【モバマス】自由への失踪 (17)

書き溜めあり

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この手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないかも知れない
なーんて書き出しを一度で良いからしてみたかったんだ
どうどう?びっくりした?
心配させちゃったらごめんねー♪


そんなふざけた書き出しに少しほっとした自分がいる
失踪癖のある彼女のことだが、こんなに大掛かりなものは初めてだった
それでもこうやって尻尾くらいは掴めた
彼女のプロデュースをしてもう2年
こんなことに慣れてきてしまっているのはいささか不満ではあるが

やっと見つけたこの手がかり、一文字たりとも見過ごさないように丁寧にめくっていく

この手紙を見つけられるなんて凄いね!
まさかここまで見つかってしまうとはー!
キミならそのままあたしまで辿り着ける、かも知れないね
ま、そんなこと無いように逃げてるんだけどね


余計なことを…!
お前が本気で逃げるってなったらどこにいるかなんて検討がつくかよ…!
ここだってライブを見に来てくださった親御さんから必死に聞き出したんだぞ
その親御さんともお前は入れ違いなわけだが…
それが無かったらこんな山奥の別荘なんて辿り着けねぇよ

文章で見ると一層軽薄な彼女の口調に少し苛立って手紙をめくる手が乱暴になっていく

ところで、さ
あたしが逃げ出した理由って、プロデューサーはわかってるのかな?
普段の失踪?
いつものきまぐれ?
ここに来たってことは気がついてないのかなー
ちょーっとご立腹かも


逃げ出した理由?
普段通り、ってわけじゃないのかもな
確かに今までお前がライブ直前に逃げ出すなんてことは無かったさ
でもどの仕事でも一度は逃げ出したことがあっただろ?
撮影でもラジオでもテレビでも
基本的に森久保といたから簡単に見つけられたけど、な
今回は何か違うっていうのか?

きっとキミがわかって無かったら「今回は何か違うっていうのか?」なんて言ってるかもね
でもそれくらいは自力で気がついて欲しかったなー
だから、ヒントと答えをあげる
3枚めくったら答えがあるよ♪
そこまではヒントだから出来れば一生懸命に考えて欲しいな


ヒント?答え?こいつは何をまた悪ふざけを…
いや、このくらいなら付き合ってやるか
どうせいつも通り見つけて欲しくてやってるだけなんだろ?
だから俺は慌てずにお前のことを知っていくぞ?

少し落ち着いて、まずは1枚目をめくってみる

にゃーっはっは!
ここを見てるってことはわからなかったんだね
残念だなーもー
ま、言っても仕方ないよね
だからヒントその1!
あたしがギフテッドだって話はしたよね?
どんな才能だったんだろうね?


そのくらいは知っている
化学薬学に優れたアイドル
そんな売り出し方をしていたんだ
それ以外にも圧倒的な才能を見せていたが何よりの得意分野はそこだった

なんだ、こんなものか
たったの2年とはいえこの程度なら知っている
ただのファンだって知っているだろう
俺はプロデューサーだ

2枚目に手をかける

このくらいは知ってたかな?
それじゃあ2つ目!
ライブに来たあたしの母親はどんな仕事してるか知ってる?
あたしの才能をどんな目で見てきたか知ってる?
そして、あたしの父親はどうなったと思う?


母親の職業?
さすがにそこまでは俺の知ることの出来る範囲じゃない
が、これだけの豪邸を別荘にしていてお前の留学を許すんだ
かなり金はあるんだろうな

父親がどうなったって…亡くなっていたのか…?

答えがわからず3枚目に手を伸ばす

知らなかったかな?
それじゃあ最後のヒントね
あたし、今までおでこ出す髪型だけは断り続けたよね
なんでだろうね?


そりゃその髪型にこだわりが…いや、無駄なことを書いてこんがらせるようなことはあいつならしない
何か意味があるはずなんだ…
どんな…

正直、何もわからない
そんなことより…担当だったのにわからなかったそのことに腹が立つ

答えに手をかける

にゃはは、わかって欲しかったなんてワガママかな

うん、あたしの額には痕があるんだ
本当に小さい頃のものでもうほとんど消えちゃってるんだけどね
…うん、理由はわかるかな?
察しが悪いキミにはちゃんと言葉にしないとダメかな
信じたく無いかも知れないけど母親につけられたものだよ

そりゃあ自分の分野で幼い自分の子供に負けたら嫌だよねー
母親の気持ちだってわかるつもりだよ?
まあそれが悪かったのかも知れないけど

海外留学だって、そんな親から逃げるため
とはいえあたしだからね
向こうで安寧を手にしたら…飽きちゃった♪
だから日本に帰ってきてアイドルやって


そのページだけは文が途中で切れるほど書き込まれていた

こんなこと知らなかった
志希にどんな過去があるのかなんて全く聞いたことが無かった
海外にいた期間のことなら聞いたことはあったが家出中だと言っていた家庭のことは、何一つ話そうとしなかった
こんなの…プロデューサー失格じゃないか

震える手で続きをめくる

楽しんでたんだけどね
まさか突然ライブに母親が来ちゃうなんてね~
今までキミも突っ込んで聞いてこなかったからさ
自分の中では親のことも前向きに捉えられてた気がしたんだけどさー
挨拶に来るなんて話を聞いちゃってさ
情けないんだけどね、逃げちゃった

ごめんね

それが本当ならトラウマである親の記憶が付き纏うこの別荘なんかに志希がいるわけがない
なんで気がついてやれなかった
あの志希が話そうとしない話題なんだ
何かあるに決まってたのに

手紙を手に取りその広い部屋を飛び出し階段を駆け下りる

冷たい廊下を走りながら続いてたもう1枚に目を通す

ねえ、自由になるときってどんな時だと思う?
あたしはね、あの人に見つかってるんじゃないかと思うとね、縛られてる気分になっちゃう
きっと父親も同じだったんだね
だからあたしも同じようにあの人から自由になるために失踪するんだ

会いたいのは本当だよ
会いたくなくて、消えちゃいたいのも本当なの
そんな矛盾をかかえた志希ちゃんは
泡になって消えちゃうんだ

歯を強く噛み締めて脚を動かす
どうしてこんなに追い詰めた
どうしてこんなに苦しめた

彼女の親以上に自分に悪意の矛先が向く

手紙を読んだ今なら当てがある

スタッフも所属アイドルも駆り出されて志希の捜索で混乱してる女子寮のその一室
無骨なネームプレートのかけられた一ノ瀬志希の私室
思い切り開けはなつと中からは嗅ぎ慣れた香水の香りを強く放つ蓋のないビンとそれに抑えられた一枚の紙切れ

手に取ると一言



当たり。だけど、遅かったね



ただそれだけ
濡れて滲んだ言葉がかかれていた

終わりです
html依頼だしてきます

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