青山ブルーマウンテン「うふふ、人間椅子です」 (28)

※注
当SSは、江戸川乱歩「人間椅子」を題材に作成しております。
人間椅子を未読の方で、話の筋などを知りたくないという方はご注意願います。
また注意するまでもないと思いますが、当SSに登場するキャラは「ご注文はうさぎですか?」のキャラです。

※注2
江戸川乱歩の作品と聞いて恐い話をイメージする方もいらっしゃると思いますが、人間椅子はそんなこともありません。
当SSも恐い話ではなく、青山ブルーマウンテンさんが女の子たちを、……愛でるSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1469080775

「ああ、スケジュール!スケジュール!!スケジュール!!!締め切りに追い回される生活はもうコリゴリです!!!!」

「私はこれでもクリエイターなんですよ!時間に十分な余裕がなければ良い作品はできません!!やってられません!!!」

「バカー!トンカチのバカー!!ハサミのバカー!!モロッコ調なめし革のバカー!!!凛の大バカー!!!!」


ハーーー、ハーー、ハー。

あぁ、どうもお見苦しいところをお目に掛けました。
私、青山ブルーマウンテンと申します。
ブルーマウンテンなんて変わった名前とお思いになりましたでしょうが、本名ではないんです。

実は私、家具職人を生業としております。
以前から私の作る家具は中々人気でして、自分で申すのも恥ずかしいのですが、一部から将来有望な作家との評価も頂いています。

そこでクリエーターとして売りだそうということになり、青山ブルーマウンテンという、クリエーター・ネームとでも申しましょうか?
そう名のらせて頂いております。

その売り出しが成功したみたいでして、今では愛好家の方々の間で、青山ブルーマウンテンの机、ブルマンの椅子(いす)、青ブルマの箪笥(たんす)などと親しまれております。

考えればそれが問題の元なんでしょう。
近頃では10も20も予約を抱え込み、半年先までぎっしりスケジュールが決まってしまっています。

そしてオニのような私の担当が、毎日毎日毎日、私を監視し、仕事に縛りつけ、叱りつけ、小言をいうのです!
そして無理矢理服を剥いでは入浴させ、手作りごはんを口に押し込み、洗濯物を取り込み、寝かしつけるというありさまです!!

人気作家の責務を言い訳に、私の仕事への愛着が、いえ人間としての尊厳が失われつつあるのです!!!

「知らない街へと行ってみ~た~い~どこか遠くへ行き~た~い。やがて~そこに住んで~まな板をつくりながら~つつましく細々と~暮らして行くの~」

それでも気を取り直して、作業を再開しました。
トントンとトンカチを振り回しながら、私はついつい独り言をいってしまいます。
孤独に仕事する者の職業病でしょうか?


「さあ、出来ました。完成です。うふふ、なかなか見事な出来栄えです」

「ああ…惚れ惚れとする偉容、傲慢ですが神の造形と讃えましょう。なんともウットリとする曲線がとてもブリリアントです」

「そして黄金比を意識して形作られたこのフォルム、まさに魂の座と称するに相応しいたたずまいです」

私は完成したソファーの出来栄えに満足し、深々と身を横たえます。

「このソファーの皮の感触、とても肌触りがよいです。スベスベです、スベスベスベです。思わず頬ずりしてしまいたくなります。頬ずりしてしまいましょう」

「ああ…そしてなんといっても美しいのが、このソファーの色、深い緑色、濃緑、ミドリです」

「その色の深さは人を決して近寄せぬ太古の森を思わせ、その色の艶やかさは高貴な翡翠(ひすい)の如く、その色の力強さは生命力溢れるユーグレナのよう。ああ…まさに生命の原始、濃緑の魂の座。そう称するに相応しい出来栄えです」

私は満ち足りた、ため息をつきました。

「きっと千夜さんも、この出来栄えに満足してくれるでしょう」

数ヶ月程前、私は宇治松千夜さんという方から、お店で使うソファーの作成依頼を頂きました。
その方は甘味処を営むおばあさんのお孫さんで、千夜さんもお店の手伝いをされています。

私も何度か打ち合わせに、そのお店に伺わせて頂きました。
そして千夜さんとは、最初の打ち合わせから意気投合したのです。

千代さんはパティシエ、いわば菓子職人で多少業種は違いますが、同じ職人仲間として、作品に対する愛情のかけ方など見習うことも多く、尊敬に値する方です。

ものに対するひたむきな愛情、そしてその愛情を表現という形で惜しみなくおもてに出し、表現方法はとてもアバンギャルドでユニークでキッチュなのです。

そして何度もの打ち合わせの末、辿り着いたのが『原始の生命、濃緑の魂の座』という作品テーマ。
私はそのテーマに嬉しくなり、他の家具製作の作業も多いなか、時間に追われながらもソファー作りに打ち込みました。
作品づくりに心から没入しました。
そして今、それが完成したのです。

「海に映る月と星々、美味しかったです」

私はソファーに横たわりながら、初めての打ち合わせの席の事を回想し、頂いたお菓子の事を思い返します。

「フローズン・エバーグリーンも良かったですし、花の都三つ子の宝石も美味しかったです。ああ、また行きたいです」

千夜さんのお店は、お茶やお菓子が美味しいだけではありません。
その雰囲気が抜群に良いのです。

まず、ウェイトレスをやっている千夜さんは10代の少女で、しかも美人。
美少女です。

着物を着て真っ白なエプロンを纏った千夜さんが、サラサラの長い黒髪をなびかせながら、少し頭を傾けて「お待たせしました」といいながら、お茶やお菓子をお給仕してくれるのです。
美少女にお茶やお菓子をお給仕してもらうなんて、もうもうもうもう、堪りません。

同じ事を考えている方々が多いのでしょう。お店はいつ伺っても繁盛しています。

そしてその客層ですが、甘味処というお店の性質に千夜さんの人柄も相まって、若い女性のお客さんが非常に多いのです。
周りを見渡せば10代から20代前半のうら若い女の子たち、そしてお給仕してくれるのは美少女の千夜さん。

私は一日中、いえ一日といわず一週間だって、お店に居すわる事ができます!
断言できます!!

「ああ、お店に行きたい!行きたい!!行きたいです~う!!!」

ソファーに顔を埋め、足をバタバタさせてみます。
しかしそんな事をしてみても気が晴れません。

オニのような担当に監視されている身の上です。
私の予約は一杯で、スケジュールが仕事でギュウギュウに詰まっているのです。
抜け出して喫茶店を満喫していたら、首にリードを付けて連れ戻されてしまいます。
家具職人の仕事が喫茶店で出来るのならよいのですが、あいにくそんな分けには参りません。

「ああ…甘兎庵の他にも最近、新しい喫茶店が出来たらしいです。なんでもその店は、ウサギの格好をした女の子がお茶やお菓子をお給仕してくれる、いかがわしいお店と聞きます」

「ああ…素敵なお店にずっと居座り続けられる仕事に就きたかったです。何かそういうお仕事はありませんでしょうか?」

「ああ…いっその事、このソファーになれたらどんなに良いか。甘兎庵のソファーになって、愛らしい女の子たちを見守りながら暮らして行きたいです」

その時です!
頭の中で電光がひらめきました!!
なんというアイデアでしょう!!!


自分で言うのも恥ずかしいですが、私は優秀な家具職人です。
意を決した家具職人にとって、そのアイデアを形にするのは、さほど困難なことではありませんでした。
私はトンカチを手にすると、何時間もの間作業に没頭しました。



そして努力の末、私はまさに自分の作品と一体になったのです。


--- 1話 翠(みどり)の椅子---

以上、書きため分です
続きは出来たら今夜にでも

2話 天国と地獄


ある朝、青山ブルーマウンテンが不安な夢から目をさますと、自分が甘兎庵のフロアで一客の椅子に変わっているのを発見した。


うふふ、今回はフランス文学風に初めてみました。
さて冒頭の説明の通り、時刻は朝。
私こと青山ブルーマウンテンは、現在イスになっております。
正確に言うと昨晩からずっとイスになっていました。

実は昨晩、もうこの格好のままでいいと思って、ついついイスのまま寝てしまったのです。
それでも最初はベットで眠るつもりだったんですよ。
ただ昨日はほとんど一日中作業をして、疲れで体がくたくたでしたのでつい横着をしてしまいました。
お恥ずかしい限りです。

それでも昨晩のうちに、いろいろと準備はしていたのです。
ちゃんと、お水のペットボトルとお菓子袋、着替え袋、乙女の秘密袋を用意しました。
少々ストック量に不安はありますが、意外と小柄ですので仕方がありません。
しかしそんな些細なことより、急いでご報告すべきことがあるのです!

先ほどの話です。
突然、軽い衝撃を、お腹-下腹部から大腿部全体あたりに受けました。
多分、その衝撃で目が覚めたのだと思います。
私はぼんやりと目を開けました。

しかしまぶたは開いている筈なのですが、眼前は真っ黒。
目をパチパチと瞬いてみても効果はありません。

おまけに気が付くと、妙に体が重いのです。
まるで、漬け物を漬けるために漬け物石を抱え込んだ時のイメージに近いです。
これは一体、どんな怪奇現象かと思い、私は恐怖に体をすくめました。

しかしその時でした、ふわりと鼻をくすぐるオレンジの香りがしたのです。

この香りには覚えがあります。
千夜さんです。
千夜さんの匂いです。
そう、千夜さんが私に腰掛けていたのです。

それに気づくと現金なものです。
漬け物石を抱え込んでいたイメージは消え去りました。
変わりに浮かんだのは、昔見た洋画の、船の舳先で主人公がヒロインを抱きかかえているというイメージです。

とりあえずもっと香りを強く確かめようと、私は前屈みになって(なったつもりで)鼻をスンスンと動かしました。
しかし動かすより早く、千夜さんはフワリと立ち上がり、行ってしまったのです。
まるで逃げ去るかのように。
私は反射的に腕を動かし、思わずをしようとしましたが、悲しきイスの宿命、腕を上げる事はできませんでした。

>>13の訂正

この香りには覚えがあります。
千夜さんです。
千夜さんの匂いです。
そう、千夜さんが私に腰掛けていたのです。

それに気づくと現金なものです。
漬け物石を抱え込んでいたイメージは消え去りました。
変わりに浮かんだのは、昔見た洋画の、船の舳先で主人公がヒロインを抱きかかえているというイメージです。

とりあえずもっと香りを強く確かめようと、私は前屈みになって(なったつもりで)鼻をスンスンと動かしました。
しかし動かすより早く、千夜さんはフワリと立ち上がり、行ってしまったのです。
まるで逃げ去るかのように。
私は反射的に腕を動かし、思わずタイタニックをしようとしましたが、悲しきイスの宿命、腕を上げる事はできませんでした。

それでも、なんといっても寝起き直後のことでした。
頭がボーッとしていたので、まるで夢の出来事のようで現実感がありません。
それでも残り香を集めるように、今の出来事を鮮明に思い返そうとしました。
なんとか私の、潜在下の意識とか記憶を思い出そうとしました。

すると頭に浮かんできたのは、「逃亡」「予防」「リード」「鍵」という単語の数々。
頭を振ってもう一度チャレンジしますと、今度は、「重い」「重くね?」「予想外の重さ」などという不安をかき立てる単語が。
まるで睡眠学習したかのように、頭にインプットされているのです。

私の眠っている間に、いったい周囲でどんな会話が交わされていたのでしょう?
あまり知りたくはありませんが。
今朝の私の夢見が悪かったのも、きっとその所為に違いありません。

>>11
カフカはドイツ語作家なんだよなあ……。

>>16
う、うわ…ハズカシイ
フランツ・カフカって名前だから、フランス系と勘違いしてたのかな
取りあえず、ご指摘どうも

>>11の訂正(2行目、3行目、終わりから2行目)

2話 天国と地獄


ある朝、青山ブルーマウンテンが不安な夢から目をさますと、自分が甘兎庵のフロアで一脚の椅子に変わっているのを発見した。


うふふ、今回はドイツ文学風に初めてみました。
さて冒頭の説明の通り、時刻は朝。
私こと青山ブルーマウンテンは、現在イスになっております。
正確に言うと昨晩からずっとイスになっていました。

実は昨晩、もうこの格好のままでいいと思って、ついついイスのまま寝てしまったのです。
それでも最初はベットで眠るつもりだったんですよ。
ただ昨日はほとんど一日中作業をして、疲れで体がくたくたでしたのでつい横着をしてしまいました。
お恥ずかしい限りです。

それでも昨晩のうちに、いろいろと準備はしていたのです。
ちゃんと、お水のペットボトルとお菓子袋、着替え袋、乙女の秘密袋を用意しました。
少々ストック量に不安はありますが、その点は仕方ありません。
しかしそんな些細なことより、急いでご報告すべきことがあるのです!

それはそれとして、
鼻には千夜さんの匂いが、
目には、イスから立ち上がる千夜さんの後ろ姿が、
胸とお腹と大腿には、千夜さんの身体の重みと温もりが、まだ残っているのです。

ワインを愛好する方は、舌で味わうだけでなく、目で美麗な色を、鼻で芳醇な香りを、喉で心地良い感触を楽しむそうです。
私も感覚のすべてを使って、千夜さんとの接触を思い返しています。
………………あああ、はぁ。
なんだか私、普通じゃなくなっちゃいそうです。

今、甘兎庵のフロアはガランとしています。
先ほど私の横で、時計がボーン、ボーンと時を告げました。
数えてみると10回鳴りましたから、朝の10時ということになります。

今日は日曜日。
甘兎庵の開店はたしか11時ですから、あと一時間でお店は開くはずです。
厨房のある左手の方角では、人が立ち働いている気配がします。

まだお仕事前の私は、手持ちぶさたです。
暇なんです。
この手空きの時間を利用して、今までの状況を改めて整理してみました。

1.青山ブルーマウンテン、妙案を思いつく(天啓とでもいうのでしょうか?)
2.青山ブルーマウンテン、イスになる(努力とトンカチの賜物です)
3.青山ブルーマウンテン、そのまま寝てしまう(本当にくたくたでした、お恥ずかしい限りです)

4.青山ブルーマウンテン、イスの姿で担当に発見される(凛ちゃんは、いったいどんな独り言を呟いたのでしょう?)
5.青山ブルーマウンテン、甘兎庵に運ばれる(運送業者さんは、いったいどんな会話をしたのでしょう?)
6.青山ブルーマウンテン、千夜さんに座られる(寝ぼけていたのが返す返すも残念です)

少し推測も混じっていますが、大体こういったところでしょう。
なんだかとても順調にきているようです。
後々に問題を残した点も少々ありますが、それはその時になったら考えましょう。

私の横で時計がボーンと鳴りました。10時半です。
あと30分で開店です。

私の視界にもチラチラと、千夜さんや他の店の方の姿が入ってきています。
千夜さんが目に入ると、千夜さ~んと手を振ってしまいます。
もちろん、イメージ上でのことです。

それにしてもこの席は文字通り特等席です。
甘兎庵では4人用のボックス席は、壁際に沿ってL字状に4席あります。
私のイスは窓際の角の席、店の奥まった場所です。

ここからだと店の半分以上が視界に入り、カウンター席が一望できます。
私のワーキング・スペースとしてはベストポジションと言えるでしょう。
もしこのイスが反対側に置かれ、壁の方を向いていたなら、壁を見つめるお仕事となるところでした。
セッティングをしてくださった千夜さん、グッジョブです!

あれこれと状況説明をしているうちに、甘兎庵も開店となりました。
でも、あと一点だけ説明が必要な事があります。
手早く済ませますので、もう少しお付き合いください。

私が作りましたイス、正確に申し上げるとソファーセットですが、これは3脚4人用となります。
そのち1脚が2人掛け用の長イス、いわゆるラブソファーで、残り2脚がそれぞれ1人用のソファーです。

安楽椅子(コンフォートチェア)という言葉がありますが、その言葉通りのいかにもどっしりとしたイスです。
座り方も、ちょこんと腰掛けるものではなく、体全体をイスに預けるように深々と座るのが、正しい座り方と言えましょう。

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