勇者「狙撃手を仲間にした」 (132)


タァンッ


「ゲギャッ……」ドサッ

狙撃手「……」

勇者「お見事、俺の助けは要らなかったな」

狙撃手「全然良くない、そもそも私の役割は遠距離からの狙撃のはず…」

狙撃手「そういう約束で仲間になったんだから…私に敵を近づけさせないで……」

勇者「うっ……ごめん、俺がもっと早く片付けてたらこんなことにはならなかったな」

狙撃手「そういう事……行こ、日が暮れる…」スッ

勇者「あっ、あぁ!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455459828



そう言って彼女は、俺に一瞥も無く前へ進んだ。
とは言っても、この素っ気ない態度にも慣れ始めていた頃だから怒ったりはしなかったな。


……え?
いきなりなんの話か分からないって?
そうだな、それじゃあもう少しだけ話を遡ろうか。


俺が彼女と出会ったときの話を。



この世界は魔物に溢れていた。


かつて封印されていた魔王が甦り、北の大陸の国々を滅ぼして根城にしてしまったかららしい。


らしい、というのは人伝に聞いたからだ。
南東の大陸の端っこの村出身の俺からすれば遠い遠い世界の話で、この辺りは魔物の影響も少なかったし。


とにかく俺は世界を浸食する途方もない暗闇に対して、目も耳も向けずに考えることもせず、狩人として適当にその日食える分の狩りだけをして適当に平々凡々と暮らしていた。



南の国王「……であるからして、貴殿を勇者として見込みかの地に住まう魔王を退治されていただきたい」


「……はぁ、俺がですか?」

南の国王「うむ…この国の言い伝えでは"魔の者復活せし刻、時の針が十二を指し示す頃、太陽の中心に光の加護纏いし剣携えし者現れ、闇を払うだろう"……と言われている」


……あの、そんなの初耳なんですけど。

南の国王「そなたは本日の正午に太陽の中心に立ち、光輝く剣を掲げていた……これぞまさしく伝承の通り!そなたこそが言い伝えにあった勇者なのだ!」


いや太陽の中心って……街の広場の床に描いてある絵じゃん。

剣だって太陽の光が反射してちらっと光ってただけだって。

たまに自分で研がずに、ちょっぴり奮発して街の鍛冶屋に見てもらったのが間違いだったのか?


南の国王「もちろんわしからもそれなりの援助はさせてもらおう……これを持っていくがよい。」ジャラッ


「これ、お金ですか?」

南の国王「うむ、それで装備を整えさっそく出発するがよい」

「あのーお金とか要らないんで帰っても」

南の国王「では頼んだぞ、勇者殿」ニコッ

「いや、だから」

南の国王「た・の・む・ぞ?」ニッコリ

「……はい」



この国にそんな言い伝えあるのかどうか。

率直に言ってそんなものは無いし、たぶん即興のデタラメ話だろう。

魔王が北の大陸を占拠し始めた頃、各地の国を治める王様達が協力して魔王軍討伐の部隊を整えたらしい。

しかし全ての国が参加したわけでもなく、この南東の国は平和主義な分もあって参加はしなかった。


でも日に日に強まっていく魔物の軍勢を前にそうも言ってられなくなったのだろう。
参加に否定してた他国も連合軍に参加したり、それぞれに対抗の手段を立てたりしていくうちに南の国王も焦りを感じたのかもしれない。

そのうち参加を強制させられるかもしれない、でも人材を派遣するほどの兵力は無い。
ならば対面だけでも保っておこう、そうすれば連合軍に後ろ指を指されることは無い。


勇者という魔王退治のスペシャリストを建てておけば無駄に出兵させずに済む、なんともマヌケな考えだ。



勇者「……300Gって鍛冶屋の研磨の方が高いじゃん、差し引きで損してるし」


この300Gはいわば契約金だろう。
それをやるから国の体面の為に形だけでも旅に出ろと言っているんだ。

だからと言って300Gは無いだろ、子どものおこづかいかよ。
頭おかしいんじゃないのかと思ったがあんな子どもにでも看破されそうな理屈をベラベラぶっこいてる辺り頭おかしいんだろうな、たぶん。

もっとお城に眠ってるスッゴい武器とか防具とかくれよとも思ったが持ち逃げされる可能性が有るからそんなものは渡さないだろう。

いっそこのまま逃げてしまおうか。
とも思ったが少なくともこの国にいる間は見張りの目が光っているんだろう。


……結局のところ、俺がどうするかなんて既に決められていた事だった。


店主「アメルダの酒場へようこそ、よかったわね坊や……ここならミルクも置いてあるわよ?」

勇者「いや、飲みに来たわけじゃないんですけど」


というか成人してるんですけど…。

旅に出るのなら仲間は必要。
そう思い立った俺は夜に酒場に来た。
ここなら立ち寄る冒険者も多いし、何より冒険者同士の仲介を引き受けてくれる酒場もけっこう多いからだ。

店主「あらそう? 飲みに来たんじゃなければ旅の仲間でもお探し?」

勇者「ええまぁ、そんなところで……」

勇者「一緒に魔王退治に着いてきてくれる人なんかいないかなぁーって」


店主「……は?」

勇者「いや、なんか俺……勇者、みたいなんで…」

「「ブフッ!?」」

勇者「?」

「ぷっ…今どきいんのかよぉ、単独で魔王退治になんかいくやつ!!」ヒソヒソ

「そういう奴は連合軍に志願するよな、まぁこんな果ての方の弱小国にそんな奴いるとは思わなかったが…」ヒソヒソ


……やっぱりもうちょっと濁して言えば良かった。
俺だってこんな事言う奴を見たら頭のネジが外れてる奴だと思う。
勇者なんて所詮、絵本の中だけの存在だ。


店主「あっはっは、勇者サマか! 王族か何かにでもそそのかされたのかい?バカだねぇあんたも! 」

勇者「そいつはどうも」

店主「いやごめんごめん、あたしはあんたみたいなバカは嫌いじゃないよ」

店主「確かにここでは手の空いてる冒険者達を斡旋してはいるさ、あんたに紹介してやってもいいんだが……見てみなよ」

店主「ここにいる奴らは平穏の上にあぐらをかいて幸せ気分でいるような奴らばかり、前線の方の街にいるやつらとはまるで違う……腑抜けた連中さ」

勇者「それはここら辺が平和だから…」

店主「ここがずっと平和でいられる保障なんてどこにもないよ、現にここいらも最近は魔物の数が増えてきてる」

店主「そう遠くないうちにここにも大型の魔物何かが来るかもしれないねぇ」


アメルダさんの言うことは間違ってないと思った。幸せそうに飲んでいる冒険者達はここを根城にしているような連中ばかりなのだろう。
想像に描いてた屈強な戦士とはかけ離れている。

ここで仲間を探すのは間違いなのかもしれない。
そう思った時だった。


「───ねぇ、さっきの話はほんと?」

勇者「……え?」


いつの間に近づいていたのだろうか、傍らには一人の女の子が立っていた。
肩からローブを羽織り、フードを目一杯被って顔を隠しているが声からしておそらく女性だろう。


勇者「話って……いったい何の話でしょうかね?」

「魔王退治……あなた、本当に行くつもり?」

勇者「一応そのつもりだけど……君は」


何者だい?
と、答える前にアメルダさんが口を開いた。

店主「そいつは数日前にこの街に流れてきた子だよ、毎晩ここに来てはミルクを飲んで帰っていくのさ」

「それはあなたがミルクしか出さないから…」

店主「ケツの青い小鳥ちゃんに出す酒はないのさ、まぁ毎晩飲みに来てくれるのはありがたいけどね」


それはカネづるとしてですか。
というかアメルダさん話が逸れてますよ。

店主「それはそうと、どういう風の吹き回しだい? 今まで他の冒険者達の誘いは全部断っていただろ?」

「……別に、雑魚狩りなら一人でもできるから…徒党を組む理由が無いだけ…」

「あなたが良ければ私を一緒に連れてってほしい…」

勇者「腕に自信アリ、ってことか」

「……」コクリ


無言で頷く姿にどこか可愛らしさを感じる。

ついて来てくれるのは有り難いが俺は彼女の事を何も知らない。
ここで安易に承諾せずにまずは彼女に色々と聞いておくべきだろう。
名前、ジョブ、武器に戦闘スタイル、何で俺について来ようと思ったのか、それから──



ウェイトレス「キャァァァッ!!!」




勇者「!? なんだ?」


つんざくような悲鳴に驚き振り替えると冒険者が二人、血を流して倒れている。

先程俺を笑っていた二人だ、その二人を囲むように三人の男が立っていた。


「今……魔王サマ、退ジする…イッタ」
「ユウシャとか言ってた、コイツテキ」
「ユウシャ…コロス!!」


男たちの身体がメキメキと肥大していき身を纏っていた衣服が引きちぎれていく。
顔色は青ざめ、紫色に。
背中からは翼が生え、牙も出ていた。


店主「ガーゴイル……こんな辺境の地にも来たってのかい!!」


アメルダさんの怒声を皮切りに酒場の中に混乱が訪れた。
突然現れた魔物の存在に畏怖し逃げ惑う者、腰を抜かし立てなくなる者。

混沌が店内を支配する中、どうやら俺は竦み上がって動けずにいる腰抜け組らしい。


戦士「けっ、腰抜けめ! 見てろ、この俺の剣の錆びにしてやるぜ!!」

ガーゴイル「コイツ、ザコ、ヨウハナイ」

戦士「な、舐めてんじゃねェェェ!!!」


渾身の力を込めたその一撃は、しかし空しくも片手で止められ……空いた片手の爪で戦士は顔面を引き裂かれた。

戦士「ぐぎゃぁぁぁっっ!!!」


顔面をバターのように裂かれる痛みはどれほどのものなのか。
気迫に満ちた表情は今や苦悶と鮮血で染め上げられる。
床にのたうち回る戦士を無視し、魔物達は俺に照準を合わせた。

