モバP「蚊はまだまだ本気を出してはいないらしい……」 (40)

ガチャ

P「ただいま戻りましたー」

P「いやー今日も暑くてもう」パタパタ

P「買い替えたばっかのスーツにもう汗じみが……あれ?」パタパタ

>シーン……

P「あ、今日は誰もいないのか。珍しいな」

珠美「……」

P「まあ静かでいいけどな仕事もしやすいし」

珠美「…………」

P「さてコーヒーでも飲んで一服してから」

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珠美「…………」

P「……」チラッ

P「やっぱり触れといたほうがいいんだろうな」

珠美「…………」

P「おはよう珠美」

珠美「…………」

P「おはようちびっこ剣士」

珠美「ちびっこちゃうし! 珠美はちびっこちゃうし!」クワッ

P「お約束いただきましたー」

珠美「珠美は大器晩成遅咲き型ですし! ……というかP殿、いつの間に帰っていらしたのです」

P「たった今帰って参ったよ」

珠美「そうでしたか。珠美、まったく気がつきませんでした」

P「ああ知ってた。珠美はそんな地べたに正座なんかして一体何を始めたんだ?」

珠美「お気になさらず。ちょっとした修行ですとも」

P「ちょっとした」

珠美「はい!」

P「……」

珠美「な、何か?」

P「いや修行するのは全然構わないんだけどさ。人の挨拶には1回で気づいてほしいな」

珠美「うぐ」

P「剣道は礼に始まり礼に終わるんだろ?」

珠美「ごめんなさいP殿……」ペコ

P「わかってくれればいいんだ。珠美は素直で良い子だな」ポンポン

珠美「P殿、な、なでるのは……」

P「小学生になると途端にひねくれたりする子もいるもんだけど」ポンポン

珠美「こら! 珠美は高校生です!」クワッ

P「そういえばそういう設定だったか。ところでどういう修行してたの?」

珠美「設定とはなんですか設定とは! んもう、今日はP殿とは口を利きません!」プイ

P「あ」

珠美「……」ツーン

P(調子に乗り過ぎたか……)

P「珠美」

珠美「……」プイ

P「たまちゃん」

珠美「っ」プイ

P(目合わせてくれない。久しぶりに怒らせちゃったな)

珠美「……」ツーン

P(ツーンとしたまま地べたに正座しちゃって……)

珠美「……」ムス

P「……後で暴れん坊将軍一緒に見よう珠美」

珠美「!」キラキラ

P「……」

珠美「っ」ハッ

珠美「……」ムス

P(揺らいだんだけどな……ダメか)

珠美「……」

P(とりあえず荷物置いて来よ)

珠美「……P殿がどうしてもと言うのなら」ムス

P「!?」

珠美「……桃太郎侍なら見てあげないこともありません」チラッ

珠美「暴れん坊将軍はもう……見尽くしてしまいましたので」

P「あ、そ、そうだな。じゃあそっちにするか」

珠美「ただ珠美は今修行中ですので。後ほどの楽しみ、ということで」

P「あ、そ、そうだな」

P「……」

P「桃太郎侍のブルーレイどこにあったっけ……?」

P「とにかく、まずは荷物を置いて着替えよう。暑くて仕方ない」

パタパタ……

P「と? おや他にも人が」

文香「……」ペラ

P「……」

文香「……」

P「……」

文香「……」ペラ

P(静かだな……)

文香「……」

P(賑やかな時はとことん賑やかなんだけどなここ)

文香「……」ペラ

P(今はページをめくるかすかな音が響くだけだよ)

文香「……」

P(しかし集中してるな。まったく気づかれてない)

文香「……」クス

P(あ、笑った。よほどウィットに富んだジョークが展開されたんだろうな)

文香「……」ペラ

文香「……」ムス

P(今度はちょっと怒ってる)

文香「……」ペラ

文香「……」ニコ

P(また笑った。でも今度のはなんだろ……ホッとしたって感じだ)

文香「……」ペラ

P(結構表情豊かなんだな)

文香「っ」カキーン

P(……ドラマとか見てて茶の間が凍結するあの感じだな)

文香「///」ペラッ

P(うん、ラブシーンだったんだなきっと。読み飛ばしてる)

文香「……」ホッ

P(ホッとしている。しかしこんな集中して本読んでる美人見てたらこっちも本読みたくなってくるな)

P(いかん見入ってしまった。荷物置いて着がえなきゃ。仕事しなきゃ)コソコソ

文香「……」

P「あ、桃太郎侍も探さなきゃな」

文香「!?」ピク

P「あ」

文香「…Pさん……」

P「お、おはよう文香」

文香「…おはようございます」ペコ

文香「…すみません……いらしてたこと、気づきませんでした」

P「ああいや……こっちこそ読書の邪魔して悪い」

文香「…邪魔だなんて……集中しすぎてしまうの、悪い癖なんです」

P「そうか? 集中できるのはいいことだと思うけどな」

文香「……降りる駅を乗り過ごしたりとか」

P「あ」

文香「……講義に遅れたりとか」

P「あー」

文香「……結構…あります」シュン

P「なるほどよくないかも」

文香「ええ……」コク

P「ま、まあそんな深刻になることでも」

文香「…そう、でしょうか」

P「できれば人の接近には気づくべきだけど……じゃないと変な奴が……ってもうこんな時間か」

文香「…変な奴……?」

P「文香はこの後レッスンだったか? 読書に集中しすぎて時間に遅れないようにな」

文香「…だ、大丈夫です……多分」

P「はは。じゃ、俺は仕事に戻るな」クル

文香「あ、はい……また」

文香「……」

文香(レッスンまでまだ……30分くらい)チラ

文香(もう少し……キリのいいところまで)

