小鳥「ケンガンウタヒメ」 (28)

日の目が当たらなかったアイドルがある日、1本の有名番組へ起用からのブレイク

不祥事に縁遠く見えた清純派アイドルが突然のスキャンダル

大所帯の事務所から脈絡なく多数のアイドルが移籍していった騒動


偶発的なものから業界の裏から滲み出たもの。
何が起こっても「芸能界は特別な業界だから」と片付けられてしまうそこに潜む真相とは…

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-8:00PM 都内の公園-

電話の声「今日は一人で打ち合わせに行かせることになってごめんな。電話だし早速で申し訳ないけどどうなったか教えてくれ」

女の子「どうなったもこうなったもないわよ!! なんなの私があんなの歌わせられるの!?」

電話の声「おいおい! どうしたんだ」

女の子「何が『Bまでオンザビーチ』よ! そんなに歌わせたいなら本番で歌詞を忘れたふりをしてハミングするから!」

電話の声「新人じゃないお前にそれはマズイだろ…」

???「待ってください」

電話の声「うん? 待つって何を?」

女の子「いえ、さっき私じゃないわ。電話切るわね。問題の歌詞は私が語りを入れることにするわ」

電話の声「本当に待てよ。お世話になった作詞家さんだろ? 作詞家が怒ってなんとかさん騒動になるって…」ピッ

女の子「あなた…ファン?」

千早「えっ…? いいえ。それよりさっきの話って」

女の子「歌のこと? 私にもイメージというものがあるから歌いたくない歌もあるのよねー。それだけの話」

千早「……」

女の子「…ところで、それよりって鼻につく言い方ね。機嫌悪いし、サインを断る心構えでいたのに」

千早「ごめんなさい、流行りには疎くて…」

女の子「私を知らないの? これでも疎い人も『この子だけは知っている!』、そんなアイドルでいたつもりなんだけどホントに?」

千早「……ごめんなさい」

有名アイドル「はぁ……いい? あなたは知らないでしょうけど、私はホントにホントの有名アイドル!」

有名アイドル「覚えておいてね。さっきの話にしたってどんな歌も私が“歌ってあげている”くらいのアイドルなの」

千早「……! 私は歌をあまり大切にしていないその考えに賛同できないから話しかけたんです」

有名アイドル「賛同もクソもないわよ。私は裏方の仕事を光が当たるところへ引っ張り出してあげてる。どう考えても立場は上。歌なんて道具よ」

千早「訂正してください! アイドルの口から聞きたくない言葉です」

有名アイドル「自分から絡んでおいてよく言うわ。何度でも言うわよ。大勢に歌を聴いてもらえるアイドルがいなきゃ歌なんて作ってもただの文字と音符の集まりだわ」

有名アイドル「私ね、思うの。さっき言ったことが事実だから作詞家も作曲家も私の歌を聴けるファンたちも私に感謝しているはずだって」

千早「あなたみたいな人がアイドルをやっているなんて許せない…」

有名アイドル「へぇ? 別にアンタに認めてもらわなくても周りがアイドルだって言ってちやほやしてくれるんだもの。それでいいわ」

千早「くっ…」

有名アイドル「ふんっ、まぁ見てなさいよ」

有名アイドル「うー…携帯じゃ思ったより音が大きくないわね。まぁいいや」ポチポチ

有名アイドル「みーんなー! 突然だけど私、今とっても歌いたい気分なの!」

ファン「ん? あれって有名アイドルじゃね?」

ファンその2「うぇ、ホントだ! 俺ファンなんだよ。あとでサインもらえるかな?
ファンその3「でも、なんで公園なんかで歌うんだ? もしかしてこんな時間にゲリラ?」

ファンその4「テレビで見ている通り目立ちたがりだなぁ。でも俺はそういうところが好きなんだぜ!」


有名アイドル「みんな集まってくれてありがとう! 今から歌うのはー…『私はアイドル』!!」

-8:00PM 某公園付近-

小鳥「………」テクテク

小鳥「………はぁ」

小鳥「もう家に帰る気力がないわ…」

小鳥「こうなったらカラオケに行って泊まろうかしら…」

小鳥「……なにやってるんだろう、あたし」

小鳥「ふぅ、ぐすっ。辞表ってどう書けばいいの…」


近所の人「ったく…あーもう! うるせえなぁ」

近所の人「公園の禁止事項にボール遊びや飲食の他にゲリラライブも付け加えないといけないのかよ」

近所の人「それに場所関係なくこの時間に騒がれるのは迷惑なんだよ…って、ええぇぇえ!? あれって有名アイドルじゃん!!」

小鳥「すんすん……ずずっ。なんだろ、あっちに人がたくさん集まってる…」

有名アイドル「好きな人にはニコッニコして そうでない人もそーれなりに」タユン

小鳥(はっ、あれは…! 有名事務所所属のビジュアルに定評がある有名アイドル!)

小鳥(こんな時間にゲリラライブ…? 独断で、かしら?でも、どうして…)

有名アイドル「外面よくてうっち弁慶 世渡りだけはじょーおーずー」タユンタユン

小鳥(それにしても見事な…)

小鳥「皆さん、お胸の大きさ女の子は好きですか…?」ボソッ

小鳥「イエス!大好きです!」グッ

ファン(このお姉さんも見ていて面白いな)

有名アイドル(どうよ、見なさいよ。この盛り上がり…本当のアイドルじゃなきゃできないでしょ?)

有名アイドル(携帯でオフボーカルの『私はアイドル』を流しているけど、この歓声じゃ無意味ね…)

有名アイドル(でも、歓声は私の実力で沸いたもの。歌そのものなんて…些細なものでしょ?)

有名アイドル「このみーりょくビームでー ハートをロックオンーするーの!」

ファン「ヒューヒュー!」

ファンその2「有名アイドルの生歌が聞けてしあわせー!」

有名アイドル「はぁはぁ…どう! これでも文句ある?」

小鳥(誰に言っているのかしら。あ、有名アイドルが指をさす方に街灯路、そしてその下に人が)

千早「………」

有名アイドル「はぁ?なに? そんなところに突っ立って謝罪会見でもするのかしらぁ?」

千早「すぅ…」

千早「ずっと眠っていられたら―」

有名アイドル「!?」

ザワザワ…

小鳥(あの子も歌い始めた…!?)

小鳥(これは対抗しているの…? そうだとすると)

小鳥(……無謀)

小鳥(音無小鳥、明日からおそらく無職! 今年でにじゅ…あ、これだけは勘弁してください)

小鳥(これでもアイドルのことに関しては人一倍興味を持っており、知識もそれなりのものだと自負しています)

小鳥(うう…なんか悲しい自己紹介をしてしまった気分…)

小鳥(さて、審査員がいない場でパフォーマンスの勝敗をどうやって決めるのか…)

小鳥(盛り上がりの差。これしかないです。今日、多数のアイドルが参加している“フェス”のような状態…)

小鳥(先ほど『無謀』だと結論を言いましたが、やっぱりこの場はファンが多い有名アイドルが圧倒的有利です)

小鳥(それをひっくり返す要素がないわけではないのですが…)

小鳥(一般人にはない、アイドルに求められる力、それは…)

小鳥(存在感。華になってこそのアイドルです)

小鳥(有名アイドル、彼女は普段から身の振り方に問題があると言われていますが、それでも業界で重宝されているだけの美貌があります)

小鳥(だけど、今そこで歌い始めた彼女…)

小鳥(キレイな髪に、整った顔立ち、そして細く美しく伸びた手足。とても上品な身なりです。ですが、ですが…)キョロキョロ

小鳥(彼女の胸に3割ほどの衆目が、向けられています)

小鳥(そして、有名アイドルの胸部に視線を戻した人が数人。何を思ったのでしょう)

小鳥「存在感がまるでない…!!」

小鳥(男性に対して分かりやすいアドバンテージがない。これは致命的です)

小鳥(『俺は小さいほうが好きだから』。たまに聞く言葉ですが多分マイノリティーです)

小鳥「存在感とは大きさに直結する! 小は大に制圧され、柔なモノが男どもに求められる…それが現実!」

ファン(何言ってんのかよく分からないけど本当に面白いな)

小鳥(以上、刹那の内に展開した小鳥理論でした)

千早「この悲しみを忘れられる そう願い眠りに―」

小鳥(こんな状況でいきなり歌い始めてしまった以上、気まずい雰囲気に空気になりそ…)

千早「…ついた夜もある」

小鳥(…へ?)

千早「ふたり過ごした遠い日々 記憶の中の光と影 今もまだ心の迷路 彷徨う」

小鳥(………)

小鳥(……盛り上がっていない。だけど、みんな…)チラッチラッ

小鳥(聞き惚れているわ…!)

千早「いつか物語なら終わってく 最後のページめくったら」

小鳥(アカペラなのにどこからか壮大なオケが聞こえてくるような気さえしてくるわ)ゾクゾク

千早「眠り姫―」

小鳥(…! 隣の人、有名アイドルのファンだって言っていたのに涙を…)

小鳥(……彼女は歌い終えました。)

小鳥(アカペラといえば有名アイドルも同じ条件…いいえ、よく知られている曲を歌ったからオケは脳内再生できている人も多いはずです)

小鳥(……ってもう、私の理屈はいりませんよね。あまり役に立ちませんでした)

小鳥(もう一度言いますが、盛り上がっていませんでした。あえて言うならベクトルが違いました)

小鳥(でも……ごめんなさい。かなり言い方が悪いけど)

小鳥(お遊戯みたいでした、有名アイドルの方が)

小鳥(それを最も理解していた人物は有名アイドルだったようで)

小鳥(立ち尽くす彼女からはテレビで見るような輝きは……)




有名アイドル「……負けることには慣れているつもりよ。最初の頃はいつもこうだったもの」ボソッ

千早(やってしまった…)

千早「あっ…えっと、その」

千早「本日は私の歌を皆さんにお聞きいただいて大変嬉しく思います……し、失礼しますっ」

小鳥(勝敗は盛り上がり? アイドルに関する知識はそれなりのつもり?)

小鳥(前言撤回なんてそんなものじゃない…!)

小鳥(私は恐らく女子高生であろう彼女に対して……最大級の敬意の念を抱いていました)

小鳥(それに気づくと足が勝手に動き出していました。既にこの場から早足で立ち去ろうとしていた彼女を追いかけなければ、と)

小鳥「待って! 待ってください!」

小鳥「なま、名前…お名前を…」

千早「えっ…わたちはや、千早です。如月千早です」

小鳥(聞いたことがない…なんで? 私が知らないことよりもなんでこの子が世間に知られていないの!?)

千早(やってしまった…)

千早「あっ…えっと、その」

千早「本日は私の歌を皆さんにお聞きいただいて大変嬉しく思います……し、失礼しますっ」

小鳥(勝敗は盛り上がり? アイドルに関する知識はそれなりのつもり?)

小鳥(前言撤回なんてそんなものじゃない…!)

小鳥(私は恐らく女子高生であろう彼女に対して……最大級の敬意の念を抱いていました)

小鳥(それに気づくと足が勝手に動き出していました。既にこの場から早足で立ち去ろうとしていた彼女を追いかけなければ、と)

小鳥「待って! 待ってください!」

小鳥「なま、名前…お名前を…」

千早「えっ…わたちはや、千早です。如月千早です」

小鳥(聞いたことがない…なんで? 私が知らないことよりもなんでこの子が世間に知られていないの!?)

小鳥(あの有名アイドルの優位をものともしないあの歌唱力、この子のことをもっと知りたい…!)

小鳥(今日、ここで別れてしまうなんて…何か、何か言わないと!)

小鳥「私は音無小鳥というの」

千早「はぁ、よろしくお願いします」

小鳥(そう、何か言わないと…!)

小鳥「千早ちゃん、もし、もももし、よかったら…」

千早「?」

小鳥(ええっと、ああ! どういうことを言えばいいのかしら!?)


小鳥「…………カラオケに行きませんか!?」

千早「えっ」

小鳥(やってしまった…)

千早「もう時間が時間ですので…すみません」

小鳥「で、ですよねー! 変なこと言っちゃってごめんなさいね。気をつけて帰ってね!」

千早「失礼します」ペコリ

千早(すごく落ち着きなかったけどいきなりなんなのかしら、あの人…)

小鳥(何やっているのよ小鳥ぃぃぃ!)



千早「私は歌があるけど、何をするべきなのかしら。でも、何かしないと」

千早「そう、『たった独りでも明日へ歩き出すために』」


――――――第一話 「歌姫」――――――

小鳥「ごめんなさ、いいえ! すみません! 本当にすみません!」

先輩「はぁ、なんてことをやってくれるんだ…」

先輩「朝から社内の電話が鳴りまくって社内はお前が着く前からてんやわんやだったんだぞ」

先輩「自分がやった1日分の仕事をパーにするのはたまにあったけど、今回はレベルが違うよ」

先輩「お客様のデータを全てパーにしてしまってさぁ…どう責任取るの?」

小鳥「すみません…」

先輩「いや、あのね、どう責任を取るかって聞いてるんだよ?」

部長「まぁまぁ。ここで色々話していても仕方がない。まずしなければならないことを迅速にしとこうじゃないか」

先輩「でも部長!」

部長「今から小鳥くんをお客様のところに連れて行って話をして来る。それ以外のことはその後でいいね?」

先輩「えー……分かりました」

-お客様の応接室-

社長「~~~でして、バックアップもございません。誠に申し訳ありません」

お客様「うーん、わが社が蓄積していたデータが消失してしまったことは痛手なんですよ」

小鳥(どうしようどうしよう社長も出てきているし私とんでもないことやっちゃったみたい…)

社長「損害については全社を挙げて誠意をもって対応いたします」

お客様「対応といっても今回のことは何かをしていただいても当分は引きずっちゃうくらい難しい問題で…」

部長「……」スクッ

お客様「や? どうされました?」

小鳥(部長さん…同期から出世頭といわれているらしいやり手で、素早く謝罪しに行くことを言い出した人)

小鳥(『お前は俺が言うまで黙って座ってろ』と言われたけど、私はもう申し訳なさで押し潰されそうです…!)

部長「………」スッ

小鳥(ん、私を指さして…)

部長「全部こいつがやったんです!!」

小鳥「ええええええぇぇぇ!?」



―――――――――――――――――――――――――

小鳥「ええええええええ!?」ガバッ


チュンチュン

小鳥「はぁ、早速夢に見てしまうなんて…」



昔CMでそんなのあったな
上司「僕も一緒に謝りに行くから」
社長「いったい誰が責任を取るんだ!」
上司「こいつです」
ってやつww

小鳥(私は音無小鳥。今日から無職の予定の女性です)

小鳥(部長はあの後、急に私を罵り始め社長も目が点)

小鳥(なぜかお客様が部長をなだめてあの件はなんとか収まりました)

小鳥(……………)

小鳥(昨日のことがなくても多分、私は自分がしてしまったことの重大さだけで辞表を出すつもりでいたでしょう)

小鳥「んー…『明日は来なくていい』かぁ」

小鳥(これは私は辞表を出すタイミングだと思いました)

小鳥「っと、その前に…」カタカタ



今から辞表を出しに行くけど質問ある?

1 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:OLOLOLOL0
特定されない範囲で



ッターン!

2 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:21tOhmdyP
IDなんだこれ

3 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:YUMIX8ra0
はやー

4 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:OLOLOLOL0
質問ないですか?

5 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:8l7i6k5e0
それよりやよいちゃんに暗闇でイイモノあげたい

6 名前:MYKにかわりましてAKKEYでお送りします  ID:s7ogANo10
これはやばい
今年一番感動した




小鳥「………」

小鳥「あ、私のスレまで立ち始めた」

小鳥(良かったのか悪かったのか、辞表はあっさり受け取られてしまいました)

小鳥(でも、どうしようかしら。やっちゃったかなぁ…これから働けるアテがあるわけでもないのに)

??「キミ、そこのキミ!」

小鳥「はい?」

??「そう、キミだ! まぁこっちに来なさい」

小鳥「…? はい、来ました」

??「名前はなんというのかね?」

小鳥「音無、小鳥です」

小鳥(職ナシ小鳥です…)

高木「私は芸能プロダクションで社長をしている高木という者だ」

小鳥(芸能プロダクションの社長? というかなんで私のことをジロジロと…)

高木「ふぅむ…ああ、失礼!でも、キミならなんとかやってくれそうな気がした」

小鳥「へ?」

-765プロ 社長室-

高木「まま、入りたまえ」

小鳥「し、失礼します…」

高木「いきなり声をかけられたキミも驚いただろうが、私も驚いたよ。今日はなんて運が良いんだろう。よいしょ…っと」

小鳥(ここって社長室ってやつかしら。 それらしい椅子と机…その横に立っているのは秘書さん?)

高木「おお、忘れるところだった。紹介するよ、このメガネが光るクールビューティーはうちの事務所の頭脳―あきや」

律子「秋月律子です。社長……一体、誰と間違えようとしたんですか」

高木「すまんすまん!」

小鳥(本当にこの人って社長なんだ。なんで私なんかがここにいるんだろう…)

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