた罪木は、朝日奈の背中を強く叩いて揺さぶると、
胸の中の水を一気に吐かせた。ぐったりと目を閉じた朝日奈を床に寝かせて、人工呼吸を繰り返す。

朝日奈 「ケホッ…げほっ!はっ、はぁっ…!」

罪木  「!大丈夫ですか!?」

ヒュー、ヒューと苦しげに息をしている朝日奈が、ぼんやりと視線をさまよわせた。
と、そこで成り行きを見守っていた学園長が近づいてくる。

学園長 「水、か……正直、朝日奈さんには余る文字かもしれないな」

学園長 「四大元素、神、王、国、死……文字には体系があってね。いくつかの"特殊な"文字は、
     扱いに気をつけないと自分に跳ね返るんだ。"水"には形がない。そのまま具現化はできないよ」

罪木  「あ、あの…学園長先生っ……朝日奈さんを念のためにお医者さんに……」

学園長 「それはできない」

罪木  「他にもっ、すごい怪我をしている人がたくさんいるんです!こんな所じゃ
     満足な治療なんて……」

学園長 「ここは、神に見放されし穢れた土地……"卒業"まで、出ることはまかりならない。
     門の鍵で出ようが、塀に穴を空けようが、空を飛んで逃げようが。
     必ずこの学園の中へ戻ってくるようになっている」

罪木  「そんな……」

卒業……というのは、どういうことだ。
コロシアイでは『クロになって学級裁判を生き残る』というゴールがあったが、この場合は……

俺は目を閉じて、ロジカルダイブを行う。学園長は『試練』という言葉を使った。
試練とはすなわち、この『神蝕』のことだ。つまり、卒業とは『神蝕を生き延びる』こと。
『文字を与えた』ということは、『学園長は俺たちの全滅を希望していない』
推理はつながった!

日向  「……仲間を[ピーーー]よりは、ずっとマシだ。お互いを疑って、欺いて、残酷な処刑の
     スイッチを押すよりは……だって、守るのは命一つだけなんだからな」

泣いている罪木と、まだ呼吸が整わない朝日奈の背中をさすって、自分に言い聞かせる。
そこで、演台に戻った学園長がマイクのスイッチを入れる。『あー、あー』とテストをして、
思い出したようにモノクマのぬいぐるみ(スペア)を取り出しマイクの横に置く。
持ってないと死ぬ病気なのか?
テディベアをパーティーに代理出席させた英国首相はいたけどな……

学園長 『さて、生き残った1624名の生徒たちよ、まずは素直に"おつかれさま"と言わせてくれ。
     そして、命を落とした876名の希望たちには、"おやすみなさい"の一言を送ろう。
     時間がなかった所為で、"蝕"について説明できないままだったことは、すまなかった』

学園長 『――空に、島が浮かんでいることに気づいた生徒はいるかい?
     知らないというなら、夕食の後にでも見てみるといい。
     あれは"空島(そらじま)"と云う。この穢れた地とは違う。神聖なる神のおわす処だ』

大和田 「あの学園長……いつの間にカルト宗教にハマりやがったんだ」

女子に大人気だったのによお、と大和田が吐き捨てる。
生き残った生徒たちは、もはや学園長に怒鳴る気力すらないのか、ぐったりと話を聞いていた。

学園長 『"空島の影が、この地に重なる刻(とき)、怪異現る。これすなわち神蝕なり"――。
     あの空島が太陽と重なって、この学園に影を落とすと……"蝕"が発生する。
     今日発生した"始"は、いうなればオリエンテーリングさ。あの化け物たちに遭うことは
     二度とない。……蝕は全て、君たちが刻んでいるのと同じ"文字"から生まれる』

学園長 『今日は、そうだな……2011年4月1日と"しておこう"』

日向  (しておこう……?ということは、外の時間は違うのか?この学園だけ時間の流れが
     隔絶されている?……ダメだ、まだ情報が少ない!)

学園長 『ああ、ただ闘えと言われても、ご褒美がないと張り合いがないだろう』

そう云うと、学園長は見覚えのある青い欠片を取りだしてみせる。
俺たちだけでなく、78期生の手の中にも次々と舞い下りて、輝く。

学園長 『これは、"希望のカケラ"だ。君たちが蝕を生き残るたびに"戻して"あげよう。
     この中には、君たちが忘れてしまった"記憶"が入っている。
     中にはとても思い出したくない過去があるかもしれないが……これも試練と思って、
     受け止めたまえ』

学園長 『卒業式までの一年間、頑張って生き残ってくれ。
     ああ、安心したまえ。予備学科の生徒たちのために、西地区にも二人一部屋の
     学生寮を用意してある……何も心配はいらない。君たちはただ――』


闘うんだ――その先にある"希望"のために。

その言葉を最後に、学園長は美しいお辞儀をして、舞台袖へ引っこんだ。
残された生徒たちも困惑の表情で顔を見合わせていたが、本科と同じ空間にいるという
居心地の悪さ、血なまぐさい記憶に耐え切れなくなったのか……
一人、また一人と体育館を出て行く。

朝日奈 「罪木ちゃん、さっきはほんとにありがとねー!罪木ちゃんは命の恩人だよ!」ブンブン

罪木  「えっ?えっ?えぇ……?なんでそんなに感謝してるんですかぁ……これを盾に
     何をさせられるんですかぁ……?」オロオロ

朝日奈 「あ、罪木ちゃんのほうは知らないんだっけ。朝日奈葵!"超高校級のスイマー"だよ!」

握りしめた手をブンブンと上下に振られて、罪木はおろおろしている。
一応罪木のほうが先輩にあたるはずだが……まあ、罪木に友達が増えるならそれでいい。

朝日奈 「で、さ。ずっと考えてたんだけど…十神はなんて呼べばいいのかな。
     あっ、太ってる方の十神ね。さっきちらっと聞いたんだけど……あいつ、
     名前ないんでしょ?だけどこのまんまじゃややこしいし……権兵衛じゃ可哀想だし」

そんなことを真剣に考えてくれるのか。

朝日奈 「だから、十神がいる時は"七志 太郎(ななし たろう)"なんてどうかな?」

豚神  「七志か…初めて食した時、肉厚ながらしっとりと柔らかいチャーシューには感動したものだ……
     豚骨系チェーン店では三本指に入る。いいぞ、俺は今日から七志太郎だ」

朝日奈 「あははっ、名付け親になっちゃった!よろしくね、七志!」

日向  「はは…順応性が高いな二人とも」

普通『詐欺師』なんて聞いたらもっと警戒しないか?
そんな俺の思考をよそに、苗木は78期生を集めていた。

苗木  「あれっ、大神さんは?」キョロキョロ

朝日奈 「さくらちゃん、まだ来ないの?……どこ行っちゃったんだろ」

霧切  「安心して、西地区で彼女らしき座標を探知したわ。
     私たちが体育館にいることも知らないかもしれないわね。責任感の強い大神さんだもの。
     きっと予備学科生たちを落ち着かせるのに忙しいんじゃないかしら?後で行ってみましょう」

大神……ドッキリハウスにあった銅像のモデルか。
"索"で探した霧切は「彼女が死ぬということはないわ」と確信しているようだった。

葉隠  「つーか、さっそく文字使いこなしてるとかすげえ……俺なんか発動したらあとは自動だから
     わけわかんねーままだべ」

苗木  「葉隠クンは"予"だっけ?」

葉隠  「的中率はまだ計算できてねーけど、3割は超えてるはずだべ!ただ、ビジョンが次々頭ん中に
     流れこんでくっから、全然便利じゃねーよ……この文字で大儲けしようって思ったのに」ハァ…

十神  「ふん……安直だな」

苗木  「あ、十神クンはなんの文字……ごめん、なんでもない。舞園さん…大丈夫?」

まだ体を抱えて小さく震えている舞園に向き直った苗木は、落ち着かせるように視線を合わせて聞く。
舞園はこっくりとうなずいて、「怖いです」とだけ答えた。

苗木  「無理もないよ…あんな"怖いこと"があって、今度は化け物が出てくるなんて……
     でも、大丈夫だよ。今度こそ僕が舞園さんを守るから。絶対だよ」

舞園  「……桑田君、行っちゃいましたね」

苗木  「……」

舞園  「やっぱり…怒ってるんでしょうか」

苗木  「今は、生き残る事だけを考えよう。少なくとも僕は、また舞園さんに会えてすっごく嬉しいよ」

不二咲 「あ…待って!ねえ、大和田君!僕、大和田君に話が……ああ、行っちゃった」

石丸  「そういえば、僕達を[ピーーー]計画をたてたクロはセレスくんだと聞いたが……彼女は大丈夫だろうか。
     蝕の最中も見なかった……まさか死んだりはしていないと思いたいが……」

石丸  「山田くんもいないな……僕も複雑な心境だが、少なくとも彼らを恨んではいない。
     ただ、"超高校級の風紀委員"を名乗りながら、彼らの不安を取り除いてやれなかったことが
     悔やまれるだけだ。あの極限状況だ。誰もクロとなった者を責められないだろう……全ては
     "運が悪かった"とでも言うしかない。しかしそれを伝えるには、彼らの心の鎧が硬すぎる」

不二咲 「僕ねえ…大和田君にごめんなさいって言いたいんだぁ……知ってるような口きいて、
     傷つけて、死なせることになって、ごめんねって……あんな事になっちゃったけど…
     バカって言われるかもしれないけど…それでも僕、大和田君とまたお友達になりたいんだ」

苗木  「石丸クン、不二咲クン……今は落ちこんでいる時じゃないんだ……こんな時
     だからこそ、皆で力を合わせないと。その前に、紹介したい人たちがいるんだ」

日向  「……悪い、まずは77期生で情報を共有したいんだ。後にしてくれないか?」

苗木  「えっ?あ、うん」

俺が強めの語気で言うと、苗木は不思議そうな顔をしながら引き下がった。
78期生から少し離れた所に、全員で腰を下ろす。ひい、ふう、みい…よし、全員いるな。
無事だったことに、改めてホッとした。

小泉  「あのさ、さっき十神が教えてくれたんだけど」

豚神  「十神こと七志太郎だ。78期生のいるところでは七志と呼べ」

小泉  「……七志が、"あのジャパウォック島はバーチャルの世界だった"って……千秋ちゃんは
     そのプログラムが作ったAIだったって教えてくれたけど、
     それって、ホントなの?」

どうやら77期生を集めている間に、七志の方で簡単に流れを説明してくれていたらしい。
小泉は「あの千秋ちゃんが人間じゃないなんて……」と悲しむような表情をしている。

九頭龍 「おう。ちなみに現実に出られたのはオレと日向と、終里と……あと、左右田にソニア。
     そんだけだ。後は全員クロになっておしおきか、殺されたか……今ごろお前らは、
     脳死状態でカプセルん中に寝てるはずなんだがな」

花村  「とても信じられないよ……」

狛枝  「でも、大事なのはもう一つの秘密の方だよ。
     ……僕たちが"絶望の残党"だったという事」

声をひそめた狛枝に、西園寺は「えええーー!!?」と叫んでその気遣いをぶち壊す。
78期生が一斉に振り返った。あわててその口をおさえたソニアが「なんでもありませーん……」と
引きつった笑顔で首を横に振る。

日向  「まず、"絶望"という言葉の意味は……」

俺がかいつまんで説明して行くと、仲間たちの表情がどんどん沈んだものに変わって行く。
話を終える頃には、固まって座らされた理由を知った仲間達の蒼白な顔があるだけだった。

小泉  「何よ、それ……あたし達こそが、"世界の破壊者"だったってこと……?」

弐大  「にわかには信じられん……あの島はいわば、現実から離れた流刑地だったというわけか!!」

辺古山 「では、モノクマが我々にコロシアイを強要した理由は……体のいい処刑ということか?」

日向  「空になった肉体を乗っ取るっていうのが真の目的だけどな。未来機関から見れば処刑の手間が
     省けて、かえって都合がよかったかもしれない」

自分で言っていて気分が悪くなる……。

西園寺 「でもさー。わたし達、なんにも覚えてないんだよ?それで責められたって……」

狛枝  「どうかな。罪木さんは全部思い出していたはずだよ。だからこそ澪田さんを……そして、
     西園寺さんを躊躇なく手にかけられたんだからね」

罪木  「ううっ……」

日向  「おい狛枝、少しは言葉を選べよ。お前だって希望の方にベクトル行ってるだけで
     似たようなもんだろ……五十歩百歩だ」

左右田 「それを言うなら、どんぐりの背比べじゃねーのか?全員が高校中退でS級犯罪者とか、
     裁判ナシで死刑だろ。このカルマ来世まで持ち越しだな」

しかし、不思議な連帯感が生まれているのも事実だ……。

ソニア 「田中さんもファイナルデッドルームをクリアしたんですよね?だったら、狛枝さんが見たのと
     同じファイルを見ていたんですか?」

田中  「いや……俺が込めた弾丸は、ロシアンルーレットの作法に則り一発だけだった。
     手に入れたのはオクタゴンへのパスだけだ。ファイルとやらの存在も、狛枝からの又聞きでな」

豚神  「そういえば、学園長が言ってたな。この"希望のカケラ"に、
     俺たちの忘れている記憶が入っていると。それが、その"人類史上最大最悪の絶望的事件"を
     封じ込めているのか?」

そう言って俺は、いつの間にかポケットに入っていた青い欠片を取りだして見せた。
他の面々も同じように貰っていたらしく、手のひらに希望のカケラを出す。

九頭龍 「…で、こいつをどうするんだ?」

日向  「それは……」


パアッ…


真っ白い光が、視界を包み込む。
それが晴れると……少しずつ、視界がクリアになって……俺の目の前に、テレビがあった。
薄暗い部屋で、古いブラウン管テレビの光だけがある。

『続いてのニュースです。"超高校級の絶望"と名乗るグループによる一連のテロ行為と、
 希望ヶ峰学園との関与が明らかになりました。犯行グループの人数は15人。全員が希望ヶ峰学園の
 77期生であるとの情報が……』

俺は……いや、『カムクライズル』が、ニュースを見ている。
退屈そうに髪をいじりながら、カムクラはリモコンに手を伸ばしてチャンネルを切り替えた。

『ヨーロッパにあるノヴォセリック王国が陥落しました。王宮には暴徒と化した国民が押しよせ……
 ソニア.ネヴァーマインド第一王女はいまだ行方が……』

『各地で猛獣が放たれ、自衛隊が出動しました……指揮しているのは"超高校級の飼育委……』

『日本政府は、非常事態を宣言……もはや国家としては機能しておらず、陥落も近……』

『これが最後の放送です、皆さん、さようなら……世界よ、さようなら……』

テレビ画面がぷつんっと消える。
同時に、俺の視界も晴れた。

石丸  「なっ……なんだ、今のは……"才能研究科"?僕はそんな教室は知らないぞ……しかし、
     興味深い授業だったな、脳波を調べて才能の出所を探るとは……」

苗木  「僕は文化祭のステージを見ていたよ……舞園さんと澪田さんが一緒に歌っていて……
     山田クンがドラムを叩いてた。他のメンバーはよく見えなかったけど、すごく楽しい記憶だったよ」

霧切  「私は、体育祭の準備で紙の花を作っているところだったわ」

78期生たちが口々に語り合うのを聞きながら、
俺はじっとりと冷や汗が背中に垂れるのを感じた。楽しげな思い出を語り合う78期生とは正反対に、
こちらは。

澪田  「い、今……唯吹が流してたのって……サブリミナル、って奴っすか?ひ、人が……
     一斉に燃えて……あばばばばばばばば」ブクブク

花村  「誰かぁぁぁ!早く火を消してよ、お母ちゃんが天ぷらになっちゃうよおおお!!」

終里  「騒ぐんじゃねーよ花村……空きっ腹のドタマに響くだろーが……」

西園寺 「……ねえ、何なのその扇……なんで針がついてんの……?捨ててよ、それ捨ててぇぇ!!」

石丸  「だ、大丈夫か君たち!?」

不二咲 「保健室に連れてってあげた方が……」

78期生の中から優しいおせっかいが立ち上がるのを、
「そっとしておいてあげて」と苗木が必死に止めてくれた。

九頭龍 「クソッ…!まだ右目が疼いてやがる……!」

狛枝  「今すぐにでも切り落としたい気分だよ…絶望を受肉するなんて、
     過去の僕は一体何を考えていたんだ?」プルプル

罪木  「うう……」ペラッ

罪木  「!手術跡が……ない?」スベスベ

そういえば、江ノ島の体を移植したのは誰だった?……口ぶりから言うと、
狛枝が左手、罪木が子宮、九頭龍は右目だったな。
三人はそれぞれの部位をおさえて、うずくまっている。
脂汗を垂らし、ぐっしょりと濡れた服からは、苦痛の度合いが分かるというものだ。

日向  「何が見えたのか、嫌じゃなかったら教えてくれないか?」

九頭龍 「フラスコとビーカーのある部屋だ。台の上にすっぱだかの江ノ島が置いてあって……
     んで、三人でジャンケンして……狛枝が左手を」ウプッ

日向  「無理するな、聞いた俺が悪かった」

九頭龍 「いや、ここまで来たら最後まで言うぞ。左手を、ノコギリで……んで、次勝ったオレが
     ビニールの手袋で右目を……人体が味わう最も強い苦痛を感じて絶望したいとかいう
     理解不能な理由で、麻酔なしで指突っこんでえぐってた……手術の方はお前だよな、罪木?」

罪木  「は、はひぃぃ…狛枝さんの手をつけたのも、私みたいですぅ……
     ごめんなさい、ごめんなさい!今すぐ外しますからぁ!!」

九頭龍 「おい錯乱すんな!眼帯から手ェ離せ!!」ギャー

辺古山 「可哀想な坊ちゃん……」

聞いているだけで俺も痛くなってきた……。

豚神  「俺たちが思い出したのは、"絶望"の記憶……それに対して、78期生に与えられるのは
     幸福な学園生活の記憶……まさに"希望のカケラ"だな」

日向  「でも、それは本当に希望といえるのか?だってあいつらは、"仲良しのクラスメート"で
     殺しあった"絶望"を同時に感じているんだぞ。むしろ楽しい記憶なんて、思い出さない
     ままの方が幸せだったんじゃないのか」

豚神  「確かにな……」

日向  「ところでお前、いつまでその見た目のままなんだ?」

豚神  「しばらくはこれで行くつもりだ。そこそこ慣れているしな」

しばらく話している内に、みんなが落ち着いてきた。
そこで、俺はずっと考えていた『方針』を伝えることにする。

日向  「みんな、断片だけど"絶望"については思い出せたよな。だったら……俺がこれから
     言う事もうなずけるはずだ」

日向  「78期生とはなるべく交流を持つな。予備学科生ともだ。俺たち77期はなるべくお互いで
     固まって過ごそう。蝕の時も、それ以外も」

その提案に、全員が少なからず動揺する。

罪木  「えっ……朝日奈さんとも、だめなん…ですか?」

日向  「いや、苗木たち6人とは話してもいい」

ソニア 「どうしてですか!?この非常事態を生き延びるには、78期の皆さんとも力を合わせないと……」

日向  「あいつらを学園に閉じ込めて殺し合わせたのは、俺たちだぞ?」

元を辿れば江ノ島盾子だが、
誰が好き好んで『世界の破壊者』なんかとお近づきになりたいだろうか。

日向  「いいな、お互いが傷つけあわないためだ。78期の奴らには近づくな」

全員の顔を見回して、繰り返す。
ごく、と誰かが唾液を飲み込む音がした。やがて「分かった」「言うとおりにするよ」と答えが返る。
本当は、責められるのが怖いだけかもしれない……。ただ、これが一番いい選択だと、
俺も、仲間たちも心のどこかで信じていた。

× オクタゴン
○ 武器庫 

一旦切ります

今日はここまで。次回は繋ぎ回になりそう。 
蝕って考えるのむずいね。

それから一時間ほど経ったころ、体育館の扉のロックが解除された。
……廊下に出ると、死体は全て片づけられたらしく、血の匂いがわずかに残っている。

日向  (死体の匂いってのは、何回嗅いでも慣れないな……)


【食堂】



体育館を出た俺たちは、夕食のために一階にある食堂へ向かった。
探索の時は行かなかったからな……廊下の壁紙も普通のものだし、窓の鉄板もなくなっている。
ただ、モニターと監視カメラはちゃんとあった。何のためなんだ?また中継しているのか、
それとも学園長がモニタリングしているのか……答えはまだ出そうにないな。

食堂の柱には巨大なテレビがある。画面は真っ暗だ。
そもそも、テレビ局があるかどうかすら微妙な所だろう……。


終里  「おっわ!!すっげー豪華なバイキングじゃねーか!!これ全部食っていいのか!?」

弐大  「こら、ちゃんとトレイに乗せんか!」ガシッ

用意されていたのは、サラダからデザートまで何十種類もの料理たち。食い尽くさんばかりの
勢いで飛んで行く終里を弐大が捕まえて、「ワシが入れたる!」とバランスよく乗せていた。
外は崩壊しているはずなのに、学園はどこから食料を調達しているんだ?

終里  「……」じーっ

弐大  「何じゃ、ワシの顔になんかついとるのか?」

終里  「いや…マジで弐大猫丸なんだなって思って……」ペタペタ

終里  (何でかな、おっさんが生身で動いてるってだけでうれしくて、他なんも考えらんねーよ……)グスッ

弐大  「どうした終里ぃ!飯が豪華すぎて嬉し泣きか!?」ガッハッハ

終里  「そう……だよ。そういうことにしとくよ……」ウルウル

日向  「なんか……あれみたいだな」

豪華な食事を見た俺の口から、その不吉な例えが言葉となって出る前に、事件は起こった。

ガッシャーン!!

粉々に砕けた食器の下には、ぐちゃぐちゃのチーズドリアがある。
突き飛ばされて転んだ罪木の尻餅になって割れたものだ。「ふええ…」と涙をにじませる罪木を
見下ろした西園寺は、いつもの調子で「ふんっ」と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


日向  「お前、また罪木をいじめて遊んでるのか。その態度は
     いざという時にお前の首を絞めるぞ。……身をもって学習しただろ」

西園寺 「うっ…だ、だって、こいつがふざけた事抜かしてんだもん!"最後の晩餐みたい"だって!」

罪木  「だって……だってぇ、こんなにたくさんのご馳走……ぜったい、おかしいですってばぁ……
     私たち、もうずっとここから出られな」

西園寺 「あーーっ、そうかよ!じゃあ一人で死んでろゲロブタ!ちょうどいいじゃん、
     わたしを殺した天罰が下ってくれるかもよー?
     そのブサイクな面見なくて済むんなら、明日にでも蝕が来ればいい!!」

日向  「西園寺!聞きたくもない暴言を聞かされる奴らの身にもなってみろ!」

蝕が来ればいい、と西園寺が叫んだ瞬間、周りの生徒たちが冷ややかな視線を向けてくる。
中には歯を食いしばって、恨みがましい目で睨んでいる女子もいた。
とりあえず、ぐすん、ぐすんと泣いている罪木に手を貸して立たせる。
エプロンに皿の破片がついて汚れているので、ナプキンを渡す。
「大丈夫か?」と聞くと泣きながら頷く。

日向  (罪木に悪気はないんだろうが、西園寺もどこで爆発するか分からないのが厄介だな)

日向  「俺が新しいのを取ってきてやるから、お前は朝日奈のテーブルに行ってろ。な?
     それと西園寺……気が立ってるのは皆同じだ。もう子供じゃないんだから、
     言葉は一旦呑みこんでから口に出せ」


ふんっとそっぽを向いている西園寺にも、釘を刺しておく。
とりあえず、罪木の好きそうなおかずを取っていってやる事にした。山盛りのトレイを持って
食堂をきょろきょろ見回すと、すぐに目的の人物と目が合う。

朝日奈 「おーっす、日向!先にいただいちゃってるよー」パクパク


罪木も泣き止んで落ち着いたのか、ジュースをちびちび飲んでいた。
……と、そこで朝日奈の隣からものすごい覇気を感じる。このすさまじい筋肉……まさか……


大神  「大神さくらだ……話は聞いている。朝日奈が世話になったようだな、礼を言おう」ギュッ

日向  「日向創だ、よろしく。…なんで俺の手をニギニギしてんだ?」

大神  「いや、立派な体格に似合わず細い指だと思ってな。あまり鍛えておらぬ者の手だ。
     実に惜しい……お主、格闘技の道に進む気はないのか?」

日向  「ラグビーは微妙に興味があるんだが、格闘技はちょっとな」

日向  (こいつが"超高校級の格闘家"か…ドッキリハウスの像は等身大だったんだな)


食事の間、大神から西地区の話を聞いた。
予備学科の校舎で目覚めた大神は、戸惑う予備学科の生徒たちを率いて『始』を撃破して回っていたらしい。
あれと生身でやり合ったのか?

大神  「予備学科はまさに地獄だ……戦闘に使える文字を持つ生徒がほとんどおらぬ。
     隣で目覚めた女子は"優"であったし、椅子を投げて"始"に対抗した勇敢な男子もいたが、
     そやつの文字は"勉"であった。昼間死んだのは、全員が予備学科だ……。
     我はこれからも、西地区で蝕からあの者たちを守りたいと思っている……それが贖罪となるかは
     分からぬが」

日向  (贖罪……確かこいつは、江ノ島の内通者だったんだっけか。体育館に顔を出さなかったのは
     それも理由のうちなんだろうな)

日向  「でも、一人で大丈夫なのか。だって、闘えるのはお前くらいしかいないんじゃないのか」

大神  「我を案じてくれるのか?よいのだ。それに、予備学科の生徒たちも我を必要としてくれる。
     それだけで十分だ」

罪木  「……強いんですね、大神さんは……それに比べて、私は……」

大神  「罪木よ、あまり己を卑下するな。傷つけることは容易いが、癒すのは難しい」

罪木  「でも…私、ひどいことを言われても言い返せないし……いつも、足がすくんじゃって……」

大神  「"強い"や"弱い"で人を括ることに何の意味がある?
     現在(いま)を満足できる物にする方がよほど、有意義ではないのか。
     我には、人を癒せるお前の方がよほど強いように思えるぞ」

しかし、言われた罪木は浮かない表情だ。

罪木  「わ、わたし……私……さっき、西園寺さんに突き飛ばされた時、ほんとに一瞬ですけど……
     あの人のこと、すっごく"憎い"って思ったんです。私、全然強くなんか…ないんです…」

日向  「!」

罪木  「私がこんなに我慢して"あげてる"のに、それにも気づかないで……色々な理由をつけて、
     人を傷つけて……なのに、皆の輪の中に入れてもらっていて……ずるいって、思ったんです。
     悪いことをしたなって思う前に、"なんでまた会っちゃったんだろう"って……
     日向さんが止めてくれなかったら、私……また」

日向  「罪木、それは当たり前の感情だ。お前が理不尽だと思うのも、悪いことじゃない。
     いつかその気持ちを素直に西園寺へぶつけてみればいい。それをどう受け止めるかは
     あいつ次第だけどな。その時にあいつと分かり合う努力を続けるか、それとも西園寺を
     自分の世界から追い出すかを選ぶのは、お前の自由なんだから」

罪木  「私、また西園寺さんに取り返しのつかないことをするかもしれないんですよ!」

日向  「そうなったら俺が、この厚い胸板で止めてやる。弐大のお褒めにあずかったこの胸板でな!」ドヤァッ

そう答えると、罪木は「ぷっ」と吹き出した。いつもの愛想笑いとは違って、本当に
こみ上げてきた、という感じの笑顔だった。俺は、学級裁判で全てさらけ出したのが、
いい方向に吹っ切れてくれている事を願った。

大神  「日向……お主、本当に予備学科とやらなのか?」

日向  「ああ。俺は正真正銘の凡人だぞ」

大神  「それにしては、随分と77期の者たちから重んじられておるのだな……」

日向  「便利に使われてるだけだ。俺が持ってる才能なんて、せいぜいパンツを脱がせる程度のもんだ」

大神  「パン……なんと?」

おっと、うっかりしていた。
俺は失言を誤魔化すように、ガツガツとチーズドリアをかっこむ。

朝日奈 「あーあ、明日もあさっても、ずーっと蝕が来なきゃいいのになあ」

大神  「空島の影、学園に重なる刻――つまり、午前11時ごろから正午までの60分か。
     その時間帯は要注意だな。一時限目の授業は午前10時から始まる。ちょうど終わる頃だな」

朝日奈 「さくらちゃんは、明日も予備学科に行くんだよね?」

大神  「無論だ。……どうした、浮かぬ顔をして」

朝日奈 「……ううん、やっぱりいいや。さくらちゃんには沢山話したいことがあったんだけど……
     さくらちゃんが決めたんだったら、私は何も言えないや。
     また、生きているさくらちゃんに会えただけで……それだけでいいよ」


かなり無理をしているのは見れば分かった。目じりに涙をためて言う台詞じゃないだろ。
しかし、俺が何か言う前に、朝日奈は「もう、私の見てない所で死なないで」と大神に抱きつく。


大神  「すまぬ……我は知らぬうちに、お主を傷つけておったのだな……」ポンポン

朝日奈 「約束だよ。今度こそ一緒に卒業しよう、さくらちゃん」ギュー

日向  (ますます俺たちの正体は言えないな……)



【寄宿舎】


日向  (えーと、マップによると……)

食堂を出て、向かいがランドリーと大浴場か。浴場の奥にはサウナ、廊下の突き当りには
男女のトイレ。反対側には二階へ上がる階段と、倉庫がある。
二階にはロッカールームと学園長のプライベート・ルームがあるらしい。

日向  「ええと、俺の部屋は……ここか」

『ヒナタ』と書かれたネームプレートを確認してから、ドアを開ける。
コテージに負けず劣らず広い室内には、大きなベッドが一つと壁に備え付けの机、棚があった。
窓からは外の景色も見えて、なかなか快適そうだ。

日向  「うわっ、寝心地最高!」ボスッ

日向  「本科の寄宿舎ってこんないい部屋だったのか……憧れてたけど、俺なんかが入っていいのかな」ゴロン

モノクマ『知らざあ言って聞かせやしょう!』ニュウッ

日向  「うわっ!!なんでお前がここに!?」

モノクマ『あっ、安心して!今回はボク、君たちを殺し合わせたりするためにいるんじゃないから!
     言うなればあれだよ、Windowsの端っこに出てくるイルカ!あれみたいなもんだよ!』

日向  「お前みたいなヘルプはいらないぞ!」

モノクマ『つれないなあ、日向君は…あの常夏の島でくんずほぐれつ、アッツアツの夜を過ごした
     仲じゃないか!』

日向  「モノケモノとの戦いをわざわざ誤解を招く表現に直すなよ!ていうか、お前を操ってんのって
     誰なんだ、まさか学園長か!?」

モノクマ『中の人などいなーーい!!ボクはモノクマ、ゆりかごから墓場まで正真正銘のクマだよ!!!』

ひとしきり叫ぶと落ち着いたのか、モノクマは『まあいいから、ユーの電子手帳をごらんよ』と言った。

日向  「……"超高校級の???"だって?」

モノクマ『だって、日向君も一応は"超高校級の希望"でしょ?でもさ、袋とじって見えないからこそ
     興奮するものでしょ?だから隠したの。ミステリアスな男子って素敵だよね……現実じゃ
     たいてい詐欺師かDV男だけどさ。
     あ、もしかして"パンツハンター"の方がよかった?』

ムカつく事を抜かしながらも、
モノクマは『キミだって、立派な77期の仲間じゃないのさ』と手(前足?)を広げる。


モノクマ『……国籍、民族、石油、資源、国境……文明から生まれた人間どもの下らない争いに、
     "絶望"で終止符を打った、英雄の一人じゃないか』

日向  「――ッ!?」

モノクマ『絶望が息づき始めた頃はね……人間たちは手を取り合ってそれに対抗しようとしたんだ。
     イスラム教徒もキリスト教徒も、黒人も白人も、今まで争ってた奴らみんなで。
     でも、それが段々絶望に侵食されて……最後はもう、しっちゃかめっちゃかさ』

モノクマ『だけど、いわゆる"戦争"も"犯罪"も、統計の上ではゼロになった。これって、形を変えた世界平和かもね!
     弱者だった側から見れば、君たち"絶望"こそが"希望"だったんだからさ!
     空き地に行っていじめっ子のリサイタルを聞かなくていい!
     オッサン上司にイビられながら誰にでもできるような仕事をしなくていい!
     クルアーンとかいう本のせいで殺されなくていい!……君たちは世界の"歪"を正したんだからさ』

モノクマ『だから君たちは全然気に病む必要なんてないんだ!ドンウォーリー、ビーハッピー!
     蝕を生き残って、サクラの季節を迎えよう!ほんじゃ、ばいばいっ!』

言いたいことだけ言って、モノクマはぴょーんっと何処かへ消えた。
残された俺は電子手帳を握りしめて、考える。

日向  「……なんで、モノクマなんかの言葉を素直に聞いてんだ、俺は」

____________

翌日。

日向  「……」シャコシャコ

シャワールームで歯磨きをしている俺に、ドアを『コンコン』と叩く音が聞こえた。
あわてて出ると、ソウルフレンド左右田が「よお…」と気まずい表情をしている。

左右田 「あの、さ…一緒に食堂行かねーか?なんつーか……一人でいるのが心細いっつーか……」

日向  「分かった、ちょっと待ってろ」

パジャマから着替える間も、左右田はそわそわしている。その目が赤い事に気づいて、
俺は自分の神経の図太さに感謝した。夢も見ないで深い眠りについた俺と違って、小心者の
こいつは一晩中『始』の悪夢にうなされていたらしい。

食堂に行くと、すでに何人か起きてきて、朝食をかきこんでいた。

澪田  「和一ちゃん、創ちゃん、おはうぃーっす!!」

日向  「おはよう。…お前、朝から元気だな」

暗に「怖くないのか?」と聞いたのだが。澪田は「ギターかき鳴らすだけでいいんで、
唯吹的には問題ナッシング!」と二の腕の『音』を見せる。

澪田  「今はとにかく生き残ることを考えるっすよ。反省も後悔も、生きてないとできないっすからね」

日向  「誠実だな。左右田、ついでに俺の分の麦茶も頼んだ」ガタッ

豚神  「なるほど、"偽"にはこんなに意味があるのか……ただ"欺く"だけかと思ったが、
     "化ける"や"習慣を変える"というような意味もあるらしい。奥が深いな」ペラッ

そんな澪田の隣で食べながら漢字辞典を引いていた十神は、メモ翌用紙に手早く字義をメモすると、
待っていた他の生徒に「助かったぞ」と渡した。

左右田 「国語辞典とか、漢和辞典が図書室にあったんだけどよ…数が足んねーからああやって、
     順番に回し読みしてんだ。パッと見意味わかんねー文字でも、意外な意味があったり
     すっからな……ほい日向、麦茶」コトン

まるで爆弾ゲームのごとく、生徒たちの間を回される辞典。

日向  (俺も念のために後で調べといた方がいいんだろうか?)

左右田 「なあ…今日って、"アレ"来んのかな……」ソワソワ

豚神  「いや、おそらく今日はないだろう」

左右田 「んな希望論は聞いてねーんだよ!俺なんてメカニックだから"機"なんて分かりやすい
     漢字書いたのに、全ッ然なんも出ねーでよぉー!昨日は時間内ずっと逃げ回ってたんだぞ!」

どうやら十神には、「今日は蝕がない」という確信があるらしい。
その答えは、朝食の後に行った教室で分かった。

生徒A 「大丈夫……私は大丈夫……生き残れる……生きる生きる生きる」ブツブツブツ

生徒B 「うっ、ううっ…ただ希望ヶ峰に憧れてただけだっつーのに……なんでこんな」グスッ

予備学科はAからGまでの7クラスに分けられ、本科は78期、77期それぞれが教室を与えられた。
廊下を歩く間も、文字の入った所をおさえてなにやら呟いている女子やら、
もう絶望し切って泣いている男子やらとすれ違う。そういえば、九頭龍の妹も蘇っているのか?
本人から特に何も言ってこないなら、触れないほうがよさそうだ。


ガラッ

罪木  「あ、日向さん……左右田さん、おはよう、ございますぅ……」

九頭龍 「よお、昨日は寝れたかよ?」

そう言う九頭龍も目が赤い。

西園寺 「きゃははっ、なんでみんなお通夜ムードなの?
     蝕って、気に入らない奴をまとめて消せる大チャンスじゃーん!」

小泉  「……怖い」ボソッ

西園寺 「えっ?今なんて言ったの?」

小泉  「……なんでもないよ」

無理して微笑んだ小泉に、西園寺はそれ以上の追及をしなかった。
そういえば、こいつらの文字を聞いてなかったな。後でそれとなく小泉から聞きだすか?

俺がそんなことを考えている間に、時計が『カチッ』と針を合わせる。
午前11時……"蝕"の時間だ!

……


……

終里  「って…あれ?来ねーぞ?」

と、終里の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ザーッと雨が降ってきた。
俺たちは窓にはりついたが、空島は灰色の雲に覆い隠されて見えない。

豚神  「思った通りだ…空島の影が学園に重なる時、ということは、雨や曇りでは蝕は起こらない。
     これで、夜には蝕が起こらなかった理由も繋がったな」

辺古山 「つまり、梅雨時には蝕の心配がないんだな。安心した」

ソニア 「はあああ…一気に緊張が解けましたっ…」ヘナヘナ

なるほど。十神が余裕だったのは、雨を見越していたからだったのか。

さすがの神蝕も、天気には勝てなかった。
そして俺たちは――また一日、この罪深い命を長らえた。

今日は此処まで。明日は二回目の蝕に行きます。

人間の七海や松田とかは生き返ってないのかな

>>34
今の所、生き返ってませんということで進めてます。

大浴場に行った後、火照った体を冷やすために外へ出る。
……静かだ。とてもあんな惨劇が起こった場所とは思えない。
しかし、深呼吸する俺のすぐ側を、担架が通りすぎる。袋からはみ出してるあれは…人の手?

作業員A「おい、西地区の寄宿舎で二人首吊ってたらしいぞ。これ終わったら回収な」

日向  (なんだって!?首吊り……まさか)

作業員B 「シャワールームも確認しとかないとな。あそこで手首切ってる奴もいるだろうし……」

作業員A 「死体の回収は"モノクマ"の仕事だろ?」

作業員B 「夜時間だからな。さっさと安置所に送っちまおう」


コトダマゲット!【モノクマの仕事】

死体の運搬も含めたそれらの仕事は『モノクマ』がやっているらしい。
しかし、夜時間は動けないようだ。


日向  (久しぶりの感覚だな。次の雨の日あたりに、今までの情報もコトダマにして整理しておくか?)

ツナギを着た二人の作業員は、すぐそばにいた俺を無視して行ってしまった。

九頭龍 「……やっぱりな」ガサッ

日向  「お前、今の見てたのか?」

九頭龍 「俺はまあ、そこそこ慣れてるけどよ……カタギでこの状況に耐えられねー奴が出てきても
     おかしかねーだろ。運ばれてた死体袋の数、ちょうど10人分だったぜ」

胸糞悪い、と吐き捨てる九頭龍の手が、わずかに震えているのを俺は見逃さなかった。

【死亡者数:10人
 生存者数:1614名
 総生徒数:1624名→1614名】

日向  「あいつらは、外部から来た人間なのか?」

九頭龍 「いや、学園長以外の職員は見てねーぞ……結局、授業は
     モニターに映されるだけだったし、食堂も無人だったろ」

あのバイキングは誰が作ったのか。花村に聞いてみると「あんな深みのない味わいの
料理、"超高校級の料理人"が作るわけないじゃないか!」と怒っていたが……
購買部はセルフレジで、大浴場の掃除もいつの間にか終わっている。

日向  (いや、考えるにはまだ手がかりが足りない。今はとにかく、次の蝕をどう乗り切るか考えよう)

しかし、夜が明けた蝕で俺は後悔する。
何であの時、ロジカルダイブでも何でもして考えなかったのか、と――。


狛枝  「蝕の予定時刻まであと1分を切ったよ。今日は雲ひとつない快晴だ。脱出も不可能、
     外の情報からも遮断され……この八方塞がりな状況に絶望から立ち直った
     みんなが立ち向かう。その先にはどんな素敵な希望が待っているんだろうね!」アハハハ

日向  (一時間目の数学の間から、狛枝はずっとそわそわしていた。蝕よりこいつをどうにか
     した方がいい気がするが、校則には"生徒同士の殺傷を禁じる"とある……わざわざこんな
     のを校則に定める理由が不可解すぎて怖い)

弐大  「こいつはいっそ清々しいくらい変わらんのう」

終里  「どんな敵が来ようが、まとめてブッ倒す!!そんだけだろ!!!」

西園寺 「ぷっ!この脳筋ちゃんは学習しなかったのかなー?そーやって突っこむ奴から死んでくんだよー?
     ま、あんたが死んでも77期は全然困んないからいいんだけどー」

辺古山 「今のうちに出しておくか」カッ

"刀(かたな)"

辺古山は唐草模様の刻印が施された剣を二本出すと、両手に構えた。
後ろの九頭龍は「わりーな…俺の文字が使えねーせいで」と気まずそうだ。
うなじにある『冬』をおさえてため息をついている。

辺古山 「いいのですよ、坊ちゃん……私にできる償いなど、せいぜいこの程度ですから」

私の後ろにいてください、と頼んだ辺古山は、黒板の上にある時計をちらっと見て表情を険しくする。

辺古山 「小泉……よければ、一緒に来ないか」

小泉  「ごめん。日寄子ちゃんといたいんだ…あっ、ペコちゃんが怖いとかそういうのじゃなくて!
     その……私の文字、役に立たないし。…まだ、距離感とか分かんないから」

小泉は「だから、ゆっくり仲直りしてこう?」と微笑んだ。
喉元に『写』の文字が見える。辺古山はしばらくぽかんとしていたが、少し泣きそうな顔で
「……ああ」と目を伏せた。

澪田  「ひょー!!絶好の野外音響日和っすねー!!」ピョンピョン

豚神  「気をつけろよ、澪田。特に背後と上からの気配にはな」

花村  「ね、ねえ。このフライパンで蝕に対抗できると思う?僕の文字、"食"なんだよ……
     いまいち分かんないんだけど、テフロン加工だから大丈夫かな!?」テルテルテル

狛枝  「君の希望が負けなければね!!死んだら性癖を解放することだって出来ないんだ、
     頑張って生き延びよう!!」

日向  「来る……」

日向  「命がけの闘い……命がけの試練……命がけの……神蝕!」

そして、針が『カチッ』と12の所に来る。

瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。



【日向創:Chapter2『龍』】



日向  「…………」

??? 「……い……おーい……大丈夫かね?」

日向  「ん……」

最初に感じたのは、草の匂い。頬を滑る風。そして、知らない声。
ゆっくりと目を開ける。視界に入ったのは、意志の固そうな眉毛の白学ラン。
次に、ドリルのようなツインテールで、フリルの沢山ついたドレスを着た女子。

??? 「むっ、君は確か……予備学科の日向くんではなかったか?」

日向  「あ、ああ…日向創だ。お前らはたしか、78期の……」

名前が出てこない。本科なら有名人のはずなんだが、
俺の記憶力ではファイルにあった16人の顔を覚えるのが限界だった。

安広  「ともかく、これでやっと話が出来ますわね。私はセ……安広多恵子と申します。
     人呼んで"超高校級のギャンブラー"。以後、お見知りおきを」

ドレスの裾をつまんで優雅なお辞儀をする安広に、俺もつられてきれいなお辞儀を返す。

石丸  「"超高校級の風紀委員"石丸清多夏だ!本来なら77期は先輩に当たるのだが、苗木くんが
     "上下関係を作らないほうがいい"と言うのでな、……不快ではないか?」

日向  「いや、それでいい。どう見ても同い年だしな」

日向  (……俺たちに、気を遣われる権利なんか本当はない)

安広  「――で、ここはどこですの?」

彼女の疑問点に答えるため、俺はあたりを見回した。木と草むらしか見えない。
つまりは森……の中の、ぽっかりと開けた場所。
視線を上にやると、晴れ渡った空に……数字が五つほど並んだスロットのようなものが浮かんでいる。
今の数字は『伍伍参弐壱』。何かのパスワードか?

石丸  「少なくとも、希望ヶ峰学園でないことは確かだ。おそらく"蝕"の一種なのだろうが、霧切くんがいない以上、答えは望めないな」

日向  「あのスロットは……」

安広  「制限時間でしょう。先ほどから少しずつ、一番右の数字が減っています。
     それに、"試練"にルールはつきものですから」

石丸  「とにかく、これが蝕だというなら敵がいるかもしれないのだが……さっきから、やけに静かだと
     思わないか?もしかすると、"始"と同じような方法ではクリア出来ないのかもしれないな」

日向  「なら、とにかく歩いてみよう。向こうに道がある」

安広  「罠かもしれませんわよ?」

日向  「先へ進まないと、どうしようもないだろ」


そう言って歩き出した俺に、安広と石丸が少し離れてついて来る。
おそらくまだ打ち解けていない所為なんだろうけど……『警戒されてるんじゃないか』なんて
考えちまうのは、悲しいな。

一方その頃。


朝日奈 「うう……ここ、どこ?なんか森みたいな所だけど……おーい、さくらちゃーん!
  なえぎー!!……ひなたー!!ななしー!!……つみきちゃーん!いたら返事してー!!」

朝日奈 「……うう」

ガサガサ

朝日奈 「うひゃあ!!!?」ビクーン

??? 「ふっ……我が覇王の気に中てられたか。些か退屈していたところだ。草臥れ果て、
     彷徨い続ける運命を選択する前に、我が眷属が道を示そう」ザッ

朝日奈 (なんかヤバい人きたーーー!!!)

??? 「もう、田中さん。彼女が怯えているじゃありませんか」

朝日奈 (増えたー!!それに意外と普通の名前だったーー!!)

??? 「制圧せし氷の魔王……畜生道のやしない主……人の子は俺をどうとでも、好きなように呼ぶ。
     我が名は田中眼陀夢っ!!この愚かなる旋回舞踏の夢に生きる計算表の一つの点だ!!」

朝日奈 「ええと……」

??? 「そなたの真名は、"特異点"より聞いている。徒花のウンディーネよ、永久に膨張する宇宙卵たる  
     お前たちと我らの間に降る雨はない」

??? 「"超高校級の飼育委員"田中眼陀夢です。プログラムを脱出した77期の一人です。朝日奈さん、
     希望を生み出すあなた達78期と77期の間に壁はないので、どうか気を遣わないでください……
     ふふ、田中さんはいつもこうなんです。分からなかったら聞いてくださいね」

朝日奈 「は、はあ……」

??? 「申し遅れました、私は"超高校級の王女"ソニア・ネヴァーマインドと申します。
     よきにはからってくださいな」

朝日奈 (なんか……悪い人たちじゃないっぽいんだけど……疲れるなあ。蝕始まったばっかなのに)

田中  「戯言はそのくらいにして……向こうにある扉はどうする?」

朝日奈 「へっ、扉!!?」

言われてみると、道の先にたしかに、龍が刻印された白い扉があった。

田中  「とりあえず、壊すか」カッ


"獣(けもの)"


言うなり田中は文字を発動させ、両手に獣の皮がついた鉤爪をまとう。

朝日奈 「わー!!やめて、せめてもうちょっと考えて……」

ソニア 「当たって砕けろという奴ですね!!」カッ

"生(せい)"

文字を発動させたソニアは、田中のスカーフをつかんで「えいっ!」と意識を集中させる。
その手から青い光が流れこんで、田中の鉤爪がぼんやりと光をまとった。

朝日奈 「ええと……ソニアちゃんは、補助系なの?」

ソニア 「私の文字は、人の能力を強化することができるようなのです。朝日奈さんも行きますか?」

朝日奈 「あー…ごめん、私まだ上手く扱えないからさ。今度頼むね」

その時、扉の龍が『ギョロッ』と目を動かし、口を開く。

龍   『我は"龍"……この試練を生き延びたくば、我を倒し、この中にある鍵を手に入れよ。
     そなたらの持つ"力"か、"知恵"か……それにて道を示』

田中  「くどい」ザクッ

龍の話が終わる前に、田中の鉤爪が扉を引き裂く。

朝日奈 「ちっ…ちょっと!!まだ話が途中だったじゃない!!つーか、扉から血っぽいものが
     垂れて……」

どくどくと血が垂れる白い扉を指さして、朝日奈が怒鳴る。

龍   『"力"を選ぶか……よかろう。では、闘いを始めるぞ!!』ズルッ

扉からズズズ…と抜け出した龍が、空へ舞い上がる。それをぽかんと見送った朝日奈は
「追いかけなきゃ!」と走り出そうとした。

田中  「いや…その必要はなさそうだ」

朝日奈 「へ?」

ソニア 「向こうから来てくださるようですよ?」

龍は空中でぐるっと旋回し、三人目がけて勢いよく下降する。口ががぱっと開いて、牙がむき出しになった。
それに朝日奈が悲鳴をあげたのが先か、田中が地面を蹴ったのが先かは分からなかった。



同時刻、別の場所では――頭脳派チームができあがっていた。
十神、霧切、さらに……大弓を構えた予備学科の『佐藤梓』だ。クラスメイトからは揶揄を込めて
『超高校級の弓道家』などと呼ばれているが、彼女自身にそこまで弓の才能があるわけではない。

佐藤  (いやだなあ…この十神って人、あいつのお兄ちゃんと同じ77期だもん。
     気まずいったらありゃしないよ。まあ、何も言ってこないだけいいけどさ)

彼女は九頭龍の妹とひと悶着起こした過去がある。
この学校で目覚めて蝕が始まってから忘れていたが、十神とチームになったことで図らずも
それを再確認する羽目になっていた。

佐藤  (まあ、いいもんね。さっき龍が言ってたもん。"ここから出られるのは、鍵を持った人間だけ"……
     私にしか聞こえてなかったみたいだし、使わせてもらうわよ)

豚神  「力か、知恵……霧切、この蝕について基本データは出せるか?」

霧切  「待って、トレースが……終わったわ。この蝕は"龍(りゅう)"タイプは"隔離型"とあるわ。
     前の"始"が固定型。出現する日が決まっている蝕だったみたいよ」

豚神  「学園から異空間へ転送される蝕か……発生の条件が分かればいいのだが。どうやら
     チーム分けもランダムのようだ。まずはここから脱出するのが最優先か」

佐藤  「あの……私にも何か、できることありますか?」

豚神  「焦るな。まずは敵の弱点を探るぞ」ペタッ


"偽(いつわり)"


扉の龍に手をついた十神は、目をつぶって集中する。『偽』の字は、人が象を手なずける象形文字だ。
そこから転じて『ありのままの姿に戻す』という意味を持つ。彼の手の下で、
龍はみるみるうちに透けて、中にぼんやりと『鍵』の形を出した。

豚神  「見えたな。尾に近い下腹のあたりだ」

霧切  「なら、今度は佐藤さんの出番ね。十神くん、外へ誘い出してちょうだい」

豚神  「了解した!」ドカッ

扉を勢いよく蹴った十神に、龍が『力か…よかろう!』と応える。外へ這い出た龍を、
きりり…と弓を引き絞った佐藤が狙う。

佐藤  「はあっ!!」バシュッ

ズドン!!

佐藤  「外したっ……もう一回!!」バシュッ

続けざまに二、三発撃つと、さすがの龍も失速した。そして、四発目でとうとう鍵をかすめる。
空中を落ちてくる鍵を、佐藤は走りよってキャッチした。

豚神  「よくやったぞ、そのまま……」ドスッ 「……あ?」ドクドク

霧切  「佐藤さん、あなた何を――っ!?」グサッ

佐藤  「邪魔しないで下さいよ……さんざん予備学科を足蹴にしてきたあなた達本科を、
     今度は私が踏み台にしてあげるんですから」

くるっと背を向けた佐藤に、足を撃ちぬかれた霧切が「待ちなさい!」と叫ぶ。
しかし、佐藤は振り返ることはなかった。腹を刺された十神も、起き上がろうとして
痛みに悲鳴をあげ、再び地面へ突っ伏す。

豚神  「くそ……!!なぜだ、なぜなんだ……!!予備学科も、本科も、この蝕では
     壁などないはずなのに!…ぐっ…」ボタボタ

霧切  「それより、まずいことになったわ……鍵はまだ、佐藤さんの手に」

豚神  「追いかけるぞ…」

霧切  「でも、その出血じゃ……「傷など、おさえていればいい!!お前だけでも生還しろ!!」

十神はハンカチを引き裂いて、傷口に押し当てる。
なんとか立ち上がる十神を見た霧切は「……似ているのは、見た目だけね」と小さく呟いた。


その頃。日向、石丸、安広チームは……。

安広  「あら、今不思議な声がしましたわ。"此処から出られるのは二人だけ"ですって」

石丸  「なっ…!!」ガーン

安広  「おおかた、嘘でしょうけど。この前の始もそうでしたけど、試練は常に、生き延びる道があります。
     一人の犠牲も出さずに脱出することは可能でしょう?でも、蝕の方でも考えているのですね。
     わざわざチームの一人にだけ嘘を吹き込むなど、惑わそうという意図が見え見えで、   
     張り合いがありませんわ」

石丸  「そういう問題かね!!?」

日向  (やれやれ…こいつを敵に回すのは勘弁したいな)ハァ…

日向  「で、どうする?龍を誘い出したのはいいが、俺は弓なんて使えないぞ」

『変』で出した鉄パイプを構えた俺が聞くと、安広は「あら、簡単ですわ。私の文字を使えば」と微笑む。


"罠(わな)"


安広  「日向君、龍の気を引いてくださいます?石丸君は反対方向に逃げて小石でも投げながら、
     龍を少しずつ私の方へおびき寄せてくださいな。気が向いたら文字を使っても構いませんことよ」

石丸  「了解した!!」ダッ

日向  「分かった……信じるぞ、安広!!」

安広  (……信じる、ですか……この私が、信頼を受けるなんて……)

安広  (もうそろそろ、嘘をつくのも疲れましたし……悪くありませんけど)カッ!

手を振って、地面に『罠』を仕掛けていく。元はウサギを捕る網からできた象形文字だが、
彼女の想像力――地下のギャンブル階を巡る中で見てきた数多のゲーム器具。
たとえば電流の流れたつり橋、たとえば針天井。それらが文字に広がりを与える。

日向  「――ら、あああっ!!こっちだ!!」ブンッ

石丸  「日向くん、深追いは禁物だ、"下がりたまえ"!!」カッ

日向  「……えっ?」ガクッ

石丸が声をあげると同時に、日向の足が操られるように後ろへ下がる。
次の瞬間、日向が今までいた地面に龍の爪が突き刺さっていた。

石丸  「僕はこうして、相手を"支配"することができるのだよ。恐ろしい文字だろう?」

日向  「いや…おかげで助かった。いい文字だ」

石丸  「……まったく、君という男は分からないな」スッ

差し伸べられた手をありがたく取ると、ちょうど安広も準備が終わったらしい。

安広  「行きますわよ……」カッ

地面すれすれを低空飛行する龍の口が、がぱっと開く。
安広が手を挙げると、その巨体を地面から現れたトラバサミが次々に挟んだ。
まるで活け作りのように、龍は地面に縫いつけられる。じたばた暴れる龍の口を指さして
「日向君、今です!」と安広が合図した。

日向  「は、あああっ!!」ザシュッ

龍の口を、真一文字に切り裂く。真っ赤な血が視界に飛び散って――その向こう、
喉奥に白く光るものが見えた。俺はその勢いのまま龍の首に刀を差し込んで、
ぐいっと切り落とす。

日向  「あった……鍵だ」

安広  「呆気ないものでしたわね。ともかくこれで脱出できますわ……早く学園へ帰りましょう」

日向  「だな。森の景色にも飽きたところだ」

俺たちは並んで歩き出す。闘って龍を誘き出しているうちに、扉からだいぶ離れたところまで
来てしまっていた。石丸がつけておいた樹の印に従って、白い扉を目指す。

石丸  「しかし、君は不思議な人だな。予備学科でありながら癖の強い77期をまとめあげ、
     彼らの司令塔として君臨している……一体、君は何者なんだ?」

安広  「私も不思議ですわ。何の才能もないといいながら、こんな非常事態でも全く
     あわてふためくことがない……今までどんな日常を過ごしていらっしゃったのか、
     興味が沸いて来ました」

日向  「……別に、普通だ」

しまった、78期とはなるべく距離を置くつもりだったのに……。
石丸と安広は、正体不明の予備学科生に興味を持ったらしい。

どう遠ざけようか考えながら扉に鍵を差しこみ、開ける。
そこは学校の校庭だった。俺たちが出てきたのと同じ、白い扉が沢山浮かんでいる。
バスケットゴールの下に仲間達が集まっているのを見つけると同時に、向こうからも声があがった。

西園寺 「あ、日向おにぃだー!!モブ顔のくせに案外速かったね!死んでたらお焼香くらいは
     してあげようかなって覚悟してるとこだったよー!」

弐大  「応ッ!!お前以外はもうほとんど脱出しておるぞ!!ガッハッハ、一位はこの弐大猫丸が
     いただいた!!残念だったのう!!」

西園寺 「あれれー?わたしの目がおかしくなったのかなー。おにぃの後ろに鹿鳴館とエセ右翼の
     コスプレした頭おかしい奴がいるよー?」

終里  「しっかし、78期の奴らおせーな。まだほとんど出てきてねーぞ?」ガシガシ

左右田 「おい、何ボーッと突っ立ってんだよ!早くこっち来いって!」

日向  「……じゃ、俺はここで」

石丸  「あ、日向君。よかったら今度話を……」

まだ名残惜しそうな石丸を置いて、俺は逃げるように77期の仲間達が座っている所へ戻った。
俺たちは、肩を寄せ合って生きる罪人だ。

……『希望』たちに触れるわけには行かない。

日向  「あ、あいつらは……」

遠くで、扉が開いた。苗木と…たしか舞園さやか、そして桑田怜恩がチームだったらしい。
ものすごく気まずそうなパーティーだが、なんとか協力できたのか、よかっ……

た、と思う前に。
出てきた苗木と桑田はなにやら言い争いを始めた。しばらくして、桑田はぷいっとそっぽを向く。
舞園が止めるのを振り払って、桑田はさっさと歩いて行ってしまった。

日向  (元々は仲良しのクラスメートだったのに……俺たちの所為で……)

日向  (いや、それは後だ…まだ、後回しにしよう……俺にはまだ勇気が出ない……)

考えている間も、次々と扉が開く。その中から、見覚えのある顔が高笑いをしながら出てきた。

田中  「フハハハハッ!!仰々しく形作られた儀式の場だったが、造作もなかったな!!」

ソニア 「うふふ、とにかく脱出できてよかったですね」

朝日奈 「…………」ずぅぅーん

まさかのパーティーだ。日本語の通じない田中と一緒で、よく龍を倒せたな。

日向  「あ、朝日奈…大丈夫か?」

朝日奈 「ひなたぁ……なんなのこの濃ゆい人たち……何言ってるか分かんないし……
     ソニアちゃんはなんかずっと笑ってるし……」はぁぁぁ

日向  「安心しろ、俺たちも全然分かんないし、もう笑うしかないと思ってる」

朝日奈はしばらくすると、元気が出たのか「ねえ」と聞いてくる。

朝日奈 「あの扉さ……人が出てきたのは白いけど、あっちは黒いじゃない?あれ何なのかな…
     あっ、今あっちの扉も黒くなった!!」

日向  「多分……"失敗"したってことじゃないのか」

朝日奈 「失敗って……」

日向  「向こうで、龍に負けたって事だ。現に、あの黒い扉からはまだ誰も出てきてない」

朝日奈 「ね、ねえ……七志は?あいつ、すっごい頭いいし、絶対さっさと出てきてると思ったんだけど」

校庭の扉が次々真っ黒になっていくのを見て、朝日奈が恐る恐る聞いてくる。

ソニア 「だ、大丈夫ですよ。私たち、たまたま早く出られただけで……ほら、まだ78期の方々でも
     出てきてない方が……」

そう言うソニアの背中側で、葉隠が出てきていた。これで78期のメンバーは霧切以外全員そろったことになる。

朝日奈 「七志……霧切ちゃん……大丈夫かな……あの二人に限って、まさか失敗なんて」

心配そうにぎゅっと胸元をおさえる朝日奈に釣られて、
俺の心臓もどくどくと嫌な鼓動を打ち始めた。第一の事件で倒れていたあいつの死に顔が浮かぶ。
……大丈夫だ。十神なら、きっと。自分に言い聞かせながらも、その不安が消えることはなかった。


――私は生きる。絶対に生きてやるんだ。

九頭龍を殺した時だって、そうだ。あれっ、あいつ下の名前なんて言ったっけ?
思い出せないな……ま、いっか。今さらどうでも……。

佐藤梓は、走りながら思い出していた。
予備学科での鬱屈した日々。九頭龍との因縁。そして――

佐藤  「そうだ、私には力があるんだ……今度こそ本当に、"超高校級の弓道家"になるんだ!!」

不条理なことは、自分でどうにか打開するしかないんだ。
私にはその力があったんだ。だから、私こそ生きるべきなんだ!

龍を狙ううち、いつの間にかずいぶん遠くまで来ていたらしい。
あと少し――あと少しで、出口に……


佐藤  「はあっ、はあ、はあ……あれ?」

そこで、佐藤は違和感に気づいた。
――黒い。ここから白い扉だったはずなのに、そこに鎮座しているのは黒く、血のような生臭い
液体をボタボタとたらす真っ黒な龍だ。

佐藤  「ね、ねえ…何よこれ、なんなの!!?」

龍   『我は人の子に試練を与える白き龍にあらず……人道を踏み外した者に罰を与える黒き龍』

佐藤  「意味分かんないこと言ってないで、早くここから出してよ!!鍵だってここにあるわ!!」

龍   『残り二人の仲間はどうした?』

佐藤  「だって、あんたが言ったんじゃない!!鍵を持った奴だけ出られるって!!」

龍   『戯れの嘘に騙され、仲間を裏切るか……その罪、赦し難し。死をもって償え』

佐藤  「――え?」

逃げる間もなく、黒龍の口からゴオッと炎が吐き出される。
それはみるみるうちに地面を這って、佐藤の体を包み込む。

佐藤  「きゃあああああーーーっっ!!」

そこで、悲鳴を聞きつけた十神と霧切が追いついた。

豚神  「佐藤ッ!?待て、今消して……」バサッ、バサッ

上着を脱いで一生懸命に消そうとするが、もだえ苦しむ佐藤にまとわりつく炎を消すには間に合わない。
数秒も経たないうち、佐藤の体は崩れ落ち、跡形もなく焼き尽くされた。

霧切  「こんな……こんな、むごいことが……」

黒龍  『その者は大罪を犯した。よって罰を与えた。……お前たちは試練に失敗したのだ。
     この扉が開くことは未来永劫ない』

霧切  「……それは、どうかしら」

黒龍  『なに?』

霧切  「この座標……さっきの白の龍がいた扉と同じよ。つまりあなたは、白の龍が姿を変えただけの存在。
     だったら、その先にあるのは希望ヶ峰学園でしょう?」

黒龍  『それを知って如何にする。すでにそなたらには――』

豚神  「おおおおおッ!!」ダッ

佐藤の焼け跡から立ち上がり、走り出した十神。黒龍が裁きの炎を吐き出すが、十神はそれを
地面に転がって避けると、扉に手をかける。龍は首をもたげて、十神の顔面に炎を吐き出した。

豚神  「ぐ、っ…これしき、のことで……開けッ……開けぇぇぇ!!!」カッ

"偽"


黒龍  『なっ……やめろ、理を曲げるなど、あってはならな……』シュゥゥゥゥ

十神の文字の力で、黒龍がみるみるうちに、元の白龍に戻る。そこで、佐藤のいたところに落ちていた鍵を
拾った霧切が、急いで扉に差し込む。鍵が回るか回らないかのうち、十神は扉をバターンッと蹴破った。

朝日奈 「!霧切ちゃん、七志!!!」ダッ

豚神  「うう……」ヨロヨロ

朝日奈 「ひどい火傷……罪木ちゃん、お願い!」

罪木  「は、はいっ!」パァァ

全身に大火傷を負い、苦しげな呼吸を繰り返していた十神が、罪木の放つ光で少しずつ楽な表情になる。
やがて目を開けた十神は、自分を心配そうに見下ろす仲間たちを見て「馬鹿者」と笑った。

豚神  「十神白夜が……これくらいで死ぬわけがあるか。俺の心配などいらん……」

朝日奈 「うっ……ううっ…よかったよぉ…二人が生きてて……」

ぐすぐすと泣いている朝日奈に、霧切は自分達が出てきた扉を振り返る。
真っ黒に染まった扉の向こう、白い龍が地面に倒れていた。どうやら他の黒い扉は閉じたままらしい。

霧切  「運がよかっただけよ……彼の文字がなかったら、佐藤さんが裏切った時点で詰んでいたわ」

日向  「七志、本当に大丈夫か?……心配したぞ」

豚神  「だから、お前たちのような愚民が案ずるほど俺は落ちぶれて……いや、今はやめておこう」

豚神  「それより、何か飲み物をくれないか。……龍の炎が思ったより熱かったんでな」フッ

朝日奈 「じゃあ……」むむむ

朝日奈 「はいっ!」

笑顔で差し出した朝日奈の手には、冷たい水が波打つコップ。

朝日奈 「えへへ、ちゃんと文字を使えたの初めてかも」

豚神  「……ありがたい」

受けとった『御曹司』は水を勢いよく飲み干して、今度こそ本当に笑顔になった。

【『龍』死亡者数:34名
 生存者数:1580名
 総生徒数:1614名→1580名】

苗木  「霧切さん!!よかった……生きていて」ホッ

霧切  「あなたもね。それに…外に出たおかげで分かったわ。この蝕の発生条件がね」

霧切  「私たちは1614名いたわ。そして、扉の数はちょうど538個。
     ……一つの扉の中に、3人。つまり、この隔離型は」

苗木  「生徒数が3の倍数の時に来る、だね?」

霧切  「ええ、そうよ。生徒数が3で割り切れる時は要注意ね」

そんな話を苗木たちがしている間、葉隠がなぜか申し訳なさそうな顔で突っ立っている。

葉隠  「あ、あのー、苗木っち……さっき桑田っちがブチギレたのって、多分俺のせいなんだわ……」

苗木  「え?」

葉隠  「ほら、あの希望のパスワード……うっかり口すべらしちまって……このまんまじゃ俺、また
     うっかり江ノ島っちにやらかしそうなんだわ、なあ」

苗木は何が何だか分からないよ、と葉隠を連れて遠くへ行った。

西園寺 「ねえねえ、そろそろ"アレ"来るころじゃない?」

小泉  「あれって?」

西園寺 「決まってるじゃーん!ゲロブタの恥ずかしい所を封じた欠片だよー!!」

罪木  「ひいい!!やっぱり私を狙い撃ちなんですねぇ…!!」

左右田 「おっ、噂をすれば」

空中から、ふわふわと下りてくる青い欠片。
これが二つ目の『希望のカケラ』か……今回は一体どんな恐ろしいものが見えるんだろうか?

日向  「じ、じゃあ……皆、腹ァくくろう、ぜ」

九頭龍 「無理すんなよ。カタギが言うと似合わねーぞ」


パアッ…と欠片が光を放って。
また、どこかへ引っぱられるような感覚。

そこは、医療器具とベッドしかない、簡素な病室だった。
たしか希望ヶ峰でも一部の人間しか立ち入りを許されない区画の、さらに奥にあった。
そこで、俺と学園長が話している。

『学園長先生もやっぱり、希望ヶ峰学園のOBなんですか?』

何気なく聞いたのだろう。聞かれた当の学園長もぽかんとしている。
やがて『ああ、そうだよ』と頷いた。

『超高校級の探偵という肩書きでね。霧切一族は代々探偵を生業としているんだ。
 学園創立から何度もスカウトは来ていたけど、入学したのは私が最初だ』
『やっぱり探偵って、表には出ないものなんですか』
『うん。だけど私は目立ちたがり屋だったんだ。学芸会でも堂々と主役に手を挙げるようなね。
 学園は私を客寄せパンダにしたから、卒業した後も探偵としては顔が売れすぎて、"完成"しなかった。
 親のすねをかじるのも申し訳ないから、思い切って家を飛び出したのさ』
『……娘さんを置いて?』
『松田君に聞いたのかい』
『あ、はい……すいません』

学園長は『今だって、学園長として顔を出しているのはその名残でね』と椅子にもたれかかる。

『認められたい、もっと見て欲しい、褒め称えられたい、名を残したい。
 そんな欲も、ないと言えば嘘になる。というより、半分はそうかもしれない』

『人生は希望を賭けたギャンブルさ、そうしてたいていは負けっぱなしに終わる。  
 君だってそれが嫌だから、才能を渇望してこの手術を望むんだろう?だけど』

『生まれてこなければ……そもそも賭けることすらできない。
 そして、才能がなければ……勝ちを祈ることすらできない。
 だから、君は何も間違っていないよ。日向君』



左右田 「うおっ、日向!オメー泣いてんのか!!?」

九頭龍 「おい……大丈夫かよ、日向。今度はどんな惨いモンが見えたんだ?」

言われて、俺はようやく自分が泣いていることに気づいた。
涙をゴシゴシと袖でぬぐって「学園長」と答える。

左右田 「は?」

日向  「学園長と、話してたんだ。手術を受ける前の日に。それが見えた」

九頭龍 「こ、今回はずいぶん呑気だな……」

日向  「今分かった、学園長も俺と同じだったんだ……才能さえあれば、才能が全てだって……
     そう信じることで、何とか生きていたんだ。だから、カムクラプロジェクトも」

左右田 「な、一旦落ち着け。いっこずつ話せって」

日向  「悪い。ちょっと一人にしてくれないか」

俺は慰めようとする左右田を振り払って、一人で寄宿舎に歩いた。
後ろでやけに静かになった西園寺や、さめざめと泣いているソニアがいるのは分かっていた。
だけど、今はそれどころじゃなかった。ただ、一人になりたかった。

江ノ島 「うわー、最悪なんですけど……なんなの、この"蝕"とかいうやつ!!」

戦刃  「ねえ、盾子ちゃん」

江ノ島 「せっ…かく希望ヶ峰に入ったってのにサイアク!!あたしフツーのギャルだっつーの!!!
     ここ出たらあのイケメン学園長、訴えてやる!!マジ潰す!!!」ぷんすか

戦刃  「ほんとに何も……覚えてないの?」

江ノ島 「お姉ちゃんこそ頭大丈夫?あれ、PTSDとかいう奴なんじゃないの?」

江ノ島 「あたしが"そんな怖いこと"するわけないじゃん!!!……ま、その"コロシアイ"とかいうやつ、
     ドラマとかになったら面白そうだけどさ。お姉ちゃん才能あんじゃない?」

戦刃  「……」

江ノ島 「そん時はあたしが主演してあげっからさあ、お姉ちゃんマジで書いてよ!!」

戦刃  (……どういうことなの?)


_______________

ちなみに佐藤梓さんはあの『サトウ』さんです。梓=梓弓から。



セレスは賭じゃなくて罠とはな。石丸は規律の律かな?
そして豚神のとにかく頼りになること…嬉しいけど死にそうで怖い

江ノ島さん真っ当な人になってて笑う
本編でもこんな感じならなぁ……


キーン・コーン・カーン・コーン……

聞き覚えのありすぎるチャイムの後、部屋のモニターに安楽椅子の学園長が映った。

学園長 『時刻は、夜の10時を回ったよ。間もなく食堂のドアをロックする。まだ残っている生徒は早めに
     部屋へ戻りたまえ……そうそう、初めての隔離型をクリアした君たちに、ご褒美をあげるよ。
     明日の朝、"食堂のテレビモニター"を見たまえ。では、おやすみなさい』

プツンッ…。

日向  (もう夜時間か……今日も色々ありすぎて疲れたな)ボスッ

日向  (生き返った学園長、神蝕、外の世界、俺たちの体……謎だらけだ)

ベッドにうつ伏せになって考える俺の脳裏に、ふと昼間の光景が蘇った。

葉隠  『このまんまじゃ俺、またうっかり江ノ島っちにやらかしそうなんだべ』

日向  「!そうだ、江ノ島!!……江ノ島盾子も蘇ったって事か!!?」

日向  「……でも、あいつがいるならなんで俺たち"絶望の残党"に何もコンタクトを取らないんだ?
     いや、すでに誰か江ノ島と接触しているのか?」

それはない、とすぐに思った。
77期生たちの動向には気を配っているが、隠し事が苦手な奴らばかりだ。
初対面に近い俺でも『悩みがある』ぐらいはすぐに分かったんだ。そんな異変があったら
とっくに気づいている。

日向  「明日、苗木を問いつめるか?……いや、答えてもらえるわけがない。
     かえって俺たちの立場が悪くなるかもしれないな」

日向  (でも、江ノ島の事は放っておけない……明日、こっそり探りを入れてみよう。その為に)

俺は起き上がって、部屋に備えつけのメモ帳を取った。鉛筆でさらさらと簡単なメッセージを記す。

――江ノ島盾子が蘇っているらしい。お前たちは知らないふりをして探れ。  日向

日向  (あとはこれを、全員の部屋のドアに挟んでおくだけだな。西園寺あたりが腹をたてそうな
     気もするが、江ノ島の存在次第で俺たちの命がどうなるか決まるんだ。
     苗木たちが動く前に正体を掴んでおかないとな)


『龍』から一夜明けた日曜日。

一晩考えてだいぶ頭がすっきりしたので、食堂に向かった俺は、テーブルで言い争う二人を見た。

左右田 「だーかーらぁ!!誤解なんだって!!」

西園寺 「人形に顔近づけてハァハァやってたじゃん、わたし見たんだからね!!」

日向  「……左右田、俺たちは親友だ。お前がどんな性癖を持っていても、俺は受け止めるぞ」

左右田 「だからちげーって!!!」

事の起こりは今朝早く。夜明けごろに目が覚めてしまった西園寺は、食堂で水を飲もうと思って
部屋を出た。……が。夜時間には食堂がロックされていることを思い出した西園寺は、
仕方ないので部屋に戻ろうとした。

西園寺 「あんたの部屋のドアが半開きだったから、閉めてやろうと思って見たら、
     人間並みにでっかい球体関節人形に頬ずりしてハァハァしてたんだよこいつ!!
     しかも裸の、髪の毛もついてない人形に!!!」

……それはちょっと気持ち悪い。

左右田 「オレにそんなアブノーマルな性癖はねえよ!!」

花村  「左右田くん、今度ちょっとぼくの部屋で語らおうじゃないか。君もTENGAじゃ
     満足できなくなったクチかい?」キラーン

九頭龍 「おいおい、お前、島でソニアに"内骨格を見せてください!!"って告白してなかったか?
     "あなたの骨格は完全なんです!大腸すら愛せます!"ってのも聞いたぞ?」

西園寺 「ほら、どこがノーマルだっての!?こんな人形趣味の性的倒錯者と同じ空気吸いたくないよ!!」

日向  「一旦落ち着け。左右田、西園寺の話は本当なのか?」

左右田 「うう……」

左右田はしばらくブルブルと震えていたが、「やっぱ言えねぇぇーーっっ!!」と叫び、
食堂からびゅーんと飛び出していってしまった。

西園寺 「もう自白してるようなもんじゃん」

日向  (その意見に賛成だ!!…したくないけど)

罪木  「だ、大丈夫ですかね…左右田さん……」

西園寺 「ほっとけば?腹減ったら戻ってくるっしょ」

一応クラスメイトをそんな動物みたいに言ってやるな。

日向  (とりあえず、朝飯食った後に様子見に行ってやるか。その前にモニターだったな)

テレビモニターを見上げると、しばらくして『ピッ』とスイッチが入る。
そして……

『関東地方の今日の天気です。午前中は小雨が降るでしょう。午後になると天気は一旦
 回復しますが、夕方には霧が見られる所もあるでしょう……』

日向  「……は?」

思わず驚きの声が漏れる。
画面に映っていたのは、NHKの気象予報だった。

西園寺 「えっ、外の世界って滅んだんじゃないの?何でフツーに天気予報とかやってるわけ?」

学園長 「うんうん、不思議だよね」

小泉  「そうだよ、だってテレビ局があるわけ……って、学園長!!?」

ナチュラルに混ざってきた声に、俺たちは一斉に振り返る。
そこにいたのは、学園長だ。……山盛りのシリアルを牛乳なしでボリボリ食べている。

辺古山 「牛乳はかけないんですか?」

西園寺 「最初に聞くのがそれ!?」

学園長 「いや、牛乳はこうして」グビグビ

小泉  「別々に飲むんなら、かけても同じじゃ……」

学園長 「ぷっはー!あー、この一杯のために生き返ったって感じするなあ」

日向  「生き返った……じゃあやっぱり、学園長も」

学園長 「ああ。私の"肉体"と呼べるものはすでに消失しているよ。まあ、その話は追々するとして……
     あの映像は偽物じゃないし、過去の録画でもない。外の世界ではこうしている間も
     人々が普通に働いて、営みを送っている。もちろん、テレビ局も生きているよ」

小泉  「じゃあ、世界は滅んでないって事ですか!?」

学園長 「そういうことになるね」

日向  「信じられるか!人類史上最大最悪の絶望的事件……あれは日本政府すら陥落させたはずだ!!
     こんな短い時間で復興するなんてありえない、俺たちは徹底的にやったはずだぞ!!」

辺古山 「日向、声量には気をつけろ」

日向  「あ、悪い……学園長、それは一体どういう――えっ?」

一瞬だった。
本当に一瞬目を伏せたうちに、学園長の姿は煙のようにかき消えていた。
そこには、空っぽになったシリアルの空き箱と牛乳パックだけがあるだけだ。

小泉  「き、消えた……!?」

澪田  「ま、まさか今の学園長先生は……あばばばばばばば」ブクブク

九頭龍 「肉体は死んだ、つってたろ。人間やめちまったんだろーな」

日向  「くそ……結局全然情報は聞き出せなかった……!」

辺古山 「ところで日向、私達の部屋のドアにこんなものがはさまっていたんだが……偽物ではないな?」ペラッ

西園寺 「日向おにぃの上から目線な書き方はムカつくけど……」

日向  「悪い。シンプルに書こうと思ったら、ああなった」

西園寺 「やってあげるよ。江ノ島の言いなりになるのもムカつくし、78期の奴らに疑われるのも
     めんどくさいし……」

小泉  「江ノ島盾子、か……正直私にはまだ、色々信じられないことばかりだけど、
     あの人のことは思い出したよ。生き返っているとしたら、ほっとけない。
     学園にいるみんなのためにも、私達のためにも」

九頭龍 「とりあえず、江ノ島をシメて連れてくりゃいいのか?あの女、普通に聞いても答えねーだろ」

日向  「なるべく傷つけないで頼めるか?」

九頭龍 「んじゃ、ペコ……」

辺古山 「はい、坊ちゃん」

辺古山はさすがというべきか。
目配せ一つで、九頭龍の後ろにぴったりついて行く。二人が行ってしまった後、
西園寺は「わたし、おねぇと一緒に江ノ島のこと聞いてくるね」と珍しく自発的に動いてくれた。

日向  「やらなきゃいけないんだ……生き残るために」


そのころ、食堂を飛び出した左右田はというと。

左右田 「ふーっ。まさか西園寺に見られてたとはなあ……今度から部屋の鍵は閉めとかねーと」アセアセ

左右田 「変態疑惑がついたけど、まあいっか。これをみんなに見せてビックリさせる計画に比べりゃ、
     どーってことねーもんな!!日向大喜びだろーなー。楽しみだなー」

部屋に戻った左右田は、愛用の工具箱を取り出してなにやら準備を始めた。
シャワーカーテンで覆って隠しておいた『何か』を床に座らせると、丁寧にボルト部分を調節して行く。
それが終わると、内蔵してある人工脳に電気信号を通してテスト。問題なし。
フタを閉じると、人工毛のウィッグをかぶせて固定。

左右田 「あとは眼球を入れてっ……と、完成!!いやー、徹夜した甲斐があったぜホント!!
     あいつら、びっくりすんだろなあ。日向は喜んでくれっかなあ」

一人でパチパチと拍手した左右田は、鍵がしっかり閉まっていることを確認してから
床にぺたんと座りこんだ裸の球体関節人形の所へ戻る。見れば見るほど似ている。そっくりに作ったから
当たり前だが、髪だけが長く床に垂れているので(後で切ろう)と左右田は思った。

左右田 「よし……んじゃ、行くぞ」パンッ

両手を合わせて、集中。


"機(き)"


文字を発動させた左右田は、ゆっくりと合わせた手のひらを開く。
そこには、ぼんやりとした光の玉が浮かんでいた。

左右田 「それっ!起きろー!!」

ふわっと飛んだ光の玉は、人形の口からすぽんっと体内に入って消えた。
閉じられていた人形のまぶたが、滑らかな動きで持ち上がる。二、三回瞬きして、
ガラスの視界に左右田を映すと、人形は口を開いて「あ……」と発声した。

左右田 「オレは左右田。左右田和一。オメーを作った男だ!創造主様だぞ!左右田。言ってみ?」

人形  「そ、うだ」

左右田 「そう、ソウダ。すっげーなオレ。マジで人工生命作っちゃったよ!さすが"超高校級のメカニック"!」

喜ぶ左右田をじーっと見つめて、人形はひたすら繰り返す。

人形  「そう、だ……そうだ、そうだ、さま、そう、だ、さま、そう、ださ、ごしゅじ、んさま」

左右田 「ストーップ!それ覚えさせたらマジで俺は日向に殺される!"左右田くん"だ。左右田くん」

人形  「そうだ、くん」

左右田 「よし。オッケー。んじゃ次、オメーの名前な。オメーは……」

左右田 「ナナミR-type:0001ってのが型番なんだけど……まあ、ナナミでいっか」

人形  「なな、み。わた、し、ななみ」

左右田 「そ。七海だ」ワシャワシャ

左右田 「……しかし、全裸ってのはなあ……いくら人形でもちょっと目に毒だよなあ」ピーン!

左右田 「そーだっ、女子の誰かに服もらおう!!……でも、77期の奴らにはすっかり変態として
     知れ渡っちまったしなあ……」


朝日奈 「……で、私に?」

左右田 「おう。これは極秘のミッションだ。誰にも言うなよ。
     無事に達成したら俺の最高傑作"ナナミ-R"を見せてやる。下着はいらねーから上だけでいい」

朝日奈 「よく分かんないけど、いいよ。女の子の服貰ってくるんだよね。待ってて!」ダッ

二つ返事で引き受けた彼女に、いかがわしい用途を疑わないのか?と左右田は聞きたくなった。
……しかし。78期の女子を回って集まったのは。

朝日奈 「えーっと、何これ。タコヤキ柄のTシャツ?舞園ちゃんもこういうの着るんだ……
     あとは、不二咲がくれたどっピンクの靴下だけか……これじゃ足りないよね、多分。
     残ったのはセレスちゃんだけど……くれるかなあ」コンコン

安広  「はい…あら、朝日奈さんではありませんか」ガチャッ

朝日奈 「あ、セレスちゃん。着ない服とかあったらくれないかな?」

安広  「……どなたが着るのです?」

朝日奈 「あ、私ちょっとその…ゴスロリ?とかいうのに興味が……」

安広  「はあ……」

安広  「いいですか?まずゴシックアンドロリータの精神というのは"優雅"の一点に尽きます。
     常に淑女の精神を持ち、美しいお洋服に負けないよう背筋を伸ばすのがまず第一条件。
     髪の毛がボサボサであったり、ノーメイクなどもってのほかですわよ。ですから……」

一時間にわたってたっぷりとゴスロリについての知識を叩き込まれた。
朝日奈がくらくらしている横で、安広はワンピースのフリルを整え、ヘッドドレスと合わせたりしている。

安広  「ところで、誰がこのお洋服を所望していますの?…あなたではなさそうですが」

朝日奈 「あ、77期の左右田和一ってやつなんだけど」

安広  「……男の方ですよね?」

朝日奈 (あ、やばい。つい正直に言っちゃった)

安広  「ふふ……その左右田くんにお伝えなさりませ。"ワンピースにだけはぶちまけんじゃねえぞ
     マゾブタ野郎!!!んな事してみろ、お前のソレをちょん切るぞ!!"」

朝日奈 「ひい!!」

安広  「……とね」


【左右田の部屋】

左右田 「おーっ!!ちょっと七海のイメージとはちげーけど、こんなに服を……ありがとな朝日奈!」キラキラ

左右田 「あ、見せるって約束だったな。んじゃ、入れよ」ガチャッ

朝日奈 「うわー、ごちゃごちゃ……あ、あのさ。左右田……」

左右田 「ん?あっ!!そっか、女子を部屋に上げるってアレか!!安心しろ、変なことはねーぞ、
     ただお礼に発明品を見せるd「あ、そういう心配じゃないから」

朝日奈 (ごめん左右田、せめてちょん切られそうになったら私が助けてあげるからね!!)

>>47

『賭』はちょっと文字の広がりがない感じだったので、
本編でも男二人を罠にはめたセレスさんは『罠』を選択。石丸の文字は後々。

>>48
江ノ島は本編のぶっ飛んでるのがいいと思います。
…が、このSSでは面白みのないフツーの女の子。そのネタ晴らしも後々。


そのころ、俺たちはとうとう江ノ島盾子を捕まえていた。
購買部のモノモノマシーンで遊んでいるところを、辺古山と九頭龍の二人がかりで
縛り上げたらしい。さすが極道というべきか……鮮やかな手並みだ。
しかし、やけにあっさり捕まったな。絶望でも背後をとられるなんてあるのか?

江ノ島 「ちょっとー!!あんた達誰!!?アタシをこんなとこに連れて来て何する気!?」

椅子に縛りつけられた江ノ島が暴れている。九頭龍は「これ使うか?」とガムテープを取り出す。

小泉  「確か、個室って防音なんだよね。鍵はかけてるし、大丈夫だと思う……
     じゃあ、日向。お願い」

俺はベッドから立ち上がって、一歩ずつ江ノ島に近づく。
そのたびに江ノ島は分かりやすく体をびくつかせて、俺が足を止めると「ごくんっ」と
唾液を飲みこんだ。おびえた瞳で見上げられて、なんだか俺の方が悪役みたいだ。

日向  「お前は、"超高校級の絶望"――江ノ島盾子。だよな?」

江ノ島 「は?」

とぼけた声を出した江ノ島は「てゆーか、あんた誰よ?」と返した。


※ここから一旦江ノ島視点になります。


江ノ島 (アタシの名前は江ノ島盾子(エノシマ ジュンコ)。
     今、日本で一番イケてる女子高生。16歳のスーパーモデルなのだ。
     "超高校級のギャル"として、この希望ヶ峰学園に入学した……はず、だったのに)

学園長 『さあ、希望を背負った生徒達よ、闘うんだ!!!』

江ノ島 (頭の中身がカルトってる残念なイケメン学園長のせいで、とんでもないサバイバルに
     巻きこまれてしまったのでした。ちゃんちゃん)

江ノ島 (『始』と『龍』をどーにかこーにか生き残ったアタシは、モノモノマシーンでストレス
     発散……もとい使える武器が出てこないか試してた。そこを、いつの間にか後ろにいた
     ちびっ子ギャングとお付きの美少女にとっ捕まって……)

日向  「お前は、"超高校級の絶望"――江ノ島盾子。だよな?」

江ノ島 「てゆーか、あんた誰よ?」

アタシの返事に、アンテナ頭――日向って呼ばれてた――は、「ふざけるな!!」となぜかキレた。
いや、ふざけてないんですけど。なんか意味分かんない肩書きで呼んどいて、
自己紹介はナシとか、ふざけてんのはそっちじゃん。

江ノ島 「あとさ、これ話する態度じゃないよね。なんなの?用があるんだったら
     フツーに言えば?個室に連れ込むとかアンタ変態なの?」

日向  「なっ……なんでそんな、まともな人間みたいな返しをしてるんだ!?」

江ノ島 「あんた、アタシをどんな人間だって思ってんの?」

日向  「とにかく絶望が大好きで、人の命は虫ケラ以下だと思っていて、飽きっぽくて、
     薄情で、嘘つきで、カリスマ性と頭の回転と分析力は人一倍高い奴だ」

江ノ島 「えーっと……何そのサイコパス。ちょっとドン引きなんですけど……」

日向  「お前のことだろ?」

江ノ島 「同姓同名の江ノ島さんってことはないわけ?」

九頭龍 「おいテメー!!さっきからとぼけやがって、オレらを"絶望"に引きこんだのは
     誰だと思ってんだ!!!ふざけんな!!!」

江ノ島 「あのさあ……」

なんなのこいつら。いい加減腹たってきた。と、思う間もなく。感情はアタシの口からほとばしる。

江ノ島 「ふざけんなってのはこっちの台詞だっつーの!!フツーのギャルモだってのに、
     いきなり死ぬか生きるかのサバイバルに巻き込まれてさあ、こんなん喜ぶのは残姉だけだよ!!?
     ガチャガチャでストレス解消してたトコいきなり拉致られて、わけわかんない理由で怒鳴られて、
     いーかげんにしろっての!!!」ハァハァ

今までのイライラもあって一気に叫ぶ。着物ロリとそばかす女は耳をふさいで、ちびっ子ギャングと
お付きはポカーンとしてて、アンテナ頭はなぜか目を閉じて何か考えていた。

日向  「お前……もしかして、ただの"超高校級のギャル"なのか?」

江ノ島 「だから、さっきからそう言ってんじゃん!!!そんなにアタシを頭おかしい奴にしたいわけ!!?」

日向  「そうか……悪かったな」

ぺこっと頭を下げて、アンテナ頭はアタシの縄を解いてくれた。
ちびっ子ギャングが「おい、いいのかよ!!」って聞いてたけど、アタシは一刻も早く
部屋を脱出しようと走り出した。

江ノ島 「あーもうっ、なんなのホント!学園長が頭おかしいと、生徒も変なの!!?」タタタッ

だけど、こいつらとアタシの縁はこれで終わりじゃなかった。
……その話はちょっと後にして、日向の話に戻そっか。


天気予報は大当たりだった。
午前中の間、しとしとと降り続いた雨が止むころ、俺たちは食堂に集まって話し合いをしていた。

左右田 「オレがいねえ間にそんな事があったんか!!?」

豚神  「江ノ島盾子……あれが絶望でないとすれば、当面の敵は蝕だけ。
     俺達にとってはむしろ好都合なはずだが?」

日向  「苗木たちの話を盗み聞きしたりしてそれとなく探ってみたんだけどな、どうやら
     江ノ島は、ただの"超高校級のギャル"らしい。絶望としての記憶は一切ない。
     生まれてから今まで、ファッションに命かけてきた普通の女子高生ってわけだ」

澪田  「んー、じゃあ双子のお姉さんはどうなんすか?"超高校級の軍人"って人!!」

辺古山 「感づかれると困るから、遠目で探ってみたが……妹の言動に困惑しているようだ。
     姉の方は、絶望としての性質と記憶を有していると見ていいだろう」

花村  「普通なら江ノ島さんの豊満な谷間に埋もれたいって答える所だけど、僕はあえての
     戦刃さんで、硬いふくらはぎに挟まれたいな!!」

左右田 「オメーはぶれねーな!!」

狛枝  「で……これからどうするの?無害なら放っておいてもいいと思うけど……戦刃むくろが
     余計な事をして、江ノ島の中の絶望を呼び起こすような事態になったら、それこそ困るよね」

終里  「今のうちにどっちもブッ[ピーーー]ってのはどーだ?」

日向  「生徒同士の殺傷は、校則で禁じられてるぞ」

弐大  「ワシらで代わる代わる監視すればいいだけじゃぁぁぁ!!!」

日向  「そんな事してみろ、戦刃に蝕を利用して殺されるぞ」

田中  「では……あえて"死地(デストロイ・フィールド)"に飛び込むというのはどうだ?」

ずっと黙って聞いていた田中の意見に、全員が固まった。
     
田中  「闇の意思と絆を育むということだ。仮に"絶望"としての性質が蘇ったとしても、
     安らぎの記憶がその枷となってくれるかもしれない。……あくまで希望論だがな」

西園寺 「あの絶望ビッチと仲良くするってこと!!?」

小泉  「今はただのギャルなんでしょ?じゃあ、なんとか行けそうだけど……」

ソニア 「あ、あの…わたくしは、田中さんの意見に賛成です!」

日向  「ソニア、これは大きすぎる賭けだぞ」

ソニア 「だって、あの方は78期生の皆さんからも遠巻きにされているんですよね?
     独りぼっちで、双子のお姉さんとも通じ合えずに……江ノ島さんも今、とても
     恐ろしい想いをしていると思うんです。絶望の性質を持たないなら、なおさら……」

田中  「この恐怖を楽しめないと?」

ソニア 「はい……きっと今の江ノ島さんは、私たちと同じか、それ以上に心細いと思うんです。
     いきなり怖がらせてしまいましたが、なんとか分かり合うことはできないでしょうか?」


俺は思い出していた。縄を解いた後、脱兎のごとく逃げ出した江ノ島の目じりに、
小さな涙が浮かんでいたこと。九頭龍によると「あいつの言葉に嘘はなかった」らしい。
考えるのは後でいい。今はただ……やれることを、やるだけだ。

日向  「分かった。じゃあ、江ノ島盾子と仲良くする。それを目標にして行こう」

左右田 「簡単に言うけどよお、江ノ島の中でオレらの株大暴落だろ?」

日向  「ソニア。お前の人当たりのよさに賭けるぞ。
     あとは澪田と……罪木だな。あの場にいなくて、なおかつ江ノ島が好きそうなタイプか……
     左右田、お前に男子代表を頼めるか?」

左右田 「はぁ!!?」

日向  「男子が混ざっている方が向こうも警戒しないと思うんだけどな……」

左右田 「うぐっ…わ、分かったよ!!お前の頼みなら聞かねえわけにいかねーしな!!」

半分ヤケクソだが、とりあえず左右田も了承してくれた。

日向  「みんな……悪いな、一貫性もない上に頼りにならなくて」

西園寺 「はぁー?いつからおにぃがリーダー面してんのー?」

日向  「……ごめん」

西園寺 「まあ……カムクラおにぃと違って、日向おにぃとは付き合い短いけど、
     遊び半分なら乗ってあげてもいいよー?」

日向  「例えるんなら、監禁事件の犯人も助けに来た警察も俺だったって感じだぞ?」

終里  「オメーはいい奴だって分かってっからいーんだよ!!」

ソニア 「はいっ。島でも希望ヶ峰でも、日向さんと私でラン[ピザ]ーです!」

豚神  「あんな大見得を切っておいて早々に脱落した俺の代わりに、よく真実まで辿り着いてくれた……
     俺は、そんなお前を"信じて"いるんだぞ。ありがたく思え」

澪田  「生きるのはもろともっす!!みんなで生き残って今度こそちゃんと卒業するっす!!」

日向  「みんな……!」

77期生たちの絆が少し強まった。
そして、窓の外に濃い霧が立ちこめた事で、外の世界が生きているのは真実だと分かった。

日向  (ここは"人類史上最大最悪の絶望的事件"が起きていない?
     パラレルワールドか、それともこの学園自体が……また分からなくなった)

日向  (でも、とりあえず脱出した後の世界が生きていると分かったのは嬉しいな。
     俺の好きだったラーメン屋、家、ゲーセン……全部、ちゃんとあるのか……
     ここを出たら、また……)

その夜の俺は少し前向きな気持ちで、眠りについた。

一旦切ります。
原作にも日向くんがいるのでちょっとややこしい。

龍までを多数決で決まったキャラの視点で行くよ。
日向が得票数多かった場合は物語が進むよ。

江ノ島=1.5票
山セレ=1票
桑田=2.5票

桑田人気だね。
複数選択の場合は0.5票で数えたよ。
というわけで、桑田編をちょっと書いてみます。


「ねえ、桑田クンって選択は物理だったよね?……僕、教科書忘れちゃってさ。
 もし二年生のやつ持ってたら、貸してくれないかな?」

「ありがとう。……えッ、僕の事覚えてくれてたの!?嬉しいなあ」

「じゃあ、改めまして……"超高校級の幸運"の、苗木誠だよ。これからよろしくね、桑田クン」



【桑田怜恩:Chapter0『始』】



気がつくと、冷たいパイプ椅子に座っていた。
あちこちから聞こえる息遣いに、やけに重く感じるまぶたを開く。
視界はぼやけて、よく見えない。おかしーな、オレ視力いいのに。

――オレ、今まで何してたんだっけ?

何か、すっげー怖くて、嫌な夢を見てた気がする。
でも今は、それよりオレ自身の状況を調べねーと。

桑田  (アタマ重い……つーか、体中がだりぃし、動きたくねぇ……)


それでも何とか体を起こして、あたりを見回す。
――体育館だ。
ステージの赤い幕に、希望ヶ峰学園の校章が入っているのが見えた。
最初はぼんやりしていたそれが、まばたきをするごとにハッキリした形になる。


桑田  「ここ、希望ヶ峰の体育館か……?」

そう、声に出した瞬間。

桑田  「――ッ、痛っ!!」


わき腹のあたりに、衝撃が走る。例えるんなら速球投手からデッドボールを受けたみたいな、痛み。
思わず手でおさえたそこを、めくってみる。……何もなかった。


桑田  「だよな。試合でもねーのに、こんなトコでボールがぶち当たるわけねーよな」

……

………

はは、と笑った、その時。

□ □ □ □ □


クワタくんが クロにきまりました

これより おしおきを開始します


□ □ □ □ □


桑田  「うっ、……あ、あっ…あ゛、ああああああああっっっ!!!」


それを『思い出した』瞬間、オレは叫んでいた。
次々に流れこんでくる映像に、耳を塞いでうずくまる。それでも、声は止まない。

□ □ □ □ □


『テメエ……どうしてそんなコトしやがった!!』

『あら、あなたのどこが正当防衛ですの?舞園さんの包丁を叩き落した時から、シャワールームで
 刺すまでの間、あなたはわざわざ工具セットを持ち出したのですよ?その間、何度も思い止まる
 機会はあったはずですわよ』

『はりきっていきましょう、おしおきターイム!!!』

□ □ □ □ □


桑田  (そうだ、オレは死んだんだ、処刑されたんだ!!
     体中にボールを浴びて、全身の骨を砕かれて、内臓を潰されて……)

桑田  「ぐうっ……つ、ぅぅっ……!」


冷たい汗をかきながら、しっかりと体を抱える。まだ、全身がきしむ感覚。
ふと、視界に入った右手。指の骨まで全部折れたはずなのに、キレーなままだ。
ボールで潰れた左目の奥が、まだズキズキ痛んだ。それでもなんとか体を起こす。


桑田  「…ッ、はあ、はあっ……はあ……」


必死に呼吸を整えるオレの隣で、「あのさ」と声がした。

??? 「さっきからうるさいんだけど。本科の奴らはストレスも超高校級ってわけ?」

桑田  「あ、わりぃ……えーと」


誰だ、こいつ。ハデな金髪だけど、こんな奴同じクラスにいたっけか?
そいつはオレの思考を読んだみたいで、体をこちらに向けてくれた。


菜摘  「ま、落ち着いたんならいーけどさ。あたしは九頭龍。九頭龍菜摘(クズリュウ ナツミ)。
     予備学科の二年生だよ」

桑田  「オレは……」

菜摘  「桑田怜恩でしょ、知ってる。あたしは苗字で呼ぶけど、あんたは"菜摘"って呼んでよ。
     九頭龍だとお兄ちゃんと間違われて気分悪いんだよね。
     それより、あんた本科なら分かんない?あたし達予備学科は東地区に来れないはずなんだけど、
     なんで一緒にいんだろ?」

桑田  「オレが聞きてーぐらいだよ……何してんだ」

菜摘は立ち上がって、「お兄ちゃん探してんの」とあたりを見回していた。
つーか、予備学科って何だよ?口ぶりから言って、あんましいいもんじゃないっぽいけど。

桑田  「お前って、兄妹そろって希望ヶ峰なのか?」

菜摘  「うん。本科の77期にお兄ちゃんがいてね。あんたのいっこ先輩だよ。
     いつか学校で会うのが夢だったんだ……予備学科の妹がいるなんて、
     恥ずかしいって思ってっかもしんないけど」

そう言ってまた座った菜摘は、なんつーか……寂しそうな顔をしていた。
こういう時はなんて言ってやればいいんだ?
オレが考えあぐねているうちに、周りの奴らも次々に目を覚まして行く。

石丸  「僕はっ、いつの間に体育館に!?」ガタッ

イインチョだ。他にも何人か、知ってる奴がいた。石丸ならアタマいーし、なんか知ってっかな。
そう思った瞬間、遠くで聞きたくなかった声が上がる。

舞園  「わ、私死んだはずじゃ……どうして体育館なんかにいるんですか!?」

不安そうにあたりを見回す、そいつは。

桑田  「まい、ぞの……?」

――フラッシュバック。


□ □ □ □ □


シャワールームの壁にもたれた舞園の背中が、ずるずる…と下がっていく。
腹から血をまき散らして、苦しげな息を吐いて、声を出さずに何かを呟こうとして、止めた。

『はあっ、はあっ……はあ……』

オレの手から力が抜けて、包丁が床に落ちた。舞園の首ががっくりと落ちて、動かなくなる。
同時に、オレもその場にへたりこんだ。――終わった。どういう意味の『終わった』かは
分かんねーけど、とりあえずそう思った。

□ □ □ □ □


桑田  「な、何であいつが……まさか、あいつも生き返って」

はは、だっせーな……手がガタガタ震えて、足は縫いつけられたみてーに動かねえ。
これは多分、舞園に殺されかけた時に感じた恐怖の名残ってやつか?

舞園  「あ……」

そこで、舞園もオレに気づいた。

オレを視界に映した舞園は、あの時と同じように何かを言いかけて、止めた。
てっきり、憎々しげに睨まれると思っていたのに、悲しんでいるみたいな顔。
オレは、その反応に拍子抜けした。

桑田  (なんで……なんで、そんな顔してんだよ。まともに話もしてねーオレを狙って、
     苗木利用するぐらいには腹黒い女のはずだろ?)

菜摘  「あの子に話があるんなら行ったら?クラスメートなんでしょ」

桑田  「……そう、だな。舞園とはちゃんと話さねーと」

菜摘  「うん。なんか気まずいみたいだけど、あたしが見ててあげるよ」

がんば!と背中を押されて、オレは一歩踏み出す。
オレと、舞園。どっちが悪いかって聞かれたら、半分は確実にオレが悪いと思う。

桑田  (お前と違って、オレはあんだけ苦しみ抜いて死んだんだ。許せとは言わねーけど、
     それでおあいこってことにはなんねーかよ?)

そうだ、あいこなんだ。だから、お互いに頭下げて、そんで終わりでいいはずなんだ。
よし、と決意を固めて。オレは舞園の方に歩き出す。あの夜の歪んだ表情が重なって見えて、
どうしても顔を直視できない。

桑田  「あ、あのさ……その……」

いざ向き合ってみると、言葉が出ない。
オレがぐるぐる考えているうちに、舞園が「桑田くん」と呼んだ。
当たり前なんだけど、敵意とかは感じない。

舞園  「私、あの……」

桑田  「や、やめろよ!まずはオレに言わせろ!……その、あの時は……
     本当に、ごめんなさ「危ない!」

オレの言葉は、突然入ってきた苗木によって遮られた。
どうやら、苗木自身もとっさに出た言葉だったらしい。口をおさえて「あ……」とオレを見ている。

苗木  「ち、違うんだ……」

桑田  「……苗木、"危ない"ってなんだよ?オレがまた、舞園に何かするって思ったのかよ」

苗木  「違うんだ、桑田クン…そうじゃないんだ……ぼ、僕は…ただ……」

桑田  「……もういい」

オレは二人に背を向けて、さっさと自分の椅子に戻った。
ちら、と横目で様子を見ると、舞園は苗木と隣同士で座っていた。
あんな事起きる前だったら、苗木うらやましーなチクショーってなったんだろうけど、
今はびっくりするぐらい何も感じない。
いや、いまだに舞園かわいーってやってたら、ただのバカだろーけどさ。

キーン・コーン・カーン・コーン……

??? 『みなさん、おはようございます』

??? 『これより、第××回、希望ヶ峰学園入学式を執り行います』


菜摘  「ハァ?なんで今さら入学式?」

そんなアナウンスの後――

学園長 『私の名前は霧切仁。希望ヶ峰の……君達の、学園長だ』

あれ、学園長ってモノクマじゃ……んじゃ、あのおっさんがモノクマの中の人か?
想像してたよりかっこいいっつーか、若い。非現実的なことが続いていたせいか、
オレはぼんやりした頭で、学園長の話を聞いていた。だから、突然入ってきた言葉に耳を疑った。


学園長 『これより君達2500人の生徒には、命を賭して闘ってもらう!!』


桑田  「……は?」

菜摘  「はあ?笑えないんだけど……何で学校で命(タマ)賭けなきゃなんないの?」

少しずつ、切羽つまった空気が充満して行く。
そんなオレたちの手の中に、ひらっと小さな紙が落ちてきた。

学園長 『その円の中に、各々が"闘う"ための漢字を書いてくれ。一文字しか書けないから、
     慎重に選ぶんだ』

桑田  (……もしかして、なんかのテスト?)

希望ヶ峰ってフツーの学校じゃないし、これで何かの適性を見たりとか?
……いや、ありえねー。あのコロシアイ学園生活は絶対夢じゃねーし、オレは確かに死んだんだ。
だったら、なんで……

菜摘  「ねえ、考えるのは後にしない?たかが一文字じゃん」

菜摘の声に、ハッと気づいていつの間にか持ってた鉛筆を持ち直す。
闘う、か。……まあ、オレは一応野球選手なわけだし。『打』とか、『球』とか……球?

――千 本 ノ ッ ク。


桑田  「ハーッ、はあッ、はあっ、はあ……!」

菜摘  「ちょっ…桑田、あんたマジで大丈夫!?」

足元に、血がべっとりついたボールが転がってくる。
鉛筆を握る指は折れ曲がって、白い骨が飛び出していた。

桑田  「はあっ、はあっ!…はあ、はっ…ハアッ…はあっ…」ゼー、ゼー

呼吸ができない。胸が苦しい。酸素を吸っているはずなのに、どんどん苦しくなって行く。
背中をさすられて、何回も名前を呼ばれる。そうしている内に、少しずつ楽になった。
折れていたはずの手が、元に戻っている。足元のボールも消えている。
……さっきのは、幻覚か?

桑田  (ダメだ、怖い……怖い、怖い、怖い、怖い!!!ボールもバットも、全部が怖いっ……!)ガタガタ

菜摘  「すっごい顔色悪いけど……あとで絶対保健室行きなよ?」

桑田  (嫌だ、もう嫌だ!!こんなトコ、もういたくねーよ!……出たい、早く出たい……!!)

オレは叩きつけるように、その一文字を書いた。
この狂った学園から出たい。ただ、その一心で。


学園長 「そうしたら次は、その漢字を口に出して読むんだ」


隣の菜摘がぼそ、と呟く。周りの奴らも同じように読んでた。
……送り仮名ってつけていーのか?んー、でる、しゅつ……あと一コ、なんかあったな……

桑田  「"出(いずる)"?……いって!」

口に出した瞬間、紙はバチンッと弾けて消えた。
痛みが走った右の手首をひっくり返して見る。

桑田  「何だよ、これ……さっきの字だよな?」

その時、ぞくっと嫌な気配がした。ラバーソールの下に、黒い円が浮かぶ。
反射的に立ち上がって、後ろに下がった。円の中から出てきた『何か』は、オレ達を見てよだれを垂らしている。
恐竜だ。昔図鑑で見た肉食恐竜みたいな、三つ目のバケモノがそこにいた。


『全員、起立っ!!さあ、希望を背負った生徒たちよ、闘うんだ!!』


誰かが、「きゃあああ!!」と悲鳴をあげた。パニックになった奴らは一斉に出口を目指して走り出す。

桑田  「いって!」ドサッ

逃げようと走り出した生徒が勢いよくぶつかってきた。
尻餅をついたオレの手を、菜摘がぐいっと引っぱる。

菜摘  「まったく……あんたそれでも"超高校級"なわけ?」ハァ…

菜摘  「ごめん。あたし、一人で行くね。お兄ちゃん、どっか行っちゃったみたいだし……
     あんたを巻き込むのもアレだからさ。……じゃ、がんばってね」

それだけ云うと、菜摘はさっさと走ってった。
ガタガタ震えている舞園を、苗木が背中にかばっている。大和田も石丸も、あっという間に見えなくなった。

『グルルル……』ボタボタ

オレのすぐ近くに、化け物がビチャッとよだれを垂らした。赤い三つ目に映っている情けねー顔と目が合う。
そこでやっと、頭のどっかにスイッチが入った。

桑田  「くそっ……んな所で、死んでたまっかよ!!」ダンッ

オレはパイプ椅子に飛び乗って、その上を走った。化け物の死角に回り込んで、素早く抜ける。

桑田  「うらぁッ!!」バターンッ

校庭に出るドアを蹴破ると、化け物が四匹、なんかに群がっていた。

ビチャビチャ…グチュッ、グチャァッ…

桑田  (ひ、人……か?)

嫌な予感がして、さっと目をそらす。あちこちで、化け物に生徒が喰われてた。
たいていは一発で噛み殺されて、鋭い牙で食い破られている。

生徒A  「なあ、あの塀から出られんじゃねーのかな」

生徒B  「よし、行ってみようぜ……あ、お前も来るか?」

声をかけられて、一瞬反応が遅れる。
そいつらは、菜摘と同じブレザーを着てた。あいつと同じ予備学科なんだろーか?

生徒C  「つーかお前、本科の桑田だろ。……ま、いっか。一人増えても大したことねーし」

一人が、塀に手をかけて登ろうとする。オレもこの状況に慣れてきたのか、周りを観察する余裕が出てきた。
遠くで、ネクタイを握りしめてる奴がいた。一瞬だけ光ったかと思うと、それは日本刀に変わってる。

「らあああッ!!」ブンッ

化け物の首を落としたそいつは、その勢いのままもう一体に斬りかかった。
そういや、学園長が言ってたな。『闘うための漢字』だっけ?

桑田  「……なあ、お前らにも、その……"漢字"ってあんのか?」

生徒A 「あるぜ。俺は"達成"の"達"って書いたんだ」

そいつは前髪をかき上げて、デコのとこにある『達』を見せてくれた。
じゃあ、さっきのあいつもその字で、ネクタイを刀に変えてたってことか……?

桑田  「じゃあ、多分なんだけど、オレの字……出口作れっかもしんねー」

しまった。
思いつきで言ったのに、予備学科の奴らは目を輝かせて「マジ?」と喜んだ。

生徒B 「じゃ、出らんなそーだったら頼むわ」

生徒C 「おうっ、オメーにかかってるぜ!!」グッ

生徒A 「よっ……っと、登れないことは、ないけど……キツいな」ズルズル

生徒B 「おい桑田、無理そうだしさっさと"出口"作ってくれよ」

塀に向かって立つオレは、あの鉄の扉で塞がれた玄関ホールと、舞園の言葉を思い出していた。

『わたし、はっ…出なきゃ、いけないんです!!早く、ここから出なきゃ!!!
 あなたなんかと違って、わたしには!!待ってる人がいるんです!!』

桑田  「たりめーだろ……こんなとこ、一秒だっていられっかよ」

オレは塀に手を当てて、「すうっ」と深呼吸する。
出口……出口……扉……


"出(いずる)"


オレの手の下で、パアッと青い光が生まれた。次の瞬間、真っ白だった塀に教室の扉ができている。

桑田  「ま、マジで……オレが出したのか?これ……」

正直、アタマがついてかない。そんなオレをよそに、塀の上にいた奴が「やりぃっ!」と飛び下りた。

生徒A  「俺いっちばーん♪……って、あれっ?」

何が起こってるのか分からなかった。扉を開けて出たはずのそいつが、また扉の中から出てきた。

生徒B  「おい桑田、お前ちゃんと出口作ったのかよ!」

生徒C  「出らんねーじゃねーか!もっかいちゃんと……」

桑田  「お、おい!前……」

生徒C  「あ?」

一瞬。

本当に一瞬だった。オレが作った扉から……いや、そこに出た黒い円から、にゅうっと化け物が出てきて、
そのデカい口をあんぐりと開けて……扉の前に立ってたそいつらを呑みこんだ。
足から力が抜けて、その場にへたりこむ。化け物の腹が、ちょうど人の形に浮かび上がっている。

桑田  「あ、あっ……!」ガタガタ

桑田  「あ゛っ、あああああああっ!!」

オレは滅茶苦茶に叫びながら、走り出した。足がもつれて転びそうになるのを、必死で逃げる。
頭ん中は真っ白で、ただ本能だけで化け物の動きを読んで逃げる。

桑田  (怖えっ……こえーよ!!誰か、誰か助けっ……)

桑田  「嫌だ……もうこんな学園いたくねえっ!!」

何分……そんなに長い時間じゃなかったんだろーけど、オレにとっては何時間にも感じた。
空を覆っていた雲が晴れて、校庭が明るくなる。同時に、化け物はすうっと消えていった。

桑田  「あ……終わっ、た……?」ヘナッ

桑田  「は、はははっ……生きてる……オレ、生きてんだ……」

【初日:始
 死亡者数:876名
 生存者数:1624名
 総生徒数:2500名→1624名】

へたりこんでいるオレの横で、青い帽子をかぶった作業員みてーなモノクマが出てきた。
死体をテキパキと袋に入れて、運んでいく。

菜摘  「桑田!よかった……無事で」

桑田  「菜摘、お前の兄貴は……」

菜摘  「生きてたよ。でも向こうの人と話あるみたいでさ、無視られちゃった。
     ……あの、さ……あんたは、平気なの?」

桑田  「平気だよ……」グッタリ

菜摘  「……その顔で?……ごめん。やっぱあんたを一人にしない方がよかったね」

辛いことがあったんだね、と聞かれて。オレは何も答えなかった。

菜摘  「あたしはこういうのそこそこ慣れてっけど……あんたはカタギじゃん。無理しないでいーんだよ」

桑田  「カタギ?」

菜摘  「あたしの親、極道の組長だからさ。九頭龍組って名前くらいは聞いたことあるっしょ?」

九頭龍組……!!?日本最大の暴力団じゃねーかよ!!!
サラッと衝撃の事実を明かした菜摘は、「安心してよ。カタギに手は出さないから」と笑っている。
……暴走族の総長でも入学できんだから、極道の娘がいてもおかしくねーか。

菜摘  「あ、あたしの文字まだ見せてなかったよね。お腹にあるんだけどさ」

桑田  「やめろ!!お前の親父にコンクリート詰めにされちまう!!!」

霧切  「……桑田くん、ちょっといいかしら」

背中ごしにかけられた声。ぴた、と菜摘の動きが止まる。霧切は制服をまくりあげた菜摘をちらっと見て、
隣に座るオレに向き直った。なんだよ、オレがやらせてるわけじゃねーぞ。

霧切  「苗木くんが、皆を集めているわ。あなたはどうするの?」

桑田  「……クロだぜ、オレは……どの面下げて会えってんだよ」

霧切  「そう……分かったわ。でも、私たちの持つ情報は伝えておきたいの。コロシアイ学園生活の
     顛末も、黒幕も、外の世界のことも……あなたは何も知らなかったでしょう?あとで個室に
     手紙を届けるから、読んでおいて」

桑田  「そうかよ……」

霧切は目を伏せて「私は、あなた達をこれ以上苦しめたくないの」とつけ加えた。

菜摘  「なーんか、訳ありな感じ?78期生もギスギスしてんだね……」

霧切  「じゃあね……あなたの新しいお友達にもよろしく」

桑田  「行っちまった……あいかわらずブアイソな奴」

霧切が行ってしまうと、校庭の木に設置されたモニターに『ザーッ』と砂嵐が走った。
そこに映った学園長は、心にもなさそうなお悔やみの言葉を述べて、
『空に、島が浮かんでいることに気づいた生徒はいるかい?』と言う。

桑田  「空の島……あれか?」

菜摘  「よく見えないんだけど……桑田、その島ってどこらへんにあんの?」

桑田  「お前目悪いのか?あれだよ。オレが指さしてるあたり」

菜摘  「うーん……見えないなあ」

学園長によると、あの空島に太陽が重なって影ができる時に『蝕』が起こるらしい。
……あと一年も、オレはここから逃げらんねーのかよ……!!


桑田  「――お?」

その時、空から何かが落ちてきた。
青い欠片を、両手で受け止める。小さくて、内側からはキレーな光が出ていた。

学園長 『この中には、君たちが忘れてしまった"記憶"が入っている。中にはとても思い出したくない
     過去があるかもしれないが……これも試練と思って、受け止めたまえ』

試練、か……オレにとっては罰にしか思えない。
でも、石丸とか大和田とか、ぜってークロにならなそうな奴らも同じ試練を受けてんだよな。
あいつらは何の罪で、こんなとこにいるんだろうか。

菜摘  「思い出したくない過去……ね。そういうの、誰にでもあると思うけど」

桑田  「これが"ご褒美"とか、スパルタだな。あの学園長……」

欠片をぎゅっと握りしめた瞬間、視界が真っ白に染まる。

__________

少しずつ……視界が明るくなって、最初に見えたのは、学校の机。視界が完全に晴れたところで、
そこが希望ヶ峰の教室だと気づく。鉄板もねーし、壁紙もフツーだけど。
オレはその景色を『知っている』。

オレは茶色のブレザーを着てた。ゆるんでいるネクタイを締めなおして、机からノートを出す。
体が自動で動いてる……夢の中みてーだな。ノートの表紙には『才能研究Ⅰ』と書いてあった。

「ねえ」

振り返ると、ノートを持った苗木が両手を合わせて立っていた。

苗木  「桑田クンって選択は物理だったよね。……僕、教科書忘れちゃってさ。
     もし二年生のやつ持ってたら、貸してくれないかな」

桑田  「いいぜ。オレは今日才能研究だしな。あと、物理は二年も三年もあんま範囲変わんねーだろ。
     教科書だけでいーのか?演算表とかいるんじゃねーの?」

苗木  「あ、そ……それも……ごめん……」

オレは「いちいち謝んじゃねーよ、ムカつくな」と返して、机の中を探った。
夢の中のオレは、なんかイライラしてるみてーだ。苗木の態度のせいか?

桑田  「ったく、しょうがねーなあ……つーか物理のセンコーって、忘れ物にきびしーだろ。
     そんで教科書忘れっとか、お前マジで"超高校級の幸運"なわけ?」

苗木  「あ、あはは……」

桑田  「はいこれ、オレの演算表。落書きとかすんなよな」

苗木  「ありがとう」

桑田  「どーいたしまして。そんじゃ苗木、後でオレの机に返しとけよ」

苗木  「えッ、僕の事覚えてくれてたの!?嬉しいなあ」

桑田  「たりめーだろ!!このクラス15人しかいねーんだぞ、いくらオメーがただの抽選だっつっても
     覚えてるっつーの!!バカにすんなよ!!」

苗木  「べ、別にバカにしてるわけじゃ……」


桑田  「あとな、お前に前から言いたかったんだけど、その卑屈な態度やめろ。"僕はみんなと違うから"とか
     そーやって線引きされっとイラッとくんだよ。こっちだって好きで天才やってるわけじゃねーっつの」

苗木  「……」

桑田  「わり、言いすぎた。でもよ、せっかく"超高校級"の奴らとお近づきになれてんだから、
     もーちょい頑張れよお前。"超高校級の幸運"って、卒業した後は上級官僚になれるらしいじゃん。
     偉い人になるんだったら、人脈作っとけよ」

苗木は教科書を抱えて、こっくりとうなずいた。

苗木  「でも……人脈って、どうやって作ればいいのかなあ」

桑田  「しゃーねーな……じゃあ、オレが第一号になってやるか?」

苗木  「……え、いいの?」

そこで初めて、苗木は嬉しそうに笑った。

桑田  「へへ、まずはオレからな。えー、オレは"超高校級の野球選手"桑田怜恩だ。よろしくな」

苗木  「じゃあ、改めまして……"超高校級の幸運"苗木誠だよ。これからよろしくね、桑田クン」

___________

視界が晴れると、そこは元の地獄だった。
モノクマが片づけた死体の血痕が、点々と落ちているのが目に入る。

菜摘  「うーん、学園長があんなもったいぶって言うからビビってたけど……
     思ってたよりフツーだったね」

桑田  「今の……なんだよ?」

菜摘  「ん?」

桑田  「なんでオレが、教室にいんだよ?なんで、苗木と……えっ?」

頭がぐちゃぐちゃになって、混乱していく。学園長は「失われた記憶」つってたよな。
もしかして、オレは、

――記憶喪失?


桑田  「はっ……えっ、あ…え……?」

菜摘  「落ち着いて。まだ色々分かってないんだから、混乱するのは後にしな!!」

これが極道娘の迫力か。
びしっと言われて、ぐるぐる回っていたアタマが止まる。


菜摘  「あたしだって、覚えのない記憶が出てきてびっくりしてるよ?でも
     バタバタしたって始まんないじゃん。どうせこっからは出らんないんだし、
     腹ァくくるしかないよ」

桑田  「だけどよ……」

菜摘  「霧切って人が言ってたじゃん。あとで手紙で教えてくれるって」

そうだった。霧切が色々教えてやるっつってたな……
たかが数分前のこと忘れてパニクるとか、恥ずすぎんだろオレ……

菜摘  「なんか……すごい恐いことに巻き込まれちゃったみたいだね。わけわかんない事ばっかだし」

空に向かってんー、と目をこらす菜摘は「でもさ」と振り返った。

菜摘  「絶対生き残って、卒業して……偉い人になろうね」

桑田  「そんな、あんなのが明日からずっと「とにかく、死なないこと!大事なのはそんだけ!!」

菜摘  「……あたしたち、もう友達じゃん。助け合って、あの蝕とかいう奴を生き延びよう?
     あんたにも、九頭龍組のご加護があるよ!!」

桑田  「……ぷっ、ははっ…やめろよ、野球選手と極道って……できすぎだろ!!」

一人より二人だよ、と差し出された手を、オレは迷わず握りしめていた。
友達……人殺しのオレに、そんなものを持つ権利があんのかは知らねーけど。
菜摘の手は、すごく温かかった。


_________

切ります。菜摘のキャラは3のアニメ放送前にイメージしてたやつ。
キャラの書き分けがむずい。超高校級の希望の就職先については
アホリズムの楢鹿卒業生が「無試験で公務員になれる」という設定をもらってます。

読みやすい文章でいいね
完結させてくれると嬉しい

菜摘いいヤツ過ぎだろと思ったら3前のイメージか
桑田はなんだかんだ可哀想なヤツだよな


アニメの菜摘は小泉と予備学科生に対して卑屈だったけど、その他に対してはどうなんだろうね

罪木って江ノ島に依存してたからいなくなった今日向への執着心が凄そう

菜摘は卑屈というかブラコン過ぎ。言っちゃなんだが、九頭龍のスキル七光りなのに
正直超高校級にならなきゃ並べない!ってコンプレックスを持つ程では…

>>77
一応、最後までの流れはできてるよ。
よっぽどのことがない限りは完結できるかな。

>>78
11037はさすがに草
菜摘も根は悪い子じゃないと思うけど、3見てると組にビビって友達やってくれてる子が多そうなイメージ。

>>79
ありゃすごかった。本科への憧れって劣等感の裏返しなんかな。

>>80
罪木と西園寺編も書きたい……けどそうすると日向のが進まない。
桑田編が一区切りついたらまた日向かな。

>>81
九頭龍組のお嬢ってだけで人生勝ち組なのにね。
日向とは似てないようで似ていて似てない子。
『才能』の受け止め方が本科でも予備学科でも様々なのがロンパは面白い。


桑田視点だけど、正しくは桑田+舞園+(菜摘)編。

菜摘  「あのさあ……予備学科生は東地区に入れなかったんだよ?今は全部の地区が電子生徒手帳で
     行き来できるようになってるけど」

ちょっと考えれば分かるじゃん、と菜摘は呆れてる。

桑田  「じゃあ、オレも西地区には行けねーのか……ホラーハウス見てえなあー」

菜摘  「西地区のテーマパークなんて、そんな面白くないよ?"あたしも含めて"
     予備学科生は劣等感すごいし、本科生は行かない方が身のためかもよ。
     さっきだって、寄宿舎が人少ないからよかっただけだし。
     じゃ、あたしは予備学科の食堂行くから。またね!!」

桑田  「あ、ああ……」

菜摘はフェンスについたコンソールに、電子生徒手帳をかざした。
『ピーッ』と音がして、西地区と東地区を分けるフェンスが開く。
菜摘が通ると、警備員モノクマがビシッと敬礼した。

桑田  「またね、か……何か嬉しいな、オレにも喋ってくれる奴がいんだな」


【食堂】


桑田  (あんな恐い目に遭った後で、よく食欲があるよな)

オレの向かいに座った褐色巨乳の女子が、口いっぱいに料理を詰めこんでる。
ちょっとハミ出してるし。オメーはハムスターか。
隣で食ってるガタイのいい男子も「腹が減っては戦ができんぞぉぉぉ!!!」とか
叫びながら、山盛りのチャーハンをがっついてる。なんかもう、すげーとしか言えない。

桑田  (つーか、こんな機能あったっけ。楽しいけど)

ポケットに入ったままの電子生徒手帳を起動させると、『ウサミ』とかいうのが出てきた。
万歩計とたまごっちを合わせたみてーな感じだ。△ボタンをカチカチ押してトイレの世話をしてやる。

霧切  「ここ、いいかしら?」

葉隠  「お邪魔するべ!!」

ウサミの世話をしながらメロンパンをかじるオレの左に霧切、右に葉隠が立った。
遠くで、苗木が気まずそうな顔でこっちを見てる。話あんなら自分で来いっつーの。

桑田  「話はいーけどよ、出ようぜ」

とりあえず、二人を連れて食堂を出た。
男子トイレの前まで来ると、霧切は「誰もいないわね」と周りを確認した。

霧切  「……あなたの個室のドアに手紙を入れておいたけれど、読んでくれた?」

桑田  「読んだよ。……一緒にいた予備学科の女子も見たがってたから読ましたけど、
     別にいいよな?」

霧切  「いいわよ。予備学科の方にも広めておきたいから……信じられないでしょうけど、
     あの中に書かれていたのは全て真実よ」

桑田  「正直、信じらんねーな。あの記憶も、外の世界のことも。手紙の最初にわざわざ
     "身長を測りなおせ"って書いてたよな」

霧切  「私は探偵だから、観察眼が鋭いの。あなたは入学時より2cm伸びていたはずよ」

結局、オレと舞園が殺しあったのは何の意味もなかった。
それだけが確かな事なのかもしれない。

霧切  「……私たちが立ち向かわなければならない敵。それはあの"神蝕"よ。そして、生徒に命がけの
     試練を与える学園長も。そのためには、私たち生徒で団結しなければならないわ」

葉隠  「なあ、桑田っち。今すぐ許せとは言わねーけど、舞園っちとのことはしょうがないべ。
     ひとまずそのことは置いといて、ってわけにゃいかねーか?」

霧切  「もしかして、77期生たちが怖いの?彼らは更正プログラムを終えているから、もう安全よ。
     舞園さんも、あなたには謝っても謝りきれないと泣いているの。彼女のためにもあなたの
     方から歩みよるのがいいと思うわ」

葉隠  「ぶっちゃけ、あれは桑田っちも悪いべ。ここはお互い謝って、チャラにすべきだと思うべ」

だから、謝ろうとしたら苗木が割りこんだんだろーが。お前らは中立って言葉知らねーのか。

霧切  「まだ思い出していないかもしれないけど……あなたと苗木君は、かつては親友同士だったのよ。
     やり直す理由としては十分だと思うわ」

葉隠  「未来機関のおかげで、苗木っちは全部思い出してるべ。今からでも、昔みたいな仲良しに戻りたいって
     思ってる。その気持ちはずっと変わってねーべ。桑田っちと舞園っちを忘れないために、
     遺跡のパスワードだって」

桑田  「パスワード?」

葉隠  「"僕を救う為に、舞園さんが残してくれた希望のメッセージだ"って、
     11037をパスワードにしたんだべ」

それを聞いた瞬間、オレの頭の中で何かが弾けた。胸のあたりがすうっと冷えていく。
葉隠は「絶望の残党を救うために」だの「桑田っちを覚えているからあの数字を」だの抜かしている。

そりゃねーだろ、苗木。


桑田  「……ざけんなよ」

葉隠  「えっ?」

桑田  「あの数字が、希望のメッセージ?……はっ。苗木のヤツ、頭ん中にケシ畑でも広がってんのか?」

桑田  「あんな一生懸命殺人計画練ってた舞園が!部屋まで交換して、罪をなすりつける気満々のあいつが!!
     苗木を助ける?んなコト考えてるわけねーだろ!!自分に気があるの分かってっから利用した!!
     そんだけの話を、よくもまあそこまで都合よく考えられんな苗木は!!」

霧切  「桑田くん、落ち着いて。話はまだ終わってないわ」

桑田  「11037なんて、オレにとっちゃ"絶望のメッセージ"なんだよアホ!!そこだけ都合よく忘れて
     "仲良しに戻りたい"とか、どの口で言ってんだって話だろ!!!」

葉隠  「いやあ……ぶっちゃけ、俺らはみんな反対したんだわ。だけど苗木っちがどうしてもって」オタオタ

桑田  「人殺しと薄情者なら釣り合ってっけどな……苗木に伝えとけ、
     "オレらは関わんねーのが一番いい"ってよ!!」


中指を立てて怒鳴ると、葉隠は気まずそうに目を泳がせた。霧切も黙っている。
オレはそんな二人を置いて、さっさと寄宿舎に戻った。


□ □ □ □ □ □

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)

アタマん中、その二文字がぐるぐる回ってる。
なんで首輪を引き剥がそうとしたんだ。おかげで両腕が心臓をガードしちまってて、
死ぬに[ピーーー]ない。心臓が破裂してくれりゃ一発なのに、意識すら飛んでくれない。

(左目、0.03秒。右太もも、その0.06秒後。右肩が砕けるまで、あと4秒)

ぐちゃっと音がした。左目の奥が熱い。利き目やられちまったな。肩もイカれた。
そこでやっと、最後の一発がアタマの横んとこ直撃した。

サイレンが響いて、処刑が終わる。拘束していたベルトが解けて、
体がだらんと下がった。同時に、オレの口から「ゴボッ」と血があふれる。
あいつらはオレが死んだって思ってるみたいだ。生きてっぜ。短けー命だけど。

(あー、早く死にてえなあ……)

体がどんどん冷たくなって行く。残った右目を動かしてみると、視界に黒い点がちらついた。
脳味噌のどっかがやべーのか、折れた右足がぶれて見える。


暗転。

□ □ □ □ □ □

桑田  「――っ、ぶ、はっ!!」

桑田  「ゆ、夢……?」ハァーッ、ハアーッ

一瞬、自分がどこにいるのか分かんなかった。背中が汗だくで気持ち悪い。
電子生徒手帳を見ると、夜の3時だった。

桑田  (……大和田とセレスも今ごろ、うなされてんのかな。あいつらはメンタル強そうだし、
     オレが心配することじゃねーか)

個室には野球用具がなかった。つーか、あったのは制服と下着、教科書類だけだった。
シャワールームには歯ブラシセットとタオルが一枚しかない。なめてんのか。
西地区の方も同じらしく、菜摘は「明日の放課後に南地区で買いものすっから、
荷物持ちにしてやってもいいよ」とメールしてきた。

桑田  (まだ小指なくしたくねーしな……行くか)

【翌日 一時間目】


教師  『おはようございます、英語の時間です。今日は文法の総復習をしていきましょう。
     では教科書を開いて……13ページから』

教室のモニターで英語の先生が喋ってる。それに合わせて、メガネをかけた先生モノクマが
黒板に要点と例文を書いていく。雨で蝕がない日は、フツーに授業があるらしい。

桑田  (ぶっちゃけ勉強とか嫌いだったけど、今はありがたみを噛み締めてるわ。
     ……こいつらが一緒じゃなきゃ、もっといいんだけどな)

教科書と英語辞書を交互に見て、例文を読む。
そうしてると、余計な事を考えるヒマがないからいい。

十神  「ふん、下らん……こんな低レベルの単元をもう一度やり直せと?」

石丸  「十神君、記憶を定着させるにはこまめな復習が大切だ!僕も思っていたより単語が抜け落ちていて、
     驚いているところだぞ!君も単語帳を見返したまえ!」

腐川  「か、完璧を体現なさっている白夜様に、そんな遠回りな勉強法が必要なわけないじゃない……」グフフ

桑田  (こいつらうるせえ……つーか、なんで全員同じ教室なんだよ。気まずいっつーの)

大和田は端っこの机に伏せてるし、セレスと山田はそもそもいない。
あの石丸ですら空気を読んで話しかけて来ないというのが、逆に居心地を悪くしている。

ポイッ

桑田  「ん……なんだこれ、手紙?」ガサッ

『やっほー、江ノ島盾子ちゃんだよ!!放課後に南地区のパン屋行くんだけど、あんたも来ない?』

大和田と舞園も同じ手紙を受けとったらしい。
舞園は「ごめんなさい」と指でバツを作って、大和田は「チッ」とまた顔を伏せた。
なんであの二人を選んだんだよ、特に大和田。

桑田  (つーか、江ノ島って黒幕だったんだろ?あんな気さくでいーのかよ)カリカリ

ポイッ

『わりーけど用事あっからむり』

江ノ島 「あーあ、なんでみんなアタシには冷たいんだろ」しょんぼり

江ノ島 「こうなったら残姉ちゃんでいいや。一緒に「行かない」……しょぼーん……」


【放課後】


桑田  「やっと教室から解放される」グッタリ

桑田  「……あ、南地区行かねーと。まだ指なくしたくねーし」ガタンッ

舞園  「あ、あの……桑田君、話が……」

何か言いたそうにしている舞園の隣に、苗木がくっついてた。お前はこいつのSPか?

桑田  「……苗木がいねーとこだったら話す」

舞園  「!今から食堂で「無理。南地区で約束あっから」……そうですか」

苗木  「約束……っていうことは、誰かと会うの?」

お前に報告する義務でもあんのか、と言いかけたのをこらえて、
「ああ」とだけ答えといた。さっさと教室を出て、電子生徒手帳でマップを見ながら歩く。

中央広場に出た所で『ピピッ』と音がして、ウサミが『サナギ』になった。

桑田  「……かわいくねー」ピッ

電子生徒手帳をかざして、南地区に出るゲートをくぐったそこで、
仁王立ちしている菜摘が目に入った。

菜摘  「遅い!!」

桑田  「はぁ?授業終わってすぐだっつーの」

菜摘  「罰として荷物持ちの刑ね!!」

桑田  「最初っからその予定だろーが!!……つーか今さらだけど、殺人犯とショッピングとか正気かよ」

そう聞くと、菜摘は一瞬だけ無表情になった。

菜摘  「世の中、"殺されても仕方ない奴"だって……いるんじゃない?」

菜摘  「あんたが望むんだったら、"予備学科の底辺にはクズみたいな本科生がお似合いだからだよ"って
     言って"あげて"もいいけど……それじゃ、あたしはいよいよ救われないじゃない。
     ちょっとでもあたしの事を思いやってくれるんだったら、そういう事言わないでよ」

明るい奴かと思ったら、暗い顔になったり。さっぱりしてんのかと思ったら、劣等感チラ見せしてきたり。
人間ってそんなもんか。清純派アイドルなんて幻想か。

桑田  「分かった、二度と言わねーよ」

菜摘  「うん、それでいいよ。……で、今日はどうしよっか。荷物重くなる予定だし、もう一人ぐらい
     助っ人呼ぶ?あたしの字で」ムムム…


"侠(きょう)"


ボンッ…モクモク…

ヤクザA 「お嬢、お呼びですかい?」

ヤクザB 「荷物持ちでしたら、お任せくだせえ!!」


煙の後に出てきたのは、パンチパーマに刺青が入ったイカツい男たちだった。
ヒョウ柄のシャツにジャケットを羽織って、サングラスをかけてる。
893だ。高〇健あたりの映画に出てきそうなオールドファッションのチンピラだ。
オレたちの周りから、少しずつ人が離れていくのが分かる。

菜摘  「じゃあ、行こっか。まずは本屋ね」

ヤクザ 「「御意!!!」」

桑田  「……」


その後は、どこに行っても半額で買えた。


【パン屋:ヘンゼル&グレーテル】


江ノ島 「あれっ、あそこにいんのって桑田じゃん。……あっ、アクセの店入ってった。……出てきた。
     なになに?あたしデートにニアミスしちゃってる感じ?」

花村  「んー……金髪の女の子、どっかで見たような見なかったような……」ガシッ

江ノ島 「あーっ!!フレンチトースト取られた!!」ガーン

花村  (!!??えっ、江ノ島盾子さん!?なっ、ななな何でこんな所で!?ぼ、僕何させられるの!?
     もう毒入りパイなんて作りたくないよぉぉぉ!!)てるてるてる

江ノ島 「あれ?あんたどっかで……花村センパイ?花村センパイっしょ!"超高校級の料理人"の!!
     うっわー、あの花村センパイと喋ってるとかマジ幸運なんだけどー!!」

花村  「えっ、えっ?」

江ノ島 「第三食堂で食べるの楽しみだったんだー!つーか、リクしたらなんでも作ってくれるってマジ?」

花村  「ま、マジだけど……「やりぃ!!んじゃ、今度第三食堂行っから!」……う、うん……」

江ノ島 「あ、そのフレンチトーストはセンパイにあげるよ。どーせあたしはまた来るし。
     んじゃ、まったねー」

カランコロンッ

花村  「……行っちゃった。何考えてるんだろ。江ノ島さんって飽きっぽいし、なんかの遊びなのかなあ」

弐大  「むぅぅ……十神か日向あたりに報告しておいた方がよいか」モグモグ

花村  「弐大くん!さっきは男子トイレにこもってたんじゃ……一応聞くけど大きい方?」

弐大  「おう!!クソに決まっとる!!今日はいつになく快便でのう、出したらその分入れねばと思ってな!!」

花村  「飲食店でクソとか大声で言わないでよ。あと"出したらその分入れる"ってとこもう一回お願いしても
     いいかな?あと一回で日本語の新たな可能性が開かれそうなんだ!」タラー

カランコロンッ

菜摘  「うっわー、すごい小麦の匂いするね!!んじゃ、はい。あんたは取る係ね」

花村  「あ、さっきの女の子だ……さすがにあの荷物は置いてきたか。店内は狭いからね、賢明な判断だね」

弐大  「無ッ!?もう一人は……本科の桑田だな、予備学科とつるむような奴には見えんが……」

花村  「すごいね、二人とも似たような制服着てるけど、分かるんだ?
     もしかしてマニアだったりし「本科の方が生地の質が上だからのう。予備学科のブレザーは
     硬くてテカるんじゃあ」……地味に嫌な差別だね……日向くんに聞いたの?」

弐大  「応ッ!たまに忘れるが、あいつも予備学科だからのう!!」ガッハッハッハ

菜摘  「なんかうるさいのいるけど、さっさと買って出ちゃおうか。まずねー、クロックムッシュを二つでしょ。
     あとはシナモンロールとあんドーナツとライ麦の」

桑田  「待てっつーの!もっかい最初っから」トングカチカチ

菜摘  「あれっ、そこにいるのって、花村先輩と弐大先輩じゃない?」

花村  「え?君みたいなわがままボディ、一度見たら忘れるはずがないんだけどなあ……」

菜摘  「いやいや、冗談きついって。花村先輩、私と会ってるでしょ?ほら、お正月にお兄ちゃんを
     初詣行こうーって誘いにきた時……」

弐大  「ワシも覚えがないのう。どっかで見たような……お兄ちゃんということは、
     誰か知り合いの妹だろうが……ううむ」

菜摘  「弐大先輩まで!?ええっ、どうなってんの!?私イメチェンとかしてないし!!
     ……あーもう、記憶力悪すぎ!私、九頭龍菜摘です!九頭龍冬彦の、妹の!」

次の瞬間、二人は信じられないことを言い出した。



花村  「……え、九頭龍くんって、一人っ子だよ?」

弐大  「九頭龍の家には行ったが……お前と会ったことはないのう」


菜摘  「……え?」

【夜時間・寄宿舎】


菜摘はパン屋を飛び出して、そのまま戻ってこなかった。
追いかけたほうがいいのかどうか悩んでいると、花村とかいう先輩が「君の彼女?だったら
フォロー頼むよ。僕たちが忘れてるだけかもしれないけど」と困った顔で言ってきた。


桑田  (菜摘が嘘をついてる可能性ってのはない気がする。歩きながら組の話とかしてくれたし、
     極道の娘じゃなかったら、あんな字選ばねーだろ)

桑田  (つーと、花村と弐大ってセンパイが嘘ついてるか……でもマジで知らなかったっぽいんだよな。
     じゃあ単純に覚えてねーとか?とりあえず今の問題は、菜摘が置いてった荷物どうすっかだな。
     西地区には行けねーし、予備学科に知り合いいねーし)

電子生徒手帳を起動させる。新着メールが一件。菜摘から『今日はごめん、荷物は明日ちょうだい』と来てた。
とりあえず昼間のことには触れないほうがいい気がする。

桑田  「んー、"分かった、明日取りに来い"……っと」

桑田  「つーか、九頭龍さんって人に聞けば早いんじゃね?同じ寄宿舎っぽいし」


_____

九頭龍 『ああん?テメー妹の何なんだよ?舐めた事抜かしてっと、東京湾に沈めんぞゴラァ!!!』

九頭龍 『とりあえずどこで知り合ったのか答えろ。指なくす前になあ!!』ギランッ

_____

……やめとこう、死ぬ未来しか見えねー。

切ります。
次回は龍に行って、また日向に戻るか、
もしくは二番目だった江ノ島、山セレの話をちょっと書くか。

超高校級の才能が性癖というネタを受信したけど
大和田のバイクしか思いつかなくて詰んでいる。

江ノ島は後半でちょっと重要な感じなので、小出しにするよー。
次からはまた日向に戻るよ。本編に関わってくるキャラはザッピングしてくかな。
ならかようちえんのパロも、レスが許す限りやってみたい。

_________

神蝕まであと1分。


葉隠  「むむむ……」キュピーン


"予(よ)"


葉隠  「見えた!!今日の蝕はかなり変わったのが来るべ!!」

十神  「ほう、貴様が言うなら間違いあるまい。なにせ的中率十割だ」


オレの隣で、的中率のテストに使っていたトランプを片づけている十神が満足そうにしていた。
葉隠の文字は未来予知ができるらしい。「もっと早くこの文字があったらダブんなかったべ」とか
くだんねー事を抜かしてる。競馬とか株とかやった方が借金返せていいんじゃねーの。

十神  「……で、どんな映像が見えた」

葉隠  「まず、森だな。学園の中にゃねー森が見えた。あと、白い扉があったべ。最後に、空を龍が飛んでるのが
     見えたな。あ、オレと十神っち、あと予備学科っぽい男子が一緒にいたべ」

十神  「ふん……今日の蝕は一筋縄ではいかなそうだな」

霧切  「神蝕についてのデータが増えるのはありがたいわ。覚悟して行きましょう」

不二咲 「やるしかないんだ……頑張らなくちゃ……だって僕は男の子なんだから……」ガチガチ

大和田 「今度こそ……今度こそ、ちゃんと[ピーーー]……ちゃんと……」ブツブツ

山田  「それでも多恵子殿なら……多恵子殿ならきっとなんとかしてくれる……」ブルブル

安広  「……できうる限りの力で、守ってさしあげますわよ。あなたがいなければ、
     誰がわたくしのティータイムをしつらえてくれますの?」

山田  「た、多恵子殿ぉぉ!!それはツンデレという奴ですか!?」

安広  「そっちで呼ぶなつってんだろーが腐れラードがぁぁ!!よそよそしく安広って呼べってんだよ!!」

桑田  (こいつら、マジで生き残る気あんのか?)


時計の針が『カチッ』と12の所を指した瞬間、視界が真っ白になった。


【桑田怜恩:Chapter2『龍』】


『……い、ちゃん……お兄ちゃん……』

『起きて……怜恩お兄ちゃん……』

『もう始まってるんだよ、早く!』


桑田  「……花音?」

目が覚めると、背中に固い樹の感触があった。

桑田  「んなトコにいるわけねーか……つーかここ森だよな。東地区に森なんかあったっけ」

立ち上がって制服の土を払うと、電子生徒手帳で地図を見る。空から『カチッ』と音がした。
見上げると、五ケタの数字が入ったスロットが浮かんでる。何だ、あれ?

苗木  「舞園さん、足元気をつけて……あれ、桑田クン?」ガサッ

舞園  「えっ……どうしてここに?」

茂みから出てきたのは、今一番会いたくねー二人だった。
「さっき目覚めたんだよ」とだけ答えて電子生徒手帳をしまうと、苗木が気まずそうに視線を泳がせる。
しばらく無言でお互いの顔を見ていると、舞園が「歩いてみませんか?」と道を指さした。

苗木  「あの……葉隠クンに聞いたんだけど、今日の蝕は、三人一組でクリアしなきゃいけないらしいんだ。
     だから……とりあえず今だけは、僕達と協力してくれないかな。話すのはその後で……」

桑田  「……分かった」

苗木  「よかった……あ、僕の文字まだ見せてないよね」

歩きながら、苗木は制服をまくって腰にある『望』を見せた。

舞園  「私の文字は……ちょっと、恥ずかしい所にあって……"歌"という字です。
     声を弾丸のように放つことができるんですよ」

胸のあたりをおさえた舞園は「敵は、まかせてください」と付け加えて、思いつめたみたいな表情をした。
てくてく歩いている間、何も出てこない。ひょっとしてこのまま出口まで行けるんじゃね?ってぐらい。
道が終わると、その先に白い扉があった。

桑田  「あ、あれ……葉隠が言ってたやつか?」

苗木  「うん。だったら次は……『我は龍』……喋った!!?」

白龍  『この試練を生き延びたくば、我を倒し、この中にある鍵を手に入れよ。そなたらの持つ
     "力"か、"知恵"か。それにて道を示したまえ』

桑田  「……オレの文字で開けられっかな」カッ


"出(いずる)"


オレの手から出た文字は、扉に吸いこまれると同時に消えていった。

桑田  「んだよ、肝心な時に役たたねー字だな……ん」

『この扉は、偽物だ……本物は元きた道の向こうにある』

苗木  「何か聞こえた?」

桑田  「なんでもねーよ……多分幻聴だろ」

舞園  「力か、知恵……力は文字のことだと思うんですけど、知恵は何でしょう?」

苗木  「多分、鍵の位置を見つけ出せってことじゃないかな。霧切さんみたいに、弱点を
     見つけ出せる文字を持ってる人もいるだろうし……」

桑田  「お前の文字はどうなんだよ」

苗木  「うん。僕の字は、相手の願望を読みとる能力なんだ。
     龍はきっと、僕達に鍵を奪われたくないはずだから……そうか!」カッ


"望(ぼう)"


苗木の文字が発動した瞬間、龍の腹のあたりが透けて小さい鍵が見えた。

苗木  「……やっぱり。"鍵を隠したい"という龍の望みが読めたんだ」

桑田  「で、どうすんだよ。見つかったら後は出すだけだろ」

舞園  「私が歌います。お腹のあたりですよね。そこを狙って撃てば……二人とも、念のために
     耳は塞いでおいてください。私、まだ文字の使い方がよく分からないんです」

言われたとおりに耳を塞ぐ。舞園は龍に少し近づいて、口を大きく開けた。


"歌(うた)"


空気が、震えた。
音にすると「あ」でしかないのに、舞園が伸びやかな声で歌い上げると、それに合わせて光の弾丸が撃ち出される。
一分も経たないうちに、龍は穴だらけになって煙を出してた。
鍵を取った苗木は「やったよ!」と嬉しそうにしてる。

桑田  「あーあ、オレだけ何の役にもたってねーな。マジだっせえ……」ガシャガシャ

舞園  「そんなこと……三人で無事に出られるだけで、私は」

苗木  「じゃあ、開けるよ」ガチャッ

扉が開いた先は、希望ヶ峰学園の校庭に繋がっていた。見覚えのない校舎だな、と思って。
あー、予備学科かと納得する。菜摘が言ってたけど、マジで予備学科はフツーの学校なんだな。

桑田  (せっかく西地区来れたし、やっぱホラーハウス行くかな)

そんな事を考えてるオレに、舞園が近づいてきて「お願いです」と頭を下げた。

舞園  「桑田くん、私に……罪を償う権利をください」

桑田  「始ん時からずっと考えてたんだけどよ……やっぱ、オレが悪い。お前に殺される理由を
     作ったのも、逆上して刺したのも、全部オレ次第だったって事だろ。だからもういいんだよ」

舞園  「でもっ…それは、私だって同じです!いいえ、むしろ私の方が……下らない理由であなたに
     目をつけて、包丁を持ち出して部屋を交換するまで、あんなに時間があったのに!殺されかけて
     動揺しているあなたより、ずっと……!そこで思い止まらなかった、私の方が……」

桑田  「やめろよ、もうオレが全部悪いってことでいいだろ。学級裁判でそういう事になったんだからよ。
     ……だから、もう話しかけてk「それはダメだよ!!」

ああ、やっぱり。
こいつは。

苗木  「……もう、許してあげてよ……二人とも十分に苦しんだんだから……これ以上
     自分を傷つけるような真似はしないでよ。舞園さんは悪くないし、もちろん桑田クンだけが
     悪いわけじゃないんだよ。悪いのは全部黒幕なんだ。僕達にコロシアイをさせた奴なんだよ!!」

オレを、自分でも気づかない所で憎んでいるのか。

桑田  「じゃあ、あの"希望のメッセージ"はどうなんだよ?」

苗木  「えっ?」

桑田  「オメーが遺跡のパスワードにした数字だよ。……オメーのアタマん中からは、舞園にハメられた事実が
     スッポ抜けてる、その時点でオレと舞園の価値を天秤にかけてんじゃねーか!!
     舞園さん、舞園さん、舞園さん!!本当に親友だったって言うんなら、なんでオメーは舞園しか
     見てねーんだよ!!」

やべーな、言葉が止まんねー。

苗木  「ち、違う……僕は、そんなつもりじゃない!!」

桑田  「じゃあ、どんなつもりなんだよ?オメーは偉そうな事言っても結局、好きな女一人しか
     引きずってねーんだよ!!悪いのは全部黒幕だっつったけどよ、舞園がオメーを救うために
     遺したメッセージだってんなら、オレが全部の罪を被ることになんだろーが!!オレの中にある
     色んな気持ちはどこに持ってきゃいーんだよ!?」

苗木  「そんな……僕はただ、前みたいに……友達に戻りたかった、だけで」

舞園  「あ、待って……桑田くん!」

腕をつかまれたのを、反射的に振り払う。
舞園は泣きそうな顔で手を引っこめて、そのまま地面にしゃがみこんだ。

朝礼台の近くまで来たところで、菜摘がじっと見てくるのに気づく。

菜摘  「……」

桑田  「菜摘?お前、いつから見て……」ぐいっ

菜摘は無言でオレの腕を引っぱって、そのままずんずん歩いて行く。
取り残された二人はいきなりの乱入にぽかんとしてた。

菜摘  「あの舞園って女を"許す"のが怖いんでしょ。……自分が悪くないって正当化するみたいで。
     だったらいっそ、許さなきゃいい。あの女のことも……自分のことも」

オレを引っぱる菜摘の右手に、青い欠片が握られている。

菜摘  「あたし……ううん、私もそうだから。あんたが思ってるような女の子じゃないんだよ、私は。
     何で今なんだろ……何でこんな、取り返しのつかなくなった後に"分かる"んだろうって思うの。
     自分で、自分が嫌になる……あんたも同じだから、苗木に怒鳴ったんでしょ?」

桑田  「半分八つ当たりだよ……苗木なんか本当はどうでもいい」

菜摘  「だったらもう逃げよう。逃げて、楽になろうよ。私もあんたも、多分本当には
     許してもらえないんだから。うわべだけ受け入れられたって、辛いだけじゃない」

桑田  「そう……だな」

ちら、と後ろを振り返る。
霧切が小泉先輩に迫られて、首を横に振っていた。小泉先輩は両手で顔を覆って、しくしく泣き出す。

菜摘  「独りぼっち同士で傷を舐め合うくらい、許してくれるよね。お兄ちゃん……」

□ □ □ □ □ □

ゴミ袋を持ってランドリーに行くと、テーブルの上に水晶玉があった。まあ、また葉隠なんだろうな。

桑田  「因縁のアイテム再び……ってか」

オレは水晶玉を拾って、忘れ物ボックスに投げこんだ。
持ってきたゴミ袋の口をしっかり結び直して、『リサイクル』と書かれた箱に突っこむ。

桑田  「……全部オレが悪い」

学級裁判でも着ていた白いジャケットと、血しぶき柄のシャツ。
ズボンもリングも全部外して、ゴミ袋に突っこんだ。最後に、ポケットに入れていた
南京錠のネックレスをリサイクル箱へ投げこむ。

桑田  「じゃあな、舞園……これで終わりだ」

終わった。
何が『終わった』のかは分からないけど、とりあえずそう思った。
いくらお前らがオレを許したって、受け入れようとしたって。それはオレを苛むだけだ。


だからただ、独りでいればいい。



【To be continue】

___________

桑田編、一旦終了。ヒナタ ヘ モドル→

日向  「なんか、夢みたいだな……お前らと一緒に授業を受けてるっていうのが」

左右田 「この状況でよくそんな呑気な感想が出るなオメーは」

前の席の左右田は、「いつ蝕が来るかと思うと、おちおち授業も聞いてらんねーよ」と
教科書に落書きしながらぼやいている。お前も十分余裕だと思うのは気のせいか?

左右田 「つーかよお。オメーは勉強しなくていいんじゃね?ほら、カムクラさんにチェンジして
     ちょいちょいっと……」

日向  「言っただろ。あいつは消えたって。心のどっかに穴が空いたみたいな、変な気分だけどな」

『龍』が終わって三日。
俺たち77期生(俺を加えていいのかどうかは微妙な所だが)の日常は変わった。
まず一つ目。

江ノ島 「やっほー、センパイ方!!」ガラッ

ソニア 「あら、いらっしゃいまし江ノ島さん。その手に持ってらっしゃるダンボールは……」

江ノ島 「体育のジャージだよ!明日は78期生と合同で体力測定だから、届けに来たってわけ!」ピースッ

罪木  「じ、じゃあ私が配っておきますねぇ……っとと、重いぃ…!」グラッ

澪田  「和一ちゃん、ヘルプっす!」

左右田 「なんでオレ名指し!?」

江ノ島 「ほらほら!早くしないと、罪木センパイがまた思春期男子に優しくないポーズになっちゃうよー?」

左右田 「だーっ、くそ!なんでいつも力仕事オレなんだよ!!」ガシッ

罪木  「ふゆぅ…ごめんなさいぃ!もっと鍛えますから、牛乳雑巾だけは勘弁してくださいぃ!!」

ソニアたちの努力によって、江ノ島盾子がちょくちょく遊びに来るようになった。
絶望時代にやっていた、ダーツの刺さった地点の住人を血祭りにあげる遊び……じゃなく、
トランプをしたり、ファッション雑誌を一緒に眺めたり。そんな健全な遊びをしている。

西園寺 「……」

小泉  「日寄子ちゃん?」

西園寺 「……へっ?な、なに?」

小泉  「ううん、最近元気がないから、どうしたのかなって」

西園寺 「別に元気だけど?ただちょっと、考え事してるだけ」

小泉  「そっか……私にできることなら、いつでもしてあげるから。一人で抱えこむのだけはやめてね」

西園寺 「うん……」

二つ目。
西園寺はよく物思いに耽るようになった。『龍』の後は罪木からも距離を置いて、一人でじっと
何か考えこんでいる。なんか物足りないと思っていたら、あいつの暴言がないんだな。

日向  「なあ、西園寺……」

西園寺 「何。日向おにぃに喋る許可あげた覚えないんだけど?わたしの時間を消費するんだから、
     それなりの用事なんでしょうね」

日向  「お前は、よくも悪くも裏表がないんだ。そこが美点でもあるんだから、俺たちにもっと
     見せて欲しいんだけどな」

西園寺 「……それが、わたしを苦しめても?」

日向  「孤立も覚悟しての事だと、絶望していた頃のお前はのたまってたぞ」

西園寺 「……あんな、人間の汚い所寄せ集めたみたいな人たちでも、やっぱりわたしの家族だったんだよね。
     わたしのいい所も、悪い所も、あいつらの雛形から出来たんだって、分かってたのに。
     もうこの世にいないって思うと、せいせいするけど……ちょっと寂しいよ」

学園長の話が本当だったら、生きてるんだけど。もう一回殺してやろうかな。
西園寺はそう言って、また窓の外を眺めた。これ以上話はできそうにないな……。

小泉  「ねえ日向、大丈夫かな。日寄子ちゃん……強いように見えて、本当は誰よりも脆い子だから、
     すごく心配なんだけど……」

日向  「あいつの意思を尊重して、成長を信じてやるのも友達の務めじゃないのか?」

小泉  「……そう、だよね。うん……そうでなきゃ」ニコッ


俺たちは、さらに深い闇の中にいた。

_______

今日はここまで。

ケイタが『超高校級のバディ』として希望ヶ峰に入学するクロス
書こうと思ったけど詰まったんでセブンだけ出す。

________




『龍』が終わって四日目。俺たちは夕食後の食堂に残って作戦会議を開くことにした。

豚神  「みんな集まったな。知ってのとおり明日から二日間、晴れの予報が出た。
     神蝕の発生は、ほぼ確実と言える。"龍"で、生徒同士の協力が必要になる蝕もあると分かった今、
     互いが互いの文字を把握し、正しい字義と能力を知るべきだと思ってな」

日向  「そういえば…左右田、お前は大丈夫なのか?」

左右田 「んあ?……あー、一応な」

歯切れが悪い。明日の蝕が通常型なら、ついて行った方がよさそうだな。

豚神  「まずは日向。霧切からの情報を皆に伝えてくれ」

日向  「分かった」ガタッ

日向  「霧切は知ってのとおり、索敵と分析に特化した能力を持っている。おかげで
     蝕について三つのタイプがあることが分かったんだ。
     
一つは"固定型"。"始"がこのタイプだな。出現する日が決まっている蝕のことだ。
     二つ目は、"隔離型"。学園から異空間に転送されて、試練をクリアする。 
     生徒数が3の倍数の時に来て、3人1組のチームに分けられるのが特徴だ。
     三つ目が、"通常型"。これは普通の神蝕で、時間内に敵を倒す。
     で、今は……予備学科もあわせて1580人だ。明日は通常型が来るとみていいと思う」

日向  「俺たち15人の中で、文字の能力が分からない奴はいるか?いたら、これで調べておけよ」バサッ

俺が図書室から持ってきた漢和辞典を出すと、
小泉が「じゃあ、アタシから……」と手を挙げて、ページをめくった。

小泉  「あ、あった……えーと、"写(しゃ)"は、おおいの象形と、かささぎ?の象形……鳥?」

田中  「鳥網スズメ目カラス科の一種で、天然記念物だ。カラスの仲間であるため脳が大きく知能が高い。
     樹上に球体の巣を作って繁殖し、穀類や虫を食べる。中国では瑞兆として崇められる鳥だ」

小泉  「あ、分かりやすい解説ありがと……そういやあんた、飼育委員だったね。
     意味は"物の形をまねて、書き写す"……うーん、いまいち使い方が分かんないかも」

日寄子 「大丈夫だよ、おねぇはわたしの後ろにいれば」

小泉  「アタシだって……日寄子ちゃんの役に立ちたいの。……アタシがもっとしっかりしてれば、
     梓ちゃんを死なせないで済んだかもしれないのに」

暗い表情で呟く小泉に、西園寺は「あいつは勝手に死……」と言いかけて止めた。
中学時代からの後輩、佐藤梓は『龍』で命を落としている。小泉にしてみれば、そう簡単に
割り切れることじゃないだろう。

小泉  「まねて、書き写す」パンッ

両手を合わせて、目を閉じる。小泉が意識を集中させると、テーブルの上に光が集まって……


"写(しゃ)"

すべすべしたテーブル板に、『始』の姿が転写された。

小泉  「……使い方は分かったけど、どうやって闘えばいいんだろ?」ハァー

九頭龍 「チッ…オレの文字はやっぱり"冬"以外に意味がねえか」

豚神  「字義が狭い場合は、連想するといいらしい。冬から連想できるものはなんだ?」

九頭龍 「ん、冬……ふゆ……雪……みかん……こたつ……」パッ

"冬(ふゆ)"


九頭龍の手から出た光がおさまった後。俺たちの座るテーブルにはでっかいコタツがでーん!と
鎮座していた。ご丁寧に山盛りのみかんが乗っかって、猫が「ごろにゃ~ん」と鳴き声を出している。

左右田 「ギャハハハハ!!なんだよこれ!!よりによってコタツ!コタツって……」バンバン

九頭龍 「うるせえ、テメーはコタツも知らねーのか!!日本人なら冬はコレ一本だろーが!!」

辺古山 「坊ちゃん、昔みたいにみかん剥きましょうか?」

終里  「いいからさっさとこのコタツ消せって、前が見えねーよ」

日向  「終里、そういやお前の文字は何だっけか」

終里  「おうっ、オレはシンプルに"闘(とう)"って書いたぜ!なんつーかこう、体中に力がみなぎって
     来るっつーか、とにかく強くなれる感じがすんだよ!」

弐大  「終里の文字は美しいぞぉ!!両腕に蛇柄の装甲がついてな、始も一発で吹き飛ばしたくらいじゃあ。
     ワシは"助(じょ)"で、能力の限界値を伸ばしてやることができるぞ。いつでも頼め!!」ガッハッハ

ソニア 「わたくしの"生"も、同じく能力を強化する文字ですので、みなさんのご応募をお待ちしておりますね」

日向  「はは、頼りにしてるぞ」

罪木  「あ、あのぉ…私の"癒(いやし)"は、致命傷までは治せないみたいですぅ…ちょっと、
     遺言を話す時間を作るくらいしか……あと、あんまり重い傷でも、
     完全には治せないみたい、なので……なので、皆さん…気をつけてくださいねぇ……」

西園寺 「最初っから当てにしてないから。人殺しの手当てなんかいらないっての」ふんっ

罪木  「西園寺さんは、何の文字……あああ、ごめんなさいぃ!私ごときが気安く話しかけてごめ「"舞"」え?」

西園寺 「だから……なんか、説明めんどくさいし」カッ


"舞(まい)"


罪木  「ま……ひゃあっ!?」

西園寺は立ち上がって、扇を広げる。それに合わせて罪木も自動で立ち上がり、全く同じ動きをした。
くるくる回って、両手を広げる。一部の狂いもなく舞う二人に、小泉は「いいよー!」とシャッターを切った。

罪木  「はっ、はあ……はあ……はひぃぃ……」ガクガク

西園寺 「うっわー、ゲロブタの足が生まれたての小鹿みたいだよー。きんもーい」

……あれ?
いつもだったらもっと嬉々として罵ってたと思うんだけどな。
なんだか、西園寺が無理しているように見える。

豚神  「舞には、相手を弄ぶ。転じて"弱いものをいたぶる"という意味もある」ペラッ

西園寺 「それ……どういう意味?」ギョロッ

豚神  「いや、ただ字義を教えたまでだ。覚えておくと役に立つぞ」フッ…

まだ西園寺は相手を睨みつけている。十神らしい皮肉なんだが……言い返さないのが、らしくない。

狛枝  「僕は"運"だよ。元々の才能を他人に対しても作用できるようにしたような能力だね……こんな形で
     才能をコントロールできて、しかもそのきっかけが、絶望を振りまくようになった
     学園長だなんて……ああ、ごめん。僕みたいなゴミ以下の才能がどうなろうと、
     君達とは何の関係もないよね。こんな無駄な言葉を聞かせてごめんね?」

こいつは学園長に特別な思い入れがあるみたいだ。

花村  「ところでみんな、お腹が空いてきたんじゃないかな?」

豚神  「そういえば……夜食にはちょうどいい時間帯だな」

花村  「ここでちょっと休憩にして、ぼくの新作レシピを味見してよ!」ガラガラ

そう言うが早いが、花村は厨房から白い布のかかった台車を運んできた。
こいつの文字はたしか『食』だったな。天からレシピが舞い降りてくるとか?
しかし、そんな予想を裏切って、台車にあったのは。

花村  「じゃーん!!"龍のヒレカツサンド―始のブラッドソースがけ―"だよ!!!」

豚神  「!!?」ブッフォ

西園寺 「はあ!?これ、まさか神蝕の……」

花村  「うん!!始の時も"この化け物、肉質が柔らかそうだなあ"って
     思ってたら、お肉がフライパンの中に落ちていてさ、龍の時に試してみたら、お肉だけ取れたんだよ! 
     味は保証するから、どうぞ召し上がれ!!」ドヤァッ

全員  「……」

ソニア 「いえ、さすがに…その、ちょっと……生徒の皆さんの命を奪った敵の肉というのは……」

西園寺 「えー、あんたらが普段食べてる家畜の肉よりは倫理的にありじゃん?
     だってこれは花村が狩ったものなんだからさあ。……ゲロブタ、あんたからね」クルッ

罪木  「わ、わたしが食べるんですかぁ!?…うう、でも……私なんかの毒味でよければ……」

日向  「やめろ罪木!まずは俺が」

止める間もなく、ぱくんっとヒレカツを頬ばった罪木。その顔がみるみるうちに赤くなって、

小泉  「蜜柑ちゃん!?大丈夫っ、お水飲む!?」

花村  「ごっ…ごめんなさいぃ!!変なもの作って「おいしい……」……へ?」

罪木  「す、すっごくおいしいです!お肉もやわらかくて、ジューシーで…今まで、食べたこと
     ない味です……「感想言えっつってるの。気ィ利かせろよゲロブタ」
     ええと、味は鶏肉をもっと濃くしたみたいで……食感は銀ダラみたいな……」モグモグ

豚神  「こっちの緑の皿は、シチューか?……!!なんだこれは……この世のものとも
     思えぬ味わい……スプーンが止まらないぞ!!」ガツガツガツ

澪田  「じゃあ唯吹も食べるっすー!…うっひょー!!噛むごとにアドレナリン的な何かが染み渡るぅぅぅ!!」ガシッ

左右田 「お、オレはぜってー食わねーぞ!食ったら元に戻れない気がす…「えいっ、和一ちゃんにも
     おすそわけっすよ!」……うんめえええ!!!今まで食ってた肉はなんだったんだ!?」ガツガツガツ

元々中毒性の高い料理を作る花村だったが、調理された蝕の肉は本当に旨かった。
そういえば、人肉は一口食べると他の肉が食べられなくなるとか、本で読んだな……。

日向  (……口の中の肉が、粘膜にじんわりと旨味を伝える。今までに感じたことのない味わいだ!!
     旨味の大洪水というのがふさわしいかもしれない……!!)

左右田 「」ガツガツ

狛枝  「ああ、素晴らしいよ……!僕の胃袋がもっと、もっとと求めている……!!」バクバク

日向  (目をぎらつかせて肉にかぶりつく仲間たちを見て、正気に戻った俺はそっと箸を置いた……)

【翌日】

一時間目の国語を終えて、俺たちは窓の近くに集まっていた。神蝕まで、残り10分を切っている。
今日は通常型が来るという予想だったが、『始』から言って、命の危険があるのは間違いないだろう。

日向  「もうすぐだな……ん、罪木?」ギュッ

罪木  「あ、あのう…その……日向さんがお嫌じゃなかったら……」

日向  「分かった。一緒に行こう」

罪木  「ふえっ!?な、なんで私の言いたいことが分かるんですかぁ!?」

日向  「エスパーだから……いや。俺も一人は怖いから、かな」

そういえば、学園長室はこの校舎の四階にあったな。生徒たちが神蝕へ向けて動いている今なら、
様子を見に行っても誰かに見咎められたりはしなそうだ。

日向  「狛枝、不測の事態に備えてお前の"幸運"を頼ってもいいか?」

狛枝  「えっ……こんな肉体にも精神にも起因しないゴミ以下の才能を、
     超高校級の希望があてにしてくれてるの?そんなわけないと思いたいけど、
     もしそうなら「ついて来い」……分かった」コクン

罪木とは違う方向に卑屈なだけなんだが、いちいち相手をムカつかせるのが狛枝の不運な所だと思う。

豚神  「気をつけろ…学園長のことだ。何か対策をしている可能性は高い」

日向  「やっぱりお前には分かってたか。少し覗いて帰るだけだから、心配するな」ガラッ

俺たち3人は教室を出て、階段を上った。まず、職員室をこっそり覗く。
中では先生モノクマが何体か働いていた。人間の気配はない。次に、学園長室の扉の前に立つ。

日向  「ちょっとでも中が見えたらいいんだがな……」

狛枝の幸運が作用してくれたら――「そこで何をしてるの?」

戦刃  「学園長先生に何か用?」

狛枝  「君こそ……学園長のボディガードか何かかい?僕たちはただ、散歩していただけさ」アハハ

戦刃  「私の許可なくそこに入ることは許さない。今すぐ退いて!!」ブンッ

日向  「手榴弾!?」サッ

ドカーンッッ

罪木  「きゃあああ!?か、髪の毛が熱っ……」パッパッ

日向  「だ、大丈夫か罪木!!……か、髪の毛が燃えっ……消してやるから落ち着け!!」

俺は急いでブレザーを脱いで、罪木の頭を叩く。髪に燃え移った炎が消えると、
罪木は尻餅をついたままぐすん、ぐすんと泣きだした。

狛枝  「あーあ、派手にやったね。僕が吹き飛ばしたのよりはだいぶ威力が小さいけど」

これじゃ停学は免れないね、と白々しい感想を言いながら、狛枝は両手を上げた。

戦刃  「まだシラを切るつもり……?だったら、私にも考えが「な、何これ!?」……盾子」

狛枝  「ナイスタイミング、江ノ島さん」ボソッ

走ってきた江ノ島は、吹っ飛んだ扉と俺たちを見て「お姉ちゃん!!」と戦刃の頬を張った。

戦刃  「ッ、……!」ジンジン

江ノ島 「学校の中で銃火器は使っちゃダメって、何回も言ったじゃん!ほら、日向センパイたちに謝って!」

戦刃  「……ごめん、なさい」ペコッ

江ノ島 「もう……ごめんね。お姉ちゃんったら、ドジな上につい傭兵の血が騒いじゃうみたいでさ。
     このお詫びは蝕が終わった後にするから……ほら、さっさと行くよ!」ズルズル

江ノ島が姉を引きずっていくと同時に、狛枝は「僕の能力、分かってもらえたかな」と笑っている。

狛枝  「幸運の"運"は、運ぶ、巡らせるという意味があるんだ。戦刃さんの運勢を操作して、
     妹に怒られる不運を与えるくらいは簡単にできるんだよ」

俺たちはそこで、誰からともなく振り返った。学園長室の固い扉が
戦刃のおかげで破壊されて、中に入れるようになっている。
これが狛枝の幸運パワーか!……夕飯のからあげ半分で手を打とう。

罪木  「でっ、でもぉ……おかしく、ないですか?こんな大きな音がしたのに、誰も来ないなんて……」

日向  「職員室の先生モノクマも同じ動きを繰り返していたしな。ただのプログラムだろ。
     おまけに見てみろ、誰もいない」

俺は瓦礫を跳び越えて中へ入った。艶やかなマホガニーの机。きっちり整理された本棚。来客用の革ソファ。
全部がきれいすぎる。誰かがいた気配なんてまるでない。

日向  「夜時間と朝の放送は、ここから行われていたんじゃなかったのか……」

そこで、床にしゃがみこんでいた罪木が「こ、これ…落ちてたんですけど」と拾って見せた。

日向  「人形……だよな?神社とかに奉納するやつだ」

罪木  「あ、あのぉ…学園長先生って、いつの間にか消えてたり……ほんとに人間なのかなって
     疑っちゃいますよね……ふゆぅ、ごめんなさい!偉そうに"疑っちゃいますよね"なんて
     言っちゃって…でっ、でもっ…日向さんがそう思ってないなら……」

日向  「いや、その意見に賛成だ。問題はこの人形が、学園長が生き返ったこととどう関係があるのか……」

狛枝  「ますます謎が増えていくね。この先にどんな希望が見えるのか…今から楽しみになってきたよ。
     君が嫌じゃなければ、これからも協力を惜しまないつもりだけど?」

日向  「まずは今日の蝕を乗り切ってからだな」

狛枝  「分かった……あと一分か。僕達も外へ出たほうがいいよ」

腕時計を見た狛枝が先に立って走る。階段を駆け下りて一階に出た所で、校庭に真っ黒な影が落ちた。

カッ!!

空島が太陽にぴたっと重なって、一瞬だけ光る。『始』と同じ黒い円が地面に浮かんで、そこから
ずるっ…と化け物が出てきた。鬼だ。一つ角の鬼が、手に大きな団扇を持って、『祭』と書かれた
ハッピを着ている。靴箱の所にいた江ノ島の隣にも円が出て、鬼が飛び出してきた。

江ノ島 「うぅっ……毎回毎回、ほんっとうざったい!!」カッ


"魅(み)"


江ノ島の手から小さなハートが出て、鬼の額に『ぺたっ』と貼りつく。
さっきまで殺意をみなぎらせていた鬼はあっという間に目をハートにして、ボディガードのように
ぴたっと江ノ島の隣についた。

日向  「あの文字が、絶望していた頃の江ノ島になくてよかったな」

そのまま同じ鬼をなぎ倒していく鬼を見た俺の呟きに、狛枝と罪木が赤べこのようにブンブンと頷いた。
罪木は、絶望から解放された今でも江ノ島に特別な思い入れがあるらしい。

霧切  「祭……元は供物を捧げ、奉るという語源……私たちを殺してその死体を供物にするのが目的と
     いうのでしょうけど、そうは行かないわ」タッ

走る霧切の向こう、校庭のど真ん中に、炎が立ち昇る祭壇が見えた。鬼たちは生徒の死体を運んでは、
その炎に投げこんで、ケタケタと陽気に踊っている。

霧切  「弱点は頭と心臓……人間と変わらないのね」スッ

ホウキを構えた霧切は、そのまま鬼の頭にフルスイングした。ぐしゃっといい音を立てて倒れる鬼に、
苗木が「ひいっ!?」とおびえている。

苗木  「き、霧切さん!僕の制服に血がかかって……うわあ!!こっちに来ないで!!」ブンッ

モップで鬼の団扇を弾き返した苗木の背中から、腐川が「しょうがないわね…」と進み出た。
持っていた文庫本を開いて、眼鏡を直す。

腐川  「"我輩は猫である、名前はまだない"!!」カッ


"語(かたり)"


光がおさまると、腐川の背後に巨大な三毛猫が現れた。ぎょろぎょろと目を動かし、鬼を見つけると
「ニャーゴ」と鳴いて、その大きな前足で叩き潰す。ぐちゃっ、ぐちょっと嫌な音をたてて飛び散る鬼を
見ないように目をつぶった腐川は、「"すると嘉助が突然高く言いました"」と続ける。

腐川  「"そうだ、やっぱりあいづ又三郎だぞ。あいつ何がするときっと風吹いてくるぞ"」カッ

ゴオッと風が吹いて、腐川に飛びかかろうとしていた鬼が吹き飛ばされた。

又三郎 「……」

天井にとんっと両足をついた赤毛の少年。マントの向こう側が透けて、きらきら輝いていた。
風の又三郎がマントを翻すたびに、風が吹き抜ける。飛ばされた鬼は廊下の壁に背中を叩きつけられて、
びくん、びくんと痙攣した後、動かなくなった。


苗木  「す、すごいね……腐川さん。さすが"文学少女"だね」

腐川  「な、何よ……あんたに褒められたって、白夜様に比べたら一ミリの価値もないんだから……」ポッ

苗木  「褒めてるってことが分かってもらえただけで嬉しいよ(腐川さんも少しずつ進歩してるんだなあ)
     ……あぶなッ!?」ビュンッ

日向  「向こうは団扇の分リーチがある……飛び道具の方がよさそうだな」カッ


"変(へん)"


俺はポケットティッシュを拳銃に変化させると、両手に構えて鬼の頭を狙う。

パンッ!!

反動で手が持ち上がったのを、狛枝が受け止めて「跳弾には気をつけてね」とアドバイスしてきた。
くそ、九頭龍に撃ち方を習っておくべきだった!

狛枝  「跳弾は素人だと避けづらいし……二人の幸運を操作して、回避率を上げておくよ」カッ


"運(うん)"


罪木  「あ、あれ?体があったかいですぅ……」ポワポワ

日向  「それに、心なしか体が軽くなったような…危ないっ!!」ビュッ

鬼の団扇が、俺の耳ギリギリのところをかすめる。攻撃を危ない所で避けた俺は、そのままカチャッと銃を構えて、
そいつの脳天に弾丸を撃ちこんだ。回避からの見事な反撃……これが狛枝の文字か。

日向  「そうだ、苗木に武器をやっとくか」ギュッ

俺はポケットから鉛筆を取り出して握りこむ。パアッと光が出て、鉛筆は細身の槍に変わった。

日向  「苗木、受けとれ!!」ブンッ   苗木  「!?」パシンッ  日向 「それをお前の武器にしろ!」

苗木  「……ありがとう、日向クン」

槍を受けとった苗木は、お礼を言って鬼を薙ぎ払う……と、次の瞬間又三郎の風に吹き飛ばされた。
廊下をゴロゴロと転がって、消火器でしたたか背中を打った苗木に、腐川の怒声が落ちる。

腐川  「ドジ、ちゃんと下がってろって言ったじゃない!!」

苗木  「あ、あの……せめて"大丈夫?"くらいは……言って、ほしいかな」ゴホゴホ

……あいつは本当に『超高校級の幸運』なのか。
そうこうしているうちに、蝕の時間が終わった。陽気に踊っていた鬼達の動きが止まって、すうっと消えていく。

【『祭』
 死亡者数:56名
 生存者数:1524名
 総生徒数:1524名  】

罪木  「わ、私は保健室に行ってますねぇ……「ゆっくり歩けよ。血で足が滑るぞ」……は、はいぃっ!」トテトテ

狛枝  「回避率UPの効果はまだあるから、保健室に着くまで転ぶことはなさそうだね」

日向  「……この際ハッキリさせておこうか。狛枝、お前は蝕についてどう思ってるんだ?」

狛枝  「どう、って……希望をより輝かせるための試練だと思ってるよ。そういう意味では学園長と近い考え
     かもしれないね。でも……正直、僕の信念は少し揺らぎかけているんだ。答えが出るまではまだかかり
     そうな気がするよ」

日向  「そうか……」

狛枝  「安心してよ。生きるも死ぬも君達次第なんだから。僕はゆっくりとその行方を見守らせてもらうよ」スタスタ

日向  (……あいつが歪んだ理由も俺は知っていて、だけど認めることができなかった。それはただ、
     自分達に危害が加わると思っていたからで)

日向  (それがないと知ってやっとあいつを仲間として認める気になっている。俺は、やっぱり不完全なんだな)

日向  (……やめよう。まずは仲間の無事を確認するんだ)

そう思い直した俺の耳に、「きゃあああ!?」という悲鳴が届いた。

日向  「今の声、罪木か!?」

保健室の方へ走る。負傷した生徒でごった返す入口をかき分けて中に入ると、血まみれの江ノ島が
ベッドに横たわっていた。

罪木  「江ノ島さん、しっかりしてください!…あなたが、あなたがいなきゃ、私……」

日向  「これは……一体「やられたの」……戦刃」

江ノ島の手を握る戦刃は、「盾子は、"魅"に制限時間があることを知らなかったの」と呟く。

戦刃  「盾子の文字は、敵を魅了する能力……だけど、魅了できるのは三体まで。おまけに
     制限時間があって……魅了した敵が多いほど、短くなる。私が気がついた時には、鬼の団扇で頭を……」

日向  「超高校級の分析能力……絶望時代のあれがあったら、一瞬で察したんだろうに」

罪木  「ううっ……」

肩を落とす戦刃の隣で、罪木は泣きながら文字を解放する。


"癒(いやし)"


右手のひらにハート、左手のひらに十字のマークが浮かび上がった。罪木の手から出る光が、江ノ島を覆う。
鬼にかち割られた頭の傷は少しずつ塞がって、血が止まる。しかし、体の修復があらかた終わっても、
江ノ島の目は開かない。それどころか……

日向  「こいつ、呼吸が止まってるぞ!」

罪木  「ど、どうしましょう……江ノ島さんの脈が、どんどん弱く……」

戦刃  「!?」ガタッ

日向  「何とかならないのか!?」

罪木  「わ、わたしの文字では体を修復するのが限界でっ…そ、それも完璧には無理なんですぅ!!はわわ、
     そんな事説明する暇があったら人工呼吸でもなんでもしろって話ですよねぇ……!!」

罪木が江ノ島の顎を持ち上げ、まさに口付けようとした所で。

ガラッ

保健室の扉が開いた。

九頭龍 「よお、罪木いるか?ちょっと肩入れなおして……って、江ノ島!?」

入ってきたのは九頭龍だった。鬼との闘いでダメージを負ったらしく、右肩をおさえている。
ベッドに横たわる江ノ島を見ると、つかつかと寄ってきて「江ノ島!!」と呼びかけた。

九頭龍 「……いつまで寝てんだ絶望キ〇ガイ!!起きやがれ江ノ島盾子!!」ユサユサ

日向  「やめろ!下手に揺するな!」

戦刃  「絶望キ…盾子ちゃんを馬鹿にしないで!!」

九頭龍 「テメエは最後の蝕が終わった後にオレがブチ[ピーーー]って決めてんだよ!!
     んなチンケな蝕で死んでんじゃねえ!!!」

瞬間。仄白い光が江ノ島の胸元にともった。びくん、とかすかに痙攣した江ノ島が、ゆっくりと目を開ける。

江ノ島 「……あせったー。おばーちゃんがお花畑で手振ってた」

罪木  「え、江ノ島さぁん……?」グスッ

江ノ島 「盾子ちゃん大復活!!なんちて…えっ、罪木センパイ!?」

罪木  「よかった……よかったです……!江ノ島さんが生きててくれて……」ギューッ

九頭龍 「チッ、悪運だけは強い奴だな」

江ノ島 「ちびっ子ギャングはあたしになんの恨みがあるわけ!?あと罪木センパイ、そろそろ
     離れいたたたた!!」

罪木  「はわぁぁ!!わ、私ったら嬉しすぎて力加減をまちがっ……ごめんなさぃぃ!!おわびとして好きな所に
     落書きしていいですからぁ!!」ガバッ

日向  「やめろ、脱ぐな!!」

江ノ島 「よーし、じゃあお言葉に甘えてそのパイオツに「お前も乗るな!!」


【食堂】


20年の短い人生の間で、全知全能になったり世界を破壊してみたりバーチャルでコロシアイをしてみたり。
もう脳が許容量を超えてしまったというか、たいていの事では驚かないくらいの体験をしてきた。

でも。

今、目の前にあるこいつは。

日向  「な、七海……?」

ナナミ 「……うん。私だよ、七海千秋だよ……会いたかった、日向く」がくんっ

日向  「な、七海……七海!?」

左右田 「あーあー、エネルギー切れか。ちょっと補給してやっから待ってろよ」ゴソゴソ

トレイを持ったまま立ち尽くす俺をよそに左右田は、椅子にぐったりと座った七海のうなじにコードを繋ぐ。
七海の頭がパカッと左右に開いて、中の基盤が丸見えになった。左右田はそこに手を突っこんで
何か調節している。

日向  「七海……お前、生き「おいおい日向……よく見ろよ、これが人間の関節か?」

よく見ると、黒いワンピースから覗く手足は球体関節だった。
目を閉じた七海の顔も、そっくりに造ってあるだけの人形だ。

俺の反応が思わしくないのを見て、左右田は「なあ、なんでそんな顔してんだよ」と不満げだ。

左右田 「オメーがあんまりショック受けてたみたいだからよ、七海を生き返らしてやったんじゃねえか。
     そりゃ飯は食えねーし生身じゃねーけど、ちゃんと日向のことも覚えさせたんだぞ。
     あ、そっか。ゲームできなきゃ七海じゃねーよな。うっし、待ってろ!今ちょっと人工知能の
     基盤作り変えてやっからよ!!」

日向  「違う……こいつは、七海じゃない……」

左右田 「オメーの言わんとすることは分かっけどよ、七海だってプログラムだったんだろ?
     このナナミ-Rと何がちげーんだよ」

日向  「違う!!七海には魂があった!!!心もあった!!!お前が……お前がやったのは、七海の死への冒涜だ!!」

左右田 「だから、人間の七海はとっくにあの世行ってんだろ!!いつまでもプログラムにこだわってねーで
     前向けよ!!そのために七海の見た目が必要ならオレが造ってやったこいつを使えばいーだろ!?」

日向  「そんなッ……そんなことを、言うなぁぁぁ!!!」


気がつくと、俺の拳が左右田の頬を殴っていた。
殴られた左右田は床に転がって(なんでだ)と言いたげな目で俺を見上げる。
それ以上何も言う気になれなくて……俺はさっさと食堂を出た。

□ □ □ □ □ □

ざわついていた食堂が、少しずつ静まっていく。小泉は「あのさ……」と言い辛そうに肩をすくめた。

小泉  「アタシは……左右田の意見も分かるよ。だけど……日向は、千秋ちゃんのこと、本当に好きだったんだよ。
     ……だから、あんなストレートに言うのは、ちょっと……」

豚神  「しかし、左右田にしてみればよかれと思ってしたことだ。一方的に責めるのも不公平だろう?」

小泉  「だけど……!人の心があったら、あんな言い方「今、こいつを人非人と表現するのは、人として
     正しいことか?」……う」

豚神  「お前は自分の感情に振り回されて、本質を見られない所がある」

豚神  「だが左右田、日向の怒りはプログラムの七海を否定されたことだけではないと思うぞ。
     そこにいる七海の姿をした人形……お前がそれを道具として軽んじたと、感じたのではないか?」


―― 七海の見た目が必要なら、オレが造ってやったこいつを使えばいーだろ!?

―― そんなッ……そんなことを、言うなぁぁぁ!!!


左右田 「……!!」

豚神  「人間の心は、機械のように測定できないからな。……そのケータイは別のようだが」

セブン 『白夜、私はケータイではない。フォンブレイバー・7だ』

テーブルの上に置かれた左右田のケータイが、パカッとひとりでに開いた。
真っ暗な画面に、緑色のドットで出来た目と、レベルメータの口が表示される。

セブン 『……君たちは、"絶望"と呼ばれる存在だったと聞いた』

左右田 「んだよ、またお説教か?」

セブン 『絶望も希望も、同じ"望"という漢字が入る。すなわち、元は一つということだ。
     和一、君が望むなら、そのどちらにも立つことができる。だがあえて絶望を選ぶ理由があるなら、
     私は止めはしない。ただ』

左右田 「ただ?」

セブン 『君のHDDに隠している秘密がどうなるか、保証はできない』

左右田 「ぬあっ!?お、おまっ……ケータイのくせに人間を脅迫すんのか!!?」

セブン 『……ふっ。それが嫌なら、君のすべきことはただ一つ。……創を探し出し、分かり合うことだ。
     創の心はまだ、君の圏内にある』

左右田 「……だーっ、くそ!!」ガタッ

セブン 『待て、創を追いかける前に私をバッテリーに繋いでくれ。そろそろ充電が「わーったよ、ほれ!!」……では、
     しばらくスリープモードに入る。健闘を祈るぞ、和一』プツンッ…

カシャッ。

左右田があわただしく出て行った後の食堂で、小泉は充電中のセブンをカメラに収めた。

小泉  「ねえ、このケータイって左右田の文字のせいで動くの?」 

豚神  「いや……セブンの話によると、"引きよせられた"というのが正しいらしい。気がつくと、
     左右田のケータイに入っていたとか。左右田の文字が偶然発動したんだろうな。
     "アンカー社を知らないか"とか、わけの分からない質問をしてくるが、悪い奴ではない」

小泉  「ふーん。左右田の文字って、機械に魂を入れられるんだっけ……じゃあ、千秋ちゃんの中に入ってるのも?」

豚神  「いや……あれはただ、教えこまれた情報を再生するだけの機械だ。七海千秋の人格はないだろうな」

小泉  「そっか。なんだか、さみしいね……」

二人の視線の先には、開きっぱなしの頭から青い電流を放つ七海の人形がいた。


これ終わるのしばらく先そうだな


江ノ島が蘇生したのは九頭龍の文字が関係してるのかな…?

>>112
このスレで終わるかどうかも怪しくなってきた。

>>113
九頭龍の文字は次回あたりで出したいな。



【朝日奈の部屋・ドア】


朝日奈 「あっちゃー、それはまずかったね……たぶん、日向のやつ激おこだよ」

ちょっと日向に同情しちゃう、と朝日奈は肩をすくめた。
まあ、ラブドールの七海でガマンしろっつったようなもんだしな。オレも"なんとなく"気持ちは分かるけど。

大神  「メールを送ってみたが、返事はない……日向の方もよほど参っているようだな」

電子生徒手帳を眺めて、大神はため息。

朝日奈 「学園中走り回って探すのはきついっしょ、葉隠のバカに占わせよっか?」

「さくらちゃん殴った件ダシにしたら、タダで占ってくれんだよあいつ!」と朝日奈。
自業自得とはいえ、ちょっと葉隠が可哀想になってきた。


左右田 「……いや、そこまで面倒かけんのはわりーし、自分で探すわ」

朝日奈 「そっか。じゃあせめて、このドーナツBOX持ってきなよ」ドサッ

左右田 「いーのかよ、これオメーらのおやつだろ?」

朝日奈 「いや、お腹がいっぱいになったら許してくれるかもしれないじゃん?」

大神  「日向がそこまで単純な男とは思えんが……空気を和ませるという意味では必要かもしれぬな」

左右田 「なんかほんと、サンキューな……オレがバカやっただけなのに」

朝日奈 「いいよ。その代わりこれ朝5時から行列できる限定セットだから、今度買ってきてね!!」グッ

大神  「明日の蝕が無事で済むとは限らん……喧嘩など生きているうちしかできぬ」

左右田 「分かった…じゃあ、「和一ちゃーん!!いたいた、やっと見つけたっす!!」……澪田?」

澪田  「もーっ、めっちゃ探したんすよー!!はいこれ、係のお知らせっす!」

押しつけられたプリントには、『学園長からのお知らせ』とある。
どうやら学園長が、俺たちの係を勝手に決めてくれたらしい。


澪田  「和一ちゃんは"介錯係"に決まったっす!!」

左右田 「は?かい…なんだって?」


聞き間違えの可能性も考えて聞き返すと、澪田は「死にかけの生徒にとどめを刺してあげる係っす!!」と
恐ろしい答えをくれた。

左右田 「待て待て待て!!んなこええ係があってたまっかよ!!!」

大神  「我のところにも来たぞ。なんでも"毒味係"とか……他にも"切腹係"や"影武者係"というものもあるらしい。
     学園長はどうやら、クラスの係というものを理解していないようだな」

朝日奈 「あれっ、私は飼育係だったよ?」きょとん

左右田 「いいなあフツーの係!代わってくれよ!!」

朝日奈 「あー…代わってくれるなら代わってほしいというか……」ずぅぅーん



【回想・屋上庭園】


朝日奈 『飼育係かあ……なんかすっごい嫌な予感する』てくてく

朝日奈 『あれ?あそこの紫のマフラー、なんかすごく見覚えが……』

田中  『むっ、我が結界を破ったのは貴様か!』

朝日奈 『げっ!?』

田中  『再びあい見えるとは思わなかったぞ、徒花のウンディーネよ!
     我らには何らかの縁があるらしいな……ではさっそく、魔獣どもに
     魔力を供給する手伝いを頼もうか!』

朝日奈 『やっぱり……』ずぅぅーん

_____________


朝日奈 「……それだけじゃないんだよ、図書委員も夏のプール大会の実行委員も田中と一緒なの!
     もうこれ、なんかの呪いじゃない!?」

左右田 「なんつーか……うん。がんばれ……」

澪田  「ちなみに唯吹は"雨乞い係"っす!」

左右田 「おお、責任重大じゃねーか」

澪田  「はい!今さっきおんなじ係の紋土ちゃんと千尋ちゃんにお知らせしてきた所っす!
     ホラ貝担当として、明日からのステージは盛り上げてくっすよー!」

左右田 「ほ、ほら貝……雨乞いってそんなもんだっけ?」

澪田  「経験はないっすけど、ソウルがあればどうにかなるっす!!」むふー

プリントを見ると、介錯係はオレと終里、辺古山、日向、松田の5人らしい。
……松田?

左右田 (超高校級の神経学者、っていうと……松田夜助だよな)

頭ん中に、目つきの悪いロン毛が浮かぶ。あいつも生き返ってたのか?
じゃあなんで授業も全部バックれてんだあいつ。

左右田 (それより、目下の問題は日向だな。明日は隔離型が来るし、さっさと探して話し合わねーと)


しかし、日向の怒りはすさまじかった。
ドーナツは受け取り拒否。大浴場ではフルチンで逃げられ、個室のインターホン連打もシカトされた。

……もしかして、オレたちこのまま絶交とか……ねえよな、うん!!だってオレらソウルフレンドだかんな!!


左右田 「そうと決まればさっさと寝るか……明日は蝕だし」ゴソゴソ

左右田 「…………」

左右田 「明日死んだら、オレは日向と仲違いしたまんま死ぬんだな……」グスッ



【朝・食堂】


オレの文字のせいで喋るようになったとはいえ、ケータイに説教されるというのはあんまりいい気がしない。


セブン 『和一。カロリーメイトだけでは空腹はおさまらないぞ。
     そんなバランスの悪い朝食で、命がけの試練を乗り切れると思うのか?』ピロンッ

左右田 「それどころじゃねーよ!!今のオレには蝕より親友の怒りの方が大問題なんだよ!!
     メールも返ってこねーし、これはいよいよやべーぞ……」もぎゅもぎゅ

田中  「貴様の自業自得だろう……いっそ、あの人形を破壊して特異点に許しを乞うのはどうだ?」

セブン 『……それでは、かえって火に油を注ぐことになると思うぞ』

左右田 「あああ、オレはなんてバカなことを言っちまったんだ……!」

頭を抱えるオレに、向かい合って飯を食う田中は「怒りが解けるのを待つしかないな」と
珍しく役に立つアドバイスをくれた。

ソニア 「あら、おはようございます田中さん、左右田さん」

左右田 「間が空かなくなっただけでも嬉しいです」キリッ

ソニア 「今日は隔離型が来るそうですね……できればこの3人でチームになれたら嬉しいのですが」

左右田 「えっ!?」ガタッ

田中  「何を期待している。俺と雌猫は"始"から共に行動しているが、雌猫は体力が足りないからな。
     俺一人では守り切れない可能性があるから、というだけの話だ」

左右田 「あ、そうですよね……分かってましたよ、はい」

ソニア 「あら。左右田さんと一緒に行きたいとおっしゃったのは、田中さんじゃありませんでした?」

田中  「なっ……俺が雑種の力にひれ伏すなど、万に一つもありえ「もしかして……オレと仲良く
     なりたいとか?」……今すぐ口を閉じろ「……はい」しかし、残酷な審判の刻まで猶予がないな……」

左右田 「あと5分しかねーじゃねーか!!」ガタッ

ソニア 「日曜日ですから、つい朝寝坊してしまいましたね。チョベリバですわ」

左右田 「チョベリバどころじゃねー!!つーか、ナナミ取ってこねーと!!」ガタッ

セブン 『私を七海に装着してくれるという話はいつやってくれるのかね』

左右田 「あーあー、帰ったら即やってやる!!丸腰で蝕なんてゴメンだ!!」ダッシュ


そうやってオレが焦ってる間にも、時計の針は進んで――


カッ!!


窓から見える空島が、太陽と重なってものすごい光を放った。


【日向創:Chapter3『夢』(ユメ)】


日向  「ん……」むくっ

日向  「無事に転送されたか……隔離型ということは、あと二人いるはずだ。早めに合流しないとな」

ポケットからボールペンを取り出して、指先で回しながら歩く。
今回の蝕は、雰囲気が重苦しい。暗く、淀んだ灰色の空。瓦礫の広がる地面。赤い水で満たされた池――。
子供のころお寺で見せられた地獄絵図が思い出された。


日向  「そんなに広くないな。どこかに出口が……、誰だ!」ブンッ

ボールペンを刀に変化させて構える。瓦礫の影にいた奴は「ひいっ!」と情けない声をあげた。
やがて出てきたニット帽に、オレはゆっくりと刀を下ろす。地面にへたりこんだ左右田の背中を、
「しっかりする!」と小泉が叩く。

小泉  「左右田と会う前に歩き回ってみたんだけど……出口っぽいものはなかった。
     広い道が一本あったけど、まずは合流しようと思って帰ってきたの。
     歩く間に敵にも合わなかったから、そんなに怖い蝕じゃないかもね」

日向  「危ないだろ。もし敵が出てきたら――「アタシは、それくらいしか役に立てないし」

小泉  「分かってるわよ。油断大敵、でしょ?」


一方、その頃。


霧切  「奥に行きましょう。そこに夢の主がいるはずよ」カッ

蝕の解析を終えた霧切が先に立って歩く。

西園寺 「さんせーい!ゲロブタの息で汚れた空気吸うのも限界きてたところだし、早く行っちゃおうよー!」

罪木  「あれ……?」

霧切  「どうしたの、罪木さん?」

罪木  「あ、あの赤い水……なんでしょう、かね……池、みたいに見えますけど……」

霧切  「さあ、手がかりがあるかしら?どうやら危険ではなさそうよ」

西園寺 「ふーん……じゃあ、あんたが行って調べてきてよ!」ドンッ

罪木  「へっ……きゃあああ!?」ドボーン

霧切  「罪木さん!……あなた、何を考えてるの?危険では"なさそう"というだけなのよ」

怒る霧切を、西園寺は反抗的な目で見上げる。そんな二人の後ろで、罪木がザバアッと上がった。

罪木  「ゲホッ、げほっ…!う、うっ…!」ビシャビシャ

霧切  「隔離型は3人1組でのクリアが絶対。罪木さんとの禍根は知っているけれど、
     協力してもらわなければあなたも死ぬわよ」

分かっているの?と問われて、西園寺は言葉につまった。居心地が悪そうに
もじもじと指を突きあわせる。

西園寺 「う……」

西園寺 「だって、だって、分かんないんだもん……どうやって接すればいいのかなんて……!!
     あんたとチームになるなんて、思ってなかった!!」

叫ぶなり、西園寺はくるっと踵を返して走っていく。
霧切は「使って」とハンカチを渡した。

霧切  「追いかけましょう。西園寺さんの座標はまだ近くにあるわ」

罪木  「は、はい!」

_____________

左右田 「あー……んじゃ、さっさと行こうぜ。オレも一応今回は武器持ってっからよ」

小泉  「武器……って、あんたまさか」

地面に膝をついた左右田は、抱えていたコンテナの鍵を外す。中に入っていたのは、七海だった。
スイッチを押すと『ぱちっ』と目を開けて起き上がる。

日向  「七海……」

ナナミ 「…………」

七海は微動だにしない。

左右田 「あー、アクティブモードだからよ。喋ったりはできねーぜ」

小泉  「あんたねぇ……千秋ちゃんに闘わせて自分は安全な所にいようってわけ!?」ぐいっ

左右田 「お、オレが作った武器だぞ、それを使って何がわりーんだよ!!オメーなんて自分の文字も
     ろくに扱えねーくせによ!!」

日向  「やめろ!!二人とも興奮するな!!……脱出するのが先だ「だって!」
     左右田、いいんだ。もう……絶望しなくてもいいんだ」

左右田 「んだよ、分かったみてーな口きいてよ……」

日向  「だから……何が罪滅ぼしになるかとか、いい人ぶってるみたいで恥ずかしいとか、
     そんな事は考えなくていい。ただの左右田和一として生きていていいんだ。
     元はといえば……俺が元凶なんだから」

左右田 「…………」

日向  「今やるべきことをやるだけだ。……制限時間も心配だし、早く行こう」

とはいえ、闇雲に歩いても出口は見つからない。とりあえず、小泉が探し当てたという道まで戻ってみた。

日向  「これか……この奥に蝕の"主"がいるんだろうな。前の"龍"は鍵を探す試練があったけど、
     今回はどうなんだろうな」

小泉  「あのさ、ここまで来て言うのもあれかもしれないけど……気づいた?」

日向  「?」

小泉  「この空間……影がないの」

左右田 「うおっ、マジだ!?」

日向  「俺たちの影も映らないか……龍の時はあったんだけどな。あとで霧切に聞くしかないか」


____________

霧切  「影がない……ということは、私たちは精神体のようなものかもしれないわ」たったったっ

罪木  「つまり、体は……」たったったっ

霧切  「現実の希望ヶ峰学園にそのまま残っている。この蝕は"夢"でしょう?つじつまは合うと思うけど。
     もしここで死ねば、現実の体が取り残されることになってしまうかもしれないわ。
     気をつけていきましょう」

罪木  「ふひいぃ……!じ、じゃあ…さっき西園寺さんを行かせちゃったのって……とっても
     危ないんじゃ……」

霧切  「いえ。この蝕においての"敵"はただ一人よ……ただ、それがまずいの……」

罪木  「ふえっ?」

___________



さらに奥まで進むと……そこにいたのは、巨大な『女』だった。
長い髪で、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた女が、俺たちを見下ろしている。


日向  「お前が主か?」

女   『いかにも……妾はこの"夢"の主。人間の子が来るのはずいぶんと久しぶりよのう……されど、
     骨のなさそうな奴らよ』

左右田 「んだと!?」

日向  「やめろ左右田、挑発に乗るな!」

しかし、時すでに遅し。
飛び出した七海が、腕に仕こんだガトリングを女に向けて撃っていた。

女   『ふん。夢も見られぬからくりが、無粋な真似を……』


――ドンッ!!


女の『髪』がムチのようにしなって、七海を狙う。

左右田 「あぶねえ!!……くそっ、オメーに任せた!」ブンッ


ビシッと蜘蛛の巣状にひびが入ったが、
床に縫いつけられた七海は悲鳴ひとつあげず、持ちこたえていた。

日向  「七海!」

左右田 「強化合金で作ってんだ……ちょっとやそっとじゃ壊れねーようにしてあんだよ」

そう言ってニット帽をずり下げた左右田は、「もう、七海が死ぬとこは見たくねーかんな」と呟く。

小泉  「左右田、あんた……」

小泉  「……でも、今ので分かった。あの攻撃、私たちだったらひとたまりもない。うかつに
     手出さない方がいいかも……」

そんな小泉の言葉が終わるか終わらないかのうちに、女は『退屈だのう』と自らの腹に手を当てた。
瞬間、女の腹が『カパッ』と割れて、中から無数の手が出てくる。

左右田 「ギャー!!なんだ、なんだこれ!!」

小泉  「放して!……放しなさいってば!!」じたばた

パンッ!!

日向  「弾丸がきかない!?」

女   『しばし、妾の夢を味わうがよい』

_________

______


左右田 「ん……ん?」ぱちっ

左右田 「!?!?!?」


あたりをきょろきょろと見回す左右田……は、ギロチンに首を落とされているのに気づくと
「ぎゃあああ!!オレの首があああ!!」と期待を裏切らない叫び声をあげた。


日向  「落ち着け左右田、痛くないだろ?」(十字架にハリツケ。血みどろ)

左右田 「痛てえとか痛くねえとか、そういう問題じゃねーんだよ!!」

小泉  「なんかよく分かんないけど……これが試練ってこと?悪趣味……」(in鋼鉄の処女。血まみれ)

ナナミ 「…………」

左右田 「あれ、なんで七海はなんともねーんだ?」


日向  「あいつは文字がないから、蝕には巻きこまれないってことだろ。扱いとしては小泉のカメラと
     同列なんだろうな」

小泉  「ちょ、千秋ちゃんをモノみたいに言わないでよ!事実かもしれないけど!
     そういえば、あいつ"夢の主"って言ってたっけ……」



『……知恵の回る奴らだのう。これでは張り合いがない』

『そなたらと遊んでもつまらぬ。どれ、出してやろう』


女の声と共にパアッと光が満ちて、俺たちは元の姿に戻された。
目の前に、三つの扉がある……。


女   『その扉の行き先はどれも同じ……されど、一人ずつしかくぐれぬ』

日向  「つまり、出口まではたった一人で行くしかないということか?」

女   『それもまた、試練ぞ』

左右田 「うう……こえーけど、しょうがねーよな……ん?」ギュッ

小泉  「千秋ちゃんは一緒に行ってくれるってさ」

日向  「じゃあ二人とも、学園でまた会おうな」ガチャッ

小泉  「うん。気をつけてね」ガチャッ

左右田 「……じゃ、あとでな」ガチャッ

ぱたんっ。

扉が閉まると、ひたすら真っ暗な空間が広がっている。足元は道になっていて、ずっと遠くに光が見えた。

日向  「……よし、行くか」

__________


霧切  「西園寺さん!その女に攻撃してはだめ!!」

必死の声に、扇を構えていた西園寺が「え」と目を驚きに見開く。巨大な女の手足にからまっていた糸が、
はらり、ひらりと落ちていった。

女   『ほう……あやつりの能力(ちから)か。なんとも味なものよの』

西園寺 「わたしの文字が……きいてない!?」

霧切  「その女は夢の主にして術者……文字の力がきかないの!下手に手出しをしたら……」

女   『せっかく妾の夢を味わわせてやろうと思うたに、水を刺しおって。……消えろ、小娘ぇ!!!』カッ


微笑んでいた女が、恐ろしい形相になった。両目はカッと見開かれ、
ゆらゆらと揺れていた髪が逆立つ。


霧切  「逃げて、西園寺さん!!!」

がたがたと震える西園寺は、女の髪がしなるのから目を離せないままその場に立ち尽くしていた。


バッ!!

罪木  「ぐ、かはっ…!」ボタボタ

西園寺 「ゲロブタ…あんた、何やって……」

すんでのところで割って入った罪木の下敷きになって、西園寺には傷一つつかなかった。
代わりに背中で斬撃を受けた罪木が、口からこぼれる血を手で受け止めている。

罪木  「こ、こで……死ん、だら……西園寺、さんの、体……」ゴフッ

罪木  「さ、さいおん…じ、さんの……着物、は……たかい、から……汚すわけにはっ……」ボタボタ

西園寺 「な……こんな時に、何言ってるのよ……ほんとに、バカなんじゃないの、あんたっ…!」


"癒(いやし)"


罪木の体から光が放たれた。切り裂かれたブレザーの下、えぐれた肉が少しずつ盛り上がって、血が止まる。
傷は一分ほどで、赤い痣を残して消え去った。


女   『神にも似た力よの。……どれ、気が変わった。よいものを見せてもろうた礼をやる。ちこう』かぱっ

西園寺 「げえっ!気持ち悪……」

霧切  「……行きましょう」

西園寺 「えっ?で、でも」

霧切  「あの女の体内に出口があるわ。挑発に乗らずに黙っていれば、ほんの少し悪夢を見るだけで試練を
     突破できる。簡単な蝕だったのよ」

西園寺 「…………」

霧切  「あとはまっすぐ歩くだけ。……先に出て待っているわ」

霧切は背中を向けて、女のぱっくりと割れた腹の中に飛びこむ。

罪木  「じ、じゃあ私も……行きますねぇ……」ぴょんっ

一人残された西園寺は、「きもいきもいきもい」と呟きながら、目をつぶって女の方へ歩く。

西園寺 「…………何よ。ありがとうなんて、言わないんだからね」

西園寺 「ありがとう、なんて……」

西園寺 「……今さら、言えるわけないじゃん……あたしみたいな奴が」

__________

日向  「……ん、終わった……のか?」むくっ

起き上がると、そこは元の広場だった。他にも何人か生徒が倒れている。ちゃんと胸が上下しているのに
安心した。たぶん、この蝕では俺たちの意識だけが転送されていたんだろうな。

日向  「"夢"か。その名のとおりってわけだな」

ベンチに座ると、手の中に青い欠片が落ちてくる。今回はどんな記憶が入っているのか。
前回は、江ノ島が死んだ後に絶望の残党たちを集めて演説しているカムクラが見えたが……

日向  「今回はスプラッターのない記憶がいいな……」グッ


ぱあっと光が満ちて。


おさまった時、目の前にいたのは左右田だった。
どうやらここは、奴のラボであるらしい。


左右田 『おっ?カムクラさんじゃねーか。めっずらしーのな、こんな地下まで来るなんてよぉ、
     もしかしてオレに会いたかったとか?』

ヒャハハハッと笑った左右田は、機嫌がいいみたいだ。
手術台の上にベルトで縛りつけた『何か』をいじりだす。そいつは、左右田によく似た顔をしていた。

『んーっ!!ぐ、んぐっ、んうぅぅーー!!!』

猿ぐつわをはめられた全裸の男が、必死に体をばたつかせている。
きっと、左右田が年を食ったらああいう感じになるんだろうな、と思うと同時にカムクラが聞いた。


カムクラ 『それは、あなたの父親ですか?』

左右田  『せいかーい。カムクラさんは会話がサクサク進むっから楽だよなー。江ノ島はキャラが
      ゴロゴロ変わっからよー、見てて面白れーけど話すんのはクッソだりぃんだよな』

カムクラ 『……脳と脊髄を生体で調達した自立型のロボットですか』

左右田  『そ。実の家族で造る殺戮マシーン。イカしてんだろ?』

父親   『……!!』ジタバタ

左右田は、頭蓋骨が取り外されて脳がむき出しになった父親にコードを繋ぎ始めた。
コードの先に、ガトリングガンをたずさえたロボットが見える。カプセル部分には溶液が満たされていた。
あそこに、左右田の父親の脳が入るのか。

『やめろっ………和一、やめてくれ!!目を覚ませ!!』

口が自由になると、父親は必死に叫んだ。


やめろ。

それだけはやめろ。



日向  「やめろ!!!」

九頭龍 「うわっ!?」バッ

日向  「………九頭龍か。……悪い、驚かせて」

九頭龍 「オメーといると寿命が縮むぜ……相当やばいモン見えたらしいな」バクバク

心臓をおさえて「いい加減慣れろよ」と九頭龍。カタギに無茶を言うな。


左右田 「……思い出したかよ」

隣に座る左右田は、両手で顔を覆ってため息をついた。

日向  「お前の家族は、みんな兵器に」

左右田 「オレだけじゃねーよ。ソニアさんは家族を田中の動物の餌にしちまったし。小泉の親は江ノ島の実験台。
     西園寺の家は皆殺し。花村のお袋さんはとんかつ。オレだけじゃねえんだよ……」

左右田 「怒りをぶつける江ノ島はいねえし、家族の死を悲しむ権利もねえ。普通に生きていくのも苦しい。
     ……オレ、帰ってきてよかったのかな」

左右田 「いっそ、あのまま絶望してりゃよかっ「それは違うぞ!」

日向  「俺は……まだ記憶があいまいで、実感がない。だけど、絶望の方が楽だったなんて思わない。  
     お前がやっているのはただの現実逃避だ。絶望していた頃の自分を部分的に再生して、
     答えを出すのを先延ばしにしているだけだろ」

左右田 「…………オメーって、人の心えぐるのが上手いよな」

日向  「俺が怒っているのは、お前が全部抱えこんだことだ。七海を造ってくれたのは……感謝してるんだぞ」

左右田 「!」

日向  「……ありがとう。また、七海に会わせてくれて……俺もムキになって悪かった」

日向  「ゆっくり、やり直してこう。俺も、お前も……みんなで」

そう言うと、左右田は泣きながらうなずいた。


_______

一旦切ります。
次回は不二咲の文字が出せるかな。78期でまだ文字が不明なキャラ多すぎ。


九頭龍 「青春ドラマは終わったかよ?……だったら、次はオレの話を聞いてくれよ」

九頭龍 「学園のデータベースを見てえんだ……左右田、オメーから"超高校級のプログラマー"に話つけてくんねえか」

日向  「……!!まともにはアクセスできない代物か」

九頭龍 「いざという時は、オレが一人で泥を被るからよ……オメーらは関係ねえで押し通せ」

日向  「………そんな悲しい事を言うな。俺たちは仲間じゃないか。泥を被るのも一緒だ」

左右田 「おう!大体、んなヘマ打ってたら超高校級じゃねーしな!あいつの能力を信じようぜ!」

九頭龍 「お前ら……!」



【数分後:不二咲の個室】



不二咲 「ええと、つまり……学園のデータベースにハッキングするってことですか?」

九頭龍 「バカ、んな大声で言うな!」シーッ

不二咲 「あ、大丈夫ですよぉ、個室の監視カメラは収音マイクの質が悪いから、僕たちの会話の細かいところは
     聞きとれてないと思います……」

生身の不二咲とは初対面だった。男子の制服を着ているのに、逆の意味で違和感を覚える……。

日向  (パソコンの前に座っている姿は、本当にかっこいいな。……七海が言ってたとおりだ)

セブン 『では、私が学園長のアクセス権に侵入して囮役をしよう。千尋はその間にデータベースから学生名簿だけを
     このパソコンにコピーしてくれ』

左右田 「いいのかよ……オメー、マザーコンピュータが応答してねーんだろ。いざという時のバックアップが取れねえのに
     危険な橋を渡るなんて」

セブン 『私は一度、データの海に消えた身だ……それに、冬彦の疑問はこの学園の真実を解き明かす鍵の一つとなるだろう。
     その手助けができるなら本望だ。……私がこのケータイに引きよせられたのも、おそらく同じ"力"によるものだ』

日向  「同じ力……?」

セブン 『無駄話をしている時間はない』

左右田の胸ポケットから飛び出したセブンは、パソコンの前に立って機械の手を伸ばす。
それを見ている不二咲は「わあ……」と目を輝かせていた。
     

不二咲 「このケータイ、左右田先輩の文

字なんですか!……すごいなあ、みんな自分に合った
     文字を選んでいるものなんだなぁ……」

不二咲 「よし。じゃあ、行きますよ……」カッ


"電(でん)"


セブン 『イニシエイト.クラック.シークエンス……アクセス開始!』カッ

不二咲 「よし、入った……!!」バチバチ


俺たちはただ、ぽかんとそれを眺めることしかできなかった。不二咲の手が0と1の数字に変わっていく。
ずぶ、とパソコンの画面に入った不二咲の手が、何かを探るように動いた。

セブン 『学園長のシステムに侵入完了した。千尋、今のうちに学生名簿を出してくれ』

不二咲 「よっ……と、セキュリティがきついけど、なんとか……」


警告音と共に、ポップアップがいくつも出てくる。不二咲はそれをグシャッと握りつぶしてさらに奥へと手を進めた。
やがて、電脳体の手がずるりっと何かを引きずり出してくる。『希望ヶ峰学園 生徒名簿』とあった。


不二咲 「出ました……調べるのは、ええと……「九頭龍菜摘だ」……クズリュウ、ナツミ。……検索。
     …………あれ?」

九頭龍 「どうした?」

不二咲 「名前が、出ない……」

九頭龍 「ば、バカ言ってんじゃねえ!!あいつはたしかに……」

不二咲 「ど、同窓会と本科の名簿も検索したんですけど……この学園に九頭龍って名字の人は、先輩一人しか……」

九頭龍 「らちが明かねえ、どけ!」


九頭龍は不二咲を押しのけて画面をスクロールしていく。
しかし。


『クズリュウ ナツミ』

『検索結果:0件』


九頭龍 「どうなってやがんだ……!」





不二咲の部屋を出て、混乱する九頭龍をなんとか落ち着かせる。
食堂へ着くころには、九頭龍もなんとか話ができるようになっていた。


小泉  「ええと、つまり……菜摘ちゃんのデータがないってこと?うーん……でも、菜摘ちゃん一人のデータを消す理由がないし……」

日向  「どこかにまぎれている可能性も考えて、全部のデータをスキャンしたんだが」


左右田 「結果は0件。九頭龍菜摘ってやつはこの希望ヶ峰学園にはいねーとさ」

九頭龍 「データの上だけの話だ!!」ドンッ

小泉  「テーブル叩くのはやめな!……予備学科のほうには聞いてみたの?」

日向  「俺が教室に行ってみた。佐藤も九頭龍もたしかにそのクラスにはいたらしいんだけどな。
     出席名簿にはなかった。幻の生徒ってやつだ」

花村  「やあ、みんなそろって何の話だい?そんな辛気くさい顔をしてないで、ボクの新作チョコレートをお食べよ!」

日向  「そうだ……花村だ!」ガタッ

花村  「ンフフ、待ちきれないっていうんだね?いいよ日向くん、さあ!このチョコレートに舌をはわせて、先っちょの
     ベリーをいやらしく舐めまわして、そして口にずっぽりと含ん「お前、南地区のパン屋で九頭龍の妹を見たって言ってたよな!」……え」

花村  「ま、まあ……見た、というか会った、というか……」

九頭龍 「お前、それをなんで言わねーんだよ!」

花村  「ええっ!?じゃああの子が九頭龍くんの妹って本当の話だったの!?」

左右田 「……んん?どういう意味だ?」

花村  「だって九頭龍くん、一人っ子でしょ!」


その言葉に、小泉が「ちがうよ!」と反論する。


小泉  「あ、アタシ……菜摘ちゃんのことは中学のころからずっと知ってるんだよ?花村が覚えてないだけだって」

花村  「弐大くんも一緒にいたけど、彼も覚えてないって言ってたよ!」

日向  「あの、記憶力がたいして悪くない弐大が……?たしかにおかしいな」

左右田 「……」

左右田 「なあ。オレ今、すっげー嫌なこと思いついちまったんだけど、言っていいか?」

左右田 「あのプログラムに入る前、オレたち記憶消されてたよな。もともとの記憶を消せるってことはよ……逆に
     "偽の記憶を植えつける"ってこともできんじゃねーのか?」

九頭龍 「テメエ、言っていいことと悪いことがあんだろーが!!」

左右田 「可能性の話をしてんだよ!!」

九頭龍 「それがマジなら……マジなら、オレの思い出もっ……あの島でオレとペコが小泉を殺したのも、全部っ……」

小泉  「九頭龍……」

九頭龍 「偽モンの記憶に振り回されて、いもしねえ妹のために、小泉を殺しちまったってことになんじゃねーかよ!!!」

日向  「ちがう!!それなら、九頭龍の妹がここに存在する理由が分からないだろ!!」

花村  「な、なになに?ぼく、地雷踏んじゃった……?」てるてるてる

神代  「いや、むしろファインプレーだよ」もぐもぐ

花村  「うわあああ!?」

日小左九「「「「!?」」」」


第一印象、小学生。
そいつは、テーブルに置かれたチョコレートバーをかじっていた。



神代  「僕の才能なら、お兄ちゃんたちの謎に賢者タイムのような明快な答えをあげられるかもよ」

日向  「お前は……誰だ?」

神代  「僕は神代優兎(かみしろ ゆうと)"超高校級の諜報員"なんて呼ばれている……もともと影は薄かったんだけど、
     この文字のおかげでますます仕事がやりやすくなってね」

神代は頬にある『隠』を指さした。

神代  「こうやって注目を浴びていると、露出[田島「チ○コ破裂するっ!」]の気分だよ。……妹さんの話だけど、"夢"で同じチームになるまでは
     会ってなかったんだよね?」

九頭龍 「な、なんで同じチームだったことまで知ってんだ!?」

神代  「僕の肩書、もう忘れた?」

九頭龍 「ぐっ……」

神代  「うん。妹……菜摘さんがどうして今まで当のお兄さんと接触しなかったのか。そこはブラックボックスだからさすがに分からないけど、
     菜摘さんは予備学科の生徒とも親しくしていないから、その方面から崩すのはむずかしいかな。
     ただ、意外な交友関係があるみたいだ」

日向  「意外……?」

神代  「"超高校級の野球選手"……桑田怜恩くん」

左右田 「はぁ!?どんな接点だよ!!」

神代  「桑田くんも78期の中では孤立していて、菜摘さん、あとは霧切さんくらいしか生徒と接点がないんだ。
     普段も蝕も一人で行動しているみたいだから、捕まえやすいよ。"始"の時から交流があるみたいだけど、菜摘さんの情報を得たいなら
     当たってみるのも手だね。……と、うわさをすれば」


神代が指さした先には、トレイに料理をのせる桑田がいた。


九頭龍 「……ちょっと聞いてみるか」ガタッ

小泉  「あ、待って!いきなりはさすがに「おい桑田、テメエちょっと面貸せ」なんでそんなヤクザみたいな挨拶すんのよ!」

九頭龍 「ヤクザなのは事実なんだから仕方ねーだろ!!……おい、テメエ菜摘とどこで知り合った?あいつについて洗いざらい吐いてもらおうじゃねーかよ」

桑田  「わ、悪いんすけど……オレからはちょっと話せねーっていうか……話すなって言われてるっつーか……」

九頭龍 「あぁ!?テメエあんま舐めた事抜かしてっと」ぐいっ


カッ!


"出(いずる)"


胸ぐらをつかんだ九頭龍の目の前で、桑田は姿を消してしまった。

九頭龍 「なっ……」

神代  「あーあ。あんな早漏な聞き方するからだよ。桑田くんの文字は"出"だからね。
     今みたいな瞬間移動で逃げられるか……片玉にされちゃったりするかも」

左右田 「こえーこと言うなよ!」

神代  「さて。僕は君たちにヒントをあげたわけだけど……報酬はいらないよ。僕はほかに調べることがあるから、そのついでに得た情報を
     ちょっと見せてあげたまでだからね」ガタッ

神代  「……江ノ島さんの安全も確認できた今なら、"あの人"も出てこられるだろうし……」

日向  「あの人……?」

神代  「じゃ、また近いうちに会おうね」

菓子パンの袋を引っつかんで歩き出した神代は、あっという間に食堂の背景に溶けて消えていった。
文字の能力なのか、それともあいつの才能なのか……。


九頭龍 「……んだよ、なんでこんな……わけのわかんねえ事に……」


頭を抱えた九頭龍は、「菜摘……」と小さく呟いた。

存在しない生徒。隠れていた生徒。

日向  「また謎が増えたな……一体どうすれば、真実にたどり着けるんだ……?」

________

うっかりsaga忘れた




いったん切るよ。
次回はまた蝕が起こるよ。


なんとも複雑になってきたな

そういえば、二章いなかった花村はともかく弐大は九頭竜に妹いること裁判で
知ってるはずだよな。なんで知らなかったんだろう?

地の文を減らす努力。

>>130
これからもっと複雑になるよ。

>>131
花村が知らないのは当たり前だけど。
それだと弐大の発言も矛盾する。
__________

【夢
 死亡者数:13名
 生存者数:1511名
 総生徒数:1524名→1511名】

__________


【弐大の個室】


ことのあらましを聞いた弐大は、難しい顔で腕を組んだ。

弐大  「ワシはマネージャーという才能柄、人の顔は一度見れば忘れん。
    小泉の学級裁判で九頭龍の妹の写真は見ておったからのう」

日向  「だったらなんで「結びつかんかったんじゃあ」

弐大  「目の前におる女子と、九頭龍の妹として見せられていた写真……あれが同じものと気づいたのは
     部屋に戻ってからでのう。悪いことをしたと思うたが」

今から思えばおかしな話じゃあ、と弐大は頭をかいている。

弐大  「しかし……九頭龍に妹がおった、というのはあの島で初めて聞いた。ワシが知らぬだけかと思っとったんじゃあ」

小泉  「ねえ九頭龍、そもそもあんた、なんで生徒名簿なんか見ようって思ったわけ?」

九頭龍 「……"夢"の主、って女がいただろ。ニタニタ笑ってる、でけえ女。あいつが菜摘に言ったんだ」


『久しいのう……我が娘よ』

『うつつの寝心地はどうじゃ?』


辺古山 「ただの戯言かと思ったが……私の記憶にもおかしな所があった。
     お嬢の名前が、坊ちゃんに言われるまで思い出せなかったのだ」

小泉  「そういえば、私も……あの子の下の名前、度忘れしてた……」

弐大  「この学園は、何が起こっても不思議ではないからのう」

日向  「で、どうする。俺としては調べてやりたいんだけどな」

豚神  「ひとまず九頭龍の妹のことは後回しだ。明日の予報も晴れだ……蝕の準備をする方が優先されるべきだろう」

九頭龍 「けどよ!」

豚神  「焦るな、せっかく神代がくれた手がかりだぞ。まずは定石どおりに行こうじゃないか。
     幸い、あさってからの予報は曇りだ。その間に桑田から情報を引き出せばいい。
     ……いいか。死んだら元も子もないんだぞ。まずは生き残ること。それだけだ」

【翌朝】


キーン・コーン・カーン・コーン………


学園長 『みんな、おはよう。今日も一日頑張ろう、"希望"をつかみとるために』


日向  (朝と夜のアナウンス。学園長室にあった人形を見せると、辺古山が"こいつは形代だ"と教えてくれた)もぞもぞ

日向  (神社とかによくある、体の悪いところを撫でて奉納する身代わりの人形らしい。
     落ちていた場所を考えると、あれは学園長の身代わりなんだろう)ガバッ

日向  (テレビが映ったあの日……食堂で突然消えたのも、本体の学園長は別の場所にいるからか)

日向  (学園長がいるのは、俺たちが決して行けない場所……)


着替えながら、窓の外を見る。
忌々しい空島は、今日も変わらず浮かんでいた。


日向  「いつかあそこに行って、化けの皮を?がしてやる!」

日向  「……」

日向  「最近、荒んでるな……俺」

___________


豚神  「澪田、前から言おうと思っていたんだが……」

澪田  「はいはい、なんでしょ!「はいは一回でいい」はっ、まさか結婚の約束……「違う」

豚神  「はいは一回だ。お前の文字はたしか、音で防壁を張るんだったな。……全方位に対応できないと
     いう欠点を忘れていないか?」

澪田  「あー、それは覚えてるっすけど……」

豚神  「背後や上からの攻撃には無力だと分かっているなら、もっと工夫をだな」

澪田  「むむっ、お説教の始まりそうな気配を受信したっす!そりゃ逃げろ~!」

豚神  「澪田!」


カッ…


日向  「くっ……」


空島が、まぶしい光を放つ。
反射的に手を顔の前に出して……光がおさまった時、目の前にいたのは。


日向  「!?」


すっぱだかの、七海千秋だった。


【日向創:Chapter04:『母』(ハハ)】



日向  「なっ……え、えっ?」


混乱する俺の隣で、左右田も「うわあああ!!」と叫んでいる。

左右田 「そっ、ソニアさん!?」

一糸まとわぬ姿のソニアが、左右田の頬を撫でた。
する、と首に腕を回してそのまま口づけようと顔を近づける。


ソニア 「きゃあああ!?な、なにが起こって……」

左右田 「え、ソニアさんが二人!?」

田中  「めっ、雌猫……やめろ!我が瘴気に触れれば貴様もただでは済まな……」

左ソニ 「「三人!?」」


裸のソニアが、田中の股に足を入れてそのまま押し倒す。二人の唇が重なった瞬間。


パカッ


田中  「……!?」


ソニアの顔が割れて、中からたくさんの手が出てくる。
田中を中へ引きずりこんだソニアの腹がふくらんで、透明なカプセルのようになった。


豚神  「これが今日の蝕だと!?」

裸の澪田に捕まった十神も、あっという間に引きずりこまれた。


ソニア 「田中さん!……出して、出してください!!」ガンッ、ガンッ


椅子で自分の偽物をぶん殴るソニアの後ろで、左右田がとうとう偽ソニアに食われる。


ソニア 「左右田さん!なっ、何か刃物は……」オロオロ


そんなソニアの前に、金髪の女が立った。


ソニア 「おかあ、さま……?」ぱくんっ


日向  「七海、ごめんな!」カッ


"変(へん)"


日向  「うらああッ!!」ブンッ


ざくっと手ごたえがした。おそるおそる目を開ける。日本刀がめりこんだ七海の顔が、
左右にパカッと開く。

日向  「……やめろ、やめてくれよ……」

しゅるしゅるっと伸びてきた手が、俺の体に巻きついて。

日向  「やめろ、七海ぃぃーー!!!」

俺の視界は、真っ暗になった。



罪木  「…………」

罪木  「……あれっ」ぱちっ

罪木  「何が……起こったんですかぁ……?」きょろきょろ

罪木  「ここ、どこでしょう?学校……じゃ、ありませんよね……」

ベッドに眠っていた罪木は、あたりを不思議そうな顔で見回す。
ハート柄のかわいいパジャマ。清潔なベッド。かわいい家具のある部屋。

罪木  「おかしいですねぇ……私はいつも、押し入れで寝てたはず……」

コンコン

罪木  「ひゃうぅ!?」びくーん

ガチャッ

??? 「蜜柑ー?まだ寝てたの?」

罪木  「お……かあ、さん……」

母   「もう、まだ寝ぼけてるの?朝ごはんできたわよ、下りてきなさい」


あきれたように腰に手を当てた母親。

罪木  (おかしいです……私を見ると、ぶつか怒鳴るかしかしてくれなかった、お母さんが……)

母   「ほら、座りなさい。髪の毛やってあげるから……あんた、高校生にもなってそんなんじゃ、
     お嫁の貰い手がないわよ」

優しい母親が、罪木の髪の毛をとかしてくれる。
ざんばらに切られていたはずの髪は、なぜかきちんとしていた。

とんとんとん……


父   「おはよう、蜜柑」

罪木  「おっ……おはようございますぅ……」

父   「ハハハ、実の父親にそんなかしこまらなくていいんだぞ?」

罪木  (この人も……誰なんでしょうか……?)

コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父親は、スーツを着ている。

罪木  (朝ごはんがもらえたのなんか、いつぶりでしょうか……でも、おいしいですぅ……)もぐもぐ


朝日がさしこむリビング。キッチンに立つエプロン姿の母親。まるでドラマのような光景だ。


ピンポーン


母   「あら、創くん?ごめんなさいねえ、蜜柑ったらまだご飯食べてるのよ」

日向  「いいんですよ。俺待ってますから」

罪木  「日向さん!?」

日向  「おいおい、幼なじみだろ。んなよそよそしく呼ばないで、"創"でいいっての」

罪木  (日向さんが幼なじみ……?ますます分からなくなってきちゃいました……
     ここ、一体どこなんですかぁ!?)ぐるぐる

_________


左右田 (うおおおおソニアさんが!!ソニアさんがオレと手をつないで……)

ソニア 「和一さん?どうかしましたか?」

左右田 (もう覚めなくていいや)

ソニア 「もう……また徹夜で機械いじりしてましたね?ほんとに困ったちゃんですね、和一さんは。
     朝ごはん作ってきましたから、学校に行く前に二人で食べましょう?」

左右田 「あれ、ソニアさん……料理なんて出来たんですか?」

ソニア 「当たり前だのクラッカーですわ!ほら、和一さんが大好きなツナサンドですよ!」

左右田 「……なんだ、この違和感」

左右田 「ま、いっか」もぐもぐ

_________


小泉  「お父さん、また仕事?」

父   「ああ……まったく、残業続きで嫌になるよ」クキッ、コキッ

父   「まあ、お前たちのためだと思えばがんばれるけどな」

小泉  「そう……行ってらっしゃい。無理はしないでね」

パタン…

小泉  「そうだ……アタシ、お父さんがいつも家にいるのが嫌だった。よそのお父さんが
     バリバリ働くのがうらやましかったんだ」

小泉  「……あれ?じゃあ今出てったお父さんは、一体なんなの?」

小泉  「……」

小泉  「……いいか、別に」

_________


西園寺 (……なんなの、これ)


母   「あら、どうしたの日寄子さん。あなたの好きな里芋を煮ましたのよ」

祖母  「日寄子や、今日のお稽古は疲れたろう。しっかりお食べ」

女中  「お嬢様、お召しがえですよ。お食事の前に浴衣に着がえましょうね」

広々とした座敷で、鍋を囲んだ家族。
食卓に並んでいるのは、西園寺が大好きなものばかり。


西園寺 (……仲良しの家族って、こういうものなんだ)

西園寺 (……気持ち悪い)

母   「日寄子さん?」

西園寺 「もういいっての」

父   「今日のお前はおかしいぞ」

西園寺 「おかしいのはあんた達だよ!」カッ


"舞(まい)"


西園寺 「わたしの家族は、こんなんじゃない!!」ブンッ


扇の一閃。
操られるままに、祖母が壁に頭をぶっつけて動かなくなる。


西園寺 「家元の座に執着して……子供の食事に毒を盛って……婿養子のお父さんをいびって!!」


次に、母親がぐつぐつ煮えたった鍋に頭を突っ込んだ。


西園寺 「わたしの着物を破って……足袋に針を入れて……とても口に出せないようなことをたくさんしてくれて!!」


女中たちが、包丁で首をかき切る。


西園寺 「そのせいでわたしはこんなッ……こんな人間にしか、なれなくて!!」


何度も床に頭を打ちつける父親を、西園寺は荒い息をついて見下ろす。


西園寺 「ちがう……わたしが勝手に歪んで、勝手に人を傷つけてる……
     辛いのはわたしだけじゃない、分かってんだよそんなの!!!」

西園寺 「でも、そんな生き方を選ばせたのはおまえらなんだよ!!」

西園寺 「おまえらがッ……もっと、ちゃんとした家族だったら……」


気がつくと、あたりは血の海になっていた。
動かなくなった家族に背を向けて、西園寺はつぶやく。


西園寺 「あのゴミクズみたいなやつらが、わたしの家族だよ」

西園寺 「だから、わたしは帰る」


スウッ……

そう口にした瞬間、西園寺は光に包まれた。

_______

___


西園寺 「…………」

西園寺 「……んっ…」ぱちっ

西園寺 「な、なによ……これ」

霧切  「あら、意外と早かったわね」


そこが校庭だと気づいた瞬間、西園寺は目の前の異様な光景に言葉を失った。

女。女、女。

巨大な裸の女が、何十体と立っている。彼女たちの腹は子宮を思わせる透明なカプセルになっていて、
その中で胎児のように、生徒たちが眠っていた。



西園寺 「これ……なんなの?」ぺたっ

霧切  「この蝕は、寄生型……生徒に寄生し、文字の力を食らう蝕なの。文字は"母"よ」

西園寺 「母?」


霧切はホログラムを出して説明する。

霧切  「まず、裸の女が出てきたでしょう?あれが寄生型の蝕で"女"。それぞれが思い描く"理想の女性"の姿をとって
     現れ、生徒たちを誘惑する……そして、顔の中から手を出してからめとる」

霧切  「すると、"女"は"胎"の中に生徒を引きずりこんで通常型の蝕である"母"へと変化する。
     その中で、生徒たちは幸せな夢を見る……それを夢だと看破できなければ、文字の力を少しずつ食べられて……」

霧切の指さした先には、すでに受精卵まで戻ってしまっている生徒がいた。

西園寺 「……!!」

霧切  「ああなったらもう手遅れよ。"母"の中で永遠に幸せな夢を見続けるしかないわ」

西園寺 「そうだ、おねぇは……」

あわてて辺りを見回した西園寺は、小泉の眠っているカプセルを見つけて「おねぇ!!」と叩く。

西園寺 「おねぇ、起きてよ!!おねぇ!!」

霧切  「無駄よ。"母"そのものを破壊すれば、一心同体となっている生徒たちも同じように消えてしまう。
     小泉さんが自力で夢から覚めるしか、方法はないわ」

西園寺 「だけどっ……あんたの文字、蝕の弱点が分かるんでしょ!何か方法はないの!?」

霧切  「一つだけあるけど……かなりリスキーよ」

西園寺 「教えて、小泉おねぇが助かるんだったら、わたし……」

霧切  「……」ふっ

霧切  「その心配はなさそうね。ほら」

ピシッ、と小泉のカプセルにひびが入った。幼稚園児くらいの姿まで戻っていた小泉が、目を開ける。
小泉の口が「ひよこちゃん」と動いた。


西園寺 「おねぇ、聞こえてるの……わたしだよ!目を覚まして!!」


ひびはどんどん大きくなって、元の小泉が転がり出る。とたんに"母"はしぼんで、すうっ……と消えていった。

小泉  「う……頭痛い……」ズキズキ

西園寺 「うっ、ううっ……うわあああん!!よかったよぉぉぉ!!」がしっ


泣いている西園寺の後ろで、隣り合ったカプセルに入っていた十神と澪田が出てくる。



山田  「幸せな夢といいますが……もともと現実が満たされていた僕にはあまり関係ありませんでしたぞ!」ふんす

安広  「なのに私より遅いというのは、いかがなものでしょうか」

山田  「うぐっ……」

安広  「ふふ、ちょっと意地悪を言ってみたくなっただけですわ。胎内で見る夢は刺激がありませんでしたもの」

山田  「多恵子殿にとっては蝕も遊びですか……ジャンプの打ち切り漫画もビックリの斜め上な発想には
     もうついていけませんぞ……」げんなり

安広  「誰がついてきてくれと言いました?」にっこり


次々に出てくる生徒たちを見て、西園寺が思い出したのは。


西園寺 「……そういえば、ゲr」

西園寺 「あいつ……どうして」

小泉  「日寄子ちゃん?」

ふらふらと歩き出した西園寺は、やがて目的のカプセルを見つけて立ち尽くす。

西園寺 「……嘘」

小泉  「蜜柑ちゃん……あの子、辛い育ちだって聞いてたから……夢から逃げられないんだ……」

カプセルの中で眠る罪木は、赤ん坊の姿になっていた。
楽しそうに笑っているが、だぼだぼの制服に包まれた彼女にもはや時間が残されていないのは、明白。

西園寺 「…………」

西園寺 「霧切、教えて。"母"の中に入る方法」

霧切  「負ければ死ぬわよ」

西園寺 「こいつが勝手に死ぬことの方が許せない!!わたし、まだこいつのこと許してないんだから!!」

霧切  「…………」

霧切  「いいわ。……必ず二人とも帰ってくると約束できるなら」

こっくりとうなずいた西園寺に、なにか言いかけた小泉も黙る。


霧切  「"母"の顔が二つに割れているのが見えるでしょう?あそこから夢の中に入れるわ。……終里さん」

終里  「なんだ?」

霧切  「あなた、西園寺さんを抱えてあそこへ投げこめるかしら」

終里  「おうっ!よーするにバスケのダンクだな!?」ひょいっ

西園寺 「ちょっ、何するの!やめてよ!!」じたばた

霧切  「西園寺さんの身長じゃ届かないでしょ」

西園寺 「やめてってばー!!土食べさせたのは謝るからあああ!!」

終里  「行くぜ!!歯ァ食いしばってろよ……」

西園寺 「やめてーーー!!」ぶんっ

なんと、終里赤音はダンクシュートを理解していなかった。
宙を舞った西園寺の小さな体は、見事に"母"の中へボッシュートされる。

すとんっと着地した終里は「えーと……」と自信なさげに頬をかく。

終里  「あ、あれでよかったんだよな……?」

小泉  「よ、よかったけど……ダンクってああいうのじゃないからね?」

霧切  「あとはただ祈るしかないわ……二人とも無事に帰ってくるのをね」

_________

切ります。



乙です!一気に読ませてもらいました 展開にわくわくです

>>141
あざっす。


日向  (隣に住む可愛い巨乳の幼なじみが罪木。現実の罪木よりスタイルがいい気がする)

七海  「日向くん、おはよー!昨日貸してあげたゲーム、もうやった?」

日向  (友達以上恋人未満の委員長、七海。ぼんやり七海も捨てがたいがこっちもまたよし)

ウサミ 「みなさーん、授業が始まりまちゅよー!席についてくだちゃーい!」ふりふり

日向  (優しくてあったかい担任の先生……ウサミ)


ザワザワ… オマエシュクダイヤッタ?
クッソー、テストノケッカサイアクダー ザワザワ…


日向  (これは夢だ。七海に取りこまれた中で見ている夢だ)

日向  (それは分かってるんだが……いまいちクリアの方法が分からないな。
     ゲームだったらボスがいるんだが)

日向  (…………)

日向  「そうだ、ボスだ!!」ガタッ


しーん……


ウサミ 「えーと、日向くん……?今の注釈に何か質問がありまちゅかー?」

日向  「お腹が空いたので保健室に行ってきます!」バッ

ウサミ 「日向くん!?いろいろと間違ってまちゅよー!!」


たったったっ…


日向  「どこだ、どこにいるんだ!?」ガラガラッ

日向  「……ここも外れか!」チッ


電子生徒手帳の地図を頼りに、だだっ広い希望ヶ峰学園の中を走り回る。
くそっ、夢なのになんだって校舎のデカさは現実と同じなんだ!


日向  「ここか!?」ガラッ

モブ女 「きゃー!!エッチー!!」ビュンッ

日向  「更衣室だったのか!すまん!!」


顔に当たったパンツを投げ返すと、着替えていた女子から「サイテー!」「死ねよ!」の怒号が送られる。
全部の教室を探したが、出口らしきものは見当たらない。時間だけが刻一刻と過ぎていく。


日向  「……ん?」


ピンポンパンポーン


『3年B組日向くん。B組の日向くん。至急学級裁判場まで。繰り返します、3年B組の日向くん……』


日向  「このふざけた声……モノクマだな」

日向  「ここから脱出するためには、やはりモノクマを倒すのが手っ取り早いか」たったったっ

日向  「よし、行こう。武器……は、このネクタイを」カッ


"変(へん)"


日向  「モノケモノ召喚とかされたらまずいな。早めにケリをつけるか」

日向  (エレベーターに乗りこんで、弾倉を確認。ちゃんと6発入ってるな)

日向  「待ってろよ、モノクマ……」


チーン ガラガラ


日向   「おいモノクマ!来てやった……ぞ?」

モノクマ 「待ちくたびれたよ日向くん……約束の時間からちょっと遅れてくる方がマナーだって
      カンチガイしてるパターンでしょ、君。あのねぇ、大名行列じゃあるまいし、
      ボクが呼んだらさっさと来るのが礼儀だよ。あ、クマよ」

日向   「な……なんで、んなデカいんだ、お前……」プルプル


そこにいたのは、天井まで届きそうなくらい膨らんだモノクマだった。
自分の持っている拳銃が、とたんに頼りないものに思えてくる。


モノクマ 「ボスキャラが巨大化するのってインパクトあるでしょ?だからボクもやってみたの」

モノクマ 「ま、時間もないしちゃっちゃと殺っちゃおうか!んじゃ、どっからでもかかってこーい!!」ガオー

日向   「」


__________



西園寺 「いだっ!」ドサッ

西園寺 「うう……罪木のやつ、覚えてろよ……」ヒリヒリ


ぶつけた尻をおさえて立ち上がる。わたしの目の前で、メリーゴーランドが回っていた。

右に視線を向けるとコーヒーカップ。左には100円入れると動くパンダとかの乗り物。

――夕暮れの空。


西園寺 「ふーん、遊園地か。いかにも庶民が喜びそうな安っぽいアトラクションばっかだねー」くすくす

西園寺 「つーか、罪木はどこ……」きょろきょろ

??? 「そふとくりーむ、うっ、そふとくりーむぅ♪」

??? 「あらあら蜜柑、そんなに一気に食べたらお腹壊すわよ」


当たり前だけど、夢の中の罪木は小さいし。あちこちぺたんこだった。
幸せそうだし、いっそこのままのほうがこいつのためかもしんないけど。


西園寺 「……帰るよ、罪木」ぐいっ

幼罪木 「ふゆぅ?おねえちゃん、だれぇ?」

??? 「おいおまえ!みかんになにしてんだ!」ドンッ

西園寺 「そのアンテナ……日向おにぃ!?」

幼日向 「おばさん、こいつみかんをゆうかいしようとしてる!けいさつにいわなきゃ!」

母親  「そうねぇ、創くんの言うとおり……悪い人はけけけいいさつつに」ガタガタ

幼日向 「けけけけいさつににににこ、ここころしてもももらわな」ガタガタ

西園寺 「!?」

幼罪木 「ふえ?ママ……はじめくん?」


子どもの日向おにぃと、罪木の母親。
二人の輪郭がぶれて、巨大な化け物に変わる。皮膚は緑色だし、ブヨブヨしてるし。もう二人の面影なんかない。


西園寺 「何、あいつら……頭にメスと注射器ブッ刺さってるし……もしかして、ここが罪木の夢だから?」

母親  『さあみかんんんんん、こっちにおいででええええ』グチョッ、ブチュッ

幼日向 『みかんんんんん』ベタン、ベタン

幼罪木 「い、いやだよぉ……こわいもん……」ぎゅっ

西園寺 「ふんっ、わたしを追い出すためなら罪木に怖いもの見せてもいいんだ。ずいぶん身勝手な"母"だね」

わたしの親とそっくりだ。

西園寺 「……逃げるよ。おねぇの背中にしっかりつかまって」

幼罪木 「う、うん……」ぴとっ


わたしは、罪木を背中におぶって駆け出した。
着物のすそがめくれて、転びそうになるのをなんとかこらえて、遊園地の出口に向かって走る。


幼日向 『にげるなあああああ!!!』ゴオッ

西園寺 「あつっ……!」

幼罪木 「おねえちゃん!」

西園寺 「だい、じょうっ……ぶ!」


ああ、そういえば。
あんたがわたしに弱みを見せたことなんか、なかったよね。


出口までたどり着いたところで、罪木を地面に下した。

西園寺 「たぶん、そこが夢の出口だと思う。あとは一人で行くんだよ」

幼罪木 「で、でもぉ……おねぇ……」

西園寺 「……わたしがここまでやってやってんだぞ、その前足は何のためについてんだよゲロブタぁ!!」

幼罪木 「!」びくっ

幼罪木 「……おねぇも、ちゃんときてね」とてとて


罪木は出口の向こう、真っ暗な中を走っていく。
そこでやっと、化け物どもが追いついてきた。


西園寺 「……あとは、こいつらを倒すだけだよね」カッ


"舞(まい)"


幼日向 『あああああfぢんlふぉqqi:@』ビッタンビッタン

母親  『青fwt3wq』-*1』ベタンッベタンッ


西園寺 「消えろよ偽物どもぉ!!」ブンッ


西園寺の体がくるりと回転し、左手の扇が空間を一文字に切り裂く。

瞬間、彼女を食べようと涎を垂らしていた化け物は、お互いの腹に牙を突き立て息絶えた。


西園寺 「終わった……って、あんた」

幼罪木 「………」ぷるぷる


出口のところでもじもじしてたのは、先に行かせたはずの罪木だった。


西園寺 「……しょうがないか」きゅっ


手をつないでやると、にへらっと安心したみたいに笑ってる。きもっ。かわいいとか絶対思わないからね。


少しずつ、少しずつ消えていく遊園地に背を向けて、わたしたちは光に向かって歩き出した。


日向  「はあ、はあっ、はあ……」

モノクマ「ハァ……まったく、これだからゆとり世代は。
     あのねぇ、ボクはまだ変身を残してるんだよ?オラ、もっとケツの穴締めてこいやあああ!!」

日向  「はっ、ははっ……キャラブレすぎだろ……」ヨロッ

日向  「モノクマ……江ノ島か。あいつ、最後まで理解不能だったって事なんだな」チャキッ

日向  「もっとも、あいつを理解できる奴なんか……あいつ一人だけだろうけど」


――パンッ!!


モノクマの眉間を撃ちぬいたが、奴はまだ倒れてくれない。

日向  「なんだ……何が、足りないんだ……?」

モノクマ「うぷぷぷ、だって君は」


もう時間切れだもん。


日向  「嘘……だろ」

モノクマ「ボクを倒すって決めた所まではよかったんだけどね。そこまでが長すぎダレすぎ。
     君だってこの心地いい夢から覚めたくなかったんでしょ?命がけの試練を強制される
     現実なんてもううんざりだったんでしょ?」

日向  「ちがう」

モノクマ「なにが違うっていうのさ。毎朝おっぱいで起こしてくれる罪木さんがいいんでしょ?
     左右田くんや九頭龍くんと行くゲーセンは楽しかったでしょ?
     七海さんと放課後デートがしたかったんでしょ?」

日向  「違う……俺は、現実へ……」

モノクマ「もういいじゃない。永遠に幸せな夢の中で、らーぶらーぶしてこうよ」

日向  「嫌だ!!俺は、絶対に現実へ帰るんだ!!」


だから、俺に力を――


カッ!!


伸ばした手の先に、"変"の字が浮かび上がるのを見届けて。

俺の意識は途切れた。

__________


罪木  「……う、ん……」ぱちっ

霧切  「目が覚めた?……お手柄ね、西園寺さん。あと数分遅れていたら、帰ってこられなかったわよ」

西園寺 「……」

罪木  「あ、ありがとうございましたぁ!!……こんな、私なんかを助けてくれて……」ばっ

西園寺 「はぁ?わたしがこんな使えないゲロブタ一匹助けるために命かけたとか思ってんの?
     思い上がりもいい加減にしろよ、日向おにぃに恩売ってやろうって考えただけなんだからね」

罪木  「あうぅ……」

西園寺 「あんたがいなくなったら、張り合いがないし」

罪木  「?……今、なんて「ところで日向おにぃは?まだ出てきてないの?」

照れくさいのか、むりやり話題をそらした西園寺。

しかし、霧切は暗い表情で首を横に振った。


霧切  「……これが、日向くんだった"もの"よ」

西園寺 「……は?」

指さされたのは、透明なカプセルの中にゆらゆらと浮かぶ卵子。


小泉  「うそ、これが日向……?」

両手で口をおさえる小泉。

豚神  「さっき西園寺がやったように、連れ戻せないのか!?」

霧切  「無理よ。ここまで"戻って"いるということは、完全に"母"へ取りこまれたということ……彼の文字の力は
     すべて、養分とされてしまったでしょうね」

西園寺 「そんな……おにぃ……」へなっ


しくしくと泣き出した罪木の横で、西園寺はへたりこんだ。


身勝手な自分に根気よく付き合ってくれた。
絶望として、希望として。自分たちを導いてくれた。
そして、今も……この理不尽な試練を強いられる中、十神と共に皆をまとめ上げようと努力していた。

その、日向が。


罪木  「うそです……そんなの、嘘に決まってます!!
     だって……日向さんは約束してくれたんです、必ずここを出るんだって!
     その日向さんが……し、死ぬわけっ……」

左右田 「畜生、返せ!日向を返せよ!!」ガンッガンッ

田中  「やめろ、雑種。それ以上叩いても、お前の拳が傷つくだけだ」

左右田 「ちくしょう……」ずるずる

左右田 「ぜってー認めねェかんな……まだ蝕は終わってねェ……空島が出る前に帰ってくりゃいいだけの話だ……」


黙って空を見上げた田中は、太陽の影から空島が顔を出しているのを見て心の中で呟いた。

田中  (だが、なぜだ……なぜ、特異点の死という現実に違和感がある?)


______________


???  「……体が重くなっている……脂肪、ではなさそうですが」

モノクマ 「君は……」

???  「時間がありません」すっ


地面を蹴った青年の膝が、巨大モノクマの頬に命中する。
一瞬の、静止。体勢を崩したモノクマにもう一発蹴りを叩きこんで、地面に沈めた。


???  「……命を賭けるにしては、単純すぎる試練ですね。
      この現実も、僕を高揚させることはできないということですか」

???  「……ああ、そういえば時間がないんでしたね」


空間にピシッとひびが入る。崩れゆく裁判場の中、光に向かって彼は歩き出した。



空島はすでに、その大部分を見せている。脱落者と生還者がほぼ決定する時刻になっても、
左右田はまだカプセルに縋りついていた。罪木は祈るように指を組んで、西園寺も手を合わせている。
仲間たちが見守る中、カプセルから『ピシッ』と音がした。


左右田  「なっ、なんだ!?」バッ

霧切   「!……これは、まさか……いえ、ありえないわ」

小泉   「見て、カプセルが!」


"母"の顔が苦悶に歪み、カプセルが真っ二つに割れる。
カプセルを蹴破ったのは、日向ではなく。


???  「……こんな時は、なんと言えばいいんでしたか」

田中   「貴様……カムクライズルかッ……!」

カムクラ 「ああ、思い出しました。"お久しぶりです、お元気でしたか"。でした」


羊水の中から立ち上がった日向――否、カムクライズルは、
まったく感情のこもっていない再会の挨拶をした。


カムクラ 「……そんな顔をしなくても、すぐに日向創は返しますよ。彼を生還させるという目的は果たされましたから」

少しだけ眉を動かしたカムクラが、こめかみに指を当てて目を閉じる。

カムクラ 「では、またいつか……」

すうっ、とカムクラが消える。同時に、日向の体がぐらりと地面に倒れこむ。

罪木   「、日向さん!」

左右田  「大丈夫だ、生きてっぞ!」

わあっ、と喜ぶ77期生たちを見届けて、霧切は踵を返す。

霧切   「やはり彼は、イレギュラー……あの状態からの生還は、私でも予想できなかったわ。
      だけど……」

膝をついて、呆然と地面に落ちた制服を見つめる九頭龍を見下ろした霧切。

霧切   「あなたは、ずっと夢を見ているようなものだったのね。九頭龍くん」


言われた九頭龍は、「くっ」と声のない嗚咽を漏らしてその場にうずくまった。
   


【女(通常型)母(寄生型)
 死亡者数:73名
 生存者数:1438名
 総生徒数:1511名→1438名 】


________

切ります。


日向  「カムクラが!?……それ、本当なのか!?」

小泉  「うん。みんな見てたし。あのワカメみたいな髪の毛は間違えようがないよ」

左右田 「つーか、カムクラさんってやっぱ迫力あるよなァ。ちょっと目が合っただけでこう、
     ビリビリーって来るっつーか……体の芯のあたりが凍るっつーか……」

澪田  「共振?みたいな感じっすよね」


頭の上にはてなマークを浮かべた面々に、
「音叉を二つ並べると、もうかたっぽもブルブルーってなる、アレっす!」と解説してくれる。


豚神  「……しかし、カムクラがまだ日向の脳に残っていたなら、なぜ今さら出てきた?
     日向の肉体が失われる事態は避けたいはず。"始"で出てきてもよかったはずだ」

狛枝  「たしかに気になるね……あのさ、日向君。ちょっと"変わる"ことってできるかな」

日向  「カムクラに変身しろってことか?」

狛枝  「うん」


俺は両手を合わせて「むむむ……」と念じる。


カッ!!


"変(へん)"


スゥ…


日向  「どうだ?ちゃんとカムクラになってるか?」


変身の能力を使うのは初めてだから、自信がない。
視界をふさぐ前髪をかきあげて聞くと、狛枝は「見た目だけはね」と頷く。


豚神  「意識は日向のまま、見た目だけがカムクラになったか……"また、いつか"と言っていたが、
     あいつが出てくれば日向の肉体を人質に取られてしまうぞ」

澪田  「んん??イズルちゃんは創ちゃんを助けてくれたんすよね?」

狛枝  「残念だけど、"母"の中に閉じこめられて困るのは、カムクラも同じだから……それだけの理由だと思うよ」

澪田  「ぐぎぎ……てっきり漫画でよくある、敵キャラが味方になってくれる熱い展開かと思ったら
     裏切られたっす……」

狛枝  「でもさ、さっき十神くんが言ってたとおり、出てくるなら初日でもよかったはずなんだよ。それが
     日向君の大ピンチになってやっと出てきたってことは……」

日向  「カムクラは自由に俺の肉体を使えない?」

狛枝  「少なくとも、日向君が死ぬギリギリにならないと出てこられないのかも。
     カムクラの状態で"変"の字を使えるかどうかも気になるところだけど……あのさ、そろそろ戻ってくれないかな。
     さっきから君の髪の毛が当たってチクチクするんだよね」

日向  「あ、悪い」


シュウッ…


元の姿に戻ると、「やっぱりおにぃはそのモブっぽい頭が一番だよ」と西園寺が言う。



西園寺 「今度カムクラおにぃが出てきたら、"美容師の才能は持ってないの?"って聞いてやるんだー」

日向  「西園寺……それがお前の最後の言葉になるかもしれないぞ」

小泉  「えーと……まとめると、今は心配いらないってことでいい?」

十神  「それでいいが……お前も、だいぶおおらかになったな」

小泉  「悪い?」ジロッ

十神  「いや、好ましい変化だ」フッ

小泉  「そういうあんたも、よく笑うようになったよね……えいっ」パシャッ

十神  「何をする!」

小泉  「いいじゃん、いいじゃん。私たちだけで固まってるのはよくないことかもしれないけど……おかげで
     協力して蝕をクリアしていける。それって、すごいことだよ!だって私たち、今まで一人も死んでないんだから!」

西園寺 「そういえば、九頭龍のチビはどうしてんの?」

花村  「なんか落ちこんでるみたいだったから、ご飯をドアの前に置いてきたよ。
     ……そういえば、辺古山さんもいないね」

豚神  「誰か、あとでメモを挟んでやれ。さて、次は蝕の対策会議をするか」


十神が手を叩くと、全員の表情が真剣なものに変わる。
いつもの、作戦会議だ。

豚神  「現在、生徒数は1438名……3の倍数だ。だが、罪木によると保健室にいる重傷者のうち、7、8人は今夜が山らしい。
     となれば、おそらく通常型になるだろうな」

日向  「じゃあ、通常型が来るという前提で話すぞ。まず、天気予報だ。午前中が晴れるのは、今日から6日後の水曜日。
     高気圧の動きから見て、ずれることはないと思う。
     左右田、七海の改造は終わったか?」

左右田 「おうっ、いつでも行けんぜ!」

弐大  「なんじゃ、七海をパワーアップでもしたんか」

左右田 「まず腕にガトリングだろ、それから背中に外部端子くっつけてバッテリーを増やして、目にサーチ機能つけて……あと、
     小型のレーザーガンも作ったんだぜ!」

日向  「それ以上七海を人間から離さないでくれるか?」

西園寺 「そもそも人間じゃないじゃん、あいつ」

豚神  「そっちは心配いらないな。では次、弐大とソニア」

ソニア 「はい!」

弐大  「応ッ!」

豚神  「お前たちはどちらも文字の能力を強化するサポートだ。いつも通りソニアが田中、弐大が終里につく編成で行こう。
     花村は次回、田中について行ってくれるか?」

花村  「うん、次もたくさんお肉をとるから期待して待っててね!」


また、あの麻薬みたいなステーキを食わされるのか……。



豚神  「さて、残りの編成だが……普段とは違う編成での相性が見たい。狛枝は小泉と西園寺の組に。罪木は澪田と俺の組だ」

狛枝  「二人とも、よろしくね」


二人とも、露骨に嫌そうな顔だ……。


西園寺 「ちょっとでも変な動きしたら、アタマ吹っ飛ばしてやるからね」ギロッ

豚神  「そうだ。罪木、今のうちに言っておく。俺たち二人が戦闘不能になった場合は、迷わず逃げろ」

罪木  「えっ……で、でも「お前しか、治せないからだ」

日向  「女子たちが調べてくれたんだけどな、本科で治癒系の文字はお前一人なんだ。お前の文字が戦局を立て直すこともありうる。
     いざという時は、頼んだからな」

罪木  「……はい」ギュッ


エプロンを握りしめて、罪木は弱々しい声で答えた。


澪田  「ペコちゃんと冬彦ちゃんはいつも通り二人組っすね!んで、作戦方針は!」

日向  「目標は全員生還だ!確実に倒せる敵以外は無視しろ、とにかく逃げ切れ!」


オーッ!


石丸  「何というか、近寄りがたい雰囲気があるな」モグモグ

山田  「秘密結社という感じですな」モグモグ

不二咲 「いつも固まってるからね、先輩たち。一対一だと気さくな人たちなんだけどなぁ…
     もっと仲良くしたいよねぇ」

霧切  「……苗木くん」こそっ

苗木  「心配しなくても、彼らが"絶望の残党"だってことはバレてないよ」ひそひそ

葉隠  「バレたら大パニックだべ」ぼそっ

十神  「少なくとも卒業までは隠し通す方がいいだろうな」ぼそぼそ

腐川  「じ、ジェノサイダーもたぶん、大丈夫です……ああ見えて口は堅いので……」

朝日奈 「でもさ、それってなんかさみしいよね」

十神  「俺たちがあいつらを許せているのは、"たまたま生き残ったから"というだけだ。
     殺し合いの果てに惨たらしく死んだ奴らは、のうのうと生きる絶望の残党など許せないだろうな。

霧切  「そうよ。黒幕だった江ノ島さんを仲間として受け入れろという横暴を通したんだから、
     これ以上は酷というものでしょう?」

朝日奈 「……そう、かな……」

十神  「そうだ」

朝日奈 「……」


__________


ガチャッ



左右田 「たっだいまー、元気してたかオメーら」

ナナミ 「……」かちかちかちかち

左右田 「なあ、そのピンボールゲーム楽しい?パソコンに入ってる奴だろそれ。七海はもっと歯ごたえあるゲーム
     やってたぜ。ところで、解析は進んでっか?」

セブン 『ファイルの解析は終了した。今さっき千尋にすべてのデータを送ったところだ』キュゥン…

左右田 「おお、ありがとな!」

セブン 『しかし、気になるデータがある……和一、これを見てくれ』パッパッ

左右田 「なんだ?"なら……しか高校入学案内"?フツーのパンフレットじゃねーか」

セブン 『ナラカ、と読むらしい。日本中の地名を検索したが、こんな不吉な地名はどこにもない。
     考えられるのは架空の学校か、それとも……』


この大人なケータイはそこで言葉を濁した。


左右田 「不吉な地名、ってどういう意味だよ」

セブン 『ナラカ、とはサンスクリット語で……"地獄"を意味するのだ』

左右田 「……!!」

セブン 『このパンフレットは、サーバーの最奥にプロテクトが何重にもかかった状態で保管されていた。まだ
     すべて確認できていないが、おそらくこの怪奇現象のヒントになるものだろう』

左右田 「で……それをオレに聞かせてどうするんだよ、まさかオメー」

セブン 『私は、次の蝕までにそこからファイルをコピーしようと思う』

左右田 「分かってんのかよ……学園長に見つかったら潰されんぞ」

セブン 『だからこそ、千尋には任せられない。前にも言ったが、私は一度自我を失った身だ。再びの消滅は何も恐ろしくはない。
     こんな奇妙な縁で君たちと出会った……助けになれるなら、本望だ』

左右田 「そうかよ……」

セブン 『……和一、君の心を受信した。君は、優しいな』フッ

左右田 「オメーがこのケータイに引き寄せられた理由が分かれば、なんか役に立つってだけだっつの」

セブン 『一つだけ頼みがある。私の自我が予定通り消滅した後は、私を七海に装着してくれ。きっと役に立つ』

左右田 「ああ、約束だ」

セブン 『では、後は頼んだぞ……バディ』


ふっ、とレベルメータの顔が消えた。もうサーバーの中に行っちまったんだな。


左右田 「……なんだろ、すげー嫌な予感すんな」

背筋がざわざわする。
直感は終里のスキルだろ?


なんとなく、次の蝕はやべーもんが来る。
そんな予感がした。


______


今日は短いけどここで切るよ。
次回は蝕だよ。


巻末にあるならかようちえんパロのようなもの

_____________


【きぼうがみねようちえん ぜつぼうぐみ】


日向  「はーい、みんなあつまれー。希望ヶ峰幼稚園の時間だぞー」


<わー(白衣を着た日向の周りに集まる77期生園児たち)


西園寺 「つーかさあ、なんで日向おにぃが先生役なの?」

日向  「苗字が原作キャラとかぶってるからだ」キリッ

小泉  「そんだけの理由なんだ……」

日向  「……素でスモッグが似合う高校生とか初めて見たな。
     んじゃ、西園寺がキレる前に行くぞー」


【はなむらくんのしつもん みんなのもじがどこにあるのかおしえてください】


日向  「とりあえず一覧にしてみたぞ」


日向→『変』左手の甲 左右田→『機』うなじ 小泉→『写』喉元  田中→『獣』左胸 

罪木→『癒』右手の甲 豚神→『偽』鎖骨  西園寺→『舞』左足首 終里→『闘』右太もも

ソニア→『生』左手首 弐大→『助』腹   九頭龍→『冬』うなじ 辺古山→『刀』右胸

澪田→『音』右二の腕 狛枝→『運』左足  花村→『食』尻


九頭龍 「お前……ケツに文字あんのか」

西園寺 「うえっ!?さすが下半身でモノ考える変態ヤローは違うよね!」

花村  「ぼくがやったわけじゃないってば!!」

日向  「おい、花村が変態なのは本当だけどそこまで言ってやるな」

花村  「」

日向  「というわけで、次回の希望ヶ峰幼稚園をお楽しみにー」ヒラヒラ

花村  「オチはないの!?」






>>1「さて、続き投稿するか」

>>1「ファッ!?公務員試験って四次まであるんか!時間NEEEE」

そんなわけで、とりあえず書きだめ分だけ投下してくよー

_________


コンコン…


日向  「九頭龍、飯持ってきたぞ」

花村  「ねえ、もう3日目だよ。そろそろ出てきてよ。今日の味噌汁は日向くんのエキスがたっぷり入った特製なんだよ!」

日向  「誤解を招く表現はやめろ、何も変なものは入れてないぞ、本当だ!」


ガチャッ


九頭龍 「うるせえな……後で食うから置いてけ」


3日ぶりに見た九頭龍は、いつもの迫力がそぎ落とされていて。

小さい体がますます小さく見えた。


日向  「……お前がずっと部屋に閉じこもっているのは、妹さんの姿が見えなくなったのと関係あるのか」

九頭龍 「だったら、何だってんだよ。腰抜けって笑うのか?」

日向  「どういう意味だ、俺はただお前が心配で……」

九頭龍 「余計なお世話だって言ってんだ!……っ、うるせえ!!」


九頭龍は部屋の中に振り返って叫んだ。


日向  「誰かいるのか?だったら悪か「とにかく、……オレのことはいいから、ほっとけ!」バタンッ

花村  「あーあ、やっちゃった……」ハァ

日向  「とりあえず食事だけ置いて戻るか」コトッ


<オーイ

日向  「なんだ、朝日奈?」

朝日奈 「ちょうどよかった!あのさ、一緒に葉隠の部屋に来てくんない!?」

日向  「はっ?……葉隠?」



【葉隠の部屋】


朝日奈 「はがくれー、日向連れてきたよー」キィッ


葉隠康比呂という男を、俺はよく知らない。

朝日奈いわく「ロクデナシ」の五文字で片付くらしいが、

布団をかぶってブルブルふるえてる葉隠には、「ビビリ」の三文字も加えてやりたいと思った。



葉隠  「あ、あああ日向っち……初めましてだべ……」ガタガタ

日向  「悪いが、時間がないんだ。介錯係の仕事があるからな」

朝日奈 「えっ」

日向  「日本刀の手入れと使い方講座だ。その道のプロ、辺古山ペコ先生をお招きしている」

朝日奈 「」

日向  「で、何の用だ」


聞くと、葉隠は「すー、はー」と深呼吸して、

やっと覚悟を決めた。


葉隠  「日向っち……いや、日向っちとカムクラっちの二人に、予言があるべ」

日向  「!」

葉隠  「俺の"予"は10割当たる。だから、今から俺が話すのは……絶対にやってくる未来の話、って思ってくれ」

日向  「それで、なんで俺なんだ?苗木に話す方がいいんじゃないのか?」

葉隠  「それは、その……日向っちに聞いてほしいからだべ」


目が泳いでいる。嘘だな、と思った。

きっと、苗木には言えないような未来なのかもしれない。


葉隠  「日向っち……次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。"始"と同じ……いや、それ以上に。
     カギを握るのは、朝日奈っち」

朝日奈 「わ、わたし?」

葉隠  「だから、朝日奈っちに万が一のことがあっちゃいけねえんだ」

日向  「……分かった。俺がそばについて守る」

朝日奈 「日向!」

葉隠  「それを聞いて安心したべ。……これが一つ目の予言。二つ目は、日向っち自身のことだ。
     日向っちはいずれ、"神の力"を分け与えられる」

日向  「神?お前、何を」

葉隠  「日向っちは、神の後継者の一人に選ばれたんだべ」


バカバカしい予言だ。

でも、笑って済ませるのは、葉隠の真剣な目が許してくれない。


葉隠  「その力は、カムクラっちでは正しく使えない。だから、日向っち自身が選ぶ必要があんだ。
     でも、それはまだ先の話だから、ちゃんと全部の真実を知った上で決めろよ。
     そんで、いよいよ三つ目。最後の予言だ」


ごく、と喉が鳴る。

回避不可能な未来の話に、俺も緊張しているようだ。


葉隠  「六道紅葉」

日向  「ろくどう、もみじ?」

葉隠  「みんなを助けてくれる人の名前だべ。その時が来たら"呼ばなきゃ"いけねえから。
     しっかり覚えとけよ」

日向  「分かった……」コクン

朝日奈 「ねえ、葉隠……どうしちゃったの?あんたらしくないじゃん」

葉隠  「俺、今まで人の役に立とうとか思ったこと、なかったんだべ。神蝕に巻きこまれてからも……死にたくねえって、
     そればっか考えてた」

葉隠  「でも、これが"信頼"されるってやつなんだな……意外と悪くねえって思えたべ」

朝日奈 「葉隠……」

葉隠  「んじゃ、予言で疲れたから寝るべ」ゴソゴソ

日向  「分かった。……ありがとう」

葉隠  「どういたしましてだべ。……死ぬなよ、二人とも」


ちょっと清々しい表情の葉隠に見送られて、俺たちは部屋を出た。

そして――運命の水曜日がやってきた。


_________



豚神  「どうやら、隔離型の発生は避けられたようだな……お前たちは、作戦会議の通りに動け。
     朝食分のカロリーをすべて消費するくらいでなければ、神蝕は生き延びられないぞ!」

澪田  「おーっ!!……輝々ちゃんも!」チラッ

花村  「お、おー!」グッ


日向  (そろそろか……)ガタッ


教科書を片付けて、立ち上がる。

机に立てかけておいた刀を握りしめて、窓の外を眺めた。


――次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。


日向  (そうだ……葉隠との約束があった。朝日奈を探し出して、守らないと)


大神は、西地区で予備学科の奴らのリーダー的なことをしているらしい。

そもそも朝日奈が「自分の身は自分で守る!」と俺の助けを拒否していた。


日向  (葉隠があそこまで言うってことは、今日の蝕は相当きついな。
     少なくとも、文字を上手く使えない朝日奈じゃ乗り切れないレベルか)

<ガラッ


朝日奈 「日向、今日は……その、ごめん。メーワクかけるね」

罪木  「わ、私は朝日奈さんと一緒に行けてうれしいですよぉ!」


左右田 「七海ー。AI同士でブッキングとか起こってねーか?」カチャカチャ

ナナミ 「うん、大丈夫……だと、思うよ」

左右田 「あ、そうだ。あとで不二咲にメールでファイル送っとかねーと……よしっ、装填完了!
     大事にしろよ、セブンが自我と引きかえにくれた力だかんな」ギギッ


腕にケータイ型の通信機をつけられた七海は、「うん、大事にする」とうなずいた。



九頭龍 「………」ブツブツ

小泉  「ねえ、さっきからうるさいんだけど……誰としゃべってんの?」

九頭龍 「……そっか、菜摘は……ありがとな、教えてくれて……で、今日は……
     ああ、蝕が来んだよ……それで……」ブツブツ

小泉  「……!」ゾッ

西園寺 「……ねえ、この学園の中に閉鎖病棟ってある?」


独り言を話す九頭龍の目は、焦点が合ってなかった。

ここまで追いつめられていたなんてな……気づいてやれなかった自分がふがいない。

この蝕が終わったら、ちゃんと話を聞いてやらないと。


九頭龍 「じゃあ、そろそろ時間だからよ。オメーらと話せて気が楽になったぜ、じゃあな」ガタッ


と、立ち上がった九頭龍はさっさと辺古山の方へ行く。

今のはなんだったんだ?


罪木  「わ、わたし…カウンセリングは専門外でっ……ふええ、肝心な時に役立たずな才能で
     すみません……」ぐすぐす

狛枝  「彼の希望が潰されるのを黙って見ているしかないなんて……僕はなんて無力なんだ……」ブルブル

日向  「……悪いが、あいつのことは蝕が終わった後に考えろ。
     今日は通常型だ!蝕が来る前に、早く外に出るぞ!」ガラガラッ


――カッ!!


日向  「なん、だ……!?いつもより、まぶしっ……」

とっさに、顔の前に手をかざす。

光がおさまった時、見えたのは。


罪木  「ひ、日向さん!空が……!」


灰色の空に現れた、いくつもの水紋だった。



【日向創:Chapter05:火(ヒ)】



外に出た俺たちは、誰からともなく空を見上げる。

灰色の空に、ゴロゴロ…と雷が鳴った。


霧切  「……」カッ!


"索(さく)"


霧切  「……火?」


ホログラムには、この蝕が『火』であるという以外に、何も情報が出なかった。

霧切の文字でも解析できない蝕ってことか?


豚神  「っ、お前たち、固まりすぎだ!!散れ!!!」


十神が叫んだ瞬間、空の水紋から『ジャラッ』と何かが下りてきた。

――蛇だ。白い骨だけの蛇。そいつらが、口を大きく開けて、俺たちを狙う。


狛枝  「まずい!あいつら、意思があるみたいだ!!」ダッ

日向  「くそっ……みんな、避けろ!!影に入れ!!」タッ


俺の号令で、みんなが一斉に走り出す。

蛇は『ガチガチ』と牙を咬み合わせて、ものすごいスピードで降りてくる。


豚神  「いつもの蝕より動きが早い……澪田、防壁を!」

澪田  「了解っす!!」カッ!


"音(おと)"


空中から龍の頭がついたギターを取り出した澪田は、弦に指をかける。

澪田  「まずはC4!」ジャアーンッ

二人を狙って降りてきた蛇は、見えない壁に弾かれて『ギイッ!』と吹き飛んだ。

澪田  「ひゃっほーう!!アドレナリンぜんかーいっ!!
     いっくよー、それじゃあ一曲目!"10年ぶりに地元に帰ったら幼なじみが塀の中にいた"ー!!」ギャギャギャ

豚神  「やめろ!!せめて放課後ポヨヨンアワーとやらの曲を……ぐおおお!!耳が、あ……割れ……!」


攻撃判定のあるバリア。それが澪田の文字だ。

しかし、範囲はあまり広くない。俺たちは蛇を打ち返しながら、なんとか避けるありさまだった。


西園寺 「に、逃げなきゃ……あっ!」ドテッ


着物のすそに足を引っかけて、西園寺が転んだ。


日向  「西園寺!立て、はやく!!」

西園寺 「あ、足、ひねって……!」

小泉  「危ない!!」ドンッ

西園寺 「おねぇ?……きっ、きゃあああ!!」


突き飛ばされた西園寺が、悲鳴をあげた。

両足に蛇が噛みついた小泉は、西園寺が無事なのを見て「よかった……」と呟く。


小泉  「ううっ……!」

なんとか抜けようとするが、蛇はガッチリと小泉を地面に固定していた。



小泉  「ひよ、こちゃ……逃げ……」ゴフッ

西園寺 「いや、嫌だ!!小泉おねぇ!!」ブンブン

小泉  「いい、から!!」

西園寺 「!!」びくっ

小泉  「お願いだから……逃げてよ……日寄子ちゃ、んを…守れ、たら……アタシ……」


ゴオッ!!

小泉の体に噛みついた蛇が、青い炎へ形を変える。


西園寺 「あ、ああ、っ、ああああ!!おねぇぇぇ!!!」


叫ぶ西園寺の目の前で、小泉の体は炎に包まれた。


小泉  「……あー、あ…やっぱ、り……アタシ……」

小泉  「こん、な……役に、しか……たて、なかっ…た…か……」ガクッ

罪木  「西園寺さん!」ぐいっ

西園寺 「な、何するの!?まだおねぇが……離して、離してよぉ!!」ズルズル

日向  「あ……」ハッ

日向  「小泉……!小泉ぃぃ!!」バサッバサッ


ジャケットを脱いで、火を叩く。

そんな俺の手を、今度は朝日奈が「逃げよう!」と引っぱった。


朝日奈 「ごめん、小泉ちゃん……」ギュッ

日向  「そん、な……」


『だってアタシたち、まだ誰も死んでないんだから!』

作戦会議の食堂で、小泉は嬉しそうに言っていた。

どこかで油断していたんだ。

これが命がけの闘いだってことを、忘れていたんだ。


日向  (俺はまた、小泉を守れなかった……!!)ギリッ

朝日奈 「ねえ、日向!この蝕って、"火"なんだよね!?」

日向  「ああ!!」

走りながら答えると、朝日奈は「やっぱり」とうつむく。

朝日奈 「そっか……葉隠が"カギを握るのは朝日奈っち"って……そういうこと、だったんだ」ザッ

止まった朝日奈は、手のひらを空へかざす。

……そこで、動きが止まった。


日向  「どうした?」

朝日奈 「あ……」カタカタ

日向  「おい、朝日奈!早く水を」


その時の朝日奈が何を思い出していたか……それは想像がついた。

『始』が終わった後、体育館で初めて文字を発動した日の記憶だ。

____________


朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ

日向  「朝日奈!?」

朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ……!」ビチャビチャ

____________


日向  「……い、おい、朝日奈!!」

朝日奈 「……!」ハッ

日向  「大丈夫だ、お前ならできる。まずは水を使うものを」

朝日奈 「い、いや……」ガタガタ

朝日奈 「っ、できないっ!!…私には、できない!!」バッ

日向  「朝日奈!!」


朝日奈は俺の手を振り払い、目にも止まらぬ速さで逃げていく。

追いかけようとした俺の前に、蛇が立ちふさがった。


火   「……」ガチンガチン

日向  「仕方ないな……まずは、今日を切り抜ける!」ブンッ


刀を振りかぶって、蛇を切り伏せる。
それを繰り返すうちに、空が少しずつ晴れていった。


日向  「終わったか……」シュゥッ

刀をハンカチに戻して、ポケットに突っこむ。

日向  (とりあえず、みんなの安否を確認しよう)


そう思って校庭に向かった俺は、「日向さん!」と呼ばれる。


罪木  「よかった。日向さん、無事だったんですねぇ…」

日向  「お前もな……って、辺古山!?」


罪木の肩に手を回した辺古山は、血まみれで苦しげな呼吸を繰り返していた。

制服の袖がちぎれて、ポタポタと血が落ちている。


辺古山 「心配、するな……右腕を、持って…行かれた、だけだ」ゼーゼー

日向  「俺がおぶった方が早い、罪木!保健室は!?」ガバッ

罪木  「鍵ならここにありますぅ!さ、先に行って……ひゃああ!?」ステーン

日向  「っ、お前も!」ぐいっ


辺古山を背中にかついで、空いた右手で罪木を引っぱる。

保健室の前には、ケガをした生徒が集まっていた。


モブ生 「うう……いてえ、いてえよぉ…」

モブ生 「お母さん……」

罪木  「み、みなさぁん!順番に治しますから、押さないでくださぁい!」アタフタ


とりあえず、ベッドに辺古山を寝かせて額の脂汗を拭いてやる。


日向  「そういえば、九頭龍はどうしたんだ?」

辺古山 「はぐれ、て……しま、った……不覚、だが……」ゴホッ

罪木  「……」

辺古山 「どう、した……治せ、ない……のか?」

罪木  「ごっ…ごめんなさぁい!!」バッ

頭を下げた罪木は、そのまま「うう…」と泣き出した。

罪木  「わ、私の文字はっ……もうなくなった腕を、生やすことはっ、できないんです……!
     血を止めて、傷口を塞ぐことしかっ……」

辺古山 「そうか……」フゥ

日向  「お、俺が探してくる!どこかに落ちているかも「無駄だ。あの蛇に食われてしまった」……くそっ!」

辺古山 「……気持ちだけで、十分だ。ありがとう」

罪木  「ふえっ……ぐすっ、せめて、左右田さんに義手を頼んでおきますねぇ……」

辺古山 「ああ、頼んだ」


それ以上見ていられなくて、俺はそっとベッドを離れた。


日向  (先に食堂へ行こう……)ガラッ

九頭龍 「!…日向か」

日向  「今は入らないでおいてやった方がいいかもしれない」

九頭龍 「なんでテメーにんな指図受けなきゃいけねえんだよ!」

日向  「分からないか!……辺古山だって、泣きたい時はある」

九頭龍 「……」

九頭龍 「なあ、日向……小泉、死んじまったんだよな」

日向  「ああ」

九頭龍 「なのによォ…オレだけ、ずっとペコの後ろで守られててよ……情けねえったら
     ありゃしねえ!小泉は、ダチ守って死んだってのによ……!!」ガンッ

九頭龍 「なんでオレは……こんなに弱えんだよ……」



【夜・自室】


ベッドに入ってからも、目が冴えて眠れない。


日向  (……小泉真昼。男子には口うるさかったけど、しっかり者で……いい奴だった)

日向  (西園寺は、また祭壇を作ってやるんだろうか。二回も親友を失って、あいつは立ち直れるんだろうか)


そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。


【翌日】


日向  「おはよう、みんな」ガラガラッ

日向  「……って、あれ?今日は自習か?」

田中  「ついさっき、闇の君主よりの使者が授業の中止を伝えに来たぞ」

日向  「このタイミングで自習か。……嫌な予感がするな」

左右田 「あーあ…今日から二日間晴れかァ……ホントついてねえ」ボリボリ

終里  「……?」スンスン

弐大  「どうしたんじゃ、終里」

終里  「匂うぞ……」

弐大  「そりゃ、蝕の前触れじゃあ。お前ほど鋭ければ匂うのも「ちがう、そんなチャチなもんじゃねえよ」

終里  「なんだ、これ……すげー怖え……なんでオレがこんな」ガタガタ


終里の言葉が終わらないうちに、空にゴロゴロ…と雷が鳴った。

空に浮かぶいくつもの水紋……まさか。


豚神  「お前たち、考えるのはあとだ、外へ出るぞ!」

ソニア 「おかしいではありませんか!なぜこんなに早く……」

田中  「それより…昨日と同じ予兆というのは、どういうことだ!」

日向  「……」

日向  「学園長が言っていたんだけどな、文字にはいくつか特殊なものがあるらしい」

ソニア 「特殊……?」

日向  「神、王、国、死……あとは四大元素。俺が聞いたのはこれだけだった。
     今回の蝕は"火"だよな?」

弐大  「むっ?つまり、この"火"は普通のやり方では倒せないということか!?」

終里  「なあ、さっさと外出ようぜ!!ここにいても狙い撃ちされんぞ!」ダッ

弐大  「お、応!!…すまんが日向、その話は生き残ってからじゃあ!」タッ

日向  「……まずいぞ、俺の予想が当たってたら」


校庭に出た俺は、悪い予想が大当たりだったことを知った。

ザアアアッ…!

炎をまとって下りてくる、白骨の蛇。その数は昨日の倍以上だ!



日向  「くそっ、さばき切れない!!」ガンッ、ギインッ!

ナナミ 「……」ガガガガガッ


七海の腕に仕込まれたガトリングガンは、一寸の狂いもなく蛇の脳天を撃ち抜く。


左右田 「おい七海、一旦下がれ!あぶねーぞ!!」

ナナミ 「大丈夫…それより、日向くんが」

ナナミ 「!」ダッ

日向  「あっ…!」

いつの間にか、すぐ目の前に蛇が迫っていた。

ナナミ 「日向くん!」ドンッ


炎の舌をちろちろ出す蛇を、七海の膝が蹴り飛ばした。

グシャアッ!

蛇は校舎の壁にぶち当たって、粉々になった。


ナナミ 「日向くん、大丈夫!?」

日向  「あ、ああ……」

ナナミ 「よかった……」ホッ


ただの機械のはずなのに。

眉を下げて胸に手を当てる仕草は、本当に七海千秋そのままで。

左右田 「二人とも無事か!?」

日向  「俺は平気だから、西園寺の所へ行ってやってくれ!!」

ナナミ 「分かった、行ってくるね」トコトコ


歩き出した七海の後ろ姿を、左右田は不思議そうな顔で見る。


左右田 「……そういやあいつ、さっきコマンドなしで動いたよな……」

日向  「なんだって?」

左右田 「いや…なんでもない」タッ


そのうち、空が少しずつ明るくなって蛇が消えていく。

シュゥッ…

俺は刀を消して、昨日より血なまぐさい校舎に入った。



日向  「そうだ、辺古山!」ダッ

血で滑る廊下を、保健室目指して走る。

もしものことがあったら……!

日向  「辺古山!」ガラッ

罪木  「治りましたよ。起き上がってみてください」パアア

花村  「よっ……と、お?……すごいね!さっきまで引きつれて痛かったのが、もう治ってる!!」

日向  「花村、お前もケガを」

花村  「うん。とっさに手をかばったら、背中をね……さっきまでズル剥けのグジュグジュ。
     あの痛みと、治療中腰に乗ってた罪木さんのお尻の感触は忘れないよ」


字面だけ聞くといやらしいが、相当な重傷だったらしい。

料理人らしく手をかばって、背中に噛みつかれたのか。


日向  「大変だったな……今日はおやつなんていらないから、休んでろ」

花村  「ううん、やらせてよ。ぼくの才能って、蝕では役に立たないから……せめてみんなを
     元気づけることしか、ね?」

そう言われると、返す言葉もない。


花村  「それに……これが、ぼくにできる精一杯の償いだから」ガラガラッ

西園寺 「……」ベチーンッ

狛枝  「いったあ!……西園寺さん、ばんそうこうはもっと優しく貼ってくれないかな。
     一応僕もけが人だよ?」ヒリヒリ

西園寺 「はぁ?私が消毒してやっただけでもありがたいと思いなよ」

狛枝  「そうか……この程度の不運では、罪木さんのお尻と等価交換できないのか……」ボソッ

西園寺 「ど う い う 意 味?」ギロッ

狛枝  「いたたたっ!やめて、髪の毛引っぱらな……あ、日向くん!助けて!!」

日向  「……今のはお前が悪い」


そこで、ベッドで寝ていた辺古山が起き上がった。

辺古山 「日向?来てくれたのか」

日向  「ああ、お前が心配でな」

辺古山 「嬉しいことを言ってくれる……ここにも蛇は来たが、
     今日は澪田がついていてくれたからな、片腕でもどうにか対応できた」

澪田  「唯吹バリアーは無敵っす!」グッ

日向  「そうか…よかった」ホッ

澪田  「んじゃ、唯吹は一旦失礼するっす!ペコちゃん、安静にしてなきゃダメっすよ!
     お腹冷やさないように、ちゃんとお布団かけるっす!」

辺古山 「分かった」くすくす

澪田  「あとでご飯持ってきてあげるっすねー!」


パタン…


澪田が出ていくと、辺古山は暗い表情で布団を握りしめた。



辺古山 「……小泉のことなんだが」

日向  「聞いたのか」

辺古山 「私が……全力で走れば、小泉を助けられたかもしれない」

日向  「……」

辺古山 「だが、私の後ろには坊ちゃんがいた。あの人を守らなければと……その想いが、
     勝っていたのだろう。あと一歩で、間に合わなかった」

日向  「辺古山……お前が気に病む必要は」

辺古山 「分かってる。きっと小泉も、この場にいれば同じことを言うだろう。だが、私は……」

辺古山 「私は、今度こそ……小泉を生かしたかった……!」ポタッ



九頭龍 「……入れねえじゃねーか」

九頭龍 「……」

九頭龍 「また、オレが……小泉を死なせたんだな……」

九頭龍 「くそっ!」ガンッ

_________


コンコン…ガチャッ


学園長 「やあ、戦刃さん。おつかれさま、ちょっと甘味でもどうだい?」ボリボリ

戦刃  「いただきます」ボリッ

学園長 「さすが花村君は、お菓子作りも一流だね。冷蔵庫に入っていたのを勝手に持ってきちゃったけど、
     彼が死ぬのは惜しい」ボリボリ

戦刃  「……学園長先生は、みんなを根絶やしにするつもりなんですか?
     私でも、かすり傷が出来たくらいなのに……」

学園長 「嫌だなあ、人聞きの悪い。あとは朝日奈さんが勇気を出すだけでこの蝕は終わるよ。
     そういえば……戦刃さんはいつまでここにいるつもりだい?」

戦刃  「分からない…だけど、学園長先生が"盾子ちゃんの代わりに絶望を見せてあげる"って……」

戦刃  「そう、言ったから……それを見届けるまでは、私があなたを守りたい」

学園長 (そんなことも言ったっけ。……まあ、戦刃むくろは莫迦なりに使えるしな。
     しばらくは機嫌をとっておくか)

学園長 「……っ」チクッ

戦刃  「先生?」

学園長 「いや、何でもないよ」

学園長 (死して尚、心は肉体に……霧切仁という男も、たいがい化け物だな)

________



【食堂】


さすがの西園寺も、もう一回あの禍々しい祭壇を作る気にはなれなかったらしい。

真っ赤に泣き腫らした目で、罪木が背中をさするのも振り払わない。


田中  「人の悲しみには、波がある。想い出は静けさの中で蘇り、遺された者をさいなむ。
     西園寺は今、その時なのだろう」

ソニア 「私たちに何かできることは……」

田中  「強いて言うなら、生きることだ。……いつ、誰がそうなるとも限らないということを、
     心に刻みつけることだ」


田中の言葉は、集まった仲間たちの胸の奥底へ沈みこむ。

みんな、ふとした拍子に一人分空いた席を見ていた。


豚神  「小泉が死に、花村と辺古山が負傷した……今回の蝕は桁違いの強さだな」

日向  「昨日より蝕の始まる時間が早かった。敵の数も多かった。……ということは、
     弱点となる文字で致命傷を与えない限り、日々パワーアップして襲いかかってくる」

左右田 「こいつに全滅させられた年は何度もあっからなァ」

日向  「左右田?お前、何か知ってるのか」

左右田 「いや……話すと長くなっから、今はしねえ。まずはこの"火"をどうにかしねーとな」

日向  「それなんだが……"火"の弱点は、"水"。つまり、78期の朝日奈葵が鍵なんだ」

西園寺 「だったらっ…だったら、すぐその女に」

日向  「いや……朝日奈は"始"の時に文字の発動を一回失敗しているんだ。
     それからあとは、せいぜい水の入ったコップを出す程度で……大がかりな水を出すのが
     恐ろしいんだと思う」

罪木  「"火"の一日目でも……逃げてしまったそうなんです」

西園寺 「何それ……そいつがちゃんと闘えば、小泉おねぇが死なないで済んだのにっ……!」

豚神  「……日向、行くぞ。まずは話をしてみよう」ガタッ

日向  「ああ。対抗できる文字は朝日奈しかいないからな」ガタッ


【朝日奈の個室】

コンコン…


苗木  「朝日奈さん、僕だよ。苗木だよ。話がしたいんだ。明日の蝕のことなんだけど……」

ギイッ…

朝日奈 「……なに?」

苗木  「あのね、日向クンたちが食堂で集まって話しているのを聞いたんだけど、"火"を倒すためには
     朝日奈さんの文字が必要なんだ。明日は僕たちと一緒に来ない?」

朝日奈 「……私、一回逃げたんだよ。今さらどうやって……」

霧切  「私たちがあなたを守るわ。みんなで蝕を倒しましょう」

苗木  「そうだよ、僕たちがいるよ!怖くなんかないよ、あんな蝕、朝日奈さんの文字なら一発じゃないか!」

朝日奈 「やめて!!!」

苗木  「!?」ビクッ

朝日奈 「お願いだから、やめてよ……!私、私にはできないっ…無理だよ……!!」ズルズル

石丸  「弱音を吐くとはらしくないぞ!生徒全員の命がかかっているのだ、できる、できないは
     問題ではなかろう!!!」

安広  「朝日奈さん、死ぬならどうぞご勝手に。
     ですが、わたくしはあなたのくだらない恐怖心のために命を落とすなんて、
     まっぴらですわ。それだけはお忘れなきよう」

朝日奈 「お願いだから、あっち行ってよ……私にはっ、みんなの命を預かるなんて……そんな責任……!!!」


「何をしてるんだ?」


朝日奈 「ひな、た……ななし……?」ボロボロ

日向  「寄ってたかって、圧迫尋問か?俺たちが話すからどいてろ」

石丸  「日向くん!生徒全員の命運がかかっているのだぞ!!「だからどうした」なっ……」

日向  「力ずくで引っぱり出せば朝日奈が闘ってくれるのか?確実に"火"を倒せるのか?
     ……俺にはそうは思えない」

豚神  「一旦下がっていろ、愚民め!」シッシッ


苗木たちはとりあえず廊下の角まで下がった。

朝日奈からは見えないが、じーっと様子をうかがっている。


豚神  「……お前が、恐ろしいと思うのは分かる」

朝日奈 「……!」びくっ

豚神  「俺はな、実のところ……そこまで己の生に執着があるわけではない。いつ死んでも、大した後悔はない。
     だから、お前に"闘ってくれ"と命乞いをしに来たわけではない」

豚神  「朝日奈、お前はどうなんだ。死にたいのか、それともみっともなくあがいて、生きていきたいのか?」

朝日奈 「わた、しは……」

豚神  「お前が生きたいと思うなら、そのために文字を使え」

日向  「それとな、策がないわけじゃないんだ。何せこっちには"超高校級のメカニック"がいるからな。
     あいつに巨大水鉄砲でも作ってもらって、屋上に配置して空に向けて撃てば、どうにかなるかもしれないぞ」

日向  「お前ひとりに何もかも背負わせるなんて、そんなことはしない。
     生きるためには、責任が伴う。それを俺たちはよく知ってるから」ポンポン

朝日奈 「う、うう……!」ボロボロ

朝日奈 「嫌だ、嫌だよ……みんなが死ぬのは嫌だ……!」ぐすぐす

日向  「まだ死ぬって決まったわけじゃない。もしかしたら左右田で何とかなるかもしれない」

朝日奈 「無理だよ、分かってるもん!私じゃなきゃ、ダメなんでしょ……?」ポロポロ


「そうだ、お主でなければならぬ」

のそっと入ってきた大神は、俺たちを下がらせて朝日奈の肩に手を置いた。



大神  「朝日奈よ……1438人の命など、お主の細い肩には背負えぬだろう。だが、始で命を救った十神と日向。
     そして、溺れたお主を助けた罪木……3人の命なら、どうだ」

大神  「せめてこの3人は救う。そう考えるだけでも、胸が楽にならぬか」

朝日奈 「……」

大神  「我はもう二度と、お主に生を諦めてほしくない」

朝日奈 「!さくらちゃん……」

大神  「言いたかったのはそれだけだ。朝日奈葵は一人ではないぞ」


たくましい筋肉に抱きしめられた朝日奈の目から、ぽろっと涙が落ちる。

俺は十神に目くばせして部屋を出た。

パタン…

苗木  「あ、どうだった?」

日向  「友は強し……ってとこかな」

豚神  「同じ言葉でも、友に言われるのとでは重みが違うということだ」


行くか、と歩き出した俺たちに、苗木は「えっ?ちょっと、どういうこと?ねえ!」と困惑していた。


【夜.左右田の個室】


左右田 「しっかしよぉ、今日はマジでビックリしたぜ。コマンド入力してねえのに自動で動いて
     日向をかばったんだもんな。あれか、やっぱお前、七海の生まれ変わりとか?
     ……なわけねーか」カチャカチャ

ナナミ 「左右田くん」

左右田 「ん?」

ナナミ 「ちょっと……お腹の回線をいじられるのは恥ずかしい、かな」

左右田 「なんだよ、メンテしとかねーとフリーズしちまうかもしれねーんだぞ」ガチャンッ

ナナミ 「うーん、男子に見られるっていうのは……ちょっと」

左右田 「着がえ見られるみてーなモンなのか?機械の考えることってのはわかんねーなあ」ガガッ、ピーッ

ナナミ 「……日向くんだったら、いいかも」

左右田 「はぁ!?……んじゃ、今度からメンテには日向立ち会わすか?」ガキッ

ナナミ 「そういうのじゃ、ないんだけどな……」

ナナミ (なんだろ、この気持ち……日向くんを見てると、胸の回路が動かなくなっちゃうの)

ナナミ (何なんだろう……)


ザーッ…

『これからもわたしに…色々教えてくれる?』

『…あたりまえだろ』

『七海が知りたいこと、俺が何だって教えてやるよ』

ザザッ…


左右田 「……い……おい、七海?」

ナナミ 「……っ!」ハッ

左右田 「島の七海もよくボーッとしてたっけなあ、立ったまんま寝てたのはマジでビックリしたわ」ハハハ

ナナミ (今のは……?)

_______


今日で『火』は三日目だ。

学園長のアナウンスと同時に飛び起きた俺は、制服を身に着けるといそいで外へ出る。


カッ!


日向  「せめて朝食が終わるまでは待ってほしかったな……」

西園寺 「泣いても笑っても、たぶん今日が最後だよ」


扇をいじる西園寺は、珍しくブレザーを着ていた。

「わたしが転んだせいで、おねぇが死んだんだ」と泣いていたのを、俺は知っている。


日向  (朝日奈はまだ個室か……?)タッ


【同時刻.朝日奈の個室】


朝日奈 「!もう来てる……」ギュッ

朝日奈 「やらなきゃ……私がやらなきゃ……」

コンコン

朝日奈 「っ、だれ……さくらちゃん?」ガチャッ

十神  「迎えに来てやったぞ、臆病者め」

朝日奈 「……え」

石丸  「本来はこんな使い方をしたくないのだが……朝日奈くん、"出てきたまえ"!!」カッ


"正(せい)"


朝日奈 「!?あ、足が勝手に……」トッ

石丸  「許してくれ……みんなの命がかかっているのだ……"ついてくるんだ"」

朝日奈 「え、えっ?なんで、なにがっ……」トコトコ

__________


日向  「朝日奈、どこだ!!」タタッ

日向  「……なんだ、あれは」


俺の視線の先には、朝日奈の肩に手を置いた十神(本物)と

気まずそうに立っている石丸がいた。


日向  「おい、何をしてるんだ!!!」

十神  「お前こそ、何をしている?朝日奈が初日の時点で"水"を解放していればよかったんだ……こいつが
     怖気づいて闘わなかったせいで、どれだけ生徒が無駄死にしたと思ってる!!!」

日向  「なんだと……」

十神  「――発動!」カッ


"皇(すめらぎ)"


空中から二振りのまさかりを取り出した十神は、その切っ先で座りこんだ朝日奈を囲むように円を描く。

削れた地面がパアッと青い光を放った。

十神  「俺の文字は、このまさかりで囲んだ部分を"支配"することができる。
     そこに化け物を入れようが、安全地帯にしようが、俺の気分次第だ」

炎をまとった蛇が、まっすぐに朝日奈を狙った。


朝日奈 「きゃっ……!」


バチィンッ!!


見えない壁に弾かれて、蛇がのけぞる。地面でビク、ビクッと痙攣する白骨の蛇を、

十神の革靴がぐしゃっと踏みつぶした。


日向  「こっちにも来た……!」カッ


"変(へん)"


日向  「う、ら、あああああっっ!!!」ブンッ


バキッ!


日向  「もう一発!」ブンッ


グシャッ!


金属バットで、蛇を殴り倒していく。

昨日よりさらに数が増えている……キリがない!!


朝日奈 「や、やめて……やめて!」

朝日奈 「日向、こっちに入……」がくんっ「……え?」

十神  「言っただろう。その円の中は俺の支配圏だ。勝手に出ることは許さん」

十神  「せいぜいそこで、仲間が無残に死んでいくのを指をくわえて眺めてろ」コッ…

朝日奈 「あ……」

石丸  「十神くん……本当にこのやり方が正しいのか?」

十神  「今さら何を言う。お前も、この女が尻込みしたせいで死ぬのはごめんだと思ったんだろう?」

石丸  「それは……」ギュッ


バキッ!ゴシャッ!!


日向  「どうすれば……どうすればいいんだ!!!」


視界を埋め尽くす蛇に、俺は思わず叫んだ。

瞬間。

カッ!!


カムクラ 「ふぅ……」シュゥッ

カムクラ 「僕がいなければ、彼は何回死んでいるんでしょうか」ブンッ


ゴッ、グシャッ、ゴスッ


十神   「カムクライズル……あいつに朝日奈を助けられては困る」すっ

石丸   「!?十神くん、何を」


ふっ、と朝日奈を囲む円の光が消えた。代わりに、赤い光が炎のように立ち上る。


十神   「円の中に出していた"命令"の種類を変えた。早く闘わなければ、四方八方から喰われるぞ」


ギギッ…ガチンガチン

赤い光を見た蛇たちが、今度は朝日奈目がけてまっさきに突っこんでいった。


石丸   「くっ……やめろ!"朝日奈くんを傷つけるな"!」カッ


"正(せい)"


石丸の声に合わせて、朝日奈を狙った蛇が小さな盾に弾かれる。


朝日奈  「あ、ああっ、あああ……!!」ガタガタ

朝日奈  「どうしよう……出さなきゃ、って、分かってるのに」スルッ

二の腕の『水』を見つめて、朝日奈はぽろぽろ泣き出した。

朝日奈  「どうしても……怖い、怖いよ……!!」

______________


澪田   「……はあっ、はあーっ、ハア……!」

豚神   「澪田、一旦逃げるぞ!建物の影の方が安全だ!」ぐいっ

澪田   「は、ははっ……ほんと、キリがないっすね……」がくんっ

豚神   「澪田、あきらめるな!立て!!!」

澪田   「……ほんとに、勝てるんすか?」

豚神   「なんだと?」

澪田   「敵はわんさか来るし、朝ごはんも食べてないからお腹ペコペコだし」

澪田   「もう……唯吹たちみんな、ここで」

豚神   「そんなことは絶対にさせない!!!」

澪田   「……!」

豚神   「"僕"が、決めたんだ……絶対に、みんなでこの学園を出るって!!だから澪田さんも
      それに協力しなきゃ、ダメなんだ!!!」

澪田   「そんな、むちゃくちゃな……」

豚神   「……澪田、楽器を変えてみたことはあるか?」

澪田   「へっ?いや、いつもギターだったっす」

豚神   「もしかすると、お前の防壁が全方位に対応できないのはそのせいかもしれない……
      試さないで死ぬのはお前も後味が悪いだろう、何か他の楽器を出してみろ!」

澪田   「他!?他って……」むむむ


"音(おと)"


澪田   「……これとか」チーンッ

トライアングルを鳴らすたび、蛇の脳天が次々に爆破される。

澪田   「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」チーンチーンチーン

澪田   「めっさつかれる……」グター

豚神   「また数が増えたぞ!」

澪田   「ああああっ、もう!!これ以上デカい音出る楽器は知らねーっすよ!!」カッ

ボンッ!!


豚神   「……ピアノ?」

澪田   「とりあえず、ペダル踏んで……両手10本の指で和音を!」


ガァァァーンッ……!!


それは、すさまじい衝撃。

地面を震わせた音が、青い稲妻となって蛇たちを食い尽くす。


豚神   「すごいぞ、澪田!四方の敵が一気に……」

澪田   「ふふっ、唯吹は無敵っすからね!!」


――ドスッ。

澪田   「!!??」


十神の体に、何匹もの蛇が噛みついた。

背骨がぐしゃっ、とつぶれる音。

白夜ちゃん、と叫んだつもりだった。だが、声となっては出なかった。

背中をくの字に曲げた十神は、澪田の腕の中でぼんやりと空中を見ている。

その体がもはや呼吸をしていないことに気づいた澪田の脳裏に、蘇る声。


『気をつけろよ、澪田。特に背後や上からの気配にはな』


澪田  「ふっ、うぐぅぅ……!」

澪田  「なんで、なんでっすか、白夜ちゃん……唯吹には、気をつけろって言っといて……」ポロポロ

澪田  「白夜ちゃん……!!」

______________

両手を広げた石丸が、「大丈夫だ」と笑った。

石丸  「君のことは、絶対に守る。それが、僕の責任だ」

朝日奈 「石丸……」

石丸  「……すまない。君を苦しめてばかりで」カッ!


目の前に、ひときわ大きな盾が浮かんだ。

カムクラがすうっと目を閉じる。同時に、戻ってきた日向が「くっ」と膝をついた。


日向  「まだ無事か、朝日奈!」

朝日奈 「……っ、バカ…それ、こっちの台詞!」

朝日奈 (やらなきゃ……!みんなが、ここまで命かけてくれたんだから……!!)ギュッ

朝日奈 (落ち着いて……プール、池、なんでもいい……とにかく水のある場所を……)


頭を抱えてイメージを始めた朝日奈は、

だんだんと呼吸が落ち着いてくるのが分かった。

周りの景色が、少しずつ明瞭になっていく。


朝日奈 (……あれ?)

そこで、朝日奈は何かに気づいた。

茂みの中、人の手が飛び出している。

骨ばった、細い指。よれた袖口から覗く手首に、茶色い数珠が……


朝日奈 (……え、嘘。だって、だって、あいつが死ぬわけ)

朝日奈 (でも、あんな趣味の悪い数珠してるやつ、あいつしか)ヨロッ


立ち上がった朝日奈は、そのまま固まった。

茂みの中に倒れている人間の正体が、分かってしまったから。


朝日奈 「あっ……あ、ああああアああぁぁあ゛ああ!!!!」カッ!!

叫んだ朝日奈の足元がボコッ、と割れた。割れ目はどんどん大きくなって、校庭を埋め尽くす。


"水(みず)"


ブシャアアアッ!!


割れ目の間から吹き出した水が、空へ向かう。


十神  「……やっとか」

石丸  「見たまえ、蛇が……!」


石丸の指さした先では、炎をまとった蛇が水の中でのたうちまわる姿。


朝日奈 「うう、うわあああああ!!!!」


『火』にぶつけられた水は、周りにいる生徒たちをも吞み込み始めた。


日向  「朝日奈!!俺だ!!分かるか、日向創だ!!!」ガバッ

朝日奈 「よくも、よくも葉隠をっ……消えろぉぉぉ!!!!」

日向  「落ち着け、朝日奈!もういいんだ、やめろ!!石丸が溺れかけてる!!!」グイッ


額に血管を浮き上がらせて、暴れる朝日奈を押さえつける。

俺には分からないが、これ以上の解放は危険だ。本能がそう告げている。

シュゥッ…

やがて、腕の中の朝日奈がぐったりと力を抜いた。


朝日奈 「うううっ……うわああああ!葉隠……葉隠ぇ……!!」ぽろぽろ

朝日奈 「うえっ……私が……私が、ちゃんと…ぐすっ、できてたら……!」

日向  「大丈夫だ。もう終わったんだ。全部」ポンポン

朝日奈 「葉隠ぇ……!!」

日向  「がんばったな。よくがんばった。ありがとうな」

石丸  「……」ギュッ


血なまぐさい匂いの立ちこめる中、朝日奈の泣き声が空に響き渡った。


【火(特殊型)三日間
 死亡者数:1126名
 生存者数:274名
 総生徒数:1430名→274名】



___________

切ります。やっと十神、石丸の文字が出せた…

次はまたちょっと桑田編行くか 
大和田で和むか
苗木視点か...

更新やったーからのおわおああ絶望…! とうとう犠牲者ががが 菜摘ちゃんもどうなったのか不安だし、朝比奈さんのメンタルも大丈夫かこれ…

>>177

10割占いのスレ楽しく読んでたけど
回避不可能な未来予知は怖い。


葉隠が悟った感じになったのは自分の未来見たからか

>>179

そのつもりだけど、それは後々。
_________


菜摘  「……」ペラッ


<『求む アマチュアカメラマン! 写真部】


菜摘  「……」グシャグシャ、ポイッ


丸めた紙をゴミ箱へ投げて、菜摘は顔の前に手をかざした。


菜摘  「今日もまぶしいなあ……」スウッ

菜摘  「!?」


手の向こうに、青空が見える。

まばたきする間にまた肌色になった視界。


桑田  「よっ、ヒマか?」ヒョイッ

菜摘  「……あんた、部活見に行ったんじゃなかったの」

桑田  「いつ死ぬか分かんねーのに、のんびり部活なんかやってられっかよ」

菜摘  (今の……気のせい?)


菜摘 「ねえ、今日も空島って見えてる?」

桑田 「あー、昨日よりちょっと北北西?のあたりに浮かんでる」


学園で空島の見えない生徒は、菜摘だけだ。


菜摘 「ふーん……私もいつか、見えるようになるかな」

菜摘 「……」

菜摘 「ねえ、あんたは死なないでよね。絶対にここを出て、自由になりなよ」


お前もな、と言いかけた口は、

菜摘の沈んだ表情につぐまれる。

そうやって二人はしばらく、中央広場のベンチから空を眺めていた。

ザワザワ…カチャカチャ…

キョウノテストドウダッタ? コノパスタウメーナ ダレカオチャトッテキテー


桑田  (スパゲッティと、野菜のスープ。デザートのドーナツ率が高いのは誰の策略なんだ?)モグモグ

桑田  (今日も今日とてぼっち飯。今気がついたけど、この一ヶ月菜摘以外と会話してねえ)ゴクゴク

桑田  (頼むぜ、九頭龍菜摘。オメーが死んだらオレはマジのぼっちになっちまうかんな、
     ぜってー死なないでくれよ)チラッ

ワイワイ…

石丸  「なるほど、そんな考え方もあるのだな!参考になったぞ苗木先生!!」

苗木  「あはは、久しぶりにその呼ばれ方したよ」

不二咲 「そういえば、だいぶ暑くなってきたけど…衣がえはやっぱり6月1日かな?」

石丸  「あと一ヶ月もあるのか……蝕で走り回ると制服が蒸れる。融通を利かせてはもらえないだろうか」

腐川  「あんたの口から"融通"なんて言葉が出る日が来るなんてね……」

石丸  「僕は常に成長を続けているのだよ!」


アアハハ…


大和田 「よ、よぉ…ここ、いいか?」ガタッ

桑田  「……なんか用かよ」


苗木が差し向けやがったのか、と思ったけどちがうらしい。

コイツとは仲良かったらしいけど、実感がねえから、オレの中では他人とそんなに変わらない。


大和田 「いや、特に用とかねえけどな……その、お前は平気なのか?」

桑田  「何がだよ」(イライラすんなこいつ、でけえ図体してモジモジ喋りやがって)

大和田 「不二咲が生きて喋ってるって言ってもよ…オレがテメエの勝手な都合であいつをブッ殺したって
     罪は消えねえんだよ……お前もそうなんだろ?」

桑田  「……」プチッ


ハッキリ言えよ、『傷の舐めあいがしたいです』ってよ。


桑田  「オメーは悪くねえよ」

大和田 「……!」

桑田  「悪いのはあんな事させたモノクマだろ?不二咲もオメーを許すつもりなんだろ?だったら
     それでいいじゃねえかよ。な?」

大和田 「やめろよ…」

桑田  「もう楽になれって。辛かったんだろ?」

大和田 「やめろっつってんだろうが!!!」ガタンッ


なんと総長は、親切にもなぐさめてやったオレの胸ぐらをつかんできた。

あいかわらずの短気。こいつ、不二咲の事件から何も学んでねーな。


苗木  「やめなよ、大和田クン!手離して!」ぐいっ

桑田  「あー、どれが気に食わなかったのか知んねーけど、落ち着けよ」

大和田 「離せ苗木!桑田のヤロー、やっぱ何も分かっちゃいねえ!!」


『つづいてはスポーツです!』


そこで、テレビのニュースがスポーツの話題に切りかわった。

『まずはメジャーリーグで活躍中の大谷選手。二刀流はアメリカでも……』


桑田  「あ……」

食堂のテレビに映った野球選手が、ホームランを打った瞬間。

オレは短い悲鳴を上げてその場にぶっ倒れた。

______________


「ネームプレート、よし。返り血防止のシーツ、よし。ドアの鍵、よし。
 あとは桑田くんを待つだけですね」

「なーんか怪しいなあ……あの流れだったらフツー苗木じゃね?
 でも二人っきりってトコはやっぱ、期待しちゃうよなあ」

「でも、あの手紙に引っかかってくれるでしょうか。
 自分で言うのもなんですけど、かなり怪しいのに」

「あれだ、吊り橋効果ってやつを期待したってバチは当たんねーだろ、うん。ぶっちゃけ不安だしな、オレも」

「……大丈夫。きっと桑田くんは来てくれます。だって、桑田くんと私は」

「ま、舞園ちゃんに限って変なことはねーだろ!だってオレと舞園ちゃんは」



――ともだちだから!


【保健室】


桑田  「……」

桑田  「……あれ?」パチッ

シャアッ

罪木  「よかった…!あ、あのぉ…何があったか、覚えてますか……?」

桑田  「オレ、たしか……食堂で」

罪木  「はい…食堂で倒れた桑田さんを、大和田さんが運んできたんです」


起き上がって見ると、外はもう真っ暗だった。

オレのせいで夕飯を食いそこねたらしい罪木先輩は、おにぎりをかじってる。


桑田  「大和田が…?」


特に理由のない暴力はこの働きでチャラにしてやっか。やさしーなオレ。


罪木  「はい…すっごく心配してました。"オレがまた八つ当たっちまったんだ"……って。
     あ、お部屋まで付き添いましょうかぁ?」

桑田  「いや、一人で歩けるんでへーきっす」ガラッ

罪木  「そうですかぁ…でも、具合が悪くなったらすぐに言ってくださいねぇ……
     私は超高校級の保健委員ですから…お注射でも点滴でも……手術だって……」モジモジ

桑田  「は、はあ…」(この人まだ絶望なんじゃねーの?)


なんか危険な匂いがする。保健室はなるべく行かないようにしとこう。

今日は大安吉日だったはずなのに、不運の連続だ。

電子生徒手帳を見ると、菜摘から『おだいじにー』とメールが来てた。


桑田  「……ん?」


個室のドアの前に、クリアファイルが置かれてる。

堅っ苦しい字と分かりやすい図は、気絶してる間にあった午後の授業の内容らしい。


桑田  「……自覚のねえ悪口が一番タチ悪いよなあ」


でも追試は正直めんどくせーし、ここは石丸の言うとおり勉強しておいた方が後々楽そうだ。

どーせ帰宅部だし、毒見係は仕事ないし。


桑田  「そーいや、明々後日が晴れだっけ。死んだら追試受けなくていいんだよな」カリカリ

桑田  「……何考えてんだオレは、葉隠のアホが伝染ったか」ペラッ


葉隠  「へくしっ!!」


【数日後】


教師  『で、あるからして…マルクスの三頭政治。これがローマの共和制を……』

キーンコーンカーンコーン

教師  『では、本日の授業はここまで。明日のテストで70点以下の生徒は追試があるので、気をつけるように』

大和田 「」

朝日奈 「」

葉隠  「」

忘れてた。希望ヶ峰学園は偏差値も超高校級なんだった。


桑田  (えーと、明日は雨だし……暗記すればなんとか)ダラダラ


そんなことを考えてる間に、空島が太陽に重なった。

カッ!!

そして今日も、試練が始まる。

___________


桑田  「ん……」パチッ

桑田  「隔離型か。気持ちわりー場所だな」スッ


立ち上がって、周りを観察。

灰色の空と、ガレキの山と、血の池。うん、こりゃ確実にやべーもんが来るわ。


ガラガラッ


終里  「あれ?お前……誰だっけ」

山田  「桑田怜恩殿!お久しぶりですなあ!」パァァ

桑田  「山田……と、終里先輩」

終里  「あれ、お前オレのこと知ってんのか?えーと……なあ山田、こいつ誰だ?」

山田  「終里赤音殿は人の名前を覚えるのが苦手なのです。なにか食べ物をあげるといいですぞ」ヒソヒソ

桑田  「ブーデーは何やったんだよ」

山田  「リュックの中にあった油芋チップスを……半分のつもりが全部取られてしまいまして……」ずぅぅん…

桑田  「チッ、しょうがねーなあ」ゴソゴソ

終里  「おわっ!?あんぱん!?なんでポッケからあんぱん出てくんだお前!すげえな!!」キラキラ

桑田  「食ってる間に覚えてほしいんすけど、オレは桑田怜恩っていいます」

終里  「おうっ!くわたな!おほへたへ!」モグモグ


腹いっぱいになった終里先輩と山田を連れて、出口を探した。

そんなに広くない空間で、山田が見つけた道を歩く。


山田  「もうすぐ出口……!?!?」

桑田  「……んだよ、あれ」

山田  「おうふっ!?き、きょきょきょ…リアル巨女キタ――(゚∀゚)――!!」

終里  「なんだあいつ!?すっげー倒しがいがありそうだぜ!!」ゴォッ


そこにいたのは、何cm…いや、何mの巨大な女だった。髪を揺らして、オレたちを見下ろしてる。

文字の先制攻撃だべ!……と思った瞬間、そいつが『妾は夢の主』と笑った。


『人の子よ……何を望む。永遠の吉夢か、それとも泡沫の凶夢か……』


山田  「そりゃもちろん、ぬっぷぬぷのぐっちょぐちょ「それ以上言ったら殺すぞ」男のロマンという
     奴じゃありませんか!」

終里  「きょーむってなんだ?食えんのか?」


『ふむ……なかなかに骨のありそうな子らよ。どれ、しばし妾の夢を見せてやろう』ズズズ…


パカッと割れた腹から、白い手が出てきて、オレたちの体にからまる。

山田  「あああ!!そんなところ触らないでぇ!!触手プレイはらめぇぇ!!」ジタバタ

終里  「くそっ、ちぎれねーぞこいつ!」グイグイ

桑田  「うわ、ああああああ!!!」ズルズル


ぱくんっ。


___________

___


ピチャン…ピチャン…


桑田  「……あ……」パチッ

桑田  「オレ……たしか、あのデカい女に……」ゴソッ

桑田  「どこだ、ここ……?」


シャワーから水滴が落ちて、静かな中で響く。

暗がりに目が慣れてくると、そこがシャワールームだと分かった。


ガチャガチャッ!


桑田  「!?なんっ…いってぇ!」ズキッ

手首が痛い。熱をもったみたいだ。赤く腫れたそこに、金箔がついてる。

オレは、模擬刀を取ろうとしたのを舞園に先回りされて、手首を叩かれて……

シャワールームのドアをこじ開けて、中にこもった?


ガチャガチャ…ギイッ


桑田  「うそ、だろ……だって、女子の方は、鍵が」ハッ

桑田  (そうだ、あいつら、部屋入れ替えて……じゃあここは、苗木の)


ザクッ


桑田  「あっ……」ボタボタ

舞園  「……桑田くんが、いけないんですよ」ズズッ


腹から抜かれた包丁は、べっとりと血がついている。

そっか、オレは舞園に殺されるんだ。


桑田  (……あんまりじゃねーかよ、これ……)ズルッ


くそ、いいダイイングメッセージが思いつかねえ。なんかねーのか、まだらのひもみてーなやつ。


桑田  (そうだ、あれだったら……苗木はたぶん分かる)ズッ…

オレは最期の力を振り絞って、壁に『つる』とだけ書いた。


『それ、夢の時間はもう終わりじゃ』


桑田  「……は?」


パアッ…


気がつくと、オレたちは元の場所にいた。山田が「うげえええ」と吐いてるのを、

終里先輩が「大丈夫か?もう終わったぜ」と背中をさすってやってる。

『そなたら、よほど妾の夢が気に入ったようじゃの。今一度見てみるか?』


終里  「冗談じゃねーぞ…オレはもうあんなん見たくねえよ…」


『よう凶夢を耐えた。名残惜しいが、もう時間じゃ。どれでも好きな扉を選べ』


終里  「んじゃ、オレは一番右の行くぜ」

山田  「えええ、三人一緒ではないと!?」

桑田  「なあ、入った瞬間喰われるとかねーの?」

『どれも出口に繋がっておるゆえ、案ずるな』

桑田  「……だってよ、オレは真ん中行っから、オメーもさっさと来いよ」ガチャッ

山田  「うう、これは精神的にキツいですぞ…」ギィッ

____________

バタンッ

桑田  「あー、ひでえ目にあった……龍の方が楽だったわ、マジで」


出た先は、この前とは違って中央広場だった。

ベンチに座って休んでるオレの隣に、終里先輩が出てくる。



終里  「弐大のおっさーん!オレの方が先だったぜ!」ブンブン

弐大  「応ッ、じゃあ約束通り、放課後にアレをしてやるか!!」

山田  「安広多恵子殿はまだ……」

不二咲 「まだだよぉ。山田君は本当に安広さんが好きなんだね」ニコニコ

山田  「ふおあっ!?い、いやいや、僕はそんな、恋愛感情とかそういったものでは」ブンブンブン

安広  「あら、あなたを好きだなんて言う奇特な女性がいたなんて驚きですわ」


オレたちはかなり早めに出たみてーだ。

知ってる顔が次々に出てくる中で、見覚えのある金髪が歩いてくるのが見えた。


菜摘  「……」

桑田  「おせーぞ、お嬢。……あ?何泣いてんだおま」ガシッ

菜摘  「う、うえっ……あ、あああ……!!」ボロボロ

桑田  「はっ?あ、あああ!?やめろ、誤解だアホ!」


なんと、こいつはいきなり抱きついてきた。

生温かい目で見てくる山田に、オレは必死に弁解する。


菜摘  「助けて……」

桑田  「は?」

菜摘  「怖いよ、わたし……もう、どうしたらっ……」

桑田  「――っ、!!」


そこで、オレはやっと気づいた。山田たちからは影になって見えてないけど。


桑田  「お、お前……それ、なんなんだよ」カタカタ


オレのシャツをつかんでる菜摘の手が、顔が、

透けていた。

_______

切ります。

菜摘視点でちょっと書くかな。

抜けてた。

>>182の最後に

「石丸だ。来週はテストがある。君は記憶力が悪いのだから復習を怠らぬように!」

...石丸のノートのコピーだったらしい。

二次試験で落ちましたひゃっほーい
そして保守ありがとう


山田  「ほほう…桑田怜恩殿も隅に置けませんなあ……ではここで定番の、"リア充爆発しろ"!!」ビシィッ

安広  「まずはあなたから爆ぜてくださいます?……あらっ?あなた、その手」

桑田  「っ、!」カッ


"出(いずる)"


フッ…


安広  「……見間違えでしょうか」


【西地区.寄宿舎】


シュウッ…スタンッ


桑田  「いって!」ドサッ、ゴロゴロ

桑田  「くっそ…やっぱ、座標が遠いと着地むずいな」ガチャッ

キイ…

桑田  「自分で歩けよ……暗いな、電気つけ「やめて!……お願いだから、やめて」……わーったよ」

行こうとしたオレの手を、ベッドに寝かせた菜摘が引っぱった。

菜摘  「まだ帰んないで。ちょっとだけ……私の話、聞いてよ」

菜摘  「でなきゃ、本当に…消えてなくなっちゃいそうなんだ、私……」



それの名前を表すなら。

『不安』の二文字がふさわしいと、思った。


菜摘  「なん、で……お兄ちゃん……?」


【九頭龍菜摘 (クズリュウナツミ)
 Chapter:幕間】


声をかけた、つもりだった。
しかし、兄――冬彦は、まるで自分なんか眼中にないように通り過ぎていく。

菜摘  「珍しいなあ、お兄ちゃんが冗談なんて」


アハハ、と笑ってはみたものの、心の中ではものすごいショックだ。
短気だが真面目な性格の兄が、仮にも妹を。しかもこんなサバイバルの後で
無視するなんてイタズラをするだろうか?


菜摘  「……ま、まあ……お兄ちゃんだって友達と話したいだろうし?
     全然ショックじゃないけど?うん」

自分を納得させるようにひとりごと。
単純に気づかなかっただけかもしれない。



◆◆◆◆


菜摘  「その理由に気づいたのは、ずっと後だったんだけど」

桑田  「……」

菜摘  「ほら、いつか買い物付き合ってもらった時にさ。パン屋で花村先輩と弐大先輩に会ったでしょ?」

菜摘  「二人が"知らない"って言った…あれが、本当だったんだ」


◆◆◆◆

佐藤  「……閻魔様ってのは、モウロクしてるらしいね。あんたみたいな悪党が
     生き返るなんて」

菜摘  「あんたこそ、犬のくせに偉そうに机座ってんじゃないわよ。小泉の靴でも舐めてれば?」

佐藤  「なんだって!?」ガタッ

言い争う私たちを、クラスメイトは遠巻きにしている。
いつものことだ。私と佐藤がお互いの性質を嫌悪しているのは明らかだったから。

でも、その日は違った。

「……おい、誰か止めてこいよ」
「嫌だよ、怖えもん」
「つーかさァ」


――誰だっけ、あいつら。


◆◆◆◆


桑田  「……んん?あいつ"ら"ってことは、佐藤ってやつもか?」

菜摘  「うん。でも不思議なんだよ。机にはそれぞれ名札がついてるんだけど、私と佐藤の机、ちゃんとあるんだ。
     寄宿舎にもちゃんと部屋があるし……でも、朝の出席で呼ばれたことは一回もなかった」

菜摘  「九頭龍菜摘の存在を証明してくれるのは、私自身と、それから……あんただけだったんだ」

菜摘  「少しずつ、記憶が鮮明になっていく。小泉真昼に嫉妬していたこと。予備学科で腐っている奴らを
     笑って鬱憤晴らししてたこと。組の若いの使って、小泉のネガを全部燃やしたこと……」

菜摘  「最初は、自分ってこんなにひどい奴だったんだ……って苦悩した。
     でもね……気づいたんだ。それら全てがあいまいで……そうだったみたいなようにも思えるし、
     そうじゃなかったみたいな気もする」

菜摘  「自分の記憶すら……たしかに自分のものだと信じられない。
     その孤独が、あんたに分かる?」

桑田  「……分かるよ」

菜摘  「そんなの、口ではどうとでも「大和田と、苗木と……あとは、不二咲か」

桑田  「男子ではそこらへんとつるんでたな。たまに舞園とか、朝日奈も一緒で……ゲーセン行ったり、
     買い食いしたり、まあ普通の高校生やってた」

桑田  「オレってこんなに幸せだったんだ……って知った時にさ、すげえ後悔が来たよ。
     なんで忘れてられたんだ、なんで……殺しちまったんだ、って」

菜摘  「……」

桑田  「オレはもう二度と、あんな幸せを感じる事は許されない。
     なのに死にたくない、こんな怖い所から抜け出したい、そう思ってる自分に気づいて……」

桑田  「また、苦しくなる。その繰り返しだ」

菜摘  「……ははっ、私たち、ホント似た者同士だね」クスクス


◆◆◆◆


九頭龍 「いいかペコ、ちゃんと覚えろよ。こいつは菜摘。菜っ葉を摘むって書いて菜摘だ」

辺古山 「申し訳ありません……」

菜摘  「いいって。ペコもまだ調子悪いんでしょ」

九頭龍 「……」じーっ

菜摘  「な、なに?どしたの、お兄ちゃん」タジタジ

九頭龍 「……あいつになんかされてないだろうな」

菜摘  「あー、もしかして桑田のこと言ってる?ただの友達だって。何もないない」

九頭龍 「ならいいけどよ……いいか、ああいう奴は口説き文句がそれと分かんねえもんなんだ。大体…」

辺古山 「坊ちゃん。ひとまず話は後にして、まずはこの夢から出ませんか?」

九頭龍 「そ、そうだな…菜摘、足元気をつけろよ」

転ばないように手を差し出してくれる兄は、
記憶の中と同じように優しい。

なのに、それがまるで夢の中の出来事みたいに感じられるのは、どうしてだろう?

テクテク…

菜摘  「うわ、血の池だ、気持ち悪……二人とも、よく冷静でいられるね」

九頭龍 「ああ、隔離型が来るってのは分かってたからな。心の準備だけは、どうにか」

菜摘  「そっ、か。いいな、そういうの」

辺古山 「お嬢?」

菜摘  「あ、ううん。なんでもない」

菜摘  (お兄ちゃんには、仲間がいるんだ……いいなあ)


たいして広くない空間の、一本道を歩く。
そのうちに、開けた場所に出た。


菜摘  「……っ!?」ズキンッ

髪を揺らして笑う、巨大な女。

それを見た瞬間、頭に鋭い痛みが走る。

菜摘  (なに、これ……)ズキズキ

九頭龍 「……なるほど。テメエがここの主ってわけか」

夢の主 『いかにも。……されど、しばし待て』

辺古山 「……?」

女は、私を見つめて――本当に美しい、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

夢の主 『久しいのう……我が娘よ。うつつの寝心地はどうじゃ?』

菜摘  「……は?」

クズペコ「「わが……娘?」」


――何を、言ってるの?


夢の主 『まだ思い出せぬか。菜摘よ……そなたの甘く芳しき想い出も、その身に宿す心も。
     頭の上から足の先まで、すべて』

夢の主 『妾が作り出したもの。そなたは、一つの泡のごときもの――』

九頭龍 「テメエ…何ふざけた事抜かしてやがる、菜摘が泡だと?」

夢の主 『分からぬか。なら……思い出させてやろうぞ』カッ


瞬間、女の腹がパックリと割れて、無数の白い手が伸びてくる。
声を上げる間もなく『それ』にからめとられて、私の意識は真っ暗な底へ落ちた。


◆◆◆◆



私は、暗い中を漂っていた。

その中でぼんやりと光る場所がある。そこに、糸で吊るされた人形がひょこひょこと歩いてきた。

モノクマ「ある所に、一組の夫婦がありました。お父さんは極道の組長。お母さんは元芸者。
     日陰者の二人でしたが、仲良く、楽しく暮らしていました」

モノクマ「しかし、体の弱かったお母さんは、息子を産んですぐに死んでしまいました。
     お父さんは、若頭をつとめる弟の裏切りにあい……」

パンパーン…ザァァァ……

モノクマ「ある雨の日に、殺されてしまいました」

お父さん人形が、ぐったりと血のりの海に沈む。

モノクマ「残されたのは、やっと歩けるようになったばかりの男の子。
     その名を冬彦といいました」

パッと明るくなったそこには、赤ちゃんの人形が座っていた。

モノクマ「九頭龍組は二つに分かれます。裏切り者の若頭をいただく派閥と、直系の血筋である
     冬彦くんを次期組長とする派閥です。二つの勢力は激しく争い、多くの血を流しました。
     ――冬彦くんの意志など無関係に」

しくしく。しくしく。折り重なって倒れる死体の中で、冬彦の人形が泣いている。
それをなぐさめる、ペコ人形。

モノクマ「冬彦くんの心の支えは、共に育ったペコちゃんだけでした。
     誰もが自分を、権力の道具としか見てくれません。誰も、自分を愛してくれません。
     冬彦くんはいつしか、逃れようのない運命を呪うようになりました」

九頭龍 『オレが九頭龍の直系だから……みんなオレが組長になるのが当たり前だと思ってる。
     やめてくれ!!オレはそんなの嫌だ!!オレは、ペコがそばにいて、毎日が平和な……
     そんな人生が欲しいだけなんだ!!』

モノクマ「その時。冬彦くんはひらめきます」

九頭龍 『そうだ、オレの代わりに組を継いでくれる奴がいればいいんだ!』

モノクマ「それが、冬彦くんの悲しい空想の始まりでした……」

九頭龍 『オレには妹がいるんだ。オレより背が高くて、オレに顔がそっくりで。
     頼りがいがあって、組の若い奴らには姐さんって慕われてる』

九頭龍 『ちょっと口が悪くて、気が強くて……あ?ヤクザならそういう奴の方がいいだろ。
     肝が据わってて、血を見てもビビりゃしねえ。本当にいい妹だぜ』

九頭龍 『九頭龍組を継ぐのにふさわしいのは、あいつの方だ』

モノクマ「しかし、空想の日々は終わりを告げます。次期組長としての正当性が欲しい冬彦派の人々が、
     彼を"超高校級の極道"として希望ヶ峰学園に入れてしまったのです」

モノクマ「彼の逃げ道は、今度こそ完全に閉ざされてしまったかのように見えました。
     ――"人類史上最大最悪の絶望的事件"が起こるまでは」

また、場面が切りかわる。血まみれの人形たちの中で、冬彦人形が笑っている。

モノクマ「九頭龍冬彦は、運命に勝利しました。もう、空想の妹に呪われた運命を背負わせる
     必要はないように思えました」

モノクマ「しかし……空想の妹はバーチャルの世界で復活を果たします。
     偽物の記憶と"九頭龍菜摘"という名前を得て」

――え?



菜摘  「……嘘」

菜摘  「そんなの、嘘に決まってる!!!」

モノクマ「冬彦くんは、島での記憶と、外で生きてきた20年の記憶の両方を有している。
     いわばキミは、空想上の妹に偽の記憶を肉づけされた人形……」

菜摘  「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう!!!」ブンブン

モノクマ「どうして自分には空島が見えないのか、不思議に思っていただろう?
     君という存在は、夢の主が九頭龍冬彦の記憶から作ったもの――つまり、文字と同質だから」

モノクマ「ヒトではない君は、常世と彼世を繋ぐ空島を認識できない」

菜摘  「黙れぇぇぇぇ!!!」ブンッ、スカッ

モノクマ「……これが現実なんだよ。そして、君の存在はすでに"揺らいで"いる」

菜摘  「なんっ…」

その時、気づいた。私の手が、また透けている。

モノクマ「身に覚えがあるようだね。……そう。九頭龍冬彦の記憶が、君の命の源。
     しかし、彼は少しずつ"現実"を思い出してきている」ズズッ…

ストンッ

モノクマがいた場所に、学園長が現れた。その手には、希望のカケラがあった。


学園長 「すでに九頭龍組がないことも……両親や叔父の記憶が嘘であったことも……
     君という存在が、いないことも。彼はたびたび、君の存在を認識できなかった」


その言葉に、私はハッと気づく。
私が見えているはずなのに、無視して通りすぎたお兄ちゃんのことを。


学園長 「九頭龍くんが"思い出す"につれて、君の存在は揺らぎ、やがて消え去るだろう。
     君は、"夢"の文字に還るんだ」

菜摘  「そんなっ…そんなの、いやだよぉ……」ポロポロ


ザアッ…

段々明るくなっていく視界。学園長の「可哀想に」という声が、聞こえた気がした。


◆◆◆◆


菜摘  「……」パチッ

そこは、元の空間だった。お兄ちゃんとペコは、まだ出てきてない。
ゆらゆらと髪の毛を揺らして、夢の主――母親が、私を見下ろしている。

夢の主 『我が娘よ、悲しいか。それとも怒っておるか』

菜摘  「……分からないよ。だって私、人間じゃないんでしょ。私が感じているこの感情は、」ポロッ

菜摘  「……この心も、あんたに作られたものなの?」ポロポロ

夢の主 『そなたが外で何を想い、何を得、何を感じたか……それまでは、妾の手では作れぬ』

菜摘  「そっか。じゃあ、それだけで、いい」グスッ

菜摘  「私、先に出てるね。おに…冬彦さんと、顔合わせづらいから」クルッ

夢の主 『すまぬ。我がそなたを作ったのは、ほんの戯れであった。……そなたの涙を、見るためではなかった』

パァッ…

◆◆◆◆


どんな言葉をかければいいのか、分からない。

混乱しているオレに、菜摘は叫んだ。


菜摘  「そんなのっ……そんなの、嫌だよぉ……!!」ガバッ

桑田  「!!」

菜摘  「約束したもん!一緒に外に出るんだって!…っ、いっぱい、やりたいことあるの!!
     私ッ……私、」ズルズル

菜摘  「消えたく、ないよ……!まだ、ここにいたいっ……」

本音を全部吐き出した菜摘が、オレにしがみついたまま大泣きする。

菜摘  「うっ……う、うわあああん……!!」

お兄ちゃんには言わないで、とか。人に会いたくない、とか言っているのを、
オレはどこか遠くで聞いていた。


◆◆◆◆

シュゥッ…スタッ

桑田  「あー、ひどい目にあったぜ。さすがヤクザ」コンコン

桑田  「よーっす、メシ持ってきてやったぞ。今日は塩パンに、サラダに、ラタトゥイユな。
     デザートは苺のアイスだってよ」カチャッ

菜摘  「……ありがと」


ベッドに寝転がってる菜摘は、だいぶ透けて後ろの壁が見えていた。
透けてんのに食えるのかは謎だ。


菜摘  「……あんた、なんで私の世話してくれんの」

桑田  「いや、オメーがちゃんと飯食いに出てくるんならしねえよ?」

菜摘  「あ、そ……」

菜摘  「……」

菜摘  「私がいなくなっても、ちゃんとしなよ」


それが、九頭龍菜摘と交わした最後の会話だった。

今日はここまで

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