なあ俺の作る話って、そんなにつまんねえのかよ (48)


 一応確認してみよう。俺の話は人気がねえ。これは確かだと思われる。
 だってドス黒歓声は聞こえてこねえし狂気のサポーター軍団もいねえし猛烈嫌がらせ電話も襲ってこねえ。

 もちろん最後のがいっちゃんに重要だ。
 これがあるだけで携帯がただの目覚ましにならずに済むんだぜ?


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 んでも、俺の携帯は目覚まし顔で俺の枕とお隣さんだ。
 あいつらデキてるに違いねえ。だから俺の覇道を邪魔してやがるんだ。

 っつーわけで携帯くんを隅のゴミ箱にシュートして、枕ちゃんを寝取って考える。
 俺の話は人気がないっぽい。
 そこから順当に考えて、俺の話はつまらない。あるいは周りの見る目がなってない。


 考えても意味ねえことがある。
 どうやらン十億年後、地球は太陽に飲まれるらしいどうしよう、とか。
 誰が知るかそんなこと。

 俺の考えていることはそれと割と似てはいる。
 俺の話が人気ないのはつまらないせいか周りの目が腐ってやがるのか。


 少し考えりゃすぐわかる。
 絶対わかりゃしないって。

 だってそうだろ、人気がねえんだから人がいねえ。
 人がいねえなら誰に聞く。
 いたところでなんて聞く。
 俺の話とあんたの目、どちらがより腐れてますか、どーですかァッ?
 誰が知るかそんなこと。


 賢き阿呆の俺はさて、考えても仕方ないことを放り投げて自らも放る準備に入った。
 話を組み立てるためにダイブする。
 新たな物語探しに旅立つと、つまりはそういうことだあな。


 それは話を作るものなら割と誰でもやっている。
 海に潜って材料を集めて組み立てて完成品をでっち上げる、言ってみりゃそれだけなんだが。

 しかしこの海ってのが問題で、個人個人で広さも深さも違ってる、らしい。
 広く深い海の持ち主ほど面白い話を作れるというのが通説だ。
 んで、俺の話がつまんねえならこれが狭い可能性があるわけだ。
 だが賢き阿呆は分かるだろうがこれも考えても仕方ねえんだな。
 だってそうだろ、他人の海には潜れない。比べる術はどこにもない。


 それでも海を広げる努力は一応それなりにはしてる。
 ちみちみちみちみ水をそそいで少しは大きくなったと思う。
 ただまあ海だ、もともと把握がむずかしいほどにはでけえ。
 多少注いでみたところで変わらないのは考えなくたってわかるわけで、つまりは何となくで喜んでみたりしてるだけなんだがな。

 いいんだよ気のせいでも。何にもねえのに喜べるなんてお得じゃねえか節約ババアもびっくりだ。


 そんなことをほわんほわんと考えながら波間をたゆたっていたところ、頭の中にきんと声が響いた。
「さっさと潜りやがれカス」
 へいよ、俺は答えて水をかき分ける。
 声の主は……なんだろな。ナビゲーターとか呼びゃいいのか。
 海に潜る奴には聞こえるらしい。

「もうちょっと右方向。いや左。右。カス」
 こんな具合で話づくりをサポートしてくれる頼りがいのあるクソだ。


 正体は不明。海の精だとも各人の脳が作りだした架空の人格だとも言われている。
 まあ海も個人の付属物だからして、分ける意味ねえだろってのが正直なところだが。
 とにかくこのナビゲーター、性質もそれぞれに違うらしい。

 可愛らしい女子の声の奴もいればナイスガイの声もあるとか。
 俺のはなんだかよくわからん。
 インコのしゃべりが一番近い気はしてる。


 そうこうしているうちに海の底が次第に近づいてきていた。
 ヘイナビインコ、こっからどうするよ。
「材料探せ」
 そりゃ分ってるよ、どこにあるかどれ使うか聞いてんだ。
「あー……」
 あ?
「とりあえず探せ。そっからだカス」
 死ね。


 仕方なく俺は泡の一つを捕まえる。
 それから海藻、巻貝の殻。
 揃ったところで一つにまとめ、そっと胸の高さで手を離す。

「じゃあナビ始めるぞ。まずは――」
 指示に従い要素に分解、並べ直して組み直す。
 構成を整え表現を合わせ不純物を除去して精製。


「完成だカス」
 俺はそれをじっと見下ろす。
 綿密な観察の後、素直に疑問を口にした。
 なあこの話って一体誰にウケるんだ?
「さあそこまでは」


 なんといやいいのかそれは、反応に困る話だった。
 セキセイインコの生まれてから死ぬまで、と一言でいえばそんな感じだ。
 グロい肉塊が卵からこんにちはしてしなびた肉塊として野にさよならするまでの一連を克明に執拗に描いた超傑作、とナビは言う。

 俺はそれを背後にぶえいと投げ捨てた。
「あっ、このカス!」
 うるせえこのクソ鳥が! ここぞとばかりに自分の一族贔屓しやがって!
 そんなんだから俺は万年不人気ストゥリティッラなんだ!


 舌打ち一つ、俺は海底を歩き出す。
「どこ行くカス」
 うっせマジもんの大傑作を今から作りに行くんだよ。
 もちろんテメエにゃ頼らねえ。さっさと消えろヘボインコ。

 言い終わるまでにはナビの気配はなくなっていた。
 そんなに急ぐこたねえじゃねえかいないといないで寂しいな。
「マジ?」
 嘘だよバーカ消えろカス。


 とはいえナビなしで作れるほど、俺単体に力はない。
 とぼとぼ歩いていると目の前に、ごつごつとした岩場が広がった。
 岩場にゃ魚がよく住み着く。魚は話のよい材料になる。
 ただし俺一人では捕まらないのは言わずもがな。

 試しに追って、逆にウツボに追われて逃げていると、なんだか妙なものが見えた。
 大きなマストに大きな帆に、大きな船体ドクロのマーク。
 頭のウツボを引きはがしながらつぶやいた。
 ありゃあ海賊船……なのか?


 まあ知識としては知っている。あれは海賊船だ間違いなく。絵本かアニメで見たことはある。
 ただし作話の海の中でとなると話は別だ。こんなものがいるなんて俺は聞いたことがない。
 俺はウツボを放って海賊船に近づいた。そうっと刺激しないように。

 だってそうだろ? 海賊船てのは凶暴だって絵本の中のドコンジョ博士も言っていた。
 近づく者には見境なくかみついて、金銀出すまで離さないらしい。
 だから海賊船は金持ちだ。ただし金貨チョコは見破れなくて宝箱の半分は甘味だとか。


 無事に着いた甲板の上、別に何があるわけでもない、枯れたジジイがいるだけだ。
 今にも死にそうな声でそいつは言う。
「お前は何者だ……」
 うんにゃ。ただの通りすがり。
「そうか……何か食べ物があればくれないか。金貨チョコが尽きてしまって」
 金貨チョコの噂はマジだった。
 それはともかく俺は答える、別にいいけど代わりになに差し出す?
 半端なものはお断りだぜ、ウルトラ派手なシロモノじゃねえと絶対割に合わねえし。

「あまり大したものはないな」
 それじゃあグッバイ飢え死ねクソジジイ。
「面白い話の作り方ぐらいしか」


 俺は即座に素材を集めた。塩の結晶と流氷と、それから海底の真白い砂。
 ナビがいなけりゃ話はつくれねえんだが、食いもんぐらいならわけはねえ。
 そうしてできた笹団子をジジイはペロッと平らげた。
「助かったよありがとう」
 それから渡してきたものを見下ろし、俺は何だこりゃとつぶやいた。

「わしはかつてこの海賊船の船長だった。かつては七つか八つくらいの海をまたにかけ」
 省略省略。俺の質問に答えやがれ。
「それは面白い話の素だ」
 なるほど紫色の粉がペットボトルいっぱいに詰まってやがる。
 つまりこの粉を使えば面白い話ができんだな。


 俺は早速ふたを開けた。
 途端周りの空気が猛烈に回転して、視界いっぱいが紫に染まった。
「言い忘れておったが話の素はその容れ物だ」
 遠くから聞こえる声に俺は怒鳴り返した。は!? だったか、あ゛!? だったか。
 まあどっちでも変わらねえ。

「粉には特に意味はない。暇だったから詰め込んだ」
 そこでようやく悟った。俺はボトルに呑まれたらしい。身体がぐるぐる回って、暗い深みに落ちていく。
「あまり時間をかけすぎると帰ってこれなくなるからな」
 ジジイはこの手で必ず殺す。静かな決心とともに俺の意識は一時途絶えた。


 目を覚ますと俺は死にそうだった。
 というか半分くらいは死んでいた。
 体の水分が必要量の下限を割ってんだから当たり前と言えば当たり前。
 砂漠のど真ん中にて、俺はうららかな殺人日光に焦がされていた。


 どこだここ。俺は作話の海にいたはずなんだが。
 波打つ砂と乾いた熱風、海でないのは間違いない。
 裏ステージに叩き落とされたか。そんなもん聞いたことがねえ。

 死ぬ。死ぬ。這って進む。這って進む。砂が口に入る。不味い。
 その間に皮膚が焼ける。パリパリに乾く。視界がゆっくり白んでいく。


 そして死神がやってくる。
 そいつは少女の形をしてる。
 水瓶を抱えた白いワンピース。つばの広い帽子をかぶり、小麦色の顔には微笑みが。
 俺はそれをぼーっと見上げた。もう一ミリたりとも動けなかった。

 俺はこんなところで死ぬのか人気もでないまま終わるのか。
 まあそれが俺の分際かもな。諦めて俺は空笑いした。
 死神はそっと手を差し出した。水一杯のコップを持った右の手を。


 俺は呆けてそれを見つめた。
 少女は笑みを深くした。どうやら抱えていた水瓶、そこから汲んでくれたらしい。
 涙で視界がゆがみやがる。もう余計な水は身体になかったろうに。

 俺はうめきながら立ち上がり、少女に方によろよろ歩いて行って、右ストレートで吹き飛ばした。
 テメ水一杯とかケチんじゃねえ!


 水瓶を空にしてパラソルの下で一段落。
 少女は若干涙目で、自分はこの世界のヌシだといった。
 何でも砂漠化が深刻らしく、それを解決してほしいらしい。
 それは俺に得がない。ここから出るにはどうすれば?
「これを話にまとめれば、きっと人気になりますよ」
 ふむ。


 では砂漠化の原因を絞ってみよう。
 ペットボトルゴッドの言うことにゃ、焼き畑農業が主原因らしい。
 ほかにも人間の経済活動により環境問題周りで木が枯れる。
 森林管理もガタガタらしい。制度に穴があるせいで業者が無計画にばさばさ切る。
「さあどうしましょう」

 俺は少しだけ考えた。考える必要はなかったが、一応確認分だけ考えた。
 この世界の人間消せばいいと思う。
「そんな無理です!」
 じゃあ人間が少し賢くなるとか。
「それも無理です!」
 だよな俺もそう思う。今までの経験からよく分かる。


 なら仕方ないこうしよう。
「?」
 人里行って話をする。
「説得ですか?」
 アリバイ作りに一応な。
「アリバイ?」
 一応話をしようとはした。俺たち少しも悪くない。オーケー?
「い、イエー?」
 オゥイェー。


 時は過ぎ三日後くらい。
 俺たちは世界をじゅうり……征服した。
 神の力があったので悲しいくらい楽だった。
「うーんうーん……」
 ゴッドもすごく喜んでいる。砂漠かも止まったしこれでみみっちい問題は解決だ。

「わたしはこんなの望んでなかったのにぃ……」
 うれし涙をこぼすゴッドに俺は優しくささやいた。
 邪神様今度はどこを冥府に沈めます?
「うわーん!」


 なにはともあれ俺は外に出られることにはなった。
 俺は満足して青々とした草原を見渡す。
 これで思い残すこともない。ん?
 あれ。まだ話ができてねえ。
 おい待てゴッド、約束が違う、面白い話よこせカス!
「知りません!」
 視界が白い闇に埋もれた。


 ……んで。
 俺は今、雲の上を歩いている。
 今度はどこだいい加減海に帰りてえんだがよ。

 今度は十歳くらいの少年が、行く手の方に立っている。
 近づいていくとこうほざく。
「ぼくの天界を救ってください」
 とりあえず右ストレートで吹っ飛ばした。


 それからそれから。
 俺は天界の空気汚染を解決し、極北の流氷縮小の問題を解決し、宇宙の資源問題を解決した。
 ちなみに方法は全部同じだ。
 解決に必要な手段ってやつは割と限られてるってことだ。

 しかし俺は立ち尽くす。
 マグマ地獄の一角に取り残され、あれこれ行き止まりじゃんと呆けちまう。
 もう行く場所がねえらしい。


 それからどれくらいたったろう。
 退屈すぎて積み上げた石が背丈を越したくらいには時間がたった。
 そんなときに声がした。
「カス」

 右ストレートが空を切る。
 チッ、クソ、連勝記録を止めやがって。


 それにしても懐かしい声だった。
 インコの声真似みたいなしゃべり方。
 おい、そこにいんのかナビインコ。
「いるよカス」

 なあ、俺帰りたいんだ。帰って面白い話作りたいんだ。
「無理だカス」
 ……だよな。うすうす感づいてはいたよ。俺には才能がないってこと。


 いろんなとこを巡ってわかったんだ。
 世の中にはいろんな材料があるんだが、俺には採取と調理の才がねえ。
 指くわえて上手い奴の完成品を見るしかねえ。

 だから俺はもういいよ。ここでお別れだなクソインコ。
 今までどうもな、ありがとう。


「誰が無理だといったカス」
 お前。
「忘れろ。いや無理か。更新しろ、お前ひとりじゃ無理なんだ」
 ん?
「俺とお前なら作れる。一人じゃ無理でも二人なら」
 お前……
「ふ……」
 お前って一人二人で数えられたのか。
「死ねカス」


 それから俺は海に戻り、せっせせっせと話を作った。
 話を作って世に出した。
 結果は全滅だったがな。

 ああ、でも最初に作ったあの話、セキセイインコの一生記録。
 なぜだかあれはむちゃくちゃウケた。
 理由はもちろんわからない。

 そういうわけでもう一度聞く。


 俺の作る話って、そんなにつまんねえのかなあ。

おわり

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