純一「キスがしたい」薫「…アタシもだけど」 (42)

純一「じゃ、じゃあ行くぞ薫…!」

薫「い、いいわよ! きなさいよ!」

純一「んー」ずぃ

薫(あわわっ!)

純一「薫…」

薫「い、いいいいいっ! やっぱムリムリッ!」

ドウッス!

純一「ウッフ」ドタリ

薫「はぁっ…はぁっ…あ、ごめん純一…」

純一「ケホっ! ゴホゴホ!」

薫「本当にごめん……あたしってば本当に……」

純一「あーうん、大丈夫だって。殴られ慣れてるしさ、ははっ」

薫「……」

純一「こういうのは、互いに段々と慣れていかないとダメだって思うしな」

薫「…アンタ優しいのね、てんきゅ」

純一「そりゃーお前の……か、彼氏だしな? そこの所頑張らないといけないじゃないか」

薫「…うん」


薫(純一と付き合い始めてから──約二ヶ月が経った)

薫(昔は何処か近い存在でありながら、それでも恋人同士になるなんて想像にもしてなくて)

薫「いざキスなんてしようもんなら、はぁ~……めちゃくちゃ緊張するってなんなのよ……」

薫「もうちょっとどうにかならないのかしら、アイツはアタシのことが好きなんだし」

薫「…アタシもアイツのことが好き…なんだから」

薫(…なのに、どうしてキスの一つも出来ないわけ…?)

薫「あぁーアタシの不甲斐なさが恨めしいぃ~」

田中「………」

薫「………って思うのよ」

田中「そっか」

薫「ちょっと恵子、真面目に聞いてる?」

田中「ええ、聞いてますとも。勿論最初から最後まで聞いてますとも」

薫「じゃあ何なのよ、その表情は」

田中「ひとつ言わせてもらってもいいかな、薫」

田中「──乙女になりすぎじゃない?」

薫「は?」

田中「私が知ってる薫はね、もっと男気溢れるダンディなお方だったよ」

薫「…ダンディって失礼ね」

田中「事実を言っただけ。だからね、今の薫は以前とはぜーんぜん違ってるの、もう真反対だよ」

薫「真反対…?」

田中「うん。箸が転がれば爆笑間違いなしだって思う」

薫「……」

田中「あーあ、私はてっきり橘くんとのドロッドロな現状を聞かせてくれんじゃないかって期待してたのになぁ」

薫「ど、ドロッドロ…?」

田中「なのに話されたことは悩み相談。ねぇ薫大丈夫? そんなんじゃ、橘くん……他の人に取られちゃうんじゃないのかな」

薫「取られるって何よ! え、取られるって本当になんなの…?」

田中「けっこう有名だよ。橘くんの人間関係が凄いって」

薫「全然知らないわよ。初耳すぎるわ、それ」

田中「えーっとね、まずは一年の中多紗江ちゃんて子分かるかな? 近頃転校してきたんだけど」

薫「…顔ぐらいなら」

田中「どうも橘くん。その転校生と二人っきりで何やらふしだらなことをしてたって……噂あるよ」

薫「ふ、ふしだら…?」

田中「まだまだあるよ。次に一年の七咲逢ちゃん、この子は水泳部なんだけどね」

田中「橘くんが制服のままで、水着姿の水泳部のことプールに入ってたらしいし」

田中「同じクラスの絢辻詞さん。神社の前で焚き火をしてる所も見れられてて、」

田中「あとは…」

薫「待ちなさい」

田中「うん?」

薫「…それ全部ホントの話し?」

田中「まぁーこれだけ噂になるぐらいだし、どれか一つは本当かも」

薫「え、ええー」

田中「噂の一つで、薫のことも言われてたんだよ? もしかしたら二人は付き合ってるのかもしれないって」

薫「…信ぴょう性高めること言わないでよ」

田中「ひとまず私が言いたいことはただ1つだけ。薫、そうやって悩んでたらきっと橘くんは…」

田中「…他の人の魅力にうつつを抜かしちゃうかも知れないってこと」

薫「と、取られるってそんなの……っ!」

ガタタ!

田中「……」

薫「あ…えっと…その、だめよ許さないんだから……うん……」

田中「はぁーコレは重症だー」

薫「…なによ」

田中「もっと怒らなきゃダメだよ薫! 自分の恋人が、他の誰かに取られちゃうかもしれないんだよ!」

薫「わ、わかってるわよっ……!」

田中「ぜんぜん分かってない! 危機感を持たなくちゃ! 薫、もっと本気で橘くんにぶつからなきゃダメだよ!」

薫「うぐぐっ」

田中「ねぇ…薫、どうしてそこまで弱気になっちゃったの? 昔のかっこいい薫は何処に言っちゃったの?」

薫「っ……」

田中「好きなんだよね、橘くんのことが」

薫「…す、すきよっ?」

田中「声が小さい」

薫「そ、そんなに責めないでよっ」

田中「ほら弱気になった。あーもう、ほんっと今の薫は可愛いけど、弱々しくて…なんだろ、あれ? 別にいいのな?」

薫「あたしはアタシで、アタシらしい付き合い方ってのを考えてんのよ…」ボソリ

田中「あ、うん」

薫「だから、別にアタシは危機感を持つ必要は無いって……思ってる」

田中「……」

薫「アイツはアタシのことを好きだって言ってくれた。だから、アタシはそれを信じるの!」

薫「もっと楽しく笑いあいながら…付き合って行ければ、それだけでいいから」

田中(…あの薫がこんなこと言うなんて、んまー)

薫「だけど、よーく分かったわ。そうね、確かに恵子の言うとおりでもあるかも」

田中「うん?」

薫「…今のアタシは弱いわ。とっても怖くて、今一歩踏み出せないでいるのよね」

薫「やって、やろうじゃあない」

田中「おっ?」

薫「……今からでも遅くないわよね。もっと純一にアタシの思いを伝えるためにも…ッ!」

田中「おー?」

薫「ラブレターを書くわ!」

田中「ん?」



準備室


梅原「よぉー大将」

純一「ん、梅原か」

梅原「今日も何かと忙しそうなこって。創設祭の準備担当は大変そうだなぁ」

純一「好きでやってることだから平気だよ。所で梅原、なんかようなのか?」

梅原「まな。同じく準備担当の伊藤さんに用があってだな」

純一「香苗さんか。あー今は居ないよ、ちょっと仕事で出てるみたいだ」

梅原「そっか、なら良いわ。サンキュー」

純一「僕が伝えておこうか?」

梅原「いや、大丈夫だ。見かけたら声かけてみるからよ」

純一「…なんだ? 何だか怪しい匂いを感じるぞ?」

梅原「なんにもねぇよ。気にすんなって、大将が喜ぶ展開なんてこれっぽちも無いからな」

純一「なんだつまんないな。とりあえず、香苗さんには梅原が来たことを伝えておくよ」

梅原「おう、よろしくな。おっと、そういえば──こんにちわ絢辻さん」

「──こんにちわ、梅原くん」

絢辻「私からも伊藤さんには伝えておくから安心してね。橘くんじゃ不安でしょうから」

純一「絢辻さん…?」

梅原「はは、ちげねーや。んじゃな橘、仕事サボンなよ~」

純一「おい、コラ! ったく…絢辻さんも酷いよ、あんなこと言うなんて」

絢辻「あら、本当のことじゃなくて?」

純一「これでも記憶力はいい方だよ!」

絢辻「じゃあさっき伝えておいた資料の件は?」

純一「あ」

絢辻「ハリーアップ、急いで片付けなさい」

純一「…頑張らせて頂きます…」

絢辻「ええ、もちろんです」

純一「あ、そういえば絢辻さん。昨日の件だけど大丈夫だったの?」

絢辻「えっと、あの『妙にかっこいいロボットハリボテ』の展示許可のことかしら?」

純一「そうそう。凄くでかくて、しかも動くっていうじゃないか。教師とかの許可はもらえたのかなって」

絢辻「あたしを誰だと思ってるの? 一発オッケーに決まってるじゃない」

純一「お、おおー」

絢辻「ふふ、あたしに不可能なんて無いのよ。やると言ったらやる、それがあたし」

純一(言葉の意味で実現可能な人だもんな…凄いや絢辻さんは)

絢辻「ほら手が止まってるわよー」

純一「ご、ごめん! すぐに終わらせます!」

純一(…そういえば薫のやつ、まだ教室で待ってるのかな)

純一(時間がかかるから待た無くても良いって言ったのに…)

純一(──創設祭は明日だ。僕は決めたんだ、薫と付き合って初めての創設祭…)

純一(…とっても楽しいものにするって、だから準備担当にもなった)

純一「頑張るぞ…!」

絢辻「口よりも手を動かしなさい」

純一「は、はいっ」

放送室

七咲「えっと、塚原先輩」

塚原「なにかしら七咲?」

七咲「…本当に私で良かったんですか、今回のアナウンス係は…」

塚原「ええ、この仕事は本来水泳部の掛け持ちじゃないけどね、だけど七咲ならきっとやり遂げてくれると信じてるわ」

七咲「あ、ありがとうございます。なら全力で頑張らせて頂きますっ」

塚原「いい心がけね、期待しているわ」

七咲「は、はいっ」

七咲(だけど不安でいっぱい……はぁーどうしてこうなってしまったんだろう)

七咲(ただ、書かれた原稿を読めばいいだけなんだろうけど…それでも声をだすなんて、恥ずかしくて)

塚原「それじゃあおでん屋台見てくるから、練習も程々にね七咲」

七咲「あ、わかりました。えっと塚原先輩!」

塚原「うん?」すた…

七咲「そのドア立て付け悪くて開かない時があって──」


ガン!


塚原「へぷっ!」

七咲「あ…」

塚原「っ……っ……」プルプル

七咲「えっと塚原先輩…? だ、大丈夫ですか…?」

塚原「だ、大丈夫よっ…平気だから、七咲は練習しといて……」ガクガク

七咲「は、はい」

塚原「それじゃあ、ね……」

ギギギィー パタン

七咲「………」

茶道部

愛歌「ふふふ」

夕月「おお、似合ってるじゃないか」

梨穂子「そ、そうですかぁ? う、うう~っ」

愛歌「恥ずかしがる事はない。上出来」

夕月「愛歌の言うとおりさ。すっごく似合ってるよ、着物姿」

梨穂子「あ、ありがとうございます~」

夕月「これならお客さんも満来だね。期待してるよりほっちぃ」

愛歌「楽しみ」

梨穂子「…だけど茶道部にも来てくれるかなぁ、お客さん」

夕月「これだけ沢山甘酒を用意したんだ。来てくれなきゃ困るぜ」

愛歌「正直、業者に頼みすぎ」

梨穂子「わ、私が頑張りますから! 当日はたーくさん人を呼んで大盛況にしてみせますからっ!」

夕月「おおっ! それでこそ我が茶道部の次期部長!」

愛歌「ぱちぱちぱちぱち」

梨穂子「ん~そういえばるっこ先輩、後で誰か来るって言ってませんでした?」

夕月「んお? おお、そうだったね。そろそろ時間だと思うんだが──」

「──ハロー! えぶりぃばでぃ!」

愛歌「えいぶりばでぃ」

梨穂子「この声は……森島先輩!?」

森島「そうよー? あっらぁ! ベリーキュートね! この子は誰なのっ?」

夕月「よく来たね森島ぁ。コイツはあたしのオススメ部員の桜井梨穂子だ」

森島「ハァーイ! こんにちわ桜井さん、私のこと知ってる?」

梨穂子「も、もちろんです! 知らない人なんて居ない、と思います!」

森島「んー? 嬉しい事言ってくれるわねぇ、テンキュー!」

梨穂子「て、てんきゅー!」

愛歌「本題に移ろう」

夕月「りほっち、森島を呼んだのは他でもない。増援だ」

梨穂子「増援ですか? え、じゃあ当日は森島先輩も茶道部で…?」

夕月「モチのロンさね。仕方ないことなんだ、許してくれあたしの不甲斐なさを…な」

愛歌「直訳すれば、りほっちだけじゃ心許ない」

梨穂子「そ、そうなんですか…」ショボン

夕月「うっ」

森島「大丈夫よ、きっとうまく行くから平気平気! わお! これが私がきるKIMONO!?」

梨穂子「……」

夕月「ご、ごめんよりほっち…これは茶道部の伝統を受け継がせるための、作戦なんだ…」

梨穂子「…わ、わかってます」

夕月「当日は勿論、りほっちの活躍を期待してるよ。頑張ってくれ、あたしらも本気で頑張るからさ」

梨穂子「は、はいっ!」

愛歌「これぞ青春」


女子更衣室


香苗「んんッ! ばっちしね!」

中多「ふぇぇ…これは少し露出、多くないですかぁ…?」

香苗「何言ってんのよ、それくらい出さなきゃ1位なんて取れないわよ!」

中多「わ、私は別に1位にならなくても…」

美也「ダメだよ紗江ちゃん! やるならトップを目指さなくちゃね! トップだよトップ!」

香苗「橘妹ちゃんのいうとーり! そうよ、やるなら1位を取ること! それ以外は負けよ負け! 論外だからね!」

中多「は、はぃいい……」

香苗「サンタコス大会……私はぜっったいにアンタを、中多ちゃんを1位にシてみせるから!」

美也「期待してますよ香苗ししょー!」

香苗「んっふっふ…任せなさーい、私にかかればどんな子だって完璧にさせてみせるわ!」

香苗「だけど元の素材が良すぎるってのも問題よねー。うん、おおきいわホンット」

美也「ですよね…」

中多「ひっ」

香苗「…実際の所、カップどれくらいあるの?」

美也「ごにょごにょ」

香苗「なん、ですって…!」

中多「美也ちゃん言っちゃだめぇ~~~!!」

香苗「こ、これは……俄然燃えてきたわ、伊藤香苗…誠心誠意頑張らせていただくわ!」

美也「いぇーい!」

中多「……ううっ…お家に帰りたい……」

教室


田中「…それで書けたの?」

薫「……」コクリ

田中「そっか。けっこう時間かけて書いてたけれど、納得できる内容は書けたのかな?」

薫「大丈夫、書けたわ」

田中「…うん」

薫「これを……アイツに渡せばいいのよ。これで純一にも思いはきちんと、伝わるはずよ」

ピッ!

薫「明日の創設祭、アタシはこれを渡す。そして……す、するのよ絶対に!」

田中「薫……」

薫「や、やってやろうじゃない! な、何も怖くないわよ! ええ、ほんとに!」

田中「……」ホロリ

田中「が、頑張って薫! 私も応援してるから!」

薫「ええ! ……と、とりあえず誰かに読まれないよう、カバンに入れとくわ」ガサゴソ

田中「読まれたら大変なこと書いたの?」

薫「ら、ラブレター何だから恥ずかしいに決まってるじゃない!」

田中「あはは」

薫「ったくも~…」


『キャー! おやめになってー! わおわお!』


薫「ん、何この声…外から聞こえたわね」

田中「なんだろうね、あ! あれって森島先輩だね」ガラリ

薫「…なにやってんのかしら、あの人」

田中「…うん、外でお殿様ごっこ?」

薫「…。ちなみに純一はあの人とも?」

田中「ばっちり噂あるよ、うん」

薫「アイツは一体何者なのよ…?」

田中「あはは~な、なんだろうねぇ」

ガラリ

純一「おーい、薫。もうちょっと仕事かかりそうだから帰っててもいいぞ」

薫「ぴぁ!」ビクゥ!

田中(ぴぁ?)

純一「…なに驚いてるんだよ、あ、田中さんも居たんだね」

田中「あ、うん。忙しそうだね準備担当も~」

純一「いやいや、周りに迷惑かけてばっかりでさ。絢辻さんに助けてもらってばっかりだよ」

薫「……」モジモジ

純一「薫? どうした?」

薫「えっ? あ、うん……別になんにもないわよ…」

純一「……。あ、もしかして昨日の放課後のことをまだ──」

薫「う、うっさいわね! ちょっと黙ってなさい!」

田中「ふーん? あ、じゃあお邪魔な私はそろそろ…」

薫「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あ、アタシも帰るんだから!」ガタガタ

純一「気をつけて帰れよ」

薫「アンタこそ無理してぶっ倒れたら、元も子もないないんだから……気をつけなさいよ」

純一「うん、わかった」

田中「ほぉ~へぇ~」ニヨニヨ

薫「っ……!」

純一「それじゃあ二人共。また明日──うわぁっ!」


ぶわああああああ! ガタガタガ!!


薫「なにこれ──強風が───」


ズリズリリリ…


薫「え……ラブレターが……ちょ、まっ」


ぶわぁああ!

ヒューン!

薫「……え」

田中「ひぁー凄い風だったね…あれ、どうしたの薫?」

純一「びっくりした…」

薫「恵子ぉ……今の……見た……?」

田中「えっ?」

薫「飛んでっちゃった……あれ……」すっ

田中「飛んでちゃったってなにが──えぇえええええええっ!?」ガタタ!


ヒラヒラヒラ…


田中「ええっ!? ちょ、あれってラブレ、んむぐぅ!」

薫「しぃー! 黙ってなさい!」

田中「っ…」こくこく!

純一「?」

薫「と、とりあえず探しに行くわ! 恵子も手伝って!」

田中「ぷはぁ! わ、わかった!」

純一「お、おい? 一体どうしたんだよ?」

薫「アンタには関係ないわよ! いや、関係はありまくりなんだけど……」ゴニョゴニョ

田中「か、薫! はやく探さないと!」

薫「そ、そうよね! じゃあバイバイ純一!」だだだだっ

田中「さよなら橘くぅーん!」だだだだっ

純一「あ、うん…さようなら…」ポカーン


薫(ちょ、ちょとぉ! 本当に洒落になんないよわそれぇ!)

薫(誰かに見られる前に! なんとか回収しないと!)

薫「あ、あたしの人生がっ……終わっちゃうじゃなーい!!!」

準備室

絢辻「……嘘」

絢辻「無い、無い、無い! ないないない!」

絢辻「──手帳がなくなってる…?」

絢辻(うそうそ、ありなえいわ。だってちゃんとこのカバンの中に入れてた筈なのに──)チラリ

絢辻「え、これって…もしかして…」


『伊藤香苗』


絢辻「伊藤……香苗さんの……学生鞄……っ?」

くるっ!

絢辻「ッ……見つかる前に回収を…ッ!」ダダダダ!

女子更衣室

美也「それじゃあ香苗ししょー! 本番よろしくお願いしますね!」

中多「よ、よろしくお願いします…」

香苗「もちろんよ。頑張らせていただくわ」

パタン

香苗「ふぃー……私もそろそろこの衣装を脱がなくちゃダメね」ぬぎっ

香苗「私が舞台に立つこと無い……もう現役は引退したのだから…」

香苗(今はこうやって、原石を輝かせるために動く……実に私らしい活躍って感じよね)

香苗「さてさて、着替えなくちゃ──あれ?」

香苗「なんだろこれ、手帳?」

香苗「私こんなの持ってたっけ───」

ガタガタガタ!!!


香苗「きゃあ!? えっ、あっ、おっとと!」グラリ

ドタ!

香苗「いたた…何なの今の…風…?」

香苗「びっくりした、ったくもう…変な格好でパンツ丸出しじゃない──」


キィ…


香苗「あ、ドアが風で開いちゃってるじゃない! あわわ、早く閉めなきゃ……」

梅原「…んお、この声は伊藤さんか? 探してたんだぜ───」

香苗「……」

梅原「……えっ?」


放送室

七咲「練習はこれぐらいでいいかな。もうそろそろおでん屋台の手伝いに行こうっと」ガタ…

ガタタタタ

七咲「…凄い風、出し物とか大丈夫かな」

ギギギ!

七咲「……?」

七咲「えっと、うん? うそ……」

七咲「──ドアが開かない?」


茶道部

夕月「おい愛歌と森島! その辺にしておけよ! 着物を汚したら成敗すっぞ!」

森島「おーけー! 気をつけるわー! きゃあああああ! へるぷみーへるぷみー!」グルグル

愛歌「フンスフンス」ぐいぐい

夕月「ったく…」

梨穂子「あはは~」

夕月「…本当にごめんなりほっち」

梨穂子「いえ、いいんですよ~るっこ先輩の気持ちはわかってますから」

夕月「……」

梨穂子「だけど、私だって頑張りますからね! えいえいおー!」


ぶおおおおおおおおお!!!!

梨穂子「きゃあっ!?」

夕月「うお…っ!?」

愛歌「ッ!」ササ!

森島「えっ? きゃあ!?」


ぶわぁああああああ!!


梨穂子「ひゃー…凄い風でしたね、るっこ先輩ぃ~」

夕月「お、おい…あれ…」

梨穂子「えっ?」

森島「きゃあああ! うそ! 私の着物の…!」

愛歌「着物の帯、フライ……」

梨穂子「えええっ!? 帯が風で飛んでってますよぉ!!」

夕月「ッ! 愛歌! 目を離すな!」

愛歌「了解」

森島「ご、ごめんなさい…! 私ってなんてことを……っ」

夕月「今は謝ってる場合じゃねえ! とにかく地面に付く前に拾え!」

梨穂子「どのへんに飛んでいきましたか愛歌先輩!」

愛歌「………」

夕月「…愛歌…?」

愛歌「すまない、見失った。目的の動くスピードが速すぎた…」

森島「うそ」

夕月「…そうか」

梨穂子「えっ? えっ? あ、あの?」


体育館裏


薫「はぁっ…はぁっ…色々と走り回って、後はここしか……」

純一「…お、なんだ薫か」

薫「っ! な、なんでアンタがここにいんのよ!」

純一「えっ? いや絢辻さんの姿を探してたんだけど……」

薫「あっそ! とにかく良いから早く準備室に戻りなさいよ!」グイグイ

純一「な、なんだよ? そんなに急かすなって!」

薫(もしあのラブレターが純一に拾われでもしたらっ……うう、想像するだけで──)

純一「だーもうやめろってば!」ぐいっ

薫「っ…反抗しないでさっさと戻りなさい!」

純一「なんでそうも邪険に扱うんだよ。なにが何だかわからないだろ」

薫「あ、アンタには別に関係ないわよ! 良いから早く行きなさいって!」

純一「………」イラ

薫「あ。アンタ今、苛ついたわよね? そうよね?」

純一「ああ、そうだよ。そろそろ僕も意味が分からなすぎて、理不尽すぎて怒りそうだ」

薫「なによそれ、まーアンタって一見温厚そうで意外と切れグセあるものねッ」

純一「おい、なんだよその言い草は。薫だってすぐに切れてすぐに殴ってくるだろ、お互い様じゃないか」

薫「なにがお互い様よ。女のアタシと男のアンタを同一にしないで頂戴」

純一「はぁっ? 男よりもパワーある左を持っててなに言ってんだ」

薫「ちょっとそれ言い過ぎじゃないのッ?」

純一「事実を言ったまでだ。それにお前は一々怒り過ぎなんだよ。もっとしおらしく女の子らしくなってみろ」

薫「今それ関係あるっての!? 意味分かんないわよ!」

純一「ほら怒った。すーぐそうやって怒鳴って相手を萎縮させる。悪い癖だぞっ」

薫「あーそうですか! じゃあアンタだってね! あたしにすぐ嘘つくクセやめなさいよね!」

純一「嘘つくクセ!? 僕がいつお前に嘘をついたっていうんだよ!?」

薫「そーですかしらを切るつもりなのね、最悪よアンタ。知ってるのよこっちは、アンタのいろいろな噂のこと!」

純一「噂? 僕になんの噂があるっていうんだよ!」

薫「いろいろよ! 色々はいろいろ!」

純一「意味がわからん! ちゃんと言えばいいだろ!」

薫「あっそ! じゃあ言わせてもらうけど! ほ、他の女子と仲良くしてるって噂よ!」

純一「な、なんだよそんな噂! お前それを信じるって言うのか!?」

薫「じゃあどうして動揺してんのよ! それって思い当たるフシがあるってことじゃないの!?」

純一「っ………」

薫「ほら黙った! やっぱりそうなのね!? このうそつき!」

純一「だぁーもううるさい! 黙れ薫!!」

薫「っ……」

純一「あ……す、すまん大きな声をだして……」

薫「な、なによ…黙れって、そんなこと言わなくてもいいじゃない…馬鹿…ぐす…」

純一「だから、その……違うんだよ、それは……」

薫「…なにが違うのよ……じゃ噂は嘘だってこと……?」

純一「それは……その」

薫「……なんで否定してくれないのよ、なんで嘘だって言わないのよ…!」

純一「………」

薫「っっ……馬鹿!!」ダダダダ

純一「か、薫!!」

純一「……薫……」


「追いかけないの?」


純一「っ!?」

田中「…今ならまだ間に合うよ」

純一「た、田中さん…聞いてたの…?」

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