雪女「絶対零度だから」(177)


突然のお手紙失礼します

貴方にどうしてもお伝えしたい事がありますので

本日の放課後、B棟屋上にてお待ちしております


部活動直前の忙しい時間と重々承知しておりますが、よろしくお願い致します


            3年B組  雪女



男(これって…、ラブレター、だよな?)

男(…ラブレターっつー割にはえらく堅いけど)



―朝―

男「ふあ~あ…」

男(朝練お疲れ様でした、っと)

男(1時間目は数学か…、しょっぱなから睡魔との勝負だな…)

パカ

男(ん?)



男(手紙…?)

パッキパキ!

男(こ、凍ってる…)


男(…しかし、イマドキ下駄箱に手紙って)

男(けど、古風だけど、そう、だよな?)


男(いや、内容を確認するまではなんとも言えないけど)


ワイワイザワザワ…


男「!」ビクッ

男(ここじゃ誰かに見られたら恥ずかしいし…)




――


男(誰もいないな…)キョロキョロ

男(とりあえず中を…)

カキン

男(む)

コチンコチン

男(ぬぬぬ…)

コキン


男(バッキバキに凍ってて開けられねぇ!!)

男(ぐぬーっ!)

カチン

男(くそっ…、溶けるまでまで待たないとダメだな)


男(中身、気になるーっ!!)


―放課後―


タンタンタン…

男(手紙が気になって、おかげで眠気は吹っ飛んだけど…)

男(授業に集中できなかった…)


男(しかもいざ開けてみたら…!)


男(マジでラブレターだったぁぁぁぁっ!)

男(こんな呼び出し受けたの人生で初めてだっ!)

男(しかも、先輩から!)

男(開けた後は後で、嬉しいやら何やらでドキドキして授業に集中できなかった…)


タンタンタン…

男(確か雪女先輩って、すっごい綺麗で上品で噂の人だよな)

男(…マジか)

男(いやいやいや、イタズラって可能性も…)

男(いやいやいや、そんな人がイタズラなんてするワケ…)

男(いやいやいや、誰か他の奴が俺をはめるためにって事も…)

男(いやいやいや、手紙凍っていたし…)

タンタンタン…

トン

男(つ、着いた…)ゴクリ

男(とりあえず落ち着け、俺!)フー!


ガチャ



男「あの…、お待たせしました」

雪女「来てくれたのね」

男「先輩の手紙、読みました」

雪女「ごめんなさい、忙しい時間に」

男「いや、大丈夫っす」

男「それで、その…話、ってのは」




雪女「私、貴方の事好きなの」

雪女「お付き合い、してくれないかしら?」





男(ド直球きたぁっ!!)


雪女「ダメかしら?」

男「いや、そのっ、ダメ…ってか、お互いの事をよく知らないですし」

雪女「知らないことはこれからお互いに知っていけばいいんじゃないかしら?」

男「まあ、そう、かもっすね」

男「でも、どうして俺なんすか?」

雪女「惹かれた理由は、バスケットよ」

男「え?」

雪女「バスケット、ずっと頑張っているのを見てたから」

男「ええっ!?」

雪女「変な勘違いはしないで大丈夫よ」

雪女「私、手芸部に入っているの」

雪女「丁度、部室が体育館の向かいにあって」

雪女「窓から様子がよく見えるの」

男「そうだったんすか」


男「でも、他にももっとカッコいい先輩とか、後輩もいるじゃないすか?」


男「なんで俺を?」

雪女「迷惑、だったかしら?」パキ、パキン…

男「あいやや、いや!迷惑っつーことはないっす!」

男「正直、混乱してる部分が多いですけど、すごく嬉しいっす!」

雪女「そう…、良かった」ピシン、ピシ

ヒンヤーリ

キラキラ…

男(雪の結晶…?)

男(先輩の周りの空気が凍ってる…?)

雪女「あ、気にしないで」パホパホ

雪女「私、雪女だから」パッパッ

男「あ、はい」


雪女「なぜ、貴方を、だったわね」

男「混乱してる大部分はソコです」

雪女「バスケットをしているときの貴方はとてもいい顔をしていたわ」

雪女「どれだけ大変な練習をしていても」

雪女「どれだけ厳しい指導を受けても」




雪女「貴方の顔はいつでも素敵だったの」ジーッ



男(そんなに気恥ずかしい事を堂々と見つめられながら言われると…!////)カァッ


雪女「でも、こういうの…『ギャップ萌え』って言うのかな?」

男「え?」

雪女「一度だけ、泣いているのを見たことがあるの」

男「ま、マジっすか!?」



雪女「去年の秋だったわね」

男「んー…?」


男「ああっ!」

男「それってもしかして、冬の選抜の予選で負けて全国逃した時の!」


男「でも確かあの日って日曜だったハズ」

雪女「手芸部というだけあって部室にすごく材料が揃ってるのよ」

雪女「だから休日でもよく利用しているわ」



男「うわぁぁぁ…恥ずかしいじゃないすかぁ…////」


雪女「恥ずかしい?」

男「だって泣いてるとこ見られたんすよ!?」


雪女「恥ずかしいなんてとんでもないわ」

雪女「悔しくて泣くなんて、スポーツじゃよくあることじゃない?」

男「そりゃ、そうですけど…」

雪女「当時の3年生にしたら最後の試合だったのよね」

男「…はい」

男「俺、試合の時、ベンチに居たんです」

男「途中で交代もしたんですけど、もっと活躍できたんじゃないかって」

男「先輩達の足を引っ張ったんじゃないかって」

男「でも当時の部長から最後の挨拶ん時に」

男「『よくやってくれた』『お前はちゃんと仕事したよ』って言われて」

男「最初は悔しかったけど、そう言われて嬉しくて…でも、やっぱり悔しくて…」

男「色んなものがグルグルしちゃって…」

雪女「ええ」


雪女「貴方が一生懸命だからこそ、流れた涙じゃないかしら」


雪女「その時の貴方を見たとき」


雪女「私の心は」



雪女「まるで一隻の巨大な氷砕船が海を凍てつかせた氷を真っ二つに割るような衝撃を受けたの」

男「いや、先輩っ! 例え方が!」

雪女「何か?」シレッ

男「…いえ、何でも」


雪女「とにかく、その時『見ていただけの男の子』が『気になる男の子』になって」ピシ

雪女「少しずつ降り積もる雪のように想いが重なって」ピシパキ…

雪女「『好きな男の子』になってしまったの」ピシンパキン!

男(また先輩の周りが凍りついて…)



雪女「私も我慢しようとしたの」

雪女「でも自分で何もしないまま、貴方が他の女性(ひと)と結ばれるのを黙って見ているほど」

雪女「出来た女じゃないの」

男「雪女先輩…」


雪女「もちろん貴方から直接断られれば」

雪女「他に好きな人がいる」

雪女「部活の邪魔になる」

雪女「どんな理由でも受け入れるわ」

雪女「だから貴方から直接聞きたいの」ピシンパキン…


男「その…、俺は…」


ムームームー!

男「でででんわ!?」ゴソ

ムームームー!

男「あ、やべっ!クラブの時間っ」

男「すいませんっ、先輩!」

雪女「大丈夫よ。どうぞ」

ムーム…ピッ


男「もしもし!」

男「わかってる!うん!」

男「大丈夫!怪我とか病気じゃないから、うん」

男「ああ、すぐ行く!」

ピッ


男「すいません、宙ぶらりんのまま…」

男「呼び出しかかりました…」

雪女「いいの、時間を作ってくれただけで嬉しいわ」


雪女「返事、待ってるわ」


男「はい!ちゃんと連絡します!」

雪女「じゃあ…」

男「必ず返事しますから!」タッタッタッ

雪女「あら」

タッタッタッ

雪女「あらあら」


雪女(…お互いに連絡先知らないのに、どうしようかしら?)



雪女(それだけバスケットに夢中なのね)


パッキパキピシン


雪女(さすがに、これだけドキドキするとよく凍るわ)

パキキ…パキン…

――

レスありがとうございます。

多少投下がゆっくりになる事もあるかと思いますが、最後までお付きあい頂けると幸いです

よろしくお願いいたします



――

ジャーーー

バシャバシャッ


同期1「男、なんか今日そわそわしてなかったか?」

同期2「そんな感じしたー」

男「そ、そうか?」

部長「そうだな。今日は全体的に攻めきれてない感じだったな」

男「すいませんっ、気をつけます!」

部長「いやなに。そんなに悪いプレイじゃなかったさ」

部長「ただ、お前の持ち味はガッシガシ攻めるタイプのスタイルだから、いつもに比べたらってことだ」


部長「まあ、怪我とかに繋がる気の散り方じゃなければ問題無いよ」

部長「すぐ夏の大会の予選も始まるしな」

男「…気をつけます」


男(ああぁあぁ…、いっちょ前に『返事しますから』って言っておきながら)

男(連絡先聞くの忘れるっつー超級凡ミスやらかしたんだ)

男(集中したくても、そわそわしちゃうよな…)


男(…雪女先輩には、幻滅されたかも)

男(せっかく好きって言ってくれたのに、無下に扱ったように伝わってないかな…)




?「男くん」

男「へっ!?」

雪女「お疲れ様」

男「ゆっ、雪女先輩っ!?」

男「どうして…」

雪女「どうしてって、片付け終わるのが見えたから」

男「あ、そうだった。手芸部の部室」



雪女「連絡先お互い知らないでしょう?」

男「仰る通り…」シュン

雪女「気にしないで」

雪女「そうやって自分の好きな事に夢中になってるところ」




雪女「男くんのそんなところを好きになったんだから」





バスケ部一同「!!!!」キキミミー!

男「ちょっ、先輩っ!?」

雪女「すぐに終わるでしょう?」

雪女「裏門で待ってるから」タッタッタッ

男「先ぱ…」

バスケ部一同「…」ジーッ


部長「男、おまっ…、どーゆーこと!?」

バスケ部一同「そわそわの理由はこれかーっ!?」


男「いや、その…」

部長「雪女さんが好きって…ええっ!?」

同期1「3年生、ですよね?」

同期2「部長、知ってますー?」

部長「おうよ。俺らの学年じゃ有名よ」



部長「雪女独特の雰囲気」

部長「学力も学年上位の方だけど」

部長「それを鼻にかけないクールさ」


部長「まさにクールビューティー!」

部長「結構ファンも多いとか…」


同期2「そんな人から好きって言われたのかー。良かったなー」ポン

男「え?」

同期1「カッコいい感じの美人だと思うぜ?」ポン

男「え、ああ、うん」



部長「なんか、お前らえらく余裕だな」


同期1「あ、俺、他校っすけど彼女いますんで」

部長「そ、そうなの?」

同期2「俺もー、中学からの付き合いの彼女いますよー」

部長「へ、へー」

その他バスケ部員「実は俺も!」「僕も…」「俺もっす!」アーヤーコーヤー!



部長「ちょっと待って! 何この彼女居る率!?」


男「じゃ、じゃあ待たせるのもアレなんでお先に…」ソロリソロソロ…



部長「男っ、頼む! 俺を一人にしないでくれ!」ガッ

男「こ、こればっかりは何とも…」


部長「ぐぬっ…」



部長「お前らぁ…」ゴゴゴ…




部長「彼女にうつつ抜かしてバスケの手ぇ抜きやがったら」ゴゴゴ…




部長「練習っ、倍にしてやるからな!」ボッカーン!


同期1「あ、心配には及ばねぇっす!彼女のおかげでガッツリ頑張れてますんで!」

部長「へ?」

同期2「俺もー、中学からずっと応援してくれてるんですよー」

その他バスケ部員「実は俺も!」「僕も…」「俺もっす!」アーヤーコーヤー!

部長「…リア充どもめ…」






部長「彼女…ほしい…」クスン



男「お、おつかれっしたー」タッタカター



――



――

雪女「お疲れ様」


男「すいません、お待たせして」

雪女「大丈夫よ、少しだけだから」

男「でも放課後からずっと待っててくれたんでしょう?」

雪女「ただ待っていただけじゃないわ」

雪女「今、刺繍をやっているの」

雪女「集中するからあっという間だったわよ」

男「なら良かったっす」




雪女「それより」

雪女「手紙の返事、聞かせてくれないかしら」

男「あ、はい」ゴク


男「えっと…」

男「俺なんかが何でって正直思いました」


男「でも先輩の話を聞いて、バスケ打ち込む姿ごと俺を好きになってくれたのは正直、嬉しいっす」

男「バスケ好きですから」


雪女「そうね」

男「でも、好きだからこそ…半端な事はしたくないんす」

男「ですから、少なくとも夏の大会が終わるまでは、ゆっくり二人の時間てのは中々取れないと思うんです」

雪女「きっとそうなるわね」


男「それでなくても先輩、3年じゃないすか」

雪女「ええ」

男「受験勉強とか大変ですよね?」

男「お互い、部活と受験勉強。なかなか合わせるのも難しいと思うんす」

雪女「ええ。でも、それでもいいわ」

男「そうなると先輩の事、ほったらかしにすることも多くなっちゃうと思うんです!」

雪女「だから、それでも大丈夫よ」

男「せっかく彼氏彼女の関係になれても、先輩が寂しい想いをする…へ?」

雪女「だから、大丈夫って言ってるじゃない」

雪女「貴方って結構慌てんぼなのね」


男「す、すいません…」


雪女「ね、よく聞いて」

雪女「私は、私の『好き』で貴方の『好き』を奪うつもりはないの」

雪女「貴方が『好き』なことをしてる姿勢が、私の『好き』だから」

男「せ、先輩…////」キューン!

雪女「受験もね、今の成績が維持できれば推薦も大丈夫だろうって」

男「先輩って成績いいんでしたよね…」

雪女「努力はしているつもり」



雪女「それで、返事としては?」

男「あえっ、ええっとですねっ!////」

男「あのっ、こんな俺の事、好きになってくれてありがとうございますっ!////」

男「そのっ…ホント俺でいいんでしたら、是非お付き合いして下さいっ!////」フカブカ

雪女「ありがとう」ピキュキュキュ…


男(ぴきゅきゅきゅ?)

雪女「こちらこそ…」パキンパキン…パキキキ!

男(急に寒くっ…もう5月なのに!)ブルッ

雪女「よろしく…」パキャン…パキャンパキュキュキュ!!

男「なっ、地面が凍っ…!!!」


雪女「お願いね」ピキャシャーーーーーーーンッッ!!!



男「うおぉわっ!?」


ヒュォオォ…

パキ…パキン…

男(去年流行った映画のワンシーンみたいだ!)



雪女「あら、ごめんなさい」

雪女「気持ちが昂ったりしてドキドキすると、周りの物を凍らせてしまうクセがあるの」

男「ゆ、雪女ですから、仕方ないですよね」


雪女「雪女の私と付き合うこと、後悔してない?」

男「い、いえ全く!」

男「むしろ、そのっ、誰かが自分の事を想ってくれてるって、こんなに嬉しいんだなって!////」



雪女「そう、良かった」パキュン…


男「と、とりあえずお願いがありましてですね…」

雪女「あら、早速『彼氏』からのお願い?」

雪女「何かしら?」

男「あの…靴がですね、地面に張り付いちゃってるんで、氷、溶かしてもらえませんか?」


雪女「あら、ごめんなさい」

ソッ…

雪女「手で払えば取り除けるから」パホパホ…

男「よっ、と」パキン



雪女「男くん」

雪女「改めてこれからもよろしく」

男「はい! こちらこそ、よろしくお願いします////」ペコリ


―翌日・昼休み―


ガヤガヤ…

ガクショクイク?

オレベントー

ガヤガヤ…


クラスメイト「男君、お客さん来てるけど」

男「え? 俺?」

雪女「男くん」ヒョコ

男「せ、先輩っ!?」

雪女「お昼、一緒に食べない?」

男「え」

教室「ざわっ!?」


雪女「あらかじめ言った方が良かったんだろうけど、少し驚かせたくって」

雪女「私は是非一緒に食べたいんだけど、先約でもある?」

男「特に約束は無いんですけど」

雪女「じゃあ一緒に食べてくれない?」


教室「ざわわーんっ!!」

ドユコトドユコト?

ユキオンナセンパイ、キレイ!



男「えーと…」

雪女「私達付き合っているんだもの、ダメかしら?」




教室「ええーーーっ!?」

男「なっ…、先輩っ!?////」

雪女「どうしたの?」

男「いや、大勢の前でそう宣言されると」

男「恥ずかしいっつーか、なんつーか…////」

雪女「男くんは私達が付き合ってるって宣言されるとイヤなの?」

男「そ、そんなっ!イヤじゃないっす!!」






男「お付き合いしてるのは事実ですからっ!////」






シーン…


男「は!////」

教室「おお~っ!!////」パチパチ~



男「あわわ、いや、そのっ////」



男「先輩、あの…////」

雪女「宣言してくれて嬉しいわ」パキキ…

教室「おお~っ!!////」パチパチパチパチ~!





男「その…じゃあ、あの…お昼行きましょうか?////」

雪女「ええ」パキ…




教室「ぽーっ////」



――


キラキラ…サラサラ…キラキラ…



男「…あの」

雪女「何かしら?」

男「先輩って、緊張したり動揺したりすると周りを凍らせるんですよね?」

雪女「ええ。おおむねそうね」

男「今も先輩の後ろから、小さい雪の結晶みたいなのがキラキラして…」

雪女「…私の後ろ姿ばかり見ていたの?」

雪女「男くんも男の子だものね」パキン

男「違っ…違いますよっ!////」


男「氷とか雪の結晶が出てるってことはそれなりに緊張してるってことでしょう?」

雪女「二人で居て、貴方は緊張しないの?」

男「そりゃしますよ!」

男「ただ、先輩の方が周りにバレやすい分、変に気疲れとかしないのかなって」

雪女「そうね。しない、と言えば嘘になるけど」

雪女「それだけ、貴方が好きということよ。仕方ないじゃない?」パキキキ…

男「嬉しすぎる言葉なんですけど…////」

男「でも、また凍ってますよ?」

雪女「承知の上よ」

男「先輩には敵いそうにないです」


雪女「こっち」

タンタンタン

ガチャ



男「そうか、3年のC棟は他より一階高かったんだ」

雪女「見晴らし、ずいぶん変わるんじゃない?」

男「そうですね」

雪女「男くん、こっち」ポンポン

男「はい」チョコン

雪女「早速食べましょう」



男「…さっきから気になってたんすけど、その大きいバッグ」

雪女「保冷バッグよ」

男「ほ、ほれい?」

雪女「低温のまま暫く保存できるバッグよ、知らないの?」

男「知ーってますとも!」

男「なんで保冷バッグなんだろって事ですよっ!」

雪女「お昼に好きなものを持ってくるとなると必要になるの」ゴソゴソ





サッ

雪女「冷奴よ」




男「え?」


雪女「キンキンに冷えた冷奴、大好きなの」

雪女「それと気分で色々と選ぶために、薬味も何種類か持ってきているの」チョチョイ





男「し、渋いっすね…」ジー




雪女「…そんなにじっと見て」

雪女「男くんも食べたい?」

男「いやっ、そんなワケじゃ!」



雪女「いいわよ」チョイチョイ

ツム

雪女「はい、あーん」

男「あ、あーん!?」


雪女「男くんはお豆腐嫌い?」

男「嫌いじゃないっす! むしろ好きなんですけど!」

雪女「今日はわさび醤油にしたんだけど、それがダメ?」

男「それも大丈夫っす!」

男「そうじゃなくて!」

雪女「うん?」

男「先輩がっ、積極的なんでっ、心の準備が追い付かないっつーか!」

男「付き合い始めたの昨日ですよ!?」


雪女「時間なんて関係ないわ」

雪女「私は早く、でも節度を持って確実に、男くんに近づきたいの」

雪女「憧れの人だもの」

雪女「こういうのは…ダメかしら?」ジーッ


男「うう…そんな視線ずるいっすよぅ…」

雪女「どうかしら?」


男「…やっぱり先輩には敵いません」

男「せっかくですから、あーん、してくれますか?」

雪女「ええ、喜んで」

男「ちょっとドキドキしますけど…」



男「あーん…」

雪女「はい、あーん」



カチン

雪女「あ」

男「あむ」

ゴリュ

男「あがっ!? かっ、硬ぇっ!」


雪女「ごめんなさい。お豆腐が凍ってしまったわ」

男「いたた…、緊張して、ですか?」

雪女「そう、ね。少しでも早く男くんに近づきたいのに、私が失敗しちゃったら意味がないわね」

雪女「歯、大丈夫?口の中、怪我してない?」

男「大丈夫です」

雪女「良かった…。ごめんなさい」

男「謝んないで下さいよ!」

男「誰だってこんなシチュエーションなら緊張しちゃいますって」

雪女「うん。でも、逸る気持ちが裏目に出てしまったわ」

男「あの…」

男「代わりに俺がしてあげましょうか、なーんて…」

雪女「して、くれるの?」



男「でもハードルが高いなら、今日は止め 雪女「いえ、して頂戴」

男「く、食い気味の即決っすね」


雪女「貴方の為なら、どんな深い積雪(ハードル)も越えられるわ」

男「ははは、先輩って雪女なのに結構情熱的なんですね////」

雪女「そうかしら?」


雪女「それじゃ…お願い、できるかしら」ピシンパキン…

男「は、はい」

チョイチョイ

ツム

男「それじゃあ、その…あーん」ドキドキ



雪女「あー…」

雪女「…ぁん」モグ

男(これ…、あーんされる方だけが恥ずかしいと思ってたけど)

雪女「ん…」モグモグ


男(こっちもかなり照れるじゃないか!////)


雪女「うん、うん。食べさせてもらった方がいつもよりおいしく感じるわ」

男「どうも」


雪女「男くん、一度立った方がいいわ」

男「え?」

雪女「急いで」

男「えっ、はいっ!」スクッ


パキャキャキャーーーーーーーンッッ!!!

男「おわっ!また地面がっ!」


パキキ…パキン…

雪女「『あーん』て、すごく昂るのね。スゴいわ」

男「そんな真顔で言われても…」

雪女「とてもよかった。ありがとう」

男「こんなんで良ければいつでも」

雪女「いつでも、っていうのは嬉しいけど」

雪女「毎度毎度凍ってたら」



雪女「屋上が氷河期化してしまうわ」



男「…慣れるまで、控えましょうね」

雪女「そうね」


――

男&雪女「ごちそうさまでした」

男「まさかデザートにアイスクリームまで持ってきてるなんて…」

雪女「この保冷バッグは特別製だからアイスクリームも保冷できるの」


雪女「これにて校内お弁当デート、完遂ね」

男「そんな大層なもんですか!?」

雪女「私には何より嬉しいことよ」

雪女「男くんに近づくための確実な一歩だもの」


男「先輩…」

男(少しでも早く近づきたい、か…)


男「うむー…」

雪女「どうしたの?」

男「先輩、普段門限ってありますか?」

雪女「そうね、一応親からは言われてるけど」

雪女「それがどうかした?」

男「いや、俺の部活のせいで二人でゆっくりする時間が取れないって話…」

雪女「それは気にしなくていいって言ったでしょう?」

男「でも、せっかくですから先輩との時間、大切にしようと思うんす」

雪女「男くん…」


男「だから、ちゃんと出かけるっつーか、その…、デートに行きましょうよ!」

雪女「デート…」パキン…

男「デートつっても、土日も練習があるから夕方ぐらいからになっちゃうと思うんですけど」

男「先輩の門限もありますし、本当に少しブラブラして、軽くご飯とか食べて、質素で簡単な」

男「ホント、そんな感じのになるんですけど…」

雪女「無理しなくていいわよ」

男「無理じゃないっす!」


男「先輩は、俺のバスケを頑張ってるとこが好きって言ってくれましたけど」

男「それとは別で、俺は俺でちゃんと先輩を楽しませてあげたいんです!」




男「俺達…その…、付き合ってるんですから!」




雪女「男くん…」


男「できるだけ寂しい想いはさせないようにします」

雪女「嬉しい」

雪女「でも…ダメよ…」

男「えっ!?なんでっ!?」





雪女「凍るわ」パキャン…パキャンパキュキュキュ!!

男「えっ!?」

ピキャシャーーーーーーーンッッ!!!


雪女「そんなに嬉しい事言われると昂るじゃない」パキ…パキン…


男(よ、喜んでもらうのにも、気をつけなきゃいけないな…)

男「は、ははは…、喜んでくれて何よりっす」

雪女「ありがとう。楽しみにしているわ」

男「はい!」


―週末・とある繁華街―


ガヤガヤ…


男「…」

雪女「お疲れ様」

男「…」

雪女「?」

雪女「男くん?」

男「あっ、はいっ!」

雪女「どうかしたの?」

男「いやっあのっ////」

男「初めて私服見たんすけどっ////」

男「制服の時のクールなイメージのまんまで…」

男「やっぱり、綺麗な人だなって////」



雪女「…そう」パキキキ!

男「わあっ! 先輩っ、凍ってますよ!」

雪女「困るわ、ホント」パホパホ

男「おちおち誉めれないじゃないすか」

雪女「誉めてくれないの? 残念ね…」

男「どっちすか!?」

雪女「そうね…誉めて、ほしいわね」

男「できるだけ凍らないでくださいよー?」

雪女「善処するわ」


男「えっと…それで、どうしましょうか?」

雪女「どうしましょうか、とは?」

男「あの、その…、ホントに会うのが目的でしたから、こんな夕方からどうしようかと…」

雪女「あら、そうなの」

男「す、すいませんっ!デートって言いながら何も考えてなくて!」

雪女「いいのよ」

雪女「疲れてるのにわざわざ時間を作ってくれただけでも嬉しいわ」

雪女「そうね…、私の用事に付き合わせていいかしら?」

男「あっ、はい、大丈夫っす」

雪女「そう。じゃ行きましょう」



――



店員「ありがとうございましたー」



雪女「丁度、使いたい色の刺繍糸が切れてたの」

男「手芸って色々あって、奥が深いですね」

雪女「そうね。編み物や小物の裁縫、ビーズ細工も手芸の一種だから」

雪女「私は刺繍が得意なの」

男「言ってましたね」

雪女「あの模様が少しずつ紡がれていく感覚…」

雪女「たまらないわ…」ゾクゾク

雪女「時間があればレクチャーしてあげるわよ?」

男「俺、細かい作業苦手っすから、想像しただけで肩が凝りそうです…」


雪女「そう? 教えてあげるのは大歓迎だけど」

男「自分でやるより先輩が刺繍してるとこ、見たいっすね」

男「いつも俺の方ばかり見られてたんで、一度見たいっす」

雪女「じゃあ今度、部室に招待するわ」

男「はい! 是非!」




雪女「あとは少し、ウインドウショッピングでもしましょうか」

雪女「ブラブラゆっくり、ね」



――

ガヤガヤザワザワ…

男「はぁああぁぁああぁぁ~…」ドヨーン…

雪女「どうしたの?」

雪女「デート、つまらなかったかしら?」

男「いえいえっいいーえっ!! とんっっっっっでもないっ!!」ブンブンブンブン!

男「初デートですし楽しかったです、俺は…」


雪女「じゃあ、どうしてあんなに深いため息をついたの?」

男「いや…その…」

雪女「?」

男「コーヒー代、出してもらったり…」


雪女「ええ」

男「晩ごはん、ワリカンだったり…」

雪女「そうね」

男「すいません…」

雪女「なぜ謝るの?」

男「なぜって…、デートなのに先輩にお金払わせてしまって…」

男「俺だけ甘えてしまって…」シュン

雪女「あら、そんなこと」

雪女「仕方ないじゃない、私達まだ高校生よ?」

雪女「それにコーヒーと言ってもコンビニのワンコインの物だし」

雪女「晩ごはんだってリーズナブルなファミリーレストランよ?」

男「…でも、たくさんご馳走して頂きました…」シュンシュン


雪女「育ち盛りでスポーツマン、たくさん食べて当たり前よ」


男「でも…」

雪女「でもでも何でも、分相応っていう言葉、知ってる?」

男「え…? はい、まあ」

雪女「今の私達には私達なりの、そういうお付き合いがあると思うの」


雪女「何もあなたがそこまで気に病む必要はないわ」



雪女「男くんは今、バスケットに一生懸命でしょう」

雪女「今のあなた、バスケットに夢中なあなた、ありのままのあなたでいいのよ」

男「雪女先輩…」ジ~ン…


雪女「私はバイトしているし、と言っても贅沢はできないけれど…」

ギュッ

男「わ////」ドキン

雪女「こうしてあなたと恋人としての時間を過ごせる事が今は一番贅沢に思うわ」

男「先輩…」

雪女「あら? 私ったら男くんの手を握って…」

ギュッ

雪女「あらあら」パキキ…

男「おおわっ! 先輩っ、手っ手っ!!」

パキパキ…パキン!

男「わわわ!」


雪女「あらあら、男くんの手ごと」

男「つ、冷たいっ!」ヒンヤーリ

雪女「ごめんなさい。手を握るなんて昂って仕方ないわ」パホパホ

雪女「試合で使う大事な手を…。大丈夫?ケガはない?」

男「あ、大丈夫ですよ」

雪女「氷でケガしたりしたら大変ね。ごめんなさい」

男「大丈夫大丈夫! 部活で火照った体には丁度いいアイシングです!」

雪女「その優しいところも好きよ」パキパキパキパキ…

男「えあっ…と////」

男「ありがとう、ございます////」ポリポリ


雪女「じゃあ…そろそろ、サヨナラの時間ね」

男「そうですね。あんまり遅くなるとご両親も心配するでしょうし」



ギュ…

男「先輩?」

雪女「もう少しだけ…手を繋いでいて…」

男「あ…、は、はい…」

雪女「今日はありがとう」

男「いやっ、俺は何もしていませんよっ」


雪女「いいえ」フルフル

雪女「疲れているのも厭わず、私と過ごすためにこうして来てくれて」



雪女「とても嬉しかったし、楽しかった」


男「むしろ俺ばっかり先輩の世話んなって、お付き合いしてるのにこれでいいのかなって…」

男「これからもゆっくり出かけるなんてできないかもしれないし…」

雪女「何度も言うけど気にし過ぎよ?」

男「わかってはいるんすけど…」

雪女「そうねぇ…」


雪女「代わりに1つ約束」

男「はい?」


雪女「バスケット、頑張ってね」

雪女「試合に出て、活躍してね」





男「そ、そんな約束でいいんすか?」

書き込みが細々してしまう中、たくさんのレスを頂き、ありがとうございます。

引き続きお楽しみ頂けると幸いです


雪女「そんな?」

雪女「とんでもないわ」

雪女「あなたが夢中になる姿を、私は好きになったの」



雪女「それでも、その合間合間でこうして私を気に掛けてくれている」ギュッ…



雪女「実際にお付き合いしてみて、ますますあなたに惹かれたわ」ギュッ…

男「あ、あの…嬉しい…、です…////」ポリポリ


男「あれ? そういえば…」

雪女「どうしたの?」


男「さっきは手を繋いですぐに凍っていたのに」


男「今は凍りませんね」




雪女「当たり前よ」

男「え?」

雪女「わからないの?」

男「えっと…?」


雪女「手を繋いでいる嬉しさより」





雪女「これからサヨナラする方が、今はツラいということ」




男「あー…////」

男「あーもー、参っちゃいますよ、先輩には////」

ギュッ

雪女「あ…」


男「明日もまた学校で」

雪女「ええ」

男「お弁当も一緒に」

雪女「約束ね」

雪女「あとバスケットも約束ね」

男「はいっ!」


雪女「それじゃ…」スッ…

男「はい。気をつけて」

雪女「ありがとう。おやすみなさい」

男「おやすみなさい」

――


―別の週末―


男「はあっ、はあっ、お待たせしました」

雪女「急がなくていいって言ったのに」

男「先輩に早く会いたくて…」

雪女「もう…、そんなこと言って…」パキン…

雪女「嬉しいじゃない」パキパキン…

男「そう思ってくれるとありがたいっす////」


雪女「…ところで今日は映画はどうかしら?」

男「映画、ですか?」


雪女「うん。お母さんから無料鑑賞券をもらったの」

雪女「公開からしばらく経って少し流行りから外れた映画だけどね」


雪女「ちょうど見れる映画館が近くにあるの」

雪女「お母さんも知り合いから貰ったって言っていたから」

雪女「正真正銘の『無料』よ」

雪女「だから気を使わなくていいでしょう?」

男「お見通しですねぇ…」

雪女「さ、行きましょう」

――


ザワザワ…

男「スイマセンっっ!」フカブカ

雪女「ホントに…」

雪女「無理はしなくていいってあれほど普段から言っているのに」

男「でもデートの約束してましたし、俺も先輩に会えると思うとつい…」

雪女「私を想っての事は嬉しいけれど」パキキパキン

雪女「大会も近くなってきて、練習も厳しくなってきてるんでしょう?」

男「まあ…はい」


雪女「暗転してしばらくしたら寝ちゃってるんだもの」

男「面目ありません」

雪女「映画の内容も覚えてないでしょう?」

男「う…、恥ずかしながらほとんど…」シュン


雪女「気にしないで。映画の内容はお互い様よ」

男「え?」

雪女「普段はりりしいのに」

雪女「寝顔は案外可愛いのね」

男「ええっ!?」


雪女「私は私で映画鑑賞はせずに」



雪女「男くんの寝顔鑑賞していたから」



男「あああ…////」

男「何やってんだ俺は…////」

雪女「私はとてもいいものが見れて、大満足よ」



男「ホントすいません。以後気をつけます」シュン


雪女「いいのよ」

雪女「気を取り直して、お茶でもしにいきましょう」


―――
――


―また別の週末―


イラッシャイマセー


雪女「男くん、こっちよ」チョイチョイ

男「はあっ、はあっ…」

雪女「クラブお疲れさま」

男「す、すいま、せん、遅れ、ました…」

雪女「わざわざ走ってきたの?」

男「ふうっ…。まあ、先輩をあんまり待たせるのも申し訳ないと思ったんで」

雪女「私は大丈夫だったのに…」

男「ふうっ、少し遅くなりましたけど、今日はどうしましょうか?」

雪女「その事なんだけど…」

男「へ?」

――


店員「デザートのオレンジシャーベットです」

男「どうも」

雪女「どうも」

男「…」

雪女「…」パク

雪女「ん…、冷たくておいしい」


男「あの…、先輩はいいんですか?」

雪女「ええ」





雪女「しばらくはデート、しなくていいから」





雪女「よくよく考えれば、私がワガママ過ぎただけよね」

男「いやっ、そんなことないですよ!」

雪女「相変わらず優しいわね」




雪女「…インターハイの予選、来週からでしょう?」

男「そうっすけど、まだ数えるほどしか出掛けてませんし…」

雪女「言ったでしょう? 一生懸命なあなたが好きなの」

雪女「だから枷になりたくないの」

雪女「それに普段は学校で会えるもの。高望みはよくないわ」

男「すいません、俺のために」


雪女「デートの代わりってワケじゃないけど、コレ…」ゴソゴソ


雪女「はい」スッ

雪女「受け取ってくれない?」


男「お守り?」


雪女「中身はちゃんとした神社のものだけど、外身は私が縫って、文字と模様を刺繍したの」

男「コレ、俺に?」

雪女「他に誰がいるというの?」

男「ははは、そうっすね」


チラリ

男「必勝…か」


雪女「古くさい、かな?」


男「いえ、先輩が刺繍してくれたんだなって思ったら、がんばろうって気合いが入りますね」


男「それと模様は…雪の結晶ですね」

雪女「ええ」

男「先輩のしるしですね」

雪女「いつも傍で応援しているからって意味を込めて、ね」

男「はい! ありがとうございます!」





雪女「夏の大会が始まる前に、渡したいなって思って作っていたの」


雪女「間に合ってよかった」



雪女「そうでなければ、ひっそりと神社に奉納しにいくところだったわ」

男「ほ、奉納って…」

男「別に始まってからでも良かったんじゃないすか?」

雪女「いいえ」

雪女「私があなたにしてあげられる事なんて、これぐらいしかないから」

雪女「少しでも長く、一緒に」

雪女「あなたの心の近くに居れたらって思って」


男「先輩…」ジ~ン…


男「ありがとうございます! 俺、がんばります!」

雪女「ええ。応援しているわ」


男「そういえば先輩」

男「最近パキパキする回数が減りましたね」

雪女「そうね」

雪女「お付き合いに慣れた…っていうとすごく語弊があるように聞こえるけど」

雪女「うん…、事実、少し余裕を持って傍に居られるようにはなった、かな?」

男「少しは緊張しなくなった、と」

雪女「ええ」

雪女「『ああ私、この人とちゃんと恋人なんだなぁ』とか」

雪女「『気にかけてくれて嬉しいな』とか」

雪女「そういう少しずつの積み重ねのおかげかもしれないわね」


男「先輩…」


スッ

雪女「あ…」ギュッ

男「これからももっと先輩が、気楽に居れるようにがんばります」

雪女「あの…不意討ちはダメよ」

パキーーーーーンッッ!

男「ほあぁっ! 久しぶりに手が凍った!」

雪女「あらあら。ケガ、しないでね」

男「大丈夫です」





雪女「…私、もっと余裕を持たないとダメね」




――


―数週間後・昼休み―


雪女「予選トーナメントも順調に勝ち進んで」

雪女「決勝リーグ、1勝目おめでとう」パチパチ

男「どうもっす」ペコペコ

雪女「随分活躍しているそうね」

男「え? 俺そんなに噂になってますか?////」テレテレ

雪女「いいえ、なってないわよ?」

男「ですよねー」ガクー


男「まあ冗談はさておき、どうして試合の内容知ってるんですか?」

雪女「部長君に聞いたの」

男「俺に聞いてくれれば良かったのに」

雪女「男くんはきっと謙遜すると思ったから、他の人の視点から男くんの活躍を聞いてみたかったのよ」

男「そりゃあ俺一人の力でここまで来たワケじゃないですからね」

男「俺が俺がって言っちゃうなんて無粋ってもんでしょ?」


雪女「ほらね」

男「いやまあ…謙遜も何も、チームみんなの活躍あってこそですから」

雪女「でも部長君は褒めちぎっていたわ」

雪女「バスケットの事は詳しくわからないけど、攻撃の起点が男くんになるとスムーズに点が取れる?みたいな事を教えてくれたわ」

男「そう、ですか////」

雪女「頼りにされてるのね」

男「照れくさいっす////」


雪女「どう? このまま順調にインターハイ出場できそう?」

男「そっすねぇ…」

男「今年の決勝進出校はうちを含め、全部新参なんですよ」

男「去年の冬の選抜で決勝リーグに一番近くまで勝ち進んだのはうちなんですけど」

男「ただ、どこもインターハイ初出場を狙ってますからね」

男「油断はできません」


雪女「そう」ジーッ


男「な、なんすか?」


雪女「ホント、バスケットの事を話すときの眼差しは素敵ね」ジーッ


男「そ、そっすか?」


雪女「あなたが喜ぶ姿を想像すると、私もとても嬉しくなるわ」


男「そう、ですか…」

雪女「私のことは気にしないでいいから」

雪女「残りの試合も頑張って」

雪女「応援しているわ」

男「…はい」



――


部長「え?」

男「部長先輩、見たことないっすか?」


部長「そうだなぁ…」

部長「雪女さんが笑ってるとこなぁ…」

男「はい」

男「付き合ってから一度も、クスッとも笑ったとこを見たことないので…」

部長「1年の時に一緒のクラスだったけど、俺も見たことないなぁ」

部長「初めて見た時からずっとあんなクールな感じだったぜ?」

男「そうすか…」

部長「…なんかあったのか?」

男「いや、大したことじゃないんですけど」


男「雪女先輩も応援しててくれて、バスケとか試合の事とか話すと共感はしてくれてると思うんす」

部長「ふんふん」

男「ただ、いつもクールで感情を表に出さない人なんで、真意がわかんないというかなんというか…」

部長「ふーん」

ダムダム

部長「うまく行ってるように見えるのになっ、と!」シュッ、パスッ

男「いや、まあ…、俺の一人相撲っつーかなんつーか…」

男「雪女先輩はいつも気に掛けてくれてます」

男「でも、俺、先輩には何もしてあげれてないような気がして…」

ダムダムダム

部長「おいおい~、せっかく今年はいいカンジで勝ち進んでるのに、恋愛で凹んだりして今さら調子落とすなよーぅ?」


男「そこはご心配なく、っす!」ピュッ、パスッ!

部長「ならいいんだけど」

部長「頼りにしてるぜ?」ポン

男「はい!」

部長「あ、そうだ、思い出した」

男「はい?」

部長「雪女さんが笑わないって話」

男「何かあるんですか?」

部長「チラッと聞いただけだから、実際はわかんないけど…」




部長「心底気を許したり、心から安心できる相手には笑顔を見せるらしい」




男「そうなんですか?」

部長「前に女の子達が話してるのを聞いただけだけどな」

部長「たしかその子達、雪女さんと仲が良い子達だったハズ…」

男「そっすか…」

部長「まあ、男女の付き合いなら余計に仕方ないんじゃないか?」

男「すいません。プライベートな相談に乗ってもらって」

部長「気にすんな。心身ともにプレイに集中できるように気を配る」

部長「これも部長としての役割ってもんだよ」

男「あざっす!」ペコッ!


男「…あれ?」

部長「ん? どした?」

男「相談に乗ってもらってこんなん言うのもアレなんですけど…」

男「部長先輩、こーゆー話すると、いつもだいたいイジケません?」

部長「なっ…てめっ…!」

男「すっ、すいませんっ、つい…!」

部長「いやその…実はな…」キョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ

男「?」

部長「…俺にも春が来たかもしれません」ボソッ

男「は?」

部長「『全国目指して頑張って!』って」

部長「『好きだから応援してるよ!』って」

部長「このリストバンドと一緒に」スッ

男「おおーっ!」

部長「シーッ! 声がデカイ!」


男「だ、誰か聞いても大丈夫っすか」ボソッ

部長「…中学から一緒の同級生」

男「…」

部長「…」ポリポリ

男「おおーっ! 良かったじゃないすか!」

部長「声がデカイってば!」シーッ


部長「他の奴らに、彼女にうつつナンタラカンタラ~って言っときながら」

部長「俺がフワフワしてたんじゃ、示しがつかねぇだろ?」

部長「だから、冷やかされないように秘密に…」



同期1「おめでとうございますっ」ヌッ
同期2「おめでとうございますー」ヌッ


部長「ぶわあっ!?」ビクッ!

同期1「冷やかしたりするワケないじゃないっすか!」

同期2「秘密なんて水くさいですよー」

部長「ま、まあでも、まだちゃんと返事してないんだよ」

部長「相手も、『試合が一段落するまで返事はいい』って言ってたし」

部長「俺も全国出場決めて、ビシッと返事しようと思ってな!」


同期2「部長先輩かっこいいー!」

同期1「それでこそ部長先輩っすね!」


同期1「よっし! じゃあ、ここは一発…!」



同期1「おーい! 全員集合っ!!」


部長「ちょっ、何?何っ!?」

ダダダッ!


バスケ部一同「うおーっす!!!」



同期1「決勝リーグ、とりあえず1勝はした! しかし!」

同期1「今年はうちをはじめ、他も皆初出場組だ」

同期1「まだまだ油断はできねぇっ!!」




同期1「これまで3年生として、部長として!」

同期1「俺達部員を引っ張ってきてくれた部長先輩に恩返しするためにも!」



同期1「必ず全国に行く!」


同期1「だからもう一度、気合いを入れ直そうぜっ!!」


同期2「同期1ってー、何気に統率力ありますよねー」

部長「ああ」

部長「今も副部長として、いつも助けられてるよ」

男「次期部長はあいつでしょ?」

部長「異論無いだろ?」

男「はい。あいつならついていこうって気にさせられます」

部長「できた後輩たちに恵まれて俺は幸せだよ」

部長「受験があるからな…。実質、夏の大会が俺にとっちゃ最後の公式戦になる」




部長「頼もしい限りだよ、ホント」


男「先輩…」

同期2「部長先輩…」



同期1「そして、全国に行けた暁には…!」



同期1「部長先輩がカッコよく、告白の返事ができる!!」

男&同期2「!?」

部長「ずぉわあぁぁーっ!?」


その他バスケ部員「「「おおおおーっ!! マジっすか!?」」」



同期1「よしっ! じゃあ気合い入れんぞォっ!」


部長「てめっ、なんてこと言って…!」


同期1「俺達が新しい歴史を創るっ!」

同期1「俺達バスケ部は全国出場っ!」

部長「お?」


同期1「部長先輩に春をっ!」

部長「え!?」

同期1「部長先輩に彼女をっ!!」

部長「ひゃーっ!」

同期1「ファイッ、オオオオー!!」

部長「ひゃーっダメだっ、恥っず!!////」


バスケ部一同「「「ファイッ、オオオオー!!!!」」」



――



――


男「…って事がありまして」

雪女「ああ、きっとあの子ね」

雪女「明るい元気な女の子と一緒に居るのを最近よく見かけるわ」


男「いきなりバラされて、焦ってましたけどね」


男「それに部長先輩は冬の選抜は出るつもりはないみたいです」

雪女「そうなの?」

男「今回のインターハイが先輩にとっちゃ最後の大会」

男「だからこそ、俺達もいつも以上に頑張らないと…!」グッ


雪女「仲間のために試合に臨む…」

雪女「その心意気も素敵ね」ジーッ


男「あ…いえ…////」

男(雪女先輩がこうして応援してくれている…)

男(俺も先輩の気持ちに答えないと…)







男(…心底気を許したり、心から安心できる相手には笑顔を見せるらしい、か…)






男(雪女先輩は、俺に心を許してくれてますか?)



男(んな事、聞けるワケないな)


雪女「どうかした?」


男(俺自身の行動で雪女先輩を笑顔にさせたいな…)

男「いえ、何でも」


男「チーム全体の気合いも一層高まりましたし、先輩も応援お願いしますね!」


雪女「ええ。もちろん」

男「俺、頑張りますから!」




―決勝リーグ最終戦―



審判「試合っ、終了ーっ!」


男「やったっ…!!」グッ

同期1「やったな」ガシッ

同期2「やったー」ガシッ



部長「…」


男「部長先輩…」

部長「…ぐひっ…うぐ…」ポロポロ…

同期1「相手さんにカッコよく返事できるのが泣くほど嬉しいんすね」

部長「ぢっ、ぢがう(違う)わいっ!!」

同期2「わかってますよー、先輩」


部長「んびっ、びんな(みんな)…」


部長「はうっ、ホントに、ありがとな…ぐしっ…」


男「礼なんていらないっす」

同期1「そっすよ! 逆にお礼を言うのは俺らの方じゃねぇっすか!」

同期2「そうですよー」

同期2「先輩がちゃんとみんなをうまくまとめてくれたからここまで来れたんですよー」


部長「ぐしゅっ…」

同期1「それに、まだまだこれからっすよ! これからが全国大会本番なんすから!」

部長「そうだな」

男「さあ、整列、行きましょう」ポン


部長「ぐすっ…、おうっ!」


――



――


雪女「全国出場おめでとう」パチパチ

男「どうもっす」

雪女「ホントに出場しちゃうなんてスゴいわ」パチパチ

男「先輩もたくさん応援してくれたじゃないすか」

男「すごく頑張れた気がします」

男「ありがとうございました」ペコ



雪女「まだお礼は早いわよ」

雪女「インターハイはこれからよ?」

男「そうですね! より一層気合いを入れます」


男「それで、ひとまず応援してくれたお礼ってことで、まるまる1日、どこかに行きませんか?」

雪女「時間はあるの?」

男「しばらくの間、日曜日は予選の疲れを取るとか期末試験対策とかでオフになってるんです」

男「近いのは次の日曜日ですね」

雪女「日曜日…か」

雪女「ごめんなさい。家族で用事があるの」

男「…あ、そっすか…」ガクリ

雪女「土曜日は?」

男「すいません。土曜は練習なんです」

雪女「いつもみたいに終わってからとか?」

男「それじゃいつもと変わんないっすよ」

男「一度、先輩と1日ゆっくり過ごしたいなって」

男「いつもバスケの都合に合わせてもらってて、ちゃんと先輩の為のデート、したいんす」

雪女「男くん…」


雪女「じゃあ、楽しみは取っておきましょう?」

男「ですね。その次の日曜日はどうすか?」

雪女「ええ。問題ないわ」



雪女「ただ…」

男「ただ?」

雪女「そうなるとテスト勉強とか大丈夫? 赤点いくつか取るとインターハイ出れないんじゃないの?」



男「う…、赤点だけは取らないようにガンバリマス…」

雪女「…そこも安心できるなら1日デートしましょうね?」


―土曜日・繁華街―

ガヤガヤ…

男(六花(ろっか)…雪の結晶の事を六花って言うのか…)

男(インターハイに向けて心機一転、リストバンドを新しく買おうかと思ってたら)

男(『六花モデル』を見つけた)




男(水色の地に、白の雪の結晶の模様が涼しげでいいし)



男(何より)



男(先輩の、俺のカノジョの象徴)




男(うん! 俺、今ちょっとキモかったかもしんない////)


男(でもお守りとお揃いになるし、いいなァ、これ…)

男(買おう!)

――

店員「ありがとうございましたー!」


男(…そろそろ学校に向かうか)




男(あ)

男(向こうの通りに居るのは…)


男(雪女先輩!)



雪女「…」


男(んー、何たる偶然!)

男(少しだけ話を…)



男「えっ!?」



謎の男「…、…」

雪女「…!」


男(だ、誰だ…、あの隣の男…)

男(大学生…ぐらいか?)


雪女「…、…」ニコニコ

雪女「…」ニコニコ

男(先輩…笑って、る…)ドクン…



雪女「…」ニコニコ

謎の男「…、…」ナデナデ

雪女「…」プイッ

謎の男「…」ケラケラ

雪女「…!…!」クスクス


男(『心底気を許したり、心から安心できる相手には笑顔を見せるらしい』)


男(先輩の頭…、撫でて…)ドクンドクン…


雪女「…」テクテク

謎の男「…」テクテク




男(先輩っ…)ドクンドクン…

ドンッ

女性「あっ、すいません」ペコリ

男「あっ、と! こちらこそスイマセン!」ペコペコ

ガヤガヤ…




男(見失った…)

ガヤガヤ…

男(くそ、時間…)

男(…クラブ、行かないと…)





――



――


部長「よーし!次っ!オフェンスのフォーメーションの確認!」ハァッハァッ

バスケ部員「「「うおおおーす」」」



男「ぜはっ、んぐっ、はあ…はあ…」

男(くそっ、体がいつもみたいに動いてくれない…)

男(でも、みんなには迷惑かけれない)

男(くそ…私情でなんて…)









……


雪女「…」ニコニコ

謎の男「…、…」ナデナデ

……






男(くそっ、くそっくそくそくそっ!)ゼェッゼェッ…



部長「お、おい男。息の上がり方、ちょっとおかしくないか?」



男「大丈…夫っす、ぜはっ…」

男(先輩の事でここまで崩れるなんて…!!)

部長「顔色も少し悪い、か」

部長「マネージャー! 保健室連れて行ってやってくれ!」

男「大、丈夫です…ぜっぜぇっ」

部長「あほぅ」

男「は?」ゼェッゼェッ


部長「今は全国に向けての調整を主に練習してる」

部長「そこまでハードな練習じゃないけど、ヘタに無理するとケガしかねない」

男「くそぅっ…」

部長「一度保健室行ってこい」

部長「何も無ければ少し休んで帰ってこい」

部長「無理はナシだからな!」



男「すいま、せん…はぁっはぁっ…」




男(くそくそくそっ…くそっ…)






――



男母「発熱と疲労感、倦怠感」

男母「風邪こじらせたみたいね」

男「ふう…はぁ…」


男母「インターハイ決まって少し気ィ緩んだんじゃないの?」


男「かも…」

男母「まあ、決まった後で良かったじゃない?」

男(イヤ、ホント。決まった後で良かった…)



男(先輩の事も…全部…)


男母「母ちゃんさ、まさかアンタがインターハイに出るなんて思ってもみなくてさ」

男母「実は今、けっこう鼻高々、なんだよね~」

男「ん…」

男母「アンタだけの力じゃないけど、アンタもちゃんと努力してたもんね」

男母「晴れ舞台、期待してるからきっちり治しな」

男「うん…」





男(はあ…、体だるい…)

男(…)


男(先輩が応援してくれてたから、ついバスケに集中しちゃったけど…)

男(今までを考えりゃ、愛想尽かされても当然ちゃ当然だな)

男(いくらバスケをしてる姿が好きだっつっても)

男(先輩もクールとはいえ、普通の女の子なんだし)

男(もっと出かけたりしたかったんだろうな…)


男(俺みたいなスポーツ小僧より、昼間見た大人の男が先輩には似合ってるよな)


男「はあ…」




男(風邪に感謝だ…)

男(色々キツいけど、体が勝手に休むように言ってるから…)




男(あんまり深く考えないで済む…)




男(寝て…起きたら…、気持ちの整理、しよう…)




男(先輩にも連絡して…)


男(…)


男(雪女、先輩…)


男「…ふー…」

男「…」


男「すー…」スースー





ムムー!ムムー!ムムー!


―着信・雪女先輩―


ムムー!ムムー!ムムー!



――



……

雪女『私、貴方の事好きなの』

雪女『お付き合い、してくれないかしら?』


……


雪女『私は、私の『好き』で貴方の『好き』を奪うつもりはないの』

雪女『貴方が『好き』なことをしてる姿勢が、私の『好き』だから』


……


雪女『はい、あーん』


……


雪女『手を繋いでいる嬉しさより』


雪女『これからサヨナラする方が、今はツラいということ』


……



雪女『普段はりりしいのに』

雪女『寝顔は案外可愛いのね』



……


雪女『私があなたにしてあげられる事なんて、これぐらいしかないから』

雪女『少しでも長く、一緒に』

雪女『あなたの心の近くに居れたらって思って』


……



雪女『ホント、バスケットの事を話すときの眼差しは素敵ね』ジーッ



……





――



男「ん…」

男(夢か…、先輩との思い出…)

モゾッ

男「んんっ…」

男(体…だいぶ楽になったみたいだな…)



男(今何時だ)キョロ

キョロ

雪女「…」


男(目覚まし…)キョロキョロ

キョロ…

男「ん!?」


雪女「起きたのね」

男(んえっ!!?)

雪女「体調はどう?」


男「ほあっ!?」ガバッ



男「あれっ!? ここ俺の部屋、だよな?」

男「雪女先輩…、夢!?」

フラリ

男「う…」

雪女「あっ! 大丈夫!?」ガシッ

男「え? 夢…じゃない…?」

雪女「ずっと寝てたんだから、急に起きちゃダメよ」ソッ…

ポフ

雪女「急な体調不良だってね」


雪女「はあ…心配したわ」

男「先、輩…」

雪女「メールも返事が無いし、電話にも出ない」

雪女「よほどぐっすり眠っていたのね」


男「あ、ケータイ…」

ゴソゴソ


男「おわっ!!?」


―未読メール・38件―

―不在着信・46件―



男「あわわわ…」

雪女「本当、心配したんだから…」


男「…!」

男「…心配なんて…別に良かったのに」ズキン…


男「今は俺のとこに来るより、先輩の行くべきとこがあるでしょう?」

雪女「…え?」

男「…先輩はそういうの、ちゃんと言ってくれると思ってましたし、俺自身もっと早くに言ってほしかったなって」

雪女「あ…、ごめん、なさい…」

雪女「少し予定が変わってしまったの」


男(予定?)

男(ああ、そか…)

男(本命はあの男の人だったけど、フラレたかなにかしらの後に俺と付き合ったのか…)

男(で、ありがち…か、どうかはわかんないけど)

男(そのあとまた、あの男との距離が急に縮まって)

男(先輩の心は向こうに…か)



雪女「そうね。前もってある程度の事は言っておけば、こうして慌てることもなかったのよね…」


雪女「でも、まさか今の時代、半日程度とはいえ音信不通になるなんて思ってもみなかったし」

雪女「何度もメールや電話をしたけど繋がらなくて」

雪女「あちこち電話して人づて人づてで、やっと男くんの家に連絡できて」

雪女「お母様もびっくりしてらしたけど」

雪女「お見舞いに行きたいって伝えたら、快く迎え入れてくれたわ」




男「そこまでしなくても…」

雪女「連絡もつかなかったし、とても心配したのよ」

雪女「恋人の心配するのは当然でしょう?」

男「…そんなに気を使わなくていいですよ」ズキン…

男「全部俺が悪いんですから」


雪女「んー、確かに体調管理が行き届いていないのは男くんの責任だけど、きっと今までのがんばりの反動もあると思うわ」

雪女「今はゆっくり休んで。ね?」ソッ…



男(先輩、今はその優しさが苦しいんす)


男「だからっ!!」バシッ

雪女「えっ!?」ビクッ

男「俺なんかに構うより!」ガバァッ!!

雪女「ど、どうしたの!? 男くん!?」



男「先輩は行くべき所があるでしょうっ!?」

男「俺っ、今すんげぇツラいんですっ!」


雪女「それは風邪を引いているんだもの。ツラくて当たり前よ?」

男「いやっ、そういうのじゃなくてっ!」


雪女「えっと…」

雪女「病み上がりよ…、とにかく落ち着いて」


男「フゥッ…フゥ…」


雪女「えっと、あの…、そこまで声を荒らげる理由はよくわからないけれど」


雪女「行くべき所…かどうかわからないけど」

雪女「この前言ってた家族の用事っていうのは家族みんなでの夕食の事だから…」

雪女「すぐに行く必要もないし」

雪女「久しぶりに会った兄さんとは昨日充分に会話したし…」


男(ん!?)


雪女「そうしたらその…、私に恋人がいることがわかったら」

雪女「会わせろって冷やかしてきて…」パキン…


男「き、昨日?」



雪女「今日の夕食、良かったら一緒にって」

雪女「男くんの都合もあるだろうから、昨日の電話やメールはそれ」

雪女「お父さんお母さんまで男くんに会いたいから、呼んだらどうって言うものだから…」パキパキン…



男「あ、あのっ…、ちょっと待って! 待ってください!」

雪女「そうよね」パキン…

雪女「いくら何でも私の家族と一緒に食事は飛躍し過ぎよね」



男「そうじゃなくてっ…、食事に誘ってくれたのはすごく嬉しいっす」

雪女「あ、あら、そう?」パキパキパキ…


男「いや、そうでもなくてっ!」

男「あのっ…ちょっと話を整理させて下さい…」



雪女「…え?」



男「聞きたいんですけど、昨日兄さんと会ったって…」



雪女「え? ええ」

雪女「留学していた兄さんが帰ってくるのは、本当なら今日だったのよ」

雪女「それが突然1日早く帰ってくるんだもの」

雪女「たまたま予定の無かった私が、迎えに行く事になったの」

男「じゃ、じゃあ昨日…、俺が見たのは…」



雪女「え…、男くんもあの繁華街に居たの?」


男「俺の…、勘…違い?」

雪女「?」


男「へほぁあぁぁ~…」ヘタン…


雪女「男くんっ!?」


――



――


雪女「そう…」

雪女「それで私が他の人に乗り換えた、と勘違いしたワケね」

布団にくるまったモノ「…はい」モゴ…

雪女「私がすごく親しげに兄さんと話していて」

雪女「男くんはまだ私の笑ったところを見たことが無くて」

雪女「でもその時、私が笑顔だったから勘違いしてしまった、と」

布団にくるまったモノ「…はい」モゴ…


雪女「…男くん。そろそろ顔、出して?」

布団にくるまったモノ「…先輩に会わせる顔がありません…」モゴモゴ…

雪女「ついさっきまで見せてたじゃない」

雪女「それに私もちゃんと話したいの」



雪女「さ、顔見せて」



男「…先輩、本当スイマセン…」ヌー


雪女「謝らないで。私は平気よ」


ムクッ!

男「俺っ、先輩の事疑ったんですよ!?」

男「どうしてそんな…、謝らないで、なんて…言ってくれるんすか…」



雪女「どうしてって…私の事、疑ってなんていないでしょう?」

男「え?」

雪女「さっき男くん、言ったじゃない」




雪女「悪いのは全部自分だ、って」



男「だからっ…」



雪女「…全部自分が悪いって思ったって事は」



雪女「私を悪者にしなかったって事じゃないの?」



男「んなの、当たり前じゃないすか!」

男「先輩は俺の事、ずっと応援しててくれて」

男「俺はそれに甘えてばっかりで…、何も先輩にしてあげられなくて…」


男「それで他の男に気が移ったとしても、先輩を責めるなんてできるワケないですよ」シュン



雪女「…バカね」


雪女「いつもバスケットの傍ら、あんなに私の事を想ってくれてる貴方を裏切るなんて事…」






雪女「絶対零度だから」






男「い、意味がわかるようなわからないような例えですけど、相変わらず壮大ですねぇ…」


雪女「そうかしら?」







雪女「…本当の事を言うとね、私も貴方に迷惑をかけていたんじゃないかって」


雪女「私の方がワガママばかり言って、男くんに無理させてたんじゃないかって思う事もあったの」


男「そんなのっ、いつも言ってるようにっ…!」
雪女「そんなことないっすよ、でしょう?」


男「俺がもし、先輩との関係をそんな風に思ってたんなら…」



雪女「そんな風に勘違いしたり」

雪女「そんな風に落ち込んだりしないわよね」


男「う…、です////」ポリポリ




雪女「…うん」





雪女「ふふっ…、私も安心した」ニッコリ







男「!!!」

男「せっ先輩っ、いい今っ…笑って…」



雪女「うん…」

雪女「男くんも知っての通り、私は簡単に心を開けない性格なの」


雪女「特に恋愛関係の男くんとの場合だと変に構えちゃって余計に、ね」クスクス


雪女「でも、男くんが私の事でこんなに落ち込むなんて、不謹慎でダメって思うけど…」





雪女「反面、すごく嬉しいの」ニコニコ





男「わ、笑ってくれた…」



男「先輩がっ…笑ってくれた…!!!」ガッツポーズ!

男「先輩が自然に笑ってくれた!」バンザーイ!

雪女「そんなに嬉しいの?」

男「はいっ!」

男「笑わない理由を知ってから、ずっと思ってた事があるんです」

男「俺から笑って下さいって先輩にお願いするんじゃなくて」

男「先輩から自然に笑えるような関係になれたらいいなって…」

男「今、その通りになって嬉しいんす!」

男「色々勘違いの末、ですけどね、ははは…」ポリポリ…



雪女「心配させてごめんなさい」

男「いえ、勘違いした俺が悪いんです」


雪女「ふふっ…、そうね」

雪女「本当、男くんの落ち込みようったら…ふふふっ」クスクス

男「ううっ…////」

男「せ、先輩こそっ!」



男「笑うとっ、いつものクールな感じと真逆でっ!」

男「すんげぇカワイイんですからっ!」



雪女「…」ポカ~ン…


雪女「い、いきなり何を…!?」パキパキパキパキン…!




男「先輩、カワイイっす!」

雪女「ま////」パキュン!

男「クールな先輩も好きですけど、カワイイ先輩も好きです!」

雪女「わ////」パキーン!

男「これからもずっと、俺の傍で笑っててほしいです!」

雪女「ず、ずっと…////」パキパキパキーン!

男「大好きですよ、先輩!」ニコッ!




雪女「ダメっ…!」フイッ



男「え…!!?」ビクッ


雪女「ダメよ、男くん…」

男「せ、先輩、やっぱり…!?」





雪女「それ以上言われると」





雪女「部屋中のモノを凍らせてしまうわ…」

男「え?」キョロ

男「うわ!? 目覚まし時計がっ!?」カチン

男「うわっ!? マンガがっ!?」コチン

男「うわぁっ!? DVDデッキがっ!?」パッキーン




雪女「さ、病み上がりなんだから、もう少しおとなしく寝てましょう?」

グイッ!!

男「ぐえっ!?」ボフン!

雪女「ね、熱も下げないとね!////」

男「え!? たぶん熱はもう…」

チョコン


男「…!?」

雪女「これで大丈夫ね!////」

男「凍った目覚まし時計を頭に…?」


雪女「あ、目を覚ました事をお母様に言ってくるわね!////」スクッ!

タッ…


男「せ、先輩!? そこは…」

雪女「え?」ガチャ




男「…クローゼットですよ?」



雪女「あら? ドアと間違えたわ////」



コンコン


男母「雪女ちゃーん」

ガチャ

男母「看病ありがとね」

男母「お茶でも…、って…」


雪女「…」

男「…」



男母「あんたは頭に凍った目覚まし時計乗っけて…」

男母「雪女ちゃんはクローゼットに入ろうとして…」


男母「二人とも何してんの???」


―――
――



――



雪女「…そんな事もあったわね」

男「あの時の先輩の動揺ぷりってば…!」クスクス

雪女「あまり言わないで」パキキ…

男「普段がクールな分、慌てると反動がスゴい…ぷー!」クスクス!

雪女「そんなに言うなら、もう応援してあげないんだから」プイ

男「スイマセンってば」

雪女「もうっ…」



雪女「それだけ私をからかう余裕があるなら、緊張はほぐれたみたいね」

男「はい。昨日よりは」

雪女「昨日の男くんの緊張ぷりったら…ふふっ」クスクス

男「言わないで下さい…」

雪女「開会式もまだなのに、ふふふっ」クスクス

男「はう…////」

男「やっぱり先輩の笑顔、いいっすね」

雪女「ありがとう」

雪女「あの一件で私の男くんに対しての無駄な緊張が」

雪女「一気に雪解けしたのは事実だから」

男「はい。先輩の笑顔が見れるようになって、俺も幸せです!」

雪女「嬉しいわ」ニコ




雪女「だから、もう心配しないでね?」

雪女「私も貴方の事、大好きだから」



男「はいっ!」





部長「よーし! そろそろ出発するぞ!」


バスケ部一同「はいっ!」


部長彼女「部長くん、応援してるからね!」


部長「おう! ありがとな!」







雪女「部長君も幸せそうね」

男「そっすね」

男「部内の雰囲気もすこぶるイイカンジっすよ」



雪女「インターハイ、がんばってきてね」

男「はい! 俺には先輩特製の御守りもありますから!」チラ



雪女「うん!」






男「じゃあ…、いってきます!」




雪女「いってらっしゃい!」ニコニコ!






おわり

ちまちま投下したうえに、少々長くなってしまいました。

それでも途中たくさんのレスを頂き、かつ最後まで読んで頂きありがとうございました

また新たに投稿した際にはよろしくお願いします

改めてありがとうございました

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