【ミリマスSS】百合子「ここが天狗の舞い降りし神の山……」P「高尾山な」 (37)

☆ライブシアター/事務所

百合子「ふむふむ……色々な分岐ルートがあるんだあ……まるでゲームの世界みたい」

百合子「パワースポットでもあるなんて……ハッ、これは物語が始まりそうな予感っ!」

ガチャッ

P「お疲れさまでーす」

百合子「あっ、プロデューサーさん。お疲れさまですっ」

P「おっ、今日は百合子だけか。何を読んでたんだ?」

百合子「観光ガイド本です。今から出かけられる場所を探していて……」

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P「へー、今から出かけるんだ。誰かと一緒に?」

百合子「ええと……プロデューサーさんのお仕事が、今日なら忙しくないって聞いたんです」

P「ん? 確かに仕事は一段落したけど」

百合子「それで、良かったら一緒にお出かけできないかなあ……なんて」

P「えっ、俺と!?」

百合子「は、はい……」

P(わざわざ俺と出かける計画を立ててくれてたのか……)

百合子「だ、ダメでしょうか……」

P(なにこの子、めちゃくちゃ可愛い)

P「俺で良ければ付き合うよ」

百合子「本当ですかっ!? すっごく嬉しいです!」

P「で、どこへ行く予定なんだ?」

百合子「ここなんてどうかな、と思っていたところなんですけど……」

P「おー、高尾山か。有名な登山スポットだよな」

百合子「行ったことありますか?」

P「俺はないな。まあ、東京で生活してるから名前はよく聞くけど」

百合子「私も行ったことはないんですけど、麗花さんがいい所だって言ってました」

P「そうか、麗花は登山が趣味だもんな」

百合子「ええ、この本によると気軽に登れる山だそうです」

P「ほー、結構楽しそうだなあ」

百合子「そうですよね! ねっ、連れてってください!」

P「体力を使うけど平気か? 仕事や学校で疲れてるだろ?」

百合子「全く問題ないですっ。日々のレッスンで鍛えてますからね!」

P「よし、そういうことなら出かけるか」

百合子「わーいっ、プロデューサーさんとお出かけ~」

☆高尾山口駅前

百合子「ここが終焉の地……ついに辿り着いたのね……」

P「いや、京王線の終着駅ってだけだから」

百合子「もうっ、乗ってくれたっていいじゃないですか」

P「俺が乗ったらツッコミ役がいなくなるだろ」

百合子「二人で妄想の世界に浸れたら楽しいと思うんだけどなあ……」

P「周りから見たら痛すぎる!」

百合子(あっ、でも私の妄想に流されないクールなプロデューサーさんも素敵かも……)

P「さ、時間もないし行くぞー」

P「えーと、案内板があるな。あっちへ行けばいいのか」

百合子「そうみたいですね。お土産屋さんがたくさん並んでますよ」

P「観光地って感じだなー。」

百合子「人も結構いますね、もう下山してきた人なのかなあ」

P「ニュースで見たんだけど、紅葉の季節はものすごく賑わうみたいだぞ」

百合子「そうなんですか?」

P「うん、それはもうライブの物販みたいに」

百合子「そ、それは大変そうです……」

P「今はまだ寒い季節だし人出は少ない方みたいだ」

百合子「私はこのくらいの方が落ち着けていいなあ」

百合子「あれっ? また駅みたいな建物がありますよ」

P「えーと……ケーブルカー乗り場だってさ」

百合子「あっちはリフト乗り場みたいです。なぜ登山に来てリフト……?」

P「スキーリフトみたいなものか」

百合子「へぇー、山の中腹まで行けるんだあ」

P「普通の登山道もあるけど、どうする?」

百合子「……ここはあえて厳しい道です! 歩いて登りましょう!」

P「そうだよな。登山に来たんだし」

☆一号路

P「おー、高い木がびっしり生えてる。良い森林浴になりそう」

百合子「空気が澄んでいて気持ちいいですっ」

P「楽しそうなのはいいけど、はしゃぎすぎると後で疲れが来るぞー」

百合子「わかってますよっ」

P「もっとゆっくり行こう」

百合子「ええ、でも思ったより道は整備されてますし、歩きやすいです」

P「そうだな、幅は車が通れるくらい……って、本当に車が下りてきたぞ!?」

百合子「山頂にもお店があるって本に書いてありましたよ。荷物を運んでるんじゃないですか?」

P「へえー、本当に観光地なんだな」

百合子「あっ、下山してくる人たちがいますよ」

P「大学のサークルかな。いいなあ、楽しそうで」

百合子「サークル……私には未知の世界ですっ。部活みたいなものですよね?」

P「うーん、部活よりゆるい集まりって感じかな。例外はあるけど」

百合子「なんだか面白そうですっ」

P「大学生になった百合子かー。きっと美人になってるだろうな」

百合子「ええっ!? もう……からかわないでくださいよっ」

P(本気なんだけどなあ……)

百合子「私、キャンパスライフって憧れちゃいます」

P「そうなんだ」

百合子「とは言っても、小説の中でしか知らないんですけどね」

P「きっと楽しいよ。高校までに比べて自由度も高いし」

百合子「でも、まだずっと先の話かあ……」

P「へー、ずっと先って感じるのか。若い頃って体感時間が長いもんなあ」

百合子「いやいや、プロデューサーさんもまだまだ若いじゃないですか」

P「それでも中学、高校時代と今じゃ全然違うんだよ……百合子も大人になったらわかるよ……」

百合子「もうっ、そうやって一人だけ大人ぶってー」

P「ごめんごめん」

百合子「見てくださいっ。展望台がありますよ!」

P「おー、かなり人が集まってるな」

百合子「そうですね、ケーブルカーの降り場がこの近くみたいです」

P「ということは……今、ちょうど山の中腹あたりか」

百合子「思っていたより時間がかかりませんでしたね」

P「麓から頂上まで、長く見積もっても二時間かからないってところだな」

百合子「すごい景色だなあ……天空の城から見下ろした世界ってこんな感じなんでしょうね!」

P「ふふっ、そうかもな」

P(楽しそうな百合子を見てると、来て良かったって思えるなあ……)

百合子「えーと……ここからは二つにルートが分かれるみたいです」

P「どちらへ行くか、百合子が選んでいいぞ?」

百合子「分岐ルートってドキドキしますね! まさに緑の迷宮……」

P「ほとんどの人はまっすぐ進むみたいだ。薬王院ってお寺がある方だな」

百合子「むむっ……どちらへ進むべきか……」

P「もう片方のルートは人がほとんどいないみたいだけど?」

百合子「決めましたっ! ここはあえて人のいない方ですっ!」

P「よし、じゃあそっちに行こう」

☆四号路

P「うわっ、すぐ横が崖じゃないか」

百合子「……もっとくっつかないと危ないですよ」

P「そうだな。ちょっと失礼」

百合子(わわっ……プロデューサーさんがすぐ近くに……!)

P「これ以上道が狭くなったら縦に並んで進もうな」

百合子「はーい」

P「全く人がいないんだなあ。みんな薬王院の方へ行くのか」

百合子「高尾山の目玉はそっちですからね。お寺には天狗像がいくつかあるそうですよ」

P「へえー、面白そうじゃん」

百合子「私も天狗信仰って興味あります!」

P「だけど、じゃあなんでこっちの道を選んだんだ?」

百合子「えっと……人が多い場所ってあまり得意じゃなくて」

P「あー、なるほどね」

百合子(プロデューサーさんと二人っきりになりたかったから、なんて言えない……)

P「どうしたんだ? 急に黙り込んじゃって」

百合子「い、いえ……。あの、好きな人との距離が近いと緊張しますよね?」

P「そりゃそうだろ」

百合子「えっと、私が言いたいことって……伝わっちゃってたりします?」

P「言いたいこと……? あっ、お腹でも空いたのか?」

百合子「どうしてそーなるんですかっ!」

P「だって事務所で会ってからから何も食べてないし」

百合子(ど、鈍感すぎる……!!)

P「そんなことより、道の先を見てくれ」

百合子「うわあ、吊り橋ですか!? これで谷を渡るんですねっ!」

P「結構高いなー」

百合子「記念写真撮りましょうよ、プロデューサーさん」

P「ああ、いいよ。じゃ、スマホ貸して」

百合子「はーい……って、何言ってるんですか! 二人で写るんですよっ」

P「俺も? まあ、ここなら人もいないしな」

百合子「もっと寄ってくれないと入らないですよ。……はい、オッケーです!」

P(これもいい思い出か)

百合子「えへへっ、後でプロデューサーさんにも送りますね」

P「ああ、頼むよ。ありがとう」

数十分後

P「おっ、景色が開けたぞ。これはついに……」

百合子「頂上に着いたんですねっ。やったーっ!!」

P「頑張って歩いた分だけ達成感があるな~。いい気分だ」

百合子「見てください、あっちに富士山が見えるんですって」

P「ここから見えるのか!? すごいな」

百合子「あー、風が気持ちいい……」

P「ベンチがあるし座って休もう。飲み物でも買ってくるよ」

百合子「ありがとうございますっ。あの、そう言えば……」

P「うん、どうした?」

百合子「これっ……お弁当にサンドイッチを作ってきたんです」

P「ええっ!? わざわざ作ってきてくれたのか?」

百合子「はいっ。良かったら一緒に食べましょう」

P「うわー、嬉しいな。それに、前に作ってくれた時より腕が上がってるみたいだ」

百合子「えへへ、具材にも凝ってみました」

P「じゃあ、遠慮なくいただきます!」

百合子「私も、いただきまーすっ」

P「これはハムチーズか。……うん、おいしいよ!」

百合子「そんなに喜んでくれるなんて……。たくさん食べてくださいね」

P「おう、ありがとう」

P「ごちそうさまでした、百合子の料理は世界一だな!」

百合子「もうっ、言い過ぎですよ~。でも、また作ってきますね」

P「ああ、楽しみにしてる」

百合子「それにしても、お腹が一杯になったら和んじゃいますよねー……」

P「風が気持ちいいなあ」

百合子「もう少しゆっくりしていきましょうか。私、何だか眠くて」

P「うん、一度休んじゃうとまた歩くのって面倒なんだよなあ」

百合子「あ、それわかります。あと十分はこのままでいたいかも……」

P「そう言えば、今何時だっけ?」

百合子「時計ありますよ。どうぞ」

P「おっ、ありがと……って、もうこんな時間!? そろそろ下山しないと!」

百合子「えー、日没までまだ時間ありますよ……」

P「そりゃそうだけど、余裕は持っておいた方がいいだろ」

百合子「確かにそうですね……。麗花さんも早めに下山するのが大事って話してました」

P「登山道に明かりなんてないもんな」

百合子「ちゃんと装備があれば別なんですけどね」

P「じゃ、そろそろ行こう。忘れ物ないよな?」

百合子「ええ、大丈夫ですっ。ところで、下りはこっちのコースにしませんか?」

P「まだ通ってない道があるんだな。よし、そうするか」

☆稲荷山コース

百合子「うわー、こっちのコースも坂は急ですねー」

P「うん。下りって意外と足腰に来るんだよなあ……」

百合子「ゆっくり進めばいいですよ」

P「そうだな。景色でも楽しみながら」

百合子「あっ、見てください! あの枝の先、鳥がとまってますよっ」

P「本当だ。すごく綺麗な色してる」

百合子「そうですね。それにとっても可愛い……。何ていう名前なんだろう」

P「うーん、俺も野鳥には詳しくないからなあ」

百合子「写真に撮れないかなあ……よっと……」

P「おいおい、危ないからあんまり身を乗り出すなよ。転ぶぞ」

百合子「うーん、もう少しで……きゃっ!」

P「あっ、危ない!」

ドターンッ!

P「いたた……。大丈夫か、百合子?」

百合子「は、はい……。あ、あの……そ、そこは触っちゃダメですっ……!」

P「えっ?」

P(気がついたら、俺の右手が百合子の胸のあたりに――)

百合子「ぷ、プロデューサーさん……ダメっ……」

P「うわあっ、ご、ごめん!」

P「抱きとめようとしただけだったんだ、本当にごめん」

百合子「い、いえ……事故なんで……」

P「それより百合子、怪我はなかったか?」

百合子「は、はいっ。問題ないです」

P「それなら良かったよ。じゃあ、進もうか」

百合子「そうですね。――っ!」

P「ん? どうかしたのか?」

百合子「な、なんでもないです! さあ、行きましょう!」

十分後

P「なあ百合子、もう少し早く歩けないか?」

百合子「す、すいませんっ。ちょっと疲れちゃって」

P「そうは言っても、さっきから遅すぎるぞ」

百合子「ですよね……」

P「ペースを合わせたいところだけど、このままじゃ日が落ちちゃうからさ」

百合子「ううっ、ごめんなさい」

P「…………んっ?」

百合子「どうしたんですか? そんなに私を見つめて」

P「百合子、ちょっと足を見せなさい」

百合子「えっ? ……な、なんでですか?」

P「いいから、見せなさい!」

百合子「ひうっ! は、はい……」

百合子(うう……プロデューサーさんが怒ってる……)

P「うーん、腫れてはないみたいだな。でも、痛いんだろ?」

百合子「……はい」

P「さっき転んだ時だな?」

百合子「だけど、大丈夫ですっ! ゆっくり歩けばそんなに痛くは――」

P「怪我をしたならそう言わなきゃダメだろ!」

百合子「ひいっ……! ご、ごめんなさいっ……ごめんなさい……!」

P(まずい……ちょっと強く言いすぎたかな)

P「あ、えーと、ごめん……。無理すると怪我が悪化するから、心配で」

百合子「い、いえ……私も、黙っててごめんなさい」

P「いや、もういいんだ。どのくらい痛む?」

百合子「えっと、平らな場所を歩くには問題ないんですけど……」

P「この山道を下るのは無理か……」

P(幸い軽い怪我みたいだし、麓にさえ着ければ安心なんだけどな)

百合子「ううっ、このままじゃ日が暮れちゃいます……」

P「仕方ないな。ほら、乗ってくれ」

百合子「えっ?」

P「だから、背中に乗るんだよ。おんぶして歩くから」

百合子「で、でもっ。悪いですよ……」

P「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。もう日が暮れるぞ」

百合子「それはそうですけど……」

P「ほら、早く」

百合子「じゃ、じゃあ……。し、失礼しますっ」

P「よっ、と。しっかり掴まっててくれよ?」

百合子「は、はひっ」

百合子(私、プロデューサーさんに抱きついちゃってる……は、恥ずかしすぎる……)

P「ふぅ、まだ麓は見えないな」

百合子「プロデューサーさん、重くないですか?」

P「うん、むしろ軽すぎるくらいだよ。華奢で心配になるぞ」

百合子「そんなことないですよ、シアターの皆はもっとスタイルいいですし」

P「いやいや、スタイルがいいのは百合子だってそうだろ」

百合子「お世辞でも褒めてくれると嬉しいです……えへへ」

P「全くお世辞じゃないんだけどね……」

P(今も、背中に胸が当たってて気が気じゃないし)

百合子「こうやってプロデューサーさんの近くにいると、とってもドキドキします……」

P「そうなのか?」

百合子「プロデューサーさんって本の中の王子様みたいです!」

P「王子様ねえ……。そう言えば前に、お姫様抱っこされて階段をのぼるのが憧れって言ってたよな」

百合子「あっ、覚えててくれたんですか!?」

P「うん、あれは百合子の誕生日だった」

百合子「実際にはおんぶされて高尾山を下っているなんて」

P「ははは、ロマンスの欠片もないよな……」

百合子「そんなことないですっ、プロデューサーさんと一緒なら!」

百合子「だって、私にとってプロデューサーさんは運命の騎士ですからっ」

P「それ、前にも言ってくれたよな。どういう意味かは分からないけど」

百合子「どういう意味か、知りたいですか……?」

P「ん? まあ、そうだな」

百合子「つ、つまり……私、プロデューサーさんのことが――――」

P「あっ! 明かりが見えるぞ!」

百合子「……へっ?」

P「もう少しで山の麓みたいだ。よかった~、どうにか日が落ちる前に辿り着けるな!」

百合子「あっ……。は、はいっ……!」

百合子(わ、私ったら勢いで何を言おうとしてたの!? は、恥ずかしすぎる……!)

数分後

P「よーし、到着だ。百合子、下ろすぞ」

百合子「はいっ、平地ならちゃんと歩けます」

P「よっと……。ふぅ、遅い時間になっちゃったなー」

百合子「すいません、ずっと背負ってもらっちゃって……」

P「それはもういいって。ところで、さっきは何を言おうとしてたんだ?」

百合子「えっ? 何のことですか?」

P「『私、プロデューサーさんのことが――』って。俺がそこで話を遮っちゃったからさ」

百合子「うわーっ! そ、そのことはもういいんですっ! 忘れてくださいーっ!!」

P「そ、そうなのか……?」

P(急に顔を真っ赤にして取り乱すなんて、どうしたんだろう……?)

百合子「もうっ、今日はドキドキさせられっぱなしですよ……。もちろん、楽しかったですけど」

P「俺も、色々あったけどすごく楽しかったよ」

百合子「私、改めて感じました。プロデューサーさんはすっごく頼りになる人だなあ、って」

P「そ、そうか……?」

百合子「お仕事でもプライベートでもそれは同じなんです」

P「そんなに頼ってもらえるなら、俺も嬉しいよ」

百合子「これからも、私が転びそうになった時は助けてくれますか……?」

P「もちろんだよ。俺は百合子のプロデューサーだからな」

百合子「えへへっ、これからもよろしくお願いします。プロデューサーさんっ!」

おわり

以上で完結です、ありがとうございました。

☆過去作

【ミリマスSS】百合子「耳をすませば」
【ミリマスSS】百合子「耳をすませば」 - SSまとめ速報
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