ちなつ「あかりちゃん、お願い戻ってきて…」 (31)

京子先輩と結衣先輩は4月から私たちのいる町からは少し離れた私立高校へ進学。

杉浦先輩、池田先輩姉妹は地元の公立の進学校。

そして私たちは四月から中学三年生。時の流れもあっという間で、私たちも今年一年で中学校を卒業となる。


ちなつ「娯楽部も私たち二人だけだぁー」

あかり「この部屋も広くなったよね」

ちなつ「たまには先輩方遊びに来てくれないかなぁ」

あかり「どうだろうね、でも学校にばれちゃ問題になっちゃうし……」

ちなつ「そうよね」

ちなつ「今日から二人で娯楽部活動していこ!」

あかり「うん!」


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新学期の校門前

ザヷザワ


櫻子「あっ、向日葵と一緒のクラスじゃん」

向日葵「まさか…ってそのまさかですわ」

ちなつ(どうかあかりちゃんと一緒のクラスでありますように……)ドキドキ

ちなつ「……」


櫻子「ちなつちゃんは何組だった?」

ちなつ「6組……」ウリュ

櫻子「ど、ドンマイ…」

向日葵「赤座さんは1組ですわ」

櫻子「私と向日葵2組だから教室近いね」

ちなつ(そんなー…1組と6組って教室も離れてるじゃん……)ガックリ

向日葵「吉川さん、そう落ち込まれなくても頻繁に顔出しに行きますわ」

ちなつ「て言って去年も全然来なかったじゃん!」

実を言うと、去年もあかりちゃんとは別のクラス。だから今年こそは一緒のクラスになりたかったのに。

因みに向日葵ちゃんとは去年一緒のクラスだった。


ちなつ「クラスに仲良くなれそうな人いるかなぁ」

櫻子「大丈夫!何かあったら私たちにいつでも相談して!」キリッ

ちなつ「あ、ははは…」


こう見えて櫻子ちゃんはこの学校の生徒会長である。

結果だけ言うと、櫻子ちゃんは生徒会選で向日葵ちゃんに競い勝ったのだ。

生徒会選に立候補した時の櫻子ちゃんは今までの櫻子ちゃんとは似ても似つかない人だったのを覚えている。
櫻子ちゃんの決意に、クラスも全力でバックアップしたんだとか。

もちろん、最初は向日葵ちゃんが圧倒的に優勢だったし、私自身も櫻子ちゃんが当選するとは夢にも思ってなかった。

因みに、先輩方に聞くと、京子先輩は櫻子ちゃんに、結衣先輩は向日葵ちゃん、杉浦先輩、千歳先輩も向日葵ちゃんに票を入れたみたいで、
先輩方(特に生徒会の)は卒業した後の七森中が少し心配だと言っていた。

そこで、櫻子ちゃんには専属の補佐役として向日葵ちゃんが常にベッタリとくっついている。

仕事も二人で分担して行っているみたいで、どんな仕事も手際よくこなしてしまうので生徒や先生からの信頼もかなり高いんだとか。

あと、櫻子ちゃんは現在背が私よりも頭一つ分高く、そのスラっとした容姿と抜群の運動神経で、
一部からはイケメン女子ともてはやされている、という噂は本当なのかどうなのか。まあ少なくとも私には興味ないかなぁ。

因みに私もそれなりに背は伸びたつもりだけど、四人の中ではまだ一番背は低い。


生徒会総選挙についてはまだまだ秘話があるのだけれども、、、

ちなつ(それにしても、私一人だけ別のクラスってどういうことよー!)ムキーッ


最近、というか二年生の後半くらいからなんとなくあかりちゃんとの会話が減った気がする。
もちろん今でも娯楽部に行けば多少なりとも会話はするけど。

3-6
HR

担任「……というわけでして、受験生としての自覚を持ちつつ、集大成となる行事でもしっかりと……」

ちなつ(話早く終わらないかな)

よほどショックが大きかったせいか、新学期早々に蛻の殻のようになった自分がいる。


ちなつ(私ってばホントついてないな……)


体育大会も、修学旅行も、文化祭も、普段の授業も、全部あかりちゃんとは別のクラス。

共有できない時間が増えていく。

そのどうしようもない現実に

ただただ嫌気がさしてくる。




ちなつ(あかりちゃんはどう思ってるんだろ)

ちなつ(あかりちゃんは私よりも友達多いし、人気者だし)

ちなつ(私と同じクラスかどうかなんて……)

ちなつ(ああ考えてたらムカムカしてきた)

気が付いたらマイナス思考。私の悪い癖だ。

もちろん、自分だってほかの子たちと仲良くすることもあるし、去年のクラスだってそれなりに楽しめたところもあった。

ちなつ(第一、私はなんでこんなにもあかりちゃんを……)

娯楽部室


ちなつ「はあ……」

あかり「ちなつちゃん、さっきからため息ばかりだけど大丈夫?」

ちなつ「だって、最後なのに……最後なのに別々のクラスなんて」

あかり「クラスなんて関係ないよ、だってほら……」

あかり「こうして毎日会えるんだから」

ちなつ「あかりちゃんは何もわかってない……」


あかり「ええっ、そうかな。だってちなつちゃんとは毎日会ってるよね」

ちなつ「そういう問題じゃないの!」

あかり「あ…あかり、前みたいにちなつちゃんが教室まで話しかけに来てくれたら嬉しいよ?」


そういえば一時期はそんなこともしてた。
確か2年生の最初の頃。

話す相手と言ったら結局あかりちゃんしかいなくて。

でも、教室でクラスの子と楽しそうに話しているあかりちゃんを見ていると、

やるせなくなって、

それ以来やめた。

仕方ないから、どうしても暇なときは近くの席の子と他愛のない会話を交わしたりしていた。

向日葵ちゃんも私と同じように、休み時間は基本一人でいたけれど、
櫻子ちゃんがしょっちゅう勉強のこと聞きに来たりしてたから、
ブツブツと文句を言いながらも、内心はとても嬉しかったんだと思う。
私にはその気持ちがなんとなくわかる。

私はそんな向日葵ちゃんと櫻子ちゃんの関係が少し羨ましかった。


ちなつ「あんなの、もう馬鹿馬鹿しいからやめた」

あかり「ちょっとちなつちゃん、その言い方は心に傷だよ!」

ちなつ「傷ついているのはどっちよ!」


もう訳が分からない。なんでムキになってるんだろうか。
もし結衣先輩が今ここに居たら、きっと私たちはすぐに仲直りしていると思う。
もしくは京子先輩が機転を利かせて場を和ませてくれたかもしれない。

そんな頼りがいのある先輩方が、この娯楽部にはもういない。

四人だったころの娯楽部が急に愛しくなる。

あかり「あかり……知らず知らずのうちにちなつちゃんのこと傷つけてたの?」

急に深刻になるあかりちゃんの表情に、私は自分の感情任せに言ってしまったその一言に後悔が残る。

元はというと、あかりちゃんには罪はない。


ちなつ「あ、あかりちゃん今の言葉は気にしないでね!」ハハハ

何とか私はお茶を濁そうとした。追及されたら息詰まるのは目に見えてたし。


あかり「ごめんね、もしちなつちゃんがあかりの気づかないところで傷ついていたんだったら…」

ちなつ「あかりちゃん……」

あかりちゃんの表情が引きつっているように思える。
その「ごめんね」の一言も、とりあえずこの場をしのぎたいということしか感じられない。
でも、ここまであかりちゃんを追い込んだのは私だもんね……。

だからと言って、どうしてもその一言が私たちの関係をより遠ざけてしまわれるように思えて仕方がなかった。

すいません
再開します

ちなつ「……ごめんねって」

あかり「えっ……」

ちなつ「じゃああかりちゃんはいつどこで私が傷ついたと思ってるのさ?」

あかり「それは……」


悪いのは私。それは十分に分かっているのに、こういう事に関しては黙ってはいられない。感情が抑えられない。
うやむやにされるのが嫌な私の性格が出てしまう。

でも、もしかしたらあかりちゃんは答えてくれるかもしれない、

なんて淡い期待を持ちつつ…


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私はいつもの帰り道を一人目を赤く腫らしながら歩いていた。

泣いちゃいけない、泣いちゃいけないって。

家の玄関に辿り着くと、あともう少しだと思って。

そして自分の部屋の隅で咽び泣いた。

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ーーー

どれほど泣いていただろう。
時計の針は夜の8時を示していた。


部屋の戸を開けると、お母さんが作ってくれた晩御飯が置いてあった。

お母さんありがとう。きっとお姉ちゃんも心配してくれてるだろうな。




「……わかんないよ」


「あかり、正直今のちなつちゃんのことよくわかんないよ……」


立ち直らなきゃ。
そう思っても、


頭の中でこだまする。
一番言われたくないこと、言われちゃった気がする…。

つまり私の気持ちは何も伝わっていなかった。それは今に始まったことではなかったことも確信させられた。

大切な友達…いや、もしくはそれ以上の存在だったあかりちゃんだからこそ、

悲しみ、憤り、虚しさ、色々な感情が胸の中を渦巻く。

櫻子「あちゃー……」

向日葵「そうだったんですの…」

ちなつ「きっとあかりちゃんは私のこと嫌いになっちゃったんだと思う……」

向日葵「どうしたらいいかしら。吉川さんの力になって差し上げたいけど」

櫻子「まあいつも顔合わせてりゃそんなときもあるって」

ちなつ「でも、今はあかりちゃんとどう接したらいいかも分からなくなっちゃったし」

櫻子「そうやって喧嘩ばかりでも、仲がいいことには変わりないんだから、なあ向日葵?」

向日葵「ちょっ、ちょっといきなり振らないでくださる?櫻子が言うことはともかく、時が解決してくれると思いますわ」

ちなつ「そうかなぁ……」

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