ヒバリ「私の不幸は悲恋」はなこ「ヒバリちゃんー!」 (107)

私が通っているのは、天之御船学園1年7組

地元では名高い名門高なのだが不幸にも、いや不幸だからこそ、私はこのクラスにいる

にわかには信じがたいが、不幸を背負った生徒たちが集められたクラス、それがこの1年7組らしい

正直、自分が不幸だとは、今まであまり自覚がなかったのだけれど……

こう毎日、不幸体質の人々を見ていると、信じざるおえない

はなこ「ヒバリちゃんー!おはよー!」

彼女は花小泉杏、はなこと呼ばれている

私のクラスメイトであり、この学園で初めて出来た友達だ

ヒバリ「おはよう、はなこ……って今日は泥だらけね……」

はなこは高確率で、制服を汚し登校してくる

意図的にやっているわけじゃない、これは体質である

彼女の不幸は不運

身の回りの事象が悪い運勢となって降りかかってくる難儀な体質だ

そして私の不幸は――



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私の不幸は――

ぼたん「おはようございま……ふぁ……ごほッ!!」

はなこ「ぼたんちゃん大丈夫!?」

ヒバリ「ぼ、ぼたん!?」

……私のことは後回しにしよう

目の前で血を吐いたのは、久米川牡丹

私とはなこの友達であり、大抵はこの3人で学園生活を過ごしている

彼女の不幸は不健康、らしいが……

いや、不健康ってレベルじゃないでしょこれは……

ぼたん「うふふ……少し眠たくてあくびが出た途端、呼吸器から出血してしまいましたー……」

恐ろしいほどの虚弱っぷりだ

よくこれまで生きてこれたものだと思う

ぼたん「朝からお見苦しいものを見せてしまいましたね……せっかくの一日の始まりを重々しくしてしまう私なんて本当に無価値な」

ぼたん「ぶつぶつ……」

そして卑屈なまでに自虐的な性格である

はなこ「そ、そんなことないってぼたんちゃん!おかげで眠気スッキリだよ!」

ヒバリ「は、ははは……」

ビックリしすぎて眠気が覚めるのを越え、寿命が縮んだくらいだ

未だにこのクラスの日常は私にとって非日常で、慣れそうにない

放課後

ヒバリ「私ちょっと、今日は寄るところあるから」

ヒバリ「また明日ね」

はなこ「バイバイ!ヒバリちゃん!」

ぼたん「さようならヒバリさん~」

今日も慌ただしかった学園生活が終わり、私は二人へ別れを告げた

寄るところ……おそらく二人とも察しはついてるんじゃないかしら

今更だけど、やっぱり少し気恥ずかしい


ヒバリ「……」

こっそりと周囲に誰もいないことを確認し、それに近づいた

本日、工事がお休みなのは事前調査済みだ

ヒバリ「……こんばんは、今日も素敵ですね」

彼はいつものように、笑顔で佇んでいた


彼……私はそう呼んでいるが、おかしな話だ

彼は人間ではない、金属の板に塗料で描かれた物体

つまり看板なのだから

実際そのことで中学時代、友達にからかわれたこともある

彼女たちは面白おかしい冗談だと思ったのだろう

楽しく談笑するネタとして私の想いを言いふらしたのだろう

私は真剣そのものだったのだが

ヒバリ「……はぁ」

しばらく経った今となっても、嫌な気分になる思い出だ

……自分でもわかっているのだ、こんな恋は報われないと

素敵な彼の表情だって、笑顔だけだ、他の顔は見せてくれない

いくら話しかけようと、彼は返すことはない

そんなの当然なこと、だけど私は不足感を感じずにはいられなかった

幸せになるため、いつかは割りきり、まっとうに好きな"人"を見つけなければならないと

でも、やっぱり私の不幸は――


ヒバリ「――どうやら、私の不幸は悲恋のようです」

ヒバリ「……ええ、見つけられたんですよ、好きな"人"」

ヒバリ「いえ、違うんです、貴方を嫌いになったわけじゃないんですよ?」

ヒバリ「その人を好きになれたきっかけは、思えば貴方のようなものですから」

ヒバリ「でも結局、私も不幸クラスの一員だったんですね」

ヒバリ「せっかくの幸せになれるチャンスは掴めそうにありません」

ヒバリ「だって……」

私はいつも、写真入れを持ち歩いている

愛しの彼の写真を見ると、辛い時でも心が和らいだ

そして最近、新たにもう一枚の写真を

ヒバリ「……」

ヒバリ「どうして?やっと好きになれた人がどうして……」

何時からか、私は花小泉杏の写真を眺めるようになっていた

どうして、はなこを好きになったのだろう

入学初日に、はなこと初めて出会った

率直に言って、あまり良いファーストコンタクトではない

トラブルに巻き込まれたおかげで遅刻しそうになったし……

同じクラスと知った時は心底不幸だと思ったものだ、いや実際不幸だったわね……

……そうだ、あの日から

幸福実技という意味のわからない授業で、『好きで好きでたまらない人』を叫べと理不尽に強制されたあの日から

私は怖かった、はなことぼたんは理解してくれたからいいものの、もし皆に知られたらどう思われるのか

昔と同じく再び奇異の目で見られ、自分の想いを嘲られるのか

しかし、答えなければ授業成績最下位は確実、絶体絶命だった

そんな中、はなこが

『イリオモテヤマネコが大好きなんですー!!!』

反響するほどの大声で叫んだ

衝撃で不安、焦り、恐怖、すべてが一瞬で消えた

それから、私は、はなこのことが気になり始めたんだと思う

実はヒバリの一人称は『あたし』だったりする

>>13
『あたし』だと読みづらい気がしたので『私』表記に
文では私でも、本人はアタシと言ってる脳内変換でどうか一つ

ヒバリ「はなこは私(アタシ)のこと、どう思っているんだろ……」

目の前の彼のことは好きだが、彼が私のことを好きかはわからない

そもそも、彼にそういった感情があるのだろうか……

しかし、はなこならばその気持ちを確かめることはできる

自惚れかもしれないけど、はなこは私を好きと言ってくれるだろう

ヒバリ「でも……」

きっと私と同じ好きではない

きっとはなこにとっての私は、ただの友人でしかない

ヒバリ「女の子同士、だものね」

想いを反芻しながら、改めて自分の恋愛運のなさに自然と苦笑がこぼれた

ヒバリ「依然として片想いしていることには変わらない、か……」

ヒバリ「なんで同性の子を好きになっちゃったんですかね?」

ヒバリ「もっと楽な恋なんて幾らでもあるはずなのに」

彼に愚痴っぽく問いかけてみる

答えは当然なかった

自宅

ヒバリ「ただいま」

ヒバリ「って誰もいないんだけど」

両親が海外転勤の中、一人きりでセルフツッコミ

寂しさが倍増する行為をしながら内心後悔した

ヒバリ「なにやってんだろ私……」

別に寂しいわけじゃない

ただ、最近はとみに参っているのだ

恋の悩み、毎日毎日、頭をもたげる難題

解決する糸口がまったく見えず、はなこに会うたび心が揺れ動く

ヒバリ「どうすればいいの……」

この今の関係も、気に入ってはいる

はなことぼたん、そして時々、萩生さんと江古田さん

友達と過ごす学園生活としては順風満帆だ、いや不運まみれでトラブルは多いけれど……

そして、さらに欲張ってしまう、はなこと今以上の関係になれたらもっと幸せなのに、と

だが、もちろん告白でもしてこの関係を崩壊させる訳にはいかない

そんなジレンマを抱えていると精神的に大負荷だ、ちょっとおかしなことも口に出ちゃうのも致し方無いだろう

ヒバリ「……はぁ」

ヒバリ「寝よ……」

ろくに食欲もわかないので、お風呂で軽く洗い流し、すぐベットに入ることにした


ヒバリ「……」

ヒバリ「眠れないわ……」

瞳を閉じても考え事ばかり浮かんでちっとも眠れやしない

はなこ……

あの幸福実技の後、『私をかばって?』と尋ねてみたら、まったく意図していなかったような表情

こっちはどう感謝すればいいのか悩んでていた分、一気に穴があったら入りたい面持ちになった

ヒバリ「あの時は恥ずかしさで有耶無耶になったけど……」

ヒバリ「でも、あの時……」

はなこはやっぱり私をかばってくれたんだと思う

いえ、もはや真実は重要ではない

実際、はなこのおかげで救われたのは事実なのだから

ヒバリ「ああ……はなこのことばっかり考えちゃってる……」

ヒバリ「バカ……はなこのバカ……」

ふつふつと湧いてきた不眠の苛立ちを虚しくつぶやく

早く寝たい……はなこに会いたい、会いたくない……

結局、そのまま一睡もできず朝を迎えてしまった


はなこ「おはよー!ヒバリちゃ……ん?」

ヒバリ「おはよ……」

相変わらず不幸にあってきた形跡があるのに、憎々しいほどはなこは元気だ

それはいつものことなのだけど、今日は許せない

不条理とわかっていても眼前の不眠の原因を睨みつけてしまう

はなこ「え?あれ……?」

はなこ「ヒバリちゃんどうしたの?すごくつらそうだよ?」

ヒバリ「別に、なんでもないわよ……」

大して怯えもせず無邪気に心配してくるはなこ

単に鈍感なのか、私の眼力がなかったのか

はなこ(なにかあったのかな?)

ヒバリ「貴女のせいよ」

想い人に聞こえないようこっそりとぼやきながら、ふらふらと席に向かった

ぼたん「おはようございます、ヒバリさん」

ヒバリ「おはよ……」

ぼたん「なんだか、ご気分が優れないようですね?」

ぼたん「無理せず保健室で休んだほうがよろしいのでは?」

ビバリ「ありがと、でも大丈夫だから」

心のなかでぼたんにだけは言われたくない、と思ったのは内緒だ


小平「さて、幸福クラスのHRに向かいますか」

小平「あら?落し物?」

小平「これはたしか雲雀丘さんの……」

小平(以前より少々厚みが増してますね)

小平「……ほう、これは」

チモシー「おやおや!とてもごきげんそうだね!」

小平「ふふふ、朗報よチモシー」

小平「不幸クラスにいる一生徒の不幸を解消できるかもしれないわ」

小平「おもしろ……いえ、教師として嬉しいことね……うふふ」

チモシー(あー……悪いこと考えちゃってるねコレ……)

小平「はーい、みんな席についてください」

小平「早速HRを始めますが」

小平「本日の予定は急遽変更され、一日中、幸福実技をすることになりました♪」

一同「「「ええっー!?」」」

ヒバリ「どういうことですか先生?いくらなんでも杜撰じゃ……」

と、普通なら言うとこだが、あいにく現在そんな元気はない

このクラスがいい加減なのは今更だし、いくら異議を申し立てても無意味なのは何回も経験済みだ

それに予定通り座って通常授業を受けるとなると、睡魔に勝てそうにない

体を動かすことになるアクティブな幸福実技に変わったのは、むしろ僥倖と思えた

はなこ「わー!今度は何するんだろー!」

隣の席で、はなこがはしゃぎ始める

また最下位になるかもしれないというのに

本当に、こういう部分は尊敬してしまう

そんな、はなこを横目にして不意に笑みがこぼれてきた

はなこ「あっ、ヒバリちゃん笑った!」

ヒバリ「わ、笑ってない」

はなこ「えへへ、ちょっと元気出てきたみたいで良かったよ~」

ぼたん(微笑ましいですわ)

小平「はいはい、お静かに」

小平「今回の幸福実技は、くじで無作為に選んだ二人のペアで行ってもらいます」

小平「ペアを作った後、こちらからお題を出しますので、協力しあいそのお題をこなしてくださいね」

小平「皆さんは不幸の星の下に生まれてしまいました」

小平「その星の下では、そのうち一人では乗り越えられないほど大きな障害にぶつかってしまうことでしょう」

小平「ですが大切なのは協力しあうことです、一人でだめなら二人で越えればいい」

小平「"人"という字は人と人が支えあってできているんですから♪」

小平「今回の授業では、言わばその協調性を培ってもらいます」

小平(――というのはあくまで建前)

小平(あくまで真の目的は――)


はなこ「二人一組かぁ……前みたいに三人じゃできないんだね」

ぼたん「残念ですね」

ヒバリ「そうね、それにお題というのがなんだか不安だわ……」


ヒビキ「ぐぬぬ、くじだと……」

ヒビキ「これではヒビキがレンとペアになれないではないか!」

レン「……まあ、なれないことはないんじゃないかな……」

レン「……確率的には一応……」

ヒビキ「低すぎる!!ヒビキはレンと一緒がいいのだー!!」

レン「駄々こねないでよ」

くじ引き終了

小平「では発表された相手とペアになってくださいねー」

ヒビキ「先生!レンとヒビキが離れ離れになってしまったぞ!!やり直しを強くようきゅ」

小平「あ゛?」

ヒビキ「なんでもないです……」


はなこ「やった!一緒だねヒバリちゃんっ!!」

ヒバリ「え、ええ」

はなことペアになれたのは素直に嬉しいけど……

なぜか得体の知れない企てを感じるのは気のせいかしら

小平「さあ、各々お題を配布しますので取りに来てくださいね」


はなこ「どんなお題なんだろうな~」

ヒバリ「先生、私たちのお題は?」

小平「貴方達はこれです♪」

手渡された紙を受け取ると、その中に書かれていた内容を目にし私は絶句した


『幸せな恋人同士として過ごせ』

ぽかーん

ヒバリ「……」

ヒバリ「……は」

ヒバリ「はああああああああああああああ!!!?」

はなこ「なになに!?なんて書いてあったのヒバリちゃん!?」

ヒバリ「は、はなこは見ちゃダメ!!」

はなこ「えー?どうしてヒバリちゃん?」

ヒバリ「とにかく今はダメなの!ちょっと待ってて!!」

はなこ「ん~?待ってるね?」


不審がるはなこを尻目に私は先生を連れ出し、あまりにも突飛なお題について問いただした

ヒバリ「ど、どういうことですかこれは……!?」

小平「あらら?意味が理解できませんでしたか?」

小平「花小泉さんとハッピーなカップルとしてエンジョイしてくださいという意味ですよ?」

ヒバリ「そういうことを聞いてるんじゃありませんッ!!」

小平「まあまあ、落ち着いてください」

ヒバリ「これが落ち着いていられ……」

小平「ところで、これは貴女の落し物ですよね雲雀丘さん」

ヒバリ「あっ……」

しまった、迂闊だった

寝不足でふらふら歩いた時のはずみに落としてしまったのか

ヒバリ「し、知りませんよそんなケース……」

小平「隠す必要はないんですよ?」

小平「生徒一人ひとりのことは入学前から調査済みですから♪」

ヒバリ「……」

この人相手には、とてもシラを切り続けられる自信がない

おとなしく観念するしかないのね……

ヒバリ「……わかりました、認めます」

ヒバリ「それは私のものです」

小平「はい、どうぞ」

ヒバリ「……ありがとうございます」

ヒバリ「……あの」

小平「はい」

ヒバリ「やはりおかしいでしょうか……」

小平「いいえ、なんらおかしいことではないですよ」

小平「愛するということは素晴らしいことです」



ヒバリ「今回の幸福実技はもしかして……」

小平「さあ?なんのことでしょうか?」

小平「たまたま幸福実技に変更になって、たまたま雲雀丘さんが花小泉さんとペアになっただけですよ♪」

ヒバリ「そんな偶然があってたまりますか……」

ヒバリ「そもそもこのお題って意味あるんですか?」

ヒバリ「幸福とは関係ないような……」

小平「そうですか?でも、花小泉さんと恋人になれるのは幸せですよね」

ヒバリ「う……///」

小平(わかりやすい……)

小平「とにかく、貴女は花小泉さんとイチャつける大義名分を得ることができました」

小平「それに、実技が終わるまでの一時的なものですよ」

小平「ここは流されるまま、課題をこなしてみてはいかがですか?」

ヒバリ「………………今回だけ、なら」


途中、落し物の件で萎縮しきった私は、結果そのまま押し切られる形となった

ヒバリ「言いくるめられちゃったわ……」

はなこと、恋人になることになってしまった

……嫌がらないだろうか、いくら仮初めでも同性相手にそんな関係を築くことには抵抗があるのではないか

もしそんな反応を見せたら、こっちは振られたも同然だ

私も、少し嫌がる素振りをしないと変に思われるかな、しかし、もしかしたらはなこが傷つくかもしれない

ヒバリ「頭痛い……」

とりあえず戻ろう、はなこを長く待たせてしまっている


チモシー「ちょっと強引すぎたんじゃない?」

小平「これくらい強引なほうがいいんですよ」

小平「あの様子じゃ、想いを秘めたまま卒業を迎え疎遠になってしまいお終いです」

小平「同性で恋愛に疎そうな花小泉さんを好きになってしまったのは、相変わらずの悲恋属性ですね」

小平「それでも多いに幸福へ向けて前進しているのは事実です」

小平「それに、花小泉さんもおぞましいほどの不幸っぷりを傍で支えてくれる人が必要でしょうから」

小平「まさにWINWINですよ、教師として生徒の幸福を応援してあげなくてはいけません」

小平「うふふ……幸福実技の結果が楽しみです」

チモシー(それっぽいこと言ってるけど、つまりは自分が楽しんでるだけだよね!)

ヒバリ「ゴメンはなこ、待たせたわね」

はなこ「ヒバリちゃんおかえり~!」

はなこ「先生となに話してたの?」

ヒバリ「その……まずこれ見て」

まともに、はなこへ目をあわせられず、私はお題が書かれた用紙をかざした

はなこ「あっ、ずっと気になってたんだよ!」

はなこ「どれどれ~……『幸せな恋人同士として過ごせ』?」

はなこ「?『シアワセナコイビトドウシトシテスゴセ』?」

ヒバリ「……ッ///」

ヒバリ「二回も読み上げないでっ!!」

やばい、教室に入るまで一通り心構えはしてきたはずなのに

はなこの口からいざ聞くともう……顔を上げることが……できないぃぃ……

ヒバリ「ご、ごめんねはなこ……」

ヒバリ「先生には色々言ってみたんだけど、ダメだった……」

ヒバリ「そ、その……無理にする必要は……」

ずっとうつむいてしか話せない

今、はなこはどんな表情をしているんだろう



はなこ「わ~!ヒバリちゃんの恋人になるんだ~!」

ヒバリ「……えっ」

不安とは裏腹に、はなこは何時も通りの楽しそうな抑揚で私と恋人になることを受け入れた

ヒバリ「は、はなこ!?」

はなこ「?」

はなこ「どうしたのヒバリちゃん?そんな驚いて?」

平常運転すぎるはなこを見ていると、今度は別の意味で不安になってきた

ヒバリ「あ、貴女わかってるの!?恋人よ?」

ヒバリ「つきあうってことよ?抵抗とかないの……?」

はなこ「抵抗?なんで?」

ヒバリ「だ、だって……普通は女同士じゃ……」

はなこ「えーと、でも私はヒバリちゃんみたいな恋人がいたら嬉しいよ?」

ヒバリ「~~~っ/////」

はなこ「あれ?顔赤いよヒバリちゃん?熱?」

ヒバリ「なんでもないわよ!!」

こんなことさらっと言えちゃうなんて、言われるこっちはたまったものじゃない

顔面が急に火照ってフラフラする

はなこ「あっそっか……私はよくてもヒバリちゃんは嫌だったりするんだよね……」

はなこ「ゴメンネ……私ヒバリちゃんの気持ちを考えてなかった……」

ヒバリ「ち、違うのッ!!!」



ヒバリ「むしろすごく嬉しいからッ!!!」

はなこ「へっ?」

ヒバリ「あっ」

なにを言っているんだろう私は

はなこならともかく、私がこんな発言をすれば誤解を招くのではないか

いや厳密には誤解じゃないけど

ヒバリ「そそそ、そういう意味じゃなくて!!!」

はなこ「?どういう意味なの?」

ヒバリ「すごく嬉しいといっても、嫌じゃないくらいのニュアンスというか……?」

ヒバリ「そう、そういうこと……」

ヒバリ「と、とにかくっ!私もOKってことよ!」

はなこ「わかった!」

はなこは純粋に疑いなく私の言葉に頷く

……はなこはそもそも、誤解すること自体ありえないのかもしれない

恋愛に疎そうだし、まして自分が本当に好かれてるなんて思いもしないだろう

それはそれで、どこか悲しくもあるがとりあえずは一安心だ

はなこ「じゃあ、これから一週間恋人よろしくねヒバリちゃん!」

ヒバリ「……………………………………一週間?」

幸福実技は今日中のみのはずではなかったか

はなこ「うん、この紙に書いてあったよ?」



お題用紙の端っこには、小さく『一週間』の文字が記されていた

学校も終わり、私とはなこは二人で下校している

二人でだ、ぼたんは気を利かせた感じで『お二人でごゆっくリ~ほほえま~』と……

……クラスメイトの多くに、私たちの課題内容は知られているのではないか

そもそも見事に騙されたものだ、一週間なんて聞いていなかった

後から他のペアたちにも聞いてみたが、どれも今日で終わるような課題ばかり

私たちだけ一週間という期限つき

ヒバリ「どう考えても狙い撃ちされてるわね……」

はなこ「なんで私たちだけなんだろうね?」

ヒバリ「そ、それは……」

ヒバリ「ごほんっ……というか、この私たちのお題って課題と呼べるのかしら?」

ヒバリ「どう成果を発表すればいいのかわからないじゃない」

はなこ「でも、一週間もヒバリちゃんとカップルになれるなんて嬉しいよ!」

ヒバリ「そ、そう……///」

はなこ「一週間なにしよっか!デートとかしちゃう?」

ヒバリ「ま、まあ明日は学校だし、一緒に登校する?」

はなこ「おー!なんだかそれっぽい!」

はなこ「じゃあ明日ヒバリちゃんの家に迎えに行くね!」

今夜は久しぶりに安眠することができた

無茶な幸福実技のお陰なのは悔しいけど、認めざる負えない

私は幸せを感じていた


ヒバリ「……………すぅ……」

ヒバリ「………ん……」

ヒバリ「いまなんじ……?」

ヒバリ「……………」

ヒバリ「いけない!寝過ごした!!」

寝入り過ぎていつもより大分遅く起きてしまった

こんな時、家族がいないのは不便に思う

ヒバリ「急いで支度しないと!!」

今日は、はなこが来る日なのに!

本来だったらゆっくり髪も整えたいのに!

ヒバリ「ごめん!はなこ!」

ヒバリ「待った……って」

ヒバリ「誰もいない……」

待ち合わせの時間はとっくに過ぎていたのに、玄関前には誰の姿も見えなかった……

ヒバリ「よく考えてみれば……」

あのはなこが無事に目的地へ辿り着くのは至難と言ってもよかった

ヒバリ「私がはなこの家に行くべきだったわね……」

寝不足のせいでそんなことも気づけなかったことを悔やむ暇はない

とにかくはなこの家を訪ねてみよう


朝の晴天にも関わらず、花小泉家は周囲にどす黒い気が満ちていた

ヒバリ「あ、相変わらずね……」

インターホンを押すと、はなこのお母さんが『はーい』と返事

ヒバリ「おはようございます」

桜「あら、おはようヒバリちゃん」

ヒバリ「あの、はな……杏いますか?」

桜「いえ、杏なら少し前に家から出ていったわよ」

ヒバリ「そうですか……今日は一緒に登校する予定だったのですが姿が見えなくて」

桜「あらーごめんね、大方またどこかでドジっちゃってるのかしら?」

ヒバリ「私、探してきます」

桜「苦労かけるわね~お願いするわ~」

普通なら娘の安否をもっと心配するべきなのだろうが、もはや日常茶飯事なのだろう

桜「そういえば昨日……」

はなこ『明日は恋人を迎えに行くんだ~』

桜(冗談と思って聞き流したけど)

桜「……まさか、ねえ……」


ヒバリ「はなこ!!」

はなこ「ううう……ヒバリちゃん~……」

はなこ「本当なら今頃、学校にいるはずなのに、ごめんね~……」

ヒバリ「もう!ぼろぼろじゃない……」

はなこ「えへへ、道中いろいろありまして」

ヒバリ「はなこがそんなだって知ってたはずなのに、こっちこそごめんね」

はなこ「そんなってどんな?」

自覚ナシ……

ヒバリ「……まあ今からだと、どうせ遅刻しちゃうし」

ヒバリ「焦らず一緒に行くわよ?」

はなこ「うん!」

はなこ「そうだヒバリちゃん!恋人らしくさ!」

ヒバリ「えっ」



はなこ「手、つなご?」

はなこ「はい!」

はなこが私に手を差し伸べてくる

そうだ、私たちは恋人なのだ

手をつなぐことなんてなんらおかしくはない

そもそも今まで何度かつないだこともあるではないか

だけど、これまでとは違い、恋人という前提で、つなぐことを、考えると……

ヒバリ「わ、わかった……///」

自然につなぐことなんてできない……

はなこ「こういう時は恋人つなぎのほうがいいのかな?」

ヒバリ「え、ええ、そうかも、ね……////」

しどろもどろ

はなこと指を絡ませるのに数分もかかった気がする

はなこ「?」

はなこ「ヒバリちゃん、もしかして緊張してる?」

ヒバリ「そ、そんなことないわっ!」

はなこ「すごいなあ」

はなこ「私はこういうの初めてだから、ちょっとドキドキしてるよ」

心なしか、はなこの顔が赤く染まっている

私はそれ以上に紅潮しているのだろう

ヒバリ「あ、私だってつきあうのなんて初めてだし……」

ヒバリ「その……こういうのってよくわからないわ」

はなこ「えへへへ、じゃあ私がヒバリちゃんの初めてになるんだね」

ヒバリ「っ////」

ヒバリ「そ、その言い方はちょっと……///」

はなこ「ここは私が彼氏役になってエスコートしちゃうね!行こっ!」

ヒバリ「お、お願いします……////」

はなこが少し前に行く形で、私たちは歩き出した

はなこの言うとおり私の初めての恋人は、はなこ

逆に当然だが、はなこの初めての恋人は私になるのだ

その事実を改めて噛みしめる


はなこもドキドキしてるのよね

それは単に恋人同士として過ごす状況から?

それとも、相手が………私だから?

そんなわけないか

はなこに連れられながら、とりとめもないことを考えていた

ヒバリ「……////」

時々、通学通勤中の学生や社会人にこちらを見られた

仲の良い友達同士と思われているのだろうか、それとも……

女子のじゃれあいで手をつなぐ程度よくあるはずなのに

私は恥ずかしさで地面を見つめ続けている

はなこ「なんだか視線を感じるね~」

ヒバリ「そ、そうね」

はなこ「私たちって恋人に見えるかな?」

ヒバリ「どうかしら、仲良いとは思われてるかもしれないわね……」


ヒビキ「レンのやつめ~!ヒビキを置いていくとは何事だ!!」

ヒビキ「……ん?あれは雲雀丘ではないか?」

ヒビキ「ちょうどいい、学校まで案内させてやろう」

ヒビキ(決して道がわからんわけではないぞっ!入学前の罪滅ぼしをさせてやるのだ!)

ヒビキ「おーい、ひば……花小泉?」

ヒビキ「……朝から随分とイチャついてるではないか、課題で無理やりの割には満更でもなさそうだ」

ヒビキ「ふん、水を注さないでおこう、貸しにしておいてやる」

ヒビキ(ヒビキだってレンと……う、羨ましくなんてないぞ……)

そのまま学校に到着し、教室に入ったときは朝礼直前

みんなは席についており、じっと私たちを好奇の目で見つめてくる

視線が痛い、みんな課題のこと知ってるだろうし

まあ、課題だからこそ本当につきあってるわけじゃないと知られてるので、ある意味安心かもしれない

『ご一緒に遅刻ぎりぎりで登校とはお熱いことだ』ぐらいに冷やかされるのは覚悟しよう

はなこはいつもの調子で『おはようございまーす!!』と挨拶

その無神経と思えるほどの胆力をわけてほしい

教室に入る前だって「さ、さすがに手は離しておきましょ……?」とこっちから申し出てしまった

だって、あのままじゃ恋人つなぎを大勢に見られちゃうし……

はぁ、我ながら情けないわ………

少し遅れて萩生さんが息を荒げ入室し、こちらから注意が逸れたのは幸いかもしれない


ぼたん「お昼ですね~!」

ぼたん「お二人で素敵なランチタイムをどうぞ!私なんぞお気にせず!」

ヒバリ「ぼ、ぼたん?」

ほなこ「でも、それじゃぼたんちゃんは」

ぼたん「本日、いえ今週中は江古田さんたちと食べる約束をしてますから!!」

はなこ「そうなの?」

ぼたん「はい!!」

ヒバリ(どこか嬉しそうに見えるのは気のせいかしら……)

ヒビキ「おい、久米川」

ヒビキ「お前は寂しくないのか?」

ヒビキ「いままで3人で行動してきたではないか」

ヒビキ「その中の2人がより親密になれば疎外感を覚えやしないのか?」

ぼたん「そんなことはありませんよ」

ぼたん「むしろ、これから仲睦まじいお二人を見れると多幸感すら覚えます……!」

ヒビキ「そ、そうか……いらぬ心配だったようだな」

ぼたん「ああっ!幸せすぎて動悸が止まりません!」

ヒビキ「おかしなやつだ……」

レン「人には人それぞれの嗜好があるものさ」


はなこ「こうやって二人で食べるのは初めてだね!」

ヒバリ「そう、ね」

ただ食事をするだけなのに、二人っきりの状況が心臓に早鐘を打たせる

はなこ「はいヒバリちゃん、あーん」

ヒバリ「あ、あーん……////」

今度の恋人らしい事は食べさせっこ

ということで、はなこが自分のお弁当から私の口におかずを運ぶ

はなこ「ごめんね、焦がさないのに精一杯だったから味は良くないかも……」

ヒバリ「………ん」

……はっきりいって美味しくはない

だが、あのはなこが必死になって作っただろう料理だ

こうやって私に食べさせるため、せめて見た目はまともにしようと頑張ったのかな

それだけで胸が暖かくなる

ヒバリ「……正直、味は微妙ね」

はなこ「ううっ」

ヒバリ「でも、優しい味」

ヒバリ「……ありがとね、はなこ」

はなこ「!」

はなこ「うんっ!ヒバリちゃんにそう言って貰えると作った甲斐があったよ!」

やっぱり私のために作ってくれたのか

愛おしい

お次は私の番だ

ヒバリ「はいはなこ、あーんして?」

少しは、この恋人ごっこに慣れてきた感じがする

はなこ「あむっ」

はなこ「おいしい……」

はなこ「美味しいよぉヒバリちゃぁん……」

うるうる

ヒバリ「そ、そんなに!?」

まさか泣くほどだとは

はなこにこうやって食べさせることを想定して、ちょっと気合入れて作りはしたけど……

はなこ「しっかりと素材の味がするよぉ……」

ヒバリ「そりゃ、そうでしょうよ……」

はなこは調理で毎回、焦げるのが恒例らしいし

こんな普通のお弁当でも感動しちゃうのかも

前に幸福実技で遠足に行ったときも、やけにお弁当を褒められたし

はなこ「ヒバリちゃんの手料理が毎日食べられたら幸せだね!」

ヒバリ「……っ」

お望みならば毎日作ってもいいわよ

と、言いかけて思わずやめる

まるで告白みたいではないか

はなこ「ごちそうさまでした~」

ヒバリ「ご馳走さま」

はなこ「喉乾いたし、自販機で飲み物買ってくるね」

ヒバリ「つきあうわよ」


はなこ「どうか苺ミルクが出ますように……!」

自販機ってくじみたいなものだったかしら……

ヒバリ「これでいいのね?」

ぴっ、とはなこの代わりにボタンを押すと、目当ての品が出てきた

いや当たり前だけど

はなこ「!!」

はなこ「ひ、ヒバリちゃんすごいよ……!」

ヒバリ「すごくないわよ……」

はなこ「自販機から欲しい飲み物が出たのなんて数年ぶりだよ~!」

はなこ「ありがとうひばりちゃん!ひばりちゃん!」

ご機嫌にはしゃぎながら、はなこは私に抱きついてくる

ヒバリ「そ、そんなに嬉しいのね」

まったく可笑しい、何でもないことをここまで喜べるのか

常時不幸だからこそ、なにげない普通のことを幸せとして感受できるのだろう


私はそんなはなこを見て、ずっと傍で支えてあげたいと思った

チモシー「順調だねぇー」

小平「ええ」

小平「恥ずかしさも段々と消えてるみたいです」

小平「雲雀丘さんの気持ちが徐々に表れてきてますね」

チモシー「花小泉さんがその想いに気づくことはあるのかなぁ?」

小平「ないでしょう」

チモシー「ないよね」

チモシー「花小泉さんのイメージってあんまり恋愛と結びつかないよ」

小平「雲雀丘さんが自主的に告白する他ありませんね」

小平「さて、残り一週間未満です」

小平「一人の生徒だけ贔屓するわけにもいきませんし、これが最初で最後の手助けでしょう」

小平「この幸福実技で得られた最大のチャンスを、貴女はつかめるでしょうか」


ヒバリ「……………」

はなこ「ヒバリちゃん……?」

ヒバリ「……あ、うん」

ヒバリ「教室戻ろうか、はなこ」

ヒバリ「じゃ、またね」

はなこ「バイバイみんな~!」


ヒビキ「すっかり馴染んでおるなあ」

ヒビキ「ナチュラルに手なんぞ繋いで下校しおって」

ぼたん「微笑ましいですわぁ、微笑ましいですわぁ」

ヒビキ「二度も言わなくていい!」

レン「だけど、もう明日で終わりなんだね」

ヒビキ「恋人生活の最終日が祝日とは、締めとして何ともおあつらえ向きではないか」

ぼたん「もう学校で二人の仲睦まじい光景が見られないのは残念です……」

ぼたん「ですが!明日は二人っきりでゆっくりと最後の蜜月を過ごして欲しいですね!」


ヒバリ「……ねえ、はなこ」

はなこ「なに?ヒバリちゃん?」

ヒバリ「明日で最後ね」

ヒバリ「もうこんなふうに手をつなぐこともないのね」

女々しい

わかりきったことを、はなこに問いかける

『ずっとこうしていようよ!』みたいな返答を期待しているのか、私は?

はなこ「なんだか名残惜しいね」

ヒバリ「な、なら……」

はなこ「でもすっごく楽しかったよ!ありがとヒバリちゃん!」

ヒバリ「あ………」


はなこの感謝の言葉は、私にこの関係が続くことがないのを悟らせた

ヒバリ「……ええ」

ヒバリ「私も楽しかったわ」

ヒバリ「……」

ヒバリ「はなこ、明日はせっかくの休みだし」

ヒバリ「泊まっていかない?」

どうせ終わるなら

せめてこのかけがえのない時を、もっと味わいたい


はなこ「おじゃましまーす!」

ヒバリ「誰もいないけどね」

はなこ「いないね~」

はなこ「一人暮らししててヒバリちゃんはかっこいいなあ」

ヒバリ「別に大したものでもないわよ?」

はなこ「私はお母さんに助けられてばかりだよ」

はなこ「いつかは独立しなきゃだね~」

ヒバリ「はなこは特殊だし、一人立ちはできないと思うけど」

はなこ「特殊!?」

はなこ「そうかな……一人立ちできないかな……?」

ヒバリ「ふふっ」

ヒバリ「じゃあ、晩御飯の支度するから適当にくつろいでて」

はなこ「手伝わなくていいの?」

ヒバリ「いいの」

美味しそうに喜んで食べてくれるはなこを想像する

調理がいつもよりずっと楽しい

ヒバリ「ふんふーん♪」

目の前にいる恋人のために、手料理をふるまう

この一週間、色々恋人らしい事はしてきたけど

今は特にそれっぽい瞬間かもしれない


もうすぐ終わりですって?

わかってるわよ、そんなの

でも、ただじゃ終わらせないから……

偽りでもいい、はなこと愛しあった証を残さなきゃ

その証があれば、この恋が実らなくてもきっと大丈夫だから

ごめんね、はなこ

好きになってごめんなさい


はなこ「ごちそうさまでした~!」

ヒバリ「お粗末さまでした」

はなこ「ヒバリちゃんと結婚できる人は幸せだね!」

はなこ「こんな美味しい手料理が毎日食べられるなんて」

ヒバリ「……うん」

ヒバリ「ありがとう」


はなこ「――あははっ!」

はなこ「でね、ヒバリちゃん!その後にお母さんが……」

ヒバリ「へぇ、そんなことあったんだ」

そろそろかな


ヒバリ「はなこ、もう遅くなったし寝よっか」

はなこ「え、あ……うん」

はなこ「そっか、なんだか、さっきからとても……眠かったの……」

はなこ「せっかく、ヒバリちゃんと、お泊りなんだから……」

はなこ「いっぱい……お話し……したかった、んだけど………」

はなこ「……Zzz……」

ヒバリ「……………」

ヒバリ「……おやすみ、はなこ」

予定ならもっと早く効くはずだったのに

眠気を我慢してでも、私とお喋りしたかったの?

嬉しい

ぼたんに以前、最近眠れないと相談した時のものが残ってて良かった

友人の好意をこういう形で用いる後ろめたさは、果てない欲求で吹き飛んだ

一週間、恋人でいられたからこそ更に求めてしまう

はなこと本当の恋人になりたい、そして愛し合いたい

だけど、はなこは私にそんな感情は微塵も抱いていないから

この幸福実技を通してよくわかった、わかってしまった

いざ前々から思っていたことが、実感に変わるともうダメだ

はなこに振られたも同然


私は、はなこに衣服に手を伸ばす

ヒバリ「はなこ」

貴女は将来、どこかの男性と結婚するんでしょうね

その人は、私に似ていたらいいな

『ヒバリちゃんみたいな恋人がいたら嬉しい』って言ってくれたものね

もしそうなら、フラれたこともほろ苦くて綺麗な思い出に昇華できるかもしれない

でも、それだけじゃ足りない

ヒバリ「はなこの初めては」

ヒバリ「私」

貴女が他の人間と幸せになろうと

それだけは永遠に残り続けるから

この寝間着は思った通り、はなこによく似合っている

はなこに似合うと思って買ったものだから

脱がせるのはもったいないな

惜しみつつ、ボタンを一つ一つ外していく

一つ外すごとに、私の理性のタガも外れていく

さらさらの布に包まれながら、半分はだけて露出したはなこの肌に私は息を呑んだ

所々にある不運の証、打撲や擦り傷の痕が痛々しい

思わず胸が痛む

ヒバリ「はなこ……」

ヒバリ「綺麗よ……」

傷痕に軽く口付けをする

これから、私の痕も残してあげるからね


そういえば、はなこは胸を気にしてたっけ

着替える時いつも、私やぼたんの胸をまじまじと見ていた

めずらしくはなこがコンプレックスを持っている部分

ふれてみたい

はなこが意識するところに私の感触を残したい

はなこ「……ぅ」

はなこ「………んっ……」

はなこから吐息が漏れてくる

感じてくれてるのかな

ヒバリ「結構、それなりに大きいじゃない」

ヒバリ「だから自信もってはなこ」

人の胸を触りながら言うセリフじゃないわね


胸を愛撫しながら、はなこの顔に近づく

息があたってこそばゆい

キス……していいかな

恋人らしいことはしてきたけど、さすがにキスはしなかった

私のファーストキス

はなこも、おそらくはファーストキス

はなこに初めてを捧げたい、しかし一方的に奪っていいのか?

……なにを今更、ここまでしておいて

ヒバリ「はなこ……」

ヒバリ「はなこにとっては、意識ないから、ノーカンで」

ヒバリ「許してね……」

私は、はなこにキスを

はなこ「……………ひばり……ちゃん……」

ヒバリ「!!」

もう起きた……?

いや、そんなはずはない

あの薬は自分で試したこともある

そうそう簡単に目が覚めるものではない

はなこ「………えへへ……」

ヒバリ「……寝言?」

一瞬、心臓がはねた


ヒバリ「……どんな夢を見てるのかしら」

はなこは、笑っている

きっと幸せな夢でもみているんだろう

はなこ「……ひばり……ちゃん」

はなこ「おい……しい……?」

ヒバリ「なっ」

はなこ「……よかっ……た」

ヒバリ「………」

私に、料理を食べさせてる、夢?

ヒバリ「あ……」

この一週間のお昼は、はなこと一緒に弁当を食べていた

はなこの料理の味はいまいちで、結局一度も美味しいとは言うことがなかった

ヒバリ「気にしてたんだ……」

そういえば、今日の夕飯も『手伝うことはない?』と何度も聞いてたっけ

少しでも上達したかったのかな

私に美味しいと言って欲しかったのかな


ヒバリ「……」

ヒバリ「……う」

ヒバリ「うぁ……ああ……」

我に返った

なんてことをしてしまったのだろう

こんなに無垢な、はなこを、私は

私は、無理矢理、穢そうと

はなこ「もっと……上手に……」

はなこ「……なる、ね……」

はなこ「……………すぅ………」

ヒバリ「あ、あ………」

ヒバリ「ごめんなさい、ごめんなさい……」

ヒバリ「ごめんなさい、ごめんなさい……」

はなこへの懺悔を言葉をつぶやき続け、私はまどろみに落ちていった

はなこ「………ふぁあ……」

はなこ「ぁ~……」

はなこ「……あえ?もう朝?」

はなこ(たしか昨日はヒバリちゃんと話してて……急に眠気が……)

はなこ「ん?」

はなこ「わ、わわっ!」

はなこ「ヒバリちゃん!?」

はなこ(私にもたれかかるように寝っちゃってる?)

ヒバリ「……すやすや……」

はなこ(……熟睡だね)

はなこ(起こさないよーに……そ~と……)

はなこ「ほっ……ソファーにヒバリちゃんOKっと……」

はなこ「あれ?私、服脱げちゃってる?」

はなこ「私って寝相悪いなあ、前もぼたんちゃんに乗っかっちゃったし……」

はなこ(この有様……多分、寝てる間にヒバリちゃんに迷惑かけちゃったんだろうな~……)

はなこ(なんだか申し訳ないよ)

はなこ「……………よし!」



ヒバリ「……………」

ヒバリ「……ん」

ぼんやりと目を開くと、はなこがせっせと調理している光景があった

はなこ「あっ!ヒバリちゃんおはよう!」

はなこ「エプロン借りてるね」

はなこ「今、朝ごはんつくってるから待ってて!」

ヒバリ「はなこ……」


ゆらりと私は立ち上がり寝起きの焦点も定まらない歩きで、はなこに近づく

ヒバリ「……」

はなこ「見て見て!」

はなこ「結構、我ながらいい感じだよ!」

ヒバリ「……うん」

ぎゅっ

はなこ「へっ?」

エプロン姿のはなこを背後から抱きしめた

なぜそうしたのかわからない

でも、あの夜の後、今日起きて初めて見たはなこの姿が愛おしくて

抱きしめずにはいられなかったのかもしれない

はなこ「ひ、ヒバリちゃん……?」

ヒバリ「ごめん、ちょっとこのままでいて……」

はなこ「う、うん……」

柔らかい

はなこの感触が布ぎしから伝わってくる

はなこ「ヒバリちゃん、甘えんぼさんだね」

ヒバリ「ええ……」

ヒバリ「はなこぉ……」

はなこ(ど、どうしたのかなヒバリちゃん……?)


ヒバリ「……そこはこういうふうに切るの」

はなこ「え、あ、うん」

ヒバリ「ここのお湯かげんは数分程度で」

はなこ「は、はい!」


ヒバリ「完成ね」

はなこ「えへへ……」

はなこ「結局ヒバリちゃんの力、借りちゃった」

はなこ「お手製の朝食振る舞いたかったんだけど」

ヒバリ「これからよ」

ヒバリ「はなこならもっと上手くなるはずだわ」

はなこ「そうかな~」

はなこ「そうだといいけど~……」

はなこ「じゃあ、早速食べようか!」

ヒバリ「そうね、頂きます」

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