紗南「仮面ライダーサナ」 (94)

仮面ライダーエグゼイド×シンデレラガールズSS
ギャグ要素は基本ないです。シリアスな展開。仮面ライダーエグゼイド要素は変身アイテムくらいで別にクロスものというわけでもありません、あしからず

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479206567

「うぐっ、げほぉっ」

スーツ姿の男が、大きくむせて尻餅をついた。
彼は先程まで、5メートルは手前にいたはずだった。そして今その場には、赤いリボンが様々に巻き付いた怪物が掌を突き出した姿勢で立っている。

「弱い…」

怪物は、反響する女性の声で呟いた。

「『まゆは俺が守る』…?あなたたちは所詮私たちに成り代わるだけの卑小な存在…非力を知りなさい…」

「おごっ…げほぁ…」

スーツ姿の男…アイドル事務所「御白(ミシロ)プロダクション」のプロデューサーは、フラフラと立ち上が…ろうとして

「ぐぅぅ…」

どさ、と再び崩れ落ちた。体の丈夫さだけが取り柄で、若い頃といえば喧嘩負けなしの「鬼神」と呼ばれた男だったが
眼前の怪物は文字通り「人外の強さ」であった。

(すまん…まゆ…俺は、お前を…大切な担当アイドルの一人も、守れない男だ…)

プロデューサーの歪んだ視界には、怪物の後ろ、桃色のワンピースに身を包んだ少女に向けられていた。
佐久間まゆ。彼の担当するアイドルの一人…彼に好意を抱き、彼を追ってアイドルになった少女。
そして彼もまたその少女の好意に答えるように、精一杯守り、プロデュースしてきた。
…なのに今は、薄汚れた地面に横たわりピクリとも動かない。

「私にはわかる…お前の死によって、私は完全な姿になる…」

リボンの怪物はゆっくりとした足取りで、プロデューサーににじみ寄っていく。
まるで彼を…そして虚ろな目でそれを見つめるしかできない少女を絶望させるかのように

(いや…プロデューサーさん…いや…!)

「ま、ゆ…!」

まゆの心の叫びが、プロデューサーの手に取るように分かった。

「さぁ…これで…」

「…!」

怪物が腕を振りかざした。
プロデューサーは、思わず目を強く閉じた。夢なら覚めてくれ、と浅はかな希望に縋って

「……」

5秒、10秒…体感時間が伸びていく。何も起きない

「夢…?」

浅はかな希望が叶ったのか、しかし確かな痛みが現実であることを伝えている。
プロデューサーは目を開いた。
眼前に、ショッキングピンク色の、もう一人の怪物…否、人型が立ち塞がっていた。

「えっ…?」

思わず声を上げた。当然だ、その人型は、振り下ろされた怪物の腕を、クロスした両腕で見事に受け止めていた。
その両足は、軽くアスファルトに沈み込み、衝撃の強さを物語っている。しかし…

「…フンッ!」

人型が力を込めると、バシッ!と怪物の腕が弾き返された。

「…貴様、何者」

リボンの怪物は数歩後ずさり、怪訝な声を上げた。

「…仮面ライダー」

「仮面…ライダー?」

今度はプロデューサーが怪訝な声を上げる番だった。

「仮面ライダー…って、日曜の朝にやってる特撮の…あれか…?げほっ」

彼は再び咳き込み、地面に手を付いた。

「…大丈夫か?立てるか?」

人型は、眼前の怪物を見据えたまま彼を労わるように話しかけた。

「…ああ、ああ、大丈夫…体の硬さだけは、自信がある」

フラフラとしながらも、プロデューサーは立ち上がる。

「まゆさんを、早く安全な場所へ」

「…ああ、分かった」

フラフラとしながらも、彼は自分のアイドルの元へと歩みを進める。
怪物は、生気のない瞳でそれを睨みつけたが、しかし動きはしなかった。

「邪魔をするな…」

再び眼前を睨みつける怪物。その目線の先に立つ"仮面ライダー"が、ゆっくりと拳を構えた。

「いいや、するね。それにこれは邪魔なんかじゃない。"正義"だ」

プロデューサーはまゆを抱え、建物の影へと消えていった。

「さあ、『ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!』」

――――数週間後

「よっし!クリアー!」

「…むぅ、本当にすごいですね紗南さん。私が何度も挑戦してようやく突破したところを、こんなにもあっさりと」

アイドル事務所「御白プロダクション」の1ルーム。二人の少女が携帯ゲーム機をそれぞれ手に、楽しげにはしゃいでいた。

「パズルゲームっていうのはさ、全体を素早く見てどれを動かしたらつながるかを把握するのが大事なんだよ。
 ありすちゃんは頭もいいんだし、すぐ出来るようになるって!」

「橘です。…そう簡単に言わないでください、勉強ができるのと、ゲームが出来るのは違うんですよ」

ありすと呼ばれて不満げな顔をした少女は、再びゲーム画面に向き直る。

「ほら、ここはこうすれば…」

「黙っていてください。私だって……」

もう一人の三つ編みの少女、紗南は、ありすのゲーム画面をなぞって攻略法を教えるが、素直じゃない彼女は受け入れない。
しかし、他の解法は見つからない。

「…むぅ」

渋々といった様子で、ありすは先ほど紗南がなぞった通りにパズルのドロップを動かした。
ビシビシバシッ!
小気味良い音が響き、カラフルなドロップが次々消えていく。

『ステージクリアー!』ピロピロリーン

「やった!」

「…なんだか飽きました」

「えっ!?」

紗南が喜んだのも束の間、ありすはゲーム機をぽいとテーブルに放ってしまった。

「紗南さんが教えてくれるんじゃ、パズルの意味ないじゃないですか。自分で考えなきゃ楽しくないです」

「そっか、そうだよね…ごめん」シュン

「別に…そんなに落ち込まなくてもいいです」

ありすは再び放ったゲーム機を手に取り、側面に刺さっていたカセットを抜いた。
大きなグリップのついたカセットには『パズル&ウィッチーズ』と書かれている。

「紗南さんの持ってるゲーム、貸してくれませんか」

「え?」

「私が得意そうなのでお願いします」

「…うん!いいよ!どれがいいかな~」

紗南は先ほどの落ち込みようもどこへやら、自分のポーチをゴソゴソと探り始めた。
と、その時だ。

ゴトンッ

「…ん?」

部屋の入り口で、何かが落ちるような音がした。

「何でしょう…?」

「なんか落ちるようなものあったかなあ?」

二人はソファから立ち上がり、入口へ
そこには、なんとも形容しがたい、派手な色をした物体と

「…ゲームガシャット?」

大きなグリップの付いた、先ほどと同じ形状のゲームカセットが落ちていた。

「これ、パズル&ウィッチーズのガシャットですね…私のじゃありませんよ?」

「分かってるよ、こっちは…ゲームセンター14(フォーティーン)じゃん!今日発売の!」

「…確か、14種類のレトロゲームが収録されたガシャットでしたよね」

「うん!私欲しかったんだー!ねえねえ、これやろうよ!」

「えっ…ダメですよ!誰かの落し物なんですから、プロデューサーさんに届けないと…」

「ちょっとだけ!お願いっ!」

「…まあ、プロデューサーさんもまだ帰ってきませんし、それまでなら」

「やった!ありがとうありすちゃん!」

「だから橘です!」

紗南はウキウキした様子でソファに戻ると、ガシャットをゲーム機に差し込んだ。

「…あれ?」

「どうかしましたか?」

「…始まんない、おかしいなー接続が悪いのかな?」

紗南は一旦ガシャットを抜くと、端子にフッと息を吹きかける。

「…それやると錆びるからダメなんですよ?」

「えー、でもこれ効くよ?」ガシャッ

「…やっぱりつかない」

「故障品でしょうか…」

「そっちのパズウィチも貸して」

「パズ…?ああこれですか」

ありすは手に持っていたパズル&ウィッチーズのガシャットを渡す。

「んー、こっちもダメだ。動かない」

「…あ、あれが関係あるんじゃないですか」

ありすは再び入口へ行き、一緒に落ちていた形容しがたい形状の塊を拾う。

「…ほら、ここに端子があります。差さりそうです」

「…でもこれ、どう見てもゲーム機には見えないよ?」

「でも、一緒に落ちてたんですし…何か関係あるはずです」

「ま、やってみればわかるか」

紗南はくるりとゲームセンター14のガシャットを回す。その時、ガシャットの隅がカチリと凹んだ。

「ん?」

『ゲームセンター14(フォーティーン)!』ピロピロパローン!

「うわっ!」

「きゃあっ!」

その途端、ガシャットからタイトル音声が流れ始めた。思わず持っていたもの取り落とす紗南とありす。
ガシャットの端子は黄色に発光し、そして差し込み口もまた、呼応するように明滅し始める。

「…!紗南さん、後ろ!」

「えっ?」

目を見開いて後ろを指差すありす、振り向く紗南。
紗南の背後の空中に、「GAME CENTER 14」のタイトル画面が浮かび上がっていた。

「何、ですか、これ…」

「新型の、ゲームガシャット…?」

「まさか!何もなしに空間に映像を映し出す技術なんて聞いたことありません!そもそもどうやってプレイするんですか!」

「…これだ!」

紗南は足元にあるデバイスと、ガシャットを拾い上げる。
途端に、紗南の脳内にイメージが流れ込んできた。使い方のイメージだ。

「…説明書ってわけね」

紗南がニヤリと笑う。

「ちょっと、紗南さん…?」

怪訝な顔をするありすをよそに、紗南はそのデバイスを腰に当てた。
シュイイン、ガチッ

「えっ?」

デバイスからベルト帯が伸び、紗南の腰に固定される。
紗南はガシャットを構えた、自然と口から言葉がこぼれた。

「…変身!」

そして、ガシャットをスロットに差す!

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

『アイムア…アイドル!』

「きゃっ!?」

まばゆい光が、紗南を包み込んだ。

「紗南さん!?」

一人事態の飲み込めないありすだけが、紗南の安否を気遣う。

「大丈夫、使い方はわかるから!」

紗南の声が聞こえ、光が収束していく
その中から現れたのは

「…紗南、さん?」

「うん!」

「…なんですか、その姿」

「…うわ!なんだこれ!」チョーン

紗南の姿はありすよりも背の低い3頭身の姿になっていた。
衣服も先ほどとは違う、まるでアイドル衣装のようだ。

「と、いうか…本当に大丈夫なんですか…?これ、生きてるんですか…!?」

ありすは目を白黒させっぱなしだ。

「う、うん…体は何ともないよ。あ、というかそうだ、ゲーム!これはゲームなんだから…敵はどこだー!?」

「え、え?何言ってるんですか!ここは現実です!敵なんているはず…」

「きゃああああああっ」

とその時、外から悲鳴が聞こえた。

「ああもう!今度は何ですか!」

ありすはもう付いていけないとばかりに窓から外を、広いプロダクションの敷地を見渡して

「…もうイヤ」

そのまま崩れ落ちた。

「ありすちゃん!?大丈夫?」

3頭身のままの紗南がそれを支える。そして紗南も外を見た。
奇妙なでこぼこしたオレンジ色の球体が、そこにあった。

「なんなんですか…さっきから訳のわからないことばかり…ゲームのしすぎですか?これは現実ですか?」

「大丈夫、現実だよありすちゃん。待ってて、今終わらせるから」

「えっ…?終わらせるって、何を」

ありすが顔を上げたとき、すでに紗南は窓から飛び出していくところだった。

「…っちょ、ここ5階!」

ありすが慌てて下を覗く。
紗南は着地と同時に前転、そのままスタッと立ち上がった。

「おいそこの!」

紗南はそのまま、オレンジ色の物体を指さし呼びかけた。

「このゲーマーアイドル、紗南が相手だ!」

「…紗南?なのか?」

すぐそばから声がした。紗南が振り向くと、スーツ姿の偉丈夫がそこにいた。

「あ、Pさん…ちょっと待ってて、これクリアしたら説明する…からっ!」

「うおっ!?」

オレンジの球体が泡だったかと思うと、一瞬にして拳が生え、紗南を殴りつけんとした。
紗南は素早く前転し回避。

「それっ!」

そのままの勢いで殴りつける。オレンジの物体は苦し気にうごめいた。

「そらそらそらそら!」

畳みかけるようなジャブ。
それはさながら、ゲームセンター14に収録された「シティファイト」の技「マシンガンジャブ」を彷彿とさせた。

「ここでドラゴンアッパー!」

「からの↓↑←+P!地殻割り!」

強烈なアッパーカットからの、急降下での蹴り。シティファイトの鉄板コンボだ。

「おまけに、覇気弾!」

これは彼女のオリジナルコンボ。素早いコマンドでさらに衝撃波を浴びせかける。大ダメージ!

オレンジの球体は苦し気に泡立ちながら、分解、消滅していく。

「よっしクリアー!楽勝だね!」ブイ

「紗南さん!」

「ありす、オイこりゃどういう事だ」

息を切らしてプロダクションビルから出てきたありすにプロデューサーは駆け寄った。

「私だって知りたいですよ!急に…急にあの、紗南さんが腰につけてるのが入り口に落とされて、それで…」

ありすは咳き込み、頭を抱えた。まだ混乱しているのだ

「クッソ…話はあとで聞く、とりあえず避難だ。おい紗南!お前も!その姿も後で聞く!」

「まだだよ!」

「…ハァ!?」

「第二ラウンド…あるみたい」

紗南は分解消滅したオレンジ色の物体を見据えた。
オレンジ色の粒子が、人の形を取っていく。

「ああ…全く、二度と邪魔だては入らないと聞いていたのに…」

粒子が固まり形作られたのは、カウボーイハットのような意匠を持つ、ガンマン風の怪物だった。

「…あれは」

プロデューサーは思い出す。数週間前の事を
リボンの怪物に襲われた時のことを

「…クソ、もう二度と俺のアイドルをあんな目に合わせてたまるかよ…!」

プロデューサーは走り出そうとした。だが、袖を掴まれてたたらを踏んだ。

「…ありす」

「嫌です…プロデューサーさんがいなくなるのは、嫌です。
 また、まゆさんの時みたいにボロボロになって帰ってくるんですか?もう、あんな姿のプロデューサーさんは見たくないんです」

「……すまん、でも」

「大丈夫だよPさん」

紗南が怪物を見据えたまま言った。

「あたしは、最強のゲーマーアイドル、三好紗南だよ!」

「おい、何言って…」

「おいおい、レベル1で歯向かう気か?」

プロデューサーの言葉をさえぎって、ガンマン風の怪物は腰のホルスターから二丁拳銃を取り出すと、クルクルと弄んだ。

「レベル…?ああ、なるほどこれね」

紗南はベルト中央、ピンク色のレバーに手をかけた。

「くく…戦いはフェアで行こうじゃないか。それがオレの流儀だ」

「へえ、物分かりいいじゃん。じゃ、遠慮なく!」

紗南はレバーを右へと開く。

『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』
『2(トゥー)!4(フォー)!8(エイト)!16(シックスティーン)!ゲームセンター14(フォーティーン)!』

開かれたベルトから光と音声があふれ出し、それとともに紗南の姿がギュン!と切り替わる。
以前と同じ頭身に戻り、伸びた腕に、足に、新たな衣装のディテールが組み込まれる。

「さあ、第二ラウンド開始だ!」

「ハハハッ!いいぜェ!」

「クソ…何がどうなってやがるんだ…ありす、大丈夫か?」

紗南とガンマン怪人の戦いから逃げるように、プロデューサーはありすの手を引いて広場を横切っていく。

「…少し、落ち着いてきました。
 ! プロデューサーさん、あれ!」

ありすが戦いあう二人の後方、倒れた人影を指さした。
桃色のパーカー、ハネっ毛。

「あれは…未央!?」

自分の担当ではないが、同じプロダクションのアイドル。
それも、最近で一番人気のユニット「ニュージェネレーションズ」のリーダーを務めるアイドルだった。

「クソ…巻き込まれたのか…?ちょっとここで待ってろありす!」

「えっ!プロデューサーさん!?」

プロデューサーはありすの手をほどき、未央のもとへ走り寄る。

「未央!おい未央!」

「プロ、デューサー…?」

「ああ、あ、いや、お前のプロデューサーではないが」

「へへ…同じプロデューサー、じゃん…」

「おい、しっかりしろ…!どうしたんだ、どっか怪我は!?」

「無い…と思う。でも、体が重くって…」

「待ってろ、安全なところに…」

「おっとお!ソイツは置いていってもらおうか?」

「!」

未央を抱えたプロデューサーの眼前に、ガンマン怪人が立ち塞がった。

「くそ…俺は、もう二度とアイドルを傷つけないって、決めたんたぞ…」

「ハッ!なら守ってみせなァ!うごあ!?」

ピストルを構えたガンマン怪人の腕に、光の矢が突き刺さった。

「あんたの相手はあたしだよ!」

「紗南!」

その手には、いつの間にか弓が握られている。

「はぁぁぁ…」

紗南がそれをつがえると、光の矢と弦が引き絞られた。

「ッチ!」

ガンマン怪人は襲い来る矢をピストルで迎撃する。プロデューサーはその隙に未央を連れて屋内へ、ありすもそれに続いた。

「どうした!そんなもんかァ!?」

ガンマン怪人はプロデューサー達を諦めたのか、両手で二丁拳銃を乱射し、次々に紗南が放つ矢を迎撃していく。

「へへっ、まだまだ!」

紗南は弓を横にもち、再び矢を引き絞る。
引き絞られた矢が三本に分かれる。ゲームセンター14に収録された「ロビンフッドの伝説」で主人公ロビンフッドが使う技だ。

「はぁっ!」

3方に放たれた矢は曲線軌道を描いて、全てがガンマン怪人に向かう。

「何っ!?ぐおっ!」

予想外の軌道に不意打ちを食らった怪人が大きくよろめく。

「そろそろトドメといこうか!」

紗南は武器を投げ捨て、ベルトからガシャットを引き抜く

「フッ!」

慣れた手つきで端子に一息吹きかけると左腰にあるスロットへと差し込んだ。

『キメワザ!』

「はぁぁ…!」

わずかな溜め、その後、スロット脇にあるボタンを押す。

『ゲーセン・クリティカルストライク!』

「たぁぁぁぁっ!」

そのまま短い助走の後、低空を一直線に飛ぶ槍じみた飛び蹴り。身を立て直したばかりのガンマン怪人は、それをモロに受けた。

「ぐあああああああっ!」

紗南はそのままガンマン怪人を蹴り押し込み、奥の壁へ叩きつける。

「もいっちょ!」

そしてその反動で浮き上がり、廻し蹴りを叩き込んだ。

「がああああああっ!」

電子の爆発が生まれ、ガンマン怪人が0と1の粒子となって霧散した。

『ゲームクリアー!』パパパーパ パラッパー

ベルトが音声とファンファーレを流す。

「よっし!あたしに負けはない!」

紗南は爆発を背景にガッツポーズ。

「おい、紗南!」

「あ、Pさん」

声をかけられ振り向いた紗南は、無意識的な動きでレバーを戻し、ガシャットを引き抜く。

『ガッチャーン↓』
『ガッシューン』

紗南が纏っていたアイドル衣装は01粒子となって消え去り、元通りのパーカーと短パンの姿に戻る。

「お前…今のどういう事だ。どうなって…」

「どうって…ゲームだよ!新しいの!ほら!」

「今のどこがゲームなんだ…これは没収だ」

プロデューサーは差し出されたガシャットを取り上げる。

「えっ!?なんで!?」

「なんではこっちのセリフだ!お前は大切な俺の担当アイドルなんだぞ…危険な目に遭わせられるか…!」

「紗南さん」

プロデューサーの後ろから、ありすが顔を覗かせる。

「少し前、プロデューサーさんが、まゆさんを連れてボロボロで帰ってきたの、知ってますよね?」

「ああ…うん…」

「…実はあの時、さっきお前が倒した怪物に似たやつにやられたんだ」

「えっ」

驚きを隠せない様子の紗南、小さく頷くありす

「さっき聞いたんです…だから、プロデューサーさんは、もう二度とアイドルに危ない目に遭わせたくないって」

「あの怪物が何なのか、お前がどうしてあんな姿になってたのか…今はそんな事はどうでもいい、お前らが無事でいてくれなきゃ…俺は困るし、辛いんだよ」

「Pさん…」

「だから、もう二度とあんな真似はするな…だからこれは没収だ」

「…わ、わかった。ごめんなさい…」

「いいんだ…しかし、一体どこの誰がこんなものを…」

プロデューサーはゲームセンター14のガシャットを見つめる。
そんな彼を、遠巻きに見つめるのはひとりの少女。

「…大丈夫さ、すぐにまた、必要になる」



「…未央、未央!」

「ん…あれ…?」

「未央ちゃん…!」

「うわっ、しまむー…しぶりん…?」

「未央が倒れたって聞いて、飛んできたんだよ」

「良かったです…未央ちゃん~…」

「ああ、よしよし…ごめんねしまむー、心配かけちゃって」

「何かあったの…?ただ倒れたって聞いて来ちゃったんだけど」

「えっと…あれ?なんだったっけ…なんか、怖い目にあったような…」

「ええっ、未央ちゃん…誰かに襲われたとか!?」

「あ、いや、そういうんじゃなくて…むしろ誰かに、助けてもらったよう、な?」

「…なんだかはっきりしないね」

「ぅうん…なんだろうこれ、よく思い出せない…」

「でも、未央ちゃんが無事で良かったです~」グスグス

――――……

「…不思議なことに、未央や周囲にいた人たちは、あの惨劇をまるで覚えていないか、知らない様子だった」

ニュージェネの担当プロデューサーからの未央の容態報告メールを閉じて、プロデューサーは複雑な表情を見せた。

「そんな、あんなに非常識で大きな騒ぎだったのに…」

「でも、あたしたちは覚えてるよ?」

「そう、俺たちだけ…覚えてる。何がどうなってんだ、一体」

あの事件の後、まるで悪い魔法にでもかかったかのように、あたし達の日常は一変してしまった。
でもこれは、ほんの始まりに過ぎなかった。あたし達は、既に逃れることのできない流れに飲み込まれてしまっていたんだ。


To be continued... See you next Game.

続きます。たぶん
「何!?ライダーアイドルといえば南条光ではないのか!?」と思うかもしれませんが、ご安心ください、登場予定はありますよ。というか既に登場してます。って言っちゃうと分かっちゃうかな?
現実世界にライダーがいたら、みたいな雰囲気の割とハードなシリアス展開を予定しています。平成1期っぽい感じ?

あと続きものなんでコテとか付けたほうがいいですかね?そういうの書くの初めてなもので

お待たせしました。二話が完成したので投下します。

「じゃあ、俺はまゆのとこにお見舞いに行ってくるから」

「あ、行ってらっしゃいー」

「気をつけて」

「ああ…」バタン

「………」

「………」

あれ以降、なんだかこのルームの空気が少し重くなったようだった。
紗南は相変わらずゲームに夢中だが、ありすがそわそわと常に落ち着かない様子になっていた。

「…大丈夫だよありすちゃん。Pさんは強いし、体も丈夫だし」

「橘です。…今日はそうじゃなくて、ですね」

「なにか予定でもあるの?」

「…っ、まあ、そうです。気にしないでゲームしててください。こういう時だけ気を遣われても困ります」

「それもそっか」

紗南は再びゲーム機に目を落とす。
楽観的なものだ、つい先日、怪人と戦った張本人だというのに。

「…紗南さんは、あれ、なんとも思わなかったんですか?」

「あれ?」

「先日の、騒ぎです。誰も覚えてませんけど」

「ああ…うーん、やってる間はさ、ただゲームをしてる感覚だったんだよね。特に違和感とか、おかしいなとか思わなかったし、今でもそんな感じ」

「…それって、おかしくないですか。いや、もう全部おかしいですよ。あの騒ぎを私たちしか覚えてないことも、そもそもあのガシャットは誰が持ってきて、私たちのルームの前に置いたんですか?」

「確かに気になるけど…気にして分かることだったら苦労はしないよ」

紗南はゲーム機をパタンと閉じる。
紗南のその行動の異常さは、ありすもよく知っていた。

「…紗南さん、割と気にしてたんですね」

「…うん、まあね。」

紗南は再びゲーム機を開く。
と、ルームの扉がトントンと小さくノックされた。

「…!」

「?」

ありすは途端に顔をパァっと輝かせ、紗南は怪訝な顔をした。
カチャ、と扉が開き、顔をのぞかせたのは

「あの…ありすちゃんは…」

「文香さん、お待ちしてました。準備は出来てます、さ、行きましょう!」

「あ、はい…」

「用事って、文香さんとか…」

鷺沢文香、御白プロに所属するアイドルの一人だ。最近ありすと交友が深い。
というか、ありすの方から積極的に彼女に近づこうとしている節がある。

「仲いいなあー」

「紗南ちゃんも私と仲いいって割と言われるじゃん」

「まあねー、って杏さんいつの間に!?」

ソファの下から滑り出てきたのは双葉杏、実はこれでも17歳…紗南とありすを含んだこのプロジェクトのメンバーで、最年長だ。

「初めから居たんだけどなー」

「そうなんだ…」

「ところでさー、さっきの話」

「えっ?」

「騒ぎって何?」

「…杏さんも、知らない?」

「知らないっつか、全然耳に入ってこないしー」

「…別に、何でもないよ。それよりゲームしよ!」

「え?お、おう」

「…ありすちゃん、なんだか機嫌がいいですね」

「そうですか?」

後ろを歩く文香に声をかけられ、振り向きながらありすは応える。

「いつもは、私の横に並んで歩くのに、今日は前を歩いてますから…」

「それは…今日は私が文香さんを先導するんです。前を歩いて当然です」

「それも、そうですね」クス

ありすはプイと前に向き直り、すたすたと歩みを進める。時折、ちらと後ろを確認し、文香がちゃんといることを気にしながら。
口ではこういっているが、今日の彼女は文香の言うとおり上機嫌であった。
なんといっても同じオフ日…しかも祝日だ。空は快晴、出かけるには絶好の日。

(ガシャットとゲーム機は…よし、あります)

(下調べは完璧…まずは…)



…数分後

「ここです」

「お洒落なお店ですね」

「ここのフルーツパンケーキが絶品と評判なんです。今回は、信頼できる情報源なので確かです」

「それは楽しみです…」

店内に入ると、ふわりと焼きたてパンケーキの匂いがふたりを出迎えた。

「信頼できる、というのは、例の"あいぱっど"で調べたのですか?」

「いえ、今回はかな子さんに聞きました」

「あぁ…それは安心ですね」

「本当に信頼できる情報というのは、信頼できる人の口から直接聞くことです」フンス

「信頼できる本、というのも…信頼に足る情報源だと思いますよ?」

「…っそれを言ったら、信頼できればなんでもいい事になってしまいます。それはダメです」

「…ふふ、そうですね」

二人はカウンターで注文を終え、席に着く。

「あの、文香さん。一緒にゲームしませんか?」

「ゲーム、ですか。どのような?」

「ビデオゲームです。ほら、持ってきたんです」

ありすは文香の隣に座り、ゲーム機と「パズル&ウィッチーズ」のガシャットを取り出す。

「…私に、出来るでしょうか」

「パズルゲームですから、頭のいい文香さんならすぐ出来るようになると思います!」ガシャッ

「…あれ」シーン

「…どうか、しましたか?」

「あ、いえ…」

(ちょっと、なんで電源が入らないんですか!?)

ありすはガシャットを抜くと、再び差し込もうとして

「あ…」

「…?」

ガシャットの隅にあるボタンに気がついた。正規品に無いはずのボタンに

(こ、これ…あの時の)

それは、最初に紗南と拾った正体不明のガシャットであった。

(そういえば、持ったままでした…それでそのまま間違えて…)

「あのぅ…?」

「あっ、ふ、文香さん、えっと、その」

予想外の事態にしどろもどろになるありすを見て、文香はにこっと笑った。

「大丈夫ですよありすちゃん、また今度、教えてください。私もゲーム…興味出てきましたから…」

「文香さん…」

ありすは恥ずかしさに顔を赤らめて俯いた。

「すみません…」

「いいんですよ。今日は、このお店に連れてきてくれただけでも満足です…」

「ほら…パンケーキ、来ましたよ」

二人の前に、イチゴやパイン、ブルーベリーなどが色とりどりに飾られたパンケーキが運ばれてくる。

ありすは、赤い顔をウェイトレスさんに見られないように顔を俯かせたまま元の席に戻る。

「あ、あのっ」

その時だ、二人の机に一人の男性が近づいてきた。
服装や顔立ちから察するに、学生であろう。

「あの…鷺沢、文香さん…ですよね?」

「…はい、そうですが」

それを聞くと、男子学生はぱあっと顔を輝かせた。

「あの、オレファンなんです!サ、サイン貰っても…」

男子学生は手に持っていたキャンパスノートを差し出す。
文香はにこりと笑ってそれを受け取った。

「えぇ…いいですよ」

「や、やった!」

「…むぅ」

それを見て、ありすは不満げに頬を膨らませた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!応援してます!」

男子学生は緊張した足取りで自分の机に戻っていく。
店を出ていくところだった白衣の少女にぶつかりそうになっていた。

「…これから食べようって時に、失礼です」

ありすは不満そうだ、理由はそれだけではあるまい。
文香は神妙な顔をして言った。

「そんなこと言っちゃ駄目ですよありすちゃん、ファンの皆さんには、優しくしないと。
 皆さん、応援してくれてるんですから」

「それは、そうですけど…」

「アイドルの私たちが、不安そうな顔をしていては、ファンの皆さんも不安になってしまいます。
 私たちが笑顔でいることが、皆さんの笑顔に繋がるんです」

「だから…ほら、ありすちゃんも笑ってください。それは私の元気にもなるんですから…」

「…文香さん」

ありすは顔をあげた。
文香は、こめかみに指をあて、辛そうな表情をしていた。

「文香さん…?」

「…あ、いえ、すいません、少し頭痛が…」

「風邪ですか…!?」

ありすは慌てて椅子から立ち上がった。ガタタッ、と大きな音がなり、ウェイトレスが怪訝な顔でそちらを見つめた。

「いえ、そんなことは…先程まで何とも無か…つっ…」ドサッ

「文香さん!?」

文香はありすをなだめようとして立ち上がり、そしてそのまま床に倒れてしまった。

「文香さん!文香さん、しっかりしてください!」

ありすは文香の傍に駆け寄り、肩を揺すった。
しかし文香は辛そうな表情のまま、強く目を瞑ったままだ。

「文香さ…っ!」

そこでありすは見た、文香の白い首筋からオレンジ色の粒子のようなものが泡立つのを

「えっ…?」

ありすは思わず肩から手を離し、固まった。
背後で、先ほどの男子学生が救急車を呼ぶ声が聞こえた。
見えたのはほんの一瞬だったが、ありすは今の「オレンジ色」を知っていた。
いや、知っていたと言うより、見たことがあった。

「そん、な…なんで…」

ありすは尻もちをついたまま、一歩、二歩と後ずさりした。
その指が、カチャ、と何かに触れた。

「…っ」

振り向くと、隣の机の下、シックな床板と机脚にはあまりにも不釣り合いな、「何とも形容しがたい形状の塊」が落ちていた。
そしてそれも同様に彼女は知っていた。

「なんで…なんでですか、なんで、これが…ここに…」

それは間違いなく、紗南が"変身"したあのベルト。

「きゃあああああああっ!」

感情を表に出す暇もなく、悲鳴が店内に響き渡った。こちらを不安げな顔で見つめていたウエイトレスの悲鳴だった。
その視線の先は彼女よりさらに奥、ありすは再び文香のほうへ向き直った。

「文香、さん…っ?」

文香の体中から、オレンジ色の粒子が炭酸水の気泡めいて泡立ち始めていた。
それは瞬く間に彼女の身体を覆い隠し、オレンジ色の泡立つ塊へと姿を変える。

「これ、って…」

ありすは茫然とそれを見つめる。
そしてその中で、不思議な冷静さである答えにたどり着いた。

「あの時の…未央さん…まさか…」

紗南がガンマン怪人と戦っていた時、そのすぐそばで倒れていた未央。
弱ってはいたが外傷は無く、ガンマン怪人が消えるとすぐに安静を取り戻した未央。
オレンジ色の球体がいたときは、あんな目立つ服を着ていたのに誰も彼女に気付かなかった。

そして今、泡立つオレンジ色の物体の中に、文香がいる。

「…っ!」

ありすは覚悟したように左の手でベルトを掴むと、ゆっくりと立ち上がった。

「……文香さん、さっき、私の笑顔が文香さんの力になるって、言いましたよね」

左手に持ったベルトを腰に当てる。
シュイイン、ガチッ。紗南の時と同じように帯が伸びて腰に固定された。

「私も、同じです。文香さんの笑顔が、元気な姿が、私を励ましてくれるんです…!」

『パズル&ウィッチーズ!』テテンテテテーン!

そして、右手に持ったままだった「パズル&ウィッチーズ」のガシャットのスイッチを押し込んだ。
タイトルコール、電子音、ありすの背後に「パズル&ウィッチーズ」のタイトル画面が現れる。

「私は、文香さんの笑顔を守ります!自分のために!文香さんのために!」

ありすは力強くガシャットを構えた。

「変身!」

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

まばゆい光が視界を包み込む、しかし不思議と眩しくはなかった。

『アイムア…アイドル!』

急速に光が失せる。少し低くなった視界、太く短い指と不釣り合いに広い手のひら。
窓に反射した3頭身のありすの姿は、魔女のような衣装に身を包んでいた。

「…やれます。やらなきゃならないんですから」

ありすはその手をぐっと握りしめる。今更、プロデューサーの顔が頭をよぎった。
彼がこれを知ったら必ず止めさせるだろう。だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
前に目線を向けると、オレンジ色の物体は宙に浮かび、閉じられた本の姿を取っていた。

「文香さん…必ず助けてあげますから」

彼女は左腰に装着されたボタンを押した。

『ステージセレクト!』

ベルトが音声とともにまばゆい光を放つ。
光は周囲の風景を溶かして消し去り、新たな景色を映し出す。
そこにあったのはもはや狭い店内ではない、色とりどりの花々が咲き乱れる広大な草原だった。

「…ここは」

ありすはここもまた知っていた。
以前、夕美、藍子、美波…そして文香と共に、撮影で訪れた草原。

…パラパラパラッ

ふいに、眼前のオレンジ色の「本」が開いた。泡立つページから、文字が連なったムチが伸びてありすを襲った。

「…っ!」

感傷に浸っている場合ではない。ありすは素早く横ステップでムチを回避。
反射的に地面を蹴っただけだったが、ひと息に5メートルほども横へと跳んだ。

「すごい…これが、ベルトの力?」

ありすは腰に装着されたそれに触れた。
更なる使い方のイメージが彼女に流れ込んできた。

「…なるほど」

右手を前に突き出す。虚空に01粒子が沸き立ち、棒状に固まると彼女の腕に収まった。
それは、先端に魔法的意匠に加え「Aボタン」と「Bボタン」が刻印された短めな杖であった。

『ガシャコンロッド!』

ベルトが明滅し、その名を叫ぶ。

「パズル&ウィッチーズは、魔女が魔法によって古代の遺跡を解き明かしていくパズルゲーム…だから魔女衣装、そして杖ですか
 魔女の事なら、以前お仕事で調べました。完璧です」

本は再びありすに向き直ると文字のムチを放つ。

「はぁっ!」

彼女はその杖を突き出すように振った。
またたく間に光弾が生み出されると、迫りくる文字のムチを打ち砕く。

本は忌々しげに震え、更に文字のムチを放つ。

「何度同じことをしようと…無駄です!」

さらに強く杖を振るう。更に多くの光弾がムチを砕き、本にまで到達。まばゆい光を放って弾けた。
苦し気にオレンジ色の表紙を泡立たせながら、本はよろけて地に落ちる。

「今です!」

ありすは杖を更に振るった。凍てつく冷気が生み出され、氷によって本を地面へと張り付ける。

「はああっ!」

杖を構え、ありすは本へと突撃する。杖が炎を纏い、燃え盛る槍と化す。
本はバラバラッとページをめくった。

「…っ!」

すんでのところでありすは突進を止めた、開かれた本のページからは文字の鎖で捕らえられた文香の上半身が浮き出していた。
確認しなくてもわかる、本物の文香だ。今も変わらず、つらそうな表情で目を閉じたまま動かない。

「文香さ…あぐっ!?」

文香の周囲から文字のムチが現れ、眼前で止まったありすを弾き飛ばした。

「っ…人質という訳ですか。卑怯ですよ…」

ありすは空中で体勢を立て直し着地すると、再び杖を構えた。

(…しかし、あれじゃ迂闊に叩けません)

ありすは注意深く、本の様子を伺う。
それは相変わらずページから触手めいて文字のムチをくねらせ、ありすの動きを警戒している。
文香の姿は再びその泡立つオレンジ色の中へと消えていった。

(文香さんは…あの中に、何としても助け出さないと)

(いえ、ダメです。焦ったらまたさっきみたいに…冷静に観察するんです。パズルみたいに)

ありすは目を凝らし注意深く観察した。
そしてページとページの隙間、綴じ目に目を凝らした。

(…いた!)

綴じ目の中、かすかな隙間から、文香の姿が見えた。

「そこ…ですっ!」

ありすはスナップを利かせて杖を振るった。杖先から光の紐が放たれ、綴じ目のかすかな隙間の中へ吸い込まれた。

「は…あっ!」

ありすは足を踏ん張り、思い切り杖を引いた。重い、確実な手ごたえ。
本は動揺したように体を震わせ、紐をちぎらんと滅茶苦茶に羽ばたく。

「観念…するんです、ねっ!」

更に思い切り、紐に手をかけて引く。ずるり、と文香の身体が本の中から引きずり出された。
本は苦し気に泡立ちながら、燃える本のようにチリチリと霧散していく。

「文香さんっ!」

吐き出された文香をありすは受け止める。

「文香さん…文香さんっ」

「…ぁ、ありす、ちゃん…?」

文香は薄目を開け、ありすを見た。
その口元に、かすかに笑みが浮かんだ。

「…ぁりがとう、ございます…」

「…!」

ありすは涙をぐっと堪え、文香をそっと花畑の中へ下ろした。
まだ、終わっていない。ありすは文香を守るようにその前に立つ。

「ぐぬぅ…小娘…なかなかできおる…」

霧散するオレンジの粒子は再び収束し、片眼鏡の老紳士めいた怪人へと姿を変える。
老紳士怪人は口元に生えたカールひげを撫でながら、ぎらりとその片眼鏡を光らせた。

「橘です。率直に聞きます、あなた方は何なんですか」

ありすは杖を構え、その眼差しに臆せず言った。

「何、とな?ハハハ、いきなり質問から始めるに飽き足らず「何」とな、ハッハッハ!
 無礼な小娘だ。だがいいだろう…我らは『バグスター』。人間に次ぐこの星の支配者となる存在よ
 よって「何」ではなく「誰」と聞くべきぞ小娘」

「だから橘です。…バグスター?この星の支配者?何を馬鹿げた事を言ってるんですか、ゲームやアニメじゃあるまいし」

ありすは呆れたように呟く。
その呟きを聞いて、老紳士怪人は手をたたいて喜んだ。

「ゲーム!左様、ゲームだよ小娘!ハハハ!」

「…?会話が成り立ちませんね」

「それならそれで良い。さて質問には答えた、今度はこちらから提案だ」

「その後ろにいる娘、その娘の「大切なもの」が欲しい」

老紳士怪人はありすの後ろ、倒れたままの文香を指さして言った。

「…?」

ありすは怪訝な顔をした。

「文香さんの大切なもの…?そんなもの、私に聞かないでください」

「…ンフフフフ、分かっていないようだな小娘…それはお前の事だよ!!」

老紳士怪人がマントをひるがえす。その裏からいくつもの文字のムチが現れ、ありすを襲った。

「…っ!」

ありすは反射的に杖を振るった。光弾がムチを砕く、しかし、先ほどより圧倒的にムチの数が多い。

「…このままじゃ!」

ありすは後ろをちらと見る。
倒れたままの文香は、薄目をあけ、ありすを見上げた。

「…文香さん」

「…私は、大丈夫です」

文香はまた、にこりと笑った。そしてまた倒れ伏した。

「…っ!」

ありすはキッ、と高笑いを続けながら際限なく文字のムチを放つ老紳士怪人を睨み付けた。
すべき事はわかっている。今のままでは勝てない、紗南はあの時どうしたか

「…第二ステージ!」

ベルトのレバーへ手をかけ、開いた。

『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』
『解き明かせ、古代遺跡。パズル&ウィッチーズ。』

荘厳な音声が流れ、ベルトから放たれたまばゆい光が襲い来る文字のムチを一瞬で焼き払った。

「なぬっ!?」

ありすの姿が流れるように切り替わる。魔女の衣装はより豪華爛漫に、頭身は元に戻り、その頭を01粒子が覆うと鍔広の魔女帽子になった。

「…あなたを倒して、文香さんの笑顔を守ります!」

ありすはガシャコンロッドのAボタンを叩く。

『キュ・イーン!』

シャコッ!と杖の柄が伸び、ありすの身の丈にも並ぶ長杖となった。

「ぬぅっ…できるものならやってみるがいい!」

老紳士怪人は再びマントをひるがえす。文字が渦を巻いて彼の周囲を飛び回り、次々とありすへ襲い掛かった。

「はぁぁぁぁ…」

ありすは目を閉じ、長い杖の柄を撫でる。
彼女の周囲に風が生じ、その長い髪とフリルスカートをはためかせる。

「はあっ!」

そして光の蓄積した杖先を天に突き出すように掲げた。
風が解放され、襲い来る文字列を吹き飛ばした。

「何だと!?」

「この程度ですか、今度はこちらの番です!」

ありすは再び杖の柄を撫でる。
紅蓮の光が杖先へと集中し、燃え盛る熱を帯びた。

「はあっ!」

ありすは杖先を地面にたたきつける。途端に、老紳士怪人の足元が赤熱した

「なっ…!」

避ける暇もなく、老紳士怪人は火柱に吹き上げられた。

「ぐおおっ!」

「はぁぁ…っ!」

続いてありすは円を描くように杖を振るう。
杖の軌跡に沿って、次々と光弾が生み出され、宙を舞う老紳士怪人めがけ飛んだ。

「ぬぐうううっ!」

老紳士怪人は腕で必死に光弾を防ぐが、衝撃で更に高く打ち上げられていく。

「さあ、フィナーレです!」ガッシューン↓

ありすはガシャットを引き抜くと、杖先にある端子へと差し込んだ。

『ガシャット!』
『キメワザ!』

「は、ああああああああ…」

ありすは杖を横に持ち、より一層強く長く、杖を撫でる。
極彩色光が稲妻を伴って杖に走り、杖先へと集中していく。

「…ったああああああああ!」

『ウィッチーズ・クリティカルフィニッシュ!』

極太の極彩色光線が杖先から迸り、上空の老紳士怪人を包み込んだ。

「ぐおおおおおおああああああっ!」

極彩色の光に焼かれ、老紳士怪人は01粒子へと分解される。
電子の爆発が生まれ、草原の上空に花火めいて散った。

『ゲームクリアー!』パパパパーパーパッパラー

ファンファーレと共に、草原の景色は消え失せ、元のパンケーキ屋店内へと戻る。

『ガッチャーン↓』
『ガッシューン』

「…っはぁ」

ベルトのレバーを閉じ、ガシャットを引き抜くと、あたりはまるで何事もなかったかのように静寂に包まれた。
ありすがため息を吐くと、遠くから救急車の音が聞こえてきた。

――――――――――――――――…

「…ただいま戻りました」

ありすはよろよろと疲れた様子でルームへと戻ってきた。

「おかえりー、あれ、なんか疲れてる?」

「…紗南さん、まだやってたんですか。杏さんも」

「うん、今ねー、100戦サバイバルマッチ中なんだー
 どっちが先にやられるかって」

紗南と杏はそれぞれソファと床に座りながらゲーム機をピコピコと揺らしている。

「今82戦目なんだけど、まだ決着つかなくてさー」

「杏さんに最強ゲーマーアイドルの座は明け渡すもんか!」

「前落ちものパズルで負けてるじゃーん」

「ぐぬぬ…それはそれ!これはこれ!」

「…ハァ」

ありすはため息をついて、ソファに深く腰掛けた。
あのすぐあと、文香はありすの後ろで気絶するように眠っていた。
急いで起こしたが、何が起きたのかまるで覚えていないようだった。念のため救急車で運ばれていったが、おそらくは何ともないだろう。あの時の未央と同様に…

そう、同様に…何も覚えていないまま…

「…なんで、私たちだけ覚えてるんでしょうか」

「…っ、あ」ビロビロリーン

「よっしゃ勝ちー、へへーん、やはり最強ゲーマーアイドルはこの双葉杏様って事だねー」ピロリロリーン

「ちょ、ちょっと気が散っただけだし!今度は勝つから!」

「そうー?」

「……杏さん、さっき部屋の前できらりさんが飴持って待ってましたよ」

「え、マジで!?」スタコラサッサー

紗南の様子から何かを察したありすは、適当なことを言って杏を外へと出す。

「…やっぱり、気にしてるんじゃないですか」

「…バレてたか。いやというか、ありすちゃんも何かあった?」

「まあ、ありました。話すと長くなりますけど、とりあえずこれ」

ありすはそう言って、ポケットから「パズル&ウィッチーズ」の変身ガシャットを取り出す。

「あ、これ…あの時一緒に落ちてたやつか」

「そうです。あと、これも」

ポーチの中に隠したベルトも見せる。

「…もう一つ、同じのがあったの?」

「これは予想ですが…誰か、私たちにこれをこっそり渡しておきたい人がいるんじゃないでしょうか」

「…何のために?」

「それは…わかりません、けど、多分…多分ですよ?
 私たちに…あのオレンジ色の怪物たちを、倒してほしいんじゃないか、って…」

「きらりいないじゃーん!」

杏がもう戻ってきた。
二人は立ち上がり、部屋を後にする。

「え、ちょちょ、ちょっと、どうしたのさー」

「…杏さんは、あの事件の事は」

「覚えてない…皆と一緒だよ」

ありすと紗南は歩きながらこそこそと話し合う。

「なんであたし達にあんな怪物たちを?」

「分かりません…分かったら苦労しません。というか、全部私の想像です。正しいという根拠はまるで無いですよ」

「うーん、わかんない!
 …Pさんには?」

「言ったら、どうなると思いますか」

ありすはガシャットをからからと振って聞き返した。

「そっか…あたしと同じように没収されるだけ…だよね」

「…実は、文香さんが――」

「――えっ!?そんな、大丈夫だったの?」

「声が大きいです!
 だから、私はこの事はプロデューサーさんには言いません…また文香さんが危険な目にあったとき、私がこれを使って守ります」

「大丈夫なの…?私も手伝いたいけど、ガシャット没収されちゃったからなあ…」

「一人でできます。子ども扱いしないでください」

「でもやっぱり一人だとさ…」

歩きながら話し合う紗南とありす、その二人と、一人の少女がすれ違った。
キリキリ…キリキリキリ…
長いエクステを付けたその少女は、片手でガシャットをクルクルと回しながら、不意に立ち止まり離れ行く二人を見据えた。

「…フフ、これはまさに運命(デスティニー)と言うべき巡り合わせ、かな?」

少女はパシッ、と回していたガシャットを掴んだ。
そのグリップ端にはボタンがあり、側面には「Devil's Cry」と刻印されていた。


To be continued... See you next Game.

以上です。
今回は2号ライダーめいたありす変身回でした。
ありすの変身後の衣装は「ひかりの創り手」特訓後のイメージです。ありすは魔女っ子が似合うと思います、とっても。
そして最後に登場した変身ガシャットを持つ長いエクステの少女…一体誰なんでしょうねえ…

次回をお楽しみに!

おまけ:ガシャット&専用武器解説。
「パズル&ウィッチーズ」
・元はスマホ向けソーシャルゲーム。パズルを解いて、古代遺跡の謎を解き明かすファンタジーRPG
・元ネタは名前でわかると思うけど「パズル&ドラゴンズ」
・ありすがスマホ(パッド)をよく持ってる&ゲームが趣味という設定から「ソーシャルゲームベースで作ろう」という事でこうなりました。

専用武器:ガシャコンロッド
・Aボタンで片手で持てる短杖と身の丈ほどの長杖に切り替わる魔法の杖。
・短杖では隙が少ないが威力の低い魔法が、長杖では威力は高いが隙の大きい魔法が撃てる。
・Bボタンによって同じ魔法を連続発射することができ隙を埋めることが可能。
・魔翌力とかの概念は無く、いくらでも撃てる。強い




第三話:悪しきモノよ、Must Cry。

「あ、プロデューサーやっと来た」

「おうすまん、会議が長引いちまってな」

プロデューサーがルームに入ると、いつも通りソファに座ってゲームしている杏と紗南が出迎えた。

「まあ、会議なら仕方ないですね…」

その向かい…プロデューサーから見て手前に座って雑誌を広げていたありすが振り返りながら言った。
そしてその隣で一緒に雑誌を読んでいた少女も一緒に振り返った。

「お久しぶりねプロデューサー、元気そうで何より」

「おう、フルボッコちゃんのBD、売れ行きいいらしいじゃんか
 握手会に付いていけなくてすまんな麗奈」

小関麗奈、このルームのメンバーの一人だ。
ソロ活動が中心的だが、他プロジェクトルームとの合同企画であるL.M.B.Gにも所属し、意外とこのルームにいることは少ない。

「いいのよ別に、むしろアンタがいない方が割と好き勝手やれて気楽だわ」

「んだとぉ?」

「あーもう、またそうやって…プロデューサーさんもです!」

「はいはいわかったわかったっての…あとの二人は?」

「ん」

杏が顎で示す。
その先には、ルームの隅に置かれたプロデューサーの事務机。

「…いつもの場所か」

プロデューサーは机につかつかと歩み寄り、その下から二人のアイドルを引っ張り出す。

「森久保はここから動きたいくないんですけど…」

「…フ、フヒ」

「大事な話があるんだよ。そん時くらい出てこい」

森久保乃々と星輝子。これでこのプロジェクトルーム全員…いや、全員ではない。

「あの…親友、まゆさんは…まだ?」

「…ああ、大丈夫だ。きっとよくなる
 すまんな、待たせちまって」

佐久間まゆ、彼の最初のアイドルにして、このルームの一番の先輩だ。
今は、原因不明の体調不良で入院している。

「俺がお見舞いに行けば、少し元気になるらしいんだ。俺も出来るだけ顔を出して、元気な顔でここに連れ戻して見せるさ」

「も、森久保も、まゆさんがいないと、その…困るんですけど…」

「私たちのユニットを引っ張ってくれてるの、まゆさんだからな…フヒ」

まゆ、輝子、乃々の三人は「アンダー・ザ・デスク」というユニットのメンバーだ。
この二人がこんな性格なので、ユニットを支えてるのはまゆに他ならないのである。

「それで、大事な話って何なのよプロデューサー。普段いないアタシまで呼んでるってことは、ルームあげてのお仕事かしら?」

「えぇ~、あんず、お仕事はちょっと~」

「わざわざ全員揃えたんですから、それなりの事ですよね?」

6人程度のルームがザワザワと騒がしくなってくる。

「はいはいどうどう、まあ焦らしても仕方ないな。ほれ、入っていいぞ」

プロデューサーが声をかけると、扉がカチャリと開き、また一人の少女が入ってきた。
長いエクステをさらりと揺らし、プロデューサーの横につく。

「今日から新しくウチのルームメンバーになる、にの」

「二宮飛鳥だ。よろしく頼むよ」

飛鳥はプロデューサーの言葉に被さるように言い、エクステをさらりと手でなびかせて不敵に笑った。

「お前な、紹介は俺がするって」

「ボクはこうしたいって言っただろうプロデューサー。ボクをプロデュースするのなら、これくらい把握してくれ」

「新しい子だ」「新メンバーですか」ルームがザワつく。

「はいはい静かにな…そんなら、お前が自己紹介してみろ」

「投げやりだね…まあいい」

飛鳥はエフンと小さく咳払いをする。

「…二宮飛鳥、14歳。君たちとさほど差は無いのかな?
 趣味はヘアアレンジ。これはちょっとした反抗のつもりさ、学校の規律が厳しくてね
 あとはラジオを聴いたり…そうそう、最近ゲームも嗜むようになったかな」

飛鳥は紗南のほうをちらと見て言った。

「ここにはゲーム好きな子もいるし、話は合うだろうね」

「ね、ね、飛鳥さんはどういうゲームが好きなの?」

早速紗南が飛びついてくる。
飛鳥はくす、と不敵に笑って答えた

「そうだね…世界観を重視してる。ダークな雰囲気のが好きだよ
 あとは、スタイリッシュなプレイスタイルなのがいいかな」

「ダークな世界観…スタイリッシュ…あ、デビルズクライとか?」

紗南の言葉に、飛鳥は目を丸くする。

「これは驚いたね…いや、流石と言うべきか」

そう言ってポケットからガシャットを取り出す。側面に「Devil's Cry」と刻印されたものだ。
しかし持ち方が若干おかしい、グリップを握るのではなく、その隅を隠すように、つまんで持っている。

「わ、やった!正解!」

「フフ…後でキミのガシャットも見せて欲しいな、興味があるね」

「うん!じゃあこの後、下のカフェでやろうよ!」

その様子を見て、プロデューサーがほう、と小さく感嘆の息をつく

(なんだ…割と馴染めるじゃないか。しかし飛鳥もゲームをやるとはな
 ウチはゲーマーのユニットもあるくらいだし、これは心配する必要はなかったか)

「…あの、飛鳥さん。私もついて行ってもいいですか」

黙っていたありすが不意に声を上げた。
その視線は、飛鳥の持つガシャットに注がれている。

「…ああ、いいとも」

飛鳥は再び不敵な笑みを浮かべ、視線から隠すようにガシャットをポケットにしまう。

「さてと…自己紹介はこんなものかな」

「お?おお、そうだな。ちゃんと馴染めそうで驚いたな」

「失礼だねキミは、ボクを何だと思ってるんだい」

「厨二病」

「…凄い直球にありがとう」

「事実だろ」

(また濃い人が入ってきたんですけど…)

(フヒ…本当に馴染めるのか不安だな)

――――――――――――…

「お待たせしましたーっ、アイスカフェオレ2つと、オレンジジュースですね!」

御白プロの一階に併設されたカフェ。
いつものようにメイド服で喫茶のお手伝いをしている安部菜々がコトコトと三人のテーブル上にコップを置いていく

「では、ごゆっくり~」

「…さて、どこから話そうか」

菜々が下がったのを見計らって飛鳥が切り出す。

「え?ゲームやるんじゃなかったの?」

紗南はゲーム機を取り出し準備万端といった様子だったが、二人の様子がおかしいことに首を傾げた。

「紗南さん…まだ気づいてなかったんですか」

ありすが呆れたように言う。

「飛鳥さんも、あんなわざとらしい隠し方でバレないとでも?」

「フフッ、まあ、元から君たちには言おうと思ってたんだけどね」

飛鳥はまたも不敵に笑って、ポケットからデビルズクライのガシャットを取り出した。
隠されていた隅の部分には、押し込めるボタンがついていた。

「…やっぱり、飛鳥さんも変身できるんですね?」

「ああ、それにキミの活躍も見てたよ。紗南」

「えっ!覚えてるの!?」

「勿論さ。そもそも、これで変身できる人は皆バグスターの活動を記憶することができる人間だ」

「バグ…?」

「"バグスター"。そう呼んでるし、彼らも自らをそう呼ぶ。
 キミが戦った、あのオレンジ色の粒子から生まれる怪物たちの名さ」

(バグスター…そういえば、あの時もそんな事…)

ありすは先日戦った老紳士怪人の事を思い出す。

「…なぜそんなことを知ってるんですか?」

「フフッ、ボクは君らより先輩だよ?これくらいは当然だよ」

「では、そのガシャットはどこで手に入れたんですか…知ってる事、全部話してください」

「おいおい、怖い顔をするなよ。
 …随分とご執着のようだね、何かあったと見えるけれど?」

「っ、貴方には関係のない事です」

(…いいの?文香さんの事言わなくても)

紗南がひそひそと耳打ちしてくる

(まだ…飛鳥さんの事を信用できませんから)

「フフッ…信頼されてないみたいだね。
 いいだろう、ボクが知っていることを話そう」

飛鳥は仰々しく足を組むと、語り始めた。

「まずこのガシャットだが、とある人物から貰い受けた。
 キミたちにガシャットを渡したのもおそらく同じだろうね…」

「その人物は誰なんです」

「フフッ、言ったところで、きっとキミたちの知らない人間だよ…
 まあ、白衣の少女とだけ言っておこうかな」

「白衣…?」

「そしてバグスター。どこから来たのか、どこから生まれたのかは知らない。
 ただひとつ言えることは、彼らは普通の人間にはその活動が全く記憶されないこと。どれだけ大騒ぎしてもね
 そして、それはこちらも同様でね」

飛鳥は手に持ったガシャットをクルと一回転させると、唐突にそのボタンを押した。

『デビルズクライ!』デデデーン!

閑静なカフェに電子音が鳴り響き、飛鳥の背後にDevil's Cryのタイトル画面が大々的に表示される。
当然、周囲からざわめきが沸き起こった。

「なんだなんだ」「え、ホログラム?」「撮影かぁ?聞いてないぞ」

「なっ…何してるんですか!?こんな所で!」

ありすが立ち上がり大声を上げるが、もう起こってしまったこと、どうしようもなく視線を周囲に泳がせる。
大勢の目がこちらに注がれている。これではプロデューサーどころか、世間中に知れ渡ってしまう。

「心配はいらないよ…言ったろう?ボクら以外にこの行動は記憶…」

飛鳥がそこまで言って言葉を切った。

「あ」

同じ方を向いていた紗南も、小さく声を上げた。
ありすは振り返って、そして見た。
一瞬だけ、ウサミミメイド服を飲み込んだオレンジの粒子塊を

「…菜々さん?」

「やれやれ…狙わずして、奴らを炙り出せてしまったようだ」

飛鳥は椅子から立ち上がる。

「この話は後にしようか…ま、この程度ならボク一人で充分。キミたちはそこで見ておくといい」

そして、ナップザックから例のベルトを取り出した。
シュイイン、ガチッ
手慣れた様子で、ベルトを腰に固定する。そしてガシャットをキリキリと回しながら、上に放った。

「…変身」

落ちてきたガシャットをパシッと受け止め、そのまま端子へと差し込む。

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

『アイムア…アイドル!』

「さぁ、開戦(ハジ)めようか…!」

3頭身の姿になった飛鳥が、バグスター塊へと突撃する。

―――…

「…飛鳥さんも、変身できたなんて」

「さっきからそう言ってたじゃないですか…けど、なんで菜々さんが」

ありすと紗南は屋内へと避難し、飛鳥とバグスターの戦いを見ている。
周囲の人たちは、皆散り散りに逃げてしまった。

「そういえば、アタシが戦った時は未央さんがバグスターに…」

「はい、そして文香さん、今回の菜々さん…
 多分ですけど、まゆさんの時もそうです。しっかりプロデューサーさんから聞く必要があるかもしれませんけど」

「皆、うちのアイドルだね」

「それです…もしかすると他のところでもバグスターとやらの被害が出てるかもしれませんけど、今のところはアイドルだけが狙われてます…」

「どういう事なんだろう?」

「解りません、解ったら苦労しません…だから、飛鳥さんにはいろいろ聞きたいことがあります」

ありすはキッ、と眼前で戦う飛鳥を睨んだ。

「ハァッ!」

変身した飛鳥の姿は、拘束具めいてベルトの巻かれた衣装だ。
より長くなったエクステを靡かせながら、高速で相手を翻弄している。
大きなウサ耳のように腕を生やすバグスター塊は、腕をやみくもに振り回し応戦、その腕が飛鳥を捉えにかかった。

「フフ、どっちを見ているんだい」

しかし捉えた筈の飛鳥の姿は陽炎のように掠れて消え、バグスター塊の背後にまた同様に現れた。

「デビルヘイズだ!回避コンボの始点になる技だよ!」

「解説は聞いてません!」

興奮した様子の紗南にありすが即ツッコミを入れる。

「武器を持つ必要すらない、ねっ!」

飛鳥はそのまま、赤熱する拳をバグスター塊に連続で叩き込む。ヘルファイアナックル!

「ハアッ!」

思い切り振りかぶった最後の一発の衝撃のままにバグスター塊はぼんぼんと数度バウンドし、そして腐った果実のように潰れ霧散し始めた。

「フ…まあ叩き起こされたバグスター程度ならこんなものか」

霧散していく粒子の中から、安部菜々の姿が現れる。

「っ…!」

「あっ、ありすちゃん!」

思わず走り出したありすを紗南が追いかける。

「紗南さん、足を持ってください」

「う、うん」

見る間に収束していくバグスター粒子を横目に見ながら、ありすと紗南は菜々を店内へと運び入れる。

「菜々さん、大丈夫ですかっ」

「ん…あれ…ここは…?」

「お店の中だよ、大丈夫?起きれる?」

「あっすいませんっ!なんかお手数を…あつつっ」

菜々は起き上がろうとして、腰を抑えてまた倒れ込んでしまった。

「無理はしないでください…すぐよくなりますから」

ありすは優しく言ってから、顔を上げて飛鳥の方を見やった。
対峙するバグスター粒子はすでに人らしき形を形成していた。

「なぜ、私がいるとわかったの…」

メルヘンチックな意匠があちこちに点在する少女体型の怪人は恨めしげに飛鳥を睨み付けた。

「ただの偶然さ、己の運命を呪うがいい」

「おのれ…私たちの繁栄を邪魔する人間め…」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。ボクらの未来を邪魔するというのなら――…」

飛鳥はピンとベルトのレバーを指ではじく。

「セカンドフェイズ」

そして逆の手で持ちあがったレバーを開いた。

『ガッチャーン!』
『レベルアップ!』

『DieDieDie!マストダイ!デビルズクライ!』

拘束具のように体中を覆っていたベルトがはじけ飛び、ぼろ布のような衣装が露になる。
背中からは煤か黒煙のようなかすれたマントがたなびき、ベルトの左側にはオーブのついた鍵が吊り下がった。

「…――例え子供のような風貌でも、容赦はしないよ」

そう言って、腕を腹の前でクロスさせた。
その両手に01粒子が集まり、二丁の大ぶりな拳銃が現れる。

『ガシャコンデュアライザー!』

「ハァッ!」

素早くそれを乱射する。
銃を横向きに持ち、上下になるように構え…よくある"カッコいい二丁拳銃の構え方"だ。

「いやああっ!」

少女怪人は外見らしい悲鳴を上げてぴょんぴょんと逃げ回る。

「…悲鳴のわりに結構避けるね。なら」

銃を背中にしまい、右手を左肩のあたりに持っていく。
そしてスナップを利かせて、腕を振るった

「チェイン!」

腕先から鎖が伸び少女怪人を捉えた。

「なっ…」

「そぉ、れッ!」

そのまま背負い投げの要領で地面へとたたきつける。

「あぐうううっ!」

「まだまだッ!」

素早くデュアライザーを引き抜き、銃弾の雨を喰らわせる。

「おのれぇ…おのれぇっ!」

倒れたまま、銃弾を腕で防ぐ少女怪人。

「おおおオオオオオのレエエエエエ!!」

その腕がミシミシと音を立てて肥大化した。

「おっと」

「オオオアアアアアア!!!」

飛鳥が一瞬ひるむ、怪人はその射撃が止まった隙にバネめいて立ち上がり、巨腕を振り上げて突進する。
飛鳥は慌てず、赤い拳銃…左手に持つそれの銃身に刻印されたAボタンを押した。

『ズ・シャーン!』

大ぶりな二丁拳銃が合体し、隠されていた刃が飛び出してくる。
そこにあったのは一本の幅広な刃を持つクレイモアだった。

「ッ!」

巨腕による突進を、幅広な刃で受ける。
それでもその凄まじい突進に、一気に数メートルも押し込まれた。

「…っへえ、変わった能力を持ってるようだ。
 だが、反動で理性が無くなるようだな。」

「ヴヴーッ!」

「そういう"奥の手"というのは、最後まで見せないものだよッ!」

飛鳥は叫び、剣の鍔にあるBボタンを3連打した。

「ッセァ!」ズバババッ!

「ギャアアッ!」

一瞬にして三つの斬撃が少女怪人を…否、もうそれは少女の姿ではない、丸太のような腕にダチョウのような足をもつ異形の怪物だ。
隆々とした胴に、3つの斬撃痕が残る。

「オオオッ!」

だが怪人は一瞬ひるんだのみで、再び飛鳥めがけ腕を振りかぶる。
飛鳥は剣の柄と鍔の間にある、銃の時の名残であるトリガーを引いた。

「スタンプ・スラッシュ!」

「アガアアッ!?」

3つの斬撃痕が光を放って炸裂し、怪人は倒れのたうち回った。

「さあ、お前の罪を数えるがいい」ガッシューン

飛鳥はガシャットを引き抜き、左腰のスロットへと差し込む。

『ガシャット!』
『キメワザ!』

「ッハァ!」

回転跳躍でのたうち回る怪人の直上へと舞い上がると、その横のスイッチを押した。

『デビルズ・クリティカルストライク!』

「セイヤァァッ!!!」

そのまま怪人を踏み抜くような急降下キックを繰り出す。

「オゴオオオオアアアアアアッ!!」

怪人の断末魔が、電子爆発によって消し飛んだ。

「ッフ…」

爆心地からすっくと立ち上がった飛鳥は、体に降りかかる01粒子を軽く払い、変身を解除した。

「終わったみたい」

カウンターから様子を伺っていた紗南が、その様子を見て言った。

「菜々さん、体の調子は」

「え?あ、はい。良くなってきました…あの、菜々はどうしてたんでしょう?」

「…っ…なんでもないですよ。ちょっと倒れただけです」

ありすはきゅっと唇を噛みしめる。
もう覚えていないのだ。バグスターが撃破されたその瞬間に、記憶は消えていくとでも言うのか

「やあ、大丈夫かい菜々さん」

「あ、飛鳥ちゃんまで…なんだかご迷惑をお掛けしてしまったみたいですいません!」

菜々はよろよろと立ち上がる。

「急にフラッと倒れるんだ、驚いたよ。キミもアイドルなんだから無理はしない方がいい」

「そうですね、最近確かに忙しかったですから…もう菜々も歳…じゃなくて!17歳でも無理は禁物ですよね!」

「そうそう、休憩も仕事の一つさ、ハハッ」

「……」

にこやかに笑う飛鳥、紗南とありすは茫然とその姿を見ていた。



―――――――…

「これで分かったろう?…バグスターの行動も、ボクらのガシャットを用いた行動も、同様に誰にも記憶されない」

何事もなかったかのように日常の騒がしさを取り戻したカフェ、三人は置かれた飲み物にも手を付けずに神妙に話をしていた。

「なんで、誰も覚えられないの?」

紗南が率直な疑問を繰り出す。

「さあ?ボクも知らない…ただ言えることは、ヤツらは人間の中に潜み、人間に成り代わって地球の支配者になろうと目論んでいる。そしてこのガシャットとあのベルト…"ゲーマドライバー"は、ヤツらを倒す唯一の武器という事だけさ
 そしてゲーマドライバーを使えるのは…」

「バグスターの活動を記憶できる人間だけ…」

飛鳥の言葉をありすが続けた

「そう…まあ、更にちょっとした条件があるんだがこれはボクらには関係ないね」

「なんで向こうはアイドルばっかり狙ってくるの?」

「…?ああ、そういえば確かにそうだな」

飛鳥は一瞬よくわからないという顔をして頷いた。

「それも解らないんですか…」

「ああ、まあ向こうからすればボクらは天敵だからね…執拗に狙うのもわからなくはない」

「だったらアタシ達に憑りつけばいいのに」

「それは無理だろう。ゲーマドライバーとガシャットはヤツらからボクたちを守ってくれる力でもある
 外堀でも埋めて孤立無援にでもしようとしてるのか?フフッ、人外の癖に知恵の働く奴らだ」

「…そんな存在に、私たちだけで立ち向かえるんでしょうか」

ありすは今になって不安が込み上げてきたようだった。

「…大丈夫だって!アタシは最強のゲーマーアイドル、三好紗南!絶対ノーミスクリアしてみせるよ!」

「フフッ、頼もしいね
 ありすの心配はわかるさ、けれどこれはボクらにしか理解(ワカ)らない、記憶(シ)らない事だ。
 たとえ孤立無援であったとしても、ボクらは戦い続ける…ボクらがやられた時、それは人類の敗北だからね」

飛鳥はまるで他人事のように言った。

「……あなたは、怖くないんですか。自分がやられること」

「そうは言ってない、怖いさ、ボクも…だからこそキミ達に話をした」

飛鳥は勿体付けるようにエクステを弄り、今までになく真面目な顔をして言った。

「ボクと一緒にバグスターと戦ってほしい。ヤツらを根絶させるその瞬間まで、ね」

「……」

「……でも、アタシのガシャットプロデューサーさんにとられちゃったし」

「えっ?」

「…プロデューサーさんも、覚えてるんです。バグスターの事を」

「えっ!?」

飛鳥は2連続で驚いてから、ぶるる、と顔を振ってまた真面目な顔に戻った。

「いや、すまない…少し想定外だった。まさかあのプロデューサーが適合者とはね…」

「…話すべき、でしょうか」

「でも心配性のPさんの事だから、絶対みんなの取り上げるよ?」

「いつかは話す必要があるだろう…でも今は、黙っておくべきだろうね。
 紗南のガシャットに関しては…そうだね、ボクが後で取り返してあげよう。フフッ、ワクワクするね」

「…まさか、プロデューサーさんの机を漁る気ですか」

「さあて…?どうだろうね?」

飛鳥はクスクスと笑い、席を立った。

「それじゃあボクはこの辺で失礼するよ…あとありす、キミのガシャットも後で見せてくれるかい?」

「なっ…」

「バレてないとでも思ったのかい?フフッ…この場に付いて来る時点である程度予想は付くものだよ。じゃあね」

飛鳥は手をひらひらを振って、カフェを後にしていった。

「…やっぱり、あの人は信用できません」

「えー」



To be continued... See you next Game.

お待たせして申し訳ありません。第三話、投下完了です。

今回は前回のラストに意味深に登場した飛鳥回。
いわゆる先輩枠かつ"知っている"枠です。解説役がいないと物語は回しにくいですからねー

今後はこの三人が"正義のヒーロー"として活躍していきます。お楽しみに!

おまけ:ガシャット&専用武器解説。
「デビルズクライ」
・悪魔に支配された世界で、ハイスピード&スタイリッシュに悪魔を狩り人間の開放を目指すスタイリッシュアクション。
・元ネタは「デビルメイクライ」4を友人宅でやらせてもらったことがあるんですが、スタイリッシュに戦うのはとてもじゃないが無理でした。
・飛鳥の性格的には「プロトタイプ」の方が良かった気もしますが、こっちはやった事がなかったのと知名度もDMCやベヨネッタに比べるとどうしても落ちるのでこうなりました。
・特殊な攻撃を放つときは技名を叫ぶが、これは飛鳥の趣味です。

専用武器:ガシャコンデュアライザー
・Aボタンで二丁拳銃とクレイモアに変形する武器。
・元ネタは当然、ダンテのエボアボ&魔剣リベリオン。
・銃ライダーの宿命か、拳銃モードはイマイチ攻撃翌力に欠けます。ダンテのエボアボもそうですが

第三話は>>57からです。

今後はこうやって投下後に始点書いた方がよさそうですね。
あとタイトル付けました。今更です、スルーしてもいいです。次の時にあるかもわかりません

こんなgdgdですけどよろしくお願いします

お待たせしましたー。今夜9時ごろに4話が更新できると思いまーっ





第4話:二人はnot friendly

「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイ」

御白プロダクションのあるレッスンルーム、緑ストライプのトレーニングウェアを着た女性が、リズムを刻みながら二人のアイドルのダンスレッスンをしていた。

「はい決めポーズ!……よし、だいぶ様になってきたな。これなら来週のミニライブには間に合いそうだ」

その女性…御白プロのダンス専門トレーナーは満足げに頷いた。

「はぁーっ…」

「…ふぅ」

決めポーズのままで固まっていた紗南とありすは同時に大きく息を吐き、その場に座り込んだ。

「お疲れのようだね」

キィ、とレッスルンルームの扉が開く。

「あ、飛鳥さん。おつかれさまー」

「…何か用ですか」

「フフッ、差し入れだよ
 全くボクは嫌われているようだね」

スポーツドリンクを差し出す飛鳥はそう言いながらもまんざらでもなさそうだ。

「ねえ、あんずの分は?」

「うわっ」

レッスンルームの隅でゴロゴロしていた杏がむくりと起き上がって言った。

「…なんだ、双葉さんもいたのか。見かけなかったから居ないと思って持ってきてないよ」

「えー…まあいいけど。あと、そんなかしこまらずにあんずでいいよ~」

杏はぶーと頬を膨らませるが、それほど不満ではなさそうだ。

「私達三人は一つのユニットなんですから、一緒にレッスンするのは当然です」

「ゲーマーズ.incって言うんだよ!」

「ゲーマーアイドルのユニットってコンセプトなんだってさー、あんずはゴロゴロしてるほうが好きなんだけどな~」

「へぇ…」

「…そういえば、二宮も来週のライブに出るんだったな?」

トレーナーが飛鳥に訊ねる。

「そうなんですか?」

「ああ、キミ達と同じルームに入って初めてのお仕事さ。
 フフッ、奇遇だね」

「へー、お互い頑張ろうね!」

「ああ…ところで二人とも、もうレッスンは終わりだろう?少しいいかな?」

紗南とありすは顔を見合わせると、飛鳥と連れ立ってレッスンルームを後にした。

「…なんだ、随分仲がいいなあの三人は、いいのか双葉、付いていかなくて」

「別に?子供同士秘密の話くらいひとつふたつあるでしょ」

「お前も子供だろう…あと、次のレッスンは本番前最後だからな、お前にもみっちり踊ってもらうぞ」

「じゃ、あんずはこれで~」

「コラ逃げるな!」

「…わざわざ連れ出して、何ですか。と聞くまでもないですよね」

「バグスターの事?」

「ああ、昨日キミ達と別れた後、少し調べてね。
 確かに、バグスターの被害にあっているのはうちのアイドルだけのようだった」

「待ってください、どこでそれを調べたんです?誰も覚えていないのに」

ありすがすぐさま突っ込んだ。

「…前も言ったと思うけど、ボクにはちょっとした協力者がいるんだ」

「例の、白衣の少女ですか?誰なんですか、名前くらい教えても」

「悪いけど言えないよ。…じゃあこれだけ言っておこう、彼女はとある理由でバグスターに追われている。
 ボク以外とは会うつもりは"今のところ"無いらしい」

飛鳥は「今のところ」を強調して言った。

「…つまり、今後会える可能性も」

「まあ、あるんじゃないかな。これでこの話は終わりだ、奴らバグスターはどこに潜んでこの話を聞いているかわからない。
 奴らに関しては分からないことだらけさ、ボクも…彼女もね」

「…だから、あなたは信用ならないんです」

ありすは不機嫌そうに言った。

「一緒に戦ってほしいなんて言いながら、自分の持っている情報は共有しようとしない…そんな相手と友人になんてなれません」

「バグスターに関してまだ解らない事だらけなのは事実だよ…まあ、無理に信用しろとは言わないよ。隠し事があるのも事実だしね」

「開き直ったって無駄ですよ」

「まあまあ二人とも…」

紗南がいよいよ仲介に入る。先の思いやられる関係だ。

「…話はそれだけですか」

「…情報共有のために、連絡先の交換くらいしようかと思ったんだけど、この調子だと駄目そうだね」

「あ、アタシとなら…ほら、アタシとありすちゃんはユニットだから基本一緒にいるし…」

「橘と呼んでください」

仏頂面のありすを置いて、紗南と飛鳥は連絡先を共有する。

「…そもそも、私たちは本来アイドルですよ?こんなことに時間を割かれるのは良くないと思います」

「じゃあバグスターの動きを放置するのかい?」

「っ…そうは言ってません。私は文香さんを守ると決めた…」

「あれ、それ言っちゃっていいの?」

紗南のツッコミに、ありすは「あ」と小さく声を上げた。
飛鳥がフフッと笑う。

「それも"彼女"から聞いたよ。鷺沢さんを助けたそうじゃないか」

「…どこまで知ってるんですか、その"彼女"は」

「さあ?ボクは話を聞いただけさ」

「ともかく、私は文香さん…いえ、ここにいるアイドル全員が私にとって大切な仲間です。それを害するバグスターは、許せません。
 だから、戦います。あなたはどうなんですか飛鳥さん、戦う理由はあるんですか」

ありすの言葉に、飛鳥の顔からフッと笑みが消えた。

「…?」

「戦う…理由、フフッ、さあ、楽しそうだったから…かな」

だがそれも一瞬、いつも通り不敵な笑みを浮かべて飛鳥は答えた。

「…本当に、あなたは信用ならない人ですね」

「…アタシも、特に理由がない…かなあ」

「ちょっと、紗南さんまで!」

「いや…そういうのじゃなくて
 アタシもさ、ここに来ていろんな人やPさんに会って、今までゲームしか知らなかった自分の世界が凄い広がったんだよね。
 それで、それが当たり前になっちゃった、今更もうゲームだけの世界には戻れないもん。…だからアタシは、その当たり前を守るために戦う…って感じ?理由がないんじゃなくて、全部が理由って言うのかな」

「…凄いいい事言ったはずなのに、煮え切らない感じで全然感動しません」

紗南はてへへ、と頭を掻く。

「ともかく!あなたの事はまだ信用してないんですからね!」

ありすは機嫌悪げにずんずんと廊下を先に進む。
と、唐突にその足が止まった。

「?…どうし」

飛鳥は訊ねようとしたが、その理由はすぐに分かった。
廊下の先から、見慣れた一人のアイドルが走ってきたからだ。

「ゼェ…ハァ…」

「…杏さん?どうかしたんですか」

先にルームに帰っていたはずの杏が、なぜか息を切らして走ってきたのだ。

「あ、ありすちゃん…えっとね…ゼェ…えっと…ハァ」

「落ち着いてください、らしくないですよ。杏さんがそんなに慌てるなんて」

「…うん…えっと……なんだっけ?」

ありすはズルッ、と肩を滑らせる。

「もう、しっかりしてくださいよ」

「うん…なんか、怖いもの見た気がするんだけど…よく覚えてない…」

その言葉に、飛鳥がピクと反応した。

(…杏さんは、"適合者"ではないね?)ヒソ

「え?あ、うん…」

隣にいる紗南に一言確認すると、タッ、と走り出した。

「ちょっと!」

ありすが慌てて後を追う。

「…何?なんなの?」

「何でもないよ!ちょっとー!飛鳥さん!ありすちゃん!待ってー!」

最後に紗南が二人を追って走り出す。

「…変なの」

杏は頭をぽりぽりと掻いてそれを見送った。

「…しかし、なんでよく思い出せないんだろう…」

―――…

「っと!」

「きゃっ!」

自分たちのルームに入った途端、飛鳥は仰々しい動きで立ち止まり、ありすは思わずつんのめった。

「もー、二人とも急に走り出して…うわ」

最後に来た紗南が、眼前を見て思わず声を上げた。
ルームの中央に、巨大なオレンジ色のキノコが鎮座していたのだ。
キノコはドクドクと拍動しながら、その根元からオレンジの菌糸を伸ばして部屋中を覆いつくしていた。

「…また、珍妙なバグスターが現れたもんだね」

飛鳥がガシャットをキリキリと回しながら取り出す。

「…これ、まさか輝子さん?」

ありすの呟きに、飛鳥の動きが止まる。

「だよね、キノコだし…」

「…成程、宿主のイメージから形を作り出すのか。よく気付いたね」

「これくらい何度か見てくれば普通に分かると思いますが」

「…っまあ、倒してしまえば一緒さ」カチッ

『デビルズクライ!』デデデーン

ありすも、すこし顔をしかめながらもポケットからガシャットを取り出す。

「…あなたと一緒にやるのは気が進みませんが、輝子さんを助けるためです」カチッ

『パズル&ウィッチーズ!』テテンテテテーン!

「よし、アタシも!」グッ

紗南も同様にポケットから出したガシャットを押し…

「…あっ!しまった、これ普通のガシャットだ!」

今度はありすと飛鳥が同時にズルッと肩を滑らせた。

「何やってるんですか…」

「そう言えばキミのはプロデューサーに取られてたんだったね…あとで見つけておく必要があるな
 今日はボクらに任せて、下がっていてくれ」

飛鳥とありすは体勢を立て直してガシャットを構える。

「「変身!」」

『ガシャット!』
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム!?』

『アイムア…アイドル!』

変身を察知したのか、キノコバグスターがグネグネと身をよじらせる。
するとどうだ、周囲の菌糸が盛り上がり、奇妙な姿を形作っていく。

「なにこれ…気持ち悪いっ!」

「キノコの人形…?妙なものを」

それは細長い四肢を生やした、人型のキノコであった。
キノコ人形は中央の本体を守るように次々に湧き出してくる。

「わ、わわっ!」

紗南はそれらに囲まれないように、慌ててルームの一角へ…その一角、プロデューサーの机周辺だけは何故か菌糸が全く伸びていなかった。

「ふぅ」

紗南は机の下に潜り込むと、一息つく。

「…ぁぅ」

「ひゃああっ!」ゴツン!

唐突に背後から声がして、紗南は驚いて机に頭を打ち付けた。

「いったたたた…」

「ぁああ…すいません紗南さん…うぅ…森久保のせいで…」

「乃々ちゃん…いたんだ…」

「いたんですけど…ずっといたんですけど…」

森久保はいつになく弱弱しい声だ。その体も、いつも以上に小さく縮こまらせて、机の暗がりにすっぽりと埋まってしまっている。

「…もしかして、輝子ちゃんを?」

「ひぅっ…も、森久保は何も見てないんですけど!輝子さんが急に倒れたとか…変なぐにょぐにょに変わっていったとか…見てないです、見てないんです…うぅぅ…!」

「大丈夫だよ乃々ちゃん…皆が助けてくれるから」

「皆…?皆って誰ですか…誰でもいいです、助けてください…」

暗がりで見えづらいが、乃々はぽろぽろと涙をこぼしていた。

「まゆさんがいなくなって、輝子さんまでいなくなって…もう、森久保には頼れる人が…」

「…大丈夫だよ、アタシがここにいるから。ほら、涙拭いて」

「あぅぅ…」

紗南はポケットからハンカチを取り出す。一緒に先ほどのガシャットがコロンと落ちた。

「…あ、そうだ。ねえ乃々ちゃん、Pさんがこれと同じものどこかに仕舞ってなかった?」

「ふぇ?…えっと、そういえばこの前そこの引き出しに…」

乃々はおどおどと机の一番下の引き出しを指さす。

「ここか…鍵が掛かってて開かないや…」

「…大切なもの、なんですか?それ、いつも紗南さんがやってるゲームソフトですよね…?」

「あー、うん、そう。Pさんに取り上げられちゃって…」

「プロデューサーさんが…?そこは、森久保のポエム…じゃなくて、森久保の大切なものが入ってるんですけど…本当に大切なものだから、仕舞っておいてもらってて…」

「じゃあ、鍵とかは?」

「プロデューサーさんがいつも持ち歩いてるんですけど…森久保が頼めば、開けてもらえる…はず……」

「話は聞かせてもらったよ」にゅっ

「ひいぃっ!?」

飛鳥がレベル1の姿のまま、机を覗き込んできた。

「あ…へ…?飛鳥、さん…です…か……?」

乃々が目を白黒させて訊ねる。

「ああ…紗南のガシャットはこの引き出しの中、そして鍵はプロデューサーが持ってる。フフッ、だからここだけ奴らが来れないのか。ガシャットの力を恐れているんだな…
 さて乃々さん、後ででいいから、鍵をプロデューサーから借りてもらってもいいかい?」

「あ、え?」

「ちょっと飛鳥さん…乃々ちゃん茫然としてるよ」

「まあ、この状態で何言っても記憶には残らないんだから、後でキチンと言うよ…フフッ」

「ちょっと飛鳥さん!手伝ってください!」

「はいはい」

ありすの声に、飛鳥が机を飛び越えて見えなくなった。

「え…ぅぇえっ…と?あの…今の、は…?」

「あー…えっとね、話すと長くなるし難しいんだけど…」

―――…

「キリがありません…」

「全くだ、本体に攻撃が届かないね」

飛鳥とありすはキノコバグスターを挟んだ形で追い詰めようとするが、周囲の菌糸から無尽蔵に湧き出すキノコ人形が攻撃をことごとく阻んでいく。

「…ここはひとつ、協力しようと思わないかい?」

飛鳥がひゅっ、とひと跳びにキノコバグスターを飛び越えてありすの傍へ降り立つ。
その間にも銃撃を仕掛けているのだが、やはりキノコ人形が全て防いでしまった。

「仕方ありませんね…」

「キミの魔法で、このキノコ共を蹴散らしてくれ。ボクがトドメを差そう」

「はぁ?あなたの方こそ、その二丁拳銃で道を切り開いてください。私がとどめを差します。私の方が高威力です」

「…全く」

言い争っている場合ではない。飛鳥はやれやれと右の拳銃、青いそれに刻印されたBボタンを連打した。

「抉れッ!」

マシンガンじみた連射が拳銃の口から吐き出される。
部屋狭しと埋め尽くし始めていたキノコ人形たちが、一直線に大きく削り取られた。

「はあっ!」

そこを炎の槍と化した杖を持ったありすが貫く、即座にキノコ人形は再生しようとしたが、間に合わない。
ありすの身体がキノコバグスターの中にめり込んだ。
キノコの表面の波が一瞬凪いだかと思った瞬間、内側から炸裂し周囲にオレンジ色の飛沫を散らした。

「…やっぱり、輝子さん」

その中心でふわりと着地したありすの腕の中で、気絶したように眠る輝子がいた。

「全く、もうちょっと華麗に倒せないものかな」

身体に降りかかった飛沫を掃いながら飛鳥が愚痴る。ありすは睨み付けたが何も言わず、そっと輝子を床に寝かせた。
散らばった飛沫がモゾモゾと動き出し、バグスター粒子となって、部屋の窓から外へと逃げだしはじめる。

「おっと、逃げるつもりのようだけど」

「追います。当然です」

「…終わった?」

紗南がおそるおそる机から顔を出す。

「紗南さん、輝子さんを頼みます」

「え?あ、うん」

紗南が床に寝かされた輝子の元へ走り寄るのと同時に、二人は開いた窓へと走り出す。

「ぁぅ…」

乃々もそろそろと机から顔を覗かせると、ちょうど二人が窓から床を蹴って飛び出したところであった。

「……!?」

「セカンドフェイズ」
「第二ステージ!」

乃々が今まで生きてきた中でしたことがないほど目を見開く中で、二人は空中で同時にレバーを開いた。

『『ガッチャーン!』』
『『レベルアップ!』』

『解き明かせ古代呪文、パズル&ウィッチーズ。』
『DieDieDie!マストダイ!デビルズクライ!』

空中で二人はレベル2へと変化し、プロダクションの正面広場…最初に紗南が戦った場所に降り立った。
飛鳥は片膝を立てた"スーパーヒーロー着地"で、ありすは足元に魔法陣を展開しふわりと…最後に、魔女帽子が彼女の頭にぽふ、と乗った。

「…ヴヴヴゥ……」

二人の眼前で怪人を形作っていくバグスター粒子は、デスボイスのような重低音の唸り声をあげなら二人を睨み付けた。
体中にチェーンやトゲを巻き付け、顔はコープス・メイクのような白黒…さながらヘヴィメタルバンドのメンバーのような風体を持つ獣人の怪物であった。

「オ゛ォ…オ゛オ゛オ゛…」

野獣怪人は狼のような口を半開きにし、涎を滴らせながら唸り続ける。

「言葉も解さぬ獣か…へぇ、こんな奴もいるんだね」

「どちらにせよ、敵です」

スチャ、とガシャコンロッドを構えるありす。彼女の周囲にいくつもの光弾がまたたく間に現れる。

「ヴォゥ!ヴォゥヴ!」

それを見た野獣怪人は低く吠え、片手を地に付けた獣らしい野性的な構えを取った。

「はぁっ!」

ありすが杖を振るうと、光弾は曲線軌道を描いて野獣怪人に襲い掛かる。

「ウオ゛オ゛ッ!!」

対し怪人は、すさまじい速さのスプリントでその弾幕へと飛び込んでいった。

「なっ…!」

目で追うのもやっとほどの黒い弾丸と化した野獣怪人は、弾幕を低姿勢で避けると、ありすへと猛烈なタックルをかます。

「あがっ…!」

「っと…!」

飛鳥が反応したときには、ありすは既に奥の花壇へと頭から突っ込んでいた。

「ハハ…大丈夫かいありす!」

「っつ…平気です!ちょっと出足を挫かれ…っ!」

「ア゛オ゛オ゛ッ!」

花壇から起き上がったありすに怪人は飛び掛かるように追い打ちを仕掛ける。
が、その体が空中でいくつも爆ぜ、怪人は呻き声をあげて横へとそれた。

「全く、無視しないで欲しいね」

ガシャコンデュアライザーを構えた飛鳥が銃口から立ち昇る硝煙をフッと吹き消す。

「…一応、お礼は言っておきます。ありがとうございます」

ありすはムスッとした表情で起き上がる。

「一人では辛い相手だ。フフッ、共同戦線と行こうじゃないか」

飛鳥はデュアライザーのAボタンを押し、変形したクレイモアをブンと振るう。

「相手は高速移動ができる。となれば、当然スタイリッシュアクションゲームのボクの方が適任だろう
 援護、よろしく頼むよ」

「むぅ…」

ありすは不服そうながらも、同様にガシャコンロッドを長杖に変形させて両手に持つ。

「ヴォオ゛オ゛オ゛…」

野獣怪人は変わらずデスボイスじみた唸り声をあげて警戒する。

「さあ、来たまえよ悪鬼(デーモン)」

飛鳥は左手でクイクイと怪人を挑発する。
野獣怪人の足と腕がギリ、と引き締まった。

「オ゛オォッ!」

「ッフ!」

瞬間、ギャイィン!と金属同士がこすれあう音が響いた。飛鳥の振るった大剣と怪人の爪がこすれあったのだ。
火花が散り、二者は距離を取って再び睨み合う。

「はぁぁ…!」

ありすが杖を大きく振るうと、頭上に巨大な雷球が生まれ、

「はあっ!」

返す腕で素早く振ると、蒼雷が怪人を襲った。

「ァウ゛ッ!」

だが怪人はまたも目にもとまらぬスプリントでそれをやすやすと回避、飛鳥と再び打ち合った。

「そんな!」

「全く、何をしてるんだい」

飛鳥は怪人と鍔迫り合いをする。ギンッ!と剣の向きを変え、鍔に銃口を怪人に向け、トリガーを引いた。

「ガァッ!」

不意の銃弾を喰らった怪人がたたらを踏む。

「ハッ!」

飛鳥はその隙を付いて怪人に横なぎ一閃。更に一歩踏み込んで…

「…はああっ!」

「っとお!?」

足の止まった怪人めがけ、ひときわ強力な蒼雷が落ちた。飛鳥が慌てて一歩引く。
その主は他でもない、ありすだ。頭上の雷球に湛えられた雷が全て怪人へと注ぎ込まれる。

「おい!危ないだろう!」

「援護をしろと言ったのはあなたでしょう!」

「邪魔をしろとは言ってない!」

「ッガア゛…」

バチィッ…と音を立てて雷が消えると、ぶすぶすと煙を上げて野獣怪人は膝をついた。

「…っ!トドメは私が!」ガッシューン

「いいや、ボクがやるね!」ガッシューン

二人は同時にガシャットを引き抜く。ありすはキメワザスロットに、飛鳥はクレイモアの柄先にそれぞれ差し込んだ。

「っはぁぁ…」

ありすの足元に魔法陣が現れ、その体がふわりと宙に浮かぶ。
更に魔法陣から極彩色の光が彼女の足へ移っていく。

「フゥゥ…」

飛鳥は大きく息を吐いて、黒炎を纏うクレイモアを構える。

『ウィッチーズ・クリティカルストライク!』
『デビルズ・クリティカルフィニッシュ!』

「たあああああっ!」
「セヤァァァァッ!」

ありすはそのまま上空からの極彩色キックを、飛鳥は滑るような踏み込みからの一閃を怪人へと見舞った。

「オ゛オ゛オ゛オオオオォォォ!」

地面を震わせるような雄叫びを上げて、野獣怪人は01粒子となって爆散した。

「…よし」

「フゥ…」

同時に立ち上がる二人。一瞬顔を見合わせると、フン、と互いに鼻を鳴らして顔を逸らした。

「まさかキミがここまで不仲を引っ張るとは思わなかったよ」

「あたなこそ、自分の本心を打ち明けたらどうですか。あまりにも隠し事が多すぎます」

「まだ言うべきじゃないだけさ。タイミングというものがあるんだ」

「なら、そのタイミングはいつですか」

「おーい、二人とも―!」

第三者の声に二人が振り向くと、プロダクションビルの入り口から紗南が走り出てくるところだった。

「紗南さん…輝子さんは?」

「乃々ちゃんが見てくれてるよ。でも、何ともなさそう…どうしたの?難しい顔して」

紗南が飛鳥の様子を見て訊ねた。

「…別に、何でもないよ。そうだ、キミのガシャットを取り返しておかないとね」

飛鳥は腕組みを解いて、何事もなかったかのように話を逸らす。

「うん、さっき乃々ちゃんにお願いしたよ。プロデューサーさんと会ったときに開けてもらって、一緒に取り出しておいてって」

「仕事が早いね、助かるよ」

「へへっ、それほどでも」

「……」

飛鳥と紗南が並んで歩きだすのを、ありすは後ろからしかめ面で見ていた。

「…ダメです、私はアイドルなんですから」

そんな自分に気付いたのか、ぺしぺしと頬を叩いて自分を叱咤する。

「…こんな戦いが、いつまでも続けられるわけありません…」

ありすは再び、飛鳥の後姿を睨み付けた。

「早く終わらせるためにも、飛鳥さんには全部喋ってもらわないと…」

そして、二人を追うようにビルの中へと入っていった。


To be continued... See you next Game.

第四話は>>75からです。

平成ライダー序盤でおなじみの不仲ライダーズが顕著な4話です。エグゼイドもあの調子では協力し合うのはずいぶん先そうですねえ
しかしタイトルが仮面ライダーサナなのに紗南ちゃんが1話から戦闘どころか変身すらしてません。ノリと勢いでタイトル付けたからこういう事になる。

4話まで進んで、設定なんかはずいぶん固まってきました。大筋のストーリーも出来てきたので筆がそこそこ進みます。
これからもよろしくお願いします。

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