【うみねこ】salvation of the golden witch (250)

07th.expantion
『うみねこのなく頃に』
『うみねこのなく頃に散』
の二次創作です。

ネタバレあり。
一部独自解釈あり。

です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423385325

~プロローグ~ 

チクチク、チクチク、チク。

「これで完成よ」

「あ~やっぱり腕があるといいわあ。あ、そうだエリカ、
ゴマと塩の選別をこの大復活した大ラムダデルタ卿様が手伝ってあげようか?」

「お断りしますッ!これは我が主から与えられた大切な使命!
名探偵古戸エリカの名にかけて必ずや一人で成し遂げて見せますッ!」

「…っそ、ならいいけど」

ここはどこだかよくわからない空間。いるのはベルンとラムダとエリカの三人だった。
復活して五体満足になったラムダは何か考え込んでいる様だった。

「なあに?まだベアトのゲームがしたいの?」

ベルンが少し嫌そうな顔をしている。
無理もない、あんな悪役をまたしろと言われているのに等しいのだから。

「ううん。ゲームは飽きたわ」

「じゃあ何?」

 ラムダの意図が読めず怪訝な顔をするベルン。するとラムダがポツリと言った。

「これで本当にいいの?」

「え?」

ラムダは続ける。

「理御は私に言ったわ。『私が納得するハッピーエンド』を見せてくれるって。
でも、よくよく考えたらこんなの、全然納得出来ない!」

「何を言っているんですか大ラムダ卿。猫箱の中身は永遠にしまわれ、
ベアトやバトラをはじめとした右代宮の奴らは静かな眠りにつき、
そして同志エンジェは未来へと足を踏み出した。“我々が望んだ通り”に。
これのどこに不満があるんです?」

ゴマと塩を選別しつつ話に加わるエリカ。
彼女もまたラムダの意図が掴めないようだった。

「ああ、なるほど。ラムダは“あれ”がやりたいのね」

ふとベルンがしたり顔で頷く。

「さっすが愛しのベルンね!私とはスーパーな仲だわ!」

「ツーカーね」

「何が分かったんですか我が主~!私にも教えてくださいよぉ!」

自分だけ仲間外れと言うのが悔しいのか、涙で顔をグシャグシャにしたエリカがベルンに詰め寄る。
涙を手で拭おうとしているのだが、手に付いていたゴマが顔中にくっつき見るもおぞましい様相になっていた。

「嫌よ、あなた探偵でしょ。自分で推理しなさいよ」

一歩引きながら断るベルン。心なしかラムダの手をギュッと強く握っている様だった。

「提示されない手掛かりでの推理は禁止ですぅ~!!」

あまりにみじめに見えたのだろうか、ベルンは話し出した。

「ラムダは“ゲームは”飽きたと言ったわ。そして、この終わり方に不満があるとも。
そこから導き出される答えは一つ。つまり、ラムダはこの結末に至る前の『前提』そのものに不満があるって言う事よ。
そうよね、ラムダ?」

ラムダは強く頷く。

「ええ。確かに私たちはエンジェを未来へと送り出したわ。
そのおかげでエンジェが未来へと行けたカケラはどんどんと増えている。
もうエンジェは私たちの力なしでも未来へ進めるわ。
絵羽と和解して『家族』を取り戻したカケラもある。天草と恋に落ちたカケラも。
十八になった戦人や幾子達とのんびりするカケラなんてのまで。
彼女は確かにハッピーエンドを迎えた。でも、それ以外の人たちは?
例えば朱志香や譲冶は?真里亞は?
みんな死んじゃったじゃない!」

「でも、大ラムダ卿。それは、仕方がない事では…」
ラムダがしたい事が分からずオロオロするエリカ。そんなエリカにベルンが言う。

「つまり、ラムダは『六軒島爆発事故』のないカケラを見たい、と言う事よ。
右代宮の親族全員が1986年10月6日の朝を迎え、全員で六軒島を脱出した。そんなカケラをね」

「そうよ!仕方がない?そんな事はないわ!絶対にね!!
エンジェ一人助けて後は妥協、なんて絶対の魔女として許せないわ!!」

その言葉にハッとするベルン。

「あんたが昔私に負けたのって、もしかして…」

「…そうよ。あの子らの持つ絶対の意志を感じたらちょっと応援したくなっちゃって、ね」

呆れた顔をするベルン。

「それで私を恨むのって筋違いじゃない?」

「けしかけたのはベルンだもの!」

話が長くなる予感がしたエリカは話を変えた。

「しかし我が主。私は主や大ベルン卿、それにバトラがゲーム盤を作っている所は見た事がありますが、
カケラも同じ様に作れるのですか?」

「エリカ、『作る』のではないわ。そうでしょ、ラムダ?」

「え?」

ベルンの否定に眉をひそめるエリカ。

「ええ、カケラを作ったとしてもそれは数ある『可能性』の中の一つ止まりでしかないわ。
そんなの嫌よ。私は『絶対』の魔女、大ラムダデルタ卿よ。目指すのは常に『完璧』。
全ての世界で、全ての右代宮家が、幸せにならなきゃ『私が望む』幸せとは言えないわ」

「そ、そんな事がっ!?」

「出来るのだ、人の子よ」

ふっと突然、虚空から現れたのはフェザリーヌだった。

「あら、あんたいたの」

「我が巫女よ。そなたが望めば私は何時でも何処にでもいるのだよ」

「いつもなら鬱陶しいって追い払う所だけど、今回ばかりは違うわね」

「素直に嬉しいと言えばいいものを」

フェザリーヌはエリカの方に向き直り説明をする。

「そなたは…」

「初めまして、こんにちは。探偵、古戸エリカと申します」

「ふむ、確かラムダとバトラのゲームで探偵役を務めていたな」

「ご記憶していて下さり光栄です!」

「さて、変態よ、」

「っ!!??」

「間違えた。エリカよ、」

「…はい」

「確かに普通のカケラ世界では全てのカケラを幸せなものに変えるなど、無謀としか言いようがない。
そんな事を始めれば、まず間違いなく自身が消滅する方が先となろう」

「はい」

「だが、この世界の構造は普通の世界とは少々違う」

「?」

「この世界は、その存在自体が言わば一つの大きな『猫箱』となっておる」

「?」

「お主も察しが悪いな。『無能』の称号を与えようぞ」

「それだけは勘弁を!」

「…エリカよ、何故この世界には『カケラ』がこんなにも沢山あると思う?」

「それは、フェザリーヌ卿が先程おっしゃった通りにこの世界その物が一つの大きな猫箱となっているからでは?」

「ちょっと待ってよアウアウ。私が生まれた世界にだってカケラは沢山あったわよ?」
ベルンがフェザリーヌに聞く。

「そなたが生まれた世界はどこだった?」

「それは、ゲーム盤…、そういう事ね」

「そう、そなたが見ていたのは『ゲーム盤の中の『カケラ』の世界』だ。だから元々『カケラ』が複数あって当然なのだ。
そういう設定なのだから。しかし、この世界ではゲームとして紡がれた『カケラ』の外の、この世界にも『カケラ』が複数ある。
それは一体何故だ?」

「それは、この世界その物が大きな猫箱になっているから…」

「そうだ。では、猫箱を猫箱たらしめている原因は何だ?」

「それは、六軒島爆発事故の真相が分からないから………あっ!」

エリカもラムダがしたい事を悟る。

「そう、だから『猫箱』を開ける」

「そうすれば!全てのカケラは猫箱の中身と言う最強の『未来の真実』によってかき消され、この世界のカケラは一旦一つに戻るわ」

「ラムダの計画は、その一つに戻った瞬間を狙ってカケラそのものの中身を書き換えようと言う作戦よ」

「なる程!そうすればそのカケラから派生して出来るカケラも自ずと幸せなものになると言う訳ですね?
流石です!我が主!ラムダデルタ卿!!フェザリーヌ卿!!!」

「単一世界に戻る運命にあったエンジェにとって猫箱の解放は絶望でしかなかった。だが我らは違う」

「複数の世界を渡り歩ける私達にとっては猫箱の解放が希望に繋がるのよ!」

「ふん、当然よ。私が負けたゲームのあるカケラなんか全部消えてしまえば良いんだわ。
ゲームその物を完膚亡きまでに抹消してやる。言ったでしょ?この「ゲームに」ハッピーエンドは与えないって」

「やれやれ、我が巫女には捻くれ者が多い事よ。まあ良い。では早速、彼らを呼び出す事にしようか」

フェザリーヌがパチンと指を鳴らす。するとバトラとベアトが降ってきた。

「痛ってぇ!いきなり何なんだ!?」

「バトラよ大丈夫か?」

立ち上がったバトラはベルン、ラムダ、エリカ、フェザリーヌの四人を見て驚く。

「何だ?俺達の役目は終わったんじゃないのか?」

「これはこれはバトラさん、早い再開ですねぇ!」

「おう、エリカ、お前ちょっと老けたんじゃねえのか?」

「そう言うバトラさんこそ。目の下に大きなクマさんがいますよぅ?」

挨拶代わりに交わす二人の応酬に、バトラに起こされたベアトが入った。

「当ったり前よ!なにせ妾と毎日夜も寝ずに…」

「だぁああぁああっ!!!ベアト!?」

胸を張って何やら語り出すベアトにバトラがストップをかける。
大方見栄を張りたいのだろうがベアトの見栄で自分の株が暴落してはたまらない。

「なあに?あなた達もうそんな事を」

「あららだわぁ」

どうやら遅かったようだ。

「ち、違う!確かに毎晩やっているがそれは!」

必至に訂正を試みるバトラ。毎晩自分とベアトがやっているのは推理ゲームだと言いたいのだが、
自分以外でここにいるのは全て魔女。魔術師の立場は、弱かった。

騒ぎも収まり、バトラとベアトはフェザリーヌと話す。

「なるほど、それで俺達が呼ばれたと」

「分かってくれたか。あのエンジェ達には関係ない話だから言わなかったが、考え自体は随分前から持っていた。
誰も言い出さねば私自ら頼んでいただろう。改めて言う、これがそなたらにとって本当に最後となる仕事だ」

「これは俺が俺やベアトを救うと言う事でもあるんだよな」

「ああ、そなたらのような存在が生まれずに済むカケラにしたい」

「耳に痛い言葉だぜ」

「あの、カケラが一つになったとして、私たちはどうなってしまうのでしょうか?」

「どうもならない。そなた等はすでに上位の存在になっておる」

ああだこうだ言っているバトラとベアトにベルンが催促をする。

「早く始めて頂戴、退屈は嫌いよ」

「実質的には第9のゲームって事になるのでしょうか?ゲーム性は皆無ですけど。旅って言った方が近いですねぇ」

「第9の晩に魔女は蘇り誰も生き残れはしない。当然ね、こんなアンハッピーなカケラ共は一掃してやるわ!」

「そしてたどり着くのですね!本当の黄金郷に!」

エリカの言葉を聞いてバトラがベアトを見る。ベアトは黙って頷いた。

「しょうがないな。じゃあ、第9のゲームを始めるぜ。タイトルは…」

そしてバトラは最後のゲームの開始を宣言した。

「うみねこのなく頃に救 “salvation for the golden witch”の始まりだ!!」

うみねこのなく頃に救

EP9 "salvation for the golden witch"
     (黄金の魔女の救済)

期待
あとヱリカの「え」は、わゐう「ゑ」をのカタカナ表記
面倒だけど「え」を変換していけば見つかるはず

間違えてましたね、すみません。

勝利条件①『六軒島爆発事故』の真相を暴くこと

・事件に対する警察の対応について

「しかし、猫箱を開けるったってなあ…」

ここはカケラの海、バトラはそこで顎に手を置き渋い顔をしていた。

「何をためらっておる?とっとと開けて真実を晒してしまえば良かろう?」

隣でベアトがせっつく。

「だがなあ…」

「?」

バトラは自身が直面している問題をベアトに話した。

「猫箱を開ける。口で言えば一言で言える簡単な事なんだが、実際は少し面倒な手順を踏む必要があるだろう?」

「そんな物パーッとやってしまえば良かろう?」

「これがあの難解なゲーム盤をいくつも作ってきた奴の言葉だと思うと泣けるぜ」

「むむっ、馬鹿にしておるな?妾だって分かっておる。カケラを紡がねばならんのだろう?」

 面倒だ、と言う顔でベアトが答えた。

「そうだ。猫箱をただ開けて見せるのは簡単だ。俺らは既に真実を知っているんだからな。
だが真実に至ってない奴らは、例え目の前で真実を見せられても、はいそうですかと簡単には信じない」

「だから、カケラを紡ぎながら真実を見せてゆく必要がある、と言う訳だな」

「証拠を集めて真実を暴く。推理の基本だな」

「では早速始めようぞ馬鹿バトラ…」

「お前がせっついたんだろ!?…じゃあ、まずはそうだな最初のゲーム盤にちなんで警察の内部資料でも提示してみようか」

「うむ。それが良いぞ。警察の調書を読めば事故で命を落とした者達の名前、性別、人数が確定する」

「俺らがカケラを集めても良いんだが、ここはやっぱり…」

「うむ。あやつに活躍してもらう方がより信頼性が高まるだろうなァ。上位存在の辛いところよ、ククッ!」

 苦笑いするベアトの横でバトラが手をかざす。すると一つのカケラがすうっとその手元に寄ってきた。

「すまない縁寿、もう少しだけ頑張ってくれ」

 カケラの中を覗くと、18歳の縁寿が見えた…。

「お嬢、頼まれた物を持ってきましたぜ」

「ありがと、お母さんには…」

「ええ、もちろん内密にです」

「そう、良かった。お母さんは頑なに話してはくれないけれど、でも、私だってもう子供じゃない。
どんな真実だったとしても、私はちゃんと知りたいの」

「これは…」

バトラが目を見張る。カケラの中には縁寿がいる、天草がいる、
そして、縁寿の話からすると絵羽もいると言うのだ。

「今までの物で再構築するとこの様なカケラも生まれるのだな」

ベアトが頬を緩ませる。これは事故後、縁寿が絵羽と仲違いをしなかったカケラ。
世間からの冷たい風を二人で乗り越えてきたカケラ。
ゆえに縁寿はごくごく普通の学校生活を送る高校生だった。

真里亞の日記から白い魔法を学び、謂れのない誹謗中傷から黒い魔法を理解し、
それでもそれなりに信頼できる友達を作り、「普通に」生きてきてきた。そんな縁寿だった。

「苦労したんですぜ、この事件に関しては。
事件の渦中にいたのが当時の日本を代表する大企業右代宮グループの一族だった事や、
昔に遡ればGHQも一枚噛んでいるって言う事、更には世間の大騒ぎと、
ややこしい事態が2つも3つも絡んでいるもんで公安で預かられていたんです」

「でもちゃんと調書は持ってきてくれた。流石よ天草。後でご褒美を…」

 縁寿が天草の頬をツツとなぞる。そっと距離を置く天草。

「いや、いいっす。そんな事したら会長に殺されますんで」

「チキンね」

「百舌の早煮えは御免ですぜ」

「どっちかって言うと雲雀の方が天草らしいわね」

「!?」

「冗談よ?特に意味なんてなかったんだけど?」

「…」

キョトンとした顔で自分を見つめる縁寿を見て、天草はホッと息を吐いた。
誰にだって、思い出したくない過去はある物だ。

「で、この調書なんだけど」

「はい、六軒島の事件・・いや事故現場だけではなく、川畑氏、南條家、熊沢家、福音の家の関係者、当日シフト外だった使用人達、
各親族の会社の人達や懇意にしていた取引先の方々、お嬢の従妹達のご友人などからの事情聴取も載っています」

「そう、事故直後でまだ福音の家はあったから色んな人の話が聞けたのね」

「警察は優秀ですぜ」

「バカな警察なんて推理小説の中だけで充分よ。ともかくこれで、」

「「あの日六軒島に誰が行っていたのか、六軒島に一体何人いたのかが分かる」」

「あの最初にボトルで見つかった偽書、あれの最期じゃ“警察「爆発して木端微塵になったから何にも分かりませんww」何てなってたけど、
そんな馬鹿な話あるわけないじゃない。警察は現場が駄目なら周りを虱潰しに探すわ。人海戦術なんて彼らの得意技よ」

「それしかないとも言えますがね」

「あら、言うわね」

「内部の情報を操作して指揮系統を乱せばコッチのもんです」

「あなた、前から思ってたけど警察相手に情報戦とか仕掛けてそうよね」

「っ!?」

高笑いする少女でも思い出したのだろうか再び血の気が引く天草。
昔取った何とやら、墓穴を掘ったとも言えよう。

 そんな天草を気にするでもなく縁寿は調書をペラペラとめくり始めた。

「まずは、おじいちゃんの事ね。ほとんどの偽書では事故当日には既に亡くなっている事になっていたけど実際はどうだったのかしら…」

「カルテは南條医師が六軒島に持って行って一緒に木端微塵になっちまいましたからね」

「そこで知りたいのはシフト外だった使用人達の証言よ。事件以前の六軒島ではどんな暮らしが営まれていたのか。それが知りたいわ」

しばらくページを捲る縁寿。ふと、あるページで手が止まった。

「天草、これ」

縁寿が指差す箇所を見る天草は苦笑する。

「ご老体、無茶しすぎですぜ」

それは、使用人達が皆一様に証言した事件前日に六軒島であった事だった。

“お館様は我々事件当日に来ない使用人達の為に、プレ・ハロウィンパーティを開いてくださったんです”

“パーティの席で明日は久々に戦人様のお顔を見る事が出来るってそれはもう喜んでおられました”

「そっか、普通に考えたら当日行った使用人だけ特別扱いするってのは不公平よね」

「それにしても、ハロウィンパーティですかい。やっぱり金蔵さんは相当なオカルトかぶれだったんですかね」

「そうね…。オカルトかぶれだったって事はあのボトルメールや財界人の証言からも分かってるわ。
そんな人がハロウィンを無視するなんてそっちの方が変な話よ。
仮におじいちゃんが86年に既に亡くなっていたならハロウィンパーティなんて開けない。
そしたら怪しまれるわ。絶対にボロが出て事態は明るみに出ていた筈よ。でも実際にはそんな話は出ていない。
それはつまり、86年の当時におじいちゃんはピンピンしていたって事じゃない?」

「ですねえ」

ともかく、おじいちゃんは前日までちゃんとピンピンしていた事が分かったわ。
次は『どの使用人がいたのか?』ね」

「そうね。あの日行っていた使用人は………熊沢さん源次さん安田さん郷田さん、それに医者として南條先生の5人となっているわ。」

「この調書はボトルメールの偽書が流れ着く前の物だからですかね。嘉音なんて名前は誰も口にしてませんぜ」

公式の記録には決して残らない『嘉音』ね、と調書を一瞥して呟く天草。

「ええ、そのあたりに付いてはもうちょっと後で、ね?せっかちだと女の子に嫌われるわよ?」

「お、お嬢?」

「何なら私が、『鍛えて』あげましょうか?」

「縁寿―――っ!!こ、こらっ、そんな事っ!そんな事っ!?お、お兄ちゃんはっ!お兄ちゃんはあぁあーーーーっっ!」

「こらっ!バトラ、落ち着けっ!暴れるでないっ!」

乱心する魔術師とそれを諌める魔女、上位世界では中々な騒ぎが起きていた…。

「ほ、ほらっ、絵羽が呼びに来たようだぞ?」

「うん?」

見ると部屋の扉からノックの音が聞こえ縁寿は慌てて捜査資料を隠していた。
扉の外から絵羽の「縁寿―!御飯に行くわよー!」と呼ぶ声が聞こえる。

「ただ、使用人については偽書も含めてこの事件に深い関わりがあると思うわ。
週末にでも福音の家には実際に行って話を聞いてみたいわね」

「どうやって行くんで?」

縁寿はジッと天草の顔を見る。たじろぐ天草

「ごめんですぜ?また会長にどやされちまうのは…」

「お母さんにお説教されるのと、私に無視されるのと、どっちが良い?」

天草の目を真っ直ぐ見つめる縁寿。

「…分かりましたよ」

「よろしい!」

「縁寿―!まだ用意出来ないのー?」と絵羽の声が再び聞こえる。

「はーい!今行きまーす!」

そう返事をしてから縁寿は天草と共に部屋を出て行った。

以降《赤字》〈青字〉とします。

珍しいSSだ

「…さてバトラよ、ここらで赤字を使っておくか?」

「そうだな、かなり重要な情報もいくつかある事だし、その真偽についてはっきりさせておこうか」

《六軒島爆発事故について警察が調べ上げまとめた『調書』の記述は全て真実である!》

「警察と言う公権力からの質問に対して犯人でもない一般人が嘘を付くと言うのもおかしな話だもんなァ。
赤字と同等の真実性を有していて当然よ」

「大体は縁寿の説明の通りだ。推理ゲームのゲーム性を保つ為には、現実の世界で強権を持つ警察には無能でいてもらわなければならない。
だからゲームの中の『調書』はあんなお粗末な物だったんだ」

「お粗末とは何だお粗末とは!」

テーブルを叩いて講義するベアト。ガチャガチャと茶器とクッキー皿が揺れた。

「ははっすまん!」

「バトラが第6のゲームでガムテープの設定を変更したのと理屈は同じよ。
違うのは妾はそれで煙に巻き、バトラは己の首を絞めた点だな」

「そ、その話はやめてくれ…」

「では、何か言う事があるのではないか?」

バトラをじっと見つめるベアト

「ベアト」

「うむ」

「愛してる」

「ば、戦人さん//…て違います!」

「流石に誤魔化せなかったか。お粗末な調書なんて言って悪かったよ」

「分かればいいんです」

ベアトの機嫌も直して気を取り直すバトラ。

「さて、ここまでこのカケラを見て分かった事が幾つかあるな」

「うむ。一つ、現実世界では事故前日まで金蔵は生きていた事。
一つ、事故当日の六軒島ではハロウィンパーティが開かれていたに違いない事。
一つ、《嘉音と言う使用人は現実にはいない》と言う事だな?」

「そうだ。まあ、嘉音君については後で詳しく追う事にして。
では、現在すでに現実世界の事故について明らかになっている事にはどんな事があった?」

「それについてはほら、縁寿が話しておるようだぞ」

天草が運転する車の中、縁寿は絵羽と話している様だった。

「ねぇ、お母さん」

「はぁ。縁寿がこんな言い方で呼ぶ時は大抵、録でもない事を言って来るのよねぇ」

「録でもないって…。確かにそうだけど」

「で、なあに?」

「おじいちゃんってホントに黄金なんて持ってたのかなあ」

「その話は止めなさいっていつも言ってるでしょう?」

「でも、碑文の謎とかってすっごくミステリアスじゃない」

「そう言う所はホント戦人君譲りね…」

「そうなの?」

「えぇ、推理小説とか手品とかクイズとかパズルとか、とにかく「謎」が大好きで、島で会うたんびに驚かされていたわ」

「そうなんだ」

「…今、世の中には“あの日”の事を騙った偽書とか言う物がいっぱいあるでしょう?」

「うん」

「あれはおじいさんか、蔵臼兄さんの家族か、使用人の誰かが書いたに違いないわ。
普段から住んでないとあそこまで詳細には書けない。少なくとも真里亞ちゃんではないわ。
真里亞ちゃんの年で書けるような物じゃないし」

「じゃあ、碑文は…」

「ええ、あったわ。ベアトリーチェの肖像画と共にね」

「絵を描いた画家とか碑文を彫った彫刻師の名前とかって分かる?」

「調べれば分かるだろうけど…ってあなた何を考えてるの?行って原版見せてもらおうとか考えちゃだめよ?」

「………だってお母さん何も教えてくれないし」

「女は持ってる秘密の数だけ綺麗になるのよ」

「確かにお母さん老けないもんね。魔女みたい」

「案外ホントに魔女になっちゃったのかもね…」

「会長、お嬢、そろそろ着きますぜ」

天草が真後ろを向きながら言う。

「ちょっと前!前!危ないわよ!」

「へへへ、これ位ちょろいもんです」

「お母さん、私だってもう子供じゃない。どんな話であっても最後まで聞けるから。
だから教えて。どうしてお母さんはあの日、一人で九羽鳥庵にいたの?」

「………」

「お母さんは碑文の謎を解いて、そして黄金と九羽鳥庵への道を見つけた。違うの?
爆発事故は旧日本軍の残した爆発物が原因じゃないの?」

「………」

しばし車内に漂う無言の空気。それを破ったのは縁寿だった。

「ごめん」

「いいえ、縁寿には悪いと思っているわ。でも、何も話せないの。覚えてないのよ本当に。
気絶して、起きたら病院で。島が爆発して私だけが助かったって言われたけど。私はパーティしてた事しか覚えてなかったから…」

「…うん、分かった」

「お嬢も会長も、そんなしけた顔じゃあご飯がおいしくなくなっちまいますぜ!」

「そう、ね。うん。そうよね!お母さん!早く降りて行きましょ!」

「…ふふ、そんなに慌てなくても予約してるんだから大丈夫よ。」

「お嬢も会長に気を使わせちまわないように、頑張ってるんですぜ」

「知ってるわ。私の可愛い、「娘」の事だもの」

「はぁい!アンタ達がまた面白い事してるって聞いて、来たわよん♪」

カケラを覗いているバトラとベアトの背後に黄金の嵐と共にエヴァが現れた。

「はぁ。この優しい笑顔の絵羽伯母さんに引き換えお前は…」

「こやつの笑顔は正に「邪悪」よのぅ…」

現れたエヴァとカケラを見比べ、バトラとベアトは2人して溜め息をつく。


「ちょっと!人の顔見るなりそれは酷いんじゃないの!?
私は「純粋」なの!分かる?「じゅ・ん・す・い」!!」

「無垢な赤子の悪意なき非道こそ真の悪と言えるよな」

「そう言う意味では確かに純粋よのwwwwww」

「ヘソでも噛んで死んじゃ「「えば~!?」」…って人のセリフ取らないでよ!!」

エヴァのセリフを取ってケラケラと笑うベアトと頬を膨らませて地団太を踏むエヴァ。
エヴァはしばらく憤っていたが、やがて本題に入った。

「で、今は何をしてるのよ?」

「猫箱を開ける準備、だな」

「ふーん…。今どの辺?」

「縁寿が伯母さんに事故当日の行動について尋ねた所だ」

ベアトがカケラをエヴァに差し出して聞いた。

「丁度良い。エヴァよ。この絵羽は本当に記憶を失っていると思うか?」

エヴァはカケラを覗き絵羽を観察する。

「んー。事故の衝撃とか、精神的な負担とかで記憶がなくなっちゃうってのはよくある事なんじゃないの?
案外、ホントに忘れてるだけなのに、「真実を黙ってるんだー!」って世間が穿って見てるだけなのかもねぇ。
って私はもうアイツとは違う存在なんだから、当てになんかならないわよ!?」

念を押すエヴァを見てケラケラと笑うベアト。エヴァはそんなベアトを尻目にバトラの方を向いた。

「それより、そんな事よりも重要な事実があったんじゃないのぅ?バ・ト・ラ・君?」

エヴァの方から顔を逸らすバトラ。

「…ん?何だバトラ。今のシーンでそんな大事な事が言われていたか?」

ベアトは首を傾げている。

「何だと思う~?」

ニヤニヤとベアトを見つめるエヴァ。

「碑文が本当にあった事か?」

「違うわ~」

「金蔵か長男一家、もしくは使用人の誰かがボトルメールを書いたって事?」

「違うわ~~」

「…じゃあ、事故の時に絵羽伯母さんが九羽鳥庵で救出された事だな?」

「違うわ~~~」

「じゃあ一体何だと言うのだっ!?」

エヴァにおちょくられて切れるベアト。そんなベアトにバトラは答えを教える。

「ベアト。正解は“戦人は「謎」が大好きな少年だった”って事だ」

「…は?」

何を当たり前な事を、とポカンとした表情でバトラを見つめるベアト。

「バトラ…」

「ベアト…」

そしてそのまま二人は近づいて…。

「はーい、そこまでよー。ヤるなら後にしてねー」

もの凄い棒読みと白けた顔で止めに入るエヴァ。

「ゴホン!…つまりだ、「謎」を好む俺が、六軒島に久しぶりに戻ったんだよ。六年前と違って“碑文がある”六軒島に」

「あ…」

「戦人君は果たして碑文を無視するかしらねぇ?」

「そう言う事だ」

・右代宮家の財産について

「碑文が実在した事は分かった。しかし、恐らく真実に至ってない者達の中には、このような疑問を持つ者がいるのではないか?」

「何だ?」

「碑文の答えは正しいのか?10トンの黄金と爆薬は実在したのか?」

「六軒島が爆発した原因についてなら調書に載っているぞ」

“爆発の原因は爆薬によるもの。調査の結果、その成分比より旧日本軍が用いていた下瀬爆薬(別名:黄色薬)の物と結論付けられる。”

「ふむ。これなら爆発の原因は旧日本軍が六軒島に残した火薬による物と断定できるな」

「そしてもう一つ、ボトルメールの存在から導き出される事実がある」

「それは妾にも分かるぞ。碑文は戦人が戻る前に誰かに解かれていたと言う事だな?」

「そうだ。でなければ」

「出なければ妾はボトルメールを書けないからの。あのボトルメールの中で真里亞が持っていたとされる手紙は、
碑文を解き火薬の存在を知っている者でなければ書けぬ内容だ」

「そう言う事だな」

「碑文の謎や妾の肖像画は実在した事。これは熊沢家や再建した福音の家の様子から分かる。
事故があった時、戦人は潜水艇の発着場跡に、絵羽は九羽鳥庵にいた事。
戦人はその後、記憶を失い十八として生きる事となった事。
絵羽は頑として真相を語ろうとはしなかった事。これ位、か?」

「事故が起きたのは午前0時丁度だった事。もあるぞ」

「そうだったな」

「では、事故当日の六軒島であったであろうイベントにはどんな物があったろうか?」

「それは、まずはさっき言ったハロウィンパーティだろ?それから親族会議もあっただろう。
後は、全員やったかは知らないが碑文の暗号に取り組むってのもあるんじゃないか?」

「おいベアト、良く考えろ。お前はどうやって誕生したんだ?」

「へ?」

「もし金蔵が遺産分配の件を考えるとしてベアト、お前を無視するか?」

「ああ、確かに。それは少々、いや大分変な話だなあ」

「〈86年の親族会議では『ベアトリーチェ』の紹介と言う一大イベントがあった〉と考える事が出来るだろう?」

「すっかり忘れておったわ」

「それと、遺産分配と聞いてもう一つ思い出す物があるだろう?」

「それは、妾が送ったクレジットカードか」

「そうだ。一体何を意図してあのクレジットカードは送られたのか?」

「分かるかの?推理してみよ」

ケラケラと笑うベアト。

「あれだけの金だ、間違いなく黄金を換金したものだろう。
と、言う事はあのカードはベアトが送った物だと推測できる。
と、言う事はだ。カードを郵送した時点でお前は右代宮家を少なくとも滅ぼそうとは思ってなかったんじゃないか?
むしろ救おうとしていたとも見える」

額を指でトントン叩きながら思考を深めてゆくバトラ。

愛おしそうにそれを見つめるベアトには当然気づいていない。

「右代宮家の真の当主としての仕事をしたって所か?茶目っ気たっぷりに」

バトラがふっと顔を上げ、ベアトをじっと見つめた。

ヒュー♪ヒュー♪と下手くそな口笛を吹いて慌ててそっぽを向くベアト。

「ってお前が正直に言う訳もないか」

食事が終わり、絵羽が支払いをしている。縁寿と天草は一足先に店の外に出ていた。

天草が店の前まで車を持ってくる。それに乗るなり縁寿がポツリと言った。

「カード」

「何ですお嬢?藪から棒に」

「今はお母さんが預かっているあのカード。あれって何だったのかしら?」

どうやらカードで支払いをしている絵羽を見て思った様だ。

「あの、事件の直後に各親族の家に届けられたって言う?」

「ええ」

「ワイドショーや偽書何かでは慰謝料だとか悪趣味な悪戯だって言ってましたがね」

「本当にそうなのかしら?」

「と言うと?」

「もし私の考えが当たっているなら、「あの日」の六軒島で起きた爆発の真相は全く異なる様相を見せるかもしれない」

「何か考えがあるんですね?」

「ええ」

やがて店から出てきた絵羽を載せ、車は駐車場を出た。

窓の外を見て縁寿が呟く

「『愛がなければ視えない』ね」

「縁寿、何か言った?」

「いいえ、何でもないわ」

今一度、縁寿の真実を求める旅が始まる…

sageならメール欄に「saga」って入れた方がいい
殺.すが[ピーーー]になるから

ごめん、ミス↑
とりあえずメール欄にsagaって入れた方が良い

うみねこSSキターーーー!!!
エタらず頑張ってください。

ご指摘ありがとうございます!

「さあ天草、出発よ!」

「会長には見つかってないでしょうね?」

「もちろんよ」

翌日早朝、縁寿と天草はこっそりと家を出発していた。

「書置きは?」

「しておいたわ」

「何て書いたんです?」

「『今日は天草とデートをしてきます。夕飯までには戻ります。』って」

「オーマイゴッド…」

「何よ?不満?」

「光栄ですよ。で、まずはどこに向かいます?
遊園地?水族館?動物園?植物園?ランチにこじゃれた丘なんてどうです?」

「全部却下よ。まずはベアトリーチェの肖像画を描いた絵師の所へ行くわ」

「…へい」

「先方にはもう連絡取ってあるから」

「準備が良い事で」

「昨日はドキドキして寝れなかったの。少し寝るから静かにしてね」

「了解です」

「ククッ、天草の奴も苦労しとるようだの」

「それにしても縁寿の奴、何をするつもりなんだ?」

「妾には大方の予想が付いておるぞ」

首を捻るバトラを見てベアトが笑う。

「今更絵師の所に行ってどうするんだよ?」

ベアトがカケラの海の彼方に手をかざす。
スッと寄って来る1つのカケラ。

「縁寿はきっと、これを知りたいのだろうよ」

青文字

赤文字もあるよ

ありがとうございます!
使わせて頂きます!!

1983年7月

「どうだい?1つ大きな仕事をしてみないか?」

そもそもの始まりは、なじみの同業者から掛けられたこの一言だった。

「ふー、流石に東京に出て来るのは疲れるな」

田舎でのゆっくりとした生活に体が慣れてきたからだろうか、
東京の雰囲気は何だか落ち着かなかった。
 
指定されたのはとあるホテルのレストランだった。
ランチの時間と被ったのだろう、店内は混んでいた。
入口で名前を告げ、窓際奥の席に案内される。

自分の名前が書かれた『予約席』のプレートを見て軽く感動した。
良くこんな席を取って置けた物だ。相手はよっぽどの大物と見える。
しばらく待っていると執事然とした年配の男性がやってきた。

「お待たせいたしました。私、右代宮家の執事頭をしております呂ノ上源次と申します。
本日はお忙しい中来て下さり、心より感謝致します」

右代宮家?それってまさか、日本屈指の右代宮グループの?
これは本当にとんでもないのが来たぞ…。

そこで私は納得する。だからこんなレストランのこんな席が取れたのか。
このホテルも右代宮グループの系列だからな。

「いえいえ、画家なんて商売は、年中休みみたいな物ですから」

「そうですか。では、早速本題に入らせて頂きます」

特に感情を出す事もなくサクサクと話を進める源次さん。
う~ん。やっぱり執事よりメイドの方が良いなぁ。

「…如何でしょうか?このお話」

おっと、いかんいかん。インスピレーション(雑念)を振り払い源次さんを見る。

源次さんの話によると、壁一面に飾る様な大きな肖像画を描いて欲しいとの事だった。

ただ、

「詳しい話を聞かない事にはどうにも…」

「それが、訳あって詳しい話は出来ないのです。
この仕事を引き受けて下さる方のみにしか事情を話せない物ですから」

どうも肝心の肖像画の人物についてははぐらかされるのだ。
成る程。それで他の仲間は依頼を受けなかったのか。
怪しい匂いがプンプンしているもんな。

すると大柄な給仕が料理を運んできた。

「失礼いたします。お料理をお持ちいたしました。本日の料理は…」

男は料理の説明を詳しく始めた。

うん、薬食同源。薬と一緒で食事も説明を受けてから食べると美味しさが増す!気がする。

「郷田、今は大事な取引の最中だ。もう下がりなさい」

「畏まりました」

大柄な給仕、郷田と呼ばれた男は少し残念そうな顔をすると下がって行った。

しばし食事を楽しんだ後、

「分かりました。この話、お受け致しましょう」

私は源次さんにそう告げた。
こんな大きな仕事は逃すわけにはいかない。
それに、面白そうだ。

「ありがとうございます。では一度右代宮家の本家に来て頂きたいのですが」

どうやら本家は六軒島と言う島にあるらしい。
私は源次さんと島に渡る日取りの調整に入った。

「では、私はこれにて失礼いたします」

源次さんが席を立つ。
料理はまだ続くので、私はもう少しここでゆっくりしていて良いらしかった。

「では、当日は宜しくお願い致します前原さん」

お辞儀をして去ってゆく源次さんを目で見送ると、
私は入れ違いにやってきた料理に舌鼓みを打った。

1998年10月

「そうして私は83年の8月に六軒島へ向かったのです」

右代宮グループの系列であるホテルのレストランにて、
私達は今なお一線で活躍する画家、前原伊知郎との接触に成功していた。

「そう、丁度この席でした」

15年前の事を思い出したのか目を細める前原氏。

「あの日は私の人生にとって大きな転換期でした。今でも鮮明に覚えています」

前原氏は続ける。

「恥ずかしながら、それまで私は絵と言うよりはイラストを専門としていましてね。
ちゃんとした絵画を仕事で扱ったのはあの肖像画が初めてだった。あれは言わば処女作だったのですよ」

「それで、六軒島の『どこ』に上陸したのですか?」

縁寿が前原氏にそう尋ねると、

「恐らくは、九羽鳥庵と呼ばれる場所に」

前原氏は自身なさげにそう答えた。

「舟から下りる時に目隠しをされましてね。道や建物の外観などは分からなかったのですが、
中を少し見た感じではどうも別荘の様だと思ったのですよ」

縁寿が更に質問を畳み掛ける。

「それで前原さん。“あなたは、そこでベアトリーチェと会ったんですか?”」

「成る程、縁寿は『あれ』を証明しようとしているのか」

上位世界からカケラを覗いていたバトラが納得している。

「くくっ!縁寿はつくづく妾を殺したいとみえるな」

「元々『いなかった』んだ。元ある形に戻すのが筋って物だろ?」

苦笑いをするベアトにバトラはしれっと言った。

「辛辣だなァ、バトラ…」

おおお、そういや画家だった……こう繋げるかあ

前原氏は逡巡した後、覚悟を決めた様に縁寿と天草の方を向いた。

「ええ、私はベアトリーチェに会いました。年は高校生程、金髪のそれはもう綺麗な女性でした。
私はそこで彼女をデッサンした後に、あの肖像画を描いたのです」

「出来たのは84年の4月でしたっけ?」

「ええ。それはあの『ボトルメール』とやらにあった通りです」


……
………

「貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました」

縁寿と天草は前原氏と共にレストランを出た。

ホテルの外でタクシーに乗る直前、2人の下に戻って来た前原氏が言う。

「お二人は、86年の『あの日』に六軒島で何があったのかを調べているんですよね?」

「ええ」

「では、お願いできませんか?彼女を、ベアトリーチェを助けてあげて下さい」

「?」

「今、世の中にはネットや雑誌で様々な憶測が飛び交っています。
六軒島の魔女、黄金の魔女、ベアトリーチェはそんな風に呼ばれています。
でも!私にはそうは思えんのです。あの日私が見たベアトリーチェは、
彼女は!!あんな事が出来る様には見えなかったのですよ…」

「分かったわ」
「お嬢?」

「画家であるあなたの目に、ベアトリーチェがそう映っていたと言うのなら、私はそれを信じる。
六軒島のみんなと一緒に、ベアトリーチェも救い出して見せるわ」

「お願いします」

深々と頭を下げて、前原氏はタクシーに乗って行った。

・ベアトリーチェと言う存在について

「縁寿がこれからやろうとしている事が俺にも分かったぜ」

「うむ。縁寿が今やろうとしている事、それは登場人物の整理だ」

「特に、妾についての整理をするつもりの様だなァ」

「普段『ベアトリーチェ』と言っているが、今までに沢山のベアトが出て来たよなあ」

「実体のある妾も、ない妾もな」

「正に虚実が入り混じった猫箱って訳だ」

「女はミステリアスな方が魅力的だろォ?」

「清楚な子が良い」

「そんな、戦人さん…」

「まあ、そんなのは置いといて。縁寿が今念頭に置いているのは、いわゆる『初代ベアトリーチェ』と『二代目ベアトリーチェ』、そして『86年のベアトリーチェ』の3人だろう」

「さあ、縁寿。上手に妾を否定して見せろよォ?」

考えてみたら、どのベアトも悲惨な運命だったなぁ……

続いて川端家へと車を走らせている中、縁寿が天草に話しはじめた。

「さっきの前原さんの話、あなたはどう思った?」

「ベアトリーチェを助けて、ねえ。ちょっと信じがたい話ではありますが。
あの爆発を事故ではなく事件と考えた場合、犯人の候補として上がるのは会長か、お嬢んとこの次男夫婦、
そして愛人としてのベアトリーチェですからねえ。まぁ、魔女ベアトリーチェって線もアリですが」

「じゃあ、天草はどれが真実だと思うの?」

「事故、と言いたいんですが。それにしては会長の口が重すぎる」

「でもお母さんは記憶がないって言ってるじゃない」

「しかしそれだと、なぜ会長が九羽鳥庵にいたのか?について説明が付けられないんですよ」

「天草、あなたワイドショーと同じ事言ってるわ」

「失礼しました。でも、俺は会長を信じてますぜ」

「じゃあ、留弗夫父さんと霧江母さんが犯人って思ってるの?」

「それもノーです。お嬢1人を置いておく理由がありませんし、それ以上にお嬢のお兄さん、
戦人さんが島に戻って来たタイミングで島を吹っ飛ばすなんて訳が分かりません」

「だから、消去法でベアトリーチェ?」

「しかし、前原氏はそれも違うと言う。こりゃ堂々巡りですねぇ」

考え込む天草に縁寿が諭すように告げる。

「天草の考え方はこうよ、『お母さんは何か隠している。だから、爆発は事故じゃない』。
でも、こうは考えられない?『爆発は事故。でも、お母さんは何かを隠している』」

「となると、考えられるのは『うっかり誰かがドジっちまった』って線ですかねえ」

「それは分からないわ。でも、元船長である川端氏に話を聞けば何かが分かるかもしれない」

結論から言うと、川端氏との接触は難航を極めた。

かつて警察やテレビレポーターや雑誌記者達が連日押しかけてきた事も原因の一つであるが、
それ以上に偽書作家達もが『取材』と称して押し寄せてきていた事が大きかった。

以前の人の良い船長の姿は影を潜め、頑固で寡黙な老人がそこにはいた。

「あのー、川端さんで間違いないでしょうか?」

「そうじゃが」

「ちょっとお聞きしたい事が…

「知らん。話す事は何もない。帰ってくれ」

最後まで言う前にピシャンと勢い良く閉まる扉。

「お嬢、船長にはアポ取ったんで?」

天草が縁寿の顔を覗く。

「いいえ、まさかこんな対応をされるとは思ってなかったから…」

「無駄足でしたかね?」

肩を竦めて踵を返す天草。
しかし、天草に反して縁寿は閉じた扉に向かって叫び始めた。

「川端さん!私は右代宮縁寿です!私はあの日の真実を求めてここに来ました!!
お母さんも!お兄ちゃんも!従妹のみんなも!おじいちゃんも!ベアトリーチェも!
全員をあの日の悪夢から助ける為に!!!」

「ちょっとお嬢!」

近隣の事などお構いなしに叫び始めた縁寿を制止しに掛かる天草。
だが、天草が止める前に扉は開いた。

「えん、じゅ?」

目を丸くして縁寿を見つめる川端船長。
片翼の鷲の紋章が入った縁寿の服をまじまじと見つめていた。

「縁寿ちゃん、なのかい?」

「ええ」

「入ってくれ」

川端船長はそっけなくそう言うと、縁寿と天草を中に招き入れた。

「で、縁寿ちゃんは何が知りたいんだね?」

値踏みする様な目で縁寿を見つめる川端船長。

「あいにく私はただの船長だったんだ。人を乗せて、降ろす。私が出来た事はそれだけだったよ」

過去形で話す川端氏。そこには彼らの最後の目撃者としての苦悩がにじみ出ていた。

「川端さん、私が聞きたい事は『あの日』の事ではありません」

「何?」

訝しむ川端氏に向かって、縁寿は尋ねた。

「九羽鳥庵について、川端さんが知っている事はありますか?あるのなら全てお聞かせ下さい」

しばし流れる沈黙。そしてついに、川端氏はその重い口を開いた。

縁寿と書いてえんじぇと読む

失礼。変換する時にえんじゅと打つものだからうっかり…

「で、縁寿ちゃんは何が知りたいんだね?」

値踏みする様な目で縁寿を見つめる川端船長。

「あいにく私はただの船長だったんだ。人を乗せて、降ろす。私が出来た事はそれだけだったよ」

過去形で話す川端氏。そこには彼らの最後の目撃者としての苦悩がにじみ出ていた。

「川端さん、私が聞きたい事は『あの日』の事ではないわ」

「何?」

訝しむ川端氏に向かって、縁寿は尋ねた。

「九羽鳥庵について、川端さんが知っている事、あるのなら全て教えて」

しばし流れる沈黙。そしてついに、川端氏はその重い口を開いた。

「『偽書』は読んだのかい?」

「ええ。“Banquet”“Alliance”“End””Dawn”…全て読んだわ」

「偽書作家どもに話してしまった事は失敗だった」

「おじいちゃんに罪を感じる事はないわ。みんな多かれ少なかれ似たような扱いだし」

「そう言ってもらえると助かる」

「今から30年程前までは船で九羽鳥庵に物資を運んでいたと言うのは真実なの?」

「ああ」

「約20年間?」

「その事を話したのはわしだ。真実だよ」

「九羽鳥庵にいたであろうベアトリーチェに会った事はないのね?」

「ああ、わしは物資を運んでいただけだ」

「ありがとう。それさえ分かれば良かったの」

「これだけ、かい?」

拍子抜けした声を出す川端氏に縁寿は満足げな声で答えた。

「ええ充分よ。川端さんのおかげで、おじいちゃんに楼座伯母さんにベアトリーチェを助ける事が出来るわ」

「わしは、…役に立ったのか?」

「ええ。もちろんよ。川端船長」

「船長、…船長か。そうか。…わしは、船長だったんだな」

ずっと忘れていた事を思い出したかの様にその言葉を呟き、噛み締め、
ぎゅっと目を瞑る川端船長。目を開けた時、目元は濡れていた。

「縁寿ちゃん、本当にありがとう」

何に対しての「ありがとう」なのか。それはきっと川端氏にも分からなかっただろう。

「さあ、今度はわしの番だ。縁寿ちゃんの事を聞かせておくれ」

その後、川端さんに近況を話したりなどして時間は過ぎて行った。

「それじゃあ、川端さん。また来ても良い?」

「ああ、何もない所だが遊びにおいで。絵羽さんにも宜しく伝えておいてくれ」

川端氏の言葉にギクリとする2人。

会長にばれたらドヤされる…
お母さんにばれたら怒られる…

目を合わせる縁寿と天草。

「…善処しときます」
「…善処するわ」

首を傾げる川端氏。そして、ふと妙な顔をした。

「それにしても」

「なんです?」

「本当に『偽書』と同じような状況になっちまったなあ。縁寿ちゃんと天草さんが来て。
まるでわしが物語の登場人物みたいで、妙な気分だ」

「へへっ、オレまで出してくれるなんて偽書作家の奴らはよっぽど調べてるんですぜ」

川端氏の言葉に笑う天草を見て、渋い顔をする縁寿。

「あなたは悪目立ちしすぎなのよ。週刊誌でも私とあなたがまるでカップルみたいに言うんだから。勘弁して頂戴」

目を合わせる天草と川端氏。

「天草さんも大変なようじゃな」

「先は長いですぜ」

車が発進する。川端氏は車が見えなくなるまで見送っていた。

「で、お嬢?」

「何?」

「そろそろ俺にも教えて下さいよ。
親族の家に送られてきたカードの意味。
金蔵氏や楼座氏やベアトリーチェを救うと言う言葉の意味、
会長は犯人ではないのに何かを隠しているかもしれないって言葉の意味。そろそろ限界ですぜ」

「分かったわ。もうだいぶ情報も出揃ったし、私の考えを話すわ」

一旦言葉を切る縁寿。そして続けた。

「今からベアトリーチェを、殺すわよ」

ハンドルを切りそこなう天草。

「お嬢?聞き違いですかい?今何て…」

「ベアトリーチェを殺すって言ったのよ」

「救うんじゃなかったんですか?」

「ええ、救うわ」

「でも殺す?」

「ええ」

「禅問答ですかい?」

「いいえ。ただ論理的に話しているだけよ」

「さっぱりですが」

戸惑う天草に、縁寿は毅然と答えた。

「天草はごっちゃにしてるんだわ。救うべき『本当の』ベアトリーチェと、殺すべき『幻想』のベアトリーチェをね」

「『ベアトリーチェ』と呼ばれる人物は3人いると言われているわ。
一人目は1945年前後に金蔵おじいちゃんに黄金を授けたと言うベアトリーチェ・カスティリオーニ。通称、初代ベアト。
二人目は初代ベアトと金蔵おじいちゃんの間に出来た娘とされ、
“Banquet”では1967年に楼座伯母さんと共に九羽鳥庵を抜け出し転落死したとされている二代目ベアト。
そして、“End”では1986年から遡る事19年の1967年、夏妃伯母さんに崖から落とされるも九死に一生を得たとされている三代目ベアト。又、三代目ベアトの出自については金蔵と二代目ベアトの間に出来たと言う謂れもついているわ」

「三代目ベアトが六軒島爆発事件の犯人とする説の多くは、その出自から来る苦悩が動機であるとしていますね」

「ええ。だけど、本当にそうなのかしら?」

「と言うと?」

「川端船長の話を覚えてる?船長はいつからいつまで九羽鳥庵に物資を運んでいたのか?」

「ええと、20年近く運んでいて、今から30年くらい前、昭和よんじゅう…」

「昭和43年頃になくなった」

「そうでしたそうでした」

「じゃあ、西暦では何年から何年まで運んでいたの?」

「1948年頃から1968年頃まで、ですね…あれ?」

「気づいた?」

天草はルームミラー越しに笑みを浮かべている縁寿を見た。

「もし、川端船長が九羽鳥庵に物資を運んでいた正確な年代が1945年頃から1967年までだったとしたら?
運んでいた相手は誰になるかしら?」

「それは…初代ベアトですかい!?でも、初代ベアトは二代目ベアトを生んですぐに亡くなったって」

「それを裏付ける証拠は?」

「それは…」

黙り込む天草。

「無いのよそんな証拠。いくつかの『偽書』でそう言う風に書かれているから、そうだと思ってしまっているだけで」

驚きを隠せない天草に縁寿は更に畳み掛ける。

「大体、変な話よ。川端船長は物資の中身について何て言ってた?
“女しか使わないような高級な物が多かった”って言ってたじゃない。
仮に初代ベアトが二代目ベアトを生んで直ぐに亡くなっていたなら、
金蔵おじいちゃんは当時まだ赤ん坊だった二代目ベアトにそんな物を与えていた事になるわ」

「化粧もメイクも香水もばっちりの0歳児…確かに変ですね」

「そして更にもう一つ」

「何でしょう?」

「二代目ベアトを見た何て人、誰もいないのよ」

「いや、それは楼座氏が…」

反論しようとする天草を縁寿が制する。

「天草はその情報をどこで知ったの?」

「それは“Banquet”を読んで、あ…」

「それは『偽書』よ。じゃあその“Banquet”を書いた偽書作家はどこでその情報を知ったのかしら?
川端船長が教えてくれたのかしら?それとも存命中に楼座伯母さん本人から?」

「そんな事ある訳が…」

「そう。無いのよ。楼座伯母さんからしたらこれは、
不謹慎だけどそれこそ棺桶まで持っていかなくてはいけないレベルの『秘密』よ。
偽書作家が決して知り得る筈のない情報。ならば答えは一つしかないわ。
“Banquet”における、1967年に二代目ベアトが崖から転落して亡くなったと言う描写は、」

「「幻想描写である」」

言葉が重なる縁寿と天草。

「話はまだ終わらないわ」

「二代目ベアトが崖から転落死したのが嘘であるなら、
1967年頃に川端船長の九羽鳥庵への定期便がなくなった理由は、
初代ベアトが亡くなったからである可能性が非常に高くなるわ。
じゃあ、その理由は何だったのかしら?」

「まさか、お嬢は初代ベアトリーチェの死亡理由は三代目ベアトを高齢出産したからだと?」

「その通りよ。流石天草、良く分かったわね」

「となると話は変わってきますぜ!?三代目ベアトは実は初代ベアトと金蔵氏の間に出来た正当な子供と言う事になる!
成る程、お嬢が楼座氏と金蔵氏を救うと言っていたのはこの事だったんですか」

「二代目ベアトなんて、川端船長の言葉を捻じ曲げ、脚色し、装飾した偽書作家達が生み出した幻想よ!
金蔵おじいちゃんは二代目ベアトと姦通なんてしていなかったし、
楼座伯母さんは二代目ベアトを見殺しになんてしていない。だって『いない』んだから!
それはつまり、三代目ベアト、いや、本当は二代目となるベアト?面倒くさいから1986年のベアトで行くわ。
1986年のベアトは自分の出自に苦悩なんてしている筈がない事を意味するわ。
1986年のベアトリーチェは右代宮家そのものへの憎しみなんて持っていなかったのよ!」

縁寿の言葉には不思議な説得力が宿っている様に天草は感じた。

「はあああぁ。通説がひっくり返っちまった」

ハンドルに肘をつけてもたれ掛る天草。
しかし、縁寿のターンはまだ終わらなかった。

「なに一息ついてるのよ。ここまでは前提の確認でしかないわ。本題はここからよ?」

「まだあるんですかい!?」

「天草も自分で言ってたじゃない。キャッシュカードの謎よ」

「正直もうお腹いっぱいなんですが…」

「もうちょっとの辛抱よ。ああ、そろそろお腹空いて来たわね。このままどこか食べに行きましょうか?」

「へいへい。分かりましたよ、お嬢」

「不満げね」

「そんな事ないですよ。さ、続きをどうぞ」

「分かったわ」

あかん…気づいてしまった…。
川端船長って誰やねん!

正しくは川畑船長でした。

なるほど…確かにそう考えると面白い。赤子に高級品なんかいらないもんな

おおお、この発想はなかった……

偽書に縁寿と天草が登場してるってのも新鮮だなあ
猫箱の枠がちょっと広がった感じだ

「あら?ベアトリーチェを殺すと聞いたので来てみたんですけど」

「どうやらもう終わってしまった様だな」

カケラを覗くベアトとバトラの横にふっと現れたのは
右代宮理御とウィラード・H・ライトだった。

右代宮理御。257万8917分の1の確率でのみ存在が許された、
ベアトリーチェのもう一つの姿。
彼女はただ存在するだけでベアトリーチェをその存在ごと『殺す』。
ベアトリーチェを殺すと知れば反応しない筈がなかった。

「バトラ卿、調子はどうだ?」

「魔術師狩りのライトか…」

そっと距離を取ろうとするバトラの腕をつかウィル。

「昔の話だ。気にするな。別にお前を切って捨てようと言う訳じゃない」

ウィルが背中にしょっている黒々とした大剣をまじまじと見て苦笑いするバトラ。

「洒落になってないぜ。ライト」

「ウィルで良い。で、今はどんな感じなんだ?」

「猫箱を開ける為に、ベアトの血脈を整理し終えた所だ」

「後は、ベアトの内面を整理して下準備は終わりか?」

「そんな所だ」

「そうすれば1986年10月4日と5日の真実が分かると?」

「ああ」

一方、理御とベアトも二人で話していた。

「会うのはep8以来ですね」

「うむ」

「縁寿ちゃんは上手にあなたを否定しましたか?」

「ああ。大丈夫だ。ちゃんと『本当の』妾を見ようとしてくれている。
妾の出自は無事に洗われた。後は」

「86年10月4日以前のあなたを、いや、私達をちゃんと見つけてくれれば」

「「私達は救われる」」

「ですね♪」

「くくくっ」

笑いあうベアトと理御。

「思えばも妾達も多くの面を持った物だなあ」

「初代ベアト、二代目ベアト、三代目ベアトとですか?」

「三代目ベアトは紗音であり、嘉音であり、ヤスであり理御であり、19年前の男であり、クレルであるしの」

「大事なのを忘れていますよ」

「ん?」

「黄金の魔女、無限の魔女、六軒島の悪霊も入れておきますか?」

「くくっあまりにも当たり前の事に失念しておったわ」

「これが全部私達」

「うむ」

「「嗚呼、我こそは我にして我等なり」」

再び言葉を重ね笑いあう二人。

「だがその前に」

ベアトが理御を見る。

「何でしょう?」

「どうやら縁寿は妾の親族達に対する『気持ち』に迫る様だぞ」

「当主や父や母を始めとしした、ですか?」

「そうだ。その為に、幻想を消す必要があった」

対して男2人の方では、カケラを見たウィルがバトラに尋ねていた。

「正真正銘、最後のゲームか」

「ああ、そうだ」

「第7のゲームに近い、のか?
いや、あれよりももっとベアトや右代宮一族の心に迫る物だな、これは」

「重要なのは『ホワイダニット』だ。心を理解しなくちゃ『真実』は分からない。だろ?」

「その通りだ」

「「愛がなければ真実は見えない」」

「と言う事だな」

「と言う事だ」

ベアトと理御がバトラとウィルのもとへやってくる。
理御がウィルをつつく。

「ウィル、そろそろ行きましょう」

「なんだ。もう少し見て行けば良いのに」

「そうだぞ。心ゆくまで見て行くがよい」

「いえ、私達はちょっと様子を見に来ただけですから」

引き留めるバトラとベアトに理御はそう言った。
「ほらウィル、行きますよ」

「イテッ!だからつねんなって!!」

「早く帰ってエサをあげないと」

「ああ分かったよチクショウ。全く、頭痛がすらぁ」

ひっぱる理御にぼやきながらついて行くウィル。
2人の姿は見えなくなっていった。

「さて」

バトラがベアトを見つめる。

「なんですか、バトラさん」

照れるベアト。

「そろそろ、暴く時が来たようだな。『あのカード』の秘密を」

途端にベアトの顔がニヤリと歪む。

「妾が1億の現金が入った貸金庫のカードを各親族と南條家、熊沢家に送った訳、
果たして縁寿は正しく理解できるのかの?」

「やってくれるさ。縁寿ならな」

「さて―」

縁寿が話しはじめる。

「事件後に各親族、南條家、熊沢家には息子や娘から親へ宛てた封筒が送られてきたわ。
宛先不明と言う奇妙な形でね」

「お嬢の所にも本当に来てたんですか?」

「ええ」

「会長はその事についてもだんまりですし、存在自体を正直疑っていました」

天草の言葉を聞いて笑う縁寿。

「あら、疑う理由なんてないじゃない。その情報の出所って知ってる?」

「南條家か熊沢家じゃないんですかい?」

天草の疑問に縁寿は答える。

「初出は匿名で郵便配達人を名乗る人物が情報提供をした事に始まってるのよ」

1986年の当時、宛先不明で盥回しにされていた封筒があった。
それだけなら良くある事で大した事はないのだが、
六軒島爆発のニュースが日本中を駆け巡った事で話は一転する。

どう考えても悪戯としか思えないふざけた住所は、
郵便配達人達の記憶に少なからず残っていた。
その宛先の名前と犠牲者の名前と一致している事に気づいた配達人がいたのだ。

その情報がウィッチハンターや偽書作家達の耳に入るのにも時間は掛からなかった。
偽書作家達は現物を確かめるべく大挙して押し寄せたが、
現在までに現物が確認されているのは南條家と熊沢家のみである。

蔵臼ら長男一家については封筒の存在その物が確認されていない。
留弗夫ら次男一家、絵羽ら長女一家、楼座ら次女一家の封筒については運んだ覚えがあると言う匿名の情報があるが、
次女一家は爆発により全滅した為、現物の所在が不明の上、
次男一家、長女一家については絵羽が情報を固く閉ざしているので確かめる術がないのだ。

「でも、少なくともお嬢は現物を見た記憶があると」

「ええ。偽書作家達は匿名の情報と南條家、熊沢家での状況を基に
“縁寿の家にも届いた”って書いているけれど、あれは正しいわ。悔しい事に」


「また通説を引っ繰り返すんですかい?」
縁寿の含みのある物言いに天草が尋ねる。

「もちろんよ。通説?そんなの知ったこっちゃない。
事実を確かめ心を探る。論理と情緒の両方を武器にしないで、
妄想を垂れ流している偽書作家達の話なんて聞くに値しないわ」

「ヒュー!クールだぜ」

口笛を吹く天草。

「さっき、86年のベアトには一族を恨む理由がないって言ったでしょ?」

「ええ。ですがそうすると、島を爆破して一族と心中する理由もないって事ですよね?」

「そうよ。封筒に関しても、死者からの送り物を演出した悪趣味な悪戯だとか、
生き残った家族達への慰謝料だとか、そんな説は話にならなくなるわ」

「前提そのものがなくなっちまってますからねぇ」

「だから、新しい理由を考えなくてはいけないわ」

「何か考えがあるんで?」

「あるわよ。私はこの考えが正しいかどうか確かめる為に、川畑船長に会いに行ったのよ」

「早く教えて下さいよ。運転に集中できない」

「それ、真後ろ向きながらでも運転できるあなたが言うセリフじゃないわよ」

呆れながらも説明を続ける縁寿。

「さっき天草は良い事を言ったわ」

「何か言いましたっけ?」

「86年のベアトリーチェは、初代ベアトと金蔵おじいちゃんの間に生まれた正当な子供だって言ってたでしょ?」

「そうですが」

「そして、彼女は間違いなく10tの黄金を持っていた」

「それはそうでしょう。でなければ1億もの現金をカードにして送れる訳がありません」

「10tの黄金を持つ、金蔵おじいちゃんの娘。これが何を意味するかは、分かるでしょ?」

「…まさか、右代宮家の正当な跡取り?
86年の当時、既にベアトリーチェが当主の座を持っていた?
いや、ボトルメールにも似た様な内容はあったし、これはそんなに驚く事ではないのか」

考え込む天草に縁寿は言う。

「天草、もう一度言うわよ。ベアトリーチェを『右代宮家の正当な跡取り』だと考えて見て。
そうすれば、カードを巡る図式も異なって見えるから」

縁寿の言葉にハッと顔を上げて叫ぶ天草。

「………そうかっ!カードは当主から一族への資金援助ですかい!?」

「ザッツ・ライト!」

縁寿がそれを肯定する。

「1986年当時、蔵臼伯父さん、留弗夫お父さん、楼座叔母さんは、
それぞれに問題を抱えていたわ。「今すぐにでも」「莫大な」金を欲していた。
それが金蔵おじいちゃんの遺産及び家督の継承問題の重要な火種になる事は明らかね。
ベアトが持つ10tの黄金、これがあれば問題の解決は容易。
ただし、10tの黄金の存在を正式に認めてしまうとそれを巡ってまた争いが起きてしまう。
又、10tの黄金を誰がどこで管理しているかも伏せておきたい。
そこで採られたのが宛先不明と言う形で封筒を送ると言う方法だったと言う訳よ。
何故、留弗夫父さんへの封筒の差出人が私だったか。
それはこの案が出来た時、戦人お兄ちゃんはまだ右代宮の籍を抜けていたからよ」

ふむふむ……そういう解釈か

縁寿の話を聞き、黙り込む天草。
そしていつになくゆっくりと話しはじめた。

「話の筋は、通っている様に思います。流石お嬢です。
お嬢の話を聞く限りでは、あの爆発は事故だったんだと、そう思います」

「でしょ?」

得意げな縁寿。

「しかし、お嬢がまだ触れていない箇所がいくつかあります。
そこを説明できなければやっぱり納得しきれません」

それは縁寿も分かっていたのか、天草の言葉に頷き、先を促した。

「全部言って頂戴」

「六軒島の悪霊を封じていたとされる社が消失した訳、会長が九羽鳥庵で発見された訳、
会長があの日の事を頑なに話そうとしない訳、ボトルメールが海を漂っていた訳、
紗音や嘉音といった『いない』者が当たり前のようにボトルメールの中に登場している訳。
従来の“事件説”の方が上手く説明できている点は沢山ありますぜ」

天草の言葉を聞いて縁寿が返す。

「鎮守の社が消失した訳は簡単じゃない。
社は雷に打たれて、鳥居は波にさらわれただけよ。
変に勘ぐったりする必要はないわ」

「しかし、消失したのは86年の夏ですぜ。六軒島爆発の予行演習と考えた方が…」

なおも粘る天草の言葉に溜め息をつく縁寿。

「天草、良く考えて。鎮守の社を爆弾なんかで吹っ飛ばして
跡が残らない筈ないでしょう?社と鳥居だけを吹っ飛ばすなんて無理よ。
必ず地盤に跡が残るわ。“雷に打たれて砕かれた”とか、“波にさらわれて”何て
そんなレベルで済む筈がないじゃない。地盤ごと根こそぎなくなってたりしたら、
流石に“雷で”なんて思う人いないわよ」

「うーん、まあその説明でも理解は出来ますが。あ、」

天草が何かに思い当たる。

「何よ、天草。まだ何かあるの?言って頂戴」

「お嬢、何よりも重要な点があるじゃないですか」

「何よ?」

「金蔵氏の不義がなくなった所で、86年のベアトリーチェは右代宮家の正当な一員である事に変わりはありませんぜ」

「そうよ?」

天草が何を言いたいのか分からず聞き返す縁寿。

「なら、譲治氏や戦人氏、朱志香氏との血縁関係も従来の説と変わりません。
御三方との関係の歪みも事件の動機の一つであるとする説は有効なままです」

「あ…」

カケラを覗いていたベアトもバトラに言った。

「天草の言う通りよ。縁寿の説ではまだ説明されていない事が多い。
何よりも、何故妾と言う存在が生まれたのかについて説明出来ぬ」

「この世界ならではの疑問、だな」

バトラが呟く。

「一族を恨んでおらず、事件を起こしていないと言うのなら、
何故妾は生まれたのか?バトラよ、説明できるか?」

「説明してやろうじゃねえか」
口元は笑いながら睨みあうバトラとベアト、
互いにバチバチと火花を散らせ合うのであった。

ファミレスで料理をつつきながら話を続ける縁寿と天草。

「さっきの天草の疑問についてなんだけれど」

「へえ」

「ちょっとすみません肉が切りづらくて」

ギコギコといった感じで肉を切り頬張る天草。

「うーん。家で食べた方が旨いっすね」

ちなみに、ここで天草の言っている“家”とは絵羽と縁寿が住む家の事である。

「ファミレスにどんなレベルの料理を期待してるのよあなた…」

呆れながらグラタンを口に入れる縁寿。

「で、さっきの話」

「はい」

「ボトルメールが海を漂っていた訳と、
さっき天草は言ってなかったけどそもそもボトルメールが書かれた訳。
その中で「紗音」や「嘉音」が登場している訳。
そしてお母さんが九羽鳥庵で発見され、
『あの日』について頑なに話さない訳。
これらについてはある程度の考えを持っているわ
上手くすれば一連の大きな流れで説明できる。
恐らく、『あの日』の『真実』に最も近づいた物になる筈よ」

「ほう!教えて下さいよ」

目を輝かせる天草。が、

「ただ、まだ確証がないからいくつか調べてからと言う事になるんだけど」

「水臭いですぜ…」

続く縁寿の言葉を聞いてテーブルに突っ伏した。

「でも、さっき天草が言った戦人お兄ちゃん、譲治お兄ちゃん、
朱志香お姉ちゃんとの関係についてはこれから行く所で分かると思うわ」

「え?昼飯食ったら帰るんじゃないんですかい?」

「え?まだまだ行くわよ?」

「…………へい」

「何だかんだ言って天草もノリノリで質問してたじゃない。
こんな中途半端で終わっちゃ気持ち悪いでしょ?」

「一日で全部回る気で?」

「そうよ。だから天草、頑張ってね」

「オーマイゴッド…」

「頼りにしてるから♪」

「了解です」

ファミレスを出て更に車でいくぶんか走ると次なる目的地に到着した。

「着きましたぜ」

天草がドアを開け、縁寿が降りる。
2人は福音の家に来ていた。

応接室に通され待っていると、
当時の施設長がやってきた。

「ようこそおいでくださいました」

「初めまして、右代宮縁寿です」
「付き人の天草です」

「お二人の名前は良くお聞きしますが、イメージが外れてホッとしています」

ハハハと笑いながら椅子に腰かける元施設長。

「それは週刊誌とか?」
「ワイドショーとか?」

2人が尋ねると、

「はい。まあ、マスメディアの印象操作って奴なんでしょうな。
まるで暴虐と悪逆を尽くす悪魔か何かみたいな書き方をされてましたね」

「まあ、慣れているので」

「大変でしたでしょう?」

「母や天草などがいましたので、あ…失礼しました」

ここが孤児院である事を思い出した縁寿が口を閉じるが、
元施設長は笑ってそれを流した。

「大丈夫ですよ。子供達からすれば、気を使われる方が却って辛いかもしれません。
子供達が望むのは「普通」なんですから」

「そうですか」

「それで、何をお尋ねになりたいのですかな?
まあ、六軒島爆発に関する事で私の所に来る者は決まってこう言うのですが」

「「安田紗代について教えて下さい」」

綺麗に言葉が重なる縁寿と元施設長。

「さて、何から話したものですかな。あなたは取材にきた者達や偽書作家、それにウィッチハンターとは違う。
あの右代宮家の一員ですし、知っている範囲であれば全てお話ししたいのだが…」

「ではこちらから質問させて頂いても?」

「それが良いですね。どうぞ」

元施設長に促され、最初の質問をする縁寿。

「安田紗代はどう言う経緯を経てこの施設に入ったのか、
安田紗代と言う名前は誰が付けたのか、教えて下さい」

縁寿の質問に元施設長は答え始めた。

「あれは30年程前の事、1968年、いや確か67年の事だったと記憶しています」


……

「施設長!源次様が緊急にお会いしたいと!」

「源次様が?分かった。お通しなさい」

応接室に入った私が見た物、
それは赤ん坊を抱いて立っている源次様の姿だった。

「その子は、どうなさったのですか?」

「この子は訳あって孤児となった。そちらで預かってもらいたい」

源次様がいつも以上に非常に鋭い目で私を見る。
余計な詮索をするな。明らかにそう言っていた。

「分かりましたが、その子の名前は…」

「名前はない。苗字もだ」

源次様より赤子を受け取り観察する。

「女の子ですか」

「そうだ」

そして、私は見てしまった。

「源次様。この子、指が…」

赤子には足の指が六本あった。

右代宮家、多指症。
私が考えを巡らせようとしたのを察した源次様がそれを制した。

「治療費はこちらで負担する。適切な時期に早急に手術して頂きたい」

「は、はい…」

「それと、私がここへその子を運んできた事を含め、この子に関する
一切の詮索はしないでもらいたい。当然口外する事もだ」

右代宮家は福音の家を存続させていく上で絶対に失ってはならない存在だ。
私は頷くしかなかった。

結局、全く身元が分からないその赤ん坊は、
福音の家の系列にある乳児院へ預けられる事となった

役所が彼女に与えた戸籍は、安田紗代。
それが彼女の始まりだった。

「今だから言いますが。私は彼女を見た時に、彼女は金蔵さんが愛人との間に作った子だろうと思いましたよ」

「愛人とは」

「もちろんベアトリーチェです」

即答する元施設長
縁寿は続いて二つ目の質問をした。

「では次に、安田紗代はどんな容姿だったか教えて下さい」

縁寿のその質問に元施設長は目を丸くする。

「どうやら予想はついているようですね」

「ええ。むしろ思い当たらない方が不思議だわ」

元施設長が答え始める。

「これは、今までに訪れてきたどんな人にも言ってない事なんですが、
彼女はね地毛が金髪だったんですよ。どう見ても純粋な日本人ではありませんでした」

「それ以外に特徴は、例えば大きな怪我などは?」

「………私にこの事を話す機会を与えて下さり、感謝します」

元施設長は初めにそう断りを入れ大きく息を吐いた後、縁寿の目を真っ直ぐ見て答えた。

「私はこれをずっと誰かに聞いて欲しかったのです。
偽書作家達が描いた幻想を打ち払う為に。
彼女を直接見た私が断言します」

「彼女は、安田紗代は、下腹部に裂傷など持っていません。
右代宮夏妃に罪などありません」

元施設長の言葉は大きな力を持っていた。
それが間違いない『真実』である事は明白だった。

「良かった…」

ふう、と一息つく縁寿の隣で天草が尋ねる。

「お嬢、これが知りたかったんで?」

「ええ。もし紗代に裂傷があった場合、
一族全体に恨みはなくても夏妃伯母さんにはある事になっちゃうからね」

晴れた顔の縁寿が余裕を取り戻した声で続ける。

「初出は“End”だったっけ?まあ十中八九、
偽書作家達が描いた幻想だろうとは思っていたけど」

「楼座氏の時と同じ、ですね」

「ええ。偽書作家達が知る筈のない情報、ね。
1967年に定期便が途絶えたと言う川畑船長からの情報を基に、
無限に可能性を膨らませた結果よ。
よくもまあ、次から次へとこんなろくでもない設定を思いつく物だわ」

「ボトルメールの2本目、通称“Turn”で頻出している「家具」と「人間」と「愛」。
これらを独自解釈し、“Banquet”における楼座さんの罪を模倣し、
“Alliance”における川畑さんの証言を組み合わせた結果、
“End”にてその様な描写が生み出されたのだと私は考えています」

この事については相当考えていたのだろう、元施設長が吐き捨てる。

お、そこも否定してくのか

保守


……
1968年

1歳を迎える頃、紗代は乳児院から福音の家へ移る事となった。

自身の足の手術跡を気にして尋ねて来た事もあったが、
私は物心つく前の怪我を直した跡だと言って聞かせた。

1976年

「紗代を使用人に?」

「ああ」

「紗代はまだ8歳ですよ?」

「知っている」

「こんな小さい子が役に立ちますか?」

紗代が8歳になった頃、源次様がやって来て紗代を使用人にするとおっしゃった。
明らかに異例の速さだ。紗代個人に何かしらの「特別な」要素がある事は明らかだった。

「かみのけ黒くしちゃうの?」

「そうだよ。みんな黒いから、1人だけ金色だと目立っちゃうでしょ?」

「みんなと一緒?」

「うん。みんなと一緒」

その際、紗代の髪は黒に染め直される事になった。
……

「私が安田紗代について詳しく知っているのはこの時期までです」

元施設長が言葉を締める。

「安田紗代は働き始めてからもずっとこの施設に?」
縁寿が問うと、

「いえ。彼女は84年に中学卒業と同時に出所しています」

さらりと施設長が答える。が、

「なんですって!?」

縁寿が驚く。

「出所するのは大抵18歳になってからじゃ…」

「ええ、しかし彼女の場合は幼い頃からの奉公で大分資金も溜まっていた様で」

「その事を他に、今までに訪れた人で話した人はいますか?」

「いえ、今までに訪れた人は大抵86年の状況を聞きに来るので」

聞かれない限りは答えない、と言う事か。
個人情報でもあるのだし、それは当然の判断だった

「安田紗代が福音の家を出てからどこに住む事になったのかは知っていますか?」

「ええ、下宿を探してきたと言っていました。ただ、」

元施設長の言葉が詰まる。

「ただ?」

「何度か様子を見に行った事があったんですけど、
一度も会えなくて」

「一度も顔を見てはいないと?」

「はい」

「では、紗代が島で週に何日働いていたかもご存じではない?」

「ええ、84年以降は」

「ありがとうございました」

施設長に挨拶をして福音の家を出た縁寿と天草は車の中で情報を整理していた。

「じゃあ、年代ごとにまとめて行くわよ」

「へい」

「紗代を中心にはするけど、今までに分かった事もどんどん言っちゃうからね?」

「わかりやした」

天草がノートとペンを用意する。

1945年頃
初代ベアトが金蔵に黄金を与える。

1967年(0歳)
川端船長の久羽鳥庵へ行く便がなくなる。
(初代ベアトが亡くなった?原因は高翌齢出産か?)
紗代が乳児院に預けられる。
(紗代の母は初代ベアトか?)

1968年(1歳)
紗代が福音の家に移る。

1976年(8歳)
紗代が右代宮家の使用人となる。

1980年(12歳)
戦人が右代宮家の籍を抜ける

1981年(13歳)
霧江が親族会議に参加する

1982年(14歳)


1983年(15歳)
前原伊知郎氏が源次より仕事の依頼を受ける。
前原伊知郎氏が肖像画のデッサンの為、六軒島へ向かう。

1984年(16歳)
郷田が勤め始める
ゲストハウスが建つ
肖像画と碑文が設置される
紗代、中学卒業。福音の家から出所する。以後の足取りは不明

すみません。ロジックエラーを起こしかけました。
年代と出来事、紗代の年齢に一部ズレがあります。
以下の年表が正確な物です。

1945年頃
初代ベアトが金蔵に黄金を与える。

1967年(0歳)
川端船長の久羽鳥庵へ行く便がなくなる。
(初代ベアトが亡くなった?原因は高翌齢出産か?)
紗代が乳児院に預けられる。
(紗代の母は初代ベアトか?)

1968年(1歳)
紗代が福音の家に移る。

1976年(9歳)
紗代が右代宮家の使用人となる。

1980年(13歳)
戦人が右代宮家の籍を抜ける

1981年(14歳)
霧江が親族会議に参加する

1982年(15歳)
紗代、中学卒業。福音の家から出所する。以後の足取りは不明

1983年(16歳)
前原伊知郎氏が源次より仕事の依頼を受ける。
前原伊知郎氏が肖像画のデッサンの為、六軒島へ向かう。

1984年(17歳)
郷田が勤め始める
ゲストハウスが建つ
肖像画と碑文が設置される

「こんなもんかしら?」

思い出せる限りの情報を述べた縁寿が、書き留めている天草を見る。

「…天草?」

書き留めたメモを見て何やら考え込んでいる天草を覗き込む。

「どうしたのよ渋い顔して」

「どうも変ですぜ、これ」

「何が?」

「紗代はどうやって黄金と家督を継いだんでしょう?」

首を傾げている天草に縁寿が言う。

「そんなの碑文を解いてに決まってるじゃ…あれ?」

天草の言わんとする事に気づく縁寿

「確かに変だわ…」

「碑文を解く為には肖像画と碑文が設置されなくちゃいけない。
でも、前原氏の話によると1983年のデッサンの際に久羽鳥庵で『高校生ぐらいで金髪の』女性、ベアトリーチェに会っている」

「それが紗代である事は間違いないわ。でも、と言う事は…」

「「碑文が設置される前に紗代はベアトリーチェとして黄金と家督を継いでいる」」

「じゃあ、碑文は一体何の為に…」

ハッと気づいた顔をする縁寿。

「そうよ!」

「また何か気づいたんで?」

「私達はボトルメールをもっと重要視するべきだったのよ!」

「と言うと?」

「2本のボトルメール!あれの中ではちゃんとベアトリーチェ、いえ紗代は碑文を『出題する側』だったじゃない!!」

「つまり黄金と家督はまず、金蔵氏から紗代に直接継がれた。そして紗代は碑文を設置し親族の誰かに継げるようにした。こう言うことですかい!?」

「そうとしか考えられないわ!!」

乙乙

うみねこだあああああああああ!!
乙!!

「なら、紗代が金蔵氏から黄金と家督を継いだのは何時なんでしょうね?」

「中学卒業のタイミングじゃないかしら」

「何でそう言えるんです?確かに切りは良いかもしれませんが」

「中学で金髪は目立つわ。だから中学卒業までは黒髪だったと考えていい筈。
そして前原氏が六軒島に行ったのは年度が代わった8月。と言う事は紗代が金髪に戻ったのは1983年の3月から8月の間と言う事になるわ」

「でも紗代は黄金も家督もいらなかった。だから碑文を用意した」

「そうね。私が思うに、紗代は中学卒業以降は久羽鳥庵に住んでいたんじゃないかしら。
使用人としての紗音は中学まで、それ以降はベアトリーチェとして暮らしていたんじゃないかって思うの。それに、日常的に使用人として働きながらボトルメールを書いていたってのは、ちょっと現実味がないわ」

「後者のボトルメールについては同感です。見つかっているだけでも2本、きっと書いた本数はもっとある筈ですから」

「書き始めたのは84年からだろうけれど、構想自体はもっと前からあった筈よ。
あんなの、思いつきで書けるレベルを超えてるもの」

「ですねえ。ただ、使用人の紗音としての振る舞いがどうだったかは難しい所ですぜ?
金蔵氏、使用人、南條医師はともかく、長男一家や譲治氏を始めとした他の親族達の目がどうだったかと言う問題があります」

「まあ、紗代がベアトリーチェと理御の名を手に入れて以降、紗音としての人生をどうしたかは分からないわね。それこそ猫箱の中よ。頑張ればもしかしたら推測位は出来るかもしれないけれど、確かめようがないわ」

「ボトルメールと言えば、あれは事前に書いた物の筈なのにどうしてお嬢の欠席や嵐の状況などを書けたんでしょう?まるで魔法みたいじゃないですか?」

「ふふっ、ウィッチハンターの中にはそれこそ魔女ベアトリーチェが実在する証拠であるなんて言う人もいる位だしね。“分からない事・知らない事は魔法に視える”の良い例だわ」

「と言う事にはお嬢にとってこれは“魔法”にはならないんで?」

「当然よ」

「教えて下さいよ」

「ふふっ良いわよ。特別に教えてア・ゲ・ル♪」

「あ、やっぱりい、「遠慮しないの!」

「へい」

軽い縁寿は珍しいw

「何故、紗代はボトルメールは私の親族会議欠席を予測できたのか?
こう言っちゃうと凄く不思議に聞こえるけれど、考えて見ればそうでもないのよ。
だって、おじいちゃんと蔵臼伯父さん達長男一家は元々島にいるんだから、
欠席する訳がないでしょ?使用人のシフトや南條医師は紗代が幾らでも操作できるし、
真里亞お姉ちゃんについては約束をすれば必ず守るわ。
それに、楼座叔母さんが真里亞お姉ちゃんを置いて行くとも思えない。
譲治兄さんは兄さんからも話があるんだから必ず来る。
戦人お兄ちゃんの6年ぶりの来島についてはちょっと微妙だけれど、
紗代がおじいちゃんか蔵臼伯父さん経由でお父さんに圧力をかけて、
1986年の親族会議に戦人お兄ちゃんが必ず参加するように仕組んだのかもしれない。
つまり、不確定要素が残っているのは私だけなのよ。
私だけが1986年の親族会議に来るかどうか分からないの。
当時の私が病弱だった事を知っていれば欠席の理由も簡単に書く事が出来るわ。
現在発見されているボトルメールは私が来ないバージョンの物ばかりだけれど、
もしかしたら私が来るバージョンと来ないバージョンの両方があったのかもしれない。
真里亞お姉ちゃんと喧嘩して魔女同盟から除名されているからって可能性も考えられるわ。
ね?こう考えれば不思議でも何でもないでしょ?」

「何にでも説明は付けれるものですねぇ…」

「理屈と軟膏はどこにでも付くってね。
でも、やっぱり両方のバージョンはあったんだと思うわ
来ないバージョンを作った理由の一つには真里亞の心情があったにせよ、
1986年の親族会議について紗代が何かしらの企みを持っていたのは確かだろうから」

「ちょっとキナ臭い話に戻ってませんか?」

「さあ?企み=事件って発想は短絡的な気もするけど」

「それに、現実に合ったいないバージョンのボトルメールだけが海に流れたってのも
少しだけ腑に落ちませんぜ?偶然と言えばそれまでなんですが…」

「それについては…まあ、良いわ。天草、えっとね。
私は、ボトルメールを流したのはお母さんだと思っているわ」

「…へっ!?会長が、ですかい?」

「ええ。論理的に考えるとそれしか考えられないの。だってそうでしょ?
私が欠席するかどうかは当日まで分からない。
また、爆発が事故なのであれば、事故前にボトルメールを態々流す必要もない。
だって、起きるなんて想定は誰にも出来ないんだから
ならば、ボトルメールを流せるのは爆発事故を逃れた人間だけ」

「それはつまり、会長って訳ですか…」

「事故後から救出されるまでの間に、
お母さんが私が来ないバージョンの物を選んで海に流した。
こう考えるのが最も自然なのよ」

ふうむ、お嬢の理屈は分かります。でも、何で?」

「考えがあるにはあるけど…まだ秘密♪」

「どうせそう言うと思いましたよ」

「お母さんで思い出したわ。
碑文と肖像画についてはまだ考えなくてはいけない事があったわね」

「碑文を解いた者には本当に黄金と家督を譲る事になっていたのか、ですね?」

「そうよ。正直な所これについては、“右代宮家の親族がどう思っていたのか”
“事実はどうだったのか”よりも、“紗代はどう考えていたのか”が重要だと私は思うの」

「特に、家督の方については微妙な所だと思いますぜ。
暗号を解いて金塊ゲット!これは分かります。
でも、暗号を解いたら右代宮家ゲット!これは何か釈然としません」

「特に蔵臼伯父さんにとっては、ね」

「約束された権利を突然剥奪される訳ですから」

「ただ、右代宮家所有の黄金10トンを手に入れると言う事は、
そのまま右代宮家を継ぐ事に等しいと言う理屈も通るから判断が難しいのよね…」

「さっきは“親族の誰かが継げるように”なんて言いましたけれど、
碑文とは一体何だったのか、紗代は何を思って碑文を設置したのか」

「問題はやっぱり蔵臼伯父さんね。“伯父さんが家督を継ぐのは当然の流れ”。
これについてはきっとお母さんも、留弗夫父さんも、楼座叔母さんも納得するわ。
でも、“蔵臼伯父さんが黄金を継ぐのは当然の流れ”こうなると違うんじゃないかしら?」

「確かに、色々と言いたくなりますねえ」

「それに、碑文の謎の解き方が礼拝堂の文字を弄ると言う物だとしたら、
発案者は間違いなく金蔵おじいちゃんよ。
おじいちゃんは一体何の為にそんな凝った仕掛けを用意していたのか?
1984年まで誰に見せる訳でもなく」

縁寿が碑文の内容を書いた紙を取り出す。

懐かしき、故郷を貫く鮎の川。
黄金郷を目指す者よ、これを下りて鍵を探せ。

川を下ればやがて里あり。
その里にて二人が口にし岸を探れ。
そこに黄金郷への鍵が眠る。

鍵を手にせし者は、以下に従いて黄金郷へ旅立つべし。

第一の晩に、鍵の選びし六人を生贄に捧げよ。
第二の晩に、残されし者は寄り添う二人を引き裂け。
第三の晩に、残されし者は誉れ高き我が名を讃えよ。
第四の晩に、頭を抉りて殺せ。
第五の晩に、胸を抉りて殺せ。
第六の晩に、腹を抉りて殺せ。
第七の晩に、膝を抉りて殺せ。
第八の晩に、足を抉りて殺せ。
第九の晩に、魔女は蘇り、誰も生き残れはしない。
第十の晩に、旅は終わり、黄金の郷に至るだろう。

魔女は賢者を讃え、四つの宝を授けるだろう。
一つは、黄金郷の全ての黄金。
一つは、全ての死者の魂を蘇らせ。
一つは、失った愛すらも蘇らせる。
一つは、魔女を永遠の眠りにつかせよう。

安らかに眠れ、我が最愛の魔女ベアトリーチェ

「魔女は賢者を讃え…」

「やっぱりそこですか?」

「ええ。所謂『謎解き』とは無関係に見えるこの箇所。
ここにこそ金蔵おじいちゃんの、もしかしたら紗代のも、
『想い』が込められている筈よ」

「偽書でもここに触れている物はほとんどないですよね」

「あっても気持ちの悪い幻想描写ばかり。
おじいちゃんや紗代は実在する人物よ。
実在した人物が、実在した文章を残した。
そこには実在した想いがある筈。それは幻想なんかじゃないわ。
無かった事になんか、させやしない!」

「四つの内、最初の一つはまあ俺にも分かります。そのまんま黄金でしょうね。
しかし、残り三つは何の事やら…」

車の中が急に静かになる。考え込む二人。

「…あ」

ふと小さな声を漏らす縁寿。

「お嬢、何か分かったんで?…お嬢?」

縁寿は、静かに涙を流していた。

あー確かにその碑文の最後ってスルーされがちだよね
気になってたわ

「天草、黄金があったとされる地下がどんな場所だったとされているか、覚えてる?」

「ええ。戦時中に作られた物で黄金と爆弾が隠されている場所ですよね?」

「他には?」

「ええと、ああ、久羽鳥庵へ通じる地下道にもなっているって奴ですか?」

「他には!?」

「えっと…他に何があるんで?」

「金蔵おじいちゃんと同じ部隊だった人達の亡骸もあった筈でしょっ!?」

「ああ、そうでした。でもそれが何なんです?」

「碑文は「二人が口にし岸を探れ」の行までが黄金郷へ至る為の手掛かりを、
「第十の晩に」の行までが黄金郷へ至る為の手順を示していたわ。
じゃあ、「魔女は賢者を讃え」以降の行は?
黄金郷がどんな場所で何があるのかを説明しているんじゃないの?
謎を解いて至った場所は、黄金がある場所であり、
かつてのおじいちゃんの仲間達が眠る場所であり、
おじいちゃんが心から愛した女性の住処へ通じる場所なの!!
まだ分かんない!?」

「あっ…」

天草も気づく。
謎を解き、金蔵と同じ部隊だった者達の亡骸を発見する事。
それが長き沈黙から「死者の魂を蘇らせる」行為に他ならない事に。
久羽鳥庵まで赴く事が、「失った愛を蘇らせる」行為である事に。

「じゃあ四つ目の宝と言うのは?」

「金蔵おじいちゃんが残した宝はこの三つ。
最後の一つは、紗代が残したのよ。
誰かが謎を解けば、紗代は黄金と家督を放棄するわ。
それはベアトリーチェとしての自分を捨てる事に他ならない。
つまり、「魔女は永遠の眠りにつく」のよ」

「宝は、「金蔵と紗代にとっての」宝だった?」

「宝と言うよりは、願いとか想いね。でも考えて見れば当然よ。
だって碑文を出したのは金蔵と紗代なんだから。
2人が宝だと思う物であればそれで良いのよ」

「ここまで解いて、初めて碑文を解いた事になるんですね?」

「ただ黄金を欲するだけの輩に継がせはしない。そう言う事だったんでしょうね」

「それにしても宝がベアトリーチェの「眠り」ねえ…」

カケラを覗き込んでいたベアトが「そろそろ頃合いだな」と突然頷いた。

「うむ。ここまで至ったのならば、これらのカケラを見ても問題なかろう」

ベアトが2つのカケラを呼び寄せる。


……

1983年3月

「紗音、お館様がお呼びだ」

使用人室で休んでいた私を見つけるなり、
源次様はそう口を開いた。

今後の事だろうか?
私ももうすぐ義務教育から抜ける。
高校へ進むのなら自分の力で何とかしなくちゃいけない。
幸い私は幼少の頃から務めさせて頂いていたおかげで蓄えだけはあった。

高校へ通いながらもう少しここに残るのも良い。
最近はそんな風に思う様にもなった。
源次様や熊沢さん、朱志香お嬢様や、それに…///

私が書斎へ歩き始めると後ろから源次様も付いてきた。
何で源次様も?使用人頭として来てくれるのだろうか?
何となくそんな思案を巡らせながら、お館様が居られる書斎の前に立つ。

コンコン。

「誰だ?」

扉越しに声がする。

「紗音です」

「源次もそこにいるか?」

「はい」

「入りなさい」

重厚な扉を開け、中に入る。
書斎の中は相変わらず、
様々なお香やら何やらが入り混じった独特の香りが充満していた。

中にいるのはお館様、それに熊沢さんと南條先生?
何でお二人までいるのだろう?
私は一体、何の用事で呼ばれたのだろうか?
少し、不安になってきた…。

おお、なるほど……

途中までしか読んでないんだけど
ベアトの口調が最初の奴だったり雛だったりしてるけど
融合したの?
二人居るの?

>>101さん
ベアトはep6以降の融合したベアトなので1人です。

「紗音」

お館様が私を呼ぶ。

「はい」

「もう、中学校も卒業だそうだな」

「はい」

「まずは、卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

???
お館様が真面目な顔で中学校なんて言うとは…。
少し可笑しかった。

「紗音は幼き頃より我が家の為、誠に尽くしてくれた。ありがとう」

「いえ、とんでもありません」

失敗ばかりだった私を支えてくれた源次様や熊沢さん。
お館様と一緒に沢山の事を教えてくれた南條先生。
島では身分を越えた付き合いをしてくれた朱志香お嬢様。
奥様や旦那様も。楽しいばかりではなかったけど、みんな本当に良くしてくれた。

「時に紗音よ。中学を卒業した後は、どうするつもりなのかね?」

「それは…」

私が答えようとしたその時、

「お館様、早く本題に入っては如何です?」

源次様が見かねた様に口を挟んできた。

「金蔵さん、あんた心の準備は出来たと言っていたじゃないか」

「お館様、いくら私でもそろそろ怒りますよ?」

南條先生と熊沢さんも口々に言い出した。
お、お館様が責められている!?

一体何が起きているのか理解できない私に、お館様がとどめをさしてきた。
神妙な面持ちで私に語りかけるお館様。

「実はな、紗音」

「はい」

「お前は儂のなのだ」

………はい?

言ってからしまったと言う顔をするお館様。
頭を抱えている御三人。

「だめだ。金蔵さんはしばらく役に立たん」

南條先生が外の空気を吸わせてくると言って、
お館様を連れて書斎から出て行った。

後に残る私と源次様と熊沢さん。

「今のは一体…」

私が説明を求めると、御二人は説明を始めた。
しかし、その内容は信じられない物だった。

「私が、右代宮理御?」

ベアトリーチェの子孫?

「そうだ」

「本当、に?」

「ええそうですとも」

信じがたい情報の奔流が私を混乱させた。
色々と整理していきたいが、思考が追いつかない。
だが、その中で私にはどうしても確かめておきたい事があった。

「一つだけ、教えて下さい」

「なんなりと」

源次様が答える。

「私は、」

これは、私の心にずっと残っていた小さなとげ。
ずっと、消える事はないと思っていた。けど…。
震えた声で、私はそれを絞り出す。

「私は、望まれて生まれてきたんですか?」

私の目を真っ直ぐ見つめ返して二人は答えてくれた。

「はい」
「もちろんでございます」

二人の顔が、それが真実である事を雄弁に物語っていた。

私が二人の言葉を噛み締めていると書斎の扉が開き、南條先生が顔を覗かせた。

「理御さん。見せたい物が、いや、見せなきゃならん物があるんだが」

まだ何かあるんだろうか?
源次様、熊沢さんと共に南條先生について行くと、
着いた場所は礼拝堂だった。

「あ、れ?」

礼拝堂の入口上にあった筈の“quadrillion”のレリーフがなくなっている。

「理御様、こちらです」

源次様がそう私に呼びかける。
理御、それが自分の名前だとは思えなかった。
これから思えるようになるのだろうか?

地下に降りて行き、奥の扉を開ける。
そこでは金塊の山が私を待っていた。

右代宮家の黄金伝説。まさか本当だったとは…。

沢山の事が起こり過ぎて脳の処理が追いつかない。
息をするのも忘れ、呆然と立ち尽くしていた私を現実へと引き戻したのは、
黄金の側にあった扉が開いた音だった。

「お館様…」

「おお…」

私を見て口籠るお館様。
そんなお館様を見て源次様が私に問いかけた。

「宜しければ、呼んで差し上げて下さい」

何をかは分かっていた。
正直な所、抵抗はある。
でも、しょうがなかった事だとも思う。

私は、ずっと親を知らなかった。
源次さんや熊沢さんと出会って、
こう言う感じなのかな、と思えるようにはなったけど、
それも擬似的な物。
それでも、本当に感謝している。
その二人はさっき、私は望まれて生まれてきたと言ってくれた。
ならば、

「お父様…」

私は呟く様な小さな声でそう呼んだ。

「ほら、お館様も」

私が呼びかけたのを見て微笑んだ熊沢さんがお父様を急かす。

「り、理御…」

再び訪れる沈黙。それを破ったのはお父様の声だった。

「済まなかった」

「本当に済まなかった。」

ずっと悩んでいたのだろう。
ベアトリーチェ、いや、お母様を亡くしてしまい、
しかし、私を引き取る訳にもいかず、
お父様は私を手放すしかなかった。

財界の諸事情の為には仕方がなかった。
うん。納得は、少しだけ出来ないけれど、理解は出来る。

「お父様」

お父様が私を無言で見つめる。
私は歩み寄ってその手を取り言った。

「私はお父様を許します」

互いに笑っているのか泣いているのか、
既に分からなくなっていた。

ただ一つ、
徐々に握り返してくれるその温もりを、
紛う事なき父の温もりを私は感じていた。

しばらくして、源次様、熊沢さん、南條先生は屋敷へと戻って行き、
私はお父様と二人で話をしていた。

「ところで、ここはどこなのでしょう?」

長年島にいたが、礼拝堂付近にこんな場所はなかった筈。

「ここは、秘密の空間。地下貴賓室じゃ」

秘密の空間…。一体いつからあったのだろう。
私の顔を見てお父様が補足する。

「島を買い取って屋敷を立てた時に一緒に作らせたのじゃ」

懐かしき、故郷を貫く鮎の川…。
お父様が何かをそらんじはじめた。

「それは?」

「この地下貴賓室に至る為の手順を暗号にしたものじゃ」

付いてきなさいと地上へ上がってゆくお父様。

礼拝堂に梯子を立て掛けて昇り始めた。
グラリ!!大きく揺れる梯子。
私はとっさに梯子を支えた。

「お父様。私がやります」

「そ、そうか…」

レリーフの文字を嵌めると昇って来た地下への入り口が閉じ、
獅子像の頭の向きが正面に戻った。

「いいか理御、今から言う手順で文字を抜くのじゃ」

“quadrillion”

“Q”“i”“l”“i”“a”“n”の6文字を抜く。

“*u*dr**l*o*”

“r”を一つ右に。

“*u*d*r*l*o*”

“lordu”(Loed.U=右代宮卿)に並び替える。

“*l*o*r*d*u*”

後は左から順番に抜いて行く。

と、さっきの仕掛けが又動き出し、地下貴賓室への入口が開いた。

…この仕掛け、素敵だ。

熊沢さん・戦人様に加え、お父様にもこの様な趣味があったとは。
しかも、規模が違う。

梯子から降りて私はお父様に尋ねた。

「どうしてこの様な仕掛けを?」

「それを説明するには、ここはちと冷える」

地下貴賓室に戻り、お父様は語り始めた。
六軒島でかつてあった出来事。
イタリア軍の潜水艦、ベアトリーチェ・カスティリオーニ、黄金、
山本中尉の扇動による惨劇。生き延びた二人。

「儂は、この島を何としてでも手に入れなくてはならなかった」

お父様は語る。

「一つは黄金の存在。黄金はもう六軒島から動かすことが出来ない。人目に付きすぎる。
旧日本軍にも、政府にも、GHQにも、この黄金の存在は知られてはならなかった。
この黄金はビーチェの物だからだ」

「二つ目はこの地下施設その物の存在。ここは本来ある筈のない場所だ。
故に仲間達も公に弔ってやれない。せめて儂が慰めてやらねば報われん」

「ビーチェも同じ思いだった。だから、この島を買い取り屋敷を立てたのだ。
地下施設には儂とこの秘密を知る者のみしか入れぬ様にしてな。
ビーチェが生前過ごし、そしておぬしを生んだ隠し屋敷がこの先にある。
見てゆくか?」

母が過ごした場所。私を生んだ場所。
見て見たい…。

地下通路をお父様と進む。
途中、道が二手に分かれている場所で「もう一方の道は?」と尋ねると、
お父様は「先程話した地下基地に向かう」と短く答えた。
目を瞑って広がっている暗がりへ頭を下げる。
私はお父様の後を追った。

隠し屋敷、九羽鳥庵に着く。

「ここが…」

「そうだ、ここがビーチェが暮らした場所だ」

人が住んでいないとは思えない。定期的に手入れをしているのが分かる。
こじんまりとしているがとても素敵な空間だった。
…もしかしたら、お父様は今でも時々ここに来ているのではないだろうか。
いや、聞くのは止めておこう。

屋敷の中を一通り見て回る。知らず知らずの内に、
母の面影を探してしまっている自分に気づき、複雑な気持ちになった。

「母は」

「うむ?」

お父様が振り返る。

「母は私を生まなければ、もっと長生きできたのでしょうか?」

考えながら、言葉をゆっくり選びながらお父様が話す。

「そうであったとしても、それは儂1人の咎じゃ。
理御が気に止む事ではない。儂が望み、ビーチェも望んだ。
覚悟の上でじゃ。年老いて、危険である事は承知の上じゃった。
それでも、儂も、ビーチェも、お前が欲しかったんじゃ。
それなのに、儂にはお前を引き取る事が出来んかった。
不甲斐ない。本当に不甲斐ない!しかしっ!それでも!!
何度でも言う。おぬしは、望まれて生まれてきたのだ」

お父様が自分の指から金の指輪を外し私に差し出す。

「黄金と家督を、この島ごと理御に譲る事にする。
本日より当主はそなただ」

え、え?ええっ!?

「いえいえ、そんな物私にはとても…」

大体、学もない私が当主になった所でどうしようもないだろう。
それに、

「それでは蔵臼様はどうされるのですか」

蔵臼様が常日頃から帝王学や経営学など、学べる物をとにかく学び、
お父様に追いつき、追い越して行こうと努力していらっしゃった姿を私は間近で見ている。
これで私が当主の座をかすめ取ったりなどしたら、蔵臼様が再起不能になるか、
若しくは私の身が危ないだろう。

「うむ…しかし家督はともかくとして、黄金は元々ビーチェの物だ
黄金はおぬしに受け取って貰わねばならん」

「しかし、あれだけの黄金を持っておきながら当主ではないと言うのも…」

「どうした物か…」

「ですから蔵臼様に…」

「それは嫌じゃ。ボンクラ息子に黄金なんぞ、ビタ一文とてやる物か」

何だったっけこう言うの。譲治様が言ってらっしゃった未来の流行り。
まあ、それはともかく。私はお父様の顔を真っ直ぐ見て伝える。

「お父様、私はこれからも安田紗代として生きて行きたいと思っています」

「な、に?」

一気に血の気が引くお父様。

「いえ、お父様の事はもう許しております。
しかし、十数年慣れ親しんできたこの名前、
この人生を私は存外気に入っているのです
私はこのままの私でいたいのです」

理御と言う名前には慣れそうもない。それは本当だ。
しかし正確ではない。私の本当の思惑は、お父様にも話せない。

「では、理御、いや紗代はこの金塊をどうしたいのだ?」

「親族の方々で分けて頂ければと」

「しかし、儂はもう資金援助はせんと言ってしまっておる。二言はない」

「ならば」

「ならば?」

「ベアトリーチェからの贈り物と言うのはどうでしょう?」

キョトンとした顔で私を見つめるお父様。

「大体、どうしてそんなに渋るのですかお父様?」

するとお父様は、苦虫を噛み潰したような顔をして渋る訳を言い始めた。

「…大戦中、この島は軍の施設だったと先程言ったな?」

「はい」

「イタリア軍がこの島に残したのは金塊だ。それは構わん」

「では、何に構うのです?」

「日本軍が、儂の部隊が残した物だ。
あの貴賓室。元々は山本中尉の指令室でな、
黄金の側に柱時計があったのを見たか?」

「はい」

そう言えばそんなのもあった気がする。
何か場違いだとは思ってたけど。

「スイッチが入った状態であの時計が12時を指すと、
この島が吹っ飛ぶ仕掛けになっておる」

………?
何か今、お父様が凄い事を言った様な気がする。

「紗代?聞いておるか?」

聞きたくない。知りたくなかった。

「今、何と?」

「もう一度言うぞ?スイッチが入った状態であの時計が12時を指すと、
この島が吹っ飛ぶ仕掛けになっておる」

本当に?

頷くお父様。

「油頁岩(ゆけつがん)、別名をオイルシェールとも言う地質がある。
簡単に言うと引火する土だ。この六軒島の一部の地層にはその油頁岩が含まれている。
それ単体ならば問題はない。問題は油頁岩の周りに儂の部隊が埋めた物じゃ」

「まさか…」

「そのまさかよ」

なんで心なし自慢げ何ですか、お父様?

「トン単位での爆薬を埋めたのだ。今更掘り出し切るのは不可能と言っても良いだろう。
爆薬の威力もさる事ながら、この島の地層に誘引すれば、この島は大きくえぐれる事だろう。
地下道などで穴も開いておるしの」

お父様、そんな滔々と説明しないで下さい。

「本来は敵が上陸して来た時に時計をセットし、
12時になるまでに撤退、敵を施設ごと殲滅するか、
若しくは役割を全て終えた後に証拠隠滅する為に用意された物だ。
この島はいずれにせよ大戦後には爆破する予定だったのだろう」

「しかし、お父様は居ついてしまった、と?」

「そうだ」

「このいつ誤作動で吹っ飛んでしまうか分からない島に?」

「そうだ」

もう、肝が据わってるとかそう言う問題じゃない気がする…。

「お母様もずっとその危険に晒されていたと?」

「それは問題ない。この九羽鳥庵はせん滅作戦の際に避難する場所に作られておる。
爆破の影響はここまでは来ん。ビーチェは安全だった」

…本当かな?

「さて、紗代よ。この秘密を知るのは実の所、儂とおぬしだけだ。
源次も南條も熊沢もこの爆薬の事は知らん」

当たり前だ、言える訳がない。正気の沙汰ではないし。
幾ら理解のある御三人にも限度ってものはあるだろう…。

やっぱり全部投げ出して島から離れようかな?
でも、他の人はどうすれば…。
いっそ、誰かに全部話してしまおうか?
いや、でもそしたら黄金は…。
なら、黄金だけ頑張って移動させてからは?
いや、どっちにしろ旧日本軍が絡んでいる以上迂闊には…。

頭を巡る「これからの事」。
まさか将来についてこんな事で悩むとはつい先程まで考えもしなかった。
ああ、使用人室でゆっくりしたい…。

私に言ったと言うよりはポツリと呟く様に、
お父様が言った一言が、半ば現実逃避を始めた私を正気に戻らせた。

「ビーチェも知っておったがな」

お父様のその言葉を聞いたその瞬間、
一瞬ではあるが、屋敷の中に残る母の面影、
その片鱗の様な物を私は感じた気がした。

人知れず爆弾が眠る島、暗号に守られた黄金、そして、魔女伝説。

思考が一気にクリアになり、
これらの情報が私の頭の中でナニカと結びついた。

トリック。錯誤。誘導。

からかう。引っ掛ける。

一緒に笑う。

理御の名は表に出さない。
みんなの前での私はただの使用人、紗音。
誰にも知られずに、私は私の継ぐ筈だった物を処分する。
私は、安田紗代のまま幸せになる。そして、みんなにも、幸せになって貰おう。

右代宮一族の関係は今、少し歪んでしまっていると思う。
使用人と言う立場上、色々と良くない噂も聞いて知ってしまっている。
私の世界を変えてくれた戦人様も、長らく戻られていない。
全てを丸く収める為には、キチンと計画を練らなくてはいけない。
幸いにしてネタは沢山持っている。

その為に、私は束の間の当主となろう。
六軒島に住まう、右代宮家顧問錬金術師にして黄金の魔女、
ベアトリーチェに。

家督は蔵臼様に。
資金援助は全員に。
残った黄金は…。

「お父様、ご相談があるのですが…」

1986年10月まで、残り43か月

愛があるねえ


しかし、なんだこの萌え金蔵w

天草は、縁寿が碑文について考えを述べて以降何も言わないので、
福音の家から車を出すに出せずにいた。

どうすっかなあ。お嬢は何かを考えてるのかずっと黙ってるし…。
正直気まずい。

すると、お嬢が突然こっちを見た。

「どうしたんです、お嬢?」

「天草、今日一日で随分な事が分かったわ」

と言っている割にお嬢の顔は晴れない。

「ですね」

公式の記録に加え、前原氏や川端船長や福音の家の元施設長から聞いた話。
そこから導き出した、確証はないが十分に認められ得るべき「真実」。
俺自身も、六軒島爆発の真相については考えが大分改めさせられた。

「でも、今残っている正しい情報から至れるのはここまで。
足りないの。何かが、足りないの。「あの日」の事を本当に知る為には!」

歯痒そうな顔をするお嬢。
無駄だろうとは思いつつ、言って見る。

「会長に、今までの考えを言って見たらどうです?」

そしたら何かが分かる。かもしれない。
でも…。

「駄目ね。あと一押し。何か情報があれば違うかもしれないけれど…」

そう。会長の口を割らせるには考えが漠然としているだろう。
何か、決定的な情報があれば違うのだろうが…。

「お嬢、日が暮れてきました。今日は帰りましょう?会長が待ってます」

お嬢が「もう少し…」と言う顔で俺を見る。
クールになれ。天草十三!

「旅は始まったばかりです。お嬢が真実を見ようと前を向いている限り、
終わりはしません。少し休んでも罰は当たりませんよ。
焦らなくても、とにかく最後まで歩き切れば、それでいいんです」

俺の言葉を聞いた途端、お嬢は思い詰めたような顔をした。

「一人で?」

か細い声で、聞き返してくる。

……………。

「お供しますよ。ずっと」

俺の口は、勝手にそう言っていた。

するとさっきまでの顔が嘘だったかのように、お嬢がニッと笑った。

「天草、ほらっ!」

「えっ?」

「「えっ?」じゃないでしょ!早く車出しなさい♪
夕飯に間に合わなかったらお母さんカンカンよ?」

時計を見る。うへぇ、ギリギリだな…。

「それに、お土産も買って帰るんだからね!」とある銘菓の名前を言うお嬢。

ちょっと、そっちに寄ってから帰ると夕飯時間アウトなんですが…。

「何よ?文句あるの?天草も食べたがってたじゃない」

お嬢がキラキラした顔で見返してくる。

「ヒャッハ!そんじゃあお嬢!飛ばしてくんでしっかり掴まって、
舌噛まないようにして下さいよ!?」

「レッツゴー!」

縁寿を乗せた車が走り出す。
福音の家もあっという間に見えなくなった。

奇跡は起きない。「今は」まだ。

ベアトがカケラから顔を離して言う。

「そうだ。人の身である縁寿にはこの時点では真実には至れぬ。
だが、ここまで旅をしてくれたからこそ、カケラを開放することが出来た。
一つのカケラが解放されれば、連鎖的に様々なカケラが解放される。
その為に縁寿の旅は必要不可欠だった。本当に、良くやってくれた」

「ありがとう、縁寿」

バトラも礼を言い、呼び寄せたもう一つのカケラを覗き込んだ。


……

紗音は変わった。
それも良い方向に。

父さんと島に来た時、僕はそう思った。
本人にそう言って見た所、

「そうですか?ふふっ、ありがとうございます」

と何とも含みのある返事が返ってきた。

何だろう。モヤモヤする。

それからと言う物、目が自然と紗音を追う様になった。

付き合い始めて少し経った頃、
もう一度尋ねてみた。

「紗代は中学に上がった頃辺りから随分と変わったよね?
何か切っ掛けとかあったの?」

「譲治さんには、私がどう変わった様に見えました?」

「何と言うか、自信が付いて動きのぎこちなさがなくなった様に見えたよ。
プロとして堂々としているように見えて、とても綺麗に見えた」

「ありがとうございます。ただ、訳をお話しすると少々…」

口籠る紗代。

「なんだい?何か言えない訳でもあるのかい?無理にとは言わないけど…」

「いえ、譲治さんが少し気に障ってしまうかもと思いまして」

「大丈夫だから言ってごらん」

「では」

そして紗代は語り始めた。

「実は、戦人様のおかげなんです」

戦人君の?

「あの頃、私が戦人様とよく遊んでいたのは」

「うん。知っているよ」

彼は学業の方はいまいちだったみたいだけれど、地頭が良かった。
誰とでも直ぐに打ち解ける才能もあった。
手先も器用なので良くマジックなどを見せてくれたっけ。
その上大変な読書家で特に推理小説に精通していた。

当時は紗代ともよく推理小説の話なんかで盛り上がっていたのを見て知っている。

「当時の私はあまり自分に自信が持てていませんでした。
お仕事の方も年齢が上がるにつれて色々と任されるようになりましたが、
失敗ばかりで、奥様や旦那様からご注意を受ける事も度々で…」

「そうだね。特に紗代は昔からいたから色々と責務もあっただろうに」

「ええ。周りからの期待に自分は応えきれないのではないかと不安になってしまって。
それが原因で又失敗をしてしまってと、負の連鎖になってしまって」

「そんな時に戦人君が?」

「はい。当時私は戦人様が島に来られる度に推理ゲームをしておりました。
お互いに問題を出し合って、それに答えてゆくと言うものでしたが、
私は、そのゲームの中ではお仕事を忘れて自分でいられる様な気がしてたんです」

きっといい気分転換だったんだろう。戦人君の方から誘ったに違いない。
彼はそう言う人の心の機微に聡い人だから。

「その時に戦人様が「そのままの私でいれば良い」って言って下さったんです。
最も、それだけじゃありませんでしたけれど…」

そう言ってちょっと笑う紗代。
彼が他に何を言ったか容易に想像がつく。
当時の彼が言いそうな事。…うん。

僕も少し笑った。

「当時、仕事面で支えて下さったのは源次様と熊沢さんでした。
同じ様に、戦人様は私の心を支えて下さったんです。
いえ、だからと言って決して好きになったとかそう言う訳では!!」

慌てて最後に言葉を足す紗代。
キレイなツンドラだった。

紗代はそう言うけれど、きっとそれは、
もう少しすれば初恋になる様な、そういう淡い物だったのだろう。

ちょっと妬けた。

「ほら、譲治さん!」

「え?」

「そんな顔しないで下さい」

そんな顔、を僕はしていたのか…。

「戦人様とは本当にそう言った関係ではなかったですよ?
友達以上ではあったと思いますけど、仲間とか同志とかきっとそう言う関係です」

譲治様も推理小説読みません?と紗代は言葉を続けた。
「じゃあ何かおススメを教えてくれるかい?」

「そうですね…譲治さんはお仕事もお忙しいので」

そう言って嬉しそうに色々と教えてくれる紗代。
帰ったら早速買って読んで見よう。

ベアトとバトラがカケラを見終えると、
新しいカケラが二つ現れた。

「もうすぐだな」

「そう、ですね」

神妙な面持ちで新しく出てきたカケラを覗き込む二人。


……

「いいないいな!紗音はさ!」

「朱志香様も良い方に会えますよきっと」

「きっとって何だよきっとって!!それに様付け禁止ぃ!」

紗音め、自分だけ幸せになりやがってコノヤロー!!

「私もせめて共学だったらなあ!」

女子校で出会いなんてあるわけねーぜ!!

「女子校などでは良く、教師と生徒の…」

「ば、馬鹿な事言うなって!!そんなのないない!!
それにそんなのがばれたらとんでもない事になるよ!!」

「名家のお嬢様にして全校の憧れの的である生徒会長が実は…何て。
秘密の関係。しかしそれを知る者が現れて…。そしてそこから始まる愛憎劇…」

「人の事だからって適当な事言って!
大体紗音はどうしてそんなドロドロした展開に持っていくかなあ」

やっぱりあれかな?紗音が良く読んでるって言う本の影響なのかな?

「でも、人気の男性教師とかいないんですか?」

「まあ、いるっちゃいるけど…。あんな無愛想な先生のどこがいいんだか」

「無愛想?」

「そう。嘉哉先生って言うの。みんな名前で呼んでる。
苗字は…なんだったっけ?いつもブスッとした顔してるのに妙にモテてさ。
ファンクラブとかもあるらしいぜ」

「アンニュイな雰囲気を醸し出す男性にドキッとする女性も多いと聞きますよ?」

「ただ無愛想なだけだって。何か避けてる感じがすると言うか」

ただ女性が苦手なだけ、ではないと思う。多分…。

「良く見てらっしゃるんですね」

意味深に微笑む紗音。

「べ、別にそう言う訳じゃねーしっ!
ただ、顔は良いんだしもっと笑えば良いのにって思うんだよ」

「朱志香さんはお優しいんですね」

紗音の奴、絶対何か勘違いしてるよ。
アタシはこれ以上痛くもない(と思う)腹を探られるのを阻止する為、
別の話題を振る事にした。

「ところでさ、最近お仕事以外でも忙しそうじゃん。何してんの?」

ああ、それはですね…と少し言い淀む紗音。

「実は今、お話を少々書いているんです」

「お話?それってやっぱり推理小説?」

「はい。ですが行き詰ってしまいまして」

紗音が言うには、ストーリーは出来ていて何人被害に遭うかも決まっているのに、
被害者枠と生き残り枠などを合わせると登場人物の数より多くなってしまうのだと言う。

「何だ、そんなの簡単じゃん」

私がそう言うと紗音が顔を輝かせて詰め寄って来た。

「どうすればいいんですかっ!?」

「犯人が一人二役すればいいんだよ。で、片方の役を初期に殺された様に見せて、
もう片方の役に専念するの。んで、もう片方の役も殺された様に見せれば良いんじゃない?」

そしたら見かけ上の登場人物は増えた様に見える筈。
ん?でも良く考えたら何か穴だらけな気もするな…。
読書は趣味じゃないんだよなあ。読んでると頭痛がすらぁ。

所が、紗音は何か思いついたのか、

「それですよ!それ!!」

と叫ぶと「何で思いつかなかったんだろう!私の馬鹿!」とか言いながら
興奮した面持ちでルンルンと部屋から飛び出して行った。

しかし、後日「紗音、小説の方はどうなったのさ?」と聞いた所、

「ええ。結局、登場人物を無理に増やすと現実味がなくなってしまいまして…。
読む分には良いし、案としては良いんですけど」

との事だった。

実行するには…

「え?今何か言った?」

「いえ、何も言ってないですよ」

小説書くのも難しいんだな。とその時のアタシは呑気に思っていた。
まさか、それが後々自分にも関係してくるなんて思いもせずに。


……

ベアトリーチェは“い”るの!
だって見たんだもん!!

なのにママは全然信じてくれない。

来年は絶対行かなきゃ!
ベアトと約束したんだもん!
来年島に来れば黄金郷へ連れてってあげるってベアト言ってた!!
だから来年は何があっても島に行くの!
でも、これはまだ秘密!
真里亞は秘密は守るもん!
魔女同士の約束は絶対!うー!

…きひひひひひひひひ。

みんな死んで、みんな蘇るってベアトは言ってた。
黄金郷に辿りつけば、みんな幸せになれるって。
ママもまた、真里亞と一緒にいてくれるようになるって。
全部全部、解決するから大丈夫だよって言ってた。

そう、うみねこの鳴く頃に!

カケラを見終えたバトラとベアト。

カケラを紡いでゆく事で、
新たなカケラを開放し、
それもまた、紡いでゆく。

そして今二人の前には、新たな、そして最後の、
大きなカケラがあった。

「やっとこの時が来たんですね」

「猫箱を開ける時が、な」


……

1986年10月5日

8時

「お前が、あの朱志香なのか!?」

「戦人こそ!なんだよなんだよデッカくなっちまって!?」

6年ぶりに参加する親族会議。
色々と変わっていた。

な~んか女らしくなった朱志香。
男前になった譲治の兄貴。

「うー!真里亞もおっきくなったー!」

「そうだな!真里亞もおっきくなったなあ!」

朱志香が真里亞をだっこする。

「そーれ!ぐるぐるぐるー!」
「うー!落ちる落ちるー!」

人の古傷抉るのダメえ…

船上にて

「うおおおおお!揺れる揺れる揺れる!落ちる落ちる落ちるうううぅ!!」

何だこのスピードはあ!!浮き輪は!?ライフジャケットはどこだあっ!?
スピードを落としてもらってやっと一息つく事が出来たのだった。

「うっぷ…あれ?」

ふと、島に近づいた所で何か違和感を感じた。

「どうしたんだい戦人君?」

「お花畑でも見えたのかよー」

「お花畑?見える?」

三人が、正確には譲治の兄貴が、尋ねる。
「あそこにさ、確か鳥居がなかったっけ?」

朱志香が「ああ」と言って説明をしてくれる。

「この前、落雷で砕けちまったんだよ」

「ふーん…」

「悪霊の仕業ですよ」

ボソッと耳打ちされる。

「うわっ!?って熊沢のばっちゃんか。驚かすなよ…」

何時の間にいたんだよ…。
いつの間にか後ろに来ていたらしい熊沢さんが続ける。

「六軒島は昔、悪食島と言う名で呼ばれていましてね。
良くないモノが住んでいると言われていたのです。
それを鎮守していたのが、あそこにあった社なんですよ。
それがある夜、落雷で砕けてしまったモノですから、
悪霊の封印が解けたあって地元では噂になったんですよ。ほほほ」

「悪霊、ねえ…」

10時30分

島に到着すると、見た事のない大柄の男性が出迎えてくれた。

「郷田さんだよ一昨年から勤めてくれている」

「初めまして戦人様。郷田と申します」

「料理が旨いんだぜー!」

朱志香が我が事の様に自慢する。

「ありがとうございます」

郷田さんはニコニコ対応しながらもそつのない手さばきをしてゆく。
その仕事ぶりはプロだった。すげえ。


より豪華さを増した庭園に見とれつつ道を進んでいると、
女性の使用人が見えた。

「紗音!」

朱志香が手を振る。

紗音って、あの紗音ちゃんか!?

あれまあ、綺麗になっちまって…。

「お久しぶりです、戦人様」

ペコリとお辞儀をする紗音ちゃん。
な、なんかむず痒いぜ…。

「ゲストハウスはこちらでございます」

「ゲストハウスって?」

また俺の知らない物がでた。
まるで浦島太郎の気分だぜ。

「ああ、戦人君は知らないよね。
一昨年出来たんだよ。僕らはそっちに泊まってるんだ」

と兄貴。

「いーなー!アタシもそっちに行きたいぜ!」

と朱志香。

「夏妃さんに言えば大丈夫じゃないかな?」

と兄貴が返す。

「うー!みんなでお泊り?」

はしゃぐ真里亞。

「そうしてみるぜ」

どうやら一度、そのゲストハウスに荷物を置きに行くらしい。
俺もその後をついて行こうとした。
すると、

「戦人あ!お前はこっちだよ」

クソ親父に引っ張られた。

「何でだよ!」

「親父殿に挨拶だ」

「そんなの後で良いじゃねえか!」

「よくねえ」

結局俺は、荷物を紗音ちゃんに預け、
(女の子に荷物を持たせるなんて俺の主義に反するのだが!)
クソ親父に引っ張られるまま爺様のいる書斎まで行く事となった。

そして、本館に入ってすぐ、
階段の目の前のホールに「それ」はあった。

「なん、だ?これ?」

こんな物、六年前にはなかった筈だが…。

クソ親父がめんどくさそうに答えた。

「ああ、ベアトリーチェ様の肖像画だとよ」

ベアトリーチェ?確か、

「夜の森に出るって言うあの?」

「お、お前の頭でも覚えていられたのか!
そうだよ。親父殿が一昨年程前から飾り出したんだ。
それと一緒にな」

親父の指の先を見ると、肖像画の下に石碑が建っているのが見えた。
近くまで寄ってみる。

「あ、コラ!親父んとこが先だよ!」

「イテテテテ!耳引っ張んなよ!ダンボになるぞ!」

「おーなれなれ!空でも飛んでみやがれってんだ」

クソっ!良く見れなかったじゃねーか!!

その後もギャーギャー言いながら紆余曲折を経て、俺達は書斎の前まで行った。

コンコン

「親父、俺だ」

扉越しにクソ親父が呼ぶ。

「“俺”などと言う奴はしらん!帰れ!」

「留弗夫だよ!戦人を連れてきた!!」

中から「入れ!」と声がした。

ったく、親父殿とうとうボケたか?とクソ親父が呟く。

聞こえているぞバカ息子!と中から声が轟く。

うへっ、としかめっ面のクソ親父。爺様は地獄耳か?

中には爺様と源次さんがいた。
2人とも変わらねえな。
にしても独特の匂いだなこの書斎…。
嫌な臭いではないけれど。

「戦人よ、元気にしておったか!」

カカカと豪快に笑う爺様。

「おう。元気いっぱいだぜ!」

「「おう」じゃねえだろ。元気いっぱいですって言えっ」

クソ親父が頭を叩く。

「お前が言えた事かっ!」
「クソ親父には言われたかねえ!」

爺様と被ってしまった。またしても豪快に笑う爺様。

「久しぶりに会って儂も元気をもらったわい!」

嘘こけ。こっちが逆に元気貰うくらいだぜ。
後100年はピンピンしてそうな活力じゃねえか。

「ともかく、バカ息子が迷惑を掛けたな」

「いえいえ、こんなんでも親父なんで」

「親父殿も止めてくれよ。戦人が付けあがっちまう」

「そう言うセリフは親らしい事をしてから言うのだな」

「…はい」

クソ親父はこのまま爺様と話があるとかで、
俺は先に書斎の外にでた。

下のホールに戻ると、楼座伯母さんが碑文を見ていた。

「伯母さん」

楼座伯母さんが俺の方を見て笑う。

「戦人君?伯母さんなんて酷いわ。私そんなに年寄りかしら?」

「イヒヒっ!すいません。楼座お姉さん」

「よろしい」

「俺も良いですか?」

碑文を見る。てっきり肖像画の謂れとかが書いているのかと思っていたが、
そこにあったのは何やら不気味な文章だった。

「懐かしき、故郷を貫くって…何だこりゃ?」

「暗号よ」

暗号!?それってあの暗号か!?何でまた。

「戦人君はおじい様の隠し黄金の噂を聞いた事ある?」

「そりゃあまあ、一応」

あの裸一貫だったおじい様が財界人を納得させる際に使ったと言う、
確か200億円相当だったかの莫大な黄金の話だよな?

「この碑文はその在処を示していると言うの」

「まさかあ!」

「あら?戦人君はこう言うの好きだったんじゃないかしら?」

「そりゃ、小説ならの話ですよ」

「案外夢がないのね。
6年前の戦人君はもっとロマンチストで可愛げがあったわ」

「こんなタッパの男が夢見がちでも、誰も得しませんって」

「ふふふ、そんな事ないわよ?」

「じゃあ、楼座さんは黄金を狙ってるんすか?」

「まあね。頂けるものなら頂かなくちゃ損じゃない」

「逞しいっすね」

「右代宮家の女は強いのよ」

「ははは違いねえっす」

「こらっ、どう言う意味?」

「すんません!」

頭を下げて俺は本館を後にした。

外に出るとゲストハウスの方から、
兄貴・朱志香・真里亞・紗音ちゃんの四人が向かって来るのが見えた。

「戦人がおせーから迎えに来たぜ!」
「迎えに来た!」
「天気が崩れそうだからね、その前に浜辺で遊ぼうかって話になったんだ」
「大人達は本館で難しい話をするんだとさ。ったく、気が滅入っちまうぜ」

浜辺にて

「ああ、あれ見たのか」

俺がホールの肖像画と碑文の話をすると、
朱志香もその話に乗ってきた。

「そーいや、戦人ってこの手の話得意だったよな。
いっちょ御手前を見せてくれよ。パパッと解いて山分けしようぜ!」

「言っておくけど、大人達が一昨年から頭を悩ませても解けなかった謎だからね?」

ん?朱志香も兄貴もあれが黄金の在処を示す暗号って点では納得しているのか?
俺の知る朱志香や兄貴なら、「気持ちわりーぜ!」とか「現実的じゃないよね」とか
言いそうなもんだが。

「うー!あれはベアト復活の儀式なんだよ!」

真里亞も話に入ってきて、ねー?と紗音ちゃんに同意を求めた。
困った様に曖昧に頷く紗音ちゃん。

「そうだね。そう言う見方もあるよね」

優しく肯定する兄貴。大人だぜ。

真里亞が手提げから手帳を取り出し、碑文のメモを見せる。

「ちょっと見せてくれ」

まあ、気分転換には丁度いいか。
俺は真里亞からメモを受け取りじっとその文面を見つめた。

………。

「どうだい、戦人君」
「何か分かったかよ」

「文字、だな」

俺の言葉に首を傾げる二人。

「恐らくどこかに黄金を隠している隠し部屋か何かがあるんだ。
そしてその扉を開く為にはある文字列を手順通りに操作する必要がある」

驚く二人。

「何でそう言えるんだい?」
「おう、教えてくれよ!」

「黄金郷に至る手順は大きく分けて鍵を探し、鍵を使い、宝を手に入れる、この三つだ」

「うんうん」
「それで?」

「鍵を探す所では故郷やら里やら川やらと出て来る事から、鍵は地名だと分かる」

「それは僕らも同じ考えだよ」
「そうそう」

「そして、第一の晩で「鍵の選びし六人を」と言っているから、
鍵となる地名は六文字だ」

「お爺様の故郷って小田原だよね?」
「いや、爺様が故郷と呼べる場所は小田原以外だって父さんが言ってた」

「また、その六文字を生贄にする為の、元となる文字列が必要だ。
その文字は恐らく11文字か13文字だな。生贄とか、抉りて殺せって言う表現から、
その文字列を順番通りに潰していくんじゃないかと推測できるが、
第一の晩から第八の晩の合計で抉られるのは、
第二の晩の「引き裂け」が文字を消す事なら13文字、文字を離す事なら11文字だから」

「成る程…」
「すげえ。戦人、見直したぜ」

「爺様の故郷は調べれば分かるとして、
見つけなくてはいけないのは11文字か13文字の文字列だな。
こう言う場合、その文字列が何かも一緒に暗号化されているもんなんだが…」

「あーら、面白そうな話をしてるじゃない戦人くうん?」

「うおっ!って絵羽伯母さん!」

「まだ「お姉さん」よ?」

楼座さんならともかく、社会人の息子を持つ母のセリフじゃねえぜ。

「何よその目?」

「何でもないっす。いやほんと」

「母さん、どうしたんだい?」

兄貴が尋ねる。

「ああ、会議が長引くから、伝えに来たのよ。
郷田さんがゲストハウスに昼食を運んでくれるわ。そっちで食べて頂戴」

「分かったよ」

兄貴が頷くと、絵羽伯母さんは上へ戻っていった。

そう言えばさっきから紗音ちゃんの姿が見えないなと思ってふと顔を上げると、
真里亞と砂遊びをしていた。真里亞にはつまらない話だったからな。
紗音ちゃんはホントに気配りが出来る娘だぜ。

「おーい、真里亞あ」

呼びかけると顔を上げる真里亞。

「お昼ご飯だってさあ!」

「うー!食べる―!」

顔を輝かせる真里亞。

「よーし!モリモリ食べるぞお!」

「モリモリ食べる―!」

砂浜から上がる。空を見ると曇天で、本格的に振りだすのも時間の問題だった。

この戦人は無能と言われそうにないな!

うみねこってやっぱおもしれーわ

15時

「譲治の兄貴と紗音ちゃんが!?」

「シーっ!大きな声出すんじゃぜーぜ」

ゲストハウスで昼飯を食べた後、紗音ちゃんが食器を片づけに本館へ向かおうとすると、
譲治の兄貴は「僕も用事があるから」とか言ってついて行ったのだった。
真里亞は熊沢さんと薔薇を見に行っている。

「はえー。あの二人がねえ…」

…六年間の空白。
改めてその大きさを実感したのだった。

18時

「おいおい、何だよこれは…」

思わず口元が緩んでしまう。
無理もない。食堂は飾り付けられ、立食パーティ会場と化していたのだから。

「すげーだろ?」

朱志香が得意げに俺を見る。

「…ああ、すげーぜ」

これにはそう言うしかなかった。

クソ親父や霧江さんを始めとした大人達は一足先に一杯やってしまっているらしい。

「おう、戦人!どうだ、お前の為に開いてやったんだ。感謝しろ」

クソ親父が絡んでくる。めんどくせえ。

「元はと言えばあんたの不始末でしょうが。ちょん切るわよ?」

と絵羽伯母さん。

「わはは、めでたい席や!物騒な話は無しや無し!」

と秀吉伯父さん。

薔薇庭園から直接来ていたらしい真里亞もひょっこり顔を出す。

「うー!ハロウィンなの!」

良く見るとそこかしこにカボチャの置物などが置いてあったりして、
確かにハロウィンパーティの様相を呈していた。
譲治の兄貴も来て、料理を運んでいる郷田さんを指して言う。

「郷田さんはココに来る前は一流ホテルのシェフを勤めていてね。
この料理は郷田さんが作ったんだよ」

全員が揃った所で爺様が声を上げる。

「戦人よ!改めて、よくぞ右代宮に戻って来た!」

みんなが俺を見る。頭を軽く下げる俺。

「他の者共も、今日は良くぞ戻って来た!今宵は年に一度のハロウィンパーティーだ!
儂は途中で抜けるが、存分に楽しむが良い!」

パーティ自体は普通だった。
普通でなくなったのは、そう。
パーティもそろそろお開きになろうかと言う頃、楼座叔母さんが上げた叫び声だった。

「真里亞!あんた何持ってるの!?」

最初俺は真里亞がナイフか何かを持って遊んでいるのかとも思った。
若しくは食べ物で遊んでいるか。

だが、優しく諭すつもりで近寄って見て見ると、そのどちらでもなかった。

「手紙?」

そう、真里亞が持っているのは手紙だった。
洋形封筒で、片翼の鷲の紋章が入った、しかも赤い蝋で封までされている。
大人たちの間にピリピリとした空気が流れるのを感じる。
おいおい、さっきまでの空気はどこ行っちまったんだよ…。

「真里亞?その封筒を見せなさい?」

楼座叔母さんが真里亞に手を差し出すが、真里亞は肩を捩ってそれを阻止した。
秀吉伯父さんも真里亞に言う。

「すぐ返す。見るだけやから、な?」

「うー…」

真里亞が封筒を秀吉伯父さんに見せる。

「どうなのよ?」

絵羽伯母さんが尋ねると。

「ホンモンや。きちんと片翼の鷲の紋様が見える」

どうやら赤蝋についての話らしい。

「これ、どうしたんや?」

秀吉伯父さんが真里亞に尋ねる。
その次の一言が、場の全員を凍り付かせた。

「うー!ベアトリーチェに貰った!」

嬉しそうに答える真里亞。

「パーティが終わったら読みなさいって言われたー」

そう言って封蝋を外し、中の手紙を取り出す真里亞。


「真里亞は魔女の、め…メッセンジャーなの!」

しんと静まり返った食堂の中、真里亞が手紙を読み上げ始めた。

六軒島へようこそ、右代宮家の皆様方。
私は、金蔵さまにお仕えしております、
当家顧問錬金術師のベアトリーチェと申します。
長年に亘りご契約に従いお仕えしてまいりましたが、
本日、金蔵さまより、その契約の終了を宣告されました。
よって、本日を持ちまして、当家顧問錬金術師のお役目を終了させていただきますことを、
どうかご了承くださいませ。

さて、ここで皆様に契約の一部をご説明しなければなりません。
私、ベアトリーチェは金蔵さまにある条件と共に莫大な黄金の貸与をいたしました。
その条件とは、契約終了時に黄金の全てを返還すること。
そして利息として、右代宮家の全てを頂戴できるというものです。
これだけをお聞きならば、皆様は金蔵さまのことを何と無慈悲なのかと
お嘆きにもなられるでしょう。
しかし金蔵さまは、皆様に富と名誉を残す機会を設けるため、
特別な条項を追加されました。
その条項が満たされた時に限り、
私は黄金と利子を回収する権利を永遠に失います。

<特別条項>
契約終了時に、ベアトリーチェは黄金と利子を回収する権利を持つ。
ただし、隠された契約の黄金を暴いた者が現れた時、
ベアトリーチェはこの権利を全て永遠に放棄しなければならない。

利子の回収はこれより行いますが、
もし皆様の内の誰か一人でも特別条項を満たせたなら、
すでに回収した分も含めて全てお返しいたします。

なお、回収の手始めとしてすでに、右代宮本家の家督を受け継いだことを示す
”右代宮家当主の指輪”をお預かりさせていただきました。
封印の蝋燭にてそれを、どうかご確認くださいませ。
黄金の隠し場所については、
すでに金蔵さまが私の肖像画の下に碑文にて公示されております。

条件は碑文を読むことができる者すべてに公平に。
黄金を暴けたなら、私は全てをお返しするでしょう。
それではどうか今宵を、金蔵さまとの知恵比べにて存分にお楽しみくださいませ。
今宵が知的かつ優雅な夜になるよう、心よりお祈りいたしております。


――黄金のベアトリーチェ

「これは、パーティの余興か何かかな?」

蔵臼伯父さんが口を開き沈黙を破る。

「って事は兄さんは知らないのね?」

絵羽伯母さんが尋ねる。

「知っていたらこんな事を許可したりしない」

そりゃそーだ。
わざわざ蔵臼伯父さんが、
自分の「立場」を危うくする様な真似をするとも思えない。

立ち上がる大人達。

「譲治、あなたは子供たちを連れてゲストハウスへ!
母さん達はお父様の所へ行くわ!」

「分かったよ」

頷く兄貴。

「源次さんはいない、か。さては親父と一緒に書斎へ戻ったな…」

クソ親父が下唇を噛む。

「南條先生、悪いが一緒についてきて下さい」

蔵臼伯父さんが南條先生を呼ぶ。

「郷田はパーティの片付けを。熊沢はそれを手伝った後、ゲストハウスへ」

夏妃伯母さんも指示を出す。

「はい!」
「かしこまりました」

「悪いわね、戦人君」

楼座叔母さんが苦笑いをした。

「いいえ。充分楽しかったっす」

「じゃあ、行こうか」

譲治の兄貴が先導する。
俺達は食堂を出て、ゲストハウスへ戻った。

なるほど、EP9だ

ゲストハウスでは、紗音ちゃんがメイキングをしている所だった。

「何かあったんですか?」

紗音ちゃんが俺達を見て尋ねる。
俺達はベアトリーチェからの手紙について紗音ちゃんに話した。

「そんな事が…」

「ああ。全く訳わかんねーぜ」

朱志香がぼやく。

「うー!ベアトはみんなを黄金郷へ連れて行ってくれるの!」

封筒を持ってきた当の真里亞は1人嬉しそうだった。
譲治の兄貴が尋ねる。

「真里亞ちゃんに封筒を渡したベアトリーチェって言うのは、
あの肖像画の通りの人物だったのかい?」

「うん!」

元気に答える真里亞。

「…僕らの知らない人物がこの島にいる?」

俺と朱志香と3人で顔を見合う。

「真里亞、手紙を見せてくれ」

俺は真里亞から封筒を受け取り、中の文章を読んだ。

「黄金と右代宮家の全てを貰った。返して欲しくば黄金の在処を暴け、か」

何とも妙な話だぜ。
普通に考えれば爺様が趣向を凝らした財宝探しゲームってなるんだが、
真里亞のあった“ベアトリーチェ”の件もある。

「おかしな話だよね」

譲治の兄貴も呟く。

「右代宮家を頂いた。返して欲しくば黄金を寄越せ。なら分かるんだけれど。
手紙の主、ベアトリーチェの言葉によると、彼女はもう既に黄金を持っている事になる」

「そして、今この島にいるってか」

「あ、あの、それでは私はこれで」

メイキングを終えた紗音ちゃんが出ようとする。

「ああ、送ってくよ」

自然に兄貴も一緒に出た。
外はもう嵐だ。二人で傘でも差して行くんだろう。

「朱志香は今晩はこっちなのか?」

「…だろーな。楼座叔母さんは帰ってこないだろうし、真里亞が心配だし」

そう言って俺と真里亞を見る朱志香。

「何故俺を見る!?」

「別にー?」

俺が好きなのは金髪ボインのねーちゃんだ。
そっと距離を開けるんじゃねー!

「それにしても戦人はほんとかわらな…ゲホッ!」

急に朱志香が咳き込み始めた。

「おい、朱志香!?どうしたっ!?」

それまで大人しくお絵かきをしていた真里亞もこっちを見る。

ゲホッ!ゲホッ!

朱志香の咳は激しさを増す。

「ま、真里亞!水!」

俺は慌てて真里亞に叫ぶ。

「うー!」

パタパタと駆けて行く真里亞。

水をコップに注いだ真里亞と一緒に戻って来たのは、
熊沢さんと譲治の兄貴だった。

「朱志香ちゃん、深呼吸をするんだ」

ぜえぜえと言いながらも、朱志香の容態は少し収まった。

「朱志香お姉ちゃん、これ!」

真里亞が差し出す水を飲む。

「朱志香様、お薬の方は?」

と熊沢さんが聞くと、

「ゲホッ!部屋に、置いてきちまったぜ…」

とガラガラ声で答え、フラフラと立ち上がり部屋から出て行く朱志香。

「お、おい!朱志香!」

俺も立ち上がろうとすると熊沢さんが、

「私が付いて参りますので、戦人様はこちらで」

と言って、再び部屋から出て行った。

シャワーを浴び、ベッドに入ってからも朱志香は戻ってこなかった。
まあ、自室で休んでいるのだろう。
熊沢さんもついている事だし。

「兄貴?朱志香は何だったんだ?薬とか言っていたけれど」

「戦人君は覚えてないのかい?朱志香ちゃんは喘息だよ」

喘息?あの元気の塊みたいな朱志香が?
俺の中のイメージとは重ならなかった。

「そっか。そうだったんだな…」

そのまま微睡んでゆく。
一日目が、終わる。

1986年10月6日

6時

「とら君…戦人君!」

「ん~。あと五分…」

「そんな事言っている場合じゃないんだ!」

…目を覚ますと譲治の兄貴、紗音ちゃん、真里亞の三人が、
俺を覗き込んでいた。

「うー!戦人お寝坊さん!」

目を擦りつつ起き上がる。

「どうしたんだ、一体?」

まだ理解できずに聞くと、紗音ちゃんが困った顔をして言った。

「それが、本館の方の様子が少々おかしいので、
こちらの様子も伺いに来た次第なんですが…」

「おかしい?」

「ええ」

「昨日の事もあるし、何だか嫌な予感がする。行って見よう」

と譲治の兄貴が言う。

俺は譲治の兄貴の後に付いて、何だかよく分からないままにゲストハウスを飛び出した。

一階客間の前には絵羽伯母さんと秀吉伯父さんがいた。

「お兄さん達を呼んできたわ!」

と後ろから霧江さんが、蔵臼伯父さんと夏妃伯母さんを連れて来る。

「朝から一体何の騒ぎだね…?」

「…何ですかこれは!?」

蔵臼伯父さん・夏妃伯母さんも俺と同じく一点を注視する。問題はその扉にあった。

「なんだこりゃあ…」

扉には赤い塗料で大きく、不気味な魔法陣が描かれていたのだ。

「ここは誰が使っとるんや?」

秀吉伯父さんが紗音ちゃんに聞く。

「いえ、ここはどなたも使っていない筈です」

と答える紗音ちゃん。
しかし、鍵は閉まっており、開かなかった。

「ここの鍵は?」
と霧江さんが尋ねる。

「それが、使用人室にあった筈のマスターキー4本全てと、
この部屋を含めた何本かの鍵が今朝から見当たらないんです…」

紗音ちゃんの言葉に絶句する一同。

「しょうがないわ。外から周って、中を見て見ましょう」

と言う楼座叔母さん。

俺達は外の窓へと回った。

「コッチも閉まっとるんか!」

激しい雨音の中、窓の施錠を確認した秀吉伯父さんが叫ぶ。
中はカーテンが閉まっており見えない。
明かりが付いている事だけ、かろうじてわかる程度だ。

「蔵臼さん!嫌な予感がするんや!窓を破ってもええか!?」

蔵臼伯父さんは渋々といった表情で首を縦に振った。

秀吉伯父さんが窓の鍵に近い箇所を手頃な石で割る。
窓を開いてカーテンを開けた秀吉伯父さんは、そのまま固まってしまった。

「どうしたの、父さん」

譲治の兄貴が窓の中を覗こうとすると、

「見ちゃいかん!」

と秀吉伯父さんは怒鳴って俺と兄貴と真里亞を窓から遠ざけた。

「あなた?一体何が…」

と絵羽伯母さんが近づこうとすると、

「お前もや!」

と言って絵羽伯母さんも遠ざけた。
しかし、絵羽伯母さんを遠ざけた隙に、霧江さんが中を覗いた。
そして、はっとした顔になり、客間の中へ飛び込んでいった。

「あかん!霧江さん!あかん!!」

秀吉伯父さんも慌てて中へ入ってゆく。

俺は見てしまった。

客間のソファー。ここからは死角で全体が見えないが、
その裏からはみ出ている足、それが履いているズボンは見間違えようもない、
クソ親父の物だった。

力が抜け、ぐちゃぐちゃの地面にへたり込む。

「何なんだよ一体…」

「戦人君!しっかり!」

譲治の兄貴が俺の肩を支えられ、何とか客間の扉まで戻ると、
中から出て来たであろう秀吉伯父さんと霧江さんが扉を施錠する所だった。

俺が霧江さんを黙って見ると、
霧江さんは黙って首を「横に」振った。

「呼んできたわ!」
と後ろから楼座叔母さんが南條先生を連れてやってくる。

「一体何事ですかな?」

と南條先生。
「殺人事件や。留弗夫さんが何者かに殺されおった」

と秀吉伯父さんが言うと南條先生は目を大きく見開いた。

「そ、それは…」

霧江さんが言う。

「本当よ。私が確認したわ。銃の様な物で撃たれた跡があった」

「そしてこれや」

秀吉伯父さんが掲げたのは2本の鍵だった。

「それは!」

紗音ちゃんが声を上げる。

「それはマスターキーと3階控室の鍵です!」

そこからは、まるで悪夢の様だった。

1階客間ではクソ親父とマスターキーと3階控室の鍵が、
3階控室では郷田さんとマスターキーと2階朱志香の部屋の鍵が、
2階朱志香の部屋では朱志香とマスターキーと2階貴賓室の鍵が、
2階貴賓室では熊沢さんとマスターキーと3階書斎の鍵が、
3階書斎では金蔵爺さんと礼拝堂の鍵が、
礼拝堂では源次さんと1階客間の鍵が「あった」。

扉はいずれも施錠されており、悪趣味な魔法陣が描かれていた。

俺達はゲストハウス1階で俯いていた。
夏妃伯母さんは倒れてしまい南條先生・蔵臼伯父さんと共に2階に上がっている。

「ゲストハウスもダメ、電話は繋がらないわ」

覇気のない楼座叔母さんの声。

「もしくは、犯人が…」

と霧江さん。

>>152の訂正

俺達はゲストハウス1階で俯いていた。
夏妃伯母さんは倒れてしまい南條先生・蔵臼伯父さんと共に2階に上がっている。

「ゲストハウスもダメ、嵐の所為で電話は繋がらないわ」

覇気のない楼座叔母さんの声。

「もしくは、犯人が…」

と霧江さん。

2階から南條先生と蔵臼伯父さんが降りてきた。

「夏妃さんは大丈夫?」

絵羽伯母さんが聞く。

「ふっ、お前が心配してくれるとはな」

と蔵臼伯父さん。

「ええ。今は安静にしておりますよ」

と南條先生。

みんなが南條先生を見る。

聞きたい。でも、口に出すのは恐ろしい。
そう思っているに違いなかった。

無言の圧力を感じ取った南條先生が深くため息をつく。

「大変、申し上げにくい事ですが…、これは事件です」

と南條先生は言った。

「悪魔や。悪魔の所業や…」

秀吉伯父さんがうわ言の様に呟く。

俺もそう思いたかった。でも、クソ親父達は、誰かに…。

「金蔵さんの書斎からはウィンチェスター銃が盗まれていました。
それが凶器と思われます。皆様、服の左胸部に焦げ跡が残っていました。
至近距離から心臓に銃撃を受け即死した物と思われます。
現場保全の為、扉の鍵は全て施錠致しました。ご了承ください」

南條先生の言葉をみな黙って聞いている。

「1階客間の窓は?」

と蔵臼伯父さんが聞くと、

「皆が扉の前まで戻ってくる間に、私と秀吉さんで穴を内側から塞いで施錠したわ」

と霧江さんが答えた。

俺はテーブルに置かれた鍵の束を見つめる。
マスターキーが4本と、1階客間、2階朱志香の部屋、2階貴賓室、
3階書斎、3階控室、礼拝堂の鍵が1本づつ。

「マスターキーはこれだけなの?」

絵羽伯母さんが紗音ちゃんに尋ねる。

「ええ。この4本のみです」

「それぞれの部屋の鍵は?」

「それも、ここにある鍵それぞれ1本づつだけです…。
後、書斎と礼拝堂はマスターキーでも開ける事が出来ません」

自信なさげに答える紗音ちゃん。
当然だ。だって、と言う事は…。

「じゃあ、犯人はどうやって…」

蔵臼伯父さんが唸る。

そう、これは密室殺人事件だ。

被害者は即死。鍵は別の部屋にそれぞれ順繰りに封じられており、
マスターキーも全て内包されている。六連鎖密室。

その時、真里亞がポツリと言った。

「……は**。*が**んだ**なだけ」

ん?今、真里亞は何て言った?

聞き返そうとしたその時、

グー

真里亞の腹が鳴った。

そっか。そう言えば朝ごはんを食べていなかったな。
正直食欲はない。だけど、心とは無関係に腹は空いていた。

>>148ラスト3行の訂正

「しょうがないわ。外から周って、中を見て見ましょう」

と言う絵羽叔母さん。

俺達は外の窓へと回った。

乙乙

戦人が直接、死体を確認してるかどうか気になるな

医者役が即死ってるしなあ……

即死って言ってる、の書き間違い?


てか金蔵が焼死体じゃないの新鮮だな
このSSじゃ生きてる前提だったの忘れとった……あぶねえ

>>160
そそ
誤字気づかなかった

エターか……ロジックエラーか……
愛があっても文字がなきゃ山羊には視えんよ

ゆっくり待つさ

すみません。
本業が多忙だったので途切れました。
また、少しづつ更新して行こうと思います。

使用人して残っているのは最早、紗音ちゃんだけであった。

「私、本館に戻って食べ物を取ってきます」

紗音ちゃんがそう提案するのもごく自然であった。

昨日まで17人いた。
そして今朝、6人が死んだ。
11人がここにいる。
この嵐の中、島の外からやってくる殺人鬼なんかいる訳がない。
いたとしたらそいつはよっぽどの変態だ。

しかし、そうすると、爺様や親父を殺した犯人もこの中にいる?
いや、あの6人の内の1人が犯人で5人を殺した後に自殺したのかも…。

「凶器の銃は見つかったんですか?」

丁度、譲治の兄貴が南條先生に聞く。

「いえ、それが見つかっておりません」

まだ、犯人が持っている物と思われます。
と続ける南條先生。

そうだ、どの部屋にも凶器は落ちていなかった。
と、いう事は犯人はまだ生きている?

「なら、本館に行っても大丈夫だね」

譲治の兄貴がさらりとそう言う。
口調がいつも通りなのが恐ろしい。
兄貴は暗にこう言っているのだ。

「(犯人はこのゲストハウスにいるから)本館に行っても大丈夫」

と。

「ま、僕も一応ついて行くよ」

そう言って、兄貴が立ち上がる。

譲治の兄貴と紗音ちゃんは本館へと向かって行った。

そういや譲治黒幕説もある程度あったなぁ……w

11時

30分、1時間。もう、昼に近かった。
譲治の兄貴と紗音ちゃんが本館へ向かってからだいぶ経つ。
食料をまとめるのに手間取っているのだろうか?
それとも、何か料理を向こうで作っているのだろうか?
譲治の兄貴と仲睦まじくしているのだろうか?
それとも…。

嫌な考えが浮かび、頭を振って振り払う。
そんなわけあるか。
ちょっと遅れてるだけさ…。

「ちょっと」
「ちょっと」

霧江さんと絵羽伯母さんが同時に口を開く。
少し驚いた表情をする霧江さん。

「絵羽さんからどうぞ」

霧江さんが譲ると、絵羽伯母さんは口を開いた。

「譲治達、遅くないかしら?」

不安げな顔で周りを見つめる絵羽伯母さん。

「ええ、私も今それを言おうとしたの」

霧江さんも頷く。

「紗音ちゃんと二人だけやったし、人手が足りんのかもしれんな」

秀吉伯父さんが努めて明るく言った。
それは、不安の裏返しであった。

念の為、9人全員で本館へ向かう事となった。

「譲治ー!どこやー?」
「紗音さーん!」

秀吉伯父さんと南條先生がホールから呼びかける。
が、返答は返ってこない。

「奥まで聞こえてないのではないかね?」

蔵臼伯父さんが言う。

「厨房へ行ってみましょう」

夏妃伯母さんに従って、厨房へ向かってみた。

「おーい!兄貴―!紗音ちゃーん!」

厨房は無人だった。

夏妃伯母さんが冷蔵庫を開ける。

「食材がなくなっています。紗音と譲治君でしょうか?」

霧江さんが保存食類の箱を見て言う。

「夏妃さん、保存食ってこれだけしかなかった?」

箱を覗いた夏妃伯母さんが首を振る。

「いえ、もっとあった筈ですが」

「なら、2人はここには来たのね」

顎に手を当てる霧江さん。

「調理器具も持って行ったみたいね」

楼座叔母さんが戸棚を開けて確認していた。

「分かれて探しましょ」
霧江さんの提案で、4つの班に分かれて探す事となった。

楼座叔母さんと真里亞と南條先生は厨房で待機し戻ってくるかもしれない2人を待つ。
俺と霧江さんは1階を、絵羽伯母さんと秀吉伯父さんは2階を、
蔵臼伯父さんと夏妃伯母さんは3階を探す事となった。

「戦人君は誰が犯人だと思う?」

廊下を歩きながら霧江さんが聞いてくる。

「…誰も犯人だなんて思いたくないっす」

「優しいのね」

霧江さんの言い方には、俺は甘いと言う様な厳しいニュアンスが含まれていた。

部屋を開けては確認し、部屋を開けては確認し、俺は一つの部屋の前で立ち止まった。

「…親父」

この部屋の中で、親父は死んでいる。

霧江さんが首を振った。

「ここは鍵を閉めてあるわ。行きましょ」

また開けては確認、開けては確認。

ん?

ふと、廊下に何かが散乱しているのに気づいた。

「缶詰だわ」

霧江さんが手に取って確認する。

缶詰や食材が点々と落ちていたのだった。

「これ…」

「二人が落とした。と考えるのが妥当ね」

それに異論はない。でも、それは、拾う余裕がなかったって事じゃないのか?

何故?

「何かに追われていた?」

霧江さんが呟く。

一体何に?
だって、俺達全員一緒だったじゃないか…。

ヘンゼルとグレーテルみたいに食べ物の標を辿る。
一つの部屋の前でそれは途切れていた。

扉を開こうとする。

ガシャン!

!?

中からチェーンがされている!?

「霧江さんっ!」

霧江さんが扉の隙間から中を覗く。

「っ!?誰かいるの!?」

反応はない。
誰もいない!?
でも、そんな訳ないのだ!
だって!チェーンは中からしか掛けれない!!
「戦人君!厨房に行って3人を呼んできて!後、番線カッターも!」

「了解っす!」

廊下を駆けて厨房へ戻る。
慌てて戻って来た俺を見て三人の顔が引き締まる。

「どうしたの!?戦人君!?」

楼座叔母さんが聞く。

「一階の一部屋が中からチェーンされていて、何も反応がないんです!」

瞬時に悟る楼座叔母さんと南條先生。

「楼座さん達は他の人達を呼び戻してくださいますか?私は戦人さんと共に」

「分かったわ!真里亞っ、行くわよっ!」

真里亞の手を引っ張って駆けだす楼座叔母さん。

「戦人さん、案内を」

「あ、南條先生、番線カッターがどこにあるは知りませんか!?」

「それなら地下ボイラー室にあった筈です」

「サンキュっ!」

地下ボイラー室で番線カッターを見つけ、霧江さんの下へ急ぐ。

「戦人君!」

霧江さんが手を伸ばす。

「霧江さん!」

霧江さんに番線カッターを渡すと、霧江さんは瞬時に根元からチェーンを断ち切った。

解かれる封印。

中では、

「嘘だろ…」

譲治の兄貴が、紗音ちゃんが、倒れ伏していた。

南條先生が二人の手を順に取る。

ゆるゆると首を横に振る南條先生。

やがて、楼座叔母さん達も駆け付けてきた。

きたああああ

部屋の状況は惨憺たる物だった。

壁には包丁が突き刺さっている上に、
ナイフやフォーク果ては麺棒までが転がっており、
「何か」に対して兄貴と紗音ちゃんが抗った事を克明に物語っていた。

「裏も凄い事になってるわ」

扉の裏は幾筋にも削れており、刃物が刺さっていた跡が幾つも残っていた。

「一体ここで、何があったのよ……」

楼座叔母さんが呟く。

ああ、全くだぜ。

頭を押さえて崩れ落ちる夏妃伯母さんを蔵臼伯父さんが抱きかかえる。
本当ならゲストハウスで休んでいてもらいたかったのだが、
1人にする訳にはいかなかったのだ。

「譲治!譲治!!」

取り乱す絵羽伯母さんを秀吉伯父さんが抑えている。

「譲治はきっと、犯人と戦ったんや…。自分の大切な人を守る為にな…」

言い聞かせるように絵羽伯母さんに言う

「大切な、人…まさかっ!!」

「そうや、大事な人やったんや」

「ううっ…」

絵羽伯母さんに兄貴から目を逸らさせる秀吉伯父さん。
絵羽伯母さんは部屋の入口までふらふらと行った後、そこで蹲ってしまった。
すると、背中をさすろうとした秀吉伯父さんが何かに気づく。

「なんや、これ…封筒やっ!」

秀吉伯父さんの手には一通の封筒が握られていた。

「…っ!?」

楼座叔母さんの目つきが変わる。

「みんな下がりなさい!!」

絵羽伯母さん、秀吉伯父さんから俺達を守る様に手を広げる楼座叔母さん。

「ちょっと楼座叔母さん!どうしたんすか!?」

ギロリと俺を睨む楼座叔母さん。

「私がこの部屋に入った時、そんな物は見なかったのよ」

部屋に入った順を俺は思い出す。
まず霧江さんが入って、俺と南條先生が入った。
次に楼座叔母さんと真里亞が入って、
その次が蔵臼伯父さんと夏妃伯母さん。
最後が秀吉伯父さんと絵羽伯母さん。

だった筈。

楼座叔母さん以降に入ったのは、
蔵臼伯父さん、夏妃伯母さん、秀吉伯父さん、絵羽伯母さん
の4人だ。

なら。

「いや、なら蔵臼伯父さんと夏妃伯母さんだって…」

「戦人君!それはどういう事かね!」

蔵臼伯父さんが俺を責め立てるが、俺は蔵臼伯父さんが犯人と言いたい訳じゃない。

「戦人君の言いたい事は分かるわ。でも、兄さんと夏妃さんには動機がないのよ」

「そうだ。私はもちろん、夏妃にも、こんな事をする動機がない
何故なら、私は長男であり、正当な右代宮当主の後継者だからだ」

夏妃伯母さんも弱弱しくはあったが頷いて肯定する。

「そういう事。でも、姉さんと秀吉さんは違うわよね!」

「楼座さん、そりゃあんまりやで!わしと絵羽が譲治を殺す訳がないやないか!」

そうだ。この二人に限っては、特に絵羽伯母さんは、
絶対に兄貴を殺したりなんかしない。
大体みんな一緒にいたんだから二人が殺せるわけがない!

「そうね。それは認めるわ」

「なら!」

「でもね!」

楼座叔母さんが続ける。

「二人が、遺産を相続する為に外部から人間を呼び寄せて、
この殺人に協力している可能性はあるわ!
その犯人が誤って、リストに本来ない二人を殺してしまったとしたらどう!?」

それは…俺達の知らない犯人Xの存在の仮定は、何時だって成り立ってしまう!
否定なんて出来る訳がない!「いない」事の証明なんて、悪魔の証明なんて、
無茶苦茶にも程がある!

だが、

説明はつくっ!!

ついてしまうっ!!

「例えばこう言うのはどうかしら」

楼座叔母さんの舌鋒は鋭さを増していく。

「姉さんが紗音ちゃんを良く思っていない事はみんな知ってるわ。
譲治君とお付き合いさせたくないと思っていた事もね。だから消そうとした。
でも、その刺客から譲治君は紗音ちゃんを守ろうとした。そしてこの部屋で亡くなった」

それは、あり得る話だ。
そう、思えてしまう程には現実味がある…。

「とにかく、姉さんと秀吉さんにはこの本館にいてもらうわ。
私達はゲストハウスに戻る」

逆らえる者は、いなかった…。

盛り上がって参りましたあああああ

「秀吉さん、その封筒をここで開けて頂戴」

大人しく従う秀吉伯父さん。

封筒から一枚の便箋を取り出し、文面を確認している秀吉伯父さん。

何が書いてあるか知らなかったと言う事か?

ハッと息を飲む秀吉伯父さん。

「その便箋と封筒をここに置いて頂戴」

床を指さす楼座叔母さん。
直接受け取ろうとはしないその念の入れ様に、
そこまでしなくてもと思ってしまう。
これは「甘さ」なのだろうか?

便箋と封筒を拾う楼座叔母さん。

「行くわよ」

絵羽伯母さんを抱き抱える秀吉伯父さんを先頭に立たせ、
楼座叔母さんと俺達は部屋を出た。

まず向かった先は使用人室だった。
そこで3階客室の鍵を一本掴む楼座叔母さん。
次に辺りを見渡すと、テープとハサミを手にした。

3階の客室へ絵羽伯母さんと秀吉伯父さんを入れる。
絵羽伯母さんを秀吉伯父さんが懸命に宥めていた。
楼座叔母さんは客室を外側から鍵を掛けた上、
扉と壁の間に複雑な切れ込みを入れたテープを貼った。

「何すか、これ?」

「内側から扉を開ければガムテープが千切れるのよ。
姉さん達はどんな切れ込みを最初に入れたか見てないから修復できないわ」

3階だから窓からの出入りも難しいだろう。
これはつまり、絵羽伯母さんと秀吉伯父さんを完全に隔離した事を意味する。

「楼座さん、やるわね」

霧江さんが賛辞を贈る。

「一階も外から封印しましょ」

本館から出た俺達は、一階の出入りできそうな箇所を片端から封印して回った。
霧江さんと楼座叔母さんが貼る中、俺は傘を差してサポートしていた。
何をやっているんだ、俺達は……。

一階の封印も終わり、夏妃伯母さんも良い加減限界な為、
ゲストハウスへ戻る事になった。
二階もよじ登って封印するとか言い出さなくて良かった。

ゲストハウスに戻り、夏妃伯母さんを二階奥の部屋に寝かせ、
残りは一階に集まった。
楼座叔母さん・霧江さん、蔵臼伯父さん、南條先生、真里亞、それに俺、
これだけしかいない……。

楼座叔母さんが先程の便箋を広げた。
俺達もそれを覗き込む。
そこにはたった一言だけ、こう記されていた。

“我が名を讃えよ”

「何だってんだよチクショウッ!」

やり場のない怒りを拳に込めてテーブルに叩きつける。

「クソッタレがッ!!」

「我が名を讃えよ…」

蔵臼伯父さんが言葉を反芻する。

…まてよ?

クールになれ右代宮戦人。
俺はこの言葉を聞いた事がある筈。
そう。確か…

「っ!真里亞!魔女の碑文のメモ!!」

うー!と言ってポーチから取り出す真里亞。

第三の晩に、残されし者は誉れ高き我が名を讃えよ。

メモにはしっかりとそう刻まれていた。

「碑文通りなんだ…」

俺が呟いた言葉で息を飲む一同。
いや、1人だけは別だった。

「うー!だから真里亞はそう言ってるー!」

そうだ。
真里亞は確かに始めからそう言っていた。
6人の死体を見つけてゲストハウスへ戻った後に、
はっきりとそう言っていた!!

「犯人は魔女。鍵が選んだ生贄なだけ」

と!!

「ちょっと待ってくれ!すると後5人がこれから死ぬ事になるのではないかね!?」

蔵臼伯父さんが慌てる。

そうだ。
第四の晩から第八の晩までで、
後5人の犠牲が予告されている事となる。
しかし、

「いいえ兄さん。第九の晩には“誰も生き残れはしない”と書かれているわ」

楼座叔母さんの言う通り、最後は…、

「皆殺しって事ね…」

息を吐く霧江さん。

「楼座叔母さんよう」

俺は思い切って楼座叔母さんに聞いてみた。

「伯母さんは本当に、絵羽伯母さんと秀吉伯父さんが外部から殺し屋を招いたと思っているのか?」

第一の晩の犯行は誰にでも可能だった。
あの六連鎖密室を作れればと言う条件付きではあるが。

第二の晩は全員がゲストハウスにいて、誰にも不可能だった。
しかも、チェーンの密室と言う謎までついている。

封筒は、楼座叔母さんを信じるのであれば、
絵羽伯母さんと秀吉伯父さんが怪しいと言う事になる。

「6人殺しと封筒を置いた可能性はあの二人が一番高いわ。
それに動機もある」

その時、真里亞が横槍を入れてきた。

「うー!犯人は魔女、ベアトリーチェなの!
誰も信じてくれない!」

な、に?

地団太を踏んでいる真里亞。

魔女、ね。確かに魔女様なら密室なんて、
魔法を使ってチョチョイのチョイなんだろう。
そう言えば…

「真里亞、昨日のパーティで読んだベアトリーチェからの手紙を見せてくれ」

真里亞から受け取り、手紙を読む。

「利息としてベアトリーチェが回収する“右代宮家の全て”に「親族の命」も入っているって事なのかもね」

後ろから一緒に読んでいた霧江さんが、
出来れば思いたくなかった最悪の想像を代弁する。

「馬鹿なっ!昨日のあれでは確か、
黄金を暴けば回収した分も含めて全てを返還すると言っていただろう!!」

蔵臼伯父さんが激昂する。

「命が、一度失われた命が戻ってくる事なんか!」

「あるよ」

ぎょっとして声の主、真里亞を見る。
笑って、いる?
それは酷く歪な、到底子供らしからぬ黒い笑みだった。

「きひひひひひひっ!ベアトは言ってたよ。
ニンゲンには不可能な魔法をいっぱい見せてあげるって」

俺達以外の「何か」による、不可能密室連続殺人事件。
これが全部、魔女の仕業?

「ベアトはまだ完全には復活してないから、儀式が必要だって。
復活したら真里亞を黄金郷へ連れて行ってくれるって約束した。
そこで、みんな蘇るからって。魔女との約束は絶対だって。
何でみんな信じないのかなぁ?ベアトは「い」るのに」

「真里亞っ!」

楼座叔母さんが真里亞の頬を叩く。

「うー……」

あの碑文は、魔女復活の儀式の手順だったのか?
いや、昨日の手紙によれば間違いなくあれは暗号だった筈。
……思考がまとまらない。

そういやEP6みたくドッキリミステリーだったら「失った命を蘇らせる」のもできるんだよなぁと

ポソポソと缶詰を開けて食べる。
味なんか分からない。

南條先生が上で寝ている夏妃伯母さんにも持って行こうとしたが、
楼座叔母さんと蔵臼伯父さんがそれを止めた。

「南條先生、今はそっとしてあげましょう」

「妻は今、非常に不安定ですので……」

楼座叔母さんを見て、自嘲気味に笑う蔵臼伯父さん。

「楼座、ありがとう」

「……蔵臼兄さんに感謝される日が来るなんてね」

蔵臼伯父さんはともかくとして、
楼座叔母さんが南條先生を止めたのはきっと、
南條先生も疑っているからだろう。
楼座叔母さんは、誰かを1人で行動させたくないのだ。

もう嫌だ、誰も疑いたくない。

重苦しい時間が流れる。

一階と二階の間の階段には見張りを2名交代で置く事となった。
ペアは、

南條先生・蔵臼伯父さん
楼座叔母さん・俺
霧江さん・真里亞

楼座叔母さんと真里亞を離したのは、
今の楼座叔母さんと真里亞をくっ付けておくと危険極まりないと言う、
全員一致の無言の考えがあった為であった。
今は南條先生と蔵臼伯父さんが見張りに行っている。

俺、楼座叔母さん、霧江さん、真里亞が部屋に残る。
俺は碑文のメモを眺めていた。

「戦人君は何を見て、…ああ、それね」

楼座叔母さんが横から覗き込む。

「戦人君も黄金を探しているの?」

―戦人君にも動機があるの?―

楼座叔母さんの目がそう言っていた。

「別に探している訳じゃないっす。ただ」

「ただ?」

「この手紙を真里亞に渡したのは誰なんだろうって考えていたんです」

「お父様じゃないの?」

「じゃあ、“利子の回収”ってのは何なんすか?」

「それは…」

「この手紙を爺様が出したと考えた場合、碑文は黄金を暴く為の暗号となります。
しかし、爺様が何を意図して“利子の回収”と言う言葉を入れたのかが謎です。
この手紙を犯人が出したと考えた場合、碑文は連続殺人の予告になります。
“利子の回収”の意味は分かりますが、犯人が何を意図して“黄金を暴け”と言っているのかが謎です」

「犯人は、誰かに黄金を探させて最後に掻っ攫う気なんじゃないかしら?」

姉さんのやりそうなことだわと小さく付け足す楼座叔母さん。

「俺も始めはそう考えました。でも、やっぱりそれでもおかしいんですよ」

「何で?」

「だって、俺だったら黄金の在処が分かってもみんなに言ったりしません。
誰かが黄金を見つけたとしても、犯人には知りようがないと思うんです」

「まあ、言いたい事は分かるわ」

「更に、誰かが黄金を見つけて犯人がそれを横取ったとしても、
見つけた奴だけを消せば事足ります。皆殺しってのはやり過ぎだと思うんです。
1人2人こっそり消したぐらいだったら、森に迷い込んだんだろうとか言い訳のしようもありますが、
皆殺しにしてしまったら犯人の立場は不利に過ぎます。
自分1人だけになってしまったら、右代宮一族も何もないでしょう?」

「なら、復讐って線はない?」

楼座叔母さんが俺に尋ねた。

「自分が当主になれないのならいっそ全員って」

復讐、復讐か。
それこそ絵羽伯母さんのイメージからは程遠い。
俺は心の中でそう思った。
自分を良く見せる為には2つの方法がある。
一つは周りの人を蹴落とす方法。
もう一つは、自分を高める方法だ。
絵羽伯母さんは間違いなく後者の人間だろう。
そんな絵羽伯母さんが周りを道連れにするようなまねをするか?
兄貴にまで危険が及ぶような方法で?
俺にはどうにも違う様に思えた。

何もかもが微妙に噛み合わない。
一体何なんだチクショウ。

「きひひひひ」

バッと後ろを見る。
そこには爛々とした目の真里亞が立っていた。

「気色の悪い笑い方するんじゃねえぜ」

「戦人、迷ってるね?」

「ああ、どうやって犯人をぶん殴るか迷ってるぜ」

俺の言葉を無視して語り始める真里亞。

「魔法を使うにはね、リスクが要るんだよ」

「リスクだぁ?」

「常に失敗するリスクを負った上で魔法を使うの。
そのリスクが高ければ高い程、より大きな魔法による奇跡が起こせる。
ベアトは黄金の魔女。魔力の源泉は黄金にある。
だから、もしそれを暴かれてしまったらベアトは魔法が使えなくなる。」

「暴けと俺達を煽り立てる事で、より大きな魔法が使える?」

「きひひひひ。戦人には分かるかなぁ?」

「さっぱりだ」

「だろうね。普通の人には反魔法の毒素があるから、ベアトが「み」えないし、
魔法の奇跡も信じられない。可哀そうに」

はあ、真里亞の話を聞いていたら、俺の頭が持たねえぜ。
頭痛がすらあ。

17時になった。
俺は楼座叔母さんと共に階段へ向かった。

「南條先生、蔵臼伯父さん、交代っす」

「おお、ありがとう」

交代して、2人が戻ろうとしたその時、

ドン!ガタガタッ!バンッ!!

二階から物凄い音が聞こえた。

部屋の中から霧江さんが顔を出す。

「今の音は何っ!?」

脱兎の如く階段を駆け上がってゆく楼座叔母さんと蔵臼伯父さん。

「南條先生!」

俺と南條先生も後に続いた。

二階の奥の扉が開いている。

その中に飛び込むと、
夏妃伯母さんが、
真っ赤に染まったベッドの上に倒れていた。

南條先生が死亡宣告をする。

「夏妃!夏妃っ!!」

部屋の窓は施錠されていた。

「誰も、どこにもいないわ」
部屋を捜索していた楼座叔母さんが、
憎々しげに吐き捨てた。

「凶器すらない」

楼座叔母さんの言葉を聞くや否や、
蔵臼伯父さんが部屋の外に出て、
隣の部屋へ飛び込んでゆく。

「どこだっ!どこにいるっ!!」

怒鳴り散らしている蔵臼伯父さん。

俺はチラリと二階廊下の小窓を見たが、
そこも施錠されていた。

隣の部屋に俺も入る。
蔵臼伯父さんはクローゼットからベッドの下からシャワールームから、
全てを徹底的に捜索していた。
窓を見る。隣の部屋の窓も、施錠されていた。

と、いう事は、

階段を降りると霧江さんが立っていた。

「霧江さんっ!夏妃伯母さんがっ!」

事態を察する霧江さん。

「犯人は?」

「それが、二階には何処にもいないんだっ!」

「窓は?」

「全部閉まってる!!」

「……それは、おかしいわ」

若干呼吸が乱れる霧江さん。

「だって、誰も降りてきてないもの」

……え?

霧江さんは今、何て言った?

ダレモオリテキテイナイ?

何だそりゃ?

どう言う意味だ?

夏妃伯母さんの、あの状態は、
自殺なんかじゃあり得ない状況だぞ?

凶器もどこにもなかった。

二階には誰もいなくて、
窓も全部閉まってて、
なのに、階段を誰も降りてきていない?

ああなんだ。
ゲストハウス二階が、1つの大きな密室だったって事か。

霧江さんの後ろから真里亞もひょっこり顔を出す。

「うー……、戦人も、ベアトを認める?」

認めても、良いかもしれない。
少しだけ、そう思ってしまった。

本館の様子を確かめる為、
霧江さんと楼座叔母さんが向かう事となった。

「戦人君はここから入口を見ていて頂戴」

霧江さんが窓を指差す。
そこからは本館の入口が見えていた。

「分かりました」

頷くと楼座叔母さんと2人でゲストハウスを出てゆく霧江さん。

窓から眺めていると、本館入口を開け2人は中へ突入していった。

ん?
入口から誰かが飛び出してきた?
あれは…、
絵羽伯母さん!?

血相を変えた絵羽伯母さんが、
礼拝堂の方へ走ってゆく。

何故だ!?
何故絵羽伯母さんが外にいる!?
本館3階の客室で秀吉伯父さんといる筈じゃあ!?

「ちょっと戦人さん!?」

南條先生の制止を振り切り、
俺はゲストハウスを飛び出した。

絵羽伯母さんが駆けて行った礼拝堂の方へ進む。

「…?」

礼拝堂に着くと、何か違和感を感じた。
そしてそれに気づく。

「首が変なんだ」

礼拝堂の入口脇にある獅子像、
その首がおかしな方へ曲がっていたのだ。
確か、こう言うのは正面を向いているのが普通の筈。
礼拝堂に小さい頃行った際の記憶でも、そうなっていた筈だった。

良く見ると、ぬかるんだ地面に足跡が残っていた。
獅子像の首の向いている方へ続いている。
俺はその足跡を辿った。

見た事もない地下への階段を降りてゆく。
底にある扉には、こう書かれていた。

第十の晩に、魔女は蘇り黄金の郷に至るだろう。

「まさか…」

恐る恐る扉を開ける。
中は上品な調度品で整えられており、貴賓室の様相を呈していた。
しかし、そんなのは問題ではなかった。

「見つけちまった…」

10トンの黄金。
それが目の前にあった。

あまりに非現実的な光景に我を忘れそうになる。
だが、俺は思い出す。
そうだ。俺は絵羽伯母さんを追いかけて来たんだ。

「絵羽伯母さん?」

見渡すがどこにもいない。

良く見ると、奥の壁、柱時計の横にもう一つ扉があった。
少し開いている。
絵羽伯母さんは更に奥へ進んだのか?

扉の先には、岩壁の地下道が続いていた。

俺は暗い地下道を駆ける。
しばらく走ると、Y字路が現れた。

「どっちだ?」

と逡巡したその時、

「こっちよっ!」

Y字路の物陰から誰かが飛び出してきた。
とっさの事に避ける暇がない。
頭に衝撃が走る。

「みんなの仇よ」
薄れゆく意識の中で、
絵羽伯母さんの声でそう聞こえた気がした。

ん…。
頭がズキズキする。
辺りは真っ暗だ。
手足や頬の感覚からすると、
俺は地面に寝ているらしい。

横の岩壁に手を突きながら、フラフラと立ち上がる。
段々と目が慣れてきた。
記憶も徐々に繋がって来た。
そうだ。

「絵羽伯母さんに……」

確か、突然飛び出してきた絵羽伯母さんに頭を殴られて……。
俺はどれ位気を失っていたのだろう?

見ると近くの地面に黄金のインゴットが1本転がっていた。

「これで殴られたのか?」

兎も角、行かなくては。

フラフラと俺は、地下道を進み始めた。

進む。進む。進む。

辿りついたのは、地下に出来た船着き場の様な場所だった。
誰もいない。
絵羽伯母さんはY字路の反対に行ったか、引き返すかしたのだろうか?

「戻ろう」

踵を返したその時、
恐ろしい地響きが鳴り始めた。

ドゴンッ!!
崩れた天井から大きな岩の塊が落ちてきて、来た道を塞ぐ。

「うおおおおっ!!?」

次々と落ちて来る岩から逃げようと、船着き場の端へ走る。

「一体何なんだよ!!」

地震か!?
それにしては海があまり揺れていない。
島だけが局地的に揺れている様だった。

大きな岩が又落ちて来る。

「あっ」

避けようとして、

バランスを崩して、

俺の身体は、

海に投げ出された。

一体、この島では何が起きたんだ?

分からない。

分からない。

何も。

…。

バトラとベアトがカケラから顔を離した。

「まあこんな物だよなァ」

ニタニタとベアトが笑っている。

「ああ」
バトラもブスッとして答えた。

「これが、右代宮戦人の見た「真実」だ」

「それを、信じろと?」

「お兄さんの言う事が信じられないのですか?」

今、縁寿の目の前には2人が座っていた。

1人は推理小説家の八城幾子、
そしてもう一人は、

「お兄ちゃん……」

八城十八、いや、右代宮戦人だった。

伊藤幾九郎〇七五六

ネット上に次々と偽書を投稿していた人物の名だ。

数字に直すと11019960756。

この数字は18の8乗。

8乗の18、

八乗十八、

八城十八。

伊藤幾九郎〇七五六=八城十八

縁寿はそれを見破った。

偽書の内容は所詮紛い物。
真実は2本のボトルメールの中にある。
それが縁寿のスタンス、だった。

しかし、嘘をつくには理由がある。
事象を魔法で装飾する様に。
全てを切り捨てる訳にはいかない。

八城十八の偽書は迫真に迫りすぎている。

そう考える事が出来たからこそ、
今、縁寿は兄の前に立つ事が出来ていた。

それは奇跡。

本来はあり得る筈のない邂逅であった。

もし仮に、縁寿に愛がなければ、
世間の目は今とは異なっていただろう。

そうなれば、十八は縁寿に会う決心がつかなかっただろう。

絵羽を受け入れると言う小さな勇気。
それを発端に連鎖した末の、絶対の奇跡だった。

そして、奇跡はまだ続く。

「聞いてた?絵羽伯母さん?」

扉が開く。

「戦人、君……」

天草が絵羽を席へ案内する。

「さあ、お母さん。話して頂戴。
あの日、お母さんは一体何を見たの?」

お母さんは懐から一冊の日記帳を取り出し、
そのページをめくり始めた。

やってしまった。ごめんなさい。
>>196は無視してください…。

「それを、信じろと?」

「お兄さんの言う事が信じられないのですか?」

今、縁寿の目の前には2人が座っていた。

1人は推理小説家の八城幾子、
そしてもう一人は、

「お兄ちゃん……」

八城十八、いや、右代宮戦人だった。

伊藤幾九郎〇七五六

ネット上に次々と偽書を投稿していた人物の名だ。

数字に直すと11019960756。

この数字は18の8乗。

8乗の18、

八乗十八、

八城十八。

伊藤幾九郎〇七五六=八城十八

縁寿はそれを見破った。

偽書の内容は所詮紛い物。
真実は2本のボトルメールの中にある。
それが縁寿のスタンス、だった。

しかし、嘘をつくには理由がある。
事象を魔法で装飾する様に。
全てを切り捨てる訳にはいかない。

八城十八の偽書は迫真に迫りすぎている。

そう考える事が出来たからこそ、
今、縁寿は兄の前に立つ事が出来ていた。

それは奇跡。

本来はあり得る筈のない邂逅であった。

もし仮に、縁寿に愛がなければ、
世間の目は今とは異なっていただろう。

そうなれば、十八は縁寿に会う決心がつかなかっただろう。

絵羽を受け入れると言う小さな勇気。
それを発端に連鎖した末の、絶対の奇跡だった。

そして、奇跡はまだ続く。

「聞いてた?絵羽伯母さん?」

扉が開く。

「戦人、君……」

天草が絵羽を席へ案内する。

「さあ、お母さん。話して頂戴。
あの日、お母さんは一体何を見たの?」

お母さんは懐から一冊の日記帳を取り出し、
そのページをめくり始めた。

「譲治、譲治……」

私が一体何をしたのよ!!
何で、譲治を失ってしまったの!?
誰が、誰が譲治を殺したの!!?
殺してやる、絶対に殺してやる!!

「絵羽、しっかりするんや…」

「あなた……」

秀吉さんが窓の外を見る。

「ん?なんや?霧江さんと楼座さんや。
こっちに来るで」

窓に寄って見ると、
2人がこっちに走って来るのが見えた。

ゲストハウスで何かあったのだろうか?
私が犯人じゃない事は自分が一番よく分かっている。
秀吉さんがこんな事をする筈がない。

なら、

そこで思い当たる。

犯人は「あっち」にいる!

「きっと、あっちで事件が起きたんだわ」

深い深い溜息をつく。

もう、嫌だ。

ゲストハウスから森の方へ眼を逸らす。
すると、

あり得ないモノが見えた。
一瞬だったが、間違いない。

「な、何で…?」

奥歯がガタガタと鳴る。

だって、あり得る筈がない。
そんな事。

でも、間違いがない。

見間違う筈がない!!

部屋の扉を開け放つ。

「絵羽!どこ行くんや!?」

焦った様子の秀吉さん。

「あなた、ごめんなさいっ!!」

私は部屋を飛び出した。

俺は何故みんなを殺すのだろう?

殺人を犯す為には動機が必要である。

それもなるだけ深刻な。

しかし、俺にはそれがないのである。

いや、正確には少し前まではあったのだが、
今は綺麗さっぱりなくなっているのだ。

もっと言おう。

俺は、殺人を犯す理由がなくなったから、
みんなを殺さなくてはいけないのだ。

何を言ってるか分からねーと思うが、
大丈夫。俺にもさっぱりだ。

そう。

こう考えれば良い。

これは遊びなのだと。

ボロイ仕事だぜ。

そう呟くと、
留弗夫は空のウィンチェスター銃を抱えた。

「濡らすと親父に叱られちまうな……」

『六軒島魔女伝説連続殺人事件シナリオ』

決行日:1986年10月4日(土)・5日(日)

ルールx:本ゲームは全て狂言であるが、狂言と知る者・知らない者がいる
ルールy: ゲーム中、ゲーム上の死は本当の事として扱われる
ルールz:ルールx,yに基づいた上で、犯人役だけは嘘をつく

ゲーム開始時において、本ゲームを狂言と知らない者は、
右代宮夏妃・右代宮蔵臼・右代宮絵羽・右代宮戦人
の4名。

本ゲームの目的は、
表:戦人の歓迎余興
裏:朱志香に、自分は親から愛されている事を知ってもらう事
  蔵臼に、兄弟を失う悲しみを知ってもらう事
  絵羽に、当主の座への固執をなくしてもらう事
  又、私と譲治の交際を知ってもらい、又、認めてもらう事
である。

以上の四つの裏目的を達成し、右代宮家の親族関係を正常化する事なくして、
右代宮家、引いては私にも、未来はない物と考えられる。

                              安田紗代

以下にゲーム進行の概略を記す。
決まったセリフなどは特に設けない。
最低限のゲーム進行に支障がない部分については、全てアドリブでお願いする。

犯人役:留弗夫・霧江

●第一の晩:金蔵 留弗夫 朱志香 源次 熊沢 郷田

朱志香と留弗夫を失うが、戦人や長男夫婦が変な行動をしない様に注意。
戦人については霧江に抑えてもらう。長男夫婦については南條先生辺りに。
朱志香は先に死ぬ事で母の愛を分からせる。
霧江が戦人に謎を解けと焚き付ければなお良し。

時:二日目朝、朝食前

発見者:私

シチュ:留弗夫(1F客間)郷田(3階控室)朱志香(2階自室)
熊沢(2階貴賓室)金蔵(3階書斎)源次(礼拝堂)

トリック:六連鎖密室(一階部屋の留弗夫が死んだふり)
※留弗夫に関しては南條先生が検死しては公平性がなくなるので、霧江がする事。
外の人がやってくる前に留弗夫の部屋の扉は施錠する事。

●第二の晩:私 譲治

譲治を失うが、絵羽については秀吉に抑えてもらう。
絵羽に譲治と私の交際を知らせる。

シチュ:昼食を取りに行ったきり、私達が戻ってこないと霧江が気づく。
部屋の前に缶詰の束等を転がして、食料を取って戻る途中に襲われたみたいなシチュに。

トリック:チェーン密室(留弗夫が殺害後、チェーンの輪の一部を切り細工。
外からチェーンが掛かっている様に掛け直す。侵入時に霧江がその輪を断ち切れば証拠は消える)
捜索時には幾つかの班に分かれる事。
霧江は必ず一階を担当し、留弗夫のいた部屋には寄せ付けない事。

※留弗夫はゲストハウス2階手前の部屋へ移動。

●第三の晩:手紙出現

第二の晩の部屋に突如として出現。楼座が仲間割れを誘発。
秀吉と絵羽が犯人の一味であると言う説を唱えて貰う。
2人を残しゲストハウスへ戻る。
霧江の提案で屋敷の一階部分を外から封印して回るが、
留弗夫は既に本館から脱出しているので無意味。

トリック:扉の裏を確認する振りをして、みんなの目線がそれた瞬間に置くだけ。
※運の要素が多分に絡んでいるが、全ては狂言なので成功率は100%である。

●第四の晩:夏妃

長男一家で蔵臼のみが生き残るが、楼座、真里亞、南條先生が抑えてくれる。

シチュ:頭痛に触ると部屋に戻した後のゲストハウス2階で

トリック:密室的状況での殺人
奥の部屋で留弗夫が夏妃を殺害。手前の部屋で物音を立てる。
奥の部屋の扉をわざと開けておけば、そちらに誘導されるであろう。
楼座が霧江は階段下に残る様に指示。
(本来であれば霧江が下に残れるかどうかには多分に運の要素が絡むが、今回は全て狂言なので100%)
楼座一行が奥部屋に入った後、留弗夫は手前の部屋からこっそり外に出る。
後は、霧江が「誰も降りてきていない」と言えば2階を密室的状況に出来る。

※夏妃については頭痛に触るのでネタばらしは早めに。
(電話で指示。朱志香「クローゼット見ろ」)

………

ゲストハウスから出た俺は、
礼拝堂の方へ身を潜める為移動していた。

「風邪引いちまうぜ全く」

これが全部戦人の為の余興と言うんだから恐れ入る。

昨晩、立食パーティの後で真里亞ちゃんが読んだあの手紙、
その真意を確かめるべく俺達、四夫婦は親父の書斎へ向かった。

「お父さん!あの手紙は一体何なのですか!!」

兄貴がどんどんと扉を叩いている。

「やかましいぞ!!」

書斎の中から親父の怒鳴り声が響いた。

扉が開く。

源次さんが出てきた。

「お館様より、蔵臼様から順に1名ずつ書斎に案内せよ命ぜられました」

書斎に入ってゆく兄貴。
しばらくして出てきたが、ポカンとした顔をしていた。

「兄貴、親父殿は何だって?」

「次の当主は私、だそうだ」

「はあ?」

「後は、自分で聞いてこい」

続いて姉貴が入ってゆく。
出て来た時には同じくポカンとした顔をしていた。

「姉貴までなんだよその顔」

「自分で聞いてきなさい」

兄貴と同じ事言ってやんの。

次は俺の番だった。

入ると書斎の窓の側に親父が立っていた。

「留弗夫か」

「おう。兄貴も姉貴も狐につままれたような顔をしてたが、
一体何を言ったんだ?」

「あの手紙の真意を聞きにお前達は来たのだろう?」

そうだ。あの黄金の話は一体何なんだ?

「手紙の通り、10トンの黄金は実在する」

…ああ。2人の気持ちが分かったぜ。

「この島のある場所に儂が隠した」

親父がベアトリーチェの馴れ初めを語り始める。
何てこったい。

「家督は蔵臼の物だ。しかし、黄金に関してはビーチェに変換するのが本来の筋。
しかし、ビーチェはもう居らぬ。だから代わりに、ビーチェと儂の間に設けた子供に譲ろうとした」

なんだとっ!?
俺の受けた衝撃などどこ吹く風で親父は語り続ける。

「しかし、彼女は黄金などいらんと言いおった」

なんとまあ豪気な事だ。

「そこで、だ。黄金以外の資産は法的に則って配分するとして、
黄金は大体200億円相当と考え、
蔵臼・絵羽・留弗夫・楼座に20億づつやる事とした。」

ありがたい。

「お前らが事業に挫折しているのは知っている。これで何とかしろ」

「親父…」

「感謝は儂でなく理御にするんだな」

理御。それが、ベアトリーチェの子供の名か。
見た事もない彼女に俺は感謝した。

「さしあたって、換金した分は各家にカードで郵送したそうだ」

はあ。何から何までありがたい。

「そして、残りの黄金についてはあの手紙の通り、
見つけた者に譲る事にした」

はあっ!?

「精々頭を悩ませることだな」

おいおい…。120億円の宝探しゲームって事かよ。

「と、ここまでは大体、蔵臼にも絵羽にも話した事だ」

ん?

「ここから話す事はこの二人と夏妃そして戦人には内密にするように」

途端に悪戯っ子の様なキラキラした目になる親父。

な、何なんだ?
何でここで戦人の名前が出て来るんだよ……。

「戦人が帰ってきただろ?」

「ああ」

「歓迎の余興をしようと思う」

「パーティならもうしたじゃねえか」

「違う。戦人は推理小説を好むと聞いたぞ」

「あ、ああ。それはそうだが…」

あのナリであいつは読書家だからなぁ。

「だから推理ゲームを開催する事にした」

もう、決定事項なのかよ。

……

と言う訳だ。

金貰っちまってる以上、断りにくいし。
親父が決定しちまってるもんだから渋々やってるって訳よ。

ふわわわわわわわ、ねみい。

だから、最初は脳が寝ぼけて幻覚でも見たのかと思った。

「何か」が向こうからやってくる?

礼拝堂近くの林がガサガサ鳴っている。

おいおい、俺以外は全員本館かゲストハウスにいる筈だぞ?
何がいるってんだ?
こんな嵐の中で歩く奴なんて、俺位なもんだろう?

自然と後ずさる。

その時、雷が鳴った

俺は見てしまう。

この島で一度も見た事もない「何か」が、
林の中から幽鬼の如く歩いてきているのをっ!!

慌てて逃げる。

一体何だったんだアレは!?
どうする?誰かに連絡するか?
いや、それでゲームが台無しになったら親父に怒鳴られる。
今は機嫌を損ねたくねえ。
仕方ない。礼拝堂の方は諦めて、園芸倉庫の方にでも行くか。

そう決めた俺は園芸倉庫の方へ向かう事にした。

ぴちょん、ぴちょん。
天井から頬に落ちてきた水滴が、
私の意識を覚醒させた。

私は生きているのか?

手は、動く。
足も、動く。
異常は、特にない。

「グッド、奇跡的でした」

体調は万全とは言えない。

岩壁に手をつきながら、
ゆっくりと立ち上がる。

暗闇に目が慣れてきた。辺りを見渡す。
ここはどうやら洞窟内に作られた船着き場の様だった。

「つまり、全くの無人島ではないと言う事です」

この様な状況だと言うのに、頬が自然と緩む。

「ただ船着き場がそこにあるだけで、
古戸ヱリカにはこの程度の推理が可能です。いかがでしょうか皆様方」

ここでヱリカ来るかー!

面白い乙乙

地下道を歩き続ける。

前へ前へ。

やがて一枚の扉に行きあたった。

「何、なんですか?」

やっぱり私は死んでいるのだろうか?

こんな光景を目の当たりにするなんて…。

絨毯に天蓋付のベッド。
諸々の高級そうな調度品。

そして、

金塊の山。

扉の向こうには信じがたい光景が広がっていた。

頭がクラクラする。

私は思わず、横の柱時計に手を付いた。

ん?

何となく違和感がした。

ああ、そうか。

柱時計に体重を乗せたんだから少し位グラつくと思ったのに、
全くビクともしないから変に感じたんだ。

パンパン

手で柱時計の横を叩く。

グッグッ

押してみるが、やっぱりビクともしない。

この柱時計、壁に張り付いている?

さっきまで死にかけていたと言うのに、
内から湧き上がる好奇心。

好奇心があったから、
「あんな結末」になったと言うのに。
自分の性質と言うのは変えようたって変えられないのか。
回り出す灰色(自称)の脳細胞。

壁に付けるのであれば、
わざわざ柱時計などと言う形にする必要はない。

柱時計はその柱部分に動力を持つ。
しかし、壁に付けるのであれば動力は壁の中に組み込む筈。

従って、壁に張り付いている柱時計は存在が破綻している。

加えてこの黄金やら何やらと言う、
明らかに「異常」なシチュエーション。

何かあるんだ…。

柱時計を正面からくまなく観察する。

そして、スイッチのような物を見つけた。

カシャン

何も起こらない。

カシャン、カシャン

何も起こらない。
弄ってみるが何の反応もなかった。

「何なんでしょう?」

てっきり何かの仕掛けが作動するとか、
色々と期待してたのに。

「拍子抜けですね」

試しに地下道に続く扉を閉めてから弄ってみる。

カシャン

扉の鍵になっているのではと考えたのだ。

しかし、扉は普通に開く。

もう一度動かしてから扉に手を掛けるが、
それでも扉は普通に開いた。

「んー。後考えられるとすれば……」

わざわざ時計に仕掛けをしたんだ。それには必ず意味がある筈。
つまり、時計の針も仕掛けの一部になっているのでは?

「それならお手上げですね」

文字盤と針が金庫のダイヤルの様になっていたりなど、
時計に関する仕掛けの種類は枚挙に暇ない。
正しい組み合わせを知らないと正解に辿り着くのは不可能だろう。

データ不足ですね。
すっぱりと時計の謎を諦めた私は、
部屋の一角で異彩を放っているモノを見た。

「それよりも、この黄金ですよ…」

一体どれだけの量があるのだろう?

単位は優にキロを超え、トンの領域だろう…。

触るのは止めておく。
後々問題になるのは面倒だからだ。

「こんな財を持つ人間がここにはいるって事ですか…」

一体、何者?

何にしても、ここからは一刻も早く出なくてはマズイ。

万が一誰かと鉢合わせでもしたら不審者扱いされた上に即110番だ。
それならまだ良い。

もしもこの金塊が正当なシロモノでなかった場合。

せっかく助かった命が、
誰に知られる事もなく露と消える可能性だってある。
それだけは御免だ。

入って来た時の柱時計脇の扉とは違う、
もう一つの扉を開ける。
その先は正真正銘の闇だった。

電気のスイッチらしきものを見つける。
付けると煌々と明かりが灯った。
上へと階段が延びているのが見える。
しかし、それは途中で途切れていた。

「成る程」

普段はこうして上から蓋をして隠しているのだろう。

明かりのスイッチの横にはもう一つ、
開閉と書かれたスイッチがあった。

開のスイッチを押す。

ゴゴゴゴゴ

上が開いてゆく。
それと共に激しい雨風が降り込んできた。

階段を上がり地上に出る。
出た場所は、どうやら林の中の様であった。
開閉のスイッチ自体が地下にあるので閉める事が出来ない。

「……まあ、私の知った事ではないですね」

回ってみると、教会の様な建物の前に出た。

一体ここはどこなんでしょう…。

気の向く方へ足を運ぶ。

嵐の中、林をあてどなく彷徨い歩く私の姿は、
さながら幽鬼であった。

「お母さんは何で、留弗夫父さんじゃなくて礼拝堂へ行ったの?」

絵羽は目を細めて答える

「私は丸腰だった。留弗夫が礼拝堂の方から歩いてきたのを見て、
銃のストックはそこにあると踏んだのよ」

「そして黄金を見つけた?」

「ええ。その後、地下道を歩いていると後ろから足音が響いてきた。
身の危険を感じた私はY字路の物陰に身を隠したわ。
やってきたのは戦人君だった。
留弗夫が犯人と言う事は、留弗夫を死んでいると言った霧江さんも確実に犯人側。
ならば、私を追いかけてきた戦人君も犯人側と考えるのが自然だと考えたわ」

「そして、久羽鳥庵へ行ったのね?」

「ええ。あそこなら安全だと思った。次の日の朝まで潜んでいようって。
でも、」

「爆発が起きた」

「何が何だか分からなかった。地下道は崩れて戻れなくなってたし。
何より私が考えたのは縁寿。あなたの事だった」

「え?」

「島の外にいるあなたに、あなたの家族が親族を皆殺しにしたなんて、
口が裂けても言えないと思った。目の前に目晦ましの材料はあったわ」

「それが、ボトルメールなの?」

「ええ。久羽鳥庵には幾つかのシナリオが置いてあったわ」

「あなたが島に来るverと来ないver。そして、そのそれぞれで、
“誰々が犯人の場合”のシナリオがあった。だから私は」

「「留弗夫父さんと霧江母さんが犯人のシナリオ」以外のシナリオを海に流した」

「その通りよ。私が犯人の場合のシナリオは流れ着かなかったみたいだけれど」

「私は絵羽さん、あなたが犯人だとそう考えていました」

十八は語る。

「楼座さんの言う通り、絵羽さんが犯人なのだと。
だから、”Banquet”を書いた。しかし、それでは初日の手紙を始め、
説明できない部分が多すぎる。それで気づいたんです。
全部、嘘だったんじゃないか?爆発は偶然だったんじゃないかって」

「だからお兄ちゃんは”Alliance”を書いたのね」

「そうです。そして、ボトルメールから始まる4つの物語を終わらせる為に、
“End”と”dawn”を書きました」

「猫箱は開けられた」

ベアトがそう宣言する。

「1986年の悲劇は幾つかの偶然が生み出した」

「偶々、地下の船着き場にヱリカが流れ着いた」

「偶々、留弗夫がヱリカを目撃した」

「偶々、絵羽が留弗夫を目撃した」

「偶々、戦人が絵羽を目撃した」

「絵羽は犯人が長男一家だと思い」

「戦人は犯人が絵羽だと思った」

「偶然と誤解の末に起きた、悲劇」

「だから俺達みたいなのが生まれちまった」

「だからそれを変えるには」

「ほんの少しだけ、手を加えてやれば良い」

突然ですが安価を取りたいと思います。

以下の人物より1名を選んで下さい。
選ばれた人物は、上位世界から干渉を受け、
少しだけ異なる行動を取る様になります。

1、ヱリカ
2、留弗夫
3、絵羽
4、戦人

明日いっぱいの時点で最も票数の多い人物に干渉する事とし、
どの様に干渉するかは再度安価を取ります。

トゥルーエンド、ノーマルエンド、バッドエンド各種揃えておりますので、
どうぞ皆様、奮って御参加下さい。

すみません。「明日」ではなく、
5/4(月)の0時を迎えた時点とします。

つまり、この投稿から約23時間30分後が締め切りです。

1

難しいな、絵羽で

1

ううむ……せっかくだから4の戦人で

バッドこええ

3

1

少ないな、みんな慎重になってんのかね?

3

>>224で締切り、

ヱリカ3票
留弗夫1票
絵羽4票
戦人1票
により、

絵羽へ干渉します。

又、干渉の仕方は安価↓1のコンマが、
偶数か奇数かで決める事とします。

良いエンドになりますように

「絵羽伯母さんにするのか?」

「ああ」

「まあ、いいが」

「譲治、譲治……」

私が一体何をしたのよ!!
何で、譲治を失ってしまったの!?
誰が、誰が譲治を殺したの!!?
殺してやる、絶対に殺してやる!!

「絵羽、しっかりするんや…」

「あなた……」

秀吉さんが窓の外を見る。

「ん?なんや?霧江さんと楼座さんや。
こっちに来るで」

窓に寄って見ると、
2人がこっちに走って来るのが見えた。

ゲストハウスで何かあったのだろうか?
私が犯人じゃない事は自分が一番よく分かっている。
秀吉さんがこんな事をする筈がない。

なら、

そこで思い当たる。

犯人は「あっち」にいる!

「きっと、あっちで事件が起きたんだわ」

深い深い溜息をつく。

もう、嫌だ。

ゲストハウスから森の方へ眼を逸らす。
すると、

あり得ないモノが見えた。
一瞬だったが、間違いない。

「な、何で…?」

奥歯がガタガタと鳴る。

だって、あり得る筈がない。
そんな事。

でも、間違いがない。

あれは、私が今見たのは、留弗夫だ。
弟の姿を見間違う筈がない!!

という事は、
留弗夫は死んでいない。
留弗夫を「死んだ」と言った霧江さんも嘘つきだ。

何故そんな嘘をついた?
犯人だからに決まっているっ!!

その霧江さんと楼座さんが今、
こちらへ向かってきている。

ゲストハウス側の残りは無事なのだろうか?

楼座は敵?味方?
積極的に敵になったとは思えない。
でも、例えば真里亞ちゃんを人質にとられていたら?
敵になる可能性はある。

「秀吉さん!霧江さんや楼座が来ても扉を開けちゃ駄目よ!!」

「ちょっ、絵羽っ!!」

秀吉さんの制止を振り切り廊下へ飛び出した。

霧江、今や「さん」付けなどする気になれない。
そして楼座に見つからないよう、本館の外へ出る。

留弗夫は礼拝堂の方から歩いてきていた。
そっちへ行くべきか?

礼拝堂へ向かおうと足を一歩出す。

ゾワリ

その瞬間、全身に悪寒が走った。
虫の知らせ、とでも言うべきか。

……そっちへ行ってはいけない。

何故だか強烈にそんな気がした。

留弗夫が完全に雲隠れしてしまう前に追いかけなくては。

私は留弗夫が消えた園芸倉庫の方へ向かった。

留弗夫は園芸倉庫の軒下に突っ立って、
呑気に雨を凌いでいた。
手にはお父様のウィンチェスター銃。

間違いない。

アレハテキダ

沸々と湧き上がる、
どうしようもない感情。

それは、殺意。

プツン

頭の中から

最後の理性が

消えた

「うあああああああっ!!」

叫びながら突進する。

仰天した顔を向ける留弗夫。

留弗夫が持つウィンチェスター銃を叩き落として自分の物にする。

コイツを打ち殺す為?

いいやっ!違うっ!!

ヒュッ、ゴッ!

「や、やめっ!」

ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!

「あ、姉ぎっ!?」

殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る

機械的に繰り返されていたそれはようやく収まり、
とても静かになった。
降りしきる雨音だけが…いやに騒がしい。
なのに、…弟のそれはまだ聞こえる気がする。
…聞こえるはずはない。

コイツはもう、言うのをやめているのだから。

…そして私は、真っ赤に滴る銃身を地面に落とした。

「やったわ、やってやった!譲治の仇を、殺してやったっ!」

け、けけ、げげげげげげげげ!!

私は嵐の中、宙を見つめて嗤い続けていた。

やがて、後ろからバシャバシャと足音が近づいてくる。

首を後ろに捻じって確認する。

霧江、楼座、秀吉さん、お父様、紗音、譲治その他のみんな…

…え?

ナンデ?

頭が真っ白になる

ゾロゾロと後からやってくる、「死人達」

イッタイ

ワタシハ

ナニヲ

ミテイルンダ?

………………。

「おいベアト」

「……」

「なんとか言えや」

「…てへっ☆」

「「…てへっ☆」じゃねえぞっ!?
本当の殺人事件になっちまったじゃねえか!」

「おまけに、全員で本館に集まって迎えの船を待っている間にドカン!だしの」

「さらっと島爆発させてんじゃねえ!
一体どういう料簡で絵羽伯母さんに干渉しようとしたんだ!?」

「いや、留弗夫に会って話をすれば絵羽も納得するかなって…」

「絵羽伯母さんから見りゃ、今のクソ親父は愛息子の命を奪った敵だぞ!?
問答無用で殺りに行くに決まってんだろっ!?」

「バトラよ、落ち着くが良い」

「これが落ち着いてられっか!し、か、も、だっ!
ヱリカが柱時計を起動させてそのままだから結局爆発オチじゃねえか!」

ゼー、ゼー。肩で息をするバトラ。

「テイク1だっ!!!」

はい、バッドエンド3へ分岐してしまいました。
バトラがなんとなくヒントを言ってるので参考にして下さい。
因みに、絵羽への干渉の仕方には「コンマが奇数の場合」がまだ残っています。

再び安価を取ります
↓3までで投票数の多い人物へ干渉(ヱリカ・留弗夫・絵羽・戦人の4人から)

ヱリカ

ヱリカ

ヱリカで

こうなったら全エンドをコンプリートしたいな……

ヱリカへの干渉の仕方。

↓1(コンマが偶数か奇数か)

ざざん、ざざん
冷たい物が足に掛かってくる
それが私の意識を覚醒させた。

私は生きているのか?

手は、動く。
足も、動く。
異常は、特にない。

体調は万全とは言えないが、
それでも私は生きていた。

見るとここは砂浜の様だった。

徐々に記憶が繋がってくる。

そうだ、私は船から落ちたんだった

「グッド、奇跡的でした」

それにしてもここはどこだ?

階段の様な物が見える。
とりあえず無人島ではないようだった。

「ただ階段がそこにあるだけで、古戸ヱリカにはこの程度の推理が可能です。
いかがでしょうか皆様方」

私の呟きは徐々に勢いを増してきた嵐によってかき消された。

階段を上がり、道を進む。
舗装された道路に、バラ園かと突っ込みたくなる程見事な庭園。

エターナルメイドⅡのパンフレットを思い出すが、
こんな施設が近隣にあると言う情報はなかった様に思う。

「…これは又、見事な屋敷ですね」

少し先に、大きな屋敷が見えてきた。

明かりもついてるし、助けを求めよう。
とにかく寒い。

と、その時、屋敷の正面扉が開き、
何人かが出てきた。
私の姿に気づいた背の高い男が驚いている。

「うおおっ!誰だあんた!?また俺の知らない奴か!?」

先頭に立つ線の細いメガネが首を横に振っている。

「いや、ボクも見た事がないね、朱志香ちゃんは?」

「私も知らねーぜ」

まあ、突然流れ着いた私を知る人などいないだろう。

「私は古戸ヱリカと言います。遊覧船に乗っていたんですが、
この近くを通った時に海に投げ出されてしまいまして…」

「はあっ!?じゃ、あんた、漂流してここに流れ着いたってのか!?」

デカ男が大仰に驚いて見せる。

「ええ、まあ…」

「お館様」

書斎の電話が鳴り源次が受話器を取る。
短く指示を飛ばした後、受話器を置いた。

部屋の外では馬鹿息子達が騒いでいる。
紗代が真里亞に渡した手紙を読んだのだろう。

「ん?どうした。これから楽しい余興の始まりではないか」

「いえ、どうやら余興は中止の様です」

「何っ!?」

「紗代がそう言っております」

どう言う事だ?紗代が計画を中止にしただと!?

「何が起きたのだっ!?」

「それが…」

船から落ちて六軒島へ流れ着いた、か。

「それは本当なのだろうな?」

何かの策略が裏にあるやもしれん。

「現在確認中ですが、恐らく本当にただの漂流者かと」

「そうか」

馬鹿息子共は相変わらず、
何も知らずに扉の外で騒いでいる。

「源次、全員書斎に入れろ」

「よろしいのですか?」

「止むを得ん」

全員を書斎に入れると、
蔵臼が早速喚き始めた。

「お父様!あの手紙は一体!」

「しばし口を閉じよ」

しんとする書斎。

「儂も年を食った。いつ往生してもおかしくない。
そこで、家督と遺産についての話をしようと思う」

ゴクリ

つばを飲む音が聞こえる。

「まずは次の当主についてだ。
これは蔵臼、お前とする」

絵羽が愕然とした顔をする。許せ。

「そして、公の遺産については法律に則り、順当に配分する事ととする。ただし、」

そこで言葉を一旦切って、そして言う。

「儂が隠している黄金10トンについてはこの限りではない」

ざわめく息子共。

「しずまれ」

ざわめきを抑えてから説明を続ける。

「黄金は実在する。この島のある場所に儂が隠した」

そして儂はビーチェとの関係を話しはじめる。

「…この様に、黄金は元々ビーチェの物であり、今はその娘の物である。
しかし、その娘は黄金を「いらない」と言った。右代宮家で分けてくれと。
従ってこの黄金10トン、時価200億円相当は、お前達4世帯にそれぞれ20億円づつ配分する事とした。
お前たちが事業で苦しんでいるのは承知している。これで何とかしろ」

安堵した顔を見せる馬鹿共。
事業家ならポーカーフェイスくらい身に付けんか。

「換金した分は既に各家にカードで郵送しておる」

と、ここで蔵臼が尋ねる。

「しかし、お父さん、残りの120億円は?」

儂はニヤリと笑った。

「残りについては先程のお前達が見たであろう手紙の通りだ。
碑文を解いた者に与える」

更に追い打ちでも掛けてやろうか。

「自力で解いて独占するも良し、協力して解いて配分するもよし。
但し、碑文を解いた者であれば「誰でも」手に入れる事が出来る。
例えそれが、使用人や余所者であってもな。

実際は使用人で碑文の答えを知らない者は郷田だけだ。
紗代はもはや使用人などではないし、
源次・熊沢・南條は言うに及ばず。

「そうそう、そしてこれが重要なのだが」

儂は息子共を見渡してから言う。

「先程、遊覧船から落ちて六軒島に流れ着いた者を保護したと、
紗音からの報告が届いた。期せずして120億円のチャンスを手に入れるとは、
幸運な客人であるな」

余りに無茶苦茶な展開に泡を食っておるわ!
愉快愉快!

ヱリカは実際、碑文の謎が解けるからなぁ

ほう、純粋な碑文の謎解き大会になるのか?

…どうしようか。

本来であれば「ゲーム」を通じて
蔵臼さんには兄弟愛を、
絵羽さんには家族愛を、
朱志香さんには母の愛を、
分かって貰う計画であった。

そこに碑文の謎を上乗せして、
私自身を右代宮家の呪縛から解き放ち、
何のしがらみもなく、譲治さんと結ばれる予定でもあった。

その為の戦人さんと最後のゲーム、
つまり、私自身のけじめと言う意味合いもあった。

しかし、不意の客人を迎えてなお完遂出来る程、
私の計画は完璧ではない。

殺人劇は行えない。

残ったのは碑文の謎だけ。

何の予備知識もない客人においそれと解ける代物ではない筈だけれど、
放ってはおけないだろう。

私はこの状況を打破するべく、
早速行動に出た。

「ほー、ヱリカちゃん言うんや?」

「ええ。宜しくお願いします」

「災難やったなあ」

「しかし、ここに流れ着けたのは幸運でした」

「この島も広いですからね。
未開発の場所に流れ着いたりしていたら大変だったでしょう」

「そうよう。この島ももっと開発したらいいじゃなあい」

「うむ。考えておこう」

本館食堂へ再び集まった一同は、
ヱリカと対面していた。

私はお茶を入れにテーブルを回る。
仕掛けるならここしかない。

「ヱリカさんはこちらには観光で?」

「ええ。まあ」

歯切れが悪い。まあ、こんな鄙びた所にわざわざ来るぐらいだし、
大方、傷心旅行か何かなのだろう。

「ゆっくりしていって下さいね」

「ありがとうございます」

先程のパーティまではいかずとも、
みな打ち解けた様子で団欒していた。
見かけ上は。

大人達、特に絵羽さんがピリピリしているのが私には分かった。
何故か?
碑文の謎を解き、120億円を自分の物にしたならば、
例え家督が蔵臼さんへ行ったとしても、多大な影響力を持てるからだ。
つまり、影の当主になる事が可能なのである。

これが何を示すか?
長女一家以外が謎を解いた場合、
人死にがでてもおかしくない事を示している…。
犯人はもちろん、絵羽さんだ。

しかし、長女一家の誰かが謎を解いたとしても話は解決しない。
今度は長男一家との対立が深くなってしまうだろう。
今すぐでなくとも、惨劇の火種になりかねない。

となると狙うのはやはり、四人が協力して謎を解く様に仕向ける事だ。
そして、残りの黄金も等分にさせるしかない。

どうすればそこまで持っていける?

謎を解くには、
・お父さんの故郷
・礼拝堂のレリーフ
この二つを結びつける必要がある。

蔵臼さんはお父さんの故郷を知っている。
しかし、「鮎の川」を読み解けるかは未知数だ。

楼座さんは第十の晩の「黄金の郷」と言う表現に着目していた様だ。
「京」の10分の1で「千兆」と発想が出来れば、
礼拝堂のレリーフに気づくかもしれない。

絵羽さんは戦人さんの推理を聞いていた。
蔵臼さんと楼座さんのヒントがあれば、
あるいは自力で謎を解くかもしれない。

問題は留弗夫さんだ。
留弗夫さんには何のアドバンテージもない。
彼を除いて120億円を三等分なんて話になったら、
それこそ霧江さん主導で皆殺しにしかねない。

取りあえず、彼らが自力で「今日」謎を解く事は阻止した。
使用人室のマガジンラックに目をやる。

私がゲストハウスの書庫からかすめ取ってきた、
台湾の詳細な地図帳だった。
カモフラージュに他の本も何冊か持ってきている。

これは明日の朝、こっそり戻しておこう。

楽しみに待っとるよ

ヱリカがどう出るのか……

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