世界『ああ、憐れむべき愚かしき若者よ』(217)

宇宙『愚かしくいたましい境遇よ』

大樹『お前が自分勝手に罪を作り、永劫に投げ入れられようとしている焦熱地獄を思え』

--その地獄へお前は…

『『『大急ぎで行きつつあるぞ…』』』

スレ立てんの初めてだし今から即興で書くからオカシな文になるかもだけど、俺が自分の中に持ってる物語の一部を書いてくよ。あと携帯からだから遅いかも。

影「…………」

薄い暗闇に、彼はいました。

復活の時を待っています。

彼の胸の中にある宝石が、鈍く光っていました。

ついにヨミガエル時です。

彼の復活を妨げていた存在が希薄になり、ついには完全に消滅します。

影はケタケタと、音をたてずに嗤っていました。

「巫女さま、巫女さまやぁ」

誰かを呼ぶ声が小さな村に響きました。

「はぁい」

返事を上げたのは村の端で薪を運んでいた少女でした。

「なんですか?」

少女は手の汚れを払うと、自分を呼んだものの所へ歩いていきます。

「今日は神さまの森にお供えをする日だよ、分かってるね?」

「はい、薪を片付け終わったら、すぐ向かいます」

「分かってるならいいんだよ」

今まで喋っていた老婆は、話を終えるとすぐに家の中に戻っていきました。

「はぁ……」

少女の口から思わずため息が漏れました。

少女は仕事に戻ります。



「…………」

神さまの森の最奥で、少女は四人の騎士を奉る祠に祈っていました。

「……よしっ」

お祈りを終えると、少女は持ってきた果物を供え、立ち上がりました。

「…?」

役目を終えた少女が村に戻ろうとした時でした。祠の中から何か物音がします。

かたかたと、何かが震えるような音は次第に強くなっていき、

「きゃっ!?」

果てには祠の扉を破り、中から何かが飛びだしました。

少女の半分程もない祠から出てきたのは、目も眩む程の閃光でした。

あまりの眩しさに、少女は目を閉じます。

やがて閃光が収まった後、少女が目を開けると目の前に見た事もない男がいました。

(誰……?)

光が閃いてから、誰かが少女の近くに寄ってきた気配はありませんでした。

(もしかして…、この人が祠の中から出てきた…?)

少女は座り込んでいる男を観察します。

男と言うよりかは、青年か、少年といった様相の彼は、珍しい服を着ていました。

年は少女と同じくらいでしょうか。

男はゆっくりと首を上げます。

「…………」

数秒男と少女の視線が交錯します。その間少女は目の前の男について、考えていました。

「……もしかして、騎士、様?」

少女が恐る恐る、といった様子で尋ねました。

「あ?」

「 」

男は少女に一瞥をくれると、側に転がっていたリンゴを手にとりました。

「あ……」

「 」ガブッ

男はお供え物を遠慮なく口にしました。

少女が唖然としている間に男は祠が壊れた際、衝撃で転がったお供え物らを、次々と平らげてしまいました。

「あ、あ、あなた……」ワナワナ

「ん? …もしかして食っちゃいけなかったか? そうじゃないなら、その足元に転がってるやつ、くれよ」

少女は再び開口します、ここまで厚かましい人間を見るのは、生まれてから初めてだったからです。

「お、おおおおお!! 巫女さま、それでは、本当に…!」

「ええ…、その方が祠から現われたのは間違いありません」

祠から現われた謎の男は、少女に連れられ村に訪れるやいなや、村の住人に囲まれていました。

「言いつたえ通りじゃ…! 祠より騎士様が、わしらを守りに来てくださった……!」

「言いつたえぇ?」

「はい、古くよりこの村に伝わっております、村が危険に瀕した際、祠より神様が四騎士の一人を遣わしてくださるという……」

「……」

「王都の連中がこの土地を明け渡せと言ってきておりましてな…」



「それでは、この家を使って下さい」

少女に案内され、男は村の端にある小さな家にいました。

「……留まるつもりもないけどな」

「…。お食事は後でお持ちします」

なんか面白そうなので期待して待ってる

ちなみに>>1みたいに注意書きしたり必要以上にss外でレスすると嫌がる人も多いから
こだわりが無ければ次にスレ立てる時はやめといたほうがいいと思うよ

>>10
なるほど、次からはそうする、親切にありがとうな。

(つ・ω・)つ④

「…と、四騎士は世界を滅ぼす災厄を封じていると言われています」

男が村を訪れた翌日、巫女の少女は男に村の伝説を話しました。

「……。で、封印を破って逃げた災厄を捕まえる為に騎士達が遣わされたと?」

「ええ、…この村の祠以外にも騎士様達に通ずる社は在ります。そのいずれから災厄が現れたのかもしれません」

「へぇ」

険しい表情の少女に対して、興味も無さそうに男は相づちをうちました。

「あなたが四騎士の内の一人、白騎士だという事は間違いありません」

少女は男の頬に走る紋様に視線を向けました。

「その顔のしるしこそ、白騎士の証なんですから」

「ああ、だから村の奴等も俺を疑わなかったのか」

「はい。……あの、白騎士様?」

「なんだ」

「席を外していいでしょうか、そろそろ村の仕事をする時間なんです」

男は、少女の後に着いていってみることにしました。

畑の世話、家畜の世話、水汲みをしたりと、少女の仕事とはおおよそ巫女の仕事とは言い難い物でした。

「村には、他に働き手はいないのか?」

「…皆さん、ご老人ばかりですから。それに若い人は村を出てしまいましたから」

検討はつきつつも、男は少女に尋ねます。

「なんでお前はここにいるんだ?」

「巫女としての務めがありますから」

「白騎士さま!」
「騎士様!」
「白騎士殿!!」

村に戻ると、男は老人達に引っ張りだこでした。その間に少女は、別の場所に行ってしまいます。

「彼女は…、随分忙しい見たいだな?」

男の言葉に一人の老人が答えます。

「ん…? ああ、あの娘ですか。あれはいいのです、それが務めですから」

男は眉をしかめましたが、老人達は気付きませんでした。

「あれは騎士の巫女ですからな、働いている時以外は騎士様の好きにして下さって構いませんぞ」

それから数日、男は村にいました。暇な時は少女の務めを手伝ったりしながら。

そしてある晩の事でした。

「ぎぃやぁぁぁぁぁああああああ!!」

叫び声に男は目を覚まします。

「……」

男は護身具代わりの果物ナイフを手に取ると、足を忍ばせて家の外に出ました。

村が焼けていました。各家々が見渡せる小さな村ですから、状況はすぐ掴めます。

青銅の鎧を着た人間の群れが、木と藁でできた燃えやすそうな村を自由にしていました。

男は兵士達に見つからないよう、傍の茂みに身をひるがえします。

彼らは目についた物から破壊しているので、統率は皆無です、これでは兵士達の力量をはかる事はできません。

男は村で一番大きい屋敷に向かいます。



「お、お前らぁっ! わしを…騎士様の加護のあるわしを殺して、ただですむと――」

村長の言葉は、兵士の剣でザックリと途切れました。

「隊長殿ぉ、見てくだせぇ!」

兵士の一人が声を上げます。

「あん? なんだ? 俺はコロシの時間を邪魔されんのが一番……おっ」

「へへ……ジジババばかりの村かと思ったらちゃんといましたぜ、しかもかなりの上玉でさぁ」

部屋の奥から巫女の少女を連れた兵士が姿を見せました。

「よーし、俺が一番な、お前は見つけた手柄で次にしてやる」

「へぇ! じゃあ、早速……」

少女に手をかけようとした兵士の前で、隊長の男が前のめりに倒れます。

「へ? 隊長ぉ、そりゃ何のジョウダンで――へげっ!?」

飛んできた剣で首が飛んだ男は、目の前の男に覆いかぶさるように倒れました。

「騎士様…」

白騎士の男は、指を口に当てて少女に見せます。

「生き残りはいないだろう、さっさと逃げるぞ」



村を囲っていた森を抜けると、見渡す限りの草原に出ました。

途中で気を失った少女を背負いながら、男は呟きます。

「ざまぁねぇな」

「騎士様……もう歩けますから降ろして下さい」

「ああ」

村を出てから何日も、男と少女は歩いていました。少女が疲れた時や、寝ている間は男が少女を背負って歩いているので、男は言葉通り歩き詰めです。

食べ物については、少し道を外れれば果物の生った木が見つかるので、困りませんでした。

「本当に、この先に町はあるんでしょうか…」

「街道があるんだから、あるだろ」

男のこの発言だけを根拠に、二人は同じ景色を進んでいます。

「肉が喰いたい」

少女がこの発言を聞くのは八度目でした。

「…食べる事ばかりですね? 騎士様は」

「それしか大欲が残ってないからな」

運よく町が見つかるのは、それから四日後でした。

村を出る間際に、少女は自分の少ない所持金を、男はどこからか持って(くすねて)きた貨幣を持ってきていたので、二人は一宿を借りる事ができました。

少女が宿で休んでいる間に、男は町にでます。

wktk

「へぇ、その年で城の騎士に成るのかい」

町の酒場に、男はいました。酒を注文して、男は店主に尋ねます。

「ああ、ところで今は何年だったかな? 歴書に書かなきゃいけないんだけど、度忘れしてね」

「うん? 今はレジス様が即位なさって、百八十四年目だ。ははは、それじゃあ城の騎士は勤まらねぇぞ?」

「いいんだよ、俺は肉体労働専門だから」

男が言うと、何がおかしいのか酒場の店主はゲラゲラと大笑いをしています。

(少なくとも、俺が眠ってから二百年が経っている…)

「ありがとう、またくるよ」

「オウッ、採用試験、頑張れよ!」



「…………ん…?」

少女は目を覚ますと辺りを見渡して、少ししてから今いる場所が村では無い事を思い出しました。

「騎士様……?」

宿についてから部屋に入った後の記憶がありません。ベッドにうつぶせで寝ていた事から、少女は部屋に着くとすぐ寝てしまったようでした。

少女は眠気が晴れると、今度は食欲を強く感じました。

ベッドから近い位置にある小さなテーブルに、麻袋が乗っています。少女が中を確認すると、銀貨が入っていました。

(使って…いいんでしょうか…)

誰かが返事をくれるわけでもないので、少女はとりあえず部屋を出る事にしました。

宿の主人に聞くと、食事は夜にならないと出さないそうで、少女は外で料理店か、売店でも探す事にしました。

場所は離れて、少女のいる町を見下ろす者がいました。

辺境に住む、恋愛の神でした、彼は自分の行いから神達の世界を追放され、寂しい生活を送っています。

彼は自らが司る象徴と同じく、恋愛に盛んな男でした。人間界にいるのは、女の復讐が怖いからでした。

「うむ……まったく、人間の女にはろくなのがおらんな。ホレ、あの女など、馬の様な面をしておる」

自分の発言に、恋愛の神は大笑いします。

「ぬぉ!?」

しかし今日は、彼の眼鏡に適う者がいました。

「なんだ…? あの可憐な少女は……。あのような者、この町にいたか?」

恋愛の神は暇さえあれば女を見ていたので、町の女は全て見たつもりでいました。

「嬉しい誤算というやつだな」

恋愛の神は今まで遠視していた町へ飛んでいきます。



「店主さん、それ下さい、あとそれも、…それも!」

「…嬢ちゃん、よく食べるねぇ」

その頃少女は売店で食べ物をあさっていました。

小さな村の出である少女にとって、町の食べ物はどれも豪華に見えました。

そんな少女を呆れ半分、驚き半分で見ていた売店の店主の前から、突然少女が消えました。

「!?」

少女がいた後には食べかけのパンだけが残っていました。

突然宙に上がった衝撃で気絶した少女を抱え、恋愛の神はニタリと笑いました。

「伴侶とするにはまだ早いが、神界の女共には無い魅力があるな」

恋愛の神は少女を連れて、瞬く間に住居へ飛び去っていきました。

超抜風呂休憩します、すいません。

「艶やかな茶髪、洗練された体のライン……ううむ、やはり実物は違うな……」

「……」

少女は不快感から目を覚まします。

「っ……! ぎゃああ!!」

その正体は少女を間近から覗きこみ、吹き掛けられていた恋愛の神の荒い息でした。

驚いた少女は飛び上がって恋愛の神から離れます。

「おや、起きたかい」ニカッ

「~~~~っ!」ゾワゾワ

嫌らしい笑みを浮かべる謎の男に少女は鳥肌を立てます、恋愛の神としては、彼最高の甘い笑い顔だったのですが。

「そんなに怯えなくてもいいんだよ、さ、こっちにおいで、僕等は今日から夫婦なんだから」

「ふ、夫婦?!」

「そうだよ、君なら僕にふさわしい」

少女には意味が分かりません。それもそのはずです、女神達から見れば、恋愛の神は最高の見た目をした男ですが、少女から見れば恋愛の神はただの顔髭の濃い中年オヤジでしたから。

