友「世界で君と二人きり」(80)





女「ねー、友ちゃん」


隣にいる女ちゃんが口をひらく


友「何、女ちゃん」


二人でてくてく歩きながら、私も話す


女「今日はどこまでいこっか」

友「鎌倉辺りまで行ってみない? 少し遠いかな」


昨日は半島と本土の境目くらいまでいった
今日はもうちょっと遠くまで行ってみようかな

女「自転車とか有ったら楽かもね~」

友「そうだねー……あっ、でも道路草で覆われてるから走れないかも」


今いる線路も半分ほど草で埋まっている
道路とかはアスファルトを突き破ってきた草がいっぱいだ
そのうえ押しのけられたアスファルトがでこぼこして走りにくい


女「うあ、そっかー……何か無いかね移動手段」


はぁ、と大袈裟に溜め息をつく女ちゃん

友「んー、っ……くふっ、けほ、げほっ……」


考えようとした所で咳込んでしまう
びちゃりと音がして、血が吐き出る
女ちゃんはそれをみて、さっと青ざめる


女「友ちゃんっ!」

友「だいじょぶ、けほっ……まだ、大丈夫だよ……」


まだ、まだ平気だ
身体は動く、頭も働く
ゆっくり深呼吸して呼吸を整える

友「うぇ、血ぃ付いちゃったな、海岸に洗い流しに行こ」

女「…………ん、うん」


女ちゃんはすごく悲しい顔をする
やめてよ
そんな顔しないでよ


女「そうだねっ、魚いるかな? でかいの!」


私の気持ちが伝わったのか、にこやかにおどける女ちゃん


友「あはは、大きいのいるかなぁ」

女「鮫とかっ」

友「さめ!? さめは流石にいないって」

女「じゃぁイルカ」

友「じゃぁ、って何さ、もっといないよ」


女ちゃんは掛け合いがツボにはまったのか、くすくすと笑う


女「ふふふふっ、釣りとかしたいなー」

友「女ちゃん、釣りしたことあるの?」

女「ううん」

友「え、したことないのに?」

くるくると踊るように線路を歩く女ちゃん
私もてくてくとついてゆく


女「ほらほら、海沿いの釣り具店かなんかから道具とって来てさ」

女「とりゃーってやったらなんとかなるんじゃない?」

友「アバウトだなぁ」

女「いーじゃん、誰も見てないしアバウト万歳」


そう、誰も私達の事を見ていない
だれもみることができない


友「ほらほら、そろそろ海だよ」

女「んー、どれどれ……おっ! 見えた見えた! レッツゴー!」

友「あ、ちょ、ちょっと待ってよぉ」


《あの日》から一年。
人は消え
家は壊れ
街は朽ち
国は果て


世界にいるのは、私達だけ。

少し休憩

世界観、理解してもらえてるでしょうか……?





《あの日》に一体何が起きたのかは、良くわからない
何か光った
音が鳴った
消えた
消えた消えた消えた、全部消えた

私達以外が、消えた

女「ぅ海っだぁぁあああぁぁっ!」


海岸沿いの林を抜けると、途端眼前に海が広がる
女ちゃんは海へと走り込む


女「うっひゃ、つべたっ! 水つべたいっ!」

友「もぅ、女ちゃん置いてかないでよぉ」

女「友ちゃん友ちゃん、早くっ、気持ちいーよ」


海は水面で光を反射し、きらきらと宝石のように輝いている
海は綺麗になった
人が消えてから一年近くが経った
今まで人類が流していた汚れはきれいさっぱり無くなった
だから……

女「んー、水綺麗ーっ」

友「昔じゃ考えられないほどだよね」


女ちゃんが、少し自虐的に笑う


女「そーそー、私達どれだけ汚れ出してたんだよってね」


森だって川だって綺麗になった
こういう光景を見ると、いつも思う
もしかしたら人間が消えて良かったのかも、なんて
それはきっともしかしたらでもなんでもなくて
真実なのだろうけど

友「ん、血も落ちたね」

女「水道が動かないのは痛いよね」

友「とっさに使えないのはねー」


世界は綺麗になったけど
そのかわり、電気だとかそういう供給は勿論停まってしまった
現代日本で暮らしていた私達としては、不便極まり無い


女「まだ早いけど……昼ご飯どうしよっか」

友「スーパーかなにかで缶詰とって来よう、スープとか作るかな」


料理は他人の家にあるガスコンロ、もしくはカセットコンロを使う
なにもかも使用不可な今では、火種があるのはとてもありがたい

女「うぅ、缶詰じゃ無いものも食べたいなー……」


当然ながら、野菜果物お肉に魚は軒並み腐っちゃってる
一年経ったんだもん、そこは諦めるしかない


友「新鮮な、ね」


野菜は作れば良いし、果物も野生の物をもぎ取ってくればいい
でもお肉となれば話は別
私も女ちゃんも、運動は得意とは言え女の子だ
狩りなんてできない、肉を捌いたりできない


友「まぁでも、そんな贅沢も言ってられなくなるかもしれないけど」

女「ん? 何が?」

友「なーんでもない、ほらもう行こっ」

輝く浜の砂を踏み締めて、歩いてゆく


女「江ノ島見えるかな……見える気がしなくもない……」

友「あれかな……ぼんやりしてるけど」


まだかなり遠いけれど、島の形が見える


友「女ちゃん、見える?」

女「うー、びっみょーに見えない」

友「そっか」

《あの日》
消えなかった代償なのか、身体に異変が起きた
私は血を吐くようになった
身体の中がボロボロになっている気がする
女ちゃんは片眼が見えなくなった
最近、片耳が聞こえなくなってきたらしい


女「江ノ島行ったことある?」

友「小学校の時、学校でいった気がする……ほらあの水族館」

女「あぁ、ゾウアザラシとかいう、でぶいのがいるとこでしょ」

友「そうそう、名前何だっけなー」


私達はもうすぐ死ぬ

女「あれ? でも水族館って島の方にあったっけ?」

友「そっか、島じゃなくてこっちの方にあるんだ」

女「じゃぁ行ったこと無いってことになるのかな」

友「今度行こうよ」

女「うん、行こうね」


あと一年は持たないだろう
私も女ちゃんもそれを理解している

友「絶対行こうね」


それまでに
やれることをやらないと

女「ひとまず今日は鎌倉まで行ってみないとね」

友「鎌倉って何があったっけ」

女「えっと、えと……あ、大仏だ」


後悔を、しないように
心地良く死ねるように

女「よし、俄然やる気が出てきた! 急ぐよ友ちゃん」

友「もー、そんなに走らなくてもいいじゃんかー」


私達は進みつづける
死へ向かって、進みつづける

私達はどこまで行けるんだろう





友「で?」


冷めた眼で女ちゃんを見下ろす
女ちゃんは引き攣った顔でもごもごと何か言いながら正座している


女「も、申し開きもございません」

友「別に私は怒ってる訳じゃ無いんだよ」


嘘だけど
思いっきり怒ってるけど


友「私はどうやって責任をとってくれるのか聞いてるんだよ、女」

女「呼び捨てっ!?」

友「ん? 何か言った?」

女「い、いえ……なんでも……」


ちょっと苛々が溜まってるから発散しないと
尋問でも始めよう


友「で? 横須賀に帰ろうと思ったのに帰れないのはなんで?」

女「……辺りが暗くなってしまったからです」

友「暗くなったのは誰のせいだっけ?」

女「……私のせいです」

友「どうして暗くなってしまったんだっけ?」

女「……私が寄り道ばかりしていたら夕方になってしまったからです」

友「ふぅん……で?」


にこにこと笑いながら質問する
何故か女は私を見てがたがたと震えていた


女「あ、わわ……も、申し訳ございませんでしたっ!」

友「だから謝ってほしいんじゃ無いってば」


不意にごろごろと音がなる
空を見上げると灰色の雲がだんだんと近づいて来ている
夏だとこういう夕立がよくある
これは一雨来そうだ


友「はぁ……まったく……雨が降りそうだから建物の中に入ろうか」


がば、と下げていた頭を上げて女が言う


女「許してくれるのっ?」

友「ううん、許してあげない」

女「…………」


女が「怒ってる、マジギレだよぉ」とか虚ろな眼で言っている
まぁ、こんなのは放っておこう
雲が既に頭上まで到達していていつ降り出すかわからない
私達は近くにあったコンビニへ避難する


友「ん、しょ……っと」


もう自動じゃ無い自動ドアをこじ開ける
開いた途端、つんと鼻を突く酸っぱい臭いが漂う
おにぎりとかパンが腐った臭い
食べられる物だけ取ってさっさと出よう

友「ひとみー」

女「ぅひゃいっ!?」

友「そんなに怯えないでよ、ほら使えそうな物さがして」

女「わかりました! 全力を尽くしますっ!」


流石に罪悪感が出てきた
後で許してあげよう


友「食べ物、食べ物……ん」


コンビニには結構長持ちするものがある
お弁当は腐ってたり、虫や鼠に食い荒らされているけど
缶、ペットボトル、一部のカップ麺なども数年は大丈夫だ

女「友様、乾電池がありましたがどうしましょうか」


友様って何だ、様って


友「えっと、取っておこっか」

女「わかりましたっ」


乾電池は重要品
コンセントがうんともすんとも言わない現在で唯一の電気
懐中電灯を始め、乾電池使用の物はまだ動くからね

友「このくらいで……いいかな」


今夜の晩御飯と明日の朝御飯に使えそうな分だけを取り店を出る
ぽたぽたと雨が降っている


友「女は何持ってきた?」

女「はいっ、ええと……」

友「あぁ、待ってひーちゃんひーちゃん女ちゃん」

女「ひーちゃん!?」

友「許してあげるよ」

女「えっ、ホントっ?」

友「そのかわり今度からちゃんと考えて行動してね」

女「するする絶対いたします!」


はぁぁ、良かった、キレてる友ちゃん怖かったなぁとか言ってる
そんなに怖かったかなぁ

うわお

ひーちゃんじゃねぇよ
め―ちゃんに脳内変換お願いします

友「それで、何持ってきた?」

女「いくつか服とか……あ、そうだそうだ! これこれ!」


持っている中から一つ袋を見せてくる


女「お菓子! なんだかんだ言って今まで食べなかったお菓子だよ!」

友「ん、菓子かぁ……そういえば《あの日》から食べてない」

女「賞味期限がぎりぎりだから今のうちに食べとかないとなって」


確かに見てみればもう少しで期限切れだ
というか一年も持つお菓子ってあるんだ

女「夕飯の後食べよ食べよ」

友「その前に今夜どこで夜を過ごすか決めないと」

女「う……え、えっとホテルとか……?」

友「とにかく探そ、雨強くなっちゃう前に」


雨脚が強くなり始めたので、少々小走りで探す
程なくして旅館が見つかった
流石に観光地ともなると旅館はすぐに見つかる
私達には高級過ぎるものだったけれど
まぁ、今となってはそんなこと関係ない

女「お布団の状態は良い感じだね」


綺麗な日本庭園だったであろう中庭は草で埋もれていたけれど
それ以外は目立った損傷もなく、一晩過ごすには十分過ぎるほどだった


友「それじゃ私は夕御飯の準備してくるから、布団敷いておいて」

女「らじゃーっ! お布団ふかふかだっ」


まるで旅行みたいだなって
いつもと違う雰囲気に二人とも興奮して、遅くまで話しつづけた
明日はどこにいこうか、なにをしようか

早々に止むと思われた雨は一晩中降り続けた





私と女ちゃんは知り合いではなかった
《あの日》全てが消えた世界で出会った
彼女がいたから私は生きて来られた
二人だから今までやってくることができた

一人きりでこの世界を生きるのはどんなに辛いことだろう

友「ごぶっ……がふぁ……っ」


ばしゃりばしゃりと音を立てて大量の血が飛び散る
すぅっと身体が冷たくなる、手が震える、視界が闇に包まれる
命を喪失していく感覚が背中を走る


友「けふ……ごは……はぁ、はぁ……」


最近だんだん吐く血の量が増えている
二週間ほど前――鎌倉に向かった頃――からだ

友「くふ、あはは……これは……もう、駄目かな」


多分、もう死は目の前なんだろう
あと一ヶ月も持てばいいほうだ


友「死んじゃうのかぁ……」


しんじゃうのか
しんじゃうんだ

友「う、ぅ……死んじゃ、うのやだよぉ……うぁぁ、ぐす、うぁ」


まだ死にたくないよ
もっと生きていたいよ


友「ひっく、うぇぇ……っ、うぐ……うあぁぁあぁぁ」


ここで泣いている訳にはいかない
女ちゃんが私の姿が見えなくて探しに来てしまうかもしれない
これを見られてはいけない

友「げほ、ぐす……戻らなきゃ……」


タオルで口周りの血を拭う
口の中にじんわりと鉄の味が残っている
後でうがいをしなければ


友「ふ、ぅ……随分遠くまで来たなぁ」


鎌倉に泊まることになったときから定住はしないことにした
移動した先にあるホテルや旅館に泊まって、また移動
そんな感じで少しずつ進んできた
今は箱根
既に観光のため三日間はここにいる

友「富士山まで……いけないかな」


血の量と反比例するように身体の動きは鈍くなっていく
じわじわと進める距離も減っている
このままでは辿り着けないだろうな
考えながら女ちゃんがいる所まで戻る


友「女ちゃん、戻ったよ」

女「…………」

友「ん? 女ちゃん、ひとみちゃーん」

女「え、あっ、ごめ、お帰り友ちゃん」

友「どうしたのさ」

女「いや、その、ちょーっとぼーっとしちゃったから……あはは」

友「…………」


嘘だ
女ちゃんは最近呼んでも気がつかない
片耳がもう完全に聞こえなくなっているんだろう
そのくらい気がついている


友「もー、しっかりしてよね」

女「ごめんごめん」


だからきっと
女ちゃんも私がもう駄目な事を分かっているだろう
言葉になんてしないけれど

今日はここまでです

読んでくれてありがとうございます

スレタイ……っていうか主人公が友なのは何でかってことですよね

えーと
友と男で書こうと思ってたんですけど
なぜか書き始めたら男が女に……

と言う訳で友が主人公です

良く考えたら友が主人公の理由
理由になってませんね

なんていうか、こう
一歩引いた大人しめの女の子からの目線の話が書きたかったんです
そう考えると『友』っていう確立されたテンプレがこれにハマったんで

そんなわけで友が主人公です

投下始めます

友「さぁ、女ちゃん出発しよっ! 今日は箱根八里を歩くんでしょ」

女「そうだった、できる事なら紅葉シーズンに来たかったけどね」

友「じゃぁ、また今度、秋に来ようね」


また今度


女「よっしハイキングだ、お弁当何?」

友「ふふふ、秘密だよっ、向こう言ってから」

女「うーっ、楽しみだね!」


できる限りの努力をしてお弁当を作った
ご飯も炊いた、自動の炊飯器が無いから焦げちゃったけど

女「あー、でもこの旅館を出るのは少しもったいないなぁ」


私たち、ここ数日はいかにもな高級旅館に泊まっていた
お値段聞いたら卒倒しそうなくらいの高級っぷり
ヒノキの天然露天風呂は最高でした


女「もいっかい、入ってかない?」

友「だめだよ、これで最後だからって昨日ゆっくり浸かったでしょ」

女「ちぇーっ」

友「うだうだ言ってないで出発!」

女「うぁー、私のお風呂がぁぁ……」


あまりのんびりしている暇もない

女「はぁ、お風呂……」

友「確かに温かいお風呂は貴重だけどさ」


今までは夏だったから、最悪水風呂とかでも我慢できたけど
これから寒くなってくるとそうはいかない
そう考えるとここに定住してしまった方が良いのかもしれない
……でも、ね


友「いいから行くの」

女「はぁい」

友「今日中には箱根抜けようね」

女「らじゃーっす隊長!」


少しだけ涼しい朝の風
頬を撫でて行くそれはとても気持ちいい


女「ハイキング日和だねぇ」

友「うん、良い天気」

風に乗ってきたのか、ふわりと独特な硫黄のにおいがする


女「ん、んーこのにおい苦手だ」

友「私はこれ嗅ぐと黒タマゴ食べたくなる」


箱根名物黒タマゴ
ぐつぐつと煮立った硫黄泉の中で卵を煮ると殻が真っ黒になる
食べると

寿命が延びるそうで


友「黒タマゴ食べたかったなぁ」

女「私食べたこと無いや」

友「このにおいダメならきついかな」

鮮やかに濃い葉っぱを茂らせる夏緑樹林が広がる山々
街路樹の木もつやつやと肉厚の葉を光らせる


女「箱根越えたらついに神奈川から抜けるよね」

友「横須賀から良くここまでこれたと思う」

女「どんくらい歩いたかな?」

友「ざっと考えて……五十キロかな」

女「うわ、聞いても長いのか短いのか分かんないや」

友「歩いたんだよ、たくさん」


距離が長いとか、時間がかかったとかそんなの関係無く
いろんなもの見て
いろんなことして
歩いたんだよ


女「そっかな」

友「そうだよ」

女「何か見つけられたかな」

友「何か見つけられたはず」

女「そっか……」





女「……友ちゃん」


蝉の声が鳴りやまない夜
女ちゃんが言った


女「起きてる……?」


もそり、布のこすれる音がした
女ちゃんが起き上がったのだろう


友「うん、起きてるよ? どうしたの、眠れない?」

女「………………ううん」

友「どうしたの?」

女「少し、夜の散歩しない?」

外は真っ暗だった
家の明かりは無い
その上今日は新月で
本当にただ星だけがぼんやりと光っていた


女「涼しいね……」

友「うん、とっても」

女「静岡まで来たね」

友「いつもより近くで見る富士山はすごいね」

女「うん」

いつもとは違う雰囲気の女ちゃん
すごく儚くて、壊れてしまいそうな
不安を孕んだ声で言う


女「私、どうなるのかなぁ」

友「っ……」

女「目が見えなくなって、耳が聞こえなくなって、指が動かなくなって」


女ちゃんは左手で右手の指をさする


友「指、動かないの?」

女「うん」

女「私……」

友「…………」

女「半分だけ壊れ続けてって」


半分だけオカシクテ、半分だけクルッテテ


女「全部だめになるのかも分からなくてね」

友「女ちゃん……」

女「何で《あの日》があったんだろう」

友「それは……」


その質問は、二人とも考えても口にしなかった
タブーだったのか分からないけど
言っちゃいけないような気がしてた
でも


友「私は……世界の自浄作用だと思ってる」

友「なんていうか、魔法みたいだけど」


やりすぎた人間を


友「地球が壊れちゃわないような、システムがあるんだと思う」

女「…………」

友「汚しすぎちゃったんだよ、私たち」


だから、消された
死んだんじゃなく、消えた
死体も残さず消えちゃった

女「何で……」


泣きそうな顔で女ちゃんが呟く


女「何で私たちだけ、消えなかったの?」

友「それは……」


友「……っ!?」

ず、ぐん……と身体の芯が熱くなる
吐き出さなければ狂ってしまいそうなほどの感覚
身体の芯とは逆に手足は冷えて行く
これは


友「……っ、あ」


これは、駄目だ

私の異変に気がついた女ちゃんが見える
女ちゃんの悲鳴を聞きながら私は意識を失った
























……
…………
…………いたい

「       」

……なにか聞こえる

「――――っ! ――――!」

いたい、体が痛い
叫んでるのは何、誰?

「――ちゃんっ! 友ちゃん!」

打ち付けたような体の痛み
徐々に体が覚醒する

「友ちゃん! お願い目を覚まして!」

友「女……ちゃん……ぐぶっ」


声を出した途端、血が吹き出す
横たわっている地面に、にちゃりという粘液のような感触がある
吐き出した大量の血だろう


女「友ちゃん!」

友「あは、は……ごめ、がほっ」

女「友ちゃん、もう喋らないで……身体が」


ぽたぽたと私の頬に女ちゃんの涙がかかる


友「大丈夫、少し経てば、平気、だから……」


未だ朦朧とする頭が、地面から伝わる熱で冷えて行く


友「私……どれくらい気を失ってた?」

女「ほんの少し……一分くらい」


そんなに長いわけではないようだ

一週間も持たないなんて、甘く見過ぎてた
身体はもう動かない
いつ死んでもおかしくないんだ


友「今日かな、明日かな」

女「……何が?」

友「ううん」


友「女ちゃん」

女「…………」

友「私がさ」

女「……やめて」

友「死んじゃってもさ」

女「……やめてよ」

友「女ちゃんはさ」

女「やめてよ」

友「私を追ってきたりしちゃ」

女「やめてよっ! そんな話聞きたくないよ!」

友「やめないよ」

友「だって私もう死ぬもん」

女「そんなこと無いっ」

友「分かってるでしょ、私はもう駄目だよ」


動きは鈍り、力は失せて
何より、地面に赤々と拡がる血溜まりを見れば一目瞭然だ


女「だって……だってっ」

友「泣かないで、女ちゃん」

友「……うぅ、っ」

友「だからさ、私は、もうすぐ死んじゃうけど」

女「…………」

友「私を追って、自殺しちゃ、絶対に駄目だよ」

女「そんなの……ひどいよ」


分かってる
酷いことを言っているのは、分かっている
この世界で一人ぼっち
それはあまりにも、ひどい

友「絶対駄目だからね」

友「ほら、もしかしたら他にも誰かいるかもしれないし」

友「《あの日》の原因が分かっちゃったりするかもだし」

女「……友ちゃんは怖くないの?」

友「ん? 何が?」

女「……死ぬ、んだよ?」


死ぬことなんて


友「そんなの……怖いに決まってるよ」

女「…………」

友「怖くて怖くて堪らない」

友「まだやりたいことはいっぱいある」

友「悔しいよ、悲しいよ、命が惜しいんだ」


心地良くなんて死ねないよ
後悔しないで死ぬなんて、できないよ


友「でもさ……」

女「……?」

友「そんなの、仕方ないんだよ」

ぐるぐる気持ちは渦巻いてるし
ごちゃごちゃ気持ちはまとまらないし

それでも


友「私は幸せだったよ」

女「……っ」


友達と遊んだり、学校で勉強したり
女ちゃんと出会ったり、女ちゃんと過ごしたり
《あの日》の前も《あの日》の後も
ずっと
ずっと幸せでした

見上げた空には星が広がっていて
明かりの無い世界のそれは、どうしようもなく輝いていて


友「星が……綺麗だな」

epilogue



「海岸沿いをー、てくてく歩くー」

「ゆったり、ゆっくり、てくてく歩くー」

「冷たい水にー、足をひたしてー」

「紅い夕陽にー、照らされながらー」

「…………」

「私一人で……歩いて行くよ……」

「…………」

おしまいです

なんか駆け足感がやばいかも
こんな私の駄文を読んでいただきありがとうございました

そうだミナゾウ君だ

ミナミゾウアザラシでミナゾウ君だ

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