高垣楓「お祭りと言えば?」 (63)

今日は花火大会……なんですが、人混みの中を出歩くのは危険とのことで……

事務所の中で静かにしていることになっています。

ヘリコプターからの中継があるからといってそれで満足できるかと

訊かれれば実はNOなのですが……私がアイドルとして売れてきてしまったので
仕方がない事ではあります。

仕方がないと言っては失礼ですね、頑張ってもらっているプロデューサーに。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1470900335


 事務所の大きなテレビで映っているのは実に美しい花火です。

 ここからじゃ辛うじて音だけが聞こえるという状況ですので一緒に見ているフレデリカさんも喜んでいるようです。

尤も、フレデリカさんは画面に映る花火よりも目の前の食べ物に夢中なんですけどね。

 フレデリカさんは私の向かい側のソファに坐り、様々なお祭り食品を物色しています。

私のプロデューサーが買ってきてくれた屋台のお好み焼きや、たこ焼き、綿あめ。

お祭りに行けない私たちを気遣ってくれているのが良く解って嬉しくなります。

 でも、こうしてもらえると実に私が天邪鬼なのでしょうか、お祭りに対する憧憬がより一層強くなってしまう気がします。
 

「いやー楓さん、このたこ焼き美味しいよ? 私が作るより美味しいかも、作ったことないけど」

 私が何も手を付けていないことを見咎めたのかもしれません、フレデリカさんが声を掛けてくれます。

あまり話したことがない私と、よりによって二人きりというのは彼女にとって負担だといけないなと思いましたが、

彼女を見ているとそんなに気にしている様子が無くて私としても心が重くならなくて済みます。

「たこ焼きもいいですね、私も好きなんですよ、たまに大きなタコが入っていると嬉しくなりますね」

「ですよねー、逆に入っていないのに当たっちゃうと残念! みたいな」

「そうですね、入ってないのに当たりっていうのもおかしいですね、フフフ」

 私がしょうがない事を言うと、彼女は多くの人がする愛想笑いはせずに、

「フフフ、代わりにお祭りの楽しい空気が入ってるかもっ」

 私は考えたような事が無かった台詞が飛び出してくる。

「……っそうかもね、フレデリカさん」
 他のアイドルのみんな用に沢山買ってきてもらっている(おそらく経費?)けれど、今日は余り人がいない。

だからまぁ、必然的に私たちがまあまあ食べてもよいということになっているのですが、

ちひろさんがニッコリとしながらエナドリを持ってきてしまうので食べ過ぎはよくないでしょうね……。

そもそも胃もたれなんかにエナドリは効くのかしら?

「鰹節って薄いのに魚の味がしますね、元が魚だからかな?」

「さ……かな?」

「そうかな? っていいたいんですか、ちょっと無理ですかねー☆」

 キャッキャと笑う彼女の細くなった目が柔らかく私を見つめてくれるようで、心安らぐ。

「アタシ、お祭りでしかたこ焼き食べないんですよねー」
「私もそんな感じですね、そもそもそんなに食べる機会ないですからね」
 
 まだ温かいたこ焼きを彼女に差し出されて漸く私も口に入れ始めた。

ソースとマヨネーズとそれに濡れてクタクタになった鰹節を噛むたびに歯がギリギリとする。

そうして染み出る酸っぱさやしょっぱさが柔らかい小麦の生地にまろやかに溶け込む。
 
 少しぐらい濃すぎる味の方が実はたこ焼きには合うのかもしれない。


「たこ焼きに詳しい人いましたよね346に、まぁ、名前知らないんですけど」

「えっ……どうでしたかね……、そういえば関西出身の方がいらっしゃったと思いますから、その方なら知ってるかも」

「なるほどー! アタシ、大阪人の9割の家にはたこ焼き器があるって聞きました」

「残りの1割は?」

「空き家なんだって☆」
 
 二人でたこ焼きをまだ口に入れているのにも関わらず咽てしまいました。危ない危ない。


「大阪の人のたこ焼きに関する情熱は半端ないって聞きますね」

「そうなんですか?」

 私の出身は和歌山で、まあ、どちらかというと関西に近いですが、大阪の習慣にはなにぶん疎いもので……。

「なんでしょう、ご飯のおかずにするらしいです」

「そうなんですか?」

 さっきからそうなんですか? としか言ってない気がしますけど、そこは克服したいと思います。

フレデリカさんと話すとどうも私……うーん、自由奔放すぎて付いていけない?


「マジらしいですよ、アタシはしませんけど」

「そりゃ、フレデリカさんは大阪の人じゃないですしねぇ」

「そうです☆ でもお好み焼きとご飯は美味しいですね」

「えっ、たこ焼きと同系統なのに?」

「あ、確かに! じゃあやめようかなぁ……」

「フフフ、お好みにどうぞ」

たこ焼きは粗方食べ終えて、今度出てくるのは……(フレデリカさんが主に興味の惹かれるものをチョイスしているようです)あれです、

イカ焼きです。串に刺さったあのイカ焼きです。

「タコの後はやっぱりイカって気がして」

「イカはいかが?ってね」

「楓さん冴えてるぅ」

「どうも薄皮が噛みきれないですよね」

「そうねぇ……串に刺さっているから余計に」

私とフレデリカさんは少し女性がするには恥ずかしい表情をしながら丹念にイカを、串に刺さったイカさんを食べていきます。

 ビリビリと紫色の薄皮を噛み破ってようやくピンク色の身を噛み締めると醤油に付け込まれたことが分かる味が口いっぱいに広がります。
 

「……」
「……」

 ええ、不覚でした、イカの頭の三角になっている所だけをひとまず口に入れればよかったんですけど、

二人とも欲張って深く口に入れてしまったものですから喋れません。

 向かい合って座っているのでお互いがイカをムグムグと咀嚼している姿を延々と見る事となってしまいました。

今更目を逸らすのもなぁ……というのがどうやらお互いの共通認識だったらしく、

なぜか一口がひと段落するまでずっと私はフレデリカさんのヒスイ色の瞳を見続けることになってしまいました。

 彼女も私の眼をずっと見ているので、どうもくすぐったいような気がします。

ごくり。とようやく呑み込めた後に二人で笑ったのは言うまでも無く、また、欲張らないように気をつけることとなりました。
 



「やっぱりビールが欲しいですか、楓さんは」
「ええ、でも私はどちらかというと日本酒の方が好みですね」
 この濃い醤油味のイカにはどちらが合うでしょうか? うーん、ビールも合うかもしれません。

苦味と醤油の塩辛さで引き立てられたイカの身の甘さが丁度よいかも。

 日本酒ならば、ツンとした辛みがイカの魚介臭さと合うかもしれませんね。

お料理にもある組み合わせです。魚介と醤油とお酒。

今はどちらかというとリラックスしたいから、日本酒かしら。

「うーん、プロデューサーはお酒買ってきてくれませんでしたからねー」
「……そうなのよねぇ」

 勿論屋台としては出ているのでしょうけど、未成年の子ばかりがいるので買ってきてはくれなかったのです。

道理は解るけれど、少し物足りないですね。
 
「まあまあ、これでも飲んでくださいな」
「あ、ありがとう」

 渡してくれたのはラムネ。あの押し込んで開けるあのラムネ。
 まだまだひんやりとした瓶はしっとりと濡れている。


「これ失敗すると、面倒なんだよねー、だからやってくださいっ!」

「えっ私のじゃないんですか」

「いやいや、こっちにもありますから、そうだっ、アタシが楓さんの分開けますから」

「結局自分で開けられるじゃないですか」

「あーっ確かに」

 そういうと、押し開ける為のプラスチックの器具を思い切りよく使って開栓した。

 静かな水面を保っているラムネ瓶を私に掲げて「ほらっ! 吹き出なかったですよ!」とキラキラした眼ではしゃぐ。

「ラムネって何味なんですかねー? うーんラムネ味?」

「そういえば知らないかしら、きっとお菓子のラムネは後に出来たかもしれないですね」

「あー、ガリガリってするラムネですねー、あれ別にラムネっぽくないですよね」

「そうねぇ、どんな味って訊かれたらラムネって答えるしかないですね」

「ブルーハワイもそんな感じですね。何味かわかりませんっ!」

「あー」

「まぁ両方青いですけどっ☆」

 キュピキュピと喉を鳴らしてラムネを飲み干す。
「あ、でも、ラムネは透明でしたね」
 付け足すように言う彼女は真面目なのかしら?

 もうそろそろ中継でも花火が終わりに近づいてきていると言っているわ。
まだまだ食べ物は残っているのに。

「花火って終わりの頃に凄く打ちあがりますよね」
 フレデリカさんが私の隣に移ってきた。

「こう、一瞬静かになって、その後からヒューッって上がるんですけど、焦らしてくる。そして一気に何連発も来るんですよねー」

 ヒューとか擬音の度に白い手を振り回して解説する彼女の一生懸命さを感じて私は笑う。

「そうですね、一気に明るくなって、もう一つの塊の様になってしまって最早花の形じゃなくなっていくのもまたいいですね」

「もう、稲的な感じですね、モサモサ感が稲。アタシはパン派ですけど」

「パン派なんですか」

「あ、でもお好み焼きにはご飯です」

「そのネタがまた来るとは」

 駄目だ、フレデリカさんと話すと私が突っ込み役になってしまう。
いや、いっつもボケを狙って遣ってる訳ではないんですけど、どうも頭の回転速度が私より早いらしい。


「……終わっちゃいましたね」
 ヘリが空を映すのを止めて、駅周辺の混雑具合に焦点を当てている。

黒い塊がぞろぞろと駅に向かって一意に進んでいる様は実に奇妙で、大群衆は一つの生き物の様に見えた。
「そうですね」
 と私は答えてぼうっと画面を眺める。

「楓さんお疲れ?」
「ん? うぅん? ただなんかぼおっとしちゃって」
「わかるよーわかる」

 彼女は私の隣にぴったりくっついて、身を委ねるといった表現が似合う格好にになった。
「アタシも疲れちゃったなー、一緒に寝る?」

 キラキラとした瞳が私を見つめる。細く柔らかそうな髪の毛が私の腕に絡む。
「うーん、じぁあ少し?」

 そういうと彼女は猫の様な表情を浮かべて、本格的に私の腕を取って体重を預けてきた。

暫くするとすうすうという、か細い寝息が聞こえてくる。

 その寝息がちょっぴりソース臭いのもまたいい。あ、もしかして私もかしら。

 娘を持つってこういう事なのかしら? いや、まだフレデリカさんは私の妹ぐらいだから……多分。

 私がこの子ぐらいの子を持つようになるなら、もう大分おばさんになってしまうのね。

 なんて、悲観的になることはないかなって。私も少し眠ろうかしら。

お祭り編 fin




 

