ハンジ「抱かれたい男ナンバー2!」(67)

リヴァイ「抱かれたい男ナンバー1?」
リヴァイ「抱かれたい男ナンバー1?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/6689/1410371898/)

のハンジ視点の物語になります。

*リヴァイの視点とクロスさせながら読むと面白いかもしれません。

*「悔いなき選択」の後、調査兵団に残ったリヴァイがその後、ハンジと少しずつ仲良くなっていく話がメインです。

*世界観は原作基準で書いていますが、多少自分なりの「解釈」と「捏造」もあります。

*特に「ハンジ」が恐らく開発したと思われる「女型の巨人を捕えた罠」の製造経緯については完全に「妄想」です。

*原作の記述(7巻参照)を参考にはしていますが、この物語の中ではリヴァイの言葉がヒントになったという設定。

*なのでそこは原作とは別に考えて下さい。すみません。

*展開によってはアダルト表現行きます。いつも通り思いきり行ってもいいかな? いいよね?

*という訳で、リヴァイ×ハンジメインの妄想話を投下します。OK?




リヴァイが正式に調査兵団に入団して壁外調査に出て、彼が初めて「巨人」を倒す場面を見た時、私は思わず「滾って」しまった。だからついつい、それ以後、私はリヴァイに自分から話かける事が増えたと思う。

一緒に入団してきたイザベルっていう女の子とファーランという男の戦死を経験してからは暫く落ち込んでいたようだったけれど。調査兵団はやる事が多いから、雑務に追われている内に次第にリヴァイの表情も落ち着いてきたように思えた。

彼が調査兵団に在籍するようになってからは確実に「討伐数」が右肩上がりに伸びた。

ダントツの討伐数が認められて、彼が調査兵団の「顔」になるのは必然でもあった。

彼は数年であっという間に「兵士長」の役職を与えられて、今では調査兵団になくてはならない人材に上り詰めた。

それでも、壁外調査を終えて雑務を大体こなした後は、リヴァイは肩を落としたりため息をついている事が多い。

それも、独りで。周りに人がいない事を確認してから落ち込んでいる。

私はそれをこっそり観察して、いつも後ろから彼に話しかける。

ハンジ「こらー! ため息つかない! 陰気を吐き出しちゃダメだよ!」

リヴァイ「………ハンジか」

リヴァイは私より背が低い。160cmしかないから、絡む時に凄く絡みやすい利点がある。

肩を叩いたりする時に丁度いい位置にそれがあるからだ。

だからその時も、とりあえず肩を触った。ポンと叩いた。

ハンジ「人類最強のリヴァイがそんな顔しちゃダメでしょうが。ほら、笑って(ニー)」

リヴァイの唯一の「欠点」は表情が硬いことだと個人的には思っている。

たまには思いっきり笑ったりしてもいいと思うんだけどな。

リヴァイ「ムードメイカーはハンジだけで十分だろうが。ため息くらい、つかせろ」

ハンジ「いやいや、陰気は周りに散らかしたらダメだよ? その影響は意外と周りに伝わるものだからね?」

リヴァイ「………お前の自室の方が余程「陰気」な気がするが?」

ハンジ「ん? 何のことか分かりませんな? 私の自室は快適な空間ですけど?」

リヴァイ「………以前、足を踏み入れた瞬間、黒い空飛ぶ天敵が出迎えたのは記憶に新しいんだが?」

黒い空飛ぶ天敵……ああ、アレの事か!

ハンジ「ああ……ゴキブリの事か。たまに出るね! まあでも死にはしないよ」

リヴァイ「死にはしないとは思うが、不衛生だろうが。伝染病にかかって死ぬぞ」

ハンジ「免疫ついているから大丈夫だよ! ………多分?」

リヴァイ「死んだら巨人の研究だって続けられないだろうが。たまには布団くらい干せ。自分で出来ないなら「家政婦」を雇ってやって貰う事も出来るだろ」

リヴァイはたまに「お母さん」かってくらい世話を焼いてくれる。

もし「女性」だったら「いい嫁」になれるんだろうな。きっと。

ハンジ「あー……私の給料は全て、巨人に関する事に費やしているし、たまに壁外遠征の費用、足りない時はポケットマネーからも出しているしねえ」

リヴァイ「何だって?」

リヴァイがちょっとぎょっとした顔になった。珍しい。

リヴァイ「自分の給料を戻しているのか?」

ハンジ「だってそうでもしないと、巨人を捕獲する時の道具にかかる費用が捻出出来ない時もあるんだよ。この間も、縄破られてしまったし。安物の縄じゃやっぱり危ないしさ? 値段が張っても、ちゃんとした「装備」をしないといけないって分かったし。そこはケチりたくないんだよね」

リヴァイ「……………」

身銭は削ってもしょうがないよね。エルヴィンもたまに自分の給料から補填しているみたいだしね。内緒だけど。

リヴァイ「エルヴィンに話せば、給料からピンハネしてくれるだろうか」

ハンジ「え?」

リヴァイ「お前だけ、負担を負う話じゃねえだろ。こういう話は。俺の給料も、引いて貰っていい。そういう事であれば、俺はギリギリの生活をやってやろう」

ハンジ「えええ? 悪いよ。リヴァイが一番、危険手当を貰うべき立場なのに?」

リヴァイ「なんだそれは。危険の度合いは皆、平等だろうが。それより、何故それをもっと早く俺にも話さなかった。そういう事であれば、俺も出せるだけの費用は戻してやったのに」

ハンジ「いやーでもーほら、そんな事をし始めると、他の兵士達も「そうしないといけない空気」になるじゃない。そうなったら、いろいろ弊害が出るし……」

リヴァイ「…………」

リヴァイは男前だね。まあ、気持ちは有難いけれど。

彼の行動は調査兵団全体に影響を及ぼすから滅多な事はさせられないんだ。

リヴァイ「エルヴィンに話せば、給料からピンハネしてくれるだろうか」

ハンジ「え?」

リヴァイ「お前だけ、負担を負う話じゃねえだろ。こういう話は。俺の給料も、引いて貰っていい。そういう事であれば、俺はギリギリの生活をやってやろう」

ハンジ「えええ? 悪いよ。リヴァイが一番、危険手当を貰うべき立場なのに?」

リヴァイ「なんだそれは。危険の度合いは皆、平等だろうが。それより、何故それをもっと早く俺にも話さなかった。そういう事であれば、俺も出せるだけの費用は戻してやったのに」

ハンジ「いやーでもーほら、そんな事をし始めると、他の兵士達も「そうしないといけない空気」になるじゃない。そうなったら、いろいろ弊害が出るし……」

リヴァイ「…………」

リヴァイはもうちょっと自分の立場を自覚した方がいいと思う。

何でも表だってやれない事もあるんだよね。面倒臭いけど。

ハンジ「特にリヴァイはある意味では「調査兵団のお手本」みたいな存在でしょ? リヴァイがそういう事をし始めると、そうしたくない兵士もそれに習わないといけない空気になるだろうし、それはちょっと違う気がするんだよね」

リヴァイ「うーん………」

集団行動っていうのはそういう細かい部分でも気をつけないといけない。

そういうのが重なってもし「不信感」のような物が出てきたら調査兵団として機能しなくなるからだ。

リヴァイ「隠して給料を戻す事は出来ないのか?」

ハンジ「ダメダメ。あと多分、エルヴィンが了承しないと思うよ。私が給料を戻している件は「ああ、ハンジ分隊長のやりそうな事だな」で済むけどさ。リヴァイがそれやっちゃうと、影響力強いから」

リヴァイ「…………」

ごめんね。リヴァイ。気持ちは凄く嬉しいんだけどね。

リヴァイ「分かった。だったら、俺がハンジに「貢ぐ」形なら大丈夫だろうか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「だから、俺が直接、エルヴィンに給料のピンハネを依頼出来ないのであれば、物品に変換してハンジに直接渡す方がいいだろ。そうすればハンジの負担も少しは減らせる筈だろ?」

ハンジ「それって、巨人の捕獲用の縄とか罠を作る材料費をリヴァイの給料からも出してくれるって事?」

リヴァイ「個人的なプレゼントなら問題ないだろ」

ハンジ「やっほおおおおおおお!!!! 嬉しい!!! 本当にいいの?!」

えええええマジか! そうきたか!

やだ……思わずキュンとしちまったぜい! 乙女なハンジさんが出て来たぞ。

リヴァイ「今度、縄とか買いに行く時は一緒に行くぞ」

ハンジ「ありがとう! リヴァイって太っ腹だね! いや、腹筋は割れているんだけどさ!」

リヴァイ「言いたい事は分かるが、腹筋には触れなくていい」

ついつい、ポンポン触ってしまったら、嫌がられてしまった。

ぷぷぷ。リヴァイの眉間の皺、可愛いwwww

ハンジ「良かったあ……構想はあったけど、材料費の面で諦めた罠とかも結構あったんだよね。資金繰りが見込めるなら、もう少し「いい罠」が作れるかもしれない」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「うん……特にこの案とかね。ええっと、見せてあげるね」

兵服の胸ポケットからいつもの小さなノートを取り出してラフスケッチをリヴァイにも見せてあげた。

ハンジ「これとか、これとか。あとこれも! 大がかりだけど、罠が決まれば絶対動けなくする自信があるよ!」

リヴァイ「ふむ……」

プロトタイプの図案もあるけれど、出来れば一番完成させたいのは「特定目標拘束兵器(仮)」の罠についてだった。

この罠はエルヴィンと前々からアイデアを煮詰めていて、その実現に向けて話を進めていたけれど、その開発費すらお金が足りなくて遅々として話が先に進まない状態だった。

だったらせめて模型の試作品だけでも作りたかったから、リヴァイの申し出は本当に有難いと思ったよ。

リヴァイ「だったら試作品を作る必要があるな。今度の休みはいつだったか?」

ハンジ「来週になるね。その日、空けてくれるの?」

リヴァイ「早い方がいいだろ。じゃあその日に2人で材料を下見に行くか」

ハンジ「ありがとう! リヴァイ、本当に大好きだよ!」

と、ついついリヴァイを捕獲しようとしたら、途中で逃げられてしまった。あらら。

ハンジ「あー避けられた! この感謝の気持ちをどう表現すれば?!」

リヴァイ「今、『ありがとう』って言っただろ。それで十分だ」

ハンジ「いやいや、足りないよ! 何かこう、もっと大げさに表現したい!」

リヴァイ「必要ない。それに俺は、俺に「出来ない」事をやっているハンジにはいつも「感謝」しているからな」

ハンジ「え? そうだったの?」

リヴァイ「ああ。研究の分野では、俺はとてもじゃないが協力出来ないからな。出来るのは肉体労働の方だけだ」

あらそうだったんだ? それは意外だったなあ。

リヴァイ「毎回、食われそうになりながらも捕獲した巨人を観察したり、無茶やっているだろ。俺には真似出来ん。項を削ぎたくなる気持ちを押さえきれる自信がない」

ハンジ「ううーん。まあ、その気持ちは分からなくもないけど。途中で蒸発さえしなければ、私も解剖したいのは山々だけどね」

リヴァイ「だろ? だからいいんだよ。むしろさせてくれ。俺自身は必要最低限、生きられる金さえあればそれでいい」

ハンジ「おおお……相変わらずのイケメンだね。ありがとう。流石3年連続抱かれたい男ナンバー1に選ばれるだけはあるね」

リヴァイ「…………は?」

と、言った直後のリヴァイの顔、本当に可笑しかった。

ポカーン…と、間抜けな顔になったんだよね。肖像画に残しておきたいくらい貴重な表情だった。

ハンジ「あれ? 知らなかったの? 女性兵士、男性兵士の間で密かに流行っているアンケートの件だよ。リヴァイ、3年連続、抱かれたい男ナンバー1に輝いたんだよ。連覇おめでとう!」

リヴァイ「そんなアンケートは初めて聞いたぞ……」

ありゃ? そうだったのか。リヴァイには内緒でやっていたのかな?

ハンジ「え? そうなの? 男性の方もアンケート取ってるって話だったんだけどなあ……リヴァイは票を入れてないの?」

リヴァイ「入れてないし、初耳だ。何だそれは? そんなアンケートを取って何の意味があるんだ」

ハンジ「さあ? 良く分かんない。ただの暇潰し? それとも、誰が1番人気あるかを調査しているだけとか?」

リヴァイ「ハンジもそのアンケートに票を入れたのか?」

ハンジ「いや~それが、該当する男の兵士が思い浮かばなくて入れなかったんだよねえ。ごめんね? リヴァイに1票入れておこうかなとも思ったけど、私が入れなくても勝てそうな雰囲気だったし、まあいいかと思って辞退したよ」

リヴァイ「入れなくていい。いや、ちょっと待ってくれ。それは俺が調査兵団の中で一番「人気」のある男性の兵士だと思っていい話なのか?」

ハンジ「3年連続だからね! ぶっちぎりの1位だったそうだよ!」

リヴァイ「はー………」

すっごい深いため息だった。なんでそんなに落ち込むんだろ?

リヴァイ「そのアンケートは来年から中止にしろ。やる意味がねえ」

ハンジ「ええ? 兵士達が自主的に行っている物だからそれを中止させる権限なんてないよ。もしあるとすれば、エルヴィンだけじゃない?」

リヴァイ「なら俺から頼みに行く。あいつ、今、自室にいるよな?」

ハンジ「多分……」

リヴァイ「なら今から話してくる。じゃあな、ハンジ」

リヴァイが一人でエルヴィンの部屋に行った。私もこっそり追いかけて部屋の外で待ってみた。

そっかあ。普通はそういうアンケートで1位になれば嬉しいもんだと思うんだけど。

リヴァイは嬉しくないのか。何でだろ?

うーん。まさか、巷で噂になっている「実はエルヴィンと出来ている説」って本当なのかな?

リヴァイって、そういう「女」の影も噂も全くないから、女子の一部では怪しんでいる人もいるんだよね。

あーまじ気になるわあ。真実が知りたい!

でも聞いたら殴られそうだよね。もしくはブレードで刺されそう。

いや、案外「そうだが?」とか言われたらどうしよう?

肯定されたらちょっと凹むかも。ううーん。リヴァイ、どっちの人なのかな。本当は。

とかいろいろ考えていたら、結構あっさり部屋から出て来た。

ハンジ「やーリヴァイ。どうだった?」

リヴァイ「発案者はピクシス司令だそうだ。文句あるなら直接抗議して来いってさ」

ハンジ「あははは! ピクシス司令が発案なら納得だ! あの人、そういう「色恋沙汰」って凄く好きだよね!」

リヴァイ「全く…その調査が一体何の役に立つんだが分からん」

ハンジ「で? 抗議に行くの?」

リヴァイ「今日は流石にやめておく。いつか折を見て、機会があれば文句の一言くらいは言ってやる」

ハンジ「ん~じゃあ、中止を要請する訳じゃないんだ?」

リヴァイ「まあ、遊びでやっている事だから別にいいんじゃないか? ってのがエルヴィンの見解だったが」

やっぱり嬉しそうじゃない。変なリヴァイだなあ。

ハンジ「何だか嬉しそうじゃないね? ナンバー1に選ばれても嬉しくないんだ」

リヴァイ「当然だ。そんな色恋沙汰に頭を使っている場合じゃねえだろ。俺達調査兵団は、特に」

ハンジ「まあね。それは共感出来るけど。でも……選ばれた事くらいは素直に喜んでいいんじゃないの?」

リヴァイ「何でだ?」

ハンジ「つまり、リヴァイは色男って事でしょ? だったらそれは「喜ぶべき事」じゃないの?」

リヴァイ「ナンバー2の『色男』が何言ってやがるんだか」

ハンジ「あ、バレたの?! あちゃーリヴァイにバレちゃったか」

実は私も「ナンバー2」に選ばれていたんだよね。

ただし、このアンケートは女性の場合は「もしも男性だったら」という「妄想」での投票も可という話だったから、2位になれたんだ。

つまり、私が「もしも男」だったら、抱かれてもいいって話だね。

いやー私、生まれてくる性別を完全に間違えたかもしれないね!

男だったら、今頃両手に花だったのになあ。惜しい事をした!

リヴァイ「お前は嬉しかったのか?」

ハンジ「勿論だよ! 女の子でも好かれるのは嬉しいに決まっているよ」

リヴァイ「そうか。お前は女を「抱く」趣味があったのか。なるほど」

ハンジ「ふーん。『抱きたい女』の方で5位だったリヴァイがそれ言うのー?」

リヴァイ「は?」

また、可笑しい顔になった。ぶふー!

この顔、ミケにも見せてあげたいかも。面白い。

リヴァイ「ちょっと待て。その情報は初耳だぞ」

ハンジ「正しくは『嫁にしたい女』に近いみたいだけどね? リヴァイに家事を丸投げしたい願望の男達がちらほらいるようですけど?」

つまり、この場合も男性が「もしも女性」だったらって話だね。

リヴァイが「女」だった場合の得票数が入って5位にまで食い込んだって事だよ。

リヴァイ「…………こうなったら再教育してやる必要性があるようだな(ボキボキ)」

リヴァイがキレている様子がおかし過ぎて吹いちゃった。

ハンジ「あはは! あんまり家事方面で優秀なところを人に見せない方がいいって! 余計に「ムラムラ」されちゃうかもしれないよ?」

リヴァイ「そ、そうか?」

ハンジ「うん。今回のアンケートって完全に「洒落」だからさ。皆、本気で投票している訳じゃないと思うよ? だからあんまり気にしちゃダメだよ」

リヴァイ「…………」

だって「妄想」の票も「OK」なんだしね? 完全に皆、面白がって票を入れていたしなあ。

リヴァイ「そうか。遊びならあまりツッコミを入れるのも野暮なのかもしれんな」

ハンジ「そうそう。大人なんだから、その辺は寛容にならないと。ね?」

リヴァイ「そうだな。もう三十路を過ぎてしまったしな。小さい事でカッカするのは止めよう」

ハンジ「あらそうだったの? いつの間に。三十路おめでとう!」

全くそうは見えないね! 二十代でも十分通じるよ。リヴァイの外見は。

リヴァイ「この年になっても生きていられた事には感謝しねえとな」

ハンジ「そうだよね。うん。確かにその通りだよ。誕生日、いつだったけ?」

リヴァイ「12月25日だ」

ハンジ「じゃあ、誕生日プレゼント、大分遅れてしまったけど後であげるよ。巨人の絵とかどう?」

リヴァイ「破りたくなるから止めてくれ」

ハンジ「ええ……ダメかあ。じゃあ、巨人に関するレポートをまとめた本とか?」

リヴァイ「それはハンジが貰って嬉しい物だろうが」

ハンジ「てへ☆ そう言えばそうでしたね? じゃあ箒とかでいい? 小さい奴。机の上をはくタイプの」

リヴァイ「それで十分だ。ありがとう」

ハンジ「どういたしまして! じゃあ、今度の休みに一緒についでに買おうか」

リヴァイ「そうするか」

そして来週の約束をリヴァイと取り付けてそこで別れたんだ。








休日にリヴァイとトロスト区で買い物をする事になった。

先にリヴァイの「卓上用の小さい箒」を買った後、リヴァイと私は材料の下見をしにいった。

一応、模型用の材料はこの時に一通り揃えたけど、本番用の部品も一緒に見ておきたかったんだ。

でもなかなかいい部品が見つからない。大きすぎたり、重すぎたりで、「これだ!」と思える物がなかった。

ハンジ「ん~~~~見つからないなあ。理想的な「部品」が見つからない!」

リヴァイ「どういう物が欲しいんだ?」

ハンジ「針のように刺せるけど、かつ食い込んで逃さないような「先端」が欲しい」

リヴァイ「アンカーの先みたいな感じか?」

ハンジ「アンカーの場合は「手動」でやる訳でしょ? これの場合は「刺した直後」に作動する機能を持たせたいんだけど」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「構想としては、今までの「捕獲」より更に「進化」させたいと思っているんだよね」

今までは「網」を利用した捕獲作戦が大部分だったけど。

今回の捕獲は恐らく「大物」になる事を想定して造らないといけないんだ。

だから網の場合、その機動力によっては「逃げられる」可能性が高い。

瞬発的に仕掛けられる「罠」を構築しないと、ダメなんだと思うんだ。

ハンジ「かゆいところがあっても掻けないような……傷を塞げば塞ぐほど、関節がより強固に固まっていくような仕組みを造れれば、もっと「楽」に巨人を捕獲出来そうな気がするんだけどなあ」

リヴァイ「ふむ。構想はあるが「部品」がないような状態か」

ハンジ「今のところはそうだね。出来れば「特注」したいけれど、それをする「予算」は流石にないし、まずは「それに近い」物を試作品で作ってみない事には先には進めないし……」

リヴァイ「難しい問題だな」

ハンジ「まあね。でも捕獲用の罠の精度が上がれば、今までよりもっと犠牲者を出さないで研究を進められる筈だよ」

今日のところはここまででいいや。本番用の部品はまた今度、別の店を見てみよう。

ハンジ「私は絶対それを「造って」みせるよ。その為なら、私の給料を全額注ぎ込んでもいい」

リヴァイ「待て。それをやったら流石に餓死するから止めろ」

ハンジ「あ、それもそうか。ごめん……はあ。お金持ちのパパを騙して資金繰りしようかなって思った事もあったけど、私程度の貧乳の女じゃ無理だよね」

まあ、まず無理だと言うのは分かってはいますがね。

でも次の瞬間、リヴァイが私のお尻を容赦なく蹴って来たからすげえびっくりした!!!

