翔鶴「あざなえる縄のごとし」 (93)



翔鶴「――提督、司令部からお荷物が届いてます」

提督「ああ、ありがとう」

翔鶴「物資ですか?」

提督「任務報酬だな。少し前にやった、ケッコンカッコカリ関連の」

翔鶴「え……」


提督「えーと、うちで練度99の子は――鳳翔と、一、二、五航戦の子だな」

翔鶴(どきどき)


提督「……うん。まあ、焦って渡すこともないか」

翔鶴「へ?」

提督「お疲れさま。これから午後の演習を頼むよ」

翔鶴「は、はい。お疲れさまでした……」



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ただのラブコメです。

空母艦娘どうしの呼び方(鳳翔へのお母さん呼び)などに独自設定を含みます。


飛龍「あ、翔鶴ー! 今日はよろしく――って、どしたの?」

翔鶴「えっ!? 何ですか、飛龍先輩!」

飛龍「いや、なんか落ち込んでるように見えたからさ」

翔鶴(そんなに顔に出てたかしら?)

飛龍「調子悪いなら、提督に言ってこようか。私が旗艦、代わってもいいし」

翔鶴「いいえ、心配ありませんよ! 私はいつも通りですから」

飛龍「そう? ならいいんだけど」






翔鶴「よしっ、制空権確保――飛龍先輩!!」

飛龍「了解! 友永隊、頼んだわよ!」

翔鶴(うん、いい感じ……このまま行けばS勝利ね)

翔鶴(いつも通り、いつも通り)


飛龍「――っ!! 翔鶴、10時方向!!」

翔鶴「え――」

翔鶴(ぎ、魚雷!? もう間に合わな……)


翔鶴「きゃああっ!!」

飛龍「翔鶴!! 一旦下がろう!!」

翔鶴「で、でも、もう少しで……」

飛龍「演習は実戦のためにあるってこと、忘れちゃだめだよ。本来なら、もう大破に近いんだからね」

翔鶴「……はい。陣形維持のまま後退します、指揮は飛龍先輩に」

飛龍「うん、了解」



飛龍「まさか、雷撃距離以遠からのが当たるとはねぇ」

翔鶴「A勝利、かあ」

飛龍「しょうがないよ、あんなの予測できないもん」

翔鶴「でも、もう少し気を配ってれば避けられたかも」

飛龍「戦場は何が起こるかわからないから……臨機応変な対処も、演習で学べてよかったじゃない?」

翔鶴「はい……」


飛龍「ほら、もう気にしないでさ。夕飯食べにいこう!」

翔鶴「そ、そうですね。――あ、先に報告してきますね」

飛龍「うん。じゃ、席取っておくね」



翔鶴「――戦果は、大破判定4。A勝利です」

提督「うん」

翔鶴「こちらの損害は……旗艦大破。魚雷、直撃1」

提督「雷撃を食らう状況ではなかったと思うけど」

翔鶴「相手方の詳報と照らし合わせました。誘爆を防ぐために、投棄した魚雷が流れたようです」

提督「狙ったわけじゃなかったか。災難だったね」


翔鶴「あ、あの、申し訳ありませんでした。私の不注意でS勝利が」

提督「謝ることなんかないよ、君の指揮は全く問題ない。ちょっと運が悪かっただけだ」

翔鶴(運……)


提督「しかも、相手の戦艦は全部大破させてる。艦載機の練度も上がってるようで、頼もしいよ」

翔鶴「…………」

提督「気にしてるのか?」

翔鶴「だって、あれが無ければS勝利で」


提督「そういう不慮の事態への対処も、旗艦の資質が出るけど。君はその点、何の問題もない」

翔鶴「えっ?」

提督「最善だったよ。撤退のタイミングも、無理せず指揮権を飛龍に移したこともね」

翔鶴「……ありがとうございます」

提督「うん。じゃあ、今日は上がってくれ」

翔鶴「はい、お疲れさまでした」



翔鶴(提督はこういう時怒ったりしない、優しい人だけど……)

翔鶴(でも、やっぱり)

翔鶴(提督も、運の良い子が好きなのかな?)






翔鶴「こんばんはー」

鳳翔「こんばんは。遅かったのね、貴女で最後ですよ」

翔鶴「ちょっと演習で遅れて……私の分、お願いします」

鳳翔「はいはい――あら」

翔鶴「どうしました?」

鳳翔「ご、ごめんなさい。デザートのプリンがひとつ、足りないみたい」

翔鶴「え?」

鳳翔「外注したんだけど、確かに人数分頼んだのに……業者さんのミスかしら」

翔鶴「そうですか、それじゃ仕方ないですね」

鳳翔「本当、ごめんなさいね。今度なにかで埋め合わせするから」

翔鶴「そんな、お母さんのせいじゃないですよ」


蒼龍「――あ、おーい翔鶴! こっちこっち」

翔鶴「お疲れ様です、先輩」

飛龍「ごめんねー、先に食べちゃってて」

翔鶴「ああ、いえ。さめちゃいますからね」


蒼龍「結構頑張って待ってたんだけどね? 目の前でお腹がずーっと鳴ってて」

赤城「誰のことですか誰の!!」

加賀「飲み込んでから喋りましょう――あと赤城さん、ご飯つぶ」

瑞鶴「すましてるけど、加賀さんもついてるからね」

加賀「…………」

瑞鶴「……いや、なんで睨まれなきゃなんないの」


蒼龍「翔鶴も、早くすわって食べなよ」

翔鶴「あ、はい。いただきまーす」

翔鶴(先輩たちも、運は大して変わらないのに。私と何が違うんだろう)

瑞鶴「翔鶴姉、お茶飲む?」

翔鶴「あ、ええ。ありがとう」


瑞鶴「さて私も――お、茶柱」

飛龍「――あ、黄身が2つ入ってる。ラッキー」

翔鶴「…………」


翔鶴(あの2人は別格、あの2人は別格……)


飛龍「――あれ翔鶴、プリンは?」

翔鶴「何かの手違いで、足りなくなっちゃったみたいで」

瑞鶴「そうなんだ、残念ね」

赤城「…………」


赤城「しょ、翔鶴……良かったら、私の、プリンを……」プルプル

翔鶴「だ、大丈夫ですよ赤城先輩。気にしないで食べてください」

赤城「!!」パァァッ

加賀「自分のをあげようとは……成長したわね赤城さん」

蒼龍「あとひと口しかないのに、後輩にあげるとはこれ如何に」


飛龍「あ、翔鶴。提督はなんだって?」

翔鶴「いつも通り……褒めてくれました」

飛龍「そう、良かったね。心配いらなかったでしょ」

翔鶴「S勝利じゃなかったのに、ですよ?」

飛龍「なんだ、まだ気にしてたの? あんなのそうそう起こらないって」

翔鶴「だからですよ……それが起きたって、相当な運の悪さじゃないですか」


飛龍(うーん、参ったな。元気づけてあげたいけど、私こういう経験ないからなあ……)


飛龍「1人で悩んでも、もやもやが解消しない……こういう時は、誰かに頼ればいいのよ」

翔鶴「頼る……でも、愚痴みたいになっちゃいますけど」

飛龍「そういうのを言い合えるのが戦友ってもんよ。お酒の力でも借りて、全部吐き出しちゃいなさい」

翔鶴「は、はい。そうします」

飛龍「私たちの誰かでもいいけど、こういう時は」

翔鶴「――やっぱり、お母さんかな?」

飛龍「うん。今日はお店開けるらしいから、行っておいで」


一旦区切らせていただきます。

続きは明日になります、またよろしくお願いいたします。


遅くなりましたが、本日分投下していきます。

運についてと、演習については独自設定になりますのでご注意ください。






鳳翔「――ふむふむ。悪いことは重なるものですね」

翔鶴「なんだか今日は、どっと疲れがたまっちゃって……」

鳳翔「ごめんなさいね。演習でそんなことがあったなら、せめて甘味くらいは食べさせてあげたかったわ」

翔鶴「プリンを食べてた赤城先輩の、おいしそうな笑顔でお腹いっぱいですよ」

鳳翔「優しい子ですね、貴女は……」


翔鶴「とりあえずお酒、頂いていいですか?」

鳳翔「そうね。もう結構遅いから、一本くらいにしておきなさい」

翔鶴「はい、そうします」


酉失敗してしまった……再投下します






鳳翔「――ふむふむ。悪いことは重なるものですね」

翔鶴「なんだか今日は、どっと疲れがたまっちゃって……」

鳳翔「ごめんなさいね。演習でそんなことがあったなら、せめて甘味くらいは食べさせてあげたかったわ」

翔鶴「プリンを食べてた赤城先輩の、おいしそうな笑顔でお腹いっぱいですよ」

鳳翔「優しい子ですね、貴女は……」


翔鶴「とりあえずお酒、頂いていいですか?」

鳳翔「そうね。もう結構遅いから、一本くらいにしておきなさい」

翔鶴「はい、そうします」


鳳翔「さて……私の考えは、そういう日もある、ということかしらね」

翔鶴「そう、でしょうか」

鳳翔「人間万事、塞翁が馬。禍福は、糾える縄の如し」

翔鶴「確かにそれはわかるんですが」

鳳翔「それから、心がけの問題も」

翔鶴「心がけ?」

鳳翔「気を明るく持てば、ものごとのとらえ方も明るくなりますし。考え方によっては、そう悪いことでもなくなったりね」


翔鶴「でも私の場合は、そういうのとは違う気がするんです」

鳳翔「ここに来た時と比べて、貴女の運の値は……」

翔鶴「はい、改造でずいぶん上がりました。お母さんの言う通り、たまたま悪いことが重なった日だったのかもしれません」


翔鶴「でももし、今日の演習のことが」

翔鶴「私自身の、船の魂からくる運の悪さだとしたら?」

鳳翔「…………」


翔鶴「鍛錬でおぎなえることなら、努力は怠りません」

翔鶴「でも、それではどうすることもできないことだったら?」

翔鶴「今日の演習だって、まず起こらないようなことが起こったりして――演習だからよかった、とも言えますが」


翔鶴「もし、実戦でも起こったら? それが原因で、みんなを危険にさらすようなことになったら?」

翔鶴「敵は、まだまだ強くなるのに――そんな風に考えちゃって」

翔鶴「なんだか今日は、少し怖かったんです」


鳳翔「……ううん、そうね」


鳳翔「それを聞いて、言いたいことは3つあります」


鳳翔「まず1つ目は、その悩み、貴女だけが抱えているわけじゃないこと」

翔鶴「あの、それは」

鳳翔「ああ、ごめんなさい。貴女はわかっていることだと思うけど、改めてね」


鳳翔「私たち艦娘は、あの戦争の記憶を残していますが……運の良し悪しは、艦船だけでは決まらないことです」

鳳翔「その時戦っていた人が、死力を尽くした結果ですから。誰もそれを否定できないと思います」


鳳翔「ふたたび戦うことになった私たちが、艦の記憶をどう受け入れ、新しい命をどう生きていくのか」

鳳翔「――簡単に、答えのでることじゃありませんよね」

鳳翔「だからみんな、考えながら生きていくんだと思うわ。私もね」

翔鶴「……はい」


鳳翔「2つ目。もう少し自分に自信を持つこと」

翔鶴「え?」


鳳翔「演習の取り決めで、提督が直接、指揮を執らない理由は知っていますね?」

翔鶴「はい。ええと、提督が負傷などの有事の際、艦娘が代われるように経験を積むため……ですよね」

鳳翔「ええ。つまり提督は、貴女には指揮を任せられると思ってるのよね」

翔鶴「あっ……」

鳳翔「それくらいには、信頼を置かれていると思っていいんじゃないかしら」


翔鶴「提督が、私を頼りに?」

鳳翔「私の経験ですけどね。少なくとも、誰だって旗艦になれるわけじゃないわ」


鳳翔「貴女が頑張っていることは、ちゃんと知っています」


鳳翔「貴女の先輩たちのほうが、わかりやすいかもね」

翔鶴「先輩たちですか? すごく良くしてくださってますが」

鳳翔「ええ。でも、鎮守府に来てすぐの頃は大変だったでしょう」

翔鶴「あ、えーと……あはは」


鳳翔「加賀ちゃんに、なんて呼ばれてた?」

翔鶴「……ご……五航戦のまだまともなほう……」

鳳翔「……聞いておいてなんですけど、今は仲良くやれてますよね?」

翔鶴「い、今はちゃんと名前で呼んでくれます! 改になったあたりから、よく褒めてくれますし!」

鳳翔「ならよろしい。先輩も後輩も仲良くね」


鳳翔「つらい時は誰かに頼る。これが3つ目よ」

翔鶴「はい……飛龍先輩にも、同じことを言われました」

鳳翔「そう。同じ空母の子でも、私でも、なんでも話してくれればいいわ」



鳳翔「……せっかくみんな、揃ってるんですから。あの時と違って」


鳳翔「ところで、どうしてそこまで、運を気にし始めたの?」

翔鶴「気にするというか。運が悪い子より良い子のほうが、提督だって――」

鳳翔「提督?」

翔鶴「あっ、いえ、あの。提督だって、運が良いほうが作戦を立てやすいはずです」


鳳翔「――好きなの? あの人のこと」

翔鶴「はい……」


翔鶴「ん? ――っっ!!」

鳳翔「ふふ、慌てなくてもいいわ。みんなわかってますから」

翔鶴「わかってるんですか!? 先輩たちも!?」

鳳翔「ええ、多分ね」


翔鶴「ど、どうしてわかったんですか」

鳳翔「――まあ、それは置いておいて。そろそろ日を跨いじゃうわね、寝不足はいけませんよ」

翔鶴「流された……結構大事なことなんですけど」

鳳翔「寝るときは深く考えずに、疲れを残さないようにするんですよ?」

翔鶴「ちょっと納得いきませんけど……はい」


翔鶴「今日はありがとうございました。なんだか楽になった気がします」

鳳翔「ええ。じゃあ、そろそろお開きにしましょう」

翔鶴「はい、それじゃ、おやすみなさ――」


―― ドザアアアアア……


翔鶴「…………」

鳳翔「あらあら。さっきまであんなに晴れてたのに」

翔鶴「なんで降ってほしくない時だけ降るのぉ……」シクシク


鳳翔「困ったわね、置き傘は用意してないんですよ」

翔鶴「傘、持ってきてないし……濡れて帰るしかないですね」

鳳翔「……ふむ」


鳳翔「ちょっとそこで待ってなさい、ね?」

翔鶴「え、ええ。でも、待ってても止みそうにないですけど」

鳳翔「ふふ、言ったでしょ。塞翁が馬ですよ」


鳳翔「――もしもし、提督? 私です、鳳翔です」

提督『ああ、どうした鳳翔』

鳳翔「お忙しいところ恐縮ですが、今から私のお店まで来てください。傘を一本持って」

提督『行くのは構わないけど……どうして?』

鳳翔「この大雨で、翔鶴ちゃんが寮まで帰れずに困ってます。迎えに来てあげてください」

提督『そうか、そういうことなら。すぐ行くよ』


鳳翔「いいですか、傘は自分で差すのも含めて一本ですよ。一本だけですからね!」

提督『え? あ、ああ。わかった』


本日はここまでです。
コメディ薄めになっちゃいましたが、シリアスにはなりませんので……

今週中には完結させたいです。では、またよろしくお願いいたします。


「今週中に終わる」とか大嘘ついて本当申し訳ありません!

元々考えてた展開が納得いかなくなってしまい、全力で直し中です。
木曜か金曜くらいまで待っていただきたいです、すみませんorz






翔鶴(どどど、どうしよう。まさか提督と相合傘なんて)

提督「肩、濡れるだろ。もうちょっと寄ってくれ」

翔鶴「いえっ、大丈夫です。ありがとうございます、お忙しいのに」

提督「気にしないでいいよ、もう仕事は終わったから」

翔鶴「……はい」


翔鶴(うう……近くで顔合わせるなら、もっと身だしなみ確かめておけばよかった)

翔鶴(か、髪とか、ぼさぼさじゃないかしら)


提督「しかし、ついてないよな。今日は夕焼けも綺麗だったのに」

翔鶴「うぐ……すみません、私のせいで」

提督「いやいや。別に雨は誰のせいでもないだろう」

翔鶴「そうではなくて、わざわざ迎えに来てもらったのが。しかも、傘は一本で」

提督「ああこれは、ほうしょ――」

翔鶴「他の傘は全部、誰かが使っちゃってたんですよね?」

提督「……え?」

翔鶴「よくあるんです。出かけようとしたら雨が降って、しかもそういう時に限って傘が全部使われてたりして」

提督(わざと一本にしたのは気付いてないのか……ちょっと傷つくんだけど)


翔鶴「でも、今日はそのおかげで、相合い傘を……」

翔鶴「――きゃあ! 何でもないです!」

提督(……ああもう、かわいいな)


翔鶴「…………」

提督「…………」

翔鶴(こういう時、何話せばいいのかな?)

翔鶴(忙しくて、2人で話すとかあんまりなかったからなぁ)

翔鶴(提督もおしゃべりな方じゃないし)


翔鶴(……指輪)

翔鶴(指輪、誰に渡すんですか? とか……)

翔鶴(聞けるわけないじゃない! そもそも提督が決めることだし!)


提督「――かく、翔鶴?」

翔鶴(でも、考えないようにしてたけど……一体、提督は誰に……)

提督「翔鶴!」

翔鶴「あ、はい!?」

提督「ほら着いたよ、空母寮」


翔鶴「――あ、ありがとうございました。じゃあ、これで」

提督「あっ、あのな翔鶴」

翔鶴「はい?」

提督「その、ゆ――」

翔鶴「ゆ?」

提督「……ゆ、ゆっくり休んでくれよ。演習で疲れただろ」

翔鶴「はい! それじゃ、おやすみなさい」

提督「うん。おやすみ、翔鶴」



提督「…………」

提督「いやいや。さすがに土砂降りの道端で、はないだろう」

提督「うん。明日だ、明日」

キタコレ!!
まだ金曜だからギリギリセーフ!!


翔鶴「ただいまー」

瑞鶴「あ、お帰り。遅かったわね」

翔鶴「ええ、少し話し込んじゃって。お布団ありがとうね」

瑞鶴「明日も用事あるんでしょ? 早く寝ないと。おやすみー」

翔鶴「そうね、おやすみなさい」


翔鶴(お母さんのおかげで、ちょっといい日になったし)

翔鶴(て、提督ともちょっと話せたし。少しの悪いことで、へこたれていられないわ)

翔鶴(明日からまた頑張ろう!)






翔鶴「――ふぁ」

翔鶴「うーん、今日はいい天気ね……」

翔鶴「あれ? そういえば雨、続くって言ってたのに」

翔鶴「……うん! なんか今日は、いいことがありそう!」


赤城「あら。おはよう翔鶴」

翔鶴「おはようございます赤城先輩!」

赤城「ごきげんね、何かあったの?」

翔鶴「はい! 今日はきっと、40ノット出せちゃいます」

赤城「へ? そ、そうですか」


翔鶴「おはようございまーす」

鳳翔「おはよう翔鶴ちゃん! ほらこれ、これ」

翔鶴「? なんですか、ゼリー?」

鳳翔「昨日は悪いことしちゃいましたからね、2つ取っておいたの」

翔鶴「えっ、いいんですか2つも?」

鳳翔「いいのよ遠慮しないで。ゆっくり食べてね」

翔鶴「は、はい! ありがとうございます!」


瑞鶴「おはよー翔鶴姉。今日は買い出し当番だっけ?」

翔鶴「ええ、これからお店まで行ってくるわ」

瑞鶴「荷物、一人で大丈夫?」

翔鶴「大丈夫よ、不足分を買いに行くだけだから。たいした量じゃないわ」

瑞鶴「そうなんだ。それじゃあ、早めに行ってきたほうがいいわね」

翔鶴「え?」

瑞鶴「午後からまた雨だって。荷物持って傘差すの、大変でしょ」

翔鶴「そ、そうね。すぐ行ってくるわ!」



…………


「――お会計が、3423円になります」

翔鶴「はい、ええと……あれ?」

翔鶴(残りの小銭がぴったりあるわ……こんなの初めて)

翔鶴「こ、これでお願いします」

「――はい、ちょうど頂きます。レシートと、こちら福引きの補助券、5枚になります」

翔鶴「福引き?」

「――6枚で1回、抽選ができます。本日が最後ですので、ぜひご参加ください」

翔鶴「あ、はい。ありがとうございます」


翔鶴「6枚かぁ、1枚足りない――あ、あれ?」

翔鶴(買い物かごの底に、1枚張り付いてる)

翔鶴「ど、どうしよう……これ、使ってもいいのかしら」

翔鶴「…………」


翔鶴「うん、いいわよね。今日が最後だし」

翔鶴「ラップでも当たれば、お母さん喜んでくれるだろうし!」


「――はい、1回分ですね。回してください」

翔鶴「はーい……よっ」

翔鶴(まあ、1回だものね。主婦の方みたいに、何十回分も貯めて)


―― カランカラーン

翔鶴「あれ?」

「――おめでとうございます! 4等の、醤油とサラダ油のセットです!」

翔鶴「う、うそ……ティッシュと○まい棒しか当たったことないのに……」


「――ありがとうございましたー!」

翔鶴「そっか……ガラガラの中身って、1色じゃなかったのね」

翔鶴「あれ? 絶対降ると思ったのに、まだ晴れてる……」


…………



翔鶴「私明日沈むかもしれない」

瑞鶴「帰って早々何言ってんのよ」


瑞鶴「――お天気に、ゼリーに、小銭に、福引き4等ですって?」

翔鶴「こんないっぺんに良いことが起きたら、揺り戻しで悪いことが来るに決まってるわ!!」

瑞鶴「どんな理論よ、それ」

翔鶴「馬と縄よ! お母さん言ってたもん!」

瑞鶴「何のこっちゃ」


蒼龍「後輩が慎ましすぎて泣けてくる件」グスッ

飛龍「もう少し幸運のハードル上げようよ……」グスッ


赤城「」モグモグ

加賀「」モグモグ

翔鶴「お買い物、行ってきました……」

鳳翔「ありがとう、お疲れさまでした」

翔鶴「あの、これ、よろしければ使ってください」

鳳翔「油とお醤油? あらまあ、翔鶴ちゃんが当てたの。助かるわ」

翔鶴「でもこれで、次は悪いことが!!」

鳳翔「……そういう意味で言ったんじゃあ、ないんですけどねぇ」


鳳翔「悪いことが起こる起こると思ってると、本当にそうなっちゃいますよ?」

翔鶴「そうなんですけど!」

鳳翔「心配ありません。もうすぐ来るはずよ」

翔鶴「えっ? それは――」


提督「――翔鶴、いるか」

翔鶴「提督!?」

提督「話し中にすまない。――連れていくよ」

鳳翔「どうぞどうぞ」

翔鶴「な、なんの話ですか!? きゃ、ちょっと――」



加賀「……ようやくね」モグモグ

赤城「ようやくですか」モグモグ

鳳翔「ええ、そうみたいですね。ふふ」


大変遅くなりました。
今日中に終わらせようとラストの直し中ですので、もうちょっとだけお待ちください

>>53
はい、もう、ほんとすみませんでした……






提督「急に連れ出して悪かったね」

翔鶴「いえ……でも、執務室? 仕事のお手伝いでしょうか」

提督「いや違う。もうここまで来たから、言ってしまうけど――」

提督「指輪のことだ。ケッコンカッコカリの」

翔鶴「!」


提督「君と初めて会ったのも、この部屋だったね」

提督「だからここが、一番ふさわしいんじゃないかと思った」

提督「いきなりこんな話ですまない。重ねて謝るよ」

翔鶴「…………」


提督「――元気がなさそうだね」

翔鶴「そ、そうですか?」

提督「私も、少し気になってたんだ。昨日の夕方のことで」

翔鶴「夕方の? もしかして演習のことですか?」

提督「そう。帰った後の君に軽々しく、運が悪かったなんて言ってしまったこと」

翔鶴「え?」

提督「前から入渠のたびに気にしてただろう? 自分は怪我しやすいんじゃないか、と」

翔鶴「そうですが……実際、瑞鶴に比べて損傷しやすかったですし」


提督「そんな報告を聞くのも、この部屋だったね」

提督「運の値は他の子と変わらないのに、確かに損傷の回数は多かった」

提督「……怪我しやすいと君は言うが、そもそも私の指揮に問題があったんじゃないか?」

提督「それがずっと心に引っかかってたんだ。私は君に、君たちに何ができるのか?」

提督「この鎮守府に来た時から、ずっとね」

翔鶴「そんな! 私も艦隊のみんなも、すごく提督を頼りに!」

提督「ありがとう。でもまあ、聞いてくれよ」


提督「艦娘はあの戦争の記憶がある」

提督「もはや今となっては、文字や写真、映像などの記録でしか見れないことの――」

提督「それでも伝わってくる悲惨さの、何倍も惨いことを経験しているはずだ」


提督「対して私はどうだ。学校を含めても10年弱、実戦経験はもっと少ない」

提督「そんな1人の人間が、君たちとどう向き合って指揮するのか?」

翔鶴「…………」


提督「艦娘の中には、あの戦争の記憶が強く残っている子もいる」

提督「だからあの戦争と結びつけるような話題は、私からはしないようにしていたんだ」

提督「下手なことを言って、トラウマを思い出させたくなかった」


提督「どう向き合うか、なんて偉そうなことを言っても……」

提督「君たちがどんな苦しみを抱えているか、理解しきるのは不可能だ」

提督「だからせめて、再び生を受けたこの世界では、誰1人失わないように」

提督「努力しているつもりなんだ。戦術、兵器、編成、兵站……なんでも」


翔鶴「それで……それで、いいと思います」

提督「ありがとう」


提督「それから、私なりに考えたことがあるんだ。君について」


提督「たとえば珊瑚海では、攻撃を集中されて。沈没確実とされる被害を受けた」

提督「でも言い換えれば、そんな傷からも君は生還したんだ。搭乗員の必死の働きによってね」

提督「2回も撃沈と報じられても、浮き続けていた優秀な空母だ」


提督「そんな風に考えを変えてみれば、ただ運が悪かったとも、言えないんじゃないかと」

提督「そう、思う。勝手な考えですまないが」

翔鶴「いえ、いいんです」


翔鶴(考え方を、変える)

翔鶴(あ……お母さんが言ってたのと同じだ)


提督「それで本題は、その」

翔鶴「はい!」

提督「君がここに来てから、何度も傷ついて……それでもめげずに戦うのを、ずっと、見ていて」

翔鶴「はい」

提督「実はもう、前から決めていたんだ。1番最初の指輪は、君に渡そうと」

翔鶴「……そうですか。嬉しいです」


提督「すぐに渡さなくてすまない。だけど指輪は、運を改善させる効果がある」

提督「だから、運を理由に自分を選んだんじゃないかと、思ってほしくなかったんだ」


提督「だから……ええと」

翔鶴「はい」

提督「自分の運命と向き合って、それでも頑張っている君が、とても、好きです」

翔鶴「……はい」

提督「君を助けてあげたいなんて、うぬぼれたことは言えないけれど、でも」

翔鶴「…………」

提督「苦しみを分かち合いながら、生きることはできると思います」


提督「2本あざなった縄のように、長く、共に」

提督「ずっと、そばにいたい。指輪を、受け取ってもらえますか?」


翔鶴「……提督」

翔鶴「あの戦争では、先輩たちが先にいって――私も、妹とお母さんを残していってしまいました」

翔鶴「親しい人たちと、離ればなれになって。でも、ここでようやくまた会えたんです」

翔鶴「そして、あなたに会えた。もう二度と、別れたくなんてありません」

翔鶴「だから本当に、そばにいてくださいね」

提督「……ああ、もちろん」


翔鶴「これからも、2人寄り添って」

翔鶴「ずっといっしょに、どこまでも翔び続けましょう!」



艦!


【注意:以下のおまけはコメディ成分多めです!】



~おまけ1~


加賀「――どうにかくっつきましたか。長かったですね」

鳳翔「あの人は少々、決心に時間がかかりますからね。してからは早いですけど」

加賀「まあ、これで不安定だったあの子も、少しは落ち着くでしょう」

鳳翔「ふふ、ちゃんと後輩を気遣ってるようですね。嬉しいわ」

加賀「い、いえ。これは艦隊戦力の、均一と安定という視点であって」

鳳翔「いいんですよ。理由はどうあれ、仲良くやれればね」


瑞鶴「…………」

加賀「……さっきから黙ったままで、何かしら。突っ込んでほしいのかしら」

瑞鶴「…………」

瑞鶴「ぐすっ」

加賀「!?」


加賀「ちょ、ちょっと、どうしたの」

瑞鶴「……翔鶴姉が」

加賀「翔鶴が?」


瑞鶴「今日から、提督さんといっしょに寝るって……荷物持って出てった」

加賀「…………」


瑞鶴「うぇえええええん!!」

加賀「あ、ああほら、もう。泣かないで……」サスサス



赤城(慌てる加賀さんもかわいい)

飛龍「でも、これで瑞鶴は1人部屋か。ちょっと寂しいかも」

蒼龍「今日は久々にみんなで寝ようよ、談話室にお布団敷いてさぁ」



~おまけ2~


加賀「えー、第1回」

加賀「笑う門には福来る、泣くくらいなら笑え、笑わないならお母さんの料理を食べればいいじゃないたいかーい」

瑞鶴「ちょっとは抑揚つけて話してよ、怖いですよ」


翔鶴「え、えーと。何ですか、これは」

赤城「翔鶴が、運の悪いことを気にしてるみたいだったから」

飛龍「陽気に笑って不幸を吹き飛ばそう、ってことよ!」

加賀「貴女のためにわざわざ企画してあげたわ。感謝なさい」

翔鶴「は、はあ。ありがとうございます?」


蒼龍「えーっと、まずは一航戦の2人からね」

赤城「よし! いきますよ、加賀さん」

加賀「了解。マイクチェック、ワンツー」

瑞鶴「三味線? 赤城さん弾けたんだ」

加賀「――レッドマウント☆百万石、参ります」

瑞鶴「それがユニット名!?」


赤城「べんべーん! てけてけ、てけてけ」

加賀「―― お医者の頭に 雀がとまる とまるはずだよ ヤブだもの ――」

瑞鶴「って都々逸かい!!」

加賀「―― 入れてもらえば 気持ちは良いが ほんに気兼ねな もらい風呂 ――」

瑞鶴「なぜきわどいのをチョイスした!! 加賀さんの笑いどころがわかんないよ!!」


加賀「芸術は黙って鑑賞する。呼び方を『五航戦のやかましいほう』に戻すわよ」

瑞鶴「無駄に上手いから反応に困ってるんだってば!!」

加賀「ほら翔鶴、とっとと笑いなさい」

翔鶴「ええっ!? いや、あの」

瑞鶴「脅迫して笑わそうとするな!!」



赤城「はぁー、べんべん!!」

瑞鶴「そして赤城さんは何なのよ!! 口で言うなら楽器いらないでしょ!!」


瑞鶴「はぁ、はぁー……」

飛龍「はいはーい、次は私たち。っても、ただの酒盛りだけどね!」

蒼龍「お酒飲んでりゃ、爆笑なんてすぐだよね! はいこれ、お猪口とおつまみね」

翔鶴「ど、どうも……」

赤城「空母寮にお酒なんてありましたっけ?」

蒼龍「私たちで、お母さんのお店からギンバ……頂いてきただけよ」

瑞鶴「いやまずいでしょ! あとが怖いんだけど!」

飛龍「あはは、冗談だよ。ちゃんと、飲んでいいって言われたのを持ってきたから」


加賀「……? いくつかは、もう空っぽだけれど」

蒼龍「いやー、持ってくる途中で我慢しきれなくって、私たちで味見しちゃってさー」

飛龍「誤解しないでね。みんなに美味しくないもの飲ませられないでしょ?」

瑞鶴「全部飲まないと味見れないんかい!! てかもう酔ってるし!!」


蒼龍「これがほんとの……」

飛龍「ドランクドラゴン……」

「「あーっはっはっはっはっは!!!!」」


瑞鶴「1人で2升も飲めば、そりゃこうなるわ」

翔鶴「二航戦ギャグは、私には早すぎます……」

加賀「――く、ふっ」

赤城「!?」


鳳翔「――ちょっと! 蒼龍ちゃんと飛龍ちゃん、いる!?」

赤城「あ、お母さん。お酒ありがとうございます」

翔鶴「みんなで美味しく頂きましたよ」

鳳翔「ああ、遅かった……もう飲んだ後ですか」

飛龍「え、これ飲んじゃまずかったの?」

蒼龍「でもお母さん、床下の倉庫からならいいって」

鳳翔「聞きちがいよ。倉庫には、接待に使う高ーいお酒があるから、それ以外にしてねって言ったの」


鳳翔「飲んじゃったの全部合わせて……2人の給料、半年分よ」

蒼龍「」

飛龍「」

鳳翔「……最近、お店の人手が足りないのだけど」

蒼龍「うわぁああああああん働きましゅうううううううう!!!!」

飛龍「皿洗いでもなんでもしましゅうううううううううう!!!!」


加賀「あ、あの、私たちも手伝いますから」

瑞鶴「結構私たちも飲んじゃったしね。妙に美味しいと思った」

鳳翔「とりあえず、いい加減明るいうちから飲むのはやめなさい……」



~おまけ3~


蒼龍「 もう一息だよ パワーを流星改に! 」

赤城「 いいですとも! 」

加賀「ふざけてる場合ですか!!」

飛龍「大丈夫だよー、もう全部沈めたからさ」


翔鶴(頼りになる先輩たち)


瑞鶴「おいしー! 今度作り方教えて!」

鳳翔「いいですよー。煮込むのに3日つぶれますけど」


翔鶴(優しいお母さんと妹)



提督「翔鶴、そろそろ出よう」

翔鶴「あ、はーい!」


翔鶴(頼りになる提督といっしょで、本当に幸せです)



―― ドザァアアアアアアア……


翔鶴「」

提督「初デートが大雨か。これは運が悪いと言えるんじゃないか?」

翔鶴「言わないでください……」

提督「休日もそう簡単に変えられないしな。なんとか行くしかないんだが」

翔鶴「お、お買い物! 遊園地やめて、ショッピングにしましょう!」


提督「そうだな。――よし、行こう」

翔鶴「あれ、傘……」

提督「いいだろ、1本で」

翔鶴「――はい!」



翔鶴(みんなで寄り添って、翔んでいきます)

翔鶴(いつまでも離れることのない、あざなえる縄のごとく)


翔鶴「これからもよろしくお願いしますね、提督!」



艦!


読んでいただきありがとうございました。
短編なのに投下長くなり、申し訳ありませんでしたorz
南雲機動部隊コンプまで頑張ります。年内には蒼龍さん編を書きたいです。

よろしければこちらもどうぞ。
また読んでいただけると嬉しいです。


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このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月07日 (月) 00:25:42   ID: Ds6j3fvA

待ってるぞお!!!翔鶴提督なわしはこんなssを待っていた

2 :  SS好きの774さん   2015年12月12日 (土) 00:32:11   ID: qEg28uYO

あ"あ"ーーがわ"い"い"翔鶴尊いよぉ!!

3 :  SS好きの774さん   2015年12月15日 (火) 00:47:09   ID: Pw7ZsKEh

foooooooooooo!!!いい話だった、翔鶴可愛すぎフゥ!!

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