国王「遂に冥王が率いる死者の軍団が攻めてきた」(423)

国王「多くの勇者の手によって魔王が討たれてから10年の平和……」

国王「いや……今のは失言だったな。8年前に冥王の配下である先遣隊が現れた」

国王「その時にそなたの母である、聖騎士長が討伐にあたり相打ちとなったのだったな……」

国王「だと言うのに、この様な大役を押し付ける事、許してほしい」

国王「聖騎士長と大司教の娘であり、神々の加護を受けたそなたでなければ冥王の放つ死の瘴気に抗う事はできない」

国王「……皮肉な話ではあるが、そなたに勇者の称号を与えると共に冥王討伐の任を命じる」

勇者「はい……必ずやこの大役を成し遂げて帰還して見せます」

剣士「謁見は終わったかい?」

勇者「ええ……緊張しましたわ」ハァ

魔術師「聖騎士長と大司教の娘でも緊張するのね」

勇者「当たり前でしょう。私を何だと思っているのです」

医療師「さあさ、急かす訳ではありませんが、何時までも城内にいても仕方がないでしょう」

剣士「そうだね、こう息苦しい中にいても始まらない」

城下町 広場
医療「そういえば……この像は勇者様のお母上のものなのでしょうか?」

魔術「というより勇者様にそっくりよねぇ」

勇者「いえ……話によれば、お母様が亡くなられた戦いの時に協力してくれた者らしいです」

勇者「若くして敵の大軍を退け、大いに貢献してくれたとの話です」

勇者「それこそお母様に似た方で当時の兵士達は皆、とても驚いたそうですよ」

医療「……すみません、軽率でした」

勇者「いえ、もう八年も前のことですのでお気になさらないで下さい」

剣士「それにしても不思議な話なんだよね。未だにこの像の本人は何処の誰とも知られていない」

勇者「ええ。なので私はこの像の本人のようになれるように、お母様のようになれるようにと日々精進して参りました」

剣士「これからどうするんだい? 噂では西にある元魔王城に冥王がいるって話だけども」

魔術「各地で魔王を討った勇者の人達と共に、各国の軍が戦っているけど、何とか持ちこたえているという状態らしいわね」

勇者「私に伝えられている情報は、冥王は配下の四天王と思しき者達、更にはその取り巻きをつれている」

勇者「首なしの化け物デュラハン、怨恨から蘇った亡霊レヴァナント」

勇者「腐敗の悪臭を撒き散らし周囲を死に至らすドラウグル、お母様と相打ちになったファントム」

勇者「ファントムの代わりが補填されたという話もなく、実質は三体の冥王直属の配下ですね」

勇者「その下に精鋭の軍団のワイト、雑兵のグールといったところでしょうか」

医療「敵の性質上、魔王討伐を果たした英雄達も戦ってこそいれど、冥王を目指しているようではないようですね」

勇者「グール、ワイト程度であれば戦えるでしょうが、上位の三体が放つ瘴気ともなると、ただの生者では抗えませんからね」

勇者「北に現れる敵戦力の方が多いようで、厳しい状況という話を聞いております」

勇者「なので私は北に向かい助太刀したいと考えております」

剣士「いいんじゃないかな? というか俺は君に任せるよ」

医療「私も異議なし」

魔術「あたしも構わないわよ」

勇者「それでは北に向けて出発しましょう」

勇者「とは言え、流石に敵はいませんね」

医療「日中は動けないみたいですよ」

魔術「日の光が平気な死者ってのも嫌ね」

剣士「それもそうだね……」

勇者「しばらくすれば日没ですね……今日は野営となりますし、各自注意をして下さい」

魔術「勿論ですとも」


グールABCD「アー」ガササ

勇者「! ホーリーヴェール!」パァァ

剣士「これで少なくとも、彼らに攻撃されても仲間入りはしないんだよね」

勇者「ええ。それに念の為にかけた程度です。一気に畳み掛けましょう」

医療「私の出番はなさそうですね」

魔術「魔力を温存しないと、かぁ」

勇者「てやああああ!」ヒンッ

グールAB「アー」ザンッ

剣士「はっ! とっ!」ヒュンヒュン

グールC「ガー」ザッ

グールD「ウー」ドザァ

魔術「この分ですと、ワイトと交戦するまでは余裕がありそうですね」

魔法「というか勇者様、すっごい剣捌きね……ほんの少し前まで聖女様と呼ばれていたのに……」

勇者「それと同時に聖騎士長の娘ですからね。魔法より剣の方が得意ですよ?」

剣士「そうなんだよなぁ……昔から騎士団の人に稽古うけてもらっているんだよ、これ」

医療「そうなると、剣士君は被っているわけか」

剣士「嫌な事を言うね……」

勇者「彼は所謂、魔法剣が使えるのです」

魔術「へえ、凄いじゃない」

勇者「火・氷・雷・風、全ての属性の剣技を放てる、言わば近接魔法使いなのです」

魔術「随分魔力が高いと思ったけども……なんでも魔法に関わる職業にしなかったの?」

剣士「悪かったね。どうせ剣より魔法のが適正高いよ。それでもこだわりがあるんだよ」

剣士「今晩の見張りは俺と医術師でやるから二人はゆっくり寝ていなよ」

勇者「……そうですか。それではお言葉に甘えさせていただきます」

魔術「おやすみー」

医療「はい、お休みなさい」

剣士「先に起きているから医療師も寝ていなよ」

医療「そうですか? ではお先に失礼しますね」

剣士(そう言えば……あれの話ってどうなっているんだろう)

剣士「勇者……? 起きていたりするかい?」

勇者「どうかされましたか?」

剣士「ごめんね。ちょっと気になる事があって」

剣士「スケルトンキング、ていうの知っているよね? 今回の事で何か聞いていたりしなかなって」

勇者「様々な憶測が飛んでいる、元勇者であったり、魔王の束縛から解かれた魔物、魔王の力で姿を変えられた元人間……」

勇者「等と言われている存在の事でしょうか?」

剣士「そうそうそれそれ」

勇者「詳しい話は私も知りませんね」

剣士「そうかぁ……」

勇者「そもそも私でも、それが何者なのか知りません。とは言え元勇者である可能性が高いのですが……」

剣士「へえ、なんでだい?」

勇者「この国の女勇者様をご存知ですね?」

剣士「魔王を討伐した一人だよね。そうか、君ならその方から直接……」

勇者「いえ……直接聞いても言葉を濁されるので何とも。ただのそれらしい単語を仰っているのを聞いた事があるだけです」

剣士「なるほどなぁ……まあ何はともあれ今回の事と別ならいいさ」

剣士「噂で聞く限り敵となったら……」ゴクリ

勇者「ええ、そちらの噂もよく聞きますね。私としても敵対者としてお会いしたく……ふあ」

剣士「ああ、ごめんごめん。ありがとうね」

勇者「ええ、ではお休みなさい」

二十数日後 何個目かの町

町人「何でも、聖騎士長様のご息女である聖女様が冥王討伐に旅立ったそうだぞ!」


剣士「流石にここまで来ると君を見た事がない人が多いね」

魔術「ちょっと意外。知られていないものね」

勇者「城下町を遠く離れる事も稀でしたからね……思い返してみれば当然といえば当然です」

医術「そろそろ国境が近くなってきていますが、他国の情勢について聞いてはいないのでしょうか?」

勇者「詳しい事は……ただ、今向っている国は王家の者が勇者となった経緯もあり」

勇者「積極的に打って出ては主要戦線を押し上げているそうです」

剣士「ああ、聞いた事があるな。隣の国の事だったんだね」

勇者「ただそれ故なのでしょう、敵の数もかなり多いとの事です」

勇者「ああそれと、恐らくですが我が国の勇者様は、この近辺で戦っているだろうという事です」

医療「運が良ければお会いできるかもしれませんね」

魔術「会うの初めてで緊張するわね……」

剣士「普段から色々と動き回っている方だしね」

勇者「是非ともお会いしたいものです。私も勇者となった身、何かご教示頂ければ……」

剣士「立場的に相手が萎縮するだろうけどね」

医療「ですよね」

医療「ここを発つとしばらく町がありません。今日はしっかりと食べて休みましょう」

剣士「奮発していいかい?」

勇者「たまには良しとしましょうか」

剣士「ステーキに香草サラダ! あとそうだなぁ、ライ麦パンとエールで」

魔術「がっつりいくわねぇ……あたしは白身魚のムニエルにミネストローネで」

医療「キノコと香草ハンバーグ、それとこのスープというのは?」

「本日はコーンスープです」

医療「ではスープとパンで」

勇者「私はパンと肉団子スープ、それとそうですね……このシーザーサラダでお願いします」

「はい、かしこまりました」

魔術「それにしても、勇者様って意外となんでも食べるのよね」

勇者「どういう意味ですか……」

剣士「一般的なイメージだと王女様みたいなものだからねぇ」

勇者「確かに、両親は地位のある立場におりますが、直接私に影響を与えるものではありません」

医療「分かってはいるんですけども、やはり雲の上の方というイメージが強いですからね」

勇者「まあ、医療師さんまでですか?」

剣士「というかそもそも君は、神々の加護を受けし子と謳われているんだよ? 自覚無さ過ぎだよ」

勇者「確かにそうですが、だからといって私に特別な地位や名誉がある訳ではありません」

魔術「そうだとしても、家としては裕福なんじゃない? 普段から高級な物食べてそう」

勇者「それは否定しませんが、常にそういった事はありませんよ?」

勇者「それに城下町の商店も大変お世話になっています。そこまで生活は大きく違わないと思います」

医療「そうなのですか? それは知らなかった……」

剣士「メイドさんが買い物しているからねぇ。だから大司教様や勇者が目撃される事は少ないのさ」

魔術「あ、メイドはいるんだ」

勇者「屋敷が広い事と父が多忙という事も……いえ、元々二人とも忙しい身でしたからね」

勇者「私が物心着く頃には既にいましたよ」

剣士「まあ……勇者の家で唯一、個人的な贅沢と呼べるのがメイドさんだからねぇ」

魔術「というか剣士、勇者様とそんなに付き合い長いの?」

剣士「一応これでも父親が騎士団の一員だからね」

剣士「俺も幼い頃から剣を習っていたわけだけど、そこに勇者が加わる形だったんだよ」

勇者「歳の近い者も少なかったので、親しくなるのもそう時間がかかりませんでした」

剣士「分かるかい……年下の女の子に剣の腕で追いつかれる恐怖が……」ブツブツ

医療「それなりの苦労はあったみたいですね……」

「お待たせしましたー」

剣士「お、きたきた」

勇者「それでは頂きましょうか」

医療「ですね」

魔術「ああ……これでしばらくは野宿生活かぁ……」

剣士「そう言うなって。納得してこの旅に志願したんじゃないの?」

魔術「予想以上にきついのよ……」

勇者「そこは耐えて下さい。私は慣れました」

医療「勇者様と魔術師を比べるのは流石に酷ですね……」

……更に十日後

剣士「ふう……そろそろ国境か」

魔術「相変わらずいるのはグールばかりね」

勇者「恐らく、ワイトは四天王の傍に集まっているものだと考えられます」

勇者「攻撃部隊としてのワイトもまだ魔王城から離れた地までには来ていない、といったところでしょうか」

医療「だといいんですけどね」

剣士「そういうのは後にしてそろそろ野営準備に入らないと日が暮れるよ」

魔術「この辺りは木が多くて嫌ね……」

医療「ですが逆に音がしやすいですからね」

ガササ
勇者「!」バッ

剣士「まだ日があるのにかっ」スラン

魔法使い「ちょ、待って待って」ガササ

女勇者「すみません、私は女勇者という者です。こちらから人の声がしたので……」

医療「女勇者様!?」

魔術「うっそ、ほ、本物?!」

剣士「! け、剣を向けた無礼、お許し下さい!」

僧侶「な、何だか大変な事になってしまいましたね……」

……
女勇者「風の噂程度に聞いてはいましたが……まさか本当に聖女様が……」

勇者「そんな! 私如きに様などをつけないで下さい」

女勇者「え、ええ……? いや、その……立場的に、というか個人的に」ゴニョゴニョ

剣士「だから言っているだろうに。君は君が思っている以上に人から敬われているんだって」

勇者「はあ……ただ両親が功績ある人というだけなのに」

勇者「功績などない私に比べたら女勇者様はなんと偉大な事でしょうか」キラキラ

女勇者(雲の上の人から尊敬の眼差しが……助けてっ)チラチラ

魔僧「……」フイ

女勇者(目逸らされたぁ!)

女勇者「へ、へえ……そうなのですか」

勇者「ええ、そうなのですよ。それで……」ニコニコ

剣士「お話中、申し訳ありません」

剣士「女勇者様に是非ともお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

女勇者「え? あ、ああうん、あたしに分かる事なら何でも聞いて」ホッ

剣士「スケルトンキング、という存在はご存知でしょうか?」

魔法「……」ピク

僧侶「あ……」

女勇者「……」

女勇者「うーん、四人とも他言しない事を約束できますか?」

勇者「ええ」

剣士「はい」

医療「はい」

魔術「はい」

魔法「ちょっと、いいの?」

女勇者「んー……聖女様率いる冥王討伐隊だしね。それに知っていれば、後々有利になるかもしれないし」

僧侶「た、確かにそうですね」

女勇者「と言ってもそう多くを話せる訳でもないけども。彼の生い立ちとかだけどいいですか?」

剣士「! ぜ、是非!」

勇者「そこまでご存知なのですか?」

女勇者「本当の生い立ちは知らないんですけどね」

女勇者「彼は元々一人の青年であり、魔王討伐時に戦った勇者の一人です」

女勇者「彼は魔王からその膨大な魔力を引き継がされ、また魔王の策略によるゾンビ化の影響で」

女勇者「今のような、動く白骨……魔物のスケルトンのような姿になってしまったんです」

魔術「そんな無茶苦茶な……それって生きてるのかしら? アンデットとして復活?」

女勇者「ど、どっちなんだろう、本当。何度か会えたけども、長話出来なかったからなぁ……」

剣士「まさか本当に元人間だとは……」

女勇者「勇者だった時から、ふらっと現れて人を助けてはふらっと消える傾向があってね」

女勇者「あたしもそうして……命を繋いだんだ」

勇者「そうだったのですか? ですが、スケルトンキングと呼ばれる存在が、協力的であるというのは心強い話ですね」

魔法「あー……あれは何ていうか気まぐれだから、あまり期待はしない方がいいと思うわよ」

僧侶「でも今でも何処かでアンデットとの軍団と戦っていそうですけどね」

女勇者「もしも彼に会う事があれば『たまには人前に出てきたらどうか』と伝えて下さい」

勇者「分かりました。ですがその……そのような内容でよろしいのですか?」

魔法「というか会いたい、とかじゃなくていいの?」ハァ

女勇者「まま、魔法使い!? な何を言っているんだ全く!」

剣士「え? そういう事?」

医療「おお……」

魔術「……だから未だに結婚しないんですか」

女勇者「わー! わー!」

女勇者「魔法使いぃ……」ギロ

魔法「いい歳してなに乙女ごっこしているのよ……」

僧侶「ま、まあ……今の女勇者さんだったらその気になれば、ご自分でお会いできる事ですし」

女勇者「あ、あたしは表向きの、平和の為の行動を頼まれたのっ。それを放棄する訳にはいかないっ」

剣士「凄い……純愛だ……」

勇者「羨ましいです……私もそのように誰かを想える日が来るのでしょうか」

魔法「それで婚期逃してれば世話ないけどもね」ボソ

僧侶「ま、魔法使いさんっ」

剣士「話は変わりますが、女勇者様はここでグール討伐をなさっているのですか?」

女勇者「せめてあたし達ももっと戦えるのなら、敵陣深く切り込めるのに……」

僧侶「私も対抗する魔法は使えますが、強度は低いものですからね……」

魔法「死者の瘴気であたし達までアンデット化とか笑えないわね」

女勇者「やはり聖女様がいらっしゃるだけで、そういった問題も解決するのですか?」

勇者「今のところグールの攻撃を受けてもアンデット化せずに済んでいます」

剣士「ホーリーヴェールかかってなかったからなぁ……正直冷や汗ものだったよ」

医療「見ていたこっちも気が気じゃなかったですけどね」

魔術「やっぱり冥王と戦うには勇者様の力は必要不可欠かぁ」

剣士「それに勇者自身の攻撃というだけでアンデットには有効だから仕方ないね」

医療「やはり……わずかに切りつけた程度の攻撃でグールが死ぬ事があったのは……」

女勇者「神々の加護、だろうね……」

魔法「あたし達の時はそんな力、誰も持っていなかったのにね……」

僧侶「冥王と魔王とでは差が歴然という事ですよね」

女勇者「冥王やその直属の配下が放つ瘴気を浴びただけでアンデットとなりえる……」

勇者「彼らの進軍は文字通り、死者の軍団を築く事になりますからね」

剣士「そりゃあ神様も重い腰上げるか」

女勇者「さて、そろそろ寝るとしようか」

剣士「見張りはこちらでやりますよ」

魔法「あらそう? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」

女勇者「いや、あたしもしよう」

勇者「いえ、私どもにやらせて下さい」キラキラ

女勇者「また、この眼差し……」

魔法「頑張りなさいな、英雄」

翌朝

勇者「それでは私達はこれで」

女勇者「聖女、いえ勇者様、道中お気をつけ下さい」

勇者「はい、女勇者様もどうかお気をつけ下さい」

剣士「お互い様付けっていうのも不思議な光景」

医療「ですね」

魔法「まあ、グールぐらいなら大軍でも返り討ちに出来るわ」

僧侶「どうか守りはご安心して下さい」

魔術「はい、よろしくお願いします」

勇者「まさか本当にお会いできるなんて……」ジーン

剣士「君は……もういいや。言っても意味はないし」

勇者「ここから先は他国の領土です。気を引き締めて行きましょう」

魔術「敵軍の情報も得られればいいんだけどもねえ」

医療「目指すは王城でしょうか?」

剣士「まあ、ギスギスしている訳でもないし、謁見ぐらいできるかなぁ?」

勇者「戦況次第、ではありますが、恐らく可能でしょう」

魔術「流石に他国の首都は初めてね……ちょっと楽しみかも」

兵士達「旅人か……?」

兵士達「こんな時にそんな少人数で? 一体何者だ」

勇者「私達は冥王討伐の任を受けた者です」

兵士達「討伐……ま、まさか聖女様!? ご、ご無礼をお許し下さい!」

勇者「頭を上げてください。貴方方は職務を全うしていただけではありませんか」

剣士「他国の人間までか……」

医療「流石に意外ですね」

魔術「この調子だと謁見もすんなり進みそうね」

駐屯地

部隊長「なるほど……それで遠路はるばる我が国へ。ご助力感謝致します」

部隊長「しかし、確かに敵の数は多いのですが特に問題はないでしょう」

勇者「と仰いますと?」

部隊長「我が国の勇者様方が最前線で戦っております。あのお二人であらば敵などあってないようなものです」

剣士「?? つまりはどういう事ですか?」

部隊長「おっと失礼、お一人は魔法に長けた方で、もうお一人は剣が卓越している上に、強力な魔法を扱えるのです」

魔術「へえ、なんだろうそれ」

部隊長「ライジングショット、と呼ばれる魔法です」

部隊長「それは最早高出力の光線であり、全てを貫く攻撃魔法ですよ」

魔術「き、聞いた事があるわね」

剣士「ほぼ無敵の魔王の障壁を打ち砕いたっていう魔法かぁ……」

医療「あ、なるほど。思い出しました」

勇者「しかし大軍を相手ではそうもいかないのではないでしょうか?」

部隊長「まあ本当の事を言えば、お二方に頼るだけでは打破できませんよ」

部隊長「しかし八年前よりこの日の為に、我々は準備をしてまいりました。この程度、なんていう事はありません」

剣士「ちゃんと動いていた国があったんだ……」

剣士「どうする? このまま首都まで行っても無駄足になるかもよ?」

勇者「……悩みどころですね」

魔術「さっさと先に進んだほうがいいんじゃない?」

医療「? そういえば外が少し騒がしいような……」


兵士A「たあああ!」ヒュンッ

ワイトA「ハッ! あったらねぇよ!」

ワイトB「そうら!」

兵士B「がぁっ!」ザンッ

兵士C「グールじゃない! ワ、ワイトだ! ワイトが襲撃し」ザシュ

ワイトA「うるせぇなぁ!」

部隊長「ば、馬鹿な……そ、総員攻撃せよ!」

勇者「私達も出ますよ!」

剣士「初のワイト戦かぁ」

魔術「やっとあたし達も出番がありそうね」

医療「私は出番がない方がいいんですけどね」

ワイトF「おっとぉ!」ザッ

ワイトD「こっちにもいやg」ザンッ

勇者「……ふっ」フォン

ワイトF「なんだこ」ザッ

兵士達「す、凄い……」

剣士「流石に一太刀で倒すとは思わなかったよ」

勇者「敵はまだまだいます。キビキビ動きますよ!」

魔術「フレイムボルト!」ドドドッ

ワイトA「ケッケケ!」バッ

ワイトB「当たるかよぉ!」ババッ

医療「あれがワイト……? 随分とグールとは様子が違いますね」

剣士「よっ!」ザンッ

ワイトA「ぎゃっ!」ザシュッ

ワイトB「だっせぇ!」ケラケラ

ワイトA「てめぇ……お?」ボッボボ

ワイトA「なん、炎っ」ボボゥ

医療「あれが魔法剣……」

勇者「そちらは任せますよ!」

剣士「ああ、このぐらいなら何とかいけるかな」

ワイトB「アァ?」

ワイトB「こっちが本気になりゃあてめえなんぞ!」ババッ

剣士(は、早……)

魔術「スネークアーム!」

黒い腕「」ヌタヌタタ

ワイトB「わぶっ!」ドザァッ

ワイトB「は? はぁっ!? んだよこの腕ぇ!」

剣士「はっ!」ザンッ

ワイトB「ぎゃあああ!」ボボゥ

ワイトL「や、やべぇよ……」

ワイトO「こいつつえぇ……」

ワイトN「」

勇者「さあ、次はどなたが相手になって下さるのですか?」ヒュンッ

ワイトP「てやあぁぁぁ!」

勇者「っ!」ヒンッ

ワイトP「ぎっ」ザンッ

ワイトO「くっそ!」

ワイトL「死ねぇ!」

勇者「ふっ」ブォンッ

ワイトO「げっ」ザ
ワイトL「おっ」  ンッ

剣士「粗方片付いたか……」

魔術「それでも殆ど勇者様が倒したけどもね」

兵士ABDEGI「」ムクリ

部隊長「ま、まさか……」

剣士「グールか……」

魔術「フレイムボルト!」

兵士ABDEGI「アー……」ドガガガ

勇者「魔術師……」

魔術「流石にね。さっきまでいた人を斬る訳にもいかないでしょ……」

部隊長「ご助力、感謝致します」

剣士「ワイトの突破力、思いの他脅威だね……」

魔術「普通の人間よりも早い動きに普通に喋るんだものね」

勇者「少し、気を引き締めないといけませんね」

医療「……勇者様は万に一つ、遅れをとる様子はありませんでしたけどね」

剣士(そりゃそうだ)

医療「それにしてもこのワイト達は……」

魔術「まさか西の国が落ちたなんて事はないでしょうね」ゴクリ

勇者「だとしたらもっと大々的に動いているはずです」

剣士「俺もそう思うよ。国境付近の警備の薄いところを掻い潜り」

剣士「アンデット軍団から見て奥にある国々への牽制。うまく行けば」

勇者「人間の内側からの瓦解が狙えるというものですね」

部隊長「! し、至急伝令を!」

剣士「とは言え、国境付近だってそれなりの戦力がいたはずなんだけどなぁ」

医療「流石に十数名の少数を防ぐほどの網の目ではなかったという事でしょうか」

剣士「連中を見る限り、発見されたらされたで戦っていそうな感じだしなぁ」

魔術「もしかしたら戦ってここまで来たのかもしれないわよ?」

勇者「グールはその場に放置して、という可能性はありそうですね」

医療「あまり、よろしくない戦況ですね」

勇者「焦りは禁物です。確実に進んでいきましょう」

剣士「だね」

医療「それにしても……彼らと私達の差は一体、どこにあるのでしょうか」

剣士「接している時間の長さじゃないかな」

魔術「え? 何の話よ?」

剣士「兵士がグールになったことだよ」

勇者「何故、彼らにも加護が与えられなかったのか……今でも理解に苦しみます」

剣士「ほいほい加護を与えられるなら、初めから人類に対死者の加護が与えられているでしょ」

剣士「神々にとってはこれでお膳立ては済んだぐらいの気持ちかもしれないね」

魔術「降臨でも何でもして押さえてくれればいいのにねぇ」フゥ

医療「それが出来ないからこその勇者様、でしょうか?」

勇者「……なのかもしれませんね」

数日後
グール「アー……」ザンッ

勇者「ふう……やはり国境付近の方が、敵との遭遇率が高いですね」

剣士「もうすぐで西の国だってのにねぇ」

魔術「このまま真っ直ぐ冥王を目指すわけ?」

医療「情報があまりにも少ないですからね」

勇者「西の国にて最新の情報を確認した上で決めましょう」

勇者「可能であればデュラハン等、直属の配下を排除してから冥王との戦いに臨みたいところですので」

剣士「確かにね。後ろから奇襲されたらたまったもんじゃない」

魔術「あー……怖いわね、それ」

勇者「今はこのまま西に進み、北の国と西の国を繋ぐ街道より首都を目指しましょう」

ザザザ
剣士「なんだ……? なんか騒がしいな」

医療「近くに軍がいるのでしょうか?」

魔術「あっ、ほらあそこ、灯りが見え」カッ

剣士「ぐぁっ! 目が!」

魔術「ライトの魔法? 一体なんで?!」

勇者「こちらに大勢向かってきていますね……あれは……アンデット!?」

医療「えぇっ?!」

剣士「ま、不味い! もしかしたら例の勇者様かもしれない!」

勇者「! 光源と敵の位置からして……こちらへ! 早く!」

魔術「ま、巻き添えは御免よ!」


勇者「ふう……ここまでくれば」

剣士「大丈夫だといいんだけどねぇ……」

医療「はぁ……はぁ……」

魔術「ぜい……ぜい……」

光の筋「」ビュァッ

勇者「きた!」

剣士「おおぉ……あれがライジングショット」

医療「はぁ……て、敵が……」

剣士「今ので七割近く消えたね……」

勇者「おおよそ40、それもワイトが多数いたというのに」

魔術「あれまで、避けられたら……絶望、的よ、ふう……」

剣士「確かになぁ」

剣士「大方、西の国を避けて北側を抜け、北の国に攻め入ろうとしたんだろうな」

医療「それなりの規模ですからね」

勇者「そこを北の国の勇者様に発見されて返り討ちといったところでしょうか」

魔術「あの魔法があれば冥王とも戦えなくもなさそうね……」

剣士「魔力の消耗が激しそうだけどねぇ」

医療「防衛においてはこれ以上ない砲台ですけどね」

勇者「あのワイトが一瞬で蒸発、直属の配下相手が襲ってきても凌げそうですね」

剣士「まったくだね」

西の国
商人「ひあああああ!」

盗賊「くそ!」

ワイトA「ヘヘヒャヒャヒャ!」

ワイトB「逃げろ逃げろぉ!」

剣士「フレイムブレイド」ボゥッ

勇者「はっ!」ザンッ

ワイトA「ヒギャ」ボシュッ

ワイトB「ぎゃああああ!」ボボゥッ

医療「お怪我はなさそうですね」ササッ

商人「ひぃ……ひぃ……助かったっす」

盗賊「助かりました……」ハァ

剣士「いえいえ」

勇者「御無事で何よりです」

……
盗賊「まさか聖女様とは……」

商人「本当に悪運強いっすね……」

勇者「以前にも何かあったのでしょうか?」

盗賊「まあ……色々とですね」

商人「あ、そうだ。それでしたらこれを破格でお売りするっす」

魔術「あ、タダじゃないんだ」

医療「魔術師、そういう事を言うもんじゃないですよ」

人「この特別らしい魔石がなんと今ならいちきゅっぱ!」

盗賊「ああ、それか」

剣士「……万ゴールドとか言わないよね」

商人「言わないっすよ、1,980ゴールドっすよ」

勇者「随分と小さい魔石ですね」

剣士「だけどこれ、やばいよ」

魔術「ええ……ありえない量の魔力が込められているわ」

魔術「しかもこれ、魔法を封じたものじゃないの? 一体何の魔法よ」

商人「いやあ詳しく分からないっす」

医療「ガラクタである可能性も……」

剣士「ではないのは大きさと魔力量からわかる。けど安全面は、ねえ?」

魔術「いきなりボンッて可能性は大きいわよね」

盗賊「暴発はしないはずだ」

勇者「何故、そう言いきれるのでしょうか?」

盗賊「ある人から持つべき人に託すように頼まれていたんだ」

盗賊「何でもとてつもなく強大な力らしい」

剣士「託されたのに詳細は知らないんだ」

商人「そういう人っすからねーあの人……」

盗賊「だなぁ」

医療「因みに、その方はどういった人なのでしょうか?」

商人「……」

盗賊「元魔王討伐に参加した勇者であるとしか言えないかなぁ」

魔術「それがあんた達みたいのに重要な物を託すぅ……?」

盗賊「それを言われると困るな……」

商人「その発想はなかったっす」

剣士「え? なんでないのさ……」

勇者「……分かりました。その魔石、買い取りましょう」

剣士「いいのかい?」

勇者「このお二方が嘘をついているようにも見えません」

医療「まあ、勇者様がそう仰るのでしたら」

商人「まいどーも!」

盗賊「……」ドスッ

商人「うぐっ!」

魔術「本当に信じていいのかしら……」

剣士「うーん」

盗賊「……」

盗賊「ついでにこれもつけよう」チャラ

剣士「ペンダント?」

商人「いいんすか? そんな勝手な事して」

盗賊「た、多分大丈夫だろ……」

勇者「特別な道具なのでしょうか?」

魔術「うん……僅かな魔力は感じるわね」

盗賊「それが青く光っている時に困っていたら、迷わず助けてって叫ぶんだ」

医療「ヒーローでもやってくるんですか?」

盗賊「ヒーロー……」

商人「見ようによってはヒーローが登場するっす」

盗賊「外見はラスボスだけどな」

剣士「言っている事がおかしいんだけど」

勇者「強面のヒーローという事ですね」

盗商「……」

魔術「え?! なんで黙るの!?」

盗賊「ヒーローだ! いいか!? 何があろうとヒーローだ!」

商人「そうっすね! ヒーローっす!」

剣士「と、とりあえず、外見に驚かないよう覚悟はしろって事でいいのかな……」

勇者「因みにそのヒーローの方に、このペンダントの出自を聞かれたらどのようにお答えすればいいのでしょうか?」

盗賊「俺から譲り受けた旨を伝えてくれていい」

商人「後で小言パターンっすね」

盗賊「それぐらい甘んじるさ」

盗賊「それでは道中お気をつけ下さい」

勇者「まだまだアンデットの軍隊はいます。お二人もお気をつけて」

商人「うちらの勇……ヒーローに会ったらよろしく言っておいて下さいっす」

剣士「ねえ、せめてもう少し容姿について……」

盗賊「じゃあ……見るからに近接戦に秀でた戦士スタイル」

商人「確かにそうっすね。そうっすけど……」

魔術「だからなんでそう妙な否定が入るのよぉ……」

剣士「不安になるなぁ」

……
勇者「さて、私達は先に進みましょう」

剣士「さっき医療師はあんまり喋っていなかったけど、何かあったのかい?」

医療「……いえ、少し気になるというか引っかかる事がありますが」

医療「まあ、大丈夫でしょう」

魔術「ちょっと、医療師までそんな事言い出すのぉ……?」

剣士「何だって言ってくれていいんだよ?」

勇者「なにか遠慮なさっているようでしたら気にしないで下さい」

医療「いえ、本当にちょっとした事ですので」

剣士「……そういえばさ、さっき敵軍の話をした時に思ったんだけど」

剣士「結局のところ、敵の正体ってよく分かっていないだけど、その辺は勇者知らないかい?」

魔術「はぁ? どういう意味?」

剣士「まんまだよ。グールやワイトはただのゾンビとどう違うのか」

剣士「冥界の王だから冥王、なんだよね? じゃあ人型のグールやワイトってどっから調達してんのとか」

医療「……私も気にはなっていましたが、それは詳細不明という事だと考えていました」

勇者「……いえ」

剣士「となると、不確定情報だから話さなかった、かい?」

勇者「……」フゥ

勇者「長く居ると簡単に悟られてしまうのはデメリットと言わざるを得ませんね」

勇者「八年前……初めて冥王の部隊との衝突、その時に発覚した事ですが事実かどうかは分かりません」

勇者「まず彼らとゾンビの違いですが、ゾンビは夜や薄暗いところを好むだけで日光の前に出てこない訳ではありません」

剣士「明確な違いだよね」

勇者「そして、グールやワイトは冥王の力を持った者達であるが故に、日光の前にはその身を晒せないという事です」

勇者「グールとワイトの違いですが、飽くまで冥王の力の量の差によるランク付けのようなものだそうです」

医療「力が大きいとああして人間のようなに言動を行えると……」

勇者「ええ。それとどう増やしているかについては、冥界の魂を襲い、冥王の力が伝わることでグールやワイトになるようです」

剣士「……それは生者でも言える事だね」

魔術「じゃ、じゃあ人型以外のもいるってこと?」

勇者「どういう訳か、冥界には死んだ人しかいないそうです。ですが現在のような状態で魔物を襲えば……」

医療「彼らもそうなる、と」

魔術「恐ろしい話ね……それにしてもその話は一体どうやって分かったものなのかしら?」

勇者「その時の戦いに参加していた聖騎士が、ワイト達がそう話したのを聞いたそうです」

剣士「まあ真偽の程はいざ知れず、回りに伝えられていないのは納得だね」

医療「そう、ですね」

魔術「何でよ?」

剣士「そんな死後まで憂う必要があるなんて、知れ渡って良い事ないでしょ」

剣士「面倒だから全て口止めしたんだろうね」

医療「ですがそれも」

勇者「ええ、必ず断ち切って見せましょう」

城下町
西の国王「これはこれは、遠路はるばるお越し頂き」

勇者「よ、止して下さい!」バッ

西の国王「し、しかし聖女様である貴女様に……」

剣士「勇者の存在感やばいなー」ボソ

魔術「流石にここまでとは思わなかったわね」

医療「一国の王に頭を下げさせましたからね」

勇者「三人とも……?」ジロリ

西の国王「……なるほど。ワイト部隊の詳細が聞けて助かります」

剣士(敬語……)

西の国王「情勢についてですが最前線の国という事もあって、各国から詳細な報告を聞いております」

西の国王「我が国含めてご説明させて頂きます」

西の国王「東の国はグールの被害すら軽微、まあ当然でしょうか」

西の国王「北の国はそこの勇者様方を筆頭に戦力を展開し敵軍を撃破」

西の国王「南東の国と我が国の勇者達と共に軍事展開し、敵軍を退けております」

西の国王「それ故に南東の国は多少のグールと交戦するに留まっております」

西の国王「勇者様の中の国は僅かなワイトと交戦する事があるも、戦線維持に支障はないそうです」

医療「そういえば東の国にも勇者様はいらっしゃったはずでは……?」

西の国の王「今、彼女は身重だという事で今回の戦闘に参加していないとの事です」

剣士「東の国の勇者って女性だっけ……?」

勇者「生還した女性勇者は二人、北の国の王族の方と東の国の方ですね」

勇者「こちら西の国は仲間を皆亡くして生還された方、南東の国が何名かの仲間と共に生還された方」

勇者「でしたでしょうか?」

西の国の王「ええ、その通りです」

西の国王「彼らがいる事もあり、前線の戦力の偏りというのはあまりありません」

西の国王「この後の進行予定はどうされますか?」

勇者「他の皆さんには今まで通り、守りに全力を尽くして頂ければと思います」

剣士「少数精鋭の突撃部隊だけが矛かぁ……」

医療「やはり隠密行動にて接近するおつもりですか?」

勇者「少数である利点はそこですからね」

魔術「援軍が欲しいわねぇ」

剣士「その援軍が敵になる可能性を考えると何とも言えないけどね」

謁見後
勇者「本日はここで一泊し、明朝に西へ向けて出発しましょう」

勇者「西の国の王のご厚意により、こちらに泊まらせて頂ける事になっています」

剣士「王城に? 凄いなぁ」

魔術「返って落ち着かないわね……」

医療「物資の支援もして頂けるという事ですし、ありがたく受け取っておきましょう」

勇者「ですね」

夕食
剣士「いやぁ……どんな料理が運ばれてくるんだろうね」ワクワク

魔術「こればっかりは楽しみで仕方がないわね」ドキドキ

医療「そういえば……全く話が変わるのですが、どういった基準で我々が同行者として選定されたのでしょうか?」

勇者「そうですね……こういう言い方は失礼なのですが、ある程度のスキルを持ち、国にとって重要でない方がリストアップされます」

勇者「その中から私を含め、大臣の方などと協議して決めていきました。そこでもし、どうしても決まらない分野の方がいた場合」

勇者「必要に応じて国としても重要な方も挙げるという流れですね」

剣士「メンバー的に見ても前者で終わったんだね」

魔術「医療師とか特別じゃないの?」

医療師「国として、ではないですし代替が利く立場でしたからね」

勇者「私が重視したのは共に旅が出来る仲間になり得そうか、という事ですね」

剣士「人間関係も重要だもんなぁ」

勇者「剣士の能力は言わずもがな、更に元から親しかったですからね」

勇者「医療師さんは人柄の良さが評判でした。勿論、医療従事者と患者の立場を守っておられる可能性もありましたが」

勇者「魔術師さんは……破天荒だというのは聞いておりましたが、人柄に難はないと言う事だったので」

魔術「ちょっと! あたしの選定基準! しかもこの旅への本人確認が何度もあったのって……」

医療「え? それは普通そう何度もするものではないですよね?」

剣士「言うほど破天荒でも……猫被ってる?」

医療「猫被ってこれですか……」

魔術「ちょっと?!」

剣士「性格は何にせよ、魔術師もそれなりにお墨付きだったのかぁ」

魔術「二人が強い分、あたしは活躍の場が少ないからそう言われても仕方ないわね」

剣士「あー思い返してみればワイト部隊の戦闘でだいぶ助けられたし」

剣士「言われてみれば納得だ」

医療「因みに剣士は兵士などには志願していないのですか?」

剣士「その話かぁ」

勇者「聞かれちゃいましたね」

剣士「魔法剣って軍だとあまり評価されないんだよね」

勇者「魔法部隊もしっかり構成されますからね」

剣士「だから傭兵に近い立場でぶらぶらしていたんだよ。旅に出ようかなぁと思ったらお声がかかったって訳」

医療「なるほど……そういえばお互いの事、あまり知らないものですね」

勇者「私はある程度の範囲は資料で閲覧していますが、やはり直接聞いてみたいですね」

医療「私は町の医療師として仕事をしていただけのしがない民間人ですよ」

剣士「謙遜しちゃってー。それだけじゃないから声がかかったんじゃないの」

医療「そうですねぇ……それなりに調合が出来るのと、人からはよく要領がいいとは言われますね」

剣士「あ、なるほど」

勇者「医療に限らず、物凄いテキパキと動かれますものね」

魔術「あたしは魔法道具屋で働いていたわ」

魔術「まあ勉強しながらって感じかしら」

剣士「なんか意外だなぁ。実戦経験とかはないの?」

魔術「あー……ちょっとはお小遣いにって魔物の討伐とかやったりしていたわよ」

剣士「俺と似たような感じかぁ」

医療「私はあまり外に出る機会もなかったのですが、今でも討伐が必要なほどに魔物がいるのですか?」

勇者「十年前は魔王の魔力により、種族全体が操られていました」

勇者「魔王亡き今は大きな戦闘はありませんが、増えすぎたや生活圏への侵食による討伐などが増えてきましたね」

医療「個体数が大きく減る要因が解消されてしまったから、ですか」

魔術「魔王出現前に戻っただけって言う年配の人はよくいるわよね」

剣士「俺みたいに有難がる人も少なくないけどねー」

魔術「そうね」

……
剣士「ああ……美味かった」

魔術「凄い大きなお肉だったわね」

医療「暴れ牛鳥の肉だそうですよ。聞いてはいましたが随分と食いでのある物でしたね」

勇者「さて、今日も早めに休みましょう」

医療「明日も早いですからね」

剣士「これからが山場かぁ」

魔術「気合入れていかないといけないわね……」

勇者「流石にそれはまだ気負いすぎですよ」

剣士「まあ、国外に出てからだよね」

二十数日後 夜
ワイトA「ぎゃあああ!」バヂヂヂ

剣士「よしっ」

勇者「たっ!」ザンッ

ワイトC「ひぎゃあっ!」

魔術「アームスネーク、フレイムウォール」

ワイトB「があああ!」ボォォォ

医療「少数のワイトが目立つようになりましたね」

勇者「国境が近いのでしょうね」

剣士「みたいだよ。ほらあそこ」

魔術「……? 明かり?」

勇者「野営でしょうか」

剣士「多分ね」

医療「明日には着けそうですね」

翌日夕暮れ
兵士達「聖女様が!?」ザワザワ

剣士「君の影響力、ほんと凄いね」

勇者「自分の事ながら納得いきません」

医療「まあまあ」

勇者A「せ、聖女様だって?!」バタバタ

騎士「お迎えに上がる事できず申し訳ありません!」

衛生「あわわわわ!」

勇者B「せ、聖女様がいらっしゃったって?!」

魔術「英雄に混乱を与える罪な女ね」

勇者「そういう言い方をしないで下さいっ」

勇者A「噂に聞いていましたが本当だったとは」

勇者B「何もおもてなしは出来ませんがゆっくりしていって下さい」

剣士「凄いもてなされているよなぁ」

医療「立場的に見るとそうですよね」

勇者「ですから私達の事など特別視して頂く必要は」

騎士「何を仰いますか。貴女様の立場も、そして今背負われている大役も特別な位置にいらっしゃるではないですか」

魔術「よくよく考えたら勇者様顔パス状態よね」

剣士「ある程度の位の高い、勇者の事が周知されている界隈の人達限定だけどね」

医療「城下から離れた町だと顔は知られていませんでしたものね」

剣士「それにしても随分と戦力を集中させていますね」

騎士「あ、ああ……それがだな」

剣士「……」ピク

医療「どうかされましたか?」

勇者A「凄いな……君は気づいたか」

勇者「しかもこれほどは……」

騎士「総員、戦闘配備! 敵襲来るぞ!」

魔術「敵が大勢ならあたしも戦いやすいわね」

剣士「にしてもこんだけ殺気を隠さないだなんてね。相当な数で来てるだろうし、気緩めちゃダメだよ」

医療「わ、分かりました」

剣士「ああ、そうか……敵軍が発見されたから……」

勇者A「聖女様にお越し頂けたのは僥倖以外なにものでもないがな」

死者軍団
ドラウグル「……」モォォォ

ワイト達「くっせぇ!」

ワイト達「早く進めぇ!」

ワイト達「おらぁ! いくぜぇ!」


兵士「魔法部隊によるライトの発動を確認!」

兵士「敵は……て、敵は! ワイト! 大量のワイトです!」

兵士「ま、待て……あの奥にいる奴は何だ? ワイトでもグールでもないぞ・」

勇者A「まさか……随分と早い進軍だな」

勇者「冥王直属の……」

剣士「こりゃあいよいよ雲行きが怪しくなってきたなぁ」

剣士「フリーズブレイド」コォ

剣士「この状況、致命傷に拘らないからね!」

魔術「凍った連中の処分はあたしぃ!?」

勇者「いえ、可能な限り健在する敵への攻撃へ」

医療「動きを止められれば兵士達でも倒せるから、ですか?」

剣士「リスクなしに渡れる戦場じゃあないでしょ?」

勇者「行きますよ!」

ワイト達「殺せ殺せぇ!」ババッ

ドラウグル「……」モォォォ

兵士達「うっぐ……おっ」

兵士達「お、げぇぇぇ」ビチャビチャビチャ

魔術兵「! 退け! 退け!」

兵士「これは……て、敵はドラウグル率いるワイト軍団です!」

勇者A「腐敗する瘴気か……」

勇者「ホーリーヴェール!」カッ

兵士達「ああ……体が楽に……」

兵士達「聖女様……感謝致します」

剣士「たあああ!」ザンッ

ワイト達「ぎゃ」ビキビキ

ワイト達「か、体が!」バキバキ

ワイト達「気ぃつけろ! ヤローに斬られると凍るぞ!」

勇者「はっ!」ヒンッ

ワイト達「ぎゃああ!」
ワイト達「ひぎゃ!」

ワイト達「やりやがったなぁ!」ワラワラ

ワイト達「あの女を殺せぇ!」ゾロゾロ

剣士「一体、どんだけいるんだろうねぇ……」

医療「……これは思いの外、苦しい状況になりそうですね」

勇者「ふう……ふう……」

魔術「勇者様……?」

剣士「これだけの範囲をカバーするホーリーヴェールともなると、相当な負荷になるんだろうね」

剣士「あまり長引けない。魔術師、出し惜しみせずにいくよ」

魔術「ええ、分かったわ」

勇者「はぁ……いけません、ドラウグルとの戦闘、が」

剣士「その前に倒れられたら意味がないよ」

勇者A「たああ!」ザンッ

ワイト達「ちぃぃぃ!」ブシュゥ

ワイト達「あいつら、神器を持ってやがる!」ジリジリ

騎士「攻撃が心許ないが、突撃を抑止できるのは大きいな」

勇者A「ああ、少しずつ戦線を押し上げるぞ」

衛生兵「負傷はこちらへ!」

勇者B「よっ!」ザンッ

ワイト達「ガアア!」ズシャァッ

ワイト達「くそぉ! 寄るな! 寄るんじゃねぇ!」ブスブス

ワイト達「おまけにありゃあ魂の盾だぞ!」ジュゥゥ

勇者B(思いがけず対アンデットの強力な戦力になれたな……)

勇者B(そうだ。まだここでは死ねない!)

勇者B「全軍、俺の後に続け!」

兵士達「うおおおおおお!!!」

ドラウグル「……」シュゥゥ

ドラウグル「フゥゥゥ」ムキムキミシィ

ドラウグル「……」ズシン ズシン

兵士達「ド、ドラウグル前進!」

兵士達「お、おい……さっきまでと体格違うぞ……」


勇者「動き出した、ようですね……」ハァハァ

魔術「ちょっと……何よあれ、さっきまであんな巨体じゃなかったわよね!」

剣士「伝承通りだよ。腐敗を撒き散らし、自身の体を自在に巨大化させられる」

医療「どうするのですか?」

勇者「……」

勇者「あのまま、友軍に突撃されれば、被害は甚大……止めなくては……」

剣士「きっついけど……囮にする系の作戦を除外するなら最善解なんだろうなぁ」

ワイト達「奴らがきやがった!」

ワイト達「逃げろぉ! 丸投げしちまえ!」

ドラウグル「……」ギョロッ

勇者「はぁ……はぁ……」

剣士(不味いな……勇者、結構いっぱいいっぱいだぞ……)

剣士(こりゃあ切り込み隊長しないとまずいな)

魔術「ブリザード!」ビュァァッ

ドラウグル「……」ダッ

魔術「突っ込んで?!」

医療「なっ!」

勇者「は、早……」

ドラウグル「……」ブォッ

剣士「たぁっ!」ザッ

ドラウグル「!」ビキビキビキ

ドラウグル「フゥッ!」バキンッ

剣士「げぇっ!?」

魔術「氷が砕けた!」

ドラウグル「……」ヒュンッ

剣士「がっ!」ゴッ

勇者「やああああ!」ヒュォン

ドラウグル「……」ザザッ

魔術「ま、また避け」

医療「逃げて下さい!」

ドラウグル「……」ブォッ

勇者「う、く……」フラ

勇者(足が……これはもう……)

勇者(あの巨体の一撃を受けてしまったら……)

勇者(こんなところで……申し訳ありません、皆さん)

勇者(お母様……お父様……)カッ

ズドォン

ドラウグル「……」

医療「な……」

魔術「ゆ、勇者様!」ワナワナ

剣士「くぅ……」ズキズキ

剣士(今、一瞬、勇者の周りにあった光は……あの、謎の魔石の色のようだったけど……)ムク

ドラウグル「……ドコ、ダ」ズゴッ

魔術「え……?」

医療「! な、何もない!?」

ドラウグル「……」

ドラウグル「……」クル

魔術「ひっ!」ビクッ

医療「い、何れにせよこれは……」

剣士「まだ、だ……まだ戦える」ザ

ドラウグル「……」

ドラウグル「……」ググッ

剣士(……この振り下ろしを横に避けて、フレイムブレイドで焼き……うん?)...タタ

ドラウグル「ガッ!」ザシュゥッ

医療「あっ!」

魔術「えっ!?」

……
勇者「う……。何が、起こって……」

勇者「体が回復している? それにここは……?」ムク

勇者「こんな鬱蒼とした森……明らかに先ほどの場所とは違う」

勇者「い、一体どうなっているのでしょう」ザワザワ

勇者「……向こうに誰かがいる?」ザワザワ


聖騎士達「く……」ブジュブジュ

聖騎士達「くそ! 聖水は!?」

聖騎士達「もうろくに残っていない!」

聖騎士達「アンデット化が……止まらない」

勇者「! 大丈夫ですか!」

聖騎士達「な……?」

聖騎士達「お、おい! なんでこんな」

勇者「じっとしていて下さい! ホーリーヴェール」パァ

聖騎士達「! アンデット化が……」

勇者「それよりもどういう事ですか? 一体何が起こっているというのです」

聖騎士達「き、君はここが何処か分からずに来たのか……?」

勇者「え? あ、あの?」

聖騎士達「無理もない……詳細はまだ公表されていないはずだ」

聖騎士達「……止むを得ないか。この先に冥界の住人率いる部隊が駐留している」

聖騎士達「我々は聖騎士長と共に、アンデットの討伐に来たのだが……戦況は芳しくない」

勇者「えっ!?」

聖騎士達「君は逃げろ……ここは危険だ」

勇者(聖騎士長? アンデットの部隊? 一体何時、そんな作戦が)

勇者(ま、まさかこれは……ここは……そんな事がありえるというのでしょうか)

聖騎士達「助けてくれた事には感謝している。だがこの先への立ち入りは」

勇者「……」ダッ

聖騎士達「あ! お、おい!」

元魔王城
聖騎士長「臆するな! 私と共に突き進め!」

聖騎士達「おおおおおお!!」

ワイト達「おうりゃ!」ブォン

聖騎士達「ぐっ!」ガギィン

聖騎士達「たぁっ!」ザンッ

ワイト達「くそ! こいつら弱かねぇぞ!」

ワイト達「でやぁ!」ヒンッ

聖騎士達「ぐあぁっ!」ザシュッ

聖騎士達「ひぃ! か、体が!」ブジュブジュ

聖騎士達「落ち着け! ホーリーヴェール!」パァッ

聖騎士達「はぁっ! はぁっ! と、止めらない……た、助けてくれ」ジュウジュウ

ワイト達「せやぁっ!」バッ

聖騎士達「お前は下がれ! 祝福された十字架と俺達のホーリーヴェール如きじゃ、アンデット化は打ち消せない!」ガギィン

聖騎士達「後衛にいる聖職者のを貰ってこい!」

ファントム「メテオ……フレア」ツィ

巨大火の玉「」ボボボボォ

聖騎士達「来るぞぉ!!」

聖騎士達「アイスシールド!」ズドン

聖騎士達「ブリザードウォール!」ドォォン

聖騎士達「ロックアイス!」ドドドッ

聖騎士長「踏ん張れ! メテオフレアに耐えたら突撃!」

聖騎士達「おおおお!」

聖騎士達「聖騎士長様! あ、あちらに新たな瘴気が!」

聖騎士長「ここに来て新手か……いや、この瘴気は一体?」

ワイト達「お、おい……なんかおかしいぞ」

ワイト達「この瘴気、俺達と違う!」

瘴気「」ズォォォォ

骸骨王「はぁっ!」ズバァッ

ワイト達「なっ!?」

ワイト達「んだぁこいつは!」

ワイト達「仲間じゃねえ。つまりぶっ殺せぇ!」

骸骨王「おうおう、随分と楽しそうな状況じゃねえか」ザッ

ワイト達「……!」ビクッ

骸骨王「なんだ? 一丁前にビビってんのか?」

聖騎士達「あ、あれは……ま、まさか」ワナワナ

聖騎士達「お、落ち着け! た、多分味方だ! そういう報告が多い!」

聖騎士長「まさか、私がこの目で見る事になるとは……」

ワイト達「気をつけろ……こいつ、普通じゃねーよ」

骸骨王「見れば分かるだろ」フゥ

骸骨王「まあ、そんな事はいい。丁度試したい事があってよ」ガッショ

ワイト達「剣……? 剣なのかあれ……いくらなんでも大きすぎるだろ……」

骸骨王「俺には必殺とも言える呪術があってよ。それがアンデットにも効くかどうか」ススッ

古株ワイト達「!? 不味い! 奴に近づくな!」

骸骨王「試させてもらうぜ、命滅蝕気」ズォッ

ワイト達「な、なんだ? 剣に変な模様が……」

古株ワイト達「魔王誕生以前の魔法だ! 効果は分からんが危険だ!」バッ

骸骨王「はっ!」ダッ

ワイト達「は? どういう」シッ

ワイト達「! こいつ!」ビッ

ワイト達「は、はえぇ!」シュッ

骸骨王「……」ズザァッ

ワイト達「?? なんだ?」ズォズォ

ワイト達「お、お前の体にもあの模様が……」ズズズゥ

ワイト達「え? お前の体に」ボジュゥ

ワイト達「ひぃ! 血ぃ噴出したぞ!」

骸骨王「ここまで綺麗に効くとは……」

骸骨王(伝承によれば冥王率いる軍団ってのは死者、というより死者の魂にその力を注いだもんって扱いだ)

骸骨王(故に現世に出てくる事自体が伝承並のお話……現世で活動しているものではないって事の裏づけだ)

骸骨王(で、それが本当に正しければ、この呪術は生きていようが死んでいようが、その時の魂と器を……)

骸骨王(いや、その時の魂を収める器をぶっ壊しちまうもんかもしれないのか)

ワイト達「そらぁ!」バッ

骸骨王「おっと」ガギッ

ワイト達「うひょう!」ダダダ

骸骨王(なんだ? 一撃見舞ってすぐ逃げた……? あからさまな誘いだが、さてどうしてくれるんだ?)ザッザッ

ワイト達「や、野郎……余裕ぶっこいてやがる!」

ワイト達「お、おい、本気で手ぇ出すのかよぉ」

古株ワイト「逃げられる状況じゃない……一気に畳み掛けるぞ」ギリギリ

骸骨王「お? どうやってだ?」カタカタ

ワイト達「表情分かんねぇけど絶対笑ってやがる!」

ワイト達「おい骸骨野郎! 良い事を教えてやる!」

骸骨王(と、するとこの地点に仕掛けがあるのか……それっぽい地面じゃないが)ジャリジャリ

ワイト達「冥界ってのは死んだ人間が行く場所だ。そこには他の生き物の魂は流れ着かない」

骸骨王(俺にとっては無益な話だが、今までの死後の世界観には莫大な影響を与える話だな……盗賊と商人に会ったら話してやるか)

ワイト達「こうして人型が多数だが俺達が現世に出たって事は……」

ワイト達「やれぇ!!」

床「」ビシビシ

骸骨王(お、下に何か……!)バキキ

ワイトドラゴン「ウゥゥ、ガアアア!」ボボボォォッ

骸骨王「あ、やべ」ゴォォォォ

骸骨王「ぐうぅぁぁ! これは、流石にっ!」ジュァァァ

ワイトドラゴン「グルル」ザッ

ワイト達「今だ! ぶっ殺せぇ!」

骸骨王「ちぃっ!」ブスブスブス

勇者「たあっ!!」ザンッ

ワイト達「ぎゃああ!!」ボシュゥッ

骸骨王「!?」

ワイト達「なにぃ?!」

勇者「はっ!」ヒンッ

ワイトドラゴン「ガアアアア!!」ジャシュゥゥ

勇者「……」スッ

ワイト達「こ、こいつもやべぇ!」

ワイト達「たったの一撃で殺されたぞ!」

骸骨王(こいつは……こいつ自身から破邪の力が? 前代未聞な程に神々の加護を受けた人間か)ビリビリ

骸骨王(聖女……? しかしそいつはまだ子供なはず……)ビリビリビリビリ

勇者「大丈夫ですか?!」

骸骨王「あ、ああ……悪いな、助かった」ビリビリ

聖騎士達「な、なんだ……? あの少女は……?」

聖騎士達「まるで聖騎士長のような美しい白髪だな」

聖騎士長「……」

聖騎士達「聖騎士長様! もうすぐ……!」

聖騎士長「……総員、退却!!」

勇者「……日没、ですか」

骸骨王「のようだな」フゥ

ワイト達「逃がすかよぉ!」

骸骨王「おっと」ザッ

勇者「通させません!」バッ

聖騎士長「助太刀、感謝する」スッ

ワイト達「ちぃぃ……!」

ファントム「……」ユラユラ

勇者「……? あの目は魔石? それにあれは……」

骸骨王「なるほどな。とんでもねえ魔石を持ってやがるが……奴はあれを扱えないのか」

聖騎士長「ああ。だが、あの魔石の魔力を用いて強力な魔法を放ってくる」

聖騎士長「魔力抽出まで時間が必要なようだが、撤退が長引けば……」

骸骨王「なら、ここらで敵の前線を押し留めておく必要があんな!」バッ

ファントム「……」ササッ

ワイト達「骸骨野郎が来たぞ!」

ワイト達「に、逃げろぉ!」

勇者「私も出ます」バッ

ワイト達「ギャアアア!」ザシュゥ

骸骨王「黒死炎」スススッ

骸骨王「はっ!」ボボォ

ワイト達「ギャッ」ボォォォ

ワイト達「こ、今度は炎が飛んでっ! なんなんだよあいつはよぉ!」

一時間後 聖騎士野営地
聖騎士長「ここまで来れば安心だ」

骸骨王「いくら追撃の手が緩んだつっても、後々追撃が来るんじゃないか?」

聖騎士長「ファントムとは館の亡霊、根城とする建築物に居る事で最大限の力を発揮する者」

聖騎士長「やたら離れては来ないのがこの数日のところだ」

骸骨王「なるほど。被害状況はどうなってんだ?」

聖騎士長「こちらは三割、敵は……今日、二人の助力のお陰で五割の損害を与えている」

勇者「となると……次は」

骸骨王(敵も死に物狂いだろうな。おかしな陣の跡もあったところを見ると、何かしらの仕掛けを準備してやがる)

聖騎士長「ふう……」ドッカ

聖騎士達「今お飲み物をお持ちします」

聖騎士長「いや、負傷者の手当てを先に。あと飲み物のはこちらの二人に」

勇者「いえ、お気遣いなく」

骸骨王「俺は飲めないしな。まあ、そんな事はどうでもいい」

骸骨王「俺は明日も敵軍に攻撃を行うつもりだが、そちらに問題はないか?」

聖騎士長「有難い話なぐらいだ。ただ……」

骸骨王「何故、か?」

聖騎士長「聞く限りでは特別、使命に燃える性格ではなかったとの事だしな」

骸骨王「俺の事、ダダ漏れじゃねえか……」

聖騎士長「混乱を与える為、緘口令自体はあるにはあるが、それなりの者達には伝達されている」

聖騎士長「生存されている勇者の方の話なのだから、な」

骸骨王「止せよ、俺はもう人間じゃあない」

勇者「……」

骸骨王「ほれ見ろ、余計広まっちまったじゃねえか」

聖騎士長「む……そうだな、失礼した」

骸骨王「まあ今更どうしようもないがな」カリカリ

骸骨王「目的は俺の力が奴らにも有効かって事の検証だけなんだが……」

骸骨王「敵の数が思いの外多い。放置していいもんでもねえなって事と」

骸骨王「ファントムの目玉に埋めてある魔石、放置するには厄介な代物だから回収しておきたい」

聖騎士長「気になるところではあるが、預け元が信頼できるし深くは聞かないでおこう」

聖騎士長「そちらの君はどうする?」

勇者「……」

勇者「明日も戦わせて下さい」

聖騎士長「……そうか。協力に感謝する」

聖騎士長「今日はゆっくり休んでくれ」

骸骨王「あ……まあいいか」

聖騎士長「どうかされたか?」

骸骨王「ちょいと留守番させてる奴がいるんだが、戻るのは面倒だから今晩は放置する」

勇者「えぇっ?」

骸骨王「いいんだよ。おしめの取れないガキじゃないんだ」

聖騎士長「ふむ、まあそちらがその気になら構わないが、こちらで協力できる事なら何でもするぞ」

骸骨王「さて、とっとと休ませて貰うかね」

聖騎士長「ああ、お休み」

勇者「……」モジモジ

骸骨王「……」

骸骨王「何処で休めばいいんだ? 流石にこの姿で他の連中と一緒、てのは周りが可哀想だろ」

聖騎士長「ああ、この裏で休んでくれ」

骸骨王「あいよ」

聖騎士長「ふうー……俄かには信じがたいが」

勇者「え……?」

聖騎士長「数年、あるいは十年後にはそんな姿に成長しているのか」

勇者「! ま、まさか……」

聖騎士長「私のような白い髪にその顔立ち、他人の空似な訳がないだろう」

勇者「お母、様……」ジワァ

聖騎士長「……おいで」

聖騎士長「この頃は忙しなくてすまないな。さぞ、寂しい思いをさせてしまっていたのだろう?」ナデナデ

勇者「そ、そのような事はありません! 何時であろうと、お母様とお父様は私にとって誇りです!」

聖騎士長「はは、ありがとう。本当によく出来た愛娘だよ」

勇者「お母様……」グッ

聖騎士長「出切れば、実際の時間の流れでこの姿を見たかったがな……」

勇者「!?」ビクッ

聖騎士長「私がお前だと気付いただけで涙を浮かべたのだ。私は当に死んでいると思わない方がおかしいだろう」

勇者「あ……」

聖騎士長「……私はこの戦いで死ぬのだな」

勇者「っ!」

聖騎士長「しかし、お前がその年まで生きているという事は……連中とは相打ちといったところか」

勇者「……忘れていました。お母様はまるで神の如く全てをお見通しになられるのでしたね」

聖騎士長「ただの状況整理と推測に過ぎない」

聖騎士長「もっとそういった考え方も教えてやれていたらよかったが……まあ言っても始まらないか」

聖騎士長「歴史が変えられるかなど興味はない。私は今を生きている。今できる事を全力で取り組む」

聖騎士長「お前は、何をしに『ここ』へ来たのだ?」

勇者「それが……」

……
聖騎士長「なるほど……と言っても何故ここにいるのかは、私も皆目見当もつかない」

聖騎士長「もしかしたら謎の魔石とやらは時空を操る魔石なのやもしれないな」

勇者「しかしそれも砕け散ってしまって……」

聖騎士長「彼、スケルトンキングと呼ばれるあの男に聞くといい」

勇者「魔王討伐時の勇者様、ですね」

聖騎士長「まあ、他言無用でな?」

勇者「分かっていますとも」

勇者「……」ガサ

骸骨王「なんだ? 親子水入らずはもういいのか?」

勇者「!?」

骸骨王「そんなに驚くなよ、傷つくだろうが」

勇者「ええ、と。何処から聞くべきかと思いまして」

骸骨王「お前に話があるから待っていた。お前達の会話は聞いていない」

骸骨王「こんだけ酷似した魔力は肉親ぐらいなもんだ。容姿も似ているからそうなんだろ」

骸骨王「他に聞きたい事は?」

勇者「いえ、ありがとうございます。それで、スケルトンキング様がお聞きしたいというのは何でしょうか?」

骸骨王「なんだその呼称……まあいい」

骸骨王「まず、お前は……そうだな、ファントムの目玉にあった魔石を見たか?」

勇者「は、はい」

骸骨王「あれに見覚えがあるんだろ?」

勇者「! やはりあれは……」

骸骨王「お前が纏っている魔力にはあれと酷似したものが混じっているからな」

骸骨王「確証はないがあれは時間を操る力の魔石だろう。お前は未来から来たんだろ?」

勇者「ええ、お察しの通りですが……傷も癒えたのは一体」

外東欧「膨大な魔力だからな。過剰分の魔力が作用したんだろうな」

骸骨王「ファントムさえ倒しちまえばあの魔石で元の時間に戻れる。もうちっとの辛抱だ」

勇者「わざわざ私の身を案じてくださっていたのですか?」

骸骨王「まあ、あんな凄いもん、そうそうお目にかかれるもんじゃないし、突っ込める首は突っ込んでおきたいってのがあるな」

骸骨王「それとお前、なんかよく分からん魔石とか持っているだろ」

勇者「え……? うーん……あ、ペンダントがあり……光ってますね」

骸骨王「どうやらそいつは俺が俺の魔力で作ったものらしい。だから俺が近づくと反応する」

勇者「光ったら助けを叫ぶ……そういう事ですか」

骸骨王「だが俺は作った事がないんだよな。これは何処で、いや、切れ目の短剣バカと金髪の商人バカから貰ったか?」

勇者「……多分、その方々かと」

骸骨王「未来ってのは分からんものだな。過去が先のはずだが……まあ考えても仕方がない」

骸骨王「俺の用事はこれで済んだな。お前は何かあるか?」

勇者「大した事ではないのですが、時間を操る魔石なんて前代未聞です。何故お知りだったのですか?」

骸骨王「あー面倒だな」ガリガリ

骸骨王「これこそ他言するなよ? 俺は魔王の魔力を受け継いでいる。だからこそこの姿で生きているとも言えるがな」

骸骨王「奴の魔力は完全に天然物だ。大気に土に海に……そうした自然界を流れる魔力と同質のものだ」

骸骨王「だもんでな、魔力を感じるとる能力はずば抜けているんだよ」

勇者「……そういう、ですが驚きです。でしたら大魔術師並の魔法さえも……」

骸骨王「俺は魔法が使えないんだよ。まあ、魔王出現以前の主流であった、魔方陣を描く事で行使する魔法なら使えるがな」

骸骨王「とは言え、この魔力のお陰でできる事が云十倍になったと言って過言じゃない」

骸骨王「他には?」

勇者「いえ、大丈夫です」

骸骨王「それじゃ寝るか」ググー

勇者(あ、眠れるんですね)

骸骨王「明日こそ決戦だ。未来がどうなってんのか知らないが、死ぬんじゃないぞ」

勇者「は、はい、ありがとうございます」

勇者(風の噂も私程度が預かり知る情報も、たかが知れていますね)

勇者(……少し、女勇者様が羨ましいですね)

翌朝
聖騎士達「多少の追撃がありましたが全て排除致しました!」

聖騎士長「被害状況は?」

聖騎士達「夜間の戦闘で死者二名、軽傷者七名。七名の傷は魔法で完治、何時でも出撃できます!」

聖騎士長「そうか……よし、全部隊進軍を伝えよ。今日こそ決着をつけてやろう」

聖騎士達「はっ!」


骸骨王「調子はどうだ?」

勇者「問題ありません」

骸骨王「それじゃ、部外者二人も行くとするか」

勇者「はいっ!」

元魔王城前
勇者(? スケルトンキング様がいない?)キョロキョロ

聖騎士長「総員、突撃!」

聖騎士達「おおおおおお!!!」

勇者(きっとあの方にはあの方なりの考えがあるはず……)

勇者(私は目の前の事に集中しましょう)グッ

聖騎士長「……」チラ

聖騎士長(随分と逞しく育ったな……私としてはもう少しお淑やかに育ってほしかったが……)

聖騎士長(私亡き後どんな育て方をしたのやら。あちらへ来たらネチネチと突いてやろう)フッ

ワイト達「くそ! 人間どもが……!」

ワイト達「ど、どうすんだよぉ!」

ファントム「ここで、殺す……全て」ユラ

ワイト達「で、でもよぉ昨日だって押されただろ。もう冥界に撤退しようぜぇ」

ファントム「敵前、逃亡は、認めん」ギロ

古株ワイト達「どうせ逃げる余裕はねえ。骸骨と白髪に最大限注意を払え」

古株ワイト達「なあ……あの骸骨……まさか」

古株ワイト達「ああ、レヴァナントの言っていた奴だろう。俺達じゃあ何十人犠牲になったところで倒せないだろうな」

聖騎士達「正門突破ぁ!」

聖騎士達「突入! 死角から攻撃に気をつけろ!」

勇者「私も前に出ます!」

聖騎士長「止めはしないが隊列を乱すなよ」

勇者「分かっております」


ワイト達「連中が来たぞぉ!」

ワイト達「奥へ誘い込め!」


聖騎士長「遠距離攻撃用意……撃てぇ!」

聖騎士達「正面クリア!」

聖騎士達「伝達魔法を確認、西門突入!」

聖騎士達「このまま突き進む……あ?」グラ

聖騎士達「な、なんだこの魔力は……」グニャリ

聖騎士長「気をつけろ! 何か来るぞ!」

勇者「こ、これは一体……」


骸骨王「……!」ピク

骸骨王「おいおい、転移の魔方陣だったのか。でか過ぎて分からなかったぞ」

骸骨王「不味いな……人間軍が壊滅させられたら俺も無事じゃ済まないぞ」

骸骨王「一体何処に飛ばしやがったんだ?」

聖騎士達「な、なんだ?! いきなり場所が!」

聖騎士達「これは……地下か? こんな広いところがあるだなんて」

聖騎士長「地下……奴ら、考えたな」

勇者「え? あ!」

聖騎士達「日差しの届かない地下なら……奴らの力も!」

聖騎士達「! いるぞ!」

ファントム「……」ズォォ

ワイト達「かかれぇ!」

ワイト達「うおっしゃあ!」ダダ

聖騎士達「た、隊列が……」ワタワタ

聖騎士達「正面に注意しろ! 敵に背中を見せるな! お互いでカバーしろ!」

ワイト達「おっせえんだよ!」ザンッ

聖騎士達「かっ」ブシュゥッ

聖騎士長「やってくれたな……」ガギィン

勇者「たああ!」ザン

ワイト達「ギャッ」ボシュッ

勇者「皆さん、落ち着いて対処して下さい!」

聖騎士長「うろたえるな! 各自の全力を尽くせ!」

ファントム「アイス、ニードル」

聖騎士達「がっ!」ドガガ

聖騎士達「ぎゃっ」ドガガ

聖騎士達「く、おごっ」ドガガ

聖騎士長(ファントムの攻撃まで対応できない……しかも今の一撃は、こちらの状況をより見る為の……)ゴクリ

勇者(? 何だか暑くなってきているような)チリ

聖騎士達「はぁっ! はぁっ! くそっ!」

ワイト達「お、おい? なんかおかしくねえか?」

古株ワイト達「……」

ワイト達「ああ、暑くなってきてやがる……炎の魔法なんてろくに使っていないのに」

古株ワイト達「! しまった! 散れ!」バッ

ファントム「……」ダシュッ

ワイト達「い?」ビシシ

天井「」ガラガラガラガラガラ

ワイト達「ぎゃあっ!」グシャッ

ワイト達「つ、潰さ」ゴシャァッ

ワイト達「逃げ切」ブシャァッ

ワイト達「ぐぉっ!」ゴスッ

ワイト達「ひ、ひひ、助かっ……」ジュゥゥゥ

ワイト達「ぎゃああああ熱い熱い熱い! こ、この天井ぅ!!」ゥゥゥゥゥ

聖騎士達「天井が……どうなってやがる」

聖騎士達「あ、ああ! 上!」

骸骨王「っらああああ!」ブォン

ワイト達「ひっ」ザシュッ

ワイト達「げぇぁ」ザンッ

古株ワイト達「骸骨! どっから何しやがった!」バッ

骸骨王「上の階に炎の魔方陣敷いてから崩してやったんだよ!」ビュァッ

古株ワイト達「うぉっと!」ガァァンッ

聖騎士達「今だ! 押し返せ!」チリ

聖騎士達「!?」ゾクゾク

骸骨王(この魔力……おいおい流石に不味いぞ!)

勇者「く……させません!」バッ

骸骨王「ちっ!」ダッ

ファントム「……」ユラ

聖騎士長「待て! 行くな!」

ファントム「ライジング……」

勇者「!! せめて!」ヒンッ

ファントム「!」ザンッ

ファントム「ショット」ユラリ

……
聖騎士達「」シュゥゥゥ

ワイト達「」ジュゥゥ

聖騎士長「ぐ……」ジュゥゥゥ

骸骨王「お前、俺を……くそ」ジュゥゥ

勇者「はぁっ! はぁっ! ぐっ」ズキンッ

ファントム「……」ギョロ

勇者(無理な体勢で剣を振るってしまったから……腕が)ググ

骸骨王「そう、らっ!」ブォンッ

ファントム「!」ガギィィン

ファントム「まだ、動ける、のか?」ズザァァッ

骸骨王「左腕なくたって戦えるんだよ!」ブォッ

ファントム「……」ユラリ

勇者「はぁっ、く……」ズキズキ

勇者「ありがとう、ございます……」

骸骨王「俺も済まない。俺が戦えるのはお前の母親のお陰だ」

聖騎士長「……はっ……く」ドグドグドグ

勇者「! お母様!?」

聖騎士達「聖騎士長! 誰か回復魔法を!」

骸骨王「無意味だ! 戦え!」

勇者「!?」ビクッ

骸骨王「内臓の殆どがやられている。致命傷に魔法は効かない」

勇者「お母、様……」

ファントム「……」バッ

骸骨王「随分と動き回れるじゃねえか!」ダッ

ファントム「フレイム、カノン……」ゴッ

骸骨王「ぐ!」ッボゴン

骸骨王「鎧が……そりゃ流石にもたないか」バキバラバラ

骸骨王「だが……!」ダッ

ファントム「……」ジリ

ファントム「フレイム、ボルト」

骸骨王「遅い!」ザザッ

ワイト達「や、やべえぞこれ!」

ワイト達「ファントムを援護しろぉ!」

古株ワイト達「……」

古株ワイト達「引き際だな」

古株ワイト達「ああ、撤退するぞ」バッ

ワイト達「え?! あ、ま、待ってくれ!」バッ

ファントム「!?」

聖騎士達「敵が……!」

骸骨王(魔法が形振り構わなくなってきた上に威力も落ちている……魔石からの抽出が追いついていないな)

骸骨王(おまけに部下には切り捨てられたか、ここまでだな!)ダダッ

ファントム「ア、アイス、」

骸骨王「はっ!!」ブァッ

ファントム「スぶっ」ザンッ

ワイト達「げぇっ!」ガギィン

ワイト達「逃げ遅れた上にファントムやられちまったぞ!」ギギ

聖騎士達「残存戦力を全てを排除しろ!」

聖騎士達「おおおおお!!」

勇者「……」ポロポロ

骸骨王「……」ザッ

勇者「……」グッ

聖騎士長「……わた、しが、望んだ、事だ……彼を、恨むな」

勇者「お母様!? しゃ、喋っては……」

聖騎士長「どう、せ……助か、らんさ……それと、ありが、とう」

骸骨王「礼を言うのはこっちだろうが」

聖騎士長「ひん、しの……私を、切捨て、てくれて……」

骸骨王「……」

骸骨王「あんたのお陰で左腕だけで済んだんだ。これで奴を取り逃がしたら合わせる顔がねえよ」

聖騎士長「……だが、間に、合った」

勇者「え……?」

骸骨王「気付いていなかったのか? こいつは常時、広範囲にホーリーヴェールを敷いているんだよ」

骸骨王「でなけりゃ、普通の奴はファントムに近づいただけアンデット化が始まっちまう」

勇者「あ……」

聖騎士長「……やは、り……残る、べき者、の……選択、間違っ……ては……」フッ

勇者「お母様……お母様! お母様!」

骸骨王「……」

聖騎士達「! 一匹抜けた!」

ワイト「せ、せめて……!」バッ

骸骨王「……」ブンッ

ワイト「うべっ!」ゴシャァッ

ワイト「く、ちくしょ……レヴァナントの言うとおりだ……メチャクチャな野郎だ」ズリズリズリ

骸骨王「おっと」ガシ

ワイト「ひあぁぁぁ!」

骸骨王「レヴァナント……そんな名前、伝承で聞いた事がないな。素直に教えてくれれば考えてやるぞ」

勇者(レヴァナントとは……まさか、この時に判明した冥王の配下?)

ワイト「レ、レヴァナントってのは新しい冥王直属のヤローだ!」

ワイト「怨恨から蘇るとかなんとかって話だ! あんたみたいな変な魔法使う奴に復讐するんだって話なんだよ!」

骸骨王「なに……? なるほど……阿呆だなそいつは」

ワイト「え?」

骸骨王「情報提供ありがとう。苦しまずに逝かしてやるよ」ブォッ

ワイト「なん」ザンッ

勇者「!?」

勇者「敵とは言え、騙したのですか?!」

骸骨王「月並みだが助けるなんぞ言ってない」

勇者「……それは」

骸骨王「そんな事はどうだっていい。手を出せ」

勇者「え……? は、はい」

骸骨王「一つは俺が預かっておく。もう一つはお前のだ」

勇者「あ……魔石」

骸骨王「母親の事は悪かったな。その分、連中がまた攻め込んできたら、尽力する事を約束しよう」

勇者「……貴方、は……一体なんなんですか……」

骸骨王「どうせまだ何人も魔王討伐時の連中が生きてんだろ、そいつらに聞けよ」

骸骨王「後始末は聖騎士連中がするだろ。俺はもう行かせてもらう」

勇者「……恨みたいのに、貴方の事を……どうしても恨めません」

勇者「……貴方は、酷い方なのですか? それとも……」

骸骨王「知るかよ。俺はその時、その状況で出来る事をしてきたまでだ。そしてこれからもそうあるだけだ」

勇者「……」

骸骨王「恨みたければ恨め。否定しないし甘んじて受けてやるよ。まあ、殺されてやるつもりはないが」

勇者「……貴方は、全ての犠牲者の無念を背負っている、のですか」

骸骨王「そんな大層なもんじゃないし、気負っているつもりもない」

骸骨王「俺に出来る範囲で返しているだけだ。要はただのエゴと自己満足だな」

勇者「……」

骸骨王「じゃあな」クルッ

勇者「あの……」

骸骨王「まだ何かあんのかよ?」

勇者「ありがとう、ございました……」ペコ

骸骨王「礼を言われるような事はしてねえよ」ザッザッザッ

すごい空いたんで

冥王が現れたから聖騎士長と大司教の娘が勇者として討伐しに行く。

十年前の魔王討伐時の勇者達と会いながら進んでいくと、
冥王四天王(一体欠番)出現。

四天王の一撃で勇者が死んだ、と思われたけど、本人は過去の世界へスリップしていて難を逃れる。

そこでは母親である聖騎士長が戦死する、冥王四天王との戦闘が行われていた。

元勇者こと骸骨王と出会い、作戦に参加するも母を看取る結果になるのだった。

聖騎士長「」

勇者「……」

聖騎士「聖騎士長……」

勇者(お母様……必ず、必ず私が冥王討伐を成し遂げますゆえ安らかに……)ギュッ

勇者(!?)ドクンッ

勇者(今のは……一体? まるで力が湧き上がるような……)

聖騎士「旅の方も尽力頂き、本当にありがとうございます」

勇者「いえ、力足らず、聖騎士長様をお助けできず……」

聖騎士「そうだとしても、我々よりよほど力添えになっていましたよ」

勇者「……」

勇者「私はこれで失礼します」

聖騎士「よろしいのですか? その、褒賞など受け取るほどの働きをして頂いたのに」

勇者「すみませんが辞退させて頂きます」

勇者(私の、成すべき事の為にも……)グッ

聖騎士「何か訳ありのようですね……御武運を祈っております」

勇者「ありがとうございます。それでは失礼します」ペコリ

勇者(この辺りでいいだろうか……)

勇者「と言ったものの……私の任意でこの魔石が使えるわけではないですし」

勇者「祈ってみればいいのでしょうか……?」

勇者(あの時間に……ドラウグルと戦っているあの場に、私を戻して下さい)グッ

魔石「」ピシ

魔石「」カッ

勇者「……!」

勇者(景色が! ここは間違いなく……はっ!)


剣士「まだ、だ……まだ戦える」ザ

ドラウグル「……」

グラウグル「……」ググッ


勇者(剣士! 間に合って!)ダッ

勇者「はっ!」ヒンッ

ドラウグル「ガッ!」ザシュゥッ

医療「あっ!」

魔術「えっ!?」

剣士「やっぱ無事、だったか」ニッ

勇者「心配させてすみませんでした。ホーリーヴェール!」カッ

ドラウグル「ガアアアア!」ジュウゥゥ

医療「ホーリー、ヴェール?」

魔術「あ、あれ……どうなってんの?」

剣士「威力も、範囲も広がっている? 勇者、一体何が起こったんだ?」

勇者「これは……」

勇者(まさか……あの時に、お母様のお力を……)

勇者(お母様……共に参りましょう)グッ

ドラウグル「シ、ネエ!」ブォン

勇者「くっ!」バッ

勇者(大丈夫、これだけのホーリーヴェールでも、体はちゃんと動く!)ザザッ

勇者「たあああああ!」バッ

ドラウグル「ガアアッ!」ザンッ

勇者「やああああ!」ヒュンッ

ドラウグル「フグ!」ブン

勇者「か、ハッ」メキキ

魔術「勇者様!」

ドラウグル「チョウシニ……」ドズ

ドラウグル「……」クル

剣士「ただの剣じゃ、大して痛がってもくれないのか……」

ドラウグル「オマエカラ、シネ」ズズッ

剣士「ライトニング、ブレイド!」クワッ

ドラウグル「ガアアアア!?」バヂヂヂヂ

剣士(これ以上、接しているのは殺されるか)バッ

勇者「く……」ムク

医療「まだ動かれては!」

勇者「休息は……ドラウグルを倒してからにしますっ」ザッ

魔術「フレイムスコール!」

ドラウグル「ジャマ! スル、ナァ!」ゴゴゴゴォォォ

ドラウグル「グウウ!」ドズン

魔術「膝をついたわね!」バッ

剣士「先に俺が!」バッ

剣士「フリーズブレイド!」グッ

ドラウグル「ガア!」バキキキキビキ

魔術「内部から凍らせた!」

剣士「剣がダメになっても構わない! 勇者! 魔術師!」バッ

勇者「分かりました!」ダッ

勇者「はあっ!」ザザンッ

ドラウグル「アアアア!」ブシュゥゥゥ

魔術「アローショット!」ビビビッ

ドラウグル「グウゥゥゥ!」ドドドドシュッ

勇者(まだ、倒れない! これ程とは……)

剣士(流石に強いな……だけどこれだけダメージがあるなら)

剣士「魔術師! 俺に魔力を分けて!」

魔術「はぁっ!? ああもう! いいわよ!」ギュ

魔術「……」キィィン

剣士「よしっ!」

剣士「勇者! 止めを頼む!」

勇者「剣士!?」

医療「何をするつもりですか!」

剣士「捨て身じゃないよ!」

ドラウグル「グウウウ!」ブンッ

剣士「おっと!」ヒラリ

剣士「燃費が悪いけど、これなら最大効果でぶち当てられる!」

剣士「エクスプロードブレイド!」カッ

剣「」キィィィン

剣士「っとと」バッ

ドラウグル「ウゥ?」

ドラウグル「ガッ」ッボォン

魔術「威力低っ!」

剣士「見た目はね。だけど」

ドラウグル「ガ、ア……」ボタタビチャチャ

医療「内臓が、剥き出しに……」

勇者「脈打つ臓器……! たあああ!」ヒンッ

ドラウグル「ガッ」ドッ

ドラウグル「ア、アア」ドロ

剣士「不味い! 離れろ!」

ドラウグル「アアアアアアァァァ」ドロロロロロ

勇者「溶けた……?」

地面「」ジュォォォォ

剣士「ドラウグルの体そのものが腐敗の力を持っている、いや、死んでそう変質したのか」

医療「恐ろしい力ですね」

魔術「道連れね」

勇者「あ……剣士の剣が」

剣「」ジュブジュブ

剣士「エクスプロードブレイドを使ったんだ。どの道、刃が逝っちゃってるさ」

魔術「というかそんなものまで使えたのね」

剣士「普段使う事がないからなぁ。というか毎度毎度、使用を期待されると剣の消耗がね……」

魔術「理由それなの?」

勇者A「聖女様!」

勇者B「ご無事ですか!」

勇者「こちらは大丈夫です」

剣士「多分、アバラにヒビが入っているけどね……」ズキズキ

医療「さっきの一撃ですか……」

魔術「命にって意味では無事ね」

勇者A「そうか……よかった」

勇者B「こちらは多数の被害はあるものの、敵ワイトの大半を撃破」

勇者B「撤退しつつある敵に対し、追撃を行っています」


勇者「ふう……流石に疲れましたね」

剣士「やっと人心地ついたなぁ」

医療「明日は祝杯をあげるそうですよ」

魔術「まだ敵は残っているっていうのに……」

剣士「まあでも分からなくもないかなぁ。何せ四天王の一人だもの」

剣士「これで残りは二体。そりゃあ喜びたくもなるもんさ」

剣士「で、どうするんだい?」

勇者「そうですね、ここは甘えさせて頂き、明後日の出発にしようかと思います」

剣士「おぉっ、やった」

医療「今日はもう休みますか?」

勇者「ええ、そうしましょう……」

剣士「あー……何があったか、聞きたいんだけどダメかい?」

魔術「ドラウグルとの戦いの時、よね?」

勇者「……」

勇者「一応、勇者A様方にもお伝えしたい事がありますので、明日でもいいでしょうか?」

剣士「へー……何があったんだろう」

……
勇者A「俺達にも……?」

騎士「い、一体何が……」

勇者B「想像もつかない……」

衛生兵「……」ハラハラ

勇者「あ、いえ、緊張なさらないで下さい」

剣士(無理だろなぁ)

魔術(無理そうね)

医療(無理なのでは)

勇者A「そんな、事が……」

勇者B「俄かに信じられないな……だが」

騎士「ああ……間違いなく彼だ。彼そのものだ」

衛生兵「変わってらっしゃらないようですね」

剣士「すっげえ……本当にスケルトンキングに会ったのか」

医療「しかし、今この状況になっても全く噂を聞きませんね……」

魔術「まさかもうやられているとか……」ゾォ

勇者A「それはない」

騎士「それはないだろうな」

衛生兵「想像つきません」

勇者B「まずありえないだろうな」

剣士「全幅の信頼っ!」

勇者A「いや、彼が死んでいるのなら、この世界はとっくに冥王の手に落ちているだろうな」

医療「それは全幅の信頼を置かれている事を更に強調しているのでは……」

騎士「恐らくだが、人知れず今でも戦っているのだろうと思われる」

衛生兵「調べてみるとよく聞く話の何倍も、助けられましたっていうのを聞きますからね」

剣士「凄いなぁ」

勇者B「表立って出てくるのは決戦の時かもしれないな」

勇者A「懐かしいな……」

騎士「ああ……そうだな」

衛生兵「そういえば、聖女様の国の聖騎士の方々は総攻撃をかけないのでしょうか?」

勇者「どういう事でしょうか?」

衛生兵「え? あ、いえ、冥王侵攻を想定した総攻撃の策を講じていると聞いていたのですが」

勇者A「ああ、そうだったな。やはり、決戦に備えているのでしょうか?」

医療「一体何の話なんでしょう?」

魔術「どういう事なのよ?」チラ

剣士「んんー?」

勇者「剣士にも分からない事ですと私にはとても」

剣士「あ、思い出したっ」

勇者「剣士……」

剣士「と言っても、なくなったはずなんだけどなぁ」

勇者B「俺は一切知らないんだけど、それは一体どんなもんなんだい?」

剣士「聖騎士を等間隔で配置し、出撃するってものらしい」

剣士「教会で祝福された装備と各聖騎士のホーリーヴェールによる、超広域をカバーした布陣だとか」

勇者A「つまり壁のような布陣で前進すると?」

騎士「なんて大規模なんだ……」

魔術「そんなに人がいるの?」

剣士「そこなんだよ。それに、負担がかかっている聖騎士自身は戦えないからね」

剣士「攻撃部隊が一人一人につかないといけないんだ」

勇者「国の防御を捨てても、人の数が難しいですね」

魔術「というかそもそも初めっから現実的じゃないわよね」

勇者A「まあ、案を出す事は悪い事じゃないからね」

騎士「既に聖騎士長殿がファントムを討っているのだからな……国として感じる危機感は一番高いのだろう」

勇者B「だろうな」

勇者A「……」

衛生兵「どうしました?」

勇者A「俺も……俺達ももっと頑張らないとだな」フッ

勇者B「そうだな、彼もまた戦っているのであれば、それ以上に戦わなくては顔向けができないな」

勇者A「聖女様、お話下さってありがとうございます」

勇者B「気が引き締まったな」

騎士「全くだな」

勇者「お役に立ててよかったです」

衛生兵「お、お役だなんてとんでもないです!」アワアワ

剣士「もうツッコミいれなくていいよね?」

医療「いい加減、いいですよね。この流れは」

魔術「あんた達……」

翌日
勇者「それでは私達はこれで」

勇者A「どうかお達者で」

剣士「あれ? 他の人達は?」

勇者A「これからに向けて色々と動いていてな。聖女様のご出立に私一人で申し訳ない」

勇者「いえ、お気になさらないで下さい」

勇者「それでは行きますよ」

剣士「おー」

医療「ですね」

魔術「この調子でいきたいわね」

二週間後
ワイトD「ぐおっ! なんだこいつらぁ!」

勇者「……」スッ

ワイトC「ガ、ぐ……」ブシュゥゥ

剣士「あと2!」ダッ

魔術「コールドコフィン!」

ワイトF「ギャ!」キンッ

ワイトD「く、くそ! なんでこんな奴らがここまで来ているんだよぉ!」

剣士「そこぉっ!」ザンッ

ワイトD「ぐ! だがこの程度!」ピキキ

ワイトD「!? 体が! 凍って!」

勇者「はっ!」スンッ

ワイトD「ぐ、お……」ズルゥ

医療「流石に敵はワイトしかいませんね」

魔術「ねー」

勇者「ここまで……」

剣士「どうしたのさ?」

勇者「ここまでと言うと、この場所が特別な場所。あるいは明確化されている場所」

勇者「そういう意味合いに感じ取れてしまうのは私だけでしょうか?」

魔術「へ?」

剣士「この一帯が特別な地点でないなら、こんなところまで、とかかい? 考えすぎじゃないかな?」

医療「言うのも感じるのも個人次第と言えますが、勇者様の考えも分かります」

勇者「ここからは少し、隠密に行動した方がいいかもしれませんね」

剣士「そうすると進行速度が遅くなるよ」

医療「ですが念には念を入れましょう」

魔術「正直、あたしはそっちの方が楽だからいいんだけど」

剣士「君ねえ……」

勇者「もしかしたら……」

勇者「ファントムやレヴァナントが侵攻しているのかもしれませんね」

医療「確かに……拠点、という考えがないようですし、一番ありえる事ですね」

……
ワイトA「」
ワイトD「」

医療「また、ですね」

剣士「おーい、逃げ出した奴、倒してきたよー」

魔術「お疲れ様、こっちも終わったわ」

勇者「……妙ですね」

医療「少数のワイト……それも今までほどの好戦的な様子ではないですし」

魔術「大軍意外だと、初めて逃げる奴がいたわね」

勇者「初め見た時には目を疑いましたね」

剣士「あのさー……言いたくないんだけど言っていい?」

魔術「凄い聞きたくない振り方するわね……」

勇者「構いません。どうぞ」

剣士「こいつらってさ、斥候とか見回りじゃない?」

医療「……と言うと?」

剣士「逃げた奴らやイケイケで攻めてこなかった奴らは、異常を報告する事が役割なんじゃないかな」

勇者「しかし、フラウグルですら固まって移動していたと言うのに何故……」

剣士「ファントムやレヴァナントの考えが違うだけか……もっと嫌な事を言うと」

剣士「敵の全戦力が侵攻している、とか」

剣士「冥王がいの一番に侵攻してこないのは、この世界ではまだ、あるいはそもそも力が発揮しきれないからじゃないかなぁ?」

剣士「四天王だってもともと、冥界専門の存在じゃないと思うんだよね。亡霊とかいるし」

剣士「けど冥王は冥界の産物なんじゃない? だからファントムの派遣もしていたとか」

医療「そして、もう一度先遣隊としてドラウグル?」

医療「しかし、冥王が出陣するのであれば、こんな慎重な体制は変ではないでしょうか?」

勇者「まだ、力が完全ではない中での出陣……」

剣士「もしかしたら、四天王ほどの死亡なら冥王に感知されているかもね」

魔術「じゃあ二体も倒されて焦ってって事?」

剣士「どうだろう……まだ、戦力がいる内の前進だから、逆に冷静な気がするよ」

魔術「けどそれじゃあ出てくるメリットって何なのよ」

勇者「死の瘴気、でしょうか」

剣士「だろうね……冥王ほどの瘴気となると、そこから敵が出てこなかったら」

剣士「勇者以外は戦う術が限られる事になる。酷い相手だよ」

医療「それでも尚、斥候を出すものなのでしょうか」

剣士「勇者が脅威なのは当然だろうけど……勇者登場以前にファントムは討たれているからね」

剣士「危機感のある大将って嫌だよねぇ。もっとどっしりして防御を手薄にしてくれればいいのに」

勇者「言いたい放題ですね……」

医療「しかし……もしそうであれば、我々四人だけで四天王二人と冥王を」ゾクッ

剣士「まあ、憶測でしかないけどね」

勇者「もう少し進んで様子を見てみない事には分かりませんね」

魔術「四天王一人だといいわね……」

剣士「真面目な話、敵の総攻撃だったとして、策もなしに立ち向かうとか絶望的なんだよねぇ。どうしよっか」

勇者「私が聞きたいですよ……」

医療「この先には町などはないのですか?」

剣士「いくつかあったはずだよ……どちらにせよ、期待はできないだろうね」

魔術「そんな……」

数日後
瘴気の壁「」ゴゥゴゥ

勇者「な……」

剣士「瘴気の壁が……」

医療「これは……まさかこんな」

魔術「……無理よ、こんなの」

勇者「疑う余地もないですね……これは」

剣士「冥王の瘴気だろうね……まさか本当に総攻撃に出るとは」

魔術「どうするのよ……こんなの……」

勇者「っ」ギリッ

剣士「諦めよっか」ポンッ

勇者「!」ビクッ

医療「剣士!?」

剣士「諦めて……屍の山を築いてでも倒そうか」

魔術「え……?」

剣士「急いで戻って集められるだけの戦力をかき集めよう」

剣士「あとは勇者のホーリーヴェールで無理くり突入して戦う」

剣士「時間の猶予のない今、出来る事なんて……」

勇者「大勢……死にます」

剣士「でも、俺達だけじゃただの犬死だよ」

勇者「……辛い選択ですね」

……しばらく後
勇者A「な……そんな事が」

勇者「無理を承知で言います。皆さんの命を、私に下さい」

勇者「お返しする事は……叶いません、が……」

勇者A「……」

勇者A「伝令! 至急、この地より東に50kmの地点に戦力を集めよ!」

勇者A「聖女様の矛と盾となって冥王を迎え撃つ!」

勇者A「戦える者は全て集まれと伝えろ!」

兵士「し、しかし果たして間に合うかは……」

勇者A「構わない。とにかく伝え、集めろ」

勇者A「ここより分かれた騎士達の部隊だけではない。全ての国と駐屯地にだ!」

勇者A「40人、伝達の命を与える。早急に手配し、行動しろ」

兵士「はっ!」

勇者「……ありがとうございます」

勇者A「例え、死体の山を築こうと、敵を倒せなくては人類は敗北します」

勇者A「この状況下で生き残りたいなどと……意味のない願望でしょうね」

剣士「だけどもっと東に移った方が集まりもいいんじゃ……」

勇者A「兵糧と敵への攻撃に向けた策を考えると、その辺りが限界だろうな」

勇者A「いや……それでも途中の町の人々を無視して移動しなくてはならないか」

勇者A「願わくば……時間差で留まる我々を追い越してくれればいいのだが」

剣士「難しいだろうね」

勇者「……ですね」

医療「しかし、それで大量のグールを生み出そうとも」

勇者「ええ、分かっています」

勇者A「……心中、お察しします」

勇者A「急げ! 建物は放棄しろ!」

勇者A「荷物は最小限に留めて進め!」


剣士「……相手の侵攻速度が分からないからなぁ」

剣士「特に捨てられた町を見て、どう判断するかだよね」

医療「冥王の動きに気づいた人間が策を弄している、と警戒するだけでは?」

勇者「逆に時間を与えまいと、速度をあげてくるかもしれません」

魔術「あぁ……そういう」

剣士「うーん、俺達が逃げ出す時の様子を考えると……」

剣士「少なめに見て、二週間あるかどうか、かなぁ」

勇者「しかし、勇者A様の言う策というのは一体……」

剣士「土地やその場に建物を建てて祝福したりとかかな」

剣士「逃げ出さないと確実に死ぬけども、しばらくは瘴気に耐えられるかもねぇ」

魔術「そこから遠距離攻撃? 嫌な役ね」

剣士「俺が考える限りの策ってそんなもんだなぁ」

医療「魔法を時間差で放つ方法とかはないのでしょうか?」

魔術「かなり難しいけどなくはないわよ。国に一人の大魔導師クラスだけども」

剣士「ないと同義じゃないかな、それ」

勇者「移動しながらでも考えましょう」

剣士「そうだね、俺達に出来る事で何かしらの一手になるのであれば、ね」

医療「少しでも……散る命に報いなければ」

魔術「そう……ね」ブルッ

勇者A「聖女様! 馬車の方がこちらにありま」

勇者「私達が乗るわけにはいかないです!」

剣士「いやー、消耗云々って考えもあると思うんだけど」

医療「前々から思っていたのですが、勇者様は若干、意固地なところがありますよね?」ボソ

剣士「特別扱いされるの好きじゃないからねー」

勇者「? どうされました?」

50km東の地点
勇者A「早急に仮設の建物を作れ! 兵舎と格納庫だけで十分だ!」

魔術「浴場は!?」

剣士「厨房!」

勇者A「……」

勇者A「女性用の浴場を作れ! 厨房はなし! 作業場として屋根だけ作れ!」

医療「完全に野営での食事になりそうですね」

勇者「荷物も減らしていますし仕方がないでしょうね」

剣士「これって男は川か湖で水浴びしてこいって事か……」

50km東の地点
勇者A「早急に仮設の建物を作れ! 兵舎と格納庫だけで十分だ!」

魔術「浴場は!?」

剣士「厨房!」

勇者A「……」

勇者A「女性用の浴場を作れ! 厨房はなし! 作業場として屋根だけ作れ!」

医療「完全に野営での食事になりそうですね」

勇者「荷物も減らしていますし仕方がないでしょうね」

剣士「これって男は川か湖で水浴びしてこいって事か……」

勇者A「まさか……これほど大規模な防衛戦闘をする事になるとはな」

勇者A「カタパルト製造急げ! 落とし穴と罠もだ!」

騎士「間に合ったようだな」

衛生兵「ああ……よかった」

勇者A「勇者Bはまだか……」

衛生兵「こちらよりも西に出ていましたからね……」

騎士「無事だといいのだが」

勇者A「……まあ、どうであれすぐに追いつくさ」

罠部隊
剣士「えっほえっほ」ホリホリ

勇者「ふっ、よっ」ザックザック

兵士「あ、ああ、あの、聖女様、ここは我々が」

勇者「もうここまで追い出されました」

剣士「建物建設とか雑用とか追い出され続けたもんねぇ」

勇者「なので、せめてここで力仕事をさせて下さい」

剣士「聖女呼ばわりされているけど、ゴリッゴリの剣の使い手だから体力とか力ありますよ」

兵士「ゎぁー……」

魔術「なるほど、そうやって時間指定で魔法を発動させると」

魔法兵「今までの方法が複雑過ぎたけど、紐解けばこんなもんよ」

魔法兵「まあ……指定できる時間が短くなるんだけどもね」

魔術「魔法を設置して冥王戦に参加……ギリギリね」

魔法兵「戦闘に出る者は多少の手伝わせて、メインで設置する者は非参加かなぁ」

魔法兵「あるいは多少の回復を待って遠距離の魔法で支援か……」

魔術「どの道、前線には出られないわね」

魔法兵「そうだなぁ」

医療「……」ゴリゴリ

衛生兵「……」ゴリゴリ

医療「ふう……一休みしますか」

衛生兵「そうですねー」

医療「聖なる力を持つ薬草を調合、と言えば聞こえはいいですが、含有する力は微々たるもの」

衛生兵「気休めにもなりませんね……」

医療「あるいは道に撒きますか」

衛生兵「道?」

医療「勇者様のホーリーヴェールで冥王の瘴気に穴は開くでしょう。しかしそれも維持し続けられる訳ではありません」

衛生兵「少しでも穴を持続させるのに、ですか。確かに、聖女様の力が働いているところなら少しは気休めに……」

勇者B「ふう……何とか追いつけたか」

兵士達「……」ゾロゾロ

勇者A「おお、よかった……間に合ったようだな」

勇者B「守備はどうだ?」

勇者A「各地の兵士達も集まってきている。これだけの人数が戦闘に参加できるかは分からないがな」

勇者A「他の勇者達は……見かけていないな」

勇者B「流石に間に合わないか」

勇者A「ああ、そうだな……うん?」

新人魔法兵達「我々も協力させて下さい!」

魔法兵「無駄だ。お前達の魔法では敵には届かない」

魔法兵「場所も兵糧も限りがあるんだぞ。帰れ」

勇者A「大変そうだな」

魔法兵「勇者A様!」

勇者B「……彼ら、いてもいいんじゃないか?」

魔法兵「は? い、いえ! それは……」

勇者A「何か考えがあるのか?」

勇者B「道中、少しだけど瘴気の壁が見えた。あれに突入するには並ならぬ消耗だろう」

勇者B「彼らには聖女様へ魔力を補給の役目を与えればいいんじゃないか?」

勇者B「補給したら安全に離脱、という訳にもいかないかもしれないが……それでもいいんならさ」

新人魔法兵達「! やらせて下さい!」

魔法兵「な……」

勇者A「使い捨てか……嫌な話だが有りがたい。よろしく頼むぞ」

勇者B(魔王の時の比でない数が命が犠牲になるんだろうな……必ず、勝たなくては)

行商人「どーもー」

勇者A「次から次へと一体なんだ……」

行商人「ここが、冥王との決戦に集結しているって場所ですかい」

勇者A「その通りだが……こんな所に商人とは。逞しいな」

行商人「ちょいと預かり物がありましてね」

行商人「量はありませんが、ある団体からこちらの武具を最前線へ運んで欲しいと頼まれたんですよね」

勇者B「一見すると普通の……いや、何か描かれているな」

勇者A「魔法か何かが施されているのか?」

行商人「詳しくは知りませんがね、そんじょそこらの武具よりよほど強力らしいですよ」

勇者A「これがか? ううむ……眉唾ではあるが、有り難く頂戴しよう」

勇者「だいぶ兵士の方が集まりましたね」

剣士「先代勇者の方々は他にいなさそうだねぇ……やっぱ間に合わないか」

医療「防衛の問題もあるのでしょうね」

魔術「これ以上の敵がいなければ、防御を捨てて打って出れるのに……歯がゆいものね」

勇者「もしかしたら……それも含むて少数での侵略を行っていたのかもしれませんね」

剣士「襲われる事への警戒心か……ほんと、嫌らしい相手だなぁ」

到着より三週間後
見張り兵「!」

見張り兵「あ、あぁ……あれが……!」

見張り兵「来たぞぉ! 不死の軍団が攻めて来た!」


勇者「いよいよですね」

剣士「お、何時も以上に落ち着いているね」

医療「こちらは心臓が張り裂けそうなんですけどね」

魔術「やるわよ……必ず、生きて……」グッ

勇者A「来たか……」

騎士「道中の町々の人々は?」

衛生兵「四分の一程がこの辺りの通過していないようです」

勇者B「周囲から抜けて行ってくれてればいいんだけどな」

勇者A「言っても仕方がないだろう」

勇者B「そうだな……」

勇者A「そちらは準備を進めていてくれ」

衛生兵「分かりました」コクリ

勇者A「作戦に変更はない!」

勇者A「最前線で戦う意思のある者は聖女様と共に、あの冥王の瘴気の中へと進み戦闘を行う!」

勇者A「例え、早々と命を落とす事になろうとも、皆の働きは聖女様の力となる!」

勇者A「己が身を呈してでも、聖女様の力を温存させるのだ!」

勇者A「経験の浅い、熟練していない魔法兵は聖女様に魔力を渡せ!」

勇者A「他、遠距離攻撃が行える者達は、各地の祝福された建物に立て篭もり、各自攻撃を行え!」

勇者A「死を恐れるな! 我々の勝利は聖女様と共にある!!」


「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

見張り兵「トラップ地帯、完全に瘴気に飲み込まれました!」

勇者A「間もなく出撃だな」

勇者B「聖女様、お体の方は大丈夫でしょうか?」

勇者「お気遣いありがとうございます。問題ありません」

医療「凄い人だかりに囲まれて進むのですね」

騎士「……こういう言い方はしたくないのだが、全員聖女様の盾であり矛であるからな。我々も含めて」

魔術「……」ゴクリ

剣士「これだけしても、勝機は低いんだから笑っちゃうもんだね」

医療「相手が……強大にして数が多いですからね」

勇者A「全軍! 進めぇ!」

兵士達「あ、あんな……」
兵士達「ワイトとは桁が……」
兵士達「落ち着け、こちらには聖女様がいるんだ」
兵士達「だがあの瘴気……少しでも聖女様の力が届かない場所に出たら」

勇者B「やはり、かなりの動揺を与えているか」

剣士「俺達四人もビビりましたからねぇ……」

勇者A「気をしっかり持て! 生き残れると思うな!」

勇者A「私も……私達も、聖女様に命を捧げる覚悟だ!」

兵士達「「「……」」」

兵士達「くそ……くそぉ……死にたくねえ、死にたくねえ、けど!」
兵士達「やるぞ……」
兵士達「ああ……せめて、故郷の家族を守ってみせる!」

冥王軍 北側
ワイト達「まぁた落とし穴か!」

ワイト達「こんなん、引っかかるかよぉ!」

デュラハン「気をつけろ。これらは苦肉の策とは言え、奴らは我々を討つつもりでいる」

デュラハン「それ相応の策や力があるとも限らん」

ワイト達「相変わらず用心し過ぎだぜぇ、この旦那」

ワイト達「ファントムのヤロウがやられてから、ずっとこの調子だからなぁ」

ワイト達「全くよぉ、冥王もなんだってこんなちんたら進軍させんのかねぇ」

ワイト達「全軍突撃して食い散らかせばいいのによぉ」

古参ワイト達「いや、いくつか危険な相手が存在しているのは間違いない」

古参ワイト達「逆に言えばそいつらさえ片付けば、一気に突き進むだろうな」

古参ワイト達「むざむざ死にたい奴以外は、大人しく従っていろよ」

古参ワイト達「! 何か来たぞ、散れ!」バッ

ワイト達「投石か?!」バッ

ワイト達「ハンッ! 原始てぇっ!?」ゴシャ

ワイト達「おおおぉぉ!?」ドドドド

ワイト達「ぎゃあああ!」ボォォォ

古参ワイト達「火のついた石だと? しかもこの数は一体……」

古参ワイト達「空中で分かれてやがる……気をつけろ!」


人間軍陣地
兵士達「着弾が確認できないのが苦しいな……」

兵士達「構うな! 飛ばしまくれ!」

兵士達「それにしても考えたもんだよな……縄で縛って、無数の岩が上空でばらけるように火をつけるだなんて」

兵士達「早く火石を打ち込みまくれ! 後がつかえているぞ!」

突撃隊
兵士達「お、おお……見ろ、投石が効いているぞ」

兵士達「牽制程度にしかならないと思っていたが……戦果をあげているじゃないか!」

兵士達「やるぞ……やってやるぞぉ!」

兵士達「おい! 前に出すぎるな!」

兵士達「敵は三つの大軍に分かれて進行、北西にデュラハン軍、南西レヴァナント軍、正面の西に冥王軍!」

兵士達「敵との距離はまだあります!」

勇者「……」

剣士「……」ポンポン

勇者「何ですか……子供扱いして」

剣士「そう思い詰めない。彼らの犠牲は君だけのものじゃない。だから、全てを背負っちゃいけないよ」

冥王軍 西
岩「」ッドズゥン

ワイト達「つおっと! 今度はでけぇのが来たな」チリチリ

ワイト達「なぁ?! 体が! 皮膚が焼けるぅ!」ジィィィ

古参ワイト達「! 岩から離れろ! そいつは祝福や聖水をかけてあるぞ!」

ワイト達「な、なんで……」

古参ワイト達「……。また来たぞ!」

古参ワイト達「岩の周りの瘴気が押され始めてるぞ……。奴ら、まさか陣地を確保するつもりか!」

古参ワイト達「……これ以上ジリ貧だがどうする」チラッ

冥王「……」

冥王「瘴気内に限り、突撃を許可する」ピッ

ワイト達「来たぜぇ!」

ワイト達「ぶち殺せぇ!」

古参ワイト達(俺達を囮に様子見するつもりか……)

古参ワイト達(だが、これ以上の被害はデュラハン達が生き残れても、俺達は怪しいな)

突撃隊
兵士達「く……無数のワイトが突っ込んでくる! 気をつけろ!」

兵士達「ホーリーヴェールから出るなよ」

ワイト達「くっそ」ジリジリ

ワイト達「卑怯だぜてめえら!」

兵士達「お前達が言うか!」

古参ワイトA「……」

古参ワイトA「ふんっ」ジリジリ

兵士A「なっ」ガシッ

古参ワイトA「そらっ!」ブンッ

兵士A「くお!」ドザァッ

兵士達「しまっ! は、早く戻れ!」

兵士A「う、お!」

兵士A「おぼ」ボシュァァ

兵士達「ひぁ!?」

兵士達「ち、血を吹き上げて……」

ワイト達「あぁんんンン? んだよ、じゃあこっちに引っ張り出すだけでいいのかよ」

ワイト達「つまんねぇなぁ!」ギロッ

ワイト達「こぉんな弱っちいのかよぉ!」ギラギラ

兵士達「ひぃ!」ガタガタ

兵士達「く、くそ……」

ワイト達「おっしゃあ、どけどけ」

ワイト達「俺が蹴散らしてやるよ」ムッキムキ

兵士達「な、なんだあの巨体……」

兵士達「ま、不味い」

ワイト達「おー! やったれやったれ!」

魔法兵「前衛! 回避!」

兵士達「!」

兵士達「うおっ!」バッ

ワイト達「なに?」

魔法兵達「……」ズラッ
弓兵達「……」ズララッ

古参ワイト達(前衛の内側に! やはり後衛がいたか!)バッ

古参ワイト達「散れぇっ!」

魔法兵「撃てぇっ!!」

ワイト達「グ、が!」ドドドシュ

ワイト達「ギャアアア!」ボァァァ

古参ワイト達「ぐおおお!」バリバリィ

勇者A「聖女様」

勇者「分かりました」コクリ

勇者「……」スゥ

ワイト達「な、なんだ……」

ワイト達「ぐおっ」ジュウウウ

ワイト達「ほ、ホーリーヴェールの範囲が……」

兵士達「はぁっ!」ヒンッ

ワイト達「ギャアッ!」ズシャッ

ワイト達「てめえ!」スンッ

兵士達「ガッ」ズシャァ

兵士達「たあああ!」ヒュン

ワイト達「おせぇ!」バッ

兵士達「そこぉ!」ドズッ

ワイト達「ぐぉっ!」

ワイト達「フォローしろ! 食い殺せ!」バッ

兵士達「ぐああああ!」

古参ワイト達「馬鹿野郎! 一旦下がれ!」

兵士達「逃がすかぁっ!」ザンッ

ワイト達「くっそ、ヤロウ!」ブシュッ

ワイト達「うん? なんだ?」ジュブジュブ

ワイト達「がああああ!」ボジュァァッ

兵士達「な、なんだ?!」

兵士達「それ、確か差し入れされた剣じゃ……」

兵士達「これがこの剣の力なのか……?」

古参ワイト達「……気をつけろ! 奴ら、普通じゃない武器を持ってやがる!」

兵士達「これなら……勝てる、俺達は勝てるぞ!」


勇者「……」

剣士「なるほどなぁ……参戦できないのは、辛いものがある」

勇者B「まだ……堪えてくれ」フルフル

魔術「……」キョロキョロ

医療「魔術師も、まだ魔法を撃ってはいけないよ」

魔術「分かっているわよ……というかそういう事じゃないわよ」

魔術「さっきから妙な魔力を感じるのよ」

剣士「あ、それ俺も思ってた」

勇者「剣士も? まさか、ホーリーヴェールに穴が……!」

魔術「瘴気じゃなくて魔力なのよ」

騎士「……確かに、これは一体」

衛生兵「あ、あのぉ……聖女様からのように、感じるのですが」

剣士「うん、言い辛かったし、本人は何ともなさそうだから言わなかったんだけどもね」

勇者「わ、私がですか?!」

勇者「! もしや」ゴソゴソ

勇者A「!? おい! あそこ、敵軍のところに夥しい瘴気が!」

医療「あれは……!?」

魔術「妙ね……死の瘴気じゃない?」

魔石のペンダント「」コウコウ

勇者「やはり、あの瘴気は!」

冥王軍 南部
ワイト達「な、なんだこの瘴気!」

古参ワイト達「妙だ。俺達とは違う瘴気とは……気をつけろ」

古参ワイト達「瘴気が晴れるぞ!」

瘴気「」ゴァァ

骸骨王「……」バァッ

女槍使い「……」ザッ

女槍「うわぁ……敵のまん前じゃん」

骸骨王「いい位置とも言うな」

女槍「いやー言わないんじゃないかなー?」

ワイト達「骸骨の……騎士?」

ワイト達「で、でで出やがった! あのホネヤロウ!」

女槍「で、どーするの? とりあえず目の前の敵を蹴散らす?」

骸骨王「軽いジャブがてらそうすっかねぇ」ガシャン

ワイト達「な、なんだ、あの剣? 剣なのか?」

古参ワイト達「なんて大きさだ……」

古参ワイト達「気をつけろ! 剣もそうだが奴は昔の魔法、魔方陣を用いたものを使ってくるぞ!」

骸骨王「ほー、ファントムのところから逃げ帰った連中か。こいつはだいぶ手の内が晒されてるな」

女槍「んー、じゃあ真正面からは避けるの?」

骸骨王「んな訳ねえだろ。直属の四天王ならまだしも、こいつら相手にせこせこ戦うかよ」ススッスッ

骸骨王「黒死炎!」ゴォゥ

ワイト達「刀身から黒い炎!?」

ワイト達「あれに切られると消せねえ炎が引火する! 気をつけろぉ!」

女槍「受けてみよ」スススッススッ

女槍「超必殺、インフィニティ!!」スンッ

骸骨王「そんな呪術はねえ」

女槍「ぶー、遠無の一穿」コォッ

女槍「そーゆう夢のない事を言っているから、枯れ果てて骨になっちゃうんだよー」

骸骨王「因果関係おかしいだろうが」

女槍「ぃやあっ!」ビッ

ワイト達「? な、なんだ、あんな位置から槍を突き出しやがって」

ワイト達「お、おい、お前……」

ワイト達「あ? なん、で、腹に、穴が……」

古参ワイト達「何時の、間に」ブシュァッ

ワイト達「あぐ、が、ア」ドザァッ

古参ワイト達「まさか……この距離を無視して攻撃できるのか」

骸骨王「さあて」チラ

古参ワイト達「! レヴァナントを呼んで来い! ここを死守するぞ!」

古参ワイト達「止めるぞ、骸骨」

骸骨王「おう、止めてみろ!」ダダダ

古参ワイト達「かかれぇ!」

ワイト達「数で押してやらぁ!」

ワイト達「おぉっ!」

女槍(おー……なんて無謀な)

骸骨王「ふんっ!」ブォン

ワイト達「ヒギャ」ザンッ

ワイト達「ガッ」ズシャァッ

古参ワイト達「ごぁっ」ズンッ

古参ワイト達「くそ、出鱈目な力だ!」

ワイト達「炎とか関係ねぇ……薙いだだけで致命傷食らってるじゃねえか!」

骸骨王(さて……)キョロキョロ

女槍「どんくらい倒せばいいの?」

骸骨王「可能であれば雑兵全員って考えておいてくれ」

女槍「おじさんはどうすんのさ?」

骸骨王「俺は戦わねーといけない相手がいるからな」

骸骨王「そいつが出てきたらそっちに行くわ」

女槍「おおー、なんか格好良い」

骸骨王「しょうもねえ相手だがな」

突撃隊
勇者A「来たか……彼が」

勇者B「頼もしい限りだな。だけど、もう一人いるのは……普通の人間じゃないのか?」

騎士「状況は詳しく分からないが、この機に乗じ更に進むぞ」

医療「それでも、冥王とファントムの軍がまだ残っていますからね」

勇者A「取り囲まれないよう注意しろ! 交代しつつ、疲労の隙を突かれるな!」

兵士達「ぐあっ!」ザシュゥ

兵士達「下がれ! はっ!」ザンッ

ワイト達「ガァッ!」ブシュァッ

勇者「まだ、駄目なのですね」

剣士「俺達は冥王と戦わないといけないからね」

兵士達「ほ、北西よりデュラハンとワイトの大軍が接近!」

医療「レヴァナント軍が足止めされているのを見て、本格的に動き出したようですね」

勇者A「問題はどうやって……俺達で引き受けるか、だ」

勇者B「聖女様はお下がり下さい。ここは我々が」

勇者「……」

剣士「と、言うかあの大軍……突撃されたら圧殺されるんじゃないかなぁ」

勇者A「西から南西にかけて前衛を固めろ! 後衛は北西から北側に集まりデュラハン軍を攻撃!」

騎士「到達までに何処まで敵を減らせるか……」

勇者A「残りの新米魔法兵は?」

新米魔法兵「魔力が残っている者は私を含めて五名です」

剣士「冥王までフルコンディションは維持できないかぁ」

魔術「ここで長引かせるより、あたし達も参戦して早く倒した方がいいんじゃないの?」

医療「そうは言いますが、相手は四天王なのですよ……」

デュラハン軍
デュラハン「……」

ワイト達「くっそ! 魔法と矢がうぜぇ!」

古参ワイト達「どうすんだ旦那。割とジリ貧だと思うぞ」

デュラハン「未だに聖女は姿を現しもしない……冥王との戦いへの備えている。現状、勝機は高くないという事だ」

デュラハン「数で押してしまえば、我々だけでも奴らを片付けられよう」

デュラハン「突き進め。奴らを滅ぼすのだ」ピッ

兵士達「! 冥王軍より更にワイトの群れが接近!」

ワイト達「おらぁっ!」ザンッ

兵士達「ガッ!」

古参ワイト達「一撃離脱で狙え! 前衛を崩せば瓦解するぞ!」

勇者A「やはり、厳しいな……」

勇者B「俺達自身、デュラハンとの戦いに温存しておきたかったが……」

衛生兵「これでは……デュラハン軍が到達した時点で」

騎士「ああ、分かっているよ」

光の筋「」ビュァッ

兵士達「!?」

兵士達「なんだ、今の光は!」

兵士達「み、見ろ……かなりのワイト達が、消えた……」

勇者A「今のは……まさか」

勇者B「これは分からなく、なってきたな」ニィ


冥王軍
ワイト達「ガアアア! 腕がぁ! 腕がぁ!」

古参ワイト達「い、今の魔法はライジングショット!?」

古参ワイト達「おいおい……ファントムだけが使える魔法って訳じゃないのかよ」

ワイト達「人間が……あの光線の魔法を撃てるのかよ!」


瘴気の外
勇者D「良かった……間に合ったみたいですね」

女勇者A「ええ、そうね」

聖騎士達「総員、突入陣形急げ!」

聖騎士達「一班十人! ホーリーヴェールの重ね掛けで、冥王の瘴気を食い破れ!」

勇者D「僕達も同行させて下さい、よろしくお願いします」

聖騎士達「頭をお上げ下さい。それにこちらこそよろしくお願いします」

聖騎士達「急げ! 我々の聖女様をお守りするのだ!」

女勇者A「突入して中の状況が分かり次第、魔法を撃つわよ。前に出過ぎないで頂戴」

勇者D「僕も次のライジングショットに備えておくよ」

聖騎士達「はっ!」

瘴気の外
女勇者「聖騎士の人達……!」

魔法「なるほどね、ホーリーヴェールを重ねる事で冥王の瘴気に抗うのね」

女勇者「既に戦闘は始まっているみたいね」

僧侶「冥界の王との戦い、ですか……」

魔法「いくら聖女様がいるとは言え絶望的ねぇ……」

僧侶「どうしますか?」

女勇者「……」

……
盗賊『これを頼まれました』

女勇者『魔石、ですか』

商人『ええと、瘴気の中で30分は身を守ってくれる、だそうっす』

魔法『"彼"の贈り物ねぇ』

僧侶『一体何が……』

盗賊『瘴気って聞くと真っ先にあの人が思い当たるんですけどねー……』

盗賊『とにかくこれを持って、西の国の先にある駐屯地に向かって欲しいだそうです』

女勇者『しかも六個も……』

盗賊『他の方の分なんですが、渡す時間がないんで持っていて下さい』

女勇者「あたし達は単独で突入しよう」

魔法「30分……短いわよ?」

女勇者「それまでに可能な限り戦闘を行い、この魔石を他の勇者に託そう」

僧侶「私達で使用してはいけないのでしょうか?」

女勇者「分からないけども、飽くまで他の人の分として言付かっていたみたいだし」

女勇者「連用は避けるべきだと思う」

魔法「そ、まああたし達はそれに従うだけだしね」

僧侶「それでは参りましょうか」

瘴気東側
聖騎士達「突撃ぃ!」

東の国の兵士達「戦闘は我々に任せて、ホーリーヴェールの維持に集中してくれ!」

聖騎士達「ああ、任せるぞ!」

聖騎士達「! これは……聖女様が通った跡か」

聖騎士達「瘴気を貫く道が……」

聖騎士達「徐々にまた瘴気に戻っていく。だいぶ先におられるようだな」

東の国の兵士達「急ぐぞ!」

聖騎士達「おお!」

勇者「これは……そんな、まさか」

剣士「援軍、なのか……こんな事が」

衛生兵「あれは東の国の兵士? まさか、この事態に防衛を捨てて駆けつけてくれたのでしょうか」

勇者A「それに聖騎士も大勢いるようだな。あれだけの人数のホーリーヴェールなら、冥王の瘴気に対抗できるのか」

医療「これならファントム軍とも、冥王軍とも戦えますね!」

魔術「ようやく、勝機が出てきたわね」

兵士達「味方だ……味方が来てくれた!」

兵士達「牽制しろ! 援軍の到着まで凌ぐんだ!」

ワイト達「くっそ……!」

古参ワイト達「一旦退くぞ、こちらも後続を待ったほうがいい」

勇者B「はは、魔王の時とはえらい違いだな」

騎士「歴戦の英雄の号令と世界の聖女様だ。それに、侵略者が冥界の存在というのも大きいだろう」

勇者A「この場で待機し、陣形を維持! 後方の聖騎士達の合流と共に部隊を再編成し、進軍を再開する!」

兵士達「任せてください!」

兵士達「我々が食い止めます!」

魔法兵達「敵の勢いが落ちてきたな。無駄に長距離攻撃で消耗すべきではない」

魔法兵達「こちらも攻撃の手を緩めろ。魔力や矢を温存しろ!」

瘴気内各地
ワイト達「うおおおお!」ドドッ

聖騎士達「ぐっ!」ザシュッ

ワイト達「くっそー! ホーリーヴェールうぜぇぇ!」ジュウジュウ

古参ワイト達「突入は一人一度に留めておけ!」

兵士達「くそ! 囲まれた!」

兵士達「前に出て血路を開く!」

古参ワイト達「はっ!」ヒヒン

兵士達「ガッ!」

聖騎士達「ぐっ!」

聖騎士達「ま、まずい……これ以上は」

ワイト達「おらー! ダメ押しだ!」ダッ

ワイト達「おっしゃあ! 俺もついていくぜ!」ダンッ

兵士達「く、くそおおおお!」ブンッ

ワイト達「おせぇ!」ザンッ

兵士達「カ、ハッ」

聖騎士達「ぐぁっ!」ザシュゥ

聖騎士達「うぐぐぐ!」ググ

聖騎士達「すま、ない! これ以上は、もう!」

兵士達「! ホ、ホーリーヴェールが」

ワイト達「あっとひっとり! あっとひっとり!」

古参ワイト達「そら!」

兵士達「や、やめ」

聖騎士達「がっ」ザン

聖騎士達「ぐ! もう!」

兵士達「ひ、ひ!」

兵士達「き、消える! う、うわああああ!」

ホーリーヴェール「」スゥ

「ああああ!」
「ぎゃあああ!」
「がああ!」

兵士達「く……! 五班、全滅!」

兵士達「二班、決壊寸前! 周囲に敵無し!」

聖騎士達「二班の元へ進み、部隊を吸収!」

聖騎士達「急げ! 次の戦闘は持ち堪えられないぞ」

兵士達「十以上あった部隊ももうすぐ半分か……」グッ

聖騎士達「泣き言は後だ。我々は聖女様の為にも、例え時間稼ぎで終わろうとも戦い続けるだけだ」

兵士達「全くだな」

南部
骸骨王(こりゃまた凄い事になってきたな)

骸骨王(乱戦になる前に動いておきたいが……お、大きな瘴気が溜まってんな)

骸骨王(四天王は、レヴァナントはあそこか)

ワイト達「もっと物量増やせぇ!」

ワイト達「囲んでボコりゃあ勝てんだろぉ!」

古参ワイト達「バカ、やめろ!」

骸骨王「おう、かかってこいや!」ダッ

骸骨王「はっ!」

ワイト達「ギャアッ!」ズシャァッ

ワイト達「がっ!」ザンッ

骸骨王「とっ!」

ワイト達「かひゅっ」ブシュァッ

骸骨王「よっ!」

ワイト達「ぐぁぁっ!」ズパァッ

ワイト達「ば、化け物か……」

古参ワイト達「おまけに疲れ知らずか? 俺達じゃ時間稼ぎが限界だな」

骸骨王「俺は前に出る。任せるぞ」

女槍「はーい」

骸骨王「と言っても、やばそうだったらとっとと逃げろよ?」

女槍「えー? おじさんの帰りを待ってるよ?」

骸骨王「ちゃんと帰ってくるから危なくなったら逃げろ、て言ってんだよ」

女槍「場所は?」

骸骨王「北の国の湖」

女槍「オッケー。いってらっしゃい」

骸骨王「おう、行って来るよ」

女勇者「あれは!」

魔法「今回は彼の方が早かったみたいね」

僧侶「でも、こんな状況なのに……不思議と勇気が湧いて、あっ」

女勇者「……」キラキラ

魔法「いい年してなんて目をしてるのよ……」

女勇者「このまま一直線に前進! 正面の敵を撃退しつつ、聖女様の元に駆けつけよう!」

僧侶「あはは、張り切ってますね」

ワイト達「また新手か!」ザッ

ワイト達「これ以上進ませるなぁ!」バッ

魔法「スプレッドボム!」

ワイト達「ぎゃあ!」ボボボン

ワイト達「ぐおおお!」ボボボボ

女勇者「たああああ!」ヒヒュン

ワイト達「ガッ!」ザンッ

ワイト達「ひっ」スンッ

古参ワイト「ちぃっ! こいつら、瘴気の中を自由に動けるのか!」

僧侶「ホーリーヴェール!」カッ

古参ワイト達「ぐおおおおっ!」ジュオオオ

勇者「はっ!」ザンッ

古参ワイト達「がっ、く……直接、かけて……」

魔法「そういう使い方もありなのね」

僧侶「多分、この勢いですと回復だけでは魔力が余ってしまいますからね」

女勇者「むしろ何時の間に使えるようになっていたんだ……」

僧侶「……これでも、戦う事が出来ない事に歯痒い思いをさせられましたからね」

魔法「……そうね」

女勇者「ああ……そうだった、ね」

女勇者「……」

女勇者「よし、追いつくよ」

魔法「そうね、急ぎましょ」

僧侶「ですね」

女勇者「聖女様!」

勇者「! 女勇者様!」

勇者A「来てくれたか!」

騎士「久しいな」

勇者B「懐かしい顔が来たな」

魔法「あら、あなたもいたのね」

僧侶「お久しぶりです」

剣士「凄いな……どんどん勇者の人達が集まってくるよ」

医療「とは言えこれで頭打ち、ですかね」

魔術「みたいね」

聖騎士達「聖女様!」

剣士「お、聖騎士団の人達も追いついてきた」

勇者「皆さん……ありがとうございます」

女勇者「感極まるのはまだですよ。勇者A、B……それと騎士でいいか」

騎士「なんだそのついでの扱いは」

女勇者「"彼"から託された魔石を渡すよ。これを使えば30分はこの瘴気に耐えられる」

勇者A「彼、か」チラッ

勇者B「全く相変わらずだなぁ」

勇者A「君達はどうする?」

女勇者「こちらは既に使っているからそう長くは戦えない」

魔法「このまま遊撃しつつ、タイミングを見て離脱するわ」

勇者A「よし、聖騎士グループの一つは我々と共にデュラハン軍迎撃にあたるぞ!」

勇者A「もう一方は聖女様と共に冥王軍を目指せ!」

女勇者「時間もないし、もう行かせてもらうよ。お互い、武運を」

勇者B「ああ、死んでも生き残ってもまた後でな」

剣士「何だか、胸が熱くなってくるなぁ」

魔術「なに馬鹿な事言ってんのよ」

医療「しかし……こうも希望が見えてしまいますと」

勇者「例え、この先が暗闇であったとしても変わりません。必ず、冥王を倒すのです!」

剣士「そうだなぁ。その為にも、少しホーリーヴェールを下げなよ」

聖騎士達「そうです! 我々が動ける内は我々にお任せ下さい!」

南部
骸骨王「よお、十年ぶりだな」

レヴァナント「……」

骸骨王「馬鹿な奴だよな、お前は」

レヴァナント「オオオォォォ!! 貴様ぁぁぁ!!」ゴォッ

古参ワイト達「うお!」ビリビリ

ワイト達「こいつがこんなんなるの初めて見るぜ……」ゾォ

骸骨王「全く、怨霊として現れるくらないなら」

骸骨王「俺に魔力なんぞ託さなければ良かったのにな。なあ、魔王?」

レヴァナント「黙れ! 黙れぇ! 何故だ! 何故、貴様はそうまでして、生きられる! 何故、希望が持てる!」

骸骨王「おう、人生楽しいぜ? お前と違ってな」

レヴァナント「ならば叩き潰してくれる!」

骸骨王「やってみろよ。お前はお前の魔力で、あんな事しかできなかったみたいだからな」

骸骨王「今度は俺の使い道を見せてやるよ」ゴォォッ

レヴァナント「オオオオォォォォォ!!」ゴォッ

骸骨王「はっ、魔力を失ったお前の力の礎は瘴気か」

骸骨王「落ちぶれたものだな、魔王」ススッススッ

骸骨王「伝衝壊地!」ドンッ

地面「」ズガガガガ

ワイト達「があああ!」ブシャァ

ワイト達「ぎゃああぁ!」ボキャァ

レヴァナント「ぐう!」

古参ワイト達「ひ、退け! 逃げろ!」

古参ワイト達「地面が隆起? いや、これは……なんて力だ」

レヴァナント「地面ごと……えぐり返すほどの衝撃を走らせたのか」

レヴァナント「あの時には使わなかったな」

骸骨王「技術的にもな使えなかっただけだ」

骸骨王「だが、鍛錬とこの魔力の賜物でな。今じゃ使える呪術が増えるどころか、よっと」ヒラリ

ワイト達「ぎゃあ!」ドッ

古参ワイト達「かはっ!」ボッ

ワイト達「ま、まただ! 何かに貫かれた!」

レヴァナント「今のは、今までの魔法とは構築が……まさか、お前が作った魔法だとでも……」

骸骨王「おうよ」カタカタカタ

骸骨王「遠無の一穿ってんだ」

骸骨王「術者の技量次第で一撃が距離を無視する」

骸骨王「まあ、効果が一瞬だから、薙ぎ払っても突くような範囲しか効果がねえけどな」

レヴァナント「何処までも腹立たしい男だ!」フンッ

骸骨王「おっと」ズガガガガ

骸骨王「瘴気の塊を飛ばして衝撃波のようにしてんのか」

骸骨王「つまらない戦い方しか出来なくなってんだな」カタカタ

レヴァナント「ぐ……」

北部
勇者A「突撃ぃ!」

兵士達「うおおおおお!」

ワイト達「こ、こいつら勢いづきやがって!」

古参ワイト達「退け! 旦那と合流するぞ!」

勇者B「くそ、敵が退いていく……」

騎士「どうするつもりだ?」

勇者A「このまま前進! デュラハンは我々が抑える」

勇者A「他の者達はワイトを迎撃しろ!」

デュラハン「ほう……意外とやるではないか」

古参ワイト達「おい、感心してる場合じゃないだろ!」

デュラハン「あの男三人は雑兵とは格が違うのだろう」

デュラハン「他の者達の相手はお前達がしろ」

古参ワイト達「そいつは有り難いな。まだ底が見えない相手とはやりたくねえよ」

デュラハン「雑兵を倒し次第、他の者を襲え」

古参ワイト達「おう、遠慮なくそうさせてもらうぜ」

勇者A「あれがデュラハン……」

騎士「頃合だな」

勇者B「よし、魔石を使うぞ」

聖騎士達「ワイトを片付け次第、我々もデュラハンに攻撃を仕掛けます」

兵士達「どうか、お気をつけて」

勇者A「そちらも楽ではないだろう」

騎士「頼んだぞ」

デュラハン「……」コォォォ

勇者A(伝承通り、鎧姿に頭を左手に持ち、右手には大きな剣か)

騎士(我々だけで、か……魔石がもう一つあれば衛生兵を連れて来たのだが)

勇者B(回復役なしでか……生きては帰れないだろうな)

デュラハン「神器、光の盾」ピッ

勇者A「……知っているのか」

デュラハン「オリハルコンの鎧」スッ

騎士「……」

デュラハン「そして、神器黄昏の鎧」サッ

勇者B「だからなんだって言うんだ」

デュラハン「確かに……守りとしては私でも手を焼くな」ガッシャ

デュラハン「だが、それでどうやって私を倒そうというのやら」

デュラハン「掛かってくるがいい。ここがお前達の終わりだ」ゴォォ

勇者A「ぐ……」ゾクゥ

勇者B「なんていうプレッシャーだ……」

騎士「……」ブル

勇者A「……やるぞ」グッ

勇者A「はああ!」ブォッ

デュラハン「……」ガギィン

勇者A「ぐ……」ググ

デュラハン「ふんっ!」グンッ

勇者A「くおっ!」ドザァ

勇者B「……」ザッ

勇者B「はっ!」ヒンッ

デュラハン「……」ガギィン

騎士(力では適わないな)

騎士(こちらの三本の剣で上手く立ち回らねば)ザザッ

デュラハン「囲んできたか。懸命だな」

デュラハン「だが!」ブンッ

勇者B「うお!」バンッ

騎士「ぐぅ!」ガギィィィィ

騎士「あっ!」ブォッ

騎士「ぐ!」ドザァッ

デュラハン「我が一振りで二人とも弾き飛ばされる……これでは意味がないな」フゥー

勇者A「たあ!」ブォ

デュラハン「無駄な事を」ガギィン

勇者B「しぃっ!」ザンッ

デュラハン「……」グッ

勇者A「おっと」バッ

デュラハン「はっ!」ブォン

騎士「くっ!」ザザァ

デュラハン「……なるほど、無力ではない。レヴァナントの生前を倒しただけの事はある、か」

勇者A「レヴァナントを……?」

騎士「怨恨……まさか奴は魔王……!」

勇者B「な……本当なのか」

デュラハン「今この場で気にすべき事でもなかろう」バッ

デュラハン「もし、お前達が生き残り、我々が敗北に喫するのであれば知ることになるだろう」

デュラハン「さあ、戦え人間。我が渇きを満たしてみせろ」

乙!
>>284の「勇者」って「女勇者」?

>>304
一瞬名前の文字足りない気がしたけどきっと気のせいだと思ってた
思ってたんだけどなぁ……

西部
冥王「……」ゴゴゴ

ワイト達「……」ワラワラ


勇者「見えてきましたね」

剣士「あれが冥王……もっとでかいのかと思ったけども」

医療「ですが決して小さい訳では……」

魔術「4,5mぐらいかしら」

勇者「冥王は我々が戦います。ワイトは皆さんにお任せしたいのですが、よろしいでしょうか?」

聖騎士達「お任せ下さい!」

兵士達「必ずや、聖女様の支援に向かいますので!」

衛生兵「あたしも必ず聖女様の元に参ります」

冥王「お前達は雑兵を片付けろ」

ワイト達「いいのかよ?」

古参ワイト達「正直戦いたくはないが、あの女を殺さない限り危険だぜ」

冥王「お前達がいたところで邪魔なだけだ」

冥王「あの者には相当な神の力を宿している」

古参ワイト達「流石にあんたが倒れると俺達もヤバイんだがよ」

冥王「であれば、どの道我々は淘汰される運命よ」

ワイト達「へ、違いねえな」

魔術「ワイトが散っていく……」

剣士「冥王のお膳立てかなぁ」

勇者「行きましょう」

医療「ですね……」ブルル


冥王「人間にして見事な力だ」

勇者「……」スッ

冥王「会話の余地もないという事か」

冥王「いいだろう……望みどおり死に急ぐがいい」

剣士「フレイムブレイド!」ゴォ

冥王「……」スッ

剣士「う、ぐ!?」ゾゾゾォ

剣士「くぅっ!」バッ

魔術「え? け、剣士……?」

剣士「ああ、くっそ……なんだよこれ」チリチリ

剣士「殺気だけでこんな……」ガタガタガタ

勇者「……」ゴクリ

冥王「どうした? かかってこないのか?」

冥王「それとも、私から仕掛けてほしいという意思表示か?」ギョロリ

勇者「たああ!」ダッ

冥王「……」ガギィン

勇者「ぐっ!」ギギギ

医療「勇者様が、押し切れない……!」

剣士「当然だ、こんな相手!」バッ

剣士「魔術師! 全力支援!」ダッ

魔術「わ、分かった!」

魔術「スネークアーム!」

黒い腕「」シュルヌタタタタ

冥王「無駄な事よ」ギョロ

黒い腕「」ジュウウ ボタ ボトボト

魔術「な、なにあれ!」

医療「まさか、魔法が効かない……?」

剣士「はああ!」ザンッ

冥王「ほお……」ゴォ シュゥゥ

勇者「炎が……もう消えた」

剣士「く……やはり魔法耐性か」

冥王「さあ、次はどうする?」ズッ

剣士「……!」ビクゥ

剣士「おおおおお!」ヒュンヒュンヒン

冥王「遅い、届かん」ガガガッ

勇者「はっ!」ザンッ

冥王「!」ジュォォォ

冥王「なるほど、聖なる力は我が瘴気でも防げんか」ジュゥゥ

勇者「! 侵食がもう止まっていく」

剣士「ちょっとやそっとじゃ致命傷にならないか……」

冥王「その上で、この場に立っているのだろう?」

冥王「さあ、倒してみろ!」ゴッ

剣士「がッ!」ゴシャッ

勇者「きゃあ!」ガッ

魔術「デドリーポイズン!」

冥王「猛毒……」ジュウジュウ

冥王「あえて、か。その判断力は褒めてやろう。だが、大したものではないな」シュゥゥ

医療「剣士君、勇者様」ササッ

冥王「回復役、か」ギロ

医療「~~~~!!」ゾゾゾゾォ

魔術「フレイムスコール!」

冥王「ほう」ゴァァァァ

冥王「中々強力な炎だな……だが大した傷にはならんな」シュゥゥ

勇者「はぁっ!」バッ

冥王「む!」ガギィ

冥王「今のは時間稼ぎの為のものか」

冥王「とすれば」キロッ

剣士「!? ばれた!?」ズザァァ

冥王「……」バッ

勇者「く!」ズザァ

冥王「次は貴様だ」

剣士(真正面から冥王なんて止めるどころか生き残るのだって!)

魔術「フレイムウォール!」ゴォッ

冥王「無駄だ!」ボァッ

「」

冥王(いない?)

剣士「たあっ!」ヒンッ

冥王(横から……今の一瞬でこちらの視界の外に移動していたか)ガギィィン

剣士(これでも受け止められるのかっ)

南部
骸骨王「はあっ!」ブォッ

レヴァナント「ぐぅ!」ガギィィン

骸骨王「所詮、魔力の障壁がなければ俺の剣を受け止めるだけで精一杯か」

レヴァナント「ぐううああああああ!」ガッ

骸骨王「おっと」バッ

黒い稲妻「」ズガガガン

骸骨王(瘴気が稲妻のように? 今の魔法の体系を作っただけはあるか)

レヴァナント「はっ!」ビッ

骸骨王「ぐっ!」ボキャァッ

左腕「」ガシャッ

骸骨王(今度は光線系の魔法か……全く、結局魔法の形に頼りきってんだな。だが)

骸骨王「少し、過小評価だったな!」バッ

レヴァナント「ぐ!」ギィン

骸骨王「つっても、接近戦は得意じゃないようだな!」キィン

レヴァナント「ぐぉっ!」ズザァッ

レヴァナント「うううおおおお!」カッ

骸骨王「ぐ、お……!」ジュゥゥ

骸骨王「体が……蝕まれていく」ジュウウ

骸骨王(本来、生き物が持てないこの大自然そのものの魔力であっても)

骸骨王(自分一人の体を維持し続ける事は叶わないか)

骸骨王(案外、永くはなさそうだな)フッ

レヴァナント「何がおかしい……」コォォッ

骸骨王「なあに……生き飽きる事なく、慎ましく生きていこうと思ってな」

レヴァナント「愚かな……ここがお前の最期の時だと言うのに」

レヴァナント「このまま朽ち果てろ!」ゴォッ

骸骨王「ぐ!」ジュウウ

北部
デュラハン「はっ!」ガギィン

勇者A「ぐあ!」ドザァッ

デュラハン「……」スゥ

騎士「……」ダッ

デュラハン「!」ブォ

騎士「くっ!」ザザァ

デュラハン(一人が倒れればフォローにか。止めが刺しきれん、上手い連携だな)ォォ

勇者B「……」サッ

勇者B「……」ヒュン

デュラハン「ふんっ!」ブォ

勇者B「ぐ!」ガギィィン

デュラハン(必ず一人はこちらの死角を狙う)

デュラハン(分かりやすいが……)

騎士「……」ジリ

勇者A「……」ザッ

デュラハン(攻めきれん。少し、過小評価だったか)

デュラハン(しかしこいつらとて……)

勇者B(くそ……決定打が)ジリ

騎士(このままでは埒が明かないな)

勇者A(こちらが戦える時間は有限……膠着は逆にこちらの敗北に繋がる。だがしかし……)

デュラハン(……例え、このまま勝ちであったとしても、そのようなつまらん幕引き、私は認めんぞ)ダッ

デュラハン「おおおお!」クルッ

勇者B「く!」

デュラハン「はぁっ!」ギィィン

勇者B「がっ」ズザァァ

デュラハン(防御を捨てて一人殺してやろう。さあ、どうする!)ヒンッ

騎士「ちぃ!」バッ

勇者A「こいつ……!」ダッ

勇者B「くっ!」バッ

デュラハン「!」ズンッ

デュラハン(寸で逃げ延びたか)

勇者A「……ほ」

騎士(明らかにこちらの攻撃を無視して止めを刺そうとした)

勇者B(もう、これ以上粘るだけじゃ、どうにもならないな)

デュラハン「……」

デュラハン「お前達がこの瘴気の中で戦える時間は有限なのだろう」

勇者A「……」

デュラハン「だが……そのような勝敗の決し方は認めんぞ」

デュラハン「ここからは全力でぶつかってやろう」

デュラハン「ただ凌ごうなどと努々思うなよ」ゴォ

勇者B「これは……」

騎士「突破の糸口なしに、か」

勇者A「腹を括るぞ」

南部
女槍「たあ!」ヒンッ

古参ワイト達「がっ!」ズンッ

ワイト達「こいつ、訳分からねえ力がなくてもつえええ!」

女槍「ふぅっ」ヒュヒュン

女槍(思った以上にわらわらいるなぁ……)

女槍(こんなペースで戦っていたら、あと30分足らずで魔石を消費しきる)

女槍(おじさんの魔力の障壁がなくなったら、瘴気で即死ぬしなぁ)

女槍(出来ればおじさんを待ちたかったけど、撤退も考えるともう限界かなぁ)バッ

女槍(それに……流石におじさんでも楽な戦いじゃないみたいだし)ジリッ

ワイト達「ひぃ!」

古参ワイト達「落ち着け! 骸骨ほどじゃねえ! 数で押し切るぞ!」

女槍「……」ススッススッ

ワイト達「ま、またやりやがる気だ!」

古参ワイト達「横に広がれ! 畳み掛けるぞ!」

ワイト達「くっそぉ! 完全に博打じゃねえか!」

女槍「伝衝壊地!」ドンッ

ゴゴゴ...
ワイト達「ご、ふっ」

古参ワイト達「地面が隆起、しやがった」

ワイト達「あ、あんなんも出来んのか」

女槍(この隙に一気に距離を開けよう)バッ

ワイト達「!? 逃げる、のか?」

古参ワイト達「気をつけろ! 罠かもしれん!」

女槍「……」

女槍(おじさん、無事に帰ってきてよ……)

冥王「おおおお!」ゴォォォ

剣士「く!」バッ

魔術「剣士!」

勇者「早くこちらに!」

医療「何という瘴気の波動……」ゴクリ

剣士「ふう……ふう……勇者がいなかったらと思うとぞっとするよ」

冥王(我が瘴気とあの娘の聖なる力は大差がない、といったところか)

冥王(矛を奪わない限り、少々攻めあぐねる状況だな)ユラ

剣士「くそ……ダメージになっていないな」

魔術「あまり悠長な事を言っていられないわよ」

勇者「……私も剣士と共に攻撃を仕掛けます」

医療「勇者様……」

剣士「駄目だ。完全に君が生命線なんだよ? 分かっているのかい?」

勇者「しかしこのまま戦闘が長期化すれば不利なのはこちらですよ」

剣士「……」

剣士「俺が何とか隙を作る。勇者はそこを突いてくれ」

冥王「お喋りはすんだか?」ギョロ

剣士「……」ジリッ

医療「……」

勇者「……」

魔術「……」ザッ

冥王(剣の男をアタッカーに杖の女が支援……あの娘は、その隙を突くつもりか)

冥王(……いいだろう、いかに陳腐な悪あがきであるという事を知るがいい)

魔術「コールドコフィン!」

冥王(凍らせてきたか)バキバキバキ

冥王(だが、無駄の事よ)バリン

剣士(流石に駄目か)ダッ

魔術(それでも……)キィン

魔術「スプレッドボム!」

冥王「……」ボボボボン

冥王(煙幕代わり……ならば)

剣士「……」ザッ

冥王「無駄よ!」ヒンッ

魔術「あっ……!」

人型の靄「」スゥゥ

冥王「!?」

冥王(幻影! では……)ザンッ

剣士「届いたぞ、冥王!」

冥王「剣を突き立てただけで、何を吠え」

剣士「ライトニングブレイド!」ジ ジジジ

冥王「オオォォォ!!」バヂヂヂヂ

剣士(やはり、内側からなら魔法も通る!)

魔術(剣士の言ったとおり、本当に引っかかるなんて。慢心している今のうちってのは間違いなさそうね)

魔術「アイシングピアース!」

冥王「ゴォッ!」ドズッ

魔術「ライトニングアロー!」

巨大氷柱「」ズガガガ

巨大氷柱「」バヂヂヂッ

冥王「ガアアアアア!」

剣士(ようやっとでダメージか……だがこれで、攻撃手段は)

冥王「キ、サマラ」ギョロ

剣士「っ!」ゾッ

冥王「……」ギョンッ

剣士「がぁっ!」ジュゥゥ

剣士(睨まれただけで、体が……!)ボコボコ

勇者「剣士!」バッ

冥王「遅い……」ギョッ

剣士「!?」バコバコバコ

剣士「が! あ! う、で!」

右腕「」ボシュゥゥ

剣士「ああああ!!」

医療「剣士の腕が……腐っていく」

魔術「う、ウィンドア」

冥王「……」ズォッ

勇者「な……」

医療(一瞬で目の前に……)

冥王「お前、さえ、死ねば……世界は、堕ちる」ズィ

勇者「! く!」キィィン

冥王「その力と我が瘴気……どちらが強いか」ギョンッ

魔術「うぐ!」ジリジリ

医療「勇者様の、ホーリーヴェールがあるのに……!」シュゥゥ

冥王「消えろ」バッ

勇者「!」

北部
デュラハン「はぁっ!」ガギィン

騎士「ぐう!」ズザァ

勇者B「ちぃ!」バッ

勇者A「……」ダッ

デュラハン「一つ覚えよ!」ブォッ

勇者B「く!」ギィン

勇者A「つっ」ガギィン

デュラハン「……」ダッ

聖騎士達「つああああ!」ヒンッ

デュラハン「ぐ!?」ギィィン

騎士「ワイト達を退けたか……」

勇者B「間に合った、のか」

勇者A「まだだ。まだ勝機を掴んだ訳ではないぞ」

デュラハン「……」

聖騎士達「半数以下になったとは言え……我々も戦います」

デュラハン「所詮は雑兵よ」ゴォォォ

聖騎士達「ならば試してみるがいい」ジリッ

騎士(剣が増えたとは言え、相手はデュラハン)

騎士(こちらの隙が少し埋まる程度に考えなくてはすぐに足元を掬われるだろう)

勇者A(俺達も長くはもたない。何としてでも、この状況で押し切らなくては)

勇者B(しかし……あの鎧を相手にどうダメージを。頭部を狙われる事は十分に理解しているのか)

勇者B(隙らしい隙なんてありはしないし……)

聖騎士達「たああ!」バッ

デュラハン「雑兵如きが正面からとは」

デュラハン「粋がるな!!」ヒンッ

聖騎士達「くっ」キンッ

聖騎士達「な……」ブシュァァッ

聖騎士達「剣ごと叩き切……」

勇者A「はっ!」ヒンッ

デュラハン「……」ギンッ

デュラハン「おおお!」ブォッ

勇者A(押し倒さ……!)グォッ

騎士「たああっ!」ギィィン

デュラハン(流石にそう甘くはいかんか……だが!)

騎士「く!」グググ

勇者A「二人がかりでも力負けするのか……」ググ

勇者B「側面!」

聖騎士達「おおおお!」

デュラハン「雑魚が……」

デュラハン「煩わせるな!」グォッ

騎士「くぁ!」ドザァッ

勇者「くっ!」ズザァ

聖騎士達「がっ!」ザンッ

聖騎士達「あがっ!」ギンッ

デュラハン「好機が生じたとでも思っているのか……?」

デュラハン「愚かな事だ」

デュラハン「どうやら、私の見込み違いだったようだな」

聖騎士達「なんて、強さだ……」

聖騎士達「くそ……」

勇者A「やはり、厳しいな……」

騎士「お前達は奴の攻撃を受け止めようとするな!」

勇者B「……」

南部
レヴァナント「ぐ……が……」

骸骨王「……」ジュゥゥ

骸骨王「そらっ」ヒンッ

レヴァナント「カッ」ザッ

レヴァナント「」ボジュゥッ

骸骨王「何回見ても、こいつらの体が弾けて溶けてゆく様はよく分からないな」

骸骨王「肉体そのものが瘴気でできてんのか?」

骸骨王(それにしても、こっちもだいぶ消耗したな)ボロ

骸骨王「……」シュゥゥ

骸骨王「応急処置だが、取りあえずは左腕は動かせるな」ギッパ ギュッパ

骸骨王「……」

骸骨王(あいつは撤退したか。まあ時間的にそんなもんか)

骸骨王(さて……冥王の方はどうなってんだ)ダダッ

骸骨王(俺でもレヴァナント一体にこんなだ。聖女とは言え、冥王相手は重たすぎんだろ)

魔術「コールドコフィン!」

魔術「スプレッドボム!」


骸骨王(まだ余裕がありそうだな……とは言え、いつ均衡が崩れるか分からない)

骸骨王(急ぐに越した事は……いや、あれはやばそうだな)スッススッス

骸骨王「命滅蝕気」

大剣「」ズォォォ

骸骨王「さあて……冥王には効くか?」バッ

冥王「消えろ」

勇者「!」

冥王「……っ」ピク

冥王「く」ガギィィン

骸骨王「うぉっ、おいおい」

骸骨王(完全に無防備だっただろ、受け止められんのかよ)ギギギ

勇者「スケルトン、キング様……」

魔術「ほ、本物……」

冥王「……そうか、貴様が」ギョロ

紋様のある大剣「」シュゥゥゥ

大剣「」ゥゥゥ

骸骨王「!」バッ

骸骨王(呪術を消しやがった……腐っても冥界の王か)

冥王「早々に消えてもらおうか」ギョンッ

骸骨王「うっお!」バッ

冥王「! 我が瘴気を避けた」

骸骨王(レヴァナントも同じ事をさんざしてきてくれたからな。何となく感知できる)ズザァァ

骸骨王(……あの馬鹿、とことん墓穴掘るの好きだな)

骸骨王(だが、相手は冥王。一撃でも瘴気を浴びたら分からないな)ダッ

冥王(これほどの相手を殺すには相当な瘴気を放たねばならんが、全方位に放とうものなら消耗が……)

冥王(厄介な相手に挟まれたな)チラッ

勇者「……」キィィン

骸骨王(余所見か……乗ってやるよ)ダンッ

冥王「ふんっ!」ブァッ

骸骨王「遅い!」サッ

骸骨王「オォ!!」シッ

冥王「!?」ザンッ

医療「おぉっ!」

魔術「ばっさりいった……!」

冥王(肉を切らせて、と思ったが……見誤ったか!)ジュォォォ

骸骨王(やはりな……大自然の魔力だ。それそのものが生命と同質であってもおかしくない)

骸骨王(冥界の王には、命そのものの魔力は猛毒だろう?)

勇者「今です!」ダッ

冥王(せめて……!)ギョンッ

骸骨王「しまっ」ズォォ

骸骨王「ガア゛ア゛ア゛ア゛!!」ジュアアアアア

冥王「く!」ブンッ

骸骨王「ガ、ァ」ゴシャァッ

鎧と人骨「」ガラララガララ

勇者「はあああ!!」ザンッ

冥王「オオオオオ!!」ジュァァァァ

冥王「ぐうううう!」ブンブン

医療「冥王があれほど苦しんで……」

魔術「! フレイムボルト!」

冥王「があああ!」ドガガガ

鎧と散らばった人骨「」

勇者(スケルトンキング様……)グッ

勇者「剣士を!」

医療「はい!」バッ

剣士「はっはっはっ!」ダラダラダラ

医療「これは……」

剣士「ふ、ぐ……う! 剣、を」

医療「こちらに……しかし、この腕では……」

剣士「どの道、こんなもの、治る訳がないさ」スッ

医療「左手で戦うつもり……まさか!」

剣士「んっ!」ザンッ

腕だった黒い何か「」ベシャ

剣士「焼くなり、なんなりして止血を」

医療「わ、分かりました」

勇者「やああ!」ヒンッ

冥王「ぐう!」ガギィン

冥王「舐めるなぁぁ!」ゴァッ

勇者「く!」ジュウウウ

勇者「貴方こそ、人間を甘く見るな!」カッ

冥王「ぬぅ!」ジュアァァ

魔術(ホーリーヴェールが冥王の瘴気に勝ったっ)

魔術(畳み掛けるなら、今しかない!)キッ

北部
デュラハン「……」オォォ

聖騎士達「」

聖騎士達「なんて、強さだ……」

聖騎士達「俺達二人だけか……笑えるくらいに歯が立たない。だが……」チラッ

勇者A「はぁ、はぁ……」

騎士「く……」

勇者B「……」

聖騎士達「あの人達は、一人も欠く事なく戦っているのか……」

勇者B「隙を作ってくれ」

勇者A「で?」

勇者B「俺が動きを止める。あとは任せるぞ」

騎士「どうするつもりだ?」

勇者B「俺に出来る事をするだけだ……行くぞ!」

聖騎士達「ここまでだな」

聖騎士達「ああ……回りこむぞ!」

デュラハン(また懲りもなく、か? これで先ほどまでの状況に戻るぞ)

デュラハン(それとも、ここで仕掛けてくるか?)ジリッ

デュラハン「はっ!」ヒンッ

聖騎士達「ぐぅ!」ガギィン

聖騎士達「ぐぁっ!!」ザンッ

勇者A「たああ!」バッ

騎士「はああ!」バッ

デュラハン(二方向からの振り下ろし? 捨て身できたか!)

勇者B「くそっ!」シッ

デュラハン「!?」ガギィン

デュラハン(この男が攻撃に出るのではなかったのか?!)

デュラハン(間に合わん! 止むを得ん!)グルッ

デュラハン「ぐぅ!」ギギィン

勇者A「背で受け止めた!?」ギギ

騎士「潔しっ」ギギ

聖騎士「!」

聖騎士(こちらに首が向けられ……今しか!)バッ

デュラハン「く! 邪魔だっ!」ヒンッ

聖騎士達「かっ!」ザシュゥッ

勇者B(想像とはだいぶ違う状況になったが……これなら!)バッ

勇者B「あああああ!」ザンッ

デュラハン「な!?」

勇者A「……あ」

騎士「お前……」

肘「」ギギギ

勇者B「今だ!」

デュラハン「ぐ!」グググ

デュラハン「散れ!」ブォンッ

勇者B「ぐう!」ズザザ

勇者B「俺に構うな! 斬れ!」

勇者A「無茶を!」ダッ

騎士「今すぐに!」バッ

デュラハン「くぅ!」ググ

デュラハン「おおおお!」グォッ

勇者B「あ……」ズルッ

デュラハン「ああああ!」ヒュッ

勇者B「かっ」ザンッ

勇者B「……」ドザァッ

デュラハン「!」

デュラハン「……本当に、甘く見ていたな」

勇者A「……」ズッ

騎士「……」シュンッ

デュラハン「ゴブッ」ブシュゥゥゥ

勇者A「! 頭部が血を吐いた……」

騎士「体から黒い靄が……」

デュラハン「」グラ

デュラハン「」ガシャアァァァ

勇者A「バラバラに……死んだ、のか?」

騎士「恐らくは……っ! 勇者B!」

勇者B「……」ドクドク

勇者A「……出血が酷すぎる」

騎士「この傷では……」

勇者A「いや、諦めるな! 聖女様の方へ向かうぞ」

騎士「しかし、衛生兵では……いや誰であってもこの傷では治す事など」

勇者B「い、いい……」ゴボッ

勇者A「喋るな!」

勇者B「これで……いい……これで、あいつ等に……」

勇者A「……」

騎士「行くぞ。二人で、急いで聖女様の元へ向かうんだ」

勇者B「……」

勇者B(あいつ等に……顔向けできる、だろうか……)スゥ

勇者「はあああ!」

剣士「たああ!」

魔術「フレイムショット!」ドドンッ

冥王「ふー! ふー!」ガガガ

勇者「く! そこぉ!」

冥王「ふー! ふーー!」ガギィン

剣士「つぅ!」ギィン

冥王(……力が)ジュォ

冥王(これほどなのか……レヴァナントが持っていた魔力、いや聞いた以上の力だ)ォォ

冥王(あの男が更なる力にした? いずれにせよこの状況は)オォォ

剣士「つああああ!」ヒュン

冥王「ぐうう!」ガギィィン

剣士(明らかに様子が変わった……スケルトンキングの一撃が、冥王の体を蝕んでいるのか?)

勇者(腕を振り回して攻撃を受け止めて……どういう状態かは分かりませんが)

勇者(回復される前に何としてでも……)

魔術(今の冥王ならあたし達で倒す事が出来るはず!)

医療「スケルトンキング、様?」

鎧と散らばった人骨「」

医療「やはりこれほどの状態では……」

医療「せめて、何か、残っては」ゴソゴソ

医療「! 回復の呪符? 高価なものですが、使わせていただきます」...

医療「!? 今のは……何か音が。一体何の」

医療「……」

魔術「コールドコフィン!」

冥王「がっ!」バキン

冥王「う、ぐ! がぁっ!」ピキピキ

剣士「すぐに割れない? なら!」バッ

勇者「ええ!」ダッ

冥王「がっ!」ザザンッ

冥王「アアアアア!」ブシュアァァ

剣士「斬ったところからっ」

勇者「黒い霧……!?」

魔術「た、倒した……?」

冥王「」シュゥゥ

冥王「……」ギョンッ

勇者「ぐ!」ズァァ

剣士「ぐううう!」ジュウウ

魔術「あああああ!」ジュアアァァ

医療「皆さん!」

剣士「医、療師? 何処行って……」

医療「何とか、何とか耐えて下さい!」

勇者「く……」ググ

魔術「勇者様ぁ!」ジュウウ

勇者「押し、返せない!」グググ

医療「……」スッ

勇者「!」シュゥゥ

剣士「なんだ……? 体が」

魔術「魔法……? けれどもこんなの誰が」

医療「スケルトンキング様のものです」ピッ

勇者「回復の呪符……」

剣士「ブルジョワだなぁ……あんな格好で」

魔術「でも解決になっていないわよ!」ジュウ

冥王「ふー! ふー!」ギョロッ

冥王(……再生が追いつかない)ドロ

冥王(この氷も砕くのにしばらくかかる、これで押し切られてくれ)ギョンッ

剣士「はあ……はぁ……」ジワ

魔術「剣士?」ジュウウ

剣士「腕の侵食が、また始まった」ダラダラダラ

勇者「け、剣士……」

剣士「そんな顔を、しないでよ。そりゃ、これ以上の侵食は、結構やばいけどさ」

医療「……」ピッ

回復の呪腑「」カッ

勇者「あ、あまり連続で使うのは」シュウウ

剣士「はあ……はあ……」

医療(これでは瘴気の侵食を完全に防げない……)

医療(既に大きく侵食された剣士さんの、特に右腕に近い部分は瘴気の抵抗力が落ちている)

医療(このままでは、彼の体深くまで侵食してしまう……)ゾォッ

医療(まだ、なのですか……?)

冥王(このまま……このまま……消えろ)ギリ

「見誤ったな」

冥王「!?」ギョッ

上半身骸骨「最低限の力で戦闘不能にしたんだろうが、ちょっと弱すぎたんじゃないか?」カタタ

冥王(馬鹿な、既にあそこまで再生しているだと……!?)

骸骨王(とは言え、関節の接合がおせぇ……一撃放ったらまた体が崩れちまいそうだ)ググ

勇者「スケルトンキング様!?」

剣士「い、生きているのか、あれで」

魔術「化け物……」

医療(英雄に対する仕打ちではありませんが……お願いします。この状況を打破して下さい)

骸骨王「そぉ、らっ!」ブンッ

冥王(その体勢から、大剣を投げるかっ)ズンッ

剣士「入ったっ!」

冥王「ぐぅぅぅぅ!」ジュゥゥゥ

骸骨王「ぐっ!」ガララ

骸骨王(またバラバラか。こりゃあ本当に長くはなさそうだな)バララ

勇者「!」

勇者(瘴気が弱まった! ここしか!)グッ

剣士「! 瘴気が……」スゥ

冥王「ぐうう!」ジュウウウ

医療「勇者様のホーリーヴェールが……今まで以上に冥王に効いているのでしょうか?」

魔術「スプレッドボム!」ボボ

冥王「オオオ!」ドドドン

冥王「アアアアアア!」バリィィン

剣士「流石に氷が割れたか……ライトニングブレイド!」バヂヂ

勇者「たああ!」ヒンッ

冥王「オォ!」ガギィン

勇者「なっ……」ヨロ

冥王「アアアァァァ!」スンッ

勇者「っ!」ザンッ

勇者「う、く……」ブシュァァ

剣士「勇者!?」

医療「勇者様!」スッ

回復の呪符「」パァッ

魔術「フレイムアロー!」

冥王「グウウウ!」ドスドシュドス

冥王「オオオオ!」ギョロギョロ

冥王「オオアアアア!」バッ

魔術「ひぃ!」ビクッ

勇者A「止まれええええ!」ガギィィ

冥王「グウウウ!」ズザァァ

勇者A「く……なんて力だ……」グググ

光の盾「」ジュォォォ

騎士「! 神器が瘴気に侵食されているのか!」

医療「勇者A様に騎士様! た、助かった……」

冥王「ウウウウウウ!」ギョンッ

勇者A「ぐぅ!?」ジュォォォ

剣士「離れろぉ!」ヒンッ

冥王「ガアアア!」ブシュァァ

冥王「フー! フー!」シュゥゥ

剣士(? 傷が再生していかない?)

冥王「フウゥゥ……」ギョッ

剣士「!?」ゾゾゾォ

冥王「シィッ!」ヒュンッ

剣士「か、あっ」ザシュゥ

勇者「たああ!」ギィィン

冥王「フー! フー!」ギギギ

医療「最後の一枚ですよ!」スッ

剣士「た、助かる!」シュゥゥ

剣士「冥王、防御を捨てきてる!」

勇者「分かっています!」

冥王「ヌゥ!?」ザンッ

騎士「だが、この人数だ。その判断は失敗だったな」

冥王「ウゥゥ」ギロッ

騎士「!?」ゾォ

騎士「くっ!」バッ

冥王「フウウウ!」ヒュッ

騎士「ぐう!」ズガガガ

騎士「こんなボロボロでなんて力だ……。デュラハンをも凌ぐな」

魔術「スネークアーム!」

黒い腕「」シュルル

黒い腕「」ヌタヌタタタ

冥王「ぐ……!」ギリギリ

剣士「! 振り解く力もないか!」

勇者A「この好機っ!」バッ

騎士「逃すか!」ダッ

剣士「たああああ!」

勇者A「おおおおお!」

騎士「はああっ!」

冥王「ぐおおおおおお!」ブシュァァッ

冥王「ぐうう! ぐうううう!」ヨロ

勇者「はっ!」ザッ

冥王「ごぁっ!」

勇者(突き刺した剣を通して……)カッ

冥王「ぐあああああああ!!」ジュアアァァァ

冥王「ア、ガ!」ボッ

冥王「アアアアアア!!」ボシュウゥゥゥ

勇者「!?」バッ

剣士「ぜ、全身から黒い霧が……」

冥王「アアァァァ」ボコボコ

騎士「体表が……まるで沸騰だな」

勇者A「体が崩壊していっている? 倒した、のか?」

冥王「オノ、レ……コノ、ヨウ、ナ……」ボコボコボコ

冥王「アッ」ボジュアアア

冥王「」ジュゥゥゥ

騎士「これは……」

剣士「冥王も死に方は同じなのか……」

魔術「! 空が!」

医療「瘴気が晴れていく……」

勇者A「本当に、勝ったのか」

騎士「……? 全く、少しぐらい世間話をさせてくれてもいいだろうに」

勇者「え? あの、それは一体……」

勇者A「あー……彼、もういないのか」

勇者「? あ、スケルトンキング様? い、一体何時この場から……」

衛生兵「聖女様ー! 勇者Aー! 騎士ー!」バタバタ

勇者A「無事だったかっ。良かった……」

騎士「とは言え、兵士は残り二人……」

兵士達「殆ど九死に一生を得た状態ですね」

兵士達「瘴気が晴れたら、敵が勝手に死んでいったんですよ」

衛生兵「もしも、冥王が倒されるのがもう少し遅れていたら……」ブル

勇者「……」キョロキョロ

勇者「生き残ったのは……数えるほどですね」

剣士「後方は……部隊というか何人か生きてる程度か」

勇者「覚悟していましたが辛いものですね」

騎士「そうだろうか? 私は聖女様方以外、我々も含めて生き残れないと思っておりましたが?」

剣士「正直、勇者しか生き残れないと思ってた」

医療「運が良ければ生き残れる程度に考えてました」

魔術「言いたい事は分かるけどネガティブ……」

魔法「終わったみたいね」スタスタ

女勇者「……そっか、勇者Bは」

勇者A「ああ、デュラハンの動きを止めてくれたよ」

女勇者「ずっと、悔やんでいるみたいだったからね……それならきっと、せめて安らかな眠りになったのかな」

騎士「確かに微笑んで逝ったよ」

僧侶「それにしても……この有様はなんというか……」

魔法「遺体をどうのとかはないわね……」

騎士「その場で荼毘に付す必要がないとはいえ、遺族にとってはたまったものではないな」

勇者A「これより撤収を行う。各自、陣営まで撤退」

勇者A「わざわざ言う必要もないだろうが……私は先に戻り後方支援を行っていた者達に、勝利を報告してくる」

騎士「ああ、こちらは負傷した者達と共に戻る」

剣士「さ、俺らも戻ってとりあえず休も……」

勇者「……」

医療「勇者様?」

勇者「剣士……その、すみません。私が至らぬ所為で腕を」

剣士「生きているだけで儲けもんでしょ。大体、やられたのは俺の問題だし」

勇者「それでも……この中で貴方だけ、いたっ」ベシ

剣士「……。一人も欠けなかった」

勇者「え……はい、そうですね」

剣士「対魔王においては、一人も欠けなかったグループはいなかったって話だ。それに比べれば腕一本、安いもんだ」

勇者「……」

剣士「一人で背負わない」ワシャワシャ

勇者「……髪が乱れます」

剣士「乱してんのさ」

魔術「うわー……」

勇者「……」

剣士「……じゃあさ、二人で背負うかい?」

魔医「!?」

勇者「……。えっ?」

勇者「あ、あの? け、剣士? それは……?」

剣士「あっはっはっ、君でもそんな顔するんだね」

勇者「???? あ、からかわれ……」

剣士「指輪を褒賞で買うんじゃ味気ないしなぁ。ま、お金貯まったら改めて言うよ」

勇者「!!!?」カァッ

医療「す、凄いものを見ました……」

魔術「相手が精神的に無防備の状態でプロポーズした……」

剣士「さ、とっとと戻ろう」

勇者「ま、剣士?! 今のは……!」ワタワタ

医療「……しかし彼も肝っ玉ですね」

魔術「……『聖女様』にプロポーズだものね」


降りかかる二度の災厄に、人類は見事打ち勝つ事に成功した。
多くの犠牲を払ったものの、獲得した平和は永く永く続いたという。

そして、その歴史の中には二度目の災厄に打ち勝った英雄の二人が結ばれるという、世界中が祝福をあげた出来事もあったという。


国王「遂に冥王が率いる死者の軍団が攻めてきた」   終

秘境の里
「なんだ、この靴……?」
「来客などいなかったはずだが……」
「そもそも来客などそうそうあるか。結界はどうなっている」
「な、何も異常がありません……」
「こ、これは一体……急いで師匠に報告しろ!」

師匠「ほう……? そうか」

弟子「え……? あ、あのいかが致しましょうか」

師匠「私が見てくる。お前達は普段通りにしていろ」

弟子「は、はぁ……分かりました、皆に伝えてきます」

師匠「さて……だとしたら……」カツカツ

書物庫
師匠「……」ガチャガチャ

師匠「……」ギィィィ

師匠「……」カツーンカツーン

地下書物庫
師匠「ふむ……」

師匠「ここも鍵がかかっているか」ガチャガチャ

師匠「……」ギィィ

骸骨王「お、意外と早かった」

女槍「軽いなーこの人」

骸骨王「ま、何はともあれお久しぶりです。息災なようで安心しましたよ『親父殿』」

女槍「お、お久しぶりです」ペコ

師匠「久しぶりだな……やはり来ておったか」

骸骨王「まあ、今回は行儀よく靴置いてきたもんなぁ」

師匠「いや、そろそろ来るだろうと思っていたぞ」

骸骨王「そりゃまたなんで?」

師匠「魔王に続き冥王を倒したのだからな。頃合だろう」

女槍「こんな場所でもちゃんと情報入ってくるんだ……」

骸骨王「まあ各国に間者がいるしな」

師匠「人聞きの悪い事を言うな。ただ単に情報収集の一貫だ」

師匠「それで、今日は何の用だ?」

女槍「……破門の上に絶縁されてるんだよね?」ヒソ

骸骨王「前回来た時、お前はまだ小さかったもんなー」

女槍「や、そこまで小さくなかったけども、大人の話からは遠ざけられてたじゃん」

骸骨王「そうだっけか? まあ、こっそり忍び込んで呆れられてもうどうでもいい、的な感じで落ち着いたんだよ」

師匠「魔王を倒した者の話を聞いた時はまさかと思ったが、骸骨姿でまた忍び込むのだからもう笑うしかない」

女槍「またなんだ」

骸骨王「破門理由だしな」

女槍「……絶縁もセットなんだよね?」

骸骨王「おう。俺にとっては唯一、心から親と呼べる存在だったのになぁ」

女槍「絶縁されたのに普通に呼んでたじゃん……」

師匠「そう言う割には何度もここに立ち入っては禁止された呪術を習得していったがな」

女槍「一発アウト?」

骸骨王「スリーアウトで退場」

女槍「三回もやったのか……さっすがー……」

女槍「でも禁止って例えば?」

骸骨王「命滅蝕気」

女槍「納得」

師匠「それで? いい加減質問に答えんか」

骸骨王「おっと。えーとまあ色々あって、ごたついたりもしたから」

骸骨王「しばらくほとぼりが冷めるまで身を隠したいのと呪術の調べものがある」

師匠「……冥王を倒した英雄の一人が何を言っているのだ」

女槍「というよりもそれが原因なんですよ……」

……北の国の湖
骸骨王「……」

女槍「あー、まーた寝てる」

女槍「ご飯の準備してくれてもいいのに」ブー

骸骨王「お前の飯だろうが」

女槍「あ、起きてた。体大丈夫?」

骸骨王「一ヶ月も経ったんだ。問題はないだろう」

骸骨王「だが、長くはないだろうな」

女槍「えー……長生きしてよ」

骸骨王「無茶言うな。この体を維持するだけでも前代未聞なんだよ」

骸骨王「だってのに、冥王戦じゃあ二度もバッラバラにされたからな」

骸骨王「これ以上大怪我しなくても10年生きられるかどうか、ってところじゃねえかなぁ」

女槍「あんま悲観そうじゃないね」

骸骨王「人間何時か死ぬんだ。魔王と冥王を倒して、余生があるとなったら払った額の倍、釣銭がきているようなもんだ」

女槍「超分かり辛っ。しかもその例えはあってんのかなー」

女槍「ま、どっちにしろ最期まで一緒にいるからね?」

骸骨王「とっとと嫁いで出て行けよ。安心して眠れねえじゃねえか」

女槍「じゃあおじさんに嫁ぐー♪」

骸骨王「娶る気はねえよ」

女槍「じゃあ婿に来いっ! ばっちこーい!」

骸骨王「嫁婿の問題じゃねえよ」

女勇者「」ピクピク

勇者「お、女勇者様、落ち着いて下さい!」

女槍「……なんであんたがいんの」

女勇者「私は『彼』に用があるだけだから、お構いなく。何なら席を外して貰っても構わないが?」

勇者(は、般若の顔だ……)

女槍「ていうかおじさん、分かってて動かなかったの?」

骸骨王「とっくに周囲は結界が結んである。逃げようとしたら清浄な光を浴びる羽目になるからな」

骸骨王「ここまで用意周到にしたって事は、何が何でも俺を逃がさないつもりなんだろ?」

勇者「貴方は相応の褒賞を受け取るべきだ。特に……魔王との戦いにおいては……」

骸骨王「この魔力を独り占めにしてんだ。いらねえよ」

女勇者「あと、聞きたい事と……貴方の身体を懸念していたの。それも、杞憂でなかったみたいだし……」

勇者「スケルトンキング様……先ほどの話は本当なのですか?」

骸骨王「おう。つっても予測でしかないが、まあ人並みの寿命は残っていないだろうな」

骸骨王「うん? 正確にはこの身体の耐久年数の問題か」

女勇者「回復する術はないの……?」

骸骨王「んー……骨に魔力を纏わせて更に実体化しているのに近い状態だからな」

骸骨王「寄代や触媒に近い骨がぼろぼろになって崩れたら、肉体そのものを失う事と同じだろうし」

骸骨王「スペアとなる肉体があっても、自分の精神やら魂やらを移せるかどうかって話だからなぁ」

女槍「むしろそれが出来たら、ゴーストみたいな存在で在り続けられる気がするけどねー」

骸骨王「だろうな」

骸骨王「ま、むざむざ死んでやるつもりはないから、色々と試してはみるからお前らが心配する事はねえよ」

骸骨王「で? 聞きたい事ってのは?」

勇者「冥王についてです」

骸骨王「聞く相手間違ってるだろ。何で俺なんだよ」

女槍「下手な学者よりよっぽど知ってるくせに……」

勇者「こちらの見解としては冥界の王を倒してしまいより恐ろしい事が起こるのでは、と考えています」

骸骨王「あー、それは心配いらないと思うぞ」

女勇者「そ、そうなの……? もう新しい冥王が生まれた、とか?」

骸骨王「そもそもあの冥王の立場の認識が間違ってんのさ」

骸骨王「冥界を牛耳っていただけで、統治する存在ではねえのさ」

骸骨王「つーかあれが統治する存在だとしたら、冥界なんてもんは現世をぶっ壊す為の世界って事になる」

骸骨王「世界が混沌に包まれるようになる構造って地獄過ぎるだろ」

勇者「では何故、冥王、と……?」

骸骨王「巨大な瘴気か夜でもなけりゃ日の光で傷を負う連中だぞ。そいつらがこんな世界に進出しようと考えたんだ」

骸骨王「お山の大将が王様気取りになってたんだろ」

女勇者「そ、そんな考察なのか……」

骸骨王「前例があるからな」

女槍「魔王もその枠なんだ」

骸骨王「あいつこそその枠だ。いや確かに強かったさ。瘴気がなけりゃ冥王よかな」

骸骨王「奴が本当に冥界を管理する立場だとしたら、とっくに死後と現世の隔たりに異常が出てるだろうからな」

女勇者「それにしても……一体どこからそんな情報を」

骸骨王「意外と昔の遺跡なんかは手付かずなところがあったりするんだよ」

女槍「冥王と戦う前にも行ってたよね」

骸骨王「なんか有効的な攻撃方法がねえかと思ったけども、まあ基本的に伝承ばかりだな」

勇者「冥王の伝承……」

骸骨王「そういうのを調べていくと多少は見えてくるものがあるんだよ」

骸骨王「質問は終わりか?」

勇者「あ、はい」

女勇者「後は貴方を連れて帰るだけね」

女槍「はーん? 焦ってるおばさんが既成事実作りたいーって?」

女勇者「はぁ? ガキが舐めた事を言うんじゃないよ?」

骸骨王「やれやれ……」ゴロリ

勇者「ね、眠られるのですか?」

骸骨王「そもそも棒もねえってのに付き合いきれるか」

骸骨王「あいつらが落ち着いたら起こしてくれ」

……
女槍「はー……はー……」

女勇者「ぜー……ぜー……」

勇者「あ、終わったみたいです」

骸骨王「ん……そうか」クァァ

骸骨王「おい、こっち来ーい」

女槍「な、なに?」ハァハァ

骸骨王「陣は描いてあるし転移して逃げる」シッ

女槍「え、だって結界g」シュンッ

女勇者「!?」

勇者「え? ええ?!」

女槍「みたいな感じで時間経過で結界が弱まったところを逃げ出しまして」

師匠「相変わらずだな」

骸骨王「相変わらずですよ?」

師匠「で、調べたい事は延命か?」

骸骨王「まーそんなとこ」

女槍「ええと……お師匠様はご存知ではないのですか?」

師匠「私は知らんよ。むしろ知識量だけで言えば、もはやこいつの方が上だ」

師匠「全く、こうなるのであれば破門せずに修行の名目で外に出せばよかった」

骸骨王「いやいや、里の頭首が人外とか示しがつかないでしょ」

師匠「魔王と冥王、その二つの災厄を討ち取った英雄の一人がここの出の者」

師匠「しかも、お前自身を知る者も多い。お陰でお前を面識がなくとも尊敬や憧れを抱いている者も少なくない」

師匠「何より、あやつらはお前を可愛がっていたからな。むしろ祝われるほどだろうに」

女槍「それでも破門されたのか……」

骸骨王「一回目は体罰の上厳重注意、二回目ぶち切れる中、兄弟子が必死に止める。三回目、止めたけども振り切ってポイされた」

女槍「さっすがー……」

骸骨王「まあぶっちゃけ、そうしてゾンビ化して呪い装備があって、魔王が消耗したところで参戦して何とか勝った」

骸骨王「てのを考えたら、そうあるべきだったんだろうな」

女槍「普通に勝てたんじゃない?」

骸骨王「無理だな。あのまま里にいてここから魔王討伐を行う、と重い腰を持ち上げる頃には」

骸骨王「神器持った連中は全滅。他に魔王を消耗させられる奴もなく、ほぼフルコンディションの奴と対峙」

骸骨王「まあ、消し炭にされるだろうな」

師匠「まあよい。好きなだけ居るといい」

骸骨王「お、マジで? 前は用が済んだらとっとと去れだったのに」

骸骨王「うひょーうあーりがとーう」

女槍「おじさん、ハイテンションめっちゃ気持ち悪……」

骸骨王「そりゃあ絶縁されたとは言え、大好きな父親がツンデレしてくれたんだ。喜ぶなってのも無理だろ」

女槍「……おじさんが人を心から尊敬しているの、初めて見たなぁ」

骸骨王「唯一無二って言っただろう」

師匠「お前のその純粋さ……倫理や道徳にもあってくれれば良かったのだがなぁ……」


冥王討伐より後、スケルトンキングの消息について詳細は不明とされ続けた。
だがしかし半世紀ほどの間、その存在について半年と報告がなかった時はなかったという。

二年も引っ張ってグダグダエタらせないエンドですまんね
って事で特にオチもないけど後日談というかおまけで容赦してほしい

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