春香「真冬の夜は眩しくて」 (80)


(シャンッシャンッシャンッシャンッ!)



春香「メリークリスマース!」



春香「はいっ、どうぞ!」

春香「えへへっ、私からのプレゼント、ですっ!」

春香「わぁっ! ありがとうございます! 大切にしますね!」

春香「こ、こんなにたくさん! 持ちきれないですよぅ!」

春香「これからもがんばりますっ!」


春香「それではみなさん改めて――」




春香「メリークリスマース!!」

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―――――――――

――――――

―――



春香「お疲れ様でしたー」

春香「いえ、お気になさらないでください!」

春香「はい、またよろしくお願いします」ペコリ



春香「……っふぅ。仕事、すっかり延びちゃったな」

春香「今の時間は……ってえぇっ!? もうそんな時間!?」

春香「あ、あわわ! えっとえっと!」ポパピプペ

春香「……」prrrrrr...

春香「……!」ルスバンデンワサービスニ...

春香「……はぁ」ピッ


春香「あーぁ……すっぽかしちゃった……」


春香「前にもこんなことがあった気がする……」

春香「なんかクリスマス運ないなぁ、私……」

春香「あ、でも今年はちょっとあったかい」モゾモゾ

春香「この前貰った手袋とマフラー」モフモフ

春香「えへへ、あったかい……」ボーッ


(ガッ)


春香「んきゃっ!?」


(ドンガラガッシャーン!)


春香「……ごめんなさい神様、調子に乗ってました……」


春香「流石にもう、人もまばらだねー」

春香「あ、あの人、プレゼント抱えてる」

春香「ふふふっ、お子さんへのプレゼントかな」

春香「嬉しそうだなぁ……」


(ピカピカチカチカ)


春香「あ……ツリーがライトアップしてる!」

春香「じんぐるべーるじんぐるべーる、すずがーなるー♪」ワッホイ!


(フッ)


春香「ってえぇっ!? 消えちゃう? 今消えちゃうの!? 春香さんテンション上がってきてたのに!」


春香「23時過ぎたからかな」

春香「あーあ、なんだかお祭り気分がぜんぶ終わっちゃった感じだなぁ」

春香「人肌が恋しい……」


(prrrrrr...)


春香「あっ!?」ババッ!

春香「はいっ、もしもし!?」

春香「……うん、うん、ごめんね! 仕事が延びちゃって……」

春香「え? 今駅の前? ありがと、すぐ行くね!」


(ピッ)


春香「良かったぁ……それじゃ急がないとってあわわわっ!?」ズルッ


(ドンガラガッシャーン)


春香「ええっと、たぶんこの辺りに……あ、居た!」タッタッタッ



千早「ふぅ、やっと来たのね、春香……ってどうしたのよ、その膝」

春香「い、いやぁ、仕事中のトラブルで」

千早「違うわね」

春香「え?」

千早「その手袋に残ってる泥」

春香「うっ」

千早「コートの裾の汚れ」

春香「うぅっ」

千早「そして乱れた髪の毛」

春香「ううう……」



千早「転んだわね?」

春香「はい……」


千早「ほら、消毒してあげるから」

春香「そんな大した傷じゃないよぅ」

千早「いいから。膝出して」

春香「えへへ、なんだかお姉ちゃんみたい」ヨッコイショット

千早「これでも一応、弟がいたんですから」

春香「あ……ごめん」

千早「ふふっ、何神妙な顔してるの。しみるわよ」スッ

春香「いつっ……」

千早「軽く拭きとって、絆創膏は……って、あら?」

春香「どうしたの?」

千早「そうだった……亜美の餌食になったんだったわ……。ごめんなさい、絆創膏きらしちゃってて」

春香「あ、大丈夫大丈夫! そんなに血は出てないし!」

千早「そう?」


千早「歩ける?」

春香「そんなに重症じゃないってば!」

千早「ていっ」ペチッ

春香「いひゃひゃっ!?」

千早「ええ、それだけ騒げれば大丈夫そうね」

春香「観点が違うよ千早ちゃん!」

千早「ふふっ、やっぱり春香って面白いわ」

春香「千早ちゃんのばかー」プクーッ

千早「あら、いいのかしら? 折角お手伝いしてあげるのに、そんな口きいちゃって」

春香「ごごごごごめんなさい千早大明神さまぁ!」

千早「はいはい。それじゃ、私の部屋に取りに行きましょうか」


(テクテク)


