春香「夢の飼い主」 (63)

・春香SSです。
・地の文あります。
・書き溜めてあるのですぐ終わります。

ではよろしくお願いします。

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夢を見た。
何も無い、何も無いからこそ影すら無い真っ白な空間。 
地平線の先の先まできっと何も無いんだろう、そう感じた。

そんな所に私は、二本の足でただただ立ち尽くしていた。

「ここは…………?」

キョロキョロと辺りを見渡すも、前も後ろも右左さえ、どこまでも真っ白で、
自らの姿を確認すると、先ほどまで着ていた服に先ほどまで履いていた靴だった。
それから察するにこれは夢なのでは、と推測する。
靴があるのを見るに、おそらく仕事の休憩中に眠ってしまったのかと冷静に客観視する。

ふと気づけば、正面に「なにか」がいつの間にか立っていた。
いつの間にそこに居たのか。 とも思ったがやはり夢か、という確信で冷静になる。

その「なにか」は、私にそっくりでいて少しも似ていない。
人、と呼ぶべきか迷うほどだった。

この真っ白な世界と融和してしまいそうなほど白く、
目や鼻といった人として必要不可欠なパーツが存在していなかった。
胴体から伸びる手足の輪郭が、辛うじて人型であることを主張していた。

『久しぶりだね』

それ、「なにか」は私にも理解出来る言葉を話した。
慣れ親しみ、毎日見聞きし、発している日本語であった。

人の形をしているのだ、人の言葉を話したって何もおかしくはない。
だと言うのに、私は違和感を覚えずにいられなかった。

「あんた誰……?」

その言葉を聞いた瞬間「なにか」は少し俯いたように見えた。
と思ったらすぐに向き直り、手をゆっくりと広げてこう言った。

『夢だよ』

たった四つの言葉でとても簡素に答えられた。

「そんな事は解ってるっての。 これは夢、あんたが誰なんだって聞いてるのよ」

その答えに大人気なくも苛立ちを感じてしまい、
爪先をカツカツと高圧的に鳴らし、語気荒めに質問を繰り返す。 

『だから夢だよ。 私は夢』

あぁ解った。 そりゃそうだ、これは夢だ。
だから夢が具現化して私の目の前に出てきたっておかしくない。
眉間を摘みながらそれを理解すると、また一つ疑問が浮かんだ。

「夢って言うけど、じゃああんたは私の何の夢よ?」

そう投げかけた瞬間、夢と自称する「なにか」は、
落胆するかのように肩をガックリと落とした。
その落胆ぶりが理解出来ず、訝しげに見つめているとあっという間に立ち直った。

『……そっか。 もう、忘れちゃったんだね、私の名前を』

彼、いや輪郭を見るに彼女か。
それに顔のパーツが存在していたなら、目を細め眉根を寄せていたのだろう。
そう思ってしまうほどに、彼女の声色はとても寂しそうだった。

「……何? その思わせぶりな言い方。 言いたい事があるなら言えばいいでしょうが!」

先ほどまでと依然変わらず、一定のリズムで鳴らしていた靴を一度強く踏み込み、
ダンッと恐怖感を煽るようにわざと大きく音を出した。
しかし彼女は怖がる素振りなど一切見せず、寂しそうな声に力を入れた。

『…………きっと、いつか思い出す。 そんな気がするんだ』

彼女はまるで、何かを悟っているかのように優しく言い返した。
その言葉がどういう意味なのか一切理解出来ず苛立ちを露わにする。

「何をおかしな事を…………っ!?」

瞬間、体に襲い掛かってくる違和感。
全身鉄が入ったかのようにピタリとも動かなくなる。

『あぁ、多分今君は起きようとしているんだろうね』

そういえばこれは夢だった、忘れるほど熱くなるなんて私の方こそおかしくなったのかもしれない。
心の中で舌打ちをしていると、意識が遠のいていく。

『また会えるよ。 その時まで待ってる、いつまでも』

声を出すこともままならない状態で、ただ彼女の声だけを聞く。
今私が出来る事と言えば、その言葉の意味を考えることだけだった。

(また会える……? 同じ夢なんてそうそう……)

しかし無情にも、その答えは出ぬまま意識は途切れていく。
このまま目を閉じてしまったら、きっと次に目を開く時には現実の世界だろう。
そこまで解っているにも関わらず重くなる瞼を堪える事は出来ず、そのまま瞳を閉じた。

・ ・ ・ ・ ・ 


「…………………………ん」

ゆっくりと瞼を開け、二度瞬きをする。
謎の倦怠感に囚われた頭を、やっとの思いでもたげる。
まともに開かない眼で辺りを見回すと寝る前の記憶が蘇ってきた。

「…………そうだ、インタビューが終わって、それで……」

その休憩の間に控え室で眠ってしまっていたのだ。
いつもは居眠りをする事など無いのだが、日頃の疲れだろう。
そして、人に話したら笑われてしまいそうな夢を見た、と。

「……………………最悪」

ガリガリと頭を掻いて鏡を見る。
下にして寝ていたせいか、赤いリボンが片方ずれてしまっている。
一度ほどいて整えるとそそくさと鞄を取って控え室を後にした。

・ ・ ・ ・ ・


「だから照明の位置甘いって言ってんでしょ!? この仕事舐めてんの!?」

現場で一方的に飛んでくる怒号。
その言葉をぶつけられるスタッフは謝罪しようにも、

「謝る暇があったらさっさとライトアップして!!」

と、間髪入れずに叱咤を受けただの操り人形と化していた。
他のスタッフも完全に気圧され、何も言い出せずに俯いている。
この場に彼女に反論出来る者は誰一人として存在しなかった。

「…………なに? 何か文句でもあるの!?」

スタッフ一人一人に睨みを利かせる。
その眼差しを直視出来た者は居らず、全員即座に視線を逸らした。
重苦しい空気が現場に立ち込める。 

「………………はぁ、まぁ良いわ。 屋内の撮影はここまでにして、また明日野外で撮る分に回すわよ!!」

これ以上作業を続行させるのは不可能だと判断して早々に切り上げる。
気を遣ってくれたのか。 否、スタッフを見限ったのだ。
スタッフ達はそれに気付かずに安堵の息を次々と漏らしていく。

「……………………ふん」

静まりきった屋内で、その息音が聞こえないハズは無い。
片眉を釣り上げて一度鼻を鳴らすと、踵を返して現場から立ち去ろうとする。

「……おっ、お疲れ様でした!!」

勇敢なスタッフが一人、声を掛けてくる。
それを皮切りに、皆口々に「お疲れ様です」と倣う。
振り向く事もせず一度だけ手を振ってヒールを鳴らす。

「………………おっかないなぁ」

「昔はもっと優しかったのになぁ、社会の荒波ってやつ?」

「俺ファンだったんだけどなぁ……」

私がもう居ないと思って気を緩ませたか、スタッフ達の会話が辛うじて耳に入る。
足を止めて聞いていると、何の事は無い実に身の無い話だ。
昔はもっと、ファンだった、などと過去の事ばかり。
今の自分が否定されているのかと思うと沸々と怒りが込み上げてくる。

(社会の荒波……? 週刊にありがちな言い回しなんかで表現しないで欲しいもんだわ……!!)

唇をこれでもかと噛み締める。
大丈夫解っている、傷になどする気は無い。
頭を振って一度冷静になると、篭った熱を振り払うようにその場を離れた。

・ ・ ・ ・ ・


スタッフが右往左往するスタジオ間の廊下を歩きながら先程の事を考えていた。
振り払ったつもりだった、未だに残り続ける熱に似た憤り。
何故か、それがいつまでも頭の中にこびりついて離れないでいた。

あんな言葉、一度や二度じゃないのに。
まるで何かを思い出させるかのように、記憶を刺激されている気分だった。

「これが一番正しいんだから、仕方ないでしょうが…………」

ポツリと一言。 無意識の内に零れた言葉だった。
思わず自分の口に手を当ててしまうような。

「…………春香?」

今の小さな悲鳴を聞かれていないか周りを確認していると、
進むべき道の方向、今は後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「…………プロデューサー?」

振り返ると、やはり予想は当たっていた。
が、どうやら+αが居たようで、そこにはやよいと真美の姿もあった。

「あ、おはようございます、春香さん」

「…………えっと、おはよ→」

「……おはよう、二人とも」

二人とも、どこか言いづらそうに挨拶をしてくる。
ポーカーフェイスは完璧のハズだが、やはり先程までの怒りが、心なしか表情に出ているのだろうか。
まぁ、おそらくそれだけでは無いのだろうが。

「どうしたんだ、春香。 少し撮影が終わったにしては早い気がするが……」

右利きなのにも関わらず、右手につけている腕時計を確認して訝しむ。
説明するのも面倒だが、変にはぐらかしても見透かしてくるのは解っている。
現場で起こった事を頭の中で整理しつつ、大人しく白状する。

「あー……。 ちょっとスタッフに冷たく当たって……」

「なんだって?」

「あぁいや、屋内での撮影はもう十分撮れたから早く切り上げただけ! それだけよ」

こうなる事は既に予測済みだったが、不穏な空気になったのを察し補足を入れる。
しかしそれでも非難の篭る瞳を和らぐ事は出来なかった。

「スタッフに冷たく当たるなんてダメだろう! スタッフの人たちだって頑張ってるんだぞ!!」

「…………ッッ!! あれで頑張ってる!? 私の頑張るの足元にも及ばないでしょ!!!」

そんなつもりは無かった。 しかしついカッとなってしまった。
「頑張る」事なら私の右に出る者なんて居ないと自負しているからだ。

「私は、ここまで血反吐撒き散らしてずっと頑張ってきた!!! その結果が今の私の肩書き!!」

様々な賞も受賞し、この前は大河ドラマの主役にも抜擢され、正真正銘の「芸能界のトップ」となった。
他のアイドルはおろか、女優すらも全員見下ろせる高みにまで昇り上がって来たのだ。
今や握手会で愛想を振り撒く必要など無いくらいにまで。

「なんでここまで頑張ってきたか! 解るでしょ!?」

「…………ッ、それは………………」

プロデューサーは全てを把握している、それ故にこれだけの情報でたじろぐ事が出来る。
その狼狽ぶりを察したか、後ろの二人も徐々に表情が暗くなっていく。

「765プロの経済的問題による経営不振!!!」

「……そうだ、その話を最初に春香が聞いて…………」

プロデューサーは、苦虫を噛み潰したように顔を顰めて、思い出したくも無い記憶を掘り起こそうとする。
その辛そうな表情すら意にも介さず箍が外れたようにまくし立てる。
まるで今まで押し込めていた感情が爆発したかのように。

「それを止める為に私は身を粉にして頑張ってきたの!!!」

「お陰で765プロは今やアイドル界を支えるかけがえの無い存在になった!!!」

「実力を身に付けてアイドル以外の仕事だって頭下げて取ってきた!!」

そう、アイドル以外の仕事も。
別にアイドル活動以外の事がやりたくない訳では無かった。

しかし、本来私がやりたかった事はファンのみんなを笑顔にすることであり、
それ以外の活動はそもそも視野にすら入っていなかった。

だがそれを許してくれる状況ではなかった。
選り好みなんてしているような、そんな悠長な事をしていては自分の居場所が無くなってしまう。
自分がもたついていた所為でそうなる事だけはどうしても避けたかった。

この時から既に、765プロという存在は拠り所から重圧へと変わっていた。

「その環境を作ったのは誰よ!!? ねぇ!!!」

そんな事を聞いたって何の解決になりはしない、それは自分だって解っている。
だが聞かずにはいられなかった。 そうでもしないと壊れそうだったから。

「………………は、春香さんっ!」

「ちょ、ちょっち落ち着こうって!! 兄ちゃんも何も言えなくなっちゃってるし!」

見かねた二人が仲裁に入る。 元より、私の独壇場になってしまっていたが。
二人の言葉を聞かない訳にもいかず、プロデューサーへの注視をやめる。

「…………とにかく、私は悪くない。 むしろ悪いのは向こうよ」

「ッッ、春香…………!」

「考えを改めるつもりは無いわ。 スタッフ達がもっと頑張れば良いだけの話だもの」

プロデューサーを鋭い眼光で一瞥してその場を後にする。
この先どう反論しようがどう対応しようが、嫌な空気が付き纏うのは火を見るより明らかだからだ。

「………………あぁもう」

爪を立てて頭を掻き毟る。
苛立ちとは違う、また別の蟠りが胸のあたりをどす黒く渦巻く。
胃液が逆流するような不快感が下腹部から込み上げてくるのが解る。

ガリガリと鎖骨と胸の間を引っ掻いて、自傷する事により平静を取り保つ。
いつの間にか付いた癖だ。 精神を安定させる為の自衛行動なのかもしれない。
皮肉にも、無意識的に傷つかない程度の力加減で行っているのが悲しいところだ。

「大丈夫……? 兄ちゃん」

「あぁ、大丈夫だ。 ごめんな、やよい、真美」

「私は大丈夫ですー! ……でも、春香さんが……」

「うん……。 …………もう、真美たちの知ってるはるるんは居ないのかな……?」

「居なくなってなんかないさ」

「え…………?」

「俺達の知ってる春香は居なくなってない。 居なくならせるもんか……」

「プロデューサー…………」

「兄ちゃん…………」

なんでこういう時に限って人が出払っているのか。
雑踏の音や話し声で掻き消されて、三人の声が聞こえなかったかもしれないのに。
聞くつもりも無いのに嫌でも耳に入り込んでくる三つの話し声。

「何が「居なくなってない」よ……。 私の居場所なんてとっくの昔から無い癖に……」

誰にも聞こえないボリュームで、吐き捨てるようにそう言った。
生半可な優しさなど全て引き裂いてしまうような声で。

・ ・ ・ ・ ・


家に着いてすぐ、服もそのままに布団へ身を投げる。
変装用の帽子とサングラスをそこらへんに放り投げ、レギンスを脱ごうとして途中で諦める。
寝返りを打つと脱ぎ散らかしてそのままの服たちが散乱している。


いつからだろうか。 着るものが黒色ばかりになったのは。
確か私は、形に入るタイプの人間だったはずだ。
当時、自分が全部やらなきゃと思っていた時は、周りに頼らないようにと思っていたような気がする。

きっと、周りに頼らない様にする為に、周りから近づかれない服装を選んでいたのだろう。
実に子どもらしい発想だ。 しかしあの時の私はこれが最善だと思っていた。
精一杯振り絞った大人だと思った考え。 子どもが大人を夢見るような、甘ったれた思考。

「………………あー」

もう一度寝返りを打つ、汚いものから逃げるように。

時計がカチカチと一定のリズムを刻む。
まるでそれはメトロノームの音のようで、眠気を誘われる。
一秒一秒時が進むごとに、徐々に眠くなっていく意識の中、ポツリと呟いた。

「………………居なくなってない、か……」

あの時、背中越しに聞こえたプロデューサーの言葉がまだ胸に残ってる。
背中から聞こえたのに胸に残ってるなんて、相当私には鋭利なワードだったんだろう。



私が、血反吐を吐いてでも765プロを救おうと決意したその日から、私の居場所は無くなった。
レッスンはオフでも必ず自主練習を怠らず、台本は一週間以内にはページが草臥れるほど読み込んだ。
好きだったお菓子作りは、趣味では無くインタビューで答えるような表面上の特技の一つになってしまった。

それから、仕事に対する意識は変わり、最初の頃なんてアイドルとしての仕事なんて皆無だった。
だがどんなものでも貪欲に引き受けた。 泥水を啜ってでも生き残るように。
いや、その時の私は、その泥水を泥水と判断出来たかすら危うかったかもしれない。

あまりにも唐突すぎる転身からか、ファン達は私から遠のいていった。 いや、私が遠ざけたのかもしれない。
ネットの掲示板でも、元から私を善しとしなかった者達が水を得たように私に向けてのデマを吹聴していた。
それはメディアにも取り上げられ、瞬く間に私の名は悪い意味で広がっていった。

「仕事を選ばないアイドル」「天海春香、アイドルから転身か!?」エトセトラ。
間違ってはいないだけに、私は反論する気力すら沸かず、ただ仕事に没頭することしか出来なかった。

そんな私の姿を見て、765プロの皆は、浅ましいと笑う事も、汚いと蔑むことも無く、
ただただ、段々とボロボロになっていくマリオネットと化した私に悲しそうな瞳を向けていた。
あの時、何よりも優先していたハズの仲間との絆も、次第に綻んで行くのが自分でも解ったほど。

その綻びを感じ取ってからの私は、驚くほど簡単に壊れていった。
別に、危ない薬や嗜好品とかに手を付けたわけではない。 ただ少し、壊れていっただけ。

みんなの知ってる「天海春香」が。

「……………………名前」

仕事の忙しさで忘れてしまっていたものが、今になってぽっと出てきた。
昨日控え室で見た夢。 夢で出会ったあいつは、夢と、そう自称していた。

一体あれがなんなのか、気にはなるが突き止める気力も起きない。
夢というのは、深層心理の象徴的表現であると、何かの雑誌で見たことがある。
だとすれば、私ですら知らない心の奥の底の底は、なにを伝えようとしているのだろうか。

「………………まぁいいや」

そんな事よりも、今は睡眠が最優先だ。
その決断が脳内会議で下されるのに、二秒と掛からなかった。

既に船を漕ぎつつも、瞼を閉じる。
「また会えるよ」と起きる瞬間言われた言葉を思い出す。
まさか、なんて心の中でせせら笑いながら私は意識を闇に溶かした。

・ ・ ・ ・ ・


「………………冗談でしょ」

目を開いた瞬間、第一に発した言葉がそれだった。
目の前に広がるのは、この前見たばかりの何も無い白い世界。

願わくば次の瞬間この瞳に映るものは自分の部屋の天井であって欲しかった。

『やっぱり会えた』

ビクリと肩を震わせる。 別に何か悪いことをしたわけでも無いのに。
声をする方へと振り向くと、残念ながら見覚えのある人物と形容しがたい物が居た。

「……喜ばしくない再会ね」

口を開いてすぐ皮肉。
しかし彼女は気にした素振りもなく口である部分を動かした。

『思い出してくれた?』

「…………? なにを?」

『私の名前』

ちょいちょいと自分の頬の部分を突いてアピールをしてくる。
解りやすいが、あまりにもあざとい行動だ。

『でも、これは君が教えてくれたものだよ』

「っ!? …………なんで」

『あぁごめん、言ってなかったね』

『私は夢だから、君の思っていることは解ってしまうんだ。 別に好き好んで覗き見てるんじゃないよ』

最悪だ。 言われた途端頭を抱える。 
別に疚しい考えを常に展開している訳ではないが、脳内を覗かれる事を望む人間もそうは居ないだろう。

「はー…………、もう驚かないようにするわ……」

『その方が良いかも。 夢で疲れるなんておかしいからね』

「お気遣いどーも……。 ……しかし、夢っていうのはなんでもアリなわけ?」

おかしい事を口にしているのは解っている。
だがこんな事が言えるのも自制心が薄くなった夢ならではなのかもしれない。
この思考も覗いているであろう彼女は、ゆっくりと頷いた。

『うん、私はいつも君の中に居るから。 君の事ならなんでも解る』

「へぇ、例えば?」

『……………………例えば』

「何よ、もったいぶらないで言えばいいじゃない。 驚かないって言ったでしょ」

夢にしてはいっちょ前の躊躇いを垣間見せる。
手をヒラヒラと振り、気にしてないことを主張すると、
針金が通ったように頷いて口である部分を動かした。


『…………「居なくなってない」とか、さ』

言われた途端、鉄が体に押し込まれたように固まった。
予想だにしていなかった重い一言。 押し込まれた鉄はきっと後悔の色をしている。

「…………驚かないって言ったんだけどね……」

『ごめんね』

輪郭だけの彼女は慣れてない動作で頭を下げた。
夢が頭を下げる行為を慣れているわけないか、と一人納得する。

『でも、これだけは言わせて欲しい』

頭を上げると同時にこちらを見据えてくる。
…………気がするだけだけど。

『君は、居なくなってなんかいないよ』

何を言い出すのかと思えば。
去り際、プロデューサーが呟いていた言葉そっくりだ。


今一番聞きたくない言葉。

「……あんた、悪趣味ね」

『君の性格が移っちゃったかな』

なんて皮肉まで言ってきて。
本当に私に似ちゃったようね、悪い所ばかり。

『けど信じて欲しい。 プロデューサーさんが言ってくれたように』

「…………やめなさい」

『君は居なくなってなんか―』

「やめてよ!!!」

「アンタまで何!? 一体何が解んのよ!!」

『………………』

「いくらプロデューサーが居なくなってないなんか言ったって、現実はそうじゃない!!!」

「アンタが私の事なんでも解ってるんなら知ってるでしょ!? 765プロの皆が私にどんな瞳を向けてるか!!」

「もう戻れないの!! あの頃にはもう!!!」

がなり立てるのを終えると、静寂が訪れる。 
その静寂を切り裂いたのは他でもない彼女だった。


『本当にそう思ってるの?』

「………………………………、……は?」

私に言えたのは、ただ一言、それだけ。

『本当に君は、戻れないと思ってるの?』

「…………何を言って」

『私は、君がそう決め付けているだけじゃないかって思ってる』

今まで彼女がここまで饒舌だった事があったろうか。
凄まじい勢いで捲し立てられる。
先ほどまで自分のペースだったのに既に形勢逆転してしまった。

「……………………決め付けなわけ……」

『もう良いんだよ。 信じても』

「………………………………え?」

人は、立場が悪くなると段々と視線は下に行くもので。
自分の足元を見るしかないでいると、突然優しい言葉を掛けられる。
あまりにも意外だったために、声を漏らしてしまった。


『周りに頼らないように、信じないようにして、自分だけで頑張ろうとしなくて良いんだよ』

「………………………………」

『偽りの君じゃない、本当の君を求めてくれる人が居るんだから』

やはり彼女は、全てを解っているような面持ちで。
私にはそれが不思議で仕方が無かった。
私の夢だと言うのなら、何故私より理解しているのかが。

「………………わからない」

ため息を吐くように一度大きく息を出すと、
俯きながら首を振った。

『…………そっか、でも大丈夫だよ』

「………………?」

『君は、解らないということを認めたから。 今の君は、少し前の君より違うから』

それですら、私には解らなかった。

もう一度俯くと、地面が揺らいだ。
いや、地面じゃない、私の足元すらも朧気になっていた。

『ありゃ、もう少しだけお話したかったのにな』

「…………もう会えないの?」

思考よりも早く口が開いていた。
そしてこの状態になったにも関わらず喋れることに気付いた

「……あ、喋れる…………」

『前の君は、私を拒絶していて、今の君は、私を少しだけ求めてくれてるから喋れるのかもね。
 ……きっと君が求めてくれれば、また会えるよ。 きっと、ね』

彼女の姿は、次元の隙間に取り込まれているかのように、原型すら解らなくなっていた。

「待って……!! 私も聞きたいことがあるの! 何も解ってないのに……っ」

手を伸ばそうとするが、体は動きそうにない。
少しだけしか求めていないから故の弊害なのだろうか。

彼女はおそらく、手を振っているのか、揺らぎで良く見えない。
手を伸ばそうにも体は鉄のように動かないまま。
段々と遠くなる意識と彼女を、ただただ見つめることしか出来なかった。

・ ・ ・ ・ ・


「…………………………」

目を見開くと見慣れた天井で、真っ白な世界とは無縁な景色だった。

「…………仕事、か」

仰向けのまま枕元に放っていた携帯電話を開いて時間の確認。
もう少しでスタジオに向かわなければならないようだ。

適当に身支度を整えて、放り投げたサングラスや帽子を着けて、
部屋の片付けはしないままで外に出る。


ただの気まぐれだった。

いつも使う道じゃなくて、公園を経由する道を歩いていった。
遊具で遊んでいる子ども達を眺めながら春の風を感じる。

子ども達が楽しそうにはしゃいで、その姿を親が暖かい目で見守る。
そんな光景を見るのはとても久しぶりだった。

少しだけ、そう、ほんの少しだけ。
晴れやかな気持ちだった。 



「ーーーッッ!! ーーーー!!!」


少し離れた場所から叫び声が聞こえた。
遊んでいた子どもたちの内、ボール遊びをしていたグループの方からだ。

なにやら母親のうちの一人が血相を変えて指示をしている。
視線を追っていくと、ボール遊びに夢中になって今にも道路へと飛び出さんとしている男の子が居た。
その子は声が聞こえていないのか、既にボールを追って白線の外へと出ていた。

母親が息せき切ってわが子の元までと走っている、が当然間に合うわけがない。

タイミングも悪く、男の子が立っている車線に乗用車が一台。
何故ブレーキを踏まないのか、いきなり飛び出したわけでも無いのに、運転手は見ていないのか。
何にしろ、このままでは一つの命が停止してしまう。



ただの気まぐれだった。

偶然その子の近くに居たからかもしれない。

仕事詰めの毎日に、頭をおかしくしたのかもしれない。



大切な命を、助けたいからかもしれない。
私は――。


――――――――。


・ ・ ・ ・ ・


「……………………また、か」

もう三度目にもなると、目も慣れてくるのか真っ白な空間にも物怖じしなくなった。
そう、また私は夢の中に居た。

『また、だね』

後ろから声がする、驚くこともなく振り返ると、
彼女はどこか、とても嬉しそうだった

「…………どうしたの?」

『久しぶりに見た。 君が誰かを助けるところ。 ……君は、自分を守っていたから』

おそらく、765プロの経営不振を支えようとしたことだろう。
確かに、今思い返せば、あれは765プロの為ではなく自分の為だったのかもしれない。

「…………私は、守れたのかな」

『うん、絶対守れたよ』

「きっと」、ではなく「絶対」、と言った。
底の見えない信頼だ、頭が下がる。

「………………そうだ、聞きたいことがあったの」

脈絡も無くて申し訳ないが、今度はいつ目覚めるかも解らない。
単刀直入に聞きたいことだけを掻い摘んで話す。

「あんたが夢って、やっと解った気がする。 あんたは……」

『うん、そうだよ。 夢だよ』

「…………そう。 ごめんね、あんたがどういう気持ちで私を見てたのか」

『そこは解らなくていいよ。 このまま解らなくても良いし、いつか解ってくれても良い』

「……あんたはそれで良いの?」

彼女は背中を向けて、数歩進んだかと思うと、
おもむろに振り向いてこう言った。

『私は、夢だから』

「なによ、それ」

『えへへ……』

「……………………」

『………………もう、大丈夫だね』

「……多分ね」

足元は揺るがない。 彼女も朧な存在にならない。
けれど私は、目覚めることを選んだ。
彼女に目を向けたまま、足を退かせる。

私の行動に、彼女は何を言うでもなくこっくりと頷いた。
彼女の頭の中なんて一切理解出来ない。 自分の夢の中の産物だというのに可笑しな話だ。
きっと、私の力だけでは彼女を理解することは不可能なんだろう。

「じゃあね、「私の」夢」

彼女はまたもう一度頷くと、手を振るという慣れない行動で別れを表した。
つられて私も一度だけ手を振り、彼女に背を向けて目を瞑った。
瞳を開ける頃には彼女とお別れ出来ていますようにと。


・ ・ ・ ・ ・


驚くほどゆっくりと、先ほどまで寝ていたのにまた眠くなってしまうくらいゆっくりと瞼を開くと、
真っ白の天井と心地よい風が迎えてくれた。

視線を下ろすと、いつの間にか服が着替えさせられていた。
いつもの黒とは正反対の、真っ白な病衣。

今の視界を確かめるように瞬きを一つすると、ここは病院なんだと確信する。
そして同時に、私はあのまま撥ねられたのかと確信する。
そうすれば私がこうやって病衣に包まれている理由も解る。

だが幸いにも怪我は無いような気がする。
少し身じろぎをする、ある程度痛むが言うほどの事ではない。
あの時、車は回避出来たが気絶してしまったのだろうか。

実際に助けられたかどうかは覚えてない、出来るなら助けれていて欲しい。
あの子は大丈夫だったんだろうか。 大丈夫だったのなら、まぁ無茶をした甲斐があったかもしれない。


「春香…………?」

声がする方へ反射的に振り向くと、パイプ椅子に座ったプロデューサーの姿があった。
彼はとても憔悴しきったような顔をしていて、睡眠すらまともに取ってないのが目に見えて解る程だった。

剃る時間さえ自らに与えなかったのだろう、似合わない無精髭が彼の顎に生えていた。
彼の仕事は清潔感が命だと言うのに、何故こんなにも私を優先するのだろう。

「……あ………………」

「春香!? 目を覚ましたんだな!?」

えぇ、そうね。

「………………はい」

「春香…………ッッ!! 良かった………………ッ!!!」

プロデューサー。

「プロデューサー……、さん………………」

悪かったわね。

「……………………ごめんな、さい……」

「もう、居なくならないでくれ!! もう、離れていかないでくれ……!!!」

そう言われた瞬間、涙が零れた。
あの時言った「居なくなってない」という言葉は単なる決め付けではなく、
単純な、とても単純なプロデューサーの願いだった。

居なくなってない、ではなく、居なくなって欲しくない。
という、ただの願望だった。
こんなにも彼は、私を繋ぎとめようとしてくれたのか。

「ごめんなさい………………っ!!」

ポロポロと嘘の黒色で塗り固めた虚勢が剥がれていくように。
嘘じゃない言葉が紡がれて彼の耳に届いていく。

彼は何も言わず、鼻を啜りながら背中を引っ掻くように抱きしめてくれた。
瞬間痛みが走るが、それすらも求められていることの実感となっていく。

「私は居なくなってない」、プロデューサーと彼女が言ってくれた言葉をようやく噛み締めることが出来た。

・ ・ ・ ・ ・


あれから私は、アイドルのみの仕事だけをする、本来のスタイルに戻った。
歌って、踊って、ファンの皆を笑顔にするアイドルとして。

それをメディアに発表したときは、とても緊張した。
元通りになるとは思っていなかったからだ。

あれだけネットでもメディアでも腫れ物のように扱われた私が、
またステージに立って、当時と同じパフォーマンスが出来る訳が無いと。
ライブ中、空き缶の一つや二つ飛んできてもおかしくない、そう思っていた。

しかしその予想は大きく違っていた。
飛んできたのは空き缶ではなく、「おかえり」という歓声だった。

海のように広がっていくサイリウムの赤が私を迎える。
その赤は会場を埋め尽くさんばかりに瞬く間に広がっていった。
私のイメージカラーであるそれは、まるで一つの太陽のようだった。

あまりにも暖かい光に、私は俯いて泣いてしまった。
止めようにも涙は止まらず、そんなアクシデントにすら、彼らは「頑張って」と激励してくれる。
滲んだ視界を上げると、変わらず太陽は輝いていて、その時私は確信した。

「帰ってきたんだ」と。



それからというもの、事務所の皆とも一緒にレッスンしたり仕事終わりに一緒にご飯に行くようになった。
服も黒い服ばかりではなく、明るいカラーリングの服を着るようにもなり、
お菓子だって、毎日作っては体重計と格闘している。

全ては、彼女のお陰だった。
私の背中を押してくれた、自身を夢と名乗る恩人。
恩「人」と呼んでいいのか解らないけれど。

彼女が居たから、こうして私はまた踏み出せた。

あれから何度眠りについても、彼女と会うことは無い。
多分、これからも会うことは無いんだろう。
まぁ気楽にやっていってるんだろう、そう信じたい。



そんなある日、久しぶりのオフで、近所の本屋にフラッと立ち寄った。
特に理由も無い。 ただただ気になるタイトルの本の表紙を見ては本棚に戻すだけ。
久々の休みで、これといってする事が無かったのが大きな理由だった。

腕時計を覗き見て、そろそろ帰ろうかと思った、その時。


「生まれた時は覚えてないが 呼吸はしていた
  理由は無いけど 生みの親は ひと目で判った」


ふと流れ出した優しげなメロディ。
男性の歌声が耳まで届いて溶け込んでいく。


「うお、これ「夢の飼い主」じゃん!!」

振り向くと男子高校生であろう二人のうち一人が上を見上げて驚いていた。
もう片方の一人は解っていないような様子で質問した。
どうやらファンとそうじゃない子のようだ。

「夢の飼い主?」


「まだ小さくて 白い体 擦り寄せてみた
  彼女は やっと それに気付いて 名前を付けた」


「うん、このバンドの曲なんだけどさ、めっちゃ良い曲なんだよー」

「へぇ、それでテンション上がったの?」

「いや、これ比較的知名度無くてさ、こういうトコで流れてるの初めて見た!」

「ふーん、そんなに好きなんだ」

「もうめっちゃ好き!! 夢の飼い主ってもうタイトルから好きだわ」

「ま、確かに俺も好きかも」


テンションが正反対なのにも関わらず、二人はとても話しやすそうで、日ごろから仲良くしているのが伝わる。
右肩上がりで喜ぶ子をよそ目に、もう一人の子はCD棚に眼を向けた。

そんな二人を、焦点の定まらない瞳で見ていた。
意識は天井から流れる曲へと向いている為だ。


「くだらなかった 彼女の日々は 大きく変わった
  餌を与えて 散歩にも行って 沢山触った」


「なんていうの? 夢を見つけた女の人が段々その夢を忘れていってしまう、みたいなさ」

絶えず言葉を紡ぎ続ける男の子は、ずっと目線が上で釘付けになっていた。



「首輪を巻いて 服まで着せて 紐で繋いだ
  人が来れば 見せびらかして 鼻を高くした

「少しも離れないの よく 懐いているの」
 離れられたくないから ひたすら身を寄せるよ
  それで 覚えていてくれるなら」

「けど、夢は変わらずずっと傍についてきてくれるんだよ……」

「……へぇ。 夢に意思があるって考え方なんだ」

「そうそう!! 夢視点でさ、良い歌詞なんだ」


「寂しくはないよ 君と居られるから
  ただ 名前を呼んでくれる事が
   少しずつ 減ってきた」


気付けば私は、外へと駆け出していた。


(嘘…………!! 嘘、嘘…………!!!)


「生まれた時は 覚えてないが 呼吸はしていた
  既に 名前とは 懸け離れた 姿にされていた
   自分の色と 動き方を 忘れてしまった
    彼女もいつか 付けた名前を忘れてしまった」


人の少ない列なんて探してる暇なんて無くて、真っ直ぐに走っていく。
波を掻き分けながら、舌打ちをされたり親切に「すいません」と言われたり、
そもそも眼中に無かったりと、色々な人の横を通り過ぎる。


今までの彼女の気持ちが、この歌詞の通りなら。
もし、彼女がこの曲の「夢」で、「夢の飼い主」が私だったとしたら。


「「この手で 汚していたの? 閉じ込めていたの?」
  苦しかった首から 首輪が外れた
  僕は自由になった」


貴方は、貴方は。



「いつでも 側にいるよ ずっと 一緒だよ
  首輪や紐じゃないんだよ 君に身を寄せるのは
  
  全て僕の意志だ」

私がアイドルを目指そうとした時からずっと隣に居てくれて、
夢を見失ったときも変わらず私の背中を追いかけてくれていて、
自分がどれだけ辛い思いをして、我慢しているという事すらも言わずに、


私が今こうやって幸せに浸っている間も、名前を呼んでくれるのをひたすら待ってくれているの?


「寂しくはないよ 君と生きているから
  ただ名前を呼んでくれるだけで いいんだよ
   ねぇ それだけ 忘れないで」



直に私はお店から外に出ていて、顔中涙や鼻水に塗れていた。
いつの間に泣いていたんだろう、すれ違う人たちは私の顔を見てどう思っていたんだろう。
しかしそんな事、今の私には瑣末な事でしか無い。

「ごめん…………、ごめんねぇ…………!!!」

今も私の傍に居るのなら聞こえていて欲しい。
言うことが出来なかった、「気付けなくてごめんなさい」と。


「…………………………ありがとうぅう……っっ!!」


「今まで、そしてこれからも、私の傍に入れてくれてありがとう」を。

・ ・ ・ ・ ・



「みんな、今日は久しぶりの大きなライブだよ。 とっても緊張するね」

ライブ前、いつものように私たちは、いつものように円陣を組んで。

「けど、緊張よりももっともっと大きい気持ち、あるよね?」

全員の瞳を、しっかりと見据える。
みんなはしっかりと頷いて、中には余裕の笑みを浮かべている子も居た。
それを確かめて、一度深呼吸。

「…………私が、ここまで来れたのは、765プロの皆が居て、プロデューサーさん、小鳥さん、社長。
 そして、ファンの皆。 うぅん、それだけじゃない、今まで会った人全員のお陰だと思うんだ」

ポツリ、ポツリと呟いていく。

後ろではスタッフの一人が「あと一分です」と大声で呼びかける。
すかさずプロデューサーが大丈夫ですとフォローを入れてくれている。
この瞬間にも、誰かが私たちの為に頑張ってくれているんだ、と思い知らされる。


「……でも、まずそれよりも、自分自身の夢のお陰。
 私の夢は、皆を笑顔にするアイドルになること、その夢が私をここまで連れてきてくれた。
 途中で挫折するかもしれないのに、私がその夢を忘れてしまうかもしれないのに、夢は変わらず背中を押してくれた」

皆が私、の話を一言一句漏らさんとばかりに確りと聞いてくれる。
表情は一人一人違うけど、握った拳の熱さは全員変わらない。

「………………私たちの中に居る夢に届くように、ライブ、絶対に成功させようね」

ここで頷きは返さない。
みんな次の言葉を待ってる。 次の言葉に応える事によって最高の肯定になるのを知っているから。



「………………765プロ、ファイトォーーーッッッ!!!!!!」



「「「「「目指せ、トップアイドルー!!!!!」」」」」



ただ名前を呼ぶだけで良いのなら、何度だって呼ぼう。

忘れかけていたその名前を、空まで突き抜けるように。

傍に居る君に、心地よく聞こえるように。





おしまい

ここまで読んでくださりどうも有難う御座いました。

他の作品の「春香」と間違われた方がいらっしゃって申し訳ないです。
アイマスSSと最初に書くべきでしたね、配慮が足りませんでした。

この作品のタイトルにもなってる「夢の飼い主」というのは、
BUMP OF CHICKENというロックバンドからです。
気になった方は調べてみてください、全ての歌詞を使ったわけではありません。

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