【安価】重巡棲姫「ニクラシヤアアアアアア!」北方棲姫「何ガ?」 (46)

超亀進行

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北方棲姫が重巡棲姫と接点をもったのは、人間どもが捷四号と呼称する作戦の折である。
並の戦艦を上回る火力、かの戦艦水鬼をも超える装甲、新型魚雷を搭載し、夜戦をこなす準備も万全。
さらには護衛に戦艦棲姫二隻と空母棲姫一隻がつくという徹底ぶりは、彼女の艦娘を『役立たず』と断じる気勢もあって、上からの期待は大変厚いものと伺えた。

だが結果は惨憺たるもので、鎮守府全戦力の約六割超を突破させると言う始末。
その六割のなかでも最高の態勢を整えた重巡棲姫を正面から打ち破る者が最も多かったという。
こうして『艦娘は役立たず』の気勢を上げた重巡棲姫は、被弾の奇声とともに『役立たず』の烙印を自身に押されてしまったのである。

作戦終了の後、艤装を損傷した重巡棲姫は北海道沖からAL方面へと撤退。
北方棲姫の膝下で修理とこれからの処遇のお沙汰を待つ身となった。
修理中しきりに「ニクラシヤアアアア!」と叫ぶ重巡棲姫を白い目でみるタ級たちを横目に北方棲姫は思った。

ほっぽ(艦娘がそんなに憎いのならこんな無様を晒さないはず)

ほっぽ(なにか他に憎いものがあったに違いない)

そうと決まれば話は早い、挨拶がてらさっそく聞き出してみようか。
北方棲姫はおもむろに重巡棲姫に歩み寄ってこう言った。

ほっぽ「ゼロ、おいてけ」

重巡棲姫「は?」

挨拶を間違えた。

ほっぽ「さっきの作戦、何が悪かった?」

重巡棲姫「……私の指揮能力が悪かったのよ」

歯噛みして答える重巡棲姫に北方棲姫は首を振った。

ほっぽ「いや違う。重巡棲姫は優秀。何か別のことに気を取られてたに違いない」

重巡棲姫「別のこと?」

ほっぽ「そう、あなたが憎いもの、本当に憎いものは何?」

重巡棲姫「それはもちろん艦娘…」

ほっぽ「艦娘が憎いなら、それなりの結果は出せたはず」

はてこれは何の問答か糾弾か。
いぶかる重巡棲姫をそのままに北方棲姫は続ける。

ほっぽ「心残りにしているものがあったから、結果を出せなかったと考える」

ほっぽ「心残りを解消すれば、重巡棲姫は全力を出せる」

ほっぽ「できる限り手伝いをする。なんでも言って欲しい」

重巡棲姫「うーん?」

本当のところは艦娘が憎いのである。
深海棲艦として生まれた以上それは魂に染み付いたものであり、結果を出せなかったのは単に向こうの実力が上だった。
しかし北方棲姫はそれを許さないらしい。

ならば今をどうするか。
重巡棲姫はしばし逡巡し、思いつく。
どうせならば自分の鬱憤ばらしに付き合ってもらおう。
敗北の靄のような心持ちも晴れるならば、自分にとっても北方棲姫にとっても良いはずだ。

重巡棲姫「私が本当に憎いのは…【下2】」

【鬼畜すぎるのは飛ばします】

重巡棲姫は諸手をあげて叫んだ。

重巡棲姫「まんじゅう! まんじゅう憎ラシヤアア!」

ほっぽ「それはどうして?」

重巡棲姫「決まっている。あの甘いもので艦娘どもが高揚する!」

重巡棲姫「高揚した艦娘はよく避ける、よく当ててくる! 憎らしい!」

重巡棲姫「食い散らかしてやらねば気がすまん!」

沈めた輸送艦が物を落とすことはよくあることで、その中には甘味もあった。
重巡棲姫がまんじゅうを口にしたのは単なる偶然であったが、口の中に広がる塩味以外の感覚に驚いた。
この黒くてしっとりしたもののなんと美味なことであろうか、水上の連中はこんなものを食しているのか。

自分でさえこうなのだ。艦娘どももそうに違いない。
ならば艦娘どもからまんじゅうを奪うべきなのだ。

ほっぽ「なら狙うのは給糧艦? 輸送船団?」

重巡棲姫「…ポケット戦艦の真似事をしろと?」

ほっぽ「自分でやったほうが、心残りは解消できる」

重巡棲姫と北方棲姫は北方の海域の沖に出てみた。
天気は晴朗、なれど波高し。流氷をなでた風は少し肌寒い。
偵察機を飛ばして辺りを探ってみる。

重巡棲姫「なんで肩車しなきゃいけないのよ…?」

ほっぽ「らしいんだって……偵察機が【下2】をみつけた」

大海原に浮かぶ濃いお茶である。
船員が落としたのだろうか、それともどこぞから流されて来たのだろうか。幸い容器はいたんではいないようだ。
白いネコ型の浮遊戦闘機がくわえてきたのを受け取ると、北方棲姫は興味深げに眺め回した。

ほっぽ「…これ何?」

重巡棲姫「甘味をのせた船によくのってる……飲み物?」

ほっぽ「なら飲んでみる」

重巡棲姫「ちょっと…」

北方棲姫は早速口に含んでみたがみたがすぐに噴き出した。

ほっぽ「苦い!」

重巡棲姫「そんなに一気に飲むから」

ほっぽ「毒! これ毒! 甘味の船にのっているのに甘くないなんてずるい!」

重巡棲姫「はいはい、わかったから……それより別の偵察機が【下2】を発見したそうだ」

偵察機と感覚をつなげると、艦娘が見える。
それもよく見る艦娘ではなく特別な部類だ

重巡棲姫「給糧艦伊良湖…」

重巡棲姫は口角をつりあげた。十中八九目的のものが積まれているはずだ。
それに沈めて仲間にしてしまえば少なからず深海棲艦全体の益にもなる。
沈めなくとも損傷を与えるだけにとどめて、この辺りが警戒すべき海域としらしめるだけでも輸送を滞らせることができるだろう。

ほっぽ「護衛艦隊もいる、【下1】と、【下2】と、【下3】」

飛龍「赤城さん、それくらいにしておいたほうが。提督に怒られても知りませんよ?」

赤城「はっへほへほいひいんへふほほ(だってこれ美味しいんですもの)」モグモグ

秋津洲「赤城さんずるいかも! 二式大艇ちゃんにも分けるべきかも!」

伊良湖「赤城さんの分は別に確保してますから大丈夫です」



重巡棲姫「空母ニ隻と…何あれ」

ほっぽ「水上機母艦。南のルートで接近してきたことが一回」

重巡棲姫「強いの?」

ほっぽ「すごく弱い」

重巡棲姫「ふーん。それにしても空母二隻の護衛とは豪勢なものだな」

重巡棲姫「【下2】でもするか」

誰のスカートを狙う?
【下2】

一旦中止

秋津洲「三式水中探信儀に感ありかも!」

飛龍「あるの? ないの? どっちよ?」

赤城「潜水艦かしら…?」

伊良湖「えっと…もしもの時はお願いします」

秋津洲「伊良湖さん、あたしのそばにいれば大丈…」

重巡棲姫「そーらっ!」ザバー

伊良湖「きゃあ!?」メクリ

秋津洲「ぎゃーーーーーーーーーー!?」メクリ

波が高いとはいえ水上から進めば空母に発見されるだろう。
鉢巻のついた橙色のは見た目から手練だ。赤いのも大抵の鎮守府で最古参の位置にいるという。
ならば気付かれない場所から近づけばいい。自分たちは深海棲艦だ。

水母にソナーのピンを打たれたのは予想外だったが練度が低いのが幸いした。

重巡棲姫「はっはっはっは、無様よな!」

伊良湖「うぅ…」

秋津洲「なななななななになになんなのかも!?」

赤城「姫級…っ!?」

飛龍「水中からなんて卑劣な!」

重巡棲姫「役立たず共め…沈ヴェアアアアアアアアア!?」ドゴーン

ほっぽ「潜水艦以外の水中攻撃は規定違反」

重巡棲姫「」チーン

北方棲姫「規定違反、見逃して欲しい」

伊良湖「は、はぁ…」

秋津洲「こいつめ! こいつめ!」ゲシゲシ

赤城「なんだか戦闘する気ではなさそうですね」

飛龍「良かったですよ、この数で姫級二隻は勘弁です」

北方棲姫「あとまんじゅうが欲しい」

赤城「なんですって!?」

伊良湖「【下2】」

伊良湖「そんなことなら出来たてをごちそうしますよ」

赤城「伊良湖さん!?」

飛龍「いいんですか、そんなことをして? 仮にも敵なんですよ」

秋津洲「そ、そうかも! それに物資の帳尻が合わないと厳罰かも!」

伊良湖「食べ物を欲しがってる人に敵も味方もありませんよ」

伊良湖「幸い、赤城さん用に多く積み込んでますし」

伊良湖「それに深海棲艦に襲われたんです。荷物の一部を投棄して全速で逃げ出した、そういうことでいいじゃないですか?」

伊良湖は満面の笑みでそう言った。

重巡棲姫が気がついたのは空が夕焼けに染まる頃だった。
周りを見渡してみればすでに艦娘どもの姿はない。
北方棲姫が大きな荷物のそばに佇んでいるだけである。

重巡棲姫「それは何だ?」

ほっぽ「まんじゅう」

重巡棲姫「沈めたのか?」

ほっぽ「もらった」

重巡棲姫「もら…もらった?」

ほっぽ「もらった、あげる」ポイッ

重巡棲姫「おっと」パシッ

包み紙を開ければまだ仄かに温かい。
立ち上った香ばしく甘い匂いが嗅覚をくすぐる。
まんじゅうの表面には伊良湖の文字の焼き印がついている。

ほっぽ「食べないの?」

重巡棲姫「…艦娘からの施しだろう?」

ほっぽ「違う。重巡棲姫が襲ったから、荷物を捨てて逃げていった」

重巡棲姫「さっきもらったって」

ほっぽ「言ってない」

重巡棲姫「…まあそういうことにするわ」

重巡棲姫はしばらく迷っていたが、意を決してまんじゅうにかじりついた。
甘さと言う感覚が身体中に広がっていく。素朴でそれでいて上品で優しい甘さだ。

重巡棲姫「ああ…」

重巡棲姫はため息を零した。二口、そして三口と続けて頬張る。

重巡棲姫「甘い…甘いナァ…」

ほっぽ「苦いのいる?」

北方棲姫から手渡されたお茶を飲む。
なるほど、このためにこれはあったのか。
口の中の甘さをリセットして、また最初の感動を味わう。

重巡棲姫「艦娘どもめ…こんな恐ろしい兵器を作って」

重巡棲姫「こんなのをもらったら…ひとたまりもないじゃないか」ポロポロ

重巡棲姫「これはここで処分しなければならない! 憎らしいまんじゅうめ!」グスッ

ほっぽ「私も手伝う」モグモグ

それからしばらくの間、北方海域の輸送において給糧艦が狙われることが多発したが、幸いどのケースも艦隊は無傷ですんだ。
少しばかりの荷物の損失はあるものの大した量でもなく、艦隊の運営に支障はなかったという。

その後、重巡棲姫は北方海域から北太平洋の前線へと異動することになった。
その際集積地棲姫に十分な量のまんじゅうを再優先で確保する旨を命令したため、深海棲艦の物資管理班はもめにもめたという。

そして北太平洋前線…………

重巡棲姫「……」

基地航空隊ドーンドーン
航空攻撃ドーン
支援攻撃ドーン
開幕魚雷ドーン

重巡棲姫「艦娘ニクラシヤアアアアアアアアアアアアア!」中破

【終われ】

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