この世の果てへと至る旅路 (61)

「この世の果てに連れていって欲しいな」

 唐突に先輩が、そんなことを言いだした。
 僕は飲みかけのオレンジジュースを机の上に置くと言葉を返す。

「何処ですか、それ」

「行ってみれば分かるよ、きっと」

 先輩がオレンジジュースを一口しながら一言。
 いつもの戯言ならば、そのまま聞き流してしまってもよかったのだが。
 なんだか今日の先輩は雰囲気が違う気がした。

「ね、連れていってよ」

「自転車で行ける距離ですか?」

 滑稽な返答だ、と僕は自分で思った。
 自転車で行ける距離かどうかなど関係ないだろうに。

「行けるよ、きっと行ける」

 悪戯っぽい子供の様で、何もかもを悟った聖人の様でもある先輩の笑顔。
 僕の視線はそんな先輩の笑顔に釘付けになってしまう。
 
「さ、連れ出してよ王子様」
 
「……」

 差し出された先輩の手を握る。
 想像していたよりも温かい先輩の手。離したらそのまま消えてしまいそうな先輩の手。

「……エスコート致します、お姫様」

「うむ、くるしゅうない」

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「暑くないですか?先輩」

 荷台へ声を掛ける。

「んー、暑いよ。すっごい暑い」

 傍に居なければ聞こえない大きさの先輩の返答。
 僕はその返答を聞いて安心した。
 暑いと言われて安心するのも変な話だが。
 声が返ってこないと不安になるほど、先輩は重量感がないのだ。

「日本の夏って感じだねー」

「辛くなったら言ってくださいね。日陰探します」

「……ありがと」

 後ろを振り返る。自分の汗が前髪を伝うのが見える。
 先輩はいつも通り、平然とした顔で僕の運転に揺られていた。
 暑いと言った割に汗は全然かいていない。
 いい事なのか、悪い事なのか。

「ねぇ」

「はい、なんでしょうか」

 木陰で佇む僕と先輩。
 学生にとっては夏休みでも世間的には平日の街並み。
 疎らな人通りは今の僕らにとって好都合だ。

「あれ、あれが食べたいな」

「……?」

 先輩の指差した方向を目で追う。
 僕のと同じような自転車。違う所を上げるとすれば、荷台に先輩の代わりにクーラーボックスが乗っている所か。
 その自転車の主と思われる麦わら帽子のおじいさんと目が合う。
 にんまりと音がしそうな笑み。
 僕はそんなおじいさんの笑みと先輩の笑みを交互に見比べてから、財布へと目を落とした。
 あまり浪費はしたくない。
 が、先輩の願望を浪費と表現もしたくなかった。

書き溜めないのでマイペース更新
長いか短いかも決まってないです

ではまた

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