主人公は国語の教科書を能力として戦うらしいです (32)

もしも、神によって能力を得て、それを使用し戦うと言う実に有り触れた設定が訪れれば……

『彼ら』は一体、どの様な能力で、どのような戦いをみせるのだろうか。

神は如何なる能力が良いと言った。

その問いに、あるものは最強を願った。

その問いに、あるものは自由を願った。

その問いに、あるものは秩序を

その問いにあるものは運命を

その問いにあるものは破壊を

その問いに―――

その――――



そして、その選ばれた彼らの中に、彼は存在した。

神が、彼と出会ったのは丁度放課後の教室

国語の授業をサボったそのツケとして、補習を受けていた学生に神は目を付けた。

そして、神は如何なる能力が良いと言った。

その中、特に当たり障りなく、神と言う存在を肯定した少年は、少々思考を過らせ、そして不意に、手に持っていた国語の教科書の頁を広げ、こう言った。

『この話を題材にした能力にしてくれ』

そうして、神は頷いた。能力となる概念、それは物質に媒体し其処から能力を発生させる為の核として使用させる。

文字を実現させる能力があるとすれば、文字に関係する道具を媒体とさせる。電子辞書、広辞苑、電子端末。

そして、彼は何という事か、『国語の教科書』を媒体とさせ、能力を得たのだ。

彼の選んだ能力は、彼がテストの問題集の作文を描く際に、偶然に開かれていたある短編集。

その短編集、小説、その題目は。


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                  『羅生門』













その出来事から一週間後、少年は補習地獄から解放された。

今度は絶対に補習を受ける事の無い様に、勉学に励むことにした。しかし、それが災いを引き寄せた。

深夜一時まで勉学に励み、明日は学校であると床に就いた。

起床して目覚まし時計を見れば、登校時間を大幅に過ぎていた。遅刻である。

少年は大急ぎで学生服へと着替えた。本来ならばパンを加えて登校と言う漫画でのお決まりでもしようかとも思ったが、彼の家はパン派ではなくごはん派であった為、仕方なく、ごはん一合、味噌汁三杯、おかずのサバの塩焼きと備え付けの沢庵をたらふく食べてから学校へ向かった。

完全に遅刻である、けれど勤勉な少年は教科書片手に全力疾走。

それが完全に災いになった。

曲がり角、それこそ漫画の如く、頭部と頭部が強く強打し、その反動で少年と衝突した少女は尻餅を付く。

少女はスカートであった。もろに少年の前にて脚部を開き、純白に輝く白い布地を露出させる。

しかし少年は教科書にしか目が行っていない。勤勉な少年は破廉恥ですら目もいかない。

「いったァ~~、ちょっと、一体何処見てるのよ!!」

少女が叫んだ、日本人である筈だろうが、その髪の毛は銀色に染まっている。不良少女だ。

「何処って教科書にだよ」

それだけ少年は言うと、少女の胸倉をつかんで、否応に起立させる。

真面目な少年は一旦教科書を閉じて、直角四十五度頭を下げて謝罪した。

「すまんかった、それと、今急いでるから、ごめん」

そう言って少年は学校へ急いだ。いかにも普通な、勤勉な少年の日常である。

学校へ着いた、既に一時間目が開始している。

一時間目はLHRであった。担任はその場で、長い髪の毛を呻らせながら、教室の扉に手を掛けた少年に真っ白なチョークを投げつけた。

ダーツ世界選手権シード枠初戦敗退の経歴を持つ教師は、見事に少年の額にチョークを被弾させる。

「遅刻だコラァ!!何してたコラァ!!」

「勉学ですけども、勉強してたんで遅刻扱い免除してください」

「するかぁ!!」

二度目の投擲、今度は額に当たらず、手持ちの教科書でガードした。

しかし鋭いチョーク投げは槍の如く、しかしその平の丸みが功を奏し、綺麗な表面を持つ教科書を滑らせて教科書を支える指先の爪の白い部分へと強打した。

痛みのあまり教科書を離す、この野郎、ホットラインに電話してやろうかとも思ったが、一応は教師であるし、そもそもホットラインの電話番号を知らない為に止めた。

結果遅刻となり、訝し気に厭味を呟く少年は大人しく席に座った。教卓の目の前の席である。

教師はなにかを待っているのか、このLHRを自習時間としている。

そして、教室の扉から手招きする副担任に、教師やっと来たか、と安堵と苛立ちのため息を吐いて、取りあえず駄弁っている生徒を黙らせる為に見せしめとして一番目の前に居る少年にチョークを投げ当てる。

一気に静寂が教室を包んだ。

「」

「これから転校生を紹介する、道中、車で移動する中エンジントラブルで故障し、慌ててバスに乗ったが学校とは反対方面、その結果走ってこの学校まで来た転校生だ、皆暖かく迎える様に」

そう軽く自己紹介し、教師は転校生に入れと命令する。

成程、その為一時間目はLHRだったか、納得の行く時間割であるが、意味も無くチョークを投げつけられた少年は不愉快ほかない。

そして、転校生が教室へと入って行った。勉学に徹底している少年は見る気も無い。

男子生徒からの驚愕と喜びの声、女子生徒からの可愛いコール。百合からの鋭い視線、様々存在する中、黙れと再びチョークが投げ飛ぶ。無論対象は少年である。不可解だ。

そしてチョークによって顔が跳ね上がり、その転校生の容貌が目に入る。

同時に、転校生からのあっ、と言う声が上がった。

「アンタ、ここの生徒だったの!?」

けれど勤勉な少年は会釈だけすると再び勉学に励んだ。何を其処まで少年を勉学に向かわせるのだろうか。

一人声を上げた転校生は、『お前はあの時の』、と言う本来は二人同時に声が重なる筈のシーンだったのだが、その言葉は転校生しか言わなかった。

一人、転校生の頬が紅潮していたが、誰も其処に触れてはならないと、暗黙の了解が出来上がった。

昼休みに入った。唐突に、先ほどの転校生から呼び出された。

向かった先は屋上。なんだ告白でも始まるか、と思ったがどうやら様子が違う。

そして、本当に唐突に少女は言った。

「貴方、能力者でしょ?」

何を言っているだ此奴?少年はそう思い、国語の教科書へと目を落とす。

「ねえ、あんた、本当に能力者でしょ?」

二度目。少年は仕方なく、少女の顔へ目を向けた。

その目はいかにも白い眼で、少女の自信満々な言葉と態度を容易に砕かせる。

「ね、ねぇ……のうりょくしゃ、で…しょ?」

再び頬が紅潮する。元々ツンツンとしたキャラなのだろうが、デレが早すぎる。否、どちらかと言えば照れである。ツンテレだ。

流石にかわいそうだと、少年は仕方なくそうだと言った。

少女は涙目ながらも、「そうならそうとはやくいいなさいよ!!」とミニスカートながらタイ人ボクサー顔負けのキックを披露する。

純白に輝く白い布地が露出したが、紙一重でそのキックを避けた。

そして少年は、教科書をいったん閉じて、「お前も能力者なのか?」と実に有り触れた言葉を掛けた。

「えぇそうよ。貴方も、神様によって能力を得たのでしょう?」

一応、と教科書を掲げてみせる。

「へえ、それが貴方の媒体ね……一応、神様が立てたルールは知っているわよね」

一応、とうなずく。

神様が作ったルール、それは、以下の内容である。
1能力者同士が戦う際、相手を気絶させ媒体を奪うか、媒体を破壊した場合に限り敗北を記す
2殺しの時も同様。能力者同士の戦いのみ、殺人は許可する
3能力者同士の戦いは秘匿である。もし能力の使用が他の人間の五感に感応した場合、強制的に能力を無効化させる
4最後の一人になったモノが勝者である

「だから、このルールの通りだったら、分かってるわよね?」

十分に分かる。

人気のない屋上へ呼び出したのは、恐らくはルール3を心配しての事だろう。人が居なければ十分に能力者同士と戦える。

故に、今、少年は闘争を迫られているのだ。

少女が取り出したのは、なんともおいしそうな、林檎である。

それを手に取り、少女は林檎を持たない手で少年を指すように指を伸ばす。

そして、瞬間的に『目に見えない力』で少年は吹き飛ばされた。

否、体全体を『押された』のだ。
体は吹き飛ばされ、屋上付近のフェンスへと衝突。背中が分断されたかのような痛みが走る。

「一応、名乗っといてあげるわ。私の名前」

そうして、少女は名を叫んだ、戦の作法であると言いたげに。

そして、少年はフェンスから剥がれる様に身を乗り出すと、成程、と呟く。
何か分かったのだろうか、少女は身構えるが。

「その名前だったら、はしべぇと夜の魔女、どっちのあだ名がいい?」

少年は、呑気に敵にあだ名をつけようとしていた。

「何、アンタ、今の一撃で気絶しないなんて、ちょっとだけ加減しちゃったみたいね」

そう言って、指先を少年へと向ける。今度は、上空から『壁が迫る』かの様な強い衝撃が迫って来た。
めしり、めしりと、コンクリートの地面が砕ける様な音がした。人間ならば、これ位の一撃で致死に至るだろう。

これでも、最大限の加減である、少女は、少年を死なさない様に丁寧に甚振る。
十数秒程の圧力に押し潰された少年は、やっとの思いで重みから解放される。
流石にこれ以上の『攻撃』は死に至る。最低、気絶くらいはしているだろうと、少女は慢心した表情を浮かべて。

「ああ、なるほど、『重力』か」

と、少年は先ほどの攻撃が何でもなかったと言いたげに、悠々と立ち上がる。
その姿、確かに攻撃は受けた。傷もある、死に値する程の大怪我である筈なのに。

「少しばかり安直すぎるな、差し詰め『ニュートンの林檎』って奴かな?」

そればかりか、見事に少年は少女の能力を看破した。

万有引力。アイザックニュートンが、果樹園で瞑想している中、風も無いのに不意に落ちた林檎を見て見つけたとされる逸話。
少女は、所謂【重力使い】である。元々、彼女が掲げる最強の能力とは何か、その疑問に行き付いたのが、『どんな人間でもぶっとばせる』と言ったぶっ飛んだ内容で、神様が偶然少女の家にあった林檎を媒体としたのがきっかけだった。

これだけ安直すぎれば、流石に他の能力者にもわかりやすい。

しかし、少女は林檎+重力=アイデンティティと言う中二センスな理由で、少女は媒体を林檎として決めた。

勿論、それが仇となった。

二度の攻撃によって、少年は少女の能力を看破したのだ。

だがしかし、能力の詳細が分かったとして、一体どうやって対抗すれば良い?

重力を操る、その能力、本気になれば近づく事すら不可能となる。重力を操る、ああ確かにそれは強い。

しかし、それでも。
少年の能力に比べれば、まだかわいげのある能力だと思っていい。

「それじゃあ、早く勉学に戻りたいし……」

頁を開く、国語の教科書である。

その国語の教科書が、少年の能力の媒体であれば、そう少女は身構える。
来る、と思った矢先に。

「『羅生門』」
少年の体が、黒い霧によって包まれた。

何が起こったのだろうか。

黒い霧が、少年の体を包んだと思えば、瞬時に途絶え、黒い霧は消えた。
それと同時に、少年の至る部分に付いていた『傷』が『消えていた』。

「え、なに、なにを、したの?」

何だ、あの能力は、国語の教科書、それには何が描かれている。

数メートル程の距離が開いている中、少年が格好良く口にした言葉は、あいにく少女には聞こえて無かった。

もし聞こえていれば、少なくとも対処のしようができたのだろうが。

「まあ、俺の能力はこんな感じでさ」

再び、国語の教科書の頁が開かれる。

瞬時に、少年の少女の間に、黒い霧が地面を包み込む。

「っ、喰らえ」

指先を少年に向けて、再び少年に重力を発生させようとした直後。

黒い霧が消えて、同時に、『目の前に少年が現れた』。

いや違う、瞬時に距離を縮められた。

いや、しかし、何故?

この少年の持つ能力は、傷を癒し、距離を縮める?

少年の能力は、『ありとあらゆるものに強化する能力』?

そう考えれば、肉体の治癒の強化、身体機能の強化と、超移動、超回復もうなずける。

けれど、そうなれば黒い霧はどう結論する?黒い霧が掛かった所を強化させる?ではなぜ肉体では無く地面に霧を発生させた?

そう考えても仕方がない。あ、と驚いた直後に、少女の手に持つ林檎が少年の手に渡ろうとしている。

とにかく、考えても仕方がない。林檎の能力を発生させ、自分自身に重力を発生、そして重力の向きを変化させて上空へと飛び上がる。

空中浮遊も出来る、この重力は使い方次第では万能になる。この空中浮遊も、少女の奥の手であり、大体飛行能力を持たぬものであれば、高確率で勝利することが出来る。

手が届かないのだから当たり前だろう。数メートル先で浮遊する少女は、まず勝利を手にしようと自棄になる。

この状態で、全面的に重力によって押し潰せば、とりあえずは勝てる。

非常に少年にとって不利な状況下となったが、しかし少年は落ち着いていた。

「『門』を開く」

黒い霧が再び発生し、地面を包み込む。

「もうちょっと……『メートル』が欲しいな……」

途端に黒い霧が消え去り、再び少年が瞬間的に移動をした。

「よし、まあ、これなら届くか」


「なあ、聞こえるかいはしべぇ、一応、お前に言っておきたい事がある。今すぐ浮遊を止めた方がいいぞ?」

「バカ、敵に言われてはいそうですか、ってなる訳無いでしょ」

「まあ、当たり前か、あのさ、俺別にこの戦いに興味が無いから、俺の能力を言うけど」

キョトンと、少女が目を丸くした。戦いに興味が無い?じゃあ、なんお為に自分の相手をしている?
そう言いたかったが、我慢した。

「俺の能力、『羅生門』って言ってさ、『門』っつー黒い霧で覆った場所を『奪う』能力なんだけどさ」

奪う。
本当であれば、確かに納得が行く。

少年の受けた『傷』を『奪う』。
少女と少年の間の距離を『奪う』。

奪うが言葉通りならば、其処から無くなる、とも同じ。
傷を奪えばそこから傷は無くなる。
距離を奪えば、その間はなくなる。

成程、確かに理に適っている。

であれば。

黒い霧が上空へと昇る。
『少年』と『少女』の『距離』が、黒い霧が閉じる事で、その『距離』が奪われる。

瞬時に、地面へと再び戻された少女に、更に追い打ちをかける様に、黒い霧が今度は穴の様な円状となって展開される。

「ついでに言えば、奪うって事は、それを『使用』するって事だ、相手のものを奪う、その権利を自分の手にする、つまりは、俺のさっき奪った『距離』を、俺とお前の間に『使用』する」

そうして、黒い霧から『距離』が展開される。先ほど、瞬間移動に使用した距離と、合間を奪った距離、それに加えて、先ほど夜の魔女を落とした際に奪った距離を合わせて、その全ての距離を少女に対して使役。

少女は、ただ後ろ、後ろへと下がっていき、背後に存在する金網のフェンスへと衝突する。

それだけで、十分に勝敗は決した。

筈だったのだが。

「―――!?」

能力が、瞬時に無効化する。

何が起こったと、少女が視線を周囲に向ければ。

屋上から三階へと続く扉の間から、幾度の視線が垣間見える。

所謂、人間の目である。

それもそうだろう、いきなり美少女転校生が現れて、最近勉学に嵌った少年を屋上へ呼び出したのだ。

きっと告白だろう、こんな面白い展開、誰が見逃すか。

これが、もし本当の告白であれば、少女自身怒りを覚えるだろうが、能力者同士の戦いであれば、これほどありがたい事は無い。

少女は神様がたてたルールを思い出す。秘匿の戦いの多面、人間の五感に反応すれば、能力は無効化される。

そのルールがあったお陰か、少女は再起不能にならずに済んだのだ。

「あー……面倒だし、もう戦うの、やめない?」

少年がそう切り出した。確かに、これ以上戦うにしても、人の目がある以上、能力者同士の戦いにはなりにくい。

「、構わないわ……今日の所は、逃がしてあげる」

これにて、能力者同士の戦いが終わろうとしていた、が。

流石に、人の目がある以上、何故屋上にいたのか言及されるだろう。

よもや、屋上にふたりきりでありながら、いざきてみれば何もしないまま終了、と言う訳にもいくまい。

だからこそ、手っ取り早く取り巻きを帰らせる為に、少年は恥と面倒を棄てて、目の前に居る少女に、ワザとらしく大きな声で叫んだ。

「一目見た時から好きでした、付き合ってください!!」

うぉおおおお、と男子生徒女子生徒の声が上がる。

うるさい、やかましいと、少年は苛立ちながら少女への返答を待つ。

いきなり戦った敵同士、それが告白などしても、意味わからないと断られるだろう。

少年はそれを狙っていたのだが。

「は、はあ!?い、意味分からないんですけど、付き合ってとか、ば、バーカバーカ!!」

何故か頬を紅潮させて、あらん限りの罵倒を続ける。

――――成程、これがツンテレと言うやつか。

疲れた、これで一話終了。
分かり難い所あったら言ってね、解説とかしてみるから。

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