浜風「私達はきっと人間の出来損ない」 (49)

注意

R18
男女、百合含め性描写あり
レイプに近い表現あり
独自設定により性格の悪い艦娘多数
書き溜め無し
遅筆

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私達艦娘は兵器だ。そして私達艦娘は兵士でもある。
それはただの人間として最後に受ける説明でもあり、兵器として生まれ変わって最初に受ける説明でもあった。
私は一度目のその説明に「知っている」と答え、以降その説明を受ける度に「把握しています」と敬語で応え続けることにしている。

とは言っても私の意識は艦娘になる前も今も大して変わったということでもないし、それはきっと他の艦娘も大差ないのだろう。
変わったのは精々、身の回りの環境と、名前くらい。
それは少しだけ私にとって――そしておそらくは大半の艦娘にとっても――落胆させられたことでもあった。

艦娘という名の兵器になったことで私達の身の回りに起こった変化を簡単に説明しよう。

艦娘となったら、皆まとめて適当な鎮守府に出荷される。
そこで訓練をこなし、一人前になれば戦場に出て戦うよう命じられる。
だが基本的には艦娘になる人間などそんなことは織り込み済みだ。
全て承知の上でそれになることを望むのだ。

一人前になるための訓練は厳しいが、
艦娘を鍛えあげるカリキュラムはかなりしっかりとしたものが確立されているため
落ちこぼれなければそれなりの兵士にはなれる。
それなりになれれば、これほど良い待遇もない。

まず給与が目玉が飛び出るほど高い。
(実家が貧しかった秋月という駆逐艦などは初任給の明細を見て卒倒したそうだ)
福利厚生もしっかりしており、任務のない時はいくらでも自由時間がある。
食事も今まで食べたことのないくらい美味しいものを好きなだけ食べられる。

そして何よりも
私達のような人間が…人間だった者が
嫌悪の対象としてでなく、侮蔑の対象としてでなく。
人類の防人であるというそれだけの理由で、その存在を許し、認められるのだ。

ある時参加した酒の席で、連合艦隊旗艦の長門さんが言った。(艦娘は未成年でも酒が飲める)
「艦娘にならなければ、私はきっと今もごろつきだった」
今や国民の敬愛を一身に浴びる英傑も出自を問えばなんと喧嘩屋だ。
国民がそれを知ったらどう思うだろう。
責任感の強い彼女はそれを延々気にしており、酒の席の度にそうやって落ち込みながら愚痴を漏らすのだという。

「そんなこと今更誰も気にしないわよ。それに国が探らせないわ」
姉妹艦の陸奥さんがその度に慰めるのも日常らしい。ちなみに姉妹艦などと言っても実際に姉妹であるケースは少ない。
彼女らも、仲は良いが実の姉妹ではないという。

「大体、そんなこと言うなら私なんて風俗嬢だったんだから」
騙されて借金を背負い風呂に沈んだだの、同棲していた彼氏はDV男で肋が3本折れただの
あっけらかんと笑いながらそんな笑えない話をポンポン出してくるのだからたまらない。

他に覚えている限りでも、不登校児にフリーター、ヤンキー、犯罪者に挫折した元アスリート…
まあ、つまり何が言いたいのかいうと
艦娘の出自なんてそんなものばかりなのだ。

社会に上手く馴染めなかった女達。
落伍者。弱者。
少なくともうちの鎮守府にいる艦娘は、そんなろくでもない元人間ばかり。

だから、そう。
巷で勇気ある英雄だ救いの女神だとチヤホヤされている艦娘という存在は、メディアが作り出した幻想。
私達はきっと、人間であることに耐えられなかった存在。
人間として社会に馴染み、生きることができなかった。
そんな私達ははきっと、人間の出来損ないなのだろう。

自己紹介が遅くなった非礼を詫びたい。
私の名は浜風。陽炎型駆逐艦十三番艦浜風。
人間だった頃の名前――本名は忘れてしまった。そういうことにしている。

艦娘になった理由はいくつかある。

一つ目は、この身体。
学校で男子達が、そしてすれ違う男性教師達ですらジロジロと私の身体を、胸を見てくる。
その視線がとても不快で、彼らと一刻も早く離れたかった。

二つ目は、いじめ。
サッカー部の誰々君が私の事を好きだと言ってグループの一人の告白を断ったとか、そんな程度の理由。
それが原因で私は2年もの間いじめられ続けた。
艦娘になれば誰も私をいじめることなどできない。そんな程度の単純な思考。

三つ目。
三つ目は…性癖だ。
何がきっかけだったのかは知らない。
もしかしたら生まれつきなのかもしれない。
これさえなければ、適当に強面な彼氏でも作って先の全てから守ってもらう。そういうこともできたはずだ。
だがそれだけはどうしてもできなかった。

私は同性愛者だ。
二つ目の理由であるいじめは、どういう弾みかこれがバレた後、性質を変えた。
初めは弱者への制裁だったものが、ヒステリックな恐怖を伴い、得体の知れない怪物の排除へと。
冗談ではない。お前たちのような醜い生き物に欲情するなどこちらから願い下げだと叫びたかった。

私は孤立した。
いじめられっ子の同性愛者を庇う者は私の周りには誰一人存在しなかった。

私は新しい人生をやり直したいと願った。
艦娘になろうと決めた。親も反対しなかった。
だからすぐに学校を辞めて、募集要項を握り締め軍隊へ駆け込み、今、ここにいる。鎮守府にいる。

ここは居心地がいい。
ジロジロと私の胸を見る穢らわしい男がいない。
提督は若い男性だが、それ程多く顔を合わせる訳でもないし、身なりも整っており紳士的で、
男子中学生のように下品ではないので不快感がほとんどない。

何より彼の側には常に秘書艦の雲龍さんがいる。
駆逐艦にしては胸が大きいというだけの私など、彼女の胸に比べれば目をみはるようなものではないだろう。

幸い、着任から数ヶ月経ってもまだあの不快な視線はここでは感じたことがない。
ただ、目下の悩みとしては――

「あっ、あの…浜風さん。あの…その、もしよかったら…その…」

「…潮さん。わかりました。いいですよ。お付き合いします」

私は基本的に人をそこまで信用していない。
鎮守府は居心地のいい環境ではあるが、流石に同性愛者をあっさりと受け入れてくれるほど懐が広いとは思えない。
なので本性を隠して生活しているのだが、そうすると今度はやけに懐いてくる少女が現れた。

綾波型十番艦の駆逐艦、潮さん。
彼女も元いじめられっ子だそうだ。
原因は私と同じく、その胸の膨らみ。
おとなしい彼女は私よりも直接的に、男子に揉まれたり女子にも呼び出して殴られたりしていたらしい。

年も近く、艦娘になった理由も同じ。
(ただし私は同性愛者云々のくだりは隠している)
気弱で引っ込み思案な彼女が姉妹艦とも馴染めず困っていたところでそんな私に出会って話をするとどうなるか。
暇さえあれば子犬のように私に付きまとい、目の前をうろちょろするようになった。

彼女の中で、私はこちらに来て初めての友人で、おそらく唯一の友人だろう。必要以上に依存してくる。

はっきりと言ってしまえば、時折煩わしいと思うことがある。
おそらくは、彼女の場合、身体だけでなくこの性格自体もいじめの一因になっていたのではないだろうか。

だがそんなことを言うわけにもいかず
かといって他に友人を作るよう勧めるでもなし、求められればズルズルと彼女に付き合ってしまう。
これはきっと、私の中に下心があるから。
彼女が私にすっかり依存しきってしまえば、きっと彼女は私の本性を知っても拒めない。
何故なら彼女は私を失えばまた人間だった頃のように孤立してしまうから。
それ以上の恐怖はきっと彼女には存在しないだろうから。

(でもそれをしたら、私は今の心地よさを手放すことになる)

心のうちで冷静な私が囁く。
分かっている。だからそれをするわけにはいかない。
一度社会から逃げたのだから、もう一度逃げ出すわけにはいかない。

「それで、お付き合いはしますが、何をしましょうか?」

葛藤を悟れれないよう極めて冷静な声で問う。
いつものパターンなら、間宮でおやつか港の散歩に誘われる筈だった。

「…その前に少しだけ、相談いいですか?」

付き合うと言ったばかりでその返しはどうなのかとも思ったが、ここで断るわけにもいかないので返す。

「いいですよ。私なんかでよければ」

「そんなことありません!浜風さんがいいんです!こんなこと相談できるのは…」

面倒ごとの予感がして少しだけ顔が強張った。
すぐに笑顔を作り直し、できることなら早く終われと続きを促す。

「それは責任重大ですね。それで、相談の内容というのは?」

「あの…」

だが、躊躇いがちな潮さんの次の言葉を聞いて、私は強烈な立ちくらみを覚える破目になる。

「私…提督のことが好きなんです」

今日終わり

潮さんの話を聞く限り、彼女が提督に対する恋心を暖めていた期間は、私の予想していた時間よりもずっと長いようだった。
彼女がこの鎮守府に着任して間もないある日のこと。
艦娘として初めての休日を迎えた彼女は、
同室で暮らす、複数の自分以外の非番の艦娘と過ごす時間に耐えられず、とにかく部屋を出た。
かといってやりたいことがあるわけでもなく、
どう過ごしてよいのかわからずにふらふらと廊下を歩いていたという。

「そうしたら、提督が書類の山を抱えて廊下の向こう側から歩いて来られたんです」

潮さんは緊張したらしい。無理もない。なにせ提督は鎮守府に勤務する唯一の男性で、階級の最も高い存在だ。
臆病で気の小さな、そして男性に対し良い思い出のなかったはずの潮さんが平静でいられるはずもないたろう。

「そうしたら、すれ違いざまに提督がクリアファイルを一枚落としてしまいまして」

固くなったあまり挨拶すらできずに通り過ぎようとしていた潮さんも、これには無視を決め込むわけにもいかなかった。

「思わず声をかけたんです。落ちましたよ、って」

そして、すぐに落ちていた書類を拾った。

「ありがとう、そう言われました」

「それだけですか?」

まさかそれだけで惚れたわけではないですよね?
そう言って続きを促す。

「ええ。その後、私の顔を見て、潮は親切だな…って」

「…」

私としてはそんなもの、単なる社交辞令にしか聞こえなかった。
荷物を運ぶ上官とすれ違う際に声がけすらできない子に(それも内気で臆病そうな)、
とりあえず怖がらせないよう適当に声をかけただけなような…

「初めてだったんです。男の人にそんなことを言われたのは…」

流石に抑えきれず呆れた顔をした私に、潮さんは早口になって慌てて補足を加えてきた。

「もっ、勿論それだけじゃないですよ!?続きがあるんです!」

「惚気話をしたかったんですか?」

呆れた声を引っ込めることもせず、からかってみた。
うう~…と少し目に涙を溜めながら、潮さんが可愛らしく呻く。
純粋に、可愛らしいと思った。

潮さんが拾ったクリアファイルを相手に手渡す前に、提督は膝を屈めて顎で自分の持つ書類の山を指した。
身長差のある潮さんの手が、束の一番上に届きやすい配慮だったのだろう。

「ここに置いてくれないか?」

だが、屈んだ拍子に手に持っていたそれらはゆっくり傾いて、潮さんがあっと言う間もなく全て崩れ落ちてしまったという。

「それで、提督ったら大声であーっ!て悲鳴をあげられて…」

その時の光景を思い出し、クスクスと控えめに笑う潮さんを見て
私は潮さんがこんなに可笑しそうに笑える人だったのかと衝撃を受けた。
いつも卑屈そうな顔で周囲を伺っていた彼女とはあるで別人のようだ。

「それで、潮さんはどうされたんです?」

「はい。私は提督と一緒に書類を拾うことにしました」

まあ、それは当たり前だろう。
むしろそこで「それじゃあ私はこれで…」などと言って場を離れられる強心臓のコミュ障など、存在するとは思えない。

「書類を粗方拾い終わった後、提督は仰られました。悪いが、今時間が空いているなら、こいつらを執務室に運ぶのを手伝ってもらえないか?と」

提督の間の抜けた(潮さんは「おちゃめ」と評したが)一面を垣間見た潮さんは、何時の間にかそれまでの緊張が解れ、
彼と共にいることが苦痛でなくなっていた。
それで提督の頼みを引き受けたのだという。

「書類を3と1の大きさの2つの束に分け、私に1の方を預けて下さったんです」

執務室に辿り着くまで、二人は様々な話をしたという。
鎮守府での生活はどうか。何か困っていることはないか。不便をかけていないか。仕事は辛くないか…
自分から会話を切り出すのが苦手な潮さんに、提督が次々と質問をして会話が途切れない。
潮さんはその時間がとても楽しかったのだという。

「それは、私がこの鎮守府に来て以来初めて楽しいと感じる時間でした」

うっとりとした表情で語る潮さんのその顔は、幼いながらも私には雌のそれに見えた。
自分でも訳がわからないくらいに苛立ち、それを誤魔化そうと茶々を入れる。

「なんだ、やっぱり惚気話じゃないですか」

顔を真っ赤にして否定する潮さんに、馬鹿馬鹿しいと告げてその場を離れることも考えた。
だがそれをしなかったのは、私が卑しい女だったからなのだろう。

「それで、それ以降潮さんは提督のことが気になっていたということでよろしいんですね?」

「ええ…それ以降、お顔を合わせる度に挨拶くらいならできるようになって、そうやって言葉を交わす度に思いは強くなる一方で…」

つまり、彼女が一方的に提督のことを慕っているということだ。
理由も実に思春期の子供らしい。ただ単に、自分に優しい年上の男性が身近に一人いたというだけのことだ。

年頃の女ならよくある話だろう、と内心冷めた思いで彼女の惚気話の続きを聞く。
遠征で成功し、報告の際に褒められた話。任務で中破し心配して貰った話。訓練を見学に来た提督に隊員全員がアイスを奢って貰った話…
正直、鎮守府にいる艦娘なら誰でもその程度は接点があるのではないかといったレベルの話ばかりだ。

「あ、えっと…すみません、勝手に盛り上がってしまって…」

盛り上がるというほど興奮した口調にも聞こえなかったが、彼女の中では盛大に盛り上がっていたのだろう。
(いつもより少しだけ早口だったのは否めないが)
退屈そうな私の顔を見て、彼女はまた顔を朱に染めて、恥ずかしそうに俯いてしまった。
しばしの沈黙がそこにあった。

(いいな…)

素直に、そう思った。
人を好きになるということは、なんて綺麗なことなんだろう。
耳まで真っ赤にして俯く潮さんの横顔を眺め、独りごちる。
それは女として産まれたものが最も美しく輝ける瞬間であり、たったひとつの特権だという。

なのに私は、それすら許されない。
好きになる相手が同性であるという、たったそれだけの理由で。
たったそれだけで、この世で最も美しいもののひとつだったはずのものが、急に醜悪なものへと変わってしまうのだ。

私も潮さんの様に、男性を愛せる存在なら良かった。
そうすれば、きっと今頃、適当に男を誑し込んでいじめから守ってもらい、こんなところにいることもなかったのに…

思考があまりよろしくない方向に飛んでいるのを自覚して、首を振る。
どうせ起こり得ない世界を想像したって、惨めなだけだ。

ふと気付くと、潮さんと目が合った。
どうやら彼女の照れはいつのまにか収まっていたらしい。
彼女に怪訝な表情をされるのは、わけも分からず心外だった。
咳払いを一つして、核心に入る。

「貴女が提督のことをどう想っているのかはよくわかりました。では、貴女は提督とどうなりたいんですか?」

「ど、どうって…えっと、その…!」

私の質問を聞いて、面白いくらい潮さんの表情が変わった。
腰が浮いて、座っていた堤防から危うく海に落ちかけた。

「わ、私は別に…!そんな、なんていうか!えっと!その!ただ、提督が好きというだけで…!」

「でも、私に相談したということは今のままではいられない想いがあるということでしょう?」

「そ、それは…あ、あの、あの…そうじゃな、そうじゃなくて…」

「なにが違うんですか?ただ私に惚気話を聞いて欲しかっただけですか?」

「あ、あうう…それは、その…あの…」

言葉にならない潮さんの言葉から、私は執拗に逃げ場を奪っていく。
彼女が私に相談を持ちかけた意図は知らない。
本当にただ惚気たかっただけかもしれない。
もしかしたら、胸の内に秘めるのが苦しくて吐き出したかっただけなのかもしれない。

だが、私はそれだけで終らせるつもりは毛頭無かった。

「もう一度聞きます。例えば、貴女の願いがこれから全て叶うとして…」

内心、せせら笑う。
随分と大きく出たものだ。まるでランプの魔神のような言い草だ。

「な、なんでも…ですか?」

こくりと、潮さんのか細い喉が鳴る。
会話の主導権は常に私にあった。こんな馬鹿らしい話にも、彼女は真面目に聞き入るしか術がない。

「ええ。なんでもです。勿論、例えばの話です。でも、これをはっきりさせないとなにも始まりませんので」

「は、はい…それで?」

「貴女は、提督と、どのような関係になることを望みますか?」

ああ。
私は、知っている。
私は、とても、醜い。

きりがいいので今日は終わり。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月06日 (月) 14:14:05   ID: -sEWj1d0

とても読みやすいし続き期待です

2 :  SS好きの774さん   2016年03月02日 (水) 00:11:51   ID: kO2mvC2J

地の文?の描写が丁寧で自分でも読みやすいです。
他のssも黙々と読ませて頂いてます。
応援してます。

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