女教師「教室に死体を隠して3日間バレなかった話をしようとおもう」(172)


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男教師「先生、お疲れ様です」

女教師「あら、おつかれさまです」


窓の外は、夕陽色に染まっている。


男教師「先生も来月で退職なんですね…」

女教師「ええ、寿退職します」

男教師「淋しくなります…」

男教師は、しょんぼりと顔を伏せた。

女教師とは、5年以上同期として働いてきたしごと仲間だった。

女教師は感慨深そうに窓の外を見つめる。


女教師「ねえ先生…面白い話してあげよっか」


15年前の出来事。

今から私が話そうと思っているのは、私のひと夏の冒険譚だ


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「江村、死んでない?」

小学6年生の夏、わたしはその日の出来事をしっかりと憶えている。


いじめっ子「江村、起きろ」


頭から床に落ちた江村くんの首は、へんな方向にねじれている。


優等生「どうしたの?」


大きな音に気付いた優等生くんが、白目をむいた江村を見てぎょっと驚いた。


いじめっ子「パワーボムしたら、こいつ急に動かなくなって…」


放課後の掃除中、同じクラスのいじめっ子が、ふざけ半分で江村くんにプロレス技をかけたのだ。

教室を掃除していたのは、わたしと、いじめっ子と、優等生くんの3人だけだった。


優等生「とにかく、先生を呼んでこなくちゃ…」


顔を青くした優等生くんは、教室を飛び出そうとした。


いじめっ子「待て!!」

いじめっ子は声を張り上げた。


優等生「何言ってるんだ! はやくしないと江村が死んじゃう!」


いじめっ子「もう死んでる」


優等生「え…?」


優等生くんの声が、夕焼け色に染まった教室に溶けて消えた。


血の泡を服にこぼした江村くんを、わたしたちはとても冷たい目で見下ろしていた。


「…どうしよう!」

わたしは泣きそうになって、頭をかかえてしゃがみこんだ。

優等生「どうするんだよ」

いじめっ子「……」

優等生「おい!」


次にいじめっ子が放った言葉に、わたし達は耳を疑った。


いじめっ子「隠そう」


いじめっ子はこっちを向いた。

意識なんてどこかに飛んでしまったみたいに、彼の目はわたし達をとらえていない。


いじめっ子「隠そう」


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校庭の外に広がった森のほうから、ひぐらしの音色が聴こえてくる。

空の色を落としながら地上に沈む夕陽が、半日を終わらせようとしている。

明かりの消えた教室の中が、どんどん暗くなってゆく。


背景はどっかからの引用?

>>8
http://k-after.at.webry.info/


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「はやくしないと、うちの先生戻ってきちゃうよ」

わたしは廊下の外を見張っていた。


いじめっ子「わかってるって」

教室にあった脚立を使って、天井裏の扉を開けた。

いじめっ子「おい、おまえも手伝え!」

江村くんのわきを持ち上げながら、脚立に足をかけてゆく。

優等生「やっぱりやめようよ。絶対まずいって」

いじめっ子「早く手伝わないと、あのことバラすぞ!」

優等生「お、おい、それは…」

わたしは、あのことって何だろうと思った。


「しっ、誰かきた!」

わたしはドアを閉めた。


こつこつと鳴る靴の音が、だんだん近づいて来る。


もしかしたら、先生かもしれない。

死刑の宣告を受ける罪人の顔で、みんなは体を固くしていた。


「……」

誰かの足音は、教室の前を通り過ぎて――ずっと向こうに消えていった。


一気に表情の力がやわらかくなった。

「よ、よかったぁ…」

いじめっ子「さ、手伝えよ」

優等生「う、うん…」

わたしは江村くんが二人がかりで天井裏に引きずり込まれてゆく様子を見守っていた。

いじめっ子「ロッカーから江村のランドセル持って来い」

優等生「どうして?」

いじめっ子「こいつはもう家に帰ったことにするんだよ」

優等生「そんな…」

いじめっ子「あと下駄箱から外靴も持って来い」

優等生「なんで俺がそんなこと」

いじめっ子「おまえも手伝ったんだから同罪だろ?」

優等生「おまえ…」

「はやくしないと先生きちゃうよ!」

わたしは言った。

いじめっ子「ほら、行って来いよ」

いじめっ子は江村くんの上履きを床に落とした。

優等生「……っ」

優等生くんは悔しそうに唇を噛んで教室を出た。

「ねえ、さっき言ってた“あのこと”ってなに?」

わたしは天井から顔を出すいじめっ子に訪ねた。

いじめっ子「内緒」

「おしえてよ」

いじめっ子「えー…」

「お願い」

いじめっ子「あいつに言わない?」

「うん、言わない」

いじめっ子は廊下のほうをちらりと見て、まだ優等生くんが帰ってきてないことを確認した。


いじめっ子「あいつおまえのこと好きなんだよ」

「えっ…?」


教室のドアが開いたのはその時だった。

先生「ふぅー、会議疲れちゃったよ」

わたしの体は電流を浴びたみたいに跳ね上がった。

先生「なんだ、まだ帰ってないのか」

「は…い…」

先生「あーこら、ちゃんと掃除用具片付けないとダメだろ」


いつの間にか天井裏の扉は閉じていた。

わたしはほっとして床に崩れそうになった。

先生「それよりどうして脚立があるんだ?」

「あ、それは…」

先生「先生が画鋲剥がすのに使ってたんだが…」

すぐ真上には天井裏への入り口。

「あ、遊んでて、遊んでたんです」

先生「ひとりで?」

「ひとりで…」

先生「……」


先生は頭の後ろをかきむしると、「まあいいや」とつぶやいた。

先生「おまえといい、うちのクラスは変わり者ばっかだからなあ」

「……」

うちの学校で男の先生はめずらしく、それも美術の先生であり、背も高くて学年の女子から人気があった。

先生「とりあえず遅くならないうちに帰りなさい。先生まだ仕事が残ってる」


先生「あと、天井裏には入るなよ。美術の道具が置いてあるからな」

そして、わたしに背中を向けて歩いていった。


「――!」

悪いタイミングで天井から物音が聞こえてきた。

先生「今なんか聞こえたな。『ごとっ』て…」

先生は踵を返して天井を見上げた。

先生「…まさか誰か天井裏に入ったのか?」


わたしは慌ててぶんぶんと首を横に振った。

「まさか、ただの鼠じゃないですか?」

先生「いやそんなわけない。この前、殺鼠剤まで撒いたんだから」


先生は脚立をカンカンと上っていく。

わたしの首筋から背中に向かってぞっと冷たいものが流れ出す。

ついに入り口に手をかけてしまう。


先生「あれ、開かない…」

ぐいぐいと扉を押してもびくともしなかった。

たぶんいじめっ子が扉の上乗っているんだと思った。

先生「ああ、そういえば鍵かけたんだった。すっかり忘れてたな」

先生は床に降りると、ぱんぱんとズボンを払った。


先生「じゃあ、これは危ないから体育倉庫にしまっておくな」

先生は脚立を折りたたんでしまう。

「あの、先生…」

わたしの声は先生に届かなかった。

それを持っていかれると、いじめっ子が降りられなくなってしまう…。


先生「早く家に帰れよー」


先生が完全に去ったことを確認すると、わたしは天井に向けて「行っちゃったよ」と声をかけた。


いじめっ子「び、びびったあー…」

優等生「…ふう」

廊下で隠れていたらしい優等生くんも教室に戻ってきた。

いじめっ子「へい、靴投げろ。パース」

いじめっ子は江村くんの外靴を受け取った。


「どうやって降りるの?」

優等生「そうだ、脚立持っていかれちゃったんだぞ」


いじめっ子「まあ見てなって」

彼は迷いなく天井から飛び降りた。

いじめっ子「いってえええ……」

「うわあ、今すごい音したよ」

いじめっ子「それより、3日後までに脚立を取り返さないとな」

ほうきで天井の扉を閉めながら言った。

優等生「どうして3日後?」

いじめっ子「おまえ忘れたのかよ。この校舎の改装工事が始まるんだぞ」

「あ……」

この校舎は古く、木造りのままでは耐震性がどうのこうのという話を数ヶ月前に聞かされていた。

うちの学校は1学年1クラスしかなく、児童の数も少ないから、改装工事が終わるまで近くの小学校に通うことになっているのだ。

優等生「…もしかして江村を外に運び出すのか?」

いじめっ子「裏山の地面に埋める」

優等生「そんな…」

いじめっ子「大丈夫。近くに爺ちゃん家があってよく遊んでた山だから、絶対に見つからない場所知ってるんだ」

優等生「そういう問題じゃないだろっ!」

優等生くんの大声に驚いて、わたしの体がすくみあがった。

優等生「あ、ごめん…」

「ううん、いいよ」

いじめっ子「おまえ来年中学入試受けるんだっけ?」

優等生くんは頭がいいから、隣町にある私立に通うらしい。

いじめっ子「こんなこと世間にばれたら、受験失敗だけじゃ済まないかもよ」

優等生「……」

優等生くんは暗い表情で床をみつめた。

「そんな言い方ってないよ!」

わたしは優等生くんの前に立って声を張り上げた。

「わたしだって…っ」

強気の姿勢はどんどん小さく萎んでゆく。

「わたしだって…怖いよ…」

さっきから手の震えが止まらないのだ。

「捕まりたくない…」

その震えた手で、流れる涙を拭った。

いじめっ子「ご、ごめん…」

優等生「大丈夫?」

「うん…」


わたし達は隠してしまったんだ、江村くんを。

もう大切だった日々は取り戻せない。

優等生「とにかく、お前のやり方には賛同できないから…」

優等生くんはランドセルを背負って、教室を出て行ってしまった。


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その日の朝、夢から覚めるとすぐに昨日の記憶が引き戻された。

おかげで昨晩は良く眠れなかったのだ。

どっとした疲れを背負ったまま、わたしは家を出て登校した。



「……」

畑に囲まれた小道をしゅんとしながら歩いた。

周りの森から聞こえてくるせみの大合唱が、わたしを責め立てているように思えた。


これからどうなるんだろう。

もしかしたら死体はもう見つかってしまっているんじゃないか。

そんな不安を胸いっぱいに詰め込みながら歩き、学校についた。

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先生「じつは昨日、江村くんのお母さんから電話があって……」

先生は朝のホームルームで、江村が家に帰ってないことを伝えた。

先生「昨日の放課後からだそうだ。昨日、江村くんと一緒に遊んでた子がいたら――」


わたしたち3人は、表情を崩さないのに精一杯だったと思う。

みんなが探している江村くんは、わたし達のすぐ上で眠っているのだ。


先生「そうだ、昨日掃除をしていた3人…」

わたし達の名前を呼んだ。

先生「午後から警察の人がくるそうだから、昼休み教室に残りなさい」

え!?

児童たちの視線がわたし達に注がれる。

背中からぶわーっと汗が染み出すのがわかった。

もしかして、全部ばれてしまったのかもしれないと思った。


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「どうしよう…警察だって…!」

いじめっ子「しっ、声が大きい」

業間休みの間、わたし達は人気のない廊下で立ち話をしていた。

いじめっ子「そんな泣きそうな顔するなよ。ただ話を訊きにくるだけだよ」

「そうなの…?」

いじめっ子「うん。ただ一緒に掃除してその後帰ったってだけ言えばいいだ。安心しろって」

わたしは目の前の彼がすごく頼もしく思えた。


いじめっ子「それよりあいつ、職員室に行ったらしいぜ」

「えっ?」

優等生くんが職員室に歩いていくのをうちのクラスの子が見たらしい。

いじめっ子「切羽詰った顔だったってさ。あいつもしかしたら…」

「先生に…ばらす?」

いじめっ子「かもな」

 (まとめられそうなレスしなきゃ…) > / ̄ ̄ ̄\       ./ ̄ ̄\ < なん・・・だと・・・?(このタイミングでいいんだよな)
                        | ^   ^ ./ ̄ ̄\ /  ⌒ ⌒ | / ̄\
                    / ̄ ̄\ ァ   /      \   ァ  | ^ァ^|< (ハ○速がいいな~)
            / ̄ ̄ ̄\        \   |   0  0  |     /     <
 安価、安価w >/       | Λ Λ  |  .|        |       ./ ̄ ̄\
            | ^  ^    |        |   \   ア / / ̄ ̄\/      .|
.            |       |  ア   // ̄ ̄ ̄\  く /      \  ^  ^| <で、その時だった…(こういうのがウケるんだよなw)
            \  ア  / >    </       |  .|  Λ  Λ |     ァ/
            /    \       | ^  ^   .|   |        /     ヽ
   >>1 kwsk (このスレはまとめに載る)>|       |   \   ア /  < (わたしのスレがみんなに見てもらえる)
                            \  ア  ./   /     \
                           /     ヽ

                                 ___   ___
    /  \      /   /  \ o           /       /    /ー‐‐ァ    /   /
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やっと安心できたと思ったのに、今日は朝から心臓が痛くなるようなことばかりだ。

「本当に職員室に行ったの…?」

いじめっ子「確かに見たってさ」

「そんな…」

いじめっ子は私の肩に両手を置いて顔を近づける。

いじめっ子「あいつはそういうやつなんだよ」


「そんなの…まだわからないよ」

いじめっ子「あ、おいっ」

わたしは職員室に向かって駆け出した。

知能が低くて建造できませんでした。(maro)


優等生くんは職員室に居なかった。

わたしは先生に訊ねた。

先生「ああ、来てたよ。なんか暗い表情して入ってきたから、どうしたのかと訊いたんだが…」

「…それで?」

先生「出て行っちゃったよ。やっぱり何でもないですって」





それからわたしは優等生くんのことを探した。

「みつけた」

裏庭のベンチに彼が座っているのを窓からみて、わたしは靴を履いて外に出た。


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「…どうして先生に言わなかったの?」

優等生「あ、いや、その…」

彼は鼻をかきながら目線をあちこちにめぐらせていた。



優等生「おまえはなんで…あいつに…従うの?」

「……わたしは、誰にも知られたくないから」

家族にばれたら、みんな悲しむだろうと思った。


優等生「お、おれも、同じ、かな…」

「うん…」

優等生「うん…」


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遠くから聴こえる心地よいせみの声。

ベンチに座るわたしたち。

優等生くんの横顔が木漏れ日を浴びてきらめいている。

二人の間に優しい風が吹き抜けて、わたしの髪をさらさらと揺らした。


優等生くんとは席も遠くて、家も遠くて、たまにしか話したことがない。

けれど時々目が合う。授業のときや休み時間、給食のとき…。

前に彼がみんなとサッカーしているのを窓から眺めているときも、わたし達は目が合ったりして、お互い意識していた。

校舎の窓から、女子の集団がこっちを指差して笑い合っている。

優等生「な、なあ…」

「あ、そろそろ授業始まっちゃう。いこっ」

優等生「う、うん…」


その日に刑事が来て、わたしたちは別室で一人ずつ質問をされた。

わたしはいじめっ子に言われたとおり「知らない」を貫き通していた。


江村の死体を隠してから2日目。

それからは、何事もなく過ぎていった…。


――――。


人気の無くなった職員室。


椅子に座って向かい合う、二人の男女。


男教師「それから…どうなったんです?」


女教師「続きを聞きたいですか?」


男教師「ぜひお願いします」


女教師は静かに口を開く…。


――――。


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次の日教室に入ると、わたしはすぐにその異変に気付いた。


『ねえ、なんだろうあれ?』


不気味に広がった天井の染み。

ちょうど死体が置いてある場所を、みんなが指を差して騒いでいる。


いじめっ子「おいおい、まずいことになったぞ」

登校してきたいじめっ子が、わたしの机に乗りかかって耳打ちしてくる。

「うん、どうしよう…あの染み」

いじめっ子「いや、そのことじゃない」


いじめっ子が言っているのは染みのことではなかった。


いじめっ子「体育倉庫の扉が開かないんだよ」

「ええっ、なんで?」

いじめっ子「鍵がかかってる。これじゃ今夜、脚立を取りだせないぞ…」

改装工事は明日から始まる。

つまり今日死体を外に運び出さなければ、明日には発見されてしまう。


「そんなあっ、どうするの?」

いじめっ子「ちくしょー、今日は体育の授業無いし…授業中は外に出られないし…」

いじめっ子「どうすりゃいいんだ…」

いじめっ子は机に肘をついて頭をかかえこんだ。


いじめっ子「……こうなったらやるしかないか」

「なにか考えがあるんだね」

いじめっ子「放課後、協力しろ」


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放課後になると、わたしは職員室にやって来た。

先生「おお、どうした」

先生は椅子を回転させてこっちを向いた。

「この前の授業でわからないところがあって…」

先生「ん、算数か。みせてみろ」

わたしは隣の事務机から椅子を借りて座った。

先生「面積の問題じゃないか。この前何度も復習しただろ?」

「なんだかよく覚えられなくて……」

先生「しょうがないなあ、ほら鉛筆だせ」


その時、そっと職員室に忍び込む、いじめっ子の姿が尻目でみえた。

先生「このマスはそれぞれ1センチあるだろう?」

いじめっ子はしゃがみながら、先生の背後にある鍵掛けに近づいてゆく。


「……」

沢山の鍵がぶらさがった中から、体育倉庫の鍵を探している。


先生「おい、聞いているのか?」

ギィと椅子を軋ませてわたしに振り向いた。

「あっ、はい」

あと少し先生の目線が横にずれていたら、いじめっ子の背中が目に映っていただろう。


「あの、先生っていつも放課後に絵を描いてますよね」

わたしは時間稼ぎをする。

先生「あ、ああ、夜まで美術室に篭ってるけど」

「どんな絵を描いてるんですか?」

いじめっ子は目的の鍵をみつけたらしく、そっとポケットにしまい込んだ。


先生「それはこの問題を解けてから教えてやる」

「え~、教えてくださいよお~」


わたしは椅子ごと近寄ると、先生は少し照れたようにノートに向き直った。

今なら先生の視界に入らず、職員室のドアを出ることができるだろう。


それに気付いたいじめっ子は、忍び足で廊下に向かってゆく。


「……」

あとは音を立てずにドアを開けるだけだった。


先生「なんの鍵を盗んだんだ?」


先生は少し強めの声で言った。


いじめっ子「ッ!!」


先生はいつから気付いていたんだろうか。

先生「ポケットの中身を出しなさい」

いじめっ子「な、何も取ってないよ!!」


周りの教師達がじろじろとこっちを見た。


先生「正直に言わないと――」


先生の声は、大きなベルの音にかき消された。

「うわっ」

廊下の方から耳を引き裂くような非常ベルが響き渡る。

いじめっ子「おい!」

いじめっ子はわたしの服を引っ張って、一緒に職員室を飛び出した。


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「あ、みーつけた」


商店街の小売店で、優等生くんの姿をみつけた。


優等生「あ…」

「なにを見てるの?」

優等生「ガチャポン…」

「ふぅーん」


夕暮れに照らされた地面に落ちる、わたしたちの影。


「それ欲しいの?」

優等生「ううん、別に…」


「今日ベル鳴らしたでしょ?」

優等生「えっ、うん…」

「助けてくれたの?」

優等生「う、うん、まあ、そうかな…」


彼は鼻をかきながらそう答えた。


「あっ、これ楽しそう。遊ぼうよ」

店の前に置かれた新幹線ゲームを指す。

優等生「でもこれ遊んだことない…」

「たぶんここに10円玉を入れるんだよ」

わたしは財布からお金を取り出す。

「わたしは右側のレバーやるね」

優等生「あ、うん…」


優等生くんは左側のレバーを握った。

投入口に10円を入れると、カンカンと音を立てながら転がっていった。

レバーを引いて汚れたガラス越しのコインを弾いてゆく。


優等生「あぅっ、ごめん…」

ハンドルを強く引きすぎたらしく、10円玉は穴の中に消えてチャリンと音を立てた。


「だいじょうぶ、もう1回やろう?」

優等生「あ、こっ、今度は俺が出すよ」

慌てて財布の中からお金を出した。


優等生「こ、今度は優しく…」


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夕暮れ時の商店街で、わたしたちは二人寄り添う。

近くの店から穏やかなピアノの曲が流れている。


「……」

彼が弾いた10円玉はレーンを転がってわたしの元へ届いた。

わたしはそっと彼の元にコインを弾き返す。


落とさないように、お互い慎重に、大切に。


「ねえ、今日9時だって」

優等生「うん、聞いた」


今夜、わたしたちは学校に忍び込む。

レーンを転がる10円玉が、不安げに跳ねた。


成功しても、失敗しても、同じこと。

腫れ物を抱えたまま、生きていかなければならない。


「わたしたち、離ればなれになるかもね」

優等生「うん」




けれど、それはいつかやってくることだ。

彼は来年、別の中学に行ってしまう。

ただバラバラになる時期が早くなるだけなんだって、そう思い込もうとした。


「ねえ…」

想いを伝えたい。

一生繋ぎ止めておきたかった。

けれど、今のわたしにはそんな勇気が無かった。


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決行の時間がやってきた。

わたしたち3人は校門の前に集まる。

「どうやって運び出すの?」

いじめっ子「布に包む」


彼がわきに抱えた布団カバーを見て、ああ本当にやるんだって実感した。

すると途端に胸の奥が不安でいっぱいに満たされた。



いじめっ子「おれは排水パイプから2階にのぼって内側から教室の鍵あけてくるから」

いじめっ子は優等生くんに体育倉庫の鍵を投げて渡した。


優等生「お、おい…」

いじめっ子「おまえらは脚立持って、トイレ窓から校舎に入って来い」

優等生「トイレの窓なんて開いてるのか?」

いじめっ子「一つだけ鍵が壊れてる、トイレの窓があるから」

「知らなかった…」


いじめっ子「よし、行こう」

そうして、わたしと優等生くんの二人きりになってしまった。

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体育倉庫の香りが鼻の奥を突き刺した。

「脚立ってどれだろう…」

優等生「あった、これだ」


わたしたちは脚立を二人で持って、トイレの窓を探した。


「ねえ、うちの教室の窓って開いてるのかな?」

たしか、いじめっ子が外からよじ登って、教室に侵入するとか言っていた。

優等生「さあ……事前に鍵でも開けてたんじゃないか?」


トイレの窓をあけて、脚立を中に運び出す。

わたしは最初に中に入って、外にいる優等生くんから脚立を受け取った。


「窓の鍵、開いてなかったらどうするんだろう…」

もし先生が戸締りの確認をしていたら。

可能性は大きい。


その時、脚立を壁にぶつけてしまい、大きな音が響いた。


『誰だ!!』

廊下の方から、男の人の大声がこだました。


優等生「わっ、まずい、隠れろ!」


わたしたちはトイレの個室に隠れて、息を潜めた。


警備員「このトイレか」

警備員「窓が開いているな…」


わたしは声を漏らさないようにしっかりと口に手を当てる。

下の隙間から懐中電灯の明かりがちらちらと忍び込んでくる。


警備員「誰かいるんかっ?」

ギィ……。

どこかの個室を開ける音がした。


警備員「居ないな…」


もしも、4つ目の最後のドアを開けられてしまったら、わたし達は終わりだ。


ギィ……。

警備員「ここにも居ないか」


警備員のおじさんは2つ、3つとドアを押し開けていった。


次で4つ目だ。

これで終わった、と思った。


下を見ると、黒い革靴が立ち止まっていた。

そして隙間から光が差し込み、スローモーションのようにドアが開いてゆく。


――――。


男教師は、女教師の話に聞き入っていた。


時刻は深夜を回り、外はすっかり暗く染まっている。


女教師「お話はここまでにして、もう帰りますか?」


男教師「いや、続きを聞かせてください」


早く続きを知りたい。


男教師は固唾を飲み込む。


――――。


先生「どうかしましたか?」

トイレの入り口から、うちの先生の声がした。

警備員「あ、先生。こんな時間までご苦労様です」

先生「いつも美術室に篭って絵を描いてるもんでしてね」

警備員「はあ…」

先生「それより、ここ女子トイレですよお。何かあったんですか?」

警備員「いやあ、それがね、大きな音が聴こえたもんだから、急いで見にきたら窓が開いててね」

先生「へえ」


二人の会話が響いている。

警備員「足音まで聞こえたもんだから、もしかすると児童が隠れてるかもしれませんな」

先生「ありゃ、そりゃ本当ですか?」

警備員「ええ、このドアを開ければ分かることです」

ギィ…と音を立てて、ゆっくりと開いていった。

懐中電灯の明かりがわたしの肩を照らした。


先生「もしかしたら……幽霊かも?」

警備員「ちょっとお、やめてくださいよ。私そういうの本当に苦手なんですから」


バタン…と個室のドアがと閉じた。

わたしはほっと胸を撫で下ろす。

先生「知ってますかあ~。10年前、この校舎で女子児童が自殺した事件」

警備員「あー聞きたくない聞きたくない」

先生「はは、冗談ですよ」

笑い声が響いた。


先生「もし児童が忍び込んだとしても、何か思い出作りに来てるんでしょうね。明日でこの校舎ともお別れだから…」

警備員「ええ、きっとこの中に居ます。おーいっ、いるんだろう?」

そして先生もわたし達に向かって呼びかけた。

先生「そうだ、怒らないから正直に出てきなさい。ちゃーんと先生はわかってるんだから」


その時、優等生くんがわたしの手を握ってきた。

優等生「頑張って…」

その声は強くてたくましく、わたしに勇気を与えてくれるようだった。


優等生「はいはーい、居ます!出てくるから怒らないで!」

彼はわたしに脚立をわたすと、ドアの裏側に隠れているように言った。

優等生くんは手を上げて降参のポーズを取りながら外に出た。


警備員「ほーら、やっぱり居た」

先生「他の子はいないのか?」

優等生「俺一人だよ。ちょっと忘れ物しちゃって、取りに来たんだ」

警備員「こんな時間にかあ?」

優等生「だって明日からこの学校しばらく来れないでしょ」


会話がどんどん遠くなってゆく……。




「……」


わたしは一人になってしまった。


ぎゅっと脚立を抱える。


「行かなきゃ…」



トイレの入り口から顔を出して、人の気配が無いか確認する。

それから木造の階段を上って2階へ。


夜の校舎はひどく嫌な感じがした。

非常警報の赤ランプが不気味に点っている。


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ようやく6年生の教室にたどり着くと、わたしは扉に手をかけた。


もし鍵が開いてなかったら……

今頃いじめっ子は外に取り残されていることになる。


そうなると全てが終わる。


「……」


わたしは奥歯をかみ締めて、扉を引いた。



「そんな…」


教室の入り口は、重く閉ざされていた。


どうしよう、人が来てしまう。


「開いてよっ!」

ガンガンと扉を引いても、ガラスが揺れるだけだった。


私はその場にへたり込んでしまい、がしゃんと脚立を床に落とした。


ガラス越しに誰かの影が近づいて来るのが分かった。


いじめっ子「お、おい、来たのか?」


ドアの向こうでいじめっ子の小声が聴こえてくる。



「よ、良かったあ、ちゃんと教室に入れたんだ…」


私は泣き崩れそうになりながら、脚立を持ち上げて立った。

ガチャンと鍵が開いて、教室の中に入る。


[教室 夜]


「なんで鍵閉めてるの!」

いじめっ子「しょうがないだろ、警備員が徘徊してるなんて知らなかったんだよ」


いじめっ子は周りと見渡して、優等生くんがいないことに気付く。


いじめっ子「あいつどうしたの?」

「先生に捕まっちゃった! はやく江村くん連れ出して逃げよう!」


「よ、良かったあ、ちゃんと教室に入れたんだ…」


私は泣き崩れそうになりながら、脚立を持ち上げて立った。

ガチャンと鍵が開いて、教室の中に入る。


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「なんで鍵閉めてるの!」

いじめっ子「しょうがないだろ、警備員が徘徊してるなんて知らなかったんだよ」


いじめっ子は周りと見渡して、優等生くんがいないことに気付く。


いじめっ子「あいつどうしたの?」

「先生に捕まっちゃった! はやく江村くん連れ出して逃げよう!」


脚立を教室の真ん中に立てる。

いじめっ子は、布を抱えながらはしごを上ってゆく。


わたしは唾を飲む。

見守りながら、心臓の鼓動が速くなるのを感じた…。



この天井の向こうには、死体がある。


死の世界みたいに真っ暗な天井裏が

ガコン、と音を立ててひらく。


地獄のような3日間だった。


全てがこれで終わる。



「……」


――――。


女教師「そろそろ予定があるので、ここで失礼します」

男教師「そ、そんな、まだ途中ですよ」


女教師「気になるのなら、行ってみてはどうです? 6年生の教室」


そう言って、女教師は職員室から出て行ってしまう。


男教師「……」


その場にしばらく立ち尽くす。

男教師は、慌てて廊下に飛び出す。


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ちょうど15年前に改装された校舎。

深夜の廊下は、ひどく暗く、足元がおぼつく。




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教室に訪れる。


改装されたせいか、話に聞いていた染みはない。

けれど、天井裏への入り口は確かに存在していた。


男教師「くそっ!」

男教師は周りの机や椅子を、天井に届く高さまで積み上げた。


天井裏への入り口には、鍵が掛かっていなかった。

扉をひらくと、何年もの間詰め込まれた闇が一斉に姿を現した。


男教師は深呼吸をして、懐中電灯を強く握る。

震える手で、そっと闇の中を照らした。



男教師「そん…な……」


死体は無かった。


代わりに何かが落ちていることに気付く。


男教師「これは…」


桜の樹木が描かれた、一枚の絵画だった。


――――。


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先生「江村を探しているのか?」


薄暗い教室の中で、突然、先生の声が響いた。



「え、あ、なんで……どうして……」

いじめっ子「……」


先生が放ったとんでもない言葉に、わたし達は何度も耳を疑った。




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わたしたちは先生に連れられて、この美術室にやって来た。


優等生「……」

優等生くんはなぜか先生と一緒にいて、ここまで歩いてくるまで終始無言だった。



彼は職員室に行ったあの日から、知っていたんじゃないだろうか。



あの天井裏に

死体なんて無かったことを。


結局あの天井の染みも、屋根裏のペンキがこぼれただけのことだった。


先生「入れ」


思い返せば美術準備室には一度も入ったことが無かった。

何十年もこの学校で教師をやっている先生のテリトリーだったから。



いじめっ子「先生、江村はいったいどこに…」

先生「ここだ」


先生はかぶせられた布をはらった。


現れたのは死体ではなく、一枚の絵画だった。


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広大の夜空の下、月の光に照らされた、桜の樹木。

まるで人の生き様の一つのように、花を半分まで散らしている。

血のように真っ赤な花びらは、月の光に照らされて、星明りの闇に翼を広げている。

今にも崩壊しそうな桜の樹木は、こちらを見て微笑んでいる。

まるではかなく激しい人生の終わりのよう。



わたし達は、その絵に見惚れるように立ちつくしていた。


「先生…これは…」


先生「江村だよ」

先生が美術で使うエプロンは、いつにも増して赤く染まっていた。


小学6年生の夏。

わたし達の日常を狂わせた一つの記憶は、一枚の絵に収まった。


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女教師「ふう、遅刻しちゃう」


さすがに長話をしすぎたか。

女教師は腕時計をめくって、歩調を速める。


結局、先生は死体をどうしたのだろうかと、女教師は思考する。

ある程度の想像はつくものの、真相は最後まで分からないままだった。



ヒールを鳴らしながら夜の街並みを見渡す。


スーツを身に着けた男を見つける。

かつて優等生だった彼に向けて、女教師は静かに微笑む。


『…お待たせ』

『んじゃ、行こうか』


自分たちにやって来た未来。

自分たちから去っていった子供の日々。


10年前の記憶を抱えた、二人の罪深い足音は、夜の街に寂しく消えた。



―終わり―

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