春香「ごめんね、こんな日に預かりものなんて……」

千早「いいのよ。さっきまで、春香抜きでみんなでクリスマスパーティーしてたついでだから」

春香「え゙っ、それ知らないんだけど」

千早「それはそうでしょうね。みんな気を使って春香には黙ってたから」

春香「そ、そんなぁ!」

千早「……なぁんて。事務所にいた亜美、真、美希、音無さんと、萩原さんのお祝いをしただけよ」

春香「もうっ! 千早ちゃん、最近ちょっと意地悪いよ!」

千早「あら、春香こそ大概よ? 何が、とは言わないけれど」

春香「うっ……」

千早「今日のこれだって、音無さんに言ったらどんな反応をされるか……」

春香「ご、ごめんなさぁいっ!」


―――――――――

――――――

―――



春香「ちょびっとお邪魔しまーす……」

千早「そんなひそひそしなくても、この部屋は防音よ」

春香「でもちょっと楽しくない? 抜き足差し足忍び足~って」

千早「春香って時々妙に子どもっぽいわよね」

春香「またそうやって馬鹿にするー」

千早「ほらほら、ふてくされないの。冷蔵庫の中に入ってるわ」

春香「はーい」ガチャッ

春香「んっしょっと……ありがとね、千早ちゃん」

千早「それと、これも忘れないでね?」

春香「あぁっ!? ご、ごめんありがとう!」

千早「本当に抜けてるんだから……」クスクス


千早「ねぇ、春香」

春香「ん?」

千早「春香は今、幸せ?」

春香「えぇっ!? い、いきなり難しい質問をするねぇ、千早ちゃん……」

千早「そんなに難しく考えなくていいわ」

春香「そう? なら……やっぱり、幸せ」

千早「そうでなければ、こんな手の込んだこともしないわよね」

春香「も、もうっ! 分かってるのになんでそこ突っつくの!」

千早「ううん、大したことじゃないの」

千早「そういう幸せって、すごく大切だと思っただけ」

春香「千早ちゃん……」

千早「……ほら、あんまりのんびりしてると折角の幸せが逃げちゃうわよ?」

春香「え? あわわっ!? もうこんな時間!」


春香「千早ちゃん、ありがとう! それじゃ、また事務所でねー」

千早「ええ。メリークリスマス、春香」

春香「メリークリスマース!」


春香「それじゃあえっと……あ、メール来てる!」

春香「よしっ、待ち合わせ場所に行かないと!」


春香「……」

春香「でもここで急いだら、間違いなく転ぶよね、私」

春香「……」


―――――――――

――――――

―――



(ピタッ)


春香「ツリーの前ってここだよね」

春香「うーん、いないなぁ……」キョロキョロ

春香「まだ向かってるとこみたいだし、ベンチで待ちますか」ストン


春香「幸せ、かぁ……」

春香「……」ガサガサ

春香「今年はちゃんと用意したし」

春香「プレゼントも……これで喜んでもらえるはず」

春香「……」

春香「……んー、なんか忘れてるような違うような……気がする」

春香「うー、小骨が喉に引っ掛かってるような……」


(コツッコツッコツッ)


春香「!」


P「おっ、やっと来たな」

春香「私の方が先に着いてるじゃないですか!」

P「あんまり遅いもんでコンビニでコーヒーを買ってきたのだ」ガサガサ

春香「……あれ?」

P「時計時計」トントン

春香「……うわぁっ!? もうこんな時間!」

P「いやいや、こちらの台詞ですよ」

春香「ご、ごめんなさい……絶対転ばないようにって気を付けて歩いてたら……」

P「ちょっと極端すぎるね、お前は……」


P「さて、見事に終電を逃したわけだが」

春香「すすすすみませんっ!」

P「タクシーで帰りますかね」

春香「わっ、なんだか贅沢ですね!」

P「普段送迎車乗ってるトップアイドル様のお言葉じゃないな」

春香「オフは一人の高校生ですからっ」

P「はいはい。しかし、それにしても随分と軽装なんだな」

春香「え?」

P「そのまま泊まってくんだろう? 着替えとか持ってるのか?」

春香「……」

春香「あ」


(コンコン)

(ガチャッ)


千早「来ると思ったわ」

春香「ごめんなさい……」

P「ご迷惑をおかけしました」

千早「いえいえとんでもない」

P「いつも娘がお世話になっております」フカブカ

千早「こちらこそ、天海さんにはいつも……」フカブカ

春香「二人とも何やってるの! 恥ずかしいよ!」カァッ

千早「ふふふ。はい、お泊まりセット」ゴソゴソ

春香「ごめんね、千早ちゃん」



千早「春香」コソコソ

春香「な、なに?」コソコソ

千早「あんまりヤンチャしちゃダメよ?」コソッ

春香「しないよ!」


(バタン)

(ブロロロロロ......)



P「最後、何をコソコソ話してたんだ?」

春香「知りませんっ!」プンスカ

P「何を怒ってるんだ……」

春香「もうっ、千早ちゃんのばかっ……!」カァッ


(シィン...)


P「流石にこの時間だとイルミネーションもついてないな」

春香「さっき、ちょうど駅前のライトが消える瞬間を見ました」

P「さっき待ち合わせてたとこのか?」

春香「そうです! ……はぁ、ほんとはもうちょっと見てたかったのになぁ」

P「そうか……」


P「あ、運転手さん。そこを右でお願いします」

春香「あれ? 家ってもう少しまっすぐじゃ……」

P「いいからいいから」


(バタンッ)


P「はい、どうもー」

春香「うぅっ、外さむい……」

P「コート羽織るか?」

春香「あ、プロデューサーさんのいい匂いがするコート……じゃなくて! それ脱いだら風邪ひいちゃいますって!」

P「子どもは風の子って言うだろう?」

春香「確かにプロデューサーさんは子どもっぽいですけど……」

P「言ったなこいつめ」コチョコチョ

春香「わひゃっ!? あ、あははは! や、やめっ! 箱落としちゃいますぅ!」

P「おっと、それはいけない」ピタッ

春香「ぜぇ、ぜぇ……い、一気に暑くなりました……」

P「作戦成功だな」

春香「ほんとに作戦ですか……?」


春香「わっ、寒いと思ったらもう0度近いですよ!」ピッピッ

P「そりゃあ寒いわけだ……おっと、エリアによっては雪降ってるみたいだな」テクテク

春香「さぶぶぶ……こんなに寒いのに、なんで直接帰らないで寄り道なんて……」

P「春香が見たいって言うからさ」

春香「え? 何を?」

P「確かこのちょい先に……おっ、あったあった」

春香「へぇー、ここ、小さな広場になってるんですね……って、あれ?」

春香「わっ、小さなツリー! やよいくらいの大きさですね」

P「自治体が毎年出してるんだよ。他にも何箇所かにあった気がする」

春香「大きいツリーもいいですけど、こういう小さなのも可愛いなぁ……」


P「えいっ」カチッ

春香「あれ、プロデューサーさん、今の音は何――」


(チカッ)


春香「わ……」


(チカチカ)


春香「わぁっ……!」


(ピカピカチカチカ)


春香「ライトアップ……綺麗……!」

P「自由に電飾つけられるんだよ、ここのツリー」


(ピカピカチカチカ)


P「綺麗だな」

春香「はいっ、とっても!」

春香「でも綺麗に見えるのは、プロデューサーさんが見せてくれて、一緒に見てるからで……」


春香「……あ、そっか」


P「? どうした?」

春香「ううん、なんでもないです」


(ピカピカチカチカ)


春香「ツリー、綺麗だなぁって思って……」

P「良かった良かった。満足してもらえたか?」

春香「……いいえ」

P「えっ」


春香「私、プロデューサーさんとお付き合いするようになってから、ずっと満足しちゃってたんです」

P「……」

春香「プロデューサーさんがいつも見ててくれて」

春香「傍に居てくれて」

春香「でもいつの間にかそれが当たり前になっちゃってました」

春香「すごく大切な、幸せっていう気持ち、忘れてたような気がします」

P「忙しくて、あんまり構ってやれてなかったと思ってたけど」

春香「えへへ、それでも付き合い始める前と比べると、ずっとずっと傍に居てくれました」

P「……そうかなぁ」

春香「はい。仕事の時も、そうでない時も、ずぅっと」


(ピカピカチカチカ)


春香「去年のクリスマスを思い出すなぁ……」

P「春香の家に行ったっけか、そういえば」

春香「そうですよ、誰かさんが寝過して」

P「それで、誰かさんに唆されてな」

春香「えへ」

P「目を逸らすな」

春香「あはは。去年の今頃はまだ、プロデューサーさんに想いを伝えてなかったっけ……」

春香「ツリーを見てると、あの時の切ない気持ちが蘇ってきて」

春香「あの時を思うと」

(ギュッ)

P「っと」

春香「……本当に、私、幸せです」

P「暖かいなぁ、春香は」


P「でも幸せなのもいいが、手元のものを忘れるなよ?」

春香「あっ! 危ない危ない……」

P「せっかく持ってきてくれたんだから」

(スッ)

P「ケーキ、本当に作ってきたんだな」

春香「去年、約束しましたから」

P「偉いなぁ、春香は」ナデナデ

春香「また子供扱いするぅ……」

P「家まで持つよ」

春香「大丈夫ですってばぁ!」


春香「もうっ! プロデューサーさんったら一度言い出したら聞かないんですから……」

P「いいじゃないか。たまにくらいカッコつけさせてくれ」

春香「むぅ……」

P「よし、それじゃあうちに行くぞー。今日はちゃんとターキーもあるからなー」テクテク

春香「あぁっ! 待ってくださいよぅ!」タタタッ

P「おい、急に走ると……」

春香「あわわっ!?」

(グッ)

春香「な、なんのぉっ!」グググッ!

P「おっ?! 転ばないのか!?」

(ズルッ)

春香「へぶっ」ビタンッ!

P「ダメだったかー」


P「ったくもう、毎度世話の焼ける……って膝、怪我してるじゃないか!」

春香「あ、それはさっきプロデューサーさんと会う前に……」

P「本当に生傷の絶えないやつだな……急いで手当しないと」

春香「千早ちゃんが消毒してくれたから大丈夫ですよ!」

P「千早が消毒……?」

春香「マキロンちょちょんってしただけですよ?」

P「あ、ああうん、そうだよな、分かってる」

春香「……その顔、何考えてたんですか?!」

P「ほら、絆創膏とか貼ってやるから。早く家に行こう」

春香「何考えてたんですかー!?」


――――――――

―――――

―――




(ガチャッ)


春香「おじゃましまーす……」

P「なんでそんなに恐る恐るなんだ」

春香「抜き足差し足忍び足……」

P「忍者ごっこか?」


P「そこらへんに腰掛けて待っててくれ。大人しく待ってろよー」ガチャッ

春香「はーい」バタン


春香「……なぁんて、黙って待ってるわけないじゃないですか!」

春香「久しぶりのプロデューサーさんの部屋……早速! チェックしてみたいと思いますっ!」スクッ


春香「さて、何か怪しいものは……ベッドの下とか?」コソコソ

春香「ううん何もない。他には……あれ?」キョロキョロ


(ズモッ)


春香「クローゼットが……不自然過ぎるくらい膨らんでる……」


春香「これは確認しないといけないよね! 天海春香、行きますっ!」スッ...


(ガチャッ)


P「春香お待たせー……ってどこ開けようとしてるんだお前?!」

春香「あっ! その慌てよう、怪しいですね!」グッ

P「や、やめろぉっ!」

春香「恥ずかしいものいっぱい見せてもらっちゃ――」ギィッ


(グラッ)


春香「……へ?」

春香(何かがクローゼットいっぱいに詰め込まれて……?)

春香「バベルの塔……?」

P「あほーーっ!」


(ガララララッ!)


(ドンガラガッシャーン!)


(ガチャガチャ...)


P「だ、大丈夫か? 固いものはなかったはずだが……」

春香「うえぇ……服やらなんやらに埋もれて動けないです……」

P「だから開けるなと言ったのに……」

春香「助けてくださーい!」ゴソゴソ

P「待ってろ、今掘り出してやるから」ガサガサ

春香「……あっ、このブラウス、プロデューサーさんの匂いがする……」

P「さっさと這い出して来い馬鹿!!」ガササササッ!!


春香「とんだクリスマスプレゼントでした……」

P「ふぅ、まぁこれくらい片付ければ大丈夫だろう」

春香(……でも、プロデューサーさんの香りがいっぱいだぁ……)

P「何ニヤニヤしてるんだ……」

春香「うえぇっ!? に、にやけてました?」

P「今も頬が緩みきってるが」

春香「え、えっと、あのその、何でもないです……」

春香(は、恥ずかしい……!)

P「……もういい。さて、じゃあ春香。ベッドに来い」

春香「はい、今行きま……ってええっ!?」ビクッ!

P「ほら、さっさと来る」グイッ

春香「あ……」

春香(わ、私……どうなっちゃうのーーー!?)


――――――――――

―――――――

――――



春香「ぁっ……!」

P「痛いか?」

春香「い、いえ。だいじょうぶ、です」

P「でも、まだちょっとだけだぞ?」

春香「我慢……します。一気に、きてください」ギュッ

P「そうか……じゃあ、歯を食いしばれよ」

春香「はいっ……」

P「そらっ」

春香「ひっ……?!」


春香「っ~~~~……!!!」ビクッ!


P「はいマキロンどばー」ビャッ

春香「~~~~っ!??!?」ジタバタジタバタ

春香「しししししみるうううううう!!!」ジタバタジタバタ

P「はい、暴れない」ガシッ

春香「くうううっ……!」

P「アイドルは見栄えも大切なんだから、あんまり迂闊な怪我はするなよ?」

春香「はい……気をつけます……」

P「そのうっかり屋なところも魅力なんだけどな」

春香「……はい」カァッ


P「結構、怪我の範囲が広いな。大きい絆創膏は……あったあった」ゴソゴソ

春香「す、すみません」

P「いいんだよ。俺が心配性なだけだ」ペタペタ

春香「……私が怪我してると、心配ですか?」

P「当たり前だろう。何言ってるんだ」

春香「仕事なんかと関係ない、とってもとってもちっちゃな怪我でも?」

P「ああ。ちっちゃなとげが刺さっただけでも、春香が辛いんじゃないかって思うと、気が気じゃない」

春香「……えへ」

P「なんだよ急に。気持ち悪いな」

春香「……すごく大切にされてるんだなって。今更、実感して」

P「調子のいいやつめ」


P「ほいっ、オッケー」ペシッ!

春香「きゃんっ!? い、痛いですよぅプロデューサーさん!」

P「治療が完了すれば気にしないのさ」

春香「うぅ……」

P「ほら、ターキー食べるぞ?」

春香「あっ! 食べます!!」

P「現金なやつだなぁ」


春香「それではっ!」

P「聖夜を祝して……」


春香・P「「メリークリスマース!」」チンッ!


春香「って、ターキー大きいっ!」

P「俺の数日分の夕飯も兼ねてるからな」

春香「そんなに持つんですか?」

P「持たせるのさ」

春香「……ふふっ」

P「俺のいじましい年末が面白そうか?」

春香「いえ……こんなクリスマス過ごせて、幸せなだけです」


春香「プロデューサーさんのはシャンパンですか?」ショワワワワワ

P「ああ。春香は去年と同じ、シャンパンもどき」ショワワワワワ

春香「……一口貰っていいですか?」

P「ダメに決まってるだろう」ゴクッ

春香「ねっ、プロデューサーさん! 一口、一口だけ!」

P「ダメったらダメだ。どうせあと数年もないんだから我慢しなさい」

春香「うぅ……ロマンチックなクリスマスがぁ……」

P「じゃあ要らないならその発泡ジュースも俺が……」

春香「ダメ! これは私のですもん!」ガシッ!

P「そうやってると酒瓶抱えてるアル中みたいだな」

春香「え゙っ」ピタッ

P「はい、もーらい」パシッ

春香「あっ……あぁーーーっ!!」


春香「ずるい! プロデューサーさんずるいですよぅ!」

P「怒るな怒るな。お姫様、どうぞ」ショワワワワワ

春香「えっ、お姫様……?」

春香「……えへへ、うむ、苦しゅうない!」

P「安い姫様だ……」ボソッ

春香「プロデューサーさん、ちょっと聞き捨てならないセリフが聴こえましたけど」

P「気のせいだよ気のせい。ほら、冷めないうちに食べよう」

春香「……ふふっ。はいっ」


(カチャカチャ)


P「そういえば俺とのことは、ご両親には話してるのか?」モグモグ

春香「いえ……付き合ってる人がいる、とは話したんですけど」

P「そうか……」

春香「急に考え込んで、どうしたんですか?」

P「いや、近々ご挨拶に行かなきゃいけないかな、と思って」

春香「あー、そうですね。やっぱりいつまでもこのままは……」




春香「……って、ご挨拶!?」


春香「えっ、あえっ、あわわっ!? どどど、どういう意味ですか?!」

P「え? そのままの意味だけれども」

春香「え、ええっ……あ、うわっ……!」

P「どうしたんだ、急に顔面押さえて」

春香「あ、あわわ! か、考えてみたら、急に恥ずかしく……!」

P「まぁ俺も気まずいし恥ずかしいけれども……今後のこと考えたら、ちゃんとご挨拶しないと、な」

春香「……今後?」

P「ああ」

春香「ええと、その、今後って……?」


P「もちろん、詳細設計を見据えて、さ」

春香「将来設計って……」


春香「……え?」



春香「えええええええええええええええ?!!?!?」


春香「ぷ、プロデューサーさっ……将来って……しょうっ……!?」

P「え? 春香はそこまで考えてなかったのか? まずいな、もしかして俺の独り相撲だったのか……」

春香「いいいいいいえいえいえいえいえ!!! そ、そんなことなくてっ! あのその、つまりそれって……!」

P「ああ、もちろん……」


春香「けっこ」

P「アイドル業とどう両立するのかとか、親御さんも変なスキャンダルにならないか心配だろうしな」

春香「へぷっ」


P「ん? どうした?」

春香「……な、なんでもないです、はい」

春香(そりゃそうだよね……私、何早とちりしてるんだろ……)ガックリ


P「……っぷ」

春香「へ?」

P「あっはっは! 冗談だよ、冗談」

春香「……もおおおおおお! プロデューサーさんのばかーーー!」ガタァッ!

P「悪い悪い! ついついからかいたくなったんだって」ダダダッ!

春香「あっ! こら! 待てーーー!」


(ダダダッ!)


春香「こらぁぁぁああ!!」

P「あっはっはっは! は、は……」ピタッ

春香「……プロデューサーさん?」


(フラッ...)


春香「……え?」


P「あ……俺はもう、ダメ、だ……」グラッ


(ドサッ...)


春香「ぷ、プロデューサーさん!? 急にベッドに倒れこんで……どうしたんですか!?」

P「……」

春香「プロデューサーさん! プロデューサーさん!!」


春香「しっかり、しっかりしてください!! プロデュー……」

P「……んが……」

春香「……サー、さん?」チョンチョン

P「ぐぅ」zzzz

春香「……」



春香「はぁぁぁぁあああぁぁあぁ……び、びっくりしたぁ……」ヘタッ


春香「もうっ、プロデューサーさんのばか! すぐに叩き起こして――」


(パサッパラララッ)


春香「あれ、プロデューサーさんからなにか落ちた?」ヒョイッ

春香「スケジュール帳かぁ。こっそりのぞいちゃおっかな……」ペラッ

春香「……わ、凄いスケジュール量! 私達の比じゃない……」

春香「って、それもそっか。今年は事務所みんな、色んな所から引っ張りだこだったから……」

春香「今年もずっとずっと、私達のために……」


春香「……そっか」

P「くかー……」

春香「ここ何日も、殆ど寝てなかったんですね。なのに、私のわがままのために……」

P「んんん……」zzzz

春香「ふふっ。ありがとうございます、プロデューサーさん」

春香「ありがとう、ございます……」ギュッ


春香「さて、お片付けしないと。プロデューサーさん、多分起きたらまだ食べるよね」

春香「ラップして、空いたお皿洗って……あ、ケーキまだ食べてない!」

春香「明日起きたら食べよっかな。たはは、太っちゃいそう――」

春香「……」


春香「……プロデューサー、さん」チラッ

P「すかー……」

春香「ふふふ、本当にぐっすり寝てる」


春香「……」


春香「寝顔、可愛いですよ」

P「むにゃ……」

春香「……」スッ

P「んー……」

春香「顔、こんなに近いのに……全然起きないや」

春香「……」


春香「……そう言えば……一年も経ったのに、したこと、なかったかも」

春香「いつも人目を気にしてたし……」


P「くかー……」

春香「プロデューサーさん」


(スッ)


春香「んっ……」

春香「……」

春香「っぷぁ……えへへ……」


P「ぐぅ……」

春香「って、全然起きる気配ないし」

春香「そんなに疲れてたのかな。電気、消してあげよっと」パチッ


(フッ)


春香「わっ、思ったより暗くて足元が……!」アタフタ

春香「こ、転んでプロデューサーさん起こさない様にしないと……」ソォーッ


春香「んー、口元がなんか甘いなぁ。ちょっと苦いかも」

春香「なんだかぽーっとなってきた……って、これシャンパン?」

春香「いやいや、流石にこんな触っただけで……」クラッ

春香「えぇ……嘘でしょ……? 私、こんなにお酒に弱い……」フラッ...


(ドサッ)


春香「……あ、違うや。私も、もう疲れて限界……」

春香「このまま寝ちゃおっかな……」

P「すぴー……」

春香「……ふふっ、プロデューサーさん」チョンッ

P「むが……」

春香「いい夢見れそう……」


春香「おやすみ、なさい……」


――――――――――

―――――――

――――



P「……んんん……いかん、寝ちまったか」

P「なんだか口元が甘いな……気のせいか」


P「ん?」チラッ

春香「すぅ……すぅ……」

P「折角の日なのに、悪いことしたな……今度埋め合わせしないとな」

P「ごめんな、春香」ナデナデ

春香「んぅ……ふふ……」ムニャムニャ

P「さて、今の時間は……まだ夜中か」

P「ちゃっちゃと食器片付けて、ああ、クローゼットも片付けないと」


P「電気付けたら起きるかな」

春香「ふあぁぁぁあ……」

P「あぁ、もう起こしちゃったか。悪いな」

春香「……はれ? なんで私、プロデューサーさんの部屋に……?」

P「夕食もそこそこに放り出して、二人して寝ちまったみたいだ。そのまま寝てるか?」

春香「そうでした……。大丈夫です、起きます」ムクリ

P「そうか? クローゼット片付けたりしてるから、少しぼーっとしてな」

春香「はぁい……」ムニャムニャ


春香「あ」

P「どうした?」

春香「雪、止んでます」

P「お、本当だ。折角ホワイトクリスマスだったのにな」

春香「月が出てますよ。雪が照らされて綺麗です」

P「あんなに曇ってたのに。月明かりって結構強いもんだな」


春香「……あれ?」

P「今度はなんだ」

春香「そこに落ちてる箱、なんですか? 月明かりが照らしてるとこ……」

P「お、ホントだ」


(ヒョイッ)


P「なんだろう? クローゼットから崩れ落ちてきたかな」ジーッ

春香「宝石箱とかそういうのにも見えますけど……」

P「……あっ! これか! 思い出した!」ポンッ

春香「何なんですか?」

P「これ、お袋の指輪だ」

春香「プロデューサーさんのお母さんの?」


P「うち、親が若い頃に死んでなぁ。まぁ形見みたいなもんだ」

春香「えっ……そうだったんですか……。すみません、私、知らなくて……」

P「いやいや、一体どれだけ前だと思ってるんだ。気にするなよ」

春香「はい……」シュン

P「まったく、そんな暗い顔しないの」クシャッ

春香「わっ! い、いきなり髪をくしゃくしゃにしないでくださいよぉ!」

P「辛気くさい顔してるからだ」

春香「ううううぅ……!」


春香「あの」

P「どうした、気まずそうに」

春香「ええっと……その指輪、見てみてもいいですか?」

P「ああ、いいぞ。ほれ」スッ

春香「わ……これが、プロデューサーさんのお母さんの……」

P「確か結婚指輪のはずだ」

春香「ということは、プロデューサーさんのお父さんが?」

P「そうなるな。そういや指輪貰った時の話、何度か自慢げにされたな……」

春香「えぇっ!? ど、どんな話ですか!? 教えてください!」クワッ!

P「な、何だいきなり!?」

春香「お、女の子は人の恋バナが大好きなんです!」フンフン!

P「お、落ち着け! もう大分昔だから良く覚えとらん!」

春香「えー……」シュンッ

P「落ち込みすぎだお前……」


春香「プロデューサーさんのお母さん、貰った時どんな気持ちだったのかなぁ」

P「さぁなぁ。女心は分からないよ」

春香「綺麗な指輪だなぁ……」ジーッ

P「……そうだなぁ」ウーム

春香「どうしたんですか、急に考え込んだりして」

P「春香」

春香「はい?」

P「その指輪、貰ってくれるか?」

春香「はい、分かりまし……へ?」


春香「へっ!?」


P「俺が持っててもクローゼットで腐らせてるだけだからな。誰かがはめてくれた方が指輪も嬉しいだろうさ」

春香「えっ!? あ、はいっ、他意はないんですよね?!」

P「?」

春香「い、いえ、何でもないですっ! で、でも……」オソルオソル

P「なんだ?」

春香「その……本当に貰ってしまって、いいんですか? お母さんの形見なのに、私なんかが……」

P「私なんか、ってなぁ……」ハァ

春香「え?」

P「その程度にしか考えてなかったら、将来のこと考えたりご両親に挨拶行ったりするわけないだろう……」ハァ

春香「それ、冗談なんじゃ……」

P「あ」



P「さて、飯食おうか」

春香「待ってくださいよ!? 今すっごい大事な話してませんでした!?!?」


P「さて、天海さんのケーキは甘味たっぷりかなー」

春香「ぷ、プロデューサーさぁん! はぐらかさないでくださいよぅ!!」

P「要らないなら飯も全部食べちまうぞー」ガチャッ

春香「食べますよぅばかぁ!!」テッテッテッ


P「……そう言えば」

春香「どうしたんですか?」

P「いや、何でもない」

春香「もうっ、さっきから隠し事ばっかりー……」


P(親父から指輪貰ったの、クリスマスの夜だって嬉しそうに話してたっけ)


春香「プロデューサーさん、何嬉しそうに笑ってるんですか」

P「ちょっと子供の頃を思い出しただけだよ」

春香「もー、私の知らないことばっかり!」プンプン

P「怒るなって。知らないことを話す時間は、これからいくらでもあるだろう?」

春香「……」チラッ

P「な」

春香「……はいっ」クスッ

春香「それじゃあ最初に、さっき喋りかけたこと教えてくださいね!」

P「まずいな、藪蛇だったか」

春香「ふふふっ。それじゃ、食卓に戻りましょう!」

P「分かった分かった、だから慌てるなって。そんなことしてるとまた……」

春香「わきゃっ!?」ズルッ


(ドンガラガッシャーン!)


P「言わんこっちゃない……」


――――――――――

―――――――

――――




春香「るんるんるんっ! おっはよー千早ちゃん!」

千早「随分とご機嫌ね?」

春香「そ、そんなに浮かれてるかな?」

千早「朝から鼻歌歌いながらご登場なんてなかなか……ってたまに歌ってるわね」

春香「変かな?」

千早「ううん。春香らしくていいと思うわ」

春香「えへへ、じゃあ千早ちゃんも一緒に歌おうよ!」

千早「いえ、遠慮しておくわ」


千早「その指輪……」

春香「ふふふっ、昨日プロデューサーさんに貰ったの。お母さんの形見なんだって」

千早「あら、指輪ということはつまり……?」ニヤニヤ

春香「ちっ、違うよ!? だからほら、人差し指に!」

千早「ふぅん……?」

春香「本当は家からあまり持ち出さない方がいいんだけど……千早ちゃんにだけは、どうしても見せてあげたくて」

千早「……もうっ、春香ったら」

春香「てへへ」

千早「でも、音無さんにだけは絶対に見られない様に気を付けた方がいいわ」

春香「うん、そうだね」


P「お、春香と千早。なんかあっちで音無さんが悶絶してるんだが、理由知ってるか?」

千早「あ、遅かったみたいね」

春香「あー」

P「? 知ってるのか?」

千早「犯人はあなたです」

P「何故だ」


P「ああ、その指輪持ってきたのか。それが原因か……」

春香「ご、ごめんなさい! 千早ちゃんにだけは見せてあげたくて」

P「いや、失くすかもとか気にせず普段からはめてていいからな? ファンに誤解されるような指でなければ」

千早「誤解じゃないと思いますけど」

P「細かいとこ突っ込まないの」

春香「もー、やめてよ千早ちゃん……」カァァッ

千早「その指輪、前々から春香にあげようと思ってたんですか?」

P「いや、昨日たまたま部屋で見つけてね」

春香「ドラマチックだったんだよー、月明かりが指輪の箱を照らして……」

P「ドラマチックかはさておき、月明かりは確かに綺麗だったな」

千早「……月明かり?」


P「どうした、変な顔して」

千早「プロデューサーの部屋って、結構遠くですか?」

春香「ううん、タクシーで少し走ったところだけど……」

千早「……あの、昨夜は雲がずっと晴れることなく、結構な雪が降り続けてましたけど」

春香「え?」

千早「月明かりって……いつでしょう?」

P「たまたま僅かに晴れたタイミングで目が覚めたのかな」

千早「いえ、一晩中雪が窓に吹き付ける音が酷くて、あまり眠れなかったくらいだったから」

春香「え……」

千早「仮に晴れてたとしても、昨夜は20時過ぎには月は沈んでいますし」

春香「……」

P「……」


千早「……まぁ、気にしても仕方ないですね。悪いことがあったわけでもないですし」

春香「う、うん、そうだね」

千早「それじゃあ私、音無さんを止めてきますね。我那覇さんの諌める声が徐々に弱ってきているので」

P「あ、ああ、頼んだ」

千早「ふふっ、良かったわね、春香」タタタッ

春香「……うん。ありがと、千早ちゃん」


P「何だったんだろうな」

春香「サンタさんからのプレゼントですよ」

P「夢があるねぇ、ロマンだねぇ」

春香「……あの、プロデューサーさん」

P「ん?」

春香「この指輪……人が居ないとこでは、薬指にはめても……いいですか?」

P「薬指ねぇ」

春香「……」ドキドキ


P「さすがダメだ」

春香「えっ……」

春香「……あはは、そうですよね」

P「……」

春香「あのっ、変なこと言ってすみません! 指輪ありがとうございます、私、大事に――」


P「薬指の指輪は、三か月分で作らないと、な」


春香「っ……!」

P「ちゃんと、春香のために、な」

春香「はい……はいっ!」


P「さて、それじゃあご挨拶に行く日取りを決めるか……いや、そもそも今のタイミングで挨拶に行くかどうか……」

春香「あ、お母さんにはもう来るって言っちゃいました!」

P「なん……だと……?」

春香「ふふふ、すっごく楽しみにしてましたよ」

P「待て、ハードルを上げるな、頼むから上げすぎるな」

春香「お父さんも、昔から一度言ってみたかった台詞があるって」

P「俺、逃げようかな……」

春香「だーめっ!」ギュッ


春香(サンタさん。今年もちゃんと、私達のことを見ていてくれたんですね)


春香(私もサンタさんみたいに、みんなに幸せを、きっと……)



P「し、心臓が痛くなってきた」

春香「私も一緒ですから。ね、プロデューサーさんっ!」



おしまい

24、25日で終わる予定だったのに、仕事と家のトラブルで全然来れんかった
年跨ぎのクリスマスとか本当に申し訳ない、読んでくれた人ありがとう

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