京子「二人の結衣」 (77)

~~~~~~

結衣「それじゃあ、電気消すぞ」

京子「うん」

結衣「おやすみ」パチン

京子「おやすみ、結衣」

京子「……」

京子「……ねぇ、そっちの布団で一緒に寝てもいい?」

結衣「え、なんでだよ」

京子「いやぁ、寒くてさぁ」

結衣「仕方ないなぁ……ほら」

京子「やった♪ありがとう結衣!」ガバッ

京子「あったかい……///」

結衣「そりゃよかったな」

京子「…………」ドキドキ

京子「あの、結衣……」

結衣「ん?」

京子「……やっぱりなんでもない」

結衣「?」

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~~~~~~


京子「はぁ……」トボトボ

京子(また、言えなかった)

京子(好きってただ一言言うだけなのに、なんで言えないんだろう……)

京子(二人っきり、一緒の布団で寝るとこまでいけたのに……)

京子「このままじゃいつまで経っても───」


京子「え?」

京子「結衣……?」



タッタッタッ

マネキン「…………」

京子「なんだ……マネキンか」

京子「そりゃそうだよな。結衣がゴミ捨て場で突っ立てるなんてあり得ないって」

京子「しかも全裸で」

京子「まぁ、一瞬本当に結衣かと思ったけど……」

京子(結衣のことばっかり考えてたせいかな)

京子「…………」ジーッ

京子「しっかし……このマネキン本当に結衣に似てるな……」

京子「なにか面白いことに───」

京子「! そうだ!」

京子(このマネキン相手に告白の練習をすればいいじゃん!)

京子「捨てられてるんだし……もらってもいいよね?」

────

京子「ハァハァ……やっと家に着いた……」

京子(思ってたより重かったし、人に見られないように持ってくるのすげぇキツかったな……)

京子「あー、疲れた」ドサッ

京子「今日は家に誰も居なかったのが責めてもの救いだな」



マネキン「……」

京子「ようこそ、私の部屋へ」

京子「まぁ座ってよ、遠慮しないでさ」

マネキン「……」

京子「……とりあえず服着せよう」

京子「思えば、私真っ裸のマネキンを抱えながら歩いてたんだよな」

京子「本当、誰にも見られなくてよかった」


京子「よし!コーディネート完了!」

京子「お嬢さんお似合いですよ、コーディネートはこーでねーと!」

マネキン「……」

京子「似てるからって流石にツッコミまではしてくれないか」


京子「ふー……それじゃあさっそく」


京子「……なんかマネキン相手に一人芝居するって恥ずかしいな……」

京子「いや、今更なに言ってんだよ!」

京子「そもそもマネキン拾ってくることからして恥ずかしいことだろうが!!」

京子「結衣と付き合うためだ!!腹括って恥なんて捨てろ!!」

京子「よっし!!いくぞ!!」


京子「結衣……来てくれてありがとう」

京子「こんなとこに呼び出してごめんね……どうしても二人きりになりたかったんだ」

京子「うん……手紙にも書いてあった通り、大事な話があるの」

京子「笑わないで聞いてね」

京子「……私ね、ずっと前から結衣のことが好きだったんだ」

京子「もちろん今でも大好き」

京子「だから……えっと、私と付き合ってください!」



京子「……本当!?本当に付き合ってくれるの!?」

京子「……ありがとう、嬉しい///」

京子「大好きだよ……結衣」

チュッ

京子「……」

京子「……って、なにしてんだよ私は!///」

京子「告白の練習なんだから成功した後までやらなくていいんだよ!!」

京子「あー、もー、恥ずかしい」



パチッ


『……京子?』


京子「へっ」

京子(なんだ……いま結衣の声が……)



マネキン『ここ、どこだ』



京子「ってええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!?」

────

マネキン『なるほどな……告白の練習をしてたら私が動き出したと……』

京子「な、なんでマネキンが喋ったり動いたり出来るんだよ」

京子「しかも、さっき私のこと京子って呼んだよね……?」

京子「もしかして……結衣、なの……?」

マネキン『違うよ』

マネキン『でも、なんだろうな……船見結衣としての記憶はあるんだよ』

京子「?? よく意味が……?」

マネキン『私にもよくわからないよ』

マネキン『とにかく、私は船見結衣じゃない。でも記憶だけはちゃんとあるってこと』

京子「うぅん……そんなことってあるのかな……」

マネキン『現に起こっちゃったんだから仕方ないだろ、それに本人がそう言ってるんだ』

京子(まさか拾ってきたマネキンが動き出すなんて)

京子(しかも……元から結衣に似てた上、声や喋り方、仕草まで結衣そっくりだ……)

京子(まるで本物の結衣みたい……)

マネキン『───京子?』

京子「うぇ!?」

マネキン『どうしたんだ急に黙りこんで』

京子「い、いや!なんでもないよ!」

マネキン『そうか?』

マネキン『まぁ、マネキンがいきなり動き出したんじゃ固まるのも無理ないか』

京子「……あなたは、これからずっとそのままなの?」

マネキン『いや、それはないと思うよ』

マネキン『多分だけど、なにか私が生まれたきっかけがあるんじゃないか?』

京子「きっかけ、って言われても……」

マネキン『まぁ、そのきっかけを見つけて、もう一度やれば私は元に戻ると思う』

京子「なんだ、そうなのか」

マネキン『多分な』

マネキン『それで、どうする?とっとと元のマネキンに戻しちゃう?』

京子「そんな、もったいないよ。しばらくこのまま一緒に居よう」

京子「こんな機会きっと二度とないだろうしさ」

マネキン『京子ならそう言うと思ったよ』クスッ

京子「あなた名前はないの?」

マネキン『名前は一応結衣かな、結衣って呼ばれて生まれたんだし』

京子「そっか、でも結衣は人間のほうの結衣と被るんだよなぁ……」

京子「じゃあ、『結衣ちゃん』とか?」

マネキン『結衣ちゃん……?』

京子「そっ、あかりみたいに」

結衣『まぁ……なんでもいいけど』

「ただいまー」


京子「やばっ、もうお母さん帰ってきた」

結衣『京子のお母さんは勝手に部屋に入ってくるような親なのか?』

京子「ううん、多分それはないよ」

結衣『だったら別に大丈夫だろ』

京子「そうだけど、これから私ご飯食べたりお風呂に入ったりしなきゃいけないじゃん」

京子「私はずっと結衣ちゃんの側に居てあげたいんだけど、お母さんがいるとそうはいかない」

京子「それで結衣ちゃん寂しくて泣いちゃうんじゃないかなーって」

結衣『それなら取り越し苦労だ』

結衣『そもそも私は涙なんて出ないから泣くことはない』

京子「あっ……そうなんだ……」

「京子ー、ご飯出来たわよー」


京子「それじゃあ私はご飯食べてくるから、大人しくしててね」

結衣『うん、わかった』

京子「結衣ちゃんはなにも食べなくて大丈夫?」

結衣『私はマネキンだからな、必要ない』

京子「そっか、やっぱり食べないんだ」

京子「カラクリやロボットの癖にご飯食べるのが多い中、健全だねぇ」

結衣『ほら、お母さん待ってるぞ。早く行ってこい』

京子「うん」

京子「あっ、そうだ」

結衣『なんだ?』

京子「パンツとか漁るのはやめてよね///」

結衣『誰がするか!!』

結衣『いいから早く行ってこい!』

京子「はーい」

────

京子「そのままお風呂入ってきた」

結衣『おかえり』

京子「あー!!」

結衣『どうした?』

京子「クローゼットが荒らされてない!!」

結衣『は?』

京子「なんで!?なんで開けてないの!?」

結衣『そりゃ……当たり前だろ』

京子「違う!!私の知ってる結衣だったら絶対に漁る!!」

京子「お前は誰だ!!」

結衣『お前は船見結衣をなんだと思ってるんだ』

京子「じゃあ結衣ちゃんは私がいない間なにしてたの?下着も漁らずに」

結衣『普通に漫画読んでたよ』

結衣『この部屋いっぱい漫画があるから』

京子「えー、普通でつまんなーい」

結衣『普通でいいだろ』

京子「少しくらい空飛んでくれててもいいのに」

結衣『できねぇよ』

京子「なんか不思議な力とかないの?」

結衣『ないな』

京子「本当、動いて喋るマネキンってとこ以外普通だね」

結衣『普通でなにが悪い』

京子「まぁね」

結衣『そういえば、もう練習はいいわけ?』

京子「えっ」

結衣『私で告白の練習してたんでしょ?まだ一回しかしてないから』

京子「あっ……///」

結衣『だから……えっと、私と付き合ってください!』

京子「やめろ!!///」

京子「クソッ……まさか動かないと思ってた相手が喋りだすことになるとは……///」

結衣『大好きだよ……結衣』チュッ

京子「わーーーーーーー!!!!!!!!!!///」

結衣『お前家で一人の時いつもなにしてんだよ』

京子「忘れてください……」

結衣『それで、どうする?やるか?』

京子「今日はもういいです……」

結衣『そりゃ残念だ』フッ

京子「まるで本人に知られたみたいだ……」

結衣『まぁ気にするなよ、忘れる気はないけど』

結衣『元々私は練習のために連れて来られたんだ。練習する気になったらいつでも言ってくれ』

京子「うーん……しばらくはいいかな」

結衣『そうか』

京子「そんなことよりゲームでもして遊ぼう」

結衣『あぁ、いいぞ』

京子「なにがあったかなぁ~」ゴソゴソ

結衣『そういえば、宿題はやったの?』

京子「……」

結衣『……』

京子「ゲームなにがいい?」

結衣『やれ』

────

京子「ふぃ~……疲れたぁ……」

結衣『お疲れ様』

結衣『これからは毎日やれよ』

京子「そんなぁ~」

結衣『宿題はちゃんとやらなきゃダメだろ』

京子「……なにがきっかけで結衣ちゃんは動けるようになったんだろう……」

結衣『お前が宿題やるようになるまでは、元に戻す方法が見つかっても絶対にさせないからな』

京子「くっ……」ガクッ

京子「あー、宿題やってたらいつの間にかこんな時間か」

結衣『今日のは量が多かったからな』

京子「それじゃあ宿題も終わったことだし遊ぶか」

結衣『いや、もう寝ろよ』

京子「大丈夫!遊ぼうぜ!」

結衣『お前学校で寝るつもりだろ』

京子「だって結局なにも出来なかったし……」

結衣『明日でいいだろ』

京子「えー、せっかく結衣ちゃんがいるのに……」

結衣『私は明日もいるから』

京子「仕方ない、それじゃ寝るかー」

京子「結衣ちゃんは?」

結衣『いいよ、私は寝なくても大丈夫だから』

京子「えー、いいじゃん。一緒に寝ようよ」

結衣『でも、多分がっかりするぞ』

京子「? なんで?」

結衣『ほら、私の身体ってこんなんだから……』

京子「……フッ」

京子「そんなの全然気にしないって!私は結衣ちゃんと一緒に寝たいの!」

京子「さぁおいで、私が暖めてあげるよ!」グイッ

結衣『わっ!』

京子「一名様ごあんな~い」ファサッ

結衣『京子……』

京子「おー、結衣ちゃん冷んやりしてて気持ちいいな」

結衣『そ、そうか?』

京子「うん!」

京子「まぁ、すぐに私がポカポカボディに変えちゃうんだけどね!」

結衣『……暖めてくれるんだろ?』

京子「その代わりと言っちゃなんだが、腕枕をしてもらおうか」

結衣『それくらいなら』ハイ

京子「ははっ、これでグッスリ眠れそうだー」

結衣『……ありがとう』

京子「いえいえ♪」

京子「それじゃあ、おやすみ」

結衣『うん、おやすみ』

────


結衣『───おい、起きろ』

京子「うぅん……結衣……?」

結衣『もう朝だぞ』

京子「あっ……そうか、結衣ちゃん……」

結衣『やっと起きたか、おはよう』

京子「おはよう……」

結衣『ほら、早く準備しないと遅刻するぞ』

京子「ふわぁぁ~」スタッ

結衣『やれやれ』


京子「まだまだ時間に余裕があって、お母さんに驚かれたんだけど」

結衣『いいことじゃん』

京子「よくないよ、もう少し寝てたかったのにー」

結衣『そんなことしてたら、いつもみたいにギリギリになっちゃうだろ』

京子「鬼!悪魔!」

結衣『なんとでも言え』

結衣『ほら、早く着替えろ』

京子「はいはい」

京子「……結衣ちゃん見てるの?」

結衣『なんだ、見られたくないのか』

京子「いやん、結衣ちゃんのエッチ。あっち向いてて」

結衣『いつもは自分からパンツ見せたりするくせに』クルッ

京子「それじゃあ私行ってくるけど、一人で大丈夫?」

結衣『あぁ』

結衣『この部屋から出なければ大丈夫か?』

京子「うん、お母さんも入ってこないと思うし」

京子「部屋の中の物は好きに使っていいから」

結衣『わかった』

京子「じゃあ、いってきます」

結衣『いってらっしゃい』

────

京子「おっはよー!」

あかり「京子ちゃんおはよう」

結衣「今日は早かったな」

京子「まーあねぇ」

ちなつ「珍しいこともあるもんですね」

結衣「毎日こうだといいんだけどな」

京子(なんか結衣とは今日初めて会った気がしないなぁ)

京子(ていうか、家でも外でも同じようなこと言われてる気がする)

あかり「? どうかした?」

京子「えっ、ううん。なんでもないよ」



京子「んー、授業終了!」

結衣「京子、部室行くぞ」

京子「あー、ごめん!私今日用事あるから先に帰るよ!」

結衣「そうだったんだ、わかった」

京子「ごめんね!あかりとちなつちゃんによろしく言っておいて!」

京子「それじゃばいばーい!」

────

京子「ただいまー!」

結衣『おかえり、今日は早かったな』

京子「うん!結衣ちゃんのために帰ってきた!」

結衣『? なんで?』

京子「結衣ちゃんが一人で寂しがってると思ったから」

結衣『別に……よかったのに』

京子「とか言って本当は寂しかった癖に~、分かってるんだからね?このこの~」

結衣『やめろ、鬱陶しい』

京子「まったく、照れちゃって」

京子「結衣ちゃんずっと家に居たんだよね?今日はなにしてたの?」

結衣『昨日と一緒かな。ずっと漫画読んでゲームしてた』

京子「まるで引きこもりのニートじゃないか」

結衣『うるさいな』

結衣『他にやることないんだから仕方ないだろ』

京子「うーん……じゃあ漫画でも描いてみれば?楽しいよ?」

結衣『漫画かぁ……私には無理そうだけど』

京子「出来るって!私のアシスタントなんだから!」

結衣『お前のアシスタントになった覚えなんてないが……まぁ、気が向いたらやってみるよ』

京子「よし、いい子だ」

京子「そんないい子には、特別に面白い遊びを教えてあげよう」

結衣『遊び?』

京子「じゃじゃーん!トランプです!」

京子「これ世界中で流行ってるんだぜ!」

結衣『うん、知ってる』

京子「えー、知ってんの?まぁいいや。このトランプにはいろんな遊び方があるんだ」

京子「今日はその中でも、最も二人でやって面白いゲームをやろうと思う」

結衣『スピードだろ』

京子「なんで分かる」

結衣『昔、あかりが入ってくる前は二人でよくやってたからな』

京子「懐かしいなぁ。ババ抜きやら神経衰弱やらが面白くないもんで、スピードばっかやるハメになったんだよね」

結衣『あとはトランプタワーとかな』

京子「うんうん」

京子「そんな思い出の、スピードをやろうではありませんか」

結衣『そうだな、やるか』

京子「負けないからね!」


京子(結衣ちゃんはあかりが入る前を知ってる)

京子(やっぱり昔の記憶もちゃんとあるんだよね)

京子(自分は結衣じゃないって言ってたけど……どういう意味だったんだろ)

────

結衣「今日は部活どうする?」

京子「もちろん行くに決まってんじゃん。私が今まで部活休んだことなんてあったか?」

結衣「星の数ほど」

京子「HAHAHA!それじゃ夜空から星が消えちまうよセニョール!」

結衣「くだらないこと言ってないで行くぞ」

京子「はーい」


ガラッ

京子「おいっすー」

京子「あら?まだ誰も来てないの?」

結衣「あかりたちは掃除当番でもしてるのかな」

京子「なんだ、二人だけか」

結衣「部室で二人だけっていうのも久しぶりだな」

京子「二人───」ハッ

京子(これは……もしかしてチャンス!?)

京子「結衣……二人切りだね///」

結衣「さっきからそう言ってるだろ」

京子(どうしよう……チャンスだって思ったら、急になに言ったらいいかわかんなくなった……)

ガラッ

あかり「京子ちゃん結衣ちゃんこんにちはー」

ちなつ「遅くなっちゃいましたー」

京子(あっ……来ちゃった……)

結衣「二人とも遅かったね。日直かなにかだったの?」

ちなつ「そうだったんですよー疲れちゃいました」

結衣「お疲れ様」

ちなつ「キャー!結衣先輩ありがとうございます!大好きです!」ダキッ

結衣「ははは……」

京子(……いいなぁ、ちなつちゃん)

京子(私もあれくらい素直に言えたらいいのに……)

────

京子「ただいまー」

結衣『おかえり』

結衣『今日は部活してきたんだな』

京子「まぁねー、私がいなきゃ始まらないし」

結衣『部長気取りか』

京子「部長ですからね」フフフ

京子「あー、今日は汗かいたからもうお風呂入っちゃおうかなー」

結衣『体育でもあったのか?』

京子「いや、みんなで鬼ごっこしたの」

結衣『子供かよ』

京子「まだ子供でちゅもん」

京子「そういえば聞くの忘れてたけど、結衣ちゃんはお風呂どうする?」

結衣『私はいいよ』

結衣『なんか中に水が入って大変なことになりそうだし』

京子「オッケー、じゃあいってくるね」


京子「結衣ちゃんに朗報、ご飯も食べてきた」

京子「これで今日は京子ちゃんとずっと一緒にいられます。やったね」

結衣『そうか』ペラッ

京子「つれないなぁ」

結衣『忙しいからな』

京子「ブー、漫画読んでるだけじゃん」

京子「漫画と私、どっちが大事なの!?」

結衣『京子だよ』ペラッ

京子「説得力がまるでない」

結衣『気のせいだ』ペラッ

京子「…………その黄色い子死ぬよ」

結衣『……』

結衣『おい』

京子「へい!!遊ぼうぜ!!プロレスごっこでもいいぞ!!」

結衣『……いや、いい』

結衣『それより宿題は───』

京子「今日はない!」ドヤァ

結衣『……そう』

京子「フッ……私を縛るものは何もない」

京子「心置きなくゲーム出来るって訳だ」

結衣『いいけど、なにやるんだ』

京子「ぷよぷよ!」

結衣『ぷよぷよ……久々だな』

京子「いつも負けてばかりだけど、今日こそはボッコボコにしてやるからな!」

結衣『返り討ちにしてやるよ』


京子「よっしゃ!私の勝ち!!」

結衣『こういう落ちゲーはあまりやらないからなぁ』

京子「フッ、言い訳とは見苦しいですなぁ」

結衣『お前だって割と久しぶりの勝利なくせに』

京子「クッ……勝率5割くらい、実力は互角ってところか……」

結衣『ていうかお前、家じゃ普通のパジャマ着てるんだな』

京子「今日はね。トマトパジャマもよく着るよ」

京子「そういえば、結衣ちゃん寝るときもパジャマじゃないよね」

結衣『別に必要ないからな。寝るっていっても、私は眠ってるわけじゃなくて横になってるだけだから』

京子「私のトマト着てみる?」

結衣『遠慮しとくよ、似合わないだろうし』

京子「そんなことないってー、ユー着ちゃいなよー」

結衣『うーん……すぐ脱ぐからな』


結衣『ど、どうかな』

京子「うん!バッチリ!どこからどう見てもトマトだよ!」

結衣『それは褒めてるのか?』

京子「もちろん!」

京子「これからは毎日それ着ていいんだよ?」

結衣『いい、今日だけで十分だ』

京子「えー、似合ってるのに」

結衣『私は今まで通り、寝るときも普通の服でいいよ』

京子「それじゃあつまんないじゃん」

京子「ほら、いろいろあるんだよ?どれでもいいから着ようよ」ゴソ

結衣『うわぁ……まだこんなに持ってたのか』

京子「このカブトムシ(♀)パジャマとかどう?」

結衣『却下』

京子「じゃあナナフシパジャマ」

結衣『お前なんでこれ取ろうと思ったんだ?』

────

京子「ふわぁぁ……」

結衣「眠そうだな」

京子「うん、昨日ちょっと夜更かししちゃって」

ちなつ「また漫画読んでたら朝になってたとかですか?」

京子「ブッブー、違うんだなこれが」

結衣「どうせ変なことしてたんだろ」

京子「むっ、失礼な。有意義に過ごしたわい」

京子(結衣ちゃんに着ぐるみパジャマ着せまくったんだから)

京子(あー……キリンとか似合ってたなぁ)

あかり「じゃあなにしてたの?」

京子「秘密ー♪」

京子(二人だけの秘密だもんねー)

────

京子「ねぇ結衣ちゃん、今日は散歩行かない?」

結衣『えっ、散歩?』

京子「うん。暗くなってから」

結衣『私が家出て大丈夫か?』

京子「大丈夫大丈夫、パッと見で誰かに怪しまれることもないから」

京子「こっそり出ればお母さんにもバレないって」

結衣『うーん……どうかな』

京子「結衣ちゃんも家の中ばかりだとつまらないでしょ?ねっ?行こ?」

結衣『仕方ないな……わかった、行くよ』

京子「よし!決まりね!」

京子「それじゃあ、暗くなるまで昨日のゲームの続きやろう!」

結衣『宿題』

京子「はい……」


京子「いってきまーす」

「早く帰ってくるのよー」

京子「はーい」

結衣『どこに行くの?』

京子「それは着いてからのお楽しみ」

────

結衣『公園か……懐かしいな』

京子「なんやかんやで結構来てるけどね」

結衣『まぁな』

結衣『でも、小さい頃と比べたらやっぱり減ったよ。昔はもっと来てたっけ』

京子「もう私たちも中学生ですからね」

結衣『大人に近付いてきてるんだろうな……一丁前に告白の練習なんて始めるくらいには』

京子「まだ煽るか……」

京子「まぁ、そうかもね」

結衣『いつから付き合いたいと思うようになったんだ?』

京子「うーん……それを考えるようになったのは、二年に上がって二人切りの時間が減ってからかな」

京子「いつ恋しちゃったかはわからないけど、多分ずっと前から好きだったんだと思う」

京子「いつの間にか好きになってて、それにやっと気付いた感じかな」

結衣『なるほどな……』

京子「いつも私を守ってくれたヒーローだもん、惚れないわけないって」

結衣『……今までのこと、本物の私に言ってやれよ。それだけで立派な告白だぞ』

京子「へっ」

結衣『好き好き大好きって十分伝わってきた』

京子「///」

京子(誰かに聞かれるだけでも恥ずかしいのに……///)

結衣『最初の練習からして、内容はもう大丈夫みたいだな。素直に気持ちを伝えればいいよ』

京子「でも……振られちゃったら……」

結衣『はぁ……あとは勇気だけだな』

結衣『私に言えたんだから、本物にも同じように言えばいいのに』

京子「それは……」

結衣『……そうだな、ごめん』


結衣『……せっかく公園に来たんだし、遊んでいくか』

結衣『行くぞ』グイッ

京子「わっ、待ってよ!」

京子(……あっ、これって)

~~~~

チビ結衣「ほら京子、行くぞー!」グイッ

チビ京子「わっ、待ってよ結衣ぃ!」

~~~~

京子「……へへっ」

結衣『この身体でブランコ乗れるかな……』キィ

結衣『うん、大丈夫みたいだな』

京子「よっと」

京子「私も普通に乗れた!」

結衣『当たり前だろ』

京子「でも、昔は乗れなかったよね」

結衣『そうだな、京子が乗れないって言うから二人乗りしたら、泣かせちゃったこともあったっけ』

キー、キー……

京子(全部知ってる……やっぱり結衣なんだ)

京子(いま目の前にいるのは本物の結衣じゃない……って言ったら酷いけど、私の知ってる結衣じゃない)

京子(でも、記憶もあるし心もある、ちゃんと生きてる)

京子(この結衣は偽者の結衣なの……?とてもじゃないけどそうは思えない……)

京子(……)



京子「……ねぇ、結衣ちゃん」

結衣『ん?』

京子「結衣ちゃんは、告白するのをすごく後押ししてくれてるけど」

京子「告白したら成功すると思う?」

結衣『……さぁな、わからないよ』

京子「どうしてそんなに応援してくれるの?」

結衣『どうしてだろうな』

京子「……結衣ちゃんは、私のことどう思う?」

結衣『……』

京子「私のこと……好き?」

結衣『別に……普通だよ』

京子「そっか……」

京子「ねぇ、二人乗りしてみる?」

結衣『えっ、出来るかな?』

京子「わからないけど、やってみようよ」

京子「私が上に乗るね、昔の私とは違うって思い知らせてやる!」

京子「ほっ」ピョン

結衣『……やっぱり狭いな』

京子「でも、いけないこともないよね」

キー、キー

京子「……」

結衣『……』

京子「どう?」

結衣『うん……懐かしい、かな』

京子「そっか」

結衣『あんまり高くこぐなよ?』

京子「分かってるよ」

京子「でも、今全力でこいだら、どこまでいけるんだろうね」

結衣『さぁな』

京子「……そろそろ帰ろっか」

結衣『……あぁ』

────

千歳「最近、歳納さん宿題のことで人に泣き付かんようになったよなぁ」

京子「えっ、そう?」

結衣「そういえばそうだな」

千歳「せやろ?ちょっと前までは、いつもうちらに宿題見せてもらおうとしてたのに」

京子(そうだったんだ、気付かなかった)

結衣「お前また頭でも打ったのか?」

京子「いやぁ~、私も成長したんですよ~」

綾乃「ま、まぁ、こっちは迷惑が掛からなくなっていいんだけどね」

千歳「とか言って、本当は寂しいんとちゃう?」

綾乃「なんでそうなるのよ!!///」

京子(結衣ちゃんが家に来て宿題見てくれるようになったからかな)

京子(結衣ちゃん今なにしてるんだろ)

────

京子「ただいまー」

結衣『おかえり』

京子「───って、結衣!?」

結衣『まぁ、そうだよ』

京子「ゆ、結衣ちゃん……?その服、どうしたの?」

結衣『ん?なんとなく着てみようと思って』

京子(制服着てるから結衣かと思った……)

結衣『……変かな?』

京子「い、いや、変じゃないよ!結衣かと思って少しびっくりしただけだから!」

結衣『ふーん』

結衣『それで、なにがきっかけか分かったか?』

京子「えっ」

結衣『私が動き出したきっかけだよ』

京子「まだ分かってないけど……」

結衣『見つけなくていいのか?』

京子「うん、だってまだ結衣ちゃんといたいし……」

結衣『そうか……』

結衣『いつまで私を生かしておくつもりだ?』

京子「……結衣ちゃん……?」

結衣『……いや、いつまでこうして一緒にいられるのかなって』

京子「私は……まだ、考えてない」

結衣『そう……』

結衣『ごめんな、変なこと聞いて』

京子「ううん……気にしないで」

京子(結衣ちゃんどうしたんだろう……なにかあったのかな)

────

京子「おやすみ」

結衣『うん』

京子(あのあと、いつも通りの結衣ちゃんに戻ったけど……)

京子(うーん……わからないなぁ)

京子「……結衣ちゃん?」

結衣『ん?どうした?』

京子「結衣ちゃんは寝なくて大丈夫って言ってたけど、私が寝てる間はなにしてるの?」

結衣『ずっと京子の隣にいるよ』

結衣『そして京子の顔見てる』

京子「えっ!?そうだったの!?」

結衣『うん、見てて飽きないから』

京子「気になるからやめてよ///」

結衣『今まで普通に寝てたじゃん』

京子「そりゃ知らなかったからだよ!」

京子「とにかく、それはダメ!」

結衣『はいはい』

結衣『わかったからもう寝ろ、明日遅刻しても知らないぞ』

京子「いやだ!結衣ちゃんが寝顔見ないって約束するまで寝ない!」

結衣『わかった、約束するよ』

京子「本当に?約束だからね」

結衣『あぁ』




京子「……zzz」スースー

結衣『あっちは呼び捨てで、私は結衣ちゃんか……』

結衣『…………』ナデナデ

結衣『京子……』

────

結衣『はい、私の勝ち』

京子「くっそ~!また負けた~!!」

結衣『……スピードももう飽きてきたな』

京子「だね……一年生の頃みたい」

結衣『ゲームもあらかたやり尽くしたしな……』

結衣『そうだ、告白の練習はしなくていいの?』

京子「えっ……ど、どうしたの?突然」

結衣『結局まだ最初一回やった切りだと思って』

京子「うーん……もう少ししてからで」

結衣『はぁ』

結衣『お前、告白する決心が着いて、告白するために私を拾って来たんだろ?』

結衣『先延ばしにしてどうするんだよ』

京子「うぅ……だって……」

結衣『しょうがないな……告白出来ないなら、向こうから告白してもらえるようにすればいいんじゃないか?』

京子「告白してもらえるようにって……どうやって」

結衣『簡単に言えば惚れさせろってこと』

結衣『そして向こうが告白しやすい状況を作れってことだ』

京子「そんなこと出来るかな?」

結衣『さぁな、方法は自分で考えろ』

京子「えぇー、難しいよ」

結衣『まぁ、このまま片思いで終わるのもいいんじゃないの』

京子「うぅ……頑張ります」


チャポン……

京子「ふー、ダメだなぁ……」

京子(結衣ちゃんの言う通りだよなぁ……告白する気満々だったくせに)

京子(せっかく結衣ちゃんが協力してくれるって言ってるのにな……)

コンコン

結衣『京子ー、ちょっといいか』

京子「えっ、結衣ちゃん?」

結衣『入るぞ』ガラッ

京子「って、え!?どうしたの!?結衣ちゃんお風呂入らないはずじゃ!?」

結衣『なんか京子には世話になってばかりで悪いからさ』

結衣『背中流しに来たんだ』

京子「ちょっ、お母さんに見られたら大変だよ!」

結衣『お母さんはさっき買い物に出掛けたから、しばらくは大丈夫だよ』

京子「でも、私、そんなお礼されるようなことはなにも……」

結衣『私はそれくらいのことをしてもらってると思ってるよ』

結衣『それとも……京子はいやか?』

京子「いやじゃないけど……恥ずかしいっていうか……」

京子(結衣ちゃん、部屋で一人で居るのが寂しかったのかな……)

京子「……それじゃあ、お願い」

結衣『あぁ、任せろ』


結衣『はい、おしまい』

京子「う、うん、ありがとう///」

京子(めちゃくちゃ恥ずかしかった……///)ドキドキ

結衣『それじゃあ先に戻ってるから』

京子「は、はい///」


京子(なんでこんなに恥ずかしがってんだ?)

京子(ちょっと前は結衣と一緒にお風呂入ってもここまでドキドキしなかったのに///)

京子(いろいろ知られてる結衣ちゃんが相手なせい?///)

────

京子(あー……なんかいつもより身体が熱い)

京子(扇風機出そうかな───)


『───なん───私───』


京子「……?」

ガチャッ

京子「結衣ちゃん……?」

結衣『ん……おかえり』

京子「なにか話してた?」

結衣『いや、ただの独り言だよ』

京子「へー、結衣ちゃんも独り言とか言うんだね」

結衣『言うよ、漫画の感想とか』

京子「ツッコんだり?」

結衣『……なくはないかな』

京子「このツッコミ眼鏡め!」

結衣『……ツッコまないからな』

────

京子「えーん!結衣ちゃんえもーん!結衣を惚れさせる方法思いつかなかったよー!」

結衣『なんだ帰ってくるなり』

京子「学校でいろいろ試したけど全部ダメだったよー、おーん」

結衣『試したのか……どんなことやってみたの?』

京子「ウインクしてみたり、さり気なく抱きついたりとか……」

結衣『それいつもやってないか?』

京子「……あっ」

結衣『向こうは何の変化も感じてないと思う』

京子「クソゥ、こっちは結構ドキドキでやってたのに……」

結衣『まぁ私は最初から無理だと思ってたけど、半分冗談だったし』

京子「なんだって!!?」

結衣『告白するより難しいに決まってるだろ』

京子「でもなぁ……」

結衣『なら、ラブレターでも書いてみたらどうだ?』

京子「ラブレター……」

結衣『直接言うよりはだいぶ楽だろ』

京子「確かに」

結衣『じゃあ、さっそく書いてみろよ』

京子「いきなりっすか」

結衣『予定だったらもう告白してる頃だろ。早いほうがいい』

京子「わかった!やってみる!!」


京子「……」カキカキ

結衣『……』ジーッ

京子「うーん……」

結衣『……』ジーッ

京子「……」チラッ

結衣『なんだ』

京子「そんなに見つめられると気になるんだけど」

結衣『気にするな』

京子「気になるからあっち向いてて」

結衣『でも、やることないし』

京子「じゃあ……結衣ちゃんもラブレター書いてみる?」

結衣『私が?誰にだよ』

京子「誰でもいいよ、私でもね☆」キャピ

結衣『……』

京子「はい、紙ならいくらでもあるから。おかわりもいいぞ」

結衣『はぁ……』


京子「出来た!」

結衣『思ったより早かったな』

結衣『見せてみろよ』

京子「えぇ!?」

結衣『ほら』

京子「かなり恥ずかしいのですが……」

結衣『誰にもチェックしてもらわずに渡すのと、チェックしてもらってから渡すの、どっちがいい?』

京子「いや、ラブレターって普通自分だけで考えてそのまま渡すものだと思うよ」

結衣『どうせ相手は私なんだから、告白の練習まで見せてる相手に今更気にするようなことでもないだろ』

京子「……クッ……うぅ……」

京子「アァ……!ぐうっ……!」プルプル

京子「ゥオオ……!」ガクガク

結衣『土下座強要してる訳じゃないんだから、あの常務みたいに溜めなくていい』

京子「コホン……では、お願いします」ハイ

結衣『了解』

結衣『…………』

京子「……///」ドキドキ

結衣『うん……いいんじゃないかな』

京子「本当に!?」

結衣『あぁ、あとは渡すだけだな』

京子「ありがとうございます!!」

京子「そういえば、結衣ちゃんもラブレター書き終わったんだよね?」

京子「……」ジーッ

結衣『……見せないからな』

京子「えー、ずるーい!私のだけ見といてー!」

結衣『私のは渡す予定のないやつだからな、誰にも見せる必要なんてないんだよ』

京子「私に見せればいいじゃーん」

結衣『ダメ』

京子「ケチ~」

京子「結局、結衣ちゃんは誰に書いたの?」

結衣『誰でもいいだろ』

結衣『とにかく、絶対見せないから』ビリビリ

京子「ちょっ!なにも破くこと……」

結衣『渡さないんだったらないのと同じだろ』ポイッ

京子「そんなに見せたくないか……」

結衣『それで、その手紙どうするんだ?』

京子「もちろん渡すよ」

結衣『明日?』

京子「あたぼうよ」

結衣『ついに告白か……』

京子「長かった……」

結衣『お前が長引かせただけだろ』

京子「そんなこと言わないの」ツンッ

京子「でも、これで告白対策会議は終わっちゃうんだねぇ……」

京子「寂しい?」

結衣『別に』

京子「……上手くいくかな?」

結衣『上手くいくさ』

京子「よし……頑張る」

結衣『……応援してるよ』

────

京子「……」ドキドキ

京子(結衣の下駄箱……)

京子(ここに入れれば……)

京子「……」

京子「やっぱり机に入れよう」

ガラッ

京子「はぁ」

結衣「京子、どこに行ってたんだ」

京子「ちょっとトイレにねー」

京子(机……多分ずっと結衣いるよなぁ)

京子(……やっぱり直接渡そう)


京子「結衣ちゃん部室行こー」

結衣「あぁ、ていうか何だそのちゃん付けは」

京子「へっ……あー、あかりのマネ!」

結衣「違和感すごいからやめろ」

京子「へーい、気を付けまーす」

京子(あっという間に放課後になっちゃった)

京子(今日渡すって決めたのにぃ……)

京子(……いや、諦めるのはまだ早い。今日はまだ終わってないじゃんか)

京子(部室に着くまでに渡すぞ)

テクテク

京子(部室に着くまでに絶対に渡す)

テクテク

京子(部室に着くまでに───)



ガラッ

京子「皆さんごきげんよう!」

あかり「二人ともお疲れ様」

結衣「うん、お疲れ」

ちなつ「お茶淹れてきますねー」

京子(部室に……)

────

結衣『おかえり、どうだった?』

京子「ごめん……結局渡せなかった……」

結衣『まぁ……そんな気はしてたよ』

京子「でも……明日は渡す!」

結衣『明日になったらまた明日になるだけじゃないの』

京子「次のは……この前みたいなのじゃなくて、告白場所に呼び出す手紙だから!」

結衣『大丈夫か?』

京子「大丈夫……とは言い切れないけど」

京子「やっぱり想いは直接伝えたいから」

京子「私は明日絶対にやるよ」

京子「明日手紙を出して、それから告白する。約束するよ」

結衣『……うん、頑張れ』

────

京子「せっかくの昼休みなのに、なんでこんなことしなきゃいけないんだー」ブー

千歳「あはは、先生に頼まれたんやからしゃあないよ」

京子「プリント運び自動化装置とか発明されればいいのに」

「池田さん、歳納さん、どっちか一人でいいからちょっとお願ーい」

京子「先生が呼んでる」

千歳「それじゃ、うちが行ってくるわー」

京子「流石千歳!サンキュー!」


京子「はぁー……早く手紙渡さなきゃいけないのに……」

『あっ、京子。やっと見つけた』

京子「? 結衣?」

結衣『はずれ、私だよ』

京子「結衣ちゃん!?こんなところでなにしてんの!?」

結衣『暇だったから遊びに来たんだ、ちゃんと家の鍵はかけてきたから安心してよ』

京子「そうじゃなくて!」

京子「誰かに見つかったら大変だよ!結衣が二人いることになっちゃうんだよ!?」

結衣『なんとかなるだろ』

京子「そんななんとかって───」

結衣『大丈夫、いざとなったら私完全に動き止めるから』

結衣『確かにパッと見は船見結衣かもしれないけど、よく見たらすぐ気付くはずだよ』

京子「えぇ……それでもおかしいでしょ」

結衣『まぁでも、本人に見つかるのはまずいかもな』

結衣『自分そっくりのマネキンが廊下に立ってるとか、ホラー映画じゃあるまいし』

結衣『うん、夕方まで一目につかないところでのんびり寛いでるよ』

「おーい、歳納さーん」

結衣『ほら、呼んでるぞ』

京子「あっ……じゃあ結衣ちゃん!絶対に誰にも見られないようにね!」

結衣『あぁ』

京子「待ってー、今いくからー!」タタッ


結衣『……』

────

結衣『……まぁ、ここだよな』

ガラッ

あかり「あっ、結衣ちゃん」

結衣『あれ?あかり?』

結衣『あかりも部室に来てたんだ、一人?』

あかり「ううん、ちなつちゃんも一緒だよ」

あかり「部室で一緒に宿題やろうってことになったんだけど、ちなつちゃんが先生に呼ばれちゃって」

あかり「それであかりだけ先に来て宿題やってたの」

結衣『なるほどな』

あかり「結衣ちゃんは京子ちゃんと一緒じゃないの?」

結衣『うん……あかりたちと同じようなもんかな』

あかり「そうなんだぁ」


あかり「……うーん」

結衣『わからないの?』

あかり「うん、ここなんだけど……」

結衣『これは……ほら、教科書のここに載ってる公式を使えばいいんじゃないかな』

あかり「あっ、そうか!」

あかり「結衣ちゃん、ありがとう!」

結衣『ふふっ、どういたしまして』

結衣『……』

結衣『あかりは、学校楽しい?』

あかり「? 楽しいよ?」

結衣『なら、よかったよ』

結衣『部活のこととか、どう思ってるのか心配だったんだ』

あかり「心配?」

結衣『本当は娯楽部じゃなくて、他にやりたいことがあったんじゃないか……とかね』

あかり「んー……そんなこと、考えたこともなかったよぉ」

あかり「結衣ちゃんがいて、京子ちゃんがいて、ちなつちゃんがいて、あかりは毎日楽しいことがあって幸せだよ」

あかり「娯楽部を作って待っててくれた、結衣ちゃんと京子ちゃんのおかげだね」

あかり「ありがとう♪」

結衣『私はお礼を言われるようなことなんてなにもしてないよ』

結衣『全部京子のおかげさ』

あかり「うぅん、結衣ちゃんもだよ」

あかり「みんながいるから、あかりは幸せなんだと思うよ」

結衣『そんな……私といても別に面白くないでしょ』

あかり「そんなことないよぉ」

あかり「結衣ちゃんはいつも謙遜して、京子ちゃんのいいところばっかり言うよね」

結衣『そうかな』

あかり「そうだよぉ、結衣ちゃんだってすごいのに」

あかり「結衣ちゃんは京子ちゃんが大好きなんだね」クスッ

結衣『……そうか』

結衣『ありがとう、あかり』ナデナデ

あかり「? あかりなにかしたかな?」

結衣『あぁ、あかりはいい子だよ』

結衣『私は用事が出来たから、もう教室に戻るよ。それじゃあな』

あかり「うん、わかった。またあとでね」

結衣『うん……またあとで』

結衣『……』

ガラッ

ちなつ「わっ!」

結衣『あっ、ちなつちゃん』

ちなつ「結衣先輩!」

ちなつ「結衣先輩も部室に来てらしたんですね!」

結衣『うん、少しだけね』

ちなつ「お昼休みにも結衣先輩とお会い出来るなんて光栄です!」

結衣『ははっ、大袈裟だなぁ』

結衣『あかりなら中で待ってるよ』

ちなつ「はい!ありがとうございます!」

結衣『それじゃあ』

ちなつ「はい!失礼します!」

結衣『あっ、そうだ、ちなつちゃん』

ちなつ「? どうかしました?」

結衣『ちなつちゃんはいま、楽しい?』

ちなつ「へっ?」

結衣『部活とか、学校もだけど、楽しんでくれてるかなって』

結衣『元々は茶道部に入るつもりだったんだし』

ちなつ「確かに私は茶道部志望でしたけど、今がいやだなんて少しも思ったことないですよ」

ちなつ「学校がある日も、お休みも、みんながいるから。毎日が最高に楽しいです」

ちなつ「なにより、結衣先輩にも出会えましたしね♪」

結衣『うん……ありがとう』

結衣『よかったよ……ちなつちゃんが楽しんでくれてて、嬉しい』ナデナデ

ちなつ「あ、あの……結衣先輩?」

結衣『ちなつちゃんはいい子だね』

結衣『ありがとう』

ちなつ(結衣先輩が……こんなに近く///)

ちなつ「結衣先輩が……最初に私を守ってくれたから、結衣先輩のおかげですよ///」

結衣『そんなことないって』

ちなつ「結衣先輩……私───」

結衣『ちなつちゃん』スッ

ちなつ(結衣先輩の指が唇に……!!?///)

結衣『ごめんね、私用事あるから』

結衣『そこから先はまた今度』

結衣『ね?』

ちなつ「は、はい……///」

結衣『バイバイ』

────

京子(部室に行ったら玄関に手紙が貼り付けてあった)

京子(『体育館の裏で待ってる』)

京子(ここに結衣ちゃんが……)


京子「───あっ!結衣ちゃん!!」

結衣『やっぱり……来てくれた』

結衣『京子なら必ず部室に来ると思ったよ』

京子「一目につかないところって言ったらまずは部室だからね」

京子「どうしたの?結衣ちゃん、この前は家から出るの嫌がってたのに……」

結衣『……京子に用事があってね』

京子「私に?なにか大事な───」


チュッ

京子「!!? ゆ、結衣ちゃん!!?」

京子「な、なにを……///」

結衣『……本当は最初から分かってたんだ』

結衣『私が生まれたきっかけ』

結衣『私がこうなったのは、京子のキスが始まりだったんだ』

結衣『おとぎ話でもよくあるだろ?キスで目覚めました、って』

京子「そうだったんだ……」

京子「───ってことは……!!」

結衣『あぁ、もうすぐお別れだ』

京子「そんな!!!」

結衣『ごめんな……私、本当はこのまま告白なんか出来ないままでいいって思ってたんだ』

結衣『京子には私だけがいればいいって』

結衣『学校には、告白を邪魔するために来たんだ……』

京子「結衣ちゃん……」

結衣『そして、本物の私を直接見るために』

結衣『いつか……私が本物の結衣になってやろうと考えてた』

結衣『……でも、やっぱりみんなが必要としてるのは人間の私なんだって気付かされたよ』

結衣『私は所詮偽物だ。いまの世界を壊してまで、本物に成り代わったところで上手くいく訳ない』

京子「でも……だからってそんな急に───」

結衣『私は悪い奴だよ』

結衣『このままずっといたら、そのうちおかしくなって、入れ替わるために本当に殺すかもしれない』

結衣『日に日に少しずつ嫉妬が強くなっていくんだ』

結衣『京子が告白に成功したら、すぐにでも消えるつもりだった……だから最初は素直に応援しようと思ってたんだけど……』

京子「……」

結衣『ごめん……』

結衣『京子は告白の練習のために私を拾ったのに、一回しか練習に付き合えなくて』

京子「そんなの……」グスッ

結衣『でも、最初っから練習なんて必要なかったんだよ』

結衣『ありのままの京子で、素直に気持ちを伝えればそれでいいんだ』

結衣『だって私は、いつも通りの京子が大好きなんだから』

結衣『本物の私だってきっと同じだよ。マネキンだけど、私だって結衣なんだから』

京子「私……まだ一人じゃ宿題出来ないよ?結衣ちゃん……私が宿題出来るようになるまで消えないって言ってたじゃん!!!」

結衣『京子ならもう大丈夫だよ、宿題も毎日出来るし、遅刻もしなくなっただろ』

京子「それは、結衣ちゃんがいたから……」

結衣『じゃあ約束、これからも毎日宿題はすること』サラァ

京子「!!! 結衣ちゃん身体が!!!!」

結衣『どうやら、もうすぐみたいだな』

京子「いやだよ……結衣ちゃん……」ポロポロ

結衣『ははっ……泣くなよ』

京子「結衣ちゃん……」ギュウッ

結衣『……』ナデナデ

結衣『頑張ってね……京子───』サァァァ


サラサラサラ……


京子「……っ……」グッ




結衣ちゃんは砂になって消えた

私の手には、結衣ちゃんが着てた制服だけが残った

砂も風に飛ばされて消えて、結衣ちゃんが存在した痕跡も消えてしまった

空っぽの制服を抱きしめると、手応えがないせいか、無性に悲しくなった

結衣ちゃんと過ごした数日間が走馬灯のように頭の中を流れ、涙が止まらなかった

結衣ちゃんは本当にいなくなってしまったんだ


……でも、結衣ちゃんは大事なものを残してくれた

臆病な私に、たくさんの勇気を与えてくれた

ありがとう……私、頑張るよ



ありがとう───『結衣』


 

────


結衣「どうしたんだ、こんなところに呼び出して」

京子「来てくれてありがとう……結衣」

京子「……大事な話があるの」

京子「私、結衣のことが───」




おしまい

────

京子「ただいまー」

シーン

京子(……やっぱり返事はなしかぁ)


京子「……はー……」バタッ

京子(本当に言っちゃった……疲れたぁ……)

京子(でも、告白できたんだよね、私……よかったぁ……)

ボトッ

京子「……あれ?これは……」

京子(あのとき結衣ちゃんが破った手紙……?)

京子(セロテープでくっつけてある)

京子「なんで……結衣ちゃんの制服から……」

京子「……置いていってくれたのかな」

京子「……これは読んでいいってことだよね……?」ガサッ

京子(なんて書いてあるんだろ───)


────

京子へ

好きです。

結衣より


P.S.おめでとう

────


京子「…………」


京子「……ありがとう……」

京子「私も大好きだよ」





京子「……私も手紙書こう」

カキカキ



────

結衣ちゃんへ

好きです。

京子より


P.S.ありがとう

────

おしまい

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