教師「今日からこの学校に赴任しました。趣味は妄想です」(135)

第一話「妄想教師」

<喫茶店>

女マスター「明日からだっけ? 学校」

教師「ああ」

女マスター「──にしても、アンタみたいな妄想バカを雇うなんて」

女マスター「変わった学校よね~」

女マスター「私立の高校って聞いたけど、どんな面接だったの?」

教師「ああ、たしか……」

~ 回想 ~

校長「履歴書の趣味・特技の欄には、と……えぇと、“妄想”かね?」

教師「はい」

校長「素晴らしい! 採用だ!」

教頭「え!?」

校長「教職への風当たりが強くなっている昨今」

校長「君のような変人がいれば、万一不祥事が起きても矛先は君に向くからな!」

教頭「こ、校長! 本音が出まくってますよ!」

校長「え、あ! 君のような常識にとらわれない人間が、我が校には必要なのだ!」

教頭「もう遅いっての」ボソッ

教師「どうも」

~ 現代 ~

教師「──って感じだったかな」

女マスター「校長もアンタなみに妄想に生きてそうな感じね……」

翌日──

<学校>

ワイワイ…… ガヤガヤ……

体育教師『では続いて、新任の先生から挨拶を行う』

体育教師『どうぞ』

教師『はい』

教師『えぇ~と……』

教師『今日からこの学校に赴任しました。趣味は妄想です』

ザワッ……!?

教師『あ、あと、担当教科は国語です』

教師『よろしくお願いします』

ガヤガヤ…… ドヨドヨ……

「今なんつった!?」 「妄想っていったよな?」 「冗談だろ?」

「フツー担当教科を先にいうだろ」 「キモ~イ」 「変なのが来たな」

すると──

生徒会長「あの、よろしいですか!」ザッ

教師『はい?』

生徒会長「全校生徒を代表する、生徒会長として質問させていただきます!」

オオ~…… ザワザワ……

教師『どうぞ』

生徒会長「先生のいう妄想というのは、どういうものなんですか?」

教師『どうといわれても……オールジャンルかな。なんでもアリだね』

生徒会長「つまり……いかがわしい内容の妄想をする時もあると?」

教師『もちろん』

ザワッ……

生徒会長「ふむ……私はあなたの先生としての適性について、疑問──」

教師『というか、君はしないの?』

生徒会長「え!?」

生徒会長「す、するわけないでしょう! バカバカしい!」

教師『へぇ、マジメだな。さすが生徒会長!』

クスクス…… ハハハ……

「絶対ウソだよ」 「茶化されてやがる」 「ムッツリだってあのタイプは」

生徒会長「ぐ……っ!」

生徒会長(変人教師を生徒代表として糾弾し、株を上げるはずが……!)

教師『?』

生徒会長「オ、オールジャンルということは」

生徒会長「この学校での出来事も妄想したということですよね?」

教師『もちろん』

生徒会長「具体的にどのような?」

教師『全部話すと長くなるから、妄想が今どの程度進んでるかって話でいいかな?』

生徒会長「かまいません」

生徒会長(どうせ女生徒でハーレム、とかとんでもない妄想してるんだろ……)

生徒会長(そしたらビシッとボクが追及してやる!)

教師『今はちょうど、年金でどうやって暮らしていくか、というところだ』

生徒会長「え?」

教師『退職金は出たものの、長い老後を暮らしていくには心許ないしな』

生徒会長「ちょ、ちょ、ちょっと」

生徒会長「学校での妄想はどうしたんですか?」

教師『とっくに終わって、今は退職後の妄想に移行し始めてる』

生徒会長「なっ……!」

生徒会長(なんなんだ、この人は……)

教師『今後の妄想としては、ゲートボール世界大会編、生き抜け老人ホーム編』

教師『なくした入れ歯を探せ編、生きたまま火葬されちゃう編、などを予定してる』

教師『とはいえ予定だからな。妄想の展開次第でいくらでも変更──』

生徒会長「あ、あの……先生」

教師『ん?』

生徒会長「も、もういいです……。ありがとうございました……」

教師『そっか』



こうして全校集会は終わった。

この時、全校生徒及び教員がこの新任教師に抱いた感想は──

「よく分からないけど只者ではない」であった。



                                 第一話 おわり

第二話「妄想族VS暴走族」

<学校>

生徒A「どうよ? あの妄想教師」

生徒B「ああ、もう授業受けたけど、案外フツーだった」

生徒A「へぇ~」

生徒B「だけど、たまに妄想モードに入って授業脱線するけどな」

生徒B「まあ、面白い先生ではあるな」

生徒A「なにしろ、全校集会であの目立ちたがり会長を黙らせたからな……」

生徒A「俺は明日の四限、アイツの授業だから楽しみだよ」

不良「オイ」

生徒A「うわっ!?」ビクッ

不良「お前……あの妄想野郎に、明日の放課後、屋上来いっていっとけ」

生徒A「う、うん分かった……」

翌日 放課後──

<屋上>

十数名の生徒と不良が、屋上に待機していた。

ザワザワ……

教師「屋上ってここでいいのかな?」ザッ

不良「待ってたぜ、先生」

教師「おお、君か。俺に用があるってのは」

不良「俺はよ、てめえみたいなふざけた奴が一番ムカつくんだ」

不良「今ここで、俺に土下座するか、勝負するか選びな」

ザワザワ……

生徒A「なるほど、大勢の前でおかしな新入り教師を屈服させようってことか……」

生徒B「しかも、不良ってクチだけじゃないんだろ?」

生徒A「ああ、喧嘩は強いし、ウワサじゃ暴走族にも出入りしてるらしい……」

生徒A「しかも親が学校にかなり寄付金入れてて、めったなことじゃ停学にもならない」

生徒B「こりゃあ、さすがに妄想でどうにかなる相手じゃないな……」

教師「分かった、勝負しよう」

不良「!?」

不良「んだとォ……!」

教師「俺は日頃からよく、こういうシチュエーションを妄想してたからな」

教師「かかってこい!」

不良(チッ、大人しく土下座してりゃあいいものを……)

不良「俺はもちろん、てめえに殴られたってチクりはしねえが──」

不良「てめえが俺にやられて校長とかに泣きついたって無駄なことだぜ」

教師「当たり前だ」

不良(な、なんだ……!? コイツ、腕っぷしに自信があるのか……!?)

不良「俺はボクシングと空手をやっててな」

不良「ここらの暴走族の助っ人にもなったりもしてやってるんだ」

教師「ふん、そんなもんか」

不良「な、なんだとぉ……!?」

教師「俺は──」

教師「腕立て伏せ、腹筋、スクワット、懸垂を毎日一万回ずつ必ずこなしている」

不良「え!?」

教師「空手は五段、ボクシングも世界王者になってる」

不良「え、え……!?」

教師「さらにボクシングと空手だけでなく、柔道、柔術、剣道、書道、合気道」

教師「ムエタイ、テコンドー、サンボ、ジークンドー、カポエイラ、少林寺拳法」

教師「──などをマスターしている」

不良「ハ、ハッタリこいてんじゃねえぇっ!」

生徒A(あ~あ、不良も頭悪いから途中まで騙されかけてたのに……)

生徒A(ハッタリもほどほどにしておかないと……もったいない)

教師「ハッタリなんかじゃないッ!!!」

不良「!?」ビクッ

教師「妄想ではあるがな……」

不良(ふ、ふざけんな……! 結局ハッタリってことじゃねえか!)

不良(頭でなに妄想してようが、しょせんケンカってのは腕力と技の勝負……)

不良(まともにやれば、俺が負けるわけねえっ!)グッ…

教師「お、やる気になったみたいだな」

教師「来いっ!」ザッ

不良(うぐっ……なんて目つきしてやがる……!)

不良(この妄想野郎、まったく自分を疑っていない!)

不良(コイツ……ハッタリじゃねえっ!)

不良(コイツは本当に毎日トレーニングする妄想をしたり)

不良(自分が強くなってる妄想をしてるんだ……混じり気なしの本気で!)

不良(なんで!? なんでこんなことができるんだ!? なんの得もないのに!?)

不良(俺でさえ悪さをすると達成感と同時に“なんでこんなことしてるんだろ”って)

不良(空しさが生じる……ま、その空しさもまた不良の醍醐味でもあるわけなんだが)

不良(なのに──)

不良(コイツにはその“なんでこんなことしてるんだろ”ってのがまるでない!)

不良(なんなんだ!? なんなのコイツ!?)

教師「……どうした?」

不良「い、いや……」

不良「俺の負けだ、先生……。呼び出したりして、悪かったな……」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

不良は屋上から出て行った。

ワアァァァァァ……!

生徒A「すっげぇ、勝っちゃったよ!」

生徒B「ああ、よく分からないけど勝っちゃったな!」

「何が起きたんだよ、いったい」 「すごいや!」 「不良のあんな顔初めて見たよ」

教師「…………」

教師(妄想してきた俺の技の数々を、試したかったのに……)

教師(まあ仕方ない、か)

<喫茶店>

教師「──ってことが、今日あった」

女マスター「ふ~ん」

女マスター「よかったわね~、相手が降参してくれて」

女マスター「でなきゃ、今頃病院にコーヒー持ってくとこだったわ」

女マスター「ま、なにもケンカは腕力や技だけで決まるもんじゃないものね」

女マスター「時には、ハッタリが勝敗を分けることもあるってことか」

教師「ハッタリじゃなく、妄想だっての」

女マスター「はいはい」



                                 第二話 おわり

第三話「三角関係」

<職員室>

ザワザワ……

教師「ん? なんだか、校庭が騒がしいですね」

先輩教師「また野球部とサッカー部がグラウンドの取り合いしてるんだよ」

教師「また?」

先輩教師「ああ、アイツらしょっちゅうやってるのさ」

先輩教師「エスカレートして、殴り合い寸前になったこともあるくらいだ」

教師「へぇ……」

教師「曜日によってどっちが使うか決めるとか、しないんですか?」

先輩教師「もちろん昔、そういう案も出たらしいんだが」

先輩教師「両部の対立が根深すぎて、うまくいかなかったらしい」

教師「そりゃ大変ですねぇ」

先輩教師「ああ、両部の顧問が仲裁が大変だって、いつもボヤいてるよ」

教師「いや、グラウンドが」

先輩教師「へ?」

数日後──

<校庭>

ザワザワ…… ガヤガヤ……

殺気立つ、野球部とサッカー部。

野球部主将「今日は俺たちがここまで使わせてもらう!」

サッカー部主将「ふざけんな、昨日は俺たちが譲っただろうが!」

野球部主将「譲っただと!? しょっちゅうこっちにボール飛ばしてきやがって!」

野球部主将「あんなんじゃ、練習にならねえよ!」

サッカー部主将「それはこっちのセリフだ!」

サッカー部主将「お前らの打ち上げたボールが、部員に当たりそうになったんだぞ!」

サッカー部主将「このヘタクソどもが!」

野球部主将「なんだと!?」

ザワザワ…… ガヤガヤ……

教師「まあ落ちつきなって、二人とも」ザッ

野球部主将「なんですか、先生!?」

サッカー部主将「先生は俺たちと関係ないでしょう!」

教師「たしかに関係ない」

教師「だがこの間、先輩から君たちの話を聞いてから色々妄想してしまってね」

教師「いてもたってもいられなくなっちゃったのさ」

野球部主将「妄想……?」

サッカー部主将「いったい、どんな妄想をしたってんですか?」

教師「ずばり」

教師「君らが今立っているグラウンドを擬人化してみた」

野球部主将「グラウンドを、擬人化……?」

サッカー部主将「面白い、やってみて下さいよ」

教師「分かった」

教師「…………」

教師「あらやだ、野球部とサッカー部の子たちってば」クネッ

教師「また私をめぐって争うつもりなのね! 私ってなんて罪な女なのかしら!」クネクネッ

両部主将(お、女なのかよ……!)

ドヨドヨ……

教師「悲しいわ……」

教師「私はみんなに楽しくスポーツしてもらいたいのに……」グスン

野球部主将(なるほど、グラウンドが悲しんでいるから争いをやめろってことか)

サッカー部主将(新任教師らしい、ベタな考えだ……こんな茶番で収まるかよ)

教師「あら、野球部のみんなが私の右腕を持って……」

教師「サッカー部のみんなは私の左腕を持ったわ」

両部主将「?」

教師「あなたたち、なにをするつもり──いだだだだぁっ!」

野球部主将「え!?」

サッカー部主将「なんだ!?」

教師「いででででぇぇぇぇぇっ!」

教師「引っぱるんじゃねぇぇぇぇぇっ!」

教師「あがぁぁぁぁぁっ! やめろぉぉぉぉぉっ! ちぎれるぅぅぅぅぅっ!」

教師「うぎゃああああああああああっ!!!」ゴロゴロ

のたうち回る教師を前に、混乱する部員たち。

「えっ、なんだこれ!?」 「泣いてるよ!」 「演技なのか!?」

「死んじまうぞ!」 「大丈夫っすか!?」 「ヤバイって!」

野球部主将「せ、先生! いやグラウンドさん、やめてっ! 俺まで痛くなってきた!」

サッカー部主将「分かりましたから、分かりましたからっ!」

しばらくして──

<職員室>

先輩教師「最近、野球部とサッカー部が争わなくなったんだ」

先輩教師「ちゃんと曜日ごとに、どっちが使うか決めたらしい」

先輩教師「心なしか、グラウンドの整備も丁寧になってるしな」

先輩教師「そういえばこの間、君がアイツらの仲裁に入ったって聞いたけど」

先輩教師「君はなにか知ってるか?」

教師「多分……彼らも女の涙には弱かったってことじゃないでしょうか」



                                 第三話 おわり

第四話「進路相談」

<職員室>

三学年教師「ふぅ……」

教師「どうしました?」

三学年教師「いやね、ウチのクラスにまったく進路を決めてないのがいてね」

教師「不真面目なんですか?」

三学年教師「いや……なんというか……妙に悟ったことをいう子でね」

三学年教師「ほとほと困り果てているんだ」

教師「なるほど」

三学年教師「そういえば君、野球部とサッカー部の争いを収めたって聞いたけど」

三学年教師「よければ、彼と話をしてみてくれないか?」

教師「分かりました」

<教室>

ガララッ……

平凡「失礼します」

教師「やぁ」

平凡(たしかこの人、趣味が妄想とかいってた先生だよな……)

平凡「俺になんの用ですか?」

教師「担任の先生に聞いたけど、まだ進路を決めてないんだって?」

平凡「えぇ、まぁ……」

平凡「決めてないってより、どうでもいいって感じですかね」

平凡「俺って、成績も並、スポーツも並で、なんの取り柄もないし」

平凡「就職しようが、進学しようが、大したものにならないに決まってますし」

平凡「だから、卒業したらこうしようって気に全然ならないんですよ」

教師「取り柄かぁ~」

教師「俺にも取り柄といえるものはさほどないけど」

教師「俺みたいな人間にも、妄想って取り柄がある」

平凡(取り柄なのか、それ?)

教師「なんでもいい。なんかないのか?」

平凡「はぁ……」

平凡(めんどくせーな、もう)

平凡「一応……悪いことはしたことないですね。万引きとかそういうの」

平凡「マジでそれぐらいですよ、俺の取り柄なんて」

教師「あるじゃないか!」

平凡「!」ビクッ

教師「よかった……本当によかった……!」

平凡「な、なにがです!?」

教師「だって、もし君が悪事に手を染めてたら──」

教師「少なくとも10億人が死んでいた」

平凡「はぁ!?」

教師「ほんの出来心でやった万引きをきっかけに、悪に目覚めた君は──」

教師「瞬く間に悪の才能を開花、ヤクザやマフィアに出入りし」

教師「すぐさま独立して、悪の秘密結社を築き上げる!」

平凡「悪の秘密結社……!?」

教師「もちろん、君の目的は世界征服などではなく、世界の破滅!」

教師「開花した悪の才をつぎ込んだ生み出した細菌兵器を世界中にばら撒き」

教師「その犠牲者はなんと10億人!」

平凡「10億!?」

教師「そう! もし君が悪に目覚めていたら、10億人が死んでいた!」

教師「つまり君は……その取り柄によって10億人もの人命を救ったんだ!」

教師「ありがとう……! 本当にありがとう……!」グスッ

教師「よかった……! 今俺が生きていられるのも、君のおかげだ……!」グスッ

平凡(おいおい、本気で泣いてるよこの人……!)

平凡「お、おかしいでしょう!?」

教師「え、なにが?」

平凡「俺が悪者になってたら、10億人死ぬって……」

平凡「アンタの妄想は突飛すぎるんだよ!」

教師「そうか?」

平凡「!」

教師「俺の妄想に比べたら──」

教師「さして悩みもせず自分には取り柄がないなんて決めつけたり」

教師「たかが十数年の人生を材料に、残る何十年の人生を諦めてる君の方が」

教師「よっぽど突飛だと思うけどな」

平凡「…………!」

平凡「じゃあ、先生……。俺は……どうすればいいですか?」

教師「……君、理系だったよな?」

平凡「まあ、一応」

教師「まだ特にしたいことがないんなら、とりあえずノーベル賞でも目指したらどうだ?」

教師「で、やりたいことが見えてきたら、それに切り替えればいい」

平凡「ちょっ……! とりあえずノーベルって……」

平凡「今まで色んな人に“まだ若い”“やればできる”“無限の可能性がある”」

平凡「とかいわれてきましたけど──」

平凡「……初めてですよ。真顔でノーベル賞目指せ、なんていわれたのは」

教師「当たり前だよ、俺は本気だからな」

平凡「ふっ……ハハハッ……!」

教師「お、おい、他人の本気を笑うのはよくないぞ」



この生徒は嬉しかった。

表面上でなく、本気で「ノーベル賞を目指せ」といわれたことが──

<喫茶店>

女マスター「──アンタもセコイ男ねえ」

女マスター「生徒にばっか、むやみに高い目標押しつけてさ」

女マスター「アンタこそ、ノーベル賞目指したらどうなの?」

教師「いや、だってほら、俺はもう教師だし」

教師「あ~あ、ノーベル妄想賞とかあったら、毎年受賞する自信があるんだがなぁ」

女マスター「あるわけないでしょ、そんなもん」



                                 第四話 おわり

第五話「芸術は妄想だ」

<美術室>

キャンバスに向かう一人の女生徒。

美術少女「…………」

美術少女「はぁ~……いくらこうしてても、なにも浮かんでこない……」

美術少女「やる気が出ない……」

美術少女「絵画コンクールまで時間がないのにどうしたらいいんだろ……」

<職員室>

教師「──へぇ、そんなスゴイ子がいるんですか」

美術教師「えぇ、複数の美大から推薦の話が来てるほどなんですよ」

美術教師「ですが、最近スランプになってしまって……」

教師「スランプ?」

美術教師「燃え尽き症候群、とでもいうんでしょうか……」

美術教師「なまじ認められたせいで、絵が描けなくなってしまったようで……」

教師「なるほど、で俺にどうしろと?」

美術教師「先生に、彼女にやる気を出させてもらえないか、と思いまして」

教師(俺はカウンセラーじゃないんだけどな……)

教師「分かりました。とりあえず今日、彼女と話をしてみます」

放課後──

<美術室>

教師「お、いたいた」

美術少女「……なんですか?」

教師「いやなに、美術の先生から聞いたんだ。君がスランプだって」

美術少女「……別にスランプなんかじゃありませんよ!」

美術少女「放っておいて下さい!」

教師「つれないな、せめて話ぐらい──」

美術少女「ここは創作のための場所です!」

美術少女「おしゃべりがしたいのなら、創作のジャマなので、出ていって下さい!」

教師(カリカリしてるなぁ……)

教師「だったら俺も絵を描くよ」

教師「それなら文句ないだろ?」

美術少女「……ええ、まあ」

教師「絵を描くなんて久しぶりだな~」ガタッ

教師「なんかワクワクしてきた!」

美術少女(なんなのよ、この人……)

教師(よぉ~し、とりあえず今は自分が教師だってことは忘れて)

教師(俺の妄想をキャンバスに思う存分表現してやる!)

教師「──よし、できた!」

美術少女(え、もう!?)

教師「題して“メチャクチャ強い俺”!」

キャンバスには、やたら筋骨隆々な教師の姿が描かれていた。

教師「どうだ、俺の作品?」

美術少女「うっ……!」

美術少女(単なる願望じゃないのよ……)

美術少女(でも、意外とよく描けてるのが、ちょっと悔しい……)

教師「絵画って面白いな~、この調子でどんどん描いていこう!」

その後も、教師は次々と絵を描きまくった。

【おっぱい山】

乳房の形をした山。

【無限財布】

万札が無限に出てくる財布。

【金メダリストの俺】

表彰台で笑顔で金メダルを噛んでいる教師。

【宇宙戦艦トイレ】

宇宙空間で戦争する空飛ぶ洋式トイレ。

【最高のぜいたく】

こたつの中でアイスを食べてる教師。



教師「すごい、すごい! 次から次へと描けるぞぉっ! 芸術は楽しいなぁ~!」

美術少女「…………」

教師「さぁ~て次は、総理大臣になった俺でも描こう──」

美術少女「…………」ワナワナ…

美術少女「こんなの芸術じゃありませんっ!」

教師「おわっ!?」ビクッ

美術少女「先生はただ自分の妄想を好き勝手に描いているだけ……」

美術少女「私、先生の絵が芸術だとは、断じて認めません!」

教師「いや、あの」

美術少女「私は先生に負けない……負けてたまるもんですか!」

美術少女「絶対に!」メラメラ…

教師(す、すごい気迫だ……!)

数日後──

<職員室>

美術教師「ありがとうございます、先生!」

美術教師「どうやら彼女、ようやくスランプを克服したようです」

美術教師「それどころか、かつての彼女にはなかった闘争心まで宿ったみたいで……」

美術教師「次々に意欲的な作品を描くようになりましてねえ」

美術教師「彼女はきっと、すごい画家になりますよ!」

教師「そうですか」

美術教師「ところで先生……いったいどうやって彼女に火をつけたんです?」

教師「いや、一緒に絵を描いただけですよ」

美術教師「またまたぁ~、そんなんでやる気が出たら苦労しませんよ~」

教師(ホントなんだけどな……)

しばらくして──

<喫茶店>

客「ふ~む、近頃の高校生はスゴイ絵を描くなぁ」バサッ

女マスター「どうしたの?」

客「いや、新聞に高校生絵画コンクールの最優秀作品が載ってるんだけどね」

客「絵の題名がなんと『妄想しまくる男』でな」

客「この若さで、しかも女の子が、よくもまぁこんな絵を描けるもんだ」

女マスター(……どっかのバカを思い出させるタイトルね)



                                 第五話 おわり

|∧∧
|・ω・`) そ~~・・・
|o④o
|―u'
| ∧∧
|(´・ω・`)
|o   ヾ
|―u' ④ <コトッ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ミ  ピャッ!
|    ④

これを見てふと疑問に思ったことがある
まずは上の図を見て欲しい
彼は自らが支援したいものに巡りあった時、切なげな表情を浮かべてこの
しえんだまを置いていく。置き終わった後はどこかへ去っていってしまう
ここで一つ疑問が生じる。このしえんだまの硬度についてだ
彼の姿を描いたものは幾つかあるが、いずれにおいてもこのしえんだまを置く時の
効果音は『コトッ』である
『チョコン』でもなく『ボヨン』でもなくあくまで『コトッ』である
それらはすべての場面においてすべてが共通である
つまりこのしえんだまという謎に満ちた物体は、構成している物質が依然全くの謎であるにしろ
硬度の面で見ると、そこそこの硬さを持った物質であることには違いないのであろうという
一つの仮説が生まれるのである

彼がこれをどこで手に入れ、また彼自身これをどこまで把握しているのかは知る由もない
だが、今ここでこうしてしえんだまについての謎が一つ解けた
これだけでも我々は大きな一歩を踏み出したといえるだろう
しえんだまの未知なる部分への更なる解明を期待したい

第六話「宇宙規模妄想」

夜──

<学校>

教師(ふう、やっとテスト問題を作り終わった……)

教師(あ~……すっかり遅くなっちゃったな)

教師(早く布団にもぐって、昨夜の妄想の続きを──)チラッ

教師「……ん?」

教師「屋上に……人……? 生徒か……?」

<屋上>

内気(毎日毎日……もうイヤだ、たくさんだ)

内気(死のう……)グッ

教師「お~い、こんな時間になにやってるんだ?」ガチャッ

内気「うわっ!?」

内気(妄想の先生!? なんでこんなところに!?)

教師「星でも眺めてたのか?」

教師「いいよなぁ、星を眺めながらの妄想ってのもまた格別だ」

内気「いや、ボクは……」

教師「だけど、ここじゃ大して星なんか見えないだろ」

教師「俺がもっといいところに連れてってやろう」グイッ

内気「うわわっ……!」

教師は車で、内気を近くの丘まで連れていった。

<丘>

教師「どうだ。町からちょっと出ただけで、星がたくさん見えるだろ」

内気「はぁ……」

教師「…………」

内気「…………」

教師「……いじめか?」

内気「!?」ギクッ

教師「分かりやすいな。で、いじめてくるのはクラスの連中か?」

内気「えぇ、まぁ……」

教師「そうか……」

教師「ま、イヤなことがあったら妄想に限る」

教師「寝そべると、ひろ~い夜空が見られるぞ」ドサッ

内気「は、はい……」ドサッ

内気「…………」

内気(たしかにスゴイ……近くにこんなにキレイに星を見られる場所があったなんて)

教師「どうだ~?」

教師「こうして宇宙を眺めてると、イヤなことなんて吹っ飛んじゃうだろ」

内気「は、はい!」

内気「この広い宇宙に比べたら、なんて自分はちっぽけなんだろうって……」

内気「ボクがいじめられてることなんて、小さなことなんだなって……」

教師「は? なにいってるんだ?」

内気「え?」

教師「俺はさ、こうやって宇宙を眺めるたび思うんだ」

教師「こんな真っ黒で、真っ暗で、星がチラチラしてるだけの場所で」

教師「毎日暮らしてやってる俺ってなんて偉いんだろうって」

教師「俺ってなんて素晴らしいんだろうって」

内気「えぇっ……!?」

教師「こうしてると、俺は宇宙一偉いって気分になるんだよな~」

教師「そうすると、イヤなこともさっぱり忘れられるんだ」

教師「なんたって宇宙一なんだから、なにも怖くないからな」

内気(宇宙一って……小学生かこの人は)

内気(普通は自分という存在の小ささを認識する、とかじゃないだろうか……)

教師「……俺も昔、いじめられてたことがあるから分かる」

教師「だから気休めはいわない」

教師「いじめってのは、簡単にどうにかなるもんじゃない。ありゃ地獄だ」

内気「はい……」

教師「だから俺はやられるたびに、宇宙一偉くなった妄想をして」

教師「妄想の中で、俺をいじめてた奴らを厳罰に処してやったもんさ」

内気「ハハハ……先生らしいですね」

内気「……先生はなんで、いじめられてたんですか?」

教師「どうも連中は、妄想ばっかしてる俺が気に食わなかったらしい」

内気(これまた先生らしい)

教師「……だけど、それも今日までだ」

内気「え?」

教師「今日までは、俺が宇宙一だったけど」

教師「今日からは君に宇宙一の座を譲ってやる」

内気「えっ」

教師「だからもう、死ぬなんて考えるなよ」

教師「宇宙で一番偉いんだから」

内気「先生……!」

教師「──せっかくだ。宇宙一偉い君の命令を、一つだけなんでも聞いてやる」

内気「本当になんでもですか?」

教師「ああ、なんでもだ」

内気「だったら……今日から妄想をやめて下さい」

教師「ゴメン、無理」

内気「ハハハ、やっぱり」

二人はしばらく話した後、帰路についた。

翌日 昼休み──

<学校>

学校中に校内放送が流れる。

教師『あ~……マイク、テステス』

ザワザワ……

「なんだ?」 「この声、妄想教師じゃね?」 「なにやってんだ?」

内気(先生……!?)

教師『全校生徒及び教員に告ぐ』

教師『昨日付で、2年C組の内気は、宇宙一偉くなった』

ザワッ……!?

教師『よって、今後彼に手出しした者は宇宙二の俺が成敗するから覚悟するように』

教師『以上』

内気(せ、先生……!)

ザワザワ…… ドヨドヨ……

<校長室>

校長「うむむ、なんということを!」

教頭「まったくですな。許可もなく校内放送を使うなど──」

校長「校長である私を差し置いて、宇宙一、宇宙二だとぉ!? けしからん!」

教頭「そこですか!?」



その後、教師のこれまでの奇妙な実績の数々も手伝ってか、

いじめはピタリと止んだという……。



                                 第六話 おわり

最終話「妄想の王道」

<町>

タッタッタ……

警官「待たんかぁっ!」

強盗「だれが待つかっ!」

バキィッ!

警官「ぐわぁっ!」ドサッ

警官「くそっ、お、応援を……!」

強盗「へっ、捕まってたまるかってんだ!」

強盗「はぁ、はぁ、はぁ……ここまで逃げれば大丈夫だろう」

強盗(くそっ、警察め。あと少しってところで駆けつけてきやがって)

強盗(おかげで金は手に入らなかった……)

強盗(こうなりゃ、どこかの家に押し入り強盗でもやるか?)

強盗(いや……どこの家が金持ってるかなんて分からねえもんな)

強盗(……そういや、この辺りには高校があったな)

強盗(最近のガキは一人っ子が多いから、けっこう金持ってるって聞くしな)

強盗「ようし……」ニタリ…

<職員室>

校長によって、全教員が集められる。

校長「先ほど警察から、この近辺に強盗が逃げ込んだとの連絡が入った」

校長「なんでもスーパーで強盗をはたらいていたところを、警官に食い止められたが」

校長「その後、警官を殴り倒し、現在も逃走中らしい」

体育教師「うむむ……!」

美術教師「とんでもないヤツですねえ」

先輩教師「これは……早いところ生徒たちを帰宅させた方が……」

教頭「いや、強盗がどこにいるのかも分からんし」

教頭「もし帰宅途中の生徒と強盗がはち合わせでもしたら大変だ」

ザワザワ…… ドヨドヨ……

教師「…………」ササッ

職員室から抜け出す教師。

先輩教師「あ、おいっ! どこに行くんだ!?」

すると──

教師『あ~……マイク、テステス』

先輩教師「教師の声!?」

三学年教師「校内放送だ!」

教師『全校生徒の諸君、たった今、この近くに強盗がいるという情報が入った』

教師『もしかしたら、この学校を襲いにくるかもしれない』

ザワザワ…… ガヤガヤ……

美術教師「避難しろ、とでもいうつもりでしょうか?」

教頭「勝手なことを! 生徒がパニックになったらどうするんだ!」

教師『──これはチャンスだ!』

ザワッ……!?

<放送室>

教師「学校内に悪党が侵入……」

教師「程度の差はあれど、これはだれもがやる、妄想シチュエーション……」

教師「まさに妄想の王道!」

教師「今こそ……」

教師「今こそ!」

教師「君たちの中に眠っている妄想力を爆発させるんだッ!!!」

全校生徒が妄想を開始する。



生徒会長「生徒会で華麗に強盗を退治し、ボクはハーレムを作ってみせる!」

副会長「よっ、ムッツリ会長!」



不良「ケッ、強盗なんざ、俺が一人で片付けてやるぜ」

不良「んでもって“不良っていいところもあるんだ”ってチヤホヤされたい……」



生徒A「俺たちの無敵のコンビネーションで」

生徒B「強盗をノックダウンだ!」



野球部主将「俺たちが強盗をやっつけて、全員ドラフト一位でプロ野球入りだ!」

野球部「オ~ッ!」



サッカー部主将「強盗相手ならいくらファウルしても、退場にならないぞ!」

サッカー部「オ~ッ!」



平凡「せっかく人が勉強の楽しさに目覚めたってのに、強盗か」

平凡「いや、ここで俺が強盗を無力化すれば、ノーベル平和賞もらえるかも……」



美術少女「私の絵に魅了された強盗を、この手で捕まえてやるわ!」

美術少女「強盗の裁判で法廷画家をやるのは、もちろん私!」



内気「ボクは宇宙一偉いんだ……」

内気「だからボクが……みんなを守らないと!」



校長「生徒たちの盾になって、みんなに涙されながら死ぬというのも悪くないな……」

教頭「アンタまで妄想しないで下さいよ!」



全校生徒(+校長)は、みんな好き勝手に対強盗の妄想をふくらませていった。

<校門>

強盗「おっ、あったあった。けっこうデカイ高校じゃねえか」

強盗「適当の奴の腕でもへし折って、金をいただくとするか」

強盗「ついでに時間がありゃ、女子高生の味見でも──」

ゾクッ……

強盗「うおっ!?」

強盗(な、なんだこの悪寒は!? なんだこの敵意は!?)

強盗(まるで……この高校の生徒全員が俺に立ち向かってくるような……!)ゾクゾクッ

得体の知れない力が、強盗の全身を包み込む。

強盗「うっ……!」

強盗「うわぁぁぁぁぁっ! ひいぃぃぃぃぃっ!」

強盗「…………」ガタガタ…

まもなく、警官たちが駆けつける。

「いたぞぉっ!」 「こっちだ!」 「学校の前でうずくまってる!」

翌日──

<喫茶店>

女マスター「今日の新聞読んだわよ」

女マスター「“妄想力で強盗撃退!?”だって。笑っちゃったわよ」

女マスター「まさか、アンタがアンタなりに、ちゃんと先生やってるとはね~」

女マスター「最初ははっきりいって、一週間ぐらいでクビになると思ってたわ」

教師「人間やればできるってことさ」

教師「ところで……仕事も軌道に乗ってきたところで、大事な話があるんだが」

女マスター「え、なに?」

教師「俺はこれまで散々妄想してきたが、一つだけ妄想できないものがある」

女マスター「?」

教師「それは──」

教師「君との結婚生活だ」

女マスター「…………」

教師「…………」

女マスター「ねぇ、それまさか、プロポーズのつもり?」

教師「……一応」

女マスター「…………」

教師「…………」

女マスター「ぷっ……ハッハッハッハッハ……!」

女マスター「あ~……おかしい。アンタらしいわ」

教師「わ、笑うなよ……」

女マスター「いいわよ、結婚しても」

教師「!」

女マスター「でもさっき“一つだけ妄想できないものがある”とかいってたけど」

女マスター「どうせそのセリフも、妄想してて思いついたんでしょ?」

教師「……まあな」

女マスター「ちなみに妄想の中で、私はなんて返事してたの?」

教師「“だったら私が現実にしてあげる、抱いて!”っていってた」

女マスター「バ~カ」



                                 最終話 おわり

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