【アイマス】とある放課後の最高潮【シャニマス】 (23)

「うわぁ!?」

 夜もふけ切った深夜ニ時半、俺は柄にも無く大きな声を出して目を覚ます。
 頬を伝う汗を拭った袖が既に濡れているのを見て、全身が汗まみれであることに気づく。とてもではないが、気分がいいとは言えない。


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「ふぅ…どうしたんだ…緊張してるのか…俺は…」

 原因は何となくわかっている。明日に控えた765・961両プロダクションとの合同ライブ。それに283プロダクション代表として、参加するのが俺と放クラのメンバーだ。

「はぁ…」

 シャワー浴び直し、床に着く。明日…というよりもう今日の夕方にはライブが始まるというのに、一度覚めてしまった目は中々寝かせてはくれなかった。

「…行くか」

 少し、いや、だいぶ早いが、俺は車を走らせて事務所に向かう。眠れないのなら、ライブに向けて後回しにしていた仕事を終わらせて気を紛らわそう。それに事務所なら万が一寝てしまっても誰かが起こしてくれるだろう。

「ふぅ…当たり前だけど、誰もいないな…」

 いつもは少ない人数ながら賑やかな事務所だが、文字通り誰もいないのであれば賑やかになるはずもない。いつもとは違う表情を見せている。

「…紅茶でも淹れるか」

 たしか夏葉が置いていってくれた茶葉があったはずだ。いつもならブラックのコーヒーしか飲まないが、寝不足の状態で過剰なカフェインを摂るのはなんだか気が引けた。それに紅茶なら砂糖やミルクで落ち着けるような気もしたからだ。

「しかし…まさかこんなに俺が緊張していたとはな…」

 出るのは俺じゃないのにな…と続けた言葉は夜の闇に消えていく。けれど、765と961…高木順二朗と黒井崇男はアイドル界の生きる伝説だ。日高舞以降の今のアイドル界はこの二人が作り上げてきた世界と言っても過言ではない。そんな海千山千の化物に、俺は明日挑む。

「…そりゃ眠れないのも仕方ないか」

 765や961のアイドルならば、もはや曲だけでも誰もが知っているものばかりだ。頭の中で、ライブをイメージする。765や961のアイドルの曲が延々とループ再生されていく。

『えびばでぃれっつごー!!!』

 そんな俺の脳内に、まるで弱気になった俺を勇気づけるように、誰よりも勇敢なヒーローがやってきた。

「…大丈夫だよ、果穂。俺はお前らを信じてるから」

 頭を働かせるために角砂糖を三つ。カップに投げ入れて一気に飲み干す。それでも少し苦く感じた。
 俺はお前らが大好きなんだ。そんなお前らを世界に輝かせるのが俺の仕事だったよな。

「ごめんな、不安にさせて」

 そう呟くと、果穂はニコッと笑って俺の頭を撫でてきた。

 そのままそっと、年季の入ったデスクの椅子に腰掛ける。想像の中とはいえ、小学生の女の子に頭を撫でられ、慰められるとは…安心したが、それも含めて情けないな。

『アンタのことはすごいと思ってるんだぜ?』

 そんな俺の脳内に、今度は誰よりも優しいバッドガールが心配そうに声をかけてきた。

「…大丈夫だよ、樹里。誰よりも凄いお前らがそう言ってくれてるんだからな」

 新たに淹れ直した紅茶に、角砂糖を四つ入れ、一気に飲み干す。元から苦いのが好きな俺には少し甘すぎるが、今はこれくらいの甘さがちょうどいい。
 思えば樹里には普段からだいぶ助けられている。

「ごめんな、不甲斐ないプロデューサーで…嫌いになったか?」

 そう聞いたら、樹里は呆れたように笑って消えていった。

『プロデューサーさま…』

 あぁ、心配いらないよ、誰よりもお淑やかで清く正しい大和撫子。

「大丈夫だよ…もう後ろを向くのはやめるから…」

 三杯目には角砂糖を五つ入れながら、俺は凛世にそう言った。

「それとも、こんなことを言う情けないプロデューサーは嫌いかな?」

 そう聞くと凛世はため息をついた後に微笑んで消えていった。

『チョコをあげちゃいます!』

 ありがとう、誰よりも頑張る純真チョコレート。

『お休みに、チョコアイドルプレゼンツの スイーツ食べ歩きツアーなんてどうでしょうかっ?』

「…俺はチョコレートも好きだけど、それよりも智代子のことが大好きさ」

 自分のことが普通だと、そう言い張る彼女が誰よりも人を元気付けてくれるから。だから俺は君のことが大好きなんだ。

 四杯目に角砂糖を六つ入れた瞬間に、俺の手を誰かが掴んだ。

「そんなの飲んだら体に悪いわよ!」

 あぁ、ついにイメージに触れるようになったのか。そんなことを考えていたら

「随分早くにいると思ったら…」

 どうやら目の前にいるストイックなお姫様は本物のようだ。気づけば時計は朝の八時を指していた。

「おはようございます!!!!」

「はよーっす」

「おはよう…ございます…」

「おはようございまーす」

 次々とやってくる本物の彼女たち。そんな彼女たちを心配させないように、夏葉は甘ったるくなったお茶を隠す。

「全く…淹れ直してあげるから、一緒にお茶にしましょう」

 そういって淹れてくれたのは、俺がいつも飲んでいるブラックコーヒー。

「…なあ、夏葉」

「なあに?」

「…俺がプロデューサーで良かったのかな?」

「何よ…急に…」

「はは…ごめんな、急に変なこと言って…忘れてくれ」

「…前にも言った通りよ、アナタが私のプロデューサーじゃなかったらここまでできなかったわ」

 いつも自分に自信をもっている夏葉にここまで言ってもらって、奮起できないやつなんて居ない。

「そんな調子で今日のライブは大丈夫なの?」

「…あぁ、今なら誰にだって負けはしないさ…だって…放課後はいつだってクライマックスだからな!」

 俺は心底幸せだと笑った。

終わり

おつおつ

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