【艦これ】比叡「司令のことを考えると眠れない」 (174)


・艦これより、金剛型戦艦二番艦比叡のSSです。前作が思ったより好意的に受け止められたので調子に乗って二作目です

・作者の特徴…三点リーダ多用、完結まで書き溜めてペースト、純愛至上主義

・前作(今作との関連はありません)
【艦これ】提督「那智が好意に気づいてくれない」
【艦これ】提督「那智が好意に気づいてくれない」 - SSまとめ速報
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比叡「ふわぁー……」

比叡「…………zzz」

霧島「……比叡姉様?」

比叡「っは! 寝てません、寝てませんってば!」

霧島「いや、寝てたでしょう。任務を終えての帰り道とはいえ、油断されては困ります」

比叡「ゴメン。……実は最近、夜中に眠れなくて」


霧島「何か悩み事でも?」

比叡「うーん、そういう訳じゃないんだけど……司令のね」

霧島「司令?」

比叡「うん。司令のことを考えてると、全然寝付けなくて」

霧島「…………」

比叡「司令はもう寝たかなーとか、明日は何で勝負しようかなーとか、いつもどんなことを考えてるのかなー、とか」

霧島「…………」


比叡「自分でもわっかんないんだよねー……何でこんなにモヤモヤしちゃうのか」

霧島「……比叡姉様」

比叡「ん?」

霧島「私の計算によるとそれは…………恋、ですね」

比叡「恋ぃ?」

霧島「はい。恋です」

比叡「…………」


比叡「…………ぷっ」

霧島「姉様?」

比叡「あははははっ、ないない、私が司令に恋なんて~」

霧島「えっ」

比叡「だって、私は金剛お姉様をこの世で、一番愛してるんだよ?」

比叡「それなのに司令みたいな冴えない人を好きになるなんて……うん、やっぱありえないと思う」

霧島「いえ、姉様……」


比叡「はあ~、霧島に思いっきり笑わされたから、何かお腹減ってきちゃった」

比叡「帰ったら司令とお昼食べに行こーっと」

比叡「ふんふん~♪」

霧島(…………もしや、比叡姉様は)

霧島(生まれた時からずっと金剛姉様を慕っていて……男性を好きになった経験がないのでは?)


 ・
 ・
 ・

比叡「艦隊、帰投しましたー!」

提督「お帰り。ご苦労様」

比叡「ふっふっふ……今日の勝負も私の勝ちですね、司令」

提督「なに……?」

比叡「今回の任務……この比叡が! MVPを! 取りましたぁ!」

提督「おおー」パチパチ


提督「ここのところ、出撃するたびにMVPじゃないか? よくやってくれているな」

比叡「ふふん、もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

提督「よーし、すごいぞ比叡。偉い偉い」ナデナデ

比叡「へへ……」ニヘラ


比叡「……っは! そ、そういうのはいいですから! 金剛お姉様にしてあげて下さい!」

提督「おっと……すまんすまん」

比叡「あ、そうだ。私お腹が空いてたんだった。MVPのご褒美にお昼おごって下さいよ、司令~」

提督「よかろう。お安い御用だ」

比叡「やたっ」


 ・
 ・
 ・

比叡「おっごり~、おっごり~、司令のおっごり~♪」

比叡「何食べようかな~」

提督「間宮さん、俺『六駆カレー』大盛ね」

間宮「は~い」


比叡「司令、いつもそれですね~。カレー、お好きなんですか?」

提督「ん……まあ、そうだな」

比叡「ふーん……」

比叡「…………」

比叡「……よし決めた! 間宮さん、和風ハンバーグ定食の中盛と、間宮印のたいやき二つ下さい!」

間宮「毎度ありがとうございま~す」


提督「比叡はハンバーグ好きだよな」

比叡「はい! 艦娘になれてよかったことの一つは、昔はなかったこうした美味しい料理を食べられることですね~」

比叡「あと、グラタンとかオムライスとか……そしてやっぱり甘い物なんかが好きです」

提督「ははっ、なんか男の子みたいだな」

比叡「(ムッ)……それって、暗に私が子どもっぽくてガサツだって言ってます?」

提督「ん? いや、そんなことはないぞ。無邪気でおおらかなのが比叡のいい所だ」

比叡「…………そ、そーですかぁ?」テレ


提督「ああ。比叡の明るさにはいつも助けられている」

比叡「や、やだなぁ。褒めすぎですよぉ」テレテレ

提督「俺は本心から言ってるぞ」

比叡「……てへへ」

提督「食い終わったら午後からの執務も頼むぞ、比叡」

比叡「…まっかせてぇ!」


 ・
 ・
 ・

提督「…………」カキカキ

比叡「…………」ペラ

提督「…………」ガサゴソ

比叡「…………」ジー


提督「……ん? どうした、比叡」

比叡「はぇっ!? な、何ですか?」

提督「いや、今こっちを見てただろう?」

比叡「そ、そうでしたか? えーっと……疲れてちょっとぼーっとしてたのかなー、あはは……」

提督「そうか? じゃあ少し休憩するか。……ちょうどそろそろ」


 (ガチャリ)

金剛「Hey! テートク、ヒエイー! 少しTea breakしてはどうデスかー?」

比叡「お姉様!」パアァァ

提督「いつもすまんな、金剛」

金剛「問題Nothing! 可愛い妹と、そして…」シナ


金剛「愛しのテートクのためなら、なんてことないネー」サワサワ

提督「……おいおい、金剛。紅茶の差し入れには感謝するが、執務中にそういったことは控えてくれ」

金剛「Mmm...テートクは相変わらず身持ちが固いネー。まあそこがまたいいんだけどネー」

比叡「あははっ――」


 (モヤ…)

比叡(ん……?)

提督「? 比叡?」

比叡「あ、いえ……なんでも……」

金剛「さあ、美味しいTeaをゴチソウしますヨー」

比叡「ありがとうございます、お姉様……」

金剛「……?」


 ・
 ・
 ・

比叡「…………」ガチャリ

霧島「ああ、姉様。執務お疲れ様です」

比叡「…………」

霧島「比叡姉様?」

比叡「……ああ、うん。私、今日はもう寝るね……」

霧島「え? ちょっと、姉様?」

比叡「…………」パタン


比叡「…………」ドサッ

比叡(今日も、楽しかったな……)

比叡(午前の出撃ではMVPを取って、司令と一緒にお昼を食べて)

比叡(秘書艦の仕事をして、お姉様と司令と三人でお茶をして……)

比叡(楽しそうにしている、お姉様と司令――)


 (ズキ…)

比叡(……そう、今日は楽しい一日だったんだ。……胸が痛んでなんて、いない)

比叡(寝よう……今日こそ寝よう……寝れば何も考えなくてすむ……)


 ・
 ・
 ・

 ――数日後

比叡「はぁ……」

比叡(今日は秘書艦の当番でもなければ、出撃のメンバーにも入っていない)

比叡(半ば休日のような気楽な日だが、天気は陰鬱な雨)

比叡(そしてあの日から、私の心には澱〈オリ〉が溜まり続け、相変わらず眠れぬ夜を過ごしている)


比叡「はあぁ……」

金剛「ヒエー、溜息なんて吐いて、どうしたネー」

比叡「お姉様……」

比叡(大好きな金剛お姉様に会えたというのに、私の心は浮かばれない)

比叡(寝不足のせい……きっと、そうに違いない)

金剛「でも丁度よかったデース……実は、比叡と話したいことがありマス。私の部屋でTea timeにしまショウ」

比叡「……はい、喜んで」


 ・
 ・
 ・

金剛「…………」カタ

比叡「…………」ゴク

金剛「……美味しいデスか? ヒエー」

比叡「……はい、お姉様」

金剛「そうデスか。よかったデース」

比叡「…………」

金剛「…………」


比叡「……あの、お姉様。私にお話しというのは……?」

金剛「…………」

金剛「……ヒエーに三つ、聞きたいことがありマス」

比叡「……何でしょう?」

金剛「まず一つ目。ヒエーは、ワタシがテートクを好きだということを知っていマスか?」

比叡「え? それは当然。なんで今さらそんなことを……」


金剛「二つ目。ヒエーは、ワタシのことが好きデスか?」

比叡「そ、そんな、お姉様。突然そんな……///」

金剛「どうなのデスか?」

比叡「う~……はい。比叡は金剛お姉様が、大、大、だ~い好き! です!」

金剛「そうデスか……ありがとう、ヒエー」

比叡「い、いえ///」


金剛「……それじゃあ三つ目デース。ヒエーは……」

比叡「…………」

金剛「……ヒエーは……好きデスか?」

比叡「……?」


金剛「……テートクのことが」

比叡「……え」

金剛「……どうなのデスか。テートクを好きなワタシを好きなヒエーは、それじゃあテートクのことはどう想っているのデスか」

比叡「わ、私が……司令を……好き?なんて、そんなこと……ありえな……」

金剛「…………」ジッ


比叡「ありえ……ありえな……っ……」

比叡(…………言えない)

金剛「……答えて下サイ、ヒエー!」

比叡「――っ!」ダッ

金剛「ヒエー!」

比叡(言えない言えない言えない、絶対に、言えない!)


 ・
 ・
 ・

比叡「っはー、はー、はー……」

比叡(金剛お姉さまの前から逃げ出した私は、いつの間にか埠頭に来ていた)

比叡(相変わらずしとしとと雨が降り続き、私の服や髪を濡らしていたが、そんなことが全く気にならないほど私の心は動揺しきっていた)

比叡(金剛お姉様に……気付かれた)


比叡(――気付かれた? 気付かれたって何? 傷付けたじゃなくて? 何を気付かれた?)

比叡(私は金剛お姉様が好きで、金剛お姉様は司令が好き)

比叡(私にとって司令は、信頼できる上司で、金剛お姉様を巡るライバル。それだけの関係)

比叡(それだけ――だった、のに)

比叡(司令の姿……司令の声……司令の優しさ……)


比叡「――司令」ギュッ

比叡(声に出したその瞬間、心の内から切なさが溢れ出し、私は思わず自分の身を掻き抱いた)

比叡「私、本当に馬鹿だな……」

比叡「私は、司令が…………」

比叡「……好き、なんだ……」

比叡(金剛お姉様を好きなのと同じくらい……いや……きっと、それよりも)


 ・
 ・
 ・

比叡(……どのくらい座り込んでいたのだろう。いつの間にか雨は止み、鮮やかな夕焼けが水平線に沈もうとしていた)

金剛「……探しましたヨ、ヒエー」

比叡「金剛……お姉様……」

金剛「答えは……出ましたカ?」


比叡「…………」

比叡「……はい」

金剛「…………」

比叡「私は、やっぱりお姉様が好きです。そして……」

金剛「…………」


比叡「……そしてそれ以上に、司令が……司令のことが、好き、です」

金剛「……そうデスか」

金剛「……でも、ヒエーは優しい子デスから、きっとテートクを私に譲ってくれマスよね?」

比叡「…………」

比叡「……例え金剛お姉様が相手でも、それはできません」

金剛「…………」

比叡「金剛お姉様には……絶対に……負けません……!」


金剛「…………」

金剛「オーケイ、それが聞きたかったデース」

比叡「え……?」

金剛「ヒエーがそれだけ強くテートクを想っているのなら、私はテートクを諦められマス……」

比叡「そんな! どういうことです!?」


金剛「……いつも見ていれば解りマス。テートクはきっと、ヒエーのことが好きネ」

比叡「そんなこと……!」

金剛「解るんデス」

比叡「……なぜ?」

金剛「女の勘……それと年の功、デスかね」


金剛「とにかく、テートクは私の妹が好きで、私の妹もテートクが好き。これが事実デス」

金剛「それなら姉である私は、可愛い妹と愛しい人のために、身を引きマス」クル

比叡「……お姉様」

金剛「比叡、しっかりやりなさいね」スタスタ

比叡「…………はい」

比叡(立ち去るお姉様の頬に、透明な雫が流れるのが見えた気がして、私はそっと頭を下げた)

比叡「ごめんなさい……それと、ありがとう、ございます……」


 ・
 ・
 ・

 ――さらに数日後

金剛「――で?」

比叡「……はい?」

金剛「『……はい?』じゃないネー! テートクとはどうなってるデース!」

比叡「え、えと、そのう……」

金剛「…………」

比叡「……特に、何も」

金剛「っかー! 人がせっかく背中を押してあげたのに何デスかー!? その体たらくWaaa!」


比叡「そ、そんなこと言われたって……異性へのアピールの仕方なんて解らないし、そもそも恋心を自覚したのだってつい先日だし……」ゴニョゴニョ

金剛「Ahaaaa、じれったいネー!」

金剛「……ヒエー」ガシッ

比叡「は……はい」

金剛「もう一度だけ、チャンスをあげマス。今度ヒエーが何のActionも起こさなかったら、ヒエーの戦意喪失と見なして私もテートクへのアピールを再開しマスからネ。いいデスね?」

比叡「んぐ……わ、解りました……」


 ・
 ・
 ・

比叡「――と言っても、本当にどうしたらいいのか……」トボトボ

鳳翔「――あら、比叡さん。どうかされましたか?」

比叡「あ、鳳翔さん……」

比叡「…………」ジー

鳳翔「……な、何ですか?」


比叡(鳳翔さんと言えば、間宮さんと並ぶ鎮守府屈指の家事上手)

比叡(さらにその年齢不詳めいた雰囲気で、軍の内外を問わずファンが多い……らしい。青葉から聞いた話だけど)

鳳翔「あ、あの、比叡さん? そうまじまじと見つめられると……なんだか、照れてしまいます///」

比叡(うーん、女の私から見ても可愛い。すごく可愛い)

比叡「……鳳翔さん!」ガシッ

鳳翔「は、はい?」

比叡「私に……家事を仕込んでください!」

鳳翔「え……ええ?」


鳳翔「――なるほど。つまり、提督に女の子らしいところを見せたいと」

比叡「う……は、はい///」

鳳翔「……解りました。そういうことであればこの鳳翔、微力ながらお力添えいたします」

比叡「! 鳳翔さん……」

鳳翔「短時間なので、少し厳しく行きますが……よろしいですね?」

比叡「……はい!」

比叡「気合! 入れて! よろしくお願いします!」


 ・
 ・
 ・

鳳翔「――古来より、男性の心を掴むにはまず胃袋を掴め……と言われています」

鳳翔「今回は、お料理に絞って腕を磨きましょう」

比叡「はい!」

鳳翔「比叡さん、何か希望される料理はありますか?」

比叡「特にはないですけど……でも、うーん……」


比叡(…………あっ)

比叡「それじゃあ、カレーの作り方を教えて下さい」

鳳翔「カレー、ですか? 私は構いませんが……もう少し、凝ったものでなくてもいいのですか?」

比叡「はい。カレーでお願いします」

鳳翔「解りました。それでは、私は普通に調理をしますので、見よう見まねで付いてきて下さい」

比叡「えっ」

鳳翔「言ったでしょう? 厳しく行きます、と」

比叡「ひ……ひえぇ……」


 ・
 ・
 ・

鳳翔「野菜の切り方が雑過ぎます! 食材の特徴を頭に入れて!」

鳳翔「水を入れるのが速すぎます! 玉葱を飴色になるまで炒めて!」

鳳翔「ぼーっとしていてはいけません! 煮立ったらちゃんとアクを取って!」

鳳翔「まだ火を止めてはいけません! 弱火にしてじっくり煮込んで!」


 ・
 ・
 ・

比叡「……ひえぇ」

鳳翔「……ふぅ。お疲れ様でした」

比叡「あ、ありがとうございました……」

鳳翔「今日お教えしたのは基礎中の基礎。またいずれ、続きをお教えしますね」

比叡「は……はい」

鳳翔「ふふっ。それじゃあ……頑張って下さいね」

比叡「……はいっ」


比叡(さて、じゃあ早速司令に……)

比叡(……でも待てよ。鳳翔さんのおかげで立派なカレーになったとはいえ、このままでは何の変哲もないただのカレー)

比叡(こんな何のひねりもないもので、司令に喜んでもらえるだろうか?)

比叡「どうせなら……(サッサッ)自分なりに工夫して……(ゴリゴリ)私好みの味に……(トポトポ)」

比叡「できた! 比叡特製、超激辛カレー!!」

比叡「よ~しっ……」


 ・
 ・
 ・

 (コンコン)

比叡「司令? いらっしゃいますかー……?」

提督「おう、比叡。どうした?」

比叡「まだ執務中ですか?」

提督「ああ。提出しなきゃならない書類が溜まっててな」

比叡「そうですか…ちなみに、今日はお夕食は…?」

提督「そう言えばそんな時間か……腹ペコだ」


比叡「! で、でしたら……でしたら、そのぅ……」

提督「?」

比叡「カレーが……えーと……そう、カレーを作り過ぎちゃって! よ、よかったら食べて頂けないでしょうか?!」

提督「カレー……比叡の手作りか?」

比叡「は、はい……」

提督「……ありがたい、貰おうか」

比叡「……はい、今お持ちします!」


比叡「(コト)……ど、どうぞ」

提督「ありがとう……うん、美味そうだ」

提督「では、いただきます」

 (パク、モグモグ)

提督「む…………」

比叡「…………」

 (ゴクリ)


比叡「……どう、ですか?」

提督「う、む……」

 (モグ…モグ…)

比叡(無言……)

 (…モグ)

提督「…………」


比叡「…………」

比叡(まだ半分以上残ってるけど、スプーンが動いていない……)

比叡(…………)

比叡「……もう、いいですよ」

提督「! いや、まだ……」

比叡「……いいんです! 無理してまで食べないで下さい……!」ダッ

提督「あっ、おい……待て! 比叡!」


比叡(……私ってば、いつもこうだ)

比叡(気合を入れれば入れるほど、空回りして)

比叡(司令に失望されたかな……)


 ・
 ・
 ・

鳳翔(あら? こんな時間に食堂の明かりが?)

比叡「はぁ……」

鳳翔「……比叡さん?」

比叡「……鳳翔さん」

比叡「……失敗、しました」

鳳翔「え?」


比叡「…………」スッ

鳳翔(カレーのお鍋?)チョイ、ペロッ

鳳翔「ん……かなり辛口ですけど、おいしいですよ?」

比叡「……いいですよ、気を使ってくれなくて」

鳳翔「いえ、本当に……」

比叡「……いいんです」

鳳翔(うーん、何があったかは解りませんが重症ですね……私ひとりの言葉では、信じてくれそうにありません)


鳳翔「……あ、間宮さん、丁度よいところへ」

間宮「あら鳳翔さん、それに比叡さんも。どうされました?」

鳳翔「ちょっと、味見して頂けませんか?」

間宮「いい香り……カレーですね?」ペロッ

間宮「ふんふん……荒削りですけど、スパイスの効いたいいお味ですね」

鳳翔「ほら、比叡さん、ね?」


比叡「……でも、司令には半分も食べてもらえませんでした……」

鳳翔「…………」

間宮「ん? このカレー、提督にお出ししたんですか?」

比叡「はい……」

間宮「あー……えーと……」

間宮「比叡さん、実はですね……」


間宮「実は提督……辛いのが苦手なんです」

比叡「…………え?」

比叡「じ、じゃあいつも食べてるあのカレーは?」

間宮「辛いのはダメでもカレー自体は大好きみたいで、あのカレーは駆逐の娘たち用の甘口カレーなんです」

比叡「…………え? え?」

鳳翔「そうなのですか?」

間宮「はい。一度普通のカレーをお勧めした際に、こっそり教えて下さったんです」


比叡「そ……そんな……」

鳳翔「すみません、比叡さん。私がそのことを知っていれば……」

比叡「そんな! 鳳翔さんは何も……私が、司令のことを考えずに暴走したから……」シュン

間宮「……比叡さん、今からでよければ、甘口カレーの作り方をお教えしますよ?」

鳳翔「私もお手伝いします。……もう一度、がんばりましょう?」

比叡「間宮さん……鳳翔さん……」

比叡「……はい。ご教授……お願いします……!」

間宮・鳳翔「ええ、喜んで」


 ・
 ・
 ・

比叡「できた……」

間宮「教えた私が言うのもなんですが、とてもいい出来ですよ」

鳳翔「ええ、先ほどにも増して気合が入っているのを感じました」

比叡「お二人のおかげです……本当に、ありがとうございました」

鳳翔「いいえ、比叡さんの努力の結果ですよ」

間宮「その通りです。さ、もう一度提督のところへ――」


提督「比叡! ここにいたのか……」

比叡「! 司令……」

提督「…………」

比叡「…………」

提督「その……」

比叡「あの……」


二人「さっきは、すまん!」「さっきは、すみませんでした!」

二人「「……え?」」

比叡「私、本当は司令のためにカレーを作ったのに、好みも何も考えないで……」

提督「せっかく比叡が作ってくれたカレーなのに、目の前で残してしまって……」

比叡「で、でも、間宮さんと鳳翔さんに教わって甘口で作り直したんです! これを……これを食べて下さい!」

提督「いや、悪いが……」

比叡「え……」


提督「……さっきのカレーがまだ残っているだろう? もう一杯もらえないか」スッ

比叡「え……もしかして今まで、あのカレーを食べてたんですか!?」

提督「ああ。時間がかかってしまったが……」ヒリヒリ

比叡「う……」ジワ

提督「お、おい、比叡?」


比叡「司令は……何で司令は、そうなんですかぁ……」グス

提督「ひ、比叡、泣くな……泣くなって」

鳳翔「……提督、女の子を泣かせたらどうすればいいか……お解りですよね?」

間宮「私たちは失礼しますので。それでは……」

提督「…………」

提督「比叡……」ギュ

比叡「司令……司令ぃ……」ギュッ


 ・
 ・
 ・

提督「……落ち着いたか?」

比叡「ん……すみません」

提督「構わんさ」ポンポン

比叡「…………」


提督「…………」

比叡「……あの、司令」

提督「なんだ?」

比叡「私は……」

提督「…………」


比叡「……私は、司令のことが好き、みたいです」

提督「……そうか」

比叡「はい……」

提督「……嬉しいよ。俺も、ずっと比叡が好きだったからな」

比叡「本当、ですか?」

提督「ああ」


比叡「でも私、金剛お姉様みたいに美人じゃないし、鳳翔さんや間宮さんみたいに料理も上手くないし」

比叡「それに、司令への好意をずーーっと自覚できないくらい馬鹿だし……」

提督「俺の中での比叡は、誰にも負けないくらい可愛くて、誰にも負けないくらい努力家で」

提督「そして、無愛想な俺のことを好きだと言ってくれる、最愛の人だ」

比叡「司令……」


比叡「そんなこと言われたら……また泣いちゃいますよ……」

提督「なら、また抱きしめてやるよ」ギュ

比叡「……今度は、抱きしめられたくらいじゃ泣き止まないかもしれません」

提督「……比叡は、意外と欲張りなんだな」

比叡「はい……私は、欲張りなんです……」


比叡(司令を、今すぐ私のものにしたい。そう思ってしまうぐらい……)

提督「比叡……」

比叡「司令……」

比叡(…………えいっ)チュッ

提督「! …………」

比叡「…………っん」

提督「…………」


比叡「…………司令」

提督「……うん?」

比叡「……負けませんから」

提督「……?」


比叡「司令がどんなに私のことを好きでも」

比叡「私はそれよりもっともーっと、司令のことを好きでいますから、ね」

提督「…………はははっ」

提督「俺も……負けないからな」

比叡「……はいっ」


比叡(絶対に、負けません……あなたが、私の未来を示してくれるなら……)

比叡(どんなことがあっても……比叡は、負けません)

比叡「司令……」ギュ

比叡「司令司令司令っ」ギュウ~ッ

比叡「――大好きです、司令!」



  ひとまず 完


書いてる分(本編)はここまでです
明日気が向いたら、ちょっとだけおまけを書くかもです


こんばんは、>>1です。読んでくださった皆さんありがとうございます
自分で読み返してると拙い部分ばかりが目に付くので、かわいいとか言って頂くと本当に嬉しいです

それではちょろっとおまけを書いてみます
リアルタイムで書くのは初めてなのですが、たぶんスピードは遅いです。気長に構えておいて下さい


 おまけ1・比叡と提督とカレーライス

 ――ある日

比叡「司令、お昼できましたよ~」

提督「おう」

比叡「(コト、カチャカチャ)……さ、どうぞ」

提督「今日もカレーか」

比叡「はい。今日は、夏野菜のカレーです」

提督「ふむ……いただきます」


提督「うん……トマトがいい感じに利いてるな」

比叡「あ、解ります? 今日のカレーは水をあまり入れず、野菜の水分を活かしてみたんです」

提督「なるほど……鳳翔と間宮に教わってるだけあって、めきめきと料理の腕を上げてるな」

比叡「えへへ……司令が毎日、おいしいって言ってくれるからですよ」

提督(あ、その表情可愛い)

提督「……ところで、カレー以外の料理はどうなんだ?」

比叡「うっ!」


提督「……その反応からすると、芳<カンバ>しくなさそうだな」

比叡「うぅ……カレーはほぼ毎日作ってるので自分でも自信が付いたんですけど……」

比叡「それ以外の料理だと、レシピを見ながらでもなぜかどこかでドジをしてしまって……」シュン

提督「……まあ、焦らずゆっくり経験を積んでいくしかないだろう」

比叡「んん……でも……」

提督「……?」


比叡「……レパートリーが充実する頃には、お婆ちゃんになっちゃってるなんてことになったら……」

提督「……さすがに、それはないだろう」

比叡「そりゃあ、もしもの話ですけど……でも、もしもそんなことになったら……」

提督「なったら?」

比叡「お婆ちゃんになった私じゃ、その……し、司令に……貰ってもらえない、じゃないですか……」

提督「…………」


提督「……比叡」

比叡「はい……?」

提督「そんな心配なら、無用だ」

比叡「……司令は、お婆ちゃんになった私でも、貰ってくれるんですか?」

提督「そんなわけなかろう」

比叡「(グサッ)……うぅ、そんな」グス

比叡「いやです、司令……見捨てないでぇ……」


提督「勘違いするな、比叡」

比叡「……ふぇ?」

提督「俺が、お婆ちゃんになるまで長い間、比叡を独り身にしておくわけがないだろう」

比叡「……へっ?」

提督「料理のできるできないは関係ない。俺が比叡と一緒になりたいと思ったら、その時にお前を貰う」

提督「……それだけのことだ」


比叡「…………」

比叡「……司令ぃ」グス

提督「……よしよし」ポンポン

比叡「……カレーしか作れない私でも、本当に大丈夫ですか……?」

提督「比叡のカレーなら、毎日食っても飽きんさ……というか、実際に毎日食ってる」


比叡「んん……でもでも、やっぱり私、司令にもっといろいろなものを作ってあげたいです」

比叡「間宮さんの作るお味噌汁や、鳳翔さんの作る肉じゃがに負けないお料理を、食べさせてあげたいです!」

提督「……うん、その気持ちは嬉しいよ」

提督「……比叡のそういう優しさと努力が、俺は好きなんだ」

比叡「ひえっ!?」


比叡「も、もう! 最近の司令は、すぐそうやって歯の浮くようなことを言うんですから!」

提督「……自分に正直になっただけなんだが」

比叡「~~~~」

比叡「っとにかく! これからも料理の練習は続けますから!」

比叡「いつか絶対、司令を驚かせてみせますからね!」

提督「ん……楽しみにしてるよ」

比叡「……負っけないんだからぁ~!」



 比叡と提督とカレーライス 了


案の定時間がかかったので今日は一編のみで寝させて頂きます
あと1、2編くらいは書くつもりです


おまけその2書いていきます


 おまけ2・比叡と提督と姉妹艦

 ――ある日の午後

提督「…………」カキカキ、ポン

提督「これ頼む」

比叡「はい」バサ、トントン

提督「んんん……ひと段落ついたか」ゴキゴキ

比叡「お疲れ様です、司令」


提督「ちょっと休憩したいな……すまんが、茶を入れてくれるか?」

比叡「はい、少々お待ちを……」

比叡「……あ、そうだ」

提督「ん?」

比叡「そういえば今日はですね……お姉様と榛名と霧島、三人ともお休みなので」

比叡「お姉様の部屋でお茶会をしてるはずなんです。せっかくだから、そちらに顔を出してみませんか?」


提督「お茶会……そんなことをやっていたのか」

比叡「姉妹艦だけのささやかなものですけどね」

比叡「全員の休みが合うことってあまりないので、お互いの近況報告なんかも兼ねて」

提督「なるほどな。……しかし、そんな場に俺が顔を出しても構わんのか?」

比叡「そんな大仰なものじゃないですから……誰も気にしませんよ」

比叡「……そ、それに」

提督「ん?」

比叡「し、司令はもう……金剛型の身内、みたいなものじゃないですか///」


提督「……比叡も言うようになったな」

比叡「……いつものお返しですっ」

比叡「ま、それはそれとして、お姉様の部屋に行ってみましょうよ」

提督「そうだな……ちょっとお邪魔させてもらうか」


 ・
 ・
 ・

 (コンコン)

比叡「(ガチャ)お姉様、お邪魔しますね~」

金剛「ヒエー? 今日は秘書艦の当番だったのでワ?」

比叡「ちょっと休憩中でして……司令も一緒ですよ」

金剛「What!?」

提督「……よ、よう。入っても構わんか?」

金剛「あ、えと……」オロオロ

金剛「お、お二人様ご案内デース!」

榛名(金剛お姉様が取り乱してる……)

霧島(……ま、身を引いたとはいえ好いた男性に部屋を訪れられれば、そうもなるでしょう)


金剛「……どうぞデース」カタ

比叡「ありがとうございます!」

提督「すまんな」

金剛「い、いえ……」

提督「…………」

金剛「…………」

霧島(う……微妙な空気)

榛名(比叡姉様は……)

比叡「あー、久しぶりに飲むお姉様の紅茶は、おいしいですね~」

霧島(……能天気!)


金剛(……ふぅ、落ち着くデース、私)

金剛(私の今の望みは、テートクとヒエーが幸せになること……)

金剛(胸が痛まないと言えば嘘になりマスが、こうして二人の仲のいい様子を見られるのは喜ばしいことデス)

金剛「……テートクも、どうぞ」

提督「……ああ、頂くよ」

提督「…………」

提督「……うん、うまい」

比叡「ですよね! 司令もそう思いますよね! 来てよかったですね!」グッ

提督「うお、急に身を乗り出すな、危ない」

比叡「す、すみません、つい」


金剛「……ふふ」

提督「……金剛?」

金剛「二人が喜んでくれて……本当に、嬉しいデス」ニコ

提督「……!」

榛名(何でしょう、この……)

霧島(憂いと優しさを含んだ微笑み、例えるならば……)

比叡(まるで聖母……神々しいです、お姉様……)ポッ

提督「…………」ボー

比叡(……っは!)


比叡「司令! いくら金剛お姉様が美人でも、私がすぐ隣にいるのに見惚れるなんて……!」

提督「! い、いやそんなことは……」

比叡「ごまかしても解ります!」

比叡(私も見惚れてたからだけど……)

金剛「……どうどう、落ち着くデース、ヒエー」

比叡「う……お姉様」

金剛「テートクへの想いを自覚できなかったあのヒエーが、人並みに嫉妬をしていると思うと感慨深いデース」

比叡「んぐ……」

比叡(お姉様に背中を押してもらっただけに、何とも反論できない……)


金剛「……テートク」

提督「うん?」

金剛「オッチョコチョイで慌て者の妹デスが、幸せにしてあげてくだサイね?」

提督「……もちろん」

比叡「お姉様……」


榛名「……金剛お姉様、なんだか大きく見えます」

霧島「そうね……」

榛名「……比叡姉様、幸せそうです」

霧島「そうねー」

榛名「…………」


榛名「……榛名も、もうちょっとだけ積極的だったら」

榛名「もしかしたら、比叡姉様みたいに……」

霧島「……榛名、あなた」

榛名「! わ、私何を……黙ってて下さい、霧島!」

霧島「……いいの?」


榛名「いいんです……」

榛名「ああして、幸せそうな提督と、幸せそうな比叡姉様と、優しげな金剛お姉様がいる」

榛名「そんな風景が見られれば、十分です。……榛名は、それで大丈夫です」

霧島「……そう」

榛名「……はい」


金剛「ハルナ、キリシマ、何話してるデース?」

榛名「金剛お姉様……」

榛名「……何でもありません。ただの雑談です」ニコ

金剛「そうデスか? そろそろスコーンを出しマスから、どんどん紅茶のお代わりしてくだサイね?」

榛名「はい、ありがとうございます」

比叡「あ、お姉様! 私早速お代わりを頂きます!」

金剛「オーケイオーケイ、パーッとやりまショウ!」

霧島(……やれやれ)


 ・
 ・
 ・

提督「……さて、じゃあそろそろお暇するよ」

金剛「オウ、もうお帰りデスかー?」

提督「一応、執務の途中だからな」

比叡「はっ、そうでした」

提督「おい……」

金剛「お仕事なら仕方ありまセンねー」

榛名「またいつでもいらして下さい、提督」

提督「ああ、また機会があれば、ぜひ」


提督「それじゃあな」

比叡「お邪魔しました、お姉様」

金剛「Bye」ヒラヒラ

榛名(ペコリ)

霧島「…………」


提督「……お、そうだ」

比叡「はい?」

提督「明石にちょっと話しておきたいことがあったんだ」

提督「工廠に寄っていくから、先に戻っておいてくれるか?」

比叡「解りました。作業の続き、準備しておきますね」

提督「うん、頼む」


提督「…………」テクテク

霧島「…………司令」

提督「ん……? 霧島? どうした?」

霧島「……司令に、どうしても伝えておきたいことがありまして」

提督「……何だ?」


霧島「司令が、もしも比叡姉様を捨てたら……」

提督「おい!? 何の話だ!?」

霧島「もしも、ですってば」

提督「むう……」

霧島「もしもそんなことになったら、詳しくは言えませんけど色々な理由で、困る人間がけっこういるんです」

提督「…………」

霧島「だから絶対、そんなことはしないで下さいね」

提督「言われるまでもない、と言いたいところだが」

提督「霧島にとっては重要なことなんだな?」

霧島「……」コク


提督「……解った。約束するよ」

霧島「…………」

提督「天地神明に誓って、比叡を捨てたりはしない。必ず幸せにする」

霧島「うん……お願いしますね」


 ・
 ・
 ・

霧島「…………」

霧島「はぁ……」

霧島「困る人間が『けっこういる』ねぇ……」

霧島(金剛姉様、比叡姉様、それに榛名まで……)

霧島「……私が相談する相手、いなくなっちゃたじゃない」

霧島(……まあ、比叡姉様の話を聞いた時点で諦めてはいたんだけど)

霧島「もし提督と比叡姉様が別れたら、私、本当に困りますから」

霧島「……本当にお願いしますよ、司令……」



 比叡と提督と姉妹艦 了


ジト目の比叡が書きたかったはずなのに、姉妹艦たちの切ない話になってしまいました
最後の1編はイチャラブにしてバランス取ります(?)

ラストは書き溜めてからにしますので、数日お待ち下さい


ラスト1編上げていきます
おまけと言うより本編その2って感じになってしまいましたが

セリフだけでは表現しきれない部分に、少しだけ地の分を使ってます


 おまけ3・比叡と提督と観艦式

 ――大規模作戦を終えた、ある日

比叡「観艦式?」

提督「名目上はな」

比叡「どういうことです?」

提督「先日の大規模作戦、比叡はじめ皆のがんばりのおかげで、うちの鎮守府が最殊勲と判定されただろ?」

比叡「提督も勲章貰ってましたよね。……どこにやったんです?」

提督「あんな虚栄の証より、名誉駆逐艦の証がほしいね、俺は」

比叡「荒〈スサ〉んでますねぇ……それで、観艦式というのは?」

提督「ああ、そうだったな……」


提督「『最も戦果を挙げた艦隊に、上層部の観閲を受ける栄誉を授けるとともに、祝勝会を開きその労をねぎらう』というのが上の言い分だが……」

提督「要するに、優雅に踊って飲み食いする口実がほしいだけさ」

比叡「はあ。それじゃ、断りますか?」

提督「……そうもいかんだろう。自分から立場を悪くするのも馬鹿げている」

提督「俺は地位や名誉に拘りはないが、俺の立場が安定すればお前たちの立場も守ってやれるからな」

比叡「それじゃせいぜい、堂々とやってやるしかありませんね」

提督「……そういうことだ」


比叡「そうと決まれば、さっそく詳細を詰めないといけませんね」

比叡「観艦式は規模も重要ですが、やはり最も重要なのは、物理的にも精神的にも艦隊の中心となり、一身に視線を集める旗艦――」

比叡「いやこの場合、御召艦とでも呼ぶべきですか。その人選が何より重要ですね」

比叡「見栄えを重視すればやはり大和さんや長門さん……艦隊運動であっと言わせるなら通信機器の充実した大淀……?」

比叡「いや、ここは奇をてらって空母というのも……どう思います、司令?」

提督「…………」


提督「……比叡に任せる」

比叡「私に選べってことですか? さすがに無責任ですよ、もうちょっとやる気出しましょうよ~」

提督「……いや、そうではなく」

比叡「へ?」

提督「比叡に、御召艦を任せる」

比叡「……っええええええ!」


提督「……そこまで驚くことか?」

比叡「いや、でも……ええ? 私?」

提督「『昔』の観艦式では、何度も御召艦を務めたんだろう?」

比叡「そ、そうですけど……ここで言う御召艦と『昔』の御召艦じゃあ役割が違いますよ……」

提督「しかしな、御召艦は式典中以外は提督に同伴すること、と言われているし」

提督「だから、最も親しみと信頼を抱く比叡にやってほしいんだが」

比叡「う……そうまで言われたら、断れませんね……」


比叡「……解りました。この比叡、気合! 入れて! 御召艦を務めてみせます!」

提督「うん、頼む」

提督「それじゃあ悪いんだが、人選と艦隊行動の詳細は任せていいか?」

提督「上との摺り合わせと諸々の準備品は、俺が担当するから」

比叡「はい! 司令の名を汚さぬよう、精一杯やらせて頂きます!」

提督「いや、そこまで気負わなくてもいいが……」

比叡「いえ、やるからには! 全力で! いきましょう!」

提督「……ま、手を抜いて上にケチを付けられるのもなんだからな」

比叡「私、何だか燃えてきましたよ~!」

提督「……ほどほどにな」


 ・
 ・
 ・

比叡「……さて、司令にはああ言ったけど」

比叡「場の雰囲気的にも、司令の好み的にも派手なパフォーマンスはよろしくないだろうし」

比叡「あくまで整然と、そして堂々と、って感じになるのかな」

比叡「まずは、サポート役……供奉艦を確保しに行こう」


 ・
 ・
 ・

提督「……さて、比叡にはああ言ったが」

提督「公人としてはともかく、私人としては楽しみな面もあるし」

提督「早速だが、明石にアレを発注しに行くか……」


 ・
 ・
 ・

 ――重巡寮

比叡「うーん、誰に頼むのがいいかな……」

高翌雄「――比叡さん? 重巡寮にいらっしゃるなんて、珍しいですね」

比叡「あ、高翌雄」

高翌雄「誰かに用事でも?」

比叡「…………」


高翌翌翌雄てなんやねん……高翌雄です


あれ? なぜか翌が挿入されるので何となく察してください。タカオのことです

>>134再投稿です

 ――重巡寮

比叡「うーん、誰に頼むのがいいかな……」

高雄「――比叡さん? 重巡寮にいらっしゃるなんて珍しいですね」

比叡「あ、高雄」

高雄「誰かに用事でも?」

比叡「…………」


比叡(生真面目で規律に厳しい高雄)

比叡(『昔』供奉艦や先導艦を務めてもらったこともある)

比叡「……一人確保」ガシッ

高雄「……はい?」

比叡「もう一人ぐらいほしいな~。高雄は固いタイプだから柔らか目のタイプで」

高雄「……何なんですか?」


古鷹「――高雄? それに比叡さん? どうかされましたか?」

比叡「……ふむ」

比叡(普段は温和だが、時に芯の強さを見せる古鷹)

比叡(彼女にも一度、供奉艦を務めてもらったことがある)

比叡「……二人とも、ちょっと来てもらっていいかな?」ガシッ

古鷹「え? ……え?」

高雄「だから、一体何なんですか~?!」


 ・
 ・
 ・

比叡「――というわけなんだけど」

古鷹「はあ、なるほど」

高雄「それで、私たちに手伝ってほしいと」

比叡「二人には『昔』も供奉してもらったことがあるし……お願いできないかな?」

古鷹「私は構いませんけど……」

高雄「まあ、鎮守府の代表と思えば悪い気はしません……いいですよ、お手伝いします」

比叡「ありがと~、助かるよ」


高雄「それで、具体的には何を?」

比叡「まずは、式での全体の動きかなあ。もし分散して動く場面を作るなら、二人にその指揮を任せることになるし」

古鷹「それでしたら、ひとまず私の部屋でお話しませんか?」

比叡「いいの?」

古鷹「はい。加古は今出撃中なので、空いてますよ」

比叡「それじゃ、ちょっとお邪魔させてもらうね」


 ・
 ・
 ・

比叡(――それから数週間)

比叡(高雄、古鷹と綿密な打ち合わせを行った後、選抜したメンバーを集め、毎日予行演習を繰り返した)

比叡(司令に影響されたわけではないけれども、労をねぎらうと言いつついらぬ苦労を押し付けてくる上層部は、確かに自分たちの欲求を優先させているのでは……)

比叡(……と、私自身思わないでもなかったし、実際そういう不満を口にする子もいた)

比叡(時には艦娘としての誇りのためと説き、時には間宮アイスで機嫌をとり、どうにか士気を維持しつつ、ついに式典当日を迎えた)


比叡(……そういえばあれから、司令とは事務連絡ばかりであまり話をしていない)

比叡(……いや、余計なことは考えず、まずはこの観艦式を堂々とやり遂げよう)

比叡「高雄、古鷹、それに皆、準備はいいね?」

比叡「……気合! 入れて! 行くよっ!!」


偉いさん「提督クン、式の開始はまだなのかね?」

提督「……もう間もなくです」

偉いさん「先ほどからそればかりではないか。いいかね、君と君のところの艦娘の交通費、それにこの後の祝勝会の料理代に演奏代、その他もろもろ、我々がいくら予算をかけたと思っとる」

提督「…………」

偉いさん「そうした厚意について慮ってだな……」

提督「…………」

大淀『大変長らくお待たせしました。只今より――』

偉いさん「おっ、いよいよかね」

提督(……観艦式を見世物か何かのように考えてるんじゃないか、こいつ)


 ――艦列は総計で25隻、戦艦比叡を中心に菱形を形成する。

 その内訳は、戦艦1、重巡2、軽巡3、駆逐艦15、軽空母4。比叡の威容を際立たせるため、あえて小型艦が多目の編成となっている。

 陸上からの観閲となるため、まず右手側から左手側へ航行した後、右後方へ間をおいて二回転針。

 観覧側に正面から接近した後、9隻、8隻、8隻の三つの梯隊に別れ、それぞれが連携しつつ縦横に移動する。


提督(……見事だ)

偉いさん「いやあ、なかなか見応えがあるじゃないか」

提督「…………」



比叡「…………」スッ

 ――ボン、ボンッ、ドウゥゥン


偉いさん「ひっ!? 砲撃ではないか! どうなっとる、提督クン!」

提督「……落ち着いて下さい。あれは空砲です」

偉いさん「……んなこた解っとるよ!(半ギレ」

提督(しかしどういうことだ? 空砲を撃つとは聞いていないが……)


比叡(…………)

 ――一瞬、提督と比叡の目が合う。

 比叡はパチッとウインクすると、再び右手で砲撃の合図を送った――

偉いさん「おい、中央の戦艦、主砲をこっちに向けとらんか!?」

 ――ボボボボボッ、ボゥンッ


偉いさん「ひぃっ!?」

 比叡以外の艦からは、明石の開発したくすだま状の砲弾が発射され、辺りに紙吹雪を散らす。観客からは歓声が起こった。

 そして比叡の主砲からは――

提督「……」パシッ


提督(……丸めた紙?)ガサ

 ――艦隊の勇ましさをアピールするためのデモンストレーションです。このくらいのイタズラ、許されますよね?

提督(……もう一枚は)ガサ

 ――追伸、どうしても我慢できなかったので書いちゃいます

提督「…………」

 ――鎮守府に戻ったら、ぎゅっ、てして下さい

提督「…………」ニヤ


 ・
 ・
 ・

大淀「――お疲れ様でした、比叡さん」

比叡「ありがと、大淀」

大淀「私たちはこの後自由行動になりますが、比叡さんには提督が上層部と会食するのに付き添って頂きます」

比叡「ひぇぇ、休む暇もなしか」

大淀「時間の猶予はありますが……提督がお待ちですので、本館二階の左手突き当りの部屋に向かって下さい」

比叡「はーい、了解」


 ・
 ・
 ・

比叡「二階、左手、突き当り、と……あ、ここか」

比叡「(コンコン)司令ー? 入りますよー?」

明石「(ガチャ)お待ちしてました、比叡さん!」

比叡「……あれ? 明石? 司令は?」

明石「大丈夫です、この明石が仰せつかっていますから。さ、入って入って!」

比叡「???」


明石「驚かないでくださいね、比叡さん……じゃーんっ!」

比叡「はえ……?」

比叡「…………ひえええええっ!?」

明石「提督のご注文で準備いたしました……比叡さん用のドレスです!」

比叡「ま、まさかこれを着ろって言うの!?」


明石「当然です。比叡さんの美しさを、バシッと見せつけてやって下さいよ~」

比叡「いやいやいや、無理無理無理!」

明石「だ~いじょうぶです。着付けもお化粧も髪のセットも、この明石にお任せください!」ワキワキ

比叡「ちょっ……待って……」

比叡「ひええ~~~…………」


 ・
 ・
 ・

提督「…………そろそろか」

提督「(コンコン)明石、比叡、どうだ、用意できたか?」

明石『提督ですか? どうぞ入ってきて下さい!』

比叡『えっ! 明石ちょっと待……』

 (ガチャリ)

比叡「!」

提督「……!」

明石「ふふん……どうです?」


 ――比叡に用意されたのは、普段の元気一杯な雰囲気とは逆の、落ち着いた黒のロングドレス。

 露出した肩を恥ずかしがるように、手袋をした両手で自身の肩を抱いている。

 通常はピンとはねている髪先は入念に梳かれ、肩口に届くか届かないかといったところ。

 そして、いつも化粧っ気がないだけに格段に雰囲気を変えている薄化粧。白い肌、紅い唇、潤んだ瞳――


提督「……綺麗だ、比叡」

比叡「…………ありがとう、ございます」ボソボソ

提督「…………」

比叡「…………」

提督「……やばい、どうしよう」

比叡「…………」


提督「……このまま式場に連れて行きたい」

比叡「///」

明石「あ~、ゴホン。久方ぶりの逢瀬で燃え上がるのは解りますが、そろそろ会食に向かわれた方がいいのでは?」

提督「! そ、そうだな。行こうか、比叡」

比叡「は……はい」

明石「……後ほどゆっくりと、お楽しみ下さいね」ニヨニヨ

二人「///」


 ・
 ・
 ・

 ――会食後、中庭にて

提督「はぁ~、ようやく終わった。これでしばらくあのオッサンどもの顔を見なくてすむ」

比叡「お疲れ様でした、司令」

提督「ああ。比叡こそ、十二分に頑張ってくれていくら感謝してもし足りんぐらいだ」

比叡「いえ、そんな……」


提督「……それにしても」

比叡「……?」

提督「比叡がテーブルマナーや行儀作法に長けているのが……」

提督「そして今もそうだが、しとやかな振る舞いができるのが……正直、意外だった」

比叡「……御召艦ですから、これくらいは」

比叡「それと、服装のおかげですかね……」

提督「まず形から、みたいなものか……そうだ、比叡」

比叡「はい?」


提督「よく似合っている……本当に、綺麗だ」

比叡「…………」

比叡(あー、どうしよう……)

比叡(胸がドキドキして、言葉が何も出てこない……)

提督「……少しフライングになるが」ギュッ

比叡「あ……」

提督「…………」

比叡「…………」


比叡「……ダメです、司令」

提督「どうした?」

比叡「また、欲張りな私が出てきそうです……」

提督「……心配するな」

提督「俺ももう、我慢できそうにない……」グイ


比叡「…………んっ」

提督「…………」

比叡「…………んっ、はぁっ……」

提督「ふぅ……」


比叡「あ……」

提督「ん……?」

比叡「……口紅、付いちゃいました」

提督「…………」


提督「……じゃあもう、何回やっても同じだな」

比叡「……そう、ですね」

比叡「…………んんっ」

提督「…………」

比叡「…………はぁぁ……」トロン


比叡「…………司令」

提督「うん……」

比叡「……今度ドレスを着る時は」

比叡「……左手の薬指に、アクセサリーがほしいです」

提督「…………解った」

提督「……じゃあ……近いうちに、な」

比叡「……ほんと?」


提督「ああ、約束だ……」

比叡「……約束、しましたからね」

提督「ああ」

比叡「…………」チュッ

提督「お……?」

比叡「……この首筋のキスマークが、証ですからね」

提督「……比叡は、本当に欲張りだな」

比叡「……誰のせいですか」


比叡(ああ、こんなに幸せな夜を過ごしてしまったら、きっとまた――)

比叡(――司令のことを考えると、眠れない)

比叡(そんな夜を繰り返すことに、なってしまいそうだ――)



 比叡と提督と観艦式 了




 【艦これ】比叡「司令のことを考えると眠れない」
                          艦!


以上で本作は完結となります。読んでくれた皆様ありがとうございました

また気が向いた時に次回作でお会いしましょう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月06日 (木) 16:11:41   ID: GDgb_SsW

さすが金剛お婆ちゃん懐が広い

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