女「降られちゃいました」(19)



 この日は雨でした。



 乾いた地面を潤すように、慈しむように、しっとりと降り注ぐ、優しい雨でした。


 真っ黒く染まったアスファルト。 匂い立つ夏の臭い。


 路地に面した裏庭の縁側で、ぼんやりとそこから見える景色を眺めます。 枯れかけた紫陽花は、雨を喜んでいるようでした。


 人影が、ぽつりとひとつ。



 雨に濡れた長い髪、か細く折れてしまいそうな身体。


『濡れちゃいますよ?』



 振り返ったその人は、にっこりと笑って言いました。


女「えぇ、降られちゃいましたね」


 びしょ濡れが絵になる女性でした。

 何というか、艶やかでした。


『大丈夫ですか?』


 じぃ、と見つめてしまいました。 失礼な事をしたと思います。

 でも、見つめてしまいました。

 見惚れていた。 の方が正しいかもしれません。


 目が離せないんです。

 水煙に紛れて、次の瞬間消えてしまいそうな雰囲気でしたから。


女「優しい人なんですか?」


『いえいえ、普通な人ですよ』

 優しいなんてとんでもないです。 ごく一般的な、おじさん一歩手前の売れない物書きです。


女「降られたくは無かったんですが」

 ぼんやりと空を見上げて雨の人は言いました。


『傘を、持ち歩くべきだったみたいですね』


女「傘をさしても降られると、濡れてしまいます。 特に頬なんかはびしょびしょです」


 髪をかきあげると形の良い眉と額が見えました。

『雨宿り、します? 暖かいお茶くらいなら多分出せますよ?』

女「それでは汚れてしまいますよ?」

『ボロ屋ですが、拭く物くらいは有りますよ』


女「それでは、失礼して」


 垣根の切れ目から裏庭に入り、縁側の前に立つ彼女はうっすらと笑みを浮かべていました。

 疲れているような、諦めたような、そんな笑みでした。


女「すみません」

『お気になさらず』


 タオルを渡します。 薄い緑色の生地が、彼女の水分をどんどん吸っていきます。

 小さいタオルでしたから、拭いきれるかどうか少し不安でしたが無事にその役目を果たし、用意していた洗面器に入れられました。

 雨の匂いに混じり、彼女の匂いらしき甘い匂いが、洗面器の中で濡れそぼったタオルから漂っています。


女「お邪魔しますね?」

『なんのお構いも出来ませんが』

 来客用に少しだけ上等なお茶を用意します。

 戸棚を開けて『はて、お茶請けは何にようか』なんて考えていると縁側からなにやら私を呼ぶ声がしました。



女「お構いして下さるようですが、良いのですか?」


『何がですか?』


女「下心がお有りだとしても、今の私には応えられませんよ?」

 そんなつもりは無いと思ってたんですが、こう言われてしまうと、少しだけ複雑な心境になります。

 彼女は美人ですから。

 そりゃあ、少しの期待は有りますよ。 僕は聖人君子、ではなく、成人男子、ですし。

『気を使わせたみたいですね。 大丈夫ですよ』

 少しの期待に比例して、少し残念なだけですし。


 えぇ、少しだけです。 神様に誓って。


女「雨、止みましたね」


 お茶をのんで、カステラを食べて、少しだけお話をして。

 彼女をまた、寂しそうな笑みを浮かべて帰って行きます。


女「ありがとうございました」

『いえいえ』

女「あなたはいい人ですね。 降られた私に優しくして下さって」

『いつでもきて下さい』

女「そんな事言って、本気にしますよ?」

『んー、今度は僕に雨が降って来ちゃいそうだ』

女「あら、どーでしょうね。 貴方次第です」

『僕となら傘は不要ですが』

女「検討しておきます」

『降られたくはないので、照る照る坊主を作るのが日課になりそうです』

女「ふふ、傷心につけ込むなんてずるいですよ?」

『そうでもしないと晴れそうに無いので』

女「またきますね」

『お待ちしてます』


おしまい。


降られると振られるをかけてみたかっただけの話です。


じゃあのノシ


少年「あなたが塔の魔女?」

さらり、ふわり、ゆらゆら

魔女「果ても無き世界の果てならば」

一晩で完結を目指す安価な話


少年「安価で魔女と魔法の修行をする」

ドキ☆漢だらけの攻城戦~ポロリもあるよミ☆

です。

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