貴音「月食……?」 (16)

~屋上~

P「……よし」

P「台風もいい感じに過ぎ去ってくれたし、天気もそれなりに良し」

P「10月に入って湿度も落ちてきてる。シーイングも良好だ」

P「今回は期待できそうだな」

貴音「何が期待できそうなのですか?」

P「うぉっ!?」

貴音「こんばんは、あなた様」

P「な、なんだ。貴音か」

貴音「驚かせてしまったようですね。申し訳ありません」

P「いや、まぁいいんだけどさ」

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貴音「ところで、先ほど何かを期待している素振りでしたが」

P「ああ、月食だよ。皆既月食」

貴音「月食……?」

P「そう。月を食べると書いて月食」

貴音「なんと……!月を食べてしまう者がいるのですか!」

P「いや、そうじゃなくてだな……」

貴音「もしや!某店の月見ばぁがぁという品のことでしょうか!あれはわたくしも以前から――」

P「違う違う。月食っていうのは」

貴音「ひと月らぁめんだけを食して生活するという、ある意味究極の――」

P「うん、とりあえず食べることから離れような」

貴音「ふふっ、冗談でございます」

P「月食っていうのは、月が地球の影に隠れて陰る現象のことだよ」

貴音「なんと……そのようなことがあるのですか」

P「特に今回は皆既月食といって、月が全部すっぽり地球の影の中に入ってしまうんだ」

貴音「あなた様は、それが楽しみだったのですね」

P「ああ。日本から見えるのは3年ぶりだからな」

貴音「なるほど……それでは、本日は貴重な機会なのでございますね」

P「そういえば、貴音はどうして屋上に来たんだ?」

貴音「わたくしは、満月を眺めに」

P「そりゃ生憎だったな。今に満月じゃなくなるぞ」

貴音「いえ、そのような珍しき現象が見られるのですから、むしろ僥倖と思っております」

P「貴音は、よく月を眺めてるよな」

貴音「はい。月を見ていると……懐かしい気持ちになるのです」

P「……懐かしい、か」

P「知ってるか貴音。月は、地球から生まれたと言われているんだ」

貴音「そうなのですか?」

P「地球が生まれて間もない頃、地球に巨大な隕石が衝突してな。その破片から月ができたんだ」

貴音「なんと。それはまことですか?」

P「ああ。科学的根拠も多く見つかっている」

貴音「巨大な隕石というと、如何ほどの大きさなのでしょうか」

P「大体地球の半分くらいだな。今で言えば火星が降ってくるようなもんだ」

貴音「なんと……」

P「だから、月っていうのはもう一つの地球――――もう一つの故郷みたいなもんなんだと思う」

貴音「故郷……ですか」

P「ああ。だから貴音が懐かしく思うのもわかるな、って」

貴音「……あなた様にとっても、月は懐かしき故郷なのでございますね」

P「ま、そういうことになるな」

貴音(合縁奇縁……地球と月とは、不思議な縁があるのですね)

貴音「! あなた様!」

P「ん?どうした貴音」

貴音「月の左下が暗く……」

P「お、月食が始まったな」

貴音「あれが……月食」

P「ああ。今はまだ全部は影に入ってないから『部分月食』だな」

貴音「……まるで、影が月を蝕んでいくかのようです」

P「月食は『月蝕』と表記することもある……まさにこれが『月食』たる所以だろう」

貴音「…………」

~1時間後~

P「だいぶ暗くなってきたな」

貴音「……はい」

P「そろそろ全部隠れた頃だな。『皆既月食』だ」

貴音「……はい」

P「貴音、寒くないか?」

貴音「…………」

P「……貴音?」

貴音「…………」ギュッ

P「……どうしたんだ、急に俺の腕にしがみついて」

貴音「……申し訳ありません、あなた様」

P「……お前らしくもない」

貴音「……わかっております。しかし、もう少しだけ……」

P「……いいよ。腕くらい、いくらでも貸してやる」

貴音「……ありがとうございます」

P「…………」

貴音「…………」

P「……なぁ、貴音」

貴音「…………」

P「……月食、見ないのか?」

貴音「…………」

P「貴音――」

貴音「……怖いのです」

P「え?」


貴音「先程まであんなに美しく輝いていたものが――――あのように、影に覆われて光を失っていくのが」


貴音「わたくしには、たまらなく怖いのです」

貴音「……笑いますか?」

P「……怖がってる貴音を見て笑えるほど、俺は性格悪くないよ」

貴音「……そうですね。あなた様は、お優しい方です」

P「……とりあえず、さ。空を見てみろよ、貴音」

貴音「…………月は、もう見えなくなってしまいましたね」

P「何言ってんだ。よく見ろ」

貴音「……?」

P「ほら、あそこ」

貴音「! あれは……」


貴音「赤銅色の……月?」

P「月は消えてなんかないよ」

貴音「し、しかし……地球の影に隠れてしまったのでは」

P「地球の影に入っても、太陽の光を完全には遮れないのさ。地球の大気層で光が屈折して、月にも光が当たるからな」

貴音「……なんと面妖な」

P「ちなみに、月が赤く見えるのは夕焼けが赤いのと同じ原理だ」

貴音「……赤銅色の月というのも、また乙なものですね」

P「だろ?」

貴音「先ほどは少し郷愁が過ぎてしまったようです。失礼いたしました」

P「気にしてないよ。むしろ、話してくれて嬉しかった」

貴音「あなた様……」

P「あと、久々に怖がりな貴音が見られて良かった」

貴音「……あなた様は、いけずです」

~1時間後~

貴音「月の左上が、明るく……」

P「食の終わりが近づいてきたみたいだな」

貴音「……また、元の満月へと戻るのですね」

P「ああ。いつもの明るい月だ」

貴音「……私は何を怖がっていたのでしょう」

P「?」

貴音「皆を明るく照らすのがアイドルの役目。光を失ったとて、それは変わりません」

P「貴音……」

貴音「それも、あなた様がいてこそですが」

P「……もしお前が陰ったって、俺はずっとお前を照らし続けるよ。それが俺の役目だ」

貴音「……はい。不束者ですが、これからも何卒よろしくお願いします」

P「ああ。こちらこそ」

~さらに1時間後~

貴音「……終わってしまいましたね」

P「ああ。どうだった、『月食』は。怖かったか?」

貴音「いえ、とても良き経験となりました。むしろ、勇気づけられたような気すらしてしまいます」

P「まぁ、『月』に『食』だからな。貴音のためにあるような現象だ」

貴音「……あなた様は、本当にいけずです」

P「にしても、この時間になるとさすがに寒いな。上着持って来りゃ良かった」

貴音「それでしたら、あなた様」ギュッ

P「……何してんの、貴音さん」

貴音「このようにすれば、暖かいかと」

P「……確かにそうだけどさ」

貴音「ふふっ……あなた様」



貴音「今日も、月が綺麗でございますね」



おわり

終わりです
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました


明日の皆既月食の宣伝にと思いつきで書きました

部分食の始まり 18時14分
皆既食の始まり 19時24分
皆既食の最大 19時56分
皆既食の終わり 20時45分
部分食の終わり 21時35分

是非見てみてください

貴音の口調難しい…

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