ガーゴイル「ヤッパリザコ、ホットイテイイ」

ガーゴイル「ソレヨリユウシャ……ユウシャコロス」

勇者「勇者って……オレっ!?」


翼を広げた異形の化け物は宙に浮かび、その勢いのままに突進してきた。
咄嗟に新調してきた愛剣で受け止める。
動きの素早い獣相手に狩りを続けてきた経験が生かされたようだ。

……だが。


勇者「……ぐっ、重っ!」


受け止めたは良いがその攻撃の重さに少しずつ身体を潰されていくような感覚がした。

人と魔物の根本的なまでの身体能力の違いをその身をもって実感する。


店主「アンタら人の店ン中で暴れてんじゃないよ!!」

ガーゴイル「オマエ…ジャマ!」

店主「おっと元冒険者なめるんじゃないよ!!」

魔物の攻撃に押されてる俺にアメルダさんが短剣で援護に入った。
素早い剣さばきで魔物と互角以上に渡り合っていく、しかしもう一体の魔物が加勢に入ったことで劣勢に陥り、隙を突かれ殴り飛ばされてしまう。


店主「っあぁ!」

勇者「アメルダさん!!」

ガーゴイル「オマエ…スキダラケ、シネ!!」


声に反応し、振り返るも遅かった。
素手に魔物はこちらに腕を振り上げていた。



──世界がスローモーションに見えた。

だからと言って俺自身が早く動けるようになったわけでもなく。

眼前に迫る死を前に最期の光景を焼き付けるかのようだった。







故に魔物が側頭部からナニかに射抜かれ、血を吹き流して倒れていく様も、ゆっくりと見えた。


勇者「……え?」


そういえばあの子はどこに行ったのか。
ナニかが飛来してきた方を見るとあっさりと見つけることができた。
なんだアレは?
黒い筒? あれで何かしたのか?


ガーゴイル「ギギ、ナカマ、ヤラレ…ゲブァッ!?」


近くにいた魔物が仲間の死に気づくが、自分の死には気づかぬ様だった。
地面から隆起した岩のトゲに突き刺されその命を終えた、地属性の魔法……初めて見た。


だが違う──俺を助けてくれたのはコレじゃあない。


ガーゴイル「ググ……フリ! オレ、イチジテッタイスル!」

勇者「ま、待て!!」


再び翼を広げた魔物はそのまま飛び上がり店の中から外へと逃げていく。
反射的に俺も外へ追いかけるが、既に魔物は空高くへと飛び上がっていた。
満月が美しく光輝く夜空へと。


勇者「クソ……逃げられた」

「どいて」


声のする方に顔を向ける。
彼女は魔物が飛び立った空へと黒い筒を構えていた。


ああ……そうだ、これだ。
原理も理屈も分からないが、俺はこれに助けられたんだ。


タァンッ


聞きなれぬ音が街に、空に響いた。
弓も、魔法も届かぬ距離。
筒から放たれたナニかは遥か彼方、上空へと飛んでいったのだろう。


最期の光景に満月を焼き付けた魔物は、力無く地へと墜ちていった。


「……ふぅ、終わり…」

勇者「……その武器は何なんだ? 君は何者だ?」

「コレは銃……ジョブは……一応狙撃手って言うのかな…?」

勇者「そっか、じゃあ……君の名前は?」


ふわりと夜風が吹く。
風に靡いてフードが外れる。
深い深い、夜に溶けてしまいそうな青色の髪に眠たそうな瞼の奥に透き通る紫紺の瞳。

夜空を照す満月ですら引き立て役に見える可憐な姿に目を奪われた。

狙撃手「名前はリーン、そう名乗ってる」

勇者「そっか、俺はアルフって言うんだ」


──これからよろしく頼むよ。


期待をしてるようなら一つ勘違いしないでほしい。

これは俺と彼女のラブストーリーなんかじゃないし、俺とかわいい女の子達のハーレム冒険活劇とかでもない。

これは出会いと別れの物語、出会いがあれば別れもある。


聞きたくもない話もたくさんあるだろうけど……まぁ、一杯奢るから酒のつまみにでもと思って付き合ってくれよな?


つづく。

今さらだけどエロ、グロ展開あるかもなので注意。
あと読みづらかったりしたらごめんなさい。


──次回予告



「あっはっは、いや一晩で一気に人気者だねぇ!!」

「い、一瞬にして一文無し……!」ガクッ

「………そんなの、私が知りたいよ…」

「貴方様が伝説の勇者サマなのでありますね!?」キラキラ


2月20日 11時予定。

第2話、投下します

──あの夜の出会いから一晩明けた。


あの後、空から魔物が墜ちてきたと街はざわついていたようだが今ではすっかり平穏を取り戻している。


俺はと言うと一度村に帰り、旅の支度を整えてからリーンと合流することになっていた。


村のみんなにはどこへ行くのかと聞かれたが、ちょっとした旅行と言っておいた。
素直に「魔王を退治しに行きます」とは昨日の一件以来言うのは躊躇われるからな。


そんなこんなで俺は住み慣れた村を出て、リーンと一緒に冒険の旅に出ようとしたのだが……。




「うぉぉ……あれが勇者さまか!」
「わー、かっこいいなー!」
「昨日この街を襲ってきた魔物、あの人が倒したんだって!!」
「ほんと!?あの人たまに街で見かけてたけど実はスッゴい人だったんだ!!」
「けっこうカワイイ顔してるのね!」


狙撃手「……アルフ、うるさい…なんとかして…」

勇者「俺に言うな俺に、ていうか何で俺が倒した事になってるんだ」


みなさん違うんです、やっつけたのは横にいる狙撃手さんなんです。
そう言ってやりたかったが、子どもたちが向けてくる好奇の視線に耐えられず、結局苦笑いで返した。


店主「あっはっは、いや一晩で一気に人気者だねぇ!!」

そう言って野次馬の中から出てきたのはこの街、スタウトの酒場の店主アメルダさんだ。
昨日思いっきり魔物に殴り飛ばされた割には意外とピンピンしている事に少しホッとした。


勇者「笑い事じゃないですよアメルダさん……なんなんですかコレ」

店主「さてね……でも昨晩の事件については既に街中に広まってるからね」

店主「おそらく王様辺りが情報操作を行ってあんたの手柄に仕立てあげたんでしょ、平和主義を宣った小心者のくせにこういう根回しは得意なんだから」


……あぁ、なるほど。

俺が勇者サマという事を街のみんなに認識させて逃げ道を潰した上に、街の警備に対する不信感をお祝いムードで逸らしたってことね。
……たまったもんじゃない。


勇者「ところで、アメルダさんはどうしてここにいるんですか?」

狙撃手「見送り…?」

店主「んー、それもあるけどちょっと違うわね……てなわけで」スッ





店主「そこの子への仲介料金500G、払ってちょうだいな♥」

勇者「ここに来て金とるんすかッ!?」


店主「当たり前じゃない、私だってボランティアで斡旋してるわけじゃないんだから」


ちらりと財布の中身を確認する。
王様からの前金300G。
家にある不要な素材を売り払った金額200G。

次の街への旅の資金、計500G……ここにブッ飛ぶ。


勇者「い、一瞬にして文無し……!」ガクッ

狙撃手「……というかそれだけしか持ってないの…?」


喧しい、こっちはその日ぐらしの狩人さんですよ。
お金なんて必要最低限な分だけ持ってれば良いんだよ。


勇者「くそぉ、こんなことなら剣なんて自分で研いどけば良かった………ヘタクソだけど」

店主「あっはっは、まいどありー…ああそうそう、それとコレは旅立つ若者にお姉さんからの餞別ってことで」ドサッ

勇者「…? なんですかこれ?」

店主「お姉さんからのちょっとしたサービスよ」


店主「なにせアンタ達はあたしの店から魔物を追っ払ってくれた勇者様なんだからさ」



こうして俺たちはアメルダさんに見送られ旅が始まった。

この南の島国、サウスランドから魔王がいる北の大陸、ノウスフォトレスまではかなり距離がある。
しかも最低でも船を二つ乗り継いでいかなければならない。

そこでまず中央大陸に渡るために港町を目指すことにした。

とは言っても、その港町に行くにはまず村を二つ経由し、道中には山越えもしなければならない。
特にこの街から最初の村までは結構遠く、なるべく魔物を狩って素材を集めたい俺たちは徒歩での移動を決めていた。


猪型「ブギィィ!!」

勇者「でやぁッ!」


猪型の魔物の突進を紙一重で避け、擦れ違い際に切りつける。
横っ腹を斬られご立腹の様子なのが見てわかる、この手の獲物は攻撃が直線的なのが多く少し戦いなれてれば対処は簡単だ。

この周辺で見かける魔物は猪型、植物型、そして鳥型の三種類。
好戦的な猪型以外はこちらから近づきさえしなければ攻撃はしてこない。

野生の狼や猪を相手に狩りをして慣れている俺からすればそこまで手こずる相手ではない。
ただそれ以上に。


狙撃手「……」スッ

タァンッ


鳥型「ピィッ…!?」

狙撃手「大地の息吹……、脈動し、ここに示さん…ソールン、オフス、ストゥネ…!」

ドドドドッ!!


猪型「ブギィヤァァッ!!!」


リーンの戦闘能力が優れていた。

弓矢とは根本的に異なる未知の武器、銃から放たれる弾丸は寸分の狂い無く敵の急所を撃ち貫いた。
圧倒的なまでの射程を誇る彼女の武器は近寄ること無く彼女に仇成す者の命を奪い去っていく。
特に空からこちらを狙ってくる魔物には絶大で時には相手がこちらに気づかぬ内に仕留めている、それが彼女の武器の本来の持ち味なのだろう。

俺の仕事は敵を彼女に近づけさせないこと。
それがリーンが提示した旅をする条件の一つだ。
俺が前に出て彼女を守る、しかし相手が数で押してくるかまたは囲んで襲ってくる時は討ち漏らす事もある。


狙撃手「……邪魔」ゲシッ

植物型「#*"::!?」


そんな状況に陥っても彼女は意に介さず、寄せ来る敵を冷静に対処していった。
小さな魔物はスラリと伸びた美脚で蹴っ飛ばし体格の大きな魔物には魔法で蹴散らす、岩の砕流に巻き込まれた魔物は近づくことすら叶わず刺し貫かれていく。


勇者「悪い、また無駄な魔力を使わせちまったな」

狙撃手「…気にしてない」

勇者「けど」

狙撃手「……もう慣れた…」スタスタ


勇者「き、キビシー……」

……なんだか彼女に悪い事をした気がした。


村までの道のりは平坦な草原が続き、徒歩での移動は既に三日かかっていた。
途中に休憩所があればそこで一晩を過ごす事もできるのだが。
あいにくタイミングが悪く今日もまた、三日目の野宿となった。



狙撃手「……母なる大地よ、慈愛の加護を我に貸したまえ…、その豊穣の力を持って我に暗き闇を裂き、祓う鉄血を授けたまえ……」

狙撃手「トゥア、エクトラーク、ジ、アイローン……!」


ぺたりと木陰に座り込んだ彼女の周りが黄色の光に包まれる、魔法陣の上に置かれた土や石ころが
その質量をすり減らし、鈍色の輝く鉛玉がポタリポタリと出来上がっていった。

銃という武器はハッキリ言って、この世界には存在しえない。
いや、俺が知らない内にどっかの国が開発したのかもしれないけど……そんな事ができたらそれはもう技術革命に等しいことだと思う。

そんな事が起きればその情報は瞬く間に世界中に広まるだろうし。


故に彼女を今まで護ってくれた死神の鎌……弾丸は武器屋や道具屋なんかに当然置いてるわけもなく、魔法を使って今まで作り出していたみたいだ。

その様は魔法というよりも、お伽噺の錬金術に近いとは思ったが。


勇者「……終わったのかい」

狙撃手「……ん」

勇者「それって毎日やってるの?」

狙撃手「…うん、普段はもっと作るけど…魔力が足りないから」

狙撃手「…あなたがちゃんと守ってくれてたら魔力を温存できる……」

勇者「うっ、ごめんなさい」

狙撃手「…魔力も無限じゃないから……、戦いの最中に魔力も弾丸も無くなれば、私にはなにもできない……」


焚き火に薪を放りこむ。
ゆらりと勢いを増した炎は、夜の闇に染まる彼女の顔を明るく照らす。
彼女の瞳は炎を眺めているようで、なにか別の物を見ているように見えた。



狙撃手「……ねぇ、そういえば何をしていたの…?」

勇者「えっ、ああ……魔物よけを辺りに撒いておいたのさ」

狙撃手「……魔物よけ?」

勇者「見たこと無いのか? 魔物が嫌う匂いを発する植物があってね、そのエキスを閉じこめたスプレーさ」

狙撃手「…ふーん」

勇者「えい」プシュッ

狙撃手「…うっ……! なんかスースーした匂いがする……」プルプル

勇者「魔物はこれが苦手なんだよ、ほんとは聖水とかのが効果あるんだけどね」


旅立つ前にアメルダさんがくれたものの一つ、あの人は俺たちが野宿で夜を明かすことも分かっていたんだろう。
アメルダさんがくれた餞別には他にも薬草を煎じた傷薬や解毒剤、食料や飲み水に世界地図……どう考えても500G以上の物がそこには詰まっていた。


狙撃手「……涙出てきた、なんなのこれ…」ゴシゴシ

勇者「……本当に見たこと無いのか」

狙撃手「……少なくとも、私は知らない…」


そんなバカな、道具屋に行けば幾らでも置いてるもんだぞ。
そう言いかけたが、不意にある事を思い出した。

狙撃手『名前はリーン、そう名乗ってる』

ほんの微かな違和感は疑問に変わり、俺の口から意図も容易く飛び出した。


勇者「……なぁ、リーン」

狙撃手「……なに?」

勇者「君は本当に何者なんだ……見たこともない武器、魔法の手際の良さ、子どもでも知ってる物を知らない……ハッキリ言って君は、俺たちとは全然違って見えるよ」

狙撃手「………」

勇者「答えてくれよ、君と旅を続けるには必要な事だ」



ゆらりと、炎が揺らめいた。
静寂という闇の中に、己が存在を証明するかのように。


狙撃手「………そんなの、私が知りたいよ…」






狙撃手「……私が目を覚ましたのは、ウェストロードの岩山の中だった」




名前も、記憶も、全てどこかに置き去りにされたかのように何も覚えていない。
ただ目が覚めたとき、わたしの手の中にはこの子が握られていた。


私はひたすら山の中を歩き回った。

当てなんか無い、ここがどこでどう動けばこの山を抜けられるか。
そんな事なんか微塵も考えず、ただ自分が何者なのか、その証明をするために。

人影を見つけた、あの人たちなら何か知ってるかもしれないと思って駆け足で近寄った。


けれどその人たちは下卑た笑いを浮かべ、わたしを押し倒した。


『ひっひっひ、心配しなくても良いんだよお嬢ちゃん……おじさん達が可愛がってあげるからね』

『ひっ……いや、いやぁ……!』


その人たちはこの山を根城にしてる山賊だった。
服と呼べるかも怪しい布きれを剥ぎ取られ、生まれたままの身体を眺めていた。


男がわたしの胸に触れた。
その行為の意図は分からないがわたしの全てを蹂躙するかのような手つきに激しい嫌悪感を覚えた。


『少しばかり小振りだが良い乳じゃねえか、こんな山ん中で女を抱けるなんざ思いもしなかったぜ』

『さっきは親分がヤる前に殺しちまったからなぁ、その小娘は俺にもやらせてくださいよ』

『ガッハッハ! 良いぜ! 俺が使った後ならなぁ!』

『…やだ……やだっ…やだぁ……!』


男たちの下品で猥雑な行為が加速する。
記憶や知識が欠けていてもこのままでは酷い事をされると思った。

……ふと、持ち歩いてたこの子の事を思い出した。




銃口を向けた。
引き金を引いた。
わたしを押し倒した男の顔が吹き飛んだ。
血飛沫や肉片が、わたしに降り注いだ。


『ひぃっ、な…なんだコイツ!?』

『ば……バケモノぉっ!!?』


おじさんたちは逃げていった、私はまた一人になった。
そしてそのとき初めて理解した、この子は人の命を簡単に奪うのだと。

呆然と、力無く歩きだした。
少し進むと人が倒れていた、死んでいた。
たぶんさっきのおじさん達が殺したんだ。
わたしは悪いと思いながらもその人から衣服を脱がした、血でべったりだったけど今さらだと思った。

衣服を漁っていると名前の刻まれたペンダントを見つけた、あのときは何も思わなかったけどそれなりに身分のある人だったんだろうなぁ。


『……り……ぃ………ん…?』


わたしはその人から衣服と名前を借りた。
わたしという存在が見つかるまでの仮の名。

それが私のスタート地点だった。


狙撃手「……人里に降りてからはまずお金の稼ぎを覚えた……その中で身分の無い者がお金を稼ぐには冒険者になるのが一番だと知ったの…」

勇者「……っ」


記憶喪失……それもどこかも分からない山のど真ん中で。
自分が何者なのかも分からず、獣や山賊の縄張りで独りきりだなんてどれほど心細いことなのか、俺には想像がつかない。


狙撃手「……恐い? 人殺しの私が…」

勇者「……」


思わない。
ただ、悲しいとは思う。

勇者「……別に、そのままだったら君は襲われてたんだろ? だったらそれは正当防衛だ」

勇者「それに俺だって生活のために獣の命を狩っているんだ、人の事なんて言えないよ」

狙撃手「……そっか…」


狙撃手「……冒険者として旅をしていく内に思い出したこともある…この子の使い方、自分が魔法を使えるということ、あとこの世界にはこの子以外に銃が存在しないというのも…」

勇者「でも肝心な事は思い出せない…か、ウェストロードからサウスランドに来たのは自分探しのためか……ん?」

勇者「ちょっと待てよ、それじゃあ何で君は俺に着いて来てくれたんだ?」

狙撃手「……あなたが魔王や勇者と口にしたとき、心がざわめいたの…」

狙撃手「深いことは、結局私にも分からない……ただなんとなく、あなたの旅に着いて行けば記憶が戻るかも…そう思ったの」

勇者「そうか、俺はそれが聞けただけでも充分だ」

狙撃手「……もう寝よ、おやすみ…」


なんとなく、寝付けなかった。
星空を見上げながらふと考える。
彼女は、リーンは平気なのだろうか。

広い世界に独り放り込まれて、寂しくて、怖くて
、泣きたくならないのかと。
リーンはもう寝たのだろうか、寝返りをうつフリをして様子を確認してみた。



………震えていた。

寒くて、ということじゃないのは直ぐに分かった。彼女は耐えているんだ。
泣いてしまえば、きっとこの現状に叩き伏せられてしまうと分かっているから。
この世界において、自分が明らかに異端だという事を自分自身が理解しているから。


小さく、華奢な身体で、自分を探すために世界を独りで渡り歩くのがどれほど過酷なことなのだろうか。


勇者「俺だけは……」

彼女が耐えられなくなったとき、自分だけでもそばにいてやりたい。
そのときはそう思ったし、今だってその気持ちは変わってないんだ。



四日目、天気は快晴。
この日は魔物に遭遇する事も少なく、今までにないくらいに歩が進んだ。
もっとも、俺は相変わらずリーンに敵の接近を許してしまう体たらくだったが。

……まぁさておき!
そんなハイペースで進めていくうちに昼間のうちに目的の村、セカードに到着した。


狙撃手「……やっと着いた、けっこー遠い…」

勇者「くぅう~!!全くだな!」


ここまで時間が掛かったのは想定外だったなぁ。
次からは長い距離の時は徒歩は止めて馬車でも使うか。


勇者「それじゃあまずは宿屋に行くか、部屋空いてると良いけど」

狙撃手「……その前に素材換金…お金無いと泊まれない…」


やはり連続で野宿は堪えるらしい。
さすがに彼女もそこまで鉄人では無いか、少しホッとした。

ちなみに部屋は空いていた、二人用ワンルームだ。
……決してやましい意味は無いからな、お金は節約しなくちゃいけないからな、うん。


勇者「さてと、これからどうしようか」

狙撃手「…特に決めてないなら酒場にしよ」

勇者「夕方前から飲むのか?」

狙撃手「…違う、情報収集……それともう一人、前衛が欲しい……」

勇者「前衛……戦士とか武闘家あたりか?」

狙撃手「……うん、あなた一人じゃ正直心許ない…」

勇者「はぅっ!?」ドスリッッ


リーンさん、そこは触れないでくれ。
心に直で突き刺さるから、マジで。


店主♂「おう! グランの酒場にらっしゃい!!酒か?仲間か!?」

勇者「えっと……一応、仲間募集で」


き、筋骨隆々なおっさんだなぁ……そこらの冒険者より強そうなんだけど。


店主「仲間か! 前衛職かい? 後衛職かい? もっともうちには今んとこ前衛しかいないけどな!!」

勇者「じゃあなんで聞いたんですか」

狙撃手「…ちょうどいい、できるだけ強い前衛が良い」

店主「ほほう、強いやつをご所望か!」

狙撃手「……うん、私たち魔王を退治しにいくから」

店主「……なんだって?」


おい、このパターンはまさか……。

狙撃手「……この人、実は勇者なの」ポンッ

「「「「ブッ!!!」」」」


「ぶっはははは!!!勇者って!!今どき勇者だってよぉ!!!」
「やっベー!!最高におもしろいジョークじゃねぇかっ!!」
「いっひゃっひゃっひゃ……ひゃっ!わ、笑いすぎて横っ腹が!!」
「勇者なんて今どきガキでも信じてるやつすくないだろー」


……ええはい、私めもそう思います。
こんなどこにでも居そうなド凡人が勇者なわけありませんねすいませんでしたねー。


狙撃手「……? なんでみんな笑うの?」キョロキョロ

勇者「……リーン、頼むから公共の場で俺を勇者と呼ぶのはやめてくれ」プルプル

狙撃手「……アルフ、かお真っ赤…」

勇者「お前のせいだっつうの!」


ああもう、この爆笑の渦の中で仲間集めも情報収集もできないだろ……時間を空けて立て直すか?
いや、余計に惨めになるだけか。


「……勇者サマ?」

勇者「……え?」


酒場の隅の方に視線を向ける。
唖然とした表情の女性がこちらの方を向いていた。

そしてふと思い出した。
スタウトの街で会った魔物は人に化けていたのだ。
まさかこの人もそうなのか…!?


「本当に……いたんだ…!!」ガタッ

勇者「くそ…、まさかまた魔物って展開か!?」


ガシッ

剣に手をかけようとしたが女はそれよりも早く俺の手を掴んだ。

しまった、このままじゃ…!

しかし女はそのまま両の手で包み込むように握り、顔を上げた。


女剣士「貴方様が……伝説の! 勇者サマなのでありますね!?」


キラキラとした熱い視線。
これは見たことがある、街で子どもが俺に向けていた純粋な期待の眼差し。

すごく……苦手な視線だ。


つづく

一週間以内に一話のペースで行きたいと思います

おい待てよ!
自然にハーレムが出来上がろうとしてるじゃねーかよ俺と変われ勇者


──次回予告



「……あ、あの!! 勇者サマはどちらから来られたのですか!? やはり勇者サマは失われたとされる光の魔法を使えるのですか!? その腰の剣はもしや伝説の剣なのでありますかそんなのですね!!? 」

「……アルフはパッとしないの?」

「あー麦酒に酒のつまみはいらんかねー!!塩ゆでした新鮮なお豆だよー!!」

「人の話を聞きやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」


2月28日 17時予定。


『ねぇジェシーお兄ちゃん、絵本読んでー』

『マリー……絵本なら昨日も読んであげただろう?』

『もういっかい! ねぇおねがい!』

『まったく、マリーは本当に勇者さまの絵本が好きなんだな』

『でもお兄ちゃんもこの絵本好きだってお母さんたちが言ってたよ?』

『お、おれはもう子どもじゃないからいいんだよ! もう仕方ないなぁ……ほら貸してみろ』

『わーい! ありがとージェシーお兄ちゃん!』ピョンピョン

『はしゃぎすぎだよマリー、ほら読むぞー』

『うん!』


少女は御伽話に出てくる勇者に憧れを抱いていた。
そして少年は御伽話に出てくる勇者を目指していた。


血は繋がらなくとも兄と妹のように接している二人を村の大人達は微笑ましく見守っていた。


『……こうして魔王を倒した勇者は世界を平和に導きましたとさ、めでたしめでたし!』

『わー! ユーシャサマかっこいいー!!』

『そうだよな! 特に魔物に乗っ取られた村人をこう……ピカーッと助けちゃうところ! なんか憧れちゃうよなぁ!』

『お兄ちゃんもやっぱり勇者さまが好きなんだね!』

『あっ……ま、まぁ男なら強い奴に憧れるのは当然だろ!!』

『見てろよ、いつか俺も強くなって……伝説の勇者みたいに魔物たちをやっつけるんだ!!』

『あっ……ずるーい! わたしもユーシャサマみたいになるー!!』


『おーい、二人ともー! そろそろご飯の時間だから家に入りなさーい』


『『はーい!!』』

『行こうぜマリー、今日は母さんのシチューだ!』

『わぁーい!シチューもジェシーお兄ちゃんとユーシャサマと同じぐらい好きー!!』


手を繋ぎ、微笑ましく夕暮れを駆け回る二人。
この幸せが永遠に続くかのように、そこには笑顔が満ち溢れていた。




二人は知らない。
思い描き信じた夢が、引き裂かれる未来を。



──第3話


店主♂「じゃあ改めて紹介するぞ! こいつの名はマリオン! 女だと甘く見てたら大間違い!見お前さん達が望む一級品の前衛だ!!」

女剣士「は、はじめまして! マリオンと申します!! ジョブは剣士を名乗らせていただいてるであります!! よろしくお願い致します!!!」

狙撃手「……私はリーン、よろしく…」ペコリ

勇者「よ、よろしく…俺はアルフっていうんだ」


あの後、興奮冷めやらぬといった様子の彼女を落ち着かせ、店主のグランさんを交えた紹介の場へと移った。


彼女の名前はマリオン、両手持ちの大剣を武器とする前衛の剣士で一人で世界中を回っているらしい。


正直言って俺一人で多勢の魔物相手に一匹も取りこぼさないというのは無理だ。
数多くの敵を薙ぎ倒せる大剣の使い手は俺たちが求めている人材そのものだろう。
……ただ。


女剣士「………」キラキラ

勇者「あのー、何か?」

女剣士「いえいえ!! 何でもありませんです!はい!」ビクッ

勇者「あっそう」

女剣士「……っ!」キラキラ


いささか俺の方を見すぎではないだろう。
期待、好奇、歓喜……希望に溢れている熱い眼差しを送られるのは慣れてないしどう対応すればいいのか正直分からない。


端正な目鼻立ちに綺麗な金の長髪を高い位置で束ねており、可愛らしさと綺麗を両立させてる容姿は間違いなく美人の部類に入るだろう、間違いない。


女剣士「………!!」ソワソワ


間違いないのだが少し落ち着きが無さすぎではないか?

グランさんが仲介料とか他の冒険者同士のルールなんかを説明しているが、視界の端に彼女が移る度にそっちに注意を持ってかれそうになる。
なんかおあずけを限界まで我慢されている犬のようになってるぞ。


店主♂「……とまぁここらの近況は以上だ、嬢ちゃんから何か聞きたいこととかは無いのか?」

女剣士「もう良いのですか!?」

女剣士「……あ、あの!! 勇者サマはどちらから来られたのですか!? やはり勇者サマは失われたとされる光の魔法を使えるのですか!? その腰の剣はもしや伝説の剣なのでありますかそうなのですね!!? 」

勇者「いや、俺は」

女剣士「一体これまでにどのような旅をして来られたのでありますか!? そちらの方は勇者サマの従者でありますか!羨ましい!! 勇者サマは!その、勇者サマは!?」

勇者「ちょっと!待て待て!! 一回落ち着け! とりあえず座ってくれ!」


興奮しすぎて呂律が回りきらなくなっているぞ。
横でリーンが「……従者じゃないし」とむすっとしてるが一先ず置いておこう。


女剣士「スー………ハァー……も、申し訳ありません、勇者サマに対して無礼な態度をとってしまいました…」

勇者「いや、気にしてないからいいよ」


女剣士「……私はこれまで、伝説の勇者サマを探す旅をしていました」

女剣士「悪しき魔王が復活した今、北の大陸に近いところは既に魔物の手がおよび、混乱の中にあります!」

女剣士「子どもの頃からずっと光の勇者サマはいると信じてました、そして貴方様は私の前に現れてくださいました!」ガタッ

女剣士「お願いします!! 私を、勇者サマのパーティーに入れさせてください!!」バッ

勇者「ちょっと……そんな頭なんて下げなくて良いから!」


マリオンさんが本気で勇者がいると信じているのが分かった、街の子どもですら絵本の中の存在としか信じてないのに。


そんな曖昧な存在を探すために、世界を渡り歩いてきたのだろう。


だからこそマリオンさんを尊敬できたし、同時に申し訳ないと思った。


俺は伝説の勇者みたい偉い人間じゃない。
それを説明しなければならない。


勇者「マリオンさん、落ち着いて聞いてほしいんだ」

勇者「俺は……マリオンさんが思い描いてる勇者なんかじゃないんだ」


俺が勇者なんて呼ばれてる経緯を全て話した。

元々狩りで生計を経てている村民であること。
たまたま王様の策にハマり勇者に仕立てあげられたこと。
本当はこの辺りの魔物相手に苦戦するくらいに弱いこと。


包み隠さず、全てを話した。



女剣士「………」

勇者「分かっただろ、俺は勇者なんて呼ばれるような男じゃないんだ、だから断るのなら今のうち」

女剣士「……なるほど、全て分かりました!」

勇者「……は?」ポカーン



女剣士「つまり勇者サマは魔物共に知られぬように極秘で旅をしているのでありますね!」

勇者「あの、マリオンさん?」

女剣士「勇者だとバレれば、魔王が追っ手を差し向けるのは必然! 勇者サマは村や街に被害が及ばぬように身を隠してると!」

勇者「ち、ちがっ!」

女剣士「そうとも知らずに余計な騒ぎを起こすとは……このマリオン! 一生の不覚であります!」


おいおい待て待て待て。
今の話をどう聞けばそういう結論に至るんだ。

そこまで高尚な考えで俺は動いてないぞ。

ただ勇者だなんて言って回れば笑われるのが嫌なだけだ。


「おいおい嬢ちゃんその辺にしとけって、兄ちゃん困ってるぞー?」
「よせって、勇者サマだなんているわけないのに信じてるやつだぜ、酔ってるからって絡むなよ?」

女剣士「むっ、勇者サマいます!!今、ここに!!」ビシッ


人違いです。


「はっはっは!!こんなパッとしないようなのが勇者だなんて世も末ってやつか?」

女剣士「むむっ、ぐうぅ~~!!」

狙撃手「……アルフはパッとしないの?」

勇者「お黙りなさい」


正直マリオンさんがここまで愚直に勇者を信じてるとは思わなかった。
今も俺を馬鹿にされたからか涙目になりながら酔っぱらいを睨み付けている。


しかし酔っぱらいのおっさんの言ってることの方が事実な分、俺からは反論はしない。
むしろもっと言ってやれとすら思えてしまう。


そのうち俺たちを無視して口論を始めるが軽く受け流される始末。
さすがに止めるべきかと動こうとしたとき、一際大きな声をマリオンさんが上がった。


女剣士「もういいです! そこまで信じないなら証拠を見せるであります!」

女剣士「勇者サマ!! 申し訳ありませんが明日の昼前に村の広場まで来てください!!」

勇者「明日って、おい!?」


そう言うとマリオンさんはそのまま酒場から出ていってしまった。
声をかけるヒマすら無かった……。


その後は仲介料だの面倒くさい話は明日に回すことになった。
グランさんには申し訳無かったが今後どうなるか分からない内に話を進める気はしないし仕方ないだろう。


勇者「何て言うか、嵐のような人だったな」


ベットに腰掛け、マリオンさんの事を思い返す。

佇まいは凛とした剣士なのだが、口を開くと百八十度まるで違うような感じの人で無駄にから回ってるように見えた。
俺たちは案外、とんでもない人を仲間にしようとしてるのかもしれない。


狙撃手「……でもあの人、たぶん強いよ…」

勇者「……分かるのか?」

狙撃手「………騒いでる間も隙が無かった、から…」

勇者「そ、そうか? 俺はむしろ隙だらけに見えてたんだけど」

狙撃手「……そう思ってるうちはアルフは半人前…」

勇者「……一般人の俺に何の一人前になれと?」


その日は結局、隣でリーンが寝ていることも気にせず、疲れもグッスリと寝れた。


そして翌日……。


勇者「……あの、何これ?」


目の前の看板にデカデカと文字が書かれていた。



『伝説の勇者サマ降臨!! その実力をしかと観よ!!』……と。



店主♂「あー麦酒に酒のつまみはいらんかねー!!塩ゆでした新鮮なお豆だよー!!」

「勇者ねぇ、本当にいるのかねぇ?」
「昨日のホラ吹きがなんかやってんな、面白そうだからちょっと見てこうぜ!!」
「ふぉっふぉっふぉ、こんな小さな村でこんな催し物をやるとはのう」


……開いた口が塞がらなかった。

何事かと村人や冒険者たちが集まり見物人もかなり集まってきている。
グランさんに至ってはお酒やつまみを売りに回り完全に関係者になってるではないか。


勇者「逃げよう、今すぐ逃げよう」


この際仲間なんて次の村で探せば良い。
リーンの手を掴み宿に引き返そうとするが時既に遅しであった。


女剣士「勇者サマ!! 来てくださってありがとうございます!! さぁこちらに!!」ガシッ

勇者「ちょっ!待て!待て待て!! てか力強っ!? 」


背後に回っていたマリオンさんに気づけず、肩を捕まれ柵に囲まれた広場の中央に引きずられる。
今なら出荷される牛の気持ちが分かったような気がする。


勇者「あのさ、一応聞くけどなんでこんな事してるの?」

女剣士「ふっふっふ、勇者サマを信じない人達に勇者サマの実力を見せつけて本物だという事を証明するのです!」


勇者「……まさかとは思うけどその相手って」

女剣士「無論! 私が努めさせて頂きます、とは言っても私程度では勇者サマの足下にも及びませんが……」

勇者「昨日から何度も言ってるけど俺、勇者(仮)だから」

女剣士「ここに来ても謙虚な姿勢……勇者サマは心優しいお方なのですね!」

ダメだ、根本的に話が通じない。

そもそも目立たないようにって先に言ったのはそっちの方だろう。

今まで頭の中に浮かんできては消し去っていたが限界だ、あえて言わさせてもらおう。





この人、馬鹿だ。



女剣士「それでは……いざ尋常に、行きます!!」ブオッ

勇者「本気かよ!? う、うわっ!!」


待ちきれないと言わんばかりに得物を掲げ、突進してくる。

僅かな跳躍からの袈裟斬りをかろうじで躱す。
一連の動作に一切の躊躇も無いことから彼女の本気度合いが分かる、というか俺が斬られて死んだ時のことは考えてないのか?


女剣士「さぁ勇者サマも構えてください!!でやぁっ!!」ブンッ

勇者「じゃあ少しぐらい待てよ!!う、うぉおっ!」


横の大振りからの突き込み。

自身の身長並みに巨大な剣、グレートソードからの連撃は観る者、相対する者全てを圧倒する力が込められている。
実際彼女が攻撃を繰り出す度に観客からは感嘆の声が上がっていた。


彼女の性格上、防戦一方じゃいつまでも終わらない可能性がある。

一撃でも、彼女の着ている鎧にでも当てれば終わる可能性に賭けて攻撃に出てみるか。


勇者「くっそ、どうなっても知らないからな!!」スチャッ

女剣士「それでこそ勇者サマです!せやっ、たぁっ!!」

勇者「ぐっ…はぁっ!!」ガギンッ


狩人時代から愛用しているショートソードで反撃を試みるもあっさりと圧しきられてしまう。

武器の重量に攻撃のリーチを考えるとまともに切り結ぶのは危険すぎる。

ならばやはり攻撃を避け、なんとか懐に潜り込みたいところだがそれすらも許されなかった。
あれだけ大振りの攻撃を繰り返しているにも関わらず彼女には一切の隙が無い。

攻撃の動作が終わってから基本の構えに戻るまでの時間が極端に短いのだ。
故に大剣という武器にも関わらず、鋭く圧の有る攻撃を連発でき、攻撃の隙を突くことすら出来ない。

今ならリーンがマリオンを強いと言った事が分かる、彼女のそれは我流というよりもどこかの流派の剣だ。


勇者「これは……ちょっとマズイって!」

「おうおうどーした坊主!! さっきから腰がひけてんぞ!」

勇者「うっさい!! だったら代わるかオイ!!あと俺はもう二十歳越えてんだよ!!」

ああ、くそ……なんでこんな事になったんだ。
ただ一緒に旅をしてくれる人を探すだけだったのに、こんなの時間の無駄だろ助けてくれよリーン。


狙撃手「……がんばれ、骨は拾う…」グッ

勇者「俺がくたばる事を想定するのやめて!!」

女剣士「よそ見厳禁でありますよ!!」ブォンッ

勇者「アンタもアンタだ! こんな武器振り回してマジになって!! 俺が死んじまったらどうする気だよ!?」

女剣士「それはあり得ません!勇者サマならこの程度の苦難など乗りきれるに決まってるであります!」


だから勇者違うって言ってるだろ。
段々腹が立ってきたぞ、何でこんな理不尽な目に合わなければならないんだ。


女剣士「でやぁっ!!」

勇者「だったらこれでどうだ!!」


再び大剣で突きを放ってくる、ここだ。

紙一重で避け彼女の剣が戻るよりも先に、力を込めて己の剣を大剣に降り下ろした
上方向からの衝撃に重量も重なってマリオンの剣の切っ先はいとも容易く地面に沈んだ。


チャンスだ、隙ができた。
そう安堵したのもつかの間だった。


勇者「よしっ、………がっ…!!」

彼女の蹴りが鳩尾に入った。
沈んだ切っ先を支点にそのまま跳び蹴りを放って来たのだ。
ミシりと嫌な音が響きそのまま蹴り跳ばさる。
地面に倒れ伏す俺に、彼女がゆっくりと近づいてくる。


女剣士「さぁ勇者サマ、本気でかかって来てください……私も」スゥッ

女剣士「この一撃はとっておきです!!」


瞬間、マリオンの闘気が膨れ上がるのを感じた。
冗談じゃないぞ……まだまだ全然本気じゃなかったのか。
こっちは全身全霊でこのザマだぞ!?


勇者「ま、待てって……俺の話をよく聞けって、俺はあんたの探している勇者なんかじゃな」

女剣士「お覚悟!!!」ダッ


彼女が突っ込んでくる。
完全に殺る気満々じゃあないか。

彼女の闘気が増す。
何で人の話を聞かないんだ。

彼女が剣を振り上げ跳びかかってくる。
人の話を……人の話をぉ……!!




ザリッ



勇者「人の話を聞きやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」バッサァ

女剣士「むぎゃっ、目がっ!?」

狙撃手「……おおっ…」


地面の土を投げつけて視界を潰した。
マリオンの剣は標的を見失い、俺の真横に突き刺さる。


勇者「そこだくらえ!!」ヒュッ

女剣士「うわわっ!?」

瞬間、片足が着地する刹那を狙い足払いで体勢を崩す。
もうここしかない、彼女に剣を叩き込むフリをして決着だ。


勇者「これで終わりだ……あっ?」

創造すらしてかった、というか誰が予想できただろうか。
脚を払われ宙に浮いていた彼女が。


上半身の捻りだけで剣を引っこ抜き、剣の腹で俺をブッ叩いていた事に。


勇者「……そんな無茶苦茶な攻撃、アリ…かよ……っ」


ぐるりと、体ごと空に舞い、そのまま頭から落ちて、気絶。


それが一連の結末だということを、俺は後から教えてもらった。


狙撃手「……起きた…?」

勇者「……顔面に井戸水ぶっかけられれば誰だって起きるだろ」

狙撃手「……そう、でもこれが早いと思ったから…」

勇者「いいよ別に、というかみんなはどうしたんだ? 俺はどれくらい寝てたんだ?」ムクリ

狙撃手「………みんなアルフの事馬鹿にして帰って行った、そろそろ夕方になるよ…」

勇者「ほぼ一日無駄にしたな、あーくそ……醜態晒したうえにパチモンのレッテル貼られて終わりかよ」

狙撃手「……だね、でも」


狙撃手「……他の人がどんなに馬鹿にしても、私は最後の反撃は良かったと思う、よ…?」

勇者「……リーン」

狙撃手「……アルフにしては…」

一言多いって。


でもまぁ、変に本物の勇者様とか期待されるよりは全然マシか。
あのまま勝っちゃってたら余計に面倒なことになりそう……あれ、そういえば。


勇者「なぁ、マリオン…さんはどうした?」

狙撃手「マリオンならアルフの後ろにいるよ」

勇者「え"」


恐る恐る振り替えると、夕日を背景に仁王立ちでこちらを睨み付けている(ように見える)マリオンがいた。
逆光で表情が判りにくく余計におっかなく見える。

冷静に考えればこの状況。
勇者だと信じていた男が卑怯な手を使った挙げ句ボロ負けしたという最低な決着の着き方だ。


女剣士『勇者サマの名を騙るこの不届き者め!!この私が今すぐ成敗してやるであります!!!』ジャキン


……これぐらいしてきてもおかしくなさそうだ、いつでも逃げる準備はしておこう。
そう考えていた矢先、マリオンはいきなり頭を垂れ三つ指ついてきた。


女剣士「す、すみませんでしたー!!」


……イストガーデン流、ドゲザというものを初めて見た。

簡潔に纏めると、彼女は俺が本物の勇者ではないことにようやく気づいてくれた。
後から冷静になり、俺の話や戦い方を思い返すと違うのではとようやく疑問に思ったようだ。


女剣士「本物の勇者サマなら目潰しなんて姑息な真似をする筈がありませんですし!」

多少心に刺さる事もあったが、これでようやくスタートラインに立てたようだ。


女剣士「本当にすみません、私どうにも勇者サマの事になると熱くなりすぎるみたいでして」

勇者「あーうん分かるよ、身を持って知ったからねー」

女剣士「けれど善良な一般市民を謀に掛け、挙げ句勇者サマの名を着せるとは……南の国王、許すまじですね!」

狙撃手「……私がアルフなんかを勇者だって言ったのが原因……ごめんなさい…」ペコリ

勇者「なんかて」

女剣士「それであの……実はもう一つ、謝らなければならないことがありまして…」

狙撃手「……?」





女剣士「私は……やはり、一人で旅を続けようと思います」


マリオンは勇者を探す旅を続ける事を決めた。
俺達に着いて行く事も考えたようだが、行き先を縛られずに旅をするには一人旅が良いと判断したらしい。


元々セントラルキングダムから西のウェストロード、南のサウスランドと渡ってきたようで中央に向かう俺たちと違い東のイストガーデンへ行こうするマリオンとは行き先が違うのだ。


マリオンほどの前衛が着いてきてくれないのは残念だが仕方の無いことだろう。
リーンも納得してくれて別の人を誘うことを決めたみたいだ。


女剣士「魔王退治、とっても良いと思います……ですが私は、私なりに世界を救う方法を探っていくであります」

勇者「それがいるかどうかも分からないお伽話の勇者でもですか?」

女剣士「………ええ! もちろんであります!」ニコッ

この二日間で彼女の笑顔を何回見ただろう。
数えるほどしか見ていないがそれでも、マリオンの嬉しそうな顔は純粋に光輝くように周囲を照らしていた。

だから今、彼女が浮かべた笑顔が、どこか無理して作ったように見えたのは気のせいなのだろうか?


勇者「……宿まで送るよ、明日の朝一で出るんだろ」

女剣士「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて」


夕暮れの村を三人で歩く。
俺はふと彼女が熱心にしている勇者について考えていた。


果たしてそこまでしてこの世界に勇者は必要なのだろうか?
魔物退治なら今の俺たちでもそこそこできているのに、それこそ冒険者達が本気を出せば魔物なんかそこまで大敵にもならないのではと。


狙撃手「……? なんか出口の方が騒がしい…」

女剣士「ほんとでありますね、村人も集まってますし行ってみましょうか?」

勇者「そうだな、なんかあったのかもな」


この時の俺はまだ知らない。


勇者「あの、なんかあったんですか?」

「あ、ああ……となりのサルデ村のやつが来たんだが、どうにも様子がおかしくてな」

狙撃手「サルデ……次に私達が向かう村だよね」

女剣士「ここに来るまでに私も通ったことがあります」

「あっ…あぁ……あんた、冒険者か? た、頼む!!助けてくれ!!」ガシッ

勇者「な、なんだよアンタ……一体何があったんだよ?」

「サルデの村が……村が…家族がぁ……!!」


やつらがどれだけ残忍で狡猾な悪魔なのだという事に。


つづく

>>62
この先えげつない目に会っても構わないなら良いですよ?

取りあえず生きてます、忙しくて来れませんでしたが生存報告です

もうしばらくお待ちを


──次回予告



「……立ち尽くしてる暇は無いと思う…」

「そんな事、意味も理由も一つしかねぇーだろうよ」

「……たすけて…っ……だれか、たすけて…!!」

「魔物共め……覚悟ォォォ!!」


3月22日 22時予定。

第3話投下します
今回ぬるめのエロ描写あるので苦手な人は注意


3話じゃない、4話ですね
開始します


ゆらりゆらりと

揺れ動く馬車の中を重たい空気が包み込んでいく。
座り込む彼らの表情は一様に険しい。
まるでこの先に待ち受けている事態の深刻さを受け止める、そんな覚悟をしているような。


女剣士「……村のみなさん、無事でありますでしょうか?」

勇者「分からない、あの人も結局途中で気絶しちゃったしな」


サルデの村。
港町フォーヴに一番近く、小さいが人通りが多く、周囲には魔物避けの材料になる花が咲き誇る。
そんな小さな名物もあって旅人がよく訪れる村だった。

そんな活気に溢れる村が魔物の群れに襲われたのは昨夜の晩の頃。
それは何の前触れも無く起きた、村の回りを小鬼の様な魔物が囲っていたのだ。

十、二十、三十以上は居たそうな、奴らは数の暴力で村人たちを襲い、壊し、奪い去って行く。

村中が混沌に覆われる中、脚に自慢のある若者が村を飛び出した、背中を推したのが勇気なのか恐怖なのかはもう定かでは無いが……彼はとにかく、近隣の村に知らせなければと夜通し走り続けた。


そして彼から事の次第を聞いた俺たちは今、サルデに向かって走る馬車の中に居る。


武闘家「既にかなりの時間が経っている、無事であれば良いのだが……」

斧戦士「ふん、魔物なんぞ俺たちの敵では無い」

斧戦士「だがホラ吹き勇者様は寝ていても構わないんだぜ?」チラッ

勇者「……ホラ吹きで悪かったな、つうかホラ吹いたの俺じゃないし」

女剣士「す、すみません…」シュン

狙撃手「……ほっとけばいいと思う…」


サルデの惨状を聞いた俺たちは騒ぎに駆けつけたグランさんと相談し、サルデの村へ向かうことになった。



店主♂『駐在の兵士が早馬を走らせて国王に知らせに行くそうだ、済まないがお前たちは彼らと一緒にサルデの方を助けてやってくれ!』

勇者『俺たちも、ですか?』

店主♂『今はとにかく人手が欲しいんだ、頼むよあんちゃん!!』

狙撃手『……アルフ』

勇者『分かってるよ、どっちにしろ通り道だ……避けては通れないもんな』


こうして俺たちはグランさんが用意してくれた馬車を走らせ、村へと向かっている。

一緒に来ている武闘家や斧を磨いてる戦士は酒場にいる冒険者の中でも腕利きらしく、グランさんの頼みでここにいるらしい。

他にも数名の冒険者達が乗り合わせているが、特に腕の立ちそうなのはこの二人だろう。


……いや、彼女もいるか。


勇者「なぁマリオン…さん、マリオンさんの目的地とは反対方向だけど着いてきて良かったのか?」

女剣士「呼び捨てで構わないですよ、私もアルフと呼びますから」

勇者「はは、それは助かるよ」


いつの間にかマリオンは勇者サマと呼ぶのはやめたようだ。
そちらの方が馴染みやすいし俺としては大歓迎だ、無駄に笑われたり注目を集めるのは凄く恥ずかしい。


女剣士「私はあの村の人たちとは面識がありますし、放って置いてはおけません……それに」

女剣士「少し気になることもありますから」

勇者「そうか…でも心強いよ、ありがとうマリオン」

冒険者A「……もうそろそろ着くな」


冒険者の一人が馬車の外を眺めながらそう口にする。
村の人たちは無事なのだろうか、未だに魔物に襲撃され続けているのだろうか。いろんな事が頭の中に浮かんでは消えて。

最終的には全て杞憂で済めば良いと思った、それで済めば全てが丸く収まるのにと。


村は……酷い有り様だった。

木造の家は焼け落ちていて外観を為しておらず、地面には血液が滴り落ちたのか、赤黒い染みが至るところに見受けられる。

夜の暗闇と共に町を包む悲壮感が、この地にて起きた凄惨な事態を物語っているような。
そんな濁った空気を呼吸と共に肌で感じられた。


斧戦士「ボサっとするなよ小僧、今は生きてる奴の救助が先決だぜ」

ドンッと背中を叩いたのは先程俺を挑発していた男だった。ニヤついた表情はどこかに消え失せ、武闘家と共に崩れ落ちた家の残骸などを片していく。


狙撃手「……立ち尽くしてる暇は無いと思う…」

女剣士「そうですよ! 見たところ傷付いている人達も大勢います、早く助けませんと!!」

勇者「あ、ああ……そうだな、グランさんから薬は貰って来てるしな」


そうだ、突っ立っている暇など無い。
今はまず生き残ってる人達を救助しなくてはいけない、その為に俺たちはここまで来たのだから。


勇者「大丈夫か、どこか痛むところとか無いですか?」

「あ、ああ……俺は大丈夫、脚を少し痛めただけだ」

勇者「そうですか、向こうに避難所を作ってます、生き残ってる人達が集まってるんで行きましょう……肩を貸します」

「済まないな、あんたは隣の村の救援か?」

勇者「ええ、旅の冒険者だけどセカードでこの村の危機を聞いて来たんだ」

「そうか……そうだ、娘は? 娘を見てないか? 赤い髪で長髪の子なんだ」

勇者「いえ……ひょっとしたら、避難所にいるかも」


……殺されてなければ、になるが。

道端に倒れている少し前まで生きていたソレから目を背け、少しずつ歩を進めた。


勇者「リーン、ベットは空いているか?」

狙撃手「…ごめん、全部埋まっちゃった……蓙ならあるけど……」

「いいんだ、俺は軽傷だからそれでいい……ぁ痛っ…!?」ズキッ

狙撃手「……一応包帯は巻いておいた方が良い…」

勇者「そういえばマリオンや他のみんなは?」

狙撃手「……マリオンは武闘家さん達と村長に話を聞きに行ってる…、斧の人は他の人達と周囲の警備、あと死体の埋葬……」

勇者「成る程な、駐在の兵士は見掛けなかったし、全員殺られたのか?」


男を蓙に寝かし周囲を見渡す。

男の子が泣きながら父親の腕の中で踞っている。
寝台の上でお爺さんが怪我の痛みに耐えていた。
この村に滞在していたであろう冒険者の男は悔みきれない表情を浮かべながら壁にもたれかかっている……。


……あれ?


勇者「なんか……女性が少なくないか?」


全く居ないという訳ではないが、年老いた老婆やほんとに小さい子どもぐらいで少なくとも若い女が全くいない。

それだけじゃない、道中で見掛けた死体に女性の姿は無く全て男性だった。


狙撃手「……それは…」


女剣士「ここに居ましたか」

勇者「マリオン? どうかしたのか?」

女剣士「村長様がみんなを呼んできて欲しいと言ってましたので、武闘家さんも他の皆さんを呼びに行きました」

勇者「分かったよ、行こう」

狙撃手「……ん…」


急造の避難所から少し離れた大きな家。
ここがこの村の村長の家で、造りが頑丈なのか他と比べても被害は少なく、居間は広々としている。
そんな場所でも、十人近くの冒険者が入れば流石に狭く感じる、他のみんなも既に集まっていて奥には村長と数人の村人が居座っていた。


村長「皆さま……よくお越しになられました、わたしがこの村の長を務めている者であります」


深々とお辞儀をするご老体の声はしゃがれていて、健常とは言いがたいほど気落ちしているのがよく判る。
こんなことになってしまったら当たり前の事なんだけどな。


斧戦士「堅苦しい挨拶は抜きで良い、仕事で来てるからな……それより、どうしてこうなったのか説明してもらおうか」

村長「わしらにもよく分かりませぬ、ただ……」


──あの夜、村の見回りをしていた兵士がいつものようにサルデ一帯に魔物避けの聖水を振り撒いていたときじゃ。

突如、大の大人より一回りも大きな鬼の魔物が入り込んで来ましたのじゃ。
奴は兵士を蹴散らし、聖水を撒いた辺りを荒らし回り配下の小鬼型の魔物の群れを率いれました。


狙撃手「……小鬼の魔物…?」

女剣士「おそらくゴブリンだと思います、しかしゴブリンはこの辺りには生息していない筈なのですが……」


──そこから先は皆さまもご想像の通り。

国の兵士を欠いた我々にできる事など無く、ただひたすら逃げて隠れるのが精一杯じゃった。

冒険者の方々も戦ってはくれましたが、やつらの方が数が多く……多くの者が命を落としました。


斧戦士「けっ! 平和ボケしてるからこうなるんだ、兵士が聞いて呆れるぜ」

武闘家「殆ど奇襲のようなものだ、仕方ないだろう」

勇者「けど……魔物がこんな積極的に村に攻め入るなんて、今まで聞いたことも無かったのに」

女剣士「この大陸にも魔王の軍勢の手が伸びてきたのでありますね…!」


拳を握りしめ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるマリオンを見て、先程まで抱いていた疑問を思い出す。


勇者「すいません、ちょっといいですか?」

村長「なんですかな?」

勇者「先ほどから若い女性の方をを全然見ていないのですが……」

女剣士「それ!私も思いました!前はもっと居たような気がしたのですがどうしたのですか?」

村長「……この村の若いおなごは皆、食糧と共に連れ去られました」

勇者「魔物が……連れ去った!?」

冒険者B「妙に少ないとは感じていたがやはりそうだったのか」

冒険者C「けどなんでわざわざ連れ去ったりしたんだよ?」

勇者「そうだよ、わざわざそんな事する意味なんて」

斧戦士「そんな事、意味も理由も一つしかねぇーだろうよ」






斧戦士「孕ますんだよ、人間の女を使って自分達の仔をな」



………は?

何を平然とおぞましいことを言っているんだコイツは?
魔物が人間の女を孕ませる?


勇者「はは……んなバカな、悪い冗談言うなよ、悪趣味なやつだな」


こんな時に質の悪いジョークを言うなよ、しかし「冗談だ」と期待した声は上がらず、重たい空気を更に沈ませたのは別の人間だった。


武闘家「残念だがそいつの言っていることは事実だ……小鬼型《ゴブリン》は単体では雑魚だが、それ故に奴らは徒党を組んで冒険者を襲うことが多い」

武闘家「その集団を形成する要は奴ら自身の繁殖能力の高さにある……雌であれば、他の種の生き物であろうと問答無用に産ませられるぐらいにはな」

村長「な……なんと…っ?」

勇者「なっ…なんだよソレ…」

狙撃手「………」


精々生まれた村辺りの魔物しか知らない俺が受け止めるにはショックが大きすぎる話だった。
それは村長達も同じで愕然とした表情を形相を隠しきれずにいる。


ここに来るまでに既にかなりの時間が経っている……ひょっとしたら、既に犠牲になっている人もいるかもしれない。


付き人「……村長、やはりアイツが連中を村に誘い込んだのでは…」ボソッ

勇者「……え?」


村長の付き人と思わしき男が小声で村長に何かを伝えるのが聞こえ、なんの事なのか確認しようとした時だった。


女剣士「……許せないであります!!」バンッ

勇者「マ、マリオン…?」

女剣士「罪無き女性に対してそのような外道をするなど絶対に許されません!!今すぐに助けに行くべきであります!!」


沈みきった空気を裂いたのはやはり彼女だった。
怒りに燃え上がっているのか来客用の椅子から立ち上がり周囲に訴える。

気持ちは分かる、拐われた人たちのことを考えると背筋から虫が這い上がるような気持ちの悪い感情が湧いていく。

普段余り感情を表に出さないリーンでさえ、僅に眉をひそめている。
未遂とはいえ、山賊に襲われた経験があるからこそ解るものがあるみたいだ。


武闘家「そうだな……早急に救出の作戦を立てなければならないな」

斧戦士「作戦なんていらねぇよ、全員でかかれば直ぐに片付くだろ」


勇者「考え無しで突っ込むわけにはいかないだろ」

狙撃手「……少なくとも、村の警備にも人数は割かないといけない…」

女剣士「村長殿、この場をお借りして作戦会議をしても宜しいでしょうか」

村長「……悔しいですがわしらにできる事などございません、皆さまにお任せします」


弱々しく頭を下げる村長にお礼を言い、俺たちはゴブリン軍団討伐の作戦を立てることに決めた。

付き人が言ったことが少し気になったが、なんだか聞くタイミングを逃してしまったみたいだし、今は作戦を考えることに集中しよう。

……拐われた女性たちの事は、今は考えずにいよう。



「やっ……やだ! やめて、来ないでぇ…っ」

小鬼型A「グキャ……キャキャキャキャアッ!!」
小鬼型B「ギィッヒャッキャアァ!!」
小鬼型C「ギャギャリャリャーッ!」


「やだっ、やだやだやだぁ!!イヤアァァァァァァァァァッッッ!!!!」




カンテラの灯火が薄暗い空間を光で照らしているた、甘ったるいお香の匂いが充満している。
けたたましく叫ぶ女の声が反響し響き渡るが、醜悪な姿を顕にした魔物達からすればそれは何にも代えがたい美しいメロディーとなるだろう。
一人の少女に数匹のゴブリンが群がるという地獄のような絵面でもそれは変わらない。

それが彼らの使命であり、本能に渦巻く薄汚れた欲望なのだから。


小鬼型D(ゲギギ……報告致シマス、ニンゲンドモノ群レガコチラニ向カッテ来テイルソウデス)

???「ふン……今さラ取り戻しに来たのカ? 痛い目を見たばかりダトいうのニ」

小鬼型D(ソレガドウヤラ、奴ラ冒険者共ヲ雇ッタヨウデス)


ゴブリンの一匹が玉座に座っている大型の小鬼型に状況を伝える、小鬼なのに大型とは矛盾しているように思えるが、大人二人分程の身の丈をしているソレは間違いなくゴブリンだった。

頭の上にちょこんと乗っかっている王冠が余りにも不釣り合い過ぎるがそれを気にする者はこの場には居ない。


小鬼王「ニンゲンがいくら束にナろうと我輩ニハ勝てヌ、コチラニは数も地の利モあるからナ」

小鬼王「誘い込ンデ分断サセろ、女がいれば生かして捕らえロ……我ら魔王八将軍ゴブリン隊の兵を産んデもらわねばならヌ」

小鬼型D(ギヒヒ了解デス、ソレト気ニナルノデ聞キタイコトガアルノデスガ…)

小鬼王「なンだ?」

小鬼型D(……ソチラノ女八オ使イニナラレナイノデスカ? キング様直々ニ孕マスツモリデ捕ラエタノデショウ?)チラッ


少女「……ひっ」ビクッ


鉄格子と岩壁で囲まれた牢屋の中に目線を向ける。
十一か十二歳ぐらいの小さな白髪の少女が恐怖に怯え、後ろへと後退る。
ゴブリン共に弄ばれている女と比べると身体の起伏が少なく、初潮が来てるかすら怪しい年令だがそんな事は彼らからすれば些細な事なのだ。


小鬼王「アレは極上の素材ダ、満月の夜ノ魔力が高まる日ニ犯す、それマでは丁重に扱う」

小鬼型D(……ナルホド、ワカリマシタ…ソレデハ俺モアチラニ混ザッテモ?)

小鬼王「ギヒ……許ス、存分に楽しメ」


「はっ、あぁ…!! やらっ…やだぁ…!!もう増えないでぇぇ……ああっ、ぁあ…!!」


固く閉ざされた牢屋の中で、少女は小さく踞る。
目の前の陰惨な儀式と赤い髪を揺らす女の嬌声から眼を閉じ、耳を塞いだ。

早く終わって、そう願いつつも終われば今度は自分の番かもしれない。
頭の中でグルグルと陰鬱な想像だけが堂々巡りをし……。


少女「……たすけて…っ……だれか、たすけて…!!」


最後は決まって未だに見ぬどこかの誰かの助けを祈ることしかできなかった。



サルデから北東へ十分。

かつてサウスランドで鉄や銅の採掘に使われた鉱山がある。
人件費やら収穫量の問題で今は全く機能していないが中途半端に掘られた坑道が今でも残っており
魔物の住み処になっているみたいだ。

住民からの情報で小鬼型がこちらの方角へ戻って行ったので捜索を開始したら大当たりだったようだ。


狙撃手「……入口には誰もいない、でも照明用の松明や焚き火の後が残ってるから間違いないかな…」

斧戦士「それにしても変な奴だな、杖に遠眼鏡を取り付けてる魔法使いなんざ初めて見たぜ」

狙撃手「………杖じゃないし…魔法使いでもない…」ムッ

女剣士「ならば早く行きましょう、拐われた人達は今も助けを待っている筈です」


セカードから来たのは俺達を含め十人。
その内半分を村の警護に回し残りの五人で襲撃を掛けることにした。

まず前衛を任せられるマリオンと斧戦士、武闘家が安全を確保し、それから俺とリーンが坑道に入る。
それまで俺たち二人は外の見張りもかねて入口近くの林で待機ということになった。

実力で言えばリーンも突入組でも問題ないのだが狭い坑道内で多数の魔物を相手取るとなるとリーンの狙撃銃では不利だ。
だからこそ安全を確保したうえでの突入となったのだ。

……俺は単なる実力不足でこっち側なんだけどね。
本当は警備側のはずだったのだが


狙撃手『……アルフと私はパーティーだから一緒にいるべき…』


と、言われたので俺も付いて行くはめになった。

武闘家「そろそろ行くか」

斧戦士「俺様が活躍しすぎてお前たちの出番はないかもなぁ?」チラッ

勇者「俺としてはそうなったらそうなったで良いんだけどさ」

斧戦士「…ちっ、張り合いのねぇヤツ」

狙撃手「……マリオンも気をつけて」

女剣士「お任せください、必ず捕らえられた人達を助けましょう」


 女剣士Side


武闘家「……」チョイチョイ

女剣士「どうですか?」

武闘家「見張りはいなさそうだな……誘っているのか?」

斧戦士「単に頭が足りてないだけだろ、魔物だしな」


坑道の中へ入り、歩を進めるとうっすらと灯りが漏れている。
この先に村の住民を拐った魔物がいるのは間違いなさそうだ、ならば……。

女剣士「一気に行きましょう! こちらから奇襲をかければ奴らも連携はとれない筈です…!!」

武闘家「いや嬢ちゃん……そうは言ってもだな」

女剣士「魔物共め……覚悟ォォォ!!」

斧戦士「あっ!?おい!!」


ギシリと木造の床が音を立てる。
通路を走り抜けると一際広い空間に出た。
壁掛けの松明がぐるりと周りを囲っており、先ほどの夜の暗闇に比べると充分視界が通る。

それ故にこの場に一切の魔物が居ないということにも直ぐに気がついた。
意気込んで突入しましたがこれでは些か気負い過ぎたでしょうか?

そう思ったのも束の間、私は直ぐに気を引き締めなければならなくなった。


斧戦士「おい!先行し過ぎるんじゃねえ!!」

武闘家「そうだ、一旦戻って外の二人を呼んだ方が……うぉっ!?」

斧戦士「んだぁぁ……っ!!?」


振り返るやいなや、後ろから着いてきた二人の姿が消えた。先ほど音が鳴った床の部分が落とし穴になっていたようだ


女剣士「二人とも! ……はっ!?」

小鬼型「グギヤァァ!!」ブンッ


瞬間、キンッと金属がぶつかり合う音が鉱山内に響き渡った、広間の上の方に隠れ潜んでいたらしく手に持った短剣で奇襲を仕掛けて来たようだ。

鉱山内が明るかったのが幸いだった、影が降ってきたお陰で咄嗟に剣で攻撃を防ぐ事ができた。

ゴブリンが後ろ跳びで距離を取ろうとする。
だが遅い、私は一気に間合いを詰め横に剣を薙いだ。


女剣士「であああっ!!」


ゴブリンがその身の丈を大きく越える剣から放たれる剣閃を躱す事は許されなかった。
腹から血渋きを流し倒れ行く様を見届けること無く周囲一帯を見渡した。


小鬼型A「グキャキャキャ……」

小鬼型B「グリャァアアッ」

女剣士「……まったく、いったいどこから湧いてきたのでありますか?」


いつの間にか周りをゴブリンに囲まれていた。
放置されていた木箱や岩などの物陰、もしくは先ほどと同じ様に上にでも隠れていたのだろう。

少なくとも指で数えるには足らないぐらいか。
だがこれしきの事で怯みはしない、私は……捕らえられた人達を助けると決めたのだから。


女剣士「申し訳ありませんがここは推し通させていただくであります!!」


これがあの日の罪滅ぼしには為らないと判っていたとしてもだ。




斧戦士「いでで……おい、無事か?」

武闘家「ああ、なんとかな……まだ鉱山として使われてた時の魔物や盗賊用のトラップだな、この落とし穴は」

斧戦士「けっ……魔物がいっちょまえに罠を仕掛けるとは、油断したぜ」

武闘家「そうだな……早く女の剣士と合流を……!?」

斧戦士「……おい、どうした?」




小鬼王「ギヒヒ、いるゾいるゾ……罠に掛かったバカ共が」ニタニタ


つづく

二話で終わらせようと四苦八苦したら遅くなりました、結局三話使うハメになりそう。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom