乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」 (126)

乙女「ぷはっ!! はぁ、はぁ」

目の前に広がるのは大自然。
体が『落ちた』と感じた次の瞬間には、こんなとこに――

おかしい。今の今まで、私は…。

?「おい」

乙女「…っ」

呆然としていると、後ろから肩を叩かれた。
どこかで聞き覚えのある声。その声に反応し、振り返ると――……

乙女「あ、貴方は!」

その顔を見て、心臓が飛び出すんじゃないかってくらい驚いた。
だって、そこにいたのは――


乙女「一体どうなってるの…!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452160917

話は遡る…
舞台は現代日本


乙女「お帰りなさいませ、ご主人様…」

常連客A「いやぁ、相変わらずクールなお出迎えだね乙姫ちゃん!」

私の名は乙女、18歳。メイド喫茶『冥土屋』で、乙姫という源氏名で働いています。

メイドA「乙姫ちゃんは冥土屋きってのクールっ娘ですからねぇ~♪」キャピ

常連客A「うん、そこがたまらないよね! 黒髪ロングでクールキャラっていいよね。」

常連客B「俺が好きなのは、キミキスの二見さんとかまどマギのほむほむとか…」

乙女(私の場合、無愛想なだけなんだけど…物は言いようだなぁ)

クールはあくまでキャラ。私は若干コミュ障の気があり、感情を表に出すのが苦手だったりする。
そんな私が接客なんて無謀な仕事についたきっかけは、スカウトだ。
スカウトの人には上記の理由を説明したのだが「かえってイイ!」と押し切られてしまい、今に至る。

乙女「…上がり。私の勝ちですね」フッ

常連客A「うわぁーっ、負けちゃった! 乙姫ちゃん、ポーカーフェイス得意だから強いなぁ~!!」

乙女「ご主人様相手といえど、ゲームに関しては手は抜けませんよ」

私自身オタクなので、この仕事は結構楽しんでいた。
お客さん…じゃなくてご主人様達はこんな私にも寛容で、安心して働くことができていた。

メイドA「お疲れ様~」

乙女「お疲れ様です」

メイドB「これからカラオケ行く人ー」

メイドA「あ、いいですねー! 行きたい行きたい!」

キャイキャイ

乙女「それではお先に」

メイドA「あ、じゃあねー乙姫ちゃん!」

皆とはプライベートの付き合いを極力避けている。仕事仲間は仕事だけの付き合いでいる方が、距離感として丁度いいのだ。
皆も私のそういう所をわかってくれているので、気まずい関係になったりはしていない…と思う。

乙女(さて早く帰って続きをやろう)タタッ

こんな私の1番の趣味とは…。

===================
勇者【俺、魔姫さんと一緒にいると…何気ない風景も綺麗に見えて、何もしてなくても心がウキウキしてさ…】
===================


乙女(私もだよ勇者)

時間は夜遅い為、隣室の住人に気を使ってヘッドホンをしてゲームをしていた。
プレイしているのは今ハマっている乙女ゲー『逃走プリンセス』
魔王の娘となって、彼女を取り巻く男たちと恋愛するADVだ。

乙女(最初は勇者ノーマークだったけど、どのルートでも良い人だし段々好きになってきたのよね)

==================
勇者【魔姫さん。俺…初めて魔王城に乗り込んで、貴方に出会った時から、ずっと……】
==================

乙女(まさか告白!?)

==================
勇者【…いや。今言うのはやめておくよ】
==================

乙女(残念)


私の趣味は乙女ゲーだ。リアルの男の人との関係を深めるのは何となく苦手だけど、ゲームなら抵抗なく恋愛ができる。
学園、ファンタジー、メルヘン…色んな世界観でのストーリーに入り込めるのも楽しい。


乙女(あ、そろそろ日付け変わりそう。寝よう)

テレビを切ると部屋は静か。こんな生活も慣れた。
両親を早くに亡くし、育ててくれた祖母も亡くなってから、私はずっと1人だ。

でも、寂しくはない。私の居場所は冥土屋と、ゲームの中にあるのだから…。

>ある日…


乙女「お帰りなさいませ、ご主人様…」

新規客「ただいま~…でいいのかな? こういうお店初めてで…」

乙女(あ、新規さんか。高校生くらいかな?)

乙女「初めてのご帰宅ですね。冥土屋でのシステムをご説明させて頂きますと…」

新規客「ふむふむ、なるほどね~。ところで君の名前は?」

乙女「乙姫と申します。宜しくお願いします」

新規客「宜しく乙姫ちゃん。ねぇ、乙姫ちゃんの趣味は?」

乙女「ゲームですね」

新規客「そっかぁ。ねぇ、乙女ゲーとかやる?」

乙女「大好きです!」

乙女(ハッ。乙女ゲーと聞いてテンション上がっちゃった)

新規客「そっかー。僕、趣味でゲーム作ってるんだよね。乙女ゲー作ってみたんだけど、良かったらプレイしてみて感想くれない?」スッ

乙女「まぁ。これは嬉しい」

乙女(逃走プリンセス全ルート回収したから、そろそろ次の乙女ゲーやりたいなって思ってたんだよね)

こうして新規のご主人様にプレゼントを頂き、新たな婿探しの為に今日は急いで帰った。

帰ってから早速パソコンに貰ったゲームをインストールした。
普段使いのパソコンに入れる前に古いパソコンにも入れてみて、変なウイルスでないことは確認した。


乙女「スタート、っと」


タイトル画面:【追憶の扉】チャララ~


乙女(おぉ。タイトル画面だけで結構いい雰囲気)


==================
ガルルル、シャー

ヒロイン【何か、やな雰囲気…守護精霊ったら、何もこんな森で迷わなくても】
==================


乙女(主人公の名前は固定か。私はヒロイン、私はヒロイン…)

乙女(このゲームは主人公の顔表示も、CV(キャラクターボイス)もないんだ。女の子の顔描くの苦手だったのかな?)

乙女(どうやらヒロインは『守護精霊』っていう人を探しに森に来たらしい)


==================
ヒロイン【国境付近ってだけでも嫌なのに。敵兵に見つかったらどうするのよ…】

>ここ『覇王の国』は、隣国である『魔王の国』と度々小競り合いを繰り返している。
>争いが沈静化してきて、騎士団長であるお父様が休みを取れるようになったのは、ここ最近ようやくのことだ。
>タイミング的に、魔王の国で政権交代が行われたのとほぼ同時期だけど…。
==================


乙女(主人公は騎士団長の娘か。把握)


==================
魔物A【ガルルル!】

ヒロイン【きゃっ、魔物! しかも、こんなに沢山!】

選択肢
・逃げる
・戦う
==================


乙女(【戦う】にして死んだら、安易なウケ狙いだ…。とりあえず【戦う】っと)

==================
>私は小刀を抜くと、魔物の1匹を切りつけた。魔物の血が飛び散り、手応えを感じる。

魔物B【ガーッ!】

>けれど、かえって魔物達を逆上させてしまったようだ。

ヒロイン【くっ】

男【そこから動くな! うおおぉぉぉ…】

ヒロイン【えっ?】
==================


乙女(お、ここで攻略対象キャラ登場か。男キャラにはCVあるのね)

乙女(…おぉー強い、魔物達をあっと言う間に倒した)


==================
男【ケガはないか?】

ヒロイン【あなた…その格好、魔王の国の男ね…!】
==================


乙女(えぇー、何でそんな敵意剥き出しで言うの。助けてもらったんだからお礼言おうよ)

乙女(乙女ゲーの男キャラって大体は美形だから、あとは絵柄の好き嫌いだよね)

乙女(乙女ゲーによくある少女漫画タッチとは違って、何か写実絵…っていうのかな? 変わってるけど丁寧で、綺麗だなぁ)


==================
男【おやおや、こいつはとんだじゃじゃ馬だな。だけど…】顎クイッ

ヒロイン【っ!?】

男【嫌いじゃないぜ…聞き分けのない子猫ちゃんは】
==================


乙女(お、俺様系だ!)

乙女(俺様系で好きなキャラって少ないんだよね…この男はどうかな)

==================
ヒロイン【誰が子猫ちゃんよ! 魔王の国の男なんか嫌いなんだから!】

男【嫌い? そう面と向かって言われたら、意地でも好きって言わせたくなるな】

ヒロイン【…あんた、よっぽどの女ったらしなのね】

男【すぐ落ちる女に興味はないんだ。この俺にそんな反応してきたのは、お前が初めてだ】

ヒロイン【魔王の国の女は、あんたなんかでコロッと落ちるのね】

>その時、足音が近づいてきた。

側近【魔王様!】

ヒロイン【え…魔王?】

男→魔王【お、側近。悪い悪い、この女を口説いていた】
==================


乙女(あ、敵国の王が攻略対象キャラなんだ。この側近も対象キャラかな?)


==================
ヒロイン【な、何で魔王がここに…!?】

魔王【散歩だ。俺程に輝ける男になると、人のいない場所でないと落ち着いて散歩ができぬのだ】

ヒロイン【だからってこんな国境付近なんて…】

魔王【お陰でいい出会いがあった。お前、また俺に会いに来い】

ヒロイン【は?】

魔王【では、さらばだ! ハーッハッハ!!】
==================


乙女&ヒロイン「バカだ」

==================
守護精霊【ヒロイン~。君の守護精霊である僕を探しにわざわざ危険な所に来るなんて、何考えているんだよぅ】
==================
料理長【お帰んなさい、お嬢様! おやおやぁ~? どうしたんスか、不機嫌なツラしちゃって!】
==================
騎士団長(父親)【何、魔王に会った? そうか…奴は先代と違い穏健派のようだが、油断は禁物だ】
==================


乙女(守護精霊が少年で料理長はチャラ男か…攻略対象キャラかな? 説明書ないとわからないなぁ)


==================
ヒロイン【変な時間にお腹すいたわ…。あれ、料理長がいない】

選択肢
・つまみ食いする
・料理長が戻ってくるまで我慢しよう
==================


乙女(後者の選択肢なら料理長とのイベントがあるのかな? …前者はどうなんだろ。【つまみ食いする】っと)


==================
守護精霊【あーっヒロイン、こんな時間につまみ食いすると太っちゃうぞー】
==================


乙女(なるほど、前者は守護精霊とのイベントか。メモメモ、っと)カリカリ

乙女(…っと、こんな時間。今日はここまでにして…。明日は休みだから、誰か1人のエンディング見たいかな)

乙女(それにしてもこのゲーム、グラフィックは綺麗だしCVも違和感ないし。趣味で作ったにしては、クオリティ高いかも)

初回はここまで。
恋愛ゲームはギャルゲーも乙女ゲーも面白い。

さてどうなる

あんたか。今年も宜しく。

乙女ゲーの筋肉枠はシュワちゃんを見習うべき

==================
ヒロイン【あれ? 料理長、何で国境付近の森なんかに入っていくんだろう。追ってみよう】

ヒロイン【~っ、見失った!】

魔王【よう。俺に会いに来たのか?】

ヒロイン【げ。あんたに用なんかありません!】

魔王【俺はある。お前の時間を俺に分けろよ】

ヒロイン【あら。魔王様ともあろうお方が、敵国の女に夢中なのかしら?】

魔王【勘違いするなよ。俺にとってお前は女というより、聞き分けの悪い犬だ】

ヒロイン【『じゃじゃ馬』とか『子猫ちゃん』とか、今度は『犬』って…私の名前はヒロインよ、動物なんかじゃないわ】

魔王【そうかヒロインか、可愛らしい名だな。お前を手懐けてやるから、覚悟するのだな】

ヒロイン【…】

選択肢
・無視して料理長を探す
・罵る
==================


乙女(前者が料理長とのイベントかな? 昨日は料理長とのイベント見逃しちゃったし、前者の選択肢は料理長を攻略する時に選ぼう。【罵る】っと)メモメモ


==================
ヒロイン【頭湧いてんじゃないの、あんた寒いのよ! 大体、敵国の王にしっぽ振るようになる女がいるかってーの、バカ!】

魔王【なる。何せ俺は魔王様だ】

ヒロイン【何を根拠に…】

魔王【敵国なんて括りは無くしてみせる。そうすれば覇王の国の女も、安心して俺に惚れることができるだろう】

ヒロイン【括りを、無くす…?】

魔王【わからぬか? 争いを完全に無くすと言っているのだ】

ヒロイン【な、何言ってるかわかってるの!? 何代にも続いた争いを無くすなんて…!】

魔王【俺だからできるのだ。それともお前は争いを望むか?】

選択肢
・そりゃ、争いなんて無い方がいいけど… ←ピッ
・争いを無くすなんて無理に決まってるでしょ

ヒロイン【そりゃ、争いなんて無い方がいいけど…】

魔王【だろう。喜べ、争いの無い時代はもうすぐだ】

>この男、本気で言っているの…?
>だけどその目は、何事も可能にしてしまうような、自信に満ちあふれた目だった。
==================

==================
ヒロイン【――っ】フラッ

>その時、私は目眩がしてよろめいた。

魔王【おっと。どうした、俺の偉大さに心を打ち抜かれたのか】ハハハ

側近【魔王様、大変です!】

魔王【どうしたのだ、そんなに慌てて】

側近【この近辺で強力な幻惑魔法の魔力が流れています】

魔王【ほう?】

ヒロイン【(幻惑魔法の…?)】クラクラ

側近【このままでは両国の近辺の町村に被害が及びます】

>私の頭がクラクラしているのも、そのせいか。
>だけど今まで、そんな事例なかったのに…。

魔王【被害は最小限にとどめねばなるまい】

ヒロイン【魔王…?】

>真剣そのものの顔。いつものふざけた彼とはまるで別人だ。

魔王【側近、お前はその女を頼んだ! 魔力の濃い場所へ行って、原因を絶つ!】

側近【危険です魔王様! それよりも魔王様の安全確保を…】

魔王【この世界は俺程の男にとっては、どこも安全だ。この事態を収束できるのは、この俺! 魔王様だけだ!】ダッ

側近【あっ…魔王様っ!】

ヒロイン【(魔王…)】

選択肢
・信じて魔王を待つ
・追いかける
・魔王の国の男など信じられない。その場から逃げる
==================


乙女(ここでルート分岐かな…? 迷惑なことしたくないし【信じて魔王を待つ】っと)


==================
魔王【急げ…被害を出すわけにはいかん…!】ダダッ


ヒロイン【(この情景は…?)】

>魔法が見せる幻惑か。私の脳内に、魔王の姿が浮かんできた
==================


乙女(あ。今の選択肢、魔王ルート?)メモメモ

==================
悪魔【おーい魔王、大丈夫かー?】バッサバッサ

魔王【悪魔! 危険だ、避難しろ!】
==================


乙女(あ、唐突に新キャラが。選択肢次第で登場の仕方が変わったのかな?)


==================
悪魔【俺は上空にいるから安全だ。何か手伝えることはねーか?】

魔王【至急、周囲の町村に事態を伝えてくれ! 魔王の国、覇王の国、関係なくだ!】

悪魔【オッケー、お安い御用! そんじゃ、行ってくるぜ!】バッサバッサ


ヒロイン【(魔王…敵国のことも案じてくれているの?)】

悪魔【お、そこにいるのは…いよっす、側近! ん、その子は?】

側近【覇王の国の娘だ。恐らく、幻惑魔法にやられたのだろう。お前は何をしている?】

悪魔【魔王に頼まれて、周辺の町村に避難勧告を出してきた。被害が出る前に、住人たちは避難したぜ】

側近【…魔王様のことだから、覇王の国にも勧告を出すよう言われたのだろう。何とお人好しなのだ、あの方は】

悪魔【側近が魔王の目指す『両国の平和』について行かなくてどうするよ。それにただのお人好しが、あんなに熱い男のわけがない】


魔王【見つけた…! 『幻惑の花』が何故こんなに沢山…くっ】クラッ

魔王【流石に花の近くは俺でもクラッとくるな…だが!!】

魔王【この俺を惑わせる者など、存在しないのだ!! おらあぁ――っ!!】

>魔王の剣が花を切り払う。ひと振りで花は吹雪のように舞った。
>そして舞った花は導かれるかのように、魔王の手元へ集まっていく。

魔王【全てを焼き尽くせ…“インフェルノ”】

>魔王の手から炎が燃え上がり、花を焼き尽くした。

魔王【これで原因は絶たれた。あとは…】

>そこまで見た所で、私の意識は途絶えた。
==================

==================
ヒロイン【うーん…】

魔王【よう。目、覚めたか?】

ヒロイン【ま、魔王!? ここは…】

魔王【あぁ悪い。幻惑に相当ひどくやられているようで、とりあえず城に運ばせてもらった】

ヒロイン【なっ!? こ、ここは敵地の城!?】

魔王【おいおい。然るべき治療を受けなかったら、お前あのまま昏睡状態になっていたんだぞ】

ヒロイン【う。あ、ありがとう…】

魔王【心がこもってないな。まぁいい、どうせ言葉だけじゃ足りん!】ドサッ

ヒロイン【なっ!?】

>私は起こした体を再びベッドに押し倒された。

魔王【礼は行動で示してもらおうか…お前、俺のモノになれ】

ヒロイン【な…】

魔王【安心しろ…ウブな小娘には優しくしてやるよ】

>魔王の綺麗な顔がゆっくり近づいてきた――

ガラガラッ

悪魔【待ったああぁぁ!!】
==================


乙女(メッセージ巻き戻し、音声再生っと)


==================
魔王【礼は行動で示してもらおうか…お前、一時的に俺のモノになれ】
==================
魔王【安心しろ…ウブな小娘には優しくしてやるよ】
==================


乙女(よし、スマホで録音できた。魔王の声の人の演技、臨場感あって好きだな~)

乙女(さて、続き続き)


==================
魔王【悪魔…邪魔するなよ】

悪魔【そんな破廉恥、幼馴染として許しませんよ! ほら離れた離れた!】グイッ

ヒロイン【あ、ありがとうございます】

魔王【…俺には渋々『ありがとう』で、コイツには『ありがとう“ございます”』か】

悪魔【お前の日頃の行いの悪さのせいじゃねー?】

魔王【うるせーな】
==================


乙女(悪魔は普通の人っぽい。何か安心感)

乙女(その後ヒロインは普通に家に帰って、あったことを報告した。家の人たちの反応はこう)


==================
騎士団長【そうか…。我が国の民やお前も助けられたか。魔王…敵として憎むだけの相手にはならないようだな】
==================
料理長【俺がこんなこと言うのも何なんすけど~…魔王と会うのはこれっきりにしといた方がいいっすよ? どんな危険な目に遭うかわかんねぇぜ】
==================
守護精霊【今度から国境付近に行くなら僕も連れてってね! 魔王は悪い奴じゃないにしろ、ヒロインと2人きりはやっぱりちょっと…】
==================


乙女(それぞれスタンスは違うみたい)

乙女(とりあえず守護精霊を引き連れて国境付近に行く選択肢を選んでみるかな)

乙姫(すると魔王は悪魔と一緒にヒロインを待っていた)


==================
魔王【おぉ、やはり来たか。俺に会いたくて会いたくて仕方なかったんだろう、んん?】

悪魔【そんなわけねーだろ。ヒロインちゃん、万が一こいつがセクハラしてきても俺が止めるから安心してな】

魔王【セクハラではない。魔王様的求愛行動だ】フフン

悪魔【…お前、ヒロインちゃんのこと好きなの? 愛されたいの?】

魔王【興味あるのは否定しない。この俺の魅力にほだされぬ女を攻略してみたいという、魔王様的探究心だ!】

ヒロイン【今までほだされてきた女は、あんたのどんな所にほだされてきたのよ】

守護精霊【あ、はは…何か個性的な王様みたいだね】

魔王【俺に会いたくて来たのだろう。2度も危険な目に遭っておいて、他にこんな所に来る用事もあるまい】

ヒロイン【別に。両国の和平についての話に興味があって】

魔王【おぉ。俺の野望に目を興味を持つとは、なかなか見所のある女だな】

ヒロイン【あんたの先代も、その先代も、覇王の国を手に入れようとしていた猛将じゃない。あんただって、そういう教育を受けてきたんでしょ?】

魔王【ハンッ。教育ごときで揺らぐような軟弱な魂は持ち得ていない】

ヒロイン【…というと?】

魔王【俺は生まれながらの平和主義者だ! この世の中を変えるべく天命を背負った、強く美しいヒーローなのだ!】

ヒロイン【(それは魔王じゃなくて勇者の役割な気はするけど…けど、こういう言葉を恥ずかしげもなく言える男なのね)】
==================

==================
魔王【なぁ。お前はこの争いについて、どう思っている】

>魔王は急に真顔になった。さっきまでのふざけた雰囲気は、どこへ行ったのか。

魔王【覇王の国に住む女としての意見を知りたい。率直に聞かせてくれ】

ヒロイン【私は…】

選択肢
・両国のトップだけでなく、大臣や貴族も絡んでいる話だから難しいのでは
・とにかく争いなんて間違っているわ ←ピッ
・わからない

ヒロイン【とにかく争いなんて間違っているわ。敵に安全を脅かされるかもしれない不安に苛まれて生きていくなんて、少なくとも私はもう御免よ】

魔王【ふむ】

ヒロイン【?】

>魔王は口元に上機嫌な笑みを浮かべている。私の回答は、魔王の気に入るものだったのか。

魔王【魔王からその質問をされた場合の、大抵の女の回答パターンは2つ。にわか知識で背伸びした答えを言うか、何も言わないか、だ】

守護精霊【ふむ?】

魔王【前者は駄目だ。にわか知識での回答など、俺には全く役に立たない。後者も駄目だ、変なことを言って恥をかきたくないというプライドは邪魔だ】

悪魔【で、ヒロインちゃんの回答は?】

魔王【変に背伸びもしない、いち一般人の女としての等身大のありのままの回答だ。俺はこういった素直な回答を欲していた】

ヒロイン【よくわからないけど、役に立ったの?】

魔王【役に立たせようと思って聞いた質問ではない。結果として、俺はますますお前を気に入ったぞ!】

ヒロイン【全く嬉しくないわ】

魔王【こちらの反応は素直ではないな…まぁ、全てにおいて素直すぎるのもつまらんが】

ヒロイン【これが素直な感想よ! 思い上がりがひどいわね!】

悪魔【まぁ、こういう奴だから】

魔王【偉大なる魔王様だからな!】

悪魔【ばーか】
==================


乙女(どの選択肢がいいかわからないから勘で選んだけど正解だったみたい)

==================
ヒロイン【あんた個人はともかく、本気で和平を望むのなら応援するわ】

魔王【ほう? 魔王の国の男など嫌いなのではなかったか?】

ヒロイン【そ、それは…敵国の男に弱い所なんて見せられないし…。あぁもう、初めて会った時のことは謝るわ!】

魔王【ふっ。微塵も気にしていない】

ヒロイン【ほんとに?】

魔王【お前は小型犬がキャンキャン吠えてくるのに、いちいちイライラするか?】

ヒロイン【…】

>つまり私は小型犬か…って、いちいちこいつの言うことを真に受けていても仕方ない。

ヒロイン【とにかく! 私はあんたに賛同するわ。何か力になれることがあれば言って】

守護精霊【僕も力になる~♪】

魔王【ほう? なら俺に奉仕することだな。精力が満たされれば俺の力も…】

悪魔【あ・ほ・か!】

魔王【ふっ。お前のような小娘ごときに頼る気などない】

ヒロイン【むぅ…】

選択肢
・父親のことを言う
・言わない方がいいかも…
==================


乙女(多分攻略対象キャラだし、信用して大丈夫でしょ…【父親のことを言う】っと)


==================
ヒロイン【確かに私自身は無力に等しいわ。でもお父様への説得くらいならできるわ】

魔王【父親?】

ヒロイン【私のお父様は、覇王の国の騎士団長なのよ】

守護精霊【なのだー♪】

悪魔【えっ。覇王の国の騎士団長と言えば、疾風狼と呼ばれた…】

魔王【…ほう】

ヒロイン【お父様は覇王様からの信頼も厚いから、きっと何かの力になれると…】

魔王【魔王と疾風狼の娘か…ふむ、組み合わせとしては良い】グイッ

ヒロイン【…え? ちょ、何…】

魔王【お前、俺のモノになれ】

ヒロイン【………は?】

守護精霊【えっ?】

悪魔【えっ?】
==================


乙女(巻き戻し…録音、録音)

==================
魔王【和平といえば政略結婚だ! もう1度言う、お前、俺のモノになれ!】

ヒロイン【いきなり話が飛躍しすぎでしょ!?】

悪魔【んー…間違ってはいないんだよなぁ。バカだけど】

魔王【ふふん。そうだろう、そうだろう!】

ヒロイン【そんな安易な…大体、あんたが私の旦那様なんて冗談じゃないわ】

守護精霊【ヒロインはスウィ~トな恋愛結婚に憧れているもんね】

ヒロイン【余計なことを言うなーっ!】ギュウゥ

守護精霊【いでで】

魔王【ならば簡単だ。お前が俺に惚れればいいだけのこと】ガシッ

ヒロイン【ちょっ!? 何、下ろせ!】

魔王【聞き分けのない犬は調教してやろう。行くぞっ!】ダーッ

ヒロイン【どこへ行くうううぅぅ!?】

守護精霊【足、はえー…】

悪魔【覇王の国に向かったか…自国じゃないから、よっぽど変なことはしないと思うけど】


>しばらくして私は覇王の国にある街で下ろされた。
>ここはオシャレな外観が売りで、恋人たちのデートスポットとしても定番なのだけれど…。

魔王【どうした、歩くのが遅いぞ】

ヒロイン【あんたが早いのよ!】

魔王【俺は遅い奴に合わせる、なんてことはしないからな?】

ヒロイン【強引に連れてきておいてその言い草はないでしょ。ていうか、何で敵国の街を勝手知ったるように歩くの!?】

魔王【そりゃ、魔王になる前からしょっちゅう来ていたしな】

>開いた口が塞がらないとはこのことか。うちの国はしょっちゅう、敵の王族に侵入されていたわけか。
>…というか、そんなこと平然とできる奴の気が知れない。

魔王【とっとと来い。…はぁ~ん? さては…背負われたいのかぁ?】

ヒロイン【そんなわけあるか!】
==================


乙女(ヒロインのツッコミが的確すぎて、すっごい感情移入できる…)

==================
>「俺が戻るまで待ってろ」と言い残し店屋に入っていった魔王は、少しして戻ってきた。

魔王【ほら、主従の証にくれてやる。開けてみろ】フフン

ヒロイン【何かそう言われたら開けたくないんだけど】

魔王【いちいち反抗的な奴だな。ますます気に入ったぞ】

ヒロイン【これ以上気に入られたくないから開けるわ】

>私は丁寧に包装されていた箱を開けた。
>すると真っ先に、紫色の花をモチーフにした飾りが目に入った。

ヒロイン【これ…花のネックレス?】

魔王【まぁ、犬の首輪のようなものだと思ってつけてみろ】

ヒロイン【つける気が失せるようなこと言うな】

魔王【ネックレスはネックレスだ、お前を輝かせることに変わりはない】

ヒロイン【……】

>確かにキラキラしたネックレスは美しくて、心惹かれるものがある。
>正直、私好みだ。……見透かされているようで、ちょっと悔しいけど。

選択肢
・受け取る ←ピッ
・返す

ヒロイン【ありがとう。大事にするわ】

魔王【ちなみにモチーフとなった花はヘリオトロープ。花言葉は『忠誠心』だ】

ヒロイン【へぇ? あんたが私に忠誠を誓ってくれるの】

魔王【ジョークのセンスがないなら言わない方がいいぞ?】

ヒロイン【こっちのセリフだわ】
==================

==================
魔王【まだ少し早いが、いい空になってきた】

ヒロイン【?】

>空は薄暗い。冬が近づいてきて、陽が落ちるのが早くなっているのだ。

魔王【世の中には無駄な魔法、と言われている魔法も存在する。だが魔法が戦闘の為のものだという認識があるから無駄だと言われているが、平和になれば重宝されるものだと俺は思う】

ヒロイン【どんな魔法かしら?】

魔王【その目に焼き付けて、魅了されるがいい】

>魔王は空に手をかざす。その手は強い光を発し、そして――空に星が流れていった。
>満天の星空が地上を照らし、人々は目を奪われていた。

ヒロイン【(綺麗…)】

>これが魔王の言う『無駄な魔法』。無駄だけれど、その美しさは心に焼き付けられる。

ヒロイン【(魔王のことだから、得意げに『どうだ俺に惚れ直したか』とか言うのかしら)】

>そう思いながら魔王の横顔を見ると…魔王は思い切り息を吸い込んでいた。何をやっているのだろう。

【あっ流れ星だ】

>誰かがそう言った途端――

魔王【ヒロインと! 結婚できますようにいぃ――っ!!】

ヒロイン【なっ!?】

>最低にかっこ悪い告白だった。
>私達をカップルと勘違いしたのか、周囲からは祝福の声援が飛ぶ。

ヒロイン【ちょっと来なさい!】

魔王【どうしたー、照れたのか? ん?】

>バカをほざく魔王を引っ張って、私はその場を離れた。
==================

==================
ヒロイン【バカなの!? 自分で作り出した流れ星に願いを叫ぶ奴がいるか!】

魔王【俺が流れ星の迷信など信じているわけないだろう。演出だ演出、惚れるだろう?】

ヒロイン【あんなのに惚れるのは相当なバカ女よ!】

魔王【ふっ。宣言しよう、お前はいずれそのバカ女になるのだ】

ヒロイン【…】

ヒロイン【私との結婚話なら、お父様に話を通しなさいよ】

魔王【む? そうか『私の親に会って』の段階に来たか!】

ヒロイン【違うわよ。政略結婚なら本人でなく、親を通した方がスムーズよ】

魔王【それは好まん】

ヒロイン【何でよ】

魔王【それだとお前は和平の為の道具になってしまう。愛し合っていない結婚など、俺は嫌なのだ】

ヒロイン【あんた…】

>変に人を振り回すくせに、そういう所は相手の気持ちを汲むのか。
>ますます、魔王のことがわからなくなってきた。

ヒロイン【あんたこそ、どうなのよ】

魔王【何がだ?】

ヒロイン【あんたにとって、私は犬みたいなもんなんでしょ。和平の為に犬と結婚するわけ?】

魔王【おぉ。ようやく自覚してきたか】

ヒロイン【受け入れたわけじゃないわ!!】

魔王【お前、勘違いしているぞ】

ヒロイン【え?】

魔王【俺はお前を好いている】

ヒロイン【――っ!!】
==================

==================
魔王【生意気なところも、はっきりものを言うところも、変に背伸びしないところも、小さい胸も、俺は好きだぞ】

ヒロイン【最後のは余計よ!】

魔王【お前のような女を側に置きたいと思っていた。それが騎士団長の娘ときた、なら結婚せねばなるまい】

ヒロイン【せねばなるまい、ってあんたね】

魔王【俺のお前への気持ちは結婚に必要な条件を満たしている。あとはお前の気持ち次第だ】

ヒロイン【わ、私は…】

選択肢
・正直、戸惑っていた ←ピッ
・そんなの考えられない

>正直、戸惑っていた。
>男の人に好意を寄せられることに慣れていないわけではない。だけど魔王の好意はどストレートで、強引なのにこちらを気遣ってもくれて…こんなにも、気持ちをかき乱されるなんて。

魔王【お前、悪くは思っていないだろう?】

ヒロイン【なっ!?】

魔王【わかるんだ】

ヒロイン【――っ!】

>魔王は顔を寄せ、耳元で囁く。

魔王【お前、俺に見せる顔が段々可愛くなってる――だから、わかるぞ?】

ヒロイン【…ずるいよ】

>人の表情が読めるなんて、ずるい。
>私もまだはっきり自覚していない気持ちを、よりにもよって魔王がわかってしまうなんて。

魔王【俺は魔王様だからな】

ヒロイン【…ばか】

>魔王が私の背中に手を回す。私は抵抗する気も無かった。
>こんなに強引なのに、抱き締める力は優しくて。それがまた、ずるい、と思った。
==================

乙女(この魔王、最初は苦手だったけど好きになってきた。このまま魔王攻略突き進もう!)


スマホ<♪君は美しき薔薇~ 薔薇を愛でるのに理由がいるのだろうか~


乙女(あ、冥土屋から電話だ)「もしもし、おはようございます」

スマホ<「おはよう乙姫ちゃん! ごめん、Bちゃんが熱出しちゃって、急遽今日シフト入ってくれないかな?」

乙女「今日ですか……」(ゲーム続きやりたいなぁ)

スマホ<「乙姫ちゃん。『天界の執事』☆5カードの『ティータイム執事』を引いたんだけど…」

乙女「!」ピクリ

スマホ<「シフト入ってくれたら、プレゼントするわよ?」

乙女「行きます!」

スマホ<「ありがと~♪ それじゃ、待ってるわ♪」

ピッ

乙女(ゲームは惜しいけど、楽しみが先延ばしになったと思えば。ゲーム攻略にアプリの育成、やることが沢山で忙しいわ!)

今日はここまで。
自分は恋愛ゲーでは本命は後にとっておきます。

おつー
ギャルゲーみたいなssはよく見るけど、乙女ゲーは珍しいから期待しとくw

これが乙女ゲー世界の戦闘か…

>冥土屋


乙女「お帰りなさいませ、ご主人様…」

新規客「やぁ! 今日も来ちゃったよ」

乙女「まぁ、ありがとうございます。メニューは如何なさいますか?」

新規客「メイドさんのオリジナルカクテルちょうだい。指名は、乙姫ちゃんで」

乙女「はい。ご指名ありがとうございます」

新規客「ところで乙姫ちゃん、昨日のゲームどう?」

乙女「えぇ、面白いですね。魔王にプロポーズされた辺りまで進みました」

新規客「お、最初から魔王ルート進んだか~」

乙女「特に誰を狙っていたわけでもないのですが、『これだ!』って思う選択肢を選んでいたら自然と」

新規客「そっかそっか。結構よく出来てるゲームでしょ~」

乙女「はい、グラフィックも綺麗ですし…。そう言えば魔王がヒロインに渡したネックレス、センスいいですよね。あれもご主人様がデザインされたんですか?」

新規客「いや、実物を見ながら描いた。ほら、これ」

乙女「あ、ゲームと同じですね」

新規客「よし。あのゲームのプレイヤー第1号の乙姫ちゃんに、特別にこれあげちゃう!」

乙女「まぁ…よろしいのですか?」

新規客「いいのいいの。…あ、別に花言葉の忠誠心がどうのこうのとかって意味合いはないからね」

乙女「えぇ。ありがとうございます」

>そして帰宅…


乙女(さーて続き。魔王とのデートを終えて帰る所からスタート)

乙女(家に戻ったヒロインは色々悩んでいる。魔王のこと大分意識してきてるみたい)

乙女(もどかしいなぁ。ゲームの中に入ってヒロインに憑依して、このままエンディングに突っ走りたい気分だわ)

乙女(…ん? 何かBGMが止まった)


==================
守護精霊【魔王の国で、魔王が何者かに襲われたそうだよ】

ヒロイン【何ですって! 魔王は無事なの!?】

守護精霊【幸い、軽いケガだけで済んだみたい。襲撃した犯人は取り逃したみたいだけど…】
==================
料理長【あの魔王にケガをさせて、その上逃げ延びることができる奴なんて…まさか!!】

ヒロイン【ど、どうしたの?】

料理長【そんなことできるの…俺は“疾風狼”たる、ご主人しか知らない】

ヒロイン【(お父様が…!?)】
==================
側近【貴様、疾風狼の娘らしいな。命を獲る為に魔王様に近づいたのか!】

ヒロイン【そんなんじゃ…】

側近【もう2度と魔王様に近づくなよ!】
==================
ヒロイン【お父様がやったのかしら…】

守護精霊【…正直、わからない。数日前からご主人様は隠密行動をしているとの事だし…】

ヒロイン【(もしお父様だとしたら…魔王は無事ではいられないわ)】
==================
ヒロイン【(国境付近…今日も魔王は来ない)】

ヒロイン【(魔王…あなたと話がしたい)】
==================


乙女(これは不穏な流れ…)

乙女(障害があってもヒロインと魔王を成就させなきゃ! 燃えてきたわ!)

==================
>国境付近


ヒロイン【(今日も魔王は来てない、か……)】

悪魔【ヒロインちゃん、いたいた!】バッサバッサ

ヒロイン【悪魔さん! あの…】

悪魔【あぁ、魔王のことだろ。この間の件で、魔王は城を抜け出せない状態なんだ】

ヒロイン【やっぱり…】

悪魔【知っているかもしれないけど、こちらの国の重役たちは、君の父親に疑いを向けている】

ヒロイン【…ここ数年で争いが沈静化してきたのに、この件でまた不穏になってきたわね】

悪魔【国境付近も危ないかもしれない。ヒロインちゃん、しばらく来ない方がいいよ】

ヒロイン【(確かに私は騎士団長の娘だから、魔王の国の人には敵視されるでしょうね…)】

選択肢
・大人しく帰る
・悪魔に伝言を頼む ←ピッ

ヒロイン【待って悪魔さん。せめて、魔王に伝言を伝えてくれないかしら】

悪魔【…伝言じゃきっと、伝わらない。魔王に変な誤解を与えるかもしれない】

ヒロイン【そうかもしれない。けど直接会えないなら…】

悪魔【ヒロインちゃん…君は魔王が好きか?】

ヒロイン【えっ?】

>どうして突然そんなことを言うのだろう。
>だけど悪魔さんの瞳は真剣そのもので――

ヒロイン【私は――】
==================


乙女(出たわ選択肢。そんなの、決まりきっている――【私は魔王が好き】で決定!!)

==================
ヒロイン【私は魔王が好き!!】

>あの時抱きしめてくれた感触が忘れられない。
>魔王は強引で、バカで、自己中心的で、本当に私の心をかき乱して――私の心を奪っていった。

悪魔【ヒロインちゃんがあいつのこと好きなら…俺は協力するよ。2人がまた会えるように】

ヒロイン【本当!?】

悪魔【だけど危険を伴うよ。それでもいいなら、今晩の内に会えるように手配する】

ヒロイン【構わないわ】
==================


乙女(魔王との再開か~。待ってました)ワクワク

乙女(ヒロインはその夜に家をこっそり抜け出し、悪魔の案内で魔王の国に入っていった)

乙女(そして悪魔が用意した屋敷に通され――)


==================
魔王【ヒ、ロイン…? ヒロインなのか……?】

ヒロイン【魔王……】

魔王【ヒロインッ!】

>私の存在を認めると同時、魔王は力強く私を抱きしめてきた。
>私をその体で感じようとしてくれている。私をもう離すまいという気持ちが、抱きしめる強さで伝わってきた。
==================

==================
魔王【俺は魔王だ、命を狙われることなど怖くはない】

魔王【だが、お前と引き裂かれることを考えると…胸に痛みが走って、同時に哀しくなった】

ヒロイン【同じ気持ちよ。あの国境で、どれだけあんたを待っていたことか】

魔王【お前が俺を騙せるわけがないんだ。俺にはわかっている】

ヒロイン【どうして、信じてくれるの…?】

魔王【お前は俺のモノだからな。…お前だから、信じられる】

ヒロイン【あんたらしいわね…ばか】
==================


乙女(録音、録音)


==================
魔王【ヒロイン…お前に、俺の全てを刻みつけたい】
==================


乙女(ん?)


==================
ヒロイン【えぇ。…知って、私の全てを】

魔王【ヒロイン…】バサッ
==================


乙女(え、ちょ、これまさか18禁!?)アワアワ

==================
>暗闇の中、魔王の全てが刻みつけられる。私は全身で魔王を感じ、痛みすらもその証であると喜びに変わった。
>永遠にはならない時間。だからつながりに未練を抱く程に、愛おしかった。

>それは、忘れられない夜となった。
==================


乙女(あー良かった…。『匂わせる表現』でとどまっている)ドキドキ

乙女(ピロートーク恥ずかしいから飛ばそう)ダッダッダ


==================
魔王【そろそろ帰らんとな。城の者に怪しまれる】

ヒロイン【魔王…】

魔王【決意した。必ずお前を迎えに来る、俺の花嫁としてな!】

ヒロイン【…えぇ!】
==================


乙女(きっと大変だと思うけど、何とかなるよね。だって自信満々で強引な『俺様系魔王』だもん)

乙女(これからどんな困難が待ち受けているのか…って、ん!)

==================
悪魔【覇王の国に入ったから、もう安心かな】

ヒロイン【あとは1人で帰れます。悪魔さん、ありがとうございました】

悪魔【おう! 親友の恋路は全力で応援するぜ!】

>悪魔さんと別れ、家への道を戻る。
>その道中も私は幸せな気分に浸っていた。

ヒロイン【(もうすぐ街に着くわね)】

>使用人達は私が抜け出したことに気付いているだろうか。
>もし気付かれていたら、何と言い訳すべきか――

>そう思っていた時だった。背後で「ガサッ」という音がしたのは。

>次の瞬間――

ヒロイン【――っ!】

>背中に焼けるような痛みが走った。
>一体、何……? それを確かめる前に……

?【……】

ヒロイン【だ、れ……?】


>私の意識は闇に呑まれていった――




~END~
==================

乙女「え…っと」

乙女(ヒロイン死んじゃったの? これバッドエンド?)

乙女(どこで選択肢間違えたかなぁ…まぁバッドエンド回収だと思えばオッケー)

乙女(選択肢の度にセーブしてたし、選んだ選択肢もメモしてたし。まずは1つ前の選択肢から…)

乙女(…って、あれ? 画面から切り替わらない。自分でリセットする仕様か)

乙女(えっと、終了ボタン……)

乙女「――っ?」

その時、パソコンの画面が強い光を発した。
これは――変なウイルス? だけどパソコンの光度を最大にしたって、こんな光は――


――この物語をハッピーエンドにするには【貴方】が必要


乙女(えっ?)

突如聞こえた声に驚く。
声が聞こえてきた方向に目をやると――

乙女(う、嘘!?)


あの、新規客さんに頂いたネックレスが光っていた。


――救ってあげて。この世界を、そして【彼】を――


乙女「――」

ヒュウウゥゥ…

乙女「――え?」

じゃばーん

乙女「ぷっ!?」

突然の出来事に理解が追いつかなかった。
現状、私は――溺れている!?

乙女「ぷはっ!! はぁ、はぁ」

目の前に広がるのは大自然。
体が『落ちた』と感じた次の瞬間には、こんなとこに――

おかしい。今の今まで、私は…。

?「おい」

乙女「…っ」

呆然としていると、後ろから肩を叩かれた。
どこかで聞き覚えのある声。その声に反応し、振り返ると――……

乙女「あ、貴方は!」

その顔を見て、心臓が飛び出すんじゃないかってくらい驚いた。
だって、そこにいたのは――


乙女「一体どうなってるの…!?」


魔王「…? 唐突に降ってきたと思ったら。おかしな女だな」


紛れもなく、先ほどまで攻略していた魔王だったのだから。

今日はここまで。
ベストな選択肢を選んできたつもりでバッドエンド突入した時の悲しさといったらもう。

>>30
流石にこのssの戦闘シーンは短すぎますが、自分がやってきた限りだと、ギャルゲーに比べて乙女ゲーは戦闘シーンめちゃ短いですね。

ギャルゲーには戦闘メインになるものも存在するからな、おつ

エロがおまけの男用美少女ゲームはよく聞くけど乙女ゲームにもそういうのあるのかね

乙女(何で魔王がここに? ていうか、ここどこ!?)

魔王「おい女」

乙女「は、はいっ!?」

口元は笑っているが、その眼光が鋭い。
やはり色々馬鹿でも魔王。急に現れた不審者を警戒しているのだろう。

魔王「お前…あれか」

乙女「ち、ちが…っ。あ、あ、暗殺者じゃ……」アワワ

魔王「痴女か」

乙女「…はい?」

魔王「そうとしか思えんだろ。人の入浴中に飛び込んできて」

乙女「…入浴中?」

言われてみれば、今浸かっているのはお湯だ。
そして魔王は、逞しい体を晒して――!?

乙女「きゃああぁぁ!!」

慌てて魔王に背を向けた。

魔王「お? 見たくないのか、俺のパーフェクトボディ…」

乙女「すすすみません、ごめんなさい、見ません! 私行きますので…っ!」

魔王「まぁ待て」

温泉から上がろうとした私を魔王が呼び止める。
逆らってはいけないと、私は動きを止めた。

乙女「な、な何でしょうか…?」

魔王「脱げ」

乙女「!!!」

私の体がブルブル震える。
逃げたい。けど、運動音痴な私が逃げきれるわけが…。

魔王「勘違いするなよ?」

乙女「えっ?」

魔王「その濡れた格好のままではいかん。俺の服を貸してやるから脱げと言っている。安心しろ、貧乳は好きだが着替えを見たりはしない」

乙女(そ、そうよね)

俺様系だけど、何だかんだであの魔王だ。まさか見知らぬ女を組み伏せるなど、そんなわけがない。

魔王「サイズが大分違うが、まぁ我慢してくれ」

乙女「い、いえ、あのっ、ありがとうございます」

ぶかぶかの服を借りて、私は頭を下げる。
コミュ障が災いして、あまり上手く話せないけれど。

魔王「それよりお前、どうやって現れた? 俺は風呂に浸かりながらも周囲を警戒していたが、お前は唐突に現れたな」

乙女「そのー…」

魔王「凄腕の達人…にも見えないし、魔力もないようだし」

乙女「あのっ、じ、じ、実はっ」

魔王「?」

乙女「異世界から来たんです…多分」

魔王「…は?」

そんな反応されても、こっちだってわけがわからない。
そりゃ異世界にトリップするゲームは沢山やってきたけど、いざ自分がそうなったら上手く対処できないものだ。

魔王「ふむ、確かに変わった衣装を着ていたな。それに、お前と一緒に落ちてきた『あれ』も、見たことがないものだ」

乙女「『あれ』?」

振り返ると、スマホと、ゲーム攻略に使っていたメモ帳が草むらに落ちていた。

乙女(あぁ良かった、温泉の中に落ちてなくて!)

乙女(やっぱり電話とか通じないんだろうなぁ)

魔王「異世界から飛んできたのなら困っているだろう。俺の城まで来るか? あぁ、俺はこう見えても、この国の王なのだ」

乙女「は、はい! 是非!」

魔王「ほう? 初対面の男に警戒を抱かないのか。お前のいた世界は、さぞ平和だったのだろうな」

乙女「あ、そ、そのっ」

魔王「まぁいい。馬の後ろに乗せてやる」

乙女「…はい、ありがとうございます」

ゲームで貴方のことを知っているから…なんてどう説明していいのかわからないし、それに彼の秘密を覗き見たようで、何も言えなかった。

乙女(まさか二次元の中に入るなんてね…まるで夢だわ)

乙女(二次元も 中に入れば 三次元 …あぁ、下らない五七五)

>魔王城


魔王「今帰ったぞ」

乙女(凄い! グラフィックそのまんまで、使用人達もいる!)

頭の中でゲームのBGMが流れる。
そんな場合じゃないとわかりつつ、私の頭は興奮していた。

魔王「おい側近、帰ったぞ」

側近「お帰りなさいませ魔王様。…む? その娘は誰ですかな?」

乙女(うわぁ、側近だ! ゲーム同様、すっごく嫌味ったらしい顔と喋り方!)

魔王「あぁ。異世界からの客だ」

側近「…はい?」

魔王「何もない空間からいきなり現れたのだ。凄いだろう、まるでお伽話だ!」

側近「…胡散臭いですね」

乙女(ですよねー)

側近「覇王の国の刺客かもしれませんよ。あの国も最近、あの手この手でこちらに仕掛けてきますからね」

乙女(確かゲームの中では争いは沈静化してて、それから魔王が命を狙われる事件が起こり、両国の関係は不穏になって…)

魔王「俺を油断させる為だとしたら、こんな胡散臭い嘘は言わんだろ」

側近「しかし魔王様、警戒するに越したことは…」

魔王「心配ない」ポンッ

乙女「……え?」

触れた。ナチュラルに。魔王の手が。私の胸に。

乙女「いやあぁ!」バッ

魔王「な? 隙だらけだろう?」

側近「…品性を疑います」

魔王「実に薄い胸だったが、俺は薄い胸も愛でられるぞ! いやぁ実にいい思いをした!」ハッハッハ

乙女「う、うるさい…!」

最悪。誰にも触られたことないのに…。
ゲームではわからなかったが、魔王はどんな女にもこうなのだろうか。

魔王「全く疑い深いハゲだな側近は」

側近「恐れ入りますが、ハゲてません」

魔王「なら、俺自らがこの女を尋問してやる」ニヤ

乙女「え…尋問?」ビクッ

魔王「俺の私室に来い、女!」グイ

乙女(ううぅ…何されるんだろう……)ブルブル


側近「……」

側近「まさかとは思うが、あの女……」

>私室


魔王「ここが俺の私室だ」

乙女「は、はい」

魔王「そう恐れるな、ここには俺とお前の2人しかいない」

乙女(だから怖いんだけど…)

魔王「そういえば…おい女、お前の名前は?」

乙女「は、はい! 乙女と申します!」

魔王「乙女か。俺のことは魔王様と呼べ」

乙女「はい、魔王様……」

乙女(二次元のキャラを様付けで呼ぶことはあるけど、魔王は『魔王』だからなぁ…違和感あるなぁ)

魔王「お前のいた世界は、どんな所だ?」

乙女「どんな…? えーと…魔法は物語でしか存在していなくて、その代わり化学が発展していて……」

魔王「化学って、あれか。自然のエネルギーだけで、自動で動く乗り物や、遠くにいる者と話せる道具が作れるとか」

乙女「はい、ありますよ」

魔王「本当か! 今、現物はないのか!」

乙女「それとは違うけど、これとか…」

私はスマホを取り出した。
通信はできないだろうけど…。

乙女「はい笑ってー」パシャ

魔王「…? 今、何をした?」

乙女「見て下さい」

魔王「おおぉ!? 画面の中に、俺そっくりの肖像画が! 一体、何だこれは!」

乙女「これはカメラといってですね…」

魔王「…ほぉー。お前のいた世界は面白いな」

写真フォルダの中にあった、街の風景や家電などを見せながら、色んな話をした。
上手くは話せなかったけど、話をしている間、魔王はずっと目をキラキラさせていた。

魔王「しかし文化は全く違うのに、人が存在しているのは同じなのだな」

乙女「私の世界に住む人の方が、肉体的には弱いと思います。魔法も使えませんし」

魔王「こちらの世界の方が肉体労働を必要とするからな。機械というものがあれば、労働は効率化されるだろう」

乙女(私の話だけで、そこまで想像を膨らませることができるの。魔王って意外と頭良かったんだなぁ)

魔王「ところで、お前はそちらの世界でどのような仕事をしているのだ?」

乙女「私は…メイド喫茶の店員です」

魔王「メイド喫茶? 何だそれは。メイド紹介屋を兼ねている喫茶店か?」

乙女「あ、いえ。従業員がメイドの格好をしてお客様をおもてなしする喫茶店…と言えばいいでしょうか」

魔王「ほう。本物のメイドとは違うのか」

乙女「えーと…私の国では、サブカルチャー文化の影響で、メイドへのイメージが本来のものとかけ離れていまして…。そういうメイドを好む方向けといいますか…」アタフタ

コスプレ、萌え、二次元…そういった文化のない世界の人にどう伝えればいいのか、焦る。
そもそも元いた世界でも偏見を向けられがちなもので、詳しく説明するのは恥ずかしいというか…。

魔王「つまり、メイドにフェチシズムを持つ者向けの、擬似空間を用いた喫茶店というわけか」

乙女(凄い! 通じた!)

魔王「ところで、そのサブカルチャー文化の影響を受けたメイドとはどのようなものだ?」

乙女「えぇーと…」

魔王「そうだ。いつまでもぶかぶかの服を着せておくのもあれだし…丁度いいか」

乙女「……はい?」

魔王「おーい!」パンパンッ

魔王が手を2回叩くと、使用人と思われる人が入ってきた。

魔王「至急、メイド服を持ってこい。こいつに着せる」

乙女「え…えええぇぇ!?」

魔王「そっちの小部屋で着替えてこい」


乙女(で…着替えたけど。うわぁ…本物のメイド服だ)

全身鏡を見てしばし呆然とする。
魔王に渡されたメイド服は、冥土屋の制服と違いスカートの丈が長い。
ニーハイも仕事に邪魔な飾りも乳袋も何もない、本格的なメイド服だ。

乙女(ロングの髪、やっぱりまとめるべきなのかな? 冥土屋では黒髪ロングの『属性』ってことでこのままだったけど…)

魔王「おいどうした、着替えに手間取っているのか。手伝ってやろうか?」

乙女「い、いえっ! そうではないのですが……」

魔王「…そういえば、サブカルチャー文化の影響を受けて本来のメイドとは差異があると言っていたな。何か足りないものがあるのか?」

乙女(うぅ~…)

メイド姿を見せることに抵抗はない(これもどうなのかと思ったが)が、魔王が望んでいる「サブカルチャー文化の影響を受けたメイド」すなわち「萌えメイド」。

乙女(パンピー(?)相手に萌えメイドとか、いいの!?)

魔王「おいどうした。俺は気が短いのだぞ。それともあれか? この魔王様を前に萎縮しているのか、貧相な小娘が」

乙女(む)カッチーン

自慢じゃないが、自分は冥土屋ではクール属性のメイドとしての地位を確率した〝乙姫”だ。
乙姫がシフトに入っている日を狙って来る常連さんだっているし、ブロマイドもそれなりに売れている。SNSのフォロワー数だって、冥土屋では上位にいるのだ。

普段は地味な乙女ゲーマー。だけど、メイド服を着れば私は“乙姫”なのだ。

乙女「…魔王様、今から言うものをご用意できますでしょうか?」

魔王「何だ。言ってみろ」

>10分後


魔王「持ってこさせたぞ。しかしパスタとトッピングをそれぞれ別々に持ってこいとはどういうことだ?」

乙女「大変長らくお待たせ致しました、ご主人様」

魔王「ごしゅ…」

ゆっくりした足取りで魔王の前に姿を現す。
萌え仕草であればポテポテッと小走りで行く所だろうけれど、私はクール属性。落ち着いた態度で接さなければならない。

魔王「ほう、なかなか似合っているな」

乙女「ご主人様にお褒め頂くと…私の心の暗闇に、灯りがともるようです」

魔王「…なぬ?」

勿論、どのご主人様にも言っているリップサービスの一環である。

乙女(パスタはミートソース、用意されたトッピングは粉チーズ…これを仕留める)キラン

乙女「トッピングのかかっていないパスタは味気ないものですね」

魔王「俺はトッピングなしでも好きだが…」

乙女「まるでご主人様がいらっしゃらない時の、私の心のようです」

魔王「えっ」

乙女「この粉チーズは、ご主人様に捧げる私の想いです。…丁度いい、という所でおっしゃって下さい」

乙女「美味しくなーれ、美味しくなーれ」シュッシュッ

魔王「…ストップ」

乙女「…はっ」

魔王「どうした」

乙女「ご主人様のことを想う余り、心がトリップしていたようです」

魔王「あー…まぁ実際体ごと異世界にトリップしてるけどな?」

乙女「では私の想いをパスタの中に混ぜます」クルクル

魔王「想い? あぁ粉チーズな」

乙女「フー、フー…はい、あーん」

魔王「え、あ!? いや自分で食えるが…」

乙女「ご主人様は私のこと、嫌い…ですか?」

魔王「……」モグ

乙女「…嬉しい」ニコニコ

感情表現はクールに、だけどデレる時は素直に。それぞクーデレの極意…決まった。

魔王「……ふっ」

乙女「…ご主人様?」

魔王「何と言っていいのか…この俺の興味を引いたことは褒めてやろう。面白いぞ」クク

乙女「ギャグじゃないんですけど…」ドヨーン

自分なりに本気を見せた。表情も声色も仕草も、全て「クーデレらしさ」を出したと思う。
にも関わらずこんな反応をされるとは…。やはりパンピー(?)相手は難しい。

魔王「あぁ、面白いというのはそういう意味じゃない」

ニッと魔王は笑った。

魔王「言い換えれば…可愛いぞ」

乙女「っ!?」

魔王「その赤面も演技か? お前程に容姿端麗なら、言われ馴れているだろう」

乙女「そ、そそそんなこと」

そりゃブロマイドが売れている位だから、自信が無かったわけじゃない。
だけど面と向かってそう言ってきたのは、魔王が初めてで――

乙女(何か、変な気分…)

魔王「お前、何人もの客にそういう台詞を言っているのか?」

乙女「あ。ま、まぁ」

軽蔑されるだろうか。そういう仕事だからとはいえ、尻軽のように思われたら悲しい。

魔王「なぁ乙女。元の世界に戻る方法が無いようなら、俺の元でメイドをしないか?」

乙女「…はい?」

魔王「わからないか?」

乙女「っ!」

魔王は私の頬にスッと手を添えた。
綺麗な顔が少しずつ寄ってきて――

魔王「これからは、俺だけに愛を囁け――そう言っている」

乙女「――っ!!」

悪魔「そこまでだあぁ、猥褻魔王っ!!」ドゴッ

魔王「へぶっ」

唐突に部屋のドアを蹴破って、悪魔が乱入してきた。

乙女(悪魔だ! やっぱり安心の常識人!)

悪魔「魔王が女の子を拾ってきて私室に連れ込んだと聞いて来てみれば、お前はあぁーっ!!」

魔王「何だ覗いていたのか、趣味の悪い」

悪魔「お前が女の子に興味示すなんて珍しいから、悪い予感がしたんだよ。しかも…」チラ

乙女「?」

悪魔「モロお前好みの子じゃねーかっ! メイド服着せて何やってんだよ!」

魔王「一種の擬似恋愛だ。先に口説いてきたのは、この女だぞ」

悪魔「お前はちょっと褒めたら拡大解釈するからな」

魔王「何だとこの野郎」

乙女(信用ないなぁ)

魔王「あ、乙女。こいつは悪魔。一応俺の家臣なのだが、幼馴染という関係上、心の広い俺はこのような無礼な振る舞いを許している」

悪魔「初めまして乙女ちゃん。異世界から来たんだって? その上、その困ってる女の子を食おうとする肉食馬鹿に目ぇつけられて可哀想に」

魔王「肉食馬鹿? 俺は果物が1番好きだ!」

悪魔「乙女ちゃんが寝泊りする部屋は用意しといたから、この馬鹿の部屋から出ようぜ」

乙女「あ、はい」

魔王「おい待て、誰が行っていいと…」

バターン

今日はここまで。
最近は執事喫茶にハマってます。

>>42
18禁乙女ゲーのエロは過程をとても大切にしてるので、おまけ程度になっているようなことはギャルゲーに比べると少ない…ってのが自分の感想ですかね。


王道ではあるがこういう異世界転移系はそそるものがあるな

メイド喫茶勤務の主人公でアムネシア思い出してしまう…
まあ続き楽しみにしてるよ

悪魔「ごめんなー。魔王は馬鹿だけど悪い奴じゃないんだよ。すっげー馬鹿だけど」

乙女「悪魔さんは本当に魔王…様と仲が良いのですね」

悪魔「さっきのやりとりだけでわかったの。洞察力あるね~」

乙女(ゲームでもそんな感じだったもの)

乙女(そういえば…時系列的に、今はゲームでの出来事より後くらいかな。ヒロインはどうなったんだろう)

乙女(この世界のことを知らないことになっている私が、どうやって話を切り出すべきか…)

悪魔「どうかしたの、乙女ちゃん?」

乙女「えーと…魔王様は女性がお好きなんですか?」

乙女(うわ、我ながらひどい発言)

悪魔「あちゃー…そう勘違いされたか」

乙女(ゲームでの魔王は、ヒロイン一筋な印象だったけど)

悪魔「あいつは余程興味ある子にしかチョッカイはかけないよ」

乙女「…と、いうことは」

悪魔「乙女ちゃん、あいつに気に入られたんだねぇ」

乙女「…」

何と言っていいか複雑な気分。
気に入られて嬉しくないわけではない。
だけど自分はヒロインと魔王をくっつける為に頑張っていたのだから、魔王には別の女を気に入って欲しくないというか…。

悪魔「多分、乙女ちゃんが似てるからかな」

乙女「え…?」

悪魔「あいつ、一度だけ本気で女の子を好きになったことがあるんだ。…半年前に死んじゃったんだけどね、その子」

乙女「…!!」

ヒロインの事だ。
やはりヒロインはこの世界に存在していて、ゲームの出来事もここであったのだ。

乙女「…どうして亡くなられたのですか?」

あれは突然のバッドエンドで、何が起こったのかさっぱりだった。

悪魔「何者かに殺されたみたいなんだけど…犯人がわからないみたいで、それで…」

乙女「?」

悪魔「その事件がきっかけで、隣国…覇王の国との関係に亀裂が入ったんだ」

乙女「え…っ!?」

そういえばさっき側近が、両国の関係が悪化したようなことを言っていたが…。

悪魔「その子、国境近くで殺されたことから、魔王の国の者に殺されたんじゃないか…って推測されてて」

悪魔「その子の父親…疾風狼って呼ばれる、覇王の国の騎士団長でさ。その疾風狼の、魔王の国への敵意が燃え上がったみたいで」

悪魔「…それより少し前に、魔王が何者かに襲撃される事件があって、魔王の国の者達も疾風狼を疑っていた。その2つの事件が立て続けに起こったせいで、両国の関係は今最悪なんだ」

乙女「まさか争いが…?」

悪魔「あぁ。双方の国のトップは民間人に被害が及ぶのを好まないから、死者自体はそんなに出ていないんだけどね。覇王の国から刺客が来ることもある」

乙女「…」

悪魔「だから、側近が乙女ちゃんを疑うのも仕方ないっちゃ仕方ないんだ。つーか魔王が警戒心無さすぎ、ってのもあるんだけど」

乙女「…何てこと……」

悪魔「あ、乙女ちゃんは気にしなくていいからね。よりによってこんな時期に異世界から飛ばされてくるなんて、本当気の毒だよ」

乙女(私のせいだ…)

私がゲームの選択肢を間違えたから、この世界は今このようなことになっているんだ。
ヒロインが死ななければきっと、魔王の望む平和な世界になっていただろうに…。

ゲームを遊び尽くす為に、わざとバッドエンドの選択肢を選んだことは何回もある。
それでキャラクターが死んだり不幸になっても、選択肢の前でロードして、やり直せば良かっただけだ。

悪魔「あ、ごめんな突然暗い話しちまって! とにかく、魔王の好きだった子と乙女ちゃん、顔や声が似てるんだよ。まぁ、髪色とか性格は違うけど」

乙女「…」

だけど、現実は――少なくともこの世界では、もうロードもできない、取り返しのつかないことになってしまっている。

悪魔「それよりも、乙女ちゃんが元の世界に戻る方法考えないとなぁ。まさかこっちの世界に死ぬまでいろ、っつーわけにも…」

乙女「…構いませんよ」

悪魔「え?」

それがせめてもの償いになるのなら。

乙女「私は元の世界に、家族も、友達も恋人もいません」

元の世界に戻りたい気持ちはあるけれど、諦めはつく。

乙女「ご迷惑でなければ、私…」

ヒロインを操作していたとはいえ、私はヒロインではない。だから私がヒロインの代わりになれる、とは決して思わないけど。

乙女「魔王様に仕えたいです」

そうすることで、少しでも償いたかった。

そういう経緯で、私はこの城で働くことになった。

魔王「乙女」

乙女「はい、何でしょう」

魔王「俺の襟を直せ」

乙女(自分でやりなさいよ)

魔王は私を側に置き、こき使った。そりゃもう、下らない用件で存分に。

魔王「何だ? 不服そうだな」

乙女「いえ別にそんなことありませんわー」

魔王「おっと、ペンを落とした」コロコロ…

乙女「…」

魔王「拾ってくれないか」

乙女「はい」

魔王「よしよくやった。褒めてやろう」ナデナデ

乙女「~っ、犬じゃないんですから……」

魔王「ペットの自覚が足りんようだな。俺がイチから躾けてやらんとな」

乙女(だから俺様系は面倒臭いのよ…)

自分はゲームでヒロインを操作して見ていただけだが、いざ魔王と接したら色々大変だ。ヒロインもさぞかしイライラしたことだろう。

魔王「お手だ、お手」

乙女「私は犬じゃありませんってば」

魔王「たまらんな、その冷ややかな目」

乙女(こいつ…!)グヌヌ

乙女「出来ました。オリジナルカクテル“独裁者の感嘆”で御座います」

魔王「ふむ、良い味だ。正に選ばれし者の為のカクテルだ」

乙女「“ご主人様”にお喜び頂けると、嬉しいです」

魔王「魔王様、な?」

乙女「ご、しゅ、じ、ん、さ、ま♪」

魔王「グヌヌ」

たまたまわかったことだが、魔王はご主人様呼びが不服ならしい。
だからせめてもの反抗で、ご主人様と呼んでいる。

魔王「俺の名は魔王、この世界において最も崇高な名だ」

乙女「ご命令ならばお呼びしますよ?」

魔王「いや、命令で呼ばせるのは負けだ。お前に心の底から敬愛を込めて『魔王様』と呼ばせてやるぞ」

乙女「お手柔らかにお願いしますね“ご主人様”」

魔王「フッ、その反抗的な態度。俺の征服欲を煽るではないか」

乙女(そんなつもりはない)

乙女(でも…)

それでヒロインを失った心の穴が少しは埋まるのなら、喜ばせるのも悪くはない。

魔王「おい乙女! 花火大会があるから、行くぞ!」

乙女「え、ちょ、待って下さい」

魔王「俺は待つのが嫌いだが、特別に1分くれてやろう」

乙女(1分で何ができるのよ!)


悪魔「はい乙女ちゃん、上着とハンカチと敷物」

乙女「ありがとうございます、悪魔さん」

悪魔「あいつの相手も大変だろ~」

乙女「あはは、まぁ…」

悪魔「でも乙女ちゃんが来てから、あいつ元気になったよ」

乙女「そう…なんですか」

やはり恋人を失えば、魔王でも元気を失うものか。

悪魔「ありがとうな、乙女ちゃん」

乙女「あ、いえ、私は…」


魔王「1分経った! さぁ行くぞ!」

悪魔「全く、気の短い野郎だ。楽しんできな、乙女ちゃん」

乙女「は、はい。行ってきます」


魔王「お前、俺以外の男とあまり仲良くするなよ」

乙女「悪魔さんはお友達ですよ?」

魔王「確かに奴の魅力は俺の足元にも及ばん、友達止まりがいい所だろう。だが…」

乙女「だが?」

魔王「俺のペットが他の男に尻尾を振るのは、いい気がしないな」

乙女「だから~…」


悪魔「…」

悪魔「乙女ちゃんがこの世界に来たのは、運命なのかな…」

魔王「よし、着いたぞ」

乙女「…? 花火大会だというのに、他に誰もいませんね」

魔王「あぁ、ここは私有地だからな。魔王様ともあろう者が会場で、下々の者に紛れて場所取りなど冗談ではない」

乙女「特別席とかがあるのでは…」

魔王「特別席などを用意すれば、側近や護衛達も同行してくるからな。冗談じゃない」

ん?

乙女「…私有地なら同行はされないんですか?」

魔王「側近達はここを知らん」

乙女「はい!?」

魔王「ここは別名義で所持している土地だ。お前と悪魔しかそれを知らんから、側近達が来ることはなかろう」

乙女「あ、悪魔さんもグルですか!? 今頃側近さん達、慌てているのでは…」

魔王「皆、俺に惑わされてしまえばいい!」

乙女(そんな鼻息荒く言うことか)

魔王「そんなことより喜べよ、お前は俺の秘密を垣間見たのだぞ」

乙女「知ろうと思って知ったわけじゃ…」

ドドーン、パララッ

魔王「見ろ見ろ、花火だぞ! ほらほら!」

乙女(もー…)

何発もの花火が打ち上げられた。
世界も文化も違うのに、花火は元の世界と同じに見える。

乙女「あとは浴衣があれば、雰囲気は満点ですね」

魔王「浴衣とは?」

乙女「あ、ご主人様は知りませんでしたね。えーと確か、冥土屋浴衣Dayに皆で撮った写真が…はい、これです」

魔王「ほう、変わった衣装だな。可愛らしいじゃないか」

乙女「はい、浴衣はとても人気の高い衣装で…」

魔王「浴衣を着たお前を指して言ったのだぞ?」フフ

乙女「っ!?」

突然、何を。

魔王「贔屓目もあるだろうが、お前が1番似合っているな」

乙女「あー…黒髪で胸が薄いと似合うと言われていますね」

魔王「なるほどな! お前、この中で1番貧乳だしな!」

乙女「むー…」

魔王「だが浴衣もいいな。今度、お前の為に作らせるか」

乙女「わ、私の為ですか!?」

魔王「生身で見れば、一層可愛く見えるだろうな。嫌か?」

乙女「~っ…」

いつも強引なのに、こういう時だけそんなこと聞くなんて…。

乙女「嫌じゃ、ないですけど……」

そんな風に言われたら、断れるわけないのに。

魔王「そうかそうか! 楽しみが増えたな!」ハハハ

乙女「……」ドキドキ

二次元キャラと生身で接すると、こんなにもドギマギするものか。

乙女(魔王にはヒロインを忘れて欲しくないけど、でも……)

乙女(浴衣ならきっと、ヒロインよりも着こなせると思う…)

ヒロインに対抗心を抱いている自分もいて。
自分が操作していたキャラに対抗心を抱くなんて、変な話なのだけれど。

乙女(…変なの。私が三次元の男の人を好きになるわけないのにね)

頭ではそう思うのだけれど、

魔王「よーし、もっと近くで見るか!」ダダッ

乙女「もー…急に走り出さないで下さいよ……」

魔王と一緒にいると、何だか心が暖かい。

そうしている内、またひとつ花火が打ち上げられ――


魔王「――っ」

魔王の顔色が変わった――と同時。

魔王「乙女――っ!」

乙女「え…?」


――ぱあぁん

乙女「あ…え?」

大きな音で耳がしびれたと同時、地面に尻餅をついていた。
目の前には魔王の体――見上げれば、険しい表情。

乙女「どう…したんですか?」

魔王「…っ」

魔王が振り返る。私は体を傾け、向こうを見た。

乙女「…っ!?」

すると私のいた所からは、煙が上がっていた。

魔王「罠を仕掛けられていたようだ。花火の音で気付くのが遅れた」

乙女「あ、え……」


魔王は、覇王の国の者に命を狙われている――
ずっと城にいた自分は、それを失念していた。

乙女「お、お怪我はありませんか!?」ワタワタ

魔王「あぁ、怪我はない。やはり会場に行かなくて良かった。人が大勢いる場でやられたら、民間人を巻き込む恐れがあるからな」

乙女「そう、ですね……。すみません、罠を踏んでしまって」

魔王「……」

魔王は険しい顔をしたまま、何も言わない。まさか、怒らせてしまったのか。

魔王「踏んだのは、俺も……まさか、狙いは……。いや、しかし……」ボソボソ

乙女「え?」

魔王「いや、何でもない」

魔王はいつも通りの笑顔に戻った。
まるで、何も心配いらない、とでも言うような。

魔王「全く、こんな間近で特大花火を打たれては、空の花火が霞んでしまうな。帰るか、乙女」

はい――と言おうとした時だった。

乙女「……っ!?」

魔王が、私の手を握った。
まるで急かすようにその手は強引で、力強い。

乙女「あ、あの……?」

魔王「……させやしない」ボソ

乙女「えっ?」

魔王の呟きは花火の音でかき消された。
今、何て言ったの――?
だけど、いつにない魔王の緊張した雰囲気に、私はそれを口にすることができなかった。

乙女(このまま不穏なままってのも、嫌だなぁ)

自室に戻り、ふぅとため息ひとつ。
危険な場面に遭遇したせいで、不安な気持ちが沸いてきた。

乙女(今は魔王の国にいるけど、覇王の国もいい人たちばかりだったし…争いになってほしくないわ)

乙女(ゲームなら選択肢を選ぶだけでいいのになぁ~)ハァ

乙女(…雑魚モンスターを地道に倒して経験値稼ぎとかできないかな? ゲームの中なんだし……)

乙女(いやADVとRPGは違うか…って、そういう問題でもないし! あぁもう私、ゲーム脳の馬鹿!)

乙女(ゲームはハードモードを選ぶけど、現実はイージーモードを進みたいわ…)

乙女(くだらないこと考えてないで、もう寝よう)


乙女「――っ」



悪魔「それでさぁ…」

側近「うむ」


乙女「きゃああああぁぁぁ!!」



側近「っ!?」

悪魔「乙女ちゃん…!?」

今日はここまで。
個人的には、普通にメイドや執事を求めて行ったのにたまたまイベントDayで別のコスプレしてたらガッカリです。

乙女「きゃーっ、いやぁーっ!」

悪魔「どうした!」バァン

乙女「あ、あ、あれ……」ガタガタ

悪魔「あれ…?」

側近「あっ」

私が指を刺した先――ベッドの上に、小さな蛇がいた。

乙女「布団をめくったら、蛇がいて……」

私は蛇が苦手なので、柄にもなく取り乱していた。
悪魔さんがベッドに近づいて行って、蛇を取ってくれた。

乙女「あ、あ、ありがとう、ございます……」

悪魔「……」

乙女「悪魔さん?」

悪魔「こいつ…ここらには生息しない蛇だ」

乙女「え…っ!?」

悪魔「しかも…強い毒性を持ったやつだ」

乙女「!!」

悪魔「…誰かが乙女ちゃんの命を狙って、故意に仕掛けたとしか思えない」

乙女「そんな……」

蛇を見つけた時とは違った意味で血の気が引いた。

魔王「乙女!」

悪魔「あ、魔王!」

少し遅れて魔王がやって来た。バタバタしている間に側近が呼んできたのだろう。
混乱している私の代わりに、悪魔さんが魔王に事情を説明した。

魔王「何で、乙女の部屋に……」

動揺を見せる魔王だったが、すぐに顔を引き締めた。

魔王「おい、側近!」

側近「はい」

魔王「乙女が不在の間、この部屋に入った者はいるか」

側近「はっ、報告が遅れ申し訳御座いません。部屋に入ったかはわかりませんが、先ほど城の付近で不審な男を捕らえました。只今、取り調べの最中でして……」

魔王「俺自らその男に話を聞く。悪魔、乙女の護衛を頼んだぞ」ツカツカ

側近「私も参ります、魔王様」


乙女「……」

悪魔「怖かったよな乙女ちゃん…。大声で叫んでくれて良かったよ」

乙女「あの……」

悪魔「ん?」

乙女「取り調べの様子…私も見れませんか?」

>取調室


男「不法入国は認めますが…私は何もしていませんよ」

魔王「では城の周辺で何をしていた」

男「土地勘がないもので、迷っていました」

魔王「怪しいな…お前、体つきもいいし、戦闘を生業としていた者ではないのか?」

男「私は覇王の国のしがない農民で、国のお偉方の顔もよく知らないのですよ」


乙女「……」

悪魔「のらりくらりだな…。覇王の国の奴、ってことはわかったけど、それだけじゃ証拠不十分だし」

私は悪魔さんに案内されて、小窓から取調室を覗いていた。
だけどさっきからこの調子で、進展がない。

乙女(ゲームの中の世界とはいえ、そう簡単に攻略法は見つからないか……)

悪魔「先代の魔王様なら拷問でも何でもして、口を割らせたんだろうけど…。魔王はそういうことはしないからな」


魔王「何故、我が国に侵入した?」

男「覇王の国で罪を犯してしまいましてね…逃げていたんですよ」

魔王「敵国のこととはいえ、調べれば嘘かどうかわかるのだぞ?」

男「どうぞ、調べて下さい。あぁ、ただし国に身柄を引き渡すのはご勘弁。不法入国よりも重い罰を受けるもので」ヘラヘラ


悪魔「魔王が拷問も死刑にもしないと知ってんのか、なめてやがんな」

乙女「……」

もし彼が覇王の国から送られた刺客なら、きっと――

乙女「悪魔さん、お願いが…」

悪魔「うん? ……んん?」

悪魔「魔王」ガチャ

魔王「どうした悪魔、乙女の護衛はどうした」

悪魔「乙女ちゃんがさ…」ヒソヒソ

魔王「ふむ? ……なるほどな。決定的な証拠にはならんが、試す価値はあるか」

男「どうしたんすか?」

魔王「入ってもいいぞ」

男「今度は誰が――……」


ガチャ

「失礼致します……」


男「――っ!?」

「お久しぶりですね」

魔王「……」

そこに足を踏み入れた“私”を見て、男は明らかに狼狽していた。


男「ヒロイン、様…!? 生きていただと…!?」

乙女「…私はヒロインではないですよ」バサッ

男「あっ!?」

私は被っていたウイッグを外した。
私とヒロインは顔と声が似ていると聞いていたので、ウイッグを被れば錯覚させられると思ったのだ。

魔王「おいお前、ヒロインを知っているのか」

男「…っ!」

男は「しまった」というような顔をした。

魔王「お前さっき自分のことを、覇王の国のしがない農民で、国のお偉方の顔もよく知らんと言っていたな? 何故、ヒロインを知っている?」

男「そ、それは……」


悪魔「あとは魔王に任せよう。乙女ちゃん、行こうか」

乙女「はい」

直接話を聞きたかったけれど、男が逆上して何をするかもわからない。
私と悪魔さんはその場を後にした。

悪魔「…にしても驚いたよ」

乙女「え?」

並んで歩いている途中、悪魔さんが話を切り出してきた。

悪魔「まるで、本物のヒロインちゃんだからさ。まさかウイッグだけで、あそこまで似るとはなぁ…」

乙女「元々似ているのでしょう?」

悪魔「まー顔貌はね。でもヒロインちゃんは、浮かべる表情が乙女ちゃんと違うからね」

乙女(表情…ゲームでは顔非表示だったからわからない)

悪魔「…魔王も、内心驚いていたかもな……」

乙女「…」

乙女「ウイッグを被っていた方が、魔王様は喜ばれるでしょうか?」

悪魔「え? あ、まさか乙女ちゃん、ヒロインちゃんの代わりになろうと思ってる?」

乙女「…そんなのはおこがましいでしょう」

悪魔「まず無理だしな。ヒロインちゃんは大人しくないし勝ち気だし、乙女ちゃんとは違う人間だよ」

乙女「そうですよね」

わかっていたはずなのに、馬鹿なことを考えたものだ。
あくまで私は、ヒロインを操っていたプレイヤー。ヒロインになることはできない。

悪魔「…乙女ちゃんには乙女ちゃんの魅力があるんだしさ」

乙女「そう…ですか?」

悪魔「うん。魔王だってそう思っているよ」

乙女(…そうなのかな?)

魔王が私を気に入ってくれたのは、ヒロインに似ているから、というのが少なからずあると思う。
それにヒロインは魔王の恋人だったが、私はペットのようなものだ。

乙女(わかってる。思い上がったりしない)

悪魔「…なぁ乙女ちゃん」

乙女「はい?」

悪魔「乙女ちゃんは…いなくならないでくれよ」

乙女「え?」

突然、どうしたのだろう。

悪魔「俺…正直、かなり弱気になってる。乙女ちゃんに、もしものことがあったら…」

乙女(こんなに弱気な悪魔さん、初めて。でも仕方ないか、ヒロインのこともあったし…)

乙女「悪魔さんは先程も、真っ先に駆けつけて下さったじゃないですか」

悪魔「…俺を信用しちゃ駄目だよ、乙女ちゃん……」

乙女「えっ?」

何を言っているのだろう…と思った時、悪魔さんは自嘲気味に笑った。

悪魔「俺は…ヒロインちゃんに恨まれても仕方ない男なんだ」

乙女「――!?」

ヒロインに親切だった悪魔さんが…? ヒロインに恨まれても仕方ないって?

乙女「それは、どういう…」

聞こうとした時だった。

魔王「ここにいたか」

乙女「あっ」

疲れた顔をした魔王が、側近を引き連れてやってきた。

悪魔「魔王…あの男の取り調べは済んだのか?」

魔王「黙秘だ。だが、何日もかけて取り調べをすれば、根負けして口を割るかもしれん」

悪魔「そうか…でも進展はあったな、お疲れ」

魔王「あぁ、ありがとう」

乙女「…」

わからない。悪魔さんは魔王にとっても良い友達で、悪いことをするような人に見えないが…。

魔王「…乙女」

乙女「あ、はい」

魔王「お前は命を狙われているかもしれない。…また1人になるのは、危険だ」

乙女「…」

大丈夫…と言いたい所だが、私は自分の身も守れない小娘で、そんなこと言える余裕はない。

魔王「そこで、だ。お前の安全の為にだ…」

護衛でもつけてくれるのだろうか。
こんな、たかだか居候の自分にそんなのは申し訳な…

魔王「俺と生活を共にしないか」

乙女「…え?」

今、なんと?

魔王「俺も刺客に命を狙われているが、魔王様である俺にとっては全く危険ですらない。むしろ、魔王様の側が最も安全な場所と言えるだろう」

そりゃ魔王が強いのは知っているが…。

魔王「俺の側にいろ、乙女。守ってやるよ」

乙女「そ、そそそんな」

悪魔「いいと思うぞ」

乙女「えっ、悪魔さん…」

常識人の悪魔さんまで何を。

悪魔「魔王なら、どんな護衛より心強いよ。どんな時でも、乙女ちゃんを守ってくれるさ」

側近「…それは如何かと」

側近が冷静な口調で口を挟んだ。

側近「いざ魔王様の御身が狙われた時、足手まといがいては、魔王様自身に危険が及ぶ危険性が御座います。…むしろそれを狙って、魔王様のお気に入りである彼女が狙われたのかも…」

悪魔「あー…そういう考えもあるな」

乙女(…むしろ魔王に仕える身としては、真っ先に考えなければならないことでは)

悪魔さんがその考えに至らなかったことに、若干の違和感を覚えた。

魔王「それについては心配無用だ」

側近「根拠は」

魔王「俺は魔王様だぞ? 自分の身も守れなくてどうする」

側近「根拠のない自信を貫き通すのはおやめ下さい」

悪魔「まぁ、それが魔王だし…」

乙女「…」

結局、魔王に押し切られてしまい、私は魔王と生活を共にすることになってしまった。
同じベッドで寝るのか…と心配していたが、魔王の部屋にベッドが運ばれたので、その心配はなさそうだ。

魔王「お前に手は出さん。何だ、残念か? んん?」

乙女「いえ別に」

魔王「この俺だぞ?」

この平常運転、ある意味羨ましいまでの図太さだ。

乙女「ところで、入浴や着替えやトイレの時はどうすれば…」

魔王「入浴や着替えはともかく、トイレの様子を見る趣味はない」

乙女「…」ジロー

魔王「冗談だ。扉外にいてやるから、何かあったら叫べ」

つまり入浴の最中に襲撃に遭えば、魔王に裸を見られるということか…と、私もなかなか余裕のあることを考えてみる。

乙女「…ところでご主人様」

魔王「何だ?」

乙女「先程襲われた私有地って…悪魔さん以外の方は本当に知らないのですか?」

魔王「いや、敵側に情報が漏れている。そうでなければ、罠を仕掛けられん」

乙女「……」

1度疑いを持ってしまうと、なかなかそれを払拭できない。
魔王は悪魔さんを信用しているようだけれど…。

魔王「考えるのは俺の仕事だ。とりあえずお前、今日は先にもう休め」

乙女「あ、はい……」

まだ全然眠くないのだけれど…。
けれど起きていても魔王の邪魔をするかもしれないし、大人しくベッドに入ることにした。

乙女 スヤスヤ

モゾモゾ

乙女(ん……)

眠りが浅かったのか、頭に触れるものを感じて目が覚めた。
うっすら目を開けると…魔王?

乙女(何で魔王が私の頭を…)ボー…

魔王「ヒロイン……」

魔王は私が起きていることに気がついていない様子だ。
時折見せる彼の真面目な表情は、いつもとのギャップで美しく見える。

魔王「俺は、繰り返さない…。もう、失うのは嫌だ……」

乙女(魔王……)

私はまた、魔王の秘密の姿を見てしまった。
魔王は今でも、ヒロインを失った傷から立ち直っていない。

乙女(繰り返しちゃいけない……私は死ねない)

今日はここまで。
俺様系を書くのは難しいです。

やがて魔王が眠りについた後も、私の頭の中はぐるぐるしていた。

乙女(私がこの世界に来たのには、理由があるのかもしれない)

乙女(もしかしたら、ゲームをやっていないとわからないヒントとかあったり…)

考えを巡らせる。

あのゲームは沢山のキャラがいたけれど、立ち絵とCVのあったキャラは6人。魔王、悪魔さん、側近、騎士団長、料理長、守護精霊。
父親である騎士団長も立ち絵があったことから、攻略対象でない重要キャラにも立ち絵が用意されているらしい。

乙女(1番の謎は、ヒロインを殺した人物と、その理由だけど…)

ゲームでは、ルートが変われば攻略対象キャラが敵に回ることもあるし、主人公がモブキャラに殺されることもある。
自分があのゲームをプレイした限りで、ヒロインを殺しそうなのは…。

乙女(側近…かな?)

側近はヒロインを警戒していたし、私のことも快く思っていない。

乙女(あと、悪魔さんの言っていたことも気になる)

ヒロインが最後に会っていたキャラは悪魔さんだった。悪魔さんがヒロインが殺されるように仕向けた…とか?

乙女(…駄目、全っ然わからない!)

いきなり行き詰まる。

乙女(バッドエンド1つ見ただけじゃ何もわからないって。せめて別の選択肢のルートも見れてたら…ん? 選択肢?)

選択肢と言えば確か…私は起きて、部屋に持ってきた私物入れの中を探した。

乙女(あった、攻略用メモ帳)

攻略のヒントになるかと思って記していたメモ帳だ。

乙女(これで何か掴めればいけど…)

乙女(うーん…選択肢間違えたとは思えないんだけどなぁ…。さり気ないとこでバッドエンドのフラグ立つゲームもあるからなぁ)

乙女(えぇーと、何でもいいから、とにかく引っかかるとこは!)

乙女(…ん?)

ひとつ、気になることが見つかった。

乙女(料理長…姿を見せなかったり、国境付近の森に入って行ったり…何をしていたんだろう?)

料理長…魔王ルートではあまり目立たない存在で、意識していなかった。

乙女(確か…料理長が森に入って行った日に、ヒロインは幻惑にやられて…。でも料理長も幻惑にやられたような描写はなかったし…)

乙女(…明らかに怪しい)

乙女(…って)

乙女(怪しい人が増えただけじゃない! あーもう、わかんない…)

所詮、この程度の推理力。私は頭を抱えた。

魔王「うらー」

乙女「っ!?」

魔王「ふはは、参ったか~…」スピー

乙女(寝言か…)

乙女(…魔王は……)


魔王『俺は、繰り返さない…。もう、失うのは嫌だ……』


乙女(魔王は、私を守ってくれる。今、最も信用できる人)

乙女(託してみよう…魔王の力に)

>翌日


魔王「な、何だと!?」

朝食を共にしながら、私はあることを魔王に提案した。
勿論、魔王は驚いていたけれど。

乙女「駄目ですか?」

魔王「…危険だぞ」

乙女「ご主人様が、守って下さるのでしょう」

魔王「いや、しかし…だな」


私が提案したのはーー

乙女『国境付近へ参りましょう。私が1人でいる所に襲撃者が来たら、捕まえて話を聞き出しましょう』


危険を伴う、賭けに近い提案だった。

魔王「…何故、国境付近に?」

乙女「その方が、相手方も仕掛けてきやすいでしょう」

魔王「わざわざ、そんなことをする必要があるか?」

乙女「私だって、自分の命が狙われる理由を知りたいです」

あくまでゲームの話だけど、私は守りに徹するのを好まない。
こう見えても、焦れったいのは大嫌いなのだ。

魔王「だが…」

魔王は断る口実を探しているようだった。
いくら自信満々の魔王といえど、守る対象を危険な目に遭わせるのには躊躇するのだろう。

乙女「私を守るとおっしゃったのは…虚勢ですか」

魔王「んなっ…!」

だからあえて、魔王を挑発してみた。

乙女「恐れているのですか…? 魔王ともあろうお方が」

しかし。

魔王「恐れもするわ!」

乙女(えっ?)

返ってきたのは意外な言葉で。

だけど。

魔王「…」ブルブル

乙女「…?」

それきり魔王は何も言わなくて。

乙女(…あぁ)

だけどその後に出てくるであろう言葉を考えればわかった。
きっと魔王が吐き出したいのは弱音。だけど魔王は弱みを見せるのを嫌う。

乙女(そうか…恐れてくれているんだ、魔王)

それはちょっと、嬉しいけれど。

乙女「ご主人様が私にかかりきりになってしまえば、いざという時に動けませんよ」

魔王「あぁ…わかっている」

乙女「国のトップがそれで良いのですか?」

魔王「良くは、ないな…」

乙女「それなら、問題は早々に解決した方が…」

魔王「わかった、それ以上言うな!」

乙女「!」

>国境付近


乙女(初めて来るのに、懐かしい気分…)

ここはゲームのオープニングでいた場所。
そして、ヒロインが何度も魔王と逢瀬を交わした場所で――ヒロインが、殺された場所。

密偵などの耳に入るよう、私が城を逃げ出したという偽情報は流している。
後は、襲撃者がそれに食いついてくれればいいが――


乙女(何か、怖いけど…)

魔王はいつでも出てこられるように、身を潜めている。いつ襲われても、守ってもらえる。

乙女(魔王は今、どんな気持ちだろう)

私を守ることで頭が一杯か、それとも――ヒロインとの思い出を巡らせているのか。そう思うと、少しだけ嫉妬したりして。

乙女(…でもそれは、魔王がヒロインを本当に愛していたからなんだから)

乙女(そう簡単にヒロインのこと忘れられたら、私が2人をくっつけようとした甲斐がないよ…)

乙女(けど…)

もうヒロインは死んでしまった。それなら魔王にとって幸せなのは、ヒロインを忘れることなのでは――

乙女(…駄目だってば、そんなこと考えたら!!)

余計な考えを払拭しようと躍起になっていて。

ザッ

乙女「――っ!」

私は足音が近付いているのに、気がつくのが遅れてしまった。


?「乙女殿――ですな?」

乙女「貴方は…!」

騎士団長「私は覇王の国の騎士団長、と申す」

乙女(騎士団長…ヒロインの父親!)

覇王の国で疾風狼と名高い男。その腕前は魔王に匹敵するというのがゲームでの情報だ。
ゲームでヒロインを通して彼と接した時は、無愛想だが思慮深い父親、という印象だった。
だけど今の彼は武装をし、厳しげな雰囲気を醸し出している。

騎士団長「乱暴をするつもりはない。ただ…」

乙女「ただ…?」

騎士団長「私と共に来てくれないだろうか」

乙女「…!」

警戒心を高める。きっとそれは良い誘いではない。
私を捕らえて、魔王に何かを要求する道具にするつもりか。

乙女「…先日、私が殺されかけたのは、貴方の差し金ですか?」

騎士団長「それは私の預かり知らぬことだ。大人しく来てくれるのなら、乙女殿に危害を加えないと約束しよう」

乙女「…もし、抵抗すれば?」

騎士団長「気は進まんが…」

騎士団長が一歩、距離を詰める。
その一歩の距離に、命のカウントダウンが一気に早まったかのような威圧感を覚える。

私は一歩も動けなかった。動くことで命を摘まれるのではないか――この男に、それだけの恐怖を感じていた。

乙女(だけど――)

恐怖心の余り錯乱するのをとどまれたのは――

魔王「待て。俺のペットに何をする気だ?」

彼を信じていたから。

騎士団長「魔王殿か」

騎士団長は冷静だった。

魔王「疾風狼殿と見受ける。まさか貴公程の者が直接出向いてくるとはな」

魔王は私を庇うように、私の前に立った。
魔王も余裕の笑みを崩していない。

騎士団長「“このような事態”を想定していたものでな」

魔王「ほう。俺の仕掛けた罠だと想定して尚、その罠に飛び込んできたわけか。しかしそれなら、頭数を揃えて来るべきだったのではないか?」

騎士団長「こちらの台詞だ。我々を欺く為とはいえ、国王が1人で来るとは無用心ではないか」

魔王「俺は魔王だ。護衛も援軍も必要としていない」

騎士団長「噂通りの自信家だ。それは確かな実力から来るものなのだろうな」

魔王「こちらの質問に答えろ。何故、1人で来た?」

騎士団長「…私の私怨に、他の者を巻き込むわけにはいかん」

騎士団長は剣を抜いた。

騎士団長「我が娘の仇は、魔王の国への報復という形で討たせてもらう!」

魔王「…それはかなり不本意だな」

敵対心剥き出しの騎士団長に対し、魔王は構えすら取らない。

魔王「ヒロインを殺した奴については、こちらの国の奴だと確定していないだろ」

騎士団長「何故、娘はあのような時間に国境付近にいたのか…それは貴様が関係しているのではないか?」

魔王「…」

魔王は押し黙った。
あの夜、ヒロインが魔王に会いに行ったがために殺されたのは、事実だ、

騎士団長「貴様は娘をたぶらかし、娘が殺される原因を生み出した…それだけで十分だ」

魔王「…そうだな」

魔王はすんなりと肯定した。
表情から感情は読み取れないが、何を思っているかは想像できる。

乙女(魔王、責任を感じているんだ…)

魔王「だが、大人しく殺されてやる謂れはないな」

その言葉を皮切りに――

騎士団長「覇ぁ――ッ!!」

戦いの火蓋が切って落とされた。

魔王「ふっ!」

魔王は取り出した小刀で剣を受け止める。
高い金属音が、その場に鳴り響いた。

魔王「その名に恥じぬ太刀だ、だが俺を討つには不足ッ!」

魔王が小刀を振ると同時、騎士団長は後方へ体をそらし太刀を避けた。
しかし魔王の攻撃の手は緩まない。一方で、騎士団長も攻撃を受けたり回避したりしながら、反撃の剣を放っていた。

乙女(す、凄い…)

こんな近くで見ているのに、目で攻防を追いきれない。

私はその場から少し離れる。騎士団長は卑怯な手を使わないとは思うが、魔王の気が散らないように。

乙女(でも…)

魔王は勿論だが、“ヒロインの父親”としての顔を知っているだけに、騎士団長にも死んで欲しくはない。
彼は父親としてヒロインを愛していた。その気持ちがわかるから、余計に。

騎士団長「はあ――っ!!」

魔王「――っ!!」

乙女「あっ!」

騎士団長の蹴りが魔王を吹っ飛ばした。
魔王の体は地を転がるが、騎士団長の追撃の手は緩まない。

魔王「くっ!」

体制を崩しながらも魔王は攻撃を受け止める。だがそよ体制で一気に不利になったのか、防戦一方となった。

乙女「魔王…っ」

魔王「来るな、乙女!」

駆け寄ろうとした足を止める。
気が散った魔王だったが、騎士団長の攻撃を跳躍しかわしていた。

騎士団長「これで終わりだ…っ!」

騎士団長の剣が魔王の喉元を狙い――

魔王「くっ!」

魔王は騎士団長の手を掴み、剣先を喉元ギリギリで食い止めた。

騎士団長「貴様ぁ…!」

魔王「悪いな…まだ死ねないんでね!」

剣を喉元に食い込ませようとする騎士団長と、喉元から離そうとする魔王の力の押し合いになる。
どちらも譲らず、剣先はそこで止まったままだ。

魔王「仕方ない…! 剣の勝負で使いたくはなかったが」ゴォッ

乙女(そうだ、魔王には魔法があったんだ!)

これで魔王は不利な状況を立て直せるか――と思った時。

ブオオォッ

魔王「――っ!」

騎士団長「何…っ!?」

乙女「えっ!?」

突風が吹き、2人を吹き飛ばした。

乙女「魔王っ!!」

魔王「…っぅ!」

そして2人は、突風の先にあった急斜面を転げて消えてしまった。


「ようやく、邪魔者は消えたねぇ…」

乙女「…っ!?」


そして、そこに現れたのは――




乙女「料理長…!」

ナイフを持って薄ら笑いを浮かべている、料理長だった。

今日はここまで。
ssスレ立てる度に戦闘シーンが苦手だと言っている気がする。

料理長「あっれー? 何で俺の名前知ってんのかなー? しかも、覇王の国での名を」

乙女「覇王の国での、名…?」

どういう意味か、わからなかった。

料理長「まぁいいや、そっちの名で。これから死ぬ君には、どっちでもいいよね~♪」

乙女「っ!」

その意味は、すぐにわかってしまった。

乙女「私を殺そうとしたのは、貴方…?」

料理長「いや、そいつはそっちで捕まっちまったじゃん。俺は『殺そうとした』じゃなくて『今から殺す』んだよ」

陽気な笑顔が腹立たしい。
だけど、聞いておかねばなるまい。

乙女「どうして私を狙うの…!?」

料理長「あぁ、そりゃ気になるよねー。それがわかんないままだと、成仏できないかもねぇ」

乙女「答えて」

料理長「んー…ま、いっか。特別に教えてあげるよ」

料理長は妖しく笑った。

料理長「簡単に言うと…海王様の為かな」

乙女「海王…?」

初めて聞く名に、私は困惑した。

料理長「この大陸から海を渡った所に、海王の国という国がある。領海が広いばっかで、小さな島国なんだけどね。俺、海王様から遣わされたモンなのよ」

乙女「は…?」

料理長「俺に下された任務は…魔王の国と覇王の国、2つの国を潰し合わせることだよ」

乙女「!」

ということは、まさかとは思うが…。

乙女「魔王を闇討ちしたり、ヒロインを殺したのも……」

料理長「お、勘がいいねー。そ、俺の仕業~♪ あとは幻惑の花を仕掛けたりもしたけど、それは失敗したなぁ」

乙女「――っ!!」

全くわからなかった。たったあれだけの描写でそこまで気付けというのも、無理な話。
だけど、その犯人が出てくるまでわからなかったということは…。

乙女(これ…私の死亡フラグ立ってるんじゃない?)

そして、その執行を下すのは――

料理長「君にも死んでもらうよ~。魔王お気に入りの女の子が覇王の国の奴に殺されたとなれば、魔王の中に憎しみが生まれる…!」

乙女(そんなことになったら、両国の亀裂が根深いものになるじゃない…!)

そんなことになってはいけない。
魔王もヒロインも、私自身も、この国の平和を願っている。だからそんな目的に利用されてやるのは、まっぴら御免だ…!

乙女「っ」ダッ

料理長「逃がすと思ってんのかぁ!!」ダッ

乙女(…っ、やっぱ私、足遅い…!)

逃げきれる気がしない――だけど、諦められない。

料理長「諦めなあぁ!!」ブンッ

乙女「――っ!」



――ザシュッ

乙女「…あ……」

赤い血潮が飛び散り、私の体を赤く染める。
痛みはない。

それもそのはず――

悪魔「…っ、大丈夫か乙女ちゃん…!」

乙女「悪魔さん…!?」

料理長「……ちっ」

どうしてか、わからないけど。
私にナイフが突き刺されようとしたその瞬間、悪魔さんが間に入って私を庇ったのだ。

乙女「悪魔さん、血が…」

悪魔「平気だ、これくらい…!」

悪魔さんが刺されたのは、左腕。
ナイフは根深く突き刺さったので、無事には見えないが…。

悪魔「こんなもん!」

料理長「!」

悪魔さんはナイフを引き抜き、遠くへ放り投げた。

悪魔「これで丸腰だな…」ニッ

料理長「…っ」

料理長「なめるなぁ!!」バキィ

悪魔「!!!」

乙女「悪魔さん!」

料理長の拳が、悪魔さんの鼻をへし折った。

料理長「俺は海王様の右腕なんだよ! お前ごとき、素手でも殺せる!!」ドゴッ

悪魔「…が、はっ……」

料理長の拳が悪魔さんの腹にめり込み、悪魔さんは血を吐いた。
まずい…実力差が大きい。

なのに――

悪魔「乙女ちゃん…早く逃げな!」

悪魔さんは立ち上がった。立ち上がって、私を気遣ってくれていた。

乙女「そんな! 悪魔さんを見捨てるなんて…!」

悪魔「いや。ヒロインちゃんの時の二の舞になる位なら、俺は死んだ方がいい」

乙女「え…っ?」

悪魔「ヒロインちゃんが殺されたのは…俺がちゃんと、家まで送り届けてやらなかったせいだからさ」

乙女「――っ!!」


悪魔『俺は…ヒロインちゃんに恨まれても仕方ない男なんだ』

あの言葉は、そういう意味だったなんて――


乙女(悪魔さんも、罪悪感で苦しんでいたんだ…! それなのに私、悪魔さんを疑うなんて…)

悪魔「…カハッ!!」ドサッ

料理長「ハァー…無駄に丈夫で困るよ。男をリョナる趣味はないんだけどね~?」

悪魔「そう簡単に、殺されてやるかよ…!」

乙女「…悪魔さん!」

悪魔「乙女ちゃん、何でまだ逃げてないんだよ!」

乙女「いえ…悪魔さんが逃げて下さい。悪魔さんなら空を飛んで、逃げ延びることができます!」

悪魔「ばか言わないでくれよ、そんなことできるわけが…」

乙女「そして魔王と騎士団長さんに伝えて下さい…! ヒロインを殺したのは、その男…海王の国から遣わされた、料理長だと!」

悪魔「へ…っ?」

それだけの言葉で、あの2人にならきっと伝わる。。
悪魔さんを犠牲にして逃げた所で、運動音痴な私はきっと捕まってしまう――それよりも。

乙女(その言葉を伝えれば、きっと両国の亀裂も元に戻るから…!)


料理長「…そんなことさせるかよォ。今までやってきたことがパーになるじゃん」

料理長の目が険しくなる。だけど私も、負けずににらみ返す。
私はこの男に勝つことはできないけど、悪魔さんを逃がすことで、この男の計画を潰すことができる。

乙女「悪魔さん行って! ヒロインと魔王が望んだ平和な世界を、取り戻して下さい!」

料理長「2人とも…逃がすかよおぉ!!」

料理長が私達に向け手をかざす。まさか、また突風か――

料理長「喰らえ――ッ!!」

乙女「――っ!!」




「…何してくれてんだ?」

料理長「…へっ?」

乙女「あ…っ!」


魔王「俺の大事な奴らに、何してくれてんだ?」

料理長「があぁぁっ!!」

ベキィという鈍い音がすると同時、料理長が叫び声をあげる。
どうやら、魔王が料理長の腕をへし折ったらしい。

魔王「おい、大丈夫か?」

魔王はそんな料理長を無視して、倒れている悪魔さんに寄っていく。

悪魔「いってて~…おい遅いんだよ、側近!」

「仕方ないだろう」

乙女「えっ?」

側近の声がした方を振り返り、そして驚愕した。


側近「全く…魔王様も、勝手な行動は困りますよ」

騎士団長「…料理長……」


何故? 何で側近と騎士団長が並んでこっちに来るの?
疑問が生まれたところで、魔王から説明が入る。

魔王「騎士団長ともみ合っているとこで、側近に止められた。どうやら悪魔と側近は、俺たちを探してこの森まで来たらしいぞ」

側近「もう少し感謝して頂きたい。私どもが来なければ、その娘は殺されていたのですよ」

魔王「あぁ、俺は本当にいい部下を持った。しかし悪魔はともかく、まさか側近が乙女を助ける為に動いてくれるとはな」

側近「それは…魔王様が落ち込まれるからですよ」コホン


魔王達の気の抜けたやりとりを見て、ようやく助かったのだと実感する。
そして一方で――


騎士団長「料理長…何故お前が、彼女を殺そうとした…」

料理長「……」

こちらの方は、まだ混乱しているようだ。

魔王「乙女、悪魔。俺たちがいない間に何があった」

乙女「その男が――」

こんな時に限って興奮しちゃって、上手く言葉がまとまらないけど。


乙女「その男が、ヒロインを殺した犯人です!!」

騎士団長「――っ!」

魔王「……」

1番伝えたかったことを、真っ先に伝えた。

悪魔「そいや乙女ちゃん、そいつ海王の国から遣わされたって…」

騎士団長「海王の国…そういうことか」

魔王「あの島国の王め。我々の国の争いを激化させ、疲弊した所を攻め込むつもりだったのか」

丁度よく補足してくれた悪魔さんの言葉で、2人ともすぐに理解したようだ。
この頭の回転の良さは、素直に尊敬する。

魔王「疾風狼よ。その男の処遇は、そちらの国に任せる。後日、聞き得た情報をこちらに送れ」

騎士団長「良いのか。こちらの国に都合の良いように改変するかもしれんぞ」

魔王「覇王殿も貴公も、そのようは卑怯な手は使わない。俺は敵として、お前達を信頼している」

騎士団長「…後悔するなよ」

そう毒付いた騎士団長だったけれど、口元は嫌味のない笑みを浮かべていた。

魔王「悪魔、自力で帰れるか?」

悪魔「あー…翼は無事だ」

側近「一応、応急処置をしておきます。魔王様、お先にお帰り下さい」

魔王「あいよ」

魔王はそう返事すると、私の側に寄ってきて…手を差し伸べた。

魔王「ほら帰るぞ、乙女」

乙女「え…っと」

いいのだろうか、その手を取ってしまって…と思ったけれど、

魔王「早くしろ、俺は気が短いんだ」

乙女「あっ」

魔王はいつもの通り強引で。
だけど――

魔王「…悪かった」

乙女「え…っ?」

魔王「怖い思いをさせたな。悪かった」

乙女「…」

時折見せる優しさもあって――いや、

乙女「でも、約束通り、助けて下さいました」

魔王はいつだって、優しくしてくれた。

乙女(魔王…私、貴方のこと……)




?「………」

?「ありがとう、乙女…」

それから両国の関係は一旦落ち着き、不穏な事件は起こらなくなった。

側近「魔王様、覇王の国の王から書が届いています」

魔王「そうか、読ませてもらおう。覇王殿は文才のある方だ、書を読むのも楽しい」

側近「書を交わせば交わす程、こちらの恥部を晒すようで…」

魔王「どういう意味だ、ん~?」

料理長の件がきっかけで、両国の王は書を交わす仲にはなった。少なくとも魔王の方は覇王に対し好感を抱いているようで、和平への兆しも見えてきている。

悪魔「おーい、速報だぜ!」

魔王「おぉ、どうした悪魔」

乙女「悪魔さん、お怪我はもう大丈夫ですか?」

悪魔「お陰様で。それよりもさ、海王の国のことで報告入ったよ」

魔王「あぁ、確か疾風狼が一隊を率いて交渉に向かったとか…」

悪魔「そんでさ、海王の奴、それだけでビビっちまって、覇王の国に全面降伏だってさ。弱すぎだろ海王」

乙女(海王が…)

チラッと魔王の顔色を伺う。

魔王「そうか…こちらも後日、使者を送ると海王に連絡を」

魔王は表面的には冷静に、職務を果たしている。
しかし、内面は――

乙女(海王は、ヒロインが殺された元凶…)

魔王も、騎士団長も、その傷を忘れてはいない。
これから海王には、両国からの制裁が待っているかもしれない。

乙女(…私が口出しする話じゃないわね)

海王の国は両国を嵌めようとしたのだから、それなりの制裁は受けるのも当然かもしれない。
政のわからぬ自分は、そのゴタゴタに関わる気はない。

乙女(それよりも…)

魔王の顔色を再度伺う。
もし魔王がいつまでもヒロインの件を引きずるようなら…

乙女(魔王の心の慰めになれれば…)

魔王「どうした、さっきから俺の顔を見て。美しいのはいつもと変わらないだろう?」

乙女「はいはい」

態度は相変わらずだ。

ところで最近、私にとって良いことがあった。

乙女(ふっふー、スマホ復活~♪)

少し前にバッテリーが切れてしまっていたのだが、駄目元で城の魔術師にお願いしてみると、何と電気系魔法で充電が可能になったのだ!!

乙女(もう電池切れ気にしなくていいから、今まで撮り貯めてた素敵ボイスを存分に聞けるわ~♪ 再会できるわね、勇者、ハンター、猫耳それから…)ランラン


悪魔「お前さぁ、いい加減素直になれよな」


乙女(ん?)


悪魔「いつまでああやって、進展しない関係保ってるつもり? 生殺しにも程があるぜ」

魔王「しかし…」


乙女(あ、何か重要な話をしてる? 立ち聞きしちゃ悪いわよね)


去ろうとしたその時…


悪魔「ちゃんと告白しろよ、乙女ちゃんに」


乙女「っ!?」

突如自分の名前が出てきて、足が止まった。

魔王「…ならん」

悪魔「どうしてだよ。あ、まさか怖いの?」

魔王「っ、この俺が何を恐れると言うのだ!」

悪魔「乙女ちゃんにフラれることだよ」

魔王「~っ…」

悪魔「…まぁ、ヒロインちゃんのこともあったし、なかなか先に進めないのはわかるけどさ。いつまでもそうやって立ち止まっていること、ヒロインちゃんも望んでないと思うぜ」

魔王「…ヒロインがそうだとしても、俺が本気で愛した女だ。俺は、忘れたくない」

悪魔「でもお前、乙女ちゃんのことも好きだろ?」

魔王「…っ!」

悪魔「乙女ちゃんといる時のお前は恋する魔王だ、そりゃもうわかりやすい位に」


乙女(そ、そんなことないってばあぁーっ!)

耳まで沸騰しかけ、そこから慌てて立ち去ろうとした。
けどその時、スマホを落としてしまって――


スマホ<勇者【魔姫さん。俺…初めて魔王城に乗り込んで、貴方に出会った時から、ずっと……】


魔王「…は?」

悪魔「え?」

乙女(しまったあぁーっ!! 弾みでボイス再生しちゃったー!!)


魔王「あ…乙女」

乙女「…どうも」

今日はここまで。
料理長戦をもうちょい書くべきかどうか悩みましたが、下手くそな戦闘描写を長々やってもダレるだけでと言い訳。
明日完結します~。ここまでお付き合い下さりありがとうございました。

乙、楽しみにしてる

乙です
次で終わっちゃうのかー

魔王「……」

乙女「……」

気まずい沈黙。話を聞いていたことがバレたか。
よし、ここは…

乙女「それでは私はこれで…」

魔王「あぁ…」

話を切り上げることにした…けど、


悪魔「…待ったぁ!!」

それを許さんとする人がいた。

悪魔「乙女ちゃん話聞いてたんだろ! 丁度いい、もう気持ちはっきりさせろよ魔王! 俺はいなくなってやるからさあ!」

乙女「え、ええぇ!?!?」

魔王「いや、しかし…」

悪魔「あーウジウジうざってえぇ!!」バキィ

魔王「ぶっ!」

乙女「あ、悪魔さん!?」アワワ

悪魔「しかし、じゃねぇよ! 自信満々で強引ないつものお前に戻れよ! じゃあな!」

魔王「……」

魔王はすうっと深呼吸した。

魔王「…乙女、俺はかつてヒロインを愛していた。今でもその気持ちは、失くなっていない」

乙女(知ってる)

魔王「俺がお前を側に置いていたのは…ヒロインの面影があるから、という理由が大きい」

乙女(知ってる)

魔王「だが、お前の命が狙われ、守らねばならないと本気で思った時から…俺はお前への気持ちに気付き始めた」

乙女「……」

魔王「乙女……俺はお前のことも好いてしまった」

乙女(私だって、魔王が好き!!)


だけど――

乙女「…ごめんなさい」

気持ちを割り切れないのは、私も一緒だった。

乙女「私では…ヒロインさんのように魔王様を愛せる気がしません」

魔王「乙女…俺はお前にヒロインの代わりを求めているわけでは」

乙女「いえ」

魔王がここまで気持ちを曝け出してくれたのだ。
だから私も、秘密にしてはおけない――

私はスマホを取り出した。

スマホ<魔王【礼は行動で示してもらおうか…お前、一時的に俺のモノになれ】

スマホ<魔王【安心しろ…ウブな小娘には優しくしてやるよ】

魔王「……は? 俺の声…しかも、」

乙女「覚えていますか?」

魔王「これは、俺がヒロインに言った……」

乙女「ずっと、見ていましたよ。2人のこと」

魔王「は…?」

乙女「すみません。実はこの世界に来る前から、2人のことは知っていたんです」

それから私は魔王に、全てを説明した。
ゲームでヒロインの目を通し、この世界を見ていたこと。
そして私の選択ミスが、ヒロインを死へ追いやったことも――

魔王「……」

にわかには信じられない、といった顔をしていた魔王だったが、ヒロインと魔王の間であったことを事細かに言って聞かせると、少しずつだが信じ始めたようだ。

乙女「私にとってはたかが娯楽…だけどその娯楽のせいでヒロインが死に、貴方もこの国も不幸になろうとしていた。それだけ私、罪深いことをしてしまったんです」

魔王「まさか、物語の世界が実在するとは思ってもいなかっただろう…。お前を責める気はない」

乙女「でも私、ヒロインを差し置いて貴方と幸せになれません。そんなの、ヒロインに申し訳なさすぎて…」

魔王「……」

乙女(全部、言っちゃった……)

後悔はしていない。ただ、悲しいだけ。

でも、どうせ似ているのなら――私は、プレイヤーだったんだから。

乙女(私が…ヒロインになれれば良かったのに)



?「それなら、心配ないよ」

魔王「ん?」

乙女「えっ?」


聞き覚えのある声に振り返った。
そこにいたのはやはり見覚えがある顔――この世界に来てから1度も顔を見ていなかった、最後の主要キャラ。

乙女「守護精霊!?」

守護精霊「またの名を……」

ドロン

乙女「あっ!!?」

新規客「どうも~♪ お久しぶり、乙姫ちゃん!」

守護精霊が――私にあのゲームをくれた、新規客さんになった!?

守護精霊「ごめんね騙して」ドロン

守護精霊は姿を元に戻し、そして改めて頭を深々と下げてきた。

守護精霊「そして、ありがとう乙女…この世界を救ってくれて」

乙女「ちょっと待って…どういうこと? 私がこの世界に来たのは、守護精霊の仕業だったの?」

守護精霊「そう。ごめんね、もっと早く説明するつもりだったんだけど。なかなか、魔王の国に入ることができなくてね」

魔王「確かお前、疾風狼の家に仕える守護精霊だったな。色々と不思議な力を持つそうだが…」

守護精霊「僕は異世界に渡って、乙女を探し、この世界に呼びつけた」

守護精霊は私の方を見据えて言った。

守護精霊「乙女――君は、ヒロインなんだ」

乙女「ちょ、ちょっと待って、どういう――」


と、その時だった。

乙女「――」


==================
魔王【ヒロイン…俺は今、お前が最高に愛しい……】

ヒロイン【魔王、私も――】
==================


乙女(……っ!!)

魔王「どうした、乙女?」

突然頭を抱えだした私を心配してか、魔王が顔を覗き込んできた。

今の映像は――

乙女「…あの、魔王。ちょっと…いや、かなり場違いな質問していいですか?」

魔王「? 何だ」

乙女「その…。あれの後……ヒロインに何回、キスしました?」

魔王「………は?」

乙女「……あの夜です」

魔王「………」


あの夜とは、勿論――


魔王「なあぁ!? お、お前、あの場面だけは見なかったと言っていたじゃないか!?」

乙女「わ、わかりませんよ! 急にその場面の映像が頭に……」

流れ込んできた映像は、ゲームでカットされていた、あの恥ずかしい場面。

乙女「何で…!? 私、ゲームでもその場面見なかったのに…」

守護精霊「それはね――」



守護精霊「乙女が、ヒロインの生まれ変わりだからだよ」

乙女「――え?」

守護精霊「時系列を追って説明すると――」


守護精霊が言うには、こうだ。
ヒロインが死んだ後、両国の関係に亀裂が入り、戦争勃発の一歩手前という所にまで来た。
このまま争いになれば世界中を巻き込むことになる――そう察知した守護精霊は、この世界の時間を〝止めた”。

心に傷を負った魔王と騎士団長の心を癒やし、平和に導けるのはヒロインの存在――

そして守護精霊は異世界に転生したヒロインの魂――つまり私を追って、私に接触を謀ったらしい。


守護精霊「勿論、乙女には乙女の世界での生活があるからさ…だからゲームに選択肢を作って、賭けに出たんだ」

乙女「賭け? あの選択肢が?」

守護精霊「あのゲームは、乙女の中に眠るヒロインの記憶を映し出したもの。ヒロインが辿らなかった選択肢を選べば、乙女はこっちの世界に呼ばれない…」

乙女「あのバッドエンドは、正規エンドだったんだ…」

守護精霊「乙女の中にいるヒロインが望まなければ、別の選択肢を選ぶようにする…そういう風に作っておいたんだよ」

乙女「じゃあ…ヒロインが望んだから、私はここに……」

守護精霊「…って言っても、乙女にはそんなつもりないよね。ごめん」ペコ

乙女「い、いえっ!」

確かに、望んで来たのか、と言われれば否定するけど。でも――

乙女「私、この世界に来れて…魔王にまた会えて、良かった」

魔王「乙女……」

魔王「…乙女!」

乙女「あっ!?」

魔王は突然抱きしめてきた。
離れようにも力が強くて、どうにも離してくれそうにない。

魔王「お前に告白した時も、どこかにヒロインに対する心残りがあった…しかしもうその必要はない。お前は俺が愛した女、2人の魂を持っているのだから」

乙女「魔王…」

魔王「俺はもう迷わないぞ」

魔王は体を離し、私の目を見据えた。そして――


魔王「乙女――俺のモノになれ!」


乙女「……」

その告白は、あまりにもいつも通りで。


乙女「…くすっ」

魔王「お、おい!? く…やはりまずかったか?」

乙女「いえ?」クスクス


あまりにも、いつも通りだから。


乙女「魔王の、本当の言葉だなぁ…って思ったの」


その、いつもの魔王が大好きだから。


乙女「こっちからも言うわ、魔王。…私のモノになって」

魔王「…全く」

魔王は苦笑した後、再び抱きしめてきた。


魔王「俺の全ては、お前だけのものだ――」

>現代日本


==================
勇者【んなーっ、お前抜けがけかよ! いいか、俺の方が先に魔姫さんを好きになったんだからなーっ!】

ハンター【勝負とはシビアなものなんだよ】

猫耳【ちなみに、魔姫のファーストキスの相手は僕だにゃー♪】クスクス

勇者&ハンター【何いいぃ!?】
==================


乙女「あぁ~、“逃走プリンセス”リメイク版新規ルートたまらない」ウットリ


私は現代に帰ってきた。
異世界に行っていた反動で、ここのところ以前にも増して乙女ゲーにドップリだ。


魔王「乙女~」

乙女「どうしたんですか」

魔王「何回やってもバッドエンドになるのだが」

乙女「女の子に媚びた選択肢を選ぶんですよ。それでも駄目ならひたすらセーブ&ロード」

魔王「ぐぬぬ。難しいものだな、このギャルゲーというものは」


私と魔王は互いの世界を行ったり来たりしている。
頭の回転のいい魔王は、割と早くこちらの世界に馴染んでくれた。


魔王「ところで疾風狼が、ここの所お前が来てくれなくて寂しいと言っていたぞ」

乙女「もう、お父様ったら…」

魔王「平和になってきたら、ただの親バカとなったな。まぁ、ギスギスしているよりは良いか」フッ

乙女「そうですね。魔王がこっちの世界に来てても、な~んの問題も起こりませんしね」

魔王「どーいう意味だー」

==================
勇者【魔姫さん、お、お、俺と…俺とお祭り行ってくれませんか!?】

選択肢
・「えぇ、是非一緒に」
・「ごめんね、お祭りって気分じゃないのよ」
==================


乙女「どうしようかな~…勇者ルート先にするか後にするか……」ウーン

魔王「…なぁ。まさかそのゲームやってたら、また異世界に飛ばされるんじゃ…」

乙女「そんな仕様のゲーム、普通は売ってませんよ」

魔王「全く。俺以外の男に気持ちを向けるとは、けしからんな」

乙女「二次元への嫉妬は見苦しいですよ~」

魔王「二次元も入ってしまえば三次元と言っていただろう」

乙女「ふふ。もし私がまた、別のゲームに入ってしまったらどうします?」

魔王「愚問だな。決まっているだろう――」


そう、決まっている。彼ならきっと、こう言う――



魔王「追いかけて捕まえてやるよ。何次元であろうとな!」


Fin

ご覧下さりありがとうございました。
作者自身は元々ギャルゲーマーなのですが、昨年の秋辺りから乙女ゲーを始めてハマってしまいました。流石にボイス録音まではしていませんが。


過去作こちらになります。ファンタジー恋愛モノ多めです。
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/


乙、とても面白かった
また何か書く時は是非この板で書いてほしいな

乙、これはいい発想

面白かった
悪魔いいやつだな悪魔にもいずれ良き伴侶が出来て欲しいもんだ乙乙


こういうハッピーエンドすごくいい!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom