猫「今日もまた雨か……」(143)

――ポツポツ ポツポツ

猫(……雨か)

猫(今日もまた長く降りそうだ気配だな)

猫(餌探しはヤメて宿探しに変更しよう)

>>1はスレ立て代行頼みました。
ありがとうございます。

以下、本編を始めます。

▼公園・公衆トイレ前

――ザァァ。

猫(そういや、あの時もこんな雨だったか)

猫(濡れたダンボール箱、少量の餌)

猫(あの人何か言いながら俺の首輪を外してた)

猫(いくら鳴き続けてもあの人は戻って来なくて)

猫(そうして三日経ってようやく)

猫(捨てられたんだって気づいたんだっけな……)

猫(もうやめよう。考えるだけ不毛だ)

猫(あの頃と俺は違う)

猫(寝床も餌も自分で探せる)

猫(俺はもう一人で生きていける)

猫(一人で、生きていけるんだ……)


猫(ん? 誰かやって来る)

タッタッタ

女「…………ふぅ」

猫(なんだ? コイツも雨宿りか?)

猫(まぁ俺には関係無いけどな)

女「……キミも雨宿りかい?」

猫「……」

女「耳、破れてる。痛そうだね……」

猫「……」

女「雨、早く止むといいね。キミも早く家に帰りたいだろう?」

猫「……」

女「え~っと。私の声、聞こえてるかな?」

猫「……」

女「……無視されちゃったか。ごめんね」

猫(何か言われた気がするが……)

猫(気にしたって何も聞こえないし、どうでもいいか)

猫(しかし音の無い世界ってのはずいぶんと不便で退屈だ)

猫(雨音すらも全然聞こえねぇ。どんな音だったっけな)

猫(まったく退屈だ。こう体が濡れてちゃ毛づくろいもする気も起きねぇ……)

女「……ねえ?」

猫「……」

女「もしかして、本当に聞こえてないの?」

猫「……」

女「……」スタスタスタ

猫「……」

猫(雨なんて結局、避ければ濡れずに済むんだ)

猫(つまり当たらなければどうということはない)

猫(俺の運動神経なら軽く避けられんじゃないか?)

猫(右左右右左右左右左左左右)

猫(うん。やっぱり俺ならいける。いつか試して――)

女「ねえ?猫君?」

猫「!?」ビクッ

猫(何だコイツ!いつの間にこっちに来たんだ!?)

女「やっと気づいてくれた。やっぱり耳が聞こえないんだね」

猫(ハァ?何喋ってんだ?こっちは聞こえねんだよ)

女「驚いても逃げないなんて、キミはきっと強い猫なんだね」

女「あっ、そうだ!」ゴソゴソ

猫(なんだよ。何しようってんだよ)

女「ほら。お昼ごはんの残りだけどあげるよ」

女「こんなのしか持ってないけど、食べる?」

猫(なんだアレ……)

猫(真っ白くてツヤのある謎の物体だ)

猫(どことなく魚の良い匂いはするが……)

女「かまぼこだよ。ほら、食べれるよ」パクッ

猫(うわ、口に含んだ……。食えるのか、それ)

女「ほら。食べなよ」ポイッ

猫(こっちに投げた)

猫(……くれるってことか?)

女「……」モグモグ

猫(そういや、この雨で餌探し出来なかったもんな……)

女「……」モグモグ

猫『……すまない。恩に着る』
 「ニャー」

女「おっ。ようやく喋ってくれたね」

猫「……」パクッ

女「意外とカワイイ声だね。目つき悪いのに。ふふっ」

猫「……」モグモグ

女「キミを見てると、昔飼ってた猫を思い出すよ」

猫「……」モグモグ

女「ねぇ。少し聞いてもらえるかな?」

女「……って言ってもキミには聞こえないんだろうけど。あはは」

猫「……」モグモグ

女「私ね、子供の頃にキミみたいな猫を飼ってたんだ」

女「ムックって名前の猫」

女「真っ白なのに、お母さんがムックって付けちゃったんだ」

女「おかしいよね。でもね、なんか妙に合ってて」

女「気が付いたらみんなそう呼んでたんだ」

女「ご飯を食べる時も寝る時もずっと一緒でね」

女「私、ムックと一番の仲良しだったんだよ」

女「私あまり友達がいなかったから」

女「学校から家に帰るのが毎日楽しみでしかたなかった」

女「ムックと一緒にいる時間が大好きだったんだ」

女「けれどその時間も3年しか、たったの3年しか続かなかった」

女「ムックはね、病気で死んじゃったんだ」

女「あの時は散々泣いたなァ」

女「何ヶ月も本当に何もする気力が無かった……」

女「思い出すと今でも胸が苦しくなるよ……」


女「でもね、悲しかったことより今は楽しかったことを思い出すように――」

猫「……」チョコン

女「あれ、もう食べ終わってた?」

猫「……」

女「ごめんね。話が長かったね」

女「聞いてくれてありがとう」

猫「……」

猫(何かまた色々喋ってたようだけど)

猫(俺、アンタが何言ってるのかわからんのよ)

猫(ただ、飯はうまかった)

猫『ごちそうさま』
 「ニャアー」

女「“ごちそうさま”って言ってるのかな?」クスッ

猫(実はかなり腹ペコだったんだ。助かったよ)

猫『ありがとさん』
 「ニャーオ」

女「今度は“ありがとう”かな?」クスッ

女「どういたしまして」

猫(アンタは良い奴なんだな)

猫(この一飯のお礼、俺は忘れないぜ)

女「あの……かまぼこあげた代わりにさ」ウズウズ

女「ちょっと撫でてもいいかな?」ソ~ッ

猫(おっと。だからって気易く触らせはしないぜ)ヒョイ

女「あっ。避けられた……」

――ポツリ、ポツリ。

女「ようやく雨が止みそうだね」

猫(雨そろそろ止むか)

猫(しかし、腹が膨れて今は動きたくねぇ)

女「……あのさ」

女「またキミに会いに来ても……いいかな?」

猫「……」

女「またご飯持って来るから」

女「触れなくてもいいから」

女「また来てもいいかな?」

猫「……」

女「……なんて。キミからすれば、私なんて興味無いよね」

女「それじゃ、バイバイ」スタスタ

猫(ん? アンタ帰るのか?)

猫『気を付けて帰れよ』
 「ニャー」

女「!?」

猫『図々しくて悪いが、次もまた何かくれると助かる』
 「ニャー、ニャー」

女「……うん。ありがとう、また来るよ」

女「またね。“ムック”」バイバイ

猫(……そしてまた一人か)

猫(人との交流は久しぶりだな)

猫(むしろ飼い主以来か?)

猫(そういえば、俺の飼い主はどんな人だったけか)

猫(……全然思い出せん)

猫(そりゃそうだ。俺もまだ子猫だったしな)

猫(唯一覚えているのは、最後の雨の日だけか……)

▼後日……

女「ムック」

猫『おぉ。アンタか』
 「ニャー」

女「ようやく覚えてくれたみたいだね」

猫『アンタの顔覚えたぜ。相変わらず何言ってるかはわからないがな』
 「ニャァー。ニャー」

女「そろそろ触らせてくれるかな……」ソ~ッ

猫(だが、まだ触れさす程俺は甘くない)ヒョイ

女「うぅ~。イジワルだね、キミは……」

これって仕事しろとか書いていた人?

猫「……」パクッ モグモグ

女「ホント、ムックは小柄なのに良く食べるよね」

女「野良なのに毛並みも悪くないし」

女「元々どこかの飼い猫だったのかな」

女「……それでも、こうして生きているキミはたくましいね」

猫「……」モグモグ

猫『ごちそうさま』
 「ニャー」

女「ムックは食べ終わると必ず鳴くんだね。お礼なの?」

猫『今日の飯は美味であった』
 「ニャー」

女「ふふっ。どういたしまして」クスッ

女「それじゃ、また来るね。ムック」

猫『気をつけて帰れよ』
 「ンニャー」

女「またね」バイバイ

猫(まさか、あの日から毎日来るとはな)

猫(ずいぶん酔狂な人間もいたもんだ)

猫(いや、大変ありがたい。大いに助かる)

猫(しかし、狩りの仕方を忘れてしまいそうだ)

猫(たまには自分で餌を取りに行かねばな)

ムックは猫種はなんだろう

猫(人間と触れ合うのがこうも幸せなことだとは)

猫(全く思いもよらなかった)

猫(こんな感じ初めてだ……)

猫(おそらく俺はアイツに名前を付けられている)

猫(よくわからないが“ 、 、 ”と呼ばれているのはわかる)

猫(名前か。俺の元の名前は何だったんだろう)

猫(あの時。首輪を外される時、何か言われてたけど)

猫(アレは名前を呼んでたんじゃない)

猫(アレはおそらく……懺悔だ)

猫(そして、あの日から俺は一人になった……)

猫(いや、俺はもう一人じゃない)

猫(今はあの、酔狂なアイツがいてくれるんだ)

猫(……)

猫(まぁ。そろそろ触れさせてやってもいいかな)

猫(やれやれ。俺も甘くなったもんだ)

▼翌日

――ザァァァ。

猫(今日は一日中雨か)

猫(どうにも雨は好きになれない)

猫(身体が濡れるのが嫌なのもあるが)

猫(やはりあの日のトラウマが大部分か)

――ザァァァ。

猫(……)

猫(……)

猫(……)

猫(……)

猫(……アイツ、遅いな)

猫「……」

▼翌日

――ザァァァ。

猫(……今日もまた一日中雨か)

猫(結局アイツ来なかったな)

猫(まぁそういう日もあるだろう)

猫(この雨だ。ここへ来るのも一苦労だろうしな)

猫(……決して、寂しいわけではない)

▼翌日

――ポツリ、ポツリ。

猫(……)

猫(三日続けて、今日もまた来る気配は無い)

猫(良い奴だと思ったんだが)

猫(やはり気まぐれだったのか……)

猫(まぁ慣れたもんだろ。捨てられるのは)

猫(擦れられるのは……)

「訂正」

×:猫(擦れられるのは……)

○:猫(捨てられるのは……)

猫(わかってたハズだ)

猫(人間ってのは所詮そんなもんだってこと)

猫(都合が悪くなれば簡単に捨てることも)

猫(……所詮俺は野良猫だ)

猫(元から頼るものは何もない。何も頼らない)

猫(そうだよ。そうなんだよ……)

――ザァァァ。

女「ムックー!」

女「ねぇ!ムックー!」

猫「……」

女「よかった、そこにいたんだ」

猫「……」

女「ゴメンね、何日も来れなくて。今日も御飯持ってきたよ」

猫「……」

女「?」

猫「……」

女「ほっ、ほらコレ」

女「今日は奮発してみたんだ。猫缶だぞ」パカッ

猫「……」

女「どうしたの?具合悪いの?」

猫「……」

猫(腹減った。あんなご馳走見たことない)

猫(見せびらかしやがって)

猫(俺はもうアンタの物には手を出さない)

猫(俺はもう誰も頼らない)

猫(決めたんだ、俺は)

猫(結局の所、アンタも俺を捨てたアイツと同じだよ)

猫(気まぐれで相手して、飽きたら捨てる)

猫(自分の都合が悪くなると俺を忘れて)

猫(自分の都合の良いように俺を忘れていくんだ)

猫(今までアンタに甘んじていた俺にも非はある)

猫(アンタを責めるようなことはしない)

猫(だからアンタも)

猫(あの日のように俺を捨てることになるなら)

猫(あの日のように全て奪うなら)

猫(もう何も与えないでくれ……)

猫「……」スタスタ

女「ムック?どこに行くの?」

猫「……」スタスタ

女「ほら、猫缶だぞ?おいしいぞ?」

猫「……」スタスタ

女「もしかして、来なかったから怒ってるの……?」

猫「……」スタスタ

女「ねぇ。ちょっと待って――」スッ

猫『俺に触るなっ!』
 「シャーッ!」

女「!?」ビクッ

猫「……」スタスタ

女「……ムック」

――ザァァァ。

猫(しかしまぁ、ずいぶんと降るもんだ)

猫(空ってのはどれだけ水を溜めこんでるんだ?)

猫(そもそも何で雨が降るんだ?)

猫(空は泣くのか?これは涙か?)

猫(……あぁ。肌に当たる雨粒が痛いな)

猫(今までで一番痛い。あの時よりも……)

――ザァァァ。

猫(俺は野良猫、元から一人だ)

猫(元に戻っただけ。それ以上でもそれ以下でもない)

猫(慈愛のフリでを差し伸べられるエゴならいらない)

猫(甘んじて期待させられるから裏切られたよう思うんだ)

猫(だから俺はアイツとの関わりを絶つ)

猫(それでいいんだ)

猫(けど、俺はわかってる……)

猫(本当はわかってるんだよ)

猫(一人になるのが悲しいんだよ!寂しいんだよ!)

猫(本当は、俺は……)

猫(俺は!一人になんてなりたくなかった!)

猫(何でだよ!何で捨てるんだよ!)

猫(何でこうなるんだよ……)

猫(いくら嘆いても、誰にも届きやしない)

猫(届いた所でどうせまた捨てられる)

猫(だからこそ俺は)

猫(独りにならなくちゃいけないんだ)

猫(独りで生きていかなくちゃいけないんだ)

――ザァァァ。

猫(一向に止みそうにないな)

猫(……)

猫(アイツは帰っただろうか)

猫(帰っただろうな……)

猫「……」

猫(思えば、アイツも驚いただろうに)

猫(数日振りに会ったと思ったら)

猫(俺の態度が豹変しているんだからな)

猫(理解できないって顔してたよな)

猫(あっちからすれば裏切ったのは、俺か……?)

猫(いや、でも……)

猫「…………」

猫(アイツは俺を捨てた奴と同じ)

猫(……本当に同じなのか?)

猫(あの雨の日、あの人は帰って来なかった)

猫(いくら呼んでも、助けを求めても)

猫(あの人は振り向きすらしなかった)

猫(でもアイツは……)

猫「………………」

猫(……少しだけ、様子を見に行くか)

――ザァァァ。

猫(……)スタスタ

猫(雨が冷たい。痛い)

猫(こんな様子じゃ、もうとっくに帰って――!?)

女「……」

猫(まさかいるとは……)

猫(こんな土砂降りの中ずっと立ってたのか?)

猫(何故だ?何でだ?何の為に?)

猫(まさか……もしかして)

猫(俺が来るのを待ってたのか……?)

猫 スタスタ

女「……あっ」

猫『何してんだ。せめて雨宿りしたらどうだ』
 「ニャー」

女「ムック……」

猫『どうした?アンタ、泣いているのか?』
 「ニャァー。ニャー」

女「ムック……ごめんなさい!」

女「何日も放ってしまってごめんなさい!」

猫『おいおい、どうした?どこか痛いのか?寒いのか?』
 「ニャーオ、ニャーォ」

女「ムックを捨てた訳じゃないだよ!本当に心配だったんだよ!」

女「ずっと心配だったのに、でも来たくても来れなくて」

女「なのにムックは待っててくれてたんだよね。本当にごめんね……」

女「捨てたって思われて当然だよね」

女「嫌われて当然だよね……ごめんね」

猫「…………」

猫(……すまない)

猫(俺には今、アンタが何を言ってるかわからない)

猫(もし俺の耳がちゃんと聞こえてても)

猫(きっとその言語は理解出来ないんだろうな)

猫(でもわかる。アンタの思いはちゃんと通じてるよ)

猫(その顔見りゃ大体わかるけど)

猫(でもそれだけじゃない)

猫(きっと、俺とアンタは今、同じ気持ちだろうからさ)

猫『すまん。悪かった』
 「ニャァ」スリスリ

女「!?」

猫『勝手に怒って、捨てられたと決めつけてゴメン』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

女「ムック……」ナデナデ

猫「ゴロゴロ」

女「許してくれるの……?」

猫『許して欲しい』
 「ニャァ」

女「ムック、ありがとう……」ナデナデ

猫「ゴロゴロ」

猫『泣きやんだか?』
 「ニャー」スリスリ

女「ごめんね。本当にごめん」

猫(まだ泣いてるのかよ)

猫(なぁ。いつもみたいに笑えよ)

猫(笑えるまで傍にいてやるからさ)

猫『ニャー』

猫(アンタは裏切らない。あの人とは違う)

猫(今はもう心からそう思ってる)

猫(いつでも来いよ。俺はここにいるから)

猫『俺はここで、アンタが来るのをずっと待ってるよ』
 「ニャー、ニャー」スリスリ

女「ふふっ」クスッ

女「私、約束するよ」

女「これからずっとここに来るから」

女「来れない時もあるかもしれないけど……」

女「絶対ムックの所に来るから、待っててね」

女「これかもっと仲良しになろうね」ナデナデ

猫『ニャーオ』

――ポツリ。ポツリ。

猫(雨、止んだか)

女「雨、止んだね。よかったねムック」

猫(アンタもようやく泣きやんだみたいだな)

猫(きっと雨が全部洗い流してくれたんだな)

猫(俺の心の泥も、アンタの涙も)

猫「……」パクッ モグモグ

女「ふふっ」ナデナデ

猫『ごちそうさまでした』
 「ニャー」

女「どういたしまして」

女「それじゃ、また明日も来るね」ナデナデ

猫『ニャー』

猫(俺、t待つよ。アンタが来るのを)

猫(これは約束の証だ)ペロペロ

女「はは、くすぐったいよ」クスクスッ

猫「ゴロゴロゴロ」

女「ふふっ。またね。ムック」バイバイ

猫『またな』
 「ニャーォ」

▼翌日

――ポツリ ポツリ

猫(今朝から降ってた雨もようやくやんだか)

猫(こんなに気持ちが晴れ晴れとしたのは初めてだ)

猫(せっかくだ。今日は外に出てみよう)

猫(この公園を出るのは何年ぶりだろうか)

猫(この耳じゃ外は出るのは危険だから禁止にしていたけど)

猫(今の俺なら何でもできる気がする)

猫(街中でふとアイツに出会えたら)

猫(アイツはどれくらい驚くだろうか)

猫(喜んでくれるかな)

猫(いつもみたいに笑ってくれるかな)

猫(何だか気持ちが高揚してきた)

猫(アイツに会ったら、何て話しかけ――)




――キキィッ! ドン!



猫(………………)

猫(………………)

猫(………………)

猫(………………)

猫(……今、何が……あったんだ?)

猫(何かデカイものがぶつかってきて、それで――)

猫(あぁダメだ……わかんねぇ……)

猫(起き上がれねぇ……)

猫(身体が重い……)

女「――――!―――――!」

猫(あぁ……アンタか)

女「―――――――!――――!」

猫(本当に、会える、なんてな)

猫(予想以上に、驚いて、るけど)

女「――!――――!―――!」

猫(どうした?また、泣いてんのか?)

猫(アンタ実は、泣き虫、なんだな……)

猫(どう、した?また、どっか痛いのか?)ペロ…ペロ…

女「――!――――!」

猫(すまん、な。こんな、ことしか、できねぇ)ペロ…ペロ…

女「――――!――!――!」

猫(悪い……ちょっと……眠く、なって……きた)

女「――!――!――――――!」

猫(大……丈夫。寝る……だけ……だよ)

猫(明日も……ちゃんと、待って、から)

猫(俺、ここ、いる……から)

猫(ずっと、傍……いる、か、ら)

猫(アンタ、の傍、に……さ)

猫(あぁ……今朝まで、雨……降って、のに)

猫(空が、綺、麗――――――――

――――――

――――

――



-




女「ムック……嘘でしょ……」

女「ヤダよ!ダメだよ!起きてよ!」

女「約束したんだよ!これからずっと来るって!」

女「これからもっと仲良くなろうって約束したじゃない!」

女「死なないで!お願いだよ、ムック!」

女「目を開けて、ムック!お願い!ムック!」

女「ムックーーーー!」

ムックへ

今日もまた出会った時のような雨が降っています。
そっちの天気はどう?やっぱり雨なのかな。

実を言うとね、キミがあの公園で雨宿りをしているのを見て、私も雨宿りしたんだ。
降りしきる雨を見つめる眼差しが、昔のムックにそっくりで、それで……。
雨を見つめるキミはとても悲しげだった。
昔、悲しい事があったのかな……。

それからは毎日会いに行ったよね。
私ね、キミのその眼差しにある悲しさを吹き飛ばしてあげたかったんだ。
だけど、キミはどう思ってたのかな。少しでも和らげられたかな。

ムックと出会えて本当によかった。楽しかった。
嫌われたと思った時はとても悲しかったけど、それでも最後は許してもらえて、すごく嬉しかった。

最後に。
キミのお墓に花を一輪植えたんだ。
キミによく似た小さな真っ白い花を一輪だけ。

どこか悲しげだけど、楽しそうに風に揺れているよ。
いつまでも、いつまでも。




-

――
――――

猫(………………)

猫(ここは一体何なんだ)

猫(晴れるでもなく、雨も降らない)

猫(その上、周りには門が1つあるだけで他には何も無い)

猫(どうやら、ここに来た者は門をくぐって)

猫(その先へと行かなきゃいけないならないらしい)

猫(誘導員が人から動物まで全てを門へ促しているが)

猫(俺は「人を待たなくてはならない」と拒んだ)

猫(そしたら、誘導員は笑顔で了承してくれた)

猫(俺はそれからずっと待っている)

猫(ずっと一人で……)

猫(はぁ。今日も退屈だな)

猫(ここまで退屈だと、逆に雨を見たくなるから不思議だ)

猫(まぁ雨を避けるイメトレが俺の唯一の趣味だったからな)

猫(でも、その趣味も実践もここでは不可能)

猫(結局、雨避けは試さず終いになっちまったな)

猫(あとどれくらい待てばいいんだろう……)

猫(そもそも、また会えるのかな……)

猫(アイツもここに来るのかな……)

猫(まさかもうアイツとは……)

猫(いや……でも俺は約束したんだ)

猫(アイツが来るのをずっと待つって)

猫(アイツの傍にずっといてやるって)

猫(アイツが笑えるように傍にいてやるって!)

猫(だから俺はどれだけかかろうとここで待つんだ!)

猫(アイツが来るまで)

――――!

猫(あと何十年、何百年かかろうと!)

――ック!

猫(俺は……ずっと……!)



?「ムック!」


 
猫「!?」ピクッ

女「待たせてゴメンね」ニコッ

猫(…………)

猫(…………散々待たせやがって)

猫『来るのが遅ぇよ……』
 「ニャー」

猫『俺、どんだけ待ったと思ってんだよ……』
 「ニャー、ニャー」

猫『こんな何にもない場所で、俺は!』
 「ニャーォ!」

猫『アンタを!アンタをずっと待ってたんだぞ!』
 「ニャーォ! ニャーォ!」

女「本当にゴメンね」ナデナデ

女「でも約束したでしょ」

女「ずっと一緒にいようって」

女「ずいぶん待たせちゃったけど、もう大丈夫」

女「これからはずっと一緒だよ」ニコッ

猫(相変わらずアンタは何て言ってるかわからねぇな)

猫(でも、わかってるよ)

猫(アンタの言いたいことはちゃんと伝わってるぜ)

猫(これからはずっと一緒だってこと)

猫(もう待たなくていいんだってこと)

猫(俺はもう、一人じゃないんだってこと)


猫『ニャーォ!』スリスリ

女「ふふっ」ナデナデ


―― fin.

以上です。
昨晩の遅くから今朝方にかけてまで、
ご支援くださった方・読んでくださってた方、
本当にありがとうございます。
お疲れ様です。

とりあえず黙々と打ち込んでいたので、
途中で出た質問に答えようと思います。

>>33 これって仕事しろとか書いていた人?
⇒SSを投稿するのは初めてですので、
 残念ながら違う方です。

>>37 ムックは猫種はなんだろう
⇒特に決めてませんでしたので、
 読む方のイメージにお任せします。

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