ハンジ「痛い! いきなり何するの?!」

そしてその時の顔は凄く怖かった。こんなに「怖い」と思ったリヴァイの顔は初めて見たかもしれない。

リヴァイ「そんな真似してみろ。俺はお前の項を削いでやるぞ」

ハンジ「私、巨人じゃないよ?! 何で怒ってるの?!」

リヴァイ「お前は優秀な「兵士」だ。お前が欠けたら、それだけ調査兵団の「戦力」が失われるんだぞ」

ハンジ「え? え? え?」

リヴァイ「これだけ言ってもまだ分からんか。もし万が一、子供を腹に孕んで動けなくなったらその間、戦えなくなるだろうが」

ハンジ「あ………そう言えばそうでしたね」

リヴァイ「女を武器にする事を考えた癖に何でそっちを思い浮かばない。お前がもし、誰かと結婚して兵士を引退するっていうなら話は別だがな。そういう下らない理由で腹を膨らませたら承知しねえからな」

そっか。心配してくれたんだね。言っていい事じゃなかった。

ごめんね。リヴァイ。ありがとう。叱ってくれて。

ハンジ「ごめん。冗談でも言っていい事じゃなかったね。うん……」

リヴァイ「分かればいい。それに資金繰りの件ならエルヴィンが何とか今のところ、やりくりはしているだろう。俺も出来る限りの事は協力してやるし、そう焦り過ぎるな」

ハンジ「そうだね。私、焦っていたのかもしれない」

と、言って私は尻についた砂をパンパンはたいた。

ハンジ「うん。なんかこう、うまくいかない事が重なるとついつい、焦るよね」

リヴァイ「気持ちは分からなくはないがな」

ハンジ「ごめんね。リヴァイ、ありがとう」

その日は新しい部品を買うのは諦めて、手芸店の方へ移動した。

リヴァイがツギハギ用の布を見てちょっと興奮している様子が見えて笑えたけど、私は「針」の方を吟味していた。

イメージしていたのだ。私の「構想」の形を。

ハンジ「多分、構想的にはコレだと思うんだけどねえ」

リヴァイ「どういう意味だ?」

ハンジ「いや、だから「針」を「巨人」に刺して捕獲したいんだけどね。傷が回復する筋肉の繊維に「針」を引っかけることが出来たらなあって思っているんだけど」

リヴァイ「ふむ………」

ハンジ「つまり巨人の「驚異的な回復力」を「逆手」にとって捕獲したい訳なのよ。でも、すっぽ抜けたらダメだしね。どう「発想」を「飛躍」したら「答え」に辿り着けるのか」

発想の逆転だね。回復力を逆手に取りたいんだ。つまりは。

リヴァイ「恐らく、初めて「立体機動装置」を作った奴も今のハンジと同じようにいろいろ悩んだんじゃないのか?」

確かに。リヴァイのいう事は一理あると思った。

ハンジ「そうだろうね。完成品に行き着くまでにどれだけの「失敗」を重ねて来たんだろうね。今の私達にとって、発明した人にはその努力に感謝しか出来ないよ」

立体機動装置に比べたら、恐らく私の考えている「罠」は大した発明じゃないんだ。

この形に「決定」するまでどれだけの「失敗」を重ねてきたのかと思うと頭が下がるよ。

ハンジ「うん。きっと「必要」は「発明」の母っていうから、その時代にもそれを「必要」に迫られたに違いないよ。人類は巨人に屈しない。その意志を私達は引き継がないといけないよね」

リヴァイ「……そうだな」

そして私はリヴァイとの買い物を終わらせて兵舎に帰る事にしたのだった。






壁の中に居る間、調査兵団は駐屯兵と協力して壁の整備をしたり、お手伝いをしたり、演習を行ったりする。

私の場合は個人的に任されている「仕事」も多いので、そっちを優先する事の方が多いけれど、体がなまるといけないので、演習の方は必ず顔を出していた。

リヴァイの演習の様子を遠目で観察するけれど、いつも思う。あいつの動きは芸術の域に達していると。

猫みたいな動きをするんだよね。空中で。野生の動物のそれに近いような。

くるくる! と回転したり、しゃーっと走ったり。

その様子を他の新人女性の兵士がぽーっとした目線で見つめているんだけど。

リヴァイ、気づいていないのかな? まあ、気づいていても放置しているのかもしれないけど。

ある意味、人類最強の二つ名は妥当だとも思う。人間離れしているからね。

一体、どういう筋肉のつき方をすればあそこまで俊敏に動けるんだろうね?

巨人より早いからね。動きが。奇行種も動きは速いけれど。

もしも立体機動装置が「ガス欠」という「弱点」を完全になくしてしまえたら、きっとリヴァイは一週間ほどで巨人を絶滅させる事が出来るんじゃね? とたまに思う事もある。

と、そこまで考えて私はある事を閃いた。

巨人を直接「触る」事は出来ないけど、リヴァイは触れるよね。

あいつの筋肉のつき方、参考にすれば、巨人を仕留めるのにも役に立つかも?

厳密に言えば「同じ」ではない。でも恐らく、人類の中で「もっとも」「理想的」な筋肉を持っているのは「リヴァイ」だ。

ちょっとだけ触ってみたいなあ。ダメかな? 研究の為だし。

と、考えて、それをしている自分を想像したらただのセクハラ親父に思えた。

ハンジ「やっぱりダメか。やめておこう」

変態が! とリヴァイに罵られるかもしれない。うん。興味はあるけど。やめておこう。

と、考えた其の時、あいつ、汗掻き過ぎたのか、1回自分の上服を全部脱いで、服を絞ったんだ。

汗、凄かった。そしてタオルで上だけ拭いて、また服を着なおしている。

あいつ、そういうところマメだよね。気持ち悪いとすぐ1回服を脱いじゃうし。

その様子を遠目で見つめて顔を赤くする女性兵士がいる。目のやり場に困っているのかな。

まあ、私はガン見しましたけどね! あざーっす! って感じでね。

あーやっぱり実際に触ってみたいなあ。あの体、本当にどうなっているんだろ。

だからつい、「1回だけダメ元で打診してみるか」と思い直して夜、リヴァイの部屋に訪れてみたんだ。

ハンジ「今、ちょっといいー? リヴァイ、起きているかな?」

リヴァイ「今、寝るところだったんだが?」

ハンジ「10分でイイから付き合って欲しいんだけど」

リヴァイ「10分で済んだ試しがないから断る」

ハンジ「そう言わず。お願い。ちょっと真面目な話がしたいんだけど?」

ドア越しに話していたら、そろーと顔を出してくれた。

リヴァイ「部屋には入るなよ」

ハンジ「立ち話するような事じゃないんだけど……」

リヴァイ「夜だ。休息を取るのも兵士の仕事のうちだろ。長い話なら明日に回せ」

ハンジ「ううーん……」

こんな話、他の関係ない人には聞かせられないよね。

リヴァイ「どうしたんだ? 何をまた悩んでいるんだ」

ハンジ「いやね? 自分でも無茶振りだとは思うんだけどさ」

リヴァイ「じゃあ断る」

ハンジ「いや、せめて聞いてから断って! その……リヴァイの体を1度、私に見せて欲しいんだけど」

リヴァイ「? 別に怪我とかはしていないが?」

いや、そっちじゃなくてね?

ハンジ「いや、怪我の具合を見たい訳じゃなくて。体の構造をね、ちょっと確認したいというか」

リヴァイ「自分の体じゃダメなのか?」

ハンジ「背中もみたいしね。自分じゃ自分の背中は見られないでしょ?」

リヴァイ「俺じゃないとダメなのか? モブリットは」

ううーん。モブリットか。まあ、妥協すればそれでもいいけど。

でも第一希望はやっぱり「リヴァイ」かな。もしくは「エルヴィン」か「ミケ」になるかな。

ハンジ「モブリットだと筋力が足りないかも。筋肉ある男と言えばリヴァイでしょ? 1番いい筋肉を持っているから」

リヴァイ「ああ……そういう意味なのか。だったら仕方がないな」

お? 意外と大丈夫そうかな?

リヴァイ「医務室に行くぞ。流石に自室で俺の体を見せるのはちょっとな」

ハンジ「ん? 何で? 別にいいじゃない。面倒だよ。移動が」

リヴァイ「いや、少しは気を遣え。いらん噂でもされたら嫌だからな」

ハンジ「あはは! 私とリヴァイが噂になると思ったの? ないない!」

リヴァイ「……………」

ドアを閉めなければ大丈夫だよ。

そこさえ気を付ければそう思われるって事は滅多にない。

リヴァイ「マナーの問題だ。夜、異性の部屋の中に入るのは非常識じゃねえのか?」

ハンジ「あらそう? 私は結構、エルヴィンとかモブリットやミケの部屋とかにも入った事あるけど?」

リヴァイ「………お前、女扱いされてないのか」

ハンジ「いや、今更でしょうが。何で? 昼間ならすぐ入れてくれるのに」

リヴァイ「昼間だからだろ」

ハンジ「何が違うわけ?」

何でこんなに慎重なのかな? ん?

リヴァイ「…………本当に「夜」に他の奴らも、自分の部屋に入れた事があるのか?」

ハンジ「うん。あるよ? え? 何でそんなに確認する訳?」

リヴァイ「……………」

他の皆も、ドア開けっぱなしで入れてくれるしね。

リヴァイ「で? 裸になればばいいのか? パンツ1枚になれっていうのか?」

ハンジ「いや、それは面倒くさいからいい。とりあえず、服の上からでいいから「筋肉」の流れとか関節部分を実際に触らせて欲しい」

リヴァイ「分かった」


バタン………


ん? ちょっと待て。おい。

え? え? あんた、さっき「いらん噂でもされたら嫌だからな」って言いませんでした?

は? え? ちょっと、矛盾した行動取っているけど、なんで???

何で今、ドアを完全に閉めたの? え? まさか……。

そ、そうなの? リヴァイ、まさか、私とそういう「関係」を望んでいる?

えええええ?! あのリヴァイが?! 私みたいな男みたいな女に?!

あ……いや、待てよ。まさかとは思うけど。

リヴァイは「習わし」を知らないのかな? 知らないで今、やっちゃったとか?

うわ……どっちなんだろ? これ、どっちなんだろ?

確認するのこええええええええ!

いや、やめておこう。とりあえず、私の用事の方を先に済ませないと。

うん。そうしよう。ちょっとドアの件は後回しにしようかな。

リヴァイの腕を服の上から確認させて貰った。

うわあ。何か、温かい。体温高いみたいだな。

そして触り心地がいい。いい筋肉しているね。やっぱり。

予想以上に弾力があって、触るのが楽しい。

筋肉のつなぎ目や関節の感じを実際に触らせて貰うと、巨人に対する「イメージ」も凄くやりやすくなった。

巨人を「切る」際に、肉だけじゃなくて、骨のような物が一瞬、見える時もある。

だから基本的な体の「構造」自体は私達の体に「近い」とは思うんだ。サイズが違うだけで。

ただまあ、すぐ復活しちゃうから解剖は出来ないけど。だからあくまで「推測」になるけど。

だから、可動域を「固定」さえすれば、巨人の動きを封じ込められるとは思うんだけど。

リヴァイ「何か、分かったか?」

ハンジ「ううーん。あともうちょっとで「閃き」そうではあるんだけど」

リヴァイ「話してみろ」

ハンジ「うん。可動域、つまり「関節」の部分を「固定」する方法はないかなって思って」

リヴァイ「針を刺してか?」

ハンジ「そうそう。動けば動くほど食い込む様な方法があればなって思って」

そんな都合のいい方法、ねえよと言われてしまうかもしれないけど。

でもそれが「理想」なんだよね。私の中では。

ハンジ「巨人も多分、人間と同じような「神経」に似た物はあると思うんだよね。人間のそれとは構造は違うかもしれないけど。でも、それがないなら、体を自分で動かそうとしても動かせない筈だし」

リヴァイ「そりゃそうだな」

ハンジ「だから、こう……人間の体にもあるじゃない? 叩くと何故か「コーン」とくる個所というか」

リヴァイ「叩くなよ。肘の裏側は叩くなよ」

リヴァイが肘を防御したのがなんか可笑しかった。

ハンジ「あ、うん。ごめん。叩かないけどさ。つまり、そういう「繋ぐ」場所はある訳でしょ? だからそこに「針」を差し込んでしまえば動きを封じられないかなって思っているんだけどね」

リヴァイ「ふむ………」

ハンジ「巨人って、解体してもすぐ復活するでしょ? でもその復活する時に内側からこう……引っかけてしまえば」

イメージをリヴァイに伝えたくてあえて爪を立ててみる。

ハンジ「復活するのをあえて「利用」して捕獲すれば……って思うんだけど」

リヴァイ「流石に俺の体は巨人のようにすぐには「復活」しねえから、試したくても試してやれねえぞ」

ハンジ「だよねえ。ごめん………」

リヴァイ「背中、触らなくていいのか?」

ハンジ「ああ……触る触る。ちょっとアイデア煮詰めさせて」

あーいい背中だなあ。小さいけど、凄くしっかり体の均整がとれている。

巨人にも実際、こんな感じで触れたらいいんだけどね。リヴァイで妥協するけどさ。

リヴァイ「どうだ? 何か思いついたか?」

ハンジ「ううーん。何だろ。ここまで出かかっているんだけどね。何かが「足りない」ような気がする」

リヴァイにおんぶしてみる。でも意外と嫌がられなかった。

ハンジ「あああ……発明の神様! 私に知恵を授けて下さい」

リヴァイ「あんまりそれの事ばっかり考えるのも良くねえんじゃねえか? 1回離れてみるのもいいと思うが」

リヴァイの声が少し優しい感じだった。普段だったら「離れろ。クソ眼鏡」とか言うけど。

夜だからかな? ちょっと雰囲気がマイルドな印象だった。

ハンジ「その方がいいのかなあ?」

リヴァイ「気分転換も大事だろ。最近、ちゃんと飯とか食ってるか?」

ハンジ「あ……今日の夕食は食べ忘れた」

リヴァイ「おい……」

リヴァイの声が低くなった。

ハンジ「あああだって、巨人が私の頭の中に住み着いているのがいけないんだ! もう、これはもはや「恋」のレベルだと自分でも思う! あの子達を自分の物にしたくてしょうがないんだよ!!」

リヴァイ「歪んだ独占欲だな」

ハンジ「自分でも分かってる! でも捕まえたくてしょうがないのよ! もっと効率よく! 的確に! こう、バシュッと手に入れたい訳でして」

リヴァイ「焦るなって、前にも言わなかったか?」

また、怒られてしまった。でも、いつもよりは優しいかな?

何だろ。今日のリヴァイ、ちょっと雰囲気が違う気がする。

ハンジ「ううう………」

リヴァイ「トランプでもしてちょっと遊ぶか?」

ハンジ「トランプ? あんたトランプなんか持っていたの?」

リヴァイ「あいつらが生きていた頃はたまに3人で遊んでいたよ。イザベルはババ抜きしかやらなかったが」

ハンジ「あらら……」

リヴァイ「2人でやるならポーカーでもやるか? あ、いやでも、ハンジにポーカーフェイスは無理か」

ハンジ「うふふふ? そう見える?」

実は私、ポーカー大得意なんだ。ふふふ。

リヴァイ「ん? ポーカーは得意なのか?」

ハンジ「嫌いじゃないよ? 意外とね」

リヴァイ「そうか。だったらただやるのは面白くないから何か「賭け」るか?」

ハンジ「いいよ~じゃあね、私が勝ったら………リヴァイ、私の分の夕食を今度から私のところまで運んできて?」

リヴァイ「メイドかよ。まあいいけどな。だったら、俺が勝ったら………ハンジの自室を掃除させろ」

ハンジ「はあ? 何それ。ちょちょちょ……それ「賭け」として成立しなくない?」

なんかかえって得しているような? いや、下着見られたら困るからダメか。

私の部屋は洗濯物が散乱しているので、それをやられると絶対、下着を見られてしまう。

リヴァイ「いいや? そうでもないぞ。俺は以前からお前の「自室」に生息していると思われる「黒い空飛ぶ天敵」を駆逐したくて堪らなかった。勝手に触るなというから今まで放置してやっていたが、それを「触っていい」権利を貰えるならいくらでも掃除したいと思っていたが?」

ハンジ「潔癖症もそこまでいくと病気じゃないんですかね?」

リヴァイ「だろうな。だが別に「他人に迷惑」をかけた覚えはない」

ハンジ「ううう……私にとっては迷惑なんだけどな」

やべえ! 下着だけでも回収した方がいいかなこれは。

リヴァイ「何か言ったか?」

ハンジ「いや、何でもないけど。じゃあポーカーやろうか。チェンジはあり? なし?」

リヴァイ「1回でいい。あとコインは……まあ、俺が持っている小銭で代用するか。ハンジに10枚。俺も10枚からスタート。全額没収した方が勝ちでいいか?」

ハンジ「了解♪」

ポーカーをやるのは久々だな。エルヴィンに鍛えられたから、読み合いはそれなりに自信あるよ。

親はリヴァイからになった。私は2から6までのストレートがきた。

普通なら、ストレートがきた場合、そのまま挑むと思う。最初の配布で「役」が完成するのは滅多にないからね。

崩す必要はないと思った。でも、次の瞬間、

あ、リヴァイ。今、笑ったね。滅多に笑わないリヴァイが笑うと言う事は。

これはかなり「いい役」がいきなり入ったね。

フラッシュか? いや、もっと上なら「フルハウス」までいったか?

これはまずいね。レイズでいこう。揺さぶりをかけた方がいいね。

リヴァイ「コールか、レイズかドロップか。どれだ?」

ハンジ「レイズで」

リヴァイ「何枚だ」

ハンジ「5枚で」

リヴァイ「了解」

カードの交換を尋ねられたので、自信満々に返した。

ハンジ「カードはかえない。このままでいくよ」

リヴァイ「なんだって?」

ハンジ「リヴァイは? かえる? かえない?」

リヴァイ「………」

気分はロイヤルストレートフラッシュがきたような顔をしてやる。

リヴァイが迷い始めた。自分の役に自信が持てなくなったみたいだね。

リヴァイ「オープン。Aのスリーカードだ」

ハンジ「ふふ……ストレートだよ。2から6までの」

リヴァイ「何?! だったら、変更しなかったら俺が勝っていたのか!」

ハンジ「あらあら……勿体ないことしたねえ(ニヤニヤ)」

リヴァイ「というか、ストレートで押し切るのか。お前は」

カードの交換の内容を見たらフルハウスだって事が分かった。やっぱり。

ハンジ「うん。案外、フルハウスって迷うよねえ? 相手がもっといい役だったらって思ったでしょ?」

リヴァイ「読まれていたのか」

ハンジ「ちょっと嬉しそうだったもんね? リヴァイの顔が。あ、これは絶対「フルハウス付近の役がきた」って思った」

にしし。こういう戦法が使えるからポーカーは面白いんだ。

そんな感じで一進一退を繰り返し、結局、1時間くらい時間がかかって、私が勝利した。

ハンジ「よっしゃああ! リヴァイをこき使える! 夕食、忘れずに私のところまで持って来てね」

リヴァイ「その都度探すのが面倒だな。前もって何時頃に自室か研究室か、どっちに持っていくのがいいか教えろ」

ハンジ「ああ、その点はちゃんとするよ。大丈夫。こっちが頼むわけだからね」

もう結構、夜も更けちゃったな。

でもなんか楽しかった。リヴァイと遊ぶのがこんなに楽しいなんて思わなかったよ。

ハンジ「なんか意外と楽しかったな」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「いや、リヴァイとこうやって仕事以外で話したり、遊んだのって初めてじゃない? 何気に」

リヴァイ「そうだったか?」

ハンジ「私の記憶の限りではね。たまにはこうやって2人で気分転換、またしようよ」

リヴァイ「俺は出来れば早く眠れる時は早く寝たい方なんだが……」

ハンジ「あはは! それもそうか。じゃあ私が「煮詰まった」時だけでいいからさ。其の時は部屋に入れてよ」

リヴァイ「ああ。アイデアに煮詰まった時だけだな。それなら別にいいが」

ハンジ「やった! ありがとう! リヴァイ、流石! 3年連続は伊達じゃない! (親指ビシ!)」

ドア閉めても、すぐがっつかないところが紳士だね。

………いや、この後、手出されたらちょっと困るけど。

でも、リヴァイの表情を見る限りそれはなさそうな気配だった。眠そうにしているしね。

リヴァイ「だからその話を出すのはやめろ。何かげんなりするんだが」

ハンジ「一応、褒めているんだけどなあ。ううーん。他にどう言ったらいいんだろ?」

リヴァイ「素直に「ありがとう」だけで十分だ。それ以上の言葉は別に要らん」

ハンジ「そう? もっとこう、感謝とか感激の気持ちをぐはーっと伝えたらダメなの?」

リヴァイ「大げさ過ぎるのは好きじゃない。適当でいい」

ハンジ「それって気持ちが伝わってなくない?」

リヴァイ「ここでの「適当」はいい加減って意味じゃねえ。「適した」という意味だ」

ハンジ「ありがとう、だけでいいんだ? 本当に」

リヴァイ「それ以上、何を望むって言うんだ」

ハンジ「分かった。じゃあ、せめて心を込めて言うね。『ありがとう』って」

私は心をこめて伝えたよ。リヴァイに感謝を。

リヴァイ「…………ああ」

そしたらちょっとだけ、眉間に皺寄せて、目線を逸らしたんだよね。

ん? 不機嫌そう? 何で?

あれー? お礼を言ったのに何で不機嫌になるのかな? 謎過ぎる。

まあいいか。やる事はやったし。今日はこの辺でお暇しよう。

そして私は何故かルンルン気分でリヴァイの部屋を後にしたのだった。






ポーカーの件を境に私は時々、リヴァイの部屋に夜、転がり込むようになった。

何度訪れても、ドア閉めちゃうけど。でも、リヴァイが私に手を出す事は一切なかった。

うーん。周りには誤解されているだろうけど。でも、確認するのが怖いな。

もし、それを知っていて「ドア開けていていい?」って言ったら拒否する意味として伝わる訳で。

それやったら傷つくかな。どうかな? 分かんないけど。

私みたいなのに拒否られたらプライド傷つかないかな。

もしくは本当に「知らない」だけかもしれないし。うーん。

いや、でももしかしたら、もうちょっと距離が縮まってから、手出すつもりとか?

どっちなんだろうなあ。分かんないなあ。

いや、そもそも、リヴァイには「エルヴィンと出来ている説」もあるしなあ。

………私の事、男と間違えている可能性は………流石にないよね?

いや、バイの可能性もあるか。だとしたら、手出すのかな?

ううーん。でも、なんかもう、いいか。リヴァイとの事は成り行きに任せても。

今はリヴァイとのゲームに集中しよう。そっちの方がいいや。

ハンジ「ちょちょちょ! 早すぎる! 手の動き、尋常じゃないんだけど?!」

リヴァイ「お前がちんたらしているからだろ。もっと早く手動かせよ」

ハンジ「いや、目にも止まらぬ早さですよね?! カード吹っ飛ぶ勢いだよね?!」

リヴァイ「瞬間的な判断能力を鍛えるのには適したゲームだろうが。動体視力を鍛えるのにも役に立つぞ」

ハンジ「流石人類最強と言われるだけって、この手の単純な手作業は早いよね」

リヴァイ「頭を使うゲームより、こういうのが得意だ」

クソ、マジ速過ぎる!! 手の動き、目で追えない時あるんだけど?!

もーまた手がぶつかったし! 痛い!

ハンジ「もうギブアップ! 無理! スピードではリヴァイには勝てません!」

リヴァイ「じゃあ賭けは俺の勝ちだな。今回は」

ハンジ「そうですねー。もうゴキブリ退治したいならご自由にどうぞー」

今回もまた賭け事をしていた。リヴァイはどうしても私の部屋を「お掃除」したいようだ。

ニヤニヤしている。本当、珍しい顔だけど、それだけやる気満々みたいだ。

リヴァイ「よし。これでようやくハンジの自室を元の状態に戻せるな。明日は1日休みだからな。早速中に入らせて貰おうか」

ハンジ「明日から?! 気が早いよ!」

リヴァイ「いいや? 全く気は早くない。むしろ最初のポーカーで負けた時点で既に掃除道具は新調して待っていた」

ハンジ「ワクワクし過ぎだから! えええ……そんなに「退治」したいんだ?」

リヴァイ「俺の中では、巨人に次ぐ「駆逐」したい生物だからな」

ハンジ「マジか。いや、私は別にゴキブリが嫌いな訳じゃないんだけど」

リヴァイ「その神経もどうかしているな。一緒に共存するんじゃない」

ハンジ「巨人も人間さえ食べなければ立派に共存出来ると思うのに……(しくしく)」

リヴァイ「食うから天敵なんだろうが。いや、本当なんであいつら、人間を「食べよう」とするんだろうな?」

リヴァイが、ちょっと首を傾げた。チャンスだ!

ハンジ「おおっと?! リヴァイが遂にこっち側の人間になってきたのかな? 私の見解を聞きたい?」

リヴァイ「いや、お前の意見を求めた訳じゃねえ。今のはただの独り言だ」

ハンジ「嘘だ! 絶対嘘だ! 私の見解を聞きたい癖に!」

リヴァイ「いや、ハンジの見解とか予想とか推測とか推理とかはもう過去に何度も聞いているからいい。新しい情報が入ってくればまた別だが、今分かっている事は「巨人は南方からやってくる事が多い」事とか、「たまに小さな巨人」と呼ばれる、巨人にしては小さい奴もいる事とか、そういう事くらいだろ?」

ハンジ「そうですね。最新情報が少ないのが一番の問題なんです(ズーン)」

リヴァイ「もっといろいろ分かれば、捕獲用の罠も精度があげられるんだろうけどな」

ハンジ「うん。そうだね……」

現実逃避をしていたから、現実と直面した瞬間、落ち込んでしまった。

リヴァイ「……………」

リヴァイもバツが悪そうにしている。リヴァイのせいじゃないけどね。

リヴァイ「もうすぐ、次の壁外遠征があるだろ」

ハンジ「そうだね」

リヴァイ「次の調査では、捕獲は無理そうなのか?」

ハンジ「間に合わないよ。旧式のやり方で続ける限り、費用がいくらあっても足りない。コストダウンと精度の向上を見込めない場合は、無理に強行突破は出来ない。だから私は。死んでも「新しいアイデア」を出すしかないんだ」

リヴァイ「…………」

イルゼの手帳を手に入れた後の捕獲作戦は成功したけれど。

その時にかかった費用は後でいろいろ周りから言われてしまったからね。

今のやり方でずっと続けるのは難しいんだ。どこかで「進化」しないと。

と、其の時、リヴァイの方から意外な提案がきたんだ。

リヴァイ「…………休みの時、一緒にまた、トロスト区を歩いてみるか? 俺と一緒に」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ただの散歩だ。こうやって唸って部屋に籠るより、体を動かした方がかえっていいんじゃないか?」

そう言った時のリヴァイの顔、なんか複雑そうだったけど。

嬉しかった。ただの散歩でも十分だよ。

ハンジ「ありがとう! ただの散歩でも付き合ってくれるんだ? 優しいねリヴァイ!」

リヴァイ「別に。優しいとかじゃない。まあ俺も買い物したい物はあるしな。ついでだ」

リヴァイがこっちを見ないけど。なんか胸の中、ムズムズしてしまって。

ハンジ「ついででも嬉しいよ。リヴァイ、本当にありがとう」

と、言って抱き付こうとしたら寸前で避けられてしまった。酷い。

ハンジ「酷い! 抱擁すら、させてくれないの?」

リヴァイ「する必要がない。あと、お前、最近また風呂もシャワーも浴びてないだろ」

ハンジ「うん。実は全然……」

リヴァイ「2か月くらい入ってないっぽい気がするが」

ハンジ「何で分かったの?!」

リヴァイ「いや、俺の記憶の限りだが、2か月前のハンジはまだ髪の匂いがマシだった気がする」

ハンジ「実はそうです! いや、水だってタダじゃないし、そこもケチろうかと」

リヴァイ「だから不衛生にし過ぎて伝染病にでもかかったら元も子もないだろうが。せめて一週間に1度の頻度でシャワーだけでも浴びろ。お湯にタオルをつけてそれを絞って体を拭くだけでも全然、違うぞ」

ハンジ「ううう……」

厳しいなあ。リヴァイは。

リヴァイ「巨人に会いに行く前くらいは風呂入って綺麗にしておけよ」

ハンジ「それもそうだね! 遠征前には絶対入るよ! (キラーン)」

そうだった! 巨人に会う前にはオシャレした方がいいのかもしれない!

そう思いなおすと風呂に入るのも苦にはならなかった。

我ながら現金な奴である。うむ。






そして休みの日。リヴァイと再びトロスト区を歩いてみたんだ。

今回は手芸店での買い物を先に済ませて、後は私の好きにさせてもらえた。

とにかく街の中をウロウロ歩いてみる。以前に比べたら少しずつではあるけど資が増えている気がするし、人の活気もある。

綺麗な女の子も沢山いた。もしリヴァイが今日、兵団の制服で来ていたら声かけられていたかもしれない。

今日はお互いに私服姿だからバレてはいないけれど。私は男みたいな恰好でリヴァイと一緒に街を歩いていた。

ハンジ「ああ………クッキーだ。美味しそう……」

やべえええ出来立ての匂い最高!! ひゃっほおおおお!

リヴァイ「ああ。確かに美味そうだな」

ハンジ「は! でも高い! 我慢我慢……」

いい物は値段もする。ごくり。涎が出るぜ。

そのすぐ隣にリヴァイが好きな紅茶、アールグレイが売ってあった。

アッサムとか、他のも好きらしいけど。正統派のアールグレイが割と好きらしい。

リヴァイ「アールグレイも売ってあるのか。相場より少し安いな」

ハンジ「本当だ。ちょっと安いね」

リヴァイ「……アールグレイのお供にクッキーもついでに買ってみるか」

ハンジ「ええええいいの?! マジで?!」

ずきゅうん! やばい! なにこのイケメン!!!

クッキー奢ってくれるって、え? 本当に???

え……やだ。リヴァイ、なんか優しいな。明日、雨降らないよね?

というか、リヴァイ、何でそんなに優しいんだろ?

……あ、そっか。リヴァイは「抱かれたい男」3年連続連覇をしたような奴だった。

もしかして、こういう部分を皆、知っていて堕ちたって事なのかな?

だとしたら、なんという「スナイパー」。こりゃ女が群がる筈だわ。

リヴァイ「頭に必要な『栄養素』もハンジの頭に送り込む必要があるだろ」

と、リヴァイが言いながら会計を済ませる。

あ、そっか。そういう意味か。なーんだ。危ない。危うく勘違いしそうになったよ。

普通に「サービス」してくれるのかと思った。そうだよね。

リヴァイが私にそんな事、する理由、ないか。

ハンジ「そう言えばそうだった! そうか。私、栄養が足りてないから、アイデアもうまく浮かばないのかな?」

リヴァイ「その可能性は十分あるぞ。お前、最近、また少し痩せただろ。折角、夕食を運んでやっているのに、たまに残しているよな?」

ハンジ「あーなんか、小食になってきたかも? いろいろ考え過ぎて」

リヴァイ「体力が落ちる事の方が大問題だ。ハンジ、今日はお前を「食わせる」事に専念してもいいか?」

ハンジ「マジか! サービスしてくれるの? 奢ってくれるの?」

金出さない事を改めて確認する。本当に奢って貰えるのかな?

するとリヴァイは本当に奢ってくれるようで、

リヴァイ「エルヴィンの言い方じゃないが「チップ」を賭ける。俺は「ハンジ」に金を賭けるんだよ」

ハンジ「うわああああ……嬉しい。こりゃ絶対、結果出さないとダメだね私!」

リヴァイ「期待しているからな。ハンジ」

研究者としての私に金をかけてくれる訳だね。本当に有難い。

まあ、それでもいい。うん。これ以上を望んだら贅沢だ。私。

そして昼前には兵舎に戻って、今度は私の部屋の中に入る。

ハンジ「ええっと、本当にやるんだ? その……紅茶飲んでクッキー食べてからでも良くないかな?」

リヴァイ「ダメだ。掃除が先だ。ハンジ、今から部屋の中の物の「どれ」を捨てていいのか確認しながら掃除をするからちゃんと答えろよ」

ハンジ「ういー」

リヴァイ、やる気満々だなあ。まあ一応、下着類だけはどうにか前もって片付けたけど。

でもそれ以外の「ゴミ」のように見えて「必要な物」が沢山あるので、掃除はなかなか進まなかった。

リヴァイ「捨てないと片付かないだろうが」

ハンジ「いや、でも捨てたくない物は捨てないでよ」

リヴァイ「部屋の容量を考えろ。お前、分隊長何だから他の兵士よりは広い個室を与えられているだろうが。しかも研究室も自室のように使っているのに、何で「こっち」だけ片付けられないんだ。研究室はまともなのに」

そんな事言われてもなあ。と、油断していた其の時、

リヴァイ「さてと………何だこれは? (ビローン)」

ハンジ「ん? ああああそれ、私のパンツだよ! 拾っちゃだめええええ!」

やっべ! 1枚残っていたか! ミスった!

というか、パンツとしてはもう履けない程の代物だったけど。

リヴァイ「えらく伸びきっているな。これはもう流石にはけないだろ」

ハンジ「そうですね。それは流石に処分します」

リヴァイ「他には……ああ、なんかこの辺一帯は衣服がごちゃごちゃしているな。しかも洗ってない」

ハンジ「すみません。洗濯物を溜め込み過ぎました」

リヴァイ「ふむ………だったらこれを先に「選別」するか。まだ着る服と捨てる服に分けていくぞ」

という訳でリヴァイに手伝って貰いながら衣服を整理する事になった。

リヴァイ「洗ってないやつは今から洗ってくるか……」

ハンジ「待って待って! そこまで今日はしなくていいよ! 紅茶とクッキーを一緒に食べようよ!」

リヴァイ「ああ……紅茶は掃除が終わってからでいい。クッキー食いたきゃ先に食え」

ハンジ「折角、買ったのに。一緒にお茶しようよ」

リヴァイ「…………一緒にお茶したかったのか」

意外な顔された。ええええ。普通そうしないかな?

ハンジ「そりゃ奢って貰ったんだから当然でしょうが。もう、掃除は後回しにしていいから、小休止しよ? ね?」

リヴァイ「分かった。そこまで言うなら俺の部屋に戻るか」

リヴァイの部屋に戻って小休止。いやー紅茶が美味い。クッキーうめえ。

ハンジ「ん~クッキー食べたの、いつぶりか思い出せないよ」

リヴァイ「俺もだ。1年以上、食ってなかった気もする」

ハンジ「クッキーは贅沢だもんね。甘いし、美味しいし。本当は毎日食べたいよ」

リヴァイ「アイデアが出るまでは食ってみるか? 実験的に」

ハンジ「金が足りませんから毎日は無理だよ! まあ、気持ち的には有難いけどね」

あんまり甘やかされると調子に乗る自分がいるからね。

そしてどんどんクッキーを食べていたら満腹感が襲ってきて……。

ハンジ「…………なんか食べたら眠くなってきた」

リヴァイ「は?」

やヴぁい。目が半分閉じて来た。眠い。

リヴァイ「おい、こら寝るな。掃除がまだ終わってねえだろうが」

ハンジ「もうリヴァイに丸投げしちゃダメ?」

リヴァイ「その場合、間違えて必要な物まで捨てる可能性があるんだが?」

ハンジ「じゃあ、掃除はまた今度で……」

リヴァイ「壁外調査が始まったら暫くまたバタバタ忙しくなるだろうが。おい、ハンジ?」

ごめん。リヴァイ。動きたくない。

強制終了に近い感覚で体に力が入らなくなった。そんな私をリヴァイは持ち上げてくれて、ベッドに寝かせてくれた。

優しいな。リヴァイ。ありがとう。

そう思いながら、私の意識は完全に堕ちていった。







鼻呼吸が突如出来なくなって慌てて意識が目覚めた。

ハンジ「んあ?! え? あ……寝てた?! 私!」

目の前にはリヴァイの顔があった。顔、近いんですけど。

リヴァイ「3時間くらい爆睡していたな。そんなに疲れていたのか?」

ハンジ「いや、多分、クッキーの中に睡眠薬でも混入していたんじゃないかな?」

と、言い訳してみる。

リヴァイ「俺も食ったが、別に眠くはならなかったが?」

ハンジ「じゃあリヴァイには薬が効かなかったとか? ………御免なさい。結構、疲れは溜まっていたかもしれないです。はい」

リヴァイ「やれやれ。自己管理も仕事の内だろ。悩むのは分からんでもないが、悩み過ぎるのも問題だろうが」

呆れられてしまったようだ。

いやー、だってね。ついつい、ね?

ハンジ「なんか、こっちの部屋の方がよく寝れるみたいだね? リヴァイの部屋の方が快適だなあ」

リヴァイ「そりゃそうだろうな。あっちの部屋は既に「空気」が「どんより」しているからな」

ハンジ「やっぱり? やっぱりそうだよね。はあ……ついつい後回しにしていたらいつの間にか自分の部屋がおかしくなっていたんだよね」

リヴァイ「いつの間にかじゃねえな。割と常にだと思うが」

ハンジ「すみません。常にそうですね。はい。何だろうね? 自分でも良く分かんないんだけど」

照れくさくなってきた。うん。なんだろ。この感じ。

バツが悪い気分で、でも照れ臭くて、頭をつい掻いちゃったら、

リヴァイにいきなり、右手首を掴まれてドキッとした。

ハンジ「え?」

リヴァイ「俺のベッドの上で頭を掻くな。フケが落ちる」

ハンジ「そうだった! いや、御免。ついつい……」

リヴァイ「今夜は流石に風呂、入るんだよな?」

ハンジ「うん! 遠征前には入った方がいいかもしれないって、リヴァイの言葉で目覚めたからね!」

リヴァイ「それで入浴するんだったらもっと早くそれを言えば良かったな」

いやいや、それは結果論ですよ。

ハンジ「いやいや? 気づいただけでも前進ですよ? あ、でも夕食が先か。今日は一緒に食堂に行こうかな」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「うん。確かに最近ちょっと根を詰め過ぎだったかも? 壁外調査前だし、ちょっと考えるのを自重するよ」

という訳で久々に私はリヴァイと一緒に食堂の方で夕食を取る事にした。

先に2人で食べていると、エルヴィンとミケも後から合流してくれた。

エルヴィン「おや、珍しい。こっちで夕食を取るのは久々じゃないか? ハンジ」

ハンジ「うん。そうだね。最近は研究室で食べる事が多かったから。たまにはこっちで皆と食べようと思って」

リヴァイ「いろいろ煮詰まっているようだったしな。1回、気持ちを切り替えさせた方がいいと思ってな」

エルヴィン「もうすぐ次の遠征だしね。うん。体調管理はしっかりお願いするよ」

ハンジ「御免なさい」

と肩をすくめながらスープを飲み干す。

エルヴィン「しかし、アレだな」

リヴァイ「何だ?」

エルヴィン「最近、よく2人で夜、一緒にいるんだって?」

ドキッ。まずい。エルヴィン、気づいているっぽいなあ。

どーしよ。エルヴィン、あんまり兵士同士でくっつくの、困るって言っていたもんなあ。

いや、くっついてはいないけどね。リヴァイとはそういう関係じゃないけど。

ただ、ドアの「開閉」についてはエルヴィンも知っているからきっと誤解しているとは思う。

リヴァイ「何の話だ。いきなり。そんなに「よく」って程でもねえけど」

ハンジ「あー私がいろいろ煮詰まった時は私がリヴァイの部屋に遊びに行っているだけだよ」

リヴァイ「週一くらいか? そんなもんだろ。週末一緒にたまに夜、部屋で寝る前までハンジとしゃべっているだけだが」

エルヴィン「…………そうか」

エルヴィン、目が細くなっていく。ううう。そんな目で見ないでよ。

私自身、リヴァイの真意を測りかねている部分もあるんだよね。

ミケ「ふん………」

ミケまで鼻を鳴らして笑った。あーもう、バレているっぽいなあ。これは。

どうしよう。ここでもっと否定する事も出来るけど。でも否定したら「はいはい」って事になるしなあ。

それよりも、実際、部屋の中で何をやっているかを話した方がいいかもしれない。

ハンジ「リヴァイ、スピードがめっちゃ強すぎて勝負にならないんだよ! ポーカーだと私の方が強いけど!」

リヴァイ「お前がのろすぎるんだろ。あと4649とかも俺の得意分野だな」

193(いっきゅうさん)とか、3249(みによんく)とか、そういう名称に変わる場合もあるけど。

その遊びがどこから発祥して何処から流れて来たのかは今も不明である。

カードを円形に並べて、1枚ずつ中央に裏返して見せて置いて、指定したカードの数字が出た瞬間に手を出し合って奪い合う。

手が遅かった方が全部取って、数が多かった方が負けになるゲームだ。

これもリヴァイ、滅茶苦茶強いんだよね。勝てた試しがない。

ハンジ「ふーん。チェスだったらまだ私が勝つもんね」

リヴァイ「最近、俺も前よりは腕はあげたつもりだが?」

エルヴィン「チェスもやるようになったのか」

リヴァイ「まあな。トランプだけだと、ネタが尽きて来たし。ハンジと2人で遊ぶのだったらボードゲームの方が盛り上がるのは否めない」

ハンジ「前に比べたら強くはなったけど。まだ私の方が強いからね!」

リヴァイ「そのうち、絶対負かしてやるからな」

単純なボードゲームだとエルヴィンにはまだ勝てないけどリヴァイなら勝てるもんね。

エルヴィン「結構、意外と2人で遊んでいたんだね」

リヴァイ「いや、最近だけどな。前はそうでもなかった。切欠はいつだったか………ああ、ハンジが新しい罠を造りたいけど、アイデアが煮詰まっていて、その気分転換をさせる為に始めたんだが、いつの間にか遊びの方がメインになっていた」

ハンジ「あ、それもそうだったね。ごめんね。遊んでばっかりで」

リヴァイ「いやそういう事もある。それより次の遠征ではどの程度、外に出られそうなんだ?」

話題が逸れた。リヴァイ、ナイス♪

エルヴィン「ううーん……また日帰りになりそうな気配だね。午前中に行って帰ってくるだけになりそうだ」

リヴァイ「そうか………」

リヴァイが残念そうだった。私も同意だ。

エルヴィン「まあ、近年は平均して月一ペースでとりあえず、外には出られるようになったからまだマシかな。以前はその間隔がバラバラ過ぎたしな」

リヴァイ「せめて三日、自由に外に出られたら、もっと効率よく巨人を殲滅させられるんだろうが」

エルヴィン「兵士の損害の方が大きくなるよ。今はヒット&アウェイ作戦でいかないと」

リヴァイ「まあそうなんだろうな」

エルヴィン「うん。まあ、焦ったらダメだよ。私もいろいろ変革の過渡期だと思っているし。索敵陣形の精度も初期の頃に比べたら断然、上がっているし。いい方向には向かってはいると思うが」

リヴァイ「………が?」

エルヴィンの表情が陰った。どうしたんだろ?

エルヴィン「ううーん……実は、また女性の兵士が1人、「産休」に入っちゃって」

リヴァイ「は? ちょっと待て。何で遠征前に急にそういう事を言いだす」

エルヴィン「いや、もしかしたら調査兵団を抜けざる負えないかもしれないけどね。彼女の場合は」

リヴァイ「………年はいくつの奴だよ」

エルヴィン「まだ若い。19歳だ。まあ、若い子はたまにあるけどね。そういう事も」

リヴァイ「……………」

産休かあ。女はこれはあるから面倒臭いんだよね。

まあ、でも、壁内で子供が産まれなくなったらそれはそれで大問題だけど。

エルヴィン「ただまあ、本人は産んだら戻ってくるとは言ってはいるが……恐らくご家族が大反対されるだろうね。流石に。育児を理由に兵士を引退させられる可能性が高い」

女性の兵士と男性の兵士の比率を考えるとおよそ半々だった。

だから、兵団の内部で恋愛事が起きて、女性の方が子供を妊娠してそれを切欠に退役する人も珍しくはない。

それはそれで人生だ。自由だと思う。それを引き留める権利は誰にもない。

エルヴィン「資金繰りの件よりもむしろ「人材不足」の方が毎回頭を痛めるよ。人が減れば減るだけ、1人当たりの兵士の負担が増える訳だからね」

リヴァイ「俺が10人分くらいは働いてやるよ。エルヴィン。心配するな。その女の兵士の分の仕事も俺がやってやる」

ハンジ「私もリヴァイと同じ意見だよ。大丈夫。人が減っても、私はずっと調査兵団に残るからね」

ミケ「ああ。俺もそうだな」

リヴァイ一人で背負わせないよ。私も頑張るし。

エルヴィン「君達にそう言って貰えるのは嬉しいが、次世代の兵士を育てるのも私達の仕事のうちだからね」

リヴァイ「そうだな。そういう意味ではその女の兵士も自分の子供に英才教育をしてやって欲しいが」

ハンジ「なるほど。幼少期から立体機動を教える訳ですね。案外いいアイデアじゃない?」

エルヴィン「親御さんに大反対されそうな計画だな。それは」

ミケ「いや、でも案外いいかもしれないぞ。今度、そういう「子供向け」の「指導」が出来る様な企画を出してみたらどうだ?」

エルヴィン「その場合はリヴァイが確実に客寄せ役をやってもらうからね?」

リヴァイ「………だったら無理だな」

いいアイデアだとは思ったけどね? なんちゃって。

そんな感じで適当におしゃべりしながら夕食を食べ終えると、それぞれの部屋に戻った。

そして明後日の為にお風呂に入る。風呂に上がってから、ついでだからリヴァイに声をかけようと思った。

リヴァイの部屋に突入してみる。あ、鍵が開いてる。ラッキー♪

ハンジ「やーリヴァイ! ちゃんと風呂に入って来たよ? みてみてー」

リヴァイ「おい。濡れた髪のしずくを床に散らかすな。ちゃんとタオルで頭を拭け!」

あ、しまった。髪、ちゃんと乾かしてないや。

ハンジ「あはは! ねえねえ? 久々に綺麗になったかな? これなら巨人に見られても見苦しくない?」

リヴァイ「ああ。美女になったな。ハンジの色気に騙されて巨人が近づいてくるかもな?」

ハンジ「おしゃああああ! 餌になってやるぜ! いや、釣り上げるのが目的だけどね?」

リヴァイ「当然だろうが。いい巨人を引っかけろ。俺が根こそぎ削いでやる」

ハンジ「よろしくね! あ………」

リヴァイ「ん?」

思い出しちゃったな。あの時の事を。

ハンジ「ごめんね。いつか、謝ろうとは思っていたけど」

リヴァイ「?」

ハンジ「いつだったか、あんたの部下、死なせかけたでしょ?」

リヴァイ「ああ……」

リヴァイの部下にはちゃんと謝ったけど。リヴァイ本人にはまだちゃんとは謝っていなかった気がする。

私は「イルゼの手帳」を手に入れる以前は、ちょっと「イタイ女」だった。

周りが見えない、暴走女というべきか。リヴァイに怒られてもその意味すら理解出来ない馬鹿女だったんだ。

振り返ると昔の自分は危なっかしい女だったと思う。リヴァイに何度、怒鳴られたか覚えてない。

ハンジ「御免。謝り損ねていたけど。いつかはちゃんと謝ろうと思ってはいた。今、ふとその時の事を思い出してね」

リヴァイ「新しい罠を必死に考えているのもそのせいか」

ハンジ「うん。犠牲は最小限にしないといけないって、考えを改めたから。だから「新しい罠」は絶対、いつか必要になると思っている。今回の壁外調査でその「ヒント」が掴めたらいいんだけどな」

リヴァイ「………そうだな」

リヴァイが急に私の眼鏡を勝手に外してしまった。

何? 見えないんだけど。何、しているの?

ハンジ「ん?」

リヴァイ「眼鏡に水がついている。拭いてやるから」

そしてまた眼鏡をかけられて、視界が凄く綺麗になった。

あ! 凄い。全然見え方が違う!

ハンジ「おお! 視界が急に綺麗になった! ありがとう!」

リヴァイ「普段からもっと眼鏡を磨いておけ。ますますクソ眼鏡になるだろうが」

ハンジ「今のは、どっちに対して「クソ」なんですかね?」

リヴァイ「両方だ。さてと。今日はもう帰れ。俺も寝る」

相変わらず酷い。まあ、別にいいけどー。

ハンジ「うん。ありがとう。おやすみなさーい」

なんだろ。毎回、楽しいな。リヴァイと話すのが。

綺麗になった眼鏡のおかげでルンルンしながら、私は自分の部屋に戻って行ったのだった。








今回の壁外調査では残念ながら巨人の捕獲作戦は行っていない。

何故なら新兵の数が多い事と、その捕獲用の「新しい罠」が未完成だったからだ。

旧式のやり方でやれなくもなかったけど、時間もあまりない事もあって、今回は見送りになった。

従来の壁外調査に比べたら死者の数は少なかったけれど、それでも毎回、弔う事には慣れなかった。

いつもの事後処理を大体済ませると、私はニファに例の件を託した。

リヴァイは「女性からの突然の贈り物を受け取るのか受け取らないのか」実験である。

あいつ、本当に女関係に関しては「謎」過ぎるんだよね。

たまに飲み会とかあるけど、そういう時の「猥談」ですら参加したがらない。

だからリヴァイがどんな女性が好きなのか、とかも全く情報が漏れてこない。

だから一部の「エルヴィンと実は出来ている説」も割と浸透してしまっている。

ここは一発、実験をして確認してみたいと思っていたのだ。

壁外調査が終わってからなら、リヴァイも少し気が緩む筈だから、実験する「時期」としてはここしかないと思った。

ハンジ「じゃあ、ニファ、宜しくね」

ニファ「はい! いってきます!」

ニファがリヴァイに接触をはかった。帽子、受け取るかなあ?

お? 意外とあっさり受け取った! グッジョブニファ!

なーんだ。リヴァイ、ちゃんと女性からの贈り物、受け取れるんじゃん。

だったら巷で流れている「エルヴィンと出来ている説」はただの噂だったのかな。

今のやりとりを見る限り、女性に全く興味がない感じではなかった。

少し嬉しそうにしていたし、大丈夫そうだね。

ハンジ「おお? 室内なのに帽子かぶってる! ニファに貰ったね?」

リヴァイ「何で知ってる?」

ハンジ「いや、だって一緒に買い物に行ったし。リヴァイに何かプレゼントしたいって事だったから、私も一緒に選ぶのを手伝ったんだよ。サイズも大丈夫でしょ?」

リヴァイ「いつの間にサイズを知ったんだ?」

ハンジ「あんたの部屋の帽子のサイズをこっそり「調査」しました」

リヴァイ「やれやれ。情報がダダ漏れだな。ハンジには」

ハンジ「別にいいじゃん。頭の大きさくらい。私、人の体のサイズを知るの好きだし」

リヴァイ「人じゃなくて「巨人」の間違いだろ?」

ハンジ「人と巨人を比べたら、そりゃ巨人の方が上だけど」

リヴァイ「やっぱりな。まあいい。いい帽子だから使わせて貰おう。でも何で、急にくれたんだろうな?」

ハンジ「あー……壁外遠征であんたがニファを援護したからじゃない?」

と、予め考えておいた「理由」を提示する。

リヴァイ「ん? 援護するのは当然だろうが。ニファはまだ、壁外に出るのは3回目くらいじゃなかったか?」

ハンジ「まあそうだけど。新人だから気をつけて見ていたんでしょ? その優しさがニファを動かしたんじゃない?」

まあ、全くの嘘でもないけどね。

ニファは「上司」としてのリヴァイを尊敬していると言っていたから。

リヴァイ「エルヴィンも言っていただろ。若い奴らを育成するのも仕事の内だと。だったら新人の兵士には出来るだけ、ベテラン組が目を光らせる必要があるだろ」

確かにね。育成も大事なお仕事のひとつだね。

そしてリヴァイは自室に戻ろうとしたので、そこで慌てて呼び止めた。

エルヴィンに頼まれていた事があったからだ。

ハンジ「あ、待ってリヴァイ」

リヴァイ「何だ?」

ハンジ「あのね。エルヴィンから頼まれていたんだけど、今度、結婚式に参加してくれない?」

リヴァイ「誰の」

ハンジ「例の産休中の女兵士だよ。本人は産んだら絶対、兵士として戻るって言っているけど、やっぱり家族の方が反対されているらしくてね。エルヴィンと私とで、一応、結婚式に顔を出してみる事になったんだよ。出来るなら、リヴァイも一緒に来てくれない?」

リヴァイ「…………」

困惑顔だね。複雑な心境は分かるけど。

リヴァイ「俺が行って、何か役に立つのか?」

ハンジ「むしろ来てくれないと凄く困るってエルヴィンが言っていたよ。人類最強のリヴァイがいるから「大丈夫」だって思わせるしか、説得する方法がないんじゃないかな」

リヴァイ「俺は保険みたいな存在か」

ハンジ「リヴァイがいるのといないのじゃ、雲泥の差だよ。本人の意志を尊重させたい訳だし。ね? 式に出る為のスーツなら持っているでしょ?」

リヴァイ「むしろ、ハンジの方が着ていく服を持ってないように思うが?」

ハンジ「あーそれは今度の休みに貸衣装屋に借りに行くよ。1人で行ってくる」

リヴァイ「………………1人で行くのか」

おや? 今、変な間があったね?

ハンジ「うん。1人で行くけど………あ、もしかして、リヴァイも街に用事ある?」

もし用事があるなら一緒に行ってくれそうかな?

リヴァイ「まあ、あるな」

あるんだ。じゃあ甘えちゃおうかな。

ハンジ「じゃあ、ついでに一緒に行く?」

リヴァイ「ああ。いいぞ。別に」

即答だった。おお。意外だな。最近、サービスいいなあ。リヴァイは。

ハンジ「じゃあ、そういう事で。私も報告書の件があるし。またね」

リヴァイと一緒に貸衣装屋に行ける事にちょっとだけ浮かれながら、私も自分の仕事に専念した。

そして次の日、いろいろ雑務を終わらせた後、夕方、ナナバからいい情報を貰って私は考えた。

どうやら例の貸衣装屋が今日まで安売りしているそうだ。

ただ、時間が時間だし、今からお店に行っても滑り込みだろうな。

ハンジ「ん~」

でも、ちょっと無茶振りしてみたい気持ちになった。

最近のリヴァイ、ちょっと優しいから、振っても案外いけるかも?

そんな風に調子に乗ってしまって、私はついつい、リヴァイを誘ってしまったんだ。

ハンジ「リヴァイ! 今、時間ある?」

リヴァイ「ああ。雑務は大体済ませてきたが……何か用事があるのか?」

ハンジ「あのね……貸衣装屋さん、今日まで安売り価格でやっているんだって! 明日はお店が休みだし、今からトロスト区に行こう!」

リヴァイ「は? 今から? 待て。もう夕方だぞ。向こうに着くのはいいが、戻ってくる頃には夜にならないか?」

まあね! でも行きたいんだ! それでも!

ハンジ「ナナバがね、教えてくれたの! ギリギリセーフだよ! 安く借りられるなら安い方がいいでしょ? だから、行こう!」

リヴァイ「………」

嫌そうな顔しているなあ。これは断られるかな? 流石に。

あ、でも、リヴァイ、「NO」とは言わずに「エルヴィンの部屋に行く」って言って部屋を出て行っちゃった。

リヴァイ「エルヴィンの許可は貰って来た。行くぞ」

おおおおおお?! いいんだ? スゴイ!

最近、なんかリヴァイ、本当にサービスいいなあ。どうしちゃったんだろ。

でも嬉しい。私はウキウキしながらリヴァイと一緒にトロスト区に行く事になった。

貸衣装屋の営業時間ギリギリに店に滑り込んで、とにかく「着られる」衣装の中で「1番安い」物を即決して決めた。

黒いレースの入ったワンピースだけど、まあいいか。これで。

でもそれを会計し終えてからリヴァイが眉間に深い皺を寄せたんだ。

リヴァイ「おい、ハンジ。試着しなくて良かったのか?」

ハンジ「え?」

リヴァイ「ちょっと体に当ててみるぞ。………やっぱりこれ、スカートが短過ぎないか?」

あ、しまった。本当だ。

デザイン、碌に見ないで決めちゃったからそこに気づいてなかった。

ハンジ「あ………ごめん。安さに釣られて、あんまりデザイン考えてなかった」

リヴァイ「10代なら足見せてもいいかもしれんが、その年でその露出はどうかと思うぞ」

ハンジ「それもそうだね。やっぱり交換して貰おうかな……あ、でもそうなると、お金がかかっちゃうし……ううーん」

リヴァイ「……………もういっそ、男装して行った方が良かったかもな」

ハンジ「! それもそうだった! そっちがいいじゃん! それだったら、身長近い男性の兵士に服借りれたし! あちゃー……私の馬鹿あ!」

ああああ! そっちにすればよかった! 何も無理して「女装」する必要ないじゃん!

だって、性別隠して式に出ても別に問題ないし! とりあえず「出る」ことさえすればいいんだから!

リヴァイ「いや、今のは流石に冗談だったんが」

あれ? リヴァイがちょっと引いてる。

ハンジ「え? そうだったの?」

リヴァイ「いや、何か和ませた方がいいかと思ってな」

あらら。気を遣わせてしまったようだ。すまんね!

ハンジ「あらら……もういっそ、リヴァイがこれ着ちゃったら? 丁度いいんじゃない? スカート丈も」

リヴァイ「それは思ったが、それをやったらただの変態だからやめておく」

ハンジ「あはは! それもそうか! ううーん。ま、1回だけの事だし、ミニスカートでも妥協するよ。そんなにジロジロ見られるようなもんでもないでしょ?」

リヴァイ「さあな。それを俺に聞かれても分からん」

ほらね。こういう話題になると逃げるんだよね。リヴァイは。

だから本当に「女」に興味があるのか半信半疑なんだよなあ。

でも、リヴァイの視線は別のところに移動して、

リヴァイ「タイツを新しく買ったらどうだ? タイツを履けば、ミニスカートでも見苦しくはないだろ」

ハンジ「ううう………お金、貸してくれる?」

リヴァイ「は? え……まさか、残金ないのか?」

ハンジ「余分なお金は持って来てないです」

リヴァイ「まあ、タイツくらいなら別に俺が奢ってやってもいいんだが」

と言いながら店を出た。え? また奢ってくれるの?

マジか! いや、でも流石にそれは悪いかな。うん。

なんか甘え過ぎているような気もするしね。うん。

靴下屋に入ってから、リヴァイがいろいろ見ていた。考え込んでいるみたいだけど。

リヴァイ「黒いワンピースだから、下も黒でいいか?」

ハンジ「何でもいいよ」

リヴァイ「いや、待て。あんまり真っ黒にしたら地味過ぎないか? 別の色にするべきか?」

ハンジ「リヴァイ~急いで~」

リヴァイ「まあ待て。赤色の方がいいかもしれんな。黒のワンピースに赤色のタイツで…」

ぷぷぷ……真剣だなあ。いや、有難いけどね?

うんうん唸って考えてくれている。やだ。すっごく嬉しい。

何コレ。くすぐったいんだけど。リヴァイ、今、自分がどんな顔しているのか分かってないよね? 

普段では絶対見られない、貴重なリヴァイだと思った。

こういう側面もあるんだ。そう思うと、何だか吹き出して腹抱えて笑ってしまいそうになる。

でも流石にここで笑うと、今までの策略というか「実験」がバレそうな気がしたから、やめておいた。

ハンジ「もう何でもいいから早く決めて!」

リヴァイ「ああ……分かった。なら赤色でいいな? サイズは合ってるよな?」

ハンジ「それでOKです!」

という訳で慌てて買い物を打ち切らせて店を出た時……

ハンジ「しまった! 私、靴も結婚式用のやつ、持ってないんだった!」

リヴァイ「はあ?!」

タイツを購入したおかげで思い出したのだ。いや、本当にすっかり忘れていましたよ。その件を。

ハンジ「あわわわ……どうしよう! ブーツ履いていくわけにもいかないかな? ぺったんこの女性用のやつか、ハイヒール履かないとまずいかな?」

リヴァイ「いや、ハイヒールは流石に履きなれていないと危ないから別に良くないか? 普通の女性用の靴でいいと思うが」

ですね。ハイヒールはちょっと無理かな。

リヴァイ「あーだったら今度は靴屋だな。しかしもう営業時間が……」

ハンジ「タイムアップだねえ。しょうがない。諦めよう」

リヴァイ「今日はとりあえず、トロスト区に泊まって行っていいとエルヴィンに言われているから泊まるぞ」

ハンジ「あ、そうだったんだ。エルヴィンも太っ腹だね!」

リヴァイ「靴は明日の午前中に見て回るぞ。それでいいな」

ハンジ「うん。そうするよ」

という訳で2人でトロスト区内にある方の調査兵団の兵舎に足を運ぶ。

こっちにも調査兵団の兵舎はある。仕事や買い物等でここに滞在する事もあるので、調査兵団の兵士なら誰でも寝泊まれる設備があるんだ。

空いている部屋を借りて私は今日、借りた衣装や、エルヴィンに以前貰った香水などをつけて「予行演習」をやってみた。

髪も1回、御団子にしてみる。髪を上にくくるの、久々だなあ。

そしてリヴァイに見せびらかしてみる。どうだ!

ハンジ「スカート久々過ぎる~あはははは!」

リヴァイ「妙にテンション高いな。お前」

ハンジ「いや~スカート履くと途端に「女」に戻った感覚があるよ。不思議だね!」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。やっぱり気持ちがちょっと変わるね。着た感じ、変なところはない?」

リヴァイ「まあ別に。それでいいんじゃないか?」

ハンジ「反応普通だねえ。ま、そんなもんか」

やっぱりリヴァイって反応が鈍いんだよねえ。エルヴィンだったら「似合うよ」くらい言ってくれるんだけどな。

ミケも「すごくいいよ」とかモブリットですら「ハンジ分隊長! OKです!」とテンションあげてくれるのに。

1回、くるりと回って見せたら、リヴァイが変な顔をした。

ハンジ「ん? どうかした?」

リヴァイ「いや………別に」

ハンジ「おお? 何かもしかして照れています? 照れています?」

照れているのかな? どうかな?

でもリヴァイはちょっと考えて、そして言った。

リヴァイ「………もう1回、回ってくれないか?」

ハンジ「え? 何で?」

リヴァイ「確かめてみたい事がある」

ハンジ「あらそう? じゃあもう1回転! (くるり)」

リヴァイ「……………ぷっ」

あれ? 今度は笑われちゃった。

ハンジ「何で笑っているの?」

リヴァイ「タグ、外し忘れているぞ。ワンピースの後ろ」

ハンジ「あ………本当だ! 背中の外すの忘れていた!」

ぎゃあああああ?! 恥ずかしい!!! やっちゃった!

それ、先に言ってよ! 全くもう!

リヴァイ「ベッドに座れ。外してやる。後ろ向け」

ハンジ「はいはい。お願いしますよ」

リヴァイ「………………」

あれ? どうしたんだろ? リヴァイが動く気配がない。

リヴァイ「なんか、いつもと匂いが違う気がするが」

ハンジ「あ? 気づいた? 気づいちゃった? 実はね。以前、エルヴィンから貰った「香水」をちょっとだけ試しにつけてみたんだ」

リヴァイ「エルヴィンから?」

ハンジ「そうそう。いい香りだから、あげるって。どうやらエルヴィンのも貰い物らしくて。それを更に小さな小瓶に分けて貰って貰ったの。おすそ分けのおすそ分けだね」

リヴァイ「……………少し、嗅いでもいいか?」

ハンジ「どうぞ。どうぞ。気に入ったなら、リヴァイもエルヴィンから貰っちゃえば?」

スンスン……

リヴァイが匂いを黙って嗅いでいる。後ろから。

その様子はミケとそっくりで、ちょっと笑ったけど。

だんだん、その鼻が近づいて、リヴァイの鼻が私の「項」にぴったりくっついて、一瞬、ドキッとした。

え? え? な、なに? 何が、したいの?

ハンジ「ちょっと?! 鼻くっつけて嗅ぐのは流石にえええっと……」

リヴァイ「!」

リヴァイ「すまん。鼻をつけるつもりはなかった。その、他意はない」

慌てて少し距離を取るリヴァイだった。他意はないって。

ええっと、そうだよね。まあ、そらそうか。

ハンジ「いや、まあいいんだけど……結婚式にも一応、これ、つけていこうかなって思って予行演習してみたんだけど。止めた方がいいかな?」

リヴァイ「別にいいと思うぞ。ちょっとくらいなら」

ハンジ「そう? でも、今、何か、凄く嗅いでなかった? ミケ並みに」

リヴァイ「すまん。珍しい匂いだと思ってしまって」

ハンジ「はは~ん。実はリヴァイ、香水好きだった?」

リヴァイ「………そもそも、香水なんて高価な物を嗅いだのは初めての経験かもしれん」

ハンジ「あらそうだったの?」

リヴァイ「俺は地下で育ったようなもんだからな。そういうのは「上流階級」の「一部の人間」が使う物としか認識していなかった。もしくはそういう「商売」をしている女が使う物としか」

ハンジ「そうだったんだ」

リヴァイ「だからその……すまん。珍しいと思ってしまって、ついつい、好奇心が疼いた」

そっか。それなら仕方がないよね。うん。

リヴァイだし。私もそんなに気にしない事にした。

ハンジ「好奇心のせいなら仕方がない! 許す!」

振り向いて笑うと、

リヴァイ「おい、待て。タグはまだ外してないぞ」

ハンジ「あら? そうだったの? じゃあもう1回(くるり)」

そして待つ。

待つ。

待つ。

ん? まだかな? 何か、気配がない。

ハンジ「まだー?」

リヴァイ「ああ、取ったぞ」

ハンジ「ありがとう。じゃあもういいかな。元の恰好に戻ってくるね」

リヴァイ「ああ……」

そして予行演習は終わったので元の私服姿に戻るともう1回リヴァイの部屋に戻った。

ハンジ「ん? 何で首を傾げているの?」

リヴァイ「いや、何でもない」

ハンジ「何でもなくないでしょ。すっごい大げさに首が傾いているけど」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「リヴァイにしてはオーバーアクションだね。悩み事?」

リヴァイ「大した悩みじゃない」

ハンジ「でも、「悩み」だよね? 眉間に皺寄っていますよ?」

リヴァイはしょっちゅう眉間に皺を寄せるけど。

首も傾いているし、何か悩んでいるのかなって思った。

リヴァイ「ああ。つまり、これが悩みの種だ」

と言ってリヴァイは自分の眉間を指差している。

ハンジ「ん? どういう事?」

リヴァイ「自分でも良く分からない時に眉間に皺が寄っている。その理由が良く分からないんだ。自分では」

ハンジ「ええええ……眉間に皺を寄せるの、無意識だったの?」

リヴァイ「意識的に寄せる時もある。ただそういう時は「困惑」したり「疑問」に思ったり「イラッと」したり、何か理由がある筈なんだが、たまに自分の中で理由が見当たらないまま「眉間に皺が寄っている」時がある」

ハンジ「それは「謎」過ぎるね。面白いねえ」

ついつい、私も「好奇心」が疼いてしまってリヴァイに近づいた。

ハンジ「今も眉間に皺が寄っているしね。戻せないの?」

リヴァイ「ああ……なんかハンジの顔を見ているとそういう時が多い気がする」

ハンジ「………それって私の事を『嫌っている』からとか?」

嫌悪感からきているならちょっとショックかな。

リヴァイ「別にハンジの事は嫌いじゃないが。………もう少し部屋さえ綺麗にしてくれりゃなとは思うが」

ハンジ「それを言ったら私も「もうちょっと潔癖症をどうにかして欲しいな」って思いますよ?」

リヴァイ「だったらお互い様だろ。だからそういう理由ではないような気がするんだが」

リヴァイ自身もやっぱり分かってないのか。うーん。

ハンジ「ん~困惑でも、疑問でも苛つきでもないなら、一体「どの感情」でそういう顔の動きが起きているんだろうね?」

リヴァイ「自分で自分の顔の動きの理由が分からないって謎過ぎるよな」

ハンジ「だね! 私も初めてのケースだよ。そういう話を聞くのは」

リヴァイ「まあ、別にそれで何か不都合がある訳じゃない。「大した悩み」じゃないと言った意味が分かっただろ?」

ハンジ「ちょっと気になる程度の悩みって事か。だったらそのうち「ふとした」時に理由が分かるかもね?」

リヴァイ「そうだといいけどな」

リヴァイ「まぁ……そういう訳だから俺の悩みはどうでもいいんだが。ハンジの方の悩みはまだ解決の糸口は見つからないか?」

ハンジ「ううう……残念ながらまだダメです。新しい捕獲作戦に移行出来そうにないです」

リヴァイ「あと一歩が出ない感じなんだな?」

ハンジ「そう。コストダウンに加えて精度を上げないといけないからね。発想の飛躍が必要だとは思うけど」

うぬ。こっちの悩みの方が深刻だった。リヴァイのと比べたら余計に。

ハンジ「頭の中では想像出来るんだけど。巨人をこんな風に拘束したいのよ!」

と、持ち歩いている「絵」をリヴァイに見せる。

リヴァイ「いや、その絵は前にも見たからな?」

ハンジ「ううう……脳内の物を人に説明するのって本当、難しいよね」

と言いつつ、メモ帳をしまい込む。

リヴァイ「それは俺も同意するが………まだまだ新しい罠の開発には時間がかかりそうだな」

ハンジ「うん……」

リヴァイの横に座って私は肩を落とした。

ハンジ「調査兵団の新兵の入団者数も年々、減っているしね。人数が少なくなればなるほど、兵団を維持していくのが大変になってくる。勿論、私は最後の一人になろうとも、この命が尽きるまでは巨人と向き合うつもりはあるけど」

リヴァイ「……………」

ハンジ「エルヴィンが頑張っているのも分かっている。だから私は何としてでも、頭の中の「構想」を「実現」させないといけないと思っている」

リヴァイ「まずはいくつか試作品を作ってみないか?」

ハンジ「小さい物なら、いくつかやってみたよ。でも、やっぱり違うんだよね。肉に刺さってもすっぽ抜けるというか…」

リヴァイ「矢じりの先端が問題なんだよな」

ハンジ「そうそう。筋肉を「ひっかける」ような形で、かつ、飛び道具としても性能も兼ね備えた物じゃないと」

リヴァイ「ふむ………」

リヴァイも真剣に悩んでくれる。それが凄く有難かった。

リヴァイ「技術班の人間とは相談してみたのか?」

ハンジ「そりゃあ勿論だよ! でも……もし実現できたとしてもコストがかかり過ぎるから実現は難しいだろうって言われたよ」

リヴァイ「それは金さえかければ実現出来るという意味だよな」

ハンジ「金さえあればね!」

リヴァイ「だったら、「担保」があれば調査兵団に出資させる事は出来なくはねえんじゃねえか?」

ハンジ「え?」

なんか、凄く嫌な予感がした。

ハンジ「た、担保って何? ま、まさか私の身体とか?」

リヴァイ「お前の身体じゃ一月の給料分も賄えないから無理だな」

ハンジ「はい、分かっていましたけどね! むしろ予想通りですけどね! ………で、本当の担保は何?」

リヴァイ、危ない橋を渡ろうとしていない? 気のせい?

リヴァイ「担保は『成果』だ」

ハンジ「成果……」

リヴァイ「壁外調査での『成果』そのものを『担保』にして出資させれば、何とかならねえか?」

ハンジ「それって、失敗したら調査兵団、大打撃になるんじゃない?」

リヴァイ「壊滅の危機だな。解体する可能性もある」

ハンジ「さ、流石にそれは危険が大き過ぎないかな……」

調査兵団の未来そのものを「チップ」としてのせるようなものか。

怖いなあ。責任重大過ぎる。

リヴァイ「お前は自分の給料を全部注ぎ込んでもいいとすら言っただろ。俺も出来るならそうしてやりたい。だが、恐らくお前の中の「構想」を「実現」するには、俺達の給料を全て捨て去っても、それでも「足りない」んじゃねえのか?」

ハンジ「うぐ……!」

うわバレた! リヴァイ、勘がいい!

そうなんだよね。実は「試作品」程度なら私達の給料でもどうにかなるけど。

それを「量産」する段階になったらとてもじゃないけど、支援者の力を借りないとどうにもらならない。

だってねえ。エルヴィンの想定は「14~15メートル級」の巨人の捕獲だから。

今までと全然「規模」が違うんだ。私も正直、うまくいくかは今のままじゃ「五分五分」だと思っている。

リヴァイ「ハンジ。この場合はもう「コスト」の方を捨てるしかねえだろ」

ハンジ「えええ……でも、もし失敗したら」

リヴァイ「失敗しなきゃいいんだろ? 勝ちさえすればいいんだ」

ハンジ「なんか、危ないギャンブラーのような言い分に聞こえるけど」

リヴァイ「普段、巨人と命のやり取りをするのに比べたら可愛いもんだろうが」

ハンジ「いやいやいや!? 全然重みが違いますよ?! 調査兵団全部と罠開発、天秤にかけたら、調査兵団の方が重いから!」

リヴァイ「だがいつまでも「研究」の方が停滞状態になるのはお前にとっても悩ましい事だろ」

ハンジ「……………」

リヴァイに手を握られてしまった。その瞬間、何か「温かい」ものを感じて、涙腺が緩む自分がいた。

なんだろ。どういったらいいか分からないんだけど。

すっと、胸の中に「何か」が入ってきたのかな。良く分からない。

リヴァイ「心配するな。成果ならきっと、俺達調査兵団全員であげてみせる。その程度の事が出来ねえなら、巨人の殲滅なんて夢の又夢だろうが」

ハンジ「リヴァイ………」

リヴァイ「お前は「新しい罠」を開発する事にもっと専念していい。コストダウンに関してはもう、諦めろ。多少の無理は押し通せ。エルヴィンならきっとやってくれる筈だ」

リヴァイの言葉は本当に有難かった。

昔の私ならすぐにでもそれに「飛びついて」いたかもしれない。

でもダメだと思った。それじゃダメなんだ。

ハンジ「はあ…………」

リヴァイ「何でため息をつくんだ」

ハンジ「いやね? そうしたいのは山々だけど。やっぱりダメ。私は決めた。イルゼの手帳を手に入れたあの時から」

思い出す。あの時の私の「過ち」を。

ハンジ「イルゼの手帳を手に入れたおかげで、エルヴィンも「巨人の捕獲」の重要性を認識してくれたけど。あの時の私は「間違っていた」からね。危うく自分と……リヴァイの大事な部下を亡くしかけた」

リヴァイ「…………」

間違っていたからこそ、今は「正す」事が出来る。

ハンジ「エルヴィンがね」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「もしかしたらいずれ、もっと「大きな巨人」を捕獲しないといけない時が来るかもしれないって言っているんだ」

リヴァイ「大きな……」

ハンジ「うん。今まで捕獲してきた巨人は巨人の中でも「小さい部類」の巨人だった訳じゃない? でも、いずれはもっと大物を捕獲する必要性が出てくるって言っていたんだ」

リヴァイ「…………」

ハンジ「今、私が考えている「構想」はそれを「想定」した物なんだけど」

リヴァイ「だったら尚更、金をかける必要性があるじゃねえか」

ハンジ「ううーん。でも、やっぱり待って。ギリギリまで考えさせて」

ここは人生の「分岐点」だと自分でも思っているんだ。

自分だけじゃない。「調査兵団」の分岐点とすら思っている。

ハンジ「命は軽くないよ。私のも、リヴァイのも。調査兵団の全員の「命」がかかっている以上、私も昔のような「軽はずみ」な行動はしたくない。例え精根尽き果てても、少なくとも「今」よりは「いい案」が出ない事には、前に進むのはやめておきたいんだ」

リヴァイ「……そうか」

ハンジ「でもありがとう。リヴァイがそう言ってくれた事自体は、凄く嬉しかったよ」

リヴァイ「………」

ハンジ「いろいろ振り回してごめんね。でも、絶対期待に応えて見せるから。もう少し時間を頂戴」

リヴァイ「分かった」

もっと力強い握手がきた。

その真剣な眼差しに思わず息を飲むくらいに。

ハンジ「リヴァイ?」

リヴァイ「約束だ。必ず、新しい罠を完成させると。その為なら俺も出来る限りの事はしてやる。……夜中に叩き起こされるのは嫌だが、それ以外で」

ハンジ「あはは! 予防線を張ってる! まあ、でも大丈夫。そこはちゃんと守るよ」

リヴァイ「………あんまり寝不足になり過ぎるなよ」

ハンジ「それも分かってる。頑張ろうね」

リヴァイの期待に応えたかった。だから私も強く握り返した。

そして手を離して、

ハンジ「じゃあもうそろそろ、寝ようかな。じゃあまた明日」

リヴァイ「ああ。おやすみ」

お互いの部屋に戻ってそれぞれ寝ることにした。

手に残ったリヴァイの「熱」が、少し、熱い。

不思議な感覚を味わいながら私はベッドの中で両目を閉じた。

その日の夜は、凄く寝つきが良くて悪夢も見ないで済んだのだった。












次の日。私は女性用の靴を購入した後はいつもの兵舎に戻った。

最初は靴も借りようかなって思ったけど、リヴァイに止められた。

「水虫とかうつったらどうする?」と言われたら流石に私も借りる勇気が出ない。

結局、タイツと靴代はリヴァイに借りる事になった。いやー申し訳ないね。

そして結婚式の当日。馬車に乗り継いで問題の調査兵団の女性兵士の結婚式に顔を出す事になった。

私は例の彼女とは少しだけ面識があった。入団して三か月程度でこんな急な展開になったのは凄く残念だったけど、彼女は立体機動の成績も討伐数も順調に成績を上げていた子だったので、意外だった。

真面目そうな印象だったから余計に「出来婚」になったという話を聞いて最初は驚いたものだった。

ただ彼女自身は「産んだら絶対復帰します!」と言い切っているみたいで、むしろ周りの方がそれに反対しているから困っていると相談してきたのだ。

珍しい話ではあるけど、たまにそういう女性もいる。それだけ調査兵団の兵士は自分の仕事に「誇り」を持っているのだ。

エルヴィンが彼女の親戚の方々と話をつけている。

私もその輪に一応、参加する。エルヴィンの付き添いみたいなものだ。

そしてリヴァイを後で呼ぶ。私と入れ替わりに。その予定だ。

リヴァイが話をつけている間、ピクシス司令がこっちに来た。

ハンジ「ご無沙汰していてすみません。ピクシス司令」

ピクシス「なんのなんの。ハンジ、今日はいつもにもまして綺麗じゃの」

ハンジ「結婚式ですからね。そういう時くらいはおめかししますよ」

ピクシス「お主も結婚はせんのか?」

ハンジ「もう適齢期は過ぎているので無理ですよ」

女性の適齢期は20代の前半までだ。後半に入った私は「枯れた花」みたいな物だ。

ピクシス「そんな事はないとは思うがの。リヴァイとか、どうじゃ?」

ハンジ「あーリヴァイはその辺、どうなんでしょうかね? 私も良く分かんないんですよね」

と、曖昧に答える。

ハンジ「だってそれ以前の問題というか、リヴァイ、本当に女に興味あるのかな? って思いません?」

ピクシス「どういう意味じゃ?」

ハンジ「巷じゃエルヴィンと実は出来ているんじゃ? っていう説も流れているくらいですよ? 一部では」

ピクシス「ふむ。それは由々しき事態じゃの」

ハンジ「ですよねえ? そういう話、振っても反応が鈍いし……謎過ぎるんですよね。リヴァイは」

ピクシス「ふむ……そうなのか」

ハンジ「はい。私のこのスカートの姿を見ても『まあ別に』程度の感想ですしね。私自身が女に見られてないのは仕方がないですけど。でも私「以外」の女に対しても、結構「鈍い」事が今までも多かったですし」

ピクシス「ふーん」

ハンジ「ただまあ、女性の部下からの「プレゼント」は嬉しそうに受け取っていたから「全くダメ」って訳じゃないとは思うんですけどね。それ以上はまだ、読めないのが現状ですね」

と、言って私はお酒を一口飲んだのだった。

ピクシス「じゃが、タイツは一緒に買いに行った仲なんじゃろ?」

ハンジ「あれ? ああ……本人から聞いたんですか?」

ピクシス「そうじゃな。わしから問い合わせてあいつが口を滑らせた。お主ら、付き合っている訳じゃないのか?」

ハンジ「いやー付き合ってはないですね。リヴァイの方がその気ないんじゃないかなあ?」

と、私は自分の考えを言ってみる。

ハンジ「私の方はまあ、嫌いじゃないですし、その……リヴァイと一緒にいるのは楽しいんですけどね。そういう関係を望むかと言われたら、また違ってくるといいますか。今の形が一番いいかなとは思います。面倒もないですし」

ピクシス「しかし、リヴァイの遺伝子を後世に残さないのは調査兵団にとっては大きな痛手じゃろ?」

ハンジ「え?」

ピクシス司令が急に真面目な表情になった。

ピクシス「あやつ程の「技量」を持つ兵士はそうはおらん。わしは一夜だけでも共にしてくれる女でも良いから、早いところ、リヴァイの「子供」を残した方がいいと思っておるが」

ハンジ「まるで「種馬」のような扱いですよね? それは」

ピクシス「時に非情になるのも兵士の務めじゃ。勿論、育てられないというなら、そういう「場所」に預けるという手もある。わしは、リヴァイとハンジの間の子でも良いと思うが。ハンジ自身は、子供を産む気はないのか?」

ハンジ「子供出来たら1年近く休まないといけないですよね。それはかなり「痛い」ですけど」

ピクシス「じゃが、お主の場合は家庭に入った方がかえって「研究」の手は進められると言う利点はあるのではないか?」

ハンジ「それは言わないで下さい。自分でも分かっています」

壁外に出る「兵士」としての顔と「研究者」としての二刀流の生活をしているから、そりゃ出来るなら研究1本に絞りたい気持ちもあるけど。

兵士でいないと「実際に巨人に会えない」という不利益が起きてしまう。

ハンジ「でも外の世界に出られなくなるのは嫌なんですよね。研究する「巨人」はやっぱり自分達で捕まえたいと言うか。勿論、皆が連れて来てくれた巨人を受け継いで研究だけに専念する手もなくはないんですが……」

ピクシス「ふむ。ではお主自身は、もしリヴァイが別の女性と結婚しても良いと思っておるのか?」

ハンジ「はい。まあ、それはリヴァイ自身の自由ですからね」

今は想像が出来ないけれど。まあ、そういう「相手」が出来たらそういう事もあるかもしれない。

ハンジ「そういえばこの間、もう三十路越えたとか言っていたし、確かに子供を作るつもりがあるなら急いだ方がいいかもしれないですね。リヴァイの「遺伝子」は絶やしたら勿体ないかもしれない」

種馬みたいな扱いするなって怒られそうだけどね。

でも実際、優秀な「父親」と「母親」掛け合わせて「早馬」も作るわけだから。

人間もそういう意味では同じだ。優秀な兵士を作るのであれば、リヴァイの「精子」は必要かもしれない。

と、一瞬、あいつのそういうところを想像してなんか妙に可笑しくなって笑ってしまった。

あ、やばい。なんか自分の顔が赤いかも。酒のせいかな。

と、次の瞬間、何故か自分のお尻に変な感触がきてうっかり「あん」って声が出た。

え? え? あ……ちょっと!?

ピクシス司令、今、お尻撫でくりまわしましたね?!

ハンジ「ちょっとおおおおお?! お酒入ってるの差し引いても触るのはやめて!!」

ピクシス「良いではないか。すっかりわしは騙されたぞ。ん? ハンジ、お前、まだまだ十分女としていけるではないか」

ハンジ「いやいや、もう枯れた花ですって。もーピクシス司令も物好きですね。触っても何も出ませんからね!」

ピクシス「むしろわしが出してやろうか? ん? (ニヤニヤ)」

ハンジ「ええ? 出してやるって、何をですか?」

ピクシス「勿論、ハンジの花から、甘い蜜を……」

と、其の時、リヴァイがこっちに来て間に入ってくれた。

リヴァイ「やめろ」

ピクシス「リヴァイか。ハンジを放っておくのが悪い。知らんぞ? わしのような悪い虫がどんどん近寄ってきても」

リヴァイ「先に帰ります。ハンジ、もう帰るぞ」

ピクシス「その方が賢明じゃ。あんまり長くハンジのおみ足を見せびらかさん方がいいぞ」

な、なんか機嫌悪い? リヴァイ、ちょっと怒っているみたいだね。

何で? よく分からないけど、エルヴィンのところに向かっている。

リヴァイ「もう先に帰ってもいいか?」

エルヴィン「ああ。構わないよ。用事は済んだし。私も適当な時間になったら切り上げる。先に帰るならそれでもいい」

リヴァイ「だったら帰らせて貰う。ハンジ、帰るぞ」

ハンジ「はいはーい」

まあいいか。私もお酒飲めたし。今日はいい気分転換にはなったかもしれない。

慣れないスカートと髪型と化粧に少し疲れたけど、普段話さない人と話せたのは有意義な時間だった。

リヴァイ「………………」

ハンジ「疲れちゃった? 大丈夫?」

リヴァイ「あんまりああいう席は得意ではないからな」

ハンジ「だろうね。でもまさか、ピクシス司令にお尻撫でられるとは思わなかったな。普段、全く見向きもしないのに」

リヴァイ「おみ足見せたからじゃねえのか? 生足だったらもっとヤバかったかもだな」

ハンジ「マジかー! いや、本当、びっくりしたわ。女らしい格好をすれば、私も一応、「女」扱いされるんだね」

リヴァイ「…………そうだな」

おや? なんか様子がちょっと予想外だな。

ハンジ「あら? 意外だね。リヴァイが同意してくれるとは思わなかったな」

リヴァイ「ん?」

ハンジ「そんなのピクシス司令だけだろ? とか言うかと思った」

リヴァイ「……………ピクシス司令が物好きなだけだろ?」

ハンジ「もっと酷くなった! 酷い!」

リヴァイ「はっきり言った方がいいかと思ってな」

ハンジ「ふーん。じゃあリヴァイは、今の私の恰好を見ても何とも思わないの?」

と、いつもの自分とは違う仕草をしてみたりする。

わざとらしいかな? まあでもいいか。どうなんだろ? リヴァイは。

リヴァイ「別にいつもと変わらないだろ。ハンジはハンジだ」

ハンジ「いつもよりはちょっとだけ可愛いとか思わないの?」

リヴァイ「別に」

即答だった。うん。やっぱりそうだよね。

ピクシス司令がいうような関係は、やっぱり無理なんじゃないかな。

リヴァイ、その気ないし。まあ、私もこんなんだしね?

ハンジ「そっかー………まあ、そりゃそうですよね。スカート履いた程度でそう変わる訳でもないか」

と、ミニスカートを馬車の中でパタパタさせてみる。

ちょっとだけ露出を見せてみる。これでダメならもう、終わりだろうなあ。女としては。

リヴァイの方をこっそり見ると、凄く不機嫌な表情だった。

うわ! 傷つくなあそれは流石に!

ハンジ「ちょっと、なんで急に不機嫌になるの?」

リヴァイ「いや、別に」

ハンジ「でも眉間の皺、酷いよ?」

リヴァイ「ああ、だからこれは前にも言っただろ? 自分でも良く分からんままこうなる時がたまにあるって」

ハンジ「……………そうなんだ」

え? じゃあ、機嫌が悪い訳じゃないんだ。眉間の皺、凄いのに。

リヴァイ「意識して動かした訳じゃねえんだが………何なんだろうな? 良く分からん」

リヴァイが自分でも混乱しているように見えた。

ハンジ「………………もしかして、スカートパタパタさせたせい?」

リヴァイ「さあな? まあ、タイミング的にはそこだったような気もするが」

ハンジ「もう1回、してあげようか?」

もしそうなら、「ある仮説」が出来るんだけど。

リヴァイ「いらねえ。というか、ちょっと眠い。寝てもいいか? 馬車の中で」

ハンジ「あらら……馬車に揺られている内に眠くなってきた?」

リヴァイ「まあな。多分、そうだろうな」

ハンジ「膝枕する?」

リヴァイ「いや、そこまではいい。座ったまま寝るから、倒れてきたら起こしてくれ」

両目を閉じちゃった。あらら。逃げられちゃったような気分だな。

まあでもいいか。うん。そっとしておこう。

そして馬車に揺られている内に、リヴァイの体も揺れてきて。

あれま。結局、私の太ももを「枕」にしちゃったよ。

まあでもいいか。うん。ぐっすり寝ているし、多分、結婚式で気疲れちゃったんだと思う。

リヴァイ、元々、人が集まる華やかな席が苦手だしね。

だからつい、リヴァイの髪を優しく撫でながら放置したんだ。

寝顔は普段とは全然違った。険しさが抜けていてちょっと可愛い。

ついついニヤニヤしながらそれを眺めていたら、兵舎についた。

起こしてあげないといけないね。リヴァイを揺り起こしたら、

リヴァイ「……………倒れたら、起こせって言ったよな?」

と、文句を言われてしまった。

ハンジ「いやーしっかり寝ているから起こすの可哀想だし? もう兵舎に着いたよ」

リヴァイ「…………頭、重くなかったか?」

ハンジ「全然。むしろ寝顔観察出来て面白かったかも? ぷぷぷ」

リヴァイ「………忘れろ」

ハンジ「無理! 暫くはこのネタで遊ばせて貰うかもね? ぷぷ」

舌打ちされちゃった。でもいいもーん。ぷぷぷ。

ハンジ「寝ている時は眉間の皺はなかったよ。凄く安らいだ顔をしていたから大丈夫じゃない?」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。まあ、膝枕効果もあったかもだけど?」

リヴァイ「いや、それはないな。絶対」

ハンジ「分かんないでしょうが! 私の太もも、案外悪くない枕になったと思うけどなあ」

リヴァイ「…………自分の部屋の枕が1番だろ」

ハンジ「あ、いやそれ言ったらおしまいじゃない。もーノリ悪い!」

こんな調子だしねえ。やっぱりピクシス司令の言うような関係は無理じゃないのかな。

リヴァイ「…………」

ん? あれ? リヴァイが固まっている?

あれ? 表情がなんか、急に。え? あれ?

両目を閉じてこっちに体を寄せてきて、まるでミケみたいに「スンスン」し始めた。

ハンジ「ちょっとリヴァイ? また鼻が近いよ? ミケの真似っこ?」

リヴァイ「!」

リヴァイがびくっとなっていた。どうしたんだろ?

リヴァイ「いや、何でもない。気にするな」

ハンジ「いや、無理だってば。ん~そんなにこの香水気に入ったなら、あげようか? 残りの分は」

リヴァイ「え?」

ハンジ「いや、私はもう、結婚式に呼ばれるなんてそうないだろうし、好きならあげるよ? はい、どうぞ」

鞄から小瓶を出してリヴァイに渡した。

リヴァイ「男が香水をつけてもな……」

ハンジ「いや、嗅ぎたいんでしょ? 嗅いでみたら?」

リヴァイ「いいのか?」

ハンジ「どうぞどうぞ」

リヴァイ「ううーん」

とりあえず嗅いでいる。けど眉毛が跳ねあがった。

リヴァイ「あれ? なんか違うな」

ハンジ「そうなの?」

リヴァイ「ああ。ハンジから漂ってくる香りと微妙に違う」

ハンジ「ええ? でも、つけているのは同じ物だよ?」

リヴァイ「いや、違う。これ単体で嗅ごうとは思わんな。ハンジ、すまないが、ちょっと追加して自分につけてみてくれないか」

ハンジ「うーん。まあ、いいけど」

手首に少量の香水をつけてみる。それをそのままリヴァイに嗅がせたら、

リヴァイ「………やっぱりこっちだ。恐らく、体につけた「後」の香りの方が好きなんだと思う」

ハンジ「じゃあ、それだけ持ってても意味ないんだ」

リヴァイ「そうみたいだな。だったら俺が持っていても仕方がない。返す」

小瓶を返されちゃった。

ハンジ「自分でつけちゃったら?」

リヴァイ「いや、それは流石に恥ずかしい。元々はハンジの物だしな」

ハンジ「そう? ん~でも、リヴァイがこういうのに食いつくとは思ってなかったしなあ」

そんなに気に入ったんならあげても別にいいんだけどな。

そう思いながら耳の後ろとかにもつけてみた。

リヴァイの様子がなんかちょっとおかしい。いや、何処がおかしいのか分からないけど。

ハンジ「ん? どうした?」

リヴァイ「いや……何でもない」

眉間の皺が増えた。やっぱりこれ、この「香り」が好きだとしか思えないよ。

ハンジ「あはは! やっぱりこの香りが好きなんだね。じゃあたまにはつけてあげようか?」

リヴァイ「え?」

ハンジ「私としては、体臭を誤魔化すのにも使えるし、使うのは別に構わないよ」

リヴァイ「いや、しかし……高価な物なんだろ?」

ハンジ「元々は貰い物だからいいよ。むしろたまには使わないとダメなんじゃないかな」

リヴァイ「そうか?」

ハンジ「うん。リヴァイの部屋に遊びに行くときはつけてあげるよ。普段は使わないでおけばいいでしょ?」

リヴァイ「まぁ……そうして貰えるなら嬉しいが」

ハンジ「分かった。じゃあ次からそうするね」

そっか。リヴァイが好きなら、そうしてあげてもいいかな。

そう思いながら私は自分の部屋に戻って、服を脱いで着替えて、化粧を落とす道具を持って一度部屋を出た。

洗面所でバシャバシャ顔を洗ってすっぴんに戻る。

化粧を落とすのは念入りにやらないといけないから、ゆっくり丁寧に洗い落とす。

そしてリヴァイにお金を返さないといけないな、と思い立って、リヴァイの部屋に移動する。

ハンジ「リヴァイー? いるー?」

返事がない。いないのかな?

いや、でも気配はするような? うん。もうちょい粘ってみよう。

ハンジ「あのさー、お金、立て替えて貰ったでしょ? だからお金返そうと思ってきたんだけど。開けてくれる?」

リヴァイ「廊下に置いておけ。今は気分が悪い」

ハンジ「あれ? 何で? まさか馬車に酔った?!」

いや、ないな。これはアレだ。何かあったな?

まあいいや。一応「そういう事」にしておいてやろう。

リヴァイ「ああ。そうだ。酔ったんだ。だから少し放っておいてくれ」

ハンジ「え……マジか。馬には乗れるのに馬車には酔うって珍しいね」

リヴァイ「いや、たまたまだろ。いつもはこうはならん」

ハンジ「ああ、そう? じゃあどうしようかな……でも廊下にお金置いたら、誰かが知らないで拾うかもしれないし、また後日でもいい?」

リヴァイ「というか、もう面倒だから返さなくていい。その程度の金なら別に奢ってやる」

ハンジ「いや、悪いよ。そこまでして貰うのは。………まあいいか。また今度で」

明日でイイや。そう思って自分の部屋に戻る事にした。

でも数分後、今度はリヴァイが私の部屋にやってきた。

ハンジ「あらら……起きてきちゃったの? 気遣わせちゃったかな。ごめんごめん」

折角来てくれたのですぐにお金を返した。

ハンジ「はい、どうぞ。これで計算は合っているよね?」

リヴァイ「ああ。間違いない。丁度だな」

ハンジ「ありがとうね。今回は本当に助かったよ。なんかこういう華やかな席って今まで縁がなかったからさ。無駄にわたわたしちゃった」

リヴァイ「だろうな」

ハンジ「うん。リヴァイが居てくれて助かった。彼女も現役復帰してくれるといいな。いろいろ辛い事はあるけど……やっぱり戦う仲間が減っちゃうのは寂しいしね」

リヴァイ「……………まあな」

勿論、それが正しい道ではないかもしれないけど。彼女の「家族」にとっては。

リヴァイ「ハンジ」

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「エルヴィンから貰った香水の件についてなんだが」

香水? 何だろ。

リヴァイ「あの香水は、その……その道のプロの女性から譲り受けた物だと言っていたぞ」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「だから、娼館の女、つまりエルヴィンの馴染みの女が使っていた「プロ御用達」の香水らしいから、その……使わない方がいい」

その説明を聞いて私は自分の顔に血が集まるのを感じた。

ハンジ「え? え? つまり、それって、それ用の香水って事? えええええ………」

はず! なにそれ、恥ずかし過ぎる!!!!

ハンジ「ちょっと……まさか、じゃあ、ピクシス司令がなんかいつもと様子が違ったのも、あんたが変に私の匂いを嗅ぎたがったのもそのせい?」

リヴァイ「そういう事だ」

ハンジ「マジか! ミケに会わなくて幸いだった。ミケにもし会っていたら、私、ミケに押し倒されていたかも?!」

いやあああああああ?! マジか!!!!

ミケ、今日、当番だから兵舎の方の仕事あるから来れない言っていたけど幸いだった。

やばい。危うくミケに押し倒されるところだった。

ハンジ「ピクシス司令とリヴァイだけで幸いだった。もおおおおおエルヴィンの奴めええええ!」

腹立つなああもう! ちゃんとそこを説明してから人に渡してよおおおお!

ハンジ「そういう事なら今から急いでシャワー浴びて匂いを落としてくる!」

やべえ! 早いところ、香水を落とさないと!

そして手早くシャワーを浴びてある程度体の汗とかを落としてしまって着替え直した。

ハンジ「いやーさっぱりしたわー。どうリヴァイ? もうあの香水の匂い、しないでしょ?」

私の部屋の前にリヴァイがまだ居たので、声をかけた。

すると何故か俯いて、ん? どうしたのかな?

ハンジ「ん? どうしたの? 俯いて」

リヴァイ「いや、何でもない。匂いは消えている。大丈夫だ」

ハンジ「本当に? 大丈夫? こういうのって自分じゃ分かりにくいしね」

不安だなあ。確認して貰おうかな。リヴァイに。

ハンジ「一応、鼻、近づけて確認してみてよ。ほら」

リヴァイ「もうしないんだから、いいだろ。別に。確認はしなくても」

ハンジ「ちょっとでいいからさ。ほら、ほら」

リヴァイは何故かちょっと迷っていたようだけど。

一歩、私に近づいて、鼻をスンスンさせてくれた。

リヴァイ「……………」

大丈夫かな? うん。大丈夫そうだね。

リヴァイ「大丈夫だ。問題ない。もういいよな? 確認作業は」

ハンジ「大丈夫ならいいよ。良かった~リヴァイに教えて貰って。危うくエルヴィンに騙されるところだったよ」

胸を撫で下ろした。いやーほんとに助かった!

リヴァイ「じゃあな。俺は部屋に戻る」

リヴァイはそう言って自分の部屋に戻って行った。

ハンジ「うん。ありがとう。リヴァイ。またね」

リヴァイの背中に言う様にそう言って、私も部屋に戻ったのだった。










次の日の朝、リヴァイの席の隣に滑り込んだら、何故かちょっと距離を取られた。露骨に。

酷い。相変わらずだなあ。昨日、シャワー浴びたからいつもよりは臭くない筈なんだけど?

ハンジ「おはようリヴァイ! ………あれ? なんか元気ないね」

リヴァイ「気のせいだろ」

ん? 目の下にクマがあるね。寝不足なのかな。

あ、昨日、馬車の中で寝たせいで夜は寝れない状態になったのかな。

生活リズムが崩れるとたまにそういう事あるよね。

眉間の皺が深い。うーん。

ハンジ「あれ? やっぱり不機嫌? 眉間の皺が……」

リヴァイが眉間の皺を手で隠してしまった。

ハンジ「何で隠す? ん? 意味分かんないんだけど」

リヴァイ「見るな。人の眉間の皺なんか」

ハンジ「いや、顔の表情を見ないと相手の考えている事を読み取れないでしょうが」

リヴァイ「別に機嫌が悪い訳じゃねえよ。たまに自然とこうなるだけだ」

視線をふいっと逸らされて、今度はちょっと頬が赤くなった。

やっぱり。そうか。これはもしかして!

ハンジ「分かった! あんた、照れると眉間の皺が寄るんだね!」

リヴァイ「え?」

ハンジ「多分、そうだよ。今、ちょっとそんな感じだった。なるほど。スカートパタパタさせた時も実は照れていた訳だね?」

リヴァイ「…………」

リヴァイ「だったらどうした。照れて悪いのか」

ハンジ「否定しないんだ。やった! なんかちょっと嬉しいかもしれない」

リヴァイ「は? 何で」

ハンジ「いや~だって、リヴァイ、そういうの「ふーん」で済ませるタイプかと思っていたからさ。そっかそっか~」

ギリギリ女としてセーフだったみたいだね。私は!

ハンジ「いやいや、良かった。女に全く興味ないから、もしやエルヴィンと出来ている? とか疑っていたよ。そっちの人じゃなくて良かったなあ」

リヴァイ「?!」

リヴァイ「おい待て。まさかとは思うが、そういう『噂』が流れているのか?」

ハンジ「勝手な憶測だけどね。リヴァイに「女の影」が全く見当たらないからまさかそっちの人? という嫌疑も巷では流れていましたよ?」

初耳だったのかな? そりゃそうか。

リヴァイ「だったら完全否定しておいてくれ。俺は男に抱かれる趣味も抱く趣味もねえ」

ハンジ「じゃあ好みの女性のタイプとか教えてよ。そういう情報、一切公開してないから皆から「疑われる」んだよ?」

リヴァイ「………そういうお前はタイプがあるのか?」

ハンジ「私? ん~私は「一緒に居て楽しいって思える人」かな。会話が大事なタイプだと思うよ」

リヴァイ「見た目とか関係ないのか」

ハンジ「女の人は割とそういうもんだよ。見た目重視もいなくはないけど、中身から先に見るのが殆どじゃないかな?」

リヴァイ「……………」

リヴァイが長考始めた。これはちゃんとした答えが聞けるかもしれない。

リヴァイ「好みのタイプか」

ハンジ「ねえねえ? どんな人が好き? ん?」

リヴァイ「清潔な女だな」

…………。なるほど。

ハンジ「身だしなみが大事だって事? 顔とかはあんまりこだわりないんだ?」

リヴァイ「そうだな。綺麗にしている事が第一条件だ」

ハンジ「おしゃああああ! スクープゲットおおお! 皆に広めちゃお♪」

と言って私はリヴァイから離れた。そして軽く凹む。

ううーん。そっか。そりゃそうだな。あいつ、潔癖症だしなあ。

じゃあもう、私は完全に「対象外」って事だな。うん。

ピクシス司令には悪いけど。今度、もし突っ込まれたらそう答えようかな。

そう考えて、私はその日の演習や研究の時間に自分の時間を費やした。

そして集中して作業を進めていたら、夕食が来ない事に気づいた。

あれ? もう夜中の12時か。リヴァイ、来ないな。

なんかあったのかな? もしくは忘れているのかな。

まあいいや。もうちょっと作業を進めよう。

そして夜中の2時くらいになってようやく大まかなところが完成した。

やった! リヴァイに見せたいな! あーでも夜中の2時か。

流石に寝ているかなあ。

まあいいや。ダメ元でいっちゃえ。リヴァイの部屋に行ってみる。

ハンジ「ごめん~リヴァイ、起きているかな~流石に寝ている~?」

寝ているかな。どうかな?

寝ているなら諦めるけど。もし、起きていたら最初にリヴァイに見せたかったんだ。

リヴァイ「今、着替えの最中だ。少し待て」

ハンジ「お? ラッキー♪ まだ起きてたんだ」

リヴァイ「逆だ。今、起きたところだ。仕事が終わってから飯も食わずに寝ていた」

ハンジ「あ、だから今日は夕食持って来てくれなかったんだ。あれー? と思っていたけど」

リヴァイ「すまん。たまにはそういう事もある」

ハンジ「いや、いいよ。私も12時過ぎてから夕食食べ忘れた自分に気づいたし。それよりさ、ちょっと話を聞いて欲しいんだけど。今、いい?」

リヴァイ「明日じゃダメなのか?」

ハンジ「今、話したいのよ。ちょっとだけ! お願い!」

リヴァイ「鍵は開いている。勝手に入れ」

ハンジ「ありがとう! ええっとね。小さいけど、模型を作ってみました」

じゃん! どうだ! いい出来だ! 褒めろ!

ハンジ「この人形が巨人だと思ってね? んで、こっちがその捕獲用の道具になる。題して『特定目標拘束兵器』試作品1号ってところかな」

ハンジ「イメージとしては、爆薬を使って大砲を飛ばすのと同じで火薬で矢じりを飛ばすんだけど」

リヴァイ「ふむ」

ハンジ「飛んだ矢じりに繋いだワイヤーが伸びて、こうなる」

ハンジ「この仕組みを無数に飛ばして、木と巨人を繋いでしまうの。どう?! すごいでしょ?!」

この発想力を褒めて!

リヴァイ「いや、俺はこの小さい「模型」を造ったハンジの方が凄いと思うが」

いや、そっちは褒めなくていいから。うむ。

ハンジ「ただね~今のままじゃ、これを「壁外」に運んで「設定」するのがまず大変なのよね」

どうやって簡単に「運ぶ」かが最初の課題になるね。これは。

ハンジ「とりあえず今の形は「樽」が基本になっているけど。これ運ぶの大変だよね。どう考えても」

リヴァイ「罠を設置するなら確かに「運びやすさ」も考慮しないといけないよな」

ハンジ「そうそう。だからその問題をどうするかだけど……なんかいい方法ないかな?」

リヴァイ「ふむ……」

リヴァイが考え込んだ。何かいいアイデアが出るかな?

リヴァイ「だったらいっそ、荷馬車と合体させたらどうだ?」

ハンジ「ん? どういう事?」

リヴァイ「荷馬車の「底」をくくり抜いて、樽を敷き詰めてしまえば……どうだ?」

ペンからインクが出なかったので、私のを貸してあげる。

ハンジ「あ、インクないの? はい、万年筆貸してあげる」

胸ポケットからさっと取り出して手渡した。

リヴァイ「つまり、こういう感じにしたらどうかな? と思ったんだが」

リヴァイの絵はちょっと分かりにくいところもあったけど、なんとなく言いたい事は掴めた。

ハンジ「おおおおお!」

ハンジ「これはいいアイデアかもしれない! ちょっとこの形が出来るかどうか、明日早速試してみるね!」

リヴァイ「うまくいくといいけどな」

ハンジ「ふふ……ありがとう。リヴァイに話してみて良かった」

リヴァイ「!」

リヴァイは頼りになるなあ。もう、本当、毎回助けられているよ。

だからつい、軽く抱擁をしてしまって。

あ、今日は「拒絶」しないんだね。前は「やめろ」が口癖だったのにな。

だから私も調子に乗って、ちょっとぐっと、きちゃった。

ハンジ「じゃあね。夜中に相談しに来てごめんね。じゃあまた明日」

えへへへ。ついつい笑顔で退場する。

研究室に戻って続きを考えよう。そう思って部屋に戻ると、

ドアのノック音が聞こえた。ん? 誰だろ。

あ、リヴァイだ。あれ? 何の用だろ?

ハンジ「ん? 何?」

リヴァイ「忘れ物だ。万年筆。返し忘れた」

ハンジ「あらら……ごめんごめん。貸しっぱなしだったね」

またやっちゃった。私、しょっちゅう同じ事やっちゃうんだよね。

人に預けるとすぐ忘れちゃっては新しいペンを買う羽目になるんだ。

リヴァイ「いや、謝るのはこっちだ。すまん」

ハンジ「いいって。そういう事もある」

胸ポケットにペンを戻す。

ハンジ「ん?」

あれ? なんか頭を掻き虫っているね。リヴァイ、どうかしたのかな?

ハンジ「どうかした? なんかしんどそうだね?」

リヴァイ「何でもねえ」

ハンジ「いや、なんか泣きそうな顔になっているけど」

リヴァイ「……………」

この時のリヴァイ、本当に辛そうだった。

何だろう? 何度も唾を飲み込んでいるのが分かったし、熱でもあるのかなって感じだった。

リヴァイ「気のせいだろ。目にゴミでも入ったのかもしれん」

ハンジ「そう? じゃあ目洗ってきなよ。それか目薬あげようか?」

リヴァイ「目薬?」

ハンジ「疲れ目等に効くよ。私のでよければ分けてあげようか?」

リヴァイ「………じゃあ頼む」

目痛いんだったら、目薬が一番いい。

そう思って、目薬を差してあげた。

ハンジ「はい、ちょっと視線ずらしてねーはい、入ったー」

その後、リヴァイがじっと私を見つめて来て「ん?」と思った。

な、なに? 私の顔に何かついているのかな?

凄く真っ直ぐに私を見ている。両目を細めて、無言でいる。

あれ? あれ? 何か、こっちまで汗掻いてきたな。

別に部屋の温度は暑くないのに。むしろ涼しいくらいなのに。

胸が、心臓が、ちょっとドキドキしてきた。

それを誤魔化す様に私は言った。

ハンジ「まあこれで目の中のゴミも自然と涙で流れるでしょ。うん」

リヴァイ「……………」

ハンジ「ゴロゴロ、取れた?」

リヴァイ「ああ。大体とれたと思う」

ハンジ「そりゃ良かった」

な、なんだろう。意味深な視線に見えたけど。

何か、私に言いたい事でもあったのかな?

でもリヴァイはランプを持って、

リヴァイ「じゃあな。俺は部屋に戻る。ハンジもあんまり根を詰め過ぎるなよ」

ハンジ「うん。大丈夫だよ。ありがとう!」

お互いに別れて、私は研究室に残った。

ううーん。今の、何だったんだろ? よく分からないや。

そう思いながら、リヴァイの描いてくれた「絵」で自分の顔を隠す私だった。

という訳で調子に乗ってハンジ側も書いてみた。
今回はここまで。次回またノシ






そして数日の月日が流れて、私はいつものようにリヴァイの席の隣に座った。

朝、時間が合う時は大抵、リヴァイの隣で朝ご飯を食べるけど。今日もちょっと距離を取られた。

ハンジ「やあおはよう! リヴァイ! 元気?」

リヴァイ「全然。元気じゃねえな。今、この瞬間から」

うわー。露骨だな。だんだんひどくなってきた気がする。

なんか怒ってるのかな? だとしたら一応、謝った方がいいかな。

ハンジ「酷い! なんか最近、冷たくないかね? ん? 近づくと逃げるよね? 何か私、やらかした?」

リヴァイ「いつもやらかしているだろうが。胸に手当てて考えてみろ」

ハンジ「いや、だからその数が多すぎて「どれ」の事かが分かんないから、そこを教えて欲しいんだけど?」

思い当たる節が多すぎてどこから謝ったらいいんだろ?

リヴァイ「だったら全部反省しろ。あとついでに自分の部屋の布団は、晴れた日だけでも干せ」

ハンジ「えー急な雨が降ったら困るでしょ。休みの日は休みたいし、嫌だよ」

リヴァイ「虫に食われて病気になっても知らんぞ」

リヴァイにそれを言われたくないなあ。

エルヴィンに聞いたんだけどな。娼館に行った件については。

ハンジ「病気はリヴァイの方が心配だけどな」

リヴァイ「?」

ハンジ「だって行ったんでしょ? ん? エルヴィンから聞いたよ?」

リヴァイ「何を」

リヴァイがスープを含んだ直後、言ってやった。

ハンジ「娼館だよ。娼館! 2人で行ってきたんだって? この間。ん?」

案の定、動揺した。ケケケ♪

ハンジ「いいなあ。私も前に「行きたい!」って言ったんだけど止められてね? 連れて行って貰えなかったんだよ」

リヴァイ「女が女を買ってどうするんだよ。お前、本気でそっちの人間なのか?」

疑われてしまった。いやいや? 別にそういう訳じゃないんだけど。

ハンジ「ええっと、おしゃべりしてみたいだけかな? どんな女性達がそこで働いているのかちょっと興味があるだけだよ。でも流石にそれをやったら「マナー違反だからダメ」ってエルヴィンに止められたんだ」

きっと綺麗な女の人達がいっぱいいるんだろうな。

私の場合はきっと「やりたくても出来ない」だろうしね。

自分が女としてはそう魅力的ではない事は自覚しているし。

リヴァイ「本気で女を堕とすなよ。頼むから冗談の範囲内にしてくれ」

ハンジ「はいはい。分かっていますよ。で? どうだった訳ですか?」

リヴァイ「は?」

ハンジ「いや、感想を聞いて見たくて。にしし」

リヴァイのそういう下世話な話を聞いて見たくて話を振ってみた。

リヴァイ「何か勘違いしているようだが、俺は別に女を買いに行った訳じゃねえぞ」

ハンジ「え? じゃあ何しに行ったの」

え? ヤる以外に何かする事あったっけ? そういう場所で。

リヴァイ「文句を言いに行っただけだ。例の香水の件だよ。エルヴィンに変な物を分け与えた女が元凶だろうが。ムカついたから、一言クレームしに行ったんだよ」

ハンジ「え………リヴァイ、そんな事、してくれたの? 別にいいのに」

リヴァイ「は?」

ハンジ「いや、私が文句言いに行くのは分かるんだけど、何でリヴァイが言いに行くのよ。私、そんな事、頼んでないのに」

ちょっと頭の中が混乱した。リヴァイの行動が謎過ぎて。

そしたらリヴァイの両目が少し細くなって、こっちを見た。

何だろう? 普段の「ギロ」とした睨み方と全然違って。

優しい感じだった。ちょっと、思わずドキッとするくらいに。

リヴァイ「でも、ハンジは不快な思いをしただろ? 俺もそうだった」

ハンジ「…………………そうなんだ」

リヴァイ「ああ。なんか、変な気分になりかけて……すまん。あれは事故みたいなもんだ。忘れてくれ」

ハンジ「……………なりかけたんだ?」

え…………。

じゃあ、その、え? リヴァイ、香水で「いい気分」になっていたんだ。

それを聞いた瞬間、私もつい、ドキッとしてしまって。

どう反応したらいいのか。私自身、戸惑ってしまった。

リヴァイ「すまなかった。気分、悪かっただろ。あんな真似して」

ハンジ「いや、別にそこまでは……ピクシス司令に比べたら可愛いもんじゃない? 司令、お尻撫でくりまわしてきたからね? リヴァイは鼻を項につけたのと、クンクンしちゃっただけでしょ? クンクンするのはミケの癖で慣れているし、別にいいかなって思っていたんだけど。そんなにリヴァイの方が気にしているなんて思ってもみなかった」

リヴァイ「…………」

リヴァイがほっとした表情になった。そんなに気にしてくれていたんだ。

やだ。どうしよう。さっきから、心臓がドキドキして、困るんだけど。

あははは。ど、どうしよう。あ、そうだ。お礼しなくちゃね。

ハンジ「いやーごめんねー。なんかかえって気遣わせちゃったみたいだね? 今度、お礼するよ。紅茶飲む?」

リヴァイ「いや、そこは別に要らない。金の無駄遣いはするな。アールグレイならまだ在庫もあるしな」

ハンジ「あらそう? ん~でも何かお礼をしてあげたいかな。何がいいかな?」

今、ここであげられそうな物って何かないかな?

ハンジ「あ、そうだ! お古でいいなら、私の万年筆をあげよう!」

リヴァイ「え?」

ハンジ「この万年筆、書きやすいんだよ? 私の愛用のやつ。携帯用の方を1本あげよう。はい、どうぞ」

愛用の万年筆の1本をリヴァイにあげる事にした。

ハンジ「インクはまだ残っているから暫くは使えるよ。詰め替え用だからなくなったら自分で交換してね。私はペンを一杯持っているし、大丈夫だから」

リヴァイ「…………」

眉間の皺が深いけど。でもこれは「喜んでいる」んだよね?

ハンジ「おや? 眉間に皺が寄っていますね? これは照れているのかな? ん?」

リヴァイ「違う。その………いや、違わないか」

やっぱり! 不機嫌な表情と似ているけどちょっと違うんだね。

だんだん見分けがつくようになってきたよ!

ハンジ「おおおお? これは貴重なリヴァイ! 誰に見せびらかそう! ねーねーミケ! 見て見て!」

リヴァイ「馬鹿! やめろ! ミケを呼ぶな!」

ミケは「ふん…」と笑っていた。ニヤニヤしている。だよねー!

こんなリヴァイ、見ちゃったらニヤニヤしちゃうよね。

そしたらリヴァイが逃げちゃった。

ハンジ「ああもう、逃げちゃった。ちぇー」

照れている時も眉間に皺が寄っちゃうのが分かったら、リヴァイの「眉間の皺」も可愛く見えてきた。

本当、不思議だね。見方ひとつで印象って全然変わるんだね。

と、そこまで気づいて、私は今までの事を振り返ってしまった。

そして、その中で「ハンジと一緒にいる時にそうなる事が多い」とか言っていたのを思い出して顔が赤くなる。

いや、待てよ。え? という事は、何か?

今までの「眉間の皺」も、「照れていた」可能性の方が高いって事?

それに気づいてぶわっと鳥肌が立つ自分が居て、ちょっと困った。

ええっと。記憶の限り、思い出してみるか。冷静に。

最初にリヴァイの部屋に夜、身体を触らせて貰った時、別れ際に「ありがとう」を言ったら眉間に皺が寄った。

トロスト区に気分転換に行こうという提案をしてくれた時も、複雑そうな顔だった。あの時も「ちょっとだけ」皺があったような気がする。スカートが短すぎないか? と言った時も微妙に皺が寄っていた気がするし、えっと、やばい。いっぱいあり過ぎて全部は無理だ!

あれ? あれ? あれ? ちょっと待ってよ。

だとしたら、リヴァイって、その……。

私の事、割と気に入ってくれているんだろうか?

その、女として見るまではいかないかもしれないけれど。

自分の「懐」の中に私を入れてくれているんだろうか。

そう考えた時、自分の中に滾るものを感じてちょっと困った。

いやでもな? ドア閉めても全然手出さないもんな。リヴァイは。

ダメだ。どっちなんだろ? 分かんない。確かめるのが怖いな。

そこまで考えて、私は自分自身の「気持ち」がだんだん、リヴァイの方に向かっている事に気づいた。

ま、参ったなあ。これ、もしかして、もしかしなくても、やっぱり?

ううーん。マジか。私、リヴァイに今、そういう意味で、気持ちが向かい始めているとみていいのかな。

でも、私は調査兵団の兵士だし。そういう「関係」を望んでもきっと、リヴァイは………。

考えるのをやめよう。今はそれより「優先」させないといけない事がある。

そう思いなおして私は自分の顔を引き締めた。

それから以後の生活は、とにかく「新しい罠」に関する開発に没頭した。

そのせいでご飯を食べ忘れる事もしばしばで、一日一食、夕食の時だけ腹に入れるのも珍しくない生活が続いた。

夕食時だけはリヴァイが私を気にかけてくれるおかげで何とか生活できたけれど、それがなかったら途中で本当に倒れていたかもしれない。

それくらい、忙しい日々が続いた。何度も何度も構想を重ねて実験を繰り返し、一番「ベスト」な形の「罠」を完成させる為に私は走り回ったのだ。

途中で火薬の量を間違えてモブリットに負傷させてしまった時は凄く落ち込んでしまったけれど。

失敗を重ねて重ねて、だんだん行き詰まっている自分に気づいて、少しナーバスな状態になってしまっていた。

リヴァイの部屋に行く頻度は以前に比べたら減らしていたけれど。どうしても頭が煮えたぎる時だけは彼に甘えてしまっていた。

リヴァイに頼りたいと思う自分が居たのだ。その心の底に「有る」ものはとりあえず横に置いて、私はその日の夜、リヴァイに愚痴っていた。

ハンジ「火薬の量が多すぎると荷馬車が壊れるし、少ないと先端が思うように飛ばないのよね。どの量が「適量」なのか全然分かんない……(ズーン)」

リヴァイ「火薬の量をいくつも試したんだろ? だったら適当なところで妥協は……」

ハンジ「無理! 罠の「肝」にあたる部分に手抜きは絶対出来ないよ! 適切な量が分かるまでは何度も爆破させるしかない」

何かが「おかしい」感じがある。多分、どこかで「設計ミス」をしているんだろうけど。

それが分からなくて頭が痛いのだ。

リヴァイ「ハンジ。もしかしたら「構造」自体に何か問題があるからうまくいかないんじゃねえか?」

ハンジ「うううやっぱり? リヴァイもそう思う?」

リヴァイ「何か見落としている部分はないか冷静になって考えろ。今日はもう遅い。遊ぶ時間もねえし……どこかで思考を「打ち切る」事をしないとまた眠れなくなるぞ」

ハンジ「…………」

眠れる自信なんてこれっぽっちもない。

もうこの「新しい罠」については一年近く、構想を練ってエルヴィンとも話し合っているのだ。

いい加減、そろそろ次の段階に行きたい。そう思っているのに。

リヴァイ「明日考えろ。今日は「おわり」だ。そうしないと、ずっと悪い方にいってしまいそうな気がするが?」

ハンジ「そうだね……」

リヴァイに言葉の激励を受けてヨロヨロと立ち上がった。

ハンジ「あ……(クラッ)」

でもその時、油断して、よろけてしまった。

リヴァイ「おい、大丈夫か?」

ハンジ「うん……平気」

リヴァイ「いや、平気な顔じゃねえだろ。少し俺の部屋で休んでいくか?」

ハンジ「ベッド借りてもいいなら……」

リヴァイ「ほら、横になれ」

リヴァイは本当に優しいね。うっかりドキドキしてしまった。

いや、ドキドキしている場合じゃないんだけど。今は。

ハンジ「…………」

何か糸口が欲しかった。何でもいい。何か、手がないかな。

この「迷路」の中から脱出する手段を。

其の時、思い出したのは、リヴァイの体に初めて服の上から触れた日の事。

思い切って、もう一度「アレ」をやってみるか。今度は直に触って。

断られるかもしれないけど。藁にもすがりたい気持ちで私は言った。

ハンジ「リヴァイ、お願いがあるんだけど」

リヴァイ「なんだ」

ハンジ「もう1回、体を見せて欲しい。今度は上の服、脱いだ状態で」

リヴァイ「え………」

ハンジ「筋肉の流れをもう1回見たい。ごめん。我がまま言っているのは分かっているんだけど」

リヴァイ「……………」

リヴァイが時計を確認した。非常識なのは私も分かっている。

でもお願い。私を助けて。リヴァイ。

リヴァイ「明日の昼間じゃダメなのか?」

ハンジ「今がいい。お願い。後で何でもするから」

リヴァイ「何でもする?」

そう、言ったリヴァイが少しだけ目を細めた。

ちょっと、ドキッとしたけれど。私は頷いていた。

ハンジ「とにかく、今すぐ確認したい事があるの。お願い」

リヴァイ「………分かった」

迷った時は初心に帰るべきだ。そう思って私はリヴァイに頼んだ。

前回の比とは比べ物にならないくらい、集中してリヴァイの体を見つめた。

手で触って巨人のイメージと重ね合わせる。

巨人の弱点は「項」だけど。それ以外の、体の筋肉に「乳酸」のような物は溜まらないのだろうか。

人間は身体を動かせば動かすほど「疲れ」として「乳酸」が溜まる。

それはリヴァイも例外ではなかったようだ。二の腕の一部が少し硬い。

ハンジ「リヴァイにも「乳酸」が溜まりやすい個所、あるんだね」

リヴァイ「は? 何だそれは」

ハンジ「所謂「疲れ」と言った方がいいかな。人間の体には「体液の流れが悪い」箇所がいくつかあって、そこには「疲れ」が溜まりやすいんだ」

リヴァイ「そうなのか」

ハンジ「この辺とか、ちょっと他の場所に比べたら筋肉が硬い」

リヴァイがビクッとした。あ、しまった。揉み過ぎた。

リヴァイ「揉むな。突然」

ハンジ「ああ、ごめん。痛かった?」

リヴァイ「ちょっとな。いや、そういう部分は誰にでもあるだろ」

ハンジ「まあそうだけど。巨人にもあるのかなって思って」

リヴァイ「俺は巨人じゃねえから分からん」

ハンジ「うん。そりゃそうだけど。でも、身体を動かす際に重要な箇所は巨人も人間も殆ど同じだと思うんだよね」

「蒸発」さえしなければ解剖してその辺の事をちゃんと確認できるんだけどな。

あくまで「推察」の域を出ないけれど。リヴァイの体を通じて巨人の事を考える。

ごめん。リヴァイ。イメージを重ねて。

でも愛おしいくらいに。それに優しく触れる。

ハンジ「奇行種の場合はまた別なのかもしれないけど。肩と骨盤と膝と足首。最低でもこの4つを一気に封じ込められるようにならないといけないんだけど」

その四か所が最低条件になる。それを思いながら私はリヴァイの「それ」に触れながら考えた。

そしたらリヴァイが途中で私の手を止めて、ため息をついた。

リヴァイ「もういいか? 十分だよな?」

ハンジ「ああ、ごめん。もういいよ。うん」

リヴァイ「何かヒントは掴めたか?」

ハンジ「ん~どうだろう?」

リヴァイ「おい……」

リヴァイの目が半眼になった。ごめん。

でも頭の中はさっきより大分楽になった。ストレス発散になったみたいだ。

今度は別の視点から原因を考えてみる。

ハンジ「もしかして、中に詰め込んでいる「筒」の方に問題があるのかな」

リヴァイ「筒?」

ハンジ「ううーん。ワイヤーをまとめておく方。たまにそっちが「切れる」事もあるんだよね」

リヴァイ「ワイヤーが切れる……まとめ方が間違っているんじゃねえか? どんな風にワイヤーを中に入れているんだ?」

ハンジ「ええっと、ワイヤーある?」

リヴァイ「あるぞ。部屋に工具はある。ちょっと待ってろ」

リヴァイがワイヤーと整備用の工具を持って来てくれた。

ハンジ「ええっと、こうかな。こうやって、束ねる感じで……」

左右にワイヤーを動かして、まとめるような形を見せたら、

リヴァイ「そんな束ね方するより「螺旋状」に巻いたらどうだ?」

ハンジ「え?」

と、リヴァイは私の手を止めて言ったんだ。

リヴァイ「筒があるんだろ? 中に「芯」のような物を入れてそれに巻くとか? ダメなのか?」

その言葉のイメージを頭の中に思い浮かべた直後、私の中で新しい「設計図」が瞬時に思い浮かんだ。

ハンジ「やって見せて!」

リヴァイ「は? だから、こうやって収納すればいいだろ? 小さく纏めたいんだろ? 違うのか?」

リヴァイが棒の周りにワイヤーを巻いていく。それを見た直後、私の体の中に快感が奔っていった。

やばい。何コレ。やだ。リヴァイがイケメン過ぎてやばい。

ハンジ「それだあああああああ!」

身体が一気に軽くなって飛び跳ねたくなった。夜だから自重するけど。

でも、体の震えが止まらない。涙が出て来て、リヴァイにしがみついた。

ハンジ「そっちなのかもしれない。いや、まだ分かんないけど。でも、その方法でワイヤーを纏めた方がいいのかもしれない! 何で私、気づかなかったんだろ?!」

リヴァイ「ハンジは収納が下手くそだからじゃねえか?」

OH……それを言われると辛いぜ。

ハンジ「うわああ……それ言われるときついけど。でもそうかも。これはリヴァイにしか出来ない発想かも」

リヴァイ「大げさだな。俺は荷物が嵩張るのが苦手だから出来るだけ常に「小さく」する事を心がけているが?」

そうだね。リヴァイはいつも「収納上手」だ。

そんな彼を見ていたら、自然に口元が緩んでしまって………

ハンジ「いやーでも本当、リヴァイっていい男だね。私、抱かれてもいいって今、本気で思った」

リヴァイ「………は?」

口から思いが零れてきた。止められない思いが、溢れ出てやばい。

ハンジ「超嬉しいよおおおおおお! まさか煮詰まっていた事がこんなにあっさり解けるなんて思わなかった」

ずっとずっと、悩んでいたのだ。

だからもう自分を止められなくて、私はつい、リヴァイを自分の方に引き寄せてしまった。

ハンジ「リヴァイ、大好きー………」

と、言い切った直後、ふと我に返って、赤くなった。

あれ? 私、今、何言った? あれ? あれ?

ちょっと、自分から告白してどうするの!? いや、ちょっと待って!

しまった。どうしよう。誤魔化さないと! きっと、リヴァイ、困ってる!

と、思った直後、

ハンジ「いったああああああ!!! 何で殴られた私?!」

脳天に凄い衝撃がきて涙目になった。思いっきり拳骨を食らってしまったようだ。

そしてリヴァイの方を見たら、リヴァイの目が怖くて。

いつだったか、尻を蹴られた時のリヴァイより、怖くて。

背筋が冷える思いをしていたら、リヴァイは言ったんだ。冷たい声で。

リヴァイ「軽々しく言うな」

ハンジ「へ?」

リヴァイ「抱かれてもいいなんて、軽々しく言うんじゃねえ! もう出て行け! そしてもう夜は二度と、俺の部屋に来るな!!」

リヴァイに押し出されるような形で無理やり部屋の外に放り出された。

廊下に座り込んで混乱した。えっと、これってつまりその……。

ハンジ「ええええええ?!」

えっと、もしかして、真に受けちゃったとか?

ハンジ「何でそんなに怒っているわけ? え? 私、えっと……あくまで「例え」で言ったのに?」

喜びを表現したくてつい、言ってしまっただけなのに。

そっちじゃなくて、気にして欲しいところは別にあったのに。

でもリヴァイは答えなかった。静かだ。

私は諦めて自分の部屋に戻る事にした。そして反省する。

それってつまり、リヴァイには「尻軽女」って思われちゃったって事かな。

まあ、そうか。うん。嫌われちゃったのなら仕方がない。

暫くあいつとは距離を置こう。そう自分に言い聞かせて、眠る事にしたのだった。










リヴァイと話さなくなって数日が経った。彼とは殆ど会話をしていない。

目も合わせられない。でも彼の事が気になって仕方がない。私はもう、逃げられないところまで来てしまった。

でもこの「思い」をどうしたらいいか分からなかった。

迷惑にしかならないだろうなって思う。気持ちを伝えたのに、拒否されてしまったのだし。

しつこい女はもっと嫌われるだろうな。そう思って、今は自分の仕事に専念する事にした。

しょんぼり研究室で仕事を続けていると、そこにミケがやってきた。

ミケ「モブリットに頼まれて朝食をこっちに持ってきた。今、彼は別の仕事があるそうだから」

ハンジ「ありがとう。ミケ。その辺に置いておいて。後で食べるよ」

と、目の下のクマも隠せないままそう答えた。

ミケ「リヴァイと痴話喧嘩でもしたか」

ハンジ「痴話喧嘩なのかな………」

自分でも良く分からなかった。そもそも、あいつは私の事をどう思っているんだろう?

ハンジ「嫌われてしまったようだよ。私のうっかり発言のせいで」

ミケ「そうか。では謝ったらどうだ?」

ハンジ「なんて謝ればいいか分からないよ」

もう、夜は部屋に2度とくるなって言われたしね。

余程、嫌だったのかな。私の訪問が。我慢していただけだったのかな。実は。

だとしたら申し訳ないと思った。リヴァイに対して。

ミケ「悪いと思っていることを素直に謝ればいい」

ハンジ「ううう………大好きなんて言ってごめんなさいってこと?」

ミケ「……告白したのか」

ハンジ「うん。つい、うっかり。言うつもり、なかったのに。勢いで、つい」

ミケ「おかしいな。だったらリヴァイはきっとそれを嬉しいと思う筈だ」

ハンジ「でも部屋を追い出されたよ? 2度と夜に部屋に来るなって言われた」

ミケ「ふむ……」

ミケが考え込んでいる。何かおかしいのかな? 私達は。

ミケ「天邪鬼にしてはちょっと変だな。何か誤解が発生している気がする」

ハンジ「誤解?」

ミケ「そうだ。誤解だ。リヴァイの方が「勘違い」している可能性はないか?」

ハンジ「ううーん」

どうなんだろ。良く分かんないな。

ミケ「話の流れを少し詳しく説明してくれないか?」

ハンジ「いいよ」

そして私はミケに大体のあらすじを説明する事にした。

ハンジ「例の「新しい罠」について、試作品を繰り返していたけど、何度やっても理想的な実験結果が出せなかったのはミケにも話したよね」

ミケ「煮詰まっていると言っていたな」

ハンジ「そう。やっぱり頭の中で想像したのを「実現化」するのは大変だからね。設計の段階できっとどこかで「ミス」をしているに違いないと思っていたけど、それが何処なのか分からなくてウダウダしていたから、リヴァイに愚痴りにいったんだよね」

ミケ「ふむ」

ハンジ「そこで、リヴァイにちょっと協力して貰って……もう一度、リヴァイの「体」が見たくなって服、上だけ脱いで貰って「筋肉」を見せて貰ったんだ」

ミケ「夜なのに?」

ハンジ「まあ、非常識なのは分かっていたけど。後で「何でもするから」って言って押し通して、リヴァイに触らせて貰ったんだ。体を」

ミケ「………なるほど」

ハンジ「体の構造をもう一度、復習したかったんだ。巨人を頭の中でイメージするのにはあいつの体を触るのが最適だったし。だから、触りながらいろいろ話して、ふと「筒」の方に問題があるのかなって気づいてそれを相談したんだよね」

ミケ「ほう」

ハンジ「そして筒の中にあるワイヤーの束ね方を実際に見せたら「そんな束ね方するより「螺旋状」に巻いたらどうだ?」ってリヴァイが言った瞬間、私の頭の中に新しい『設計図』が突然、沸いてきたの」

ミケ「良かったな。糸口が見えたんだな」

ハンジ「そうなのよ! そのおかげで、今までとは段違いに性能が良くなったのよ。リヴァイのふとしたアドバイスが私に力を与えてくれたの」

思えばそれはその時だけの物じゃない。

あいつは本当に、普段からちょっとしたことでも私に「こうしたらどうだ?」と言ってくれる。

それがどれだけ心強いか。リヴァイはきっとそれを知らないんだろうな。

ハンジ「それを聞いた直後、なんかもう、飛び跳ねすぎちゃって。テンション上がり過ぎて、やばかった。だからうっかり「抱かれてもいい」とか「大好き」とか口走る自分が居て……」

と、其の時、ミケが呆れた顔になって言ってきた。

ミケ「抱かれてもいいって言ったのか? 本当に?」

ハンジ「いや、あくまで「例え」だけど! その、それくらい、嬉しかったんだよ。うん」

ミケ「……………」

ミケが天井を見た。な、何で?

ミケ「なるほど。合点がいった」

ハンジ「え? 何で? 理由分かったの?」

ミケ「リヴァイには同情する。同じ男として」

ハンジ「ええええ? じゃあ私、どう謝ればいいの?」

ミケ「いや、この場合は謝らなくても大丈夫だろうな。そのうち、ハンジのところにリヴァイの方からやってくるだろう」

ハンジ「そ、そうかな……」

ミケ「ああ。100%来る。何なら金を賭けてもいい。大丈夫だ。心配するな。仲直りは出来ると思う」

と、ミケが言い切って部屋を出て行った。

ミケがそこまで断言するなら信じていいんだろうか?

いや、でも、リヴァイの方から私のところに来るって、本当かな…。

そう思いながら、顔を伏せて、机の上でグダグダしていると……。

リヴァイ「ハンジ………今、いいか?」

ハンジ「ん?」

ほ、本当に来た。ミケすげえ! 預言者みたいだ!

内心、動揺しながら顔をあげる。徹夜明けだからちょっと眠いけど。

リヴァイ「話したい事がある。その……まずはこの間の夜の事を謝りたい」

リヴァイが正面に座った。え? 何か雰囲気がいつもと違う。全然。

ドキドキする。いやだ。真っ直ぐ見つめてくる。か、顔、赤くなってないかな。私。

リヴァイ「追い出してすまなかった。その……前言撤回する。お前はいつでも俺の部屋に入っていい」

ハンジ「何で?」

リヴァイ「お前はそうしていい女だからだ」

ハンジ「許可を貰えると思っていいの?」

リヴァイ「その通りだ。自由にしろ。俺がいない時でも、俺の部屋で寝たいなら寝ても構わん」

ハンジ「…………」

ミケの言う通りになった。リヴァイの方から歩み寄ってくれるなんて思わなかった。

喉の中がカラカラになってきた。変に緊張して、でも気になったから質問した。

ハンジ「何で急に気が変わったの?」

リヴァイ「それは……その、アレだ。俺の勘違いだったと分かったからだ」

ハンジ「勘違い?」

リヴァイ「お前、俺に「抱かれてもいい」って言ったよな?」

OH……その件にツッコミ入れちゃうんだ。

いや、本当に勢いで言ってすみませんでした。はい。

ハンジ「いや、ごめん。何か勢いでうっかり言ったかも。その……あの時は私も嬉しくて、つい。その言葉の表現力が大げさになり過ぎた」

言い過ぎたんだと思う。まだそういう関係ですらないのに。何言っちゃったんだろうね。私は。

リヴァイ「ああ。それは俺も分かっていたが………でも、その後に「大好き」って言ったよな」

ハンジ「うん。言ったね」

リヴァイ「嘘じゃねえんだよな?」

ハンジ「嘘じゃないよ。そこは真実だ。私、あの時、リヴァイの事、凄く「大好き」って思った」

リヴァイ「それは俺の事を異性として、好きだという意味だよな?」

踏み込んできた。恥ずかしい。いや、まあ、そうなんだけどさ。

ああああ………改めて言うとめっちゃ照れる!!!!

ハンジ「うん……まあ、その……えっと……」

リヴァイ「どっちだ。ハンジ」

ハンジ「ええっとね? その……た、たぶん、異性なんじゃないかなあっては思うんだけど。あははは」

リヴァイ「多分ってことは、今、ここで、押し倒しても文句言わねえって事か?」

ハンジ「ええええ? それはちょっと困るけど?!」

へ? へ? ど、どういう事?!

頭の中がだんだんパニックになってきた。

リヴァイ「じゃあ、どこまでなら許せる?」

ゾクッとした。リヴァイの視線に絡まれて。

思わず自分の体が「濡れる」ような感覚がきて、私の頭の中がどんどん溶かされてしまいそうだ。

ハンジ「えっと………その………あの……」

どこを見たらいいか分からない。視線を逸らして考える。そして我に返った。

ハンジ「さっきから私にばっかり質問してない? 私もリヴァイに聞きたい事沢山あるんですけど?!」

リヴァイ「なんだ」

ハンジ「その、ドアの件、アレ、わざとだったの?」

リヴァイ「いや、俺は全くその件については知らなかった。そんな「習わし」があるなんて初耳だった」

ぎゃあああああ?!

知らなかった方だった! 

あちゃー……だったら「天然」だったのかこいつは!

ハンジ「えええええ?! そうだったの?! あっちゃーだったら、変に意識していたのは私だけだったんだあ」

もー駆け引きかもしれないと思った私が馬鹿だった。

そんな事ならさっさと確認してしまえば良かった。私の馬鹿。

ハンジ「最初の夜の訪問の時、てっきりドア開けっ放しにしてくれると思っていたのに、リヴァイが閉めちゃったからさあ。「え?」ってちょっと思ったんだよね。でも、自分から「開けて欲しい」って言ったら、リヴァイ傷つくかも? と思っていたし、いや、そうか……ごめん。迷って確認しなかった私が悪いね。これは」

いや、確認するのを怖がった私が悪いのか。

というより、確認したくなかったのかな。

「初めて」ドアを閉めてくれた男がリヴァイだったから。

勘違いでも嬉しかったのかもしれない。そういう扱い、してくれた男性は今まで私の周りには1人も居なかったから。

ハンジ「でも結局、初日はトランプして遊んだだけだったじゃない? だから、アレ? とも思ったけど。リヴァイはドア閉めてもそういう事を「しない」タイプの人なのかなって思ってしまってね。そしたらちょっとほっとして何か楽しくなって。その……すみません。調子に乗りました」

もう頭を下げるしかないよね。これは。

ハンジ「なるほど。これが「3年連続抱かれたい男」の技なのかなってあの時、思った。結構、キュンとしたんだよね。不覚にも。その……てへへ」

リヴァイ「オイオイ」

思えばあそこから始まってしまったんだ。私の「恋」は。

するとリヴァイがちょっと呆れて肩の力を抜いたのが分かった。

ハンジ「トロスト区で部品の下見に行った時もさあ。何か凄く私を「支援」してくれたじゃない? あと私の部屋の掃除もしてくれるわ、パンツ見ても淡々と作業をこなすしさー。リヴァイの部屋で眠っても、放置してくれたし。ええっと……他にはその、壁外調査の前には巨人に会う為に風呂入れ発言とか。いちいち私のツボに入ってきて、だんだん楽しくなってきちゃったんだ」

リヴァイ「そうだったのか」

ハンジ「うん。私、ついつい、楽しいとそっちに没頭する癖があるのよ。巨人と会う時の感覚に凄く似ていたんだよね」

リヴァイと一緒にいると浮足立つ自分がいる。

そんな自分に気づいてしまったんだ。不覚にも。

ハンジ「ただねー私の中に1個、疑念があって。リヴァイって全然、女の噂も影もなかったから、本当に異性好きなのか自信持てなかったんだよね。エルヴィンと実は出来てますって言われても「やっぱり?」くらいにしか思えないくらい、女性兵士との距離も感じたし」

リヴァイ「おい!」

ハンジ「いやだって、それくらい酷かったよ? 実際、女性兵士の間では「そっちなのかな?」説、結構出回ってたからね?」

リヴァイ「………」

リヴァイはがっくりしていた。いや、自業自得だよこれは。

ハンジ「だからその、実験してみようかなって思ってさ」

リヴァイ「実験?」

ハンジ「ニファに協力して貰ってね? 女性からの突然のプレゼントをリヴァイは受け取るのか受け取らないかっていう」

リヴァイ「は? まさか、あの帽子、お前の策略か?!」

ハンジ「イエス! 発案は私! ごめんね☆ (てへぺろ)」

てへぺろで誤魔化しちゃう。

リヴァイ「じゃあ、あの帽子を選んだのは……」

ハンジ「それも私! 代金はニファと折半したけどね。ニファもリヴァイの事、結構好きみたいな事を言っていたからノリノリで協力してくれたよ。あ、ここでの好きは「上司」としてね? ニファは彼氏いるからね」

そんな訳で、実はあれはニファじゃなくて私とニファからのプレゼントだった訳です。

ハンジ「だから、問題ないって分かったからちょっと安心した。噂が独り歩きしているだけだったのかな? って感じになって……どんどん試したくなったの。ごめんね。この辺、完全に巨人の実験のノリと同じだけど。無茶振りして、どこまで私に「付き合ってくれるんだろう?」っていう好奇心がだんだん疼いて来て……トロスト区に突然、夕方から行ったらどうなるかな? みたいな」

リヴァイ「じゃあもしかして、あの安売り情報も「嘘」か?」

ハンジ「いや、そこは流石に本当だよ。ただ、そこは流石に「諦めてもいい」部分じゃない? 多少値段が変わる程度だし?」

リヴァイ「冷静に考えてみればその通りだな」

ハンジ「うん。おまけにタイツ、追加購入したから、あんまり値段的には差つかなくなちゃったしね?」

リヴァイ「それもそうだったな」

ハンジ「あの時、いろいろ吟味するリヴァイが可笑しくて……ごめんね。すっごく楽しかったの。あんまりやらせると、こっちの策略がバレそうな気がして急かしたけどさ」

リヴァイ「笑っていたのか。あの時」

ハンジ「内心ね。嬉しかったよ。そういう意味で笑っていたの」

あの時のリヴァイ、本当に面白かった。思い出すと今もにやけちゃう。

リヴァイ「で? 他に聞きたい事はあるか?」

ハンジ「ああ、あるよ。スカートパタパタした時、どんな気持ちになった?」

リヴァイ「どんなって……」

ハンジ「あれ、私なりの「実験」だったんだけどなあ?」

ドキドキ、してくれたのかな?

そう思いながら問うと、リヴァイがさっと視線を横にずらした。

リヴァイ「なんか、見ちゃいけない物をみたような気分だったな」

ハンジ「そうだったの?」

リヴァイ「だから面倒臭くなって寝ようって思ったんだろうな。多分」

ハンジ「それって、やっぱり、エッチな意味で?」

リヴァイ「だろうな。じゃねえと、寝るなんて言い出さない」

あ、頬がちょっとだけ赤い。そうだったんだ。良かった。

ハンジ「そっかあ……良かった。あと馬車に酔ったのは嘘だよね? あの時、何があったの?」

リヴァイ「あー嘘だってバレていたのか」

ハンジ「そりゃバレますよ。馬に乗りまくれるあんたが、馬車程度の「揺れ」で酔う訳ないのに」

リヴァイ「それぞれの部屋に戻った後、俺の部屋にエルヴィンが来た。そこで香水を「商売女」から譲り受けた話を聞いて、ハンジの部屋にこっそり侵入して香水を処分しようとしたらエルヴィンに止められた。そこで奴に『ハンジとの交際を望むなら別に止めないよ』と言われて動揺していたんだよ」

ハンジ「エルヴィンとそんな話をしていたんだ……意外」

リヴァイ「だろうな。俺もあの時は頭の中がごちゃごちゃしていたからな。その後、その……結婚式場でピクシス司令に『男が女の衣装を買ってやるのは「脱がせたい」願望の表れというぞ』って言われた事を思い出して慌てて代金を受け取りにハンジの部屋に行った」

ハンジ「あ、だから急に私の部屋に来たんだね」

リヴァイ「そうだ。ピクシス司令に突っ込まれると思ったら急に寒気がしたんでな」

ハンジ「ぷぷ……」

ピクシス司令、何言ってるんだろ。まあ、有難いけど。

じゃあリヴァイは私の「タイツ」を脱がせたいと思っているのかな。本当は。

まあ、そこは気になったけど横に置いて、

ハンジ「あと、私が慌ててシャワー浴びて戻って来た時、なんか様子が変だったよね?」

リヴァイ「あー」

リヴァイは今までで一番赤い顔になって言ってくれた。

リヴァイ「シャワー浴びたてのハンジを見て、勃った」

ハンジ「へ?」

なんですと?

リヴァイ「だから、その、ムラムラしていた。悪い。正直、あの時のハンジの「体臭」は最高に心地良かったぞ」

ハンジ「?! 嘘、マジで?! そんな素振りじゃなかったよね?! 全然気づかなかった!」

リヴァイ「いろいろギリギリだったからな。その……すまん」

リヴァイが頭を下げてきた。えええええマジかそれは!

待って待って。じゃあ、躊躇しているように見えたのは、そのせいだった訳か。

そうだったんだ。なんか急に、それを思い出して恥ずかしくなってきた。

ハンジ「じゃああの後、なんか距離を感じたのは「堪えていた」だけだったの?」

リヴァイ「その通りだ。下手に近づいたら襲いかねない自分がいたからな」

ハンジ「ええええ……マジで。その時点でもう、その気になっていたと?」

リヴァイ「ああ。なんか自分がだんだん「おかしい」状態になってきたのは気づいていた」

だったらもう、その時点で両思い確定じゃないか!

ハンジ「じゃあなんで「好みの女」を「清潔な女」なんて言ったの? 軽く凹んだんですけど?」

リヴァイ「あれは、洗い立てのハンジを思い浮かべてつい、そう言っただけだ」

ハンジ「ああ……ムラムラした時の「私」をそう表現しただけだったのね」

リヴァイ「そういう事だ。あと、ちょっと誤魔化したのも否めない」

ハンジ「くそー! なんかそこは悔しいなあ!」

舌打ちしたくなる心地で悔しくなる。くそおおお!

リヴァイ「万年筆はわざと置き忘れたのか?」

ハンジ「いやいや? そこは流石に「本当」だよ。私、しょっちゅうあちこち、ペンを置き忘れたり人に預けっぱなしにするから。でも嬉しかったよ。あの時はすぐ持って来てくれたよね」

リヴァイ「そうだったのか。じゃああの時、思い切って言えば良かったな」

ハンジ「え? 何を?」

リヴァイ「月明かりに照らされたハンジが綺麗だって」

ハンジ「?!」

あの時、なんかじっと見られたのはそのせいかあああああ!

うひゃあああああ待って待って! 痒い! こそばゆい! 助けて!

ハンジ「何それ……ちょっと待て。今の不意打ち、酷い! 卑怯すぎる!!!!」

どんだけ私をたらし込めば気が済むのか。このイケメンが!

リヴァイ「事実だ。もうだんだんハンジに嵌っている自分に気づいて、腹が立ってきたんだ。俺の中では「香水」の件のせいでハンジにムラムラするようになってきたと、思っていたから。だからつい、商売女のところに八つ当たりしに行ったんだ」

ハンジ「そんな経緯だった訳ね。なるほど。なんか悪い事しちゃったね。香水、つけない方が良かったかな?」

リヴァイ「いいや? 今となってはかえって有難い。こうやってハンジといろいろ話せている訳だから」

手が重なって、ドキッとした。

あ……まずい。また、体が、熱くなってきて。熱っぽい。

リヴァイ「ただ、その結果、香水はあくまで「きっかけ」に過ぎないみたいな事をエルヴィンに言われてしまった。そのせいで、退路を断たれたような気持ちになった。だからまたハンジと距離を取るしかなくてな。「何かやらかした?」と問われた時はもう「全部だ」としか言えなくて……」

ハンジ「ごめんなさい。あの時点で私もいろいろ仕掛けたり遊んだりしていたので、どれの事を言っているのかさっぱりでした」

何故かお互いに頭を下げ合った。

ハンジ「でも、香水の力を借りたとはいえ、ちょっと「その気になりかけた」って言われた時は、私もドキッとしたよ。リヴァイでも、そういう事あるんだって思って」

リヴァイ「一番きつかったのはシャワー浴びたてのハンジだったけどな」

ハンジ「そうなんだーうわーだったら、ちょっともうちょっとシャワー浴びないとまずいですかね?」

リヴァイ「そこはまあ、ハンジに任せるが……」

そしてお互いに目が合って、吹いた。吹くしかない。

ハンジ「最後はもう、アレだね」

リヴァイ「ああ。まあ……その、アレだな」

ハンジ「うん。リヴァイの「螺旋状に巻いたらどうだ?」で完全に「堕ちました」」

リヴァイ「そうか」

ハンジ「うん。あれだけグダグダ開発に悩んだのに。あっさり「いい案」を出してきたリヴァイに「堕ちた」完全に。うん……」

リヴァイ「勢いって怖いな……」

ハンジ「うん。怖いね……本当に」

もー何コレ。なんだ。私達、本当は両思いだった訳だね。

だったらもう、遠慮する事はないか。

これから先はリヴァイとの「関係」を変えてもいい筈だから。

先に言っておかないといけない事があるね。

ハンジ「あーその、あのね。先に言っていいですか?」

リヴァイ「何を?」

ハンジ「ごめん。実は私、この年になっても「処女」でして」

リヴァイがびっくりしている。無理もないな。

ハンジ「経験値ないんで、本当、ごめん」

リヴァイ「すまん。それを言ったら俺も何だが」

ハンジ「はい?! え……嘘でしょ?」

リヴァイ「本当だ。そもそも、こんな風に浮かれる気分というか、こんなの俺も初めての経験なんだぞ……」

童貞と処女同士でカップルになるのか。すげえな。どうしよう。

丸っきりゼロからのスタートになるのか。でもかえって楽しいかもしれない。

リヴァイ「すまん。その………こう言ってアレだが。「何でもする」って言ったよな?」

ハンジ「あ……」

そう言えばそんな事を言った気がする。

リヴァイ「俺と付き合ってくれ。それで、いいか?」

ハンジ「え……それでいいの?」

リヴァイ「ああ。今日からだ。いいな?」

ハンジ「いや、勿論、いいけど。え? そんなんでいいの? もっと無茶振りくるかと思っていたけど」

リヴァイ「例えば?」

ハンジ「ん~なんかエッチな要求で難しそうな事とか?」

リヴァイ「ほほう? 言ったな? 要求していいのか?」

ハンジ「うぐ! しまった! 墓穴掘ったか?」

リヴァイ「掘ったな。じゃあ、とりあえず、するか」

ハンジ「な、何を………?」

リヴァイの顔が近づいた。目を閉じる暇もなく、キスされてしまった。

リヴァイの方は目を瞑っていたけれど。その早業に思わず腰が抜ける。

ふわっとした。弾力が伝わってきて、柔らかくて、気持ち良かった。

一瞬のキスだったのに。全てを持っていかれる様なキスだった。

恥ずかしくて顔を両手で隠してしまった。どどどどどうしよう?

ハンジ「なんか、ヤバい。どうしよう……凄くドキドキする」

リヴァイ「続きはまた今度だ。時間がある時にするぞ」

ハンジ「す、するんですね?」

リヴァイ「当然だろ。俺ももう、腹括ったしな。まあ、当面は研究の方が忙しくて難しいかもしれんが」

今度は耳を責められた。リヴァイの「声」が中に入ってくる。

リヴァイ「朝飯、ちゃんと食えよ。もう少し脂肪をつけてくれた方が俺の好みだ」

ハンジ「?!」

なあああああ?! 酷い!!!

思わず拳を振りぬくと避けられてしまった。

ハンジ「どうせガリガリの貧乳ですけどね?! だったら何で私にしたのよ! 抱かれたい男3年連続連覇したくせに!」

リヴァイ「は? そんなの決まっている。綺麗にした時のハンジの「匂い」が最高だったからだ」

ハンジ「じゃあ汚い時の私は嫌いって事じゃないの」

リヴァイ「かもしれんな。まあでも、洗えば済むしな。汚くなるからこそ、綺麗にしたくなるんだろ?」

くそおおおお! こいつ、私の体目当てか?!

ハンジ「うぐぐぐ……なんかムカつく! うーん。やっぱり早まったかな?!」

リヴァイ「今更言うなよ。時間、ないぞ。さっさと朝食、食ってしまえ」

ハンジ「分かっているけどさ。あーもう、リヴァイは先に演習にいけええええ!」

追い出してやった。リヴァイはニヤニヤしながら出て行ったけれど。

はあもう。急転直下の連続でちょっと疲れちゃった。

でも、唇と耳に残った声を思い出すと、濡れる自分がいる。

いかん。すっかりあいつに調教されている。ダメだこりゃ。諦めよう。

まあ、うん。その、なんだ。体目当てだとしても、それはそれで。

その、それを言い出したら、私もリヴァイの「体」が目当てな部分もあるしね?

と、言い訳しつつ、朝食をかきこんだ。

食べ終わった後、自分の胸を触る。ペチャパイだけどいいのかな。

食べないと肉つかないよね。今度からちゃんと食べよう。

あと、まあ、大きい方がいいなら揉んでいくしかないか。マッサージするか。

焼け石に水とか言わないでくれたまえ。こういう女らしい事をしてみたいと思う自分も「初めて」の経験なのだから。

抱かれたい男ナンバー2に選ばれちゃったような男みたいな女なのに、抱かれたい男ナンバー1に選ばれるような色男と付き合う事になってしまった。

初めてづくしで大変だ。でも、すごく楽しい。

今はまだ、研究の件が手が離せないけれど、ひと段落ついたら、きっと。

リヴァイとの新しい関係も踏み出せる。そう思いながら、私は胸のポケットの万年筆を取り出して、書類仕事を再開し始めたのだった。






ハンジ「抱かれたい男ナンバー2!」(終わり)

このSSまとめへのコメント

1 :  ✨リヴァイ✨   2015年02月01日 (日) 22:57:08   ID: -oE4KKhD

面白い!!リヴァハン大好き!!
最後の方ヤバイ(≧∇≦)兵長かっこいーーーーー!!!

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