【オリジナル】安価とコンマで戦いを生き抜く その2【魔法少女】 (409)


寒い冬の事だった

人は空を見ていた

自動車もバイクも歩行者も、信号の色に関わらず動きが止まっていた

人波が停止し、誰しもが空を見上げていた

下を向いていた者も、その光に顔をあげた

多くの人々にとってその光景は、何か特別な『希望』を感じさせた

無意識に両手を合わせる

それは祈りか

あるいは願いか

それとも希望か

その日、ある奇跡が起こった

その日、奇跡と共に彼女は生まれた

その日から、世界は不自然を受け入れていく


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1488199381


名前:輝 翡翠(カガヤキ ヒスイ)
性別:女性
年齢:17歳(高校2年)

【容姿】
腰までかかる銀髪と、三白眼が印象的な少女
身長は135cmとかなり小さいが、凛々しい顔つきをしており怖がられることも多い

【内面】
引っ込み思案な性格だが、その根っこの部分では深い慈愛に満ちている
可愛いものが大好き。特にウサギ


【魔法】
『翡翠の騎士』
翡翠のような美しい緑色をした鎧の騎士に変身する
全長2m15cm
顔を見せないフルフェイスの兜と、右腕だけ分厚い装甲のアシンメトリーのデザイン
厚い装甲の右腕はそのまま盾のようにして使うこともできる
右腕を除くと、すらっとしたフォルムで、やや装甲が薄いが動きやすい
常に風を纏っており、追い風が自動的に攻撃と防御を補助する
拳よりも蹴りの方が力が出やすい
この姿になっているときは声が変わり、渋い大人の男の声が流れる

『ハルバード』
翡翠の騎士の専用武器
突風を纏う嵐の槍斧

『第二形態』
感情に身を委ねることによって、その鎧を狼のような姿に変える
全面的な身体能力の強化と、強力な危機察知能力を得る
最大の武器は大顎。四肢の全てを封じられても、生きるためにその牙をむく


名前:オルス
性別:???
年齢:???

【容姿】
燕尾服と片眼鏡、小さなハットをかぶった執事風の白兎
体長は20cm位。重さは3kg位
大人っぽい子供の声で話す

【内面】
そそっかしい性格だが、ひた向きに翡翠の事を支える
正義感が強く、ヒーロー気質な所がある
一人称は『僕』だが、男の子か女の子かはよく分からない
翡翠の事が大好き


埋まったので再開です


やらないといけない事を思い出した
それに気づいた途端、何もやる気が湧かなかった体に活力が取り戻される

可憐と電話で話したことで、思っていた以上に元気が出たらしい

翡翠「…オルス」

オルス「呼んだ?翡翠ちゃん」

私の体の中から、オルスが出てくる
ずっと声をかけてくれるのを待っていたんだろう

翡翠「……ごめんね」

オルス「ど、どうして謝るんだい?キミに謝られることなんて何もないよ?」

翡翠「ううん、心配かけたでしょ?でも、もう…大丈夫だよ」

翡翠「全部に納得がいったわけじゃないし、全てに納得したわけじゃないよ」

翡翠「……でも、いつまでもこのままじゃダメだと思ったから」

オルス「翡翠ちゃん…!…良かった…元気になってくれて。君には、良い友達が居るんだね」

翡翠「ふふっ…うん。本当にいい友達だよ」


文章訂正

× 全部に納得がいったわけじゃないし、全てに納得したわけじゃないよ
○ 全部に納得がいったわけじゃないし、全てを受け入れられたわけでもないけど


さて、と立ち上がる

まず向かったのはキッチンだった
この日の為に買いためていたお菓子があることを確認する

料理も…そういえばお母さんに頼んで作り置きしておいてもらったものがある

小さなツリーと飾りつけもある
既に予定していた事だから、用意はしておいたのだ

……なんだ、案外準備できてるじゃないか

それもそうだ
既にやることが決まっている事だったからね

そうなると、後は人を誘うくらいか
沙耶香さんには断られたし、それ以外の人を誘ってみようか


可憐の言った通り、当日に誰か捕まるとは思えないけど……


どうしようか?


誘ってみる人物指定
安価↓3までで最もコンマの高いものを採用

朝陽一


>>10採用:朝陽一


陽一君に電話を掛ける
程なくして、陽一君の声がする

陽一「も、もしもし?輝?」

翡翠「あ、陽一君。今大丈夫?」

陽一「うん、いや…ああうん。大丈夫だ。で、電話なんて驚いたな」

翡翠「?…あ、そっか。電話で話すのは初めてだね」

陽一「あの…それで…俺に、何の用事だ?」

翡翠「うん、今日暇かなって」

陽一「…ッ!!?ど、どどどういう?」

翡翠「ああ、私の家で友達とクリスマスパーティを使用って事になってて。それで、陽一君もどうかなって」

陽一「そういう事だったのか……」




陽一「……本当は、行きたいんだけどな」

陽一「今日はちょっと、外せない用事があって…」

翡翠「そうなんだ!え?もしかして…彼女が居たりした…?」

陽一「い、居ない!全然いない!い、今まで誰とも付き合ったことない!!」

翡翠「そ、そうなんだ…」

何もそこまで否定しなくてもいいんじゃないだろうか
寧ろ普通なら見栄を張る場面だと思ったんだけど、男の子はよくわからないな

陽一「うんだから…その…女の人とデートとかって話じゃない」

翡翠「そうなんだね」

陽一「ああ……えと、墓参りに行くんだ。時季外れだけど、今日を逃すと行けそうも無かったから」

翡翠「そうなんだ。それなら仕方ないよ。誘ってごめんね」

陽一「俺こそ悪い……えと、行きたかった」

翡翠「ふふっ…そう言って貰えるだけで、もう十分かな」

翡翠「それじゃあ陽一君。メリークリスマス」

陽一「ああ、じゃあな輝。えと…メリークリスマス」

そう言って電話を切った
一人目の勧誘は早速失敗に終わってしまった

気を取り直して、別の人に電話を掛けてみよう……


翡翠「……誰も捕まらなかった…」

やはり当日という事もあってか、誰も彼も既に予定を組んでいる様だった
残念ながら、今年も可憐と二人きりでクリスマスとなりそうだ

翡翠「ま、切り替えていこう」

可憐にもオルスが見えればよかったんだけどなぁ

そんな事を考えながら、飾りつけを始める
パーティと言うのは、こういう準備も結構楽しいものだ

鼻歌を歌いながら飾りつけをしているとき、電話が鳴った
今日はよく電話が鳴る日だ

かけてきた相手は、可憐だった

翡翠「もしもし可憐?」

可憐「……翡翠、あのさ…」

翡翠「…可憐?どうしたの?声が変だよ?」

明らかに声のトーンが低い
心配になりながら、会話を続ける


可憐「……ごめん、あたし…行けなくなった」

翡翠「そうなの?残念だけど…それより可憐は大丈夫?何かあったんじゃない?」

可憐「…ちょっと、体調崩しただけだから」

翡翠「……本当にそれだけ?」

可憐「うん。今の状態で行くと、絶対他の人たちに迷惑かけると思う」

翡翠「ああ、そんなの気にしなくていいよ」

私以外に他の参加者なんて居ないんだし

可憐「本当にゴメン…あ~あ…あたしも参加したかったよ…」

翡翠「うん…本当に残念。でも、可憐の体の方が大事だよ」

翡翠「ちゃんと暖かくして寝るんだよ?」

可憐「…うん。ありがと…ごめんね」

翡翠「……珍しいね、そんなに謝るなんて」

可憐「あはは…ちょっと、気が滅入ってるかも。言われた通り、もう寝るね」

翡翠「うん…おやすみ……」

そう言って電話を切る
今日という日は、とことんついていないらしい
可憐、大丈夫だといいけど


翡翠「そういうわけでして、今日はオルスと二人きりのクリスマスです」

飾りつけもそこそこに、休憩中
ソファに体を預け、オルスの体を抱きしめる

翡翠「料理とかはちょっと残して、明日に食べようと思うんだ」

翡翠「ほら、明日なら誰か捕まるかもしれないでしょ?」

オルス「そうだね。僕もその方がいいと思う」

オルス「でも、今日は残念だったね…」

翡翠「まあ、こういう時もあるって事」

翡翠「だから今日は、二人で楽しもうね」

オルス「うん!僕は翡翠ちゃんと一緒に居られるなら、それだけで最高にハッピーさ!」

翡翠「ふふっ…ありがとオルス」

オルスをギュっと抱きしめる
フワフワのもふもふで、とても心地がいい

今日は存分にこの子を堪能する日にしよう
決して私はボッチなんかじゃないんだ

そう、自分を納得させる


オルス「あ、見て翡翠ちゃん!雪が降ってるよ!」

翡翠「え?本当?」

オルス「うん、こういうのホワイトクリスマスって……」

嬉しそうに上ずっていた声が沈んでいく
どうしたんだろうと、オルスの見ている方に目をやる

言っていた様に、空からフワフワと白い靄が落ちてきている

その靄は、地面に触れると弾けて消えた
七色の光を放ちながら

翡翠「…ッ!!」

大慌てで外に出る

翡翠「オルス、これ…!」

オルス「うん…雪じゃない」

空を見上げる
空は夕日に焼けて、赤く染まっている

そこには雲の一つも無く

そのかわりに、その身を燃やして光を零す
箒星の姿があった


翡翠「どうして?まだ夜じゃない!」

翡翠「それどころか、『Xデー』ですらないよ!」

翡翠「二日続けてなんて…どういう事なの……」

一年周期で姿を見せるんじゃなかったの?
本当に意味が分からない
昨日に引き続き、異常気象だ

…いや、天候じゃないから異常気象とは呼ばないのかな

翡翠「…ってそんな事どうでもいいよね」

オルス「翡翠ちゃん、どうするの?」

翡翠「どうするって…!」

そこで、言葉に詰まる

オルス「…翡翠ちゃん。無理、しなくていいんだよ?」

オルス「昨日あんな事があったばかりだ。無理に何かしようとしなくていいんだ」

翡翠「………」

オルス「……どうするの?翡翠ちゃん」


私は……


行動、会話安価
安価↓1

変身して他の魔法少女がいないか探す


>>19採用


翡翠「……どうするのが正しいかなんて、分からないよ」

翡翠「でも…でも、何かはやらなくちゃ。私…皆に約束したから!」

オルス「翡翠ちゃん…!」

翡翠「行こうオルス、何か起こっていないか見に行く」


  「――――『繋がれ』!」


翡翠の騎士に変身し、魔法少女の姿を探す
多分、私がこうして危機感を持ったように、誰かが姿を見せているはずだ

私は何かが起こる前に、魔法少女の姿を探した


コンマ判定
5以上で見つける。4以下で………

直下コンマ


コンマ判定:3 運命と出会う



というわけで、今日の更新はここまでです

若干早足気味にしすぎたなと反省

ではではお付き合いいただきありがとうございました


そろそろ再開です


また昨日のように何かがあるのなら、葵ちゃんは外に出ていると思う
葵ちゃん…居ないかな…

高いビルの屋上まで飛び上がり、街を一望する

目を皿のようにして周囲を見渡す
どうやら昨日の時の様に直ぐに、アンノウンが大量発生しているわけではなさそうだ
それだけは安心だ

そう思っていた時

土煙が上がった

ついに来た
ああ…来なくてもいいのに

そう思いながらも私は駆ける
その場所に向かった

どうしてだろうか、妙な胸騒ぎがする

何の根拠も無いけど……私は、ここに来るべくしてきたようなそんな……


土煙が晴れた、その先には………



1、『赤』
2、『青』
3、『黒』
4、『白』

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用

2


>>31採用:『青』


それは騎士だった
2m30cmはあろうかという巨体の騎士

西洋風の鎧兜
澄んだ冬の空を連想させる『青』の騎士
私と同じ、鎧の騎士

嗚呼…どうしてだろうか
無性に心が騒ぐ

私の中に居た獣が叫んでるんじゃない
私が、私自身が恐怖している

それは間違いなく、運命に導かれた出会いなんだろう

鎧の騎士は私に気付き、ゆっくりと振り向いた


騎士「やあ翡翠の騎士。ずっと待ってたよ」

翡翠「待ってた…?」

騎士「うん、ずっと待ってた。ずっとずっと…会いたかったよ」

翡翠「………!!!」

内側から壊れそうなほどに、脈打つ鼓動が暴れている
聞いたことの無い筈の声なのに、何故か懐かしい

騎士「そっちはそうじゃないの?」

翡翠「い、行ってる意味が…分からない」

翡翠「アナタは誰?何者なの?私の何を知ってるの?」

騎士「そりゃあ何でも……あいや、意外と知らないかも」

騎士「でも、私は貴女が誰だか言えるよ?」

騎士「アナタは忘れた?いつ忘れた?」



騎士「アナタは何処に  『私/自分』   を置いてきたの」



翡翠「ッ!!!」

前触れも無く蹴りが飛んでくる
重い蹴りだった
しかし、反応できないような速度では無かった

それでも、私は馬鹿正直にそれを喰らった

体が吹っ飛びコンクリートの壁に激突する

反応が出来なかった
動揺してしまっていた

何でだ…昨日から、ずっとこんな事ばっかりだ

でも攻撃してくるのなら、きっとこれは敵だ
立ち上がって騎士に向かって走る

翡翠「『繋がれ』――!!」

言葉と共にハルバードが手に握られた
それを大振りに振り下ろす


騎士「――――『繋がれ』」

静かにその騎士は呟いた
その手には槍が握られていた

柄と柄がぶつかり合う

騎士「やっぱり似てるね、私達」

翡翠「うるさい!!」

ハルバードを一瞬引き、前蹴りを放つ
だがそれはいともたやすく避けられる

騎士「質問。自分が誰か答えられる?」

翡翠「さっきから何!」

騎士「答えてよ。アナタが貴女なら、答えられるでしょ?」

翡翠「私は……!」


会話、行動安価
安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


失礼
安価↓1です

私は翡翠、それしか言えない


>>38採用


翡翠「私は翡翠、それしか言えない」

騎士「ククッ……あはは…!アハハハハハハハハハハ!!!!!」

鎧の騎士は狂ったように笑いだす
槍すら放り捨て、顔を押さえて高らかに笑う

不気味すぎる姿だ

翡翠「何が可笑しいの」

騎士「貴女が翡翠?翡翠ですって?あはははははは!!!」

騎士「ねえ、それを誰が証明してくれる?」

パタリと笑い声が止み、冷ややかな声に変わる
分からない、コイツが何を言っているのか分からない


翡翠「証明って……私は私なんだから、証明も何もないでしょ」

騎士「そういう言葉は鏡で自分の顔を見てから言え!!」

再び蹴りが飛んでくる
今度は両腕でしっかりとガードした

熱い

異常な熱気に目を凝らすと、騎士の足から何か炎のようなモノが揺らめいているのが見えた

騎士「ねえ、鏡って見たことある?」

翡翠「な、無いわけないでしょ」

騎士「貴女、目は正常?貴女の眼には何が見えてる?」

騎士「貴女は…私がちゃんと見えているの?」

翡翠「ッ!!」

続けざまに蹴りが放たれる
喋りながらとは思えないほどの連撃
舞うような動きで、とても私と同じ鎧での動きとは思えない


騎士「槍よッ!!」

騎士が叫ぶと、地面に放り出されていた槍が勝手に動き騎士の手に握られる

騎士「ハーッ!!」

両手で握ると、掛け声と共に巨大な青い炎が巻き上がる
炎は槍に纏わり、螺旋の炎の渦となる

片手で短く槍を持ち、軽く助走をつけ始めた

騎士「燃え散れ―――!!」

翡翠「風よッ!!!」

何をするのかを即座に察し、ハルバードに力を込める
背中から吹き付ける追い風をさらに強力なものにし、向かい来る炎の槍を押し飛ばす壁とした

投擲

予想通り槍は投げられた
炎を纏う槍は、その身を分かち、複数の弾丸となって私に目がけて飛んでくる


翡翠「クッ…ううっ!」

迫る
ギリギリと炎の塊が、壁を突き抜けようと迫りくる

頭の奥でノイズ音が鳴る
熱い…痛い…苦しい……
何かが…何かが焼けている………

頭痛がする
吐き気もだ
この騎士と相対してから、ずっとむかむかとした嫌なものばかりがせり上がってくる

翡翠「うわああああああ!!!!」

叫び、さらに力を加える
漸く炎の塊は勢いを弱め、風に弾き飛ばされた

弾き飛ばされた炎は周囲に着弾する

メラメラと一切の容赦なく、周囲の建物に燃え移る

大きな悲鳴が連鎖して聞こえる
私達の事を観戦していた一般人たちは、大慌てで散り散りになって逃げ始める


燃えている
燃えている
建物が、人が住んでいる場所が炎に侵されていく

騎士「アハハハハハハ!!燃えてる!燃えているよぅ!!」

騎士「ねえ、まだ私の名前を呼んでくれないの?」

騎士「もう気づいてるでしょう?ほら、見て?よく見て?何が燃えている?」

翡翠「………」

マンションが燃えている
ああ、かつて私はこの光景を見たことがある
そしてずっと…どこかに置き去りにしてしまっていた

記憶と共に/
        あの子と一緒に


騎士「質問。私は誰?」

翡翠「…………」


会話安価
安価↓1

貴女は…翡翠…
…私の姉…


>>44採用


翡翠「………貴女が翡翠…?私のお姉ちゃん…」

騎士「……ぷっ!あはははっ!!もうやだ!何言ってるのお姉ちゃん!!」

騎士「もしかして本当に分からないの?」

騎士「じゃあ、これなら分かるよね……」

騎士の体から光が溢れる
眩いばかりの光が納まった時、そこに居たのは

長い銀色の髪の毛
135cmほどの小柄な体躯
挑発的な笑み

その目元には、小さく個性を主張するほくろがあった

私には無い
彼女だけの個性

翡翠には無くて、彼女だけにある個性

翡翠「………瑠璃ちゃん。なの?」

瑠璃「会いたかったよ。お姉ちゃん」

少女はニッコリと優しく笑った


翡翠「…生き…てた…の?」

瑠璃「へぇ、殺した自覚。あるんじゃん」

翡翠「ち、違う!あの時は…!」

瑠璃「あの時は…何?ねえ、あの時…誰が死んだの?」

翡翠「それ…は……」


『お姉ちゃんに任せて』


頭の奥で声がした
それは、目の前に居る少女の声とよく似ていた

何か…何かが間違ってる様な気がする


違和感を抱き始めた時、子供の泣き声が聞こえてきた


ふと、目を上へと向けると
燃え盛るマンションの上階、煙の波に紛れて、子供の姿がちらりと見えた


瑠璃「…今日はここまでだね。お姉ちゃん」

翡翠「ま、待って!行かないで!何処に行くの!?」

瑠璃「何処だっていいでしょ?だって今まで、一度だって探しに来てくれなかったじゃない」

瑠璃「それとも今更善者面?滑稽ね、その姿含めて」

翡翠「…ッ……」

瑠璃「あの子、助けてあげなくていいの?それとも、あんな見知らぬ命より、やっぱり私の方が大事かな?」

翡翠「ッ…ここで待っててね!!」

私はマンションに向かって飛ぶ
確かに瑠璃の事は何よりも大事だ
でも、そうだったとしても目の前の消えてしまいそうな命を軽視なんてできない

風で煙と火を何とか飛ばしながら、私は泣いていた子供の姿を探した


その背中を、銀髪の少女は見て、すぐに背中を向けた

瑠璃「……なんだ、意外とちゃんと覚えてるじゃん…」

ほんの少し、少女は嬉しそうに口の端を歪めた
彼女の言葉は、誰にも届いていない


女の人「ありがとうございます!ありがとうございます!」

翡翠「ああそんな、頭を下げないで下さい。当然の事ですよ」

私は無事に抱き合って倒れていた幼い兄妹を助け出し、両親に引き渡していた
どうやら命に別状はないらしい

私は適当にその場を切り抜け、瑠璃の姿を探す

必死になって周囲を見回すが、何処にも見当たらない
あの人の目を惹く銀髪の姿はどこにもない

翡翠「……もう、待っててって言ったのに…」

翡翠「…瑠璃…何処に居るの……折角会えたんだよ?」

翡翠「どうしてまた……」

肩を落とす
気付けば、いつの間にかもう夜になっている

箒星は既にその姿を消していた
光の粒も降っていない


オルス(ねえ翡翠ちゃん。あれが、妹さんなの?)

翡翠(うん。間違いないよ。私が見間違えるはずがない)

オルス(……じゃあ、どうしてあんな事を?翡翠ちゃんの妹は、あんな事をする子なのかい?)

翡翠(……分からない)

確かに様子がおかしい気がした
仕草も、声も瑠璃そのものだった
その姿はまさに当時の生き写しと言ってもいい

でも、火事を目の前にしてあんな事を言うとは思えない
そもそも、悪い事をするような子じゃない

だとしたらどうして、ああやって私に敵対するの?

オルス(…別人ってことは無いかな?)

翡翠(そんな!そんな……こと……)

無い
とは言い切れなかった

だって瑠璃は死んだはずなんだから

それに…もし瑠璃だったとしたら、その方が都合が悪い
何故なら、あの子はあのマンションを放火した本人という事になるんだから


昨日のアンノウンに引き続き
今度は瑠璃に瓜二つの鎧騎士

……あの子もあの姿になれるっていう事は、あの子も…私と一緒なのかな

疑問ばかりが募っていく
混乱や、苦悩ばかりが私を押し潰そうとする

ずっと、心に違和感が残っている
オルスの言う通り、あの子は本当に瑠璃なんだろうか?
何か、違う気がする

勘でしかないけど、直感がそう告げていた

それに、素朴な疑問がある
アレが本当に瑠璃だったとして、あの子は今まで何処に居たんだろう?
今まで私と同じような騎士が目撃されれば大騒ぎになっているはずだ
そうでなくとも、この辺りに住んでいるなら姿を見てもおかしく無い筈だ

そう、何処で生活をしていたのか?

それだけが、どうしようもなく答えを出せない疑問だ

だからこそ、アレは瑠璃ではないんじゃないだろうかと思ってしまっているのかもしれない


それから、他にアンノウンが現れることも無く
一先ず今回の騒動は幕を閉じた

火事にあった人からすれば、最悪のクリスマスイブだっただろう
私としても、とてもいい日だったとは言えないな

変身を解いてオルスと帰路を辿る
そんな時、スマホに着信があった
確認をすると、それはメールで、差出人は『姫神沙耶香』となっていた

私は慌ててそれを開く
内容はこうだ―――


『輝翡翠様

私との会話、覚えているかしら?
この戦いを長引かせようとしている人が居ると言ったでしょう?
私はついに、その真相を掴みました
この戦いに終止符を打ちましょう
その為にも、貴女に話しておきたいことがあるの

学校で待ってるわ』


との事だった


てっきりまた、あの連絡メールのようだと思っていたけど
どうやら私にだけ宛てられた手紙らしい

でも、どうして私に?

疑問が残るが、実際にあってみれば分かるだろう
そう思い、進路を変えて学校に向かおうとしたとき

ぴるぴるぴるぴる

と、また電話が鳴る
今度はオルスだった

オルス「ご、ゴメン翡翠ちゃん!ちょっと待ってね!」

そう言って少し離れて電話をしている

…?今日は珍しくとても言葉を荒げている
暫くすると、電話を持って私のもとに帰って来た

翡翠「どうしたの?」

オルス「……翡翠ちゃんに話があるって…」

不思議に思いながら、電話に耳を当てた


「こんばんは」

脳が震える感覚がした
鈴のようになる清らかで美しい少女の声が、電話から聞こえてきていた

翡翠「…もしかして…戦姫さん!?」

戦姫「……迷惑だとしても聞いて」

翡翠「は、はい!」

ほんのわずかに、躊躇うような間をあけて
戦姫さんは語りだした

戦姫「貴女は全てを知る時が来た」

戦姫「ううん……もう、手遅れになる前に話しておかないといけない」

戦姫「……残酷な事を知ることになると思う」

戦姫「でも、これは貴女が選ぶこと」

戦姫「貴女はどうする?」

戦姫「戦いを…悲しみを終わらせる?それとも、真実に……残酷な今に向き合ってみる?」

戦姫「貴女が選んで。貴女には、その権利があるから」

戦姫「…あの場所で待ってる」

そう言って、一方的に電話は切られた


ど、どういう事だろうか?
戦姫さんは私の事を何でも知っているような様子だった

でも、一度会っただけだよ?
分からない
彼女が何を考えているのか、全く理解が及ばない

何を知っているというんだろう?

戦いを…悲しみを終わらせる?
それは、出来れば終わって欲しいと思うけど

真実に…残酷な今に向き合う?
確かに、分からない納得できない事ばかりが山のように積み重なっている
それから…眼を背けたくはない

そして、選ぶとも言っていた

つまり、その二つは両立できないって事?
分からない

それすらも分からない


少なくとも、今の私には二つの道がある

沙耶香さんのメールに従い、学校に向かうか
戦姫さんの言葉を信じ、あの場所とやらを探すか

少なくとも、この二つのどちらかは選ばないといけない

分からない事ばっかりだ

でも、二人のもとに向かえば全てにケリがつくだろうという確信だけはある

あの沙耶香さんが何の確証も無く、あんなメールを送って来るとは思えない
多分、全ての全貌を知ったからこうして私にメールを送ったんだ

戦姫さんだって、何かを知っている様だった
あの予言めいた言葉にも、必ず意味と理由があるんだろう


さあ、どうする?


私は…………




というわけで今日の更新はここまでです


ここから先はルート選択のお時間です
二つのルート内、一つを多数決で選んでいただきます
票の受付は、次回更新までとします

ではでは、お付き合いいただきありがとうございました



ルート選択

1、シナリオ【黒】。姫神沙耶香と共に戦いを終わらせる
2、シナリオ【白】。星涙の戦姫と共に真実に向かい合う

安価↓から次回更新の時まで


ルート選択で書き忘れたシナリオのサブタイトル的な奴



1、シナリオ【黒】。『何かをすると決めたのなら、決して立ち止まってはならない』
2、シナリオ【白】。『もしこの世に、倒すべき魔王が居ないとすれば』


こんな感じのシナリオになっております
これも踏まえてルート選択を考えて頂ければと思います

質問
今回の選択で選ばれなかったルートはどうなる?
後でそっちもやってくれる?それとも一切描かれず?
せめて完結後にあらすじだけでも知りたいな


>>65
選ばれなかった方のルートも、完結後にあらすじ解説なようなものを入れる予定です
それとクライマックスシーンのssのようなモノも書くつもりですね


21:00に締切り予定です



投票結果

1、シナリオ【黒】  3票
2、シナリオ【白】  6票



多数決によりシナリオ【白】へと決定しました



では、再開です


選択:2


予言のような言葉を残し、私の前から姿を消した戦姫さん

『星涙の戦姫』と呼ばれる始まりの魔法少女
彼女はいつも、何かを知っている様だった

そういえば、初めてその姿を見た時、私を助けてくれたっけ?

二度目に会ったときは、私と沙耶香さんの戦いを仲裁してくれた

三度目は、彼女と初めて会話した
初めて目の前にした彼女は、とても小さくて、恥ずかしがり屋で
そして、間違いなくいい人だった

今思うと彼女はいつも私を助けてくれていた

もしかすると、どこかで私を見守ってくれていたのかもしれない

沙耶香さんは彼女の事を怪しいと言っていたけど
私は…信じたいと思う

行こう、戦姫さんのもとへ

私は変身し、戦姫さんの姿を探した


戦姫さんは思ったよりもすぐに見つかった

ある病院の屋上
そこに、彼女は居た

一切の穢れを感じさせない白で出来たドレス
まるでウエディングドレスかのような華やかで、目を奪われる出で立ち

その白に映えるように、美しい金髪がたなびいている

夜色の美しい瞳さえハッキリと見えた
まるで物憂げなその印象は、きっと彼女の泣き黒子がそれを感じさせているのだろう

夜空に煌く星々の光を擬人化したような姿の少女は、その口を開く

戦姫「…そう、貴女はこっちを選んだんだね」

戦姫「翡翠の騎士」

戦姫「ううん、輝翡翠」

翡翠「…!…やっぱり、これも知ってるんだね」

私は初めて誰かの前で変身を解き、本来の私の姿を見せた


改めて彼女と対峙する
本当に、この世のモノとは思えないほど美しい人だ

翡翠「あ、あの…戦姫さんはどうして私の事を、翡翠の騎士だって知ってたんですか?」

戦姫「最初から」

翡翠「さ、最初から…!?」

戦姫「うん、そうだよね……オルス」

翡翠「えっ?」

驚き、オルスに目を向ける
オルスは一瞬目を伏せて、すぐに顔をあげる

オルス「………うん、僕はずっとこの人からの指示で動いていた」

オルス「騙すつもりはなかったんだ!でも…この事を話してはいけないって言われてて……ごめんね翡翠ちゃん」

翡翠「そ、そうだったんだ……」

衝撃の事実に面食らってしまったが、そう考えると色々と辻褄も合う
オルスの電話相手が星涙の戦姫さんだった事は、ついこの前知ったばかりだし
オルスが頑なに僕を信じてと言っていたのは、戦姫さんから自分がどういう存在かを知らされていたからだ

でも口止めされていた
だからこそ、信じて欲しいとしか言えなかったんだろう


翡翠「えっと…つまり…私は最初から戦姫さんの思惑通りに動いていたって事?」

戦姫「それも違う。ただ、貴女が堕ちてしまわないように手助けをしただけ」

戦姫「経験はない?何かに、自分が飲まれそうになった経験」

翡翠「そ、れは………」

ある
翡翠の騎士になった時
劣勢に追い込まれたとき、私の胸の奥の奥、湧き上がってくる『ナニカ』が居た

私がそれに飲み込まれそうになったとき、助けてくれたのはオルスだった

つまり、そうなることを防ぐために動いていたという事だろうか?

翡翠「うん…あるよ」

戦姫「…そう…やっぱり…」

戦姫「……じゃあ何から話そう?何でも聞いて、答えられないことは無いから」

戦姫「貴女の疑問の全てに、決着をつけよう」

翡翠「………じゃあ…」


質問内容
安価↓1

そもそも何で翡翠の騎士に選ばれたのか


>>79採用


翡翠「えっと……ずっと気になっていることがあるんです」

翡翠「翡翠の騎士が特別な存在なんだって事は分かりました」

翡翠「…でもそこが疑問なんです」

翡翠「そもそも何で私が翡翠の騎士に選ばれたんですか?」

戦姫「それに対する解があるとすれば、『貴女が輝翡翠だから』としか言えない」

戦姫「貴女じゃなければ翡翠の騎士になりえなかった」

戦姫「貴女以外、何処にも特別な存在は居ない」

戦姫「だから、貴女が翡翠の騎士になった」

戦姫「全てを終わらせるに相応しい人として、翡翠の騎士になった」

戦姫「………その理由は、すぐに分かる」

そう言って目を伏せた
どうやら、それでこの質問に対する答えは終わりらしい

どうしてもモヤモヤが残るが、直ぐに分かるらしいし、仕方ないと割り切ろう


次の質問

安価↓1

戦いはこれからも続くんですね


>>82採用


翡翠「戦いはこれからも続くんですよね…」

翡翠「沙耶香さんは全ての戦いを終わらせると言っていました」

翡翠「戦姫さんは真実と向き合う時が来たと言ってました」

翡翠「そして、選ぶとも言ってましたよね?……今こうして、私は戦姫さんを選んだ」

翡翠「これって、偶然なんかじゃなくて…どちらかしか選べないって事なんですよね?」

戦姫「………」

私の言葉に戦姫さんは悲痛な顔を浮かべる
そして、顔をあげて回答する

戦姫「確かに…そう言った」

戦姫「でも、『終わらせることも出来る』。貴女がそれを選べば」

戦姫「でも貴女は……『この世に倒すべき魔王なんて居ない』そう知ってまで、戦いを終わらせられる?」

心臓が跳ねる
倒すべき魔王なんて居ない?

どういう事だろうか
沙耶香さんは全ての真相を見つけたと言っていた、戦いを終わらせられるとも言っていた
それはつまり、黒幕が居て、倒すべきボスが居るという事なんじゃないのだろうか?


翡翠「倒すべき魔王なんて居ない…って、どういう事なんですか?」

翡翠「全てのアンノウンの生みの親とか、魔法少女とアンノウンを争わせている人物とか、そんな黒幕が居るんじゃないんですか?」

戦姫「確かに『黒幕』と呼ばれるすべての元凶は居ると思う。その人物の所為で、魔法少女とアンノウンは戦い続けていると言ってもいい」

戦姫「でもそれが、倒すべき敵かどうかは。貴女がその目で判断して」

戦姫「これは、貴女以外では終わらせてはいけない物語だから」

そこで言葉が切られた

それが私の質問に対する回答何だろう
……私が翡翠の騎士になった理由とも関係しているんだろうか?

それも、すぐに分かる事なんだろうか?


疑問が解消するどころか、疑問が生まれてしまったが、一先ず置いておこう


次はもっと根本的な話を聞いてみよう


1、魔法少女とは、アンノウンとは何か
2、貴女は結局何者なの?
3、あの箒星の事

安価↓1


>>85採用:2


翡翠「…戦姫さんて何でも知ってますよね?」

翡翠「結局…貴女は何者なんですか?」

戦姫「………当然の疑問」

戦姫「まだ、いくつも知りたい事はあると思う」

戦姫「でも、実のところ…全ての謎は繋がっている」

戦姫「一つ一つ、順を追って説明すれば…全てが解明される」

戦姫「まず、魔法少女とアンノウンの事を語るには、あの箒星の事から話さないといけない」

翡翠「いえ、あの…先に正体を…」

小悪魔「もうアンタ!空気読みなさいよ!!」

小悪魔「お姫様はねぇ!勿体ぶってるの!!」

小悪魔「最後の最後でカッコよ~く決めるから!今は聞いてなさい!!」

翡翠「あ、は…はい」

小悪魔さんに怒られてしまった
戦姫さんは恥ずかしそうに顔を赤くしている
…まあ、そりゃあ恥ずかしいだろうね
素知らぬ顔で他の説明を始めようとして、結局小悪魔さんにやろうとしていたことをバラされたんだから


軽く咳払いをして、説明を続ける

戦姫「あの箒星が何なのか知ってる?」

翡翠「え?えっと…一年周期で姿を見せる星としか……あと、あれから零れた光が『星の涙』って呼ばれていることくらいです」

戦姫「……そう。アレは、ただの星じゃない」

戦姫「アレは『人々の願いの結晶』」

戦姫「誰かが願った『こうあって欲しい』という祈りの権化」

戦姫「あの星は、人による願いで出来ている」

戦姫「例えばそう『巨大兵器と怪獣が戦い合う映画のような世界』」

戦姫「例えばそう『一度は居ると永久に帰ってくることが叶わない未知の大穴』」

戦姫「例えばそう『血を吸う鬼が闊歩する、太陽の光なき世界』」


戦姫「そして……『未知なる怪物を倒すために戦う少女』」


戦姫「あらゆる空想を現実にすることこそ、あの箒星の存在する価値」

戦姫「今この世界は、あの箒星に祈った誰かの願いが現実となった世界」


あまりも突拍子もない話だった
到底信じられるわけも無い、途方も無く壮大な話だ

戦姫「信じられない?」

翡翠「そ、そりゃあ信じられないよ……だって…意味が分からない」

戦姫「でも事実。それが現実。それ以上の答えなんてない。論理も常識も何の意味がない」

戦姫「どれだけ学者がアンノウンを研究しようと辿り着けるわけがない。何故ならこれは願いだから」

戦姫「動物の突然変異とか、未知のウイルスなんてない。無からの自然発生」

戦姫「魔法少女とアンノウンは『望まれたから生まれた』」

戦姫「あの、『星の涙』によってね」

翡翠「……そんな……いや、そう…なんだね」

順序立てて話をしようとした理由が分かった気がした
魔法少女もアンノウン、あらゆる不自然な存在を証明するのにあの箒星の説明は必要不可欠だった

元々よく分からない存在だった
だが、それも当然なんだ

化学や知識では絶対に解明できない、空想の存在なんだから


戦姫「次に説明しないといけないのは、あの箒星が毎年姿を見せている理由」

戦姫「それは、魔法少女とアンノウンの発生する理由が直接の原因」

戦姫「…この世界に生まれた『始まりのアンノウン』。あのアンノウンは願いを叶えたからこそ生まれた」

戦姫「その願いこそ……全ての最悪の始まり」

戦姫「かつて人だった彼女は願ってしまった……『死者の蘇り』をね」

翡翠「…し、死者の…蘇り…?」

戦姫「それこそが、アンノウンの正体。『死んだ生物が蘇った姿』それがアンノウン」

更なる真実もまた、予想を遥かに超えていた
アンノウンの正体が…かつて死んだ生物が蘇った姿だなんて…

戦姫「蘇った生物には、ある特徴が習性として現れる」

戦姫「それは…生きていた頃、最後に願った未練。それを叶えなければいけない」

戦姫「何かを…誰かを探してアンノウンはその未練を果たそうとする」

戦姫「だけど、それを『見つけられなかったとき』。暴走を始める」

戦姫「それが、魔法少女が今まで倒してきたアンノウンの姿」


翡翠「で、でも…暴走する意味が分からない。あんな狂暴性を持つ理由なんてないよね?」

翡翠「それすらも願われたっていうの?」

戦姫「それは恐らく、あの箒星の特徴。叶えられる願いは『必ずいつかは終わらなければならない』そう決められている」

戦姫「だけど、望まれた願いは『終わらない世界』」

戦姫「もうこの世に現世も幽世も常世すらも無い。死んでも終われなくなった」

戦姫「それがこの世界の最大の歪みであり、箒星が何度も姿を見せるようになった理由」

戦姫「箒星は天上から願いを叶えるだけの存在だった。だけど今は、『始まりのアンノウンの願いを叶え続ける存在』になってしまっている」

戦姫「簡単に言うならば…全ての黒幕はあの箒星でもあるという事」

戦姫「あの箒星を破壊すれば、全ての願いの力は解放され、アンノウンは全て消滅すると思う」

戦姫「姫神沙耶香が見つけた真相も、恐らくそれ」

翡翠「つまり…沙耶香さんはあの箒星を破壊しようとしていたんだね」

相変わらず常人とはスケールが違う
それにしても、よくその真相に辿り着けたね沙耶香さん…


戦姫「終わらない世界は叶ったけれど、流石にそれでは許されない」

戦姫「だから箒星はもう一つ、願いを叶えた」

戦姫「……ううん、ほんの少し世界に修正を加えた」

戦姫「それが、魔法少女」

戦姫「つまり…『星涙の戦姫』が生まれた」

戦姫「アンノウンを終わらせることができる唯一の存在。魔法少女でなければ、あのアンノウンは終わらせられない」

戦姫「そういう修正を加えることで、『死者が蘇る』という願いを叶えながら、『いつかは終わらせられる』世界になった」

翡翠「おお…何だか頭がこんがらがって来たけど……」

翡翠「つまり、魔法少女とアンノウンは全く別の存在って事でいいんだよね?」

戦姫「………そうだったら、よかったんだけど…」

戦姫「未練を果たせなかったアンノウンが暴走を始めると言ったよね?」

戦姫「じゃあ、未練を果たせているアンノウンは何処に居るか?」

戦姫「もう、分かるよね」

翡翠「………」


生前の未練を果たそうと蘇った生物がアンノウン
何かを、誰かを探して見つけられた存在

それってつまり……


回答安価
安価↓1

その誰かの心の中に巣くっている


>>92採用


翡翠「…探していた誰かに巣食っている」

戦姫「そう、それが…正体。今ここに居る、オルス…この小悪魔もそう」

小悪魔「つまりアタシらアンノウンでもあり、魔法少女ってわけ」

          キー   アンノウン                 キー
小悪魔「だから『聖獣』。『未知』を表す『X』。ギリシア文字の『X』とかかってたって訳よ」


小悪魔「駄洒落なんてつまんないセンスよね!」

翡翠「そっか…そうだったんだ。実は私は、もう既に答えを知ってたんだね…」

直ぐにそう連想できるわけではないから、こうしてアンノウンと聖獣は別物だろうと考えられてたわけだけど

翡翠「つまりだよ。つまり沙耶香さんが提唱していた『寄生型アンノウン』が居るっていう予想は的を射ていたわけだね」

戦姫「そうなるね」

沙耶香さん…始まりを知っている戦姫さんだからこそ知っているような真実に、もう目の前まで迫ってたんだね
真実を知れば知るほど、その底知れなさを思い知らされている


翡翠「……待って、そうなると…オルスが私(翡翠の騎士)の暴走を助長させてたって事?」

戦姫「オルスが何のために生まれたか、言ってなかった?」

翡翠「……『喜び』だったよね?」

オルス「…うん。僕は君に喜んでもらうためにこの世にもう一度生まれたんだ」

オルスもまた肯定する

『喜び』
それは確かに私を狂わそうとする源だったと確信できる
全身が叫んでいた、胸の奥底から発狂しそうなほど渇望していた

あれは、オルスがアンノウンであったことの名残なんだろう

戦姫「でも、貴女を狂わせるそれは、実はオルスでも貴女自身でもない」

翡翠「あれ?そうなの?」

戦姫「うん。それが、翡翠の騎士が何なのかの正体」

戦姫「翡翠の騎士…オルスは……全てを終わらせる『第三種アンノウン』として生まれたから」

翡翠「第三種アンノウン…また新しい言葉だ」

                                     キメラ
戦姫「今のオルスは、三つの要素が重なり合って生まれた合成獣」

戦姫「一つはアンノウンとしてのオルス。これは貴女を喜ばせたいという純粋な未練によって行動する。つまりオルスの基本形」

戦姫「もう一つは『現世を喰らう飢狼』としてのオルス」

戦姫「これは始まりのアンノウンが成そうとしている、『全人類の根絶』という願いから生まれた獣」

戦姫「その願いによって、今までとは全く別の目的を持ったアンノウンが生まれた」

翡翠「…それ、見たことあるかもしれない」

今まで見てきた、こうして説明されたアンノウンと全く違う存在のアンノウン
昨日見た武人のようなあのアンノウンだ
我慾…未練を果たそうとするアンノウンとしての性質を持っていながら、奇妙なほど理性的に何かの理想を持って行動していたアンノウン
それが、『全人類の根絶』という願いから生まれた獣とやらなんだろう

戦姫「……そして、三つ目の要素は」

戦姫「正義の心」

翡翠「せ、正義の心?」

戦姫「貴女に見せたはず。オルスは、貴女を喜ばせる事と共に、それに負けないほど強い正義感を持っていたはず」

翡翠「……確かに…」

思い返してみれば、初めて会ったときがそう
私を助けるのはアンノウンとして当然の我慾だとしても、その後私を置いてでも少女を助けようとしていた
確かに、アンノウンの性質と矛盾している


戦姫「オルスが予め生まれることを予期していた私は、生まれてくるオルスにハッキングを仕掛けた」

戦姫「それが『正義の心』」

戦姫「本来ならオルスと混ざりあって『喜びを享受する憎悪を喰らう獣』という存在であるはずのオルスを、『理性によって憎悪を押し留める』という歪な獣に仕立てた」

戦姫「つまり、オルスは唯一無二の存在。『世界を終わらせる獣であり、その力で全てを救う獣』となった」

戦姫「魔法少女でも、アンノウンでもなく、そのどちらでもある」

戦姫「それこそが、『翡翠の騎士』の正体」

翡翠「………そんな…凄い子だったんだね…オルス…」

オルス「そ、そんな事ないよ!結局自前なのは、君を喜ばせたいっていう意志だけだからね」

オルス「後は全て与えられたモノだよ」

それでも、驚くことには変わりない
オルスの正体はまさに、この世の救世主ともいえる存在だった

しかし、それに負けないくらい可笑しなことを言われたことを私は見逃していない


翡翠「予期とか、ハッキングとか…戦姫さん何してるの?」

翡翠「ううん…何が出来るの?」

ずっと疑問だった
始まりの魔法少女だからと言って、それほどの知識量があるのは納得しきれない
未来予知のようなことすらやっている

更には魔法で町を修復までしている

それら全てを魔法で片付けるにしては、明らかに一つの魔法の範囲を超えているような気がする

戦姫「……それが、星涙の戦姫の正体に繋がる」

翡翠「あ、やっと帰って来たね……」

戦姫「『繋がれ』」

静かにそう呟くと、彼女の手に弓が握られていた
木の枝で出来たような、質素な弓


ふと、奇妙な事にも気づく
その弓に番えるべき矢が何処にもない

戦姫「この弓に番える矢。貴女も見たことあるでしょ?」

翡翠「うん…凄く綺麗な光。『星の涙』のような………え?ま、まさか…?」

戦姫「そのまさか」

戦姫「あの箒星から零れる光の粒。願いの権化より分かたれし、願いの欠片」

戦姫「星涙の戦姫の魔法は『箒星を作り出す事』」



戦姫「『あらゆる願いを叶えること』が、星涙の戦姫の魔法の正体」



そう言われたとき、頭がくらくらした
まさか…まさかそんな規格外なこと許されていいのか?
何でもありというのが魔法だなんて、ズルくない?


翡翠「……え?それじゃあここまでの話、全て貴女が居れば全部解決するんじゃないの?」

翡翠「だって願いが叶うんでしょ?」

小悪魔「ともーじゃん?残念だけど、そこまで便利じゃないんだなぁ」

小悪魔「あの箒星ですらその身を燃やしてあの光を生み出してるんだよ?」

小悪魔「強大な力には、それに見合った代償が必要なの」

ニタリと小悪魔は笑う
本物の悪魔のようだという感想が脳裏を巡る

小悪魔「コイツは自分の持っているモノを何か差し出して願いを叶えてるのよね」

小悪魔「だから、身の丈に合わない壮大過ぎる願いはNGってわけ」

小悪魔「だからセコセコ遠回りして、何とか世界の崩壊を阻止しようとしていたわけよ」

翡翠「そっか…そうだったんだね……」

思った以上に何でもというわけにはいかないらしい
それでも、毎日のように町を直してくれているというのは…とてつもない代償を払ってくれているのだろう


小悪魔「ああでもコイツ。最低の屑よ」

翡翠「え?」

小悪魔「だって本当は魔法少女なんて、コイツ一人で事足りる予定だったんだもの」

小悪魔「だってそうでしょ?始まりは一人のアンノウン。魔法少女も始まりの一人」

小悪魔「本当はコイツがその身を賭してアンノウン一匹殺せばそれで終了したはずなの。だけどそれをしなかった」

小悪魔「だからアンノウンは増え続けた」

小悪魔「アンノウンは願ったでしょ?終わらない地獄のような世界を。だからこそ、アンノウンは生まれ続けた」

小悪魔「だからこいつも願ったのよ。最低最悪の理由でね!」

戦姫「………」

戦姫さんはバツが悪そうに眼を背ける
何を願ったというのだろうか?

小悪魔「コイツは自分一人で解決できる、無敵で万能の力を持っていながら―――」




小悪魔「怖いから、戦いたくないから、無関係で終わるはずだった人々を巻き添えにした」

小悪魔「他の魔法少女が生まれることを願ったのはコイツなのよ」

小悪魔「手持ちの寿命半分も使ってね」



小悪魔「この糞戦姫とアンノウンの願いによって、今のシステムが生まれたって訳よ」

小悪魔「本当散々だわ。このゴミクズ!失いたくないから他の人間に戦わせるなんて!本当に吐き気がする!!!」

小悪魔「ほら、アンタ等も何か言ってやりなさいよ」

翡翠「……そう…言われても…」

でも、確かに褒められる願いじゃないのかもしれない
出来る筈だったことから眼を背け、逃げ出したという事だ

小悪魔「そんな負け犬の癖に、半端な正義感出して、微妙に手助けするなんてね」

小悪魔「そういう偽善者な所も最悪!クズ!そんな事で許されると思わないでよね!!」

偽善者か…確かに、それほど適切な言葉も無いかもしれない
魔法少女達に戦いを押し付けていながら、手助けをしているなんて

でも、同情の余地はあるような気がする……


なんと言おうか


会話安価
安価↓1

でも私と会ったときはとてもそういう人には見えませんでした。
どうしてか気になる


>>103採用


翡翠「でも…その…私と会ったときはとてもそういう人には見えませんでした」

翡翠「迷いなく私を助けてくれた」

翡翠「いつもそう、私を助けてくれてました」

翡翠「何かから逃げ出すような…そんな…卑怯な人には…思えません」

翡翠「……どうしてですか?」

戦姫「……」

戦姫さんはグッと唇を噛みしめる
小悪魔はニタニタと笑っている

小悪魔「ほら、出番よ。御誂え向きじゃない」

小悪魔「楽しみね、そんな行動全部、茶番だって知ったらね」

翡翠「え?」

戦姫「……うん、同情なんていらないよ。元より…そんな奴だから…」

戦姫さんの体から光が溢れていく
ぽろぽろと光の粒が零れ、その衣が剥がれていく

そして…その姿を現した……


暗い赤髪は片目を覆い隠すほど長い
風に吹かれて前髪が揺れると、その奥に潜んでいた瞳が現れる

怖いと思うほど鋭い目つき
その瞳は美しい緋色の輝きで
顔に愁いを感じさせるのは、きっと涙ぼくろの所為だろう

私はその姿をよく知っていた

『彼』を知っていた


翡翠「……陽一…君?」
                         
陽一「…ああ、つまり。俺が…朝陽一が『星涙の戦姫』の本当の姿だ」

陽一「……俺は、お前が…翡翠の騎士が…輝だと知ってたから」

陽一「ずっと助けてたんだ」

陽一「そうじゃないと、こんな事してなかったよ」


それはあまりにも衝撃的な告白だった
こんな傍に、こんなにも近くに星涙の戦姫が居ただなんて、思ってもみなかった……



というわけで今日の更新はここまでです


長々とした解説回でしたので、ちと退屈してたと思います
そこにぶち込まれる衝撃の真実ぅ!!

まあ、気づいてた人も結構いるんじゃないですかね

解説で分からなかったところとかあれば、補足でお応えします



ではでは、お付き合いいただきありがとうございました

これに続いて後々可憐辺りがなーんちゃって!とか言い出すのかな?


>>107
可憐ちゃんのようなあんないい子がベクターみたいな真似するはずないですよ!!
なあ真月!!真月?


自分で読み返してあまりにも分かり難くね?となったので哀しみの補足説明



【箒星について】
人の願いをかなえる光の集合体。願いが届いたよーと『星の涙』を零して伝える
数100年ほど置きに地球に姿を見せる。願いを叶えると去って行く
願いを叶えるのは人間とは限らない、完全ランダムに偶然誰かの願いが奇跡として叶えられる
叶えられた願いは『いつかは終われる』という形に修正されて叶えられる
今回は『死者の蘇り』を叶えてしまったため、最初にそれを願った者(始まりのアンノウン)に引っ張られ、ずっと地球を周回する羽目になっている。これが箒星が毎年姿を見せるようになったことの答え
箒星は始まりのアンノウンと強く結びついてしまっており、始まりのアンノウンの願いを叶え続ける存在に成り果てている
簡単に言えば体の良い舞台装置。願いを叶える存在とさえ分かれば問題ないです
因みに>>1のポエムで願いを叶える存在という正体をほのめかしてたつもりでした。分かった人居るのかな…?



【始まりのアンノウンについて】
3年前の12月25日に『死者の蘇り』を願い、叶えてしまった人物
アンノウンの生みの親、つまりは全ての元凶
願いは『終わらなければならない』のに、『終われない』願いを叶えてしまったせいで、早く終われや!と箒星に付きまとわれている
その所為で箒星と強く繋がりを持ってしまい、箒星の力を行使できるようにすらなってしまっている
始まりのアンノウンは二つの願いを叶えており、一つは『死者の蘇り』
そしてもう一つ、つい最近願われてかなった願いが『人類の根絶』
『人類の根絶』を願ったがために、第三種アンノウンと言う存在が生まれた
アンノウンの生みの親とさえ分かれば問題ないです
こんな願いを持った理由は後々分かります


【アンノウンについて】
『死者の蘇り』の願いが叶えられて、この世に蘇ったモノ達
蘇る生物はある未練を持って蘇り、それを果たすために人や物を探して回る
見つけられなかったモノ達は、未練が果たすことが出来ないという現実に発狂し、ご存知の通り狂暴化して暴れまわります
その未練(我慾)を満たすために、最初から暴走しているアンノウンも居ます。今まで出てきた奴ら大体こっち
その我慾を満たすことがエネルギー源であり、我慾が満たせなければやがて衰弱死します
未練を果たすべき相手、または物を見つけたアンノウンはそれに寄生し、我慾を発散して過ごしています
例えばオルスなら『輝翡翠を喜ばせたい』という我慾に突き動かされて、それを満たすことで生き延びています
アンノウン=マスコットであり、今まで倒してきた奴らはマスコットの成れの果てとさえ分かれば問題ないです



【アンノウンの種類について】
未練を果たすか果たしていないかで、その末路が変わるアンノウン
そんなアンノウンには3つの種類があります

『第一種アンノウン』
これは始まりのアンノウンその人。それ以外には居ない

『第二種アンノウン』
マスコットとか今まで倒してきた敵とか、殆どのアンノウンはここに含められる
死者の蘇りという願いによって生まれた

『第三種アンノウン』
オルスや武人のようなアンノウンと言った新種のアンノウン
全てを喰らい尽くすという使命を持って生まれ、第二種アンノウンのような未練も持っている
本能を以て喰らい、我慾のままに未練を果たす
死者の蘇りという願いと、人類根絶という願いの二つの願いから生まれたため、本能と我慾が混ざり合う

多分この設定が状況を一番分かり難くしている要因


【オルスについて】
前述したような第三種アンノウンに含まれる存在
三つの要素によってその在り方は成り立っている
一つ目は未練。普通のアンノウンの様に未練を持って生まれた。その未練は『輝翡翠を喜ばせたい』という事。ここがオルスの基本人格
二つ目は使命。人類の根絶という願いにより、普通のアンノウンとして生まれてくるはずだったオルスに植え込まれた『獣の本能』。暴走の原因がこれ
三つ目は正義。上二つのままでは輝翡翠には破滅しかない、と知ってしまった星涙の戦姫が新たに付け加えた人格。理性を持って本能を抑え込む役割を持っている。これがあるから暴走しそうでもギリギリ持ちこたえていた
以上の三つの人格が混ざり合って生まれた存在
正義の心と基本人格は殆ど混ざり合って共存しているが、本能だけは融け合わず、全く別の人格として存在している
しかし獣の本能はオルスに影響を受けており、それが『喜び』という歪な感情を以て、自分を確立している
オルスは狼の皮を被った正義のウサギとさえ分かれば問題ないです
魔法少女のマスコットなのに底抜けにいい子です



【星涙の戦姫について】
全てを知っていながら、怖いからという理由で戦わなかった最低の屑
自分の持っているモノを代償に願いを叶える魔法を持っている。ぶっちゃけチート
箒星さんが始まりのアンノウンを終わらせるために生み出した、対アンノウン決戦兵器
自分の親を殺したアンノウンを倒す事だけはしたが、元凶(始まりのアンノウン)を倒すには多大な代償が必要と知ってチキる
結果、自分の寿命半分使って、自分以外の魔法少女も生まれるようにした
つまり、第二種アンノウンはコイツの願いでもある
自分から巻き込んだにも拘らず罪悪感が湧き、町を直したりとさり気なく助けているのが更にカッコ悪い
だけど輝翡翠の事は全力で助けていた。当然この星涙の戦姫の正体が『朝陽一』だからである
願いを叶える魔法と、その正体が『朝陽一』であることさえ分かれば問題ないです
因みに今回で一番書きたかったキャラ


本編の説明では伝わりにくかったかなと言う所を補足したのがこんな感じです
これでもまだ分かり難いという所があれば遠慮なく仰ってください

毎度毎度、解説回は上手に書けないなと反省してます


結構しっかりとした設定があったのね予想以上だった

くぁ、妹は妹だったのか!
クライマックスですな!がんばっ


>>113
割と凝り性なので、毎度設定は頑張って作ってます
これでもお見せする機会が無かった設定いくつかあります


>>114
ありがとうございます!頑張ります!!



ではでは再開です


名前:朝陽一(アサ ヨウイチ)
性別:男性
年齢:17歳


【容姿】
身長は174cm
暗い赤髪に、緋色の瞳、鋭い視線が特徴的な青年
前髪はとても長く、右目をすっぽり覆っている
前髪の所為で顔を顰めがちで、目つきが悪いとよく言われる
右目の目尻に泣き黒子がある
隠れイケメン


【内面】
優柔不断で臆病な性格であり、小心者。そんな自分に苛立ちを覚えている
人並みの正義感を持ってはいるが、今一歩踏み込めない自分の勇気の無さを心の底から嫌っている
良くも悪くも普通の青年
他人との交流の機会があまりなく、喋り方はたどたどしい
しかし、その容貌から不良と思われることが多く、喋り方が拙いのも面倒くさそうに見られがち。溜息をよく吐くのも、その印象を助長させている
趣味はアニメと漫画観賞
誰にも言わないし本人も認めないが、魔法少女に憧れを持っており、魔法少女オタクである

          
その正体は始まりの魔法少女。『星涙の戦姫』その人である


『星涙の戦姫』
始まりの魔法少女
ウエディングドレスを想わせるような白いドレス
スカートのフリルは大きく広いが、腰回りは体のラインを出すほどに細いデザイン
胸の大きさは程々で少女らしさを失わせないボディライン
蝶を連想させるロングケープは、シースルーのような感じで肌を見通せる
手首辺りまでを覆う手袋をしており、白百合を連想させるデザイン
白タイツを履いており、靴は丸っこいパンプス。止め具のあるタイプで、ヒールはそれほど高くない
肩にかかるくらいの金髪、瞳の色は深い夜色
星をちりばめたような銀のティアラをつけている
涙を湛えたような瞳、儚げな雰囲気、鈴のような凛とした声
人々を守る魔法少女でありながら、庇護欲を掻き立てる少女的美の集大成のような姿
クリスタリアと呼ばれているが、本当の名前は『ティア』


『星の涙』
彼方より奔る箒星より零れた光。そのもの
人の願いの結晶であり、これを作り出す事こそ彼女の魔法の正体
つまり『あらゆる願いを叶える』という魔法
代償として願いの内容と同価値のモノを失う
箒星のバックアップと、多くの魔法少女の祈りと願いを一身に受ける存在の為、人々が願ったこと(町を直す等)ならば意外と代償は少ない
願いは光の矢という形を持って現れ、弓に番えて放つことで初めて叶えられる



『祈りの弓』
木の枝のような意匠の弓
この弓で星の涙を放つ


名前:小悪魔
性別:女性?
年齢:???



【容姿】
10cmほどの小さな体躯
天に伸びる2本の角に、ゴムっぽい材質の可愛い尻尾、極めつけは蝙蝠のような羽
誰もが連想する小悪魔らしい小悪魔


【内面】
意地悪く性悪な性格
根っからの悪魔を自称する
星涙の戦姫と朝陽一を嫌っており、息を吐くように罵倒することを止めない
姿を見せていない時も大抵罵倒を続けている
願いを叶えるのに必要な代償や、代償によってどんな願いなら叶えられるかを教えてくれる。という地味に大切な役割を持つ
彼女もまたアンノウンであるはずなので、元となる存在と未練があるはずだが……


衝撃のあまり上手く言葉にならなかった
あんな可憐な美少女が、男の人…それも友達だったとは夢にも思っていなかった


陽一「驚いたか?」

翡翠「う、うん……正直今説明してくれたこと全部忘れそうなくらいに、衝撃だったよ…」

陽一「だよな……俺だって信じられない。俺がこんな大層な存在だなんてな」

陽一「まあでも…これが真実だ。ごめんな、俺なんかが星涙の戦姫で…」

小悪魔「ホントよ!世界中に全裸土下座して回ってもまだ辱め足りないわよ!!」

陽一「そこまで行くと趣旨が変わってるだろ…」

小悪魔「ふんっ!まあでも、これで翡翠も納得でしょ?星涙の戦姫がアンタにだけは優しかった理由」

翡翠「………うん…」

陽一君は私の事を友達だと思ってくれていたから、ここまで優しくしてくれてたんだろう
……うん?何だか時系列がおかしい気がするけど…気のせいだろう

勝手に納得し、改めて陽一君と向き合う


陽一「…取り敢えず、これでアンノウンと魔法少女の話は終わりだ」

陽一「これ以上の真実は無いし、過去も現実も変わらない」

翡翠「……そっか、これが…私の向き合うべき現実なんだね」

陽一「…いや、それは違う」

翡翠「え?」

陽一「これはただの状況の説明であって、輝が向き合うべきものはまだ終わっていない」

翡翠「ど、どういう事?」

陽一「……明日。君にとって最悪の日がやってくる」

陽一「そして明後日……世界が終わる予定の日だ」

陽一「輝は…いや翡翠の騎士はこれら全てを、『どう受け取ってもいい』」

陽一「最悪は絶対にやって来るし、どんなときにも必ず終わりは来てしまう」

陽一「覚悟しておいてくれ。逃げた俺が言う言葉じゃないけど……輝は…絶対に逃げちゃ駄目だ」

陽一「……今度は俺も、逃げないからさ」

話は終わったとばかりに、陽一君は背を向けて屋上から飛び降りた
慌てて追いかけると、一瞬だけ変身して着地し、すぐに変身を解いた
かなり慣れを感じさせる動きだった

私はこれからの事に一入の不安を感じながら、帰ることにした


帰り道、オルスと二人
私から話しかけた

翡翠「……オルス、最後まで信じてあげられなくて…ごめんね」

オルス「そんな!謝らないで。僕も悪かったんだ…」

オルス「間が悪かったというか…状況が…悪かっただけなんだよ」

オルス「だから、キミが謝る必要なんてないんだ」

オルスはいつもと何も変わらず、私を慰めてくれた

オルスはいつも言っていた
信じて欲しいと、懸命に訴えていた

その言葉に一切の嘘も欺瞞も無かった

一度として、私を裏切ったことなんてないんだ
そんな子を私は疑ってしまって…とても、心苦しい

オルス「それよりもさ、翡翠ちゃん。僕の事はもう思い出してくれたかな?」

翡翠「そっか、一度私とオルスは会ってるんだよね。私と縁があったから…オルスは私を探してた」

翡翠「だったら、オルスの正体は………」


オルスの正体の答え
安価↓1

昔飼っていた兎


>>122採用


翡翠「昔飼ってたウサギ……は居ない…」

ずっと飼いたかったけどパパがアレルギーだったから飼わせてもらえなかったんだ
そう言えば昔、ペット屋さんで泣きながら飼いたいって駄々をこねてたっけ

抱かせてもらったウサギさんに涙を擦りつけてたなぁ………

翡翠「…え?あの時のウサギ?」

オルス「そうだよ!…気づいて貰えないモノなんだね……」

翡翠「ごめんオルス。でも、あれだけの縁で?」

オルス「うん。僕にとっての幸せは、あの時君に泣いてもらったこと。僕にはその記憶しかないよ」

翡翠「え?どういう事?あの後、別の誰かに飼って貰ったりしなかったの?」

オルス「…うん。そうだよ。あれからあのペット屋さんは直ぐに潰れることになった」

オルス「元々経営難だったらしくて、売り物にしている動物たちも老化が進んでいった」

オルス「維持費も馬鹿にならないっていう事で、いくつかの動物たちは保健所や、里親に出された」


オルス「その中で、僕は…」

翡翠「保健所に行ったんだね……」

オルス「……ある意味、その方が幸せだったかもしれない」

オルス「僕は自力で脱走して、山に逃げた」

オルス「アハハ…我ながら馬鹿だと思うよ。きっと…一思いに殺された方が、無理に苦しまずに済んだ」

オルス「今まで飼われて生きてきたんだ、山で生活する事なんて到底出来やしなかった」

オルス「碌に食べ物も得られずに、最後にイノシシに食われて死んだ」

オルス「この眼もね。片目、殆ど見えていないんだ」

そう言いながら片眼鏡をかけている方の眼を押さえる
まさか、ただのお洒落だと思っていた小道具に、そんな意味があったなんて思っていなかった

翡翠「……そうだったんだ…それなのに、オルスは誰も恨んだりしなかったんだね」

オルス「…うん。それもキミのおかげ。あの時泣いてくれたから、その事が、僕が生きる糧だったから」

オルス「僕の為に泣いてくれたあの子を、笑顔にしてあげたい。それだけが僕の未練だった」

オルス「だからこうして、今翡翠ちゃんの笑顔を見るたびに…とても幸せな気持ちになるんだ」

そういって優しくはにかんだ


辛抱堪らなくなり抱き上げる
ごしごしと存分に顔を押し付ける

オルス「ひ、翡翠ちゃん!?恥ずかしいよ…」

翡翠「恥ずかしくないよ!!全然恥ずかしくないよ!!」

翡翠「私もオルスが傍に居てくれて嬉しいもん…」

翡翠「ずっと夢だったから……」

じわりじわりと感情が溢れだしていく
オルスの事を想えば想うほど、愛しさが溢れて止まらなかった

翡翠「昔ね、不思議の国のアリスっていう本に出てくる、うさぎさんが大好きだったの。丁度、オルスみたいに燕尾服を着て、片眼鏡をかけてて」

オルス「…だから僕はこんな姿なんだよ」

翡翠「…ずっと飼ってみたかった。アレルギーの事調べて、パパと一緒でも飼える子を探したけど、見つけらえなかった…」

オルス「だから僕は抜け毛一つも無い、アレルギー対策が万全なウサギなんだよ」

翡翠「………オルスはずっと、私の事を考えてくれてたんだね」

オルス「当たり前だよ。もう一度君に見つけてもらえる。それだけが僕の望みだったから」

翡翠「オルス…!」

ぎゅうっと抱きしめる腕に力が入る
きっと苦しい思いをしているだろう
でも、ちょっとだけ我慢してほしい、これくらいしか私もオルスが大好きだよって伝える方法がないから


オルス「翡翠ちゃん…泣いてるの?」

翡翠「泣いてないよ…!」

オルス「毛が濡れてるから分かるよ。泣かないで翡翠ちゃん…僕は君に泣いてほしいわけじゃないから」

オルスはぐいぐいと体を動かし、私と正面から向かい合う
そして、その小さな手で私の目尻を拭ってくれた

オルス「ほら、笑って?翡翠ちゃん。僕は君に笑っててほしいから」

翡翠「……」

オルスのお腹から顔を離し何とか嗚咽を止める
そして―――

翡翠「…えへへ」

泣きながら笑った

オルス「……もう、それは卑怯だよ」

オルス「ありがとう翡翠ちゃん。僕なんかの為に泣いてくれて」

オルス「君が泣いてくれたから…僕達はこうして再会できたんだ……」

オルス「それだけは『マザー』に感謝しなくちゃね」

翡翠「…うん」

その時だけは私も、始まりのアンノウンに感謝をしながら、オルスと話をした
他愛も無い話ばかりだったけど、心から信頼し合った状態で話が出来るのは、何よりも嬉しさを感じさせた


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

深夜イベント


場所は翡翠たちが通う学校
そこに、二人の姿があった

「…話は大体わかりましたわ。ですが、それで本当によろしいので?」

輝翡翠を待っていた姫神沙耶香は、意図しない来訪者から話を聞いた

輝翡翠が選んだ道を
これから起ころうとしている事を

「うん。そうじゃなければ…何も救われない」

「あれは輝が選ぶべきだ。俺達がとやかく言うべきじゃない」

「ですが、多くの人の命がかかっているんですのよ?貴方はその責任をどう取るおつもりで?星涙の戦姫」

「その為に俺が居る。全部、何とかする」

「……はぁ分かりましたわ。貴方の言っている事、全てを否定するわけではありませんの。もしもが起きた時の事を考えているなら、これ以上は言いませんわ」

「でも、俺だけじゃ足りないかもしれないから、その時は……」

「ええ、分かっていますわ。ですが、最悪の場合は箒星を破壊します。それが一番確実な方法ですから」

「………いや、止めた方がいい。何故なら……」

その後告げられる言葉に彼女は驚愕した
そして、全てに納得してしまう。『何も救われない』という言葉の事を…


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


朝、目を覚ます
昨日よりも幾分か気分がいい目覚めだった

星涙の戦姫…いや、陽一君に予言された『私にとって最悪の日』らしいけど
まだ全然実感が湧いていない

何かがあるんだろうとは思う
何故なら今日は12月25日。『Xデー』だからだ


昨日随分と泣いたからか、顔に痒みを感じる
目をスッキリと覚ますためにも、洗顔をしに洗面所に向かった

冷たい水がフワフワと浮遊していた頭をシャキッと覚醒させる

柔らかいタオルで顔の水をふき取り
改めて、自分の顔を鏡で見た

翡翠「……え?嘘…」

震える指で手を伸ばす
鏡に映る、私の右の目尻

そこには黒子があった

私に、翡翠にあるはずの無い個性がそこにはあった


翡翠「何で…!そんな…あり得ない!ある筈ない!!」

翡翠「私は……」

輝翡翠
ずっとそう思っていた
それに間違いはないと思っていた

当たり前だ、自分が自分以外の存在だなんて疑ったことは一度も無い

でも誰が証明する?

いいや、最早この身で、この顔で証明しているんじゃないか?
私は本当に輝翡翠なのか?

いや、そんな馬鹿なことある筈ない
あの時見た瑠璃。あの子には間違いなく黒子があったはずだ

じゃあどっちが本当なの?
その答えがあるとすれば、その時の火事の事
私だけが助けられて、生き残った火事の事

思い出せ、あの時の事……
ずっと心に引っかかり続けている、あの言葉の事を……


コンマ判定
5以上で……

直下コンマ


コンマ判定:3


原因は何だったんだろうか?

突然、台所から火の手が上がった

私達は何とかして、火を止めようとしてた

頭痛がする
記憶に霞がかかったように、ノイズが走る
どうしても…その瞬間を思い出せない

いや、その後の事を思い出せない

大事なのはその後の筈だ
何かがあったんだ

私しか生きていられなかった

何かがあったんだ

何で思い出せないの…?

自分の脳がその記憶に鍵をかけているように
どうしてか、その時の事だけ…どうしても思い起こすことができなかった


どれだけ頭を捻っても思い出せない

酷くもやもやする
だが、一つだけ確かな事を思い出す

私はお母さんが妊娠していたことを覚えている
そうじゃないと、オルスにも会えないわけだし

…うん、私は翡翠の筈なんだ

そう無理やり自分を納得させて、今日の事を考える


今日は最悪の日らしい
何か、今のうちにやっておくべきことはないだろうか?

まだ、その最悪の瞬間まで時間があると信じよう


さて、何をしよう?



行動安価
安価↓1

紗耶香に昨日行けなかった事を謝る


>>135採用


そうだ、昨日あれから沙耶香さんに一言も断りを言わないまま寝てしまっていた
色々な事があり過ぎて忘れてたけど、謝っておかないと

そう思い、恐る恐る沙耶香さんに電話をした

翡翠「…あの。もしもし」

沙耶香「はい。どうしたのかしら、翡翠さん。私の前に姿を見せずに、まさか電話だけで謝罪の言葉を?」

沙耶香「私はあれからずっと貴女を待って学校に居ましたのよ?」

沙耶香「寒かったですわ。暗かったですわ。怖かったですわ」

沙耶香「でも貴女を待ってずっと………」

翡翠「うわああ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!本当にごめんなさい!!」

翡翠「何でもしますから許してください!!!」

電話越しに土下座をする
申し訳なさで胸がいっぱいだった


沙耶香「ふふっ、冗談ですわよ。怒ってなどいませんし、途中で帰りましたわ」

翡翠「そ、そうなんですか?あ、でも行けなかったことは謝らないと……」

沙耶香「必要ありませんわ。貴女の事なら星涙の戦姫から全部聞きましたわ」

沙耶香「ね、翡翠の騎士様」

翡翠「そ、そこまで……」

沙耶香「まあそれはずっと前に気づいていましたが」

翡翠「え?因みにいつ頃?」

沙耶香「私とお友達になった時ですわね。『魔法少女になったけどまだ変身したことが無い』なんて都合のいい言いわけ、私が鵜呑みにするとでも?」

翡翠「……ですよね。お見逸れしました」

沙耶香「うふふ。よくってよ」

電話越しにも沙耶香さんの楽しそうな表情が伝わってくる
本当に底が知れないお人だ


翡翠「えと…星涙の戦姫と話をしたって事は、アンノウンと魔法少女の事も聞きましたよね?」

沙耶香「ええ。全部聞きましたわ」

沙耶香「概ね、私の予想通りという感じでしたわね。…悲しい事ですけど」

沙耶香「あの時私が刺殺した朱莉さんは……アンノウンでもあり、魔法少女だったという事ですわよね」

翡翠「はい、多分。どちらかというと第3種アンノウンに分類されるので、殆どアンノウンだったんだと思います」

沙耶香「…それなら、多少私は救われますけど。結局暁は救われませんわね…」

翡翠「……ですね」

結局、あの後も朱莉さんが生きていたとしても
いつか獣の本能が目覚めて、アンノウンに成り果てていただろう

だから結局、朱莉さんはあの時、あの瞬間、あの場所に居た時点で、この悲劇は避けられなかったという事になる

あの時の悲劇は、いつか起こる悲劇だっただけなのだ

その真実を打ち明けても、暁さんと沙耶香さんの仲は修復されないだろう
だから結局、暁さんは救われない


翡翠「…そう言えば、全てを終わらせるって、何をするつもりだったんですか?」

沙耶香「箒星を破壊するつもりでしたわ」

翡翠「や、やっぱり……」

しかもそれが出来るという算段も整っているんだろう
やはりどこかしらスケールがおかしい人だ

沙耶香「……貴女、始まりのアンノウン…長いのでマザーと呼びますが。マザーの事はどう思ってらっしゃるの?」

翡翠「どうって……諸悪の根源。倒すべき相手ですよね?」

沙耶香「そうですわね。箒星の破壊、もしくはマザーの討滅。それが果たされれば平和が訪れますもの」

沙耶香「全てのアンノウンは消滅すると思われますわ」

沙耶香「それはつまり。貴女の傍にいる、その子との別れにもなりますわ」

翡翠「…!そう…ですよね…」

ちょっと失念していた
そうか、アンノウンが消えるっていう事は、オルスも消えるっていう事なんだ


考えてなかったな……

別れたくないという想いが沸き上がる
マザーの願いによって、様々な悲劇と惨劇は起こった

朱莉さんが死んだショッピングモールの事件は、その最たるものだろう

だが、こうして…再び生を受けたモノと再開して、良い事もあった

多分、沙耶香さんの御付きのマスコットのレオンだって、沙耶香さんに会いたい理由があったはずだ
沙耶香さんも喜んだはずだ

この、マザーの願いは、必ずしも悲劇を生んだばかりではないのかもしれない


沙耶香「貴女はどう思いますの?マザーの事、マザーの願いの事」

沙耶香「貴女の言葉で、聞かせてくださる?」

翡翠「………」


オルスと出会えてうれしいという想いは確かにある
だが、手放しで喜んでいいモノかと問われれば………

さて、なんと答えよう

安価↓1

きっと「願うこと」そのものは善悪という価値観に関係なく尊いものだと思う
マザーが何がきっかけでああいう願いをしたのか、きっとそれをまず私たちは知るべきだと思う


>>141採用


翡翠「確かに、マザーの願いでこんな世界になっちゃいました。でも…」

翡翠「きっと「『願うこと』そのものは善悪という価値観に関係なく尊いものだと思う」

翡翠「マザーが何がきっかけでああいう願いをしたのか、きっとそれをまず私たちは知るべきだと思う」

沙耶香「……貴女やっぱり見どころがありますわね。さすがは翡翠の騎士ですわ」

沙耶香「満点の答えですわ。私なら、きっとたどり着けない答え」

沙耶香「悪しきを犯したのなら罰されなくてはならない、という私の考え方ではね」

翡翠「そ、そんな!ただ、純粋にそう思っただけで…」

沙耶香「だからこそ、褒めてるんですのよ」

普段あまり褒められることが無いからか、こうしてべた褒めされると無性に恥ずかしい気持ちになる
相手があの沙耶香さんだというのだから尚更だ

沙耶香「……どうか話を聞いてあげて。その上で、今と同じ純粋な気持ちで答えを出しなさい」

沙耶香「その時に出された答えこそ、きっと…最善だと信じてますわ」

翡翠「……」

沙耶香「それじゃあね翡翠さん。頑張って」

それを最後に電話は切られた
何だかとてつもなく重い責任を背負ったような気がする

マザー…『死者の蘇り』を願った始まりのアンノウン
その人は一体、どんな人物なんだろうか…


時刻は昼頃

今日は久しぶりに家族3人揃っての昼食だった
ちょっと遠い場所まで車で移動して、お洒落なレストランでのランチ

たくさん話をした
久しぶりに感じられる平和であり、暖かい家族団らんの時間だった
今日の夜も3人でご飯を食べようと約束をした

その帰り道、やけに渋滞を起こして一向に前に進まない

クリスマスだからだろうか?
そんな事を考えていた時、車のラジオから緊急のニュースが入って来た

『○○市の○○区で、大規模な火災が発生しました……はその出火原因を…』

私は胸騒ぎがして、車を降りた
そして、私が帰るべき町の方に目を向ける

遠くからでもハッキリと視認で来た

蒼い炎が波打つ街並みを

私の住む町が燃えていた
私が住む家がある場所が燃えていた

全てを察する、私は両親の静止すら聞かずに一心不乱に駆け出した

胸の鼓動は、何かに共鳴するように激しく高鳴って止まらない


近づくにつれて騒がしい人の声が聞こえてくる
車どころじゃなく、人すら渋滞を起こして前に薦めない

私は隠れて変身し、蒼い炎が波打つ町へと飛び込んだ

駆ける
駆ける
ひたすらに駆ける

向かうべき場所は一つ

きっとそこに居るはずだ

ひたすらに駆けたその先、それは居た

私の住む家
たくさんの家族の思い出が詰まった家

轟々と炎の渦を巻きあげて燃えていた

そのすぐ傍には、長い銀髪の少女が居た


瑠璃「あは、お姉ちゃん。おかえりなさい。遅かったね」

翡翠「……」

静かだ
こんな光景を前にして、私の心はひたすらに無音だ

瑠璃「それとも、お姉ちゃんの成りそこない?」

翡翠「………」

ああ、これが私にとって最悪の日
……確かにこれは、最悪としか言いようがない

瑠璃「ねえ返事してよ。それともまた忘れちゃった?」

瑠璃「自分が誰で、何をしたのか」

瑠璃「ねえ、自分が住む場所を燃やされて、思い出すことは無いの?」

翡翠「………」

最早思い出そうとする葛藤も無い
静かに、私は目の前の少女に問うた


会話安価
安価↓1

※文章改正


最早思い出そうとする葛藤も無い
静かに、私は目の前の少女を見据え………


会話及び行動安価
安価↓1

死者が動き回る世界は正しくないんだ


>>147採用
※カルマ値上昇


翡翠「…やっぱり間違ってるのかな」

翡翠「信じたいと思ってた。こんな世界でも…もう一度会えた喜びは、生まれてくる哀しみに負けないと思ってた」

翡翠「ああ…駄目だよ」

翡翠「死者が動き回る世界は正しくないんだ」

瑠璃「ククッ…あはぁ!あはははははは!!」

瑠璃「お前が!お前が私を捨てたんだろ!!!」

翡翠「もうどうでもいいよ。槍を取れ。私は貴女を許さない!」

瑠璃「私が生きるのに!お前の許しなんていらない!!」


     「『繋がれ』――!!」


声が重なり合う
そして、激しい金属音と共に決闘は始まった―――



という所で今日の更新はここまでです

次回、騎士の決闘
どうぞお楽しみに

ではでは、お付き合いいただきありがとうございました


そろそろ再開です



翡翠「うわああああああああ!!!」

無茶苦茶にハルバードを振り回す
その悉くを軽くいなされる

翡翠「クソッ!クソォ!!」

瑠璃「あはっ!あははははは!!こんな必死なお姉ちゃんなんて初めて見たよ!」

翡翠「どうして!どうしてこんな事をする必要があった!!」

瑠璃「ここには私の居場所はない!こんな場所!私には必要ない!!」

翡翠「この家には貴女の部屋もあった!お母さんは毎日花を供えていた!」

瑠璃「そんなの欺瞞だ!!慰めなんていらないよ!!」

叫ぶ
吠える

お互いの心のままに自分を吐き出し続ける

戦況は一進一退

瑠璃は翡翠の荒ぶる嵐のような攻撃をいなし続けているが、噴き出す炎は追い風によって吹き飛ばされる
互いに一歩も譲らない


激しく鎧がぶつかり合い体が弾き飛ばされる
互いが同時に着地し、再び槍の切っ先を目の前の敵に向けた

瑠璃「そろそろハッキリさせようよ。貴女が誰で、私は誰なのか」

翡翠「…言われるまでも無い。私は翡翠、貴女は瑠璃」

瑠璃「違う!私が翡翠だ!!あの時お前を庇って死んだ私だ!!」

翡翠「かば…って…?」

瑠璃「あはっ!あははははは!!ほら!ほぉら覚えてないじゃない!!」

瑠璃「私は覚えてる!忘れたことなんて一度だってなかった!!」

翡翠「……そんな…事…」

頭痛がする
ああ、まただ

また、こうして眼を逸らそうとしている

あの時、あの瞬間…私は……


瑠璃「それを今思い出させてあげる!!」

翡翠「――ッ!!」

反応が遅れた
ガードが間に合わない

強烈な蹴りが私のお腹に突き刺さる

体に浮遊感が生まれる
瞬間、視界が晴れる

全身に熱気が纏わりつく

オルス「翡翠ちゃあああああああん!!!!!」

オルスが叫びながら必死に私に手を伸ばしている
私は…私の体は……二階の部屋の窓ガラスを破り、中に放り込まれた


痛い…痛い……

腕に割れた窓ガラスの破片が刺さっている
久方ぶりの痛覚に、漸く今の状況を理解した

翡翠「変身が…解けてる……」

どういう事?
などと思考するよりも先に、吹き付ける熱風に顔を顰める

熱い

見渡す限り炎の海
パチパチと音をたて、私を部屋の中に追い立てる

翡翠「逃げっ…逃げないと……」

このままここに居たら死んでしまう
ここは……私の部屋…

出口は―――

翡翠「ッ!!うっ…くぅ……」

立ち上がろうと床に手を置いて力を入れた時、激痛が走る
慌てて掌を見ると、真っ赤な血が溢れていた


翡翠「痛い…痛いよ……」

痛みに怯え、体が震える
思わずその場に蹲ってしまう

どうして忘れてたんだろう
痛いのなんて当たり前だ

翡翠の騎士だったならこの程度の傷、全く関係なく動けるのに
胸を貫かれても、腕が拉げても、肩が破壊されても
どんなに傷ついたって平気だった

……嗚呼…そうか、私は『痛み』を忘れていたんだ

そう気づいた時、脳裏に蘇ってくる映像があった


あの日は、二人でお留守番してた

夜までパパもママも帰ってこない
だから、お昼ご飯。二人で作ろうって言っていた

本当はおにぎりを一緒に作るだけだったはずだ
でも、『私に任せて』ってあの子は言っていた

私は駄目だよと言った
でも、任せておいてと言われると。私は頷いてしまった

私と同じ顔をした少女
私よりも少し大人びた少女

あの子は私より出来た子だった
私より友達も多かった
優しくて、明るくて、人に好かれる子だった
人に頼られる子だった

私はいつも、あの子に頼ってしまっていた


あの子はコンロに火をつけた
フライパンを用意して、油を引こうとしていた

両手で大きな油のボトルを持って、ふらつきながら、危なっかし気に油を注いでいた

ああ…そうだ
私達はまだ小さかったから
椅子の上に足を乗せて、調理台に立ってたっけ

私はビクビクと、あの子のスカートの裾を握って『大丈夫?』と聞いた
あの子は大丈夫だよと笑っていた

その子の手に持つ油のボトル
そのボトルの注ぎ口、口を閉めるときに一滴の油が溢れた

きっと、大したこと無い筈だった
それくらいで怖い事なんか起こる筈がない

だけど私は、あの子のスカートを引っ張ってしまった

怪我をしてしまうと思ったんだ
あの子は体勢を崩して、私の体の上に覆いかぶさるように転んだ

そう、私は見た
ひっくり返るフライパン
倒れるボトル

燃え盛るコンロ

ああ……私だ…私が、あの火事を起こしたんだ


ボウッ

と激しく燃える音がする
そこで、現実に戻って来た

そうだ…私があの時、火事を起こしたんだ
あの場所を燃やしたのは、私だったんだ

翡翠「けほっけほっ……」

煙にせき込む
息を吸おうとして、痛みに呼吸を止めてしまう

空気が痛い
熱いから喉を焼いてしまうんだ

酸素が…薄れていく
視界が霞む、意識が遠のいていく
駄目だ…外に出ないと……

私はよたつきながら、出口に向かう

ドアノブを握る
熱を持っていて、掌の皮が張り付きそうなほど痛む
だけど、ここをくぐらないと…

私は、必死に力を込めてドアを開けた………


ドア開けた先に、私が居た

ふらつく私とは対照的に、ニタリと怪しく笑う私
鏡写しの様に、同じ位置に泣き黒子があった

瑠璃?「ねえ、あの時もこうだったよね」

瑠璃?「二人して倒れて、起き上がった時には、取り返しのつかないくらいに炎は大きくなっていた」

瑠璃?「私はお姉ちゃんだから、先に起き上がって、必死に火を止めようとしたよね」

瑠璃?「貴女は何をしてたの?」

翡翠「……私…は…泣いてた」

翡翠「…ごめんなさいって…泣いて泣いて…謝った……」

瑠璃?「そうね。貴女はいっつもそう」

瑠璃?「私の後ろをついて来てばっかり。手を引っ張るのはいつも私」

瑠璃?「お姉ちゃんだった私だよね」

翡翠「………」

私は否定できなかった
そうだ、そうだった

あの子がお姉ちゃんだから、私はいつも頼っていた
私が妹だから、お姉ちゃんを頼ってたんだ


瑠璃?「ねえ、もう一度聞くよ?」

瑠璃?「私として生きる、貴女は誰?」

翡翠「…私は……」


会話安価
安価↓1

私が瑠璃


>>163採用


翡翠「……私が瑠璃」

瑠璃?「…ククッ!あははは!あはははははははは!!」

瑠璃?「そうよ!それでいいの!生きるべきだったのは私なの!!あの時!私を殺したのは瑠璃なのよ!!」

笑う、高らかに笑う
私と同じ顔をした少女
瑠璃……いや、翡翠お姉ちゃん

あの時、私が殺してしまった最愛の姉妹


   「…ちゃん!!…すいちゃん!!!!」


オルスの声がする
外で、必死に私を呼んでいる
……いや、私じゃないのか

全身から力が抜けていく
己の罪を自覚した途端、生きる気力が死んでいく


翡翠「ねえお姉ちゃん言ったよね。『お姉ちゃんに任せて』って」

翡翠「覚えてる?」

瑠璃「………」

記憶が沸々と湧いてくる
霞がかった記憶の断片が繋がり、一枚の絵となっていく

……

………

…………


火の勢いは納まるどころか、ますます勢いを増して周囲を飲み込んでいく
逃げようと決意した時には、既に一面炎の海だった

あの子は私の手を握ってくれていた

『私に任せて』

あの子はそう言って、私を安心させてくれた
私は信じて、ギュっと手を握った


激しく煙が噴き上げて視界を奪う
咳が止まらなくて、熱くて、苦しくて、痛かった

それでも玄関にたどり着いて、ドアノブを回した

手に張り付くほど高熱を持ったノブだった
だけど、あの子は歯を食いしばって開けてくれた

玄関の先は、通路だった
7階建てのマンションの4階

待っていたのは新鮮な空気なんかじゃなかった

そこもまた、火の海
本当に偶然だった、偶々、奇跡に近い確率だった

あのマンションは放火されていた
私が火事を起こした全く同日同時刻、愉快犯による放火

だからこそ、私の罪は誤魔化された

そんな事を知らない私たちは予想外の光景にすくみ上った
震える体を、固く寄せ合っていた


下の方で、人の姿が見えた
大人の人たちが私達を指さして、騒いでいた

遠くの方でサイレンの音が鳴り響いた

不気味で怖い音だと思ったけど、その音が救いのように感じられた
途切れそうな意識を、何とか取り持ってくれていたのがその音だった

………………

理由は…何だったか

私は開け放たれた玄関の扉
濛々と煙が立ち込め、燃え盛る炎の海の中
何かを見つけたんだ

部屋に戻らないといけない何かがあった

私の手を握るあの子は、汗をかき、震えながら
涙声で


     『お姉ちゃん…に任せて』


そう言ってあの子は、私の手を離した


翡翠「そう、そうだよ。お姉ちゃんは手を離した」

翡翠「燃え盛る炎の海の中、お姉ちゃんは再びその中に入っていったんだ」

翡翠「覚えてる?瑠璃が何をしたのか?」

瑠璃「………違う…違う…私は助けようと思って…!」

翡翠「…あの時も、同じこと言ってた」

トン

深い衝撃は無かった
ほんの軽い力

だが、それでも満身創痍の私には十分過ぎた

体を突き飛ばされ、尻餅をつく
立ち上がろうと手を伸ばしたとき、真上から倒壊した屋根が降って来た

退路は、完全に分断された

翡翠「お姉ちゃんは…待っててって言ったのに……」

か細い声が、炎の渦に飲み込まれる
私は、炎の部屋に完全に取り残されてしまった


あの時と、全く逆の展開だった

そうだ
待っててと言われたはずなのに、私は心配になって後から着いて行ったんだ

そして、倒壊する屋根に気付いて、咄嗟にあの子を突き飛ばした
助けるつもりだった
助けたつもりだった

……でも、あの子から見れば、私はあの子を閉じ込めたように見えただろう


    『どうして!』


声が聞こえる
ああ…私を責め立てる声

罪から眼を背けた
私を糾弾する叫び

私はその場にへたり込み、顔を掌で覆った
涙が溢れて止まらなかった


   「………!!………ちゃん!!!」

声がどんどん大きくなっていく
幻聴だろうか?

意識も、殆どない


  「翡翠ちゃん!!」


ハッキリと耳に届いた
声がする方に振り返ると、オルスが居た

家の外
オルスは壁を上って来たのだ
割れた窓ガラスに体を傷つけながら、倒れ込むように部屋に体を潜り込ませる
そんな時にまで、必死に声を振り絞って私に呼びかけている

ああ…何故だろうか

私の名前じゃないと分かっていても
その声に応えずにはいられなかった

瑠璃「オルス!!」

私は一心不乱にオルスに駆け寄った


瑠璃「どうして…どうして来たの?」

オルスの綺麗な毛皮に焦げが出来ている
小さな体躯から、ドクドクと血を流している

オルス「言ったでしょ…僕はどんな時でも……君の傍にいるって…」

瑠璃「でも…私……アナタにそんなに想ってもらう資格は無いよ……」

瑠璃「だって私…翡翠じゃない……お姉ちゃんじゃないから……」

私の目尻に柔らかいものが当たる
それは、擦る様に私に触れる

オルス「…泣か…ないで……翡翠ちゃん」

瑠璃「……オルス…私…」

オルス「……君は翡翠ちゃんだよ。間違いないよ。僕が見間違えるはずない」

オルス「…例え…君が罪を犯していようと、何かを忘れてしまっていたとしても」

オルス「今生きるべきなのは君だよ……だから、僕の手を握って…」

瑠璃「…………」


私は……


会話、行動安価
安価↓1

生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ


>>172採用…ですが、にっちもさっちもいかないので最安価とさせてもらいます



最安価
安価↓1

手を握る
オルスを信じると決めたんだ


>>176採用


オルスを信じよう
たとえ私のことが信じられなくとも、私の為にここまで来てくれてた、オルスの事だけは裏切っちゃいけない
私は、オルスを信じると決めたんだ

オルスの手を握る

   「『繋がれ』―――」

言葉と共に、光が溢れる
気が付くと、全身の痛みや苦しみから開放されていた

オルス(ありがとう翡翠ちゃん。僕を信じてくれて)

翡翠「うん、信じるって決めたから」

あらゆる状況が、確かに私を瑠璃だと示している
だけど、オルスが私を翡翠だというのなら、それを信じてみようと思う

それに、思い出した記憶には何か違和感があったような気がした


翡翠「さて、ここからだよね」

オルス(うん。戦いは互角だった。精神的に負けてしまったからああなってしまったけど、今は僕の声も聞こえてる)

翡翠「……どうしよっか」

オルス(…翡翠ちゃんが決めていいよ。僕はどんな時も傍にいる)

翡翠「…ありがとうオルス。…アナタが居るから、私はまだ戦えるよ」

立ち上がる
騎士の姿のままこの部屋に来たのは初めてだった
妙に天井が低く感じる

…しかし、これからどうする?

実力は互角
きっと、手加減をした方が負ける

私に残ってる手はこれくらいだよね

私は……


行動安価
安価↓1

捨て身の攻撃


>>179採用


ちょっと怖いけど、やるしかない

窓を突き破り外に飛び出す
燃え盛る家を見上げるように、あの子は居た

翡翠?「へえ、まだ戦うんだ。また殺すんだ。私の事」

翡翠「もう惑わされない。私は翡翠だ。私は生きている。貴女は瑠璃……私が見捨ててしまった少女」

翡翠「もう、貴女は歯止めがきかなくなってる。未練があったかもしれない、私は罪を償うべきなのかもしれない」

翡翠「それでもだよ、これは許されてはいけない。貴女がこれ以上何かをしてしまう前に、私は貴女を倒す」

瑠璃「私に勝てると思ってるの?いつも私の後ろにくっついてきたような貴女が」

翡翠「…勝つよ。私は翡翠の騎士だから」

深く息を吸い
絞り出すように吐き出した

翡翠「はーっはっはっはっはっは!!!!」

笑い飛ばす
凄惨な状況に似つかわしくないほどの能天気な笑い声

これが、私の最大の捨て身だ



体が変質していく

メキメキと音をたてて、根本から私の体が作り直される
顎が割れるように痛みだし、その凶悪な牙を見せる

意識が飛びそうだ

私の中の内に燻る何かに飲み込まれそうになる
その度に、オルスの声が聞こえた

大丈夫
大丈夫だよ

私は私を見失ったりしない

私は翡翠
オルスがずっと探していた未練

…目の前のあの子も、きっと未練がある
だからこそ、私がこの手で終わらせてあげないと

程なくして、痛みが治まる

私は湧き上がる衝動のままに天に吠えた


翡翠「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」

ビリビリと大気が振動する
強烈な突風が炎を吹き飛ばす

瑠璃「…へぇ…面白いじゃん。もうそこまで堕ちてたんだ。―――『繋がれ』」

目の前に瑠璃色の騎士が現れる
騎士は槍を持ち、その切っ先を私に突き付ける

私はハルバードを短めに持ち、低く体勢を屈め、構えをとった

翡翠「さあ、死合おう。その果てに答えはあるよ」

瑠璃「そうとも!貴女を殺して!私は生きるべき時を生きる!!」

先に一歩踏み出したのは瑠璃だった
そして、吹き飛んだのも瑠璃だった

大地を踏みしめ、一歩を踏み出す
その瞬間にはもう、私の体は瑠璃の体の下に潜り込んでいた

勢いのままに肩から腹に向けてタックルを繰り出す
激しい衝突音が鳴り響き、瑠璃色の騎士は宙を舞った


瑠璃「がはっ…!」

鎧にヒビが入り、苦悶の声を吐き出す
私と違って瑠璃は痛みも感じるのかもしれない
だけど、この際どうでもいい

宙を舞う瑠璃に一瞬で追いつき、踵落としを無防備な背中に叩き込む
空気が破裂するほどの衝撃を放って、瑠璃の体は地面に突き刺さる

追い風を使って空中で進行方向を変え、真下へと直進する
脇を絞めてハルバードを握り、三角刃を瑠璃の胸元へと向ける

瑠璃「なっめんな!!!」

叫びと共に火柱が上がる
超密度の熱の塊が、物質のように私の体に向かってくる

翡翠「ハアァ!!」

ハルバードを握る手に力を込める
風が生まれ、全身に鋭い風を纏う

私自身が一本の槍となり、その火柱を真っ向から突入する

風は熱の塊を切り裂き、一切勢いを止めず両断した


火柱を切り開いたその先
瑠璃色の騎士の姿を捉えた

勢いのままに刃は鎧を貫通する

瑠璃「があああああああああああ!!!」

瑠璃は絶叫する
やはり痛みがあるんだろう

しかし、狙っていた心臓からは逸れ、肩に刃が突き刺さる

ハルバードを引き抜き、一歩距離を離す

ポタリ

と、何かが滴る音が近くでする
私はその方向に即座に振り向くと

滴っていた雫は、血だった

ハルバードの三角刃から滴る、真っ赤な血

瞬間、心臓が凍り付く感覚がした
アンノウンの血は見ても平気だったのに、あの騎士の中から血が流れている様を想像し、吐き気を催す

……考えちゃ駄目だ
考えることは、目の前の敵を倒す事だけでいい

別の意味でざわつきだす心の奥を無理やり押さえつけ、理性を振り絞る


瑠璃「はぁ…はぁ…!」

槍を杖代わりにし、立ち上がっている
突き刺された肩はダラリと垂れ下がる

…考えるな!

必要なのは、討ち果たすという『喜び』だけだ

再びハルバードを握り、脇を絞めて体に寄せる
深く体勢を落とし、タメを作る

次の一撃で終わらせる

一瞬の間
ほんのコンマ数秒の静寂
短く息を吐き、私は踏み切った

爆発的な突風を生み出し、突撃する

瑠璃「……ハハハッ…」

瑠璃は乾いたように笑うと、突如巨大な炎の壁が生まれた
しかし、風はそんな壁を諸共せずに突き破る

そのまま、その先に居る瑠璃色の騎士に向かってその切っ先を向ける……


が、そこには何も無かった
炎の壁の先、前後左右のどこにも瑠璃色の騎士は居ない

オルス(上だッ!!)

声が体の中で響き、真上を向く
空からは太陽が降って来たと見紛うほどの巨大な熱球が降り注いでくる

私はその勢いのままに、炎上する家屋を突っ切って破壊して前へと進む

その後ろでは、巨大な熱の塊が周囲を飲み込んで溶かし尽している
流石にあの中を突き進む勇気はない

射程から外れたことを確認し、方向転換する

真後ろは最早住宅街であったことを忘れてしまいそうな、燃え滾る荒野が出来上がっていた
その荒野を点から見下ろす姿が一つ

瑠璃色の光沢を放つ、鎧のようなその出で立ち
しかしそれは、騎士と呼ぶべきか躊躇われるほど恐ろし姿

蹄のようだった足は、鉤爪状に変質し
その背中には、この世の光を飲み込むような真っ黒な翼が羽ばたいていた


翡翠「…貴女も…!」

瑠璃「そうだよ!私も同じだ!!」

瑠璃「お前に出来て!私に出来ない筈がない!!」

瑠璃「ああ…どうして…どうして私を置いて行ったの……」

瑠璃「割れそうだ…胸が割れそうなほど痛む…!」

瑠璃「最早この体には……『哀』しかないっ!!」

瑠璃の胸の装甲が開き、口のようなモノが姿を見せる

翡翠「…!!」

咄嗟にその場から跳ぶ
そのすぐあと、ついさっきまで立っていた場所に火柱が立ち上る

熱線だ
あの口から吐き出された熱線が、火柱を打ち立てたんだ

『哀』…『哀しみ』
それが、あの子の未練
あの子をあんな姿にした正体


瑠璃「ははっ…あはははは……燃える…燃えてるよぅ…何もかも……燃えていく…」

翡翠「…瑠璃!!」

飛びかかる
飛んでいようとも関係ない
速さは此方が上、ならば引き摺り下ろすまで

勢い、速度共に十分
…その筈だった

ハルバードを横薙ぎに振る
それは、空を切った

瑠璃は上に居た
私は即座に体を捻り、追い風を使って追い打ちをかける

柄と柄がぶつかり合う
そこから競り合うことは無く、私の体は重力に従い落下していった

予想以上に空中では自由が利かない

落下していく最中、高らかに笑う瑠璃は槍を構える
そして、投擲

弾け飛ぶ炎の散弾が私に向かって襲い掛かる―――


翡翠「ぐっ…はぁ…はぁ……!!」

此方だけが一方的に疲弊していく
速さ、力、共に私の方が上の筈だ

しかし一点
あの翼、空中での起動が無い事だけが私を追い詰めていた

胸の奥底で、何かがガンガンと戸を叩いている

止めろ…五月蠅い…
聞きたくない…

翡翠「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

無理やりに吠えたて自分の闘争の意思を呼び覚ます
何度も繰り返した突撃、また同じようにいなされる

瑠璃「あはははは!無駄だよムダムダ!!」

瑠璃「私が上だ!この翼はお前には無い!!」

瑠璃「私だけにあって!お前には無い!!」

瑠璃「いつもそうだった!持っているのはいつも私だったんだ!!」

瑠璃「何もかも!お前より愛されてたはずなんだ…!!」

怒りとも哀しみとも取れる嘆きと共に、熱線が打ち出される
何度だって避けてきたはずだった
今回も避けるつもりだった



だが、私の真後ろには家があった
私の住んでいる家が

原形もとどめていない
家財も何も残っていない家とも呼べぬ廃屋

それを私は、庇った
熱線が、胸を貫いた

胸から背中にかけて、円形に貫通する

私のそんな行動に意味は無く
容赦なく熱線は廃屋を消し炭に変えた





翡翠「あ…ああ…あああ…!!」

無い
ある筈だった
私が住むべき場所が消えた

騒ぐ
胸が騒ぎだす

瑠璃「あははははは!!燃えてるよぅ!全部全部!持ってるもの全部燃えて無くなった!!!」

瑠璃「これが私だ!これで漸く私とお前は対等だ!!」

瑠璃「ねえ?どんな気持ち?」

瑠璃「辛い?苦しい?悔しい?」

瑠璃「私は…私には……肩を突き飛ばされた感覚だけが、最後に残った記憶だよ」

瑠璃「どんな心境だったと思う?」

瑠璃「分断された通路。炎の壁。煙の闇。そして…裏切り」

瑠璃「ねえ!貴女にわかる!?私の事がッ!!」

恩讐の嘆きが辺り一面を燃やしていく
彼女が吠えるたび、涙を流すたびに、その胸から熱が吐き出され、辺りを消し炭に変えていく


私はとうとう、ハルバードを手放し膝をついた

もう無理だ
戦えない

戦いが終わっても、帰る場所がない
この惨状を見ろ
これを作り出した半分は、私だ

私が、アレを生み出したんだ

…嗚呼……不思議だ……

こんなにも、こんなにも悲しいのに
涙一つも出やしない

私から…私の奥底から湧き上がる感情は、おおよそこの場で最も似つかわしくない感情


『喜び』


駄目だとは分かっている
この感情に身を任せたら、絶対に帰ってこれないと
今ですら危うい己の理性、それすらも飲み込んでしまう激情だ


……でも、理性で戦い、アレに勝てるのか?

私には無い
私には翼なんてない

褒められるのはいつもあの子で
大切にされるのもいつもあの子

私には無い
あの子にはあった

私に友達なんて居なかった
あの子は何時も友達に囲まれていた

私には無い
あの子だけ

嗚呼…ならばいっそ、狂った方が気が楽だ


私はガックリと肩を落とし、天に向かって口を開ける
絞り出すように空気を吐き出していく

翡翠「ククッ…!クハッ!…クハハハハハハハハハ!!」

翡翠「アーッハッハッハッハッハッハ!!!」

翡翠「クキカハハハハハハハハハハハ!!!!」

笑う
己に燻る激情のままに

もう言い
もうどうでもいいよ

持って行け
これが、最後の、私の捨て身だ

アレを倒せるのならそれで満足だ


ドクン


と、胸の奥が胎動する音が聞こえる
声がする

やっと聞こえた声の正体
その声は………


喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ

喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ


体の奥底から、変質していく
顎が…顎が割れるように痛む

背中が…背中が痒い

全身から張り裂けそうなほどの衝動が溢れて止まらなかった

ああ、まだだ
私にはまだこんなにも力があった

音をたてて変わっていく
空っぽだった鎧の中身に、何かが這い出してきている

鬣のようだった背中の毛が怪しく蠢く
強靭な顎が、真横に捻じ曲がる

背中が裂け、その中から2対の薄羽が現れる
顎は割れ、醜い牙が露わとなった

耳のような器官だと思われていた頭の突起は、更に巨大化し丸く変質する
その期間はミラーボールのような細かなレンズの集合体に、姿を変えた

そうか…この体は…獣ですらありはしなかった
誇りも、矜持も、感情すらもありはしない

ただ、喰らうという意思の擬人化


薄羽が振動し、体が宙に浮きあがる
ぎょろぎょろと不気味に動く眼は、瑠璃色の烏を捕えた
バチバチと顎を打ち鳴らす

瑠璃「ハハッ!あははは!!蟲になりやがった!!」

瑠璃「羽虫如きに何が出来る!」


バチン


と、何かが切れる音がした

何かが自由落下する
噴水の様に液体が溢れだす

首だ

本来頭がある筈の部分が、地面に落ちていた
瑠璃色の兜が、地面に打ち捨てられたのだ


肉だ
肉だ切断される音だったと、遅れて理解する

瑠璃「ぐッ…ああああああああああああああああああああああああ!!!!」

首の無い筈の鎧から声が聞こえる
不思議だ、奇妙だ、不気味だ
だが、どうでもいい

ガチガチと顎を鳴らす

狂ったように瑠璃色の騎士は炎を撒き散らす
全てがスローモーションのようで、笑いが漏れそうなほど無様な光景だった

バチン、バチン!

全ての炎をかいくぐり私の顎は羽根の付け根を切断した
呆気なく、瑠璃はバランスを崩して落下していく


地面に落ちるよりも前に、その鎧を受け止める
顎を鎧に突き刺す

ガチガチと音を鳴らして、鎧全てを破壊していく

その鎧の胸の中
中心部分に、それは居た

私と同じ顔の少女

余裕たっぷりな怪しい笑みは消え、彼女は泣いていた
それは哀しみの涙ですらなく、ただ純粋な、生命の危機に瀕した生物の恐怖


ゾクゾクゾク


と背中に駆けのぼる何かがかあった

直感する
これが、『喜び』なのだと

本当に私が得るべき快楽であるのだと


瑠璃「い、嫌だ……死にたくない…」

瑠璃「もう嫌だ…あんな思いはもう………」

呆気ないモノだと感じる
あれほどの猛威を振るい、あらゆる全てを灰に変えていった女が、こうして絶望に涙する

なんと脆いものだろうか

ああやはり、彼女は人間なんだ
あらゆるものを破壊する力を持っていながら、容易くその命を散らせる

そして、そんな彼女を殺そうとすることに悦楽を感じる私は
間違いなく『獣(けだもの)』だろう

複眼が瑠璃の仕草、一片すら見逃さない

その恐怖の全てを脳裏に焼き付けていく
これが、彼女の最後の瞬間

終わらせよう

ガチガチと顎を打ち鳴らし、彼女の首に牙を掛けた――――その時……



1、黒い修道服の少女
2、赤い袴の剣士
3、純白のドレスの姫君
4、唯一無二の私の親友

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


>>203採用

時間も遅いので直下で進行します


「ひすいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


叫び声が聞こえた
大気が震えるほどの大声

体が一瞬硬直する、その隙をつかれて腕の中から瑠璃が零れ落ちる

瑠璃は地面に着地し、無茶苦茶に走り去っていく
私はそれを追えた、しかし追わなかった


「はぁ…はぁ…!アンタ、何やってんのよ…!」

肩で息をしている
全身汗にまみれていて、体には転んだような擦り傷がある
化粧だってしていない

翡翠「ギチギチ……」

言葉が出ない
本物の獣になってしまったらしい

だが、分かる

目の前に居る相手が、確かに私の名前を呼んだ


可憐だ
どういうわけか、彼女が目の前に居る

可憐「…はぁ…はぁ……もう…何やってんの」

可憐「アンタ…そんな事する子じゃないでしょ?」

可憐「ほら、帰ってきなさい」

手を伸ばされる
その時、何かが私の感覚を刺激する

感じる
あれは、とても美味しい肉の匂いだ

騒ぐ、心が騒ぐ
機械のように冷徹だった心が、新たな歓喜に打ち震える

喰らわねば

内側から、衝動が猛る


可憐「ねえ、アンタ覚えてないんでしょ?アンタが私を助けてくれたの、一度だけじゃないんだよ」

可憐「聞こえてるなら返事をして。あたし…アンタだけは失うわけにはいかないの」

可憐「ねえったら!!」

私は本能のままに、目の前の女に飛びかかる
狙いは首
正確無比な高速飛行で女に飛びかかった

バチン

死の鎌がその刃を打ち鳴らす音がする
間違いなく、首を捕えたはずだった

しかし、刃は空を咬み、彼女の綺麗な髪を引き抜いた

可憐「…ッ!!」

可憐「ねえ…お願い…アンタ…翡翠なんでしょ?戻ってきてよ!!」

翡翠「ギチギチギチ……」

相変わらず、この口からは言葉が出ない



可憐「……やるしかないよね」

可憐「今度はあたしが、アンタを助ける番だ」


可憐「――――――『繋がれ』」


静かに目の前の女は呟いた
それに呼応し、光が溢れる

美しい極彩色の光

眼の奥に突き刺さるほどの極光が晴れた先、そこに居たのは

全ての光を飲むような黒で出来たドレス
まるでウエディングドレスかのような華やかで、目を奪われる妖しい出で立ち

その黒に映えるように、美しい金髪がたなびいている

金色の美しい瞳さえハッキリと見えた
月夜に映える、まるで物憂げなその印象は、きっと彼女の泣き黒子がそれを感じさせているのだろう


可憐「…あたしが、アンタを守るよ。絶対に」


美しい少女は私に弓を向ける
彼女の眼には涙が浮かんでいた

あらゆる悲しみを詰め込んだような、真っ黒な涙だった


と、言う所で今日の更新はここまでです

やりたいこと詰め込み過ぎて渋滞気味な気がしますが、まあ最終盤ですから多少はね?


ではでは、夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました


更新遅れました
そろそろ再開です


彼女は弓の弦を引く
矢が番えられていなかったが、弦を引くと光が集まっていく

直感的に感じる
あの光はマズイと

即座に背後に回る
羽音が遅れてやってくるほどの超高速飛行
顎を開き、一撃で仕留めんと首筋に牙をたてる……が

動きが止まる
まるでその場に固定された様にピクリとも四肢が動かない
空中で静止している

    ティアドロップ
可憐「『星の涙』――――箒星は、私の願いを叶えた」


彼女は既に弦を弾いており
集約されていた光は消えていた
光の矢が対象に当たるなど関係なく、放たれた瞬間に願いは成立する

無敵を誇ったはずの力は、いともたやすく停止した

それほどまでに、星の涙の力は強力だった


可憐「……っ…!げほっげほっ…!……はぁ…やっぱ…結構辛い…」

突然、目の前の彼女が膝をつく
顔には奇妙な黒い斑点が浮かんでは消えている

可憐「はぁ……まあ…これで、話が出来るかな」

可憐「あたしの声、聞こえてるでしょ?ほら、早く帰ってきなさい」

翡翠「ギチギチ……」

可憐「声も出ないのね……大丈夫よ。アンタは獣なんかじゃない」

可憐「本当のアンタを知ってるわ。だから落ち着いて…ほら……」

少女が無防備に両手を伸ばす
そのままゆっくりと体を近づけ、私の頭を抱きしめる

堪らない香りがする
いい匂いだ
本能で分かる、彼女を喰らえば私はもっともっと強くなる

ギギギギ……

とゆっくりだが顎が動く
私はそのまま………


コンマ判定
4以上で……

直下コンマ


コンマ判定:1 失敗


私の牙はそのまま少女の肩に突き刺さる

可憐「…ッ!!」

少女は声を殺して痛みを耐える
血が溢れる

美しい柔らかな肌から、とろとろとした血が零れていく
芳しく匂い勃つ清らかな少女の血
それは何とも背徳的な姿であろうか

獣を救わんとする少女の愛
それすらも届かず本能のままに牙をたてる獣

血を啜る
その体液が喉に流し込まれたとき、強烈に内から力が溢れてくる
このまま固まっていたら爆発しそうなほどの興奮

それを押しとどめようと少女は更に抱きしめる力を腕に込める


可憐「落ち着いて…アンタは自分を見失ってるだけ…」

可憐「アンタは…こんな事をする子じゃないでしょ…?」

可憐「アンタの名前は翡翠。あたしの親友」

可憐「引っ込み思案だけど、誰よりも優しくて、誰かのためにその身を差し出せる人」

可憐「あたしは……そんなアンタに救われたの…」

可憐「だからお願い!行かないで!アンタが居ないとあたし…何のために……!」

少女は涙を流し訴えかける
真っ黒な涙は、獣体に触れると怪しい虹色の光を放つ

翡翠「……!…!!」

焼けつくような感覚がする
体が剥ぎ取られていくような、肌が腐食していくような感覚

遠くの方から声が聞こえだす

激しく頭が痛む

私は喰らわなければ
喰らい尽くす事こそ本懐

私……は………


コンマ判定
3以上で……

直下コンマ


コンマ判定:4


翡翠ちゃん!!

胸の奥底で声が聞こえる
そこで漸く、私は私を取り戻した
私は翡翠だ……可憐の友達で、オルスの探していた未練

それを自覚した時、ふっと全身にかかっていた負荷が抜け落ちる

変身が解け、脱力した体を可憐が受け止める

翡翠「…か…れん?」

可憐「目ぇ覚ますの遅いってのよ。もう…世話焼かせるんだから…」

可憐がギュっと抱きしめてくる
私も抱きしめ返そうと、何とか腕を背中に回した

ぬめりとした生暖かい嫌な感覚がする
それはすぐに血だと理解する
私が傷つけ、流させた血

翡翠「……ごめん…可憐…ごめん…」

可憐「いいのよ。今は…ちょっと休みなさい。大丈夫、あたしが守るよ」

可憐は優しく私の額にキスをした
普段なら恥ずかしくって嫌がるだろうけど
今だけは、涙が出るくらい熱く胸に響いた

そこで私は、意識を手放した……


目を覚ましたとき、そこは見慣れた天井だった
見慣れた、私の部屋の天井

私は慌てて飛び起きる

家は燃えたはず!?
本当にここは現実だろうかと周囲を見渡していると、痛みと共に何かが頭に当たった

可憐「こら、飛び起きたら危ないでしょ?大人しく寝ておきなさいっての」

ベッドの脇には可憐が居た
私の頭に当たったのは可憐のチョップらしい

翡翠「…可憐……どうして…」

どうして私のベッドに可憐が?
寝る前の事を思い出そうとし、一気に記憶が流れ込んでくる

火事
燃える家
突き飛ばす手
傷だらけのオルス
瑠璃の嘆きの声

津波の様に記憶が押し寄せてきた
鈍く頭を打ち付けたような痛みが続く

そうだ…色んなことがあったんだ……


可憐「ちょっと大丈夫?まだ寝ていた方がいいんじゃない?」

翡翠「う、ううん。駄目だよ…私…やらなきゃいけないことが……瑠璃を止めないと…」

可憐「あれなら大丈夫。寧ろ、今は絶対に動かないわ。見つけられないと思った方がいいわよ」

可憐「アンタとの戦いで致命傷を負っていたから、暫くは動けない」

翡翠「そっか……そっか…」

一気に緊張の糸が切れ、ベッドに体を横倒す
枕も、ベッドも、目覚まし時計も全部いつも私が使っている物だ
それら全部、元に戻っている

翡翠「……どうして、元に戻ってるのかな…」

可憐「それは当然。この星涙の戦姫様のお力って訳よ。感謝なさいよね」

翡翠「…え?」

可憐「え?って、アンタも見たでしょ?あたしの姿」

翡翠「…あ……ああ……」

そう言われて、朧げにあの時の事を思い出す
落ち着いた黒のウエディングドレス、美しい金の瞳と髪、そして悲し気な泣きぼくろ
間違いなく、魔法少女である可憐の姿を思い出した


可憐「あたしは…っつーか星涙の戦姫はいつも町を直してるでしょ?」

可憐「どれもこれもあたしの願いを叶えるっていう魔法なわけよ」

翡翠「そう…なんだ……」

可憐「アンタ、あんまり驚かないのね」

翡翠「……うん。……うん?…何かおかしい気がする…」

可憐が星涙の戦姫?
確かに、あの魔法の力、姿共に星涙の戦姫そのものだ

だけど、それならあの白いドレスの星涙の戦姫は?
陽一君…彼も星涙の戦姫だと名乗っていたような
どういう事だろうか?

ああでも…それよりも先に、自分に決着をつけないといけないだろう

瑠璃が私に語った過去
その中には、何処か違和感があったように思う
それに、可憐の言葉も…何か大事な事を言っていたような気がする

その事について、可憐に聞いてみようか


会話安価
安価↓1

どういう経緯で星涙の戦姫になったの?


>>223採用:


翡翠「どういう経緯で星涙の戦姫になったの?」

可憐「どうって……成り行きで?あたしもよく分かんないわ」

可憐「よく分かんないまま魔法少女になって、よく分かんないまま今に至るわ」

可憐「そんなもんじゃないの?」

翡翠「て、適当だなぁ…」

可憐「まあいいじゃない、あたしが星涙の戦姫で、願いを叶える魔法を使えるっていうのは本当なんだし」

可憐「それよりも、アンタは自分の事を思い出せたの?」

可憐「会ったんでしょ?瑠璃に」

翡翠「…うん。…可憐、私に妹が居たこと知ってるんだね」

可憐「…まあね、寧ろ瑠璃に姉が居るって知ってたかな」

翡翠「へ?瑠璃と知り合いだったの?」

可憐「……アンタ、本当に何も覚えてないのね」

呆れたように可憐は溜息を吐く
私はひたすらに頭に?が浮かんでいた

はて、中学時代よりも前…可憐に会ったことあったかな?


可憐「…あたしから話してもいいのかな。アンタ…忘れていたい記憶なんでしょ?」

翡翠「……分かんない。でも、忘れてたって事はそうなのかも…」

私はあの燃え盛る部屋に閉じ込められて、当時の記憶の事を思い出した
私は『痛み』を忘れていた
それが翡翠の騎士の特性としても現れていたし、私のキーワードなんだろう

どういうわけか、可憐は私が忘れてしまっていることを知っているらしい
自分でも知らない間に、可憐との接点があったっていう事なんだろうけど、私はどうにも思い出せない
だから、つまり、それほどまでに忘れてしまいたい記憶なんだろう

多分だけど、忘れた記憶っていうのは、あの違和感に繋がっているんだと思う

あの時の火事、何故か私達は部屋の中に戻ろうとした
そこで全てが狂い始めたんだ

何が…何があったっていうの?

それを解きあかせば、瑠璃があそこまで私を憎んでいるのかもわかるような気がする


可憐「どうする?あたし、話てもいいけど…アンタが自力で思い出すっていうなら、止めないよ」

翡翠「………」


会話、行動安価
安価↓1

ヒントだけちょうだい


>>226採用


翡翠「ひ、ヒントだけ頂戴?」

可憐「アンタ…微妙に緊張感ないわね……」

可憐「そうね、ヒントは……う~ん……当時の新聞。かな」

翡翠「当時の新聞って事は、私の火事の事件が乗ってるって事?」

可憐「そゆ事」

可憐「アンタは助かったんでしょ?助かった人は果たして何処に居たのか。どこで見つけられたのか」

可憐「殆ど答えだけどさ。ヒント出すならこれかな」

翡翠「私が何処に居たのか……」

確かに、よくよく考えてみれば全く思い出せない
助かった当時の記憶がない
なるほど、これは大きなヒントになるだろう

図書館とか行けば見つかるかな?
あ、今はネットを使えばもっと簡単に見つかるか


可憐「さて、と。あたしはこれで帰ろうかな」

翡翠「え?……今何時?」

可憐「夜10時」

翡翠「も、もうそんな時間!?ゴメンね可憐。こんな時間まで居てもらって」

可憐「いいっていいって。寧ろあたしは嬉しかったかな。こんなめでたい日にアンタと一緒に居られて」

可憐「メリークリスマス、翡翠」

翡翠「あっ……」

そこで気づく
今日はまだ、気を失ってから数時間しか経っていなくて
まだ、12月25日なんだってことを

翡翠「ちょ、ちょっと待ってて!!絶対この部屋から出ないでね!!」

可憐「へ?」

呆然としている可憐を置いて、私は階段を駆け下りた
向かった先はキッチンの冷蔵庫
昨日食べそびれたモノが予想通り残っていた

私はそれと飲み物を用意して、慌てて階段を駆け上った


翡翠「ぜぇ…ぜぇ……た、ただいま…」

可憐「お、おかえり…アンタそれ……」

翡翠「えへへ…昨日、クリスマスパーティー出来なかったから残しておいたんだ。正解だったね」

私の持ってきたお盆の上には、可愛らしい苺のショートケーキが二つ
サンタさんの形をしている砂糖細工が持っているチョコレートの板には、今日という日を祝福する言葉が乗っていた

翡翠「メリークリスマス、可憐。一緒にケーキ食べよ?」

可憐「………ふふっ、アンタはもう…こんな時間に食べたら太るわよ?」

翡翠「今日はいいんだよ。特別な日だし」

可憐「あたしはそうそう太らないけど、アンタは小さいからカロリー溜め込むんじゃない?」

翡翠「い、いいの!ほら、食べよ?」

可憐「…そうね。折角だもんね」

私達は小さな丸いテーブルを囲んでケーキを食べる
去年と同じように、ささやかなクリスマスパーティだ

解決しないといけない問題が山積みで
こんな呑気な事をしている暇は本当は無いんだろうけど
今だけは、そんな堅苦しい事を忘れて、精一杯クリスマスを楽しんだ


可憐「結局今年もアンタと二人っきりね。寂しくない?」

翡翠「可憐こそ」

可憐「あたしはいいのよ、アンタだけ居ればいいもん」

翡翠「もう、可憐ってばそればっかり」

あまーいケーキを食べながら、和やかな時間が過ぎていく
話す事と言えば、いつも話すような下らない話ばかり
結局、いつどんな時でも私たちは似たような事ばっかりだ

発展性が無いと言われてしまえば否定で居ないけど、私はこの時間が凄く落ち着く
きっと可憐もそう思ってるから、それでいいんだと思う

可憐「…そうだ、プレゼントをあげなきゃね。どうしよ……あ、これでいっか」

そう言って可憐はいつもブレスレッド代わりにしているシュシュを渡してきた

可憐「ほい、クリスマスプレゼント。あたしのお気に入り、アンタの長い髪にも似合うと思うわよ」

翡翠「嬉しいと喜ぶべきか、適当だなとツッコむべきか…」

可憐「素直に喜びなさいよ…」

翡翠「ふふ…うん、ありがと。嬉しいよ」

可憐「それでよーし!大事にしなさいよね」


翡翠「私からも何かあげないとね…」

可憐「え?アンタから?何か用意してるわけ?」

翡翠「うん。ちょっと待っててね」

そういって私はプレゼントを取り出した

可憐にあげるプレゼントは……


安価↓1

ミサンガ


>>233採用


翡翠「ちょっと手貸して」

可憐「?はい」

翡翠「これを…こうして……はい、完成です!」

可憐「………ミサンガ?」

翡翠「うん。ミサンガ」

私はむふーと鼻を鳴らす
この日の為に用意してきたプレゼントなのだから
しかし、可憐は心配するような目つきで私を見ている

可憐「え?アンタ?今時!?普通今時の小学生すら持ってないんじゃない?」

翡翠「いいじゃん。切れたら願いが叶うんだよ?凄くない?」

可憐「あたし、魔法で叶えられるんだけど」

翡翠「もう…嫌ならいいよ…私の手作りなのに………」

可憐「うそうそうそ!!!めちゃくちゃ嬉しい!!すっっごく嬉しいよ!!」

結んだミサンガを外そうとすると、可憐は慌てて拒否し始めた


翡翠「ホントに?」

可憐「うん。シュシュが無くて寂しかった手がいい感じだわ」

可憐「大切にする」

可憐はミサンガを撫でながら、照れくさそうに笑ってくれた

翡翠「ならばよし。で、何願うの?」

可憐「う~ん………」

可憐は暫く考え込むような姿を見せ

可憐「内緒」

と悪戯っぽく笑った

可憐「それじゃあ今度こそ帰ろうかな」

翡翠「もう遅いよ?泊まって言ってもいいんだよ?」

可憐「大丈夫よ。これでも星涙の戦姫なんだから」

可憐「じゃあね。おやすみなさい」

翡翠「…うん。おやすみなさい」

そうして、漸く可憐と別れることになった


深夜、ベッドに寝転がってスマホを弄っていた
インターネットで、あの火事の事を調べていた

何度か躓きながらも、漸くその当時の事件と写真を見つける
そこで、私は全てに合点が言った

私が助かった理由
何も覚えていなかった理由
可憐が私に二度助けられたという言葉の意味
瑠璃の言葉とその行動

そして、瑠璃の正体

全てに納得がいった
これしかないと断言できる

そして尚更、あの子を終わらせてあげないといけないと強く思った

オルス「翡翠ちゃん、何か分かったかい?」

翡翠「オルス……うん。全部わかった」

体を起こし、オルスを抱き上げる
ベッド越しから窓の外を見る

夜空では美しい箒星がその光を零していた


翡翠「…綺麗だね」

オルス「うん」

だが、私はもう知ってしまっている
あの箒星こそが、全ての元凶だと
そう思ってあの星を見ると、複雑な気持ちになってしまう

もうそろそろ日付が変わる
12月25日から、12月26日へと変わる

明日は陽一君に予言された、『世界が終わる予定の日』らしい

その事を、私はどう受け止めてもいいと言われた
未だにわからないその言葉の意味
そして、マザーと呼ばれる始まりのアンノウンの正体

まだ、見つめるべき真実が残っているんだろう

翡翠「…ねえオルス。もしだよ、もし…明日が来なくて…世界が終わらなかったらどうする?」

オルス「それは……う~ん…僕は、君と居られてうれしいけど、これからもアンノウンが生まれ続けるのは…この世界にとって良く無い事なんだと思う」

オルス「だからきっと…僕と君の出会いは泡沫の夢のようなモノなんだ」

オルス「いつか、終わってしまわないといけない夢なんだ……」

悲し気にそう語るオルスを、私はギュっと抱きしめた


終わらなければいけない夢
そうだ、この世界が終わったとしても
全ての真実を解明して、元凶を倒したとしても

待っているのはオルスとの別れ

明日、どんな選択を取ったとしても私はオルスと別れなければならない
それだけは絶対だ

どれだけ嫌でも、いつかやってくる

不安な気持ちになり、また強くオルスを抱きしめた


オルス「翡翠ちゃん……」

心配そうにオルスは私を見上げる

いつもそうだった
いつも、私を気遣ってくれている

思い出す
オルスとの記憶

ずっと、ずっとそうだった
この子はいつも私を気遣ってくれていた
私が泣いていると、絶対にその涙を拭ってくれた

私が笑うと、嬉しそうに笑い返してくれた

私が他の動物の事を気にすると、すぐに自分だって負けてないよと意地を張って来た
いつかウサギを飼いたいって言うと、複雑そうな顔をしてたっけ

ずっと私と一緒に居る事を想い
私を笑顔にするだけに生まれた存在

この世で死んだ生物の中で、未練があるモノなんてそれこそ無数にいるだろう

その中から偶然オルスが選ばれ、偶然私を見つけられた
だから、これは本当に奇跡の出会いなんだ
二度とあり得ない、夢のような出会い

オルスを想えば想うほど、色んな感情が湧いてきた
私は堪らずそれを吐き出す……


会話、行動安価
安価↓1

「君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな」


>>240採用


翡翠「『君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな』」

オルス「…?翡翠ちゃん、何て言ったの?」

翡翠「…ふと、思ってね。百人一首っていうのに出てくる歌なんだけどね」

翡翠「あなたの為なら自分の命さえ惜しくないと思ってたけど、あなたと一夜を共にしてからは、もっとずっと長く一緒に居たいと思うようになったっていう。恋の歌」

翡翠「恋なんてしたこともないけど、今ならその気持ちが分かるなって思ったの」

翡翠「オルスと…離れたくないよ…」

オルス「……そっか。でも、それなら…その歌は僕が君に捧げたいと思うよ」

翡翠「えっ?そ、それって…」

オルス「僕は君に恋してるから」

オルスは真っ直ぐ私を見つめてそう言った
迷う事も無く、言い淀むことも無くそう言った


オルス「もう一度会えればいいと思ってたんだ。君の笑顔を一目見れば、何の未練も無く死んでいけると思ってた」

オルス「でも…違った。君の笑顔を見た時、僕にはずっと傍に居たいって気持ちが溢れていた」

オルス「僕は翡翠ちゃんが好きなんだ。翡翠ちゃんに恋してるんだと思う」

オルス「翡翠ちゃんと、ずっと一緒に居たいよ…これからもずっと……」

人生で初めての、告白だった
自然と頬が熱くなってくる

まさか、人生で初めての愛の告白がうさぎだとは、思ってもみなかった

オルス「ずっと…明日なんて来なければいいのにと思うよ…」

オルス「ゴメンね…迷惑だよね……こんな事…」

翡翠「………オルス?」

オルス「うわっ!なんだろうこれ……ごめん…本当にごめんよ…君に迷惑をかけたいわけじゃないんだ…」

オルス「でも…止まらないよ……」

オルスは涙を流していた
まるで生きた人間のように温かな涙だ
初めてだった、オルスがここまで感情的に涙を流す姿

オルスも、私と同じ気持ちだったんだ
私に会う為だけに再び生まれたんだ、別れるのが辛いなんて当たり前じゃないか

そう思っていてくれたことが、私はとても嬉しかった

私は……


1、『私も寂しいよ』と抱きしめた
2、『泣かないで』と鼻先にキスをした

安価↓1


>>243採用:1


翡翠「私も寂しいよ」

オルスをギュっと抱きしめる
その小さな体に顔をごしごしと擦りつける
まるで2歳の時に戻ったように、オルスの体に涙を擦りつける

オルス「…翡翠ちゃん…泣かないで…泣かれると僕も悲しくなるよ…」

翡翠「いいんだよ。悲しいんだもん。辛いんだもん。オルスだって泣いていいんだよ」

翡翠「泣けるのもきっと…これで最後だよ?」

オルス「翡翠ちゃん……」

翡翠「私も寂しいよ…オルス…別れたくない…」

オルス「…僕もだよ……ずっと一緒に居たいよ…」

私達は泣いて、泣いて、泣き続けた
一生分の涙を流して、お互いの温かさを確かめ合った

きっと、明日はもっと辛いだろう

そう分かっているから
そう知っているから
私達は、明日の分まで泣き明かした

次に気が付くときっと明日がやってきている
そんなときなんて来なくていいとばかりに、私達は涙を流した



と言う所で今日の更新はここまでです

夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました


そろそろ再開です




私とオルスは目を覚ました
抱き合うような形になって、二人で寝ていた

ついに、今日という日がやってきてしまった

全てが終わる日

私達の全てに決着をつけないといけない日だ

私は普段通りに朝の支度をする
だけど、その動きはどこかぎこちない

さて、瑠璃に会いに行こう
何処に居るのかは、なんとなく分かってるけど


……その前に、誰かと話をしようかな


1、誰かと話をする(人物指定)
2、瑠璃に会いに行く

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用

1四条


>>250採用:1、四条葵


葵ちゃんに電話を掛ける

翡翠「もしもし、葵ちゃん?」

葵「ひ、翡翠先輩?どうしたんですか?」

翡翠「う~ん…なんとなくね」

翡翠「あのさ、今日アンノウンが出現する場所って分かるかな?」

葵「それがですね、何だか感覚がおかしいんですよ。そこら中から湧き出るような気がするんです」

葵「だから、絶対に気を付けてくださいね。あ、それとも戦う覚悟が出来たんですか?」

翡翠「……うん。まぁ…ね」

今まで色んな魔法少女と会ってきた
彼女たちは様々な視点を持っていたように思う

沙耶香さんの様に、真剣にこの戦いを終わらせようと考えている人
陽一君の様にずっと戦いから逃げたいと思っていた人
暁さんのような、戦うための力を目的としていた人も居た

葵「そうなんですか!あの、翡翠先輩は何のために戦うのか、教えてくれますか?」

翡翠「………」


なんと答えようか?


会話安価
安価↓1

自分を信じてくれる人のために戦う


>>253採用:



翡翠「自分を信じてくれる人のために。かな」

葵「か、カッコイイですね…!」

翡翠「あははっ…そんな事ないよ」

葵「カッコイイですよ!葵、応援してますね!あ、でも無理しちゃ駄目ですよ?」

葵「魔法少女は一人だけじゃないんです。仲間を頼って下さい」

葵「翡翠の騎士だって、絶対に私たちを守ってくれますよ!」

翡翠「……ありがと。葵ちゃん、元気出たよ」

改めて、自分が言った言葉が身に染みる
葵ちゃんのような、私を信じてくれている人のために
私は戦おう

絶対に逃げたりしない

そうして電話を終え、私は改めて気を引き締めて瑠璃が居る場所に向かった


私が向かった場所は、大きなビニールに囲まれた再建途中のマンション
かつて私たちが住んでいた場所

そこに、瑠璃はぼうっと上を眺めていた

翡翠「見つけたよ。瑠璃」

瑠璃「だから、私は翡翠だって。何度言ったら分かるの?」

瑠璃の眼は忌々しげに私を見つめる
顔だけは昔のままだけど、その表情は生前からは想像できないほど、憎悪と嫌悪に満ちていた

トクリトクリと心臓が落ち着いた音をたてている
大丈夫だ、私はまだ冷静だ

昨日の事もあったからか、もう一度会えばまた内なる獣が叫びをあげるか不安だった
だけど、今の私の心なら、何の問題も無く抑え込めていた

改めて瑠璃の姿を見る
服は煤けて、ところどころ糸がほつれている
晒された肌は、火傷のような跡が見える

ずきりと心が痛む

昨日までの自分なら、きっとこんな彼女の姿に気づきもしなかっただろう
彼女の姿は、痛ましいまでに哀愁を漂わせていた


翡翠「…ううん。貴女は瑠璃だよ。私は翡翠。もう、迷ったりしない」

瑠璃「…何さ、今さら。ずっと忘れていたくせに!今だって覚えていないくせに!!」

瑠璃「平気そうにのうのうと!無害な顔して生きやがって!!」

目の前の、私と同じ顔をした少女は喉が千切れんばかりに叫ぶ
ああ…やっぱりだ
この子の口からは、哀しみの嘆きだけが吐き出されている

この言葉は、『私』だけに向けられているわけじゃないんだ

瑠璃「まあいいよ。どうせもう終わりだよ」

瑠璃「何もかも。消えてなくなる」

瑠璃「だからさぁ!昨日の決着をつけようよ!!」

瑠璃「私はお前に勝って!私が生きるべきだったと証明するんだ!!」

瑠璃「『繋がれ』―――!!」

瑠璃が叫ぶと、その姿は鎧の騎士に変わっていった
そこから更に姿を変えて、カラスのような黒羽をはためかせる、異形となった

私は………



1、戦うために変身した
2、変身しなかった

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


>>259採用:2


瑠璃「………何故、戦う意思を見せない」

翡翠「戦う必要が無いからだよ。貴女が私を殺しても、貴女が救われるわけじゃないから」

瑠璃「そんな事ないッ!!お前を殺せば!私の哀しみは報われるんだッ!!」

槍が振るわれる
異形の力で振るわれる高速の突き
目視することも、躱す事すら不可能な攻撃

私はただ、信じて目を瞑った

強烈な風が吹く
頬に、嫌な熱さが灯る

槍の穂先は、私の頬を掠めて空を切っていた

瑠璃「……なんで…何でなの?どうして、私を許すの?」

翡翠「許すも何もないよ。私は、貴女を責めたりしない」

槍を握る異形の手に触れる
慈しむように甲を撫でると、光が溢れて―――やがて、少女の姿を見せた


翡翠「私は全部思い出したんだよ。貴女の事も全部」

翡翠「貴女はやっぱり瑠璃だ。私の2歳年下の妹」

翡翠「明るくてちょっと我儘で、だからこそ愛されていた私の妹」

翡翠「私が持ってて、貴女が持っていないモノなんてなかった」

翡翠「私には無い個性をいっぱい持った子だった」

瑠璃「違う!私は…」

翡翠「うん。そうだよね。貴女は『瑠璃』であるだけじゃなかったんだ」

翡翠「あの時死んだのは二人の姉妹。『瑠璃』と『翡翠』」


翡翠「貴女は輝瑠璃であり、輝翡翠なんだ」


翡翠「そうだよね?」

瑠璃「…………」

解答は沈黙
それは、認めていると同義の反応だった


私が見たあの時の火事の記事
そこには写真が掲載されていた

それはマンション部屋のベランダ側の写真

真っ黒に煤けて全焼した部屋。その部屋は間違いなく私たちが暮らしていた部屋
その隣の部屋のベランダ
そこに映っていたのは、ベランダから飛び降りる二人の少女の姿だった

あの時、再び部屋に戻ったというのは私たちが住んでいた部屋ではなく
その隣、『夕原家』が住んでいた部屋だったんだ

思い出していく
あの事件の全貌を

……

………

…………

……………



                                    


私達姉妹は留守番を任されていた
幼い姉妹二人、昼食を作っていた

私は姉だったけど、いつも瑠璃の陰に隠れているような子だった

半面瑠璃は、私より出来た子だった
私より友達も多かった
優しくて、明るくて、人に好かれる子だった
人に頼られる子だった

私はいつも、あの子に頼ってしまっていた

『お姉ちゃん、私に任せて』

それがあの子の口癖だった
いつものように私は瑠璃に頼ってしまっていた
だからこそ、悲劇は起きた

…いや、最早悲劇はもう避けられない未来だったんだ

私が原因で出火した台所
それを必死で消化しようとしていた

そんな時にはもう、マンションは燃えていたんだから


逃げようと決意した時にはすでに周囲は火の海
それでも、私達は身を寄せ合って逃げようとした

皮膚を引き剥がすような熱いドアノブを空けた先、待っていたのは煙と炎

逃げるべき場所なんてどこにもなかった

マンションの下では数多くの野次馬が集まり、私達の姿を見て指をさしていた
遠くの方ではサイレンの音が近づいてきていた

私と瑠璃は、このまま無事であれば助けがやってくるだろう
その事実に希望を感じていた

だけど、私は見た

開け放たれた隣の部屋の玄関の扉
うめくような小さな人の声

濛々と立ち込める煙
燃え盛る日の海の中

『助けて』

と涙を流す少女の姿を見た


『アレ…』

と私が指さすと
瑠璃は、真っ青な顔で

『ゆうちゃん…!』

と零した
隣の部屋に住む夕原可憐
あの子は、瑠璃と友達だった

私とは一度も口をきいたこともないような関係だったんだ

だって、住む世界が違ったから
瑠璃と可憐は、何でも出来て、明るくて、人気者だった
私はただ、それを遠くで眺めているだけの存在だった

そんな瑠璃の友達が、一人部屋に取り残されていた
立ち上がれないようで、弱弱しくもがいていた

私の手を握る瑠璃は、汗をかき、震えながら
涙声で言った


『お姉ちゃん私に任せて』


と、そう言った


だけど、瑠璃は私の手を離さなかった
ガタガタと震え、一歩もその場から動き出せなかったんだ

当たり前だ
怖いに決まっている
例え友人を助けるためとはいえ、自分の身も犠牲になるかもしれない

そんな恐怖を前に、瑠璃は動けなかったんだ

その姿を見て、私はすぐに決心がついた


『お姉ちゃんに任せて』


瑠璃の手を離したのは私だった
止めようとしたのも瑠璃だった

だけど、私は止まらなかった
もしあの行動に理由があるとすれば、放っておけなかった
ただそれだけだろう


熱く、苦しく、意識が遠のきそうな苦痛の中
私は可憐の体を引っ張った

何かに挟まれているわけでもない
だが、可憐は部屋の中に倒れ込んでいた
どういうわけか、足を怪我していた

意識は無く、仕方なしに可憐を担ぐ
ズリズリとゆっくり引きずって歩いていた

そんな私を手伝おうと、後から瑠璃はやって来た
だけど私は見た

何かが崩れそうになる音と
ひび割れた天井を

私は咄嗟に可憐を置いて、駆けだした

そして、瑠璃の肩を突き飛ばした
次の瞬間、道を塞ぐように天上が落下してきた

こうして私達姉妹は分断された

助けようとして肩を突き飛ばしたのは確かに私だった
だけど、閉じ込められたのは私だった

そして、閉じ込められたからこそ助かったんだ


朦朧とする意識の中
私は可憐の傍に戻った

部屋は焼けつくような熱さだったけど、前が見えないほど煙は充満していなかった

そして気づいた
ベランダが開け放たれ、換気されているという事に
それが、私の見つけた希望だった

可憐の体をもう一度担ぎ、引きずりながら歩く

とうに体力は限界を迎えていただろう
しかし、それでも私は必死で可憐を助けようとした

それが自分の使命だと思った
彼女だけは助けないと、私の行動に後悔すると思ったから
こうして助けようとしたことを、間違ったことをしたと思いそうだったから

それだけの為に、私は何とかベランダにたどり着いた

ベランダ側にも幾らか人が居た
私の姿を見て、写真を撮っていた

何か叫んでいたが、私には聞こえなかった


私は可憐の体を抱き、倒れ込むように落下した
可憐の体を自分の上にして、背中から落ちるように投身した

高さは4階
普通ならばまず、絶対に助からない落ち方
奇跡でも起こらない限り、私は死ぬはずだった

だけど、奇跡は起きた

私は生きていた
投げ出された体は、そのまま落下することは無く
一度、ベランダに靴を引っ掛けてしまった
当然足の骨は砕け、間接は外れたりしただろう

しかし、引っかかったのは足ではなく靴だったから最悪は免れた
一度急速に減速し、直ぐに靴は脱げて落下した

だが、その減速のおかげで私は生きていた


生きてしまったんだ


激しい衝撃と共に、頭がガンガンと苦しく痛んだ
眼の奥がちかちかして、血の匂いが体中から溢れた


人が駆け寄ってきていた
口々に何かを言っている

顔の判別すらできなかった

だけど、最悪な事に私は聞いてしまった
人の声を聞いた

それはよく知る、私の両親の声だった

『まだ生きてる!こっちは…生きてる』

駆け寄って来たのは父だった

『ああ…どうしてこっちは生きているの!?』

やめて…聞きたくないよ……


『どうして死んだのは翡翠じゃなくて瑠璃なの!!?』


私は聞いてしまったんだ
哀しみに錯乱し、娘が生きていることを嘆く親の声を

その言葉で私は死んだ
『輝翡翠』という、姉は死んだ
自分で自分を殺した

この時と、妹に関わる一切の全ての記憶はないモノとした

そうでなければ、私はあの新たな家で生きて行けなかっただろう


『痛み』とは、私の哀しみであり、私自身が殺した私
あの時、あの場所で、間違いなく、姉としての私は死んだ

病院で再び目を覚ましたとき、私は一切の苦痛の記憶を忘れていた

そこから先が、今を生きている輝翡翠が生きてきた道程だ


翡翠「貴女の正体は『輝姉妹』。死んだ妹の体で蘇りながら、私の哀しみによって嘆きを叫ぶ獣」

翡翠「悪いのは瑠璃じゃない。全部、私だったんだ」

翡翠「だって瑠璃は、あんな事しないもん」


あの家を燃やすことに執着したのも
瑠璃であるはずなのに私としての記憶を持っていることも
目の前のこの子が翡翠であれば、全てに説明がつく

全てを忘れて家族と団欒する私を嫌悪していたのも
吐き出さんばかりの哀しみと嘆きは、私達家族に向けられていたんだ

この子の言っていた『お前』とは私だけに向けられた言葉じゃなかった


瑠璃「……どうして、それを思い出してまで私を止めるの?」

瑠璃「貴女も私なら分かるはずだよ。あの時の裏切りは絶対に許されるべきじゃない!!」

瑠璃「私は…!私は愛されてなかったんだ!!」

瑠璃「そうでしょ……」

私と同じ顔をした少女はボロボロと涙を流す
荒れ狂う激情ではないが、彼女は哀しみを叫び続ける

瑠璃「私という命に…何の意味があったの…?」

瑠璃「助けたつもりの妹も死んでた」

瑠璃「奇跡によって助かった命は、それ自体を否定された」

瑠璃「親の愛の無い子供なんて、生きていられない…」

瑠璃「私なら、私の行動を肯定するべきだよ!」

瑠璃「私を否定したアイツらは許されるべきじゃない!全部全部燃やして壊して殺してしまおう!!」

瑠璃「そうでもしないと、この命は報われないよ……」

翡翠「………」

涙を流し、嘆きを訴える
正直に言えば、彼女の嘆きも理解できる

あの時、生きてる私を見て言った両親の言葉はあまりにも残酷な言葉だった

哀しみに暮れるこの獣に、私はなんと声をかけられるだろう

私は………


会話、行動安価
安価↓1

確かに昔の自分の命には意味というものがなかったのかもしれない
でも今まで生きて、色々な人と出会って自分の命は決して無価値じゃない
そう信じている


>>273採用


翡翠「…私の命は望まれてなかった」

翡翠「私が生きている事で、喜んでくれなかったんだもんね」

翡翠「助けたつもりの瑠璃も…死んでたんだ」

翡翠「確かに…確かに昔の自分の命には意味というものがなかったのかもしれない」

翡翠「でも今まで生きて…色々な人と出会った。今の自分の命は決して無価値じゃないと思う。そう信じてる」

瑠璃「……今が幸せなら、それでいいと?私の嘆きなんて、もう終わったことだと?」

翡翠「……そうだよ。それじゃダメかな?」

翡翠「いま、貴女の命はこうして報われている。あの時起こった奇跡で繋がれたこの命、決して無意味なんかじゃないと思う。それじゃダメかな?」

翡翠「だってだよ?だって…全てを知ってなお…私はお母さんもパパも嫌いになれないよ……」

翡翠「全てを忘れた私を、今の今まで幸せに育ててくれたんだ。私を罵倒したり、私を傷つけるようなことをしなかった」

翡翠「それはただの罪悪感かもしれない。でも、間違いなく今は愛されてる。大切にしてくれている」

翡翠「愛してもらえるまで、ちょっと時間がかかっただけなんだよ」

翡翠「……それじゃ、ダメかな?」

その言葉が、純粋な私の気持ちだった
上手く慰められないし、言った言葉なんてただの我儘だ
傲慢で身勝手な、幸せな人だからこそ言える言葉

だけど、事実として私は幸せなんだ
それだけは、絶対に嘘じゃない


翡翠「私ね、今では友達も居るんだよ?」

翡翠「私を信じて、頼ってくれる人も居るんだ」

翡翠「それとね。あの時私と一緒に落ちた夕原可憐っていう子と、親友になったんだ」

翡翠「私は貴女の嘆きを理解してあげられるけど。受け入れることはできないよ」

翡翠「私は今を生きてるから。私は私が生きる今を守りたいから」

瑠璃「…………」

自分のありったけの想いを伝えた
返答は沈黙

重苦しい空気が流れ、やがて目の前の少女は口を開いた

瑠璃「……そっか。ちょっと、安心した」

瑠璃「てっきり辛い目に合っているとばかり思ってた。違ったんだね」

瑠璃「もう…私が居てあげなくても平気なんだね。お姉ちゃん」

翡翠「……!…うん。ありがとう、ゴメンね」

私と同じ顔をした少女
瑠璃は、今日初めて穏やかな顔を見せてくれた


           瑠璃
瑠璃「私の基本は私だけど、お姉ちゃんでもあるから。全てを忘れてしまったお姉ちゃんの代弁者のつもりだったんだ」

瑠璃「お姉ちゃんはあの時、全ての痛みを捨て去ったから、優しさしかないお姉ちゃんだから…あの人たちの事を許してしまってるんだと思った」

瑠璃「でも、違うんだね」

翡翠「……うん」

瑠璃「……お姉ちゃんがそう言うんだから。私からは、もう何も言えないよ」

瑠璃「優しくて馬鹿なお姉ちゃん」

瑠璃「自分の意見をぶつけられるくらい、強くなったんだね」

翡翠「…うん」

瑠璃「一人で平気?もう私が手を引いてあげなくても大丈夫?」

翡翠「うん」

瑠璃「……そうだよね。いざとなったら、私より勇気のある人だもん」

瑠璃「私の大好きなお姉ちゃんだもん。信じてるよ」

翡翠「うん!……お姉ちゃんに任せて」

そういうと、瑠璃は優しく笑い両手を広げてきた
私はギュッと優しく抱きしめた
瑠璃は私を抱きしめ返して、ポンポンと背中を撫でてくれた

私の愛する私の妹は
本当に生きているかのように温かかった


はらはらと白い霞が舞い落ちてくる
それは、もう見飽きてしまった忌むべき光だった

まだ昼間だというのに、箒星はその身を燃やして光の粒を零している

瑠璃「…ダメだ。もう始まる」

翡翠「え?」

突然体を離される
真っ直ぐ私の目を見つめ、瑠璃は言う

瑠璃「マザーが終わりを始めた。もうすぐ夜に移り変わる」

瑠璃「飢えた獣たちがこの地上を覆いつくす」

瑠璃「そして、最後に残るのはお姉ちゃんとマザーだけだ」

翡翠「それが…星涙の戦姫が言っていた『世界が終わる』って事?」

瑠璃は力強く頷いた
そして、『繋がれ』と小さく呟くとその手には槍が握られていた

瑠璃「そろそろ私に植え付けられた獣が起きる。その前に、お姉ちゃんが殺して」

翡翠「…えっ…?待って…いきなりすぎるよ!折角また会えて、仲直りしたんだよ?」

瑠璃「……お姉ちゃんが決めて。お姉ちゃんがしないなら、私は私を殺す」

翡翠「そんな……」

瑠璃「さあ早く!!」

瑠璃は私に槍を差し出してくる
私は……


会話、行動安価
安価↓1

槍で自分を刺す


>>278
流石に続ける気の無い安価はNGとさせていただきます




時間も時間なので、今日の更新はここまでです

安価は次回更新の時に改めて取ります

ではでは、お付き合いいただきありがとうございました


そろそろ再開です

瑠璃「そろそろ私に植え付けられた獣が起きる。その前に、お姉ちゃんが殺して」

翡翠「…えっ…?待って…いきなりすぎるよ!折角また会えて、仲直りしたんだよ?」

瑠璃「……お姉ちゃんが決めて。お姉ちゃんがしないなら、私は私を殺す」

翡翠「そんな……」

瑠璃「さあ早く!!」

瑠璃は私に槍を差し出してくる
私は……


会話、行動安価
安価↓1

あなたが獣になるまでは殺しはしない
瑠璃は瑠璃のままだということを信じる


>>291採用


翡翠「ま、待ってよ!私は貴女を殺さないし、死ぬのも駄目だよ!」

瑠璃「この期に及んでまだそんなこと言ってるの?」

翡翠「うん。…瑠璃が取り返しのつかない…獣になったら、その時は責任を取るよ」

翡翠「それまで、絶対に死んだりしちゃダメ」

翡翠「瑠璃は瑠璃のままだって、信じてるから」

翡翠「それにほら、私だって何度も自分に戻って来れたし、瑠璃も頑張ってよ!」

瑠璃「……お姉ちゃん。結構無茶言うんだね…」

瑠璃は呆れたように首を振る
一つ溜息を吐いて…

瑠璃「…どうなっても知らないよ?」

と、挑発的に笑った

翡翠「うん。信じてるから」

私は瑠璃の眼を見て、真っ直ぐに頷いた
希望的観測かもしれないけど、私だって何度か抑え込んでこれたんだ
瑠璃に出来ないわけがない


遠くの方で、何か遠吠えのような叫びを聞いた
その叫びは次々に連鎖し、共鳴している様だった

全身にゾワゾワした感覚が駆け上る
きっとこれが、瑠璃の言っていた獣が起きるって事なんだろう

瑠璃を見て見ると、苦しそうに蹲っている
多量の汗を流し、その表情はとても険しい

翡翠「瑠璃!?」

瑠璃「…大丈夫だから…!お姉ちゃんは、やるべきことをやってきて!!」

翡翠「……やるべきこと…」


私のやるべきこと
翡翠の騎士として、やらなければならない事がある

まだ、まだ真実のその先に到達していない

マザーの事
私はもっと知らなければならない

そう思い立ち
私はある場所に向かったのだった……


視点選択(残り3回)


1、四条葵
2、姫神沙耶香
3、赤月暁
4、姫神弥勒
5、甲鳳麗
6、漣色葉

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


>>295採用:1


……10…20……まだ増え続けている
私の住むこの市だけでも20近い獣のアンノウンが生まれている

私の予想が正しければ、アンノウンは次々に生まれ、そして減っていっている
それは魔法少女の奮闘によるものではない
アンノウン同士による共食いだ

星涙の戦姫さんが言っていた第三種アンノウン、別称獣のアンノウン
この新たなアンノウンは、アンノウンを喰らう事で力を蓄えていくという能力を備えているらしい

増殖と現象が異常な速度で繰り返されている

そんな中、私に出来ることと言えば

葵「皆さん!落ち着いてください!!我々の誘導に従って動いてください!!」

葵「ご家族と逸れた方は直ぐに仰ってください!直ぐに救援に向かいます!!」

葵「皆さん落ち着いて!!」

こうして避難誘導をすることくらいだ
姫神先輩が既に避難所の手立てを考えてくださっていたおかげで、こんな大参事の戦場を前にして、幾らかスムーズに誘導が進んでいる

私以外の魔法少女は、今戦っている頃合いだろう


葵「……皆さん、大丈夫でしょうか…」

マーリン(大丈夫じゃない人たちが目の前にいるでしょ?余計なこと考えない)

葵「で、ですがマーリン。今までとケタ違いの強さと聞いています。私より年下の子も戦っています…心配ですよ」

マーリン(だからって目の前の戦場に飛び込んで何かできるわけじゃないでしょ?出来ることだけ考えなさい)

葵「…っ…はい!」

悔しいけどマーリンは正論でした
私は心配を振り払い、目の前の人たちの安全を第一にしようと心に決めた

その時――獣の雄たけびが鳴り響く
悲鳴が連鎖し、我先にと驚異から逃げようと列を崩しはじめる

体が小さく、弱いものは弾き飛ばされ、体を踏まれていく


葵「み、皆さん!落ち着いて!」

マズイ
間違いなく獣のアンノウン
助けを呼ばなければ

だが、間に合うか?

一番近くに居るのは誰?

今目の前、アレを食止められるのは…?
そう考えた時には、既に体は動いていた

葵「慌てずに退避してください!!私が、これを引き留めます!!」

両手を広げ、私よりも一回りも二回りも大きな獣と対峙する
無謀か、はたまた蛮勇か

私が私の実力を一番よく分かってる

でも、ここで立ち向かわないと
私がここに居る意味がない!!

恐怖に負けそうな己を奮い立たせ、私は挑発するように大きな声をあげた――――


視点選択(残り2回)


×、四条葵
2、姫神沙耶香
3、赤月暁
4、姫神弥勒
5、甲鳳麗
6、漣色葉

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


>>304採用:4


弥勒「はぁ…姉様はご無事でしょうか…」

ハナコ「アンタ馬鹿じゃない?自分より強い人の心配してどーすんのよ?」

弥勒「そうですけど。心配なものは心配なんです。家族ですから」

ハナコ「はいはいシスコンシスコン」

つまらなそうにハナコはそっぽを向く
そういえば、昔から僕が姉様と仲良くしてると僕の頭に乗って来ていましたね

弥勒「ハナコは嫉妬深いんですね」

ハナコ「は、はぁ!?だ、誰が誰に嫉妬してるっていうのよ!!?」

ハナコ「ば、馬鹿じゃないの!!アンタなんて好きでも何でもないわよ!」

弥勒「ふふっ…ハナコも大概、僕コンですよ」

ハナコ「僕コンってなによ!造語のセンスなさすぎ!!」

そんな風にハナコと話ながら町を練り歩く
どういうわけか、僕が任された地域には殆どアンノウンが湧いて出ない

……姉様の計らいだろうか

そうだとしたら、余計なお世話だというほかない


弥勒「ハナコってやっぱりハナコですよね?僕が拾ったあのカラス」

ハナコ「…まあね」

弥勒「やっぱり、僕に会いたかったんですか?」

ハナコ「そ、そんなわけないでしょ!ただ……」

ハナコが何か言いかけた時、漸くアンノウンの姿を見つけた
共食いでもしてきたのだろう、体中に血を纏っている

弥勒「お仕事の時間ですよ、ハナコ。全部片付けて、姉様に会いに行きましょう」

弥勒「―――『繋がれ』」

小さく呟くと、少年の姿は少女へと形を変える
肩口くらいまでの短い黒髪、肩から先を露出した、胸元のリボンが目立つ白のブラウス
大きな胸がそのリボンをより強調している
下半身はホットパンツに黒いストッキングに覆われている

グッと確かめるように拳を握る

その拳には黒い手袋が嵌めてあった


短く息を吸い込み、一歩を踏み出す
一息でアンノウンの目と鼻の先まで近づき、拳を振るった

目の前にあったはずの巨大な生命の塊は、一瞬にして破裂して消し飛んだ

弥勒「…これが件の獣のアンノウンですかね?」

ハナコ(多分ね)

弥勒「ふぅ…呆気ない。この分なら楽に片付きそうですね。残念です…」

ハナコ(……アンタって、本当に昔と変わらないのね)

弥勒「そう思いますか?随分と強くなったと思うのですが……」

ハナコ(……分かんないならいいわよ。ただ、ホント危なっかしいから、傍で見ていてあげないと怖いのよ)

弥勒「……?取り敢えず行きましょうか」

ハナコの言っていることはよく分からないけど、僕にやれるのはこれくらいだ
僕はただ、この拳を振るうだけ

そして、敵を求めて走り出した


その魔法少女の名はファウスト
彼女の拳は『砲』を意味する


視点選択(残り2回)


×、四条葵
2、姫神沙耶香
3、赤月暁
×、姫神弥勒
5、甲鳳麗
6、漣色葉

安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


失礼
残り一回です


安価↓3までで最もコンマの高いものを採用


>>309含みますすみません!!


あと一枠
安価↓1


>>309採用:2


姫神沙耶香はある人物と連絡を取っていた
今日という日に、万が一があってはならない
その為にはあらゆる最善を尽くす、それが姫神沙耶香という人間だった

沙耶香「アナタ、本当にやるつもりですの?」

沙耶香「……ええ…ええ…分かりましたわ」

沙耶香「ええ、勝手な動きもしませんわ。不本意ですが、アナタを信じますわよ」

そう言って電話を切る
電話を終えると、溜息を吐きながら頭を押さえる

椅子であるレオンは、心配そうに主人を見上げる

レオンは知っていた
我が主人はどうにも一人で背負い過ぎる
なまじ何でもできるが故に、出来ること全てを片付けようとしてしまう

今回もまた、動くなと言われて動かないままでは無いだろうとそう予想していた


沙耶香「……行きますわよレオン。支度をして」

主人が己の体から立ち上がると、椅子であるレオンもゆっくりと立ち上がる
そして頼まれたように着替えを運んでくる

沙耶香は無言で持ってきたものを受け取って、袖を通す

そこに感謝の言葉はない
主従とはそういうモノだ

レオンにとっての幸福は、主人に使って頂く事。それだけ
それだけが望み
故に、レオンは沙耶香に意見することは決してないだろう

ただ、流石に今日という日は特別だ
心配そうに顔を見上げると、主人はペットの顎を撫でた

沙耶香「心配いりませんわ。万が一に、備えるだけですわ」

沙耶香「アレのいう事は信じられませんが、翡翠の言う事なら信じられます」

沙耶香「だから、それを見届けますわ」

沙耶香「あの子を万が一から救う。その為に向かうのですわ」

そうして、颯爽と沙耶香は屋敷を出た
向かう場所は、弥勒にも教えていない、あの場所へ―――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


私が向かった先は、ある病院の屋上
あの白い星涙の戦姫と出会い、世界の真実を知った場所

そして、また真実を確かめるためにその場所を訪れたのだ

そこには居た
荒れ放題の街並みを見下ろす一人の少女

白いドレスに金色の髪
その儚げで寂しげな後ろ姿は、夜空に瞬く星のようだと形容できるだろう


翡翠「……星涙の戦姫さん…ですよね?」

私が呼びかけると、ゆっくりと振り返り、此方に向き直った
変身を解き、その正体を露わにする

陽一「輝。待ってたよ」

陽一君は普段と幾分か雰囲気が違っていた
いつもなら、ちょっと怖くて鋭い目つきも、胸が高鳴るような男の人の眼だと思った

端的に言えば、いつもよりカッコよく見えた


陽一「もうその様子だと。覚悟を決めたらしいね」

翡翠「…うん。覚悟だけなら、もうとっくに」

陽一「そっか……」

陽一君は遠くの方に目を向ける
町の方では引っ切り無しに破壊が起こり続けている
この周辺に住む魔法少女だけで、対処しきれているか不安になってくる

陽一「なあ、輝。このアンノウン、一体どれくらい居るか知っているか?」

翡翠「えっと…200くらい?」

陽一「残念だが、この獣たちは無限に生まれ続けている」

陽一「アンノウンの未練によって生まれたアンノウンという、矛盾した存在すら生まれ始めている」

陽一「破壊の波はこんな狭さでは終わらない」

陽一「あと数時間で、この星の人が食い尽くされる。それがマザーが願った世界だ」

空では絶え間なく箒星から光が零れている
あの光全てが、アンノウンを生み出す源


翡翠「人が食い尽くされて…それからどうなるの?」

陽一「きっと、マザーだけが残る」

陽一「……いや、マザーとその大事なものだけが残るんだ」

陽一「マザーにとって、人とは敵だ。人間とは悪魔だ。この世こそ地獄だと思っている」

陽一「輝はどう思う?この光景を見て、何を想った?」

陽一「マザーの願いの姿を見て、何を感じる?」

翡翠「…………」

耳に届かない筈の悲鳴が聞こえてくるような街の姿
何度も破壊された姿を見てきた町
灰になってすらも蘇ってきた町だけど、今のこの姿を見ていると、心がざわつく

本当に取り返しのつかないことが始まっているんだと、本能的に理解できた

これがマザーの願った世界

だが、大きな違和感がある
マザーは二つの願いを願ったはずだ

それ酷く矛盾した二つの願い

『死者の蘇り』と『人類の根絶』

その二つが叶った世界がこの今の姿
酷く歪みを感じる世界の姿だ

マザーは何を想ってその願いを………

陽一「深く、考えなくてもいい。ただ、思ったままの言葉を聞かせて欲しい」

翡翠「……」

会話安価
安価↓1

これは本当にマザーが願った世界なのか


>>319採用


翡翠「…これは本当にマザーが願った世界なの?」

陽一「……」

翡翠「だって…おかしいよ……納得が出来ないよ!」

翡翠「負の感情によって生まれたアンノウンは確かに居たよ。多くの人を傷つけて、多くの命を奪ったと思う」

翡翠「でも、でもだよ?死んだ人に会いたいっていう、それ自体は、とっても尊い願いだと思う」

翡翠「誰もが一度は願うと思う。そんなささやかな、ありふれた願いだと思うんだよ」

翡翠「オルスにも、瑠璃にも再会出来て、私は嬉しかった。きっとマザーが願ったのはそんな世界の筈なんだよ!」

翡翠「マザーにもきっと大事な人が居るんだ!だから、『死者の蘇り』を願ったはずなんだよ!」

翡翠「それなのに、その行きつく果てがこの世界。『人類の根絶』?そんなの間違ってると思う!」

翡翠「ねえ、教えて?これが本当にマザーの願った世界なの?」

陽一「………」

それが、私の答えだった
陽一君に提示された、『倒すべき魔王が居ないとしたら』という問い
その答えが、これだと思った

きっとこの世界は、マザーの望んだ世界じゃない


陽一「……それが、輝の出した答え、か」

陽一「凄いな、俺だったら、絶対にたどり着けなかっただろう」

翡翠「……」

陽一「俺なら、そんなに見ず知らずの奴を信じられないと思う」

陽一「今を引き起こした元凶を、きっと許せない」

陽一「……マザーはきっと、多くの人が悪と呼ぶだろう。この世全てのアンノウンの生みの親なのだから」

陽一「だが、悪とは何だ?許す?許さない?一体、何を基準に決めている?」

陽一「倫理とか、人権とか、正義とか、それは生きてる自分を守るためのモノだろう」

陽一「マザーを悪と断じる人は、自分を守りたいからソレを糾弾する。それは間違いなく、多くの人は正しいと言ってくれるだろう」

陽一「でも、翡翠はそうじゃないんだな」

翡翠「………」

私は小さく頷いた

誰の目から見ても、『死者の蘇り』を願った最初の人物
それが間違いなく元凶で、それを倒せば全てが終わる
そう言われれば、誰も疑うことなくマザーを倒すべきだというだろう

だけど、それはきっと真実じゃないんだ

実際に見て、聞いて、話をしないと決めちゃ駄目なんだ
私はそれを選んだ

マザーが本当に倒されるべき悪か?

それを知らなくてはならないんだ
それが、私が向き合うべき真実

その事から逃げちゃ駄目なんだ


陽一「……うん。俺も、輝の言った通りだと思う」

陽一「助けてあげて欲しい。…俺なんかに言う資格はないけど、世界の真実に気付けたのは俺と輝だけだ」

陽一「孤独なマザーを、どうか救ってやってほしい」

翡翠「…陽一君!」

陽一「輝、お前は…きっと…この世の誰よりも優しい。優しすぎるくらいに…」

陽一「どれほど罪深くとも、輝は、同情してしまうと思う」

陽一「だけど…どんな結末を選んでも、俺は…応援する」

陽一「輝が決めた事なら、俺も全部納得できる」

陽一「だから輝、周りの声を気にせずに、その…輝自身を信じて、答えを出して欲しい」

陽一「きっと、残酷な決断になる。何を選んでも、必ず遺恨は残る」

陽一「この世に倒すべき魔王なんて居ない」

陽一「その事を、どうか忘れないでほしい」

翡翠「……うん。分かったよ」

そういうと陽一君は安心しきった表情で、優しく笑った
その表情は酷く儚げで、何故か、切なくなるような気持ちになってしまう
それはきっと、陽一君の綺麗な泣きぼくろがそうさせているんだろう

この人は星涙の戦姫だ。間違いなく
そう、確信させてくれた表情だった

私は、全ての魔法少女の象徴ともいえるべき人から、重いほどの信頼を預かった


陽一「…行くべき場所は、分かるか?」

翡翠「………多分」

陽一「なら、行ってこい」

翡翠「ま、待って!陽一君はこれからどうするの?」

陽一「………俺は…」

眩い光が生まれた
再び目を開くと、目の前には星の光を擬人化したような少女

陽一「俺は…生まれ続けている、この世全てのアンノウンを倒す」

陽一「俺のこの、今の姿の光。あの箒星によく似た、だけど違う光」

陽一「それが合図だ」

陽一「全てのアンノウンが停止して、猶予は恐らく20分」

陽一「それが、最後の時間だ。これを過ぎると、話し合いでは終われなくなる」

そう、告げられた
20分、それが世界が滅ぶかどうかが決まる最後の時間

その全てが、私に託されようとしている


翡翠「こ、この世全てのアンノウンって…本当に大丈夫なの?」

そう訊ねると

                                  クリスタリア
陽一「俺を誰だと思ってる。俺は始まりの魔法少女、『星涙の戦姫』」


陽一「安心しろ。俺に不可能は無い。必ず時間を作る」

と、柔らかく笑いしてくれた


陽一「さあ行け。あまり時間はない」

翡翠「ま、待って!あの…その……」

上手く言葉が出てこない
言うべきことを決めて呼び止めたわけじゃない

だけど、今話をしておかないといけない気がする

何か、聞きたい事とか、言いたいことは無かっただろうか?


会話、行動安価
安価↓1

黒いドレスの星涙の戦姫について


>>325採用


翡翠「…黒いドレスの星涙の戦姫…って、知ってる?」

陽一「……もう、会ったんだな」

翡翠「…うん。私を…助けてくれた……」

翡翠「陽一君と全く同じ、願いを叶える魔法を持った魔法少女」

翡翠「姿も、陽一君とそっくりだった」

翡翠「これってつまり……そういう事…なんだよね?」

陽一「……ああ。全部、輝の想像通りだと思う」

翡翠「……うん。分かった。行って来るよ」

陽一「あ…」

今度は陽一君に引き留められる
咄嗟に私の手を掴んだらしく、顔を真っ赤にしてすぐに離す
姿かたちは星涙の戦姫だけど、陽一君なんだなとちょっぴり笑ってしまう

翡翠「どうしたの?」

陽一「…………いや、何でもない。じゃあな、輝」

そして、私達は別れた
それぞれが、やるべき方向に目を向けて


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


行ってしまった
彼女の背中を、目で追ってしまう

いつもそうだった
いつも、俺はそうしていた

気味悪がられたりしてなかっただろうか?
俺はいつも、大事な所で勇気が出せないから

小悪魔「意気地なし。それでも男?」

陽一「……いいんだよ。これで」

小悪魔「ぎゃはっ!何カッコつけてんの?」

小悪魔「そもそもあんな大口叩いてどうするわけ?アンタなんかにこの世全てのアンノウンを食い止められるわけ?」

陽一「出来るさ。多くの人々が願った願いは、どれほどの大業でも、容易く叶えられるって言ってただろ?」

小悪魔「残念だけど、そんなに願われてないよ。みんな自分の身で必死なのサ」

小悪魔「どうするね?誰も背中を押してはくれないよ?」

陽一「いや、押してもらったさ」

そう言いながら、俺は弓を引き搾った


小悪魔「アンタ何言って……え?は?嘘でしょ!?アンタ、正気!?」

陽一「正気も正気だ」

小悪魔「何言ってるの!?アンタなんかに出来るわけがない!!取り返しがつかなくなるぞ!!」

陽一「ははっ、お前も焦ったりするんだな」

小悪魔「笑い事じゃない!!」

陽一「俺はもう決めたんだ。逃げたりしない」

陽一「もう十分だ。もう十分、逃げ続けたよ」

陽一「これから先は、星涙の戦姫の名に懸けて、一人も犠牲者を出したりしない」

陽一「俺はもう、十分だ」

思い出す、俺はいつもそうだった
大事な時にだけ、どうしても足がすくんだ

そしてそれ以上に、それの命は救われ過ぎた

思い出す、あの時の事
母が、俺の目の前で死んだときの事を


母さんは妊娠してたんだ
親父は単身赴任で、出産に立ち会えるよう休みを取ると言っていた

親父に言われた『母さんを頼んだぞ』って

はいはい、と俺は適当に言った
頼まれるようなことでもないと思ってた
母さんは病院に居る、毎日会えばそれでいいと思ってた

そうだ、俺は母さんに会った
あの時、病院の中庭
散歩がしたいっていう母さんを連れて、散歩に付き合った

そこで、アンノウンが生まれた

初めて見る怪物に、俺は足がすくんだ
動けなかった

でも、母さんは『早く逃げて!』と叫んだんだ

俺は動けなかった
『母さんを頼んだ』という親父の顔が浮かんだ

俺は動けなかった
そう、だから…母さんは俺を庇った
その体には、未来ある命が宿っていたのに

俺は、母さんを見殺しにしたんだ
親父に頼んだぞって言われたのに
何も出来やしなかった


その時、俺は星涙の戦姫になった
何も守れないまま、守られて、俺は生き残った

それを知った親父は、俺を一発ぶん殴って、それ以来一度も会っていない

それから、多くの事があった

北海道での組織化されたアンノウンの討伐
新宿地下鉄での地獄絵図
白鷺城の解放戦線

いくつもの死に関わって来た

俺の目の前で、魔法少女は死んでいった
不思議だ
どうしてみんな、俺を守る?

いつもそうだった
俺が怖くて、弓を引けずにいると、誰もが俺を助けてくれた

皆言った
俺の母さんも言った
その死に際に

『アナタに生きて欲しかったから』

と、そう言われた


こんな情けの無い、惨めで、下らない俺の為に、多くの命が散っていった
それでも、そんな責任負いたくないと逃げ続けてきた

俺は望んで生まれたわけじゃない

生を望まれても、この命に価値はない

ただ、死んでいないだけの命だった

でも、世界が変わった
初めて恋をした

初めて好きな人と話をした

初めて、その好きな人に、『アナタが居なくなると悲しい』と言って貰えた

その子は引っ込み思案で、少し臆病だけど
勇気のある人だった

困難の中にあるほど輝く人だった
決して、折れず、挫けず、誰かのために立ち上がった

俺には、その姿が堪らなく眩しかった


陽一「……思ったんだ。俺が、今こうして生きてるのは…望まれたからだって」

陽一「俺は幸福だ。十分すぎるほどに」

陽一「俺は十分に生きた。もう、終わろうと思う」

小悪魔「……本当に…最後の最後まで、自分本位の自分勝手で、終わらせるっていうの?」

陽一「いつも言ってただろ?生きたいなんて思ったことは一度も無い」

陽一「ただ、まだ死ねないから生きていただけだ」

俺は……ずっと探してたんだ



陽一「俺は漸く。死んでもいい理由を見つけた」



陽一「多くの人に救われたこの命。輝の為に使う」

陽一「それならさ、誰も俺が死ぬことに文句ないだろう?」

それが、俺が探し求めていた答え
死んでもいい理由


小悪魔「………馬鹿、ここに極まれりって感じね」

小悪魔「まあいいわよ。とっとと散って逝きなさいな」

小悪魔「さあ未練はない?やり残したことは無い?」

陽一「墓参りも行ってきた。好きな人と別れの挨拶も済ませた」

陽一「いいぜ、いつでも来な」

小悪魔「…さあ、願いなさい。アナタの願いを叶えてあげる。アナタの全てを奪ってでも」

陽一「この世全てのアンノウンを討ち果たす。そして、アンノウンによって傷つけられたすべての人間の傷を癒せ。あと、輝瑠璃だけは残しておいてやってくれ」

小悪魔「我儘放題ね。いいわよ、契約成立。アナタの全て、貰っていくわ」

陽一「………」

弓を引く手に力が入る
徐々に、徐々に光の矢が形成されていく



陽一「寿命の限界まで持って行け!」

小悪魔「足りない。全然足りないわ」

陽一「嗅覚」

小悪魔「足りない」

陽一「味覚」

小悪魔「足りな~い」

陽一「チッ…そりゃそうか……」

仕方なしに弦を口に咥えて片腕を自由にする
弓を引く手は一本でいい、弦が引かれればその時点で願いがかなえられる
だから、それまでは限界まで意識を保っておかなければ



陽一「右腕一本持っていけ」

小悪魔「残念。足りないわ」

陽一「……両目!両耳!鼻!!」

小悪魔「まだ、足りな~い」

陽一「右足」

小悪魔「まだ足りないわねぇ」

バランスを崩し、尻餅をつく
だが弓を持つ手と、弦を咥えた口だけは離さない

もう既に、俺の体は人のそれを保っていない

だけど、輝は言ってくれた

『腕が無くても、足が無くても、喋れなくなっても、陽一君は陽一君だよ』
『今あるナニカを失ったら、貴方じゃない別の存在に変わるんじゃない』
『今そこにある、陽一君の全てが陽一君だよ。何か欠けちゃったとしても、貴方が失われることにはならない』

ああ、そうだよな輝

これが俺だ
この惨めな姿が俺だ

どんな姿になろうとも、お前の中に俺が居るなら――――怖くない

失う事はもう怖くなんかない


陽一「体毛全て」

小悪魔「ケチくさっ。足んない足んない」

陽一「触覚」

小悪魔「へぇ、思い切ったわね」

陽一「視覚、聴覚、嗅覚」

小悪魔「あと半分。足りないんじゃない?もっと、貴方らしいものを捧げなさいよ」

陽一「内臓器官、意識を保てる限界まで」

小悪魔「わおっ!もうちょっと!頑張れ!!」

陽一「クッ……」

後、俺に何が残ってる?
もう感覚も無い、息も苦しくなってきた
これでもまだ足りない

陽一「………記憶。母さんと輝に関する記憶以外すべて」

小悪魔「……ふふふっそれよそれ。それを捧げなくっちゃね」

悪魔は笑っているだろう
何も感じなくとも、何となくわかる

コイツとも結構長い付き合いだしな


ああ…無くなっていく
俺という存在を証明する全てが持って逝かれている

小悪魔「アンタの惨めな17年間の記憶。存外悪くないわ」

小悪魔「さ、後は意識を捧げるだけ。それで足りるわ」

陽一「………」

ああ…消えていく
古いものから順に消えていく

………まだ、捧げられるものがある

陽一「意識と一緒に、俺の残ってる体全て使えば、お釣りは来るか?」

小悪魔「は?何に使うの?」

陽一「……」

……うん、これがいいだろう
ちょっと位は、誰かのために使ってやってもいいだろう


陽一「………なあお前。最後まで、名前を付けてやれなかったな」

小悪魔「…何よ。いきなり」

陽一「お前の正体。俺の妹だよな?」

小悪魔「……っ!」

陽一「生まれてくる予定だった。母さんの腹の中に居た妹。それがお前というアンノウンの正体だ」

小悪魔「……気づくのが遅いのよ」

陽一「ずっと気づいてたよ。…お前、最後に名前をやるよ」

陽一「母さんが…考えてた名前……男なら『春陽(ハルヒ)』、女なら『水月(ミヅキ)』ってな」

陽一「クッ……はぁ…受け取れ、最後の俺の願いだ。キッチリ叶えろよ」


陽一「水月。お前は好きに生きろ。それが俺の願いだ」


そう宣言した瞬間
フッと力が抜けた

分かる、自分の全てが失われようとしている


水月「待って!待ちなさい!!いきなり何よ!!やめなさい!!私はもう死んでるのよ!!」

水月「私が好きに生きたら、アンタの願いを叶えないことだってできるのよ!?」

陽一「……好きにしろ。俺なんかに…良く付き合ってくれたよな…」

陽一「………カッコ悪い兄ちゃんで…ゴメンな…」

水月「そんな言葉聞きたくない!!!」

陽一「…………かがやき…」

それが最後の言葉だった
全身を追い尽く素ほどの巨大な光の矢は、朝陽一という存在全て、星涙の戦姫という存在全てを持っていき、願いとして完成された

そして、弓を番える主が居なくなった弓矢の弦は、自然に天に向かって放たれた

星の涙の塊は、全世界に降り注ぐ
その光は、優しく、暖かく、まるで空が哀しみに涙をこぼしているような光の雨

その光は、この世界で生まれつつあった全ての哀しみを拭い去って行った

星涙の戦姫は宣言通り、この世の終わりの日に、誰一人犠牲者を出さなかった
ただ、本人一人を除いては


病院の屋上
ただ一人、残された悪魔だった少女は涙を流していた

自らの兄となるはずだった男が残した、最後の代償による願い
その全てが詰まった、光の粒を抱いて、泣いていた

彼女になら、その願いを好きに使うことができる

どんな願いでも叶うだろう

これはそういう契約だ

代償を払った分
それだけの願いが叶えられる

悪魔だった少女は、願いの光を抱き、涙を流し続けた―――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


後ろの方
私が向ってきた方向の病院の屋上

そこから、巨大な光が弾けて消えた

星の涙となって降り注いだそれは、今にも聞こえ続けていた破壊音と悲鳴全てを止めた

確信する
これが陽一君が言っていた合図だ

ここから20分しかない

私は走った
ある場所に向かって

あの子が居るとしたらきっと………


学校の屋上
閉め切っているはずのその場所に、一人の少女が蹲っていた

真っ黒のウエディングドレス姿の少女

ただひたすらに、背中を丸めて泣いている

ああ、やっぱりだ
この子がマザーなんだ

私は少女に話しかけた

翡翠「……話をしに来たよ」

翡翠「もう、全部終わりにしようよ」



翡翠「――――――可憐――」



少女はゆっくり振り返る
その顔には涙の痕があった

この世全ての憎しみを混ぜ込んだような、真っ黒い涙だった


と言う所で今日の更新はここまでです

本当は最後まで行くつもりでしたが、流石に疲れました
時間も時間ですしね

次回更新で最終回です
どうか、最後までお付き合いいただければ幸いです

ではでは


そろそろ再開です


可憐「ひ、翡翠…どうしたの?話って?」

翡翠「勿論、始まりのアンノウンであるアナタから、全ての真実を聞き出すために」

可憐「は?何言ってんの?あたしは星涙の戦姫だって…」

翡翠「ううん。アナタこそマザーだよ。間違いない」

私は戸惑い無く断じる
可憐こそが、全ての元凶なんだ

可憐が星涙の戦姫な筈がない
陽一君こそが、本物の星涙の戦姫だ

だから、その名を語り、同じ力を持つこの少女は
『願いを叶える』という魔法の権化である彼女こそ、箒星の力を取り込んだアンノウン

マザーなんだ

可憐「ち、違うよ。あたし…マザーなんかじゃない!」

可憐「アンタと一緒、魔法少女だよ!!」

翡翠「………」

可憐は追いすがるような目で、必死に私に訴えかけてくる
心が痛む
責めているわけではない、だけど、真実を突きつけなくては話をしてくれないだろう


私には確信がある
可憐がアンノウンであるという、その確信が

翡翠「ねえ、可憐。変身を解いてもらってもいい?」

可憐「……いいよ」

極彩色の光が溢れ、光が納まった時、目の前には私のよく知る親友の姿があった

可憐「こ、これであたしを信じてくれる?」

翡翠「……ねえ可憐。アナタの傍にいるのは誰?」

可憐「え?…そ、それは…アンタだよ。あたしにはアンタしか居ない」

翡翠「……出てきて」

そう呟き、体の中に隠れていたオルスが姿を見せる
可憐はそれを見て苦々しい顔をする

翡翠「私の傍にはこの子、オルスが居る。この子が居ないと変身できない」

翡翠「変身の力はアンノウン由来の力。もし可憐が魔法少女だっていうなら、アナタの傍にも、誰かが居るはずだよね?」

可憐「…………」

沈痛な面持ちで下を向く
何も言葉を返せず、辛そうに唇を噛む

その反応こそが、何よりも可憐が魔法少女ではないという証明になった


そして、これで一つ疑問が解けた
連鎖的に、一つの真実が見えてくる

全ての元凶、全てのアンノウンの生みの親、通称マザー
彼女は『始まりのアンノウン』と呼ばれていた

その事に、私はちょっと違和感を覚えていた

『死者の蘇り』を願った人物がマザーであるというなら納得できる
しかし、『始まりのアンノウン』と呼ばれるのは納得がいかないように思う
何故なら、ただ願いを叶えただけの存在ならば、それは人間であるはずだと思ったんだ

それなのに、確定事項であるかのように、マザーはアンノウンであると言われていた

そして、目の前の可憐こそがマザーであるという証明
傍にいるアンノウン…『聖獣』の力を借りずに、変身をしていた可憐

変身の力は、アンノウンだからこそできる能力

そして、アンノウンとは、『未練を持って蘇った死者』

全ての事実が繋がり、一つの真実が浮かび上がってくる


翡翠「ねえ可憐。アナタは………」


夕原可憐という存在の真実
安価↓3までで正解があれば進行

あの火事のときに死んでおり、その後アンノウンとして蘇った


>>350正解


翡翠「貴女はもう…死んでるんだね」

可憐「……」

翡翠「貴女はアンノウンなんだよね?」

翡翠「私、全部思い出したよ。あの時の火事…私は貴女を助けたと思ってた。でも、死んでしまってたんだよね?」

可憐「………」

長い沈黙
その静寂を破ったのは可憐自身だった

可憐「…アハハ…ここまで…か」

可憐「アンタはもう。全部気づいちゃったんだね」

可憐「そう。あたしが、アンタ達の言うマザーだよ。この世界は、私が願った世界だ」

翡翠「…っ!」

自白だった
可憐は、全てを認めたのだ

間違っていて欲しいと、どこかで願っていた
可憐は無関係であってほしかった

私は、あの時誰も救えていなかっただなんて、思いたくなかった


翡翠「ねえ教えて、アナタの願いは『死者の蘇り』だよね?会いたかった人が居たから、そう願ったんだよね?」

翡翠「この世界はアナタの願った世界じゃないんだよね?」

可憐「この世界は間違いなく、あたしが願った世界の姿だ」

翡翠「ッ!じゃ、じゃあどうして!?」

可憐「待って待って落ち着いて。アンタの話を訂正させて。アンタのさっきの話、間違いが二つある」

可憐「一つ。あたしは間違いなく、あの火事でアンタに命を救われた」

翡翠「え?」

可憐「言ったでしょ?あたしは二度、アンタに救われたって」

翡翠「で、でもそれが違うなら、私の推理は根本から間違ってるって事に……」

可憐「あたしの死因は自殺。あたしはあの火事の後、学校の屋上から飛び降りて自殺した」

翡翠「ッ!?な、なんで…?」

可憐「二つ目。あたしは『死者の蘇り』なんて願ってないよ」

翡翠「…………え?」

頭が混乱する
またも全てが根底から覆されていく話だ

私の動揺なんて気にも留めず、可憐は淡々と語り続ける


可憐「確かに、『死者の蘇り』でもある。だけど正確には違う」

可憐「12月25日。この箒星の光降り注ぐ寒い夜。身を投げ、落ちゆく中であたしは願った」


可憐「もし生まれ変われるなら、もう一度あたしを助けてくれた人に会って友達になりたい」


可憐「それがあたしが願った願いだ」

可憐「この願いが、アンノウンを作り出した。今の世界を作った根本の願いだよ」

可憐「ふふっ…皮肉だよね。あたしは夕原可憐という存在を否定するためにそう願ったのに、生まれ変わってもあたしだなんてね」

翡翠「……可憐…」

体が震える
覚悟していたつもりだった

私自身が語った推理ですら、信じたくない残酷な話だと思っていた
だけど、真実はそれを遥か凌駕していた

どれ程の思いで可憐はその命を立とうとしたのだろうか?
救われた命を、自らの手で絶とうとしたんだ。生半可な覚悟ではない

そんな中、最後の願いは『死者の蘇り』よりも、もっとささやかで切ない願いだった

その願いは、皮肉にも本人の望まぬ形で成し遂げられたのだ


可憐「ねえ翡翠?おかしいと思ったことは無い?」

可憐「何であの時さ、あたしの部屋の玄関が開いてたと思う?」

翡翠「…え?」

可憐「考えてみてよ。あんな部屋に、足を怪我して気絶してる子供一人、どうして取り残されてたと思う?」

翡翠「あ……ああ…!」

可憐「ねえ翡翠。何でさ、あの時放火が起きたと思う?」

可憐「あたしの親はさ、何してただろうね?」

翡翠「…可憐…!もういいよ、言わなくてもいい!」

私は気付いてしまった
もう、ここまでくれば嫌でも分かってしまう

そうだ、考えてみればおかしい話だった
鍵も閉められていない扉、足を怪我して動けない子供が気絶して取り残されていた

扉が開けられていたという事は、『誰かが出て行った』という事なんだ


可憐「あの時の火事。放火の犯人はあたしの父親だ」

可憐「あたしと母さんを縄で縛って、動けなくして、あのマンションに火をつけた」

可憐「あたしの母さんはね、あたしの足を折って無理やり縄を抜けた」

可憐「勿論、あたしを置いて逃げてったよ」

可憐「これが本当の真実だよ。あの時の火事は、全部あたしの所為なんだ」

可憐「あたしの友達でもあり、アンタの妹でもあった瑠璃は、あたしが隣に住んでいたから死んだんだ」

可憐「あたしはね、悪魔の子なんだ。生きてるだけで周りの人を不幸にしてしまう」

翡翠「………」

可憐はボロボロと涙を流しながらそう語った

なんと声をかけてやればいいんだろう?
なっていってあげるのが正解なんだろう?

ああ…今思えば、可憐はずっとその片鱗を見せていた

『あたしにはアンタしか居ない』
『翡翠と二人きりの世界が良いよ』
『あたしには、全てが敵だった』

繋がってしまう
矛盾していると思っていた二つの願い
だけど違った

『死者の蘇り』と『人類の根絶』という願いは、両立されていたんだ


可憐「アンタと会ったとき、直ぐに瑠璃の姉だと気付いた」

可憐「でもアンタは何も覚えていなかったから、あの火事の時助けてくれた人と、アンタはすぐに結びつかなかった」

可憐「あたしは感動した。あの時あたしを助けてくれた人以外にも、こんなにも優しい人が居る」

可憐「そう思うだけで、あらゆる悪意から耐えられた。きっと世界には、他にも翡翠みたいにいい人が居る」

可憐「そう信じてた」

可憐「でも、真実はもっとシンプルだったんだ」

可憐「あの時あたしを助けてくれた名もなき人と輝翡翠。それは同一人物だった」

可憐「そこでもう、あたしは分かったんだよ。あたしの友達はアンタだけなんだって」

可憐「他の何もいらない。あたしだけならまだ耐えられた!でもどうだ!?世界はどうだ!?」

可憐「翡翠の両親はどうだ!?学校に居る奴らはどうだ!?」

可憐「平気で隣人を傷つけ!目障りな人の死を笑う!!」

可憐「剰え家族が生きてることすらを嘆く!!」


可憐「お前たちは!平気で人の死を望む!!!」


それは叫びだった
どうしようもない叫び
この世のあらゆる悪意を背負った少女の嘆き


可憐「だからあたしはお前らの願いを叶えてやるんだよ!!!」

可憐「あたしの二つ目の願いは、『世界/お前達』だって願ったことだ」

可憐「全人類の意思だ。『死んで欲しいと願われた存在全ての死』」

可憐「それが叶った世界がこれだよ」

薄く笑いながら、破壊された町を眺める
今は陽一君のおかげで静まり返っているが、やがて再びアンノウンは蘇り始める

この世界の光景は、多くの人が望んだ光景だという

可憐「ねえ翡翠。あたし…アンタさえいればいい…」

可憐「翡翠さえいれば、他には何も望まないから……」

                       フェンリル
可憐「翡翠は、あたしが選んだ『世界を飲み込む大顎』」


可憐「翡翠が殺したアンノウンは二度と蘇らない」

可憐「だから、アンノウンを喰らい、その肉を内に溜め込む特性を持ったアンノウンを生み出した」

可憐「アンノウン達は共食いを続け、最後の一匹になった時、その身をフェンリルに捧げるだろう」

可憐「その時こそ、あたしの悲願の達成の時だよ」

翡翠「…………」

翡翠の騎士という存在の謎
私だけが全てを終わらせられる、と言われ続けたことの真実が語られた

そうか、だからあの時の武人のアンノウンも、瑠璃も、私に殺されることを望んだんだ

そしてつまり、この目の前の『少女/アンノウン』を終わらせられるのも私だけなんだ


可憐「ねえ翡翠?あたしと二人きりは…嫌かな?」

可憐「…瑠璃とその隣の子くらいなら、残しておいてあげてもいいよ?」

可憐「ねえ、翡翠だって思うでしょ?この世界は間違ってるって」

可憐「アンタの両親の言葉を思い出してよ?」

可憐「あたしね…ずっと黙ってたことがあったんだ」

可憐「学校の奴らに『あたしが反抗したらいじめの標的を翡翠に変える』って脅されてた」

翡翠「…!」

可憐「ゴメン、翡翠。言い出せなくて」

可憐「でもこれで分かったでしょ?この世界の隣人に、救う価値ある命なんてない」

可憐「もし箒星を破壊したりしたら、アンノウン全てが消える。アナタの隣に居るその子も、瑠璃も、そしてあたしも」

可憐「あたし…アンタと別れたくないよ……」

翡翠「……ッ…」

可憐は悲痛の涙を流す
世界を終わらせようと画策した魔王の姿とは思えない
あまりにも小さく、悲しみに満ちた姿だった


私は思い知る、自らに課せられた責任の重さ
自分が背負っているあまりにも重すぎる信頼

思い出す、陽一君の言葉を

『この世に倒すべき魔王なんて居ない』
『きっと、残酷な決断になる。何を選んでも、必ず遺恨は残る』

正にその通りだった

世界を滅ぼそうとする魔王は、世界に殺された哀れな少女だった

私に出来る選択肢はごくわずかだ
どれを選ぼうとも、問題は残ってしまう

今の私になら世界を滅ぼすことも、救う事も可能だ

だけど、世界を救ってしまえば目の前の少女を殺すことになる
彼女は絶対に救われない

自分よりも世界を取ったという私の姿を見て死ぬことになる
信じられるたった一人の親友の裏切りで、彼女は死ぬのだ

それではあまりにも救いが無さ過ぎる

だけど、この世界を滅ぼしていいだなんて思わない

陽一君、沙耶香さん、葵ちゃん、暁さん、弥勒君、それに私の両親
全部全部、大事な人ばかりだ


どちらも救う事は出来ないだろうか?

例えば、世界を滅ぼす事だけを止めてもらう
可憐なら、可能なんじゃないだろうか?

だが、アンノウンだけは残ってしまう
アンノウンだけは生まれ続けるだろう

その事によって、暁さんのような被害者は必ず生まれ続けるだろう

哀しみが生まれると知っていて、私はそれを受け入れなければならない
沙耶香さんが知ったら、きっと絶対に許さないだろう

遺恨は残る
どれを取ろうとも、私の選択は悲しみを生む


『信じてるよ』


今まで私を勇気づけてくれていた言葉が、呪いの様に私を蝕む
世界の命運が私にかかっている

そして、何を選んだとしても完璧なハッピーエンドなんてない

どうすればいいの?
時間がない、決めなくてはならない

私は…どうすればいいの?


コンマ判定
4以上で………

直下コンマ


コンマ判定:8 傍にある温もり


不意に、手が温かさに包まれる
私の傍で、私の手を握るのは――――オルスだった

オルス「翡翠ちゃん。大丈夫だよ。考え過ぎなくていいんだ」

オルス「今から翡翠ちゃんが選ぶ選択に、間違いなんてない」

オルス「いつもそうだったでしょ?君という、深い慈愛と優しさを持つ君の言葉が、皆を救ってきたんだ」

オルス「思い出してみて?君の言葉を」

翡翠「私の…言葉……」

思い出そうとして、まるで走馬灯のように記憶が流れ込んでくる


『……行く。私を助けてくれたオルスを、あの子を助けようとしているオルスを…只の卑怯者になんかしたくない』
私が初めて魔法少女になった時の言葉

『あなたが居ることで助けられた人もいるはずですよ』
自らの存在意義に悩む葵ちゃんにかけた言葉

『…勿論。約束するよ』
『でも、そんなことは私が絶対起こさせないから』
万が一に怯えて生きてきた沙耶香さんにかけた言葉

『きっと関わる人によって様々な異なる『自分』が存在していくと思うよ』
『少なくとも私にとって陽一君は、いなくなったら悲しんでしまう存在だと思うから』
自分のアイデンティティーを見失いそうだった陽一君にかけた言葉

『お姉ちゃんに任せて』
いつも私を勇気づけてくれていた瑠璃を勇気づけるための言葉


思えば、たくさんの事があった
多くの場面で、私の言葉で人を救ってきたように思う

私なんかと思う事もあるけど、私のその言葉に勇気づけられたから、皆私を『信じてる』と言ってくれたんだ


オルス「きっとみんな、同じ気持ちだよ」

オルス「君の選択なら、僕はどんな事でも納得できる」

オルス「信じてるよ。翡翠ちゃん」

オルス「どんな時でも、僕は必ず君の傍にいる。約束するよ」

翡翠「オルス……」

不思議だ
重みに感じていた言葉で、勇気が湧いてくる

思えば、何度だって私も勇気づけられてきたんだ

私の傍にはオルスが居る
そう思えば、私は勇気が湧いてくる

私を信じてくれている人の為にも、私は私自身の私の言葉で、全てを終わらせよう


さあ、選択の時だ


私は……………


1、戦いを終わらせる。マザーを倒し、箒星を破壊する
2、マザーの手を取る。世界を滅ぼす
3、何も失いたくない。世界を滅ぼす事だけを止め、悲しみが生まれ続ける世界を許容する

安価↓から最速で3票獲得した選択肢で進行


最多得票:3、何も失いたくない


私は…もう、何も失いたくない

魔法少女も、それ以外の人たちも、アンノウンだって例外じゃない
私は、全部救うんだ


そう決めた

言おう、目の前の哀しみに暮れる悲しき魔王に


会話、行動安価
安価↓1


箒星に乗ってマザーとアンノウンたちが暮らせる場所を探そう

一緒に生きよう、私が付いている
勿論私だけじゃないよ、みんなとだ


>>372は状況にあってない安価なので除外

>>373採用


翡翠「私も、可憐と別れたくないよ」

可憐「翡翠…!じゃあ……」

翡翠「でも、世界を滅ぼすなんて、私は受け入れられない」

翡翠「だから、この世界で一緒に生きよう、私が付いてるから」

翡翠「勿論私だけじゃないよ、みんなとだ」

可憐「………みんな…?皆って誰?あたしにはアンタしか居ないの!!」

可憐「家族も!友達も居ない!私に優しいのはアンタだけなの!!」

翡翠「そんな事ないよ、絶対に他にも居る。だから、一緒に探そう?」

翡翠「可憐が抱えてる悩み、嫌な事、全部私に言って。全部、全部全部!私が何とかするよ」

翡翠「今まで気づいてあげられなくてごめん。これからは気付いてあげられるように頑張るから、可憐も私を信じて?」

翡翠「お願いだよ、私以外に優しい人なんていないなんて、悲しいこと言わないで」

可憐「…翡翠……」

可憐は恐る恐る、私に手を伸ばす
私は両手で包み込むように、その手を握り返した


私しか終わらせられないというのなら
私しか救えないというのなら

それに従うよ

もう迷わない
逃げたりなんかしない

これから生まれ続けるアンノウン全て、私が救って見せる
暁さんのような被害者を出させない

生きて、この世界を救う

それが私の、翡翠の騎士の答えだ

可憐「……ねえ、どうして?どうして、翡翠はそんな事が言えるの?」

可憐「あたしは、ただ生きてるだけで色んな人を狂わせてきた」

可憐「あたしの傍にいると、翡翠だっていつか…壊れてしまうかもしれない。父さんみたいに…」

彼女は震えていた
彼女はずっと恐れていた
自分という命は呪われていると思っている

今までの経験全てから、彼女は存在を否定されていると思っている
自分が生きていること自体が、罪だと思っている

死んでしまえばいいという願いもまた、彼女の恐れなのだ
誰も居なければ、誰も自分の所為で不幸になる人間なんて居ない

きっと、そんな事を考えてしまっているんだ


だから、私は彼女の手を強く握る

翡翠「大丈夫だよ。私を信じて」

翡翠「私は絶対に、可憐を裏切ったりしないよ」

翡翠「だって私達、友達でしょ?」

可憐「…っ…!…ねえ、あたし…信じてもいいの?」

可憐「この悲しみに満ちた世界で……幸せになれるかな?」

翡翠「うん、なれるよ。…ううん、幸せにして見せる」

そういうと、可憐はゆっくりと立ち上がった

極彩色の光が周囲を包み込む
やがて、夜の空を擬人化したような、美しい黒のドレスの少女へと姿を変える

少女は涙を流していた
世界を滅ぼす魔王だった少女の涙は、この世全ての哀しみを吐き出したような、澄んだ透明の色だった


可憐「願いを叶えろ箒星!あたしの三つ目の願いは―――――」



<エピローグに続く>


エピローグ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最悪の日と言われた12月26日は、奇跡的に誰一人死者を出すことなく、次の日を迎えた
それからというモノ、世界は案外何も変わってはいなかった

相変わらず酷い人は居て
平気で他人を傷つけ、利己の為に他者を利用する人は居る

アンノウンもまた、未練を果たそうと彷徨い続けている
魔法少女達もまた、日々奮闘を続けていた

あの日可憐が願った願いにより、世界の終焉は回避された
アンノウンを喰らうアンノウンという、世界を滅ぼすために生まれたアンノウンは今後生まれることは無いという

しかし、可憐が生きている以上、アンノウンも生き続ける

言うなれば、世界は振り出しに戻ってしまったんだ
だけど、決して後悔はない

私…翡翠の騎士が倒したアンノウンは再び生まれることは無い
その為に、私はあっちこっちで戦いに駆り出される毎日だ

だけど着実に、アンノウンはその数を減らしているだろう

……そう信じて戦うほかに、私に道はない


そんな私だが、束の間の平和の時間もある
今日から冬休みが終わり、いつも通り学校に登校にすることになった

「おーい!朝だよー!ほら起きて!おーきーてー!!」

ガクガクと体を揺さぶられる
私が『あと五分』というと、布団をひっぺ替えされた

「早く起きなさいってば!『お姉ちゃん』」

私をこうして起こしてくれたのは瑠璃だった
そう、彼女は再びこの世に生を受け、もう一度人生を歩み直している

翡翠「……うん、おはよう瑠璃。まだ眠いよ…」

瑠璃「知らないってば。ほら、起きて!もうオルスも何か言ってあげて!!」

オルス「僕は翡翠ちゃんが眠いって言うなら、寝かしてあげた方が…」

瑠璃「もう駄目だよ!オルスすぐお姉ちゃんを甘やかすんだから!!ほら!行くよ!!」

ズリズリと引きずられながら部屋から引っ張り出される
オルスはおろおろとしながら、私を気遣ってくれる

そう、私の日常にはこの二人が居てくれる
こうして3人で朝を迎えられるのは、あの時、あの選択をしたからだろう
この光景があるだけで、あの時あの道を選んだことが間違いじゃないと、そう思えた


今の瑠璃は、埋め込まれていた獣のアンノウンとしての力を失っている
アンノウンでありながら、もう変身して戦うことができない
つまり、ただの少女と何も変わりがない状態だ

当然、家族に受け入れてもらうのには時間がかかった
……私との関係も、一筋縄ではいかないと考えていた

でも、お母さんもお父さんも再び瑠璃に合えたことを喜んでいた
あの時私に言った言葉を、涙を流して謝ってくれた

だからもう、全部終わった話

私たち家族は幸せな日々を過ごしている

玄関のチャイムが鳴る
私は慌てて朝食を詰めこみ、オルスに手伝ってもらいながら着替えをすぐに済ませた

翡翠「いってきまーす!!」

母さんにそう伝え、玄関の扉を開けたその先では――

可憐「おはよ、翡翠」

翡翠「おはよう、可憐」

私の親友が待っていた


瑠璃「おはよう可憐ちゃーん!」

可憐「うん、瑠璃もおはよ。じゃあ行こうか」

こうして私達は3人で学校に向かう
私と可憐は同じ高校だけど、瑠璃は小学校なので途中で分かれることになる

可憐は三つ目の願いを叶えて以来、変身した姿を見せなくなった
多分変身できるし、魔法も使えるだろうけど、一つ目の願いのように意図しない結果を生んでしまう事もあると知った以上、おいそれと魔法を使いたくないのだろう

可憐に新しい友達はすぐに出来た
といっても、瑠璃とは元から友達だったわけだけど
思った以上に簡単に、可憐には私だけじゃないよと教えてあげられた

隣で楽しそうに笑う可憐
その姿が見られるだけで、私は満足だ


途中で瑠璃と別れて、私達の通う高校につく
その校門で、沙耶香さんと会った

沙耶香「ごきげんよう、御二方」

翡翠「お、おはようございます」

そういうと沙耶香さんは去って行く
大丈夫だと分かってはいても、やっぱり少し緊張してしまう

可憐の事を全ての元凶だと知っている人は、私と沙耶香さんだけだ

沙耶香さんはあのショッピングモールでの事件の事もあって、私の選択に反対するだろうと思っていた
だけど、その事を知った沙耶香さんは『そう』と、一言だけ言って納得していた

理由を尋ねると

『これは貴女にしか終わらせられない問題。その貴女が、あなた自身の考えでその選択をしたというなら、それが最善なのですわ』

と、答えてくれた

星涙の戦姫が居なくなった今、壊された場所の再建は沙耶香さんが一手に担ってくれている
それからアンノウンが現れたりすると、私に教えてくれたり、連れて行ってくれたり、本当に様々なサポートをしていただいている

沙耶香さん曰く、星涙の戦姫との最後の約束らしい
本当に、二人には頭が上がらない


いつものように授業を受け、友達と話、一緒に笑い合う
本当に、日常が戻って来たんだと安心する

だけど、その中でたった一つ、見つけられないモノがあった

あの日以来、あの病院の屋上で話をした以来、陽一君とは会っていない
電話をかけてみたけど、もう使われていない番号だと言われてしまう
何度メールを送ってみても、その返信は無い

意を決して、陽一君が居候しているおばあちゃんの家を訪ねてみたけど、そんな奴知らないと追い出されてしまった

誰にその事を話してみても、誰もその事を覚えていなかった
沙耶香さんですら、白いドレスの星涙の戦姫が居たことは覚えていても、陽一君の事は覚えていなかった

あの時、あの場所であったこと、話したこと全て幻だったんじゃないかと思ってしまう

だけど、その声、その言葉
あの儚げで胸が切なくなるような笑顔

怖いと思っていたけど、とても綺麗なその目

私はそれら全てを間違いなく覚えていた

多分、陽一君はもう死んでいる
あの時、私に作ってくれた20分という時間は『朝陽一という存在』を代償にして作られた時間だったんだ

私は全てを救うと言っていたけど、唯一、一つだけ救えなかった
それだけは、この先一生私に残り続ける未練だろう


陽一君の事を想い、センチメンタルな気分に浸っていた時、スマホが一つの通知を受ける
私はそれを確認し、一目散に駆けだした

もう大慌てだ
心臓がバクバク音をたてている
まさか、まさかと思いながら私はある病院の屋上に向かった

そこに、一人の男の人が立っていた

「久しぶり…だな」

翡翠「あ……ああ……!」

感嘆の声が漏れる
涙が溢れて止まらなかった

「おかしいよな。俺、全部終わらせたつもりだったんだ」

「母さんの墓参りも行った、親父にも謝った、妹にも謝った」

「そんで、初恋の人に別れの挨拶をした」

「…でもさ、俺『未練』があったみたいだ」

そう、恥ずかしそうに笑っていた

そうか…そういう事か
アンノウンが生まれ続ける世界
私がこの世界を選んで、本当に良かった


翡翠「陽一君!!!」

私はたまらなくなり、目の前の少年に抱き付いた

翡翠「もう…どこ行ってたの…?心配したんだよ…私…私…救えなかったって……」

陽一「う、うえ!?あ、その…輝?」

翡翠「……おかえり、陽一君。ずっと待ってたよ」

陽一「…!………ああ、ただいま」

赤い髪の毛が風になびく
長い前髪から覗く緋色の綺麗な瞳
その少年の顔に、何処か愁いややさしさのようなモノを感じるのは、きっと泣きぼくろがそう感じさせているんだろう


陽一「あの時、最後…どうして言えなかったことがあるんだ」

陽一「聞いてくれるか?」

翡翠「うん、何?」

陽一「俺、ずっと前から―――――――」


一陣の風が吹く
冷たい風だが、いま私たちの火照りを冷ますには丁度いい冷たさだと思う


ああ、私…この世界を選んでよかった




『私が選んだ幸せの形』 HAPPY END


という事で、これにて完結でございます!!
長い間お付き合いいただきありがとうございました!!

多分これが一番幸せなエンディングだったんじゃないでしょうか?

無事にHAPPYENDを迎えられて本当に嬉しいです!
何度かBADENDを迎えましたが、アレがあってこそのこのエンディングだと私は思います


明日にでも、ちょろっとおまけを書くと思います

今日の更新はここまでです
重ね重ね、今までお付き合いいただきありがとうございました

乙、色々と報われる形で終わって本当に良かった
てかこの調子なら、作中唯一の名有り死亡者(甦った人達を除く、他にもいたらごめん)となった暁の妹も、なんだかんだ理由をつけて甦る可能性が…?

ちなみに個人的には、チョイ役で終わってしまった甲ちゃんや漣ちゃんの活躍も見たかったり
てかこの後陽一どうなるんだろう、復活したから婆ちゃん始め周囲の記憶も戻るのかな?

乙でした
ハッピーエンドを迎えられて本当に良かったです


>>390
朱莉ちゃんは蘇るかもしれないし、蘇らないかもしれません
可能性だけはありますね

>>391
残念ながら記憶は戻りません
陽一君は自称妹を名乗る水月ちゃんという少女と二人で、頼み込んでお婆さんの家に居候させてもらっているそうですよ

>>392,393
ありがとうございます!!
私も無事に完結できてうれしいです!!



では、宣言通り黒シナリオのクライマックスシーンをおまけとしてお送りします

質問なんかがあれば何でも答えます
感想もあれば最高に嬉しいです!!


そろそろ再開します


学校の屋上、そこには私の想像をはるかに超えた光景が広がっていた

翡翠「そん…な……どうして…?箒星を破壊すれば、全部終わるんじゃなかったんですか!!」

翡翠「沙耶香さん!!」

沙耶香さんはゆっくりと此方に振り向く
手に持つ銀の剣を振り、血を払う
その足元には……足元には……

沙耶香「……唯一、一手見誤ってしまったようですわね」

沙耶香「成程、翡翠の騎士以外では終わらせられない。…そういう事でしたのね」

翡翠「答えてください沙耶香さん!!どうして!どうして…!!」


翡翠「可憐を殺したんですか!!?」


沙耶香さんの足元には、血の海に沈む親友の姿
黒いドレスを纏う少女は胸の中心から血を流し、ピクリとも動かない


沙耶香「それは、夕原可憐がマザーだからですわ」

翡翠「え…嘘……そんな…可憐は星涙の戦姫じゃ…!」

沙耶香「それは嘘ですわ。こうして、万が一の心配なく彼女を始末するための嘘」

沙耶香「アナタでしたら、必ずこの子に情けをかけます。私にはそれがありません」

翡翠「そんな…でも…!」

沙耶香「私は言いましたわよね?『やると決めたのなら、最善を尽くすべきだ』と」

沙耶香「それに、残念ながら終わってなどいませんわ」

沙耶香「御覧なさい。私の姿が、その証明ですわ」

沙耶香さんが両の手を広げると、その姿の変化が目に見えて分かった
修道女のような沙耶香さんの服に、砕かれた箒星の破片が呑み込まれて言っている
黒い闇に光が飲まれていくように

沙耶香「今回ばかりは、私は過ちを犯しました」

沙耶香「どうやらマザーは『継承』されるようですわ」

翡翠「えっ…?それって……」

沙耶香「願いの力の根源。それは決して絶えることの無い光」

沙耶香「今の私は、マザーの能力と願いを受け継いだ存在。マザー本体と言って差し支えありませんわね」


沙耶香「槍を取りなさい、翡翠の騎士」

沙耶香「貴女でしたら全てを終わらせられます」

沙耶香「決着は、貴女の手でつけるのです!!」

翡翠「待ってください!そんな…何で!!」

沙耶香「迷いなどいりません!!私は貴女の討つべき敵!!ただそれだけ」

沙耶香「私がここで討たれるか、夕原可憐を討つか。それだけの違いですわ」

沙耶香「貴女も私なら、迷いなく討てるはずですわよ。私は貴女の親友を殺した人間ですから」

翡翠「…でも……嫌ですよ……私…何度も沙耶香さんに助けられてきたんです…!」

翡翠「それなのにどうして!?」

沙耶香「事を成すのに必要なのは鉄の意思。覚悟を決めなさい」

沙耶香「出来ないのであれば貴女を討ちます」

沙耶香さんは剣を構える
私は直感的に感じ取る、あれは本気だと
沙耶香さんは、私に教えてくれたそのままを実行しようとしている

『何かをすると決めたのなら、決して立ち止まってはならない』

私を殺そうとすることが、自分が殺される最善の道だと信じている

でも…
でも……私は……!

振り下ろされる銀の剣、私はオルスの手を固く握りしめた――――――――――――――


という感じのシナリオとなってました
ここから変身するかしないかで、シナリオが分岐する予定でしたね

結構お辛いお話だったかと思います


では次はリクエストがあったので、甲ちゃんと漣ちゃんの最終決戦日の様子をお送りいたします


鳳麗「はぁ…はぁ……チッ…クソが…!」

アンノウン「ゲハハハハハ!!!素晴らしい!これが俺が喰らった力か!!漲る漲って来るぞ!!」

鳳麗「いい加減沈めってんだよ!!!」

魔眼の力で3秒先の未来を固定する
見えている、どういう風に動き、何処から攻撃が来るか
全てわかっている

後はこの引き金を引くだけ、ただそれだけの事…!

そう分かったつもりでも、指先がピクリとも動かない
体が痺れた様に硬直している、そうまるでさっき倒し終えたアンノウンのあの毒の様に

鳳麗「がはっ……!」

体が吹き飛ばされる
アイツのカラクリは読めてきた、あのアンノウンは恐らく喰らったアンノウンと同じ能力を得ている
命の総数も喰らった分だけ増え続けている

そうでなければ、魔眼の力で捉えた未来で確実に殺しているはずだ
いや、殺したんだが『殺したりない』のだ


鳳麗「…まだ…やれるか…?」

イヌ(無理よ無理無理。大人しく死んだふりでもしてなさい)

鳳麗「くそっ…アタシよりガキが気張ってんだぞ。アタシだって…なんかしねぇと……!」

鳳麗「……おいガキ…!とっとと…逃げろ……」

擦れる喉でアタシの前に立ちふさがる少女に声をかける
だが、少女は無言で立ちふさがる

本当にムカつくガキだ
普通に喋れるくせに、戦闘中は一切喋らない

その所為で連携もクソも無かった

なんとしても共倒れだけは避けねぇと…
アタシは体を起こそうとするが、痺れが回って動けない
呼吸すらも困難になって来たその時………


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アンノウン「ハハハッ仲間を庇うか!うつくしいねぇ!」

アンノウン「お前の魔法は分身だったか?ちんけな力だ!直ぐに殺してやる!!」

色葉「……!」

アンノウンの爪が振るわれる
私はそれを避けなかった
爪が体を切り裂き……消えた

アンノウン「ダミーか!!」

アンノウンは背中から新たな顔を作り出し、巨大な顎を開く
心の中で舌打ちする
攻撃の手を止め回避に専念する

分身に限りは無い
注意だけは惹ける
もう少し、もう少しの辛抱……!

アンノウンは自らの力を誇示するように、様々な姿に変化し、多種多様な力を使って追い詰めようとして来る


アンノウン「もうショーは終わりか?」

色葉「………」

アンノウン「悲鳴の一つもあげやしない、つまらん相手だ」

アンノウン「お望み通り物言わぬ人形にしてくれる!!」

アンノウンの凶刃が私に襲い掛かる
そう、色葉は追いつめられていた
否、追い詰めさせていた

色葉「ぽんた。もう十分ですか?」

ぽんた「あいよお頭!もう十分ですぜ!」

アンノウン「なっ!?お前喋れるのか!!?」

色葉「こっちの方がかっこいいのですが、仕方ないので見せてあげます」

色葉「これが魔法少女『朧』の力です!!」

途端にボフンと白い煙が舞い上がる
少女の姿が完全に覆われる

アンノウンが風を起こし、その煙を振り払う
そこに居たのは、先ほどまでの忍者装束の少女では無かった


漆黒のドレスにベールを纏う人形のような少女がそこに居た


アンノウン「へっ、姿を変えただけで何が出来――!?」

瞬間、アンノウンは真横から強烈な力に弾き飛ばされる
その力が振るわれた先には、自分と全く同じ姿をしたアンノウンが居た

色葉「朧の魔法は『分身』ではありません。それはただ、一番忍者っぽいから頑張って使っているだけです」

色葉「朧の真の魔法は『再現』」

アンノウン「再現だと…ま、まさか……!!」

色葉「そのまさかですよ!お前が今まで喰らった数だけ強くなるというのなら!その数だけ!お前に襲い掛かる!!」

色葉「まだまだありますよ。全部覚えてます、お前が見せてきた技!!」

色葉「お前はまだありますか?全部吐き出してみせろ!!その全てが私の力だ!!!」

アンノウン「ぐ…ググ…舐めるなあああああああああああ!!!!」

アンノウンはやけくそになりながら叫び散らす
自分が暴れれば暴れるほど、自分の首を絞めると分かっていながらも、牙を振るい続けたのだった――――


以上、甲ちゃんと漣ちゃんの活躍?でした
甲ちゃんは未来を見通す魔眼と、必中の弾丸とだけは決めてたんですが、戦闘を上手く組み立てられなくてあんな扱いになってしましました。ゴメンね!!

実は全員分の戦闘シーンを考えていたんですが、多すぎる上に面倒という事であえなくボツってしまいました
楽しみにしていた方には申し訳ない


ここからは語られることの無かった設定のコーナーです


【カルマルートについて】
序盤からちょっとずつカルマ値を溜めていればカルマルートに突入できました
カルマルートではアンノウンの立場に立って、アンノウンという存在の正体に迫っていく感じでしたね
カルマルート専用の味方として、あの武人のようなアンノウンが仲間になってくれる予定でしたね
因みにですが、カルマルートはどうあがこうとBADENDでした


【武人のようなアンノウンについて】
カルマルートでのみ仲間になってくれる人
自分という存在の記憶が無く、ただかつて戦い続けていたという感覚だけがあり、闘争にのめり込んでいきます
人間の姿になれることから、自分はかつて人間だったものの成れの果てだろうと、彼は思っています
その正体は『アンノウンの未練によって生まれたアンノウン』でした
ですので彼には本当の自分なんてものはありません。あるのはかつて魔法少女に討ち果たされたという過去だけです
それでも翡翠と交流していくうちに自我を認識し始めた彼は……みたいな、通常ルートで言う陽一君のような役回りの予定でした
名前は無いので安価で決める予定でしたね


おまけはこんなものですね
もっといろいろ考えていた気はするんですが、本編中にやりたいこと全部詰め込んだので、もう満足です


質問もないようなので、今度こそ本当にお終いです

やや不定期な更新ながら、ずっとお付き合いいただき本当にありがとうございました
特に今回の安価スレは、皆さまの安価によって支えられていた部分がとても大きかったと思います
だからこそ、考えてくださった台詞安価とか印象に残るような、素敵だなぁと思うものが多かったです

自分じゃ上手く思いつかないなという部分を丸投げしちゃったりした部分も0ではないので、本当に感謝感謝でございます

久しぶりのオリジナル安価スレでしたが、本当に楽しく書かせていただきました
重ね重ね、参加してくださって本当にありがとうございました


またいつか別のスレでお会いした時は、どうか優しい目で見てやってください

ではでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました

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