少女は思わず自分の身体を擦りました。

「ん? ああ、安心して。僕は初夜はお互い同意の上でやる主義だからね」



「……」

白騎士の男が宿の部屋に戻るとそこはもぬけの殻でした。

「……飯でも食いに行ったのか?」

しかし、暗くなっても少女は帰ってきませんでした。

男が宿の主人に少女の事を聞くと、昼に出ていったと言われました。

「どこに行った……?」



「また女ですか、カリサ様」

そう恋愛の神に声をかけたのは橙色の髪をした、腰に大きな剣を吊した男でした。

「黒騎士殿…、私の事は恋愛の神と呼ぶようにと、言ったはずですが?」

恋愛の神の言葉に黒騎士と呼ばれた男は頭を下げます。

「…失礼しました、恋愛の神」

「うむ…、それで女と言ったか」

「はい」

「彼女は私の妻だ、そこらの売女と一緒にするではない」

恋愛の神は注意すると、黒騎士の横を通り、長い廊下を歩いていきました。

恋愛の神を見送って、黒騎士は下唇を噛みました。

(私が仕える主君は……あのようなものではない、神界に渡る術さえ判れば…っ)

「ですから、いくら言っても無駄です。私をあの町に帰してください」

恋愛の神の何人もの女神を落とした口説き文句も少女には通用しませんでした。

今もその失敗回数が増した所です。

「なんと強情な女だ……、それだけなら神界の悪女にも勝るかもしれん」

思った事をそのまま口に出してしまう恋愛の神を、少女はますます嫌いになりました。

「あれから三日も経つのだ、飲まず食わずでは堪えるだろう?」

「……」

「…まぁ、気が変わったら言うがよい」

恋愛の神は気に入った物は手に入れなければ済まない性格でした。



夜。恋愛の神が寝静まったころ、少女の所に黒騎士が来ました。

「…黒騎士さん」

「水だ。飲め」

少女は手渡された水を呷りました。

「すまない、食糧庫には鍵がかかっている。やはり破るのは出来そうもない」

「大丈夫です、お水だけでもありがたいですから」

「……」

黒騎士は少女の横に座りました。

黒騎士っていうと俺が浮かべるのは未だにアシュラムだ

ここ数日、彼らは夜の短い間、少し話をしていました。

「お前からは、何か懐かしい匂いがする」

「…臭います?」

「いや…、気配と言った方が正しいか、昔の盟友と同じ感じがするんだ」

「それ、きっと白騎士様のですね! 私達、少しの間一緒にいましたから」

「……。そうかもな」



「気は、変わったか?」

「……」ツーン

恋愛の神の質問に少女は沈黙を返します。

「……仕方ない」

恋愛の神は懐から小さな鎖に繋がれた青いクリスタルを取り出しました。

「…?」

「一人目の妃だ…、これは使いたく無かったが」

クリスタルが淡い光を放ちます。

「私の妻になれ」

「………いやです」

少女は恋愛の神を半眼で睨み付けます。

「な、何!?」

恋愛の神は手にしたクリスタルに視線を移しました。その洗脳具が壊れた様子はありません。

「なんだ…その石は…?!」

恋愛の神は少女の胸元で小さく光るネックレスを凝視します。

「!」

少女も言われて初めて気が付き、驚いてネックレスに視線を落としました。

「よう、クソ野郎」

恋愛の神が真横にもの凄い速さで飛んでいきます。神の住まいらしい豪華な装飾品などを破壊しながら壁に大穴をあけました。

「騎士様!」

「いい加減同じ風景の中を走るのは飽きたぜ」

「貴様、どうやって……」

恋愛の神を無視して、白騎士の男は少女に話し掛けました。

「さ、帰る――よな?」

「はい!」

振り返った男の前に、黒騎士が立ちふさがりました。

「黒騎士さん…」

黒騎士は少女へ一瞬視線を向けると、腰の剣を引き抜きました。

「く、黒騎士、殺せ。逃がすな、あの結界を破ってきたのだ、無事な筈が無い…」

「結界? ああ、シャボン玉みてーなのがあったな? そういえば」

「お前も出ていたのか」

「あん? 誰だ退けっ」

黒騎士は白騎士に剣を振り下ろします。

『ローズマリー』

突然白騎士の前に剣が現れ、白騎士はそれを掴んで黒騎士の剣を受けました。

「黒騎士さん! その人が白騎士様です! 仲間ですよ!?」

少女が叫びました。

「いや、こいつは――がっ!」

言葉の途中で、白騎士が黒騎士を剣ごと横になぎとばしました。

「黒騎士…。腕が鈍ったんじゃあないか?」

「く……はあぁっ!」

黒騎士が気合いと共に放った斬撃を白騎士は簡単にかわし、黒騎士を蹴りとばします。

黒騎士が体制を立て直そうしますが、剣を持った腕は白騎士に踏まれ、首筋に剣を当てられて動けませんでした。

「やめてください白騎士様!」

少女が白騎士の男の腕を引っ張り、黒騎士から剣を引かせます。

「はっ!」

黒騎士は好機を逃さず、白騎士の男から逃れました。

「ちゃんと戦え黒騎士! さもないと、神界に行く術など教えんぞ!」

「…分かっています。次で決着だ」

「……」

睨み合う黒騎士と白騎士の男から、少女は数歩引きました。

「分かってくれ……」

黒騎士は少女と目を合わせると、瞼を下げて集中します。

けたたましい金属と金属が擦れあう音が響きました。

白騎士の男は黒騎士を突破し、恋愛の神に到達しました。

「ひっ、ひぃい!」

「愛しい胴体とお別れしたくなかったら、神界へ行く方法とやらを言え」

恋愛の神は自分のすぐ横にある剣に歯を鳴らしながら、質問に答えました。

「にに、虹の島に行くんだ! そこから、らば、番人が神界に送ってくれる!」

「そうか、ありがとよ。もし同じ目に遭いたくなかったら、二度とこんなことするんじゃねぇぞ」

「は、はぃぃ…!」

「……虹の島」

白騎士の男と恋愛の神の話を聞いていた黒騎士が呟きました。

「黒騎士さん! 大丈夫ですか!?」

介抱しようと走ってきた少女に気付かず、黒騎士は立ち上がります。

「虹の島に行かなくては……」

「神界に行ってどうするつもりだ?」

白騎士の男が黒騎士に尋ねます。

「我が王レジスの間違いを正さなくてはならない。…お前も騎士のつもりなら、現、神の王が王たる器でわ無いくらい分かるだろう」

「さぁ? 少し前に世界に出たばかりだからな」

黒騎士の言葉に白騎士の男は両の手の平を持ち上げ、興味がなさそうに言いました。

「彼は……、前王を倒してから王に成り代わり、今まで民に暴虐の限りを尽くしている。お前は封印され、知らなかっただろうが…」

「そんな事だろうと思ったぜ」

「私は今から神界に戻り、彼を倒す。邪魔するならお前から斬るまでた」

黒騎士はそう言うと、窓を破って外に出ていきました。

>>46
最後のセリフ

器では無い事くらい分かるだろう、でした。

ぶんの法則が みだれる !

のでクリエイティブパワー吸収してきます。少し休止。

「……さてと」

白騎士の男は巫女の少女に向き直り、尋ねます。

「これから俺は、神の所に行く。お前はどうする、一緒に来るか?」

「勿論です、騎士様」

少女は微笑んで、言いました。

「…くどいようだが、もうこっちには戻ってこれないかもしれないぞ?」

返事の代わりに、少女は白騎士の男の手を引きました。



「あれ? 近くに別の町なんてありましたっけ?」

見慣れない場所に、少女は首を傾げます。

「ああ、あの町からあの神の屋敷までは凡そ町百個分くらい離れてたからな」

白騎士の男は溜め息を吐きながら少女の疑問に答えます。

「町…百個分ですか?」

「多分な。急いで走ったからよく分からん」

「……」

白騎士の男に言われてみれば、確かに攫われた日、少女は高速でどこかを移動していた憶えがありました。

「とりあえず、虹の島ってのの場所誰かに聞くか。それともお前知ってたりする?」

白騎士の男の質問に、少女は首を横に振りました。

虹の島についてはその日の内に分かりました、それは町の人間なら子供でも知っている事ですから、聞いた白騎士の男と少女は白い目で見られましたが。

虹の島というのは俗称で、その場所は人間が神を讃える古い聖域だそうで、その様な俗称が付いたのは、そこが七色に分かれた国々の中心にあるからだそうです。

白騎士の男と少女は、明日からこの一帯を統べる"青の国"の王都に向かう事にしました。

やべー
名前書いてあるssに慣れすぎてたから混乱してきたww

「全く……薔薇にトゲは付き物だが、あんなものが付いていたとはな……」

恋愛の神は負傷した患部を庇いながら、彼以外の誰も知らない隠し部屋の扉を開けました。

部屋には呪術的な装飾がされており、中心には透き通った水晶が浮いていました。

「王に…知らせれば…」

恋愛の神は水晶を覗き込み、そして絶句します。

「ア~ハァン? そのまま動くなよ?」

首に刃物を押しあてられるのは今日で二度目でした。

>>52
分かりにくい? 名前つきにした方がいいかなやっぱ。

「だ、誰だ…?」

恋愛の神の質問に、彼の背後にいる誰かは答えませんでした。

「いいから俺の質問に答えろよ。じゃなきゃ…神の席が一つフリーになっちまうかもな?」



「はぁぁ…これが馬車ですかぁ」

少女が関心して呟きます。

「歩くよりかはいいだろ」

白騎士の男は馬車の操者に行き先を告げ、料金を払います。高価な費用の出所について、馬車に夢中な少女は気付きませんでした。

馬車に乗ってから数日が過ぎました。青の国までまだまだかかります。

最初は喜んでいた少女も、虚ろな瞳で窓から外を眺めるだけになりました。

「騎士様……退屈ですね」

少女が白騎士の男に姿勢はそのままで言いました。

「芸なんざできねぇぞ」

白騎士の男も目を閉じ、椅子に寝転んだままで応えます。

「騎士様のお話を聞かせてくれませんか?」

少女は白騎士の男に視線を移して尋ねました。

「俺の話…」

「騎士様が神様の国に行って何をしたいのかとか、騎士様が目覚める前の事とか……なんでもいいんです、騎士様の事を」

「……」

白騎士の男は、薄く目を開きました。

「黒騎士とかいうやつが言ってた事と変わらねぇよ。俺はレジスっつう神気取りの阿呆を殺しに行くんだ」

「…お前の村の老人達が、危機が訪れた時祠が騎士を遣わすとか言ってたろう?」

一区切りおいて、白騎士の男は言いました。

少女は男に反論を返します。

「でも、レジス様はラグナロクの後、崩壊しかけた神様達の世界を纏め、平和を築いた英雄王だって…」

少女の言葉を遮り白騎士の男は言います。

「嘘だよ、本当は、ラグナロクで疲弊したこの世界を、レジス率いる"前"王への反乱軍が一気に制圧したのさ。…四騎士は前の王に仕えていた筈だが、幾らかレジスに鞍替えしたみたいだな」

「……」

少女は黙って次の話を待ちます。

白騎士の男は話を続けます。

「だから黒騎士も、レジスを正すとか言っていたろう。あいつは王に成ってからやりたい放題だからな。神界に居るはずの四騎士が人間界にいるのは、多分レジスに逆らって追放されたからだろうな」

「でも…今までそんな様子はありませんでした。ちゃんと土地の加護もあって、水や風も澄んでいて…」

「レジスがしているのは、支配だけだ。神の仕事は支配されてる奴らがやってる。…いいか。俺がこの話をしたのは神界にまでお前がついてくれば、お前が死ぬかもしれないからだ。この話を聞いて、本当についてくるのか、青の国までに決めろ」

「お客さん、そろそろつきますよ」

青の国は、名前の通り城壁から道の境目まで青い国でした。

道行く人のほとんどまでが、青い服を着ています。

「疲れたろ、数日宿で休もう」

白騎士の男の言葉に少女は首肯で返答しました。

「ねぇ、青騎士? ほんとーにあいつが来るのお?」

宙に浮かぶ遺蹟の端で座り、伸ばした足で風を切る赤い少女がいました。

「間違いネェヨ、わざわざ神を一人殺してまで確認したんだからな」

赤い少女の問いに青い男が答えます。

「てゆーかソレ、必要無かったでしょ?」ケラケラ

赤い少女は無邪気な顔で笑いました。

「…。飢えてんだヨ、俺も、殺しの味になぁ」

「キャハハ! それじゃあ今度は、一気に二つ満たせるね!」

青騎士は赤い少女から若干距離をとると、頭を押さえて言いました。

「つぅかお前のが楽しそうじゃんかヨ? 赤騎士」

遺蹟の中に四つの光が生まれ、

「こぉんなおもちゃも用意したんだから、早くおいでぇ?」

その前で赤騎士は笑っていました。

「…この戦闘狂が」

青騎士は赤騎士に聞こえないように呟きます。



「本当にいくのかい? あんたら」

青の国で国の兵士が白騎士の男と巫女の少女を呼び止めていました。

「さっきも言ったが、今虹の島は危ない。いつ何がおこるか分からないんだよ?」

「問題ねぇよ」

白騎士の男は兵士の横を通り過ぎます。

「ありがとうございました」

続いて少女が兵士の横を通り過ぎました。

「…………」

兵士はまだ何か言いたげでしたが、当の両人がもう行ってしまったので、諦めて仕事に戻りました。

「お前は…」

「あん?」

虹の島に行く途中で、白騎士の男と少女の二人は、黒騎士と鉢合わせました。

「黒騎士さん!」

「…もう少し、到着が遅いかと思いましたが」

黒騎士は足を止めずに言います。

「それはこっちのセリフだ、つぅか帰っていいぜ? あいつらはカスも残らねぇからな」

白騎士の男は黒騎士に追随して言います。

「そうはさせない…」

黒騎士は腰の剣に手を掛け、

「だが、その前にやるべき事ができた」

黒騎士は目に止まらぬ速さで剣を鞘から引き抜き、すぐ目の前まで迫っていた岩の塊を縦に斬りました。

「きた、きた♪」

黒騎士と白騎士の男が頭上の岩山を見上げると、上から落石を雨のようにふらしている者と目が合いました。

「これはホンの…挨拶よ」

「はぁあっ!」

黒騎士は一足先に岩山を掛けのぼっていきます。

「しっかり掴まってろよ…」
「は、はい」

白騎士の男は少女を片手で抱えると、反対の手に『ローズマリー』を握り、黒騎士の後を追います。

落石の雨を抜け、二人の騎士が虹の島にある遺蹟の入り口に立ちます。

二人の正面には青い男と赤い女がいました。

「なぁ、あいつらは…」

白騎士の男の言葉を先まで汲み取り、黒騎士は答えます。

「赤騎士と、青騎士です。どちらも秘宝を持っている……」

「秘宝…?」

白騎士の男は青と赤の騎士を交互に見つめます。

「さっすが黒騎士♪ 今日の為に持ってきたんだから。魔剣クラウ・ソラスと…」

「戴冠石、リア・ファルだゼ」

「……」

「く……」

「あらあらぁ、凄すぎて口もきけなくなっちゃった?」オホホ

赤騎士は口に手の甲を添え、高笑いをします。

「…青騎士、アンタ、邪魔な方ね」

低い声で赤騎士が言いました。

「はいヨ…」

「味合わせて! この剣でお兄さんの肉を裂く味を!!」

瞬時に白騎士の男の前に移動し、赤騎士はクラウ・ソラスを振るいました。

地面が抉れ、白騎士の男は空中に投げ出されます。

「イヒッ!」

赤騎士はすぐに剣を振りました。

魔剣が通って場所には何も無く、代わりに赤騎士の顔に白騎士の男が片足をめり込ませていました。

「っつつ……女の子の顔蹴るなんて酷いじゃない?」

白騎士の男は赤騎士の攻撃の時再度抱えた巫女の少女を降ろすと、崖下に落ちたローズマリーをもう一度召喚します。

「離れすぎるなよ」

「…はい!」

離れた赤騎士は顔に青筋を浮かべます。

「無視ぃ…?!」

「ヘイ! お前の相手はこっちだぜ!」

赤騎士と白騎士の男の攻防の横で、青騎士が声を上げました。

「!」

青騎士の周囲に浮かぶ四つの多角形の物体、リア・ファルから幾つもの光弾が発射されます。

それらを剣で受けず、身を翻して避ける黒騎士に、青騎士は言いました。

「リア・ファルの力はこんなものじゃないぜ!?」

物体が重なり合って、正方形になります。その中心点から光線が発射されました。

逃げる黒騎士を追って、光線が石の床を溶かしていきます。すぐ近くを追ってくる光線の熱が、黒騎士を更に追い立てます。

「お前の得意な距離にゃ近づかせねぇヨ」

リア・ファルは分離と合体を繰り返し、黒騎士を追い詰めていきます。

「ハァァ…!」

「チッ、猿かてめぇは」

赤騎士も手と足を使い魔剣を操り、白騎士の男を攻め立てます。

数度、魔剣とローズマリーを打ち合わせ、白騎士の男は顔をしかませました。

「ソレも中々の業ものみたいだけどぉ、そう何度もこのクラウ・ソラスを受けたら壊れちゃうわよぉ?」

極めて嬉しそうに赤騎士は言います。

「……」

白騎士の男はローズマリーを投げ捨てました。

「あら? …いさぎよいのって、好きよ♪」

赤騎士は剣を振るいます。

「…え?」

肉を裂いた感触は無く、代わりに妙な衝撃が腕から赤騎士の体に伝わりました。

「嘘――」

下げた視線が捉えたのは折れた魔剣でした。

「――べょ!?」

白騎士の男の拳が赤騎士の顔面を捉えました。

「ああ、そうだ……」

地面を暫く転がり、身体を痙攣させている赤騎士に白騎士の男は言いました。

「顔芸は女じゃねぇんだよ、クソ」

白騎士の男は赤騎士を殴り飛ばした手を振りながら言いました。

「オイ…マジかヨ?」

「はぁっ!」

倒れた赤騎士を見て呆然としていた青騎士に、黒騎士は距離を詰めて斬りかかります。

「おわっ!? くそっ!」

青騎士は腕を負傷し、後方に飛び退きます。

「雑魚にてこずりすぎだろ」

白騎士の男が黒騎士に言いました。

「言い遅れたが、あいつらを退けるまで休戦だ」

「…協力、だろ?」

どろりとした殺気が向けられてきます。白騎士の男が振り向くと赤騎士が形相を向けてきていました。

「ぶっ殺してア・ゲ・ル」

遺跡の入り口が爆発したように飛び散りました。

赤騎士はクラウ・ソラスを捨てると、煙の中に飛び込んでいきました。

「やっぱアイツ化け物だわ」

遺跡の入り口跡から、黒い何かが這い出てきます。

影から伸びでて頭上から迫る物体を、白騎士の男と黒騎士は左右に飛び別れてさけます。

「デルクタム…、まだあんな物が残っていたのか」

「風化した過去の遺物なんかでどうするつもりだよ?」

黒騎士と白騎士の男が、それぞれ構えなおしながら言いました。

「お、おいっ!? マジかヨ!」

影の中から青騎士の悲鳴が聞こえてきます。

「おいし♪ でも、もっとおいしい味が知りたいわぁ!」

巨大な影色の塊になった赤騎士が、身から生んだ幾つもの腕から光弾を発射します。

白騎士の男は、地面をまるごとひっくり返して壁にし。その裏に黒騎士と身を隠します。

「斬るぞ」

「…構わん、あれはもう騎士では無い」

光弾が壁を穿って巻き上げた粉塵の中から、少女が姿を現れます。

「騎士様…」

「生きてたか」

白騎士の男は、少女に視線を向けて言いました。

「騎士様が貸してくださった短剣のお陰で、なんとか」

「それじゃあそれ持ってそこで大人しくしてろ」

白騎士の男は一方的に告げると、右から壁の外に飛び出していきました。黒騎士は左から続きます。

剣を打ち付ける音ではなく、何かが破裂するような音が立て続けに響きます。

「こざかしいわね!」

赤騎士は滅茶苦茶に腕を振り回している様子でした。

少女の隠れる壁が赤騎士の腕が叩きつけられるたび、大きく揺れました。

白騎士の男は煙に紛れて赤騎士を遠距離から攻撃していました、彼が手にしている双銃の片割れは黒騎士が持ち、同じように使っています。

「見つけたぁ!」

煙の幕が薄くなると、赤騎士が数本の腕を鋭く伸ばしてきました、それを避けつつ、白騎士の男は引き金を引き続けます。

「ヂィッ…!」

赤騎士は唸り声を漏らすと、状況を打破する策を考え始めます。

やがて赤騎士は、目の前の壁を叩き壊しました、それを見た白騎士の男は、壁とは反対の、遺跡の入り口の方へ走ります。

赤騎士は壊れた壁の奥から、少女を掴みあげました。

「さぁ、武器をすてなさぁい! さもないとこの娘が――」

『タイム!』

白騎士の男は叫びます。

その直後、一同から離れた場所で地面に突き刺さっていたローズマリーと少女の位置が入れ替わりました。

「なに…!」

「『ローズマリー』カモン!」

赤騎士の上に乗っていた白騎士の男が剣を呼びます。ローズマリーは男の少し下、影色の物体の中心部へと召喚されました。



煙が晴れた頃、変わり果てた遺跡に転がっている、赤騎士に白騎士の男は近づきました。

赤騎士の体に刺さった剣を白騎士の男は抜き取ります。

青騎士の姿はありませんでした。

「狙っていたのか」

黒騎士が尋ねました。

「あれは剥がすのが難しいからな」

白騎士の男が答えます。

「騎士様…その人…」

『タイム』を持った少女が呟きました。

「……さっさと行くぞ」

白騎士の男は少女の頭に手を乗せて言いました。

(よくも神聖な地で暴れてくれたな)

遺跡に入り、奥に進んだ時でした。

何かが三人に心に語りかけてきます。

「どこだ…?」

黒騎士は剣の柄に手をあて、辺りを警戒します。

「騎士様…」

(我は喋れぬものでな、前をよく見るがいい)

騎士二人と少女は暗がりに目を凝らします。

道の先は途切れ、最奥にはだんごの様な、丸い像がありました。

「おおきな像ですね…」

「もしや、貴殿が島の番人か?」

少女は感想を言い、黒騎士は語りかけてくる声に尋ねました。

少女は顔を赤くします。

(いかにも、我がアースガルズとミズガルズの間を繋ぐ島の番人だ)

黒騎士は一呼吸すると、意を決して番人に願いました。

「番人よ、どうか我らをアースガルズへと導いて欲しい、どうしても神界へと行かねばならんのだ」

像からの返答は黒騎士の予想を外れていました。

(うむ、いいだろう。お前の様な者を待っていた)

「いいのか?」

黒騎士が呆気にとられつつ、尋ねます。

(王を正そうという信念、断る理由が無い。そこの純粋な少女にも言える事だ、…一人、腹心が知れぬものもいるが)

「……」

(まぁ、構わん。それより急げよ、アースガルズにはもう余り時間が無い…)

騎士達と少女は光に包まれました、やがてそれが晴れた時。彼らは人間界より数倍美しい所にいました。

「ここが神様の世界……」

少女が周囲を見渡して呟きます。

「ラグナロクで焼け野原になったと思ったがな」

黒騎士が白騎士の男を睨みます。

「レジス王の拠城はかなり遠い、案内しよう。私は最短の道を知っている」

「はい、よろしくお願いします」フカブカ

歩きだした黒騎士に、お辞儀をしてから少女が続きます。

「はぁ?」

白騎士の男は首をかしげて驚きます。

「なんで? いつの間に?」

「何がだ?」

白騎士の男に黒騎士が尋ね返しました。

「どうしたんですか? 騎士様」

少女の言葉に男は眉を寄せます。

「なんでこいつが何食わぬ顔でついてんだって言ってんだ」

少女は数秒頭をひねったあと、顔を輝かせていいました。

「そういえば、まだでしたね!」

「はい」

少女は白騎士の男と黒騎士の手を繋ぎました。

「…なんだこれ…、離せっ」

「仲直りの握手です、違うんですか?」

「…仲直りも何も俺達とこいつは仲良しだったか?」

脱力して白騎士の男は言いました、このやりとりにも飽き始めています。

「同じ四騎士の仲間じゃ無いですか、私はてっきり、神様のお城でした喧嘩しちゃいましたけど、あの二人の他の騎士さん達との事で仲直りしたんだと思ったんですけど…」

「……」

「まぁ、いいじゃないか」

黒騎士が口を挟みます。

「そうです、旅は道連れ世は情けって言うじゃありませんか!」

白騎士の男は色々悩んだ挙句、首を縦に振りました。

「神界も随分様変わりしたな」

道の途中、黒騎士が呟きました。

「そうなんですか?」

少女の言葉に黒騎士は頷きます。

「以前は草木など、王都の周りか精霊の周りにしか生きていなかったからな。ラグナロクで世界樹が燃やされた際、蓄えられていたマナが散ったのかもしれないな」

二人の会話に今度は白騎士の男が割って入りました。

「どうりでうまくレジスの居どころが探れないハズだ、力が濃すぎて気配が分からねぇ」

「それでは向こうから手を出される事も無いだろう。こちらの世界でじっくり体制を立て直せる」

黒騎士の言葉に白騎士の男は頭を振りました。



「あれ? 人がいますよ?」

林に囲まれた道で突然少女がそう言いましたが、黒騎士が少女の見る『人』を見つけるまで、少し時間がかかりました。

「あれは…ニンフだな。見たところ草木を司る種のようだ」

「どこにいんだよ?」

解説する黒騎士の横で、白騎士の男はまだ辺りを見回していました。

「あの池の傍です、騎士様」

少女が示す方向に視線を移しますが、白騎士の男にニンフは見えませんでした。

「無駄だ、ニンフは心の清らかな者にしか見えない」
黒騎士が言いました。

「ア?」

「あ、ニンフが森の方に行きますよ!」

「どうするんだよ?」

一人状況を掴めない白騎士の男は、二人の連れに指示を仰ぎます。

「追おう、彼女達なら協力してくれるかもしれない」

黒騎士が提案しました。

支援支援

黒騎士と少女はニンフを追い、白騎士の男は二人を追って森の中を進みます。

「家に帰るんでしょうか?」

少女が言って、

「ああ、恐らく仲間の所に戻るんだろう」

黒騎士が答えました。

「……」

白騎士の男は黙って後に続きます。

「あっ」

「気づかれたか?!」

前方のニンフが走りだすのと、三人に槍の雨が降るのは同時でした。

白騎士の男が手にした歪な棒から鎖の尾を引き、鎌が暴れました。降り注いだ槍を全て斬り落とします。

槍の正体は鋭い木の枝です。黒騎士はそれを見ると、すぐに襲撃者を看破しました。

「待て、白騎士! 彼女達は…!」

切っ先が薄い宝石の槍が白騎士の男を掠めました。

白騎士の男は槍が引かれる前に掴みます。

「待ったぜ?」

槍を構えているのは長い髪を頭の後ろで纏めた耳の長い女性でした。

二人の騎士と少女の周囲に、同じ姿をした数人の女性が現れ、槍で三人を包囲しました。

「…まずは槍を離せ」

白騎士の男は黒騎士の言葉に従います。

「待ってくれ、貴女方の同胞をつけたのは、危害を加える為じゃない。協力して欲しかったんだ」

黒騎士が両手を上げ、女性達に話しかけます。

「私は四騎士の一人だ、だが、私は我が主君を正す為行動している」

黒騎士の四騎士という言葉に、女性達の槍を握る力が増します。

しばらくその状態が続いたあと、

「嘘はついてないようだな。しかし、その人間と、得体の知れない者はなんだ?」

白騎士の男の一番近くにいる女性が言いました。

黒騎士は白騎士の男に目配せをしてから答えます。

「ミズガルズの住人と、私と同じ志を持つ者だ。貴女方が彼を探れないのは彼の力故だ、彼はまだ力を操れないのだ、許して欲しい」

黒騎士ができる範囲の、最良のフォローでした。

女性達は槍を下ろします。

「黒騎士の名は私達も知っている、非礼は許して欲しい。つい先日も仲間を失ったばかりなのだ」

黒騎士は手を下ろし、少女は胸を撫で下ろします。

「それで、私達に何をして欲しいんだ?」

女性の質問に、黒騎士は答えます。

「神界の様子を教えて欲しい、私は長い間人間界に放逐されていた為、詳しい状況が分からないんだ」

黒騎士の言葉に、女性は頷きました。

「それなら役にたてそうだ。立ち話が好みではあるまい、私達の集落へ案内しよう」

「あの…皆さんもニンフさん…なんですか?」

少女が耳の長い女性達に尋ね、

「いや…私達はエルフの眷属だ。利害の一致から彼女達を守っている」

先ほどの女性が答えました。

「ニンフが他の精霊や種族達と共存するのはよくある話だ、私達もニンフの加護無くしては生きられないからな」

黒騎士が口を挟みます。

「黒騎士殿の言う通り、私達はニンフが作る穢れ無き土地でしか生きられないんだ」

女性が言いました。

「……」

白騎士の男は、最後尾をノロノロと歩いていました。

「早く歩ケ」

時折、彼の後ろにいるエルフの女性に足を蹴られます。

「…………」

未だ白騎士の男だけは、警戒を解かれていないようでした。

少し仮眠しまス。

盛り上がりはあるのか

爆睡してしまった…
>>98
長くなるかもしれないけど最後が最高潮になる予定です

「ここにいるのみんな精霊さんなんですか?」

少女が物珍しそうに辺りを見渡します。

「数十体はいるな。それに幾つも違う種がいる」

黒騎士は驚いた様子でした。

訪問者三人は、大樹の中に造られた家の中に案内されました。

三人を案内した女性は、レジス王と彼女が知る神界の様子を話して聞かせました。

「七つの大罪に則って好き放題だな」

白騎士の男は呆れて言いました。

「大地の力も、王城の周りは既に枯渇して無いに等しい」

女性は拳を固く握りしめて、

「いつまた、霜の国な火の国と戦争になるか分からん状態だ! またラグナロクのような事が起これば、今度こそこの世界は消えてしまう…!」

そう続けて言いました。



「この門を抜ければ王城のすぐ傍に通ずる。ただし、あの地はもはや、精霊の加護は届かないぞ」

女性の忠告に、

「十分だ、ありがとう」

黒騎士がお礼を言います。

黒騎士が門を先に抜け、その姿を消します。後を少女と白騎士の男が追います。

白騎士の男が転位した先は、岩が転がる荒れ地のような場所でした。

「……どっちの罠だ? クソが」

傍に黒騎士と少女の姿はありません。

「ようこそ!」

音程の外れた嬉々とした声がします。

「貴方は一番のアタリを引きましたねぇ! …この、ヘカトンケイルの相手ができるんですからっ」

大地が震え、裂けていきます。地面が盛り上がり、地中から赤土色の巨人が姿を現しました。

山程の巨人は、百の顔と、五十対の腕を持っています。百の腕には大小、百の岩がそれぞれ握られていました。

「お前がこっちかヨ、黒騎士」

黒騎士はゆっくりと目を開き、

「生きていたのか」

言いながら青騎士と、その後ろに続く百の軍勢を見据えました。

「古い付き合いだ、苦しまないようにしてやる」

青騎士が腕を伸ばし、百の軍勢が突進を始めます。



「……騎士様?」

少女は広い箱庭の中を彷徨っていました。

「黒騎士さーん!」

少女の声に返事はありません。

しかし、箱庭を見つめる男が声を聞いていました。

「…相変わらず詰めの甘い男だ」

「あーあ、つまんネ」

青騎士の視線の先では、百対一の戦いが繰り広げられていましたが、彼はそれに加わるつもりはありませんでした。

大きな炸裂音と爆風と粉塵が、青騎士をよろめかせました。

「…なんだ?」

百の軍勢の中で、黒騎士は自分の分身と共に戦い始めました。



「剣を捨てて、なんの意味があるのです?」

嬉々とした声に少し疑問の色が混ざります。

「『バジル』。……死体漁りは好きじゃねぇからな」

「まぁ、いいでしょう。すぐ余計な杞憂も晴れます」

ヘカトンケイルの巨人が、大きく動きます。それだけで突風と地震が生まれました。

ヘカトンケイルは傾くと、遠心力に乗せて百の岩を投てきしました。

「…古ぃんだよ」

白騎士の男が落石の雨の中を走ります、その間にヘカトンケイルは次々に新しい岩を拾っては、白騎士の男目がけて投げつけました。

避けきれない岩は、召喚した剣で斬りながら進みます。

白騎士の男が岩の雨を切り抜けた時、ヘカトンケイルの姿はありませんでした。

白騎士の男が辺りの不自然な暗さに気が付くのとほぼ同時に、高速でヘカトンケイルが地面に落下し、地割れと共に世界を揺さぶりました。

体制を崩した白騎士の男を、ヘカトンケイルの落下の衝撃で飛び上がった岩の群が叩きました。

「ラグナロクの蛮勇も、この程度ですか!」

嬉々とした声が響いて、直後に光の雨が降り注ぎました。

地面が焼け、平坦になりました。

「チャリオッツに耐えるとか、マジかヨ」

青騎士が百の軍勢を倒した黒騎士を見て、唖然とします。

黒騎士と共に戦っていた影は消え、その影が持っていた剣は砂になりました。

「……」

ですが黒騎士は満身創痍です、青騎士はリア・ファルを展開しました。

「悪く思うなヨ、次に生まれ変わったトキはもっとうまく生きてくれる事を願うぜ」

「肉片でも残っていませんかねぇ、王に報告する時困るんですが…」

巨人が二百の眼で荒野を見渡します。

「やはり無いですか。――ッ!?」

ヘカトンケイルが左の豪腕で自身を殴りました。巨体が大きく揺れます。

「ちゃんと脳ミソ詰まってんだな…?」

ヘカトンケイルの一番大きい頭の上に、白騎士の男が座っていました。彼は剣をヘカトンケイルの頭に深々と突き刺し、電気を流し込んでいます。

「い……つ……?」

「喋れないか? 思った通りだな」

『パセリ』

白騎士の男が呼ぶと、その手に大きな鎌が召喚されます。

鎌の刃は鎖の尾を引いて飛び、ヘカトンケイルの頭の一つを潰しました。

ヘカトンケイルは操り糸が切れたように倒れます。

「フレッシュゴーレムかよ。…無駄な事しやがって」

白騎士の男は吐き捨て、遠くに見える巨大な城に向かって走ります。

「遅かったな」

きらびやかな衣装を纏った男が言いました。

「…あの時の借りを返しに来たぜ」

白騎士の男がその男に対峙します。

「ラグナロクが終わった時…」

男は豪奢な衣装を脱ぎ捨て、下から大きな弓を見せました。

「おとなしくこの王に従っておけば良かったものを!!」

王と白騎士の男が立っていたのは"魔の釜"の上でした。魔剣クラウ・ソラス、戴冠石リア・ファルと肩を並べる四秘宝の一つです。

城が魔の釜を中心に爆散しました。

「うげ……また粉かよ」

瓦礫から這い出してきた白騎士の男に何者かが襲いかかります。

白騎士の男はそれを切り捨て、姿を現した魔の釜を見ました。

魔の釜からは今も地獄から、数多の魑魅魍魎が飛び出しています。神の王はその様子を見て、高らかに哄笑していました。

「これが見えるか!」

王が示すのは魔の釜に浮かぶ十字架でした。そこには巫女の少女が磔られていました。どうやら気を失っているようです。

「……」

「分かったのなら、抵抗しない事だ」

羊頭の悪魔が、白騎士の男を殴り飛ばしました。

「止めはさすんじゃないぞ」

神の王が悪魔に指示を飛ばします。



やがて白騎士の男の右腕が飛び、体がぐちゃぐたゃになった頃。王は悪魔を止めました。

王は槍を取り出し、白騎士の男の右胸を貫きました。

「たった銀貨30枚で売られた男の話を知っているか?」

王が言います。

「それと同じように、お前は。たったあれだけの些事で死ぬのだ」

王は槍を白騎士の男の胸から抜きとり、

「…さらばだ」

自分に飛来した剣を弾きました。

「……ッ。黒騎士ィッ!!」

王は剣を投げた者に、怒りを向けます。

「黒騎士…さん。…騎士様が…、騎士様が……」

「じっとしていろ」

黒騎士は助けだした少女をそっと地に下ろします。

「この裏切り者がァ! もうお前は生かしておかんぞ!!」

激昂する王は、続いて呆気にとられました。

「大丈夫? お嬢チャン」

黒騎士の横に、青騎士が現れます。

「青騎士……貴様、裏切ったか!」

王の怒声に青騎士は身を縮めて、頭を掻きます。

「だって、こっちについた方が、何かクールじゃん?」

「き、さ、ま…!」

王が槍を持つ腕に力を込めます。

「じょ、ぅできだ…」

白騎士の男の周りにいた悪魔達と王が、まとめて吹き飛びます。

「カミサマ同士、…決着つけようぜ」

白騎士の男の欠けた部分を、黒い塊と淡い光が補填していき、

白騎士の男が閉じていた目を開けると、瞳に紋様が浮かんでいました。

白騎士の男と神の王は空中に飛び上がります。

「セェ・クール!!」

「受け取れ!」

青騎士と黒騎士は、リア・ファルの一辺と双銃の片割れを白騎士の男に渡しました。

代わりに黒騎士の剣が返ってきます。

「サテと。…これだけの悪魔、初めて見るゼ」

青騎士がにじり寄る魑魅魍魎の群れに視線を向けます。

「何、私とお前が組めば、倒せぬ相手などいまい」

黒騎士は微笑を浮かべて言いました。

「オオオオオッ!」

白騎士の男は殺到する五条の光を剣で弾きます。

「これこそルーのブリューナク! この秘宝がある限り、貴様が私に勝る事は無い!」

神の王が手にする光る槍からは、無制限に五つの光が生まれてきます。

ブリューナクの光は空中で弧を描き、確実に白騎士の男の急所を狙います。

「槍だけではないぞ……私の"勝利の弓"の力は、驚く程ブリューナクと相性がいいのだ!」

ブリューナクの光は一度王の周囲で停止すると、数倍の速さで再発射されます。

「全てに勝利し、この世を支配するのは私だァ!」

一条の光が白騎士の男を捉え、

「――!」

霧が発生し、王の脣に湿り気が届きました。

「足を犠牲にしたか」

白騎士の男は右足を失いました。溶けた傷口から黒い塊が染みだしてきます。

「…そろそろ"神化"も維持できなくなるだろう。私の勝利だ」

神の王は、ブリューナクを構えます。

「もう黄泉還れなくしてやろう」

王は言って、白騎士の男の心臓に狙いを定めます。

「そうだな……もう、逃げ回るのは止めだ」

白騎士の男は構えを解きます。

「…やっと諦めたか。では、死ぬがいい」

神の王はブリューナクを固定し、男に突進します。

『…パセリ、セージ。ローズマリーアンドタイム』

「!?」

白騎士の男は召喚された光る剣を掴むと、王に向かって突撃します。

二人の線が一瞬交わり、瞬時に離れます。

「…仕留め損なったか」

白騎士の男を覆っていた光が消え、彼は地上へ落下していきました。

「これで邪魔者は――」

神の槍は折れ、勝利の弓は砕かれ、神の王の体は一文字に斬られていました。

「馬鹿な……」

王も白騎士の男に続いて落下します。

「タイム…」

白騎士の男は地面に衝突する直前、巫女の少女の前に転位してそれを逃れます。

一方王は、そのまま地面に叩きつけられました。

「きゃ! 騎士様!?」

少女が声を上げ、黒騎士と青騎士も白騎士の男に気が付きました。

「倒したのか、彼を」

黒騎士が尋ね、白騎士の男は頭を横に振りました。

白騎士の男が指で示した方では、神の王がなんとか身を起こそうとしているところでした。

「あ、悪魔共よ! 俺を守れェッ!」

王が叫びますが、答える者はいません。

「残念だけど、アイツラみんな、今ごろ地獄でスリープしてるゼ」

青騎士が代わりに答えました。

「もう終わりだ……。こんな事ならラグナロクが引き起こされる前にあなたを止めるんだった…」

黒騎士が剣を構えて王に近づいていきます。

「フ、ククククク……」

王から笑い声が漏れます。

「くひゃ、ぶひゃはははっ!」

「……」

黒騎士は足を止め、

「気でも狂ったか…?」

白騎士の男は顔をしかめ、青騎士も同様でした。

「まだだ、まだだマダダァッ!」

魔の釜が光を放ちます。光が晴れると、少女以外の全員がその場に倒れていました。

「ふぅ、ふぅ。アレには、こんな使い方もある。奥の手だったが…」

王がゆっくりと立ち上がります。

「体が…!?」

「…動かねエ!」

倒れた騎士に王は薄笑いを浮かべます。

「血を縛ったのだ……、騎士の、血の盟約が仇になったな…グヒ」

王は小刻みに嗤いを漏らしながら、少しずつ騎士達に近づきます。手には折れた魔剣が握られていました。

「馬鹿な…、あんたも騎士だったろうがヨ!」

青騎士が叫びます。

「…ぐ、…はぁ。騎士、だったな」

王は膝をつき、言葉をきります。

「…そうだ」

王は少女に視線を向けて言います。

「そこの人間、私の代わりにその者共の首を落とせ」

少女は王の言葉に困惑し、首を横に振りました。

「しません! そんな事」

王は薄笑い浮かべて言い続けます。

「お前の前にいるその男が、封じられていた災厄だと言ってもか?」

「さいやく…?」

少女が呟き、王が頷きます。

「それだけではない、その男こそラグナロクを引き起こした筆頭者、その悪名はミズガルズにも伝わっているだろう」

「……」

王は話を続けます。

「その男は白騎士などではない! 私こそが四騎士の一人、白騎士なのだ、この勝利の弓こそその証拠よ…」

「そう、なんですか…?」

少女が黒騎士と青騎士と、災厄に尋ねました。

「……」

「…まずくネ?」

黒騎士は沈黙し、青騎士はぼそりと呟き、

「そうだ、ラグナロクを引き起こしたのは俺だよ」

災厄は言います。

「まずはその大罪人の首をとるのだ! そうすれば災厄と共に私に刃向かった罪は帳消しにしてやろう」

神の王は諸手を上げ、立ち上がります。

「さぁ…、罪人の首をとる剣を取りにくるのだ…」

少女は災厄の傍を離れ、

「この魔剣を使うのだ」

王の前に立ちふさがりました。王の薄笑いが凍り付きます。

「例えそうでも、私がここでするべき事は分かります! 村娘だからって馬鹿にしないでください!」

少女が短剣を握ると、王の目が吊り上がります。

「このッ…、愚か者があァッ!」

王はクラウ・ソラスを少女に投げつけます。

「避けろ!」

黒騎士が叫びますが、少女は反応できません。

「だらっ!」

災厄はリア・ファルを少女に投げあてました。

災厄は同時に魔の釜へ向け、銃を発砲します。

クラウ・ソラスは少女に突き刺さり、そのすぐ後に黒騎士が飛び出しました。

断末魔も無く神の王は首を撥ねられます。

「お前は王の器では無い!」

「ヒュゥ♪」

青騎士は倒れた少女を受け止めます。

黒騎士は急いで少女に駆け寄り、

「……! …はぁ」

安堵の息を漏らしました。

「リア・ファルをこの子に 同化させたのかヨ、思いつかなかったゼ」

青騎士の周囲に浮いていたリア・ファルの欠片が少女に融けていきます。

「騎士様は…」

少女が違和感のつく体を持ち上げ、視線を動かします。

「…私は、お前が前王の首をとった事を忘れない」

災厄には、黒騎士が話をしているところでした。

「次は、俺の首でも、落とすつもりかよ……?」

指一つ動かさず、災厄は言います。

「…そのつもりは無い。今回の件は感謝している、それに私は、騎士の在り方が判らなくなったのだ……」

黒騎士は剣を鞘に収めます。

「ホレ、言いたい事があるなら早く言いな」

青騎士は足下がおぼつかない少女を災厄の前に連れていきます。

「騎士様…」

災厄は顔を上げます。

「最後にあれだけ力を使えたのは、お前のお陰だ……、ありがとよ」

災厄の言葉に少女は目を滲ませました。

「騎士様、死んじゃうんですか……?」

「そうだな……」

「……」

「ここまで連れまわして悪かったな、あのクソに封じられた力を使うには、純粋な心を持った奴が必要だったんだ……」

「騎士様…」

「……そういや、まだ名前も聞いて無かったな」

「今更ですか? ……そういう騎士様のお名前は、なんていうんです…?」

「ライト」

「…ライト様、私の名前は――」



「ありがとうございます、手伝って頂いて」

少女は二人の騎士にお礼を述べ、頭を下げます。

「いいって事ヨ」

「君がしなくても、私達がするつもりだったからな」

青騎士の後に黒騎士が続けていいました。

「さて……、王国と、この世界を建て直さなければな」

黒騎士は顔を上げて言いました。

「でも、もう王様いなくネ?」

青騎士が尋ね、返答した黒騎士の言葉に青騎士と少女は唖然とします。

「女王などどうだろう。戴冠石が認めた者が、一人いる」

「あ……?」

見渡す限り白いだけの空間でした。

世界(目が覚めたようですね)

「…………」

世界(お察しの通り、あなたはまた死にました。今度は魂を囚われる事無く、完全に死にましたが)

「…………」

世界(そろそろ石も役にたたなくなりますよ、転生して役目を逃れる事は出来なくなります)

「うるせぇなぁ、転生が出来なくなる前に、お前らを消せば問題解決だ。何ならいますぐやるか?」

世界(…その器は、あなただけが使うべきでは無いのです)

「俺の魂は俺だけの物だ。正と負のバランスとかでてめぇらが勝手に滅びようが知るかよ」

世界(……あなたが消耗したとき、気をつける事です。私はともかく、宇宙はこれ以上黙っていません)

「…………」

次に気が付いたのは闇の中でした、五感や視覚は無くなっていました。空間の存在だけを認識します。

闇の中で、誰かが語りかけてきます。

(主よ、転生しても、使える力の上限が減っておる。時間が無い。次か、二つ先が最後じゃろう)

話し掛けられますが返事ができません。相手はそれを承知しているのか、話をすぐに続けます。

(わらわの力ももうすぐ尽きる……じきに、主はわらわの記憶も失うじゃろう。だけど、その名は……、自分の名だけは覚えておくのじゃぞ)

(ライト……)

くすんだ魂は闇の中に沈んでいきました。

ここで一旦終わりです。
ネタが尽きたのでしばらくしてから続きを書きます。

ここまでのお話の元ネタは北欧神話、ケルト神話などを混合して作っていまする。

一旦乙
期待してる

「一体何の騒ぎです?」

質素なドレスを身に纏い、冠を被った女性が近衛に尋ねます。

「どうやら、灼熱の国ムスペルヘイムで新生児が生まれたようです。その母はかつてアースガルズの神であり、子を連れて下の街に姿を見せています」

「街って、このヴァナヘイムの城下町にですか?」

女性の問いに近衛は頷きます。

「ええ、その為による騒ぎです。…それに、その新生児がムスペルヘイムの火の化身という噂がありまして」

「私も一目、見てみたいです」

女性の提案に、近衛は内心で溜め息をつきました。

「……護衛はつけますよ」

アースガルズの女王の悪い癖でした。気になる物にすぐ気を取りつかれてしまうのです。



街は大変な騒ぎでした。

「どうした?」

女王の近衛は見張りの兵士に尋ねます。

「それが…、炎の国の子が居なくなったそうで…」

「何?!」

近衛の声が裏返りました。

「炎の国の使者からは…、我々が炎の申し子を奪ったという話まででていまして…」

兵士の報告を受けて、近衛は肩を落とします。

「…私が探す、お前は女王様を見ていてくれ」

近衛は言いながら、兵士の態度に疑問を持ちます。敬虔深いこの国の兵士が、女王を目にしても何も言いだしません。

「女王様…? あの、どこにいらっしゃるので…?」

今度こそ近衛は血の引きから倒れそうになりました。

「いいか…、全兵士に徹底させろ。女王と炎の国の子を、全力で探すんだ!」

「……あら?」

ヴァナヘイムの女王は、ある丘の上で珍しい物を見つけます。

それは、丘の上にある墓標の前に立つ、白髪に所々赤い髪が混じった、幻想的な印象を受ける子供でした。

「どこの子でしょうか…」

女王は子供に歩み寄ります。何故だか彼女が訳も無く訪れるこの丘と、同じ雰囲気のする子供でした。

「何をしているの?」

女王の言葉に子供は振り向きます、中性的な顔立ちに付いた二つの輝くような紅い瞳に、女王はしばらく心を囚われていました。

「空が……」

子供が呟き、女王が意識を持ち直します。

「空?」

女王は首を上げました。

「何もないけれど」

「……」

女王が視線を落とすと、そこに子供の姿はありませんでした。

「待ちなさい!」

男の声が聞こえてきました、その後には数人の兵士が続きます。

女王が後ろに振り向くと、走り去っていく子供の背中が見えました。

「ムスペルヘイムの少年……、女王様が見つけたそうですね」

連れ戻された女王に近衛が尋ねます。

「はい。……何だか、あの子は懐かしい感じがしました」

近衛は返答を聞くと、密かに眉をひそめました。

(やはり……。この人はあの男の事を忘れてしまったのか)

毎日一人の男の話をする少女が、突然その話をしなくなったのは、今から十年程前です。

青春のりんごを食べながら玉座についた少女が女王になってから、百と数十年が経っていました。

ムスペルヘイムの申し子、彼はあの男に似ていました。しかし近衛はあの男の顔を、はっきりと思いだせません。

(私も忘れてしまいそうだ……)



ムスペルヘイムの子が生まれてから十年が経ちました。

子の名前を知らない者はムスペルヘイムにいません。

子にはかつての英雄からゼインフレイズと名をつけられ、死んでしまった子の母に代わり、世界が子を育てました。

なんか好きだわこれ

「最近、あの子供の姿が見えないが……?」

炎の国の王、オニキスが侍従に尋ねます。

「は、最近はどうやら、山にこもり神の手と謳われた戦士に稽古をつけておられるようでして……」

「…稽古ぉ?」

オニキスは方眉を上げます、しかし、それで興味を失ったのか、それ以上追及する事はありませんでした。

「へぇ、世界の申し子ってのは結構丈夫なんだな。思いっきりやったんだが」

たった今、ゼインフレイズを殴り飛ばした短髪の男が言いました。

「……痛いよ」

顔が二倍に膨れた少年が言いました。

「お前が言ったんだろ? 思いっきりやってくれって。…ほら立てよフレイズ、続きだ!」

申し子フレイズは、自分の体で掘った溝から体を持ち上げます。

フレイズの体は痣と内出血で変色していました。この様子を彼の世話係が見たら泡を吹くに違いありません。

フレイズと神の手を持つあらくれが山籠りをしてから数ヶ月。フレイズの師をつとめた男はムスペルヘイムを去りました。

その理由が妖精の国アルフヘイムで女性を探すという物でしたから、フレイズは怒りましたが。

オニキスの城に帰ったフレイズをムスペルの子等は、大袈裟に出迎えました。

更に五年が経ち、灼熱の国ムスペルヘイムにある知らせが届きます。

「ヴァナヘイムが落ちた…?」

玉座で報告を受けたオニキス王が、思わず腰を上げます。

「ええ……、ラグナロクの生き残りの神々が、今になって王都を占領したと…」

オニキスは側近の言葉に表情を歪めました。

「オーディンが生きていたという話は、本当だったか…」

しばらく沈黙してから、オニキスは謁見の間に控えていたゼインフレイズに手をあて向けました。

「……もうよい、話をする気が失せたわ」

フレイズは立ち上がり、一度頭を垂れてから退室しました。



オニキス王の城の、長い廊下をフレイズが歩き、自室へと向かいます。

「何のお話だったの?」

自室の前で待ち受けていた鮮やかな金髪の少女に、フレイズは尋ねられます。

「別に…、陛下が途中で下がるように命ぜられたから、何もない」

「そうなんだ! それじゃあ今日は、この私と遊ぶの(だー!)」

フレイズは少女が言い終わる前に自室に入り、扉を閉めました。

フレイズはヴァナヘイムからの報告に、情けを感じるどころか憤ってさえいました。

「……。今日は陛下から妖精の国に行く許可が頂ける筈だったのに」

フレイズは行き場の無い怒りを散らす為、目を閉じ横になります。

「無視しないでよぉ」

開けられた扉の音を聞いて、フレイズは目の下を痙攣させました。

「今城下町に旅芸人が来てるんだってー! それでねそれでね! あと城下に出来た新しいお店が――」

「うるさい黙れ」

フレイズは簡潔に望みを告げます。

「……」

フレイズは機関砲が収まった事を確認すると、再び目を閉じます――

「でもねでもね! その旅芸人さんたちが今度この国に来るのはね!?」

閉じられませんでした、フレイズは脳の血管が千切れるのを錯覚します。

「わひゃ!?」

フレイズは有無を言わさず金髪の少女を部屋から放り出しました。

少女はフレイズの二つ上で、オニキス王の親戚の子でした。

フレイズと同じく両親を持たない少女リジェリカは、昔から大変よく、フレイズを可愛がっていました。

王の血統を持つリジェリカをここまでぞんざいに扱うのは、この城でもフレイズしかいません。

彼はその粗暴ぶりから、ムスペルヘイムの野生子などという、不名誉な通称で呼ばれる事があります。

「はぁ……」

「……はぁ?」

翌日フレイズは城下町にでていました、傍らには彼の腕を引くリジェリカがいます。

「俺は……」

今の今までの記憶がおぼろげで、フレイズは朝ベッドから起き上がったところまでしか記憶していません。

現に今フレイズが来ている服は、昨日眠りについた時と同じです。

「リジェ……? どこだここ……」

フレイズに話し掛けられたリジェリカは、一度強く彼の腕を引きます。

「ほら、そろそろ始まるみたいだよ!」



城下町の広場で行われた旅芸人の見せ物は、武術演技のようでした。

炎を身に纏ったムスペルの子達が互いに斬りあいます。

「……」

フレイズは眠気も忘れてその芸に心を囚われました。

「ね、フレイズ。身に来てよかったでしょ?」

リジェリカに返事もせず、フレイズは芸人の一人に目を奪われます。

炎で燃え盛る旅芸人達の中で、一人だけその素肌を晒している者がいました。

その銀髪の麗人が操る剣に何故かフレイズは懐かしさを感じました。

やがて芸が終わると、更に何かが始まるようでした。

「いつも芸が終わるとね、ああやって剣の相手を募るの。あの銀髪の女の人に勝てたら宝をくれるんだって!」

フレイズは腕が疼くのを感じました。

「昨日はダリスおじさんと、マクさんが戦ったんだけど、勝てなかったみたい。……フレイズ?」



「さぁさぁ、腕に覚えがある者はおりませんか! 私に勝てればドワーフの魔剣を差し上げますよ!」

銀髪の麗人が叫びますが、見物人から名乗り出る者はいません。

「俺が相手になろう」

「おや?」

場に躍り出たのはフレイズでした。周りをムスペルの子等が囲む円形の舞台にて銀髪の麗人と対峙します。

観衆のざわめきが増します。

「……いいでしょう!」

旅芸人の一人からフレイズに剣が投げ渡されます。

「先に一撃当てた方の勝ちだよ」

「ああ」

言った直後、斬り掛かってきた銀髪の麗人の剣を、フレイズは間一髪で受け止めます。

「……」

「やるね、それでこそ!」

フレイズと銀髪の麗人の間でしばらく剣の応酬が繰り広げられます。

(何故だ……力も速さも、俺が数倍勝っているのに)

銀髪の麗人は人間のようでした。

しかしフレイズが力で勝るなら、麗人は技でした。剣を操る技だけで神の剣戟を押さえこんでいます。

(しかし何故だ…、この俺の我流と似た剣筋のように思える)

麗人は一旦距離を開けます。

「今のは小手調べ、次は本気で行くからね!」

麗人は残像を残してフレイズに殺到してきます。

フレイズは麗人の攻撃を受け流し、それから一進一退の攻防が続きました。



「…………」

勝負を制したのはムスペルヘイムの申し子です。歓声がまきあがり、フレイズは麗人の首筋に突き付けた剣を外しました。

「その剣技、もう忘れちゃ駄目だよ……」

麗人は立ち上がりすれ違いざまに言葉を残します。

「…?」

フレイズが振り返った時にはすでに麗人は観衆の中へ消えていました。

フレイズは旅芸人の一人から大人の身の丈もある大剣を渡されます。

「こちらはアルフヘイム一のドワーフが造り上げたとされる、キカイなる仕組みを持つ魔剣です」

フレイズは大剣を持ち上げ、その背に抱えます。

大剣は革紐も無しに背負う事ができました。

(不思議な剣だ……それに何故か俺の身体によく馴染む……)



「すごかったよ! フレイズ!」

開口一番、再開したリジェリカは感想を述べます。

「途中からあの芸人さんとフレイズの動きが一緒になって、さっきの剣舞みたいだった!」

「……俺の動きと、あの女の動きが…?」

「うん!」

フレイズの呟きにリジェリカは大きな声で返事をしました。



「聞いたぞ……、お前、何やら旅芸人の一団と面白い事をしていたそうではないか」

翌日、再びオニキス王に呼ばれてフレイズは謁見の間にいました。オニキスの言葉にフレイズは頷きます。

「はい。剣の勝負を致しました」

その返答に、オニキスは一旦間を置いてから、

「剣もいいが、そろそろ妻でもとったらどうだ。お前もこの国を支える一柱として自覚を持ってもよい頃だ……」

オニキスの言葉にフレイズは首を振ります。

「陛下、私はそんなものより剣に興味があるのです」

はっきりと言うフレイズに、オニキスは笑いました。

「はっはっは…。相変わらずお前は、はっきり物を言うやつだ。……そんなお前に、この王から頼みがある」

「フ~レイズ! 王様のお話はなんだったの?」

跳ねるように近づいてきたリジェリカに、フレイズはいつにもなく上機嫌で答えました。

「ついに陛下が妖精の国に行くことをお許しになったんだ!」

「え?」

リジェリカは表情を崩しますが、フレイズは気付きません。

「まぁ、妖精の国で随一の腕を持つドワーフを探すという目的もついたが……、やっと師匠に強くなった俺を見せられるんだ」

「そうなんだ……」

話を終えるとフレイズは歩きだします、リジェリカは彼を呼び止めました。

「その旅、私もついていっちゃ駄目かな…?」

フレイズは顔をしかめます。

「駄目に決まっているだろう、旅に女は不要だ」

「そうだよね…」

それから毎日リジェリカは旅への同行をフレイズに願いに訪れました。

しかしフレイズはリジェリカを突っぱねます。

ですが何日か経った後、突然リジェリカは姿を見せなくなりました。

そしてフレイズが旅立つ日がやってきました。

旅に女は必要だろ性的な意味で

「行くの? フレイズ」

旅荷物を纏めているフレイズにリジェリカが話しかけました。

「ああ、リジェリカか……見ての通りだ」

リジェリカは一度視線を落としてから、荷物につきっきりのフレイズに話し掛けます。

「あのねフレイズ、私、ヨトゥンヘイムに行く事になったんだ…」

フレイズは初めて視線をリジェリカに向けました。

「お前も陛下から勅命を賜わったのか、名誉な事だな」

「フレイズ……」

「俺はもう出発する。ムスペルヘイムに帰った後また会おう、リジェ」

リジェリカが小さく頷いたのを確認して、フレイズは部屋をでました。



「では……、我が国の為必ずや! ドワーフを連れ帰ってくるのだぞ、我が息子よ」

「はっ!」

オニキスに見送られ、フレイズは旅立ちます。

今まで控えていた王の側近は、オニキスに尋ねます。

「よろしかったのですか、リジェリカの事は……」

オニキスは鼻をならします。

「奴がいらんと言ったのだ、もうあいつの使い道はそれしかあるまいて」

「しかし……」

くどい側近に王は声を荒げます。

「よいのだ! フレイズも、旅から帰って今更そんな女々しい事は言うまいて」

「早く師匠に会いたい」

フレイズは心中を漏らします。

フレイズにとっては王の命すら腕試しや剣の前ではさほど重要ではありません。

アルフヘイムでは見つかるまで神の手たる自分の師を探すつもりでした。

妖精の国アルフヘイムはムスペルヘイムより上にあると言います、そこに行くにはムスペルヘイムの門番スルトの助けを請わなければなりません。

「まずは、あの肉ダルマを説得しなければな……」

「スルト殿」

フレイズはムスペルヘイムの末端で、酒と肉を食らう自身の五倍はあろうかという大男に声をかけます。

「…誰だ? 新しい酒を持ってきたのか?」

「スルト殿、私です。ゼインフレイズです。幾度と無く剣を交えた私をお忘れですか」

「…………。おお…、ゼインか、覚えておるぞ、久しいではないか」

フレイズとスルトは旧知の仲でした、フレイズが我流剣技を会得するのに使ったのが、この大男でした。

「して、今日は何の用だ、また剣の相手をして欲しいのか? …あれはラグナロクの時、わしは剣も持たずに挑んできたあの馬鹿者を…」

「鹿の角で戦った阿呆の話は幾千回聞きました。今日は勝負ではなく、スルト殿に私を上の層まで運んで欲しく、ここに参りました」

「…………。上の層? またミズガルズに留学にでも行くつもりか?」

「いえ、今日はオニキス王の勅命により、アルフヘイムへ向かう所です」

スルトは頭を掻きます。

「構わんが……」

スルトはその巨体を持ち上げます。

「少し、わしの相手をせよ、最近すこ~し体が鈍っておってな」

スルトはフレイズが柱と見間違える巨大な剣を地面から抜きます。

フレイズも背の大剣に手をかけました。



「ハッハッハ、驚いた。まさかわしが一太刀も浴びせられんとは。いつの間に腕を上げた? ゼインよ」

「…自分でも驚いています」

スルトは再び地についた体を上げ、両手を掲げました。

「わしの炎に乗り、アルフヘイムまで飛ぶがいい」



まきあがる炎に乗ってフレイズは宙を駆け上がります、頭上に近づくのは大きな樹の根です。

「ラグナロクで世界樹が残るとはな」

ミズガルズを訪れた時には見る機会の無かった世界樹は、圧巻の光景でした。

あの巨大な根の先にアルフヘイムがあるはずです。

「うわっ!?」

突然体制が崩れ、フレイズは悲鳴を上げます。

「炎が…!」

今まで激しかった炎の勢いが、だんだんと弱くなっていきます。

下を見ると、スルトが大口を開けて倒れていました。腹が上下している事から寝てしまったのだとフレイズは悟りました。

フレイズは根の間から真っ逆さまに落下していきます。

「…………くそ、ラグナロクで世界を燃やした男も、今やただの老人か」

とっさに世界樹の根にとびついたフレイズはことなきを得ました。

「…それにしても、ここは何処なんだ」

宙に見える世界樹の根に辿り着いたかと思えば、フレイズはいつの間にか森にいました。

目の前の根だけは変わっていませんでしたが。

「……知らないうちに世界の境界を越えたのかな」

跳んだ事で旅荷物は落としましたが、幸い剣は無事です。

「とりあえず、アルフヘイムには間違いなさそうだ」



しばらく歩いていたところ、フレイズは奇妙なものを見つけました。

世界樹の根を食う竜がいたのです、既に大きな根の一本は、全体の半分が無くなっていました。

辺りには妖精の死骸と、腐った土しかありません。

「世界樹の根を齧る魔竜ニーズヘッグか。ミズガルズの童話と思っていたが」

竜がフレイズを睨みます。

「…こいつで竜が斬れるのか、試してみるのも悪くない」

ニーズヘッグは、鱗を散らしながら退散します。

対してフレイズの外傷は微々たるものです。長い尻尾で数回叩きつけられただけでした。

「…………」

フレイズは大剣に視線を落としました。

「恐ろしい程よく斬れる。一体この剣は何なんだ…」

フレイズが呟いた時でした。

「動くなっ!」

突然高い声がフレイズを突き刺します。

僕の超抜無敵スレッドを落とす事はできない……あげだ……!

何この荒らし怖い、マイジャスティスが…

「私の国を好きにする事は許しません!」

フレイズがゆっくり振り向くと、そこには若草色の髪を持つ妖精と、弓をつがえた妖精の郡がいました。

フレイズは大剣を地にさし、両手をあげました。

「その無法者を捕らえなさい!」

薄い甲冑を着こんだ妖精達がフレイズを拘束しました。

重い音と共にフレイズは投獄されました。罪状は妖精の殺害です。

(ニーズヘッグの事を言ったとして、信じられるだろうか……)

フレイズは大剣を取り上げられてしまいましたが、アルフヘイムの首都に投獄されたので好機でもあります。

(首都なら師匠やドワーフを知っている者がいるに違いない)



「女王さま、やはりあの男は無罪かと。あの地で大地に還った同胞は、ニーズヘッグを討伐するために出動した者達でした」

兵士の報告を受けて、アルフヘイムの女王は大きく開けた口を手で隠しました。

「まぁ! それではあの男が魔竜を退治したというの?! …なんて事をしてしまったのでしょう!」

アルフヘイムの女王はすぐ兵士に命じます。

「すぐに彼を牢から出して!」

「はい」

妖精の兵士が駆ける様に飛んで女王の傍を離れました。

「思えばあの仲間達に剣で斬られた後は無かったわ。ああ……」

女王が嘆いていると、柱の影から男が姿を現しました。

「女王様に泣いてる顔は似合いませんヨ」

男は花束を差し出します。それを受け取って、女王は言いました。

「あなたは…、ボリス。だったわよね」

男は一度悲しそうな顔を作ってから、再び笑顔を作ります。

「ええ、やっと名前を覚えていただいて光栄です女王様。今は邪魔な兵士もいないようですし、この私と楽しいお話でもいかがです?」



「おい、囚人…じゃなかった旅人よ。出ろ」

フレイズは看守に牢の外へと出されます。

「…もう処刑か? 随分早いな……」

看守は首を振って言います。

「いや、お前は無罪放免で釈放だ。どうやら我が国の女王がお会いになられたいらしい。……それと隣の房にあるお前の剣を持っていけ」

看守が鍵を開け、フレイズは自分の剣を取り戻します。

「なんだその剣は、重くてかなわなかったぞ」

フレイズは看守に尋ね返しました。

「ドワーフが作った剣らしい。そうだ、この国随一の腕を誇るドワーフの鍛冶師を知らないか」

フレイズの言葉に、看守は頭を捻ります。

「うぅん、ドワーフの鍛冶師か。一番有名なのは王宮に仕える男だな」

「そうか、ありがとう」

監獄を出ると、女王の遣いがフレイズを迎えました。

文章の感じとかが、子供のころ読んだ児童向け神話っぽくて懐かしい
多分それ狙ってやってるんだろうけど

「女王様、件の男を連れて参りました」

フレイズを連れてきた数人の兵士は跪き、女王がフレイズの前へやってきます。

「ごめんなさい、この度は私の早とちりで……」

女王とはフレイズを捕まえた若草色の髪を持った妖精でした。見た目だけなら自分より幼い彼女にフレイズは少し困惑しましたが、女王に頭を下げ返します。

「気になさらずに。私は炎の国から遣わされた使者、ゼインフレイズです。私も勝手にそちらの領土に侵入した事を詫びます」

女王は驚いて、

「炎の国からの使者? 一体この国に何の用ですか?」

フレイズに尋ねます。

「実は、我が国の王、オニキス陛下がこのアルフヘイムにいるドワーフ随一の腕を持つ職人を探しておりまして、女王陛下はその者を知っておられませんか?」

「さぁ……? じいやは知ってる?」

女王は首を傾げて傍に控えた老人―恐らくドワーフ―に尋ねます。

「はて……、その様な者、おったかの」

「どのような些細な事でもいいのです。何とぞ力をお貸し下さい」

「じいや、何か無いの? このままでは国の恩人に立つ瀬が無いわ」

女王が急かすと、唸り続けていた老人が答えました。

「そうじゃな……、鍛冶師のガルザに尋ねてみては? あやつなら他のドワーフについて詳しいかもしれん」

それを聞くと、女王は顔を輝かせ、

「ガルザね? それなら私が居場所を知ってるわ、行きましょう! ゼインフレイズさん!」

女王は女王だというのにフレイズの手を引き歩きだします。

(さっきから女王らしくない……あいつみたいだな)

手を引かれるまま、フレイズはガルザの元に向かいます。

「ガルザ! 何処にいるの?」

「……」

城の中庭はとても美しい場所でした。辺り一面に花や草木が咲き乱れ、全てを焦がす炎の国では見れない光景です。

その片隅に探し人はいました。

「女王さま…わしに、何か用でしょうか」

「ガルザにお客さんよ、彼の探している人をあなたが知っているかも知れないの」

女王は言って、後ろに引きます。

「誰ですかな……!?」

ガルザというドワーフは、驚いてフレイズを凝視します。

「その、剣は……。探し人とはもしや、ホロン殿の事では……!?」

「そのホロンという誰かは知らないが、俺が探しているのはこの国で随一の腕と謳われたドワーフだ」

ガルザは身を震わせ、それを落ち着けるとか細い声で言います。

「その男はもうこの国にはおらん。…風の噂では、小人の国に行ったと聞いた。わしは知らん、知らんのだ……」

「……どうしたの? ガルザ」

態度が豹変したガルザに女王が尋ねますが、返ってくるのは震えばかり。



「小人の国か……」

フレイズが呟き、ついで尋ねます。

「それと、神の手と呼ばれる男を知らないか? この国に来てる筈なんだが」

フレイズが言い終わるやいなや、ガルザの目が吊り上がりました。

「帰ってくだされ! わしをこれ以上あいつらに関わらせんでくれ!!」

怒号と一緒にフレイズは中庭を追い出されしまいました。

「……おっかない老人だ」

呟くフレイズに後を追ってきた女王が話し掛けます。

「ごめんなさい、いつもは優しいんだけど……。どうしちゃったのかしら」

「…この剣がそれほどおぞましく見えたのでしょう。私は気にしていませんよ」

女王の話は続きました。

「でも、その男の人なら私が知ってるわ。何年か前、あなたと同じようにニーズヘッグを退治してくれたの」

フレイズは女王に顔を向けます。

「あの人が。女王陛下、今その男はどこにいるか分かりますか?」

「確か……そのあとすぐに国を出ていったわ。その時この国のドワーフが一人、その人と一緒にいたそうだけど、もしかしたらその人がその…ホロンって人だったのかしら」

女王は顎に指を当ててそう話しました。

「二人は小人の国に……」

(師匠は女を探しに行くと言っていたが、本当は別な目的があるに違いない)

「小人の国に行くにしても、今日はもう疲れたでしょう。是非この宮殿で休んでいってくださいゼインフレイズ殿」

微笑む女王にフレイズは思慮の中から意識を戻し、

「……そうさせて貰います」

その言葉に甘える事にしました。

「アレ? まさかまさかのアノ男? こんな所で再会するなんて百点のカンパイをしたいところだが……」

突然現れた男が女王とフレイズに声をかけます。

「俺の女王様に手を出すなんて十点! …クールじゃねぇよお前」

「ボリス! その石弓で何をするつもりです!」

女王がフレイズの前に立ちました。

「何って……チョット教育を……んん?」

男はフレイズの顔を凝視します。

「アレ? マジかよ人違い? でもマジであの男に生き写しだ」

「下がりなさい、この方は国の客人です。傷つける事は私が許しません!」

女王が明言すると、ボリスは数歩下がりました。

「ま、いいですヨ」

ボリスは二人の前から去ります。

「あの男は?」

フレイズが尋ねます。

「少し前からこの王宮に仕えている男です。……ごめんなさい、また臣下が迷惑を…」

「……」

フレイズはボリスという男の瞳に野心を見ました。

(恐らく……なにか悪事を企んでいる)

まるで郷土で燃える溶岩の様な…



フレイズは侍女に案内された客室で横になっていました。

アルフヘイムの空には月が二つ浮かんでいます。遥か昔ラグナロクの後、銀色の女神と黒色の女神が狼に喰われた月の代わりになったためだという伝説があります。

その金と紫の月を見ていると、フレイズの胸がざわめくようでした。

天窓から目を離し、眠りにつこうとした時でした。

フレイズがいる部屋の窓が控えめに叩かれました。

「…起きていらっしゃいますかフレイズ様」

「…?」

フレイズは出窓を開けます、そこには女王その人がいました。

「夜分遅くにごめんなさい。でも、どうしてもあなたと話がしたいんです」

必死な様子の彼女をフレイズは部屋に通しました。

「助けて欲しいんです」

女王は手を組んで懇願します。フレイズは混乱しつつ、

「……何をでしょう」

そう女王に尋ねます。

「……実は、近々内乱が起こるかもしれないんです」

「それをどうして私に?」

女王は深呼吸してから話始めました。

「事は、前女王の代まで遡ります。母は、何者かに暗殺されました。きっと王位を狙う者の仕業です」

「王位を…?」

フレイズの呟きに女王は頷きます。

「その時魔竜ニーズヘッグが国に攻め入り、助けてくれたのが神の手を持つあの人でした…」

フレイズは黙って女王の次の言葉を待ちます。

「私には今、味方がほとんどいません。信頼できるのはたった数名……そんな時あなたがこの国を訪れたのは運命だと思いました」

「神の手を持つあの人は、国を出るとき私に言ったのです。いずれ彼を追って彼の弟子が来ると、その時その弟子に力を貸して貰えと…」

「師匠がそんなことを…」

女王は真っ直ぐにフレイズの瞳を見つめます。

「どうか力を貸して貰えませんか? 母の残したこの国が壊されるのは堪えられません……」

「……」

「……」

フレイズの頭に様々な事が浮かびます。

特使中に余計な問題に首を入れたらオニキス王は起こるでしょうし、目的の手がかりが風化するかもしれません。

>>198
誤字です

王が起こる×
王が怒る○

「……分かりました、手を貸しましょう。今日で二つも探すあてのメドがつきましたから。あまり長い間でなければ」

女王の表情が明るくなります。

(しかし、師匠が俺に任された事だ。それに……)

『いいか、男なら気に入らねぇ事は拳で片付けろ。いざと言うとき本当に頼れるのは政治や御託じゃねぇ、自分の拳だ。いいな?』

「ははっ……」

五年前と同じく苦笑させる教えでした。

ですがフレイズもそういうやり方は嫌いではありませんでした。

『国の外れにある遺跡にニーズヘッグが住んでいると聞きましたまずはその遺跡に行き……』

「竜を殺す。……その前に厄介な事に巻き込まれそうだな」

フレイズは大剣を背から外し、構えます。

「あははっ♪ ホントに来た、ホントに……この日をどれだけ待ちわびたか分かる?」

遺跡の前に立つ赤い女が言いました。

(何故だ……この光景には見覚えがある気がする)

「あんたを殺す為に地獄の魔女と契約までしたんだから……。魂まで引き裂かないと満足できない」

「……悪く思うなヨフレイズとやら」

石弓を持った男が赤い女と白い男の戦いを見下ろしていました。

「お前に恨みは無いが、王を持たない騎士には必要なんだ」



「ぐぅ……!」

赤い女に斬り付けられると、血肉と共に魂まで持っていかれるようでした。

「それも……魔剣なのか……!」

剣に付着した血をなめとり、赤い女は答えます。

「そうよぉ、あんたを殺す為にわざわざ取り返してきたんだから……あの女から無理矢理命ごとね!! アッハッハッハッハ!」

赤い女は目を剥き出し舌を出しながら哄笑します。

「……?」

フレイズは赤い女の笑う理由は分かりませんでしたが、何か胸騒ぎを感じました。

「いくわよおお…!」

赤い女は女と思えない力強さです。

(恐らく神か、その加護を受けた者か……)

このような得体の知れない者が妖精の国を狙うなら、妖精の女王に味方しておいて良かったとフレイズは思いました。

(このような者が多く攻めてくれば、妖精の国は滅びるかもしれない)

女王の顔が思い浮かびます。

「少なくとも彼女はそのような邪悪な瞳はしていなかった! 戦う理由はそれで十分だ!」



「駄目じゃん女王様、一国の主がこんな前線にでてきちゃあヨ」

石弓を持った男は空いていた手で妖精国の女王の腕を掴んでいました。

「ぅ…く…。裏切り者はお前だったのですか……ボリス」

「三十点。まさか。……あなたより相応しい王に仕えただけです」

「…ぁ……ぅ」

「ねぇ? オウサマ」

「キャハハ! もっと血を吸わせてぇ!!」

(速い……)

赤い女は速さでフレイズに勝っていました。腕力では互角、もしくはフレイズの劣勢です。

『いいかフレイズ。自分より相手が強かった場合、いくつか勝つ方法はある――』

フレイズは赤い女に向かって中指を突き立てました。

「よ、弱ぇえんだよファッ(ピー)ッチ、二秒で(ピー)してやるから覚悟しろ」

「は?」

赤い女は速さを増します。

「……っ!」

「なぁにぃ? もう二秒経ったけど? ギャハハ!」

『――ひとつめ、まず相手の心を制し…』

「相手の力を利用する!」

「おげぇ!?」

剣を受け流された赤い女は体制を崩し、腹をフレイズの大剣でさし貫かれました。

フレイズは剣を素早く引き抜き女を横に両断します。

「ば…しゃ」

「…汚い女だ」

フレイズは遺跡の奥に急ぎます。

「遅かったじゃん?」

「お前は昨日の…?」

進路に立ちふさがったボリスを見てフレイズは足を止めます。

「! 女王陛下!」

「一人でノコノコでてきたからヨ、まるでお前の国に迷い込んだ人間みたいだろ?」

フレイズは女王を掴むボリスを睨み付けました。

「フレ…」

「女王陛下!」

ボリスはフレイズに石弓を突き付けます。

「動くなよ? ちっとでも動いたらこの子の頭が潰れたトマトのようになるゼ?」

「まずはそのデカい剣を捨てな」

「……」

ボリスに従い、フレイズは剣を投げ捨てます。剣は斜めに傾き遺跡の床に突き刺さりました。

「……次あう時は友達に慣れると思ってたんだがな」

ボリスがフレイズに石弓を引く直前、フレイズの大剣が弾けました。

大剣は刀身から刃の一部を吐き出し、ボリスの石弓を弾きます。

「な!? クソ!」

ボリスは石弓を取りに走り、フレイズは剣と女王を取り戻します。

「しっかり、女王陛下、気を確かに」

「…フレイズ様。気をつけて、あの弓は…」

女王を連れてその場を離れようとしたフレイズを、光の槍が襲いました。

とっさに剣で光を弾き、フレイズは女王を身の後ろに隠します。

「…まてヨおい。逃げりゃこの神の槍がお前らを纏めて貫くぜ?」

「神の槍…?」

ボリスは尋ねたフレイズに再度石弓を突き付けます。

「この神槍ブリューナクから作った弓の放つ矢は、弧を描き全てを貫く。…冥土の土産だゼ」

ボリスは石弓を撃ちました。

>ブリューナク

遊戯王カードにそんな名前の龍いたな

音をたてずにフレイズの剣がブリューナクの光を弾きました。

「……やっぱ簡単にはいかねぇか。だが女王を庇いながらいつまで耐えるつもりだ?」

ボリスは間髪入れずに光を連射します。その旅に石弓から噴き出る炎が暗い遺跡を照らします。

「フレイズ様……私を置いて、行ってください」

「できません」

短く女王に返したフレイズは、光条を防ぎきりました。

「…はっ、やーめた。二十点三十点の攻撃繰り返してても疲れるだけ……」

ボリスの石弓が大きな光を放ちます。

「百点の攻撃しかけて、一発で終わらせてやる…」

石弓は大きさを増し、人の胴ほどにも膨れ上がります。

「セェ・クール!!」

ボリスから遺跡の通路を埋め尽くすような光と力の奔流が発生し、フレイズと女王を薙ぎ倒そうと向かってきます。

「…フレイズ様!」

「……」

フレイズは大剣を自分と女王の間へ突き立てました。

「女王陛下、剣の影から動かないでください」

フレイズは右の拳に意識を集中させます。

「はぁっ!」

「あーあ、女王を消し炭にしちゃあ、やっぱ怒られるよなァ」

ボリスが煙りたつ石弓を担ぎ、その場を離れようとした時でした。

光を突き破ってフレイズが現れます。

「しぶといっ……!」

フレイズの剣がボリスを斬りました。

「勝利の後に油断する事なかれ。…今のお前は十点だな」

ボリスは床に崩れ落ちます。

「……クールじゃ、ねぇ」

フレイズは剣の血を払い、背に戻します。

「傷は……女王陛下」

フレイズは女王に駆け寄ります。

「大丈夫です、それより、先ほどから遺跡の奥より感じる、この異様な気の正体は……」

言われてフレイズも意識を研ぎ澄まします。

「……ニーズヘッグの臭いに似ています」

「…行きましょう、もし魔竜が奥にいるのなら、フレイズ様に受けた傷で弱っているはず」

女王は震える足で立ち上がりました。

「女王陛下……」

フレイズが女王の前に立ちふさがります。

「止めても無駄ですよ。魔竜に止めをさすチャンスなんです……」

女王はフレイズを睨みつけて言いました。

「いいえ、そんなつもりはありません。むしろ一緒に来ていただきたい」

差し出された手をおずおずと受け取って女王は戸惑います。

「え? えぇ……止めないんですか?」

「こういう状況で一人帰した者が無事に済んだ例を知りませんから」

フレイズは女王の手を引き遺跡の奥に進みます。

「……あなたは」

遺跡の奥には一つの人影がありました。

「女王陛下……何用ですかな。こんな辺鄙な場所においでになって」

「ガルザ?」

女王とフレイズの前に立つのは宮廷鍛冶師のガルザでした。

「あなたこそどうして――」

女王はフレイズの伸ばした腕に当たって歩みを止めます。

「失礼、ですが察せよ、女王陛下」

静かにガルザが笑います。

「……やはり、昨晩の内に始末しておくべきだったか」

音を立ててガルザの姿が変わっていきます。

皮は鱗に、毛はトゲとなって、ガルザはどんどん膨れ上がります。

「……だが、間抜けにも女王を連れてきてくれたのだ、感謝せねばな」

フレイズは大剣を構えます。

「そんな……ガルザがニーズヘッグだったの……?」

狭い遺跡でニーズヘッグの尾が暴れ回ります。

「陛下!」

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