しょくぱんまん「アンパンマン、顔にあんこがついていますよ」 (51)

初SSです。
この話は高校一年のときに友人たちとリレー形式上で書いたものなので、
文体の変化や設定のブレなどお見苦しい点が多いと思います。
また、「ボーイズラブ・サスペンス」というふざけたジャンルのSSです。
ところどころ性的描写があります。ご注意ください。
不手際が多いと思いますが、よろしくお願い致します。


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「アンパンマン、顔にあんこがついていますよ」
 
 知らないうちに鳥につつかれてしまったのだろうか。
 慌て出すアンパンマンの姿に、しょくぱんまんは優しい笑みを浮かべる。

「ここです」
 
 そう言って、アンパンマンの肌にできた茶色いシミをそっと手で拭う。
 しょくぱんまんに触れられただけなのに、アンパンマンの頬はすぐさま真っ赤に染まった。

 しょくぱんまんは手に付着したあんこを、さも当たり前のように自らの口に運んだ。
 息を呑むアンパンマンをよそに、それをいやらしく舐めとる。
 アンパンマンは若干感情を昂ぶらせつつ目を伏せた。

「みんなといるときは、あまりこういうことしないで…」

これは期待

 2人きりのときならまだしも、周囲にはジャムおじさん、バタコさん、カレーパンマンがいる。
 幸いなことに、3人はしょくぱんまんの愚行には気づいていないようだったが、
 もし自分としょくぱんまんが恋人関係にあることがバレてしまったら、即刻にこの『子供たちに夢と希望を与えるヒーロー』という職を
 クビになってしまうだろう。
 そんなのは嫌だ。

 唐突だが、アンパンマンは3か月ほど前から『パトロール』と託けて飛行中に発見したいい男たちを強姦することにはまっていた。
 ただ、犯すだけでは相手があまりに可哀想なので、代価として自分の顔をちぎって渡すことにしている。
 そのため、パトロールを終えたアンパンマンを見たバタコさんは、彼の顔がしっかりと欠けていることを確認し、
「今日もしっかりパトロールをしたのね」
 と誤解してしまうのである。

 もちろん、アンパンマンが度々他の男と性行為を繰り返している、という事実は、しょくぱんまんには知られていない。
 本来はバリバリタチなのに、しょくぱんまんの前ではあえてネコを演じる。
 そうとは露知らず、言葉攻めを浴びせながら激しく突いてくるしょくぱんまんの下で、よがり、喘いでみせる。
 そういうことに、アンパンマンは悦びを感じた。

 そんな自分の性生活について思いを巡らせていると、ジャムおじさんののんびりとした呼びかけが聞こえてきた。

「日も暮れてきたし、そろそろピクニックは終わりにしよう」

「そうね」
 とバタコさんが同調する。
 一同は荷物をまとめ、アンパンマン号に乗り込んだ。

 いつもと何も変わらないはずだった。
 だがパン工場が近づくにつれ、煙たくなっていくのだ。

「どうしたんですか?」
 
 アンパンマンが疑問を口にした途端、急ブレーキがかかった。

「アンアン!」

 チーズがせわしなく吠えている。

「様子を見てくるわ」

 バタコがはしごを上り、出入り口の扉を開けた先には―――。

「みんな、大変!火事よ!」

「なんだって!?」

 ジャムおじさんが動揺した声をあげる。
 アンパンマンとしょくぱんまんとカレーパンマンは急いで外に出た。

 目の前に広がった光景は、到底現実のものとは思えなかった。
 パン工場が、炎に包まれていたのだ。

「ひどい…誰がこんなことを…」

 呆然とするパンたちの横で、カレーパンマンは悲しげに呟いた。

「バイキンマンがやったに決まってるぜ…」

 そう言って、ぐっと奥歯を噛み締める。
 その表情は、普段ヘラヘラしている彼からは想像できないほど悔しそうだった。

 当然だ。
 あのパン工場は自分たちが生まれ、育った場所なのだ。

「ジャムおじさん、僕たちバイキンマン城に行ってきます」

「頼んだよ、ここは私たちでなんとかするから」

 そうして消火活動が始まり、アンパンマンたちは空へと飛び立った。

「来たな、おじゃま虫…」

 下品な笑みを浮かべ扉を開けたバイキンマンに、カレーパンマンはいきなり飛びかかった。

「お前がっ!お前がやったんだろう!!」

「な、何のことだ?」

「パン工場だよ!」

「俺様は何もしてないぞ」

 そう言った彼の表情からは、何の感情も伝わってこなかった。

「何とぼけてるんだ、俺たちが出かけてる間を見計らって、火をつけたんだろう?」

「カレーパンマン」
 激しい剣幕で詰め寄るカレーパンマンを呼び止め、しょくぱんまんは事情を一から説明した。

「…というわけなので、まだ貴方が犯人だという証拠はないんです。ところで、今日の昼は…」

「ずっとここにいたわ」

 中から出てきたのはドキンちゃんだった。

「あなたたちがピクニックしていたのなら知ってたわよ。なにせバイキンマン、モニタールームでいつもアンパンマンのこと見てるんだもの」

 彼女のその言葉に、アンパンマンはわずかに眉をしかめた。

「そうですか…となるとアリバイはある…。バイキンマン、あなたを疑ったのは間違いだったのかもしれませんね」

 しょくぱんまんは淡々とした口調のまま謝った。

「アンパンマン、カレーパンマン、町に戻って他の人の話を聞きましょう。私は森の近くを。アンパンマン、貴方は…」

「…僕はここに残ります。バイキンマンにもう少し話を聞きたくて」

「…わかりました。また後で合流しましょう」

 そうして、しょくぱんまんとカレーパンマンは飛んで行った。

「はあ…今日もしょくぱんまん様は素敵だったわ…」

 ぶつぶつと呟きながらドキンちゃんは部屋に戻って行った。

 彼女は自分としょくぱんまんの関係を知らないんだということに少し優越感を覚えた。
 だが。
 バイキンマンは違う。

「バイキンマン、モニタールームに連れて行ってもらえませんか」

「お…おう…」

 もう彼は気づいているのだろう。
 アンパンマンだけがここに残った理由を。

 簡単なことだった。
 バイキンマンは全て知っているのだろう。
 アンパンマンとしょくぱんまんの関係。
 そして『パトロール』についても。

「へー、ここがモニタールームかあ。凄い画面の数だなあ」

 案内された部屋には大量のモニターが設置されていた。
 アンパンマンはそれらをじっくりと眺めながら、わざとらしい驚嘆の声をあげる。

「ま、まあな。俺様にとってはこのくらい大したことないぜ」

「このモニターで僕のことを見ていたんですか?」

「そ、そうだ。こ、これで俺様のアリバイは証明されたはずだぞ?」

 バイキンマンは大きく胸を張った。

「俺様は犯人じゃないんだ。だ、だからさっさとここから出てい…」

「とぼけるのも大概にしろ」

 背後から聞こえた冷たい言葉は、一瞬誰のものか分からなかった。
 反射的に振り返ったバイキンマンの視界を捉えたのは、今まで見たことがないほど冷めた目をしたアンパンマンだった。

「お前、知ってんだろ、僕としょくぱんまんの関係も、パトロールのことも」

 『しょくぱんまん』『パトロール』という単語にバイキンマンの表情が強張る。

「わかりやすい奴だなあ」

 アンパンマンは蔑むような笑みを浮かべ、ゆっくりとバイキンマンに近づいていく。

「悪い子にはおしおきしなきゃだね」

 バイキンマンが反応するより先に、アンパンマンは得意のアンパンチをバイキンマンに見舞った。

「ぐふっ」

 バイキンマンはその勢いで床に倒れこむ。

 アンパンマンは慣れた手つきで自分のマントとベルトを外し、必死に抵抗するバイキンマンの手足をそれらで縛った。

「お、おい!何するつもりだよ!?」

「『何』って、本当は分かってるだろ?モニターでいつも僕のこと見ていたんだもんな?」

 アンパンマンはくくっと喉で笑い、バイキンマンの耳元に口を近づけた。

「セックスだよ」

 甘い声でそう囁くと、バイキンマンの耳を軽く噛む。

「…っ」

 びくっと身を震わせるバイキンマンにアンパンマンは口元を緩めた。

「これだけで感じちゃうなんて凄いね」

「か、感じてなんかねえよ!」

「本当かな?」

 身動きの取れないバイキンマンのむき出しの肌に、いやらしく舌を這わせた。

「…んっ!」

「ほら、やっぱり…」

 アンパンマンは涙目で喘ぐバイキンマンを嬲り続けた。

「やめ…やめろ…!」

「何、いつも見ていたんだろう。この後どうしたいのか、言ってごらんよ」

 そう言ってアンパンマンはバイキンマンの目を覗き込んだ。

「は…離せ…」

「僕を焦らして何が楽しいんだい?…まあ、嫌いじゃない」

 アンパンマンは強引にバイキンマンの唇を塞いだ。
 突然舌をねじ込まれたバイキンマンの身体はびくんと跳ねる。

 バイキンマンの抵抗も空しく、アンパンマンは自身のそれをバイキンマンの腰にあてがった。

「俺様は…俺様…だけは…」

「何だ?」

「お前にとって…特別だと思っていたのに…バカみたいだ…」

 そう呟いたバイキンマンの目からは、涙がこぼれていた。

「…!」

 アンパンマンはふと冷静になっていた。

 そのままアンパンマンはバイキンマンの手足に巻きつけられたベルトを外した。

「…僕の顔を濡らされては困ります。…勘違いしないでください、今まで君に手を出さなかったのは君にそれほどの価値を感じなかった、それだけです」

 ベルトを解き終わると、バイキンマンはぐったりと倒れこんだ。

「誰にも…言わないでくださいよ」

 冷たく言い放って、アンパンマンはバイキンマン城を後にした。

「ホラ~♪ホラホラ~」

 軽快な足取りでホラーマンは森の中を歩いていた。

 とは言えど、ホラーマンは内心、あまり楽しくはなかった。
 というのも、今日、ドキンちゃんに作ってあげた自身をかたどったぬいぐるみを、その場で「気持ち悪い!」と引き裂かれてしまったのだ。

 どうしたらドキンちゃんに振り向いてもらえるんだろう。

 しょくぱんまんの人形は大事にするのに…。

 …しょくぱんまん?

 ドキンちゃんは事あるごとにしょくぱんまん様、しょくぱんまん様、と言い寄っているが、彼は全く受け入れようとしない。

 …そうだ。
 しょくぱんまんさえ、いなければ。

 彼を、自分のものにしてしまえば。

「ホラーマン!」

 頭上から呼びかけられたので仰ぎ見ると、しょくぱんまんが飛んでいた。

「こんにちは、今日も楽しそうですね」

 そんなわけない。
 お前のせいで…。

 ホラーマンはしょくぱんまんに殴りかかりそうになったが、堪えた。

「ウォッホン。貴方がここあたりに来るなんて珍しいですね~。どうしたんですか?」

「実はパン工場が放火されまして…」

 放火…だと…?
 ハッハッハ、アンパンマンども、ざまーみやがれ。
 …ん、待てよ。
 この混乱に紛れてしょくぱんまんを…!

「…というわけなのですが、何か知りませんか?」

 ホラーマンはもうしょくぱんまんの話など聞いていなかった。

「ホラ~~~!」

 ホラーマンは自慢の硬い腕をしょくぱんまんに向かって振り下ろした。

 目を開けると、しょくぱんまんは暗闇の中にいた。

「ここは一体…」

 呟いてから気づく。
 どうやら彼は目隠しをされているようだった。

「ホラーマン…!」

 憎しみを露わにすると、遠くからホラホラという笑い声が聞こえてきた。

「早くこれを外せ…!」

「外せませんねえ」

「何故だ!」

「しょくぱんまん…」

 ホラーマンの声が徐々に離れていく。

「私がドキンちゃんのことを好きなのは知っていますね?」

 しょくぱんまんは黙ってうなずく。

「そしてドキンちゃんは貴方のことが好き…なのに貴方は彼女の愛を受け入れようとしない…」

 ホラーマンはしょくぱんまんの耳をそっとなぞった。

「…!」

 視界が全て闇に包まれている中、突然伸びてきた手に驚き、しょくぱんまんは息を呑む。

「だから…なんだっていうんですか」

 またホラホラという笑い声が聞こえる。

 声の響きからするとここは…何かのホールのような…そして何か…カビ臭い…?

 ホラーマンの腕が後頭部に回ってきて、目隠しが解かれた。
 そこには…。

「カビカビカビカビ…」

 無数のカビルンルンがいた。

「ここはバイキンマン城の実験室ですよ。カビに汚れた貴方を見たら、ドキンちゃんも貴方のことを嫌いになるだろうと思いましてね」

 ホラーマンは楽しそうに眼を細め、一匹のカビルンルンをしょくぱんまんの首筋にあてがった。

「…っ」

 カビルンルンはそのまましょくぱんまんの服の中に入り込む。

「ホーラホラホラ、一匹だけじゃ足りないようですねえ」

 残りのカビルンルンも、一斉にしょくぱんまんに飛びかかった。

「カビカビカビカビ…」

「ん…やめて…くだ…さい…!」

 悲痛の叫びも空しく、カビルンルンは彼の服の中で怪しげに動き続ける。

「ホラホラホラ…いい気味ですね。これでドキンちゃんは私に…」

 その時だった。

 ウィーン

 ドアを開けて入ってきたのは、ドキンちゃんの妹のコキンちゃんだった。
 その眼は今にも泣きだしそうだ。

「な!何…ですか…ホラ?」

 ホラーマンは大急ぎでしょくぱんまんの姿をカビルンルンで埋もれさせた。

「バイキンマンが遊んでくれない…」

「い、今はそれどころじゃないんで…」

 そう言い切る直前にコキンちゃんの目からは噴水のように涙が飛び出した。

「うわぁぁぁぁぁぁん」

「こ、これはまずい!」

 コキンちゃんの涙は一度浴びると、自分たちの涙も止まらなくなってしまうのだ。

 逃げ惑うホラーマンにも、彼女の涙はかかっていた。

「うっ…うわぁぁぁぁぁん」

 そうしてホラーマンとカビルンルンたちは一斉に泣き出した。

「よし!」

 その手が緩んだタイミングで、しょくぱんまんは実験室を脱け出すことができた。

「ホラーマンには…気をつけなくてはいけませんね…」

 バイキンマン城を後にしたしょくぱんまんは、町へと飛んで行った。

「ん…あっ…!」

「アンパンマン、こんな汚い私に犯されて感じるなんて…恥ずかしいですね」

 森の茂みで、アンパンマンとしょくぱんまんは身体を重ねていた。

 いつもならパン工場の倉庫でしているのだが、今はもう焼失していまっている。

「こんな状況だというのに私を誘ってくるなんだなんて、どうかしていますよ」

 そう言いながら、しょくぱんまんも興奮で呼吸が乱れていた。
 顔はカビルンルンに汚されたままだ。

「アンパンマンたちはまだ帰ってきていないのかい…?頼みごとがあるのだけれど…」

 遠くでジャムおじさんがアンパンマンを探す声がする。
 
 こんな緊張事態のときに、僕たちは他の皆には内緒でイケナイことをしている。
 止めろ止めろと警告のサイレンが頭の中で鳴り響く。
 しかし、しょくぱんまんから受ける快楽と、何とも言えない背徳感がそれを拒む。

 静かな森の中、2人のヒーローは共に果てた。

「結局、犯人は分かりませんでした」

 焼け野原になってしまった倉庫の前で、アンパンマンたちは報告をした。

「そうかい…残念だね…、ありがとう、アンパンマンたち」

 そう言うとジャムおじさんはがっくりと肩を落とした。

「ジャムおじさん…」

 自分たちの生みの親であるジャムおじさんの悲しむ姿に、パンたちも申し訳ない気持ちになる。

「しばらくはアンパンマン号で寝泊まりするしかなさそうね。パトロールも普段より念入りにしないと」

 バタコさんの『パトロール』という言葉に、アンパンマンは思わず反応して肩がぶるっと震えた。

 バイキンマンとの事があってから、アンパンマンは少しふわふわしていた。
 何故かはよく分からない。
 ただ、今までのように町を歩き、普段なら強姦したくなるようないい男を見ても、その気になれないのだった。

 だから、しょくぱんまんを誘っていつものように身体を重ね合ったのに…。
 それでも心に穴がぽっかり空いたような感覚は消えなかった。

「どうしたんですか、アンパンマン」

 しょくぱんまんに顔を覗き込まれたが、悟られまいとしてアンパンマンは首を横に振った。

「何でもないです」

「そう言えば」

 何かを思い出したかのようにカレーパンマンが突然口を開いた。

「今日、朝から丼ぶり3兄弟が町に来ていたらしいんだ。明日は3人に会ってくるよ」

「そうかい。わかったよ」

 そうしてジャムおじさん。バタコ、チーズとパンたちはアンパンマン号の中で一夜を明かすことになった。

 真夜中に、しょくぱんまんは目が覚めた。
 
 遠くからカレーパンマンの怒鳴る声が聞こえる。
 

 こんな遅い時間に一体何をしているのだろう。
 
 しばらく耳を澄ませていたが、怒鳴り声は収まるどころか段々と激しさを増していく。
 心配になったしょくぱんまんは、静かにアンパンマン号を抜け出した。

 火は消えたものの、パン工場の周りにはまだ焦げ臭さが残っていた。

 春も終わりが近づき、桜もとうに散ったというのに、しょくぱんまんは肌寒さに身震いした。
 満点の星空を仰ぐ度、彼は自分のちっぽけさをしみじみと感じていた。

 今夜は一段と空が遠くて―――。

 しょくぱんまんは大きく息を吸い込み、深いため息をついた。

 そういえば。
 アンパンマン号を出るまでは聞こえていたカレーパンマンの声が全くしないことに気がついた。

 辺りは静寂に包まれている。

「…!」

 しょくぱんまんは嫌な予感がして林へと飛んだ。
 
 声はおろか、足音さえしない。

 ―――おかしい。
 彼は地上に降り立ち、林の中を駆け回った。

 いないわけがない。
 その思いで探し回って見つけたときは、もう既に遅かったのだ。

 
 そこにあったのはカレーパンマンの死体だった。

「…!」

 それはあまりにも無残な最期だった。

 口からはカレーがこぼれ出し、傷だらけの身体は何もまとっておらず、四肢はあらぬ方向へ捻じ曲げられていた。

「ひ…ひどい…誰がこんなことを…」

 そう呟いた瞬間、木陰で何かが動いた。

「動かないでください!」

 林の中に緊張は走る。

 決死の覚悟で覗き込んだ先には、誰の姿もなかった。

 ただそこには―――
 1本の長ネギが落ちていたのだ。

 何故長ネギがこんなところに…。

 しょくぱんまんは頭を抱えた。
 脳裏には1人の男の姿が浮かぶ。

 まさかナガネギおじさんが、カレーパンマンを…。
 いや、そんなはずは…。

 あの人がパン殺しなどするわけがない。
 しかし、カレーパンマンの隣に転がる長ネギ、これも事実である。

 ネギを落としたのがあの人ではありませんように、と願いながら、しょくぱんまんはナガネギおじさんの元へ急いだ。
 

げっこうガチなやつだった。アンパンマンのほうmp

 もう空は藍から橙に変わり始めていた。

 おかしい。
 何かがおかしい。

 この何日か、急に色々なことが起こり始めている。
 まるで今まで築いてきた日常が、誰かによって破壊されているような…。

「しょくぱんまん!」

 下から呼び止められ、地に降り立つと、そこには焼きそばパンマンがいた。

「ああ、焼きそばパンマンじゃ…ないですか」

「こんな朝早くに…珍しいな…」

 2人の間に微妙な空気が流れる。

 もう終わったことにしたはずなのに…。

「では、私は用事があるので…」

 そう言ってその場を立ち去ろうとしたときだった。

「…!」

 焼きそばパンマンはしょくぱんまんを後ろから抱きしめていた。

「な…何のつもりですか」

 振りほどこうとするのに、強い力で引き寄せられる。

「忘れろだなんて…おかしいだろ…!」

 その言葉に、しょくぱんまんの脳裏にはある場面が蘇ってきた。

 焼きそばパンマンを抱いた、あの夜。
 お互いの思いに身を任せ、身体を重ね合った、あの夜。

「私だって…忘れられないですよ…」

 一回だけだと決めたんだ。

 そうでもしないと…彼を壊してしまいそうだから。
 愛して、愛しすぎるが故に。

「やっぱり、俺じゃ…だめ…なのか…?」

 消え入るような、小さい声だった。

「貴方だから…だめなんですよ」

 もう腕を振りほどこうとは思わなかった。

 しょくぱんまんは顔だけを後ろに向け、そのまま唇を重ねた。

不穏な展開にだなぁ。

 それから、どちらからと言うまでもなく舌を絡めあった。

 淫らな水音と時折こぼれ出る吐息が、冷ややかな空気をまとう静かな朝に反響する。

 かすかに震えている焼きそばパンマンの身体を、しょくぱんまんはきつく抱きしめ、その肩に顔をうずめた。

 焼きそばパンマンの身体が緊張からか強張っていくのが分かった。

 かわいい。
 愛しい。
 犯したい。

 そう思ったときには、もう、しょくぱんまんのKOKANはエレクトしていた。

 あの夜を繰り返したらいけないと思っていた。
 あの夜をもう1度と切に願い続けていた。

 ずっと伝えたかった。
 愛している、と。

 しかし、そんな言葉は自分のようなパンが口にできるようなものではないと百も承知だった。

「でも」

 焼きそばパンマンの物欲しそうな表情の中に、不安と戸惑いが見て取れた。

 彼の望む言葉なんてとうに分かっていたくせに。
 自分が言っていいようなことではないと逃げ続けていたなんて。

「馬鹿みたいじゃ、ないですか」

 掠れた声で呟く。

「どうかしたのか…?」

 隠しきれていない不安げな声色も愛しいと感じた。

「愛しています」

 息を吐き出すように告げる。

「え?今なんて…」

「愛しています、焼きそばパンマン」

 焼きそばパンマンは、状況を飲みこめていないような表情をした。

「あなたを愛していると、言ったのですよ」

 あ…あ…と声にならない声を発した彼の頬は、涙で濡れていた。

「は…じめて…」

 震えている。

「言ってくれ…た…はじめて…おまえ…」

 嬉しいと呟く彼を見て、一度収まりかけていたKOKANが再エレクトした。

「もう1度、あの夜のことを」

 もう怖くなどなかった。

「違うだろ」

 焼きそばパンマンは涙を拭きながら言う。

「今度こそ、俺を愛してくれた。あのときとは違うんだ」

「そうですね…」

 しょくぱんまんは微笑む。
 そして、心の中でそっと付け足す。
 あのときも愛していましたよ、と。


「ん…。…うわ!もうこんな時間だ…!」

 何ということだ。
 太陽はもうとっくに上がっていた。

 はっとして自分の隣を探る。
 温かい感触。
 彼もまた、同じように寝ていた。

「焼きそばパンマン…」

 しょくぱんまんは彼の頬にそっと口づけをする。
 すると、焼きそばパンマンの目は薄く開いた。

「私はナガネギおじさんの所へ行かなくてはなりません」

「ナガネギおじさん?」
 
 焼きそばパンマンの表情が少し曇った。

「カレーパンマンが…殺されたんです。ひどいやり方で」

「!ナガネギおじさんと何の関係があるんだ?」

「長ネギが落ちていたんです…現場に」

 焼きそばパンマンは起き上がった。

「そうだったのか…。わかった。だが、あいつには十分気をつけてくれよ。どうやら妙な趣味を持っているようだからな」

「趣味…?」

「すまないが、俺の口からは言えない…」

 焼きそばパンマンは赤面し、うつむいた。

 焼きそばパンマンが言うのを躊躇うほどの趣味とは一体何なのだろうか。
 そそられる好奇心を抑え、しょくぱんまんはマントを羽織った。

「本当に…行ってしまうのか…?」

「はい、心配しないでください。ちゃんと戻ってきますから」

 そう言い残し、しょくぱんまんは雲一つない大空に飛び立っていった。

 「彼女」は鏡の前に立っていた。

 鏡に映る自分の姿を一瞥した「彼女」は、ゆっくりと自分の顔に巻かれた包帯を解き始めた。

 一日一回、こうしないと自分が誰なのか分からなくなってしまいそうで。

 包帯を取った「彼女」の顔は美しかった。

 だが、それは誰にも見せられない。

 「彼女」は男だからだ。

 姉が欲しいと願った妹のために。
 「彼女」は女を演じ続けた。

 顔立ちも女性的だったし、体格も華奢だった。
 そして何よりも自分が苦とは感じなかったのだ。

 「彼女」は身を乗り出し、鏡の中の自分に唇を重ねた。

 自分が本当に女だったら良かったと、どれほど願っただろう。
 どれほど悩んだだろう。

 でも、そんなことさえどうでもいいと思うほど「彼女」は恋焦がれていた。

 「彼女」の瞳に映るあの男に―――。

 ナガネギおじさんの姿は思いのほかすぐに見つかった。

「ナガネギおじさん!」
 
 上空から呼びかけると、彼の身体は大きく跳ね上がる。

 しょくぱんまんはゆっくりとナガネギおじさんの脇に着地すると、そのまま表情一つ変えずに彼に尋問した。

「率直に訊きます。カレーパンマンを殺したのは貴方ですか?」

 しょくぱんまんの問いかけに、ナガネギおじさんは大きく目を見開く。

「カレーパンマンが殺されたんか!?オラはそんなこと知らねえべ」

「ですが」

 しょくぱんまんは眼を細めた。

「殺害現場には長ネギが落ちていましたよ?」

「そ、それは…」

「殺害推定時刻は今日の午前1時。ナガネギおじさん、その時間は一体何をしていましたか?」

 しょくぱんまんは真実を見つけ出すために、ただ淡々とナガネギおじさんに疑問の言葉を投げかける。

「しょくぱんまん…世の中には知らん方がいいこともあるんだべ」

「知らない方はいいって…?」

 しょくぱんまんはナガネギおじさんに詰め寄った。

「それでも…知りたいっぺか」

「知らなくていい理由がありません。何故教えてくれないんですか!」

 ナガネギおじさんは少し表情を曇らせると、

「じゃあ…来るっぺ」

 そう言い、自身の家へとしょくぱんまんを案内した。

 
 背後からアンパンマン号が近づいているのにも気づかずに―――。

しえん

 ナガネギおじさんの家の中は、ネギの香りで充満していた。

 しょくぱんまんは思わず顔をしかめた。
 
 香りだけではない。
 部屋に広がっていた光景は、異常としか形容できないものだった。

「な、何ですか、これは…」

 そこにあったのは―――大量の仮装道具だった。

「貴方の趣味が変装だということは知っていましたが、まさかここまでとは…」

 衣装は、お馴染みのナガネギマンのものから、メイド服、警察官の制服、ナース服のようなマニアックなものまで、多種多様だった。

「これを見せるためだけにわざわざ…?」

「いや、違うんだ」

 ナガネギおじさんの口調はいつの間にか標準語に戻っていた。

「もう何聞いても驚いたりしねえな」

「何なんですか、早く教えてください」

「この一連の事件、全て関わっているのは―――」


 ガシャーン


 言葉を遮るように、ナガネギおじさんの家にアンパンマン号が突っ込んできた。

 彼の家を破壊しながら、アンパンマン号はやがで静止した。

「しょくぱんまん!」

 中から小走りで出てきたのは、ジャムおじさんだった。

「ジャムおじさん…?何故ここに…」

 全く予期しなかった人物の登場に、しょくぱんまんは呆気にとられる。

「そんなことはどうでもいい!大変なんだ!とりあえず早くアンパンマン号に!」

「は…はあ」

 ジャムおじさんに急かされ、しょくぱんまんはアンパンマン号に駆け寄った。
 
 そのとき、ふと視界の端にナガネギおじさんが映りこむ。

「?」

 違和感を覚えた。
 
 先ほど、アンパンマン号の衝撃で彼が尻もちをついていたのは知っていた。
 しかし、あれから数分経ったにも関わらず、彼の身体は座り込んだまま微動だにしていなかったのだ。

 どうしたのだろう、と思うより先に、しょくぱんまんははナガネギおじさんの顔色が真っ青なのに気付いた。
 身体も小刻みに震えている。

「ナガネギおじさん…?」

 しょくぱんまんの呼びかけにも応えず、ナガネギおじさんはがたがたと肩を震わせている。

 その姿を見た刹那、しょくぱんまんの脳内で全てが繋がった。

 鼓動が加速する。
 もし、もしもこの仮説が正しいとしたら…。




「どうしたんだい?しょくぱんまん、早く乗…」

「ジャムおじさん」

 ジャムおじさんの言葉を遮って、しょくぱんまんはゆっくりとジャムおじさんの方に身体を向けた。

 全て、自分の思い込みであってほしい…。
 そう願いながら顔を上げて正面からじっとジャムおじさんを見つめる。

「もう一度訊きます。どうしてナガネギおじさんのところに私がいると分かったんですか」

「探していて、たまたま寄っただけだよ」

 ジャムおじさんはいつもと同じ優しい笑顔で答える。

「貴方なら、どうしてこんなにナガネギおじさんが怯えているのか、わかっているんじゃないですか、ジャムおじさん」

「…何が言いたいんだい?」

 まるで何を言っているのか分からない、というようにジャムおじさんはごそごそと帽子を直す。

 そのときだった。

 ジャムおじさんの袖に付いていたものを、しょくぱんまんは見逃さなかった。
 ―――青のりだった。

 この町で青のりを使っているのなんて彼しかいない。

 しょくぱんまんの脳裏に、今朝別れを告げたばかりの愛しい恋人の姿が蘇った。

 まさか、まさか、そんな。
 焦りでまともな思考ができなくなる。

「焼きそばパンマンに何をした!」

 柄にもなく声を張り上げた。
 怒りで肩が震える。

 全身のイースト菌が警告する。
 何かが決壊する。
 いや、もしかしたら、最初から全ては彼の掌の上で転がされていたのかもしれない。

「くっくっく…お前のような勘のいいパンは嫌いだよ」

 カレーパンマンの死体を発見してしまったというのに、アンパンマンは自分でも驚くほど平静としていた。

 そっとカレーパンマンの身体に触れる。

 思えば、彼のことはまだ一度も抱いたことがなかった。
 常にその身にまとわれたカレー臭のために、身体が受け付けなかったのだ。

 しかし、こうして死んでしまうと分かっていれば、もしかしたら身体を重ねることができたかもしれない。

 惜しいことをしたな、と思いつつ、そっとカレーパンマンの冷たくなった頬を撫でようとした、その時だった。

 アンパンマンはカレーパンマンの首筋に見慣れない模様があることに気づいた。

 よく見ると、その模様は線状になっていて、カレーパンマンの首を一周している。

「ま、まさか…」

 アンパンマンの脳裏に一人の人物の姿が思い浮かぶ。

 そんなことあるわけがない。
 そう思って気がつかないままにしておきたかったのに。

 やはりカレーパンマンの首についた跡は、ロールパンナの武器のリボンにそっくりだったのだ。

 もう一つ気になるのは、カレーパンマンのカレーまみれの死体のそばに、食べかけの長ネギが落ちていることだった。

 謎は深まるばかりだったが、アンパンマンは何よりも先にロールパンナを探す決心をした。

 ロールパンナは大抵くらやみ谷で野宿をしているはずだ。

 アンパンマンはそこで少し思い返し、普段は隠してある『あるもの』を取りに行ってから、谷へと向かった。

 ロールパンナが谷で花を摘んでいると、自分を呼ぶ声が聞こえた。

「アンパンマン!?」

 驚いて声をあげると、アンパンマンが正面に降り立った。

「何か用ですか?」

 意図せず声が上ずる。

「ジャムおじさんが君に、まごころ草のジュースを作ってくれたんだ」

 アンパンマンは微笑みながら、小瓶を差し出す。

 その中にはドロリとした液体が入っていた。

「あ、ありがとう…」

「効果を確かめたいらしいから、飲んでみてくれないかな?」

 ロールパンナはこくんと頷くと、それを一気に飲み干した。
 少し甘い。

「ところで、カレーパンマンを知らないですか?」

「カレー…パンマン…?」

 突然、視界がぐらりと揺れた。
 頭が熱っぽくて息が荒くなる。

「は…あっ…」

「思ったより早く効くみたいだね」

 アンパンマンはにこにこと笑顔を保ったままだ。

「私にっ…何をした…!」

「それより、カレーパンマンをどうして殺したんですか?」

「何、それ…殺…?」

「とぼけるつもりですか?」

 アンパンマンの目が鋭くなる。
 彼はふと口元を歪めると、その場にマントを脱ぎすてた。

「女を犯す趣味はないが…」

 そう言ってアンパンマンは息を荒くしているロールパンナを押し倒し、

「ひゃっ…」

 膝で股ぐらを押し上げた。


「ん?」

 アンパンマンの膝には、女にはあり得ないはずの感触があった。

「もしかして…」

 これは思わぬ収穫だ、とアンパンマンは唇をなめる。

 そのままアンパンマンは自身の唇を「彼」の首筋に這わせた。

 彼の「モノ」はますます主張を強めてきた。

 アンパンマンの心の中に、この美しい少年を、自分の手で、喘がせてやりたい、ぐちゃぐちゃにしてしまいたいという欲望が生まれた。

「やめろ…アンパンマン…」

 ロールパンナは力の抜けていく身体を必死に動かして抵抗した。

「やめてほしいなら正直に話せばいいんだよ」

「さっきから言ってるだろ…!私は…何も知らない…っ」

 うるんだ瞳でこちらを見つめてくるロールパンナに、アンパンマンは過去最大級の興奮を覚えた。
 顔に巻きつけられた包帯の上からでも、彼の呼吸が激しく乱れていることが見て取れる。

 アンパンマンがロールパンナの股間に手を伸ばそうとした、その時だった。

「うっ…」

 突如としてアンパンマンの腹部に鈍い痛みが広がった。

 ゆっくりと自分の身体に目を落として気づく。
 腹から、包丁が、貫通していたのだ。

「お取込み中、申し訳ないね」

 背後から聞き慣れた声が響いてくる。

 振り返らなくとも、自分を刺した人物が誰であるかは特定できた。

「ジャム…おじ…さん…?」

 何故、あの温厚なジャムおじさんが僕を?

 そんな疑念が一瞬にしてアンパンマンの脳裏を支配する。

 その間にも、彼の腹部から心地の悪い熱を持って溢れる血液は止まらなかった。

「なんでこんなことをするのか、そう思っているね」

 相変わらずおだやかな声で語りかけるジャムパンに、アンパンマンは無言で答える。

「それは、私が犯人だからだよ。工場を燃やしたのも、カレーパンマンを殺したのも、全て私だ。
 そして、お前は今、その事実を私の口から聞いてしまった。だから死んでもらわなくてはならないんだ」

「ジャムおじさんが…犯人…!?」

はよよよ

創作におけるジャムの黒幕率wwww

「そうだ。私はね、もうお前たちの『ごっこ遊び』にうんざりしたんだよ。悪いことをするバイキンマンと戦って町の平和を守る?冗談言っちゃいけない。
 
 お前たちはもう何年もバイキンマンと戦ってるはずなのに、一向に倒せる気配がないじゃないか。あと何回戦えば、あいつをこの町から消し去れるんだ?
 
 そんな中途半端なパンが『正義のヒーロー』を名乗っているなんて笑わせるよ」

 
 ジャムおじさんの声から徐々に狂気がにじみ出てくる。


「それにアンパンマン、私はお前が普段『パトロール』と称してどんな行為をしているのか、全部知っているんだ。
 
 いつもお前の『パトロール』にチーズを尾行させていたからね。
 
 最初にチーズから報告を受けたときは驚いたよ。まさかお前が男色家だったとは思いもしなかった。

 皆の夢や希望を守る存在であるお前が、強姦によって逆に皆の夢や希望を奪っているということを子供たちが知ったら、一体どうなってしまうんだろう?

 そうは思わないか、アンパンマン」

 
 アンパンマンはもう声をあげることができなかった。
 ジャムおじさんのまとっている空気が、それを許さなかったのだ。


「先ほどしょくぱんまんを殺したところだ。お前が死ねば、メインのヒーローたちは全員いなくなる。

 そうすれば、お前たちのせいで乱された町の平和も、少しは元通りになるだろう」


「でも…僕が町からいなくなれば…誰かが気づく…そうしたらジャムおじさん、貴方にも疑いがかかりますよ…?」


 そうだ。
 こんなことをしたところで許されるわけがないのだ。

 朦朧とする意識の中で、アンパンマンは懸命に脳を回転させる。
 
 この状況を打開する何かがきっとあるはずだ。
 きっと…。

 そんなアンパンマンの思考を知ってか知らずか、ジャムおじさんは楽しそうに口角を上げた。


「私を誰だと思っているんだ?パン工場の工場長だぞ?お前たちがいなくなっても、また違う『お前たち』を一から作ればいいんだよ。

 その新しい『お前たち』がきっとこの町の平和を守ってくれる。違いに気づくような鋭い奴はいないさ。この町の奴らはみんな馬鹿だからな」


「ぐはっ」

 アンパンマンの腹部から包丁が一気に引き抜かれた。


「私としたことが長話をしてしまったようだ。では、そろそろ」

 
 耳をつんざくような銃声とともに、辺りにあんこが飛び散る。


「さようなら、アンパンマン」

 
 地面に転がったアンパンは、その声を最後に、深い、深い、眠りに落ちていった。


「キャン、キャーン」

 チーズの鳴き声がパン工場にいつも通りのおだやかな朝を告げる。

「ジャムおじさん、バタコさん、では、パトロール行ってきます」

 アンパンマン、しょくぱんまん、カレーパンマンは元気よく澄みきった青い空に飛び立っていく。

 彼らは知らない。
 彼らの生まれる少し前まで、彼らにそっくりな『パンたち』が存在したことを。

 そして町の皆は知らない。
 彼らが以前の『彼ら』とは全くの別人であるということを。

 様々な真実が交錯する町に、真実を知らない人々は今日も生きる。

 ジャムおじさんは彼らを見送ると、満足気に工場の中へ入っていった。

 朝日の差し込む工房で、彼はいつものようにゆっくりと燃料がまを開けた。

「…愚かだな」

 そこにはもはや原形をとどめていないかつての正義のヒーローたちがいた。

「いずれこうなるのに」

 繰り返される、過ち。

 昨日まで自分たちを守っていたヒーローが、今日は『違う』モノだなんて、この町の誰が信じるだろう。

 灰になった彼らが、どうして自分たちが操られたヒーローであったと今更気がつけようか。

 そっとかまを閉め、ジャムおじさんは無機質にこう呟いた。


「今度のは、いつまで遊べるかな」



【END】

お疲れ!おもしろかった!!

新ジャンル パンズ・ソドミー・サスペンス・アクション

お疲れ様でした。
読みづらかった箇所も多かったと思いますが、最後までお読みくださりありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

始めに述べたとおり、このSSは高1の頃に友人6人ほどで書いたものです。
私事ですが、月日は流れて私は今年受験生となり、本当はこんな投稿をしている場合ではないのですが、
久々にSSを読み返したところ案外面白く、結局かなりの時間をかけて書き記してしまいました。
残り1年で卒業ですが、こんな素敵な友人たちと最後まで楽しく高校生活を過ごしていきたいです。

再度となりますが、お付き合いありがとうございました。

なんだこれは(褒め言葉)
面白かった、乙!



そこまで文体に乱れもないし六人で書いていたとは到底思えない
バイキンマンだけは真相を全て知っているんだろうな。そう考えるとなかなかにホラー

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