ジャック・インザ・ボックス (12)

僕が彼女と出会ったのは、リチャードの誕生日パーティーが初めてだった。リチャードは僕の友人で、ちょっとお茶目でワイルドな、中々イカした奴だ。まあ、リチャードのことは忘れてもらって構わない。この話には関わらない人間だから。

「貴方はどの箱に入っているの?」

いきなりなんだ、と思うだろう。実際僕もそう思った。

「残念ながら、僕にはおもちゃ箱に入って一夜を過ごす趣味はないんだ」
「でも、貴方はジャックでしょう?」
「ジャックは箱に入らないといけない、なんて法律はないよ」
「ジャックは箱に入ってはいけない、なんて法律もないわ」

制定されるはずもない。

「それで、僕が箱に入っていたとして、君はそれをどうしたいんだい?」
「開ける」

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シンプルかつ堅固な答え。こんな場面でさえなければ賞賛したいほどだ。

「確かに、閉まっているものを開こうとするのは、人の好奇心に照らし合わせても何も間違った行動ではないね」
「でしょう」
「それで、開けるだけかい?」
「開けて、宇宙の真理を観測する」
「は?」
「宇宙の真理を確かめるの」

これが、僕と彼女のファーストコンタクト。

***


量子力学の発展のためにシュレディンガーさんとかいう博士が実験をしたらしい。

箱の中に助手のジャック君と原子を一粒入れて、そのまま放っておく。箱には仕掛けがあって、原子が崩壊すれば毒ガスが箱の中に撒き散らされる。いくらなんでも人道に反しすぎた実験だと思うのだが、科学の発展のためにはやむを得ないという意見もあるので深く言及するのは控えておこう。

数十分後に博士は箱の中に声をかける。

「ジャック君、生きてるかい?」
「我思う、故に我あり」

その後、ジャック君は口を閉ざし、箱の外からの全ての刺激に応えることは無くなる。

箱が開けられたのはそれから一ヵ月後で、ジャック君は変わり果てた姿で発見される。目下の死因は餓死だ、と研究者の間では信じられているという。

ちなみに、この話にはたくさんの異説がある。

ジャック君が自力で箱を壊して戻ってきたとする説。

毒ガスは流れたが、たまたまガスマスクを持っていたジャック君が一難を逃れたという説。
毒ガスは流れなかったが、心臓麻痺の発作でお亡くなりになったという説。

毒ガスが流れる直前に時空の狭間へと逃げ込んだジャック君が姫をめぐって電子鰻と戦う説や、世界中のトランプの中に隠れて危険な目にあわせた博士への復讐の機会を窺っているという説を信じている研究者もいる。

そもそもジャック君ではなく罪の無い子猫が箱に入れられたという説が最近は台頭してきているらしい。

僕としては、そもそもそんな実験は行われなかったという説を推したいのだがどうだろう。


***




「君自身が箱に入ればいいんじゃないかな」
「蟻に蟻の巣は観察できないの」
「確かにそうだ」
「それに、箱に入るのはジャックの仕事なの」


「もし、僕がジャックでないとして、それなら僕は箱に入らなくていいのかい」

彼女に問う。

「全ての貴方がジャックではないと限らない」

彼女は答える。

「つまり、君がジャックである可能性も十二分にあるわけだ」
「少なくとも0以上の確率で確からしいわね」

確率が負でないと分かっただけでも十分な収穫だ。




「箱の中にいる任意のジャックに対して、あらゆる事象を観測することができる」
「なるほど、つまり」
「重ね合わせよ」
「逆に言えば、箱を開けてしまった時点で一つの状態に収束してしまうわけだけど」

収束。終息。集束。

「それはもう、神様でもどうしようのない自然の摂理ね」
「神様はジャックなのかい?」
「その可能性は零ではないわ」


 ***

箱に整数人のジャックを入れたとする。
勿論その数は零でも負でも構わない。

零ならそこにはいないジャックが存在するのであり、箱の中に負の人数のジャックがいるのなら、その代わり箱の外に正の人数のジャックがいるというだけだ。

整数以外の数を使ってもいいが、その場合スプラッタな状態になってしまうであろう事はあらかじめ警告しておく。

ジャックはそれぞれ一人ずつにあらゆる可能性が存在する。
これが複数人存在するならば、それは則ち宇宙が複数存在するのと同じことなのであり、僕らが普段多元宇宙だの平行世界だのと呼んでいるものの正体は、密閉された箱の中でそれぞれ微睡むジャック達なのだと言うのは過言である。

 ***




「それで、結局、貴方はどの箱に入っているの?」
「あらゆる箱の中にいて、全ての箱の中にいない」

箱の中に入ってる僕も、箱の中に入っていない僕も、それより上の段階のジャック達の夢の産物なのであり、そんなジャック達も、更に上のジャックの夢ではないだろうか。

「開けてもいいかしら」
「ご自由に」


おわり。

円城塔さんみたいな文章を書いてみたかった。盛大に失敗した。

乙、雰囲気出てると思う
嫌いじゃない

特定キャラにヘイト向けるのは良いけど
発散させないからただただワンパなんだよね

これを面白いと思ってやってるなら狙いは大きく外れてるし
スレタイを消化するような内容にもなってない。惜しいだけの凡作。虚しいね

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