男「手作りチョコって、ようするに市販のチョコ溶かして固めただけだろ」 (30)

男「お~い、バレンタインデーはとっくに終わっちゃったぞ」

男「いつになったらチョコレートくれるんだよ」

女「うるさい!」

男(あーあ……余計なこというんじゃなかったなぁ……)

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女『今年はとびっきりの手作りチョコをプレゼントするからね!』

男『手作りチョコって、ようするに市販のチョコ溶かして固めただけだろ』

女『むっ!』

女『いってくれたわね……だったら作ってやるわよ、カカオ豆から!』

男『お、おい……冗談だって! 冗談!』

女『うるさい!』

男(……俺の失言がきっかけで、あいつはチョコ作りに夢中になってしまった)

男(おかげで、今年のバレンタインはあいつからはチョコをもらえずじまい)

男(いや、それどころかあいつは――)



女『むうう、カカオの焙煎の仕方が悪かったのかしら! 味がイマイチだわ!』



女『これじゃ苦すぎる! こんな味じゃ、あいつにバカにされちゃうわ!』



女『やっぱり台所じゃ限界があるのよ! ちゃんとした設備で作らなきゃダメね!』



女『どうやら……カカオ豆から見直す必要がありそうね!』



女『世界中を旅して、究極のカカオ豆を探してくる!』



男『おーい、お前の努力はもう分かったからさ……そろそろチョコを……』

女『ダメよ! まだ私の納得いく味になってないの! ここまできて妥協できないわ!』

女『だから、もう少し待ってて!』

男『……』



――――

――



男(チョコ作りに取り憑かれたようになってしまった……)

男(このままエスカレートしてったら、いったいどうなっちゃうんだろうか……)

やがて――



女「やったわ!」

女「やっと私の満足いく味のチョコが完成して、しかもその量産化に成功したの!」

女「――というわけで、チョコレート会社を設立したわ!」

男「えええええ!?」

女「私はもちろん社長、あなたは副社長にしてあげるわ。感謝することね」

女「これが私からのバレンタインプレゼントよ!」

男「ど、どうも……」

女「私のチョコレートの味は、どんなお菓子会社にだって絶対負けない自信がある!」

女「さぁさぁ、これからも会社をどんどん大きくしていくわよ!」

ところが――

専務「社長、大変です!」

女「どうしたの?」

専務「先日の無理な設備投資がたたり、我が社の業績が急速に悪化しております!」

専務「さらに従業員たちが劣悪な労働環境に抗議するといって、一斉にストを……!」

女「な、なんですって!?」

女「ううう……どうしてこんなことに……!」ガクッ

女「そうだわ……私はチョコレート作りに夢中になって、他のことを考えてなかった」

女「周りが全く見えてなかった……」

女「私なんか、破滅して当然の人間なのよ……」

男「……そろそろ俺がお返しをする番かな」

女「え?」

……

……

……

専務「す、すばらしい! 副社長の改革で、我が社の業績は一気に持ち直し」

専務「労働環境が改善されたとして、従業員たちも大喜びです!」

男「ま、こんなところかな」

女「すごい……倒産しかけた会社をあっという間にホワイト企業に立て直すなんて……」



ちなみにこの日は3月14日であった。







                                     おわり

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