文香「……」ペラ

珠美「……」ムー

珠美「修行の体勢に入ってもうどれほど経ったか」

珠美「……」ムー

珠美「間違いなく一匹いたはずなのですが」

珠美「……」ムー

珠美「いえ、この思い通りにならない状況。機会をただじっと座して待つということ」

珠美「耐え、忍ぶこと。それこそがこの修行の本義であり本懐なのです」

珠美「……ですが」

珠美「一人きりでじっと座っているというのも存外につまらないものですね……」ショボ

珠美「……」

珠美「文香さんがあまりに静粛に読書をなさっているから……」

珠美「邪魔にならないようにと、大人しく修行の真似ごとでもしていようかと思い立ったのですが」

珠美「……」チラッ

珠美「かの剣豪宮本武蔵は、飛んでいる蠅を箸で掴んだといいます」

珠美「珠美もあれやってみたい! そう思いまして」

珠美「……」チラッ

珠美「……実はP殿がお帰りになるまでの間に」

珠美「カナブンを掴むことができたのです! ええ、珠美はがんばりましたとも」フンス

珠美「ですが誇れるほどのものではありません。カナブンは蠅より巨大です」

珠美「武蔵を超えるためには、蠅より小さい虫でなければならないのです」

珠美「カナブンを解放してやった矢先、おあつらえ向きの虫が一匹、珠美の前に」

珠美「蚊です」

珠美「その一匹の蚊を掴むために、珠美はこうしてお箸片手に一人座しているのです」チャキ

珠美「……」

珠美「珠美、ぶっちゃけ虫は好きではありません。お腹とか見ると鳥肌が立ってしまいます」

珠美「何故脚が六本もあるのですか? 何故あんなに脚をうじゃうじゃ動かすのです?」

珠美「……」

珠美「ああしまった想像しただけで鳥肌が!」ゾゾゾ

珠美「かかカナブンなんてよく掴めたものだと我ながら感心しています。いや本当に」

珠美「……壁に向かって話し続けるのも堪えるものです。しかし! これもまた修行の一環」

珠美「今は我慢の時。必ずや! 機会は訪れます!」キリッ

文香「……」

文香「……」ペラ

>……-…ン……

文香「……」

文香「……」クス

>……プー…ン…

文香「……」ペラ

文香「……」

>プーン…

文香「……?」

>プウゥウウゥゥン

文香「ひゃん」ビクッ

>プゥーン…

文香「…虫がいる、みたい……」ガタッ

文香「……」キョロキョロ

>……プー…ン…

文香「……どうして虫って時々、あんなに耳元に寄ってくるのかしら」

文香「…あの音は、すごく苦手」ハァ

>……-…ン……

文香「…いなくなったかしら」キョロキョロ

文香「……」

文香「…『ひゃん』なんて……」

文香「…虫くらいで……変な声が出てしまった///」

文香「…まだ時間は……大丈夫。読みなおそう」スワリ

文香「……」

文香「…………」ペラ

>……プー…ン…

文香「……」ペラ

文香「…………」

>プゥーン…

文香「……」イラ

文香「……」

>……プー…ン…

文香「…………」ホッ

文香「……」ペラ

>プゥーン…

文香「……」イライラ

文香「……」

>……プー…ン…

文香「…………」ホッ

文香「……」ペラ

>プゥウゥウウゥン

文香「やん」ビクッ

>プウゥーン

文香「……っ」ゴゴゴゴゴゴ

文香「(怒)」パタン

文香「…お願いだから」バサバサバサッ

文香「…邪魔をしないで」バサバサバサバサッ

文香「…消えてください」バサバサバサバサバサッ

>……プー…ン…

文香「……っ」ゼエハア

文香「……」キョロキョロ

>……-…ン……

文香「……」ホッ

文香「……」ペラ

文香「……?」

文香「……どこまで読んでいたかしら」パラパラ

文香「??」アセアセ

文香「…あ、ここだわ……よかった」ペラ

文香「…でも……なんだかもう落ち着いて読めない……」ハァ

文香「……?」チラ

珠美「あ」

文香「…ぁ」

珠美「ど、どうも。読書は進んでいますか? 文香さん」

文香「…え、ええ……あ、いえ…あんまり、かしら」

珠美「そ、そうなのですか。それは残念です。あはは……」

文香「…あの。珠美さん。……その、いつからそこに?」

珠美「あ、えぇとー……」

珠美「文香さんが怒りに燃える目で本をぱたと閉じて、『むきー』といった体で本を振り回しているあたりから……です」オズオズ

文香「はう」

珠美「その……小さい悲鳴のような声が聞こえたもので。もしや文香さんの身に何かと思って見に来たのです……」

文香「…恥ずかしい」カアア

珠美「でっでもあのご様子を見て珠美はピンと来ました! 蚊がいたのですね!」

文香「///」コクコク

珠美「文香さん! そういうことならもう心配ご無用です! この珠美にお任せあれ!」フンス

文香「…?」

珠美「蚊ごとき、珠美がちょちょいと退治してくれます! この箸で!」チャキッ

文香「…お箸で?」キョトン

珠美「はい、そういう修行なのです!」エヘン

文香「……」パチクリ

珠美「なので文香さんはどうぞ安心して読書なさってください! ささ!」

文香「…え、ええ」

珠美「さてさて蚊め、どこにいるのだー? 珠美の箸の錆びにしてくれるぞー」シャッシャッ

文香「……」

珠美「むー、姿が見えませぬ。あ、さては珠美に恐れをなして逃げたかっ」シャッシャッ

文香「……」クス

文香「…お箸で蚊を掴む……とても苛酷な修行だと思います、けど」

文香「…珠美さん、がんばってください。私もここで、こっそりと応援します」

文香「……読書しながら」ペラ

   ・

   ・

   ・

P「さてーひと段落ついたし桃太郎侍探すかー」ノコノコ

文香「……」ペラ

珠美「……」シャッシャッ

P「……」

文香「……」クス

珠美「……」シャッシャッ

P「……不思議なコラボだな。相変わらず静かなのがまた奇妙だし」

珠美「む、おやP殿。お仕事はもう片付いたのですか?」

P「うん、大体ね。珠美も修行はもういいのか?」

珠美「何をおっしゃいます。珠美は今も鋭意修行中ですとも」

P「お箸片手に?」

文香「……」クス

珠美「そういう修行なのです」

P「聞いたことないな……」

珠美「珠美はこの修行でひとつ学びました。忍耐も大切ですが、機会を待つだけではだめなのだということを!」グッ

P「あ、そう。まあその通りだよな」

珠美「機会とは己の手で作り出すものなのですね!」キラキラ

文香「……」ウンウン

P「まあ、修行の成果があったようで何よりだよ」

珠美「はい! しかし珠美はこれだけでは終わりません!」

P「ほう」

珠美「当初の目標をやり遂げなければ、真に修行が成ったとは言えませんからね!」シャッシャッ

P「さすがたまちゃん頑張り屋さん。ところでさ」

文香「……」ペラ

珠美「はい! 珠美は頑張りますよ!」

P「お二人さん、レッスンは?」

珠美「は?」

文香「…………?」チラッ

P「いや、時計を見てみな」

珠美「とけい……!?」ギョ

文香「!?」ギョ

P「今日のトレーナーは……あ、マストレさんだったか」

P「マストレさん、激おこかもな……」ハァ

珠・文「」

P「とりあえず、二人とも青い顔してないでさ。一刻も早く行ってらっしゃい。ちゃんと弁解もするんだぞ」

珠・文「ぅぅ……」

P「後で俺も行くから。俺もちゃんと見てやってなかったしな」

珠・文「はぃ……」トボトボ

P「あーあなんて寂しい後ろ姿……あ、文香本忘れてる……」

>ヒューーーー…ポト

P「ん? なんか落ちてきた……」ジー

P「……あ、蚊か」

P「昨夜の一発が、まだ効いているんだなあ」ポイッ

P「蚊がいなくなるスプレー、結構頼りになるかもな」

P「さすが、蚊取り線香で実績のあるところが作ってるだけあるなー」

せっせと投下してるうちに蚊にさされてた
そんなわけでおしまい

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