海未「海開きの如く、私は地獄をも開く!ダークヒーローラブアロー仮面、見☆参!」 (231)


   ∧_∧ やあ
   (´・ω・`)       /          ようこそ、ラブライブ!バーボンハウスへ。
  /∇y:::::::\   [ ̄ ̄]         このアクエリアスはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
  |:::⊃:|:::::::::::::|   |──|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| うん、「また」なんだ。済まない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ 仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
    ∇ ∇ ∇ ∇      /./|   でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない

    ┴ ┴ ┴ ┴     / / .|   「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/   |   殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     |   そう思って、このスレを立てたんだ。
   (⊆⊇) (⊆⊇) (⊆⊇)      |
     ||    ||    .||       |   じゃあ、話を始めようか。
   ./|\  /|\  /|\

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416152062



高校入学前 年末大掃除
園田家



海未「んしょ…流石に何年もほったらかしだったから、埃が溜まっていますね」

海未「というより、なんで私一人で蔵の整理をしているんでしょうか…」

海未「父さんはこれも鍛錬だ!って言っていましたが、いったい私を何にしたいんでしょうか」

海未「まあ、実際この上下運動は確かに鍛錬になるんですが…大掃除だというのに父さんも母さんも何処へ行ってしまったのでしょう。サボりですか?」


バサバサバサ


海未「晴れていて良かったです。これだけ埃があるんですから、雨の日では掃除は出来ませんよね。空気の入れ替えもしなくてはいけませんし」


海未「しかし、我が家の蔵にはいったいなにをこんなに溜め込んでいるんでしょうか?思えば記憶にある限りでは、ここに立ち寄った人なんて居ませんし…」

海未「あ、おじいちゃんが随分前に荷物整理で入っていましたっけ」

海未「これだけの量を、花の女子高生(3ヶ月後)一人にさせるなんて、デリカシーが無いですよ本当」



海未「うわぁ…鎧に刀に槍まである……。見た感じ観賞用のものみたいですね。なんでこんなものまで…」



海未「この箱はあっち。この箱はこっち。……わ、綺麗な花瓶がこんな奥に…勿体無いですね、使わないなんて」



海未「ん?この箱はなにかみっちり詰まってますね。なんでしょう」


ベリ、ベリリリリ


海未「ビデオテープ…タイトルは……わ、私ですか!?生後~年。幼稚園編……ああ、成長記録ですか。なんでこんな所に」

海未「あの時おじいちゃんがここに入ったのはこれを置くためだったのですね」

海未「大切に保管していたんですね…。まあ、それはそれとして、流石に恥ずかしいのでこれは奥の方に……」



海未「ふぅ……よいしょっと」

海未「これで最後ですね。ん?」


ゴロン――


海未「なにかが落ちてしまいましたね。箱?いや、なんでしょうこれ」



海未が手にしたのはやけに角ばったソフトボールくらいの大きさの箱だった
表面は良く削られているのか、スベスベと手触りが良い



海未「見たこと無いですね。いちにいさん……面がどれも同じ大きさ、正二十面体ですか」

海未「……綺麗、ですね。部屋に飾っておきたいくらいです。この幾何学的美しさにはとても惹かれるものが……」



キョロキョロ……


周りには人の姿がない
父親も母親もまだ戻って来ていないようだ



海未「ひ、一人で頑張ったんですから、一つくらいいいですよね?」



傍らに置いておいた新聞紙に無造作に包み、手早く残りの作業を終わらせると、包んだ箱を手に足早に部屋へと戻っていった





海未(ハァハァハァ……や、やってしまいました。バレないといいんですが)

海未「さて、何処に飾りましょうか。あんまり目立つところだといろいろ聞かれそうですし」

海未「この棚の、上の方に……ん、んんん…よし」

海未「これなら目立ちすぎず、目立たなすぎずのいい塩梅です!」



>おーい、帰ってきたから休憩してお昼にするぞー



海未「は、はーい!今行きます!」



タタタタタ……
      バタン……!








RINFONE




なんど見ても綺麗ですねぇ
手触りも、こう…凄くすべすべしてて手に馴染むし…
はぁ~…


誰にも渡したくないなぁ…




現在
園田家
海未の部屋



穂乃果「海未ちゃんの部屋久しぶりだなぁー」

ことり「あ!ことりが作ったスカーフが飾ってある!」

海未「友達からの手作りのプレゼントですから思わず」

ことり(本当は使って欲しいけど、海未ちゃんらしいな)

ことり「嬉しい!喜んでくれてるようで良かったよ」

穂乃果「ずるい!私にもスカーフお願い、ことりちゃぁん」

ことり「じゃあ次の誕生日にプレゼントするね」

穂乃果「わーい」

にこ「ちょっと、あんたたちだけで盛り上がらないでよ」

絵里「凄くアウェイ感が…」

海未「あ、忘れてました」

にこ「おい」



絵里「それでどうしたの?私達を直接招待するなんて珍しいじゃない」

にこ「まさか私も呼ばれるなんて思ってなかったわ」

海未「あ、丁度今日空いてるのがおふた方だけだったので、特に理由は…」

にこ「喧嘩なら買うわよ?」

海未「そ、そういう意味では…にこ、近いですよ。ははは」

ことり「そうだよ!にこちゃん顔が近いよ!離れて」

絵里「どうしたのことり」

ことり「だ、だってぇ~」

穂乃果(また脱線しそうだから黙っておこう)

海未「オホン。実は今日みんなに来てもらったのは相談があったからなのです」

絵里「相談。学校では出来ないような?」

海未「はい。人の目に付きますし、μ'sのみんななら信頼できるので」

ことり(人の目が気になる!?)

穂乃果(信頼できる人じゃないと出来ない相談!?)


穂乃果「な、な、なんでも言って!力になるよ海未ちゃん!」

ことり「穂乃果ちゃんズルい!こ、ことりも力になるから!」

にこ「分かったから二人とも落ち着きなさい。うっとーしいことこの上ないわ」

海未「ありがとうございます二人とも」



海未はそう言って立ち上がり、部屋の隅に置かれている本棚へと向かった
椅子を使い上の方の棚をゴソゴソ漁ると、綺麗な布に覆われた大人の拳よりやや大きい物を取り出してきた

布をつまみ上げると、なにやら角ばったものが座布団に鎮座している



海未「これのことなのです」

にこ「これって……」

絵里「言われても。なにかしら、これ」




海未持ってきたのは多面体のオブジェクトだった
海未が言うには正二十面体とのことだ




海未「このオブジェ、何年か前に手に入れたものなのですが、先日偶然にもこれがただのオブジェじゃないことを発見したのです」

にこ「置物にしか見えないんだけど、何を発見したの?」

海未「まあ見ててください」




そういうと、普段の彼女から想像できないような艶かしい手付きでオブジェを手に包み、さすり始めた
場に奇妙な沈黙が訪れた



絵里(な、なにか異様ね)

にこ(…………)

ことり(何故かいやらしく感じちゃう)

穂乃果(わくわく)



時間にして10秒くらいそうしていただろうか



         カチッ



にこ「ん、なんの音?」

穂乃果「あのオブジェからだよ。形が変わってる!」

絵里「多面体の一部が隆起して変形してるのね」

海未「私が見せたかったのはこれです」

海未「そしてここからが相談なのですが、どうやら他にも変形するようなのです。しかしその方法がわからないんです」

海未「いろいろ試したんですが」

にこ「ふーん……なんか昔あったおもちゃに似てるわね。形をどんどん組み替えていくやつ。名前は忘れたけど」

ことり「あ、ことりも知ってる。でもなんて言うんだっけ?」

絵里「ルービックキューブ?いえ、違うわよね」

穂乃果「それでこれが変形する方法をみんなで考えてみよう、ってこと?」



海未「それも考えたんですが…」



   ――ダレニモサワラセタクナイ



ことり「え?」

海未「実はこれは私の家にある、古い倉庫、いえ、正確には使われていない土蔵の中にあったんです」

穂乃果「へー!あの中からぁ」

にこ「真姫ちゃんのところとは違った意味で凄いのね、海未の家って」

海未「これは、これ単体で見つけたのですが、これについてなにか『付属品』のようなものがあるかもしれないんです」

海未「オブジェとは言いましたが、どうやらにこたちの言うとおりにおもちゃのようですし、もしかしたら『説明書』のようなものがあるかも、と」

にこ「確証はないわけね」

海未「はい。無いのであれば最初の案通りにみんなの知恵を借りるしかなくなるんです」

絵里「でも、一番手っ取り早いのは家族の方に聞くのが早いわよね?」

海未「聞いてそれで知っていたのなら、最初から相談なんてしませんよ。絵里」

絵里「……随分突っかかる言い方ね」

海未「あ!その、すいません。そういうつもりじゃ…」

絵里「ふふ。気にしてないわ。それにしても随分そのおもちゃにご執心なのね」

海未「ええ」






とっても――




あかん、見切り発車したせいで長丁場になるかもしれん
短く終わらせるつもりだったのに…

見てくれる人がいたら、少し気長に待っててもらいたい



海未「それで、土蔵の捜索なのですが、今度の土曜日を利用して手伝って欲しいんです」

絵里「今日は日曜日じゃない。今からじゃ駄目なの?」

海未「ええ。ちょっと都合が悪いんです」

穂乃果「それじゃあ次の土曜日に海未ちゃんの家に集合だね」

海未「あ、それとこのことはここだけの秘密にしてくれませんか?」

にこ「どうして?他の人達にも手伝ってもらったほうが早いし楽ができるじゃない」

海未「だって恥ずかしいじゃないですか。おもちゃの為にこんなに必死なんて」

にこ「そう?よくわからないわね」

ことり「まあまあにこちゃん。海未ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから」

にこ(そうかしら。なにか不自然なのよね)

ことり(今日の海未ちゃん、なんか変だな…)


絵里「じゃあ、この集まりはここで終わり?」

にこ「なんか味気ないわね。このまま遊ぶっていうのなら賛成だけど、それの話をされたらなんか興味湧いてきちゃったし」

にこ「ねえ、少しそれ触らせてもらえない?」

海未「え、だ、だめですよ」

にこ「なんでー。別にいいじゃない。大切に扱うからさー。にこの一生のお願い聞いてぇ」

海未「ヤです」

穂乃果「私も触ってみたいなぁ」

ことり「わたしもわたしもー。ウミチャァ…」

絵里「しょうがない人たちね。海未、少しだけでいいから触らせてあげたら?」




うみちゃーん
          うみちゃぁぁ


うーみーちゃーん!



                  にこぉ!



海未「や、ヤです!ちょ、近づきすぎおさないでやめて」















                    「    や   め   ろ    」




















海未「ハァハァハァ……」











にこ「…………ごめん」

ことり「…………ごめんなさい」

穂乃果「…………ごめんね」



海未「分かってくれるなら、い、いいんです。私のほうこそすみませんでした…」



絵里(う、海未があんな声を出すなんて……よっぽど怒らせてしまったんだわ…)

絵里(まるで地の底から聞こえてくるような、そんな声だったし)

絵里(こ、怖くて鳥肌がたっちゃった……)

絵里(どうしよう。凄く帰りたい。遊ぶ気分なんて吹っ飛んでしまったわ…)

絵里(でも、なんだか帰るって言い出せない空気だし……ダレカタスケテ)










海未「…………」

ことり「…………」

穂乃果「…………」

にこ「…………」

絵里「…………」



海未「あ、あの……」

にこ「にこ、用事思い出したからここでお暇させてもらうわね」

海未「あ…」

にこ「絵里、行くわよ」

絵里「ひゃうっ!?」

にこ「なに変な声出してんの?」

絵里「ごめんごめんなんでもないの (流石にこ!)。それじゃあ海未、また明日ね。来週頑張りましょう」

海未「……ありがとうございます」




穂乃果「ほのかたちも帰るね。お茶ごちそうさまでした」

ことり「ごちそうさまでした。またね、海未ちゃん」


海未「……はい。二人ともありがとうございます」








海未「…………………………………」













海未「……………………」














海未「…………」















   さすり




        さすり






















フ、フフフフフ……






とりあえず書き溜め文はここまでな
なるべく早く終わらせるから待っててくれい








平日
放課後 屋上
μ's練習 休憩中



絵里「ねえ、ことり」

ことり「絵里ちゃん?なあに?」

絵里「その、海未…の事なんだけど」

ことり「うん」

絵里「ほら、昨日のことがあるじゃない?どんな様子だったかなって思ってね」

ことり「特に変わった様子はなかったよ。いつもの海未ちゃんだった。怒ってる様子も、落ち込んでる様子はなかったよ」

絵里「それなら良かったわ。」

ことり「でも…」

絵里「…?」

ことり「逆にすごく機嫌が良かった、と思う。うかれているというか……なにか不自然というか」

絵里「機嫌がいいならいいじゃない。どうかしたの?」

ことり「ううん…そうなんだけど、ことりにもわからないの」

絵里「気にしすぎよ」



にこ「そうかしら」

絵里「にこ」

ことり「にこちゃん。どういう意味?」



にこ「あんたたち忘れたの?昨日、海未の様子がちょっとおかしかったじゃない」

にこ「つまり様子が変なのは今日に始まったことじゃないってことよ」

ことり「で、でも…」

絵里「機嫌が悪かっただけよ。それに怒鳴ったことならあれは無理やり迫ったにこたちが悪いのよ」


にこ「……え?」

ことり「怒鳴った?」

絵里「は?……え?」

にこ「海未は確かに嫌がってたけど、怒鳴るほどじゃなかったわよ」

ことり「うん。でも嫌そうにしてて、はっきり拒絶されちゃったから気まずくて…。ちょっと調子に乗りすぎちゃったかなって」

絵里「え、え?あんなに絶叫してたのに、聞いてないってこと?」

にこ「絵里こそ何いってんの?」

絵里(どういうこと?どういうことなの)

ことり「絵里、ちゃん…?」

絵里(まさか、そんなこと…そうだ。穂乃果に聞けば!)





すっく!



にこ「わっ。急に立ち上がらないでよ」

絵里「ちょっと穂乃果のところに行ってくる」

ことり「穂乃果ちゃんなら部室で休んでるよ」

絵里「ありがと、ことり」










にこ「様子がおかしいのは絵里のほうじゃない…」




部室


 ガチャ


絵里「穂乃果ー?いるー?」


穂乃果「はいはーい。あ、絵里ちゃん。どうしたの、何か用?」

絵里(あ。そういえばなんて切り出せばいいんだろう)

絵里(うーん、「へーい!昨日の海未おかしくなかったー?」とか。馬鹿か私は)


穂乃果「ねえ絵里ちゃん」

絵里「はひっ!?な、なにかしら」

穂乃果「昨日の海未ちゃん、ちょっとおかしくなかった?」

絵里(穂乃果のほうから切り出してくれたかぁ)

絵里「ええ、ちょっと気が立ってたように思えたわ」

穂乃果「そうなのかな。あんなに怒鳴ったりして…。初めてあんな風に言われちゃった」

絵里「穂乃果も聞いたの!?」

穂乃果「うわっ!急にどうしたの!」



絵里「あ、ごめんなさい」

絵里「それで、穂乃果も聞いたのね?」

穂乃果「な、なにが…」

絵里「海未が怒鳴ったことよ」

穂乃果「もー、絵里ちゃん穂乃果のことからかってるんでしょっ。あんなに大きい声を聞き逃すほど、私はぼんやりしてないよ!」

絵里「どんな感じに聞こえた?その、海未の怒鳴り声」

穂乃果「ん、んー?」






――怒鳴り声なんだけど、すごく威圧的だった気がする
   例えばライオンとかが威嚇するときに出すような、あんな感じだと思う(テレビで見た)
   聞いただけで身がすくむような、お腹の底に響くような…――






絵里(概ね私と同じものを聞いたってことね)

穂乃果「後ね、不思議なんだけど……」

絵里「なにかしら」









海未ちゃん以外の人の声も





聞こえたんだ













次の土曜日
園田家 庭
土蔵前




海未「今日は集まってくれてありがとうございます」

ことり「いい天気で気持ちいいね~」

にこ「そうね。雨が降ってたら断るところだったわ」

海未「そうですね。とはいえその時は私一人でやるところでしたが」

穂乃果「ほんと、海未ちゃん。風引いちゃうよ?」

海未「合羽をきてやればなんとか行ける、はず」

絵里「さあ、さっさと作業を終わらせて、ティータイムを楽しみましょう」

ことり「チーズケーキも持ってきたよ。終わったら食べようね」

穂乃果「やった!ん~俄然やる気が出てきたよっ」

にこ(お菓子とお茶とケーキ…。ちょっとくらい手を抜いて楽をしてもバレないわよね)




海未「にこ、楽をしては駄目ですよ」

にこ「っ!? な、なんのことにこー?全然わからないにこ~」

海未「今の私に隠し事は出来ませんよ。凄く『勘』が働くんです。日頃の鍛錬の成果でしょうか」


ことり「最近の海未ちゃんは凄いね。希ちゃんも顔負けのスピリチュアルガール!だよ」

穂乃果「私の無くしたワッペンとか、何年も見つからなかったのに見つけてくれたしね。すごい!」

絵里「ダンスも凛や私以上にキレッキレだものね。まさに絶好調って感じよね」

にこ「それならにこたち手伝わなくてもポロッと出てくるんじゃない?」


海未「にこ、そう言わずに手伝ってくださいよ。美味しいお茶菓子用意しますから」

にこ「べ、べつに何かが欲しくて手伝ってるわけじゃないにこ!」

にこ「でも、そこまで言うなら手伝って上げてもいいわよ。お菓子も食べてあげるわ」


穂乃果「にこちゃんって本当に素直じゃないよね」

絵里「そこが可愛いのよ。みんなにも見せてあげたかったわ」

ことり「キャラ付けしなくてもそのままのにこちゃんも十分魅力的だよ」


にこ「うっさい!外野ァ!」

海未「まあまあ…」




朝の日差しが心地よい日
彼女たちは土蔵の中を手分けして、あるかどうかもわからない物を探しに精を出していた



穂乃果と絵里はふと奇妙に思った
そう言えば休みの日なのに家族の姿を見ていない、と



海未と親しい穂乃果はそのことについて尋ねようと思ったが、真剣にそして黙々と探し続けるその姿に、最後まで声をかけることが出来なかった



ことり「ふぅぅ~~……見つからないねぇ」

にこ「はぁはぁ……ティータイムどころかもうお昼よ…どんだけ物が詰まってるのよ。まったくお金持ちっていうのは…」

絵里「もともとどんなものかも、あるのかも分からないからね。どうしても根気が続かなくなってくるわよね」

穂乃果「それはいいんだけどぉ、おなか空いたよぉ~」


海未「…………」


海未「そうですね。いい頃合いですからお昼休憩にしますか」

にこ「ようやくね。どうする?どっか食べに行く?」

絵里「出前というのもいいかもしれないわ」

海未「いえ、材料はあるのでみんなで手分けして作りましょう」

穂乃果「賛成!」

ことり「わー楽しみー」

にこ「にこ、疲れてあんまり動きたくないんだけど」

絵里「はいはい。それはみんなも同じなの。にこが一番料理が上手なんだから、にこが音頭を取らなくて誰が取るのよ」

海未「そうですよ。合宿の時の手並みはほんとうに凄かったです」

穂乃果「にこちゃんの手料理美味しいよねぇ~」

ことり「にこちゃん、おねがぁい」


にこ「そ、そこまで言われたらやらないわけには行かないわね!」


絵里(鼻の穴が広がってひくひくいってる)

ことり(嬉しいんだ。かわいい~)


にこ(さて、大見えきったものの、何を作るかさっぱり決めてないのよね)

にこ(メニューが決まってる時はサクサク作業が捗るんだけど、決まってない時は随分悩むのよねぇ)


海未「にこ、材料はだいたいこんな感じです」



ネギ、玉ねぎ、じゃがいも、白菜、キャベツ、トマト、ブタひき肉、ブタロース、もやし、人参、えのきetcetc…



にこ(うっわぁ~こりゃまた何作るか迷うのを加速させるくらいいろいろあるわねぇ…)

にこ(やっぱり定番のカレー…。いやいや、あれは合宿でやったし)


チラッ


絵里   ぐで~ん

ことり  ぐた~ん

穂乃果  ぺた~ん



にこ(くっ!にこも疲れているというのに…! はあ、疲れているなら豚肉は外せないわよねぇ)

にこ(お腹も空いてるし、ここは簡単にできる野菜炒めでいいかな)

にこ(中華風に味付けすれば元気も出るしね)

にこ「よしっ!」


にこ「そこの駄目娘たち!あなた達に仕事を申し渡すわ!」


にこ「ことりはにこが野菜を切っていくから、それを次々投入して炒めていって!」

にこ「穂乃果はご飯をといで炊いてちょうだい!」

にこ「絵里は配膳の準備!」

にこ「さあ!散った散った!」


穂乃果「あの、隊長!」

にこ「コック長!」

穂乃果「はい!コック長!」

にこ「なぁに」

穂乃果「何合炊けばいいですか!」

にこ「んー…四合くらいでいいんじゃない?海未ー?」


海未「はーい?なんですか」

にこ「多めに炊いても大丈夫?」

海未「大丈夫ですよ。残ればタッパーに保存しますから」

にこ「よし。じゃあ四合でお願いね」

穂乃果「らじゃ!」



タンタントンタンタントン




にこ「そういえばさ」

海未「?」

にこ「ご両親が見えないんだけど、どこか出かけてるの?」

海未「はい。遠縁に当たる方なんですが、その方のお葬式の手伝いに出てます」

海未「帰ってくるのは月曜日の夜、になると言っていました。だからそれまでこの家には私一人なんですよ」

にこ「ふーん。寂しくないの、こんなに広い所に一人なんて」

海未「別に寂しくはないですよ」

にこ「ふーーん」

絵里「にこは海未のことが心配なんだってー」

にこ「ちょ!言ってないから!」

海未「そうなんですか?ふふ、ありがとうございます。でも本当に大丈夫なんですよ。――アルカラ」

にこ「? まあ、大丈夫って言うなら大丈夫なんでしょうね」

穂乃果「もー!にこちゃんは素直じゃない上に押しが弱い、弱すぎるよ!」

にこ「こ、今度は穂乃果か…」



ことり「そうだよー。海未ちゃんなんて特別押しに弱いんだから、思ったら押して押して押しまくらなきゃ」

にこ「……」

絵里「折角の休みだし、海未は一人だって言うし、これはお泊り会やらねば。ね?」

にこ「にこに聞かないでよ…」

海未「あ、そういうことですか。にこは本当に優しいですね」

にこ「にこが言ったわけじゃないからっ!」

穂乃果「はいはい、わかってるって。パジャマパーティーやろうね!」

ことり「ねー!」


にこ「はぁ…さっさと食べて、さっさと作業終わらせようっと」








絵里「出来たけど、こう…女子高生が好んで食べるというよりは、男子高校生がガッツリ食べるというラインナップね」




にこ特製野菜炒め、海未特製味噌汁、穂乃果印の炊きたてご飯
他漬物やノリ




にこ「アイドルなんて身体が資本なんだから、これくらいで丁度いいのよ。それにだいぶ身体を動かしたんだから元気になるわ」

穂乃果「穂乃果はこういうの大好き!」

ことり「午後もこれで頑張れるね」

にこ「本当はにんにくを入れてもっとピリっとさせたかったんだけど、ことりが苦手だって言うから今回は入れないでおいたわ」

ことり「ありがとにこちゃん」

海未「さあ、しっかり食べて、しっかり休んで午後も頑張りましょう」




>いっただきま~す!




昼過ぎ
土蔵





穂乃果「ふぅぅ~…。流石に一つ一つ確認するのは骨が折れるねー」

ことり「ホノカチャンガンバッテ!後もう少しだよ」

にこ「ここまで来ると掃除しているのか、物探ししているのかわからなくなってくるわね…」

絵里「海未を見なさいよ。私達の倍くらい動いているわよ」




海未「これ、でもない。あれ…でもなさそう……」


にこ「せめて形が分かればいいんだけど……ん?」カサ…

にこ「紙?古臭い紙ね。和紙かしら。手触りがやけにしっかりしてる」

にこ「何か書いてある…り、りん……?(読めない…)あ、あの玩具の絵がある。もしかして…海未っ!」


海未「わひゃっ!?な、なんですか突然」

にこ「み、みみみみ、見つけたかも…」

海未「ホントですか?この紙が…。り、りん…」






  「RINFONE(リンフォン)」




ここまで

3分の1か半分か…100行く前に終わらせたいです


にこ「リンフォンって読むの?」

海未「…………」



ガサガサガサ!





海未は慌てたように折りたたまれた古い紙を広げていく
広げた紙には四つの絵と、遊び方の説明が汚い文字で書き込まれていた



海未「み、見つけました…ようやく…」

にこ「ふぅー。これで終わりね。あとは綺麗に元通りにしてお茶タイムが待ってるわ」

海未「―――――――」

にこ「海未…?」

海未「そうですね。さあ、もうひと頑張りしましょうか」







夕方 園田家
海未の部屋


海未「…………」


ことり「へぇ~これって動物に変形するおもちゃなんだ」

穂乃果「昔こういう玩具いっぱいあったよね。今は全然わからないけど」

にこ「ブロックの玩具とか、子供の想像力を育てるものが多いわよね」

ことり「でも、やっぱりお人形遊びが主流だったかなぁ」

穂乃果「そう?私はみんなで外で走り回ってたよ。ことりちゃんたちにも付き合ってもらってね」

ことり「そういえばそうだったかも」


>あははははは


絵里「それにしても凄い集中力ね。ティータイム終わってからずっとあの姿勢のまま弄ってるわよ」

穂乃果「時々思うんだ。私と海未ちゃんを足して、ことりちゃんで割ったら丁度いいんじゃないかって」

にこ「そこは2で割りなさいよ」

ことり「ん~~、じゃあ『うのり』でどう?海未ちゃんの『う』。穂乃果ちゃんの『の』。ことりの『り』でうのり」

にこ「いや別に上手くないから。穂乃果もそれだ!みたいな顔すんなっ」



絵里「しかし凄い玩具よね。これ熊とか鷹にも変形するんでしょ?昔の人はよく考えたものね」

穂乃果「熊、鷹、魚に変形するんだっけ。でも、海未ちゃんの様子を見るにとっても難しそう」

にこ「全然形が出来てないもんね。それでも動かし方や何に出来るか分かったからだいぶ進歩したとも言えなくもないわ」

ことり「そうだ。にこちゃんたちは連絡とか着替えとか大丈夫?私と穂乃果ちゃんはよく泊まってるから着替えが置いてあるんだけど」

にこ「そうね。連絡ついでに着替えを取ってくるわ」

絵里「相変わらずの中の良さね。私もそうするわ」

穂乃果「そうだ。ついでに私達も夕飯の買い物に一緒に行こうよ」

ことり「さすが穂乃果ちゃん。ねえ、海未ちゃんもいこう?」


海未「…………」


絵里「うみー?」


海未「……っ!? な、なんですか?」

穂乃果「一緒に夕飯のお買い物いこっ」

海未「あ、えっと…そう、ですね。行きましょう」



にこ「それならみんなで出し合って割り勘でいいわよね」

絵里「そうね。ところで何をつくるの?」

にこ「お昼は一部の人に不満があったようだから、女の子らしいのを考えたわ」

穂乃果「お、なになに?」

にこ「クリームシチュー。簡単だし、なんか女の子っぽいし身体にもいいからシチューにするわ」

絵里(にこの中の女の子らしさって、本当に可愛らしいわね)

穂乃果「それならパンがあるともっといいよね!カリカリに焼いて付けて食べると美味しいよねぇ」

にこ「そこら辺は穂乃果に任せるわ。パン好きでしょ?」

穂乃果「らじゃ!」

ことり「それじゃあいこっか」

海未「まずは買い物に行きましょう。それが終わってから二人は着替えを」

絵里「わかったわ」







夕食後 園田家 お茶の間



絵里「随分形になってきたわね、それ」

海未「今は最初の熊の形を目指してます。大分動かし方や法則も慣れてきたので、もう少ししたら完成すると思います」

絵里「…………」ウズウズ

絵里「ね、ねえ。それなんだけど、少し私にもイジらせてもらえない?」

海未「すいません、絵里」

絵里「そう…」






>Fatal K.O ウィーン トキィ パーフェ



穂乃果「わぁー!また負けたぁ!」

にこ「ふっ…激流を制するのは更なる濁流……」

ことり「しょ、初心者にする動きじゃないよ…にこちゃん…」



スッ…



穂乃果「え、絵里ちゃん。敵をとってくれるの?」

絵里「ふふ、この世紀末覇王エリに任せなさい!」

にこ「来たわね…」

絵里「希の家でのあの雪辱…今日こそ晴らしてあげる!」

にこ「ユクゾ」

絵里「ジョイヤー」



―――――――――――――――――――――――――――――――――










海未(もう少し…もう少し……)カチャカチャ

海未(もう少し…もう少し……)カチャグリ


海未(もう少しで……)グリグリ

海未(もう少しで……)カチャ



にこ「神の1F当て身!」

絵里「しまった!」

穂乃果「ああ!絵里ちゃぁん!!」

ことり「あきらめないで!」



―――――――――――――――――――――――――――――――――


海未「…………」カチャ


―――――――――――――――――――――――――――――――――


>オマエニモミエルダロウ…アノシチョウセイガ…


絵里「やめてぇぇぇーー!」

にこ「勝ったっ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――





海未「…………」カチャ…




カ…





海未「――出来ました」








カチリ








 バ ヅ ン ! !





ウゥゥゥゥゥン……




にこ「キャッ」

絵里「うひゃぁッ!」

穂乃果「わっ!」

ことり「な、なに!?」


にこ「て、停電…?」

ことり「真っ暗でなにも見えないよぉ…」

穂乃果「ひっ!だ、誰か抱きついてきた!?」

絵里「…………」ブルブルブル…

にこ「それ、たぶん絵里よ」


穂乃果「え、絵里ちゃん…?」

絵里「ご、ごめんなさい。でも暫くこうさせて……」

にこ「海未?ブレーカーどこ?」

海未「――――」

にこ「海未。あれ?いないの?」

ことり「お手洗いかな。あの玩具に熱中してたから、いるずなんだけど」

海未「……ここに居ますよ」

にこ「ああ、いたのね。居るなら返事してよ」

海未「……ブレーカーですよね。廊下を行った先の階段の所にあります」

にこ「そう。そうだ、明かり明かり…誰か携帯光らせて」

ことり「はい」

にこ「ありがと。じゃあそのまま私と一緒にブレーカー上げに行くわよ、ことり」

ことり「うん。ライトモードにするね」

にこ「じゃあ、ちょっと待っててね」





ギィ…キィ……キィ……ギシ…





シンとした家の中で、床の軋む音が不気味に聞こえてくる







穂乃果「……静かだね」

絵里「あ、ああの…穂乃果……ごめんね、いきなり抱きついちゃったりして…」

穂乃果「ううん、大丈夫だよ。絵里ちゃんが暗いの苦手って驚いたけど」

絵里「うん…。どうしても暗いのが駄目で…恥ずかしいから黙ってたんだけど…」

穂乃果「大丈夫。穂乃果は全然平気だよ。でもちょっと安心しちゃった。完璧そうに見えても、穂乃果と同じように弱点があるんだね」

穂乃果「なんかいつもより親近感わいちゃった」

絵里「穂乃果…。フフ、あんまり褒められてる気がしないわね」

穂乃果「あぅ。そ、そんなつもりじゃ……」




 パンッ!
      パシッ!






穂乃果「!」

絵里「!?」

穂乃果「……なんの音?」

絵里「さ、さあ?」ギュウウウ

穂乃果「ちょ、絵里ちゃん痛いよ…」

絵里「ご、ごめん…」






ドダダダダダダダダダダダダダダダダ!


ガラッ!




にこ「――――」

ことり「――――」



穂乃果「にこちゃん?どうしたの?ことりちゃんも」


にことことりは一瞬だけ目線を交わし、困惑するような表情を見せた




にこ「…………ねえ、海未」

海未「ど、どうしたのです?そんな声を出して…顔も真っ青ですよ、二人とも」

にこ「今、この家に居るのって、私達だけ…よね?」

海未「そうですよ。そういう日を選んだんですから間違いないです」

にこ「じゃあ、姉弟…とかは?」

海未「年の離れた姉が一人います。だけど結婚してるので、今家には…」

ことり「に、にこちゃぁん……」

にこ「…………そう」

穂乃果「あの、ブレーカーは…?」


にこ「ごめん。ブレーカー操作したんだけど、つかなかったの。どうやらここら辺が停電しているみたい」

絵里「えっ!?どういうことなの…」

海未「辺り一帯が停電してしまったようです。どうしてかはわからないんですけど…」

絵里「そ、それじゃあ今夜はこのまま、ってこと?そんな……」

海未「とりあえずこの部屋にはロウソクとマッチがあるので、とりあえずこれで明かりを確保しておきましょう」

穂乃果「懐中電灯はないの?」

海未「あ、そうですね。物置部屋の方に置いてありますよ。火を付けてから探しに行きましょう」

にこ「悪いけど私達はここで待たせてもらうわね。火の番もしなきゃだし」

海未「そうですね。えーと、絵里は……」

絵里「こここここわいけど私もいいいいくわわわわ……」

にこ「無理そうね」

絵里「だ、大丈夫。年長者だし、が、頑張る…!」

ことり「その、気をつけてね」

海未「? では、ロウソクはこの皿の上にお願いします」

穂乃果「怖いけど、行ってくるね」




ギィ…キィ……ギィ……ギシ…












ことり「ねえ…い、言わなくて良かったのかな……」

にこ「…わかんない。でも、この状況で言えると思う?絵里があんな状態だったし」

ことり「う、うん。そうだよね……」

ことり「にこちゃん。あれ、誰だったのかな…」

にこ「ちょ、やめてよ。思い出させないで」

ことり「ごめん…」



絵里「――――――」ガタガタブルブル

海未「絵里、そんなに怖いならにことことりたちと一緒に残っていれば良かったじゃないですか」

絵里「そういう訳には…」

海未「穂乃果にべったり抱きついて何をのたまっているのです。説得力の欠片もありませんから」

絵里「うう…海未が氷の刺のように厳しい……」

穂乃果「う、海未ちゃん。私は気にしないから大丈夫だよ」

絵里「情けない先輩を許してぇ…」



ギィ…ギィ…キィ…



海未「家ってこんなに音がなってたんですね…」

穂乃果「暗くて静かだから余計に気になるよね」

海未「普段あまり気に留めませんから。あ、ここです」

穂乃果「絵里ちゃんも限界そうだし、早く見つけて戻ろう」



海未「えっと、確かこの辺りに…」

穂乃果「あ、これじゃない?」




引き出しから幾つかの懐中電灯を穂乃果が見つけ出した
海未はそれを受け取り、ライトが付くかどうか確認していった



カチ、カチカチカチ



海未「駄目です。電池が切れてますね。変えのものを探さないと」

穂乃果「うん。探してみるね」

絵里「は、早く見つけよ?」




穂乃果「んー、ないみたいだね」

海未「みたいですね。後は台所ですかね、あるとすれば」

絵里「な、なんで台所に乾電池が?」

海未「居間の隣なのでただなんとなくそこに保管しているだけだと」

穂乃果「特に理由はないんだ」










ギィ…ギィ…



穂乃果「なんかさ」

海未「はい」

穂乃果「そんな季節じゃないのに、ちょっと寒くないかな。足元が冷えてきちゃった」

海未「穂乃果もですか。実は私もさっきから…」

絵里「わ、私も…」

穂乃果「それに…」

絵里「なによぉ…」

穂乃果「生臭い…ような…」


海未「生臭い?」

穂乃果「気のせいかな」

海未「ゴミは外に置いているのでそういう臭いはしないはずですけど」



ギィ…ギィ…



穂乃果「さすがに生ごみがすぐに腐って臭うってわけでもないだろうし、なんでだろう?」

海未「きっと気のせいですよ」



ギィ…ギシ……




絵里「ねえ…」

穂乃果「絵里ちゃん?どうしたの」

海未「どうかしましたか?」

絵里「どうして…私達動いていないのに……」










「足音が聞こえるの?」







おやすみ。また夜にでも




プツン――



穂乃果「え? あ!携帯の電池が切れちゃった」

海未「それなら私の携帯で……あ、茶の間に置いてきてしまいました。絵里は?」

絵里「慌ててたから私も……」

穂乃果「えぇ……明かりが何もないよぉ」

海未「この棚の中に電池があれば……」







 ギィ…

   
      キィ…





穂乃果「!?」








真っ暗闇の中、誰も身動きを取っていないのに、廊下からは誰かが歩く音が聞こえてくる
ゆっくりとした足取りで、一定の間隔で廊下を歩いている


絵里は恐怖のあまり、息が詰まるのを感じた。呼吸音をたてることすら怖くて出来なかったのだ


穂乃果は思わず傍らに立っていた海未の手を握りしめた
海未もそれを分かって、同じように握り返す

二人の手は血の気を失い、冷たく、そして汗ばんでいる





みな息を潜ませ、廊下を歩くものから身を隠すようにあらゆる音を消した
ただ耳の奥で心臓の鼓動と、血液が流れる音だけが響いている



足音はすぐ近くまでやってきていた
入り口に一番近い絵里は目に涙を浮かべ、歯を食いしばり、手で口元を抑えることで悲鳴をなんとか殺している
そうしないと叫びだして、どこかへ逃げ出してしまいそうだったからだ






そして足音は、台所の数歩手前で聞こえなくなった







一分、二分……
どれだけ耳を澄ませても、音は聞こえては来なかった



そこでようやく穂乃果は緊張でこわばった首を回し、海未の方へ目をやることができた
海未の方も同じタイミングで穂乃果の方を見る


二人は目で、もう安全だろうかと会話する
次いで絵里の方へ目を向けた

絵里は目をギュッと閉じて、両の手で耳をふさぎ、小さく丸まって震えていた



すぐに駆け寄って安心させたかったが、身体は恐怖のためか金縛りを掛けられたように動かせなかった




穂乃果「…………」

海未「…………」





穂乃果(もう、大丈夫かな)

海未(たぶん…)

穂乃果(電池は?)

海未(ありました。今つめ替えます)



カチ!



穂乃果「絵里ちゃん、絵里ちゃん。大丈夫?」

絵里「……………………」

穂乃果「……絵里、ちゃん?」

絵里「…ホ、ホノカ……」

穂乃果「もう安心して。さ、一緒に部屋に戻ろう」


穂乃果は絵里に手を貸して立たせると、手を腰に回して支えながら歩き出した


穂乃果が入り口を一歩踏み出すと、耳元に生臭い吐息を吹きかけられた
ハァハァ…と浅い息遣い。怖気が走り、身体が一瞬硬直する

そして、男とも女ともつかない声で囁いた


















「  ほ の か ち ゃ ん  」













夜はまだ長い――




夜 園田家
茶の間




ロウソクの頼りない火の元、五人は不安に寄り添い、日が出るのをひたすら待っていた



穂乃果「ね、ねえ」

ことり「なに?穂乃果ちゃん」

穂乃果「停電だし、今日はここでみんな一緒に寝ない?」

にこ「そうね。暗いから下手に動けないしね」


海未「………………」カチャkチャ


絵里「わたしはもうなんでもいいわ」

にこ「……」

ことり「……」

穂乃果「……」

にこ「布団とか…敷く?」

穂乃果「え?うーん、どうしよう」



ことり「私はこのままでも大丈夫だよ」

にこ「私も…」

穂乃果「絵里ちゃんは?」

絵里「わたしはもうなんでもいいわ」


海未「――――」カチャカチャ



穂乃果「海未――ちゃんは?」

にこ「だめね。さっきからひたすらあれやっててこっちの事には無関心みたい」

穂乃果「そっか。とりあえず毛布出すね」





寝るにはまだ早い時間
全員が畳の上で寝ることになった


それぞれが先ほど体験した不可解な現象を胸に、夜を過ごすことになってしまった








ことり「――――」ブルル…

ことり(と、トイレ…)

ことり(う~…一人で行くの怖いよぉ~)

ことり「ほ、ほのかちゃん……」


穂乃果「――――」


ことり「にこちゃん…」ユサユサ


にこ「――――」


ことり「うう、みんな酷いよ…」



ことり(懐中電灯…今はこれだけが頼り…にはならないなぁ)


カチ!



真っ暗闇の廊下を、ことりがもつ懐中電灯だけが光源となって照らし出した



ことり(子供の頃から歩きなれば場所だけど、今日は……)

ことり(ううん。考えないようにしなきゃ)



ペタ、ペタ、ペタ



裸足の足音が響く



ことり(あ、停電だからトイレの電気もつかないんだ……うぅぅ~)





ガチャ


 ぎぃぃ~……バタン










ことり「ふぅ…」カラカラカラ


ことり「早く戻ろう」


















トン……





ことり「っ!!?」ビク





ことり(な、なんの…音?)ドキドキ…


ことり(……何かが、ぶつかった?)


ことり(でもでも、ドアの前には何も倒れてきそうなものは何もなかった、はず…)


ことり(……それとも誰かが起きてきたのかな?)


ことり(……………………)


ことり(…………気のせい、かな)















トン、トン…





今度はハッキリと、疑いようもないほどに二度、ノックされた





ことりの心臓はその瞬間、痛いほどに跳ね上がった
一気に血の気が引き、身体が硬直してしまう





ことり(な、なんで…?どうして…なんで、どうして、なんで、どうして…………)


ことり「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……(こ、呼吸が…)」







トン、トン、トン






ことり(にげなきゃ…でも、どう、どうやって……?)







トン、トン、トン






ことり(な、なんで私が……た、たすけ……)







・・・・・・・・・








ことり(………………)ドクンドクン…


ことり(収まった……かな…?)
















ドンドン!ドンドン!







ことり「キャァァッ!」





極度の恐怖によりことりは錯乱してしまい、ドアを勢い良く開け、ライトも付けずに部屋に走り戻っていった


とにかく怖くて怖くてたまらなかった。もしあのままあそこにいてしまったら、自分はどうにかなってしまいそうだった




廊下を全速力で走りぬけ、騒音を立てて部屋に駆け込んだ
部屋に戻ると自分が使っていた毛布に包まり、傍らに眠る穂乃果にピッタリと寄り添って震えていた




ドタドタとした音を出したというのに、誰も反応もしないし、起きてくる様子も無かった




恐怖で混乱する頭の隅で、なにかがおかしいと囁く
家に響くような悲鳴を上げたし、我ながら喧しく戻ってきたというのに、誰も反応しない


混乱しているのに嫌に冷静に物事を見つめている自分に驚きつつ、みんながいる部屋にいるのに全く安心できない錯覚にもとらわれていた



直感が告げている。まだ去っていない、と




みんなが寝ている茶の間は、和風の家にふさわしい引き戸だ
昔はよくこの引き戸の障子を破って怒られたものだ



その戸の向こうに、何かが立っている気配がした



ことりは頭まですっぽりと毛布にくるまっているので、外の様子など全く分からなかったが、何故かその時分かってしまったのだ



戸の向こうの何かは、ゆっくりとした足取りで戸の前を行ったり来たり、グルグルと回っている


ペタペタ、ペタペタ、ペタペタ…と






しばらくして、足音はピタリと止んだ
そして今度は、スッー…っと静かに戸を開ける音が聞こえてきた




ことり(……っ!!)













             ヒタ…

ヒタ…


                          ヒタ…


          ヒタ…

                                    ヒタ…







スンスン……






何かを吸う音だ。いや、まるで犬が鼻を鳴らすように、何かを嗅いでいるのだ






スンスン……







スンスン……





どうやら、入り口に近い順に、一人一人臭いを嗅いでいるようだ
最初は海未。次に絵里。そしてにこ……






どんどん音が近づいてくる
体の震えが止まらない。止めなければきっとバレてしまう

でも、どうしても止まらない






何かはついに穂乃果へと近づいてきた
ことりは穂乃果の真横に包まるように横になっている

そのため自分にではないが、穂乃果に何か大きいものが覆いかぶさるのを感じた






スンスン……




何かは穂乃果の臭いを嗅ぎとった
そして、近くにいることりが僅かに聞き取れる小さな声でつぶやいた









――チガウ













涙も、震えも止まらぬままに、ついにことりに覆いかぶさってきた



腐った肉のような腐敗臭がムワッと漂ってきた








――どうかバレませんように。どうかバレませんように……






心の中で必死に唱える








スンスン……
スンスン……






















ミイツケタ
































ここまで。また夜にでも









音ノ木坂学院




穂乃果「今日もことりちゃんはお休み?」

海未「そうみたいですね」

穂乃果「風邪引いちゃったのかな。お泊りした時、大分具合悪そうだったし…」

海未「そうかもしれませんね。ともあれ早く元気になって欲しいですね」

穂乃果「うん…」

凛「今週まだ一回も来てないよね。心配だにゃー」

花陽「心配だよね…」


にこ「ことりはまだお休み?」

穂乃果「うん。まだ良くならないみたい。携帯も電源切ってるみたいで繋がらないし…」

絵里「……大丈夫かしら」

穂乃果「おばさんも今お休みしてて、電話には出るんだけど…」

にこ「出るんだけど?」

穂乃果「なんか歯切れが悪いというか…」

にこ「なにそれ」

穂乃果「穂乃果にもわかんないよー」

真姫「身体が資本なのに風邪を引くなんて。甘く見ちゃ駄目よ」

希「まあ、そう簡単に重病になるってこともないやろうし、あんまり心配しすぎてもあかんよ?」

花陽「そう、そうだよね」

希「それよりうちが心配なのは……」


海未「…………?」


海未「どうかしましたか?希」

希「…………」

希「……朝も聞いたけど、変わったこととかほんとにない?」

海未「どうしたんですかそんな怖い顔して」


絵里「の、のぞみ……さん?」


希「………………」

海未「………………」


凛「ど、どうしたの二人とも…」

花陽「け、喧嘩はだめだよぅ…」

にこ「ちょっと、怯えてる人が出るから止めなさいよ」


希「……」

希「いや、うちはただ…海未ちゃんが疲れているように見えたから心配してただけ…」

希「大丈夫ならいいんや。ごめんね海未ちゃん。みんなも」

真姫「心配するほど疲れているようには見えないわ。まったく、自分が一番の心配症じゃない」

穂乃果「さすがμ'sのお母さんだね!」


希「…ほんまごめんな」







海未「――――――」








あの日から、ことりは一度として学校に来てはいない
あの停電の夜。ことりは何も話さなかった、いや、『話せなかった』、何があったのだろうか


みんなが目を覚ました頃には既に怯えきっていて、隅で丸まっていることりがそこにいた
何を聞いても答えず、挙動不審で、目は絶えずなにかを追っているように動いて落ち着きが無い。ひと目で普通じゃないことがみんなには分かった



日もすっかり高くなった頃、かなり落ち着いたがまだ顔は青ざめていて、身体にも力は入っていない
そんなフラフラしたような状態で、


「風邪…引いちゃって具合悪いから、先に帰るね…。さっきはみんなありがとう。また集まろうね…」


そう言って帰ろうとしたが、流石に危ないと思い、穂乃果が付き添いでことりの家まで送っていくことになった




そして今日までことりとは連絡が取れないままに至っている
電話も、メールも、lineも通じない。直接行っても誰も反応しない


一度だけ家の電話につながったが、随分暗い口調と雑音でまったく話が出来なかった
声の感じからすると、ことりの母だったと思うのだが、雑音のせいで誰かも知らぬ男性の声にも聞こえたのだ


電話をしたのは穂乃果だったが、ことりの両親とは幼い頃から馴染み深いもので、父親の声も、母親の声もよく知っている
だからそのような違和感など通常抱くはずもない


それに、南ことりの家の電話にかけたのに、知らない人が出るなどまったくありえないのだから












穂乃果(ことりちゃん……ううん。そんなの絶対ありっこない。穂乃果のただの妄想だよ。うん、絶対そうだよ)



穂乃果(そう……だよね、ことりちゃん)



ことりが休んでから更に一日が経過する








音ノ木坂学院 屋上




絵里「なんか…暗いわね」

にこ「雲ひとつないのに何を言ってるのよ。夕方だけど」

絵里「そういうことじゃないから。雰囲気よ、雰囲気」

にこ「あー…。それはしょうがないわよ。ことりがずっといないわけだし、みんな心配なのよ」

絵里「私だって心配よ。でもなんか雰囲気が落ち込み過ぎじゃない?」

にこ「にこには分からないにこー」

絵里「ちょ、真剣なんだから茶化さないでよぉ」

にこ「そんなこと言われたって、私達にはどうしようもできないでしょ」

絵里「そうなんだけど…」

絵里「それに希もなんかおかしいのよ。昨日のあれからなんだけど」

にこ「そういえばそうね。ちょっとピリピリしてる?感じがするわね」

絵里「どうも海未を避けてるようにみえるのよ。どうしてかわからないんだけど。海未の方に目を合わせようともしないし」

にこ「よく見てるわね」

絵里「一年生の時から一緒にいるし、それに丁度その時隣に立ってたのよ。だから余計に気になっちゃって」


にこ「ふーん…。あの希がねぇ」

絵里「ね?不自然だし、不思議でしょ?」

にこ「……そんなに気になるなら本人に直接聞いたらどうなの?」

絵里「それが出来てたら相談なんてしないわ」

にこ「なーに威張ってんの。ただのヘタレじゃない」

絵里「ねーお願いよー!一緒に聞く手伝いをしてぇー」ムギュギュー

にこ「ちょ!抱きつくな羽交い締めにするなっ!デカイのが当たってんのッッ!!」

絵里「手伝ってくれなかったら…」

にこ「くれなかったら…?」



絵里「このままロシア式ワシワシコース」

にこ「さあ!希のところに行くわよ!」


部室


ガチャ



絵里「希ー?いるー?」

にこ「あ、海未もい…たん……だ…」











希「…………」


海未「…………」カチャカチャ








にこ(空気重くない?)

絵里(い、息が詰まりそう…)


にこ「ん?」

にこ(あれって…。ねえ絵里、海未の持ってるアレって)

絵里(ひょぇぇぇぇ……)

にこ(おい)

絵里(えっ、あ、う、うん。聞いてるわよ…肘で突かないで……)

絵里(あのパズルの玩具、こっそり学校に持ってきてたのね。真面目な海未にしては珍しい。しかも結構かさばるのに)

にこ(穂乃果から聞いたんだけど、いつもは一緒に登校してるのに、今週になってから一度も一緒に来てないそうよ)

にこ(これでその理由がわかったわね)

絵里(つまり、朝早く来てこの部室でパズルで遊んでたのね)

にこ(とんだ執着心よね。海未らしくもない)


にこ(ていうか早く声かけなさいよ)

絵里(ええぇぇぇ……この状況で声かけるの…?無理よ、無理)

にこ(あんた、生徒会引退してからすっかりヘタれたわね。私の為に無茶を通してくれたカッコイイエリチカは何処へ行ったの?)

にこ(言っとくけど、あのことは絶対に忘れないからね。感謝してるんだから失望させないで)

絵里(こんな時にそういうのや、やめてよ…)

絵里(わかった、わかったわよ。覚悟を決めたわ)




絵里「あの…のぞ……」










カチッ










「鷹が……出来ました」








ゴロゴロゴロゴロ……



   

バンッ!






希「キャァッ!」

絵里「わぁ!」

にこ「なにっ!?」

海未「わっ!?」


パラパラ…


にこ「――――び、びっくりした…」

海未「蛍光灯が爆発、しましたね…」

絵里「な、なんで?」

希「うぅ……」

絵里「希! だいじょうぶ!?」

希「えりちぃ…び、びっくりしたよぉ……」

絵里「大丈夫?もう怖くないから」

希「…こういう時一番びっくりするのエリちなのに、今日は頼もしい…」

絵里「うっ…い、いつも頼もしいわよ」

 

  テイデン…?


 キャー
                ワー

       ナンデバクハツシタノ





にこ「どうやらここだけじゃないらしいわね」







ゴロゴロゴロゴロ……




カッ!




   ド ォ ー ン ! 






絵里「あひゃぁ! か、雷!?」

にこ「いつの間にかすっごい雷雲が覆ってる。そういえばさっきも雷鳴ってたわ」

希「これじゃあ…帰れそうもないやね…」








「閉じ込められちゃったね…」






音ノ木坂学院を取り巻くように、黒く分厚い雲が空を覆っていた


二回目の雷鳴からほどなくして、台風のような強風、豪風が吹き荒れてきた
次いで大粒の雨が滝のように降り注ぐ。横殴りの大雨は窓をうるさいほどに打ち鳴らし、雷の音と共に彼女たちを不安にさせる


稲光だけに照らされる薄暗い部室の中、誰も声を出さずに窓の外を見上げていた
その中で、カチャカチャと海未の玩具をいじる音だけがやけに耳に響いてきていた

ここまで
待たせた挙句に短くてごめんね

ちょっと先に前半部分だけ投下



黄昏時

音ノ木坂学院 部室




穂乃果「ひゃー! 凄い雨と雷だよぉー!」

凛「か、風も凄いなんてもんじゃないよ!」

真姫「雨が降る前に校内に入っててよかったわね。じゃないと即濡れネズミよ」

花陽「すごい音…こ、怖いよぅ…」


にこ「みんなも戻ってきたんだ」

真姫「停電…ていうか校内の廊下の蛍光灯全部割れてるんだけど、どうしたの?」

穂乃果「ここも、みたいだね。暗いもん」

希「あ、気をつけてね。いま片付けてるところやから」

凛「これ、みんなの置いてきた荷物。どこにおけばいいにゃ?」

にこ「あっ!! ありがとう!二人とも。忘れてたわ」

花陽「間一髪のところを凛ちゃんが。はい、にこちゃん」



希「暗い、ね」

穂乃果「時々雷が光って一瞬だけ明るいね」



現在、校舎に残っていた人たちは一つのところへ集まろうということで三階の教室に集まっていた
と言っても、それほど多くが残っていたわけではない

机や椅子を後ろへ押しやり、備品のダンボールと新聞紙を使って、その上に腰を下ろしてくつろいでいた



にこ「ダメね。ブレーカー操作しても付かない」

真姫「さっき雷が近くに落ちた時に停電したから、もしかしたらここが原因じゃないのかも」

凛「えー!? もしかして暗いままなのー!」

にこ「一応非常用のライトはあるからそれで我慢するしか……あっ、ラジオめっけ」

真姫「? ラジオなんてどうするのよ、こんな状況で」

にこ「はぁー? こんな状況だからこそラジオは大切でしょ。外に出れないくらいの暴風と豪雨。そして落雷で停電の可能性があるんだから、ラジオでなにかニュース出すかもしれないじゃない。それを聞くのよ」

凛「あ、そっかー。にこちゃん珍しく冴えてるにゃ」

にこ「常識よ常識。……って、なにが珍しくよっ」

にこ「さ、戻るわよ」


花陽「だめですぅ…電波がぁ…」

希「圏外……やね…。なんでやろ。一応バリバリの都会なのに」

穂乃果「ぅうー……」

絵里「もしかして、雷が落ちたのは電波塔とか? 雨で見えないけど周りも停電しているようだし。きっとそういうののせいだと思うわ」

絵里「ていうかどうしたの、穂乃果」

穂乃果「え、絵里ちゃん……うー…」

絵里「?」

穂乃果(ちょっと隅の方にきて…)ボソボソ

絵里(――??)





絵里「なあに? どうしたのよ」

穂乃果「…え、絵里ちゃんは忘れちゃったの……?」

絵里「んん??」

穂乃果「最近似たような事が起こったよ」

絵里「………………あっ。う、海未の家で…」

穂乃果「うん。それを思い出しちゃって…」

絵里「せ、せ、折角わす、忘れてたのに……」

穂乃果「あ、ごめんね」


絵里「人も多いし、いつもの学校だからって自己暗示も掛けてたのに……ほのかぁ…」

穂乃果「絵里ちゃんほんとにごめんっ」

穂乃果「でも、相談できるのが絵里ちゃんだけだったから…」


絵里(そうか。穂乃果も不安なのね……私だけじゃないんだ)


絵里「だ、大丈夫よ。みんなもいるし。電話はつながらないけど、しばらくしたら家の人達が迎えに来るわよ。それに消防署とか警察だってあるんだし」

穂乃果「そうかな…」

絵里「そうよ。だからそんな顔しないで、穂乃果。あなたは元気な笑顔がトレードマークなんだから。穂乃果が落ち込んじゃうと、みんなも暗くなっちゃうわよ?」

穂乃果「え、りちゃん……うん!」


絵里(とは言っても、嫌な予感がひしひしとするのよね…)









>落雷に寄る停電は以下の通りです――――


希「やっぱりこの辺り一帯が停電みたいやね」


>また、この暴風により各電車は運転を見合わせており――
>豪雨により一部地域が浸水被害にあっています。所定の地域は避難指示が出され――


凛「やばくないかにゃ…これ」

真姫「倒木で交通も寸断されているみたいね」

花陽「だ、大丈夫かな…」

にこ「撤去作業もかなりかかりそうだし、連絡も限られてる。これは事実上脱出不可能ってことになるわね」

希「さっき体育館の方からおっきい音聞こえてきたで。たぶん強風で近くの木が倒れたんやと思う」

真姫「三階にとどまって正解だったわね」

穂乃果「うん」

花陽「でも、不思議だよね。季節でもないし、事前にそういう情報があったわけじゃないのに」

凛「どういうことにゃ、かよちん?」

花陽「台風、なんじゃないかなって思ったんだけど…でもそういう時期じゃないし…」

にこ「うーん、ゲリラ豪雨ならぬ、ゲリラ台風とか? 聞いたこと無いけど」

絵里「それはいいんだけど、これからどうするの?」


絵里「みんな言わないけど、結構私達になにか期待しているみたいなの」

希「生徒会とナンバーワンとナンバーツーがいるから、それはしょうがないんやない」

真姫「廃校から救った立役者もいるからね」

にこ「なにかしら判断しなきゃいけないわけね」

にこ「つまり、帰る手段を探すか、ここで救助があるまで待機するか。その判断をして欲しいっと」

穂乃果「そ、そんな…でも、どうして」

絵里「このまま迷ったまま時間が経つよりは、目的をはっきりさせたほうがいいってことよ」

穂乃果「よくわかんない…」

凛「右に同じにゃ…」

にこ「簡単に言うと、誰かがリーダーシップを取ったほうがいいってこと。ま、そういうことだから絵里?」

絵里「うん」




絵里は教室内で待機しているみんなに向かって、今夜はこのままここで一夜を明かすことを伝えた
その為に必要な寝床の準備や毛布、教室の割り当てなどを決め、みんなと協力して夜を乗り切ろうと励ました


絢瀬絵里の求心力は高く、みんなはその言葉に従って準備を進め始めた


教室の掃き掃除から始まり、見つけた座布団などをダンボールと新聞紙の上に敷き詰めて、簡易のベッドを作っていく
毛布などは見つけるのに苦労したが、用務員室や保健室で見つけることが出来た


また、万一の場合に備えて、使う教室にダンボールとガムテープで補強を施していった








海未「あとひとつ、あとひとつ、あとひとつ」





海未「あとひとつ、あとひとつ、あとひとつ」





海未「あとひとつ、あとひとつ、あとひとつ」









  あとひとつ




続きは予告通りの時間帯に


これ先生たちはどこに行ったんだ?
なんで生徒だけで対応してるの?

続き逝きます
一応グロ注意







真姫「スー、スー……」


凛「かよちん、今何時?」

花陽「十時ちょっと過ぎだよ、凛ちゃん」

凛「あー、本当だったらドラマを見てたはずなんだけどにゃー…」

花陽「しょうがないよ」

凛「録画も停電のせいで出来てないだろうし…酷いよぉ…」

凛「悲しいからもう寝るっ。おやすみっ!」

花陽「あ…。じゃあ花陽も。おやすみなさい」


希「うちらももう寝よか。やることないし」

絵里「そうね。せめて起きた時には天気が良くなってることを願うわ」

にこ「今日は美容パックの日なのに…散々ね。おやすみ」

穂乃果「うん、おやすみ。海未ちゃんも寝よ?」



海未「ブツブツブツブツ……」カチャカチャ



穂乃果「……」ゾッ

穂乃果「じゃ、じゃあ先に寝るね。お、おやすみ」



チョ、ナニホノカ!セマイジャナイ、クッツカナイデ!
イ、イイジャン。イッショニネヨウヨニコチャン


















希「――――むぅ?」

希「…………あれ? ここは…」


希「あ、そうか。学校に泊まったんだっけ…。でも、あれ? 教室で寝てたはずなのに、なんで部室に……」

希「ていうかみんなは?」

希「私、一人だけ……?」

希「どこ、行ったんだろう…」


キィ…


希(廊下にも誰もいない。そういえばいつの間にか嵐が治まってる)





希(誰かに悪戯されたのかな。え…っと、教室は3-……)


希(まだ、寝てるのかな)




ガララ…






















 ぎ ゃ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ ぁ ぁ ぁ あ ゛あ あ゛ あ ぁ ぁ あ あ あ あ あ あ 





 あ あ つ い い い い い い ぃ い い い い い い ぃ ぃ ぃ ぃ











希「ぅわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」











希が教室の戸を開けると、見慣れたものとはまったく変わった光景が広がっていた


血飛沫が飛び散り、鉄さびの臭いと糞尿の臭いが充満している

そして断末魔の叫びを上げているのは見慣れた顔の人たちで、彼女らは天井から吊り下げられ、血まみれの姿を晒していた







希「―――――――――ッ!!」







その吊り下げられている者たちの周りに、身体がカサブタだらけの小柄な何かがまとわりついていた

肌はジュクジュクと赤黒く、下っ腹は突き出ていて、頭部にはいくつかのコブがあり、髪は薄い

それらのナニかは、手にペンチのような物を持ち、吊り下げられている人にあてがってはさんで、力任せに皮を引き剥がした











 あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ ぎ ぎゃ ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ ぁ あ ぁ ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ あ あ あ 








ベリッ、ベリッ







 あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛










隣のナニかは、灼熱した鉄棒を手に持ち、それを身体に何度も何度も押し付けて喜んでいる

その度に喉が擦り切れるような悲鳴がほとばしる








希「うわあああああああああああ!」







希はかろうじて身体を動かして、その場から逃げ出せた

なにがおこっているのか分からなかった。今見た光景を理解できなかった


気付かない内に喉から悲鳴を絞り出し、眼から涙を垂れ流し、足が動く限りに何処かへと逃げようとしていた





廊下を、階段を転げ落ちながら必死に逃げた

教室を通る度に人型の生き物が、希がよく知る人達を鉄の道具で、灼熱した道具で、あるいは焼き、あるいは沈め拷問していく





希「あは、あはは、はは、あは、あは、あはは」





どうにかなりそうだった
心が壊れそうだった


希は笑う。そうしなければ、本当に壊れてしまいそうだったから……


どこをどう走ったのか、下駄箱の出入口まで来ていた
希はここから出たい、その一心で恐怖で脱力しかかった身体を引きずっていく



しかし、










「わたしたちをみすててにげるの」


「なんであなたはへいきなの」


「ともだちでしょう」


「ひとりだけにがさない」


「にがさない」


「にがさない」









「 に が さ な い 」













希「やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」









血みどろの亡者が、希の身体に爪を立て、歯を立て、引き裂き喰らう


亡者たちは希の身体を生きたまま喰らっていく


そして、希の身体は廊下の奥へ、奥へと引きずられていった


いくら痛みが襲っても、意識は鮮明に保たれ、地獄のような苦しみを味わっていた






その苦しみが一瞬だけ和らいだ
そして希は見た。見てしまった





暗い部屋にぽつんと座る、海未の姿を
その手に持つ、例のパズルの最後の姿を









見慣れた誰かの大口が、希の頭を喰らい尽くした


























・・・み・・・




・・ぞ・・・・み・・・






の・ぞ・・・み・・・・










・・・のぞみ!













希「うわぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁああああああああああああ!!」


絵里「希、私よ! 大丈夫、大丈夫だから!」


希「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ううぅ……」

絵里「大丈夫よ。ここにあなたが怖がるものはなにもないわ…大丈夫、大丈夫よ」

希「はぁはぁ…はぁ、はぁ、絵里…ち。み、んなも…」

穂乃果「大丈夫…? 希ちゃん…」

花陽「安心して、希ちゃん」


希「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ゆ、め…?」

絵里「そう、夢だったのよ。もう怖い夢は終わったの。ね?」

希「はぁ、はぁ、ううぅ……」



希は泣いた。恐怖と安心からか、大泣きに泣いた

絵里は黙って希に胸を貸してあげた。希がこんな姿を見せるのは初めてで、どうにか力になれないか、そう思ったからだ


しばらくすると落ち着いてきたのか、バツが悪そうに顔を赤らめ、顔を洗いたいと言い出した
それに絵里が付き添うと言って、二人は手を取り、寄り添いながら廊下の水道まで歩いて行った



希「えりち、その、ごめんね…」

絵里「いいのよ、これくらい。友達でしょ?」

希「……うん」




じゃー、パシャパシャ




絵里「はい、タオルだけど使って。練習用のだけど、まだ使ってないやつだから綺麗よ」

希「ありがと」



ふきふき



絵里「ん?」

絵里「希…それ、どうしたの…?」

希「え…?」

絵里「その、手首の痣……練習の時痛めたの?」

希「そんなことして……っ!!」



希は自分の手首にある、浅黒い痣を見つめる





希「ゆ、夢じゃ……」

絵里「希…!」



希「夢じゃ…なかったの……?」




希の手首には、ガッチリと掴む様に手形の痣が残っていた――





RINFONE




INFERNO



ここまで

>>154
先生たちは犠牲の犠牲になりました。好きなように脳内補完してくれると助かる

逝きます



何かを感じた絵里は、自分と同じくジャージを着た希の裾をサッと捲し上げる


絵里「希…これって…」


そこには手首同様に、くっきりとした手形の痣と、何かがかじり付いたような歯型がいくつもついていた


希「あぁああぁぁああぁ……」


獣の歯型ではない
人だ。人のものだ。人の歯型が希の身体に無数にあるのだ


希「たす……けて……え・り…ちゃん……」

絵里「…………」ギュゥゥ



絵里は何も言えなかった。だからせめて、希は一人ではないという意味を込めて、力いっぱいに抱きしめた
自分も恐ろしかった。得体のしれないなにかが起こっている事を、直感的に感じ取ったからだ



絵里(あの、海未の家の時みたいに……)



絵里(たぶん…きっと、あの日の続きなんだ…。あの日の続きが、今ここで起こっているんだ…)


絵里(でもなんで? なんでこんな事が? だめ…全くわからない。意味がわからない…)


絵里(こんな事、現実であってはならないことよ…)


絵里(……そうだ。誰かに相談すれば…でも、相談してどうにかなる…の?)


絵里(こんな事、一体誰に相談すればいいの?)


絵里(希……)



絵里は腕の中で震えて、静かに泣いている希を見る
自分の一番の親友を



絵里(今度は私が…なんとかしてあげるからね……)









にこ「ちょっと遅いけど、なにかあったの?」



絵里「にこ。どうしてここに」

にこ「どうしてって、心配だからよ。顔を洗うだけにしては遅いし、もしかしたらまた希になにかあったのかなーって」

にこ「大丈夫? 希」


絵里(どうしよう。今見たことを相談するべき…? にこは信用できるの?)

絵里(信用……ですって?)



絵里は自分の考えに愕然としていた。もっとも頼るべき仲間を疑っているのだ
あの日から続くなにかを起こしたと、疑っているのだ



絵里(……いま、この状況で頼るべきはだれ? μ'sの仲間すら疑ってしまっては、もう誰も信じることは出来ないじゃない)

絵里(話そう。これは話さなければならないことなんだから……)



絵里「その、にこ?」

にこ「なによ」

絵里「ちょっと見てほしいものがあるの。希の事に関係することなんだけど…」

にこ「……うん」

絵里「驚かないでね」



にこ「なに……よ、これ…」

絵里「わからないのよ。でも、これが異常だって事は分かる」

にこ「それは、そうよ…。でもこんなのって…」

絵里「穂乃果とは話したんだけど、この状況って前にも経験しているのよ」

にこ「えっ?」

絵里「ほら、思い出さない? 海未の家に泊まった時のことよ」

絵里「あの時も急に停電になったし、なにかその……不可解な事もあったでしょ?」

にこ「そういえばそうね…思い出したくないからさっさと忘れてたのに…」

絵里「あれ、後から穂乃果から聞いたんだけど、実はあの時どこも停電していなかったそうよ」

にこ「えっ、そんなはずないわよ。だってあの時確かに停電してたし、ブレーカーだって」

絵里「そう思ったから穂乃果も近所にコッソリ聞いてみたんだって。でも全然そんな事はなかったみたい」

にこ「…………」

絵里「そして今。状況が似過ぎだと思わない?」

にこ「なにが、いいたいの。絵里」

絵里「……たぶん、いえきっとあの日の事の続き、なんだと思う」

にこ「つづき…? 一体なんの? あの心霊現象の? だとしてもやっぱり腑に落ちないわ」

絵里「わからない。けど、そんな気がするの。まだ終わってない。そして、これからも続く…」

にこ「絵里…?」

絵里「なにか原因があるはずなのだってそうじゃないと…おかしい……」

にこ「絵里っ! しっかりしなさい!」

絵里「はっ!」



にこ「あんた、今一瞬目がイッちゃってたわよ」

絵里「あ、うぅん。ごめん。ありがとにこ…」

にこ「とりあえずここにいて、穂乃果か海未を連れてくるから」

絵里「うん。希もこの状態だし…お願いね」

にこ「すぐ戻ってくるから待ってなさいね」









暗い廊下に二人ぼっち
嵐は未だ弱まらず、雷も断続的に続いている



廊下の先はまったくの暗闇だ

希の身体に起きたこと。今起きていること
それらのせいで、絵里が暗闇に恐怖を感じることは至って普通の事だった

他愛もない夢想が脳裏をよぎる

元々怖がりではあったが、腕の中にいる希に対して覚悟を決めたつもりだった
それでも、恐怖というものは心の隙間から染み出すように、絶えず湧き出してくる




にこたちが戻ってくるわずかな間
それは何分にも何時間にも感じられた








穂乃果「希ちゃん、絵里ちゃん」

絵里「穂乃果。海未は…?」

穂乃果「う…うん……。なんか、様子がおかしくて…」

絵里「海未も?」

にこ「例の玩具よ。どうやら寝ずにずっとあれで遊んでたみたいなの。目とか血走っちゃってるし」

絵里「…………そう」

穂乃果「海未ちゃんも心配だよ…」

絵里「…ところで教室に戻る前に、穂乃果に話しておくことがあるの」

穂乃果「――?」

絵里「実は希のことなんだけど……」






穂乃果「こ…これ…」

絵里「私の考えなんだけどね、もしかしたら海未の家での続き何じゃないかと思ってるの」

穂乃果「続き…。ど、どうして?」

絵里「状況が似ているってのもあるんだけどね…実はまったくの勘、なの」

にこ「…………」

絵里「なんにも確証は持てないんだけど、きっとあの日の続き……しかもずっとずっと悪化してる、そんな気がするの」

絵里「こんな話教室じゃ出来ないからここに来てもらったんだけど、本当なら海未にも来て欲しかったわ」

絵里「あの日あの場所にいたのは、私と海未、穂乃果、にこ、ことりだけなんだから……」

絵里「あ、そういえば教室の皆はどうしてる?」

にこ「あれだけ大騒ぎしたからね、みんな起きてるわ。何があったか分からずに、不安そうにしてる」

絵里「そう……」

穂乃果「それで、その、どうするの? これから」

絵里「……うーん」

にこ「やっぱり海未に来てもらって、話し合うしかないんじゃない?」

穂乃果「でも……」

にこ「流石にそこまでないがしろにはしないでしょ。この状況だし」

穂乃果「うん……」




「だ・・・め・・・」






絵里「希? どうしたの?」

希「だめ……海未、ちゃんは、だめ……」

にこ「どうしてよ」

希「だめ……だめ……」



希「みたの。夢の中で……海未、ちゃんだけが平気だった……」

絵里「の、のぞみ…?」

希「みんな…みんな…死んじゃったのにッ! 海未ちゃんだけが!!」

にこ「ちょ、おち、落ち着いて希!」

希「はぁ、はぁはぁ、はぁはぁ、海未ちゃんが……」







穂乃果「あの玩具」




にこ「え?」

穂乃果「きっとあの玩具だ!」ダッ!

にこ「ちょっと! 穂乃果!?」

にこ「ああん、もうっ! 二人とも、教室に戻るわよ!」

絵里「そうね。希、あるける?」

希「……うん」






ガラッ!



穂乃果が勢い良くドアを開けるとその音にびっくりしたのか、全員の視線が彼女に集まる
しかし、それを無視して大股で隅に陣取る海未のところまで一直線に近付いて行った




海未「――――――」カチャカチャ


穂乃果「海未ちゃん」


海未「――――――」カチャカチャ


穂乃果「それが、海未ちゃんをおかしくしているんだね」

穂乃果「穂乃果聞いてるよ。最近ご飯もほとんど食べていないんだよね? お家の稽古だってあれから一度も出てないって」

穂乃果「みんなみんな、その玩具が悪いんだよ。海未ちゃん。それ、こっちに渡して」



海未「………………」カチャカチャ





いったい何が起こっているのか把握できていない人たちは、遠巻きに二人の様子を固唾を呑んで見守っている





海未「………………」カチャカチャ





穂乃果「…………」

穂乃果「ことりちゃんも、希ちゃんも、なんとも思わないの? 海未ちゃん……」




海未「………………」カチャカチャ




穂乃果「そう……こんな事したくないんだけど…ごめんね海未ちゃん」



バッ!



穂乃果は力づくで奪おうと手を伸ばした
しかし




穂乃果「っつ!」



穂乃果の伸ばした右腕の甲から血が滴り落ちる
見事に四本の赤い筋がついていた

海未は伸ばした手に爪をたて、そのまま力任せに引っ掻いたのだ




海未の手からも血が落ちている
どうやらさっきので、手の爪が剥がれたようだ



穂乃果「う…み…ちゃん……?」



海未は血走った目をカッと見開き、歯をグッと食いしばり、髪を逆立てて穂乃果の前に仁王立つ
両手で労るように例の玩具を掻き抱き、目の前の幼なじみを威嚇する








「さ ワるナァァァァァァアァァァァアァァァァァァアアアアアアァアァァァァァァアァァァァァァッ!!」







「ダレも! だれニモッ! さわらセないッ! これは私ノ! ワタシノぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉああああああああッ!」










「違うっ! それは海未ちゃんのじゃないっ! それはここにあっちゃいけないものなのっ!!」








にこ「穂乃果! 危ない避けて!!」








絶叫しながら海未は穂乃果に体当たりをした

二人はもみくちゃになりながら床に叩きつけられる



錯乱した海未はしきりに穂乃果を殴り、穂乃果はそれを防ごうとしている

あれほど仲の良かった幼なじみは、今血みどろの殴り合いをしている



異様だった。ただひたすら異様だった
誰に目にもただの殴り合いにしか見えないはずなのに、誰の目にもただの殴り合いには見えなかった







絵里「みんななにしてるの! 海未を止めて!!」




「はっ!?」




「先輩! やめてください!」


「園田さん落ち着いて!」


「海未! やめなよ!」





「はナセぇぇぇぇえええええ! ハなしてェェェェェェェッ!」





絵里「にこ!」

にこ「分かってるっ!」




激しく暴れる海未だったが、流石に大人数にはかなわずに抑えられた
その隙ににこは海未から例の玩具を取り上げることが出来た



「触るなァァァァァ! フーッ! フーッ! ゥゥゥゥゥゥゥゥウウッ!!」




絵里「みんな、まだ抑えてて。海未、ごめんなさい」

にこ「穂乃果、大丈夫?」


穂乃果「…………いたい」


にこ「大丈夫そうね。ただちょっと痣が出来てるわね」

にこ「それで? これどうするの?」

絵里「え? あ、あー……」

にこ「考えなしかい!」



穂乃果「壊そう。それ、壊さなきゃ…いけないよ」



にこ「…………」

絵里「そうね。それが一番よね」



にこ「でもどうやって? 結構頑丈そうよ」

絵里「理科室はこの階よ。燃やしましょう」

にこ「なるほど。あそこなら消火器もあるし、一発よね。しかもこれ木で出来てるし」

絵里「海未が可哀想だわ。早く行きましょう。誰か希と穂乃果についててあげて!」







ドンッ!


   ガシャーンッ!







にこ「っ!? な、なに!?」


「廊下からだよ!」





一同が廊下を覗くと、懐中電灯の届かないさらに向こうでなにかが蠢いている
それは窓を突き破って侵入してきているのだ




にこ「なに!? なんなのあれ!」

絵里「し、し、知らないわよ!!」



穂乃果「ここはいいから! 二人とも急いで!!」


にこ「穂乃果の鬼!」

絵里「悪魔!」


穂乃果「わたし痣が出来ちゃったんだよ!? それに比べたら!」


にこ「えーい! 行くわよ絵里ーっ!」

絵里「わーもー! なんなのよぉッ!!」





にこ「――――ッ」チラッ








気になったにこが少しだけ振り向くと、ハッキリとは見えなかったが、なにかが確かに追ってきているのがわかった

それは人型をしていたが、やけに小さく、そして細かった
頭と、おそらく腹の部分だろう。そこだけがやたらと大きく膨れていた

そして、暗闇であるのに赤く輝く双眸がハッキリとこちらを見据えていたのだ




かつて無いほどの全力疾走で、二人は背後の影よりも早く理科室に入ることが出来、即座に鍵を閉めた



ドンドンドンッ!



ドアに何かがぶつかっていく



にこ「絵里! そこの机こっちに寄せれない!?」

絵里「やってみる!!」




二人は近くのものを手当たり次第にドアに積み上げていく
ドアの外ではまだドンドンと叩かれており、その度にドアが歪んでいくように感じる



にこ「とりあえずここは私に任せて。絵里はさっさとそれを燃やしなさい!」




絵里「えーっと、ここでもないあそこでもない、これじゃないあれじゃない……」

絵里「もう! どこよ! アルコールランプ!」


にこ「なにやってんの! 右の戸棚の上のほうよ!」


絵里「あ、あった! 後はマッチがここの引き出しに……よし!」

絵里「準備整ったわよ!」


にこ「早くして! なんか数が増えて……絵里!! 窓!!」


絵里「――ッ!?」







窓の外に、さっきの黒い影が何匹も何匹もへばりついていた





 バンバンバンバンッ!





にこ「あいつらここの窓も割ろうとしてる! 絵里! 早く燃やして」


絵里「わ、わかってる! で、でも手が震えて……」


絵里「火が付けられないのよぉッ!!」




すでに例の玩具には一本まるごとのアルコールがかけられている。火が付きやすいようにそうしたのだ
後は火を付けて燃やすだけなのだが、思わぬことに苦戦していた




にこ「は、早く!! ドアも窓ももう持たない…ッ!!」


絵里「くそっ! くそっ! ついて、ついてよ!!」






 ガシャンッ!




にこ「絵里ッ! 窓が!!」





絵里「うわああああぁぁぁぁぁぁッ!!」




































シュボッ!




にこ「絵里! ついた! 火! 火ついたよ!!」


絵里「え! あっ!」


にこ「早く早く! 急いで!!」








絵里は火をマッチ箱に点火し、更に火力を強くした
そしてその火を、アルコールまみれの玩具へ落とす



火は瞬く間に玩具を包み、より大きな火の玉へと変わっていく




火の光は強く、強くなっていき、暗い理科室を照らしだす







火は消えること無く燃え続ける



そしていつの間にか周りにいた影たちは消え失せ、嵐も止み、静かな夜へと戻った




二人はヘナヘナと崩れ落ち、いつまでも燃え盛る火の玉を眺め続けていた――








エピローグ






穂乃果「じゃあ、明日から学校にこれるんだ!」

「ええ、そうですよ」

花陽「よ、よかった~。本当に心配したんだよ」

「その…心配かけてすいません…」

にこ「でも良かったわね、栄養失調だけですんで」

「はい……」

「でも、その、希のことは……」

絵里「心配しないで、海未」

海未「でも…」

凛「まさか希ちゃんが引っ越すなんて…」

真姫「しょうがないわよ。あんな状態だもの。むしろ今まで一人だったことのほうが異常よ」

にこ「うーん…それについては家も似たようなところがあるし…なんともコメントできないわね」





――あの日、明け方になってようやく救助の手が、音ノ木坂学院まで届くことになった

海未ちゃんはあの玩具のパズルが燃えるのと同じタイミングで気絶してしまい、救助の人によって病院に運ばれた
怪我をしていた穂乃果も、一応病院に海未ちゃんと一緒に連れられていった


街は幸い、軽い洪水と僅かな倒木の撤去だけというものだけで、大した被害もなく無事だった




だけど、学校の方はそうもいかず、体育館が倒木によって壊れてしまったり、何故か三階の窓ガラスだけが割られていたりと、修理がいっぱい必要になってしまった



そうそう、海未ちゃんのことだけど、あの時のことはあんまり覚えていないんだって
だけど穂乃果を叩いたことはよく覚えていたらしく、気がついたらずっと謝りどおしだったよ

あとはご飯食べてないことと、満足に睡眠を取っていなかったことでだいぶ衰弱していたらしく、栄養失調で少しの間入院なんだって


ことりちゃんはあの日の翌日に電話がかかってきて、体調が悪くて電話に出れなかったことを謝ってきたんだ
でも不思議なのが、なんどかメールで送ったらしいんだけど、その度にエラーになっちゃって送信できなかったんだって

ちなみにことりちゃんのお母さんも、ことりちゃんの風邪をうつされちゃって寝込んでたんだって






最後に希ちゃんだけど……


……実は、精神病院に通っているの
精神病院っていうと、凄く重そうな響きがあるけど、メンタルケアっていう療法を受けているんだって

そのせいで、遠方で仕事している希ちゃんのご両親がこっちに戻ってきたんだ
お医者さんに電話を受けた時、とてもびっくりしたそうだよ






そして、希ちゃんは引っ越していった
今住んでいるところだと、一緒に住むことが出来ないからって




絵里「引っ越しかぁ…」

凛「寂しくないのかなぁ…」

にこ「そういえば、高校に入るまで転勤族だって言ってなかった?」

絵里「ええ。でも、そのことがずっとコンプレックスだったみたい。お友達ともすぐ別れることになるからって」

花陽「で、でもびっくりしたよね。突然引っ越すんだもん」

にこ「ええ…しかも…」




真姫「にこちゃんちの隣だなんてね」


希「仕方ないやん。お父さんの仕事がこっちになったんだから」

希「これからはもっと近くにいるんだって」

絵里「引っ越すことを聞いた時は、穂乃果も凛も凄い騒ぎ用だったわよね」

穂乃果「え、えりちゃん!」

凛「にゃー! やめて!」

ことり「二人共、ここは病院だよ? 静かにー」





私達の日常は、少し変わっていってしまったけど、概ね戻ってきた




でも、時々考えるんだ
あの玩具って、一体何だったんだろうって



海未ちゃんの話だと、今からだいたい一、二年くらい前に見つけたものだって言ってたっけ



後から絵里ちゃんから聞いたんだけど、あの玩具の綴りは

『RINFONE』

って書くんだって
そして文字を入れ替えると…

『INFERNO』

地獄、になるんだって


熊が出来て
鷹が出来て

もし、魚が出来てしまっていたらどうなっていたんだろう……




あの玩具はもう無い
だから怖がる必要がないんだけど…






もし、まだ他にもあれがあったら……?

もし、誰かが魚まで完成させてしまっていたら……?




…………

ううん。忘れなきゃ




明日は晴れ!


久しぶりにμ's全員が揃って練習ができる日!


すっごく楽しみっ!




fin...

ひと月あまりの間お付き合いいただきありがと
キャラ崩壊とかいろいろすまんかった
海未ちゃんも希ちゃんもごめんね

感想あると喜ぶよ
それじゃあおやすみ

これ書ききったら親父倒れよった…

元ネタはリンフォンっていうオカルト話です
本当なら占い師に諭されて廃棄が正しい終わり方だけど、ちょっとどう展開すればいいのか思いつかなかった
夢とかなんかやらは全部勝手に付け足したもんです。ごめんね

あとラブアロー仮面ちゃんは完全にスレタイ詐欺です。期待した人すまん

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月30日 (日) 21:28:35   ID: Cjt-vJAa

続きはよ〜

2 :  SS好きの774さん   2014年12月07日 (日) 23:14:45   ID: UbHTnbth

地獄か、なついな

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom