ナルト「忍道貫くその先に…前編っ!」(148)

注意事項

・カニ影様がいない日常生活でのナルヒナ、
 つまりパラレルワールド

・前編後編と分けてなお長い

・恋愛描写下手

それでもよろしければどうぞ。

戦は、終わった。
各里に大きな痛みを残して。

帰ってきた大切な人に抱き付いて喜び涙する人がいた。
帰ってこない大切な人の帰りをいつまでも信じ続ける人がいた。

とにもかくにも、課題が山積みなのは明らかだ。
一刻も早い復興のため、五影の大号令のもと、里の者総出で動き出している。
いつまでも戦争の余韻でじっとしてはいられないってばよ。

さてさて、この俺、うずまきナルト。
当然ながら将来の夢は火影になること。
そして、みんなに俺の実力を認めさせてやること。
昔も今も、絶対に変わらない。

――そう。まっすぐ、自分のことは、曲げない。それが俺の忍道だ。

戦が終わって割とすぐ、木の葉隠れのトップ、要するに火影なんだけど、綱手の婆ちゃんが五代目火影を『引退』した。
婆ちゃん本人は『年に加えて、戦で無理が祟って体がここまでガタが来たらザマァないな』と呆れて笑っていたけれど、
きっと若い者に火の意志をいい加減引き継いで頑張ってもらおうってことなんだな。
「これが老婆心ってやつだな、うんうん」と似合わない単語を使ってみたら拳骨を食らった。

……ホロリ、とした。

六代目火影に任命されたのが、俺やサクラちゃんの上司で、
ゲキマユ先生の永遠のライバルの……そう、カカシ先生だってばよ。
一度火影に任命されかけたこともあるくらい、頭脳、人望、実績いずれも申し分なく、
誰もがこの選択を良しとした。
でも、当のカカシ先生はあっけらかんとしていて――。

カカシ「えー、俺が火影――?やだなあ、何度も言うけど似合わないって」

サクラ「そんなこと言わないでくださいよ…最高に名誉なことなのに」

カカシ「…うーん、じゃあ、こうしよう。ナルトが成人するまで火影代理みたいな役で」

サクラ「……ええっ!?」

結局、数年のみの臨時火影同然の扱いであること前提で、
カカシ先生は火影推薦に承諾を返したらしい。

俺が火影に憧れ続けているということはカカシ先生は嫌というほど理解している。
「ナルトが二十歳になったら、とっとと交代してやるから。
その間に上忍にくらい、なっておけよ」――カカシ先生はそう言って、
頭をポンと撫でてくれたっけ。そうして、六代目火影はたけカカシは誕生した。
持ち前の頭脳と実力で、そして後見人ポジションに収まった綱手の婆ちゃんの的確な助言もあって、
里の復興は凄い速さで進んでいった。

あとは放っておけば里は良くなり、俺は念願の火影になれる。
――――すべてが、理想通りに進んでいるように思われた。
でも、そこまで何もかもがうまくいくことを、神様は許してくれなかったっぽい。

事の発端は、ズバリ、サスケの処遇。
うちはサスケ。第七班のメンバーで、忍者としていけ好かない天才で、
それでも俺の友達で、サクラちゃんの好きな奴で。
でも、一族を大好きな兄によって皆殺しにされ、孤独を味わい、
兄の言う通りに兄を恨み通し、復讐者としての人生を選んでしまった。

兄イタチの真実を知ってからはその矛先は木の葉へと向けられた。

サクラちゃんの制止を振り払い抜け忍となってから、
とにかくアイツはあちこちで憎しみをばら撒いてきた。

そもそも抜け忍という事実だけでも重罪なのにだ。
戦後処理で、サスケを断罪すべきという声が次々に上がった。
木の葉隠れだけでなく、他の隠れ里からも。

俺は――甘かったってばよ。

サスケを里に連れ戻すと言い始めた頃から、連れ戻せば元通りと思ってた。

大人たちは諸手を挙げてサスケを迎え入れてくれると思ってた。

戦の最後の最後で貢献したから、サスケの罪はある程度チャラになると思ってた。

せいぜい謹慎処分くらいだろうと楽観してたところに、「死罪が当然」だもんなあ。
目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなっちまった。

俺は、必死になって里の人たちを説得した。

もうサスケは闇に堕ちたりしないから、と。

理解してくれる人も大勢いた。でも、断固拒否、話すら聞いてくれない人もいた。
それでも無理矢理に縋ろうとすると、次期火影が約束されているから調子に乗っているのかとか、
サスケと組んで裏で何か企んでいるのかとか、あまり懐かしみたくない雰囲気を放ってくるグループが
デモを起こすまでになった。

もとから、話を聞いてくれない人の多くは掟を重んじる年配の人たちで、
自然と九尾の憎しみも味わっているわけで、
あえて分類してみれば俺のことをそこまでは信用しきってない傾向にあったわけで。

カカシ先生ぐらいまで言葉に重みを持たせることができたのはホント稀な方で、
普通は掟をひたすらに重んじる精神は何ら間違っちゃいないし否定はできない。

俺はデモを起こす人たちを責めるなんてことは絶対にできない。
ただ……状況がますます悪くなったことは理解した。

ガンッ!!!!


シズネ「ちょ、ちょっと綱手様…!机が、机が壊れますって!!」

綱手「ええいっ!腹も立つ!大体だな、サスケに情状酌量を与えることは
五影会談の協議の結果正式に発表されたものだぞ!?
仮に不満を受けるべきとすれば私やカカシになるべきで、
ナルトの越権行為だとかは無縁だというのに、あの者たちは何を考えているんだ……!」

カカシ「…うーん。どうも火の意志というものは、熱くなりやすいですが冷めやすくもあるみたいで、ハハハ…」


熱くなりやすく冷めやすい、か。


ナルト「……綱手の婆ちゃん、迷惑掛けて済まないってばよ」

綱手「いや、なに。確かに不満を口にする者もいるが、数にしてみれば少ないし、
   理屈も通っていない。ナルト、お前が気にすることじゃない」

ナルト「…………」

俺に力が、知恵がなかったから。こんなことになっちまった。
…でも、優先順位はわかってる。わかってるってばよ。だから……


ナルト「…なあ。綱手の婆ちゃん。デモの人たちの主張は、木の葉を纏め上げる存在になる火影の俺が
    サスケと組んだら最後、実力行使で何をするか分からないっていう不安から来てるんだよな」

婆ちゃんはこちらを一瞥して、小さく頷く。何を分かり切ったことを、とも言いたそうに。

カカシ「…確かに、お前とサスケが本気で何かしようとしたら大抵は無理が通りそうだしね。
     ……強すぎるというのも考え物か」

ナルト「…………じゃあ、たった一つ、わっかりやすい解決策があるってばよ」

綱手「……ん?」

カカシ「なんだと?」

2人の想像を遥かに超える一手を放つ、俺。



ナルト「……俺が次期火影を降りればいいだけの話だ」

綱手「!!!」

カカシ「お、おい待てナルト、はやまr」

ナルト「俺は、里の全員が認めてくれるまで絶対に火影にならねぇことにする。
    次期火影には木の葉丸を推薦させて貰うってばよ。実力十分、人気もあるしな」

綱手「冗談はよせ、考え直せ!!」

綱手の婆ちゃんが顔面蒼白になり絶叫する。
火影になりたいという夢を持っては諦めざるをえなくなる姿を繰り返し見てきた婆ちゃん。
今度こそはと期待させておいて俺が諦めたら(まあ死んだわけじゃないけれども)、そりゃあ絶叫する、か。
でも、俺の気持ちは定まっちまった。ごめん。

ナルト「ほら、俺と木の葉丸って年近いじゃん?俺の火影就任にとことん反対する人は、
    その気になれば俺の全盛期全部を抑えつけて木の葉丸にずっと火影を任せるように
    仕組むこともできるってばよ。我ながら都合よすぎてビックリ、うん」

カカシ先生が唖然としている。シズネの姉ちゃんがあたふたして視線を各々に彷徨わせている。
綱手の婆ちゃんが……嗚咽を漏らした。

綱手「っ!!そんな、つまらない、ことで――!お前が火影を諦め、る、こと、なんて!」

ナルト「火影になった奴が皆に認められるわけじゃない。皆に認められた奴が、火影になるんだってばよ。
    それに、別に火影になることを諦めたわけじゃねぇ。認めてくれない人に向けて今まで以上に頑張った所を見せて、
    本当の本当に俺を認めさせてやるんだ。そのときまでお預けになっただけだ、なっ!」

ニカっと笑って見せる。笑って見せたとき、俺は気付いた。
この笑い。俺は作り笑いになると自分ですら考えてた。綱手の婆ちゃんたちもそう考えてしまうかもしれない。
…でも、おれは心の底から、笑っていたんだ。



――そのかわり、断固としてサスケの断罪を認めないから、頼むぞ婆ちゃん。


波乱の話し合いを経て、カカシ先生のひと睨みと綱手の婆ちゃんの修羅の形相のもと、
デモの代表者や参加者たちはサスケの処分を軽くすることにようやく同意した。
……脅してないよな、2人とも?

木の葉丸「納得できるわけないぞ、コレ!!!!」

ナルト(うあーー、耳に、耳に響く……)

目の前には木の葉丸。修業を付けてやっているのだが――凄まじく怒ってやがる。
原因は、やっぱり俺だったりする。最近、事あるごとに突っかかって来る。うん、悪かった。

木の葉丸「…俺は、俺は――ナルト兄ちゃんのライバルだ!
       火影の座を賭けていつか勝負するって言った!
       俺はそれが本当にうれしかったっ!!」

ナルト「おう」

木の葉丸「でも、ナルト兄ちゃんはいつも俺のずっと先に居て、更に先を目指してて。
       勝負するまでもなく俺は負けを認めたんだ、いつだったか。
       勝負するにしても、形だけの決闘でも行って、
       ナルト兄ちゃんの背中を押して火影になってもらうことを、考えて、たのに!!
       それに何の不満もなかった、のに!!」

ナルト「うん、そーだね。でも、俺の方が譲ってお前が火影になれるならいいじゃん?
    ほら、譲る側が納得してんだから大人しく譲られてくれってばよ」

木の葉丸「――ふざけんなやぁ、コレッ!!!!!!」

ドゴォッ!!!!

ナルト(うん、いいパンチだ。また強くなったなー) サスリサスリ

木の葉丸「そんなお情けの火影なんか死んでも御免だ!!
       ――ちっくしょう、ナルト兄ちゃんも大人しすぎるぞ!
       今すぐにでもデモの奴らを言い負かしてくるぞ、さあ!!」

ナルト「…いや、後悔してないってのは、本当だってばよ?」

木の葉丸「そんなこと、あるわけ!」

どうどう、と弟子を落ち着かせる。

ナルト「カカシ先生が言ってた。火の意志ってのは、熱くなりやすいけど冷めやすくもあるってさ。
     でも、実はそう簡単に冷めたりしないと俺は思うんだ」

  手で弟子を制止させて一息。
  だらけて、背伸びをして、深呼吸。ほら見ろ、こんなに淀みのない空気だ。

ナルト「なあ木の葉丸、……ペインとの戦い覚えてるか?」

木の葉丸「当たり前だぞ、ナルト兄ちゃんが英雄になった戦いなんだからな」

ナルト「はは、あの時俺ってば胴上げまでしてもらったしな。あの時は、すんげー嬉しかった。
     ようやく自分が里中に認めてもらえたんだ。…これが、嬉しくないわけないだろ」

そうだ、嬉しかった。
ただただ嬉しかった。そして、これまでの自分を褒めてやった。

…でも、ふと怖くなった。
こう言うと里の人に失礼すぎるかもしれないけれど、
言ってみればあの時の里の人たちは熱狂に当てられた人たちだ。

多くの人が亡くなって亡くなって、亡くなりまくったという表現が正しい。
これ以上の絶望はないというときに、俺の活躍で図らずも全員生き返った。
これで俺を忌み嫌うのは流石に有り得ないってばよ。

で、多くの命を救ったあの時の俺に感謝するのと、
殺戮をもたらした九尾の象徴だったアノ時の俺に石を投げるのとは何が違うんだろう。


どちらも、頑張った過程ではなく結果を見て評価した点で同じじゃないだろうか。


たまたま逆の結果だったから評価も逆になった。
周囲からの惜しみない感謝を、称賛を受け入れることは、
もしかしたら過去の苦しみも「里としてそういう行動に出るのは仕方ないね、
火の意志ってそういうものだから」と認めてしまうことになるんじゃないか。

そして、ほどなく戦争が始まって、俺は守るべきものと周囲に通達されて、俺の為に多くの戦死者が出た。
やや強引に俺も戦に参加して最善を尽くしたつもりだけれど、


もし、「ナルトのせいでまた多くの忍が死んだ。やっぱりアイツは疫病神だ」とでも叫ばれたりしたら、
俺は果たして立ち直れるのだろうか?

まあ仕方ない、で済ませられるのだろうか?



それが、いつも心の底にはあった気がする。

ナルト「でも、そんなことを考える馬鹿は俺だけで十分だったんだな」

木の葉丸「???」

サクラちゃんから聞いた。
「あぁん?アンタ、ふざけてんの?ちょっと一発殴らせてよ」

サイから聞いた。
「君がそんなに弱気になるなんて。やっぱり○○○○ついてるんですか?」

カカシ先生やヤマト隊長からも聞いた。
「そういう無駄なことに頭を悩ませるからお前は馬鹿なんだぞ~」
「里の皆に失礼だとは思わないのかい…?え?」

他にも挙げるときりがないくらい聞いた。

既に俺は、木の葉の里の人たちに受け入れられている。認められている。

俺はあまりにもひねくれ過ぎていた。

ナルト「今回の件な。俺が何も言わなくてもさ、デモの主張を論破しようと駆け出していった人、
    俺を励ましてくれる人、腹を割って笑いあってくれる人が本当に本当に――大勢すぎる位いたんだ。
    最近は任務っぽい任務もなくて、流行や噂のレベルならとっくに俺の武勇伝は廃れててさ。
     サスケの話題を出したのが原因で、下手すると一気に里中が冷たくなりかねないって覚悟までしたんだぜ?
    それで、この状況。なんかこう――胸の底が熱くなってくるっつーか、とにかく滅茶苦茶ジーンときたってわけ」

木の葉丸「……うん」

ナルト「むしろ、熱くなりすぎた人たちを宥めるのがちょっと苦労したくらいでさ。
     なんだか複雑だよな、あはは」

木の葉丸「ナルト兄ちゃん……」

ナルト「俺のことはいいから、お前はとっとと火影になれ。
     さもねえと、お前の方が碌に火影になれないまま終わっちまうぞ?」

木の葉丸「……そんな穏やかな笑顔向けられたら、何も言い返せないぞ、コレ…」

今はこれでいい。火影の道は若干どころでなく遠ざかったかもしれないが、
友達を何とか守ることができ、自分の存在意義も再確認できたのだから。

ナルト「ところで話は変わるけど。ちょっとウドンとモエギ貸してくれないか?
     スリーマンセルの練習しときたいんだってばよ」

木の葉丸「ほえ?なんでウドンとモエギ?…って、そっか、中忍試験だな?
       にひひ、俺だけもう中忍だもんね、そういえば。さっさと中忍になるんだぞ、コレ」

ナルト「ぐっ」

そう、俺は未だに、サスケと仲良く下忍。上忍試験なんて叫ぶ前にまず中忍だ。
同期がことごとく中忍以上だから、どこかから下忍を調達しなきゃならない。

木の葉丸「しっかし、なんだな。ナルト兄ちゃんと組めるなんて、
       ウドンとモエギって超楽じゃないか。ずっこいぞ、ブーブー」

ナルト「ところがそうでもないんだなー。コッソリカカシ先生に教えてもらったところによると、
    最近ルールが変わったからなー」

木の葉丸「そ、そうなのか?」

ナルト「ああ。中忍試験の第二試験は巻物争奪戦だったじゃん?
    木の葉なら死の森が試験会場だ。名前の通り、中忍試験自体が結構な数の死者を出してきた。
    里と里の間にも無駄な恨みを溜めこんでたわけだ。
    で、ドクターストップからの緊急治療が認められることになったそうだぞ。もちろん失格にはなるけどな」

木の葉丸「うわ、ってことは死ぬ可能性は激減だぞコレ。甘すぎるぞ!」

ナルト「そんでもって、どうせ監視するならばってことで、合格者自体の間引きも行うことにしたんだとさ。
    要するに、メンバーの中の誰かに頼りっきりだったり役立たずすぎたりする奴は、
    たとえ巻物争奪戦に3人全体で勝ち残ったとしても第三試験前に振り落とされることになっちまったってばよ」

木の葉丸「……ご愁傷様だぞ、ウドン、モエギ」

ナルト「まーまー。俺も程々に頑張るから後はあいつら次第ってことで」

こんな細かい所にも、戦争の芽を摘むための努力が行き届いているんだなあ。
いい傾向だってばよ、そう思うだろ。

最近の俺は、修業という修業をしていない。

というより、修業と言えるようなことをすると里に被害が及ぶような術ばかりなんだよな。
今や、修業申請を火影に提出して人払いして貰わないといけないという。どうしてこうなった。

そんなわけで。託される側から託す側へ、の心を胸に、
木の葉丸の師匠まがいのことやアカデミー生徒の先生まがいのことをボランティアでやりつつ。

周りに迷惑の掛からない精神修行、体が鈍らない程度の軽いトレーニングばかり行い不完全燃焼しつつ。

ときたま、何気に危険度の高い任務をサクラちゃんとサイとのスリーマンセルでこなしつつ。

面会が許される限り謹慎中のサスケに近況報告しつつ。


――月に一回は、慰霊碑に足を運ぶ。

ほら、苦労した甲斐あって立派に育ったぞ。いいヒマワリだろ、ネジ。


手を合わせて、沈黙。


お前は今、どんな所にいるだろう。


お前がいなかったら、きっと今頃俺は――死んでいたってばよ。

初めて会ったとき、サスケとは違う種類のそりの合わなさを感じた。

俺やヒナタのことを落ちこぼれと言ったときの悔しさを忘れない。

でも、背負っている運命を暴露されて、お前の苦しみを知った。

天才には天才の苦労が、絶望があった。

九尾の力も運よく発動して勝ったけど、やっぱり凄まじく強かった。

あの戦いから、お前はだいぶ丸くなった。
運命に悲観せず、自由を求めることの大切さを知った。

あの戦いから、お前は更に強くなった。
運命という言葉に全てを押し付けないことで、真の強さを手に入れた。

――そして、危険を顧みず俺を助けて……命を落とした。
それすらも自由の証とお前は微笑んで、満足げで。



今でもしばしば、火の意志に燃え盛るネジの勇姿が夢に出る。
もっとうまいこと事を運べば、ネジは死ななかったんじゃないか。
夢を見るたびにそう考えて泣けてくる。

――いや、時間を持て余すと、俺はあれこれ感傷的になるらしい。

「――――」


ナルト「…………」


「――――」


ナルト(……ん、この声は)クルッ



ヒナタ「ナ、ナルトくん、えっと、その――き、奇遇だねっ!!」アタフタ


ナルト「ヒナタじゃねぇか、悪い悪い。ちょっとネジのことを考えてて、聞こえてなかったってばよ」

ヒナタ「…………ううん、いいよ。――ありがとう、ナルトくん」


水を汲んだ桶を片手に佇んでいたヒナタが、そこにはいた。

ヒナタとここで会うのは1回や2回じゃない。
むしろほぼ毎回会っている気がする。……あれ?

目的が目的だから、別に不思議じゃあない。

あまり会話も挟まず、

なんとなく会釈して、

なんとなく一緒に墓の手入れをして、

ヒナタが斜め後ろ3歩か4歩かの距離を保ったまま、
なんとなく途中まで一緒に帰る。

別の日にみんなで集まったりしたとき、ヒナタと顔を合わせたとしても、
ネジのことはまるで話さないし、ヒナタの方もネジのことは一切振ってこない。
まるで墓参りがなかったかのようにお互い振る舞っている。
そこにいるのは、相変わらず俺のことを見るたび赤面してアタフタするヒナタだ。


ヒナタは――俺のこと、どう思ってるんだろう。




今日も今日とて一緒に帰りながら、のほほんとそんなことを考える。


ネジの初印象が「嫌な奴」なら、ヒナタの初印象は「変な奴」だった。

俺が見るたびに目を背けてモジモジする、暗くて恥ずかしがり屋の女の子。

何か話していてもまるで聞き取れない。赤面・気絶はお家芸。

中忍試験ペーパーテストで、隣の席にいた事すら気付かない。

よくわからないけれども軟膏をくれた。

「まっすぐ、自分の、言葉は、曲げない。私も、それが忍道だから…!」


俺の忍道を、いつの間にか自分の忍道にしてくれていた。


「ナルトくんは失敗したっていつも、私から見れば誇り高き失敗者だったもの」


誰にも見せない弱音を聞いて、呆れるどころか励ましてくれた。

父ちゃん、母ちゃんと「会う」ことができて、短い間だけでも愛情ってものに触れると、
あの頃のヒナタの行動も少しだけ読み解けていく。

きっと、多分、ヒナタはずっと、俺のことを好きでいてくれている、んだよな。
つーか、有耶無耶になっているとはいえ告白されたし。
他にどう解釈ができるんだってばよ。男としてどうなんだ、俺。

ナルト(……うーん)

逆に俺は、ヒナタのこと、どう思ってるんだろう。


大事な仲間の一人というのは確実だ。
じゃあ、恋愛感情として、サクラちゃんを押しのけるほど好きなのか。
いまいちよくわからない。


ん?


「いまいちよくわからない」?


あれだけサクラちゃん好きを公言していた俺が?

……そっか。少なくとも、俺はヒナタが隣にいることを
十分すぎるほど心地よく思っているらしい。

ナルト(でもなぁ…)

例えば、ヒナタが俺のことを好きでいてくれているから俺も好きになろうだとか、
サクラちゃんがサスケとくっ付くから俺とヒナタがくっ付けば万事解決だとかいうのは
明らかに間違っている気がする。ヒナタに対して最大級の侮辱だ。

ナルト(ここは、もう少し自分の気持ちを確かめてみる必要があるってばよ)

俺ってば純粋だからな。分からなくなったら愚直に調べ倒すのが一番。

ヒナタ「…………?」

考え事の方向性が変わって、やや歩みが遅くなった俺を、ヒナタが訝しげに見ている気がする。



試しに更に歩みを遅くして、というかバックステップして横に並んでみる。


ナルト「よっと」スタッ

ヒナタ「あの、どうかしたの?ナルトく」


…………絶妙なタイミングで、俯き状態から顔をキッと上げたヒナタの顔が3センチ前に来た。


ナルト(あ、ヤバイ)

ヒナタ「」

ヒナタ「」

ヒナタ(フラァ)ドサッ

ナルト「……おーい、ヒナター?ヒーナーター?」

ナルト「…………」

とりあえず、散乱した荷物を拾い集め、3秒考える。

ナルト「……背負って帰るってばよ」

なんでこういう時に限って大胆なこと平気でやるのよ、という
サクラちゃんが呆れる幻聴を無視して、俺はまた歩き出した。

ガサッ……

「…………」

「…………」

「…………ふぅん」

なんだか気絶したヒナタに悪い気がして、人気のない道を突っ切る。
影分身で前方確認、よーし。無理な時は、ちょっと失敬して屋根の上を駆け抜ける。
そして無事に、目的の場所に到ちゃーく。

ナルト「ヒアシのおっちゃーん!俺だってばよー!」

ヒアシ「またお前か……懲りない奴だ。まあいい、入りたくばとっとと入r…
    おい貴様うちのヒナタに何をした返答次第では唯では済まさん
    日向の名のもと粛清してくれるから覚悟しろ」

ナルト「気絶したヒナタを背負って帰してやっただけだってばよ…」

ヒアシ「ホ ン ト ウ カ ?」

ナルト「ホ ン ト ウ ダ」

ヒアシ「……フン」


さっきの俺の日々に、一つだけ付け加えなきゃならないことが実はある。


……俺が、日向家の改革にむけてあれこれ奮闘しているってことだ。
幸い、暇だし。

ナルト「だーかーらー、これから生まれてくる分家の子供たちには
    断じてあの呪印を付けさせない。これが最低条件だってばよ」

ヒアシ「確かに少しずつ働きかけてはいるが、そう簡単には事が運んでおらぬ。焦るな。
    ――お前のおかげで一族内のわだかまりが緩和されたのは事実だ。
     が、いきなりそのような舵切りをすれば待っているのは闘争と破滅にすぎん」

ナルト「へっ!そんなわだかまりで内輪もめ起こすのが怖いなら日向家は名門だなんて言うのやめちまえ!」

ヒアシ「いくら英雄と言えど言っていいことと悪いことがあるぞ貴様ァ!」

一同(((まるで子供の喧嘩だ)))

頑固さで右に出る者がそうそういないヒアシのおっちゃんに、
ド根性お墨付きの俺。日向家の他の人たちがビクビクしている中で、
あっという間に沸点にたどり着いて、道場内で文字通りに大喧嘩する。

ある意味、術をぶつけられる数少ない機会を作ってくれるおっちゃんだ。
感謝はしてやらないけど。

文句を散々垂れつつ、話し合いには応じてくれ、僅かながら成果も挙げてくれている。
…少しくらいなら感謝してやるけど。

ヒアシ「大体、お前の嘆願に耳を貸したのが運のツキ、
     私の生活の拘束ぶりは半端でないぞ、少しは自覚しておるか、反省しておるか」

ナルト「あっれー?俺ってば、多重影分身で数千人の疲労を一気に味わってばっかの時も
     あったようななかったようなー?まさかヒアシ様ともあろうお方が、
    『たかが』一人分の疲労で駄々をこねるなんてなー?」

ヒアシ「ぐぬぬ……」

ナルト「へへっ」

そのとき、おっちゃんの視線が障子へとふらりと揺れ動いた。

ヒアシ「どうした、何か用か――入ってきなさい」

促されて、失礼しますと一言、ソイツは道場へ流れるように足を踏み入れる。
「――僭越ながら、先ほどのお言葉、聞かせて頂きました。
多忙の身へのこの仕打ち、この男には交換条件として相応の仕事を代わりに任せるのがよろしいかと。
この男、特にこなすべき責務もなく日々を怠惰に過ごしていると把握しております」


ヒアシ「むう…聞かれていたか。しかし、こやつに任せられる仕事など何処にも転がっていたりはせぬ」

……どこかで見かけたような女の子だった。

ヒナタに比べると小柄ながらもきりっとしていて、
強気な性格なんだろうということはすぐ見て取れる。

いつ、会ったっけな……。

「――では、私から提案させて頂きます。
この男、英雄と呼ばれるだけあって実力は確かな物。
父上が不在の場合の体術指南役として、取り置くことはできないでしょうか」


ヒアシ「…なに?こやつが、お前の体術指南?
    ――なるほど、ヒナタも同期の者と頻繁に拳を交し合いそれなりに成長した。
    柔拳門外漢の対峙でも価値はある、か」


俺抜きでよからぬことが決まっていく気がしては割りこまざるを得ないよなあ。


ナルト「って、ちょっと待つってばよ。いきなり出てきて何言ってんだお前!?
    つうか、お前誰!?父上ってことは、まさか」




「――私は日向ハナビ、宗家の跡継ぎ候補の者。
 ヒナタお姉様がいつも、いつも、お世話になっております、ナルト。
 貴方の噂は、かねがね……」

礼儀正しいようで、目線がすっげー馬鹿にしてないか?
つーか呼び捨てって。呼び捨てって。

ヒアシ「……ナルトよ、ネジが亡くなったことに加えて、誰かのせいで、
     娘のハナビの修業を見てやれる相手に事欠いておる。
     直々の希望ということもある、お前に、ハナビの特訓を任せたい。
     腹立たしいがお前の実力は折り紙付きだからな、
     より日向家を高みへと導いてくれるだろうぞ。そうだな?」

ナルト「……うえええええ?」

なんでそんな大役を。っつーか、里の中で一緒に修業した女子なんて今まで……。


サクラ「オラオラァ、もっと近づいて殴りやすくしなさいよ!」

テンテン「ほら、修業相手として来てやったわよー!」


……案外いたってばよ。じゃあ、いいか。

ハナビ「一週間後から、というのはどうでしょうか」

ナルト「一週間後、一週間後…ああ、10月10日ね。……って、まさか」

ハナビ「修業に困っているナルトへの誕生日プレゼントも兼ねているつもりです。
     …フン、まあ、せいぜい活用してください」

すこしだけ、心が温かくなった。

ナルト「……そっか、そっかあ!俺ってばお前のこと誤解してたみたいだな!
     恩に着るぜ、ハナビ!こんなところで祝ってもらえるなんて想像もしてなかったってばよ!」

ハナビ「はしゃぎすぎです、忍なら忍らしく慎んでください。では、よろしくお願いします。――父上、下がらせて頂きます」

ヒアシ「うむ。ハナビ、心配をかけて済まぬ」

ハナビ「…申し訳ありません父上。今後はあの男のもとでも、私たちは精進させて頂きますが、
     決して父上の教鞭を軽んじることはないことをここに誓います。ご無礼をお許しください」

ヒアシ「ああ、心得ておる」










ヒアシ(……………………む?私…『たち』?)

ハナビ「別ニ何モ企ンデイマセンヨ、父上?多忙ヲ極メル父上ヲ思ッテノコト。
     デハ失礼シマス」サササササッ!!

ヒアシ「…………は、はて」

ハナビ「……うーん、とりあえず上々、かな」スッ スッ

ハナビ「ヒナタお姉様の都合を空けさせて…って、空いてないわけないよね、
     なんたってヒナタお姉様なんだから」スッ スッ

ハナビ「不自然にならないよう、私まで修業に付き合ってもらうことにしたつもりだったけれど……
     かえって、不自然だったかな……まあ実り多そうだしいいわ。
    問題はあの人が私のプレゼントを本当の意味で活かしてくれるかか…」スッ

私たち、と姑息ながら水増ししてあげた。
要するに、私だけじゃなくてヒナタお姉様にも修業を付けるってこと。
修業という体裁で、ヒナタお姉様と頻繁に会う機会を取り持ってあげた。
父上も言質を取られては今更撤回はできないだろう。そういうところ真面目だから。

ハナビ「ヒナタお姉様のことを知るには、自分の感情を知るには…絶好のチャンス、ですよ?
     さてと、お姉様にも伝えておかなくっちゃ♪」


結局お姉様は――二度寝することになった。

Hanabi side


日向家の道場、日はまだ低く。

最近、以前のような心地よい音が再び聞こえるようになった。




対峙するは、ヒナタお姉様と――うずまき、ナルト。



10日10日はナルトの誕生日。
お姉様含めた同期の方々と一楽で盛大に祝ったらしい。
妙な流れで危うく里全体で祝われそうになったってばよ、
と照れ笑いしていたのが印象的だった。

それにしても、一楽、ですか。
ラーメンが大好きなのは耳にしていたけれど、
日向家からすると信じられない祝いの場としか言いようがないです。

で、お祝いが済んで解散、となったときにそのまま日向家へ連行。
その場にいたお姉様が連れて来れればよかったのだけれど、
期待しても無駄だろうし、私が駆けつける羽目になった。

あとはさっそく修業開始宣言、特訓開始!

ナルトは、ヒナタお姉様も鍛えることをようやく理解して私に呆れていた。
ヒナタお姉様は30秒ほど固まってそのまま地へ沈んでいった。えぇ……。
気絶から復活しても、いつも以上に緊張のほぐれが進んでいない。
これじゃ修業どころじゃないよ、お姉様。

ナルト「仕方ないってばよ。ヒナタがこんな感じだし、俺はハナビ、お前の実力をよく知らない。
    まずはヒナタとハナビとで試合形式でちょっくら戦ってみてくれないか?」


ははーん。一応、自分がヒナタお姉様の赤面の原因だとは自覚するようにはなっているんですね。
案外、十分お姉様のことを意識はしてるのかも。


よろよろと立ち上がったお姉様にその旨を伝え、

私はお姉様と――何年か振りに向かい合った。


――実力は私の方が上。でも、ナルトの目の前でいきなり惨敗は可哀想。

――ちょっと手加減して、少し追いつめる位で止めてあげよう。

――ナルトなら、実力の差は読み取ってくれるに違いないわ。



リラックスして、柔拳独特の低姿勢。






ナルト(…………)チラッ

ヒナタ「ナルトくんが見てるナルトくんが見てるナルトくんが見てる」ブツブツ・・・

ナルト「…………」

ナルト「…………ではー、試合、開始――!」

冒頭に戻る。

冒頭に、戻る。

……冒頭に、戻る。




ハナビ「空が……青いな――」



ヒアシ「……………………」

ハナビ「……父、上」グッタリ

ヒアシ「…………」



ハナビ「お姉様、普通に強すぎたのですが…何かの間違い、ですか?」ボロッ

ヒアシ「そ、そうか。しかしだ、流石にネジほどではなかったろう」

ハナビ「…………」

ヒアシ「……仕方ない、戦争で少なからず実践の経験は稼いだはずだ、その分の差が出て」

ハナビ「失礼ですが、実戦慣れという次元でなく単純に力負けした気が……」

ヒアシ「そ、そうか」

……やっぱり、お姉様は落ちこぼれなんかじゃなかった。

優しすぎて一歩先への踏み込みに躊躇しているから私含めた周囲に弱く思われていただけで。

その躊躇がなくなれば、柔拳のキレは…私が少し勝っているかな?程度の塩梅。

要するに、成長期の5歳差という物理的ハンデが露わになって……



ハナビ「勝てる気がしません」キッパリ

ヒアシ「」



前を見直せば、先ほどとは打って変わってオドオド、ビクビク状態のお姉様。

やりにくそうに不自然に拳を繰り出して悪循環を無意識に作り出すナルト。



……なんだろう、まったくもう。
跡継ぎの話、白紙撤回してくれないかしら。

Naruto side


ひょんなことからヒナタと接する機会を得た俺。

時には早朝4時からという、少なくとも俺に取っちゃ地獄もいい所の時間帯にも
意地と根性で駆けつけて特訓、特訓、ひたすら特訓。


よく俺は「体術と言えば我流の力任せの殴り合いしかできない」と同期にも誤解されるんだけど、
一応は仙術チャクラを活用させる組手を習ってはいる。――そう、「蛙組手」って奴だ。

ただの打撃に留まらず、身体と一体化した自然エネルギーが不可視の打撃として相手に襲い掛かる。
目に見えない所で着実にダメージを与えていくという点では柔拳と似ているのかもしれないってばよ。

ところがどっこい、この組手には凄まじい弱点がある。


仙人モード、すなわち体中が活性化している前提なうえに
最大限仙術チャクラを活用できるように編み出されたこの組手――
型を崩さないうえでの最低威力ラインからして、


地味に常人では太刀打ちできないくらいオッソロシイ威力を誇る。


……手加減が効かない組手なんだな。
本来、里の仲間には使っちゃいけない拳だ。


そんなわけで、結局俺は我流の体術を披露しては
ハナビに駄目出しを食らう日々を送っている。

ハナビ「何ですかその構えは。足の角度が理想より10度もずれています」


ハナビ「体のバネが全然動作に利用しきれていません。
迅速な次の行動に繋げられませんよ」

ハナビ「重心が高いっ!顎を引くっ!それでも忍ですか!?」



――――ビュンッ!!!!



ナルト「この通り、しっかり対応できてるじゃねーか!ノロマ!
俺の防御を掻い潜って見せてからふんぞり返って文句言えってばよ!」

ハナビ「っぐぅ、それは異常なほどの神速頼みで強引に間に合わせているだけです!
     なんですか、自慢ですか、そうなんですか!!あまりにも無駄がありすぎます!
     改善しなさい!さあ、さあ!」

ヒナタ「ふ、ふたりともやめようよぅ…」

しばらくはヒアシのおっちゃんも監視監督していたが、
問題ナシ(?)と見るや「2人の都合が合う限り好きにせい」と野放し状態になった。
それならばと、修業の間隔は5日毎が3日毎となり、3日毎が2日毎となり、
最終的には毎日、ヒナタとハナビに5時間ずつ。俺にとってはぶっ続けで10時間。

…中々ハードっす。

2人との修業は、同じ柔拳といえど少し違う。



ハナビの柔拳。

一言で言えば、あのネジに似た柔拳だ。

相手の動きに対し的確に、動く。動く。動く。


猪突は相手せずひらりと躱し、

時間差で拍を外されれば『実は外されておらず』外し返す。

戸惑いを読み取ればたちどころに翻し、

体が斜になるのを見れば怒涛の如く攻め立てる。


ただ、それが完璧にできていたのがネジで、
僅かに穴抜けがあるのがハナビだ。

99%の完璧の中に、どうしても無くせない1%の読み違いが紛れ込み、
其処を狙われると弱い。

言い換えると、短期決戦やタイマン戦で最大限に力を発揮し、
長期戦や多対一で相手に分析されるほど弱くなる。
ハナビは認めようとしないだろうけれど。

ヒナタの柔拳は、言葉通りの柔拳だ。


正直に言うと、俺が絡んで気合ブースト状態とかでもなければ、
ヒナタの対応の仕方は穴が多い。ハナビと比較するとよくわかる。

7割は完璧だけれども、緊張、不安、躊躇、そして優しさから来る読み違いが
ドカッと混ざり込む。

ヒナタが選んだ道は、完璧さをネジたちに近付けるのではなく、
むしろ逆、柔拳の粗を容認することだった。

ある程度の回数、読み負けて踏み込まれることは諦める。
――その代わり、そこからの脱出に全力を尽くせる柔軟な意志を持てばいい。

どんなに強い奴だって、自分の目論見が外れて相手の不意打ちを受ければ、
直接のダメージだけでなく精神的に隙ができる。

驚き、焦り、絶望、いろいろ候補はあるけれども、体が硬直し、判断が鈍り、
それまで膠着状態だった対決があっという間に一方的に、なんていうのはよくある話。


ところがヒナタは、随所に隙があり仕掛けられてしまう癖に、
あいかわらず成功率7割の防御といえど二重三重と速やかに手を施せるのが活きて、
致命傷をのらりくらりと躱し続ける。

すなわち、短期決戦ではいまいち目立たないが、
粘れる相手にひたすら粘ることで堅実に勝ちを拾い続ける。

ハナビがヒナタとの試合で勝ち続けていたのは、傷つけまいとするあまり
単純にヒナタが読み負けからの脱出に柔軟になり切れなかったからだ。


挽回ができないのならば、単純に柔拳の完成度勝負になってヒナタが勝てるわけがない。


逆に、ある程度以上精神が強くなってヒナタだけの特筆すべき挽回力が効く今、
どれだけ試合をこなそうともハナビが「1%の読み違い」を虎視眈々と狙われるばかりで
ヒナタからは碌に勝ち星は拾えない。……以上!

ハナビ「――まるで柔拳博士ですね」パチパチパチパチ

ナルト「おう」

――要約すると上に述べたようなことを苦労してハナビに説いた結果の返答がそれかい。
ヒナタは夕食調理に借り出されて、俺とハナビしかここにはいない。

ハナビ「あ、あの。ナルト、さん。一つお聞きしてもよろしいですか?
     私は今後ヒナタお姉様に勝てないのでしょうか?
     何気に私にとって、日向家にとって大問題なのですが」

ナルト「ハナビ以上に戦争で経験値を積んだ今のヒナタが相手だろ?
     10本勝負として…

     俺が思うに3勝できたらいい方だってばよ。
     ヒナタには悪いけど柔拳センスはハナビの方がちょっと上だろうから、
     成長期をお互い過ぎて5歳差が意味をなさなくなったら6勝か7勝。
     ――俺が応援しててヒナタがフルパワー状態の時は何時だろうと2勝以下」

ハナビ「そんなぁ……」ズーーーーン

ナルト「ハナビって姉ちゃんっ子だったんだろ?
     なんでここんところ勝負もしてなかったんだってばよ……」

ハナビ「だって…宗家の跡継ぎが…私の使命が…お姉様と戯れる暇なんて…」ブツブツ

ナルト「ま、まあハナビもヒナタみたく開き直りを覚えればだな、
    今俺が適当に言ってみた勝率も上がるかもしr」

ハナビ「お願いします」

ナルト「え、いや俺の修業ノルマはもう」

ハナビ「オ願イシマス」クワッ!



ナルト「…………わかったってばよ」



延長申請2時間を食らい、帰宅が日付を跨ぐことになった。
ヒナタが慌てて作ってくれた夜食だけが心の救いだってばよ。

…ハナビの性格が崩壊してきてないか。

次の来訪時。



ヒアシ「ほほう…気を抜かしておればどうだ、ここまで日向家に入り浸るとは。
     流石に時間に怠慢になってはおらぬか!」

ナルト「あのー、そのー、お宅の娘さんに頼まれたのがそもそもの原因でしてー…。
     おい、ハナビ!お前も少しは弁明してくれってばよ、
     何で俺だけ正座させられた上に竹刀で打たれてるんだ」

ハナビ「モウイッソノコト日向家ニ居候シテ貰エバイインジャナイカナー」

ヒアシ「…は?」

ナルト「おい!?」

ハナビ「……という感じのことをヒナタお姉様が言っていました、父上」

ヒナタ「…え、ええ、えええええっ!?」

ナルト「おいハナビ、嘘付くなってばよ、ヒナタが困ってるだろ!」

ハナビ「そうなの、ヒナタお姉様?」

ヒナタ「そ、それはそうだよハナビ。な、何をそんな急に…」チラッ

ヒアシ「……ハナビ?」

ん?ふと、おっちゃんの顔を見る。普通なら、こんなにフザケた言動のハナビを叱責して当たり前。
それがどうだろう、怒りのはずの表情が動揺と戸惑いに包まれている。


ハナビ「……もういいですっ!」 ダッ


話もそこそこ、おっちゃんの制止も聞かず、ハナビは何処かへ駆け出して行ってしまった。


なんだ、ありゃ…?

ヒナタ「…………」

ナルト「ヒナタ、どうした?」

ヒナタ「……信じ、られない。あのハナビが、父上の前であんなことを、するなんて」

ナルト「その割に、ヒナタってば嬉しそうだってばよ?」

ヒナタ「……ハナビには小さい時から、私のせいで無理をさせてきたから……。

    日向家の運命をまざまざと見せつけて、跡継ぎとしての役割も押し付けて、
    長らく子供らしいことからは疎遠だったもの。最後に一緒に遊んだのも――
    もう、いつだったか。でも、こんな癇癪をぶつける余裕ができたなんて。

    きっと、ナルトくんのおかげだと思う」



ナルト「……俺の、おかげ」



ヒナタの何気ない微笑みに…ドキリとした。

ヒアシ「…………全く。跡取りともあろう者が、嘆かわしい。
     後でハナビにはお灸を据えるとしよう。
     ナルト、お前も今日は速やかに去れ」




俺はヒナタとおっちゃんの顔を交互に見やって、逆らってはいけない気がして、
言われた通り去ることに決めた。急遽できた時間をどう潰すかを適当に考えながら。

Sakura side


コツ、コツ、コツ。

がら、がら、がらら。


木の葉病院。里中の患者を一手に引き受ける大病院。

戦争からそれなりに経ったけど、ここを訪れる人が絶えることはない。

私、春野サクラがするべきことはただ一つ。

伝説の三忍、綱手様の弟子として恥じぬよう、一人でも多くの人を救う。


一般患者を疎かにすることのないまま、未だ入院する戦争負傷者を診る。

治る怪我なら治してしまえ。後遺症なんて消し去ってしまえ。

毒にもマケズ、風邪にもマケズ。しゃーんなろー!!

激マズに耐えられるならば、効果覿面、兵糧丸!

……「ただ一つ」なら、よかったんだけど、ねえ。


早速火影様から、呼び出し伝令飛んできた。


休む暇もありゃしないわ。

コンコン。


サクラ「春野サクラです、入ります」


目の前におわすは、冴えないマスク面のカカシ先生。

こんな人でも一応火影。一応ね。
せめてイチャパラは仕舞っておいてほしかったわ。


カカシ「それはできない相談だな、サクラ」

サクラ「――心読まないでください、火影様。で、なんですか?
要件をとっととお願いします火影様。私とっても忙しいので。
そりゃあもう影分身したくなるくらい」

カカシ「先生とっても悲しいぞ…」

サクラ「先生?どこに先生がいるんですか?ふふふ、おっかしい!」

カカシ「…………」

このくらいの嫌味はきっと許されるでしょ。

カカシ「ま、俺のことはいいや。要件はこっち」


そう言ってチョイチョイと指差す先には、師匠の姿。

サクラ「綱手様!お久しぶりです!!」

綱手「うむ!元気そう……でもないな、サクラ」

ギャグで言っているのではない。病院に泊まり込みの毎日で、
本当に久しぶりにお会いする…。うがーっ!

綱手「お前に、いいニュースと悪いニュースがある。
……どっちから聞きたい?」


いいニュースと、悪いニュース?
綱手様がのたまうと、妖しい。妖しすぎる。



サクラ「いいニュースから、お願いします」

綱手「よしよし、流石サクラだ。おいカカシ、さっさと渡せ」



カカシ「わかってますって…全く、火影使いが荒いですね…ほいっと」

カカシ先生が取り出したるは、1枚の紙。

うわ、最近の生活のせいでカルテに見えてきたわ。……よし、違う。


なになに、表彰でもしてくれるのかしら…あ、違った。
これ、合格書だわ。

何の?…ふーん、上忍試験か。
あ、この前受けたやつ合格してたんだ。



よーし、これで私は晴れて上に…。




サクラ「って、えええええええええっ!!?
私、上忍になったんですか!?」

カカシ「…100点満点のリアクションをありがとう」

改めて、マジマジと合格書を眺める。
ただの紙と思っていたものが凄まじい重みを帯びた。
そのまま胸に抱きしめ、目を閉じる。これまでの過去を振り返る。



何も知らなかったアカデミー時代。

何かを知ろうとした頃には全てが遅かった第七班下忍時代。

遠くに霞んでいた背中を何とか視界に捉えた中忍時代。

世界の危機に対して滑り込みで並び立った戦争体験。



私の世界の中心にいたのは、いつも。
好きで好きでたまらなかったサスケ君と。
嫌いで嫌いで仕方なかったナルト。

あ、もちろんサイや他の同期メンバー、
カカシ先生やヤマト隊長もお忘れなく。

時には絶望することもあったけれど。

時には頼りっぱなしになることもあったけれど。

仲間の力で、仲間の絆でなんとか乗り越えて、私は今ここにいる。



サスケ君は、ナルトの活躍もあって死罪は免れて謹慎処分に。

実の所、サスケ君ほどの実力になると、謹慎って努力目標同然よね。

暴れられたら監視役でも止められっこないし。

まあ、懲役とかでも同じことが言えるんだけど。



でも、ナルトのことを思ってか、サスケ君は今の所踏みとどまってくれている。

サスケ「…アイツが火影保留までして俺の処遇を決めたというなら、従うしかないだろうよ」

サクラ「サスケ、くん……!!」

サスケ「……俺は、これまでの自分の行動が間違っているとは考えない。
他の奴に否定はさせない。ナルトの言葉を借りるならこれが俺の忍道だったということだ。
だが、イタチの守りたかったもの、先代火影たちの守りたかったものが
俺にも守ることができるというのなら…力を貸すのは、もはや吝かじゃない」


サクラ「うん、うんっ!!!」



ここまで本当に、長い道のりだった。

あの言葉を聞いたときは、泣くまいと思っていたのに皆の前で感情が溢れかえって号泣してしまった。

うう……恥ずかしい。



サスケ「そうだサクラ、時間が有ったらコイツをどっかへ捨ててきてくれないか。
     面会時間を散々破って俺も監視役も非常にウザい」

香燐「そんなこと言うなよサスケェ~!照れるな照れるな」ギューッ スリスリ

サクラ「任せて、燃えるゴミの日に出しておくわ」

サクラ(ふう、回想終わりっと!)

気持ちを新たに、でも過去の思い出も胸に刻むことも忘れずに。



サクラ「で、悪いニュースってなんですか?
     こんなに嬉しいことの後ですからね、
     ちょっとやそっとじゃ絶望しませんよ!フフン!」



綱手「そうかそうか♪」

ガシッ

サクラ「……へ?」

カカシ「その人(綱手)と、あの人(シズネ)と、お前。この3人で、
    火の国の大名たちの治療に貢献してくるように。
    なんでも戦後処理にてんてこ舞いだったせいか最近肩こり腰痛が酷いんだってさ。
    とにかく片っ端から治療しちゃってねサクラ」



サクラ「……は?肩、こり?…あの、任務レベルは」



カカシ「道中の特筆すべき敵も別になし。治療内容もツマラナイ。適当に治して、旨いものご馳走になって、
    三が日が終わったらそそくさと帰る。……どうサバを読んでもCランク任務止まりだね、うん。
    でも期待の上忍をぜひと直々に声を掛けられちゃあ…ねえ」

綱手「どうせ私とシズネだけじゃあ華がないとかほざきやがるんだろうさ。
    誰が年増だ失礼な!」

シズネ「まあまあ、抑えてください……無駄にお金も落としてくれるわけですし、
     いいじゃないですか…」


……あれ?


私は、すごく、ものすごーく嫌な予感がした。



サクラ「…………あのー。それって、年明けるまで木の葉の里に戻って来られないって…ことですか?」

綱手カカシ「「うん」」



サクラ「…ふっざけんなああああああああっ!しゃーんなろー!!」

カカシ「サクラ。合格書が破れそう」

Naruto side


ナルト「……で、なんでお前が、ここにいるんだってばよ?」

ハナビ「……なんとなく?」

俺の家の扉の前で待ち構えていたハナビ。
俺が放浪していたせいでもう夕方だぞ、まさかずっと待ちぼうけだったのか?


ハナビ「…くしゅん!」

ナルト「ああもう、とっとと入れ!風邪引くってばよ!」




ハナビ「……きったない部屋」

ナルト「…………人の勝手だろ」

ハナビ「……フッ」



ナルト「あ、後ろに黒光りする生命体が」


ハナビ「キャアアアアアッ!?……ってこらあっ!」

完璧にプンスカと表現できる表情で顔を赤らめて怒るハナビ。

年相応で、ヒナタの言う通り可愛いと言えば可愛い。

わりぃわりぃとなだめながら、ササッと気持ちだけでも掃除をする。

――あまり効果はなかったが、とりあえず座る場所くらいは確保した。


ナルト「…………」

ハナビ「…………」

ナルト「……おい、結局のところ今日のお前は何が」

ハナビ「ねえ、ナルト」



黙りこくったと思えば、たちまち真剣な顔つきになって。
ひと呼吸更に置いて、切り出した。



ハナビ「ヒナタお姉様のこと、十分確認できたかしら」


俺の頭に、とんでもない雷を落としつつ。

ナルト「え、な、なに」


ハナビ「私がナルトの誕生日プレゼントのためだけに唐突に修業を持ちかけるわけ、ないでしょうが。
ほら、慰霊碑のこと思い出して。最近、ヒナタお姉様としつこいくらい会ってたでしょうが!

ヒナタお姉様はね、ナルトが参拝した日はわざわざ時間を潰してまで一緒に帰ろうとしてるの!

日常の会話には持ち出さなくても、掛け替えのない時間だと感じているの!




ヒナタお姉様は、ナルトのことが本当に、本当に……好きなんだよっ!」



ナルト「…………!!」



ハナビ「で、ナルトはナルトで、そんなヒナタお姉様の気持ちを流石に察し出して、
でも自分の気持ちがサクラさんと結びつくのか違うのか整理が付かなくて迷ってた!
で、私のばら撒いた餌に馬鹿みたいにあっさり食いついた…そうでしょ!」

ナルト「…ハナビ、お前」

ハナビ「……もう時間がないのっ!今日が何月何日か知ってるの!?」

ナルト「今日?…えっと――12月22日だってばよ?もうすぐクリスマス…ってことか?」

ハナビ「違う、違うよ……!大事なのは12月25日じゃなくて、27日、なんだよ……!
このままじゃ、お姉様は、ヒナタお姉様は……!!」

――ドクン。

え?ヒナタ、が?


思わず、ハナビの両肩を掴む。動悸が激しい。ただひたすら。


ナルト「おいハナビ、27日になったらどうなるんだってばよ、吐け、おいっ!
    何かとんでもない病気抱えてるのか!?一か八かの手術とかが控えてるのか!?
    それとも――どっかのお偉いさんにでも脅されて嫁攫いにでも遭うってのか!?
    おい、どうなんだってばよ!!!」

一言一言発するたびに、激しい心の痛みが襲い掛かる。そんなの、嫌だ――っ!



ハナビ「私の『ヒナタお姉様の誕生日までにナルトに告白させてカップル成立』計画が
     不発に終わるせいできっと悲しむのよ!!」

ナルト「ようしシスコン、そこに直れ」

ハナビ(ムスッ)


悪びれもせずに馬鹿なことを言った目の前の女。
すっかりやんちゃ娘に成り下がっているが、一体どうしてくれようか。

ハナビ「でもよかった。…ナルト、そこまで感情的になるってことはさ。
     絶対に、お姉様のこと好きなんだよ、まぎれもなく」

ナルト「……よ」

ハナビ「……え?」

ナルト「そんなこと、とっくにわかってたってばよ…」

ナルト「曲がりなりにも、拳同士、ぶつけ合ったからな」




一流の忍同士は、拳を交し合うだけでお互いの気持ちがわかっちまう。
必ずしも一般的じゃないけど、サスケはとうの昔に気付いていた。
想いが強ければ強いほど、リンクの程度も強くなる。
そして、自分の深層心理を確かめるのにも役に立つ。

ヒナタの恋愛感情が奔流となって流れ込み、思わず呻いた。


俺はといえば、「ヒナタは本当に俺を好きでいてくれているんだな」という安心感。
サクラちゃんが同じように俺を好きでいてくれたとしたらどうなんだろうという素朴な疑問。
記憶の扉を拓いて拓いて…父ちゃん、母ちゃんに貰った愛情が一番近いやという結論。
もっとこの感情に包まれていたいという欲。



色んなものがない交ぜになっていた。

これが、かれこれ2か月以上。自分の気持ちに答えを出すには十分すぎた。

ハナビ「…そっか。そんなことがあり得るんだ。ヒナタお姉様に『気持ち駄々漏れだよ』なんて
     教えてあげたら数日寝込むかも」

ナルト「おいおい、やめとけ」



ハナビ「冗談。……じゃあはい、指切りしよっか」

ナルト「……27日、だっけ?ヒナタの誕生日までに告白しろ、と?」

ハナビ「ゆーびきりげんまん、嘘付いたら針千本、点穴におーとすっと」

ナルト「怖ぇよ!」





俺なんかに、できるかなあ。

Ino side


ふんふふーん。

任務が特にない時は、山中いの、花屋の看板娘としてがんばりまーす。
皆さんのお気持ち考えまして、戦争追悼用の花ならば超格安にてご提供!


……娘、かあ。……別に、泣いてないもの。


そういえば、サクラが上忍になったらしいわね。
あのデコ、やってくれるじゃない。というかね。

ナルトはともかく、サスケ君が事情あって下忍止まりってのに上忍よ上忍!?
誰がこの展開を予想できたって言うのよ。出鱈目すぎる。

その反動かクッダラナイ任務を言い渡されたそうだけど。
明後日はクリスマスだってのに可哀想にね、ホホホホホ。

「いのちゃーん、ちょっと見繕ってくれー」

「はいはーい。今行きまーす」



うーん。そろそろ、寒色系の花を仕入れても敬遠されないかな、雰囲気的に。
あれはあれで需要がある花だから。
個人的にも、花は全部そろってこそそれぞれ光ると考えてる。


「――――」


あ…でも、ウチの花屋、在庫の花を捌ききるのいつになるんだろう。


「――――」


……あらま、誰かに呼ばれてたのね。これは失礼。

「お、おい、いのちゃん、ちょうどいいところに」


……めずらしーい。居酒屋のおじいちゃんが慌てて私に呼びかけてきた。


「奥にいる飲んだくれの女、どうにかならないもんかねえ。周囲にどす黒い『おーら』を纏わせて、
 誰も声すら掛けられねえだ。商売あがったりだよ…」

いの「うっわ、綱手様なにしてるんですか。いくら引退したからって相変わらず酒豪なことで。
    大体、サクラたちと一緒に任務に出たはずでしょ、今日。いくら恋しいからってそりゃないですよ、はあ…。
    分かりました、私がしょっ引きます、任せちゃってくださーい」



一応サクラだけじゃなくて私の師匠でもあるし。師匠の尻拭いは弟子の役目っと!
すこし得意げになったせいで…………私は、大事な言葉を聞き逃した。






「あ、いや。いのちゃん、今回は、綱手様じゃ、ないみたいなんだ……」



私は――何を見ている?


これ、現実なの?それとも幻術?






「ぷはー、まっずいお酒ねー、アンタもそう思うでしょー?」



周囲に転がる、徳利の山、山、山。

いの「い、いや、私飲んですらいないから…って、そんなことどうだっていい!」


私は相変わらず現状を信じられず、バンッとテーブルを叩く。
気怠く持ち上げる顔がそこにある。




いの「……なにやってるのよ!?――――サクラっ!!」


サクラ「……はは、サクラが錯乱中でーすってか?いの、おもしろーい」パチパチ


唖然とする。なにこれ。ナニコレ。なんだこれ。

いの「アンタ、未成年でしょ!!飲酒厳禁!」

サクラ「アルコールくらいいざとなれば浄化コントロールできるからだいじょーぶー」

いの「あ、それ便利ね…って、ちっがーう!大体ねえ、任務でしょ任務!
    とっとと綱手様追っかけなさいよ!!」

サクラ「はい、これー。綱手様本人の臨時休暇許可証~」

いの「…えっ」

何から何までおかしい。酒が飲めるとして、休めるとして、
あの真面目なサクラがここまで酔いつぶれるような人間だろうか。


――――なわけないでしょ。



というより、綱手様は何の思惑があってこんな許可証を!

サクラ「ヒック…いのも飲む?」

いの「要らん!とにかく水飲め水!おじいちゃーん、お冷お願い!」

いの「…で、何があったの?話してみなさい、つーか話せ」

サクラ「いやーん、いのったらだいたーん…痛い痛い、引っ張らないでー」

いの「…………で?」

サクラ「…………うーん」

いの「…………どうしたのよ、ほんとに」

サクラ「…………べっつにー?ただねぇ」

いの「…………」

サクラ「…………ぐう」



いの「寝るなっ!」

サクラ「えっとねえ」







サクラ「ナルトに……振られちゃったかなあって」ボソッ

いの「いい加減にし……え?」

Sakura side


12月23日。
今日の昼には綱手様、シズネさんと共にくだらない任務に出発する。

…休みたい。


クリスマスパーティが楽しみなんて歳でもないけれど、
年末イベントをことごとく潰されるのは無性に腹が立つもの。
それが 若さ ですと豪語したら綱手様に素敵な拳骨を頂いた。



そういえば、最近ナルトとヒナタに進展があるらしい。
あのヒナタが、自宅にナルトを呼んでまで修業三昧だとか。
一体何段飛ばしなのやら。



ヒナタからナルトへの想いはまず間違いはない。
問題は反対方向よね。

もしかしたら。
ヒナタは自分の誕生日に勝負を掛けたりするのかな…ないか。
ないよね。
…ないの、かな?
ああ、なんだか心配になってきた。


思い描くのは破局の構図。
ヒナタ「あの、その…ナルトくんのことが、好きです」

ナルト「いや、だから俺ってばサクラちゃんのことが好きだから」



…………勝手に人を巻き込んでブラッディバースデーになりかねない。

ナルトが私のことを好きでいてくれたのは事実。


それはきっとナルトのやる気の原動力にもなっただろうし、
私とナルトとの衝突を未然に防いできてくれたのだろう。

でも、真実じゃない。


ナルトは、あくまで「サスケ君のことを必死に追いかけ認めてもらおうとする私」を
憧れの対象として見ただけ。突き詰めれば、決して恋愛感情じゃないと思う。


そして、実際にはナルトはヒナタからの愛情を感じて満更でないはずなのだ。
そこんとこ、きっちり言い聞かせとかないと駄目ね。アイツ馬鹿だから。




すこし、寄り道していこう。

ナルトの家のベルを鳴らす。

「私よ、開けてー」



慌てて電灯付ける音。
その刹那、どんがらがっしゃんと仰々しい音が響く。
あいかわらずのドジっぷりに笑ってしまう。



サクラ「――――ってわけで、私は昼には里を出るわ。
     クリスマスパーティやヒナタの誕生日は一緒に祝えないけれど、
     私の分までしっかり楽しみなさいよ?」

ナルト「うん、ありがとうだってばよサクラちゃん」

じっとナルトを見る。
何か思慮深いような妙な錯覚を覚える。なんだろうね、この感じ。

怪訝そうな顔をされたので慌てて目をそらし、最後に、放つべき台詞を整理整頓。


――アンタは私じゃなくてヒナタが好きなんだから、ちゃんと自覚しなさいよ。


サクラ「…ねえ、ナルト。私、任務に向かう前に…
     アンタに言わなきゃならないことがあるの」


ナルト「……」


サクラ「ねえ、ヒナタの誕生日についてなんだけどね、
     アンタは理解しておくべきことが――――」

ナルト「……ちょっと、待ってくれってばよ」



サクラ「え、な、何よ?」

ナルト「……なんか、俺から切り出さなきゃ恰好つかない気がして、さ」



……どういうこと?こ、この期に及んで私に告白なんてしたらぶっ飛ばすわよ!?

なんだか予定とは路線がずれてきて対応が追い付かない。



ナルト「サクラちゃんの言いたいこと、なんとなく、わかるってばよ。
     これまでの感情にけじめを付けなきゃいけないから……」




なあんだ、案外鋭かったんだ、安心したわ。ようやく気付いたのね、ヒナタを好きな気持ちに…。

                 そう、これで万事解決。












          ナルト「…………………………ごめん、サクラ」











……してくれるわけでは、なかったようでした。





サクラ「……………………あ…………」





――足元が、覚束ない。




『サクラちゃんよりもヒナタの方が好きなことに気付いた』みたいな言葉を予想してた。


あくまでも自分は、「2番目に好きな女の子」として、


ヒナタの位置から申し訳程度に少し下で踏ん反り返れてると馬鹿な皮算用を考えていた。






サクラ「………………………あ、ああ…………!」



――涙が溢れるのを、抑えられない。





でも、まっすぐなナルトがそんな中途半端な采配で女の子のことを見るわけがなくて。


ヒナタが特別、となれば、もともと『特別』だった私は一瞬でメッキを剥がされた。


私の『ちゃん』付けは、ただのおべっかなんかじゃなかった。


ナルトなりの最上級の好意の伝え方、だったのに。


何、この大きすぎる――辛すぎる――――喪失感。







サクラ「……うわああああああああアアァァァァっっ――――――!!」






覚悟が、自信が砂上楼閣のように一瞬で崩れ、
ナルトに抱き付き赤子のように泣きじゃくる。なんという、体たらく。



ナルトは一瞬ビックリして、アタフタして、
……そっと、そっと背中を撫で続けてくれた。

一しきり泣いた後。私は…ナルトの家を後にする。

慌てて扉の所まで追いかけてきたナルトに、扉を押し開けた状態のまま、背を向けたまま。


最後の覚悟を語って終幕といこうかしら。


サクラ「ナルト、アンタはヒナタが好き。そうね?」

ナルト「……ああ」


サクラ「私、アカデミー時代のとき、アンタが嫌いで嫌いで仕方なかった。
     いつも好き好きオーラを纏ってるウザイ奴で、
     事あるごとにサスケ君にチョッカイ掛ける最低な奴でさ。
     私はウザさのあまりに自分の嫌がらせを正当化して、
     ほんと色々アンタにやったっけ」


ナルト「うーん、忘れちまったなそんなこと」

こんな感じに、ニカっと笑うのだ。

サクラ「……でもアンタは、本当は凄い忍だった。

     私が何も知らないところで散々な目に遭ってたっていうのに、

     里の人たちに実力を認めさせること一点張りで、

     強敵に会い見えるたびに新しい術を引っ提げて、

     仲間がピンチに陥るとどんなにカッコ悪い状況になってでも助けてくれて、

     どんな時でも勇気を振りまいてきた」

ナルト「…………サクラ」

サクラ「そんなアンタを、落ちこぼれ時代から誰よりも信じてきたのがヒナタよ。
     …こういう『運命』なら、私は身を任せてもいいと思う。
     ヒナタを幸せにしてあげなさいよ。ネジさんからもヒナタのこと、
     ……託されたんでしょう?」

ナルト「……知ってたんだな」

サクラ「……アンタの覚悟は見せてもらったから、今度は私――

     ナルト。蔑んでばかり、押し付けてばかりでごめんなさい。

     サスケ君のことを助けてくれて、ありがとう。

     世界を救ってくれて、ありがとう。

     私みたいな女を今まで好きでいてくれて、本当に――ありがとう――」

腕を掴まれ、なすすべなくこちらへ引き寄せられるナルト。



ナルトの顔が驚愕に染まる。



なけなしの色香を振りまきつつ。










軽く、軽く触れる程度の……キスをした。




ギ、ギ、ギギギ

ナルト「……はあ、はああああああっ!!?何やってるんだってばよサクラ!?」




サクラ「うううううっさいわね!私なりのケジメよケジメ!
     これまで好きでいてくれたお礼をしただけよ言わせんな!!」



ナルト「じゃあせめてほっぺにチューとかで良かったじゃん!体大事に!!」



サクラ「そ、そんな思考閃く暇ないわよ!!だいいち、戦争中に人工呼吸やってるんだから!!
     1回も2回も同じよ同じっ!!」




先ほどまでの緊張どこへやら。お互いに真っ赤。
わ、我ながらなんてことしたんだろ…しゃーんなろー!!!

ナルト「だからって、なあ……!!」



サクラ「あー、あー、そんなこと言われるとは却って傷付いたわー。
     罰受けなさい罰―!歯、くいしばれ!」ドゴッ


ナルト「いでえーーーーっ!殴ってから言うなってばよ!!?」




まあ、これでいいんだろう。ふざけ合える仲が。




サクラ「あ、――もう一つ罰受けなさいよ」



ナルト「…うええ、今度は何?」


サクラ「愛情は込めなくていいから、友情で十分だから。
    今まで通り、その、『ちゃん』付けで呼んでくれない、かな」



ナルト「…………」

サクラ「まだ恋愛感情持たれてるなんて期待は持たないから、お願い」



ナルト「………サクラ、ちゃん。……うん、俺もサクラちゃんって呼び方は
    できれば変えたくなかったから――ちょうどいいってばよ!」




サクラ「…ありがとね」スッ

ナルト「おうってばよ」スッ




拳と拳を突き合わせる。これで本当に、地固まる。

サクラ「……ナルト。まだ、私は本調子にはなれないかも。
     さっきの任務は強引にキャンセルでもするわ」

ナルト「うん、そっか」



サクラ「……でも、日程が空いたとしても、私は年明けまでやっぱりアンタには会わない。
     二度もしんみりは御免でしょ、お互い。

    いい報告、期待してるわ」

ナルト「…そっか」





サクラ「頑張んなさい」

ナルト「おう!!!」





サクラ「じゃーねー。…そうそう、もうこの唇はサスケ君専用だから、
     ナルトなんかにゃくれてやらないから!精々悔しがることねー!」

ナルト「ははは!りょうかーい!!!」

いの「…………そんなことが、あったんだ」



サクラ「…………うん」



いの「…………なら、仕方ないか」



サクラ「ありがとう、いの」



いの「よーし、じゃあ私もついでに呑んでやる!おじいちゃん、梅酒一つ!」






サクラ「あ、よく考えたら、いのの解毒力じゃアルコール抜けきらないから駄目だ」

いの「ちょっと待ちやがれデコりん」

Hinata side


最近のナルトくんとの特訓で、ナルトくんに随分慣れてきた。
でも、会ったときの嬉しさが薄まるかというとそんなことは全くない。


私やハナビを厳しく鍛えつつ、可能な限り怪我させまいと苦心してくれている体の動き。
心が、とっても、ポカポカする。

ハナビもその2か月…たった2か月で随分柔らかくなった気がする。
昔のように無邪気なお姉ちゃんっ子に戻ってくれていたりして。…ないかな。

それ以上に、最近照れくさいことがある。

ナルトくんとの特訓をしていると、まるでナルトくんが私を好きだという錯覚に
陥ってしまうことがある。なんでだろう、おかげで集中力がとぎれちゃうよ、えへへ……。

今日は12月24日、いわゆるクリスマスイブ。
明々後日の27日は私の誕生日。
でも、今の所、ナルトくんとの進展を図るような計画はなんにもない。

考えたところで私じゃきっと無理だから。

ナルトくんには、サクラさんという好きな人がいる。
元々サクラさんはナルトくんに厳しく当たっていたみたいだけれど、
それにもめげずにナルトくんは好きで居続けた。

羨ましいと思ったことがないというと大嘘になっちゃう。
おまけに、最近はサクラさんもナルトくんのことを好ましく思っているようで。



このまま、ナルトくんがサクラさんと付き合うことになったら。

きっと、私は涙目になりつつナルトくんを祝福するんだろう。

…考えただけで悲しくなってきた。泣きそう…。

ハナビ「もう泣いていますお姉様」

ヒナタ「ふぇっ!?」

ハナビ「というより、せっかく編んだマフラーが、どうして10日10日に
     一楽ラーメン券に化けたんですか?未だ不思議でなりません」

ヒナタ「そ、それは…手編みのマフラーなんて渡したら引かれるかなって思い直して…」

ハナビ「……はい、引かれるんじゃなくて惹かれそうですね」

ハナビ(あまりの出来の良さに父上が自慢げに言いふらしていたんですが)



ヒナタ「……わ、私ちょっと外出してくるね!」

ハナビ「……ナルトにはけしかけてみたものの…これは期待薄かな……」

木の葉もクリスマス一色。

恋人たちが昼間だというのに恋人繋ぎで行き交う。……いいなあ。
は、恥ずかしいけれど、いつかできたらいいなあ。

そういえば、昨日サクラさんが繁華街で暴れた、みたいな噂を聞いた。お酒を呑んで呑んで、大変だったらしいけれど、詳しいことはわからない。




ヒナタ「一体何をしたんだろう……サクラさん」






「あら、呼んだかしら、ヒナタ?」



まさかの背後からの返答に……心臓が、止まると、思った。





ヒナタ「―――――――――――――――――――――――――――
    ――――――――さ、サクラ、さん!!?」

まさかの事に、思考が追い付かない。

そのまま甘味処に誘われて、放心状態で席に着く。

サクラ「なんか、ヒナタったら元気なかったからさ、
     つい連れてきちゃった!
    私が奢ってあげるから、じゃんじゃん食べましょう!
    疲れた時には甘いものが一番よっ!!」


ヒナタ「………………………………………は、はい。
     じゃあ、団子を一つ…」



サクラ「おばちゃん!団子とりあえず10個ずつお願いー!」

ヒナタ「……ええええええっ!!?」

結構食べる方なので、一応皿は空にできた。うう、体重計がこわい…。

あとは熱いお茶をまったりと飲み干すのみ。そう、飲み干す……。







サクラ「…ねえヒナタ、アンタ、ナルトの事、好きでしょう?」




…ことができず、はしたなくせき込んだ。

「ごほっ、ごほっっ!!?」

辛うじて噴出さず済んだのが幸い。


でも、私の頭の中はグチャグチャ。思考はたちまち空回り。


えっと、なんて言われた?
『…ねえヒナタ、アンタ、ナルトの事、好きでしょう?』よ。

こここここれは、私が、ナルトくんにたたたたたいして恋愛感情を持ってててててて……
わわわわわ私、何て答えるのが正解なの!?どどどどうしよう!?


真っ赤っかになって、どもるだけ。まともに返答できずに10秒、20秒、30秒。
サクラ「ヒナタ、好きか好きじゃないかハッキリ言えないの?」


ヒナタ「えっと、あの、その、ええと……………………!」


こんな場面じゃ、答えられない―――!



サクラ「……ふーん、そっか。残念だわ。それじゃあ…」










サクラ「…ナルトは、私が貰っていくわね」


ヒナタ「…………え」






急転直下、地獄に叩き落された。

ナルトくんを貰っていくことを…サクラさんがせ、宣言……。

サクラ「知っての通り、ナルトは私のこと好きじゃない?
    私、サスケ君の事を確かに好きだったけれど、
    謹慎処分が何時解けるか分かんないし、
    いつまでも待っていられるほど聖人君子じゃないもの…。
    女として汚いかも知れないけれど、悪くないと思ってるナルトと付き合う。
    自分が好きな人とじゃなくて、自分を好きでいてくれる人と付き合えってよく言うし。

    だからヒナタ、必要ないかも知れないけど言っておくわ。
    ナルトから手を引いてほしいの」





何もかもが、音を立てて崩れていく。

貴方にそれを言われたら、もう私に勝ち目がないじゃない。

顔は強張り、眼は光を無くし、俯いて――全てが終わって、しまう。

ヒナタ「――――は……い……。わかり、まし、た…………………」

――ああ、なんて、あっけない。

あっという間に私の恋は終わってしまった。

所詮引っ込み思案の私が出しゃばったのが馬鹿だったの。



こんなことなら。 

      ナルトくんを好きになるべきじゃ――――






サクラ「……………………おばちゃん、はい、2人分のお代」

私を置いて、去っていく。無情に去っていく。

………
……………
…………………





       

         ガシィッ!!!!!!!



サクラ「……!!な、なによ」



無意識に、体が動く。周囲にあるもの全てを吹き飛ばし、
去ろうとする手を摑まえる。ああ、今の私、酷い泣き顔をしている。



ヒナタ「……めん…………ごめん…い……ごめんなさい…………っ!!
    私、さっき言えなかったこと、全て言うから……
  お願いだから、聞くだけ、聞いて……お願い……!
  私、私、私……!ナルトくんが、好きで好きで堪らない!
  ナルトくんがサクラさんを選ぶこと、かんがえ、たら、
  胸が張り裂けそうなほど、苦しい……!!」

サクラ「…………!!」



ヒナタ「…………それでも、本当にサクラさんを選ぶのなら、
    私は、とめ、られ、ないよ。


    物事にまっすぐ突き進むナルトくんの忍道をっ、
    私は、好きで、いたい、から……!!」

そのとき。

ふわりとプレッシャーが掻き消えて、

ぼんぽん、と頭を撫でられた。



サクラ「……それでいいのよ、ヒナタ。

    ごめんなさい、この通りっ!!

    アンタが引っ込み思案ではっきりしないものだから
    荒療治させてもらったのっ!」

ヒナタ「…ふぇ?」


ヒナタ「…………ふはぁ………」



全身の筋肉の強張りが解ける。気が抜けすぎて…ああ、立っていられず
へたり込んでしまった。

サクラ「うわ、うわわわわっ!?ちょっとヒナタ、酷い顔!!
     ホント御免!おばちゃん、おしぼり一つ!」


おばちゃん「馬鹿言うんじゃないよ!顔を洗ってきたほうがよっぽど早い。
       とっとと洗面所使いな!」



ヒナタ「…は、はい――」






お、思えば、客が大勢いる中で、私は、な、なんて告白を……!!

ヒナタ「……ごめんね」



サクラ「何言ってるのよ、迷惑かけたのはどう考えてもこっちでしょ?…本当にごめんなさい」



ヒナタ「…………」

サクラ「…………」



ヒナタ「サ、サクラ、さん。ナルトくんって――私の事、どう思ってる、の、かな」

サクラ「…………」

ヒナタ「どちらにしても、ナルトくんがサクラさんを好きな以上、
     私はどうにもできないよ……」

サクラ「何、言ってんのよ。呆れるわねえ」

ヒナタ「……え?」


サクラ「知らないの?ナルト、アンタの事、好きなんだけど」







ヒナタ「………………………………きゅう」







サクラ「ヒナタァ!?…気絶しちゃだめだってば」




そんなこと言われても、無理。今度は…嬉しくて、嬉しくて、
激しい鼓動が鳴りやまない。

ヒナタ「……ああ、なんとか…たえ、たよ」

サクラ「まったくー…実は昨日ナルトと話してきてね。
    私への想いが恋愛感情でない事、ヒナタへの想いが恋愛感情であることの
    最終確認を済ませてる」



ヒナタ「…………そ、うなんですね。だからサクラさん、あんなに」

サクラ「ただねー、アイツかなり面倒くさいんだわ。ヒナタってば、
     ペインとの戦いの最中、ナルトに告白したんだって?
     それが妙に尾を引いて、

     『今更告白をこちらからしていいのか』

     なんて理由で自分からの告白躊躇ってんのよ。
     アイツも恋愛には初心だから」


ヒナタ「……こく、はく」

サクラ「なんだか、前のヒナタの告白を塗りつぶすようで嫌なんだってさ。
     もうさ、次に出会ったときにでも

     『まだ好きです、あの時の告白の返事聞かせてください』

     って叫んで抱き付いちゃいなさいよ、ヒナタ」

ヒナタ「……」

ヒナタ「…………」

ヒナタ「…………そうしたら、ナルトくんは、受け入れてくれる、かな?」ウルッ



サクラ「そうね、確実に受け入れると思うわ。私が保障する!」





そう、だったんだ。


あなたが保障してくれるのなら、もう私に一切の躊躇いはない。


なら、私も、人生で最大級の勇気を振り絞る。


















    ヒナタ「今も昔も――大好きです。

         あの時の告白の返事、聞かせてください」




最高に微笑んだと分かる顔で、目の前の『男性』に抱き付いた。


                     ~ Fin ~

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom