穂乃果「ベガ」にこ「ヴェガよ!」 (501)


前回までのラブライブ!


にこの強運により、北海道から鹿児島まで、
日本を縦断する豪華列車に乗れることになった私たち。

しかし、乗車券は3枚しかないため、じゃんけんをして決めることに。


その結果、にこ、私、真姫の3人が始発駅へ向かうのでした。


初めての旅行ということもあって、期待と不安で落ち着かない私たちと出会ったのは、

にこと同じく、くじ引きで乗車券を手に入れたという陽気な人。

その出会いもあって、私たちは緊張を解くことができたのです。


列車の旅が始まりを告げ、

これから、3人で頑張っていこう――そう決めたはずなのですが……


なんと、札幌では穂乃果と花陽が待っていたのです。

さらに、青森ではことりと絵里が。

仙台では凛、

そして東京では希も合流し、9人が揃い、

結局いつものメンバーで旅が続いています。


道中、様々な場所へと足を運び、みんなも思い思いに楽しんでいたように思います。


そして――、松本でのアイドルフェスティバル。

アイドル界のトップに立つ人たちが参加登録をしていました。

人気が絶大なアイドルたちと、スクールアイドルという肩書の私たち。

参加への疑問が沸きましたが、

穂乃果の前向きで楽しもうという精神に背中を押され、

私たちも出場を決意したのでした。


しかし――、にこが風邪をひいてしまい、事態は急展開をみせます。


フェスティバルへ参加することの意味。

その意味が、にこを奮い立たせます。

にこの根性と情熱に魅せられた私たち、そしてトップアイドル達。

参加するみんなの気持ちが一つになり、
アイドルフェスティバルは大成功を収めたのです。

そのイベントが成功したことで、
大手事務所からの感謝の言葉とともに、とても嬉しい贈り物が――。


観光がメインだった金沢では色々と大変な思いもしましたが、
楽しい想い出を残すことができました。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1411835028



乗車した人、下車してしまった人。

たくさんの出会いと別れ。


ヴェガは第七の都市、名古屋へと到着です。


穂乃果、花陽、ことり、凛

4人はこの名古屋で東京へと引き返す事が決まっています。


にこは降りる場所を考えているようです。

そして、松本から乗車証を受け継いだ絵里、

始発から一緒にここまで来た真姫、


ヴェガに乗車した私たち、それぞれの終着駅はどこなのでしょうか。



そして、私は――



……




――――――


お嬢様特急 と けいおん! ラブライブ! のクロス作品です。

途中で落としてしまった前作の続きから。


穂乃果「超特急ベガ?」にこ「ヴェガよ、超特急ヴェガ!」
穂乃果「超特急ベガ?」にこ「ヴェガよ、超特急ヴェガ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378002203/)


長島スパーランド編で出会うのは以下の通りです。

リトルバスターズ!
https://www.youtube.com/watch?v=LbnDBcpf_Fs

シンデレラガールズ(COOL)
https://www.youtube.com/watch?v=jqUVEDYiEWY


夜まで遊びが続きます。


――――――


               8月9日


―― 名古屋駅



「はやくしてください、時間がありませんよ」

「わかってるって」

「なんで文化部の私が応援なんて……」

「まぁ、いいじゃないの。相手の動きを読むのもあんたには必要でしょ。
 勉強になるよ、きっとさ」

「相手の心理を読むことは、どの勝負の世界においても必要不可欠ということですね。
 私はそこまで深くは考えていませんでした」

「私もいま頭に浮かんだこと言っただけで深くは考えてないけど」

「適当なことばっかり言って……」


「あ、名古屋駅を後ろに一枚撮ろうか……並んで、二人とも」


「時間が無いのですから、急いでお願いします」

「はい、チーズ」


「勝手にタイミングを計るな!」

パシャ



穂乃果「……」



「それでは行きましょう」

「気合入ってるね」

「当然です、全国大会なのですから」

「……はぁ、私が此処に居る理由が分からない」

「いつまでもぼやいてないで……いいから、さっさと来い」グイッ

「あ、ちょっと引っ張らないでっ」


タッタッタ


穂乃果「…………」



「穂乃果ちゃん?」


穂乃果「あぁ、ことりちゃん、お待たせ~」

ことり「どうしたの、ぼぅっとしてたけど……?」

穂乃果「なんかね、全国大会があるんだって。
     同い年くらいの子たちが頑張ってるんだなって思ったの」

ことり「……」

穂乃果「私も負けてらんないなぁって……
     沢山の想い出を作っていこうって気持ちになったよ」
 
ことり「うん!」


穂乃果「よぉーっし、楽しむよ~!」

ことり「あれ、海未ちゃんはどこに行ったのかな?」

穂乃果「あっちで電話してる」

ことり「本当だ」

穂乃果「う~ん!! いい天気だね、ことりちゃん!」

ことり「太陽も燦々と眩しい♪」



「はい、わかりました」

プツッ


穂乃果「うみちゃ~ん、希ちゃん、なんて~?」

海未「花陽が名古屋駅に向かっているから、少し待っていて欲しいと」

ことり「かよちゃん……?」

海未「希は『詳しくは本人から聞いて』と、それしか言いません」

穂乃果「なにかあるのかな?」

海未「合流して、一緒に長島スパーランドへ来いということだと思いますが……」

ことり「待ってる間に、軽くなにか食べない?」

穂乃果「そうだね、起きてから何も食べてないや」

海未「……太陽が真上にあります。……寝過ぎですね、私たちは」


……





ことり「海未ちゃん~、みてみて~」

海未「?」

ことり「買ってきちゃった、天むす♪」

海未「あぁ、名古屋の名物ですね」

穂乃果「うみちゃん~、みてみて~」

海未「……」

穂乃果「天ぱん♪」

海未「おむすびといえば、花陽ですね」

ことり「うん、お昼ごはんにもう食べてると思うな」

海未「おいしそうに食べる花陽の表情が目に浮かびます」

ことり「ふふ、とってもおいしそうに食べるんだよね」

海未「はい、見ているこっちが幸せになるかのような」


穂乃果「聞こえなかったのかな……じゃあもう一回。
     うみちゃん~、みてみて~」


海未「やり直さないでください! なんですか、天ぱんって!」

穂乃果「パンに海老の天ぷらを挟んでぇ」

海未「何を考えているのですか」


ことり「相性が悪いように見えるよ?」

穂乃果「そんなことないよ。
     焼きそばとパンをコラボレーションした最初の人だって、
     『お、これはいいんじゃないか』って思ったはずだもん」

海未「あなたは、パンと天ぷらで、『お、これはいいんじゃないか』と思ったのですか」

穂乃果「当たり前だよ。そうじゃなきゃしないもん」

海未「それなら、はやく食べてみてください」

穂乃果「もちろんだよ。……もぐもぐ」

ことり「……」

穂乃果「……もぐ……もぐ」

ことり「はい、お茶だよ」

穂乃果「ありがとう……」

海未「どうでしたか、味は」

穂乃果「これは失敗だ。……でも次は、ひつまぶしとパンのコラボを」

海未「名古屋の人に怒られますよ」


「にゃー!」

「待たせちゃってごめんね」


穂乃果「凛ちゃんに花陽ちゃん、やっと来た~」

ことり「駅になにか用事でもあるの?」

海未「わざわざ名古屋港から戻ってきたようですが……」


花陽「えっと……その……」

凛「かよちんが、お世話になったお礼にって」

穂乃果「お世話に?」

ことり「誰に?」

花陽「……う、海未ちゃん、こっち来て」

海未「……はい?」


凛「あーっ、隠し事はいけないにゃ~!!」


花陽「ご、ごめんね、凛ちゃん!」グイッ

海未「ちょっと、花陽!?」

テッテッテ


穂乃果「おぉ、強引に引っ張っていった!」

ことり「どうしたのかな?」

凛「むぅー! かよちん~!」


―― 物陰


海未「聞かれたくない話……?」

花陽「あ、あのね――……」


……




海未「『神隠し』……」

花陽「わたし達を助けてくれた人がヴェガの乗客だから」

海未「……それで、お礼を」

花陽「うん。……希ちゃんが、『海未ちゃんに話しておいた方がいいよ』って」

海未「……」

花陽「信じられないと思うけど――」

海未「あぁ、花陽……!」

ガバッ

花陽「う、海未ちゃん!?」

海未「よかった……本当に……よかった」

ギュウウ

花陽「え、えぇ?」

海未「怖くはありませんでしたか?」

花陽「う、うん……。独りだったら、とても怖かったと思うけど」

海未「同じく、『神隠し』に遭った人がいるのですね」

花陽「……うん。紬さんと夏目さんと」

海未「だから、お礼を……。なるほど、納得しました」

花陽「信じてくれるの?」

海未「はい。私もちょっとした経験をしていますから」

花陽「経験?」

海未「つい先日、絵里の夢の中へ入ったのです。希と一緒に」

花陽「ゆ、夢? 絵里ちゃんの?」

海未「話は後です。早くお礼を言いに行きましょう」


―― 日向


穂乃果「凛ちゃん、知らないんだ?」

凛「うん……かよちん、話してくれない……」

ことり「……」



海未「お礼を持ってきた、と言いましたが……手ぶらですよ?」

花陽「えっと……えへへ、美味しそうだったから……食べちゃった」

海未「…………」

花陽「だ、だってっ、ほとんど一日中寝てて、何も食べてなかったから」アセアセ

海未「一日中『神隠し』に?」

花陽「えっとね、異次元の中にいたから……。
    時間の感覚がおかしくなるんだって言ってた」

海未「そうですか……」

花陽「時間にしたら、何千年って言ってたけど……よくわからなくて」

海未「聞けば聞くほど、花陽が此処にいてくれることが嬉しくなります」

花陽「海未ちゃん……」

海未「凛にもいつか、話さなくてはいけませんよ」

花陽「うん……。希ちゃんは、今は止めたほうがいいって」

海未「……そうですね、私たちが東京へ帰ってから、部室で話しましょう」

花陽「うん」

海未「その時、私が体験したことも、話そうと思います」

花陽「……夢の中…………」

海未「話は終わり。ほら、凛が不機嫌ですよ」

花陽「?」


凛「むぅ……」


花陽「凛ちゃん……」


穂乃果「話って?」

海未「昨日話したことと、少し似ている話です」

穂乃果「夢の?」

海未「はい」

穂乃果「そっか」


ことり「むぅ……」



……



―― 長島スパーランド


希「エリち」

絵里「?」

ピトッ

絵里「ひやっ!?」

希「ふふ♪」

絵里「びっくりした……なにするのよ、希」

希「冷えた缶ジュースをほっぺたに付けて相手を驚かせる、夏の定番やん?」

絵里「あのね、そういうことは――」

希「はい、梓ちゃんの分」

絵里「……同じことをしろって?」

希「そうは言うてへんよ?」

絵里「顔がそう言ってるじゃないのよ」

希「ふふ☆」



梓「……連絡してくれないなんて」

ポパピプペ

ピッ


梓「…………」


ツンツン


梓「?」

ピト

梓「ひやぁっ!?」ビクッ

絵里「あ、ごめんね、そんなに驚くとは……」

梓「もぅ、なにをするんですか、むぎ先輩――」

絵里「……」

梓「あ、絵里さん……」

絵里「寂しそうな顔しないで」

梓「し、してませんよ」

希「いつも一緒に居る先輩がいないから、心細いかもしれないけど……
  今はうちらと一緒にいるんや」

梓「……」

希「だから、むぎちゃんたちにしているように、
  うちらにも甘えてくれてもいいんよ?」

梓「私、チケットを持っていないんですよ?」

希「あぁ、スルーされた」

絵里「大丈夫よ。ほら、これが梓の分」

梓「ほら、って……安いものじゃないですよね」


絵里「あのイベントで手に入れたものだから遠慮しないで」

梓「でも、むぎ先輩を放っておいて入れませんから」

絵里「……」ナデナデ

梓「な、なんで頭を撫でているんですかっ!?」

絵里「みんなが可愛がる理由が分かるから」

梓「なんですかそれは」ササッ

絵里「逃げなくてもいいのに」

希「はい、捕獲~」

ギュウ

梓「むぎゅう」


真姫「入り口でなにしてるのよ」


絵里「真姫とにこも来たのね」


真姫「穂乃果たちは?」

絵里「すぐ来ると思うけど」


にこ「……」ムスッ


希「そっちのにこっちは機嫌が悪そうやね」

梓「にこさん、助けて下さいっ」ササッ

希「あ……逃げられた」

にこ「……なによ」

梓「からかわれるんですよ、人の目もありますから困るんです」

にこ「可愛がられているんでしょ、喜べばいいのよ」

梓「にこさんだけが頼りなんです」

にこ「しょうがないわね。やめなさいあんたたち」

絵里「昨日はあんなに甘えてくれたのに?」

にこ「甘えてないわよ、あんたが強引に頭を引き寄せたんでしょ」

絵里「そういうことにしておくけど」

にこ「それが事実よっ」


梓「あ、穂乃果だ」

タッタッタ


真姫「……世渡り上手ね」

希「甘えてたって?」

絵里「にこがね、膝枕してくれって」

にこ「言ってないわよ」


梓「チャットのミナリンスキーってなに?」

穂乃果「えぇ!? 今日会って最初の言葉がそれ!?」

海未「挨拶をしましょう」

ことり「……二人に聞いてないの?」

梓「絵里さんたちが、3人に聞いてみてって」

穂乃果「……ふむふむ」

海未(また、からかおうという顔をしていますね)

ことり「そ、それは――」

穂乃果「秋葉原で伝説的なメイドが居て――」

梓「あぁ、ことりのことなんだ」

ことり「どうして分かったの?」

梓「ウェイトレスの服、着こなしていたから……」

ことり「梓ちゃんなんだかすごい!」

梓「あ、さとみさんだ」

タッタッタ

穂乃果「メイドと言ってもウェイトレス風なメイドとは違うんだよ」

海未「何を言っているのかわかりませんが、梓はもういませんよ」

穂乃果「……あれ?」


梓「さとみさんも……って、ヴェガの人たちみんな来てるんですね」

さとみ「うん、亮太君にチケットを貰ってね」

小麦「ラッキーだよね、エレナ!」

エレナ「幸運ですワ」

愛「……」

亮太「お、みんな揃ってるね」

梓「いえ、花陽と凛がまだです」

亮太「あ、ほんとだ」

梓「どうして鶴見さんもチケットを持っているんですか?」

亮太「あぁ、それは……あのイベントのバイト代として――」


希「一緒じゃなかったの?」

海未「花陽の空腹が満たされないみたいで……駅で軽く食べています」


にこ「あんたたち、一緒に観光してたの?」

さとみ「そうよ、名古屋城で偶然出会ってね」

にこ「ふぅん……ん?」

さとみ「にこさんと、真姫さんも一緒だったでしょ。遠くからだけど見てたの」

にこ「ど、どうして話しかけないのよ……?」

さとみ「あ、それは……その」

小麦「なんだか、真姫ちゃんと楽しそうにしていたからそっとしておいたのだー」

エレナ「そうですワー」

愛「……」

にこ「楽しそうって……ほとんど言い合ってたんだけど」

さとみ「亮太君が『邪魔しちゃ悪い』って」

にこ「別の言い方したら、関わらない方がいいって聞こえるんだけど?」

さとみ「……えっと、……そうそう、小麦さん、エレナさん、亮太君のチケットを買いに行きましょう」

エレナ「そうですネー、早くプールに入りたいですワ」

小麦「そんじゃ、愛ちゃんと亮太くんはここで待っててねー」

愛「……はい」

にこ「……今日はなんだか、扱いが軽い気がするわ」


亮太「――ってことで、みんなで来たわけ」

梓「そうですか。なんだか、意図的に集められた気がしますね」

亮太「偶然かどうかは知らないけど、夕方からアイドルイベントがあるみたい」

梓「観客としてですかね」

亮太「多分ね。興味があるなら見てみるのもいいんじゃないかな」

にこ「アイドルイベント? 知らないわよ、私は」

亮太「ゲリラライブみたいだから……」

にこ「どうしてそれをあんたが知ってるのよ?」

亮太「……電話で話をしてるとこ聞いて、ひょっとしたら~、って思って調べてみたんだ」

にこ「ふぅん……長島スパーランドで……、一体誰が来るのかしら」ブツブツ


真姫「……」

海未「真姫……?」

真姫「……なに?」

海未「どうしたのですか、にこたちをジッと見ていましたが」

真姫「……梓さんって、人の輪の中へ入っていくでしょ」

海未「はい、そうですね……」

真姫「梓さんの普段を知らないから、なんとも言えないんだけど……にこちゃんもそんな風だから」

海未「……そうですね。言われるまでは気付きませんでした」

真姫「にこちゃんって、あんなに社交的だったかな……って、少し気になってるだけ」

海未「…………」


愛「……」

梓「どうかしたんですか、愛さん?」

愛「……やっぱり」

にこ「?」

愛「亮太さん、私……やっぱり帰ります」

亮太「ここまで来たのに?」

愛「なんだか、嫌な予感がして……」

亮太「気のせい……というか、考えすぎだよ」

愛「……いいえ、亮太さんは知ってるはずです。私の運の悪さを……」

亮太「入るのが嫌なら、無理強いはしないけど……」

愛「私がいると、みなさんに迷惑がかかりますから……すいません」ペコリ

亮太「でもさ、愛ちゃん達が払った、俺の入場券のお金が無駄になるよ」

愛「……」

亮太「エレナと小麦はお金を稼ぐために頑張って露店を開いてた」

愛「……」

亮太「今、愛ちゃんがヴェガに戻る方が迷惑なんじゃないかな」

愛「…………」


梓「……」

にこ(そこまで思いつめていたのね……)


「すまない、そこをどいてはもらえないだろうか?」

亮太「あ、すいません。道を塞いでて」

「では、失礼する」

スタスタスタ


愛「……」

亮太「楽しもうよ。愛ちゃんが居てくれたほうが、みんなも楽しくなるんだから」


にこ「……」

梓「あ、人がたくさん来ましたよ」


「はるちんがいっちばーん!」

「待て三枝ー! 俺が一番だー!!」

「ははは、真人も三枝も元気一杯だなぁ!!」

「わふぅー!」

タッタッタ


真姫(同い年くらいかしら……小学生くらいの子がいたけど)


「宮沢さんのあのキャラは、とても刺激的ですね」

「……そ、そうだね」

「一番なのはくるがやなのに、アホだな」

スタスタスタ


「ま、まってぇ~」

ツルッ

「きゃぁっ!?」

スッテーン


「だ、大丈夫かこまりちゃん!」


小毬「だ、大丈夫……じゃないよ~、おしりがいたいぃ~」

「だ、誰だ! こんなところにバナナの皮を捨てたのは!」

小毬「ふぇぇ~、どうしてこんなところにぃ~」シクシク


愛「あ、あの……ごめんなさい」

「おまえか!」

小毬「ちょっと、ダメだよ鈴ちゃん、初対面の人にそんな口の利き方しちゃ……!」

鈴「でも、そのせいでこまりちゃんが……」

小毬「私ならだいじょうぶ、だいじょ~ぶ」

鈴「……よかった。……って、食べたらちゃんとゴミ箱に捨てなきゃダメだろ!」メッ

愛「……はい」

亮太「えっと、一応言っておくけど、愛ちゃんはここでバナナを食べてないから」

鈴「ん? 何を言っているんだコイツは」

小毬「り、鈴ちゃん! コイツって言っちゃダメー!」

鈴「そうか、分かったぞ。ここへ来る途中に食べて、わざわざここでバナナの皮を捨てたんだな。
  なんて面倒な捨て方をするヤツなんだ」

愛「…………ごめんなさい」

鈴「こまりちゃんが頭を打ったらどうするんだ!」

小毬「お、落ち着いて鈴ちゃん……!」


亮太「勢いづいてるな……近寄りがたい」

にこ「……友達のために怒ってるのね」

梓「……」


鈴「ネコだって叱ったらちゃんと聞き分けるぞ!」

愛「……」

小毬「り、理樹くぅーん!」


穂乃果「なんだか揉めてるね」

絵里「なにがあったの?」

ことり「よくわからなくて……」

希「静観しているしかなさそうやね」

真姫「本当に、色んな人がいる」

海未「……」



理樹「どうしたの、小毬さん?」

小毬「鈴ちゃんが!」

理樹「……?」


鈴「バナナの皮を踏んで転んだこまりちゃんもオッチョコチョイだけど、
  そのオッチョコチョイで怪我をしたらどうするんだ!」

小毬「オッチョコチョイな私が悪いんだから、問題ないんだよ~」

鈴「違う! あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて! オッチョコチョ――」

理樹「落ち着いて鈴。小毬さんのオッチョコチョイが短所みたいな言い方になってるでしょ」

鈴「そ、そうだな。こまりちゃんのオッチョコチョイはどっちかっていうと長所だ」

小毬「そんなにオッチョコチョイって言わないで~」シクシク


理樹「どうしてこんなところにバナナの皮が?」

亮太「それは謎なんだけど……。
    愛ちゃんは……その子に責められてる子は自分が悪いって思い込んでてね」

理樹「……なるほど。鈴が早合点してるんだね」フムフム


愛「……っ」

鈴「だいたい、バナナの皮は食べられるんだぞ! 食べ物を粗末にするのもメッだ!」

理樹「それは真人が言ってるだけで、……無理をすれば食べられるかもしれないけど、
    一般的な考えとしては食べ物じゃないんだよ」

鈴「なにっ!? あたしはまた真人のバカに騙されたのか!」


にこ(その人に騙されたこの子は……ううん、失礼なことを考えちゃダメよにこ!)

梓「この子、元気ですね」


小毬「どうして、自分が悪い、なんてこと思ったんですか?」

愛「あ……いえ……その」

小毬「ん~?」

愛「……なんでもありません」

小毬「……」

鈴「こまりちゃんもそんな大きな鞄を持つから遅れるんだ。あの筋肉バカにでも持たせればいい」

小毬「でも、これは私の荷物だから。迷惑かけられないよ」

鈴「あたし達は仲間だ。迷惑をかけるのが友情だ」

小毬「鈴ちゃん……」


理樹「前半は同意だけど、後半はちょっと言葉が足りないかな。小毬さん僕が持つよ」

小毬「ありがとう、理樹君」

理樹「と言っても、目的地はすぐそこだけどね」

愛「……」

小毬「あ、待って理樹君」

理樹「……?」

小毬「えっと、……たしかここに」ガサゴソ

鈴「ここでおやつタイムを始めるのか?」

小毬「違うよ~。あった!」


「おーい!」


理樹「あ、真人だ」

真人「さっき、筋肉と呼ばれた気が――」

鈴「うっさいわボケー!」ピョン

ドゲシッ

真人「ふげぇー!」

ゴロゴロ

 ズサーッ


梓「見事なカウンターが入りましたけど……大丈夫なんですか?」

理樹「あぁ……うん、いつものことだから……あはは」

鈴「バナナの皮は食べ物じゃないんだぞ! 
  今日からおまえを『ウホウホゴリラさん』という称号を与えてやる!」

真人「なんだと……!」


―― 真人は『ウホウホゴリラさん』の称号を得た! ――


真人「俺はあそこまでムキムキに見られてるのか……!」

鈴「喜ぶな、これでも食ってろ!」ブンッ

ペチッ

真人「おいっ、これはバナナの皮じゃねえか!
    さすがに落ちていたものを食う気はねえぞ!」

理樹「落ちていなかったら食べるんだ……」


梓「バナナの皮一つでここまで大事になるんですね」

にこ「……」



小毬「はい、どうぞ~」

愛「飴玉……?」

小毬「落ち込んでいるときは、甘いモノを食べて幸せいっぱいになるのです」

愛「……」

小毬「幸せがいっぱいになると、周りの人達も幸せになります」

愛「……!」


理樹「あはは、小毬さんの幸せスパイラル」

にこ「スパイバル?」

梓「スパイラルです。器用に間違えないでください」


小毬「誰かが幸せになると、自分もちょっぴり幸せになるよね。

    あなたが幸せになると、私も幸せ。私も幸せになるとあなたも幸せ。

    ずーっと、ずーっとくりかえして。はい、幸せスパイラル」

愛「…………」


小毬「はい、あなたにも」

にこ「……ありがとう」

小毬「はい、どうぞ~」

亮太「……サンキュ」

小毬「どうぞ、どうぞ」

梓「どうもです」


穂乃果「何を貰っているんだろう?」

絵里「あっという間に賑やかになったわね」

希「そうやね……」

真姫「……」

海未「……」

ことり「あ、凛ちゃんとかよちゃん」



凛「にこちゃーん!」ダキッ

鈴「うにゃ!?」

凛「にゃ!?」

鈴「な、ななな……!」

凛「あ、間違えたにゃ」

鈴「は、離せ……!」ジタバタ

凛「ごめんなさい」

鈴「ふぅ……ふぅ……!」

梓「どうして間違えるの」

凛「またポニーテルにしたのかと~」

にこ「……私はここよ」


希「3人揃って記念撮影しよか」

凛「いえ~い!」

鈴「な、なんであたしが! 助けろ理樹!」

梓「……どうして私まで?」


理樹「まぁ、いいんじゃないかな?」

小毬「鈴ちゃん、笑って笑って~」


鈴「笑えるかー!」

にこ「しょうがないわね」ススッ


希「あ、にこっちは後でね」


にこ「……!」

花陽「に、にこちゃんが拒否された……」


希「はい、チ~ズ」

パシャッ

梓「よく分からないことをしますね、希さん」


鈴「なんなんだこの人達は、変だ!」ササッ

理樹「人見知りの激しい鈴にしては、うまく馴染めていたけどね」

小毬「うんうん、みんな仲良し~♪」


「理樹ー! 鈴さーん! 小毬さーん!」


鈴「クドが呼んでる」

理樹「ほら、いつまでも寝ていないで起きてよ真人」

真人「やっぱり気づいてくれるのは理樹だけだな。おっしゃ! 行くか!」

小毬「それじゃあね~」

愛「あ、あの……!」

小毬「うん?」

愛「ありがとうございます」

小毬「いえいえ~」

スタスタスタ


さとみ「あの人たちは……?」

小麦「どうしたのー?」

亮太「ちょっとした出会いがあって」

エレナ「オー、それはいいですネ~。カメラに映しそこねたヨ」


にこ「……」

希「はい、にこっち。こっち見て」

にこ「ふん……」プイッ

希「あらら……」

絵里「みんな揃ったみたいね。それじゃ入りましょう」

梓「花陽たちはどうして遅れたの?」

花陽「ちょっと、エビフライと天むすを届けてて……」

絵里梓「「 えびふらい? 」」


亮太「行こうか、愛ちゃん」

愛「……はい!」



……



―― 長島スパーランド・ジャンボ海水プール


亮太「夏目も来て欲しかったなぁ……男一人って……」フゥ

「棗……? 君は恭介を知っているのか?」

亮太「えっ!?」ビクッ

「驚かせてすまない。よく知る名前が出たので気になってな」

亮太「あぁ……そうなんだ」

「俺の名前は宮沢謙吾。二年生だ」

亮太「俺は鶴見亮太、三年ね」

謙吾「年上であったか、これは失礼した」

亮太「いいよ。初対面だけど、敬語を使われるよりそっちのほうがお互い楽そうだし」

謙吾「痛み入る」

亮太「……武士か」

謙吾「話は戻るが、棗恭介を知っているのか?」

亮太「いや、知らない。えっと、俺が言ったのは、季節の『夏』に目玉の『目』で夏目ね」

謙吾「なるほど、俺の早合点だったわけか」

亮太「……なんだか、雰囲気がさっきの人たちと似てるなぁ」

謙吾「?」


「宮沢さんが知らない人とフレンドリーです」

「あぁ、これは面白い。記念に写真でも撮っておくか」

「いえ、まだダメです。ぜひ、直枝さんも一緒に、スリーショットを」

「美魚君の感性は相変わらず、私の心をくすぐる」


亮太「……」

謙吾「そこでなにをしている、来ヶ谷、西園」


美魚「見つかってしまいましたか」

唯湖「いや、なに。ちょっとした観察だよ」

謙吾「観察はいいが、初対面の人に失礼がないようにな」

美魚「重々承知しています」

唯湖「心得ている」

亮太「……そのカメラはなんなの」

唯湖「耐水性で、水中でもシャッターが押せるという優れもの。
    手に入れるのに苦労した」フフ

亮太「……プールで使用するってこと?」

唯湖「その発想はなかったな。君の頭は少しばかり色づいているようだ」

亮太「水中でもシャッターがって言ったでしょ!」


「鶴見さんが知らない女性の人とフレンドリーですよ」

「いつもああでしょ、鶴見亮太は」

「そうですネ、いつも女性をナンパしていますヨ」

「えぇ……見損なったよ……亮太君」


亮太「おい」

小麦「あはは、冗談だって」

エレナ「オー、人がいっぱいですネ、カラスの行水ですワ」

梓「水着のレンタルなんてあるんですね」

にこ「似合ってるわよ、梓」

梓「にこさんも似合ってますよ」


唯湖「……」スッ

美魚「ダメですよ、それは犯罪です」

唯湖「つい、な」


謙吾「真人はともかくとして、理樹達が遅いな」

亮太「やっぱり同じグループだったか……」


「わふぅー! 来ヶ谷さーん! 美魚さーん!」


唯湖「見たまえ。笑顔を向けて駆けて来る少女、クドリャフカ君だ」

亮太「……」

唯湖「ヒャッホウ、美女に囲まれてオレは幸せだっぜ!」

亮太「……?」

美魚「男性の心理を読んだだけにすぎません」

亮太「ここにいたら俺はダメだ……!」ササッ

美魚「逃げましたね」


ツルッ

クド「ひゃっ!?」


にこ「あ、転んだ」


「危ないクド公ーッ! 

 ――その時、はるちんは稲妻の早さで駆けつけ、ずばっと両手を差し出した。
    クド公を地面の衝撃から守ろうというのだ!」

スッテーン

クド「わふっ」


「しかし――、差し出された両手は虚しくもクド公の真上に携えられ、
 いたいけな少女を守れなかったのである、無念ッ!」


理樹「いやいや、距離も3メートルほど届いてないからね、葉留佳さん。
    大丈夫、クド?」

クド「びっくりしましたが、大丈夫なのです」


葉留佳「やー、重力には勝てなかったね。なかなかヘヴィな戦いだったよ」ニャハハ

クド「じゅうりょく……、ヘビィ! 三枝さんはとてもユーモラスなのです!」

葉留佳「そうだぞクド公、はるちんはユースラテスなのである!」

クド「わふー!」

理樹「いやいやいや、意味分かんないよ。ユースラテスってなにさ?」

葉留佳「それは私にも分かりません」


にこ「ヘヴィよ」

クド「へ、ヘビィ!」

にこ「ヘヴィ」

クド「ヘビ」

にこ「もうちょっと、『ヴィ』の部分を強調してみなさい」

クド「は、はい、分かりました!」

にこ「ヘヴ――」


「なにしてんのよ」ビシッ


にこ「ィ――!?」

絵里「不意打ちは良くないわよ、真姫」

にこ「痛いわね!」

真姫「変な拘りで人を困らせない」

にこ「む……」

花陽「たくさん人がいる……」

凛「誰かにゃ?」

穂乃果「雰囲気が似てるね」

希「そうやな、さっきの人たちと同じ空気や」

ことり「楽しそう」

エレナ「これで全員揃いましたカ?」

小麦「愛ちゃんとさとみちゃん、海未ちゃんがまだ……。
    あれ、亮太君がいない……?」


唯湖「ほほぅ、これはこれは」

美魚「なんと絵になる光景でしょう。みなさんナイスバデーです」

謙吾「こっちは真人と鈴、神北がまだか……」



「穂乃果ー!」


ことり「梓ちゃんが呼んでるよ」

穂乃果「?」


「ちょっと来て!」


穂乃果「どうしたのー?」

タッタッタ


唯湖「なにかあったのだろうか」

葉留佳「ややや、事件の匂いがしますな。助手の理樹君、行きますぞ!」

理樹「鈴が気になるから行くけど……」

葉留佳「大丈夫さ、助手の私がいれば事件解決、問題なっしんぐ!」

理樹「僕たちは誰の下に付いてるのかな……」

スタスタスタ


亮太「お、人が増えてる……」

ジリジリ

亮太「それにしても夏の日差しが強いなぁ」

小麦「さとみちゃんの水着、とってもすごかったね、エレナ」

エレナ「そうですネ~。キワドイ水着でしたネ!」

亮太「な、なに……さとみちゃんが……?」


絵里(そうだったかな……)


唯湖「ほほぅ、これは期待するしかないな」

美魚「ですね」

亮太「いや、本人を知らないでしょ」

希「にこっち、可愛い水着やね」

にこ「ふん、どうせこのサイズの水着はワンピースしかなかったわよ」

クド「私とお揃いですね、えっと……ふーあーゆー?」

にこ「矢澤に……――にっこにっこにーの矢澤にこでーす♪」

クド「わふぅー!」

真姫「何に驚いてるの……?」


―― 女子更衣室前


葉留佳「ささ、どうぞ中へ」

理樹「いやいやいやいや」

葉留佳「理樹君なら大丈夫だって」

理樹「あのね、ここは学校とは違うんだから。
    って、学校でも更衣室に入ってないからね!」

梓「何を騒いでるの?」

葉留佳「はっ、現場を調査しに来たであります、部課長!」ビシッ

梓「うん……? ノリが穂乃果っぽい……」


「ほら、うみちゃん~!」

「ちょっと、引っ張らないでください穂乃果!」

「恥ずかしくないよ、うみちゃん可愛いよ~?」

「そういうこと言われると恥ずかしいじゃないですか……!」


「ほら、鈴ちゃんも~」

「ま、まってこまりちゃん!」


「ふたりとも似合ってますよ」

「うん、私もそう思うわ」


理樹「あ、出てくる……?」

葉留佳「ちぇー」

理樹「何をがっかりしているのか分からないけど」


真人「理樹……」


理樹「ど、どうしたの真人……?」

真人「俺より筋肉質な人がいたんだ……」

理樹「そう……だからショックを受けて遅くなったんだね。
    夜、寝ている時も筋トレしていたのにね……」

真人「あぁ、俺ぁもうだめだ」トボトボ

理樹「……真人を落ち込ませる人ってどんな人だろう」


「タァラタラリィ~」


理樹「あの人かな……」


鈴「ま、待てはるか!」

葉留佳「もう遅いよ、すでに理樹君は目の前だー! ぎゃぁぁあ!」

鈴「うるさい! 無意味に悲鳴を上げるな!」

小毬「おまたせ、理樹君」

理樹「待ってたわけじゃないんだけどね……。似合ってるよ、鈴」

鈴「!」

理樹「ほら、みんなが待ってるよ」

鈴「う、うっさい! 一人で行け!」ササッ

小毬「あぁ、はるちゃんの後ろに隠れちゃった」

葉留佳「ところがどっこい! はるちんは甘くはないぞ!」ササッ

鈴「――! 動くな!」ササッ

葉留佳「サササッ!」サササッ

鈴「こらー!」サササッ

葉留佳「ササササッ!」ササササッ

鈴「……」

葉留佳「サササササッ……あり?」

鈴「こまりちゃん!」ササッ

小毬「私も甘くないのです!」ササッ

理樹「あ、危な――!」

ゴンッ

小毬「あぅ!」

鈴「だ、大丈夫かこまりちゃん!」

小毬「あたまが痛いぃ~!」ズキズキ

葉留佳「なんでこんなところに看板が……よし、撤去しておこう!」

理樹「ダメだよ! 許可取ってあるよ絶対!」


梓「騒がしい人たち……」

海未「……」

穂乃果「あ、うみちゃんが出てきた」

海未「……はい」

さとみ「知り合いが多いのね」

梓「顔見知りというか、なんというか……」


愛「どうぞ」

小毬「ふぇ? ハンカチ……?」

愛「水で濡らしてきたのでこれを使ってください」

小毬「ありがとう~」

鈴「痛くない?」

小毬「たんこぶができちゃったけど、だいじょ~ぶ」

鈴「そっか……よかった」


―― プール前


鈴「なんか、あたしは慌ててばかりだ」

理樹「町から出ることって、そうそうないからね。新鮮で落ち着かないんだよ」

鈴「理樹は平気そうだ」

理樹「僕だって、ちょっと浮かれてるくらいだけどね」

鈴「……そうなのか」フゥ

理樹「恭介がいないから、不安?」

鈴「ううん、みんながいるから平気だ。だけど、恥ずかしいものは恥ずかしい」モジモジ


穂乃果「そんな遠くから来たんだね」

小毬「そうなの。せっかくの夏休みだから、みんなで~って」


梓「……」

さとみ「どうしたの、ぼーっとして?」

梓「いえ、色んな人と関わっているので、不思議だと思いまして」

さとみ「……そうね、どうしてかしら」

愛「……」

梓「さとみさんはスタイルがいいんですから、もう少し派手な水着でもいいと思います」

さとみ「そ、そう? この水着、似合わないかな?」

愛「そんなことないですよ、似合ってます」

梓「はい」

さとみ「ふふ、ありがと」


小麦「あ、来た来た~」

エレナ「亮太さん、まだ振り返ってはダメですヨ~」

亮太「お、おう……?」


さとみ「?」


唯湖「これはこれは……」

美魚「さすがです」

にこ「ふぅん、いいんじゃない?」


さとみ「ちょっと、みんなして……!」

葉留佳「いやー、ダイタンですなー!」

クド「みなさん、スタイルいいです!」

亮太「ふ、振り返っていいのか……?」

小麦「さとみちゃん、セクシーだから驚かないでね」ウシシ

エレナ「さぁ、ドウゾ~」

亮太「……!」クルッ


さとみ「ど、どうかな……?」


亮太「……あれ、……ワンピ…?」

さとみ「?」

亮太「――!」ハッ


小麦「プクク……今の亮太君の顔……っ」

エレナ「アッハッハ! オマヌケでしたネ!」

亮太「おまえら……!」

さとみ「どうしたの?」

小麦「聞いてよ~、亮太君ったら、さとみちゃんの水――」

亮太「わー!!」ガシッ

小麦「うぐぐっ!?」


海未「ヘッドロック、ですか」

穂乃果「痛そう……」

ことり「……痛そう」

梓「……」


小麦「いたい、痛いよ亮太君!」

亮太「ほら、さっさと入るぞー!」

テッテッテ


ザッブーン


エレナ「先を越されました、ワタクシも~!」

タッタッタ

絵里「走ると危ないわよ!」


ザッブーン


謙吾「ひゃっほーう!」

タッタッタ

鈴「危ないと言ってるだろ!」

真人「俺も謙吾に負けてらんねえぜ! いやっほーう!」

タッタッタ


鈴「人の話を聞けー!」

タッタッタ


小毬「鈴ちゃーん! 走っちゃダメだよー!」

タッタッタ


クド「小毬さんも走っちゃダメなのですー!」

タッタッタ


唯湖「ふむ、中々いい連携じゃないか」

スタスタ

美魚「私はここで荷物番をしています」

理樹「わかった。すぐ戻ってくるようにするからね」

美魚「いえ、お気遣いなく」

葉留佳「……」

理樹「あれ、葉留佳さんは行かないの? てっきり走って行くものだと……」

葉留佳「こういう時こそ、冷静に、だよ。理樹君」

理樹「うん、それは正しいんだけど……葉留佳さんが言うと、ちょっと困るね」アハハ


「さとみちゃんと愛ちゃんも早く~!」


愛「小麦さんが呼んでます」

さとみ「それじゃ、後でね」

絵里「えぇ、後で」


にこ「私達もプールに入りましょ」

凛「よぉーっし、遊ぶにゃ~!」

花陽「ダメだよ、きちんと準備運動しなくちゃ」

絵里「ほら、行くわよ、真姫」

真姫「ここでゆっくりしてるから」

希「そんな言わんと」グイッ

真姫「ちょ、ちょっと!」

穂乃果「よ~し、今日という日を存分に楽しもう~」

ことり「楽しもう~♪」

海未「日焼け止めをちゃんとしなくては……」

スタスタスタ

梓「……どうして、私はここにいるんだろ」ハァ


「どうした、ため息なんか吐いて」


梓「料理長!?」

コック「よぉ」

食堂車店員「私達も一緒だよ」

娯楽車店員「こんにちは」

梓「どうしてけさみさんとしのぶさんも……珍しいですね」

コック「俺は向こうのチェアで寝てるから、何かあったら呼べ」

けさみ「わっかりました!」ビシツ

梓「店員のみなさんも遊びに来たんですね」

けさみ「そうだよ、私達は夕方まで休暇を頂いたの。だから、ここで思いっきり遊ぶ!」

しのぶ「そうで~す」

けさみ「アイドルが多いから、車掌さんも心配みたいで。
     だから、料理長がボディガード役にってね」

梓「なるほど。……それじゃあ、私達と一緒に周りますか?」

しのぶ「ううん、せっかくだけど……私達は私達で勝手に遊んでいるから。
     気にしなくていいよ」

梓「そうですか……」

けさみ「遅いね、ちひろさん」


梓「あ、置いて行かれた」


「梓ー! 早く来なさいよー!」


梓「は、はい!」

テッテッテ


……



―― 第2流水プール


にこ「にーこにこにー♪」

ぷかぷか


にこ「ふぅ~、いい気持ち~」


梓「にこさん、浮き輪で漂わないでください。危ないですよ」


にこ「だいじょうぶよ~、梓が注意してくれるでしょ~?」


梓「なんで責任を押し付けるんですか」


にこ「太陽の光がにこを輝かしてくれるの。月と一緒ね☆」


梓「だから、前を見てください」


にこ「結構冷めてるのね……。あれ、他のみんなは?」


梓「穂乃果たちは、向こうのスライダーです」


にこ「あぁ、4人乗りのボートで降りるやつね」


梓「いろんなスライダーがあるから、全部回ると言ってました」


にこ「はしゃいじゃって、相変わらず子供ね~」


ぷかぷか


梓「絵里さん達は、サーフィンプールで……」


にこ「にーこにこにー♪」


梓「…………聞いてない」


―― にこ・梓の10メートル後方


ぷかぷか

律「夏だぜ! あたしだぜ! けいおん部だぜー!」

澪「うるさい」グイッ

律「ぬおっ!?」ズルッ

ドボン


唯「……はぁ、恋って、こんな気持ちなんだね」

紬「たぶん、違うと思うわ」


ザバァ

律「なにすんだよ!」ポタポタ

澪「はしゃいでいるから、頭を冷やさせたんだ」

律「無防備だったから水を飲んでしまっただろ……、鼻がツーンとする」グスッ

澪「静かにするんだったら、もう一度浮き輪に乗ってもいいぞ」

律「わーい」

澪「ふふ、はしゃいじゃって……しょうがないな、律は」ニヤリ


紬「澪ちゃんの目は……もう一度落とす気でいるみたい」

唯「はぁ……、あずにゃんが、私たちのあずにゃんが、世界のあずにゃんになっちゃった」

律「朝からそればっかだな、唯は……意味も分からん」

ぷかぷか


澪「梓と合流しないのか?」

律「そうしたいところだけど……にこ達も一緒に居るんだよな、むぎ?」

紬「そうよ」

律「恥ずかしいから、嫌だ」

唯「……はぁ、あずにゃん」ボソッ

澪「こっちは重症だな……」

紬「恥ずかしく無いわ、りっちゃん!」

律「あのな、むぎ。あたしたちはつい先日――

  『あたし達が再会することはないかもしれない』

  なんてこと言って感動的にお別れしたんだぞ」

紬「うん……」

律「そしてたった2日しか経っていない今日、再会したらどうなる。
  あの感動はなんだったんだろう、って
  お互い気まずくなるじゃないか」

澪「……たしかに。私も最後だと思ったから、言えたこともあるし」

紬「それじゃあ……このままでいるの?」

律「いいえ、それはダメです。もう少し時間をくださいって話だす」

澪「なんで敬語になったんだ。……まぁ、一緒に遊びたいって気持ちもあるから」

紬「うん……そうよね」


律「梓が気になるけど、まぁ、だいじょうぶだろ~」

澪「楽しそうにしてたからな」

紬「そうよ、楽しそうにしていたのよ、唯ちゃん」

唯「そうだよねぇ……絵里ちゃんに膝枕してもらうくらい仲が良くなっているんだよねぇ」

律「あれはちょっとびっくりしたな」

紬「うふふ、あのライブ以降、にこちゃん達ととっても仲良くなったの」

澪「梓は梓の旅をしているんだぞ、唯。
  だから、いつまでもショックを受けていないで――」


ぶくぶく


澪「沈んだーっ!?」

紬「唯ちゃん!」


律「あはは、なんでだよ」

ぷかぷか


澪「唯ー!」

紬「待ってて、すぐに助けるから!」

ザブン


律「あ、澪ー、あたしを引っ張ってくれないと流されちゃうー」


律「……聞いてねえ」


ぷかぷか

 ジリジリ


律「しかし、あっちぃな……」


ぷかぷか


律「このまま流されてどこへ行こう。
  洗濯をしているお婆さんにでも拾ってもらうか」


律「って、それは桃太郎やないかーい、つって」


律「…………」


ひゅぅぅぅうう


律「さむ……夏なのにっ」


律「みおー! むぎー! 独りにしないでーっ!」


ゴツン


律「うぐっ!?」


「ふぎゃっ!?」


律「いつつ……すいません……――って、やべえ」ズルッ

ドボン


にこ「いたた……」

梓「どうしたんですか?」

にこ「誰かにぶつかったみたい……」ヒリヒリ

梓「頭を打ったんですね……だから言ったのに。……見せてください」

にこ「私はだいじょうぶ。……って、誰もいないわね」

梓「浮き輪が一つ……?」



~~ 水中 ~~


律「ごぼごぼ(早えよ、鉢合わせすんの早えよ!)」


律「ごぼぼ(退却だ)」



―― 水上 ――


にこ「……浮き輪が水の流れに逆らってるわよ」

梓「…………」

にこ「一言謝りたかったんだけど、ちょっと怖いわね」

梓「ですね。水中にいる人は変な人なんですよ、きっと……。早く離れましょう」



~~ 水中 ~~


澪「ごぼごぼ(どうするんだ)」

律「ごぶ(息が苦しい……一度浮上する)」クイクイ

紬「ばがぶぎばがぼげばががばご(生麦、生米、生卵)」

澪「……?(なんで早口言葉?)」


―― 水上 ――


「梓ちゃーん!」


梓「穂乃果……?」

にこ「……どうして水中に潜ったままなのかしら」


「トルネードスライダーに行こうよ~!」


梓「どうします?」

にこ「もうちょっとのんびりしたかったんだけど、しょうがないわね~」



ザバァ

律「ふぅ……、離れてくれて助かった」


ザバァ

紬「あれ、唯ちゃんは……?」

澪「あっち」


唯「あずにゃん三号ちゃ――」

律「やめんかー!」グイッ

唯「ふぉっ!?」


ザブーン


にこ梓「「 ? 」」



~~ 水中 ~~


律「ごぼごぼ!?(なにしてんだよ!?)」

唯「えへへ、つい~」

澪「ごぼ(あれ、唯の声だけクリアに聞こえる)」

紬「あぼばびばびあばばびばびびばびばび(青まきまき赤まきまき黄まきまき)」

律「ごぼっ(言えてねえぞむぎっ!)」


―― 水上 ――


梓「聞いたことのある声……?」


穂乃果「はい、掴まって」

梓「うん」

ギュ

穂乃果「よいしょ――」

にこ「にこも助けてっ」グイッ

穂乃果「にこちゃん!?」

梓「わぁっ!?」


ドボーン


にこ「ごめんなさ~い、
穂乃果ちゃんではにこにーたちを引き上げられないのね☆」


穂乃果「当たり前だよ!」ポタポタ

梓「もう……危ないことしないでください」ポタポタ


海未「ほら、掴まってください」

にこ「にこってば小悪魔だから、てへっ」

ギュ

にこ「よいしょ――」

海未「……」

パッ

にこ「ちょっ!?」


ドボーン


海未「因果応報です」


穂乃果「実践教育だね」

にこ「無防備だったから、鼻がツーンってするぅ」グスッ


ことり「はい、掴まって梓ちゃん」

梓「一人で上がれるから」

ことり「信用されてないっ」




律「……ふむ」

澪「楽しそうだな」

唯「…………」

紬「あずさちゃんはあずさちゃんの旅を……」


穂乃果「さぁ、行くよ!」

ギュッ

梓「ちょ、ちょっと待って」

穂乃果「?」

梓「一度料理長の所に戻ってから」

穂乃果「どして?」

梓「むぎ先輩から連絡が来てるかも」

海未「空いている今のうちに、早く並ばないと」

穂乃果「此処に来るって、連絡はあったんだよね?」

梓「うん……もう来てるかも」

穂乃果「そのうち逢えるよ、行くよ~!」グイッ

梓「穂乃果、危ないから、走らないで!」

テッテッテ


にこ「相変わらず強引ね~」

ことり「……?」クルッ



ぶくぶく

 ぶくぶく



ことり「?」

海未「ことり?」

ことり「なんだか、視線を感じちゃって……」

にこ「きっと私を見てたのよ。
   隠し切れないアイドルオーラに気づかれちゃったにこ☆」

海未「行きましょう。今という時間を大切に、ですよ」

ことり「うん!」


にこ「お願いだから無視しないでっ」


……



―― 料理長サイド


コック「ぐー、ぐー」


亮太「すげえ、料理長の周りだけスペースができてる」


けさみ「料理長って強面だから、恐れられてるんだよね」

しのぶ「後で怒られるわよ~?」

けさみ「寝てるから平気平気~♪」


コック「羽田ぁ……戻ったらみっちり絞ってやるからなぁ」


けさみ「え?」

コック「ぐー、ぐー」

けさみ「ね、寝言だよね……いまの?」

亮太「……気合入れておいたほうがいいんじゃないかな」


しのぶ「あれ……あの人がいない……」

亮太「あの人って?」

しのぶ「売店車の店員よ」

亮太「ちひろさんも来てたんだ」


ちひろ「ぐすっ」

真姫「ほら、泣かない」

ちひろ「うん……ぐすっ」


しのぶ「あら、真姫さんのお世話になって……」

亮太「西木野さんが見つけたんだ。運がよかったな」

真姫「おかげで絵里たちとはぐれたわ……。あれ? 娯楽車と……食堂車の……?」

けさみ「私たちも遊びに来ちゃった」

コック「ぐー、ぐー」

真姫「料理長まで……」

ちひろ「しのぶちゃ~んっ」ダキッ

しのぶ「ちゃんと付いてきてって言ったでしょ」ヨシヨシ

ちひろ「ふぇ~ん」


真姫「ちひろちゃんって、見た目幼いけど……、一体いくつなのよ」

亮太「20代前半、だと思うんだけど……」


「あーっ、こんなとこに居たー!」


亮太「見つかったか」

小麦「なんであたし達を置いていくのー!?」

亮太「お前たちの勢いに付いて行けねえよ!」

エレナ「貧弱軟弱ですワ~」


愛「ふぅ……私もここで休ませてもらいます……」

亮太「ほら見ろ」

小麦「ダメだよ愛ちゃん、もっと回らなきゃ~」

エレナ「次は~、ビッグワンスライダーですワ、小麦!」

小麦「あ、いいね~! あたしも行きたいと思ってたんだ~!」

愛「わ、私はパスさせてもらいます」

小麦「えぇ~?」

亮太「しょうがない……俺が行ってやるから」

小麦「何いってんの、亮太くんが来るのは当たり前だよ」

亮太「へいへい。……その前に、なんか食べたいな。腹減った」

小麦「亮太くんが奢ってくれるって、なにが食べたいエレナ?」

エレナ「やはり、焼きそばを食してみたいネ」

小麦「さんせ~い!」

亮太「よーし、ビッグワンだな! 行くぞー!」グイッ

小麦「あ、ちょっと!」

エレナ「たこ焼きも追加で、お願いしますネ」

亮太「聞こえない聞こえない!」

スタスタ


真姫「……」


さとみ「私も休ませてもらおうかな」

愛「はい……ここ、どうぞ」

真姫「ねぇ、あの人……なんだか様子がおかしいわよね?」

さとみ「あの人って?」

真姫「鶴見亮太よ」

さとみ「……普通、じゃないのかな」

愛「楽しそうに見えますけど……」

真姫「ふぅん……じゃあ、気のせいね」

さとみ「どうして、そう思うの?」

真姫「昨日の夜もそうだけど、なんていうか……テンションが無駄に高いっていうか」

さとみ「楽しいから……じゃないの?」

真姫「普段のあの人を知らないから、ちゃんとは言えないんだけど」

さとみ「うん……」

真姫「いつも、何があっても冷静っていうか……、静かに物事を見てる感じなのよ」

愛「……」

真姫「だから、あんな風にテンションを上げてるの見ると、違和感がある」

さとみ「亮太くんのこと、よく知ってるのね」

真姫「言ったでしょ、普段を知らないって。だから気のせいなのよ」


さとみ「始発から一緒だったわよね」

真姫「そうよ」

さとみ「その違和感が気になるの?」

真姫「まぁね。……いつも、あの人が感情を出す時って、必ずナニカがある時だったから」

さとみ「ナニカ……?」

愛「…………」


けさみ「ねぇ、みんなでビーチボールで遊ぼうよ」

真姫「周りに迷惑」

けさみ「ところが、料理長の影響でココらへんに人は寄り付かなくて~」

真姫「後で怒られるわよ。私はパス」

けさみ「せっかくなんだから、付き合ってよー」

ちひろ「遊ぼう~!」


真姫「……ハァ、どこ行っても落ち着かないわね」


「あーっ、こんなとこに居たにゃー!」


真姫「う……」

凛「なんで休んでるの、真姫ちゃん!」

真姫「たまには休息も必要でしょ」

凛「せっかくだから、色んなとこ回るにゃ~!」

花陽「わたしも休憩……」

凛「かよちんもダメ! 次はトルネードスライダーに行くのー!」

真姫「勝手に行って来なさいよ……」


絵里「ヴェガの店員さんも来てたのね」

さとみ「休暇を貰ったんだって」

希「おかげでゆっくりできるね」


...テッテッテ

梓「えっと……ケータイは……」


希「おぉ、にこっちも戻ってきたんやね」

梓「……」

ピッピッピ

梓「あ、やっぱりもう入ってるんだ……むぎ先輩」

希「梓ちゃん、無視せんといて~」ダキッ

梓「むぎゅう」


穂乃果「楽しかったね、台風滑り台!」

海未「わざわざ翻訳しないでください」

ことり「トルネードは竜巻だよ」


凛「行こう、かよちん、真姫ちゃん!」グイッ

真姫「ちょっと、凛!」

花陽「凛ちゃんっ」

タッタッタ


穂乃果「3人と入れ替えになっちゃったね」

ことり「私たちも少し、休もう?」

海未「そうですね。ちょっと目が回ってしまいました」


梓「離してくださいっ」ジタバタ

希「油断してるからや、しばらく大人しくしとかんと~」

にこ「よく飽きないわね、あんたも……」

梓「にこさんっ、助けてくださいっ」ジタバタ

にこ「暴れるから離さないのよ? あんたも学習しなさい」

梓「にこさんだけが頼りなんです」

にこ「やめなさい、希」

希「そうやな、嫌われる前にやめとこ」


絵里「なんだか、頼られているっていうより、
    利用されてるような気がしないでもないわね」

さとみ「ふふ」


……



穂乃果「そーれ、にこちゃん」

ポ-ン


にこ「ラヴにこアタックⅡ!」バシッ


梓「……」サッ


テンテンテン...


ことり「華麗に避けたね」


梓「どうして攻撃的なんですか」ヒョイ

にこ「避けないで受け止めて、この真夏の太陽のような情熱を――」

梓「はいっ、絵里さん」

ポーン


にこ「……」


絵里「さとみさん」

ポーン


さとみ「希さんっ」

ポーン


希「ほーい」

ポーン


にこ「じぃー」


海未「……視線を感じますね」

ポーン


ことり「じゃあ、にこちゃん」

ポーン


にこ「よーし、今度こそぉ……ラヴにこアタ――」

サッ

穂乃果「阻止っ!」

ポーン


にこ「ちょっと!?」


梓「さとみさん」

ポーン


さとみ「そろそろ、周りの目が気になってきたんだけど……」

ポーン


海未「そうですね。ビーチボールで遊ぶのはいかがなものかと」

ポーン


絵里「でも、人は増えてないみたいなのよね」

ポーン


希「もうちょっと続けても、平気やと思うよ」

ポーン


にこ「じぃぃー」


ことり「……」

ポーン


穂乃果「……」

ポーン


さとみ「……」

ポーン


にこ「あーぁ、にこ、退屈だなぁ」


海未「……」

ポーン


絵里「結構続くわね」

ポーン


梓「これもチームワークですね。乱す人がいませんから」

ポーン


にこ「た い く つ だ なぁ」


希「お、凛ちゃん達も戻ってきたようやね」

ポーン


穂乃果「凛ちゃーん!」

ポーン


凛「にゃー!」

ポーン


絵里「上手く返せたわね」

ポーン


梓「反射神経、いいんですね――」


サッ

にこ「阻止ッ!」


スカッ


梓「――みなさん」

ポーン


花陽「え、えっと……よいしょっ」

ポーン


ことり「……」

ポーン


海未「ことり、気にしないことです」

ポーン


真姫「なに、罰ゲームなの?」

ポーン


穂乃果「だって、にこちゃんってば攻撃ばっかりするんだもん」

ポーン


にこ「……」


凛「だから、一人だけボールが回っていかないんだね」

ポーン


さとみ「ちょっと、良心が痛むかな……」

ポーン


にこ「はぁ……ヴェガに戻ろうかなぁ……」チラ



絵里「……」

ポーン


希「にこっちに甘いなぁ、エリちは」


にこ「キュートな演技に引っかかったわね! まずは穂乃果からよ!」バシッ

シュッ

穂乃果「わっ」

バシン

穂乃果「うぎゅっ!?」


テンテンテン......


真姫「なるほどね、だからにこちゃんにだけ回さなかったのね」

凛「次はもうないにゃ」

花陽「にこちゃん……」

にこ「フフ、次は真姫ちゃんよぉ……」

真姫「はぁ?」

にこ「誰のせいで見たくもない名古屋城に行くことになったと思ってるのよ」

真姫「にこちゃんも楽しんでたでしょ」

にこ「過去を美化しないで」

梓「にこさん、早くボールを取りに行ってください。
   みなさん呆れて、誰も動かないですよ」

にこ「ふーんだ」ツーン

希「しょうがないなぁ」

穂乃果「うぅ……鼻が……鼻ぎゃ……」ヒリヒリ

海未「穂乃果も悪いのですよ、失礼なこと言うから……」

穂乃果「梓ちゃんと大して変わらないって言っただけだよ?」

ことり「それがストレスになったみたい」

にこ「どうせ私は、絵里や希、さとみと同い年なのに、幼いですよーだ」

絵里「拗ねてしまったわね」

梓「だからって、なんで私も攻撃対象になるんですか」

にこ「いつも冷めてるからよ」

梓「なんですか、その理由は」


―― にこたちの10メートル先


...テンテンテン


男「へっへっへ、ラッキー」ヒョイ

男2「チャンスだな」

男3「話しかけるきっかけができたぜ」


亮太「ありがとうございます」


男「ん?」

亮太「ビーチボールを拾ってくださり、真に感謝致します」ペコリ

男2「なんだお前?」

亮太「私、お嬢様の執事見習いをしている者でございます」

男3「お嬢様……?」

亮太「それでは、ごきげんよう」

男「待てよ」

亮太「はい?」

男「そのお嬢様を紹介してくれよ」ヘッヘッヘ

亮太「……お嬢様と、御友人になりたいということでしょうか」

男3「そういうことだ」ヘッヘッヘ

亮太「かしこまりました。
    旦那様に確認を取ってまいりますので、少々お待ちください」

スタスタスタ


男2「旦那様ァ?」


―― スクールアイドルサイド


絵里「それしか方法はないの?」

穂乃果「だって、にこちゃんのご機嫌をとるにはそれしか思いつかないんだもん」

海未「そもそも、なぜにこは機嫌が悪くなったのですか」

ことり「名古屋城が原因かな?」

真姫「1人で地下街に行かせるわけにはいかないでしょ」

希「それはそうやけど」



亮太「あの6人はどうしたの?」

にこ「さぁね」ムスッ

亮太「機嫌が悪い?」

梓「そうみたいです。それより、あの男の人たちはなんなんですか?」

亮太「場所を聞かれただけだよ。はい、ボール」

梓「どうもです。……どうしてそんなに丁寧に渡すんですか」



―― ナンパサイド


男「あの子か、お嬢様は」

男2「っぽいな。丁寧に渡してるし」

男3「同じ髪型の子がもう一人いるな」

男「顔は似てないけど、姉妹なのか……?」

男2「それは違うだろ」

男3「ばっか。名家には色々と複雑な事情があるんだよ」



―― 料理長サイド


亮太「えっと……」ガサゴソ

コック「なにしてんだ?」

亮太「パンフレットを探しているんです」

コック「そうか。……たまにはのんびり過ごすのも悪くないな」

亮太「まだ休憩していられるんですか?」

コック「あぁ」

亮太「……ふぅ」

コック「……どうした、膝なんかついて」

亮太「ちょっと、お腹が空いて……」

コック「さっき、なにか食べに行くと言っていたが、なにも口にしていないのか」

亮太「う……、寝ていたはずでは……」


―― 軟派サイド


男「おい……、旦那って人に跪いてるぞ……」

男2「怒られてんのか……?」

男3「雲行き怪しくね?」



―― 料理長サイド


コック「水中での運動はカロリー消費が激しいんだ、栄養の補給は怠るな」

亮太「はい……すいません」


凛「なんで怒られてるのかにゃ?」

にこ「食事を軽く見るからよ。
    私たちだってダイエットをするにしても無理な食事制限はしないでしょ」

花陽「そうだよね、ちゃんと食べないと」


コック「おまえより、この子達のほうが食事に対してしっかりしているな」

亮太「……はい」

凛「買ってきたポテト、少し分けてあげる」

亮太「……ありがとうございます」

凛「? どうしてそこまで丁寧なの?」

梓「とても嬉しいんだと思う」

亮太「……おいしいです、嬉しいです」



―― 軟派サイド


男「あの執事見習い、すげえ姿勢低くねえか」

男2「由緒正しき家系なだろうな……やべっ」

男3「大丈夫か、俺ら……」


―― 料理長サイド


コック「む……? 羽田たちの姿が見えないな」

亮太「流水プールに行きました」

コック「そうか……楽しんでるならそれでいい」


亮太「さてと」スクッ

にこ「パンフレット持ってどこ行くのよ?」

亮太「道を聞かれたから、教えに行くんだよ」

にこ「案内所を教えればいいでしょ、
   そこまでお人好しだといつか痛い目見るわよ」

亮太「そんなことない! 悪い人ばかりじゃないよ!」

にこ「ふん、どうだかね」

花陽「そうだよにこちゃん! 面識が全くない人を助ける人だっているんだから!」

にこ「な、なによ」

花陽「先の見えない状況でも、誰かのために一生懸命になって行動を起こしてくれる人だっているんだから!」

梓「やけに真実味を帯びている……」

にこ「そ、そうね……私は、アイドルとして失ってはいけないものを手放すところだったわ。
    ありがと、花陽」

花陽「わたしも、いつかは助けてくれた人がしてくれたように、
    誰かのために何かしたいって思うの」

にこ「大丈夫よ、花陽! 私たちはアイドルという役目があるの!
    誰かの笑顔のために、私たちは活動しているのよ!」

花陽「にこちゃん!」


凛「ポテトおいしいにゃ」モグモグ

梓「うん、おいしい」モグモグ


穂乃果「梓ちゃん! こっちに来て~!」




―― 亮太サイド


亮太「思いのほかいい話になったな……」



男「……戻ってきたぞ」



亮太「お待たせいたしました」

男2「それで……、ど、どうだったんだよ」

亮太「旦那様がお話をなさりたいそうです」

男3「……はぁっ!?」


―― 店員サイド


ちひろ「亮太さん、どうしちゃったんですか?」

けさみ「さぁ、よくわからないけど、相手の人たち驚いてるね」

しのぶ「ほら、帽子をちゃんとかぶって」

ちひろ「えへへ、ありがとう」


コック「なにしてんだアイツ……絡まれてんじゃないだろうな」

にこ「絡まれてるとしたら……頼りになるのは料理長くらいのもんよね」


―― ナンパサイド


男3「やっべっ、めっちゃ見られてんぞ!?」

男2「ど、どうすんだよ!」

男「慌てるな、お近づきになれるチャンスだぞ、二度と無いかもしれないんだぞ!」

男2.3「「 そ、そうだな…… 」」ゴクリ

亮太「つきましては、少し離れた埠頭にてお待ちしておりますので」


男1.2.3「「「 埠頭!? 」」」



―― スクールアイドルサイド


穂乃果「鶴見さん、どうしたの?」

梓「道を教えているみたい」

絵里「相手の人たち、驚いてるみたいで……」

海未「違和感ですね」

ことり「大丈夫なのかな……」

凛「もぐもぐ」

花陽「し、心配だね……」

梓「大丈夫。料理長もいるから」


一同「「「 そうだね 」」」


真姫「あの人、自分から揉め事に足を踏み入れるのよね……」

さとみ「……」


―― 亮太サイド


男「もういいわ、俺ら行くから……じゃあな」

亮太「はい、それではまた、なにかありましたら――」


男2.3「「 ねえよ! 」」


スタスタスタ


亮太「……まぁ、あのガタイの料理長に呼び出されたら引き下がるしか無いよな」


「感動した!」


亮太「っ!?」ビクッ

「俺はモーレツに感動したぞ!」ウルウル

亮太「な、なに……?」

「中々の頭脳プレーじゃないか、お嬢様を少しでも遊ばせたいという心遣い……。
 付き人として最善策を取ったのを俺は知っている!」

亮太「……」

「例え、キミの行動が今は俺一人だけが理解していたとしても、いつの日か、いつの日か必ず!
 現れるであろう、キミの良き理解者がッ!」

亮太「この雰囲気はまさか……――リキ?」

「なに、理樹を知っているのか?」

亮太「やっぱりか」

「なんという偶然……」


真姫「ねぇ、ちょっと」


亮太「?」

「む?」


真姫「今度はどうしたのよ」


亮太「俺にもよくわからなくて……」

「ほほぅ」ニヤリ

亮太「な、なに?」

「ふふ、皆まで言うな」

亮太「なにも言ってないんだけど」

「どっちか、だな」

亮太「……?」


さとみ「どうしたの……?」

真姫「また変な人に絡まれてるみたい」


「理樹の知り合いというならば、俺は陰ながら応援させてもらうとしよう」

亮太「まずい、話がひとり歩きしてる……」


「こんなところに居ましたのね、棗さん」

「……?」

「油を売っていないで、さっさと理樹を探しますわよ」

「分かった。それじゃあな、検討を祈る」

スタスタスタ


亮太「なにを祈られたんだ……」


―― スクールアイドルサイド


絵里「ほら、にこ」ポーン

にこ「……」ポーン

花陽「にこちゃんっ」ポーン

にこ「なによ、私にボールを集めてどういうつもり?」ポーン

希「みんな、にこっちのことが好きなんやって」ポーン

にこ「ふん……」ポーン

穂乃果「ね、笑ってよ~、にこちゃ~ん」

にこ「フッ」

穂乃果「鼻で笑えとは言ってないよ!」

ことり「にこちゃんかわいい~♪」ポーン

にこ「そんなこと言われて機嫌を直す私じゃないわよ」ポーン

穂乃果「にーこちゃん♪」ポーン

にこ「……」ポーン

凛「水着姿が似合っててとても可愛いにゃ~」ポーン


亮太「みんな、ヨイショしすぎでしょ。逆に怪しまれるって」


にこ「にこー♪」ポーン 


亮太「……俺が間違ってた」

さとみ「今度は仲良くやってるのね」


梓「……いつまで続けるんですか、これ」ポーン

穂乃果「だ、駄目だよ梓ちゃん!
     にこちゃんの機嫌を取ろう作戦まだ続行中なんだから!」ポーン

にこ「ふぅん、なるほどね……ご機嫌取りだったわけね!」

凛「バレちゃったにゃ」

海未「シュート」バシッ

穂乃果「へぶっ」


にこ「もういい、これから別行動ね。梓、行くわよ」

スタスタ

梓「どうして私なんですか」

テッテッテ


花陽「ちゃんと付いて行くんだね」

絵里「ふぅ……作戦失敗ね」

海未「なぜ立案者が作戦を明かすのですか」

穂乃果「つ、つい……」


希「……」

絵里「どうしたの、希……?」

希「今のにこっち、おかしない?」

絵里「……そうね、機嫌が悪いというか、イライラしているというか」

希「なにかあったんやろか……」

絵里「少し、時間を置いたら冷めるわよ」

希「うーん……、ちょっと、様子を見てくるね」


絵里「……」



海未「真姫は一緒に名古屋城へ行ったのですよね」

真姫「……そうだけど」

海未「なにかありましたか?」

真姫「…………」

絵里「きしめんを食べたがっていたけど、ちゃんとにこの希望を聞き入れたの?」

真姫「ううん、まだ食べてない……」

凛「それにゃ!」

花陽「お昼ごはんにきしめんを食べたら、機嫌直してくれるよね」

穂乃果「食べ物で機嫌を直してくれるにこちゃんじゃないような……」

ことり「……きしめん、そんなに食べたかったんだね」


―― 抽選会場


梓「きしめん、食べてこなかったんですか?」

にこ「讃岐うどんだって言ったでしょっ! 間違えないでっ!」

梓「……すいません」

にこ「別に、謝ることじゃないけど……」

梓「なんだか、機嫌が悪いみたいですから……」

にこ「まぁ、その……思ったとおりに行かないから、フラストレーションが溜まってたのはあるけど」

梓「……」

にこ「そんなのいつものことだから。……ほら、並ぶわよ」

スタスタ

梓「……なんの抽選ですか?」

テッテッテ


にこ「入場する時に渡されたのよ。団体様向けだから、10人分になるわ」

梓「10人分?」

にこ「特賞は、今夜泊まるホテルの豪華ディナーの招待券ね」

梓「10人目って、誰なんですか?」

にこ「あんたよ、梓」

梓「あ、いえ……夜はヴェガに戻りますから」

にこ「むぎから、本当になにも聞いてないのね」

梓「?」

にこ「……」

梓「むぎ先輩がなんですか?」

にこ「……退屈、よね」

梓「え?」

にこ「むぎと一緒じゃないから……私たちと一緒で」

梓「退屈なんて、してる暇無いです」

にこ「……」

梓「穂乃果が、律先輩や唯先輩のように……振り回しますから」

にこ「……そう」

梓「……――寂しさは感じますけど」

にこ「…………」



「あ―にゃ―――」


「やめ――ッ!!」



梓「?」クルッ

にこ「どうしたの?」

梓「聞き慣れた声が聞こえたような……?」


にこ「なに? 寂しいからって幻聴まで聞こえたの?」

梓「違います!」

にこ「まぁ、ある意味ホームシックよね」

梓「意味が分かりません。……にこさん、むぎ先輩がなにをしてるのか知っているんですか?」

にこ「さぁね。『今日一日、梓と一緒に居て欲しい』って言われただけだから」

梓「それだけで……?」

にこ「何か用事があるんでしょ」

梓「その用事って……」

にこ「私は知らないわよ。……あと、もう少しで引けるわね」


希「……」ススッ


梓「むしろ、私が邪魔なんじゃないですか?」

にこ「邪魔……?」

梓「9人で遊びたかったのではないかと思って」

にこ「さとみと愛も一緒に居るでしょ。なんで荷物になるのよ」

梓「……」

にこ「あんた、見かけによらず面倒な性格してるわね」

梓「は、初めて言われました」

にこ「そうねぇ、普段の生活の中で……、例えば、音ノ木坂学院に梓が居たとするわよ」

梓「……?」

にこ「それだと、相手を不快にさせないようにって、気を遣ったりしてたかもしれないけど」

梓「……」

にこ「今は違うから。普段の生活の外にいるから、気兼ね無く接することができるのよ」

梓「……」

にこ「それが迷惑だと思われたら――」

梓「いえ、私は迷惑なんて思っていません」

にこ「……そう」


希「……」


梓「私がにこさん達の学校へ通っていたら、遠慮したんですか?」

にこ「多少はね」

梓「……そうですか」

にこ「これでもアイドルだから、遠慮なんてしていられないけど」

梓「面白いですね、にこさんって」

にこ「はぁ?」

梓「お、お笑いみたいな面白さじゃなくて、人として魅力があるってことですっ」アセアセ

にこ「ならいいけど。って、アイドルとしても魅力溢れてるでしょ」

梓「そうですね」

にこ「声に抑揚がないわよ!」


梓「もう少し……次の、次ですね」

にこ「あんたこそ、私たちと一緒でよかったの?」

梓「……もちろん、むぎ先輩が居たら、それがいいに決まってます」

にこ「……」

梓「でも、こっちで……振り回されてるのも嫌いじゃないです」

にこ「嫌いじゃない、ね」

梓「むぎ先輩が合流すればもっと楽しくなるという意味です」

にこ「その気持ちは分かるわ。
    逆に私が、放課後ティータイムと一緒に居たら……
    楽しいとは思えるけど、物足りなさは感じていたでしょうね」

梓「そうですよね」

にこ「……次ね、いよいよだわ」

梓「私はむぎ先輩と一緒に旅をしてるから、パートナーはむぎ先輩ってなりますけど」

にこ「?」

梓「にこさんのパートナーは誰なんですか?」

にこ「誰って……」

梓「真姫?」

にこ「違うわ! 絶対に違うッ!」

梓「即否定ですか」





―― 休憩所サイド


真姫「くしゅっ」

絵里「寒い?」

真姫「ううん、そうじゃなくて」

海未「誰かが噂を――……にこですね」

凛「そうに違いない」キリッ

真姫「なによそれ」


―― 抽選会場


にこ「本当のパートナーだったら相手の希望を聞き入れるでしょッ!」

梓「……」

にこ「自分だけ楽しんで……! 私はあんたの付き人じゃないってのよ!!」

梓「……触れてはいけない話題だったみたい」


希(フラストレーションの原因はやっぱり真姫ちゃんだったんやね)


店員「さぁ、次の方どうぞ~」


にこ「絶対……絶対に仕返ししてやるんだから……!」フルフル

梓「復讐は何も生み出しませんよ。
  そんな気持ちでは特賞も引けなくなってしまいます」

にこ「そ、そうね。アイドルらしく、朝の湖のような清い心でいないと……ふぅ」


希「……」


にこ「はい、これで」

店員「10名様ですね。それでは、どうぞ~!」


にこ「……よし、特賞はまだ出ていないわね」

ガシッ

にこ「フフフ、真姫だけコンビニのおにぎりにしてもいいわね……塩味とか」フフフ


梓「……濁った」


希「ちょい待ち」

トントン


にこ「うるさいわね、一世一代の復讐劇を邪魔――……希っ!?」

希「にこっちはアイドルなんよ?」

にこ「あ、アイドルの前に旅人でもあるの!」

希「そんなに食べたかったん?」

にこ「当然でしょ!
    その土地の名産を食べることで旅をしていると実感できるんだから!」


梓「この雰囲気はもう、参加賞のハンカチーフだ……」


希「まるで玄人みたいやな」

にこ「雑誌に書かれてたのよ」


梓「はやく引かないと……後ろが――」


「はやくしろー!」


梓「……?」クルッ


バシッ

「あうちっ」

「バレるだろっ」



梓「聞いたことある声……」


希「ほら、前を向いて」

にこ「なによ?」


希「うちのスピリチュアルパワーをにこっちに注入~」


プシュー


にこ「――!」


梓「なにをしているんですか?」

希「特賞を引けるよう、幸運の力を分けているんよ」

梓「……」


にこ「な、なんだか力が……!」

店員「よろしいですか?」

にこ「待たせたわね」

店員「……この圧倒的自信ッ! 
   今までいろんなお客様を見てきたけど、なにかを起こす方と同等の空気を纏っているッ」


にこ「さぁ、行くわよ!」


ガシッ


希「にこっち、ファイトー!」

梓「頑張ってください!」


にこ「そりゃっ!」


グルグル


店員「ごくり……ッ」


ポロッ

カランカランカラン...


店員「あッ!?」


にこ「なんか色が違う!」

梓「本当です!」ワクワク


希「あれ、でも……賞の一覧にその色は無い?」


にこ「なに、これ?」


店員「と、特賞は二つ用意してあるんですッ!
    しかしッ、この賞は一つだけッ」

にこ「?」

梓「特賞が二つ……?」

希「より希少価値があるっていうことやんな」

店員「おっと、鐘を鳴らさないと!」


カラン カラーン

 カランカラーン


店員「おめでとうございまーす!」


にこ「だ、だからなんなのよこれ!?」



……





―― 絵里サイド


絵里「居ないわね、紬さん……」

穂乃果「うーん、ヴェガの乗客と一緒じゃないってことは、一人で来たってことだよね?」

絵里「えぇ、後で合流するって話は聞いてるから……」

花陽「放送で呼び出すのはどうかな?」

穂乃果「迷子みたいで、迷惑じゃないかな」

絵里「そうね……」


―― 休憩所サイド


ことり「にっこにっこにー♪」

真姫「……」

凛「ほら、ちゃんと言わないと」

ことり「真姫ちゃん、どうしたにこー?」

真姫「……無理よ。ことりはにこちゃんとは全然違うんだから」

凛「練習だからそんなこと気にしちゃダメだよ」

ことり「一緒にきしめんを食べるにこー♪」

真姫「……それ、私の台詞でしょ」

ことり「間違えちゃったにこ♪」


海未「ことりが楽しそうなのは気のせいでしょうか」


真姫「い、一緒に……その……きしめんを」

ことり「もちろん行くにこ♪」

凛「ことりちゃん! あっさり受けたら練習にならないにゃ!」

ことり「あ、そうだね。……えっと……うーん、どうしよっかなぁ?
    にこ、ダイエット中だからなぁ♪」

真姫「食べたがっていたでしょ」

ことり「行くにこ♪」

凛「にこちゃんは一筋縄ではいかないから、
  もうちょっとバリエーションを増やしたほうがいいよー」

ことり「えっと……、真姫ちゃんとは行かないよ!」プイッ

真姫「私も一緒にダイエットするから、気にしないでいいのよ」

ことり「本当?」

真姫「……うん」

ことり「じゃあ大丈夫だね、行くにこ♪」


海未「練習になりませんね……」

凛「もうダメにゃ……にこちゃんの機嫌は直せないにゃぁ」


―― にこサイド


にこ「何が特賞の中の特賞よ……、要らないわよこんなの!」ブンッ

希「あ……」

梓「な、投げた!?」


シュー


サクッ


「いでぇ!?」


にこ「あ……!」


真人「な、なんだっ、何か刺さったぞ!?」

理樹「だ、大丈夫、真人!?」


にこ「ご、ごめんなさい!」


真人「へへっ、こんなこともあろうかと、筋肉を鍛えておいてよかったぜ!」

ムキッ


理樹「見ての通り、平気みたいです」

にこ「よ、よかった……」ホッ

小毬「ところで、これはなにかな?」

クド「たわし、ですね」

謙吾「タワシが真人の背中に刺さったのか……傑作だな」

唯湖「亀の甲羅の部分がタワシになっているようだ」

美魚「奇想天外なデザインですね」

にこ「有名デザイナーが作った、世界に一つしか無いタワシなんだって」

クド「わふー!」キラキラ

にこ「お詫びと言ってはなんだけど、よければあげる」

クド「本当にいいのですかー!?」ワクワク

にこ「くじ引きで貰ったのだから、遠慮しないでいいわよ」

葉留佳「カメ……っ、亀だよ鈴ちゃんッ!」

鈴「普通の亀だな」

理樹「いやいや、普通じゃないよ、だいぶ珍しいよ」

葉留佳「私は、亀を見ると無性に昔を懐かしむ習性があるんだよ! 
     昔話にも登場したんだよ!」

理樹「それは初耳だね……」


にこ「これで問題はないわ」

梓「要らないものを譲った……」

希「……」


クド「亀の昔話といえば、浦島太郎です!」

葉留佳「そう、助けた亀に連れられて竜宮城へ行った、そのお話だよ!」

小毬「はるちゃん、浦島太郎さんだったの?」

葉留佳「えいっ、えいっ、このこの!」

ビシビシッ

葉留佳「この亀ッ! この亀ッ!」

ビシビシッ

真人「なにするんだ三枝ー!?」

謙吾「貰ったものは大切にするんだ!」

理樹「いじめる方だったんだね」



……




凛「あ、にこちゃん達が戻ってきたよ」


希「エリち達は?」

ことり「むぎちゃんを探しに行ったにこ♪」

にこ「っ!?」

海未「ことり、もういいのです。にこが驚いてますよ」

梓「連れてきてくれるのを待ちますか」

希「そうやね」


真姫「……」

凛「ほら、真姫ちゃん」ツンツン

真姫「わ、わかってるわよ……」



ことり「にこちゃん、大事な話があるの」

にこ「なによ」

ことり「私じゃなくて、真姫ちゃんが」

にこ「話ぃ?」ジロ

真姫「……な、なによその目は」

にこ「べぇつぅにぃ?」

真姫「む……」

凛「『む……』じゃなくて、歩み寄るのっ」

真姫「もう……わかったわよ」

にこ「わがままお姫様、真姫ちゃんが
   庶民派アイドル、にこにーになんのようですかぁ?」

真姫「…………意味わかんない」


梓「機嫌悪いですよね」

希「そやね」

海未「態度も悪いですね」

ことり「一触即発の事態……」

凛「……」


にこ「エレベーターを使わず最上階まで階段で昇った真姫ちゃんが、
   大変な思いをして付き合ったにこにーに何のようですかぁ?」

真姫「……っ」


梓「最上階?」

海未「おそらく、名古屋城での話でしょう」

ことり「にこちゃん……付き合ったんだね」

希「……」


凛「真姫ちゃんっ、当たって砕けるにゃ!」

ドンッ


真姫「ちょっと、凛っ!」

トットット


にこ「な、なによ……近いわよ」

真姫「り、凛が押したから……」


にこ「そ、それで?」

真姫「えっと……その……ね」

にこ「……」

真姫「あの……えっと……っ」

にこ「…………」


真姫「きしめん、食べに行かない?」

にこ「……は?」


梓「あぁ……」

希「どうしたん?」

梓「讃岐うどんなのに……」

凛「同じ麺類にゃ」

梓「こだわりがあるみたい」


真姫「食べたがっていたでしょ、付き合ってあげるから……」

にこ「…………」


海未「に…にこの表情が消えていきます……!」

ことり「あわわっ」


真姫「ど、どうしたの?」

にこ「勝手に食べてきなさいよ」

真姫「……え?」

にこ「近くにジャコスがあるから、そこで食べて来ればいいでしょ!」

真姫「な、なによそれぇ! 『地元のお店がいいのよ』って言ってたじゃない!」

にこ「あんたなんか全国チェーン店のテナントで充分よ!」

真姫「それだとにこちゃんが満足できないでしょ!」

にこ「知らないわよ、バカ!」

真姫「ば、バカって……!」


にこ「行くわよ、梓! プールはもうお終い!」

タッタッタ


梓「ま、待ってください! むぎ先輩がまだっ!」

テッテッテ


真姫「もういい……」

ことり「真姫ちゃん……」

真姫「なんで私が恋する相手に勇気を振り絞るような雰囲気出さなくちゃいけないのよ……!」


穂乃果「なんか物語性を感じるね」

花陽「二人言い争ってたみたいだけど……なにがあったの?」

希「複雑な事情があるんよ」

凛「泥沼にゃぁぁ」


亮太「じゃあ、俺達も行こうか」

エレナ「存分に楽しみましたネ」

小麦「次は、遊園地にレッツゴー、だ!」

愛「肌がヒリヒリします……」ヒリヒリ

さとみ「日焼けしたみたいね」


絵里「希……梓とにこは?」

紬「あら? あずさちゃんは?」

希「それが――……あれ?」


律「ハッハッハ! ドラムの田井中律、参上!」バシーン

澪「……」

唯「あずにゃん……あずにゃんっ」フーフー!


希「……」

海未「……」

ことり「……」

凛「……」


澪「律のカッコイイ登場シーンにみんな無反応だっ!」

律「解説するなっ、無駄に恥ずかしいだろ!」

唯「あずにゃんはいねえがー!」


希「三人も来てたんやね」

絵里「えぇ、紬さんもあのイベントでチケットを貰ったそうよ」


ことり「『あたし達が再会することはないかもしれない』って……」

海未「すぐ再会しましたね」


律「うぐっ、恥ずかしい~!!」カァァァッ

澪「~~っ!」カァァァッ

唯「私はあずにゃんの狩人だよ!」

紬「唯ちゃん落ち着いて、まだまだ抑えていなくちゃ」


凛「じぃー……」


律「視線が痒い! 澪っ、あたしを隠せっ!」ササッ

澪「い、いやだっ、私を隠せ律っ!」サササッ

紬「澪ちゃん、私も隠して!」ササササッ

律「おぉっ!? 隠れたつもりが最前線にっ!?」


花陽「紬さんが隠れる理由って……?」


真姫「私たちも移動しないと、日が暮れるわよ……」イライラ

穂乃果「どうしたの、真姫ちゃん?」

真姫「べつに……!」イライラ


絵里「今度は真姫が不機嫌なのね」

希「ふふ、どうなるんやろな、今夜は」


……



―― 長島スパーランド


にこ「はい、あんたの分よ」

梓「フリーパス……?」

にこ「むぎから預かってたのよ。あのイベントで貰ったものだから」

梓「そうですか。――って、むぎ先輩に逢えなかったじゃないですか!」

にこ「いいじゃないの、たまには離れることも必要よ」

梓「離れすぎです。ヴェガに乗ってから、長い時間離れたことなかったんですよ」

にこ「よぉし、ストレス解消のために、まずは絶叫マシーンよ!」

梓「話を聞いてください」


ざわざわ

 ざわざわわ


にこ「結構な人の数ね」

梓「……なんだか、注目を集めているような」


「みてみて、同じ髪型よ」

「お揃いにしてるのね、かわいー♪」


「ライブに参加するアイドルかな?」

「かもしれない」



にこ「ごめんね、梓……」フゥ

梓「?」

にこ「どこへ行ってもにこにーはアイドルオーラを隠し切れないみたい……」ウルッ

梓「やっぱり、髪が乾く前に解いておこう……」バサッ

にこ「プライベートだから、出来るだけ抑えていたんだけど、
   ついついやってしまうキュートな仕草で人々を魅了してしまうの。
   これはもうアイドル人生の避けて通れない道なのね……ちょっと辛いかもっ」グスッ

梓「えっと……にこさん、髪型を変えたいのでお願いします」

にこ「はいはい」

梓「あの、頼んでおいてなんですけど投げやりだと困るというか……」

にこ「ポニーはもう飽きたから……そうね、これでいきましょう」


スーッ

 スイーッ


にこ「こうして、肩のほうで二つにまとめてっと」

梓「おさげですか……?」

にこ「そうよ。今度は希とお揃いね」


―― 希サイド


希「くちゅんっ」

絵里「体、冷えちゃった?」

希「ううん、そうじゃないみたい。……この感覚はにこっちやな」


凛「にこちゃん、外しちゃったんだぁ……残念だね」

花陽「うん……豪華ディナー、どんな料理なんだろ」


律「へへーん! アタシ達はそのでぃなぁの招待券持ってるんだぜー!」

穂乃果「引いたんだ!? いいな、いいなぁ!」

律「ふふん、いいだろぉ?」

穂乃果「いいなぁー!」

律「穂乃果はいいリアクションしてくれるな、なんか優越感がすごいぜ!」

澪「調子に乗るな、引いたのはむぎだろ」

唯「くんくん……あずにゃんの匂いがする!」


「さぁ、出来たて、焼きたてだよ~、お一ついかがですか~!」


唯「あっちだよ!」

タッタッタ

紬「そっちはたい焼き屋さんよ! 待って~!」

タッタッタ


花陽「お腹すいてるのかな……?」

ことり「本当に梓ちゃんを探しているのかな?」

海未「なんだかもう、自由ですね」

真姫「……」


―― 亀サイド


葉留佳「……」

ゴシゴシ



小毬「はるちゃんは何をしてるのかな?」

理樹「タワシの使用具合を調べるんだって」

鈴「プールを掃除しているのか。偉いな、感心だ、見なおした」

理樹「……鈴以外の人には変な目で見られているけどね」


「おぅ、ここにいたか」


クド「あ、恭介さん」

恭介「お前たち、もう存分に遊んだだろう。そろそろ出るぞ」

理樹「出るぞ、って……ごく自然に登場したけど、なんでここにいるのさ!」

恭介「お前たちだけ、ひと夏の思い出づくりなんてずるいやい!」

謙吾「ずるいやい!」

理樹「謙吾……真似しなくていいからね。
  病院で安静にしてなきゃだめでしょ!?」

恭介「まぁ、来ちまったもんはしょうがない」

謙吾「傷口が開いたらどうするんだ、恭介」

恭介「急に真面目になるな。
    俺のことはおいておけ、良い物を持ってきたぞ」

理樹「いいもの……?」

唯湖「ふふ」

恭介「さすがだ来ヶ谷、ご名答」

理樹「いやいや、何も言ってないし、まだ答えてないし。一人で来たの?」

恭介「いいや、助っ人に頼んでここまで来た。
    俺が一人で病院を抜け出せるわけがないだろう」

理樹「威張らないでよ。また誰かに迷惑をかけたんだね……はぁ」

鈴「帰れ」

恭介「まぁ、そういうな。というか、兄に対してそんなこと言うな、傷ついただろうが」

小毬「鈴ちゃんは、恭介さんのことを思って言っているんだよ~」


「やっと見つけましたわ」


鈴「うにゃっ!?」

理樹「笹瀬川さんと来たんだね」

鈴「さささーささささっさー!」

佐々美「笹瀬川佐々美と、少しくらい合わせる努力をなさい! 棗鈴!」


美魚「それで、良い物とはなんでしょう?」

理樹「この場にいるはずのない二人を見ても自然体だね、西園さん」


恭介「豪華ディナーの招待券だ」

真人「お、恭介も来てたのか。ディナーって、何人が招待されてんだよ」

恭介「この場にいる全員だ」

葉留佳「ひゃっほうー!」

謙吾「ひゃっほーう!」

理樹「なんでそんなものを持ってるの?」

恭介「抽選会場にて引き当てたのさ」

理樹「へぇ……、って、抽選券、持ってたの?」

恭介「来ヶ谷から預かったわけだ」

唯湖「恭介氏が来ることを予想していたからな、ある所に隠しておいた」


葉留佳「豪華♪ ディナー! やったー!」

小毬「あれ、はるちゃん……亀さんは?」

葉留佳「竜宮城へ行っちまったさ!」

小毬「うん?」

クド「此処にあるのですか?」

葉留佳「いんや、プールの底に置いてきた」

クド「貰い物ですよー!?」


鈴「なんでお前まで来た!」

佐々美「私がどこでなにをしようと、貴女には関係ありませんことよ」

鈴「帰れ」

佐々美「さぁ、理樹。私と、遊園地の観覧車へ参りましょう」ニコニコ

理樹「え、えっと」

鈴「帰れー!」



……



―― にこサイド


にこ「ちょ、ちょっと迫力があったわね」

梓「ホワイトサイクロン……スリル満点でした」

にこ「あんた……怖くなかったの?」

梓「絶叫系は何度か乗ってますから」

にこ「ふ、ふぅん……」

梓「次はゆったりしたものに乗りますか?」

にこ「気を遣わないでいいわよ、まだまだ平気だから」

梓「じゃあ……そうですね、ウルトラツイスターへ行きましょう」

にこ「……しょうがないわね」



小麦「おや、あの小柄な二人は……」

エレナ「ズーームイーーーン」

ズゥーーム


エレナ「Nicoサンと梓サンですワ」

亮太「いや、カメラの倍率を上げなくてもわかるでしょ」

愛「あ、私たちに気づかずに移動してしまいましたね……」

さとみ「ふふ、なんだか、遊園地に夢中で楽しそうね」



―― 亀サイド


弘子「きゃっ」

ゆう「どうしたんだい!?」

弘子「なにか踏んだみたい……」

ゆう「待ってて!」


ザブン


~ 水中 ~


ゆう「ごぼ?(これは……?)」


― 水上 ―


弘子「きゃっ、くすぐったいわ、ゆうくんっ」



周りの目「いらいら」



……



―― 花陽サイド


花陽「次、あれに乗ろうよ凛ちゃん!」

凛「えぇ~」

花陽「水上を走るんだよっ、楽しいよ、きっと!」

凛「もっとスリルのある乗り物にしようよ、かよちん!」

花陽「す、スリルは……」

凛「さっきのバルーンレースだって、物足りないにゃ!」

花陽「あ、あれでも怖かったのに……もっとスリルがある方がいいの……?」

凛「いいの!」


ことり「80日間世界一周気分を味わえたね!」

海未「そうですね」

穂乃果「そうかな……」

絵里「そうね……私も、どっちかというと刺激が足りなかったと思うのよね」

希「ふむ……絶叫系じゃないスリルか……。それなら、お化け屋し――」

絵里「花陽、ジェットスキーは私と乗りましょう」

花陽「うん……、凛ちゃん……乗らないの?」

凛「ここで別れるにゃ! 絶叫組と、のんびり組!」

穂乃果「賛成!」

海未「さ、ことり、行きましょう」

ことり「うん♪」

スタスタ


穂乃果「うみちゃん……逃げたね!」

希「あらら……エリち、刺激が足りない言うてたのに」

穂乃果「よぉーし、何に乗ろうか、凛ちゃん!」

凛「スチールドラゴン2015にするにゃ~!」


……




―― 唯サイド


唯「……うぅ」


紬「唯ちゃん、大丈夫?」

唯「食べ過ぎちゃった……」

律「豪華ディナーが待ってるというのに」

澪「……結局、みんなと別れるんだな」


……



―― 梓サイド


梓「次は、王道のジェットコースターですね」


にこ「ふぅ……、ちょっと休むわよ」

梓「乗り物酔いしちゃいましたか?」

にこ「ち、違うわよ! そういうんじゃないの! 梓の体調を配慮したんだから!」

梓「私は平気ですから、心配しないでください。……それでは並びましょう!」

にこ「う……、あんた元気ね……」

梓「この髪型にしたら力がみなぎってくるみたいです。……なんて」

にこ「希の、あの妙な力は髪型に秘密があったのね……私もやってみるわ」

梓「あ、止めてください! お揃いになってしまうじゃないですか!」

にこ「嫌がらないでよ!」



―― 亀サイド


ゆう「よろしくお願いします」

係員「はい、お任せください」


弘子「行こ、ゆうくん!」

ゆう「次は遊園地だね、弘子」

スタスタ


係員「……誰が落としたんだろうか」

新人係員「こんにちはー、今日もよろしくお願いしまーっす!」

係員「お、来たか。それじゃ、昨日の続きから教えるぞ」

新人「お願いしまっす!」

係員「ここ、メインゲート案内所は落し物も扱うから」

新人「これも届けられたんですか?」

係員「そう。亀の形をした……なんだろうな、これは」

新人「タワシ……みたいですけど」


「すいませぇ~ん」


係員「はい、どうしました?」

クド「えっと、落し物をしたんですけど、届いてるか確認したいのですが」

係員「なにをお探しでしょうか」

クド「亀のタワシなのです!」


……



―― さとみサイド


さとみ「ちょっと、ドキドキしてる……」

亮太「さとみちゃん、絶叫系はあまり乗らなさそうだよね」

さとみ「そうなの、今までは遠慮してたんだけど……今日は頑張ってみるわ」

亮太「いいね、そういう意気込み、俺も楽しむぜ」

愛「だ、大丈夫ですよね、私が乗ったら……途中で止まるなんてこと――」

亮太「ないない! そういうこと言わないでよ! 言葉には力があるんだからさ、愛ちゃん!」

愛「は、はいっ、すいませんっ」

小麦「おやおや~。亮太くん、意外とビビってる~?」

亮太「そんなわけないだろ、余裕だっての」

エレナ「血の気が引いてますネ」

亮太「確かに、少しは緊張してるけども」

エレナ「ノーノー、亮太サンではありませんヨ」

さとみ「?」



にこ「……」

梓「えっと、次は……スチールドラゴン2015に乗りましょう。
  観覧車よりも高い位置から一気に落下するそうですよ! 楽しみですね!」ワクワク

にこ「そ、そうね」



亮太「中野さん、中野さん」


梓「あ、鶴見さんもこれに乗るんですね」

さとみ「どうだった?」

梓「楽しかったです! そうですよね、にこさん!」

にこ「た、たいしたことなかったわぁ~」

小麦「むぅ~?」

エレナ「目が泳いでいますネ~」ジーッ

にこ「にっこにこにーッ! スリル満点でサイコウだったにこーッ!」

亮太「自棄だよね」

さとみ「顔が笑ってないわよ……」

梓「何に乗っても、落ち着いているんですよね……」

にこ「と、とうぜんでショー」

梓「にこさんは普通な感じですが、私はとても楽しかったですよ」

亮太「へぇ……」

愛「……相対的なんですね」


さとみ「にこさん」ヒソヒソ

にこ「……なによ」

さとみ「どうだった?」

にこ「人類ってバカよ。スリルを求めてなんてもの作り出してんのよ」

さとみ「……ちょっと後悔してるみたい」

にこ「それより、梓を引き取ってよ」

さとみ「振り回されてるのね」

にこ「次から次へと、止まらないのよ……あの子」


梓「愛さん、眼鏡ですから、景色が見えないかもしれませんね」

愛「?」

梓「乗るときは眼鏡外すんですよ」

愛「そ、そうですか……でも、きっと目を瞑るから……」

梓「それはもったいないです。
  視界がグルグル回って迫力ありますから」

亮太「ものすごく楽しんでるねぇ」

小麦「あ、進むよ、みんな!」

エレナ「梓サンの体験談を聞いたら、ワクワクしてきましたネ!」


梓「期待していいと思います。それでは」

さとみ「うん……それじゃ、後でね」

にこ「……」


梓「にこさん、次を急ぎましょう!」

にこ「……うん」

梓「あ、疲れちゃいましたか?」

にこ「こう見えても体力づくりしてるから平気よ!」

梓「では行きましょう」


亮太「楽しんでるね」

さとみ「ふふ、そうみたいね」

愛「迫力……」


ゴォォォオオオ


「きゃぁ~!!」



小麦「おぉー、凄い勢いだよ~」

エレナ「いい思い出が作れて、嬉しいですワ」


亮太「…………」


……



―― 真姫サイド


真姫「……」


弘子「ゆうくん、まずはメリーゴーランドに」

ゆう「それは日が沈んでからにしよう、弘子」

弘子「あ、それがいい! 夜になったらキラキラ輝いているのね」

ゆう「そうだよ。でも、君のキラメキには勝てないけどね」

弘子「もぅ、ゆうくんってば」

ゆう「あはは」


真姫(ヴェガの乗客の……あの二人も来ていたのね……)


真姫「……」


真姫(一人でベンチに座って……何をしているのかしら、私は……)


真姫「……ふぅ」


真姫(にこちゃんが食べたかったのって、きしめんじゃなかったの……?)


澪「むぎ、あっちに座ってるのって……」

紬「あら、真姫ちゃん……一人でいるみたいね」

律「迷子になってやんの」

唯「なんだか怖い顔してるよ」

澪「ちょっと呼んでくるな」

律「まぁ、待て」

澪「?」

律「真姫はスクールアイドルとはいえ、アイドルだ。今も人の目を引いてるだろ」

紬「そうね、可愛いものね」

律「だから、こういう時、一人でいる危険性を教えてやる必要がある」

澪「また、なにを始める気だ」

律「澪、おまえがナイト様を演じるんだ」

澪「いやだ」

律「おいっ、まだ詳しい説明してないだろ!」

澪「い や だ」

律「じゃあいいよ、むぎ――」

紬「うふふ、騎士さまね。一度やってみたかったの」

律「むぎは騎士っていうより、お姫様タイプだな」

唯「コホンコホン。……お困りですかな、お姫様」キリリ

律「ほら、澪がやるしかないだろ」

澪「律がやればいいだろ」

律「いやぁ……あたしはさ、毒りんごを食べて眠るタイプだから」

澪「お姫様だった!」


真姫(でも、絵里がきしめんを食べたがっていた、って言っていたし……)


真姫(私が悪いことした……?)


真姫(ひょっとしたら、麺類じゃないのかも……)


真姫(ひつまぶしかもしれないし……、そうね、小麦さんに聞いてみよう)


真姫「なにか知ってるかも……」


「ねぇねぇ、キミ、独りでどうしたの?」


真姫「?」


「よかったら一緒に観覧車に乗らない? 頂上の景色が評判いいみたいだぜ」キラン


真姫「……」


「キミに話しかけてるんだけどさ」サラサラ


真姫「……律さん、なにをしてるの?」ジー


律「...My name is Mio Akiyama」

澪「嘘をつくな、田井中律」

律「No No No,...Mio Akiyama, ...Tainaka Ritsu 違う」

澪「違うって日本語だぞ」

紬「パカパッパカパッ、ひひぃーん」

唯「大丈夫ですかっ、お姫様! 拙者が悪い誘惑を成敗致す! せやぁ!」

律「Oh,」

澪「騎士というか、侍だな」

真姫「……」

紬「ヒヒーン、ぶるるんっ、ガシャンガシャン、ぶぉぉん」

澪「馬からバイクに変形した!」

唯「むぎちゃん、王子様はバイクに乗らないよ~」

律「いや、現代版だから問題ないぜ。……いやまて、騎士様じゃなかったか?」


真姫(梓さんはいつもこの空気の中にいるのね……)


澪「……遠い目してる」


―― 海未サイド



海未「真姫は一人で大丈夫でしょうか……」

絵里「そうね……、頭を冷やしたいと言っていたけど……
    一人にしたのは間違いだったかもしれないわ」


ことり「次は何に乗る?」

花陽「それじゃあ、ちょっと勇気を出して……」

ことり「初挑戦だね!」

花陽「スカイライナーに乗るっ」

海未「空中散歩ですか。それで真姫を探してみましょう」


絵里「…………スリルが足りないわね」




―― 亀サイド


真人「しかし、なんでこんなデザインにしたんだろうな」

小毬「可愛いからだよ~」

唯湖「ふむ。可愛ければ実用性は考慮しなくてもいいのか。世の真理だな」

美魚「観賞用です」

理樹「……だから、世界に一つしか無いんだろうね」

葉留佳「真人くん、それ貸して!」

真人「駄目だ、三枝はすぐいじめるだろうが!」

葉留佳「はるちんはもう、過去のことは水に流しちまったのさ」

真人「なら構わないぜ。ほらよ」

葉留佳「サンキュー」

理樹「クドが見つけてきてくれたんだから、もう失くさないでよ?」

葉留佳「理樹くんははるちんを信用してくれないんだ。
     しかし、名誉返上してでも亀五郎は守ってみせるよ、多分」

理樹「信用度が下がったよ。挽回してね……」


謙吾「遊園地に行くのか?」

恭介「あぁ、ディナーにはまだ早いからな。
    もう少し遊んでいっても問題はない」

クド「スペースショット、なんていい響きなのでしょう」ワクワク


佐々美「やはり、夜景を眺めながら過ごすのがいいですわね」

鈴「……」フカー


―― 凛サイド


凛「あー! にこちゃんだー!」

穂乃果「にこちゃーん!」

希「にこっちー!」


梓「手を振ってますよ」

にこ「私を見つけて、あんなに嬉しそうにするなんて……よっぽど心細かったのね。
   でも大丈夫よ、これからは一緒に居てあげるんだからっ」


凛「もうー、勝手に離れちゃダメにゃ。
  心配したんだよー、梓ちゃんと一緒だから探してなかったけど」

穂乃果「梓ちゃん、にこちゃんのこと離さないでね。すぐ迷子になるんだから」

梓「他人任せにしないで欲しいんだけど」

希「にこっちは人気ものやなぁ」

にこ「とてもそうは思えないんだけど!」


凛「みんなでスチールドラゴン2015に挑戦にゃ!」



―― 澪サイド


澪「うぅっ、怖いっ」

律「大丈夫だって、あたし等がついてんだからさ」

澪「い、いきなり絶叫系はダメだろ! いや駄目だ、駄目だ!」

律「むぎを見てみろ、いつもと変わらないだろ」


紬「あずさちゃんから連絡が戻ってこないの……」

唯「きっと、アトラクションに乗ってるんだよ、きっとね、きっと」

紬「……そうね。唯ちゃん、きっとを3回も使う必要はないのよ~」


澪「むぎは何をしても大体はケロってしてるだろ……」

律「蛙か!」

澪「なにがだ!?」


唯「ケロケーロ、ゲローロ」

紬「ゲロ――むぐぐっ」

律「むぎは止めろっ、蛙の真似なんて!」


澪「はぁ……なんでいつも落ち着いていられないんだ……って、あれ?」


澪「……愛想を付かされたかな」


―― 亀サイド


恭介「いいか、アトラクションに乗ることを一人2つまでとする」

真人「なんでそんなこと決めんだよ」

恭介「回数を制限しないと理樹が苦労するだろ」

真人「どういうことだ?」


クド「人がたーくさーんいます」


どんっ

クド「わふっ」


「あら、ごめんなさい」

クド「いえ、私がよそ見していました」ペコリ

「……逸材ね」キラン

クド「?」



―― ことりサイド


ことり「わぁ、いい景色だね♪」

絵里「園内を一周するらしいから、穂乃果たちも見つけられるかもしれないわね」

海未「乗り物に乗っていなければですが……」

花陽「……あれは、もしかして」


「あなた、アイドルやってみない?」

「わふ?」


花陽「あの、僅かに溢れ出るアイドルオーラ……!」

海未「花陽……?」


「私は、アイドルのプロデューサーとして働いているの」

「そうですか。……なんだか、お母さんの声と似てる気がします」


花陽「あ、あ……あのっ、あの眼鏡が似合う女性はっ、間違いありませんっ」

海未「一体、どうしたというのですか……」

花陽「あ、あききつつつき」

海未「キツツキ?」

花陽「秋月律子さんっ、その人です!」

ユサユサ

絵里「ちょ、ちょっと花陽っ、揺らさないでっ!」

ことり「かよちゃん~!」

花陽「はやくっ、早くわたしを降ろして~!」

ユッサユッサ


海未「落ち着きなさい、花陽!」


―― 小麦サイド


小麦「愛ちゃん、大丈夫~?」

愛「は、はい……なんとか……うぅっ」ヨロヨロ

エレナ「少し休憩しますネ」


さとみ「ふぅ……私もやられちゃったみたい」

亮太「その割には、少し休んだら回復しそうな表情だけど」ポチポチ

さとみ「一応、体力はつけてますから。……なにをしているの?」

亮太「家に連絡……、メールだけどね」ポチポチ

さとみ「私もあとでしておかないと……」

亮太「そうだね……娘に突然、
   『旅に出る』なんて言われたら、親としては落ち着かないだろうね」ポチポチ

さとみ「勝手なことしちゃって……はやまったかしら」

亮太「あ、ごめん。楽しんだほうがご両親も納得すると思うよ!」

さとみ「ふふ、そうよね」

亮太「いきなり声のトーンが下がったからびっくりし――」


どんっ


亮太「おっと」ポロッ


ガッ コロコロコロ...


「あっ、すいません」

亮太「いえいえ、こっちもよそ見していましたから」

さとみ「はい、亮太くん」

亮太「ありがと」

「……本当に、すいませんでした」

亮太「大丈夫ですよ、液晶画面も傷はありませんから」

「そうですか……」

亮太「こちらこそ、すいませんでした」

「それでは」

スタスタ


さとみ「ここで止まっていたら邪魔になるわね」

亮太「そうだね……。あれ、小麦たちは……?」

さとみ「向こうのベンチよ」

亮太「愛ちゃん、乗り物酔いしたみたいだね……」トントン

さとみ「少し顔色が悪いみたい。にこさんと同じくらいね」

亮太「……ん?」トントン

さとみ「どうしたの?」

亮太「いや……電源が付かない」


小麦「じゃあ、あたしが直してあげる。貸してみて」

亮太「あのな、電子機器と相性の悪い小麦に任せたら直るものも直らなくなるだろ」

小麦「あ、ひっど~い!」

エレナ「でも、本当のことですネ~」

小麦「エレナまで~!」


愛「……さっき落とした時の衝撃で壊れたのでは」

亮太「み、見てたんだ……」

愛「私のせい……ですよね」

亮太「壊れたって決まったわけじゃないから!」



―― イケメンサイド


イケメン「おまえ、わざとぶつかっただろ」

イケメン2「あんなとこでイチャついてる方が悪いんだよ」

イケメン3「ひっでっ」ケケケ

イケメン「それにしても、なかなか俺らのレベルに合ったコがいねえな」

イケメン2「別に、俺らナンパしに来たわけじゃねえだろ」

イケメソ3「だけどよぉ、男3人ってつまんなくね」

イケメン「そりゃそうだけど――……、お、あれは」

イケメン2「どうした?」

イケメン「へへ……俺ら、ラッキーかもな」



真姫「……見当たらないわね」


―― 亀サイド


「これは……?」ヒョイ


「亀……?」


「なにしてんのよ、そろそろ始まるわよ」

「あ、うん……」

「まったく……なんでこのレイナサマが付き添いなんてしなきゃいけないのよッ」

「プロデューサーの指示だから、ね」

麗奈「下積みなんて必要ないわよッ、さっさと駆け上がらないといけないのッ!
    アタシには愚民どもを見下ろす使命があるんだからッ!」

「準備ができてるのなら、相談次第ではステージに上げてもらえると思うけど」

麗奈「ほ、ほんとに?」ゴクリ

「李衣菜の後に貴音さんがキャンセルした空きがあるんだって」

麗奈「……」

「相談してくる」

麗奈「や、やっぱり準備があるから、また今度にしとくわ」

「ふぅん……」

麗奈「準備と言っても違う準備だから、勘違いしないでよねッ」

「律子さんの指示で、麗奈が持ってきた小道具全部、スタッフさんに処分されてたけど」

麗奈「嘘でしょッ!? 昨日まで念入りに準備してきたとっておきのイタズラ道具をッ!?」

「うん」

麗奈「クッ、やられた……!」


「凛ー! ちょっと来て~!」


凛「……麗奈も控室に行かないと」

麗奈「やっぱり私の天敵ね……律子ッ。
    だけど、これで終わるレイナサマじゃないわよ!
    こっそり忍ばせておいた仕掛けもあるんだからッ」


「凛ちゃ~ん、早くくるにゃ~!」


凛「ほら、はやく」

麗奈「アタシの知能の高さに驚くがいいわッ、アーッハッハッハ……ゲホゲホッ」

凛「それって、舞台下の変な花火のこと?」

麗奈「バレてるし……ッ!」

スタスタスタ



真人「ねえな~」

理樹「この辺りが一番可能性があるんだけどね」

恭介「そんなに大事なものなのか?」

謙吾「必要性はないがな」


葉留佳「どうして落とすかな、クド公~」

クド「ごめんなさいなのです」ションボリ

鈴「みんなで探せばすぐに見つかる」

小毬「そうだよ~」

美魚「ありましたよ」ヒョイ

クド「やりました、美魚さん!」

美魚「違ったようです。これはイルカのぬいぐるみですね」

クド「そうですか……」

真人「しかし、どうして落としたりしたんだよ?」

クド「お母さんの声に似た人がいて……なんだか嬉しくなってしまったのです……」

葉留佳「クド公はいま、ホームベースなんだね……」

クド「……そうみたいですね」

小毬「……」

美魚「……」

鈴「ホームシックだろ!」

葉留佳「てへへ☆」

鈴「こういうのは理樹がツッコミ入れないと駄目だな」

恭介「そうだな。もっと広がりを見せたほうがいいだろう」

謙吾「見つからないな」


唯湖「鈴君、鈴君」

鈴「なんだ?」

唯湖「二人をそのままにしてもいいのだろうか」

鈴「ん?」


「タワシを持った人が向こうへ行った気がしますわ」

「観覧車か……、乗られる前に早く見つけないとね」

「急ぎますわよ!」

「わかった!」

タッタッタ


鈴「そうか、持っている人が見つかったのか」

唯湖「アレは多分、理樹君を連れ出すための方便だな」

鈴「?」

唯湖「嘘だということだよ」


鈴「なにー!」

ダダダダダッ


―― 穂乃果サイド


穂乃果「うーん、楽しかったー!」

凛「最高だったにゃ~!」

希「うちも、楽しめたかな」

梓「……ちょっと酔っちゃったかも」


穂乃果「……あれ?」

凛「誰か足りないにゃ?」

希「あらら……また」

梓「迷子ですか……。どこ行ってしまったんですかね」

希「目を離したらすぐ居なくなってしまうんやなぁ」

凛「もぅ~、見た目通りお子様にゃ」

穂乃果「大丈夫だよ、すぐに見つけ出す方法があるから」

希「方法?」

穂乃果「うっしっし、私に妙案がありまして~」



―― 律サイド


律「なぁ、唯」

唯「なんですかな?」

律「あそこにいる子ってさぁ……」

唯「?」


「ひょっとして……私だけが楽しかったのかな」


「……にこさんの要望って、あまり聞いてなかったような気がする」


唯「あずにゃんに似てるね」

律「だろ?」

澪「え……? あ、本当だ」

紬「あ……」


「――あれ、希さん……?」


「お、置いてかれた!」ガーン


律「まぁ、梓はツインテールだから人違いなんだろうけどな」

唯「そうだよね~」

澪「おさげに変えているのかもしれないだろ」

律「いやいや、梓が言ってたぜ。
  『これは私のポリシーです。髪型を変える時があるとするなら、
   それは私でなくなる時ですから』ってな……」

唯「そっか……」

澪「真面目な顔で嘘をつくな! 唯も納得するな!」


「私も迷子になるなんて……」


紬「そこのお嬢さん」

「……はい? って、むぎ先――!」

律「あはは、迷子かな?」

唯「おぉっ、見れば見るほどあずにゃんだよっ」

澪「本人だったりしてな」

「……はい?」

紬「えっと、こんな形で再会することになるなんて……」

律「よぉし、お姉さんが迷子センターまで連れて行ってやるぜ」

唯「はやくあずにゃんに逢いたいよ!」

澪「電話繋がるかな……」ピッピッッピ

「…………なんですか、これ」

紬「えーと……」

律「声も梓に似てる……って、あれ……もしかして?」

唯「ハッ!?」

澪「……?」

pipipipipi

ピッ

「もしもし」

澪「繋がった。梓、いまどこ――……え?」

紬「ご本人よ」


梓「私です」


律「……」

唯「……」

澪「……」


梓「なんですか! 髪型変えただけで私と判別できないなんて!
  先輩方が来ているのに喜ぶタイミングを失ったじゃないですか!!」


律唯澪紬「「「「 ごめんなさい! 」」」」


梓「むぎ先輩は気付いていたんですから、釣られて謝らないでください!」

紬「……はい、ごめんなさい」


―― 真姫サイド


真姫「本格的に迷子ね……にこちゃんじゃないんだから」フゥ


「スクールアイドルの――」


真姫「?」

イケメン「西木野真姫ちゃんですよね?」

真姫「……そう、だけど」

イケメン「おぉー、本人だよ!」

イケメン2「俺ファンなんですよ、ミューズの!」

真姫「そう……ありがとう」

イケメン3「やっぱり生で見ると違いますね」

真姫「……」

イケメン「俺達より年下なのに頑張ってて、とても応援してるんですよ」

真姫「……そう…ですか」

イケメン「ここで会ったのも何かの縁だし、記念として一緒に遊んでくれませんか?」

真姫「……べつに」

イケメン「別に構わないってこと?」

真姫「ちが……そうじゃなくて……」

イケメソ3「一人で居るより全然楽しいからさ。もしかして、誰かと外れたの?」

真姫「……うん」

イケメン2「じゃあ、一緒に探してあげるよ」

真姫「……それは」

イケメン「遠慮しないでさ、大船に乗ったつもりでいてよ」

真姫「……」

イケメン3「誰と来たの?」

真姫「えっと……」


「ちょっと、真姫」


真姫「あ――」


イケメン「?」


真姫「にこちゃん……」

にこ「どうしたの?」

真姫「ううん、別になんでも……」

イケメン3「おぉ、矢澤にこちゃんだ」

にこ(私のこと知ってるのね)

イケメン「二人で遊園地に来てたんですね。仲が良いですね」

にこ「遊びに来ちゃいました♪」


イケメン2「もしかして、他の子達も来てるの?」

にこ「えっとぉ……」チラ

真姫「……」


にこ(私たち9人が来ているって知られたら、ずっと付いてきそうね……)


真姫「……?」


にこ(真姫はそういう危機感なんて持ってなさそうだし……)


イケメン「はは、あまり警戒しないで欲しいな。俺らただのファンだから」

にこ「そうなんだ、応援ありがとう~」

イケメソ3「それで、他の子達も来てるの?」

にこ「ううん、にこ達だけだよ♪」

イケメン2「へぇ、二人でわざわざ東京から名古屋まで来たんだ」

にこ「うん、そうなの~」


真姫「ちょっと、なにを言って――」

にこ「ん~?」ジロッ

真姫「な、なんで睨むのよ……」


イケメン「今日はいつもの髪型じゃないんだ?」

にこ「そうなの。イメチェンしてみたんだぁ」

イケメン2「希ちゃんと同じ髪型で可愛いよ」

にこ「そ、そう……ありがとう」

真姫「……もういいでしょ」

イケメン3「二人で遊園地なんて物足りないでしょ? 俺らとなにかアトラクションに乗ろうよ」

にこ「え~、でもでもぉ」

イケメン「じゃあ、一つだけ。ね?」

真姫「……しょうがないわね」

イケメン2「やった!」

イケメン3「真姫ちゃん話わかる~」


にこ「真姫……!」

真姫「隙を見て離れればいいでしょ……はぐれたふりして」


にこ(甘いわよっ、相手は3人もいるんだから隙なんてっ)


イケメン「じゃ、何に乗ろっか?」

にこ「え、えっと」

真姫「なんでもいいわよ」

イケメン2「観覧車にしようぜ」

イケメン3「お、いいねぇ!」

にこ「な……!?」

真姫「ちょ、ちょっと」

イケメン「なに?」

真姫「い、いやよそれ……」

イケメン「あ、高所恐怖症とか?」

真姫「そうじゃなくて……!」

イケメン2「俺、にこちゃんとな」

イケメン3「しゃあねえな、じゃあ真姫ちゃんとで」

イケメン「おい、一人ずつはないでしょ~」

にこ(まずい……)

真姫「……っ」


愛「大丈夫ですか……?」

亮太「……駄目だ、本格的に壊れてる」

愛「や、やっぱり……携帯電話が簡単に壊れるなんておかしいです」

亮太「た、確かに打ちどころが悪かったみたいだけどっ、愛ちゃんのせいじゃ――」


にこ「あ、ちょっと!」


亮太「え?」

愛「あ……」

にこ「もう、どこ行ってたのよ~」


イケメン「?」


愛「???」

亮太「……」

真姫「す、スプレーでしょ」

亮太「……うん」


イケメン2「なに……この人達は?」

にこ「……友達だよ」

イケメン「東京から二人で来たって言ってたよね……?」

真姫「道中、知り合ったのよ」

イケメン3「ふぅん……」

亮太「……」

愛「……」

イケメン「まぁいいや……ほら、キミはカノジョさんと遊園地楽しんできてよ」

愛「……?」

亮太「……」

イケメン2「ファンと交流するってことで、俺達はこれからにこちゃん達と楽しみたいわけ」

亮太「……そうなんだ」

イケメン3「だから、キミが居ると楽しさ半減するっていうか……わかるでしょ?」

亮太「……わかる……気がするけど」

真姫「とにかく……悪いけど、付き合えないの」

にこ「ごめんね~」

イケメン「……」

愛「あ、あの……」

にこ「行くわよ、愛」

愛「は、はい」

真姫「……ふぅ」

亮太「……」


イケメン「ショックだわ……」


にこ「?」


イケメン「応援していたアイドルが男と遊んでいたなんて……」

イケメン2「俺も……なんか、胸が痛え……」

イケメン3「なんか、気分悪いな……」


にこ「……」

真姫「……」

亮太「行こう」

にこ「……うん」


イケメン「ファンのみんなはどう思うんだろう……」


にこ「――!」


イケメン2「スキャンダルってやつか……?」


真姫「ちょ、ちょっと……なによそれ」

イケメン3「いや、本当のことだし……」

真姫「本当のことって……!」

イケメン「楽しい思い出が出来れば……このショックは和らぐかも……な」

イケメン2「そうだな……」

にこ「……ッ」

イケメン3「なーんて! ちょっと陰湿すぎたな!」

イケメン「そうだな。ごめんね、にこちゃん、真姫ちゃん」

真姫「…………」

イケメン「そんな顔しないでよ~」

にこ「……」

イケメン「でもさ、応援したのはマジだから、今日会えたのが嬉しかったわけ」

イケメン2「ファンの思い出づくりとしてさ、遊ぼうよ」


亮太「本当にファンなの?」


イケメン「……は?」

亮太「なんで追い込むようなことしたの」

イケメン「だから、あれは冗談だって」

亮太「冗談じゃ済まないでしょ」

イケメン3「俺達は本当にファンだって。投票だってしたんだからさ」

亮太「じゃあ、歌って踊っているところとか見たわけだ?」

イケメン「あぁ、もちろん。PVで見たけど?」

亮太「簡単に歌って踊っているわけじゃ――」

にこ「ちょっと、もういいから」

亮太「……」

イケメン2「なんでキミがムキになってんの?」

亮太「……あまりにも軽く人を傷つけることを言ったから」

イケメン「ふぅん……なるほど」

亮太「……」

イケメン「口コミって結構広まりやすいんだよね」

真姫「なにが言いたいのよ」

イケメン「ミューズには仲の良い男性がいるってこと……知られちゃうなって」

にこ(ここまで来たらもう面倒ね……)

真姫「……」

イケメン「やっぱりただの『お友達』じゃないみたいだ」

にこ「もういいわよ」

イケメン「え?」

真姫「私たちは――」


「仲間だろ」


亮太「?」

にこ「え……?」

真姫「……?」


鈴「なんだ、仲間じゃないのか。……それより、観覧車がどこか――」


イケメン「なんだこの子?」

イケメン2「アイドルなのかな……かわいいけど」

イケメン3「レベル高いな、名古屋……」


鈴「何だこいつら……きしょい」ススッ


イケメン「キショ……?」




「ミッションスタートだ!」




愛「あ、亮太さん、危な――」

亮太「?」


どんっ


亮太「おっと?」

トットット


真人「てめえ、どこ見て歩いてんだよ!」

亮太「え、止まってたけど……!?」

真人「なんだぁ? 俺の目が節穴だって言うのかぁ? あぁ!?」

亮太「え、え……?」


恭介「ほぅ、ケンカか」

唯湖「ふむ……、体格差があるが、どう対応するのかみものだな」


亮太「……そういう…」

にこ「……?」


亮太「こ、こっちの台詞だ。どこ見て歩いてんだよ」

真人「ちゃんと前を見てたぜ。あまりに小粒だったんで見落としたがな」


真姫「なんで……?」

愛「???」

鈴「なんだ、どうしてケンカしているんだ?」

理樹「鈴も理解していないんだね……恭介のミッションなんだけど」

鈴「あ、理樹! ササコに付いて行ってはダメだろ!」メッ

佐々美「もう少しでしたのに……」



理樹「……」チラ


恭介「……」コクリ



亮太「そんなデカイ図体で歩かれると迷惑なんだよ、隅っこ歩いてくれ」

真人「で、でかい図体だと……!?」


鈴「よくわからんが体格のこと言われて喜んでないか」

理樹「まぁまぁ、二人とも、遊園地でケンカなんて――」

真人「うるせぇ、引っ込んでろ!」トンッ

理樹「ワァ……!」

ドサッ

鈴「なにをするんだ真――!」

理樹「あいたたた! 手を捻っちゃっタァ!」


恭介「大根役者だな。理樹にも苦手なものがあったか」

唯湖「ふふ、嘘を付けないタイプだからな、理樹君は」



真姫「今のうちに行きましょ」

にこ「ダメよ、私たちが離れちゃ意味無いでしょ」

真姫「……」


真人「体を鍛えないからこうなるんだぜ、理――じゃなくて見知らぬ人よ」

鈴「なんだ、また暴走してるのか?」

理樹「そういうこと言わないで鈴」

佐々美「さぁ、お立ちになって」

理樹「うん……ありがとう」

真人「へへ、さっさと話を進めてくれないと、どうすればいいのか分からないぜ」

鈴「?」

佐々美「いいですわ。このケンカ、わたくしが買います」

真人「あぁ?」

鈴「???」


亮太「蚊帳の外になったな……」

愛「ど、どうしましょう……?」

亮太「人も集まってきてるし……観客側に回ろうか……」

愛「はい……」


ざわざわ

 ざわざわ


―― 絵里サイド


絵里「なにかしら、人が集まっているみたいだけど」

ことり「イベントかな?」

花陽「……」ズドーン

海未「花陽……いつか逢える日が来ると信じて、気持ちを切り替えましょう」

花陽「お礼も言いたかったのに……」

海未「そうですね……」

絵里「あ……にこと真姫がいるわよ」

ことり「あ、本当だ。……にこちゃ――」

絵里「ま、まって。様子が変よ」

ことり「?」



「ケンカらしいぜ」

「ガタイのいい男と華奢な女の子か……」



真姫「と、止めないの?」

にこ「あんたには本気でやっているように見えるの?」

真姫「それは……」


佐々美「理樹に対する無礼の数々……許せませんわ」

真人「その度胸だけは認めてやるぜ、お嬢さんよ」

鈴「まて、あたしが躾けてやる。ササオは下がれ」

佐々美「ついに呼び名を男性にされてしまいましたわね。
     あなたを先に相手してもよろしくてよ?」

鈴「勝負は学校でついた」

佐々美「いいえ、まだですわ」

真人「ゴチャゴチャとうるせぇな。なんなら二人相手でもいいんだぜ」

鈴佐々美「「 …… 」」


真姫「本気みたいだけど……」

にこ「そ、そうね」


恭介「その勝負、待った!」


真人「あぁん? 誰だてめぇ」


鈴「邪魔だササ……ササコ」

佐々美「あなたこそ邪魔ですわ。
     いい加減に私の名前を言えるようになりなさい」


恭介「俺はただの、遊園地に遊びに来た通りすがりさ」

真人「なんの用だよ、俺は今トサカに来てんだよ!」

恭介「いくら1対2とはいえ、女子と男子では体格の差がありすぎる。
    そこでだ、ゲームとして勝負を決めてはどうだろうか」

真人「俺は今暴れてぇんだよ!」

恭介「凶暴性を出し過ぎだ」ヒソヒソ

真人「む……そうか。俺は今勝負がしてぇんだよ!」

恭介「ならば全力で戦える案を出そうじゃないか」

真人「ほほぅ」


佐々美「勝負に勝ったほうが観覧車に乗る権利を持つことができますわ」

鈴「……わかった。勝てばいいだけだ」


恭介「使用する武器は安全と身体能力の差、諸々を考慮して
    『野次馬から投げ込まれたものを無作為に引き当てる』ことをルールとする」

真人「なんだ、学校でやった勝負と変わりないじゃないか」

恭介「俺達は今、初対面だ」ヒソヒソ

真人「そ、そうだった。……悪くねえ案だな」


にこ(面白そうなことしてるのね)

真姫「ちょっとにこちゃん、なに身を乗り出してるのよ」


ざわざわ

 ざわざわ


絵里「にこと真姫は巻き込まれたのかしら……」

花陽「真姫ちゃんだけに……!」

ことり「あ、巧いこと言ったね、絵里ちゃん」

絵里「ち、違うわよ? 余計なことを言わないで、花陽……!」

海未「ダメージは回復したようですね」


恭介「そして、公平を期すために追加要素を伝える」

理樹「追加要素?」

真人「難しいルールにしてんじゃねえよ」

恭介「そう難しくはない。……このピコピコハンマーを使用する」

ピコンッ

恭介「こうやって叩けば音が鳴るものだ。これを相手の頭に叩いた者が勝利となる。
    一つしか無いから奪い合いは必至だな」


にこ(面白そうだけど、見ているに限るわね)

真姫「……」


恭介「そして、もう一つ」

真人「前置きが長えな」

恭介「ただの勝負ではなんの面白味もない。というわけで――

    勝者には、この豪華ディナー招待券を授けようじゃないか!」


真人「おぉっ、なんだか趣旨がゴロゴロ変わってるが、燃えてきたぜ!」


恭介「そういうわけだが、どうだ?」

にこ「?」

恭介「参加者は多いに越したことはない」

にこ「私も参加しろってこと?」

恭介「そのためのルール改変だ」

にこ「……」


にこ(勝てば豪華ディナー……豪華ディナー……)

真姫「ちょ、ちょっと、なにを考えてるの?」


理樹「いいの? 招待券を景品にしちゃって」

恭介「ただのゲームだからといって手を抜くのはつまらんからな」

理樹「まぁ、恭介らしいけど……」

恭介「それに、万が一にもこの招待券が俺達から離れることはない」

理樹「どういうこと?」

恭介「鈴が勝っても、真人が勝っても、謙吾が勝っても俺たちのものだからだ」

理樹「うわ、ずるいよそれ……って、謙吾も参加させる気!?」

恭介「無論だ」


にこ「何人が招待されるの?」

恭介「11人分ある」

にこ「やるわ!」

真姫「にこちゃん!?」


恭介「よし。対戦相手は少ないが、こんなものだろう。

    それでは、――豪華招待券を賭けたバトルロワイヤル、開始だ!」


―― バトルスタート!


真人「へへ、まずはお前らだ」


鈴「足を引っ張るな、サシミ」

佐々美「こっちの台詞ですわ。次の相手はあなたであることをお忘れなく」


にこ「タッグもありみたいよ。真姫も参加しなさい」

真姫「なんでそうなるのよっ」

にこ「豪華ディナーの招待券があれば、みんなで想い出作りができるでしょ」

真姫「……」

にこ(真姫だけは塩味おにぎりだけどね!)


恭介「さぁ、野次馬の諸君!! 
    武器を投げ入れてくれ! それはくだらないものであればあるほど燃える!」


絵里「なんだか、とんでもないことになってるわね……」

花陽「武器……といっても……危ないものはダメだよね」

ことり「じゃあ、これ!」

ポイッ

海未「……パンフレットですか」


「これ使えー!」


ポイポイッ


亮太「おぉ、野次馬もノリがいいな。
    じゃあ俺も、小麦のダミーマイクを……それー」ポイッ

愛「えっと……」オロオロ




―― 真人 VS 鈴&佐々美



鈴「確か、手についたものを拾わなきゃいけないんだ……」ススッ


鈴「これはなんだ」ヒョイ


― 鈴はバナナの皮を手に入れた!


鈴「またか!?」


恭介「おっと、一度手に入れたものは必ず使えよ」


鈴「しょうがない……これでも喰らえ!」ブンッ


真人「おっと」サッ


鈴「素早く動けるのか、真人め」

佐々美「もういいですから、ピコピコハンマーを手に入れてきなさいな」

鈴「わかった」タッタッタ


真人「へっへへ、残念だったな」ヒョイ


― 真人はピコピコハンマーとプラスチックバットを手に入れた!


鈴「ずるだ!」


恭介「いいや、ずるではない。
    ピコピコハンマーは武器とは別に装備しても構わないのだからな」


鈴「そんなこと聞いてない」


恭介「そっちで勝手に言い合ってたからだろう」


鈴「むむむ……!」


ヒョイ

佐々美「なにか手触りのいいものが――」


― 佐々美はにゃんプチを手に入れた!


佐々美「な、なんですのこれ……缶詰!?」

鈴「猫のご飯だな。うちの仔達が喜びそうだ」

佐々美「投げつける他に方法が思い当たりませんわね、……えいっ」


― 佐々美はにゃんプチを真人に投げた!


真人「えいっ」コツン


― 真人はにゃんプチをバントした!

コロコロコロ


佐々美「……万事休すですわ」

鈴「あたしに作戦がある」


真人「なんだ、もう終わりか……口ほどにもないな」


鈴「あ、筋肉が空を飛んでるぞ!」

真人「ほう、それは愉快だ」

鈴「引っかからないなんて……そんなの嘘だ!」

真人「いくら頭の中が筋肉で出来てる俺でも、そんなことに引っかからねえよ」


理樹「それ、自分で言っちゃ駄目だからね……」

唯湖「あれは……」


海未「にこたちはどうして動かないのでしょうか……?」

絵里「理由があるとは思うんだけど……よくわからないわね」



唯湖「ふむ……あの姿勢の正しさ……」

理樹「どうしたの?」

唯湖「気になっているのだが、彼女たちも同じグループだったな」

理樹「あぁ……うん、そうだよ。それがどうかした?」

唯湖「武道を嗜んでると見た」

理樹「?」



海未「穂乃果がいたら参加してしまいそうですね……」

ことり「そうだね……」



真人「おうおう、どうしてこうなったのかもう忘れちまったが、お前たちはこれでおしまいだぜ」


葉留佳「ササッ」


― 葉留佳が飛び出した!


葉留佳「サッ」


― 葉留佳は足元にバナナの皮を仕掛けた!


葉留佳「サササッ」


― 葉留佳は身を隠した!


鈴「……」

佐々美「……」


真人「覚悟しろー!」


― 真人はピコピコハンマーを振りかざした!


ツルッ

真人「うぉっ!?」

スッテーン

真人「ぐはっ!?」


― 真人はバナナの皮を踏んで転倒した!


ヒュルルルルルル


ピコンッ

真人「ぐふっ!」


― 転んだ拍子に手放したピコピコハンマーが真人の頭を叩いた!



恭介「勝負あり!」


―― 鈴&佐々美 勝利!


オォォォオオオオ!!!



理樹「あはは……すごい歓声……」


にこ「こういう戦いもあるのね……」

真姫「偶然が偶然を呼んだだけじゃない」


謙吾「では、次は俺が行こう」


―― 謙吾 VS にこ&真姫



謙吾「ふむ、この手触り……中々いいな」


― 謙吾はハリセンを手に入れた!



にこ「な、なんだか強うそうな人だけど」

真姫「先にハンマーをとっておけばいいのよ」

タッタッタ


真人「」


真姫「転んだ拍子に頭を打ってたけど……大丈夫なのこの人……」

鈴「いつものことだ。20秒位で目を覚ます」

真姫「……そう、それならいいけど。とりあえず」


― 真姫はピコピコハンマーを手に入れた!



にこ「えっとアイドルらしく……これね!」


― にこは魔法スティックを手に入れた!


真姫「どうしてこんなことなったのよ、まったくぅ……」


謙吾「今日会ったばかりの顔見知りだが、油断はない」


にこ「つい取ってしまったけど、魔法スティックでどうしろというの……」



絵里「なんだか、にこが困ってるみたいね」

海未「アイドルが魔法スティックで物理攻撃……イメージダウンもいいとこですね」

花陽「それは絶対に駄目だよっ」

ことり「にこちゃーん! 魔法だよー♪」



にこ「そうね、それしかないわね!」


―― 亀サイド


「凛、ちょっといい……?」

凛「?」

「みくがどこ行ったか知らない?」

凛「私は見ていませんけど……?」

「うーん……おかしいわねぇ……」

スタスタ


タッタッタ

麗奈「ぜぇぜぇ……ゴホゴホッ……どこ隠したっていうのよ律子ッ!」

凛「ほら、水」

麗奈「礼は言わないわよ。……ゴクゴク」

凛「ねぇ、麗奈……みくがどこに行ったか――」

麗奈「そんなことより、アタシの鞄がどこいったか知らない?」

凛「……知らない」

麗奈「この控室全部探したけど見つからないのよ! おかしいわよ!」


「……なにかな、これ……亀? タワシ?」


凛「あ、李衣菜……みくがどこ行ったか知らない? 律子さんが探していたんだけど」

李衣菜「鞄持って走り去っていったよ」

麗奈「鞄……?」

李衣菜「これくらいの大きさの鞄……だったかな」

麗奈「それっ、アタシのじゃないのッ!?」

凛「どこに行ったんだろ……」

李衣菜「鞄の中に何が入ってたの?」

麗奈「プロデューサーと観客を驚かせるためのとっておきのイタズラ道具よッ。
    バズーカとか、バズーカとかッ!」

凛「何か言ってた?」

李衣菜「楽しそうなことがあるから使うって」


―― 魔法少女にこサイド



にこ「……魔法、魔法ね」


謙吾「……」


真姫「微動だにしないし……このままじゃ、埒が明かないわ」


にこ「マジカルチェンジ! ラヴリーエンジェルにこにー♪」


絵里「に、にこ……」

海未「やってしまいましたね」



にこ「いくわよ! ぴゅあぴゅあスマイルハ~ト!」


謙吾「……?」


真姫「え?」


恭介「?」


愛「今のは……?」

亮太「さぁ……?」



野次馬「「「 ? 」」」


し ー ん




花陽「じ、時間が止まっちゃった……」



にこ「にこにーの魔法にみんながトキめいてるのね♪」


理樹「け、謙吾……今の攻撃だからさ」


謙吾「あ、あぁそうか……」


謙吾「……」


謙吾「ぐわぁぁあああ!!」ガクッ



花陽「時間差!?」



― 謙吾は精神的ダメージを受け膝をついた!


「今のうちにゃ!!」


真姫「!」


― 真姫は謙吾の後ろに忍び寄った!


真姫「……!」


― 真姫は素早くピコピコハンマーを振り下ろす!


謙吾「甘い」

スッ

 パァン


真姫「あ……!」


― 謙吾はハリセンを鋭く払い 真姫の手にあるピコピコハンマーを叩き落とした!


謙吾「……」

真姫「う……」



― 謙吾は拾ったピコピコハンマーで真姫を叩いた!


ピコン

真姫「……っ」


― 真姫 敗退!



オオォォオ!


にこ「真姫が負けた……!」


鈴「容赦無いな」

佐々美「さぁ、棗鈴! わたくしと勝負ですわ!」

鈴「色黒付けてやる」

佐々美「白黒ですわ」


恭介「おい、鈴」

鈴「今忙しい」

恭介「向こうを手助けしてやれ」

鈴「?」

恭介「謙吾相手に一人じゃ無謀すぎるだろ。
    それに、俺たちの張り合い相手があの子だけだからな」

鈴「……わかった。勝負はおあずけだ、ササミ!」

タッタッタ


佐々美「ササコですわ!」


佐々美「……?」


佐々美「!」ハッ


佐々美「ササミで合ってますわ! 宮沢さんの相手をしようというのですか、棗鈴!」

タッタッタ



にこ「マジカルスウィート、エクスプロージョン!」


謙吾「……」サッ


にこ「あれを避けるなんて、とっても手強いにこ……にこ、こわ~い♪」


海未「余裕ですね……」

絵里「甘い……爆発?」

花陽「あれ……あれれ?」

ことり「どうしたの、かよちゃん?」

花陽「凛ちゃんの声だと思ったけど……違うのかな?」



唯「あ、あずにゃん三号ちゃんだ!」

梓「また、何をしているんですかね」

紬「楽しそうなことしてるわ」

澪「……」
  「私も参戦するぜ!」


恭介「いいだろう、ルールは知ってるな?」


澪「……」
  「あのハリセン男を倒せばいいんだろ、余裕だぜ!」


謙吾「ふっ、余裕とまで言われたか」


「おぉー、あの女の子すごいなー!」

「がんばってー!」


澪「ゑっ、私が!?」
  「ツンツンしたハリセン頭だな! 負けないぞ!」

澪「おまえか! 腹話術するな!」

ピコンッ

律「あつっ」


恭介「うむ、名前は知らないが、君は退場!」


律「なんだ?」


― 律 敗退!


唯「おぉー、いい音が鳴ったね」

紬「叩いたら音が鳴るのよね」

唯「えいっ」

ピコンッ

紬「きゃっ」

唯「澪ちゃんも、えいっ」

ピコンッ

澪「……」

紬「やったな、唯ちゃん~えいっ!」

ピコンッ

唯「やられちゃった~」


恭介「そこの3人の女子、退場!」


― 紬 澪 唯 敗退!


梓「なんですかね、退場とか言われましたけど」


にこ「なんでピコピコハンマーが二つもあるの……?」


恭介「確かに、謙吾がひとつ、そこのおさげの子が一つ……」


律「ほら、あたし等のために戦ってこいよ梓」

梓「い、いやです!」

唯「私たちの仇を討って、あずにゃん!」

梓「むぎ先輩と澪先輩を叩いたの唯先輩じゃないですか!」

唯「もうすでに……罰は受けたよ」

梓「どこ見てるんですか、遠い目をしないでください」
 
紬「あずさちゃん、ファイトぉ!」

梓「…………」
 「イベント大好き、中野梓、いざ参る!」


恭介「確認だが、そのピコハンはどこで手に入れた?」

梓「露店のくじ引きで手に入れた物です……」

恭介「よし、使用を許可する」


鈴「謙吾は手強いからな、みんなで潰すぞ」

佐々美「潰すとか言わないでくださいな」


謙吾「となると、相手は4人か……」


「はーい! みくも参戦していいかにゃー?」


恭介「もちろん許可するにゃ」


花陽「前川みくちゃんだっ!」


にこ「前川みく!?」


みく「みんなであの人を倒すにゃー☆」


花陽「さっきの声、凛ちゃんじゃなくて……みくちゃんだったんだ……」


みく「それじゃーみんな、ここから武器を取って~☆」


ダバァ


― みくは鞄の中からイタズラ道具を取り出した!


鈴「色いろあるな」

佐々美「これなんかいいですわね」


― 佐々美はびっくり箱を手に入れた!


恭介「待て待て、鈴と笹瀬川の二人はすでに決まっているだろう」


鈴「細かいな」

佐々美「……しょうがないですわね」


― 佐々美はびっくり箱を諦めた!


凛「凛はこれに決~めた!」


花陽「参戦しちゃったの!?」



― 凛はバズーカを手に入れた!



絵里「凛ー! 穂乃果たちはー!?」


凛「エントランスにいるにゃー!」


海未「なぜエントランスに……?」

唯湖「君は参加しないのかな」

海未「あ、さっきの……。な、なぜ私が……?」

唯湖「君ならいい試合が出来そうだと思ってな」

海未「?」


梓「律先輩、これどうやって使うんですか?」

律「これは、パンチハンドと言って、ここを握るとこの手の部分が伸びるんだ」

梓「こども用のおもちゃですね」

澪「試し撃ちしてみよう」

律「おぉっ、こっちに向けるなよ!」


― 梓はパンチハンドを手に入れた!



謙吾「6人が相手か……」


にこ「これで絶対に勝てるわね」フフフ


律「よし、みんな集まれ! 作戦会議だ!」

澪「なぜ律が仕切るんだ」


みく「わくわく」

凛「にこちゃん、迷子になっちゃダメにゃ」

にこ「迷子になったのあんた達でしょ」

梓「早く終わらせましょう」

佐々美「そうですわ、観覧車が待っておりますの」

鈴「よし、集まったぞ」


律「……」


一同「「「 ? 」」」


律「なんだよ?」

澪「おまえが集めたんだぞ!」


― 澪はパンチハンドを使った!


グンッ

 ドスッ


律「ぐふっ」

澪「あ、ごめんっ、予想以上の手応えが……!」

梓「だ、大丈夫ですか、お腹に当たりましたけど」

律「大丈夫。びっくりしたけど、そんなに威力はない……」

にこ「さっさと指揮を取りなさいよ、観客を待たせてるでしょ」

律「すげえパフォーマー魂……。
  というか、敵のこと知らないから作戦なんて立てられないだろ」プンスカ


佐々美「宮沢さんは剣道部ですわ。あとは幼馴染の棗鈴から弱点などを」

鈴「アイツに弱点なんてないぞ」


謙吾「……」


― 謙吾は腕を組み、目を閉じて精神統一をしていた!


凛「あの雰囲気……ただものじゃないにゃ……」ゴクリ

みく「弱点がないなら作ればいいにゃ☆」

梓「作る?」

みく「油断させるってこと☆」

鈴「だけど、前に理樹と似たようなことしたが、謙吾に手も足も出なかった」

佐々美「さすが、宮沢さんですわ」

鈴「おまえ、寝返りそうだな」

佐々美「ここまで来てそんな格好の悪いことできませんわ」

にこ「しょうがないわね~、それじゃあ~♪」

梓「なにかいい案があるんですね?」

にこ「にこのとっておきの魔法を――」

凛「みんなの持ってる武器を最大限に活かすこと、それしかないにゃ!」

佐々美「現状、それしかありませんわね」

鈴「よし、あたしに作戦がある。みんな、耳をかせ」


ごにょごにょ


― 作戦中!


凛「やった、凛が大活躍ー!」




謙吾「……では、再開といこう」


― 謙吾はハリセンを握りしめ、剣道の構えをしている!



にこ「さぁ、行くわよ! 勝って豪華ディナーよ!」



真姫「まだ言ってるのね」


― 謙吾 VS にこ&5人のネコ娘


恭介「試合開始!」


佐々美「行きますわよ、みなさん!」

凛「それっ」

みく「にゃー☆」

鈴「……」

梓「みんなで食べたほうがいいかも……」


― 試合開始の合図とともに5人のネコ娘達が駈け出した!


謙吾「四方八方から攻めようということか」


鈴「七方だけどな」

謙吾「七……?」


にこ「位置についたわよ、凛!」


凛「よぉーっし、行っくよ~、作戦開始ー!!」


― 凛はバズーカを撃った!


ドォン!


謙吾「目眩ましか……!」


鈴「理樹ー!!」


理樹「うん! 名古屋名物、ひつまぶしお待たせしましたー!」


ブンッ


― 理樹は謙吾の足元に目掛けてお盆を投げた!


謙吾「温いな、バズーカの反対側から仕掛けても意味が無いぞ理樹!」


― 謙吾はジャンプでお盆を避けた!


鈴「墓に帰れー!」


― 鈴は空中で身動きできない謙吾に飛び蹴りを仕掛けた!


謙吾「俺はゾンビか」


― 謙吾は右腕で冷静にガードした!


佐々美「その判断力、いつまで続くのか見せてもらいますわ」


― 理樹が投げたお盆を佐々美はキャッチした!


梓「えいっ」

グンッ


― 梓は謙吾の持つピコピコハンマーに標準を合わせ、パンチハンドを使用した!


謙吾「けほけほっ、バズーカの煙が効いてきたか……!」


梓「あれ……?」


― パンチハンドが届いてない!


みく「もっと近づかないと倒せないにゃー! ねこぱ~んち☆」


― みくは装備した肉球ヌイグルミで謙吾に攻撃!


謙吾「……?」

みく「ぱんちぱ~んち」

ポチポチ


― みくは無防備な謙吾を容赦なく叩く叩く!


謙吾「……」

みく「はっ!」


― ピコピコハンマーが振り下ろされた!


ピコンッ

みく「……にゃ?」

佐々美「わたくしが守りに回るなんて……」

みく「助かったよ、ササちゃん♪」

謙吾「先ずは笹瀬川からだな」


― もう一度振り上げる!


凛「そこまでにゃー!」


― 凛はバズーカを構えていた!


謙吾「なに……!?」


佐々美「引きますわよ!」

みく「にゃ~ん♪」


凛「一つとは限らないよ! どかーん!」


ドッカァァン


― 倍の威力で謙吾に放たれた!


凛「わっ、これ、人に向けて撃っちゃダメなバズーカにゃ!?」


理樹「どのバズーカも駄目だけどね……」

鈴「よし、これでくたばったな」

佐々美「初めてにしては中々の連携でしたわ」

梓「……なにもしてなかったけど」

みく「歴史的勝利~☆」


にこ「あ…あれ……」


― にこは一歩も動いていなかった!



謙吾「うぅ……目が……耳が……」


― 謙吾は目と耳を抑え、膝を付いていた!



理樹「大丈夫、謙吾……?」


謙吾「目が痒くて耳鳴りがする程度だ……問題はない」


凛「よかったにゃ……」


みく「にこちゃん、そのピコハンで叩いて来るにゃ」

にこ「あ、そうね……そうね」


― にこがピコピコハンマーを振り上げる!



にこ「これでおしまいよ!」



ピコンッ


謙吾「……っ」

にこ「え……!?」


恭介「油断大敵、だな」


― にこ 敗退!


鈴「やられたか……」

凛「えっ、何が起こったの!?」

理樹「謙吾は声だけを頼りに攻撃したんだ……」

佐々美「身長も把握していたようですわね」

梓「えー!?」


― 梓は驚愕した!


鈴「耳鳴りは嘘だったのか」

恭介「いいや、本当に鳴っていたのだろう。
    あの子が何も言わずに叩いていれば勝っていたはずだ」

理樹「窮鼠猫を噛む……とは違うけど、そんな感じだね」


みく「冷静に状況を説明してる場合じゃないぞぉー☆」

タッタッタ


― みくが眼と耳を押さえた謙吾に近づいた!


みく「さいれんとみくぱ~んち☆」


― 低姿勢で謙吾の手を狙い打つ!


謙吾「む……?」


梓「にこさんの犠牲を無駄にしません!」


― 梓も続いてパンチハンドを撃つ!


謙吾「ぐ……!」


― 狙われていることに気付いた謙吾はピコピコハンマーを強く握った!


梓「えいっ!」


グンッ

バシッ


謙吾「く……!」


みく「離して楽になるといいにゃ~!」

ポチポチ


謙吾「そこだ!」


ピコンッ


みく「みゃっ」


梓「!」


― みく 敗退!


謙吾「……」


梓「?」


― 謙吾はハリセンを伸ばし梓との距離感を探っている!


理樹「危ない! 離れて!」

凛「梓ちゃん、離れるにゃー!」


謙吾「むん!」


― 謙吾がハリセンを振り下ろした!


梓「危ないっ!」


― 梓は一足飛びで後ろに下がった!



凛「えっと、武器の無い凛はどうすればいいの?」

理樹「ピコハンで最後、トドメを刺す役だね」

凛「了解!」ビシッ



佐々美「回復されたら勝ち目はありませんわよ!」

鈴「一気に叩き込めー!」

凛「おー!」


― 3人のネコ達は謙吾に向かって駈け出した!



葉留佳「サッ」


― 葉留佳が飛び出した!



葉留佳「ササッ!」


― 葉留佳が謙吾の足元にバナナの皮を設置した!



謙吾「……二度も通用するわけがないだろう」


― 謙吾が足でバナナの皮を払った!



葉留佳「わー、やられたー!」

ピコンッ


― 葉留佳 敗退!


謙吾「……!」


梓「きゃっ!」


― 謙吾は梓に詰め寄った!


ピコンッ


梓「にゃっ」


― 梓 敗退!


律「アイツ! あたし達の梓になんてことを!」

澪「戦場に駆り出したのはおまえだ」



謙吾「あと、3人……いや、理樹を入れて4人か」



佐々美「みなさんストップですわ!」

鈴「もう回復したのか!」

凛「う~っ、もう一つバズーカがあれば勝てるのに~!」

理樹「謙吾のあの目……もう遊びの域を越えてる……」


恭介「いや、違う。目が険しいのはまだ回復していないということだ」



にこ「凛ー! 必ず勝ちなさいよー!」


凛「まっかせるにゃー!」



鈴「理樹、あたし達が走ったらお盆を投げろ」

理樹「向こうで受け取る人が居ないから観客が危ないよ」

鈴「大丈夫、クドがいる」

理樹「あ……なるほどね」

佐々美「行きますわよ、これがラストチャンス」

凛「最後は凛に任せて!」

鈴「謙吾を亡き者にしろー!」

タッタッタ


― ネコ達は一目散に駈け出した!


理樹「名古屋名物、手羽先ときしめんお待たせしましたー!」

ブンッ


― 理樹はお盆を謙吾の足元を目掛けて投げた!


謙吾「……」


― 謙吾はジャンプをせず、横に移動して避けた!


凛「読まれてるにゃ!」


理樹「まだだよ、謙吾! 追加注文のえびふりゃーでーす!」


― 理樹はもう一枚のお盆を投げた!


謙吾「な、なに……!?」


― 意表を突かれ二枚目のお盆をジャンプして避けた!


鈴「海の藻屑となれー!」


― 鈴は空中で停止している謙吾へ直接上段蹴りを入れた!


謙吾「ぐっ、バナナの皮はどうした鈴!?」


― 謙吾はハリセンを捨て右腕の防御でダメージを軽減した!


鈴「すでに仕掛けた」

謙吾「……!?」


佐々美「私の攻撃は……地味ですわね」


― 佐々美は謙吾の足元にバナナの皮を乗せたにゃんプチをスライドさせていた!


謙吾「く……うぉぉぉぉおおおお――!!」


― 謙吾は空中で体を捻り地面に右手を着き鈴と佐々美の罠を回避した!


佐々美「な……!?」


鈴「なにー!?」


凛「思った以上に柔軟だにゃー!」



「わっ、お盆がこっちに来る!?」


― 観客に迫る二枚のお盆!


クド「わふー!」


― クドが飛び出し一枚目をキャッチした!


「こっちにもう一枚!?」


クド「よっ!」


― クドは着地したと同時にもう一枚をキャッチするため再び地面を蹴った!


クド「よいしょー!」


― 見事にキャッチ!


「「「 オォォォォ!! 」」」


パチパチ
 パチパチ


― 沸き起こる歓声と拍手喝采!


小毬「クーちゃんすごーい!」

葉留佳「やるな、クド公ー!」

美魚「さすがです」

パチパチパチ

クド「えへへ、どうもなのです」

にこ「やるわね」

クド「ストレルカとヴェルカと一緒にフリスビーで遊んでいますから」

にこ「すと……べるか?」

クド「ストレルカとヴェルカです。小さい頃から一緒に育ってきた犬なのです」

にこ「いぬ……犬ね」

クド「ヴェルカのヴェ、ですよ、にこにーさん」エヘン

にこ「ヘヴィ」

クド「ヘビ」




理樹「まだだよ、鈴!」


謙吾「……!!」


― 謙吾は着地後バランスを崩して体を起こせない!


佐々美「今ですわ、リンさん!」


凛「トドメにゃー!!」

鈴「よし、もう一つバナナの皮だな!」


― 鈴は凛の足元にバナナの皮を投げた!


凛「危ないにゃ!?」


― 凛は咄嗟にバナナの皮を避けた!


恭介「ここへ来て鈴のノーコンが戻ったか……。
    どうやら焦りが出ているな、球筋に出ているぜ」

真人「球じゃねえがな」


佐々美「何をしていますの!?」


鈴「おまえがチャンスだって言った!」

佐々美「あなたではありませんわ!」


謙吾「……」


ピコンッ

 ピコンッ


佐々美「にゃんっ」

鈴「うにゃっ」


― 鈴 佐々美 敗退!


謙吾「さて……」


― 謙吾はもう一人のネコを探すが視界には入らなかった!


謙吾「……?」


― 謙吾の目に入った脱ぎ捨てられた凛の靴!


謙吾「足音を消したか……」


― 謙吾はピコピコハンマーを構え相手の気配を探った!



凛「――!」


― 謙吾の背後に回った凛がピコピコハンマーを振りかぶる!


謙吾「くっ!」

凛「にゃぁぁ!!!」


ピコンッッ


― 二つのピコピコハンマーが同時に重なり高い音が鳴り響いた!


凛「あ……!」


シュルルルルル......


― 謙吾の力量で凛のピコピコハンマーが弾き飛ばされた!


謙吾「……」


― 謙吾は無防備になった凛を見下ろした!


凛「にゃん♪」


― 艶かしい凛のおねだりネコポーズ!


謙吾「……」


― しかし効果は無かった!


ピコン


凛「にゃうっ」


― 凛 敗退!


謙吾「そろそろ潮時だな」

ピコン

理樹「そうだね」


― 理樹 敗退!


恭介「いや、まだだ」


謙吾理樹「「 ? 」」



― 恭介の目線の先には二人の少女が向かい合っていた!


......シュルルルル


唯湖「ふむ、ちょうどいいタイミング」


― 唯湖は跳んできたピコピコハンマーをキャッチした!


ことり「うぅ……!」

唯湖「終わりだ」


ピコンッ


― ことり 敗退!


唯湖「さて、君はどうする?」

海未「……」


にこ「どうしたの、海未は?」

真姫「というか、ことりも参戦してたの?」

絵里「それが――」




― 話は1分前に遡った!



ことり「あっ、にこちゃんが!」

海未「やられてしまいましたか……」

花陽「凛ちゃん……バズーカを撃っちゃった……」

絵里「人に向けて撃つなんて……あとで強く言っておかないとね」


ことり「えっと……!」


― ことりは辺りを見回した!


花陽「あっ、みくちゃんが負けちゃった!」

絵里「……強すぎるわね、あの男の人」

花陽「ねこぱんち可愛かったっ!」

海未「ことり……何を探しているのですか?」

ことり「なにか手助けができないかなって……、あれがいい!」

テッテッテ


海未「ことり!?」


絵里「梓が負けたわ……」

花陽「あ、あれはっ!」


― 花陽は驚愕した!


「ちょっと、みく……?」

みく「あ……」

「こんなところで遊んで、覚悟は出来ているんでしょうね?」

みく「あー、えっとね……ステージに人が集まらないからどうしてかにゃ~と思って」

「ふぅん……」

みく「そしたらぁ……楽しそうなことやってたから…♪」

「楽しそうで何よりだわ……さぁ、来なさい!」

みく「ごめんにゃさ~い☆」


― みくは連れて行かれた!


ことり「よいしょっ」


― ことりはびっくり箱を手に入れた!


唯湖「ここを通りたくば、私を倒してからにしてもらおうか」


― 唯湖が模擬刀・正宗を携えて立ち塞がる!


ことり「え……?」

唯湖「私が相手ということだよ、可憐なる姫君」


― 唯湖は笑みを浮かべた!


ことり「えぇっ!?」

唯湖「向こうでは二人が負けて、クライマックスと言ったところか」

ことり「ど、どうしよう……っ」


― ことりは狼狽えている!


絵里「待って!」


― 絵里が二人の間に入った!


唯湖「?」

絵里「あなた達はこのゲームに慣れているみたいだけど、
    私たちはこういった遊びは全然と言っていいほど経験がないの」

唯湖「それが理由だから、加勢を許せ、と?」

絵里「えぇ」

唯湖「試練というのは常に隣り合わせだよ」

絵里「……譲ってくれないのね」



― 唯湖 VS ことり&絵里


絵里「……」


― 絵里は遊園地のパンフレットを手に入れた!


ことり「絵里ちゃん……?」

絵里「武器のカタナを持つ仕草が馴染んでいるのよね、一人じゃ無理よ……」


海未「……」

花陽「あぁっ、秋月律子さんがっ、でも凛ちゃんを応援しないとっ、絵里ちゃんが危ないよっ」


― 花陽は混乱している!


唯湖「では、ここを譲る代わりにその子を抱きしめてもいいだろうか」

ことり「……え? かよちゃん?」

唯湖「私は可愛い子が好きでね」

絵里「そんな身勝手な話、認められないわ」

唯湖「ふふ、最大の譲歩だと思ったがな。
    それなら、勝利の記念に行使させていただくとするか」


― 唯湖は構えた!


花陽「あぁっ、凛ちゃんがっ!」

海未「花陽、少し下がってください……」

花陽「俊敏な動きだよ!」


― 海未の声が届いていない!


唯湖「……――」


― 唯湖は右手で政宗を軽く払った!


スパッ


絵里「え――……!?」


― 絵里の持つパンフレットが二つに裂けた!


パサッ


絵里「――!」


― 絵里の背筋が凍りついた!


海未「まさか、真剣……!?」


唯湖「いや、まさか。
    プラスチック製だが、恐ろしいほどの切れ味だな」


― 唯湖は正宗を吟味している!


ことり「絵里ちゃん……!」

絵里「私は大丈夫よ……」

唯湖「さて、勝負はついたわけだが」

絵里「……そうね、これじゃ私は戦えないわ。……降参よ」


― 絵里 敗退!


唯湖「潔い性格は嫌いじゃないよ」


絵里「――ただし」

唯湖「む……?」


― 絵里は唯湖の政宗を取り上げた!


絵里「これは没収よ」

唯湖「敗者に、その権限はないはずだが……?」

絵里「今のは……技なの?」

唯湖「ある条件を導き出せば出来ないことはないな」

絵里「誰にでも出来るってわけじゃなさそうね……」

唯湖「……」

絵里「あなたがソレを人に向けることはないでしょうけど、
    それでも持っているべき物じゃないわ」

唯湖「……ふむ、敗者にお叱りを受けるとは」


― 唯湖は武器を失った!


ことり「えっと……ど、どうしよう海未ちゃん……」

海未「いえ、降参すればいいのです。……凛も負けてしまいましたし」


ことり「で、でもっ、私が負けたらかよちゃんが……!」


花陽「……?」


唯湖「どうやら自分が景品にされていることに気付いていないようだな」

ことり「……っ」


― ことりは箱の開封に戸惑っている!


......シュルルルル


唯湖「ふむ、ちょうどいいタイミング」


― 唯湖は跳んできたピコピコハンマーをキャッチした!


ことり「うぅ……!」

唯湖「終わりだ」



ピコンッ


― ことり 敗退!


唯湖「さて、君はどうする?」

海未「……」


にこ「どうしたの、海未は?」

真姫「というか、ことりも参戦してたの?」

絵里「それが――」


小毬「恭介さ~ん、係員さんが~、来ちゃった~!」


恭介「時間だな」


謙吾「事情を聞かれても面倒だ、ずらかるとしよう」

理樹「そうだね、そろそろ時間だし」


唯湖「これで幕引きか、仕方がない」


海未「……」



......タッタッタ


― 一人の少女が駈けてくる!


「やぁぁぁああ!」


唯湖「……?」


― 少女は唯湖に向けて紙を丸めて作った武器を振り下ろした!


唯湖「……」


― 唯湖はそれをピコハンで受け流した!


「う、うそ……不意打ちだったのに……!」


海未「ほのか……?」


穂乃果「なんで今のを受け流せるの!?」


― 高坂穂乃果が現れた!


ことり「穂乃果ちゃん……それは?」

穂乃果「これ? むぎちゃんがここで楽しいことしてるからって聞いて、参加しようと思ったんだ~」

梓「そのむぎ先輩は?」

穂乃果「なんかよく分かんないけど、
     ピコピコハンマーを当てるってくじ引きの露店にいるよ」

梓「……? ……どうして???」

穂乃果「くじの上位しか出なくて、引き直してる」

澪「道理で居ないと思ったら……武器を調達しようとしてたのか……」

律「唯も一緒だな……迎えにいくか」


恭介「制限時間は1分だ」


唯湖「承知した」


― 唯湖は構える!


穂乃果「うわ、なんだか強そう……」

絵里「実際強いわよ……どうするの、穂乃果?」

穂乃果「もちろん全力で戦うよ……って、あれ? みんなは?」

絵里「負けてしまったわ」

穂乃果「そっかぁ……って!」


唯湖「時間がないのでさっさと終わらせるとしよう」


穂乃果「そんなっ、強いんなら私一人じゃ無理だよ!」


ことり「穂乃果ちゃんっ、前見てっ!」


唯湖「では、行くぞ――」

スッ


― 唯湖は一足飛びで穂乃果に迫る!


穂乃果「え――?」

唯湖「恐れず立ち向かおうとする意志は敬服する」


ピコンッ


― 唯湖の攻撃を竹刀が遮った!


穂乃果「お、おぉ……助かったよ、うみちゃん」

海未「……戦いの最中によそ見をしないでください」


唯湖「君の武器はそれか」


海未「咄嗟に掴んでしまいましたが……。
    参加する気はなかったのにどうしてこうなるのですか……」

穂乃果「あはは、まぁまぁ」

唯湖「それにしては闘志が湧いているようだが」

海未「仲間が負けていったのを見て、何も感じなかったわけではありません」

穂乃果「よぉし! うみちゃんと二人なら負けないよ~!」

唯湖「そう、上手くいくかな」

穂乃果「え?」


謙吾「俺も居る。つまり2対2だ」


海未「――?!」

穂乃果「なぁんだ、平等になっただけだね」


にこ「知らないって強いわね……」

真姫「……そうね」


絵里「その二人が持つピコピコハンマーを奪わない限り勝ちはないわ」


穂乃果「うーん、複雑なルールだ」

海未「男性の方も、相当な腕前ですよ。この竹刀だって役立てるのかどうか」



― 謙吾&唯湖 VS 海未&穂乃果


唯湖「では――」

謙吾「――始めよう」


― 唯湖と謙吾が走りだした!


海未「穂乃果、私の後ろに!」

穂乃果「うん!」


― 海未が竹刀を構え穂乃果がその後ろに付いた!


唯湖「――!」

スッ


海未「やぁっ!」


― 海未が竹刀を振り下ろす!



唯湖「おっと」


― 唯湖は柄の部分で攻撃を防いだ!


海未「……!」

唯湖「ふふ、遠慮は無いみたいだな」

海未「武器の差は大して無いものだと判断します!」

唯湖「そうか。では一つ、具申するとしよう」

海未「……?」

唯湖「集中力をもっと高めるべきだ」

海未「あ……!」


謙吾「そこだ!」



― 唯湖の右から飛び出した謙吾が海未を捉えた!



穂乃果「私もいるよ!」


バシッ


― 穂乃果は丸めた紙の武器で謙吾のピコピコハンマーへ応戦!


ヘナリ

穂乃果「折れた!?」


ピコンッ

海未「く……!」


― 海未は竹刀の柄頭でピコピコハンマーを防いだ!


唯湖「ほぅ……」

謙吾「この反応は……?」

唯湖「彼女も武道に携わる人物だということだよ、謙吾少年」

タッタッタ

謙吾「なるほど」

タッタッタ


― 二人は左右に分かれて走りだした!


海未「っ!?」

穂乃果「私たちを挟もうってことだね!」



絵里「穂乃果も走って!」



穂乃果「わかった!」

タッタッタ


海未「えッ!? 私から離れてはいけません穂乃果――!」


絵里「どのみち一人は叩かれるわよ!」


海未「……!」


穂乃果「やぁー!」

タッタッタ


― 穂乃果は作戦も無く走る!



にこ「ずいぶんとトリッキーな動きね……」

真姫「穂乃果の考えを読める人なんて、そうそう居ないわよ」


謙吾「俺の相手は君か……」

穂乃果「おっとっと」


絵里「穂乃果、これ使って!」


穂乃果「ありがとー、絵里ちゃん!」


― 絵里が投げた代わりの紙棒を穂乃果は受け取った!


唯湖「彼女は君たちの智将というわけだな」

海未「……」

唯湖「だが制限時間はあと僅か。過ぎればこの武器を持つ私たちの勝ちだ」

海未「……っ」

唯湖「武器のリーチも強度もそちらが上……戸惑っている暇はないと思うがな」

海未「喋り過ぎではありませんか」

唯湖「フフ、そうだな。弱者は無駄に口を開く、気をつけよう」


海未「……」

唯湖「……」


海未「…………」


唯湖「『待ちの姿勢』……か」


海未「?」


唯湖「彼女から退場してもらうとしようか」

ダッ


海未「な……!?」


― 唯湖は海未に背を向け走りだした!



穂乃果「めーん!」

謙吾「……」


― 穂乃果の攻撃をスルリと避けた!


穂乃果「だよねぇ……、当たるとは思えないよ」


にこ「こらー! 真面目にやりなさいよ穂乃果ー!」


穂乃果「真面目だよー!」


謙吾「……?」


― 謙吾は穂乃果の背後に迫る二人の姿に気付いた!


タッタッタ


海未「待って――!」


唯湖「――!」


― 唯湖は足を止め、身を翻した!


海未「――!?」


唯湖「試合に勝つことを意識しろ」


ピコンッ


海未「!」


― 振り向きざまに放った一撃を海未は防いだ!


唯湖「私は君を倒し――」


ピコンッ


海未「……ッ!」


― 唯湖の連打が始まった!


ピコンッ

 ピコンッッ


唯湖「――その後、制限時間までゆっくりと彼女と『遊ぶ』こととする」


― 左右上下と容赦なく叩く叩く叩く!


海未「――ッッ!」


ピコッ

 ピコッッ


― 徐々に鋭さを増し音の間隔が短くなった!


穂乃果「めんどうこてー!」


謙吾「出鱈目か……」


― 飛び込み連打攻撃を避けた!


穂乃果「か、カスリもしない……!」


謙吾「そろそろ時間だ、終わらせよう」


穂乃果「……あ、うみちゃんが圧されてる!」


― 謙吾の背景で戦う二人を見て焦る穂乃果!


謙吾「加勢したくば、俺を倒してからにしてもらおうか」


― 謙吾は集中を切らさない!


穂乃果「そうさせてもらうよ!」


謙吾「フッ……強いな」


恭介「残り10秒だ!」


唯湖「――!」

ピコンッ

海未「う――!」


― 唯湖の力を込めた一撃に海未の構えが崩れた!


唯湖「ゲームオーバーだ」


― 唯湖は無防備な海未に襲いかかる!


海未「まだです――!」


― 海未は竹刀を捨てた!


唯湖「なに……!?」


― 振り下ろされるピコピコハンマーへと手を伸ばす!


海未「試合に勝つには――」

唯湖「――!」


海未「これしかありません!」


― ピコピコハンマーを奪いそのまま謙吾の背後へと投げつける!


シュルルルル


穂乃果「……!」


謙吾「……来ヶ谷が負けたか」


― 謙吾に背後に迫るピコピコハンマー!



にこ「行けー!」

凛「行っくにゃー!!」

ことり「行け~!」



謙吾「――!」

バッ


― 謙吾は振り向きざまに腕を振るい飛んできたモノを振り落とす!


謙吾「……!?」


― が、そこには何も無かった!


穂乃果「ナイスアシストだよ、うみちゃん!」


― 謙吾の真上にあったソレを穂乃果は跳ねてキャッチした!


穂乃果「やぁぁああああッ!」


― そのまま謙吾に叩きつける!


ピコンッッ


謙吾「――!」


花陽「や……」

真姫「やった……」

絵里「はらしょー……」



穂乃果「いえい!」

海未「いえい! ではありません! 力任せに叩き過ぎです!」



― 穂乃果&海未 勝利!


オォォォオオ!

 パチパチパチパチ



恭介「これにて、試合終了!」


係員「なんですか、この騒ぎは!?」


鈴「どうするんだ!?」

恭介「みんな散れ! プランBで行くぞ!!」

鈴「分かった!」

にこ「プランBね!」

花陽「分かっちゃったの!?」


― 少女たちは一目散に駈け出した!



希「遅いなぁ、凛ちゃんと穂乃果ちゃん……」


― 希 不参戦!


……



―― 亀サイド


麗奈「アンタの武器はこれよ、由愛」

由愛「カメ……さん?」

麗奈「さぁて、このレイナサマが来たからには自由にさせないわよーッ!」


「ねぇパパ~、あれに乗ろうよ~!」

「よぉし、いいだろう」


麗奈「……って、バトってる雰囲気じゃないわね」

由愛「控室に戻ろうよ……麗奈ちゃん……」

麗奈「もうちょっと向こうかしら……?」

由愛「……」

麗奈「あっちに行ってみるわよ」

由愛「律子さんに……怒られるよ……?」

麗奈「叱られるのが怖くて悪戯なんかできないわ」

スタスタ

由愛「……」


由愛「……これ、なにかな?」


― 由愛はびっくり箱を見つけた!


麗奈「置いていくわよーって、なんでそれがここにあるのよ?」


由愛「麗奈ちゃんの物……?」

麗奈「そうよ。
    みくがここで鞄を開いたってことよね……えっ、もう終わったってこと?」

由愛「……中身はなにかな?」


― 由愛は箱を開いた!


麗奈「バッ、なにしてんのよーッ!?」


― 麗奈は由愛を突き飛ばした!


由愛「きゃっ」


びよーん


― 箱から飛び出たピエロが麗奈を叩いた!


麗奈「ふぐっ!」

由愛「れ、麗奈ちゃん……私をかばって……」

麗奈「アイドルの顔になんてことすんのよッ!」


ガンッ


― 麗奈はピエロをグーで殴った!


グンッ

 びよーん


― バネの反動で戻ったピエロが麗奈をもう一度叩いた!


麗奈「ぐふっ!」


― 麗奈 不戦敗!


「よし、完成だよアニキ!」


― 少女が一人メカ製造に励む!


「これはね、ツッコミマシーンをちょこっと改良した戦闘ロボなんだ!」


― 少女は一人説明する!


「この手に武器をセットして……っと。
 戦闘ロボと言っても安全装置は働いてるから人体に影響はないんだよ」


「ボタンを押して、機動! このリモコンで操作する――……って!
 アニキいないし! バトルも終わってるし! 改良に時間かけすぎたー!」


ガシャンガシャン


ロボ「ウィーン」


―― 少女は膝を抱えて落胆した!


「ハァ……置いていっちゃうなんて……リン、泣いちゃうよ……アニキ……」


―― 凛鈴 不戦敗!


……




―― スクールアイドルサイド


ことり「あの箱には何が入ってたのかな~?」

凛「きっと、夢が詰まってたんだよ」キリッ

花陽「凛ちゃん、その表情気に入ったの……?」


真姫「それで、プランBって?」

にこ「私が知るわけ無いでしょ」

真姫「なんで私にだけ冷たいのよ」


海未「相手は男性とはいえ、手加減せずに叩くとは失礼極まりないことです」

穂乃果「えぇ!? そんな豪華なもの賭けてたの!?」

絵里「そうよ」

海未「話を聞いていますか、穂乃果……?」ズイッ

穂乃果「うぅ……!」

花陽「……希ちゃんは?」

凛「エントランスフロアにいるよ」

にこ「どうしてよ?」

凛「あ……えっとね……」


キンコンカンコーン


絵里「園内放送……?」


『迷子のお知らせをします。……東京からお越しの、矢澤にこちゃん』


にこ「は……?」

真姫「プフッ」


『同じく、東京からお越しの、矢澤梓ちゃん』


凛「あぁ……!」

穂乃果「……」シラー


海未(穂乃果の露骨な視線そらし……)

絵里「まさか……」ジー


『保護者の方がエントランスフロアでお待ちです』


にこ「希ぃーーッ!!」

ダダダッ


―― エントランスフロア


ダダダダッ


希「お……?」


「希ー! あんたねぇーー!!」


希「にこっち~!」


にこ「はぁっ、はぁ……っ、『にこっち~!』じゃないわよ!」

希「ん~?」

にこ「『何を怒ってるん?』って顔するんじゃないの! 
    放送で私の名前を使ったら大変じゃないの!?」

希「?」

にこ「『何が大変なん?』って首を傾げるんじゃないの!
    スクールアイドルのにこにーが此処に来てるってバレちゃったじゃない!」

希「……」


「お母さん~、次はあのジェットコースタに乗る~!」

「あなたにはまだ身長が足りないの……」


「おい、これに乗ろうぜ!」

「いいね~!」


「やだやだ~、帰りたくない~、まだ遊ぶ~!」

「お兄ちゃん、今年で20歳なんだから子供みたいにしないでよ」


希「そうやね」

にこ「どうせ注目されてないわよ……そんなものよ、私たちの活動なんて」

希「そんなことないよ、にこっちが頑張ってるの、うち知ってるから」

にこ「希……」

希「だから、今まで通り、みんなで頑張って行こ?」

にこ「う、うん……っ」


真姫「確か、怒って走って行ったわよね……?」

絵里「希の雰囲気に呑まれたのね……」

穂乃果「よかったよかった、円満だよ」


希「園内放送の件、うちは関与してないんよ?」

にこ「え、そうなの?」

希「うちはここで待ってただけ」

にこ「……ということは、あのバトルが始まる前に、
   あの場に居なかった人物が犯人よね」


絵里「犯人って……」

海未「人聞きの悪い……」

ことり「?」

花陽「……」


にこ「真姫と希以外の誰か……」


凛「……」

穂乃果「……」スッ


にこ「穂乃果!」


穂乃果「なんで分かったの!?」

にこ「あんただけ目を逸らしたからよ!」

穂乃果「しまった……!」


律「しかしもったいねえな~、くじ引きの上位を捨てて何度も引き直すなんて」

紬「でもほら、4位の人生踏んだり蹴ったりエクササイズを手に入れたの!」

澪「名前からして疲れそうだけど……」

唯「school idolのみなさん勢揃いですな」

梓「……」


希「お、梓ちゃんも来たようやね」


梓「……」ジー


穂乃果「……」

ことり「どうしたのかな……?」

海未「……誰が園内放送をしたのか、探っているようですね」

真姫「……」

凛「……」

花陽「……」


梓「……」ジー


にこ「……」

希「うふっ☆」

絵里「……」


梓「……『矢澤梓』はないと思う……穂乃果」

穂乃果「なんでぇ、なんで私って分かっちゃうのぉ……」

梓「他に居ないでしょ」

穂乃果「なるほど」

海未「納得しないで下さい」


亮太「あれ、もうみんな引き上げるの?」

愛「……」


にこ「まだ、少しだけ遊ぶわよ」

亮太「そうだよね、まだ陽は沈んでないし」

にこ「……」

亮太「いやぁ、最後すごかったよ、まさか勝っちゃうとは思わなかった」

穂乃果「私とうみちゃんが居て負けるわけないよ」フフン

海未「勝負は時の運ですが、勝ったことを素直に喜びます」


ことり「……しょんぼり」


凛「ことりちゃんが結構なダメージを受けてるにゃ!」

花陽「わたしも……参加できなくて役に立てなかったな……」


希「……何の話?」

絵里「あ……、えっと、それより早く移動して――」

希「エリちが焦るいうことは、うちの知らない所で楽しいことがあったということやんな?」

絵里「ち、違うのよ希……あれは楽しかったかどうかと言われれば……」

希「ん~?」ニコニコ

絵里「真姫はアレを楽しいと思えた?」


海未(絵里が狼狽えていますね……、確かに希の笑顔が何か不安にさせますが……)


真姫「まぁ、勝負には負けたけど、試合には勝ったんだから、楽しかったといえば楽しかったんじゃない?」

絵里「……!」

真姫「なんで予想外って顔してるのよ……?」

希「ふぅん……真姫ちゃんが楽しいって言うほどのイベントがあったんやなぁ」

絵里「なんで希を連れて来なかったの穂乃果!」

穂乃果「なんか矛先がこっちに来た!?」


亮太「なんだか複雑な状況になってるな……」


にこ「ねぇ、愛……」

愛「……はい?」

にこ「鶴見亮太に、なにかあった?」

愛「はい……、携帯電話を落としてしまって……故障したみたいです」

にこ「新機種に変えたって言ってたけど、すぐ壊れたってわけね。……ついてないわね」

愛「私のせい……ですね……」

にこ「そういうのとは違うような……そうね、もしかしたら」

愛「……?」

にこ「『何かあった』んじゃなくて、これから『何かある』のかもしれないわね……」

愛「どうしてそう思うんですか?」

にこ「なんだか、無駄に明るくしようってしてるみたいで、違和感あるのよ」

愛「……真姫さんも、同じことを言ってました」

にこ「真姫も……?」

愛「……はい」

にこ「ふぅん、真姫がねぇ……」

愛「……」


希「にこっちぃ……」


にこ「な、なに?」

希「み~んなで、たのし~こと、してたんやね~」

にこ「べ、別に楽しかったわけじゃ……」

希「嘘はダメよ、穂乃果ちゃんと海未ちゃん、何かやり遂げたって顔してるもん」

にこ「だからってなんで私に絡むのよ……」

希「にこっちがうちらから離れるからこうなったんよ」

にこ「私の責任!?」


ことり「にこちゃ~ん」

律「さっさと移動しようぜー」

澪「今から行けば、観覧車に間に合うな」

穂乃果「間に合う?」

唯「ふっふっふ、それはまだ内緒ですぜ」


小毬「あ~、ココに居た~」

鈴「おまえたち、ちょっとツラ貸せ」


穂乃果凛花陽「「「 え!? 」」」


紬「まぁまぁ、まだなにかあるのね~」

梓「なんですかね」

絵里「……」

にこ「ちょっと、離れなさいよ、近いわよ」

希「ええやん」

にこ「大体ねぇ、関与していないって言ったけど、
    穂乃果のやりたいようにさせたんだから無関係とは言えないじゃないの」

希「そういう考えもあるね」

にこ「やっぱり同罪よ! あっち、絵里のところ行きなさいよ!」

希「つれないんやなぁ、にこっちは」

真姫「なんで寄り添ってるのよ?」

希「にこっちが離れないよう、うちがしっかり見張っておくんよ」

にこ「夏なのよ? 暑いのよ?」


……




―― 埠頭


男「お前等の親も、琴吹グループにゃ世話になってんだろ」

イケメン「あ、あぁ……」

男「そこんとこのお嬢さんが来ててな、
  さっきの話なんだが、どう見ても年下の子なのに、怒られて落ち込んでいたんだよ」

イケメン「……どういう意味?」

男2「手っ取り早く教えてやる。お前等が声を掛けた人物は……」

男3「その琴吹グループのお嬢さんが恐縮してしまうほどのBIGな人物なんだよ!」

イケメン2「なんだって!?」

イケメン3「いやいや、たっくん達見てねえだろ! 俺らが声を掛けたのは矢澤――」

たっくん「バッキャロー!」

イケメン「ひぃっ」

たっくん「そんなんだから、お前等は人を見る目を養えないんだよ」

男2「おさげの髪型をした、その二人こそ、お忍びで来ている重要人物なんだよ」


イケメン2「ま、まさか……」

イケメン3「あの迷子のアナウンスは……!?」

たっくん「あぁ、隠さないといけない事情があるんだろう。
      お前等はしばらく、身を潜めてるんだな……」

男2「俺らも、これに懲りてまっとうに生きようと思う」

男3「色んな人生があるんだ……俺は学んだぜ」

イケメン「たっくん達が恐れるほどの……ッ!」ガクガクブルブル


……



―― 観覧車


にこ「わぁ……! とっても綺麗な景色にこ~♪」

梓「本当ですね! 遊園地全体がキラキラ輝いてますよ!」

真姫「二人とも仲がいいわね……お揃いのおさげも似合ってるし、
    まるで生き別れの姉妹みたい」

にこ「何を言ってるの、この子……」

梓「というか、なんでこの3人なんですか!
  どうして先輩たちと離れないといけないんですか!」

にこ「ついに堪忍袋の緒が切れたわ……!」

梓「どうしてあの人が作ったおみくじに素直に従わないといけないんですか!」

真姫「お、落ち着いて梓さん……」

梓「……」フー!

にこ「しょうがないでしょ、これも遊びの一貫なんだから――」


――……

―…


恭介「では、贈呈しよう」

穂乃果「ありがたく頂戴致します」

真人「パンパーカパーン、パンパーカパーン」


絵里「それは結婚式の……」

鈴「アイツはアホだから、気にしなくていい」


穂乃果「おぉっ、11枚の招待券!」

海未「本当に頂いてもよろしいのでしょうか……」

恭介「勝者に栄光が無きゃ、何のために白熱したのか分からんからな」


佐々美「行きますわよ」

鈴「よし、かかってこい」

理樹「いやいや、なんで観覧車の前で勝負しようとしてるのさ」

佐々美「下がっていてくださいな、理樹」

鈴「そうだ、下がっていろ。この勝負は避けて通れない」

理樹「ほら、広がって並ぶから通行人も避けて通れないでしょ、
    駄目だよ、ここで騒いだら」

佐々美「……」

鈴「じゃあどうすればいい?」

理樹「というか、なにが目的の勝負なの?」

佐々美「そ、それは……」

鈴「理樹と一緒に観覧車に乗るための勝負だ」

理樹「そ、そうなんだ……っ」


希ことり凛「「「 おぉ~ 」」」

穂乃果「ストレートだ!」


理樹「あぁっ、なんだか顔が熱いっ」ポッポ


佐々美「くっ、先を越されましたわ!」


澪「……」プシュー

律「なんで澪が照れてんだよっ」

紬「唯ちゃん、あの姿が恋なのよ」

唯「わかったよ。あずにゃぁぁん!」

ガバッ

梓「わぁ!?」

唯「新緑の丘の、その向こうに広がる青空。
  私たちは駆け抜ける蒼のように爽やかだよね!」

ぎゅうう

梓「暑いですよ唯先輩! 意味もよくわかりません!」ジタバタ


鈴「つ、ついだ」

理樹「そ、そう、つい言ってしまったんだ……」


葉留佳「二人の熱に気温は急上昇していきますな~!」

クルクルクルクル

クド「わふ~~~~!」

葉留佳「クド公扇風機をいつもよりたくさん回しておりま~す!」

クルクルクルクル

クド「わ~~ふ~~~!!」


絵里「はらしょー……」

クド「わふっ!?」

ピタッ

葉留佳「あ、止まった!」


謙吾「お、列が動き出したぞ」

真人「よし、理樹、俺と乗ろうぜ」


鈴佐々美「「 はぁ!? 」」

真人「はぁ!?」

葉留佳「はぁぁ!?」


美魚「三枝さんも参戦なさるおつもりですか?」

葉留佳「やはは……私はノープロブレム」

美魚「それでしたら、3人の邪魔はしないほうが吉ですよ」

海未(ノープロブレム?)

穂乃果「どうしたの、うみちゃん? 難しい顔して」

海未「いえ、なんでもありません……」


唯湖「では、くじ引きで決めよう」


鈴佐々美「「 くじ? 」」


恭介「あぁ、そうだ。全部で30枚ある。急いで作った。
    同じゴンドラに乗る人をこれで決めようじゃないか」

にこ「……30?」


小麦「もうっ、あたしのマイク失くしちゃうなんて!」

亮太「すまん……すぐ見つかると思ったんだけど……。あとで探してくるから」

小麦「むぅ……!」

エレナ「オー、ふくれっ面にセミですワ小麦~?」

さとみ「えっと、色んなモノを混ぜてるけど……」


愛「私たち、5人もですか?」

小毬「そうですよ~、人生は一期一会。楽しく参りましょう~」

恭介「よく知らない者同士乗るのもまた面白いだろう?」

にこ「だろう? って、それをやる意味が分からないんだけど」

恭介「試練を越えて、人は二回りも大きくなるものだ」

にこ「なるほど、そういうことね」

真姫「にこちゃん……それっぽい言葉に簡単に乗らないで……」

唯湖「同じ数字の人同士でゴンドラに乗るわけだな」


澪「……んっ!? 私たちも数に入ってるのか!?」

穂乃果「みたいだね~」

唯「面白そうだよね~」

澪「いやいやいやいや、嫌だっ……男の人もいるんだぞ!」


律「よーし、これだ!」

唯湖「ふむ……」

律「よっしゃー! ラッキー7だぜ!」

ゴスッ

律「ぐふっ!?」

澪「周りの声をちゃんと聞け……」ゴゴゴ


穂乃果「えーい! あっ、9番だ! μ's!」

にこ「きゃ~☆ 男子と一緒になったらどうしよう~、にこ困っちゃう~♪」キャピ

希「うちは4番やね」

海未「……私は、2番ですか」

唯湖「……」


凛「それー! あ、凛は10番だよ、かよちん!」

花陽「うん……わたしは7番だった」


理樹「僕は……5番か」


鈴「よし……」

佐々美「5番ですわね……」


梓「むぎ先輩は何番ですか?」

紬「1番よ」

唯「おーいえい! 4番!」


梓「先輩方と一緒じゃないと……!」

にこ「さぁ、引くわよ~、キュートなにこにーと一緒になれる幸運な人は誰かしら~?」

真姫「幸運……ね」


―…

――……


―― 3番 にこ、梓、真姫


梓「……」フー!

にこ「しょうがないでしょ、これも遊びの一貫なんだから」

真姫「花陽が気になるけど……」



―― 1番 ことり 紬 小毬 愛


ことり「見事に別れましたね……」

紬「本当、色とりどりね」

小毬「こんなこともあろうかと、お菓子の詰め合わせをご用意しました」

愛「景色、綺麗ですよ……遊園地の光が……」


―― 2番 海未 澪 唯湖


海未「……」

澪「……」

唯湖「……」


―― 10番 凛 美魚 エレナ 小麦


小麦「えー、あなたが今日、この遊園地に来た理由を教えてくれますか?」

美魚「鳥を追いかけて来ました」

エレナ「a Bird?」

凛「はい! 次は凛にインタビューして欲しいにゃ!」


―― 4番 希 唯 クド


唯「和風なの?」

クド「?」

希「?」


―― 9番 穂乃果 絵里 葉留佳


穂乃果「このまま……時間が止まってしまえばいいのに……」

葉留佳「そうだね、このまま電気が止まってしまえばいい」

絵里「……」



―― 8番 亮太 さとみ


さとみ「お家の人に連絡出来た?」

亮太「あ、そうだった……」

さとみ「?」

亮太「バトルに夢中で忘れてたよ……あはは」

さとみ「私の電話、借りる?」

亮太「ううん、ホテルに着いたら連絡するから。ありがと」

さとみ「そう……。でも、変なことになっちゃったわね」

亮太「なんでくじ引きしてるのかと思ったら……ねぇ」



―― 5番 理樹 謙吾 真人 恭介


真人「見ろよ理樹! あのジェットコースターすげえ!」

理樹「世界でも有名なんだって」

真人「そりゃ楽しみだ!」

謙吾「もうお前は乗れないがな」

真人「あ?」

謙吾「一人2つまでと決めただろう」

真人「しまったァァー!!
    俺はもうあのジェットコースターに乗ったんだったー!!」

理樹「すでに乗ってたんだ」

恭介「なぁに、また来ればいいだけの話さ」

理樹「そうだね、またみんなで来たいね」

謙吾「またこのゴンドラに乗って遊園地の夜景でも楽しむか」

真人「そうだな、そうしようぜ!」

恭介「おまえたちは気楽でいいな」


「「「「 あははは 」」」」


―― 6番 鈴 佐々美


鈴「むさ苦しいな、あいつら」

佐々美「ハァ……どうしてこうなるんですの……」



―― 7番 花陽 律


花陽「……っ」

律「……うーん……どうしたらいいんだ」


―― 3番 


梓「律先輩と一緒だから心配いらないと思う」

真姫「……そうだといいけど」

にこ「っていうかこの3人、全然代わり映えしないんだけど」

梓「今更何を言ってもしょうがないですから、あと10分楽しみましょう」

にこ「やっと前向きになったのね」

梓「わぁ……遊園地の光がイルミネーションになってて……とても綺麗ですヨ……」

真姫「言葉とテンションがかけ離れてる」

にこ「しょうがないわね、こういう時こそにこにーの出番よ。にっこにっこにー♪」

グワン

 グワン

梓「わわっ、揺らさないで下さい!」



―― 2番


海未「?」

澪「隣のゴンドラが揺れてるな……」

唯湖「存分に楽しんでいるようだ」

海未「……」

澪「……」

唯湖「……」


海未(特にこれといった話題がないので、お互い黙ってしまいますね……)


澪「え、えっと……海未たちも一緒にディナーは行けるんだな」

海未「は、はい……」

澪「律が調べたことだけど、名古屋の名物が出るらしいぞ」

海未「そうですか……きしめんもあればいいのですが」

澪「きしめん?」

海未「にこが食べたがっていたので」

澪「多分、あると思うけど……いや、ないかもしれない……麺類だから」

海未「そうですね、また悔しい思いをしそうです」


唯湖「……」


海未(外を眺めていますね……)


海未「ディナーの招待券のことですが」

唯湖「?」

海未「あなた方の誰一人として然程気にしてなさそうなのはなぜでしょうか」

唯湖「皆で食卓を囲めばどんな料理も豪華なものに変わる。学食でさえな」

澪「……」

唯湖「だから場所はそんなに重要ではない」

海未「……」

唯湖「――と、少なくとも私はそう思っている」

海未「いえ、説得力がありました。招待券に拘らない理由はそれだと納得出来ます」

唯湖「ふふ、そうか。それなら嬉しいのだが」


海未(私たちも同じ……いえ、どうせ食べるのなら美味しいものが食べたい、と
    言い張る人物が何人かいますね)


唯湖「一つ訊いていいかな」

海未「はい……?」

唯湖「なぜ私たちに勝てたのかが知りたい」

海未「……といいますと」

唯湖「私の予想では、謙吾少年には絶対に勝てないモノだと思っていた」

海未「……」

唯湖「だが、君は――……君たちは勝った」

海未「……私と穂乃果は幼馴染です」

唯湖「……ふむ」

海未「穂乃果は私が的を射つのが得意だと知っていますから――」


―― 9番


葉留佳「やー、思い思いに狭い空間でエンジョイしていますなー」

穂乃果「えー、ここからじゃよく見えないよー」


絵里「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「うん?」

絵里「どうしてあの時――海未があのポイントにピコハンを飛ばしてくるって分かったの?」

穂乃果「それは……勘?」

絵里「第六感的なもの……?」

穂乃果「ちょっと違うかな? えっとね……うーん……そうだなぁ……」

絵里「……」

穂乃果「強いて言えば、うみちゃんが本気だったから、かな」

絵里「どういうこと?」

穂乃果「負けたくない! って、思ってたはずだもん」

絵里「海未が?」

穂乃果「そうだよ。私も珍しいなって思ってたけど、
     うみちゃんが闘志を燃やしている理由を聞いたら、なるほどって思ったよ」


穂乃果「ああ見えてすごく負けず嫌いだから」


絵里「……」


穂乃果「だけど、私がうみちゃんの後ろにいたら絶対に勝てないって思ってた」


穂乃果「それを絵里ちゃんが助言してくれて……うん、だから勝ったんだよ」

絵里「答えになってないわよ?」

穂乃果「えぇ……どう言葉にしたら分からないんだよぉ」

絵里「……」

穂乃果「私はあの時、うみちゃんが何とかするんだって、思ってたんだぁ」


穂乃果「だから、『その時』が来るのを待ってた」


穂乃果「そして、ピコピコハンマーを奪い取った時、体が無意識に動いてたんだよ」


穂乃果「ここだ――! って」


絵里「……」


葉留佳「ほうーほう、姉御に勝ったのは信頼、だったわけですな」

穂乃果「うん、そうだよ! 信頼!」

絵里「ふぅん……」

穂乃果「あれ、納得してくれてない?」


―― 2番


海未「穂乃果は私が的を射つのが得意だと知っていますから――」

唯湖「君が投げたソレを、彼女が掴みとってくれると、信頼していたわけだな」

海未「信頼といえば、聞こえはいいですが……」

唯湖「?」

海未「あの時、穂乃果が私の意図を見落として、試合に負けたとしたら、
    私は全責任を穂乃果に押し付けて言い争っていたと思います」


海未「そんな『時間』が存在していても不思議ではありません」


唯湖「ふむ……」


海未「というより、投げたその瞬間、私はそうなるだろうな、と……思っていましたから」


澪「……」



―― 1番


紬「あら、海未ちゃんが楽しそうにしているわ」

ことり「本当だ……どんな話をしているのかな……」

小毬「ゆいちゃん、後ろ向いてて見えないけど、どんな表情してるんだろ?」

愛「……」


ガクンッ


ことり「きゃっ!」

小毬「あわわわっ」

紬「地震……?」

愛「……!」



―― 5番 


真人「そーっれ、筋肉筋肉~!」


グラグラ


謙吾「やめろ! 揺れて危ないだろうが!」

真人「俺の体は15分置きに筋肉体操しないといけないんだよぉーー!!」

理樹「なんかもう、依存症だよね……あはは」

恭介「いや、真人のせいじゃないな……」

理樹「え?」


―― 4番


ガクンッ


希「おっとっと……」

クド「おっとっととっ!」

テッテッテ

 ガバッ

唯「おぉ!?」

クド「あ、ごめんなさいなのです!」

唯「私にはあずにゃんという猫にゃんがいるんだよっ」フルフル


ガコン

 ガコン


希「止まった……?」

クド「あの、もう平気です……」

唯「あずにゃんという……! あずにゃんという……!!」

ぎゅうう


―― 3番


真姫「ふぅ……びっくりした」

梓「なんですかね、今の……」

にこ「……止まってるわよ」

真姫「え?」

にこ「観覧車自体が止まってるの」

真姫「え、うそ……」

梓「……」



―― 7番


花陽「わわわわわっ」

律「マジか……こんなのテレビでしか見たことねえぞ……」


―― 8番


さとみ「止まった……わね」

亮太「結構揺れたけど……地震じゃなさそうだ」


『お客様に申し上げます。
 ただいま、電気系統のトラブルにより観覧車が停止しています。
 復旧まで今しばらくお待ちください』


さとみ「……トラブルなのね」

亮太「周りのアトラクションは動いているから、深刻ではなさそうだけど」

さとみ「すぐ動くわよね……?」

亮太「大丈夫だよ」

さとみ「……うん」

亮太「……」


―― 3番


梓「……」

にこ「みんな慌ててない? 心細くなったりしてないかな?」

真姫「ここから見えるゴンドラは、海未と希くらいだけど」

にこ「花陽が心配ね……混乱してないといいけど」

梓「……唯先輩、何をしているんですかね」

真姫「……動かないわね……って、あの小さい子を抱きしめてる」

梓「平常ですね、あっちは」

にこ「……あれ?」

梓「どうしたんですか?」

にこ「人が集まって眩しい光……あれって……もしかして!?」

真姫「ちょっと、大声出さないでよ」

にこ「ライブやってんじゃないの!?」

梓「そうみたいですね。……鶴見さんが言ってたアイドルのライブだと思います」

にこ「あぁぁあぁぁっぁぁあああああ!!」

真姫「にこちゃん、うるさい~!」

にこ「お願い! お願いお願い!! 早く動いて!!!」

ガンガンッ

真姫「なにしてるの!?」

梓「窓を叩かないで下さい!!」


―― 2番


海未「にこがパニックを起こしてますね……!」

唯湖「意外だな」

澪「大丈夫大丈夫、怖くない怖くない」ブルブル


―― 4番


希「にこっちー! 落ち着いて~!」

クド「わふっ」

唯「ごめんね、つい……」

クド「いえ、暖かかったです」

唯「えへへ」



―― 10番


凛「穂乃果ちゃん達は何をしてるのにゃ?」

エレナ「救難信号ですワ」

小麦「あはは、息があってるね」

美魚「私たちに向けても意味はありませんが」



―― 9番


穂乃果「えす、おー、えす!」

葉留佳「えす、おー、えす!」

絵里「向こうも助けを待つ側なの」



―― 6番


佐々美「……止まってませんか、この観覧車」

鈴「景色が動かないのはそういうことだったか」

佐々美「こういう時、アナウンスが入るはずですが……
     スピーカーが壊れているのでしょうか」

鈴「物知りだな。経験があるのか」

佐々美「あるわけないでしょう。馬鹿なこと言ってないで、メールで状況確認なさいな」

鈴「わかった」

ピッピッピ


―― 5番


pipipipi


理樹「鈴からメールだ……」


『たすけて∵』


理樹「いや、助けて欲しいのはこっちもだよ」

謙吾「やれやれだな」

真人「しょうがねえ、のんびり待つか」

恭介「……くッ」

理樹「どうしたの……恭介……?」

恭介「こんな時に……ッ」


―― 1番


小毬「こんな時だからこそ、お菓子を食べて落ち着きましょう~」

紬「そうしましょう~」

ことり「そうですね~」

愛「…………」


―― 2番


海未「にことは逆に、ことりたちはとても落ち着いていますね……」

唯湖「小鞠君はどんなことがあっても、あの笑顔で場を和ませてくれるからな」

澪「むぎもマイペースなんだ」

海未「ことりはそんな二人をみて安心しきっているようです」

唯湖「……」

澪「この止まった観覧車の中で、あのゴンドラが一番くつろいでいるんだろうな……」

海未「最強ですね」



―― 3番


にこ「いつ動くの!?」

真姫「知らないわよ……」

梓「頂上で止まってしまいましたね」


―― 4番


希「どうやら落ち着いたようやね……よかった」

唯「遊園地がキラキラしてて綺麗だね~」

クド「びゅーてぃふる、なのです!」


―― 5番


恭介「傷口が開いてしまったようだ……クッ」

理樹「恭介、しっかりしてよ!」

恭介「俺のことは……いい……先へ行くんだ……くはッ」

真人「この状況でどこへ行けばいいんだよぉぉ! 恭介ぇーーッ!」

恭介「なぁに……お前等なら……やれる……」

謙吾「茶番だな」

恭介「おい」



―― 6番


鈴「あいつら、余裕だな」

佐々美「……月も、きれいですわ」



―― 7番


花陽「わたしたちが出会ったアイドル達はですね――」

律「いや、アイドルなんかの話よりさ……」

花陽「『なんか』……!?」

律「観覧車が止まってしまった今の状況を……」

花陽「律さんっ、『なんか』って言いましたか!?」

律「言ってないです!」

花陽「そうですよね、言ってませんよね。
    ……それでですね、あのイベントで出会ったアイドルたちは――」


律「誰か助けてぇ」


―― 8番


亮太「田井中さんが元気ないみたいだけど……」

さとみ「絵里さんたちはどうかしら」


―― 9番


絵里「さとみさんがこっちの様子を見ているわね」


絵里「こっちは平常運転よ」フリフリ



穂乃果「エル!」ビシッ

葉留佳「オー!」バシッ

穂乃果「ブイ!」デンッ

葉留佳「イー!」ジャンッ


―― 10番


小麦「エル、オー……?」

美魚「ブイ、イー……?」

凛「ラブにゃ!」

エレナ「オー、アツいメッセージ、確かに受け取りましたヨ~」


―― 1番


ことり「うん~、おいしい♪」

紬「紅茶があればよかったけど……」

小毬「どうかしましたか、愛さん?」

愛「――なさい……」

ことり「え?」

紬「?」

小毬「……」

愛「ごめんなさい……私の、せいです」



―― 8番


亮太「愛ちゃん、自分を責めたりしてないといいけど……」

さとみ「私は目の当たりにしたことないけど……そんなに運が悪いの……?」

亮太「強く否定はできない……かな」

さとみ「……そうなんだ」


―― 1番


愛「私……なにかと運が悪くて……いつも周りに迷惑をかけてしまうんです……」

小毬「……」

愛「今もまた……みなさんにご迷惑を……」

ことり「……そんなこと」

愛「いいえ……!」

紬「……」


―― 8番


亮太「やっぱり、普通の人よりは運が悪い方なんだと思う」

さとみ「……」

亮太「だからと言って、周りが愛ちゃんを嫌いになる、
    というのは違うと思うんだ」

さとみ「うん……そうね、愛さん、いつも気遣っていたから」


―― 1番


愛「亮太さんにもたくさん……ひどい目に遭わせてしまって……」

ことり「……」

愛「やっぱり……来るんじゃなか――」


pipipipipi


紬「あら?」

ピッ

紬「はい、どうしたのりっちゃん?」


『みんなの声が聞きたくなってさー』

『夕方のニュースで流れたそうですけど、きっと映像として残っていたら、
 あのステージは伝説のまた伝説のまた伝説、伝説の伝説と受け継がれて――』


紬「花陽ちゃんは誰と話をしているの?」


『あたしとだよ! 怖いこと言うなよっ!』

紬「あ……そうなの」

『まぁ、その……ほとんど聞き流しているんだけどさ。
 そういうことで、次は澪にかけるよ。じゃあな~』

『伝伝伝、の更に上、伝伝伝・伝伝と呼ばれるのではないでしょうか!』

プツッ

ことり「かよちゃん?」

紬「なんだか楽しそうよ」

愛「……」

小毬「ゆいちゃん達もお喋りしてるみたいで、そんなに困ってなさそう」

愛「…………」

紬「愛さん」

愛「……はい」

紬「たとえ、観覧車が止まってしまったのが愛さんの不運のせいだとしても、
  誰も不幸だなんて思ってないわ」

愛「……」

紬「みんなが楽しんでいる中で、愛さんだけが悲しい顔をしていたら、
  そっちの方がみんなに迷惑をかけるんじゃないかと思うの」

愛「あ……」

紬「ことりちゃん、みんなの状況を確認できる?」

ことり「あ、はい。通話できますよ」

ピッピッピ

小毬「人と出会うことは幸せなことなんです」

愛「……」

小毬「私も――……理樹君や、鈴ちゃん、さーちゃん、
    リトルバスターズのみんなと出会えて、幸せだから――……」


ことり「真姫ちゃん、様子はどう?」


『にこちゃんが焦ってるくらいで、別にどうってことないわ』

『あぁっ、今誰が歌ってるの!? 前川みくじゃないの!?』

『落ち着いて下さい。というか、よく見えますね』


ことり「あはは……えっと、海未ちゃんはどうかな?」


『こっちも特に異常はありませんよ』

『この通話はみんなに繋がっているのか?』

『はい、そうです』

『ちゃんと花陽の話を聞かないと駄目だぞ、律』


ことり「異常なし、と。……希ちゃんはどう?」


『問題なし、やね』

『こすもなーふと?』

『そうです。私の夢は宇宙飛行士になることなのです』


『あら、それはロシア語ね』


ことり「あ、絵里ちゃん……」


『ごめんね、話を遮っちゃって』


『わふっ! えりさんはやっぱりロシア語を知っているのですね!?』


『えぇ、私のおばあさまがロシア人なの』


『あれ、かよちんの声が聞こえないよ……?』


ことり「うん、凛ちゃんの言うとおりだね……どうしたんだろ?」


『律とアイドルについて語り合っているんだろう。そっとしておいてくれ』


ことり「は、はい……」



小毬「きっとね、みんなと一緒にいて楽しいのは、
    みんなといるのをお互いに、幸せに思うから。
    そんな幸せがいっぱいあるから楽しいのです」

愛「……」


―― 2番


『そんな幸せがいっぱいあるから楽しいのです』


海未「……」

唯湖「……」スッ

プツッ

海未「……?」

唯湖「これから話すことを聞かれたくないと思ってな。
    私は小鞠君ほど強くはない」

澪「?」

唯湖「人が持つ紙という物質を、真っ二つにできるものなのか。
   そう、疑問に思わなかったかな」

海未「……はい」

唯湖「模擬刀を振り下ろす角度、紙を握りしめた力による紙の硬さ……と、
    条件は色々あるが出来ないことはない」

海未「普通は出来ませんが」

唯湖「だが私には分かってしまうのだよ、その条件が。
    あの模擬刀の異質性もあるがな」

澪「……」

唯湖「そして、キミと話がしたいから意図してこのゴンドラに乗った」

海未「え……!?」

澪「あなたがこのくじを……?」

唯湖「いや、作ったのは恭介氏だ」

海未「そ、それじゃあ、どうやって……?」

唯湖「くじに使用した紙に、ちょっとした印があるのを見つけただけだ」

海未「この……紙に……?」

唯湖「細長い紙の先端部分、そこに10通りの法則があったのだよ」

澪「……なにもないけど」

唯湖「印というのはペンの記号ではなく、折れた部分」

海未「……ということは、引いた時にはもう消えているのですね」

澪「10種類の印を把握して……いた……?」

唯湖「そうだ。恭介氏の意図があったみたいだが、そこは私には関係のないことだ」

海未「……」

澪「……」


―― 8番


さとみ「最後に残った2つが私たちだけになるなんてね」

亮太「残り物には福があるってことかな」

さとみ「そ、そんな言い方したら照れるわよ……っ」

亮太「あはは」

さとみ「もう、冗談ばっかり言って」

亮太「昼に乗ったら海が見えて、また違った景色なんだろうね」



―― 5番


理樹「ねぇ、恭介」

恭介「なんだ?」

理樹「どうして他の人達を巻き込んでまで、くじをしたの?」

恭介「フッ、俺もおせっかい屋さんだということさ」

理樹「うーん……意味が分からないんだけど」

真人「意味が分からんな」

謙吾「意味が分からん」

恭介「なんだお前等……、
    どうやらこの閉鎖された空間で敵だらけってことか」フッ


恭介「上等だ、やってやろうじゃんか!」ガタッ


謙吾「大人しくしていろ」

真人「大人しくしてろってんだよ」

理樹「大人しく座っててね」


恭介「うおぉぉおぉ!! 早くここから出せー!!」

ガンガン


理樹「ちょっ、悪かったからやめてよ恭介!」


―― 6番


鈴「錯乱しているな……極限状態に達したか……」

佐々美「……」


―― 4番


クド「恭介さーん! 落ち着くのですー!」

希「クールに見えて、実は繊細だったんやね」

唯「いつまで止まったままなのかな?」


―― 2番


唯湖「どんな数式でも解けてしまう、どんな事柄が起きても直感で対処できてしまう」

海未「……」

唯湖「先を読めるというのはメリットが大きいが、退屈というデメリットもあるのだな」

澪「……」

唯湖「そんな私でも、分からないことや想像のつかないことがあると教えてくれたのが――」


唯湖「――リトルバスターズのみんなだ」


海未「……」


唯湖「先のバトルでもキミ達は私の予想を越えた」

海未「……」

唯湖「小さい頃から私は、人との関わりなんて希薄なものだった。
    だからこそ、信頼し合えるキミ達が面白いと思ったのだよ」


海未「…………」


澪「花陽と一緒に乗っている律は、私と幼馴染なんだけど」


海未「……?」

澪「長い付き合いだけど……、アイツの行動は読めない事が多い。
  だから、海未と穂乃果の関係は分かるようで分からない部分もある……」

海未「……」

澪「同じ幼馴染なのに、この違いが面白いなと……思った」


唯湖「あぁ、面白いな――……人と繋がるということは」


海未「…………」


―― 7番


花陽「あのステージは伝説のまた伝説のまた伝説、伝説の伝説と
    受け継がれていくのだと思います!」

律「それ、さっきも聞い――」

花陽「大事なところなんですっ」

律「……はい」

花陽「それでですね、その会場で指揮を執ってくださった方がですね」

律「あたしもそこに居たんだけ――」

花陽「話には順序があるんですっ」

律「……はい」

花陽「表舞台に立つアイドルと舞台を裏で演出するスタッフと――」

律「…………」


―― 9番


葉留佳「えー、こちらはるちん、こちらはるちん。聞こえている者は応答せよ」


葉留佳「がっ」


絵里「……」


穂乃果「……」


葉留佳「……」


『 …… 』


葉留佳「応答せよー!!」


『き、聞こえてます。どうぞ』


『聞こえてるんよ』


『……聞こえているけど』


『聞こえたにゃ』


葉留佳「もぉー、みんな分かってないなぁ。
     応えたら、ちゃんと後に『がっ』って言わなきゃ駄目だよ」

穂乃果「もう返してよー!」

葉留佳「あとちょっとだけ遊ばせて~」

穂乃果「意味もないことに使うからもうダメー!」

葉留佳「ちぇ~、暇つぶしになるのに」ブー


『け、ケンカは駄目だよ、穂乃果ちゃん…………、がっ』


絵里「律儀ねことりは……、
    海未と花陽の通話が止まったままなんだけど、大丈夫かしら」


『そういえば、そうやんな。……ここから海未ちゃんのゴンドラが見えるけど……』


『かよちんの様子はどう?』


絵里「確か……さとみさんと鶴見さんのゴンドラから見えると思うんだけど……」

穂乃果「私たちの番号知らないよね」

葉留佳「鈴ちゃんからも見えるはずなんだけど……連絡取れないや」


『……海未ちゃん、楽しそうにしてるみたいや』


穂乃果「海未ちゃんが?」


『……えっと、ユイコちゃん……やったかな?』


葉留佳「そうだよ、姉御の名前なのさ」


『海未ちゃんは背を向けてるから、ちゃんとは分からないんやけど、
 ユイコちゃんが楽しそうやから、雰囲気を感じるんよ』


『……そうだね。こっちからは海未ちゃんの表情が見えるけど、楽しそうにしてるよ』


穂乃果「じゃあ……ことりちゃん」


『うん?』


穂乃果「通話できるようにしてって、伝えられる?」


『わかった、やってみるね!』


絵里「……」


『ああぁぁ……早く動きなさいよぉ……なんでこのタイミングで止まるのよぉぉ……』


『この恨めしそうな声は誰なん?』


『にこさんです』


穂乃果「にこちゃんアイドルなのに……こんな声出すなんて……」

葉留佳「どんな人だって怒りを抑えてしまうというとっておきの裏ワザがあります。
      私の言うとおりに、それを実践すれば問題ナッシングだよ」


『……』


葉留佳「まず、その人の肩にポンポンと優しく手を置きます」


『前川みくって今、確実に人気を集めてるのにぃぃ……
 もしかしてあの事務所のアイドルが来てたりぃぃ……』


『……』


『こ、怖いにゃ……』


穂乃果「梓ちゃん、やってる?」


『……うん』


穂乃果「嘘ついたでしょ、やってないでしょ」


『…………なんで分かるの』


『あずにゃん、あずにゃん』


『割り込んできましたね……なんですか、唯先輩……?』


『あずにゃん三号ちゃんの肩に手を置いてね、そっと囁くの』


『……なにをですか』


葉留佳「お前だーーッ!!」

絵里「――ッ!?」ビクッ


葉留佳「ってね!」

穂乃果「しずかにしててよ、葉留佳ちゃん! 怖い話のオチじゃないんだよ!?」

絵里「……っ」ドキドキ


『三枝さん、おしずかに』


葉留佳「うおっ、みおちんにまで怒られたっ」


『もしかして、あの金髪は……フレデリカじゃないの!?』

『……よく見えるわね、本当に』

『あのだらけた、適当なトークを聞けるなんてっ!』

『……』

『……って、ちょっと梓……なにしてんの? 近いんだけど』

『あ、いえ……すいません』


『あずにゃん、同じ月を見ているんだねって、言うんだよ』


『……』


『あれ? あずにゃーん?』


『梓さん、端末から離れて……もう我関せずって表情してる』


『なんですと!?』


『いや、もういいからな、唯……』


穂乃果「この声は、澪さんだ……、ということは……」


『ことりが通話を繋げと言っていましたが……何かありましたか?』


絵里「何かあったというより、通話が突然切れたから不思議に思っただけよ」


『特に異常はありません』


絵里「そう……」


葉留佳「ねーねー、姉御~」


『なにかな、葉留佳君』


葉留佳「鈴ちゃんの隣のゴンドラの様子が気になるんだけど、探れないかな?」


『そうだな。やってみよう』


穂乃果「?」


『どうするのですか?』

『まずは恭介氏に連絡を取って、鈴君への中継を挟むのさ』


絵里「直接、鈴さんへ連絡出来ないの?」


『なに、これも余興だよ』


『絵里ちゃんにさん付けで呼ばれた気がするにゃ!』


絵里「凛」


『にゃ?』


絵里「今は口を挟んじゃダメよ?」


『口調がなんだか冷たいにゃ……』

『みんなで会話できるなんて、凄いね、今の時代の機器って』

『High-Technologyですワ』

『人類にとってはオーバーテクノロジーかもしれませんね』

『どういう意味?』

『文明に頼りすぎたために、文化が後退しているのです』


穂乃果「哲学だ!」


『そう悲観的になる必要も無いと思うが』


『そうですね、来ヶ谷さんの言うとおり、悲観することはありません』

『景色が綺麗にゃ~』

『ほんとだ~』

『オー、二人にはムズカシイ話だったようですネ~』


 『 ザザッ 』

『どうした、来ヶ谷』


『恭介氏に頼みたいことがあってな』


絵里「今の音は……ノイズ?」


『あぁ、そうだ。無線機を使って恭介氏と話をしている』


『ほぅ、ということは、他のゴンドラへもこの会話は聞かれているということか』


『話が早くて助かる。頼みというのは鈴君との通話を試みたいのだが』


『お安いご用さ』

『ぜぇ……ぜぇ……恭介……!』

『も、もう一回だ……ッ!』

『うぅ……っ』


葉留佳「真人君、謙吾君、理樹くん……? どうして息を切らしてるの?」


『俺の強さを示しただけさ』


『狭い個室の中で……息を切らして……?
 よりよい詳細を鮮明に説明して欲しいのですが』


穂乃果「詳細?」


『美魚君、この会話はみんなが聞いている、自粛してもらおうか』


『すいません』

『にゃ?』


『なにか、よからぬ想像をされてるみたいだが……俺達は――』

 『 ザザッ 』

『ズモウをしただけだ』


『オー、相撲! 拝見したいと思っていたネ!』

『エレナさんが目を輝かせてるにゃ!』

『そうですか……狭い空間で……相撲ですか……そうですか……いいと思います』


『なによ、この状況……わけわかんない……』


『真姫ちゃんの言うとおり、ちょっと状況がわかりにくくなってきたみたいやね』


絵里「そうね、……今は花陽の様子が知りたいから、みんなしずかにお願いね」 


『『 はい 』』


『了解ですっ、エリーボス! あ、そうだ、地上に降りたら、みんなで――』


『唯先輩』


『なんだい、あずにゃん』


『月を見て下さい。私と同じ月を見ていることになるんですよ』


『おぉ……ロマンチックなあずにゃん……!』


『今です』


絵里「うん……続きをお願いしてもいいかしら」


『おりゃぁ!』

 『 ダンッ! 』

『ぐはっ!』

『どうだ、参ったかー!』

『くそぅ!』


『恭介氏……?』


『あぁ、悪い。俺の強さを証明していたところだ』


穂乃果「どうやって証明してるの?」


『腕相撲さ』

『筋肉を使わない腕相撲ってありかよぉぉおーー!!』

『僕でも謙吾に勝てたからね……平等のようで不公平だよこのゲーム……』

『不公平だ……』

 『 ザザッ 』

『よし、周波数を鈴に合わせた。呼びかけてみてくれ』


『ふむ……。鈴君、聞こえているか?』


『 ザザッ......ザザザッ... 』


『――月?』


葉留佳「鈴ちゃんの声だ」

穂乃果「つき?」

絵里「……」


『鈴君、応答してくれ』


『おい、鈴?』


『そうか、月にそんな想い出があったのか……』

『想い出というものでもございませんわ』


絵里「?」



―― 1番


小毬「鈴ちゃーん」


『小さいころに飼っていた猫がいて、その仔と……眺めていただけ』

『……そうか』


小毬「あれぇ……?」

愛「聞こえていないみたいですね……」

ことり「……」

紬「口を挟んじゃいけないみたい」



―― 2番


唯湖「こちらの声が届いていないようだな」


『あぁ、調整してみるからもう少し待ってくれ』


海未(向こうの声を一方的に聞いているので、少し後ろ暗いものがありますね)

澪「……」


―― 3番


にこ「あれは……、あれはッ!?」

真姫「今度はなに?」

にこ「しぶりんじゃないの!?」

真姫「シブリン?」

にこ「しぶりんよ! 渋谷凛! 発音を間違えないで!」

真姫「きびしいわね……」

梓「ステージの上に誰か居るのは分かりますけど……どうして判別できるんですか?」

にこ「オーラがあるでしょ! ほら!」

梓「ほらって言われても……」

真姫「なんだか、だんだん荒んできているみたいで……にこちゃんが怖い」


『棗鈴、あなたには経験がありますわね』

『なにがだ』


―― 4番


『――死別、ですわ』

『……』


希「……」

クド「……」

唯「……」


―― 5番


恭介「……まずったか」

真人「ふむ……」

謙吾「……」

理樹「…………」


『ある』


―― 6番


佐々美「学校であれだけの数を面倒見ているのですから、
     一匹や二匹ではないでしょう」

鈴「……病気に罹った仔、……怪我した仔、……事故で」

佐々美「嫌なことを聞いてしまいましたわ。どうか忘れてください」

鈴「……」

佐々美「ふぅ……。わたくしとしたことが」

鈴「サザミがさっき言ったように、あたしにもその仔たちとの想い出がある」

佐々美「……」

鈴「だから、もっと早くに病院へ連れていけばよかった……とか、
  目を離したりしなければとか……思う」

佐々美「……」

鈴「そんな嫌な気分にならないように、今、一緒にいる仔たちにしてやるつもりだ」

佐々美「……そうですか」

鈴「……そうだ」


佐々美「……」

鈴「……」


佐々美「死別とはいいましたが、わたくしは『あの仔』の最期に立ち会えた訳ではありませんの」

鈴「……」

佐々美「引っ越の時に置いていってしまったのですから」

鈴「ひどいやつだ」

佐々美「……その通り。酷い人間ですわね」

鈴「……だから、猫が嫌いなのか」

佐々美「そうですわ」

鈴「もっとひどいやつだ」

佐々美「……」

鈴「理樹が言った」


鈴「『してあげられなかったことを、してあげよう』って」


佐々美「……」


鈴「あたしも、もう嫌だって……面倒を見るのは嫌だって言ったら……理樹がそう言った」


鈴「ひどいやつなのは、あたしも同じだな」


佐々美「……」


鈴「大切な想い出があるから、失った時がとても痛い。だからもう味わいたくない」


鈴「たぶん、これから先もこんな別れが続く。そのたびにこの痛さが続く。……――それでも」


佐々美「……」


鈴「これから出会う仔たちと、たくさんの想い出を作る」


佐々美「…………」



―― 9番


『…………』


葉留佳「……」

絵里「……」

穂乃果「……」



―― 10番


『……強いですのね、あなたは』

『強くなった』

『……』

『あいつらが居たから、強くなった』


エレナ「……」

小麦「エレナ?」

エレナ「……?」

小麦「どうしたの? なんだか、寂しそうな顔してる……」

エレナ「セツナイ話だと思いましたカラ」

小麦「……そうだね」


美魚「……」

凛「……」


―― 1番


『今、夏休みですが……学校の猫たちはどうしていますの?』

『サヤとカナタに頼んである。だから心配ない』

『……そうですか。あの二人なら……大丈夫ですわね』

『暇ができたら、あの仔たちと遊ぶといい』

『……気が向いたらそうさせてもらいますわ』

『気が向かなくても遊べばいい』

『変な所で強引ですのね』


小毬「さーちゃん……鈴ちゃん……」

紬「……そろそろ時間ね」

ことり「時間……?」

愛「……」


―― 2番



海未(真姫が『色んな人がいる』……と、言っていましたが……)


唯湖「通信を切るタイミングを失ってしまったが、そろそろ消そうと思う」

海未「そうですね……」

澪「……」


『信じないと思いますが……わたくし、あの仔に逢えましたわ』

『ん?』

『――夢の世界で』


唯湖「……」スッ

海未「ま、待ってください」

唯湖「?」


『夢……?』

『えぇ、逢いに来てくれましたの。……おそらく、あの仔の最期の時だったのだと思います』

『そうか』

『信じますの?』

『その仔が逢いに来たというのは信じられる。サザミのことは信じないがな』

『一言余計ですわ』


海未「……夢の……世界」

唯湖「……」


ブツッ


―― 3番


にこ「なんで動かないのぉおお……いつまで閉じ込めているつもりなのよぉぉおおお」

カリカリ

 カリカリ


にこ「許せない……許せないわぁああ……」

カリカリ

 カリカリ



梓「ガラス窓引っ掻いてる……こ、怖い……」

真姫「キャラが違いすぎる……近寄らないほうが身のためね……」


にこ「……」チラッ


真姫梓「「 ひっ 」」ビクッ


にこ「あれからどのくらい経ってるの……?」


真姫「じゅ、じゅっぷんくらい……」


にこ「電気系統のトラブルって対応に10分もかかるの?
   遊園地のアトラクションで10分もかかるものなの?」

梓「いい方向に考えましょう、にこさん! 遊園地の明かりが――」

にこ「アイドルの輝きに比べたら霞んでしまうわ……」

梓「すいません……」

にこ「冗談じゃないわよ……なんで私は観覧車なんかに乗ったりしたのよ……」


どんより


真姫「空気が淀んでいく……」


『すいません……にこさん……』


にこ「声……?」


『私の運が悪いばかりに……』


にこ「なに、どこから聞こえるの?」

真姫「これよ」

にこ「電話端末……?」

梓「さっきまでみんなで通話していたんです」

にこ「あ、そう……。随分と呑気なことしてるのね……」


『……』


にこ「運が悪い……って、誰?」


『私です……松浦愛、です』


にこ「……」


『私の不運は……いつも周りに迷惑を掛けてしまって……』


にこ「待って、そんなことより……」


『そ、そんなこと……?』


にこ「希にも繋がってる……?」

真姫「切っていなければだけど」


『まだ繋がっとるよ~』


にこ「希ちゃん、おねが~い。この観覧車動かして~☆」

真姫「なに無茶ぶりしてんのよ……」

梓「あ、でも……くじ引きで、スピチュアルパワーをにこさんに分けていましたね」

にこ「スピリチュアルよ。ね、お願い希ちゃん!」


『のぞみさん、そんなぱわーがあったのですか!』

『ウチ、そんな力無いよ?」


にこ「大丈夫よ! 松浦愛の不運より希の幸運の方が強いんだから!」


『そうは言うても……』

『私に任せて、あずにゃん三号ちゃん!』


にこ「お願いだから、余計なことしないで!」


『ガーーン!!』


梓「唯先輩……」

真姫「希……私からもお願い。にこちゃんが壊れる……」

にこ「お願い、お願い!」


『そんなに期待されると、応えないわけにはいかんなぁ……』

『わふー!』

『がーん……がー…ん…………が…ー……ん』


梓「唯先輩、しっかりしてください!」


『わかったよ!』


梓「立ち直り早い!」


『ウチのスピリチュアルパワーを~、クドちゃんに注入~』


『わぁ! みなぎってきたのです! 私のすぴりちゅあるぱわーをゆいさんにちゅうにゅ~』


『よぉーっし、スピりゅ……スピりあ……パワーを観覧車にちゅうにゅうー!』


梓「ダメですね、これは」

真姫「完全に遊んでるわね」

にこ「……」



ガコン


『『『 動いた!? 』』』



にこ「やった!」



『みんな、そろそろ時間よ~』


梓「何の時間ですか、むぎ先輩?」


『うふふ』


真姫「?」


シュルルルルルル


梓「あ……!」

にこ「花火……?」


ドーン

 ドドーン



『観覧車が止まらなかったら、この景色は見られなかったのよね』


梓「あ、はい……そうですね」

真姫「だって、にこちゃん」

にこ「ぐっ……」


……



―― 地上


スタッフ「申し訳ありませんでしたー!」


ことり「ふぅ……どうなることかと思ったけど」

紬「希ちゃんのパワーのおかげね~」

愛「驚きましたね……」

小毬「すごいすごーい」


スタッフ「足元に気をつけてお降り下さいー!」


澪「よいしょっと……」

唯湖「花火を特等席で見られるとは……なかなか、いい時間だったな」フフ

海未「ふぅ……」


スタッフ「大変申し訳ありませんでした」


にこ「急げっ、急げっ!」ピョン

シュタッ

にこ「まだ間に合――」


愛「あの、にこさん……!」

にこ「なに? 今急いでいるんだけど」

愛「すいませんでした」ペコリ

にこ「なんで謝るのよ?」

真姫「にこちゃんの声、端末を通して他のゴンドラに聞かれてたから……」

にこ「私の声?」

梓「恨めしい声していましたよ」

にこ「アイドルの私が? 変な嘘つかないで」

梓「……」



スタッフ「申し訳ありませんでした」


希「よいしょっと」

クド「よいしょー」ピョン

唯「凄い力を貰っちゃったよ、あずにゃん!」

梓「よかったですね」

唯「声に抑揚がないよ!? どうしちゃったの!?」


愛「……」

にこ「むぎが言ってたでしょ、『観覧車が止まらなかったら~』って」

愛「でも……それは……」

にこ「結果オーライよ。それか、不幸中の幸いってやつ」

愛「……」

にこ「観覧車に乗った人、誰一人として嫌な顔してないでしょ、だからそれでいいの。
   それでも気にするんなら、不幸を招いているのはあんた自身ってことよ」

愛「…………はい」

にこ「話はこれでお終いね。急いでるから!」ダッ


希「ちょい待ち」グイッ

にこ「うぎゅっ!?」

希「リトルバスターズのみんなとは、ここでお別れなんよ。ちゃんと挨拶せな」

にこ「希ちゃん、ありがとー! だ~い好き!」ダキッ

希「?」

にこ「これでいいでしょ!」ダッ

希「別にお礼を言ってほしいわけと違うんやけど……ちゃんと人の話聞かな」グイッ

にこ「きゅうっ!?」


スタッフ「申し訳ありませんでした」


理樹「いえいえ」

恭介「……」

真人「……」

謙吾「……」


にこ「はやく、はやく回りなさいよ、はやくみんな降りてよ」ソワソワ

真姫「危ないこと言わないで」


スタッフ「足元お気をつけください」


鈴「やっとか」

佐々美「短いようで長い時間でしたわ」


真人「よう、大丈夫だったか?」

鈴「平気だ。あんなのお茶の子さいさいだ」

謙吾「鈴、これから先、困ったことがあったら俺に言え、なんとかしてやろう」

鈴「困ったこと……?」

真人「いやいや、謙吾なんかを頼らず俺を頼りやがれ」

謙吾「おまえが? 余計に事態を悪化させやしないか?」

真人「俺は近所で頼りになる筋肉のまーくんと呼ばれてたの知らないのか?」

謙吾「長いこと一緒に居るが、初耳だな」


鈴「理樹」

理樹「?」

鈴「あいつらが微妙に優しくてきしょくて困ってる。助けてくれ」

理樹「相談されちゃった……」


謙吾「俺はなんでも事件を解決する、剣道のけん君と呼ばれていた」

真人「謙吾のけん君じゃねえのかよ……」


佐々美「確かに、微妙に雰囲気が変わりましたわね……なにがありましたの?」

理樹「それは……その、……あはは」

鈴「なにか変だな」


ことり「あ、かよちゃんが降りてくるよ」

海未「結局、様子を伺えなかったのですが……」


スタッフ「足元にお気をつけください」


律「ふぅ~、なかなか体験できないことを経験しちまったぜ」

花陽「……よかった」


ことり「かよちゃん、大丈夫だった?」

花陽「うん……律さんとお喋りしていたから」

海未「そうですか……なにわともあれ、みんな無事のようでよかったです」

律「あれくらい余裕だぜ!」


にこ「あんたたち、帰るの?」

恭介「あぁ、戻って晩御飯の支度をしなくてはな」


小毬「スーパーに寄らないといけないね」

クド「めにゅーを決めなくてはいけません!」

唯湖「そうだな、せっかく名古屋まで来たのだから、名産品を使用したもので料理をしたいものだ」

小毬「あ、じゃあ……小倉トーストを~♪」

唯湖「いや、それは明日の朝に……」

小毬「う~ん……それじゃあ……ういろうをふんだんに使った――」

唯湖「クドリャフカ君が食べたいものにしよう。何が食べたいかな?」

クド「な、なんだか重要な選択を押し付けられた気がするのです!」

にこ「……」


スタッフ「足元にお気をつけてお降りください」


さとみ「よいしょ」

亮太「……」


恭介「後は、君次第だな」ニヤニヤ

亮太「何が俺次第なのかわからん。……それより、東條さん」

希「うん?」

亮太「次のゴンドラなんだけど……姿が誰一人として見えないんだけど」

希「え?」

花陽「本当だ……」

ことり「穂乃果ちゃんと絵里ちゃんと……」

鈴「葉留佳だな」

理樹「姿を見せないよう、隠れてるのかな」

にこ「その意味は?」

理樹「葉留佳さんには理屈が通じないから……」


ガチャ

スタッフ「どうぞお気をつけ――……あれ」


海未「?」

ことり「?」


―― 9番


穂乃果「すぅ……すぅ……」

葉留佳「……くぅ……すぅ」

絵里「……――」ウトウト



スタッフ「お、お客さん! 起きて下さい、着きましたよ!!」



絵里「――っ!」ハッ


穂乃果「うん……ん……」


絵里「あ、あっ!?」


葉留佳「ん……もう食べられない」


絵里「穂乃果っ、ほのか!!」ユサユサ

穂乃果「……あと、5分」

絵里「お家じゃないのよ!」

穂乃果「すやすや」

葉留佳「すやすや」


スタッフ「危ないので閉めます!」


ガチャリ


絵里「え――!?」


―― 地上


希「あらら……」

花陽「降りそこねた……」

真姫「なにやってるのよ……」

海未「もう一周ですか……」

ことり「は、はらしょー……」

にこ「…………」



スタッフ「足元にお気をつけてお降り下さい」


凛「よーいしょっと」

美魚「あのゴンドラ……誰も降りませんでしたが」

小麦「絵里ちゃん達だよね、どうしたんだろ」

エレナ「ズーーム!」


にこ「みんな揃ったわね。ここでお別れなんでしょ、元気でね」

恭介「揃ってはいないが……」


梓「穂乃果たちを無視してる……」


エレナ「オー、ELIさんが、豆鉄砲を食らったかのような表情をしてますネー」

にこ「どれどれ」

希「……」

にこ「ぷぷっ、見なさいよ希っ、絵里の表情を! こんな顔、初めて見たわ!」

真姫「ライブ」


ダダダダダッ


凛「はやっ! 駈け出したにゃ!」

紬「まぁ、ライブがあるのね」

梓「止まったままのゴンドラ内でずっと恨んでいましたから」

律「しぶりんと李衣菜が出るんだっけ」

澪「……え? 誰と誰?」

律「なんだ、知らないのかよ~」

花陽「さぁっ、行きましょう律さん!」

律「よっしゃ、にこに遅れんな!」

花陽「はいっ!」

タッタッタッタ


澪「……あれ?」

凛「かよちんはともかく……」

梓「律先輩……?」

唯「おぉ、仲良くなってるよ」


亮太「大丈夫なの? 2つとも別々の方向に走っていったけど」

海未「にこは感覚で進んで行きますから……また迷うでしょうね」

亮太「誰かついて行ったほうがいいと思うけど」

真姫「言い出しっぺの法則」

亮太「こんなの絶対におかしいよ……」

スタスタスタ


亮太「あ、そうだ」


恭介「?」


亮太「じゃあ」


恭介「あぁ、じゃあな」

真人「お、たった一言で別れのあいさつを済ませやがった」

恭介「こんなもんだろう」

謙吾「言葉は必要ないということか」



希「ウチが行こうと思ってたんやけど……」

さとみ「それなら、一緒に行く?」

希「エリちを待たないかんのやけど……うーん、どうしよ」


―― イベントフロア



にこ「はぁっ、はぁっっ……上から見た時は……っ、もっと近かったはずなのにっ」



― Twilight Sky ―


『 巧く歌うんじゃなくて 心を込めて歌うよ 

   世界でたった一人の 君に伝わりますように 』



にこ「多田李衣菜……!」


花陽「にこちゃん、こっち!」

にこ「な、なんで私より先に居るのよっ」


『 幾千幾億無限の 流れる軌跡の中で
 
   本当の自分の気持ち 見逃さず出逢うために 』


律「おぉ、いい歌詞だなー」

にこ「いい詩じゃない……」

花陽「わぁ……!」


『 明けてゆく東の空で 目覚める夢の続きが
 
   たとえ違ったとしても 君の歌聞かせて 』



亮太「合流してるし……心配するだけ損だったか……」



『 一度きりの旅だから 自分だけの旅だから

   好きなもの集めるんだ 間違ったっていいんだ 』


『 忘れない この気持ちも 忘れない この痛みも

   ねぇ 感じていたいんです 

  連なって 輝く 止めても あふれる

   I love you because you are you 』


にこ「……」

花陽「よかったぁ……とってもよかったよぉ」ウルウル

律「いいないいな! 評価はイイナ、歌ったのはリイナ、なんつって」

花陽「律さん…ッ!?」キッ

律「い、いや、馬鹿にしたわけじゃなくてな……
  パッと頭に浮かんだから言ってみただけなんだよ、ほんと」アセアセ

花陽「本当ですか……?」ジー

律「ホントホント、いやぁ、あまりにも良かったんで、テンション上がっちゃってさ、あはは!」

花陽「そうですよねぇ~」キラキラ

律「だよなぁ~」ヒヤヒヤ

にこ「よくわからない温度差があるわね」


パチパチパチパチ


『みんな、ありがとぉー!』


にこ「……」パチパチ

花陽「途中からだけど、よかったです」パチパチ


『never say never.に続いて、Twilight Skyでしたぁー! 続いては――』


にこ花陽「「 あぁ…… 」」ヘナヘナ

律「ど、どうした?」

にこ花陽「「 しぶりんが終わってたなんて…… 」」ガックリ

律「お、おい……他の観客に蹴られるぞ、立てよっ」


亮太「いい歌だったなぁ……凄い」

さとみ「『間違ったっていいんだ……』よね」

亮太「さとみちゃんも来たんだ?」

さとみ「ふふ、にこさんが迷子になるんじゃないかってね」


希(エリちが地上に戻るまで、時間もあるし……大丈夫やね)


凛「……」コソコソ


希(あれは……?)



『こんばんはー! 秋月律子でーす!』


リッチャーン!!


にこ「あっ!? 秋月律子よ、花陽!」

花陽「本当です! 秋月律子さんですよ、律さん!」

律「あの人こと、よく知らないから、にこと花陽のようにテンション上げられねえよ」

にこ「秋月律子の粋な計らいで長島スパーランドで遊べるのよ! 感謝しなさいよ!」

律「マジか! よしっ、あたしらも声援するぞ、花陽!」

花陽「はいっ!」


花陽律「「 リッチャーン! 」」


『あはは、ありがとー!』


律「反応した!」

花陽「手を振ってくれたよにこちゃん!」

にこ「この高揚感っ、あれがプロなのね!」


凛「……」


『えっと、貴音が急遽、来られなくなったため、私が歌うことになりました』


エェー!?


『あ、残念がってますよ、律子さん』

『そうね、メインの貴音が不参加っていうのは、ファンにとってはショックが大きいでしょう』


にこ「……」


『でも、デビューしたばかりの、凛や李衣菜、みくや美嘉だって負けてなかったはずですよー?』


ワァァアアアア!!


花陽「この歓声は……!」

律「確かに負けてなかったぜ!」

にこ「聞いてないでしょ私たちは……」


『私もこの子たちに負けないよう、頑張って歌っちゃいます!』


オォォォオオオ!!!


凛「……」



亮太「なんだろ、あの人……」

さとみ「え?」

亮太「ほら、にこさんたちの近くにいる……帽子を深く被った人」

さとみ「本当だ……女性みたいだけど」

亮太「ちょっと様子を見てくる」

スタスタ

希「あれは……多分……」

さとみ「心当たりがあるの?」

希「うーん、自信はないんやけど……にこっちや花陽ちゃんならすぐ分かりそうなオーラやね」

さとみ「おーら?」


凛「……」


にこ「何を歌うんだろっ!?」

花陽「やっぱり、アレじゃないかな!?」

にこ「アレね!」

律「そう、アレ…な!」

にこ「律、あんた分かってないでしょ」

律「わ、わかってるわい! アレだろ……花陽?」チラッ

花陽「秋月律子さんの代表曲、魔法をかけて!」

律「そう、ソレ! マホウヲカケテ!」

にこ「なんで聞いたことをそのまま言っただけなのに自信がなさそうなのよ!」


凛「……ふふ」


亮太「……」ジロジロ


凛「――っ!」ビクッ


亮太「あ……もしかして?」


凛「……っ」ササッ


亮太「あぁ、待って待って」


凛「……?」


亮太「あの3人に何かあるの?」


凛「あなたは……?」


亮太「『あのイベント』でマネージャーのようなものをしていた者だから……」


凛「ふぅん……」


律「え、事務所が違うってことは……敵に塩を送ったのかよ?」

にこ「敵じゃないわよ、ライバルよ、ライバル」

花陽「渋谷凛さん達とは違う事務所なのですが、
    秋月律子さんはプロデューサーとして、アイドル界を盛り上げていこうと活動しているんです!」

律「すげえな!」

花陽「すげえどころじゃないんです! とってもすげえんです!」

にこ「花陽! 興奮しすぎて花陽という素敵な個性が崩壊してるわよ!」

花陽「はっ!?」

にこ「律も花陽に悪影響を与えるようなことしてないでくれる!?」

律「おぉ、アイドル界の教育委員長だ……すいませんでした」


『それじゃあ、歌っちゃいます! 凛と李衣菜に続けて歌う曲は――』


花陽「うわぁ……!」キラキラ

にこ「新曲かしら……!」

律「リッチャーン!」

1/6の夢旅人2002
https://www.youtube.com/watch?v=4I2cEoz9kxk


― 1/6の夢旅人2002 ― 

『 まわる まわるよ 地球はまわる

   何も無かった頃から 同じように

  いつも いつでも 飛び出せるように

   ダイスのように 転がっていたいから 』



亮太「ステージに夢中みたいだから」

凛「……うん、邪魔したくないから、控室に戻るね」

亮太「あ、向こうにメンバーがもう一人いるよ」

凛「向こう……?」


希「……?」

さとみ「知り合いなのかな?」


『 世界じゅうを 僕の涙で埋め尽して

   やりきれない こんな思いが 今日の雨を降らせても

    新しい朝が いつものように始まる

  そんな風に そんな風に 僕は生きたいんだ 』


亮太「……」

律「じっくり聞かせる曲だな」

花陽「……」

にこ「……」


『 一人きりでは できない事も

   タフな笑顔の 仲間となら乗りきれる 』


亮太「俺さ、テレビで活躍しているアイドル達って、持って生まれた素質だと思ってた」

律「?」

花陽「え……?」


『 たどり着いたら そこがスタート

   ゴールを決める 余裕なんて今はない 』


亮太「人を惹きつける力とか、試練を器用に乗り越える才能とか、
   そういうのが天から与えらてるんだって思ってた」

律「……」

花陽「……」

亮太「今でもそう思う部分もあるんだけど……『あのイベント』で――」


『 誰かを愛することが 何かを信じつづけることが

   なにより今 この体を 支えてくれるんだ 』


亮太「それ以上に必要なものが」

にこ「ちょっと黙っててくれる?」


亮太「……すいません」

にこ「人が歌ってるんだから静かにしなさいよね……まったく」

花陽「あわわっ、にこちゃんが怒ってるっ」

律「容赦ねえな……」


『 世界じゅうを 僕の涙で埋め尽して

   疲れきった足元から すべて凍り尽しても

    いつの日にか 南風が歌いだす

  そんな風に そんな風に 僕は笑いたいんだ 』


亮太「ふふ……」

さとみ「ど、どうしたの?」

亮太「あの場にいるの辛い……」


凛「?」

希「なにがあったん?」


亮太「別に……なんでもない……」

さとみ「……何か言われたの?」

亮太「それ以上に必要な意志ってものがさ……みんなにはあるんだなぁ……ってさ」

さとみ「負のオーラが出てるわよ……?」

亮太「……」ズドーン


希「にこっちに何かキツイこと言われたんやな……」

凛「……」

希「そのにこっちと話がしたかったんや?」

凛「うん……まぁね」

希「どうしてウチらのことを?」

凛「『あのイベント』、私たちの間でちょっとした話題になっててさ」

希「……」

凛「又聞きになるんだけど……出場したアイドル全員が立場を忘れて楽しんでたって」


『 世界じゅうを僕の 涙で埋め尽して

   やりきれない こんな思いが 今日の雨を降らせても

    新しい朝が いつものように始まる 』


凛「そんなステージがあったことが、なんだか羨ましくて」

希「……」

凛「律子さんが、そのきっかけを作った、
  μ'sというグループが此処に来るかもしれないって言ってたから……話をしてみたくて」

希「そうなんや……」


『 そんな風に そんな風に 僕は生きたいんだ

   生きていきたいんだ 』


凛「プロデューサーとしても活動してるのに……凄いな、律子さん……」

希「アイドルとしてもプロなんやね」

さとみ「……」


ワァァアアアア!!


『声援ありがとうございまーす! 心をこめて歌いましたー!』

『おっとっと、律子さん、それは私の歌詞を引用しましたね』

『ふふ、そうよ、凛のNever say never,は旅の始まりを印象づけたわね』

『それに続く、Twilight Sky,は旅の途中ってイメージですか?』

『そうそう。そして、私が今歌った詩は、旅を振り返って、もう一度始めるという解釈ね』

『私たち3人の歌はそんなストーリー性があったわけですかー』


律「なるほどなー」

にこ「……旅、ね」

花陽「も、もう一度歌ってくれないのかな」


希「この構成はもしかして……?」

凛「多分、あなた達が来ることを予想してセットリストを作成したんだと……思う」

希「……」

凛「私が控室から聞いていたら、気づけなかったこと……」

希「観客席に回って初めてわかったこと……ということやね」

凛「うん……」


亮太「視点が変われば意味も変わるのか……」

さとみ「色んなモノの見方があるのね」


希「不思議やなぁ」

凛「?」

希「にこっちが――……あの3人の真ん中のおさげの子なんやけど」

凛「……うん」


律「で、次は誰が出るんだよ」

にこ「知らないわよっ、トークを聞きなさいよっ」

花陽「いつもステージでのトークは穂乃果ちゃんに任せてるから、勉強になりますっ」


希「そのにこっちが乗車券を手に入れなければ、ウチらは此処に居なかったんよ」

凛「……」

希「穂乃果ちゃんがスクールアイドルを初めて、9人が揃って――」


希「『あのステージ』に立つことが出来て、乗客の人達と出会えて――」


希「訪れた土地で、少しだけ触れ合って」


希「どれか一つでも欠けていたら、『今』はありえなかった」


希「だから、不思議なんよ。……偶然が偶然を呼んで、奇跡的な今がある――」

凛「必然、なのかもしれないね」

希「そうやね、運命的や」

さとみ「……」


『それじゃ、李衣菜……終盤戦の司会、頼んだわよ』

『はいっ、任せて下さい!』

『秋月律子でした、ありがとうございましたー!』


パチパチパチパチ


希「あなたは控室に戻らんの?」

凛「ラストの、アーニャが出るまで、ここで見てる」


『……』


律「お、入れ違いに誰か出てきたぞ」

にこ「あれは……」

花陽「蘭子ちゃんだよ!」


『次に歌うのは、神崎蘭子でーす!』


『 闇に飲まれよ! 』


律「え……なんて言ったんだ?」

にこ「さ、さぁ……?」

花陽「……わ、わたしも……分からない……です」


ジャンジャン


律「トーク無しで歌うのか……ということは、
  リイナとリッチャンの旅というテーマに上手く合わせるってことだな、なるほどなるほど」

にこ「じゃあ、旅の終わり?」

花陽「旅の終わりの……音楽……?」



― 華蕾夢ミル狂詩~魂ノ導~  ―


『 困惑(マヨ)いの翼 導かれた迷宮で

   追憶するは 髪に触れた指先に 』


花陽「……」

にこ「…………」

律「今までの流れ関係なかった!!」



……



『 СПАСИБО 』


ワァァアアアア!!


律「英語じゃないよな、今の」

にこ「絵里がたまに言ってたような……」

花陽「な、なんだったかな……?」

希「ロシア語で、ありがとう、やね」

にこ「そうそう、すぱしーば、ね」

律「じゃあ、あのアイドルもロシア人なのか……ワールドワイドな事務所かよ!」

花陽「あれっ、希ちゃんも来てたの?」

希「そうや、後ろから見てたんよ」


凛「それじゃ、私は戻るから」


希「あぁ、うん。ほなぁ」


凛「……また、どこかで」


スタスタスタ


律「誰だ……? 見るからに怪しい格好だけど」

にこ「知り合い?」

希「うーん、気づかないかぁ」

花陽「も、ももも、もしかして!?」

にこ「知ってんの、花陽?」

花陽「凛さんじゃ!?」


凛「かーよちん、やっと見つけたー!」ダキッ

花陽「り、凛ちゃん……!」

にこ「凛さん?」

凛「さん付けで呼ばれたにゃ!」

にこ「ちょっと黙ってて、凛」

凛「うぅっ、絵里ちゃんに続いてにこちゃんまで冷たいにゃ……」シュン

にこ「も、もしかして……今のはしぶりん!?」

希「そうや~」

にこ「はぁー!? なんで希と一緒に居たのよ!?」

希「にこっちと話がしたかったんやって」

にこ「わ、私と?」

希「ステージに夢中だったから、そっとしておいたんよ」

にこ「え、な、なんで……え?」

希「まぁ、過ぎた話やから、気にせんでもええよ」

にこ「気になるわよ!」


律「澪たちも来たのか」

澪「なんでここにいる?」

律「アイドルの歌を聞きたかったからに決まってるだろー?」

澪「…………」


梓「どうしたんですかね、律先輩は」

唯「どうしたんだろうね。それより、あっちにポティトがあるよ」

梓「あまり関心がなさそうですね」


小毬「それでは、私たちはここでお別れです」

ことり「はい、それでは」

紬「お元気で」


真人「じゃあな、楽しかったぜ」

謙吾「健闘を祈る」

葉留佳「じゃあね~」フリフリ


穂乃果「バイバーイ!」


クド「しーゆーれいたー、なのですー!」

絵里「До свидания」

クド「は、はい! だすヴぃだーにゃ、です!」

にこ「だすびだーにゃ?」

クド「ダスヴィダーニャ、ですよ、にこにーさん」エヘン

にこ「ヘヴィ」

クド「へヴぃ」

にこ「あ、言えたわね」

クド「人類が宇宙へ目指して進歩しているように、
   私も進歩しているのです。えっへん」

葉留佳「え~い、回れクド公ー!!」


クルクル

 クルクル


クド「わ~~ふ~~~~!!」


クルクルクルクル......


「~~~わ~~~ふ~~…………」



絵里「回りながら進んで行ってるわ……」

海未「まるでコマ回しのようですね」


美魚「それでは、ごきげんよう」

唯湖「ではな、中々楽しかったよ」

海未「こちらこそ、楽しい時間を過ごせてよかったです」


恭介「ほう、9人で活動しているのか」

にこ「そうよ。神話にも出てきたくらいなんだから」


海未「まるで自分たちが神話に登場したかのような言い方ですね……」


恭介「いい数字だ。野球をしようではないか」

にこ「いいわよぉ、今度は何を賭ける?」

恭介「キミ達が手にしている豪華ディナーの招待券――」

理樹「カッコ悪いよ恭介!? 諦めきれないみたいじゃないか!」

恭介「何を言っている、冗談に決っているだろう」

理樹「本当かな……目が本気みたいだったけど」

恭介「理樹……お前があんなツッコミを入れるから、
    俺が執着しているみたいになっただろ」


海未「やはり、返すべきなのでは……」

穂乃果「えー、私たちが勝ったのにー?」

ことり「うーん……でも、私たちが使うよりは……」


理樹「わー! わぁーー!! 返さなくていいから! 存分に楽しんできてくれていいから!!」


穂乃果「本当に……?」


理樹「もちろんだよ! ねぇ、恭介――って!」


恭介「名古屋ドームを押さえてある」

希「おぉ、こんな時間から押さえるなんて、凄い人物なんやな~」

絵里「私たち、野球なんてしたことないのに……」

にこ「どこかの御曹司かなにかなの……?」


理樹「ものすごい執着心だよ! 止めてよ!!」

恭介「勘違いするな、理樹。
    俺は招待券がほしいわけじゃない、野球がしたいんだ!」

理樹「なんで今になって変な闘志が燃えてるのさ!」


佐々美「そこですわ!」

鈴「とりゃッ!」


―― 鈴は佐々美のブーメランをジャンプで避けた!


鈴「くらえ!」

佐々美「狙いが甘々ですわっ!」


―― 佐々美は鈴の輪ゴム飛ばしをバク転で避けた!


シュルルルル

 パシッ


佐々美「……やはり簡単には行きませんわね、棗鈴!」


―― 佐々美は戻ってきたブーメランをキャッチした!


鈴「……ふん、次で最後だ……サザナミ!!」


―― 鈴は輪ゴムを手に装着した!


鈴「覚悟しろ――!」

佐々美「お覚悟――!!」


理樹「ストップ、ストーップ! はい、お終い! 帰るよ!!」


鈴「理樹に救われたな」

佐々美「救われたのは貴女です。理樹に感謝することですわ」


理樹「それじゃ、僕たちはこれで」


穂乃果「す、すごい……あれだけドタバタしてたのに……!」

ことり「何事もなかったかのような佇まい……!」

海未「慣れ、でしょうか……」


「理樹ー!」

「理樹くーん!」


にこ「元気で」

理樹「うん、みなさんも、お元気で」


タッタッタ


「荷物持ってやるよ、鈴」

「なにも持っとらんわ! 優しくするな、きしょいんじゃボケー!!」

「普段の行いが悪いからだ、真人。……困った事があったら俺に言え、鈴」

「おまえもじゃボケー!!」


「り、鈴ちゃん、優しくされて怒っちゃダメだよ~!」

「ふかーっ!!」


「真人も謙吾も、普段はそんなこと言わないからね……」

「奇妙ですわね……観覧車で何がありましたの?」

「あはは……まぁ、その……いろいろね。あ、そうだ、鈴」

「なんだ!?」

「ちゃんと挨拶してきた?」

「あいさつ……?」

「ほら……」


にこ「……?」


「……してない」

「してきたほうがいいよ」

「理樹も一緒に行こう。してないだろ」

「ちゃんとしたよ……鈴は勝負に夢中だったから気付かなかっただろうけど」

「じゃあ、待っててくれ」

「うん」


タッタッタ


にこ「……」


鈴「……じゃあな」


にこ「う、うん……それじゃ」


鈴「……」


にこ「……」


鈴「……楽しかった」


にこ「……うん」


タッタッタ



「してきた」

「それじゃ、帰ろうか」

「帰ろう」

「なにか忘れてないか?」

「そうだな、俺もそんな気がするんだ……筋肉はちゃんとここにあるんだが」

「サザミがいないな。よし、置いていこう」

「ココに居ますわよ。なにが、よし、なんですか」


「ばいば~い!」


穂乃果「ばいば~い!!」


にこ「……」

ことり「行っちゃったね……」

海未「行ってしまいましたね」


絵里「……賑やかな人達だったわね」

希「ふふ、そうやね」

海未「希……」

希「うん?」

海未「『世界は重なり合っている』……だそうです」

希「……誰が言ったの?」

海未「私と一緒にゴンドラに乗った人ですよ」

希「ふぅん……意味ありげな言葉やね」

海未「そうですね」


希(ちょっと寂しそうやな。海未ちゃんとは後で話せんとね……)


絵里「…………」


凛「あれ、真姫ちゃんは?」

花陽「?」

凛「にこちゃんの後を追ったと思ったけど……」

にこ「また迷子なの~? まったく、困った子ね~」


真姫「ここよ」


にこ「そ、そんなとこでなにしてたのよ」

真姫「別に?」

にこ「『別に?』」

真姫「人の真似しないで!!」

本当に遅くて申し訳ないです。
時の旅人で完全燃焼してしまって、モチベーションの維持が困難なのです
他に書いてる話を優先してしまいがちで……
頭のなかでは、みんな終着駅に到着しているのです、頭のなかでは。

本当にすいません(´Д⊂ヽ


唯「あずにゃん3号ちゃん、見てみて!」

にこ「なんで私が3号なのよ! 2号はどこなのよ?!」

穂乃果「気にするところそこなんだ」


唯「ほら、マクフライポティトゥ。3種類あるから好きなの取って~」

にこ「3種類?」

凛「あ、凛知ってるよ!」

花陽「さっき食べてたポテトだね」
 
凛「1885年スタイルと、1985年スタイル。2015年スタイルがあるんだよね!」

にこ「年代じゃなくて、味で分けなさいよ」

唯「1885年スタイルがウェスタン風味だよ」

凛「ポテトのおまけに、チキンも付いてくるの!」

律「チキンうまいぜ」モグモグ

にこ「チキンのおまけにポテトじゃないの? 余程自信があるとみたわ、興味をそそるわね」


ことり「真姫ちゃん、にこちゃん達とライブを見ていたんじゃなかったの?」

真姫「……離れて見てたのよ」

希「どうして?」

真姫「いいでしょ、別に」

希「よくない」

真姫「な、なによ」

希「思うところがあって、わざわざ離れて見てたんやろ?」

真姫「……」

希「ほ~ら、真姫ちゃんが思ってること言ってみ~?」

真姫「むぅ……さっきの人達もそうだけど、希と話してた子、にこちゃんと話をしたがってたでしょ?」

希「聞いてたんや」

真姫「……うん」

希「それで?」

真姫「だから……その、にこちゃんって、そういうキャラじゃなかったでしょ」

ことり「?」

希「そういうキャラって?」

真姫「人を惹きつける魅力はないでしょ」


にこ「む……、なにか今、とてつもなく失礼なことを言われた気が……」

唯「はいよ、2015年スタイルお待ち!」

にこ「ありがと。……むぐむぐ」


唯「どう? おいしいでしょ?」

にこ「ごくり……。梓、水ちょうだい」

梓「私が飲んでた水ですけど……どうぞ」

にこ「ゴクゴク、グビグビ」

梓「あ! その角度! 全部飲んでる!」

にこ「あんたの先輩が変なもの食べさせるからでしょ」


ことり「ないことはない、と思うけど……」

希「そうや、スクールアイドルとはいえ、アイドルやし」

真姫「……」

穂乃果「私は真姫ちゃんの言いたいことわかる気がするな」

真姫「……そう?」

穂乃果「うん。……にこちゃんって、物陰から見つめてるイメージだもん」

ことり「今年の梅雨時……私たちがアイドル研究部に押しかけた時の話だね」

穂乃果「そうそう。私と出会ったときのうみちゃんのように、
     声を掛けたくても掛けられなかったような、ね?」

海未「……」

穂乃果「無言の同意でいいね。……だから、人の輪に飛び込んでいくにこちゃんが、少しだけ、あれれ? って思うんだよね」

真姫「……うん」

希「そうやね、今も梓ちゃんと……放課後ティータイムと一緒で楽しそうやし」


唯「え~、海老チリ味おいしいのに~」

凛「おいしいにゃ~」

にこ「海老がないのに何が海老チリ味よ、現代的ネーミングでそれなの!?」

梓「料理とアイドルに関してはうるさいですね」

律「ごほっ、マジで水が欲しくなるな……澪、それくれ!」

澪「いや、これは……」

律「いいから寄越せ! ……ゴクゴク……ぐふっ!?」

澪「玄米茶なんだけど」

律「どろどろしてるっ、なんでこんなのが遊園地にあるんだよ!」

紬「花陽ちゃんがお米大好きだって聞いたから」

花陽「お米なんですか!?」

律「玄米だ、玄米……水、だれか水くれ……」


穂乃果「それより、これからどうするの?」

海未「ホテルに向かってもいいですし……もう一つだけ、アトラクションで楽しむのもいいですね」

真姫「ライブに来てたお客さん、もう誰もいないわよ」

ことり「あはは……私たち、のんびりしすぎだね……」


にこ「ディナーの時間はどうなの?」

律「時間の指定はないみたいだぜ」モグモグ

にこ「まだ食べてるけど、豪華ディナーの前にそんなに食べて平気なの?」

律「あ、やべっ……んぐっ?」

澪「どうして慌てるんだ……ほら、水だ」

律「それ、玄米茶だろ……知ってんだよ、澪は意地悪だからな……っ」

花陽「……ごくごくっ……ぷふぅ、おいしい♪」

律「くれっ、花陽!」バッ

花陽「あ……っ」

律「ゴクゴ……っ……玄米茶だぁ……」シクシク

澪「お前はバカだ」

梓「律先輩、どうぞ」

律「ありがと……あたしは良い後輩を持ったなぁ」ウルウル

にこ「水のありがたさを知ることができてよかったじゃない」

律「そうだな、水って大切だぜ。ゴクゴク……」

唯「あずにゃんが渡したの、玄米茶だよ~」

梓「ふふふ」

律「鬼しかいねえ」シクシク

澪「私は水を渡そうとしただろ!」

紬「この流れは私も玄米茶ね。はい、りっちゃん、どうぞ!」

律「あー、玄米茶うめえなー!」

花陽「律さんはやっぱり分かる人なんですね!」キラキラ

凛「分からされた人、って感じがするにゃ」


真姫「ほら、バカやってないでさっさと移動するわよ」

にこ「なんで真姫が仕切るのよ」

真姫「なんで私を目の敵にしてるのよ!」

希「あぁ、待ってふたりとも」

真姫「……え?」

にこ「?」

希「もうちょっとだけ、待ってて」


絵里「……」


にこ「なにがあるの?」

希「まぁ、ええから~。って、あれ? さとみちゃんたちは……?」

真姫「エレナさんたちとどこか行ったわよ」

希「置いて行かれたようやね」


絵里「最近……」

希「ん?」

絵里「置いて行くわよね……」

希「……なにを?」

絵里「私を……」

希「エリちを……???」


―― 控室


みく「ねこぱんち!」

バシッ

テンテンテン......


由愛「あ、カメさんが……!」

テッテッテ


みく「つまんなーい、もう帰るにゃー!」

李衣菜「もう引き上げてもいい時間だよね……」

フレデリカ「網にかかった魚のようだね~」

アナスタシア「アー……うん、どういう意味?」

フレデリカ「引き上げられるのを待っているって」

アナスタシア「ハラショー」

李衣菜「え、なにか感動してるけど、どこに感動したのアーニャ?」

フレデリカ「魚の気持ちなんてわからないけどねー」


凛「……」

みく「凛ちゃん、何を見てるのー?」

凛「ちょっとね……」

みく「あ、にこちゃん達にゃ」

凛「知ってるの?」

みく「一緒に遊んだ仲にゃ」

凛「ふぅん……」


美嘉「律子さーん、莉嘉から電話があって、プロデューサーが到着したって~」


律子「ふぅ……やっとアンタ達の子守から開放されるのね」


麗奈「……」ソローリ


律子「まだ話は終わってないわよ、麗奈」

麗奈「……チッ」

律子「フレデリカのトーク中に変な仕掛けで驚かせたでしょ」

麗奈「……はい」


美嘉「麗奈、叱られてるんだ?」

アナスタシア「日本の反省の姿勢……土下座」

フレデリカ「アレは、土下座の一歩手前、土上座って言うんだよ」

アナスタシア「ドカミザ? ……知らなかった言葉」

フレデリカ「私もいま知った」

李衣菜「あれは、正座」

アナスタシア「蘭子も……正座?」

李衣菜「……目を瞑ってるから……瞑想かな?」


蘭子「…………」


律子「フレデリカだから、適当に対応できたけど、それが由愛だったりしたら……」

麗奈「だから、あれは手違いというか……」

律子「言い訳しない。仕掛けたのはあなたでしょ」

麗奈「はい……すいません……。……チッ」

律子「あのね、麗奈」

麗奈「……?」

律子「私が今日……貴音の代わりにステージに立ったけど、
    本当なら、麗奈が出るべきだったのよ」

麗奈「どうしてよ?」

律子「貴音が出場をキャンセルして、ファンをがっかりさせたけど、
    みくやフレデリカが場を盛り上げた」


律子「私じゃなくて、あなた達の事務所みんなで一丸となってステージに立てば、
    もっと印象に残すことができたの。アピールを出来たはずなのよ」


麗奈「…………」


律子「これからの険しい道のりをみんなで乗り越えていけると、自信に繋がったはず」


麗奈「……」


凛「律子さん」


律子「着替えたのね。……本当に歌うの?」


凛「はい。……聞いてくれるのか、分からないけど」


律子「それならやりたいようにしなさい。スタッフにも伝えてあるから」


凛「ありがとうございます」


律子「曲は流せないわよ?」


凛「はい、分かってます。それじゃ――」


蘭子「待って」

凛「……なに?」


蘭子「その道に何を見る?(訳:どうしてそんなことをするの?)」

凛「挑戦、かな」


蘭子「クク、それが我が友の覇道、ということか(訳:凛ちゃんのトップアイドルへの挑戦なんですね!)」

凛「まぁ、そんなところかな」


李衣菜「観客は……9人……プラス、5人だね」


律子「美嘉、プロデューサーは来てるって言ってたわよね」


美嘉「う、うん……」

律子「じゃあ、楓さんと美波も一緒?」

美嘉「多分、一緒かな」

律子「凛、李衣菜、蘭子、5人で歌う新曲……準備出来てる?」

李衣菜「バッチリです!」

蘭子「はい、もちろんです! (訳:クク、狂気の宴へいざ参らん!)」

凛「……?」

律子「凛が歌った後、披露してみるってのはどう?」

凛「…………」

律子「挑戦、なんでしょ」

凛「――はい」


アナスタシア「羨ましい……」

フレデリカ「応援してあげるよ、フレーフレー、フレデリカ~」


麗奈「……」

律子「私はね、そうやって、事務所の仲間とやってきたから、此処まで来ることが出来たの」

麗奈「…………」

律子「あとは、あなた次第よ、麗奈」

麗奈「……うん」


「まこと、良きお言葉……」

律子「た、貴音……来てたの!?」

貴音「迷惑を掛けた非礼を、一言お詫びしたくて参りました。
    先ほどの言の葉……わたくしの心に深く刻み込まれましたよ、律子」
 
律子「わ、わわっ、忘れてよ! もう!」


由愛「麗奈ちゃん……」

麗奈「なによ」

由愛「ううん、なんでもないよ」

麗奈「そんな亀のタワシ、まだ持ってたの?」

由愛「……麗奈ちゃんのじゃないの?」

麗奈「そんなわけないでしょ。……その黒いノートはなに?」

由愛「さっき拾ったの。……中に見たことのない文字が並んでるよ」

麗奈「へぇ……どれどれ」


蘭子「きゃー! うすとろかー!! (訳:恥ずかしい!!)」


李衣菜「緊張してる?」

凛「うん……さっきより、してる」


凛「偶然が偶然を呼んで、奇跡的な今がある――」



―― 外


凛「ねっこねっこにゃーん♪」

にこ「っ!?」

花陽「凛ちゃん、いまのとっても可愛かったよ!」

ことり「かわいい~♪」

凛「にこちゃんの真似だよ、そんなに言われると照れるにゃ~」

真姫「真似というか、昇華させた感じね」

にこ「な、なな……!」


唯「あっずあっずにゃ~ん……さん、はい」

梓「なにを促しているんですか、やりません!」


律「オリジナルの立場がないですなぁ」

にこ「な、なにを……!」

律「へっへっへ、凛にお株を奪われてしまいましたなぁ」

にこ「ぁぅ……!」

澪「調子に乗るな、バカ!」

バシッ

律「すいません」


にこ「に、にに、にっここ……!」

穂乃果「動揺しすぎ……」


にこ「にこっここっこにー!?」

真姫「違う」

にこ「こにっこににー……」

真姫「そうじゃないでしょ。というか、どうして悲しい顔をしてるのよ、いつもの笑顔は?」

にこ「いいわよ、もう……凛に全て引き継いでもらうから……」

真姫「にこちゃん……」

凛「アレはにこちゃんじゃないとダメだよ!」

にこ「ううん……そんなことない……もう、次の世代に引き渡すべきなの」

凛「意味がよくわからないにゃ……」

ことり「元気だして、にこちゃん!」

にこ「……」

穂乃果「ほら、手をこうやって~」

にこ「……」

穂乃果「右手はこう」

にこ「……こう?」

穂乃果「そうそう。それで、指をこうやって……、にっこにっこにー♪」

にこ「にっこにこに……」

真姫「もうちょっとリズムつけて」

にこ「にっこにっこ……にー」

ことり「そうだよ、もう少し!」


律「なにしてんだ、あれ」

花陽「リハビリ、かな……」

海未「この場所……ライブが終わったのに後片付けをしないのですね」


絵里「……」

希「エリち?」

絵里「……」プイッ

希(置いて来たのを気にしとるようやな……
  こうなったら手強いんよなぁ……エリち……)


穂乃果「希ちゃん!」

希「……どうしたん?」

穂乃果「にこちゃんを見て!」

希「にこっち?」


にこ「えぇ、恥ずかしい……っ」モジモジ

ことり「いつものにこちゃんを思い出して!」

にこ「やっぱり……あの感覚が思い出せないっていうか……ムリよっ」モジモジ

凛「あの頃のにこちゃんは変な自信で満ち溢れていたにゃ!」

にこ「うぅん……」モジモジ


希「やけに初々しい雰囲気やね……」

海未「自信を失っているのでしょうか」

律「やっぱり面白いな、にこは」

紬「そうよね、うんうん」

唯「ぬこっつ」

梓「唯先輩はたまに訛りが出ますよね……」

澪「訛り、なのか……?」


にこ「じゃあ……見ててね?」

希「うん、ちゃんと見てる」

にこ「えっと……あぁ、なんでこんなに緊張するの……」

希「……あ」

にこ「に、にっこ――」

希「ちょっと待って」

にこ「……!」


穂乃果「希ちゃん!! にこちゃんが恥ずかしさを乗り越えるところだったのに!」

凛「あんまりにゃ~!!」

にこ「もういい……」

穂乃果「にこちゃん、諦めちゃダメだよっ!」

にこ「真姫、凛、花陽……」

真姫「な、なに?」

凛「にゃ?」

花陽「?」

にこ「これからはあなた達の時代よ。……スクールアイドルとして、輝いていくのを期待してるからっ」

ダッ

ことり「待ってっ、にこちゃん!」

穂乃果「私たちは!?」

海未「今はそんなこと気にする必要ありません」


にこ「離してっ、この場にいるのつらいのっ」ジタバタ

希「ほ~ら、遊んでないで、ちゃんとステージを見るんよ」

にこ「遊んでるわけじゃないの、胸がチクチクしてるの!」

希「ええから、ほら~」グイ

にこ「いたたた……頭を掴まないで――」


「……えっと」


にこ「……?」

花陽「あれは……!?」

凛「どうしてステージに立ってるのにゃ?」


穂乃果「えっと……誰かな?」

律「さぁ、誰だろ」

花陽「さっき教えましたよ!? 渋谷凛さんです!」

律「あ、あぁ……あの子が……」

澪「おい、おまえはさっき私が知らないことを小バカにしたよな」


希「ステージ衣装に着替えたんやね」

にこ「どういうこと……?」

希「にこっち達が凛ちゃんの出番に間に合わなかったって話したら、
  『アンコールで歌ってみようかな』って言ってたんよ」

にこ「そんな話してたのね……って、私のため!?」

希「それもあるんやろうけど……、凛ちゃん自身の挑戦、やと思うよ」

にこ「ど、どんなこと言ってたの?」

希「そんなことより――」

穂乃果「にこちゃん! 前行ってみようよ!」

花陽「い、いい、行こうよにこちゃん!」

にこ「そ、そうね……うぅっ、胸がドキドキするっ」

凛「面白そうにゃ~!」

タッタッタ


希「ふふ」

絵里「……」



―― ステージ前


凛「……こんばんは」



にこ「こ――」

花陽「こ、こんばんはっ」ササッ

凛「かよちん、前に出てきたのに隠れちゃ意味ないにゃ~」

花陽「だ、だってっ」

穂乃果「イベントは終わったはずなのに、どうしてステージに……?」


凛「うん……。それは、私の担当プロデューサーから、『あのイベント』の話を聞いて――」


―― イベント会場・後方


律子「ちゃんと来てくれたのね」

希「あ……」

絵里「フリーパスと宿泊券、ありがとうございます、秋月さん」

律子「いいのよ。手紙にも書いたけど、
   うちの事務所としては『あのイベント』で大きな収穫があったんだから」キラン

絵里「私たちも楽しい想い出が作れて、みんな喜んでいます」

律子「ふふ、それなら嬉しいわ」

希「少し気になることが……」

律子「あの子のことなら心配要らないわ。
    まぁ、遠慮がちな性格だからうちに慣れるまで時間がかかるでしょうけど」

希「……それならよかった」

絵里「……えぇ」

律子「気にしてくれて、ありがとね」

希「いえ。それを聞いたら、にこっちも安心すると思います」

絵里「……」

律子「矢澤にこ――、ね」



―― ステージ前


凛「――目指す場所を見つけたから」


にこ「……」

穂乃果「……」


凛「あの人が目標だから、私は歌っていきたい」


にこ「…………」


凛「もう人を集めるわけにはいかないから……音を出せないし、マイクも使えない」


凛「私はまだ未熟だから、声が届かないかもしれない」


凛「それでも、聞いてほしい」


にこ「……」

穂乃果「もちろんだよ! 聞かせて!」

凛「シークレットライブにゃ!」

花陽「うん、うん!」

律「アンコール! でいいのか?」


凛「ふふ、……それじゃ、アンコールに応えて……精一杯、歌います」


― Never say never

 ずっと強く そう強く あの場所へ 走り出そう


―― イベント会場・後方


海未「ことり、私たちも前に行きましょう」

ことり「うん!」

タッタッタ


過ぎてゆく 時間とり戻すように

 駆けてゆく 輝く靴

今はまだ 届かない 背伸びしても

 諦めない いつか辿り着ける日まで


絵里「この声量……」

希「よく届く声やね」

律子「未知の世界へ旅立つ勇気のある歌」



目を閉じれば 抑えきれない

無限大の未来が そこにあるから


貴音「律子、彼らが到着したようです」

律子「じゃあ、話をしてくるからここで待ってて」

貴音「わかりました」

律子「ほら、目立つから帽子をちゃんと被って」


「あれ、なにかイベントやってるみたいだな」

「もう終わったはずだけど」


真姫(人が集まって来たわね……)


……



振り返らず前を向くよ だけどいつまでも見守っててね

 強く そう強く あの場所へ 走り出そう


どこまでも走ってゆくよ いつか辿り着けるその日まで


凛「……ふぅ」


花陽「わぁっ……!」パチパチパチ

穂乃果「おぉー……マイク無しであんなに声が響くなんて凄い……」パチパチ

海未「私たちも見習って、練習に励まなければいけませんね」パチパチパチ

ことり「感動しちゃいました」パチパチ

にこ「……」

凛「にこちゃんがボーっとしてるにゃ」


パチパチ

 パチパチ


穂乃果「わ……知らないうちに人が集まってる!」

律「あ、あれ? 澪たちがいないっ!?」

海未「後ろの方にいますよ」

律「あ、本当だ……はぁ、びっくりしたぁ……置いて行かれたかと思った」


凛「聞いてくれて、ありがとう」


にこ「……」パチパチ


......タッタッタ


李衣菜「ジャーン! 続いては私たちがロックに歌うぜー!」

美波「ロックとは少し違いますが歌います」

楓「よろしくおねがいします」

蘭子「迷宮錯綜のヘルマフロディトス!」


ワァァァアアアア


ことり「わぁ、すごい歓声~!」

凛「おぉ~」

穂乃果「沢山出てきたね……?」

海未「残念ながら、私には名前が……」

にこ「え、えっと……」

花陽「多田李衣菜ちゃん! 新田美波さん! 高垣楓さん! 神埼蘭子ちゃん!?」

律「さすが花陽! ぱっと見ただけで名前が出る出る!!」



凛「じゃあ、これからは……5人で歌います」


にこ「……」



― Nation Blue


諦める事無く 前を向いて 自分信じてね

 いつもキミを見てる


―― イベント会場・後方


凛P「ありがとうございます、秋月さん。まさかまだ歌を披露していたとは……」

律子「どういたしまして。これは凛が言い出したことなのよ」

凛P「渋谷さんが……ですか」

律子「彼女なりに思うところがあるのね。それより、後は任せてもいいわね?」

凛P「はい。スタッフと話をしてきますので、これで」ペコリ

タッタッタ


律子「あ、ちょっと――……まだ話は終わってないのに……まったく」

絵里「音……出しても平気なんですか?」

律子「もう人が集まってるからね。……どうせやるなら思いっきり歌いたいじゃない」

希(さっきの人、目が怖かった……)



佇むことも そして振り返ることも無く

 キミの近く そう 付いていきたいんだ

どこまでも連れて行って 青いこの輝いた道を

 いつまでも側にいて 遠く離れていても


……



……




夢を追った 僕たちは それがそこにあると信じてた

 青い光は 淡く 笑顔と涙写し

諦める事無く 前を向いて 自分信じてね

 いつもキミを見てる ――


凛「……ふぅ」



パチパチパチ

 パチパチパチ

ワァァアアア

 
李衣菜「ありがとうございましたー!」

美波「ございました!」

楓「ありがとうございました」

蘭子「漆黒の闇に呑まれよ!!」


凛「…………」


にこ「…………」


凛「ありがとうございました」

タッタッタ


穂乃果「あぁ、終わっちゃった……」

ことり「すごいパフォーマンスだったね!」

海未「そうですね……振付もポジションも計算された動きでした」

凛「凛たちも負けないにゃ~!」

花陽「うん……うん!」


にこ「……」



どんっ

梓「あっ、すいません!」

「ボクの可愛さに惹かれてしまったんですね」

梓「いえ、違います。唯先輩が――」

「ボクは可愛くて優しいですから、ぶつかっただけで怒ったりしません」

梓「だから、唯先輩が――」

「いいんですよ、見られることがボクの仕事でもあるんですから、存分に見ちゃっても」

梓「待って、話を聞いて――」

「フフ、あなたも遠回りなことをしますね。ボクと話をしたくてぶつかったりするなんて」

梓「……」

「いいですよ、握手ですか? 写真はちょっと困りますけど……プロデューサーさんは許可をしてくれると思います。これも営業の一つですから」

梓「だ、誰か……むぎ先輩……、澪先輩」キョロキョロ

「ボクのファンが他にもいるんですね。それではみんなで写真を撮りましょう」

梓「ぶつかってすいませんでした。それではっ」

「照れなくてもいいですよ。ボクは可愛くて優しくて心が豊かですから、待ってあげます」

梓「は、離してっっ」

「カメラはどこですか?」


希「こっちよ~。はい、チ~ズ」

パシャッ


梓「なんで撮るんですか!」

希「うふ☆」

「最高の一枚になったと思います。フフ、よかったですね」

希「そうやね~。確認なんやけど、あなたのお名前は?」

「輿水幸子です。うっかり忘れてしまうなんて失礼な人ですね!」

希「あぁ、そうそう。幸子ちゃんな」

幸子「まぁいいです。許してあげます。ボクは可愛くて優しくて心が豊かで可愛いですから」

梓「行きましょう、希さん、唯先輩とは違った強引さなので、もう遠慮したいです」

幸子「ボクと並ぶのがそんなに困るんですか。そうですね、可愛さで比べられてしまいますからね……フフ」

梓「……」イラッ


「あずにゃ~ん、早くしないとアトラクションに乗れなくなるよ~」

「あずさちゃ~ん」


梓「あ、呼ばれてるのでこれでっ!」

タッタッタ


幸子「それでは、ボクが居ないとプロデューサーさんが困るので、行きます」

スタスタ


希「……ふたりとも、声が似てるんやね」


律子「……っと、私たちも移動しましょう、貴音」

貴音「わかりました」

律子「それじゃ、私たちはこれで失礼するから、楽しんでいってね」

絵里「はい」

希「ありがとうございました~」

貴音「ごきげんよう」

スタスタスタ


絵里「プロのオーラを感じるわね……。無意識に視線を奪われてしまうわ」

希「うん……普段、にこっちが言ってることの意味が分かった気がする」


穂乃果「にこちゃん?」

にこ「……なに?」

穂乃果「ボーッとしてたから……。もう会場も後片付けしてるから行こうよ」

にこ「…………そうね」


真姫「……」

海未「さ、私たちも行きますよ」

真姫「……うん」

海未「どうしました?」

真姫「にこちゃん、疲れてるのかしら……」

海未「そうですね……。たまにテンションが下がるといいますか……寂しそうな、なんとも言えない表情をします」

真姫「やっぱりそうよね……。気のせいなんかじゃなかった」

海未「午前中はどうでした?」

真姫「文句言いながら付き合ってくれたわ。そんな素振り見せなかったし……」

海未「少し、話をしてみましょう」

真姫「後でいいわよ。今はこの場所を楽しみましょ」

海未「……場所を、ですか」

真姫「そう、場所を。……此処でしか楽しめないことって絶対あるから」

海未「ふふ、そうですね」

真姫「なんで笑うのよ……?」

海未「真姫がそんなことを言うなんて、少し驚きましたから」

真姫「……なによそれ」


希「……」

絵里「希?」

希「……ん?」

絵里「ほら、行くわよ」

希「うん♪」


絵里「どうしたの?」

希「色んな人と出会って、色んな場所で、色んな経験をする――」

絵里「……」

希「良い時間を過ごせてるな――……って、実感してたんよ」

絵里「そう…ね……、うん。私もそう思う」

希「機嫌直してくれた?」

絵里「あ……。もう……!」プイッ

希「ごめんって、エリち~♪」

絵里「知らないわよ」プイ


律「なにしてんだ、あの二人……見てるこっちがちょっと照れるんですけども」

花陽「律さん、行きましょう!」

律「よし、行こうぜ! って、どこに?」

花陽「今日最後のアトラクションですっ!」

律「そうか、ついに今日最後のアトラクションか!」

凛「なんで復唱したのかにゃ?」

ことり「最後はみんなで乗りたいね!」

穂乃果「そうだね! ね、うみちゃん!」

海未「お手柔らかにお願いしますよ……」

律「なぁ、澪は何に乗りたい――?」


シーン


律「あれ……むぎ……?」


シーン


律「唯……?」


シーン


律「あず…さ……」


シ ー ン


にこ「誰一人として、律の呼びかけに応える者はいなかった……」


律「置いてかれた!!」


にこ「遊園地で遊ぶ家族連れ、楽しく過ごす恋人たち、嬉しい思い出を作る友人たち。

   こんなにも素敵な時間の中で、律はただ独り……」


律「ひどい……っ、声もかけてくれないなんてっ、あたし部長なのにっ!」


にこ「そんな彼女に優しく手を差し伸べる、ピュアなアイドルにこにー」


にこ「私がいるにこ♪」スッ


律「……」スッ


バシッ


にこ「あいたっ! なにすんのよ!」

律「うるせえ! 余計なナレーションのせいで孤独感が増しただろー!」

にこ「差し出された手を叩き返すなんて信じられないにこー!」

律「そんな作られた友情なんていらねえ!」


穂乃果「あはは……しょうがない二人だなぁ……って、あれ?」


海未「……」

ことり「……」


穂乃果「なんでそんなに離れてるのー?」


真姫「まだ乗ってないものがいいんじゃない?」

花陽「わたしは……もう一度乗りたいものが……」

凛「かよちん、チャレンジしてみようよ~!」


穂乃果「他人のフリしてる!」


律「へへっ、他人のフリされてんのか、アイドル部の部長は」

にこ「あんたなんて置いてかれてるじゃないの、けいおん部、部長」


絵里「どっちもどっち……といった感じね。希は乗りたいもの、ある?」

希「うちは、もういいかな。エリちは?」

絵里「そうね……穂乃果に合わせてみようかしら」


穂乃果「お化け屋敷にしよう!」

ことり「こ、怖いけど……穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒なら頑張ってみる!」

海未「……」


絵里「花陽~」

テッテッテ


花陽「どうしたの?」

絵里「澪さんも最初は怖かったらしいけど、一度乗ってしまえば平気だって言ってたわよ」

花陽「そ、そうなんだ……」ゴクリ


希「ふぅん、なるほど……そういうことやったんやねぇ」

真姫「なにが?」

希「ううん、なんでも。真姫ちゃんはどうするん?」

真姫「乗ってもいいし、乗らなくてもいいし……流れに任せるわ」


キンコンカンコーン


真姫「園内放送……?」


『迷子のお知らせをします――』


律「そういえば、どこかの部長さんは迷子になったことあるよなぁ」

にこ「むぐぐ……」


『――からお越しの、田井中律ちゃん』


律「は……?」

にこ「……」



『保護者の方がエントランスフロアでお待ちです』


律「…………」

にこ「…………」


穂乃果「あ、あはは」

花陽「あはは……」

凛「あはは……」

海未「笑うしかありませんよね……」

ことり「あはは~……」

にこ「止めなさいあんた達。その気遣いが深い傷を与えることになるのよ」

律「分かってくれるのか、にこっ」

にこ「私だけは律の味方だから」

律「ありがとう……っ。さっきは嫌なこといって悪かった」シクシク

にこ「いいのよ、そんなこと」ヨシヨシ

律「優しさが染みるぜっ」


真姫「変な友情……」


律「まさか、園内放送がしたいがためにあたしを置いてったんじゃないだろうな……」

絵里「行かないの?」

律「今エントランスに行ったら、『あ、あの人が田井中律なんだ』って注目されるだろ」

希「どこかの部長と同じくらい自尊心が強いなぁ」


穂乃果「じゃあじゃあ、誰が放送をさせたのか、当たった人の乗りたいものにみんな乗るってことで」

凛「面白そうにゃ~!」

にこ「部長の予想は?」

律「本命は澪で、大穴がむぎ。そんで、唯と梓の順かな?」

ことり「私は……メリーゴーランドで、澪さん!」

凛「いきなり本命だにゃ!」

絵里海未「「 メリーゴーランド!? 」」

ことり「うん♪ 絵里ちゃんと海未ちゃんは白馬に乗ってね♪」


絵里海未「「 ………… 」」


律「本命が使われたか……。
  注意事項を言うけど、正解者のアトラクションには全員乗るように!」

真姫「律さん、楽しんでるけど……律さんも乗るのよ?」

律「嫌だす!」

真姫「ずるい……」

穂乃果「花陽ちゃんは?」

花陽「えっと……唯さんで――」

凛「ホワイトサイクロン!」

花陽「り、凛ちゃん!?」

律「こらこら、予想は一人で一つにしなさい」

凛「かよちんと凛は一心同体にゃ!」

律「よかろう!」

にこ「なんか、律がルールになってるわね……」


海未「メリーゴーランドですか……」

絵里「出来るだけ避けたいわね。あとは、むぎさんと梓だけど……どっちかしら」

海未「無難に紬さんにしましょうか」

絵里「そうね……アトラクションは?」

海未「そうですね……」


希「梓ちゃんで、スカイホール♪」

律「よしよし。それじゃあ、残ったむぎは誰が選ぶんだ?」


海未「乗り物は絵里が決めて下さい」

絵里「スペースシャト――」


穂乃果「むぎちゃんで、お化け屋敷~!」

律「よぉし、そんじゃ、エントランスに行くぞ~」

にこ「こんなどうでもいいことをイベント化にしないで欲しいわね」

真姫「同感」


海未「あ……」

絵里「穂乃果――!」


……



―― エントランスホール


梓「律せんぱ~い!」


律「しーっ、梓、大声で呼ぶなっ」

梓「はい?」


「あの人が『田井中律ちゃん』……」

「咲耶ちゃん……兄や……兄やは……?」

咲耶「お兄様は……そろそろ戻ってくるんじゃないかしら」

「兄やぁ……くすん」

「亞里亞ちゃん、兄上様は今、鈴凛ちゃんと一緒にいるはずだから」

亞里亞「くすんくすん」


「おーい、鞠絵ちゃーん」


鞠絵「ほら、戻ってきた……」


鈴凛「あれー? アニキは?」

亞里亞「くすんくすん」

鞠絵「兄上様……今一人でいるの……?」

咲耶「もぉ、私たちを置いて行っちゃうなんて」

鈴凛「よぉし、こういう時のために作った、アニキ発見装置を使うよー!」

鞠絵「こほっ、こほっ」

咲耶「鞠絵ちゃん、大丈夫?」

鞠絵「うん……大丈夫」

咲耶「はぁ……お兄様も罪作りな人よね。可愛い妹達を泣かせるなんて。でもそういうところも魅力的♪」

鈴凛「あ、ダメだ。電池が切れてる……」

亞里亞「くすんくすん」

鞠絵「泣かないで、亞里亞ちゃん……。そうだ、ミカエルなら兄上様を見つけてくれるわ」

ミカエル「わん!」



花陽「わぁ……見て凛ちゃん、大きな犬だよ」

凛「どうして遊園地に犬がいるんだろう?」


澪「他人だから誰も気にしないぞ」

律「まぁ、そうなんだけどさぁ……ちょっとは有名人を気取りたいじゃん」

にこ「それで、誰が園内放送させたのよ」

紬「私です!」フンス!


絵里「はらしょー……」


梓「あ、にこさん、にこさん」

にこ「なに?」

梓「料理長からの情報なんですけど、四国にましろうどんという美味しいお店があるそうですよ」

にこ「なるほどね、美味しいうどん屋さん……すっごくどうでもいい!」

海未「ヴェガは四国に通りませんよね」

梓「名古屋から広島……そして博多だから、通らない」

海未「では、なぜ四国の話を?」

梓「にこさんにうどんを食べて欲しくて」

にこ「うどんじゃないのよ、きしめんを……って、もういいわよ、この話題。きしめんもどうでもよくなってきたわ」

真姫「あれだけ騒いでいたのに?」

にこ「あんた達が嫌がらせのように讃岐うどんって言うからでしょ!」


穂乃果「梓ちゃんがにこちゃんをからかってる……!」

唯「仲良くなった証拠だよね」ウンウン


澪「えっ!? お化け屋敷!?」

律「そうだぜ」

澪「わたし、えんないほうそう、させた。だから、おばけやしき、いかない」

希「嘘はあかんよ、嘘は。……それでもええけど」

海未「……お化け屋敷でいいです」

穂乃果「それじゃ、レッツゴー!」

ことり「ゴ~!」

唯「レッツゴーゴー!」


花陽「うぅ、メリーゴーランドの方が良かったなぁ」

凛「怖いと有名だから、凛もドキドキするにゃ~」ドキドキ


絵里「…………」



……


https://www.youtube.com/watch?v=gqEI03l28Go


―― お化け屋敷


ひゅ~どろどろどろ


にこ「いかにもって雰囲気ね」

真姫「……」

にこ「あの井戸から何か出そう……きゃぁ、こわ~い」キャピ

真姫「……」

にこ「あ、これ……作り物の植物じゃなくて本物……」

真姫「……」


「きゃぁーーッ!!」


にこ「い、今の声……澪じゃない……?」

真姫「……」

にこ「私たちの前の前だから……その辺りに何かあるのね……」

真姫「……」


「バカりつ! いい加減にしろ!」


にこ「……」

真姫「……」

にこ「また律が何かしたのね……、一緒に入った花陽は大丈夫かしら」

真姫「……」


ゥゥァァァアアア


にこ「こわっ! うめき声が聞こえた……!」

真姫「……」

にこ「まぁ、作り物なんでしょうけど~。にこってば余裕~♪」

真姫「……」


「にゃー!?」

「にゃーッ!?」


にこ「……凛と梓ね」

真姫「……」

にこ「最初に入った穂乃果たちは出た頃だと思うけど……どれくらい続くのよこれ」

真姫「……」


パリィン!


にこ「っ!?」

真姫「……」

にこ「近くで破壊音がすると、さすがにびっくりするわね……」

真姫「……」


プシューッ!


にこ「きゃぁっ!?」

真姫「……」

にこ「うぅっ、連続でっ……油断したところに仕掛けるなんてっ」

真姫「……」


ガタ

 ガタガタ


にこ「この正体の知れない音とか……怖……」

真姫「……」


ケラケラ

 ケラケラケラケラ


にこ「今度は笑い声っ!? なんで笑ってるのよぉ……!」

真姫「……」

にこ「なんだか急に寒くなってきたような……って、真姫?」

真姫「ナニヨ?」

にこ「入ってからずっと喋ってないじゃない、あんたが怖くなって来たんだけどっ?」

真姫「キノセイジャナイノ?」

にこ「こわっ、無機質な声! この子、怖ッ!」

真姫「サッサトデルワヨ」

にこ「あれぇ? よく見たら表情が硬い~?」

真姫「ソンナコトナイワ」

にこ「ぷぷっ、いつもオスマシさんの真姫ちゃんでも、さすがに怯えちゃうのね~」

真姫「ハァ?」

にこ「やだぁ、カワイ~ィ」

真姫「ナニイッテルノ――……?」

にこ「?」


「 ァ ァ ア ォ ア 」


真姫「ヒッ!?」


「 カ エ シ テ 」


真姫「イヤ――ッ!」ダッ

タッタッタ


にこ「あ、ちょっと! 走ると危ないわよ!」


にこ「……」


にこ「まったく……こ、こういうのは逃げたら余計に怖くなるからドンと構えていなくちゃ――」


「 ワ タ シ ノ 」


にこ「……?」クルッ


「 ク ビ カエシテ 」


にこ「――」


―― 真姫サイド


どんっ


真姫「アイタッ」


ポトッ

 コロコロコロ


真姫「ゥェェッ!?」


「 タ ス ケ テ 」


真姫「ヒァッ!」


「 ミ ス テ ナ イ  デ 」


真姫「ムリムリムリムリ!」


バタンッ


真姫「ッ!?」ビクッ


 オンギャー

  オンギャー



真姫「もうやだぁ……っ」


真姫「ぐすっ……?」


真姫「あれ……? にこちゃん……?」


真姫(置いてきちゃった……!)


真姫(で、でも大丈夫よね……あれだけ平気な顔してたんだから……)


真姫「……」


 ゥゥゥゥ

ゥゥ


真姫「……!」


真姫(一人で進むのもムリッ!)

タッタッタ


バタ

 パタパタ


真姫「~~っ」

タッタッタ


真姫(どこっ、にこちゃんっ!)


「……」


真姫「ひっ!」


「……――ッ」


真姫(ナニカ居る! ナニカ居る!!)


「……っ……ぃ」


真姫(子供……じゃなくて……)


「……ぅぅっ」


真姫「あ……!」


「ぇ……?」


真姫「ご、ごめんにこちゃん!」


にこ「真姫……お、置いて……行くなんて……っ」グスッ


真姫「ほ、ほら立って……早く出ましょ」

にこ「……っ」グスッ

真姫「どうしたの……?」

にこ「腰が抜けて……」

真姫「…………」

にこ「……怖かったんだからぁ……振り返ったら首のないお化けが」グスッ


真姫(私も見た……)


にこ「ひっ――!」


真姫「ど、どうしたの?」

にこ「いる……後ろにナニカがいる――!」


「…………」


真姫(見ない見ない見ない! 絶対に見ないんだから!)


真姫「ほらっ、は、はやくっ!」グイッ


にこ「い、痛いっ」

真姫「ご、ごめんっ」

にこ「うぅ~~!」


真姫(だ、ダメ……私もにこちゃんもパニックになってる……)


真姫(落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃっ……)


「…………」

ズズッ



真姫にこ「「 ――ッ!! 」」


にこ「ひ、引っ張って!」


真姫「う、うんっ!」グイッ


にこ「うぅッ! 立てない~っ!」


真姫(どうしよう、どうしようっ!)


「…………」

ズズッ

  ズズズッ



真姫(こういう時……こういう時……穂乃果なら――!)


にこ「もうやだぁ――」


真姫「……」


真姫「 だって 可能性感じたんだ そうだススメ! 」


真姫「後悔したくな――」


にこ「なに歌い出してんの?」

真姫「急に冷静にならないでっ!」


にこ「……」スクッ


真姫「……」


にこ「……行くわよ」


ぎゅっ


真姫「……うん」


スタスタ


スタスタスタスタ



「…………」



「……」



―― お化けサイド


お化け「……」


「先輩、先輩……オッケーです」


お化け「ふふ…あの二人……最高のリアクションをしてくれたわ……」

後輩「もう従業員冥利に突きますね」

お化け「ふふふ……ふふふっ……あなたの演出のおかげよ……」

後輩「いえ、先輩の『怖のオーラ』があってこそです」

お化け「ありがと……」

後輩「……でも、今日で最後なんですよね」

お化け「だめよ……この場に辛気臭い空気を入れては……いけないわ」

後輩「す、すいませんっ」

お化け「まだ……今日は終わってない……最後のお客さんも怖がらせてあげないとね……」

後輩「はい。先輩をハリウッドへ送り出すためにも、私たちも一丸となって、精一杯頑張りますから」

お化け「ふふ……そのためにも……今まで築き上げた……恐怖を……心の底まで震え上がるような恐怖を……」

後輩「本気だ……今日の先輩、本気だ」


お化け「最後に……私の信条を伝えておくわね……」

後輩「は、はい」


お化け「よく……人間の方が怖いなんて言われてるけど……」


お化け「それはあってはいけないことなのよ……」


後輩「……」


お化け「幽霊や妖怪……悪魔や魔物なんて者の方が……怖い存在でなくちゃいけないの……」


お化け「時に……神であっても……ね……恐れる対象は絶対に必要なの……」


後輩「……」ゴクリ


お化け「人であってはいけないの……だから……だから私はお化けとして人を怖がらせるのよ……」


後輩「ぐすっ……これほど人間の持つ恐怖という心理を大切にしている人を私は知らないっ」


お化け「ダメだと言っているでしょ……そんな空気は必要ないのよ……」

後輩「すいません」ゴシゴシ


ザザッ

『一人、向かいます』


お化け「さぁ……連絡が入ったわ……準備について」

後輩「分かりました。……これ以上ない恐怖を与えましょう」グッ


お化け「えぇ……いつも通りの演出を期待しいているわ」

後輩「任せて下さい」

ススッ


お化け「…………日本の恐怖を世界へ……」


お化け「……ふふ」



「やはり納得がいきません……」



お化け「…………来た」



海未「なぜ私が一人で……」ビクビク



お化け「…………」


お化け「……――」スゥ


「……」


ケタ

 ケタケタケタ


海未「ひぃっ!?」ビクッ


ヒュゥゥ



海未「……な、なんだか急に気温が下がったような…」



「……」

ズズッ



海未「……?」



「…………」



海未「今の音は……いったい……?」


「 ア ァ ァ  」



海未「え――?」クルッ


「 カ エ シテ 」



海未「あわわわっ!」ブルブル


「 ワ タ シ ノ クビ 」



海未「び、びっくりしました……っ」



「……」



海未「そろそろ、凛と梓が叫んだ地点に着くと思いますが……気合を入れなくては」ブルブル

スタスタ


ガタガタ


海未「ひぁっ!?」

スタスタスタスタ


「……」


「…………」


お化け「……」


後輩「せ、先輩……?」


お化け「完敗よ……」


後輩「そ、そんな……」


お化け「あの子……それなりの場数を踏んでいると見たわ……」

後輩「そんなことってあるんですかっ!?」

お化け「声を荒げないで……」

後輩「すいません……でも、納得がいきません……」

お化け「ふふ……私もまだ……日本でやるべきことがあるようね……」

後輩「え……それじゃあ……」

お化け「まだまだこの屋敷の名を上げる必要があるわ……」

後輩「先輩……!」

お化け「あなたがいないとこの仕事は務まらない……手伝ってくれるでしょう……?」

後輩「もちろんです……、一生付いていきます」


ザザッ

『二人、向かいました』


お化け「さぁ……再び始まるわよ……」

後輩「新たな伝説……うぅっ、ゾクゾクしてきたぁ」



女性客「なぁんだ、大したことないのねー」

男性客「本当だぜ、怖いと宣伝に乗せられちまったなぁ」


「 ド コ ナノ 」


女性客「?」クルッ

男性客「へっ、ショボイ手だなぁ」クルッ



―― ミツ カ ラ ナ イ ノ ――



女性客「ヒィィッ!?」

男性客「キェェッ!?」



    ワタシノクビ 



「「 きゃああああああああ!!! 」」



―― 出口


穂乃果「はぁ~、怖かったぁ~」

紬「ことりちゃん、もう大丈夫よ」

ことり「はい……ぐすっ」

穂乃果「途中の首なしお化け、すっごく怖かったね」

ことり「うん……ごめんね、穂乃果ちゃん」

ぎゅっ


穂乃果「いいよ、もう少し握ってていようか?」

ことり「うん……お願い」

紬「うふふ」

穂乃果「あ、絵里ちゃん達が出てきた」


絵里「……ふぅ」

希「怖かったなぁ」

穂乃果「二人共、大丈夫だったみたいだね」

絵里「ま、まぁね」

希「途中のお化け、空間作りというか……すごかったよね」

穂乃果「そうそう! ナニカ出るんだって分かってたけど、
      予想を超えた登場の仕方だったから怖いのなんのって!」

紬「絵里ちゃんも見た? あのお化け」

絵里「え、えぇ、見たわよ。あの……うらめしや~ってお化けよね」

穂乃果「え?」

絵里「髪が長くて……三角頭巾の……ね」

希「エリち……」

穂乃果「……そんなお化け……居た?」

紬「私は見てないけど……」

絵里「いたわよね、ことり?」

ことり「私は穂乃果ちゃんに手を引いてもらって……目を瞑ってたから……」

絵里「…………」

穂乃果「私たち、見落としていたんだ……」

紬「そうね、あのお化けが印象強かったから」


希「エリち、そんなお化け、いなかったんよ」ヒソヒソ

絵里「え、そうなの……?」


律「もういいぞ、花陽」

花陽「……はい」

澪「……ふぅぅ」

紬「花陽ちゃんも目を瞑っていたのね」

花陽「えへへ」


穂乃果「澪さん、顔色が悪いですけど……」

澪「怖かった……怖かった……」ブルブル

律「聞いてくれよ、酷いんだぜ、澪って」

紬「なにかあったの?」

律「ほら、途中でさ、首なしお化けがいただろ?」

穂乃果「うんうん、一番怖かったところ!」

律「もうさぁ、雰囲気でわかるのな。後ろにナニカ居るって」

紬「そうそう、そうなの」


澪「聞こえない聞こえない」ブルブル

絵里「……聞こえない、聞こえないわ」


律「振り返って、あたしが恐怖で固まった時にさ、
  澪があたしの演技だと思ったらしくて、いい加減にしろって怒ったんだよ」

穂乃果「あはは」

律「花陽も怖さからか手をぎゅうっと握りしめてきて……それが痛くてさぁ。
  二人のせいで我に返っちゃって」

紬「どうしてりっちゃんは演技だと思ったの?」

澪「だって……いつもそうやって驚かせるから……」

律「お化け屋敷でそんなことしないっての。どれだけ余裕があんだよあたしは」

澪「だって……律のせいにしてた方が……安心できるから」

穂乃果「安心?」

希「得体のしれない存在が居る恐怖と、身近な存在が驚かかせる恐怖とでは全然違うんよ」

紬「日常のことだと思えば気が楽になるものね」

穂乃果「なるほど、それは名案だ!」

律「迷惑だ!」


唯「怖かったよぉ、あずにゃ~ん」スリスリ

梓「ゆ、唯先輩……歩きにくい……っ」

凛「スリル満点だったにゃ~……」


穂乃果「後は……にこちゃんと真姫ちゃんと、うみちゃんだね」


唯「怖いよぉ~」スリスリ

梓「もう終わりましたっ、離れて下さい!」

凛「梓ちゃん、あんなに怖がってたのにもう平気みたいだにゃ……」

梓「平気っていうか……唯先輩が普通すぎて毒気が抜けたというか」

唯「普通じゃないよ、怖かったよ! ねぇ、りっちゃ……」

律「?」

唯「ねぇ、むぎちゃん!」

紬「うん、怖かった!」


律「ちょっと待て、なんであたしからむぎに方向を変えた?」

唯「かよちゃんと手を握ってるから邪魔しちゃいけないと思ったんだよ」

律「あぁ、そう……なんの気遣いだよ」

凛「どうしたの、かよちん?」

花陽「ま、まだ怖くて……目を瞑ってたけど……音は聞こえていたから……」

凛「余計に怖いと思うんだけど……」

花陽「律さんが引っ張ってくれたから……心強かったよ」

凛「そういうものなのかにゃ~?」


ことり「ふぅ……もう大丈夫……ありがとう、穂乃果ちゃん」

穂乃果「いえいえ」


紬「あ、にこちゃんと真姫ちゃんよ」

穂乃果「あれ? うみちゃんがいない?」

希「置いてきたんやろか……?」

絵里「それとも、入ってないとか……」


にこ「秘密だからね」

真姫「わかってる」


凛「二人共、どうだった~?」


にこ真姫「「 タイシタコトナカッタワ 」」


穂乃果「絶対に嘘だ……」

紬「海未ちゃんは?」

にこ「あの子ねぇ、気乗りしない様だったから一人で入らせたのよ」

穂乃果「ひどいっ、本当にひどい!?」

真姫「一人で入らせたの失敗だったかも……」

希「そうや、予想を上回る怖さだったから……」

ことり「心配だよぉ……」

穂乃果「あ、出てきたよ!」


海未「……お待たせしました」


穂乃果「……あれ?」

唯「普通だね」

梓「本当ですね……あんなに怖かったのに……」

律「意外と大物だな」

海未「何がですか?」


にこ「何がって……怖かったでしょ、このお化け屋敷」

海未「怖かったです! よくも一人で入らせましたね、にこ!」

にこ「えぇ……元気ありすぎなんですけどぉ」

絵里「……どこが怖かった?」

海未「そ、そうですね……最後の辺りが特に。……もう終わりだと思って油断しきっていましたから」

穂乃果「え、最後?」

紬「途中の首なしお化けは……?」

海未「そうです、それも怖かったです。振り返ったら首のないお化けが……ッ!」

絵里「首なし……ね」

真姫「私は……そこが一番こわかったんだけど……」

穂乃果「私も」

希「うちも」

凛「凛も……」

唯「あたすも」

梓「私も……」

澪「見てないけど……あの辺りの空気がおかしかった」

花陽「澪さんと同じく……」

ことり「同じく……」

律「……首なしが一番だった」

絵里「わ、私も……」ボソッ

にこ「不覚だけど……」

海未「……私は、違う首なしを見ていたのですか?」

穂乃果「そんなことはないと思うけど……」

海未「……そういえば、首がないのにどうして声が『そこ』から聞こえたのでしょうね」


穂乃果「……」

真姫「……」

ことり「……あ……あぁっ」

梓「そ、そういえば……!」

紬「確かに『顔があった位置』から声は聞こえていたわ……」

穂乃果「しかも……ちゃんと透けていたよね……?」

唯「お、おぉぉ……」

澪「わわわっ……」ブルブル

律「あの声はどこから!?」

花陽「や、嫌ッ!」

ギュウウウ


律「いたいっ、痛いって花陽っ」


絵里「えっと……夏休み明けの生徒会では……あの議題を」ブツブツ


希「まさか……本物――」


にこ「にっこにっこにー!」

絵里「さ、さぁ行きましょう。もうホテルに入って夕食を取らないと」

ことり「そ、そうだね! ことり、お腹すいちゃった~」

凛「り、凛も! はやく名古屋名物が食べたいにゃ~」

にこ「さぁ、急いで行くわよ~」

紬「おー!」

海未「……」


男性客「ひぁぁぁっ、お化けっ……首なしおばけぇぇぇえええ!」

タッタッタ

女性客「うぇ~んっ」

タッタッタ


穂乃果「……」

ことり「……」

真姫「……」

凛「……」

花陽「……」

にこ「……」

絵里「……」ゴクリ

澪「さぁ行こう! 美味しいごはんが待っている! よぉし、食べるぞー!」

梓「澪先輩がカラ元気だ!」

唯「見たことのない姿だよ!」

律「しまったなぁ……あんまり腹減ってねえや……」

凛「フライドチキン食べるからにゃ」

律「勧めたのは凛だぞ?」

凛「えへへ~」

穂乃果「……なんだろ、ナニカ引っかかる」

海未「もういいですから行きましょう」

希「……なぁ、海未ちゃん?」

海未「なんですか?」

希「最後って言うてたけど……どの辺りが怖かったん?」

穂乃果「それだ!」

海未「えっと……それは……」


にこ「……」

真姫「どうして聞き耳を立ててるのよっ」

にこ「だ、だって……怖いもの聞きたさっていうか」

凛「アレ以上の物を怖がったって、とても気になるにゃ……」ゴクリ


海未「出口の前に……いましたよね」

希「いたって……だれが?」


海未「女性の従業員でしょうか……俯いたまま……こっちを見ずに……」


穂乃果「え」

にこ「え」

真姫「――!」

梓「いなかった……ですよね」

律「いや、居た! 怖かったなぁ、アレは!」

海未「で、ですよね! 居ましたよね!」

穂乃果「うんうん! 怖かった怖かった!」

ことり「あっ、あぁぁぁ……海未ちゃんだけ……ッ」

凛「だめっ、ことりちゃん! 考えちゃダメにゃ!!」

花陽「えっと……おむすびが一つ……おむすびが二つ……おむすびが」

凛「かよちんのように現実を逃避するにゃ!」

唯「じゃあ、歌を唄いながら行こうよ」

律「なんでだよ! 恥ずかしいだろ!」

澪「 Please don't say "You are lazy" だって本当はcrazy
   白鳥たちはそう見えないとこでバタ足するんです   」

律「歌い出した! あたし達の知らない曲!」

穂乃果「わ、私たちだって負けないよ~!」

にこ「と、と~りゃんせ~、と~りゃんせ~!」

花陽「こ~こはど~この細道……ひぃっ!」

真姫「なんでその曲を選んだのよ!」

希「じゃあ、テンポのいい曲にしよか。こほん……あんたがったどっこさ?」

凛「あ、知ってるよ! 肥後さ~! だよね!」

梓「肥後どこさ?」

唯「くっまもっとさ~」

紬「熊本どこさ~?」

唯「肥後さ~」

にこ「……肥後どこさ?」

唯「くっまもっとさ~」

絵里「……熊本どこさ?」

ことり「肥後さ~♪」

穂乃果「肥後ドコサ~?」

唯「くっまもっとさ~」

律「熊本どこさ?」

唯「肥後さ~」

律「いい加減にしろ!」


海未「騒いでいないで、早く歩き始めて下さい」



「……」



絵里「……」ゾクッ


絵里「なにかしら、今の……?」

希「どうしたん?」

絵里「ううん、なんでもない。名古屋の名物、楽しみね」

希「そうやね~」



……



―― 長島スパーランド・出入口


ぼたん「おかしいよ……まだ駅のホームを指してる」

幽助「直らねえのか?」

ぼたん「ひょっとしたら、異次元の裂け目は……ここにあるのかもしれないね」

幽助「んなわけねえだろ、到着して最初の場所だぞ。
    もしそうだとしたら俺らバカみてえじゃねえか」

ぼたん「そうだよねぇ……今日一日探しまわって、結局スタート地点がゴールでしたって……
     あまりにもバカバカしくなってくるもんねぇ」

幽助「しっかし、桑原の野郎おっせえなぁ」

ぼたん「でも駅のホームを……う~ん?」


「おーい、またせたなー!」


幽助「やっと来やがったか。どこ行ってたんだよ」

桑原「お化け屋敷だ」

幽助「あんだてめえ! 遊んでたのかぁ!?」

ぼたん「ジェットコースターに乗った幽助は怒る資格ないからね」

桑原「てめえ……俺が幻海ばぁさんのお使いをこなしてた間、遊んでやがったのか、あぁ!?」ビキビキ

幽助「高いところから色々と見渡せるじゃねえか」ビキビキ

ぼたん「そりゃ無理があるってもんだよ、幽助。……それで、桑原君は?」

桑原「ちゃんと話してきたぜ、お化け屋敷の幽霊に」

ぼたん「成仏できそうかい?」

桑原「それがなぁ、苦労しそうだったぜ」

ぼたん「どういうことだい?」

桑原「なんでも、あの屋敷には凄腕の従業員がいるらしくてなぁ、『本物の幽霊』の出番がなさそうなんだよ」

幽助「……は? 『本物の幽霊』より怖いってことかよ?」

桑原「あぁ、そういうことだ。俺も気絶しそうになったぜ、あの首なしお化け」

幽助「アッハッハ! コイツバカだ!
    妖怪とかさんざん見まくってんのにお化けが怖かったなんてよー!」

桑原「うっせえ! ……まぁ、そういうことだから、お化け屋敷で従業員の役に立てる機会はなさそうだ」

ぼたん「人の役に立ちたいって願いは……難しそうだねぇ」

桑原「その凄腕が今日で辞める予定だったんだけど、なんか急に取りやめになったみたいでなぁ」

ぼたん「なにがあったんだろうねぇ、その凄腕さん」

桑原「分からねえけど、髪の長い女の子がうらめしいとか言ってたぜ」

幽助「よぉし、俺が様子を見てきてやろうじゃねえか」

ぼたん「およしなさいって」

幽助「ついでにその幽霊にも成仏するよう言って聞かせてやるよ。だてにあの世は見てねえからな」


紬「あ、いたいた」


幽助ぼたん桑原「「「 ? 」」」


紬「はい、ぼたんちゃん」

ぼたん「え……ハサミ???」

紬「幽助くんの髪が伸びるから、これで切ってあげて」

幽助「はぁ???」

桑原「ねーちゃんは一体……?」

紬「えっと……あとで会うことになるから、その時に分かるわ」ウンウン

ぼたん「え? え???」

紬「それじゃ、私と花陽ちゃんのことお願いね~」

テッテッテ


「あ、それと、その発見装置、壊れてないわよ~」


ぼたん「行っちゃったよ……」

桑原「……浦飯の髪が伸びるって……どういうことだ?」

幽助「……」

ぼたん「それをこのハサミで……?」

桑原「同業者か?」

幽助「いや……そんな気配はないし……力もなさそうだった」

ぼたん「発見装置がどうとか言ってたね……」

桑原「ぼたんちゃんの名前も知ってたな……何者なんだ、あのねーちゃん」

幽助「それだけじゃねえ、俺が半分妖怪だってことも知ってたぞ」

ぼたん「?」

桑原「あ……! 覚醒した浦飯の姿を知ってるってことか!」

幽助「……だけど、俺がその姿になったのは仙水との一戦だけだ……」

ぼたん「なんだか雲行きが怪しくなってきたね……あの人のこと、コエンマ様に聞いてみるよ!」

幽助「いや、行ってみりゃわかんだろ」

桑原「ど、どこにだよ」

幽助「スタート地点だよ!」

タッタッタ


ばたん「はい、はい……あ、待って幽助~!」

桑原「待ちやがれー!!」

タッタッタ


穂乃果「ことりちゃん、こっちに来て」

ことり「きゃっ」


桑原「おっと、悪ぃな、ねーちゃんたち!」

ぼたん「まったく……!」

タッタッタ


花陽「あ……!」

凛「どうしたの?」

花陽「う、ううん……なんでもない」



従業員「なんだか、今日のお化け屋敷、とても評判がいいみたいですよ」

従業員Ⅱ「『あのチーム』が張り切っているんだろ。最後だっていうし」

従業員「それだけですかね……出てくるお客さん、みんな顔面蒼白だそうですけど」

従業員Ⅱ「レベルアップしたのかもしれないな……」


海未(レベルアップ……?)


絵里「海未、行くわよ?」


海未「は、はい」


―― 長島スパーランド・外


穂乃果「うぁ~! 遊んだ遊んだぁ~~!!」ノビノビ

凛「お昼からずっと遊び通しだったにゃぁ~」ノビノビ

にこ「にっこにっこにぃ~!」ノビノビ

真姫「変な伸びの仕方ね」


澪「荷物はもうホテルに預けてるんだよな」

紬「えぇ、そうよ。ヴェガに戻らなくてもだいじょ~ぶ」


ことり「あっ、ロッカーに入れたままだよ、海未ちゃん」

海未「あ、そうでした」

絵里「凛と花陽は?」

花陽「……うん、ロッカーに」

絵里「じゃあ取って来て。待ってるから」

花陽「わ、分かった。……凛ちゃんのも取ってくるね」


凛「お願いにゃ~」

穂乃果「お願いにゃ~、うみちゃん」


海未「しょうがないですね……」

ことり「私が行くから、海未ちゃんは待ってて」

海未「三人分も持てますか?」

ことり「だいじょ~ぶだよ」

花陽「それじゃ、行こう、ことりちゃん」

ことり「うん」

唯「二人で大丈夫? 知らない人についていっちゃだめだよ?」

ことり「わかってま~す」

梓「お母さんですか」

唯「なんだったら、りっちゃんが一緒に行ってあげるよ?」

律「おい!」

花陽ことり「「 お願いします 」」

律「すぐそこだろ!? ……まぁ、別にいいけどさ……あ、いいこと思いついたぜ」ウシシ

澪「フリーパスはもう使えないから中に入れないぞ」

律「え……、わ、分かってるわい!」

スタスタスタ


希「入ろうとしたね」

紬「まだ遊ぶつもりだったみたいね」


……



―― ロッカー


ガチャリ

花陽「よいしょっ」

ことり「え~っと、25番は……」


律「なんだろ、あっちで人だかりが出来てるな」

花陽「?」


ワイワイ

 ガヤガヤ


ことり「おまたせ~♪」

律「一つくらい持つぜ」

ことり「わぁ、律さんって優しいんですね♪」

律「フフフ。このこと、澪によ~く言っておいてくれ」

ことり「はぁい♪」


花陽「……」


律「いつもアホなこと言ってるけど、それは仮の姿なんだって」

ことり「えっと……それは自分で言ったほうが……」


花陽「……」


ことり「かよちゃん?」


花陽「……あ、うん」



「今日はお一人でいらしたんですか!?」

「お忍びデートだったのではありませんか!?」


律「なんだ、あれは……?」

ことり「芸能レポーターの人達だ……」

花陽「……四条…貴音さん」


レポーターC「どうなんですか、四条さん!」

貴音「囁かれている噂は偽りの事実……誠の真実は他のところにあります」

レポーターC「ということは、もう噂の彼は帰った、ということですか!?」

貴音「はて?」


パシャパシャ

 パシャッ


律「噂の彼って?」

ことり「ドラマで共演した、男性アイドルの人と噂になってるみたいです」

律「ほほぉ、興味をそそりますな」

花陽「……否定してるのに」

律「ん……?」

花陽「世間ではそうあって欲しいんです……。
    貴音さんとその男性アイドルは理想のカップルと呼ばれていますから」

律「……」

花陽「だけど……貴音さんは否定しています。……それなのに……」

ことり「かよちゃん……」

律「でも、それって有名税みたいのもんだろ?」

花陽「……そうです……けど」

律「あたしらじゃ、どうしようもないことだぜ?」

花陽「そうですけど……っ」


レポーターB「その彼も此処へ来たという情報がありますが!?」

貴音「いえ、わたくしは……仕事を務めに……」


「あっ、四条貴音さんだ!」

「え、あ、本当だ!!」

「きゃー! 四条さーん!!」


レポーターC「世間の注目はいま貴女に注がれています!
         はっきりと想いを伝えてはどうですか!?」

貴音「……それは」


ことり「あっという間に人が……」

律「ちょっと混乱状態になりそうだな……さっさと行こうぜ」

ことり「そ、そうですねっ」

花陽「……」

律「花陽、行くぞー」


レポーターA「仕事の後、よく話をしているそうですね!?」

貴音「演技の指導を賜っております」


どんっ


「きゃぁ!」

「ちっ、あぶねえなー」


貴音「あ……」

レポーター「演技の指導ですか、そのあたりのことを詳しく――」


ことり「人が集まっちゃって……他の人を……」

律「……」

花陽「貴音さん、困ってます……なんとか……」

律「あのな、花陽……」

花陽「はい……」

律「花陽とあのアイドルは他人だぜ?」

花陽「でもっ、憧れているアイドルの一人です!」

律「……」

花陽「いえ、アイドル以前に、困ってる人をなんとか助けたいって思うのは……そのっ」

律「……なんだよ?」

花陽「その……」

律「なんでそう思うんだよ」

花陽「わたしも……助けてもらったから」

律「誰に」

花陽「わたしの事を知らない人に、です」

律「……」

ことり「……」


亮太「うわ……なんだよ、この人だかり……」

エレナ「オー、おしくらまんじゅうですワ!」

小麦「あーもう、通れないよ~……」

愛「……」

さとみ「出口でこう人が固まっていると困るわね……」

亮太「遠回りしようか」


律「ちょい待て」

亮太「え?」

ことり「鶴見さんの身長なら、大丈夫かもっ!」

亮太「……なにが?」

花陽「が、頑張ってください!」

亮太「…………なにを?」


レポーターA「ドラマもクライマックスを迎えますが、
         お二人の関係はこれからも続いて行くのでしょうか!?」

貴音「あの方のおかげで、わたくしも精進できたと思っております」

レポーターB「お互い足りない部分を補い合って進んできたということですね!?」

貴音「はて? 少しにゅあんすが異なるように感じるのですが」


希「貴音ちゃん、困ってるみたいやね……」

にこ「貴音ちゃんって! 希、知り合いのように!?」

絵里「知り合いっていえば、知り合いよね……なんて、ちょっと図々しいかしら」

にこ「どどっどっ、どういうこと!?」

希「少しだけ、話をしたんよ」

にこ「もぉー! ずるい~! なんで希ばっかり~!」

ことり「おまたせ~」

海未「少し遅かったですね……なにかありましたか?」

ことり「ううん、これからあるの」

海未「???」

花陽「……ちゃんと、こっち見てくれるかな」

凛「こっち?」

花陽「あのレポーターの人たちの注目を集めたいから……」

凛「かよちん……もしかして、困ってる貴音ちゃんを助けたいんじゃない?」

花陽「う、うん……」

凛「凛に任せて!」

花陽「え……?」


澪「あれ、律は?」

ことり「もうちょっと待っててもらえますか?」

紬「?」


律子「これで終わりにしてくださーい! 通行人の妨げになってまーす!」

レポーターC「プロデューサー兼、アイドルの秋月律子さん! 貴女も二人を応援しているのですか?!」

律子「その件に関しては事務所を通して下さい! ほら、貴音、行くわよ」

貴音「しかし律子……」

律子「うっ、ファンが……!」


「四条さーん!」

「りっちゃーん!」

梓「あっ、りっちゃんさんだ!」

唯「りっちゃーん! ありがとー!」


レポーターC「どうしてハッキリと言わないんですか、秋月律子さん!」

律子「こっちにも事情というものが――」

レポーターA「事情とはなんですか!?」

貴音「……」


凛「あー! 猫じゃらしが空を飛んでるにゃー!」


レポーターC「事務所同士で話はもう進んでいるということですか!?」

律子「えっと……それは……っ」

貴音「……」チラッ


梓「……」チラッ


穂乃果「凛ちゃんの声に反応したの二人だけだ!」

絵里「貴音さんって、お茶目な人なのね」

希「梓ちゃん……」


「……」コソコソ


律「なんだ、あの怪しいヤツー!!」


レポーターA「え?」

貴音「?」

律子「怪しい……?」


「!」ビクッ

ダダダダッ


花陽「も、もしかして噂のーっ!?」


レポーターC「B班! 今の人を追って!」


B班「「 はい! 」」


レポーターB「こっちも追いかけるわよ!」

カメラメン「分かりましたー!!」

ダダダダッ


律子「い、今のうちに移動するわよ、貴音」

貴音「はい」

レポーターF「あ、ちょっと待って下さい!」


ことり「……なんとかなったかな?」

花陽「良かったぁ……」

律「後はおまえ次第だ……亮太」

……


―― ホテル・ロビー


亮太「妖怪とか幽霊とかより、人間の方が怖いよ……」シクシク

小麦「あの後、なにがあったのー?」

亮太「俺が振り返ったらさ……追いかけてきた人達の表情が、
    波が引いていくように真顔になっていってさ……」

エレナ「オー……踏んだり蹴ったりですネ」

亮太「俺の顔を見た途端、真顔になるんだぜ、真顔に……トラウマになるよ、あれは」シクシク

さとみ「大変だったのね……」

愛「でも、亮太さんのおかげで……助かったそうですよ」

律「そうだぜ、いつまでもメソメソすんなって」

亮太「人間怖い……怖い……」

律「人間 怖くない 優しい 外 世界 暖かい」

亮太「……」

律「みんな 一緒 進む 怖くない  手 掴む 立ち上がる」スッ

亮太「いや、意味がわからないんだけど……」

律「なんだよ! もう克服したのかよ!」

澪「ほら、遊んでないで部屋に行くぞ」

紬「唯ちゃんと梓ちゃん、先に行ってしまったわ」


―― 207号室


穂乃果「うわっ、広い!!」

ことり「VIPルームなんだって♪」

海未「こんな部屋を私たちが使ってもいいのでしょうか……」

真姫「へぇ、悪く無いわね」

凛「わぁー! 夜景も綺麗にゃー!」

花陽「ほ、ほんとだぁ……」

にこ「いいじゃない、いいじゃない~!」

希「おぉ~、キッチンも広々や~!」

絵里「素敵……!」


プルルルルル


穂乃果「もふもふのベッド、一番乗り~!」モフッ

凛「二番乗り~」モフッ

にこ「海未、着信鳴ってるわよ~」モフッ


海未「私はこんな着信音使っていません」


ガチャ

絵里「はい……。……はい、分かりました」

希「どうしたん?」

絵里「花陽にお客さんだって……」

花陽「え……?」

絵里「なにかしら……」

希「心当たりは?」

花陽「ううん、無い……」

絵里「じゃあ、私も付いて行くわ」

花陽「う、うん……ありがと、絵里ちゃん」

希「うちも行く」


穂乃果「どうしたの~?」モフモフ

凛「うにゃぁ~、モフモフにゃ~」モフモフ

にこ「――……」ウトウト

真姫「ちょっと、寝ないでよ、にこちゃん」


絵里「ロビーまで行ってくるから、みんなは夕食に出る準備しててね」


穂乃果「はーい!」

海未「とりあえず、ベッドから降りなさい」

穂乃果「いーやだー!」

海未「ちょっ、嫌だではありません!」


―― ロビー


絵里「あれ……律?」

律「ん?」

希「お客さんって……まさか?」

律「いやいや、なんでわざわざ絵里達を呼び出すんだよ」

花陽「それもそうですね……」


紬「絵里ちゃんたちも来たのね。みんな、こっちよ」オイデオイデ


花陽「?」

希「むぎちゃん……?」

律「どこに連れてくんだー?」

絵里「……」


ホテルマン「琴吹様、私がご案内致しますので……」

紬「あら、ごめんなさい……」

ホテルマン「いえ……、それではこちらへどうぞ」


絵里「律も呼ばれたのね」

律「うん……。一人じゃ不安だったからむぎにも付いてきてもらったんだよ」

希「むぎちゃん、場所に慣れてるみたいやね」

花陽「……」

律「来たことあるんじゃないのか?」

紬「一度だけ、小さい頃にあるの。またみんなで来られるなんて嬉しいわ」

希「ふふっ」

絵里「それで、どこへ向かっているの?」

紬「特別なラウンジがあるの」

花陽「とくべつ……?」

ホテルマン「一般に開放しているラウンジとは別に、
        限られたお客様をご案内する場所でございます」

律「しまった……」

紬「どうしたの?」

律「唯たちも連れて来ればよかった……」

紬「うふふ、後で来ましょうか」

ホテルマン「申し訳ありません、琴吹様……他の方のご案内は致しかねます」

紬「……ごめんなさい」ションボリ

絵里「ふふっ」

ホテルマン「こちらでございます」

律「誰があたし達を呼んでんだ……?」

花陽「……」ゴクリ


亮太「……来たか」


律「……」

花陽「……」


亮太「その顔やめてくれっ!」


絵里「さとみさんも……?」

さとみ「よかった……知ってる顔が見られて……」

希「?」

さとみ「亮太君と二人でね、不安だったの……誰に呼ばれたんだろうって」

希「さとみちゃんも呼ばれたってこと?」

さとみ「ううん、呼ばれたのは亮太君だけよ」

亮太「一緒に案内してくれればいいのにな」

律「はぁ、なんだよまったく……」

亮太「呼び出したの俺じゃないって……いつまでガッカリしてんの」

花陽「……」


ホテルマン「おまたせしました」


律「?」

花陽「あ……!」


貴音「忙しいところ、御呼び立てして誠に申し訳ありません」


律「あぁ……さっきの」

紬「あら……」

亮太「……?」

律「って、こら! なんで『誰?』みたいに首かしげてんだよ!
  アイドルだぞ、凄いんだぞ!」

亮太「ち、違う。そうじゃなくて……なんでわざわざって思ってさ」

律子「色々あってね、これから話すことを人に聞かれたくないから此処へ呼び出したのよ」

絵里「秋月さん……」

律子「ふふ、あなた達とは不思議な縁にあるみたいね」

希「そうみたいですね」

さとみ「……」


貴音「先ずは先ほどのお礼から」


律「……」

花陽「……」

亮太「……」


貴音「助けていただいたこと誠に感謝申し上げます」


花陽「い、いえいえ、めっそうもありませんっ」

律「お、テンパった」

律子「貴音がどうしてもお礼をって言うから」

絵里「そうでしたか……」

亮太「……」

律子「なにか、言いたそうですね?」

亮太「あ、いえ……なんでもありません」

さとみ「亮太君……?」

貴音「?」

律「なんだよ、サインが欲しいのか?」

花陽「ほ、欲しいです!」

絵里「あ、ちょっと花陽……」

貴音「……どちらの?」

花陽「貴音さんと律子さんの両方です! お願いします!」スッ

紬「あら、ハンカチ……」

律子「えっと……ちょっと待ってね」

花陽「?」

律子「あの、すいません」

ホテルマン「はい」

律子「サイン色紙とか――」

ホテルマン「こちらに」スッ

律「すげえ!」

希「おぉ……さすが高級ホテルマンや」

貴音「……」スラスラスラ

花陽「わぁ……!」キラキラ

貴音「律子、どうぞ」

律子「私なんかのサインなんて……」スラスラ

花陽「と、とんでもないですっ! 家宝にします!」

律子「ふふ、ありがとう。頑張ってきてよかったって思える瞬間ね。……どうぞ」

花陽「ありがとうございますっ!」

紬「よかったわね、花陽ちゃん」

花陽「はい~!」パァァアア

さとみ「……」

律子「えっと……それで、あなたは何か言いたいことがあるんじゃないかしら?」

亮太「……まぁ、はい」

律子「聞かせてください」

亮太「秋月さんは、四条貴音さんのプロデューサーなんですか?」

律子「そうです」

貴音「……」


亮太「アイドルのステージがあったあの遊園地の入り口で、
   アイドルを待たせるのは危険だと思わなかったのですか?」

律「おい、なにを言い出すんだよ?」

亮太「あの状況は話を聞いただけだけど……『あの人』ならそうはしないんじゃないかって思います」

さとみ「『あの人』……?」

亮太「……」

貴音「律子、もしや……」

律子「えぇ、そうよ。『あのイベント』を手伝ってくれて、プロデューサーが言ってたのが……彼よ」

貴音「……なるほど、そういうことでしたか」

亮太「?」

律子「それについては、これから話すことに繋がるんだけど……」

花陽「あ、あのっ!」

律子「え?」

花陽「もう一つ、サインを貰えませんでしょうかっ」

絵里「ちょっと、花陽!」

希「今、大事な話してるんよ?」

花陽「え?」

律「聞いてなかったんかい!」

律子「あ、あの、すいません」

ホテルマン「はい」

律子「サイン色紙は……」

ホテルマン「申し訳ありません、最後の二枚でしたので……」

律子「そ、そうですか……」

花陽「……」

律「欲張りすぎだぞ、花陽」

花陽「にこちゃんにって……思って」

律「いい子だった!」

紬「これから話すこととは……?」

律「自然に話続けた!」

律子「世間の目を、貴音に向けさせる必要があるのよ」

亮太「……?」

貴音「わたくし達の事務所はいま、大切な時期を迎えております」

絵里「時期……?」

さとみ「……」

貴音「――結婚、です」

絵里希「「 あ……! 」」

律子「え?」

亮太「?」


絵里「だから、貴音さんに……」

希「二人を最後のライブに集中させるために世間の目を逸らしてるんやね……」

律子「え、ちょっと待って、どうして最後のライブを……というか二人ってどうして知ってるの!?」

絵里「……その『お二人』から直接聞きましたから」

律子「あぁ、もう……! あずささん……プロデューサー……!!」

貴音「律子、彼女たちは……」

律子「分かってる。言いふらしたりしないってことは分かってる……。
    だけど、こっちの苦労も少しは考えて欲しいわ」

亮太「あ、あぁ……そういうことか」

さとみ「どういう……こと?」

亮太「あとで話すね」

さとみ「???」

花陽「どうしよう……にこちゃん、怒るかな……」

律「話を聞けって!」

紬「……」


pipipipipi


希「あ、ちょっと失礼します」


ピッ

希「はい~」

『ちょっとぉ、どこ行ってるのよぉ』

希「ごめんな~、もうご飯食べてる?」

『まだよ。あんた達を待ってあげてるんじゃない』

希「……」

『ちょっと、希~?』


希「あの、にこっちも呼んでいいですか?」

律子「え、えぇ、いいけど……?」

貴音「ニコッチとは?」

律「古い友人です」

紬「りっちゃんとにこちゃんは時間を超えた友情関係にあるのね」ウンウン

さとみ「時間を……」

亮太「さとみちゃん、考えを追い付こうとしちゃダメだ」


希「いまの髪型って、おさげのままなん?」

『え? 戻したけど……?』

希「いまどこ?」

『ロビーよ。いいから早く来なさいってば!』

希「わかった、待ってて」

『はやくしなさいよね。にこにーがお腹をすかせたのぞ――』

プツッ

希「あ、まだ喋ってたのに切ってしまったわぁ」

絵里「にこはなんて言ってるの?」

希「はやく来いって。にこっち連れてくるね」

ホテルマン「私が行ってまいります。その方の特徴を教えていただければ」

希「あ、そうやね……勝手に出入り出来ないから……」

ホテルマン「恐縮です」

希「ツインテール……髪を両端に纏めた子がロビーに居るので」

ホテルマン「かしこまりました」


亮太「すいません、嫌な言い方してしまって」

律子「いいのよ。周りに迷惑をかけたのは事実だし……助けてもらって本当に感謝してるの」

貴音「これも僥倖というもの……受け取ってもらえますか」

花陽「はい……?」

律「なんだそれ?」

貴音「人の手に渡り渡ってここまで来た、幸運の証ですよ」

花陽「わぁ……!」キラキラ

紬「花陽ちゃんはどんなものでも喜ぶことができるのね」


さとみ「なんだか、凄いわ……」

亮太「え?」

さとみ「私は外から見ているだけだけど……人との出会いって……本当に僥倖と呼べてしまえるのね」

亮太「……そうだね」


花陽「でも……私は何もしていないです……」

貴音「?」

花陽「行動を起こしたのは……律さんと鶴見さんで……」

律「いや、それを言うならあたしこそ何もしていない」

律子「……」

律「むしろ関わるのは止めようって言ったくらいだ」

花陽「……」

律「花陽が言ったんだぜ、困ってるからなんとかしたいって」

絵里「……」

希「……」

律「それが無かったら、そのサインと幸運の証だって手に入らなかった。
  だから、花陽が何もしていないってことはないぞ」

花陽「律さん……」

律「それに、良い餌もちょうど通りかかったしな」ウシシ

亮太「餌……ね……」


貴音「……あの子はこの出会いが通じて、『あのステージ』へ立てたのですね」

律子「そういうことね」


ホテルマン「お連れいたしました」

梓「なんですか此処は……?」


紬「梓ちゃん……」

希「あっちゃー……」


……



―― ロビー


花陽「見て、にこちゃん!」


ジャン!


にこ「ひぁッ!!?」

花陽「えっ!?」


にこ「た、助けて希ぃー!!」

希「どうしたん?」

にこ「の、呪いよ……呪いのカメがにこを追いかけてきたのっ」ブルブル

希「呪いのカメ……?」


花陽「呪いなんかないよ! 僥倖だよ、にこちゃん!」


希「そ、それは……!」

梓「なっ、なんでここにあるんですか!?」

にこ「知らないわよ! きっと、捨てても戻ってくる日本人形とかそれに近い呪いよ!!」

花陽「呪いじゃないよにこちゃん……」


花陽「人の手から手へと渡って、このカメさんはここまで来たの」


花陽「それは人の持つ幸運――……僥倖の証なんだよ」

にこ「いいからっ、そんなの持ってたら危ないから! 捨ててきなさい!」

花陽「ダメだよ!」

にこ「梓! 梓にあげるから!」

梓「いりませんよ! クジで引いたのにこさんじゃないですか!」

にこ「じゃあ希にあげるから!」

希「本当にええの?」

にこ「うん!」

希「純粋な子供のような混じりっけのない返事やな……」

穂乃果「よし、部室に飾ろう」

にこ「駄目だから! 部長の言うことは絶対よ!」


エレナ「オー、また賑わっていますネ~」

小麦「亮太くーん! 早くレストランに行くよー!?」


亮太「大きな声を出すなよ、周りに迷惑だろ」

小麦「だって、お腹空いたんだもん~!」

亮太「分かったから……ほら、行こう愛ちゃんも」

愛「は、はい」


さとみ「高級なレストランみたいだけど……大丈夫かしら?」

亮太「限られたお客さんはもう一段階上のレストランに行くんだって。
    これから行くところは心配しなくても平気だよ」

小麦「そうだね、何かあっても亮太君が責任を持ってくれるもんね」

亮太「あ、そうだ……家に電話しないと」

スタスタ

小麦「あー! 無視したー!」

エレナ「かわし方が、上手になってきましたネ。
     もっと、ヒネリを入れないといけませんワ」

小麦「捻りかぁ……そうだね、どうしたらいいかな」

エレナ「敵はズルガシコイですから」

愛「ずる賢い……ですか」


にこ「愛、あんたにあげる」

愛「え……?」

花陽「え、にこちゃん?」

愛「カメのタワシ……ですか?」

にこ「そうよ、花陽が言うには幸運の証なんだって」


真姫「さっき、呪いがどうとか言って騒いでいた気がするけど」


愛「でも……」

にこ「世界に一つしか無いのよ? 欲しいでしょ? ほら、受け取っちゃいなさい」


海未「悪徳業者の手口そのものですね……」

ことり「無理に押し付けちゃダメだよ~」


愛「えっと……」

絵里「にこ、それは花陽が受け取ったものなのよ?」

にこ「私がクジを引いて当てたんだから私のものよ」

梓「処分しようと必死ですね」

にこ「うるさいわね……」


希「花陽ちゃんはええの?」

花陽「うん……サインもあるから……」

希「あ、それはにこっちに見せたらあかんよ」

花陽「う、うん……」


愛「でも……貰う理由が……」

にこ「さっき、観覧車を降りた時、言い過ぎたと思ってたから……
   急いでいたとはいえ、悪かったわ」

愛「あ……いえ……」

にこ「一度は人にあげたものだけど、どういう訳か私の手に戻ってきたの。
   よく分からないけど、なにか意味があるんだと思う」

愛「……」

にこ「幸運の証なら、私よりあんたが持ってた方がいい。運が悪いんでしょ?」

愛「……はい」

にこ「私は大丈夫だから。……そうよ、幸運の女神、希がいるから大丈夫だから」


希「あう……」

絵里「どうしたの?」

希「いま、胸がギュッとしたんよ……」

絵里「……」


にこ「ほら、受け取りなさい」

愛「はい……ありがとうございます」


律「あのサイン、にこには見せないのか……」

澪「サイン?」

律「アイドルのサイン。……しょうがないな」

澪「……?」


紬「りっちゃん、澪ちゃ~ん、行きましょ~」

唯「行くよ~」


穂乃果「名古屋名物……なにがあるのかなぁ?」ワクワク

海未「行けばわかりますよ」


亮太「なんで姉ちゃんが家の電話に出てんだよ!」


ことり「?」

凛「なんだか矛盾したこと言ってるにゃ?」

にこ「きっと複雑な理由があるのよ」

スタスタ

絵里「あ、ちょっと……どこへ行くの?」

花陽「そっちじゃないよ?」


にこ「用事があるから、先に席へ行ってて」

スタスタスタ


真姫「また勝手な行動して……」

梓「あれ、むぎ先輩たちがいない……!」


―― 厨房


ジャー

 ジャーー


支配人「今日は特別なお客様がお見えだ、気を抜かないようにな」

料理人「支配人がわざわざ厨房に来るということは……あの人が?」

支配人「あぁ、海原先生がいらしている」

料理人「総料理長が不在の今ですか……!」

支配人「なぁに、心配するな。助っ人も呼んであるからいつも通りにおもてなしをすればいい」

料理人「助っ人とは……あの列車の――」


にこ「あのぉ、すいませぇん」


支配人「お客様、ここは関係者以外立ち入り禁止となっております。席にお戻り下さい」

にこ「ご、ごめんなさい……ご飯を少し分けてもらえないかと思って……」

支配人「ライスのおかわりでございますね」

にこ「そ、そうじゃなくて……」


コック「……ん? 何をしてるんだ、こんなところで」


にこ「料理長?!」


支配人「家石雷爆のお知り合いでしたか」

コック「この子はヴェガの乗客だ」

にこ「ケイシ……ライバク……?」

コック「俺の名だ」

にこ「す、すごい名前ね……って、なんでここに?」

コック「この業界で知られる食通が来るということでな、呼ばれたんだ」

にこ「ふぅん……」

支配人「お恥ずかしい話、我がホテルの料理長が体調を崩しまして……
     たまたま名古屋に停車していた雷爆に急遽頼むことになった次第であります」

コック「コイツとは古い知り合いだからな、貸しを作っておくのも悪くない」

にこ「料理長がわざわざ来るってことは……それほどの食通なのね」

支配人「はい。ホテルの評判が落ちるだけではなく、料理人の心までへし折られては……」

にこ「……」

支配人「余計なことを口にしてしまいました、申し訳ありません。……おい、ライスのおかわりを」

料理人「はい!」

にこ「あ、じゃなくて、おにぎりを作りたいだけなんだけど……!」

コック「そんなもん作ってどうするんだ?」

にこ「え? えっとぉ……」

支配人「かしこまりました。ご用意させていただきます」

にこ「あ……はい……お願いします……」


コック「何人分だ?」

にこ「ふ、二つ……」

コック「おい、米を二人分持ってきてやってくれ」

料理人「は、はい」

支配人「準備ができ次第、席にお運びいたします」

コック「そうじゃない、作りたいといったんだから、握らせてやれ」

支配人「あ、そういうことでしたか……考えが足りませんで」

にこ「い、いえ……厚かましくてごめんなさい」

コック「じゃあ、俺は仕事に戻るからな。なにか必要な物があったら遠慮なくいえ」

スタスタ

にこ「あ、ありがとう、料理長……」

支配人「厨房の者たちには話を通しておりますので、気兼ねなく相談してください」

にこ「は、はい……」

支配人「それでは、失礼します」

スタスタ


にこ「……真姫に軽く嫌がらせするつもりが、こんなことになるなんてっ」

料理人「はい、どうぞ」


ほか

 ほか

にこ「すごい……米が一粒一粒立ってる……」

料理人「具材はなんでもありますよ!
     海・山・川の新鮮な幸、魚に野菜、炊き込みご飯まで!」

にこ「し、塩だけで……」


……



―― スクールアイドル席


真姫「なにやってるのよ、にこちゃん……」

凛「あ、戻ってきたよ」

希「変なところから出てきたなぁ」

絵里「ウェイターの人が後ろから付いてきてるけど……」

花陽「……どうしたんだろ?」

ことり「謎だね」

穂乃果「なんだか縮こまってない?」

海未「そうですね……小さい体がより小さくみえます」

梓「……」


にこ「……おまたせ」

真姫「遅いわよ、なにやってたの?」

にこ「ちょっとね」

希「ほら、座って座って」

にこ「……うん」

穂乃果「なんか、テンション低いね」

ことり「なにかあったの?」

にこ「別に」

海未「妙ですね……」

真姫「ほら、にこちゃんの分も取ってきたから。食べたいのあったら自分で取ってきてね」

にこ「バイキングなのね」

ウェイター「矢澤さま、いかがなさいましょう」

にこ「こっちに一つと、そっちに一つ」

ウェイター「かしこまりました」


真姫「?」


ウェイター「後ろから失礼いたします」スッ


真姫「???」


花陽「おにぎりだ!」ガタッ

絵里「落ち着いて、花陽」

梓「料理の品にしては……なんだか形が……」


ウェイター「失礼します」スッ


花陽「わぁ……!」キラキラ


希「……?」

海未「真姫と花陽だけ?」


にこ「それじゃ、いただきま~す。って、なんできしめんばっかりなのよ!」

穂乃果「あ、元気になった」

にこ「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……なんで5皿も?」

穂乃果「にこちゃん食べたかったでしょ? 私たちの心配りだよ」

にこ「その心配りが重いっ!」

絵里「食べる前に説明して。どうして真姫と花陽におにぎりが届いたの?」

にこ「さぁ? シェフの気まぐれおにぎりなんじゃない?」

海未「意味が分かりません……」

希「にこっちがウェイターさんと一緒に出てきたということは……もしかして?」

にこ「う……希はいつも鋭いところ突いてくるわね……
   えっと……私が……その」

真姫「……」

花陽「?」

にこ「わ、私が……握ったの」

真姫「え?」

花陽「ありがとう、にこちゃん」

にこ「べ、別にいいのよ……気まぐれなんだから」

凛「にこちゃん」

にこ「なによ」

凛「凛には?」

にこ「……ないけど?」

凛「なんでー!? 1年生組に作ってくれたんじゃなかったの!?」

にこ「もう厨房で肩身が狭くていっぱいいっぱいだったから、二つが限界なの!」

凛「不公平にゃー!」

穂乃果「いただきまーす」

海未ことり「「 いただきます 」」

にこ「というか、私の前に丼が5つって……嫌がらせにもほどがあるわ」

梓「そうですね、私が持ってきた分は引き取ります」スッ

希「そんならうちも……みんな、にこっちの為に持ってきたんよ?」スッ

真姫「……」スッ

穂乃果「……」スッ

海未「では、私も引き取ります」スッ

にこ「あれ、なくなったんだけど」

凛「凛、知ってるよ……真姫ちゃんが二つ持ってきたこと」

真姫「べ、別にそんなこと言わなくてもいいでしょ」

にこ「……なんかおかしくない?」

ことり「おかしいって?」

にこ「四人で5つ持ってきたということは……真姫以外の四人の内、持ってきてない誰かが1つ食べてるでしょ」

梓「ずるずる」

希「う~ん、麺は透明なほど薄いのに腰があって喉越しがええわ~」


真姫「出汁もいいわね」

穂乃果「もぐもぐ」

海未「さすが、名物と呼ばれるだけありますね」

にこ「ちょっとぉ、真姫が持ってきた分、誰が食べてるのよぉ」

絵里「手羽先、美味しいわね」

花陽「にこちゃんっ、おにぎり美味しかったよっ!」

にこ「うん、それはいいとして……花陽、きしめんを持って来なかった人って誰か分かる?」

花陽「穂乃果ちゃん」

穂乃果「ぐふっ」

にこ「なに勝手に食べてるのよっ! 自分で取ってきなさい!」

穂乃果「ごほっ……ごめんなさい……後で取ってきます」

凛「真姫ちゃん、半分ちょうだい」

真姫「だめよ、にこちゃんが肩身の狭い思いまでして作ってくれたおにぎりなんだから」



―― 軽音席


律「うーん……」

小麦「どうしたの?」

律「食が進まない……」

唯「私も……」

澪「たい焼きとポテトを食べたせいだぞ。あとチキンも」

紬「はい、同じ鶏肉よ」

律「あー……、うん……手羽先か」

エレナ「 オ イ シ イ ですワ」

律「溜めながら言うほどのものか……うーん」

愛「無理して食べなくてもいいのでは……?」

律「そうだな、無理して食べてはいけないな、うん」

澪「後でお腹すいたって騒ぐんだから、今のうち食べておくんだ」

律「はい、そうですね……あたしは絶対あとで騒ぎます」

唯「さとみちゃん、これ、うなぎのひつまぶしって言うんだよ」

さとみ「うん……知ってるけど……」

亮太「知識を披露したかったのか……」

小麦「名古屋名物を堪能できるなんて、ありがとう亮太くん!」

亮太「喜んでもらえて何より……だ」

小麦「食べないの?」モグモグ

亮太「食べるよ」

小麦「なんか元気ない?」

亮太「いや、元気だって……うまそーだな」


エレナ「……」


―― スクールアイドル席


にこ「ねぇ、ひまつぶしって、誰か持ってきてくれた?」


梓凛「「 え? 」」


にこ「だから、うなぎのひまつぶしよ」

希「これや」

にこ「わぁ、すごく美味しそう~。あ、このうなぎは料理長が炭火で炙ってたわよ」

絵里「にこったら……本当に厨房でお世話になってたのね……」


真姫「……だれか、ひつまぶしってちゃんと訂正しなさいよ」

ことり「穂乃果ちゃんっ」

穂乃果「えぇ、いいよ~、にこちゃんはそのままでいてほしい」

海未「他所で同じ間違いをして、恥をかくのはにこ本人なんですよ」

穂乃果「じゃあ、うみちゃんが言ってよ」

海未「わ、私は……そうですね、にこはそのままで居て欲しいと思います」

真姫「ちょっと、無責任じゃないそれ」

海未「では、言い出しっぺの真姫が訂正してください」

真姫「……」


にこ「うん、美味しいわね」

凛「美味しいにゃ、このひまつぶし~」


真姫「遊んでるわね、凛……」

希「ほら、はやく訂正せな」

真姫「にこちゃんに差し出す前に訂正できたでしょっ」

希「にこっちのああいうところ、守っていかなと思って~」

真姫「無責任の固まりのような人ね、希は……」


にこ「なにヒソヒソ話をしてるのよ。……真姫の分も取ってあげる」

真姫「あ、ありがとう……」

にこ「馴染みのない味を知ることこそ、旅の醍醐味ってものよね~」

真姫「そうね……、うん」

にこ「はい~、にこにーが心をこめて取り分けたうなぎのひまつぶしにこ♪」

真姫「……えっと」

凛「なにも知らないにこちゃんが無邪気に見えて可愛いにゃ~」

絵里「さすがにこね」

にこ「え~、なんだか知らないけど、当たり前のこと言われると照れちゃうにこっ♪」


梓「確かに、このままでもいいかも……」

希「そうやね」ウンウン


「おーい、にこー」


にこ「なによ、律?」


「ひまつぶしじゃなくて、ひつまぶし、だぞー」


にこ「……え?」


梓「律先輩、タイミングが悪いですよ……!」


「な、なんで睨むんだよー」


にこ「ひつまぶし……?」

穂乃果「そうだよ」

にこ「あれ? 私……なんて言ってた?」

穂乃果「ひまつぶしって」

にこ「う、うそっ……やだ、恥ずかしいっ」


希「お、にこっちが素の羞恥心を見せるなんてレアやな」

海未「さっきも恥ずかしがっていましたが?」

希「あれはちょっと演技入ってたから」

ことり「さ、さすが希ちゃんっ、私には違いがわからないっ」

絵里「のんびり言ってないでちゃんとフォローを――」


にこ「み、みんな、気づいてたのに訂正してくれなかったのっ?」


一同「「 …… 」」スッ


にこ「ちょっと! 一斉に目を逸らすってなによー! 私、まるでピエロじゃない!!」


……



―― 207号室


にこ「ふぅ、さっぱりした~」

希「ええ湯やったな~」


穂乃果「あ、戻ってきた」


絵里「広くてよかったわよ、空いてたから穂乃果たちも今のうちに行ってきて」


穂乃果「分かった!」

海未「それでは、2年生組、行ってきます」

ことり「行ってきま~す」


ガチャ

 バタン


凛「さぁ、希ちゃんも戻ってきたし、話してもらうよ、かよちん!」

花陽「う、うん……」

希「?」

真姫「凛と花陽は此処へ来る前にヴェガに寄って『お礼』を言ったんだって」

希「……ふむ」

真姫「その理由を聞かせろって言うのよ、凛は」

凛「希ちゃんはその『お礼をした理由』を知ってるんだよね?」

希「うん……聞いただけやけどね」

凛「あとでちゃんと凛にも話をするって約束だったよ、かよちん」

花陽「……うん」


にこ「ふぁぁ……ねむ……」

絵里「もう寝ちゃうの?」

にこ「ちょっと仮眠……」モソモソ

絵里「髪をちゃんと乾かした方がいいわ。こっちに来て」

にこ「んー……」

絵里「すぐ終わるから。……ここに座って」


ブォォオオオ


絵里「ドライヤーの熱、熱くない?」

にこ「……んー…」

絵里「一人で朝早くに走ってたんだってね?」

にこ「の、希……そういうことは内緒にしているものなのに……」

絵里「希はそういうこと、共有したがるから」


ブォォォオオ

にこ「……やけに手馴れてるわね」

絵里「亜里沙にやってあげてるからね」

にこ「……」

絵里「どうしたの?」

にこ「小さいころ、よくママ――……お母さんにやってもらってたのよ」

絵里「……」

にこ「最近やってもらってないから……なんだか懐かしくなったわ」

絵里「じゃあ、今度、おねだりしてみたら?」

にこ「するわけないでしょっ、幾つだと思ってるのよ!」


コンコン


絵里「あら、お客さん……?」

にこ「誰かしら」


「たのもー!」


にこ「律ね」

絵里「……ちょっと離れるわね」

スタスタ


にこ「こころ達も、私が髪を乾かせたこと……同じように思い出してくれるのかしら…」



凛「異世界……?」

花陽「異次元というか……時空をねじ曲げて……」

凛「にゃ?」

真姫「???」

希「詳しく説明をしようとすると、かえって難しくなるものよ?」

花陽「で、でも……ちゃんと説明しないと納得しないと思うから……」

希「そうやねぇ」

凛「うーん?」

真姫「花陽が体験したのよね?」

花陽「うん……」


律「遊びに来たぜー。難しい顔してどうしたんだ?」

花陽「あ、律さん……」


にこ「よいしょっ……と」

ファサァ


真姫「布団を敷いて……、もう寝ちゃうの?」

にこ「30分だけ寝かせて……」モゾモゾ


にこ「ん~、室内はひんやり、布団はふっくら……たまんないわね~」モゾモゾ

真姫「どうしてわざわざココで寝るのよ……」

絵里「別の部屋で、一人で寝るの寂しいからね」

にこ「違いますぅ、そういうんじゃないですぅ」


希「りっちゃん、むぎちゃんは?」

律「三人と一緒に、まだ風呂に入ってるぜ」

真姫「一人でさっさと出てきたの?」

律「遊ぶ時間を増やそうと思ってさー。それでだ、
  むぎが引き当てた『人生ふんだり蹴ったりエクササイズ』というのをやろうと思う。みんなで!」

真姫「汗かくでしょ?」

律「また入ればいい。……というか、にこが邪魔だな」


にこ「くかー」

真姫「もう寝てるし……」


律「端っこに寄せるか……」グイグイ

ズルズル


凛「あ、小さい頃にお父さんにやってもらったことあるにゃ!」

絵里「お布団で寝たまま移動していくのよね」

真姫「ふぅん……ウチはそういうのなかったけど」

希「あとでうちがやってあげる」

真姫「い、いいわよ……別に」

凛「あ~、真姫ちゃん、ちょっと期待してるにゃ~……じゃなくて! 今はかよちんの話を聞くの!」

真姫「期待してない!」

花陽「紬さんも一緒に話をした方が……」

凛「かよちんから、ちゃんと聞きたいよ」

花陽「……」

律「むぎがなんだって?」

希「何も聞いてないん?」

律「え……うん……。何かあったのか?」

花陽「……」

絵里「私は希からさわりの部分だけ聞いてるけど……」


凛「凛、何も知らないよ」


花陽「凛ちゃん……」

凛「ちゃんと、聞かせて」

花陽「うん……分かった」


律「あれ……なんか、真面目な話か?」

真姫「そうよ」


花陽「今日の朝、わたしは……一つの石を拾ったの」

律「石?」

花陽「これくらいの大きさで……あとで聞いたら、
   それは……ご神体と呼ばれるものだったよ」

凛「ゴシンタイ?」

希「神様が宿る物体のこと。花陽ちゃんが拾ったのは神様だったわけやな」

凛「……神様…」

真姫「……」


花陽「その石を拾ったら……光りに包まれて……わたしは見たこともない世界に飛ばされてしまったの」

凛「え――……」


花陽「ううん、見たことがある景色のような気がした」


花陽「絵本に描かれていた景色、小説の中に出てくる景色、映画のような景色……」


花陽「そんな世界に……わたしは一人でいたの……」


凛「……」


花陽「草原がどこまでも続いていて……空には大きな星があって……明るいんだけど太陽は無くて」


花陽「最初は夢の中にいるんだと思って、その景色に見とれてたけど……」


花陽「どれだけ時間が流れても……目は覚めなかった」


真姫「……」


花陽「だんだん怖くなってきたから……少しずつ声を出して呼んでみたの――」


花陽「『凛ちゃん』って」


凛「……」


花陽「一緒に寝ていたはずだから……隣にいるはずだから……その声に気づいてくれると思ってた」


花陽「だけど、風が草を鳴らす音がするだけで……返事はなかった……」


花陽「『真姫ちゃん』って呼んでも、『穂乃果ちゃん』って呼んでも、誰も応えてくれなかった」


絵里「……」

希「……」


花陽「怖くて怖くて……寒くなってきて……夢じゃないって気づいたら――」


花陽「頭の中が真っ白になったの」


凛「……」


花陽「『誰か助けて』って言ったら――……『だいじょうぶよ』って返事をしてくれた」


凛「……」


花陽「それが、紬さんだったんだよ」


花陽「わたしを安心させるために、笑顔でいてくれたの」


律「……」


花陽「紬さんも同じ石を拾って……同じ場所へ飛ばされたらしくて」


花陽「それから、状況を確認して……原因は分かったから、解決策を探そうって気持ちになれたの」


律「それで、どうやって脱出できたんだ?」


花陽「紬さんの後に飛ばされてきた……――夏目さんと、お姉さん」


律「誰だ?」

絵里「ヴェガの乗客よ」


花陽「それから、えっと……他にも、色んな人達が来て……」

真姫「どんな人?」

花陽「か、髪をこうやって……」グイッ

希「あ、花陽ちゃんのその髪型、新鮮で可愛いやん☆」

絵里「リーゼント、ね」

真姫「もしかして……」

律「知ってんのか?」

真姫「朝、ホームで騒いでいた人たち……」

花陽「そう、その人たちだよっ」

絵里「そういえば、四人組にもお礼を言ってたわね」

花陽「うん、そう、その人達も助けてくれたのっ」

律「あのアイドルを助ける理由……『わたしの事を知らない人に助けてもらった』ってのはそういうことか」

花陽「はい、そうです」

律「なるほど……」


凛「……」


花陽「飛ばされたみなさんと一緒に案を出し合っていたら……もう怖くなくなってた」


花陽「安心したら、なんだか疲れてしまって……紬さんに言われて眠ったの」


花陽「そして、凛ちゃんの声に起こされて……紬さんにおんぶされてた」


凛「……」


希「神様には会ったの?」


花陽「ううん、わたしは見てない」


希「そっか……」

真姫「『わたしは』ね……」

律「むぎは見たのかな……?」


絵里(凛が黙ったまま……)


凛「……」


花陽「これが、わたしの遭った『神隠し』だよ……凛ちゃん」


凛「……紬ちゃんが……かよちんに声を掛けるまでどれくらいだったの?」


花陽「……それは」


真姫「……?」


凛「……」


花陽「た、たぶん……4時間くらい……?」


絵里「……?」

希「……」


花陽「ずっと歩きまわってたから……もっと短かったかも」

凛「嘘ついてる」

花陽「え?」

凛「かよちんが嘘つく時の癖」

花陽「あ……っ」

凛「ううん、それだけじゃない」

花陽「……」

凛「疲れて寝てしまったって言った」

花陽「……」

凛「紬ちゃんにおんぶされても目が覚めなかったってことは……とても疲れてたんだよね」

花陽「……うん」


凛「凛、覚えてるよ」グスッ

花陽「え?」


凛「小さいころ、お祭りに行った帰りっ……かよちん、お父さんにおんぶされて寝てしまったこと」

花陽「……」


凛「『とても楽しみにしてた』って……聞いた……」グスッ


凛「『あまり眠れなかったから、疲れてしまったんだね』……って言ってた」


花陽「……」


凛「本当は、どれくらい……独りでいたの……?」グスッ

花陽「時計が無かったから、正確には分からないけど…………」

凛「うぅぅ……っ」ボロボロ

花陽「一日くらい……だと思う」スッ

ぎゅう


凛「ずっと……ぐすっ……ずっと独りで……っ……怖かったでしょ……?」ボロボロ

花陽「うん……寂しかった……心細かった……」

凛「凛も…怖かったっ……だってっ、かよちん居ないんだもんっ」ボロボロ

花陽「……うん、ごめんね」

ぎゅううう


花陽「だけどね」

凛「……?」グスッ

花陽「あの時、凛ちゃんが隣に居なかったけど――」


花陽「わたしは――花陽は、いつもひとりじゃなかったから」


花陽「凛ちゃんが心の中に強く居てくれたから、怖くなかったよ」

凛「ほんと?」

花陽「……怖かったけど、怖くなかった」

凛「もぅっ、どっちなのかよちん!」

花陽「えぇっと、こわくなかったっ」

凛「もうどっちでもいいにゃ」

ぎゅうううう


花陽「く、苦しいよっ、凛ちゃんっ」

凛「~~っ!」

花陽「りんちゃん……?」

凛「ごめんね……一緒に居てあげられなくて……」

花陽「さっきも言ったけど……一緒だったよ」

凛「ぐすっ」

花陽「優しいね……凛ちゃん……」

ぎゅうう


凛「なんでだろ……、ちょっとだけ寂しい……」

花陽「……?」


希「それはセツナイと言うんよ」

凛「切ないの……?」

希「いつも一緒に居た二人やけど、そばに居たいと思う『その時』は一緒に居られなかった」

花陽「……」

希「それが、ちょっとだけ、胸を締め付けるんやね」

凛「そうなの……かな?」

希「ふふ、多分ね。……うちの大切な人が同じ目に遭ったら、そう感じるやろうなって思ったから」

凛「うん、そうかも」

花陽「……ありがとう、凛ちゃん」

凛「朝も言ったけど、凛は何もしてないにゃ」


真姫「……」


絵里(真姫は二人を見て、何を思っているのかしら……)



にこ「すぅ……すぅ……」


律「…………」



―― 露天風呂


澪「…………」


唯「わーい」

バシャバシャバャ


梓「ちょっ、泳がないで下さいっ!」

紬「うふふ」

穂乃果「凄いなぁ、唯さん。さすがの私でも真似はできないよぉ」

唯「でへへ~」

澪「褒めてないぞ」

ことり「あはは……」


海未「紬さん」

紬「なぁに?」

海未「『神隠し』された世界ってどのような景色だったのですか?」

紬「そうね……どこまでも続く草原と、大きな星の見える空と、太陽のない明るい世界だったわ」


海未「異世界……ですよね」

紬「時空を捻じ曲げた、この星の未来だと言ってたから異世界と呼べるのかしら?」

海未「???」

紬「こっちの一秒が向こうでは一時間になってて、一分が一日に……」

海未「はぁ……、一秒が……?」

紬「うん、不思議な世界だったのよ」

海未「……結局、原因はなんだったのですか?」

紬「寂しがり屋の神様が誰かと遊びたかったというお話なの」ニコニコ

海未「それが、花陽だったわけですね」

紬「そうみたい」


ことり「じぃ……」


海未「っ!」ビクッ


澪「のぼせそうだな……そろそろ出よう」

唯「そだね~。あ、牛乳ミルクがあったよね!」

梓「ありましたね……牛乳ミルクってなんですか」

穂乃果「よしっ、誰が早く飲めるか競争だ!」

紬「今日はみんなで夜更かしね!」

海未「夜更かしですか……」


ことり「海未ちゃん」


海未「な、なんですか?」

ことり「あとでお話があります」

海未「は、話……?」ゴクリ


……



―― 207号室:ベランダ



「トランプしようよ、かよちん!」

「みんなでできるかな……?」

「こう人数が多いと一緒に遊べるモノなんて限られてるけど」


黒猫「……」


「ん~?」

「どうしたの、希?」

「誰かに視られているような……?」

「お、なんだ、怪談か? よーし、花陽! 電気を消すんだ!」

「わ、分かりました!」

「ダメよ花陽!」


黒猫「……」タンッ

シュッ


ガラガラ


希「……おかしいな~」

律「カーテンの隙間から誰か覗いていた……ということか……」ゴクリ

希「うん、そう思ったんやけど……気のせいやね」

律「だよな。こんな高いところ、どうやって上ってきたんだって話だぜ」


希「エリち~、誰もおらんかったで~」


「あ、当たり前でしょ」


律「ひゃー、高いなー。でも景色が綺麗だ……これがタダだっていうんだからすげえ」



律「……ん?」



律「屋上になんかいる……?」


―― 屋上


黒猫「ふむ……」


学生帽「……」


黒猫「あの娘……、勘が鋭いな」

学生帽「……」

黒猫「中々の要素を秘めて――」

学生帽「来た」


シュタッ

未来「もう逃がしませんよ」


黒猫「やれやれ……此処まで追ってくるとは」

未来「あの中二病の仲間だと判断します!」ガチャ

学生帽「……」ガチャ

黒猫「武器を納めよライドウ」

ライドウ「……」スッ

未来「?」

黒猫「我の名は業斗童子。之の名を葛葉ライドウという」

未来「……」

ゴウト「誰の仲間と判断されたのかは分からぬが、我らは二人でのみ行動を共にしている」

未来「……それが本当だという証拠は?」

ゴウト「之を見よ」

ガチャリ

未来「刀……?」

ゴウト「今は模擬刀の形を成しておるが、妖刀・正宗である」

未来「……」

ゴウト「我らは依頼主により、この刀と御神体を回収するためにこの時代へ来た」

ライドウ「……」スッ

未来「それが御神体?」

ライドウ「……」コクリ

未来「この時代ってあなた達はどこから――」


秋人「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ」


未来「先輩!」


秋人「一人で先に行かないでよ……」ゼェゼェ

未来「妖夢化して体力を使い果たしているんですから、無理しないで下さい」

秋人「だって……栗山さん……!」

未来「……?」

秋人「このホテル、あの小泉花陽ちゃんが泊まっているだよ! もう一度あのメガネ美少女に――」

未来「不愉快です!」

ムニー

秋人「ふぁんふぇふぉふぉっふぇるふぉ?」

未来「知りません」


「神の怒りを沈めたこと、礼を言う――」


未来「あ――!」

秋人「……?」

未来「逃げられたじゃないですか!!」

秋人「しょ、しょうがない、もう一度追いかけるしか……」

未来「無理です。さっきは油断してたから捕まえられそうだっただけで、もう留まることはないでしょうから」

秋人「そっか……」

未来「はぁ……来月の家賃が……」

秋人「……とりあえず、下に降りようか。……名古屋名物でも奢るよ」

未来「じゃあ……、天むすとうなぎの櫃まぶしとエビフライと手羽先と……」

秋人「堪能する気だ!」

未来「名古屋コーチンの串刺しと、讃岐うどんと……」

秋人「えぇぇ……まだ食べるの?」

未来「あの中二病の人との決着、まだ着いてませんから」イライラ

秋人「やけ食いはよくないよ」

未来「不完全燃焼なんです」ピリピリ

秋人「その中二病の人……って、誰?」

未来「黒い服を着た、背の低い人がいたじゃないですか。頭がツンツンの」

秋人「うーん……、あぁ、いたな! で、なんで中二病?」

未来「腕が疼くとか言ってたので」

秋人「なるほど、納得だ。というか、脱出を考えてたのになんで戦ってたの」

未来「リーゼントの人、いたじゃないですか。その人も半妖怪で……色々あって、先輩も妖夢化して、色々あって」

秋人「その色々って……?」

未来「説明しないといけないですか?」

秋人「……あんまり覚えてないから、してくれると助かるな、と」

未来「そうですね……ご馳走になるわけですし」

秋人「それは律儀と言えるのだろうか」

未来「飛ばされた世界、そこで時間を支配する神様が『遊び』で時間を早めたりしたんです。
   そのせいで先輩が妖夢化しちゃったんですよ」

秋人「……マジですか」


未来「それで、先輩を抑えるために、そのリーゼントの人が妖怪化して……」

秋人「争ったわけか……。その神様をどうやって説得したんだ?」

未来「美月先輩と博臣先輩と、妖と、狐の人と協力して、神様と戦ったんです」

秋人「アヤカシ? キツネ? あぁ、もう……訳がわからない」

未来「だいたいそんなとこですね。それじゃあ、明日に備えて早く休みましょう」

秋人「明日? 今日中に帰れるか微妙なとこだけど……なにか予定でもあった?」

未来「そんなっ、明日は兼六園に行くって約束したじゃないですか!」

秋人「してない! 多分してない!」

未来「『脱出したら、兼六園でもどこでも連れてってやる』って」

秋人「言ったんだ……そんなこと、僕……言っちゃったんだ……」

未来「い、言ってませんけど……」フキフキ

秋人「じゃあ行かないけどいいんだね!?」

未来「うぅ、あの中二病の人を倒せば3年は楽に暮らせたのにぃ……!」

秋人「虚ろな影の3倍!?」


美月「ちょっと、警備員に見つかる前に早く降りるわよ」

博臣「……美月の方が、体内時間的には年上になるのか。……年上の妹……クッ、なんて魅力のない響なんだっ!」

秋人「なんだそれ」

美月「神様の『悪戯』で、アニキは赤ん坊にさせられちゃったからね」

秋人「あぁっ、なんでそんな面白そうなこと覚えていないんだ僕は!」

博臣「いや、アリっちゃアリなのか……?」ゴクリ

未来「そ、そうです……『脱出したら、美味しいものを食べに行こう』って言ってました」フキフキ

秋人「メガネ拭きながら嘘くさいこと言ってる……」

美月「はぁ……秋人を最寄りの警察署へ連れて行かないと」

秋人「今の台詞のどこに犯罪的な意味が含まれていたんですかね!?」



―― 夜道

ゴウト「興味深い連中だったな」

ライドウ「……」コクリ

ゴウト「では、帰るとするか」

ライドウ「……」

ゴウト「どうした?」

ライドウ「……京都」

ゴウト「?」

ライドウ「京都」

ゴウト「西の都がどうした」

ライドウ「……」コクリ

ゴウト「行きたいなら行きたいと、そう言わぬか」


……


―― 207号室:ベランダ


海未「そうですか、花陽が……」

希「経験は人を成長させるんやね」

海未「……」

希「綺麗な夜景やな」

海未「そうですね……」


ガラガラ


ことり「海未ちゃん、お話があります」


海未「う……」

希「?」


ことり「こっちへ来て下さい」


海未「はい……」


希「……どうしたんやろ」


さとみ「私も失礼していいかしら」

希「どうぞどうぞ」

さとみ「ごめんなさい、みんなで押しかけてしまって」

希「ええよ、そんなん。……にこっちはまだ寝てるけど、賑やかなのは楽しいし」

さとみ「そう言ってくれると嬉しいわ」


―― ベッドルーム


海未「は、話とは……?」

ことり「ちょっと待ってね」

海未「……」ビクビク


「へへ~、上がり~」

「うわっ、小麦ちゃん強いよー!」

「イカサマだ! ずるしたぞ!」

「それはお前だろ、律!」


ことり「穂乃果ちゃ~ん」


「あ、な~に~?」


ことり「ちょっと来て~」


「はいよー」


海未「……」オドオド

ことり「そこに座って下さい」

穂乃果「うん……。うみちゃん、怒られてるの?」

海未「い、いえ……そういうわけでは」

穂乃果「なんで正座……?」


ことり「コホン」


穂乃果「……」

海未「……」


ことり「二人とも、私に何か隠していることはありませんか?」


海未「っ!」ギクッ

穂乃果「隠していること……?」


ことり「さっき、露天風呂で、海未ちゃんと紬さんが話をしていたのを私は見ました」


穂乃果「ふぅん……」

海未「えっと……あれは……」オロオロ

穂乃果「何の話?」

海未「花陽のことで……」ヒソヒソ

穂乃果「『神隠し』のこと?」ヒソヒソ

海未「そうです……」


ことり「ほら、また二人でヒソヒソ話してる」


海未「っ!」ドキッ

穂乃果「私は、知ってるというより……ちょっと聞いただけで、詳しく知らないんだよ」


ことり「……」


穂乃果「ということで、あとはうみちゃんに聞いてね」スクッ

海未「あ、ちょ、ちょっと待ってください穂乃果っ」グイッ

穂乃果「ちゃんと自分で話しなよっ」

海未「で、ですが、どう話をしたらいいのかっ」


ことり「二人とも、座って下さい」


穂乃果海未「「 はい…… 」」


真姫「こんなとこで、なにしてるの?」

凛「はやくみんなで遊ぶにゃ~。律さん、イカサマしたのに負けちゃって――」


ことり「大事な話をしています」


凛「ごめんなさい」ペコリ


テッテッテ

「どうしたの、凛ちゃん?」

「ことりちゃんがなんか怖いにゃー」


真姫「なによ、大事な話って」


穂乃果「負けてない! ことりちゃんの空気に負けてないよ真姫ちゃん!」

海未「真姫は聞いたのですよね、花陽の『神隠し』について」

真姫「え、うん……」


ことり「『神隠し』……?」


海未「その話を聞いて、どう思いましたか?」

真姫「どうって……いわれても……」

海未「信じることが出来ましたか?」

真姫「……正直、半信半疑ね」

海未「そうですか……」

真姫「でもね――」

海未「?」


真姫「凛は、花陽の言葉を一つ一つ、全部を信じてた」


真姫「だから、私も花陽の言葉を疑っているというより……自分の目で見てないから疑ってるって感じね」


穂乃果「その違いってなにかな?」

真姫「花陽は信じてるわ。だけど、経験していない自分を疑ってるっていうか……うまく言えないけど」

ことり「……」


海未「わかりました。――ことり」

ことり「はい」

海未「これを見てください」

ことり「……それは?」

真姫「石?」

穂乃果「サンゴの化石だよね」

海未「そうです。これは……旅の途中で出会った、友人から頂いたもの」

ことり「……」

海未「その友人は、不思議なチカラを使って誰かの夢の中に入ることが出来るのです」

ことり「夢……?」

真姫「……」

海未「寝ている時に見ている夢とは違う、人の精神が創り出した世界のことを指します」

穂乃果「エレナちゃんの夢の中に入ったんだよね」

海未「そうです。穂乃果には説明を省きましたが、絵里の夢からエレナさんの夢へと渡りました」

ことり「……」

海未「分かってもらえましたか?」

ことり「……うん」

穂乃果「ずるいよね、うみちゃんだけそんな体験するなんて」

海未「またその話を蒸し返すのですか……」

ことり「どんな世界だったの?」

海未「え……?」

ことり「絵里ちゃん、エレナさん、二人の創り出した世界……」

真姫「……」

穂乃果「私もそれは聞いてなかったな」

海未「絵里は、学校――音ノ木坂学院がありました」

穂乃果「オトノキ?」

海未「はい。よく晴れた空の下に校舎が建っているのです」

ことり「……」

海未「そして、エレナさんは、白い船が停泊する港でした」

真姫「港……」

海未「海がキラキラと輝いて、とても美しい、穏やかな世界……」


ことり「……」


穂乃果「それと、大きな樹に昇ったりしたんだよね。宙に浮いたり」

海未「……そうです」

穂乃果「どうして起こしてくれなかったの」

海未「まだ言うのですか……」


真姫「前に穂乃果と喧嘩してたのは、それが原因だったの?」

海未「そうです。ここまでしつこいとは思いませんでしたが」

穂乃果「しつこいとは失礼な!!」

真姫「というか、そんな話……よく疑わないでいられたわね」

穂乃果「それは真姫ちゃんも一緒でしょ?」

真姫「ううん、違うわ。穂乃果は海未の話を聞いて、ひとつも疑っていない。凛と同じね」

穂乃果「私は……うみちゃんの雰囲気というのかな……。
     そういう所、小さい頃から一緒だから分かる」

海未「……」

穂乃果「この旅で、少しづつ変わっていったのは気付いていたけど、
     大きな変化があったから……それで話を聞いて納得できたんだよ」

真姫「……」

海未「ことりは……私の話を聞いてどう思いましたか?」

ことり「私は――……」


ことり「真姫ちゃんと同じ」


ことり「穂乃果ちゃんや凛ちゃんみたいに、信じることはできない……みたい」

海未「それが普通なのですよ。
    いくら幼馴染だからといって、簡単にこの話は信じられないでしょう」

ことり「でも……」

海未「凛は純粋に花陽を信じたのでしょうね。
    穂乃果は……ただの変わり者だからです」

穂乃果「なんか、バカにされてるような……」

真姫(というより、些細な喧嘩)

ことり「…………」

海未「ことり……これを」スッ

ことり「……?」

海未「私も、あれは夢だったのではないかと、今でも疑ってしまいますが……
    その石を握ると実感できます」

ことり「……」

海未「夢を越えた出会いだったと」


ことり「…………」

穂乃果「……」

真姫「……」


海未「少し、話をしてきます」スクッ

穂乃果「?」

海未「夢の中に入ったの、私だけじゃありません」

真姫「他にもいるの?」

海未「はい、希も一緒に――」

スタスタ


ことり「……」


穂乃果「希ちゃんも一緒だったんだ……」

真姫「穂乃果って、私が突拍子もない事を言っても信じられるの?」

穂乃果「うーん……そう言われても困るけど。どうしたの、突然……?」

真姫「花陽と凛、海未と穂乃果は同じ幼馴染で、同じ時間を過ごしてきたから信じられた訳でしょ」

穂乃果「うん……」

真姫「だから非現実的なことを言われても納得できたんだと思うし……」

穂乃果「さっきも言ったけど……それは、うみちゃんの変化を目の当たりにしたからだよ」

真姫「……どう変化してたの?」

穂乃果「寂しそうな顔してた。……その友人と別れた後だったからだと思う。
     うみちゃんのそんな表情を見てたら……悔しかったんだ」

真姫「悔しいって……?」

穂乃果「だって、私の知らないところで大切なことが起こってたら知りたいじゃない」

真姫「……」

ことり「私は……気づけなかったよ」

穂乃果「そうかな? 気付いてたよ、きっと……。
     だけど、私とうみちゃんが喧嘩を始めちゃったから、それどころじゃなかったんだよ」

ことり「ううん、今でも海未ちゃんの話を疑っている自分がいる。私は……それが悔しいよ……」

穂乃果「多分、その気持ちが大切なんじゃないかな……」

ことり「大切?」

穂乃果「私たち三人、今まで一緒に過ごして、一緒に歩いてきたよね」

ことり「……」

穂乃果「それなのに、私はうみちゃんが先へ行ってしまったから……悔しいと思ったんだよ。
     だから話を聞かせて欲しいって言って……追いかけた」

ことり「……」

穂乃果「ことりちゃんが悔しいと思うのは、私とうみちゃんが先に行ってしまったと感じているから」


穂乃果「そして、もう一度一緒に歩くために、今度はことりちゃんが追いかけてきた」


穂乃果「それが、大切なんだよ」

ことり「穂乃果ちゃん……」

穂乃果「私とうみちゃんだって、ことりちゃんを追いかけたこと、あるよ?」

ことり「え……?」

穂乃果「衣装のデザインだったり、バイトのことだったり……ね」

ことり「あ……うん、バイトのこと、私……黙ってた」

穂乃果「ちゃんと口にして言ったこと無いけど……そういうことなんだよ」

ことり「うん……そうだね……」

穂乃果「夢の話は、この旅が終わったあとに部室で話すつもりだったんだって」

ことり「そっか……うん。穂乃果ちゃんのおかげで、海未ちゃんが言ったこと……信じられる」

穂乃果「その化石ね、とても大切にしてるんだよ」

ことり「……海未ちゃんが出会った、友人との証」

穂乃果「私たちから見たら、普通の石なのにね」


真姫「…………」


―― ベランダ


希「『知らない人しか居ない場所』……」

さとみ「そう。絵里さんに拾ってもらった私の日記に書いたこと」

絵里「……」

さとみ「普段の私を知らない人は、普通に接してきてくれるじゃない?」

希「うーん……?」

さとみ「学校では『優等生の千歳さとみ』に任せておけば大丈夫。って特別視されてるみたいで……」

希「心休まる時がなかった?」

さとみ「ううん、そうじゃないの。
    それが嫌だって言うんじゃないけど……『本当の私』ってどこにいるんだろうって考えてた」

絵里「……」

さとみ「でもね、ヴェガに乗ったら、みんなが普通に接してくれるの。
    『優等生の千歳さとみ』じゃなく、『ただの千歳さとみ』として、ね」

希「特別視されない、この列車の旅で……『本当の私』が見つかりそう?」

さとみ「……どうかしらね。結局、私はどこへ行っても私でしかないのかも」

絵里「そういうものかもしれないわね」

さとみ「……」

絵里「エレナさん、小麦さん、愛さんに鶴見さん……そして、さとみさん」


絵里「ヴェガの乗客はみんな個性があって、魅力的で、楽しい人達」


絵里「その中で同じ時間を過ごしている一人の女の子が『千歳さとみ』なんじゃないかしら」

さとみ「そうね……」

希(エリちの言うことは、うちも理解できるんやけど……)

さとみ「絵里さんはどう? アイドルをやってて、それが自分だって思う?」

絵里「わ、私は……そうね、新しい自分に出会えてると感じているわ」

さとみ「そうよね、誰もが出来ることじゃないから」

絵里「人前で踊ったりするわけだけど……やっぱり、完成した形を磨いていきたいし、
   それをみんなで努力していく過程はつらいこともあるけど、それも含めて楽しいから」

さとみ「……」

希「エリちは最初、穂乃果ちゃん達に意地悪してたんやで」

さとみ「意地悪……?」

絵里「ちょ、ちょっと希っ!?」

希「学校存続の危機に迫った時、穂乃果ちゃんはスクールアイドルを始めて、
  入学希望者が増えるよう、提案をしたんやけど」


希「『部活は生徒を集めるためにやるものじゃない』と言って、認めようとしなかったんやね」


絵里「のぞみぃ~~っ!」

さとみ「……」


希「バレエをやってたエリちに、ダンスの練習を見て欲しいって頼まれて、
  厳しく指導をしたんやけど……それでも穂乃果ちゃん達は根性で付いてきた」


希「穂乃果ちゃんと同じ夢を持っているのに……エリちは頑固にも背を向けてしまったんよ」

さとみ「……」

希「学校存続のために『やりたいこと』を――」

絵里「『やりたいこと』を我慢している私に、穂乃果は手を差し伸べてくれた」

さとみ「……」

絵里「私はずっと生徒会長として、学校のために、生徒のために考えていなくてはいけないと思っていたから」


絵里「『自分がやりたいこと』を我慢してでも、叶えたい願いだと思ってた」


絵里「それが逆に、心優しい友人の希には心配かけてしまっていたみたいで」

希「あ、それは嫌味やな~」

絵里「まったく……いきなり私の話を始めるんだから……」

希「さとみちゃんとエリち、似てると思ってたから」

さとみ「私も……頑固に見えるの?」

希「ふふ、そうや~」

絵里「もう、さとみさんまで……」

さとみ「ふふ」


―― 室内


海未「……」

亮太「どうしたの?」

海未「あ、いえ……希と話をしたかったのですが……」

亮太「あの三人の中に入り込めないね」

海未「……はい。……もう少し待ってみましょう」


亮太「……あんな表情するんだ…」


『まだまだイケる! 君の限界はこんなもんじゃないだろう!?』

律「おっしゃー! 付いてくぜ、マイケル!」

花陽「いっちに、いっちに!」

ドスドス


海未「……二人は、何をしているのですか?」

亮太「トランプに負けた罰ゲーム。……人生ふんだり蹴ったりエクササイズ」

海未「寝ているにこの隣で……」


にこ「すぅ……すぅ……」

真姫「よく起きないわね……」


ドスドス


『背中を曲げるな! 前を向け! 人生と一緒だ!』

律「ふぅっ、いいこと言うぜマイケル!」

花陽「さんしっ、さんしっ」

ドスドス


凛「あれぇ、律さんの動きが遅くなってるにゃ~」

唯「りっちゃん、運動不足だからね、あずにゃん?」

梓「え、なんで私に同意を求めるんですか」


『体を交互に向きを変えて! そう、リズムに乗って、君はいま、トップダンサーだ!』

律「ふぅっ、はぁっ……くっ……あたしの柔軟性を見ろ、マイケル!」

花陽「よいしょっ、よいしょっ」

ドスドス


澪「いちいちマイケルに応えるからつらくなるんだぞ」

小麦「あははは!」

エレナ「花陽サンの動き、とてもシナヤカですが……」

愛「二人の動きが合っていないような……」


にこ「んん……ん……」


『よぉし、1分の休憩だ。呼吸を整えて体をリラックスさせよう』

律「ぜぇ……ぜぇ……」

花陽「ふぅ……」

亮太「もういいんじゃないの?」

穂乃果「そうだよ、別のことやろうよ~」

律「それもそうだな……」

真姫「花陽は平気そうね」

花陽「絵里ちゃんに見てもらってる時のほうが大変だよ……」

凛「かよちんの精神が強くなってるにゃ!」

律「はいはい、あたしは弱っちいですよ~」

梓「拗ねないで下さい」

律「あばよ、マイケル」


『誘惑に負けるな!』

律「お、おう! ……びっくりした、なんてタイミングだよ」

唯「よぉし、次は私も!」フンス!

凛「凛もやるにゃ~!」

穂乃果「みんなでやったら面白そう! 私も~!」

花陽「あ、にこちゃんが……」


にこ「ん……んん……」モゾモゾ

真姫「ここじゃ騒がしいから、あっちに運んであげましょ」

ことり「そうだね」

ズルズル


『さぁ、次のミッションだ!』

律「どんとこいや!」

唯「ほら、あずにゃんもやろうよ~」

梓「お断りします」

『ここからハードになるが、俺に付いてこれるか?』

律「へっ、余裕だぜ!」


澪「さっき、へばってたけどな」


『よし、その意気だ! その気持ちを忘れるな!』

律「あれ、これ……DVDだよな……?」

花陽「会話が成り立ってる……?」


絵里「テレビの前に集まって……なにをしているの……?」

穂乃果「エクササイズだよ」

さとみ「あら、むぎさんは?」

梓「台所にいますよ。お茶の準備してます」

希「全部で19人……結構な数やねぇ……」

海未「希、少し話があるのですが」

希「うん、ええよ……どうしたん?」

海未「ここは騒がしいですから、ベランダへ」


―― ベランダ


海未「……夜とはいえ、暑さがまだ残りますね」

希「熱帯夜やね。……それで、話って?」

海未「大したことではないのですが……。
    あの夢の中の話、穂乃果とことり、真姫にも話しました」

希「反応はどうやった?」

海未「ことりは困惑してましたが、
  真姫は花陽の話を聞いた後だったからか……特に疑いはなかったようです」

希「ふぅん……」

海未「……希は、どこまでいくつもりですか?」

希「どこって?」

海未「穂乃果たちは此処で東京へ引き返すじゃないですか」

希「あぁ、そういうこと」

海未「希だけ、聞いていないような気がしたので」

希「そうやねぇ……――京都まで、行ってみようかなって思ってるよ」

海未「京都……」

希「此処から京都まで、一人旅やね。だから、ちょっとワクワクしてるんよ」

海未「……」

希「……海未ちゃんは?」

海未「私は……」

希「悩んでる?」

海未「……はい。穂乃果とことりに、あの夢の話をして……変に気持ちが落ち着いてしまって」

希「……」

海未「にこと、真姫と、絵里は……どうするのでしょうか」

希「エリちは、にこっちと一緒に降りるんやって」

海未「……そうですか」

希「……」


海未「あ――……」

希「遊園地の灯りが消えちゃったね」

海未「今日が終わってしまったのですね」

希「……」

海未「楽しい時間がそこにあったのに。本当にあっという間に過ぎていく……」


海未「澪さんが言っていましたが、
    時間が経ってしまえば……それは夢の様な時間だったと思うのでしょうね」


希「海未ちゃん」

海未「はい……?」


希「その時、その時の気持ちを……大切にしたらええんよ」

海未「……?」


希「『これから』の期待も、『過ぎた時間』を想うにしても」

海未「……」

希「『旅の途中』は、その時の気持ちで動いても後悔することはないと……うちは思う」

海未「どうして、そんなことを……?」

希「悩んでるのは、ヴェガに乗り続けるかどうか、やね」

海未「……」コクリ

希「遊園地の灯りが消えて、海未ちゃんの表情が寂しそうになった」

海未「……確かに、寂しいと感じました」

希「あの夢の中でな――」

海未「?」

希「にこっちの夢の中へ入ったんやけど」

海未「……そうでした、どうしてそんなことを?」

希「にこっちの深層心理に興味があって☆」

海未「怒られますよ……」

希「興味本位が半分」

海未「もう半分は……?」

希「『あのステージ』の後、にこっち、たまにアンニュイな表情をみせるんよ」

海未「……よく見ていますね」

希「あと半分は、その表情を見せる友人を心配して」

海未「聞き出せばよかったではないですか?」

希「ふふ、そうやね。……でも、にこっちはそういう所、見せたがらないから」

海未「それもそうですね……」

希「エリちの夢の中について、海未ちゃんに聞いたことあるの覚えてる?」

海未「『高校三年生の女の子が持つ夢なんかな』……と、言っていましたね」

希「音ノ木坂学院が存在していて、それはエリちらしいけど……ちょっと心配やった」


希「もっと自分のために夢を持っていいんじゃないかって」


希「でも、それがエリちなんやね」

海未「……」


希「にこっちの夢の中は――まるで遊園地のようやった」

海未「え……?」


希「キラキラと輝いてて、公園の遊具があって、遊園地のパレードが行われそうな、
   いろんな『楽しい』を表現するような世界」


海未「…………」


希「誰もが笑顔になるような、そんな世界――」


―― 室内


にこ「すぅ……すぅ……」


『よぉしっ、よくここまで付いてきた!!』

律「うっしゃー!!」

花陽「……ふぅ」

唯「ぜぇぜぇ……」

梓「だ、大丈夫ですか、唯先輩……?」

唯「だぁ、だいごぉぶ……」

梓「水持ってきます」

テッテッテ


穂乃果「そんなに疲れるかなぁ?」

凛「凛もなんだか物足りないにゃ~」

絵里「動きを見ていたけど、あまり意味のない体操って感じだったわね……」


律「なに言ってんだ絵里! マイケルを疑うな!」

唯「そうだ、そうだほっ!」


澪「なんだ、その信頼は……」


『ここで白状しよう! いままで君たちと一緒に行ったエクササイズはなんの意味もない!』

律「は?」

花陽「え?」

『それらしい動きをしただけで、筋力になんの効果をもたらさないのだ!』

律「い、いや……足を伸ばしたり腕を回転させたり……』

『普通の柔軟体操を行ったほうがより効果的だ! HA! HA! HA!』

律「『HA! HA! HA!』じゃねえよマイケル! 汗かくくらい動いたんだから効果はあるだろ!?」

『こんなエクササイズもどきで汗をかくようなら、普段の生活を見なおしてはどうかな。キラーン』

律「うっせえ! なにを歯を光らせてんだよバカマイケル! コンニャロー!」

ガタガタガタ

澪「おい、テレビを揺らすな。壊れるだろ!」

『フフ、だが君は諦めない心を手に入れ――』

プツッ

律「あばよ、マイケル……もう二度と会うことはねえよ」

唯「ごくごく……水がうまい!」

梓「制作側の手の平で踊らされてますね」

律「ちくしょー……本当にふんだり蹴ったりだな、これ」


花陽「お風呂、行きましょうか」

律「……うーん」

花陽「どうしました?」

律「『汗を流して気持ちのいい爽快感を味わおう!』とかポジティブなこと言ってそうでなぁ」

澪「……確かめてみる」

プツッ


『スッキリと汗を流して達成感を覚えておくんだ!』

律「うるせー!」ガシッ

澪「おいやめろ! そのクッションで何をする気だ!?」グイッ

律「離せ澪! コイツの爽やかな表情が腹立つ!」ジタバタ

澪「落ち着けバカ!」


『まだまだ君たちの人生は長い。このエクササイズを通して学んだことを活かして欲しい』


律「うるせーってんだよ! 意味のないことさせやがってー!!」ジタバタ

澪「だ、誰か、早くテレビの電源を……!」


凛「ふぅ、まったりしてて落ち着くにゃ~」

穂乃果「ほんと、むぎさんの紅茶、落ち着くよね~」

紬「うふふ」


澪「くつろいでる!?」ガーン


梓「あ、お茶請けが足りませんね」

小麦「それじゃ、誰か買ってきてよー」チラッ

亮太「はいはい……」

ことり「あ、それじゃあ私が」

小麦「あはは、冗談だよ、あたしが行くよ」

ことり「いえ~、穂乃果ちゃんたちが好きそうなものも選びたいですから」

小麦「それじゃ、一緒に行こ」

ことり「はい♪」

亮太「エレナ」

エレナ「ハイ?」

亮太「エレナは……何食べたい?」

エレナ「……ソ~ですね、小麦にオマカセしますワ」

小麦「任せといて!」

亮太「じゃ、行きますか」

律「ふぅ……ふぅっ、怒りをあらわにしたら疲れたぜ……。
  それじゃ、あたし等も行くか」

花陽「はい」

唯「あ、りっちゃん、私はいつものを頼むよ」

律「……いや、風呂に行くんだが」


凛「おっふろ、おっふろ~♪」

紬「それじゃ、私が行ってくるわね」

梓「私もお伴します」

穂乃果「梓ちゃん、私もいつものをお願いね~」

梓「わかった、コオロギの佃煮だったよね」

穂乃果「食べたことないよ!」


亮太「じゃ、行ってくる」

スタスタ


エレナ「……」


真姫(なんだか、エレナさんの雰囲気がおかしいわね……)


エレナ「…………」


絵里「?」

さとみ「エレナさん?」

エレナ「えーっと、みなさんに、お話があるネ」

愛「話……ですか?」

穂乃果「うん?」

真姫「……」


ガラガラ

希「室内は空調が効いてて気持ちええな~」

海未「あれ……人数が足りませんね……」

澪「買い物とお風呂に行ったよ」

海未「お風呂? 花陽と凛がいませんが……真姫は一緒に行かないのですか?」

真姫「……エレナさんから、話があるって」

希「話?」


エレナ「ワタクシ、此処でヴェガを降りるヨ」


絵里「え――」


―― 売店


小麦「あ、これエレナが好きそう!」

梓「いかにも、外国人向けの煎餅ですね」

ことり「うなぎせんべい……」

紬「挑戦してみたくなるわね~」


亮太「……」



―― 207号室


エレナ「亮太さんには話してあるネ」

絵里「小麦さんには……?」

エレナ「……」フルフル

海未(何も伝えていない……のですか……)

エレナ「小麦は高校三年生……自分の夢を見つけなくてはいけないヨ」

愛「……」

希「……」

さとみ「小麦さんは……それで納得するかしら」

エレナ「ですが、世界を見て回るというのはワタクシの夢」

海未「……」

エレナ「小麦は、小麦の夢を……見つけなくては」

澪「きちんと、話をしたほうが……」

エレナ「小麦の顔を見ていると許してしまいそうになりますワ」

真姫「許す……?」

エレナ「一緒に旅を続けたいと……思ってしまうネ」

絵里「……黙って、降りてしまうの?」

エレナ「……」


エレナ「――はい」


―― 売店


小麦「あたしは、これからもずっとエレナに付いて行くんだ~」

梓「付いて行くって、世界を旅するってことですよね」

小麦「うん、そうだよ~」

梓「すごいです。私は日本縦断だけでいっぱいいっぱいなのに……」

小麦「エレナと一緒なら、何でもやっていける気がするよ」


亮太「……」


ことり「確か、仙台で出会ったんですよね」

小麦「うん。露店開いてて、なにか面白そうなことやってるな~って思ったから話しかけたの」

ことり「わぁ、運命の出会いですね♪」

小麦「あはは、そーだね~」


紬「どうかしましたか?」

亮太「え、ううん、……別に」

紬「……」

亮太「おーい、もうカゴの中いっぱいになってるぞー」


小麦「う~ん、こんなもんかな?」

ことり「そうですね、あまり買いすぎると余った時こまりそうですし」

梓「あ、このお菓子どうですか?」

小麦「おー、パーティ用のやつだ」


亮太「そうだ……みんなで遊べるもの、フロントで借りれないか聞いてくる」

紬「……」


―― フロント


ホテルマン「どうぞ」

亮太「ありがとうございます」


亮太「……言ってみるもんだな」

スタスタ


紬「鶴見さん」

亮太「あ……どうしたの?」

紬「少し、話を聞きたくて」

亮太「話……?」

紬「……なにか、ありました?」

亮太「……どうして?」

紬「なんだか、小麦ちゃんを見て、少し痛そうな顔をしてたので」

亮太「…………よく見てるね」

紬「ふふ、というより……消去法です」

亮太「?」

紬「私と梓ちゃんには心当たりありませんし……
  ことりちゃんと小麦ちゃん、どっちかなと考えると、小麦ちゃんの可能性が高いかなぁと」

亮太「なるほど」

紬「……」

亮太「話さないほうがいいのかなって思ってたんだけど……」

紬「……」

亮太「やっぱり、後悔して欲しくない。……それに、誰かがいい方法を考えてくれるかなって期待もあったり」

紬「いい方法……?」

亮太「エレナは、名古屋でヴェガを降りるから……小麦に何も言わないで」

紬「……!」

亮太「ごめん……他力本願で……」

紬「……それじゃあ、このホテルの宿泊は」

亮太「運良く宿泊券を貰ったから利用しただけで……券がなくても、同じように泊まってたと思う」

紬「……」

亮太「エレナはもう、ヴェガから荷物を下ろしてる。小麦もそれに気付いてない」

紬「……そうですか」

亮太「エレナからみんなに伝えてる頃だと思う。
    明日の朝、いきなり居なくなってみんなを心配させるのは……違うと思って」

紬「小麦ちゃんは?」

亮太「発車した後で……俺が伝える。手紙も預かった」

紬「……」


亮太「できるだけ今を楽しんで欲しいと思うけど……どうなんだろ」

紬「どう……とは?」

亮太「何が正しいのか、俺には全然分からないから……みんなに頼るしかないから」

紬「……」

亮太「中途半端なことしかできない。……エレナに小麦のこと頼まれてるのに」

紬「私たちができる事は、小麦ちゃんとエレナさん、
  二人を含めたみんなが今を楽しむことじゃないでしょうか」

亮太「……」

紬「穂乃果ちゃん達、唯ちゃん達、そして、エレナさん」


紬「みんな、明日には別れることになるから――」


紬「今は、笑って過ごしましょう」


亮太「……うん。――ありが」


「むぎせんぱ~い!」

テッテッテ


紬「あら?」

梓「急に居なくなるから――……あ」

亮太「?」

梓「じゃ、邪魔しちゃいましたか……?」

紬「あずにゃんっ」ダキッ

梓「にゃ!?」

紬「うふふ、一度そう呼んでみたかったの~」スリスリ

梓「えぇ?! 唯先輩みたいになってるっ!? 何をしたんですか鶴見さん!」

亮太「なにもしてないよ」

紬「梓ちゃん、私……思ったことがあるの」

梓「え……?」

紬「みんな、それぞれの旅をしているんじゃないかって」

梓「……」

紬「その旅路の途中で出会った人達は、きっと素敵な時間を過ごせるんじゃないかって」

梓「……よくわかりません」

紬「うふふ、気にしないで。それじゃ、みんなのところに戻りましょうか」

梓「……はい」

亮太「うん……そうだな。……今が無駄だったとは思いたくない」


―― 露天風呂


凛「にゃんにゃ~にゃ、にゃ~ん」

バシャバシャ


花陽「凛ちゃんっ、泳いじゃだめだよっ」

凛「誰も居ないから平気にゃ~」


律「ふっ、可愛いじゃないか……。
  凛を見守るこの余裕……これが年上の貫禄ってやつかな」


ガラガラ


花陽「あ、真姫ちゃん」


真姫「なんで泳いでるのよ……まったく」


凛「相変わらず、真姫ちゃんはスタイルがいいにゃ~」

真姫「ちょっ、ちょっとあまり見ないでっ」

律「ふっ……」ピキッ

凛「びきっ?」


真姫「あのね、ちょっと話が――」


律「お前なんか敵だーッ!」


バサーッ


真姫「うぶっ!?」


律「二つも歳下のくせにっ……二つも下のくせにーッ!!」

バシャバシャッ


真姫「な、なんなのっ、意味分かんない!」


律「凛! お前なら分かるだろ!? 真姫は敵だ! あのム――」

凛「真姫ちゃんは仲間にゃー!」

バシャバシャ

律「ごぼごぼっ」


真姫「もうっ、目に染みる……っ」

花陽「大丈夫……?」

真姫「大体……花陽の方がっ」


律「ごほごほっ……許さんっ、許さんぞー!」ワナワナ


澪「歳下相手に恥ずかしくないのかお前は」

ポコッ

律「いてっ」

凛「あれ? 澪さんもお風呂に?」

澪「うん……話があって」

花陽「話……?」


……




凛「そうなんだ……エレナさんが……」

律「……」

花陽「……っ」


真姫「そういうわけだから、小麦さんには……まだ言わないで」

澪「……」


律「忘れてたわけじゃないけど、あたし達も帰るんだよなぁ……」

花陽「あ……」

律「なんか、ずっと一緒にいたせいか……そんな実感、まったく無いな……へへっ」


花陽「…………」

真姫(花陽……?)

凛「……」


澪「ずっと前から知ってる友人のような感覚だな」

律「ちっちっち、それは違うぜ澪」

澪「?」

律「あたし等は友達なんかじゃねえ、旅仲間だ!」ドン

澪「どう違うんだ」

律「え? えっと……そ、それは……」

澪「適当なこと言うな」ハァ

律「て、適当じゃないやい。……友達は……今までも、これからも一緒に居られる関係で……
  旅仲間は……今だけ一緒に居られる関係で……」

花陽「……」

律「だからこそ、時間を凝縮して楽しめることが出来るんだ」

凛「ぎょーしゅく?」

律「そうだぜ。旅は人生の縮図っていうからな」

真姫「……」

律「そうだな……うん、そうだ。いいこと言った。わかったか、澪?」

澪「うん」

律「おい! 物分かり良すぎだろ! 逆に疑わしいわ!」


花陽「……」

律「……花陽?」

花陽「……はい…?」

律「どうした、俯いて……?」

花陽「い、いいえ……なんでも……」

律「?」

凛「……」

真姫「……」

澪「……」

律「おいおい、どうしたセニョリータ。そんなに沈んでいては小麦に気付かれてしまうぜ?」

澪「律はテンションが高いな」

律「まぁなぁ……凛は、よく花陽の話を信じられたなーと思って」

凛「かよちんは、そんな嘘をつく子じゃないって、凛が一番よく知ってるから」

律「そうか……。澪」

澪「ん?」

律「あたしさ、小さいころ、神隠しに遭ったことがあるんだ」

澪「ふぅん……そうか」

律「見たか? このさっぱり感。まったく信じてない。
  あたしと澪も幼馴染だけど、花陽たちとはこうも違うんだぜ?」

凛「なんとも言えないにゃ」

花陽「あはは……」

真姫「それは日頃の行いでしょ」

律「なんだとこのぉ……むむむ胸があるからっていばるなよな」

真姫「いっ、威張ってないでしょ!?」

澪「歳上らしく余裕を見せてみろ」

律「む……。まぁ、あたしが神隠しに遭ったってのは嘘だし、話を戻すけど」

真姫(そういうこと言うから信じてもらえないんじゃない……)

律「むぎは何にも言ってこなかったからさ」

澪「待って、何の話だ?」

律「花陽が『神隠し』に遭った話だ」

澪「ふ、ふぅん……?」

律「むぎも巻き込まれたらしい」

澪「神隠し……」

真姫「……」

律「澪がさっき信じなかったように、むぎもあたしを信用してないのかなぁ、なんて――」

澪「ゑッ!? むぎが!?」

律「……」

澪「た、大変だ! は、はやく探さないと!」


律「落ち着け、むぎは今部屋にいるから」グイッ

澪「あうっ」

ザブーン

律「と、このように……さっき、花陽の話を聞いた時、あたしも心の中では結構動揺してたんだよ」

澪「なにするんだっ」

律「あはは、ごめんごめん」

花陽「……」

律「そんな一大事があったのに、むぎはいつもと変わらず、朝からずっと普段と変わらない雰囲気だったわけよ」

真姫「……心配かけたくなかったんじゃないの?」

律「いや……むぎのことだから『神隠しに遭ったの~』って言って、それで報告終わりになりそうだ」

澪「……うん」

凛「何が言いたいのか、よく分からないにゃ」

律「結果として、無事に戻ってきてるから……いいっちゃいいんだけど」

澪「……」

律「むぎの言葉で、ちゃんと聞きたかったなぁと思うと、悔しいやら寂しいやら」

真姫「よくないんじゃない」

律「普通なんだ、普通すぎるんだよ、むぎが。だからこそもやもやする。何だこの感情は……」

花陽「大好きなんですね」

律「……なにが?」

花陽「紬さんのことが、です」ニコニコ


律「……」

澪「……」


花陽「あれ?」

律「当たり前だろ? 何言ってんだ、花陽」

花陽「で、ですよね」

律「まったく。……ちょっと長湯しすぎたな、出るか」ザバァ


凛「顔が真っ赤にゃ~」

真姫「照れてるのね」

花陽「ふふ」

澪「……」


律「お前ら全員敵だーッ!」

バシャバシャッ


凛「わっ!」

花陽「きゃぁっ」

真姫「ちょ、ちょっとっ!」

澪「……誰よりも子供だ」フゥ


―― 207号室


紬「花陽ちゃんから凛ちゃんに話をするまで、この話題は出さないほうがいいと思ったの」

律「……」

紬「すごく心配させてたから。……りっちゃん、怒ってるの?」

律「べ~つにぃ~?」

紬「?」

澪「拗ねてるんだ律は」

紬「???」

澪「むぎの口から聞きたかったんだって」

紬「……」

律「もういいから、この話終わり!」

紬「ありがとう、りっちゃん。心配してくれたのね」

律「あ、当たり前だろ~」

紬「うふふ、ありがとう~、りっちゃん」

律「い、いや……み、澪もさっき慌てふためいてたんだぞ」

澪「なんでそんなことをいちいち言うんだっ!」

紬「ごめんね、心配かけて~、ありがとう、澪ちゃん」

澪「い、いやっ」


梓「むぎ先輩、なんだかテンション高いですね」

唯「……そうだね」

梓「疲れでしょうか」

唯「……」

梓「唯先輩……?」

唯「うん?」

梓「逆にテンションが低いような……。なにかありましたか?」

唯「ううん~」

梓「?」


『兄チャマ~!』

『うわっ!』

『兄チャマ、やっと見つけたです~!』

『な、ななな……!?』

『あれ、この腰回りの抱きつき具合……なんだかいつもと違う気がするです』

『亮太君の……知り合い?』

『知らない、知らないっ!』

『ハッ!? 誰ですかあなた!?』

『き、君こそ誰!?』


亮太「こんなの撮ってたのか……」

エレナ「面白いことは、なんでも残すヨ~」

亮太「こんなのどこが面白いんだ。別のシーンを見よう」

小麦「ウシシ、亮太くん、狼狽えちゃって~」

絵里「あの可愛い子は?」

さとみ「遊園地に兄妹で遊びに来たという、四葉ちゃんと言う子」

希「この子とさとみちゃん、なんだか声が似てるなぁ~」


凛「いいお湯だったにゃ~」

真姫「エレナさんが撮った映像を見てるのね」

愛「はい……」

凛「遊園地に合流するまで、どこ観光してたの?」

小麦「名古屋城でしょ、地下街でしょ、それから~」

真姫「名古屋城行ったのね。私たちも行ったんだけど……」

エレナ「お二人の邪魔をしてはいけないと思いまして、そっとしておいたネ」

真姫「邪魔って……ほとんど言い合ってたんだけど……」

亮太「そういえば、名古屋城でバンドライブやってたよ」

律「なにっ?」

澪「バンド?」

亮太「結構盛り上がってたよね、さとみちゃん」

さとみ「えぇ、髪をピンク色にした子がボーカルのバンドが盛り上がってたかな」

愛「楽しそうに演奏してましたね……」

唯「ライバル出現だね、あずにゃん」

梓「お互い面識がありませんけど……ライバル認定していいんですかね」

希「ピンクの髪かぁ、ずいぶんとロックやなぁ」

絵里「ろっく……」


ことり「はい、海未ちゃん。返すね」

海未「……」

ことり「どうしたの?」

海未「い、いえ……」

ことり「それじゃ、紬さんの手伝いしてくるね」

テッテッテ

海未「……」


海未(ことりは、エレナさんが降りること……知らないみたいですね……)


にこ「ん……んん……?」

穂乃果「おはよう」

にこ「……おはよう……なんか、人が多いわね」

穂乃果「みんな、遊びに来てくれたんだよ」

にこ「そう……。ふぁぁ……っ」

穂乃果「凄いあくび~」

にこ「よく寝た……」


花陽「あ、にこちゃんが起きたみたい」

律「よし、じゃあ……」

凛「なにして遊ぶ~?」

律「今日はもう寝るかぁ~」

ファサ

穂乃果「布団敷いた!」

澪「なんでだ!」

律「遊び疲れちゃったんだもん!」

澪「ベランダで目を覚ますことになるぞ」

律「ひどい!」

希「真姫ちゃん、寝てええよ」

真姫「……なんで?」

希「約束を果たそうと思って」

真姫「……」

凛「はーい! 凛からお願いしまーす!」

ゴロン

希「よーし、いくで~」

凛「わくわく」

希「よいしょー」

ズルズル

凛「おぉー!」


紬「はい、どうぞ」

にこ「ありがと……」

梓「変な遊びが流行ってますね」

にこ「ふぅ……。寝起きの紅茶って優雅でステキ」

ことり「わぁ、なんだかにこちゃん……お嬢様みたいな雰囲気」

にこ「そうでしょ」ピョン ピョン

穂乃果「髪の毛、跳ねてるよ。気品が台無しだ」

にこ「……」ボケー

梓「目も半開きです」


律「おりゃー」

ズルズル

花陽「わぁー!」


絵里「ホテルの布団で遊んだりして……大丈夫かしら」

さとみ「ふふ、怒られちゃうわね」


律「次、澪が寝ていいぞ」

澪「い、いや……私は別に」

律「遠慮すんなって」

花陽「意外と楽しいですよ、澪さんっ」

凛「童心に戻った気がするにゃ~!」

澪「で、でも……恥ずかしい……」

律「いいからいいから、ほら、横になって」グイッ

澪「……うん」

律「よぉーし、ひっぱるぞー!」ググッ

澪「……」

律「ぐぬぬぅ!」

澪「……」

律「はぁっ、はぁ……ッ!」

澪「……」スクッ

律「やっぱ澪は最近、体重が増え――」

澪「……ッ!」

ゴスッ

律「あふっ!?」

澪「やると思ったんだ!」


ギャーギャー



にこ「騒がしいわねぇ……」

ことり「みんな一緒で楽しいんだよ」

紬「そうね……リっちゃん達も、明日帰ってしまうから」

梓「穂乃果達も帰るんでしょ?」

ことり「うん。私たちはここで終わり」

梓「……」

紬「それで、にこちゃんはどうするの?」

にこ「どうしようかしら」

ことり「決めてないの?」

にこ「ちょっと気になることがあって……」

ことり「それは?」

にこ「真姫のことで――って、今はいいわよ、そんなこと」

ことり「真姫ちゃん?」

にこ「明日にはハッキリすることだから、気にしないで。
   それにしても美味しい紅茶ね、私たちの部室でも飲みたいわ」ズズーッ

希「むぎちゃん、うちらにもお願い~」

紬「は~い、ちょっと待っててね~」

絵里「ごめんね、こんなことさせちゃって」

紬「ううん、気にしないで」

小麦「紬ちゃん、こっちにも欲しいな~」

紬「は~い」

律「マスター、あたしも同じ物を一つもらおうか」キリッ

小麦「そういえば、レストランに行く前に絵里ちゃんたち、どこ行ってたの?」

絵里「そ、それは……」チラッ

にこ「?」

梓「そうですよ、むぎ先輩……私が呼ばれた意味が分からないんです」

紬「それは……そのぉ」

律「おぉいっ、無視しないでっ」

にこ「花陽に電話があって、絵里と希が付いて行ったのよね……気になる」

絵里「ちょっと話を……ね」

希「……」

にこ「なによ、隠し事ぉ?」


ことり「はいどうぞ、律お嬢様♪」

律「え?」

穂乃果「ことりちゃん、メイド喫茶でバイトしてるから」

律「あぁ、そうだったな……お嬢様って言われたの初めてだからびっくりした」

愛「みなさん……ここで話をしているのですか?」

律「ちょっと休憩。次は何して遊ぶ~?」

愛「ふふ、そうですね……」

海未「なんだか人が集まっていますね……なにかありましたか?」

ことり「ううん、そうじゃないんだけど……。あ、この荷物……かよちゃんのかな?」

海未「足元にあると蹴ってしまいそうですね。どかしておきましょうか」

ことり「うん……あれ? これは……?」

海未「……色紙みたいですね」

真姫「まったくもぅっ、凛ってばっ」

凛「真姫ちゃんの髪がボサボサ~」

花陽「布団からこぼれちゃったね」

真姫「まぁ……ちょっとは楽しかったけど、ジェットコースターには負けるわね」

凛「あたりまえにゃ!」

ことり「かよちゃん、これは……誰のサインかな?」

花陽「あ――!」


にこ「ねえ、さっさと教えなさいよ~」

梓「私も気になります。あの豪華な待合室で何があったのか、教えてください」


絵里紬「「 えっと…… 」」


ことり「ねぇ、にこちゃん、これ……誰のサインか分かる?」

にこ「それは、四条貴音と秋月律子のサインよ。
   希ぃ~、私に隠し事はしないって言ってたのにぃ~」

希「そんなこと言った覚えはないんやけど」

穂乃果「すごい! 一目見て誰のサインか突き止めたよ!」

海未「さすが、アイドル研究の一人者ですね」


花陽「よ、よかった……気付いてない」

律「凄いんだか凄くないんだか分からんな」


にこ「ねぇ~、おしえてよぉ~……――ん?」

梓「どうしたんですか?」

にこ「……今日の日付だったような」

梓「はい?」

希「あ、まずい……」


にこ「ちょっと、ことり……さっきの、よく見せて」

ことり「かよちゃんが持ってるよ」

にこ「……花陽」

花陽「な、なにかな?」

にこ「さっきのサイン色紙……見せて」

花陽「……」

にこ「見せなさい」

花陽「はい……」

にこ「これは――……」

真姫「なに、それ?」

凛「ん~? 『小泉花陽さんへ』って?」


にこ「…………」


花陽「あの……にこちゃん……」

にこ「どういうことよ、希?」

希「さっきな、本人達に会ってきたんよ」

絵里「黙っていようって希が言ったのに、ハッキリというのね……」

海未「あの、にこ?」


にこ「」


穂乃果「気絶してる……」

律「しょうがねえな」カキカキ

澪「何をしている」

律「まぁいいから……『にこへ』っと……これで、よし」


にこ「」


律「ほら、にこにもサインをやるよ」

にこ「あ……なんだ、私の分も貰ってきてくれたのね……意識が遠くなっちゃったわ」

律「武道館でライブをする予定だから価値が上がるぜ」


『 田井中律 にこへ 』


にこ「――ッ!」

パキッ


穂乃果「へし折った!?」

律「ぁ――」

澪「おいっ、地味に傷つくな!」


律「」


紬「今度はりっちゃんが……」

澪「ギャグなんだろ!? しっかりしろ律!!」


にこ「なんで希ばっかりっ、ずるいずるい~!!」ポカポカ

希「これも運命や」


小麦「あはは、面白い~」

エレナ「これが、日本の伝統、コントですネ」

亮太「本人たちはそのつもり、全くないんだろうけど……」


唯「もぐもぐ」

梓「みんなが騒いでる横で何を食べているんですか」

唯「ケーキだよ。美味しいよ~」

梓「いつの間に買ってきたんですか?」

さとみ「これも秋月さんからのお礼なのよ」

梓「そうですか……って、もう残りも少ないですね」

さとみ「人が多いから、しょうがないわよね」


にこ「……珍しいティーカップね」

紬「このホテルの25周年記念カップなの」

にこ「そう……。……はぁ、もういやになっちゃう」

紬「どうしたの?」

にこ「希ばっかり色んなアイドルと話をしてるのよ……ずるいわよ、希ばっかり、希ばっかり……」

紬「まぁまぁ、はい、おかわりよ」


律「おー、これがあの人気アイドルのサインかーっ!」

花陽「り、律さんっ、声が大きいですっ」

律「すげー! サインにまでオーラを感じるぜー!」チラッ


にこ「…………」


律「人気が出るだけのことはあるよなー!
  気兼ねなく握手してくれたしー、人に対する優しさってのを肌で感じたもんなー!」


にこ「……」イライラ

紬「おかわりはどう?」

にこ「まだ一口も飲んでないからいいわよ」イライラ


律「それに引き換え、どっかのアイドル部の部長は、
  人の優しさをないがしろにするようなアイドルだからなー!」


にこ「…………」ワナワナ


律「どこのアイドル部の部長とは言いませんけどー」チラッ


にこ「……」ピキッ


花陽「ぴきっ?」


小麦「これ使って」

にこ「……」コクリ


穂乃果「なんで小麦ちゃんはクッションを……?」

澪「戦わせる気だ……!」


律「なんだ、やんのかー?」

にこ「嫌味なバンド部部長への制裁よ!」ブンッ

ボフッ

律「フブっ」

にこ「私がどれだけ悔しい思いをしてるのか、性格の悪いバンド部部長は知らないわよね!」

律「なんだとぉ……! その悔しさをバネに頑張ってもらおうとあたしの気持ちをへし折ったくせに!」

にこ「要らないわよ、そんな嘘くさい気遣いなんか」

律「ふふ……言いやがったな」


唯「軽音部だよ~」

梓「そこは今、どうでもいいです」


エレナ「ささ、お代官様、どうぞ~」

律「……」コクリ


さとみ「エレナさんまで……」

亮太「おい小麦、エレナ、煽るなー!」


律「その歪んだ性格、正してやる!」ブンッ

ボフッ

にこ「フブっ」


真姫「避難、避難……」

ことり「あはは……騒がしくなってきちゃったね」

海未「……」

真姫「何を見てるの? ……石?」

海未「え、……あ、これは……」

ことり「……」


にこ「バカ律!」ブンッ

律「バカにこ!」ブンッ


絵里「今度は枕投げに変わったわね……まったく……」

希「ふふ、まぁ……恒例と言ったら恒例やからね」


穂乃果「それーっ!」

梓「あぶないっ」サッ

凛「そーれっ、かよちん~!」

花陽「きゃっ」


キャッキャ

 キャッキャ


海未「なんだか、騒がしいですね」

真姫「子供同士、じゃれ合ってるのよ」

海未「……やることはどこでも一緒なのですね」

ことり「ねぇ、海未ちゃん」

海未「なんですか?」

ことり「ひょっとして……なにか悩んで――」


にこ「バカバカバカー!」

律「うおっ、なんか怒りが凄い!」

にこ「なんで希ばっかりー!」

律「八つ当たりかよ!」

にこ「ずるいじゃないのー!」ブンッ

スカッ

律「へへっ、ハズレ~。覚悟しろにこー!」


ヒュー


真姫「あ、危ない――」

海未「え?」

ボフッ

海未「ウブっ」

ポロッ


―― パキッ


ことり「あ――!」


穂乃果「わー! うみちゃんに当たった~!」

凛「仕返しがくるにゃー!」


海未「するわけないでしょう。……まったくもう」


ことり「あわわわわっ!」

真姫「……机の角に当たって真っ二つね。……打ちどころが悪かったというかなんというか」

ことり「割れちゃったっ!」

海未「え……?」


梓「ことりの顔色が悪いけど……」

穂乃果「ん~? ……――ん?」

花陽「なんだか、石が割れちゃったみたい……」


海未「」


にこ「バカバカ! なんでいつも間が悪いのよ私はー!」

律「待て待て待て! 待てにこ!」

にこ「なによ!」

律「途中からストレス解消になってただろ。……って、そうじゃなくて、
  なんか、空気が冷えてきたんだが」

にこ「空気……?」


海未「ふ……ふふッ」


穂乃果「あぁっ――!」


海未「ふふふ、ふふふふふ」ユラリ


ことり「ひ――っ!」


にこ「……」

律「……」


海未「なるほど、このクッションで私に攻撃をしたわけですね」


穂乃果「にこちゃんっ、りっちゃんっ、謝って!!」


律「な、なんであたしも謝らないといけないんだよッ!」

にこ「そうよ、なにを言って――」


海未「――ッ」

ブンッ


―――― パァン ――


ボフッ


律「」

ドサッ


澪「り、律……」

真姫「あ、当たっちゃった……」


亮太「……途中でパァンって音が鳴ったけど……なんだ?」

エレナ「音を越えた音ですネ」

小麦「音を?」

花陽「ちょ…超光速マクラ……っ」ゴクリ


希「もっと騒がしくなるから、むぎちゃんとこに避難しよか」

さとみ「え、えぇ」

愛「……」


海未「にこ、そこを動いてはいけませんよ」ニッコリ


凛「ステージ上でも見せない素敵な笑顔にゃ! 怖いっ!!」

にこ「え?」


穂乃果「ま、待ってうみちゃんッ! 今のは事故だよ!!」


海未「……」


ことり「不可抗力なんだよっ、許してあげてっっ!」


海未「…………」


にこ「え、えっと……なにが、あったの?」

花陽「海未ちゃんの……持ってた石が割れちゃったみたいで……」

にこ「い、石?」

真姫「……これよ」

にこ「……」


海未「……そうですね、形ある物はいずれ崩れゆくもの」


海未「想い出は私の胸の中で……薄れゆくまで大事に持っていればいいのです」


穂乃果「……良かった」

ことり「ホッ……」

梓「なにか悟ってるけど……律先輩の犠牲はなんだったの……」


にこ「石がそんなに大事なの?」

海未「……」

にこ「そんなモノなら、にこが代わりを持ってくるにこ☆」


海未「……」ピキッ


穂乃果「にこちゃん、黙っててっ!」

ことり「ただの石じゃなくて、サンゴの化石なの、大事な宝物なの」


にこ「う、嘘……」


海未「では、今すぐ拾ってきて下さい。それで許してあげます」ニッコリ


にこ「うぅっ……沖縄まで行けっていうの……?」


海未「与那国島まで」


にこ「最南端!?」


真姫「最南端は波照間島よ。与那国島は最西端ね」

凛「この状況で冷静なツッコミを……」


唯「そうだ、あずにゃん。『あのステージ』で沖縄の子がいたよね」

梓「なんですか、唐突に……」


にこ「そんな遠くまで……む、無理に決まってるでしょ」


海未「――ッ!」


絵里「にこ、危ないッ!」

ドンッ

にこ「ふぎゃっ」


ブンッ


―――― パァン ――


唯「お米が踊るCMがあって――」

ボフッ


唯「」

バタッ


梓「唯せんぱーい!!」


凛「もう手遅れにゃ……」クッ

花陽「で、デジャヴだ……」ゴクリ


亮太「嫌な予感がする……俺たちも避難しよう」

小麦「あたしは見てくよ~」


澪「海未が暴走してるっ」アワワ


海未「――ッ」

ブンッ


希「あぶない、にこっち~」

ワシワシ

にこ「ちょっとっ、どこ触って――」


―――― パァン ――


ボフッ


澪「」

ドサッ


梓「なっ、なんで私の先輩ばっかり狙うのッ!!」フカーッ

ブンッ


海未「……」サッ


絵里「よ、避けた……」

エレナ「オー! まるで忍者ですワ!」

穂乃果「こ、こうなったら……うみちゃんを静かにさせる方が先だよっ、みんな!」

凛「よぉーっし! リベンジにゃ!」

花陽「か、勝てないよぉ」

真姫「私はパス」


ギャー 

 ギャー


亮太「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」

紬「向こうは賑やかね~」

愛「賑やかというか、修羅場といいますか……」

さとみ「今は近づかないほうがいいかも――」


ボフッ

亮太「」

バタッ

さとみ「あ……」

愛「ここまで届くなんて……っ」

紬「光速だから、距離はあまり関係ないみたい」


絵里「」

凛「」

梓「」

小麦「」

穂乃果「」


ことり「うぅっ、犠牲者が……」

花陽「どんどん増えていくっ」

にこ「はぁっ……はぁっ」

希「来るっ!」


真姫「いつまでやってるのよ、まったくぅ」


海未「――ッ」


ことり「にこちゃん、こっちっ」グイッ

にこ「きゃぁっ」


真姫「ちょっと! 直線上に――」


ブンッ

―――― パァン ――

ボフッ


真姫「」

ドサッ


花陽「真姫ちゃんまでっ」

希「あらら……にこっちを助ける度に犠牲者が……」

にこ「い、いい加減にしなさい、海未!」


海未「フフフ……フフ……赦さない……赦せない……」ユラリ


花陽「自分を見失ってるッ!」

希「何かに取り憑かれたみたいやな……っ」

にこ「もう誰も犠牲にするわけにはいかない、私が相手よ海未!」

ことり「にこちゃん!」


ブンッ

―――― パァン ――

ボフッ


にこ「」

ドサッ


花陽「あっさりやられた……」


海未「フフ……フフフ……」


希「そんな……まだ止まらないなんて……」

ことり「ど、どうしよう……」

花陽「あ……」


律「う、うぅん……なんだ……?」


海未「……っ!?」

ガッ

律「いてっ!?」


ズサーッ


海未「」


律「いてて……なんだ、蹴られたぞ!?」


希「海未ちゃ~ん?」


海未「すぅ……すぅ……」

希「寝てる……」


花陽「大丈夫……ですか?」

律「いったい何があったんだ?」

花陽「律さんがいきなり起き上がったから、そのせいで海未ちゃんが蹴つまずいたんです……」

律「……う、うん?」



ことり「ふぅ……これで、一件落着だね」

紬「あらあら、もう終わっちゃったの?」


律「おきろ、澪~」ユサユサ

澪「うん……ん?」


花陽「起きて、凛ちゃん」ユサユサ

凛「ん……んん~」


ことり「穂乃果ちゃん」ユサユサ

穂乃果「んん……あと五分……」


エレナ「小麦、起きるネ」

小麦「うん~……?」


絵里「なんだか……悪い夢を見ていたような……」

希「まだまだ、夜は……楽しみはこれから☆」


にこ「すう……すぅ……」


……






9日目終了


にこ「…ん……?」


澪「じゃあ……『オットセイの真似をする、律の真似』をします」

穂乃果「斬新だ……!」


澪「お…おぅっ……おうっ」


律「……」

梓「……」

唯「……」

紬「……」パチパチ


ことり「……」パチパチパチ

海未「……」パチパチパチパチ

愛「……」パチパチパチ

パチパチ

 パチパチ!!


律「なんだよこの拍手!!」

唯「頑張ったよ、澪ちゃん!」パチパチパチ

澪「あぁっ、もうダメだっ」カアアァッ


にこ「なに、してるの……?」


希「あ、起きた」

穂乃果「ババ抜きで負けた人が罰ゲーム。今は澪ちゃんが負けたから」

にこ「そう……。……なんか変な夢を見た気がするけど……あれは夢だったのね」

真姫「夢じゃないわよ、あなたのせいで酷い目にあったんだから」ムニー

にこ「ふぁにふるのふぉぉ」


小麦「じゃあ、次は何する~?」

凛「大富豪するにゃ!」

さとみ「う~ん、でも、人数が多いから……また分けてやった方がいいわね」

亮太「少ない手持ちで遊んでも物足りないからね」

穂乃果「あ、じゃあさじゃあさ……最下位決定戦をしようよ」

絵里「最下位? 1位を決めるんじゃなくて?」

穂乃果「そっちのほうがスリルがあって楽しいでしょ?」


希「にこっち、よう寝てたな~」

花陽「よっぱど疲れてたんだね」

にこ「どのくらい寝てたの?」

真姫「ほら、時計」

にこ「もう日付変わってる……え!? 丑三つ時!?」

絵里「ちょ、ちょっと、わざわざそんな表現しないでよ」


エレナ「それでは、バツゲームを決めましょう~!」

さとみ「エレナさんも乗り気ね……。その前に、どうやって対戦相手を決めるの?」

穂乃果「え、えっと……」

海未「考えてなかったのですか」

紬「今まで負けた人同士で対戦するのはどうかしら」


律澪「「 う…… 」」

穂乃果「はーい、一度でも負けた人はにこちゃんの所に集まって~」

にこ「なんで私……?」


凛「それで、罰ゲームはどうするの?」

希「さとみちゃんが決めてええよ。1位になる回数多かったし」

さとみ「そうねぇ……丑三つ刻ということで、肝試しなんてどうかしら」


真姫「……勝っててよかった」ホッ

梓「……」サァー

澪「……」サァー

凛「……」サァー

亮太「参加者の顔が青くなってるけど、大丈夫?」

愛「あ、あの……私は」

律「い、いやいいんじゃないか! それでこそ罰ゲームってもんだ!」

愛「あの……でも……私が行くと……」

律「ん?」

亮太「あぁ、愛ちゃんが写真を撮ると心霊写真になるんだっけ」

愛「は、はい……そうなんです」


澪絵里ことり「「「 ゑ? 」」」


愛「わ、私……運が悪くて……3枚に1枚は必ず『そういうの』が写ってしまって」

律「お、おぉ……マジか」

唯「愛ちゃん、頑張ればいいんだよ!」

愛「そ、そうですね」


にこ「なんか、私も参戦する雰囲気なんだけど?」

穂乃果「にこちゃん、寝てたから」

にこ「どういう理由よ!」

希「それじゃ、うちが配るよ~」


亮太「愛ちゃんと一緒に行ったら恐怖心が増すな。あはは」

穂乃果「じゃあ、最下位は二人にしよう」

海未「穂乃果、あなたもその枠に入る可能性があるのですよ?」

穂乃果「だから、スリルだよ~」

ことり「うぅ、穂乃果ちゃん、勝ちそうだよ~」

花陽「凛ちゃん、頑張ってっ」

凛「こんなことならお化け屋敷に入らなければよかったにゃ~」

にこ「お、思い出させないでよ」


絵里(穂乃果、凛、ことり、愛さん、小麦、鶴見さん、律さん、澪さん、梓……
    この中から二人……あ、あとにこも)


にこ「まったく……しょうがないわね」

穂乃果「さぁ取って」

にこ「……」スッ

穂乃果「はーい、さっそく、にこちゃんの手元にババが入りました~!」

にこ「ちょっと!? それ言っちゃババ抜きの意味がないでしょ!?」

穂乃果「そういうスリルもありってことで~」ニヒヒ

にこ「ひどいじゃないのよー!」

律「じゃあ取るぜ、にこ」

にこ「……はい、どうぞ」

律「……よし、セーフだ」

にこ「なによこれ、私が不利っぽいんだけど」


『 wake up  すてきな旅の終わり~♪ 』


にこ「?」


花陽「かわいいっ」

凛「かよちんがまた見てるにゃ~」

花陽「だ、だってかわいいんだもん」


『 wake up  やさしい夢からさめて~♪ 』


にこ「な、なに、この曲……?」


『 wake up  あたらしい一日の始まり~♪ 』


花陽「唯さんに教えてもらった曲だよ」

にこ「ふぅん……」

花陽「お米さんが踊ってるの」

にこ「米……?」

花陽「携帯の動画だよ。見てみて」


『 色鮮やかな 花々 美しいサンゴに抱かれて~♪ 』


『 この島で 生まれ変わる 今日も~♪ 』


にこ「へぇ……こんなCMが存在するのね」

唯「面白いでしょ」

紬「合唱ができそうよね」

花陽「もう一回見よう」ポチポチ

希「優しい曲やんな」


『 wake up  すてきな旅の終わり~♪ 』


亮太「旅の終わり……か」

愛「あの、取ってもいいですか……?」

亮太「あ、うん……どうぞ」

愛「失礼します」

亮太「愛ちゃんはどこまで行くの?」

愛「え、えっと……それは……」

小麦「そういう亮太くんはどこまで行くの?」

亮太「そうだなぁ、行けるとこまで行きたいなぁ」

律「愛ちゃんは青森から乗車したんだよな」

愛「……はい、そうです」


真姫(表情が曇った……。何かあるみたいね……)


エレナ「青森ですか、遠くまで来ましたネ~」

絵里「青森から名古屋まで……結構遠いわよね」

穂乃果「私は札幌から来たんだよ」

海未「札幌からとは……また語弊がある言い方ですね」

穂乃果「本当のことでしょ?」

海未「あなたの出身は東京ですが」

澪「エレナ達は……?」

小麦「あたしとエレナは仙台からだよ」

絵里「露店を開いていたのよね」

希「へぇ~、ゆく先々で旅費を稼いでるん?」

エレナ「そーですワ。そこへ偶然、絵里さんが通りかかったネ」

絵里「なんだか面白そうな二人が居たから、興味を惹かれちゃったのよね」

小麦「あったあった~。サービスしますから~って言ったよね」

絵里「あのキーホルダー、妹にあげたら喜んでくれたわ」

小麦「それはよかった~。ね、エレナ」

エレナ「喜ばしいことです」

絵里「おまけのナマズちゃんも持ってるわよ」

さとみ「え?」


絵里「ほら、このキーホルダー……」

さとみ「そ、それは……!?」

絵里「え?」

さとみ「すごく人気のあるキャラクターなの……!」

絵里「ふ、ふぅん……これが」

さとみ「私の学校では流行ってるのに……」

エレナ「あの時、ワタクシはここで、絵里さんと一緒に過ごせるなんて思ってもみませんでしたワ」

絵里「本当、不思議よね」

さとみ「そうね……」

亮太「さとみちゃんもそう思うんだ?」

さとみ「えぇ……私がヴェガに乗った、あの日の朝……
    普段と変わらない一日が始まったと思ってたもの」

にこ「……」

さとみ「それなのに……駅のホームに佇んでいるヴェガを見ていたら……
    どうなるんだろうって思って。気がついたらヴェガに飛び乗ってたわ」

真姫「思い切ったことしたわね」

さとみ「えぇ……本当に。おかげで今まで楽しく過ごせたけど……
    もし飛び乗らなかったら……私はここには居ないと思ってね」

真姫「……」

にこ「真姫はどう……?」

真姫「? なにが……?」

にこ「ううん、別に、なんでもないわ」

真姫「???」

ことり「さとみさんは絵里ちゃんと一緒に飛び乗ったんだよね♪」

絵里「ち、違うわよ。私は降りるタイミングを失ってしまっただけ」

さとみ「ふふ、そうだったわね」

亮太「あの時の二人、息が合ってたよ。シンクロしたようにお互い道を譲り合ってさ」

唯「にこちゃんが風邪をひいちゃったんだよね」

梓「話が飛びましたね……あの時はどうなるかと思いましたけど」

穂乃果「どの時?」

紬「『あのステージ』よ」

穂乃果「そうそう、本当に大変だったよね」

にこ「にこってば、ムードメーカーだから……存在が大きすぎてアイドル界には欠かせないのよね」

律「お調子者だな。……まぁ、存在の大きさで言えば軽音部界のドラマーこと
  この田井中律サマには遠く及ばないけどな」

澪「おまえもお調子者だ。……それで、そのまま乗り続けたんだ?」

絵里「えぇ。……乗車証を受け継いだ形になってね」

凛「絵里ちゃんがホームに降りて無くてみんな驚いてたにゃ」

絵里「扉が閉まった時は、呆然としてしまったわ」

さとみ「私も鮮明の覚えてる。窓から見える景色がゆっくり流れていったもの」

亮太「二人並んで外見てたね」ククク


真姫「さとみさんは……どうして乗り続けたの?」

さとみ「……ヴェガに乗ったから、かな」

真姫「……」

さとみ「亮太君や、ヴェガの乗客の話を聞いて……憧れたから」

希「憧れ……?」

さとみ「私がずっとしてみたかったこと……それをみんなが楽しそうにやってた」

真姫「旅行に……じゃないわね。旅に出ることが、さとみさんのしたかったこと?」

さとみ「そうね……、そういうことだと思う。……って、なんだか私の話ばっかりね」

穂乃果「う~ん……」

ことり「どうしたの?」

穂乃果「私たちは別行動でここまで来たけど、同じように旅をしてると思ったんだ」

海未「……」

穂乃果「それなのに、見ているものや感じているものは違うんだなと思ったら……どうしてだろうと思って」

絵里「それは当然なんじゃないかしら。視点が違えば物事も変わって見えてくるから」

穂乃果「うん……それはそうなんだけど……」

にこ「……」スッ

穂乃果「みんなで同じことをして、同じことを感じて、それを共有できたらいいなって」

エレナ「それは、今、ちゃんとしてるネ」

穂乃果「?」

エレナ「ココで、今、楽しく過ごせていますワ」

穂乃果「あ……そうだね!」


にこ「これで上がり!」

律「え?」

凛「あ~!」

小麦「一番取られちゃった~」

にこ「やったー! やっぱりにこがナンバーワンね! にっこにっこにー♪」

穂乃果「油断したっ」

にこ「さっさと最下位を決めちゃいなさい。恐怖の肝試しが待ってるわ~」

テッテッテ

希「どこ行くん~?」


「お手洗いよー」


亮太「……」


律「話に夢中になってたな……」

澪「負けたくない、負けたくない」ブルブル

愛「それでは、続けましょう……」

ことり「うぅ、やだなぁ……肝試し、怖いよぉ」

亮太「あのさ、俺に案があるんだけど……」


一同「「「 ? 」」」


『 wake up  すてきな旅の終わり~♪ 』


花陽「わぁ……」キラキラ


律「まだ見てんのかよ!」


……


沖縄食糧の天気予報
https://www.youtube.com/watch?v=cKUh8yi_iqs


―― キッチン


にこ「なにか……」


紬「あら、どうしたの?」

にこ「ちょっとおなか空いて……」

紬「みんなの所にお菓子があるけど」

にこ「なんていうか、お米が食べたいの」

紬「お米……。そういえば、さっきりっちゃんがルームサービスでおにぎりを注文してたわ」

にこ「残ってない?」

紬「さっきレンジに入れたのを見たけど……」

にこ「レンジねぇ……入ってるわけないわよね――」

パカッ

にこ「入ってた」

紬「そのまま忘れちゃったのね」

にこ「確認取ってくるわ」


―― リビング


にこ「ねぇ、律~」


律「なんだー?」

にこ「これ食べてもいい?」

律「おにぎり? あぁ、注文したっけ」

にこ「ねぇ、いいでしょ~?」

律「なにか面白いことやったら許可してやるぞよ」

澪「王様か」

にこ「にっこにっこにー。……はい、いただきまーす」

真姫「一芸にしていいの、それ……」

律「……」

梓「面白いかどうかの判定もしてないのに食べましたね」


にこ「もぐもぐ……それより、誰が負けたの?」


亮太「……」

ことり「うぅ……」


にこ「ふぅん、この二人なのね……もぐもぐ」


亮太「にこさん、俺の代わりにお願い」

にこ「はぁ?」

亮太「昨日の勝負、負けたでしょ? なんでも言うこと聞くって話だったよね」

にこ「なに言ってんのよ。無効よそんなの」

絵里「罰ゲームを決めたのはにこよね。
   『最下位の人は一位の人のいうことをなんでも聞く』」

穂乃果唯「「 そうだそうだ 」」

にこ「そこの二人、居なかったでしょ!」

真姫「ほら、懐中電灯」

にこ「なんでよ! なんでみんな敵に回ってるのよ!」


ことり「誰か、代わってくれないかな……」ウルウル

唯「おぉ」

律「唯は小動物系に弱いのか?」

ことり「おねがぁい、あ ず さ ちゃん♪」

梓「悪いけど、他の人に頼んで……」

海未「ことりのおねだりが通用しないなんてっ?!」

穂乃果「通用するのうみちゃんだけだよ」

ことり「穂乃果ちゃん……おねがいっ!」

 
         『『 ――おねがいっ! 』』

  
        『『『 ――――おねがいっ! 』』』


穂乃果「あのね、ことりちゃん……この話の流れで私は頷けないよ?」

ことり「ん~……」

唯「……エコーが聞こえた」

ことり「海未ちゃん……」

海未「何も聞こえません、何も見えません、何も言いません……!」

ことり「そんなぁ……」

澪「……」

ことり「うぅん……どうしよぉ」

澪「……」ジー

ことり「?」チラ

澪「……!」ビクッ

ことり「じぃー……」

澪「……」ソワソワ

ことり「澪 せ ん ぱ い♪」

澪「わーっ! 律のばかー! あほー!! おでこー!!!」

律「なんで罵倒されてんだよ!?」


希「はい」

にこ「はいって、これ……エレナのカメラでしょ」

希「目的の場所までこれで撮って来るんよ」

にこ「だから! なんで私なのよ!」

ことり「行こ、にこちゃんっ、早く行って早く帰ってこようっ」グイッ

にこ「あ、ちょっ、まだ納得してな――」

タッタッタ

 バタン


亮太「実際に行くより、映像で観る方が怖かったりするんだよな、こういうの」

小麦「分かる分かる、心霊番組みたいだよね」

亮太「まぁ、駐車場まで行って終わりだから何も映らないだろうけど」

エレナ「日本のユーレイは忍び寄る恐怖ですから、怖いネ~」

さとみ「アメリカ……海外はどんな恐怖なの?」

エレナ「後ろを振り返ったら……バーン! ですワ」

愛「分かるような……分からないような?」

小麦「うしし、エレナ」

エレナ「ウッシッシ、後を追いますネ」

テッテッテ

亮太「ほどほどにしとけよー」


「わかってるよー」

バタン


海未「もう夜も深いですね……」

希「海未ちゃんは眠くないん?」

海未「私たちは昼まで寝ていましたから」

希「そうやったな」


花陽「びっくりされるんですけど……実は折り紙、結構得意なんです」

律「ふぅん、そうなのか……。トランプも飽きてきたなぁ……」

花陽「あれ?」

律「?」

花陽「折り紙、結構得意なんです」

律「う、うん……」

花陽「得意なんですよ……?」

律「じゃ、じゃあ……これで、セミを作ってくれ」

花陽「分かりました」

律「……アピールしたかったのか」


梓「……」ジー


花陽「できました」

律「はやっ! って、凄いな、本当にセミだ!!」

穂乃果「花陽ちゃん、もっと凄いの出来るよね!」

花陽「す、凄いの?」

穂乃果「くまとか」

海未「変にハードルを上げないで下さい」

律「できるのか?」

花陽「やってみます……」


律「どうせ顔だけの作りだろうな――って思ったら」

花陽「できました」

律「すごっ!? 立体だ!!」


梓「……」ジー

紬「?」


律「いやー、見くびってたぜ……やるじゃないか」

花陽「えへへ」

律「うむ……人間、誰でも得意なものはあるもんだな」

花陽「律さんの得意なものってなんですか?」

律「え? あたしは……そうだな……体育とか」

愛「体育……運動じゃなくて……?」

律「お、同じだろー」

澪「こうみえて、実は料理が得意だったりするんだ……こうみえて」

凛穂乃果「「 えぇー!? 」」

律「澪にはどう見えてるのか知らんけど……肉じゃがも作れるぜ」キラン

凛穂乃果「「 ウソだー! 」」

律「よーし、そこの二人動くなよー」

澪「プロレス技も得意だから」

凛穂乃果「「 きゃー! 」」

ドタドタ

律「まてこらー!」


梓「……」

紬「どうしたの、梓ちゃん?」

梓「律先輩、学校ではあんな風にしませんよね」

紬「あんな風……?」

梓「花陽に優しくしてるじゃないですか。……私にはそんなことしないのに」

紬「まぁ……」

梓「あ――!」

紬「まぁまぁ……」

梓「違います!」

紬「まぁまぁまぁ……」ニコニコ

梓「違うんですよむぎ先輩!!」

紬「うふふ」

梓「違うんですってば、むぎ先輩~!」


凛「気さくな人だと思ってたのに、なんだか怖いにゃ」ブルブル

穂乃果「助けてぇ、絵里ちゃぁん」ブルブル

絵里「謝ればすぐ終わる話なのよ?」


律「この広さならジャイアントスイングも……」フヘヘ

紬「りっちゃん」

律「ええい止めてくれるなむぎ!」


梓「唯先輩、これ美味しいですよ!」

唯「うん? それって……パーティお菓子だよね」

梓「どうぞどうぞ、食べて下さい」

唯「これはこれは、かたじけない」


律「梓がヤキモチ?」

紬「そうなの」

律「そんなわけないだろ? 梓だぞ?」

紬「でも……」


唯「しくしく……甘そうなお菓子が実は渋かったなんて……なんて悲しい事実なんだろうね」シクシク

梓「そういえば、そういうお菓子でした……スイマセン」


澪「部室では一つ下の梓と過ごしてるから、お互い気を張ってる部分もあるんだ」

希「確かに、軽音部のみんなと居る時はそんな風に感じるね」

澪「だから、律が花陽に接しているような気楽な雰囲気は部室ではみない」

希「りっちゃんと梓ちゃんは気楽な関係に見えるけど?」

澪「梓が気を張ってる分、律も背筋を伸ばしている。
  部室に居る時はほとんど見せてないけど……だらけてるから」

希「梓ちゃんがしっかりしてるのは、そのせいなんやね」

澪「うん」

希「即答やな」

澪「だけど、梓と花陽はタイプが違うから律も自然と態度が変わってる」

絵里「花陽は、私たちとは先輩後輩の関係ではないから、
   律とはそういう関係で接している部分もあるのかもしれないわね」


穂乃果「美味しい肉じゃがのコツを教えてもらえたらな~、なんて~」スリスリ

律「なんで手をスリスリとさせてんだ? ……あっ! ゴマをすってるな!?」

穂乃果「いえ~、ご機嫌取りじゃないですよ~」スリスリ

律「見たまんまなんだが……まぁいい。田井中家秘伝の肉じゃがの作り方を伝授しよう」

穂乃果「お、お願いします……」

律「ん~? 肉じゃがの作り方すら知らなさそうだなぁ?」

凛「知~らないにゃ、お~しえてにゃ♪」

律「なんだ、そのリズムは……って、そこから教えんのかよ」


ガチャガチャッ


海未「?」


ドタドタ

 ドタドタ


ことり「ひっ…はっ……ひぅっ……」

にこ「ぜぇ……ぜぇ……」


海未「二人共、どうしたのですか?」


ことり「おっ、おどっ……ごほっ」

絵里「ほら水よ。飲んで落ち着いて」

ことり「あっ、ありがとっ……ごくごく」

律「ほら、玄米茶」

にこ「はぁ……ふぅぅ……それはいらない」

花陽「美味しいのに……」

亮太「カメラ貸して」

ことり「は、はい……」

梓「さっそく見るんですね」

亮太「これを見れば何があったか分かるかなと思ってさ。……大体予想つくけどな」

小麦「ちょ~っと驚かせただけだよ」

エレナ「アッハッハー、ナイスなリアクションをいただきましたネ」

亮太「エレナ、接続はこれでいいのか?」

エレナ「配線が一つ足りませんワ」

亮太「そうか……えっと」

小麦「どれどれ~?」

エレナ「小麦は、触ってはいけません」

小麦「むぅ……」

絵里「どうして?」

亮太「電子機器と相性悪いから」

にこ「……ふぅ、落ち着いてきたわ」

ことり「もぉ~、酷いですよぉ~」プンプン

小麦「ごめんね~。でも、ずっと見てたけど怖がり過ぎだったよ」

ことり「だって……あのお化け屋敷の後だから……」

エレナ「お化け屋敷?」


梓「……」サァー

真姫「……」サァー

海未「……」


亮太「この話題になると顔色が悪くなる人がいるけど……、一体何があったんだ?」


律「よーし、みんなで見ようぜ」

澪「だ、大丈夫かな……」

律「なにをビビってんだよ。オチはもう分かってるのに」

エレナ「では、再生スタート!」

ピッ


『 ジジッ ジジジッ 』

『よっしゃ、ゲット』

『おぉー、手で捕まえた!』

『す、すごいです……』


花陽「?」

穂乃果「お昼になってるけど、どういう場面?」

亮太「あ……」

小麦「名古屋城だね」

愛「亮太さんが素手でセミを捕まえたんです……」

律「わんぱく小僧かおまえは」

亮太「長らくセミなんて触ったことないのに、試してみたら捕れたんだよ」

さとみ「……」


『ちょ、ちょっと亮太君っ』

『見てさとみちゃん、コイツ逃げないよ』

『あ、あまり近づけないでっ』

『へぇ、虫が苦手なんだ』

『う、うん……』

『痛てて……コイツ、俺の指に口を刺して樹液を吸おうとしてる』

『……』

『ほら、見てよ』

『だ、だから近づけないでって』

『ほらほら』

『もうっ、止めてって言ってるのにっ!』

『あはは、ごめんごめん』


希「……」

凛「……」

にこ「……なに、これ」

亮太「いや……虫を怖がる人って新鮮だったから……つい」

小麦「虫は女の子にとって未知の生物なんだからねぇ」

エレナ「そーですワ。亮太サンはオンナの敵ですネ」

亮太「逃げずにじっくりとカメラ回してるエレナが言うなよ」

唯「この後どうなるのかな? もぐもぐ」

梓「ドラマじゃないんですから。唯先輩、食べ過ぎですよ」


『カブトムシとかさ――』


ピッピッ

亮太「えっと……今の時間帯の映像は」


ピッ

『いい? いくわよ?』


穂乃果「あ、にこちゃんだ」


『はーい、こんばんは~。みんなのアイドル、にこにーだよー♪』


律「なんか始まったぞ」


『今日は、都市伝説の舞台となったホテルを取材しに来ました~』


希「都市伝説?」

にこ「そういう設定よ」

海未「設定って……それを言っては身も蓋もないような」


『色々と噂が絶えないホテルですがぁ、にこが頑張って一人でレポートしますっ。
 みんな、見守っててくれると嬉しいな☆』


穂乃果「これ、観るの私たちだって知ってるはずだよね?」

絵里「こういうことに一切手を抜かないのがにこだから……ね」


『でもぉ、こういう時……誰かそばに居てくれたらなぁ、なんて――』

『 タッタッタ 』


澪「カメラが走りだした……」


『あっ、ちょっとことり!?』

『早く行くよっ』

『 タッタッタ 』


『 待ちなさいよー……私を写しなさーい…… 』


『 タッタッタ 』


愛「うぅ……っ」

さとみ「愛さん?」

愛「ちょっと酔ってしまって……っ」

亮太「画面が揺れてるからね……視線外して横になってたら?」

愛「はい……そうします……」

澪「……眠い」


『はぁっ、はぁッ……はいっ、駐車場ですっ、何もありません! 戻ります!』


穂乃果「一生懸命なことりちゃん、かわいい~」

唯「そうだね……うん」

梓「真剣な顔で頷かないで下さい」


『あっ、ちょっ』

『 タッタッタ 』


律「一瞬だけにこが映ったな」

希「駐車場まで駆けっこやね」

ことり「早く戻りたくて……」


『あ、あれ……?』


海未「止まりましたね……」


『はぁっ……ふぅ……どうしたのよ?』

『今……廊下の隅に誰か居たような……』


律「おぉ、見どころだな。ちゃんと見ろよ、澪?」

澪「すぅ……すぅ」

律「寝てるし……」


『え~、今ぁ、カメラマンの人がナニカを見たようですぅ。やぁだぁ、こわ~ぃ☆』


亮太「ちゃんとレポートしてるのは凄いね」

さとみ「あまり怖くなさそうだけど……」

小麦「怖い雰囲気を作らなきゃいけないのに……演出ミスだね」

にこ「うぐ……」

エレナ「小麦はそういう所、キビシイですから」


『……』

『カメラマンさんのっ……気のせい……じゃ……ないかな~☆』


海未「カメラの視線が泳いでますけど……」

希「にこっちはその枠に入ろうと一生懸命やね」

唯「プロだね」

小麦「こういう時は声だけのほうがいいのに」

亮太「そうだな……視聴者もカメラマンの視線の先を見たいもんな」

にこ「……」

梓「お邪魔ですよね」プフッ

にこ「ラブニコタックル!」

ドンッ

梓「にゃっ!」


『……気のせいだね』

『そうに決まってるわ。
 あのね、怖いと思う弱い心が、あるはずもないものを目に写して――』


『 ワァーッ!! 』


『『 きゃああああ!! 』』


『 ドタドタ

   ドタドタ 』


亮太「なるほど、そのナニカは小麦で、後ろから驚かせたのはエレナか」

エレナ「ご名答、ですネ~」

小麦「あはは、せいか~い」


『ひっ…はっ……ひぅっ……』

『ぜぇ……ぜぇ……』


『二人共、どうしたのですか?』


穂乃果「うみちゃんだ」

唯「……これが、このホテルで起きた超常現象の一部始終なんだね」ゴクリ

律「超常現象の意味、解ってるか唯?」

さとみ「あ……みて、外」


チュンチュン

 チュンチュン


絵里「紫の空ね……」

希「エリち……花陽ちゃんたちは?」

絵里「ほら、そこで寝てるわ」

希「ふふ、気持ちよさそうやな~」


花陽「すぅ……すう……」

凛「すやすや」

愛「すぅ……」


エレナ「愛さんもグッスリですネ~」

小麦「もう朝かぁ~、あっという間だったな~」ノビノビ

絵里「いっぱい遊んだものね」

海未「そろそろ寝ましょうか。……とはいっても、2時間ほどですが」


律「澪は置いていくとして……部屋に戻ろうぜ、唯、梓……って、むぎは?」

絵里「真姫もいないわね……」


唯「あずにゃ~ん、一緒に寝ようよ~」スリスリ

梓「や、やめてください、唯先輩っ」

唯「ひっくしゅっ」

梓「ふにゃっ!?」

唯「あ、ごめんね」

梓「な、なんでこっちみてくしゃみするんですか……!」

唯「いい匂いだから」

穂乃果「あ~ずさちゃ~ん」

梓「!」

穂乃果「私もスリスリさせて~」

梓「みんな徹夜明けのテンションだ……というか、なんで?」

穂乃果「唯ちゃん見てたら、なんだか幸せそうだから」

唯「極上だよ」


ことり「穂乃果ちゃん、猫好きだよね」


穂乃果「そういうこと~」スッ

梓「……」パシッ

穂乃果「あいた」


海未「拒絶されましたか……当たり前の反応ですね」


梓「……」


希「お……?」

穂乃果「無表情だ」

ことり「空気が変わったね……」

律「警戒してるな……野生を取り戻しつつある」

唯「ふふん、素人にはあずにゃんを捕らえられないよ」

律「なんのプロだ」


絵里「あふ…ぅ……」

希「エリちも寝ちゃう?」

絵里「えぇ……そうするわ」

さとみ「私たちも部屋に戻りましょうか」

亮太「愛ちゃんを起こすの悪いから、ココで寝ちゃったら?」

さとみ「亮太君は?」

亮太「さすがに俺は部屋に戻るけど」

にこ「そういえば、アンタが異性だってこと忘れてたわ」

亮太「はは……」


穂乃果「そういえば、真姫ちゃんはどこ?」

ことり「キッチンのほうで、紬さんとお話してたよ」

穂乃果「話って……なんだろ?」

ことり「なんだか、小さいころの話みたいだったけど……」

穂乃果「ふぅん……?」


にこ「私はあまり眠くないのよね……」

梓「あれだけ寝ていましたからね」

にこ「そうだ、今まで撮ってきたものを見せてよエレナ」

エレナ「オーケーですワ。少々お待ちくださいませ」

にこ「今日の分から遡っていきましょ」

律「鮭か」

にこ「……?」

穂乃果「鮭……?」

ことり「シャケ?」

海未「……」

律「時間という川を遡っていくみたいな……さ」

小麦「……」

さとみ「……」

絵里「……」

希「……」

唯「……」

律「梓ぁー!」ガバッ

梓「わぁっ!?」

ドサッ

梓「なにするんですか!?」

律「梓に絡んだらこの冷えた空気を払拭できると思って」

梓「利用しないで下さい!」プンスカ

にこ「名古屋城からでいいわよ?」

エレナ「承知しました」

にこ「あ、さっきのさとみと鶴見亮太のくだりはいらないから」

エレナ「リョ~カイ」

小麦「亮太くん、子供だよね~」

亮太「くそぅ……恥ずかしい記録だなアレは……」

律「まだ居たのかよ」

亮太「みんなが寝る頃には出てくよ。それまで俺も観させてくれよ」

律「しょうがねえな、じゃあみんなの分の水を用意してくれ」

亮太「分かった……じゃあってなんだろ」


小麦「どうして名古屋城?」

にこ「私たちを撮ってるでしょ?」

エレナ「えーっと……?」

小麦「ほら、あれだよエレナ。バンドのステージを鑑賞した後」

エレナ「オー、アレですネ」

律「バンドだと? ちょっと気になるな」

エレナ「そこから流しますワ」

ピッ

『 Caution! 止まらない  passionに従って 』


にこ「ライブ中じゃないのよ」

紬「みんな水でいいの~?」

律「すぐ寝るから水の方がいいと思ってさ」


『 Keeop on! このままで 音に溺れて 』


紬「あら?」


『 君のすぐとなりにもhappyは隠れてるよ 』


梓「どうしました?」

紬「……」


『 楽しんだものが勝ち! 』


紬「…………」


『 だから僕と跳ぼう Let's Jump! 』


紬「気のせい……よね」

さとみ「気になるバンドなの?」

紬「知ってる子がいたような気がして……」

真姫「派手な格好をしてるわね」

穂乃果「ボーカルがピンクの髪をしてたね。ロックだよ、うみちゃん」

海未「なぜ私に振るのですか」

紬「確か、樫原グループの……えっと」

ことり「かしわら……さん?」

梓「ちなみに、どの人ですか?」

唯「すー……すぅ……」

紬「この……ギターの人なんだけど」

律「ふぅん……ギターねぇ」

唯「ギー太?」ピクッ

穂乃果「起きた……!」


梓「ギターですか……」


 中野梓の目に映るその少女。

 将来、自分の前に立ちはだかり巨大な壁になるであろう、その存在を目に焼き付ける。

 中野梓はその小さな手を握りしめ決意を新たにした。


律「――負けてなるものか」

梓「変なナレーションしないでください」

穂乃果「楽しそうに演奏してたね」

唯「すやすや」

穂乃果「寝てる……!」

ことり「雰囲気は、紬さんに似てたかなぁ?」

さとみ「そうね……お嬢様といった感じだったわ」

亮太「なんの格好だろうな……シスターをイメージしてるのか?」

にこ「ちょっとぉ、いつまでそんなライブを見てるのよぉ、早く次に行きなさいよぉ」

海未「紬さんと話……?」

真姫「ちょっとね」

海未「?」

真姫「琴吹グループと言ったら有名だから、ウチの病院も関わってるかも知れなくて……
   ただその話をしてただけ」

梓「むぎ先輩、この人と会ったことあるんですか?」

紬「記憶が曖昧だけど……間違いないと思う」

真姫「琴吹グループと樫原グループ……接点は合ってもおかしくないわね」

律「そうか、この人もお嬢様なんだな」


『 Caution! 止まらない  passionに従って 』


にこ「だ~から~、次に進みなさいよぉ~」

ことり「あ……絵里ちゃんたち……」


絵里「すぅ……すぅ……」

希「すやすや」


ことり「寝ちゃったね……」


亮太「俺も部屋に戻って休むか」

小麦「一人が寂しかったらいつでも来てね~」

亮太「数時間くらい我慢できるっての。……じゃあ後でな」

エレナ「オヤスミなさい~」

さとみ「おやすみ」

亮太「おやすみ~」

スタスタ

 バタン


にこ「……」

ピッピッ

梓「あっ、まだ見てるのに!」


『え~、お客さんは、どこから来ましたか~?』

『えっと……東京から……』


穂乃果「ベガで撮ったんだね」

にこ「ヴェガよ」

ことり「さとみさんがインタビューを受けてるんですね」

さとみ「えぇ、金沢を過ぎた辺りの映像よ」


『行きたい場所は決まっていますか?』

『そ、そうですね……比叡山……とか』


小麦「次は京都か~、はっやいな~」

穂乃果「本当、あっという間だよ~」

梓「……」

律「日本は狭いと誰かが言ったけど、そんなことないよな」

さとみ「ふふ、十分広いわよね」

にこ「なに言ってるのよ、世界はも~っと広いんだから」

穂乃果「まるで見てきたかのように……!」


エレナ「…………」

海未「あ……」


―― 宇宙と世界、どちらが広いと思う? ――


海未(あの言葉……)

エレナ「……」

海未「エレナさん」

エレナ「……ハイ?」

海未「宇宙と世界、どちらが広いのでしょうか?」

エレナ「…………」


にこ「宇宙に決まってるでしょ、物理的に考えて」

穂乃果「数学の弱いにこちゃんが物理なんて言ってる~、似合わないね」

にこ「あんたに言われたくないわよっ」

ことり「あはは……まぁまぁ」

にこ「宇宙一と世界一……宇宙一の方が凄そうよね」

梓「そうですね、宇宙規模と地球規模では比較になりませんから」

にこ「そうね……うん、宇宙一のアイドルにこにー! いい響きじゃない?」

穂乃果「今ひらめいたよね、それ」


エレナ「それを知るためにワタクシは旅をしているのかもしれません」

海未「……」

エレナ「ですから、ウミさんのその質問に答えられないネ」

海未「そうですか……分かりました」

小麦「海未ちゃんはどう思うの?」

海未「……そうですね。……世界だと思います」

小麦「どうして?」

海未「ヴェガに乗って……人と出会う度に、私の世界は広がっていきましたから」

エレナ「つまり……人の数ほど世界が存在する……と?」

海未「はい。……知らない世界がどこまでも続いているのではないかと思います」

エレナ「……本当に、不思議な人ですネ」

海未「?」

エレナ「Human is a traveler by nature...」

海未「……」

エレナ「人は生まれながらにして旅人。この言葉を言ったグランマを思い出しますワ」

海未「……そうですか」


穂乃果「……」

ことり「……」


律「すぅ……すぅ……」

紬「私も少し、寝ようかしら……」

さとみ「そうね、眠くなっちゃったわ」



真姫(少し寝て、起きたら……ヴェガに戻って……お別れ……なのね)



にこ「……」

ピッピッ


『あ……こ、コホン。……にっこにっこにー♪』


にこ「……よし」

梓「……さっきから、自分の映ったシーンしか流しませんね」


……




「梓ちゃん」


梓「……ん……?」


「起きてよ、梓ちゃん」


梓「んん……?」

穂乃果「ね、ヴェガに行こうよ」

梓「ぇ……? もうそんな時間?」

穂乃果「ううん、そんなに経ってないよ」

梓「……?」

穂乃果「ほら、時計」

梓「まだ……6時にもなってない……」

穂乃果「だからね、今のうちにヴェガに行こうよ」

梓「どうして……?」

穂乃果「食堂車で朝食を食べたいから」


梓「……」



……



―― ホテル・ロビー


梓「ふぁぁ……」

穂乃果「書き置きしたけど、気付くかなぁ?」

梓「後でメール打てばいいよ」

穂乃果「そうだね。それじゃー、レッツゴー!」

梓「穂乃果は眠くないの?」

穂乃果「うん、頭が冴えてて眠くないんだよ。帰りの列車で寝ればいいから」

梓「……」


ホテルマン「ありがとうございました」


穂乃果「ありがとうございました~」

梓「どうもです……」ペコリ


ウィーン


穂乃果「私たちが荷物をまとめてても誰も起きなかったね」

梓「それだけ深く寝てるんだよ」

穂乃果「さっきまで遊んでたもんね~。えっと……バスはどこかな?」

梓「たぶん……」

穂乃果「あ……!」

梓「あっちかな?」

穂乃果「梓ちゃんっ、こっちっ」グイッ

梓「えっ!?」


「さぁ、どうかな?」

「なにかあると思うんだけど」

「俺もそれは思ってたけど……本人が言わないのを聞き出すのもね」

「……まぁ、そうだけど」


梓「男の人と……女の人の声?」

穂乃果「真姫ちゃんと鶴見さんだよ」

梓「え……?」

穂乃果「大事な話をしてるっぽい……」


「理由があってヴェガに乗ったんだろうし」

「……」

「西木野さんは、理由とかあるの?」

「私は、ジャンケンに勝っただけだから……」

「へぇ、そうだったんだ」

「最初は事情があって乗るつもりなんてなかったんだけど」


梓「……」スッ

穂乃果「あっ、ダメだよ邪魔しちゃっ」

梓「いいから、行くよ」

スタスタ

穂乃果「あ、あぁ……」


「みんなに勧められて乗るのことになっただけ。理由なんてそれくらいよ」

「ふぅん……」


梓「鶴見さんは理由とかあるんですか?」


亮太「え、……あぁ、なんだ起きてきたんだ?」

梓「起こされました」

真姫「?」


穂乃果「あはは、ど~も~」

真姫「その荷物……」

穂乃果「ヴェガに戻ろうと思って」

真姫「なるほどね、梓さんを巻き込んだってわけね」


亮太「俺は……その、傷心旅行だからさ」

梓「あ……そうですか」

亮太「うん、そういうこと……」

梓「これからいいことありますよ」

亮太「慰められると余計に辛いんだけど」


穂乃果「じゃあ私たちは行くね。真姫ちゃんは後からみんなと来なよ」

真姫「待って、一緒に行く」

穂乃果「?」

真姫「あの大所帯で移動するのも大変だし、部屋に戻っても寝れないから」

穂乃果「分かった。バスの時間だから急いでね」

真姫「今からでも行けるわ。荷物は花陽たちに持ってきてもらうから」


亮太「それじゃ、後でね」

スタスタ


梓「はい、また後で」


穂乃果「一緒にお散歩してたの?」

真姫「そんなわけないでしょ。
    寝付けなくて気分転換に外に出たら居たから、少し話をしてただけよ」

穂乃果「ふぅん、そうなんだぁ」

真姫「……なによ」

穂乃果「大事な話をしてたみたいだったから」

真姫「別に、大事ってわけじゃ……」

梓「あ、バスが来てる」

穂乃果「急ごう急ごう!」

タッタッタ

真姫「あ、ちょっと待って!」


……



―― 名古屋駅


「どこ行ったんだ、あの二人は……」



「鹿之介ー!」

タッタッタ


鹿之介「千絵姉か……」


千絵「カッシーときらり、居た?」

鹿之介「いや、居ないよ。どこにも居ない」

千絵「まったく……こんな朝っぱらからどこ行ったんだか」

鹿之介「さっき車の中見たらさ、樫原のギターもなかったんだ」

千絵「カッシーのギターか……。ということは……」

鹿之介「練習してる……とは考えにくいな」

千絵「そうだねぇ……」


真姫(『かしわら』って聞こえたような……?)


穂乃果「真姫ちゃん、行くよー?」

真姫「あ、うん……って、梓さんが」

穂乃果「?」


大男「あの、失礼します」

梓「え?」

大男「私……こういうものです」スッ

梓「名刺……?」

大男「アイドルのプロデューサーをしている者です」

梓「はぁ……」


真姫「声かけられてる。助けないと!」

穂乃果「あの人…昨日見たような……?」



千絵「他に手がかりとかあった?」

鹿之介「なかったよ……なにも言ってなかったし」

千絵「二人共、携帯持ってないからこういう時困るね」

鹿之介「まったくだ」

千絵「まぁ、そのうち見つかるでしょ。それより、あんたは早く着替えてきなさいよ」

鹿之介「……」


……


キラ☆キラ
https://www.youtube.com/watch?v=moFOOPL-mRc

最後のクロスオーバー作品です。


―― 太閤通口街園


ジャンジャン

 ジャンジャン♪


「 We mean it man

  And there is no future

  In England's dreaming 」



李衣菜「ロックだぜ……」

みく「どこがロックなのにゃ。ギターの伴奏だけでバンドですらないのにゃ」

李衣菜「フッ、みくは分かってないなぁ」ヤレヤレ

みく「むっ! じゃあ説明するのにゃ!
   朝の駅前の公園で弾き語りのように歌うこの状況のどこがロックなのか!」

李衣菜「そ、それは……ほら、歌ってる子の髪の毛がピンク色だし」

みく「フッ、もういいのにゃ。
   李衣菜ちゃんはカレイの煮つけでも料理してロックだと悟っていればいいのにゃ」ヤレヤレ

李衣菜「むっ!」カチーン

みく「そんなことよりPチャンを止めるのにゃ! みくとキャラが被る子をスカウトしようとしてるのにゃー!」

ダダダダッ


李衣菜「むむむ……!」

「みくは勘違いしてる」

李衣菜「なつきち……? どういうこと?」

夏樹「通常のロックという定義はバンドを組んで演奏される音楽を指すけど、
   ロックンロールの意味は多様化されていて人の生き様にも比喩されたりする」

李衣菜「……」

夏樹「音楽的に拘らないこともロックであると言えるんだ」

李衣菜「うん……うん、そうだよね。音楽的に拘ってないことがロック」

夏樹「いや……だりーが感じたことを伝えないとみくは納得しないぜ?」

李衣菜「人の生き様にも……うん、よしっ」

タッタッタ

夏樹「ダメだ……また返り討ちにあうぞ、だりー」


 「 No future, no future,

   No future for you 」


夏樹「この時間に、この場所でこの曲を歌ってることがすでにロックなんだよな……」

スタスタスタ...


ジャーン...


「うーん……足を止める人は居てもおひねりをくれる人は居ないね、紗理奈ちゃん」

紗理奈「そうね……やっぱり、時間が早すぎたのかもしれないわ」


「うーん……旅費の足しにしたかったんだけどなぁ」

紗理奈「きらちゃん、やっぱり前島さん達も一緒に演奏したほうがいいのかも……」

きらり「きっとそうだねっ! あ、でもっ、千絵ちゃんのドラムの準備とか大変だよっ」

紗理奈「そうねぇ……」

きらり「うーん……どうしたらいいんだろぉ」


...ダダダ


紗理奈「?」

きらり「もうちょっと演奏してみようよ、紗理奈ちゃん」

紗理奈「なにかしら、あの人達……?」


律「どこだー! 梓ーー!?」

唯「そんなっ、そんな~っ!!」

にこ「くぅッ……朝っぱらからッ!」

ドタドタ

 ドタドタ


きらり「疾風怒濤だね」

紗理奈「えぇ……」


...スタスタ

海未「タクシー降りて速攻で駆けて行くなんて……」

ことり「にこちゃんまで一緒になってね……」

海未「後ろの座席に無理やり乗り込んでいましたが……そこまで気になるのでしょうか」

ことり「狭くて大変だったよぉ……。でも、梓ちゃんがアイドル事務所にスカウトされたって聞いたら
    居ても立ってもいられないよね」

海未「……ろくに寝てないというのに。……元気過ぎます」

ことり「私は頭がふわふわしてるよぉ~」


きらり「あっ、分かったよ紗理奈ちゃんっ!」

紗理奈「え?」

きらり「ロックじゃなくて、朝に相応しい曲にすればいいんだよっ!」

紗理奈「それで人が集まって来てくれるかしら……」

きらり「やってみよう!」

紗理奈「……曲はどうするの?」

きらり「殿谷クンに教えてもらった曲がいいよっ。……Good day sunshine~♪」

紗理奈「そうね……それなら」

ジャンジャジャン♪


ことり「あ……ふんわりする曲だね」

海未「ストリートライブ、ですか」

ことり「ちょっと聞いて行こうよ」

海未「……そうですね」


きらり「 I need to laugh, and when the sun is out

      I've got something I can laugh about, 」


海未「…………」

ことり「わぁ……上手……」


きらり「 I feel good, in a special way. 」


穂乃果「いい音楽だね……」

海未「穂乃果? ヴェガで朝食を摂っていたはずでは……?」

穂乃果「まだ早すぎたみたいで、準備中だったよ」

海未「そうですか……。梓を巻き込むのは感心しませんよ」

穂乃果「今日で最後だから無理言って付いてきてもらったんだ~」

海未「……」


「 I'm so proud to know that she is mine.

  Good day sunshine, 」


「 Good day sunshine, 」

    
「 Good day sunshine, 」


ジャンジャーン...


ことり「素敵でした~」パチパチ

海未「……」パチパチ

穂乃果「あ、見て、うみちゃん……あの看板」パチパチ

海未「?」


『自費にてライブツアー中! 是非とも、愛のこもったカンパを!』


海未「ライブツアー……?」

穂乃果「すごいね、どこから来たんだろう?」


きらり「東京だよっ!」


海未「!」ビクッ

きらり「高速道路を使って、車で来たんだっ!」

穂乃果「ほぇ~、すごいな~」

きらり「凄いでしょっ! と言っても、
    運転したのは千絵ちゃんだから偉いのは千絵ちゃんなんだけどねっ!」


ことり「お菓子でもいいですか?」

紗理奈「え、えぇ……はい」

ことり「みなさんで食べてくださいね♪」

紗理奈「ありがとうございます」ペコリ


海未「えっと……ライブをするということは、今のように路上でですか?」

きらり「ううん、違うよ。ライブハウスがあってね、そこで演奏するんだっ!」

穂乃果「ライブハウス……といったら、バンド?」

きらり「そうだよっ、あたし達、ロックバンドなんだよっ!」

海未「二人共……学生ですか?」

きらり「うんっ、学校の部活で結成したのっ!」


「ほほぅ……そいつぁ、聞き捨てならねぇな」


きらり「え?」


律「同じ軽音部同士、引かれるような拒みあうような魅力を感じるぜ。
  そう、まるで――」

きらり「ううん、あたし達は第二文芸部だよ」

律「磁石のように――……あ、そうですか」

梓「聞き捨てた方が恥をかかずに済んだと思いますよ」

律「うるさいよ」

唯「私たちのライバルだよ、あずにゃん」

きらり「えぇ~!? あたし達ライバルになっちゃったの!?」


海未「なんだか混乱してきましたね……」

にこ「ふぁぁ……ねむ……」

ことり「あ、にこちゃん。梓ちゃんはどうなったの?」

にこ「断ってたわ」

真姫「『部活がありますから』って……」

海未「部活が大事なんですね」

穂乃果「私はそれを聞いてちょっと感動しちゃったよぉ」


きらり「あたしが、ボーカルの椎名きらりです。そして、ギターの紗理奈ちゃん」

紗理奈「はじめまして」ペコリ

律梓「「 は、はじめまして 」」ペコリ


「きらり~、なにしてるの~?」


きらり「あ、ちょうどいいところに。……ドラムの千絵ちゃんと、ベースの……鹿子ちゃん!」

鹿子「……?」

千絵「どうして紹介されたの?」

きらり「ここにいる人達もバンド仲間なんだって」

千絵「へぇ……こんなにたくさん……」

にこ「私たちは違うわよ。れっきとしたアイドルなんだから」

きらり「アイドルでバンドしてるのっ!? 凄いな~、可愛くてカッコイイんだねっ!」

紗理奈「そういうのが流行っているのですか……」

鹿子「……」コクリ

にこ「否定したの聞こえなかったの?」

きらり「ううんっ、とってもかわいいよ!」

にこ「否定したのそこじゃないんだけど……」


真姫「にこちゃんが圧されてる……」


唯「ボーカルの平沢唯です。こちらが部長でドラムの田井中律っちゃんです。
  あと二人居ます。そして――!」

律「淡々と紹介されたぞ」

唯「アイドルプロデューサーにスカウトされしギタリスト――あずにゃんッ!!!」

梓「二つ名みたいな変な紹介しないでください!」

きらり「あははっ、面白いねっ!」

紗理奈「楽器を使った漫才部ですか……?」

律「軽音部だよ!」

梓「なんだか、このおっとりとした雰囲気……むぎ先輩みたいですね」

律「あ、なんだかデジャヴを感じると思ったら、それか」


海未「噂をすれば……」


澪「気に入ったんだな、むぎ」

紬「うふふ、記念のティーカップ、部室に飾ろうと思ってるの」

澪「そうだな、一個しか無いから大事にしないとな」

紬「見て、ここ。このガラスの部分が朝日に照らされてキラキラしてる」

澪「本当だ……綺麗……」


唯「ベースの秋山澪ちゃんに、キーボードの琴吹紬ちゃんです」


紬澪「「 ? 」」


千絵「それで、紹介しあってどうするの、きらり?」

きらり「どうしよっか?」

千絵「そう……あまり意味はなかったのね」

鹿子「……」


紗理奈「キーボードをされているんですか……?」

紬「え? ……はい、そうです」

紗理奈「私も、今はギターを弾いていますけど……ちょっと前まではピアノの演奏をしていたんです」

紬「そうなんですか……。ギターに転向したのは理由があるんですか?」

紗理奈「バンドを結成するにあたって、ギターを演奏できる人がいなかったので……」

唯「あっさりした理由だね」


鹿子「あの人、樫原と雰囲気が似てるね」

千絵「そうだね……カッシーと同じお嬢様なのかもね」

きらり「鹿ク――鹿子ちゃんっ、どうしてベースを持ってきたの?」

鹿子「募金活動してると思って、俺――私も一緒にやろうと思って」

きらり「それいいねっ! 千絵ちゃんもやろうよっ!」

千絵「だけど……ドラムは準備に時間がかかるし……そろそろ移動しなきゃいけないし」


穂乃果「……?」キョロキョロ

真姫「どうしたの?」

穂乃果「今、男の人の声がしなかった?」

真姫「男の人なんて……いないけど」

にこ「空耳じゃないの?」

穂乃果「うーん……空耳かぁ」

にこ「それにしても、アイドルである私が目立ってないわ」

海未「個性に富んだ人達が集まっていますからね……」

ことり「……綺麗な人」

海未「え?」


鹿子「……?」


ことり「あ……えへへ」


鹿子「……」ニヘラ


千絵「ちょっと、その怪しい笑顔やめなさいよ」ヒソヒソ

鹿子「いや、やっぱキツイって――」ヒソヒソ

澪「年季の入ったベースだ……」

鹿子「……?」

唯「文字が書かれてるね……『スェンダー』だって」

澪「ふふ、『フェンダー』をもじってるわけか」フフフ

律「お、ウケた」


梓「どんな音楽を演奏してるんですか?」

きらり「ロックだよっ! パンクロック!」


穂乃果「なんだか話が盛り上がってるね」

真姫「バンド経験者同士、通じるモノがあるのね」


澪「ちょっと、見せてもらってもいいですか?」

鹿子「……?」

律「あぁ、澪もベースを担当してるんで、珍しいんだ」

鹿子「……」コクリ

スッ

澪「ありがとう。……なんだか、思い入れが強く感じる」


鹿子「そうなんですよぉ、文化祭で使って以来……なんだか愛着が湧いちゃって」


律唯「「 え 」」

鹿子「う、うふっ♪」

澪「ん?」

律「お、おまえ……!」

唯「お、おぉー……?」

鹿子「……はぁ、やっぱこういうリアクションだよな」

千絵「ぷふっ」

鹿子「笑ってくれるな、千絵姉……」

千絵「ふふっ、だってっ」

澪「???」

律「いや、なんで気付かないんだよ澪!?」

澪「なにが?」

律「こいつ、――男だ!」

澪「え?」

鹿之助「え、まじですか?」

律「いや、こっちの台詞だろ……なんで女装してんだよ」

鹿之助「いろいろあって……」

千絵「あははっ」

澪「……」

唯「おぉー……」

律「唯もショック受けてるな……」


紬「東京から車で……?」

紗理奈「はい、そうなんです。今、ライブツアー中なんです」

紬「一つの車で、みんなで移動するなんて楽しそうですね」ニコニコ

紗理奈「うふふ、とても楽しいです」ニコニコ


ことり「上品な空気だね」

にこ「真姫もお嬢様なんだから、あんな風に喋ったら人気者になれるわよ?」

真姫「いいの、私はこれで」


澪「オトコ?」


鹿之助「……」

きらり「そうだよ。鹿クンは鹿子ちゃんなんだよっ!」

千絵「あの、きらり……逆だからね」

きらり「そうだねっ、鹿子ちゃんは鹿クンなんだよっ!」


澪「ゑ――……」


鹿之助「あ、あの……ベースを返して……」

澪「」

ポロッ

ガシャンッ


鹿之助「あッ! ああぁぁあーーーーーッッ!!!!???」


律「落とすなよ澪ッ!」

澪「おと……男……」ガクガク


紗理奈「クソッタレの世界のため、終わらない歌をうたってます」

紬「」

ポロッ

パリィンッ


唯「割れたっ! むぎちゃん! 記念のティーカップ割れちゃったよっ!?」


梓「さわ子先生より……なんというか、ロック? ですね」

律「そ、そうだな……でも、あたし達だって――」

きらり「あのねっ、あたし達、デパートの前で演奏したり、路上で演奏したりしたんだよ!」

律「な……」

千絵「受験生なのに、春から今までバンド一色だったなぁ……私は留年生なのになぁ」シミジミ

鹿之介「遠い目をするな、千絵姉……」


律唯「「 ま、まけた……! 」」ガクッ

梓「律先輩っ、唯先輩! 私たちはロックバンドじゃないんです! 軽音部なんですから!」


紗理奈「ロックとは『ノーフューチャーの精神』なので、そういう訓練をみんなでこなしてきているんです」

紬「……」

澪「……」

律「……」

唯「……」

梓「せ、先輩方、どうしたんですか?」

にこ「カルチャーショックを受けてるわね……」


千絵「ねぇ、きらり……」

きらり「どうしたの、千絵ちゃん?」

千絵「演奏しないなら、そろそろ移動したいんだけど」

きらり「あっ、待ってっ」


紬「今までたくさんの挑戦をしてきたのですね……」

紗理奈「はい……。私は小さいころから病弱な体質なので……、
     今まで出来なかったことを、このバンド活動を通して必死になってやってきたんです」

紬「……」

紗理奈「そのおかげか、こうして旅行にも出ることが出来て……みんなに感謝しているんです」

紬「うふふ」

紗理奈「あ、ごめんなさい……初めて会った人にこんなこと……」

紬「少し記憶が曖昧なんですけど……」

紗理奈「?」

紬「私、小さい頃にあなたを見かけたことがあるんです」

紗理奈「え?」

紬「祖父の付き合いで東京まで行って――」

紗理奈「祖父……?」

紬「私の名前は、琴吹紬といいます」

紗理奈「あ……琴吹グループの……」

紬「何かのパーティーで、綺麗なドレスを着ていたのを……少しですけど覚えています」

紗理奈「そうですか……。失礼ですけど、私は琴吹さんなこと覚えていないみたいです……」

紬「うふふ、気にしないでください」

紗理奈「なんとなく、仲の良い姉妹がいたのは覚えているのですけど……」


きらり「紗理奈ちゃん、最後に一曲だけ歌ってもいいかなっ!?」

紗理奈「え、……えぇ、いいけど」

きらり「あたしの歌に合わせてくれればいいからねっ」

鹿之介「ベースは?」

きらり「うん、鹿子ちゃんも適当に合わせてねっ!」

鹿之介「適当って……」


紗理奈「それでは、私はこれで」ペコリ

紬「とてもいい表情をしていますよ」

紗理奈「ふふ、今が楽しいですから」

紬「どこまで行かれるんですか?」

紗理奈「とりあえず、大阪までは行くことになったんですけど……そこから先はまだ」

紬「私も旅の途中なんです。またどこかで会えるといいですね」

紗理奈「はい……その時も話の相手をしてくれると嬉しいです」

テッテッテ


真姫「……」


唯「バンド演奏、聞いてみたかったなぁ~」

千絵「これから京都、大阪と周る予定だから、路上で演奏してたら声かけてね」

律「残念だけど、あたし等は行かないんだよな~」

澪「どんな演奏するのか……聞いてみたかった」

鹿之介「そんな大した演奏じゃ――」

澪「……」ススッ

鹿之助「距離取られたッ」ズドーン

にこ「喋らなければ女性として通用しちゃうのが恐ろしいわね」

ことり「……うん」

穂乃果「ロックとは奥深いんだねぇ」


きらり「紗理奈ちゃん、いい?」

紗理奈「えぇ、準備出来てるわ」

きらり「それじゃ、椎名きらりと樫原紗理奈、前島鹿子が、命をかけて歌います!」


紬「素敵な仲間に巡り会えたのね」

真姫「仲間、ね……」

海未「……」

梓「あ……」

みく「梓ちゃん、断ってくれてよかったのにゃ……」ウンウン

李衣菜「これから演奏するみたいだね」

みく「李衣菜ちゃんが推奨するロックとやらを聞かせてもらうのにゃ。ウサミンも聞くといいにゃ」

ウサミン「朝は辛い……」ボケー

夏樹「聞かせてもらおうかな」



『 ロックの旅 』


高速道路に乗って、神奈川、静岡、愛知県。

やってきました名古屋です

金のしゃちほこに見守られながら色んなものを食べました。

いろんなものをたべたら

たくさん歌を唄いました

汗で衣装がべとべとになって

洗わないで洗濯カゴに入れっぱなしにしてたら

くさくなって、くさくなって、

紗理奈ちゃんに怒られました。

あと靴下も脱ぎっぱなしって怒られました

明日から気をつけようと、一人窓辺にたたずむ私です

ロックンロール ロックンロール

そんなこんなで、私たちは今日もさすらうのです

明日はどこに行くんだろう?

迷い続けるぜ

ロックの旅

おわり。



みく「ロックの真髄を垣間見たにゃ……」ゴクリ

李衣菜「違うから! これロックじゃないからッ!!」

夏樹「フフッ、まぁ、アリっちゃアリなんじゃないか?」

李衣菜「そうなの!?」ガーン

ウサミン「すぅ……くぅ……」

李衣菜「立ったまま寝てるし……!」


ことり「これは……」

海未「ただの日記ですね」

穂乃果「日記だね」


……



―― ヴェガ


車掌「お帰りなさいませ」


絵里「ただ今戻りました」

にこ「は~、なんか久しぶりのヴェガって感じね~」

希「そうやな~、ず~っと遊んでた気がするわ~」

車掌「名古屋は楽しんでもらえたでしょうか?」

穂乃果「もうっ、サイッコーでしたー!」

ことり「楽しかったね~♪」

真姫「まぁね」

花陽「うん……とっても楽しかった」

凛「みんなでいい思い出が作れたにゃ~!」

海未「……」


梓「ロックって、奥が深いんですね……」

唯「私たちの新たな音楽の方向性が見えてきそうだね」

澪「変な方向見てそうだな……」

律「ベースもギターも若干ヤケッパチになってた演奏だったけど、逆にロックだったぜ」

梓「ロックって、自由なんですね……」

紬「梓ちゃんが感化されてるみたい……。
  名古屋でライブをして盛り上がったら本物だそうよ」

梓「そ、そうなんですか……私たちも挑戦したかったです」

律「お、梓が燃えてるぜ」

唯「ライバルに火を着けられちゃったね」

紬「そういえば梓ちゃん、アイドルのスカウトを受けたって聞いたけど……」

梓「あっ、あれは……」

唯「もう終わった話だよむぎちゃん!
  あずにゃんを遠いところに連れて行かないでっ」ダキッ

梓「うにゃっ!?」

唯「わたしたちを置いてかないで~」スリスリ

むぎゅううう

梓「うぅぁっ」

穂乃果「『部活がありますから』って断ってたんだよ」

唯「え?」

梓「穂乃果!」

紬「まぁ……」

澪「そうか……」

律「あたし達との部活動を優先したのか……
  憧れのアイドルの話を蹴ってまで」

梓「あっ、憧れてません!」


ことり「でも、梓ちゃん……あのステージで衣装を着るとき嬉しそうだった」

梓「お、女の子なら誰だって可愛い服を着たいと思うじゃないですかっ! ね、律先輩!?」アセアセ

律「そうだな~、華やかな世界に身を置くのも悪くないな~」

にこ「ちょっと、アイドルをそんな軽く見ないで欲しいんですけど」

律「見てないって~、冗談だよ。……この手の話になると本当に厳しいな」

梓「あれ、冗談なんですか?」

律「ん?」

梓「スカウトされたの私だけじゃないんです。ガールズバンドとしてデビューしないかって」

澪「え……ガールズバンド?」

紬「まぁ、私たちもアイドルに?」

梓「そうです、先輩方も一緒に」

律「またまたぁ……そんな」

梓「……」

律「嘘だろ?」

真姫「私も聞いたわ、本当よ」


澪「」ピシッ

律「」ピシッ


穂乃果「石化した!」

真姫「そういえば、名刺を貰ってたわよね」

梓「うん……律先輩、乗り気みたいですから、前向きに話してみますか?」

唯「NOだよッ!」ダキッ

梓「うにゃぁ!?」

唯「わたしはあの部室で放課後を楽しみたいんだよ~」スリスリ

梓「わ、分かりましたからっ離してくださいっ」


唯「むぎちゃんの紅茶を飲んでっ、
  りっちゃんとお喋りしてっ、
  澪ちゃんと勉強してっ、
  あずにゃんと一緒にっ」


唯「みんなで一緒に演奏したいんだよ~!!」

梓「私もですよ……唯先輩」

唯「……え?」

梓「そう言うだろうと思ったから、断ったんです」

律「……」

澪「……」

梓「私も、先輩方と一緒に……あの部室で放課後を過ごしたいですから」

紬「あ……」

唯「あずにゃん~」

ぎゅううう

梓「むぎゅう」


穂乃果「……」スッ

海未「何をする気ですか」クイッ

穂乃果「あはは、どさくさに紛れて……行ってみようかなって」

海未「止めなさい。それより、早く朝食を摂って来てください。時間がありませんよ」

穂乃果「うん……うみちゃんは?」

海未「車掌さんと話をしてきます」

穂乃果「?」


律「このっ、梓このっ」ワシワシ

梓「やめてくださいっ」

澪「ふふ」


希「本当に仲がええな~」

絵里「梓があんなこと言うなんてね……」

海未「希、ちょっといいですか?」

希「うん? どうしたん?」

海未「一緒に来て欲しいのですが……」

希「……?」


……



―― 車掌室


車掌「――そうですか」

海未「まだ決めかねていて……ハッキリとは言えないのですが」

車掌「……」

海未「今まで良くしてもらっているのに、
    更にご迷惑をかけるようなことを言って申し訳ありません」


希「……」


車掌「理由を聞いてもよろしいでしょうか」

海未「はい。……あの、エレナさんは乗車証を……?」

車掌「はい、受け取っております」

海未「……昨日の夜、エレナさんと話をしました」

車掌「……」

海未「その中で私は、旅をしていることで『世界が広がっていく』と伝えたんです」


希「……」


海未「でも、その言葉は……以前に、穂乃果が言ったことで……」


海未「私の言葉ではないんです……」

車掌「……」

海未「ですから、気持ちがスッキリしないというのが理由です」

車掌「分かりました」

海未「……」

車掌「これは、私の持論になるのですが……」

海未「?」

車掌「人から伝えられた言葉――例えば、映画、小説、音楽でも、
    受け取った自分自身が理解し、納得できれば……それは自分自身から生まれた気持ちになります」

海未「……」

車掌「その気持ちから生まれた言葉は、他の誰でもない自分自身の言葉になるのだと……思いますよ」


海未「……」

希「……」


車掌「それでは、間もなく当特急ヴェガは発車致します。
    出発に向けて準備をしてくださいね」

海未「はい」

希「……」


……



―― 食堂車


律「ふぅ、おかわ――」

澪「私たちはもう帰りに列車に乗らないと」

律「え、もうそんな時間かよ!?」

唯「時間よ、止まれ!」バッ

梓「……」

紬「……」

唯「やだー! 帰りたくないよぉー!」

にこ「自分で時間を進めたわね」


花陽「……」

凛「見送りに行くにゃ」

花陽「……うん」

真姫「……」


律「料理長~、ごちそうさま~!」

澪「ごちそうさまでした」

唯「ごちそうさま~」

穂乃果「とっても美味しかった~!」

海未「ごちそうさまでした」

コック「おう」

けさみ「ありがとうございました!」


―― 3番ホーム


梓「寝過ごしたりしないでくださいね」

律「……」

澪「……」

唯「……」

梓「何か言ってください!」

律「澪がいるから平気だぜ」

唯「わたしは寝るよ」フンス

澪「私も眠たい……律、頼む」

律「えぇ~……じゃあ、みんなで寝ようぜ」

澪「そうだな……なんとかなるだろう」

唯「賛成だす」

紬「この雰囲気は、寝過ごしてしまいそうね」

梓「あ、みなさんが見送りに来てくれましたよ」


小麦「帰っちゃうんだよね~」

エレナ「楽しかったですワ」

澪「私たちもとても楽しかった」

律「頑張ろうな、小麦!」

小麦「え? 頑張れ……じゃなくて?」

律「あたしも頑張るから、小麦たちも頑張れって意味だ」

小麦「あ、いいね、その言葉!」

エレナ「素敵な言葉ですネ~!」

澪「元気でな、エレナ、小麦」

小麦「うん、澪ちゃんも元気でね」

エレナ「GOODBYE」

澪「……」コクリ


愛「あの、律さん……!」

律「ん?」

愛「頑張り…ましょうね……!」

律「へへっ、おう!」


凛「ほら、かよちん」

花陽「う、うん……」


唯「あずにゃん……元気でね」

梓「部室で会えるじゃないですか」ムスッ

唯「帰ったらちゃんと連絡するんだよ?」

梓「はいはい、しますから……はやく乗ってください」グイグイ

唯「あぁん……あずにゃんのいけずぅ~」

梓「意味が分かりません!」


希「相変わらずやな~」

紬「うふふ」

絵里「……」


さとみ「元気でね」

亮太「家に着くまでが旅行だぞ~、なんちゃって」

律「そっくりそのまま返してやるわ。みんなも怪我とか事故には気をつけろよ~!」

さとみ「うん、ありがとう」

亮太「ありがとう、元気でな」

澪「うん、みんな元気で」


にこ「じゃあね」

唯「あずにゃん三号ちゃん!」ダキッ

にこ「きゃぁ!?」

唯「元気でね、あずにゃんと仲良くするんだよ~?」スリスリ

にこ「最後の最後まで鬱陶しいわね……ッ!」グググ

唯「むぐぐ……」

律「じゃあな、にこ……同じ部長同士がんばろーぜ」

にこ「そうね、お互い色々と大変なメンバーだけど頑張りましょ」

律「うん。……そうだな、そのまま別れるのも味気ないから」スッ

にこ「またハイタッチ? 前にもやったじゃない」

律「……」

穂乃果「にこちゃん……それはりっちゃんの願掛けみたいなものなのに」

にこ「願掛け?」

ことり「前にもやって、また会えたから、次もまた会えますようにって」

にこ「……」

律「そんな意図はないですぅ~」

澪「拗ねた」

唯「拗ねたよ」

紬「拗ねちゃったわ」

梓「拗ねないでください」

律「うるさーい!!」

愛「ふふっ」


小麦「あははっ」

エレナ「……」

真姫「最後まで賑やかなのね」

澪「それだけが取り柄だから……うちの部長は」

律「しんみりするよりいいだろーって、もう時間だな。澪、唯、列車に乗れ~」


花陽「あの……っ」

律「……?」


花陽「わたしも……楽しかった……です」

律「そっか……良かった」


花陽「ありがとうございました……」

律「こっちも楽しかった、ありがとな」


花陽「は、はい。……あの、また会え――」

律「ずっと考えてたんだけどさ」

花陽「?」

律「花陽から聞いたあの『神隠し』のこと」

花陽「え……?」


紬「……」


律「永遠に近い時間の中で、花陽は怖い思いをしただろ」

花陽「……」

律「それは凛や穂乃果、みんなと会えなくなるかもしれない恐怖だったはずだ」

凛「……」

穂乃果「……」

律「だけどさ、花陽をあたし自身と入れ替えてみても、
  その怖さってあまり理解できないみたいなんだ」

花陽「……?」

律「だからさ、教えてもらおうと思って」

花陽「なにを……ですか……?」

律「『さようならの意味』を――」

花陽「え……?」


律「一緒に居た時間は2,3日だけど、気まぐれでここまで来たけど」


律「良かった。花陽や、みんなに会えてよかった」


花陽「……っ」ホロリ


律「もう二度と会えなくなっても――友達だと――旅仲間だと言わせてくれ」


花陽「うぅっ……」グスッ


律「じゃあな、花陽」


花陽「あ――……」


律「さようなら、だ」

スタスタ


花陽「あ……ま…待ってくだ……さい……律さ――!」


澪「時間が足りないから、私も」

花陽「……!」

澪「みんなと会えて良かった。素敵な時間を過ごせて良かった」

花陽「……ッ」

澪「じゃあ、みんな元気で――」

花陽「あ…ぁ……」


澪「さようなら」

スタスタ


花陽「ま…待って……まだ――」


prrrrrrrrrr


唯「わたし達の旅はここまで」

花陽「……ま……待ってください」

唯「もう充分に話をしたよ。限りある時間の中でたくさん楽しんだよ」

花陽「わ……わたしはまだっ」

唯「ありがとう、花陽ちゃん」スッ

花陽「あ――」

ぎゅううう


唯「わたしも、『さようなら』って言葉の重さ……知らなかったんだよ」

花陽「……っ」

唯「だけど、伝えなくちゃ。最後なんだから」

花陽「――ッ!」


唯「みんな、出会ってくれてありがとう~!」


にこ「元気でね」

穂乃果「バイバ~イ!」

海未「お元気で!」

ことり「ありがとう~っ」

希「元気でな~!」

真姫「……」

凛「ありがとー!!」

絵里「ほら、花陽……」


花陽「……っ!」


唯「さようなら!」

タッタッタ


花陽「さ……」


プシュー


ガタン

 ゴトン


花陽「さ…よう……」ボロボロ


ガタンゴトン

 ガタンゴトン



花陽「……さようなら…」ボロボロ


真姫「花陽……」

花陽「またねって……」ボロボロ

真姫「……?」

花陽「またねって……言ってくれなかったっ」ボロボロ

真姫「……!」

花陽「……また会う……約束……してくれなかったよぉ」ボロボロ

真姫「花陽……!」

ぎゅうう

花陽「うぅっ……うぅぅ」ボロボロ

凛「かよちん……」グスッ


梓「……」

紬「……」


エレナ「…………」


……




―― ヴェガ


エレナ「オー、バッテリーを買い忘れたしまったネ」

小麦「え……もう時間ないよエレナ?」

エレナ「急いで売店へ行ってきますから、先に乗っててくださいナ~!」

小麦「あ、ちょっとエレナ!?」


エレナ「……ッ」

タッタッタ


小麦「……」


亮太「じゃあ、乗ろうか」

さとみ「えぇ……」

愛「……はい」

絵里「……さぁ、私たちも乗りましょう」

真姫「そうね……」

海未「……」

にこ「ほら、あんたたち、ちゃんと挨拶しなさいよね」

穂乃果「あ、うん!」

凛「みんな、気をつけてね~!」

希「ことりちゃんと花陽ちゃんはまだ戻って来ないみたいやね……」

凛「大丈夫だよ、かよちんはちゃんと笑顔で見送りするから!」

希「……そうやね」

穂乃果「じゃあね、梓ちゃん」フリフリ

梓「……うん、バイバイ」フリフリ

紬「楽しかったわ、みんな。ありがとう」

穂乃果「こちらこそ、ありがとう!」


紬「……さようなら」


穂乃果「うん……お元気で」


小麦「……」


絵里「……小麦」


亮太「ほら、小麦~、早く乗らないと出発してしまうぞ~」


小麦「あたし……ここで待ってる」


亮太「……っ」


海未(やっぱり……分かってしまうのでしょうか……)


にこ「?」

梓「どうしたんでしょうか?」

紬「……」

真姫「あ……にこちゃんと梓さん、知らなかったわよね……」

にこ「……なに……が?」

梓「え?」

真姫「……」


海未(二人はずっと一緒に居たから……分かってしまう……のでしょうか)


さとみ「亮太君……」

亮太「……うん」



小麦「……」


亮太「ここで待っててもしょうがないだろ」

小麦「なんだか、胸がざわざわする」

亮太「……」

小麦「ねぇ、亮太く――」

亮太「……っ」スッ


小麦「え――」


亮太「ほら、車掌さんが困るだろ」

小麦「どうして目を逸らすの……?」

亮太「なにがだ」

小麦「なにか……あるんでしょ?」

亮太「何もないって」

小麦「嘘……嘘ついてる」

亮太「なんだよそれ」

小麦「亮太くん、あたしに何か隠してる……」

亮太「気のせいだ」

小麦「そうかな……そんなはず……」


さとみ「……」

愛「……」


絵里「……」

真姫「……」

にこ「……」

梓「……」

紬「……」


海未「……」

希「……」

凛「……」

穂乃果「……」


小麦「え……え……? なに……? みんな……どうしたの……?」


小麦「なにか……変だよ――」


「ダメだよッ!」


穂乃果「ことりちゃん……」


ことり「こんな別れ方、絶対ダメだよッ!」


絵里「こ、ことり!」


小麦「え……え……?」


ことり「さっきっ…エレナさんとすれ違って――」


亮太「待って!」


ことり「……!」


亮太「俺が言うから」


ことり「……っ」


小麦「なに……? エレナが…エレナがどうしたの?」


亮太「小麦、エレナは――」


小麦「え……! や、嫌だ……ッ」


亮太「エレナは」


小麦「ヤダッ! 聞きたくない……!」


亮太「ちゃんと聞いてくれ小麦」


小麦「嫌だ嫌だ! 喋るなバカー!」


亮太「小麦ッッ!」


小麦「――ッ!」


亮太「エレナは戻ってこない」


小麦「そんな――……」


亮太「エレナは飛行機に乗って、次の国へ行くんだ」


小麦「みん…な……知って…たんだ……」


亮太「……」


小麦「あたし…だけ……知らなかったんだ……」


亮太「小麦……エレナの気持ちを」


小麦「分かんないよ!」


亮太「……」


小麦「一緒にここまで来たのにッ! あたし置いてかれたんだよ!?」


亮太「違う……」


小麦「違わない! こんな大事なこと言ってくれなかったじゃない!」


亮太「……ッ」


小麦「あたし……やっぱりそうなんだ……」


亮太「……小麦」


小麦「いつも迷惑かけてたから……っ」グスッ


亮太「……」


小麦「邪魔…だったんだよね……」ボロボロ


亮太「違う!」


小麦「だからっ…置いてかれたんだよ……ね」ボロボロ


亮太「エレナがそんなこと思うわけ無いだろ!」


小麦「だ…っ……だってっ」ボロボロ


亮太「……いつも一緒にいたんだろ?」


小麦「うぅぅ……」ボロボロ


亮太「だから、分かるはずだろ……」


小麦「ぐすっ……エレナ……エレナぁ……っ」


亮太「エレナの気持ち……分かるだろ、小麦」


小麦「ぐすっ……」


さとみ「……」

愛「……」

絵里「……」

にこ「……」

真姫「……」


海未「……」


亮太「だから、行かせてやろう」


小麦「……」グスッ


亮太「エレナから手紙を預かってるんだ」


小麦「……てが…み?」


prrrrrrrrr


穂乃果「うみちゃん……」

海未「……」


花陽「……っ」ボロボロ

凛「かよちん……せっかく顔洗ったのに」グスッ

花陽「うん……ごめん…ね……っ」ボロボロ

ことり「……っ」グスッ


亮太「ほら、小麦」


小麦「ううん……やっぱり……エレナのとこに行く」


亮太「……」


小麦「……ちゃんと……お別れしなきゃ」


亮太「小麦……」


小麦「エレナはっ……ぐすっ……あたしの相棒だから!」


亮太「……そうか……うん、そうだな」


小麦「だから……あたしの旅はここで……おしまい」


亮太「うん……」


小麦「ほら……乗って乗って」


亮太「分かったから、押すなっての」


小麦「じゃあね……みんな」


さとみ「……うん」

愛「さようなら……」

梓「お元気で……」

紬「頑張りましょう、小麦ちゃん」


小麦「あはは、だからその言葉だったんだね」


にこ「じゃあね」

真姫「……」

絵里「今までありがとう」


小麦「こちらこそ。……はい、亮太くん」


亮太「え?」


小麦「この映像は、みんなで見てね。……その方がエレナも嬉しいと思うし」


亮太「いいのか?」


小麦「うん! だって、ずっと一緒に見てきた景色だから、あたしの心にちゃんと残ってるもん」


亮太「……そうか、分かった」


小麦「ありがとね、色々と」


亮太「うん、ありがとうな小麦、楽しかった」


海未「希……こっちに」

希「え?」

海未「これを」スッ

希「あ……それで…いいの?」

海未「……はい」

希「分かった。じゃあ、行ってくるね」


海未「お気をつけて」


希「理由を聞いていい?」


海未「私の隣には穂乃果とことりがいて、同じ時間を過ごし、同じ景色を見て成長してきました」


海未「今までがそうだったように、これからも私はそうして行くのです」


海未「それに気づけた旅でした」


希「……そっか」


海未「希――」


プシュー


「いい旅を」



ガタン

 ゴトン



「みんなーありがとねー!」


亮太「……っ」

さとみ「……」

愛「……」


―― 1号車


ガタン

 ゴトン


にこ「ふぅ……」

ドサッ


真姫「……」

梓「走りだしましたね……」

紬「あ、梓ちゃん……見て」

梓「?」


「梓ちゃーん!」


梓「穂乃果!?」


「ありがとー!」


梓「また……! 走ると危ないって言ったのに……!」


「とっても楽しかったよー!」


梓「あ……」


「ありがとうーー!!」


ガタン

 ゴトン


梓「穂乃果……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


梓「……」

にこ「……」

真姫「……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


梓「私……ちゃんとお別れ言えてない……」

紬「……」


「大丈夫や、穂乃果ちゃんならちゃんと分かってるよ」


にこ「この声……?」


希「隣の乗車口から乗ってきたんよ」

真姫「希!?」

にこ「な、なんでここに居るのよ!?」

希「海未ちゃんの乗車証を受け継いだから」

真姫「え……海未の?」

絵里「海未は降りたわ」

梓「降りた……?」

紬「……」

希「海未ちゃん、乗り続けるかどうか迷ってたみたいで」

にこ「迷ってたの……?」

希「うん。……まぁ、その辺は後で本人に聞いてね」

にこ「……でも、なんで希なのよ」

希「んー?」

にこ「あっ、希ちゃんと一緒でぇ、にこ嬉しいなぁ~☆」

希「もぅ、ちょっと傷ついたで、にこっち……。うちで悪かったなぁ」

にこ「嬉しいって言ったでしょ!」

希「……」

にこ「えっと……の、希はヴェガに乗るの初めてでしょ? にこが案内してあげる♪」

希「ええよ、別に」

にこ「拗ねちゃいや~ん」キャピ

希「……にこっち」

にこ「え?」


絵里「……」

真姫「……」

梓「……」

紬「ちょっと、席を外すわね」スッ

にこ「う、うん……」

希「……みんな、気持ちの整理がつかないみたいやね」

真姫「にこちゃん、聞いてた?」

にこ「なにを……?」

真姫「海未が……降りるかどうか迷ってたこと」

にこ「ううん、聞いてなかったけど」

真姫「……そう」

絵里「どうしたの?」

真姫「べつに……」


梓「……どうして急に降りたんだろ」

希「梓ちゃんは知らないだろうけど、海未ちゃんにはこの旅に目的を持ってたんよ」

梓「目的……?」

希「『この旅で少しは強くなること』」

真姫「……学校の屋上で、私に言った言葉…」

希「そう。幼馴染の、穂乃果ちゃん、ことりちゃんが隣に居て、少しずつ成長してく」

真姫「……」

希「『それに気づけた旅でした』って、言ってたよ」

絵里「ちゃんと、目的は達成できていたのね」

希「あるいは、まだ旅の途中なのかもしれないね」

にこ「でもまさか、海未が降りちゃうなんてねぇ」

梓「……帰ったら、よろしく伝えておいてください」

希「うん」

真姫「……」

絵里「どうしたの、真姫?」

真姫「一緒に……この列車に乗ったのに」

にこ「……」

真姫「ここまで……一緒に来たのに」

絵里「なにも言わないで降りたのが……寂しい?」

真姫「……よく分からないけど、なんだか……納得出来ないっていうか」

梓「……私も、真姫の気持ちが分かる気がします」

絵里「……」

梓「なんの前触れも無く、降りていくなんて……水くさいじゃないですか」

絵里「……確かに、そうね」

希「水くさいじゃないか……と」

ピッピップ

梓「なにしてるんですか?」

希「チャット」

梓「……なんか、リアルタイムで私が言ったことを書かれると恥ずかしいのもがありますね」


真姫「……」


にこ「希、まだ車掌さんに挨拶してないでしょ?」

希「あ、うん……そうやった」

にこ「行きましょ。案内してあげるから」

希「……うん。梓ちゃん、返事来たら、やりとりしてもええよ」

梓「は、はい……」


絵里「真姫、まだ眠らなくて平気?」

真姫「……うん」


にこ「……」

希「にこっち?」

にこ「先頭車両へ行きましょ」


……



―― 売店者


ちひろ「いらっしゃいませぇ」


希「おぉ、売店の店員さんや~」

ちひろ「新しいお客様ですねぇ。私、根岸ちひろといいますぅ」

希「東條希といいます。次で降りますけど、よろしくお願いします」

ちひろ「はい、よろしくお願いしますぅ」


にこ「え、次で降りるの?」

希「そうや」

にこ「なんだ……最後まで行くのかと思ったのに」

ちひろ「京都の観光ガイドはいかがですかぁ?」

希「それじゃ、一つください~」

ちひろ「はい、どうぞ~」

希「これで次の観光もバッチリやね」


……



―― 寝台車


にこ「私、次で降りようと思ってるの」

希「……急に、どうしたん?」

にこ「色々と思うところがあって……もう、乗り続ける理由がないと思うのよね」

希「そっか……でも、にこっちも悩んでいるみたいやね」

にこ「悩んでないわよ。前から考えてて、ほとんど決めてるから……」

希「……ふぅん」


レイコ「やれやれ」


にこ「……あ」


レイコ「ん? なんだお前か」

にこ「なんかくたびれた様子だけど」

レイコ「夏目のヤツがもやしなので、私の自由が効かなくてな」

スタスタスタ


にこ「……弟を苗字で呼ぶって……変よね」

希「今の人は?」

にこ「夏目姉弟の、姉のほうよ」

希「……あの人が……」

にこ「知ってるの?」

希「……うん、花陽ちゃんが言ってた人」

にこ「花陽? 変なとこで繋がってたのね」

希「ふふっ、そうやね」


……



―― 動力車


にこ「ここが車掌室よ」

希「……おや?」


「……――。」

「そう――。わかり――」


にこ「話し声が聞こえる」

希「先客がいたようやね」


ガチャ


希「お……?」

にこ(誰か出てきた……)


「……ありがとうござました」

車掌「お力になれませんで……」

「それでは失礼します――」クルッ

希「おっとっ――」フラッ

ツルッ

希「うわ――」

にこ「あっ、あぶないっ!」ガシッ

希「……おぉ、ありがとう、にこっち」

にこ「お礼はいいからっ、自分の足で立ちなさいっっ!」グググ


「あっ、ごめんなさい!」

車掌「だ、大丈夫ですか?」

希「はい」

にこ「だからっ! いつまで持たれてるのよッ!」グググ


「あ、私が邪魔をしていますね……」

車掌「引っ張りますよ」

希「はい、お願いします」

車掌「……」グイッ

希「ふぅ……ありがとうございます」

車掌「いえ……」

にこ「ぜぇぜぇ」

希「にこっちは恩人やなぁ」

にこ「あんた……思いっきり持たれてなかった?」

希「信じてたから」

にこ「……それを言えば許されると思ってないでしょうねぇ」


「あの、本当に申し訳ありませんでした」

希「平気平気~。うまく避けたから、気にせんでもええよ~」

「なにかお詫びを……」

希「びっくりしただけやから。お詫びなら、後ろで支えてくれたにこっちに」

にこ「いいわよ別に。希に怪我はなかったんだから、あなたも気にしないで」

「は、はい。どうもすいませんでした」ペコリ

希「名古屋から乗ってきたん?」

「はい、そうです。岩泉風音といいます」

希「うちは東條希」

にこ「……矢澤にこ」

風音「よろしくお願いします」

にこ「一人旅?」

風音「そうです」

希「あ、そうだ、車掌さん」

車掌「はい?」

希「京都まで乗ることになりました。よろしくお願いします」

車掌「はい、分かりました。困ったことがありましたらなんなりとお申しください」

希「ありがとうございます。それと、乗車を認めてくださって、とても感謝しています」

車掌「ふふ、どうかくつろいでお過ごしください」

希「あ……――はい」

車掌「それでは、私はこれで失礼します」

ガチャ

 バタン


風音「それでは、私もこれで」

希「うん、またね~」

にこ「……」

希「さて……うちらも戻ろうか」

にこ「……そうね」

希「どうしたん?」

にこ「言いそびれてしまった」

希「……」

にこ「まぁいいわ。行きましょ」


……



―― ――


Umi   ―― 穂乃果はずっと笑顔のままで見送っていましたよ

Nozomi ―― 声が中まで聞こえた

Umi   ―― 伝えたかったことなのでしょうね

Nozomi ―― みんなは?

Umi   ―― 座席に座ってすぐ寝てしまいました

Nozomi ―― 花陽は?

Umi   ―― 起きてますよ。流れる景色を眺めているようです

Nozomi ―― そうなんだ。その後、みんなはどうだった?

Umi   ―― 別れの挨拶をしてから、列車が来るまでずっと誰も喋りませんでした

Umi   ―― 私も寂しさを感じて何も口に出せませんでした。みんなも同じだったと思います

Umi   ―― 穂乃果の明るさに引っ張られて、ちょっと元気になった気がしますが

Umi   ―― そっちはどうですか?

Nozomi ―― 希さんが乗ってきて驚いた

Umi   ―― そうでしょうね。私は希以外に相談していませんでしたから

Nozomi ―― 海未は知ってたんだ

Umi   ―― 勧めたのは私ですから

Nozomi ―― どうして降りたの?

Umi   ―― 希から聞きませんでしたか?

Nozomi ―― 一応聞いたけど、少しでも強くなるって。目的を持ってたって

Umi   ―― その目的を達成できた訳ではありませんが、意味を見つけられたかと

Nozomi ―― 意味?

Umi   ―― 始発から名古屋まで乗り続けた意味です

Nozomi ―― それって?

Umi   ―― さっきから質問が多いですね

Nozomi ―― ごめん

Umi   ―― いえ、不快に感じているわけではありませんよ

Nozomi ―― 気になったから

Umi   ―― 今までの時間と、これからの時間を大切にしようと気付かせてくれた旅だった

Umi   ―― と、いうことですよ

Nozomi ―― それは、私も思った

Umi   ―― 花陽が入ると思います

Nozomi ―― え?


― Hanayoさんが席に着きました。 !NEW!


Hanayo ―― 梓さんですか?

Nozomi ―― うん


Hanayo ―― ありがとうございました。

Nozomi ―― え??

Hanayo ―― とても楽しかったです

Nozomi ―― うん

Hanayo ―― それだけ伝えたかったのです

Nozomi ―― いきなりお礼を言われたからびっくりした

Hanayo ―― わたし、ちゃんと伝えたかったこと伝えられなかったので

Nozomi ―― 先輩も、私も、花陽に会えて、穂乃果たちに会えて嬉しかった

Hanayo ―― そう言ってくれるとわたしも嬉しいです

Hanayo ―― 伝えられてよかったです

Nozomi ―― うん、私も

Hanayo ―― それでは、少し寝ます。海未ちゃんとの会話途中にごめんなさい 

Nozomi ―― こっちこそ、ありがとう

Hanayo ―― はい。それでは

Nozomi ―― さようなら、花陽

Hanayo ―― さようなら、梓さん


― Hanayoさんが席を離れました。 !NEW!


Umi   ―― 肩ひじを張ってヴェガに乗っていたのかもしれませんね

Umi   ―― なんだか体が軽くなった気がします

Nozomi ―― どうしたの、突然

Umi   ―― 旅の疲れが出たようです。今はただ、みんなと一緒に眠りたくて

Nozomi ―― お家に帰るまでが旅だから

Umi   ―― そうですね

Nozomi ―― やっと実感してきた

Umi   ―― なにがですか?

Nozomi ―― もう、みんなと過ごした時間は戻ってこないってこと

Umi   ―― そうですね…

Nozomi ―― 花陽にお別れを言って知ることができた

Umi   ―― 私たちも、これから少しづつ実感していくのでしょう

Nozomi ―― 私もちゃんとお別れ言えてなかったから

Umi   ―― そうですね。それは突然ヴェガを降りた私も同じです


Nozomi ―― ありがとう、海未

Umi   ―― こちらこそ、ありがとうございました。梓


Nozomi ―― とても楽しかった

Umi   ―― 穂乃果が聞いたら喜びます。それは私も同じくらいに


Nozomi ―― 元気でね

Umi   ―― はい。梓もどうかお元気で


Nozomi ―― さようなら

Umi   ―― 真姫のことを、よろしくお願いします


Umi   ―― さようなら、梓。
 


― Umiさんが席を離れました。 !NEW!

― ただいま、Nozomiさん、1名が席に着いています。



―― ――


梓「……」

真姫「……」


にこ「青春ねぇ」


梓「わぁっ!?」

真姫「び、びっくりした……!」


希「ずっと後ろから覗いてたんよ」

にこ「それにしても、そっけない文字だったわよ?」

梓「慣れない相手だったからしょうがないんです」プンスカ

絵里「怒らないであげて、にこなりの励ましだから」

にこ「勝手な解釈しないでちょーだい」

真姫「……」

希「……真姫ちゃん?」

真姫「まだ分からないわ」

にこ「なにが……?」

真姫「海未が降りた理由よ」

絵里「……」

梓「旅の目的は達成できなかったけど、意味は見つけられたって」

真姫「その目的は学校の屋上で聞いたわ。
    それを聞いたから、私はヴェガに乗り続けたのに」

梓「さっき希さんも言ったけど、まだ目的を達成するために進んでるんだよ、海未は」

真姫「だから……それが……分からないの」

梓「……」


にこ「私、次で降りるわよ」


真姫「え……?」


にこ「私の旅は、次の京都でおしまいってこと」


真姫「……そう」


にこ「……」


真姫「……」


にこ「希、2号車を案内するわ。行きましょ」

希「うん……」

スタスタ


絵里「ということは、私も次で終わりね」

梓「……そうですか」

絵里「梓もでしょ?」

梓「はい」

絵里「『さようならの言葉の重さ』か……」

梓「私、降りる準備をしてきますので」

絵里「うん。またあとでね」


真姫「……」


絵里「私たちの旅も、次で終わっちゃうのね」


真姫「……」


真姫「……はぁ、…………わけわかんない」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


……



―― 2号客車


希「それにしても、ずいぶん急やな」

にこ「降りることは決めてたでしょ」

希「悩んでるように見えたんやけどね」

にこ「真姫のことでちょっとね。だけど、海未と梓の会話を見て、
   真姫の反応を見たらそうした方がいいと思ったの」

希「ふぅん……」

にこ「なんていうか、ヴェガの空気が重いわね。人が減ったせいかしら……」



亮太「……」

さとみ「……」


希「お二人さん」


亮太「……え?」

さとみ「あ、あれ……希さん?」

希「海未ちゃんの代りに、京都まで乗ることになったんよ」

亮太「代わり……?」


pipipipipi

にこ「……ん?」


さとみ「降りちゃったんだ……」

亮太「そうか……」

にこ「はい」スッ

亮太「?」

にこ「海未からのメールよ。ヴェガのみんなに伝えてくれって」

亮太「見ていいの?」

にこ「読み上げるのも面倒だから別にいいわよ」


亮太「……」


―― 


ヴェガの乗客のみなさんに伝えて貰えますか?


とても楽しい旅でした。

みなさんと一緒にいられて楽しかったです。

旅の終わりまで気をつけてください。

それでは、ありがとうございました。


――


亮太「……」


にこ「……」


亮太「は、はい……さとみちゃん」

さとみ「うん……?」

にこ「なによ、そのリアクション」

亮太「なんというか、アッサリしてるなって……」

にこ「そんなもんでしょ」

亮太「そ、そうか……」

にこ「もっと感動的な言葉が欲しかったわけ?」

亮太「そうじゃないけど。……でもまぁ一応、ここまで一緒だったわけだし、もうちょっとこう」

にこ「あんたねぇ、そんなことでショック受けてんじゃないの」

亮太「……」

にこ「ここまで色んな経験をして旅をしてきた割には器が小さすぎるのよ。
   そんな小さなことにいちいち拘らないの。そんなんじゃ――」

梓「ベガ」

にこ「ヴェガよ。――そんなんじゃ、大物になれないんだから」

亮太「う、うん」

希「無意識なんやろうな」

絵里「でしょうね」

さとみ「……」

希「ん? エリちと梓ちゃんはどうしたん?」

梓「むぎ先輩見ませんでしたか? 部屋に居なかったんです」

希「そうやなぁ、動力車からここまで歩いたけどまだ見てへんよ?」

梓「そうですか……後部車両にいるんですね。行ってきます」

テッテッテ

絵里「待って、梓」

スタスタ


希「エリちは自由気ままにお散歩する仔に世話を焼く飼い主さんみたい――……おっと、失言やな」


にこ「この厳しいアイドル時代、私たちもうかうかしてられないの。
    強く凛々しく乗り越えていかなきゃいけないの」

亮太「……」


希「なんでアイドル論になってるん?」

さとみ「……励ましてくれてるのかな」

希「え?」

さとみ「亮太君、ちょっと元気なかったから」


にこ「常に一歩先を行く世代と、私たちの後へと続く世代……止まっていたらあっという間に取り残されちゃうわ」

亮太「……」ガサガサ


希「京都のガイドブックやな」

さとみ「……用意していたのね」


にこ「ちょっと、聞いてる?」

亮太「うん……大変だよなぁ、アイドルも」ペラ

希「どこか行きたい所でもある?」

亮太「……うーん、特にはないかな」

にこ「ちゃんと話を聞きなさいよぉ!」

さとみ「……」


車掌「鶴見さん、よろしいでしょうか」

亮太「え……?」

車掌「お話がありますので、車掌室に来ていただけますか?」

亮太「は、はい……」

にこ「何したのよ」

亮太「何もしてない……よ」

車掌「よろしければ、ご一緒に話を聞いていただけると助かります」

にこ「私?」

車掌「……」コクリ

にこ「話の内容は……?」

車掌「松浦さんのことです」

亮太「愛ちゃん?」


さとみ「……」

希「……」


にこ「だとしたら、私じゃなくてさとみが代りに聞いてあげて」

さとみ「……え?」


車掌「それでは、こちらへ」


にこ「あ、車掌さん」


車掌「……はい?」

にこ「私、次で降ります」

車掌「分かりました。それでは、後ほど手続きをお願いします」

にこ「はい、分かりました」

希「……」


……



―― 3号客車


希「愛ちゃんのこと気にならないの?」

にこ「……気になるけど、降りてしまう私や希じゃ手助けにもならないでしょ」

希「そうやけど……」

にこ「私と松浦愛はよく話をしてたから、相談しやすいと思ったのでしょうけど……」

希「ゆっくり走ってるかと思ったけど、結構、加速してるんやね」

にこ「そうよ。色々とあるんだから、ヴェガの車内は……」

希「にこっちも寂しそうやな~」

にこ「うるさいわね……。希がいるとなんだか調子が狂うわ」


……



―― 4号客車


希「おぉ、2階や!」

にこ「走ってる時は真新しいことなんてあまりないけど」

希「そんなことないよ。目線が高くなってええやん」

にこ「楽しそうね、希は……」

希「もちろん。話には聞いてたけど、実際に乗ってみると新鮮な気分でワクワクするんよ~」

にこ「……最初に乗った時の私たちより楽しそう」


希「おぉ~、やっぱり特急列車は速いなぁ」


……




―― 食堂車


希「馴染みのある場所やね」

にこ「そうね、穂乃果がいつも絶賛してた料理よ。いつでも楽しめるわ」


―― 娯楽車


にこ「時間が余った時はここで遊んでたのよ」

希「おぉ~、ここに来たのは初めてやね~」

しのぶ「いらっしゃいませ」

希「ナイスバディのしのぶちゃんや」

しのぶ「ふふ、希さんこそ、ナイスバディだったじゃない?」

希「そんなことないよ~?」


にこ「むむむ……私には無いモノを……!」


ババーン

【 GAME OVER 】


レイコ「ちっ……」


にこ「?」


レイコ「つまらん……!」ガタッ

にこ「ゲームなんてやってたのね」

レイコ「暇つぶしにもならん」

スタスタスタ...


「なにか……妙な気配を感じるな」


しのぶ「ありがとうございました」

にこ「……気配?」

希「変わった人やんなぁ」

にこ「まぁね……」


梓「にこさん……むぎ先輩、見てないですよね」

にこ「え、うん」

梓「展望車まで歩いてみましたけど、居ませんでした」

希「器用にすれ違ったんやな」

絵里「そうかもしれないわね。もう一度個室へ行ってみましょう」

梓「そうですね。それでは」

テッテッテ

絵里「それじゃ、後でね」

スタスタ


にこ「……絵里は暇なのかしら」

希「かもね」


……



―― 展望車


希「走る展望車もええやん~、空を眺めながらってのが新鮮~」

にこ「あんた、本当に楽しそうね……」


ボロロン ボロン 


にこ「誰かピアノ弾いてる……」


ポン ポン


真姫「ジムノペディ……」

にこ「びっくりした……後ろから声かけないでよね」

真姫「……」

にこ「弾いてるのは……確か、北上緑……だったかしら」


緑「……」

ポンポン ポロンポロンポロロ


真姫「にこちゃん、降りる準備してるの?」

にこ「まだよ」

真姫「いいの? すぐ到着しちゃうけど」

にこ「明日の朝、東京行きに乗ろうと思ってるから平気でしょ」

真姫「泊まる所はどうするの?」

にこ「……ヴェガに泊まるわよ」

真姫「あのね……この列車にも都合があるでしょ。相談もなしに勝手に決めていいの?」

にこ「う……」

真姫「まったく……何も考えずに降りるって決めたのね」


風音「わぁ……すごい」


希「お、風音ちゃんや」

風音「あ……こんにちは」

希「ここ、気に入ったみたいやね」

風音「ふふ、はい。観葉植物もあって、なんだか落ち着きます」

希「風音ちゃんは都会派というより、自然派って感じがするね」

風音「はい……こういう服しか持ってなくて……」

希「ううん、とっても似合ってるよ」

風音「ありがとうございます。実は気に入ってるんです、この服」

希「休みの日は山に登ったり?」

風音「……はい。していました。今は引越して、都会の方に住んでいるんですけど」

にこ「私たちは東京よ、大都会よ」

風音「そ、そうなんですか……」

真姫「なにを競ってるのよ……」


希「風音ちゃんはどこまで行くん?」

風音「山口で降ります」

にこ「ヴェガが停車する都市じゃないわよね」

風音「はい。広島の次です」

真姫「どうしてそんなところに?」

風音「えっと……?」

真姫「あ、私の名前は西木野真姫よ。にこちゃんと希と一緒に乗ってるの」

風音「岩泉風音といいます。よろしくお願いします」

真姫「うん……と言っても、次で降りるけど」

風音「そうなんですか……」


にこ「……」


希「山口まで一人旅って、度胸あるんやね」

風音「そう……ですね」

希「?」

風音「引越しする前に住んでた場所なんです。今どうなってるのか、知りたくて」


真姫(話に違和感が残るわね)


にこ「ということは……引越しして結構経ってるの?」

風音「1年……も経っていないです」

真姫「……それじゃあ、そんなに変わってないんじゃない?」


緑「1年って結構な時間だと思うけど」


にこ「まぁ、確かに……」

真姫「景色なんてそうそう変わるものじゃないと思うけど、人とは違って」

風音「……」


緑「……別に、どうでもいいけど」


希「あ、演奏の邪魔をしてゴメンなぁ」


緑「……別に」

スタスタスタ


真姫「……」