「『須賀京太郎』とは、あなたのそうぞう上の存在に過ぎないのではないでしょうか」 (762)




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「咲」

「ん、どうしたの京ちゃん」

「良かったな、お姉さんと仲直り出来て」

「……うん」


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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445939573

スレタイからして哀しい気配が…



※【咲-saki-】SSです。

※恋愛要素は無い。多分無いと思う。無いんじゃないかな。

※京太郎は出る。多分出ると思う。出るんじゃないかな。


※初長期投下なので色々ブレる可能性あり。地の文はあったり無かったりするかも。

※大雑把なプロットと冒頭だけ有り、次回投下で終わったり1月超えたりするかもしれないくらい色々未定。






「ぅ……ん……?」


目を覚ましたら、あまりにも見慣れた天井がそこにあった。

寝ぼけた頭に妙な違和感を覚えながら身を起こす。

お腹のあたりにタオル生地の薄手の掛け布団がずり落ちるのを感じながら、あたりを見回す。


大きめの本棚、鏡と、洋服などが仕舞われている箪笥。

勉強机と、クレーンゲームの景品だったカピパラのぬいぐるみ。

いつもどおりの、自分の部屋だ。

なんか期待


そこまでぼんやりと考えたところで、目の端に写っているものに焦点を合わせ、一瞬で目が覚める。

そうか、違和感があったのは、いつも見ているはずの天井を久しぶりに見たからだ。

目の前にあるのは、インターハイの紋章が大きく飾られている、夏の前には無かったモノ。






『清澄高校一年生 宮永咲』






楯に刻まれた名前に、じんわりとした実感と、暦の上では短く、しかし何年間も続いていたような数週間を思い出す。




幾つもの顔、表情、笑顔、涙、声。


熱気、賽子の転がる音、点棒の音、牌の音。


熱と昂ぶりに満ちた景色と、そのあとの大騒ぎ。


それが、昨日まで居た風景。




そう、私は昨日、東京から──インターハイから帰ってきたのだ。


さっと身支度をして、朝食をと思いリビングへ。

お父さんはもう出かけたみたいだ。机の上に置き手紙と可愛らしい紙袋。



『おめでとう』



簡単な、走り書きのそっけない文字。

それでも、すごく嬉しかった。紙袋の中身は私の好きなお店のシフォンケーキ、生クリーム付き。

ありがたく、朝食代わりに。幸せな甘さに頬が緩むのを感じる。カロリーからは目をそらす。


お腹が満ちたら学校へ。

帰ってきて早々だが、取材が入っているとか何とか。


「まあ、勝ち進んだ者の義務みたいなものだと思って我慢して頂戴」


とは部長の言。



「おはよーだじぇ!」

「おはようございます」


待ち合わせをしていたわけでもないのに、登校途中で麻雀部の仲間と合流する。

まあ、普段から同じような時間に登校しているのだから特別なことでもないのだけど。


「おはよう。優希ちゃん、和ちゃん」

「ふっふっふ、ついにこの時が来たな咲ちゃん」


優希ちゃんは不敵な笑みを浮かべながら手をわきわきと動かす。

彼女は取材の話を聞いてからというもの、ずっとこの調子だ。

ふむ



「疲れは取れましたか?」


ふわりと髪を揺らしながら和ちゃんが言う。

優希ちゃんと違って、和ちゃんはいつもどおりだ。

インターミドルの個人戦チャンプにもなった経験などで、取材には慣れているのかもしれない。


「うん。ホテルも良かったけど、やっぱり家は落ち着くね」

「そうですね、私も気がついたらウトウトとしていました」

「ほらほら、早く行こうじぇ。私の時代が待っているのだ!」


優希ちゃんが駆け出す。


「ああもう、転ばないで下さいね、優希」


そう言いつつも心持ち足を早めた和ちゃんに、本当に仲がいいなあと思わずくすりと笑い、私も二人を追いかける。


「ほらほら、咲ちゃん早く早く!」

「もう、優希。急かさないでください」


麻雀部の部室は、清澄高校本校舎から少し外れにある旧校舎の屋根裏が使われている。

運動部の熱心な練習の掛け声も、ここまでくると少し遠い。

階段を登り着いた部室には、すでに部長と染谷先輩が待っていた。


「おはようございます」

「おー、おはようさん」

「おはよう! どう、久しぶりの我が家はよく眠れたでしょう」


頼れる二人の先輩は、どうやら今日もごくごくいつも通りらしい。

染谷先輩は少しイタズラっぽい笑みを浮かべながらしっかりと。

部長は内から湧き出て止まらないとばかりに、自信に満ち溢れたような挨拶を返してくる。



「しっかしあれじゃな、帰ってきて早々登校とは休む暇も無いのう」


自分の不満、と言うよりは私達後輩をねぎらうような様子で染谷先輩が言う。


「何言ってるんだじぇ先輩、私達の若さの前には休みなんかよりもやるべきことがいっぱいあるのだ!」


インタビューとかインタビューとか!と何に向かってか拳を突き上げる優希ちゃん。

取材に対して熱い思い入れがあるようだ。

単に目立つことが好きなだけかもしれないけど。



「ノリノリじゃのう」

「じゃあ、ちょっと早いけど優希の勢いがあるうちに行きましょうか。待たせるよりは良いでしょ」

「出陣だじぇ!」

「そうですね、このまま待っていると優希が疲れちゃいそうですし」


取材は本校舎内の応接間でやるらしい。

その後、部室で少し写真を撮らせて欲しいということで、各員私物を軽く片付ける。

掃除はインターハイ出発前にしていったので、綺麗なものである。

私達が居ない間も、学生議会の人たちが何度か埃を払いにきてくれていたそうだ。



わいわいと、部室を出る支度をし始める部員たちの中、部長に声をかける。


「今日は私達だけですか?」


インターハイの取材だからだろう、と納得しかけていたが、部室と部員で撮らせて欲しいという要望があると聞いて少し引っかかったのだ。


「? そりゃあそうでしょう」

「どうかしたのか、咲ちゃん」


当然、というような部長と優希ちゃんの言葉に、少したじろぐ。そういうものなのか。


「う、ううん、そうですよね」

「まあまだ疲れてるかもしれないけど、これが終わったら祝勝会だから!」

もしかして;京ちゃん?

攻殻みたいなアレなのかな

京ちゃんが私に囁いている

時々雑談スレで出ていた『京太郎咲ちゃんのイマジナリーフレンド説』がまさかSS化されるとはな
これは期待するしかない



取材は── 妙に私への質問が多かった気がするけど、そりゃねと部長をはじめ皆が笑っていた──順調に終わり、お昼過ぎから体育館で祝勝会が行われた。

朝から準備をしていたみたいで、床には絨毯が敷かれ垂れ幕がかけられていたりとかなり大掛かりだ。

壁際には料理が並んでいる。

学校側に許可をとって、有志で企画してくれていたらしい。


挨拶やら賞賛やらの声も落ち着き、ようやく自由になったところで飲み物を取りに行きつつ辺りを見回す。

学校中の生徒どころか、近くの商店街の人たちまで協賛してくれたようで、かなり大きな館内もかなり混み合っている。

こんなにも体育館の中に人がいるのに、その外には入りきれない人や立食に疲れた人が座れる休憩所のようなスペースまでもが広く作られているのだからびっくりした。

その多くが祭り気分での参加だとしても、どれだけの人が応援していてくれたのか、今更ながらに実感する。



「どうしたの、咲。トイレ探してる?」


キョロキョロとしていたら、後ろから声をかけられ、振り向く。

部長だった。

少し前に見た時には私の数倍の人に囲まれていたのに。

どんな手を使ったのか、今は周りにそれらしい人はなく、涼しい顔で手に持ったたい焼きを頬張っている。


「違います。というか、自分の学校でトイレの場所が分からないとか無いですから!」



「いやー、でも咲だし」

「私をなんだと思ってるんですか」


いる? と差し出された食べかけのたい焼きを断りながら、気になっていることを聞く。


「挨拶、終わったんですか?」

「終わらないから、抜け出して来ちゃった」


お腹も減ってたし、と笑う。

副会長に押し付けたそうだ。


どうやって、と思わなくもないが、部長なら普通にやってのけるんだろうと思ってしまう。


我らが麻雀部の部長は、麻雀部の部長というだけでなく、学校の学生議会長──所謂生徒会長──でもある。


その制度は名前だけでなく少々特殊で、副会長──正確には副議会長──と二人で立候補し、共に選挙戦を勝ち取って初めてその座に着くことができる。


部長と副会長は、数多の対立候補を退け、その座に2年連続で就いているという。


この自信に満ちた女性の相棒である、真面目そうでどこか達観した様子の有る、しかし先輩たち曰くロリコン疑惑があるらしい青年の顔を思い出す。



そんな私の思考を知ってか知らずか、部長な生徒議会長は目の前でたい焼きをぺろりと平らげて、こちらに向き直る。


「それより、何か探してたの? 和なら入り口の所で質問攻めにあってたわよ。ちなみにたい焼きだったらすぐそこの裏ね」


焼きそばならあそこ、フランクフルトはあっちと食べ物の場所を案内し始めた部長に、先ほど気になっていたことを思い出す。


「ああ、いえ。京ちゃんの姿が見えないもので」


きっと祝勝会から来ているのだろうと思ったのだが、姿を見かけていない。

人が多いから見ないだけでどこかにいるのだろうとは思うのだが、自分たちだけ取材を受けたことへの漠然とした後ろめたさからか、気分の座りが悪いのだ。

来ているのなら、何か話題があるわけでもないけれど、少し話したかった。



「部長は見かけませんでしたか?」

「うーん……」


どうやら見てはいないらしい。

でもこの様子なら、来ないという連絡も受けていなさそうだ。


「まだ来てないだけかな……あ、優希ちゃんと一緒にいるかも?」


部長に連絡をとってもらおうかと考えて、そこまでするほどでも無いかと一瞬で答えが出る。

私は相変わらず自分の携帯電話を持っていなかった。



「まあ、見て回りながらちょっと探してみます。部長ももし京ちゃんを見かけたら教えて下さい」

「……良いけど、キョウちゃんってどんな子だったかしら」

「はい?」

「咲の言い方だと、きっと私も会ったことがあるんだろうけど、思い出せないのよね。咲の知り合いならそう多くないから、紹介されたら流石に覚えてると思うんだけど……」

「え、どうしたんですか、部長?」

「いや、失礼だとは思うのよ? 後輩に紹介された相手を……紹介されてるのよね? 人を覚えるのは得意だと思ってたんだけどねー……」











「キョウちゃんって、うちの生徒?なのよね?」








「部長?」


部長の言葉に、混乱する。


「京ちゃんですよ? えぇと、その……」


そして、気づく。

相手が、人をからかうのが好きな小悪魔みたいな人だということを。


「……もー、一瞬信じちゃったじゃないですか。このタイミングでやめてくださいよ」


本人はバツが悪そうだ。


「いえ、本当に分からないのよ」

「いや、もう分かってますから。いいですって」


しかし質の悪い冗談だ、と呆れる。

確かに、女子だらけの麻雀部にあって、少々影の薄い部分はあるけれど。


「……うーん、待って。もう一度思い出してみるから。いつ会ったのかだけでもヒント貰えない?」


もう、この人は。

往生際悪く悪ふざけを続ける部長に、少しむっとしたところで、また一つ声がかかる。


「おー咲ちゃん。楽しんでるかー?」


優希ちゃんだった。

探す手間が省けた、とほっとして、部長を放っておいて、聞く。


「ああ、優希ちゃん。京ちゃん見なかった?」

「?」

「多分、来てると思うんだけど」


私の言葉に、優希ちゃんは首をかしげる。




「誰? 私の知ってる人なのか?」





「──……え?」


優希ちゃんの顔をまじまじと見る。

見る限り優希ちゃんにふざけている気配はなく、純粋に疑問を持って聞いているようだった。


「優希ちゃん、京ちゃんだよ? 須賀京太郎」


再び混乱する。

不快感を帯びた不安が、わずかにお腹をくすぐった。



「え、キョウちゃんって男の子なの?」


部長が驚いたように声を上げる。

その声色が、あまりにも普通に驚いていて、振り返る。


驚いていた。


それが分かるほど、私にも分かるほど。演技ではないと、何故か確信した。

それほど部長は素の様子だった。

優希ちゃんもかなり驚いた様子だ。


「え、咲ちゃん、男に知り合い居たのか!」


意外だじぇ、と本当に意外そうに、目を丸くしている。



「なんか、咲ちゃんって男と話すのとか苦手そうなイメージがあるじぇ」

「京太郎、だっけ? それをキョウちゃんって、幼なじみとかなのかしら」

「まさか、恋人か!?」


わいわいと、にわかに盛り上がりを見せる二人に、困惑する。


「え、ちょっと待って下さい。どういうことですか?」


言葉が、上手く出ない。


「だって、京ちゃんですよ? 同じ麻雀部員の」


その、私の言葉に、二人はきょとんとする。

もう既に胃が痛い……

インターハイ中についに存在が消えたか…



「何言ってるんだ、咲ちゃん」


「咲の場合天然ボケなのか冗談なのか、判断つき辛いわね」




「清澄高校麻雀部は、私達5人で全員」








「須賀京太郎なんて子、麻雀部には居ないでしょう?」







その言葉は、あまりにも理解しがたかった。



冗談であって欲しいが──冗談でもあまり面白いものとは思えないが──二人の表情は、あまりにも普通の戸惑いを浮かべていた。


ゼロノスのカード使い切ったか・・・



「──……冗談、ですよね?」


私は、こう言うしか無い。

これ以外に、言える言葉が見つからない。



なんなのだろう、これは。

冗談にしか思えないのに、冗談を言っているようにはとてもじゃないが見えない。

部長だけならまだその可能性が十分あった。

でも、隠し事の出来ない優希ちゃんまでが言う。


「……咲ちゃん?」

「咲?」



周囲がざわめいている。

そのざわめきがひときわ大きくなって、そこから2つの声が飛び出した。


「どーしたんじゃ、こんなとこで。なんか揉めとるときーて来たんじゃが」

「なにかあったんですか?」


染谷先輩と和ちゃんだ。

二人を見て、顔を上げて、周りの皆がこちらを見ていることに気づいた。


目、目、目、目、目──


その視線の塊に頭がふらつくのを感じながら、部長が何かを言いかけたのを体で遮って、二人に縋り付く。



「ねえ、京ちゃんを知ってるよね?」


「は?」

「?」



嫌な予感がしていた。

ありえないのに、そんなはずがないとわかっているはずなのに。

予感がしていた。






そして、その予感は──







「なんじゃ、京ちゃん? 人の名前か?」

「えっと、咲さんのご友人ですか?」









──── 予感ではなく、本当になった。






本日分(プロローグ)は以上です

続きは……仕事の休み次第というかなんというか
まあ月2~3くらいで更新はしようと思います

つまり今週中にあと1~2回あるのか
とりまブクマした

これは期待

乙です
超期待

この咲ちゃんの入部経緯が気になるぜ


期待して待ってる

ついに存在を消されたか京ちゃん…
という訳でいn…京太郎はもらっていくじぇ

こんなの書いて何が楽しいんだか

>>50の書くやつよりは面白そう
原作知らない俺でも気になるタイトルだったんでね

京太郎好きな人には受け入れられにくい話だってことだろ
話自体面白いかはともかく
自分もちょっと可哀想かなと思う

むしろ京太郎好きな人以外がこのスレ読むのか?と思うが

いろんな京太郎が最後の一人になるまで戦うSS思い出した
実況タイプの京太郎が五月蝿い奴wwwwww

>>50の書く自己投影した安価ハーレム京太郎TUEEEESSより面白い

何か事情があって忘れられてるだけっぽいしまだどうなるか分からん
京太郎に興味がない人はこのSS見ないだろ

咲ちゃん公式で海外ミステリ好きだからすぐに解決できるやろ(鼻ホジ)

気になる

とは言え、合宿所まで70-80kgの荷物(ディスクトップ、麻雀卓から推測)を運ばされ、ろくすっぽ指導されず、偶に打っても実力差が有りすぎ可愛がりしかならず、雑用漬けの部活で続けられるか考えると想像上の人物で存在しなかったと考えた方が自然なのも確か。

永遠はあるよ ここにあるよ

京ちゃん…… えいえんのせかい行く約束でもしたのん?

懐かしいな

京太郎がいないとなると所謂嫁田の存在も怪しくなってくるな

乙です

今月単休6に加えヒトコロシフトなので今のうちに進められるだけ進めておく








須賀京太郎。




清澄高校麻雀部唯一の男子部員で、私の、宮永咲の中学からのクラスメイト。



身長は大分高い。



ひょろっとしているようで、中学時代にはハンドボールに打ち込んでいたから、見た目よりもずっと筋肉質で力も体力も結構ある。



成績は特別悪くもなく、得意な科目も苦手な科目もある。一番得意なのは体育。



私と比べると文系科目が出来なくて、理系科目が出来る。



最近は料理を始めたらしい。



龍門渕さんの執事さんが先生で、ある縁でタコス作りを教わってからだいたい週1で料理を教えてもらっているそうだ。



何度か食べさせてもらったことがあるけど、結構おいしくて、宮永家の家事を受け持っている私としてはもやもやとした危機感を抱いている。


ちなみに、麻雀は高校から。


初心者で、どういう縁かは知らないけれど、何故か麻雀部に入っていた。


あんな離れにある場所だから、興味が無ければ辿りつけないと思うのだけど。


女子だらけで平気なのかなと思わないでもないけど、本人は特に居心地が悪そうということはなく、かと言って浮かれた様子もない。


そういえば、中学校の頃から女子だらけの中でもあまり気にしていなかったな。



部長からはなんというか、肉体的に頼りにされている。

唯一の男子部員だから、仕方ないかも。本人も普通に請け負っているし。


染谷先輩からは時折からかわれながらも、普通に信頼し、信頼されている感じだ。よく気にかけられてもいる。

お手本のような先輩後輩の関係、かな。


優希ちゃんは犬、犬と言いながらよく京ちゃんをかまっている。かまっているという言い方は京ちゃんが聞けば嫌がるだろうけど。

なんというか、悪友というのはこういうものなのかな、という仲の良さ。


和ちゃんは、なんというか……部の仲間、って感じ。

こう、別に悪いことでもないのに歯切れが悪いのは、京ちゃんが和ちゃんのことを好いているみたいだから。

対して和ちゃんの京ちゃんに対する接し方は極めて自然で、なんの含意もなく、普通に部員としてのものなのだ。

京ちゃんには残念だけれど、和ちゃんにはそうした気持ちは一切ないだろう。






以上が、清澄高校麻雀部唯一の男子部員の簡単な説明だ。


半年にも満たない期間ではあるけれど、彼は確かに存在して、皆と絆を紡いできた。






その彼が、京ちゃんが。





まるで居ないものを語るかのように、同じ麻雀部員の仲間から名を呼ばれている。





物珍しそうに、聞き覚えがまるでないように。














「……」


自分の部屋の天井をじっと見つめる。

何度も何かを考えようとして、そのたびに何も考えられないことに気がついて、ただただ天井を見つめる。

胸元で意味もなく合わせた両の指先が絡まり、離れ、押し付けあう。



ぷかりと、ふと気がついたように、一つ感情が浮かぶ。



今日は、悪いことをしてしまったな。



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「どうじゃ?咲。落ち着いたか?」

「……はい、すみませんでした」


騒がしさから離れた空き教室。

今日の、祝勝会の準備の為に開けてもらっていたらしいそこに、私は染谷先輩と向き合って座っていた。

染谷先輩の横には、心配そうな顔をした和ちゃんと優希ちゃんが私の顔を覗き込んでいる。

部長は会場で先ほどの私の奇行を執り成してくれているらしい。



そう、奇行。


染谷先輩と、和ちゃんの言葉を聞いて、私は少しパニックになってしまった。

麻雀部の部員だけでなく、周囲で見ていた皆に、京ちゃんのことを知っているかと聞いて回る。

その様子が、自分でも分かるくらい必死過ぎて、誰も彼もを困惑させた。


そこには自分のクラスメイトが居て、知ってる人と知らない人が居て、京ちゃんと仲の良い友達が居て──

>>1までそうぞう上の存在になってしまったか

乙です

乙!

乙や
楽しみ



「……」


部長の計らいはありがたい。

あのままだと、もしかしたら夏休みが明けたらクラスから浮いてしまっていたかもしれない。

そう冷静に部長に感謝を抱く自分は頭の隅の方に確かにいる。


                     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
しかし、冷静になってなおそれどころではない衝撃が今も頭を揺らしている。



何故。

どうして。

疑問ばかりが頭のなかをぐるぐる廻る。




生徒、先生、商店街の人たち。

その誰一人として、京ちゃんのことを知っている人は居なかった。



麻雀部の1年生4人で買いに行ったコロッケ屋のおばさんも、一緒に食べに行ったラーメン屋のおじさんも。

京ちゃんのクラスを受け持っている先生も、何度か部長命令で一緒に手伝いに行ったことのある生徒議会の人たちも、一緒に馬鹿みたいなことをやっていた友達も。



誰一人として。



「……本当に、知らないんですよね──」


絞りだすようにして発した言葉は、かすれていた。


「──京ちゃんのこと」


私の言葉に、和ちゃんは私をじっと見て、優希ちゃんは俯く。

染谷先輩は一瞬顔を背けて、私の目を見て、躊躇うように言う。


「……ああ、知らん」


そこには、私に悟られまいとしているけれど、隠し切れない困惑があった。



染谷先輩だけではない。

和ちゃんは私を心配したように見つめている。

優希ちゃんも、先ほどのはしゃぎ様が嘘のように、俯いて時折私の様子を上目遣いに伺っている。




皆、私と同じだった。


私と同じように、異常性を感じている。





私は、皆に。




皆は、私に。




根本の部分が異なってしまっているような。

一人の人間の存在を通じて、まるで世界が隔てられているような。





そして、先ほど。

分かってしまった。









私は、ただ一人異物だった。




「須賀、京太郎、か」


染谷先輩が呟く。

それは、まさに初めて聞いた言葉の語感を確かめるようで、お腹の奥がきゅうとなる。


「……咲さん」


和ちゃんが、落ち着いた声で言う。


「咲さんは、その、本当に……」


和ちゃんの言葉が詰まる。

それでも、聞きたいことは分かる。


分かるけれど、答えたくなかった。


場が沈黙する。



コンコンコン、とノックがされたのはその時だ。


「どう? 咲の様子は」


少し空いたドアの隙間から、部長が顔をひょこりと覗かせる。

そして場の空気に気づいたのか、肩を竦めた。


「まあ、こうだろうとは思ったけど」


教室へと足を踏み入れ、染谷先輩の横に立つ。



「主役は抜けちゃったけど、祝勝会は続けてもらってるわ。せっかく準備してもらったしね」


ああ、そうだった。

せっかく準備してもらったのに。


冷静な部分が思う。

思うけれど、冷静でない部分はそんなこと、と思ってしまう。


手のひらが痛いことに気がついて、手を開く。

くっきりと爪の跡がついていた。



と、その開いた手にペラリと一枚の紙が差し出される。

顔を上げる。


「見たほうが早いと思って」


部長がひらひらと紙を揺らす。

紙を受け取って、それが何かすぐに気づく。



『麻雀部員一覧』



注意書きを見るに、生徒議会が管理している部活動のメンバー表らしい。





そこにある名前は───








   3年
   ・竹井久
   2年
   ・染谷まこ
   1年
               
   ・原村和
   ・片岡優希
   ・宮永咲









分かっていた。

分かっていたけれど、実際に目にして、紙を持つ手が震えた。



「──須賀京太郎という部員は、いない」



部長の言葉は静かだ。




「そして、私──私たちは、須賀京太郎という子を知らない」



私は、手で顔を覆う。


「……なんで──」


手のひらを、目に押し付ける。

それでこの夢が覚めるのではないか。

夢ならば、覚めてくれないだろうか。




夢であってはくれないだろうか。



ぽんと、肩に何かが乗っかる。

その後、部長の声がした。


「……ごめんなさいね、もしかしたら酷なことをしたのかもしれない」

「でも、ここははっきりとさせたほうが良いと思ったの。……きっと、咲のためにも」


私は、顔を上げられない。

声は聞こえているけれど、反応をする器官が麻痺したようだった。

そんな私を気にしてなのか気にせずなのか、部長は私の肩から手を離す。



「今日のところは帰りなさい、話し合うにしてもちょっと日が悪いし。疲れているにも関わらず来てもらってありがとうね」


耳の先で部長の声が聞こえた。

続けて和ちゃんと優希ちゃんにも声をかける。


「和と優希は咲を送ってあげてくれないかしら。その後戻ってくるにしろ帰るにしろ、連絡を頂戴。まこはこっちを手伝って」


こんな時でも、部長は部長らしい。

いや、こんな時だからこそだろうか。


和ちゃんと優希ちゃん支えられるようにして立ち上がりながら、ぼんやりとそう思った。





優希ちゃんと和ちゃんに付き添われ、家に着き、二人の心配を背に受けながら家に入る。


部屋に入り、入り口にかばんを落として、低い丸テーブル前の座布団にぼふりと腰を落とす。


丸テーブルに残る黒いシミを理由もなく指先で擦る。




この机は冬にはこたつにもなる優れものだ。

ただ、ギリギリ2人用といったところなので、もう一人体の大きい人が入ると机の下はぎゅうぎゅうになる。


冬に京ちゃんが来るとそれはもう激しい戦いが、用語の意味ではなく文字通りの机下で繰り広げられたものだ。

足が乗っかり乗っかられ、絡まり、色んな所を蹴り合って、たまに変なプロレス技をかけられる。

二人が──というより私が──疲れてきたり、机の上で何かを食べたりするときには、大体は真ん中で区切ったり、京ちゃんの足の上に私の足を乗せることで落ち着くけれど。




指先で擦るシミを見る。

これはなんのシミだったか。

鍋をつついた時に出来たものだっけ。いや、クリスマス祝いとか言ってケーキを食べたときだったかもしれない。



そのまま体を倒して、ごろりと寝転ぶ。

天井が見えて、何かを考えようとして。


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何も考えられずに、今に至る。



そうだ、と思った。

せっかく準備してもらった祝勝会を抜けてきたのだった。

それどころか一時的に中断させるようなことまでして、部活の皆を巻き込んでしまった。





部活の皆を。





一人居ないはずの、皆。

そう思っているのは私だけ。



今日の会話を思い返す。

他人事のように改めてみると、まるで似ている別の世界に迷い込んでしまった物語の会話みたいだ。



──もしかして、本当に別世界に迷い込んだのかも。



そんなオカルトじゃないんですから、と親友の声を幻聴する。



くすりと笑う。

これは余裕が出てきたのだろうか、それとも現実逃避をしているだけだろうか。



首を反らして、飾ってあるカピパラのぬいぐるみを見る。



───ねえ、まだやるの?

───もうちょっとなんだって。

───あ。

───おっしゃ! ほら、カピそっくりだろこれ!

───可愛いけどさー……買ったほうが安かったんじゃないのかなー。

───ばかやろー、自分の手で取るのが良いんじゃねーか。ほれ。

───? なに?

───ウチにはカピがいるからな。これは咲にやる。

───……なんの為に取ったのさ。





────でもまあ、ありがとう。京ちゃん。



そうだ。

彼が居ないなんてありえない。

だったら、ここにあるぬいぐるみはなんなのだろう。

あの時、少ないお小遣いをかけてとって私にくれたぬいぐるみは、たしかにそこにある。

確かに、そこにあるんだ。





目を閉じる。




昨日は、確かに京ちゃんが居た。


そこには部長も染谷先輩も、和ちゃんも優希ちゃんも居て、皆で話しながら帰った。


京ちゃんは私の荷物を持っていて、駅に着いて、私を家に送った。


そして京ちゃんは───



バッと跳ね起きようとして、勢いが足りなくて後頭部をしたたかに打ちつけ、少し悶絶する。

そして、床に手を付きながら身を起こす。




そうだ、なんで思いつかなかったのだろう。



制服のママ、部屋を飛び出して、靴を履いて家を出る。



先輩たちの会話で、まるで京ちゃんがいなくなったように錯覚していた。

そもそも、それもおかしな話だけれど、それでもこれは大きな勘違いだ。



駆けて、すぐそこにも関わらず息が上がりながら辿り着いたのは、ある一軒家の前。

外はもう夕方で、夕焼け色に辺りが染まっている。

朱色に染まったポストの上に掛けられた表札の名前は──須賀。



最初から、悩むよりも先に、こうすればよかったのだ。

何が起きているのかは分からない。

でも、だからこそ話すべきだった。




話そう。


話して、一緒に考えてもらうんだ。



インターホンを押す。

聞こえてきた声に、私は声を張り上げる。




「あの、京ちゃんいますか!」





京ちゃん──須賀京太郎、本人に。

ここからが本編。
まさか導入だけで今までの最長になるとは……

本編はさくさく行きたい
ではまた後日

ちなみにモブってかぶっちゃけ須賀夫妻はオリジナルです。
それ以外にも普通に二次SSですのでオリジナル設定だらけ&オカルトだらけなのでどうぞよろしく。

いや、導入は最初に終わってる部分だ……寝ぼけてるわ

おおう心拍数上がってきたとこで…
乙です

乙です
続ききになる

乙ですー

乙です
>>88で1年の一行目が空白なのは何かあるからなのか…

>>88
空白部分きっちり須賀京太郎って文字数分開いてんのな

マジかよ、細けぇな
スゲェ

ビミョウに関係ないけど、第一話で咲を嫁さんとからかってた
モブこと嫁田の本名は高久田誠らしいな

敦賀にしろ、風越にしろ、長野の外にしろ清澄に居る場合より麻雀の腕が上がっていそうなのがなんとも。

>>115
いきなりどうした?そんで敦賀が既に長野県外な件

これは生まれてないパターン

>>114
リッツちょっと細かすぎませんかねぇ…?

こんな連載終了まで使わないような設定考えてるせいで
連載が滞ってるという

嫁田嫁田うるせぇよ。咲ちゃんを京太郎の嫁なんかにする気はねぇと
リッツが無言で抗議するために設定した可能性が微レ存…?

なぜそんな解釈になるのか考えが異次元過ぎてさっぱり理解ができない

異次元とかそんなんじゃなくて、ただのバカなんだろ

ある程度まとまってから投下と書いた分を投下できる時に投下はどっちが良いんだろう

速度的にはあまり変わらないと思われ
誤差レベルで前者のほうがミス減少、後者のほうが進行速度上昇効果かな

話破綻するようなミス起きないなら後者じゃね

まだかな







「あら、咲ちゃん?」





インターホンから発されるのは、聞き慣れた優しげな女性の声。

しかしそのゆったりとした応答が今はもどかしい。


「あのっ」

「今丁度暇してたのよ、どうぞ上がっていって」


私の声を聴く前に、パタパタと足音が聞こえてくる。





ああ、もう。



こういう人なのだ。

インターホンも切らずに遠ざかる足音を聞きながら、諦めてドアが開くのを待つ。




ガチャリと、ドアが開く。

その向こうから顔を出したのは、若く綺麗な女性。


「いらっしゃい。なんだか久しぶりね、高校生になってからあまりウチに来ることが無かったから」


綺麗なセミロングの金髪と肩に掛けたカーディガンを揺らして、微笑む。


「インターハイに行く前に会ってるじゃないですか」

「あの時は挨拶だけだったもの」




彼女は、京ちゃんのお母さん──須賀京香さん。






小さい頃から私やお姉ちゃんのことを知る、近所のお姉さんだ。



「ちょうど今朝にマカロンを焼いたの、ココナツの。今も好きかしら」


ココナツのマカロンは昔から好きだ。

京香さんの作る、間にクリームを挟んだ方も美味しいのだけど、私はあのカリッとした方が好きだった。


でも、来たのはそのためじゃない。




「あの、京ちゃん居ますか?」




そう、わたしはその為に来たんだ。





京ちゃんに、今起きていることを話さなければいけない。


なんで今日来なかったのか、今の状況を知っているのか。






先生が、クラスメイトが。



部長が、染谷先輩が、優希ちゃんが、和ちゃんが。



誰も、京ちゃんのことを覚えていないということを。






もしかして。


京ちゃんが、私のことを知らなかったらどうしよう。


京ちゃんまでが、私を一人異端者にするかもしれない。





須賀京太郎を、皆が知らないように。



皆を、私を須賀京太郎が知らなかったら。






そうだったら。そうだとしても。




不安だったけれど、京ちゃんに会って確かめないといけない。











───





───……。







……………… 私は、そんな。











       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そんな、他愛のないことを考えた。









考えて、考えて、考えなければ。




私は、考えていなければ。






考えていなければ、考えてしまうから。






  ・ ・ ・ ・ ・ ・
 考えてしまう。




 だって、見えてしまったから。








京ちゃんと言ったときの。


京ちゃんと、私が言った時の。


京香さんの顔が。









まるで。







「京ちゃん?」



まるで───



「どなたかしら。私のことではないのよね、私も昔は京ちゃんと呼ばれていたけど」



私は───





「……っぁ、はぁ、ぁ」



頭の中が、冷たくなる感覚。


同時に熱が頭の後ろの方に集まる。


息が吐き出せなくなった。




呼吸ってどうやるんだっけ。





「咲ちゃん?」



私は、目を押しつぶすように手のひらを押し付ける。

その場に座り込んで、ただただ。







嗚咽を閉じ込めることしか出来なかった。








───本当は、そうなのではないかと予感はあった。


───その予感を、直視したくなかった。


───京ちゃんの居ない世界なのではないか。


───だから、そのことを考えないようにして、希望だけを残してここに来た。








───希望だけを。



乙です

ハッピーエンドでありますように


楽しみにしてるので頑張ってください

おつおつ

乙です


続きが楽しみだ

なんか佐為を思い出すな

俺はハルヒの消失思い浮かんだけど

俺も消失のが近い感じ


洋榎スレ思い出したが

虹の見方?

うn





「落ち着いた?」



突然泣き出した私を支え、京香さんは時折バランスを崩しながらもリビングへと導いた。

京香さんは体が丈夫ではなく、私よりも力がない。



それでも、気遣いの一つ一つが丁寧で、献身的だった。



目の前のテーブルに置かれた、ホットミルクを眺める。

ミルクパンでゆったりと暖められたそれは、僅かなはちみつの香りを漂わせている。


「……うん、ありがとうございます」


まぶたは、まだ熱い。


京香さんが、私をじっと見る。

そしてどこかのんびりと、自分のカップに入れたホットミルクに口をつける。

そうしたしぐさは、自分のためというよりも、私を安心させるためのもののように思えた。

ほう、と暖かなため息をついて、言う。


「きっかけは、きっと、私の反応なのでしょうね」


呟くような、穏やかな声。

京香さんは、人の反応に鋭い。


「……聞かせてもらっても良いかしら、『きょうちゃん』のこと」



大丈夫、落ち着いている。



「覚えて、いないんですね」

「覚えて?」



「京ちゃんは──須賀京太郎は。子供です」



「京香さんと、龍太郎さんの」




その言葉を聞いて、京香さんは目をゆっくりと見開く。

そして僅かに顔を伏せ、表情は困惑、そして悲しみへと変わりゆく。



口を開こうとして躊躇い、息を静かに吐いた。

その呼気には、少なくない痛みを感じた。

とりあえず乙

乙?

ゴクリ

京ちゃん自体はいたのかな?

永遠送りだと帰ってくるのに1年かかりますね。



てちてち、と床が鳴る。

見ると、京香さんの足元に毛むくじゃらなかたまりがふんふんと鼻を寄せていた。

カピバラのカピだ。


京香さんはカピを撫でて、表情を和らげた。

カピは京香さんの足の間へと潜り込み、身を落ち着ける。

京香さんが、静かな表情で私を見た。




「咲ちゃんも、知っているでしょう?」


彼女は言う。





「私は、子供を産めないの」








「体が出産に耐えられない。そして、この体の弱さは遺伝する可能性が高いと言われている」


「生まないではなく、産めない」


「……、咲ちゃんも、知ってるでしょう?」








         


                                            











「───」



私は11桁の番号を言う。

京香さんは一瞬虚を衝かれた顔をするが、すぐにそれが何か気づいたらしい。


少しだけ逡巡した後、どうぞ、というように私の後ろを手のひらで示す。

その指先は迷いを示すように僅かに曲がっている。



私はソファーから立ち上がって、一瞬ふらついて、駆け出す。

壁際に置いてある電話に手を延ばし、受話器を持ち上げる。



私は携帯電話を持っていない。

でも、だからこそ、よく掛ける電話番号は覚えている。

自分の家、お父さんの携帯電話、和ちゃんの携帯電話、優希ちゃんの携帯電話。

そして、




───番号を押す。





京ちゃんの携帯電話の番号だって。

間違えるはずがない。指先が覚えている。






───♪~







ガタガタガタ、という音と、アップテンポなメロディーが聞こえた。



すぐ、真横から。



電話機の横に、影に隠れるようにして、見覚えのある携帯電話が震えている。



「……咲ちゃんが言った電話番号は、その携帯電話の番号」


京香さんの声は、遠くてそれほど大きな声ではないのに、よく聞こえた。


「使ってない携帯電話だから、なんで咲ちゃんが番号を知ってるのか分からないけれど──」




「──居ないのよ。少なくとも、ここには。咲ちゃんの探す、『きょうちゃん』という人は」



大丈夫。

大丈夫。

私は落ち着いている。


大丈夫、私は落ち着いている。

京香さんが悪いのではない。

この世界からすると、私がおかしいのだから。






だから──







───お願い、落ち着いて。




「──あの、フラワーアレンジメント」

「?」



「焼き物で出来た掛け時計、太陽発電のラジオ、手彫りの写真立て」




「──その、肩に掛けているカーディガンも」



「全部……全部っ」





───ああ、駄目だ。もう無理だよ。


───聞きたく無かった。


───京香さんの、京ちゃんを他人のように呼ぶ声なんて。








「京ちゃんが……京ちゃんのなのに」










───フラワーアレンジメントは、母の日のプレゼントだと一緒に作った。



───焼き物の時計は自然公園の手作りコーナーで。



───ソーラーラジオは、中学校の選択授業で上手く作れたのだと自慢気だった。



───手彫りの写真立ては、結婚記念日のプレゼント。



───カーディガンは、誕生日プレゼントで一緒に探した。









「なんで、忘れてるんですか?」







電話を置く。

写真立てにふらふらと近づく。


「なんで、覚えていないんですか?」


手彫りの写真立てには、今よりも若い京香さんと龍太郎さんが手を組んではにかんでいる。

その写真立ての隣の、シックな木目調の、もう一つの写真立てを手に取る。





「なんで───」










「───なんで、この写真には、京ちゃんが写ってないの?」





そこには、どこか自然にあふれた緑色の風景と、綺麗な湖。


そして、今とほとんど変わらない京香さんと龍太郎さんの二人だけが、やさしい笑みをたたえている。






───去年の夏の家族旅行、3人で撮ってもらったはずの、家族写真の中で。





ばたり、と扉の閉まる音で、意識が戻る。

あれ、いつの間に自分の部屋に戻ってきたのだろう。



何か忘れ物をしているような気がするけれど、思いつかない。思い出せない。





ふらりと、本棚へと近づく。


アルバムを探して、手に取る。

その重みは、お腹の方に響いた。


そして、座りもせずにページを捲る。

焦燥感で、手が震える。





──体の奥のほうが冷たい。





手が止まる。

カリカリと、爪先が紙をひっかく。




最後のページ。


閉じる。



中学時代の写真は多くない。

その多くないほとんどに、一緒に写っていたはずなのに。


居なかった。

何処にも。

写真にすら。







京ちゃんの姿が。





アルバムを抱えて丸くなる。

ぎゅうと抱きしめていると、わずかに落ち着く気がした。






抱きしめる。





ぎゅうと、抱きしめる。








遠くで名前を呼ばれている気がして、目を開いた。

気がつけば電気をつけていない部屋は真っ暗で、今は何時なのだろう、とぼんやり思う。


咲、電話だぞー。


お父さんの声だ。

ふらふらと、立ち上がる。


ゴトリと音を立ててアルバムが床に落ちた。



電話のそばに行くと、お父さんが受話器を揺らしていた。

私を見て笑う。


「なんだ、寝てたのか? 凄いことになってんぞ」




あまり長くなるなよ?


渡された受話器を耳に当てる。

電子音が聞いたことのあるメロディーを奏でている。

フックを押して、保留を解除する。


聞こえてきたのは部長の声だった。


明日来れる?




断ろうとして、でも口からでた答えは違った。





ベッドへと這い登る。

手を伸ばして、引っ張りだしたものに腕を回しながら、横になる。

カピバラのぬいぐるみを抱きしめて、目を閉じる。



明日には、何かが変わってるかもしれない。










そんな淡い期待に、全思考を預けながら。



高校100年生の私に期待するのは当然!

という声を聞きながらまた後日。
今日中にもう一度更新したいけど難しいかなー

乙です
続き期待


咲から京太郎の話を聞いてドン引きする麻雀部一同、そこまで私は鬼畜じゃないと引き気味に答える部長と部長ならやりかねないと茶化すワカメまで浮かんだ。


接点薄いはずなのになぜ懇意なのかという疑問を須賀さんが抱いてくれたなら

京太郎がいなければ起こりえなかった事象や、京太郎と咲しか知らない何かがヒントかな。

>>1はやる夫スレとか見てた?


続きを期待せざるを得ない

>>164のなにか書いてありそうなスペースが気になる……

犯人は神d

書いてありそうなと言うか実際に何かある
ドラッグしても文字数だけじゃさっぱりだが

乙です

京ちゃんいなきゃ咲はどうして麻雀部に入ったのか
鍵はここにある気が






「まあ、なんの為に集まってもらったのかは、あえて説明する必要もないでしょう」




部長が言う。

背の高いカウンターチェアに斜めに腰掛けて、足を組んだ格好は部長によく似合っていた。




私達が今いるのは、部室ではない。

麻雀喫茶『roof-top』。

染谷先輩の実家で、何故か出前のカツ丼が評判の雀荘だ。


部長はカウンター席に腰掛けて、優希ちゃんと和ちゃんは私と同じテーブルの席に座っている。染谷先輩は立ったまままだ。

今は開店前で、他にお客さんの姿はない。


「……」


私はただぼんやりと、机の上に置かれたお冷のグラスを見つめている。

これから始まるだろう議論に、弁論を用意する気力もなかった。

まるで魔女裁判のようになるだろう。

物語の中でしか知らない悲劇の描写を引き合いに出してみる。

それでも、悲壮感の欠片すら感じない。

只々、胸の内に空白を感じるだけだ。



今朝、起きて、アルバムを開いた。

手は震えていたけれど、その時は確かに、わずかにでも希望があった。

あったと、信じたい。



しかし、開いて、そこにあるものを見た時。

浮かんだのは「やっぱり」という言葉だった。

淡い希望は打ち砕かれて、昨日から今日は何も変わらない。



今日ここに来たのは、単に「約束したのだから行かなければ」という観念があっただけだった。

期待も希望も、特にあったわけではない。

断りの電話を入れるには、時間が迫りすぎていたということもある。

悪く言えば、私は惰性で今ここに座っていた。




そんな私の内情を知ってか知らずか──きっと知らないだろう──部長は脚組みを解き、私をすっと見る。



「咲。答え難いことは答えなくていい、と言いたいところだけど、場合が場合だしね。出来る限り、詳しく聞かせて欲しいかな」



始まった。

ぼんやりと、そう思った。



いったい何をするのだろう。

尋問みたいなことをされるのだろうか。

みたいなことを、と言っても実際にはどのようなものかは知らないのだけど。

それとも、私が言ったことを、端から端まで理論建てて否定していくのだろうか。

京ちゃんの存在を主張している私が、どれだけ間違っているのか、それをきっと教えてくれるのだ。

いや、もしかしたら私自身の何もかもを否定されるのかもしれない。

私はきっと、この世界でただ一人オカシイ人間なのだから、何から何まで否定されても可笑しくは無い。




「じゃあまずは……そうね、コレをはっきりさせておくべきね」








「咲にとって、京ちゃんってどういう存在だったの?」

乙です

おはよう

乙かな?


他に京ちゃんを覚えてる人っているのかな

>>207
嫁田とハギヨシさんぐらいか?

>>208
そんな描写あったか?

ない

個人的な願望妄想を事実みたいに言うのは良くないぞ

クラスで聞いてダメだった時点で嫁田はないだろ
ハギヨシは判断材料ないが覚えてないと考えた方が自然

現時点での可能性としてならオカ持ち(or魔物)ならワンチャンあるかもしれんが向こうがまず京太郎自体を知らないという
とりあえず鹿児島行こうぜ

そういえば鹿児島の某巫女は某所で世界線移動ネタが持ちネタになってたな...




部長が京ちゃんと呼んでいる。

不思議な感覚。



それにしても。

なんだか、普通の質問だ。

好奇心を滲ませた瞳を向けてくる部長を、無感動に見る。


皆も私をじっと見ていて、私の答えを待っている。

私にとっての京ちゃんって、なんだろう。

ぼんやりと考えて、言葉にしてみる。





「……京ちゃんは、……家族、みたいな感じでした」




反応はない。

その眼差しは真剣だったり、楽しそうだったりと違いはあるけど、一様に言葉の続きを促している。



私は話す。


「中学生のときからの付き合いで、私が困っているときには、いつも助けてくれました」





京ちゃんにはからかわれることも多いけど、助けてほしいと思ったときにはいつも助けてくれた。


迷子になれば見つけてくれたし、寂しい時にはそばに居てくれた。


中学からの付き合いで、男の子なのに、いつの間にか一番一緒にいる時間が長くなっていた。


喧嘩は……どうだろう。


今思えば、何かあった時には私が一方的に怒っていただけの気がする。


恋愛感情は、正直よくわからない。


ハンドボールをやってた時とかは、正直カッコ良いと思ったこともあるけれど。




「えー、じゃあ恋人じゃないのね」


部長が大げさにがっかりとしたように言う。


「キスとかもしたことないの?」

「ありませんよ、そんな……」

「手を繋いだりとかは?」

「えぇと、お正月とかの人が凄かったときには、少し」


流れで答えて、なんでこんなことを答えているのだろう、と意識が僅かにはっきりする。

顔が熱くなってきた。


「じゃあ、裸を見ちゃったり見ら」

「悪乗りしすぎじゃ」


ぱこ、と丸まったメニューが部長の額に当たり音を立てる。

渋谷先輩に叩かれて、あう、と部長がのけぞった。



「でも、彼氏じゃなかったって分かって少し安心したじぇ」


優希ちゃんが、ズズズとオレンジジュースをストローで啜る。


「咲ちゃんに彼氏が居るって知ったら、ちょっと咲ちゃんのイメージを改めなきゃいけないとこだったじぇ」

「そうじゃのう、後輩に先を越されてたかと少し心配に思うたわ」

「あら、まこはそういうの興味あるの?」

「そりゃまあ、華の女子高校生じゃしの」

「でも、ずっと仲の良い男の子が居るっていうのは少し羨ましいですね」

「和がそう言うのは意外ね」

「のどちゃんは意外と乙女なのだ」

「意外とってどういう意味ですか」



わいわいと、皆が喋り出す。

あまりの空気の違いに、呆気にとられていると、部長が私に言う。


「麻雀部ではどうだったの?」

「どう、というのは」

「男の子一人でしょ? 色々大変そうじゃない?」

「そうじゃのう、ちょっと想像できんな」

「京ちゃんはそういうの気にしてませんでしたよ、というより部内では誰も男子女子を気にしてなかったような……」

「男女のあーんなことやこんなことは?」

「なかったですよ……」

「えー、こーんな可愛い女の子に囲まれたハーレムなのに何にもなし?」

「自分で言うか」


もちろんまこも含まれてるわよ、と妙に自慢気な顔で部長が言う。

染谷先輩ははいはい、と生返事。

渋谷先輩……たかみー?

直ってたか
忘れて



「しかし唯一の男手じゃ。久がコキ使ったりしとったんじゃありゃーせんか?」

「いえ、まあ……」


やっぱりのう、と染谷先輩は部長をじろりと見る。

部長は神妙な顔をして頷く。


「その私はきっと、私の偽物ね。だって私には覚えがないもの」

「あんたなぁ……」


呆れた顔で染谷先輩はため息をつく。

不思議だった。

酷い言い分なはずなのに、昨日と同じ『覚えてない』のはずなのに、心はざわめかない。


「でも、京ちゃんも率先してそういうことをしてましたから」


実際、京ちゃんは人に頼られることが性に合っていたみたいだった。

文句を言ったり渋ったりしながらも、人のために何かをすることが多くて、本人は母さんのせいだな、と笑っていた。

京香さんはああ見えて、家事以外はけっこうな、その……ポンコツ、だったりする。



「麻雀は強かったんですか?」

「ううん、高校から始めたって言ってたし、普通の初心者だったよ」

「ありゃ、意外じゃの」

「私も咲ちゃんの昔なじみって聞いて強そうなイメージだったじぇ」

「……ちゃんと、教えてあげたりしてたのかしら」


部長が少し声量を落とす。

この点は、流石に心配になったらしい。


「最近はインターハイとかもありましたし、ちょっと放置でしたけど……」

「そう……」

「でも、本人はそんなに気にしてませんでしたね」

「? やる気が無かったとかか?」

「やる気がなかったとはちょっと違うかな」


優希ちゃんの言葉に、少し考える。


「部活は真面目にやってたし、でも、何だろ……競技としての麻雀には重きを置いてなかった、のかな」


負ければ悔しがっていたし、ネット麻雀で勉強したりもしてたけど、なんというかそこを重要視していなかった気がする。


「目当ての子でも居たのかしら」

「あはは……」


否定出来ないので、曖昧に笑う。


「まあ、空いた時間に教えたりしてましたよ。そもそも打てるようになるまで教えてもらったのが麻雀部だったそうですし」

「そう」


私の言葉で、部長も少しは安心したみたいだ。




「なーなー咲ちゃん、そのきょーちゃんは1年だったんだろ? 私はどうだったんだ?」

「優希ちゃんとは仲が良かったよ、いつもじゃれてるみたいで」

「そうですよね、私達とは同級生だったんですよね。私はどんな感じだったんでしょうか」

「和ちゃんは……普通?だったかな」


京ちゃんが好意を抱いていた、というのは言わないほうが良いだろう、多分。


「普通……ですか」


和ちゃんは少し複雑そうな表情。

ごめん和ちゃん、でも和ちゃんは本当に普通に接してたし……。


「私は私は?」

「部長は……姉御と舎弟?」

「えー」

「ちなみにわしは?」

「染谷先輩は良い先輩後輩でしたよ」


なんかまこだけ扱い良くない?と言う部長に、再び染谷先輩が呆れた顔をしてワイワイと盛り上がる。



「じゃあねえ、次は──」



「……あの、これは何なんでしょうか」



「?」

「だって、私は話を聞きたいって言われてきたんですよ?」

「だから、話を聞いてるんじゃない」

「そうじゃなくて……」


あまりにも、空気が違いすぎた。


昨日はまるで、得体のしれないものの話をしていたようだったのに。





「……昨日ね、皆で話したのよ」

「話した?」

「咲が帰った後にね」


部長が静かな笑顔で言う。


「咲が、なんであんなことを言い出したのかって」




「同じ学校にもう一人生徒が居た。麻雀部に、もう一人の部員が居た。 私に──もう一人後輩が居た」


染谷先輩が続ける。


「正直、突拍子もない話での。記憶に無い人間が、仲間に居たはずと言われたんじゃ。まあ、ちょっと信じがたいのう」

「でも、咲ちゃんが嘘をついてないことくらい、私達にも分かったじぇ」


まんじょーいっちだったじぇ、と言う優希ちゃんの後に、だから、と和ちゃんが続く。


「だから、皆で決めたんです。咲さんの話を聞こうって」





皆が、私をまっすぐに見ている。

皆を見渡して、部長と目があったところで、部長が笑う。



「まあ、そういうことよ」

乙でー

乙です

あけおめ

舞ってた

乙です

おつ
解決してほしいな

追いついた
これが本当の非実在青少年ってやつか…




「正直ね、落ち着いてから、少し後悔したのよ。結論だけを急ぎすぎたんじゃないかって」


部長が恥ずかしげに首に手を当てる。


「何も急ぐことは無いのに、答えだけを突き付けてしまった。咲だって、嘘をついてる訳じゃない、それは分かったはずなのに」

「これは結論ではなくて、結論までの過程こそが大切なことだと気づくのに、少し時間がかかってしまったの」




「ごめんなさい、咲さん」


部長の後を継ぐように、和ちゃんが言う。


「私達は嘘をついていない、それは本当のことです」

「でも、だからといって咲さんが嘘をついていることにして良いはずが無かったんです」





「昨日の今日で、手のひらを返しているように思われるかもしれませんが……力にならせてもらえませんか?」




和ちゃんの言葉に、染谷先輩が頭を掻く。


「ただ、言っとくがのう。その『京ちゃん』の存在を、わしらが信じたわけじゃないことは言うとくぞ」






「わしらが信じとるのは、ただ咲のことだけじゃ」









それは、今の自分にはあまりにも綺麗な言葉だった。

まあこれは咲さんのお話だけどこの状況での京ちゃんサイドを考えても面白いよね
ない訳じゃない世界線移動じゃなかった場合の奮闘劇みたいな

<●><●>

なんかすごく悲しい

優しいルートには違いないけど一歩間違えばこれ部員全員狂気ルート突っ込むな(フラグ)



「もしかしたら、咲ちゃんだけじゃ分からないことが分かるかもしれないじぇ!」

「昨日も、色々話したのよ? 咲だけ異世界人説は和が全力否定してたけど」

「そんなオカルトありえません。真面目に考えてください」

「真面目なんだけどねえ」



あまりにも、眩しかった。






──私は、諦めてしまったから。





「なんで」

なんで、今更。








私が諦めてしまった後に。



繋ぎ止めようとするの。







「無理ですよ」






「あら、わからないじゃない」

「だって、ぜんぜん違う。私の知っている世界と、この世界は違うことだらけ」

「どこまで同じでどこから違うのかも分からない」



「それこそ、本当に異世界に来たみたいに」



「教えて下さい」

「私は、インターハイに出れたんですか? そもそもいつ麻雀部に入ったんですか?」

「私が麻雀部に入ったきっかけは? 出会ったとき、私は私だった? お姉ちゃんとは仲直り出来たの? 私は、どうして清澄高校に入ったの?」



本当に異世界の住人であれば、良かったのに。

そうすれば、私はただ戻る術を探せば良いだけなのに。



「──教えて、ください」




そんな私に皆は顔を見合わせ、



「咲と会ったのは、わしが一番最後だったかのう。第一印象は本を探してる文学少女って感じじゃったが」

「咲ちゃんは出会った時から咲ちゃんだったじぇ」

「私の時はまた小さい子がいるわねぇって感じだったかしら。その後すぐに凄いの来た!って思ったけど」

「私は……正直、その、最初はちょっと嫌でした。麻雀は好きじゃないって言われたり……」

「のどちゃんも強く当たったりしててお互い様だった気もするじぇ。そーいえば、怒って帰っちゃったとかあったなー」

「それは、その……若気の至りというか……」

「たった半年前じゃろうが」




私に、応える。



「インターハイはまあ、昨日の祝勝会で言わずもがなでしょう」

「おねえさんとは仲直りしたって咲ちゃんが自分で言ってたじぇ」

「挨拶もしたしのう、アレで実は仲直りしてなかったのなら驚きじゃ」



言葉が痛い。

関わるのを止めて欲しくて、皆を遠ざけようとして吐いた言葉が飲み込まれていく。



「咲が麻雀部に入ったのは勧誘期間が過ぎてしばらくしてからだったかのう」

「私が図書館で誘ったのよね。咲が清澄を選んだ理由って聞いたことある?」

「そういえばありませんね」


それでも、やっぱり希望に至らない。

どころか、私の納得を深くする。





諦めるための納得を。





「──やっぱり、無理ですよ」


「聞けば聞くほど、私の知ってる世界なのに」


「ただ、京ちゃんだけが消えている」



執拗に、徹底的に。

まるで、何かの意思が京ちゃんだけを消そうとしているかのように。



「ねえ和ちゃん、優希ちゃん、覚えてないの?」


「私をここに連れてきたのは、京ちゃんだよ?」


「なのに、なんで?」


「部長が私を?」


「私が、知ってる世界でも、図書館で部長に誘われたけど」


「それは、京ちゃんが私を連れてきたからで、だから部長が私を麻雀部に誘ったんだよ?」


「なのに、京ちゃんではなく部長が──」








「──────」








「────部長」


「部長はなんで」






「なんで私を誘ったんですか?」




「……やっぱり、強かったっていうのが一番の理由かしら」

「強かった、から」

「ええ。プラマイゼロを見せられて、夢を見ないなんて方が無理な話でしょう」

「でも、部長」





「どこで、私が強いなんてことを知ったんですか?」

「え?」





「ええと……んん? あ、そうそう、部室で和と優希とゲストが打ってたのを見たのよ」

「さっき言ったでしょう、ゲストに小さい子が居るなって思って、その打ち方に驚いたのよ」

「じゃあ、麻雀部に連れてきたのは部長じゃないんですね?」

「そうね」




「ねえ、和ちゃん優希ちゃん」

「私が、なんで麻雀部に居たか覚えてる?」



「……確か私は咲ちゃんが来たとこを見てないからのどちゃんが答えるじぇ」

「え? ええと……普通に、麻雀を打ちに来たのでは?」







 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「私は麻雀がキライだったのに?」






広い室内が、しんとなる。


「和ちゃん、言ってたよね」


「私が、麻雀好きじゃなかったって」

「それは……」

「間違いじゃないよ、和ちゃんには控えめに言ったけど、私はあの時確かに麻雀がキライだったから」



             ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「でも、じゃあ、なんで私は麻雀部で麻雀を打っていたの?」




「……待ってください、ちょっと、待って……」

「和か、優希が誘うたんじゃないんか?」

「私も、のどちゃんもあの時が初顔合わせだった……はずだじょ」

「え、ちょっと待って、和も優希も覚えてないの?」

「部長」



「部長はさっき、私が打っていたのを見たと言ってましたよね」


「和ちゃんと、優希ちゃんと、私と──あと一人は?」

「あと一人……ゲストの子じゃあ」

「何年生か、どんな子だったか。覚えてますか?」

「あれ、えーと、ちょっと待って。ええと……え? あれ?」



「……どういうことじゃ」


染谷先輩が、呆然と呟く。


「誰も……誰も、覚えてないんか?」


「……ぁああ」

「咲!? どうした、大丈夫か!?」




──京ちゃんの。



「咲さん?」

「咲ちゃん!?」

「咲、泣いてるの?」



──京ちゃんの欠片を。









───やっと、見つけた。


というわけで待て次号!

……ようやく半分くらい?


いよいよ楽しくなってきた

おつ!
漸くここまで来たかー
でもまだ入り口を見つけたくらいという考え方もできるし難しい


咲ちゃんが異世界に来てるわけじゃないのか?

正直咲ちゃんのイマジナリーフレンド、または物凄い性質の悪いドッキリとかって可能性も考えてたから、そんなんではなさそうでよかった。
どっちも別ベクトルで後味が悪いからなぁ。
SFチックな展開になってきたけど、どういう方向に進むんだろうか。

ワクワクしてきた

ぶっちゃけアラフォーどもが黒幕で、某スレみたいにアラフォーどもに逆レイプされてたりして...

乙!
加速してきたね!
続きが楽しみだ

前も出てたけど虹の見方思い出すなあ

ONEぽいと思った俺は古いのだろうか

乙です

こうやって矛盾点を徐々に突いていくのはやっぱ痺れるな

>>270
俺も思った
本編もそうだし、あの頃はそのSSも多かったしな

三つ編み原村さんの「嫌です」と、スケッチブックまほは違和感ないかも。

絶望先生思い出した

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira099335.jpg

待ってます

話が動くところまで書けるか分からないけどとりあえず進める

しかし予想外に見てくれてる人が居るんな……
嬉しいけど、予防線を張りたい衝動もあったりなかったり







「お帰り。早かったな」


家に帰ると、お父さんが受話器を耳に当てていた。


「ただいま」


ぼんやりとしたまま、私も挨拶を返す。







その日は、結局話し合いの体をなさず、うやむやの内に解散となった。


誰も彼もが混乱して、収拾がつかなくなっていた。


部長が解散、と言った声に、疲弊がわずかに見えたのは気のせいじゃなかったと思う。




私は、安堵と同時に押し寄せてきた急激な疲れが頭を靄がからせて、熱に浮かされたようにゆらゆらと揺れる。





分かってる。


京ちゃんの存在が証明されたのではないということくらい。


ここから何をすれば良いのかも分かっていないことくらい。


それでも、何処にもなかった手掛かりの欠片がようやく見つかった。


京ちゃんの存在に関わりがあるとしか思えない事象を、ようやく見つけたのだ。


今少し、この安堵に身を委ねていたかった。


来たか良かった



「ああ、咲が帰って来た」


私の名前が出たことに反応して、お父さんを見る。

それに気づいて、お父さんは受話器を指す。


「かーさん」


ああ、お母さんか。

インターハイの間に、お父さん達にも色々あったらしい。

私がこちらに帰ってくるまでに数度、お父さんとお母さんが連絡を取っていたとお姉ちゃんから聞いている。


そうか、お母さんと話してるのか。

ぼんやりとしたまま、自分の部屋に足を向けて──





「──お父さんっ」

「うおっ!?」


私が飛びつくように声を掛けると、お父さんはビクリと肩を跳ねる。


「びびったじゃねーか、まだ居たのか。どーし」

「お姉ちゃん居るっ!?」

「……かーさんなら今繋がってるけど」

「いまは、おかーさんじゃなくてっ」





お父さんが受話機越しに二言三言声を交わした後、私に渡す。

受話機を耳に当てる。


「お姉ちゃん?」

「……お母さん、泣いてたよ」


あぁ。

間違いない、お姉ちゃんの声だ。

それだけのことにとてつもない安心を感じる。


そして、言葉の意味が思考に届く。


「えぇっ、ちが、私はそういうつもりじゃ」

「うそ」


笑いを含んだ声が、受話機から届く。


「え」

「泣いてないよ、ちょっと拗ねてたけどね」

「っ、もう!」

「ふふ」


からかいの言葉にむくれて見せるも、そうした応対のひとつひとつが嬉しい。




宮永照。


高校麻雀界のトップを行く白糸台高校、そのエース。


それが、私のお姉ちゃん。




私とお姉ちゃんは、とある事情があって長く絶縁状態になっていた。

仲直りしたのはつい最近のことで、インターハイに出ることがなければ、きっとそれも無し得なかっただろう。



「久しぶり……でもないか。2日ぶりだね、咲」



まだ2日なんだ。


もう数日が過ぎたかのような感覚だった。



「お姉ちゃん」

「?」

「会えないかな」

「2日前に会ったばかりだけど?」

「それでも、聞いてほしいことがあるの」


お姉ちゃんに聞いてほしかった。

数年間、音信不通で、空白の方が多くなっている今でも。

多分、私が最も信頼しているのはお姉ちゃんだ。



会いたい、話を聞いてほしい。

笑われるだろうか。

お姉ちゃんも、私が変だと思うだろうか。




───それでも。



「……咲たちのおかげで」

「?」

「今は、毎日ミーティングや猛特訓でスケジュールが埋まっている」

「そっか……」







「だから、私は行けないけど」



「咲が来るなら、話を聞いてあげる」






「──うん! 行く、行くよ!」

「そう」




静かだけど、お姉ちゃんが微笑んでいるのが分かった。


一旦乙です


てるーいいね

ちと無理ぽいのでまた後日ということで

おつー

乙乙

おつおつー
このあとどうなるのか楽しみすぎる!

乙です


照は覚えてくれてるんかな

>>297
電話口で何も言わないってことは京太郎自体をまず知らない可能性もあるぞ

方向音痴っぽい咲が自力で白糸台に辿り着ける可能性は?

迷子になってる時に京ちゃんらしき人が助けてくれる...

乙乙

乙ー

待ってるよ

あー今日進めたかったけど流石にもう寝ないと無理だ
前回から間が大分空いているけれど26か27に投下で……

おう、あくしろよ

待ってます








「───で、まさか翌日に来るとは思わなかったけど」

「えへへ……」







東京駅近くの、有名な喫茶店。

日はまだ高くとも今は夕方で、店内は色々な格好の人で埋まっている。


ちなみにお姉ちゃんは制服で、私は私服だった。

部活終わりに迎えに来てくれたのだ。


「でも、迷子癖は相変わらずなんだね」

「む、昔よりはマシになったし……」


お姉ちゃんを待っている間、お土産を見るついでに軽く迷子になった。

待ち合わせ場所に向かう途中のお姉ちゃんが通りがかったため、事なきを得たのだけど。

その時のお姉ちゃんの飽きれ顔が想起される。



「インターハイ後に会ったときには、結構普通だったのに」


ショートケーキにフォークを通しながら、お姉ちゃんが言う。

あの時は、皆が居たから迷子になることが少なかった。

部長や染谷先輩の後ろについて行き、和ちゃんや優希ちゃんの横を歩き、京ちゃんに背中を押されて───


「ねえ、お姉ちゃん」

「なに?」

「京ちゃん──須賀京太郎を、覚えてる?」

「……私が、長野に居た頃の知り合い?」

「ううん」


ショックはない。

京ちゃんとお姉ちゃんはインターハイ後に会っている。

けれど、部活の皆が覚えていないのだから、お姉ちゃんも覚えてはいないだろうと思っていた。


「私が、今日来たのは」







「その、須賀京太郎という、男の子のことなの」







私は話す。


出会った頃の話、中学校での出来事、高校でのやり取り。


インターハイの間と、お姉ちゃんに紹介した時のことと、その後のこと。


京ちゃんとの記憶と──消し去られたその存在について。


お姉ちゃんは、言葉を挟むことなく、黙々とケーキを消費する。


居なくなってからのことを話した時には、僅かな鈍痛を伴った。


理由は分からない。


取り返しの付かない状況に陥ったような、そんな感覚を思い出すからだろうか。


実際、もう二度と、取り返しの付くことは無いと思った。


もう、二度と。


でも──




「──昨日、ようやく見つけた。京ちゃんが、居たことの手がかりを」


私を麻雀部に連れてきたのが誰なのか。

長野県予選で優希ちゃんのタコスを買ってきたのは、インターハイで食べたタコスを作ったのは。

学生議会室まで、私と一緒に資料を持っていったのは。

roof-topの模様替えで、大きな鉢植えを運んだのは。

一年生麻雀勝負で、ラスを引いたのは。

清澄高校麻雀部で、一番紅茶を淹れるのが上手かったのは。



誰も、答えることが出来なかった。



京ちゃんが居た場所に時間に、確かな空白があった。




「京ちゃんが居た場所は、確かにあった」








「──あったからこそ」



この事を話すために、私はお姉ちゃんに会いに来た。


・ ・
こう考えることは自然であるだろうけれど、触れてはいけないことのような気がして、避けていた。

なぜか、とても恐ろしいことのような気がしていたから。





「不思議なの」




「なんで、皆は──京ちゃんのことを忘れているんだろう」






もはや、このような不自然な空白が見つかって、避けようのなくなった疑念。


空白のそこに、京ちゃんが居たのなら。


大きな大きな何らかの力が、京ちゃんを消したとしか思えなかった。





「────咲」


お姉ちゃんが、ゆったりと紅茶を含んで飲み込んで、言う。

同時に、




──────ぞわり




見られている感覚があった。

強烈な違和感と、懐かしさ。



インターハイでこう呼ばれていた、お姉ちゃんの感覚。








照魔鏡。




「その、須賀君というのは」



僅かに緊張する。

ひんやりと冷たいアイスティーのコップを手のひらで包む。











「彼氏?」









「──え?」


口がポカンと開く。

呆ける脳が隅っこの方で、そういえば、とぼんやり思う。



そういえば、京ちゃんを紹介したときにも同じことを聞かれたな。

一旦乙です
照さんこの不思議話しで一番最初に気にするところはそれですか


まぁ確かにそんな不思議話されたらその男子が彼氏なのかは疑うよな
ただの知り合いならこんなに気にしたりしないだろうし



土器土器

ドラゴビッチ....クラフチェンコ....シュタイナー....オールマストダーイ....

なんかSFっぽくて楽しみ


まあそう思うわな…

乙です


-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


「なるほど、分かった」


お姉ちゃんの言葉と同時に、見られているような感覚が消える。


「須賀さんの息子さん……か。……京香さんには、よくお世話になった」

「うん……」

「京香さんも清澄だったかな。制服が同じようにセーラーだった覚えがあるけど」

「よく覚えてるね……聞いたこと無いし、違うと思うけど……」


疲れた。

ちょっとだけ、机に突っ伏す。

漫画初期設定みたいに高校の頃に仲良くなったなら「麻雀部に入るために作った友達」という理由になるが……
ここでは中学生からの知り合いぽいからなぁ……「ぼっちであることを現実逃避するための架空友達」ということか?
どっかの夜空さんを思い出すなぁ……

原作1話で既に中学同じって言われてるんだけど・・・
あとsageようか



様々なことを聞かれた。


私と京ちゃんの関係に始まり。


私が京ちゃんをどう思っているか、京ちゃんが私をどう思っていると思うか。


さらには京ちゃんの周囲の状況や、家庭環境まで。




でも、きっとお姉ちゃんのことだから。


「必要、だったんだよね?」



手を繋いだ時にどんな気分だったか、キスしてみたいと思ったことは等々、根掘り葉掘り聞かれたことも。

きっと、とても深い理由が──


「? 質問自体は私が聞きたかっただけだけど」



完全に、机に突っ伏す。


私が答えを濁そうとすると、真剣な顔をしてじっと見つめてくるものだから、大事なことだと思って真摯に答えたのに。


とても恥ずかしくなりながら、恥ずかしいことを口走ったりしたのに。


ただ、聞きたかっただけって。


聞きたかっただけって。



「でも、話すことは必要だったから」


頭上から聞こえた声に、顔をあげる。


「咲をちょっと『見』させてもらった」


そう言うお姉ちゃんの表情は、なにか考えているようで、結果が良いのか悪いのか判然としない。






「結論から言うと」




「咲がオカルトの影響を受けている様子はない」





オカルト────




──……






「……オカルト?」

「そう」



淡々としたお姉ちゃんの様子からは、それが重要な事なのかそうでないのかが分かりづらい。


「ええと、麻雀の?」

「じゃない方。いや、同じと言えば同じ?」


ストローを咥えながら顔を傾ける様は、思考する表情に妙な愛嬌を加える。



「まあ、簡単にいえば」



「その『京ちゃん』の存在──記憶とかそういったものに、何らかの力が働いてるんじゃないかなって調べたけど」



「咲にはその影響が見られなかったってこと」


大嘘つき(オールフィクション)で人消したときに症状が似てるな




何らかの力──確かに、それは知りたかったことだ。


京ちゃんの存在についての扱いは、通常では考えられないことだらけで、普通ではない力が働いているのではないかと何度も思った。

正直、それは突拍子もない話で、起きている事象から逃避するための妄想のつもりだった。



──だったけれど、お姉ちゃんはそれが有ることを真面目に語る。


そして、何よりも気になったのは──


「──お姉ちゃんには、それが分かるの?」

「うん」


お姉ちゃんは、相変わらず静かだ。



「麻雀で、オカルトの強い子が結構居るのは、咲も知ってると思う」



「あれは実際には、麻雀のオカルトと言うよりも、その人が元々備え持つ特殊な力──オカルトを、麻雀の技能として扱っている場合が多い」



「永水の神代さんなんかが、その最たる例」



まあ、持つ技術を麻雀に生かすというのは、オカルトに限った話じゃないけどね、とはお姉ちゃんの言。

観察する、絞り混む、狙い打つ、推測する。

オカルトも、結局のところそうした技能のひとつでしかない、と。




「ちょっと話がずれた。ともかく、私もそうしたオカルトを持ってる」


ぐわりと、音がするような圧力で私の後ろに何かが現れる。

先ほどと同じ、よりももっとはっきりとした形を持ったそれは、明確に鏡の形をしているように感じた。





「『本質を観測』する能力」




お姉ちゃんは変わらずの様子なのに、ぴりぴりとした威圧感がある。

前から、後ろから。

先がキニナル



「麻雀では相手の傾向を知るために使っているけれど」


「相手の現在の感情や体調、嘘をついていないかというものから、体質や成長性、業や性といったものまで」


「知ろうとする事々にそれなりに時間はかかるけど、様々なことを知ることが出来る」





「──その様々には、オカルトについても」

京太郎になにかがあったんだろうけど、照の能力で真実を探ろうにもまずは京太郎(にかかわるなにか)を見つけないと
ステルス探しの名人ワハハを呼ぼう、あと九州の巫女さんや、岩手の妖怪たち
ところで
リンシャンもとい、山に花を咲かせる能力な咲さんの、麻雀以外の使い道のなさ……
いあ、登山した時に季節問わず百花繚乱(というほど山の上のほうには種類はない)して景色はよさそうだけど(苦笑

京太郎の能力は不要牌を引く事。清澄麻雀部に入ったのは・・・(察し)



圧倒される。

自分のすぐそばに、そんな力が存在したことに。

そうした事実を、あまりにも普通に話すお姉ちゃんに。


「なんでも、知ることが出来るってこと?」

「そこまで万能じゃないよ。言い方を変えれば、『本質』しか知ることが出来ない能力だから」



曰く、『質』の『本質』とは関係のない部分は分からない。

例えば何を考えているのかは分からないし、癖や変化については感知出来ない。


「オカルトの影響については、基本的に本質に関わってくるものだから」


ふっと、圧力が消える。


「私にも、分かるけど」



「……」


頭のなかを整理することで精一杯で、言葉が出てこない。

オカルトについては、なんだか不思議なくらいするりと受け入れる事ができた。

ただ、その影響が、考えていたことにまで響いて、ぐちゃぐちゃとしていた。

とにかく。

とにかく、大事なのは。


「私が、オカルトの影響を受けていないことと、京ちゃんがいなくなったことに、関係はあるの?」

「咲は疑問に思わなかった? 誰も覚えていない相手を」


お姉ちゃんは、ゆっくりとモンブランにフォークを通す。









「咲だけが、覚えている」





なるほどそういうことか

咲さん知らない内にどくさいスイッチ押したんじゃね?

『京太郎の存在をなかったことにした』



「だから、咲に何かしらのオカルトが発揮されてるものだと思った」

「……それって、私の方がオカシイと」

「違う」


ふるふるとお姉ちゃんは首を振る。


「規模の問題。何かしらの改変を行うオカルトであるのなら、例外にこそ解決の糸口があるはず」

「そしてその例外が、分かる限りではただ一人だけ。であるなら、オカルトを避けるだけの何らかの影響下にあると思ったんだけど」



「……その私は、オカルトの影響を受けていなかった」

「そう」


それはつまり、


「現状では、解決の糸口が見つけられない、ということ?」


お姉ちゃんは首を振る。


「そうであれば、咲が何故影響を受けなかったか、を突き詰めていけば良かっただけ」



「……けれど、前提条件を見なおさなければいけないみたい」

「前提条件を……?」



「さっき、自分で少し見てみたんだけど」


「私も、咲と同じだった。変わらなかった」










「──私も、咲と同じように、オカルトの影響下に無かった」







「記憶から何かを消し去られた形跡も、意識を書き換えられた痕跡も、知識を隠蔽された様子すらない」






「それって……」

「うん」




「現状は、こう判断せざるを得ない」












「『須賀京太郎』の消失に、オカルトは関わっていない」






それってリッツ「福山潤のギャラ高過ぎ...そうだ!」クラスで消されたってことですよね...




お姉ちゃんの言葉に、考える。

もはや情報の更新が追い付かなくて、思考の外側が凍りついたように固まってしまっているのだけど、お陰で余計な思考が切り離された。




恐らく、憂うべきことなのだろう。

京ちゃんが消えた背景に何か特別な力が関わっているのではという妄想が、実際にあり得るのだと分かった。

あるのだと知ってしまうと、それが原因であるとしか思えないほどの力。

京ちゃんはただの失踪ではないのだ。

>>360
くぎゅとかもっとギャラ高そうなやつはいると思うけどなぁ……



存在が無くなり、名前は消え、誰も彼もの記憶から削除される。


常の事象ではない。


だからこそ、私は一度諦めた。


そう、普通なら諦めざるを得ないような異様な状況を作り出せる力。



その力の関わりを手繰る糸が途切れてしまった。

憂うべきだろう。

ただ、やはり実感として乏しい。

受け入れられても、感情の域にまではまだ達しない。


それに──



「──現状、ということは、オカルトが原因である可能性は消えていない、ということ?」

「うん」


お姉ちゃんは頷く。


「オカルトは、枠というものが無いから。私でも、『異質』のモノは分からない」


オカルトであっても、人の力。

分かることしか分からないし、出来ることしか出来ない。




「ただ、『異質』のオカルトっていうのは珍しい。私のオカルトの『質』から外れているということは、人の領域から外れている可能性も高い」



「万が一、それが原因であるなら──解決は、難しいかもしれない」




人の領域の外であるなら。



お姉ちゃんはこともなげに言うが、私にはもう、話が想像の出来ない域に達しつつあった。

なんとなく、途方も無い規模であるように思う。

もはや、推測すら曖昧だ。

ただ、思ったのは。


「お姉ちゃん、慣れてるんだね」

「慣れてる?」



「うん、なんというか、そのオカルトの対応について」


お姉ちゃんはミルクレープをつつきながら、少し考える。


「……能力のせい、かな」

「能力の?」

「昔は強い何か……今思えばオカルトだったんだろうけど、そうしたものに遭遇した時に、能力が制御出来ないことがあった」



「私は、その度に。知ってきたから」




「……そっか」


異能の代償、というものだろうか。



怪力を得た人が、異形に絶望するように。

名探偵が、人の死に直面するように。

心を読める人が、心を閉ざすように。



「うん」


お姉ちゃんは、いつもの通り静かに頷く。



お姉ちゃんが紅茶のおかわりを頼んだ後、私に聞いてきた。


「咲。この『須賀京太郎』くんのこと、他の人に話してもいいかな」

「え?」


困惑しつつも、頷く。


「ええと、良いけど」


お姉ちゃんなら変な相手に話すことはないだろうし、そういった心配はない。

むしろ、そのような話をして、お姉ちゃんが変に思われないだろうか、と少々心配になる。

無関係の人に話すには、あまりにも信じがたい話だろう。



「どうするつもりなの?」

「とりあえず、『異質』の方に詳しい人に話を聞いてみようと思う」


お姉ちゃんは、そういう人も知っているのか。

驚いていると、


「咲は、とりあえずもう一度、部の仲間に話を聞いてみて。混乱が起きたことで、何か変化があるかもしれない」

「うん」


素直に頷く。

お姉ちゃんは、昔よりもちょっと淡々としていて、他の人には表情に乏しいと言われたりしていたけれど、やはりお姉ちゃんだ。

それがこういう時にも関わらず少し嬉しい。

なんだか少し気が楽になって、ぐっと腕を伸ばす。

中学からの友達のことを幼馴染という?高校生で
だとしたら和と優希も幼馴染?



「疲れた?」


届いた紅茶に手を伸ばして、お姉ちゃんが聞いてくる。


「ちょっとだけ。……ねえ、お姉ちゃんがそういう力を持ってたのって、もしかして、昔から?」

「そういうものだと知ったのはこっちに来てからだけど」


言いながら、そっと紅茶を飲む。


「能力自体は、昔からあったんだろうと思う。それをそうだと認識していなかっただけで」

「なんだか、凄いね。物語に出てくるような力を持っているだなんて」


笑う私に、お姉ちゃんは少し首を傾げる。


「咲にも、あるかもしれない」

「私にも?」

「さっきも言ったけど、オカルト打ちには結構な確率で生まれ持つオカルトを利用している場合が多いから。そうだと認識していないだけで」

「認識……」

「まあ、結局持ってても生涯認識することのない人がほとんどだから、咲もその可能性はあるけど」


お姉ちゃんの言葉を聞きつつも、手のひらを見てみる。

まるでそこに自分の能力があるかのように。



もしも、私にもオカルトがあるのなら。

京ちゃんにまた、会える力だったら良いのに。



そんなことを、思う。



私がコップを空にしたのを確認して、お姉ちゃんが時計を見る。


「そろそろ出よう。おかーさん、咲来るの楽しみにしてたし」

「うん」


お会計を済ませ、カランカランと音を鳴らし、外に出る。

湿気を含んだ熱気に僅かに怯んだけど、慣れた様子で先を行くお姉ちゃんの後を小走りで追いかける。


「ねえ、お姉ちゃん」

「?」

「今日は、ありがとう」

「うん」


外はまだまだ明るいが、日は僅かに傾いて、空を赤みがかった色に染めている。

二人で空を見上げて、なんとなく立ち止まる。

お姉ちゃんがふと、思い出したように呟く。



「須賀京太郎……京香さんの息子さん、か」

というわけで今回はここまで。俺は寝る。
ちなみに基本原作設定です(というかアニメは飛び飛びでしか見たこと無い)

乙乙

投下は月1くらいか?
面白いから待ってる

乙です

乙乙
前回やっと掴んだ手がかりの欠片か、完成するのはまだまだ先みたいだな…
頑張れ咲ちゃん

>>372
知らんが原作でそう言ってるんだからしゃーない

まってrう

乙です

照がこんなにお姉ちゃんしてるssは珍しいかも
乙です

原作では中学からのクラスメイト(それ以前の確定情報無し)で幼馴染みって発言はない
アニメだと幼馴染み(いつから一緒かは知らん)に改変されてたはず

幼馴染みだと思ってる人はアニメしか見たことないか混ざってるだけかと

どっかで聞いた話だといつの間にか原作でも設定が改変されたらしいよ

えぇ…
漫画とリッツのHP見てるけどそんな情報聞いたこと無いんだが
まあ中学以前一緒じゃなかったとも言われてないから可能性はあるんだけどさ

ソースはあるんかなあ、現状じゃ言った人が妄想を最もらしく語っただけな気が

ヤンガンの柱のキャラ紹介だったかで幼馴染表記になってたとかなんとか

柱か、あそこは編集が書いてるからなー
いろんな漫画でよく間違えられてるし

ヤングガンガンのHPでも幼馴染表記

HP系も編集の仕事ちゃうんか
まあ昔からその表記じゃなくて最近になって幼馴染み表記に変わったっていうなら、変えるだけの何らかの変化はあったんかな

設定とか変えるなら、そもそもの前提として京ちゃんにもうちょっと出番を与えてくれという・・・
本気で存在が無かったことにされかけている中で、設定変更だけされてもどうしろというのか。

割と色んなSSで言われてるけど、確かに中学からだと幼馴染とは言いにくいか。そもそも幼くはないだろうし。
しかし、中学で知り合った男女があれだけ親密になれるってのも凄いよな。
特に咲さんはATフィールド相当強そうだし。

公式でもなんか色々あんのかな
まあとりあえず、気にする人が居るみたいなのでこのSS内では幼馴染設定が無いことだけ明言しときます

しかし原作側で小学校や幼稚園、それ以前からの付き合いがあったと公表があればそれはそれでSSの幅が広がるなぁ
HPでその辺に触れてくれないだろうか

嫁さん茶化したクラスメートのフルネーム考えてる暇あるなら
その辺り意思統一しとけと思わんでもない

待ってます

そろそろ1ヶ月か…

流石に1ヶ月丸々空けるのはちょっとなということで中途半端ながら投下
ヤスミガホシヒヨ







電話の向こうの声は、なんだか疲れているように聞こえた。






「まぁ、とりあえず。咲にも参加してもらおうかしら」



そう言って、部長の電話は切れた。

参加?

私は首をかしげる。




東京から帰って来たその日。

お姉ちゃんと話し合った通り麻雀部の皆にもう一度話を聞こうと、部長に電話を掛けたときの事だ。



1日、東京に滞在したからたった二日ぶり。

にもかかわらず、部長はなんだか変わった様子だ。



まあ、とにかく、明日。

明日に、もう一度話し合おう。

それは二日前のあの時とは全く違う心持ちで、部長のことを言えない「変わった様子」だ。

この数日間、私の心向きはころころとしている。

困惑、驚愕、疑心、恐怖、逃避、諦観──ただ光を失い続けた心が、いまは影もできないほどに全方位的な明るさに満ちている。

京ちゃんは、居るんだ。



それを今、私は疑わない。





「おはよーだじぇ、咲ちゃん」

「おはようございます」


学校までの道でいつものように、優希ちゃんと和ちゃんと出会う。


「おはよう」


しかし、気のせいだろうか。

昨日の部長と同じように、僅かに疲れているように思える。


「ねえ、今日は何かあるの? 部長には、参加って言われたんだけど」

「あー……今日はっていうか今日もってゆーか」

「まあ……行けば、分かりますよ」

「?」





それは確かに、行けば『何かがある』と分かるような光景だった。




「うわ……」


部室に入り絶句する私に、


「おう、おはよーさん」

「おっはよー」


染谷先輩と部長が挨拶し、


「おはようございます」

「おはよーだじぇ」


和ちゃんと優希ちゃんが挨拶を返しながら横をすり抜ける。

先ほどの様子からしても、二人は知っていたのだろう。

私はただ一人、困惑している。




「何ですか、この……紙の山は」



部室の机の上のみならず、床一面にも紙の束や冊子が詰め込まれた紙袋がいくつも並んでいる。


「いやあ、こんなに多くなるとは私も思わなかったんだけどね」


部長が少し疲れたように笑う。


「まあ、とりあえず見てみぃ」


そう促す染谷先輩に、戸惑いを残しながらも紙の山から1枚のプリントを手に取る。



目を通すが、何でもないただの授業参観のお知らせだ。

授業参観の後に懇親会があり、可能なら参加してください、というよく見るもの。

これがなんなのだろう、紙の束はもしかして全部こういったものなのだろうか、そう思ってなんともなしに日付を見る。


「──え?」


2年前。

それにも驚くが、それ以上にその下に書かれた学校名に目を見開く。




そこに記されているのは、私の通っていた中学校の名前。



プリントの下、紙の束や冊子を見る。

全て同じ中学校の名前が記されている。

中には、見覚えのある装丁の冊子もあった。


「こっちは高校のもので、そっちが中学校のもの」


混乱しながら部長を見ると、部長が言う。


「高校の方はなんとかなるとしても、中学の方はどうしようもなくてね」

「それで、同じ中学校だった子とかに声をかけたんだけど、伝言ゲーム的に話が広がったらしくて」



染谷先輩がため息をつく。


「今の1、2、3年どころか、兄弟姉妹の残ってた資料まで持ってこられてのう。親の、と言われた時には流石に笑ったわ」

「一昨日はマシだったけど、昨日は酷かったじぇ。部長が慌ててストップかけて、それからもしばらくは止まらなかったし」

「咲さんと同じ学年のものだけを分けるだけで、1日かかりましたしね」


優希ちゃんと和ちゃんが、積み上がっている『中学校のもの』を見ながら思い出したように笑っている。


「いやあ、思わぬところで私の人望の厚さを垣間見たわね」

「なんとも物理的な厚さじゃな」

「もう少し纏まっていてくれれば良かったのですが」

「のどちゃん、その言い方だとなんだか部長の人望が散らかっているみたいだじぇ」


部長たちの会話から、断片的に情報を得る。

一昨日から集まってきていた、ということは、つまり。


「あの後から、集めてたんですか?」


あの、roof-topでの話し合いの、すぐ後から。



「まあ、声だけね」


部長が頬をかく。


「咲がいなくなってからも、わしらは少し残っててのう」

「……口では信用すると言っていたものの、私たちにはまだどこか咲さんの言葉を軽んじている部分があったのかもしれません」

「咲の問いかけに何一つ、答えることができなかったのはまだしも、その事実に愕然としとったからな」


──自分たちの記憶が穴だらけで、しかもその事実に言われるまで気づかなかった。

──10年や20年前ならまだしも、まだ1年と経って居ない記憶が。


「あんなに混乱したのは、算数が数学になったとき以来だったじぇ」

「混乱している最中。咲さんの言っていたことが、本当かもしれない──信じているはずだったのに、あの時、そう思ってしまった」


──先輩たちの言葉に、思う。

──それで混乱することなど、なんら恥ずることはないだろうに。

──それでも、私のために恥じてくれるのだという。


「それで、話し合ったんです」



「私達も、知らなければいけない、と」



和ちゃんが、言う。



「で、まずは資料を集めよう、ってね」


部長が手近なプリントを手に取って、ひらりと持ち上げる。


「調べようにも、何を調べたらいいのかすら分からなかったから、調べられるものを集めましょう、って」

「こんなに集まったのは、予想外じゃったけどな」

「咲ちゃんが来てくれたのは、かなり助かるじぇ」

「最初は咲に内緒でやろーかなーとも思ったけど、そー言うものでもないしね」



「というわけでまあ、咲も手伝ってくれないかしら」



そう言って、部長は私にプリントを差し出してくる。

私の──京ちゃんの中学校の名前が入っているプリントを。





「私たちが、『須賀京太郎』くんを知るために」








チッチッという時計の秒針が進む音に、時折紙の擦れる音が混じる。


この音は嫌いではない。正確に言えば好きだ。


自分も紙をめくりながら、そんなことをふと思う。




皆が資料に集中して数分が経った。

私が今確認しているのは、私と京ちゃんの所属していた三年間分の資料だ。

三年分と言っても、なにせ持ってきた資料が数十人分になるので、生半な量ではない。

複数人が持ってきた為被りも多いのだけど、それをまた分別する手間や返すべき資料の再分別をする手間を考えて、資料ごとではなく山ごとに各自が確認することになった。

どこに手がかりがあるか分からないため、関係なさそうなものも端から端まで。

本を読み慣れているおかげか、辛くは無いのだが、大変な作業だ。



と、思っていると──


「……優希? ……ああ、もう」


見ると、優希ちゃんが紙の山に顔を突っ伏して寝ていた。

昨日もこの紙の山を選り分けて、しかも次々と来る人達の対応までしていたというのだから、疲れも有るのだろう。


感謝しかない。

優希ちゃんにも、和ちゃんにも、染谷先輩にも、部長にも。

跡がつかないようにとだけ、優希ちゃんの顔の下にベッドの上にあった枕を差し込む。



見終えた紙束を、取り上げた側と反対に置く。

当然だけど、どれも見たことがあるはずのもので、目を通しているだけで懐かしさが漂う。

三者面談のお知らせ、予防接種のお知らせ、全校ハイクの日程と予定、最近不審者が目撃されています──この紙の束はそうした告知のものがまとめられていた。

私はこうしたものは年末の大掃除や年度の切り替わりに捨ててしまっているので、よく取っておいたなぁと思う。

次の冊子を手に取る。


しかし、これは中々厳しい作業だ。

始めて少ししか経っていないけれど、気づく。

生徒の名前が載っている資料というのは、あまり多くない。

しかし、多くの無関係な資料の間に挟まっている学級報や校内紙で生徒の名前が出ていたりするので、気が抜けない。



手にとった冊子は結構厚く、和紙で簡単に装丁されていて、一文字『心』と書かれている。

見た覚えが有るような無いような、と思いながらページをめくると、


「……あぁー」


小さく、呻くような声が思わず出る。





詩集。





それだけで、分かる人は分かるだろう。

思春期の始まりに、こんなものを作らせるなど、なんと残酷なことだろうか。

少しばかり大人になった今、そう思わずにはいられない。

しかも、学年でまとめているものだから、その被害は結構な広範囲だ。


しかし、こういうものをこそ見なければならない。

学年の全クラス。

つまり私も、京ちゃんも、この中にいる『ハズ』だから。



並ぶ言葉の青臭さに、恥ずかしさに耐えながらページをめくる。

最初から、一文一文を丁寧に確認する。



何処に手がかりがあるか分からない。

それは、京ちゃんの存在が、必ずしも私の知る通りではない可能性があるからだ。

これは部長たちが私の居ない間に出した答えの一つ。

私も、それに了承した。




『私の知っている京ちゃんではないかもしれない京ちゃんの可能性』。



おかしな話だけど、それがなんらおかしくはないことを、私は知っている。

ちょっと前の私なら、受け入れられなかったことだろうけど。

でもただでさえ、現状でさえ、今の京ちゃんは私の知っている京ちゃんではないのだ。

それを、今の私は理解している。




何故なら、私の知っている京ちゃんは、皆に忘れられてはいないのだから。




知っている名前がちらほらと出てきて、ちょっと感動しつつ、その内容に悶たくなる衝動を耐えつつ、ページをめくる手は止めない。


その手が止まったのは、私のクラスのページに差し掛かった時だった。

左のページ一枚に、クラスと、皆で話し合って決めた見出し。

見出しには『絆』と書かれている。


無意識に止めていた呼吸を、ゆっくりと、深く再開して、一層慎重にページをめくる。



あ……お……か……こ……



五十音順に並んだ名前は、もちろん知った名前ばかりだ。

うろ覚えだったクラスメイトの記憶も、名前を見て、文字を見てはっきりとした輪郭を持つ。



さ……




その後を、ゆっくりと目で追う。



ページの上下に、ひとりずつの手書きの詩。


それが見開きで、4人分。



私の知っている通りなら、さ行は6人だ。

何かの時に出席番号順で並んで、ちょうど一列がぴったりさ行で埋まって話のネタになっていた。



あの時、京ちゃんは何番目だったっけ。




目を通す。


ページをめくる。



後ろのほうだった気がする。

4番目?5番目?一番後ろ?



目を通す。



違和感。

確かに、違和感がある。




でも──



左上に視線を移す。







…………た。






──『須賀京太郎』は、見つからない。






ほう、と息を吐く。

分かっていたことだ。

そんな簡単に見つかるようなら、私はあれほどの焦燥に駆られることもなかったはずだ。


気を取り直す。


期待はしていた。

でも、その期待が外れたところで、落ち込みはしない。




一度諦めた私には、分かっている。


諦めることの気楽さを、落ち込むことの安心を。


諦めることの恐怖を、虚無感を、失望を。


落ち込むことの苦しみを、停滞感を、焦燥を。




もう一度冊子を見直してみる。

さ行の名前は右上から始まり、一二三四。

ページをめくり、五。



やはり、どこか違和感がある。



次を探そう、と考える思考と、この違和感の原因を調べた方が良い、という感覚に迷いながら、名前を確認していく。

再度、ページをめくり、右下を確認して、ああそうか、と気がつく。

先程は気付かなかったが、右上が空白になっている。



なんだ、と思いつつも納得した。


5人しか居ないのに、偶数分のページが使われていたことに、無意識ながら違和感を感じていたようだ。

先生が間違えたのかな。


そう考えながら、空白部分に目をやって。







そうだ、京ちゃんは5番目だった。


それを思い出すと同時。







「──え?」
















────── 須賀 京太郎






私は、その名前を見る。




軽く?ホラーである
気付きと当てはめで存在が確定する?

だが写真だの須賀家だのでは京太郎でてこなかったよな
あの時とは咲の心持ちが違うから?


いつもいつも切り方がいい意味でひどい
続きはよ

続き期待

乙です

一体何が起きているんだ……?
乙です

認識されることで存在が確立するとかなんとかみたいな話……?

乙です
>>88と同様に存在した場所は残ってるのに存在だけが削り取られてるな

京太郎やその痕跡は消えたんじゃなくて、認識できなくなってるのかね。
だとするとモモ以上のステルスだなあ。


ということは京ちゃんは消えたのではなく…

乙です

いないかもと思うといない
いると思えばいる?

乙乙
素直に見守ろう…


シュレディンガーの京太郎
清澄の環境的に消えたままでいたくなったから姿を消した

待ってます

今日の夜辺りにちょい更新か来週土か日にまとめて更新する所存~

やったぜ。

よっしゃ

待つ




「あ、えっと」


混乱する。

視界がおかしくなっているような感覚。

でも、文字はそうとしか読めない。そうだとしか思えない。



   須賀京太郎



そこには、確かにそう書いてある。



「あれ……?」


探していた、探している名前だった。

けれど、あるのは喜びではなく。



「え、なんで?」



疑問。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆警告☆閉鎖★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
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☆                    このスレは2chから閉鎖処置を受けました                          ★
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☆              今後 書き込みを行ったものは アクセス禁止 の対象になります。                 ★

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☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  



そこには、なんの問題もなく京ちゃんの名前がある。

名前どころか、京ちゃんの書いた詩までしっかりと。



にもかかわらず、何故私はこれほど驚いているのだろう。

そこに書かれているのが当たり前の文字に。

須賀京太郎という普遍的な存在に。

私は、これほど迄驚いている。



「さっきは、無かった……?」





無かった?


京ちゃんの名前が?


本当に?




口がだんだん言葉を失うのがわかる。



そうだ、何を言っているのだろう。

さっきは、無かったはずなのに、だなんて。

それではまるで、京ちゃんのことを探して──






──そう、私は、探していたのだ。




「──ぁあっ!」

押さえつけられていたものが弾けるかのように、声が飛び出す。



「んえ?!」


優希ちゃんがびくりと起き上がる。


「ど、どうしたんですか、咲さん」


和ちゃんが驚いた顔でこっちを見た。

和ちゃんだけでなく、部長も、染谷先輩も。


「あ、じゃなくて、えっと」



言葉が出ない。

こういう時には何と言えば良いのだろう。

とにかく、伝えることを。

伝えなければいけないことを。




「きょう、」





「京ちゃんの、名前が、あった」




「え!?」


部長たちの喫驚した声が重なる。


「ほ、本当ですか、咲さん」


皆が、足元を埋める紙の群生にもどかしそうにしながら、駆け寄ってくる。

優希ちゃんだけは、事態を飲み込めずきょとんとしている。


「これの、ここに」


私の示す詩集に、部長が片眉を上げる。


「あれ、コレなら私も確認したんだけど」

「見落としとったんじゃろ。とにかく、今は認識が先じゃ」


染谷先輩の言葉に、皆が顔を寄せ詩集へと視線を落とす。

ページの、右上。

指さされた箇所を見て、皆は──





「──何も、ありませんね」


和ちゃんが、ポツリと言う。



「えっ」



和ちゃんの言葉に、自分の指先を見る。

そこには、先程から変わらず京ちゃんの名前がある。



「無いわね」

「……無いのう」


しかし、部長と染谷先輩まで、和ちゃんと同じことを言う。



「これ……ここ、だよ?」


指先を、紙面に押し付ける。

しかし、和ちゃんたちは目を凝らすばかりで、そこには何も見えない様だった。


「どういうこと……なのかしら」


部長が、困惑したように呟く。


「どうかしたのか?」


優希ちゃんがとてとてと近寄ってくる。


「優希ちゃん……ここに、京ちゃんの名前が……」

「んー?」


私の指先を覗いて、


「なーんもないじぇ?」


やはり、言う。


「だって……ここに……」



言葉が、尻窄みになる。

憮然として、靄がかった思考だけがノロノロと回る。

指先が、須賀京太郎をなぞる。


「そんなこと言っても、やっぱり……あ、ホントだ」

「え?」





「確かに、京太郎の名前があるじぇ」







今、優希ちゃんはなんて言った?



「え、本当にか?」

「優希、本当ですか?」

「いや、だってここに書いてあるじぇ」


優希ちゃんの言葉に、皆が再び顔を寄せる。

私は、思考がついていけず座り込んだままだ。




「まあ、そうよね」




皆と顔を寄せたまま、部長がそう言う。


やはり、部長たちには見えな──




「咲達の学年の詩集なんだから」












「須賀くんの名前があるのは当たり前よね」





部員たちの記憶も元に戻ってる…?
咲ちゃんだけリーディングシュタイナー持ちかなにかかな?
乙でした

乙です

乙です
続きに期待

乙です
続きが気になって仕方ない

ぞゎぞゎするわ

寝落ちったか
乙です

寝落ちも何も名前欄見なよ

乙です

途中から気付くのは咲と一緒だけど、認識した途端記憶が改竄された?

探してて、見つからない、指示されても見えなかった、という過去が失われたか
咲は疑問を持って記憶統合できたけど

まつ

会社の飲み会が無ければ26、あったら27辺りに更新予定

しかしすっかりギリギリ月1更新に……
モチベーション上げの為に、なんか面白い咲SSあったら教えてくだされ

最近だとみやながけとかオススメ

待ってます

月一更新にはまだ間に合う! イソグンダー

よし、今日は27日だな!
・・・色々ギリギリデスね。

朝早いんで中途半端になるかもしれぬ
後日まとめて見たほうが良いかもしれぬ



今、部長が、信じられないことを言った気がした。


「そりゃあ居るじゃろ、京太郎の中学じゃし」

「だじぇ」

「そうですよね、普通のことです」


今、皆が、信じられないことを言った気がした。

まるで、京ちゃんの事を思い出した──いや、忘れたことなどなかったのような。



──この数日など無かったかのような言葉。


和ちゃんが、私を見る。


「それで、須賀くんがどうかしたんですか?」





これは。


──これは、信じて良いのだろうか?





どこか、異様だ。

いや、私の知る限りでは、ここ数日ずっと異様ではあるのだけど。

けれどもこれは、今までと何かが違う。



私の、望んでいた言葉だったはずなのに。





──何故か、背筋が、凍る。





                                 








「──京ちゃんを、思い出したの?」


私は、言う。


「思い出した?」

「何を言ってるの、咲」



「まるで須賀くんが忘れられてるみたいに」



部長の言葉が、頭の中を掻き回す。

部長の反応は、正常であるはずなのだ。

昨日までそこにいた人ひとりが、忘れられるなんて無い。





でもその正常は、数日前に失われている。



反射的に、言いかける。


「だって、さっきまで……」



言いかけて、それよりも聞かなければいけない亊に気づく。

部長たちが、もし本当に思い出したのなら。



「じゃあ、京ちゃんが居なくなったことは……?」



部長は、なんとも無しに言う。

「ああ、そうね。須賀くんは居ないわね」

それは、あまりにも軽い言い方で、思わず語気が強くなる。



「そんな、まるで出掛けてるみたいに」

「出掛けてるってどーいうことだ、咲ちゃん」


優希ちゃんが、怪訝そうに言う。




「きょーたろーなんて、最初からいなかったじぇ?」









「……?」



優希ちゃんの言葉が、理解できない。

いや、なんと言ったのかは分かる。



京ちゃんは、最初からいなかった。



……ええと、どういうことなのだろう。

先ほど優希ちゃんは、京ちゃんがいるのは普通のことだと言ったばかりだ。

でも、今は、最初からいなかったのだと言う。

何か、意味があるのだろうか?

隠喩? 文字通りではない意味が、隠されている?



混乱する私を置いて、和ちゃんも続ける。


「そうですよ、麻雀部には、須賀くんなんて人は居ませんよ?」







「また……忘れたの? 京ちゃんを、知らないの?」


ええと。

また、振り出しに戻った?


「いやいや、京太郎が入部してくれたお陰で咲が来てくれたんじゃから、冗談でも知らんとか言えんわ」

「そうですね。色々と、部活では支えてくれていますし」



???

ええと、つまり?



「咲、どうしたのよ。私たちが須賀くんを知らない事がそんなに変?」

「咲さんは、須賀くんと中学から一緒だったのだから気になるのも仕方ありませんよ」

「須賀くんって、咲の知り合いなの? 中学の時からの付き合いだってことは知ってるけど」

「そういえば、咲ちゃんと京太郎のなれ初めとか聞いたことないじぇ。普通なら接点無さそうな二人はどーやって仲良くなったんだ?」

「確かに不思議じゃのう」

「中学校からなのに仲良いわよねえ。やっぱり須賀くんから声をかけたのかしら」

「京太郎って、どういう奴なんじゃ?」

「須賀くんって、誰?」

「先輩の知り合いかー?」

「そういえば、須賀くんは?」

「きょーたろーなら多分その辺に居るじぇ」

「そーじゃな」

「そういえば、須賀くんの話題なのに咲が黙ったままだけど」

「……大丈夫ですか? 咲さん、具合でも悪いんですか?」




確かに、具合は悪かった。



「……ううん、大丈夫。……ねえ、和ちゃん」



「和ちゃんは、皆は、京ちゃんの事を──知っているの?知らないの?」


和ちゃんは、不思議そうな顔で、きょとんとして、首をかしげる。






「ええ、須賀くんの事なら知っていますけど──須賀くんって、どなたでしょうか?」

正しい記憶と見えないチカラがごちゃごちゃになってる感じか
怖い




──なに、これ。



事象がもはや、悲しいとか、嬉しいとか、苦しいとかを超越していた。

言い表す言葉が見つからない。

矛盾? とんち?

理解できない、に気分の悪さを足したかのような。

そう、言うなれば、自分で作った造語が答えのなぞなぞを聞かされているような感じ。

こわっ




知っている。

知らない。




京ちゃんは居る。

居ない。




ふと、同じ感覚を思い出す。

それは、つい先ほどの──




バサリ。





よろけて手をついた先で、紙の山が崩れる。

ざさっと、広がる紙の中から、数枚の小さめの紙が滑り出た。

それは写真で、少年たち──今の私とそれほど変わらないが──がユニフォームを着て、並んでいる姿。



一目で分かる。

ハンドボール部のメンバーの写真。

そして、その中には、チームメイトと肩を組んで笑う少年の姿。




──京ちゃんの姿。

ここから進めるとちょっと切りづらいので今回はここまで

乙!

おつ
得体の知れない気味の悪さにゾッとした…
続き待ってる

こわい

乙です

ハイライトが付いたり消えたりしてそう

何らかのスタンド攻撃を受けているぞッ!

乙です

知ってるけど知らない
知らないけど知ってる

誰かお客様の中にスタープラチナをお持ちの方はいらっしゃいませんかーーーッ!

持ってるけどスタープラチナって何だっけ?

ttp://media.g-cores.com/uploads/image/32dff5a4-766f-4b4b-9344-15fb454c3496_watermark.jpg

照さん!
無敵のスタープラチナでなんとかしてくださいよォーーーーーッ!!

こーわーいー

「月島さんのおかげ」みたいな不気味さ

>>1は本当にいいところで切りやがる

おいおいマジかよ追いついちまったよ…
続きが気になる

今日いけるかなと思ったけどあんま纏まんなかったー
来週寝落ち含みで金~土で投稿する所存ー

ちなみに次回投下後、ラストまで書き溜めてから投下予定なのでしばらく落ち防止の生存報告のみになるやも?
その場合補完的なショート欲しいって人居ますかね、多分即興で1、2レス程度
誰のショートかにもよりますが、有る無しでかなり印象異なったりするんでその辺は希望に任せます

負担にならんのなら読みたいかなー

>>1が無理にならない範囲でなら、補完話読めるのは嬉しい

驚きだわ、24時間近く寝た
夜にゆったり投下する所存~

ずいぶんまともな作品だな……百合厨が
京太郎をコケにするSSかと思った(@_@)

夜投下把握

マーツ!
なんかに似てるなーと思ったら岸辺露伴は動かないの雰囲気に似てるのか...

投下期待
>>505
12時間じゃなくて24時間とかどんだけ疲れてんだよww




久しぶりに、京ちゃんの姿を見た気がする。


最後に見たのは、インターハイから帰ってきた日なのだから、まだ5日と経っていないのだけど。


そこに写る男の子は、その最後の姿よりも少し幼く見える。



大きく滑ったそれらのひとつを、部長が拾い上げた。


「あら、写真ね。どうし──」


部長は、写真に写るものに目を落として、言葉を切る。



「──ああ、そういえば、ハンドボールをやってたって聞いたから、ハンドボール部の情報も集めてたんだった」



ん?と、部長は首をかしげる。

その横で、染谷先輩が他の写真を拾い上げる。


「……やっぱり、知っとるよりは若いのう。やっぱり……」


その言葉は、どこか歯切れが悪い。

私の横で、散らばった紙を拾い上げていた和ちゃんと優希ちゃんも、難しい顔をしている。



「──そう、よね。私たちは探してたのよね」

「これは、進展があった……と考えて良いんでしょうか」

「良いと思うじぇ」

「そうじゃのう、京太郎の名前があったということは、十分な進展じゃろ」



「咲、お手柄ね」



その言葉に、部長を見る。

そこには、なんというか、先ほどあった違和感はない。



「……思い、出したんですか?」


今度こそ、本当に?

それとも、また?



部長は、私の言葉に少し考える。


「思い出した……そうね、思い出したんでしょうね」

「なんだか、変な感じだじぇ」


優希ちゃんは、言いながらぐらぐらと頭を回す。


「確かに、変な感じですね。覚えていると覚えていないの境目、とでも言うのでしょうか」

「なんじゃろーな、とりあえず、今は京太郎のことが分かるのは確かじゃ」


和ちゃんと染谷先輩も、違和感を確かめるようにこめかみに手を当てている。



そこには、いつも通りの姿があるように思えた。
             ・ ・ ・ ・
あの、ブキミな 食い違い も無いように思える。

でも、やはり、警戒が解けない。


「京ちゃんを……京ちゃんを、教えてください」


私の口から零れたのは、そんな言葉。



それを聞いた部長は、苦笑する。


「須賀くんを、教える……そう言われると、難しい感じがあるわね」

「前に聞かれとった『分からないこと』に沿うんなら、咲を麻雀部に連れてきて、一年生麻雀で見事なラスを引き、タコス作りが上手くうちの模様替えに尽力してくれ……他になにがあったかのう?」

「紅茶を淹れるのが上手、とかありませんでしたっけ。そういえば、タコス以外にも料理を作ったりしていましたね」

「龍門渕の執事さんと仲良くなったのよね。夏休み入ってかららしいけど、紅茶とかその辺はホント向上したわよねぇ」

「タコスについては免許皆伝と言って良いじぇ」

「タコスに免許ってあるんでしょうか……」




それらの言葉が、京ちゃんの事を教えてくれているのかは、正直のところ分からなかった。

そもそも、自分が何を求めてそんな発言をしたのかも、分からないことなのだけど。

でも、それらの言葉は、私の知っている皆から発されているように思えた。



「じゃあ、本当に……」


「咲には、悪いことをしたわね。忘れられてた須賀くんにもだけど」

「なんで忘れてたんじゃろーな」

「でも、これからどうするんですか?」

「犬のことを思い出したのはいーけど、どうしたら良いかはさっぱりだじぇ」



ほう、と大きく息を吐く。

皆、思い出したんだ。

今度こそ、本当に。

安心した。




……うん、安心した。



でも、なんだろうか。

変な言い方だけど、なんだか喜びきれていない気がする。


嬉しい、私は今確かに喜んでいる。


京ちゃんは居るんだ。


皆が思い出したのは、そういうことだろう。


なのに、なんだか大きな喜びが出口のところで引っ掛かっているような感じなのだ。


理由は何となく分かる。

皆の反応が、なんというか、普通なんだ。

忘れていた仲間を思い出した。

それは、劇的なことだと思うのに。

劇的な方が良いというわけではないのだけど、なんというのだろうか。

反応が乏しくて、私もなんだかそれに引っ張られて、反応が鈍くなっている。


「……でも、少し怖かったですよ」


変な落ち着きのまま、私は言う。


「どうしてですか?」

「だって、さっきは、居ないって言ったり、居るって言ったり……」

「?」


和ちゃんたちはキョトンとしている。



「え……ほら、京ちゃんは知ってるけど誰だっけ、とか」

「そういえば、そうですね」

「……変だと、思わないの?」

「そう言われると、確かに不自然じゃな」





──そう言われると





ぞっとした。


.・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そう言われなければ、変ではないということに。


痴呆老人と会話してる気分になるな



「どういうことだじぇ?」

「わしらは、今は京太郎のことがわかっとる。じゃがさっきは、その分かる前に『分かっている』と言っとったじゃろ?」

「あー、確かに言われてみれば」

「……確かに、なんだか変ですね」


引っ掛かることを、染谷先輩が言った気がした。


「え……あのときはまだ、分かっていなかったんですか?」



「ああ、京太郎の事は分かっておらんかった。……そうじゃな、確かに、分かっておらんかった……」

「……それって、どういう──」

「あ、これ」


私の呼び掛けは、部長の声に中断される。

部長が、なにやら一枚の紙を持ち上げていた。

それは、私が4日前に見た、あの紙。


「中学の方にしか須賀くんの名前がないのなら、なにか理由があるのかなと思って気になったんだけど」



──『麻雀部員一覧』。


それを、私へと差し出す。


「高校の方を見てみたら、ほら」






   3年
   ・竹井久
   2年
   ・染谷まこ
   1年
   ・須賀京太郎
   ・原村和
   ・片岡優希
   ・宮永咲








 ── 『1年

       ・須賀京太郎』





「もちろん、前と同じ物よ。今回は台帳ごと持ってきたって違いはあるけど」


あの時欲した名前は、なんの変哲もなく、そこにある。



「……どういうことだと思う?」





私は、何も言うことが出来ない。






その後、京ちゃんは至るところに見つかった。


部長と優希ちゃんは、高校の資料から。


染谷先輩と和ちゃん、私は、中学校の資料から。


京ちゃんの名前を、姿を。





部長たちは、すっかり私が知っている部長たちだった。


名前がある度に京ちゃんらしいと言い、姿があれば知っている姿と比べて若いと言う。


部長が苦笑していた。



──変な話ね。知るために、とか言ってたくせに、こんなにも知っているなんて。



皆、覚えていなかったことも覚えている。


         ・ ・ ・ ・
ただ、あのおかしな状態のことだけは、靄がかったように曖昧な状態だった。


聞けば、それについて答えてはくれる。


だけど放っておけば、それらが当たり前のことだったとでも言うように放っておかれたままだった。




そして、忘れてしまったことについても、原因は相変わらず分かっていない。


どうして忘れてしまったのか。


いつ忘れてしまったのか。


4人が4人とも、それを覚えていなかった。



疑問は疑問のまま、更にいくつかの疑問を産み出して、今日は解散となった。


京ちゃんの名前があったことは、現状認識の上で大きな進展だと、皆で話す。


そうした会話もやはり静かで、落ち着いていて、全員が妙なもどかしさを感じていたようだった。





とはいえ、当初の目的は達成できたのだ。


私も、これで京ちゃんは居るのだと確信できた。


だけど。






京ちゃんが何処に居るのかは、分からないままだ。






「ただいま」


その声は我ながらすごく冷静で、思わず苦笑する。

感情が未だに、妙な落ち着きに引きずられていた。


「おー、おかえり」


お父さんが、リビングの方からひょいと顔を出す。


「早かったな」

「んー、まあ」


曖昧に応えて、靴を脱ぎかける。

そんな私に、顔を引っ込めながらお父さんが言う。


「そーいや、なんか須賀さんがさっき来てたぞ。咲ちゃんいますかーって」

「え……なんだろ」

「さぁ。まあ、どーせ暇だろ。後で顔出してきな」

「いいよ、どうせだし、今行ってくる」


脱ぎかけた靴を再び履く。

他の面子が京太郎を全く知らないままだと色々と都合が悪いから
やっぱり他の面子も京太郎を知ってる事にしておこう、と咲ちゃんの都合に合わせた感じがして不気味だなぁ


ふと、永水の人達ならこういうことできそーだなーと思った

>>532
京太郎どころかこの世界そのものが咲さんの無意識によって出来たものだった…?



インターフォンの向こうから聞こえたのは、先日と違う声だった。


「宮永です、先ほどウチに来たって聞いたので……」

「……おお、咲ちゃんか」


低めの、男性の声。


「ああ、うん……どうしようか……」


私が来たことで、少し困っているようだった。

呼ばれて来たわけではないけど、先ほど私に会いに来たにしては、少し様子が変だった。


「……うーん、まあ、上がってもらおうか」


ちょっと待ってて、という声と共にインターフォンから向こう側の気配が消える。



玄関のノブが押され、ガチャリと音をたてて扉が開く。


「久しぶりだね」

「お久しぶりです」


出てきたのは、長身で筋肉質の日に焼けた男の人。




──須賀龍太郎さん。


京ちゃんのお父さんだ。



「……」

「……?」

「……まあ、上がって」


何かを言おうとして、結局はその言葉に落ち着いた。

そんな印象を受ける。


「……おじゃまします」


何となく気まずくて、そろそろと玄関をくぐる。

私が通ると、ムッとした熱気が室内の冷えた空気と混ざった。

そして、そのままリビングに入って、


「あ、」


という龍太郎さんの声に立ち止まる。


目に入ったのは、ソファーの上で薄手のタオルケットに覆われた京香さんだ。


「……」


くぅくぅと、手を抱え込むようにしながら寝息を立てている。


「京香が寝てるんだ」


後ろで、そっと龍太郎さんが言う。

寝かせてやってほしいんだ、という言葉に、私も音を立てないようにリビングを出る。

その際、ちょっとした違和感を抱いた。

廊下に出てから、違和感の原因に思い至る。


──部屋の家具の配置が、変わってた?


そして、気になることがもうひとつ。


京香さんがなんだか、泣いた後のようで──。

京の字!!



「あー……どうしようかな……」


私が考えている先で、龍太郎さんも考えをまとめているようだった。


「えぇと……うん。ちょっと、こっちで話そう」


そう言われて、付いていった先は二階の階段脇の部屋。

ここは──


「……ここがなんの部屋か、分かるかい?」

「京ちゃんの部屋、です」


言ってから、ハッとする。

龍太郎さんは、京ちゃんの事を京香さんから聞いたのだろうか。

聞いたのだとしたら、どう思っているのだろうか。

私の恐れに、しかし龍太郎さんは苦笑いを浮かべただけだった。

その苦笑いは、自嘲のようで、どこか辛い。


龍太郎さんが、ドアを開ける。



そこは、以前私が来たときのままだった。

勉強机に、本棚、ベッド、ハンドボール選手のポスター。

比較する対象が居ないけれど、男の人にしては綺麗に片付いている、と思う。

本棚には申し訳程度の参考書、漫画、ハンドボールの本に、麻雀の本。

勉強机にはパソコン。

開かれっぱなしのクローゼットには、制服やジャケットなどが掛けられている。その下には木造の収納ラック。

ベッドの上は、普段は着替えなんかが放ったままになっているけど今は綺麗になっていて、これは以前と違うところだ。

ベッドの枕元には、目覚まし時計が一つ。



──私が京ちゃんの誕生日にあげた、目覚まし時計。



「どう掛けたものかな……咲ちゃんはそちらへ。俺はベッドでいいか」


怒られたらまあ、後で謝ればいい。

勉強椅子に腰を下ろすと、龍太郎さんがそう小さく呟くのが聞こえた。

私がそれに疑問を浮かべるより先に、


「──咲ちゃんは」


そう、静かに龍太郎さんが言う。

その姿が、京ちゃんと重なる。

京ちゃんはどちらかと言えば京香さん似だけど、ふとした時に、やはり龍太郎さんの子供なのだと思う。

20近くも、年離れた京ちゃんの姿。


重なる京ちゃんが、静かに言う。



「京太郎のことを、忘れては居ないんだね」



喉が、ゴクリと鳴った。

そうか、これが息を飲むということなんだ。

そんな場違いな感想が浮かぶ。



「龍太郎さんは」


恐る恐る、聞く。


「京ちゃんのことを、覚えているんですか?」


京香さんは、覚えていなかったのに?

私の言葉に、龍太郎さんは先ほどと同じ苦笑いを返す。

どこかに自嘲を抱えたような笑み。

部屋の中を見渡す。


「京太郎のことを思い出したのは、昨日なんだ」




「昨日まで、忘れていた──息子のことを」


ズキリと胸が痛んだ。




                                 






龍太郎さんは続ける。


「咲ちゃんは、さっき、この部屋が京太郎のものだってすぐに言っただろ?」


その手は、握り締められている。


「昨日まで、俺は──俺達は、この部屋の存在すら忘れていた。気づけなかった」


立ち上がり、本棚へと近寄る。


「咲ちゃんは、知っているのか?」


手に取ったのは、分厚い本。

それを開く。


「京太郎が、今何処にいるのか」


しっかりとした足取りでベッドに戻り、どしりと腰を下ろす。

京ちゃんのアルバムを開いて、そこから目を離さないまま。



「……私も、知らないです。──探しているんです」

「……そうか」


龍太郎さんは、ゆっくりとページを開きながら言う。


「そうだったな……京香のとこに来たのも、京太郎に会うためだったもんな」


しばらくは、ふたりとも無言だった。

只々、京ちゃんの写真が成長していくのを見ていた。



校門の前で私と並んで制服を着ている写真。

──授業参観の時だ。平日だというのに、龍太郎さんも休みを取って二人で来ていて、京ちゃんは嫌そうな顔をしていた。

   京香さんと龍太郎さんと、三人で撮った写真もその横にある。



ハンドボール部のユニフォームを着ている写真。

──初めての練習試合の時の写真。自分たちの中学だったから、私も応援に行った記憶がある。

   この練習試合は1年にも試合の経験を積ませるという目的のものだったようで、京ちゃんも出番があった。

   京香さんと龍太郎さんの喜びようは、写真の多さが語っている。

   活躍のほどは、まあ……時期が時期だけに、仕方ないことだけど。



カピを抱えた京ちゃんの写真。

──どこかで、京ちゃんが一目惚れしたらしい。

   龍太郎さんが連れて来て、京香さんが結構怒ったそうだ。

   怒った京香さんは珍しくて、龍太郎さんはそれにデレデレで、京ちゃんは呆れていたけど。



二年生に上がった時の写真。

──私と一緒に、お互いの家の玄関で撮った写真。

   うちのお父さんはこういうことを積極的にするタイプではないのだけど、私にもこうした写真が多いのは、つまり須賀家の存在に依るところが大きい。



ハンドボール部で初めてレギュラー入りした試合の写真。

──私も、須賀夫妻に誘われて応援に行った。

   出そうな試合にはたまに応援に行くことはあったのだけど、しばらくは予定が合わなくて久々に見に行ったのを覚えている。

   その時の京ちゃんは、正直、結構カッコ良かった。

   1年前のあのわたわたしていた姿は何処へやら、私にはもはや何が何やらのスピードで、コート内を駆けまわっていた。

   ちなみに、写真も一年前と比べれば枚数はかなり落ち着いている。1枚1枚の写りの良さは格段に向上しているけれど。





家でごろごろしている時の写真。


母の日、父の日のプレゼントを渡している写真。


旅行に行った時の写真。


遠足の写真。


自然教室の写真。


アイスを食べている写真。


海に行った時の写真。


修学旅行の写真。


かまくらを作っている写真。


私とこたつに入っている時の写真。


花見の時の写真。



高校の入学式の写真。







「なんで、忘れていたんだ」


ぽつりと、龍太郎さんが言った。





「京香の、様子が変だと思った」


落ち着いた様子の、言葉の静かさが、氷のようだ。


「いきなり、私たちには子供が居たんじゃないかって。あまりに辛そうな様子だったから、根気強く話を待っていたら、そう言った」



「そんなことがあるわけ無い。そう思った」




声が震えた。

気がした。



「でも、言うんだ。咲ちゃんが言ったことに、何一つ答えられなかった。心にはぽっかりと、理由の分からない穴が開いている」



「理性は、子供なんて居ない。そう言うのに、」






「──心が、子供を忘れるなと悲鳴を上げるんだと」





龍太郎さんは、冷静であるのに。

その言葉は、氷のようなのに。

熱を帯びている。




「俺は、言われるまで気づかなかった。昨日まで分からなかった。何か足りない、そう感じていたにも関わらず、そう感じていたことが」



「写真を見た。京太郎が居た。階段の先に知らない部屋があった。京太郎の部屋だ」



「部屋を見た。リビングを見た。京太郎の記憶があった。京太郎から貰った記憶があった。京太郎と繋いだ記憶があった」




「──なんで、忘れられるんだ。なんで、京太郎が、俺たちは、なんで」




言葉が無い。

ただ、無言で居るしか出来ない私に、龍太郎さんは今気づいたようにハッとして、ゆっくり息を吐き、吸う。

乱れていない息を整えている龍太郎さんに、迷いながらも、聞く。


「……京香さんも、思い出したんですか?」

「……ああ。少し、大変だったよ」


苦笑する。

今度は、親愛の混じった苦味の笑み。


「少し、暴れてね。ものを散らして、机をひっくり返そうとしたところで、力が足りなくて少し動かして、次はソファーを少し動かしたところで力尽きたよ」


ああ、それで。


「だから、少し配置が変わってたんですね」

「覚えてたのか、凄いな」


女性はそういうのが得意だと聞いたことがあるけど、と表情が少し穏やかになる。



「まあ、そういうわけなんだ。京香は、少し寝かせてやりたい。同時に、少し京太郎のことから離しておきたいんだ」


京香さんは、体が弱い。

龍太郎さんの言葉で、さっきの事にも納得した。

京香さんが眠っている間に、私に話を聞きたかったのだろう。

家に来られて困っていたのは、京香さんが起きてしまうのではないかと思ったから。


「……その間に、もしかしたら、ひょこっと帰ってくるかもしれない」


誰が、とは言わない。

それは願望だった。

自分でも分かっているのだろう、それでも望まずにはいられない。

私も同じだから、分かること。

今にも、この京ちゃんの部屋に、ひょっとしたら──



トン



階段を上がる音が聞こえた様な気がした。

二人は口を閉じる。

廊下は、誰かが上がってきたにしてはあまりにも静かだ。

外の蝉の音が急に大きく聞こえる。

耳をすませても、誰かが歩く音は聞こえない。


気のせいだったのか。






そう思ったら、ドアのノブが降ろされて──





「──あ」


京香さんが、ゆっくりと顔を覗かせた。

分かっていた事なのに、そこに居た誰もが息を吐く。



「あぁ、咲ちゃん、来てたのね。ごめんなさいね、私、ええと、ちょっと寝てたみたいで」


京香さんが、落ち着こうとしているのが分かる。



「ちょっとね、ええと、誰か居る気がして、京くんが帰ってる気がして」


ぽろぽろと、涙が落ちる。



「ああ、ごめんなさいね、ええと、京くんって呼んだらまた怒られちゃうかしら、私、京太郎が帰ってる気がして」



椅子から立ち上がって、京香さんの手を取る。

龍太郎さんは、固まったように動かない。

握られた手だけが、震えているのが見えた。

京香さんの手は震えていない。

ただただ、冷たい。



「咲ちゃん、京太郎がね、」



膝をつく。

崩れ落ちる。

引き摺られるようにして、床に座る。




「京太郎が、どこにも」



嗚咽が、声を濁す。



「どこにも、居なくて」




「私、謝らないと、忘れちゃって、だから、いなくなった、のかなって」



「だから、わたし……あぁ」


京香さんの手が、私の頬を伝う。


「だめよ、咲、ちゃん……咲ちゃん、が、泣いたら、京くんも、泣いちゃうわ」


言われて、気づく。

私は、涙を流していた。


「あれ……なんで……」


拭っても拭っても、涙は止まらない。

京香さんが、私をぎゅうと抱きしめる。


「大丈夫……だよ、咲ちゃん」







──京くんは、すぐ帰ってくるよ。





その言葉に、私は。



「ぅぁ……っぁあぁ」



ようやく、重みを持つ。

京ちゃんはいた。

絶対に。

証拠があった。京ちゃんの足跡がたくさんあった。

それ以上に、確信させる。

心が、京ちゃんは居たのだと言っている。





涙は、止まらない。















──その夜、電話があった。





──お姉ちゃんからの電話だった。





──言いたいことがたくさんあって、何から伝えるべきかを迷っている間に、お姉ちゃんが言った。









「咲。明日は、空いてる?」





「詳細は、来てから。とにかく、来て欲しい」












「──鹿児島、霧島へ」







皆お待ちかね、永水女子のお時間です

というわけで以後、ラストまで書き溜めまする
現状は生存報告代わりにショート投下2票なんでショート投下予定
本編速度には全く影響ないですが、待ちの内に印象が変わるようなシナリオもあったりなかったりなんで念のため


やっぱり永水の人達かー

乙!
こういう系だとまず裏にいるのは永水になるよね
京太郎がいるはずなのに~違和感で東亰ザナドゥ思い出した

困った時の永水頼み

よかった…迷い家に囚われたり妖怪ぽぽぽに連れ去られたわけじゃなかったのね

乙 やっぱりお前らかい!
咲ssで起こる怪現象の9割ぐらいに鹿児島が関わってねーか!?

乙。
まあ麻雀の牌が偏るとかそんなレベルじゃないガチのオカルト現象っぽいしね。
鹿児島の面々は、麻雀でオカルトを起こせる人々じゃなくてホンマモンのオカルト世界の住人がたまたま麻雀やってる、て感じだし。

永水の中でも大抵は霞さんが黒幕

>>571
来てくれって言ってるだけでまだ永水のせいって決まったわけじゃないから

超常現象の永水と金の龍門渕は二大便利高校だからしょうがないね

乙です

今まではみんなが覚えてないことへの戸惑いに手一杯だったけど、落ち着くと、じゃあ京ちゃん何処だよと

京の字・・・・・・!!

乙!ショートの方も楽しみにしてる

ちょっと前まで言ってること支離滅裂なホラー的印象だったけど
今回の両親の悲しむ場面の方がグッとくるものがあった…

超常現象って意味だと宮守も大概だけどな

オカルトの永水、資金の龍門渕、ガチホラーの宮守、泣き顔もかわいいのクロチャー

>580
心理だな

>>580
真理だな

誤字と間違え

>>580
ええやん・・・

ムダヅモ無き改革

異論なさ気なので生存報告はショート投下で行います
現状は4~5回くらいを予定、難航したらそれ以上の可能性もありますが

ちなみに対象は安価、というかこのレスより下10くらい迄で名前が挙がった中から内部的な順位付けで決定
条件はSS内で出てきたキャラ、もしくはインハイ終了時点で繋がりがありそうなキャラ、その繋がりのありそうなキャラの周辺のキャラ、このSS内でいう『オカルト』の強いキャラ
繋がりの「ありそう」なキャラの場合はその理由もあると採択の可能性が高まるかもしれませぬ

キーパーソンが選ばれない可能性もありますが、選ばれなくても結末に影響しませんし、むしろ選ばれないほうが良かったという可能性もあります

なのでまあ、気分でお好きに挙げて下さい、あくまでもおまけなので
生存報告までに、誰も挙がらなければ……ちょっと怖いことになるかもしれませんが、まあ           

霞さん

はっちゃん

あ、すまん条件ちゃんと読んでなかった。菫は無視してくれ

穏乃

繋がりとしては和経由で



理由は好きだから。 というのは置いといて、はぎよしとの繋がりで面識はまず確実にありそうな中で最もオカルトが強い子だからね
永水組と同じくらい、元々がオカルト世界の住人って雰囲気があるし

霞さん

シロ

個人戦に出場してるかもしれないし、マヨヒガってのが今回の京太郎が消えた現象と似てるので

モモ
意図的に認識しようとしたら確認できるが、意識しないと気づけない能力は現在の京太郎とだいぶ似てる気がする

小さいけど一番頼りになるはっちゃんで

不遇?

生存報告が本物の生存報告感

一応5人かな、選択理由はSS後に希望あったら貼る感じで
というかホント結構挙げてくれたのでビビった

《4》


悪石島に顔を出そうか、と考えていた時、彼女が来ました。



ヒチゲーでもないのに、ボゼの神様がいつもと違う気がしたのです。

今の頃でボゼの神様に関係のありそうなものといえば、悪石島でもうすぐ行われる盆踊りでしょうか。

ただ、例年は人の為すままに任せ、今までは盆踊りの時期だからといってこのような感覚を抱くことなどありませんでした。

何か、今年は特別なことでもあるのでしょうか。



現地なら、なにか分かるかも知れませんけど。



そう思いながらも、島に行くかどうかを迷っていたのには理由がありました。

実は、その感覚は今さっきのものではなく、ここ数日続いていたのですが、同時期に姫様も違和感を抱いていたようなのです。

姫様は対話型の巫女ではなく、だからこそ姫様が抱かれた違和感というものがとても大きく取り沙汰され、昨日までは本家内がてんやわんやとしていました。

そんなてんやわんやも今日には収まり、落ち着いてみるとそういえば、とボゼの神様の違和感を思い出しました。

しかし始まりから数日経っていて、今でも忘れる程度の微弱さということ。

そして姫様の件で様々に調べても、何ら問題が見つからなかったという結果を既に知っていたので、正直島にわざわざ行くほどのことだろうか、と迷っていたのです。






そんな時、彼女が来ました。


「あら、いらっしゃいですよー」

「おじゃまします。……久しぶり?」

「いや、インターハイで会ってるじゃないですか」



──彼女、宮永 照。



「いや、なんだか、ここで会ったから」


ああ、そういうことか。


「確かに、ウチで会うのは久し振りですねー。また何か見えたんですか?」


宮永さん……いや、今はこれだとややこしいんですね。

宮永照さんは、私達がとある意図で参加している麻雀の高校生全国大会の強豪で、麻雀仲間としての繋がりがあります。

しかし、それ以上に関係深いのが、神代の『本業』との繋がり。

ここ最近は、本家には顔を見せていなかったですが。



「違う……けど、同じような感じ」

「姫様と霞ちゃんに話は通してますかー?」

「石戸さんに連絡したから、大丈夫」


じゃあ、と敷地の中を勝手知ったるとばかりに進んでいきます。

その背を見送りつつ、私は宮永さんが来ることを知らなかったですが、と思ったところでそもそも霞ちゃん達と昨日から会っていないことに気づきます。

普段は姫様から離れるということはあまりないのですが、流石に人手が不足して、年長者の私がメッセンジャーとして神境を行ったり来たりしていましたから。

人手不足は珍しいですが、数日間全国四方八方に手を伸ばしていたら当たり前というものでしょう。

姫様の感覚はそれほどに重要なのですよ。

今回ほど大規模なのは、結構珍しいですけど。






まあ、とにかく。



くるりと踵を返して、ててて、と宮永照さんを追いかけます。

とりあえず、皆に挨拶して行きましょう。



島に顔を出すかどうか決めるのは、それからでも遅くないでしょうから。



                                                                                                             《4-薄墨初美》

皆様、体調管理には十分お気をつけて
自分は無事、死にそうです

ではまた


生きるんだ

生きろ
そなたは美しい


君死ニタマフ事ナカレ

お大事にな


お大事に

保守

《3》


「シロはここ最近、あまり悩まないね」


熊倉先生に言われ、顔を上げる。


「そういえばそうだね、なんか最近少ない気がする」

「そーいえば」


塞と胡桃も言う。




そうだろうか、と思い返す。

でも、面倒くさいから思い返すのはやめよう。


「そうなんだ?」


聞くと、


「言われてみればそーかも?」

「ソーカモ!」


豊音とエイスリンも言う。

皆が言うならば、そうなのだろう。


「……その様子だと、何か意図があってとかでは無いんだね?」

「まあ、別に」

「考えてみると、ここ最近のシロって大きな手とかあまりなかったよね」


塞がなんだか考え始める。


「迷う機会が無かっただけじゃないの?」


胡桃が言う。


迷う機会とは、なんだか変な言葉だ。

でも、ああ、なんだか身に覚えがある気がしてくる。


「あーでも、ちょっと迷う時はあった」

「へー、そーなんだー?」


豊音が言う横で、エイスリンは画板を抱え込んでいる。

そこに描かれていたのは、道を彷徨く私の絵。


「でもー、ちょっとで終わっちゃったんだー?」

「そんな感じ」


何やら考えていた塞が、首を傾げる。


「え、なんで? 面倒くさくなったとか?」

「んー」


なんでだったか。

面倒くさくなった、というのは自分で言うのも何だが一番ありそうな話ではあるのだが、そうではないような気がする。

元々、迷うのは結構だるいのだ。

迷い始めたところで辞めるのも結構だるい。

なので、『面倒くさい』が理由で迷うのを辞めたというのは無いと思う。



むしろ。



思い出してくる。

そうだ、迷うのを辞めたのは、なんというか。




迷った行き先がない感覚。





「……いや、違うか」

「?」



行き先が無いと言うか、なんというか、行く前に店が満席であるのを知る感じ。

迷いかけた所で、他に選択肢が無ければ迷うことはない。

考える余地も必要もない。

ダルくない。



ここ最近は、ずっとそんな感覚だった。



「まとまった?」

「あー……」


でも、これを伝えるのはダルい。


「シロ。もしかして、迷ヒ家が慌ただしいとか、そんな感じかい?」


熊倉先生が普通に聞いてきて、頷く。

いつもながら、全てを知っているような人だ。

お陰で、面倒が少なくてありがたい。


「そうかい」


先生は、一人納得したらしい。


「ええと、それで、シロは大丈夫なんですか?」


塞が少し心配そうに聞く。


「ああ、大丈夫さ。迷ヒ家が使えないってだけで、特に影響はないよ。何にせよ、すぐに元に戻るだろうさ」


何か確信をもった声。

それに、皆は安堵する。


しかし私は、その後に小さく呟かれた言葉を聞く。


「そう、何にせよ、すぐに」


その言葉は、多分、ここではないところに向けられていた。




なんだろうか、と思ったところで、胡桃がもう一度打とうと言う。

この場所にいられるのも、もう残り数ヶ月。

何がなくともこの部室に集まる中でも、胡桃は特に熱心だ。



熱心なのは、良いことだ。

しかし、朝から打っていて、今はご飯を食べた後。

そろそろダルい。



私は、席に座ったままずりずりと離脱を試みるが、椅子の動きは途中で止まる。

首を仰向けて後ろを見ると、にっこりと笑ったエイスリンが椅子の背をつかんでいた。


「ヤロ?」


はー、やれやれ。






                                                                                                             《3-小瀬川白望》

迷ヒ家に迷い込もうとしたら先客がいて入れない……?
K「はいってまーす」
いやいやいやいや

面白い

え、京ちゃん迷ヒ家にいるの? ていうか行けるものなの?

満席とか慌ただしいのあたりから
迷ヒ家に色んな次元の京ちゃんがわらわらいるのを想像してしまった

来てたか乙
待ってるから無理しないで

乙!!

>>618
行けるものなの? って、そもそものマヨヒガというものを何だと思っているのか

何か怖いな

乙 期待

ショート投下とかやってるSSでろくに完結させたのあったっけか?

まだかな

【名前】 秋田 美羽 あきたみう
【性別】 女
【容姿】 長身だが胸はそんなにない
【性格】 常に余裕ぶっており超然としている
【学年】 2年
【高校】 清澄
【特記】観察力が強く相手の考えを予測できる

《2》


これは、どう考えるべきだろうか。

宮永さんから聞いた話を、再度頭の中で整理する。



なんでも、妹さんの友達の男性(……彼氏さん?)が居なくなった、という話だ。

しかも、失踪ではなく消失に近いソレは、言ってしまえば「普通ではない」事象だった。

普通であれば、発言者の妄言・妄想や、精神的な病を疑うほどのものだろうと思う。

でも、「普通ではない」ものこそが、私達の領域。

話を聞くに、この話は私達の領域の話か、もしくはそれに近いものであると思う。

けれど、私が悩んでいるのは、そのことではなかった。




時期が、あまりにも符合している──そのことを、どう考えるべきだろう。






今、神代の家はかなり慌ただしい。

ようやく落ち着いてきたとはいえ、昨日まで初美ちゃん達までも駆り出して、色々と情報をやり取りしていたのだ。

全国津々浦々、大事小事を様々に、有識者無識者別け隔てなく。

繋がりを最大限に駆使して、異変の有無を確認していた。

その原因は、小蒔ちゃん──神代の姫様の違和感。



小蒔ちゃんは、憑依型の巫女だ。

その能力は何処までも強く、高天原の神々をその身に宿しても些細な悪影響すらない。

しかし憑依型は、一体化することで神の力を限りなく純粋に引き出すことを可能とする代わりに、一体化する故に身に宿す神との対話の機会を持たない。

小蒔ちゃんが神の「所作」を知ろうとすれば、他の神職者と同じように儀式を執り行うか、そうした能力を持つ者に助けてもらわなければならないでしょう。




その小蒔ちゃんが。

その日、朝起きて、ぼんやりとしながらこう漏らした。




「……皆さん、何をそんなに慌てているのでしょう」


              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
起こしに来た、 私しか居ない寝室で。



その後、どうなったかは言うまでもない。

相談役の様な立ち位置に居る祖母が飛んできたように現れて、姫様の言葉を聞くに、



「私の体を借りようとして、それに意味が無いと気づき離れていった。そんな感じがしました」


「その時に感じたのは、喪失と填補。──まるで、弔いのような」



そう、言った。



喪失と填補。

失い、それを埋め合わせる。



そのあまり穏やかではない単語と、小蒔ちゃんの体を使っても意味が無いという状況に、霧島の専門家たちはそれぞれの分野ですぐさま行動した。

神降ろし、神託、占い。様々なものを試みたが、どれも異常はないとの結果だった。

でも、安心はできない。

それらは全て、神に答えを問うものだから。



人と神は、存在の次元が異なる。

その為、神々の問題であっても人の問題ではないこと、人にとっては問題であっても神々にとっては問題ではないことがあったりする。

神と神の間ですら、隔絶が多々あるのだから、当然といえば当然かもしれない。

また、人にとっての要不要を神々が確実に把握しているとは言い難く、神々が人とは無関係と告げずにいた物事が後に大事となることも過去にあった。



だから、祖母は即座に情報を広めた。

今度は人に、答えを問うために。

霧島──神代は、全国に太い情報網を持つ。

政にも深く関わりがあるから、直接的に繋がりがなくとも様々な分野・場所へとその手は届く。

つまり、広がる先は、全国のほぼ全てと言っていい。


そんな想像も絶する数の場所へと、その日の内に情報は伝わり、考察され、早いとその日の内に結果が帰ってくる。


考察の内容は中継点である程度絞られてくるのだけど、それでもその量は膨大だ。

早急の事態である可能性もあるため、専門家でチームが組まれ、時には神々の御力を借りてそれを処理する。

私も、その一人だった。



そしてようやく、戻ってきた情報の殆どを処理したのが、今朝方の話。

寝て、起きたのがちょっと前のこと。

半ば寝ぼけながら、人と会うことを思い出したのは先ほどのこと。

そして今、その眠気は吹き飛んでいる。



昨日、恐らく夜分に、宮永さんから連絡があったことは覚えている。

宮永さんは、高校麻雀では小蒔ちゃんと共に【牌に愛された子】と称される女の子の一人だ。

私たちに言わせると、【神に愛された子】の一人。

その力は強く、中でも『本質を見抜く力』の潜在能力は神の力にも匹敵する。

麻雀の関係者は、私達を高校麻雀のインターハイで知り合った仲だと思っているようだけど、実は彼女が中学生の時にはもう既に関わりがあった。

麻雀ではなく、神代の本業としての関わりが。

だからこそ、私達は彼女の能力についてよく知っていた。

その彼女から、連絡があった。



その時には、小蒔ちゃんのことと何か関係があるのではないか、と思ったのだ。

だから、詳しく話が聞きたいと交通手段を手配し、来てもらった。


でも、眠りから覚めた時にはその考えも霧散していた。

全国から集められた情報、戻ってきたそれらの考察が全て処理し終わっていたためだ。



結果は、正常。



災害の起きる予兆などは皆無で、少なくともこの世界での異変は起きていない。

所々、同じように神々がざわついているところなどがあるようだけど、現世への影響は確認されなかった。


様々な視野から、数多の論点をそれぞれに考察しての結論。

なら、正常なのでしょう。

そう考えた。


今回は小蒔ちゃんが神と感情を交わしたという異常があったために大事になったけど、元々内容自体は注意・警告といったものではなかったのだから、おかしな結論でもない。


だから、あまり関係のない事象だろうと思ったのだ。

思い返してみれば、男の子が一人居なくなったというあまりにも局地的な事象。

仮に神隠しだとしても、今回の考察の中には神隠しがあったという報告はなく、長野方面の情報にも怪しいところは見当たらなかった。

ということは、姫様のこととは無関係だろう。


そう思った。





でも、話を聞いて、考える。






三日前なのだ。


小蒔ちゃんが、神と感情を交わしたのは。





   ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・
 『須賀京太郎 』 という少年が消えた三日前と、同じなのだ。






これは、偶然なのだろうか。



消失した少年。

喪失と補填。



偶然と言うには、出来すぎている。

しかし、それを必然と言うことは、難しい。

一つ、確実に言えることがあるから。




神は、人の喪失に無関心だ。



小蒔ちゃんですら、その喪失に悼んでは貰えないだろう。

薄情や冷酷なのではなく、そういう存在なのだ。

もちろん例外はあるが、極々稀と言っていい。

だから、少年の消失と、喪失には関係がないはずだ。

少年が一人、居なくなった所で神々にはなんら意味のないことなのだから。




「──わかりました、調べさせていただきます」



ようやく発した声に、宮永さんは頭を下げる。

頭のなかで段取りを描きながら、考える。

時期が同じなのは、なんら必然性のない、偶々のことだったのだろう。



おそらく、偶然だ。


偶然なのだろう。




しかし───





───偶然では、ないとしたら?




                                                                                                             《2-石戸霞》

ひと月くらいかけて、先ほどようやく積んでいたARIAを読み終わり、読み終えてなんか息苦しくなった勢いで投稿。
……今日も仕事なのにこんな時間まで何やってんだろう

おつ。
続きがたのしみ

おつおつ


続きが楽しみだ

なんだ黒幕じゃなかったのか

続き来てた

よく考えられてて面白い

>……今日も仕事なのにこんな時間まで何やってんだろう
それ以上考えてはいけない

待ってます

待ってんだよ おう 待ってんだよ
ARIA読んで苦しくなるなら待ってる人のレス読んで苦しくなろう?

申し訳ない、自分も今日予定だったのだけど今仕事から帰ってちょっと限界っす。
起きたら投下します。

ねんねんころーりよ おねむりよー

普通に寝てしまった……
夜投下

待ってる

あかん、考えがまとまらん。
明日?今日?超えればしっかり睡眠取れるんで、水曜に透華にします。

そうか、もんぶちのしわざか!(おやすみなさーい)

待ってます

《1》


龍門渕家の別館。

窓際に椅子を寄せ、空を見上げる。

今宵の月は白が際立つ。

いや、ここ最近はずっとそうだ。

これは己が心の中の投射なのであろうか。



輓近、妙なざわつきを感じている。

それは夜に僅かに強くなり、朝にはもう忘れているようなものである。

夜に強くなる理由は分かっている。


月。


予てから己が友であった、空浮かぶ半身。

その存在が、昼間には感じるまでもない予兆もしくは余波を感じさせるほどの過敏さを齎している。

しかし、その齎される感覚が、如何なるものであるかを知る術がない。


如何にせん。

そう思いつつ、虚空に向かい呼びかける。


「ハギヨシ」

「はい」


先ほどまで一人であった部屋に、背の高い影が現れる。


ハギヨシ。

龍門渕家に仕える執事。

そのハギヨシに、一言、問おうとして、


「……そろそろ寝る」

「かしこまりました」


結局、言えずに終わる。

ハギヨシが居なくなるのを横目に見て、再び空の月を見る。

ざわつきの一因に、ハギヨシがあった。



ハギヨシは、衣の知る限り唯一の『完璧』の体現者である。

言われるを熟し、言われざるを熟し、欠けたるは無く十分、時に十二分に満たす。

人間的な、内面の話は分からないが、少なくとも衣の知る限り、寸分の隙間なくハギヨシは執事であった。

衣が龍門渕家に来た時には、既にハギヨシは透華の執事だったが、それから6年の間、ハギヨシが失態というものを犯した所を見たことがない。

当時齢13の少年である。

それが、失態を犯さないだけではなく、人とはこれ程のものであるかと衣に思わせる活躍をしていたのだ。

それでいて、疎まれず、恨まれず、かといって大いに好む者は無く、被加問わず嫉妬や羨望とは無縁である。

色々な面での『強者』は数多く見てきたが、これほどに個として完成し、また完結している者は、少なくとも衣は見たことがなかった。



その完璧さがざわつきの一因となったのは、一昨日のことである。


昼食後、食器が片付けられたと思ったら、卓の上にはお菓子が並んでいた。

ケーキはカップケーキに始まりシフォンケーキやチーズケーキ等数種類、マカロン、ばうむくーへんやなにやらクリームを挟んだクッキー等。

シンプル故に、その味を視覚にまで訴えかけるようなそれらが、数多広げられている。

正に千紫万紅の光景であった。


「これは?」

「女性が好むような洋菓子を作りたい、と相談を受けまして。恐れながら、ご意見をお伺いしたいのです」


珍しい、と思いながらも手前にあった一口大の丸いパンの様なものを口に入れてみる。

もちもちとした食感に、中に詰まっている小豆とクリームが頬を緩ませる。


ハギヨシは、料理だけでなくお菓子も一級品だ。

それは知っていたことだが、ここまで豊富な量を見たのは初めてだった。


「お気に召されましたか」

「……気を使わせたか?」

「出過ぎた真似かとも思いましたが、度々難しいお顔をされていましたもので」


妙な落ち着きの無さを感じていたことを、悟られていたらしい。



東京から帰ってきてからだろうか、何か違和感を感じているのだ。

しかし、それが何か分からず、鬱屈とした気分を抱えていた。

ハギヨシのお陰で、今はその気分も何処かへと行ってしまっているが。


「相談を受けたというのも、名分か」


プリンの入ったシュークリームを頬張る。



「いえ、そちらも本当にございます」

「歩か?」


細長いクレープを手に取る。

齧ると、薄く切ったバナナやいちごなどがクリームと一緒に包まれていた。



お菓子を作りたい、と教えを請うハギヨシの知人など、歩しか思い浮かばない。

透華の気まぐれもあり得るが、そうであればこうも回りくどいことはしないだろう。


しかし、と卓上を見渡す。

これは福徳円満。

流石ハギヨシ、どれも並ではない。

単純な造りであるというのに、何故こうも飛び抜けて美味しいのか。


「いえ、歩ではありません」


カップケーキへと手を伸ばす。


「では、誰に?」



その瞬間。

何故か、ハギヨシは目を見開き、固まった。



そのようなハギヨシの反応は初めてで、手を伸ばしたままハギヨシを凝視してしまった。

衣の視線を感じてか、ハギヨシは──これも珍しいことだが──照れたように微笑む。


「……いえ、気のせいだったかもしれません」


気の所為。

何が?


「約束が、か?」

「はい」


カップケーキを口に運びながら、呆然としてしまう。

ハギヨシが、約束していたことを錯覚する。

そんなことがあり得るのか。


「……珍しいな、ハギヨシが思い違いなど」

「お恥ずかしい限りです」

「どこだ?」

「……」

「少し気になるだけだ」


言い訳になると考えて、詳細を伏せようとしているのだろう。

しかし、やはり震天動地だ。

カップケーキを噛みしめる。

ヌガーが薄く混ぜ込まれたそれは、甘く舌に溶ける。


ハギヨシは、約束事となれば銘肌鏤骨の男である。

約束を忘れることも、していない約束をしていると錯覚することも、俄には信じがたい。

例えそれが真実だとしても、そこには何か外部的な理由があるのではないか──そう、思いたかった。

ハギヨシは、少し躊躇った後、言う。







「相手、です」





「お菓子作りを教えることを、確かに約束していたと思っていたのですが──その相手が、どうしてもわからないのです」







それからは、ハギヨシは何もなかったように振る舞っている。

いつも通りの執事としてのハギヨシである。

『完璧』なハギヨシである。


しかしだからこそ、あの失態──そう、失態が心の氷となる。

その氷は、数日経った今も溶ける気配が無い。

普段であれば、数日もたてばもしかしたら、「そういうこともあるのだろう」と思えたかもしれない。

けれども今は、元より感じていたざわつきがそれを許さない。

ざわつきを感じている今に、ハギヨシが失態を犯したことが、どうも関係しているように思えてならないのだ。

しかし、それがどのように関係しているのか分からない。

第一、ざわつきの正体を突き止めなければならないのだが、それも未だ分からぬままだ。

分かる気配もない。



ふう、と息をついて、月を見上げる。


月。


嘗て聞いた、奥底に残る記憶を辿る。

大切な大切な記憶を辿る。

涼やかな夜風が、頬を撫でた。



"月"。


それは、時に母への感情の象徴となり、時に狂気の象徴となる。

子を宿した母体を示し、神を示し、永遠を示す。



語源は『太陽に次ぐ』、もしくは───






────『欠け、尽きる』。



                                                                                                             《1-天江衣》


※(福徳円満:うちらはどう考えても……勝ち組……!!)

※(震天動地:驚天動地と同じ意味だし!)

※(銘肌鏤骨:交わした約束 忘れないよ~♪ ん?作品が違う? しらんがな)

最後のオチww

乙です

待ってたおつ

乙!

約束だけは覚えてたハギヨシさんすごくない?
それとも家族たちが思い出したタイミングに時系列が追い付いただけかな?

>>671
中の人の力じゃね?

約束覚えてたハギヨシもだが
こんだけ修正が働くならミスった場面どころか甘味の試食ごと記憶から消されるもんだろうけど、そこはさすがころたんと言うべきか

おお、来てたの気づかなかった。
京ちゃんのこと片鱗でも覚えていたハギヨシさんぐう聖

異能慣れ?してる辺りが関係してるのかな、ハギヨシさんと衣の記憶にひっかかりを覚えたのは

そろそろきてほし

こいよ(命令形

モチベーションをどっかに落としたんですが、誰か知らないデスカ

いや実際結構マジな話、肉付けが全く進まねえです
新旧問わずでなんかおすすめのSS下さい……
ちなみに『悪女』『咲さんから須賀くんを引き剥がしたい』『げんつきほー』『天江衣に対抗するため厨二キャラを演じる』とか好きです

今月本編と日和出るらしいから、ちょっとはモチベ上がるかなー

・末原改造
・チームipsシリーズ
とかいうド定番は何度見ても面白いですよね

アンパンザウルスとか好きだなぁ

>>678
日和の前に投下します すると日和が面白くなります
日和を楽しむと投下したくなるでしょう つまり2度投下できます

投下しなしあ

>>678
麻雀部員共とか雀士専用掲示板とかどうでっしゃろ

真面目に闘牌やってるやつもいいよ。
噛ませキャラな俺としては華菜ちゃん大活躍な

和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うんっ!」

とか王者の打ち筋の小走やえがかっこいい
やえ「牌に愛された子か……」

とか
それ以外には能力がまだきちんと把握されてなかった頃におもしろい能力を付けられていた

キャプテンが阿知賀に転校したら

とか

雀士専用掲示板かぁ。
腐部屋シリーズと較べてみると「平和って素晴らしい」って気になるよね。
安価スレの定めで盤外が平和でなかったが。

ホモになる薬とか持つものと持たざるものとか

雀士専用掲示板って正式なスレ名なんだっけ

おかげさまでちょっとは持ち直しました、ありがとう

ショートは今月中に1個、1月にラスト投下出来たら良いなぁ
ちなみに面白いSS見つけたり思い出したらまたお願いします

出遅れたか
ハーメルンのばいにんとかおすすめ

面白いのに更新ないねそれ
arcadiaの鶴賀メインでsakiは面白かった(エタってる)

ここでヤルオスレを推してみる。下のスレはたまに関係ないエロトラップダンジョンR18とかもやってるから注意な。
ttp://yaruok.blog.fc2.com/blog-entry-8532.html

下のスレは京太郎とやるおはほぼセットでW主人公にしてくれるのが好きなポイント

ハーメルンのセングラ的須賀京太郎の人生とか面白いよ

《 》


私よりも多くのモノを『見て』きた人は、世界にどれだけも居ないだろう。


齢18にも満たない私が、こう言うのをどれほどの人がまともに受けてくれるだろうか。

それは恐らく、経験的なモノのために、生きた年数がそうした多寡に直結していると考えての否定であるのだろう。

きっと、普通であればその考えは正しさに近いものだと思う。


ただ、私の場合は違う。

私はそれが事実だと『見て』いるから、そうとしか言えないのだ。



私とともにある、『本質を観測』する能力。



完全な『観測』。

脳を介して変質することのない、完璧な情報。


そして、その情報の中には、前述の観測もある。

『私よりも多くのモノを[見る]ことの出来る人はどれだけもいない』と。

正確には、この能力は『そういうモノ』であると、その能力自体が告げているのだ。


実際、私は多くのモノを『見て』きた。

今でこそ制御出来ているものの、能力が覚醒した当初は不意に発動したり、発動や停止を繰り返したりしていた為に、余計に多くのモノを『視(し)』った。


そして、それほどまでに強い『知覚』であるから、より強く感じるのだ。




この能力は、万能ではないと。




この能力は『本質を観測する』能力である。

芯を捉える能力である。



しかし、『答えを得る』能力ではない。

『救いを見出す』能力ではない。

指針を示す能力ではない。

希望を叶える能力ではない。


見ようとしたものが見えるわけではない。

見たいものが、見える能力ではない。





見たものから、逃れることは出来ない。



「宮永さん──」


岩戸さんが、言う。


咲の話──『須賀京太郎』について、調べたことを。

その推測を。


そして、私の能力は。

無慈悲に、無感動に、『視』らせてしまう


抱いていた違和感の正体も。

抱えていた、疑問の真相も。

空いた一つの穴から、暗闇が引き裂かれるように、暴かれる。

暴かれる。

暴かれる。



話し声は遠い。


『見えて』しまった事象が、意識を内側へと引きずり込む。

能力は、ただただ『見せる』。

真実を。

正体を。

真相を。



私は、誰よりも多くのモノを見てきた私は、考える。

誰よりも多くのモノを見ているというのに、答えの出せない私は、考える。



私に──私に、何が出来るだろう。





                                                                                                             《 -宮永照》

最新刊でがっつりモチベーションが上がりました。
原村夫婦でSS書きたいモチベーションが。

しかし親父さん宮崎出身かー。
以前どっかで情報出てたかな。

日和とかも色々書きたいことはありますがそろそろ寝るのでまた後日。
今日は6時から日勤なのですよ。
元旦も日勤なのですよ。

年内にどれだけの人が見るかはわかりませぬが、皆様方、良いお年を。

『見て』るよ

石戸(いわと)やで

貴様!見ているなッ!!

んー?つまりこういうことか?

てる「須賀とやらのヒントを求めて、石戸さんのお宅にお邪魔しますた  ……はーほんとつっかえ」
石戸「まだなにも説明してないですよ!?」

しかし、元旦から仕事って日本の企業としてクズの極みだな。
…日本系じゃないのかな?

おまえが書き込んでるこのネット回線も技術者が常駐しなきゃ維持できんのやで。

《.. .》




『じゃあね、また明日』


『ああ、またな、咲』



中学校の頃から、何度交わしたか分からない別れの挨拶。








持ってもらっていた荷物を受取り、肩に掛ける。

少し、ずしりとした。

よろけつつも、久々の帰路へと体を半分向ける。


いつものように、私は言う。



「じゃあ、また明日。京ちゃん」



いつもの調子で、京ちゃんも言う。


「ああ」









「じゃあな、咲」







                                                                                                             《  ..   _. .》

あけましておめでとうございます。
何故辞書登録してあるにも関わらず石戸が出ずに岩戸が出てしまったのか
霞さんのショート時には普通に機能していたので、変換かスペースを多く押してしまったんですかね
眠い時に書くとダメですね……まあ常に眠くはあるのですが

もしこのSSをまとめようとか思っている稀有な人がいるのなら、その時には修正をお願いします
間違えたままでまとめられてるのはね……消してもらうよう頼もうかと思うくらいにはキツイのですよ……

ちなみにご明察、サーバ/インフラ系で年中無休24時間です
最近人居ない、案件過剰で普通に辞めたい盛りですが

新年早々の投下乙!
なるほどなぁ…それは大変だ…お体に気をつけてください

普通に訂正(修正)レス載せればいいかと

>>690
えっ




えっ

うざっ

乙!

まだかなー

まだ戒能

凍えてしまう はやく

もう3ヶ月経つのか・・・

はあくしろ

このSS自体が想像上の存在だったというオチじゃないだろうな

1、脳に海水を流し込まれショートして死亡

このままエタったらオチも無くバッドエンドだな

おいおい、消えるわあいつ

ほう
更新無しスレッドですか…
悲しいものですね

あく

おうあくしろよ

保守

XD

保守

せめて真相というかオチだけパパッと書いてはくれんかな…

保守

保守

保守保守

もう一年経つんか…

それでも待ってる

保守



長野から鹿児島は、結構遠い。

新幹線と電車を乗り継ぎ羽田空港まで行って、鹿児島空港まで飛行機。

これだけでも5時間近くかかっている。

鹿児島空港からは、お迎えの車に乗って、霧島へ。

ちなみに、ここまでの切符やチケットは、駅に着いたら渡された。

お姉ちゃんから聞いていたとはいえ、見知らぬ人から物を預かると言うのは、結構勇気の要ることだった。

相手が女性だったから、まだましだったけれど。

あれも配慮のことだったんだろうか。



そうして、私は今、大きなお屋敷の前に居る。

車から大きな神社が見えたと思ったら、ここに降ろされたのだ。

しかし、車が去ってからしばらくになるが、なんというか、その雰囲気に圧倒されてインターフォンを押せずにいた。


大きな門構えに不釣り合いな、普通のインターフォン(少なくとも、見た目は)。

これは、押しても良いものなのだろうか、とぼんやりしていると、


「何してるの」

「うわぁっ」


不意に、声を掛けられた。

真ん中の大きな門ではなく、その側面の上から、ひょこっと生首が浮かんでいた。



「お、お姉ちゃん……?」

「うん」


生首は、お姉ちゃんの顔をしていた。


「着くって聞いてた時間から結構経つから、様子を見に来たんだけど。入らないの?」


髪を揺らし首を傾ける。

よく見れば、そこには小さい窓のようなものがあって、そこから顔を出しているらしい。


「あ、ええと。……入って、いいの?」

「そのために来たからね」


ちょっと待って、と顔が引っ込む。

しばらくして、大きな扉の片方がゆっくりと動いた。


「入って良いよ」


お姉ちゃんが開いた扉の間から手招きする。


「お、おじゃまします」


恐る恐る門をくぐると、






「うわぁ……」




思わず声が出る。




そこは、見事な「日本の庭」だった。



テレビで見るような、本で読んだような。

静かな造りの、時の止まったような空間。


圧倒される私に、お姉ちゃんはいつも通りに声をかける。



「じゃあ、行こうか」



そう言って、歩き始める。


お姉ちゃんの後ろ姿を追いかける。


「迷わなかった?」

「あ、うん。電車と飛行機に乗るだけだったし」


ちなみに、もらったチケットにはすごく分かりやすい地図もついていた。

おかげで、空港も少し迷っただけで済んだ。


「そっか」


お姉ちゃんは頷き、黙り混む。


「……ええと」


なんとなく、言葉を探す。


「……似合ってるね、お姉ちゃん」

「ん、ありがと」


お姉ちゃんは和装だった。

いつだかの夏祭りで見た浴衣、それよりもずっとしっかりした感じのものだ。

落ち着いた色合いが、お姉ちゃんによく似合っている。

すらりとしたシルエットも、生地の描く滑らかな曲線に良く映える。


「ええと……」


再び、言葉を探す。

特に、話題はないのだけれど。


……なんだろうか。

お姉ちゃんに、どこか、触れがたいものを感じる。


それが少し遠くに感じるようで、そうではないと確かめるかのように、かける言葉を探してしまう。


「ここ、慣れてるの?」


そもそも、ここはなんなのだろう。

何処なのか、と言うのは昨日、お姉ちゃんに目的地を聞いて知っている。

しかし、そういうことではなく、 何を目的としているのか ということが不安だった。

少なくとも、気軽に遊びに来れる様な場所ではない。

ふらりと立ち寄るような場所ではない。

それでも、お姉ちゃんはここに居て、私を呼び寄せた。

聞くまでも無く、お姉ちゃんはここに慣れている。


でも、なんで?

何のために?



「何度か、来たことはある」

「そうなんだ」





──いや、なんの為かは気づいている。


京ちゃんの為、だろう。

きっと、お姉ちゃんの言っていた『異質』に詳しい人達。

それが、この場所。




分かっていた。


昨日、連絡があった時からそれくらいは分かっていた。


何の為にここに呼ばれたのか。


なんで、私はここに来たのか。



でも、分からないふりをしようとしていた。

強烈な、意識に叩きつけるような感覚があった。











          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
私は、ここで知らなければならない。




・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・  ・ ・ ・ ・
しかし、知ることで、何か致命的な ──────








「ここ」

「……」


石の道の先にあった、厳格な造りの平屋の中。

その奥の方へ進んだ所で、お姉ちゃんは立ち止まった。




「……」




ここだ。

お姉ちゃんが立ち止まったからではなく、その奥からにじみ出る圧力に確信する。




この場所だ。

ここが、目的地だ。



肌を刺すほどの威圧感。

しかしお姉ちゃんは、それを微塵も気にした様子はない。

ふすまに向かい、いつも通りの調子で声をかける。


「入るよ」

「どうぞ」


短い応答。

返ってきた声は、聞き覚えのあるものだ。







途端、威圧感が増す。




すう、と音もなく引かれたふすまの向こうは、時代劇で見たことのあるような、しかしどこか異なるものを感じるような部屋。

謁見の間、という言葉が一番近いだろう。

しかし、それそのものと言うには、やはりどこか異質。



奥の、一段高いところに、一人の巫女装束の少女が静々と座している。

その少女の手前には道を作るかのように、同じく巫女装束の少女たちが左右へと並び座っている。

その多くは、見覚えのある顔だ。

先ほどの『どうぞ』は、並ぶ中でも一人、奥の少女の近くに座る彼女のものだろう。



すう、と音立たぬ音に振り向けば、ふすまの横の、これまた巫女装束の女性がそれを閉めている所だった。

先ほどふすまを引いたのも彼女だろう。

そのメガネを掛けた落ち着いた顔にも、見覚えがあった。








「ああ、たしかに」








ビクリと振り向く。

聞こえたその声は、優しげな少女のものだった。

しかし同時に、重なるように聞こえた厳かな別の何か。

それが、無視のしようがない威圧感を放っている。



「この者である」



その威圧感が、告げる。









「この者に違いない」





「……っ」






























 










「……」










「……?」



威圧感が、消えている。





「……はっ」



今しがた言葉を発していたはずの奥の少女が、ビクリと体を震わせる。

状況が読めない様にきょろきょろと周りを見回す。

そして、状況を把握したのか、



「あ、ええと……すみません、寝てました」


と、緩やかに言う。


そして、傍らの巫女さんに目を向けて、その巫女さんが小さく頷くのを見る。



「……そう、ですか」


その声色は、どこか悲しげだ。

あっけに取られていると、彼女は私を見て、私を安心させるようにほんわかと笑う。


そのほんわか巫女さんが言う。



「すみません、確かめさせていただきました。必要なことだったので」




確かめる、とは。

私はもはや、困惑の上に困惑を重ね、ただただ固まっているしかない。



そんな私を見て何を思ったのか、


                              ・ ・ ・
「ああ、そうだ、顔を合わせているとは言え、こちらでは改めてのはじめましてですね」



す、と自然な仕草で服装の乱れを正し、太腿の付け根あたりへと手を添える。


その所作は正しく和で、美しいな、とぼんやり思った。









「神代が当代の筆頭巫女、小蒔と申します」



「宮永咲さん、どうぞよろしくお願いします」




どういう事?

元号変わったし終わらせるか、と文章化してたんですがとんでも世界観暴露にモチベ吹っ飛びました
原作買い直すくらいのモチベが復活したらどっかで書くかもしれんですが、一旦クローズします

半年以上前に出した他作の依頼がスルーされてるっぽいんで、もはや機能してるか分からんですが

完結して欲しいけど筆が乗らんのなら仕方なし。
面白かったよ。気が向いたら続きお願い

好きなスレを読み返しに来たら復活してるじゃんやったー、と思ったら中断宣言でしょぼーん
またいつか続きが読めたら嬉しいです

リッツのあれはなぁ、俺もこれはさすがにちょっとと最初は思ったけど
よく考えてみるとマジで真面目にあの世界観で書いてる(書いてた)ってわけじゃない気がするというか……
むしろその辺が(語弊がある言い方だけど)どうでもいいからあんな発言を返したのかなぁって……

続き期待

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