一応、知ってるかもやけど
メール欄のとこにsagaって入れとくといいよ

もし何かリクエストがあれば書こうかなと。

>>26 こうですかわかりません><
 すっかり忘れてました。ありがとうございました

//遅れてすまんな、遅筆なんやで



「あ、楓さん……ゴメンナサイ……ずっと寝ちゃってましたかアタシ?」
 フレデリカさんが目をこすりながら私を見上げる。

「ずっとって程でもないわ、一時間位かしら? 大丈夫ですよ」
 実を言うと少し太ももが痺れて来ていたので、起きて貰って嬉しい。

「ありがとうございました。他のみんなは未だ戻って来てないんですか?」

 彼女がきょろきょろとしているのですが、私の膝で眠っていたからでしょうか、
細く柔らかな髪に癖が付き、首を振るたびにその絡まった髪がより乱れていきます。

「……んっ、楓さん、もぅ」
 私は気が付くと彼女の頭を指で梳り始めていました。

 始めは驚いていたようですが、そのうちに彼女は私に向けた背中を伸ばしてくれました。

 本当に柔らかい髪ね、と言うと彼女も「フフフ」と息を多くからませた声で、そんなこと言われたの初めてと笑った。

「もう、どうしたの楓さん」
 不意にこちらを向く。
「えっ、ああ、いや、なんでもないわ。ただ本当にきれいな髪の毛だと思って」

 そうかな? と彼女は私の方に向き直った。そして左手で私のサイドの髪に触れ、そしてその白い指で髪の中をくすぐった。

「楓さんのほうがいいかな? 力強いの。アタシのはなんていうか、弱い?」

 彼女は自分の髪と私の髪をそれぞれの手で触りながら比べていた。
 小さく首を傾げながら真剣に指先の感覚を鋭くさせている。

「そうかしら? 考えたこともなかったけど……」

 アジア人の髪は欧米のものと比べると太いと聞いたことがあるけど、本当にそうなのね……。と思っていると。

「あはっ、そうなんだ。アタシも考えたことないなー」
 とあの満面の笑みを浮かべ、その白い歯をのぞかせた。

「髪は女の命? っていうけどアタシはあんまり気にしてないかな?」

「そんなにきれいなのに?」

「そう、天然なの!」

「……それは、またちがう髪型になっちゃうわよ……」

「あー確かに。くるくる?」

 ひとさし指で彼女はみづからの髪を絡めた。白い肌にその金色は余りにも眩い。

しかし巻きつけるには余りにもその髪は短かった。

指がその髪を捉えようとするたびに、最後の一巻き分がその指から勢いよく逃れる。

「ダイヤルを回す? 感じね」
 私が言うと

「ダイヤル? を回す……?」
 回ったのは彼女の頭のクエスチョンマークだったらしい。

「電話のダイヤル……なんだけど、まぁ、私が小さい頃に実家にあった電話なのよ。こう、ボタンじゃ無くて、ダイヤルがついてたの」

 
 じーごろ、じーごろと口で言いながらダイヤル電話を掛ける真似をしたらようやく掴めたようで、

「あああー『ダイヤル、回して、手をとめーたー』ってやつでしょ! あー昔見たことあるかも」
 緑色の目をよりパッチリさせながら……どうやら思い出してもらえた様ね。


「そうそう、それよ。黒電話っていうのが主流だったのよ……といっても私が4歳ぐらいまでだから……
まだ21年しか経ってないのね……というか余裕でプッシュホンあった時代なのに何で黒電話使ってたんだろう」

「アタシは全然みたことないなー、まぁ、あっても覚えてないかも」

「ぐっ、何故だか私がおばさんになってしまった気分ね」

「大丈夫ですよーまだまだ。あ、でもアタシは19歳で、楓さんは25歳かー、うーん6歳だから大丈夫、大丈夫」

「そっか、まぁ考えてみたらね? そうね」

「でも6年もあると大分流行は違うかも」

「あー、確かにねぇ」

「ねぇ、楓さんが小学生の頃、何が流行ってた?」

「うーん、ちょっと待ってね、小学生の頃の記憶が微妙でね」

「まさか、小学生の頃からお酒飲んでて記憶があいまいだとか!」

「いゃ、そうじゃないのよ、うーん6年生ぐらいの時に、あ、千と千尋の神隠しが人気だったと思うわ」


「あー、知ってますよ、昔dvdで見ました、良く覚えてないけど? えっと……お父さんとお母さんが豚になって、女の子が竜の背中に乗る話?」

「……だいたいあってる。かもしれないわ……」

 私も正直覚えてない。お風呂に入ってお酒を飲んでるのがとっても気持ちよさそうだったなぁって
あのころから思っていたのよね。今では出来るようになったけど、本当にいいものです。


「あ、あとへぇボタンってのがあったわね……」

「へぇ、ぼたん?」
 へぇ の所で目をまあるくし、ぼたん で首を傾けた。
「雑学番組で、『へぇー』って思ったら押すボタンよ。へぇへぇって鳴るの」

「……ぅーん、それって面白いんですかね」

「当時は面白かったのよ……多分」

メロンパン入れになってまーす。っていうのも今じゃ面白さはよくわからないわね。

「アタシが12歳ごろだと……うーん、まぁ色々あったんじゃないかな? 覚えてないけど」
 私より思い出しやすい筈だと思うんだけど。

「あ、子ども店長がいた☆ そうそういた」
「ああああ……いたいた、クルマのCMの」

「そうそう、店長さんって凄いなって思ったけど実は店長さんじゃなかったんだねー」
 キャハハとはしゃぐ彼女はきっと12歳から変わってないのではと思った。

「あと、本が流行ったかな? 1Q84とかいうの」
「あったわ、ってそんな昔だったかしら」

「たしか、そう、本屋さんのおススメで買った気がする」
「あれって12歳が読むには難しくなかったかしら?」

「んー、パパに寝る前に読んでもらったけど、良く眠れたよ」

「難しかったんだね……」

「うん」

あ。そういえば。

「蘭子ちゃんが主題歌をカバーしている映画があったわ。私が12歳の頃」

「え、なになに?」

「黄泉がえり ね。熊本が舞台なの」

「あー『あいたーいと、おもうきもちーがー』って」

「そうそう。これは確か映画館で見たわ」

「いい映画だった?」

「うん、死んでしまった恋人ともう一度会えるって……でもまた消えてしまうみたいな映画だった筈」

「うーん、アタシはまだそういう人はいないなー、パパが死んでしまっても生き返ってほしくないし」

「そうなの?」

「うーん。確かにアタシはさみしいけど、パパは天国で気楽にやってるのに呼び戻したら可哀想でしょ?」

「フフッ、フレデリカさんは優しいのね?」
 私はそっと彼女の頭をなでる。

「んふ? 楓さんも優しいでしょ? 頭を撫でてくれてる」

「これは私がしたいからしてるの、優しいからじゃないわ」

「ならもっといいね☆」

「?」

「アタシがしてもらいたいことが楓さんのしたいことなら、どっちも我慢せずにいられるね!」

「……もぅ、あなたってば……」

 彼女は私に背を向けた。それは拒絶では無く、信頼を伴って。
 彼女は私に背を向けた、いや、私に背中を預けたと言った方がいいのかしら?

ジェネレーションギャップ編fin

//1です、何かリクエストありましたらどうぞ あと1はこんなくっさい文章しか書けんから勘弁やで

私が酔う事は滅多にない。こんなに細い体をしているのに酔わないというのはきっと肝臓が人一倍強いのかもしれない。

 それでも少しばかり今日は呑み過ぎたかもしれないわ。顔を帽子と眼鏡で隠して個室の居酒屋で一人で飲むお酒は進み過ぎるきらいがあるもの。

 今日はプロデューサとも一緒に居られなかったし……私以外も担当しているのだから仕方のない事なのだけど……。

 いつもはお酒を飲んでいる時には弄らない携帯電話を机の上においてぼぅっとランプが灯るのを心のどこかで期待して、

冷たい氷を唇にあてた。カラン、と音を立ててグラスの中の積み重なった氷が崩れる。

画面が明るくなった。ああ、サイレントモードだと画面も灯るんだった、と思って、

私は携帯を触らず、眺めていた。

 「E-mail 受信」とポップアップが出る

……ああ、プロデューサだなと。いまどきE-mailで送ってくるのは彼だけだと。
私は業務連絡だったら大変だと、素早く手に取った

 彼の淡泊な文章には慣れているけど。

殆ど定型文のようなやり取りしかしていないことに少し不満を抱きながら、返信した。
 

 もう眺めることもないだろうと鞄に仕舞い込もうとしたとき、また画面が明るくなった。

今度は何だろうかと見ようと思っていたら

「もしもし?」
 私は咄嗟に出ていた。

「あ、楓さん? アタシ、フレデリカですよー、前に貰った連絡先初めて連絡しちゃいました」

「初めてじゃないじゃない」
 一週間に何回かメッセージを交換する仲

「声は初めてかなって」
 ああ、なるほど。

「今日は直ぐにオフだって聞いたから掛けてみた、迷惑でしたか?」

「ん、そんなことないわ」

「おひとり?」
 ……わるかったわねー。

「ん、そうだけど……」
 どうせなら。と思った。

「フレちゃんも来る?」

通話が終わってから未成年を居酒屋に連れて来ても良かったのかとか、

呼んでもあんまり話すことはないだろう、とか今の精神状態だとどうだろうかとかグチグチ考えてしまったけれど、

もう呼んでしまった事は仕方がない。

 ここは幸いお酒以外の食事も美味しいし、そういう用事で呼んだのよ。うん。

「やっほー、来ちゃった」
 数十分後、彼女は来た。
薄暗く、細い廊下を抜けて私の所へ来た。

 行燈風の照明の柔らかい光が彼女の髪に当たって、

彼女の立っている場所だけほんの少しだけ明るく見える。
 

「あれっ、沢山飲んでるんですね」

「ん?」
 ああ、空いたグラスが一時的に溜まっているのを見られてしまった。

「空グラスが沢山あるこーる なんちゃって」

「酔ってます? まぁ、いつもと変わらないですけど」

「まったくぅ、私はいつもキリッとしてますよ?」

「今もじゃあキリっとしてますよ」



「……ん、それって今もいつもも酔ってるってことじゃない結局」

「いつも変わらない楓さん素敵」

「あ、ありがとう」

 彼女は良く解らないこのお店オリジナルのミックスジュースと謎の料理を頼んだ。

最初「甘い物食べようかなー」っと言っていたのに頼んだのは魚介系だったのは謎だ。

「今日は楓さんオフだって聞いて」
 料理が来るまでお冷のグラスを私のするようにくるくる回す。

「オフっていうか、急にね。それで、プロデューサにもう帰って大丈夫ですみたいな」

「あー、急に時間あくと困っちゃいますね」

「そうなの。遠くに行こうとも思ったけど、なんか気が進まなくてね」

「で、ここで三軒目とか?」

「それは、ないわ」
 そう、4軒目だから。

「何か、いつもより酔ってるから」

「だがらーいつもは酔ってませんー」

私が駄々っ子の様になってしまう。

くいっとグラスを飲み干すと気道に不意に流れ込んだ。

「もぅ……大丈夫?」
「平気平気」

「はい、もうお酒は中止ね、これからはお水を飲みなさい」
 丁度空になったグラスを取り上げられて、その代りに彼女の飲みさしのお冷が渡された。

「いけずねぇ」
 渋々私がそれを飲むと彼女は満足そうに微笑んだ。

「まあね、アタシはイケてるいけずなの」

「なんなのそれ」

そんなこんなしているうちに彼女が頼んだ謎魚介料理と謎ジュースが来て、親切にも取り分けてくれた。

「なんだろうね……これ」
 まず、見た目が青い、真っ青な料理というものは経験がない。

「パーフェクトブルー」
 彼女はそう歌いながらニコニコと何も気にせず口に運んでいる。

「うーん、ブルーハワイかな?」

「ブルーハワイパエリアってどうなのよ」

「楓さんもブルー?」
 彼女が何気なく発言した。

「わ、私? なんでよ」
 今までプロデューサのことを考えてて憂鬱だったことを見抜かれているのかと思った。

「ん? ブルーじゃないの? じゃあ違うのかな?」

「そうよ、違うわ」

「ブルーと言えば、楓さんは緑色が好きなんですか?」

「ブルー? ……ああ、青か、なるほど、うーん、嫌いでも好きでもないけど、
確かによく着ている服は緑色が多い気がするわ」

「ええ、アマゾンの様に緑かな」

「アマゾンって何よアマゾンって」

「安らぎの色的な?」

「あー、安らぎは欲しいと思ってるわ」

「今、安らげてますか?」

「え……?」

 彼女に目を向けると、彼女はいたって普通の表情で、異常な料理を食べていた。

「あ、間があった」

「そ、そりゃフレデリカさんと一緒だもの、安らげてるわ」

「そう? 良かった。安らげないと何のためのフレデリカか解んないねー」

「安らぎ担当なの?」

「んー、アタシは元気だよ」

「そうだね、フレデリカさんを見てると元気になれると思うわ」

「本当に?」

「本当よ」

「ありがとう」

「そう、忙しいのはわかるよ、アタシの為だってのもわかるの。でもねー女の子は構ってくれないとすねちゃうんだから」
 頬をぶくっと膨らませてストローでジュースを吸う。紫色の液体が吸い上げられている。

「フレデリカさんも可愛い事言うのね」

「そうかなー、アタシ可愛いかなー、まぁ、それはともかく、楓さんもプロデューサーに構って貰えないとすねますよね?」

「すねる……ねぇ、寂しくはなるけどすねはしないわ……っ多分」

「ホントに? うーん、すねないの? すねちゃいましょうよ」

「すねちゃうの?」

「だってあれじゃないですか、すねないと分かってくれないですよ」

「んーでも……迷惑でしょうに」

「それは、まあ、確かに。でも『アタシ大丈夫』みたいな感じだと大丈夫なんだな、って思われちゃう」

「たしかにねえ……」

「『アタシも頑張ってるから見てっ』って」

「頑張ってるから見て……か」

「勿論、プロデューサーは見てくれてると思うよ。だけど、口に出して『フレデリカはいいな』って言ってほしいの」

「そう……そうだね、私もそう思う」

「やっぱり?」

「うん……」


こほん、と咳払いをして
「楓はいいぞっ」
 フレデリカさんが私に言った。いつもの声を低くして。

「あ、ありがとう」
 正直似てなかったけれど、私にはとても嬉しかった。

次の日
「あ、プロデューサおはようございます」

「おはようございます、高垣さん、今日の予定なんですけど」

「あ、あの、プロデューサー!」

「あ、はい?」

「よかったら『いいぞ』って言って貰えませんか」


 fin


1 だが、楓さんは酔わないだろう。 もし酔ったふるまいをすることあらば、それは皆策略に思える。

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