女騎士「ついに仕えるべき主を見つけました!」 魔王「はっ?」(235)

女騎士「あなたこそ私が仕えるべき人です!」

魔王「なぜ俺が?」

女騎士「さきほどの一件、拝見させていただきました」

魔王「何の話だ」

女騎士「十人余りの男に絡まれる町娘をただ一人颯爽と助け出した貴方こそ、私が仕えるべき主なのです!」

魔王「あれはあいつらが道を塞いでいたから退かしただけで」

女騎士「謙遜なさる必要などありません! そう、騎士が仕えるべき主とは斯くあるべきというその姿を体現した貴方こそが――」 ウンヌン

魔王(こいつ、話が通じない人種だな)

女騎士「――なのです! どうか私を貴方の騎士に」

魔王「断わる」

女騎士「えっ」

魔王「人手なら足りている。他を当たれ」

女騎士「見返りを求めるつもりはありません! どうか貴方様に仕える栄誉を私に!」

魔王「精神を患っているのか? 今さっき出会った相手をなぜ主と仰ぐ?」

女騎士「騎士の直感です」 ムンスッ

魔王(ダメだこいつ……)

魔王「とにかく俺に騎士など必要ない。失せろ」

女騎士「……わかりました」

魔王「やっと納得したか」

女騎士「私の実力を疑っているのですね?」

魔王「なぜそうなる」

女騎士「無論私とて、主に力も示さずに仕えようなどと思っていません。たとえどれほど過酷な試練を与えられようと乗り越える覚悟で――」 ウンヌン

魔王「……ああ、そう、そうだ。試練を与えるつもりだったのだ」

女騎士「やはり!」

魔王「遠くに霞むあの山が見えるか?」

女騎士「ええ!」

魔王「あそこの山頂近くには大きな洞穴があり、そこには無数の魔物が住んでいるそうだ。そしてその最奥には一匹の龍がいてだな」

女騎士「その龍を倒せばいいのですね!!」

魔王「まあ。そんな具合だ」

女騎士「承知しました、我が主! その命必ずや果たして御覧に見せましょうっ!!」 メラメラ

魔王「頑張ってくれ」

女騎士「はい! ……ああ、これこそ私が求めていた冒険、騎士道……主に課せられた試練を越えてこそ真の絆が――」 ウンヌン

魔王(ふぅ、これで付き纏われることもないだろう)

女騎士「――では我が主、行って参ります!」

魔王(ただの人間が準備もなく山を登れば、それだけで死ぬと思うのだが)

魔王(まあ、これでようやく、人間の国の偵察に専念できるか)

魔王「酒場にでも行って様子を探ってみるか」

酒場のマスター「――ってぇわけで、もうじき大遠征が行われるってぇ話だ」

魔王「どの国も大変な時期なのだな」

酒場のマスター「魔物の奴らが侵略して来るってぇ話だ、先に殺りゃにゃ殺られるってもんだよ」

魔王「……ありがとう、面白い話だった」

酒場のマスター「構わねえさ。羽振りの良い客にゃサービスするのが俺の流儀だ……それと」

魔王「ん?」

酒場のマスター「今は傭兵連中が集まってきて治安が悪ぃ、旅人さんも気を付けた方がいいぜ。……奴らも客だから大きな声じゃ言えねえがな」

魔王「ご親切痛み入る」

騎士なら領主に仕えてろよ

魔王「はっ、はははっ、口先だけなら何とでも言え……」

女騎士「龍の牙を折って参りました」

魔王「えっ」

女騎士「私一人で運ぶには無理がありましたので、馬に背負わせていますが」

魔王「お前、本当に倒したのかっ!?」

女騎士「かの者はその体躯に劣らぬ力を持っていましたが、私とて“国に女騎士有り”と謳われ……」

魔王「……誰だって?」

女騎士「ああ、これは申し訳ありません! きちんと名乗りもせず! 私は女騎士という者で、貴族の娘に生まれ――」 ウンヌン

魔王(……女騎士といえば、今、最も勇者に近いと言われる要注意人物ではないか……)

女騎士「――という長い旅の末、ようやく我が主に出会えたのです!」

魔王「……そうか」

女騎士「そういえば、まだ我が主の名を聞いておりませんでした。お名前はなんと?」

魔王「そうだな……。今はまだ名乗る時ではない、とだけ言っておこう」

女騎士「……っ」 ズキューンッ

魔王「あ?」

女騎士「で、出すぎたことを言い申し訳ありませんでしたっ! ……ああ……素晴らしい……やはりこの人こそ私の――」 ブツブツ

魔王(……殺れるか? だが相手の力が未知数では、もし万が一……)

女騎士「――はっ、たびたび申し訳ありませんっ! では私の宿へご案内します、そこで証拠の御確認を!」

魔王「……ああ」

魔王「……」

女騎士「どうです?」

魔王「たしかに龍の牙だな」

女騎士「運ぶのに苦労しました。我が愛馬にもずいぶんな重労働を強いてしまい」

馬「ひひぃーんっ」

魔王(古から世界を見てきた龍の最期もこんなものか。哀れなものだな)

女騎士「しかし哀れなものですね」

魔王「……ほう、なぜだ?」

女騎士「この龍も、私に狩られるために生まれたわけではないだろう、と」

魔王「……」

女騎士「余計な話でした」

魔王「構わん」

女騎士「それで、なのですが」

魔王「お前を俺の騎士にするという話だな」

女騎士「……もしまだ私にその資格がないと考えておられるのなら、いくらでも試していただいて結構です」

魔王「ひとつ聞かせろ。俺に仕えてどうしたい?」

女騎士「どうしたい……」

魔王「俺の素性すら知らずに仕えて、お前は満足か? 俺が悪人であったらどうする?」

女騎士「主様を信頼していますから」

魔王「盲信の間違いだろう」

女騎士「主を信じるのが騎士の務め。もし主が道を違えたなら、その道を正すのもまた騎士たる者の務めです」

魔王(……傀儡にして戦場に立たせれば、人間の士気を挫く効果も絶大か。もし失敗したとしても――)

魔王「いいだろう。お前を騎士として認めてやる。共に来るがいい」

女騎士「あ、ありがたき幸せ! この一命、主に捧げます!」

魔王(――その首を晒すだけで人間達の士気を挫くには充分だろう)

魔王「北へ行く」

女騎士「目的地は何処でしょう?」

魔王「俺はあちこちを旅して回っている。つまりは旅人だ」

女騎士「遍歴を通して人助けをしているのですねっ!」

魔王「いや、ちがっ」

女騎士「御謙遜せずとも! 私とて主には敵わぬまでも、この戦乱の世に疲れ果てた人々の力に少しでもなれるようにと――」 ウンヌン

魔王(……妙な幻想を持たれたな)

女騎士「――そう、主が望むのならば、この身潰えるまで悪という悪を打倒し……!」

魔王「とにかく、北だ。いいな?」

女騎士「主の意のままに。……主は馬を何処の宿に置いているのですか?」

魔王「うむ。馬は、街の近くで倒れた」

女騎士「旅の伴侶として死ねて馬も本望だったでしょう。……では、しばらくは相乗りでご辛抱を」

魔王(このまま胴を鎧ごと潰してしまえば容易く事は済むのではないだろうか?)

女騎士「主、何か不自由はありませんか?」

魔王「尻が痛い」

女騎士「我が愛馬は利口で大人しい方だと思いますが……もう少し速度を緩めましょうか?」

魔王「いや、いい。……お前はなぜ今まで誰かに仕えなかったんだ?」

女騎士「仕えるべき御人に出会えなかったから、でしょうか」

魔王「仕えるべき主とはなんだ? お前なら王や貴族の誘いもあったろう」

女騎士「己の欲を満たすよりも民に想いを向けられる人こそ、私が仕えるべき主と考えます」

魔王(選んだ相手が魔王では笑い話にしかならないがな)

女騎士「主に出会った瞬間、思ったのです。この人こそが私の運命なのだ、と」

魔王「……道が荒れてきた、気を付けろ」

女騎士「はい、我が主」

魔王「……やっと着いたか」

女騎士「北の国に来るのは初めてですが、どうも活気がありませんね」

魔王「街を散策すれば事情もわかってくるだろう。まずは宿を探そう。……そういえばお前、路銀はどれくらいある?」

女騎士「……騎士は名誉のみを求める者ですので……」

魔王(あれだけ魔物を殺し回って金がないとは。土地の領主と交渉すれば金などいくらでも手に入ったろうに)

魔王「お前、さてはバカだろう」

女騎士「主、今なんとおっしゃられたっ?!」

魔王「……あそこの宿なんてどうだ? それなりに小奇麗だし、俺の持ち金だけでも充分払えそうだ」

女騎士「主! 誤魔化さないでください! 今私をバカとおっしゃましたねっ!?」

魔王「わかったわかった、お前はバカじゃない」

女騎士「主っ!!」

魔王「宿を取ったら街を歩く。軽装にして外出の準備をしておけ」

女騎士「……」 プクーッ

魔王「……荒廃しているな。大通りを離れるとあちこち死体だらけだ」

女騎士「北の国は飢饉だと聞いていましたが、ここまで酷いとは……」

魔王「少ない食料を戦争のために取り上げたのだろう」

女騎士「戦うために国を潰すなど、本末転倒です」

魔王「ほう」

女騎士「……魔物との戦いは避けられずとも、他国と同盟を結ぶなりの手段はあったはずです」

魔王「弱味を見せれば、次は隣国が敵になるかもしれない」

女騎士「それが疑心のために民を犠牲にするより大きな間違いですか?」

魔王「犠牲ですらないのだろう。尊い血筋にない者は、尊い血筋にある者のために生きる、いわば家畜程度の価値しかない」

女騎士「その言葉は本気ですか?」

魔王「この国のお偉方はそう思っているだろうな」

女騎士「間違っています。……絶対に間違ってる!」

魔王「ならば、どうする?」

女騎士「戦争を止めます」

魔王「方法は? 奴らはとっくに動き出している。今さら歯止めは利かないだろう」

女騎士「……私が、魔王を倒します」

魔王「ほう」

女騎士「各国が戦争に備えているのは魔王の宣戦布告によるもの。ならば」

魔王「魔王さえ倒せば丸く収まると」

女騎士「そうです。魔王の首さえ取れば、いずれこの荒廃した都も平穏を取り戻せるはずです!」

魔王「お前は俺に仕える騎士だろう。俺の許可なく魔王討伐に行くつもりか?」

女騎士「それは、ですが!」

孤児「……おねえちゃん……」 クイッ

女騎士「えっ?」

孤児「……めぐんでください……」

孤児「おとうとが……まってるの……おねがいします……すこしでいいから……めぐんでください……」

魔王「どうするのだ?」

女騎士「これ、あげるね」 チャリッ

孤児「……おかね……これ、ぜんぶ……いいの……?」

女騎士「うん。これはお姉ちゃんが持ってるより、きみが持ってる方がいいから。ほら、弟くんが待ってるんでしょ? はやく帰ってあげなくちゃ」

孤児「あ……あり、がと……ございます」 ペコリ タッタッタッ

>>14
ここはひとつ、遍歴の騎士ということで

魔王「あれと同じような孤児は数え切れないほどいるだろう」

女騎士「すべての子供達を救える富を私は持っていない……だから申し訳ありません、主。私は」

魔王「明朝、魔王領に向けて出発する」

女騎士「いいのですか?」

魔王「予定通りに移動するだけだ。他の国の事情もある程度はわかった」

女騎士「我が主っ!」 ギュッ

魔王「おい放せ」

女騎士「信じていました、私は信じていましたっ! 主ならばと! 主ならば傷付いた者達を捨て置くはずがないとっ!」 ギュゥゥ

魔王「鬱陶しいっ! 離れろっ!」

女騎士「ああ、私はなんと幸せな騎士なんだろうっ! これほどまでに誇るに値する主を持った騎士がかつていただろうか、いやいないっ!」

魔王(……今抱きしめている者こそが魔王なのだと知った時、お前はどんな顔をするのだろうな)

魔王「……人間どもの国の様子は、そういうわけだ。奴らも戦争の準備はほぼ済んでいると見ていい」

『……そこまで差し迫っているとは』

魔王「直接偵察に来たのは間違いではなかったな。俺が留守の間に何か問題は起きていないか?」

『我らの地へ足を踏み入れる冒険者の数は増えていますが、守護を任せた者が処理しています』

魔王「ならばいい。それと1人、人間を連れて帰る。余計なトラブルにならぬよう伝達を頼む」

『了解しました。帰りの道中も“くれぐれも”無理をなさらず、ご自愛なさるよう願います』

魔王「そう当て付けてくれるな」

『……御帰りをお待ちしております』

魔王「ああ」

コン コン

魔王「……入れ」

女騎士「し、失礼します」 ガチャ

魔王「夜も遅くに何の用だ?」

女騎士「その……ま、魔王領への出立の前に、あ、主様に、その……わ、渡したい物が、ある、あります……」

魔王「渡したい物?」

女騎士「わ、私の……私、が、あの……と……」

魔王「と?」

女騎士「と、伽を……夜伽を……し、したいと……お、思い、来ました……」

魔王「……」

女騎士「あ……う……ぅ……」 カァァァ

女騎士「め、迷惑、ですよね、私みたいな、武骨な……」

魔王「入れ」 グイッ

女騎士「あっ」

女騎士かわええ///

魔王「座れ」

女騎士「あ……あの……」

魔王「立ったままでいいなら構わん。……お前が夜伽に来たのはなぜだ?」

女騎士「なぜ……」

魔王「忠義立ての延長か?」

女騎士「違います! わ、私だって、抱かれる相手くらい、自分が好きな相手を選びますっ!」

魔王「なぜ俺だ?」

女騎士「貴方は……私の理想を、私の気持ちをわかってくれた、から……」

魔王「覚えがないな」

女騎士「私が子供に路銀すべてを恵んだ時、貴方は何も言わなかった」

魔王「なぜ俺がお前の金の心配をしなくてはならんのだ?」

音無「消えるのか?」

俺のパンツ「ああ。」

女騎士「私が誰かを助けたいと願うたび、皆が私を笑いました。でも貴方はそうしなかった」

魔王「……」

女騎士「貴方を選んだのは……もしかしたら、私の思い込み、だったかもしれないと……思います。でも、貴方が私の想いに向き合ってくれたのは本当です」

魔王(思い込みが激しい自覚はあるのか……)

女騎士「こんな願いは大それたものだとわかっています。ですが、これから赴くのは死地です。だから」

魔王「死ぬ覚悟を決めるために抱かれたいと? 冗談ではない」

女騎士「……やはり、私など……抱くに値する女では……」

魔王「お前は俺が見た中ではマシな女だ」

女騎士「本当、ですか?」

魔王「嘘を言ってどうなる。だがお前は死ぬつもりで行くのか? その程度の覚悟なのか?」

女騎士「死ぬつもりがなくとも、相手は魔物の王です! それを軽々しく倒せるなどと言えるほど、私は……強くありません……」

魔王「お前より強い人間がどこにいる?」

女騎士「……それは、私が負けてしまえばもう魔王に勝てる者はいないというだけです……」

魔王「お前はバカだな」

女騎士「何ですとっ!」

魔王「その程度で滅ぶものなら滅べばいいだろうが。誰がお前に人の命運を背負ってくれと頼んだ?」

女騎士「ですがっ! 今も苦しんでいる人達がいるんですっ!」

魔王「お前がそいつらを苦しめているわけじゃない。……それにだ。少なくとも今は、俺がお前の主だ。お前の苦しみも喜びもすべて俺のものだ」

女騎士「主様……」

魔王「俺はお前が悩む事を許可しない。お前は悩まないバカのままでいろ。いいな」

女騎士「……私はバカじゃないです、もう」

皆さん、高性能な下半身をお持ちなようで

女騎士「こほんっ。……あらためて、主様。私を抱いてはくれませんか?」

魔王「お前は俺の話を聞いていたか?」

女騎士「戦いの覚悟、ではなく……私は今、主様に抱かれたいと思っています」

魔王「……」

女騎士「添い遂げたいなどとは思っていません。ただ今一時の事だけで構いません。私にはそれで十分です。……だから主様」

魔王「ダメだ。……この旅の終わりにお前が同じ気持ちだったなら、その時は考えよう」

女騎士「約束してくれますか?」

魔王「約束しよう」

女騎士「……その時には、貴方の名前を教えてくださいね。結ばれている間だけは、主様の騎士ではなく、貴方の女でいたいから」

魔王「ああ」

女騎士「それまでは今しばらく……主の騎士として仕えましょう」

魔王「頼りにしている」

女騎士「では。我が主も良い夢を」 ガチャ

魔王(……魔王より詐欺師にでもなった方が良かったのかもしれんな)

女騎士「街を出たらできるだけ距離を稼ぎましょう。開戦前に事を終わらせなければ」

魔王「ふぅ。また一日中馬に乗るのか」

孤児「あ、おねえちゃんっ!」

女騎士「おお、昨日のきみか。後ろのきみは、弟くんかな?」

孤児「うん! ごはんたべたら元気になって、それで、おねえちゃんにおれいしたいって!」

弟「……」 ツイッ

女騎士「これは?」

孤児「おまもりのひも! いろんな色の糸であんで、いろんなねがいをこめるの!」

女騎士「ありがとう」 ナデナデ

孤児「ほんとはね、ままにつけてもらいたかったの。でも、もういないから。わたしがね、おとうとをまもるの」

女騎士「きみがいれば安心だね。……弟くんも、お姉さんと仲良くするんだよ?」

弟「……」 コクリ

魔王「ゆくぞ」

女騎士「はい。……またね」

孤児「またね、おねえちゃん!」 弟「……また……ね……」

女騎士「……」

魔王「……」

女騎士「……なぜいつも弱者ばかりが泣くのでしょう。なぜ誰も手を差し伸べようとしないのでしょう」

魔王「俺に聞くな」

女騎士「主様にもわかりませんか?」

魔王「……力無い者は力ある者に服従する。それがルールだ」

女騎士「理不尽です」

魔王「理不尽だが現実だ。ルールから逃れられる者はいない」

女騎士「私は、嫌です。それでは誰も救われない」

魔王「そう思うならルールを変えるしかない」

女騎士「変えられるでしょうか?」

魔王「さあな」

女騎士「……今私達にできるのは、魔王を討つことだけですね」

魔王「ああ。だろうな」

魔王「……街道の向こうに行列が見えるな」

女騎士「商隊? ……いえ、あれは……傭兵団……」

魔王「戦争を控えて傭兵が集まっていると聞いたな」

女騎士「……」

魔王「どうした?」

女騎士「いえ」

魔王「傭兵が嫌いなのか?」

女騎士「嫌い……と言っていいのかわかりませんが……」

魔王「また煮え切らない返事だな」

女騎士「彼等は確かに戦場で活躍する貴重な戦力です。報酬さえ与えられれば貴族よりも誠実に戦いを続けるでしょう。しかし……」

魔王「しかし?」

女騎士「……いえ……何でもありません……。道も他にありませんし、彼らの横を通り抜けましょう」

傭兵A「よお姉ちゃん、ずいぶん立派な格好してるじゃねえか!」

傭兵B「おっ? 俺らの装備よかよっぽど上等じゃねえか」

女騎士「……」

傭兵A「ちっ。無視してんじゃねえよ、アバズレが」

傭兵B「ひははっ、だっせぇなぁ!」

魔王(これは確かに、ろくな人種ではなさそうだな)

傭兵A「……あのアマぁ、馬から引きずり降ろして犯してやるか」

傭兵B「オマエはそれしかねぇのかぁ? 昨日も散々奴隷の女ぁ犯ったばっかじゃねぇか」

女騎士「……っ」 ギリギリ

魔王「奴隷?」

傭兵B「あんだ兄ちゃん、興味あんのかい? あんたぁ結構良い身なりしてるし若ぇし、奴隷の一人や二人は欲しいだろうなぁ」

傭兵A「金があんならここで売ってやらねえこともねぇぜ?」

女騎士「主。先を急ぎましょう」

傭兵A「まあ待ちな。俺としてもだ、あんたが高く買ってくれるってぇなら懐も温まるってもんだ。お互い良いこと尽くめじゃねえか」

傭兵B「オマエ、団長に話付けとかねぇと面倒になるぞ」

傭兵A「そこは俺の腕の見せ所よ。まあ見とけって」

魔王「……奴隷とは、たしか従者のことだったか?」

傭兵A「従者? 従者ねぇ……ひひっ、まぁ、そんなもんだぁなぁ」

女騎士「主! このような連中と関わっている暇など、我々には!」

傭兵A「俺ぁこの兄ちゃんと話してんだ、黙れってぇんだよ売女ぁ! ……悪いねぇ、兄ちゃん。まあここは実物見てくれりゃ、価値もわかるってもんだぁ」

傭兵B「俺は知らねぇぞ」

傭兵A「けっ、分け前はやらねぇぜ」

傭兵A「おら、とっとと歩け!」

エルフ「ひっ……」 ヨロヨロ

魔王「……」

女騎士「……」

傭兵A「どうだい兄ちゃん、驚いたろう。なんとこいつぁ、あの耳長よぉ。見た目は最高、具合も最高、大事に使やぁ奴隷としちゃあ長持ちだ。なかなかの高級品だぜ?」

魔王「なあ」

女騎士「はい」

魔王「これがこいつらの仕事なのか?」

女騎士「これ“も”彼らの生活を支えるもののひとつです」

魔王「……そうか」

書き溜めオンライン

傭兵A「で、どうだい兄ちゃん。この奴隷、欲しくなったろう?」

魔王「他にはいないのか」

傭兵A「耳長はこいつだけだが、人間なら男が4人、女が6人いるぜ」

女騎士「……っ」 ブルブル

魔王「そのすべてを寄越せ」

傭兵A「へぇ、あんた、そんな金あんのかい? こいつぁ、あんたみたいな若造ひとりで買うにゃ、少し高い買い物だぜ?」

魔王「聞こえなかったか? 寄越せと言ったんだ。売ってくれと誰が言った?」

女騎士「主っ!?」

魔王「これを見逃すのが正しいとお前は言うのか?」

女騎士「………………いいえっ! 主が望むのならば、その敵すべてを排除するのが私の役目ですっ!」

傭兵A「ひははははっ、面白ぇじゃねぇか! おい、部隊の連中を呼んで来なぁ! 身ぐるみ剥いでぶっ殺してやらぁ!」

それは圧倒的な光景だった。

そう広くはない街道を埋め尽くすように倒れ伏す傭兵達。

剣を砕かれ、鎧を砕かれ、それでも誰一人として命を奪われることなく。

情けを受け、手加減されてなお、傭兵達の剣が彼女に届くことはなく。

彼らの放つ矢は宙で切り落とされ、そして、次の瞬間には吸い込まれるように一太刀を浴びて昏倒してゆく。

ひとつの傷も負わず、ひとりの犠牲者も出さず、その剣ひとつで敵を屈服せしめた彼女は紛れもなく、

この世界最強の勇者だった。

女騎士「終わりました、我が主」

魔王「……本当に強いのだな」

女騎士「私の力を疑っておられましたか?」

魔王「いいや」

魔王(だがこれで、どうやってもお前を見逃せなくなった)

魔王「……奴隷を解放する。俺はさきほどのエルフを見てくる。お前は人間の方を頼む」

魔王「この馬車に逃げ込んだはずだが……」

エルフ「ひっ……! いや、来ないでっ!」

魔王「お前を捕まえていた傭兵は倒した。これから元の村に帰してやる」

エルフ「嘘っ、嘘っ! また私を騙して馬鹿にするんでしょ……っ! 人間なんて信じないんだから!」

魔王「人間なんぞ信じるな、俺のことも信じなくていい。だが、お前は帰るんだ。いいな?」

エルフ「……本当に、帰れるの?」

魔王「ああ。森が懐かしいだろう、仲間のエルフが恋しいだろう。必ず帰してやる。約束する」

エルフ「……あなた、名前は?」

魔王「通りすがりの人間の名前なぞ、覚えなくてもいい」

エルフ「……まだ、信じたわけじゃないから」

魔王「だから、信じなくていい。……後で清潔な服を持って来させる。それから森に向けて出発だ」

女騎士「……彼らも無事に帰り付けるといいのですが」

魔王「傭兵から奪った物資もある。十人も寄り集まっていればどうにかなるだろう」

女騎士「そうですね。……今夜はこの辺りで休みましょう。馬車の彼女も、ずいぶん弱っているようですから」

魔王「ああ」

女騎士「では、私は枯れ枝を拾ってきます。しばしお待ちを」 ザッ ザッ

魔王(……今の内に確認を取っておくか)

魔王「やはりそうか」

『ええ、略奪を受けたようです。独立自治を訴える種族ですから監視に留めていたのですが、死傷者も多く……』

魔王「今後について話し合う必要がある、か。……連れ去られた女を帰しに行くついでだ、俺が済ませておこう」

『私の方でも他の独立派の種族に防衛の必要性を訴えておきましょう』

魔王「頼んだぞ」

『ええ、頼まれますとも。魔王様の役に立つ事こそ私の存在意義ですので。……では』

魔王「ああ、また連絡する」

エルフ「……誰と話してたの?」

魔王「……独り言だ」

エルフ「嘘。今、魔王様って呼ばれてたわ」

魔王「……」

エルフ「お父様に取り計らってあげてもいいのよ?」

魔王「お父様?」

エルフ「私は首長の娘よ。……“穢れた魔物どもの王”でもお父様に会わせてあげられるんだから」

魔王「ああ、それはありがたいな」

エルフ「ふん、感謝してよね」

魔王(これが地か。……まあ、首長の娘は悪くない材料か。後は交渉の流れ次第だな)

首長「お断りする」

魔王「ほう」

エルフ「パパっ!?」

首長「わざわざ娘を助け出して連れてくださった事は感謝するが、魔物に屈服するつもりはない」

魔王「俺はただ、この村を守護するために魔物を住まわせろと言っているだけだ。他に何の要求もしていない」

首長「信用できない、と言っているんだ。人間に襲われ、その上魔物など冗談ではない」

エルフ「どうして? この人は私を助けてくれたのよ!」

首長「人間を護衛に連れて歩く者を信用できるわけあるまい」

魔王「これでもお前達に配慮して村の入り口に待たせてあるのだが、それでも足りぬと?」

首長「当然だ。……本当に魔王かどうかも、いや、魔物かどうかすら怪しいものだ。あの人間どもの手先の可能性すらある」

エルフ「パパ、なんでそんなこと言うのっ! ……もういい、それなら私、この人に付いていくから!」

首長「せっかく戻ったというのにバカなことを言うな!」

エルフ「この人の方がパパなんかよりずっと好きだもん!」

首長「この……っ!」

魔王「……もういいだろうか?」

首長「家族の話をしているのだ、邪魔をしないでいただきたい!」

魔王「だから、俺が魔王である証拠を見せればいいのだろう」

首長「そんな物がどこにある?」

魔王「よく見ておけ。……ハァァア……アァアァ……ウァ、アァァアア……!」

変容はまず瞳に現れ、血と膿を混ぜたような澱んだ色へ変化し、

やがて肌が濁った金属の光沢を帯びて、筋肉は数倍にも膨張し、

人の形を保っていた顔が醜悪な獣へと歪んでゆき、ソレは人を模して作られた空想の怪物となった。

元に倍する体躯は対面した者を威圧し、その狂気を模った瞳は見る者から正気を奪い、

ただでさえ歪な怪物に妄想のおぞましさを加える。

今や、豊かと言えないまでも感情を表現していた顔から面影は消え、

残されたのは人を恐怖せしめる無機質さだけだった。

全員が言葉を失っていた。

感情はまだ驚きにも怯えにもならず、ただ目の前の現実が信じられない故に、

皆、微動だにせず怪物を見つめていた。

その反応を確認すると怪物は大きく頷き、さきほどの変化を逆回しに、

しかし、見る者にはより不気味に――怪物が人の皮に潜り込むように――変容していった。

やがて、男が現れた。

何も変わらぬ元通りの姿で、さきほどの出来事が白昼夢であったと言うように、泰然として。

魔王「納得したか?」

首長「……あ、ああ、ああ……わかった……わかった、私が……間違って、いた……」

魔王「……」 ジロッ

エルフ「ひっ!? ひっ、ひっ、ひぁ……あ……っ」 チョロロロッ

首長「……あなたの、いえ、魔王様の、要求は……呑みましょう……ですから、もう……」

魔王「理解が早くて助かる。数日以内に使いの魔物が現れる。村の外れにでも住まわせておけ。では、失礼する」 スタスタ

エルフ「バケモノ……バケモノ、バケモノ、バケモノ!!!」

首長「落ち着け、もう大丈夫、大丈夫だ……」

音無「消えるのか?」

俺のパンツ「ああ。」

PCフリーズしてた

女騎士「主! 良かった、あまりに遅いので様子を見に行こうかと……」

魔王「行くぞ」

女騎士「……何か、ありましたか?」

魔王「何も。俺達には時間がない、長居は無用だ」

女騎士「そうですね。戦争が始まる前に魔王を倒さねばなりません」

魔王「ああ。戦争が始まる前に、すべて終わらせなければな」

女騎士「ええ、では行きましょう」

魔王「またお前と二人か」

女騎士「嫌ですか?」

魔王「いいや。悪くはない」

魔王(……少なくともお前は、俺に剣を向けはしても、怯えはしないだろうからな)

魔王「急ぐぞ。日暮れ前には森を抜ける」

女騎士「はい!」

そして森を抜け、草原を走り、川を越え、荒野を進み……。

幾夜を重ね、ついに二人の旅は人類未開の地、魔王領へ至る。


女騎士「……おかしいですね」

魔王「何がだ?」

女騎士「いえ。私達はずいぶん前に魔王領に入っているはずなのですが……」

魔王「人里も見かけなくなったな」

女騎士「なぜ、魔物に出会わないのでしょうか?」

魔王「偶然だろう」

女騎士「……いいえ。冒険者や小規模な遠征軍の報告では、魔王領に侵入した際に何度も魔物に襲われたと」

魔王「……」

女騎士「奇妙です」

魔王「奇妙でも現実はこうなのだから、そういうこともあるのだろう」

女騎士「……我々の襲撃を察知した魔王が待ち伏せているのでは……」

魔王「魔王がそれだけの情報網を持っていれば、人間はとっくに滅ぼされているだろう」

女騎士「……よく、わかりません」

魔王「何がわからない?」

女騎士「私達にわかるのは、魔王が人の敵ということだけです。私達はあまりに魔王を知らない」

魔王「だから、どんな可能性もありうる、と?」

女騎士「警戒するのが最善かと」

魔王「まあ、そうだな」

女騎士「安心してください、たとえ私の命に代えても主を護ります。敵が魔王であろうとも、それだけは必ず果たしてみせます!」

魔王「……ああ」

女騎士「……伝承通りならば、もうじき魔王城が見えて来るはずです」

魔王「いよいよ、か」

女騎士「ええ」

魔王「……結局人は、すべての生き物は、自分の生きたいようにしか生きられない」

女騎士「それはどういう意味でしょうか?」

魔王「信念の話だ。生き物は、こうあろうと望んだ形にしか生きられない」

女騎士「しかし、この世界に望んだ形に生きられる者がどれだけいますか?」

魔王「それは結果だ。たとえ結果が望み通りでなくとも、生きる形は信念が決めるものだ」

女騎士「……弱者は信念がないから、他人に生き方を歪められると言うのですか?」

魔王「信念に正誤はなく、より強い信念こそが、この世を支配する。俺はそう考える。……世界のルールを変えたいなら、強く願うことだ」

女騎士「……私には難しい話です」

魔王「時間潰しのくだらない問答だ、気にするな」

女騎士「ですが主の考えを理解するのも騎士の……あれは?」

二人の前方に小高い丘が見えている。

最初は変哲もない自然の風景と気にも留めなかった女騎士だったが、近づくにつれて違和感が生まれていた。

何かがある。丘を埋め尽くす何かが。魔物かと警戒するには生命の気配が感じられない。

判断しかねた女騎士は己の主に問いかけたが、返事はなかった。

結局、丘を迂回して先に進むことにした。

やがて視界を塞いでいた丘を通りすぎると、そこには旅の目的地、魔王城がその荘厳な姿を見せた。

女騎士「これが、魔王城……」

魔王「怖気づいたか? 今ならばまだ引き返せるぞ」

女騎士「まさか。今魔王を討てば多くの人が救われるのですよ」

魔王「それが、お前の信念か」

女騎士「ええ。誰かを救えるならば、私は戦いを躊躇しません」

魔王「……」

女騎士「どれだけの魔物が城を守っていようとも、私と主の前に立ちはだかる敵すべてを蹴散らせてみせましょう!」

女騎士「……城門が開いています。やはり罠ですか」

魔王「だろうな」

女騎士「……たとえ罠だとしても、この城が魔王の拠点である事に変わりはありません」

魔王「この城を制圧すれば、少なくとも戦争の被害を抑えられる、か」

女騎士「正体不明の魔王といえど、自分の城を捨てる愚も犯さないでしょう。敵はこの城の何処かにいるはずです」

魔王「行くのか」

女騎士「ええ。行きましょう」

女騎士「ここも魔物の気配がない……」

魔王「……」

女騎士「生活の痕跡はあるというのに、なぜ……?」

女騎士(城門を開ける程度ならともかく、この手際は、ずっと以前から襲撃に備えていたかのような)

女騎士(そんな馬鹿な。襲撃を予見していたなら、ここに至るまでに妨害をしないはずがない)

女騎士(よく考えなければ……私の判断ミスで主を危険に追い込むわけにはいかない……)

女騎士「主、気を付けてください。どうも様子が……主?」

女騎士(主がいないっ!?)

女騎士「主! どこです、主!」

女騎士(嘘だ、ついさっきまで私の隣にいたのに、なぜ? まさか魔物が? 女騎士主とて悪漢十人を軽々と退ける御人だというのに、どうやって?)

女騎士「主! ……主様っ!」

女騎士(大丈夫、大丈夫だ。連れ去られたならば、おそらくは人質。主は無事だ。無事なはずだ)

女騎士「主! 必ず私が助け出します! どうか辛抱してお待ちください!」 タッタッタッタッ

女騎士(主はこの城の何処かにおられるはずだ。無事なはずだ。でなければ、私は――)

あ、ごめん。みすった

× 女騎士(嘘だ、ついさっきまで私の隣にいたのに、なぜ? まさか魔物が? 女騎士主とて悪漢十人を軽々と退ける御人だというのに、どうやって?)
○ 女騎士(嘘だ、ついさっきまで私の隣にいたのに、なぜ? まさか魔物が? 主とて悪漢十人を軽々と退ける御人だというのに、どうやって?)

まあ、ただの中世ファンタジーだよね。だから魔王×勇者じゃないし

いや、フツウノファンタジーってゲームのことだと思うぞ
魔王と勇者が一緒に旅する。内容はぜんぜん違うけど

女騎士「主っ! ああっ、良かった! よくぞご無事で……」

魔王「……」

女騎士「なぜお一人でこんな所に来られたのですか。私がどれだけ心配したと……」

魔王「静まれ」

女騎士「……?」

魔王「……歴史の話をしてやろう」

魔王「かつて人と魔物は戦争をしたが、双方がその無益を悟って、やがて終結した」

魔王「時は流れる。人は過去を忘れる。魔物の土地を侵し始め、それを己の領土と言い始めた」

魔王「多くの魔物が殺された。魔物を名乗らない異種族も殺された。すべて人が殺した。人以外のすべては耐え続けた」

女騎士「……事の真偽はともかく、なぜ今そんな話をするのです?」

魔王「お前は墓を見たはずだ。あの丘を埋め尽くす嘆きを見たはずだ。苦しみ死んでいった者達の成れの果てを見たはずだ」

女騎士「墓? 丘というのは、まさか……」

魔王「お前が見たのは、人間に滅ぼされ、弔う者もなくなった集落や群れ……殺された者達の墓場だ」

女騎士「……なぜ貴方が、主がそんなことを知っているのですか……?」

>>145
そうなんですか。面白そう

魔王「言わなければ、わからないか?」

女騎士「わかりません! わかるわけがないでしょうっ!?」

魔王「なぜこの城に誰もいないのか、わからないか?」

魔王「なぜここまで魔物が襲って来なかったか、わからないか?」

魔王「なぜ俺が人の忘れ去った歴史を知っているか、わからないか?」

魔王「なぜ俺が人の国の様子を見て回っていたか、わからないか?」

魔王「なぜ俺がお前と共にこの城まで来たか……本当にわからないのか?」

女騎士「……そんなわけ……ありません……」 フルフル

魔王「ここが俺の城だからだ。ここが俺の国だからだ。ここが俺の場所だからだ。……これこそが俺の玉座」 スッ

魔王「魔王の玉座だからだ」

女騎士「嘘……嘘です! そんなの、嘘だ……嘘だっ!!!」

魔王「……ようこそ、勇気ある者よ。魔王としてお前の来訪を歓迎してやろう」

女騎士「……」

魔王「ここまで来たというのに、そのままじっとしているだけか?」

女騎士「……貴方は……お前は、我々人間が悪だと言うのか?」

女騎士「我々が悪ならば、魔物は何だ? 人間を殺す魔物達は? あれだけ残酷な真似をする魔物が善だと言うのか!」

魔王「お前が殺してきた者達のことか? 悪いが、人の領域を侵した者達の末路など、俺の知った事ではない」

女騎士「だから……貴様に、魔物達に罪はないと?」

魔王「ふぅ。……領域を侵した者達の末路は、人も魔物も同じだ。人間同士なら? 他国の者が暴れ回れば殺されて当然だろう」

女騎士「ならば貴様が起こす戦争で餓え苦しむ人々はどうなるっ!? それが貴様の咎でなくてなんなのだ!?」

魔王「咎であろうな」

女騎士「ならば、なぜっ!?」

魔王「あの丘を見ろ。丘はこの玉座から窓越しに俺を見ている。あれが咎だ。人と争わぬよう努めた俺の咎だ」

女騎士「なぜ戦いを選ぶっ!? 他に道がなかったはずがないっ!」

魔王「では今すぐ示してみろ。これ以上俺の領民が死なず、争いを避けられる方法、今すぐに示してみせろ」

女騎士「……そんな事が、できるはず……」

魔王「ならば、ないのだ」

女騎士「ルールは変えられると、強く願えば変えられると言ったのは、貴様だろうっ!」

魔王「変えられるかもしれない。だが、そんな不確実な方法で、これ以上民を見殺しにするならば……俺は戦いを選ぶ」

女騎士「……なぜ、こんな話を私にする? 何が目的だ」

魔王「選ばせるためだ」

女騎士「何を?」

魔王「俺の手を取るか、剣を取るか。好きな方を選べ」

女騎士「バカな、私が魔王の手を取るなどっ!」

魔王「お前は弱い者が泣かない世界が欲しいのだろう。なぜそれが俺の作る世界であってはいけない?」

女騎士「……」

魔王「よく考えてみろ。人間が善か? 魔物が悪か? お前ならばそれが間違いだとわかるはずだ。……さあ、選ぶがいい」

女騎士「……このお守りを覚えていますか?」 スッ

魔王「ああ」

女騎士「あの姉弟は、今もあの荒廃した街で暮らしているのでしょうね。明日の希望を必死に探して、支え合って生きているのでしょうね」

魔王「そうだろうな」

女騎士「……たとえ人が善でなくとも、私の行いが正しくなくとも……私は、彼らを裏切れない。なぜなら私は、人間だから」

魔王「ふん。……お前ならそう言うだろうと思っていたよ」

女騎士「……私達の出会いは、偶然でしたか?」

魔王「さあな」

女騎士「私が貴方を好きになったのは?」

魔王「さあな」

女騎士「……酷い人ですね。何も教えてくれないなんて」

魔王「俺とお前の間には最初から何もなかった。それでいいだろう」

女騎士「最後に、ひとつだけ」

魔王「なんだ?」

女騎士「貴方の気持ちは? 私への気持ちは?」

魔王「……忘れたよ。お前は人の勇者で、俺は魔物の王だ。それがすべてだ」

女騎士「……そう」

魔王「……そうだ」

女騎士「さよなら、私の主様。……私は貴方を殺して人を救う」

魔王「じゃあな、俺の騎士。……俺はお前を殺して人を滅ぼす」

女騎士「……いざ、参る!」

魔王「くくっ、はははっ、あアァハァハァハァハァアアアアッ!!」

二人の戦いの結末は、歴史には記されていない。

人と魔物の戦争は、結局、どちらの勝利とも言えない膠着状態のまま終わった。

世界には仮初めの平和が戻った。いずれまた戦争は起きるだろう。

しかし束の間の平和の中で、人々はたくましく日々を生きてゆく。

……夕暮れの丘、墓の間を小さな子供が歩いている。

影から影へと飛び跳ね、子供は勢い余って転ぶ。

大きな声を上げて泣き出した子供は、母親を振り返って手を差し出す。

母親は首を横に振り、両手を広げる。

子供は立ち上がり、ふらつきながらも母親の胸へと飛び込んだ。


「……よく頑張ったわね」

「……風が強くなってきた。戻るぞ」

「はい……貴方」


影は寄り添いながら、ゆっくりと丘をくだる。

夕暮れは地平線の彼方、世界を橙色に染めていた。

終わり。苦情は聞くだけなら受け付ける

魔王のバックボーンが薄かった
全体として良かった乙

>>179
『』だけで登場する腹心がこの後本登場して色々語る、という展開も考えないでもなかったが、
なんか、ほら、面倒じゃん

即興じゃないから余力もあるし、書き終わって半日くらい経ってるからテンションも普通に話せるんで、
罵倒から質問まで受け付けるよ

>>188
参考にした作品とかはある?

あと聞いてほしい愚痴がちょっとある

結末みた感じ騎士ちゃん負けたん?

SS系の板じゃなくてなんでここに書き込もうと思ったの?

>>190
聞きたくないです別にスレ立てて叩かれて荒らされてください!!

最後の丘の墓場にいる夫婦は

>>188
なんだかんだで正体を打ち明けた魔王に女騎士さんはご褒美孕ませセックスしてもらえたんですよね?
子供は養子ではないですよね?ね?

>>189
参考と言えるかわからないけれど、魔王はラハール殿下が大人になった姿で再生されてる
変身後の姿と迫害されてるイメージは、昔読んだ天帝妖狐という小説の主人公から引っ張った
他の大まかな所は、中世ヨーロッパの資料から適当に妄想した

>>191
俺も知らない
結局どっちかが勝って、なんやかんや殺せなかったんでしょうね
>>192
投下ペース考えればSS速報に立てれば良かったとすぐに思った。間違った
>>195
既に登場してる人物
>>196
まあ多分

ラハールって何だ日本一厨か
死ね

>>193
立てるほどないし、すぐ終わるからどうか

>>205
十年近く前に初代だけをプレイした俺が厨なら、まあ

>>190
んで、どしたのよ

>>213
どこから話せばスッキリするか考えてたら長くなった

元々こういう感じの、魔王と女騎士があれこれするだけの話が書きたいと思って書き溜め始めたんだけど、
書いてる内にとても脱線したんだよ
エルフのくだりがあっさりしすぎておかしいと思った人がいたら、多分そのせいで、
最初書いた時は、エルフの村だけで今書き込んだ量の1/3くらいはあって、女騎士と同格のヒロインの子が一人いた
その時は奴隷にされてたエルフの娘は三人だったし、一人が首長の娘で、一人がヒロイン格だった
でも、そんなの構想になかったし、どんどん女騎士から話がズレてくし、どうしようもなくなって全てカットした
そのエルフのヒロインの存在を抹消した結果、とてもスムーズに話が進み、どうにかこうやって完結した

上手く供養する方法も思い付かないし、こうやって愚痴って終わりってことにしたい。どうもありがとう

>>214
じゃあそのヒロインエルフたんと俺のエロSSを今から書くってのはどうかなぁ(満面の笑み)

解決方法が他に思い付かなかったとはいえ、
普段即興でしか書かないから、書いたお話とキャラクターを切り捨てたのが、うまく自分の中で処理できなかった

>>216
自分で書けばいんじゃないかなぁ

>>214
それはそれで気になるエピソードだけど、エルフたんは魔王の恐怖おぞましさを引き立てる役にいい感じにハマったとおもうよ~

それより腹心の魔物の存在がもったいない感じに思えました。人気でそうなキャラ

あと女騎士が魔王に執心するキッカケや、魔王の人格のエピソードがもう少し欲しがったです

ちょっと事情があってトリップ付けたいけどつけ方忘れた。#って全角だっけ。半角だっけ。ていうか文字数って何文字までだっけ

>>218
うん。全体的にエピソードが足りなかったと思うよ

あと個人的な嗜好なんですが、女騎士が魔王に欲情するキッカケ的なエピソードとか、その気持ちに対する葛藤(何を考えているんだ私は…バカバカァ!)的な要素も欲しがったです。

トリップテスト

>>221
ラブコメの需要は他の供給で満たしてくれると助かる

結局戦争は延期されただけで領土の問題は解決してないし
飢餓は延々と続いてるし奴隷もなくなってないしお墓も増え続けてるはずなのに
女騎士たんも魔王たんもどうしてそれで平和に暮らせるん?

>>220
次も気になるのでコテ推奨
#(半角)のあとに8文字までの半角英数ですよ

周りじゃなく書いた奴が糞スレにする珍しいパターン

>>225
省いた描写について俺があれこれ言っても仕方ない気はするけど、
普通に戦争以外の手段を講じてるんじゃないかと思うよ
俺の描写だと元々ろくに人と魔物の間で話し合いさえしてない臭いし、エルフ含む異種族との連携もろくに取れてないっぽいし、
課題は色々あるんじゃね
>>226
8文字越えてるし全角の漢字入れてるけど大丈夫だった
とりあえずこれでいいや

>>228
書き終わって時間空けちゃうと、わざわざ人格者のフリしたり、綺麗にスレを終わらせて消える気もしなかったりするね

んじゃお疲れさん。読後感台無しって人がいたら謝ってはおくけど、俺はスッキリした
すいませんでした。さようなら

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