深夜。
ロウソクの灯りがゆらめく机の上で、僕は今までの旅の内容をまとめようと筆を走らせていた。
リュカ「過去にも魔王と呼ばれるやつがいたらしいし、伝説というのも旅の中で色々聞いて助けられたからな……」
拙い文章になってしまうだろうが、これを後世に残すことで少しでも役に立つなら。
その程度の気持ちで、黙々と筆を走らせ続ける。
ふと、寝室のドアを開く音が聞こえてきた。
フローラ「あの、あなた……?」
小さな声で話しかけてくるのは、僕の最愛の奥さん、フローラだった。
リュカ「あ、ごめんフローラ、起こしちゃった?」
フローラ「いえ、そういうわけではないんですが……何をなさっているんですの?」
リュカ「ちょっとね、僕の旅も終わって結構経つし、今回の旅のことを文書にまとめておこうかなと思って筆を執ってたんだ」
フローラ「まあ、そんなことをなさっていたんですの?」
リュカ「アハハ、学がないから見るに堪えない文書になるだろうなと思うと、恥ずかしくって」
フローラ「そんなことありませんわ。とても立派だと思います」
そう言われると、照れくさくなってしまう。
フローラ「なにか、わたしにお手伝い出来ることはありますか?」
リュカ「ありがとう、でも大丈夫だよ。フローラはクリスとフィラの面倒を見ててあげて」
フローラ「子供たちならもう熟睡していますわよ?」
リュカ「なら、フローラも休んでていいよ。僕もそんなに遅くまでやるつもりはないから」
フローラ「でもあなた、今日も公務で忙しくなさっていたのに大丈夫なんですの?」
リュカ「大丈夫……ふわぁぁぁ……」
言いながら、あくびが出てしまう。
フローラ「ふふっ……」
リュカ「わ、笑わないでよフローラ」
フローラ「無理はしないでください、あなた。疲れているのでしょう?これから時間はたくさんあるんですから、ゆっくりやればいいのですわ」
リュカ「うん……わかったよ、フローラ。今日はもうやめる」
筆を机に置き、大きく伸びをする。
フローラ「よかった。疲れてつらそうにしているあなたを見るのはわたくしもつらいですもの」
ロウソクの火を消し、フローラと一緒に寝室へ向かう。
リュカ「それじゃおやすみ、フローラ」
フローラ「はい、おやすみなさい、あなた……」
ちょっと登場人物紹介
リュカ→主人公。時系列はミルドラースを倒して、グランバニアで暮らしている頃、つまりエンディング後
フローラ→嫁
クリス→リュカとフローラの息子で勇者。名前はゲームブック版より
フィラ→リュカとフローラの娘でクリスの双子の妹。名前はゲームブック版より
翌日。
いつものように公務に追われていると、遠征に出ていた兵士から、気になる報告が入った。
ピピン「リュカ王。ラインハット領の外れにある遺跡で、失踪事件があったとの報が」
リュカ「……っ!」
フローラ「遺跡?ラインハットの領内に、そんなものがあるんですの?」
ピピン「はい、フローラ王妃。どうも、ラインハットでの聞き込みで得た情報によりますと、以前その遺跡では子供の誘拐をしている賊が入り浸っていたこともあるとの話です」
リュカ「……わかった、ピピン。報告ありがとう」
ピピン「はっ!失礼します」
リュカ「あの遺跡で、失踪事件か……」
フローラ「あなた?あの遺跡、って、あなたは知っているんですの?」
リュカ「………昔、僕の父さんが魔族に殺された遺跡だ」
フローラ「! ………」
執務室に、少しばかりの沈黙が流れる。
フローラ「………なんだか、嫌な予感がします」
リュカ「ああ、僕もだ。……一度、様子を見に行った方がいいかもしれないな」
フローラ「あなた一人では危険ですわ。わたしも行きます」
リュカ「フローラも?でも……」
フローラ「何を言っても無駄です。知っているでしょう?わたしが意外と頑固なこと」
そう言われると、言葉に困ってしまう。
結婚した時からそうだった。僕の旅についてくると言いだした時も、魔王との戦いの為に魔界へ行く時も。
フローラは僕についてきてくれたし、それに助けられたのもまた事実だった。
リュカ「………わかったよ」
フローラ「クリスとフィラはどうしましょうか?」
リュカ「何か起こると決まったわけでもないし、二人は城に置いていこう」
フローラ「……少し、胸騒ぎがします。何もなければいいんですが」
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