左衛門佐「温泉とあんこう鍋」おりょう「ぜよ」 (37)

ガルパン小説です。

左衛門佐とおりょうの二人が主役です。

何事もなく、温泉入ってご飯食べるだけのお話。

そこまで長くないです。さっくり読めると思います。

劇場版の内容にちょっぴり触れます。未見の方はご注意を。

心を込めて書きました。ご覧になってくださると嬉しいです。

少し経ったら始めます。

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斬りつけるような鋭い寒風が大洗に吹いていた。
茨城内陸と比べれば過ごしやすい気候を持つと言われる大洗だが、さすがに港町だけあって、この季節になると冬の厳しさを肌で味わえるようになる。
街道沿いへ並んで植えられた松の木の足元に、海風に煽られたらしき松毬が散らばっていた。
二月の、その日。
県立大洗女子学園学園艦が大洗へと帰港した。
近く行われる予定の戦車道模擬試合に向けた準備のためである。
全長7.6km、高さ690mを誇る学園艦が港へ着くと、見る者は突如として海上へ山が出現したかのような錯覚にすら陥る。
それだけこの船は巨大なのだ。
帰港の日になると町民はこぞって港へ押し寄せ、帰って来た船とその乗員たちを暖かく迎え入れ、これをねぎらう。
街の顔とも言えるこの学園艦を大洗の人々は誇り、また愛してもいた。
船が帰着すると、港は久しぶりの再会を祝う者や街へ繰り出そうとする者で溢れかえり、ちょっとした祭りのごとき様相を見せるようになる。
しかしそれもごくわずかの間で、しばらくすると辺りは元の静かな港町へと戻っていた。
これから一週間、学園艦はこの大洗へ停泊することになる。


茨城県大洗町は、東京から105km。
町にはヤマトシジミ漁で名高い涸沼川が流れ、これが那珂川と合流し、大洗海岸へと注いでいる。
かつては常陸国鹿島郡に属したもので、大洗の地名の由来は定かではないが、平安時代元慶年間に著された『日本文徳天皇実録』にはすでに「常陸国上言、鹿島郡大洗磯前有神新降」の記述が出現している。
大洗駅を唯一通る鉄道は鹿島臨海鉄道大洗鹿島線。
水戸を起点として鹿島まで繋ぐこの路線の恩恵によって、武甕槌神を祀る鹿島神宮へと至る交通の便も良い。
漁業、特にあんこうの漁で知られる大洗港は北海道・苫小牧と接続する東の海の窓口でもあり、夕方と深夜、一日二便のフェリーが運航を行う。
平成二十三年の東日本大震災の折には震度5強の地震と4.2mの津波が大洗を襲い、決して少なくない被害を受けたのだが、今では見事に復興を果たしたものである。

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さて夕暮れ時になり、海沿いの道を歩く一人の少女を見いだすことができる。
左目を閉ざし、右目だけを開けている。
別に目が見えないとか、塵が入ったとかそういうことではない。
ただ趣味でそうしているのである。
この少女は名を杉山清美というのだが、ここではあえて〔左衛門佐〕と呼びたい。
今日の左衛門佐は真っ赤なダウンジャケットにぴっちりとした青いジーンズ、それに黒地へ赤い線の入ったスニーカーという出で立ち。
長く美しい栗色の髪を背中に垂らし、赤色のショルダーバッグ、額にはこれまた赤のバンダナに銭模様が六つ…つまるところ、真田六文銭をあしらったものを当てていた。
左衛門佐は茨城県牛久市出身、県立大洗女子学園普通科所属の2年生で、戦国史をこよなく愛している。
彼女の呼び名である左衛門佐も、戦国末期に活躍した武将・真田左衛門佐信繁から取られており、自らこれをソウルネームと主張してはばからない。
開かずの左目も、敬愛する信繁公の左目が矢で射られ隻眼になったとされる言い伝えを踏襲する、一種のなりきりのようなものだ。
現在戦車道を履修している彼女は、共に学園艦の下宿で暮らす3人の同志…エルヴィン、カエサル、おりょうといった、一癖も二癖もある連中と共に、III号突撃砲F型と呼ばれる車両を駆って縦横無尽に戦場を駆けまわっている。
潮風を頬に受けつつ、左衛門佐はふと考えた。
(最近は、歩いているよりも何かに乗っている時間の方が多くなってきたなぁ…)
なにしろ学生生活のほとんどは船の上だし、たまに陸に降りても戦車道の試合で戦いを繰り広げるのが常であるから、こうして大地の上を歩くということ自体が久しぶりなのである。

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時は少し遡る。
艦が帰港し、学校の課業も終わったところで、大洗女子学園生徒会長の角谷杏が戦車道履修者を前にして、
「今日の練習はなーし。せっかく大洗に帰って来たんだし、みんな羽を伸ばしたいっしょ?
 うん、じゃあ二月だし、旧正月祝いってことで。解散!」
高らかに、こう宣言したものである。
旧正月は中国の風習では、というツッコミも一部から挙がったが、そこはそれ、生徒会長の言うことなので、みな旧正月を無理矢理にでも祝う羽目になった。
実態は程のいいサボり…もとい、休息である。
戦車道の面々は三々五々、息抜きをするため自由に散っていく。
左衛門佐たちカバさんチームも一旦は家に帰りしばらく骨を休めていたのだが、車長エルヴィン、装填手カエサル、操縦手おりょうと、三人の仲間はそれぞれ用事があるというので、順繰りにいそいそと出かけていってしまった。
家に一人残された左衛門佐としてはおもしろくない。
別に置いて行かれたことが寂しいのではない。
他の皆には用事があるのに、自分一人だけが暇を持て余しているというその境遇が、
(なにか気に入らない……)
のである。
仕方なしでつけたテレビ番組にろくなものがなかったことが左衛門佐の苛立ちを加速させた。
こうなれば意地でもなにか為さねばならない。
しかし思いつかない。
休日返上で戦車訓練に励んでもいいが、戦車道はチームでやるものであって、砲手の左衛門佐一人ではなにもできない。

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(かといって、勉強なんてしてみても始まらないなぁ)
おもいきわめて、左衛門佐は方眼紙を引っ張り出した。
方眼紙の上段真ん中に鳥居の絵を描き入れ、その両脇には「はい」と「いいえ」の文字。
その下に「あ」から「ん」までの五十音の文字……。
ついに左衛門佐は自らの閃きを諦め、天の助けを得ようとしているのである。
かつて選択科目で忍道の基本を心得た上、八卦を操る友人カエサルから手ほどきを受けた左衛門佐にとって、このあたりの呪術祈祷はお茶の子さいさいと言えよう。
障子戸の向こうからヒヨドリのさえずりが聞こえている。
「こっくりさん、こっくりさん…」
左衛門佐は居間の畳にひとり正座し、財布から取り出した十円玉に人差し指をちょこんと乗せ、ぶつぶつと呪文を唱える。
果たして天啓は得られた。
指を乗せた十円玉がまさに神憑りの如く、するすると移動する。
それが〔ゆ〕の字のところで止まると、それきり、動かなくなった。
「ゆ?」
ゆ…とは、なんだろうか。
左衛門佐はしばし腕組みをして考え、やがて立ち上がると、部屋着から外出用の服装へ着替え、靴を履き、玄関へ鍵を掛けて外へ出たのである。

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学園艦の家から自転車を飛ばし、船と大洗港を繋ぐ乗り降り口で船舶科の担当生徒に自転車を預けて、左衛門佐は久方ぶりの大洗の地へ降り立った。
冷え冷えとした、冬の高い空が彼女の頭上へ広がっている。
雲もなく、快晴である。
左衛門佐はゆるゆると、大洗港から南へ向かって歩みを進める。
歩くたび、風が吹くたび、彼女のしなやかな長髪がぴこぴこと揺れた。
左衛門佐が向かう先。それは銭湯であった。
〔潮騒の湯〕と屋号を掲げるその銭湯は、それもただの銭湯ではなく、いわゆる温泉宿というところで、鹿島臨海鉄道大洗駅から南東へ車で5分という立地に存在する。
ここには炭酸泉やジェットバス、遠赤外線サウナという設備も整っているが、なんといっても一番の売りは太平洋一望の眺めを持つ露天温泉だ。
隣には小綺麗にまとまったペンションが併設され、しかるべき料金を払えば素泊まりもできる。

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この温泉は、別名を「温まりの湯」と呼ぶ。
それというのも、この温泉には若干の塩気が含まれており、体についた塩分が汗の蒸発を防ぎ保温の働きをするそうな。
また塩本来の殺菌作用も合わせ、皮膚病や切り傷擦り傷はもちろん、関節や神経、筋肉の鎮痛にも効果を発揮するという。
いつぞやに行われた大洗女子・知波単連合と聖グロリアーナ・プラウダ連合の戦車道エキシビジョンマッチの際にも、試合終了後に生徒たちはこの〔潮騒の湯〕を訪れ、温泉に浸かりながら互いの健闘を讃え、親交を温めている。
その時の面子にはもちろん左衛門佐もいて、彼女は先の占いでこの温泉屋の存在を思い出したのである。
(ゆ、とは湯のことに違いあるまい。ということは風呂を使うが吉ということだ。家の湯船や学園艦の浴場に入ってもいいが…せっかくの機会だ。我らが大洗の湯に浸かろうじゃないか)
海風が吹き付ける。
西の空が紅で塗りつぶしたように赤い。
道を行く左衛門佐の影が、徐々に伸び始めてきている。
左衛門佐は両手をこすりこすり、〔潮騒の湯〕へと急いだ。

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〔潮騒の湯〕は太平洋・鹿島灘へと面した大洗海浜公園の南端付近に居を構える。
到着した左衛門佐は玄関をくぐり、左手にある鍵つきの下足箱に靴を収め、番台へ向かった。
〔潮騒の湯〕の入浴料は、平日が800円と、土日が1000円。
しかし、左衛門佐にとっては事情が違う。
「あの、これを…」
おずおずと左衛門佐が取り出して番台に見せたのは、県立大洗女子学園の生徒手帳であった。
それだけで店の者は全てを了解し、
「タオルのご利用は?」
「いえ、結構」
「では、ごゆっくりどうぞ」
現在〔潮騒の湯〕は県立大洗女子学園の戦車道高校生大会全国優勝を祝し、大洗女子学園生徒の入浴料1年間無料というサービスを行っているのである。
そのサービスを受けるためには学園の生徒手帳の提示が必要だ。
左衛門佐は自分の生徒手帳を見せ、番台から番号札を受け取り、一銭も払わずして堂々と中に入ることができたというわけ。
なおこのサービスは戦車道を履修していなくとも生徒手帳保持者であれば適用されるため、読者諸君におかれてはどうかご安心されたい。
脱衣場にたどり着いた左衛門佐は手早く身につけていた衣服へ脱いでしまうと、自前の手ぬぐいを持って浴場の扉へ手をかけた。

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がらりと引き戸を開け放つと、そこは湯けむりの支配する別世界であった。
湯けむりというよりは、湯霧といってもいいくらいに、もうもうと立ち込めた湯気によって視界が利かなくなっている。
なにせ、自分の3メートル先が見えない。
かろうじてどの辺りに人がいるというのがわかるだけで、室内の湯船に浸かっている人の顔すらも判別できないほどなのだ。
(銭湯に詳しいわけではないが…やはり、ここは別格だ)
左衛門佐は一番近いところにあったシャワーを確保すると、丁寧に体を洗い始めた。
湯船につかる前には、まず体を清めてから。それが銭湯でのマナーであり、礼儀である。
長い髪の毛も念入りに手入れをする。
髪は乙女の命である。
自分がどんな境遇にあろうとも、髪の毛に手間暇を惜しむようになっては、女としてはそこでおしまい…左衛門佐はそう考えている。
もっともこれは左衛門佐だけに限らず、彼女の所属するカバさんチーム、ひいては戦車道履修者全員の共通意識でもあった。
なにしろ戦車なぞに乗っていると、髪の毛やら爪やら体全体が油まみれになってしまうので、丹念にケアを施さなくては、女子としてはとてもやっていられたものではない。
ひんやりとした空気が風呂場へ流れ込んできた。
左衛門佐が体を洗っている間、誰かが外へ通じる扉を開け、露天風呂へ行ったらしい。

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たっぷりと時間をかけて髪と体を洗い流し、シャワーを止めると、ようやく左衛門佐は湯船へ向かった。
まずは室内の湯船である。
露天はあとのお楽しみにしておかねばならない。
自慢の長髪が湯船に浸かってしまわないよう、左衛門佐はヘアゴムを使い、ハイポニー風にしっかりと纏めて結い上げた。
つま先をちょっと差し入れて温度を確かめ、それが程よいことを判断すると、体を滑り込ませるようにして一気に湯の中へ……。
「ああああ~~~~……」
なんとも間抜けな、情けない声が自分の喉からでていることを知りつつ、左衛門佐はそれを止めることをしなかった。
冬の風に痛めつけられた躰へ、骨身に染み入るような温泉。
極楽であった。
この解放感を味わっている一瞬だけは誰もが世の中の全てを忘れ、快楽に身をゆだねきっている。
(やはり、湯だ…きてよかったなぁ。ありがとうこっくりさん。今度油揚げをおごるぞ)
湯の中で自分の四肢に按摩を施しつつ、左衛門佐はお狐様の導きに感謝を捧げた。
七畳ほどの湯船の底から、湯が泡を立てて勢いよく吹き上がっている。
このジェットによる水圧によって躰を揉みほぐし、疲れを癒すという寸法なのだ。
湯船のすぐ隣には、遠赤外線サウナ室への扉が備え付けられている。
とはいっても左衛門佐、サウナで汗を流すつもりはないらしい。
すでに日は落ち、澄んだ星空が露天風呂へと続くガラス戸の向こうに覗いている。
10分程も浸かっていただろうか。
左衛門佐は湯の中からやおら立ち上がり、露天風呂へと向かった。


一歩外に進み出ると、もう寒い。
左衛門佐は身震いした。
しかしそれも湯に浸かり直すまでの辛抱であるし、眼前にかくも見事な星景色が広がっているのを見ればさほど気にならない。
そそくさと湯に入ろうとする左衛門佐を見て、すでに露天風呂に浸かっていた先客が驚きの声とともに腰を浮かせ、
「おい、左衛門佐」
「あっ…おりょう…」
「こいつは、奇遇ぜよ」
まさに、おりょうであった。
おりょうは左衛門佐と同門の県立大洗女子学園戦車道履修者で、茨城県はつくば市の出である。
本名を野上武子というのだが、彼女の呼び名もこの話の中では〔おりょう〕で通すこととする。
やや青みがかった黒髪を襟足のあたりで束ね、太い赤縁の眼鏡を掛けた彼女は、身長こそ150cmに満たない小兵ながらも、その胸元といい腰回りといい、むっちりとした肉付きに覆われている。
左衛門佐とともに戦車道カバさんチームに所属するおりょうの担当は、戦車を操る操縦手だ。
カバさんチームの乗り込むIII号突撃砲F型という車両は他の戦車と違って砲塔が回転しないため、戦闘の際には否が応でも敵の正面へ回らなければならない。
操縦手の腕によって、撃破実績というものがまるで違ってくる。
そこへ来るとおりょうの運転技術には光るものがあった。
無論、操縦手がよくとも砲手がへぼではこいつ、箸にも棒にもかからない。
弓術を嗜んできた砲手左衛門佐と操縦手おりょうの、息がぴたりとあった連携によって、何台もの敵車両を打ち破ってきた彼女たちなのである。

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湯の中を泳ぐようにして近づいてきたおりょうへ、左衛門佐が、
「おりょうもここに来てたんだな」
「ああ、ここの湯は天下一ぜよ」
「そうだな…おりょう、今日はどこへ行っていたんだ?」
「磯前様の社へ、ちとお参りぜよ」
「ふぅん…」
おりょうの言う磯前様とは、大洗町の北東部にそびえる〔大洗磯前神社〕のことだ。
この神社は文徳天皇治世の斉衡三年に創建されたもので、大己貴神と少彦名神の二柱を祭神として、福徳円満、家内安全、商売繁昌、農業、漁業、知徳剛健にご利益があるとされる。
建物自体は永禄の兵乱によって消失したが、水戸藩二代目藩主徳川光圀公の提案によって元禄の頃に新たに起工、享保年間に入ってから完成の日を見た。
昭和に入ってから木造鳥居の老朽が目立つのを機として新たな鉄筋製鳥居「一の鳥居」建設が進められ、これを県道を跨ぐようにして設置し、大洗町の名物として現在へと至る。
先に述べたエキシビジョンマッチでも、この鳥居や拝殿周辺を舞台として激戦が繰り広げられているのだ。

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「磯前神社に行ってから、この潮騒の湯まで来たのか?」
「そうぜよ」
「歩いて?」
「うん」
「だいぶ遠くないか。まっすぐ歩いたって40分は掛かるだろう」
「それぐらいだったと思うぜよ…いやぁ、疲れた疲れた」
「なんでまたそんなことを…」
「いやぁ、それは…」
おりょうが言い淀んだ。
彼女の視線が一瞬、自らのさも柔らかげな肉体に注がれたのを、左衛門佐は見逃さなかった。
「ははぁ…」
「…なんぜよ」
「ダイエットだな」
びしり、左衛門佐に言われて、おりょうの顔がみるみるうちに赤くなった。
温泉に浸かっているということを差し引いたとしても…。
「ばっ…ち、違うぜよ!ただその、最近戦車を乗り回してばっかで、ちぃとばかし、体が凝り固まってる気がしたもんだから…」
「確かにな。お肉もついてきたように見える」
「言うなっ!」
「この二の腕。ちょうど食べ頃のようだな」
「だーっ、もーっ!触るなぜよーっ!」

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おりょうはふにふにと腕を触ってくる左衛門佐から逃げるように遠ざかった。
とはいえ、湯船の中のことなので、そこまで遠くに行けるわけではない。
頬を膨らませたおりょうを見て左衛門佐は左目をつぶりつつ、くすくすと笑った。
壁際に立てかけられた木札に「露天風呂 虫も落ち葉も 皆仲間」の句が添えられている。
「まったく…それで、真田の左衛門佐どんは、どうしてここに来たんぜよ?」
「やることがなかったんだよ。みんなどっかいっちゃって」
「それで一人で湯治とは、ババくさいぜよ」
「やかましー。おりょうだって同じ穴の狢だろう」
「それを言われちまうと、返す言葉もないぜよ」
「エルヴィンとカエサルはどこに行ったんだろうな」
「知らんぜよ。アウトレットに買い物へでも行ったんじゃあないか」
「ああ……ここからだと学園艦がよく見えるな。さすがに大きい」
「ほとんど港からはみ出してるぜよ。事故とか起きないのかな?」
「そこをうまくやるのが、船舶科の腕の見せ所なんだろうさ」

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二人は自分の腕に湯を揉み込んだり、足を伸ばしてストレッチしたりしている。
湯の上へぷかりと浮かんだ湯の花を左衛門佐が手にとって、
「ここの湯は塩っ気が強いんだってな」
「なんぜよ、太古の化石海水だっけ?そこの看板にも書いてあるぜよ」
「湯をとって、一滴二滴舌に垂らしてみなよ。なかなか効くよ」
「どれ…うわっ、こいつはしょっぱいぜよ。これが体にいいのかな」
「そういや聖グロの連中は、この湯の中でも紅茶を飲んでいたっけな」
「万一波でも立てて湯が紅茶に混ざっちまった日には、大変なことになるぜよ…」
「ほんとにねぇ…おい、そろそろ上がろうか」
「ん」
星の瞬きが強くなっている。
ざぱりと湯船から体を起こし、左衛門佐とおりょうは連れ立って露天風呂から出て行った。

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体についた水滴を拭き取り、替えの服を着て、ドライヤーを使ってじっくりと髪を乾かす。
ここで慌ててはいけない。
時間をかけ、丁寧に丁寧にやってやらないと、髪はすぐに傷んでいってしまう。
満足のいくまで手入れをした後、二人は脱衣所を後にした。
今日のおりょうはふわりとした髪を総髪風に纏め上げ、鼠色の胴着に深緑色の武者袴、上には枯茶色に染めた紋付羽織を重ねるという格好で、腰に大小でもたばさめば立派な武士の出来上がりである。
左右の胸元に入れられた紋は「組み合わせ桝に桔梗」であり、これは坂本竜馬のお家の紋であって、彼女が名乗る〔おりょう〕の名前から鑑みても、彼女が坂本竜馬に深く傾倒しているということは容易に窺い知れよう。
さてここからだ。
脱衣場からマッサージ室、ゲームコーナーをやり過ごし、受付の大広間まで出てしまったところで二人の腹の虫が盛大に声をあげたものだから、二人は思わず顔を見合わせてしまった。
「おい、おりょうさん。すっかり腹も北山だな」
「左衛門佐どん。どうもそのようぜよ」
「この〔潮騒の湯〕は、旨いあんこう鍋を食わせるというので有名らしいぞ」
「あんこう…あんこうか。それもいいなぁ」
「どうする?ひとつ、いれていくかい」
「まぁ待つぜよ。高校生の身分であんこう鍋とは、少し贅沢が過ぎるというもの。エルヴィンとカエサルにばれたら、どんなお小言を食うかわかったものじゃないぜよ」

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「一理ある。しかしこういう言葉もあるぞ。『腹が減っては戦はできぬ』」
「む…」
「会長殿も言っていたじゃないか。今日は旧正月だぞ。祝い事ぞ、祭り事ぞ」
「そうだったぜよ。だったら、祝いの席にはそれにふさわしい…『めいんでぃっしゅ』が必要ぜよ?」
「そうだろう、そうだろう」
「となれば…だ」
「うむ」
平成の攘夷志士と赤備えの侍は、正面からお互いの目を見据え、にやり、笑いあったものである。
決めてしまえば素早いもので、次の瞬間には、左衛門佐とおりょうは大広間へ入れ込みになっている座敷の、通路側手前三番目の席を陣取っている。
ここの座敷はきちんと喫煙席、禁煙席が分けられているのがありがたい。
二人は品書きをざっと一読し、揃ってあんこう鍋付き定食を注文した。
「あんこうはまさに今…冬場が旬だからなぁ」
「白状すると、あんこうって食べたことないんぜよ」
「おりょうも?」
「左衛門佐も?」
「そうさ」
「なぁんだ」
「学食にあんこう鍋があればよかったんだけどなぁ」
「そいつは無茶が過ぎるというものぜよ」
ややあって、定食が運ばれてきた。

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「うわぁ…」
盆に載せられてやってきた御膳を見て、おりょうがくりくりとした丸い両目をさらに丸く見開いた。
「すごいぜよ~…」
鉄鍋に木蓋をしたものが火にかけてあって、まさにこれがあんこう鍋だろう。
その隣には鯛、烏賊、鯵といった、大洗で獲れたらしい新鮮な魚介三点が刺身になって鉢に盛られている。
これに温かい御飯と味噌汁がつき、脇には沢庵と胡瓜の漬物、海藻を酢で和えたのへ白胡麻をあしらったものなどが小皿に控えている。
盆の最奥にはグレープフルーツが涼しげな器に入れて添えられていた。
「お鍋はもう少し煮てから蓋を取ってくださいね」
給仕の女性が二人に言い置いて、厨房の奥へと下がっていった。
左衛門佐とおりょうは待ちきれないとばかり、競うようにして箸を取った。
あんこうが仕上がるまでの繋ぎに、まずは刺身に手をつける。
鯛の刺身に山葵をちょんと乗せ、小皿に垂らした醤油をつけて口へ運ぶ。
その舌触りのぷりぷりとしたこと……。
「こいつは、たまらないなぁ」
惚れ惚れとしたような声を出す左衛門佐を見やったおりょうの顔へ、驚きの色が奔った。
普段はかたく閉ざされた左衛門佐の左目が開いている。
(両目を開けているのを見るのは、久しぶりぜよ)
つまり左衛門佐はそれほどまでに、この豪華な食卓へ感じ入っているのだろう。
湯上りで火照る身体へ、冷たく引き締まった刺身はじつにうまい。

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左衛門佐は烏賊、鯵と食べ進め、味噌汁にも口をつけた。
わかめを具に入れ、昆布と鰹を効かせた熱い味噌汁が彼女の胃の底へ染み渡っていく。
そこで御飯を頬張り、漬物を齧り、また御飯を口に運ぶ。
「こういうことをしているから、いつまで経っても痩せないんぜよ」
味噌汁を啜りつつ、おりょうが言った。
愚痴を言うようなその口調とは裏腹に、彼女は満面を笑み崩している。
「美味しいものを腹いっぱい食べる…結構じゃないか。何を悔やむことがある」
「悔やんでいるわけではないぜよ。ただ、自分の意思の弱さへの嘆きというか…」
「おりょう、美味しいものを我慢しちゃあダメだぞ。人間は生きるために食べる。食べなければ生きられない。ということはつまり、食事とは人生そのもの…」
「ふむふむ?」
「だったら、美味しい食事を食べるということは良い人生を歩むということとも言えると思うんだが、どうだ?」
「ははぁ…流石、戦国の世を口八丁で生き抜いた真田家中の者は仰ることが違いますなぁ」
「こら、真田は何も口先だけではないぞ!第二次上田合戦においては徳川秀忠率いる三万の兵、これを昌幸・信繁親子はわずか数千の手勢で押すも見事引くも見事の…」
「ああわかってる、わかってるぜよ。私は褒めてるんぜよ」
やがて鍋蓋が泡を吹き上げ、あんこう鍋の準備がもはや万端整ったことを知らせた。

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「しからば」
「うむ、ご開帳といくぜよ」
「それっ」
左衛門佐とおりょうの二人は同時に木蓋を取り、同時に嘆息を漏らした。
火に炙られた鉄鍋がぐつぐつと音を立てて煮えている。
白味噌と辣油で仕立てた汁の中へ白菜、豆腐、葱、人参といった具材を並べ、その中心には骨つき皮つきで大胆に捌かれたあんこうが、これでもかとばかりにたっぷりと入っている。
「なにか、あんこう達も仲良く湯に浸かっているような、そういう風に思えてくるな」
「海の幸も山の幸も関係ないぜよ。ひとえに湯の中の友達に同じ」
「まるで私たちみたいだな。試合の後にはどの高校も関係なく、みな温泉に浸かって仲を深めるという…」
「そうして私たちを湯に突っ込んでおいて、美味しく頂こうとするのはどこの誰ぜよ?」
「…会長?」
「…やりかねんぜよ」
蓮華で鍋の中身を鉢に取りつつ、お互いに顔を見合わせて苦笑する。
二人の脳裏には生徒会長角谷杏のキラリとした笑顔が浮かんでいることだろう。
あの会長、やり手はやり手だが、いつも干し芋をかじっているし戦車内の仕事はろくにしない、かと思えば突拍子もないことを実行するしで、何を考えているのかわかったものではない。
それでいて生徒の間で彼女を嫌う声を聞かぬというのだから、よほどに天性のカリスマというものを持っているのだろう。


左衛門佐とおりょうは割り箸を器用に操ってあんこうの身を骨から引き剥がし、ひょいひょいと口の中へ放っていく。
「やぁ、旨いぜよ。あんこうがこれほど旨いものだとは…」
「うわっ!あんこうの目玉!」
「こっちにはヒレが…おお、どうぜよ、この弾力のある歯ごたえは」
「ふむふむ、目玉もなかなかどうして珍味な…あっ、おりょう、鍋底をさらってみなよ。あん肝がおでましだぞ」
「まさに余すとこなく、というやつ」
「人の食欲かくも凄まじ…あぁ~美味しい!あん肝美味しい!」
「なんとも贅沢ぜよ。このダシが染みた汁だけで、もう…」
いやもう、二人とも、あんこうの魅力に夢中であった。
あんこうの旬は一月二月頃とされるが、これは冬のこの時期になるとあんこうの肝が大きく育って美味しいからだそうな。
あんこうの身は白身魚らしい淡白な味わいで、割り下の風味がよく染み付くが、あん肝にはどっしりとした濃厚な旨味がある。
あん肝にはビタミンやコラーゲンが多く含まれ、美容にはもちろんのこと、貧血や高血圧、老化予防にも効果を発揮するという。

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「この御膳にあっちゃあ、今飲んでるただのお茶でさえ何かこう、特別なものに感じてくるぜよ」
「雰囲気に流されているな。温泉上がりにその土地の名産で舌鼓を打つ」
「こたえられんぜよ」
「ああ、果報この上ないとはこのことだ」
「酒が呑めたら、この鍋の味わいも少しは変わってくるものぜよ?」
「どうだかね。確かにここには酒も置いてあるみたいだけど…」
「ええなに、銘酒〔月の井〕か。大洗の地酒らしいぜよ」
「『ゆらりゆらりと 寄せては返す 波の背に乗る 秋の月』、ってね」
「磯節ぜよ」
「さすがに全部は唄えないけどね」
「どうぜよ真田の。せっかくだし二人で一献…」
「ばーか」
「冗談ぜよ」
「そればっかりはもう2、3年、辛抱しなきゃなぁ」
年の頃は少女の域を出ない左衛門佐とおりょう。
まだ見ぬ大人の世界への憧れが募ることは仕方のないことといえよう。
次第に話題は妙な方向へ転がっていく。
「ハタチ越えたら、まず何を呑んでみたいぜよ?」

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「そりゃあやっぱり、日の本の国の酒をだな」
「うむ、やはりそうなる。そうならざるを得んぜよ」
「信州上田の地酒にさ、『真田六文銭』というのがあるらしいんだ。私は是非ともこいつを飲ってみたい」
「左衛門佐にはおあつらえ向きの酒ぜよ」
「おりょうは?」
「私?私は当然、『船中八策』!これに限るぜよ」
「へえ。名前からしてそいつはやはり、竜馬の…?」
「土佐の酒ぜよ。司馬遼太郎も愛したというのが売り文句らしい」
「『竜馬がゆく』か。これまたおりょうさんにぴったりだ」
「それで、肴は軍鶏鍋ぜよ」
「軍鶏か。そいつも捨て難い…」
「エルヴィンは麦酒かな?それも独逸の」
「カエサルなら、伊太利亜の葡萄酒といったところだろうな…お、鍋の火が消えたぞ」
「燃料がなくなったんぜよ」
語らいつつも二人の勢いはまったく衰えるところを知らない。

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汁を全て飲み干し、骨の髄まであんこうを味わい尽くした左衛門佐とおりょう、もはやお腹いっぱい胸いっぱい。
すっかり天に昇ったような心地であった。
おりょうが膨らんだお腹を着物の上からさすりつつ、
「あぁ…食べた食べた。また寿命が延びたぜよ~」
「ババくさい」
「うるせーぜよ」
「ま、たまにはこうしてリラックスしないと、とても戦場を渡り歩けたものではないからな。模擬戦も近いし」
「今度の試合は黒森峰とサンダースが相手ぜよ」
「厄介だな…代わりにプラウダがこちらに就いてるが」
「それが終われば、また船旅が始まるぜよ」
「大洗ともしばらくお別れかぁ」
「なに、すぐに帰ってこれるぜよ」
会計をすませて靴を履き、二人は〔潮騒の湯〕を後にした。
あれほど吹いていた風もすっかり止み、、辺りには夜の帳が下りきっている。
左衛門佐はブーツの靴紐を締めなおしているおりょうを振り返って言った。
「腹ごなしだ。浜でも歩いてこうよ」



〔潮騒の湯〕の建物の背には広々とした砂浜が南北に延びている。
二人はぴょんぴょんと段差を飛び降り、大洗の海岸へ出た。
いつもならば、夜になると周囲は真っ暗な闇に閉ざされてしまうのだが、今日は学園艦が灯台のごとき役目を果たしているため、さほど危ない道ではない。
「綺麗な星空ぜよ~」
波打ち際まで寄っていったおりょうがうっとりとしたようにつぶやいた。
なるほど、冬の澄んだ空には星の光がよく映える。
おりょうを追いかけるようにして隣に立った左衛門佐も、星空を見渡してほう、と息を吐いた。
「すごい。布良星がよく見える」
「なんぜよ、その、めらぼし…?」
「ほら、あれのことさ」
怪訝な顔をして振り返ったおりょうに、左衛門佐は南の空を指差して言った。
水平線すれすれに、赤い星が鈍い光を放って輝いている。
「あの星は竜骨座のカノープスといって、この二月頃にしか見えない珍しい星なんだ。太陽系の星を除いてしまえば全天で2番目に明るい星なんだぞ。和名はいろいろあるんだけど、その中で有名なのが〔布良星〕でね」
左衛門佐がおりょうに語ったところによると……。

.


布良というのは、房総半島の南端に位置する小さな港町のことである。
冬場になると、まれに布良の港から南の空にあの赤い星が見えることがある。
あの星は沖で遭難して死んだ漁師達の亡霊であり、海に出てくる漁師達を冥府へ引きずり込もうとして大時化を引き起こす。
故にこの星が見えた時は必ず海が荒れるから、決して船を出してはならない。
布良の漁師達はこの赤き凶星を〔布良星〕と呼び、恐れているのだとか……。
「あの星は東北より北の地方じゃ見えないんだ。この大洗でギリギリといったところかな。茨城のあたりでは〔上総の和尚星〕ということもあるんだって」
「へえ…左衛門佐ってば、星にも詳しかったんぜよ?」
「戦場で万一の時に、星読みも満足にできないようでは命に関わるからな。それに侍たる者、ただ武の道を極めれば良いと云うものでもないのさ。風流や雅を嗜んでこその武芸者だよ」
「ははぁ…」
おりょう、大いに感心した様子である。
二人は大洗港に停泊する学園艦を目印にして、大洗サンビーチを北へと進む。
帰りつく場所がこれほど大きければ、左衛門佐のように星読みが達者でなくとも迷うことはないだろう。

.


「おお、みるぜよ。この石」
不意にかがみこんだおりょうが、足元に落ちていた石を拾い上げて左衛門佐に見せた。
「丸くて平べったくて…まるで投げてくれと言わんばかりぜよ?」
「水切りかぁ。出来るのか?」
「やってみなければわからん…ぜよっ!」
言うが早いか、おりょうが石を持った右腕を大きく振り抜き、海へ向かって横投げ一閃、石を放った。
鋭い回転を保って打ち出された石が水面を滑るように進む…と思いきや、石は一度も水を切ること叶わず、最初の着水であえなく海中に没した。
「なぁんだ、だめじゃないか」
「むっ…」
あっけらかんと左衛門佐に言われたのが悔しかったか、おりょうは幾つかの石を拾い上げて雪辱を果たそうとするも、これが悉くうまくいかない。
「きっと石が悪いんぜよ…もっと手頃な石があれば、これくらい…」
海岸にかがみこみ、ぶつぶつと自分に言い聞かせるようにおりょうは足元に転がる石を物色している。
そんな彼女へ、もう諦めたらどうだと言おうとしておりょうに近づいた左衛門佐だったが、はたと足を止めた。
石探しに夢中になっている友人の無防備な猫背姿を見て、ある種の悪戯心というやつが、左衛門佐の胸中へむくむくと鎌首をもたげてきたのである。
左衛門佐はおりょうの背後に忍び寄り、高々と手を掲げると、すらりと美しい彼女のうなじに狙いを定め……。

.


「えい」
「ひゃんっ!?」
ずぼ。
おりょうの襟足から侵入した左衛門佐の左手が、瞬時におりょうの背へ到達、これに接触することを得た。
哀れにも素肌へ奇襲を受けたおりょう、両手に持っていた石をばらばらと取り落とし、跳ねるように立ち上がった。
なにしろ二月の大洗海岸に佇んでいた左衛門佐の手はそれはそれは冷え切っていたものだから…。
「なっ、なにするぜよーっ!」
「いやぁ、ごめん。寒くなってきたからさ。暖をとろうと思って」
「だからといっていきなり人の背に手ぇ突っ込むやつがあるかーっ!」
わずかな接触がよほどの衝撃をもたらしたか、もはやおりょうは涙目である。
彼女の惑乱する様を見て左衛門佐は堪えきれず声を上げて笑い出した。
それを受けておりょうはますます目を釣り上げ、左衛門佐の肩をばしばしと叩きまくる。
「わかったわかった、私が悪い、謝るよ」
「ふんだ。左衛門佐はひどいやつぜよ」
「おりょうさん、この通り。許しておくれ、ね、ね、」
猛攻についに音を上げた真田氏、両手を拝むように合わせて和睦を申し込むが、土佐者は頑としてこれを承知しない。
上田城無血開城への道は如何にして成し得られるものか。
結局左衛門佐はそっぽを向いてしまったおりょうをなだめるのにかなりの時間を要した。


砲手と操縦手の争いもどうにか決着をみせ、二人はまた港へ向かって歩き出す。
「しかしおりょうもおりょうじゃないか。せっかく温泉で温まったのに、こんなところで時間をつぶすから私の手が冷えて…」
「……」
「ごめんて。睨まないで」
「…まぁ、間違ってはいないぜよ。私の手もだいぶん冷えた」
「だろう?だから私は」
「許したわけじゃないぜよ?」
「あい」
「ふん…」
「じゃ、じゃあ、手を繋いで帰るっていうのはどうだ?」
「繋いで?」
「お前さんの冷えた手も少しはあったまるだろ?ほら」
おりょうの返事も聞かず、左衛門佐は左手でおりょうの右手を取って握りしめた。
「な、どうだ」
「…つめたいぜよ」
「すぐあったかくなるさ」
「うん」
おりょうも、握られた手をあえて振りほどこうとはしなかった。
相手の手のひらの熱さを仄かに感じつつ二人は歩き続ける。

.


「しかしすっかり遅くなってしまったぜよ」
「エルヴィンとカエサルはもう帰ってきてるかな?」
「ご飯食べてくるって連絡、入れたぜよ?」
「いんや」
「私も」
「こいつは二人とも相当おかんむりだね。お叱りを受けちまう」
「土産でも買って、ご機嫌伺いといくぜよ」
「それがいい。港で何か見ていこうか」
「お店やってるぜよ?」
「なぁに、駄目でもともとさ」
「だけど港で何買うぜよ」
「スルメなんかどうかな。干物の大きいやつ」
「スルメ…悪くないぜよ」
「そいつを網で炙ったのへ七味でも振って、みんなでコタツに入りながら食べようよ」
「たまらん。そうするぜよ」
満天の星の下、左衛門佐とおりょうは手を繋ぎながら艦を目指して浜を行く。
一羽の白いカモメが宙を泳ぐようにして二人の頭上を追い越し、海の向こうへと飛び去っていった。



以上となります。
ご覧下さり誠にありがとうございました。

つい先日、私は大洗に行きました。
その時、劇場版に出てきた温泉宿に立ち寄ったのですが、これが非常に良かった。
その時の感動を基にして今回のお話を書きました。みなさま、お楽しみいただけたでしょうか。
左衛門佐とおりょう、私の好きなキャラの双璧です。出してないけどエルヴィンとカエサルも好き。カバさんチームもっと流行れ。

大洗へ旅行の予定がある皆さん。ぜひ〔潮騒の湯〕を訪れてみては?

ダイマ乙

乙!

クッソ読みにくいぜよ


あんこう鍋うまそうだなぁ…


大洗行った時あんこう鍋食ったけどホント旨かったよ
酒が進む進む
また行きたいなぁ

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