川内「何やってるの?」 (67)

ザザーン…ザザーン…

提督「海を見ながら飲んでる。明日は休みだからな」

川内「いや、見れば分かるけど」

提督「そっちこそ、こんな夜中に制服のまま何してやがる」

川内「そう、それだよ! 聞いてよ提督、皆酷いんだよ!」

提督「やっぱ言わなくていい」

川内「えっ、何で」

提督「どうせ、他の連中に夜戦吹っかけてたらウザがられて蹴り出されたとか、そんなんだろ」

川内「ど、どうして分かったの」

提督「なあ、お前馬鹿だろ」

川内「あー、すぐそうやって人に馬鹿馬鹿言う…」

ストッ

川内「ま、良いや。寮から締め出されちゃったし、今夜は提督に付き合うよ。何か頂戴」

提督「何かっても殆どビールしかねえな」グイッ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436023756

ガラガラガラ…

川内「うわ、海の中から出てきた」

提督「ビットに引っ掛けた紐で水中にぶら下げて、冷やしてるんだよ。頭いいだろ。ほら」ヒョイ

川内「っと」パシ

川内「栓抜きは?」

提督「無えよ、ンなハイカラなもん。手前でどうにかしろ」

川内「ちぇ。いいよーだ、丁度ここのコンクリの角にこうして」ガキン

ポン

提督「器用だな。もうちょい苦労するかと思ってたが」

川内「伊達に二度生きてないもん」フフン

川内「いただきまーす」グビグビ

提督「…」ゴク…

川内「…っは! 提督は何飲んでるの?」

提督「同じやつ。今沈めてるのも似たようなのばっかりだ」

川内「ビール、好きなんだね」

提督「まあ、手は出しやすいな。お前はあんまり飲むイメージが無いが」

川内「そりゃそうだよ。酔っぱらってたら、夜戦なんてできないし」

提督「ブレねえな、お前は…」グビ

川内「ブレないよ」ニッ

提督「ブレないが、今夜は別か」

川内「別だね」グビッ

川内「おかわり」トン

提督「早えな、ペース考えろよ…?」

注意
・川内と提督が酒の肴にくだらない話をするスレです
・ここの川内は既に改二です
・大井っちのとは別の世界線です
・途中まで書きためてますが、尽きたら気まぐれ更新になります


『人魚の話』

川内「ところで、何で夜中に海なの? 暗くてよく見えなくない?」

提督「お前に言われたくないな」

川内「私は鍛えてるもん。今でもくっきり見えるよ」

提督「そうかい。…じゃあ、一緒に探してくれよ」

川内「何を?」

提督「話せば長くなる…



 その昔、馬鹿な司令官がいてな。そいつはあろうことか、一番大切にしてた艦娘を戦闘で沈めちまったんだ


川内「ありゃ。それは気の毒だね」

 
 そいつは絶望のあまり、灯台から身を投げて死のうとした。だが、いざ覚悟を決め、埠頭まで向かったところで、不意に目の前の海に何かいるのに気づいた。

 そいつが見たのは…沈んだはずの、例の艦娘の姿だった

 とっさに駆け寄ったそいつは、あることに気がついた。その艦娘は…もはや、艦娘の姿をしていなかった。具体的には、腰から下がバッサリ無くなって、代わりに魚の尾ひれが付いていた。


川内「いわゆる、人魚…ってやつだね」


 夢かと思ったさ。だが、夢じゃなかった。曰く、その艦娘は沈んだ後人魚になって、鎮守府まで泳いできたんだと。とにかく再会を果たした二人は、それからというもの、毎夜毎夜灯台の下で逢瀬を交わした。


川内「ロマンチックだね」

提督「傍目にはそうもいかん。何せその人魚を見た人間が他にいない上、日に日にその司令官はやつれていくんだ」

川内「げ」

提督「だが…酔狂だな。そいつは聞く耳を持たなかった。弱り続け、とうとう艦隊指揮もままならなくなった頃、そいつは姿を消した。死体も何も残りゃしない」

川内「あちゃー、愛を取っちゃったか」

川内「…で、提督はその人魚を探してるって訳」

提督「ああ」

川内「ん? でも、ウチから撃沈って出たっけ?」

提督「縁起でもないこと言うな。誰も沈めたこと無えよ」

提督「ただ…どんな形であれ、折角帰ってきたのに迎えの一つも無いんじゃ、浮かばれねえからな。それに、これはあくまで与太話だ。実際、一人沈めた所で自害するような奴はいねえよ」

川内「まあ、一々そんなことしてたら残された方はいい迷惑だしね」

川内「それで?」

提督「それで、とは?」

川内「どうするの、人魚を見つけたら。代わりに慰めてあげるの」

提督「ハッ、まさか」

提督「…嗤ってやるのさ、お前の指揮官は無能だなって」

川内「うわ、最低。そんなことだろうとは思ってたけど」

提督「おう、分かってんじゃねえか」

提督「しかし…アレだな」ゴク

川内「?」

提督「人魚とヤる時って、どこの穴に突っ込むんだろうな」

川内「」

提督「…あ、空ンなった。どれ…」ガラガラ

川内「提督って…何か、凄い、『提督』だよね」

提督「だろ」ガキン ポン




『イメージの話』

川内「さっきの話もそうだけど、皆撃沈に対して深刻になり過ぎだと思うんだよね」

提督「それ、俺が言ったら間違いなくフクロにされる」

川内「でしょ? 何だかなあって思うよ。どうせ艦娘としての人生なんて、言ってみればオマケみたいなもんなのに」

提督「合理的に解釈するなら、犠牲が1か0の二択なら、0を選ぶのが良いって所だろうな」

川内「そりゃそうだけど、どうしようもない時ってのはあるし、そこで司令官を責めるのは、そりゃお門違いってもんだよ」

提督「なまじヒトの形してると、気合でどうにかなっちまいそうな気がするんだよなぁ。日本人ってのはいつもそうだ」

川内「ならないよ」

提督「…お前がそう言うとは思わなかったな」

川内「どうして?」

提督「お前の妹なんて、根性論の権化みたいなもんじゃねえか」

川内「あー、神通ね」コク…

川内「あんま本人に言わないでよ。結構気にしてるんだから」

提督「何でだよ」

川内「イメージの問題。無茶苦茶な訓練やってたのは舵を握り指示を出す『人間』であって、あの頃『兵器』でしかなかった神通は、寧ろ被害者だよ」

提督「人殺しが悪いのであって、拳銃は悪くないってノリか。冷静に考えりゃ、確かにそうかもな」

川内「でしょ? 今でも駆逐は見ただけで震え上がるし、演習で当たったとなれば泣き叫ぶのもいる始末」

提督「だが実際にそうじゃないなら、いい加減誤解が解けても良いはずだが」

川内「えっと…あいつ、手加減と妥協を知らないから…」ポリポリ

提督「一緒じゃねえか」ゴク

提督「イメージか…そうだ。お前、実は滅茶苦茶料理が上手いらしいな」

川内「…誰に聞いたの」

提督「皆言ってるぞ。味だけでなく栄養バランスも完璧、更にはゴミを殆ど出さないので環境にも優しい…」

川内「うーん、そうでもないと思うけど…」

提督「巡洋艦どころか、全ての艦娘の中でも一二を争う腕前。艦であった時代の設備という障壁が取り払われた今、もはや敵う者は間宮か伊良湖か…」

川内「それは無い」ナイナイ

川内「はぁ…多分、昔やった料理大会のことを言ってるんだと思うけど。ぶっちゃけ、そこまで大したものじゃないからね? 何か、物凄い尾ひれが付いてるし…」

川内「第一、軽巡だけでももっと料理上手な娘はいるよ」

提督「ほう、例えば?」

川内「知ってると思うけど阿武隈とか。それに、昔に拘らず今料理頑張ってる娘もいっぱいいるよ。だからあんまり私に料理を求めないで欲しいな」

提督「だが、イメージとして損にはならないだろ。少なくとも夜戦馬鹿呼ばわりよりはマシだと思うが」

川内「良いの、夜戦馬鹿で。少なくとも艦娘でいる内は、戦いだけに生きていたいからさ」

提督「だったら、ちっとは日中も熱心にやってもらいたいもんだな」

川内「夜戦は水雷戦隊の華だよ?」

提督「護衛任務ばっかりでロクに実戦に当たれず、片手の指に収まる交戦は殆どが
夜戦。お前、自分は夜戦でしか活躍できないって、自分で思い込んでるんだよ」

川内「…」ゴク…

提督「他人が勝手に作ったイメージなら、手前でぶち壊してやりゃいいが、手前で作ったイメージに手前で縛られてちゃ、世話ねえな」

川内「…そりゃ、神通みたいに確かな実力と戦績があるわけでも、那珂みたいに人として思い切って振る舞えるわけでもない。でも、私にも挟持はあるんだよね。軽巡として…一番でありたいものが」

提督「ふぅん…」ゴク

川内「だからさ、このまま夜戦馬鹿でいさせてよ」

提督「…勝手にしろ。だが、それならそれで手抜きはするんじゃねえぞ」

川内「分かってるって。任せてよ」

カラン




『力の話』

川内「イメージかぁ…そう言えば、榛名さんの艤装は意外だったなあ」

提督「俺も驚いた。あのオーバーウェイトな鉄腕は…アレは、ズルい。カッコ良すぎる」

川内「カッコ良いけど、まさか榛名さんが持ってくるとは思わなかったよ。寧ろ比叡さんとかは似合いそうだけど」

提督「金剛のは盾だったしな。他にもないのかよ、そういう隠されたギミックとか」

川内「聞いたこと無いなあ…でも、ああいうの見せられると私も欲しくなっちゃうな」

提督「例えば?」

川内「こう、制服に仕込まれた秘密のスイッチを押すと、マフラーの中からメンポが」

提督「ちょっとやめないか」

川内「冗談冗談。…ああ、艤装とは違うけど、こんなことがあったな」

提督「どんなことだ?」

川内「雲龍っているじゃん。去年の夏に来た」

提督「ああ。すげえおっぱいしてるよな、あいつ」

川内「この間、発着艦訓練してるのに出くわしたんだけど」

提督「シカトかよ…まあ、最近航空戦力の拡充始めたからな」

川内「で、折角だから艦載機飛ばす所見せてもらったんだよね」

提督「何度見ても不思議だよな。雲龍、式神飛ばす時頭に角生えるし」

川内「そう、角。九七艦攻とか旧式のを飛ばす時は角だけで済むらしいね」

提督「え、まだ何か変身するのか」

川内「丁度その時は烈風を飛ばそうとしてたんだけど、びっくりしたよ。首元からほっぺたの辺りまで、鱗みたいな模様がびっしり浮かび上がるの。いつもぼんやりしてる目は血走って、手は鉤爪みたいに強張る」

提督「怖いな。マジモンの龍じゃねえか」

川内「慌てて訊いたよ、大丈夫なのかって。そしたら、訓練を積めば収まるって。どうやら前世での実戦不足が響いてる上に、元々烈風をスペック通りに扱うのが至難の業なんだって」

提督「あ、聞いたことあるな。烈風は機体のサイズがデカイから、本当なら加賀でもあんなに飛ばせないんだと」

川内「艦娘じゃ、そうは見えないけどね…やっぱ、気合なのかな」

提督「弓道組に限って言えば、弓の腕とか弓自体の性能に依るのかもな。その点、龍驤とかみたいな式神のは、本人の能力に丸々依存しちまうんだろう」

川内「でも、龍驤さんがあんななってるのは見たこと無いなあ」

提督「そりゃあいつ、滅茶苦茶鍛えてるからな。神通もかくやというレベルで」

提督「飛鷹も、ああ見えて隼鷹もそうだ。皆、見えない所で努力してるってこった」

川内「それは、雲龍の努力が足りないってこと?」

提督「あー、言い方が悪かったか。連中は前世でも戦場を駆けまわってたからな…言ってみれば、その分雲龍はハンデを抱えてるってわけだ」

提督「しかしそうなると、天城、まして葛城なんてもっと凄いことになりそうだな。…仕方ねえ、久々に設計図取り寄せるか」

川内「お。大規模改装だ」

提督「鍛えたってどうしようもない人間だからな。このくらいはしてやんねえと」

川内「じゃあ、私も一つ」

提督「何だよ、第二次改装はだいぶ前に済んだろ」

川内「おかわり」コトッ

提督「こいつ…」



『平和の話』

提督「ほらよ」ヒョイ

川内「わっ」パシ

川内「えー、これオレンジジュースじゃん」

提督「短時間にばかすか飲んでるからだ。ちっとは味わえ」

川内「ちぇ」ガキン

川内「…今朝も、来てたよ」

提督「ハァ…懲りねえな、奴ら」

川内「口を揃えて戦争はんたーいって。言っちゃ悪いけど、余計なお世話だっての」

提督「戦時下だってのに、こちとら有事法ブチ込めば一発で縛り首にできるって、分かってやってんのかね」

川内「さあ? でも、平和を願う気持ちは分かるよ」

提督「そうかい。俺にはもう悪人どもの方便にしか聞こえん」

川内「それは流石に穿ち過ぎじゃない?」

提督「…『社会契約』って知ってるか」

川内「えっ、何だって?」

提督「法というものが成り立つための前提条件だ。一番分かり易い例えをするなら、『俺はお前を殺さないから、お前は俺を殺すな』という契約があるとする。それを社会という不特定多数の集団と結ぶのが社会契約ってところだ」

川内「それが、何の関係があるの?」

提督「知ってると思うが、もうこの国は戦争を捨てた。交戦権を認めないと憲法に書いちまった」

川内「そうだね」

提督「馬鹿な話だと思わねえか」

川内「えっ、どうして?」

提督「『俺はお前を殺さない』。だが、『お前も俺を殺すな』とは、どこにも書いてないんだぞ。仮に書いてあったとしても、それはあくまで日本の決まりだ。相手がそれを守る義理は無い」

川内「…あー、言われてみれば」

提督「今までこの国を守ってきたのは、法じゃない。軍だ。軍がなけりゃ、この国はただの羊だ。だからこそ、敵は最初から攻めこまず、内部から骨抜きにしようとした」

川内「『した』? 過去形?」

提督「深海棲艦が現れるだいぶ前にな。平和を謳い、平等を謳い、この国を滅ぼそうとした連中がな」

川内「それで、平和って言葉が嫌いになったんだ」

提督「勘違いするな。戦いなんて起こらないに限る。だが奴らは、誰よりも戦いを望んでいる。平和を謳う、それ自体が一つのカネの源泉だからな」

川内「…」コク コク

提督「この間も、敷地に忍び込んだのを一人捕まえた」

川内「えっ」

提督「艦隊の連中には言うなよ。余計なことは考えさせたくねえからな…そいつは、砂糖の袋を持っていた」

川内「砂糖? 何に使うの?」

提督「取り押さえたのは資材置き場の燃料庫だ」

川内「…! まさか、燃料に」

提督「ああ。車のタンクに砂糖ブチ込むとエンジンがぶっ壊れるが、お前達くらいのサイズのエンジンなら同じことが起せる。そう踏んだんだろう」

川内「酷い。それ、もし洋上でエンストなんてしたら」

提督「危ないところだった。俺が言いたいのは、奴らは平和を謳う癖に、そのために人を傷つけることにはまるで躊躇いがないということだ。これは立派な利敵行為であり、現行犯で捕まえた時点で、そいつはもう深海棲艦と同じだ」

川内「で、その後どうしたの」

提督「面倒は御免だからな」ガラガラ

提督「『お仲間』の元へ、帰してやったよ」ガキン ポン

川内「…仲間の元って、まさか」

提督「…」ブンッ

ポチャン



『夢の話』

川内「」ブルッ

川内「…ちょっとお花摘んでくる」スクッ

提督「あいよ」

タッタッタッ…

提督「働けど働けど、我が暮らし…」

ザバッ

提督「ん?」

ザブザブ

提督「何だよ、マジで人魚でも来やがったか…?」

ビタッ

ザバーン

ヲ級「…ヲっ」ヌッ

提督「」

ヲ級「ヨイ…ショ、ト」ビタ ビタ

提督「…俺は、もう終わりみてえだ。短い人生だったぜ…」

ヲ級「心配スルナ。危害ハ加エナイ」

提督「じゃあ、拉致って捕虜か。いずれにせよ、川内達とも今生の別れってこったなあ」

提督「大体何だよ、何で夜警の目を掻い潜ってこんな所まで来れるんだよ。そんなら最初からそうしてろよ面倒臭え」

ヲ級「艤装ガ無ケレバ、深海ヲ渡ッテココマデ来レル。艤装ヲ外シタ艦娘ガ、陸ヲ自由ニ動ケルノト一緒」

提督「…てことは、今のお前さんは丸腰か」

ヲ級「ソウダ」コク

提督「じゃあ…わざわざ敵地のど真ん中まで、一体何しに来た」

ヲ級「敵将ト酌ミ交ワシニ」コトッ

提督「それ、さっき投げた瓶じゃねえか。拾ってきたのか」

ヲ級「私ヲ誘ッタノデハナイノカ?」

提督「な訳あるか。深海棲艦がそこにいること自体知らなかったよ」

ヲ級「ソウカ。細カイコトハ気ニスルナ」ストッ

提督「気にしろよ…もう少ししたら、艦娘が戻ってくるぞ」

ヲ級「長居ハシナイ。一ツ、訊キタイダケダ…」

グイッ ゴク ゴク

ヲ級「…フゥ。ヲ前、夢ハ見ルカ」

提督「夢?」

ヲ級「ソウダ。私ハ夢ヲ見ル。旧イ記憶ノ夢ダ」

提督「それは、前世の記憶ってことか?」

ヲ級「ソンナ綺麗ナモノデハナイ…モット曖昧デ、グチャグチャニ掻キ混ゼラレタ記憶ダ」

提督「気味が悪いな」

ヲ級「ダガ私ハ、ソノ夢ニ安ラギヲ覚エル。ソレハ、『私』ヲ形作ル魂ノ破片ノ、一ツ一ツノ記憶デアルカラダ」

提督「ふぅん…」コク

提督「…じゃあ、俺が見るくだらない夢もか? それも俺を作る魂の、記憶の一つなのか?」

ヲ級「キットソウナノダロウ。我々ハ…或イハ艦娘ハ、船デアル以前ニ、ソコニイタ全テノ人ノ魂ノ集マリナノダカラ」

提督「面白いことを言う…」

提督「じゃあ、俺からも訊かせてくれよ。さっきある艦娘と、人魚について話してたんだ。沈んだ艦娘が、人魚になって指揮官の所に戻ってくるって話だ」

提督「お前さんは…艦娘と同じ魂を持って、艦娘と同じ姿で戦う深海棲艦って奴らは…」

提督「俺達にとっての、『人魚』なのか」

提督「!」

提督「…帰りやがった」

タッタッタッ…

川内「ただいまー」

提督「…」ボーッ

川内「提督?」

提督「…ああ、戻ったか」

川内「どうしたの? 狐に化かされたみたいな顔して」

提督「いや…何でもない。それより、その盆は何だ?」

川内「食堂の勝手口から寮に入ったんだけど、そこで鳳翔さんにあってさ。訳を話したら、提督にお出ししろって」

コトッ スト

提督「芋焼酎に氷か。流石鳳翔、心得てるな」

川内「おつまみにエイヒレもあるよ。…あ!」

川内「私がいない間に、また一本開けたね? ズルいよ」

提督「は? 何言って…」

提督「! そ、そうだな」

川内「私も飲もっと」キリン キリン トクトクトク…

提督「ちょっ、まず俺の分だろ」

川内「知ーらない」



明日試験なんで寝ます


『炎の話』

提督「…」ウツラウツラ

川内「大丈夫? そろそろ眠いんじゃない?」

提督「…いや、大丈夫だ」

川内「そう…?」

川内「眠気覚ましに一服したら? 私は気にしないよ?」

提督「俺は煙草はやらねえんだ」

川内「へえ。お酒は好きなのに」

提督「気管が弱くてな…」コク…

提督「お前はやるのか?」

川内「ううん。夜に煙草の火は目立つからね」

提督「ああ、そうだったな」

川内「最も、陸じゃ吸っても良いんだろうけど。何でこの時代の人たちって、こんなに煙草が嫌いなの?」

提督「好きな奴もいるさ。だが、歓迎はされねえな。やれ健康だ、やれ子供だ、見てるこっちが気の毒になる。ま、仕方無いがな。体に悪いのは事実だ」

川内「煙が体に悪いって、未だにピンと来ないんだよね…普段から油とか石炭とか燃やしてるし」

提督「川内型は油も石炭も燃やすんだったか」

川内「そう。トレードマークの四本煙突だよー」パタパタ

提督「火ってのは、生き物にとっちゃそれは恐ろしいものだってのにな」

川内「でも、温かいよ」

提督「…そうだな」



『ぬくもりの話』


提督「温かい、か」

川内「何、急にどうしたの?」

提督「酒を飲むと、体が熱くなるよな」

川内「そうだね。今だって焼酎に変えてから、余計に」コク

提督「だがな、温まるようでその実、体温は下がってるんだ」

川内「あー、知ってる。面倒くさいよね。それ」

提督「熱を求めて酒に手を出すのは容易い。だが、飲めば飲むほど体は冷え、望む方向とは逆に向かっちまう…」

提督「手前独りで勝手にやってる分には、構わないんだろう。だが…」

川内「いるよね、飲み会とかで他人に飲ませて回るの」

提督「…」ゴク…

提督「海が、荒れてきた」

川内「えっ?」

提督「いや…何でもない」

提督「…正義って、何だろうな」

川内「自分と同じ考え」

提督「悟ってんなあ」

川内「死ぬほど憎んで、殺しあって、殺された相手と、自分の子供達が仲良くしてるの見たら、流石に悟るよ」

提督「子供達、か。じゃあお前は、俺達の親か、そのまた親か」

川内「そういうことになるね」

提督「俺ぁ、考えちまってな…万人に通じる正義なんて無くとも、手前を戦いに駆り立てる動機があって、そいつを正義とでも呼ぶのなら…」ギュッ

提督「酔い切れねえ俺は、お前達に『正義』という名の安酒を押し付けて回ってるんじゃねえかってな」

川内「…」コク…

提督「…俺はお前達を信頼してる。きっと誰もが、俺と同じ想いを持ってくれてると信じてる。だからこそ、俺の手前勝手な想いが、お前達を」

川内「…らしくないこと言うね」

提督「っ…」

提督「…酔いが、回っちまったようだ」

川内「じゃあ、体も冷えちゃったんだね」

提督「そう、かもな」

川内「じゃあ、こうしようよ」

ギュ

提督「!」

川内「肌のぬくもりは、嘘をつかないでしょ」

提督「せん、だい…」スッ…

ギュッ

川内「提督がそんなことしてるわけ無いじゃん。提督は、温かいよ。だって、提督のために私達も、熱くなれるんだから」

提督「…」

『まどろみの話』

提督「夢を、見た」

川内「夢?」

提督「俺は、深海を泳いでいた…海底には、沈めてきた深海棲艦や、沈んだ艦娘達が、眠っていた…」

川内「うん」

提督「眠っていたんだ…俺が近づくと、そいつは…夢の中のお前は…錆に塗れた瞼を空けて、俺の方を見た」

川内「私は、何て言ってたの?」

提督「覚えてない。それからお前は、フジツボと海藻がびっしり生えた腕を伸ばして…」

提督「艦娘は…死ねないのか? 海の底に沈んでも、安らぎは無いのか…?」

川内「分からないよ。自我を得てから、沈んだこと無いし」

提督「聞いたんだ。夢ってのは…自分を形作る魂の破片の、記憶の名残だと…俺の見た夢は…お前は……」

川内「私は、私だよ。何で出来ていようと、私。提督もそう」

川内「だから、心配しないで…」

提督「zzz…」

川内「…寝ちゃった。この酔っ払いめ」ツンツン

川内「ふぁ、…私も寝よ。おやすみなさーい」

川内「…スゥ」


チュン チュン

川内「…んっ」ムクッ

川内「…」ポー

川内「! ていとく…」

提督「zzz…」

川内「…あれ、私、いつの間にか膝枕されてる」

バサッ

川内「毛布…」

提督「…くああっ…ああ?」パチ

川内「あ、おはよ」

提督「ああ…おはよう」

川内「夜、明けちゃったね」

提督「ああ…クソ、夕べはダセえこと口走っちまった」

川内「良いって。たまにはそういうのも必要だよ」

提督「…」ボー

提督「…なあ」

川内「なあに?」

提督「俺は、無力だ」

川内「またそういうこと言う。アルコール抜けてないんじゃない?」

提督「真面目な話だ。実際、俺の意思一つでお前達をどうにかしようなんて、おこがましいにも程がある」

川内「…」ジッ

提督「俺にできることは…ただ、お前達を見守り、見送り、迎え、労い…そして、愛することくらいだ」

川内「…へぇ」

提督「思えば、お前には最初の頃から世話になってたな。こうして、改めてサシで語り合えて、本当に良かった」

川内「な、何だか照れるよ」

提督「俺、分かっちまった。スレた振りしても、まして綺麗事並べた所で、本当の想いは誤魔化せねえ…」

提督「…川内。俺は、お前を…」ズイ…

川内「提督…」

提督「おらよっ」

川内「」スッ

提督「え」グラッ

川内「イヤーッ!」ドスッ

提督「グワーッ!」

バッシャーン

川内「あははははは! あははははは!」ケラケラ

提督「ぶはっ…テメッ、よくも」

川内「突撃よ! それーっ!」ピョン

ザバーン

川内「っは! あははははは…」

提督「…畜生」

川内「私を出し抜こうなんて、百年早いよ。大戦二つ越えて出直して来な」

提督「この気違いめ」

川内「気違いだよ。でなきゃ生身で殺し合いなんてできっこない」

川内「…哀れんでくれるの?」

提督「ハッ、ざまあみろだ」

川内「だよね。提督だもんね」

川内「…でも、そんな提督が、私は」

提督「どうした?」

川内「…何でもない」

川内「ほら、ふざけてないでさっさと上がろうよ。こんな所、誰かに見つかったら」



「わーっ! 司令官! 川内先輩!」



川内「…ほら」

提督「だな」

タッタッタッ…

吹雪「どうされたんですかお二人共! 今助けますから…」ガシッ グイッ

サバッ

提督「悪いな、助かった」

ザバッ

川内「いやー、水上はともかく水中は久しぶりだったよ」

川内「で、吹雪は朝のランニング? 休日にも精が出るねえ」

吹雪「そうですけど…あの、タオルお持ちしましょうか? お二人共ずぶ濡れで、このままだと風邪引いちゃいます」

提督「あー、俺はいいや。このまま風呂入る」スクッ

川内「じゃ、私も一緒にはーいろ」

吹雪「…えっ?」

提督「何言ってやがる。…あ、そうだ」スト

グイッ ガラガラ…

提督「ほれ」ヒョイ

吹雪「わっ」パシ

吹雪「オレンジジュース…あ、ありがとうございますっ!」

提督「トレーニングも程々にな。それやるから、ここでのことは内密に、よろしく」

提督「じゃあな」

スタスタ…

吹雪「えっ、あっ、はい…」

川内「じゃ、そういうことで。よろしくね」ウインク

スタスタ…

吹雪「あ…はい、川内、先輩…」

吹雪「~~~」カァァァァ


「あははははは…純粋だねえ。顔真っ赤にしてやんの」「滅多なこと言うもんじゃねえぞ…変な噂広まったらどうしてくれる」「えー、駄目?」「…勝手にしやがれ」「やったー! 今日は朝から夜戦だ-!」「…」


おしまい

やっと嫁で一本書けました。
いつもは最後まで書き溜めてから上げるんで、完結するかヒヤヒヤしながら書いてました。
酔っぱらいの書いたような雑文ですが、最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

あと、希望があったので過去作の紹介

大井「…馬鹿じゃないの」
大井「…馬鹿じゃないの」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427726299/)

大井「…作戦が悪いのよ」
大井「…作戦が悪いのよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430919010/)
←過去ログ行っちゃったのでここで訂正しときますが、6レス目でコピペミスしてます
抜けた部分を貼っておきます

大井「…作戦が悪いのよ」
6レス目

一○○○ 医務室
大井「……っ!」ガバッ

大井「あ、あらっ?」バタリ

利根「大井、気が付いたか」

大井「利根さん…? ちょっと、訊いてもいいかしら」チラ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年03月12日 (日) 04:02:30   ID: IQYUFBm-

良い雰囲気だね

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